Force of Fourth

製作者:Capoさん




◆設定
遊戯王GXから数年の月日が流れたアカデミアが舞台です。原作やアニメキャラは時々出るかもしれない程度で、ほとんどオリジナルキャラで話を進めます。

すみません。

オリカは時々出る程度……で予定しています。乱発だけは控えるつもりです。
内容としてはコミカルとシリアスを混ぜ込んで行きたいな……色々と伏線は張って
行きます。特に、登場人物の●●(二文字)には注意した方がいいかもしれません。
アカデミアの中等部がメインの舞台です。
アニメとは違い、レッド:1年、イエロー:2年、ブルー:3年という学年制になっています。高等部や小等部も同じです。



◆主な登場人物

■暗堂カイ(ANDOU KAI)/オシリス・レッド所属(中学1年)
主人公。【闇属性】を使う何処か影を持つ飄々とした少年。地元の大会では常に常勝組だった事もあってかインターネットではそれなりに有名。
何処か人を喰ったような口調を取る。常に“何か”の一線を守るような素振りすらある。

■天近拓斗(Amatika Takuto)/オシリス・レッド所属(中学1年)
カイの親友兼悪友となる【光属性】を使う天才肌。だが何処かやる気の無さを撒き散らしており、周りに騒動を造っていくトラブルメーカー。
だが何か並々ならぬ決意があるようで、アカデミアに来たのも何か関連性があるかもしれない。カイに対して、何かを感じ取るが言葉や表現にはできないようだ。

■星影楓華(Hoshikage Huuka)/オシリス・レッド所属(中学1年)
ヒロイン。年の割りにはやや身長が低い。おどおどしているのだが、デュエルにおいては別問題で【風属性】や【アロマハーピィ】などを使いこなす。
更に引きの良さが在り得ないほど良く、運命力を全てデュエルに注ぎ込んでいるのでは? と思わせてしまうほどである。
礼儀正しく、誰の云う事も信用する為、色んな人から間違った知識などを吹き込まれる。

■カレン=シンクレア(Karen Sinclair)/ラー・イエロー所属(中学2年)
カイの入試試験の“試験官”を勤めたラー・イエローの秀才少女。
ことあるごとに甲斐性肌を見せ、後輩や同級生の面倒を見ることから男女問わず人気が高い。
更に“束縛の剣”という異名を持ち、【スキル帝】という【スキルドレイン】と【帝コントロール】を組み合わせた珍しいデッキを用いる。

■ジャスパー=クリケット(Jasspar Cricket)/アカデミア教職員
豪奢な髭を蓄えたアカデミアの教職員。カイたちの試験監督を務めた。常に感動や驚きを求める一面があり、デュエリストであることを素直に楽しんでいる豪快な人物。
しかし何処か陰を持つような素振りや、斜に構えたような本音を持つ部分もあり、油断のならない人物である。担当は実技。



⇒Chapter01 Phase01 入試試験[1]

 カリカリ……

 無機質な音が辺り一面に木霊している。
 静寂な音に混じるのは、時々聞こえる溜め息、歓喜、そして寝息。
 数人の人間を除き、その場に居る者たちは全員が幼さを残す成熟し始めた身体を持つ者たち――そう、第二次成長期に入り始めた小学六年の生徒候補生。
 舞台は何処かの大学を借りているのだろうか? 大きな古さを残した学び舎の中、暖かい暖房の効いた部屋の中でシャーペンを紙の上で走らせる。
 しかし問題の内容は、一般的な入試問題の“ソレ”とは大きくかけ離れている。

「よしっ」

 と短くガッツポーズを取る男、いや……少年が一人居た。
 少年の答案用紙には、正否は別にして全ての問題に対する答えが描かれている。
 余程自信があるのだろうか、少年はそのまま机に突っ伏してしまった。
 小さな寝息を立て、周りの受験者から殺人的な視線を受けているとも露知らずに。

 ――だが、少年は受かっていた。デュエルアカデミア、その“一次予選”は。





 ――数日後

 少年の元に一通の茶色い封筒が届けられた。少年は親から手渡された封筒の中身、即ち合格通知を見て歓喜のあまりに泣いてしまった。
 だが泣いてばかりも居られなかった。第二次予選――最終ラインを通らなければ、これまでの苦労も水の泡だったのだから……。

 デュエルアカデミアの門は狭く、そして険しい。かつては遊城十代やエド=フェニックスを卒業させたこの学び舎も、以前よりもハードルが高くなっていた。
 それは“デュエリスト”、という存在が気高く、そして神聖の対象とも捕らわれ始めていた事が一因するだろう。
 デュエルアカデミアを卒業するという事は、それはプロデュエリストへの道が手に取る範囲内に入った事を示している。
 集められたデュエリストのタマゴは百名ばかりと云った所か、これから第二次予選を行い、どれだけの人数が削られるのかは教員以外は知る由が無い。

 何故なら、デュエルアカデミアの定員数は“未知数”だったからである。


「さて、集まって貰ったデュエリストの予備生諸君。我がデュエルアカデミアを志望してくれた事に関して、深く感謝の意を示す!」


 ざわざわしていた会場が静まり返る。
 生徒たちが集められたのは、デュエルアカデミアのデュエル場、ご丁寧にも封筒の中にはアカデミアへの往復分の交通チケットが入っていた。一部の例外を除き、受験生は金銭を使用する事無く会場に辿り着けた。
 一部の人間は、デッキを強化する為に金銭を消耗したかもしれないが。

「私の名はジャスパー=クリケット。アカデミアの教師である。
 早速だが諸君らには“試験”を受けて貰う。試験は実にシンプルだ。アカデミアの生徒、ラーイエローの者たちとデュエルして貰う!」

 ざわざわ……

 会場がどよめく。見れば奥の方から黄色い制服を着た男女が、ぞろぞろと出現した。
 自信を持つ者も居れば、何かに怯える者まで居る。まるで受験生と感情面では、それほど差が無いのでは……と思わせてしまうかもしれない程である。
 豪奢な髭を携えた中年の男性教諭は腕時計を見て云う。

「時間が惜しい。では諸君、健闘を祈る! 勝てば学び舎の門は開かれる!!」





「あら? どうやら貴方が相手のようね」
「へっ? 女の子が相手?」

 少年の前に立ちはだかったのは、アカデミア指定の黄色と白を機軸とした近未来的な制服を着こなした金髪の少女だった。
 “可愛い”と形容できる少女の顔に宿しているのは、アイスブルーのような冷たい瞳と、それとは裏腹な柔和な笑みだった。まるで試験である事を忘れさせてくれそうだ。

「女の子とは失礼ね。私にはカレンという名前があるわ。
 ……まぁ、貴方が私に勝てなければ、憶える必要性は無いでしょうけどね。
 デュエルディスクの使い方は解る?」
「あ、えと……大丈夫。小学校に貸し出しのデュエルディスクがあったから」

 少年は思い出す。かつて使用していた、ボロボロになったデュエルディスクの事を。
 そして散らばっていったかつての学友たち。
 進路をこのアカデミアに歩んだ事により、普通ならば入るはずだった公立中学校に通い始める友と、同じ道を歩む事はもはや敵わない。
 もし、入試に落ちれば、定時制の中学校か、それとも別の……あるカリキュラムの採られた中学校に入試するしかない。
 ある意味、背水の陣。頼りになるのは、少年のデッキのカード……のみ!

「貴方の名前は?」
「オレはカイ! 暗堂カイだ!!」

 少年――カイは高らかに宣言する。
 まるで、自分の存在感を示すように。
 少しだけ、幼さの残る少年の紫眼が光ったような気すらした。
 ハッタリか、それとも彼の実力は本物か、真価が試される時が――来た。

「それじゃあ始めましょう。私の名はカレン、カレン=シンクレア、よ」
「シンクレア先輩、宜しくお願いしますっ!」


「――デュエル!!」

 カイの“試験”がいよいよ始まる。果たして彼のデッキはどのようなデッキなのだろうか? そして“試験”の結末は……?



⇒Chapter01 Phase02 入試試験[2]

 デュエルアカデミア入試、第二次試験。実技の部。
 紫眼を携える若き候補生、暗堂カイ、そしてラーイエローのアカデミアデュエリスト、カレン=シンクレアの試験デュエルが開始される。
 果たして勝つのはどちらか、それはカイの腕次第である。

「先攻後攻はカイ君に選ばさせてあげるわ」
「それじゃあオレの先攻で」

 先攻はカイ。彼の真価は果たして……。

「オレの先攻ターン、ドロー!」

 デュエルディスクの動きやモーションを確かめるようにドロー行為を行うカイ。

「あら? デュエルディスクは珍しい?」
「……いいえ、こんな新品のような輝きを放つデュエルディスクは、使うのが初めてですよ」
「――そう、色々な人に使われていたのね、カイ君の居た学校のディスクは」

 まるでかつての自分を照らし合わせるように、懐旧の視線をカイに向ける。
 カイは苦笑いをしつつ、

「愛着はありましたね。だからこそ、今、オレはココに居る」

 少年の瞳が……戦いの瞳に変わる。

「オレは手札から、モンスターと魔法・罠カードをセットしてターン終了」

 ありきたりな一石。だからこそ、中身を読むことは難しい。

「なら私のターン、情は介入しないわ。ドロー!」

 それは、あくまで“試験官”として貫く事。哀れみを与えない事を示していた。

「手札から神獣王バルバロスを召喚。このカードは本来はレベル8モンスターだけど、攻撃力1900扱いで召喚する事ができるのよ」
「知ってますよ。人並みの知識は持っているつもりだ」

 バルバロスは万能なモンスターである。
 生け贄なしならば攻撃力1900扱いのモンスター、3体の生け贄を捧げたならば、サンダーボルト+ハーピィの羽根箒という凶悪な効果を放つ。
 それでも、1900という攻撃力は脅威以外の何者でもない。
 そして、それがカレンの自信へと直結する。

「バルバロスで伏せモンスターを攻撃!」
「っ……伏せモンスターはキラー・トマトです。よってデッキからジャイアント・ウィ
ルスを1体、特殊召喚だ」

 現れたのは巨大な細胞の塊のようなモンスター。
 効果は破壊時に発生する増殖効果。デッキから同名モンスターを2体まで特殊召喚する事ができるのである。

「……やるわね。カードを2枚伏せてターン終了よ」

 ファーストバトルは互いの手の探り合いと云った所か、バルバロスの一撃は、ある種カイの手を広げさせたに過ぎない。
 むしろ、切り替えしの反撃の方が、ある意味脅威だった。





(なかなか素質を持った候補生が居るな)

 ジャスパーはデュエル場を見渡していた。轟音や爆撃音が辺りに木霊する。彼が試験として編成した“試験官”は、イエローの中でも比較的に成績が高い者たちである。中でも、

 “新月の女帝”−上月さらら(コウヅキサララ)
 “群蝕”−ビビット=アルベルト
 そして“束縛の剣”−カレン=シンクレア

 三人は異名を持つラー・イエローの女生徒だ。
 そして対峙するデュエリストは、いずれも善戦をしていた。
 ……カレンの所は、まだ始まったばかりというのも相まっていたが。
 とにかく、

(まぁ、拝見させて貰うか。いずれにせよ、力を測るのも職務だからな)

 豪奢な髭を触りつつ、ジャスパーは鋭い笑みを浮かべていた。
 試験監督であり、アカデミアの教諭であるジャスパー。まるで彼の表情は、これから巻き起こる物語の開始を見据えていたように……。

 ……と、

 PPP、PPP!

 彼の携帯電話が小さく鳴った。音が出なくてもヴァイブレーションで解るタイプだったのだが、「フム」と短く頷いて電話に出る。

「……私だ」

 相手の電話主の言葉は、爆音などでかき消され、周りには一切漏れない。

「あぁ、経過はかなり良い。私としては満足な結果になるだろう。
 上層部もお喜びになりそうだ。詳しい結果は後ほど詳しく報告する」

 短い会話だった。しかし彼にとっては、今はそれだけで充分だった。そう云わざるを得ないほど、彼自身の心情が沸きあがっていたからだ。


「ククッ……面白い……これだからデュエリストは止められない」





「オレのターンです。ドロー!」

 カイの場にはジャイアント・ウィルスが1体、そして伏せカード。悪くない現状だ。
 カイの手札は5枚、ココからどのような展開を見せてくれるのか……。

「ジャイアント・ウィルスを生け贄に捧げ、人造人間−サイコショッカーを召喚。
 無論、罠カードは発動の機会も効果を与える機会も失われる」
「――!!」

 短いが、確実にカレンの表情に困惑と焦りが走る。
 その瞬間を、カイは見逃さなかった。彼女のデッキ傾向を、一瞬で読みきったからだ。

(……スキル・ドレイン型)

 伏せカードの1枚はスキル・ドレインだと彼は読んだ。なるほど、確かにスキル・ドレインならばバルバロスの攻撃力は3000に“戻る”。更にカイのモンスターの効果の消去もある程度行えるだろう。

(だったら……)
「カードを更に伏せ、バルバロスを攻撃! サイバー・エナジーショック!!」

 黒い小さな暗黒空間が発生し、まるでドッチボールのように投げる人造人間。
 その虚無の空間がバルバロスに当たった瞬間、対消滅のように二者は消沈した。

「クッ……なかなかやるじゃない」
「これでも、戦歴長いですから。ターンエンド」

 セカンドバトル、勝者はカイ。
 多少ながらもカレンのライフを削るのに成功した。更に追い討ちを掛けるように罠による迎撃も機能しない。
 攻めるには易し、守るには難し、そんな状況だ。
 だがカレンも熟達したデュエリストの一人。異名を持つ彼女の実力も、また策を張り巡らせていた。

□カレン:8000⇒7500





「私のターン、ドロー。少し驚いたわ。まさかサイコ・ショッカーとはね」

 デュエルディスクから颯爽とカードを引き抜き、少し意外そうな笑みを浮かべるカレン。
 送風機の影響か、ふんわりと風によって長い金髪がゆらゆら揺れる。

「でも、罠カードを使えないのはカイ君も同じこと」
「…………っ」

 ある意味、それは手札に強力無比な魔法カードが渦巻いているのを指し示していた。
 罠カードは発動できない。即ち、ほぼ迎撃する事が不可能である事を示している。

「800ライフを払い、洗脳−ブレイン・コントロールを発動するわ。
 無論、奪うのはサイコ・ショッカーよ」
「クッ…………!!」

 奪われたサイコ・ショッカー。無論、攻守は逆転する。

(だが伏せているのはデッキ破壊ウィルスとリビングデッド。生け贄召喚した途端にドカン、だぜ)
(罠を仕掛けているようね。なら……)

「サイコ・ショッカーでカイ君をダイレクトアタックするわ」
「えっ……」

 サイバー・エナジーショックによって発生した衝撃波によって吹き飛ぶカイ。

「クッ……」
「フフッ……メインフェイズ2にサイコ・ショッカーを生け贄に捧げ、氷帝メビウスを生け贄召喚」
「――――――!?」

 今度は明らかにカイの方に動揺が走った。
 伏せていたコンボカード。しかも相手はスキルドレイン型のデッキ……。

「ビンゴだったようね。化かし合いは、これでも得意なのよ」
「……やられた」

 さすが“試験官”、とカイは心の中で舌打ちした。
 一癖も二癖も思ったとおりに動かない、動けない……カレン=シンクレアは、間違いなく強敵の部類に入る、そう思わざるを得なかった。

□カレン=シンクレア:7500⇒6700
■カイ:8000⇒5600



⇒Chapter01 Phase03 入試試験[3]

 現状をおさらいしよう。

■暗堂カイ/LP5600/手札3
■フィールド:なし
■墓地:キラー・トマト/ジャイアント・ウィルス/人造人間−サイコ・ショッカー−/リビングデッドの呼び声/死のデッキ破壊ウィルス
■除外ゾーン:なし
□カレン=シンクレア/LP6700/手札2
□フィールド:氷帝メビウス/伏せカード2枚
□墓地:神獣王バルバロス/洗脳−ブレイン・コントロール−
□除外ゾーン:なし

 で、ある。


「私はこれでターンエンド。一気にフィールド・アドバンテージは戴いたわ。
 ――そう、この場から盛り返すのは難しいわよ」

 例えるならば、三本の弓が矢を射抜こうとばかりに射出しようとしている状況に出くわしたに等しい。戦力は一気に疲弊し、盛り返すのは難しいように見える。

(計算を見誤った!? スキルドレイン型ではなく……帝コントロール!?)

 僅かな情報から相手のデッキを推測しようと思っていたカイではあるが、疑心は自身を滅ぼしかねないことには気づいている。

「フフッ……まだ小学校を卒業したばかりの“人間”としては疑心し過ぎじゃないかしら。表情が強張っているわよ」
「――――!」

 ハッとカイは我に帰る。
 たかが少し戦術を破られたに過ぎない。
 深読みし過ぎるのだ……彼は。
 だからこそ、何処か彼は人を喰ったような云い方をする。
 標準語と雑な云い方を混ぜるように、飄々とした態度を取るように。
 だからこそ、そんな心理を読ませてしまった自分が不甲斐ないと彼は思うばかりだ。

「……行きます。ドロー!」

 まるで自分に戒めを施すように、念を込めてドローするカイ。
 引き当てたカードは……

「800ライフを払い、装備魔法、早すぎた埋葬」
「へぇ……引きの良さも元・小学生とは思えないわね」

 素直に関心を示すカレン。カレンもまた、何処か裏の表情がある――カイは内心、そう思わざるを得ない。
 可憐な表情の裏で、実際、カレンは何をどう考えているのか、意中なんて解らない。
 解ることは唯一つ。カレンを倒さない限り、アカデミアの門は開かれないということである。故にカイもまた、裏の裏を読んで行動に出向く。

(ウィルスとショッカーの二者択一。ウィルスならば生け贄確保ができる。ショッカーならば相討ちなど色々策謀を張り巡らせることができる。
 さて、お手並み拝見よ……)

「サイコ・ショッカーを蘇生召喚。更にモンスターをセット。ターンエンド」
(攻撃してこない……? でも、伏せカードも無い……伏せているのは黄泉ガエル?
 それとも……)

■カイ:5600⇒4800





 カレンは内心困惑する。
 それはカイによる喰えない一手だった。ショッカーを無防備にしているからこそ、伏せカードが気にならざるを得ない。ブラフか、それとも唯のハッタリか。
 突いてみてこそ、道が開かれる。
 彼女の手の中にはザボルグが眠っている。――そう、モンスターを破壊することは容易く、そして早い。
 だからこそ悩まざるを得ない。ショッカーを葬ったとしても伏せモンスター次第では一気に窮地に立たされてもおかしくない。
 逆に伏せモンスターを破壊しても、ショッカーを破壊する他の手段が無い以上、相討ちなどという手を使わざるを得ない。
 更に困ったことは、カイの読みが“半分”は正しいことである。
 伏せているカードの1枚はスキルドレイン。だが、ショッカーの前では無力と化す。

(クッ……)

 思考の迷路に迷い込んでいるのは、何もカイだけではない。
 真剣勝負だからこそ、一手一手が更なる慎重性を舞い込む。

「私のターン、ドロー……」





 既に、何名かの“受験生”は合格を果たし、暢気にデュエル場の腋に設けられた特設ベンチに腰掛けていた。

「うぃー……疲れた疲れた。相手強いから焦る焦る」

 やれやれとげんなりな表情を浮かべるこの少年の名は天近拓斗(あまちかたくと)。
 彼のデッキは光属性デッキ。彼の姓、“天近”が指し示すように、彼の戦い方は神々しいという話すらある。
 何処までが作り物で、何処までが真実なのかは別にして。
 それはともかく、周りの受験生に群れること無く、彼は周りの“戦い”を見守る。

「半数以上は負けてるんだな。流石はアカデミアってトコか。
 ……まぁいいさ。オレは勝ち組になる。勝ち進んでプロデュエリストの栄光を掴み取る」

 いつしか、デュエルを繰り広げているのは、ほんの一部の“受験生”のみになった。
 半数以上は涙と鼻水を流して泣き散らしている。
 勝利者が現れるということは、必ず敗北者も同数生まれるということである。
 負けた“受験生”はスタッフに促され、無情にも帰路の旅路へと赴くのだ。
 小学生を卒業したばかりの人間にとっては、それは何よりも絶望感を与えてしまっていた。だからこそ、勝利者たちは敗北者の分まで頑張らなければならないのだ。
 それが“戦友”に手向けられる唯一無二の約束。
 拓斗もまた、そんな衝動に駆られる。
 テレビで見た煌びやかな世界。そんな世界に登れるのは、ほんの一部の人間しか居ない。――負ける訳にはいかない……決意を固める拓斗。そんな彼の視線に、カイが
留まるのにはさほど時間がかからなかった。

(……同じ感じがする)

 拓斗は既視感(デジャビュ)を憶えた。正確には、同じ穴のムジナのように、何か惹かれる物があった。
 それは戦術やデッキ構成などとは、何か一線を介する。
 感性の問題だろうか? 彼は直感的に一つ思い浮かんだ。

(アイツ……生き残るな)





「メビウスを生け贄に捧げ、手札から雷帝 ザボルグを召喚するわ。
 効果によってサイコ・ショッカーを破壊!」
「っ……!」

 結局の所、攻め手を潰し、スキルドレインで追い込む戦術をカレンは取る事にした。

「メビウスで伏せモンスターを攻撃!」

 氷の塊が投擲され、刺さり、カイのモンスターは四散する。だが!

「破壊されたのはキラー・トマトです」
「――ッ!?」
(スキルドレインでも無効にできないモンスター!)

 カイは手を進める。

「よって、デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを特殊召喚することができます。オレはニュードリュアを特殊召喚」

 現れるのは自らを串刺し貫く罪人のモンスター。
 戦闘によって破壊された場合、モンスター1体を巻き込む効果を持つ。
 そしてこの効果は、墓地で誘発する為にスキルドレインで未然に防ぐ事も敵わない。

「――ターンエンド」

 どうする事もできなかった。
 ザボルグが破壊されるのは確定事項。だが、それを止める一手を、カレンは持って居なかった……。

「オレのターンです。ドロー」

 さっきまでの焦りが、まるで嘘であるかのように消え、落ち着いた口調でドローするカイ。彼の脳裏には、もう勝利への方程式が出来上がってしまった、そんな風にすら思えてしまうような素振りすらある。

「手札からキラー・トマトを召喚」
「三枚目……運がいいわね」
「そうでもないですよ。シンクレア先輩の熟考には恐れ入る。
 だからこそ、“運命力”を高めたんですよ」

 カイはシニカルな笑みを浮かべる。だが、次の一手でそれは一変する。

「強制転移、発動しますよ」

 無表情のまま云うカイ。カレンは絶句する。

「当然、俺が選ぶのはキラー・トマトです。先輩……ザボルグを戴きますよ」
「……なるほど、カイ君の掌の上で、踊らされていたようね」

 カレンは観念したような口調になる。

「伏せているカード――スキルドレインですね。バルバロスの段階で警戒していましたが」
「……デュエリストは、そう簡単に自らの手の内は明かさないものよ」
「そうですか。なら次の一手を行うまでです。メビウス、キラー・トマトを攻撃だ!」

 氷の塊を投擲するメビウス。

「勝利を確信した瞬間こそ、敗北の瞬間となる」
「――何っ!?」

「――伏せていた“もう1枚”のカード、聖なるバリア−ミラーフォース−!!」



⇒Chapter01 Phase04 入試試験[4]

 現状をおさらいしよう。

■暗堂カイ/LP4800/手札1
■フィールド:ニュードリュア/雷帝 ザボルグ
■墓地:キラー・トマト/ジャイアント・ウィルス/リビングデッドの呼び声/死のデッキ破壊ウィルス/人造人間−サイコ・ショッカー−/早すぎた埋葬/強制転移
■除外ゾーン:なし
□カレン=シンクレア/LP6700/手札2
□フィールド:キラー・トマト/聖なるバリア−ミラーフォース−/伏せカード1枚
□墓地:神獣王バルバロス/洗脳−ブレイン・コントロール−/氷帝メビウス
□除外ゾーン:なし

 で、ある。


「ミラーフォースの効果でカイ君、キミのモンスターは全て返り討ちよ!」

 透明な障壁が瞬時に貼られ、砕かれた衝撃で虹色の衝撃波が発生する。それらはカイのモンスターを無慈悲に刈り取ろうと切迫し、肉迫する。

「悪いけど試験は不合格のようね!」


「――それはどうかな」


「えっ……」

 虹色の衝撃波は、まるで亜空間に吸い込まれるようにカイのモンスターの手前で止まり、何かに吸収されるように消えてしまった。
 唖然とするカレン。カイは言葉を続ける。

「残りの手札……1500ライフを払い、我が身を盾に、発動」
「――!!」

 つまり、

「攻撃は有効ってことですよ。 キラー・トマトは破壊され、効果が発動する」
「カードを伏せなかったのはブラフだったってワケ? っ……」

 カレンは悔しい表情を浮かべる。しかし、それにしても試合開始から現状まで、カイの手の内に無駄は感じられない。戦術によるミスうんぬんがあったとしても、今までのソレは一貫した辻褄によって合わさっている。

「キラー・トマトの効果を発動します。デッキから魂を削る死霊を特殊召喚。
 更に、ニュードリュアと魂を削る死霊でダイレクトアタック!!」
「クッ……まさか、ね。リバースカードオープン! 1000ライフを払い、スキルドレインを発動するわ。魂を削る死霊の戦闘耐性と手札破壊の能力は無効になるわ」

 だが、ダメージは大きい。

「ターンエンド」


(参ったな……予想以上に強い……)


 カレンは畏怖を憶える。
 “勝つ”前提で手を進めていたハズなのに、いつの間にか戦うことに必死である自分が居る事に……即ち、彼女はカイの実力を認めるということである。
 だが、彼女は“試験官”だ。故に手を抜くことは許されない。手を抜くということは、それはアカデミアと自分に対する背信行為になる、ということだった。


■カイ:4800⇒3300
□カレン:6700⇒5700⇒4700⇒4400⇒3200





「私のターン、ドロー!」

 スキルドレインが貼られている為、大半のモンスターは効果を失う。無論、カレンのデッキに入っているデメリットアタッカーは、その能力を失いむしろ強化される、と云っても過言ではないだろう。
 そしてカレンが引き当てたカードは……。

「可変機獣 ガンナードラゴンを召喚するわ!」
「やはり……っ!」

 召喚されたのは、バルバロスと同じタイプのモンスター。スキルドレインが発動している為、攻撃力は2800、ザボルグを凌駕している。

「行くわよ。ガンナードラゴンで魂を削る死霊を攻撃!」
「ッ……俺のライフが!」

 3300だったライフは、もはや風前の灯火になったと云える状況になってきた。
 残るライフは2500削られた800のみ。故に大半のライフコストを伴うカードすら発動できない。

「カードを伏せてターンエンドよ。どの道、これで決まりね」
「そういうワケにも行きませんよ。このデュエル……必ず制する。絶対に!」

 カイの瞳に並々ならぬ闘志が宿る。
 それは逆境だからこそ生えていたのか、それとも元々だったのか、知る者は彼自身だけである。

「なら示してよ。キミの言葉に対する“証拠”ってヤツを!」
「云われなくても。次のドローに全てを賭ける!!」

■カイ:3300⇒800


「俺のターン、……ドロー!」

 それはまさにディスティニードロー。神の如き引きの強さ。
 そして……

「墓地の全てのモンスターをデッキに戻し、貪欲な壷を発動!」
「この状況下で……今、引き当てたって云うの!?」

 流石にカレンは面食らった表情を浮かべる。
 敗北寸前の状況下に対して、カイはまだ勝ち進もうと足掻いているから。

「デッキからカードを2枚ドロー! そして手札からならず者傭兵部隊を召喚です!」
「――――――そんな馬鹿な……」

 現れるのはひねくれた表情を持つ傭兵軍団。報酬の為ならば命を軽んじる者たち。
 そして、その能力は……

「ならず者傭兵部隊を生け贄に捧げ、ガンナードラゴンを破壊します!」
「ッ……スキルドレインじゃ、ならず者傭兵部隊の効果を阻止できないッ!!」

 そう、スキルドレインで無効できない効果は色々あるが、代表的な物にリクルーターやネフティス、そしてならず者傭兵部隊のように墓地で発動する効果は止められない。
 結果として破壊されるガンナードラゴン。そして道は開かれる……。

「更にもう1枚のカードを発動です! 手札から、魔法カードハリケーン」
「そんなっ!?」

 カレンが頼りにしていた伏せカード、炸裂装甲とスキルドレインが手札に戻される。
 よって、カレンを守るカードは何も無い。


「2体のモンスターでダイレクトアタック!」


「きゃあぁぁぁぁぁ!!」


□カレン:3200⇒800⇒0


 ――終幕。
 入試試験の結果は云うまでも無い。

「……合格、よ」
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 歓喜に震えるカイ。そんな彼を見守る人は、少なくとも一人は居た。

「やはり……生き残ったか」

 拓斗(たくと)が云う。
 フッと短い笑みを浮かべつつ、彼はベンチを後にした。





 ――約二時間後……

「説明会は終わったようね」

 一通り入学後の説明を受けた後、帰ろうとカイが“正面ゲート”を潜ろうとした時、見慣れた金髪の女生徒が居た。
 ――カレンである。

「改めて、カレン=シンクレアよ。カイ君、私ら在校生は、貴方たち合格者を歓迎するわ。……合格率20%、僅か30数名の中に選ばれたのよ……光栄に思いなさい」
「ありがとうございます。次に会う時は……ライバル同士ですね」
「そうね。でも、私はラー・イエロー、そしてキミはオシリス・レッド。昔とは少し違うわ。入学時は強制的にオシリス・レッド、勝ち続け、駆け上がってきなさい」
「はい!」

 そうして、互いに手を振り合い、短い別れを告げる。

「暗堂カイ……【闇属性】の使い手。地元のカードショップの大会では、常に大人に混じり、上位に勝ち残り続ける常勝組。なるほど、実力はホンモノだったのね。
 楽しみにしているわ……キミの入学をね」


 帰りの船の中、入学を果たしたカイは、ゆっくりとデッキの上でのんびりとしていた。
 これから始まる新たなる生活。新たなる戦い。
 周りは全員がプロのタマゴ。今まで以上に激しい戦いになるだろう。

 ――と、

「良いデュエルだったな」
「キミは?」

 カイに話しかけてくる声が一つ。
 メガネを掛け、いかにも頭脳明晰だと云わんばかりの知的な顔。
 髪の毛は短く切られており、特徴的な藍色の髪が潮風で短く動く。

「キミと同じ受験生さ。……今は、合格者だけどな」
「……見ていたのか」

 カイは少しだけ警戒した表情を浮かべる。

「オイオイ、警戒する必要性なんてないだろ? オレたちは、“仲間”だぜ?」
「好敵手(ライバル)でもある」

 カイは少しだけ距離を取る。

「……確かに、ね。オレの名は天近拓斗、キミは?」
「……暗堂カイ」

 ほぉ……と、拓斗は関心の声を上げる。

「なるほど、キミが警戒するのも無理はないってワケか」
「えっ?」
「キミは業界では少し有名でね、インターネットを少しいじれば名前が出てくる。
 【闇属性】のカイ君。……オレは対極的な立場のデッキでね、【光属性】を用いる」

 なるほど、とカイは頷く。

「まぁ、少しすれば会えるんだし、再会の楽しみはそれまでとっておくよ。
 それじゃあ……See you again!!」

 そういって拓斗はデッキから船の中に入っていった。

「……天近拓斗……」

 しばらくの間、カイは拓斗の移動した方向に視線を向け続けていた……。



 ――同刻

『状況を報告せよ』
『――名のデュエリストが合格しました。はい、首尾良く順調です』
『ならば第二フェイズに移行せよ。悟られるなよ……気取られるなよ……』
『卿の赴くままに』


『何としても手に入れるのだ……“本物”の三幻魔のチカラを』



Chapter01 END





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