Sweet valentine day☆
製作者:yairiさん
第1章 いたずら心
2月14日。それは女の子が、好きな男の子にチョコレートをプレゼントして愛を告白する日である。
そんな誰もが知っている風習を、知らない者が約2名いた。この物語は、そんな常識外れな少年の騒動を描いたものである。
その前日の2月13日の夜、ふと遊戯が呟いた。
「あ〜あ、明日はバレンタインデーかあ。今年は誰かチョコくれないかな〜」
すると闇遊戯が表遊戯の心の内に言った。
『相棒、なんだバレンタインデーってのは?』
「えっ、もう一人のボク、バレンタインデーを知らないの!?」
『ああ。そんなモン聞いた事もないぜ』
「そうなんだ。いい、バレンタインデーっていうのは…」
遊戯は闇遊戯にバレンタインデーの説明しようとしたが、ふと悪戯心が湧いた。
(そうだ。もう一人のボクをちょっとからかっちゃえ♪)
「…バレンタインデーっていうのは、しもべから主人に、命の象徴であるチョコレートを差し出して、忠誠を誓う特別な日なんだ」
『忠誠を誓う特別な日? なるほど、初めて知ったぜ。それにしても日本にはそんな儀式があるなんてな』
「うん。チョコレートには心臓(命)の象徴であるハート形の物が多いんだよvV」
『なるほど。自分の心臓を主人に差し出す訳か』
「うん♪」
闇遊戯の遊戯に対する信頼感は絶対のものがあった。こうして遊戯の冗談を全く疑いもせず、すっかり信じてしまった。しかしこの遊戯のちょっとした悪戯心が、後に大騒動を引き起こしてしまうのだった。
そして翌日の14日。バレンタインデーの意味を知らないもう一人の人物が童実野高校にいつものように通学してくる。その人物がいつものように昇降口で自分の下駄箱を開けると、中から大量のラッピングされた包みが転がりだしてきた。
「な、なんだこれは!? 一体何が起きたというのだ…ι」
その人物とは海馬だった。海馬は自分の下駄箱から出てきたおびただしい量の包みを見て、ただただ呆然とするばかり。しかもその量は、明らかに下駄箱の容積を越えた莫大な量であった。
(オレの下駄箱は異次元にでも繋がっているのか。そんな、非ィ物理的な…ι)
そう思いながらも海馬は包みを幾つか剥いでみる。するとそれらの中からチョコレートが出てきた。
「なんだこれは。どれもチョコレートばかりではないか!? 確か昨年の今頃もこのような怪現象があったような。う〜む…」
(それにしてもチョコレートなど油脂分と糖分の固まりに過ぎない。言わば毒同然の物体だ。もしやこれはライバル会社の陰謀か!?)
海馬が思いを巡らせていると、そこに城之内が駆け込んできた。
「ヤベえ、遅刻ギリギリだぜー!」
その城之内の顔を見て、海馬はふと思った。
(そうだ、凡骨ならこの世からいなくなってもさしたる問題は無いだろう。このチョコは城之内にくれてやるか!)
「おい城之内、貴様に良い物をくれてやる」
「ん、何だよ?」
「チョコレートだ!」
「はぁ!?」
「だからチョコレートだ」
すると城之内は顔を引きつらせる。
「馬鹿野郎! ンなモン受け取れっかι」
「何だと貴様。オレの気持ちが受け取れんと言うのか!」
「分かったぞ。もしやモテないオレへの当て付けか。どうせオレは誰からもチョコなんかもらえないぜ〜(ToT)」
すると城之内は猛ダッシュでその場を走り去ってしまった。
「チッ、訳が分からん。こうなったらこいつを誰にやるか」
(遊戯はオレのライバルだ。いなくなったらつまらん。しかし、もう一人の遊戯ならいなくなってもかまわんな。よし、決定だ)
恐らく100個以上はあるであろうチョコレートを、海馬は両手いっぱいに抱え、教室へ向かった。その姿は何とも異様だった。途中、擦れ違った生徒達が海馬を見てヒソヒソ話を始める。しかし海馬は、そんな事は全く気にせず、何とか教室に着くと、すぐに遊戯の席に向かった。
「遊戯、いるか…ι」
「あ、海馬くんおはよう。どうしたのそれ?」
すると海馬はチョコレートの山を遊戯の机の上に降ろした。
「ふぅ、やれやれだ…」
「あのう、海馬くん?」
「ん、ああ。遊戯、こいつはチョコレートだ、受け取れ」
「え、ええ!?」
「あのう海馬君、意味がよく分からないんだけどι」
「ああ、気にするな。オレの気持ちだ」
「でも、ボクたちは男同士だし、コレはマズイよ…ι」
「なんだと? 別に性別など関係なかろう」
「ええー! 海馬君駄目だよ〜ιι」
遊戯は必死に受け取るのを拒否する。しかし、ふと闇遊戯が遊戯の心の中に話し掛けてきた。
『相棒、チョコレートを差し出すのはしもべが主人に忠誠を誓う証しなんだろ? せっかく海馬がオレ達に忠誠を誓おうって言ってるんだ。こいつを受け取らない手はないぜ!』
「え、ええー?!」
『相棒、ここはオレが替わるぜ〜vV』
「え、ちょっと待ってよもう一人のボク〜ι」
しかし遊戯の返事を待たず、闇遊戯の人格に替わってしまった。
「フフフ海馬、こいつはありがたくいただくぜ」
海馬は一瞬困惑したが、すぐに遊戯の人格が入れ替わった事を理解する。
「遊戯か」
「ああ。しかしまさか貴様がオレに忠誠を誓うとは思わなかったぜ」
「なんだと?」
「なにって、今日はバレンタインデーだぜ」
「バレンタインデーだと!?」
(う〜む、聞いた事はあるような気がするが、一体何の日だったっけ…ι)
すると遊戯は怪訝そうな顔つきで海馬に尋ねた。
「どうしたんだよ海馬。まさかお前、バレンタインデーを知らないんじゃないだろうな?」
「な、何を馬鹿な!? オレがバレンタインデーを知らぬ筈がなかろう…ι」
海馬はとっさにそれを否定してしまう。すると遊戯は無邪気なカオでニッコリと微笑む。
「そうだよな。しもべから主人に、忠誠の証しであるチョコレートを差し出す特別な日を、知らない筈ないよな」
それを聞いて海馬は愕然とする。
(なんだと。チョコレートは忠誠を誓う証しだとォ!?)
海馬は半分涙目になってしまった。
「どうしたんだよ海馬? まさか本当はバレンタインを知らなかったんじゃないだろうな?」
遊戯は疑い深く海馬の顔を覗き込む。しかし海馬は意地っ張りな性格が邪魔をして本当の事が言えない。
「ば、馬鹿を言え…。オ、オレは貴様に…、ち、忠誠を誓ったんだ…ι」
「でも何か涙目だぜ。本当は無理してないか?」
「そんな事はない! オレは貴様に忠誠を誓ったんだー(ToT)」
もはや後には引けない海馬は、遊戯の“しもべ”になる事を高らかに宣言してしまった。そして、これが海馬の苦難の始まりだった。
第2章 究極のしもべ“海馬瀬人”
そうして海馬が遊戯の“しもべ”になって1時限目の授業の『数学』が始まった。
「ん〜、ではここの所を誰かに解いてもらおうかな。今日は2月14日だから、2×14で出席番号28番の…」
その瞬間、闇遊戯(人格は闇のままです)が海馬の方をジッと見つめる。海馬は闇遊戯の視線にすぐに気付いた。
「ん?」
海馬が遊戯を見ると、遊戯はあごをクイッ、クイッと動かして何かの合図を送る。
「…28番の武藤君に〜…」
先生のこの発言に海馬はハッとする。
(まさか遊戯のヤツ。オレが代わりに答えろと!?)
(行け、行け海馬!)
遊戯は再びあごをクイッ、クイッと動かして海馬に合図を送る。
(おのれ、遊戯ィ〜…)
海馬はやむを得ず、手を上げた。
「ん〜、どうしたのかな、海馬君?」
「先生、その問題オレが答えてもいいですか…」
「ん〜、殊勝な心掛けだね〜、もちろんイイよ〜」
「はい、ありがとうございます…」
海馬が遊戯を見ると、遊戯は親指を一本立てて海馬にガッツポーズを作って見せる。
(くっ、おのれ遊戯ィ〜…)
海馬は遊戯を苦々しく思いながらも、前に出て黒板の問題を解き始めた。
海馬の答えを先生が確認する。
「ん〜、さすが海馬君だね〜。正解ですね〜」
「ありがとうございます…」
そうして何とか数学の授業を終え、2限目の『日本史』の授業に入る。
「では、大阪夏の陣と冬の陣で、北条家と協力して、徳川家康と戦った戦国武将は誰かな? 今日は2月14日だから、14じゃつまんないな。2×14で…」
その瞬間、再び遊戯は海馬に合図を送る。
(行け、行け海馬!)
しかしこの質問の答えは海馬にも分からなかった。
(駄目だ。オレは日本史だけは苦手なんだι)
海馬は両手で×(ペケ)を作って遊戯に“ノー”と合図を送る。
しかし遊戯はそんな事はおかまいなしに海馬に合図を送る。
(行け、行くんだ海馬〜!)
海馬は首を横に振って必死に“ノー”と合図を送る。
しかし遊戯は相変わらずあごをクイッ、クイッと動かして海馬に合図を送る。
(行け! 行け! 行くんだ海馬ァ!)
(おのれ、おのれ〜…ι)
「…28番の武藤はいるかな?」
(海馬! 海馬ゴー!)
(お〜の〜れ〜…ιι)
海馬は答えが分からないまま手を上げた。
「ん、どうした海馬?」
「……先生、その問題オレが答えていいですか…ι」
「おういいぞ!」
「さては相当自信あるな。先生、答えを聞くのが楽しみだ」
すると海馬はおそるおそる答えた。
「…織田信長ですか…?」
「ちょっと違うなぁ。信長は大阪夏の陣の前に本能寺の変で死んでるなぁ」
「じゃあ、伊達正宗…」
「残念、それは徳川方についた武将だ。海馬、もういいぞ。次は28番の武藤に…」
その瞬間、遊戯が海馬に向かって手を両手いっぱいに広げて合図を送る。
(伸ばせ! 伸ばせ!)
(おのれ〜…ι)
「先生、もう少し答えさせてください……」
「おお。やる気満々だな、先生は嬉しいぞ!」
「じゃあヒントを教えてやろう。頭に“さ”の付く武将だ」
しかし海馬には全く見当がつかない。
「さ…、佐々木小次郎…」
すると教室中からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
(おのれ遊戯ィ…、何でオレがこんな赤っ恥をかかねばならんのだι)
「違うな海馬。もういいぞ」
しかし遊戯は再び“伸ばせ”と合図を送る。
「先生、この問題は是非オレに…ι」
「面白い。先生も燃えて来たぞ。この問題は海馬に答えてもらうぞ。大ヒント、真田家の武将だ!」
「…さなだ……サナダ虫ι」
海馬の答えにクラス中が沸いた。遊戯も腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
「いや〜海馬、なかなか良いボケ持ってるなぁ。あっはっは…」
(おのれ遊戯ィ、貴様まで〜(ToT))
そうこうしてる内に授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
「いかん、いつの間にか授業が終わってしまったか。答えは真田幸村だ。こいつはテストに出るから、特に海馬は勉強しとくように…」
先生は笑いを必死にこらえながら教室を出て行った。そうして次の授業は何事もなく終わり、4限目の『体育』の授業が始まった。
体育の授業内容はサッカーだった。そこで遊戯と海馬は同じチームになった。
「いいな海馬、お前がボールをキープしたら全てオレに回せ。絶対にシュートするなよ。いいな!」
「あ、ああ…」
海馬の我慢はピークに達しつつあった。
そんな中、サッカーの試合が始まった。海馬はボールをキープすると、そのまま軽快なドリブルで相手のディフェンダーを抜いて行く。そしてついには相手のゴールキーパーまで抜いてそのままボールをシュートしようとした瞬間、遊戯と目が合った。
「海馬、オレが決める。ボールを回せ〜!」
(馬鹿な、もはや何もしなくてもボールはゴールの中に入っていくぞι)
しかし遊戯はそんな状況お構いなしにパスを求める。
「海馬、こっちだ〜!」
(くっ、おのれェ〜…)
海馬は遊戯にパスを送ると、遊戯はそのまま軽くシュートをしてゴールを決めた。
「おおー、やったぜ遊戯!」
「ナイスだぜ遊戯!」
「いやいや、たいした事ないぜ!」
すぐに同じチームの仲間が遊戯に言い寄ってくる。
(バカな。貴様等の目は節穴か〜!? 遊戯は最後に軽くボールをつついただけではないか〜!)
そうして海馬の影の活躍により、遊戯はハットトリックを決めて大勝した。するとクラスの女子が遊戯に言い寄ってくる。
「遊戯くんすごいね〜。ハットトリックだよ〜☆」
「おう、ハットリくんだぜ〜♪」
(おのれ遊戯〜、ベタベタなボケを自然にかましおって〜!)
そうして海馬を散々コキ使い、昼休みに入った。海馬はとりあえず一息ついて弁当箱を開いた。
(やれやれ午前中はひどい目にあった。お、今日のおかずはオレの大好物の“牛フィレ肉のフォアグラソース”ではないか〜☆)
海馬の頬が一瞬緩む。その時…
遊戯が海馬の弁当箱をジッと覗き込む。
「へー、今日は牛フィレ肉のフォアグラソース弁当か?」
「よくこのおかずの名称が分かったな」
「まあな。それにしてもおいしそうだな」
「だからどうした。貴様には関係なかろう」
「食べたいな〜vV」
「そうか…ι」
「そうだ。海馬、オレの弁当とお前の弁当を交換しようぜ〜♪」
「な、なにィ!?」
「お前はオレに絶対服従だもんな。よし、決まりな!」
「ゆ、ゆ、遊戯ィ〜…」
(バカな!? この上さらにオレから牛フィレ肉のフォアグラソースまでも取り上げる気か〜…ι)
「ほら海馬、これがオレの弁当だ」
そう言って遊戯が弁当箱を開けて見せると、そこにはおでんが入っていた。
「な、貴様、これはおでんではないか! オレは今までおでんを弁当に持ってくるやつなど見た事がないぞι」
「って言うか、牛フィレ肉のフォアグラソース弁当の方が珍しいと思うぜ…ι」
「それにオレはおでんだけは苦手なんだ。この弁当のトレードだけは絶対に応じられんι」
すると遊戯はフッと軽く笑う。
「それなら心配無用だぜ海馬。こいつはおでんじゃないぜ!」
「なんだと!?」
すると遊戯が、闇遊戯の心の内に言った。
『あの、もう一人のボク? これは思いっ切り昨日の夕食の残りのおでんだと思うんだけど…ι』
(フッ、大丈夫だぜ相棒。ちゃんと策があるぜ)
『策?』
(ああ、ここはオレに任せておけって!)
『う〜ん、何か嫌な予感するな〜…ι』
表遊戯の心配をよそに、遊戯は笑顔で海馬に言った。
「海馬、こいつはおでんじゃないぜ。こいつは“大根とガンモとコンニャクとジャガイモとその他もろもろのごった煮”弁当だぜ」
「なるほど、大根やガンモやコンニャクなどのごった煮か」
「そうだぜ海馬。おでんと似てるけど全然違うんだぜ〜vV」
「そうか…」
海馬は牛フィレ肉のフォアグラソースかけを惜しそうに見つめながらも、しぶしぶ遊戯の弁当と交換する。
『…ってもう一人のボク。一口食べたら速攻でバレるよ〜ι』
(その時はその時だ。こうなりゃ出たトコ勝負だぜ。とにかくバレる前に速攻で海馬の弁当を片付けるぜ!)
遊戯は物凄い勢いで弁当を食べ始める。それにつられて海馬もおでんに箸をのばす。そうして大根を箸で摘むと、それをそのまま食べ始めた。
「ム、これはうまいな!」
「そ、そうか…ι」
「うむ、こいつはなかなか悪くない味わいだ」
(何だよ海馬のヤツ、おでん嫌いなのってただの食わず嫌いじゃ〜んι)
そうして食事を終えると、遊戯はふとノドの渇きを感じた。
「なあ海馬、飲み物買ってきてくれよ?」
「何だと貴様。オレをパシリに使う気か!」
「何か文句でもあるのか海馬? それにオレに忠誠を誓ってきたのは貴様の方だろう」
「クッ…」
海馬は何も反論できない。
『あ〜あ、こんな事になるんだったらもう一人のボクをからかわなきゃ良かったな〜…(ToT)』
「じゃ、自販機コーナーでお茶買ってきてくれよ。ファラオ茶な」
「あ、ああ…」
すると遊戯は財布を取り出すと、海馬に150円を渡す。
「じゃ、140円のペットボトルのヤツな。おつりの10円は駄賃にやるぜ」
すると海馬は物凄い勢いで150円を机に叩きつける。
「駄賃などいらんわ! オレがおごってやる!」
そう言うと海馬はズカズカとけたたましい足音を起てて教室を出て行った。
「何だよ海馬の奴、何怒ってんだ?」
すると遊戯が闇遊戯の心に再び話し掛けてきた。
『ダメだよ、もう一人のボク〜ιι』
(どうしたんだよ相棒、そんなにあせって?)
『もうキミってば海馬くんをコキ使い過ぎだよ!』
(構う事はないぜ相棒。あいつの方から忠誠を誓ってきたんだからな。これからは爪切りも耳ほじりも、み〜んな海馬にやってもらうぜ〜vV)
『キミって一体…ι』
この時ようやく表遊戯は、闇遊戯にバレンタインデーの本当の意味を教える事を決意した。
『あのね、もう一人のボク。ボクが今から話す事を怒らないで聞いてね…』
(お、どうしたんだ相棒。そんなに改まって?)
『あのね、キミにはチョコレートを差し出すのは、しもべが主人に忠誠を誓う証しだって言ったけど、あれはキミをからかうために冗談で言ったんだよ…』
「えっ?」
『バレンタインデーの本当の意味はね、女の子から好きな男の子に……』
遊戯は闇遊戯にバレンタインデーの本当の意味を説明する。すると闇遊戯の顔はみるみる真っ青になっていく。
「じゃ、海馬もバレンタインの意味を知らなかったって事か!?」
『多分…ι』
「マズイぜ相棒。海馬がバレンタインの本当の意味に気付いたら、オレ達殺されるぞ…ι」
『まさか、殺されるって事はないと思うけどι』
「いや、あいつならやりかねん。それにオレもちょっと調子に乗り過ぎたしなι」
『ちょっとどころじゃないと思うけど…』
その時、ガラガラっと物凄い勢いで教室の扉を開け、海馬が戻ってきた。
「Σ%×@☆…?!」
闇遊戯は思わず声にならない声を上げてしまう。
「ん、そんなに慌ててどうしたんだ遊戯?」
「いや、別に何でもないぜι」
「そうか。お茶を買ってきたぞ」
「あ、ありがとな海馬。本当お疲れ様なι」
闇遊戯の態度の急変ぶりに、海馬は怪訝そうな顔をする。
「遊戯、お前…」
「何だよ海馬…」
「オレに何か隠し事をしてないか?」
「ギクー!!」
「なに? “ギク”だと?」
「いや、何でもないぜ。それよりもお茶ありがとな…ι」
闇遊戯は無理矢理話題を変える。
「そうか、まあいい。ちなみに飲みやすいように“ぬるい”お茶を買ってきたぞ」
「そうか、さすが海馬。これなら飲みやすいぜ〜…ι」
そう言って闇遊戯はお茶を一口飲む。
(うわ、マズッ! 何だよ“ぬるい”って。熱いか冷たいかどっちかにしろよなー!)
「どうだ遊戯、うまいか?」
(聞くなよそんな事。うまい訳ないだろうが!)
しかし闇遊戯は、そうは思っても口には出せない。
「ああ、ぬるくてちょうど良いぜ〜。さすが海馬、ナイスチョイスだぜ〜」
そう言って闇遊戯はお茶を一気に喉に流し込む。その目は半分涙目になっていた。
その時、ふと闇遊戯達の耳にクラスの女子達の会話が聞こえてきた。
「えっリボンちゃん、本田くんからチョコレートもらったの!? それって逆じゃん!」
「しー…、マアちゃん…。声大きいよぉ…」
この会話の内容に海馬が敏感に反応した。海馬はズカズカと二人のもとに歩み寄る。
「おい貴様、逆とは何だ? チョコレートをやるのに何か決まりでもあるのか?」
するとマアちゃんと呼ばれていた女子が言った。
「何言ってるの海馬君? 普通チョコは女の子から好きな男の子に渡すものでしょ。なのにリボンちゃんたら、本田君からチョコもらっちゃって、どうしていいか困っちゃって…」
その瞬間、海馬は全てを理解した。
「ゆ…う…ぎィ〜…」
海馬がゆっくりの遊戯の方を振り向くと、海馬の顔は鬼のような形相をしていた。
(相棒、バレたぜ〜(ToT))
第3章 決戦はバレンタインデイ☆
「貴様、謀りおったな!」
「悪かったな海馬。そんなつもりじゃなかったんだけどなι」
「ふざけるな! 何がチョコレートは忠誠の証しだ!」
「ま、オレもさっきまで本当の事を知らなくてさι」
「知らんで済んだら警察はいらんわ!」
すると遊戯が逆ギレしてしまう。
「何だよ。そもそもお前がバレンタインデーを知らなかったのがいけないんだぜ! 知らないんだったら最初から知らないって言えよな!」
「黙れ! 貴様はオレを怒らせた。ここを貴様の墓地にしてくれるわ!」
「海馬、どうやらオレと貴様は永遠に闘う運命にあるようだな」
「遊戯、デッキは持っているな。デュエルだ!」
海馬は自分の席に戻って、デッキを持ってこようとする。しかし闇遊戯がそれを呼び止める。
「なあ待てよ海馬。いつもデュエルじゃつまらない。今回はバレンタインにちなんだ特別なゲームで勝負しようぜ?」
「ほう面白い。いいだろう。で、そのゲームとは何だ?」
「フフ、チョコレートを使ったゲームだ。幸いチョコレートは山の様にあるからな。今回のゲームにはこのチョコレートを使用する事にするぜ」
「チョコレートを使ったゲームだと?」
「ああ、ルールは簡単。チョコレートを互いに積み重ねていき、積めなくて崩してしまったプレイヤーの敗北とする。これでどうだ?」
「いいだろう。ただしオレがこのゲームに勝った場合、貴様にはしかるべき報いを受けてもらう事になるぞ」
「フフフ、そのセリフはオレに勝ってから言いな!」
「ふん、ならばゲームを始めようか」
「ああ。じゃ、まずは邪魔な包装紙を取り除くぜ」
「ああそうだな」
闇遊戯と海馬は、大量のチョコレートの包装紙を剥がし始めた。
二人はバリバリと無造作に包装紙を剥ぎ取っていく。その光景の異様さに、いつの間にか周囲にギャラリーが集まりだした。
「チッ、これは見世物ではないのだがな」
「気にするなよ海馬。これはオレと貴様の真剣勝負だからな」
そうして包装紙を剥いでいると、闇遊戯がふとイビツな形のチョコレートに出くわした。
「なんだコレは。ずいぶん不格好だな。これじゃゲームに使えないぜ」
「ならばそいつはゲームから除外だ。端の方にでも捨てておけ」
「ああ」
闇遊戯はチョコレートを、ゴミ袋の中に投げ入れる。しかし狙いが定まらなかったため、その不格好なチョコレートは床をコロコロと転がり出してしまう。
「あっといけない。チョコレートが転がっちゃったぜ」
遊戯がチョコを拾おうと、転がった方向を振り向く。するとチョコは、ギャラリーの足に当たって止まっていた。そしてそれは杏子の足であった。
「あ、杏子。すまないがそのチョコをとってくれないか?」
「……」
しかし杏子は何も答えない。
「ん、どうしたんだよ杏子?」
すると杏子は、今まで闇遊戯が見た事もない程恐い顔で怒鳴り始めた。
「……遊戯、あんた最低よ!!」
「えっ、一体どうしたんだよ杏子?」
「どうしたじゃないわよ。信じらんない!」
「なんだよ? だから何がだよ?」
「何がじゃないわ! あなた達がゲームに使おうとしてるそのチョコレート、その一つ一つに女の子のどんな想いが込められてるか分からないの!」
「杏子……」
「それに遊戯だけじゃなく、海馬君まで一緒になって。女の子から男の子に告白する事が、どれだけ勇気がいるか分からないの!」
「真崎……」
闇遊戯と海馬は何も言葉が出て来ない。ただ、自分達のやろうとしてる事の軽率さを思い知らされた。
すると杏子はそのままの勢いで遊戯に言った。
「わたし、遊戯にチョコレートあげようと思ってたけど、止めるわ!」
「えっ!?」
すると杏子は、自分の席からチョコレートを取り出すと、そのまま窓まで駆けていき、思いっ切りそれを窓から投げ捨てた。
「遊戯のバカ!」
「杏子…」
すると杏子はそのまま教室を飛び出してしまった。しかし闇遊戯はそれを追うこともなく、ただ呆然と立ちつくす。
「杏子、すまない…」
そして海馬の方に振り向いて言った。
「海馬、すまないがこのゲームは…」
「ああ、何も言うな遊戯。この勝負はひとまずお預けだな…」
「すまない海馬…」
「気にするな遊戯。オレも少し軽率過ぎたようだ。このチョコはオレが責任持って全てありがたくいただくとしよう…」
「食べ切れるのか?」
「まあな。一年もあれば何とかなるだろう」
「そうか、健闘を祈ってるぜ…」
「フン、貴様もな…」
第4章 仲直り^^
そうして闇遊戯と海馬は破り捨てた包装紙を拾い集めていく。
そうしてる間にだんだんギャラリーは消えていった。そして昼休みは終わり、午後の授業が始まった。
授業中、闇遊戯が杏子の様子を見る。すると杏子は遊戯の視線に気付くと、プイッとそっぽを向いてしまう。
(相棒、杏子の奴かなり怒ってるぜι)
すると遊戯が、闇遊戯の心の内に言った。
『仕方ないよもう一人のボク。今は杏子の機嫌が直るのを待とうι』
(ああ、そうするしかないな…)
そうして午後の退屈な授業が終わり、放課後を迎える。すると闇遊戯は速攻で校庭に飛び出し、杏子の投げ捨てたチョコレートを探し始める。
「たしかオレたちの教室は2階だから、杏子の腕力じゃここら辺に落ちてる筈だぜ…」
杏子が窓からチョコを投げ捨てた時、闇遊戯は教室の奥の方にいたため、どこまでチョコが飛んだかは分からない。闇遊戯はおおよその見当をつけて探し始める。
『全然見つからないね、もう一人のボク』
「ああ。確か一瞬しか見えなかったが、ピンク色の目立つ色の包みだったよな」
『う〜ん、もしかしたらすでに誰かに拾われちゃったとか?』
「でも、まだ放課後になったばかりだぜ。午後はどのクラスも校庭を使う授業はなかったはずだ」
そうして闇遊戯は探す範囲を広げ、ひたすらチョコレートを探し続けた。
チョコレートを探し始めてもう2時間近くが経過する。辺りはもう薄暗くなっており、探すのはかなり困難になっている。
『ねえもう一人のボク。もう暗くて見えないよ。明日また探そうよ』
「いや、そういう訳にはいかないぜ相棒。バレンタインっていうのは今日だけなんだろ?」
『でも…』
「すまない相棒。このままじゃオレの気持ちが済まないんだ。もう少しだけ付き合ってくれ?」
『うん』
それからさらに30分程が経過し、ようやく闇遊戯は校庭の一番隅っこの生け垣の中でチョコレートを見つけた。
「あ、あったぜ相棒!」
『うん! やったねもう一人のボク!』
遊戯はチョコレートの包みを拾い上げると、それを軽くパッパッと叩いて砂挨を払う。
「それにしても教室からここまで200mはあるぜ。まったく、なんて馬鹿力だ。杏子だけは怒らせちゃいけないな…」
「馬鹿力で悪かったわね!」
「えっ!?」
闇遊戯は突然後ろから声を掛けられ、思わず後ろを振り向く。するとそこには杏子がいた。
「あ、杏子!?」
「遊戯…」
「何でお前がこんな所にいるんだよ。ビックリしたぜι」
「だって、遊戯が必死に私のチョコ探してるから、何だか声をかけずらくて…」
「っていうか、放課後からもう3時間近く経ってるぜ。ずっといたのか?」
「そうだよ。ず〜っといたんだよ。遊戯ってば全然気付かないんだもん」
「マジかよ〜ι」
「フフ、黙っててごめんね遊戯」
「いや、オレの方こそすまなかったな。チョコレートをくれた人の気持ちを践みにじるような事をして…」
「ん、いいよ、分かってくれれば。もう怒ってないよ」
その時、ようやく闇遊戯に笑顔が戻る。
「なあ杏子。こいつを開けていいか?」
「うんいいよ」
そして闇遊戯は丁寧に包装紙をはがしていき、中の箱を開けた。するとそのチョコレートはハートの形をしていたが、真ん中でキレイに真っ二つに割れていた。
「あ! どうやら地面に落ちた時の衝撃でチョコレートが割れたみたいだぜ…ι」
「ふふ、そうだね…」
(違うよ。私の心はあなたと、もう一人の遊戯と半分ずつ…)
「ん、今何か言ったか?」
「えっ、な、何でもないよ遊戯…//」
杏子は耳まで顔を真っ赤にしてしまうが、辺りはもう真っ暗で闇遊戯には気付かれなかった。
「なあ杏子。今からちょっと飲みに行かないか?」
「えっ、飲むってお酒!?」
「ああ」
「な、何言ってるの遊戯!? お酒は二十歳になるまで飲んじゃいけないんだよι」
「えっ、そうなのか? バレンタインといい、酒の事といい、日本は変わってるな」
「そうかな…ι」
(あなたの方がよっぽど変わってると思うけど…)
「じゃ、何かうまいモンでも食いに行こうぜ!」
「うん!」
すると闇遊戯が杏子の手をスッと握る。
「えっ…!?」
「どうしたんだよ杏子。手、繋ごうぜ」
「う、うん…//」
杏子はぎこちない手つきでそっと闇遊戯の手を握り返す。
「杏子、何が食べたい?」
(う〜ん、本当はラーメンが食べたいけど、ムードが台なしよね…)
「私は何でもいいよ」
「じゃ、相棒の大好物のハンバーガー食いに行こうぜ!」
「うん…」
(あなたって、こんな時でももう一人の遊戯の事を考えてるんだね…)
「どうしたんだよ杏子、早く行こうぜ!」
「うん!」
そうして闇遊戯と杏子は童実野街の雑踏の中に消えていった。
Sweet valentine day☆