遊☆戯☆王5D's
AFTER

製作者:表さん




※本作はアニメ「遊☆戯☆王5D's」のアフターストーリーです。



第一章 8年後の世界

 ――彼女の名前は、太倉瞳美(たくら ひとみ)。
 ネオ童実野シティにある、KC(海馬コーポレーション)・モーメント研究開発部――そこで働く、研究員の1人だ。
 入社して約半年。
 彼女がこの道を志した動機は、今から9年前、この街を襲った“ある事件”による部分があまりに大きい。

 当時この都市を襲った、未曽有の大事件。
 上空から“都市”が落ちてくるという未聞の事態に、当時13歳であった彼女は恐慌し、家族と一緒に逃げ惑った。
 そして――彼女らを救った青年の姿を、彼女はその眼に焼き付けた。

 彼はさらに翌年、科学者として永久機関“モーメント”の新型制御システム“フォーチュン”を開発。
 この都市のみならず、世界のエネルギー事情を飛躍的に向上させた。
 そしてその事実は、彼女にこの進路を選ばせるに十分なものであった。

 詰まる話、思春期の彼女はその青年――“不動遊星”という男に対し、淡い恋心を抱いてしまったのだ。
 “D・ホイール”を駆って上空を舞い、数多のドラゴンとともに闘う勇敢な姿に。
 しばしば雑誌に取り上げられた、白衣を纏う知的な姿に。

 運動は幼少期から苦手だったけれど、勉強には自信があった。
 だから彼女はより一層、勉学に励んだ。
 憧れの彼に近づきたくて――だからKCの内定をもらえたときは、天にも昇る気持ちだった。

 ずっと使っていたメガネをやめ、コンタクトにしてみた。
 美容院にお願いして、髪型も変えてみた。
 ずっと地味で、目立たずに生きてきた彼女が、初めてお洒落に挑戦した。

 そして春が来て、信じられないことが起こった。
 配属先は憧れの彼と同じ、さらには同じチームに入れた。
 直属の部下として配置され、誰よりも近くで働けるようになったのだ。

 それからの半年間は、奇跡のような、幸せな時間だった。
 世界に名だたる研究者でありながら、彼は驕らず、チームワークを大切にした。
 入社したばかりの彼女にも優しく、時には対等に議論し、その意見を軽んじることはなかった。

 彼は、彼女が長年思い描いた以上に、素晴らしい人物だった。
 努力が報われた気がした。だから願ってしまった。
 願わくは、これからもずっと、彼を支え続けたいと――彼に一番近い場所で、研究者としてだけでなく、一人の女として。

 けれど、知ってしまった。
 社員旅行の際、ある噂を耳にしてしまったのだ――「不動チーフには遠距離恋愛中の彼女がいるらしい」と。
 それを聞いた瞬間、彼女は目の前が真っ暗になってしまった。

 あれほどの男性だ、女性にもてないわけがない。
 しかし常にストイックな彼の様子に、彼女はあらぬ期待してしまったのだ。

 けれど噂は噂で、その真偽までは分からなくて、
 眠れない夜が続いて、仕事に支障まで出してしまって、
 だから確かめなければ――彼女はそう決心した

 半月後の大事な研究報告会、それが終わったら――この想いを伝えようと。
 たとえダメでも、終わらせなければならない。
 9年続いたこの初恋に、終止符を打たなければ――それがたとえ、どんな形であったとしても。





 そして、半月後――不動遊星は報告会のため、朝から社外に出張していた。
 “フォーチュン”開発以来8年間、彼はこの道を選び、この道を歩み続けてきた。
 亡き父と同じ、科学者という道を。

 そこに一縷の後悔もなかったかといえば、あるいはやはり嘘になるのかも知れない。
 8年前、彼にはもうひとつの道があった。
 けれどそれを選ばなかったのは、仲間のため。
 何より大切な5人の――いや、“6人”の仲間との絆のために。

 5人はそれぞれの道を選び、この街を旅立った。
 だからこそ遊星は、この街に残った。
 この街を守り、発展させてゆく――彼らがいつでも戻れるように。
 俺たちが救った町は、こんなにも素晴らしい場所だったんだと――胸を張って、誇れるように。


 ――そしてこの日、遊星は以前から、ひとつの約束をしていた。
 5人のうちの1人が、この街に帰ってくるのだ。
 その人物と夜に再会する約束をしており、彼は柄にもなく浮かれていた。
(あれから8年か……この街も俺も、ずいぶん変わった)
 報告会を無事終えて、彼は控室で休憩していた。
 高層ビル20階の窓から景色を見渡し、ふと感慨に耽る。

 “フォーチュン”開発以降、人口はさらに増え、街並みも変わった。
 今年28歳になった自分は、チームの協力のもと研究に没頭し、忙しくも充実した日々を送っている。
 あの頃と比べ、前に進めている――そんな実感があった。けれど何故だろうか。
 前に進むほどに、失くしているものもある――そんな気がしていた。

(少し……疲れているのかも知れないな。アイツとの約束もある。午後は休暇をもらうか)
 そんなことを考えていると、ドアのノック音がした。
 そして現れた女性の姿に、彼は目を見張らせる。
「……太倉くん? どうしてここに……今日は本社勤務のはずだろう?」
 太倉瞳美――彼女は彼の部下であり、KCに入社して半年になる。
 今日の報告会には、遊星1人で参加していた。彼女には留守番を頼んでおり、この場にいるはずはないのだ。

「――大事な用があるんです。少しでいいので、お時間をいただけませんか?」

 普段とは違う深刻な様子に、遊星は眉をひそめた。
 いつも真面目な勤務態度の彼女が、安易な理由でこのような行動をとっているとは思えなかった。

 遊星は頷き、促されるままに部屋を出る。
 そして案内されたのは、他に誰もいない、広い会議室だった。そして長机の上に置かれた、見慣れた装置に目が留まる。
「デュエルをして欲しいんです……私と。その中で、伝えたいことがあります」
 見慣れた装置――それは決闘盤(デュエルディスク)。
 デュエリストの必需品とも呼ぶべきもので、かつての彼は、それを着けぬ日などなかった。
「デュエリストだったのか……初めて聞いたよ。いつからやっていたんだ?」
 遊星のその問いに、彼女は何故か応えない。
 無言で決闘盤を着け、彼にまっすぐ対峙する。
(デュエルの中で伝える……か。まるで昔の自分だな)
 遊星は思い返し、つい笑みがこぼれる。
 かつてデュエルの中で、たくさんのデュエリスト達と“対話”をしてきた。言葉では分かり合えずとも、デュエルの中で繋がり、通じ合ってきた。
「……いいだろう。受けて立とう、太倉くん。だが手加減はできないぞ?」
 遊星は不敵に笑い、決闘盤を腕に着ける。
 そしてデッキをセットした。デュエリストの魂たるそれを常に持ち歩く習慣は、8年前から変わらない。
(デュエルか……久しぶりだな。それも、決闘盤を使った本格的な勝負となると……一体いつ以来だ?)
 懐かしい感触に懐旧を抱く。あの頃と違い、白衣を着たままデュエルをする自分の姿が、何だか滑稽に思えた。
 距離をとり、改めて彼女と向き合う。
 たくさんの長机が少々邪魔だが、ただの立体映像(ソリッドビジョン)を展開するには問題ないだろう。
 そして2人は、同時に宣言した。

「「――デュエル!!!」」


<不動遊星>
LP:4000
場:
手札:5枚
<太倉瞳美>
LP:4000
場:
手札:5枚


「……私の先攻です。私はカードを1枚セットし、『ブリザード・リザード』を守備表示で召喚。ターンエンドです」
 瞳美は2枚のカードを出し、早々に遊星にターンを譲る。
(あのモンスター……見覚えがあるな。どんなデッキテーマだ?)
 遊星は久々のデュエルに心躍らせながら、デッキトップへ指を伸ばす。
「俺のターンだ! 俺は魔法カード『調律』を発動! デッキから『ジャンク・シンクロン』を手札に加え……さらにデッキから1枚、墓地に送る」
 めくったカードを一瞥し、彼は得意げに笑ってみせた。
「俺は『ジャンク・シンクロン』を召喚! その効果により墓地から『スピード・ウォリアー』を特殊召喚!!」
 これはデュエリスト不動遊星が誇った、必勝パターンのひとつ。
 チューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』は身体についたロープを引き、エンジン音を轟かせる。
「いくぞ! 俺はレベル2『スピード・ウォリアー』に、レベル3『ジャンク・シンクロン』をチューニング!!」
 チューナーは3つの“星”となり、『スピード・ウォリアー』の周囲を駆け巡る。
 その回転(モーメント)は加速し、ひとつとなる。昇華された魂は、新たなモンスターへと生まれ変わる。
「集いし星が……新たな力を呼び起こす! 光さす道となれ! シンクロ召喚――いでよ、『ジャンク・ウォリアー』!!」


ジャンク・ウォリアー  /闇
★★★★★
【戦士族・シンクロ】
「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
@:このカードがS召喚に成功した場合に発動する。
このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル2以下の
モンスターの攻撃力の合計分アップする。
攻2300  守1300


 遊星のエースモンスターのひとつ『ジャンク・ウォリアー』。
 長年、遊星のデュエルを支え続けたそのモンスターは、今もなお“相棒”として並び立つ。
「さらに、自分フィールドに「ジャンク」モンスターが存在するとき、このモンスターを特殊召喚できる! 来い、『ジャンク・サーバント』!」


ジャンク・サーバント  /地
★★★★
【戦士族】
自分フィールド上に「ジャンク」モンスターが
表側表示で存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
攻1500  守1000


「バトルだ! 『ジャンク・ウォリアー』で『ブリザード・リザード』を攻撃! “スクラップ・フィスト”!!」

 ――ズガァァァァッ!!!

 『ジャンク・ウォリアー』の鋼の拳が、『ブリザード・リザード』を撃ち砕く。
 しかしただではやられずに、『ブリザード・リザード』は“冷気”を残す。
「……この瞬間、『ブリザード・リザード』の効果が発動します。戦闘破壊されたとき、相手に300のダメージを与えます」


ブリザード・リザード  /水
★★★
【獣族】
このカードが戦闘によって破壊された場合、
相手ライフに300ポイントダメージを与える。
攻 600  守1800


<不動遊星>
LP:4000→3700

「だが、バトルはまだ終わっていない。『ジャンク・サーバント』のダイレクトアタック!」

 ――バキィィッ!!

<太倉瞳美>
LP:4000→2500

 『ジャンク・サーバント』の拳打を受け、しかし瞳美は動じない。
 所詮はソリッドビジョンによるもの、当然といえば当然だが――今の彼女からは、デュエルを楽しもうとする意思が感じられない。
「……? 俺はカードを1枚セットし、ターンエンドだ」


<不動遊星>
LP:3700
場:ジャンク・ウォリアー,ジャンク・サーバント,伏せカード1枚
手札:3枚
<太倉瞳美>
LP:2500
場:伏せカード1枚
手札:4枚


「……太倉くん、そろそろ教えてもらえないか? 君が言う“伝えたいこと”というのは?」
「…………」
 瞳美は無言でカードを引く。
 言葉は無用、なぜならば――このターンで、見せることができるから。
「永続トラップ発動『リビングデッドの呼び声』。墓地から『ブリザード・リザード』を、攻撃表示で特殊召喚します。さらに手札から魔法カード『アイス・ミラー』を2枚発動! デッキから『ブリザード・リザード』2体を、特殊召喚します」


アイス・ミラー
(魔法カード)
自分フィールド上に表側表示で存在するレベル3以下の
水属性モンスター1体を選択して発動する。
自分のデッキから、選択したモンスターと同名のモンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン攻撃宣言をする事ができない。


 彼女のフィールドに並ぶ、3体もの『ブリザード・リザード』。
 その光景に、遊星は瞠目した。
 この盤面、どこかで――10年近く昔の記憶が、脳裏にフラッシュバックする。
「そして私は『ブリザード・リザード』2体をリリースし……このモンスターを、アドバンス召喚します」
「……!!?」
 そしてそれは再現される。
 かつて彼を襲った光景が、目の前に――彼女の手によって。


DT(ダークチューナー)カタストローグ  /闇
★★★★★★★★
【悪魔族・ダークチューナー】
このカードをシンクロ素材とする場合、
ダークシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
このカードがダークシンクロモンスターのシンクロ召喚に使用され
墓地へ送られた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を破壊する。
攻 0  守 0


「バカな……“ダークチューナー”だと!? 太倉くん、そのカードを一体どこで!!?」
 狼狽する遊星を前に、瞳美は嘲笑う。
 彼女のフィールドには、“ダークチューナー”と“非チューナー”モンスターが1体ずつ――となれば、次に披露するモンスターは1つしかない。
「私はレベル3『ブリザード・リザード』に――レベル8『DTカタストローグ』を、ダークチューニング!!」
 彼女の宣言とともに、“ダークチューナー”は8つの“黒い星”となる。
 8つの“黒星”は『ブリザード・リザード』に埋め込まれ、相殺される。
 足し算ではなく、引き算――プラスではなく、マイナス。
 先ほど遊星が見せた“シンクロ召喚”とは、対をなす召喚方法。
「闇と闇重なりし時、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ――ダークシンクロ! 出でよ、『氷結のフィッツジェラルド』!!」


氷結のフィッツジェラルド  /水
☆☆☆☆☆
【悪魔族・ダークシンクロ】
チューナー以外のモンスター1体−ダークチューナー
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで
魔法・罠カードを発動できない。
戦闘によって破壊され墓地に存在するこのカードは、自分フィールド上に
モンスターが存在しない場合、表側守備表示で特殊召喚する。
バトルフェイズ終了時に、このカードを攻撃したモンスターを全て破壊する。
攻2500  守2500


 現れるはレベル“マイナス5”の、世にも稀有なるモンスター。
 しかし遊星は知っている、このモンスターを。彼らとの“戦争”を、忘れることなどできない。
 不敵に笑う彼女の右腕には、見紛うはずもない――確かな敵の証、“蜘蛛”の痣が禍々しく輝いていた。


<不動遊星>
LP:3700
場:ジャンク・ウォリアー,ジャンク・サーバント,伏せカード1枚
手札:3枚
<太倉瞳美>
LP:2500
場:氷結のフィッツジェラルド
手札:2枚




第二章 再戦の狼煙

「ダークシンクロモンスター……しかも、その痣! 君は“ダークシグナー”だというのか!?」
 遊星は驚愕を隠せない。
 “ダークシグナー”――それは10年前、遊星たち“シグナー”が倒した相手だ。
 彼らは5000年の周期で現れ、シグナーと戦う運命にある。
 “冥界の王”の使徒として、現世に破滅をもたらすために。
(前回の戦いから10年……再び現れたというのか? バカな、早すぎる!!)
 遊星は、自身の右腕に視線を落とす。
 かつて自分が有していた“シグナー”の証――“龍の痣”は失われたままだ。
 8年前、仲間たちと別れた際に、“赤き龍”とともに消えてしまった。
(俺の痣は戻っていない……新たなシグナーが現れているのか? だとしても何故、こんな短い周期で!?)
 困惑する遊星をよそに、異変は続く。
 彼女の背後から“闇の火柱”が立ち、円状に燃え広がる。
 これもまた10年前と同じ――2人を囲う“檻”と化し、“闇のデュエル”の舞台を成す。
 さらに、
「ダークシンクロ召喚成功時、“カタストローグ”の効果発動! 『ジャンク・ウォリアー』を破壊します!」

 ――ズドォォッ!!!

 『ジャンク・ウォリアー』が爆散する。
 彼女の光無き双眸は、彼の残りのモンスターを映す。
「バトル! 『氷結のフィッツジェラルド』で、『ジャンク・サーバント』を攻撃! “ブリザード・ストライク”!!」

 ――ズガガガガガガッッ!!!

 無数の氷の飛礫(つぶて)が放たれ、『ジャンク・サーバント』を粉砕する。
 その余波は遊星にも及び、その身を吹き飛ばし、火柱に打ちつけた。
「――ぐああああああっ!!!!」

<不動遊星>
LP:3700→2700

「ク……この衝撃、やはり10年前と同じ……!?」
 遊星はよろめきながらも立ち上がる。
 信じがたい事態だが、受け容れるしかない――“ダークシグナー”の再来、そして彼女と戦わねばならないという現実を。


<不動遊星>
LP:2700
場:伏せカード1枚
手札:3枚
<太倉瞳美>
LP:2500
場:氷結のフィッツジェラルド
手札:2枚


「何故だ、太倉くん……! 同じチームの君が! どうして……このために俺に近づいたのか!?」
「…………」
 瞳美はそれに応えることなく、虚ろな瞳で遊星を見つめる。
「私はこれでターンエンド……さあ、不動チーフのターンですよ?」
「……ッ」
 遊星はデッキに指を伸ばし、しかしその手を止めた。
 彼女は本当に、そんな人間だったろうか――同じチームで働いて半年間、そこにも確かに“絆”はあった。
(昨日までの彼女が……そんなことを考えていたとは思えない! だとすれば、考えられる可能性は2つ)

 ひとつは――彼女が昨夜から今日にかけての間に、“ダークシグナー”になった可能性。
 そして、もうひとつは――

「――俺のターン!! トラップカードオープン『ロスト・スター・ディセント』! 墓地から『ジャンク・ウォリアー』を、守備表示で特殊召喚!!」


ロスト・スター・ディセント
(罠カード)
@:自分の墓地のSモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターのレベルを1つ下げ、守備力を0にして守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、表示形式を変更できない。


「さらにチューナーモンスター『ハイパー・シンクロン』を召喚!」


ハイパー・シンクロン  /光
★★★★
【機械族・チューナー】
このカードがドラゴン族モンスターの
シンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、
このカードをシンクロ素材としたシンクロモンスターは
攻撃力が800ポイントアップし、
エンドフェイズ時にゲームから除外される。
攻1600  守 800


(――俺の勘が正しければ、恐らくは後者……! だとすればこのデュエル、長引かせるわけにはいかない!!)
 戦意を取り戻し、遊星はカードを操る。
 復活させた『ジャンク・ウォリアー』のレベルは4、召喚したチューナーモンスターのレベルも4、そして2体の合計レベルは――8。
(たとえシグナーの痣がなくとも……俺にはまだ、このカードがある!)
「――俺はレベル4『ジャンク・ウォリアー』に、レベル4『ハイパー・シンクロン』をチューニング!!」
 それはシグナーの証たる1枚。
 全部で6体のドラゴンたち。“龍の痣”を失った今もなお、それは彼らの手の内にある。
「集いし願いが……新たに輝く星となる! 光さす道となれ! シンクロ召喚――飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」


スターダスト・ドラゴン  /風
★★★★★★★★
【ドラゴン族・シンクロ】
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
@:フィールドのカードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、
このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。
A:このカードの@の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。
その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。
攻2500  守2000


 それは星の輝きを纏う、美しき白銀のドラゴン。
 『スターダスト・ドラゴン』は双翼を広げ、『氷結のフィッツジェラルド』を鋭く見下ろす。
「……!! スターダスト……」
 瞳美はそれを見上げ、言葉を漏らす。
 その眼に一瞬、わずかだが光が灯ったように見えた。
「『ハイパー・シンクロン』の効果により、『スターダスト・ドラゴン』の攻撃力は800ポイントアップする! よって、3300ポイント!!」

スターダスト・ドラゴン
攻:2500→3300

(『氷結のフィッツジェラルド』……強力なモンスターだが、対抗策はある!)
 かつて苦しめられた強敵、しかしだからこそ、その特性は熟知している。
 故にこそ、その能力を逆手にとり、遊星から仕掛ける。
「バトルだ! 『スターダスト・ドラゴン』の攻撃――響け、“シューティング・ソニック”!!」

 ――ズドォォォォッ!!!

 白銀のブレスが『氷結のフィッツジェラルド』を撃ち貫く。
 その攻撃力差分の数値が、瞳美のライフから削られる。しかし彼女は、微動だにしなかった。

<太倉瞳美>
LP:2500→1700

(やはりシグナーではない今の俺の攻撃で、本物のダメージを与えることはないか……だが、好都合だ!)
 一見、不利なだけのように思える条件だが、しかしこれでいい。
 これならば、彼女に与えるダメージを気にすることなく、攻め込むことができる。
「戦闘破壊された『氷結のフィッツジェラルド』は、守備表示で特殊召喚される……さらにバトルフェイズ終了時、攻撃してきたモンスターを破壊します」
 彼女の宣言どおり『氷結のフィッツジェラルド』は復活する。
 続いて『スターダスト・ドラゴン』に対し、氷の飛礫を放つ――ここまでが“強制効果”だ。
「――それを待っていた! 『スターダスト・ドラゴン』の効果発動! 自身をリリースすることで、その破壊効果を無効にし、逆に破壊する! “ヴィクテム・サンクチュアリ”!!」
 自身を光の粒子と化し、白銀の龍は消え失せる。
 そして粒子は『氷結のフィッツジェラルド』を覆い、その身を破壊する。
 これは効果破壊――戦闘破壊以外であれば、『氷結のフィッツジェラルド』の復活効果は発動しない。
「さらに! エンドフェイズに『スターダスト・ドラゴン』は舞い戻る……再び飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」
 白銀の龍は蘇り、咆哮を上げる。
 一度場を離れたことにより『ハイパー・シンクロン』の攻撃力上昇効果は失われるが、同時に、除外のデメリットも失われた。
 これは『氷結のフィッツジェラルド』の強制効果を逆手にとった戦術――これでデュエルは完全に、彼に有利な形となった。


<不動遊星>
LP:2700
場:スターダスト・ドラゴン
手札:3枚
<太倉瞳美>
LP:1700
場:
手札:2枚


「……私のターン。相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、このモンスターは特殊召喚できます。『DTスパイダー・コクーン』!」


DTスパイダー・コクーン  /闇
★★★★★
【昆虫族・ダークチューナー】
このカードをシンクロ素材とする場合、ダークシンクロモンスターの
シンクロ召喚にしか使用できない。
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上に
モンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
攻 0  守 0


「!? 2体目のダークチューナー、だと? まさか」
 再び悪夢を再現すべく、瞳美は手札を1枚掴む。
「さらに『ダーク・スパイダー』を召喚し、効果発動! 『DTスパイダー・コクーン』のレベルを、7まで上昇させます!」


ダーク・スパイダー  /闇

【昆虫族】
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する
昆虫族モンスター1体のレベルをエンドフェイズ時まで2つ上げる事ができる。
攻 0  守 0


 フィールドには再び、“ダークチューナー”と“非チューナー”モンスターが1体ずつ。
 遊星は両眼を見開き、その光景を目の当たりにする。
「私はレベル1『ダーク・スパイダー』に、レベル7『DTスパイダー・コクーン』をダークチューニング!!」
 フィールドに7つの“黒星”が生まれ、『ダーク・スパイダー』に埋め込まれる。
 “昇華”ではなく“堕落”。しかしその色濃い闇は、強く穢れた力をもたらす。
「闇と闇重なりし時、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ――ダークシンクロ! 出でよ、『地底のアラクネー』!!」


地底のアラクネー  /地
☆☆☆☆☆☆
【昆虫族・ダークシンクロ】
チューナー以外のモンスター1体−ダークチューナー
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで
魔法・罠カードを発動する事ができない。
1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を
装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。
このカードが破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。
攻2400  守1200


 現れるはレベル“マイナス6”、半人半蜘蛛のモンスター。
 これもまた、遊星が10年前に戦った難敵だ。その能力は把握しているが、しかしこの状況では、対策が一歩遅れる。
「『地底のアラクネー』の効果発動! 相手フィールドのモンスター1体を装備することができる。“トワイナー・スレッド”!!」

 ――シュバァァァァッ!!!

 下半身の蜘蛛が大量の糸を吐き出し、『スターダスト・ドラゴン』を絡めとる。そしてそのまま、彼女のフィールドへと引きずり込んだ。
「これでチーフのフィールドはガラ空き……『地底のアラクネー』、ダイレクトアタック!!」

 ――ズドォォォォッ!!!

「――!! ぐは……っ」
 『地底のアラクネー』の上半身、人型の口から硬質の糸が吐き出される。
 それは遊星の腹部を強打し、彼はそのダメージにうずくまる。

<不動遊星>
LP:2700→300

「私はカードを1枚セットし、ターンエンド……さあ、後がありませんよ、チーフ?」
 苦悶する彼を見下ろしながら、瞳美は冷たく微笑んだ。


<不動遊星>
LP:300
場:
手札:3枚
<太倉瞳美>
LP:1700
場:地底のアラクネー,(スターダスト・ドラゴン),伏せカード1枚
手札:0枚


(これで俺のライフはわずか……フィールドにカードもない。だが!!)
「俺のターン――ドロー!!」
 ドローカードを視界に入れ、彼は両眼を閉じる。
 そして脳内に“道”を描き出す――この窮地を脱する策、そしてこのデュエルを終わらせる、再善のルートを。
(――……見えた!!)
 遊星は両眼を見開き、手札から2枚を選び出す。
「俺はカードを1枚セットし! さらに魔法カード『ダブル・サイクロン』を発動!!」


ダブル・サイクロン
(速攻魔法カード)
@:自分フィールドの魔法・罠カード1枚と、
相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。


「俺の場の伏せカードと……装備カード扱いの『スターダスト・ドラゴン』を破壊する! 返してもらうぞ、“スターダスト”を!!」
 発生した2つの竜巻が、囚われた『スターダスト・ドラゴン』と伏せカードを撃ち砕く。
 しかし「返してもらう」とは言ったが、遊星のフィールドに戻るわけではない。これにより『スターダスト・ドラゴン』は墓地に送られる――瞳美ではなく、遊星の墓地へ。
「さらに、破壊された『リミッター・ブレイク』の効果発動! 墓地の『スピード・ウォリアー』を、攻撃表示で復活させる!!」


リミッター・ブレイク
(罠カード)
@:このカードが墓地へ送られた場合に発動する。
自分の手札・デッキ・墓地から
「スピード・ウォリアー」1体を選んで特殊召喚する。


 ガラ空きのフィールドに『スピード・ウォリアー』が降り立つ。
 しかしその攻撃力は900、『地底のアラクネー』に遠く及ばない――ならばなぜ、攻撃表示で喚び出したのか。
「そしてこれが、俺の切札――魔法カード『ミラクルシンクロフュージョン』!!」


ミラクルシンクロフュージョン
(魔法カード)
@:自分のフィールド・墓地から、融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターを除外し、Sモンスターを融合素材とする
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
A:セットされたこのカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に
発動する。自分はデッキから1枚ドローする。


「このカードは墓地のモンスターを除外し、シンクロモンスターを素材とする融合モンスターを融合召喚できる! 墓地の『スターダスト・ドラゴン』と『ジャンク・ウォリアー』の力をひとつに――融合召喚! 現れよ、『波動竜騎士 ドラゴエクィテス』!!」


波動竜騎士 ドラゴエクィテス  /風
★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合】
ドラゴン族シンクロモンスター+戦士族モンスター
このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、墓地に存在するドラゴン族のシンクロモンスター1体を
ゲームから除外し、エンドフェイズ時までそのモンスターと同名カードとして
扱い、同じ効果を得る事ができる。
また、このカードがフィールド上に表側攻撃表示で存在する限り、
相手のカードの効果によって発生する自分への効果ダメージは代わりに相手が受ける。
攻3200  守2000


 “シンクロ融合”――これは、10年前の時点では到達できなかった戦術だ。
 ダークシグナーの“次の敵”と戦うため、模索した戦術。“境地”と呼ぶには至らない力だが、現在の遊星にも確実に扱える、最大限の力でもある。
(デュエルを離れて久しい俺が、今でも“あの境地”に到達できるかは分からない……だからこそ、このカードで決める!!)
「バトルだ!! 『波動竜騎士 ドラゴエクィテス』で『地底のアラクネー』を攻撃――“スパイラル・ジャベリン”!!」

 ――ズガァァァァッ!!!!

<太倉瞳美>
LP:1700→900

 投擲された巨大槍が『地底のアラクネー』を突き砕く。
 これで彼女の残りライフは900――そして『スピード・ウォリアー』の攻撃力も、900ポイント。
「これでトドメだ! 『スピード・ウォリアー』のダイレクトアタック――“ソニック・エッジ”!!」
 『スピード・ウォリアー』が地を滑り、瞳美のもとへ迫る。
 対する彼女のフィールドはガラ空き――いや違う。伏せカードが1枚残されている。
「トラップカードオープン『栄誉の贄』! 私へのダイレクトアタックを無効にします!!」


栄誉の贄
(罠カード)
自分のライフポイントが3000以下の場合、
相手が直接攻撃を宣言した時に発動する事ができる。
そのモンスターの攻撃を無効にし、自分フィールド上に「贄の石碑トークン」
(岩石族・地・星1・攻/守0)2体を特殊召喚し、自分のデッキから
「地縛神」と名のついたカード1枚を手札に加える。
「贄の石碑トークン」は、「地縛神」と名のついたモンスターの
アドバンス召喚以外のためにはリリースできず、シンクロ素材とする事もできない。

 ――バシィィィィッ!!

 『スピード・ウォリアー』の蹴撃を、不可視のバリアが受け止める。
 これで彼女へのダメージは通らず――そして、それだけではない。
「……さらに、私のフィールドに『贄の石碑トークン』2体を特殊召喚し……デッキから、このカードを手札に加えます」
「!! そのカードは!!」
 遊星はたまらず刮目する――最も恐れていたカード、2度と見ることはないと思ってきた、悪夢のようなその1枚を。


地縛神 Uru(ウル)  /闇
★★★★★★★★★★
【昆虫族】
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
「地縛神」と名のつくカードを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。
フィールド上にフィールド魔法が表側表示で存在しない場合、
このカードの以下の効果は無効となり、このカードはエンドフェイズ時に破壊される。
●このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。
●このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
●1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上のモンスター1体を
リリースする事で、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
エンドフェイズ時までコントロールを得る。
攻3000  守3000


(攻撃を防がれる可能性はあった……だが地縛神とは! このままでは……!!)
 遊星は苦虫を噛み潰す。
 次のターン、彼女は『贄の石碑トークン』2体をリリースし、“地縛神”を召喚するだろう――フィールド魔法なしには十分機能しないものの、その攻撃力は3000。攻撃表示の『スピード・ウォリアー』を攻撃されればひとたまりもない。
(対抗策はある……このカードを使えば、負けることはない。だが)
 残された最後の手札を見つめ、彼は苦悩する。
 そして、ひとつの結論を出した。
「俺はカードを1枚セットし、ターンエンド――茶番は終わりだ! そろそろ正体を現わしたらどうだ?」
「……!?」
 遊星は彼女を強く見据える――いや彼女ではなく、“その先の敵”を。


<不動遊星>
LP:300
場:波動竜騎士 ドラゴエクィテス,スピード・ウォリアー,伏せカード1枚
手札:0枚
<太倉瞳美>
LP:900
場:贄の石碑トークン×2
手札:1枚(地縛神 Uru)


「君は……いや、太倉くんは“ダークシグナー”じゃない! 俺に近しい人間を操り、揺さぶりをかける……10年前と同じ手口だ。そうだろう?」
 確信があるわけではない。しかし遊星はカマをかける。
 “蜘蛛”のダークシグナーには、他人を操る力がある――当時もディック、牛尾、そしてラリーの3人が操られ、遊星たちと戦わされた。
(“地縛神”が召喚されれば、周囲の人々は魂を奪われる……そして、敗者の魂も。彼女が操られているだけなら、何とか中断の糸口を見つけなければ!)
 しばしの沈黙ののち、彼女は微笑む。
 そしてその口から、異なる声色が紡がれた。

『――なるほどそうか……“この世界”の私も、同じことをしたのか』

 あり得ないと思った。
 聞き覚えのある男の声。遊星の予想は、半分当たりで、半分外れだ。

 彼女はたしかに操られていた――しかしその元凶は、新たなるダークシグナーのはず。
 10年という短い期間で、新規に選ばれてしまった未知の人間――そう思っていた。
 しかし、

「この声……まさか、ルドガー。お前だというのか!!?」
 瞳美は嘲笑い、そして再び、その男の声が発せられた。

『久しいな……いや、“初めまして”と言うべきかな? 不動博士の息子、不動遊星』

 かつて倒した敵、そしてこの世を去ったはずの男の再来に――遊星の心は大きく揺さぶられ、言葉を失った。




第三章 再燃のジオグリフ

「――私のターン、ドロー」
 自失する遊星をよそに、瞳美はカードを引く。
 そして引き当てたそれを見て、邪悪にほくそ笑んだ。
「……“この世界”、だと? それに“初めまして”とは、どういう意味だ?」
 遊星はやっとのことで、疑念を吐き出す。
 信じられない、信じることができない。
「ルドガー。お前はゴドウィン……レクス・ゴドウィンとともに、この世を去ったはずだ! 他のダークシグナーたちを蘇らせ、あの戦いを終わらせるために……違うのか!?」
 遊星のその問いに、彼女は眉をひそめる。
『他のダークシグナーを蘇らせた……? “この世界”の私は、そんなことをしたのか?』
 まるで他人事のように、彼は語る。瞳美の口を通して。
『レクスはやはり死んでいたか……しかし分からんな。奴は前線で我々ダークシグナーと戦ったのか? 貴様らシグナーに託さずに?』
 何かがおかしい。会話が上手く繋がらない。
 遊星はルドガーの言葉を反芻し、その真意を探る。
(奴は……“この世界”のルドガーではない? “別の世界”のルドガー?)
 心当たりがひとつだけある。
 しかしまさか、そんなことがあり得るのか――遊星は戸惑いながらも、その推測を口にする。
「“イリアステル”と同じ……? お前は彼らと同じように、未来の世界から来たのか!?」
 “イリアステル”――それは9年前、遊星たちが戦った、未来からの来訪者たち。
 破滅した未来から訪れた彼らは、その結末を覆すべく奔走した。しかしその過程において、少なからぬ犠牲を要し、故に遊星たちと対立し、そして滅びた――未来を遊星たちに託して。
『――半分当たりで、半分外れだ。“我々”は確かに“イリアステル”の技術を利用し、この世界に来た……ただし、未来でも過去でもない。この世界と同じ時間の“破滅した世界”からやって来た』
 ルドガーの話、その意味が分からず、遊星はただ立ち尽くす。
『今より10年前、貴様らシグナーを殲滅した我々は、世界の全てを滅ぼした。その過程で“イリアステル”も打倒し、全人類を根絶した。そして我々は新たな戦いを求め、この世界に来た……全く驚いたよ。よもや我々が敗北する“並行世界”など存在したとは』
 並行世界――“パラレル・ワールド”。
 にわかには信じがたい話だが、遊星はようやく合点がいった。
(10年前……ヤツらとの闘いは紙一重だった。俺達シグナーが敗北する可能性は確かにあった……しかし!!)
 理解はできても、納得はできない。
 突き詰めれば“このルドガー”は、過去でも未来でもない――“異世界”から来た、別の存在なのだ。
『……面白い試みだろう? あらゆる世界を訪れ、滅ぼし、全てを破壊し尽くす……“この世界”はその足掛かりだ。あらゆる可能性、全てのシグナー、全ての世界を滅ぼすまで――我々は決して止まらぬのだ!!』
 瞳美の瞳が、狂気に輝く。
 それは果たして、どれほどの所業か――果たして何年、何十年、どれほど争えば完結するのか。
「私は『贄の石碑トークン』2体をリリースし――アドバンス召喚!!」
 彼女はカードを振りかざす。
 ダークシンクロに続く悪夢、ダークシグナーに巣食う根源たる邪悪が、ここに顕現される。
「――我が運命の光に潜みし亡者達の魂よ! 流転なるこの世界に暗黒の真実を導くため、我に力を与えよ! 現れよ、『地縛神 Uru』!!」
 大地が震える。
 轟音とともにビルは揺れ、剣呑なる空気がフィールドを満たす――しかし2人の間に“地縛神”は現れなかった。
(不発か……!? いやこの気配、一体どこから――)
 次の瞬間、遊星は気が付く。
 “地縛神”の巨体が、高さ数メートルの一階層に収まるわけがないのだ――衝動的に振り返り、そして目撃した。
 強化ガラスごしに赤く輝く、複数の巨大な眼。
 ビル外に顕現した超巨大蜘蛛はすでに、屠るべき獲物――不動遊星の姿を、その視界に捉えていた。


<不動遊星>
LP:300
場:波動竜騎士 ドラゴエクィテス,スピード・ウォリアー,伏せカード1枚
手札:0枚
<太倉瞳美>
LP:900
場:地縛神 Uru
手札:1枚


 瞳美と“地縛神”、双方に挟まれる形となり、遊星は改めて身構える。
 一方で、超巨大モンスターの出現、さらに闇の炎が大地に描き出した巨大な地上絵に、ビル内外の民衆はパニックを起こし、その騒ぎは遊星の耳にも届いていた。
(人々の魂が奪われていない……? そうか、フィールド魔法なしに、“地縛神”は真価を発揮できない!!)
 フィールド魔法が存在しなければ、“地縛神”は全ての効果が無効となり、さらにはターン終了時に破壊される。
 “ドラゴエクィテス”と“スピード・ウォリアー”は移動し、遊星と“地縛神”の間に立った。“地縛神”の代名詞とも言えるダイレクトアタック能力は、この状況は発揮されない――しかし『スピード・ウォリアー』の攻撃力はわずか900、その攻撃には耐えられない。
(だが、それこそが俺の狙い……俺の伏せカードはトラップカード『ダメージ転換装置』。“ドラゴエクィテス”の効果とのコンボで、戦闘ダメージを反射できる!)


ダメージ転換装置
(永続罠カード)
このカードが表側表示で存在する限り、以下の効果を適用する。
@:すべての戦闘ダメージは効果ダメージとして扱う。
A:すべての効果ダメージは戦闘ダメージとして扱う。


 これこそが遊星の見出した、勝利への筋道。
 “地縛神”の強大さすら逆手にとった、見事なる戦術――デュエルを離れて久しい今でも、彼の戦略性に衰えはない。
 しかし、
「……さらに、私の場に“地縛神”が存在するとき、このモンスターを特殊召喚できる――『DT(ダークチューナー)ジオグリフ・リライト』!」
「!!? な、何だと!?」
 ビル外に巨大な“黒星”が生み出され、遊星は両眼を見開いた。


DTジオグリフ・リライト  /闇
★★★★★★★★★★
【悪魔族・ダークチューナー】
このカードをシンクロ素材とする場合、レベルは2倍になり、
「地縛」ダークシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
@:自分フィールド上に「地縛神」モンスターが存在するとき、
このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚することができる。
攻 0  守 0


(“地縛神”とダークチューナーが並んだ……!? バカな、まさかこれは――)
 遊星の脳裏を、最悪の可能性がよぎる。
 “ダークシンクロモンスター”と“地縛神”――その2つはともに、“ダークシグナー”の代名詞とも呼べるモンスターだ。
 しかしそれぞれは独立しており、同時召喚されることさえ稀だった。
 それなのに、

『――刮目せよ、不動遊星……貴様らシグナーを滅ぼし、その果てに得た我らが力を』

「私はレベル10『地縛神 Uru』に――レベル20『DTジオグリフ・リライト』を、ダークチューニング!!」
 巨大な星は弾け、20もの“黒星”となる――それらは巨大蜘蛛の全身に埋め込まれ、その存在を変容させてゆく。
 さらなる悪夢を、ここに顕現するために。

「――集いし闇を一つとし、新たな破滅の扉を開く! 光無き世界へ――ダークシンクロ! 降臨せよ、『地縛邪神 Uru Yana(ウル・ヤナ)』!!!」

 “闇”が迸り、空間を穢す。
 発せられた瘴気は毒となり、万物を蝕んでゆく――そして遊星もまた、その例外ではない。


地縛邪神 Uru Yana  /闇
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【昆虫族・ダークシンクロ】
「地縛邪神 Uru」−ダークチューナー
「地縛邪神」モンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
@:相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。
A:このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
B:このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けず、
相手の効果モンスターの効果の対象にならない。
C:1ターンに1度だけ発動できる。相手のターン終了時まで
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター全てのコントロールを得る。
攻4000  守4000


「――!! う……っっ」
 ビル外に新たに生み出された、邪悪なる巨大蜘蛛――その毒気にあてられ、遊星はうずくまる。
 外見にはほとんど違いがない、しかし全く異なる――発せられるプレッシャーは、彼がこれまで対峙してきた、あらゆるモンスターを遥かに凌駕していた。
「『地縛邪神 Uru Yana』の効果発動! 相手フィールドのモンスター、全てのコントロールを得ます!!」

 ――バリィィィィンッ!!!!!

 吐き出された糸が窓を砕き、2体のモンスターを絡めとる。
 “ドラゴエクィテス”と“スピード・ウォリアー”は共に、蜘蛛のもとへと奪われてゆく――これにより遊星のフィールドには、何者も残されなかった。


<不動遊星>
LP:300
場:伏せカード1枚
手札:0枚
<太倉瞳美>
LP:900
場:地縛邪神 Uru Yana,波動竜騎士 ドラゴエクィテス,スピード・ウォリアー
手札:0枚


(“ドラゴエクィテス”を奪われた……!? これではコンボが成立しない! 俺に対抗策は……ない)
 毒に侵され、朦朧としてゆく意識の中で――遊星はなおも足掻かんとする。
 しかしない、何もない。
 次に来るだろう攻撃を防ぐすべなど――何一つありはしなかった。
「……これで終わりか……案外呆気ないものですね、不動チーフ?」
 瞳美はうすら笑いを浮かべ、その右腕を掲げる。
「これでトドメです……! 『地縛邪神 Uru Yana』! 不動チーフにダイレクト――……」
 不意に、彼女の動きが止まる。
 その宣言を終えれば、さしもの彼も終わりだろう――だから彼女は、その動きを止める。
 表情を崩し、唇が震える。
 その華奢な身体の中で、2つの意識がせめぎ合う。
「チー……フ、逃げ――」

『――我が支配に逆らうか……? そのような所業、許されると思ったか?』

 ――ドクンッ!!!

 彼女の両眼が赤く輝く。
 より強い力でもって、その肉体の主導権を握る――それを跳ね返す力など、彼女にありはしない。
「――『地縛邪神 Uru Yana』! 不動遊星にダイレクトアタッ――……」
 しかし再び、その宣言は中断された。
 彼女がより強い意志で、ルドガーの支配を振り払った――わけではない。
 彼女の両眼は白目を剥き、鼻から血を流し、その場に倒れ込む。
 これにより、彼女の決闘盤は動作を停止し、デュエルは強制終了となる。同時に、地面の地上絵とともに“地縛邪神”もビル外から消え去った。

『フン……器が耐えられなんだか。強すぎる力も考えものだ。まあ楽しみは後に残すとしよう』

 彼女の背中、服の中から、小さな蜘蛛が這い出てくる。
 それこそが、ルドガーが瞳美を操った媒介。その小さな存在から、彼の声が響き渡る。
『不動遊星……この時代の貴様は、面白いものを造ってくれたな。モーメント制御システム“フォーチュン”――この装置は今や、世界中のモーメントとリンクしている。実に素晴らしい。おかげで手間が省けるというものだ』
「……何……だと? ルドガー、貴様まさか……!?」
 遊星はやっとのことで声を絞り出す。
 彼の脳裏をよぎる“最悪の可能性”――もしもそれが当たっているなら、それだけは阻止せねばならない。
『……どうやら時間のようだ。また会おう、不動遊星――今の貴様にその資格があるならばな』
 そう言い残すと、蜘蛛は灰となり、彼の前から消え失せる――これにより、直近の脅威は去ったかのように思えた。
 しかし、

 ――ドクンッ!!!!!!

 正体不明の衝撃が、遊星の意識を貫く。
 だがそれは、彼だけを対象としたものではない――このシティに存在する全ての人間が、同様の現象に襲われていた。

 今この瞬間、シティは巨大な“結界”に覆われ、外界から隔離されてしまったのだ――そしてその核となったのは、4体の“地縛邪神”。

 ――東端に、トカゲ。
 ――西端に、猿。
 ――南端に、ハチドリ。
 ――北端に、巨人。

 それぞれに地上絵とともに出現した“邪神”は、結界内の数多の人間を“生け贄”とする――実に数百万もの魂が、一瞬で奪い去られる。

「――ッ! がは……っ」
 そしてその影響は、不動遊星にも及ぶ。
 もはやシグナーではない彼に、それを防ぐことはできない。
 彼は膝を折り、その場に倒れ伏し――その意識は、昏い闇へと落ちていった。




第四章 再会

 朦朧とする意識の底で、遊星は“誰か”の声を聞いた。
 暗闇の奥から発せられる、遠い、かすかな男の声。
 しかし“彼ら”のそれは、確かに遊星の意識へ届き、その背中を押す。

『――遊星』





 遊星は呼び起されたかのように、はっと目を見開く。
 見上げる視界には白い天井。背後の柔らかい感触に、自分がベッドに寝かされていることに気が付く。

「――チーフ! よかった……不動チーフ!!」

 視線を横に向けると、涙をぽろぽろと零す、太倉瞳美の姿があった。先ほどのデュエル中とは異なる、少女のように無垢な泣き顔。遊星のよく知る彼女がそこにはいた。
「ごめんなさい……私、よくは覚えていなくて。でも多分、私が……私のせいで、チーフは」
 彼女は涙ながらに、たどたどしく謝罪する。
 遊星はそれを慰めようと、自身の上体を起こそうとする――しかし身体は重く、頭痛もひどい。先の“闇のデュエル”でのダメージは、彼に深く刻み込まれていた。

「――無理しなくていいわ、遊星。そのままでいいわよ」

 瞳美の後ろから、落ち着いた女性の声がする。
 聞き慣れた声。しかし通信機を介さず、直接話すのは何年ぶりだろうか――懐旧が胸を満たすが、今は喜んでばかりもいられない。
「久しぶりだな、アキ……だが、どうしてここに。約束は夜のはずだったろう?」
 十六夜アキ――彼女はかつて、遊星とともに闘った“元シグナー”の一人だ。
 8年前、医者を目指してこの街を出た彼女は、海外でその夢を果たす。その後も国々を渡り、沢山の人を救ってきた――しかし今回、シティの大病院から声が掛かり、彼女は帰郷を決めたのだ。
「約束の時間ならとうに過ぎているわよ。もっとも、アナタがこの場所にいるのは聞いていたから……だいぶ前に、ここには着いていたけど」
 アキがカーテンを開けると、窓の外はすでに暗い。
 遊星は壁時計を確認し、二度驚かされた。
「半日近く眠っていたのか……ここは医務室か? そうだ! 地縛神……このビルの人たちは、無事なのか!?」
 アキの表情に陰が差す。
 事態は彼が危惧するよりも、はるかに悪い――着実に、破滅への針は進んでいる。
「――このビルだけじゃないわ。恐らくシティ全体の人々が、地縛神の生け贄にされた。もしかしたら私達3人が、この街で最後の生き残りかも知れない」
 瞳美は今朝からの記憶がほとんどないらしく、故に、先に遊星から、次にアキから、互いの情報交換を始めた。

 十六夜アキはシティに着いて早々、この事態に見舞われた――正体不明の衝撃が彼女を襲い、そしてそれは恐らく、シティ中の人間を襲った。
 彼女の周囲にいた人々は魂を奪われ、一人残らず姿を消したのだ――10年前、地縛神が召喚されたときと同じように。

「私も一瞬、意識が飛びかけたんだけど……何とか踏みとどまれたわ。私達が無事だったのは“元シグナー”だから……ということかしら? 太倉さんは直前まで操られていたから、かしらね。推測だけど」

 その後、動転したアキは実家へ急いで帰宅したが、出迎えてくれるはずの両親はおらず、そもそも人一人として姿を見られなかった。
 そこで一度冷静になり、メディアからの情報を得た――そして、この現象がシティのみで起きたものらしいこと、そして更なる異変のことを把握したのだ。

「この街はいま、外界から隔離されているわ。4体の“地縛神”の出現と同時に、まるでガラスのような、半透明の膜がシティ全体を覆い込んだ。地縛神はもう消えたけど、膜の方は今もそのまま。外側から戦車まで使ったけれど、破れなかったそうよ……電波だけは届くようだから、私から外の警察には連絡してみたけど。救援は望み薄でしょうね」

 その後、遊星なら恐らくという希望を抱き、アキはこのビルに辿り着いた。
 そして、先に目覚めた瞳美から助けを求められ、遊星をこの医務室へ運び込んだのだ。

「テレビもネットもいまだに、この話題で持ち切りよ。アナタはその状態だし、しばらくは様子を見ましょう。それとも、場所だけは移した方がいいかしら……その、“別世界のルドガー”には知られているのよね?」
 アキの提案に対し、遊星は上体を起こし、かぶりを振った。
「いや……残念ながら時間がない。早く奴らを止めなければ、世界中の人々を危険にさらすことになる」
「!? どういうこと?」
 気絶する前の会話で、ルドガーはモーメント制御システム“フォーチュン”に興味を示していた。遊星が開発したそのシステムは、今や世界中のモーメントとリンクしている。
 そしてルドガーは、こう言ったのだ――「おかげで手間が省ける」と。
「これは憶測だが、ルドガーは“フォーチュン”を使い、世界中の“モーメント”にアクセスし……再び起こそうとしているのかもしれない。27年前の悪夢“ゼロ・リバース”を」
 “ゼロ・リバース”――忘れ得ぬその言葉に、アキは目を見張った。
 かつてサテライトで勃発した、エネルギー機関“モーメント”の大暴走。
 それが世界中で起こるとなれば、果たしてどれほどの死傷者が出ようか。
「……モーメント開発者だった、ルドガーならば可能だ。あんな悲劇は、二度と起こしてはならない……たとえ、俺の命に代えてでも」
 両の拳を強く握る。
 果たして彼の心中は、どのようなものか――アキはそれを慮り、眉根を寄せた。

 モーメント開発者の父を持つ彼が、二度とそのような悲劇を起こさぬべく開発した“フォーチュン”。
 そのせいで世界中の人々が傷つくことなど、決してあってはならない。

「ジャックも、クロウもいないけど……やるしかないわね。私ももちろん力を貸すわ! “シグナー”だった私達2人が揃えば、きっと出来るわよ!」
「ああ。ありがとう、アキ……だが無理はしないでくれ。ルドガーは俺たちが知らない、新たな力を持っていた。奴さえ止めれば、“ゼロ・リバース”は阻止できるはず……恐らく“フォーチュン”にアクセスするため、KCの開発局にいるだろう。まずはそこまで――」

――辿り着けたらいいわね。私たち全員を倒して

 医務室のドアの前に立つ、第三の女。
 果たしていつ、彼女がこの部屋に入ったのか分からない。しかし黒い装束を来た彼女が、“この世界の彼女”でないことだけはすぐに分かった。
「あなた……カーリー!? いつからそこに!?」
 カーリー渚――遊星、アキの2人と彼女との親交は、あまり深いとは言えない。
 しかしジャーナリストであった彼女は、ダークシグナー戦後のWRGP(ワールド・ライディング・デュエル・グランプリ)中も、遊星たちのもとに頻繁に顔を見せていた。
 ビン底眼鏡が印象的で、おっちょこちょいな彼女は、とても争い事とは縁遠い人間に思えた。だから、ジャックから「ダークシグナーだった」という話は聞いているものの、完全には信じきれない部分もあった。
 だが今、彼女の右腕に輝く“ハチドリ”の痣――それは紛れもない“ダークシグナー”の証だ。加えて彼女には、この10年の歳月による、身体の変化が見られない。肉体の死とともに覚醒するダークシグナーが、それ以上“歳をとる”ということはないのだ。
「少し前から聞いていたのだけれど……補足してあげようかしら。シティの生き残りはアナタ達3人だけじゃなかった……強い“デュエルエナジー”を持つ者だけは、私達の“呪い”に耐えられたの。アナタ達以外に13人……意外と多かったわね。私達は今、それを1人ずつ掃除しているところよ。万が一にも、リーダーの邪魔にならないようにね」
 今やネオ童実野シティはデュエリストの聖地としても知られ、世界中のデュエリストが腕試しにと訪れている。
 それを踏まえれば、彼女の言う“強いデュエルエナジー”とは、かなり高い水準であることが伺えた。
「……それで? 今度は私達を消しに来た、ということかしら」
 遊星と瞳美を庇うように、アキは一歩前に出る。
 カーリーの鋭い眼光に怖じることなく、強い瞳で睨み返す。
「……そうね。リーダーから、不動遊星は後回しにするよう言われていたんだけど……十六夜アキ、アナタならいいかしら。私との闇のデュエル、受けてくれるわよね?」
 アキは息を呑んだ。
 いずれにせよ、拒否権などあるまい。しかしその前に、確かめるべきことはある。
「……待って、カーリー。私達はあなたを知っている。この世界のあなたは、ダークシグナーの記憶をなくし、ジャーナリストとして平穏に生きているの。私は何年も会っていないけど……多分、ジャックなら」
「……! ジャック?」
 カーリーの瞳が一瞬、わずかに揺れた気がした。
 けれど、やはり気のせいだろうか。闇色の瞳はなおも変わらず、強い殺意を放っている。
「……興味ないわね、“別世界の私”になんて。私はダークシグナーのカーリー……“冥界の王”に従い、ただ破滅をもたらす者。まだ生きているなら、すぐに始末してあげるわ。“カーリー”は私一人で十分。気持ち悪いもの」
 10年前のミスティと同じだ。彼女らダークシグナーは“冥界の王”の支配下にあり、その意志に背くことはない。
「それより、ここでは少し狭いわ。どうせなら屋上でどう? アナタがここでいいなら、それでもいいけど」
 この狭い医務室では、2人を巻き込む恐れもある。
 戦いは避けられない――アキはそれを否応なく理解する。
 彼女は説得を諦めて頷き、カーリーの提案を受け入れた。





 そして――地上200メートルの屋上で、彼女らは改めて対峙する。
 夜空の下、アキは持参した決闘盤を左腕に嵌め、デッキをセットする。その表情はやや硬く、遊星は一抹の不安を覚えた。
「……アキ。さっきはああ言ったが、お前はデュエルを離れて久しいはずだ。ここはやはり俺が――」
「――大丈夫よ、遊星。昔ほどではないけれど、デッキを手放したことはないし。もちろん、医者の仕事の傍らではあったけど……それを言うなら、あなたも同じでしょう?」
 アキは彼に振り返り、微笑みかける。そして、彼の隣の瞳美に軽く目配せをした。
 元より、まだ立っているのもやっとの状態な遊星に、このデュエルを任せることはできない――瞳美に彼のことを託し、アキは改めて前を向く。
(……ここまでの情報を整理すると、地縛神は最低でも5体……対するこちらは2人だけ。ここでつまずくわけにはいかないわ)
 彼らのもとを離れ、決闘盤を構える。
 カーリーもそれに倣うと、“闇の火柱”が2人を囲う――この“檻”から無事解放されるのは1人、勝者だけだ。

「「――デュエル!!!」」


<十六夜アキ>
LP:4000
場:
手札:5枚
<カーリー>
LP:4000
場:
手札:5枚


「――先行はもらうわ、私のターン! 『夜薔薇の騎士(ナイトローズナイト)』を召喚! 効果により手札から『薔薇の妖精』を特殊召喚!!」
 アキのフィールドに早速、2体のモンスターが並ぶ。
 片方はチューナー、そして2体の合計レベルは――6だ。
「いくわよ! 私はレベル3『薔薇の妖精』に、レベル3『夜薔薇の騎士』をチューニング!!」
 黒き鎧の女騎士は3つの“星”となり、赤き妖精の周囲を駆け巡る。
 3つの“星”をその身に宿し、新たなモンスターへと昇華される。
「――聖なる森を統べる美しき茨の女王よ! その鋭き棘で、悪しき侵入者を討て! シンクロ召喚――現れよ『ヘル・ブランブル』!!」


ヘル・ブランブル  /光
★★★★★★
【植物族・シンクロ】
チューナー+チューナー以外の植物族モンスター1体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いに手札から植物族以外のモンスターを召喚・特殊召喚するためには、
1体につき1000ライフポイントを払わなければならない。
攻2200  守1800


「『ヘル・ブランブル』が存在する限り、手札から植物族以外のモンスターを召喚・特殊召喚するには、1000ライフポイントを払わなければならない……あなたのデッキに、植物族モンスターはいるのかしら?」
「……!」
 カーリーの表情がわずかに曇る。
 牽制の効果ありととらえ、アキはさらなるカードを掴む。
「私はカードを1枚セットし、ターンエンドよ!」


<十六夜アキ>
LP:4000
場:ヘル・ブランブル,伏せカード1枚
手札:3枚


「……私のターン! 私はフィールド魔法『フューチャー・ヴィジョン』を発動!」


フューチャー・ヴィジョン
(フィールド魔法カード)
このカードがフィールド上に存在する限り、
自分または相手がモンスターの召喚に成功した時、
そのモンスター1体を選択してゲームから除外する。
召喚したモンスターのコントローラーから見て次の自分のスタンバイフェイズ時、
この効果で除外したモンスターを表側攻撃表示でフィールド上に戻す。


(!! やっぱり来た……フィールド魔法カード!)
 アキは思わず身構える。
 フィールド魔法カードは、“地縛神”が真価を発揮するには必須級のカードと言える――遊星から聞いた“地縛邪神”も気になるが、やはりまず警戒すべきはこれだろう。
「私はライフを1000支払い、『フォーチュンレディ・ライティー』を召喚! この瞬間、『フューチャー・ヴィジョン』の効果が発動し、“ライティー”を――」
「――させないわ! 罠カード『砂塵の大竜巻』! あなたのフィールド魔法を破壊する!!」
 アキのフィールドから発生した竜巻が、カーリーのカードを撃ち砕く。
 これにより、その効果は不発。カーリーの出鼻をくじくことに成功した。
「ライフを躊躇なく支払ってまで、狙いたいコンボがあったんでしょうけど……残念だったわね。あなたたちダークシグナーの戦術は把握しているつもりよ」
 これは“地縛神”との再戦を期し、遊星が眠っている間に用意した“メタカード”だ。
 カーリーのデッキ詳細は知らないが、しかし読み通り。まずは先手を取ることができた。

<カーリー>
LP:4000→3000

「そう……なるほどね。でもそれなら、別の手を使うだけだわ」
 カーリーは怯むことなく、手札から1枚を選び出す。
「魔法カード発動『フォーチュンレディ・コーリング』! この効果により、デッキから新たな“フォーチュンレディ”を喚び出す!!」


フォーチュンレディ・コーリング
(魔法カード)
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
@:自分フィールドに「フォーチュンレディ」モンスターが
存在する場合に発動できる。
同名カードが自分フィールドに存在しない「フォーチュンレディ」
モンスター1体をデッキから特殊召喚する。
このカードの発動後、ターン終了時まで自分はSモンスターしか
EXデッキから特殊召喚できない。


「『ヘル・ブランブル』の効果は、デッキからの特殊召喚には対応していない……何の憂慮もなく出せるわ。『フォーチュンレディ・パスティー』!!」


フォーチュンレディ・パスティー  /闇

【魔法使い族・チューナー】
このカード名のBの効果は1ターンに1度しか使用できない。
@:このカードの攻撃力・守備力はこのカードのレベル×200になる。
A:自分スタンバイフェイズに発動する。
このカードのレベルを1つ上げる(最大12まで)。
B:自分フィールドの「フォーチュンレディ」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスター以外の自分の手札・フィールド・墓地の魔法使い族モンスターを
任意の数だけ除外し、ターン終了時まで対象のモンスターのレベルを、
除外したモンスターの数だけ上げる、または下げる。
攻 ?  守 ?


「さらに“パスティー”の効果発動! フィールドの“ライティー”を除外し、レベルを1つ上げる! これにより“ライティー”の効果発動! フィールドを離れたとき、デッキから新たな“フォーチュンレディ”を喚び出す!!」


フォーチュンレディ・ライティー  /光

【魔法使い族】
@:このカードの攻撃力・守備力はこのカードのレベル×200になる。
A:自分スタンバイフェイズに発動する。
このカードのレベルを1つ上げる(最大12まで)。
B:表側表示のこのカードが効果でフィールドから離れた時に発動できる。
デッキから「フォーチュンレディ」モンスター1体を特殊召喚する。
攻 ?  守 ?


「私が喚び出すのはこの子よ……来なさい、『フォーチュンレディ・ファイリー』!!」


フォーチュンレディ・ファイリー  /炎
★★
【魔法使い族】
@:このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×200ポイントになる。
A:自分スタンバイフェイズに発動する。
このカードのレベルを1つ上げる(最大12まで)。
B:このカードが「フォーチュンレディ」カードの効果によって
表側攻撃表示で特殊召喚に成功した時、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊し、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
攻 ?  守 ?


「そして“ファイリー”の効果! “フォーチュンレディ”カードの効果により特殊召喚されたとき、相手モンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える。対象はもちろん『ヘル・ブランブル』!!」
「!!? な……っっ」
 流れるように目まぐるしい、しかし見事なるコンボ。
 圧倒されるアキの目の前で、茨の女王は焼き払われ――さらにその炎は、アキにまで及んだ。

<十六夜アキ>
LP:4000→1800

「――ッッ!! くう……っ」
 全身を襲う熱と痛み。
 それでも悲鳴だけはあげまいと、アキは下唇を噛んでこらえた。
「これでアナタのフィールドはガラ空き……でも、まだ終わりじゃないわよ。手札から魔法カード『タイムパッセージ』を発動! “ファイリー”のレベルを3上げる!」


タイムパッセージ
(速攻魔法カード)
自分フィールド上の「フォーチュンレディ」と名のついた
モンスター1体を選択し、そのレベルをエンドフェイズ時まで3つ上げる。


「“パスティー”と“ファイリー”はそれぞれ、レベル×200ポイントの攻撃力になるの。2体のレベル合計は7、つまり合計攻撃力は1400ポイント」

フォーチュンレディ・パスティー:攻?→400
フォーチュンレディ・ファイリー:攻?→1000

「……残念。私のライフは1800残っている。足りないわね、攻撃力が」
 満身創痍ながら、アキは何とか強がってみせた。
 いずれにせよ後攻1ターン目から、これほどまで追いつめられるとは思わなかった――自身の認識の甘さを呪い、カーリーを強く睨み返す。
「そうねえ。このまま攻撃しても、アナタのライフは削り切れない……でも残念。大切なのは攻撃力じゃなく、レベルなの」
 アキは息を詰まらせる。
 カーリーはこのターン中に、アキにトドメを刺すつもりだ。それを狙えるだけの手を、なおも残している。
「――私達ダークシグナーは、シグナーとは対をなす“マイナス”の存在。マイナスの“ダークシンクロ召喚”を操る代償に、プラスの“シンクロ召喚”を扱うことはできない……そう、“これ”がなければね」
 カーリーの突き出した左腕が、赤く輝き始める。
 まさか、あり得ない――アキは顔から血の気が引き、瞳を震わせた。
 受け容れがたい、あまりにもあり得ない光景が、彼女の目の前に現出する。
「私はレベル5『フォーチュンレディ・ファイリー』に――レベル2『フォーチュンレディ・パスティー』をチューニング!!」
 闇の魔女は2つの“星”となり、炎の魔女の周囲を駆け巡る。
 2つの“星”をその身に宿し、新たなモンスターへと昇華される。
「――破滅を占う運命の魔女よ! その呪わしき定めを、ここに指し示せ! シンクロ召喚――現れよ『フォーチュンレディ・エヴァリー』!!」


フォーチュンレディ・エヴァリー  /光
★★★★★★★
【魔法使い族・シンクロ】
チューナー+チューナー以外の魔法使い族モンスター1体以上
このカード名のBの効果は1ターンに1度しか使用できない。
@:このカードの攻撃力・守備力はこのカードのレベル×400になる。
A:自分スタンバイフェイズに発動する。
このカードのレベルを1つ上げる(最大12まで)。
その後、相手フィールドの表側表示モンスター1体を選んで除外できる。
B:相手エンドフェイズにこのカードが墓地に存在する場合、
自分の墓地からこのカード以外の魔法使い族モンスター1体を除外して発動できる。
このカードを特殊召喚する。
攻 ?  守 ?


 アキは驚愕のあまり、動けない。
 カーリーが召喚したシンクロモンスターに対して――ではない。注目すべきはカーリー自身だ。
 彼女の右腕には今もなお、ダークシグナーの証“ハチドリ”の痣が輝いている。そして同時に、彼女の左腕に輝くものは、

 ――かつて十六夜アキが、その右腕に宿したもの。8年前、シティを発つ際に失われた“赤き竜の痣”、シグナーの証たる“ドラゴン・レッグ”。

 右腕に“ハチドリ”を、左腕に“竜の脚”を輝かせ――カーリーは不敵に嘲笑い、十六夜アキを見下した。


<十六夜アキ>
LP:1800
場:
手札:3枚
<カーリー>
LP:3000
場:フォーチュンレディ・エヴァリー(攻2800)
手札:2枚




第五章 ハチドリと脚

「私の、赤き竜の痣……!? ダークシグナーのあなたが、何故それを!!?」
 アキはやっとのことで問いを吐き出す。
 動揺が抑えられない。自分の腕から失われたそれが、何故カーリーの腕にあるのか――分からない、分かりたくもない。

 遊星と出逢う以前のアキは、それを“忌むべき印”と思っていた。他人を傷つける異能、その根源であると。
 しかし彼らシグナーとの触れ合いの中で、それを愛おしく思うようになった。彼ら仲間との絆、その証であると。

「何故かって……? もちろんもらったのよ。“私の世界”のアナタから」
 唖然とするアキに、カーリーは挑発的に嗤う。
「そうよ、十六夜アキ……“私はアナタを殺している”。アナタと戦うのは、これで二度目なの。あの男……たしかディバイン、と言ったかしら? 彼の仇だと知ったら、アナタとても怒っていたわね。冷静さを欠いて、だからこそ、とても倒しやすかった」
 ディバイン――十六夜アキはかつて、その男を妄信し、心の拠り所としていた。“呪われた力”を持つ自分が嫌いだった。狭い世界で、自ら考える必要はなく、ただ彼の望むままに動けば良いと思っていた。
 けれど、今は違う。
 仲間と出逢い、絆を知り、自らの足で歩き始めた。夢を見つけ、そのために努力し、外の世界へ羽ばたいた。他者を愛し、そして何より――自分を愛することができた。
「――揺れないのね……十六夜アキ、意外だわ。私の知るアナタとは別人のよう。何がアナタをそこまで変えたのかしら?」
 真っ直ぐ前を見据えるアキに対し、カーリーは眩しげに目を細めた。
 けれどそれも一瞬のこと。明確な敵意をもって、彼女は強く宣言する。
「いずれにせよ、これで終わりよ! 『フォーチュンレディ・エヴァリー』、ダイレクトアタック!!」
 光の魔女は飛び上がり、巨大な杖を振るう。
 アキのフィールドにカードはない。その攻撃を受ければ、彼女のライフは尽きる――だが、
「――終わらせないわ! 手札の『アンクリボー』を捨て、効果発動! 墓地の『ヘル・ブランブル』を、守備表示で復活させるわ!!」


アンクリボー  /闇

【悪魔族】
このカード名の@Aの効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
@:相手モンスターの攻撃宣言時にこのカードを手札から捨て、
このカード以外の自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として
発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに墓地へ送られる。
A:このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
このターンのエンドフェイズに、自分のデッキ・墓地から「死者蘇生」
1枚を選んで手札に加える。
攻 300  守 200


 思わぬモンスターの登場に、“エヴァリー”は攻撃を中止し、着地。主人であるカーリーの指示を仰ぐ。
「ふうん……手札のカード効果で防ぐとは、やるじゃない。守備表示のモンスターを破壊しても、アナタのライフを削ることはできない」
「『アンクリボー』の効果で特殊召喚したモンスターは、エンドフェイズに墓地へ送られる……さあ、攻撃するのかしら?」
 攻撃してもしなくても、同じこと――ならばと、カーリーは手札に指を掛ける。
「……攻撃は中止。私はカードを1枚セットし、ターンエンドよ!」
 『ヘル・ブランブル』は消滅し、アキのフィールドは再びガラ空きとなる。
 凌いだとはいえ、明らかに劣勢――安堵のため息を漏らしつつも、彼女の表情は険しいままだ。


<十六夜アキ>
LP:1800
場:
手札:2枚
<カーリー>
LP:3000
場:フォーチュンレディ・エヴァリー(攻2800),伏せカード1枚
手札:1枚


 アキがターンを凌いだことに、遊星は胸を撫で下ろす。
 そして同時に、“赤き竜”と“地縛神”――双方の力を宿すカーリーに、強い懸念を抱いていた。
(シンクロとダークシンクロの併用……これはつまり、あのときのゴドウィンと同じ。いや、“地縛邪神”の存在を踏まえれば、それ以上か?)
 かつてのレクス・ゴドウィン――当時、最強の敵であった彼に、遊星はジャック・クロウと共に、3人がかりで辛勝した。
 仮に、この世界にやって来たダークシグナー達が全員、それと同等以上の力を持っているとすれば――状況はあまりにも厳しい。
(こちらは2人だけ……赤き竜の痣も、もうない。この状況で、俺達は本当に――)
 遊星は思考を止め、首を横に振った。
 勝てるかどうかではない、勝たなければならないのだ――そうでなければ、世界は滅ぶ。彼らが滅ぼした世界と同じように。


「――私のターン、ドロー!! 私は……っ!」
 アキは手早くカードを選ぶ。
 劣勢ゆえの焦燥、自身の心に芽生えたそれを払拭せんと、“切札”を喚び出すために。
「私は――『ホワイトローズ・ドラゴン』を召喚! さらにその効果により、手札からチューナーモンスター『レッドローズ・ドラゴン』を特殊召喚!!」


ホワイトローズ・ドラゴン  /闇
★★★★
【ドラゴン族】
このカード名の@Aの効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
@:自分フィールドにドラゴン族または植物族のチューナーが存在する
場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
A:このカードが召喚に成功した時に発動できる。
自分の手札・墓地から「ホワイトローズ・ドラゴン」以外の
「ローズ・ドラゴン」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
B:このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキからレベル4以上の植物族モンスター1体を墓地へ送る。
攻1200  守1000

レッドローズ・ドラゴン  /闇
★★★
【ドラゴン族・チューナー】
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
@:このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。
手札・デッキから「レッドローズ・ドラゴン」以外の
「ローズ・ドラゴン」モンスター1体を特殊召喚する。
このカードが「ブラック・ローズ・ドラゴン」または
植物族SモンスターのS素材として墓地へ送られた場合には、
さらに「冷薔薇の抱香」または「漆黒の薔薇の開華」1枚を
デッキから手札に加える事ができる。
攻1000  守1800


 白と赤、二色の薔薇がフィールドに咲く。
 いや、薔薇ではない。色違いの薔薇竜たちが、“エヴァリー”に吠え、牽制する。
「私はレベル4『ホワイトローズ・ドラゴン』に――レベル3『レッドローズ・ドラゴン』をチューニング!!」
 2体の合計レベルは7。
 2色の薔薇が混ざり合い、赤黒い大輪の薔薇が咲く。
「――冷たい炎が、世界の全てを包み込む! 漆黒の花よ、開け! シンクロ召喚――現れよ『ブラック・ローズ・ドラゴン』!!」


ブラック・ローズ・ドラゴン  /炎
★★★★★★★
【ドラゴン族・シンクロ】
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
@:このカードがS召喚に成功した時に発動できる。
フィールドのカードを全て破壊する。
A:1ターンに1度、自分の墓地から植物族モンスター1体を除外し、
相手フィールドの守備表示モンスター1体を対象として発動できる。
その相手の守備表示モンスターを表側攻撃表示にし、
その攻撃力はターン終了時まで0になる。
攻2400  守1800


「来たわね……十六夜アキのシグナーの竜。ああ、今はもうシグナーじゃなかったかしら?」
 アキの切札を目の当たりにしても、カーリーは悠然とし、動じない。
 恐らくは彼女の世界で、この竜はすでに敗れているのだろう――しかしそれでも、アキはこの竜を信じている。
 かつては痣と同じく、呪わしいと思っていたドラゴン。けれどそれも今では、“5D’s”を繋ぐ大切な存在。心の拠り所とも言えるカードだ。
「余裕でいられるのも今のうちよ……! 『ブラック・ローズ・ドラゴン』の効果発動! フィールド上のカードを全て破壊する!!」
 『フォーチュンレディ・エヴァリー』の攻撃力は2800、『ブラック・ローズ・ドラゴン』の2400では届かない。
 しかしこれでは相討ちどまりだ。
 次のターン、カーリーがモンスターを召喚すれば、直接攻撃を受けることになる――これだけであれば。
「まだよ! 私はこの瞬間、シンクロ素材となった『ホワイトローズ・ドラゴン』『レッドローズ・ドラゴン』の効果発動! “ホワイトローズ”の効果により、デッキから『フェニキシアン・クラスター・アマリリス』を墓地へ送る! さらに“レッドローズ”の効果により、デッキから罠カード『冷薔薇の抱香(フローズン・ロアーズ)』を手札に加え……さらに『ブルーローズ・ドラゴン』を特殊召喚!!」


ブルーローズ・ドラゴン  /闇
★★★★
【ドラゴン族】
@:フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地の、「ブラック・ローズ・ドラゴン」
または植物族モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
攻1600  守1200


 先ほどのカーリーのお株を奪うかのような、目まぐるしいコンボ。
 10年前には有さなかった戦術で、アキは反撃の狼煙を上げる。
「さあ――いきなさい『ブラック・ローズ・ドラゴン』! “ブラック・ローズ・ガイル”!!」

 ――ビュォォォォォォッ!!!

 狂い舞う薔薇の花弁が、フィールドの全てを一掃する。
 カーリーの“エヴァリー”と伏せカード、そしてアキの“ブルーローズ”と“ブラック・ローズ”――その全てが破壊され、墓地へと送られた。
「……ッッ!! 相変わらず、大した威力ね……でもこれで、アナタのフィールドもガラ空き。私の“エヴァリー”を破壊するためだけに、少しやり過ぎじゃないかしら?」
 真っさらになったフィールドで、しかしアキは勝ち誇る。
「それはどうかしら……破壊された『ブルーローズ・ドラゴン』の効果発動! このモンスターが破壊されたとき、墓地の『ブラック・ローズ・ドラゴン』を蘇生できる! 再び咲き誇れ――『ブラック・ローズ・ドラゴン』!!」
 ホワイト、レッド、そしてブルー ――色とりどりの薔薇が咲かせる、モンスター三連コンボ。
 その果てに開く大輪は、彼女に勝利をもたらすべく、大きく咆哮した。


<十六夜アキ>
LP:1800
場:ブラック・ローズ・ドラゴン
手札:2枚
<カーリー>
LP:3000
場:
手札:1枚


「お返しよ……! 『ブラック・ローズ・ドラゴン』のダイレクトアタック! “ブラック・ローズ・フレア”!!」

 ――ズドォォォォォッッ!!!

<カーリー>
LP:3000→600

「……っ! チィッ」
 黒薔薇竜の吐き出した火炎を浴び、カーリーは顔を歪ませる。
 これで彼女の残りライフは3桁、紛れもない逆転だ。
「さらにカードを2枚セットし――ターン終了時、墓地に送った『フェニキシアン・クラスター・アマリリス』の効果発動! 墓地から『薔薇の妖精』を除外することで、守備表示で復活する!!」


フェニキシアン・クラスター・アマリリス  /炎
★★★★★★★★
【植物族】
このカードは「フェニキシアン・シード」またはこのカードの効果
でしか特殊召喚できない。
このカードは攻撃した場合、そのダメージ計算後に破壊される。
自分フィールド上のこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
相手ライフに800ポイントダメージを与える。
また、自分のエンドフェイズ時、このカード以外の自分の墓地の
植物族モンスター1体をゲームから除外する事で、
このカードを墓地から表側守備表示で特殊召喚する。
攻2200  守 0


 巨大な彼岸花が、アキのフィールドに鎮座する。
 その守備力値は0、一見するに攻略は容易い――しかし、それこそが彼女の狙いだ。
(『フェニキシアン・クラスター・アマリリス』が破壊されたとき、相手は800ポイントのダメージを受ける……! カーリーの残りライフは600、そのセーフティラインを超えている)
 自身の優位を確信し、アキは思わず拳を握る。
 加えて、カーリーの手札はわずか1枚。ここからの逆転など容易ではあるまい――アキはそう考える。
 しかし、
「――相手のエンドフェイズ時、墓地の『フォーチュンレディ・エヴァリー』の効果発動! 墓地から“ファイリー”を除外することで、特殊召喚する!!」
「!!? な……っ」
 『フェニキシアン・クラスター・アマリリス』と同種の、容易な再生能力。
 倒したばかりの強力モンスターが瞬時に舞い戻り、アキはたまらず目を見張った。


<十六夜アキ>
LP:1800
場:ブラック・ローズ・ドラゴン,フェニキシアン・クラスター・アマリリス(守0)
  伏せカード2枚
手札:0枚
<カーリー>
LP:600
場:フォーチュンレディ・エヴァリー(攻2800)
手札:1枚


「――私のターン! 知っているわよ、十六夜アキ……その植物族モンスターを破壊させることこそが、アナタの狙い。10年前のアナタも、同じモンスターを使っていたもの」
「……!! くっ」
 カーリーの言葉に、アキは顔をしかめる。
 だが“アマリリス”のダメージ能力は、自分から攻撃することでも発動可能。能力が知られていても、容易には対処できないはずだ。
「甘いわね。私のスタンバイフェイズ時、“エヴァリー”の効果発動! レベルを1つ上昇し、攻撃力・守備力が400アップ……さらに! 相手モンスター1体をゲームから除外できる!!」


フォーチュンレディ・エヴァリー  /光
★★★★★★★
【魔法使い族・シンクロ】
チューナー+チューナー以外の魔法使い族モンスター1体以上
このカード名のBの効果は1ターンに1度しか使用できない。
@:このカードの攻撃力・守備力はこのカードのレベル×400になる。
A:自分スタンバイフェイズに発動する。
このカードのレベルを1つ上げる(最大12まで)。
その後、相手フィールドの表側表示モンスター1体を選んで除外できる。
B:相手エンドフェイズにこのカードが墓地に存在する場合、
自分の墓地からこのカード以外の魔法使い族モンスター1体を除外して発動できる。
このカードを特殊召喚する。
攻 ?  守 ?


「除外ですって……!? それなら! リバースカード、ダブルオープン! 『ローズ・ガード』『冷薔薇の抱香』!!」


ローズ・ガード
(罠カード)
@:フィールドの「ローズ」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。
A:このカードの効果でこのカードを装備したモンスターは破壊・除外されない。

冷薔薇の抱香
(速攻魔法カード)
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
@:自分フィールドの表側表示モンスター1体を墓地へ送って発動できる。
そのモンスターの種族によって以下の効果を適用する。
●植物族:このターンのエンドフェイズに、自分はデッキから2枚ドローし、
その後手札を1枚選んで捨てる。
●植物族以外:デッキからレベル4以下の植物族モンスター1体を手札に加える。


「『冷薔薇の抱香』により『フェニキシアン・クラスター・アマリリス』を墓地へ……! さらに『ローズ・ガード』を『ブラック・ローズ・ドラゴン』に装備! これにより“ブラック・ローズ”は破壊されず、除外もされないわ!!」
「……! ふうん……これで“エヴァリー”の除外効果を受けるモンスターはいないというわけね。やるじゃない。でも――」

フォーチュンレディ・エヴァリー:攻2800→3200

「――私は魔法カード『フォーチュンフューチャー』を発動! 除外された“ライティー”を墓地に戻し、2枚ドローする!」


フォーチュンフューチャー
(魔法カード)
@:除外されている自分の「フォーチュンレディ」モンスター
1体を対象として発動できる。
そのモンスターを墓地に戻す。
その後、自分はデッキから2枚ドローする。


 墓地に“フォーチュンレディ”が存在する限り、“エヴァリー”は復活できる。
 これにより、カーリーは手札を増やしつつ、その回数を増やしたことになる――アキはそれを理解し、顔をしかめる。
「さて……破壊はされずとも、ダメージは受けてもらうわ! 『フォーチュンレディ・エヴァリー』で『ブラック・ローズ・ドラゴン』を攻撃! “フューチャー・バーン”!!」

 ――ズガァァァァッ!!!!

 “エヴァリー”の放った魔力弾が、黒薔薇竜を直撃する。
 装備カードとなった『ローズ・ガード』に守られ、黒薔薇竜が破壊されることはない――しかし、戦闘ダメージは発生する。
 アキは体勢を崩しつつも、爆煙を振り払った。

<十六夜アキ>
LP:1800→1000

「“エヴァリー”はターンを重ねるごとに攻撃力を上げる……次のターンで決めてあげるわ。私はカードを2枚セットし、ターンを――」
「――まだよ! このエンドフェイズ、私は『冷薔薇の抱香』の効果により2枚ドローし、1枚を墓地に捨てるわ!」
 アキは萎えない闘志で、カーリーを見据える。
 戦況としては、自分が劣勢だろう――そう自覚しつつも、勝利を目指してカードを掴む。


<十六夜アキ>
LP:1000
場:ブラック・ローズ・ドラゴン,ローズ・ガード
手札:1枚
<カーリー>
LP:600
場:フォーチュンレディ・エヴァリー(攻3200),伏せカード2枚
手札:1枚


「――私のターン! 良し……私は魔法カード『アースクエイク』を発動! フィールドの全モンスターは、守備表示になる!!」


アースクエイク
(魔法カード)
フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て守備表示にする。


 地面が大きく揺れ、“エヴァリー”はたまらず片膝を折る。
 守備体勢を強いられるが、その守備力値は攻撃力と同じ、3200ポイント。
 これでは『ブラック・ローズ・ドラゴン』が攻撃しても、破壊することができない――このままであれば。
「『ブラック・ローズ・ドラゴン』を攻撃表示に戻し……第2の効果発動! 墓地から『ヘル・ブランブル』を除外することで……“エヴァリー”を攻撃表示にし、その攻撃力を0にする! “ローズ・リストリクション”!!」
 黒薔薇竜は長い2本の蔓を振るい、“エヴァリー”を縛り上げる。
 苦悶する彼女を空中に吊し上げ、その自由を奪った。

フォーチュンレディ・エヴァリー:攻3200→0

「“エヴァリー”は何度でも復活する……でも、プレイヤーは別だわ! アナタのライフは残り600、この攻撃で決める!!」
「……!」
「『ブラック・ローズ・ドラゴン』の攻撃――“ブラック・ローズ・フレア”!!」

 ――ズドォォォォォッッ!!!

 吐き出された火炎が、縛る蔓ごと“エヴァリー”を焼き尽くす。
 これにより2400ポイントのダメージを受け、カーリーは敗北する――彼女に、何の対抗手段もなければ。
「させないわ! トラップカード『ガード・ブロック』! 私への戦闘ダメージを無効にし、カードを1枚ドローする!」


ガード・ブロック
(罠カード)
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「……っ! このターンのエンドフェイズ、“エヴァリー”はまた復活する……このままじゃジリ貧だわ」
 『ローズ・ガード』を装備している限り、『ブラック・ローズ・ドラゴン』が倒されることはない――しかし、それでは勝てない。
(危険だけど……賭けるしかないわね、このカードに!)
 残された最後の手札に指を掛け、アキは覚悟を決める。
 勝負は次のターン――このカードの発動タイミングで、全てが決まる。
「私はカードを1枚セットし――エンドフェイズ! 『フェニキシアン・クラスター・アマリリス』の再生効果は発動しないわ」
「あら、賢明な判断ね。私は当然“エヴァリー”の効果発動! 墓地の“パスティー”を除外し、攻撃表示で特殊召喚! さらに――」
 追撃とばかりに、カーリーは伏せカードを翻す。
「――トラップカード『フォーチュン・インハーリット』! 次の私のスタンバイフェイズ時、“フォーチュンレディ”を2体まで特殊召喚できるわ!!」


フォーチュン・インハーリット
(罠カード)
自分フィールド上に表側表示で存在する
「フォーチュンレディ」と名のついたモンスターが
破壊されたターンに発動する事ができる。
次の自分のスタンバイフェイズ時に手札から
「フォーチュンレディ」と名のついた
モンスターを2体まで特殊召喚する事ができる。


「ここに来て追加召喚……!? 一体何を!?」
 予期せぬカードの発動に、アキは表情を強張らせる。
 アキが“エヴァリー”1体に手を焼くこの状況で、カーリーが更に喚び出さんとするモンスター。それはカーリーのデッキにおける真の切札、世界に1枚しか存在しない、最大最悪の存在。
 そう――彼女のダークシグナーの証たる“地縛神”は、その存在を示すべく、確かな脈動を始めていた。


<十六夜アキ>
LP:1000
場:ブラック・ローズ・ドラゴン,ローズ・ガード,伏せカード1枚
手札:0枚
<カーリー>
LP:600
場:フォーチュンレディ・エヴァリー(攻2800)
手札:2枚




第六章 破滅の運命(さだめ)

「――私のターン! 『フォーチュン・インハーリット』の効果により“フォーチュンレディ”2体を特殊召喚する……来なさい、『フォーチュンレディ・アーシー』『フォーチュンレディ・ウォーテリー』!!」


フォーチュンレディ・アーシー  /地
★★★★★★
【魔法使い族】
@:このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×400ポイントになる。
A:自分スタンバイフェイズに発動する。
このカードのレベルを1つ上げる(最大12まで)。
B:このカードのレベルが上がった時、相手ライフに400ポイントダメージを与える。
攻 ?  守 ?

フォーチュンレディ・ウォーテリー  /水
★★★★
【魔法使い族】
@:このカードの攻撃力・守備力はこのカードのレベル×300になる。
A:自分スタンバイフェイズに発動する。
このカードのレベルを1つ上げる(最大12まで)。
B:自分フィールドに「フォーチュンレディ・ウォーテリー」以外の
「フォーチュンレディ」モンスターが存在し、
このカードが特殊召喚に成功した場合に発動する。
自分はデッキから2枚ドローする。
攻 ?  守 ?


「この瞬間、“ウォーテリー”の効果発動! 他に“フォーチュンレディ”が存在し、特殊召喚に成功したとき、カードを2枚ドローする! そしてスタンバイフェイズ……全ての“フォーチュンレディ”のレベルがアップし、攻撃力・守備力も上がるわ!!」

フォーチュンレディ・エヴァリー:攻2800→3200
フォーチュンレディ・アーシー:攻2400→2800
フォーチュンレディ・ウォーテリー:攻1200→1500

「さらに“アーシー”の効果……相手プレイヤーに400ダメージを与える」
「……っ」

<十六夜アキ>
LP:1000→600

 “アーシー”の呪詛を受け、アキの体が揺らぐ。
 これでライフも残りわずか。“エヴァリー”の攻撃を受ければ、それで敗北は決してしまう――故にアキは強い瞳で、場の伏せカードを一瞥する。
「……まだ手があるみたいね。でもこのカードを見ても、そんな顔ができるかしら?」
 カーリーは3枚の手札から1枚を選び、高らかに掲げてみせた。
「私はフィールドの『フォーチュンレディ・アーシー』と『フォーチュンレディ・ウォーテリー』を――リリース!!」
「!!? まさか……っ」
 アキは目を見開いた。
 2800の攻撃力を持つ“アーシー”までも生け贄とする――そこまでの代償すら厭わない、最上級モンスター。
 カーリーが喚び出すその存在を、アキは即座に推し当てた。
「五千年の時を越え、冥府の扉が開く! 我らが魂を新たなる世界の糧とするがいい! 降臨せよ―― 『地縛神 Aslla piscu(アスラピスク)』!!」
 巨大なる“ハチドリ”が、夜空に舞う。
 フィールドの全てを見下ろす形で、それは悠々と飛翔し――耳をつんざく嘶きは、アキの全身を否応なく強張らせた。


地縛神 Aslla piscu  /闇
★★★★★★★★★★
【鳥獣族】
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
「地縛神」と名のつくカードを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。
フィールド上にフィールド魔法が表側表示で存在しない場合、
このカードの以下の効果は無効となり、このカードはエンドフェイズ時に破壊される。
●このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。
●このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
●フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、
このカードの効果以外の方法でフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊し、
破壊したモンスターの数×800ポイントダメージを相手ライフに与える。
攻2500  守2500


(初めて見る“地縛神”……!! でもその特性のほとんどは、私が戦った“コカライア”と同じハズ!!)
 フィールド魔法カードが存在しなければ“地縛神”は真価を発揮できない――しかしならば何故、このタイミングで召喚したのか。
「不動遊星から聞いていないのかしら……? 私たちが新たに手に入れた“この力”を」
 カーリーがかざす更なるカードに、フィールドの空気は震撼する。


DT(ダークチューナー)ジオグリフ・リライト  /闇
★★★★★★★★★★
【悪魔族・ダークチューナー】
このカードをシンクロ素材とする場合、レベルは2倍になり、
「地縛」ダークシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
@:自分フィールド上に「地縛神」モンスターが存在するとき、
このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚することができる。
攻 0  守 0


「『DTジオグリフ・リライト』を特殊召喚! そして――レベル10『地縛神 Aslla piscu』に、レベル20『DTジオグリフ・リライト』を、ダークチューニング!!」
 巨大な星は弾け、20もの“黒星”となる。それらはハチドリの全身に埋め込まれ、その存在を変容させてゆく。
「――集いし闇を一つとし、新たな破滅の扉を開く! 光無き世界へ――ダークシンクロ!! 降臨せよ、『地縛邪神 Aslla piscu Yana(アスラピスク・ヤナ)』!!!」
 上空に、“邪悪”が誕生する。
 翼の羽ばたきは瘴気を運び、眼下の者たちを死へと誘う。


地縛邪神 Aslla piscu Yana  /闇
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【鳥獣族・ダークシンクロ】
「地縛神 Aslla piscu」−ダークチューナー
「地縛邪神」モンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
@:相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。
A:このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
B:このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けず、
相手の効果モンスターの効果の対象にならない。
C:フィールド上に表側表示で存在するこのカードがフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に存在するカードを全て破壊し、
破壊したカードの数×800ポイントダメージを相手ライフに与える。
攻3500  守3500


「――!? う……っ?」
 アキは目眩を覚え、片膝を折った。
 威圧され、臆しているわけではない。今や医者である彼女は、自身の状態を的確に分析し、理解する。
(これは毒ガスのようなもの……!? 遊星はこれにやられたんだわ!)
 “地縛邪神”――マイナスを極めしこの存在は、人体を穢す“猛毒”の化身なのだ。
 アキはハンカチを取り出し、口元に当てる。
 そして数歩後ずさると、背後に向けて叫んだ。
「――遊星、退がって! ここにいたら危険よ!!」
 振り返る余裕はない。しかし、炎の壁越しの彼に告げる。
 そう伝えても、逃げてはくれないだろう――そう理解しつつも、伝えずにはいられない。
「こんなときに他人の心配……? それとも、その伏せカードに余程の自信があるのかしら?」
「……!!」
 不敵に嘲笑うカーリーに対し、アキは懸命に睨み返す。
 額に汗をにじませながら、自身の狙いを悟られまいと。


<十六夜アキ>
LP:600
場:ブラック・ローズ・ドラゴン,ローズ・ガード,伏せカード1枚
手札:0枚
<カーリー>
LP:600
場:地縛邪神 Aslla piscu Yana,フォーチュンレディ・エヴァリー(攻3200)
手札:1枚


(まだよ……ギリギリまで引きつける。次のターンで、確実に終わらせるために!)
 アキの眼に映る、一筋の光明――その成否により、勝敗は決まる。
「さあ――フィナーレよ!! 『地縛邪神 Aslla piscu Yana』! 十六夜アキにダイレクトアタック!!」
 ハチドリは甲高い嘶きを上げ、その巨大なクチバシをアキに向けて定める。
 そして、それが振り下ろされると同時に――彼女は、伏せカードを開いた。
「これが私の最後の切札――リバーストラップオープン! 『バスター・モード』!!」


バスター・モード
(罠カード)
@:自分フィールドのSモンスター1体をリリースして発動できる。
そのモンスターのカード名が含まれる「/バスター」モンスター1体を
デッキから攻撃表示で特殊召喚する。


「このカードの効果により……私は『ブラック・ローズ・ドラゴン』を“モードチェンジ”させる!!」
「!? モードチェンジ……!?」
 罠カードの効果を受け、黒薔薇竜は“鎧”を纏う。
 更なる“破壊”の力を宿し、顕現する――この戦いに終止符を打つために。
「現れよ――『ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター』!!!」


ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター  /炎
★★★★★★★★★
【ドラゴン族】
このカードは通常召喚できない。
「バスター・モード」の効果でのみ特殊召喚できる。
@:このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。
相手フィールド上のカードを全て破壊する。
A:1ターンに1度、相手フィールドの守備表示モンスター1体を対象として
発動できる。その相手の守備表示モンスターを表側攻撃表示にし、その攻撃力は
ターン終了時まで0になる。
Bフィールド上のこのカードが破壊された時、自分の墓地の
「ブラック・ローズ・ドラゴン」1体を選択し、S召喚扱いで特殊召喚できる。
攻2900  守2300


「そして特殊召喚成功時、『ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター』の効果発動! 相手フィールドのカードを全て破壊する!!」
「!! 何……っ!?」
 カーリーは両眼を見開いた。
 “地縛邪神”は強力な効果耐性を持つ、特別なる存在――相手の魔法・罠カードの効果を受けず、相手モンスターの効果対象にもならない。
 しかしこれは、その穴をついた戦術。対象をとらないモンスター効果ならば、“地縛邪神”にも適用される。
「やりなさい……『ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター』!!」

 ――ビュォォォォッ!!!!!

 竜の咆哮とともに、真紅の花弁が狂い舞う。
 それはカーリーの“エヴァリー”、そして上空の“地縛邪神”を襲う――それぞれの周りを囲い、紅に輝き出す。
「――……!!」
 カーリーは一瞬何かを考えるが、しかし動かない。
「爆ぜろ――“ブラック・ローズ・テンペスト”!!!」

 ――ズガァァァァァンッッッ!!!!!!

 2箇所で起こる、巨大な爆発。
 その爆煙が晴れたのち、上空に“ハチドリ”の姿はない。“エヴァリー”の姿も残っていない。カーリーのフィールドには、1枚のカードも残されていない。
(勝った……っ!!)
 アキはそう思った。
 カーリーに残されているのは、1枚の手札のみ。“エヴァリー”復活前に、黒薔薇竜で直接攻撃すれば、勝利することができる――そう、思った。


<十六夜アキ>
LP:600
場:ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター
手札:0枚
<カーリー>
LP:600
場:
手札:1枚


「――ふっ……くくっ、ははっ、あははははっ」
「……!?」
 カーリーが、不意に笑い出す。
 何故ここで笑うのか、笑えるのか――アキにはまだ分からない。
「おめでとう、十六夜アキ……アナタは“地縛邪神”を倒した。そして、ありがとう――これで終わりよ」
 カーリーは右腕を掲げ、高らかに宣言した。
「この瞬間、『地縛邪神 Aslla piscu Yana』の効果発動!! フィールドから離れたとき、相手フィールドのカードを全て破壊し……破壊したカード1枚につき、800ポイントのダメージを与える!!」
「!!? 何ですって!?」
 アキは驚愕を禁じ得ない。
 アキは元々、ダークシンクロ前の“アスラピスク”の効果すら知らなかった――それ故の過ち。倒されることで発動する効果を持つなど、予想だにしなかったのだ。
 彼女は顔を上げ、上空を見上げる。
 そこに“ハチドリ”の姿はない。しかし大量の、ドス黒い瘴気が漂っている。
 それは結集し、形を成す――“ハチドリ”の姿を模し、クチバシを改めて、黒薔薇竜へと向けた。
(次の私のターンを意識して……『バスター・モード』の発動タイミングを誤った? ギリギリまで待たず、ダークシンクロ召喚まえに発動していれば……あるいは)
 アキは両腕を下げ、脱力した。
 伏せカードも手札も、何の対抗策もない。
 『ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター』を破壊され、800ポイントのダメージを受ける――残りライフ600の彼女は、それで終わりだ。
「……。ごめんね……遊星」
 アキは、ゆっくりと振り返る。
 炎の壁越しの彼に、せめて穏やかに。微笑みながら言葉を紡いだ。

「私――負けちゃった」

 彼がせめて、己を責め続けないように。
 今の自分に告げられる、せめてもの言葉を――最愛の彼への“別れの言葉”を。



「――待て……諦めるな、アキ!! まだ諦めるな!!!」
 炎の壁の外側から、遊星は必死に叫んだ。
 もはや逆転の可能性はない、そんなことは分かっている――けれど、それでも遊星は、心から叫ばずにはいられない。
「やめろ! やめてくれ、カーリー!! 命が欲しいなら俺が変わる!! だからアキだけは助けてくれ!!!」
 瞳美の制止を振り切り、彼は炎の壁へ突っ込む。
 それがただの炎ならば、あるいは突破できたかも知れない――しかし不可視の力が働き、彼は弾かれ、倒れ込んだ。
 アキとカーリーを囲うそれは、何人の侵入も許さない檻だ。このデュエルが終わるまで、消えることはあり得ない。
「ダメですチーフ! もうやめてください!!」
 なおも立たんとする遊星を、瞳美は懸命に抑えた。
 こんなにも取り乱す彼を、初めて見た――いつもの理知的な姿からは、想像もできない。
(そうか……やっぱりアキさんが噂の、チーフにとって一番大切な女性)
 彼女の中に、小さな嫉妬の心が生まれる。
 けれど、だからといって見殺しにしたいわけではない――瞳美にも遊星にも、アキを救うことなどできない。



「フフ……ハハ、アッハハハ!! いいわ! すごくいい……最高の見世物だわ!!」
 そんな彼らの様子を、カーリーは心から愉快げに笑い飛ばした。
「いいわ、不動遊星……アナタは見逃してあげる! 愛する者の死を、その目に焼き付けて――無様に生き長らえるといいわ!!」
 邪悪な笑みを湛えながら、カーリーはアキを見下ろす。
 死を待ち、頭を垂れる彼女に、断頭の刃を落とすために。
「今度こそトドメよ――“アスラピスク・ヤナ”!! 『ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター』を破壊なさい!!」
 瘴気の塊が、急降下してくる。
 アキはすでに視界を閉ざした。死を受け容れつつも、その恐怖から逃れるため。最愛の人にせめて、かすかな悲鳴も聞かせまいと――口をかたく噤んで。
 黒く鋭いクチバシが今、黒薔薇竜を貫く――

 ――バシィィィィィィッッッッ!!!!!!

 貫く――はずだった。
「…………!?」
 アキは異変に気づき、顔を上げる。
 黒薔薇竜はなおも健在だ。半透明のバリアが壁となり、クチバシを受け止めている。
「……はぁ……っ?」
 カーリーは目を丸くし、口をぽかんと開いた。
 一体、果たして何が起きているのか、2人とも理解できない。
 やがてハチドリは煙を上げ、消滅する。同時に、黒薔薇竜を覆うバリアも消失する。
(何が起きたの……!? 私は何もしていない、できなかった)
 “闇のデュエル”において、システムの不具合などあり得ない。
 アキが何もしていないとすれば――そう、答えは一つしかない。


<十六夜アキ>
LP:600
場:ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター(攻2300)
手札:0枚
<カーリー>
LP:600
場:禁じられた聖衣
手札:0枚

禁じられた聖衣
(速攻魔法カード)
@:フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が600ダウンし、
効果の対象にならず、効果では破壊されない。


「な……バカな、私が……!?」
 カーリーは訳が分からない。
 彼女には確かに、手札が1枚残されていた――しかし、それがなぜ発動しているのか。
 フィールド上に存在するモンスターは『ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター』のみ。故に『禁じられた聖衣』はフィールドに出された瞬間、自動的にそれを選択し、その効果を発動している。

「――終わらせて……」

「……!?」

「――早く終わらせて……アキさん」

 消え入りそうな、掠れた声。
 アキの耳に届いたそれは、カーリーから発せられたように思えた。
『――貴様ぁ!!! この期に及んで!! 一体何のつもりだ!!!』
 次の瞬間、カーリーは荒々しく叫び散らした。
 それは、アキに対するものではない。まるで自身に言い聞かせるように、カーリーは怒り狂っている。
 全てのカードを失い、彼女に最早できることはない――程なくして、彼女のターンは強制終了。アキにターンが回ってくる。
「――わ、私のターン! ドロー!」
 アキはなお困惑しつつ、デッキからカードを引き抜く。

 ドローカード:ガード・ヘッジ

(カーリーにはまだ、人間としての人格が残っている……!? だとしたら、救えるかも知れない)
 彼女をダークシグナーの呪縛から解放できれば、このデュエルを中断することもできるのでは――自身の中に生まれた迷いが、次の行動を躊躇させる。
(このままターンを終わらせれば、“エヴァリー”が復活し、“ブラック・ローズ”は除外される。『ガード・ヘッジ』を守備表示で出せば、耐えられるかも知れない……けれど、その後は?)
 突きつけられた、究極の二択。
 自分の命か、カーリーの命か――その判断は、医者となったアキにとって、あまりにも重く残酷だ。
『――待て……攻撃するな! 待ってくれ、十六夜アキ!!』
 カーリーは見苦しく命乞いする。
 しかしここでターンを流せば、状況は逆転。彼女に人間としての人格が戻らなければ、確実にアキを殺しにかかるだろう。
(私……私は……!)
 命の選択――トリアージ。
 どちらを救うべきか、何を優先すべきか――限られた時間の中で、彼女は苦悩の末に選択する。
「――バトル……『ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター』で、プレイヤーにダイレクトアタック!!」

 ――ズドォォォォォッ!!!!

<カーリー>
LP:600→0

 竜から吐き出された炎を浴び、カーリーは宙を舞った。
 彼女の身体はコンクリートの地面に叩きつけられ、動かなくなる。
 そして2人を囲う炎は消え去り、デュエルは確かに終了した。


<十六夜アキ>
LP:600
場:ブラック・ローズ・ドラゴン/バスター
手札:1枚
<カーリー>
LP:0
場:
手札:0枚


 不確かな可能性に賭けることなど、できなかった。
 ここで自分が死ねば、遊星一人に背負わせることになる。この世界を、より多くの人を救うために、彼女は正しい判断をした――間違いなく、正しい決断を。
「カーリー……カーリー!! しっかりして、カーリー!!」
 アキは駆け寄り、カーリーを抱き起こす。
 彼女はその目を細く開くと、力なく笑ってみせた。
「……あり、がとう……アキさん。あなたが“地縛邪神”を倒してくれたおかげで……少しだけ、元に戻れた」
 冥界の王の意志に反し、手札のカードを決闘盤に置いた――それが彼女にできた、せめてもの抵抗。
「聞いて……ダークシグナーは、あと4人。全員が私と同じ……2つの痣を、持っている」
 涙を零すアキに、カーリーは必死に言葉を残す。
「私たちは死んだ人間……もう、帰る世界すらない。だから迷わないで……この世界を、あなたたちの世界を、救うために」
 彼女の身体が、少しずつ軽くなってゆく。
 ダークシグナーは死して覚醒する存在。二度目の死に瀕しながら、彼女は――それでも、穏やかに微笑んだ。
「……ねえ、アキさん。この世界で、あの人、は――……」
 何を問いたかったのだろう、それはもう分からない。
 彼女は灰となり、消え失せた――これが闇のデュエルにおける、敗北者の末路。
 10年前のように、彼女が蘇ることは恐らくないだろう。彼女は所詮、異世界の存在。この世界のカーリーは、今なお生きているのだから。


 戦いには勝った。
 しかし、その実はどうか――完敗だった。
 “赤き竜の痣”によるシンクロモンスターと、更なるダークシンクロモンスター“地縛邪神”――2つの脅威を前に、為す術もなかった。
(私はカーリーに助けられただけ……今の私の力では、ダークシグナーに及ばない)
 悲嘆と自責、そして敗北感に苛まれ、アキは立ち上がることすらできない。
 そして彼女と同じものを、遊星もまた抱いていた。
(俺もアキも……もうシグナーじゃない。デュエリストとして一線も退いている……今の俺たちの力では、奴らには勝てない)
 残るダークシグナーは4人。対するこちらは2人だけ――そして2人ともすでに、実質的には敗北している。

 遊星は彼女に掛ける言葉もなく、呆然と立ち尽くす。
 夜の闇はより深く、冷たく沈んでゆく。月明かりも、星の輝きすらない深淵が――2人を捕らえ、離さなかった。




第七章 トカゲと爪

 心のどこかで、思っていたかも知れない――ダークシグナーは“倒した敵”なのだと。
 自惚れていた。侮っていた。
 苦戦することはあれど、勝てる相手なのだと。
(奴らは異世界で俺たちを倒し……新たな力を手に入れている。今の俺たちとは違う、違いすぎる)
 アキとカーリーのデュエルが終わってから、果たしてどれほど立ち尽くしていただろうか。
「あの……不動チーフ」
 瞳美に呼び掛けられ、遊星は正気に戻る。
 彼女に対して頷くと、おぼつかない足取りでアキに歩み寄った。
「まずはここを離れよう……他のダークシグナーが来る前に」
 それは、生き延びるための発想。
 次のダークシグナーが現れれば、もはや助からない――彼はそれを痛感してしまった。
 KCの開発局に向かい、ルドガーを倒す。そんな当初の決意はもう、どこにも存在しなかった。





 3人はエレベーターで最下層へ降り、駐車場で車に乗った。
 まだ本調子でない遊星は、運転を瞳美に頼み、アキを後部座席に乗せ、助手席に座る。
「ひとまず俺の家に向かおう……郊外にあるから、奴らにも見つかりにくいはずだ」
 おおよその方向を瞳美に告げ、そして車は発進する。
 そこで遊星は一息つくと、これからのことを思案した。
(これからどうする……? 世界中のモーメントが暴走する恐れがあることを、外の人間に知らせるべきか?)
 しかし、伝えたところでどうなるだろうか――今や世界中に存在するモーメント、その全ての付近から全人類が避難するなど、どう考えても不可能だ。
(“フォーチュン”とのリンクを強制的に断てば、それはそれで危険だ……ルドガーが事をどこまで進めているかで、対応も変わってくる。外部からハッキングするにも“フォーチュン”のセキュリティは万全だ。せめて相応の設備がなければ――)
 と、そこで彼の思考は打ち切られる。

 ――キキィィィッ!!!

 急ブレーキした車。
 道を塞ぐように、前方に広がる闇の炎――そしてその前には、D・ホイールに跨がる人間の姿があった。
「ダークシグナー……!? あれは、まさか」
「ミスティ……! ミスティ・ローラ」
 遊星に代わり、アキはその名を口にする。
 ミスティ・ローラ――トップモデルである彼女は、世界規模の有名人だ。
 8年前はアキを“弟の仇”と誤認し、憎しみをぶつけてきた。しかし現在では誤解は解け、和解している――もっともそれは“このミスティ”ではないわけだが。
「ふ、不動チーフ、どうしたら……!?」
 気弱に尋ねる瞳美に、遊星は言葉を呑んだ。
 アクセルを踏み、強引に突破しろ――と言うのは、彼女には酷だろう。そもそもあの炎の壁が、物理的手段で突破できるとは思えない。
「……ここは任せて……遊星」
 彼の思考がまとまるより先に、アキはドアを開いた。
 よろけつつも車外に出て、ミスティと向かい合う。
「――アラ……懐かしい顔ね。十六夜アキ、10年ぶりかしら?」
 余裕げに嗤う彼女から、憎悪の感情はうかがえない。
 アキは努めて冷静に、彼女との対話を試みる。
「ミスティ……私はそうでもないわ。去年、海外で偶然あなたと遭ってね、カフェでお茶したの。最近は女優としても活躍してて、すごく忙しいって。でも楽しそうだったわ」
「……? 私があなたとお茶、ですって? 笑えない冗談だわ」
 不愉快げに眉を寄せるミスティに、アキは懸命に呼び掛ける。
「違うの、ミスティ! 私は、あなたの弟の仇なんかじゃない! 誤解だったの!! だから、あなたが私と戦う理由は――」
「――あるわよ、理由なら」
 熱のない瞳で、ミスティは冷徹にアキを見据える。
「弟の件なら、もう知っているわ。でも、だから何? 私はダークシグナー……生きとし生ける者、全てを滅ぼす者。“冥界の王”の意志のままに」
 彼女の言葉を聞き、アキは歯噛みする。
 カーリーと同じだ――彼女らにとって“冥界の王”とは、果たしてどれほどの存在なのか。
「十六夜アキ……カーリーはアナタが倒したのかしら? 大したものと褒めてあげたいけど、流石に満身創痍のようね」
 ミスティは邪悪に笑う。
 彼女の殺意に気圧されつつも、アキは決闘盤を構える。
「させないわ……遊星だけは必ず守る。たとえ、どんな手段を使ってでも!」
 彼女はカードを振りかざし、勢いよく盤に叩きつけた。
「現れよ――『ブラック・ローズ・ドラゴン』!!」
 彼女の宣言と同時に、黒薔薇竜が現出する。
 ただのソリッドビジョンではない。これはかつて、彼女が忌み嫌った力――“サイコデュエリスト”の異能力。
「ミスティを捕らえなさい――“ローズ・リストリクション”!!」
 長い2本の蔓が、ミスティを強襲する。
 不意打ち気味の先制攻撃で、彼女を無力化する――それがアキの狙い。
 しかし、

 ――バシィィィィィッ!!!

 アキは両眼を見開き、驚愕した。
 黒薔薇竜の蔓は、ミスティに届くことなく弾かれる――見えざる何かによって。
「フッ……フフッ、アハハッ!! 見苦しいわね、十六夜アキ! デュエルで勝てないなら実力行使……? デュエリストの矜持はないのかしら?」
 ミスティは悠々と、1枚のカードを振りかざす。
「いいわ、それがお望みなら……応えてあげる。『バッド・エンド・クイーン・ドラゴン』!!」


バッド・エンド・クイーン・ドラゴン  /闇
★★★★★★
【ドラゴン族】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上の永続魔法カードが3枚以上の場合に特殊召喚できる。
このカードの攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手は手札を1枚選んで墓地へ送り、自分はデッキからカードを1枚ドローする。
また、このカードがフィールド上から墓地へ送られていた場合、
自分のスタンバイフェイズ時に、自分フィールド上に表側表示で存在する
永続魔法カード1枚を墓地へ送る事で、このカードを墓地から特殊召喚する。
攻1900  守2600


 黒薔薇竜の前に、呪われし竜が立ちはだかる。
 これもまた、ソリッドビジョンではない――アキは一瞬怯むが、しかし思い直す。
(あのモンスターは『ブラック・ローズ・ドラゴン』で倒したことがある……押し切れる!!)
 10年前のデュエルを思い返し、声高に宣言した。
「焼き払いなさい――“ブラック・ローズ・フレア”!!」
「――“トラジェディ・ストリーム”」

 ――ズギャァァァァァァッッ!!!!!

 双方の炎が激突する。
 『ブラック・ローズ・ドラゴン』の攻撃力2400に対し『バッドエンド・クイーン・ドラゴン』の攻撃力は1900、この激突は黒薔薇竜に軍配が上がるだろう――これが、デュエルであるならば。
「――!! きゃあああああっ!!!」
 しかし現実は異なる。
 闇の炎は黒薔薇竜を破壊し、アキの身体は吹き飛ばされる。
 遊星は車から飛び出し、彼女のもとへ駆け寄った。
「無様ね、十六夜アキ……サイコデュエリスト“ごとき”の力が、ダークシグナーに勝るとでも?」
「……っっ」
 遊星に抱き起こされながら、アキは顔を歪める。
 デュエルでは勝てない、サイコパワーも通じない――これでは正真正銘、何の打つ手もない。
「もういい、アキ。ここは俺が闘う。お前は休んでいてくれ」
「!! だめよ、遊星!」
 彼女の制止を振り切り、遊星はデッキを掴む。
 しかし、その手が震えている。足も竦み、なかなか立ち上がれない。
(俺は……恐れているのか? ダークシグナーに勝てるビジョンが、全く見えない)
 蜘蛛の“地縛邪神”に敗れたダメージは、肉体だけではない――トラウマとして、彼の精神に深く刻み込まれている。
「……興醒めだわ。アナタ達は所詮“元シグナー”……デュエルをするまでもない。これで終わらせようかしら」
 ミスティは彼らから視線を外し、『バッド・エンド・クイーン・ドラゴン』を見上げる。
 先ほど、アキがしようとしたことの仕返しだ。暴力に訴えれば、一瞬で片がつく。
 ミスティは右手を挙げ、呪いの竜へ指示を出さんとする――しかし意外な闖入者に、目を丸くした。
「……わ、私が……お相手します……っ」
 遊星とアキの前に立つ、第三の人物――彼女の名前は、太倉瞳美。明らかに場違いな彼女は、全身を震わせ怯えながらも、両腕を広げて彼らを庇わんとする。
「……は……っ?」
 ミスティはぽかんと口を開く。猛獣同士の争いに、小動物が割って入るかのごとき愚行。彼女が何をしたいのか、まるで理解できない。
「さがるんだ、太倉くん! 君が敵う相手じゃない!」
 遊星も驚きつつ、彼女に呼び掛ける。
 ルドガーに操られた瞳美は、遊星に勝るほどの力を見せた――しかそれはあくまで、操られていたからに過ぎないだろう。“ダークチューナー”も“地縛神”も持たない今の彼女が、ミスティに敵うとは思えない。
「……“不動遊星”は……私の、ヒーローだから」
「……!?」
 彼女は深く呼吸をし、確かな言葉で、その想いを伝える。
「ずっと、憧れてたんです……あなたに。昔、この街を……私たちを救ってくれた、英雄の背中に」
 彼女は振り返り、遊星とアキを一瞥する。
 この手が届くことは、もう決してないのだろう――そう理解しながらも、彼女は、
「だから……今度は私が。私が2人をお守りします。たとえ私の、この命に代えてでも」
 瞳美は改めて、ミスティと向き合う。
 その様子に、ミスティは目を見張った――震えは止まり、顔つきが変わった。怯えた様子を残しつつも、その眼には確かなデュエリストの光が宿っていた。
「……いいわ、認めてあげる。でも――“ただのデュエリスト”を相手にしてあげるほど、お人好しじゃないのよ」
 ミスティは右手を挙げ、改めて告げる。
「焼き払いなさい――“トラジェディ・ストリーム”」
「――!!」

 ――ズドォォォォッ!!!!!

 容赦なく放たれる闇の炎に、瞳美は反射的に両眼を閉じた。
 しかしどれほど待とうとも、その身が焼かれることはない。
 果たして何が起こったのか、彼女は恐る恐る視界を開く。
「――な……っ」
 ミスティは驚愕し、言葉を失っていた。
 『バッド・エンド・クイーン・ドラゴン』の攻撃、その轟音に紛れて登場した、更なる闖入者。闇の炎を不可解な力で防いだ、その者達の姿に。
 瞳美の前には1台の青いD・ホイールが立ちはだかり――それには、2人の人間が跨がっていた。
 今の一瞬で起こったこと――そのD・ホイールは、ミスティの横を猛スピードで通過し、瞳美の眼前で急停車した。そして、まるで先ほどのミスティと同じように、見えざる何かが壁となり、闇の炎を弾いたのだ。
(そもそも一体どこから……!? 私の背後は完全に塞がっていたはず)
 ミスティは振り返り、再度驚愕させられる。
 炎の壁に、穴が開いている――いかなる物理的手段によっても破られない、絶対なる檻が。

「――もう、相変わらず荒っぽいんだから! もっと丁寧に運転してよね、龍亞!」
「――無茶言うなよ、龍可! 間一髪だったんだぜ!」

 軽口を叩き合いながら、2人はヘルメットを外す。その見知った顔に、遊星は思わず声を上げた。
「――龍亞、龍可! お前たち……どうしてここに!?」
 次いでアキが、別の意味でも驚きながら、目をぱちくりとさせた。
「驚いた……2人とも、本当に大きくなったのね。別人みたい」
 メッセージでのやりとりこそあれ、ずっと海外にいたアキが2人に会うのは、実に8年ぶりのことだった。
 当時13歳だった少年少女は、今や21歳。D・ホイールから降りた龍可は、背丈も大きく伸び、美しく成長していた。アキと同じ目線で、可愛らしく笑いかけてくる。
「お久しぶり! 遊星、アキさん! それから……えっと」
 腰が抜け、座り込んでしまっていた瞳美は、彼女を見上げながら慌てて応える。
「た、太倉です! 太倉瞳美」
 年下のはずの龍可に対し、ついつい敬語を使ってしまう。
 差し伸べられた彼女の手を掴み、瞳美は何とか立ち上がった。

「――龍可……なるほど、3人目の“元シグナー”の登場というわけね。でも、一体どうやって? シティ内の“元シグナー”は、2人だけだったはずよ」
 殺気まじりのミスティの問いに、龍可は振り返り、あっけらかんと答えた。
「もちろん、龍亞のD・ホイールで来たのよ。シティの外から、公道を通ってね」
 何を馬鹿なと思い、しかしミスティは考え直す。
 このシティは現在、破壊不能な特異のバリアに覆われている――しかしそれは、背後の炎壁に近いものだ。それが破られている以上、そもそもの前提が覆る。
「“妖精”たちの力を借りたの。今の状況も、みんなから大体聞いたわ。“異世界”のミスティさん?」
 堂々とした龍可の様子に、ミスティは負けじと一歩踏み出す。
「なるほど……たしかに、アナタにはそんな能力があったわね。そこまでの応用が利くのは意外だけれど……じゃあ、これは知っているのかしら?」
 ミスティが左腕を突き出す――そこに煌々と輝く、赤き竜の痣。龍可が見紛うはずもない、シグナーの証たる“ドラゴン・クロー”。
「――デュエルよ、龍可。10年前、『エンシェント・フェアリー・ドラゴン』を持たないアナタを倒すのは、とても容易かった……今は持っているのでしょう? 成長し、ドラゴンを取り戻したアナタと決着を付ける……とても刺激的だわ。まさかアナタまでデュエルを拒まないわよね?」
 右腕の“トカゲ”と、左腕の“爪”。
 2つの痣を有する彼女に対し、龍可は当然のごとく答える。
「――それは無理。だって私、デッキ持ってきてないし」
 ミスティはぽかんと口を開く。
 元シグナーたる者が、デッキを持参していないなど――果たしてどうして信じられよう。
「本当よ? デュエルアカデミアを卒業した後、今は普通の大学に通ってるの。ニュースを見て、大学からここまで直行してきたから……デッキは自宅に置いてきちゃった」
 嘘、ではない――アカデミア生時代はさておき、現在の龍可には、デッキを携帯する理由がないのだ。
 “妖精”たちの力を借りるにも、カードを媒介とする必要はない。サイコデュエリストとは違い、自身の力で召喚しているわけではないのだから。
「……じゃあ何? アナタも十六夜アキと同じように、デュエル以外での決着がお望みなの?」
 ミスティは不機嫌そうに問い、『バッド・エンド・クイーン・ドラゴン』はそれに呼応する。
 背後に開けられた炎の穴は、すでに塞がっている。“妖精”の力というのも、万能ではなかろう――“ダークシグナー”の有する異能が、後れをとるとは思えない。
「――焦らないで。たしかに、私はあなたとデュエルできないけど……もっと相応しい相手が、ここにいるわ」
 龍可が視線を向けると、待ってましたと言わんばかりに、龍亞はD・ホイールのエンジンを吹かせた。
「――オレが相手だ、ミスティ! D・ホイールに乗ってるってことは、アンタも出来るんだろ? ライディングデュエルで決着つけようぜ!!」
 彼らの思わぬ発言に、ミスティは再び呆れ果てる。
「何を言い出すかと思えば……アナタではなく、その坊やが? 元シグナーですらない彼に、一体何ができるというの?」
 ミスティの苛立ちに、龍可は意味ありげに笑みを零す。
「そう……あなたたちの世界では、やっぱりそうなのね。元シグナーは全部で5人――だとしたら龍亞こそが、あなたたち最大の誤算かも」
「……? 何の話?」
 ミスティは知らない、知る由もない――彼らの世界には現れなかった“ハート”の存在など。
「私は逃げも隠れもしない。龍亞がもしも負けるようなら、それは私の負け……もう抵抗なんてしないわ。だって私たちは、双子だから」
「……!」
 双子の、兄妹――ミスティの思考に、小さなノイズが走った。
 それはかつて、彼女をダークシグナーならしめた根源の記憶。しかしその姿も、もはや霞んでしまった――“冥界の王”の意志に塗り潰されて。
「無茶だ……龍亞! 奴らは10年前とは違う、更なる力を手に入れている! ここは俺が相手をする! お前達は――」
「――大丈夫よ、遊星」
 龍亞ではなく龍可が、遊星の言葉を遮る。
「2人の様子を見れば分かる……でも信じて。10年前と違うのは、相手だけじゃない……そうでしょ? 龍亞!」
 龍亞もまた笑みを零し、ヘルメットを被り直す。
「ああ! サンキュー、龍亞! 見ててよ、遊星……オレはもうピット要員じゃない。“チーム5D’s”の、D・ホイーラーなんだ!!」
 龍亞はミスティを見据え、彼女もまた睨み返す。
「……いいわ、思い知らせてあげる。アナタのその考えが、どれほど幼稚で愚かしいか……アナタの兄の屍でね」





 2台のD・ホイールが並び、彼らを、闇の炎が包んでゆく。
 その異能にシステムが反応し、道路が動き、形を変えてゆく。巨大なる“トカゲ”の地縛神を形どる――夜闇に輝く、炎のデュエルレーンを形成した。
「どう? 怖じ気づいたかしら。もう謝ったって許せないわよ、坊や?」
「誰が謝るもんか! いくぜ、『スピード・ワールドA(アクセル)』セット!!」


スピード・ワールドA
(フィールド魔法カード)
「Sp(スピードスペル)」と名のついた魔法カード以外の魔法カードをプレイした時、
自分は2000ポイントのダメージを受ける。
お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用の
スピードカウンターをこのカードの上に1つ置く。(お互い12個まで)
自分用スピードカウンターを取り除く事で、以下の効果を発動する。
●4個:自分フィールド上の表側表示モンスターすべての攻撃力は、
ターン終了時まで200ポイントアップする。
●6個:手札から通常召喚可能なレベル4以下のモンスター1体をフィールドに出す。
●8個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●10個:フィールド上に存在するカードを1枚破壊する。


「へへっ、最近導入された新しい“スピード・ワールド”だ! 効果を説明してやろうか?」
「結構よ。もう十分把握できているから」
 ミスティはここに来る前に、すでに2人のD・ホイーラーを葬っている。
 そもそもライディングデュエルは、得てして“地縛神”と相性が良いのだ。除去不可能なフィールド魔法が発動されるため、“地縛神”は無類の強さを誇る。

「「――ライディングデュエル! アクセラレーション!!」」

 2台は同時に発進し、開始される――スピードの世界で進化したデュエル、“ライディングデュエル”が。


<龍亞>
LP:4000
場:
手札:5枚
SC(スピードカウンター):0
<ミスティ>
LP:4000
場:
手札:5枚
SC:0





「――さてと……ここからじゃ分からないから、“これ”で観戦しましょ」
 龍可は背中のリュックから、タブレットを取り出す。
 電源を入れ、龍亞のD・ホイールのシステムとリンクさせる――程なくして液晶画面に、2人のデュエル状況が映し出された。
「龍可……さっきはああ言っていたが、本当に大丈夫なのか? 龍亞がプロのライディングデュエリストとして活躍していることは知っている。だが」
 龍可は首を横に振り、タブレットを遊星に差し出した。
「私だって本当は心配よ……でも、信じてあげて遊星。龍亞はきっと、この日のために頑張ってきた……あなたの代わりに走るために」
 画面の中では今まさに、デュエルが動こうとしている。



<龍亞>
SC:0→1
<ミスティ>
SC:0→1

「――私の先攻よ! 私は『レプティレス・ナージャ』を攻撃表示で召喚!!」


レプティレス・ナージャ  /闇

【爬虫類族】
@:このカードは戦闘では破壊されない。
A:このカードがモンスターと戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に発動する。
そのモンスターの攻撃力を0にする。
B:このカードが守備表示で存在する場合、自分エンドフェイズに発動する。
表側守備表示のこのカードを表側攻撃表示にする。
攻 0  守 0


「さらにカードを3枚セットし、ターンエンド!!」
 前方を走るミスティは、早々にターンを終える。
 3枚ものカードを伏せ、攻撃力0のモンスターを攻撃表示――明らかに攻撃を誘っている。
「……オレのターンだ! ドロー!」

<龍亞>
SC:1→2
<ミスティ>
SC:1→2

「オレはカードを2枚セットし、『マッシブ・ウォリアー』を守備表示で召喚! ターンエンドだ!」


マッシブ・ウォリアー  /地
★★
【戦士族】
このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。
攻 600  守1200


 ここは攻め込まず、様子見。
 龍亞は無難な立ち上がりで、ミスティを追いつつターンを返す。


<龍亞>
LP:4000
場:マッシブ・ウォリアー,伏せカード2枚
手札:3枚
SC:2
<ミスティ>
LP:4000
場:レプティレス・ナージャ,伏せカード3枚
手札:2枚
SC:2


「思ったよりも慎重ね……それなら私はターン開始前に、このカードを発動させてもらう。永続トラップ『神の恵み』!」


神の恵み
(永続罠カード)
@:このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
自分がカードをドローする度に、自分は500LP回復する。


「そして私のターン! カードをドローすることで、ライフを500回復する!」

<龍亞>
SC:2→3
<ミスティ>
SC:2→3

<ミスティ>
LP:4000→4500

「さらに! 永続トラップ、ダブルオープン――『スピリットバリア』『群雄割拠』!!」


スピリットバリア
(永続罠カード)
自分フィールド上にモンスターが存在する限り、
このカードのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

群雄割拠
(永続罠カード)
@:このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
お互いのフィールドにそれぞれ1種類の種族のモンスターしか
表側表示で存在できない。
お互いのプレイヤーは自身のフィールドの表側表示モンスターの
種族が2種類以上の場合には
1種類になるように墓地へ送らなければならない。


「永続トラップを3枚……? 何のつもりだ?」
 ミスティの不可解なプレイングに、龍亞は警戒を強める。
 その答えを示さんと、彼女は手札から1枚を掲げた。
「見せてあげるわ! 場に永続罠カードが3枚以上存在するとき、このモンスターを特殊召喚できる――『バッド・エンド・キング・ヒュドラ』!!」


バッド・エンド・キング・ヒュドラ  /闇
★★★★★★★
【爬虫類族】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上の永続罠カードが3枚以上の場合に特殊召喚できる。
@:1ターンに1度、自分フィールドの永続罠カード1枚を墓地に送る
ことで、相手フィールドのカード1枚を破壊できる。
A:このカードが相手によって破壊され、フィールド上から墓地へ
送られた時に発動する。自分フィールドの永続罠カードを全て破壊し、
その枚数分カードをドローする。
攻2600  守1900


 禍々しい、9つの首を持つ大蛇――巨大な“ヒュドラ”が出現する。
 予想外の手段での上級召喚に、龍亞は驚き、目を見開いた。
「驚くにはまだ早いわね! 『バッド・エンド・キング・ヒュドラ』の効果発動! 『神の恵み』を墓地に送ることで、アナタの壁モンスター『マッシブ・ウォリアー』を破壊する! “トラジェディ・バイト”!!」

 ――バリィィィィンッ!!!

 2つの大蛇の牙が、2枚のカードを噛み砕く。
 これにより、龍亞のフィールドからモンスターはいなくなる―― 一見するに、ガラ空き状態だ。
「フフ、早速後悔させてあげる。バトルよ! 『バッド・エンド・キング・ヒュドラ』、プレイヤーにダイレクトアタック!!」
 9つの大蛇の首が、闇の波動を吐き出す――対する龍亞は動じず、伏せカードを開いた。
「させないよ! トラップカード『くず鉄のかかし』!!」


くず鉄のかかし
(罠カード)
@:相手モンスターの攻撃宣言時に、
その攻撃モンスター1体を対象として発動できる。
その攻撃を無効にする。
発動後このカードは墓地へ送らず、そのままセットする。


 ――バシィィィィッ!!!

 出現した“かかし”が身代わりとなり、闇の波動を受け止める。
 さらにこの罠カードは失われることなく、再びフィールドに伏せられる。
「フン……やるわね。ならばカードを1枚セットし、ターンエンド!」
 最上級モンスターを召喚し、序盤の流れはミスティが掴んでいる――しかし龍亞の瞳には、一片の弱気すら映っていない。


<龍亞>
LP:4000
場:伏せカード2枚
手札:3枚
SC:3
<ミスティ>
LP:4500
場:バッド・エンド・キング・ヒュドラ,レプティレス・ナージャ,スピリットバリア,
  群雄割拠,伏せカード1枚
手札:1枚
SC:3


「『マッシブ・ウォリアー』と『くず鉄のかかし』……? 龍亞が使っているデッキは、まさか」
 遊星の疑問に、龍可は頷く。
 憧れの人の前で、憧れのカードを振るい――彼は今、大きく羽ばたかんとしている。



「――オレのターンだ! ドロー!!」

<龍亞>
SC:3→4
<ミスティ>
SC:3→4

「いくぜ! オレは『ジャンク・シンクロン』を召喚! その効果により墓地から『マッシブ・ウォリアー』を特殊召喚する!!」
 それは龍亞にとって、10年前から見慣れ、憧れてきたカードだ。
 ずっと追い続けた背中を、憧れてきたカードを――その手に掴み、振りかざす。
「オレは! レベル2『マッシブ・ウォリアー』に、レベル3『ジャンク・シンクロン』をチューニング!!」
 チューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』は、身体についたロープを引き、エンジン音を轟かせる。
 チューナーは3つの“星”となり、『マッシブ・ウォリアー』の周囲を駆け巡る――そしてひとつとなり、新たなモンスターへと昇華する。
「集いし星が……新たな力を呼び起こす! 光さす道となれ! シンクロ召喚――いでよ、『ジャンク・ウォリアー』!!」


ジャンク・ウォリアー  /闇
★★★★★
【戦士族・シンクロ】
「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
@:このカードがS召喚に成功した場合に発動する。
このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル2以下の
モンスターの攻撃力の合計分アップする。
攻2300  守1300


 その光景に、遊星は息を呑んだ。
 龍亞の背中が、重なって見える――かつての自分、8年前の自身の姿に。



「いくぜ、ダークシグナー! ここから反撃開始だ!!」

 龍亞は声高に叫びながら、アクセルを強く踏み込んだ。


<龍亞>
LP:4000
場:ジャンク・ウォリアー,伏せカード2枚
手札:3枚
SC:4
<ミスティ>
LP:4500
場:バッド・エンド・キング・ヒュドラ,レプティレス・ナージャ,スピリットバリア,
  群雄割拠,伏せカード1枚
手札:1枚
SC:4




第八章 未知なるハート

「――『ジャンク・ウォリアー』!? まさか……遊星と同じ“ジャンクデッキ”なの!?」
 アキは驚きの声を上げる。
 龍亞が8年前に使っていたのは“ディフォーマーデッキ”――低レベルモンスター同士の連携を主軸に戦う、機械族デッキだ。遊星の“ジャンクデッキ”と通ずるところもあるが、しかし明確に異なる。似て非なるデッキだ。
「公式戦で使ったことはないの。今度、クロウの代わりに参加するプロチームのデビュー戦で初お披露目する予定で……もちろん、遊星のデッキと全く同じわけじゃないけどね」
 遊星の顔色をうかがい、龍可は微笑む。
 彼は食い入るように、タブレットを見つめている――まるでかつての自分のような、今の龍亞の姿を。





「――バトルだ!! 『ジャンク・ウォリアー』で『バッド・エンド・キング・ヒュドラ』を攻撃!!」
「!? 攻撃力2300で……攻撃してくる?」
 龍亞の宣言に、ミスティは眉をひそめる。
 『バッド・エンド・キング・ヒュドラ』の攻撃力2600、そのままでは届かない。だから龍亞は当然に、伏せカードを開いた。
「トラップカード『スキル・サクセサー』! 『ジャンク・ウォリアー』の攻撃力を、ターン終了時まで400アップするぜ!!」


スキル・サクセサー
(罠カード)
自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで400ポイントアップする。
また、墓地のこのカードをゲームから除外し、
自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択した自分のモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、
自分のターンにのみ発動できる。


「いけ――『ジャンク・ウォリアー』! “スクラップ・フィスト”!!」

 ――ズガァァァァッ!!!

 『ジャンク・ウォリアー』の加速した拳が、ヒュドラの胴を撃ち、破砕する。
 その衝撃に、ミスティのD・ホイールはわずかに揺らぐが、しかし減速には至らない。
「やるわね……けれど『スピリットバリア』の効果により、私へのダメージは0になる。さらに破壊された『バッド・エンド・キング・ヒュドラ』の効果発動! 永続トラップ2枚を破壊し、カードを2枚ドロー!!」
 ミスティは手札を3枚に増やし、戦略を切り替える。
 上級モンスターを失ったのは痛いが、しかしこの程度なら想定内だ。
「少しは驚かされたけど……不動遊星の猿真似デッキ? そんな紛い物で、どこまで戦えるかしらね?」
 余裕顔の彼女に対し、龍亞は手札から1枚を選ぶ。
「ただの猿真似かどうか……見せてやるよ! 戦闘ダメージは与えられなかったけど、オレにはこのカードがある。『Sp−ソニック・バスター』! 『ジャンク・ウォリアー』の攻撃力の半分のダメージを与えるぜ!!」


Sp−ソニック・バスター
(魔法カード)
自分用のスピードカウンターが4つ以上ある場合発動する事ができる。
自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力の半分のダメージを
相手プレイヤーに与える(この効果で相手のライフポイントが
0になる場合、この効果は発動できない)。


 ――バシィィィィィッ!!

「――!! く……っっ」

<ミスティ>
LP:4500→3150

 魔法効果の直撃を受け、ミスティは体勢を崩す。
 その隙をつき、龍亞は彼女を追い越し、前に出た。
「へへっ、見たか! オレはこれでターンエンド!」
 先手をとり、調子に乗る龍亞。ミスティはそんな彼を、鋭く睨めつけた。


<龍亞>
LP:4000
場:ジャンク・ウォリアー,伏せカード1枚
手札:2枚
SC:4
<ミスティ>
LP:3150
場:レプティレス・ナージャ,伏せカード1枚
手札:3枚
SC:4


<龍亞>
SC:4→5
<ミスティ>
SC:4→5

「……私のターン。身の程知らずには灸を据えてあげるわ――『レプティレス・ガードナー』を召喚! さらに永続トラップ『シェイプシスター』! このカードは、レベル2のチューナーモンスターとして特殊召喚されるわ」


レプティレス・ガードナー  /水
★★★★
【爬虫類族】
自分フィールド上のこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
デッキから「レプティレス」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
攻 0  守2000

シェイプシスター
(永続罠カード)
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
@:このカードは発動後、通常モンスター(悪魔族・チューナー・
地・星2・攻/守0)となり、モンスターゾーンに特殊召喚する。
このカードは罠カードとしても扱う。


「トラップモンスターのチューナー……!? シンクロ召喚か!」
 龍亞は警戒し、顔を強張らせる。
 これでミスティのフィールドには、モンスターが3体。シンクロ召喚可能なレベルは3、6、あるいは――7。
「“悪夢”を見せてあげるわ! 私はレベル1『レプティレス・ナージャ』とレベル4『レプティレス・ガードナー』に、レベル2『シェイプシスター』をチューニング!!」
 彼女の左腕の痣――“ドラゴン・クロー”が強く輝く。
 7つの星は一つとなり、新たなモンスターへと生まれ変わる――しかしその異変に、龍亞はいち早く気がついた。
「――聖なる守護の光、いま交わりて永久(とわ)の命となる! シンクロ召喚――降誕せよ『妖精竜 エンシェント』!!」
「――!!?」
 龍亞は驚愕のあまり凍り付く。これはまさしく“悪夢”――見知った竜の邪悪な双眸が、彼に向けて輝きを放った。


妖精竜 エンシェント  /闇
★★★★★★★
【ドラゴン族・シンクロ】
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分のターンにフィールド魔法カードが発動した場合、
デッキからカードを1枚ドローする。
「妖精竜 エンシェント」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
また、1ターンに1度、フィールド魔法カードが表側表示で存在する場合、
フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して破壊できる。
攻2100  守3000


「“エンシェント・フェアリー・ドラゴン”……!? そんな、一体どうして!?」
 龍亞はたまらず取り乱す。
 それは龍可が所持する、シグナーの竜のカードだ――しかし、聖なる存在であるはずのそれは今、ドス黒いオーラを纏っている。外見的特徴は一致すれども、とても同一の存在とは思えない。
「フフ、いい反応ね。これは仲間から譲り受けたのよ……“もう用済みだから”って。この痣を持つ私が使うのは、至極当然のことでしょう?」
 龍亞は歯を噛み締める。
 “エンシェント・フェアリー・ドラゴン”が、かつての仲間が奪われ、対峙させられている――たとえそれが“異世界”の存在でも、到底許せることではない。
「……でも素直に言うことを聞かないから、私好みに“調教”したの。今からその力、存分に見せてあげるわ」
 ミスティが右腕を掲げると、“妖精竜”は低く唸る。
「――『妖精竜 エンシェント』の効果発動! 1ターンに1度、場にフィールド魔法カードが存在するとき、攻撃表示モンスター1体を破壊できる! 対象は『ジャンク・ウォリアー』よ……“プレイン・バック”!!」
 “妖精竜”は甲高い嘶きを上げ、その背の翅が邪悪に輝く。
 呪いの音波は『ジャンク・ウォリアー』を穢し、その身は崩れ落ち、消滅した。
(オレが知る効果と違う……!? ダークシグナーの力で、作り替えられてるのか!?)
 頼みの上級モンスターを容易く破壊され、龍亞の顔に焦燥が浮かぶ。
「これでアナタに壁モンスターはいない……でもその伏せカード、『くず鉄のかかし』があったわね。それなら――『Sp−パワー・サイクロン』!!」


Sp−パワー・サイクロン
(魔法カード)
自分用のスピードカウンターが4つ以上ある場合発動する事ができる。
自分フィールドの攻撃表示モンスター1体の攻撃力を1000下げることで
フィールドの魔法・罠カード1枚を選択し、破壊する。
ターン終了時、この効果を受けたモンスターは守備表示になる。


「『妖精竜 エンシェント』の攻撃力を1000下げることで……『くず鉄のかかし』を破壊!!」
 一陣の突風が、伏せカードを吹き飛ばす。
 これで龍亞のフィールドは、正真正銘ガラ空きとなる。
「攻撃力は物足りないけど……お返しよ! 『妖精竜 エンシェント』のダイレクトアタック! “エターナル・ダークネス”!!」

 ――カッ!!

<龍亞>
LP:4000→2900

「――っ! く……っ」
 “妖精竜”の全身が邪悪に輝き、龍亞のD・ホイールは揺らぐ。
 そして横に並んできたミスティを、龍亞は怒りとともに睨んだ。
「いいわ、坊や……もっと怒りなさい。私はカードを1枚セットし……『Sp−パワー・サイクロン』の効果により、『妖精竜エンシェント』を守備表示に変更。ターンエンドよ」
 彼女は龍亞を追い越し、余裕でターンを終わらせた。


<龍亞>
LP:2900
場:
手札:2枚
SC:5
<ミスティ>
LP:3150
場:妖精竜 エンシェント(守備3000),伏せカード1枚
手札:1枚
SC:5


「――エンシェント・フェアリー……そんな……」
 一方で龍可は、モニター越しに映る“妖精竜”の変わり果てた姿に、沈痛な面持ちをしていた。
 上着のポケットから1枚のカードを取り出す。それは『エンシェント・フェアリー・ドラゴン』のカード。
 無論、この世界の“妖精竜”は無事だ――デッキは持参していないものの、その1枚だけは今も持ち歩いている。彼ら“5D’s”の絆の象徴として。
 哀しげに呼応するそのカードに対し、彼女は首を横に振り、心を強く持った。
 嘆いてばかりはいられない。この悲劇を乗り越えなければ――この世界に、同じ末路を辿らせないために。



<龍亞>
SC:5→6
<ミスティ>
SC:5→6

「――オレのターン! オレは『Sp−エンジェル・バトン』を発動! デッキから2枚ドローし、1枚を墓地に送る!」
 手札交換を済ませ、龍亞は改めて“妖精竜”を見上げる。
 守備力3000、そして毎ターンのモンスター破壊能力はかなり厄介だ。しかし彼が、その竜を“敵”として認識することはない――憎悪とは違う、慈愛の心で“妖精竜”を見据える。
(待ってろよ……“エンシェント・フェアリー・ドラゴン”!)
 彼の脳内にはすでに、次にとるべき戦術が描き出されていた。
「オレは手札を1枚捨て、『ジェット・シンクロン』の効果発動! 墓地から守備表示で特殊召喚する!」


ジェット・シンクロン  /炎

【機械族・チューナー】
このカード名の@Aの効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
@:このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「ジャンク」モンスター1体を手札に加える。
A:このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。
このカードを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
攻 500  守 0


 『Sp−エンジェル・バトン』により墓地へ送ったモンスターの効果発動――そしてさらに、コンボは繋がる。
「さらに! 墓地に送った『ボルト・ヘッジホッグ』の効果発動! 守備表示で特殊召喚だ!」


ボルト・ヘッジホッグ  /地
★★
【機械族】
@:自分メインフェイズに発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果は自分フィールドにチューナーが存在する場合に発動と処理ができる。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
攻 800  守 800


「そして最後に手札から『スピード・ウォリアー』を召喚! 攻撃表示!」
 龍亞のフィールドに一気に、3体ものモンスターが並ぶ。
 そのいずれもが“妖精竜”の守備力3000を超えることはできない。しかし内1体は“チューナー”だ。となれば、彼が次にとる戦術は――
「――いくぜ! オレはレベル2『ボルト・ヘッジホッグ』『スピード・ウォリアー』に、レベル1『ジェット・シンクロン』をチューニング!!」
 『ジェット・シンクロン』が“星”となり、残る2体の周囲を駆け巡る。5つの星が一つとなり、新たなモンスターへと昇華する。
「集いし風が……強く激しく吹き荒れる! 光さす道となれ! シンクロ召喚――飛べ、『ジェット・ウォリアー』!!」


ジェット・ウォリアー  /炎
★★★★★
【戦士族・シンクロ】
「ジェット・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
「ジェット・ウォリアー」の@Aの効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
@:このカードがS召喚に成功した場合、
相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
A:このカードが墓地に存在する場合、
自分フィールドのレベル2以下のモンスター1体をリリースして発動できる。
このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
攻2100  守1200


 爆音を響かせながら、機械の戦士が飛翔する。
 その攻撃力値は2100、やはり“妖精竜”の守備力には及ばない――しかしこの状況を打開する、特殊能力を秘めている。
「『ジェット・ウォリアー』の効果発動! このカードのシンクロ召喚に成功したとき、相手フィールドのカード1枚を手札に戻す! オレが選ぶのはもちろん『妖精竜 エンシェント』!!」
 『ジェット・ウォリアー』の起こす暴風が、“妖精竜”を吹き飛ばす。
 シンクロモンスターが手札に戻ることはないため、エクストラデッキへ――破壊することなく、フィールドから消し去る。
(オレが戦う相手は“エンシェント・フェアリー・ドラゴン”じゃない……! オレが倒すべきなのは!!)
 “妖精竜”が消え去り、もはや遮るものはない。
 前を走るミスティの姿を、その眼ではっきりと捉えた。
「バトルだ!! 『ジェット・ウォリアー』でダイレクトアタック――“サイクロン・ナックル”!!」
「――!! う……っ」
 刹那、ミスティは逡巡した。
 ここで罠カードを使えば、大ダメージは回避できる――しかしここは、敢えて見送る策を選ぶ。
「まだだ! この瞬間、トラップカード『スキル・サクセサー』の効果発動! 墓地からこのカードを除外することで、このターン、攻撃力を800アップさせる!!」

ジェット・ウォリアー
攻:2100→2900

 ――ズガァァァァァァァッ!!!

「!! チィ……ッッ」
 風を纏う強烈な拳打を浴び、ミスティのD・ホイールはクラッシュしかける。
 しかし彼女のライフはまだ、僅かながら残されている――体勢を整え、再び前を見据えた。

<ミスティ>
LP:3150→250

 再び前後は入れ替わり、龍亞はミスティの先を走る。
 彼女のライフは残りわずかだ――その事実は、彼の心に少なからぬ余裕を生む。
 しかし彼は知らない、知る由もない。真に追い詰められているのは、彼女ではなく――自分自身なのだと。


<龍亞>
LP:2900
場:ジェット・ウォリアー
手札:1枚
SC:6
<ミスティ>
LP:250
場:伏せカード1枚
手札:1枚
SC:6


 この窮地において、彼女は冷ややかに微笑んだ。
 感じたのだ――デッキトップに眠るカード、その確かなる鼓動を。
「私のターン――ドロー!!」

<龍亞>
SC:6→7
<ミスティ>
SC:6→7

「リバーストラップオープン『アポピスの化身』! このカードはモンスター扱いとなり、フィールドに特殊召喚される!!」


アポピスの化身
(永続罠カード)
@:自分・相手のメインフェイズに発動できる。
このカードは発動後、通常モンスター
(爬虫類族・地・星4・攻1600/守1800)となり、
モンスターゾーンに特殊召喚する。
このカードは罠カードとしても扱う。


 出現した蛇の戦士を目の当たりにし、龍亞はそれを訝しむ。
(トラップモンスターカード……!? さっき発動して壁にすれば、ダメージを受けずに済んだのに?)
 彼女にはその理由があった。
 大ダメージと引き換えに、このターン“切札”を喚び出すために。
「さらにフィールド魔法『スピード・ワールドA』の効果発動! スピードカウンターを6つ取り除き、手札から『レプティレス・ゴルゴーン』をフィールドに喚び出す!!」

<ミスティ>
SC:7→1


レプティレス・ゴルゴーン  /闇
★★★
【爬虫類族】
このカードが攻撃を行ったダメージ計算後、
このカードと戦闘を行ったモンスターは攻撃力が0になり、
表示形式を変更できない。
攻1400  守1400


 彼女のフィールドに、2体のモンスターが並ぶ。
 そして残された手札は1枚。それを召喚する権利が、彼女には残されている。
「私はフィールドのモンスター2体を……リリース!! 我らが命蘇らせし神よ! さあ、この魂を捧げる! 降臨せよ――『地縛神 Ccarayhua(コカライア)』!!」


地縛神 Ccarayhua  /闇
★★★★★★★★★★
【爬虫類族】
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
「地縛神」と名のつくカードを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。
フィールド上にフィールド魔法が表側表示で存在しない場合、
このカードの以下の効果は無効となり、このカードはエンドフェイズ時に破壊される。
●このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。
●このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
●このカードがこのカード以外の効果によって破壊された時、
フィールド上のカードを全て破壊する。
攻2800  守1800


 地響きとともに“巨大トカゲ”が出現する。
 背後に迫る巨大な脅威、その圧倒的なプレッシャーに、龍亞の背筋を戦慄が走った。
「思ったより楽しめたわ、坊や……たとえライフが残っても、この一撃に耐えられるかしらね?」
 トカゲはギョロリと眼を動かし、眼下の龍亞に狙いを定める。
 これこそが“地縛神”の特性――相手フィールドにモンスターがいようとも、その攻撃は相手プレイヤーに直接届く。
「『地縛神 Ccarayhua』――プレイヤーにダイレクトアタック!!」

 ――ズドォォォォォォォンッッ!!!!!

「――うわああああああっ!!!」
 振り下ろされた掌が、龍亞を掠めて地面を叩く。
 その巨大な衝撃に、彼はたまらず悲鳴を上げ――D・ホイールは高く、宙空に舞い上げられた。

<龍亞>
LP:2900→100


<龍亞>
LP:100
場:ジェット・ウォリアー
手札:1枚
SC:7
<ミスティ>
LP:250
場:地縛神 Ccarayhua
手札:0枚
SC:1




第九章 その背にこの手が届くまで

 自由のきかない空中において、龍亞は何とか体勢を整えようとしていた。
 コースを走れないD・ホイーラーに、ターンは回ってこない――ここでD・ホイールから落車すれば、デュエルは強制中断し、龍亞の負けだ。ミスティは龍亞だけでなく龍可も、そしてここにいる全員の命を奪うだろう。

 ――ドンッ!! ギャギャギャギャギャッ!!!

「――っ!! ぐううっ……!!!」
 龍亞は着地の衝撃に耐え、何とかこらえきる。
 大きく減速しつつも、D・ホイールは安定を取り戻す。
 龍亞は安堵のため息を漏らしつつ、顔を上げる――距離の空いてしまったミスティに追いつくべく、アクセルを強く踏み込んだ。
「あら、残念……まだ粘るのね。私はこれでターンエンド。次のターンで確実に終わらせてあげるわ」
 ミスティは落ち着き払ってターンを終える。
 一方で、龍亞は勝機を見いだす――残りわずかなライフながらも、懸命にカードを掴む。
「オレのターン――ドロー!!」

<龍亞>
SC:7→8
<ミスティ>
SC:1→2

<龍亞>
LP:100
場:ジェット・ウォリアー
手札:2枚
SC:8
<ミスティ>
LP:250
場:地縛神 Ccarayhua
手札:0枚
SC:2


「知ってるぞ……“地縛神”の弱点! “地縛神”は相手モンスターの攻撃対象にならない……つまり今ならミスティ、アンタに直接攻撃できる!!」
「……!」
 彼女のフィールドに“地縛神”以外のカードはない。
 今なら『ジェット・ウォリアー』の攻撃を妨げる手段はないはず――彼はそう信じ、声高に宣言する。
「バトルだ!! 『ジェット・ウォリアー』、ミスティにダイレクトアタック!!」
 背部のジェット噴射で勢いをつけ、『ジェット・ウォリアー』は再び拳打を放つ。
 この一撃が決まれば、ミスティのライフは尽きる。彼女に抵抗する素振りはなく、しかし代わりに――嘲笑った。

 ――バシィィィィィィッッ!!!

「!!? え……っ?」
 龍亞は目を丸くする。
 ミスティが何らかのカードを発動した様子はない。しかし『ジェット・ウォリアー』の攻撃は防がれてしまった――見えざる壁に阻まれて。
「“地縛神”の弱点……? アナタは一体、何年前の話をしているのかしら?」
「……!!!」
 龍亞は否応なく悟る。
 ダークシグナーのフィールドに“地縛神”しか存在しなければ、直接攻撃できる――それはもう“10年前”の話なのだ。
 シグナーを倒し、イリアステルまでも倒した彼らはすでに、そんな弱点など克服している。“すでに倒した敵”などではない――それを凌駕する、新たなる敵なのだ。





「――龍亞……くそ、このままでは!」
 遊星は眉根を寄せ、表情を歪ませる。
 10年前のダークシグナー相手なら、今のターンで勝てていただろう。しかしやはり、彼らは10年前の比ではない。
 龍亞はこの10年で、確かに成長しただろう。しかし異世界のダークシグナーは、それ以上に強大な存在となっていたのだ――平和な年月を過ごしてきた自分には、覆せないほどに。
「――ねえ、遊星。今の龍亞のデッキ、どうして“ジャンクデッキ”なんだと思う?」
 不意に、龍可が問いかける。
 戸惑う遊星の代わりに、彼女は言葉を続けた。
「8年前のあの日……あなたは、この街に残ると決めた。デュエリストの道を捨て、この街を守ると。それは私たちのためだったんでしょう……? それぞれの道へ進む私たち、その絆を繋ぎ留めるために」
 遊星のその決断が、間違っていたとは言わない――研究者として彼が成した偉業は、シティのみならず、世界を大きく発展させてきた。けれどそれにより、失われた未来もまたある。
 遊星・ジャック・クロウ――“チーム5D’s”の3人が、世界を舞台に並んで走る姿。それは彼らのみならず、世界中のデュエリストが思い描く夢でもあったろう。
「龍亞ね……言ってたの。あなたの代わりにジャックとクロウ、2人と一緒に並んで走るんだって。あなたは龍亞の憧れで、英雄で……そして、追うべき背中だから」
 だから――と、龍可ははっきりと遊星を見据える。
「負けないよ、龍亞は! あの日のあなたの背中は――“不動遊星”は、こんなところで負けたりしない!!」
 それは龍亞への信頼か、それとも今の遊星への――いずれにせよそれは、遊星の心に火を灯す。
 デュエルはまだ終わっていない。
 龍亞はなおも走っている――その手に勝利を掴むため、“あの日の背中”へ追いつくために。





「……っ! オレは……っ」
 龍亞は気を持ち直し、残された2枚の手札へ視線を落とした。


エンジェル・リフト
(永続罠カード)
自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。

軍神の采配
(罠カード)
相手ターンのみ発動する事ができる。
このカードを発動したターン、
自分は相手モンスターの攻撃対象を選択する事ができる


(まだ手はある……『軍神の采配』を使えば、ダイレクトアタックは防げる。『エンジェル・リフト』で『マッシブ・ウォリアー』を蘇生して壁にすれば、次のターンだけは……でも)
 次のターンを凌ぐ――本当にそれだけだ。状況は好転せず、時間稼ぎにしかならない。
 スピードカウンターを10個貯めても、“地縛神”に魔法効果は通用しない。
 となれば、次の戦術は――龍亞はそれを決断し、デッキに指を伸ばした。
「オレは『スピード・ワールドA』の効果発動! スピードカウンターを8個取り除き、カードを1枚ドローする!!」

<龍亞>
SC:8→0

 カウンターを全て使い切り、龍亞はカードを引き抜く。
 引き当てたカードを視界に入れ、“道”を描き出す――この窮地を脱する策、そして“最強の切札”へ繋がる道筋を。
「……いくぜ!! オレはチューナーモンスター『スチーム・シンクロン』を召喚! 攻撃表示だ!!」
 現れたのは、レベル3のチューナーモンスター。
 『ジェット・ウォリアー』との合計レベルは8――ミスティはシンクロ召喚を警戒する。しかし、
「さらにカードを2枚セットし、ターンエンドだ!」
「!? シンクロ召喚しない……?」
 彼女は訝しみながら観察する――背後に迫る青年の姿を。


<龍亞>
LP:100
場:ジェット・ウォリアー,スチーム・シンクロン,伏せカード2枚
手札:0枚
SC:0
<ミスティ>
LP:250
場:地縛神 Ccarayhua
手札:0枚
SC:2


「私のターン――ドロー!!」
 ミスティは邪悪にほくそ笑む。
 彼女が引き当てたのは、更なる災厄のカード――“この世界”には存在しなかった、ダークシグナー専用の魔法カード。

 ドローカード:Sp−暗黒同調

<龍亞>
SC:0→1
<ミスティ>
SC:2→3


「オレは永続トラップ『エンジェル・リフト』を発動! 墓地から『マッシブ・ウォリアー』を特殊召喚する!!」
 しかし、ここは龍亞が先に動く。
 復活したモンスターのレベルは2――そしてさらに、
「さらに『スチーム・シンクロン』の効果発動! このカードは相手ターン中にもシンクロ召喚ができる!!」


スチーム・シンクロン  /水
★★★
【機械族・チューナー】
@:相手メインフェイズに発動できる。
このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。
攻 600  守 800


「オレはレベル2『マッシブ・ウォリアー』に、レベル3『スチーム・シンクロン』をチューニング!!」
 チューナーは3つの“星”となり、『マッシブ・ウォリアー』の周囲を駆け巡る。
「集いし願いが……新たな世界へ加速する! 光さす道となれ! シンクロ召喚――勇気の力、シンクロチューナー『アクセル・シンクロン』!!」


アクセル・シンクロン  /闇
★★★★★
【機械族・シンクロ・チューナー】
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分は「アクセル・シンクロン」を1ターンに1度しかS召喚できない。
@:1ターンに1度、デッキから「シンクロン」モンスター1体を墓地へ送り、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●墓地へ送ったそのモンスターのレベル分だけ、このカードのレベルを上げる。
●墓地へ送ったそのモンスターのレベル分だけ、このカードのレベルを下げる。
A:相手メインフェイズに発動できる。
このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。
攻 500  守2100


 見たことのないモンスター、その出現にミスティは目を見張った。
(シンクロチューナー……? シンクロモンスターが、チューナーでもあるということ?)
 けれど、だから何だというのか――彼女は戸惑いつつも、優位の姿勢を崩さない。
「私のターン中でのシンクロ召喚……少しは驚いたけど、それだけね。何を狙っているか知らないけど、このターンで終わらせてあげるわ!」
 彼女は確かな自信とともに、引き当てたカードを振りかざす。
「――『Sp−暗黒同調』! デッキからダークチューナーモンスターを特殊召喚し、ダークシンクロ召喚を行う!!」
「!!? ダークシンクロを!?」
 彼女の予期せぬ宣言に、龍亞は両眼を見開いた。


Sp−暗黒同調
(魔法カード)
自分用スピードカウンターが3つ以上ある場合に発動する事ができる。
デッキからダークチューナーモンスター1体を特殊召喚し、
ダークシンクロモンスター1体をダークシンクロ召喚する。


(どういうことだ……!? せっかく召喚した“地縛神”を素材にする? もしかしてこれが、遊星の言ってた“更なる力”……!?)
 フィールドに現れた巨大な“黒星”が、“地縛神”の周囲を巡り始める。


DT(ダークチューナー)ジオグリフ・リライト  /闇
★★★★★★★★★★
【悪魔族・ダークチューナー】
このカードをシンクロ素材とする場合、レベルは2倍になり、
「地縛」ダークシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
@:自分フィールド上に「地縛神」モンスターが存在するとき、
このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚することができる。
攻 0  守 0


「光栄に思いなさい、坊や……“元シグナー”ですらないアナタに、ここまで見せてあげるのだから」
「……っ!!」
 龍亞は無言で加速する。
 ミスティを追い抜き、さらに先へ――そして彼は、心を研ぎ澄ます。
「無駄よ! どれほど加速しようとも、“地縛神”からは逃れられない!!」
 逃げるつもりなど毛頭ない。
 彼女は知らないのだ――彼が宿した“ハート”を。その竜に秘められし真価を。
(風とひとつに……たどり着くんだ、その“境地”に!)
 この猛スピードの中で、龍亞は瞳を閉じる。
 本来であれば自殺行為だ。しかし、今の彼には見えている――“追うべき背中”が。
 限界を超えた、その先へ。“揺るがなき境地”へ至らんがために。
「……見えた――“クリアマインド”!! オレはレベル5『ジェット・ウォリアー』に、レベル5『アクセル・シンクロン』をチューニング!!」
 彼は両眼を見開き、右手をかざす。
 手にした白紙のカードに、絵柄が刻まれてゆく――スピードの世界で生まれし存在、彼の“憧れ”の結晶が。
「集いし力が拳に宿り、鋼を砕く意志と化す!! 光さす道となれ――“アクセルシンクロ”!!!」
 次の瞬間、ミスティは目を疑う。
 猛スピードで先行する龍亞が、忽然と姿を消したのだ――何が起きたのか、全く理解できない。
「消えた……!? 一体どこへ!?」

 ――ドンッ!!!

 突如、ミスティの横で衝撃波が起こる。
 前方で消えたはずの龍亞が出現し、再び彼女を追い抜く――新たな“星屑の戦士”とともに。
「現れよ――『スターダスト・ウォリアー』!!!」


スターダスト・ウォリアー  /風
★★★★★★★★★★
【戦士族・アクセルシンクロ】
Sモンスターのチューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上
@:相手がモンスターを特殊召喚する際に、このカードをリリースして発動できる。
それを無効にし、そのモンスターを破壊する。
A:このカードの@の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。
その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。
B:戦闘または相手の効果で表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合
に発動できる。エクストラデッキからレベル8以下の
「ウォリアー」Sモンスター1体をS召喚扱いで特殊召喚する。
攻3000  守2500


 星の輝きを纏う、白銀の竜戦士――その姿はまさしく“スターダスト・ドラゴン”を彷彿とさせる。
 “アクセルシンクロ召喚”、これは10年前の時点では、遊星でも到達しなかった“境地”だ。故にダークシグナーは知らない、知る由もない“未知なる力”。
「だから何……!? どんなカラクリか知らないけれど、これで終わりよ! 私はレベル10『地縛神 Ccarayhua』に、レベル20『DTジオグリフ・リライト』をダークチューニング!!」
 ミスティも負けじと“最強の切札”を召喚する。
 巨大な星は弾け、20もの“黒星”となる。それらは巨大トカゲの全身に埋め込まれ、その存在を変容させてゆく。
「――集いし闇を一つとし、新たな破滅の扉を開く! 光無き世界へ――ダークシンクロ!! 降臨せよ、『地縛邪神 Ccarayhua Yana(コカライア・ヤナ)』!!!」


地縛邪神 Ccarayhua Yana  /闇
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【爬虫類族・ダークシンクロ】
「地縛神 Ccarayhua」−ダークチューナー
「地縛邪神」モンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
@:相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。
A:このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
B:このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けず、
相手の効果モンスターの効果の対象にならない。
C:このカードのダークシンクロ召喚成功時に発動できる。
このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。
攻3800  守2800


 巨大な瘴気の塊が、彼女のフィールドに君臨する。
 “アクセルシンクロモンスターVS地縛邪神”――この激突により、勝敗は決するだろう。
「そのモンスターにどんな能力があるか知らないけど……無駄よ! 『地縛邪神 Ccarayhua Yana』の効果発動!! フィールド上の他のカードを全て破壊する!!」
 巨大トカゲが咆哮する。
 全身から迸る瘴気は勢いを増し、全てを蝕まんとする。
「絶望なさい、坊や……これで終わりよ!!」
 対する龍亞は怯むことなく、声を張り上げ宣言した。
「絶望なんてしない――『スターダスト・ウォリアー』の効果発動!! 自身をリリースすることで、相手モンスターの特殊召喚を無効にし、破壊する!!」
 『スターダスト・ウォリアー』は嘶きとともに、その身を“星の輝き”へと変える――それは“地縛邪神”を瘴気ごと覆い、包み込んだ。
 “地縛邪神”は本来、モンスター効果の対象にはならない。しかしこの効果は、“地縛邪神”のダークシンクロ召喚自体を無効とするのだ――その邪悪の化身を、根源から刈り取る。
「浄化せよ――“ヴィクテム・サンクチュアリ”!!!」

 ――パァァァァァンッ!!!

 光と闇、双方は打ち消し合い、消えてゆく――星の光は弾け散る、“地縛邪神”とともに。
「――……!! これは……っ」
 ミスティは驚きとともに、フィールドを見上げる。
 互いのフィールドから全てのカードが消え、手札もない。地縛神の瘴気は消え去り、澄み渡る夜空が広がる――それは果たして彼女にとって、いつ以来の光景であろうか。
「――まだだ!! 『スターダスト・ウォリアー』はこのターンのエンドフェイズに、フィールドに蘇る!!」
「……! 私に手札はない……このまま、エンドフェイズに移行」
 彼女は穏やかにそう告げる。
 同時に、龍亞のフィールドが輝き出す――星の光は結集し、形を成す。『スターダスト・ウォリアー』が、再び現出した。


<龍亞>
LP:100
場:スターダスト・ウォリアー,伏せカード1枚
手札:0枚
SC:1
<ミスティ>
LP:250
場:
手札:0枚
SC:3


「――ありがとう……終わらせて、龍亞」
「……!? ミスティ、あんた」
 龍亞は減速し、彼女と並ぶ。
 彼女の魂は今もなお、“冥界の王”の支配下にある――解放するすべはもう、一つしかない。
(やっと逝けるわ……トビー、あなたのところへ)
 二人は視線を合わせ、ミスティは頷く。
 どのみち彼女にはもう、戻るべき場所などない――彼女のいるべき世界はもう、すでに滅びてしまったのだから。
「――……オレのターン。『スターダスト・ウォリアー』で、ミスティにダイレクトアタック!!」
 哀しみを振り払い、龍亞は宣言する。
 “星屑の戦士”は拳を解き、両腕を広げ、輝きを放つ――ミスティを倒すためではなく、救うために。

<ミスティ>
LP:250→0

 光に照らされた彼女は浄化され、消えてゆく――D・ホイールごと、“地縛邪神”と同じように。
 道路を囲っていた炎も消え、龍亞はD・ホイールを停止させる。
 勝った――けれど無邪気に喜ぶ気にはなれず、ただちいさく、右拳を握りしめるに留めた。





「――ありがとう……見せてもらったよ、龍亞。お前の想いを」
 一方で遊星は、龍亞のデュエルを見届け――両の拳を握りしめていた。

 彼が追った背中の、その先導者として――このままでは終われない。
 その想いに応えなければ、“不動遊星”にはまだ、出来ることが残されている。

 失われた魂に灯る、確かなる熱。
 彼の様子を横目に見て、龍可は小さく微笑む。

 夜は深く、まだ昏い。
 けれど必ず夜明けは来る。そう確信できる。
 何故ならこのシティには、彼が――“不動遊星”がいるのだから。




第十章 絆

 朝日が昇る、少し前――遊星は自宅のガレージに佇んでいた。
 白衣を脱ぎ捨て、ライディングスーツを身に纏う。
 これを着るのは、果たしていつ以来だろう――懐かしさを覚えつつも、遊星はそんな自分に苦笑した。

「――まだ夜明け前よ。出るには早いんじゃない?」

 アキに呼び止められ、遊星は振り返る。
 今現在、彼の自宅にいるのは2人だけだ。龍亞・龍可・瞳美の3人は、“ある作戦”のために別行動をとっている。
「じっとしていられないんだ。こんなときだっていうのに、俺は高揚している……“あの頃”に戻った気分だ」
 “あの頃”――8年前を最後に、遊星はデュエリストの道を捨てた。
 それ故に失くしてしまった未来。それが、これから叶おうとしている――たとえ一時的であったとしても。
「……そうね。本当は私もついて行きたいけど……やめておくわ。足手まといになるだけだし」
 アキは淋しげに微笑う。
 それは昔、WRGPのときに感じたものと同じだ――彼女は当時も“彼ら”を見送る側だった。
「そんなことはないさ。お前達がいてくれたから、俺達は全力で走れたんだ。“あの頃”も……そして、今も」
 遊星はアキを真っ直ぐに見据え、そして告げる。
「……アキ。俺は昨日、お前と再会したら……伝えようと思っていたことがある」
 あれから8年――変わらぬものがあり、そして変わるものもある。
 遊星は今年で28歳に、そしてアキは26歳になった。
 互いに仕事も落ち着いて――そろそろ“次の人生”を考えても良い頃合だろう。
「……ゆ、遊星? それって――」
 彼のその言葉に、アキは否応なく期待する。
 その続きを聞きたくて、けれど口を噤んだ。
「……いいわ、待っててあげる。無事に帰って、その先を伝えて。でないと承知しないんだから」
 遊星は頷き、彼女に誓う。
 必ず勝って、戻ることを――このシティと、自分たちの未来のために。





 そして日の出とともに――彼はDホイール“遊星号”とともに、シティを駆けた。
 KC開発局に繋がる、メインストリート。他に誰もいない道を、全速で駆け抜ける。
(開発局のシステムを使えば、俺の動きは掴めているはず……必ず仕掛けてくるはずだ)
 そして、追走してくる2台のDホイールに気がつく――遊星は期待と危惧、2つの感情とともに振り返る。
 そして、

「――待ちわびたぜぇ……遊星ぇぇぇぇ!!!!」

「!! 鬼柳……っ!」

 その正体が、後者に当たるものだと知った。
 1人は鬼柳京介――無論、“この世界”の当人ではない。当時と同じ、ダークシグナーの姿をしている。
(もう1人は……たしか、ディマク。10年前に龍可たちが倒したダークシグナーか)
 ディマクは、ボマーのものを彷彿とさせる、巨大なDホイールを駆っている。
 遊星はアクセルを限界まで踏み込むが、しかし振り切れない。ダークシグナー故の異能によるものなのか、彼らとの距離はみるみる縮まってゆく。
 右にディマク、左に鬼柳――両者に挟まれる形となり、遊星は表情を険しくした。
「下がってな、ディマク! コイツは俺の獲物だ……今度こそ俺が仕留める!!」
「……駄目だ。ここは2人がかりで、確実に仕留める」
 遊星を挟んで、2人は睨み合う。
 ここで2人を相手にする余力など、遊星にはない。息を呑み、両者の隙を伺う――そして、
(――……!! 来た!!)
 次の瞬間、遊星はブレーキをかけ、大きく減速した。
 両者の囲いを抜け、彼は合流する。
 さらに2人――彼らを後ろから追ってきた、2台のDホイールと。

「――……遅刻だぞ、2人とも」

 遊星は振り返らなかった。しかし確信があり、懐かしむように微笑む。
 それは、選ばなかった未来。それ故に、二度と叶うはずのない光景――けれど時は巻き戻る、まるで“あの頃”のように。

「――わりぃ、遊星! 遅くなっちまった!」
「――フン! 今の俺を呼びつけられる者なぞ、貴様くらいのものだぞ!」

 現れたるは白と黒、2台のDホイール。赤い遊星号と並び走り、3色の線を描く。
 2人は今や、世界を舞台に活躍するトップデュエリストだ。特にデュエルリーグ中、過密なスケジュールを背負う彼らが、揃って現れることなど本来ならあり得ない。

 不動遊星、ジャック・アトラス、クロウ・ホーガン――三者はここに、再び集う。
 夜明けとともに、彼らの――“チーム5D’s”の、逆襲の狼煙が上がる。






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