レアハンター DEATH−Tに挑む
前編

製作者:プロたん




 こんなこと言うのもなんですが、精神衛生上見ないほうが身のためです。



珍札1 自己紹介とその証明

 私の名はレアハンター。
 有限会社レアハンターの社長であり、超一流のデュエリストでもある。
 まあ、分かりやすい言葉で言えば『社長デュエリスト』だ。
 しかし、もしかしたら『社長デュエリスト』と言えば、『海馬瀬人』のほうを思い浮かべるかもしれない。
 だが、あと1年もすれば、『社長デュエリスト』はこの私――『レアハンター』を指す言葉になる。これは疑う隙のない事実である。
 なぜそう言い切れるのか。理由は簡単、私は海馬瀬人にすら勝ったからだ。
 私が城之内克也に勝ったことは知らぬ者がいないほど有名だが、海馬瀬人に勝ったことは知らない者も多いかもしれない。
 私はノートパソコンの電源を入れた。
 私が海馬瀬人に勝った経緯は『遊☆戯☆王カード 原作HP』というホームページに掲載されている。そこにある『創作ストーリー』のコンテンツ内の一つに記録されているのだ。
 ノートパソコンの画面がOSのロゴを映し出し、間もなく操作できる状態になった。私はブラウザを立ち上げ、『遊☆戯☆王カード 原作HP』のホームページへアクセスした。
 記憶が少々曖昧なのだが、私が海馬を打ち破った栄光なる活躍が載っているのは創作ストーリーというコンテンツだった。その中でも、最近作成され、タイトルの末尾に『大会』と名のついたストーリーの後半部分だったと記憶している。
 私は創作ストーリーのページから、候補となる創作ストーリーを搾り込むことにした。
 まずは、タイトルの末尾に『大会』の名のつくストーリーを探す。『童実野高校M&W大会』『リアルタイムデュエル大会』『第三回バトル・シティ大会』――候補はこの3つに絞られた。
 この中で『童実野高校M&W大会』は、作成された時期が古い。これは除外するべきだろう。
 いや、そもそも『童実野高校M&W大会』などというスケールの小さな大会に、この偉大なる私が出場するわけがない。私は、近くのおもちゃ屋でやっているレベルの大会に出るような、器の小さなデュエリストではないのだ。当然だ。
 それならば、私が登場するのは『第三回バトル・シティ大会』を置いて他に考えられない。当然、『リアルタイムデュエル大会』というネーミングセンスゼロの大会に出るはずもない。
 念のため、『第三回バトル・シティ大会』へとアクセスしてみる。予選後編の最初に『決闘24 レアハンターの奇妙な冒険T〜千年のデッキ!〜』のサブタイトルを見つけた。さらに20行程度読むと、この私が海馬と闘っているシーンが始まった。
 間違いない。この創作ストーリーだ。この創作ストーリーに私が海馬に勝つ瞬間が収められているのだ。もはやこれ以上読む必要はないだろう。
「ククク……。私の活躍を皆にも知らせなくてはな……」
 私は知っている限りの遊戯王サイトを全てまわり、それら掲示板に『第三回バトル・シティ大会 予選後編』が掲載されているアドレスを書き込んだ。これで掲示板を見た者は、私が海馬瀬人を打ち破る瞬間を目撃することになるだろう。
 私が『社長デュエリスト』と呼ばれる日も遠くない。私はノートパソコンの電源を切り、意気揚々と会社を出た。



珍札2 究極

「いらっしゃい……ま……せ……」
 会社を出た私は、一つの事実を確認するために、いつもの書店へとやってきていた。
 書店に入るなり一直線にレジへと向かい、レジ脇に置いてある週間少年ジャンプ35号を手に取った。

 とじこみ付録・究極封印神エクゾディオス

 気に入らない。
 噂には聞いていたが、まさか本当に発売されることになろうとは。
 究極封印神エクゾディオスはエクゾディアの派生モンスター。エクゾディオスが攻撃する度に墓地にエクゾディアパーツを送っていき、5枚のパーツが墓地に揃うと勝利を手にすることができる。
 しかし、私はこのエクゾディオスは邪道であると断言する。
 そもそもエクゾディアとは、遊戯や双六父さんや私のように、古代エジプトに関係する偉大なる人物のみ扱うことの許されるしもべ。神にも匹敵するしもべを誰もが買える雑誌のオマケに付属させる時点で納得できない。
 まあ、この点は百歩、千歩、万歩、億歩、兆歩くらい譲って認めるとしてもだ、その効果はエクゾディアにふさわしいとは言えない。
 エクゾディオスは、墓地にエクゾディアパーツ5枚を揃えて勝利する能力を持っているが、墓地にある通常モンスターの数だけ攻撃力を上げる能力も持っている。
 後者の能力を悪用すると、高等儀式術、魔導雑貨商人、スネーク・レインで攻撃力を跳ね上げることができる。
 そしてこの攻撃力アップの能力だけを使う場合、エクゾディアパーツは不要。エクゾディオスの名を名乗っておきながら、エクゾディアを使わないのだ。邪道だ。邪道過ぎる。
 究極封印神エクゾディオス。それは邪道の塊。
 こんなカードなど、真のエクゾディア使いである私には不要な産物。
 私は週間少年ジャンプ35号を手に取りこう言った。
「ジャンプ50冊ください」



珍札3 招待状

 私は重くなったリアカーを引きずって、会社への帰路を歩いていた。
 リアカーには256冊のジャンプが積まれていた。少しでもバランスを崩したら崩れてしまうほどの大量のジャンプがリアカーを支配していた。
 あれから私は、近所の書店やコンビニエンスストアを巡りジャンプを大量に購入した。
 いや、決して私はエクゾディオスが欲しくてこんなことをしたわけではない。本当だ。嘘ではない。本当だって。
 これは、誰かがやらなければならないことだったんだよ。仕方のないことだったんだ。
 ほら、GXのアニメを思い出してみて欲しい。究極封印神エクゾディオスを召喚するためには、自分の恋人を犠牲にしなければならない。その事実を……!
 そう、週間少年ジャンプ35号を購入したデュエリストは、エクゾディオスを召喚するために自らの恋人を生け贄に捧げることになるのだ。特に角刈りは危ない。
 だから、私は多くの者の命を救うためにジャンプを買い占めた。「俺の『バレーボール使い』を返せえぇぇ!」とか「今週の『To Loveる』が読めねえじゃねえか!」といった声を無視し、心を鬼にしてジャンプを買い占めたのだ。全ては角刈りを守るためなのだ。
 リアカーには、人の背の高さに迫るほどのジャンプの山がいくつもできている。
 これほどのジャンプを買うには、実に64000円もの出費を必要とした。
 64000円――決して安くはない金額だが、この私にとっては大した出費とは言えなかった。
 なぜなら、私にお金をくれる者がいるからだ。
 かつて私の家に届いたダイレクトメールの中に『お気軽ローン』があった。そこに申し込んだら、あっという間にお金を振り込んでくれたのだ。
 これは私の将来に期待して、お金を提供してくれたとみなして良いだろう。私が社長デュエリストと呼ばれるほど有名になった暁には、お気軽ローン宛に私のサインをプレゼントせねばな。
 リアカーがあるとは言え、256冊のジャンプの重さは並ではない。歩く度に全身の筋肉が悲鳴をあげていく。
 それにも負けずリアカーを引きずることおよそ1時間。
 ようやく自宅……いや、会社に到着した。
 会社のポストを見ると、そこには一通の手紙があった。

 珍札狩郎様

 おめでとうございます!
 あなたは新型アトラクションのモニターに選ばれました!

 同封されているウォーターガンを装着して『新型アトラクション』にご参加ください!
 優勝者には素敵なプレゼントをご用意しております!

 あなたの『お気軽ローン』より



珍札4 金返せ

 同封されていた水鉄砲を持ち、手紙に書かれた場所へ行くと、そこには古ぼけた雑居ビルがあった。
 私は最新アトラクションのモニターとして、この雑居ビルの5階に招待された。少し前にも似たような招待状をもらった気もするが、おそらく気のせいだろう。
 雑居ビルの中に入る。薄汚れた壁、切れかけた蛍光灯、散乱しているダンボール――これらが私の視界に入ってくる。
 くっ……こんな安っぽい場所に呼びだすとは、この偉大な私に対する待遇として失格だ。
 そもそも偉大な私を招待するのならば、黒くて長い車とかで迎えに来るのが定石。これでは新型アトラクションとやらも大したものではないな。
 本来ならばこの時点で引き返すのだろうが、私を招待した相手が『お気軽ローン』ならば少しは辛抱してやるか。お金をもらっている立場なのだからな。
 雑居ビルの5階までやってきた私は、『お気軽ローン事務所』と書かれたドアを見つけた。錆びつきかけたそのドアを開く。
「来たな……!」
 そこは10畳ほどの小さな事務所だった。机が2つしか置かれておらず、しかもそれらの机上には本が散乱していた。週刊少年ジャンプ、Vジャンプ、遊戯王原作コミックス、裏サイバー流ドロー術、ピケルサーカスの秘密、デミスとルインの混沌とした一日、風の谷のエアトス、地霊使いアウスと賢者の宝石、世界の中心でダイ・グレファーを叫ぶ――机の上どころか床にすら本が散乱している有様だ。
 こんなところに私を呼びつけるとは、一体どういうつもりなのか。
 私は事務所にいる二人の男を睨みつけた。
「あ……」
「お前は!」
「おいおい……」
 そこにいた全員が声をあげた。あげてしまった。
 事務所には私を除いて二人の男がいる。そのうち一人の男はかなり小柄、もう一人の男は私に匹敵するほど背が高い。
 そして、二人とも顔を半分だけ覆い隠す仮面をしていた。
「貴様らは、光と闇の仮面……!」
 お気軽ローン事務所にいたのは、元グールズのバイト『光と闇の仮面』。元グールズの正社員とアルバイターが再び合間見えることになったのだ。
「ククク……なーるほど! オレ達の『お気軽ローン』から金を借りたのはお前だったのか……!」
 小さい図体の光の仮面はニヤリと笑った。
 おかしい。
 この私は、お気軽ローンから金をもらったはず。借りたわけではないのだ。
「借りる? 何を言っているのだ。私はもらったのだ。お気軽ローンから金をもらったのだ」
 光の仮面の表情が引きつった。
「フ、フザけるなよー! ちゃんと契約書には返済期限も書いてあっただろう! 返してもらうかんな! お前が借りた84万円をな!」
「う、嘘だ……!」
 な、なんということだ。金をもらったと思ったら、借りていただけだったとは……!
 例えるなら、限定版の破壊輪を高額で購入した次の日に、破壊輪がストラクチャーデッキに封入されることを知った時の気持ちに似ている……。
「フハハハーー! レアハンター! どうやら金は持っていないようだな」
「それならば、我々のDEATH−Tを受けてもらうことになる。死に匹敵する地獄をもってして借金を償ってもらうのだ!」
「DEATH−Tだと……!」
「そうだ。DEATH−Tとは死のアトラクション。かつて海馬瀬人が武藤遊戯を苦しめた命懸けのゲームなのだ!」
「このDEATH−Tで勝ち残れば、お前の借金はチャラにしてやるよ。でも、負けたら、搾り取ってでも借金を返してもらうかんな! 名付けて『借金帳消しか借金地獄か究極の二択DEATH−T』! おもろ〜〜っ!」
 別に面白くない。
「借金地獄か借金チャラか、それを決めるのが我々のDEATH−T。だがこれはお前に与えられたチャンスでもあるのだ」
 背の高い闇の仮面が静かに言い放った。
 そうだ。この私は社長デュエリストとも呼ばれるほどのゲームの達人。そしてDEATH−Tも一種のゲーム。私が勝つに決まっている。借金帳消しになるのはもはや確定事項。私のワンサイドゲームで、光と闇の仮面がかわいそうになってしまうほど、私は強いのだからな。
「フフフ……! いいだろう! そのDEATH−Tに挑んでやろうじゃないか……!」
 私は挑発的な笑みを浮かべてやった。



珍札5 DEATH−T 1

「DEATH−Tには5つのアトラクションがある。それらのアトラクションに全て勝ち残ることができたのならば、借金を帳消しにしてやろう」
 すっと一歩前に出て闇の仮面が言った。後ろに立つ光の仮面がそれに続く。
「まずは第1のアトラクション! 名付けて『vs闇の仮面! ウォーターガンデスマッチ』! おもろ〜〜っ!」
 別に面白くない。私と闇の仮面は『おもろ〜〜っ』を無視をして、先を進めた。
「それではこのオレ――闇の仮面がルール説明をさせてもらおう。このアトラクションではウォーターガンを使う。お前の家に届けたウォーターガンは持ってきただろうな?」
「ウォーターガン……? この水鉄砲のことか?」
「いや、ウォーターガンだ」
「水鉄砲だろう」
「いや、ウォーターガンだ」
「水鉄砲にしか見えない」
「いや、ウォーターガンだ」
「水鉄砲」
「ウォーターガン」
「水鉄砲」
「ウォーターガン」
「水鉄砲」
「ウォーターガン」
「水鉄砲」
「ウォーターガン」
「水鉄砲」
「ウォーターガン」
「水鉄砲」
「ウォーターガン」
「水鉄砲」
「ウォーターガン」
「水鉄砲」
「ウォーターガン」
 パシュ。
「あ……」
 私はムキになってつい水鉄砲の引き金を引いてしまった。闇の仮面の顔面に水が直撃する。私は我に返った。
「す、すまない。少し興奮しすぎたようだ。水鉄砲かウォーターガンかなんて些細な問題だったな」
 私は闇の仮面に謝罪した。この程度でケンカになるほど私は子供ではないのだ。立派な大人なのだ。社会に誇れる大人なのだ。
「そうだな。オレも大人げなかった」
 水をかけられた闇の仮面もまた謝罪する。
 そこに後ろで様子を見ていた光の仮面が短い右手を精一杯上げた。そして、
「DEATH−T 1! 勝者! レアハンター!」
 ……あれ? 私の勝ち?
 ま、まあ……当然の結果だな。ああ、当然の結果だ、うん。



珍札6 それでいいのか

「ちょっと相棒! 冗談はよしてくれよ!」
 顔面を濡らした闇の仮面が抗議する。
「おめでとうレアハンター。見事DEATH−T1の敵を倒した。このオレが認めよう」
 光の仮面はパチパチと拍手をして私の勝利を褒め称える。
「フフフ……当然だろう」
 私は勝った。闇の仮面を完膚なきまでに叩きのめし勝った。
 そもそも水鉄砲をウォータガンなどと呼ぶ奴に負けるはずがないのだ。水鉄砲は水鉄砲。それ以外に呼びようがないじゃないか。
「相棒……本気かよ……!」
 闇の仮面の怒りがじわじわと顔に表れていく。
 ククク……まだまだ甘いな闇の仮面よ。ゲームに負けたからってムキになるとは、ゲーム初心者のすることだぞ。この私のようにいかなる時も冷静にならなければ、社長デュエリストとは呼べない。常に冷静――これは海馬瀬人ですら不可能なことだ。
「闇の仮面、お前のせいだかんな! お前が悪いんだかんな!」
「なんだと!」
「お前、今朝、オレの……オレの……オレの……オレのプリン食っただろう!?」
「な! まさか光の仮面、お前、それくらいで怒っていたのか!? それじゃあまるっきりアホチビ……」
「言ったな! この能なしデクノ坊!」
「アホにアホと言って何が悪い! お前のかーちゃんでーべそ!」
「くそっ! デクノ坊め……! あれ? お前……匂うよ。ねえ、ちゃんと風呂入ってんの?」
「失礼なことを言う! 入っているに決まってる。毎日欠かさず入っている」
「うわ! 『姉ちゃんと風呂入っている』だって! この年で姉ちゃんと一緒かよ! しかも毎日! はっずかしー!」
「おのれアホチビめ! それじゃあお前、口をこうやって『学級文庫』って言ってみろよ!」
「こうか? がっきゅううんこ」
「うわ! うんこって言った! うんこって言った!」
「くっ……! お前、『いっぱい』の『い』を『お』に変えて言ってみろよ!」
「ん? おっぱい?」
「ぶー! ハズレ! 『おっぱお』でした! うわーっ! おっぱいだって! お前スケベなの! スーケーベ! スーケーベ! ダイ・グレファー! ダイ・グレファー!」
「ダイ・グレファーじゃない! オレはダイ・グレファーじゃない! くそっ! このアホチビが……!」
「ハハハッ! 姉ちゃんと毎日風呂に入っておっぱいおっぱい言ってるヤツのどこがスケベじゃないんだよ!」
 …………。
 あの、このまま帰っていいですか?



珍札7 DEATH−T 2

 1時間が経過した。
「待たせたな、レアハンター。それじゃあ気を取り直して、次のアトラクションへ行くぞ!」
 涙目になった光の仮面が涙声で言った。闇の仮面はまだ部屋の隅で泣き続けている。
「いや、その前に聞いおく。いつまでこんなところでDEATH−Tをやるつもりだ? まさか、こんな雑居ビルの薄汚れた一室で、全てのアトラクションをやるつもりじゃないだろうな」
「うっ……」
 光の仮面は思いっきり図星と言う顔をした。
「うるさいうるさい! 次のDEATH−T 2! それはクイズだ!」
 光の仮面はまた少し涙目になった。何だかかわいそうになった。
「わかったクイズだなクイズ。よしクイズだな」
「そ、そうだ……クイズだ……。10問中3問正解すればクリア、先に進むことができる。でも、その代わり問題は激ムズ! 果たしてクリアできるかな? 名付けて『地獄の超難問クイズ10連発! 3問クリアと言っても甘くないよスペシャル』! おもろ〜〜っ!」
 別に面白くない。
「このデクノ坊! 早くクイズの問題を出しな!」
 光の仮面は、部屋の隅でうずくまって泣き続けている闇の仮面を足蹴にした。
「ク、クイズ……? そんなの聞いてないぞ……」
「インターネットでも使って、とっとと問題を出しやがれ」
「く、くそ……! こうなったら絶対に解けない問題を出してやる……」
 ぶつぶつ小言を漏らしながら、闇の仮面はパソコンの前まで這っていった。
 それにしても、このDEATH−Tは実に行き当たりばったりなアトラクションなのだろう。あまりにも無計画すぎる。こういう無計画な者達が、借金に借金を重ねて破滅していくのだろう。私は実感した。
「それじゃあ始めるかんな! 『地獄の超難問クイズ10連発! 3問クリアと言っても甘くないよスペシャル!』 スタート!」
「1問目……!」
 ともあれ、第2のアトラクションが始まる。
 さあ! どんな難しい問題でも来るがよい! 社長デュエリストと呼ばれるこの私に不可能はないのだ!

【第1問】
 就職に失敗し、ネットカフェに寝泊りの毎日を送っているモンスターは?

 私の額にウジャト眼が浮かんだ。
「ヒィィィィィィィィ〜! ヒ…助けて…来る来る来る助けて…来るああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……」



珍札8 無理難題

 OCG版ダーク・キメラの攻撃力とかを聞かれると思っていた。
 それが、あんな個人情報保護法を無視したような問題だったとは……。
 難しいの方向性が違った。違いすぎた。私は戸惑っていた。
「さあ、早く答えろー! 30秒以内に答えないと不正解だかんな!」
「くっ……」
 就職に失敗し、ネットカフェに寝泊りの毎日を送っているモンスター……そんなもの分かるはずがない。そんなまるでニートみたいなヤツなんて……ん? いや、待てよ? ニート、ニート、ニート……。
「分かった! ニュートだ! 名前の響きが『ニート』に似ているから、ニュートだ!」
 私は自信満々に答えた。
 そうだ。ニュートだ。これに違いない。これ以外の解答などありえない。
「ぶっぶー! はずっれー!」
「正解は……『放浪の勇者フリード』だ」
「…………」
 そんなの答えられるわけがない。

【第2問】
 モスバーガーのイメージキャラクターに起用されたモンスターは?

「これは簡単だ。ハングリーバーガー!」
「残念! 正解は『グレート・モス』だ……」

【第3問】
 ガジェット・ソルジャーの必殺技は?

「ガ……ガジェット・コンビネーション!」
「正解は『全弾発射』でした!」

【第4問】
 隠された8番目の宝玉獣とは?

「レインボー・ドラゴン?」
「不正解。『ダイヤモンド・ドラゴン』に決まっている」

【第5問】
 本田ヒロトの父親は誰?

「本田剛三郎……」
「はっずれー! 答えは……GXに出てきた『プロフェッサーコブラ』でした! 髪型見れば一発だぞ」

【第6問】
 戦士 ダイ・グレファーとそっくりなモンスターは誰?

「そっくりな風貌を持つプレートクラッシャーだ!」
「正解は『D.D.アサイラント』だ。攻撃力、守備力、属性、種族全てが同じだ」

【第7問】
 ワイトを3体融合させると何になる?

「マスターオブドラゴンワイトだ!」
「ぶっぶーっ! 答えは『光の創造神ホルアクティ』でした!」

 こうして私は1問も正解できないまま、7問目を終了してしまった。
 残りの問題は3問。もはや1問でも外した時点で敗北決定という絶体絶命の状態にあった。
 闇の仮面が見ているのはパソコンの画面。この私でも太刀打ちできないクイズは、このパソコンから出題されている。
 これほどの超難問を3問連続で正解する術など……存在し得ない。
 もはや、私に勝ち目はない。私は光と闇の仮面から目を背けた。
 私の視界に入ってくるのは無機質な窓。隣のビルに阻まれて外光が届かないこともあり、この部屋の様子が窓に反射されて映っている。
 ……あ、パソコンの画面も窓に映りこんでるや。



珍札9 カンニング

【第8問】
 白魔導士ピケルにすら勝てないヒーローといえば?

 超難問のクイズ。
 だが、そのクイズに対抗する術はあった。
 それは、窓に映りこんだパソコンのモニター。その画面を見れば、クイズの答えも分かるのだ。
 決してこれは不正などではない。
 NARUTOの中忍試験を思い出して欲しい。分かるだろう? これはカンニング前提のゲームなのだ。
 ゲームには必ず攻略法がある。絶対にクリアできそうにないステージでも、攻略法を見つければクリアできるようになっている。製作者がそうなるように作っているからだ。
 上上下下左右左右BAに始まり、逃げる8回、蓋開けジエンド、神にチェーンソー、改造コード――どれもゲームクリアには必須のシロモノだ。
 窓に映りこんだパソコンの画面を見る。
 どうやら、闇の仮面は『みんなで作る爆笑ページ』とやらから出題しているようだった。
 そして、そのページには、第8問の答えがはっきりと映し出されている。それは――
「ククク……エレメンタルヒーロー フェザーマンだ!」
「な……ここに来て正解だと……!」
 闇の仮面が驚きの声をあげた。
 フフフ……。攻略法を見つけた私の前に敵など存在しない。

【第9問】
 白魔導士ピケルの父親は誰?

「バブルマン。エレメンタルヒーローのバブルマンだ! 甘い。私に不可能などないのだ」
「くっ、くそっ! 正解だ……」
 私に正解を当てられて、光の仮面は悔しがっている。
「フフフ……分かっていないな、光の仮面よ」
「な、何だと!?」
「私は、このアトラクションを盛り上げるため、わざと最初の7問を外したのだよ。ワンサイドゲームではつまらないだろう?」
「そ、そうだったのか……」
 先ほどまで余裕を見せていた光の仮面から笑みが消えた。
 ククク……愉快だ。これこそが社長デュエリストの実力なのだ。私に答えられない問題など存在しないのだ。
 すると、パソコンの画面に目をやっていた闇の仮面が、その視線を上げた。
「ならば、最後のクイズ……。今思いついた問題を出そう」
 そう言って、闇の仮面はパソコンの電源をOFFにした。
 ……あれ?
「パ、パソコン使わないの?」
「ああ、使わない……」
「使わないの?」
「そうだ。使わない……」
「使わないの?」
「使わない」
「つ、使ってよ……」
「使わない」
「お願いします。パソコン使ってください」
「使わない」
「エクゾディオス1枚あげるからパソコン使ってください」
「使わない」
「じゃあ、エクゾディオス10枚あげるから」
「使わない」
「エクゾディオス100枚!」
「使わない」
「ジャンプ255冊もつけるよ!」
「使わない」



珍札10 簡単な問題

 1時間の交渉が続いたが、闇の仮面は折れなかった。
「いい加減にしろレアハンター。問題を出させてもらうぞ」
「くっ……」
 なんということだ。せっかくの攻略法が通じないとは。さすがラストの10問目というだけのことはある。
 それまで有効だった攻略法がラスボスには通用しない……これは珍しいことではない。『ボスなんてバニシュ&デスで楽勝』と高をくくっていると最後に痛い目に会う。そういうことなのだ。
「安心しろレアハンター。この第10問は難しい問題ではない」
「なんだと……」
「きわめて簡単な二択の問題だ。お前がグールズや遊戯王に詳しければ即答できる」
 簡単な問題……ほっ……あ、いや、ずいぶん馬鹿にされたものだ。馬鹿にされたものだな……。別に『簡単な問題』と言われて安心したわけではないよ? 決してそんなことはない。そんなことはないのだ。ないぞ。ないってば。しつこいなもう!
「さあ、行くぞ。これが第10問目だ」

【第10問】
仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを使うのは、光の仮面? 闇の仮面?

 宣言通り簡単な問題が出題された。この程度の問題、朝飯前もいいとこである。
 答えは……、答えは…………。
 ええと。光の仮面……闇の仮面は……。あ……え……。
 あれ? どっちだっけ?
「迷宮兄弟の区別よりは簡単だろう。さあ、答えて見せろ。マスクド・ヘルレイザーを使うのは、光の仮面か、闇の仮面か?」
「くっ……」
 さすがはラスト問題。高橋先生ですら覚えているかどうか怪しいくらいの際どいラインを突いてきた。
 脳裏を不安がよぎる。だが、それも一瞬のこと。
 そう……たとえラスボスと言えども、攻略法は存在する。つまり、この第10問にも攻略法は存在するに決まっているのだ。
 私は部屋を見渡した。
「なるほど……」
 ククク……。予想通りだ。机の本棚に『遊戯王コミックス』が全巻揃っているではないか!
 コミックスを見れば、どちらがマスクド・ヘルレイザーを使ったかなど一目瞭然。
「あ! 窓の外にガーディアン・エアトスが飛んでるぞ!」
「何っ!」
「それは本当かっ!」
 私は光と闇の仮面の気をそらし、その隙に本棚から遊戯王コミックス24巻を手に取った。
 ……リシドが1話近くを使って回想をしていた。
 光と闇の仮面が載っているのはこのコミックスではない!
「おいおい、エアトスなんて飛んでないじゃないか」
「そもそもエアトスはアニメの中だけの存在。それが現実に現れるなどありえない。オレ達がどうかしていたんだ……」
 答えを調べ切れていないのに、光と闇の仮面が戻ってきてしまった。
 こうなったら……
「あ! 隣の部屋から地霊使いアウスの声が聞こえたぞ!」
「アウス……アウスがいるのか……!」
「サイン! サイン貰いに行こうぜ!」
 私は再び光と闇の仮面の気をそらし、その隙に本棚から遊戯王コミックス19巻を手に取った。
 ……城之内のデッキから寄生虫パラサイドが飛び出していた。
 このコミックスもハズレ。仮面戦っていつだったんだよ……。
「おいおい、アウスなんていなかったじゃないか」
「そもそもアウスはカードの中だけの存在。それが声を出すことなどありえない。オレ達がどうかしていたんだ……」
 またしても間に合わず、光と闇の仮面が戻ってきてしまった。
 こうなったら……
「あ! ハワイで『デミスとルインの混沌ライブショー』が開かれるって知ってる?」
「デミスとルイン……! オレ達のルイン様のショーがついに……。いやっほうっ! これは行くしかあるまい!」
「もちろんだぞ、相棒! つーわけで! オレ達、デミスとルイン見にハワイに行ってくるかんな!」
 私はもう一度光と闇の仮面の気をそらし、その隙に本棚から遊戯王コミックス21巻を手に取った。
 ……闇の仮面がマスクド・ヘルレイザーを召喚していた。
 これだ! 答えはこれだ!
 ククク……ついに答えを発見したぞ……!
「分かったぞ! 光と闇の仮面よ!」
 私はそう言って部屋を見渡したが、誰もいなかった。
 そういえば、適当なウソを言って、光と闇の仮面の気をそらしたんだった。どんなウソで気をそらしたのだろうか。覚えていない。
 まあいい。いずれにせよ数分もすれば戻ってくるだろう。まさか、海外まで行くなどということにもなるまい。
 私は、光と闇の仮面が戻ってくるまで、このお気軽ローン事務所で待ち続けることにした。



 あらあら、どうやら光と闇の仮面はハワイに行っちゃった様子。
 それじゃあ、彼らが戻ってくるまで皆さんもリアルタイムで待っててくださいね。






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