呼んでいる、私のことを。とても懐かしい声。

―あなたは誰?

  思い出せない。すると声がすぐに帰ってきた。

『俺だよ・・・。』

 やっぱり聞いたことのある声

―私を知っているの?

『おいおい、俺を忘れちまったのか?』

―え?

『ひでぇなあ・・・』

 どうやら声の主はふてくされてしまったらしい。やっぱり私のことを知っている。もう一度聞いてみよう。

―あなたは誰?

 私のことばに彼はため息をつき、最後に優しく私に囁いた。

『もう少しだけ待っていてくれ』

―え?

『会いに行くから・・・』

―あなたは、もしかして・・・。

『待っていてくれ。』

―待って!

『待っていてくれ!』

―思い出したの!

『待っていて・・・』

―あなたは・・・

『待って・・・』





「アテム!!」

 声の主を呼び止めようとした瞬間、杏子は目を覚ました。窓からは登ったばかりの太陽が、薄暗い部屋に光を指している。
「何故今更。」
 もうあれから一年以上経っている。それよりも悔しかったのは、彼の声を瞬時に判断できなかったことだった。
決して忘れない・・・。そうあのときに誓ったはずだったのに。もし気づいていたのならば、もう少しだけ話が出来たかもしれない。そう考えると、自分のことが腹立たしくて仕方なかった。
会いたい。そして、もう一度だけあなたに触れたい・・・。
「アテム・・・。」
光が指す部屋に、もう一度だけ語りかけてみるが、彼の声は帰って来なかった。





ANOTHER

製作者:JOHNさん






SCEAN 1 『日常』

 巨大な都市、東京。日本の中枢にして、全ての物が揃う街。巨大な人の波が渦巻く、この街のなかで、まるでぽっかりと穴があいたように人気がない場所が。まだ昼間だというのに薄暗い路地。そこにポツンと古びた店があった

『カードshop BB』

 少し古びていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。まるでアンティークショップのようだ。店には様々なカードが並び、ゲームの種類だけで分類してもかなりの数が存在する。店員は奥に隠れているのか、まるで人気がない。
 唯一声が聞こえてくるのはこの店のフリースペースで、数人の少年達がカードゲームを楽しんでいる声だけだ。
「ぐあぁぁぁ!!また負けた!!」
 おかっぱ頭の少年がカードをばらまきながら、テーブルに突っ伏していた。どうやら負けてしまったらしい。それにしてもこの少年のリアクションはでかいな。するとテーブルの向かい側に座っていたもう一人の少年、いや既に少年とはとても呼べないような、髪を後ろで結んだ男は少年のリアクションを気にもとめず、彼に話しかける。
「な、言っただろ。所詮『遊戯王』は強いカードが全てなんだよ、京君。」
 そう言うと、男はデッキをシャッフルし始めた。それを聞くと京と呼ばれた少年は悔しそうに、
「でも、決まりきったカードしか使ったって面白くないじゃないか。それに、カードを信じればきっと・・・、」
「君はマンガの読みすぎだよ。そんなことは話の都合だ。第一、『アームド・ドラゴン』みたいなカードじゃアドバンテージは取れないよ。」
 男はそう言うと、カードの束を納めたケースをリュックに入れ、レジへ向かう。
「いらっしゃーい!」
 長い金髪にタトゥーだらけのぶっとい二の腕。髭もモジャモジャで、至る所に傷がある厳つい顔。この店の店長だ。過去に一体何があったのだろうか。彼については誰もその過去を知らない。
「店長さん、『ガジェット』は売ってないのかい?」
 ガジェットとは今をときめく優秀カードのひとつだ。その存在は現環境において、かなり優秀なカードの部類である。男はショーウインドに納められているカードを見渡しながら、店長に訪ねる。
「悪いね。今はシングルカードを売ってないんだよ。」
「あ、そう。」
 そういうと男は帰ってしまう。店長はやれやれとため息を漏らした。
フリースペースでは、未だに京がテーブルでうなだれていた。
「京、気にすんなや!俺はお前のドラゴンデッキ好きだぜ!」
「BBさん・・・。」
 BBこと店長はニカっと親指を立てる。
「あーあ、やっぱり強くないカードはただの紙屑なのかな。」
「そんなことはねぇだろ。ほら、遊戯や十代みたいに強ぇ奴だって居るぜ。遊戯なんてカスみたいなカード使ってんのに、負けたのは三回くらいしかないぜ。」
 そういってまたBBさんは親指をぐっと立てた。
「昇君も言ってたじゃん!漫画の世界だよ!」
 昇君とはさっきのロン毛眼鏡男のことだ。
 京は悔しくて仕方がなかった。ただでさえ負けてしまったのに、自分のカードを紙屑呼ばわりされてしまったからである。BBさんの慰めの言葉も今の京には嬉しくなかった。
と、その時、ドアが勢いよく、
―ガランガラン
「ハァ、ハァ、おはようございます!!」
息を切らしながら、一人の女性が入ってきた。
「遅いよ!瞳ちゅわ〜ん!」
 急にBBさんの声色が変わる。この瞬間のBBさんは最高に気持ちが悪いと、常連の間ではもっぱらの噂だ。普段はとても良い人なのだが・・・。
「す、すみません、授業が延びちゃって・・・。」
 そういうと彼女は制服に着替えるため、レジの奥に入っていく。と、また奥の方から顔を出し、
「きてたんだね、京くん!いらっしゃい。」
 そういい、彼女は京に向かって微笑んだ。それに対して京は顔を真っ赤にしながら、
「こ、こんにちは、瞳さん」
とかえす。
 彼女の名前は青野 瞳(あおの ひとみ)。長い髪をポニーテールで結んでいて、その端正な横顔は、人生経験豊富なBBさんもぞっこんなほど端正に整っている。大学に通いながら、バイトまみれの生活を送っている、この店唯一の女性店員だ。女性にしては、かなり肝が据わっている方で、バイトの面接でBBさんをみて逃げ出さなかったのは、未だかつて、彼女一人だけらしい。その人なつっこい笑顔と、仕事を一生懸命こなす姿から、この店に来るほとんどの客が、彼女に憧れている。ここにいる京とBBさんを含めて。
「どうだい、学校は?」
いつものように気持ち悪い声で、BBさんは奥で制服に着替える瞳に話しかける。
「それが去年バイトのし過ぎで単位を落としちゃって。」
「何!それはいかん!キツくなったらすぐ僕に言いなさい!休ませてあげるから!」
「それが、そうも行かなくて・・・。今月も給料もらったばかりなのにもう金欠で。」
 瞳が苦笑いを見せると、BBさんはここぞとばかりに、
「何!では時給を上げてあげよう。」
「えっ、でもそんな・・・。」
 瞳が戸惑ったのには訳がある。なんとBBさんは何かにつけて瞳の時給を上げ続け、一年間で彼女の時給は三千二百円にまで跳ね上がっていたのだ。(ちなみに、バイト募集要項には690円と書いてある。)人から金を寄生虫のように騙し取っていそうな顔を気持ち悪く変形させながらBBさんは、瞳に微笑み掛ける。
 京も着いていけないよと、呆れた顔で笑っていた。
「じゃあ僕は帰ります。」
  京はカードを全て片づけ、リュックに積めると背中にしょった。
京の気分はかなり、沈んでいた。
と、ドアに手をかけようとすると、瞳が
「待って、京くん!」
「瞳さん?」
「これ、渡そうと思ってたの。」
そういって、封筒をポケットから出し、差し出してきた。
「こ、これは?」
「それはナ、イ、ショ!家に帰ってからあけてね。」
 瞳のウィンクに一気に顔を真っ赤にする京。
「は、はい!うっ・・・!」
 京は背後から圧倒的な殺気が発せられているのに気が付いた。それが誰からの物か言うまでもないが・・・。
「じゃ、じゃあ帰りますね、サヨナラ〜!」
「さよなら!」
「またな!」
優しい声と殺気に満ちた低い声に見送られながら、京は店を後にした。




「はぁ〜。」
 自宅に戻り、ベッドの上でくつろぐ京。気分は最悪だ。と、京はあることを思い出す。そう、瞳にもらったあの封筒だ。
「何が入っているんだろう。」
 制服のポケットから先程の封筒を出すと、綺麗にその封筒を開ける。そこには、彼をこれから起こる奇妙な出来事へ導く物が入っていた。





SCEAN 2 『奇妙なカード』

 京。彼の名前は山城 京、十七歳。都内にある公立高校に通う、これと言って何の特徴もない少年だ。特徴をあげるとすれば、今時珍しいおかっぱ頭と普通にしては低いほうである身長くらいだろう。この春高校三年生という、ある意味人生の分岐点にたっている、ごく普通の少年だ。
 さて彼の中で今最もブームなのが、『遊戯王 デュエルモンスターズ』というカードゲームだ。これは週刊少年ジャンプで連載されている、同名のマンガの中で主人公達がプレイしているゲームを実物化した物で、社会現象にまで発展したゲームである。現在では、世界中でヒットを起こしているモンスターカードゲームだ。京がこのゲームを始めたのは、『魔法の支配者』というパックが発売された頃からであり、全盛期や暗黒期まで見てきた、言わば古参のプレイヤーである。
 しかし、そんな彼にも遊戯王引退という考えが、最近ちらついていた。その原因は二つあり、一つは彼が受験生であるということ。いくら何でも受験の合間をぬいながら、このゲームを続けて行けるほど、京の成績は良くなかった。学校の担任からも志望校を目指すには、相当の努力が必要と言われてしまった。
 そしてもう一つの理由は、現在のこのゲームの環境である。実はこちらの方が彼には問題であった。このゲームをプレイしたことがある人なら分かると思うのだが、勝つためのデッキという物が、あまりにも確立されすぎているのだ。このゲームは、アドバンテージを容易に取ることの出来るカードとそうでないカードの差があまりにも激しいため、好きなカードを主軸にしたデッキを組むと、どうしても、強いデッキに勝つことが出来ないのである。勿論、そんなことにもめげず、好きなカードで勝利をもぎ取る素晴らしいプレイヤーも何人も居て、そのようなプレイヤーを京も目指していたが、強いカードしか使わず、ほかのカードを紙屑扱いするようなプレイヤーがあまりにも目に付くため、このゲームに楽しさを感じなくなって来たからだ。
「もう潮時かなー。」
ベッドの上でくつろぎながら、口ずさむ。もう、あのカードショップにも行かない、受験勉強に専念するときだ。そう思ったとき、あることに気づく。
「それじゃあ、瞳さんに会えない!!」
 実は引退のことは、半年位前から考えていた。しかし、いつも最終的に瞳に会えないという結末に辿り着くため、彼は遊戯王を引退出来ずにいた。shop BBのアイドル瞳。彼女には何か不思議な力があるような気がする。と、瞳のことを思い出すと同時に、もう一つのことを思い出した京。彼女からもらった封筒である。一体何なのだろう。ルンルン気分で制服のポケットをまさぐる。
(ふふふ、BBさん。僕の勝ちのようですね。ワーハハハハハ!!)
 どこかのイカレた社長のような笑い声を、心の中で上げながら、綺麗に封筒の封を切っていく。途中封筒にキスをするという危ない行為を含めながら、ついに京は封筒の中身を手にした。そこに納められていたのは・・・。
「こ、これって・・・。」
そこにはカードが入っていた。青を基調として、鋭い輝きを発し、逞しい肉体を持った青い巨人が描かれているカード。
「お、オベリスクの巨神兵?」
一瞬戸惑う京。そう、彼が手に入れたのは原作で主人公遊戯が使う神のカード、『オベリスクの巨神兵』であった。しかし、京が感じた違和感は、それが神のカードであるからではない。『オベリスクの巨神兵』ならば京も持っている。しかも、その他の神のカード『ラーの翼神竜』、『オシリスの天空竜』を、しかも日本語版、英語版と二セットずつもっていた。ゲームの特典として着いてくるこのカード達を、京は律儀にゲームを予約購入して買っていたのである。では、何に違和感を覚えたのか?それはカード表記である。このカードのカード名が、『THE GOD OF OBERISK』と書かれているのだ。これは原作の神のカードに書かれていた表記で、ゲーム特典の英語版は、違う表記に変更されている。さらにパスワードがきちんと表記されているのだ。
「何なんだろう、一体?」
瞳が作ったオリジナルカード?もしくはエラーカード?京は思考をフル回転させるが、結局答えは出なかった。考えるのをやめ、明日ショップで瞳に尋ねることに決めたのだ。何よりカードの正体よりも瞳からのプレゼントをもらった事が嬉しかった。
「うふふふふ、ワーハハハハハ!!」
 その後母親が心配そうに部屋をのぞいているのに気付くまで、京は笑い続けた。





「行ってきまーす。」
閑静な住宅街に出発の声が響く。右肩にリュックを背負い、京が家を出ると、長身の女子高生が京を待っていた。
「おはよう、山城君!」
「ゲッ、お、おはようございます、小泉さん!」
 ロングヘアーを靡かせて輝く笑顔を見せる彼女に、京は一瞬表情を歪ませる。
 彼女の名前は小泉 蓮(こいずみ れん)。京の家の目の前の豪邸に住む、可憐な乙女だ。実は彼女、総理大臣で有名なあのお方の血を引くもので、何故か知らないが京と同じ高校に通っている。清楚な雰囲気と美貌を持ちながら、これまた何故か、京に好意を抱いている。
「ねぇ、ねぇ、京君は進路もう決めた?」
「い、いえ、まだです(汗)」
「そう!私ね、東大目指そうと思うんだけど、京君一緒に行こうよ!」
「そんな、と、とんでもない!僕の成績じゃあ、東大なんてとても、とても・・・。」
「だ、い、じょ、う、ぶ!おじい様の力を使えば、京君の一人や二人どうってことないわ!だから、ねぇ?」
 蓮は少し腰を曲げ、上目遣いで京を見つめる。澄んだ青い瞳が美しく、吸い込まれてしまいそうだ。しかし、京は逆に、脂汗でだらだらだった。
「い、いや、そ、その・・・。」
と、その時、彼ら二人を邪魔する物が現れた。
「よう、そこのカップル熱いね、熱いね〜。」
金髪でそりこみの入ったリーゼント、長すぎる長ランを着込み、あり得ないほどのボンタンを履いている、絶対話しかけては行けないような男が、絡んできた。
「よう、ちょっとさー、今金がたんねーんだわ。金貸してくんない?」
そう言って京に手を出す男。マズい。これはマズい。京の脂汗は更に溢れ出てきた。さらにこの男、
「よう、ねぇちゃん!俺につきあえよ。今、すっげぇムシャクシャしててよ!」
この男は一体何をいっているのだろうか。まくし立てるように、蓮を見つめている。ヤバい!これはヤバい!このままでは、そうだ僕が何とかしなきゃ!!そう思った次の瞬間!
「・・・るさい・・・」
「あ?」
消え入りそうな声が聞こえてくる。
「おめぇか?今のは!?」
京の頭の中で呪いのメロディーが流れていた。
「おめぇかって、聞いてんだろ!!」
男が京に凄んだ瞬間、住宅街で惨劇が起きた。
「俺と京君のラブラブタイムを邪魔するんじゃねぇ!!!!!!」
それは一瞬の出来事でした。蓮さんの姿が残像を出現させたかと思うと、男の体が宙を舞ったのです。どんどん変形していく男の体。それから男は、男は、ギャアアアア!(現場に居合わせたKさん談。
男の体が地面に突っ伏した時、蓮の表情は黒く歪んでいた。そう、それはまるで闇人格に支配された、マリクのように。
純真可憐な乙女、彼女の正体は、全国制覇を成し遂げた暴走族神風の初代総長、小泉蓮。そう、男である!!男を破壊した後、どこかに携帯をかけている蓮。何とか処理班とか聞こえたが、これ以上考えるのは、怖いのでやめておくことにした。携帯の電源を切ると、何もなかったかのように笑顔で京を見つめる蓮。その微笑みはまるで天使(?)のようだ。
「京君、放課後shop BBに行くんでしょ?」
「な、何故それを!?」
「ねぇ、私も行って良い?」
と、子犬のような上目遣いで見てくる。京にもはや選択のよちはなかった。
「い、良いですよ。」
「キャハ!ヤッター!」
まるで子供のように喜ぶ蓮。その姿はまさに天使そのものだ。
京は自分の人生がとんでもない方向へ向かって行っているような気がしてならなかった。





SCEAN 3 『京と蓮』

 キーン、コーン、カーン!
 HR終了の予鈴がなると、みな開放感から一気に学校全体が騒がしくなる。
ここは都立七王子南西高校。山城京が通う公立高校だ。
偏差値が高いわけでもなく、荒れているわけでもなく、平凡な学校である。
「それじゃあ、今日はこれまで。しっかり予習しておけよ。」
ハーイと、心ない返事が返ってくる。教師も、やれやれといった表情だ。
一気に生徒達は部屋を飛び出していった。
 と、一人帰宅のお許しが出たのにおかっぱ頭の生徒だけが教室に残り続けていた。
「どうした、山城?」
ぽんと京の肩にてを置くと、彼の体は驚くほどビクッと揺れた。
「た、高林先生?」
 高林 城一(たかばやし じょういち)、このクラスの担任だ。
見た目は針金と言った感じで、とてつもなく頼りない。
髪も既に後少しだけの、背中から悲壮感が漂ってくる中年先生。
しかし、その見た目とは裏腹に教師としての実力はかなりのもので、
この学校に彼を疎ましく思うものは一人も居ないというスーパー先生なのだ。
「あ、あのー、今から帰ろうと思うのですが・・・、」
 キョロキョロ。
「小泉さんは外にいませんか?」
 京と蓮の間柄は学校中の公認となっている。
「なんだ、そういうことか?いいねぇ、青春は。」
「な、なにをいっているんですか?男同士ですよ!」
「愛があれば性別なんて。」
「僕らの間に愛は存在しません!」
「そうか、俺はお前と小泉が仲良くなってくれて、とてもうれしいんだぞ。」
「・・・。」
 京は声を詰まらせる。
 実は一年前まで、京は蓮にいじめられていたのだ。(その頃、蓮はバリバリ男だったのだが)
思い出すだけでも身の毛のよだつような日々。徹底的に体に叩き込まれた教育(?)。
その凄惨さは、彼の蓮への態度をみればすぐに分かるだろう。
そんな状況を、高林は幾度も目にした。教師としてこの二人を見過ごすわけには行かない。
高林は何度も蓮を叱りつけたが、悪魔のような蓮はまるで聞こうとはしない。
時には高林に暴力を振るうこともあった。高林は殴られることは怖くはなかったが、このまま蓮が人としての道をはずしていったらとおもうと、とても見過ごせなかった。
 だがある日蓮は何故かは知らないが、急に今の乙女モードへと変わってしまったのだ。
この経緯を知るものは誰一人としていない。そして、いじめの対象であった京に対しての態度も百八十度変わった。
確かに京の言うとおり、真っ当ではないが、非道さが彼から消えたことは高林にとってとてもうれしいことだった。
これで、京も蓮の事を許してやれたら。望み過ぎかもしれないが、高林はずっとそう思ってきたのだ。
「俺は小泉が真っ当になってくれて本当にホッとしてるよ。」
「な、何処が真っ当ですか!男同士ですよ!?」
(やっぱり、まだ無理か・・・。)
 高林はため息をつく。確かに蓮は変わった。以前は近寄るだけでも、少しぶつかっただけでも、
誰彼構わず半殺しにされていた。まさに悪魔という言葉がピッタリだった。そんな蓮にいじめられていた、
京にとって彼が乙女になろうと、天使になろうとも仲良くなることなど到底不可能だ。
「まあさ・・・。」
「はい?」
「今は無理かもしれないが、仲良くしてやってくれよ。」
 まるで自分の子供のように、連を心配する高林。切なげな表情に、京も一瞬頷いてしまいそうになる。
「それに、お前達中々お似合いだぞ。まさに理想のカップルだ。」
「な、何言ってるんですか?」
 一生懸命否定する反応がおもしろい。思わず笑ってしまう。
「ッハハハハ!じゃあな。」
 そう言って高林は教室を後にした。後ろで、プンプン京が文句を言うのが聞こえる。
と、彼が下駄箱周辺にさしかかると、蓮が何かキョロキョロしていた。
(山城を探しているのか。)
 さっきの京を思い出し、クスッと笑いが漏れてしまう。
「どうした、小泉?何か探しているのか?」
「あ、高林先生。」
 肩で息を切らしている。よっぽど探していたんだと、高林は気づいた。
「今、山城クンを探しているんだけど・・・。」
「ああ、山城なら教室にいたぞ。」
 蓮の表情が一気に明るくなる。
「本当ですか?それじゃあ高林先生、ごきげんよう!」
 と、挨拶もそこそこに蓮は行ってしまう。
「気をつけて帰るんだぞ。」
 蓮の後ろ姿を見送ると、再び歩き始める。本当によかった。
蓮の事を人一倍心配していた高林は本当によかったと、京に心の中で感謝していた。
(ありがとう、山城。お前が小泉を変えたんだ。)
 響き渡る京の悲鳴を背にして、高林は職員室へ向かっていった





 ガランガラン!激しい音を立て、shop BBのドアが開いた。
客の来訪に、店の主BBがかったるそうにレジにでてくる。
「いらっしゃーい!」
「こんちわ!BBさん!」
「よぉ!京・・・、に蓮。」
 BBさんの目の前に現れたのは、京とそれに絡みつく連の姿だった。
「ふふふ、こんにちは、兄貴!」
 天使の微笑みを浮かべながら、挨拶をする蓮。
彼が何故、BBさんを兄貴呼ばわりするのかは、大抵想像が付くだろう。
「今日は瞳さんに会いに来たんだけど・・・、居ないみたいだね。」
 京は周りを見回しつぶやいた。それを聞くと、BBさんは急に不機嫌そうになる。
ぶっきらぼうな言葉で帰ってきた。
「瞳ちゅわんならいねぇぜ!」
 やはりこの人はヤバい。相手を打ち抜くかのような、その威圧感は圧倒的である。
しかし、常連客である京はもう何度それを見ているため、そこまで圧倒はされなかった。
が、この状況は少し命の保障が出来ないのでここは帰ることにしよう。
「そうか・・・。じゃあいいや、もう帰るねぇ〜。」
「待たんかい!!」
 あまりのでかい声に、今のは京も驚いた。
恐る恐る、BBのほうを向くと、もうすぐ目の前に彼の顔はあった。
「おめぇ、瞳ちゅわんの事はどう思っているんだ?」
 いきなりの発言に戸惑ってしまう。そうか、決着を着けようというのだな。
「どうって、その・・・そりゃ・・・好、」
「駄目だ!!」
 二つの怒声が重なった。それは目の前にいるBBさんと、後ろにいる蓮の二人から発せられたものだった。
そうか、蓮がいたのかと、今更ながら気付く京。
「てめぇ、それだきゃあ許さねーぞ!!」
「そうだ!俺のどこがいけねぇんだ、京!!」
 二人の危険人物に囲まれ、逃げ場を失ってしまった。
(どうすればいい?)
 必死に生還へのロードを京は探す。
「いいか、瞳ちゅわんは俺のお嫁さんになる人だ。絶対に渡さねぇ!」
 おっかない顔で何を言っているんだこの人は?
「いいや、京は俺のものだ!俺がおまえを守ってやるぜ!」
 後ろの人もかなりヤバい!なんか言っていることが目茶苦茶だ!
「何ィ!瞳ちゅわんは俺のママになるんだ!」
「いーや、京は俺のお嫁さんだ!!」
 混乱状態に陥ってついには、二人して訳の分からないことを言い始めた。
姫?ママ?一体何の事だ。それにおまえ達は何を想像しているのだ。
「ご主人様だ!」
「ハニーだ!」
 収拾が着かない。いつの間にか、BBと蓮の罵り合いになっている。
二人は戦いの激しさはデュエルディスクによるソリットビジョン張りのものだ。
しかし、ふたりとも生身の人間なので体力の限界が訪れる。疲労感から肩で息をし始めた。すると、少し冷静になったのか、BBは妙案をひねり出す。
「ハア、ハア、それならデュエルで決着を付けようじゃないか!!」
「ハア、ハア、それは良い考えだわ!」
 やっと遊戯王小説らしくなってきた!
アニメGXでは、一体何故大事なことはみんな、デュエルで決めるのだろう。そんなタブーに触れては遊戯王小説として成り立たないので、デュエルを用いることにしよう。
「いいな!勝った方が瞳ちゃんの奥さんだ!いいな!」
 まだ微妙に混乱しているのか、おかしな事を良いながら、BBはフリースペースのテーブルについた。そして机をバンバン叩きながら、
「ほら来い!今から天使の微笑みをかけた、宿命のデュエルだ!!」
 完全にイっちまっている。そう思いながらも、京は戦わない訳にはいかなかった。
(確かに、これは逃げられない!ここで逃げたら、真のデュエリストじゃなくなってしまう!)
 カッコいい事を言っているようで、実はおかしい方向へ向かっていっていることに、京は気付いてない。
京君、BBさん、瞳さんの気持ちはどうするの?
 そんなことにお構いなしで、京はリュックからデッキを取り出し、テーブルに着いた。
「僕のプライドを込めたデッキよ!今ここで、僕を勝利に導いてくれ!瞳さんは僕のものだ!」
「ふっ!この俺の最強のデッキが、お前を粉砕するぜ!俺のハニーを傷つけた、お前を許さねー!」
「きゃあああ!京君、私はどうなってもいいから、やっておしまい!」
 三人とも、おかしな事を言いながら、京とBBの宿命のデュエルは幕を開けた。



「デュエル!!」



京 LP 8000
BB LP 8000



 二人はお互いのデッキをシャッフルしあう。気分はバトルシティの海馬と遊戯だ。
自分のデッキがもどってくると、それぞれがデッキからカードを五枚引く。先行は京からだ。
「僕のターン、ドロー!」
 カードを引き、改めて初期手札に目をやる。
(いい手札だ・・・。)
 あまりにいい手札だったので、思わず笑みがこぼれてしまった。
(これならば一気に瞳をGET出来そうだ・・・。)
 怪しい笑みを浮かべながら今引いたカードを、京はそのままテーブルにセットした。
「僕は、このモンスターを守備表示!ターン終了!」



京 LP 8000
手札 5枚

裏側守備表示モンスター



「俺のターンだ!ドロー!ククク!」
 引いたカードを見つめ、笑いをこぼすBB。その表情はとても一般人には見えない。
「俺は『サイバー・ドラゴンを』特殊召喚!」



サイバー・ドラゴン

★★★★★

ATK 2100
DEF 1600
【機械族/効果】
 相手フィールドにモンスターがいて、自分フィールドにモンスターがいない場合、
このモンスターは特殊召喚出来る。



「な、なっ!」
「さらに魔法カード、『抹殺の使徒』!」



抹殺の使徒
通常魔法

 フィールド上の裏側モンスターをゲームから除外する。除外したモンスターがリバースモンスターだった場合、
お互いのデッキを確認し、同名カードを全てゲームから除外する。



「な、何!?」
「更に俺は『融合呪印生物―光』を通常召喚!そんでもって『融合呪印生物―光』の効果により、
『サイバー・ツイン・ドラゴン』を特殊召喚!」



融合呪印生物―光
光 ★★★

ATK 1000
DEF 1600
【岩石族/効果】
 このカードを融合素材モンスター一体の代わりにすることができる。その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。フィールド上のこのカードを含む融合素材モンスターを生け贄に捧げる事で、光属性の融合モンスター一体を特殊召喚する。



サイバー・ツイン・ドラゴン
光 ★★★★★★★★

ATK 2800
DEF 2100
【機械族/融合/効果】
 「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードは上記のカードでなければ、融合召喚出来ない。
このカードは、バトルフェイズに二回攻撃が出きる。



「何――――ィ!」
「サイバー・ツイン・ドラゴンで二回攻撃!」



京 LP 2400



「のあああ!」
 机の電卓で計算し終えると、京は頭を抱え込んでしまった。
BBはサングラスの下からその光景を、ニヤニヤしながら見ていた。
「クククッ!俺のサイバーデッキはまだまだこんなモンじゃないぜ!」
 BBの危ない笑い声が店に響く。京はただ愕然としていた。





SCEAN 4 『愛とは・・・。』

京 LP 2400

手札 5枚
場 なし

BB LP 8000

手札 4枚
サイバー・ツイン・ドラゴン


「俺はカードを伏せ、ターン終了だ!」
 BBは勢い良くカードを、魔法、罠ゾーンへ伏せる。
その目はとても人間とは思えない程、妖しく光っていた。
京はゾッとしながらも、デッキの方へ手を伸ばす。――やはりこの人はふつうじゃない――
BBからくる威圧感に、どこか押され気味の京。しかし一度始まったゲームを投げ出すことはできない。
「僕のターン、ドロー!」
引いたカードには、美しい天使が光を抱いている様子が描かれている。『天使の施し』だ。
「『天使の施し』発動!カードを三枚引き、手札の『真紅眼の黒竜』、『アームド・ドラゴンLV 3』
を墓地に送る!」



天使の施し
通常魔法

 デッキからカードを三枚引き、その後手札から二枚を墓地へ送る。



「次に、『早すぎた埋葬』、発動!墓地から『真紅眼の黒竜』を特殊召喚!」
 京は手札入れ替えカードを使い、墓地にカードを送ると、今度は墓地からカードを場に出した。
遊戯王デュエルモンスターズにおいて、かなり有名なコンボだ。



早すぎた埋葬
装備魔法

 ライフを800ポイント支払い、自分の墓地のモンスターカードを一体特殊召喚し、
このカードを装備する。このカードが破壊されたとき、装備モンスターを破壊する。



「さらに、『真紅眼の黒竜』を生け贄に、『真紅眼の闇竜』を特殊召喚!」



真紅眼の闇竜
闇 ★★★★★★★★
ATK 2400
DEF 2000
【ドラゴン族/効果】
 自分フィールドの『真紅眼の黒竜』を生け贄に捧げた時のみ特殊召喚可能。墓地にあるドラゴン族モンスター一枚につき、
攻撃力300ポイントアップする。



「もういっちょ!!、『ドル・ドラ』を攻撃表示で召喚!さらに、『強制転移』」



ドル・ドラ
風 ★★★

ATK 1500
DEF 1200
【ドラゴン族/効果】
 このモンスターが破壊されたターンのエンドフィズ時、攻撃力、守備力を1000ポイントにして自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果はデュエル中一回しか使用できない。



強制転移
通常魔法

お互いに自分フィールド上のモンスター一体を選択し、そのモンスターのコントロールを入れ替える。
選択されたモンスターは、このターン表示形式の変更を出来ない。



京 LP 1600

手札 2枚
真紅眼の闇竜
サイバー・ツイン・ドラゴン



BB LP 8000

手札 3枚
ドル・ドラ



 まさに一瞬で、京は逆転のコンボを決めてきた。そもそも除外されたモンスターは『仮面龍』。
強制転移は既に手札にあったため、『抹殺の使徒』さえ来なければ、京はワンターンで勝負を
決めることもできたのだ。
「キャーッ!凄ーい京君!そのままやっちゃエー」
 蓮の黄色い声援が、店中に響きわたった。しかし、その声とは裏腹に何故か燃える闘魂なポーズを取っている。
やはり、まだ完全に乙女にはなり切れていないようだ。
「くっ!俺のサイバーツインをー!!」
 そんな蓮とは対照的に自分の切り札を奪われたのがよほど悔しかったのか、BBは顔を真っ赤にしている。
その恐ろしさに、蓮も一瞬ビクッと揺れた。
「行くよ!『サイバー・ツイン・ドラゴン』で、『ドル・ドラ』を攻撃!」



BB LP 6700



「まだまだ!ツインにはもう一回だけ戦闘が許される!攻撃!」



BB LP 3900



「更に、ダークネスで攻撃!墓地のドラゴンは三枚!」



京の墓地

『真紅眼の黒竜』
『ドル・ドラ』
『アームド・ドラゴン LV 3』



真紅眼の闇竜
ATK 3300

BB LP 600



「ぐぬぬぬぬ!」
 BBは歯を食いしばっている。無理もない。先程まで自分が有利だったのに、このターンで一気にライフが逆転してしまったのだ。
真っ赤だった顔が更に恐ろしく歪んでいく。しかし、そんなことは常連である京には日常茶飯事な事。
うまくかわしながらゲームを進めていく。
「僕はカードを一枚場に伏せ、エンドフェィズ時『超再生能力』を発動!カードを三枚ドロー!
更にドル・ドラを守備表示で特殊召喚!ターンエンド!」



超再生能力
速攻魔法

 このターン手札から、または生け贄により墓地へ送ったドラゴン族モンスター一体につき、
デッキからカードを一枚ドローする。



京 LP 1600
手札 3枚

真紅眼の闇竜
サイバー・ツイン・ドラゴン
伏せカード 1枚



「俺のターン!ドロー!」
 もう既にBBの怒りは頂点に達していた。彼は負けることが何より嫌いなのだ。今の彼は修羅。
いつもの優しい彼はそこには居ない。
「俺は罠発動!『リビング・デッドの呼び声』!サイバー・ドラゴンを墓地より特殊召喚!」



リビング・デッドの呼び声
永続罠

 墓地のモンスター一体を、表側攻撃表示で特殊召喚する。そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。
このカードがフィールドから離れた時、対象のモンスターを破壊する。



「更に、『プロト・サイバードラゴン』を召喚!」



プロト・サイバードラゴン
光 ★★★

ATK 1100
DEF 900
【機械族/効果】
 このモンスターは、フィールド上で表側表示である限りカード名を『サイバー・ドラゴン』とする。



「更に魔法カード、『パワー・ボンド』!二体の『サイバー・ドラゴン』を融合!
『サイバー・ツイン・ドラゴン』を融合召喚!」
「な、何ィィー!」



パワー・ボンド
通常魔法

 手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地に
送り、機械族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。このカードによって特殊
召喚したモンスターは、元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。発動ターンのエンドフェイズ時、
このカードを発動したプレイヤーは特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)



サイバー・ツイン・ドラゴン
ATK 5600



 圧巻だった。やはりカードショップの店長と言うだけあって、このゲームを相当研究している。
カードの使い方にムラがまるでない。京の逆転劇を、自分の逆転劇に利用してしまった。
(しか〜し・・・。)
 京は内心ほくそ笑んでいた。先程伏せたリバースカードが、まだあるからだ。罠の中でもかなり強力な部類のカード、
『聖なるバリア―ミラー・フォース』。



聖なるバリア―ミラー・フォース
通常罠

 相手モンスターが攻撃してきたとき発動。相手フィールド上の表側攻撃表示モンスターを全て
破壊する。



(プププ!これでBBさんが、攻撃をした瞬間・・・。)
 と、京が笑いを堪えているとBBは、
「よう、京、蓮・・・。愛って何だろうな・・・。」
 いきなり人間のテーマとも言うべき話題を持ちかけてきた。これには、さすがの京も戸惑ってしまう。
(おいおい、いきなりなんだよ。)
 ごもっともである。
「俺はな、初めて瞳ちゅわんがこの店にきたとき、思ったんだ・・・。ああ、この人しかいないって・・・。」





 それは、ちょうど一年前のこと。『カードショップ BB』では、長年パートで働いていた近所のおばちゃんが急に田舎に帰ることになったため、
新たにバイトを雇わなくてはならなかった。BBはおばちゃんの離脱にかなり焦ったが、内心色々な妄想に胸躍らせていた。
(よ〜し、新しいアルバイトは絶対可愛い女の子だ!)
 BBはその恐ろしい見かけと違って、考えていることはファンタスティックなことばかり。今だに
――やだぁ、遅刻しちゃう。
タッタッタ、ドシーン!
痛たたた、すみませーん!
いや、こっちこそ・・・、ハッ!
こうして二人に恋心が芽生えた――
的な理想を描いている、見た目は悪漢!心は純粋!その名もBB!!。
こうしてBBは下心見え見えな、バイト募集を始めた。(その証拠に募集チラシには、女性限定と逞しい文字で記載されていた。)
しかし、世間の風はそう優しいものではなかった。
面接に来る女の子達は、BBの“裏の社会の人”のような見た目から、面接後一切の連絡が出来なくなってしまうのである。
なかには面接中に、
「お願いです!命だけは、売り飛ばされてもいいから、命だけは!」
と、女の子が大泣きしてしまい、警察ざたになってしまうこともあった。
「BBさんは良い人だよ。」
常連客である京や子供たちは、みんなそう言ってくれるのだが、少なからずBBの心は傷ついていた。
もうこの店を畳もうと思ったほどだ。
 しかし、そんな時だった。一本の電話が鳴り響いたのは。
――あの、そちらでアルバイトを募集していると聞いて、電話をしたのですが・・・。
どうせ今度もすぐにやめてしまうだろう。しかし何故か、この声の主のハキハキとした声を聞き、
最後にもう一度だけ、店をつぶす覚悟で会おうと決心した。
「この前お電話させていただいた、青野瞳と申します。」
彼女が店を訪れたとき、BBの体を雷がかけ巡った。端正に整っていながら、少し幼さを残す横顔。
黄色いリボンで纏められた、長くきれいな黒い髪。少し低めの身長。そして、彼女の名前の通り青く透き通った大きな瞳。
まさにBBの理想像そのままの女性だった。
「は、はい、ば、バイトですね。」
面接中もBBはドギマギしてしまい、その内容はとても面接と呼べるものではなかった。しかし、彼が一番驚いたのは、初見のもの同士なのに、瞳が全く自分に対して恐怖を抱いていないことであった。それどころか、BBの目を決して逸らすことなく、しっかりと見つめているではないか。
こうしてBBは瞳に一発でゾッコンになり、彼女はこの店のアイドルへと成長していった。





「瞳!俺に微笑んでくれる天使を俺は愛している!だからお前に負けるわけにはいかないのだ!いくぞ、京!俺のバトルフェイズ!」
 突然(まあ、突然ではないのだが)の告白をしながら、バトルフェイズに入るBB。彼の過去話がかなり長引いたが、今はデュエル中である。忘れてはいけない。そしてその突然の告白に、少なからず動揺してしまう京。
(僕は本当にBBさんに勝てるのか?これほどまで瞳さんを愛しているBBさんに・・・。)
 自分の場に伏せられたカードの事を全く忘れているのか、京の頭の中に敗北という二文字が浮かび上がる。全てをかなぐり捨てて向かってくるBBに対して、自分はどうだ?本当に瞳の事をまもってやれるのか?いや、自分はデュエリストとして失格なのでは?浮かんでは消える敗北という文字。彼は今完全にパニックに陥っていた。と、沈黙を続けていた蓮が、
「京君!頑張って!ここで諦めたら真のデュエリストにはなれないわ!」
「こ、小泉さん!」
 京は今更ながらハッとした。そうだ、こんなことで諦めてしまったら、真のデュエリストには永遠になれない。デュエリストは最後まで諦めてはいけない。僕は遊戯王を読んで、散々教えてもらったじゃないか!
「ありがとう、小泉さん!」
蓮に感謝すると、BBを見つめ直す。
(そうだ!こんなところで負けるわけにはいかない!瞳さんは僕の物だ!)
 やっと冷静さを取り戻した京。まあ、全然冷静ではないのだが。
(さあ来い!今こそ宿命のデュエルに終止符を打とう!運命に弄ばれた僕たちの、宿命のデュエルに!)
 真のデュエリストはいついかなる時も逃げてはいけない。それに気づいた京の目にもう迷いはなかった。
「あ、『サイクロン』で伏せカード破壊ね。」
「!?」



サイクロン
速攻魔法

 フィールド上の魔法、罠カードを一枚破壊する。



「え!?」



京の伏せカード
聖なるバリア―ミラー・フォース
通常罠

 相手モンスターが攻撃してきたとき発動。相手フィールド上の表側攻撃表示モンスターを全て
破壊する。



「I?」



サイクロン
速攻魔法

 フィールド上の魔法、罠カードを一枚破壊する。




「・・・(ノ∀`)」



京 LP 0


 宿命のデュエルはあっけなく幕を閉じた。





続く...



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