レアハンター 大会に出る

製作者:プロたん




 内容はクレイジーで、キャラも壊れまくってますが、あらかじめご了承ください。
 デュエルのルールは原作優先ですが、細かいところはどうでもいいんです。




シーン1 自己紹介および広告

 私はレアハンター。
 かつてはグールズの平社員だったが、今では有限会社レアハンターの社長である。
 ――そう、『社長』だ。すなわち、海馬瀬人並に偉いと言うことだ。
 しかも、容姿は上々。人気も上々。
 その証拠に、かつて『遊☆戯☆王カード 原作HP』という個人サイトで行われた『グールズ人気投票』――私は、3分の1以上の票を獲得して1位となっている。まあ、人気投票の中には意味不明なコメントも寄せられていたが、言葉にできないほど尊敬しているということだろう。
 だが、まだ私は独り身である。恋人はいない。
 と言うのも、私のあまりにもの美貌に、女性諸君にとって私は高嶺の花。女性からは声を掛け辛いようなのだ。時折、街中を仲良さげに歩くカップルがいるが、あんな平凡な相手でよく満足しているものだと思う。いや、決してうらやましいなどとは思っていない。本当だ。嘘ではない。疑ってはいけない。ヒィィィィィ!!
 …………さて。
 今、私は有限会社レアハンターの事務所にいる。
 手元には、お気軽ローンとやらからのダイレクトメールと、玩具屋ブラッククラウンの広告がある。私は、お気軽ローンが気にはなったが、とりあえずブラッククラウンの広告に目を通すことにした。
 その広告の片隅には、
『M&W大会のお知らせ――第7回ブラッククラウン杯!』
 と書かれていた。
 ……ブラッククラウン杯か。
 思えば、バトルシティ以来大会に出ていない。久々に大会に出てみるのも悪くない。
 会社の発展のためにも私の知名度を上げねばな……。
 私は、ブラッククラウンに参加申込書を出したのだった。



シーン2 ブラッククラウン

 大会当日。
 私はいつもの衣装で、ブラッククラウンにやってきていた。
 そしてもちろん、デッキはエクゾディアデッキ。かつての王の力を示すカード達である。
 残念ながらこの大会では、エクゾディアパーツは各種デッキに1枚ずつしか入れられないが、私ほどの実力者ともなれば、その程度のハンデでは物足りないくらいだ。
 私のデッキには様々な手段でエクゾディアを揃える戦術が用意されている。たとえエクゾディアパーツが墓地に送られたとしても、それを手札に戻す方法も用意した。敗北はありえないのだ。
「フフフ……」
 思わず、笑みがこぼれる。
 周囲の参加者、観戦者の注目が集まっている。どうやら、私の存在に気付いたようだ。海馬並の実力を持ち、遊戯の家系でもある私はデュエリストの間でも有名なのだ。
「ちょっといいですか?」
 早速声がかかる。
 残念ながら男性の声だが、デュエリストとして認められている存在であることを示すバロメータにはなるだろう。私は、声のするほうを向いた。
「……警備室まで来てください」



シーン3 くじ引き

 どうやら、私は警備員や警察関係者に人気があるらしい。私の衣装が、警備員や警察の制服に似ているからであろうか?
「失礼しました……」
 30分ほど彼らに付き合った後、私は警備室から出る。
 それとほぼ同時に、「ブラッククラウン杯の参加者はくじを引きに来てください」との放送が入った。私は、会場へと急いだ。
 会場に着くと、他の参加者はくじを引き終わっていて、私は最後の一枚を引いた。それから5分も経たないうちに、くじ引きの結果が近くのボードに貼り出された。

第7回ブラッククラウン杯 トーナメント表

レアハンター──┐             ┌──トム     
        ├─┐         ┌─┤
   キース──┘ │         │ └──吉森
          ├─┐     ┌─┤
    竜崎──┐ │ │  優  │ │ ┌──鯨田
        ├─┘ │     │ └─┤
    鈴木──┘   │  勝  │   └──万丈目
            ├──┴──┤
   リシド──┐   │     │   ┌──牛尾
        ├─┐ │     │ ┌─┤
    羽蛾──┘ │ │     │ │ └──不破
          ├─┘     └─┤
    絽場──┐ │         │ ┌──河豚田
        ├─┘         └─┤
    磯野──┘             └──御伽

 ダイナソー竜崎やインセクター羽蛾など、玩具屋の大会の割には、そこそこ有名なデュエリストが混ざっているようだ。おそらく、私の噂を聞きつけてきたのだろう。高貴なデュエリストの悩みのタネである。
 ともかく、もう一度トーナメント表に目を通す。私の対戦相手を確認するためだ。
 私の1回戦の対戦相手は――キースだった。
 回想する。
 確かコミックスによれば、キースはペガサスの罰ゲームを受けて生死不明だった。アニメでは生きていた気もするが、この世界では原作ベースが基本なのだ。現に『光の封札剣のカードの色が紫色だった』という私の主張は退けられてしまっている。
 つまり、生死不明のキースがここに来ているのだ。
 私は身震いした。もちろん武者震いである。疑ってはいけない。
 とそこに、
「それでは、ブラッククラウン杯――1回戦第1試合を始めます! 対戦者はデュエルテーブルまで出てきてください」
 アナウンスが入った。
 デュエルテーブルの側にいた私はすぐにテーブルに着いた。いよいよ大会が始まるのだ。
 視界の奥から、バンダナを巻いた男がテーブルにやって来る。
「へへへ……」
 ――それは間違いなく、バンデッド・キース本人だった。



シーン4 速攻

 互いのデッキシャッフルが終了する。
「それでは、デュエルを開始してください!」
 ピエロの仮面をかぶった見知らぬ男が宣言して、デュエルは開始された。
 敵はバンデッド・キース。仮にも元アメリカチャンピオンだ。これが事実上の決勝戦になるだろう――私はそう思った。

「私の先攻! ドロー!」
 私はそう宣言してカードをドローしようとデッキに手を伸ばした。
 しかし。
「ククク……ちょっと待ちな、兄ちゃん!」
 バンデッド・キースが私のドローを妨害する。何故……!?
「何でてめーが先攻なんだ?」
「く……!」
 M&Wの世界では、先に宣言した者が先攻になるという暗黙のルールがあった筈……!
 それを見破るとは、さすが元アメリカチャンプだ。ククク……面白い! 実に面白い! ヒィィイィィ!!
「審判!」
 キースに言われて進行役のピエロ男が、一歩前に出る。
「それでは、先攻はじゃんけんで勝った方ということで」
 ピエロ男の指示で、先攻後攻じゃんけんが開始された。
「じゃんけん」
「じゃんけん」
 緊張の一瞬。
「ぽん」
「ぽん」
 私の手はグー。
 キースの手は――チョキ。
 私の勝ちだ。
「ククク……勝利に貪欲だから負けるのさ」
 私は笑った。
 キースは悔しさのあまりか、ギュイイインという音を立てていた。それは機械音のように聞こえた。

「改めて、私のドロー」
 私はデッキから華麗にカードをドローする。
 初期手札を含めて、現在の手札は6枚。それらを確認する。
 封印されしエクゾディア、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、アステカの石像、冥界の使者、闇の量産工場――――手札は以上だ。
 ククク……手札には早速エクゾディアパーツが3枚……! 残りは2枚。
 そして、嬉しいことに『冥界の使者』のカードまで揃っている。
 冥界の使者とは、攻撃力1600のモンスター。もちろん、特殊能力を兼ね備えている。冥界の使者が倒されると、3ツ星以下のモンスターをデッキから手札に加えることができるのだ。この能力で手札に加えるのは、当然エクゾディアパーツ。
 もはや、エクゾディアパーツが4つ揃ったも同然の状態にあるのだ。
 私は笑みをこぼした。
「私は冥界の使者を攻撃表示で召喚し、ターンを終える!」

「オレのターン、ドロー!」
 キースのターンに移行した。
「オレはこのカードを使うぜ!」
 キースは魔法カードを発動したようだった。
 まあ、たとえその魔法カードが手札破壊カードで、私のエクゾディアパーツが墓地に送られたとしても、私にはパーツを手札に戻すカードがある。例えば、闇の量産工場……!
 キースは発動した魔法カードを私に見せた。
「発動したカードは『盗賊−バンデッド−』! てめーのカードを1枚もらうぜ!」
 ……は? 『もらう』?
「ホラ、何ボーっとしてやがる! 手札を見せやがれ!」
「……よ、よく聞こえませんでした」
「チッ……ちゃんと聞いてやがれ! オレは『盗賊−バンデッド−』のカードを発動したんだ! 『盗賊−バンデッド−』は相手の手札を1枚奪う効果がある。だから、てめーの手札を見せろっていってるんだ!」
 私の額にウジャト眼が浮かんだ。
「ヒィィィィィィィィ〜! ヒ…助けて…来る来る来る助けて…来るああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……」



シーン5 急襲

「ほー、エクゾディアデッキだったのか! それじゃ遠慮なく『封印されしエクゾディア』のカードをもらうぜ!」
 キースはニヤリと笑いながら、私のエクゾディアを彼の手札にしてしまった。
「これで、エクゾディアは絶対に揃わねえ。勝ったも同然だな……!」
 得意げな顔をしてキースは笑う。シュルルルルという機械音が聞こえた。
「それでは、気を取り乱さないようにデュエルを進行してください」
 ピエロ男が私をなだめる。
 どうやら、私の頭の中から、マリク様は消えていたようだった。
 だが、キースのターンは続く。
「オレは、メカ・ハンターを召喚し、冥界の使者に攻撃!」
 攻撃力1850のメカハンターが、私の冥界の使者に攻撃を仕掛ける。
 冥界の使者の使者の攻撃力は1600。当然ながら冥界の使者は破壊され、私のライフは3750になってしまった。
「ホラホラ、冥界の使者の効果を使いな! 揃わないエクゾディアパーツを手札に加えるんだな!」
「く……!」
 私は顔をしかめながらも、デッキから『封印されし者の左足』を手札に加えた。
「ターンエンド!」
 キースのターンは終了した。

 ……私は思い出していた。
 かつて遊戯や海馬は、勝てないと思われた状況から何度も勝ち上がってきた。
 そう、真のデュエリストにピンチは必須なのだ。
 私は残された自分のデッキの内容を思い出し、キースに勝てる方法を模索しながらデュエルを進行していくこととした。
「私のターン、ドロー」
 私はデッキからカードを引く。ドローカードは、『封印されし者の右腕』。
 なんということだ! キースに『盗賊−バンデッド−』を使われてなかったらこの時点でエクゾディアが揃っていたのだ!
 ……だが、今さらそんなことを嘆いても仕方がない。真のデュエリストは前のみを見据えて生きるものなのだ。過去にはこだわらないのだ。決してこだわらないのだ。何があってもこだわらないのだ。こだわらないのだ……こだわらないのだ……ヒィィィィ〜!
「……アステカの石像を守備表示で召喚し、ターンエンド」
 私は、守備力2000の壁モンスターを召喚してターンを終えた。今は耐えるしかない。

「オレのターン!」
 キースのターン。
 キースはカードをドローして、笑った。
「オレは、もう1体メカ・ハンターを召喚!」
 攻撃力1850のメカ・ハンターの2体目がキースの場に出される。
 だが、私の場には守備力2000のアステカの石像がいる。そう簡単には破られない……。
「ククク……」
 しかし、その考えは甘かった。
「さらに、『リミッター解除』を発動!」
 キースはリミッター解除のカードを場に出したのだ。
 リミッター解除の効果を思い出す。
 確か、リミッター解除は全ての機械族モンスターの攻撃力を2倍にする効果を持つ凶悪カード。唯一の救いは、この効果を受けたモンスターはターン終了時に破壊されることだが、それまでに受けるダメージ量は洒落にならない。
 カードの効果が適用され、メカ・ハンター2体のリミッターが外された!
 メカ・ハンターの攻撃力は3700にまで跳ね上がる! しかもそれが2体!
 対して、私の場は、守備力2000のアステカの石像が1体のみ。トラップカードも仕掛けてはいない……。
「メカ・ハンター2体で攻撃!」
 2体のメカ・ハンターが、迫ってくる!
 1体の攻撃がアステカの石像をとらえる! アステカの石像はあっけなく破壊された!
 そして、もう1体のメカ・ハンターが私めがけて武器を振り下ろした!
「ぐはぁあああああ!!」
 攻撃力3700の衝撃が走る!
 テーブルに座っていた私の体は椅子から落ちる! 意識が薄れていく……。もはや、これまでなのか……!
 薄れゆく意識の中、観客席から声が聞こえた。
「おかあさーん、ソリッドビジョンじゃないのに、あの人どうして椅子から転げ落ちてるの?」
「……目を合わせてはいけません」



シーン6 逆転劇

「キミ、まだライフ50残ってるでしょ? ほら、立ちなさい」
 ピエロ男の肩を借りて私は再びテーブルについた。
「てめーみたいな馬鹿と戦わなきゃならないオレの身になってくれ」
 キースが吐き捨てるように言った。
 馬鹿はお前の方だろう、と言いたいところを私は抑えた。私は大人なのだ。その程度の挑発に乗ったりはしない。
「ターンエンドだ」
 キースのターンが終了すると同時に、リミッター解除の代償によってキースのメカ・ハンターは破壊された。

「私のターン……」
 私のライフは僅か。主力のエクゾディアパーツを1枚奪われ、それを取り戻す手段も今のところ思いつかない。まさに、これ以上ないピンチの状況だった。
 だが、武藤遊戯や海馬瀬人はこのような状況から勝ち上がってきたのだ。
 自分のライフポイントを確認する。残り50。誰が見ても敗北寸前だと思うだろう。
 しかし、コミックスを思い出せ! 残りライフがギリギリであるほど、逆に勝率は高くなるのだ! 逆転劇が待っているのだ!
 そう! ライフ50は勝利への布石!
「ククク……」
 私は笑った。
「てめー、頭までイカれちまったんじゃねえか?」
 頭からギュイギュイと機械音を立てながら、キースは笑った。
「敗北を味あわせてやろう」
 私はそう言って、デッキからカードをドローした。
 ドローカードは『トラップ・ジャマー』だった。相手の罠を無効化するカードだ。だが、このカードでは今の状況は打破できない。
 場を確認する。
 互いに、何のモンスターも伏せカードも出されていなかった。
 私のモンスターはキースのメカ・ハンターに破壊され、キースのメカ・ハンターはリミッター解除の代償で破壊されていたのだ。
「ならば……」
 相手の場にモンスターがいないなら、攻め込むのみ! 真のデュエリストは背を向けてはいけないのだ!
 私はモンスターを召喚しようと、手札を確認した。
 手札のモンスターは、封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足――――以上4枚のみ。攻撃力200。
 私は顔をしかめた。
「クク……どうやらその様子だと、攻撃すら仕掛けられねえようだな!」
 キースは、ギャルルルルと機械音を立てながら笑った。
 おのれ……!
「真のデュエリストは逃げない! それを証明してみせる!」
「けっ」
 私は、手札のエクゾディアパーツに手をかけた。
「封印されし者の右腕を召喚! 攻撃!」
 歓声が巻き起こる……!
「カードを1枚伏せて、ターンエンド……」
 私は、一応トラップ・ジャマーを伏せてターンを終えた。

「オレのターン……!」
 キースのターン。このターンを生き残れるかどうかが勝負の分かれ目……!
「ドロー!」
 キースはデッキから乱暴にカードを引く。だが、そのカードを見るやキースは舌打ちをした。
「エクゾディア本体はレベル7かよ……。ちっ、手札にレベル4以下のモンスターがいやがらねえ。ターンエンド……」
 どうやらこのターンはしのげたようだった。

 そして、私のターン。
「ドロー!」
 私はそう宣言して、カードを引く。このカードが勝負の分かれ目なのだ! このドローカードの内容次第では負ける!
 私は引いたカードに目を向けた……!
 ――早すぎた埋葬だった。800ライフがないと使えないカードだった。
 なんということだ。またしても私は敗北に近づいてしまったのだ!
 しかし、私は逃げない。
「私は封印されし者の左腕を召喚! 右腕とともに攻撃! エクゾディア・ダブル・ハンド・アタックゥゥゥ!」

 そして、デュエルは進行していく。

 キースのターン。
「く、また上級モンスター! 何もカードは出せねえ……」

 私のターン。
「私は封印されし者の右足を召喚! 攻撃! エクゾディア・スペシャル・ダブル・パンチ・シングル・キックゥゥゥウ!!」

 キースのターン。
「チッ……リミッター解除、使えねえ……!」

 私のターン。
「封印されし者の左足を召喚して攻撃! エクゾディア・スーパー・ウルトラ・ダブル・パンチ・キックゥゥゥウウ!!!」

 キースのターン。
「く! またリミッター解除……!」

 私のターン。
「エクゾディアの四肢で攻撃! エクゾディア・ハイパー・デストラクション・ダブル・ハンド・レッグ・アタックゥゥゥウウウウ!!!!」

 キースのターン。
「押収のカードも使えねえ……!」

 私のターン。
「封印されし者の右腕と左腕と右足と左足で攻撃! エクゾディア・アルティメット・オゥアチャー・ギャオー・ギョエエ・アタックゥゥゥウウウウ!!!!!」

 キースのターン。
「嘘だろ……!」

 私のターン。
「エクゾディアの右腕と左腕と右足と左足で攻撃! エクゾディア・パーツガ・ノーマルカードニ・ナルトハ・シンジラレナイ・アタックゥゥゥウウウウウ!!! ヒィィィイイイ〜!!!!!」

「勝者、レアハンター……」



シーン7 鈴木

 私は勝った。
 今思えば、当然の結果だった。
 出来損ないのアメリカチャンプ如きに私が負けることなどありえないのだ。
「まあ、心配することはない。私が強すぎただけなのさ」
 と私は言ってやった。
 キースは「くそっ」などと呟きながら、頭からネジを落としてテーブルを離れた。
 ……どうやら、彼はサイボーグになったらしい。どおりで生きていたわけだ。謎がひとつ解けた。

 そして、他の1回戦の試合も終了し、トーナメント表が書き換えられた。

第7回ブラッククラウン杯 トーナメント表

レアハンター──┐             ┌──      
        ├─┐         ┌─┤
      ──┘ │         │ └──吉森
          ├─┐     ┌─┤
      ──┐ │ │  優  │ │ ┌──
        ├─┘ │     │ └─┤
    鈴木──┘   │  勝  │   └──万丈目
            ├──┴──┤
   リシド──┐   │     │   ┌──
        ├─┐ │     │ ┌─┤
      ──┘ │ │     │ │ └──不破
          ├─┘     └─┤
      ──┐ │         │ ┌──
        ├─┘         └─┤
    磯野──┘             └──御伽

 私の次の対戦相手は『鈴木』。聞いたことのないデュエリストだった。おそらくローカルの新人だろう。
 テーブルを見ると、既に鈴木と思われる人物が席についていた。
 一応、相手の顔を確認する。その顔にはどこか見覚えがあった。
「貴様は……?」
 そうだ、思い出した!
「貴様は……奇術師パンドラ!」
 そう! 仮面を外したパンドラだったのだ!



シーン8 回想

「私はパンドラではない……」
 鈴木こと奇術師パンドラは否定した。
 だが、仮面の下の顔を知っている私には、彼はパンドラ以外の何者でもない。
「どういうことだ……?」
 私は聞いた。
「私の本名は鈴木太郎です」
 彼は答えた。
 会場は、凍りついた。
 そして――
「あれは、私が遊戯に負けた時のことだった……」
 なぜか、パンドラは回想を始めた。
「マリクによって悲しみの記憶に支配されていた私は、死に場所を求めて歩いていた。騒がしい街中を一人歩いていると、捨てられたM&Wのブースターパックが私の視界に入った。そのパックは開封済みで、気に入ったのカードがなかったから捨てたのだろうと容易に想像がついた。自分と重ね合わせていたからであろうか、私は自然とそのパックを拾っていた。そして、そのパックに入っていた1枚のモンスターカードに私は心打たれた。こんなにも健気に純粋に勇敢に戦っているのに、私は一体何をやっているのだろうってね。私は立ち上がったよ。それから、パンドラという名前を捨て、鈴木に戻ったのです。……そして、このカードが私を救ってくれたカード! 私はこのカードを召喚!」
 長々と回想していたので、途中から聞く気がなくなっていると、パンドラはいきなりモンスターを召喚した!
 まさか……回想にかこつけて先攻を取ったと言うのか……!
「く……!」
 やられた! 実に巧妙な作戦だ!
 だが、今回はその戦術に乗せられてしまった私がいけない。先攻はあきらめて私はデュエルに集中することにした。
 私は、パンドラが召喚したモンスターを確認した。
「これが私を救ってくれた新たなるしもべ――白魔導士ピケルです!」
 10歳にも満たないであろう少女が召喚されていた。
 ……一瞬、帰ろうかと思った。



シーン9 凶悪な効果

「私のターン、ドロー!」
 パンドラのターンは白魔導士ピケルを召喚しただけで終わり、私のターンになった。カードをドローし、初期手札6枚を確認する。
 封印されし者の右腕、冥界の使者、機動砦のギア・ゴーレム、早すぎた埋葬、闇の量産工場、奈落の落とし穴――――手札は以上の6枚だった。
 手札のエクゾディアパーツは1枚だが、他はバランスが取れている。まあまあの手札だろう。
「私は冥界の使者を召喚……!」
 冥界の使者は倒された時にエクゾディアパーツを手札に加える能力を持つ。だが、それ以前に1600というなかなか高い攻撃力を兼ね備えているのだ。
 私はパンドラの白魔導士ピケルの攻撃力を確認した。攻撃力1200だった。
 これなら勝てる、そう思った私は、
「冥界の使者で白魔導士ピケルに――」
 と言って、攻撃宣言をしようとした。しかし、
「攻撃は通させません!」
 パンドラはそう宣言した。
 罠が仕掛けてあるのか――そう思った私は、パンドラの場を確認した。だが、パンドラの場には罠など仕掛けられていない。パンドラの場にあるのは白魔導士ピケル1枚だけだ。
「この健気で純粋で勇敢なピケルを……あなたはあなたは! 破壊してしまう気ですか!? そんなことが許されるはずがない!!」
 パンドラはヒステリックな声で主張する。
「ピケルは私が守ってみせます!」
 パンドラは興奮した様子でテーブルの上に登り、両手を広げて白魔導士ピケルのカードをかばいだした。
「はぁはぁ……ピケルに……攻撃は……はぁはぁ……許されない……」
 興奮のあまりパンドラの息は上がっている。
「……!」
 パンドラの様子を見て、私は気付いた。
 白魔導士ピケルには、『攻撃対象にならない』という特殊能力があるのだ。きっとそうだ。そうに違いない。
 なんて強いカードなのだろうか。私は大会が終わったらチェックしようと思った。
「……カードを1枚伏せてターンエンド」
 私は、トラップカード・奈落の落とし穴を場に伏せてターンを終了した。結局、このターンには何も進展させることができなかった。やはりパンドラは強敵だ。



シーン10 コンボ

「私のターン、ドロー!」
 テーブルから降ろされたパンドラは、ターン開始宣言を行い、デッキからカードをドローすると、
「フフフ……ピケルには特殊能力がある」
 と、得意満面の顔で言った。
「特殊能力……?」
 思わず聞き返してしまう。白魔導士ピケルの特殊能力ならば、『攻撃対象にならない』ではなかったのだろうか?
 ……成る程、2番目の特殊能力というわけか……! ……私は納得をした。
「ピケルは、自分のターンの開始時に『自分のしもべの数×400』だけライフを回復する……!」
「回復……!」
「そうです。私の場にはピケルが1体。すなわち、このターンは400ライフ回復します」
 パンドラのライフは4000から4400になる。
「そして、私はスケープ・ゴートを発動! 場に4体の羊トークンを特殊召喚させていただきますよ……!」
 4体の羊トークンが場に出されると、パンドラはターンを終了した。

「私のターン……ドロー!」
 私のターンになる。私はデッキからカードを引いた。
 引いたカードは、『封印されし者の左腕』。エクゾディアパーツ2枚目だった。
「まずは、機動砦のギア・ゴーレムを守備表示で召喚」
 私は壁モンスターを召喚し、相手の場を確認する。やはりここは堅実に行くべきだろう。
「そして、私は冥界の使者で羊トークンを攻撃!」
 私は4体の羊トークンのうちの1体を破壊した。
「……ターン終了」

「私のターンですね」
 再び、パンドラのターン。
 そこで私は思い出す。パンドラの場には白魔導士ピケルと羊トークン3体の合計4体のモンスターがいるのだ。
「フフフ……お分かりですね? ピケルの特殊能力で私は1600ライフ回復します」
 パンドラはニヤリと笑う。パンドラのライフは4400から6000になってしまった。
 だが、私もニヤリと笑った。
「パンドラ……いや、鈴木だったか……貴様は私のデッキを忘れたのか?」
 そう、私のデッキは――エクゾディアデッキ!
 パンドラのライフがどれだけ回復しようが、私はエクゾディアを揃えれば勝利する。敵のライフなど勝利には無関係なのだ。
「それくらい承知していますよ珍札……。私が狙っていたのはこのカードとのコンボなのです!」
 パンドラは手札から1枚のモンスターを召喚した。
「召喚するカードは、お注射天使リリー!」
「お注射天使リリー……そういうことだったのか!」
 お注射天使リリーは通常は攻撃力400だが、ライフを2000払うと1ターンに限り、攻撃力を3400にすることができる特殊能力を持つのだ。
 パンドラは、リリーの莫大なライフコストのために、白魔導士ピケルの回復能力を使ったのだ!
 私が動揺しているとパンドラは、
「あなたは知らないでしょうが……」
 と、静かに語りだした。
 重要なことを語りだすのだろう――そう思った私は、その先を聞くために心を落ち着かせた。
「このお注射天使リリーは、リリーは……、ピケルの……『母親』なのです!」
 ……本気で帰ろうかと思った。



シーン11 絶体絶命

 お注射天使リリーがヤンママかどうかはともかく、パンドラの場にリリーが召喚されてしまったことには変わりない。
 私の場には、召喚したモンスターを破壊するトラップカード・奈落の落とし穴が伏せてあるものの、基本攻撃力の低いリリーには使えない。
 確実に、追い詰められていた。
「それではライフを2000払い、リリーの攻撃力を3400にアップさせます!」
 お注射天使リリーの持つ注射器に液体が注ぎ込まれる。
「リリー! 冥界の使者に攻撃です!」
 攻撃力3400のリリーが攻撃力1600の冥界の使者に襲い掛かる。
「く……!」
 冥界の使者は破壊され、超過ダメージで私のライフも4000から一気に2200まで減らされてしまった。
「だが、冥界の使者には特殊能力がある」
 私は宣言し、デッキから『封印されし者の左足』を手札に加えた。
「ターンエンドです……!」
 パンドラのターンは終了する。

「私のターン、ドロー……」
 宣言して、私はカードをドローする。
 ドローカードは『マジック・ジャマー』だった。魔法の発動を無効化するカードだが、この状況では役に立ちそうになかった。
 手札を確認する。
 手札には、モンスターを蘇生させる『早すぎた埋葬』があった。だが、このカードはライフコストが必要な上に強制的に攻撃表示になってしまう。リリーに返り討ちに遭うのがオチだろう。
「私はこのままターンを終了する……」
 何もできないままターンを終えるしかなかった。

「フフ……私のターンですね。ドロー」
 パンドラはカードをドローするとニヤリと笑って、
「私の場にはモンスターは5体。つまり、ピケルの特殊能力でライフが2000回復するのです!」
 白魔導士ピケルの2番目の特殊能力を使用される。
「そして、回復した2000ライフを使いリリーの攻撃力を3400に上昇させ、ギア・ゴーレムに攻撃します!」
 私の壁モンスター――ギア・ゴーレムは成す術もなく破壊される。
「く……!」
 私の場のモンスターは全滅してしまった。
「さらに、ピケルで追い討ちをかけます!」
 パンドラの白魔導士ピケルが私に直接攻撃を仕掛ける!
「うひょー」
 パンドラが奇声を上げる。
 白魔導士ピケルの攻撃力は1200。私のライフは2200から1000になってしまった……!
 次のターンでお注射天使リリーか白魔導士ピケルをなんとかしなければ負けてしまう。絶体絶命だった。
「ターンエンド……!」
 パンドラは自信有りげな顔のままターンを終えた。

「私のターン……」
 このターンで対策を練らねば負ける。
 だが、私の手札には対抗できるカードはない。つまり、次のドローカードに全てが掛かっているのだ。
 私は自分のデッキを思い出し、この状況を打破できる可能性がある戦術を検証し始めた。
 そうだ! 私のデッキには『聖なるバリア−ミラーフォース−』がある。このカードは、相手の攻撃宣言時に相手モンスターを全滅させるトラップ。これさえあれば……!
 私は『ミラーフォース』がドローできるように祈りながら、デッキに手を伸ばした……!
「ドロー!」
 そして、ドローしたカードを確認する。
 それは――天使の施しだった。
 ミラーフォースではなかった。だが、天使の施しは手札入れ替えカード。まだまだミラーフォースを引くチャンスは残されている……!
「私は天使の施しを発動! デッキから3枚引いてその後2枚捨てる!」
 私はデッキから3枚のカードを引いた。
 1枚目を見る。封印されし者の右足だった。ミラーフォースではない。
 2枚目を見る。封印されしエクゾディアだった。ミラーフォースではない。冷や汗が流れる。
 3枚目を見る。ミラーフォースだった。
「ククク……」
 ミラーフォースを引けた! 私は思わず笑みをこぼしていた。
 私は、手札からマジック・ジャマーと闇の量産工場を捨てた。
 そして、
「私はカードを1枚伏せてターンエンド」
 ミラーフォースを伏せて自分のターンを終了した。

「フフ……甘い」
 パンドラは笑った。
「私のターン! ピケルの特殊能力で2000ライフ回復した後――『封魔の矢』発動! あなたの伏せカードは封印させていただきます!」
 は?
「伏せカードを……封印だと……!」
「そうです! あなたが何のカードを伏せようが、もはやこのターンでは無意味。トドメを刺させていただきますよ!」
 衝撃を受けた。
 もはや、私に打つ手はないのだ……!
「…負けた…私の最強デッキが…」
 私の意識は急激に遠くなっていく。私の手札は右手を滑り落ち、テーブルに散らばっていく。
「ヒィィィィィィィィ〜! ヒ…助けて…来る来る来る助けて…来るああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……」
 そう、私にマリク様が降臨するのだ……!
 私の意識が消える直前、私に聞こえたのはピエロ男の、
「エクゾディア揃ってるじゃないか……」
 という声だった。
 私はピエロ男の声を聞きながら、深い眠りに落ちて――
 ちょっと待て。
 ……エクゾディアが揃っているだと!?
 私の意識は1秒で回復した。
 テーブルに散らばった手札を確認すると、エクゾディアパーツが見事なまでに5枚揃っていた。
「勝者、レアハンター」
 ピエロ男は勝利宣言をした。
 そう、私は勝ったのだ。
 考えてみれば、当然の結果だったであろう。リシドよりも強いこの私が、パンドラ如きに負けるはずがないのだ。私は笑った。
「まあ、惜しかったが、貴様にはカードに対する愛が足りなかったな」
 私はパンドラに言った。
「そ、そうか……愛が足りなかったのですか……!」
 パンドラは衝撃を受けた表情を見せた。
「それじゃあ、今日からは、外出する時も風呂に入る時も寝る時もいつも一緒だ」
 そう言って、パンドラは白魔導士ピケルのカードを優しく包み込んだ。
 ああ、なんて愛なんだ。
 私は思わずもらい泣きをしそうになった。それを悟られぬよう、フードを深くかぶった。
 パンドラ――いや、鈴木太郎よ。これからも末永く幸せに暮らしてくれ……私は彼らの幸せをただ祈った。

 すがすがしい勝利だった。



シーン12 磯野

 次は準決勝。
 ここまでは恐ろしいほど快調に勝ち進んできたが、そろそろ手応えのある相手が登場する頃だ。
 私は気合いを入れて、トーナメント表を確認した。

第7回ブラッククラウン杯 トーナメント表

レアハンター──┐             ┌──      
        ├─┐         ┌─┤
      ──┘ │         │ └──
          ├─┐     ┌─┤
      ──┐ │ │  優  │ │ ┌──
        ├─┘ │     │ └─┤
      ──┘   │  勝  │   └──万丈目
            ├──┴──┤
      ──┐   │     │   ┌──
        ├─┐ │     │ ┌─┤
      ──┘ │ │     │ │ └──
          ├─┘     └─┤
      ──┐ │         │ ┌──
        ├─┘         └─┤
    磯野──┘             └──御伽

 次の対戦相手は、『磯野』だ。
 磯野――この名前には聞き覚えがある。海馬コーポレーションが主催する幾多の大会で審判をやっている男だ。テーブルを確認すると、そこには確かにその磯野が座っていた。
 私もテーブルに向かう。
「ふふふ……」
 不敵な笑みを浮かべ、磯野はこちらを見ていた。
 私が椅子に座ると、
「貴様にも教えるべきだろうな」
 と、やけに偉そうな態度で磯野は言った。
「貴様も知っているかとは思うが、オレは海馬コーポレーション主催の大会で審判をしている」
 磯野は仕事が絡まないとこんな偉そうに喋るのだろうか。なんだか腹が立ってくる。
「……オレは審判をやる度に思っていた。なんでこいつらはザコカードばかり入れてるのだろうと! 滅多に決まらないコンボを狙って単体では弱いカードを投入する。もちろん、武藤遊戯も海馬瀬人も例外ではない。いや、むしろ、遊戯や瀬人は酷い! よくあんなザマで勝てるものだといつも思っていた!」
 この男……タブーに触れている! ――私の直感がそう告げていた!
 この男は危険だ。この作品にとって危険な存在だ。今すぐに高橋先生を呼んで修正液で消してもらうべきだと思った。
「オレはカンペキに計算されたデッキを使う。無駄がなく効率よく勝てるデッキをだ!」
 磯野は再び笑った。
 だが、ここで逃げては真のデュエリストではない。私も笑い返した。
「私のエクゾディアデッキに勝てるかな……」
 そして、デュエルが開始された!



シーン13 カンペキな戦術

「ふふふ、じゃんけんで勝ったから、オレの先攻だ」
 と、磯野は宣言した。
 ちゃっかり先攻後攻じゃんけんをされ、磯野に先攻を取られてしまったのだ。さすがに一筋縄ではいかない存在。私は身震い……いや武者震いをした。
「強欲な壺を発動――デッキからカードを2枚ドロー」
 磯野は手札を増やす。手札の数が7枚になった。
 さすがは計算されたデッキである。手札を増やすことが勝利への近道であることをしっかりと把握しているのだ。
「そして、異次元の女戦士を守備表示で召喚」
 強力カードである異次元の女戦士を召喚してきた。
 異次元の女戦士は攻撃力1500守備力1600のしもべ。だが、異次元の女戦士が戦闘を行った時、戦闘を行った敵モンスターを異次元に送り込むことができるのだ。この効果によって、いかなる強敵を相手にしても相打ち以上に持ち込むことのできる非常に効率の良いカードである。しかも、異次元に送り込むことは墓地に送り込むこととは別扱いとされるため、私の持つ冥界の使者の効果は封じられてしまうのだ。カンペキに計算されたデッキに恥じない戦術だった。
「さらに、カードをセット」
 磯野はカードを1枚場に伏せた。
 おそらくあれはトラップカードだろう。罠を仕掛け異次元の女戦士を召喚――ほぼカンペキな布陣だ。無駄も少なく効率も良い最高の戦術……! 私は恐怖すら覚えた。
「ターンエンド」
 そして、カンペキな戦術をもってして磯野のターンは終了した。

「私のターン、ドロー……」
 私は自信をなくしつつあった。磯野の戦術はカンペキだ。エクゾディアデッキなどで勝てるのだろうか。
 しかし、私は思い出す。私は真のデュエリストなのだ。ここで逃げるわけにはいかないのだ! たとえ負けたとしても、そこに残るのは栄光であるに違いない。
 私は6枚の初期手札を確認した。
 封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足、封印されしエクゾディア、早すぎた埋葬――――手札は以上の6枚だった。
「……?」
 私は6枚の初期手札を確認した。
 封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足、封印されしエクゾディア、早すぎた埋葬――――手札は以上の6枚だった。
 …………。
「ククク……貴様のデッキのどこがカンペキだと……!」
 私は笑い飛ばした。
「何!」
「私の手札を見るがいい……!」
 私は手札を掲げる。
 そこには見事に5枚のエクゾディアパーツが揃っていた!
「……!」
 驚愕の表情を浮かべる磯野。
 そして、
「勝者、レアハンター……!」
 と、ピエロ男の勝利宣言が告げられた。
「ククク……貴様が遊戯に勝つなど、まだまだ早いわ!」
 私は磯野に吐き捨てた。
 磯野のデッキは脆すぎたのだ。あんなデッキでは絶対に勝てはしないのだ。初心者レベルなのだ。
 私は愉快な気分になった。



シーン14 決勝戦

 次は、いよいよ決勝である。
 私は幾多の接戦を制し、この決勝まで登りつめた……いや待てよ。こんな玩具屋程度の大会なら決勝まで進出するのはそれほど難しくないのではないか。むしろ町内大会レベルだ。勝って当然、負ければ末代までの恥、そういう大会なのだ。ああそうだ、そうに違いない。疑いの余地などない……!
 …………。
 次は、いよいよ決勝である。
 私は立ちふさがる敵を蹴飛ばし、容易く勝ち上がってきた。そして、決勝も余裕で勝つだろう。なぜなら私は偉大だからだ。
「クク……」
 私は決勝の相手を確認した。

第7回ブラッククラウン杯 トーナメント表

レアハンター──┐             ┌──      
        ├─┐         ┌─┤
      ──┘ │         │ └──
          ├─┐     ┌─┤
      ──┐ │ │  優  │ │ ┌──
        ├─┘ │     │ └─┤
      ──┘   │  勝  │   └──
            ├──┴──┤
      ──┐   │     │   ┌──
        ├─┐ │     │ ┌─┤
      ──┘ │ │     │ │ └──
          ├─┘     └─┤
      ──┐ │         │ ┌──
        ├─┘         └─┤
      ──┘             └──御伽

 決勝の相手は、御伽だった。
 なんという中途半端な相手……! あまりもの中途半端さゆえ、危うく戦意を喪失しそうになった。

「それでは、第7回ブラッククラウン杯、決勝戦を行います!」
 ピエロ男がかすれた声を張り上げる。
 私と御伽はテーブルにつき、デッキをシャッフルしていた。奇妙な緊張感が走る。
 まもなくシャッフルは終わり、互いにデッキを所定の位置に置く。
 そして、
「それでは、デュエルを開始してください!」
 ピエロ男の宣言によって決勝戦が開始されたのだった。

「私の先攻!」
 すかさず宣言し、私は先攻を取ろうとする。
 この大会での対戦相手はことごとく、私の先攻を妨害してきた。決勝まで残った御伽も『先攻ストップ』の主張をしてくるに違いない……! 私は構えた。
 だが、御伽は何も言わなかった。私の先攻戦術に気付いている様子もなかった。
「どうした? 早くドローしなよ?」
 しかもこの始末だ。
「ドロー……」
 私は御伽に言われるままカードをドローしていた。
 なんだか釈然としない。まるで御伽に操られているような気さえしてくる。
 しかし、その雰囲気に呑まれたままではいけない。私は6枚の初期手札を確認した。
 封印されしエクゾディア、封印されし者の右腕、冥界の使者、闇の量産工場、苦渋の選択、攻撃の無力化――――手札は以上の6枚だった。
 正直、いい手札だった。これならほぼ確実に勝てる!
 だが、私は嫌な予感がした。底なし沼と気付かずに沼に足を踏み入れてしまったような、そんな感覚を覚える。
 御伽は、とてつもない戦術を隠し持っているのだ! ……それは、トップレベルのデュエリストのみが感じることのできる『直感』であった。



シーン15 嵐の前の静けさ

「私は冥界の使者を召喚し、伏せカードを2枚セット……」
 先攻の私のターン。この時点で私の勝利はほぼ確実なものとなっている。
 今の手札にあるエクゾディアパーツは2枚。場にいる冥界の使者が倒されれば、その特殊能力で3枚目のエクゾディアパーツを手札に加えることができる。
 そして、残りの2枚のパーツを手札に加えるキーカードが『苦渋の選択』だ。
 苦渋の選択は、自分のデッキから5枚のカードを選択し、その中から1枚のカードを自分の手札にする効果を持つ。この時他の4枚のカードは墓地に送られる。
 私は苦渋の選択のカードで、残りのエクゾディアパーツ2枚と、適当なカード3枚を選ぶ。手札に加えるカードは相手が選ぶため、墓地には2枚のエクゾディアパーツが送られてしまうだろう。だが、それが私の狙いなのだ。私の手札にある闇の量産工場を使えば、墓地の2枚のエクゾディアパーツを手札にすることができる……!
 すなわち、相手の妨害がない限り、いつエクゾディアが揃ってもおかしくない状況にあった。
 早くも、勝利は目前なのだ。
 だが――
「…………」
 妙に落ち着き払った御伽の態度、私はそれが気になっていた。
「ターンエンド……」
 だが、相手の考えが分からぬ状況で自分の戦術を変更するわけにもいかず、もやもやした気持ちのままターンを終えざるを得なかった。

「それじゃあオレのターン……ドロー!」
 御伽のターンになった。
 いよいよ御伽のとてつもない戦術を垣間見ることができるのだ。私はごくりと唾を飲み込んだ。
「オレは、速攻のブラック忍者を召喚」
 御伽はモンスターを召喚した。
 御伽が召喚したモンスターは、速攻のブラック忍者だった。このモンスターはDDDと呼ばれるゲームに登場したモンスターだ。それをコナ……海馬コーポレーションがお情けでM&Wに登場させたのだ。
 速攻のブラック忍者の攻撃力は1700。私の冥界の使者より100ポイント高い。さらに、魔法などの効果から1ターン逃れる特殊能力も持っている。
 このモンスターがきっと何かをしでかすに違いない!
 私は手に汗を握っていた。
 そして――
「オレは速攻のブラック忍者で冥界の使者を攻撃、撃破。……あ、冥界の使者の効果使うよね?」
 普通に攻撃された。
 私は普通に『封印されし者の左腕』を手札に加えた。
「カードを1枚伏せてターンエンド」
 御伽のターンは終了した。

「私のターン……」
 またしても拍子抜けしてしまった。御伽の奴はどこまで私をおちょくればいいのか……!
 私は弄ばれているのだ。これでは完全に御伽のペースではないか。
 一応、私のターンで苦渋の選択のコンボが成功すれば、エクゾディアは揃うだろう。
 だが、気になるのは御伽の伏せカード。この伏せカードによって私は敗北してしまうかもしれない――そんな気がしてならなかった。
 ならば、今ここで、伏せカードに対抗できるカードを引ければ――
「ドロー……」
 私はデッキからカードを引いた。
 引いたカードは……機動砦のギア・ゴーレム。壁モンスターだった。
「く……!」
 このカードでは駄目だ。私は舌打ちした。
 私は下を向いたまま御伽を見た。御伽は静かに私の様子をうかがっていた。
 だが、その心の中では私のことを嘲笑しているに違いない! 私は断崖絶壁に立たされていた。



シーン16 とてつもない戦術

 御伽は自然な感じで椅子に座っている。
 それは、まるで机や椅子に溶け込んでいくように自然だった。全ての攻撃を受け流し確実に勝利を手にする――その余裕がうかがえた。
 私は、自分の場に伏せてある『苦渋の選択』のカードを見た。
 この苦渋の選択の発動が無効化されるかどうかが勝負の分かれ目。だが、御伽のあの余裕……奴は何かを絶対に仕掛けている。私などでは思いつかないような何かを……。だから下手に手を出さないでいた方がいいかもしれない。いやここで攻めずして真のデュエリストと呼べるだろうか、いやいや攻めたら相手のプレッシャーに負けたことになる、いやいや攻めない方が、いやいや攻めた方が、いやいや攻めない方が攻めた方が攻めない方が攻めた方が攻めない方が攻めた方が攻めない方が助けて攻めた方が攻めない方が助けて助けて攻めた方が助けて助けて助けて助けて来る来る来る助けて来る来る助けて助けて来る来る来るああああ来る来る来る来る来るマリク様がぁぁぁあああ!!
「ヒィィィイイイ〜!!」

 私の理性のたがが外れた。

「御伽ィィ……いい加減にしやがれ!調子に乗りすぎなんだよ。俺が脇役だからって余裕ぶっこきすぎなんだよ。てめーだって十分脇役だっつーの。登場回数の割にはほとんど喋ってねーじゃねえか。いてもいなくても同じだろ。お前、世間でなんて言われてるか知ってるか?……背景だぜ背景。高橋先生にとって貴様は背景と同じなんだ。むしろ人間の形で複雑な分高橋先生に迷惑かけてるんだよ。あ、そういや記憶編に御伽はいなかったけ、つうかバトルシティトーナメントでも途中でいなくなってたよな。やっぱり嫌われてんじゃねえか。あ、それに言っとくけどな、てめー何から何まで中途半端すぎ。一人称わかんねえし。ボクなの?オレなの?……コミックス確認するのもめんどいわ!それにDDMの売り上げはどうなった?売れてないだろ売れてないよな、なんかブースター7が出てから音信不通になったみたいに発売がなくなったんだけど、所詮高校生の考えたゲームじゃそんなものだよな、あ、そういやアニメじゃ海外に行ってたんだけ、ついでだから今から海外行けば?ヒャーーハッハッハハハ!!」

 私の理性が戻った。

「あ、今の、マリク様が言ったことだから」

 会場は水を打ったかのように静かだった。
 御伽はぽかんと口を開けていた。
 ピエロ男が言った。
「レアハンター、1ターンの思考時間を大幅に超過したため、敗北とする」
 ……私の直感は当たった。
 やはり、御伽はとてつもない戦術を用意していたのだった。



シーン17 帰宅

 大会は終わった。
 私は準優勝だった。準優勝の副賞として、警備室に連れて行かれた。30分くらいありがたい話をいただいた。
 そして、ブラッククラウンを後にした私は、カードショップで白魔導士ピケルを買い込み、ニヤリと笑った。
 家に着くと、出しっぱなしになっていたダイレクトメールが目に入る。
『お気軽ローン――簡単な審査でご融資します!』
 なぜだか知らないが、私にお金をくれるらしい。
 私はお金をくれる理由を考えてみた。……このダイレクトメールの送信者は、きっと有限会社レアハンターの未来を見越しているのだ。我が社の発展のために資金を提供してくれるのだ。
「クク……」
 笑いを抑え切れなかった。
 そうだ。私は偉大なのだ。私は意気揚々とお気軽ローンへとダイヤルした。



 お後が宜しいようで。





 後書き (全て読んでから見てください)



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