レアハンターの旅

製作者:プロたん




 キャラクターがどんどん崩壊していきますが、あんまり気にせずお読みください。



第1章 My name is ...

 私はレアハンター。
 容姿は上々。その鋭い中にも凛々しさを兼ね備えた瞳に、おしゃれなパールのピアス。そして、全身を覆う黒装束。
 魅力的だ。適当な男を10人ほど集めたら、1番とは言わないが、2、3番にはつけている自信がある。
 と、不意に声をかけられる。
「あの、ちょっとお時間よろしいですか?」
 女性の声。私と話がしたいようだ。もしやこれは俗に言う「逆ナンパ」というものだろうか。不覚にも少々緊張してしまう。
 私は完全に振り返らず、ナナメ45度を維持しつつこう言った。
「ふっ、構わないが……」
 あくまで冷静に対応する。紳士だ。
「ではあなたのお名前とご職業を教えてください」
 と女性は言った。早速名前を聞いてくるとはなかなか積極的な女性だ。
 私は振り返りその女性を見た。歳は20代後半といったところか。黒いスーツと帽子を身につけたややフォーマルな服装。その帽子には金色の桜模様が描かれている。
「あの……聞いてます?」
 しまった。つい女性に見入ってしまった。私は悟られぬよう視線を戻した。
「私、こういう者ですが、あなたの名前と職業を教えてください」
 と言って、その女性はパスケースのようなものを取り出す。そこには顔写真と金色の桜模様。帽子についているものと同じ模様が見られた。
 そうか、恥ずかしながらもまずは自己紹介か。ならば、私もそれに応えねばな。
「ふっ、私の名前は……、…………」
 何故かそこで詰まった。
「名前は……」
 ……名前が出てこない。
「…………」
 女性は待っている。しかし名前は出てこない。
 次第に頭の中が真っ白になっていくのを感じる。体じゅうが熱い。
「私の名前は……私の名前は……! ……私の名前は何なんだーー!」
「あ、あの!」
 気付いたら走り出していた。逃げ出すように無我夢中で走り出していた。
「待ってください!!」
 後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。しかし、私はその声を無視して走り続ける。
 私はあの女性に応えることは出来なかった。彼女は、きっと泣き出しているに違いない。私に嫌われてしまったと思っているに違いない。
 そんなことはないんだ。そんなことはないんだよ。でももう顔は合わせられない。
 胸が痛かった。何故私には名前がないのだ! 何故なんだ!!

「ここは……書店?」
 気付くと本屋の中にいた。見慣れぬ本屋だった。すうっと深呼吸をする。次第に胸の鼓動が落ち着いてくる。
 もう一呼吸して、私は本屋の外へと歩き出した。そうしてレジの脇を通り過ぎた時、一つの本が私の目に止まった。

 遊☆戯☆王 キャラクターズガイドブック ―真理の福音―

 そうだ。この本なら、きっと私の名前を教えてくれる! はやる気持ちを抑えながら、本をレジに差し出す。
「あ、ありがとうございました……」
 店を出て脇道へ入ると早速本を開く。何かに取り付かれたように自分の顔を探してページをめくっていく。
 紙をめくること数十枚。私の顔が掲載されたページが見つかった。
 ここに自分の名前が書いてあるはずだ。ごくりとつばを飲み込んで、見出しを読んでみる。

 コピーエクゾディアを操るグールズの刺客――『レアハンター(1)』

 レアハンター(1)。
 レアハンター……カッコいち。
 愕然とした。
 この本は崖を這い上がろうとする私をさらに深い谷に突き落とした。もう私の人生は終わった。名もなき私に生きる価値など……ない。
「ん? 名もなき?」
 そういえば武藤遊戯――奴の闇人格も確か名を持っていなかったはず。
 ククク……そうか、偉大なる人物には、名がないという訳だな。そう、自分に名がないのは偉大だからだ。私は偉大なのだ!
「ククク……」
 笑いがこみ上げる。
「ハハハハハ!!」
 思わず大声を出して笑ってしまう。それほど愉快だった。

「あっ、いたいた」
 振り返ると先程の女性がいた。私を探してこんなところにまで来てくれたのか。なんという健気な女性だ。
「今度こそちゃんと質問に答えてもらいますよ。いいですね?」
「もちろんですとも」
「それではあなたのお名前は?」
「私の名前は……分からない。しかしそれは偉大なこと……」
「……は? ……それでは身分証を見せてもらえませんか?」
「私は名も身分も分からぬ男……」
 ふっ、決まった。
「……ちょっとご同行願えますか?」
 女性は私を誘ってくる。どうやら私の魅力の虜になってしまったようだ。
「ふっ、喜んで。さて、どこへ行きましょうか」
 間髪いれず女性は答える。
「警察署に決まっているじゃない……」



第2章 突然の旅立ち

「もしかして薬をやっているんじゃないだろうな!」
 ここは警察署。先ほどの女性とは違うゴツイ男に取り調べめいたものを受けている。
 正直うざったい。それに大体、薬だと……? 私がそのような犯罪めいたことをするはずがなかろう。私は、あのキント雲に乗れるほど心が綺麗なのだ。
「ふっ、くだらん。偉大な私がそのようなことをする訳がない」
 席を立ち、部屋から出ようとする。
「お、おい、まだ話は終わっとらんぞ!」
「さらばだ」
 上着をひるがえし、部屋を出る。
 廊下を走り、突き当たりの窓から外へ飛び降りる。ここは2階だが、グールズ時代に培った身のこなしの前ではまったく問題にはならない。ふっ、これで奴らも簡単には追って来れまい。

 ここは警察署から一キロほど離れた童実野駅前。
 雑踏の中にまぎれ、考える。
 さてこれからどうするか……。噂によると遊戯は記憶探しの旅に出たという。ならば私も旅に出なければならない。そう、自分の名前を取り戻すという旅に。
 私は雑踏の中を歩き出した。
 行き先は、童実野美術館。
 確か、美術館では古代エジプト展が開かれているはずだ。コミックス32巻によれば、遊戯はエジプト展の石版から記憶の世界へ行ったという。ならば私もここから行くことが出来るはずだ。何故なら私も遊戯並に偉大なのだからな。

 童実野美術館に到着する。入場料を払い館内に入る。
 上手いのか下手なのか分からない絵画を通り過ぎ、エジプト展のある部屋を探す。美術館はかなり広く、なかなかエジプト展を見つけることが出来ない。
 そうしてエジプト展を探し続け20分が経過した。まだ見つからない。
「まさか……」
 嫌な予感がした。
「あのここで古代エジプト展をやっていると聞いたのですが……」
「申し訳ございません。古代エジプト展は3日前に終了いたしました。」



第3章 石版探しの旅

 ここは童実野空港。
 童実野町ごときに空港があるのかは疑問だが、とにかくここは空港だ。私の行き先はもちろんエジプト。パスポートはグールズ時代に偽造したものだが、バレることなく通過できた。
 ちなみにこのパスポートでの私の名前は「レアハンター(1)」。その意味では、あの真理の福音は間違っていなかったというわけだ。
 電光掲示板を見る。そろそろ離陸の時間になろうとしていた。私は搭乗口へと急いだ。

 私の乗った飛行機が空港を出発する。
 離陸時こそ体に衝撃が走ったが、十分高度を上げてからは特に揺れることもなくなった。機内で特にすることのなくなった私は、手荷物からデッキを取り出した。
 取り出したのは、もちろんエクゾディアデッキ。
 原作146話によれば、ファラオと神官の様子が描かれた石版の隣に、エクゾディアが描かれた石版があったという。私の記憶と名前は、その石版に封印されているに違いない。
 そして、それを切り開く鍵となるのが5枚のエクゾディアのカード。これらのカードを石版の前でかざせば記憶の世界へ旅立てるはずだ。
 そんなわけだから、今持っている5枚のエクゾディアカードも趣向を凝らしたものにしてある。
 まず、エクゾディア本体はデュエリストレガシー2のパラレルレア。左腕は幻の幻獣神のシークレットレア。右腕は攻略本付属のウルトラレア。左足はデュエリストレガシー2のレア。そして、右足はデュエリストレガシー2のエクスチェンジのカードイラストに載っている右足。つまりアルティメットレア仕様だ。
 完璧だ。これで記憶の世界へ旅立てない理由があったとしたら、納得のいく説明をしてもらいたものだ。もちろんそんな説明などありはしないだろうがな。

 何度か飛行機を乗り継いでエジプトへと到着した。
 予想していたこともあるが、やたらと暑かった。まるで熱源ごと体を包み込み、じわじわと私を焼こうとしているようだった。エジプト従来の気候に加え、私の黒装束がそれを助長しているのだろう。黒い色は熱を吸収しやすいのだ。
 しかし私にとって、黒装束を脱ぐことは死を意味する。遊戯が常に学ランを着ているように、私はこの黒装束がなければいけない。たとえ、夜中に泥棒を追いかける時でも、黒装束のマントを羽織っていくつもりだ。
 暑さをこらえてエジプト考古局へ向かう。石版はきっとあそこにあるはずだ。

「すみませーん、石版見せてくださーい」
 考古局に着いた私は早速声をかける。言語が通じないのではないかという心配はない。遊戯王の世界では言語はどこも共通だ。キース、ペガサスに始まって、イシズもリシドもマリクもみんな日本語を話していた。
「石版ですか? それなら、裏手へどうぞ」
 やはり言語は世界共通だった。私は、考古局の男性について歩いていく。彼は特に私を怪しむこともなく、石版の前に案内する。
「それにしてもわざわざ見に来てくれるなんて光栄です」
 いや、むしろ歓迎されているようだ。
 石版は一時的に考古局裏の倉庫に保管されているとのことだった。彼は倉庫の鍵を開ける。
「それでは電気をつけますよ」
 その直後、いくつもの石版が電球の光に照らされる。その中で私は一つの石版に目を奪われた。
 あれは……エクゾディア!
 大きな星型に5つのパーツ。間違いない。
 胸が高鳴る。黒装束のポケットから、趣向を凝らした5枚のエクゾディアカードを取り出す。
 それらを石版の前にかざした。これで記憶の世界へ旅立てるはずだ。
 カードが光りだす。



第4章・記憶の世界

 目の前が真っ白になった。
 しばらくすると徐々に視界が開けていく。
 周りを見渡す。ここは少なくとも石版の前ではない。私は記憶の世界にやってきたのだ。
 そして私の前にいるのは見慣れぬ男女。はっきり言ってどちらも目つきが悪い。
「あなた、この子に名前をつけてあげて!」
 と女が言う。女の両手には赤子が抱かれている。赤子の目つきもかなり悪く、この二人の子供であることは容易に想像ができた。
「そうだな……。『珍札狩郎』(ちんふだ かろう)はどうだ?」
 男がそう言うと、女は微笑んで、
「素敵な名前……」
 こころなしか赤子も喜んでいるように見えた。
 その時、窓の外が急に明るくなった。その光は、指数関数のように急激に強くなり、すぐに目も開けられなくなるほどになる。
 耐えられずに目を閉じる。
「う……」
 再び目を開けると、そこは石版の前だった。
 どうやら記憶の世界から戻ってきたようだった。
「おい、大丈夫か?」
 考古局局員が声をかけてくる。
「ああ……大丈夫だ」
「いきなり倒れちまうんで心配したよ。もしかして熱射病にでもなったのかね?」
 まさか記憶の世界に旅立っていたとは言えまい。私はふらつきながらも立ち上がる。
「いや、大丈夫。心配かけたな。私は帰る」
「え?」

 帰りの飛行機の中、私は先程の光景を思い出していた。
 あれは間違いなく記憶の世界だったはず。しかし、そこで見たのは私とは何の関係もない親子だった。3人揃って、そう簡単に見つかるものではないくらい目つきが悪かった。どうやら、私は別人の記憶の世界を彷徨ってしまったらしい。
 もしかしたら、あの5枚のエクゾディアカード、あれの趣向を凝らしすぎたのかもしれないな。
 あれこれ考えてみるが、もう一度戻ってみる気にはならなかった。
 明日は大切な就職試験なのだ。休む訳にはいかないだろう。
 飛行機は順調に日本へと向かっている。このままなら就職試験には余裕を持って行けそうだ。

 それにしても……

「結局、私の名前……分からなかったな」



 おしまい





 昔書いた後書きを見てみる
 (一応残しておきましたが、無理して読む必要は全然ないです)





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