青眼子ちゃん物語U
〜青眼子ちゃん誘拐事件!?〜

製作者:おもてさん




※「青眼子(ブルーアイズこ)ちゃん」と読みます。いわゆる、モンスターの擬人化を行っております。ついでに、原作キャラの設定も色々おかしくなってます。以前投稿した「青眼子ちゃん物語〜青眼の花嫁〜」の続編です。読んでいないor内容を完全に忘れた方は、そちらを先にお読みください。
 ラブコメだったりギャグだったりバトルだったりシリアスだったりと色々忙しいので悪しからず。上級者向けです。例によって、以下の点を了承できる方のみお読み下さい。了承できない方は読まなくて結構です(ぇー
・作者の神経を疑わない。
・感想掲示板での苦情は基本的に一切受け付けません。これに関しては責任を負いかねます(ただし誤字の報告などは勿論アリ)。
・キレない
・生タマネギは人類の敵(火が通ってればむしろ好き)

 それでは、進む勇気のある方のみ、これより先をお楽しみ下さい。




前作のあらすじ

 瀬人さんと青眼子ちゃんが結婚しました。



第四章 青眼子ちゃん、ジェラシーをおぼえる!(前編)

 青眼子ちゃんが瀬人さんと結婚して、一年が過ぎた頃。
 青眼子ちゃんはこれまで勤めていたDC社を寿退社し、専業主婦として、二人の愛の巣……もとい、マンションの一室で家事に勤しむ毎日でした。

「……あら? これは……」

 そんなある日のこと。瀬人さんが出社した少し後で、リビングに書類の忘れ物があるのを青眼子ちゃんは発見しました。
 瀬人さんに連絡をとると、その日の午後に使う予定の資料とのことです。
 瀬人さんは「秘書にとりに行かせるからいい」と言っていましたが、青眼子ちゃんはあえて「自分で届けに行く」と主張しました。
 瀬人さんの役に立ちたかった、というのもありますが、KCの社長室――二人が出会った初めての場所をもういちど訪れたい、そんな気持ちがあったのです。何という新妻。
 青眼子ちゃんは、少しおめかしして行くことにしました。社員の手前、瀬人さんも、妻が着飾っていた方が自慢だろう――そう思い、以前、デートのときに瀬人さんが買ってくれた、お気に入りの白いワンピースを着ていきます。
 しかしいざ会社を訪れると、入ってすぐのところで、一人の女性と出くわしました。
「……社長夫人の青眼子様ですね?」
「え……はい」
 突然呼び止められた青眼子ちゃんは、目をパチクリとさせます。
「……お待ちしておりました。私は瀬人社長の秘書、オベ子=リスクと申します」
 青眼子ちゃんは、変わった名前だなと思いましたが、青眼子ちゃんの名前も十分変です。
 そのオベ子さんは青いスーツに身を包み、背が高く、体つきは非常にグラマーでした。
 容姿の方も、険があるものの、非常に整った美しい顔立ちで、女性である青眼子ちゃんから見ても、魅力的に感じられました。
 穏やかな容姿をした青眼子ちゃんとはタイプが違いますが、青眼子ちゃんは彼女に対し、あえて数値化するなら1000ポイント分くらい負けているように感じました。
「……それで、書類の方はどちらに?」
「あ……はい、これです」
 不意に問われ、青眼子ちゃんは少し慌てた様子で、茶封筒を差し出します。すると、オベ子さんはそれをさっさと受け取り、中身を確認します。
「……確かに。社長には私からお渡ししておきますので」
「え? あ、あの……」
 困惑気味に、青眼子ちゃんは反論します。
「わ、私から瀬人さんに直接渡そうと――」
 しかし、青眼子ちゃんのことばをオベ子さんは冷静に制します。
「……いえ。社長はお忙しい身ですし、部外者を中には入れられませんので」
 部外者――そのことばに、青眼子ちゃんはカチンときました。
「それでは失礼いたします。お疲れ様でした」
 一礼すると、こちらの反応も待つことなく、オベ子さんはさっさと行ってしまいました。
 取り残される青眼子ちゃん。こうなると、渋々ながら撤退せざるを得ません。せっかくのおめかしも無駄になってしまいました。
 と、そこへ、青眼子ちゃんの携帯のメール着信音が鳴ります。瀬人さんからだろうか、そう期待しましたが、そうではありませんでした。
 メールの送り主は、幼馴染のエメラルド子ちゃんでした。彼女は今、KC社でキャリアウーマンとして働いています。
 メールによると、彼女は今日、有給休暇をとっているとのことで、せっかくだから会って話さないかというものでした。
 このまま帰宅するのも癪だな、そう考えた青眼子ちゃんは、すぐにOKのメールを彼女へ返し、KC社を後にしました。





 エメラルド子ちゃんとは、彼女の住むアパート近くの喫茶店で会いました。
 幼い頃から親友の彼女とは、昔からよく会って話をしていたのですが、結婚してからはその回数も減り、数ヶ月ぶりの再会でした。
「久しぶりね〜。どうなの? 海馬社長とは」
 彼女はKC社の社員なので、瀬人さんのことを“社長”と呼びます。
「うん。毎日が楽しくて……本当に幸せよ」
 青眼子ちゃんは、赤くなって惚気(ノロケ)ます。やはりラブラブです、今のところ
「そういうエメラルド子はどうなの? スピアさんとは」
「ああ……ダメダメ」
 エメラルド子ちゃんは不満げに口を尖らせます。
「彼ったら、自分のことばっか話して……ぜんぜん私の話きいてくれないんだもの」
 まあ、守備力ゼロだから仕方ないですよね(謎)。
「それよりさ! 青眼子の叔父さんの……ヴァンダルさんってカッコいいわよね! 大人の男性の魅力って言うかさ〜」
「……不倫でもするつもり?」
 苦笑する青眼子ちゃん。確かにヴァンダル叔父さんはカッコいい人だけれど――そんなことになったら、ヘルニア入院中のホーリーナイト叔母さんが可哀想です。怒ると怖いガンドラお祖母さんも黙っていないでしょう。
「……そうそう。不倫って言えばさー、海馬社長――」
 と、そこでエメラルド子ちゃんは慌てて口に手を当てます。いかにも「しまった」と言いたげな顔です。彼女はお喋りがタマにキズでした。
「……瀬人さんが……どうかしたの?」
 青眼子ちゃんは眉をひそめます。そこでテキトウに誤魔化せばいいものを、お喋りなエメラルド子ちゃんはついつい喋ってしまうのです。
「いやー……ただの噂なんだけどね? 海馬社長が不倫してるって噂があるのよ」
「!?」
 青眼子ちゃんが目を見張ります。そこでやめれば良いものを、三時のおやつより噂話が好きなエメラルド子ちゃんは続けます。
「最近ね、海馬社長に新しい秘書がついたのよ。オベ子=リスクさんっていうんだけど……知ってる?」
 青眼子ちゃんはこくりと頷きます。知ってるも何も、さっき会ってきたばかりです。
「何でも、イシュタール商事ってトコから引き抜かれてきたらしいんだけど……入社早々に社長秘書、おまけに、あの美貌にスタイルでしょう? 何もない方がおかしい、って……社内の女の子の間じゃ噂で持ちきりなのよ」
「…………」
「……まあね、異例の大出世だからみんな嫉妬してるのよきっと。噂なんて大概、根も葉もないところから出てくるし。まあ火のないところに煙は立たぬなんてことばもあるけど? あのカタブツの社長に限ってそんなことないって〜!」
 そう話し終えると、エメラルド子ちゃんは満足げに、注文したアイスティーを口に運びます。悪意さえなければ、何であれ許されて良いものでしょうか?
 エメラルド子ちゃんの目の前の青眼子ちゃんは、目を点にして、固まってしまいました。





(まさか瀬人さんに限って……ね)
 エメラルド子ちゃんと別れてからも、青眼子ちゃんはそのことばかりを気にしていました。
 その噂をどうしても忘れられなかった青眼子ちゃんは、夕食のとき、瀬人さんにさり気なく訊いてみることにしました。
「……今日、書類を取りに来た秘書の方……オベ子さんでしたっけ? 綺麗な方ですよね」
「……ん? ああ」
 夕食のおかずを口に運びながら、何気ない様子で瀬人さんは頷きます。
「エメラルド子から聞いたんだけど……入社してすぐ、瀬人さんの秘書になったんですって?」
「……ああ」
 頷くと、瀬人さんは箸を置き、真面目な顔で言うのです。
「……大した女だよ。あれほど優秀な人間は、このオレでも見たことがない。あれを引き抜けたのは、わが社にとって大きなプラスだったな」
「―――……!!」
 青眼子ちゃんは不安を覚えました。あの瀬人さんが――こんなにも他人を褒めるのは、見たことがなかったからです。
「……? どうした?」
「……! いっ、いえ、何でも……」
 青眼子ちゃんは作り笑いを浮かべます。瀬人さんが褒めたのは、彼女の仕事上の腕――女性として褒めたわけではないのです。
 瀬人さんに限って、そんなことあるはずがない。ありえるはずがない。自分にそう言い聞かせます。

 しかし翌日から、瀬人さんの帰りが急に遅くなり始めました。



第五章 青眼子ちゃん、ジェラシーをおぼえる!(後編)

「社運を賭けた一大プロジェクトでな……しばらくは帰宅が遅くなりそうだ」
 瀬人さんはそう言っていました。
 それ以来、瀬人さんは日付の変わる頃に、疲れた様子で帰宅し、そのまますぐに寝てしまう……そんな毎日が続きます。瀬人さんとゆっくりできるのは朝、出勤前のわずかな時間だけでした。

(仕方がないわよね……お仕事なんだし)
 お夕飯を一人で食べながら、青眼子ちゃんは自分にそう言い聞かせます。しかしどうしても、エメラルド子ちゃんから聞いた噂が脳裏をよぎるのです。

 ――帰りが遅いのは、もしかしたらオベ子さんと――

(……ううん! そんなことあるわけない!)
 青眼子ちゃんは懸命に、首を横に振ります。
(瀬人さんに限ってそんなこと……あるわけがないわ! そうよ!  あれはタダの噂! だから――)

 ――でも――

(もし……その噂が、本当になっちゃったら……!?)
 青眼子ちゃんの脳裏に浮かぶ、一抹の不安。
(たとえ仕事でも……必然的に、オベ子さんと過ごす時間は長くなる。あんなに綺麗な女性と長く一緒にいれば、瀬人さんだって……!)
 不安は募るばかりです。二日、三日、四日、五日、いつになっても瀬人さんの帰りは早くなりません。そしてそれとともに、青眼子ちゃんの中のジェラシーもどんどん強くなっていくのです。





 瀬人さんとまともにコミュニケーションをとっていられるのは、朝のわずかな時間だけ。その日の朝に出したおでんは、青眼子ちゃんから瀬人さんへ向けた、明らかな“抗議”メッセージでした。
「…………」
 さすがにその手のことに鈍そうな瀬人さんも気が付いたのか、出かけ際、少し考えてから、不機嫌そうなままの青眼子ちゃんに伝えます。
「……青眼子。今日なんだがな……久しぶりに早く帰れそうだ」
「!? 本当ですか!?」
 手を合わせて大喜びする青眼子ちゃん。ああ、と瀬人さんが答えると、その青い瞳を、本当に嬉しげに輝かせていました。
「ずっと残業続きだったからな……たまには良かろう」
「はいっ! それじゃあ……ご馳走を作ってお待ちしていますね♪」
 青眼子ちゃんの喜びように、瀬人さんも満足げな笑みをこぼします。お出かけのキスをすると、瀬人さんは家を出ます。青眼子ちゃんは、天にも昇る幸せな気持ちでいっぱいでした。
(お夕飯は何にしよう……やっぱり瀬人さんの大好きな、牛フィレ肉フォアグラソースよね♪)
 すごい浮かれようです。でもこんな時期は新婚だけです(某女史談)
 午前中に掃除・洗濯といった雑用を済ませ、昼食には残ったおでんを片付けると、安っぽい昼ドラをチェックしてからお買い物です。
 一番いいお肉を買っちゃおう♪、そんなことを考えながら家を出ようとすると、携帯電話から着メロが鳴ります。この曲は、愛する瀬人さんからです。
「もしもし、青眼子です♪」
 上機嫌で応えます。
『……あー……青眼子か?』
 しかし、電話口の瀬人さんはなぜか口調が優れません。
「どうかなさいましたか、瀬人さん?」
『あー……いや、な。今日なんだが……悪いが、やはり遅くなりそうなんだ』
「……はい?」
 電話を耳に当てたまま、固まってしまう青眼子ちゃん。気まずそうに瀬人さんは続けます。
『……その……急な仕事が入ってしまってだな、どうしても――』
『――瀬人様、そろそろお時間の方が……』

 ――ピクッ

 電話越しに、瀬人さんとは別の女性の声が聴こえるのを、青眼子ちゃんは聴き逃しませんでした。この声は、十中八九オベ子さんです。
「――瀬人さんのバカッ!!!」

 ――ブチッ!!

 そう叫ぶと、青眼子ちゃんは一方的に電話を切ります。八つ当たり気味に携帯電話を投げ出すと、さっさと家を出ることにします。
 今日の晩御飯のメニューが決まりました。おでんです。明日の朝も、昼も、夜も、その次の日も、ずーっとずーっとおでんです。おでん以外ぜったい作ってあげません!!
 家の中から再び同じ着メロが流れますが、そんなものは無視です。青眼子ちゃんは膨れっ面のまま、携帯電話も置いてそのまま家を出て行きました。





(早く帰るって言ってたのに……瀬人さんのウソツキ!)
 ぶつぶつと愚痴りながらスーパーへ向かいます。当然、今日と向こう数日分のおでんの材料のためです。
 人通りの少ない、狭い裏路地へと入ります。普段は通らないけれど、近道なのです。
 そしてその選択が、大きな過ちとなることを、青眼子ちゃんはすぐに思い知ります。

「ヒャハハ! ストップだかんな〜!」
「……!?」
 俯きながら歩いていた青眼子ちゃん。不意に声をかけられ、視線を上げます。
 そこには、妙な仮面を着け、黒いマントを羽織った背の小さい男が両手を広げています。
チビって言うな〜!」
 地の文を読みました。ただのチビではないようです。
「だからチビって(ry」
「……どちら様ですか?」
 不機嫌そうに青眼子ちゃんは問いかけます。瀬人さんの妻となって以来、こうした経験は何回かありました。まだ未成年でありながら、大会社のカリスマ社長――週刊誌のいいネタなのです。瀬人さんは一度も口にしませんでしたが、自分との結婚も散々騒がれたらしいのです。
「お前……海馬瀬人の妻、青眼子だな?」
「……。すみませんが、取材ならお断りします」
 ずいぶん口が悪い記者だな、そう思いました。普段どおり、冷たくあしらいます。
「生憎、そんな穏便な人間じゃないかんな。グールズ……といえば分かるだろ?」
「!? グールズ!?」
 青眼子ちゃんは目を見張ります。グールズといえば――先日、妹の真紅眼子ちゃんも襲われたという人さらい集団です(※「真紅眼子ちゃん物語」参照)。
 青眼子ちゃんは踵を返すと、すぐに駆け出します。少し行けば、大通りに出る。そうすれば人も沢山いる。人さらいなどできるわけがありません。
「……おっと、逃がしはせん」
 少し走ると、今度は別な仮面を着け、黒いマントを羽織った背の高い男が両手を広げています。
「……誰がデクノ坊だ」
 言 っ て ね え よ 。
(……囲まれた……!)
 容易には逃げられない状況を把握すると、青眼子ちゃんは“構え”をとりました。
 実は青眼子ちゃん、ヴァンダル叔父さんのやっている龍神流空手8段の達人なのです。てゆーかヴァンダル叔父さんより強いのです。
「フン……こちらの情報では、お前は武術の達人とのことだったからな。用心棒を用意させてもらった」
 デクノ坊の後ろの物陰から、さらに大きな男が現れます。気持ち悪い覆面をつけ、上半身裸です。変態っぽいです
「……彼は元・覆面レスラー……ヘルレイザーだ」
 青眼子ちゃんは表情を険しくしました。格好が変態なのに加え、元・レスラーというその男は武器まで持っており、青眼子ちゃんより200ポイントくらい強そうです。
(……気を抜いたら、やられる……!)
 青眼子ちゃんは気を引き締めます。倒す必要はない、逃げる隙さえ作れればいい――しかし、背後からもう一つ、大きな気配を感じました。
 慌てて振り返る青眼子ちゃん。そこには怖い仮面を着けた、同じく巨体で上半身裸の変態が立っていました。
「……!!!」
 戦慄を覚える青眼子ちゃん。こっちの男は、武器を持っていないくせに、青眼子ちゃんより300ポイントくらい強そうです。
 たじろぐ青眼子ちゃん、その一瞬が命取りでした。
 怖い仮面の変態の拳が、青眼子ちゃんの腹部に入ります。
 不意打ち気味な強い衝撃に、青眼子ちゃんの意識はたまらず遠のきました。
「よくやったかんなー! ガーディウス!」
 倒れこむ青眼子ちゃん。絶望的なこの状況は、青眼子ちゃんの精神を、さらに深い闇へと誘います。
(……瀬人……さん……)
 消えゆく意識の中、光を掴もうと懸命に呼びかけたのは、紛れもない、最愛の人の名前でした。



第六章 青眼子ちゃん誘拐事件!(前編)

「……ン……っ」
 ぼやける意識の中、青眼子ちゃんは少しずつ、感覚を取り戻していきました。
(……私、どうしたんだっけ……?)
 寝不足な朝のように、なかなか思考まとまりません。気だるい意識を、少しずつ覚醒状態へ持って行きます。
(私……お買い物に出かけて、とりあえず数日分のおでんの材料を……それから……)
 そこで、青眼子ちゃんはハッと意識を取り戻します。
 身体を思うように動かせない――椅子に座らされた青眼子ちゃんは、後ろ手に縛られ、足や胴も椅子に固定されています。口には猿轡までされていました。
「ヒャハハ!! 目が覚めたみたいだかんなー!!」
「……!?」
 顔を上げると、そこには4人の男――青眼子ちゃんをさらった張本人達が立っています。4人はみな、相変わらず仮面を着けていました。恐らく、正体を分からなくするためでしょう。
 名前はまだよく分かりません。前回名乗られた気もするが、あいにく青眼子ちゃんは覚えていませんでした。しかし、このままでは説明に不便なので、便宜上、仮の名前を着けます。チビデクノ坊気持ち悪い変態仮面怖い変態仮面です。
 場所は、見慣れない工場跡のようでした。気絶させられた後、連れて来られたようです。
「いまボスに連絡をとっている……。確認をとれ次第、KCに身代金を要求するのだ」
「ヒャハハ!! あの大会社なら、相当な額が奪えるかんな〜!!」
 説明するまでもなさそうですが、デクノ坊チビの台詞です。
(……そんな……)
 口を封じられたままの青眼子ちゃんが、表情を曇らせます。こんなところで瀬人さんに迷惑をかけることになるなんて、思っても見ませんでした。
(……でも……)
 青眼子ちゃんの脳裏を、不安がよぎります。

 ――瀬人さんは私を……心配してくれるだろうか?

 ――もしかしたら今も、オベ子さんと……

 ――こんな迷惑をかける私を、瀬人さんは嫌いにならないだろうか?

 青眼子ちゃんは昔から、何でも卒なくこなす、失敗のない少女でした。だから失敗には、他人に迷惑をかけることには慣れていませんでした。
 何とか、この場を抜け出さないと――そう思い、両腕に力を入れます。しかし、固く縛られた縄はビクともせず、青眼子ちゃんの肌に深く食い込むばかりです。武術の達人である青眼子ちゃん、しかし、縄抜けのできる忍者ではないのです。これではどうしようもありませんでした。
 オマケに、現在の自分は別室に隔離されるでもなく、4人の男達に監視され、そのうち二人は元レスラーです。攻撃力も上です
 独力で脱出などというのは、まず不可能な、夢物語でした。
 それでも、青眼子ちゃんは縛られた両手首に意識を集中し、縄を何とか外そうとします。

「……それにしても……オマエ、美人だかんな〜」
「……!?」
 意識を前方に戻すと、近づいてきたチビが、青眼子ちゃんの顔を覗きこんでいました。ニッタリと笑った仮面の顔が、間近で見るとより不快です。青眼子ちゃんはたまらず顔を逸らしました。
「……オイ、何をしている! 人質には手を出すなと、ボスはいつも言っているだろう!!」
 どうやらデクノ坊はまともな人間のようです。青眼子ちゃんはホッとしました。
「でもよ〜、こんな上玉、めったにいないかんな〜! ちょっとくらいならバレないだろ?」
 冗談じゃない、と青眼子ちゃんは思いました。青眼子ちゃんは瀬人さんに操を捧げているのです。こんな誘拐犯になんて絶対イヤです。
「……むぅ……それはまあ、確かにな」
 デクノ坊も満更でもありませんでした。誘拐された美少女は、誘拐犯たちにあんなことやこんなことされて遊ばれちゃうの法則があるのです。
 エッチ! スケベ! なに考えてんのよ読者さんったら!!
「へへ、そうだろ〜? それじゃあ早速……」
 近づいてくるチビ。ニッタリといやらしく笑った仮面も相まって、青眼子ちゃんは怖気が走りました。
「オ……オイ待て! 光の仮面!!」
 あまり乗り気ではない様子のデクノ坊が唯一の救いでした。どうやらチビ光の仮面と呼ばれているようです。しかし、めんどくさいのでそのままチビでいきます。
「何だよ、闇の仮面〜! 固いこと言うなよ〜」
 どうやらデクノ坊闇の仮面と呼ばれているようです。しかし、めんどくさいので(ry
「……いや、そうではなくてな。その、俺も……」
 どうやら、デクノ坊も青眼子ちゃんにイタズラがしたいらしいです。全然まともじゃありません。ただのむっつりスケベでした。
 最終的に、仮面の男たちは4人でジャンケンを始めました。どうやら青眼子ちゃんにイタズラをする順番を決めるためのようです。みんな変態です。モニターの前の男性読者と同じです。とらぶる愛読者なのです。
 どうでもいいけど、こういうときのジャンケンは、必ずあいこ続きで、なかなか決着がつかない法則があります。青眼子ちゃんの目の前で行われるそれも、ご多分に漏れずそうでした。
(そんな……冗談じゃないわ!!)
 青眼子ちゃんは必死にもがき出します。そんなもの、この健全な遊戯王サイトで描写できるわけがありません。打ち切り確定です。良くて修正海苔だらけです。何とか打ち切りを逃れるため、懸命に縄を抜けようとします。しかし、固く縛られたそれは、やはりビクともしませんでした。
(助けて……瀬人さん!!)
 決して届かないと知りながらも、青眼子ちゃんは心の中で、懸命に呼びかけました。
 しかし、そのとき――奇跡は起きたのです。


「――そこまでだ!! グールズども!!!」
「……!?」
 そう、少年誌系のマンガではこんなとき、誘拐された美少女があんなことやこんなことされて遊ばれちゃう寸前に、ヒーローが助けに来る法則もあるのです。男性読者の諸君、残念!
(まさか……瀬人さん!?)
 青眼子ちゃんはすがるような瞳で、その声の主を見ました。
 しかし、そこに立っていたのは背の低い少年。瀬人さんではありません。
「だっ……誰だテメ〜は!?」
 お楽しみの時間を邪魔され、苛立った様子の光の仮め……じゃなくて変態チビが叫びます。それにしても、お約束とはいえ陳腐な台詞です。
「……オレの名は……アテム……」
 少年は不敵な笑みを浮かべると、胸ポケットから手帳を取り出し、男達に提示してみせました。
「警視庁秘密刑事課――アテム警視だ!!!」



第七章 青眼子ちゃん誘拐事件!(中編)

「け、警察……!?」
「秘密刑事課〜!?」
 デクノ坊とチビは、いきなりの闖入者に顔を向け合います。
 学生服を着たその少年は、一見したところ、しがない学生です。しかし、デクノ坊は思い出したように言いました。
「聞いたことがある……警視庁が最近、我々のような闇組織に対抗するため極秘で創設した特殊部隊。メンバーはたった3人、その中には子どももいたと聞くが……」
 すると、アテム警視に一足遅れ、一組の男女が現れ、同じように手帳を取り出しました。
「……同じく、マハード警部だ」
「同じく、マナ警部補で〜っす☆」
 男の方は、何だか存在感と幸の薄そうな、生真面目そうな男性です。しかし三人の中で一番刑事っぽいです。
 女の方はまだ少女で、恐らくアテム警視と同年代くらいでしょう。なかなか可愛い女の子ですが、やはりとても刑事には見えません。
 しかしそれ以上に目を引くのは、二人の格好です。二人はそれぞれ杖を持ち、まるで魔術師であるかのようなコスプレをしていました。マナ警部補は可愛いのでいいとしても、既に大人のマハード警部はいい歳して恥ずかしくないのでしょうか。
「な、何が秘密刑事課だ! ただの子どもと変質者じゃないか! 俺たちの敵じゃないかんな〜!」
 コイツラに変質者と言われたら人生お終いです。好きでこんなカッコしてるわけじゃないんだとばかりに、軽くへこむマハード警部。そう、このコスプレはアテム警視の趣味でした。ちなみに、マナ警部補は割と気に入ってるようです。可愛いので無問題。可愛いは正義。
「フン……たった三人で我々を捕まえようとは、無謀なことだ」
 デクノ坊が変態仮面たちに目配せすると、二人は黙って頷きます。
 アテムの後ろのマハード警部が身構えます。しかし、アテム警視はそれを制し、首を横に振りました。
「コイツラは手ごわい……ここはオレに任せてくれ」
 そう言うと、アテム警視は勇敢にも一歩前に踏み出しました。
「ファ……じゃなくて警視! しかし……」
「大丈夫だ」
 アテム警視は余裕の表情です。場違いなその様子に、チビとデクノ坊は警戒します。
「なに企んでるか知らないが……元覆面レスラーのコイツラのパワーに勝てるわけがないかんな〜!」
 アテム警視と同様に、余裕げな様子の変態仮面たち。しかし、アテム警視はフッと笑みを漏らします。
「力か……。だが、力だけに頼る闘い方は時に思わぬ弱点を露呈するぜ……。本当の力とは、他人を傷つけるものじゃない……」
 そう言うと、アテム警視は懐に手を伸ばします。拳銃を出す気か――そう考える二人ですが、しかし余裕は崩れません。
「バカめ……コイツラに銃は効かん。鋼の如く鍛えられたコイツラの筋力は、銃弾ですら弾き、無効化するのだ!」
 そんな人間が実在するかはさておき、コイツラに銃弾は効かないのです。効かないったら効かないのです
「安心しろ……そんな物騒なものは使わない。正々堂々勝負だ」
 なるほど、警視が取り出したのは拳銃ではありませんでした。しかし――
「ってお前……何だソレは!?」
 デクノ坊が、動揺しながら問いかけます。
「……気にするな。オレが先日発明した、ただのクリボー爆弾だ」
 アテム警視が取り出したのは、いくつもの丸い、直径数センチ程度の小型爆弾でした。色んな意味でありえません。
「まっ……待て! 拳銃よりそっちの方がずっと物騒だろ!?」
「心配するな。これはオレのお手製の爆弾……火力は調整してある。喰らっても死にはしないさ、運が良ければ
 そう言うと、警視はさっさと着火し、変態仮面たちへ勢いよく放ります。
「んーっ! んーっ!!」
 大慌ての青眼子ちゃん(いちおう主人公)。仮面男たちの後ろにいる自分も、火力次第では大ピンチです。こんなに早く主役交代はしたくありません。

 ――ドカンドカンドカンッ!!!!

 派手な音と共に、クリボー爆弾が爆発します。しかし音の割に、大した威力はありません。その代わり、大量の煙が、仮面の男たちの周囲を包みました。
(これは……爆弾じゃなくて、煙幕?)
「……ご心配なく。ただのめくらましです」
「……!?」
 気がつくと青眼子ちゃんの後ろには、一人の女性がいました。歳は青眼子ちゃんと同じくらいでしょうか。
 女性は素早い手つきで、青眼子ちゃんの猿轡を外します。やっと喋れるようになったことで、青眼子ちゃんはほっと息を吐きました。
 そのまま女性は、青眼子ちゃんの縄をほどきます。恐ろしいほど早い手つきで、青眼子ちゃんはすぐに身体の自由を取り戻しました。
「あ、ありがとうございます。あなたも警察の……?」
 自由になった手を動かしながら、青眼子ちゃんは問いかけます。妹の真紅眼子ちゃんに似た赤い目をした、無表情なその女性は、首を横に振りました。
「私はオシ子=リス……。警察ではありません。アテム様のメイドです」
 気がつくと、彼女の服装は、赤を基調としたメイド服でした。

 なぁにそれぇ

「クッ……何が爆弾だ! ただの煙幕だかんな〜!」
「こちらには人質がいるんだ! そうそう物騒なものは使えまい――」
 と、煙が晴れてきた辺りで、デクノ坊は気づきます。
 縛めを解かれた青眼子ちゃんはすでに、オシ子さんとともに、4人組から距離をとっていました。
「しまった……! 先ほどの煙幕はフェイク! 人質解放が狙いだったか!?」
「…………?」
 目を瞬かせるアテム警視。そしてしばらくの間を置いてから、
「フ……ばれてしまっては仕方ない。よくやったぞオシ子、オレの作戦通りだ!」
 あやしい。青眼子ちゃんはそう思いました。
「……コホン。ともかく、ここからが本番だ。見るがいい、これがオレの真の切り札――」
 警視は右腕を掲げると、高らかに宣言してみせました。
「――来い! サイバー・エンド・ドラゴン!!」

 何でやねん。

「サ、サイバー・エンド・ドラゴン〜!?」
「な、何だそれはっ!?」
 アテムのことばに、面白いぐらいビビってみせるチビとデクノ坊。
「ふ……説明しよう。サイバー・エンド・ドラゴンとは、オレが秘密刑事課の特別予算全てを投入し、秘密裏に開発した汎用人型決戦兵器……。改良に改良を重ねたその戦闘能力は、一説には、最強ロボットとの呼び声も高いドラ○もんさえ上回っているという……」
「ド、ドラえ○ん以上だと!? 馬鹿な!!」
「そんなのありえないかんな〜! 藤○先生に失礼なんだかんな〜!!」
「……フ、現物を見れば分かるさ……」

 ……………………

「……で、いつになったら現れるんだ? それは」
 腕時計を確認するデクノ坊。警視が叫んでから、悠に五分は経過していました。ていうか何で待ってんのコイツラ。
「モチロン見てみたいからに決まってるかんな〜!!」
 地の文にわざわざ回答してくれるチビ。
「おかしいな……距離的に、三十秒もあれば飛んで来れるはずだが……」
 首を傾げながら、アテム警視は何度も呼び出し用のボタンを押します。
「……あのぉ〜……もしかしてそれって、研究室(ラボ)の隅に置いてあった、銀ピカの……ロボットですかぁ?」
「ん? ああそうだ。ちょうど充電中だったんだが……」
 悪びれない様子で、ぺろっと舌を出してみせるマナ警部補。
「それだったら今朝、間違えてコーヒーこぼしちゃったんですけどぉ……」
「…………」
 アテムの目が点になります。
「でっ、でもでも、ド○えもん以上だっていうなら、そのくらいで壊れたりはしませんよねぇ?」
「…………」
 怒る気も起きない警視は、黙って頭を抱えだしました。
「フッ……とんだ茶番だったな」
「コーヒーこぼしたくらいで壊れるなんて、天下のドラえも○様の足元にも及ばないかんな〜!!」
 何かもう展開がよく分かんなくなってきました。とりあえずマナはサイバー流に謝れ。
「ファ……警視! 切り札も故障中のようですし、やはりここは私が……!」
 混迷したシナリオを打破すべく、マハード警部は勇ましく足を踏み出します。
「まっ、待てマハード! エンド宣言はまだだ! まだオレのターン! マナー違反だぞお前!!」
 どうやら、意地でもマハードのターンに回したくないらしいアテム警視と作者
「仕方がない……戦闘能力はだいぶ劣るが、念のため持って来ていたこんなこともあろうかとを使うか……」
 咳払いを一つすると、アテム警視は再び叫びます。
「来い!! マグネット・ウォリアーズ!!」
 叫んでから、懐から取り出した召喚用ボタンをポチッとなと押す警視。すると乗ってきた車のトランクが開き、中から三体のロボット達が姿を現します。それらはウィーン、ウィーンと音を立てながら、ゆっくりと警視たちの前まで歩いてきました。
「しばらくメンテナンスしてなかったからな……大丈夫か?」
 不満そうに呟きながら、三体のロボット――コードナンバーα、β、γを順に視認します。その全長はそれぞれ、約1メートルといったところでしょうか。三体のうちαだけは武器を持っていましたが、にも関わらずαが一番弱いのは永遠の謎です。
「ギャハハ!! そんなチビに何ができるんだかんな〜!!」
「その通りだ! 光の仮面にさえチビ呼ばわりされるようなチビに何ができる!」
「……闇の仮面」
 チビは恨めしそうに、隣のデクノ坊をジロリと睨みました。
「二度と……チビって言うな……」



第八章 青眼子ちゃん誘拐事件!(後編)

「フ……こいつらを舐めていると痛い目見るぜ、貴様ら」
 そう言いながら、警視は、コードナンバーγの背中に括りつけておいたコントローラーを取り外します。
「たとえ一体一体の能力は弱くても……互いの力を結束し合い、生み出されるモンス……もとい、ロボットもいるのさ! いくぜ! マグネット・ウォリアーズ変形合体! ポチッとな
 警視がコントローラーのボタンを押すと、三体のロボットはたちまち空中分解してしまいました。
「ギャハハ!! やっぱり不良品――」
「いっ、いや見ろ! チ……光の仮面!!」
 分解した三体のパーツは、強力な磁力によって引き合い、結合し、新たな巨大ロボットへと生まれ変わります。
「これこそ、オレが学生時代、科学技術部で生み出した最高傑作……! ロボコンに出場させたかったけどあまりに高性能だったせいで出場を断られた真の最強ロボット! マグネット・バルキリオンだ!!」
 結合した巨大ロボットは、悠に2メートルを超す巨体です。ロボコンに出場できなかった理由は、どう考えても規定サイズオーバーです。本当にありがとうございました。
「ひっ、怯むことないかんな〜! どうせ見てくれだけのポンコツだかんな〜!!」
「やれ! ヘルレイザー! あんなガラクタ、叩き壊してしまえっ!!」
 無言で頷くと、ヘルレイザーは鉛製の杖を構え、躍りかかります。気持ち悪い変態仮面と呼ぶつもりでしたが、やっぱり呼び辛いのでヘルレイザーでいきます。テキトーとか言わないでください。
「フ……迎え撃て! バルキリオン!!」
 警視はノリノリ(死語)でコントローラーを操作します。巨大ロボットの手にした剣は発光し、火花を散らし出します。
「マグネット・セイバーッ!!」

 ――スパッ!

「……へ……?」
 チビとデクノ坊の目が点になります。鉛製のヘルレイザーの杖は、まるでカマボコでも切ったかのように、いやにあっさりと真っ二つにされ、地面に落ちます。
「バッ、バカな!? 鉛製だぞ!?」
「フ……磁力の力により極限まで熱せられた“電磁剣”は、あらゆるものを焼き斬る。自首するなら今のうちだぞ?」
 現実に鉛がこんなあっさり斬れるかはさておき、ヘルレイザーはたまらず後退します。
「じっ、自首なんかするわけないかんな〜!! やれ! ガーディウス!!」
 怖い変態仮面あらため、ガーディウスは頷くと、怯むことなくバルキリオンと対峙します。
「フ……素手か、いいだろう。このままでは簡単に決着がついてしまうからな……こちらも素手で勝負だ!」
 調子に乗ったアテム警視。コントローラーを操作すると、バルキリオンはその剣を、勢いよく地面に突き立てました。
「いけ! バルキリオン!!」
「やっちまえ!! ガーディウスッ!!」
 素手で取っ組み合い出す一人と一体。素手の戦闘シーンは描写がめんどくさいので割愛です。

「おっ……おい、何だか押されてるぞ!」
「フ……心配無用。おれたちにはまだ秘密兵器があるかんな〜!」
 そう言うと、チビは懐からデザインのオカシイお面を取り出します。
「これは組織が最近開発した凶暴化の仮面……。コイツは装着した人間のアドレナリンを多量分泌させ、極度の興奮状態へと高め、その戦闘能力を飛躍的にアップさせる……。あえて数値化すれば700ポイントくらい戦闘力が上がるかんな!」
「おお! やはりお前は最高の相棒(パートナー)だ! OCGだと1000アップなのはツッコむまい!」
「もうツッコんでるかんな〜! とにかくこれを使えば、形勢逆転間違いなしだかんな!」
 取っ組み合いを続けるガーディウスとバルキリオン。チビはタイミングを見計らい、ア○パンマンのバ○コさんよろしく、その仮面を放り投げます。
「ガーディウス! 新しい顔……じゃなくて仮面だかんな〜!」
 しかし次の瞬間、チビとデクノ坊は自分の目を疑いました。投げつけたはずの新しい仮面――それが唐突に、ふっと姿を消したのです。
「!!??」
「な……何だ!? 何が起こった!?」
 狼狽するチビとデクノ坊。
 青眼子ちゃん(たぶん主人公)も、何が起こったのか分からず、目を瞬かせます。
「……探し物は……これですか?」
「「!!?」」
 その声に視線を向けると、そこにはメイド服の女性――オシ子さんがいます。仮面の男たちの前に立つその女性の手には、紛れもなく、先ほどチビが投げたはずの仮面が握られていました。
(え……いつの間に!?)
 青眼子ちゃんは思わずハッとします。自分の隣にいたはずの女性――それがいつの間にか、男たちの目の前に立っているのです。瞬間移動でも使ったというのでしょうか。
「……御主人様の邪魔は……許しません」
 オシ子さんは、その仮面を地面に放すと、右足で勢いよく踏み壊します。ベキィ、という乾いた音。哀れ凶暴化の仮面。
 その赤い瞳で、オシ子さんは男たちをジロリと睨みつけます。ポーカーフェイスなその顔も相まって、かなりの威圧感です。
「ヒ、ヒィィィ〜! バケモノだかんな〜!!」
 チビの方はとうとう、腰を抜かしてその場に尻餅をついてしまいました。デクノ坊の方はというと、冷や汗をかきつつ思考を巡らせ、状況の好転を狙います。
「そっ、そうだ、ヘルレイザー! 人質を!!」
 そう叫びながら、デクノ坊は青眼子ちゃんを指差します。人質を盾にし、この場を脱しようというのです。
 武器を失い、完全にビビってしまったヘルレイザーでしたが、すぐに頷きます。武器がなくても青眼子ちゃんなら――そう考えたのでしょう。どうでもいいけど一言も喋らないなコイツラ。
「……!」
 迷うことなく、一直線に青眼子ちゃんに踊りかかるヘルレイザー。同時に、オシ子さんは前傾姿勢をとりますが――すぐにその動きが止まります。青眼子ちゃんの、キッと引き締められた瞳を見たからです。
(武器のないこの人相手なら――いける!!)
 そう、青眼子ちゃんは空手の達人なのです。武器を失い、あえて数値化するなら500ポイントくらい攻撃力の下がった今のヘルレイザーならば、体格差はあれど、何とかならないこともないのです。
 襲い来る巨漢に対し――青眼子ちゃんは身をかがめ、逃げることなく全速で突っ込みます。意表をつかれたヘルレイザーの動きが一瞬鈍る――そこが狙い目です。
 一気に懐へ入った青眼子ちゃんは、腰を落としたまま構えをとり、右拳を握り締めます。
「龍神流空手奥義――爆裂疾風拳ッ!!!」

  ――ドゴォォォォォンッ!!!!

 おおよそ拳ではありえない効果音と共に、強烈な正拳突きが鳩尾に入ります。途端にヘルレイザーは白目を剥き、その場に倒れ込みました。
 見た目が細身の青眼子ちゃんに、どうしてこんな威力の突きが出せるかというと――謎です。たぶん中国拳法でいう勁力とかいうやつです、よく知らないけど。
「ヘ、ヘルレイザーがやられた……!?」
 今度はデクノ坊が腰を抜かす番です。
「こっ、こっちもバケモノだかんな〜!!」
 失敬な、と青眼子ちゃんは軽くむくれました。
 実は青眼子ちゃん、弱冠13歳にして師範のヴァンダル叔父さんを超えた超天才空手家でした。しかし、もともと護身術程度にしか考えていなかった青眼子ちゃんは、やがて空手をやめてしまいました。瀬人さんと結婚してからは、日課だった稽古もずっとサボっており、現在では身体もすっかりなまっています。学生時代はさらに1.5倍の威力の突きを出すことも可能でした。もしもちゃんと稽古を続けていれば、こんな連中に誘拐されてしまうこともなかったでしょう。

 一方、バルキリオンVSガーディウスの取っ組み合いも、そろそろ決着を迎えようとしていました。
「トドメだ! マグネット・パァーンチッ!!」
 よく分からん技名と共に、繰り出されるバルキリオンの左拳。同時にガーディウスは、右拳をバルキリオンの頭部めがけて放ちます。
 クロスする両者の拳。ほぼ同時に顔面に命中します。その状態で固まったまま――やがて、片方の身体が崩れ落ちます。倒れ落ちたのは――ガーディウス。そう、勝ったのはバルキリオンの方です。
「フ、中々やる男だったが……この俺に勝つには少々、功夫(クンフー)が足りなかったな」
 勝ち誇った表情のアテム警視。ロボを操ってただけの男がよく言います。

「さて、次は……と?」
 アテム警視は目を丸くします。いつの間にか、ヘルレイザーは青眼子ちゃんの足元で倒れ、チビとデクノ坊は腰を抜かし、観念した様子でした。
「驚いたな……さすがは海馬の嫁さん、といったところか」
「……え?」
 警視のことばに、青眼子ちゃんは目を瞬かせます。
 先ほどまではバタバタしていて気付きませんでしたが、アテム――そう、瀬人さんから以前に聞いたことのある名前です。
「それじゃああなたが……例の、ゲロおでん事件の……?(※前作を参照)」
 もうちょっとマシな言い方はなかったのでしょうか、青眼子ちゃん。
「とりあえず、話は後だな……。マハード、こいつらを連行するための応援を呼んでくれ」
「はっ」
 やっと出番が回ってきたマハード。応援を呼ぶのも重要な仕事です、地味だけど。
「……さて。バルキリオンの変形合体を解除して、と……」
 合体解除用のボタンをポチッとなするアテム警視。しかし――
「……あれ? おかしいな?」
 バルキリオンはピクリとも動きません。首を傾げながら、何度もボタンを押すと――ようやく動き出します。が、
「な、何だ?」
 途端に、バルキリオンが暴れ出します。近くに突き刺してあった剣を引っこ抜くと、滅茶苦茶に振り回し始めました。
「おっ、おい、どうしたんだ?」
 慌てながら、コントローラーをいじります。しかし、どうもバルキリオンは既に、アテム警視のコントローラーとは完全に独立した動きしかしないようです。
 ふと、アテム警視は先ほどの、ガーディウスとの戦闘を思い出します。最後に頭部に喰らった右拳――あれがいけなかったのかも知れません。ここ数ヶ月メンテナンス不足だったのも原因の一つと考えられそうです。
「……。マハード」
「……はい?」
 そのときちょうどマハードは、本庁との連絡を取り終え、折りたたみ式の携帯電話を閉じたところでした。
 暴走状態のバルキリオンを指差すと、ポンとマハードの肩に手を置くアテム警視。
「……待たせたな。お前のターンだ
「……は?」
 マハードの表情が固まります。
「……とりあえず、応援が到着する前に頼むな?」
「……はい?」
 熱された剣で、空や地面を斬り刻みまくるロボットに、マハード警部は目が点になります。
「……もしかしてもしかしなくても……アレを止めろと?」
「ウン」
 オレのターンは終わった、と言わんばかりの爽やかな笑顔を向けるアテム警視。面倒な仕事は全て部下に押し付ける、嫌な上司の典型です。
「こんなこともあろうかと、背部に緊急停止用ボタンを取り付けてある。それ押せば止まるから」
「って……あんな状態なのに、押せるわけないじゃないですかっ!!」
 暴れ狂うバルキリオンを指差しながら、悲鳴にも似た勢いで主張するマハード警部。近づけば、間違いなく真っ二つです。
「安心しろ、マハード。骨は拾ってやるから」
 ぜんぜん安心できません。
「がんばって下さいね、お師匠様♪」
「どないしてがんばれっちゅうねんっ!?」
 思わず関西弁が出てしまうマハード警部。エジプト出身である彼、実は、日本に来た当初は関西弁を喋っていたのです。日本語にだいぶ慣れた今でも、興奮したりするとつい関西弁が出てしまいます。

 そんな感じで、何やら漫才なノリで揉めている三人組。
 それを眺めながら、青眼子ちゃんは苦笑します。しかし、暴れまわっている巨大ロボットを何とかしない限り、青眼子ちゃんもおちおち出口へ向かえません。
「……仕方がありませんね」
「……?」
 オシ子さんの呟きに、青眼子ちゃんは振り返ります。
 トントン、と地面を爪先で叩くオシ子さん。そして次の瞬間――その場から、ふっと姿が消えます。
「――!?」
 いや、正確には消えたのではありません。優れた動体視力を持つ青眼子ちゃんの瞳だけには、目にも止まらぬ稲妻のごとき速さで移動するオシ子さんの姿が、はっきりではなくとも、確かに視認できていました。
 刹那のうちにバルキリオンの背後へ回ると、そこに付けられた緊急停止用ボタンを押します。
 すぐさまその動きを停止するバルキリオン。オシ子さんは次の瞬間には、再び超スピードで元の位置まで戻っていました。

「だらしないぞマハード! それでも六神官の一人か!?」
「そないなこと言われても、無理なモンは無理やっちゅうねん!!」
「……あれぇ? いつの間にかバルキリオン、止まっちゃってますよぉ?」
 何だか三流漫才を見ている気分の青眼子ちゃん。漫才コンビならぬ漫才トリオです。
(この人……スゴイ……!)
 オシ子さんの方を向くと、青眼子ちゃんはゴクリと唾を飲み込みます。この女性は間違いなく、自分より二段階くらい高い位置にいる――そう強く感じ取りました。



第九章 終わりと始まり

 犯人が連行された後は、簡単な事情聴取を受けるだけで、青眼子ちゃんはすぐに帰れることになりました。マハード警部が車で近くまで送ってくれるようです。いいように使われてるなあマハード。
「それにしてもオシ子……どうしてあんなところにいたんだ?」
「お買い物の途中、アテム様のお姿が見えましたので、つい……。お邪魔でしたでしょうか?」
 どうやら、あの現場にメイドであるオシ子さんがいたのは偶然だったようです。オシ子さんがいなかったらどうなっていたことか――青眼子ちゃんは思わず顔を引きつらせました。
「それで……本当に、瀬人さんにアテムさんのことを伝えてはいけないのですか?」
 残念そうに問いかける青眼子ちゃんに、警視はコクリと頷きます。
「ああ。秘密刑事課はあくまで秘密裏に動くもの……あまり世間に知られては困るんだ」
「……そうですか」
 音信不通になったアテムさんのことを、以前、瀬人さんは少し淋しそうに話していました。アテム警視のことを話せば、きっと喜ぶだろう――そう思うと、とても残念でした。
「……なに、ヤツとは切っても切れない宿命があるからな。じきにまた会えるさ」
 懐かしむような笑みを浮かべる警視。きっとその脳裏では、瀬人さんとの思い出を蘇らせているのでしょう――ゲロおでん事件とか。
「では……私はこれで」
 ペコリと一礼すると、車に乗ろうとする青眼子ちゃん。しかしふと、オシ子さんが近づいてきました。
「……日々の鍛錬は怠らない方がよろしいと思います。せっかくの才能が、持ち腐れですから」
「……!」
 やっぱり、オシ子さんはかなりの達人だ――青眼子ちゃんはそう思います。普通、あんな巨漢を倒した青眼子ちゃんを見れば、そんなことは言わないはずです。
「……はい、そうします」
 もういちど頭を下げる青眼子ちゃん。青眼子ちゃんは13歳のときヴァンダル叔父さんを破って以来、自分より優れた武術家を見たことがなかったのです。それは、青眼子ちゃんが武術の道を離れた大きな理由の一つでした。何を目指し、武術を続けるべきか――青眼子ちゃんはそれを見失っていたのです。でも今回、オシ子さんという優れた武術家に出会えたことで、もういちど稽古をしたいという気になったのでした。
「……。それから……」
 少し躊躇いがちに、オシ子さんは、青眼子ちゃんの耳元で囁きます。
「……オベ子=リスクにご注意を」
「……!?」
 それだけ言うと、オシ子さんは一歩退いてしまいます。
「あの……それは、どういう……?」
「………」
 オシ子さんは結局、それ以上のことは言ってくれませんでした。





「それでは……本当にお世話になりました」
 一礼し、警部の車が行ったのを確認すると、青眼子ちゃんはほっとため息を吐きました。
「何だか今日は色々あって……疲れたな……」
 既に日は落ちています。家を出たのは昼過ぎなので、グールズにさらわれてから6時間は経っています。
(……とりあえず、家に帰ろう……)
 夕飯の買い物は出来ていませんが、余り物で済ますことはできます。……どうせ帰ったところで、自分ひとりなのですから。
 しかし、マンションの部屋のドアを前に、青眼子ちゃんは首を傾げました。鍵が開いている――瀬人さんが帰って来ないことに怒って、掛け忘れたのだろうか?
 いぶかしみながら、青眼子ちゃんはドアを開きます。すると、電灯までついています。

 まさか――泥棒!?

 一瞬、そんな考えが頭をよぎりました。
 青眼子ちゃんは急ぎ足で、リビングへ入っていきます。
 するとそこには、いるはずのない人が椅子に腰掛けていました。
「……遅かったな、青眼子……」
 腕を組み、少し怒ったような顔をした瀬人さん。
「どうして……? 仕事で遅くなるんじゃ……」
 そう訊くと、瀬人さんは少し照れくさそうに、ふいっと顔を逸らします。
「……仕事が思いのほかはかどってな……早く片付いた。それだけだ」
「……!」
(もしかして……私のために、急いで仕事を……?)
 疑問の眼差しを向けても、瀬人さんは無愛想な顔をしてみせるばかりです。
「あ……ま、待って下さいね。すぐに夕飯のお買い物に行ってきますので」
「……? 何だ、買い物に出掛けていたんじゃないのか?」
「え、ええ。ちょっと色々ありまして……」
 一瞬アテム警視のことが思い浮かびますが、口止めされている以上、喋るわけにもいきません。“誘拐されていた”というのも、瀬人さんに無闇な心配をかけてしまいそうで気が引けました。
「なら……たまには外食で済ませるか?」
「いいえ」
 青眼子ちゃんはすぐに、首を横に振りました。
「せっかく早く帰ってきて下さったんだもの……腕によりをかけて、私がご馳走をつくります♪」
「……そうか。だが、オレもお前の帰りを待ちくたびれたからな。オレが運転して行こう」
 笑みを浮かべながら、立ち上がる瀬人さん。一緒に夕飯のお買い物なんて久しぶり――そう思うと、青眼子ちゃんも自然と笑みがこぼれます。
「……はいっ♪ よろしくお願いしますね♪」
 ご機嫌の青眼子ちゃん。瀬人さんを怒ったことなどどこへやらです。乙女心は、複雑なようで意外と単純なのです。
 その日は結局、青眼子ちゃんが腕によりをかけて作った牛フィレ肉フォアグラソースで遅い夕食をとりました。
 そして数日後、会社も忙しい時期を乗り越えたようで、瀬人さんの帰りもいつも通りになります。
 再び戻る、平穏で楽しい、幸せな毎日。そんな日々に埋没して――青眼子ちゃんは、オシ子さんの残した“二つ目のことば”をすっかり忘れていました。

 ――オベ子=リスクにご注意を――

 そしてその言葉の意味を、近い未来、思い知ることになるとは――このときの青眼子ちゃんはまだ、知る由もありませんでした。




To Be Continued...?








戻る ホーム