880万円のために決闘!

製作者:黒崎さん




 880万円のために決闘!は、前作「金のために決闘!」の一応続編となる作品です。

 この小説を読んでいただく前に、一応、前作は読んでいただいたほうが良いかと思います。(強制ではありません)

 前作を読まないという方や、前作を読んだけどはっきり覚えていないという方のために、一応この小説のオリジナルキャラクターの紹介をしておきます。


 〇朝倉光樹(あさくら みつき)

 〇十七歳

 〇生まれて間もない頃、孤児院の玄関に捨てられていたところを保護され、それからその孤児院で育った。  

  孤児院の借金を返すため、賞金の懸かった大会に出場している賞金稼ぎ決闘者。 

  前作で、決闘王の称号を得るため、バトルシティの終わったその日の深夜に遊戯と決闘するが、敗北。だがその決闘の中で遊戯から大切なことを学び、決闘として成長。そしてこれからも金のために決闘を続けることを決意した。  


 では、どうぞ本編を読んでくださいませ。





「んー……どうしたもんかなぁ……」

 都内のとある商店街の隅っこの方に、ひっそりとたたずむ一軒のカードショップ。

 その店内で、ショーケースに飾られた数多くのカードを一枚一枚じっくりと眺めながら、一人の青年が呟いていた。

 背の高い、ボサボサ頭の黒髪の青年。朝倉光樹(あさくらみつき)だ。
 
「おう、どうした? 光樹」

 決して広いとは言えない店のただ一人の客である彼の元に、一人の男が歩み寄り、ぽんと肩を叩いた。 

 普通サイズのエプロンがミニサイズに見えるほどの大柄な体格。顎鬚を生やし、黒いサングラスをかけた四十代後半の男は、このカードショップの店長であった。

 朝倉が賞金稼ぎを始めた頃に出会い、付き合いは一年になる。

 朝倉の戦う理由や、デッキ内容なども知っている、彼の理解者の一人である。

「ああ、店長。実はこのカードをデッキから外して別のカードを入れようと思ってんだけど、中々ピンとくるのがなくてさ」

 ぼやくように言い、朝倉はポケットから一枚のカードを取り出し、店長に見せた。

 それは、死者が呪術によって蘇る様の描かれたカード、『反魂(はんこん)の術』だった。


 反魂の術 (魔法カード)(オリジナルカード)

 戦闘によって破壊されたモンスター一体を、自分の墓地から特殊召喚することができる。

 この効果によって特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、攻撃力が300ポイントダウンする。


「ほぉ、このカードを外すのか? またどうしてだ?」

「んー……戦闘によって破壊されたモンスター限定だし、それに復活したモンスターの効果が無効ってのも微妙に痛いし、それに俺のイメージじゃないんだよね、やっぱり」

 朝倉は頭をかきながら「ははっ」と笑い、店長は「なるほどな」とうなずいた。

「確かに、『ソーディアン・ブレイブ』ありきのお前のデッキにはやや力不足なカードかもしれんな。 ……よし、ちょっと待ってろ」

「え?」

 そう言うと、店長は店の奥の方へと姿を消した。

 そして何やらガサゴソと物を探している様子で、しばらくして「あった!」と再び姿を現した。

「こないだ入荷したばかりのカードだ。こいつを入れてみたらどうだ?」

 店長は一枚のカードを朝倉に差し出した。画面はキラキラと虹色に輝いており、光り輝くダイヤやルビーのようなものが描かれていた。

「これは……宝石、のカード?」 

「いや、それはアメだ」

「アメ……? ああ、ほんとだ。『アゲインドロップ』って書いてる」

 カード名を確認し、朝倉は納得する。そしてその効果もじっくりと確認した。

「……なるほど。確かに役に立ちそうだな。ありがと店長!  で、いくら?」

 朝倉のデッキの中の、大会で得たカード以外のほとんどはこの店で購入したものであり、いつもと同じように代金を支払おうと、彼はポケットから財布を取り出した。

「何言ってんだ、今回は特別だよ。決闘王に負けて、それでもまだまだ強くなろうとするその心意気に俺は感動したんだ、光樹!」 

「店長……!」

 朝倉は胸がジーンと熱くなるのを感じた。 


 遊戯と決闘してからすでに一週間が過ぎていた。 

 彼との決闘で朝倉は多くを学び、得たものもあった。

 だが負けた悔しさがないはずがなかった。 もっと強くなる! そしていつかまた遊戯と決闘して、今度こそ勝つ! 

 そう誓い、朝倉はこの一週間の間、デッキの強化に努めていた。


「そのカードはサービスだ。本当は2000円するんだが、1980円でいいぞ!」

「って――金は取るのかよっ!」



[第一章] 呼び出し

 心地よい春風が町を吹き抜ける午後。朝倉光樹は、とあるビルの屋上にいた。

「ったく、なんでいきなりこんなところに呼び出されなきゃならないんだよ。 まあ、素直に来てる俺も俺だけど……」

 強い風に吹かれながら、彼はブツブツと呟いた。 


 つい先日、一旦孤児院に戻った朝倉宛てに一通の手紙が届いた。

 そこには、「朝倉光樹。海馬コーポレーション東京本社にて待つ」と書かれており、今日の日付と時間が指定されていたのだ。

 理由も何も書かれていない、ある意味失礼な手紙だったので、本当なら無視したいところだったが、海馬コーポレーションからというのが気になった。

 海馬コーポレーションといえば、デュエルモンスターズに革命を起したと言われている機械、決闘盤(デュエルディスク)を開発し、つい先日も街全体を舞台とした大規模なデュエルモンスターズの大会を開いた会社だ。

 そこからの手紙。しかも朝倉個人に宛てられた手紙。 やはり決闘者として、無視することははできなかった。 

 手紙に書かれた通りにここ、海馬コーポレーション東京本社にやってきた朝倉は受付でその手紙を見せると、そのまま屋上に通された。

 そして今、このだだっ広い屋上で一人で立ち尽くしているところだった。


「しっかしいつまでこんなとこで待たせるんだよ……もう帰ろかな」

 朝倉が不満そうにぼやいていると、背後からギィィと扉が開く音がした。

 振り返ると、そこには腕に決闘盤を装着した一人の青年が立っていた。

 坊ちゃん刈りのような茶髪の、背の高い青年だった。

 その眼は、目の前にいる者全てを威圧するかのように鋭い。

(か、海馬瀬人……!?) 

 朝倉は眼を見張った。彼こそが、海馬コーポレーションの社長で、決闘者としても超一流の腕を持ち、武藤遊戯が好敵手と認めた決闘者の一人、"海馬瀬人"なのだ。

「お前が朝倉光樹か」

「あ、ああ……」

 別に何を言われたわけでもないのに、朝倉は緊張していた。海馬の姿は雑誌やテレビ画面上で見たことはあるが、こうして直に会うのは初めてだった。

 遊戯とはまた違う、海馬の放つ決闘者としての強烈な威圧感を、彼はその身に感じていたのだ。

 海馬は、朝倉の左腕に装着されている決闘盤に視線を移し、口を開いた。

「決闘盤は持ってきているようだな。 今から俺と決闘だ」

「は……?」

 朝倉は眉を顰めた。 いきなり何言ってんだこいつ? という心境だった。

「何でこんなところまで来て、いきなりあんたと決闘しなきゃならないんだよ?」

 朝倉は強い口調で言った。

 別に決闘をするのが嫌なわけではない。ただ海馬瀬人特有の、上から目線的な口調と言い回しが気に入らなかったのだ。

「"こんなところまで来て"だと? ふんっ、俺は海馬ランド計画のためにアメリカで仕事をしていたのを切り上げて、わざわざ日本の本社まで帰ってきてやったんだ。 その俺に会うためにお前がここまで来ることは、至極当然のことだ」

「な……なんだとっ!」

 海馬のさらなる上から目線口調に、朝倉は激怒し、怒鳴った。

 そんな彼のことなど全く気にしていない様子で、海馬は話を切り出した。

「つい一週間前、アメリカにいた俺の元に遊戯から連絡が入ったのだ」

「え? 遊戯……?」


−−−−
 
「海馬か、頼みがある」

「遊戯……? いったいどういう風の吹き回しだ? 貴様がわざわざ俺に連絡をよこすとは」

 アメリカで遊戯からの連絡を受けた海馬は戸惑っていた。

 遊戯と会話をしたことは何度もあったが、電話で会話をすることは初めてだった。

 今まで一度もなかった遊戯からの電話。しかも頼みがあると言っている。いったい何があった? 海馬は少し緊張していた。

「国際電話だから、手短に言うぜ。 海馬。金を、くれないか?」

「……な……何だと……?」

 海馬は言葉を失った。まさか、まさかあの遊戯から金に関しての頼み事をされることなど想像だにしていなかった。

 しかも「金を貸してくれ」ではなく「金をくれ」だった。

 一体何があったんだ? 海馬が聞こうとするより先に、遊戯は言葉を続けた。

「急におかしなことを言って悪いな、海馬。実は……」

 一度苦笑いしてから、遊戯は話を始めた。


 バトルシティトーナメントを終えた日の夜中。朝倉光樹という男と決闘をしたこと。

 勝利はしたが、それは本当に紙一重の決闘だったということ。

 そして自分が朝倉光樹を一人の決闘者として認めたということ。

 だがその朝倉光樹は、自分が生まれ育った孤児院の借金を返済するために、決闘しながら金を稼いでいるということを。


「つまり、その朝倉というやつの"枷"となっている借金を、この俺に返済してやってくれということか」

 話を理解した海馬はなるほど……と、うなずいた。

「ああ、無理を承知で頼む、海馬。借金から解放されれば、朝倉はもっとのびのびと決闘ができる。もっといい決闘者になれるんだ」

 −−−−


「電話越しの遊戯の声は、まるで自分のことのように必死だった」

「武藤遊戯が……俺のために?」

 朝倉は驚き、そして感動した。

 たった一度決闘しただけの、こんな自分なんかのために、遊戯が国際電話を使ってまで海馬に孤児院の借金の返済を頼んでくれたのだ。

「朝倉光樹。一年ほど前から賞金の懸かった大会に顔を出し始めた決闘者。国内国外を問わず、高額の懸かった大会では毎回上位に食い込み、先日のコロラド州で行われた大会ではアメリカチャンプの"レベッカ・ホプキンス"に勝利した」

「な、何でそんなこと……!」

 丸暗記した文章を一気に吐き出すように、急にしゃべりだした海馬に朝倉は戸惑うが、お構いなしに彼は言葉を続ける。

「この一年での総賞金獲得額は4,200,000円。中々の額だ」

 言葉では称えているようだったが、朝倉は海馬の笑みに皮肉を感じていた。

(こいつは何億って額を稼いでる大会社の社長だ。どーせばかにしてんだろうな、俺のことなんか)

「その賞金から320万を借金返済に使ったようだが、それでもデュナミス孤児院の借金はまだ880万ほど残っている。そう簡単に返せる額ではない。確かに貴様の枷と呼べるものだな」

「どうやって調べたんだよ……俺の個人情報まで……」

「ふっ、海馬コーポレーションの力を持ってすれば他愛もないことだ」

 驚くというよりも呆れたような朝倉を尻目に、海馬は堂々と言った。

「まあ、800万程度の金は俺にとっては微々たるものだ。 俺は、バトルシティで遊戯に負けた……。 敗者は勝者に従うのが俺のルールだ。だからこうして小切手を用意してやったのだ」

 そしてバトルシティでも着用していたロングコートの内ポケットに手を入れ、そこから小切手を取り出した。

 それを見た朝倉は、途端に目を輝かせた。

(ま……マジで!? 800万円くれんの!?)

 自分に都合のいい予想外の展開に、彼の顔は緩々に緩んでいた。

 それは、玩具を買ってもらったときの子供よりも、何倍も緩い表情だった。

「だがいくらはした金とはいえ、どこの馬の骨とも知れん決闘者にただでくれてやる義理はない。遊戯は貴様を決闘者として認めたのかもしれんが、俺は貴様の決闘を見たわけではないからな」

(ちぇ……なるほど、そういうことか)

 今すぐ金をもらえるわけではないのだとわかるとガッカリしたが、朝倉は海馬の言いたいことを理解していた。

「決闘だ、朝倉。俺に勝てば、この小切手を貴様にくれてやろう!」

 海馬はロングコートをマントのようにバサッ! と広げ、決闘盤を構えた。

「その決闘……乗った! あんたに勝って、880万は頂くぜ!」

 朝倉もまた同じように、威勢よく決闘盤を構えた。




「あー忙しいぜまったく!」

 身の丈に合わない大きなイスに座りながら、少年は、デスクの上に広げられた大量の書類に目を通していた。

 背中まで届く黒髪長髪の小学生。海馬瀬人の弟、海馬モクバだ。

 小学生ながら海馬コーポレーション副社長のモクバは、急に日本に行ってしまった兄に代わって雑務処理をこなしているところだった。  

 コンコン。

 不意に、彼一人しかいない広い社長室に、ドアをノックする音が響いた。

「失礼します」という声と共に部屋に入ってきたのは、上下黒のスーツに身を包み、黒いサングラスをした体格のいい男だ。

 どこかのSPのようにも見える彼は、海馬兄弟の側近の磯野だった。

「ああ、磯野か」

 彼が部屋に入ったのを確認すると、モクバは仕事の手を止めた。

「たった今、日本の本社から連絡が入りましたので一応ご報告しておきます。 どうやら社長が朝倉光樹にコンタクトをとることに成功し、今から決闘を始めるそうです」

「そうか。その朝倉ってヤツがどんな決闘者かは知らないけど、まあ……無理だろうな」

 モクバは、顔を見たこともない朝倉光樹という男に同情するように呟いた。

 兄が決闘で負けるはずはないと思っていたし、何より、兄がそう簡単に他人に施しを与えるようなことはしないことをモクバは知っていた。 

「私もそう思います。しかし、なぜ瀬人様はわざわざその朝倉という男に関わるようなことをしたのでしょう? いくら武藤遊戯の頼みとはいえ、この多忙の中……」

 海馬が、勝ったところで何のメリットもない決闘をわざわざ自分からしようとすることが、磯野には理解できなかった。

 基本的にそういうことを嫌う人であることを、側近である彼は知っているからだ。

「……多分、朝倉ってヤツが、"孤児院を守るために"戦うってとこが気になったんだと思うぜ」

 天井を見上げ、遠い目をしながらモクバは言った。

(孤児院での生活を捨てて新しい一歩を踏み出した自分と、そこに留まって守ろうとする朝倉ってヤツを、比較しようとしてるんだろうな。きっと……)

 モクバには、兄の心情が十分に理解できていた。彼はいつでも兄と共にいたのだから……。



(何としても勝つ! 孤児院を守るために、880万を手に入れてみせる!)

(俺は知りたい……俺の進んだ道が正しかったのか? こいつが進もうとしている道が正しいのか?)

 動機は違えど、それぞれ強い想いを抱きながら、決闘は始まった。 




[第二章] 罠

「「決闘!」」

 掛け声を合図に決闘が始まり、海馬と朝倉は五枚のカードをドローした。 決闘盤のライフポイントカウンターは4000に設定される。

「俺の先攻! ドロー!」

 海馬はカードをドローし、六枚の手札をじっと見てから、その中から二枚のカードを右手に持ち替える。

 そして、そのうちの一枚を決闘盤のモンスターカードゾーンに置いた。

「俺は『闇・道化師のサギー』を守備表示で召喚する!」

 海馬のフィールド上に、紫色の帽子とヒラヒラした派手な服装が特徴的な、道化師の立体映像(ソリットビジョン)が映し出された。


 闇・道化師のサギー (闇)

 ☆☆☆ (魔法使い族)

 攻600 守1500


(くくく……恐ろしい罠を仕掛けておいてくれるわ)

 さらに海馬は右手に持っているもう一枚のカードを、決闘盤の魔法、罠(マジック、トラップ)カードゾーンにセットした。
 
「リバースカードを一枚セットして、ターンエンドだ!」

「俺のターン!」

 朝倉はデッキからカードをドローし、自分の手札を軽く確認してから、海馬のフィールド上を見た。

 ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる道化師。しかし彼は、その後ろにセットされているカードが気になっていた。

(闇・道化師のサギーは何の効果も持たず、攻撃要因にもならないザコモンスター……ならあの伏せカードは恐らく……)

 朝倉はじっと考え、そして頭の中で一つの結論を導き出した。

「俺は『イグザリオン・ユニバース』を攻撃表示で召喚!」

 朝倉のフィールド上に、青く輝く豪華な鎧を身に纏い、槍と盾を手にした、四足歩行の獣戦士が召喚された。


 イグザリオン・ユニバース (闇)

 ☆☆☆☆ (獣戦士族)

 自分のターンのバトルステップ時に発動可能。

 このカードの攻撃力を400ポイントダウンして守備表示のモンスターを攻撃した場合、その守備力よりこのカードの攻撃力が上回っていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

 攻1800 守1900
 
 
(ふっ、攻撃してくるがいい。そして、貴様は罠に落ちるのだ……)

 召喚されたイグザリオン・ユニバースを見て、海馬はニヤリと彼特有の笑みを浮かべた。自分の仕掛けた罠に絶対の自信があるのだ。

「効果を使えばサギーの守備力は上回れない。なら、ここは普通に、イグザリオン・ユニバースでサギーを攻撃だ!」

 攻撃命令を受けたイグザリオン・ユニバースはしっかりと槍を握り、馬のごとく俊敏な四足歩行でサギーに迫った。

「くくく……この瞬間、俺は場の罠カードを発動する!」

「!!」

 イグザリオン・ユニバースがサギー目掛けて槍を突き出した瞬間、海馬のフィールド上の伏せカードが表になった。

「貴様に仕掛けられた罠はこれだ! 『死のデッキ破壊』ウイルスカード!」

 そこには、「死」という文字が書かれた、ウイルスをイメージした球体がいくつも描かれていた。


 死のデッキ破壊 (ウイルス)

 闇属性で攻撃力1000以下の生贄を媒体に、ウイルスカードは発動する。

 相手の手札、及びデッキ内の攻撃力1500以上のしもべは全て死滅する。

 
「ふはははは! サギーを攻撃した瞬間、貴様のデッキはウイルスによって破壊される!」

 海馬は得意げに笑った。それもまた、彼独特の高らかな笑いだった。

 だが、それを聞いた朝倉の表情は絶望的なものではなく、得意げだった。

「そいつはどうかな? 俺は手札から、このカードを発動するぜ!」
 
 朝倉は素早く、手札から一枚のカードを決闘盤にセットした。

「速攻魔法! 『ウイルス・バスター!』」


 ウイルス・バスター (速攻魔法)(オリジナルカード)

 「ウイルス」と名のつくカードの発動を無効にし、破壊する。 


「ウイルス……バスターだと?」

「このカードの効果で、デッキ破壊ウイルスは破壊される!」

 海馬のフィールド上の死のデッキ破壊ウイルスのカードは粉々に砕け散り、破壊された。

 そしてイグザリオン・ユニバースの攻撃が続行され、その鋭い槍で闇・道化師のサギーは貫かれた。

 ギエエェェェ! と悲鳴を上げ、サギーは消滅した。

「どーだ! 海馬瀬人!」

 朝倉は得意げに握りこぶしを突き出して見せた。たった一ターンの攻防ではあったが、それは彼の、880万円の懸かったこの決闘に対する決意の強さの表れだった。

「ウイルス・バスターか……まさかそんな手段でデッキ破壊を防がれるとはな」

 海馬は感心したように答えた。戦術を破られたものの、まだ決闘は始まったばかりで、彼に焦りはなかった。

「あんたがウイルスコンボを得意にしてるのは知ってたし、いい場面で使えたよ。まあ、あんたの死のデッキ破壊だけじゃなく『魔のデッキ破壊』や『闇のデッキ破壊』なんて物騒なウイルスカードを使う決闘者も増えてきてるし、念のために入れておいただけなんだけど」

 海馬対策でデッキに入れていたわけではなかったが、運良くウイルス・バスターを使うことができ、朝倉がいい感じで決闘の主導権を握った。

「俺はリバースカードを一枚セットして、ターンを終了する!」


 海馬のLP4000

 手札四枚

 場 なし


 朝倉のLP4000

 手札三枚

 場 イグザリオン・ユニバース 伏せカード一枚


「俺のターン! ドロー!」

 海馬はデッキからカードをドローすると、先程と同じように二枚のカードを右手に持ち替え、その内の一枚のカードを決闘盤に置いた。

「――『Y−ドラゴン・ヘッド』を攻撃表示で召喚!」

 赤々と輝くメタルボディのドラゴンが、海馬のフィールド上に召喚された。


 Y−ドラゴン・ヘッド (光)

 ☆☆☆☆ (機械族)

 攻1500 守1600


「さらにリバースカードをセット!」

 そして、右手に持ったもう一枚のカードをセットした。

(Y−ドラゴンヘッドの攻撃力はイグザリオン・ユニバースよりも低い。ヤツは必ず攻撃してくるだろう……そして、今度こそ罠にはめてくれるわ)

 ウイルスを破られたことに対して、海馬に焦りはなかったが、それでも罠を見破られたことへの多少の屈辱は感じていた。

 だからこそ、今度こその思いを込めて、彼は場にカードを伏せたのだ。

「ターンエンドだ」

「俺のターン! ドローカード!」

 朝倉はドローしたカードを確認し、よし。とうなずいた。

「俺はイグザリオン・ユニバースを生贄に捧げ、――『ニンジャマン』を召喚する!」

 朝倉は決闘盤からイグザリオン・ユニバースのカードを外し、たった今ドローしたカードを置いた。  

 イグザリオン・ユニバースは消え、そして青色の忍装束を纏い、忍刀を手にした忍者がフィールド上に現れた。顔は覆面で隠れている。


 ニンジャマン (風)

 ☆☆☆☆☆ (戦士族)

 このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地に送る事で「サムライマン」一体を、手札またはデッキから特殊召喚する。

 攻2100 守1500


「いくぜ、ニンジャマン! Y−ドラゴンヘッドを攻撃だ!」 

 攻撃命令を受けたニンジャマンは頷き、そして風のように素早い動きでY−ドラゴンヘッドに接近した。

 だが、思惑通りと言わんばかりに、海馬は笑みを浮かべる。

「罠カード発動! 『闇の呪縛』――!」


 闇の呪縛 (罠カード)

 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を選択して発動する。

 そのモンスターの攻撃力は700ポイントダウンし、攻撃と表示形式の変更ができない。


 罠カードの発動と同時に海馬のフィールド上の伏せカードが表になり、カードから無数の鎖が放たれ、ニンジャマンを襲う。

「ふっ、ニンジャマン闇の呪縛に囚われる!」

「そいつはどうかな? リバースカードオープン!」

 不敵な笑みを浮かべ、朝倉が言うと、場の伏せカードが発動された。

「速攻魔法、――『サイクロン』!」

 
 サイクロン (速攻魔法)

 フィールド上の魔法または罠カード一枚を破壊する。


 すると、フィールド上に凄まじい風が吹き荒れた。立体映像によって発生したそれは、このビルの屋上に吹く風よりも遥かに強烈だった。

 それによって、ニンジャマン目掛けて放たれた鎖は弾き返され、そして砕け散った。

「闇の呪縛……消滅だ!」

「……くっ!」

 ニンジャマンの攻撃は続行され、手にした刀でY-ドラゴンヘッドを一刀両断にした。 

 バチバチ……と機会音をたてながら、機械の竜は破壊された。


 海馬 LP4000→3400


「おのれ……っ!」

 海馬はぐっ! と唇を噛んだ。

 立て続けに罠を破られ、そしてライフポイントを削られたことで、さすがの彼も僅かながら危機感を感じたのだ。

「罠なんていくらでも仕掛ければいいさ、全部破ってやる!」

 海馬のライフポイントを600削り、880万円に一歩近づいたことで、強気の朝倉はさらに強気になっていた。


 海馬のLP3400

 手札三枚

 場 なし


 朝倉のLP4000

 手札三枚
 場 ニンジャマン




 [第三章] 緩み

「俺のターンは終了だが、あんたのターンに移る前に、ニンジャマンの効果が発動される!」


 ニンジャマン (風)

 ☆☆☆☆☆ (戦士族)

 このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地に送る事で「サムライマン」一体を、手札またはデッキから特殊召喚する。

 攻2100 守1500


「その真の力を発揮しろ! 『サムライマン』――!」

 朝倉は決闘盤からデッキを外し、その中から一枚のカードを選んでニンジャマンのカードと入れ替えで決闘盤に置いた。

 すると、ニンジャマンの体は青々と輝く光に包まれ、その姿を変えた。

 忍装束ではなく武士の鎧を装備し、覆面ではなく巨大な兜をかぶっているその姿はまさに侍(さむらい)だった。


 サムライマン (風)

 ☆☆☆☆☆☆☆ (戦士族)

 このカードは通常召喚できない。「ニンジャマン」の効果でのみ特殊召喚できる。

 このカードが相手モンスターを戦闘で破壊したとき、プレイヤーはカードを一枚ドローする。
 
 攻2600 守2500


「攻撃力は2600! そう簡単には倒されないぜ!」

「七つ星の上級戦士族モンスター……サムライマンか。ふんっ、恐れるに足りんわ」

 サムライマンを召喚したことで朝倉は強気だったが、海馬は毅然とした態度で言い返し、デッキからカードをドローした。

 そして手札のカードを決闘盤に置いた。

「――『シャインエンジェル』召喚! 守備表示!」

  海馬のフィールド上に、背中に翼を生やし、頭上に金色の輪を浮かべた男の天使が召喚された。

 
 シャインエンジェル (光)

 ☆☆☆☆ (天使族)

 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスター一体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 攻1400 守800


 防御体勢の天使は、戦闘要員としては少し頼りない風貌であった。

「俺はこれでターンを終了する!」

「何……?」

 攻撃力2600のサムライマンを前に、四つ星モンスター一体を場に出しただけでターンを終了した海馬に、朝倉は拍子抜けしていた。

 そんなことで次のターンの俺の攻撃をしのげるはずがない。そう思ったが、海馬は少しも恐れている様子はなく、実に堂々としていた。

(絶対にしのげるって確信してる面(つら)だな……だったら見せてもらうぜ、あんたの戦略を!)

 海馬の態度が、朝倉の闘争本能に火を付けた。

「俺のターン! ドローカード!」

 素早くカードをドローし、そして勢いよくカードを決闘盤に置いた。

「――『女剣士カナン』を攻撃表示で召喚!」

 緑色に輝く鎧を身に纏い、剣と盾を装備した女戦士が召喚された。

 露出した肌や、スラリと長い髪、そしてその瞳には、独特の色気があった。


 女剣士カナン (地)

 ☆☆☆☆ (戦士族)

 攻1400 守1400


「ほう……さすがにあちこちの大会に出場しただけあって、中々のレアカードを持っているな」

 自分ですら所持していないかなりのレアカードを前に、海馬は感心したようにうなずいた。 

(シャインエンジェルの効果は多少厄介だが、ここは押せ押せの場面だ。攻撃を躊躇する必要はない!)

 戦闘で破壊された際に新たなモンスターを特殊召喚するその能力を多少警戒はしたものの、朝倉は迷うことなく攻撃を決断した。

「いくぞっ! 女剣士カナン! シャインエンジェルを攻撃だ!」

 女剣士カナンは蝶のごとく華麗に跳躍し、そして鋭い斬撃でシャインエンジェルを斬りつけた。

「シャインエンジェル撃破っ!」

「この瞬間、シャインエンジェルの効果を発動し、俺はデッキから新たに攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚する」

 海馬は素早い動作で決闘盤からデッキを外し、その中から一枚のカードを決闘盤に置いた。

「いでよ、シャインエンジェル!」

 またも海馬のフィールド上にシャインエンジェルが召喚された。


 シャインエンジェル (光)

 ☆☆☆☆ (天使族)

 このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスター一体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 攻1400 守800


「なるほど、そう来たか……だが、シャインエンジェルの効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃表示になる! 俺のサムライマンの攻撃で、あんたは大ダメージを受けることになるぜ!」

 朝倉はビシッ! と海馬を指差した。

「ふん、承知の上だ」

「なら受けてもらうぜ! サムライマンでシャインエンジェルを攻撃っ!」

 サムライマンは「御意」とうなずき、ニンジャマンのときより一回り大きくなった刀を、シャインエンジェル目掛けて振るった。

 攻撃態勢だったシャインエンジェルだが、全く抵抗する暇もなく斬撃を受け、消滅した。


 海馬LP3400→2200

 
 サムライマンがモンスターを破壊したことで、その効果によって朝倉の手札は一枚増える。

(よしっ! この決闘、かなり俺が有利になったぞ)

 大幅にライフを削られても、海馬の堂々とした態度は変わらなかったが、朝倉はここまでの攻防に確かな手応えを感じていた。

(勝てるぞ、あの海馬瀬人に! そして880万円も手に入る! 孤児院の借金もなくなる!)

 決闘者として海馬に勝てることへの喜び。そして大金を手に入れることができるという喜び。
  
 朝倉の顔に自然と笑みがこぼれていた。

 だが、その"緩み"が彼の足元をすくうことに気付くのに、そう時間はかからなかった。

「シャインエンジェルの効果で、俺はまた新たなモンスターを特殊召喚する」

 海馬は先程と同じように、決闘盤からデッキを外し、その中から選んだ一枚のカードを決闘盤に置いた。

(どうせ、またシャインエンジェルだろ)

 朝倉の簡単な予想は外れることになった。

「Z−メタルキャタピラーを特殊召喚!」

「なっ……!」

 中心に機械的な目を持つ金色のボディ。その左右に巨大なキャタピラを備えた、機械(マシーン)モンスターが召喚された。


 Z−メタルキャタピラー (光)

 ☆☆☆☆ (機械族)

 攻1500 守1300


(……Z−メタルキャタピラーか、なるほど。でも、戦況がひっくり返るほどのモンスターじゃない。大丈夫だ)

 予想とは違うモンスターが召喚されたが、それでも朝倉の自信は揺るぎなかった。

「俺はリバースカードを一枚セットして、ターン終了だ!」


 海馬のLP2200

 手札三枚

 場 Z−メタルキャタピラー


 朝倉のLP4000

 手札三枚

 場 サムライマン 女剣士カナン 伏せカード一枚


「俺のターン」

 海馬はゆっくりとカードをドローし、そしてふっと笑ってみせた。

「この俺(海馬)に勝てる……と、少しはいい夢が見れたか?」

「なんだと?」

 海馬の笑み、そして口調は相手を見下した挑発的なものだった。

 戦況は朝倉が有利にもかかわらずそのような行動をとられたことで、彼は僅かながら怒りを感じた。

「だが、それもここまでだ。貴様のその温い決闘戦術(デュエルタクティクス)では、夢を見ることすらおこがましいことを証明してくれる!」

 強い口調で言い、海馬は手札のカードを決闘盤に叩き付けた。

「魔法カード発動! 『早すぎた埋葬』――!」

 フィールド上に現れたカードには、埋葬された死体の腕と顔が地面から這い出てきている様が描かれていた。


 早すぎた埋葬 (魔法カード)

 800ポイントライフポイントを払う。

 自分の墓地からモンスターカードを一体選んで攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。

 このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。


「蘇れ! Y-ドラゴンヘッド!」

 早すぎた埋葬の効果により、海馬のフィールド上に再び、赤々と輝くメタルボディのドラゴン。Y-ドラゴンヘッドが召喚された。
 

 Y−ドラゴン・ヘッド (光)

 ☆☆☆☆ (機械族)

 攻1500 守1600


 海馬LP2200→1400


(Y−ドラゴンヘッドが蘇生された……これでYとZ、二体のマグネットモンスターが揃ったか)

 朝倉は、それによって攻撃力2100の『YZ−キャタピラー・ドラゴン』に合体されることを覚悟した。

 だが海馬はさらに続けて、手札のカードを決闘盤に置いた。

「そして、『X−ヘッドキャノン』を召喚する!」

 左右に巨大な腕と、二本のキャノン砲を備えた機械モンスター、X−ヘッドキャノンが召喚された。


 X−ヘッドキャノン (光)

 ☆☆☆☆ (機械族)

 攻1800 守1500


「X−ヘッドキャノン!? X、Y、Z、三体のマグネットモンスターが揃っただと……!」

 目の前に揃った三体のモンスターを前に、朝倉は驚き、自分のフィールド上に二体のモンスターがいるにもかかわらず脅威を感じていた。

(……海馬の手札にはすでにX−ヘッドキャノンと早すぎた埋葬のカードがあったのか……? シャインエンジェルが破壊されてライフが削られることも全て承知の上で、XYZの三体のマグネットモンスターを場に揃えることを計算していた……?)
 
 唖然とする朝倉のことなど気にする様子もなく、海馬はフィールドに向けて手を掲げた。

「合体せよっ! 『XYZ−ドラゴン・キャノン』――!」
  
 海馬の言葉を合図に、三体のマグネットモンスターたちは磁力に引き寄せられながら、上からX、Y、Zと重なるように連結合体し、新たなモンスターとなった。


 XYZ−ドラゴン・キャノン (光)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (機械族)

 このカードは墓地からの特殊召喚はできない。

 手札のカードを一枚捨てる事で、相手フィールド上のカード一枚を破壊する。

 攻2800 守2600


「ふはははははははっ! これが俺の、XYZ−ドラゴン・キャノンだ!」


 海馬のLP1400

 手札二枚

 場 XYZ−ドラゴン・キャノン


 朝倉のLP4000

 手札三枚
 場 サムライマン 女剣士カナン 伏せカード一枚







 幼少期の瀬人は、裕福な家庭で幸せに暮らしていた。

 だが、八歳のときに事故で両親を亡くし、彼の人生は大きく変わることとなった。

 親が残した遺産を親戚に食いつぶされた末に、十歳のときに弟モクバとともに孤児院へ預けられた。

 そこでの生活はそれなりには楽しかった。だが、彼はそれでは満足できなかった。

 "かならずのしあがって、弟と一緒にいい暮らしをするんだ!" そう誓い、彼は孤児院での生活を捨て、海馬家の養子となった。

 孤児院での生活を守ろうなどと思わなかった。

 そこには自分たちと同じ境遇の人間はたくさんいたが、彼らを守ろうという気もなかった。

 とにかくそこから脱出したかったのだ。

 だが今、彼は、自分と似た境遇に置かれながら、そこでの生活を、そこにいる人たちを守ろうとしている決闘者、朝倉光樹と対峙していた。


 ――そこでの多くを守ろうとせず、弟と共に前に進み、より多くを手にした自分。 

 ――自分を犠牲にしても、そこにある全てを守ろうとし、前に進まない朝倉。
 どちらが正しいのか? そして自分とは違う道を選ぼうとしている朝倉の力を、彼は知りたかった。


 [第四章] 煽り

(とは言え、この決闘、それを知る前に終わるだろうがな……)

 海馬は、XYZ−ドラゴン・キャノンを召喚したことに対する手応えを感じると同時に、ほとんど警戒もせず簡単にXYZ−ドラゴン・キャノンを召喚させた朝倉の読みの弱さに少し呆れていた。

「俺は手札を一枚捨て、XYZ−ドラゴン・キャノンの効果を発動する!」


 『手札のカードを一枚捨てる事で、相手フィールド上のカード一枚を破壊する』

 
 海馬は二枚の手札のうちの一枚を墓地カードゾーンに送った。

 すると、縦に連結した三体のうちの、真ん中のY−ドラゴンヘッドの口が開き、高温の火炎弾が放たれた。

 炎は朝倉のフィールド上の伏せカードに直撃し、それを破壊した。

(くっ! 『炸裂装甲(リアクティブ・アーマー)』が破壊された……っ!)

「これで貴様のモンスターを守るカードはなくなった! いけぇっ! XYZ−ドラゴン・キャノン! サムライマンを攻撃しろ!」

 海馬が大声で攻撃を指示すると、XYZ−ドラゴン・キャノンはサムライマンに向けて、装備されているそれぞれの武器の照準を合わせた。

「XYZ・ハイパーキャノンッ――!!」

 上から順に、X−ヘッドキャノンのキャノン砲から砲撃が放たれ、Y−ドラゴンヘッドの口から火炎弾が放たれ、そしてZ−メタルキャタピラーの大砲からは、砲弾が発射された。

 全ての攻撃をいっせいに浴びたサムライマンは、激しい爆音と共に消滅した。


 朝倉LP4000→3800


「ぐっ……!」

 立体映像とはいえ、その激しい爆発に朝倉は思わず身を屈めた。

「サムライマン、消滅。 ふんっ、形勢逆転だな」

 海馬は強く言い切った。

 ライフポイントではまだ朝倉が上だが、超強力モンスターXYZ−ドラゴン・キャノンを召喚したことで、確かにこの決闘は海馬が優位に立ったと言えるだろう。 

(くそっ! 読み誤った。 まさか、こんな一瞬でXYZ−ドラゴン・キャノンを召喚してくるなんて……!) 

 朝倉は海馬の戦術を認めながらも、この状況を予想できなかった自分に怒りを感じていた。

「遊戯が認めたと言うからどれほどの決闘者かと思ったが、どうやら過大評価だったようだな」

 海馬は冷たい視線で朝倉を見下すように言い、さらに言葉を続ける。

「貴様は、金を前にして舞い上がったただのザコ決闘者だ。そんなざまで、よく「孤児院を守る」などと言えたものだ」

 はっきり言い切ると、彼はあからさまに嘲笑してみせた。まだ決闘が終わってないにしては、いかに海馬といえど大げさな言動ではあった。

 それに対し、朝倉はうつむき、ぐっと歯を食い縛った。

(悔しい、悔しい悔しい……っっ! でも、そう言われても仕方がない。シャインエンジェルの効果を知りながら、警戒もせずあっさり攻撃してしまった。
ギリギリまで見極めて必死に戦わなきゃならない相手に、そんなことで勝てるはずなんてないのに!)

 バトルシティトーナメントの準決勝を見て、海馬のデッキにXYZのマグネットモンスターが入っていることを朝倉は知っていた。

 そしてそのモンスターが、シャインエンジェルの効果の"光属性で攻撃力が1500以下"の対象であることもわかっていた。

 それなのに、大して考えもせずに目先のライフポイントを削ることを優先してしまった甘い戦術。その結果、自分に有利だった戦況をひっくり返された現実。

 全てが自分の気の緩みが招いた事態だと思うと腹立たしくて仕方なかった。

「でも……でもなぁ……」

 しばらくうつむいていた朝倉だが、ゆっくりと顔を上げた。

「でも、決闘はまだまだここからだ! 俺は決闘者だ! 決闘のミスは決闘の中で取り返してみせる!」

 そしてぐっ! と拳を突き出した。ミスはしたが、それで腐ってはいなかった。戦意も全く失っていなかった。

 それを見た海馬はふっと笑みを浮かべた。

(そうだ……それでいい。これだけ煽ったんだ、追い詰められたこの状況で、貴様のさらなる力を俺に見せてみろ!)

 彼は心の中で叫んだ。

 決闘の勝敗が決まったわけではないのにあれほどまでに大げさに言ったのは、朝倉を煽り、その全ての力を発揮させるためだったのだ。

 自分とは違う道を選ぼうとしている彼の力を、海馬は知りたがっていた。

「俺のターン!」

 朝倉はデッキから新たにカードをドローする前に、自分の三枚の手札を確認した。

(今の俺の手札は三枚。この状況では役には立たない魔法と罠カードが一枚ずつ、そして)

 その右端のカードには、鋭い長剣を手にしている金色の長髪の勇者の姿が描かれていた。 

(……『ソーディアン・ブレイブ』。だが、今俺の場にいるモンスターは女剣士カナンだけだ。 ここで『勇者降臨』のカードを引いてもソーディアン・ブレイブは召喚できない。
とはいえ、ソーディアン・ブレイブなしでこの状況は打破できない……何とかするっきゃない!)

 朝倉は覚悟を決め、デッキの一番上のカードに指をかけた。

「ドロー!」

 ドローしたカードを確認し、彼は目を見張った。

(よし……! こいつなら!)

 そしてそのカードを決闘盤に置いた。

「いくぜ! 『マンジュ・ゴッド』、召喚!」

 朝倉のフィールド上に、無数の手を持つ不気味なモンスターが召喚された。
 

 マンジュゴッド (光)

 ☆☆☆☆ (天使族)

 このカードが召喚・反転召喚された時、自分のデッキから儀式モンスターカードまたは儀式魔法カード一枚を選択して手札に加える事ができる。

 攻1400 守1000


 天使族モンスターに指定されているものの、その気味の悪い容姿と恐ろしい顔は、とてもそうは思えないものだった。

 だがその秘められた効果は、今の朝倉には一番必要なものだった。

「マンジュ・ゴッド。儀式モンスター召喚のサポートカードか」

「その効果により、俺はデッキからこのカードを手札に加えるぜ!」

 朝倉は決闘盤からデッキを外し、その中から選んだ一枚のカードを手にし、海馬に見えるように突き出して見せた。

「勇者、降臨……」

「そうだ。 そして発動! 勇者降臨!」

 朝倉は手にしたカードをそのまま決闘盤にセットした。


 勇者降臨 (儀式魔法カード)

 勇者の降臨に必要。フィールドか手札から、レベルが8以上になるようカードを生贄に捧げなければならない。


「女剣士カナンと、マンジュ・ゴッドを生贄に――」

 そして決闘盤に置かれている二枚のカードを墓地カードゾーンに送り、手札の中の一枚のカードを高々と掲げ、

「降臨しろっ! ソーディアン・ブレイブ――ッ!」

 決闘盤に強く叩き付けた。

 それと同時に、フィールド上に一陣の風が吹き抜ける。そして、何処からともなく一人の戦士が舞い降りた。

 伸びきった金色の長髪。銀色の鎧。そして長剣を手にし、赤いマントを身に纏った勇者。ソーディアン・ブレイブだ。


 ソーディアン・ブレイブ (炎)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (戦士族 儀式) 

「勇者降臨」により降臨。フィールドか手札から、レベルが8以上になるようカードを生贄に捧げなければならない。

 このカードは罠の効果を受けない。

 このカードが相手モンスターを戦闘によって破壊した時、相手ライフに400ポイントのダメージを与える。

 攻2900 守2800

 
「ソーディアン・ブレイブ……!?」

 かつて遊戯が感じたように、海馬もまた、朝倉のフィールド上に召喚された長身の戦士から、強い威圧感を感じていた。

「孤児院のチビたちから託されたこのカードが、俺の魂のカード。俺の力だっ!」

 もう今の朝倉に、気の緩みも油断もなかった。


 海馬のLP900

 手札一枚

 場 XYZ−ドラゴン・キャノン


 朝倉のLP3800

 手札二枚
 場 ソーディアンブレイブ







「緩みも、油断も、甘さも、全てが俺の弱さだった。それは全部受け止める。 ……でも、その上で俺は強くなって、全部乗り越えてみせる!」

 この決闘を始める前。880万円という大金が懸かっていたこともあったが、それは別としても、朝倉には気の緩みがあった。

 自分は遊戯に負けた。遊戯よりは弱いかもしれない。でもあの決闘は接戦だった。だから力の差はほとんどない。

 そして海馬もまた遊戯に負けている。何度もだ。

 遊戯には勝てなくても、遊戯よりも弱い海馬になら勝てる……だろう。と。

 どこか舞い上がった気持ちを持ったまま戦った彼は、手痛い目に遭った。
 だがその自分の弱さを否定せず、認め、それを乗り越えようとすることで、彼はまた少し強くなれたのだった。


[第五章] 光栄だ

(ソーディアン・ブレイブ。戦士族モンスターの中では、『カオスソルジャー』に次ぐ力を持つ超強力カード。これが、やつの切り札というわけか)

 遊戯は、朝倉との決闘に勝利はしたが紙一重だったと言った。

 ならば一体どのような手段で朝倉が遊戯をそこまで追い詰めたのか、海馬は気になっていたが、彼が召喚したソーディアン・ブレイブを見て納得していた。

「いくぞぉっ! ソーディアン・ブレイブで、XYZ−ドラゴン・キャノンを攻撃!」

 ソーディアン・ブレイブは、目の前の機械モンスターに視線を向け、剣を振りかざし、

「――――魔神剣っ!」

 そして目にも見えない速さで振り切った。

 放たれた斬撃は、魔神の息吹のごとく地を駆け、XYZ−ドラゴン・キャノンを直撃した。

 XYZ−ドラゴン・キャノンは、その機械体を粉々に砕かれ、消滅した。

「XYZ−ドラゴン・キャノン、撃破だっ!」


 海馬LP1400→1300(さらにソーディアン・ブレイブの効果で400ダメージ)→900


「海馬瀬人! あんたのおかげで目が覚めた! そして、ここからは俺の本当の力であんたをぶっ倒す!」

 幾多の大会で勝利して賞金を手にし、そしてあの遊戯との戦いを経て、朝倉の中にできていた"驕り(おごり)"。

 だがそれも海馬に砕かれた。そのおかげで彼は初心に帰ることができていた。

 決闘の中では、ほんの緩みや小さな油断が致命的だということに気付けたのだった。


 海馬のLP900

 手札一枚

 場 なし


 朝倉のLP3800

 手札二枚

 場 ソーディアンブレイブ 


「ふんっ、本当の力か……それを確認するために俺は貴様と決闘しているんだ。見せてもらわねば困る」

 孤児院を"守る"。という覚悟を持った朝倉の"力"。それはどれほどのものなのか? それは自分の力を超えるほどのものなのか。

 残りライフポイント900。手札一枚。場のカードはなしのこの状況にもかかわらず、海馬はそれを知ることができる喜びを感じていた。

 少なくとも、彼に追い詰められているという気持ちは微塵もなかった。

「だが、それと勝敗とは別だ。簡単に俺に勝てると思うなよ。 俺のターン! ドロー!」

 海馬は素早くカードをドローし、そしてドローしたのとは別の(つまりさっきまでたった一枚の手札だった)カードを決闘盤に置いた。

「俺は、『ミノタウロス』を召喚する!」

 海馬のフィールド上に、鎧を装備し斧を手にした巨大な牛の魔物、ミノタウロスが召喚された。


 ミノタウロス (地)

 ☆☆☆☆ (獣戦士族)

 攻1700 守1000


(ミノタウロス……? この状況でそんなカードを出して何をしようってんだ?)

「さらに魔法カード発動! 『モンスターゲート』――!」

 
 モンスターゲート (魔法カード)

 自分フィールド上のモンスター一体を生け贄に捧げる。

 通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキをめくり、そのモンスターを特殊召喚する。他のめくったカードは全て墓地へ送る。


 海馬が決闘盤にカードをセットすると、フィールド上のミノタウロスが消滅した。

 そして、フィールド上空の真っ青な空に、空間が裂けるような割れ目が出現した。

「モンスターゲート……! なるほど、一か八かの賭けで高レベルモンスターを召喚しようってことか!」

 朝倉の言ったことは決して間違いではなかった。

 モンスターゲートは、運が良ければ超強力なモンスターを特殊召喚できるギャンブル性もあり、また奇襲性も含まれるカードだ。

 だが海馬の意思はそうではなかった。

「一か八かだと? ふんっ、俺はすでに場に特殊召喚されるモンスターが何かはわかっている」

「な、何?」

 自信満々に言った海馬の予言とも取れる発言に、朝倉は動揺を隠せない。

「なぜなら、俺の選ぶ道、俺の進むべき道こそが、さだめられた正しき未来だからだ!」

 傍から聞けば「何を言ってるんだこいつ?」とも思われるような言葉だが、それでも海馬は強く言い切った。

 この異常とも取れる自信こそが、彼が人として、決闘者としてここまで駆け上がることができた原動力なのだ。

(そう……だから俺は間違ってなどいない。"あそこでの生活"は、守るべきものではなかったのだ。それを捨て、進んだ今の道こそが正しい道だったのだ!)

 彼は心の中で叫び、そしてモンスターゲートの効果でデッキの一番上のカードをめくる。 

「感じるぞ……魂の鼓動を……! いでよ! 『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)』――!」

 カードの絵柄を確認することなく、海馬はそれを決闘盤に置いた。
 
 すると、モンスターゲートの効果によって発生した空間の割れ目から、青い眼を持つ巨大な白き龍が現れた。

 白く美しき体は神秘的に輝いており、その輝きの中にも圧倒的な力、威圧感が秘められていた。 


 青眼の白龍 (光)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (ドラゴン族)

 攻3000 守2500


「――――――!!!!!!!!」

 海馬のフィールド上に召喚されたブルーアイズは、凄まじい咆哮を上げた。

 この凄まじい決闘に終止符を打つべく現れたことを、自ら宣言しているかのような凄まじい咆哮だった。

「こ、こいつが……ブルーアイズ・ホワイトドラゴン……ッ!」

 震える声で言い、朝倉は無意識に一歩二歩後ろに下がった。

 遊戯との決闘のときに戦った、レッドアイズ・ブラックドラゴンは圧倒的な迫力だった。

 だがそれすら温いものだったと錯覚させられるほどに、このブルーアイズの迫力、威圧感、神々しさはとてつもなかった。

「そのソーディアン・ブレイブが貴様の魂と言うのなら、このブルーアイズこそが俺の魂の象徴! 受けるがいい! 俺の魂の一撃を!」

 ブルーアイズは再び咆哮を上げ、その巨大な口を開いた。

「滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)――――!」

 そこから放たれた、光輝くエネルギー弾は凄まじい勢いでソーディアン・ブレイブを襲った。

「――――ッ!!」
 
 真正面から襲い掛かるエネルギー弾を、ソーディアン・ブレイブはその長剣で受け止める。

 だが、ほんの僅かな時間持ちこたえたものの、やはり攻撃力が上のブルーアイズの攻撃には太刀打ちできず、その身に攻撃を受けて爆発と共に消滅した。

「くそっ……ソーディアン・ブレイブ!」 


 朝倉LP3800→3700


「ブルーアイズの攻撃を受けることができたこと。光栄に思うがいい」

「……ああ。そうだな、光栄だぜ海馬瀬人」

(……何だと?)

 にっと笑みを浮かべてそう答えた朝倉の言葉が、海馬には意外だった。

「あんたはこのターン、モンスターゲートの発動に何の不安も感じてはいなかった。ソーディアン・ブレイブを倒せるモンスターを召喚しなけりゃ負ける場面だったってのにな。
それは、あんたがブルーアイズを信じているからだろ? デッキに眠る自分の魂のカードを! そのブルーアイズとこうして戦うことができるんだ……楽しいし、光栄だぜ!」

 これは、朝倉の本音だった。

 ――孤児院の子供たちの笑顔のために戦う自分は、ずっと決闘を楽しんで、笑顔でいなきゃならない。 遊戯との決闘で気付けたその気持ちを、彼は今もずっと持ち続けていた。

 そして海馬は、「決闘をしていてこんなにも清々しい言葉を返してきたヤツは初めてだな……」心の中でひっそりとそう呟いた。 

「だが俺は負けない! ドロー!」

 デッキからドローしたカードを確認した朝倉は、すぐにそれを発動するべく、決闘盤にセットした。

「魔法カード! 『強欲な壷』――!」


 強欲な壷 (魔法カード)

 自分のデッキからカードを二枚ドローする。


「このカードの効果で俺はデッキからカードを二枚ドローする!」

 ドローしたカードを確認した朝倉は、それを手札に加えることなく、両方を決闘盤にセットした。

「あんたの魂、ブルーアイズをぶっ倒すのはこいつしかいない! 蘇れ! 俺の魂、ソーディアン・ブレイブ!」


 死者蘇生 (魔法カード)

 自分または相手の墓地のモンスターカード一体を選択して発動する。

 選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
 

 決闘盤にセットされた二枚のうちの一枚の魔法カード、死者蘇生が発動された。

 すると、眩い輝きが朝倉のフィールド上を照らし、その光の中から長剣を携えた勇者が現れた。


 ソーディアン・ブレイブ (炎)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (戦士族 儀式) 

「勇者降臨」により降臨。フィールドか手札から、レベルが8以上になるようカードを生贄に捧げなければならない。

 このカードは罠の効果を受けない。

 相手モンスターを戦闘によって破壊した時、相手ライフに400ポイントのダメージを与える。

 攻2900 守2800


「ふっ、魂の激突か……受けてやろう。だがソーディアン・ブレイブではブルーアイズは倒せんぞ?」

「わかってるさ! さらに、装備魔法カード――『光の剣(ひかりのつるぎ)』発動!」

 さらに、朝倉が決闘盤にセットしたもう一枚の魔法カードが発動された。

 
 光の剣 (装備魔法カード)(オリジナルカード)

 レベル8以上の戦士族のみ装備可能。このカードを装備したモンスターは戦闘によって破壊されない。(ダメージ計算は0になる)

 このカードを装備したモンスターと戦闘した相手モンスターは、バトルフェイズ終了時に破壊される。
  (ただし、このカードの効果による破壊は、戦闘による破壊として扱われない。)


 刃も、柄(つか)も鍔(つば)さえも眩く輝く光の剣が、地面に突き刺さる形で朝倉のフィールド上に現れた。

「光の剣……!? 選ばれた戦士族のみが扱える伝説の剣か……!」

「その通り! 装備した者は無敵の力を手にし、いかなるモンスターにも負けはしない!」

 ソーディアン・ブレイブは光り輝く剣を地面から引き抜き、そして構える。

「ソーディアン・ブレイブで、ブルーアイズを攻撃っ!」

 攻撃命令を受けたソーディアン・ブレイブは、光の剣を手に高く跳躍し、ブルーアイズの眼前に迫った。

「――――月閃光(げっせんこう)っ!」

 一瞬、光が閃いた。それは斬撃と呼べるものだったのだろうか、光の一閃をその身に受けたブルーアイズは、声一つ出すことなく両断され、消滅した。

「ブ……ブルーアイズッ……!」

 海馬にとっての絶対的な切り札、ブルーアイズがわずか一ターンで倒されたことによって、決闘の流れは変わり、大きく朝倉に傾こうとしていた。


 海馬のLP900

 手札なし

 場 なし


 朝倉のLP3700

 手札二枚
 場 ソーディアンブレイブ(光の剣装備)







 先へ進むため、"そこ"での生活を捨てた俺。

 "そこ"を守るため、先へ進むことをしないヤツ。

 ヤツはこの決闘で俺に勝てば、孤児院の残り借金を完済できる。孤児院を守ることができる。

 だからこそ、己の全てを懸けて俺に向かってくる。


 俺は自分の進んできた道が正しかったと証明するために、俺と違う道を選んでいるヤツを、全力で叩き潰さなければならない。

 だが、俺の力の象徴であり、魂であるブルーアイズはヤツに倒された。ヤツの選ぶ道が、俺の選んだ道より正しいということか……?

 
 ……いや、違う。正しいのは俺だ! 未来へ進むためには孤児院での生活、孤児院という存在は枷でしかなかった。だから捨てたまでだ!

 それは決して暴挙ではない。先へ進むための冷静な判断だった。捨てるだけの理由があった。守るための理由はなかった。


 ヤツを倒す。そして証明する。俺が進んできた道は、決して間違いなどではなかったと!


 [第六章] 共に勝利を

(ふぅ……武藤遊戯との決闘が終わってから手に入れたレアカード。デッキに入れておいてよかったぜ)

 遊戯との決闘を終えた朝倉は、決闘者としてさらに向上するべくデッキを見直し、不必要なカードを別のカードと入れ替えた。

 光の剣もその中の一枚であり、今の攻防で、彼はデッキ強化に対する手応えを感じていた。

「俺のターン!」

 自分のターンを迎えた海馬は、ゆっくりとデッキの一番上のカードに指をかけた。

(海馬の残りライフは900で、手札は0。場のカードもない。 もう油断は毛ほどもないが……いけるはずだ。勝てるっ!) 

 朝倉に気の緩みはなかった。ただ冷静に、この状況をひっくり返すのは無理だろうと判断し、勝利を感じつつあった。

 だが対峙する海馬からは、敗北への恐怖心などはまるで感じられないのも事実だった。実に堂々としていた。

 幾多の修羅場を切り抜けてきた決闘者、海馬瀬人の決闘者としてのオーラが、朝倉にそう感じさせていたのかもしれない。

「ドロー!」

 ドローカードを確認した海馬は、その鋭い表情を変えることなく、そのカードを決闘盤にセットした。

「魔法カード強欲な壷を発動! デッキから新たに二枚のカードをドローする!」 


 強欲な壷 (魔法カード)

 自分のデッキからカードを二枚ドローする。


 ドローカードを見た海馬はわずかに表情を崩し、口元に笑みを浮かべる。

「俺の魂は常に俺と共にある! そして共に勝利を手にするのだ! 蘇れ! ブルーアイズッ――!」

 海馬は魔法カード、死者蘇生を発動した。

 
 死者蘇生 (魔法カード)

 自分または相手の墓地のモンスターカード一体を選択して発動する。

 選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。


 その魔法効果により、眩く輝く光の中から白き龍が現れた。


 青眼の白龍 (光)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (ドラゴン族)

 攻3000 守2500


「ブルーアイズ……! 二ターン連続では見たくない面だぜ。 だがな、光の剣を手にしたソーディアン・ブレイブは戦闘では破壊されない! いかにブルーアイズといえど、普通に攻撃しても返り討ちになるだけだぜ!」 

 ブルーアイズの力は感じつつも、光の剣の効果で、朝倉の自信は揺るぎなかった。

「ふっ、確かにな。ならば、普通ではない攻撃を仕掛けてくれるわ! 魔法カード発動!」

 だが海馬の自信の強さはそれを上回っていた。残った一枚の手札を決闘盤にセットする。

「――『滅びの爆裂疾風弾』!」


 滅びの爆裂疾風弾 (魔法カード)

 「青眼の白龍」が自分フィールド上に表側表示で存在している場合のみ発動する事ができる。
 
 相手フィールド上のモンスター全てを破壊する。このカードを発動したターン「青眼の白龍」は攻撃できない。


「魔法カード……滅びの、爆裂疾風弾!?」

 初見のカードを前に、朝倉は困惑を隠せない。名前がそのままブルーアイズの必殺技なのもその原因だった。

「このカードはブルーアイズが場にいるときに使える魔法カード。つまり、俺専用のカードというわけだ。 その効果によりブルーアイズは一ターンの間新たな力を手にし、いかなるモンスターでも問答無用で破壊する!」

「何っ!?」

 魔法効果により、ブルーアイズの体は光に包まれる。
  
 その体を覆う光は一回り、二回りと、徐々に増大していく。

「くらえぇっ! 真・滅びの爆裂疾風弾――!」

 ソーディアン・ブレイブ目掛けて放たれた光り輝くエネルギー弾は、先程とは比べ物にならないほどに巨大だった。 

 それはもはや剣で受け止められるレベルの大きさではなく、ソーディアン・ブレイブはなすすべなく攻撃を受け、大爆発と共に消滅した。

「くそっ……!」

「いかに光の剣とはいえ、魔法カードの効果ではどうしようもなかったな」


 海馬のLP900

 手札なし

 場 ブルーアイズ


 朝倉のLP3800

 手札二枚

 場 なし


 今の攻防で朝倉のライフポイントは削られなかったものの、海馬の場にブルーアイズが蘇り、朝倉の場からソーディアン・ブレイブが消えたことで形勢はまたも逆転していた。

「諦めろ。貴様はよく戦った。 俺のブルーアイズを葬った決闘者など数えるほどしかいないのだ、誇りに思うがいい」

 それは決して嫌味ではなく、海馬なりに敬意を表した言葉だった。

 だが朝倉はそれを素直に受け入れるような決闘者ではなかった。 

「そんなことやってみなくちゃわかんねぇよ! 俺は、俺のデッキに眠るカードを最後まで信じるぜ!」

「ふっ、見事な闘志だ。 そんなに金がほしいか?」

「へっ! 金がどうとかいう問題じゃねぇよ。 遊戯に勝るとも劣らない。あんたみたいな決闘者との決闘の最中で中途半端に諦めるなんてこと、俺にはできないね! 負けたくないんだ!」

 決闘王、武藤遊戯との決闘は朝倉にとっては死力を尽くした最高の決闘だった。自分でもよく戦ったと自負している。

 だが、負けた悔しさがないはずがなかった。

 もう絶対に負けたくない。遊戯との決闘を経て、彼の心にはその気持ちが強く芽生えていた。 

(なるほど、これが遊戯が認めた決闘者……ということか。 勝敗は別として、俺も認めざるを得ないかもしれんな)

 海馬もまた遊戯と同様、朝倉光樹という決闘者を認めようとしていた。 

「……と、かっちょいいこと言ってはみたけど、やっぱ金がほしいね! あんたに勝って、堂々と880万円はいただく!」

(やはり……認めるのはまだ早いか……)

 が、それは保留となった。

「いくぜ、俺のターン! ドロー!」

 負けないために、そして金のために。 朝倉は強い想いを込め、カードをドローする。

 そしてドローカードをそのまま決闘盤にセットした。

「魔法カード、早すぎた埋葬を発動!」

 それは、この決闘序盤で海馬も使った、モンスター蘇生の魔法カードだった。 


 早すぎた埋葬 (魔法カード)

 800ポイントライフポイントを払う。

 自分の墓地からモンスターカードを一体選んで攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。

 このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。


「――俺の魂は常に俺と共にある。そして共に勝利を手にする。あんたの言葉、そのまま借りるぜ! 再び蘇れ、ソーディアン・ブレイブ!」

 魔法効果によって、朝倉のフィールド上にソーディアン・ブレイブが復活した。 

 
 ソーディアン・ブレイブ (炎)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (戦士族 儀式) 

「勇者降臨」により降臨。フィールドか手札から、レベルが8以上になるようカードを生贄に捧げなければならない。

 このカードは罠の効果を受けない。

 このカードが相手モンスターを戦闘によって破壊した時、相手ライフに400ポイントのダメージを与える。

 攻2900 守2800


 朝倉LP3700→2900


「ほう、またしてもソーディアン・ブレイブか。俺のブルーアイズと同様、どうやら貴様にとって切っても切れない存在のようだな」

「まあな!」

 遊戯が認めたように、海馬もまた、どうあってもソーディアン・ブレイブと共に戦うという朝倉の戦術、そしてその心を称えた。

(だが、ソーディアン・ブレイブ単体ではブルーアイズは倒せない。また何か仕掛けてくるか……?)

 何の策もなく朝倉がソーディアン・ブレイブを蘇らせるとは考えられず、海馬は朝倉の次の仕掛けを待った。

「さらに魔法カード、『右手に盾を左手に剣を』発動!」

 朝倉が決闘盤にカードをセットすると、フィールド上に、「攻」「守」という二つの文字が矢印によって入れ替わる様子が描かれたカードが出現した。


 右手に盾を左手に剣を (魔法)

 エンドフェイズ終了時まで、このカードの発動時に存在していたフィールド上の全ての表側表示モンスターの元々の攻撃力と元々の守備力を入れ替える。


「攻守逆転カードか!」

「その通り! ソーディアン・ブレイブとブルーアイズの能力値は変化するぜ!」


 ソーディアン・ブレイブ 攻撃力 2900→2800
             守備力 2800→2900

 ブルーアイズ      攻撃力 3000→2500
             守備力 2500→3000


「これで、ブルーアイズの攻撃力を上回ったぜ! 攻撃だ! ソーディアン・ブレイブ!」

 両手でしっかりと柄を握り、ソーディアン・ブレイブは剣を掲げた。

「――烈・魔神剣っ!」

 放たれた斬撃は、嵐となって空中を走り、ブルーアイズに襲い掛かった。

 その身に斬撃を受けたブルーアイズは、羽ばたきながらもゆっくりと地面に落下し、倒れながらにして消滅した。 

「よおぉぉっし!」

 
 海馬LP900→600(さらにソーディアン・ブレイブの効果で400ダメージ)→200 


「くっ、おのれっ……!」

 このような手段でブルーアイズを倒されるとは予想できず、海馬はわずかに動揺していた。

 しかし同時に、ソーディアン・ブレイブの高い守備力を生かした朝倉の戦術に感心もしていた。 

「カードを一枚場に伏せて、俺のターンは終了だ!」


(「右手に盾を左手に剣を」効果切れ)

 ソーディアン・ブレイブ  攻撃力 2800→2900
              守備力 2900→2800


 海馬のLP200

 手札なし

 場 なし


 朝倉のLP2900

 手札なし
 場 ソーディアン・ブレイブ 伏せカード一枚







(俺のブルーアイズを二度も葬るとは……やはり認めざるを得ないようだな、その力を)

 海馬に、ブルーアイズを二度倒されたことに対する悔しさや怒りはなかった。あるのは、ただ朝倉光樹という決闘者の力を認めたという気持ちだけだった。

 だがこのまま敗れれば、"守らずに捨てた" 自分が選んだ道が間違いだったと、彼自身の中で証明されてしまうことになるのだった。

 決闘者としての朝倉の力を認めても、そのまま敗れるわけにはいかなかった。


[第七章] 一パーセント

 海馬のLP200

 手札なし

 場 なし


 朝倉のLP2900

 手札なし

 場 ソーディアン・ブレイブ 伏せカード一枚


「俺のターン! ドロー!」

 手札はなく、場に一枚のカードもない。引き損じれば負けるこの状況で、海馬は臆することなくカードをドローした。

 そのカードを確認すると、彼の表情が一瞬緩んだ。

(ふっ……やはり勝利は俺の手の中にある)

 そしてそのカードを決闘盤にセットした。

「魔法カード『命削りの宝札』――発動!」


 命削りの宝札 (魔法)

 手札を五枚になるようにドローする。発動ターンより五ターン後、すべての手札を墓地に置く。


「このカードの効果により、俺はデッキからカードを五枚ドローする!」

「げっ……!!」

 ――まずいっ! その気持ちが、もろに朝倉の表情に出ていた。

 命削りの宝札は、手札0枚の海馬にとってはまさに願ってもないカードだった。

 朝倉は、この場面でそのカードを呼び寄せた海馬の引きの強さに驚きつつも、五枚ものカードをドローした彼がどれほどの攻めを仕掛けてくるのかと考えると、やはりびびらずにはいられなかった。

「何としても880万を手にしようというお前の執念と決闘の腕は認めてやる。 だが、勝つのは俺だっ!」

 叫び、海馬は一枚のカードを決闘盤に置いた。

「ロード・オブ・ドラゴン召喚! 守備表示!」

 そしてフィールド上に、ドラゴンの頭骨でできたような仮面をかぶり、黒いマントを羽織った魔術師が召喚された。


 ロード・オブ・ドラゴン −ドラゴンの支配者− (闇)

 ☆☆☆☆ (魔法使い族)

 このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上に存在するドラゴン族モンスターを魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にする事はできない。

 攻1200 守1100


「さらに魔法カード『ドラゴンを呼ぶ笛』を発動!」

「な、何……!?」

 「ロード・オブ・ドラゴン」。そして「ドラゴンを呼ぶ笛」。

 テレビで見たバトルシティトーナメント準決勝の、海馬のブルーアイズ速攻召喚コンボを思い出し、朝倉は脅威を感じた。

 そして数十秒後、その脅威は現実のものとなるのだった。


 ドラゴンを呼ぶ笛 (魔法)

 フィールド上に「ロード・オブ・ドラゴン −ドラゴンの支配者−」が存在する場合、手札からドラゴン族モンスターを二体まで特殊召喚することができる。


 海馬のフィールド上に、龍をイメージして装飾された黄金の笛が現れる。

 ロード・オブ・ドラゴンがそれを手にし、口元に当てて吹くと、低く、大きな音色がフィールド上に高らかに響き渡った。

「いでよ! 二体のブルーアイズ――!」

 笛の音色に呼び寄せられ、二体の白き龍がフィールド上に現れた。

 
 青眼の白龍 (光)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (ドラゴン族)

 攻3000 守2500


 青眼の白龍 (光)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (ドラゴン族)

 攻3000 守2500


「二体の……ブルーアイズ……!」

 発せられる迫力、威圧感は二倍となり、朝倉に襲い掛かった。

 額と背中からは冷たい汗が流れていた。それが恐怖によるものなのかどうなのかは彼にもわからなかった。

「俺の進んできた道、そしてこれから進む道こそが正しい道だ! 貴様に勝利し、それを証明してくれるわっ!」 

 海馬がバッ! と手をかざすと、その頭上で二体のブルーアイズが口を開いた。

「ブルーアイズの攻撃――! 滅びの爆裂疾風弾!」 

 攻撃命令を受け、まず一体のブルーアイズがその口から光輝くエネルギー弾を放出した。

 攻撃対象となったソーディアン・ブレイブはそれを剣で受け止め、何とか抵抗しようとしたもののどうにもならず、そのまま攻撃を受けて消滅した。

「……くっ!」


朝倉LP2900→2800


「これで終わりだ! ブルーアイズでプレイヤーにダイレクトアタック! 滅びの爆裂疾風弾――!」

 続いてもう一体のブルーアイズが、光輝くエネルギー弾を放出した。

 朝倉を守るべきモンスターがいなくなったため、放たれたエネルギー弾は彼を目掛けて襲い掛かる。

「罠カード発動!」

「無駄だ! ロード・オブ・ドラゴンが場にいる限り、ドラゴン族に対して罠は使えない!」

 海馬は叫んだが、朝倉は構わず決闘盤にセットしている伏せカードを表にした。

「――『蘇りし魂』!」

 
 蘇りし魂 (罠)

 自分の墓地から通常モンスター一体を守備表示で特殊召喚する。


「その効果で、俺は女剣士カナンを守備表示で特殊召喚する!」

 墓地からフィールド上に魂が運ばれ、それによって女剣士カナンは蘇った。

 そして、朝倉目掛けて放たれた爆裂疾風弾を彼に代わってその身に受け、消滅した。

「くっ、しぶといヤツだ……」  

「言ったはずだぜ。俺は、俺のデッキに眠るカードを最後まで信じるってな!」

「ふっ、なら最後まで見届けてやろう。お前の力を。 ターンエンドだ」


(命削りの宝札カウント @ターン)

 
「俺のターン……」

 カードをドローする前に、朝倉はふーっと息を吐いた。

 この三ターン、連続でソーディアン・ブレイブを召喚して危機を切り抜けたが、それも限界か……と少しだけ思っていた。

 自分の手札も場のカードもなし。そして海馬のフィールド上には二体のブルーアイズ。

 この状況で仮にソーディアン・ブレイブを復活させたとしても、形勢を逆転するのは難しいだろう。そう考えた。

(普通に考えたら無理だよなー……ブルーアイズが二体、手札0の状況で倒せるはずないだろ。 でも……)

 朝倉は臆病になっている自分に喝を入れるように、ぐっと右手を握り締めた。

(まだ、一パーセントくらいは可能性があるかもしれないだろ! それで、十分だ!)

 一パーセントの可能性。それは何の根拠もない数字だったが、自分自身にそう言い聞かせ、彼は覚悟を決めた。

「ドロー!」

 朝倉がドローカードを決闘盤にセットすると、海馬のフィールド上に三本の光り輝く剣が降り注ぎ、その動きを封じるようにブルーアイズの前に立ちはだかった。

「……何!?」

「『光の護封剣』――! 発動!」

 光の護封剣 (魔法カード)

 このカードは発動後、(相手ターンで数えて)三ターンの間フィールド上に残り続ける。

 このカードが存在する限り、相手モンスターは攻撃する事ができない。 


「これで、あんたは三ターンの間攻撃を封じられるぜ」

「ここで光の護封剣を引き当てたか……だが、たった三ターンでこの戦況をひっくり返すつもりか?」

「さあな。まあ、やるしかねぇだろ! ターンエンドだ!」

(命削りの宝札カウント Aターン)


 海馬のLP200

 手札一枚

 場 ロード・オブ・ドラゴン ブルーアイズ ブルーアイズ


 朝倉のLP2800

 手札なし

 場 光の護封剣(残り三ターン)


「俺のターン」
  
 ――海馬のドローカード 『コストダウン』

「このままターンを終了だ」

 海馬は悠然とした態度でターンを流した。

 (命削りの宝札カウント Bターン)

「俺のターン……!」

 対照的に、朝倉は鬼気迫る表情でターンを迎えていた。

 光の護封剣でブルーアイズを抑えている間に、何とか形勢を逆転しなければならない。

 これからドローするカード一枚一枚が勝敗を左右することになるのだった。

「ドロー!」

 カードを確認した朝倉は、特に喜ぶ様子も落ち込む様子もなく、そのカードを決闘盤にセットした。

「リバースカードを一枚セットして、ターン終了だ」

 (命削りの宝札カウント Cターン) 


 海馬のLP200

 手札二枚

 場 ロード・オブ・ドラゴン ブルーアイズ ブルーアイズ


 朝倉のLP2800

 手札なし

 場 光の護封剣(残り二ターン) 伏せカード一枚


「俺のターン、ドロー」

 カードを確認した海馬はそのカードを決闘盤にセットする。

「リバースカードを一枚セットし、ターンエンドだ」

 それと同時に、命削りの宝札のターンカウントが五ターン目を終え、その効果により海馬は残った全ての手札(二枚)を墓地に送った。

「俺のターン! ドロー!」

 前のターンと同様、朝倉は鬼気迫る表情でカードをドローした。

「……ターンエンドだ」

「ふんっ、壁になるモンスターすら引けぬとは……どうやら貴様の命運も尽きたようだな」


 海馬のLP200

 手札なし

 場 ロード・オブ・ドラゴン ブルーアイズ ブルーアイズ 伏せカード一枚


 朝倉のLP2800

 手札一枚

 場 光の護封剣(残り一ターン) 伏せカード一枚


「俺のターンドロー! ……何もせず、ターンエンドだ」

 海馬はドローカードを確認し、すぐにエンド宣言をした。

「くくくく、これで光の護封剣の効果も消える。次のターンで堂々と貴様を葬ってやるわ!」

 それほどに待ち焦がれていたのだ。光の護封剣の効果が切れるこの瞬間を。

 海馬のフィールド上の光の護封剣は徐々にその輝きを失い、やがて光は完全に消え、消滅した。

「「―――――!!!!!!!」」

 二体のブルーアイズも、海馬と同様この瞬間を待っていたかのように、揃って凄まじい咆哮を上げる。

 護封剣が消えたことも含め、凄まじいプレッシャーが朝倉を襲った。

(光の護封剣でブルーアイズを封じている間に引いたカードは無駄じゃない。でも、これじゃ逆転できない。何か……何かこのターンで仕掛けないと、負ける……!)

 朝倉の場の一枚の伏せカードに一枚の手札。決して役に立たないカードではなかったが、いずれもサポートカードであり、やはり戦況を逆転させるには強力な攻撃カードが必要だった。

 ここで引くしかない――! 覚悟し、朝倉はデッキに向かって手を伸ばした。
「俺のターン、ドロー――!」」




[第八章] 理由なんか

 海馬のLP200

 手札一枚

 場 ロード・オブ・ドラゴン ブルーアイズ ブルーアイズ 伏せカード一枚


 朝倉のLP2800

 手札一枚

 場 伏せカード一枚


「――ドロー!」

 勝敗を決するドローカード。それを確認した朝倉は軽くうなずいて、そのカードを決闘盤に置いた。

「俺はこのカードを攻撃表示で召喚!」

 朝倉のフィールド上に、上半身は赤。下半身は青で、両側にタイヤの付いた、まるで子供のおもちゃのような機械モンスターが召喚された。

「そいつは……」

「――『カードガンナー』だ!」

 
 カードガンナー (地)

 ☆☆☆ (機械族) 

 一ターンに一度、自分のデッキの上からカードを三枚まで墓地へ送って発動する。

 このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、墓地へ送ったカードの枚数×500ポイントアップする。

 また、自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキからカードを一枚ドローする。

 攻400 守400


「ほう、そのレアカードも大会で手に入れたものか?」

「さあ、どうだったかな? でも俺、こいつの効果好きなんだよな」

 朝倉は不敵に笑みを浮かべた。

 ソーディアン・ブレイブが魂のカードならば、どうやらこのカードガンナーは、彼にとってのお気に入りカードのようだ。

「ふんっ、だがそのカードでこの戦況をひっくり返せるというのか? そんなことは不可能だ」

「やってみなくちゃわかんねぇよ!  デッキの上から三枚のカードを墓地に送り、カードガンナーの効果を発動する!」

 朝倉は素早い動作でデッキの上から三枚のカードをめくり、そのカードをしっかりと確認し、墓地カードゾーンへ送った。 

 それによりカードガンナーの機械的な顔の一部の目が輝き、同時に、攻撃力がアップする。


 (カードガンナー 攻撃力400→1900)


「いくぜ! カードガンナー! ロード・オブ・ドラゴンを攻撃だ!」

 攻撃命令を受けたカードガンナーは、ロード・オブ・ドラゴンに照準を合わせ、眼からレーザーを発射した。

 防御体勢をとっていたロード・オブ・ドラゴンは無抵抗のまま攻撃を受け、消滅した。

「ふっ、ロード・オブ・ドラゴンは守備表示だ。倒されても俺のライフに影響はない」

 計算通りだと言わんばかりに笑みを浮かべる海馬。それは決して強がりではなかった。

「ターンエンドだ」


 (カードガンナー 攻撃力1900→400)


 海馬のLP200

 手札一枚

 場 ブルーアイズ ブルーアイズ 伏せカード一枚


 朝倉のLP2800

 手札一枚

 場 カードガンナー 伏せカード一枚


「俺のターン!」

 海馬は乱暴とも言える動作でカードをドローした。二体のブルーアイズで攻撃できるこの瞬間を待ち焦がれていたのだ。

「朝倉、貴様はよく戦った。俺のブルーアイズを相手に見事な決闘だったぞ。 だが……ここで終わりだ!」

 カッ! と目を見開き、彼はブルーアイズに攻撃を指示する。

「まずは一体目のブルーアイズで、カードガンナーを攻撃! 滅びの爆裂疾風弾――!」

 ブルーアイズは激しく咆哮を上げ、口から光り輝くエネルギー弾を放出すると、それは凄まじい勢いでカードガンナーを直撃した。

 激しい爆発と共に、カードガンナーはスクラップとなって消滅した。

「ぐっ……ぅ!」

 爆風から身をかばいながらも、朝倉はカードガンナーの効果に従い、デッキからカードを一枚ドローした。


 ドローカード ファイヤー・ウイング・ペガサス


(違う、このカードじゃない……!)


 朝倉LP2800→200

 
 ブルーアイズのとてつもない攻撃力とカードガンナーの攻撃力の差は激しく、朝倉のライフは一気に風前の灯となった。

「今、楽にしてやるぞ! 二体目のブルーアイズで、プレイヤーにダイレクトアタック! 滅びの爆裂疾風弾――!」

 攻撃命令を受けたもう一体のブルーアイズもまた、その巨大な口から朝倉目掛けてエネルギー弾を放った。

 彼を守るモンスターはおらず、エネルギー弾はそのまま朝倉を直撃し、大爆発を起こした!


(――俺の勝ちだ……)

 ブルーアイズの攻撃は間違いなく朝倉を直撃した。その爆発によって起きた煙が揺れる様子を見ながら、海馬は勝利の手応えを感じていた。

 やがて煙は晴れ、朝倉の姿も見えてきた。

 海馬は彼の表情を覗いたが、意外にも堂々とした顔をしていて、落ち込んでいる様子は一切なかった。

(ふっ、あれだけ力を出し切れば悔いもないということか)

 決闘は終わった。そう思い、ふと決闘盤のライフカウンターを見て、海馬は驚いた。

「な……何!?」


 ――LP200――

 ――LP1200――

 
 上に表示されているのは自分のライフポイント。そして下に表示されているのは対戦相手、つまり朝倉のライフポイントだった。

「バカな……一体何が?」

「俺の場の、伏せカードの効果だよ」

 驚きを隠せない海馬に朝倉は言い、そして彼のフィールド上の伏せカードが表になる。

 そこには、「Z」「4000」の文字が刻まれたペットボトルのような物体が描かれていた。

「そのカードは……!」

「――『体力増強剤スーパーZ』さ!」 

 
 体力増強剤スーパーZ (罠)

 ダメージステップ時に相手から2000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける場合、その戦闘ダメージがライフポイントから引かれる前に、一度だけ4000ライフポイント回復する。


「このカードの効果で、ブルーアイズの攻撃を受ける前に、俺のライフポイントは4000回復したってわけだ」


 朝倉LP200→(体力増強剤スーパーZの効果)4200→(ブルーアイズの直接攻撃3000ダメージ)=1200


「ふっ、ふふっ……たいしたやつだ。もはや決闘技術(デュエルタクティクス)がどうとかのレベルではない、まさに執念だな……はははははっ」

 予想だにしなかった展開、そして朝倉の執念に、海馬は呆れたように笑った。

 笑い終えるとその表情から笑みは消え、そして鋭い眼で朝倉を見た。

「そんなに金が欲しいか? そんなに守りたいのか? 孤児院を……」

「ああ!」

 当然だ。そう言わんばかりに朝倉は堂々と答えた。

「なぜだっ!」

 全く理解できない。そう言わんばかりに海馬は乱暴に問うた。

(自分にとって枷にしかならないはずの存在を守りたい……その理由を聞かせてみろ!) 

 "理由"を聞きたい。だが朝倉の答えは、海馬のそんな望みとは反したものだった。

「なぜ……? 理由なんか、ねぇよ!」

「何だと……!?」

「ただ守りたいんだよ! その場所を。そこで過ごした時間を。そこにいるヤツらを! それにいちいち理由なんかねぇ!」

 朝倉の叫びに、海馬は唖然としていた。

 守りたいというのなら、何か理由があるはずだ。自分にとって得になるはずの何か理由が。 そう思っていただけに、海馬には朝倉の言葉は驚きのものだったのだ。

(違う……何かをすることに対して常に理由を求めてきた俺と、こいつを突き動かすものは……違う――!)

 守るだけの理由はない。だから彼は孤児院での全てを捨て、海馬家の養子となることを選んだ。
 
 だが朝倉は違った。 理由はないが、ただ守りたい。だから守る。

 シンプルすぎるその答えは、海馬にとってはとても大きな答えだった。

「……カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「もう一度言うぜ、海馬! 俺はあんたに勝って、堂々と880万円をいただく!」

 
 海馬のLP200

 手札一枚

 場 ブルーアイズ ブルーアイズ 伏せカード二枚


 朝倉のLP1200

 手札二枚
 場 なし




[第九章] 究極 竜

 海馬のLP200

 手札一枚

 場 ブルーアイズ ブルーアイズ 伏せカード二枚


 朝倉のLP1200

 手札二枚

 場 なし


「俺のターン!」

 二体のブルーアイズの攻撃はしのいだとはいえ、朝倉が追い詰められている現状は何も変わりなかった。

 このターンで何とか反撃しなければ本当に負ける……。それほどに決闘状況は緊迫していた。

「ドロー!」

 彼自身の命運を懸けたドローカード。ゆっくりと視線を移した朝倉は、そのカードがキラキラと虹色に輝いているのを見た。

(やっと来たか……!)

 それは彼が待ち望んでいたカードだった。そして迷うことなくそのカードを決闘盤にセットした。

「魔法カード発動! ――『アゲインドロップ』!」
 
 朝倉のフィールド上に、光り輝く宝石のようなドロップが出現した。


 アゲインドロップ (魔法カード)(オリジナルカード)
 
 自分のライフポイントが2000以下で、自分のフィールド上にモンスターが存在しない場合に発動可能。

 自分の手札を任意の枚数墓地に捨て、捨てた手札の枚数と同じ数だけ、自分の墓地からモンスターを特殊召喚することができる。


「……アゲインドロップ、か」

 そのレア度、そして強力な効果を知っている海馬はわずかに表情を曇らせる。

「俺は、手札のファイヤー・ウイング・ペガサスのカードを墓地に捨て、ソーディアン・ブレイブを復活させる!」

 朝倉がカードを決闘盤の墓地ゾーンに送ると、フィールド上のドロップが砕け、眩い輝きがフィールド上を照らした。

 その光の力によって、天から舞い降りるようにして、ソーディアン・ブレイブが蘇った。


 ソーディアン・ブレイブ (炎)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ (戦士族 儀式) 

「勇者降臨」により降臨。フィールドか手札から、レベルが8以上になるようカードを生贄に捧げなければならない。

 このカードは罠の効果を受けない。

 相手モンスターを戦闘によって破壊した時、相手ライフに400ポイントのダメージを与える。

 攻2900 守2800


(俺は、反魂の術の代わりにこのカードをデッキに入れた。 もし……遊戯との決闘で反魂の術を使ったとき、代わりにこのカードを使っていれば勝てていた)

 朝倉は、この間の遊戯との決闘を脳裏に思い浮かべていた。

 ソーディアン・ブレイブを蘇らせてブラック・マジシャンズ・ナイトを倒したが、反魂の術の効果で復活したソーディアン・ブレイブはその効果を失っており、遊戯のライフを0にすることはできなかったのだ。(金のために決闘! 第七章参照)

(今度はあのときとは違う! この決闘、俺が勝つ!)

 自分のデッキはあのときよりも進化した。強くなった。そう自覚している朝倉は、心の中で強く叫んだ。

「さらに手札から永続魔法カード『連合軍』を発動する!」

 朝倉が残り一枚の手札であるカードを決闘盤にセットすると、そのカードがフィールド上に現れる。

 そこには、複数の戦士や魔術師たちが、力をあわせて戦おうとしている様が描かれていた。


 連合軍 (永続魔法)

 自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族・魔法使い族モンスター一体につき、自分フィールド上の全ての戦士族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする。


「連合軍、と言うには矛盾した状況だが、このカードの効果でソーディアン・ブレイブの攻撃力は200ポイントアップする!」

 
 ソーディアン・ブレイブ 攻撃力2900→3100


「くっ……攻撃力3100だと……!」

「いくぞっ! ソーディアン・ブレイブで、ブルーアイズを攻撃!」

 連合軍の魔法効果によって力を得たソーディアン・ブレイブは、その長剣を高々と掲げ、

「魔神剣――改――!」

 そして力強く振り切ると、斬撃はうねりを巻き起こしながら空を駆け、ブルーアイズを襲った。

(この攻撃が通れば俺の勝ちだ!)

 ――決まれ! 朝倉は祈ったが、

「させん! リバースカードオープン! 『攻撃の無力化』――!」

 海馬は叫び、フィールド上の伏せカードが表になった。
 

 攻撃の無力化 (魔法カード) 

 すべての攻撃は時空の渦に吸収され無効となる


 カードに描かれているものと同様に、海馬のフィールド上に時空の渦が発生し、ソーディアン・ブレイブの放った斬撃はそれに飲み込まれた。

「くそっ……! あと一歩だったのに!」
 
 このターンの攻撃に手応えを感じていただけに、朝倉は心底悔しがった。


 海馬のLP200

 手札一枚

 場 ブルーアイズ ブルーアイズ 伏せカード一枚


 朝倉のLP1200

 手札なし

 場 ソーディアン・ブレイブ (永続魔法 連合軍)


 ターンは海馬に移った。だが彼はすぐにドローしようとせず、前のターンの朝倉の言葉を思い出していた。

 ――――ただ守りたいんだよ! その場所を。そこで過ごした時間を。そこにいるヤツらを! それにいちいち理由なんかねぇ!」

(それがお前の答えか……。 なら、俺が選んだ道とお前が選んだ道を比べることなど、最初から無意味だったということだな。
 俺がこの道を選んだのにははっきり理由があった。だが、お前が自分の道を選んだことに理由などなかったのだから)


 その先にある何かを得るため。という理由から、先へ進むことを選んだ自分。

 理由はなく、ただ守りたい。だから先へ進まない朝倉。
 
 似た境遇でありながら、全く異なる生き方である自分と朝倉を、どちらが正しいかと比較することなど無意味だった。

 理由を持つ者と持たぬ者を比べても、真の答えなど出るはずはないのだから。

 海馬はそう決断し、割り切った。

(ならば後は、この決闘に勝利するだけだ!)

 そして一人の決闘者として、この決闘に終止符を打つことを決意した。

(ブルーアイズを中心とした圧倒的なパワーでねじ伏せる俺のデッキ。だがヤツはソーディアンブレイブで互角以上に戦ってきた。
 ならば……ブルーアイズを超える、それ以上のパワーでねじ伏せるまで!)
「俺のターン! ドロー!」

 ドローした海馬は、そのカードを見てにやりと微笑んだ。

「くくくくく……朝倉よ、俺が今ドローしたカードを教えてやろう」

「は……?」

 そんなことをして何の意味があるんだ? 戸惑う朝倉をよそに、海馬はカードの絵柄が見えるように朝倉に向けて差し出して見せた。

 そこには、二体のモンスターが一つに交わる様が描かれていた。

「それは……」

「そう、『融合』だ」

 海馬の場にはブルーアイズが二体。そして二枚の手札のうちの一枚は融合。

「まさか……!」

 それだけの状況を知れば、想像は容易だった。

「貴様に俺の究極の力を拝ませてやろう。 魔法カード――『浅すぎた墓穴』を発動!」

 
 浅すぎた墓穴 (魔法)

 自分と相手はそれぞれの墓地からモンスターを一体選択し、守備表示でフィールド上に特殊召喚する。


「このカードの効果により、俺は墓地よりブルーアイズを守備表示で特殊召喚する!」

 海馬は墓地カードゾーンから一枚のカードを取り出し、そして決闘盤に置いた。

 それによりブルーアイズが蘇り、海馬のフィールド上に三体のブルーアイズが揃ったのだった。 一体は守備表示とはいえ、その光景は圧巻だった。

「三体のブルーアイズ……そして融合。 究極竜……か……!」

 朝倉は、覚ったように呟いた。 

「その通り。 そしてこの決闘、貴様の敗北は確定したのだ」

 海馬の手札に「融合」のカードがあることから、究極竜の召喚はすでに決定していた。

 そして朝倉の場には攻撃表示のソーディアン・ブレイブがおり、伏せカードはない。つまり、究極竜の攻撃を防ぐことはできない。

 ソーディアン・ブレイブで、攻撃力4500を誇る究極竜の攻撃を受ければ、朝倉のライフポイントは一気に0になる。

 それら全てを計算し、海馬は自身の勝利を確信していた。
 
「俺の負けが確定……? それはまだちょっと早いんじゃないのか?」

 決して強がりではなく、むしろ海馬をたしなめるように朝倉は言った。

「何だと……? ふっ、この状況で貴様のライフが0にならない手段があるとでも言うのか?」 


 海馬のLP200

 手札一枚(融合)

 場 ブルーアイズ ブルーアイズ ブルーアイズ(浅すぎた墓穴の効果) 伏せカード一枚


 朝倉のLP1200

 手札なし

 場 ソーディアン・ブレイブ (永続魔法 連合軍)


「ああ、あるさ! あんたが発動した浅すぎた墓穴の効果で、俺も墓地のモンスターを一体守備表示で特殊召喚する!」

 浅すぎた墓穴の効果に従い、朝倉は決闘盤の墓地カードゾーンからカードを取り出し、その中の一枚を選んで決闘盤に置いた。

「ふんっ、今更どんなモンスターを蘇らせようと無駄なことだ。融合した究極竜でソーディアン・ブレイブを攻撃すれば、それで貴様のライフは0になるのだからな」

「ソーディアン・ブレイブを攻撃すれば……ね。 でも、攻撃できるかな?」

 朝倉は皮肉めいた笑みを浮かべる。

 それと同時に、朝倉のフィールド上に、浅すぎた墓穴の効果によってモンスターが特殊召喚された。

 それは、銀色の鎧を身に纏い、幾多の戦場を潜り抜けてきたであろう老練な戦士だった。

「そいつは……切り込み隊長!?」

 
 切り込み隊長 (地)

 ☆☆☆ (戦士族)

 このカードがフィールド上に存在する限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択する事はできない。

 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター一体を特殊召喚する事ができる。

 攻1200 守400


 切り込み隊長はソーディアン・ブレイブの盾となるように、その前に立ちはだかった。

「切り込み隊長が場にいる限り、他の戦士族モンスター……つまり、ソーディアン・ブレイブを攻撃することはできないぜ!」

 朝倉は得意げに言い放った。

「バカな……この決闘で貴様は切り込み隊長など召喚していない……なのになぜ貴様の墓地にそのカードが……――!!」

 自分の言葉に、海馬ははっ! となった。そしてつい少し前のターンの朝倉の行動を思い出した。


 ――――「デッキの上から三枚のカードを墓地に送り、カードガンナーの効果を発動するぜ!」


「カードガンナー……か!」 

「言っただろ? 俺、こいつの効果好きだって」

 朝倉は無邪気に笑い、対照的に、海馬はぐっと歯を噛み締めた。

 よりにもよって、自分の発動した浅すぎた墓穴のカードの効果を逆手に取られてしまった。

 決して戦術ミスではなかったが、それは彼が最も嫌うパターンの一つだった。

「……貴様のそのしぶとさは、俺にはないものだ。それは褒めてやる。 だが……勝つのはこの俺だっ! 魔法カード融合――!」

 海馬は手札の融合のカードを決闘盤にセットした。
 
 その効果により、海馬のフィールド上の三体のブルーアイズは、その身を重ねて一つに交わった。

「いでよっ! 我が最大にして最強のしもべ! 全てを蹴散らす力を持つ究極のモンスター! アルティメットドラゴン――!」

 三つのブルーアイズの頭を備えた、巨大な究極竜。アルティメットドラゴンが召喚された。


 青眼の究極竜 (光)

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ (ドラゴン族)

 攻撃力4500 守備力3800


「アルティメット……ドラゴンッ……!」

「ふはははははは! あーっはっはっはっはっはっは! これが俺の最強のモンスター。アルティメットドラゴンだ!」


 海馬のLP200

 手札なし

 場 アルティメットドラゴン 伏せカード一枚


 朝倉のLP1200

 手札なし
 場 ソーディアン・ブレイブ 切り込み隊長 (永続魔法 連合軍)




 
 [第十章] サレンダー

 海馬のLP200

 手札なし

 場 アルティメットドラゴン 伏せカード一枚


 朝倉のLP1200

 手札なし

 場 ソーディアン・ブレイブ 切り込み隊長 (永続魔法 連合軍)

 
「こ……こいつが、アルティメットドラゴン……」

 海馬のフィールド上に召喚されたデュエルモンスターズ史上最強のモンスター、究極の竜を前にして、朝倉はただそれに見惚れていた。

 そこから放たれる圧倒的な威圧感は、レッドアイズやブルーアイズの比ではなく、対峙しているだけで押し潰されそうだった。

 にもかかわらず、彼に恐怖心はなく、ただじっと巨大な竜を見つめていた。

 あまりにもとてつもない恐怖。それが朝倉の感覚を麻痺させ、こうなってしまっているのかもしれない。

「我が絶対にして最大最強のしもべ、アルティメットドラゴン! その攻撃を受けるがいい!」

 海馬は強く朝倉に言い放ち、そしてアルティメットドラゴンに攻撃を命令する。

「――――アルティメットバースト!!!」

 アルティメットドラゴンの三つの口が開かれ、そこからいっせいに光り輝く巨大なエネルギー弾が放たれた。
 
 それら全てが、ソーディアン・ブレイブの前に立ちはだかっている切込み隊長を襲い、直撃した。

 一体のモンスターを攻撃するにはあまりに大きすぎるその攻撃は、凄まじい爆発を起こし、切り込み隊長は消滅した。

(ありがとう、切り込み隊長。お前がソーディアン・ブレイブを守ってくれたおかげで、俺はまだ……戦える!)

 切り込み隊長の"味方戦士族モンスターを守る"効果がなければ、今の攻撃でソーディアン・ブレイブは倒され、朝倉のライフポイントは0になっていた。

 自分に逆転勝利の機会を与えてくれた勇敢な戦士に、彼は敬意を評して礼を言った。

「ターンエンドだ」

「俺のターン!」

 自分のターンを向かえ、朝倉はもう一度海馬のフィールド上のアルティメットドラゴンをじっと見つめた。

(凄い。凄いモンスターだ。 攻撃力4500だもんな……でも武藤遊戯は、こんなもの凄いモンスターとも真っ向から戦ったんだ……)

 朝倉はテレビ画面上で見た、バトルシティトーナメント準決勝の場面を思い出していた。

 究極のモンスターアルティメットドラゴンを前に、超魔道戦士・ブラック・パラディンたちと共に立ち向かい、そして勝利した決闘王の姿を。

(俺も、俺もあんなふうに……!)

 彼は脳裏に、決闘王武藤遊戯と自分の姿を重ね合わせた。

「ドロー!」

 強くカードをドローし、そのカードを確認した。

(……来た……来たぜ! アルティメットドラゴンを倒せるカードが!)

 朝倉は興奮し、心の中に震えるものを感じながら、そのカードを決闘盤にセットした。

「装備魔法!――『竜殺しの剣――』」


 竜殺しの剣 (装備魔法) 

 戦士族のみ装備可能。攻撃力700ポイントアップ。

 このカードを装備したモンスターと戦闘したドラゴン族は攻撃力・守備力を無視してバトルフェイズ終了時に破壊される。(ダメージ計算は通常通り)


 刃の左右にいくつものトゲが生えているように加工された巨大な剣が現れ、ソーディアン・ブレイブはそれを手にした。


 ソーディアン・ブレイブ 攻撃力3100→3800


「それは……ドラゴン族を抹殺する剣……!」  

「そう! 竜殺しの剣は全てのドラゴン族を攻撃力を無視して破壊する! それによってアルティメットドラゴンは倒される!」

 朝倉は胸を張り、強く言い放った。

 竜殺しの剣はダメージ計算は通常通りに適用されるため、アルティメットドラゴンを破壊しても攻撃したソーディアン・ブレイブは破壊され、朝倉自身もダメージを受けてしまう。

 それでも、この状況でアルティメットドラゴンを倒せば、目には見えない決闘の流れを変え、逆転勝利することもできる。彼はそう考えていた。

「いけぇっ、ソーディアン・ブレイブ! 竜殺しの剣でアルティメットドラゴンを斬り裂け――!」

 拳を前に突き出した朝倉の攻撃命令を受け、ソーディアン・ブレイブは剣を両手で握り締め、そして掲げた。

「リバースカード、オープン!」

 ソーディアン・ブレイブが斬撃を仕掛ける直前に海馬は叫び、そして彼のフィールド上に伏せられていたカードが表になる。

 そこには、数名の戦士たちが鎧などの装備品を脱ぎ捨てている様子が移されていた。

「罠カード――『武装解除』」

 
 武装解除 (罠)
 
 フィールド上の装備カードを全て破壊する。


「武装……解除……!?」

 そのカード、そしてその効果を知り、朝倉はガックリと膝をついてしまう。

 同時に、ソーディアン・ブレイブが手にしていた竜殺しの剣は粉々に砕け散り、消滅した。

 振るうための剣を失ったソーディアン・ブレイブは攻撃を中断し、マスターである朝倉と同様にその場に膝をついた。

 朝倉の手札はなく、場に存在するのはソーディアン・ブレイブと「連合軍」の魔法カードのみ。

 次のターンの海馬のアルティメットドラゴンの攻撃を防ぐ手段はもはやなく、彼の敗北はこの瞬間に確定してしまったのだ。

 最後の最後で海馬の戦術が朝倉を上回ったのだった。  

(まさか竜殺しの剣などというカードをまだ持っていたとはな……)

 だがその海馬は特に喜ぶ様子もなく、ただその場にじっと立ち尽くしていた。

(ソーディアン・ブレイブ自身に通常の罠の効果は通じない。 運良く「武装解除」を引いていたおかげで防げたが、もし引いていたのが別の罠カードなら、跪いていたのは俺だったかも知れんな……)

 アルティメットドラゴンを召喚した時点で、海馬は勝利を確信していた。 だがそのアルティメットすら、朝倉に倒されかけた。

 実際に倒されたわけではないのだが、それでも自身の最大の力であるアルティメットドラゴンを召喚しながら追い詰められかけたという事実で、完璧主義の彼は勝利の喜びを味わうことができずにいた。

(誇れ、朝倉。 貴様はこの俺と互角以上に戦い抜いたのだ)

 海馬は、彼の中での最大級の賛辞を朝倉に送った。

 心の声が聞こえたわけではないだろうが、朝倉はゆっくりと立ち上がり、口を開く。

「俺にはもう手札も、伏せカードもない。次のターン、アルティメットドラゴンで攻撃されたらソーディアンブレイブは破壊されて、俺の負けだ」

 彼は力弱い声で言った。完全に自分の敗北を覚っていたのだ。

「けど、これ以上ソーディアンブレイブが傷つく姿は、なるべく見たくない……。 "サレンダー"させてもらう」

 降参を意味するサレンダーの言葉を口にし、朝倉は決闘盤にセットされたカードデッキに向かってそっと右手を伸ばした。

(何だと……?)

 サレンダー。その言葉を聞いた海馬は目を見開いた。

「……ふざけるな――――!!!」

 そして朝倉の右手がデッキに触れる直前に彼は叫び、その手は止められた。

「……海馬……?」

 何が何だかわからない、と唖然とする朝倉を、海馬は鋭い眼光で睨みつけた。

「見損なったぞ……貴様には、決闘者としての誇りはないのか!?  ソーディアン・ブレイブが傷つく姿が見たくないだと? はっ、甘えたことをぬかすなっ!」

 まさに激怒。 その様子に圧倒され、朝倉の体はピタリと固まっていた。

「どんな形であれ、どんな理由であれ、決闘に挑むということは決闘者としての誇りと魂を懸けるということだ。
 そして決闘者と同じように、モンスターもまた、誇りと魂を懸けて戦うのだ!」

(モンスターも……決闘者と同じように……) 

「俺のアルティメットドラゴンも、貴様のソーディアン・ブレイブもだ! サレンダーカードは、そんなモンスターの誇りも魂も汚す行為だ! それをした瞬間、貴様は決闘者ではなくなるのだ!」

 海馬の言葉を受け止め、朝倉は脳裏にこの決闘の、そしてこの決闘以前の、ソーディアン・ブレイブと共に戦った数々の決闘を思い浮かべた。

(そうだよな……ソーディアンブレイブ。 お前たちは今までずっと、いつだって、俺と共に魂を懸けて戦ってくれてたよな。 なのに……俺が勝手にその決闘を途中で放り出すなんて、間違ってる――!)

 朝倉は、まっすぐ海馬に顔を向けた。迷いのなくなったその表情は、実に清々しいものだった。

「ありがとう、海馬瀬人。 ……ターン終了だ!」


 海馬のLP200

 手札なし

 場 アルティメットドラゴン 


 朝倉のLP1200

 手札なし

 場 ソーディアン・ブレイブ (永続魔法 連合軍)


「オレのターン。アルティメットドラゴンの、攻撃――!」

 海馬はドローカードを確認することなく、アルティメットドラゴンに攻撃命令を送った。

 アルティメットドラゴンの三つの口が開かれ、そこからいっせいに光り輝く巨大なエネルギー弾が放たれる。

(この光景を目に焼き付けろ、朝倉。 俺もまた、貴様の戦い様を忘れはしない)
  
 アルティメットバーストの輝きに飲み込まれ、ソーディアン・ブレイブは跡形もなく消滅した。

 それを見送った朝倉には、何の後悔もなかった。

 朝倉LP1200→0







(終わった……か)

 朝倉はそっと天を仰いだ。

 とても清々しい、雲一つない真っ青な空がすぐそこにあった。 

 ――敗北。それに対する悔しさがないわけではなかった。

 だがそれでも彼の表情は清々しく、そして心は落ち着いていた。

(負けた……でも、最後の最後で決闘者としての道を外れず、戦い切れてよかった……)

 サレンダーよって、共に戦ったモンスターの誇りを汚し、決闘者ではなくなってしまうところだった。

 だが海馬の言葉で踏み止まり、サレンダーせずにすんだことに朝倉はほっとしており、同時に、そんな決闘者と堂々と戦えた自分が少し誇らしかった。  


 第十一章

「ありがとう、海馬瀬人。 俺、あんたと決闘できてよかった。また少し、強くなれた気がするよ」 

 朝倉はゆっくりと海馬に歩み寄り、晴れやかな笑顔で言った。
 
「ふっ、俺の域に達するにはまだまだだが、貴様の実力。少しだけ認めてやる」

 海馬は独特な上から目線口調でそれに答えた。

(なんつー素直じゃない言い方だよ)

 言い方はきつかったが、それでもその中に含まれた賛辞に悪い気はしなかった。

(あーあ……でも、これで880万はお預け……か)

 朝倉は軽くため息を吐き、うつむいた。

 素晴らしい決闘を繰り広げ、得る物もあった。

 だがやはり自分が何のために戦ったのか? と思うと、やはり金のためだった。

 もし勝てていれば880万円が手に入ったのにと思うと、落ち込まずにはいられなかった。

 そんな朝倉の様子を見た海馬は、ふっと笑みを浮かべ、そしてロングコートの内ポケットからこの決闘の"賞品"だった小切手を取り出した。 

「朝倉」 

「ん?」

 呼び掛けられた朝倉は海馬の指に挟まれている小切手を見て驚いた。 

(まさか……)

「俺に勝てばこの小切手を貴様にくれてやると言ったが、貴様は俺に負けた。 
 だがその力は、俺の想像を遥かに越えていた。貴様は十分に力を示した。この金を手にするには十分すぎる力を。
 この小切手はくれてやろう……」

「ま……マジでか!?」

 朝倉は最高に眼を輝かせた。

 "負けたが十分に戦った。" 少年漫画などでよく見られるセリフであり、負けた瞬間に、朝倉がひそかに海馬に期待したセリフだった。

(やった、これで……これでついに孤児院の借金を返済できる!)

 朝倉は人生最高の喜びを感じているといっても過言ではなかった。

 だがそんな彼に次に放たれる海馬の言葉は、驚きのものだった。

「というのは冗談だ」

「は……?」

 冗談。 決闘者、海馬瀬人は冗談をいう人間だとは思っていなかった。

 朝倉は海馬瀬人という人間のことはほとんど知らなかったが、なんとなくイメージからそう思っていた。

 だが今、海馬ははっきりと言った。「冗談だ」と。

 ――え? 何言ってんの? こいつ。 朝倉は唖然とした。

「この俺が、自分に負けた人間に施しを与えるわけがないだろう。 さて、これ以上貴様に用はない」

(こ・の・や・ろ・うーーー……!)

 朝倉が腹の底から沸々と煮えたぎる怒りを爆発させる直前、屋上に強い風が吹いた。

「な、何だ!?」

 朝倉が驚きながら風から身を庇うと、プロペラを回転させながら巨大なヘリコプターが下りてきた。

「ふっ、どうやら時間が来たようだ。 さらばだ、朝倉」

 そう言うと海馬は、意気揚々とヘリに近づき、その中に乗り込んだ。

「な……」

 あまりにマイペースな海馬の行動に着いていけず呆然と朝倉をその場に残し、海馬を乗せたヘリは高々と飛び立ち、その場を去っていった。

「何なんだよー! くそーっ!」

 しなくてもいいぬか喜びをさせられた怒りを爆発させるように、朝倉は叫んだ。




「なるほどな……見てみたかったぜ、その決闘」 

 受話器から聞こえてくる海馬の話を聞いた遊戯は、ふふっと笑みを浮かべていた。

「だが……朝倉はお前が金を渡すには足りない決闘者だったか?」

 ――負けたが十分に戦った。 それは甘い考えかもしれないが、だが海馬なら勝敗に関わらず、朝倉の決闘者としての力を認めさせすれば、金を渡してくれるだろうと遊戯は思っていた。

 自分は十分に朝倉の力を認めた。だが海馬はそうは思わなかったのか? そう思うと遊戯の表情はわずかに曇った。

 だがそれに対する、電話の向こうからの海馬の返事は遊戯の予想外のものだった。

「いや、ヤツの力は俺の想像を遥かに越えていた。 だが俺は、あえて金を渡さなかった。今は渡す必要がないと思った」

「……? どういう意味だ? 海馬」

「俺は決闘の最中にヤツに聞いた。なぜそうまでして孤児院を守ろうとするんだ? とな。 ヤツは言った」


 ――――理由なんかねぇ! 大切なものを守りたいのに理由なんかねぇ!


「俺は思ったんだ。ヤツにとって、孤児院の存在は"枷"などではないとな」

「枷じゃない……?」

 朝倉は孤児院の借金を返済するために、金を求めて決闘をしている。

 その借金さえなくなれば、彼を縛るものはなくなり、もっと強くなれる。遊戯はそう思って海馬に今回のことを頼んでいただけに、今の海馬の言葉が理解できなかった。

「ああ。 "守るべき孤児院の存在"こそが、ヤツに力を与える源であり、それがあるからヤツは戦えるのだ」

 言いながら海馬は思った。 自分も最初はそうだったのかもしれない――と。

「ヤツは強い。だがまだ発展途上であることも事実だ。 ヤツにはまだ守るべき孤児院という存在が必要なのだ」

「なるほど……」

 遊戯は納得し、軽くうなずいた。

「ヤツはまだまだ金のために決闘を続けるだろう。借金を返すためのその戦いを終えたとき、ヤツがどれほど強くなるのか。 俺はそれが知りたくなった。だからあえて金を渡さなかった。ということだ」

「なるほどな、朝倉がどれほど強くなるか……か、楽しみだな」

「ああ、楽しみだ」

 遊戯、そして海馬は、ニヤリと笑みを浮かべ、そしていつかまたもう一度、さらに強くなった朝倉との再戦を思い、興奮を感じていた。

(借金を全額返済するにはまだ早い。 戦い続けろ、朝倉。 ――金のために!) 



 

 おしまい







あとがき

 第二作目である、880万円のために決闘。今回も何とか無事に終えることができました。

 語呂の悪いタイトルにもかかわらず、最後まで読んでいただいた方、そして管理人さん、どうもありがとうございました!

 金のためにシリーズ、今後どのように作品を続ければいいのか? 一旦これで終わってしまえばいいのか? いろいろ考えています。

 とりあえず、今は一旦終わらせていただきます。
 本当に、ありがとうございました。







戻る ホーム