STARDUST OVERDRIVE-新世界への遺産-

製作者:真紅眼のクロ竜さん





時代と共に受け継がれて行く意志

仲間と結んだ絆

誰かが課した枷

明日の為の誓い

例え未来が何処に繋がっているか判らなくとも

彼の戦いはどこまでも続く

終わりが無い事を知っている
それが彼の戦いなのだと気付いたのは彼自身なのだから


【STARDUST OVERDRIVE-新世界への遺産-】





 世界を数多駆けていると、いつか忘れる事がある。
 自分がどういう存在なのか、自分が誰だったのかを。でも、時々思い出す事がある。
 行く先々で出会う、仲間達との思い出を。共に駆けた願いを。



 デュエル・アカデミアネオドミノ校は高等部、中等部、初等部が同じ場所に存在するという他の分校とは違う特徴がある。
 昔、その伝説を謡われた決闘王が生まれて在住していた街に出来た、という事からだろうか。
 そしてネオドミノ校の高等部の校舎で、その物語は始まる。



 夕方になって太陽は西に傾き始める。今日の授業も終わった。
 私は机の上にある鞄をまとめて、大きく伸びをする。疲れたな、とは思うが気持ちの良い疲れだ。
「唯ー!」
 私が鞄を手に取った時、先に外に出ていた友人達から声がかかる。
「ボク達、今からSonneでお茶するんだけど一緒に行くー?」
「行きます!」
 級友の誘いをむげに断る訳には行かない。それにSooneの独特の雰囲気は私も気に入っている。
 ちなみにSonneはシティにある喫茶店で、一杯99円という破格の安さで飲めるDDコーヒーとアステカ原産の珍しいフルーツを使ったケーキに五色のソースをかけたスイーツ、マクイルショチトルが有名である。
 マクイルショチトルは中央アメリカの古い言語で「五輪の花」を意味するらしい。
 私は階段を駆け下りて、級友達の元へと向かう事にした。




 三十分後、私は級友達と店内にいた。
 比較的女子が多いデュエル・アカデミアネオドミノ校では放課後、頻繁に何処かの店でお茶会が開かれているらしいが、私が一緒に行くメンバーは何故かいつも決まっているようである。
「そう言えば唯、この前Dホイールのライセンス取ったんだって? いいなぁ、ボクも欲しいな」
 例えば一人称がボクという特徴の級友はツァン・ディレ。名前の通り日本出身ではないが今のネオドミノシティでは海外生まれの人間など珍しく無く、むしろ純日本人の方が珍しい。
「今度……見たい」
 続けて口を開いた無口な少女はレイン恵。無口でとにかく喋らないが、人が嫌いなのではなく喋らないだけの子だ。
 そしてもうひとり。今はいないが夏乃ひなたという、人の良さがウリの少女を加えた三人が私がもっとも良く話す級友であり、いざという時に頼れる仲間達でもある。
 そういえばひなたは何処に行ったのだろう。
「そうだ、Dホイールで思い出したんだけどね」
 ツァンが思い出したように口を開く。
「最近、サテライトでDホイールの後ろを追いかけて来る黒い影があるんだって。Dホイールに追いつくぐらいの速度で」
「……その話、聞いた事ある」
「恵も? ボクが聞いた話では黒い影なんだけど」
「違う」
 恵は黒い影、という言葉に首を振る。
「それは竜。真っ黒い、竜」
「黒い……竜?」
 それはまた妙な話だな、と私は思う。
 デュエル・アカデミアに通っている以上、デッキは持っているが私の使うデッキは普通のデッキとちょっと違う。
 何代か前の私の家から幾人かのデュエリストが出た。そのデュエリスト達が残したカードから作ったデッキを使っている。
 その中に、あるのだ。
 黒い、漆黒の竜。真紅の瞳を持つ、孤高の竜が。

 私、黒川唯のデッキに眠っている。
「その話、詳しく聞かせてくれる?」
 私が恵にそう声をかけると、恵は小さく頷いた。

 夕日が沈む頃のサテライトに。
 黒いコートを仮面をつけた男が、黒竜に乗って現れる。
 特に何かをする訳でもなく、ただサテライトでDホイールが走っているとその姿を黒竜に乗って追って来る。その黒竜がとんでもないビッグサイズなので、追いかけられるとそれはそれで怖いらしい。
 セキリュティが何度か捕まえようとしたらしいが、目の前で落とし穴の罠カードを発動されて落とし穴に落とされたものが四名。
 粘着テープの家に誘い込まれたものが三名。
 千年の盾を召喚されて衝突したものが一名。強制脱出装置で海に叩き込まれたものが二名、とセキリュティを投入すればするほど被害が増大したのでセキリュティも一名を除いて諦めたとか。
 聞けば聞く程。
 面白そうな話である。

「面白そう」
 私がそう呟いた時、二人は同時に「えっ?」と顔をした。
 普段無表情を崩さない恵も驚いた顔をしている。そんなに意外だったか。
「え……唯、それ、本気?」
「うん。だって、特に何もしないのであれば……それに、乗っている竜もみてみたいと思うし」
「そりゃ確かに唯は黒竜好きだけど……ボクは見に行くのはどうかなって思うよ」
 ツァンがそう答えた時、ちょうど携帯電話の着信が響いた。
 私かな、と思って携帯電話に注目するとツァンと恵も携帯電話に注目している。もしかして、全員に来ている?
 だとすると、その相手は。
『応援要請! ひなた』
 ひなたからだった。しかし応援要請とはなにか、と本文を開いてみる。
『最近ネオドミノシティで噂のサテライトに現れる黒服を探すの手伝って! 新聞記者さんが噂の彼に取材を申し込みたいけど捕まらないからアポだけでも取りたいって頼まれた!』
 本文を読み終えて顔をあげると、ツァンと恵は半分呆れた顔になっていた。またひなたの悪い癖が始まった、と。
 ひなたはとんでもないお人好しだ。頼まれたらどんな事でも安請け合いしてしまう人の良さ、それが彼女の魅力ではあるのだがそれ故になんでも引き受けてしまう。
 ひなたの頼みで発生したトラブルを黒川財閥が総力を結集して消火したり治安維持局が傾きかけたり危うくシティ全土に新型ウィルスがまき散らされそうになったりと時にトンでもないトラブルまで呼び込んでしまう彼女にしては、まだ優しい方では或る。
 だが。
「……サテライト、ねぇ……やっぱ、いかなきゃダメなのかなぁ」
「行かなきゃひなたが怒る……」
 まぁちょうど私は彼の事を追おうと思った所だ。追いかけてみるのも悪く無い。
「行ってみようよ。案外いい人なのかも知れませんよ」







「いやー、ごめんごめん、本当にこんな所に呼び出しちゃって」
 サテライトとシティを結ぶダイダロスブリッジ。そこがひなたとの待ち合わせ場所だった。
 ダイダロスブリッジが開通した事でシティとサテライトの往来は自由になったとはいえ、それでもシティの人間がサテライトに行く事はまだ珍しい事だ。
 実際、私もサテライトという場所に縁がある訳ではない。
「まったくだよ……少なくともこれでボク達がもし帰れないなんて事態になったら責任取ってもらうからね」
「だいじょうぶだいじょうぶ、そんな事無いって。ほら、誰か言ってたじゃん。サテライトの人達だって悪い人ばかりじゃないって」
 ツァンの言葉にひなたがそう返した後、恵が「で」と口を開く。
「その人は……現れるの?」
「大丈夫だよ。だってその為に、唯にDホイール取って来てもらったんだから」
 まったくもってその通りである。
 その噂の男がDホイールを追いかけて来るなら、こちらもDホイールに乗らなければ乗ってこないというもの。
 そして、私たち四人の中でDホイールを所持しているのは私だけ。つまり、私がサテライトを走る事になる。
「時間、大丈夫?」
 Dホイールの準備をしている私に、ツァンがそう声をかける。
 太陽は今にも海へと沈みそうだ。ぎりぎりの時間帯、と言えるだろう。だけど、まだ時間は無くは無い。
 それに、今日一日で彼が出て来るとは思えないし。
「ヘルメットに通信機をつけたから、もし出て来たら教えて」
「はいはい。わかりましたっと。じゃ、頑張ってね」
 私の言葉に、ツァンが手をふって離れて行き、恵とひなたがその後ろへと続く。
 Dホイールのあちこちにカメラと集音マイクをつけ、もしその彼が現れたら上手い感じに接触する、というのが作戦だ。
 いちおう、ある程度走るコースは決めており、そのコースの中心部に三人が待機してモニターでの監視と、何か不測の事態が起こった場合にセキリュティに連絡する、なども決めておいた。
 念には念を、とはよく言ったものだ。取り越し苦労だといいが。

 さて、行きますか。
 Dホイールにエンジンをかけ、走行開始。Dホイールに乗るようになって、思うようになった事がある。こうやって、風を切って走る事が如何に気持ちいいかという事。
 人間が走る事や飛ぶ事に憧れ、そしてその為に数多の技術が生まれた。
 そしてその結果、サテライトでは恐ろしい事故が起こった。無限のエネルギーを得ようとして、全てを崩壊させた。ゼロリバースだ。
 ゼロリバースで失った人命と資源は、あまりにも大きい損失。そしてその結果が、荒廃したサテライトなのだと。

 人はその度に何かを失う、とはよく聞く。けど、その分だけ得て来たものだってある筈だ、と私は思う。
 そう、誰かを思う度に――――。

『唯! 後ろ!』
 ヘルメットから声が響き、私は慌てて視界を後ろに向けた。
「え?」
 眼を疑った。
 オレンジの、夕日をバックに漆黒の巨大な姿が空に浮いていた。
 大きく広げた翼。
 真紅の瞳と、漆黒の身体。そしてその上に立つ。

 真っ黒いコートを着た姿。 「……よし、来た!」
 大きくハンドルを切り、盛大にブレーキをかける。
 竜は当たり前のように速度を落とし、そして真っ黒いコートの男がひょいと、文字通り軽い動きで私から少し離れた瓦礫へと飛び乗った。
 コートの男が近づく度に、その姿が少しずつ明らかになる。
 マスク、とは言っても鼻から上を覆っただけで口は出ているようだった。
 そして、漆黒のマスクとコートには不釣り合いな、だが美しいワインレッドの髪が時折揺れる。その口元には笑み。邪悪な笑みではなく、心底楽しそうな子供のような笑み。
 口元から察する顔立ちは、かなり若く見える。二十代……いや、同い年ぐらいというのも有り得る。とにかかうそれぐらい、若い青年だった。
「よう。走らないのか?」
 それは、実に陽気で無邪気な声だった。

「……あなたが最近、噂の黒い人ですか?」
「そういう噂になってるとは知らねぇがそういう事にしておくぜ」
「なるほど」
 私はヘルメットを外す。通信機の向こうで皆がなんか喋っている気がするが気にしない事にする。
「おお、結構美人」
「その仮面、取ってもらえますか?」
「あ? 別に構わねぇけどよ……ほれ」
「え?」
 その仮面の下。
 そう、その仮面の下にあった顔は、間違いない。

 何度も写真で見た事がある。
 私がデュエリストになろうと思った理由。黒川家で最大の放蕩息子といわれ。
 最強のデュエリストの中に名を連ねて世界を一つ制覇する直前までいった黒竜の帝王、黒川雄二の姿がそこにあった。
「ところで一つ聞いていいか? 実はここがどこで今どのあたりの年代なんだが今ひとつよく解らないんだが」



 勝手に通信を斬った事に腹を立てた皆が駆けつけて来て私に何かふしだらな事はしていないかと即座にダイレクトアタックが飛んだが雄二様は持ち前のバイタリティと機転でひらりとかわし、ひとしきり騒いだ後、本題に入る事にした。
「えーと」
 なんと言えばいいのか、私が言葉を選ぼうとしていると雄二様はあっさり口を開いた。
「あー、ともかくはだ。一応ここは童実野町、いや、ネオドミノシティ? でいいのか? 上と下の落差が凄いような気もするんだが」
「え、ええ………雄二様からは三世代程あと、になりますね」
「ふぅん……ってなんで俺の名前知ってるんだ?」
「は、はいそれは……私の名前は黒川唯と申します」
 とりあえず雄二様ならそれだけで解るだろう、そう思ってそう返すと雄二様は一回だけ首を横に傾げた。
 一秒、二秒と時が流れて三秒目。
「……え? って事は、俺の……」
「直接つながりがある訳では在りませんが血縁の方とは聞いています」
「………何年後に飛ばされて来たんだ、俺」
「……色々何かあるようですね」
 私の言葉に雄二様は苦笑する。
「仕方ねぇのさ。ちょいと人を追いかけたら時空流に巻き込まれて……おおっと。ここから先は禁則事項だ。タイムパラドックスで大佐に怒られちまう」
 雄二様は笑う。
 無邪気な笑みで、そう指を小さく立てて。
「ところで」
 ひとしきり頭を掻いた後、雄二様は視線をDホイールに向けた。
「こっち来てから気付いたんだが、バイクに憑いてるそれはなんなんだ? 面白そうだから追いかけてたらそいつら逃げたり事故ったりして挙げ句にうるさい連中に追われる羽目になったんだが」
「そりゃあんなドラゴンで追い回されればセキリュティに通報するってーの……」
 ツァンの言葉に雄二様は「ああそうか!」と初めて気付いたような顔をした。
 まるで自覚無かったようだ。この人は……。
「ま、それはどうでもいい。後でうるさい連中が追って来たらいつものように落とし穴に落とせばいいし」
「それでセキリュティへの被害が凄いんですね……」
 まぁ、それは置いておくとしよう。
 トップス在住の黒川家にとってセキリュティなど圧力をかける相手でしかない。
「Dホイールですね。見た通り、バイクに搭載されたデュエルディスクです」
「バイクに乗ってデュエルするのかよ? なんだそりゃ」
「今のトレンドみたいなものですよ。ライディングデュエルは」
 私が苦笑しつつそう告げると雄二様は「最近の流行りは解らねぇ」と呟いていた。
 一度、見せた方が早いかもしれない。しかし、問題は……。

 ここにDホイーラーがいないという事だ。

 私が困っていると、雄二様は急に頭を掻く。
「ああ、そうだ。頼みがあるんだが構わないか、黒川唯?」
「なんですか?」
「……宿を貸してほしい。いい加減野宿はごめんだ」
 どうやら流石の雄二様も寒さには勝てないという事か。








 黒川雄二。
 黒川財閥八代目当主黒川勇次郎の次男として生まれる。
 正妻の子である為、相続権は所在したが十二歳の時、父・勇次郎の教育方針に反発して一度目の親子喧嘩、第一次跡継ぎ大戦の果てに本家を飛び出す。
 その後、十七歳の時に第2回バトル・シティに参加。準優勝するというデュエリストとしての才能を開花させ、海馬コーポレーションをして次世代を担う十二人のデュエリストに選ばれる。
 そして、第2回バトル・シティを巡る陰謀に於いて人知を越える力を手にし、人間としてある種の到達点へと達した。人類をはみ出したが故に永遠の時を彷徨い、永遠に敵と戦い続けるという運命を背負ったがその持ち前の明るさと機転が彼を救う。
 そしてその後に発生したデュエル・アカデミアで発生したデュアル・ポイズンとの抗争に於いて中心戦力として戦い、その頃に本家にて第二次跡継ぎ大戦を行い、本家に復帰する。
 その後は何処かの世界で何処かの時代で一般人として暮らしながらも時折あちこちで起こる戦いに世界の調停者として介入している。
 サンジェルマン伯爵の再来、時をかける青年、決闘者界のリーサルウェポン、決闘界の核弾頭、史上最狂の決闘者と様々な異名を持つが、彼を象徴する上でもっとも重要なもの。

 全世界で100枚前後しかないと言われるレアカード、真紅眼の黒竜。

 元々は彼の決闘の師から受け継いだものらしいが今では真紅眼の黒竜と言えば黒川雄二の名前が挙がるほど、彼の存在は有名になっている。
 そう、数多の月日が流れたこのネオドミノシティでも。



「………長っ!」
 日はとうに暮れた後、私の自宅――――現在の黒川家へと案内された雄二様は自分に関する記述を読んでそう叫んだ。
 見掛けによらず頭を使うのは苦手かもしれない。
「一応それでも簡略された方なのですが………ああ、そうでした。これをどうぞ」
「ん? これは?」
「海馬コーポレーション発行のルールブックです。今のデュエルについて描いてあります」
「ああ、サンクス」
 雄二様は私が受け取った本を凄い勢いでめくっていく。あれだけの速度だというのに仮面を外してはいない。読みにくくはないのだろうか。
 私がそう思っていると、ルールブックをめくり、真ん中あたりのページで眼を留める。
「……どうしました?」
「ん? ああ、なんでも無いさ……この、Dホイールのくだりがちょっとな」
「え? ああ、それですか」
 Dホイール開発の切っ掛けは黒川家の廃棄倉庫で発掘された一台のバイク。
 バイクだというのにデッキホルダーがセットされており、それが切っ掛けでDホイールは作られた。世界で最初にDホイールを作ったのは黒川家なのだ。
「妙な話だよなぁ。俺が本家の倉を家捜ししたら出て来たりして」
「そんなバカな……」
 私の言葉に雄二様は真面目な顔で「ありえるかも…」と呟いていた。
 やはり噂以上に変わった人なのかも知れない。
 私がそう考えていると、雄二様はため息をついてルールブックを閉じる。
「……それにしても。こんな時代まで歴史ってのはちゃんと続くもんだな。すげぇ話だぜ」
「歴史、ですか?」
「ああ」
 雄二様は仮面を外し、その下にある素顔で呟く。
 写真の中に映る顔と変わっていない。時が止まってしまったような顔。
「俺が黒川の家を飛び出した頃。俺は自分の存在って奴がどういう意味なのかわかんなくなってた。次男だったから、完全な跡継ぎになる事なんて出来なかった。
 それは最初から解ってたんだ。だけど……俺だって、認められたいって思ってたのさ。オヤジに。けど、兄貴や姉貴が俺が苦労して辿り着いた場所より更に上に行ってるのさ。
 俺が苦労して辿り着いた場所は、兄貴や姉貴が既に同じ苦労をして辿り着いた場所だとね。いつまで経っても追いつけず、追い越せない。それが嫌だった」
 名家の人間というのは、生きていく上で便利な事はたくさんある。だが、それ以上に苦悩することもある。
 黒川雄二が背負ったのは、黒川家という巨大な看板を背負えるだけの位置に付けなかったということ。
 当主は万が一の為に正妻だけでなく愛人だって多く持つ。しかしその子供達は黒川の名を名乗る事を許されない。
 唯一の例外は本家の子供と嫁入りもしくは婿入りすること。そうやって、黒川の家は長く濃い血を保って来た。
 誇り高い血統と、それに見合う能力を。遺し続けて来た。
「でも、俺は生きて行く途中で……人の枠をはみ出してしまった。人では無くなってしまった。黒川の看板を背負うだけの力を得た、けれどその代償として永遠に死ねなくなっちまったよ」
 今、こうして時を永遠に彷徨い続ける羽目になった、と雄二様は笑った。
「ま、それに死ぬ前にやり遺した事はたくさんあるからな。まだまだ当分死ぬつもりも無いが」
「そうでしたか……」
 私がそう答えると、雄二様は急に話題を変えた。
「そういやデュエル・アカデミアに通ってるって言ってたよな? よく許可降りたなぁ」
「雄二様達のお陰です」
 黒川雄二がいた世代。
 八代黒川勇次郎の正妻の子供であり、黒川の系譜に名を連ねる三人の兄弟。長女・黒川珠樹、長男であり九代黒川雄一、そして黒川雄二。
 この三人が優秀なデュエリストとしてデュエリスト界に名を轟かせたお陰で、黒川財閥は海馬コーポレーションと提携、アミューズメント産業に乗り出して大きな成功を収めた。
 そして、次代を担う黒川家の人間である私がデュエル・アカデミアに通う事を許されたのもそんなデュエリストとしての将来を期待されたからだった。
「時代ってのは変わるもんなんだな……俺の世界じゃ、デュエル・アカデミアと言えば世界に数えるほどしか無かったしな。あと、色々酷い目に遭った事も覚えてるが」
「アカデミアに、何か悪い思い出でも?」
「正確にはアカデミア生だった奴に、な。生涯のライバルが一人と、不倶戴天の宿敵が一人、な」
「不倶戴天の宿敵って……」
「あいつに一度負けた事がどうしようもなく悔しくてなぁ」
 意外と子供である。
 私がそんな事を考えていると、雄二様はふと立ち上がり、窓を開いた。
 高さ数十階分なので、風は冷たい。
「ちょいと出掛けるぜ」
「どちらまで?」
「この世界に来た理由って奴だ。心配するな」
 事故、と本人は言っていたが何か理由でもあるのだろうか。私が返事よりする先に雄二様は夜のネオドミノシティへと飛び出して行った。
 人からはみ出してしまったが故に課された宿命。それが何なのか、私は知らない。
 けれども、私がそれを知るのはそう遠く無い日だった。







 翌朝。私はいつものようにアカデミアへと登校した。
 ただ、一つだけ違う点があるとすれば、隣に雄二様がいるという事だ。
「おお、校舎奇麗だな」
 黒いコートと仮面を外すと、やはり私と大して歳の変わらない青年に見える。まぁ学校に黒服で行ったら警戒されるというのは当たり前だ。
「アカデミアへようこそ、雄二様」
 そう挨拶しておく。雄二様は頷くと、車から降りて背の高いアカデミアの校舎を見上げる。
「おっと。デュエルディスクデュエルディスク……」
 雄二様はそう言うと、何処からか取り出したのか所々くすんだ銀色のデュエルディスクを腕にはめる。一昔前の、旧型のデュエルディスクだ。
 まさかデュエルをする気なのだろうか。それはそれで見てみたい気もするが。
「あ、唯ねーちゃんだ! おはよう!」
 私がそう考えていると、近くから元気な少年の声と足音が響く。
「こんにちは、龍亞君」
 初等部に通う少年、龍亞君。機械族デッキを中心に扱う非常に元気な子でそのプレイングは幼いながら決して見逃せない。
 ちなみに双子の妹で龍可ちゃんもいるが、今日は彼女の姿は見えない。
「唯ねーちゃん、その隣にいる人、誰?」
「え? この人? この人は……」
「ダークネスだ」
 雄二様は私が紹介するより先に即座に答える。それに対する龍亞君は……。
「………」
 呆れた顔で沈黙。そりゃそうだ。デュエルに関わるものなら知らない者はいないダークネス事件の犯人、ダークネスと名乗る人などそうそういない。
 約一名を除いて。
 雄二様だけを除いて。
「あの、兄ちゃんふざけてるんなら怒るぜ?」
「ふざけてないさ。まぁ、信じろっつー方が無理かもしれないけど……おおっ?」
 雄二様が視線を急に横に向けた。
 私と龍亞君も視線を横に向けると、そこには龍亞君の妹、龍可ちゃんと。
「あれ……黒川、さん?」
 かつて黒薔薇の魔女、という通り名で知られたデュエリストであり、今では私の同級生の十六夜アキが立っていた。
 アキは龍亞君、龍可ちゃん兄妹と何か関係があるのか私が二人と知り合ったのはアキの紹介だ。
 アカデミアに通っているトップスの生徒はあまり多く無いからトップス在住の二人は私の貴重な友達の一部になっている。
「アキ、龍可ちゃん、おはよう」
「………おはよう、黒川さん」
 私の言葉に、アキは何故か雄二様の方に注目しつつ挨拶する。
 そしてそんな雄二様はアキを凝視し、そして小さく呟いた。
「AOJ……」
「え? アーリー・オブ・ジャスティス、ですか?」
 雄二様は何でそう唐突に呟くのか、と言いかけたとき雄二様は首を大きく左右に振る。
「違う! アキたんの・おっぱいは・ジャスティスだ!」
「おっと。手が滑った」

「でゅくしっ!」
 雄二様がそう叫んだ直後、校門の裏から小さく声が響くと同時に飛来したスパナが雄二様のあごを直撃していた。
 こんな所からスパナを投げる人と言えば……。
「あら、遊星」
「アキか……すまない。手が滑ったんだ。怪我は無いか?」
 ネオドミノシティのデュエルキングとして讃えられるデュエリストであり、腕のいい修理屋としても知られる青年、不動遊星。
 アキと彼に何の関係があるのかは不明だが二人は非常に仲が良く、クラスメイトの一部はデキているんじゃないかと噂している。
「ええ。怪我は無いわ。そこの変態に当たっただけよ」
「そうか。なら、いい」
「よかねーよ。痛いっつーの……」
 雄二様があごをさすりつつ立ち上がるが、今のは自業自得と言えるだろう。
「ところで、こいつは誰だ唯?」
「この人ですか? こちらはデュエルキングの不動遊星さんです」
「デュエルキング!」
 雄二様は驚いたように飛び上がった後、遊星に視線を向ける。
「ふぅん……デュエルキングねぇ」
「何か用か?」
「いや…………なんでもないさ。お前もあいつと同じニオイがするって思ってな」
「あいつと同じニオイ、だと?」
 遊星の目つきが一瞬で鋭くなる。彼は時折凄まじい気迫を発する、とは思っていたがその気迫は凄かった。
「ああ。遊城十代とな」
「……彼を知っているのか?」
 気迫はすぐに引っ込んだ。雄二様は色んな世界を飛び回っている人だから遊星の知り合いを知っている、というのも有り得ない話ではないかもしれない。
 ただ、意外な名前だ……何処かで聞いた事がある名前だとは思うが。
「不倶戴天の宿敵って奴だ。多分、あいつに俺の事話したら怒るぞ」
「そうなのか? 俺はあんたと彼は意外と似ていると思ったが……主に能天気な所が」
「誰が能天気か」
 雄二様はそう言うと、遊星が作業をしていた校門の裏に視線を向ける。
「ところで、何をしてたんだ? あんな所で?」
「アカデミアで生徒の授業用に使うDホイールのメンテナンスを頼まれていた」
「Dホイールか……考えてみれば凄いもんだよなぁ。バイクにデュエルディスク搭載するなんて、考えた奴の頭ん中を見てみたいぜ。面白そうでは在るけど」
 遊星がつい先ほどまでメンテをしていたDホイールを見ながら、雄二様は呟く。
 そういえば昨日も、Dホイールに興味を持っていた気がする。
「ライディングデュエルは……いいものだ」
 遊星がそっと口を開く。Dホイールを自作できる技術を持つ彼にとって、ライディングデュエルは大変好きなものなのだろう。
 雄二様は大きく頷く。
「確かにな。楽しそうだな。俺もやってみたいものさ」
「デュエリストなら、きっと出来る」
 遊星はそう言って小さく微笑んだ。無口であまり喋らない、というイメージが強い彼だが雄二様とは意外とおしゃべりしているようで意外だった。
 私がそう考えていると、雄二様はポケットから何かを取り出した。
「こうして会ったのも何かの縁だ。よろしく頼むぜ。あ、これやる」
「ああ………おい、そんなにほいほいとプレゼントを……」
 と、言いかけて遊星の視線が止まる。
「こ、これは……! まさか……!」
「ああ。そのまさかだ」
 遊星の言葉に、雄二様はニヤリと笑う。
「………これの礼だ。お前のために俺がDホイールを作ってやる」
「遊星。それより前に私のは」
「雄二様のDホイールは黒川財閥が発注しときますから……それより、雄二様。何を渡したのですか?」
 アキの言葉とともに私がそう告げると、遊星は少し残念そうに肩を落とす。
 しかし何を渡したのだろう。
「べ、別に大したものじゃない」
「遊星がDホイールを作る事を決意するぐらい凄いものなんでしょ、いいから見せなさい」
 アキが遊星の手から何かを強引にもぎ取って視線を向けた直後、アキの強烈なハイキックが遊星に飛んでいた。
「最低……!」
「あ、アキ! それは違うんだ! それは決して趣味というかなんというか、そう、それは……! やめろ、アキ! ブラックローズを召喚するんじゃない、アーっ!」
 雄二様が遊星に渡したもの。
 『霊使いカラーグラビアイラスト集アウス編』と書かれていた。
 ノーマルな地霊使いアウスからきわどいイラストのものまで一冊まるごとアウス尽くしな変態御用達のアイテムである。
 遊星はアウスが大好きなようだ。





 遊星がアキに消し炭にされた事もあったが、雄二様はアカデミア散策を結構満喫しているようだ。
 まぁ、アカデミアまで連れて来たのにはもう一つ理由がある。
 昨日ひなたが頼まれた、新聞の取材である。サテライトでインタビューを行うより、アカデミアでやった方が落ち着いて話せるだろうから。
 それに、雄二様のプレイングを見てみたいというのもある。それより先に多くの生徒に囲まれていたが。
「何処から来ました?」
「ちょっと過去の方から」
「どんなデッキ使ってる?」
「歴史に名を残すデッキ」
「あの、彼女とかいないなら……」
「やらないか」
 一部変な質問が混じっているが、雄二様はそれを文字通りごく普通に答えて行った。
「人気者だな」
 トレードマークのヘンテコな髪形なチリチリになった遊星が呟く。
「黙っていればそれなりの容姿でもあるしね」
「デュエリストとしての腕前も高い方、と黒川家には伝わってます」
 アキに続いて私がそう告げると、遊星は意外そうな顔をしていた。
「とてもそうは見えん」「とてもそうは見えないわ」
「今さりげなく失礼な単語が聞こえた気がするんだが」
 遊星はともかくアキまで同時に呟く。そして雄二様もそれに気付くという地獄耳っぷり。
「ところで、なんでアカデミアに連れて来たの?」
「ああ、それは……」
 私がアキにそう言いかけたとき、校門の方へレトロな印象の車が文字通りドリフトしながら停車した。
「あの車って確か……」
「カーリー渚、か?」
 そう、昨日ひなたが雄二様にアポを取るように頼んだ新聞記者。
 どこかの三流新聞の記者、という事だけは解っているけどそれ以上の事が解らない。後は瓶底眼鏡か。
 そんな彼女の車から最初に降りて来たのは新聞記者のカーリー渚と、もう一人。運転席でハンドルを握っていたドリフト駐車を行なってしまった張本人であろう金髪の青年が姿を現した。
 元デュエル・キングのジャック・アトラスに間違いない。最近テレビで見掛けないと思えば何をしていたのやら。
「ちょ、ちょっとジャック! 今の運転危なかった! もう少しで事故になっちゃう所だったんだから!」
「ブレーキとハンドルを間違えた。仕方ないだろう」
「どこをどう間違えたらそうなるのか解らないんだから!」
「極稀にそういう事がある」
 カーリー渚とジャックはそんな会話をしつつ校門をくぐり、そして私たちに気付く。
「遊星。カーリーがアポを取ったという相手がここにいるそうだが、知らないか」
「……残念だが俺は知らん」
「目の前にいるっつーの」
 雄二様がぶすりと答え、ジャックは雄二様に視線を向ける。
「お前には聞いていない。だいいち、お前は黒い男ではなかろう」
「今日が私服なだけだ!」
 そりゃトレードマークいえども毎日同じ服を来ているとは言えないだろうが。
「え? その子が例の……」
「サテライトで噂になってる黒服たぁ、多分俺の事だと思うが」
「……………」
「……………」
 沈黙する、カーリー渚。
 同じく沈黙する、雄二様。しかし、雄二様の視線はカーリーに向けられている。
「!」
 雄二様は眼を見開いて立ち上がる。何かに気付いたのだろう。
「ブラボー、おおブラボー」
「え?」
「そのおっぱいがブラボーという事さ!」
「貴様に言われるまでも無い!」

「おぶすっ!」
 雄二様の発言の直後、ジャック・アトラスの強烈な鉄拳が彼を襲う。
「なにしやがる!」
「カーリーに対してそんな事を言うな。そんな解りきった事を今更言うんじゃない!
「否定しねぇのかよ!」
「あのー、インタビュー……」


―――まずはお名前をどうぞ。
「別に黒川雄二でもいいけど年齢が噛み合ないだろうからダークネスでいいよ」
―――噂になっている黒竜に乗ってのDホイーラーへのストーキングですが。
「誰がストーキングだ(笑)。一応、なんて言うのか……デュエリストってのを世代別に分けるとすると、初代決闘王とか海馬社長を第一世代とすると俺は第二世代の部類に入るな。その頃にライディングデュエルってーの? そんなの無かったもん」
―――では、ライディングデュエルについてどう思いますか?
「面白そうだよな。最初に考えた奴は誰なんだろうなって思うぜ。一応バイクに乗れなくも無いから乗ってみたいとも思うし」
―――黒川財閥のDホイールは世界でシェアNo.1になっている事について。
「そ、そうだったのかー!」
―――仮にあなたが黒川雄二さんだ、という事にしてお聞きします。今のネオドミノシティの発展についてどうお考えですか?
「日本はいつから階級社会になったのかね。とか言いつつも俺も上流階級の側なんだよなぁ……ダメだ、この質問カットで。記事にするなよ?」
―――ジャーナリスト魂に基づいて記事にします。
「人類の進化が辿り着いた最高のおっぱいを持つお前のおっぱいを一晩中揉み尽くすぞ」
(以下、私のジャックによる制裁開始)
―――あなたの名前を世界に轟かせた第2回バトル・シティで一番心に残った事は?
「十代を不倶戴天の敵と思うようになった事かな」
―――参加者ですら無いですが、十代さん。
「ほっとけ」
―――やはり決勝で敗れた事は心残り?
「悔しくはあったけどよ、貴明は俺の友達だからなぁ。今思えば二代目決闘王なんて肩書き背負ったら大変だったと思うぜ。実際、貴明の奴大変だったから」
―――ところでここに来た事は観光ですか?
「断じて違う。ちょいとした野暮用だ」

 アカデミアの中庭、という場所で多くの生徒達から注目されつつインタビューは進む。
 だけど、その言葉一つ一つには興味深いものがある。やはり、過去の時代を、世界を文字通りまたにかけてきた彼の言葉は、違うのだろうか。
 しかし、落ち着いて話せる時間も長くは続かない。
「見つけたぞ! 今日という今日は逮捕だ!」
「ん? 牛尾か?」「牛尾さんだわ」「牛尾だな」
 突如、校門を文字通り突き破ってセキリュティの隊員が突っ込んで来た。
 遊星達の知り合いらしいが、そのセキリュティ隊員は遊星には目もくれずに雄二様をロックオン。そういえばセキリュティに多大な被害を出していた雄二様。
「はいはい落とし穴発動」

 落とし穴 通常罠
 相手が攻撃力1000以上のモンスターを召喚・反転召喚した時に発動可能。
 その攻撃力1000以上のモンスター1体を破壊する。

「アアアアぁぁぁーっ!!!」
 見事、セキリュティ隊員は落とし穴に消えた。合掌。
「そうだ、続きだな続き」
 そして雄二様は再びインタビューに戻る。

―――アイドルカードは、好きですか?
大好きです。ピケルからヘリオスまで」
―――デュエリストとして、伝えたい事とかありますか?
「そんな堅苦しい言葉は無い、と言いたいけどそういう訳じゃねぇな。なんていうか……デュエルってのはただ戦うだけじゃない。人と人との触れ合い、だと思うんだよ。信念だったり、或いは愛情だったり、或いは正義だったり、お互いに伝えたいものを伝え合う。そういう所があるんだと思ってる。だから忘れないでくれ。デュエルってのは戦いじゃねぇのさ」
―――なるほど。色々とありがとうございます。最後に一つ質問です。あなたにとって、デュエルとは何でしょう?
「人類が辿り着いたコミュニケーションの一つのカタチ」
―――ありがとうございました。おつかれさまでした。
「お疲れさまでした」



 インタビューが終わり、雄二様は椅子に寄り掛かった。
「ありがとう、いい記事にするんだから……って、それにしても、結構若そうだよね」
「んー? まぁなー。時間止まってるようなもんだし」
 雄二様がそう言って笑ったとき、遊星が「ところで」と口を開いた。
「……一つだけ、聞いていいだろうか」
「なんだ?」
「何の為に今の時代まで来たんだ? こう聞くのも妙かもしれないが」
「ん? ああ、それはな……カードを探しに来たのさ」
「カードを?」
「ああ」
 雄二様は大きく頷く。
「カードを追いかけ回してたらここまで来ちゃったのさ」
 いつの時代、どんな世界にもいるダークネスと一体化した雄二様とて、貴重なカードや大事なカードを手に入れる為には過去や未来を右往左往する事もあるのだろう。
 それともう一つ。昨日雄二様が出掛けていたのにも納得が行った。
「で、そのカードは見つかったのか?」
「ん? ああ、実は昨日の夜に見つかったんだがこういう事があってな」





 夜。
 夜のネオドミノシティに、普通の奴はいない。元から夜の街に普通の奴がいないのは、黒川雄二も解りきっていた。
 だからこそ。

「探しがいがあるってもんさ。あのカードを!」

 雄二は笑いながら、夜の街を駆け抜ける。

 ドラゴン族のモンスターは、時折強さの象徴として描かれる。
 三幻神や三邪神、三幻魔にも竜の形態を持つカードが数多デザインされ、そしてそのドラゴン族である事を最大限に利用したカードといえば三神竜が挙げられるだろう。
 しかし、一巡目の世界が滅んだ後、二週目の世界へと突入した時。
 機械仕掛けの神は、ダークネスの力を三神竜として分割した。それぞれの強大な力を与え、大いなる力として、神が人間に与えた調停力として、暴君として。
 そしてだからこそ。
 七つの竜とその戦士達は、人間が機械仕掛けの神に挑む為に生んだカードなのだ。
 そのカードを生み出したオリジナルがどこに消えたのか、黒川雄二は知らない。だが、七つの竜と戦士を作り上げた奴はそれより前に三神竜を作り上げる事に協力していたという事だ。
 そうでもなければ、わざわざ対抗するようには作られない。

 七つの竜と七人の戦士。
 黒川雄二だけでなく、第2回バトル・シティ大会に参加し、関わったデュエリスト達の間でダークネスの力を手に入れた雄二と、遊城三四の口から語られた、大切なもの。
 来るべきデュアル・ポイズンと、そして本当のループと因果を断ち切る為に、いずれ戦う事になるであろう機械仕掛けの神との戦いの為に。
 七つの竜と七人の戦士を、全て揃えなくてはいけない。

 黒川雄二はその中で、一つだけ異なるカードが存在する事に気付いていた。
 七つの竜、と行ってもドラゴン族という共通項以外は属性もその召喚用途もバラバラだ。

 或いは特殊召喚モンスター、或いは融合モンスター、或いは儀式モンスター。
 しかし、その中で一つだけ。未知の召喚方法のカードがあった。

 そしてそのカードを探し求めて気がつけばこの世界まで来て。そして、時折彼らのデュエルを眺める事でその謎が解けた。
 シンクロモンスター。
 シンクロ召喚と呼ばれる特殊な召喚方法を用いたカードだったのだ。
 雄二達が生きていた世代には存在しなかったその召喚方法のカードが何故それより前に二週目の世界で生まれてしまったのかは不明だ。
 ある意味のタイムパラドックスであるそれが。しかし、雄二にとってはどうでもいい事。今はそのカードを持ち帰り、真なる所持者を捜す事が必要なのだ。


 サテライト。
 ただでさえ薄暗いサテライトは深夜ともなれば更に暗く、人目につかなくなる。
 だが、逆に言えば人目につかない、つかせたくない事をするには最適の時間と言えるだろう。
 そして、サテライトの一角。かつて数多のデュエルギャング達が住処としていた廃工場に、四人の人影があった。
 一人は頭にバンダナを巻き、笑顔を模した仮面を被った男。そして残りの三人はそれよりいくらか体格の劣る少女達だった。
「よぅし! 今夜も満足のいく授業を始めるぜ!」
「「「よろしくお願いします! 満足先生!」」」
 満足先生と呼ばれた仮面の男は少女達の返事に嬉しそうに「そうかそうか!」と笑うと、廃工場の隅に向かった。
 あちこちに傷のある年期の入ったDホイールが置かれ、満足先生は少女達をDホイールの所まで連れて行く。
「今日はライディングデュエルに於ける特別ルールについて解説するぜ! いいか、満足の行くデュエルをしたければ、ライディングデュエルについて正しい知識を身につける事が必要だぜ!」
「「「「はい! 満足先生!」」」」
「ん? 今、なんか声が四人に聞こえなかったか? まぁ、いいや。細かい事気にしてる暇もねぇしな……えーと。まずはヨハンナ。ライディングデュエルを行なう際、必ず発動されるフィールド魔法はなんだ?」
 まず最初に話を振られたのは長い金髪の気の強そうな少女。
 ヨハンナは満足先生の質問に淡々と答える。
「はい。スピードワールドです。ライディングデュエルを行なう際に自動的に発動され、他のフィールド魔法と違って破壊されません」
「ようし、その通りだ! 次にソーニャ。スピードワールドを発動している状態では魔法カードに制限がかけられる。その制限はなんだ?」
 次に質問されたのはソーニャと呼ばれた、銀色の短髪という満足先生と似た髪形をした幼い少女。
「え、えーと……魔法カードを使うと、ライフポイントにダメージを受けるペナルティがある、ですよね」
「よし正解! スピードワールドを発動しているライディングデュエルで通常の魔法カードを使用するとライフポイントに2000ダメージという大きなペナルティを負う。ではセシル。最後の質問だ。スピードワールド発動下でペナルティ無しで扱える魔法カードとはなんだ?」
「はい! スピードスペル、ですね。Sp、という名称がカードの前に付きます!」
「ようし! 全員正解だ! 満足先生、花丸あげて満足だぜ!」
 満足先生は大きく笑うと、三人の少女達一人一人の頭を撫でる。
 笑顔を浮かべた仮面の下に隠れたその表情は何なのか解らないが、それでも彼が嬉しそうなのは間違いないだろう。
「さぁて。ではライディングデュエルを行う時にもっとも見せ場となるモンスターについて解説するぜ。それは……シンクロモンスター!」
 満足先生は高らかに宣言すると一枚のカードを示した。
「お前達にこのカードを渡そう。満足先生が先日手に入れたカードだ。お前達チーム・サティスファンクション・アドバンスドの門出にはぴったりだと思うんだ」
「なんというカードなんですか、満足先生?」
 ヨハンナの質問に、満足先生はいい質問だとばかりに頷く。
「これはアルカナフォースEXー……」「ちょっと待ったぁ!」「!?」
 満足先生の言葉を強引に中断したかのように、誰もいない筈の廃工場で声が響く。
「だ、誰だ?」
「あー、悪い悪い。脅かして悪かったってーの」
 そんな声と共に、廃工場の暗闇から一人の姿が顔を出す。
 黒いコートに黒い仮面。そして、ワインレッドの短い髪。まぁ、黒川雄二の事である。
「俺はそのカードを探しに過去からやってきた」
 雄二は満足先生が持つカードを指差しながら呟く。
「タダで、とは言わない。だがそのカードが必要なんだ。譲ってくれないだろうか」
「おいおい、そんな満足させない事をいきなり言うんじゃねぇ」
 満足先生はため息をつく。
「どうしても必要なんだ、そのカード。大事な力、なんでな」
 雄二はもう一度問いかける。嘘は言わない。仮面の下からでも解る、真っ直ぐな意志。
 満足先生は、そんな真っ直ぐな意志を一度向けられた事があるのを知っていた。
 それは親友であり、宿敵であり、仲間であった奴から向けられたもの。
「………条件がある」
 満足先生は呟く。
「お前もこのカードを必要とするならデュエリストなんだろう。明日、お前はどこか出掛ける予定でもあるのか?」
「ああ。明日は新聞社の取材を受けるんだが……アカデミアで」
「じゃあ、明日の昼にアカデミアで俺と満足のいくデュエルをしようぜ! 俺を満足させたらこのカードを譲ろう!」
「ようし、その話乗った! あ、でもそれだけじゃ悪いからその子達の為にカードを用意しよう。それで文句はねぇだろ?」
「もう一押しだな! 俺を満足させるものがあれば……」
「霊使いカラーグラビアイラスト集エリア編をお前にやろう」
「デュエルするのやめだ! こいつらの為のカードを明日受け取りに行くからそれと引き換えにカードだ! 霊使いカラーグラビアイラスト集も忘れんなよ!」
「ようし、OK。話は決まった。明日、アカデミアで会おう」





「……と、言う事があってだな」
「誰だその満足先生って!? 何処かで聞いた事があるような気がしないでもないが!」
 雄二様は昨日の夜、帰りが遅かったがそんな事をしていたのか。
「ちゃんと忘れずにカードと本も持って来た。これで満足先生が来てくれれば……」
 直後、アカデミアの校門の方にまるで輪タクのように後ろに車輪付きの座席がついたDホイールが止まった。
 後ろに三人の少女達が少し狭そうに乗っており、Dホイールの運転手がヘルメットを投げ捨てる。
「待たせたな! 満足先生は約束通りに来たぜ!」
「「……鬼柳?」」
 遊星とジャックが同時に首を傾げたが笑顔を付けた仮面の男は首を横に振って否定する。
「違う! 俺は鬼柳京介じゃねぇ! 俺はチーム・サティスファンクション・アドバンスドのオーナー兼監督の満足先生だ!」
「鬼柳だろ」「鬼柳だな」
「チーム・サティスファンクションってなんですか?」
「俺とジャックとブラックバード運送のクロウがそこにいる鬼柳と結成していたチームだ。サテライトを制覇した。懐かしい記憶だ」
 私の問いに遊星は懐かしそうに語る。
 一方、とうの鬼柳と呼ばれた満足先生は「俺は鬼柳じゃねぇ」と叫んでいた。
「でだ、満足先生よ。カードは持って来たか?」
「それより前にダークネスだったっけか? カードと本を」
「ちゃんとここにあるぜ。おーい、そこの三人」
 雄二様はコートの何処にしまっていたのか、数百枚はあるであろうカードの束を三人に渡し、そして満足先生には本を渡していた。
「これが約束のブツだ」
「へへへ、すまねぇな。おおっ!? これは初版本じゃねぇか!?」
「ああ。伝説の波乗りエリアが収録されている初版本だ。で、カードの方は」
「…………」
 満足先生は目をそらした。
 雄二様は「カードは?」と続けて催促する。
 満足先生は黙り込んだ。
「テメぇぇぇ! カードは返さなくていいけど本は返せ! 初版本は一万部しかねぇ貴重な品物なんだぞ!」
「やーめーろー! これはもう俺が満足する為に使うと決めたんだー!」
「これと引き換えでカードの約束だっただろーが!」
「わかったわかった! 正直に言うってーの!」
 満足先生は咳払いすると声を潜めた。
「実は昨日の夜な、道場破りに遭いまして……」
「え? 満足先生、でも昨日はこの人が帰った後普通に解散して……」
「お前らが帰った後だったんだよ、セシル………アンティデュエルで取られた」
 満足先生は落ち込んだ。
 つまり話を要約すると。
 夜のうちに満足先生の持っているカードを雄二様は三人分のカードとエリアのイラスト集と引き換えに譲ってもらう約束をした。
 しかし、三人が帰った後、満足先生はアンティデュエルに敗れてカードを取られてしまったのだ。

「取り返してこい」

 雄二様が次に口を開いた時、強烈な怒りが刻まれているのが解った。そう、止めようが無い程の強烈な怒りを。
「え? いや、だから俺はその見事に負けたのであって……」
 満足先生が慌てて口を開くが雄二様は再び口を開く。
「取り返してこい」
「イエス、サー!」
 流石は雄二様、たった一言で人を動かすなんて、王者の風格を持っている。
 黒川の人間なんだな、とも思う。
「鬼柳、俺も協力しよう」
「今回ばかりは貴様のミスだろうが協力してやらんことも無い」
「手を貸してあげるわ……ねぇ、唯も協力してくれるかしら?」
「別に構わないけど……」
 少なくとも雄二様は拗ねてしまったのかそっぽを向いてカーリーとひたすら雑談をしていた。
 満足先生は嬉しそうに頷くと、口を開いた。
「ありがとよ、皆……昨日俺を負かした奴は銀髪のちっこいので、そいつと一緒でやたらそのカードに拘っていたんだ」
「鬼柳。取られたカードとは一体なんなんだ?」
「だから俺は満足先生だ、遊星」
 満足先生は遊星にそう答えた後、声を潜めつつ口を開いた。
「シンクロモンスターのカードだ。アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON。アルカナフォースの名称がついてこそいるが、天使族じゃなくてドラゴン族なんだよな」
「アルカナフォースなのに天使族じゃないの? そんなカード、あるの?」
 満足先生の言葉にアキが驚きの声をあげるが、遊星は「有り得なくもないだろう」と言葉を続ける。
 遊星とジャックがアカデミアから出て行った後、雄二様はふと口を開く。
「おい満足先生」
「なんだダークネス」
「銀髪のちっこい奴、と言ったか?」
「ああ」
「一人だけ心当たりがあるんだが……いやしかし……いやでも有り得なくも無い、か?」
「どうなさいました?」
 私がそう問いかけると、雄二様は顔をしかめつつ笑った。
「いや。銀髪のチビと言ったら一人しか出てこないんだ。吹雪冬夜とかな」
「吹雪冬夜? あの、それって人の名前なんですか?」
「信じられない事にそういう名前の奴なんだよ」
 雄二様は頭を掻く。
 まぁ流石にそいつがやった訳でもねぇだろ、と続けかけた時に満足先生は言葉を続ける。
「そうだそいつだ」
「……え?」
 どうやらこの事件、簡単なカタチには終わらないようです。







「とは言ったものの……なぁ、満足先生よ。奴は何処に消えたと思う?」
「俺に聞かれても……ぐぐぐぐ後ろから首を絞めるな」
 ブラックバード運送を経営するDホイーラー、クロウも加わった一行は満足先生のDホイールを先頭にサテライトまで来ていた。
 満足先生のDホイールの後ろに強引に乗り込んだ雄二様が降り、カードを取って行ったというデュエリスト、吹雪冬夜の顔をよく知っているからと言って周辺を探しているが。
 まぁ、当たり前のように見つかる筈も無い。
「ところで昨日はサテライトのどの辺で戦ったんだ?」
「その辺だぜ。ところでその吹雪冬夜がちゃんと出て来るって解ってるんだろうな?」
「俺がいればあいつがいる、問題ない」
「鬼柳、それと雄二。お前達……言葉のキャッチボール出来ているのか?」
「貴様が人の事を言えるのか遊星!」
「ジャック。お前にも言われたく無い」
「なぁ、誰か頭痛薬持ってねぇか? 俺、頭痛くなってきたぜ」
「頭痛薬なら持っている」
 五台ものDホイールで走行中(私はアキと二人乗り、満足先生と雄二様が二人乗りで残り三人は普通に乗っている)だというのにクロウさんへ遊星が頭痛薬を渡すべくギリギリまで接近していた。
 接触事故でも起こしてもおかしくなさそうな距離なのに起きないのは流石というべきか。
「誰のせいだと思ってんだが……遊星。これ小児用だぞ」
「大人用は苦いからな。大丈夫だ、効果はある。クロウが使っても問題ない」
「よかねーよ。子供かお前は」
 クロウさんと遊星の会話を見つつ、雄二様がぽつりと呟く。
「満足先生よ。よくあんなのを三人も生徒にしていたな」
「引っ張って行くのは大変だったぜ」
「俺は生徒ではない! いつからお前の生徒になった鬼柳!」
 そんな会話をしつつも、Dホイールはサテライトの街を走る、走る、走る。
 勿論、気付く筈も無かった。

 彼は既にいたのだ。


 それに最初に気付いたのは元キング、ジャック・アトラスだった。
「……ん?」
「どうした、ジャック?」
「遊星。俺には信じられるものと信じられないものがあるという分別ぐらいはついている。だが、これはどう思う?」
「なにをだ?」
「『ジャック、どこで油を売ってやがる。今日中にシティまで運ばなきゃいけない荷物がたくさんあるんだ! さっさと戻って来て手伝え!』。発信時刻は5分前だ」
「………」
「二人とも、何の話をしているんだ?」
 遊星とジャックが顔を見合わせる中、とうのクロウが話しかけて来る。
 この話が本当ならば、クロウが二人いる事になってしまう。
 誰かがクロウを騙った悪戯のメールを送りつけたか、もしくは。ここにいるクロウが偽物なのか。
「何の話をしているんですか?」
 そして更に、後続のアカデミアの女子生徒と、アキの乗るDホイールが接近してくる。
「………どうする、遊星」
 ジャック・アトラスにしては落ち着いた口調。だが、その口調にはわずかながらの動揺が解っていた。
「ああ……どうするジャック」
 どうする、という質問にどうする、と返すあまりにもおかしすぎる問答の直後、クロウが怪訝そうな視線を向ける。
「どうしたんだ、お前ら?」
「クロウ」
 ジャックはクロウに視線を向けながら口を開いた。
「お前は俺に言いたい事があるんだろう? 仕事の事で」
「……………おい、ジャック。それぐらい何時だって言っているだろう。何でこんな所で」
「遊星と…鬼柳がいるからな。俺たちは盟友だった。チーム・サティスファンクションとしてこのサテライトを制覇したんだ。だから、な。その事を今でも誇りに思っていない訳ではない。だからこそ、お前が今、俺に抱いている感情をぶつけてみせろという事だ。遊星が受け止めてくれる」
「遊星が受け止めるのかよ! まぁ、いいか……」
 クロウは小さく咳払いをする。その間、遊星は少しだけ距離を取った。
 満足先生と雄二のDホイールは遥か前方だ。クロウは大きく息を吸い込むと、ジャックに視線をロックオンしてそれこそマシンガンの如く喋りだした。
「ジャック。お前、本当にいい加減にしろよな! 一杯3000円のコーヒーを、毎日のように飲んで経費で落とそうとするんじゃねぇ! 他の仕事を紹介すればほとんど三日で首になるし! 最近は経費を要求しねぇと思えばカーリーの所で居候してヒモ生活してるし! カーリーだって給料そんな高くねぇんだぞ、せめて主夫並に家事ぐらいはしてやれ! 大体な、確かにお前はデュエルキングとして長い間、エンターテイメントとしてのデュエルを延々と演出していたがデュエル以外の特技と言えば演劇ぐらいしかねぇしロード・オブ・ザ・キングは確かにいい映画だったけどあの映画の出演料、相当貰った筈なのに一ヶ月で使い切ったとか言ってただろ! 料理をさせれば高級食材だらけで作るし、洗濯させれば洗剤の分量間違えるし、服を買いに行かせればやたら高いし! 少しは節約って奴を覚えろ、遊星を見習え! 今のお前はトップス在住のデュエルキングじゃねぇんだからわきまえろ! てか、トップス在住でも龍亞と龍可なんかあの年で自立して生活してデュエル・アカデミアにまで通ってるんだぞ。おまけに龍可はともかく龍亞に至っては食材を文字通り無駄無く使って料理してるんだからそれを見習えってーの……いいか、毎日生活するんだってタダじゃないんだ。そりゃチーム・サティスファンクションの時は義賊やったり鬼柳が調達してくれたりしてたけどいつでもそんな生活続けられる訳でもねぇしちょいと生活概念というものをカーリーから学べ! そして何より! お前、この前古本屋に俺が大事に大事にしていた霊使いカラーグラビアイラスト集ウィン編を売っただろう! そしてその時売った金でヒータ編買っただろ! 俺の宝なんだぞ、ガキの頃から大事に持ってた! なんて事をしてくれやがるんだ、俺のウィンを! 畜生、返しやがれジャック! 詰めデュエルもろくに解けないジャック・アホラスのくせに!」
「……クロウ」
 ジャックはひどく反省した顔でクロウのDホイールへと距離を寄せる。
「お。おう、解ってくれりゃいいんだ……解ってくれれば」
 クロウも流石に言い過ぎたのか、反省した顔でジャックの次の言葉を待つ。
「誰が詰めデュエルもろくに解けないジャック・アホラスだ!」
 ジャックの強烈なハイキックがクロウの脇腹へと突き刺さった。
「それまでの台詞全スルーかよ……痛ぇ」
「フン……! まぁ、いい。それより遊星。今のではっきりしたな」
「ああ。このクロウは本物だ」
「はぁ? なんだよ、俺が本物って」
「いや、さっき俺の元にこんなメールが届いてだな……」
 ジャックから転送された自分自身からのメールを受け取り、クロウは呆れた顔で呟く。
「なんだこりゃ……」
「わからん。だが、これではっきりした。このクロウは偽物だ」
 しかし、クロウ・ホーガンは目が点になっていた。
「どうした、クロウ?」
「な、何で俺が偽物だって解ったんだ!?」
「「……え?」」
 遊星とジャックがそう呟いた直後だった。
 背後から、二台のDホイールが接近してきていた。
「うわっ!? 本当に俺がいる!?」
 片方は恐らくメールを送って来たであろう、本物のクロウ・ホーガン。そして、もう片方は前方にいた筈の満足先生と。

 一瞬、遊星達が影に隠れた。
 否、彼らの上空に巨大な物体が出現し、その影に下になったというべきか。

「……げ」
「待たせたな、吹雪冬夜! 覚悟はいいか?」
「……まったく」
 偽物のクロウ・ホーガン改め、吹雪冬夜は乗っていたDホイールから飛び降り、飛来して来たミサイルの真上に飛び乗りつつ口を開いた。
「お前は何処でも追って来るな、ダークネス!」

 因縁の二人は、例え時空を超えてもぶつかり合うものなのだ。





「悪いが、カードを返してもらうぜ! 吹雪冬夜!」
 真紅眼にまたがり、ミサイルの真上に乗っている吹雪冬夜を追跡しつつ雄二様が叫ぶ。
 だが、吹雪冬夜はもちろん拒否する。
「取り返せるものならな!」
「OK、白黒つけようじゃねぇか! この場でな! この世界にはライディングデュエルってのがあるらしいじゃないか。そいつで行こう」
「いいだろう!」
 真紅眼と、ミサイルが加速していく。Dホイール無しでどうやってライディングデュエルするんだが気になる気がする。
「おおっと、デュエルする時はプレイヤーのモンスターはリセットだな……とと、失礼、と」
 雄二様は真紅眼が消滅すると同時に、満足先生のDホイールの後ろへと着地。
 ただし、立ったままで。
「満足先生よ、ハデに暴れてやるぜ。運転もハデでよろしく頼むぜ?」
 雄二様の問いかけに、満足先生は「任せとけ!」と大きく頷く。
 決戦の準備は、整っている。
「OK. Are you Ready?」
「かかってこい!」

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 吹雪冬夜:LP4000

「悪いが、先攻はオレのターンだ!」

 先に先攻を取ったのは吹雪冬夜。雄二様とは幾度となく戦った宿敵だというが、果たしてその実力はどのぐらいなのだろう。
「ダークネス、オレはあのカードをわざわざ手に入れたんだ……使わせてもらうよ、あのカードの力を! ドロー!」

「アルカナフォースVーTHE HIEROPHANTを攻撃表示で召喚!」

 アルカナフォースVーTHE HIEROPHANT 光属性/星4/天使族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
 ●表:このカードはバトルフェイズ時、相手フィールド上のモンスターの数だけ攻撃を行う事が出来る。
 ●裏:このカードはバトルフェイズ時、攻撃宣言を行えず、守備表示にする事が出来ない。

 フィールドに、錫杖を持った異形のモンスターが舞い降りる。アルカナフォースは天使族ではあるが、天使族らしい姿をしていない。
 故にアルカナの力を保つ、アルカナフォース。
 機敏で素早いミサイルの動きにもきちんと付いて来ている辺り、器用だ。
「アルカナフォースに共通する効果として、召喚時にコイントスを1回行う。コイントスで……出た面は表! 表の効果を得る!」
 アルカナフォースは召喚時にコイントスを行ない、その時に出た面で効果が決まる。
 表がメリット、裏がデメリットと一般的に認識されている。
 そして今回出た面は表だ。つまり、得る効果はバトルフェイズ時、相手モンスターの数だけ攻撃が可能になる。
「カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターンだ。ドロー!」

「黒竜の雛を召喚」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上に存在するこのカードを墓地に送る事で手札より「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

「そして、雛の効果発動! フィールドのこのカードを墓地に送り、雛は黒竜へと進化する!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 そう、それは姿を現す。
 黒川雄二の代名詞。黒川家の象徴と化した黒竜のオリジナル。始源の黒竜、オリジン・オブ・オリジン。
 翼を広げ、真紅の瞳を輝かせたその黒竜は咆哮をあげた。

「レッドアイズの攻撃……ダーク・メガ・フレア!」
 黒い、強烈な焔の一撃。
 たった攻撃力1500のHIEROPHANTで支えきれる筈もなく、なす術も無く消し飛んだ。

 吹雪冬夜:LP4000→3100

「フッ……痛くもかゆくも無いな」
「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
「では、オレのターン」
 吹雪冬夜は雄二様を見てニヤリと笑う。
「ドロー! 手札のアルカナフォースI―THE MAGICIANを召喚!」

 アルカナフォースI―THE MAGICIAN 光属性/星4/天使族/攻撃力1100/守備力1100
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い、以下の効果を得る。
 ●表:魔法カードが発動された時、そのターンのエンドフェイズ時までこのカードの元々の攻撃力は倍になる。
 ●裏:魔法カードを発動する度に相手は500ライフポイントを回復する。

「召喚時にコイントスを行なう……出た面は、裏か。チッ」
 吹雪冬夜は舌打ちをしたが大した事でも無さそうな顔のままだった。つまり、何かある。

「そして、魔法カード、リバース・オブ・アルカナフォースを発動!」

 リバース・オブ・アルカナフォース 通常魔法
 フィールド上に「アルカナフォース」と名のつくモンスターが1体以上存在する時、手札を一枚墓地に送る事で発動可能。
 フィールドに存在する「アルカナフォース」と名のつくモンスター1体と同じレベルの「アルカナフォース」と名のつくモンスター1体を墓地から特殊召喚する。

「この効果でオレは魔術師と同レベルの、法王を蘇生召喚する!」

 アルカナフォースVーTHE HIEROPHANT 光属性/星4/天使族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
 ●表:このカードはバトルフェイズ時、相手フィールド上のモンスターの数だけ攻撃を行う事が出来る。
 ●裏:このカードはバトルフェイズ時、攻撃宣言を行えず、守備表示にする事が出来ない。

 フィールドに、法王の名を持つアルカナフォースが立ち上がる。
 しかし、魔術師は逆位置の効果で魔法カードを発動する度、雄二様はライフを回復する事になる。

 黒川雄二:LP4000→4500

「法王の特殊召喚に成功したので、オレはコイントスを行なう……出た目は、チッ、また裏か」
 雄二様は運がいい。法王を蘇生召喚したはいいが攻撃出来ずに守備表示にも出来ない攻撃力1500というただの壁だ。
 しかし、それでも2体のモンスターが並んでいる、という事に変わりは無い。

「残念だがここまでは何も出来ない。カードを一枚伏せて、ターンエンドを選択する」
「随分守勢だな、吹雪冬夜」
 雄二様がそう言って笑い、雄二様を背中に乗せる満足先生も「そうだな」と呟く。
「そんなプレイじゃ満足できねぇだろ! ダークネスだってそう思うだろ? 昨日のオレを満足させるようなデュエルしてみろよ、吹雪冬夜!」
「確かにな。いつもみたくくだらない笑い浮かべながらプレイしてみやがれチビ。俺のターン」
「おいダークネスてめぇ! 今、オレの事をチビっつったな!?」
「うん」
「い、いつか覚悟しとけよこの野郎……」
「ドロー! ふむ……」

「手札より、六邪心魔・嫉妬―スウェンを召喚!」

 六邪心魔・嫉妬―スウェン 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力1700/守備力1500
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズに2回攻撃が出来る。

 フィールドに、双剣を持った悪魔が舞い降り、アルカナフォース達を威嚇する。
 真紅眼と並ぶ姿は、まさに壮観だ。
「スウェンは自身の効果で1ターンに二回攻撃が可能だ。行くぜ! スウェンで、アルカナフォースI―THE MAGICIANを攻撃! ダーク・ギガスラッシュ! 一撃目!」
「ぐおっ……!?」
 魔術師が吹き飛ばされて、姿を消す。
 続けて、法王目掛けて2撃目が飛び、成す術も無く吹雪冬夜のフィールドはカラになる。

「糞っ……」

 吹雪冬夜:LP3100→2500→2300

「へっ、ざまあみやがれ」
「ハンデはこれぐらいで充分か……行くぜ! リバース罠、発動!」

 吹雪冬夜が宣言した直後、文字通り空中に二つの棺が浮かんだ。

「永続罠、狂った葬儀屋」

 狂った葬儀屋 永続罠
 フィールド上に存在するモンスターが戦闘で破壊されたターンに発動可能。
 バトルフェイズ中に、モンスターが戦闘で破壊された時、破壊されたモンスターと同レベルのモンスターをデッキから特殊召喚する。
 そのモンスターは特殊召喚されたターンから数えて次のターンのバトルフェイズまで攻撃宣言を行なう事が出来ない。

「オレのモンスターが戦闘で破壊された事により、狂った葬儀屋が棺桶を一つ開いたようだ……召喚されるモンスターはこいつだ!」

 アルカナフォースIIーTHE HIGH PRIESTESS 光属性/星4/天使族/攻撃力1200/守備力1200/チューナー
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
 ●表:このカードがフィールドに存在し続ける限り、相手はエンドフェイズに手札を一枚墓地に送らなければならない。
 ●裏:このカードがフィールドに存在し続ける限り、自分はエンドフェイズに手札を一枚墓地に送らなければならない。

「そして、更に二枚目のリバースカードを発動! リビングデッドの呼び声!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
 フィールド上のこのカードが破壊された時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

「リビングデッドの効果でオレは法王を再び蘇生!」

 アルカナフォースVーTHE HIEROPHANT 光属性/星4/天使族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
 ●表:このカードはバトルフェイズ時、相手フィールド上のモンスターの数だけ攻撃を行う事が出来る。
 ●裏:このカードはバトルフェイズ時、攻撃宣言を行えず、守備表示にする事が出来ない。
「……俺はカードを一枚伏せてターンエンドする」
 2体減らしたのに、そのまま帰って来てしまった。
 雄二様が軽く舌打ちするのと同時に吹雪冬夜へとターンは回る。

「オレのターン。ドロー。法王を生け贄に捧げ……アルカナフォースXIIIーTHE DEATHを召喚!」

 アルカナの中で、忌むべき数字と言われる「13」の数字を持つ、死神。
 タナトスとも評される死を司る存在。

 アルカナフォースXIIIーTHE DEATH 光属性/星6/天使族/攻撃力2300/守備力2300
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
 ●表:1ターンに一度、相手フィールド上に存在するカード一枚を破壊できる。
 ●裏:1ターンに一度、自分の墓地からアルカナフォースと名のつくモンスター1体を手札に加える。

 にやり、と吹雪冬夜が笑った。
「これで……揃った。行くぞ、ダークネス! 覚悟は出来たか、七つの竜同士の戦いを、お前は受け止めきれるか!? 行くぞ、ダークネス。これで終わりだ!」

 吹雪冬夜が手を掲げ、2体のモンスターが光の輪に包まれる。
 シンクロ召喚の特徴だ。
 これから行なわれるのは、未知なるモンスターのシンクロ。

「星を越え、世界を駆ける竜達の偉大なる力は神へと綴る標となる! シンクロ召喚、現れろ、七番目にして運命すらも司る竜よ! アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON!」

 文字通り、光が散ったかのように見えた。
 光は集う。七つの力を司る、中心となる、王ではなく標として、仲間達を、力を、そして世界すらも導く力なのだと。
 己が作り上げた神への対抗として、人類が抗う最後の手段として。
 神へと至る標として。
 その竜は、生まれた。

 七つの頭と、白き七枚の翼を広げる異形の竜が。
 サテライトの空へと、舞い降りた。

 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 光属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力3500/シンクロモンスター
 「チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上」
 ???

「なっ……!?」
 最初に驚いたのは吹雪冬夜だった。
 何せ、そこにあるべきテキストが全て???に変化していたからだ。
「テキストが……効果が、読めない?」
「……プッ」
 そして、満足先生が次に吹き出した。
「あははははははははははは! ダークネス、今の顔見たかあいつの顔!」
「はははははははははははは! 散々苦労して奪った挙げ句、テキスト読めねぇってどんだけ間抜けなんだよ!? あははは……」
「あれじゃー満足のいくデュエルもできねーなぁ! あはははははは!」
「こ、こいつらぁー……!」
 吹雪冬夜は肩を振るわせて怒っているが満足先生と雄二様はまだ爆笑を続けている。
「あ、あんだけハデに言っといて効果発動できねぇってどんなオチだぁ? ひひひひ……!」
「だ、ダメだ俺腹筋崩壊してきた……あはははははは!」
「ちょっとダークネス、Dホイール叩くな……それ俺の……ぷくくく……」
「いつまで笑ってる気だお前ら!」

「はぁ……はぁ………残念だったな、吹雪冬夜。その竜はお前の事を主として認めてないらしいぜ」
「主、だと……」
「神竜とは違うのさ。神に対抗しうる人間がそこら中にごろごろいたら世界はとっくに変わってるぜ。神だってそこまでバカじゃないだろ」
 神、と雄二様は吹雪冬夜に続いて口にした。
「なぁ、あいつら何であんなスケールの大きな話してるんだ?」
「俺に聞くな」
 クロウさんの問いもごもっともである。
「七つの竜はそれぞれ主を選ぶ。それは或いは自らの分身、前の世界からの遺産、エトセトラ、カードの方が主を選ぶもの、エトセトラ、エトセトラ。
 吹雪冬夜。お前は確かに神に近づく、いや、神を倒そうと思えば倒せる。それだけの力を欲しているし、手に入れようとしている。問題はテメェの戦いだ。
 お前ごときの野望に、神が機械仕掛けだろうと自らを脅かす奴の味方になりうると思うな、そしてドラゴン達はいつでもお前を見ているぞ!
 テメェがろくな戦いをしねぇのは誰だって百も承知だ。だから、お前は真なる主にはなれないのさ、吹雪冬夜」
「じゃあ、聞こう。ダークネス。お前は真なる主なのか?」
「そうでなければ、ここには立っていない」

 雄二様が再び笑った。
「………効果は出せなくとも、シンクロモンスターとしては使える! セブンスドラゴン! その悪魔を叩き潰してやれ! シン・セブンブレイカー!」

 七つの首を持つ竜が大きく跳ね上がり、六邪心魔・嫉妬―スウェンへと強烈な打撃を叩き込む。
 見事に吹き飛び、霧散消滅する。

 黒川雄二:LP4500→2700

「ぐおっ!?」
 そして、その一撃は文字通りスウェンのコントローラーでもある雄二様が乗る満足先生のDホイールを大きく揺らした。
 しかし満足先生も大したもので二人揃って転倒するどころか見事なバランスで速度を保つ。見事な腕前だ。
「流石は満足先生! やるねぇ!」
「お褒めに預かってありがとよ! けど、これ以上食らうとちとマズいぞ。このDホイール、だいぶガタがきてるぜ。満足できねぇことに」
「心配するな、どうにかするさ!」
 雄二様はそう言って笑うと吹雪冬夜へと視線を向ける。攻撃を受けても、まだライフの差はそう広がっていない。
 それに、フィールドにはまだ黒竜が健在だ。
「効果無しになったとはいえ、それでも攻撃力3500はキツいな」
「オレのターンはまだ終わってないぜ!」
 吹雪冬夜は叫ぶと、更に手札を動かす。
「おおっと、その前にお前のフィールドの狂った葬儀屋の効果発動だ。スウェンを破壊された俺は同じレベルのモンスターを召喚できる」
「チッ……壁が増えるのか」

 狂った葬儀屋 永続罠
 フィールド上に存在するモンスターが戦闘で破壊されたターンに発動可能。
 バトルフェイズ中に、モンスターが戦闘で破壊された時、破壊されたモンスターと同レベルのモンスターをデッキから特殊召喚する。
 そのモンスターは特殊召喚されたターンから数えて次のターンのバトルフェイズまで攻撃宣言を行なう事が出来ない。

「俺は六邪心魔・憤怒―レダを召喚!」

 六邪心魔・憤怒―レダ 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でそのモンスターの攻撃力分の数値、攻撃力を上げる事が出来る。
 この効果を使用した後、エンドフェイズにこのカードは守備表示になる。次の自分エンドフェイズまで表示形式を変更出来ない。

「だが、残念だったな!」
 突如、吹雪冬夜が大きくあざける。
「オレはこの瞬間、もう一枚の永続罠を発動する! 永続罠、ガンドラの継承印を発動!」

 ガンドラの継承印 永続罠
 バトルフェイズ中に相手のモンスターがフィールドに特殊召喚された時、発動可能。
 自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択する。相手フィールド上にモンスターが召喚・特殊召喚・反転召喚される度に、選択したモンスター1体の攻撃力は召喚されたモンスターの攻撃力分上昇する。
 このカードがフィールド上に存在する限り、このカードのプレイヤーはモンスターを召喚・特殊召喚・反転召喚をする事は出来ない。
 このカードは永続魔法カードとしても扱う。
 このカードが魔法・罠・効果モンスターの効果で破壊される時、手札を一枚捨てる事でその破壊を無効にする事が出来る。

 フィールドにある棺桶の隣に巨大な刻印が出現し、刻印はセブンスドラゴンの周囲を囲むようにして包囲する。
 まるで、新たな力を与えるかのように。
「ガンドラの継承印の効果で、セブンスドラゴンの攻撃力は更に上昇する!」

 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力3500→5500

「ははははははは!」
 攻撃力、5000以上。
「か、神越えやがった!? なんだあのカード……てか、卑怯じゃねぇか!?」
「ちょっと待て、なんだそんな満足できねぇカード! 満足できねぇぞ!」
 雄二様と満足先生の抗議はさらりと無視されてしまい、吹雪冬夜はカードを一枚伏せてターンエンド。
「……の野郎、俺のターン! ドロー!」

 雄二様が何を考えているのか解らない。デュエル中に、例え参加者じゃなくとも手札を覗くのは失礼だ。だけど。
 彼は、すぐに終わるような相手ではない。
「真紅眼の黒竜を墓地に送り、真紅眼の闇竜を召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 このカードは自分の墓地のドラゴン族モンスター1体に付き攻撃力が300ポイントアップする。

 真紅眼の黒竜が闇から舞い戻った竜へと変わり、進化していく。
「あれが、真紅眼の闇竜か! 初めて見る……」
「凄い、あれがレッドアイズの進化系……」
  元キングのジャック・アトラスですら初めて見るという闇竜。あれが、真紅眼の進化系統。
 無限の可能性を綴る真紅眼。あれもまた、その可能性の一つなのか。数多の世界を、数多の可能性の中を進んで行く黒川雄二に、無限の可能性を綴る真紅眼はまさに相応しいカードだったのだろう。

「闇竜は自身の効果で墓地のドラゴン族の数だけ攻撃力が上がる! 攻撃力は3000!」

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→3000

「くく……セブンスドラゴンの攻撃力は、ガンドラの継承印の力で更に上昇するぜ!」

 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力5500→8500

 そう、攻撃力は新たに召喚される度、そのモンスターの攻撃力分だけ更に追加されてしまう。
 つまり、セブンスドラゴンの攻撃力は更に跳ね上がって行く。
「だろうな、だが吹雪冬夜。ここでいいプレゼントをしてやろう。魔法カード、黙する死者を発動」

 黙する死者 通常魔法
 墓地に存在する通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
 このカードで特殊召喚したモンスターは攻撃できない。

「俺はこの効果で黒竜を特殊召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力8500→10900

「攻撃力が更に上昇していきます……!」
「なんつーカードだ、攻撃力10000超えやがった!」
「攻撃力インフレだわ。私の攻撃力は53万です、とか言うのかしら」
「アキ。それは無理だ」
 私たちが話すより先に、しかしまだデュエルは続行中。
 しかし攻撃力10000以上が目の前にいる満足先生は流石に困った顔をしているようだったが。
「そして、黒竜を除外して、ダークネスメタルを特殊召喚!」

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力2800/守備力2400
 このカードはフィールド上に存在するドラゴン族モンスター1体を除外する事で特殊召喚出来る。
 1ターンに1度だけ、自分の墓地・手札から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を、
 自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 フィールドに、新たなレッドアイズが現れる。
 鋼鉄の身体だと闇の力を兼ね備える、ドラゴン族を司る竜。

 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力10900→13700

「おおっと、そうだった。こいつを忘れていたぜ」
「なにを?」
「手札が無いから速攻魔法、奇跡のダイス・ドローを発動!」
「そんな理由でか!?」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振る。出た目の数だけドローする。
 このターンのエンドフェイズ、手札が出た目以下になるよう、カードを墓地に送らなければならない。

「……なにが出るかな………って、ああああーッ!?」
 サイコロを振ろうとした雄二様。しかし、今はライディングデュエルの途中である。
 まぁ、ライディングデュエルとは言っても雄二様は満足先生の後ろに、吹雪冬夜はミサイルに股がっているからライディングデュエルもあったものではないが。
「サイコロが飛んで行きやがった!」
「バイクの後ろでサイコロを律儀に転がすバカなんて初めて見たわ」
 アキさんの言う事、ごもっとも。
「あれがサイコロか。現物は初めて見たな」
「なんだ、遊星お前もか? 俺もなんだ。今までDホイールの表示の奴しか見た事なくてさ」
「貴様らどんな生活をしていたんだ。このジャック・アトラスはきちんと本物のサイコロを持っていたぞ!」
「デュエルでは?」
「……デュエルディスクについているサイコロ機能を使っていた……」
「使った事ねーのかよ」
「………あの人達、どんな生活してたの?」
 遊星、ジャック、クロウさん。あなたがたはサイコロぐらいは普通は知っているでしょう。
「俺も初めて見たな、サイコロの現物」
 満足先生まで……。
「ヤバい、サイコロどうしよう……仕方が無い。十面ダイスで代用するか」
「そいつはダメだーッ!」

 結局、満足先生のDホイールについているサイコロ機能を使うことで落ち着いた。
 出た目は、5。5枚ドローである。

 あっという間に手札が補充されていく。見事な図式、というより強運だ。
 下手に小さい目が出れば余計なディスアドバンテージを負うだけだというのに。

「ダークネスメタルの効果発動! 手札のドラゴン族1体を召喚する……真紅眼の黒竜を召喚!」
 2体目の黒竜がフィールドへと舞い降りる。そしてその分だけ、攻撃力が上昇していく。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力13700→16100

「……そして、こいつを呼ばせてもらう。見るがいい、こいつの姿を見た事を光栄に思え」
 小さなつぶやきと共に、あるカードをかざした。
「竜の真なる力を刮目してみやがれ! 真紅眼の、究極にして最強の形態を! 行くぜ、フィールドの黒竜を生け贄に捧げ、真紅眼の闇焔竜召喚!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/ドラゴン族/星10/攻撃力3500/守備力2800
このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力16100→19600

「さぁて。これで準備は完了した。カードを二枚伏せて、ターンエンド」
「ターンエンド!?」
 思わず、耳を疑った。こんな状況で、ターンエンドだなんて。
「狂ってる、そうとでも言いたいのか黒川唯?」
 急に、問いかけが始まった。
「え?」
「残念だがそれはノーとしか言いようが無い。ついでに言うとな、俺はちょいとだけ見栄を張っている。お前の前だ。
 俺をここまで尊敬してくれてるし、誇りに思ってくれている。それを嬉しく思う。だからな、ちょいと見せてやりたかったのさ。
 最高の絶望感って奴ってのをね。ただ」
 絶望、という一番似合わぬ単語を口にして彼は言葉を続ける。
「だけどたとえそんな状況でもね、諦めちゃいけない戦いってのはある。いや、戦いってのは元来諦めちゃいけないものなのさ。立ち向かわなきゃ、何も進まないし始まらない。それはどんな世界、どんな時代でも、いつだってそうだ。
 だから言える。例えこんな状態にだって、勝算はある。この次のターンで俺の敗北が目に見えているかって? ああ、そうかも知れない。だがな。
 デュエリストってのはな、こんな時でも笑っているのさ。何故か知らないが楽しそうな気がしてしょうがないんだよ。だから笑っちまうんだよな。それだからデュエルはやめられない。最後の最後迄なにが起こるか解らない楽しさがあるから」

 彼は笑っていた。
 そう、自ら作り上げた自殺行為のような構図の中。

 だがしかし、それを。それを本気で信じてしまえそうなぐらいにいい笑顔だった。

 だから信じられる。
 長い時間をデュエルと共に進んで来た。戦って、勝っては負けて引き分けて時間を巻き戻してありとあらゆる戦いを進んで来た彼なら。
 絶望の中にあるたった一つの希望の欠片でも。
 そのたった一つの欠片さえも味方につけて逆転してしまう。そんな感覚すら覚える。

 否。
 彼は勝ちに行くのだ。負けるなんて構図は無い。
 勝つ事前提で戦っている。勝つ事しか考えていない。決して後ろ向きになったりしない。
 だからこそ、0の桁が何十何百と連なろうと、最後の文字が0以上ならそれに賭ける。

 それがデュエリストとして、一番大切なもの。
 例え勝率がミクロどころかナノレベルでも、たったそれだけに賭けて奇跡をつかみ取る。否、呼び起こす。それがデュエリスト。



 そして、運命のラストターンが始まる。

「オレのターンだ。ドロー!」

「魔法カード、強欲な壷を発動!」

 強欲な壷 通常魔法
  デッキからカードを二枚ドローする。

 手札を使い切りつつあった吹雪冬夜も手札を補充する。

 黒川雄二:LP2700 吹雪冬夜:LP2300

「……魔法カード、失楽園の旋律を発動」

 失楽園の旋律 永続魔法
 自分のライフポイントが相手を下回っている場合、下回っているライフポイント÷100枚分のカードをデッキから墓地に送って発動する。
 墓地に送ったカードの枚数のターンの間、墓地に送ったモンスターカードの攻撃力分だけ、攻撃力・守備力を増加させる。
 墓地に送ったカードの枚数分のターンが経過した時、ライフポイントに墓地に送ったモンスターの攻撃力の合計分のダメージを受ける。

「このカードは禁止カードに指定されている。まぁ、この時代からは十年前の話だ。発売直後に禁止カード指定くらったトンでもカードでねぇ……」

「このカードの効果で、オレは下回っているライフポイント÷100、つまり4枚のカードを墓地に送る……おお、なんかついてるな」

「送ったカードは……4枚ともモンスターだ。アルカナフォースXXI―THE WORLD、アルカナフォースXVIII―THE MOON、アルカナフォースXIIIーTHE DEATHが二枚だ」

 アルカナフォースXXI―THE WORLD 光属性/星8/天使族/攻撃力3100/守備力3100
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行ない以下の効果を得る。
 ●表:自分エンドフェイズ時に自分フィールド上に存在するモンスター2体を墓地に送る事で次の相手ターンをスキップする。
 ●裏:相手ドローフェイズ時に相手の墓地の一番上のカード一枚を相手に手札に加える。

 アルカナフォースXVIII―THE MOON 光属性/星7/天使族/攻撃力2800/守備力2800
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
 ●表:自分のスタンバイフェイズ時に自分フィールド上に「ムーントークン」1体を特殊召喚できる。
 ●裏:自分エンドフェイズに一度だけ、自分フィールド上のモンスター1体を選択し、そのコントロールを相手に移す。

 アルカナフォースXIIIーTHE DEATH 光属性/星6/天使族/攻撃力2300/守備力2300
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
 ●表:1ターンに一度、相手フィールド上に存在するカード一枚を破壊できる。
 ●裏:1ターンに一度、自分の墓地からアルカナフォースと名のつくモンスター1体を手札に加える。

 その陣容、攻撃力と守備力の増加は更に上乗せ。
 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力19600→30100
                        守備力3500→14000

 そして、それだけで終わる筈も無い続きがそこにある。
「速攻魔法、ブラッド・ヒートを発動!」

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、攻撃力はそのカードの元々の攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 黒川雄二、宍戸貴明、高取晋佑。
 この三人が切り札として、そして最後の1手として活躍した極悪すぎた故に世界に2ダースしかない制限カード、ブラッド・ヒート。
 究極にして最強の、モンスター強化。

 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力30100→58100

「リバース罠、合わせ鏡を発動!」
 ここで、彼が動いた。
 二枚の鏡を合わせるかのように、新たな力を生み出す。

 合わせ鏡 カウンター罠
 相手が片方のプレイヤーのみに効果のある魔法・罠カードを発動した際に発動可能。
 お互いのプレイヤーがその魔法・罠カードの効果を受ける。

「参ったな……あの時と同じ構図じゃないか」
 彼は小さく呟く。あの時、とは歴史に残るあの一戦か。
 バトル・シティ本大会の裏で行なわれた、本戦よりも有名になってしまった夜明け前の攻防か。
 攻撃力44400。
 遊城十代の、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11との激闘が、彼に蘇っているのだろうか。
 たった三つのチェーンで終わった。激しくも美しい戦いを。

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→9100
 アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGON 攻撃力58100→86100

 たった一枚のリバースカード。
 彼のフィールドに残るそれを目指して、吹雪冬夜はそれが何なのか解らないまま、その攻撃力を保って決めなくてはいけない。
 破壊されたら負ける。
 それはお互いに百も承知。だからこそ。
「アルカナフォースEXーTHE SEVENTH DRAGONの攻撃……!」

「攻撃力86100だと!? 馬鹿いうな、あんな攻撃を受けたら……」
「満足先生」
 彼はそれでも、笑っていた。
「黙ってみてろ。逆転の1手は、ここにある」



「シン・セブンブレイカァァァァァァァァッ!!!!!」









 長い記憶のはてに。
 長い輪廻の果てに、ずっと思い続けて来た事がある。

 俺が、かつて黒川雄二であった俺が戦い続ける事は。それは、本当に正しい事なのだろうかと。
 それがマイナスであるのか。プラスであるのか。
 人間としての道をなくした、自分だけに出来る事を求めるようになったあの日から、俺は壊れてしまったのではないだろうかと。
 でも、俺は思う事がある。
 数多の世界で、たった一つの機械仕掛けの神を倒す為と、数多の世界で、幾人も現れる神へといたろうとする亡者達を戦い続ける事で。
 敗北する事だってある。
 屈辱に塗れる事もある。全てを焼き尽くされる事も、何もかも失いそうになる事も。
 気が狂いそうになるぐらいに悲劇を見て。
 幾度となく繰り返される、救えない人達の為に涙して。
 数えきれないほどの人間を救おうとして、片手で数えるほどの人間しか救えなくて。

 だけどそれでも、俺には本当に生きていた時代があった。
 生家で帰りを待つ人がいる。俺の背中を追おうとしている奴がいる。俺が憧れた、本当に追いかけたいと願う奴がいる。
 何よりも大切な仲間達がいる。共に生きて行く時代が、竜が、世界が、俺の力を必要としている。
 だから誓ったのだ。

 新たな世界に降り立つ度に。この世界だけは守ってやると。
 その誓いを果たせる確率なんて実はほとんど無い。だけど、それでもバカなりに必死こいて足掻いた挙げ句、片手で数えるほどなら救って来ていた。
 それだけの可能性を紡いだ。

 80000以上というライフポイントの二十倍のダメージでも、たった一枚の罠カードで返してしまえるように。

 世界の運命なんて、本当は誰かの片手でほいほい変わって行くようなレベルなのかも知れないけれど。
 それでも、神様とやらが気に入らなくてその為にカードを取り返しに来て。

 そして、俺よりずっと先に紡いだ未来が繋がっている事に、初めて気付いた。
 この世界はもう続いている世界。
 だからこそ、もう一つだけ俺は誓わなくてはいけない。

 この未来に続くように、戦わなくては行けない。俺が紡いでみせる、もう一つの未来を。きっと……。

 だから黒川唯。
 このDホイールを引き換えに、お前に遺さなきゃいけないものがある。

 この世界を、この未来を、この時代を。お前の手で守れるぐらいに強くなれ。
 お前の歩く道を、俺が敷き詰めてみせる。だから、お前は次の世代の為に、道を、未来を紡いでやってくれ。
 過去から着た、この世界を救う為にきた、そして俺の世界を救うためにきた、俺のただ一つのバカな願いだ。


 だけど、いつだって頼んでるぜ。
 誓った事を、俺は決して裏切らねーよ。











「……行ってしまいましたね」
 夕日の沈むサテライトに、黒竜に股がってやってきた彼は黒竜の名を持つDホイールに乗って去って行った。
 本当に台風のような人だった。
 私がそう思って背後を振り向くと、満足先生が仮面を外していた。
「はぁー……本当に心臓が停まるかと思ったぜ、あいつの戦い方よぅ……」
「まったくだ。あんなもの直撃したら死んでたぞ」
 満足先生の言葉に、遊星が続ける。
 確かに、心臓の悪いデュエルといえば心臓に悪いデュエルだった。まさかあんな風に逆転するとはあっけないにもほどがある。
 だけど、彼から教わった事は幾らでもある。

「私も、頑張らないとね」

 彼が胸を張って語った、楽しそうに言っていた数多の言葉達。
 遥か昔の時代を賭けた、ある戦士のたった一つの断片。私が知っているのはたったそれだけの話。
 でも。

 デュエリストとしての生き様、とくと見させてもらいましたよ黒川雄二。

 今、私が立つ世界も貴方が作ったものなのでしたら。
 私は、更にその先の世界を作ってみせます。だから、見ていてください。


 私も、約束は決して裏切りませんから。

 黒竜の誇りにかけて。





 どこかで戦う彼を思いつつ、私はこのペンを取った。


 西暦2XXX年 黒川財閥特別顧問・プロリーグデュエリスト 黒川唯



 FIN





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