ある『魔女』の軌跡

製作者:葉月さん




 ※この二次創作小説は『遊戯王デュエルモンスターズGX』の本編再構成ものに該当し、話の「大筋」は原作とそう変わらないのですが、オリジナルキャラに加え独自の解釈や考察も作中には含まれています。

 またオリカも比較的多めになっていますが、ご了承ください。




Track1 Progressive

 電車の窓際に片肘をつきながら私……七瀬唯衣は窓の外で次々と流れ行く高層ビルをぼんやりと眺めていた。

 不意に携帯電話を取り出し時計を確認。
携帯の液晶画面は無駄に丸っこい字体で午前八時を指している。
周囲を眺めると制服姿の学生やスーツを着た会社員が多数見え、車内の空席は全て埋まり吊り革を手にしている人も多い。
電車通学したことないから分からないけど、確かに今の時間からしたらそんな人が多いのは納得できるかも。

 この電車は童実野町へと向かっている。
童実野町っていうのはカードゲーム『デュエルモンスターズ』で有名な海馬コーポレーションの本社と関連企業が居を構えている。
 確か現代社会では『企業城下町』とかいう言葉を聞いたことがあったけど、まさにそれ。

 そして周囲とは場違いな私服姿の私は、その海馬コーポレーションが運営するアミューズメントパーク『海馬ランド』にいく予定だ。
 ……別に遊びにいくわけじゃない。
 や、本当はそれが目的だったら気楽でいいんだけど。


 プロデュエリストを養成する学校『デュエルアカデミア』の実技試験を受けに行く為に、私は童実野町へと向かっていた。

ここ数年でデュエルモンスターズは急速に発展し、プロ制度……要するに、デュエルモンスターズの大会に出場し、協会からの給与や賞金で生計を立てていくというものまで成り立っている。
 デュエルアカデミアとは、そういったプロでも通用するデュエリストを養成する為の学校で、全国といわず世界各地にアカデミアや似たような学校が存在する。

 学費も結構掛かりそうで、大家族の我が家に負担できるか果てしなく疑問だったのだけど、アカデミアは海馬コーポレーションが多大な出資を行っていて、奨学金等が充実しているらしい。
 更にウチはお父さんだけでなく、今や一番上のお兄ちゃんやお姉ちゃんも就職して働いている為、奨学金と合わせてどうにかなるそうだ。

 もっとも、全ては実技試験で合格できたらの話だけどね。
 一応難関と言われた筆記試験を突破したのに、ここで落ちたら笑えない。


 ふと、窓の外を流れる高層ビルの速度が緩む。
 もうすぐ終点の童実野駅に到着するらしい。
 抱えていた鞄を手にし、脱いでいたコートを羽織り、私は電車を降りる準備をはじめた。


 二月の半ばだけあって、駅の外はやっぱり寒かった。
 暖房が適度に効いていた車内に長いこと居たせいか、無駄に寒く感じる。

 童実野駅から海馬ランドに向かうには、バスに乗って十数分は掛かるらしい。
 乗り場は割と遠くはないみたいなので、案内板で位置を確かめつつ乗り場へと足を進める。

 バス乗り場にて軽く周りを見回してみると、私服の中学生ぐらいの男の子や女の子を何人か見かけた。
 多分私と同じ、アカデミアへの受験生だと思う。
 気が早いのがいるのか、実技試験はまだ先だというのに既にデュエルディスクを装着している人もいた。
 ていうかバスの中でそんなもの付けてたら場所取って邪魔だと思うよ。

 そんな受験生の集まりの中で、私は白い服を着た、見慣れた人影を確認した。
 向こうも私を認識したのか、こちらに歩み寄ってくる。


「これはこれは……『三沢博士』じゃない」

 バスの中で先に声を掛けたのは私。自然と口元に笑みが浮かんでくる。
 自分で言うのもなんだけど、友好的ではない不敵な笑みだと思う。対し……

「やっぱり君も合格していたか。七瀬君」

 極々自然かつ嫌味が含まれていない言葉を返してきた。
 まあ、彼に嫌味や皮肉とかそういうのが似合うとは到底思えないけどね。
 かといって『爽やか』とまでは言えない。

「当たり前でしょ。私を誰だと思ってるのよ……ちょっと視力落ちたんじゃない?」
「確かにそうだな。筆記試験落ちなんて『魔女』の君らしくない」

 この好青年の不完全体は三沢大地……ジュニア時代に全国大会で何度も戦ったことのあるデュエリストだ。
 仮にも私は、ジュニアの全国大会に何度も出場し好成績を収めている。
 そしてその度に彼と戦い……勝ったり負けたり。

 結局どちらが勝ったにしても、優勝できたのは僅かだけどね……上には上がいるということらしい。
 そんな訳で、何度も顔を合わせていれば自然と相手の事を覚えてしまうのだ。

 かといって、別に三沢君とは『敵』と呼べる間柄でもない。
 『共通の敵を持つ者』といったトコだと思う。
 なんだかんだでカードに関する造詣も深く、デュエリストとしてはそこそこ頼りになるし。
 それ以上に、大会において『共通の敵』とも呼べる存在がいたのもあるんだけどね。

 よく周りを見渡すと、何度か顔を見たり戦ったりした事のあるデュエリストが何人かいたりする。
 バスの中だというのにデッキを取り出し入念に確認を行っている小浦沢君。
 吊り革を握ったまま寝ている南条さん……海馬ランドに着いても寝ていそうで不安だ。
 着いたらつついてあげよう。


 三沢君や他の顔見知りな子と他愛もない話をしている内に、バスは海馬ランドに到着した。
 私を含めた受験生組がバスから降り、海馬ランドの敷地内へと足を踏み入れる……試験会場となるのはデュエルリング。
 『青眼の白龍』の頭部を模した建造物に、入り口には対になっている『青眼の白龍』の像が建っているのが特徴的だ。
 ついつい他のアトラクションにも目移りしてしまうけど、試験が終わるまではお預けかな。

 実技試験は試験番号が多い順番から行われる。
 試験番号は筆記試験の順位で決定されているらしく、私の受験番号は『12番』……150番台から実技試験は始まるから、当分私の出番はない。

 折角なので、他の人の試験でも観戦する事にした。
 実技試験で試験官の用いるデッキはランダムである為、今更チェックしてもナンセンスなのだけど、単純に他人のデュエルを観察するのは面白い。
 人それぞれに戦術や好きなカードにプレイングスタイル等が異なり、自分では気づかないような発想を見せられる事も少なくはない……というのが主な理由だ。





 数刻前……童実野駅前。

「くっそー……もうバス出たのかよ!」

 一人の少年がバス乗り場で叫んでいた。
 少年の左腕にはデュエルディスクが装着されている。
 携帯を取り出し時刻を確認……デュエルモンスターズが描かれた待ち受け画面を確認すると、既に『時間』を過ぎていた。

「試験までもうちょっとじゃないか……やっべ!」

 少年……遊城十代は、デュエルアカデミアの実技試験を受けに来た受験生である。
 しかし不覚にも電車が人身事故で遅れ、到着予定時刻を大幅に過ぎてしまった。
 折角筆記試験に合格したのに、実技試験に参加できなかったら意味がない。

 十代は地図を取り出し海馬ランドの位置を確認する。
 確認するや否や、矢のように駆け出す。
 実は次のバスを待った方が早かったのだが、今の十代にそこまで考える余裕はなかった。
 ただひたすら、海馬ランドに向けて全力で走っていく。

「いや、こうでなくちゃ燃えないよな! うおおおっ! 待ってろよ、デュエルアカデミアァ!!」

 時間が無いにもかかわらず、十代の顔には笑みが浮かんでいた。
 これから待ち受けるであろう試験を……デュエルに期待して。
 どんな試験官で、どんなデッキを使ってくるのか。それを考えると自然とワクワクしてくる。
 そして、アカデミアに合格してから待ち受けるであろう学園生活に。

「へへっ……楽しみだよなぁ、相棒!」

 十代は傍らに漂っている、白い羽を持つ魔物……ハネクリボーへと語りかける。
 ハネクリボーは十代の言葉に楽しそうに頷く。
 ハネクリボーといえばレベル1のモンスターカードなのだが、このカードには『精霊』が宿っていた。

 普通の人にカードの精霊は見えず、その存在すら確認することは出来ない。
 しかし十代と、十代のこのカードを託した『師』は精霊を見、意思疎通を図る事が出来る。
 何故精霊を見る事が出来るかどうかは分からないが、かつてデュエルに対して恐怖を抱いていた十代にとって、彼の『師』と共に立ち直るきっかけを与えてくれた大切な存在である事には変わりなかった。


 ―――十代。

 ―――どんな相手と戦っても、デュエルを楽しむ。

 ―――そんな、デュエリストになれ。


 不意に、数年前に『師』と交わした言葉が蘇る。
 あの日から十代はプロのデュエリストになる為に走り始めた。
 道程は長く、まだ先が見えてこないが……

 「見えた……あれが海馬ランドか!」

 それでも、一歩一歩進歩しているのは実感できた。





 試験は順調に進み、既に20番台の受験生が試験に臨んでいた。

 いや……完全に順調にと言えば嘘になる。
 なんでも童実野駅に向かう電車が人身事故に巻き込まれたらしく、何人かの受験生が遅れてきていた。
 それでも試験開始前にギリギリ辿り着いている生徒が殆どだったので、極一部の例外を除いて特に問題はないとか。

 試験官も受験生も、多種多様なデッキを用いていた。
 完全に勝つ事しか眼中に入っていないようなデッキや、特定の種族や属性やモンスターで統一されたデッキ。
 本当に勝つ気があるのか疑問なネタデッキ。
 そんな中、私は一人の受験生の試験に注目していた……

「………えっと……カードを1枚セットして、ターン終了です」

 受験生は少し背の低い、大人しそうな感じの女の子。
 名前は深海亜弥……少なくとも、聞いたことのない名前だったのだけど、あの子の戦術には何処か見覚えがあるというか……あまりいい思い出がない。

 少し見る限りではデュエルの主導権は試験官が握っており、彼女は結構追い込まれている。
 デッキは天使族とカウンター罠カードを中心としたタイプ……通称『エンジェル・パーミッション』である事は確認している。
 しかしカウンターコストも相まってライフ消費の激しいパーミッションデッキにおいては、単にライフポイントの差がそのまま戦況を示す訳じゃない。

 今現在の戦況を軽く確認してみると……。

・深海亜弥
LP:300
手札:2枚
フィールド:天空騎士パーシアス(攻撃表示)
リバースカード:1枚

・試験官
LP:2700
手札:4枚
フィールド:ダーク・ネクロフィア(攻撃表示)、軍神ガープ(攻撃表示)
リバースカード:0枚

 試験官のフィールドに存在するのは、全てのモンスターを強制的に攻撃表示へと変更する『軍神ガープ』が存在しており、守備表示での時間稼ぎは不可能。
対し深海さんの天使族は上級モンスターではあるが、攻撃力が心許ない。攻撃力2000を上回るガープやダーク・ネクロフィアには、攻撃力の面では到底及ばないだろう。

 しかし深海さんのデッキはパーミッションデッキ。
 行動を阻害するカウンター・トラップはかなり入っているだろう……セットされた1枚のリバースカードも当然にカウンター系のカードと見ている。
 問題はそのカウンターの種類だ。

 カウンター罠カードでは、カウンター可能な行動がカード毎によって異なる。
 つまり相手の行動とカウンターが噛み合わなければ意味がない。
 この場合は攻撃を無効化しバトルフェイズを終了させる『攻撃の無力化』がベターなのだけど……。


「スタンバイフェイズに手札から魔法カード『サイクロン』を発動! リバースカードを破壊する!」

 ドローしたカード『サイクロン』を試験官はそのまま使用した。
 効果はフィールド上の魔法・罠カード破壊と地味なのだけど、速攻魔法である為に汎用性が非常に高いカードだ。
 一陣の風が深海さんのリバースカードへと向かい、最後の希望を絶とうとした時……

「……手札を1枚捨てて、カウンター・トラップ『アヌビスの裁き』を発動させます!」

アヌビスの裁き
【カウンター罠】
手札を1枚捨てる。
相手がコントロールする「フィールド上の魔法・罠カードを破壊する」
効果をもつ魔法カードの発動と効果を無効にし破壊する。
その後、相手フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊し、
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える事ができる。

 古代エジプトより伝わる獣神がガープに向けて咆哮。
 一瞬にしてガープは破壊され、試験官のライフポイントが急激に減少する。

試験官:LP2700→500

 どうやらカウンター罠は攻撃の無力化ではなかったみたい。
 そのまま攻撃を行っていれば試験官の勝ちだったけど、パーミッションデッキを相手にしてリバースカードを必要以上に警戒し、その判断を逆手に取られてしまった……ってトコかな。
 
「けど……惜しかったわね。これでライフポイントを削り切れれば勝ちだったのに」

 思わず呟いてしまった。
 けど惜しかったとしか言いようがない。
アヌビスの裁きで大ダメージを与えたまではよかったのだけど、結局はライフポイントを削りきるには至らなかった。

 既に深海さんのフィールドにリバースカードはない。
 攻撃表示の天使族が、ダーク・ネクロフィアがガープに攻撃されればそれで終わり。

「いや、この状況を打開できるカードならあるぞ」

 隣に座っていた三沢君が軽く首を振って否定する……ていうか同じデュエルを見てたんだ。
 私はパーミッション関連のカードを思い浮かべる。
 この状況で逆転するには、カウンター罠をトリガーにして特殊召喚できるモンスターがあれば……。

 『カウンター罠をトリガー』まで考えて、嫌な予感と苦い記憶が蘇ってくる。
 そしてその嫌な予感は、程なくして的中した。


「『アヌビスの裁き』で魔法カードを無効にした事で、手札から『女王竜(ドラグーン・クィーン) ユスティーネ』を特殊召喚します!」

女王竜 ユスティーネ
★8 / 光属性 / ATK:2900 / DEF:1800
【ドラゴン族 / 効果】
このカードは通常召喚できない。
相手のコントロールする魔法・罠・モンスター効果を
カウンター罠で無効にした時のみ手札から特殊召喚できる。
このカードが表側表示でフィールド上に存在する限り、
このカードのコントローラーは手札からカウンター罠を発動できる。
また、このカードが表側表示でフィールド上に存在する限り、
相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。

「ユスティーネ……ですって?」
「まさか……!?」

 突如フィールド上に、白い三対の翼を持つ女王竜が出現。
 その女王竜は、最上級ドラゴン族に相応しい威厳を伴ってフィールドに君臨していた。

 ピンチから一転。
 深海さんのフィールドには最上級モンスター……そしてライフも並んでいる。

 たった一枚のカードで戦況が覆る事がある……これだからデュエルモンスターズは面白い。
 覆される側にとっては、たまったものじゃないけどね。

「……ならばダーク・ネクロフィアを守備表示に変更してターン終了だ」


・深海亜弥
LP:300
手札:1枚
フィールド:天空騎士パーシアス(攻撃表示)、女王竜ユスティーネ(攻撃表示)
リバースカード:0枚

・試験官
LP:500
手札:4枚
フィールド:ダーク・ネクロフィア(守備表示)
リバースカード:0枚
 
「ダーク・ネクロフィアをどうにかしない限り厳しいだろうな……これは」
「そこはほら、デュエリストとしての見せ所じゃない?」

 守備力2800のダーク・ネクロフィアはユスティーネで戦闘破壊できるのだが、相手のカードの効果で破壊されて墓地に送られると、装備カードとなって相手モンスターのコントロールを奪う厄介な効果を持っている。
 単純に戦闘破壊するだけでは駄目……更に別の手段で処理する必要がある。
 簡単に言うなら『あと一押し』が必要といったトコかな。

「……どう出るかな。あの子は」


「私のターン……ユスティーネでダーク・ネクロフィアを攻撃します!」

 躊躇いもなく、深海さんはユスティーネに攻撃命令を下した。
 女王竜の口腔に白い光が収束していき……無数の光芒となって放たれた。
 攻撃名称は確か『リヒトレーゲン』……

 一度放たれた光は、上空から『光の雨』のように次々と降り注ぐ。
無数の光芒に貫かれたダーク・ネクロフィアは跡形もなく消え去った……かに見えた。

「この瞬間、ダーク・ネクロフィアの効果を発動!」

 ダーク・ネクロフィアが倒された場所から霊魂が出現した。
 霊魂は深海さんのフィールドに存在する天空騎士パーシアスに向かい……

「天空騎士パーシアスのコントロールを頂く!」
「……カウンター・トラップ『封魔の聖歌』を発動します!」

 深海さんは一枚のカードを手札から墓地に送った。
 たとえリバースカードが存在せずとも、ユスティーネの効果で手札からカウンター罠カードを発動できる。
 だからこそドローしたばかりの罠カードも即座に使えたのだ。
 パーシアスに向かい憑依しようとしていた霊魂は、陽光に照らされ静かに消滅していく。

封魔の陽光
【カウンター罠】
墓地で効果が発動する魔法・罠・モンスター効果の発動と効果を無効にし、ゲームから除外する。

「この効果でダーク・ネクロフィアの効果を無効にして、ゲームから除外します」

 これで試験官のフィールドにはモンスターはおろか、リバースカードすら存在しなくなった。
 相手ターンに手札から発動できるタイプのカードはそうそう存在しない。
 勝負あり……ってトコかな。

「天空騎士パーシアスの攻撃。プレイヤーにダイレクトアタックします!」

 翼を持つ半人半馬の騎士が疾走し、手にした剣で試験官へ斬撃を浴びせる。
 ライフカウンターの数値が変動し、試験官のライフポイントが0を指した。
 無事に試験が終了した事に一安心したのか、深海さんは深いため息をつく。

試験官:LP500→0

「試験デュエル終了。おめでとう、君の勝ちだ」
「……は、はいっ。ありがとうございましたっ!」


「さってと。そろそろ私の出番かな」

 私の試験番号は12番……もうそろそろ試験の順番が回ってきてもおかしくはない。
控え室に向かう為に私は席を立つ。

「久々に『魔女』のお手並み拝見といこうか」
「そうね。魔女といえども日々研究を重ねるものなのよ。それに……」

 試験会場内にて観戦しているアカデミアの生徒……青い制服の一団。
 その中にいる……かつてのジュニアチャンプ・万丈目準を見据え、続きを口にする。

「『あいつ』はそろそろ倒しておきたいじゃない?」
「そうだったな」

 かつて私や三沢君が一度も倒せなかった二人のドラゴン使いの片割れ。
 中学への進学時にアカデミアの中学部に進学してしまったのだが、高等部に入学すれば、再び戦う機会は十分にある。
 だからこそ、実技試験ぐらいで梃子摺る訳にはいかない。



Track2 Trial of Witch(1)

「それでは、これより試験デュエルを開始する!」

 試験官が実技試験の開始を告げ、私はデュエルディスクにデッキをセットした。

 黒と赤で彩られた円状のデュエルディスクから、カードスペースがせり出してくる。
カード一枚分だったそれは横にスライドし、5枚分のスペースを展開。
ライフカウンターが変動して初期値の4000を表示する。
妙に凝ったデザインだけど、私は誕生日に買ってもらったこのデュエルディスクがお気に入りだった。

「私の先攻、ドロー!」

 デュエルディスクからカードをドローして手札に加える。
特に手札事故もなく、大概の状況に対し柔軟に対処できるカードが揃っていた。

「『アプレンティス』を守備表示で召喚。更にカードを1枚伏せて、ターン終了です」

 私のフィールド上に魔法使いが召喚された。
簡素なローブをまとい、同じく簡素な杖を手にしている。

アプレンティス
★4 / 闇属性 / ATK:1400 / DEF:900
【魔法使い族・効果】
このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、以下の効果から一つを選んで発動できる。
●デッキから攻撃力1500以下の魔法使い族モンスター1体を自分のフィールド上に特殊召喚する。
その後デッキをシャッフルする。
●自分フィールド上の「魔力カウンターを乗せる事ができる」カードに、魔力カウンターを2つ乗せる。

 戦闘破壊という条件が付いているものの、後続モンスターの召喚と魔力カウンターの補充を使い分けられる、便利な魔法使いだ。
 毎回毎回こんな役回りだけど、私のデッキを地味に支え続けているカードと言ってもいい。


「私のターン。ドロー」

 試験官のターンが開始された。海馬コーポレーションが開発した最新式のデュエルディスクから、試験官がカードをドローする。

「『アステカの石像』を守備表示で召喚」

アステカの石像
★4 / 地属性 / ATK:300 / DEF:2000
【岩石族・効果】
このモンスターを攻撃した時に相手プレイヤーがダメージを受ける場合、
その数値は倍になる。

 古代文明の遺跡にありそうな石像が試験官のフィールドに出現。
この石像との戦闘で発生した反射ダメージは倍になる効果を持っている。
当然このままでは使い辛いので、何らかのリバースカードでサポートするはず。

「更にリバースカードをセットして、ターン終了だ」


・七瀬唯衣
LP:4000
手札:4枚
フィールド:アプレンティス(守備表示)
リバースカード:1枚

・試験官
LP:4000
手札:4枚
フィールド:アステカの石像(守備表示)
リバースカード:1枚



「私のターン。アプレンティスを生け贄に捧げ……『蒼き魔装騎士』を攻撃表示で召喚!」

蒼き魔装騎士
★6 / 水属性 / ATK:2300 / DEF:1700
【魔法使い族・効果】
相手がバトルフェイズ中にこのカードを対象とした魔法・罠カードを発動した時、
手札を1枚墓地に送ることでその発動と効果を無効にし破壊する。

 アプレンティスに代わり、蒼い鎧の魔法騎士が現れる。
 鎧といっても大袈裟なものではなく、軽装鎧程度のものだけど、この鎧は強力な魔法耐性を備えている。
 要するに魔法・罠カードの無効化ね。

「蒼き魔装騎士でアステカの石像に攻撃……そして攻撃宣言時に罠カード『マジシャンズ・サークル』を発動させます!」

マジシャンズ・サークル
【通常罠】
魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
お互いに自分のデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター1体を選択し、
それぞれ自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する。

 マジシャンズ・サークルは、魔法使い族の攻撃宣言時に発動でき、互いにデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族を特殊召喚できる罠カードだ。
 相手のデッキに魔法使い族が入っていると使いどころに悩むけど、この展開力が地味に役に立つ。

クィーンズ・ソーサレス
★4 / 闇属性 / ATK:1500 / DEF:1600
女王に仕える闇の魔法使い。
魔術による幻影を駆使して戦う。

「この効果で、私はデッキから『クィーンズ・ソーサレス』を特殊召喚します」
「……私のデッキに魔法使い族モンスターはない」

 見たところ岩石族を主体としたデッキだし、魔法使い族モンスターは入ってないと読んでたけど、その通りだったみたい。

「蒼き魔装騎士の攻撃続行し、アステカの石像に攻撃!」

 蒼い剣を鞘から抜き放ち、魔装騎士が攻撃を仕掛ける。
 わずかに魔力を宿した剣で放たれた斬撃は、易々と石像を両断した。

「更にクィーンズ・ソーサレスでプレイヤーにダイレクトアタック!」
「速攻魔法『収縮』を発動!」

収縮
【速攻魔法】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
そのモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズまで半分になる。

 紫の宝玉を備えた杖を試験官へと向け、魔力弾を放つクィーンズ・ソーサレス。
 しかし放たれた魔力弾の威力は半減。
 ライフポイントの三割強を奪うはずだった攻撃は、二割程度への威力へと低下した。

 試験官:LP4000→3250

 と同時にやはり……とも思った。
 魔法・罠の通じない魔装騎士だったから、収縮を発動しなかっただけで。
 他の上級モンスターなら攻撃力を半減されて、更に反射ダメージを受けていたに違いない。

「……カードを1枚伏せて、ターン終了です」


・七瀬唯衣
LP:4000
手札:3枚
フィールド:蒼き魔装騎士(攻撃表示)、クィーンズ・ソーサレス(攻撃表示)
リバースカード:1枚

・試験官
LP:3250
手札:4枚
フィールド:なし
リバースカード:0枚



「私のターン」

 続けて試験官へとターンが移る。
 先程は何とか私が先制を取ったけど、これに対してどんな手段で反撃に出てくるやら……。
 一般的な岩石族デッキでは、墓地に岩石族を溜め込み、墓地の岩石族をコストとする切り札を出してくるというものが多い。
 よって、当分は守備中心の展開になるハズだ。

「手札より魔法カード『奇跡の穿孔』を発動」

奇跡の穿孔
【通常魔法】
デッキから岩石族モンスター1体を選択して墓地に送る。
その後デッキをシャッフルし、デッキからカードを1枚ドローする。

「デッキから『磁石の戦士δ(デルタ)』を墓地に送り、デッキからカードを1枚ドローする」

 戦闘破壊を待つという悠長な事をしてたら墓地に岩石族は溜まらない。
 だからこそ、こうして能動的に墓地へ岩石族を送り込む手段が必須になる。
 もっとも、私は墓地に十分な岩石族が揃うまで待つつもりもないけどね。

「更に儀式魔法『高等儀式術』を発動。デッキからレベル4の通常モンスター『磁石の戦士ε(イプシロン)』と『磁石の戦士ζ(ゼータ)』を墓地に送り、『神都の守護者アーズガルズ』を召喚する!」

高等儀式術
【儀式魔法】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードのレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

神都の守護者アーズガルズ
★8 / 光属性 / ATK:2100 / DEF:3200
【岩石族・儀式・効果】
「守護神の祈り」により降臨。
フィールドか手札からレベルが8以上になるようカードを生け贄に捧げなければならない。
このカードは魔法・罠カードの効果を受けない。
守備表示のこのカードを攻撃したモンスターの攻撃力がこのカードの守備力より低い場合、
その攻撃モンスターを破壊する。

「……これはこれは、また大袈裟な壁っていうか」

 思わず率直な感想を口にしてしまった……だからといって、不適切な発言で減点とかはないと思うけどね。
 実際目の前に立ちはだかるのは、魔法の文様が全身に刻まれた白銀のゴーレム。
 そのゴーレムは私の視界の大半を覆い尽くしている。
 更に守備力も無駄に高く、魔法や罠での対処も出来ないときた。

「リバースカードをセットして、ターン終了だ」


・七瀬唯衣
LP:4000
手札:3枚
フィールド:蒼き魔装騎士(攻撃表示)、クィーンズ・ソーサレス(攻撃表示)
リバースカード:1枚

・試験官
LP:3250
手札:2枚
フィールド:神都の守護者アーズガルズ(守備表示)
リバースカード:1枚



「私のターン、ドロー!」

 ふと、観戦している受験生組へと目を向ける。
 三沢君が懇切丁寧に、周囲の受験生に私の試験を解説しているらしい。
 将来はプロデュエリストじゃなくて、デュエルの解説役が合ってると思う。

 続けて視線はアカデミアの中学部組へと移っていく。
 万丈目準……無駄に特徴的な髪型なので一発で分かった。
 適当にデュエルを眺めつつ、周りの友人と駄弁っているみたいだ。

 ……「デモンストレーション」としては少々物足りないけど、やるなら今しかない。

「手札から魔法カード『魔女の宝札』を発動。手札の『ジャックス・ウィザード』を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローします」

魔女の宝札
【通常魔法】
手札から魔法使い族モンスター1枚を墓地に送る。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 あの無駄に大きい壁モンスターを倒すには「絵札の三導師」の融合体が最適なんだけど、現段階で召喚する手段はない。
 といっても別に倒す手段は幾つか確立されているし、あとはその方向に戦況を動かしていくだけ。

「『クロニカの使徒』を守備表示で召喚し、ターン終了です」

クロニカの使徒
★4 / 闇属性 / ATK:400 / DEF:1900
【魔法使い族・効果】
自分のドローフェイズ時に、
ドロー前にデッキの一番上のカードを1枚見てデッキの一番上か下に戻す。

 黒衣に黒い三角帽の魔導師が片膝を折り、杖を構える。
 私の手札には、既に最上級の魔法使い族である『黒鴉のクリストフィーネ』が控えていた。
 出来る事ならクロニカの使徒によるドローコントロールでもう少しキーカードを揃えたいけど、アースガルズの撃破に時間を掛ける訳にはいかない。


・七瀬唯衣
LP:4000
手札:3枚(黒鴉のクリストフィーネ、???、???)
フィールド:蒼き魔装騎士(攻撃表示)、クィーンズ・ソーサレス(攻撃表示)、クロニカの使徒(守備表示)
リバースカード:1枚

・試験官
LP:3250
手札:2枚
フィールド:神都の守護者アーズガルズ(守備表示)
リバースカード:1枚



「私のターン。モアイ迎撃砲を守備表示で召喚し、ターン終了だ」

 今度は巨大なモアイ像がフィールド上に出現した。
 墓地の岩石族を無駄に増やす事はしたくないのだけど、下手に壁モンスターが増えると後々面倒になる。
 さて……どうしたものかな?



「私のターン。ドロー!」

 引いたカードは『ワンド・オブ・マレフィキア』……魔法使い族の能力を最大限に引き出す魔法カードなのだけど、今の段階で使うには少し早すぎる。
 けどアーズガルズ攻略の為には必要な装備魔法なので、クロニカの効果を使わずに手札に温存しておく。
 まずは2枚のリバースカードを見極めるのが先だ。

「蒼き魔装騎士でモアイ迎撃砲に攻撃!」
「罠カード『立ちはだかる強敵』を発動し、攻撃対象をアースガルズに変更する」

立ちはだかる強敵
【通常罠】
相手の攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。
発動ターン相手は選択したモンスターしか攻撃対象にできず、
全ての表側攻撃表示モンスターで選択したモンスターを攻撃しなければならない。

 前のターンに伏せられていたリバースカードが発動した。
 立ちはだかる強敵は、全ての攻撃表示モンスターが、相手が指定したモンスターへと攻撃を強制させる罠カード。
 つまり私の魔装騎士とクィーンズ・ソーサレスがアーズガルズへと攻撃を行う。

 しかも、アーズガルズの守備力を超えられない為、効果により破壊される。
 更に反射ダメージというオマケ付き。
 そこまで考え、私はリバースカードを発動させた。

「リバース・トラップ発動『ディスペル』!」

ディスペル
【カウンター罠】
自分フィールド上にレベル5以上の魔法使い族モンスターが存在する時のみ発動可能。
手札を1枚捨て、相手がコントロールする魔法・罠カードの効果を無効にし破壊する。

「手札から『氷の公爵』を捨て、立ちはだかる強敵を無効にします!」

 攻撃対象を再びモアイに定めた魔装騎士は、蒼い剣でモアイを両断する。
 杖を構えていたクィーンズ・ソーサレスは何事も無かったかのように攻撃の動作を中断。

 即死は何とか免れたものの、手札は既に残り3枚。
 内二枚のカードはクリストフィーネにマレフィキア……でも、あと少し足りない。
 残り一枚は墓地の魔法カードを回収する『魔女の刻印』なんだけど、発動条件とコストすら満たせていない。

「私はこれでターン終了です」

 次のターンでドローするカードに掛かっている。
 本当なら、然程梃子摺ることなく……そして派手に決着をつけるつもりだったのだけど。
 入学試験を甘く見過ぎていたらしい。

 アースガルズ。
 
 改めて考えてみると、アカデミアの門を護る守護者ってところかしら。
 筆記試験含め、アカデミア本校を受けにきた生徒をことごとく追い返す門番。
 ……正直笑えない。
 あんな図体だけが無駄に大きい門番にはご退場願いたいわね。主に私の為に。



・七瀬唯衣
LP:4000
手札:3枚(黒鴉のクリストフィーネ、ワンド・オブ・マレフィキア、魔女の刻印)
フィールド:蒼き魔装騎士(攻撃表示)、クィーンズ・ソーサレス(攻撃表示)、クロニカの使徒(守備表示)
リバースカード:0枚

・試験官
LP:3250
手札:2枚
フィールド:神都の守護者アーズガルズ(守備表示)
リバースカード:0枚






「おっ、やってるやってる!」

 十代が受付の職員に通されて試験会場に入った時は、既に殆どの受験生が実技試験を終えていた。
 今は受験番号20番より下の受験生が、随時試験を受けているらしい。
 筆記試験の成績によって受験番号が決まるというのは十代も聞いていたので、今行われている試験が、筆記試験の成績上位者によって行われているというのは把握できた。

 ちなみに十代の受験番号は110番……どう見ても下から数えたほうが早い。
 しかし筆記試験の結果など、十代は然程気にしていなかった。
 そもそもデュエルはカードの知識だけで決まるものじゃない……デュエリストとしての力と、デッキを信じる事が大切だと彼は日頃から考えている。
 だからこそ……。

「あの壁モンスターを破れないとマズいっスよ」
「そうだな。このままアースガルズの前に攻撃を封じられたままだと、如何に彼女といえど……」

 実技試験を観戦していた小柄な少年が不安そうに、隣にいる白服の受験生に語り掛ける。
 白服の受験生はその言葉に頷き、難しい顔をした。

「どれどれ……ああ、あいつだな」

 彼らが見ていたデュエルを目で追い、十代はそのデュエルへと目を移した。
 そこではやや青み掛かった黒髪の女の子が、蒼い魔装騎士と魔法使いを従えている。
 対し彼らがアースガルズと呼んだ、巨大な壁モンスター1体のみ従えている試験官。

 モンスターの数だけでは負けてはいないのだろうが、どうやらアーズガルズを突破できないでいるらしい。

「あいつって……七瀬唯衣じゃないか。時々ジュニアで準優勝していた」

 デュエリスト御用達の雑誌で、海馬コーポレーションの系列企業が発行しているデュエルマガジン。
 そのジュニア大会の上位者は時々写真等が掲載される為、十代はすぐにその受験生を確認できた。
 確か魔法使い族モンスターを多用するデュエリストだと紹介されていた。

「そう。そして俺は彼女に並ぶ……」
「えーと。誰だっけ?」

 白服の受験生の言葉に十代は顔をしかめる。

「何処かで見た事はあると思うんだけどな。うーん……」
「三沢大地……だ」

 自分だけ忘れられている事に落胆したのか、ため息をつきながら白服の受験生……三沢大地が答える。

「あー、そうだった。忘れるつもりはなかったんだけどなぁ……」

 悪気は多少あったらしく、十代はバツが悪そうに頭を掻く。
 そして、唯衣のデュエルへと再び目を向ける。

「あの壁モンスターに随分と梃子摺ってるみたいだな」
「ああ。守備力3200に魔法・罠カードの効果まで受けない。厄介な代物だよ」
「さっきも危ないトコだったんスよ……」

 三沢を始め、デュエルを観戦していた受験生が顔をしかめる。
 確かに十代から見ても厄介な壁ではあるのだが……次の瞬間、十代は首を横に振った。

「いや。デュエルってのは最後までやらなきゃ分からないぜ?」
「だがこの状況をどう覆す? 守備力3200の壁に加えリバースカードまで残っている。あれは恐らく……」

 険しい顔のまま三沢が続けようとしたが、十代は口元に笑みを浮かべる。
「アイツが本物のデュエリストなら。自分のデッキを信じているなら、ここから逆転するはずさ」



Tracks3 Trial of Witch(2)

「私のターン。ドロー」

 試験官がデッキからカードをドローして手札に加えた。

 ……確か、墓地の岩石族は既に5体は溜まっている。
 切り札があるのなら、そろそろ動いてもいい頃だと思う。
 や、動かないに越した事はないけど。

「墓地から5体の岩石族モンスターをゲームから除外し、『メガロック・ドラゴン』を召喚する!」

メガロック・ドラゴン
★7 /地属性/ / ATK:? / DEF:?
【岩石族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する岩石族モンスターを除外する事でのみ特殊召喚できる。
このカードの元々の攻撃力と守備力は、特殊召喚時に除外した岩石族モンスターの数×700ポイントの数値になる。

 今まで倒したり墓地に送られた岩石族モンスターの残骸が一箇所に終結。
 それらはドラゴンの形をした魔物へと変貌し、私に向けて咆哮した。

「メガロック・ドラゴンの攻撃力は、ゲームから除外した岩石族モンスター1体につき攻撃力が700ポイント……よって、攻撃力は3500となる!」

 いちいち解説してくれなくても分かっている……嫌という程に。
 このタイミングで攻撃力3500は正直笑えない。
 十分にデュエルを終わらせるだけの攻撃力を持っていた。

「メガロック・ドラゴンでクィーンズ・ソーサレスを攻撃!」

 鈍重そうな岩のドラゴンがクィーンズ・ソーサレスに向けて突進。
 如何にも硬そうな岩によるテイルスイングが直撃し、クィーンズ・ソーサレスが吹き飛び消える。

 その一撃は私にも近かったので、思わず両手で顔を覆った。
 立体映像なので実際に一撃を受けたわけじゃないけど、流石に心臓に悪い。
 海馬コーポレーションによるソリッドビジョン・システムの優秀さを改めて実感させられた。

七瀬唯衣:LP4000→2000

「ロストガーディアンを守備表示で召喚し、ターン終了だ」

ロストガーディアン
★4 / 地属性/ / ATK:100/ DEF:?
【岩石族・効果】
このカードの元々の守備力は、自分が除外している岩石族モンスターの数×700ポイントの数値になる。

 岩石で出来た番人であるロストガーディアンが更に出現。
 その守備力は、除外されている岩石族モンスター1体につき700ポイント。
 つまり守備力3500の強大な壁……アースガルズみたいに耐性が無いだけマシだけど、この守備力はシャレにならない。


・七瀬唯衣
LP:2000
手札:2枚(黒鴉のクリストフィーネ、ワンド・オブ・マレフィキア)
フィールド:蒼き魔装騎士(攻撃表示)、クロニカの使徒(守備表示)
リバースカード:1枚

・試験官
LP:3250
手札:0枚
フィールド:神都の守護者アースガルズ(守備表示)、メガロック・ドラゴン(攻撃表示、ATK:3500)、ロストガーディアン(守備表示、DEF:3500)
リバースカード:1枚



 デッキからカードをドローする前に、手札とフィールドを見比べる。
 手札には既にキーカードとなる『黒鴉のクリストフィーネ』と『ワンド・オブ・マレフィキア』がある。
 この2枚をフルに使用しただけでは残念ながら、攻撃力3500のメガロック・ドラゴンには及ばない。

 あと1枚……何かの魔法カードがあるならば確実に葬り去る事ができる。
 もし引けなくても、クロニカの使徒により一度だけなら引き直すことも出来るし、然程難しくはないハズ。

「私のターン……ドロー!」

 勢いよくドローしたカードに目を通し……私は思わず笑みを浮かべた。
 そう。さながら映画に出てくる悪役のように。

 ドローしたカードは、私の勝利を確定する魔法カード。しかも……

「少々予定より遅れましたけど、このターンで終わりそうですよ……私の勝利でね」

 手札から一枚のカードに手をかけ、デュエルディスクにセットする。
 長い間待ち侘びたであろう、今回初めて実戦を行うカードに。

「蒼き魔装騎士とクロニカの使徒を生け贄に捧げ……『黒鴉のクリストフィーネ』を召喚!」

 黒鴉の翼を宿した魔女がフィールドに降臨する。
 魔女の躯を包むその翼が広がり、黒い羽毛が周囲に散った。
 漆黒の魔帽の下で浮かべられるのは、魔女の不敵な笑み。

黒鴉のクリストフィーネ
★8 / 闇属性 / ATK:2400 / DEF:2700
【魔法使い族・効果】
このカードを生け贄召喚する場合の生け贄は魔法使い族モンスターでなければならない。
自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1個乗せる。
このカードに乗っている魔力カウンター1個につき、このカードの攻撃力は400ポイントアップする。
このカードの生け贄召喚に成功した時、このカードは以下の効果を得る。
●このカードに乗っている魔力カウンター2個につき、相手フィールド上のモンスターの攻撃力・守備力は400ポイントダウンする。

「装備魔法『ワンド・オブ・マレフィキア』をクリストフィーネに装備します」

 魔女のワンドが、黒い宝玉を宿した禍々しい形状へと変貌していく。
 ……悪行の杖(ワンド・オブ・マレフィキア)の名に相応しい形状へと。

ワンド・オブ・マレフィキア
【装備魔法】
魔法使い族モンスターのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊した時、以下の効果を選択し発動できる。
●破壊したモンスターのレベル×200ポイントのダメージを相手プレイヤーに与える。
●魔力カウンターを最大3つまで、他の「魔力カウンターを乗せることができるカード」に乗せる。

「魔法カードが発動された事により、黒鴉のクリストフィーネに魔力カウンターが乗ります」

 ……そして、クリストフィーネは自身の効果で攻撃力が上昇する。
 マレフィキアと合わせて攻撃力の上昇幅は800ポイント。

黒鴉のクリストフィーネ:ATK2400→3200

 確かにこのままではメガロック・ドラゴンには僅かに及ばない。
 このままでは……ね。
 確実に止めを刺すべく、私は最後の手札に手を掛ける。

「更にライフコストを1000支払い、魔法カード『拡散する波動』を発動。クリストフィーネの攻撃を全体化させます」

拡散する波動
【通常魔法】
1000ライフポイントを払う。
自分フィールド上のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊した効果モンスターの効果は発動しない。

七瀬唯衣:LP2000→1000

 魔法カードの発動にあわせ、魔女のワンドが黒く妖しく輝きを増す。

「更にクリストフィーネの効果により、各種ステータスが変動します」

メガロック・ドラゴン:ATK3500→3100
神都の守護者アースガルズ:DEF3200→2800
ロスト・ガーディアン:DEF3500→3100
黒鴉のクリストフィーネ:ATK3200→3600

 これで布石は全て整った。
 相手フィールド上のモンスターを完全破壊し、更に止めまで刺せる。
 メガロック・ドラゴンかアースガルズを始末できたらいいかなと思っていたけど、両方とも始末できるとは思ってもいなかった。


「『お披露目』には少々派手過ぎるけど、これぐらいが丁度いいわね。クリストフィーネの攻撃……ビクティム・スロート!」

 左掌をかざしクリストフィーネに攻撃命令を下す。
 黒翼を広げたまま滞空した魔女は、上空からワンドを敵フィールドへと向ける。
 黒い宝玉が更に妖しく輝き、魔杖を中心として魔法陣が次々と展開されていく。
 魔法円のルーン文字が輝き……黒い波動は一振りの魔剣へと姿を変え、振り下ろされた。

 魔剣は試験官のフィールドに深々と突き刺さり、次の瞬間には魔剣を中心として更に魔法陣が展開。
 魔方陣により黒い重力の檻が形成される。
 形成された魔方陣を中心として、血の色をした無数の魔剣がアースガルズを始めとする敵モンスター群を串刺しにした。

試験官:LP3250→2850

 攻撃表示だったのはメガロック・ドラゴンだけなので、戦闘ダメージ自体は微々たるものだった。
 確実に止めを刺すのはマレフィキアによる効果。

「マレフィキアの特殊効果はダメージ効果を選択。
 破壊したモンスターのレベル合計数によって、3600ポイントのダメージを与えます」

 試験官の周囲に展開される魔法円。
 そしてアースガルズら同様に、血の色をした魔剣によってその体を貫かれる。
 さすがに立体映像の演出なので刺されるハズもないけど、試験官が思わず怯んだ。

「これで私の勝ちですね。フフフフッ………アハハハハハハハハハハハハッ!!」

試験官:LP2850→0

 七割近く残っていた試験官のライフポイントが急激に減少し、ゼロの値を指し示した。
 同時にフィールド上に展開されていたすべてのモンスターとカードも、霧が晴れるかのように消え失せていく。



「君の勝ちだ。これにて試験デュエルを終了する」
「はい。ありがとうございました」

 試験官に軽く頭を下げ、私は観客席へと戻る。
 残りの実技試験はあと数える程しかないのだけど、折角なので最後まで見ておきたかった。

「まったく……とんでもない奴だよ君は。いろんな意味でね」
「少し手間取ったけど、ざっとこんなものよ」

 三沢君の言った『いろんな意味』というのに少し引っかかったけど、軽く笑いながら返す。

 試験の評価は、単純に勝敗だけでなく戦術や過去の戦歴も含まれるので、試験デュエルでの勝利イコール合格じゃない。
 とはいっても、私のことだから合格はほぼ間違いないと見ている。
 過去の戦歴に大分助けられているような気もするけどね。
 といってもクリストフィーネで派手に……一気に決着をつけたのだから、デュエルでの評価も悪くはないハズ。

「それじゃ、俺は試験があるからこれで……」
「ま……程々に頑張りなさいよ。私の活躍が霞まないようにね」
「努力はしてみるよ」

 口の端に笑みを浮かべ、三沢君がデュエルフィールドへと向かっていく。
 その様子を見送りながら、私は席に腰掛けた時……

「スッゲーなぁ、今さっきの魔法使い! 超カッコよかったぜ!」

 まるで子供のように……受験年齢から考えたら子供そのものなんだけど、一人の男の子が話しかけてきた。
 その男の子は私の隣に座り、デュエルフィールドへと目を向ける。
 私も同じように目を向けると、三沢君の試験が始まるところだった。

 彼は多種多様なデッキを用いる……今回はどんなデッキを使うのやら。
 少なくとも過去の試験デッキを研究し、対策を満載した『お受験デッキ』なんて面白くない真似はしないハズ。
 いくら秀才の三沢博士でも、そんな没個性な真似をしてしまうのはどうかと思う。

「やっぱデュエルは最後までやってみないとわからないよなぁ」
「まあね。デッキに僅かでも可能性が残っているなら、それに賭けない理由はないわ」

 逆にデッキに逆転の可能性が存在しない……完全な負けが確定した状況なら、その限りではないけど。
 余程相性の悪いデッキや、切り札を使い過ぎでもしない限りはそんなことはないけどね。
 デュエリストなら状況が状況でもない限り、途中で諦めてしまうのは非常にナンセンス。

 デュエルフィールドへと目を移すと、三沢君が三種類の『磁石の戦士』をフィールドに召喚していた。
 デルタ・イプシロン・ゼータの三種類は一体の巨大なロボット……『超電磁機兵−マグネット・マクシミリアン』へと変形合体。

超電磁機兵−マグネット・マクシミリアン
★9 / 地属性 / ATK:3500 / DEF:3200
【岩石族・効果】
「磁石の戦士δ」+「磁石の戦士ε」+「磁石の戦士ζ」
???


 超電磁機兵が放った鉄拳は、『激昂のミノタウルス』や『神獣王バルバロス』を次々と墓地へと叩き落す。
 ああいうロボットを派手に使いたがる辺り、なんだかんだで三沢君も少年なんだなと実感。

「……そういえば、もう試験は受けたの?」

 軽く疑問に思った事を、隣の男の子に聞く。

 今試験を行っているのは受験番号が1番の三沢君。
 受験番号の大きい順から試験を行っているので、実質彼が最後となる。
 にもかかわらず、彼が試験を受けてるのは見たことがない。

「いや、まだだぜ」

 ちょっと電車が事故に巻き込まれてさ……と言いながら彼はポケットから受験票を取り出し、私に見せながら答えた。

 遊城十代。
 試験番号は110番。
 確かに試験番号100番台のデュエルはとっくに終わっていた。


「そういやさ……デュエル雑誌見てたぜ。何度も大会に入賞してるってな」
「なーんだ。私の事知ってたの? もしかしてファンとか」

 優勝こそしてないものの、大会での入賞は結構な回数だったりする。
 雑誌でのインタビューも受けた事があるし、どうやら顔は結構知られているらしい。

 ……かのインタビューが掲載された記事を見るのは、苦痛以外の何物でもないけど。
 内容は、可能なら当時の私を抹殺しておきたい程の黒歴史とでも例えておく。
 そんな事を考えていたら、数年後から見た今の私も似たようなものかもしれないけどね。

「ファンって程でもないけどさ。前から一度デュエルしてみたいと思ってたんだ。スゲー強そうだし」
「へぇ。それはまた光栄ね」

 デュエリストとしてそう言ってもらえると、私としては少し嬉しい。
 試験が終わった後に軽くデュエルしてみてもいいかな……と頭に浮かんだ時、

「けどさ。一番強いのはオレだよ」

 …………!

 その一言に、私の思考が思わず凍りつく。
 彼は………真っ直ぐな笑みを浮かべていた。
 そして更にこう続ける。

「なんたって、オレはデュエルキングになるんだからな!」

 なんの含みもなく、彼は言い放った。

「フフフフ………アハハハハハハハハッ!」

 気が付けば、私は笑っていた。
 真顔でそんな事を言うとは思ってもいなかった。
 『なってみたい』と言う人なら結構いるし、思うだけなら私含め、デュエリストの誰もが一度はそう思ったに違いない。

 けど『デュエルキングになる』とまで言ってのける人は少ない。
 少ないどころか初めて聞いた。

「なんだよー。そんなに笑わなくたっていいじゃんか」
「ゴメンゴメン。まさかそんな事を言うなんて思ってなかったから」

 軽く謝りながら、私は再び視線を三沢君のデュエルフィールドへと目を移す。
 一応戦況は確認しているんだけど、さすがに気を取られすぎた。

 超電磁機兵は試験官の使用した永続罠『グラヴィティ・バインド』で動きを封じられていた。
 過重力により肩膝を付き身動きが取れないでいたのだけど、超電磁機兵は再び変形合体を行いその姿を変える。

電磁戦闘機−マグネット・イーグル
★9 / 風属性 / ATK:3500 / DEF:3200
【岩石族・効果】
「磁石の戦士δ」+「磁石の戦士ε」+「磁石の戦士ζ」
???

 今度は巨大な戦闘機だった。
 『電磁戦闘機−マグネット・イーグル』……いちいち名前を覚えている自分もどうかと思う。

「おお、なんか変形したぞ! スゲーカッコイイな!」

 やっやり男の子は変形合体に憧れるものらしい。
 ウチの弟達を見てたら本当にそう思う。

 重力の束縛から解き放たれた磁石の戦闘機は、罠カードの攻撃封鎖をものともせず、敵モンスターを飛び越え試験官へと攻撃を行う。
 試験官の頭上を通過する際に、戦闘機が無数のミサイルを放つ。
 ミサイルが直撃し試験官のライフポイントを急激に減らし、ついにその数値はゼロを指し示した。

<試験番号110番、遊城十代君>

「へへっ、オレの出番だな」
「見せて貰うわよ、遊城君。将来の『デュエルキング』サマの実力をね」

 意気揚々と、110番君こと彼は親指を立てて軽く笑う。
 自らに対する自信と、これからの試験に期待している様が、その表情から読み取れた。

「十代でいいぜ。オレのかっこいいヒーローを見せてやるよ!」



Track4 Trial of HERO(1)

 十代が試験用のデュエルフィールドに足を踏み入れる。
 海馬ランドのメインともいえる施設だけあって、設備の規模も段違い……思わず周囲を見渡していた。

「ボンジョールノ!」

 試験官が十代に声をかける。
 アカデミア教師の制服を着た試験官が、デュエルディスクを展開して立っていた。
 その背が高い講師は見たところ外国人。

「実技担当最高責任者のクロノス教諭か。これはまた厄介な相手だな」

 隣にいた三沢君がご丁寧に解説してくれた。
 そして私は、かのクロノス教諭の写真がアカデミアの案内パンフレットに載っていた事を思い出す。
 見た目からして他の講師と比べて異彩を放っていたので、忘れようハズもない。

 そのクロノス教諭も直々に実技試験で何度か受験生と戦っている。
 しかし『実技担当最高責任者』という大仰な肩書きや独特の雰囲気に気圧されたのか、教諭とデュエルをした受験生は不幸にも悉く敗北していった。
 更にその受験生の中には、そこそこ強いといわれていたデュエリストも含まれている。
 単純に敗北イコール不合格でもないけど、気圧されて本来のプレイングが出来なくなってしまうと、その他の要素で合格も怪しい。

「ま……なんとかするんじゃないの」

 随分と面白いことになってきた。
 試験の相手は実技最高責任者……しかも今まで挑んだ受験生は全員敗北。

「実際『デュエルキング』サマの相手としては不足はないわよ」
「デュエルキング……?」

 私のつぶやきに三沢君が顔をしかめた。
 まあ無理もない。
 私も思わず笑ってしまったしね。

「私に向かって『オレの方が強い』って言った挙句、『俺はデュエルキングになる』ってね」
「そいつはまた凄いな」

 十代は試験官であるクロノス教諭に対し、軽く頭を下げて挨拶をした。

「遊城十代です」
「シニョール十代。ワタクシはクロノス・デ・メディチ。デュエルアカデミーアの実技担当最高責任者をやってルーノデス」

 十代より頭一つ高いクロノス教諭が見下ろしながら、自らの役職を含めた自己紹介を行う。

「実技の最高責任者が直々にかよ。スッゲーなぁ! もしかしてオレって期待されてる?」
「呆れてモノも言えまセーン」

 クロノス教諭は単純に試験官の一人としてデュエルに臨んでいるだけなのだけど、十代は自分が期待されていると勘違いしたらしい。
 そして実技の最高責任者という事は、かなり手強いという事なのに、彼の表情には危機感や警戒心の欠片もなかった。
 対してクロノス教諭が呆れるのも無理ないか。

 十代は紅いデュエルディスクを展開し、楽しそうに笑みを浮かべた。
 実技担当最高責任者という肩書きによって、殆どの受験生は物怖じしてしまうのだけど、やっぱり『デュエルキング』サマは違う。

「それでは、試験を始めるノーネ!」
「ああ。楽しいデュエルをしようぜ、先生!」

 気のせいか。ほんの一瞬……クロノス教諭の目が驚いたように見開かれたような気がした。
 しかし教諭は軽く鼻で笑い、ディスクから初期手札のカードをドローする。


「オレの先攻、ドロー!」

 デュエルディスクから勢いよくカードをドローする十代。
 ドローカードを手札に加え、そして一枚のカードを選びモンスターゾーンへとセットする。

「『E・HERO フェザーマン』を守備表示で召喚して、ターンエンドだぜ」

E・HERO フェザーマン
★3 / 風属性 / ATK:1000 / DEF:1000
【戦士族】
風を操り空を舞う翼をもったE・HERO。
天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

 フィールドに現れたのは、アメリカンコミックにでも出てきそうな、翼を持ったヒーローだった。
 フェザーマンは、その翼で自身を守るように身を固め、地面に片膝をつく。

「成る程……ヒーローデッキか」

 隣の三沢君が、召喚されたフェザーマンを見て呟く。

「面白いのは口先だけじゃないってことかしらね」

 エレメンタル・ヒーローとは、戦士族で構成されたアメリカンコミック的なカードだ。
 元々カードデザイナーのフェニックス氏がデザインしたそれは、ヒーロー単体では強くない。
 数々の専用装備カードや『融合』を用いて強化でき、『結束』をテーマとしているらしい。
 約十年前に出回ったのだけど、専用のカードが必要という特性上デッキの安定率は非常に低いもので、ヒーローを使うデュエリストは非常に少なかった。

 しかし七年前の第二回バトル・シティ。
 ヒーローデッキを使って見事優勝したデュエリストがいた。
 そのデュエリストの名前は響紅葉。
 彼は自在にヒーローを用いて見事大会での優勝を果たし、二代目の決闘王となった。
 それはデュエリスト達に衝撃を与え……そして、主に子供達に夢と希望を与える事となる。

 響紅葉によりヒーローへの見方は変わった。
 彼を真似てヒーローを使うデュエリストが急増したんだけど、元々扱いが非常に難しい。
 登場から数年を経て、各種のサポートカードも存在していたものの、結局扱いきれるデュエリストは彼以外にいなかった。
 こうして再び日の目を浴びることは無くなり、今では響紅葉のファンが使うぐらい。

「まさか……ね」

 まさかとは思うけど……響紅葉のファンで、彼になりきっているんじゃないか。
 そんな考えが脳裏をよぎった。
 子供なら十分ありがちなんだけど、それだけではどうにもならない。

 でも……もしかしたら。
 彼は奇跡をみせるかもしれない。


「ワタクシのターンデス。ドロー」

 クロノス教諭が使いにくそうなデュエルディスクからカードをドロー。
 軽く手札に目を通してから、一体のモンスターを召喚。

「『イエロー・ガジェット』を攻撃表示で召喚」

イエロー・ガジェット
★4 / 地属性 / ATK:1200 / DEF:1200
【機械族・効果】
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 黄色い歯車を模した機械が、クロノス教諭のフィールドに出現。
 イエロー・グリーン・レッドと三種類存在するガジェットシリーズの一体だ。

「更にイエロー・ガジェットの特殊能力を発動。デッキから『グリーン・ガジェット』を手札に加えるノーネ」

 単体での能力はさほど強力じゃないガジェットだけど、この特殊効果が地味に強い。
 通常召喚限定ながらも召喚に成功すれば、デッキから別のガジェットを引っ張ってこれる。
 手札が確実に一枚確保でき、更にデッキ圧縮まで出来るのだ。

 とはいえあくまでも『地味』なので、これだけでは特に意味がない。
 普通なら手札確保かデッキ圧縮のギミックを生かしたコンボでも組み込むんだけど、クロノス教諭の狙いは別にある。

「イエロー・ガジェットでフェザーマンに攻撃!」

 共に低級モンスターなんだけど、僅かにガジェットの方が攻撃力は上だった。
 守備力1000のフェザーマンは、攻撃力1200のガジェットにより倒される。

「更にカードを一枚セットして、ターンエンドナノーネ」


・遊城十代
LP:4000
手札:5枚
フィールド:なし
リバースカード:なし

・クロノス・デ・メディチ
LP:4000
手札:4枚(グリーン・ガジェット、???、???、???)
フィールド:イエロー・ガジェット(攻撃表示)
リバースカード:1枚


「よし、オレのターンだな。『E・HERO スパークマン』を攻撃表示で召喚するぜ!」

E・HERO スパークマン
★4 / 光属性 / ATK:1600 / DEF:1400
【戦士族・効果】
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO 。
聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

 今度は黒と黄色の戦闘装甲をまとったヒーローが現れた。
 攻撃力1600……下級モンスターがいまいち力不足なヒーローの中では強力な部類に入る。
 最初のフェザーマンはさしずめ様子見といったところかな?
 見た目がいかにも偵察が主任務ですみたいな感じだったし。

「いっけぇスパークマン! スパーク・フラッシュ!」

 スパークマンの掌から電撃が迸り、ガジェットを破壊する。
 同時にクロノス教諭のライフポイントが僅かに変動。

クロノス・デ・メディチ:LP4000→3600

「ペラペーラのヒーローの攻撃ナンーテ、大した事ないノーネ! トラップ発動『再起動』」

再起動
【罠カード】
自分フィールド上のレベル4以下の機械族モンスターが破壊された時、
破壊されたモンスターを守備表示で自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターが効果モンスターである場合、そのモンスターは攻撃を行う事ができない。

「この効果でイエロー・ガジェットをもう一度特殊召喚し、効果によってグリーン・ガジェットを手札に加えるノーネ」
「けど先生。そのガジェットじゃスパークマンには勝てないぜ?」

 確かにこの効果で特殊召喚したガジェットは、ある意味壁としての役割でしかない。
 当然ながらクロノス教諭も分かっていて、次に繋げる為に発動したのだ。
 となると手札には既に……。

「井戸の中のフロッグとは正にこの事デースネ。さしずめどこカーノ、スモールタウーンの、ヒーローダターノでショウ」

 揶揄するような台詞に対しても、十代は軽く笑う。
 あながちスモールタウンのヒーローというのは間違ってなかったのかも。

「世界は広いって言うしな。次はどんなのを見せてくれるんだ?
 ……っと、オレはこれでターンエンドだぜ」



「ワタクシのターン。イエロー・ガジェットを生贄に『古代の機械合成獣(アンティークギア・ガジェルキメラ)』を召喚しまスーノ!」

古代の機械合成獣
★6 / 地属性 / ATK:2300 / DEF:1300
以下のモンスターを生け贄にして生け贄召喚した場合、このカードはそれぞれの効果を得る。
●グリーン・ガジェット:このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
●レッド・ガジェット:相手プレイヤーへの直接攻撃に成功した場合、相手ライフに500ポイントダメージを与える。
●イエロー・ガジェット:戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、相手ライフに700ポイントダメージを与える。

 どこか年代モノの機械を思わせる、獣を模したモンスターが出現し、咆哮をあげた。
 ガジェルキメラの所々には、生贄となったイエロー・ガジェットの部品が取り込まれている。
 とはいっても……これは演出ではなく、ガジェルキメラに秘められた特殊効果。

「おお! なんか強そうなカードだな!」

 上級モンスターの召喚で一歩リードされたにもかかわらず、まるで危機感を感じさせない様子で感嘆していた。
 もっとも、ヒーローは融合を用いて一瞬で上級クラスのモンスターが呼び出せるのだから、それらが手札にあるのならば巻き返しは可能なのかもしれない。

「ガジェルキメーラでスパークマンに攻撃! プレシャス・スクラッチ!」

 ガジェルキメラが蒸気を上げながら起動。
 組み込まれた黄色い歯車が回転し、機械に動力という生命が吹き込まれる。
 やがて機械の獣は、攻撃力2300を誇る鉄の爪牙をスパークマンに振り下ろし、その体躯を裂く。

遊城十代:LP4000→3300

 更に黄の歯車が稼動し、ガジェルキメラのカメラアイが紅く輝く。
 十代の至近距離で小規模な爆発が起こり、ライフポイントの二割近くを削った。

遊城十代:LP3300→2600

「なっ……なんでオレのライフポイントが!?」
「ガジェルキメーラの特殊効果。イエロー・ガジェットを生贄召喚したこのカードは、戦闘でモンスターを破壊すると相手プレイヤーに700ポイントのダメージを与えるノーネ!」

 これこそがガジェルキメラの特殊能力。
 ガジェットを生贄に召喚する事で、特定の特殊能力を付与できる。
 召喚するのに必要な生贄が一体だから複数の効果を付与できないんだけど、逆に考えると一体の生贄で召喚できるので使い勝手がいい。


「下級モンスターを安定供給の可能なガジェットで固めて、ガジェル系統のアンティーク・ギアの効果を最大限に生かす……か」

 クロノス教諭の戦術は、ガジェットとアンティーク・ギアを用いたデッキの戦術の見本とも言えるものだった。
 そういう見本的な戦術を用いる辺り、実技担当の講師といったところだろうか。

「ガジェットとのコンボはあくまでも戦術の一つだしね。『デュエルキング』サマが健闘したら、或いは……」

 今までのデュエルを見ていた限りだと、あくまでもクロノス教諭の主力はアンティーク・ギア。
 ガジェルキメラなんて、言ってしまえば中ボス的な立場でしかない。
 もっと上のガジェルドラゴンや……『ゴーレム』が出てきた時、彼はどう対抗するのだろう?

「更にカードを1枚伏せて、ターンエンドナノーネ」

 クロノス教諭がターンエンドを宣言。
 少なくとも今までの展開では教諭が多少有利にみえる。けど……

「アレは手札に融合素材を溜め込んでるわね。もしくは手札事故」
「中々にシビアだな。『魔女』の予測は」

 十代の手札は五枚。
 普通ならリバースカードのセットやらで結構使うはずだけど、そういった気配はない。
 融合素材が噛み合わずに手札事故を起こしているのか。
 それとも……キーカードを揃えて一気に畳み掛けるのか。

 「ヒーローデッキの真骨頂はその爆発力にあるから、完全に事故とも言い切れないけどね」

 例えるなら手札はパズルのようなもの。
 単体でのカードパワーは大した事はないけど、特定のカードが揃えば手札は一気にキーカードへと化ける。
 そして繰り出される多彩なコンボ。
 これは他のデッキも言えるんだけど、ヒーローデッキは特にこの傾向が顕著だ。

・遊城十代
LP:2600
手札:5枚
フィールド:なし
リバースカード:なし

・クロノス・デ・メディチ
LP:3600
手札:4枚(グリーン・ガジェット二枚、???、???)
フィールド:古代の機械合成獣(イエロー・ガジェット / 攻撃表示)
リバースカード:1枚


「やっぱ先生だと強いなぁ。よし、オレのターン」

 ドローしたカードを確認した十代の表情が、遠目から見ても分かるほどに変わっていく。
 間違いなく……キーカードを引いた。

「手札から魔法カード『O−オーバーソウル』を発動。蘇れ、スパークマン!」

O−オーバーソウル
【通常魔法】
自分の墓地から「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を選択し、自分フィールド上に特殊召喚する。

 通常モンスター限定だけど、ヒーローを完全蘇生させるカードだ。
 その効果が発動し、前のターンに破壊されたスパークマンが復活する。

「ソンナ雑魚モンスターを集めてどうするのデス。ワタクシのガジェルキメーラの前では――」
「へっ。オレのデッキに雑魚なんて居やしないぜ!
 今『こいつら』の真の姿を見せてやる。手札から魔法カード『融合』を発動!」

 手札と墓地より計二体のモンスターが墓地に送られ、融合デッキから新たなヒーローが呼び出される。

「スパークマンと手札のクレイマンを融合。現れろ、『E・HERO サンダー・ジャイアント』!」

融合
【通常魔法】
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

E・HERO サンダー・ジャイアント
★6 / 光属性 / ATK:2400 / DEF:1500
【戦士族・融合・効果】
「E・HERO スパークマン」+「E・HERO クレイマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
自分の手札を1枚捨てる事で、フィールド上に表側表示で存在する
元々の攻撃力がこのカードの攻撃力よりも低いモンスター1体を選択して破壊する。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 屈強な体躯を誇る、雷をまとったヒーロー……サンダー・ジャイアントが虚空から姿を現した。
 融合前のスパークマンやクレイマンと異なり、そのフォルムは全体的に力強さを感じさせる。

「サンダー・ジャイアントの特殊効果発動!
 手札を一枚捨てて、元の攻撃力がサンダー・ジャイアントより低いカードを破壊するぜ!
 この効果で攻撃力2300のガジェルキメラを破壊。ヴェイパー・スパーク!」

 サンダー・ジャイアントの両手に雷が収束し、球体を象った。
 その雷の塊投げつけられたガジェルキメラは一瞬にして微塵に砕け散る。

 攻撃力はサンダー・ジャイアントの方が上で、一応戦闘破壊も出来たハズ。
 素直に戦闘破壊してもよかったのだけど、一気に畳み掛ける為に効果を使ったと見ている。
 事故って使い物にならなくなった手札の処理も兼ねているのかもしれない。

「これで先生の場はがら空きだ。いっけぇサンダー・ジャイアント! ボルテック・サンダー!」

 サンダー・ジャイアントの掌から雷撃が放たれ、クロノス教諭を直撃する。
 2400もの戦闘ダメージはクロノス教諭のライフポイントを大きく削るが……。

クロノス・デ・メディチ:LP3600→1200

「この瞬間にトラップ発動。『ダメージ・コンデンサー』!
 手札を一枚捨て、受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスターを特殊召喚するノーネ!」

ダメージ・コンデンサー
【通常罠】
自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動する事ができる。
その時に受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから攻撃表示で特殊召喚する。

トロイホース
★4 / 地属性 / ATK:1600 / DEF:1200
【獣族・効果】
地属性モンスターを生け贄召喚する場合、このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。

 クロノス教諭のフィールドに出現したのは大きな木馬。
 さしずめ神話に出てくる『トロイの木馬』そのもの。
 名前も『トロイホース』と直球そのままだった。

「トロイホースか。これは少々面白いことになりそうね」

 トロイホースの攻撃力は1600と、サンダー・ジャイアントには及ばない。
 しかしこの木馬はとある特殊能力を秘めている。
 一瞬にして、最上級モンスターを召喚できる可能性をね。

「サンダー・ジャイアントの効果はここで使っておくべきだったな。もし次のターン……」
「デュエルに『もしも』はないのよ。そんなのを持ちだすのは、後出しジャンケンで勝った気になっている勘違い君だけで十分。当人にはその時にならないと分からないものなの」

 三沢君が言わんとしているのは、次のターンでトロイホースの効果を使って最上級モンスターが出てくるという事だろう。
 可能性としては十分にありうるのだけど、だからといって十代の選択が間違っているとは言い切れない。

「随分と肩を持つな。そんなに彼が気に入ったのか?」
「想像するだけならご自由に」





 なんとかライフポイントでは逆転できたけど、クロノス教諭の場にまた新しいモンスターが出てきた。
 十代はその木馬に対して、どう対処するかを手札を眺めつつ頭の中で考えている。

 手札にはバースト・レディとスカイスクレイパー。
 このままサンダー・ジャイアントで力押しできればそれに越したことはないと、頭の中で結論を出す。
 しかし……同時に実技試験担当の先生が、こんなにあっさり終わるものかなとも考えてしまう。

 かのクロノス教諭の表情を見ると、ライフポイントでは負けているにもかかわらず、余裕といった感じの笑みまで浮かべてみた。
 恐らく。まだ何か、更なるカードを持っているに違いない。
 そう簡単に試験で合格はさせてくれないらしい……けど、デュエルはこうじゃないと盛り上がらない。


・遊城十代
LP:2600
手札:2枚(E・HERO バーストレディ、摩天楼−スカイスクレイパー)
フィールド:E・HERO サンダー・ジャイアント(攻撃表示)
リバースカード:なし

・クロノス・デ・メディチ
LP:1200
手札:3枚(グリーン・ガジェット、???、???)
フィールド:トロイホース(攻撃表示)
リバースカード:なし


「オレはこれでターンエンドだ。さあ先生、次はどんなモンスターを見せてくれるんだ!?」



Track5 Trial of HERO(2)

「ワタクシのターン。ドロー」

 ドローしたカードを手札に加えたクロノス教諭は、間を置かずに一体のモンスターを召喚する。

「トロイホースを生贄に捧げ……『古代の機械巨人(アンティークギア・ゴーレム)』を召喚!」

古代の機械巨人(アンティークギア・ゴーレム)
★8 / 地属性 / ATK:3000 / DEF:3000
【機械族・効果】
このカードは特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

 今さっきドローしたものか、それとも既に手札にあったのか。
 前のターンでトロイホースが召喚できた時点で、既に余裕そうな素振りを見せていたので多分後者だと思う。
 そして十代がサンダー・ジャイアントでダイレクトアタックを仕掛ける事は、計算済みだったのかもしれない。

 更にトロイホースは地属性モンスター二体分の生贄として使える為、この高速召喚が可能となった。

「すっげー……! これが先生の切り札か! カッコイイなぁ!」

 一瞬にして最上級モンスターを召喚されたにもかかわらず、相変わらず緊張感の欠片もなく十代は感嘆している。
 いや、全く緊張感がないハズはない。

 古代の機械巨人の攻撃力は最強クラスとも言うべき3000を誇り、守備モンスターへの貫通効果を持っている。
 高攻撃力に貫通効果……実にやらしい組み合わせね。

 更にアンティーク・ギア特有の魔法・罠封鎖能力まで備え、正にアンティーク・ギア最強のカードと呼んでも差し支えはない。
 感嘆しながらも十代は、心のどこかでこの最上級モンスターを倒す方法を模索している……と思う。

「アンティークギア・ゴーレムの攻撃。アールティメット・パウンド!」

 ゴーレムが放ったのは、何の小細工もない一振りの鉄拳。
 しかし、何の小細工もなく全力で放たれた一撃は非常に重い。
 攻撃力3000の鉄拳は易々とサンダー・ジャイアントを粉砕する。

遊城十代:LP2600→2000

 放たれた鉄拳はサンダー・ジャイアントを貫き、更に十代へと向かった。
 鉄拳の重量感を完全に再現した立体映像に、思わず顔を片腕で覆う。

「くっ……さすがにキツイな」
「ワタクシはこれでターンエンドナノーネ」

 やっぱり……と言ってしまうのもなんだけど、形勢逆転。
 実技担当最高責任者殿は、そう簡単にアカデミアの門をくぐらせる心算はないらしい。

 私が梃子摺ったのは、アースガルズというゴーレム。
 そして十代を阻むのもまた、古代の機械によるゴーレム。
 奇しくも似たような状況が用意された。

「さてさて。あの『デュエルキング』サマは、あの門番をどう始末するのかな?」


・遊城十代
LP:2000
手札:2枚(E・HERO バーストレディ、摩天楼−スカイスクレイパー)
フィールド:なし
リバースカード:なし

・クロノス・デ・メディチ
LP:1200
手札:3枚(グリーン・ガジェット、???、???)
フィールド:古代の機械巨人(攻撃表示)
リバースカード:なし


「へっ……オレのターン、ドロー!」

 流石に攻撃力3000を誇るゴーレムの前にして、表情が硬くなっている……かと思えば、この期に及んで尚も楽しそうな笑みを浮かべていた。
 危機的状況さえも完全に呑み込み、あくまでも自分のペースでデュエルを行う。
 理屈ではそうあるべきなんだけど、実際にそれを行えるデュエリストは少ない。
 ……そう、『魔女』とまで呼ばれている私でさえも。

「手札から魔法カード『強欲な壺』を発動!」

強欲な壺
【魔法カード】
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 ……ここにきて強欲な壺を引くとは。
 自称デュエルキングだけあって『最低限の運』はあったみたい。
 これで手札が実質倍増し、逆転の一手へ繋げられる。

「『ハネクリボー』を守備表示で召喚するぜ」

ハネクリボー
★1 / 光属性 / ATK:300 / DEF:200
【天使族・効果】
フィールド上のこのカードが破壊され墓地に送られた時に発動する。
発動後、このターンにこのカードのコントローラーが受ける戦闘ダメージは全て0になる。

 フィールドに出現したのは、黒い毛玉みたいなモンスター『クリボー』に羽根が生えたかのようなモンスターだった。
 元となった『クリボー』とは異なるのだけど、戦闘ダメージを無効化する能力を持っている。
 といっても相手ターンでも手札から使えるクリボーと異なり、フィールド上での破壊が条件だから正直使いにくい。

 そして一つ、気になった事がある。
 ハネクリボーというものは、効果の割には結構希少価値のあるカードだったりする。
 しかも代表的な所有者というのが、かの有名な響紅葉だったり。

 まさか……ね。
 響紅葉から貰った、というのは流石にないハズ。
 実際ヒーローデッキとハネクリボーの相性は微妙なところだし、彼がデッキに入れていたからという理由で同様にデッキに入れていたのだと、頭の中で結論を出す。


「フン、随分と珍しいカードを持っているノーネ。しかーし、戦闘時のダメージまでーハ無効に出来マセンーノ」

 クロノス教諭の解説通り、あくまでもフィールド上で破壊された時がハネクリボーの効果発動トリガーとなる。
 破壊と同時に戦闘ダメージを受けてしまっては、効果発動以前にライフポイントがゼロになってしまう。

「ああ。だからオレはこのカードに賭けるぜ」

 そう言って十代は1枚のリバースカードをセットした。
 アンティーク・ギアシリーズのモンスターは攻撃宣言時に魔法・罠を発動できない。
 となると、さしずめ発動条件がフリーのカードといったトコかな?

「これでオレはターンエンドだぜ。次は先生のターンだ」


・遊城十代
LP:2000
手札:2枚(E・HERO バーストレディ、摩天楼−スカイスクレイパー)
フィールド:ハネクリボー(守備表示)
リバースカード:1枚

・クロノス・デ・メディチ
LP:1200
手札:3枚(グリーン・ガジェット、???、???)
フィールド:古代の機械巨人(攻撃表示)
リバースカード:なし


「ワタクシのターン。グリーン・ガジェットを攻撃表示で召喚し、特殊効果で『レッド・ガジェット』を手札に加えるノーネ」

グリーン・ガジェット
★4 / 地属性 / ATK:1400 / DEF:600
【機械族・効果】
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「レッド・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 今度は緑のガジェットがクロノス教諭のフィールドに出現する。
 そしてガジェットの特殊効果により、クロノス教諭の手札に新たなガジェットが加えられた。
 次々と後続に繋げる様は、まさに歯車(ガジェット)のように思える。

 単純にゴーレムで攻撃を行えば勝てるハズなんだけど、十代のリバースカードを警戒しているみたい。
 といってもゴーレムの攻撃時に魔法・罠が発動できない以上、必要以上に警戒するほどの物でもないけど……。

 そこで私は、軽く違和感を感じた。
 十代のフィールドにセットされていたリバースカードが………ない!?

「覚悟ナノーネ。アンティーク・ギア・ゴーレムの攻撃!」

 ゴーレムが鉄拳をハネクリボーへと振り下ろす。
 防御力は三桁弱しかないハネクリボーは、ゴーレムの鉄拳を受けて易々と吹き飛んだ。
 ハネクリボーを吹き飛ばした鉄拳は更に十代へと迫るが……。

 クロノス教諭の個性的な顔が驚愕に歪む。
 そして私もまた……突然起こった『それ』を一瞬理解できずにいるのが自分でも分かる。

「これは……一体何ナノーネ!?」

 鉄拳の前にスパークマンとクレイマンが立ちはだかっていた。
 さながら霊体のように半透明となったヒーローは、十代を守るかのようにゴーレムの鉄拳を受け止めている。
 しかし徐々にゴーレムにより押され、スパークマンとクレイマンは再び散っていく。

 そして十代のフィールドには、最初のターンに倒されたヒーロー……フェザーマンが再び出現していた。
 まるで「ヒーローは何度でも諦めずに立ち上がる」とでも言わんばかりに。

「悪いな先生。実はバトルフェイズ前にコイツを発動させていたんだ」

残留思念
【通常罠】
ライフを半分支払い、自分の墓地からモンスターカードを2枚ゲームから除外する。
このターン相手モンスターから受ける戦闘ダメージを一度だけ0にする。
その後自分の墓地からレベル4以下のモンスターを1体選択し、自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン戦闘によっては破壊されない。

「『残留思念』の効果でスパークマンとクレイマンを除外して、フェザーマンを復活させたぜ」
「何とか生き延びましたか。しかーし、そんなその場しのぎーハ、いつまでも続かないノーネ」

 この後レッド・ガジェットでフェザーマンを攻撃しようにも、残留思念の効果によって戦闘破壊はできない。
 更にハネクリボーが破壊された事により、戦闘ダメージすら与えられない。
 攻撃は無意味と判断したのか、クロノス教諭は仕方ないといった様子でターンエンドを宣言した。

「クロノス教諭の言う通り、これじゃその場しのぎでしかないな。これは」
「……そうでもないと思うけど?」

 普通に考えれば三沢君やクロノス教諭が言ったように、単なるその場しのぎでしかないように見える。
 けど、ある意味反撃への布石を打ったとも取れる。

「単純にヒーローの融合体を召喚しようと思うと、普通は融合素材と『融合』で3枚のカードを消費する。
 けど幾ら融合体といってもゴーレムを倒すには及ばないから、更に何かカードが必要となるのよ」

 平均的なヒーロー融合体の攻撃力は2000以上だけど、攻撃力3000を超えるヒーローはそう存在しない。
 ゴーレムの攻撃力3000を超えようと思えば、更に別のカードが必要となる。
 装備魔法なりフィールド魔法なり、なんでもいいからヒーローでゴーレムを鉄屑にする事ができるカードがね。

「ああ……そうか。次のドローでキーカードを引く確率を高める為にか」
「そーゆーこと。よくできました、三沢博士」

 そしてそれは、最低でもカードがあと1枚揃えば可能になる。
 単純にドローしたカードがキーカードならばそれでよし。
 ドローブースト系のカードなら、そこから更にカードを引ければよし。

 これがカードが2枚しかない状態なら、ドローブースト系を引く事は必須の上、更にキーカードを全て揃えなければならない……確率という意味では非常に厳しい。
 キーカードがあと1枚だけならば、手札に舞い込む確率も飛躍的に上がる。
 そこまで考えていたのかは知らないけど、次へ繋げているのは確かだ。

 カードゲームという形態である以上、どうしても確率の問題は付きまとうだけに、こう考えると精神的にも余裕が出てくるハズ。


・遊城十代
LP:2000
手札:2枚(E・HERO バーストレディ、摩天楼−スカイスクレイパー)
フィールド:E・HERO フェザーマン(攻撃表示)
リバースカード:なし

・クロノス・デ・メディチ
LP:1200
手札:3枚(レッド・ガジェット、???、???)
フィールド:古代の機械巨人(攻撃表示)
リバースカード:なし




「よし……オレのターンだ」

 十代はデュエルディスクにセットされた、デッキトップのカードへと手を掛けた。
 既にやるだけの事はやった。
 あとはキーカードを引くだけだ。
 このドローで全てが決まる……そう考えるとワクワクしてくる。

 ―――十代。自分のカードを……デッキを信じていれば、必ず応えてくれるハズさ。

 アカデミア入学が掛かっているというのにワクワクするっていうのもヘンな話かもしれない。
 けど、『デュエルを楽しむ』という気持ちを忘れたら終わりだ。

「ドロー……ッ!」

 ゆっくりと、十代はドローしたカードを確認する。
 最初に視界に飛び込んだのは、魔法カードを示す緑。
 そしてカードの絵柄とテキストを確認し―――

「手札からフィールド魔法『摩天楼−スカイスクレイパー−』を発動するぜ!」

摩天楼−スカイスクレイパー−
【フィールド魔法】
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

 紅いデュエルディスクからフィールドカードゾーンが出現し、そこにフィールド魔法をセット。
 カードを収納したフィールドゾーンがデュエルディスクに格納され、カードを認識した後に立体映像を投影する。

 突如、高層ビルが次々と出現した。
 それは大地より芽吹き、大樹へと成長していくかのように。
 高層ビルという名の大樹が瞬く間にデュエルフィールドに立ち並び、摩天楼という名の樹海を形成していく。

「これがヒーローの戦う舞台だ!」

「スカイスクレイパー……フェザーマンの攻撃力を上げたところで、ワタクシのアンティーク・ギア・ゴーレムには及ばないノーネ」
「へっ。確かにヒーローは攻撃力が低いさ、先生のゴーレムには及ばない。けどな……」

 十代は先程ドローしたカードをデュエルディスクにセットする。
 続けてセットされていたフェザーマンと、残った一枚の手札を墓地へと送り……

「これがエレメンタル・ヒーローによる結束の力だ! 魔法カード『融合』を発動!」

 フィールド上のフェザーマンと、新たに出現したバーストレディが一つの個体へと融合していく。
 そして虚空より現れた新たなヒーローは、摩天楼の中でも一際高いビルの頂上に降り立った。

「さあ、出番だぜ! マイフェイバリットカード『E・HERO フレイム・ウィングマン』だ!」

E・HERO フレイム・ウィングマン
★6 / 風属性 / ATK:2100/ DEF:1200
【戦士族・融合・効果】
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 フェザーマンの体躯にバーストレディの炎を体現した赤い腕。
 赤い腕の片方にはドラゴンの頭部が備わっている。
 フレイム・ウィングマンは摩天楼の頂上より、静かにフィールドを見下ろしていた。
 さながら悪を倒す為に現れたヒーローのように。

「ヒーローは決して負けはしない……フレイム・ウィングマンの攻撃! スカイスクレイパー・シューートッ!!!」

 摩天楼の頂上より飛び降りたフレイム・ウィングマンは、両翼を広げながらゴーレムに向けて急降下。
 ドラゴンの頭部を模した掌をゴーレムに翳し、炎を宿した一撃を加える。
 十分な加速を加えた一撃は、一度ゴーレムの鉄拳により受け止められるが……

「スカイスクレイパーの効果で、ゴーレムよりも攻撃力の低いフレイム・ウィングマンは攻撃力が1000ポイントアップするぜ!」

フレイム・ウィングマン:ATK2100→3100

 攻撃を受け止め切れなかったゴーレムの鉄拳にヒビが入り、まずは脚部が破損。
 地面に片膝をついたのを引き金に腕部……胴体と、全身が次々と砕けていく。

「マンマミーア。ワタクシのアンティーク・ギア・ゴーレムが……」

 フレイム・ウィングマンの攻撃に押されているゴーレムを前に、クロノス先生が力なく呟く。
 やがて攻撃を受け切れるだけの力を失ったゴーレムは、フレイム・ウィングマンの掌より生じた爆発により微塵に砕け散った。
 立体映像ではあるものの、かつてゴーレムだった無数の鉄塊が摩天楼の広場へと散乱する。

クロノス・デ・メディチ:LP1200→1100

「更にフレイム・ウィングマンの効果発動。戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分だけ、相手プレイヤーにダメージを与える!」

 炎を宿したフレイム・ウィングマンの掌がクロノス先生へと向けられ、ドラゴンの頭部より炎を放つ。
 実際に熱さは感じないのだが、クロノス先生は思わず両手で顔を覆う。
 同時にライフカウンターの数値が変動して、ゼロを示した。
 ゴーレムの攻撃力である3000ものダメージを受け、残り僅かだったライフポイントは一気に削られた。

クロノス・デ・メディチ:LP1100→0


 試験が終わり、摩天楼へと変貌していたデュエルフィールドは徐々に元の無機質な姿に戻る。
 同時にフィールド上に佇んでいたフレイム・ウィングマンも、役目は終わったと言わんばかりに掻き消えていった。
 消え行く摩天楼の中、十代は片膝をついているクロノス先生へと歩み寄り。

「ガッチャ! さすが先生、楽しいデュエルだったぜ!」

 右手人差し指と中指をクロノス先生に向ける。
 満面の笑みを浮かべ……心底楽しそうに。
 それにつられたのか、立ち上がったクロノス先生も一瞬だけ笑みを浮かべるが、すぐに教師らしい厳粛な表情へと戻る。

「シニョール十代。最後まで諦めずに、よく戦ったノーネ」
「おう。なんたってオレは、デュエルキングになる男だからな!」






 一発逆転。
 いかにもコミックスのヒーローらしい勝ち方で、自称『デュエルキング』こと遊城十代は実技試験を制した。
 実技試験終了を告げる放送が流れ、私を始めとする受験生はデュエルリングを出る。
 試験は午前中に始まったハズなのだけど、童実野駅前の改札口は既に茜色へと染まっている。
 リングを出て海馬ランドの入り口に差し掛かった時、デュエルキング様が意気揚々とこちらへと向かってきた。

「なかなかやるじゃない。さすが未来のデュエルキング様……とでも言っておこうかしら」
「まあな。結構アブなかったけど、ざっとあんなモンだぜ」

 私にしては割とまともな賞賛に、十代は軽く笑みを浮かべて応えた。
 ま……実際、実技担当の最高責任者相手に物怖じせず、よく頑張った方だと思う。
 大概の子はクロノス教諭の大仰な肩書きと、個性的な立ち振る舞いでまともにデュエルが出来なかったというのに。
 平常心を保つどころか、デュエルを楽しみつつ勝ってしまったとは。

 もし私がクロノス教諭と戦っていたら?
 さて……どうなるかしらね。

「……なあ、この後少し時間あるか?」

 十代が不意に足を止め、並んで歩いていた私と三沢君が振り返った。
 左腕のデュエルディスクを展開し、デッキをセットしながら十代は続ける。

「折角だからさ、帰る前にデュエルでもしようぜ」

 あまりにも唐突なお誘いにして挑戦。
 この『魔女』と『三沢博士』に挑むにもかかわらず、相も変わらず楽しそうな笑みを浮かべて。

「フッ………アハハハハハハハハハハハハッ!!」

 思わず、つられて笑ってしまった。
 何事かと通行人の何人かがこちらを向く。
 相変わらず唐突に、面白い事を言ってくれる。

「是非とも……と言いたい所なんだが、電車に乗り遅れると帰りが遅くなるから遠慮しとくよ」

 三沢君は軽く肩をすくめて、十代のお誘いを断った。
 何処に住んでるかまでは聞いた事ないけど、明日は休日とはいえ、帰宅が遅いと両親も心配するだろう。
 私も昔、学校の文化祭前日に帰りが遅くなった時、怒られこそしなかったものの『色々と』言われた。

「私はお姉ちゃんのトコに泊まるから時間はあるけど……やめとくわ」

 少し歳の離れたお姉ちゃんは、実家を出て海馬コーポレーションにて働いている。
 といっても本社じゃなくて海馬ランドでの勤務だそうだ。
 何をしているのかまでは知らないけど……ウチの家系にしては珍しく生真面目な姉が、気ぐるみを着て子供達に風船を配っている姿を想像すると軽く笑える。
 とにかく童実野町で部屋を借りてるので、久々に顔を見るのも兼ねて今日は泊めてもらう予定だ。

「折角デュエルするのなら、何もこんなトコでやらなくてもいいじゃない。例えば―――」
「デュエルアカデミアで……ってとこか?」

 十代の言葉に軽く頷き、私は肩をすくめて答える。

「そーゆーこと。観客が冴えない三沢博士&その他通行人な下々の者じゃ、デュエルキング様としてはつまらないでしょ?」
「言われてみればそれもそうだな」
「おい。せめて『冴えない三沢博士』は否定してくれよ」

「ああ悪かったな。『冴えない三沢』」
「全く。七瀬君といいキミといい……」

 軽く遊ばれた三沢君は呆れたように呟いた。

「地味なカッコしてるから仕方ないじゃない。いっそ髪も白く染めてみたら?」
「キミと同じ尺度で比べられてもな」

 私の服を軽く眺めて三沢君が返す。
 まあ……確かに、微妙に言い返せないのが厳しい。
 好きで着ているからいいんだけどね。


 用はないんだけど、なんだかんだで駅の改札まで付き合っていた。
 三沢君はまあ……ともかくとして、なんだかんだで十代は『面白い』子だとは思う。
 一度改札を抜けた十代はこちらへと振り返り……

「まあなんだ。またデュエルアカデミアで会おうぜ!」
「そうね。この私に恐れをなして敵前逃亡とかセコイ真似するんじゃないわよ」
「筆記試験の点数が足りてたら……の話だけどな」

「ひでーなぁ三沢。実際筆記はボロボロだったけどよ」
「なるようになるんじゃない? あのクロノス教諭にも勝ったしね」
「そうだな。あんまり難しく考えても仕方ないか」
「今度はデュエルアカデミアで、楽しいデュエルをしようぜ!」



続く...



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