プロジェクトVD

製作者:あっぷるぱいさん




 2月14日。
 それは全国の男子諸君が、朝から期待と不安に包まれるであろう日。現に僕も起きた時から何と無くいつもと違う気分だ。
 何故かって? 野暮な事聞くなよ。今日はバレンタインデーだよ。
 生まれてから母親にしかチョコレートをもらった事の無い僕にとって、2月14日という日は8月31日以上に嫌いな日だった。去年まではね。

 けど……今年は違う。
 この日のために……ずっと準備してきたんだから。
 名付けて――“プロジェクトVD”!!




 さて、今僕は中学校に向かって登校中なんだけど……何と無くいつもと違う感じだ。いつもと同じ通学路を歩いているのに、今日は何だか違って感じる。そして、心臓の鼓動がいつもより早い気がする……。
「おはよう〜」
 お、同じクラスの女子の1人、真田杏奈(さなだ あんな)さん。来るか? チョコ来るか!?

 あ、そうそう、僕はね、この日のために同学年の女子のほとんどと仲良くなっておいたんだ。だから今では、どの女子がどういう人間で、どういう事をすれば喜んでもらえるかが手に取るように分かる。
 正直、ここまで伸し上がるのは大変だった。女子の代わりに進んで仕事を引き受けたり、勉強する間も惜しんで、ネットとかで女子との会話のネタを探したり、誕生日にはプレゼントあげたりね。
 いつも女子とどう接するかを考えていた。授業中も登下校中も家にいる時も、常に女子の事を考えている(嫌らしい意味ではなく)。そのせいで2学期の成績は酷い物だったけど安い代償さ。
 努力の甲斐あって、今ではクラスの中で女子に好かれる男子ランキングでは1位とまでは行かなくても、かなり上位に食い込んでいる事は確かだと自負している。去年の僕とは比べものにならない。
 全ては今日……この日のため。大丈夫だ。抜かりは無い!

「新しいカード手に入れた?」
 真田さんが聞いてきた。彼女はM&W(マジックアンドウィザーズ)を嗜む女の子なんだよね。
 新しいカード……手に入れたさ。昨日ね。しかし、ただ話すのだけではつまらない。ここでこのカードを発動!!

カードあげるぜ!
(魔法カード)
相手が欲するカードを自分があげる事により、
相手の自分に対する好感度が20ポイントアップする。

「うん。昨日パック買ったんだ。でも、僕が使えそうなカードは無くてさ。……あ、そうだ、真田さんなら使えるんじゃないかな。あげるよコレ」
 そう言いながら、僕は鞄から昨日買ったパックを取り出し、その中から『裁きを下す者−ボルテニス』(ウルトラレア)のカードを抜き取って、真田さんに渡した。
 このカードは、カウンター罠の発動に成功した時に、自分の場のモンスター全てを生け贄に捧げて特殊召喚できるモンスターだ。真田さんが以前、このカードが欲しいかも……と小声で呟いていたのを、僕は聞き逃さなかった。真田さんはカウンター罠中心のデッキを使うからね。
「すごい! 『ボルテニス』じゃん! いいの? もらっても……」
「うん。いいよ。僕が持ってても使えそうに無いしさ」
 これで、真田さんの僕へ対する好感度が上昇した。フッフッフ……。
 ところで真田さん、チョコレートは? と言いたい所だが、それを僕の口から言ってはいけない。僕の中で催促をする事はルール違反だ。催促をした瞬間、僕の敗北が決定する。あくまでも、向こうから渡してくるのをじっと待っていなければならない。

催促
(罠カード)
これをした場合、敗北が決定する。



 そんなこんなで、学校に着いた僕たち。結局、真田さんが僕にチョコを渡してくる事はなかった。多分、あとで渡してくるつもりなのだろう。放課後、人気の無い場所に呼び出したりとかしてさ。グフフフフ……。
 お、下駄箱か……。ちょっと緊張。だってさ、下駄箱を開けると中からチョコの山がドサドサって出てくるものでしょ? 去年は1個も入ってなかったけど、今年の僕は違うんだ。ドサドサでなくても、2,3個は入っているはず……。
 唾を1回飲みこんで、下駄箱を開けてみた……。

 ……

 ……

 無い。

 ……よく見てみよう。恥ずかしがって、奥の方へ入れたのかも知れない……。

 ……

 ……

 無い。

 ……今の時代、下駄箱には入れないのかな?
 とりあえず、手を入れて探ってみるか。……うーん、やっぱり無いな。
「何してるの?」
 真田さんが聞いてきた。まずい……。チョコを探しているのがバレてはいけない……。そんなカッコ悪いとこを見られたら僕の敗北が決定する!

チョコ探し
(罠カード)
バレた瞬間、敗北が決定する。

「何でもないよ……ははは……」
 ここはなるべく自然にごまかす事に専念しよう。とにかく、この下駄箱に突っ込んだ手を外へ……ん? え!? やべぇ……手が抜けなくなった!! 何で!? くそっ……抜けない!! 誰か……助けて!!
「あ、代々木君おはよう〜」
 真田さんは僕を放って、近くを通りかかった代々木祐二(よよぎ ゆうじ)のところへ行ってしまった。ぼ……僕を置いて行かないで!!

 代々木は分かりやすく言えば、ドラ○もんに出てくる出○杉君みたいな男だ。勉強もスポーツもできるし、周囲の人望も厚い。それに、カッコよくて女にモテるし。しかし、あまりにも完璧すぎるため、彼を妬む者は結構いる。僕もその1人だ。

「代々木君、今日の放課後空いてる?」
 く……! 真田さん、まさかそいつにチョコを!?
 そうだ、絶対そうだ! 放課後人気の無い場所に呼び出してチョコを渡す気だ!! ちきしょ〜、代々木の野郎ォォォォ〜!!
「ごめん。今日は部活で忙しいんだ」
 代々木の野郎、断ったよ!! ふざけんなよ!! 女の子より部活の方が大事なのかよ!!
 真田さん! こんな男やめた方がいいって、絶対!!
「え〜、そうなの? じゃあ、部活が終わるまで待ってるよ」
 ノォォォォォォォォォオ!!!
 真田さん。そんなに代々木の事が大事ですか……。そうだよね、代々木だもんね。まあ、仕方が無いか……。
 え? ちょっと待ってよ。じゃあ、僕のチョコは!? 僕のチョコは無しですか?
 僕のその疑問に答える事無く、真田さんは教室に行ってしまった。ま……待ってくれ真田さん! く……くそ! 手が抜けねぇぇぇええ!!




 ようやく手が抜けて、教室に入った時、ホームルーム開始まであと3分だった。あぶないあぶない。つーかさ、何で下駄箱に手を入れて抜けなくなるの? 泣きそうになったよ。
 さて、僕は鞄を机の上に置き、ある場所を見つめた。ある場所……それは引き出しだ。
 下駄箱に入ってなかったって事は、引き出しの中に入ってるって可能性があるよな。う〜ん、緊張する。手を……入れてみよう。
 深呼吸して、右手をそうっと、引き出しの中に入れていく……。

 ……

 ……

 無い。

 ……よく調べてみよう。誰かに盗まれないように、奥の方へ入れたのかも知れない……。

 ……

 ……

 無い。

 ……今の時代、引き出しにも入れないのかな?
 とりあえず、もうちょっと奥まで探ってみるか。……うーん、やっぱり無いな。
「何してるの?」
 む! その声は同じクラスの女子の1人、川原静江(かわはら しずえ)さん! まずい……。チョコを探しているのがバレてはいけない……。そんなカッコ悪いとこを見られたら僕の敗北が決定する!

チョコ探し
(罠カード)
バレた瞬間、敗北が決定する。

「はは……何でもないさ……」
 ここはなるべく自然にごまかす事に専念しよう。とにかく、この引き出しに突っ込んだ手を外へ……ん? え!? やべぇ……手が抜けなくなった!! 何で!? くそっ……抜けない!! 誰か……助けて!!
「だ……大丈夫?」
 川原さんが心配して聞いてくる。あぁ……ありがとう。僕の事を気遣ってくれるんだね。
「ホントに大丈夫? ……何か変な人に見えるよ?」
 ……川原さんは大人しそうな顔して、結構キツい事言ってくる。でも可愛いから許してあげる。彼女は悪気があって言ってるわけじゃないんだよきっと。
「フンぬっ!!」

ピキッ

 僕は抜けなくなった手を思い切り引っ張った。すると、あっさりと手は抜けた。やった! 今回はすぐに抜けたぞ! 何か変な音したけど。……あ、何か右手が痛い……何だこれ?
「あの……ちょっといい?」
「え?」
 川原さんが僕に何か用があるらしい。彼女は僕の右手を引っ張って廊下に出た。痛てててててててて!!! ダメ! 右手はダメ!! 痛い痛い!! ぎゃああああ!!!!!




 僕は川原さんに引っ張られるがまま、屋上へ来た。ちょっと、ホームルーム始まっちゃ……ん? 待てよ?
 おいおい、これはまさか……。
「あの……」
「な……何?」
 彼女は何か言いたそうだ。しかし、中々言い出そうとしない。まさか……これは……。まさかなのか!?
「あの……これ……」
 川原さんは綺麗にラッピングされた箱を僕に見せた。これって……ちょ……ちょちょちょチョコ……レート……? キターーーーー!!!
 バレンタインデーが嫌いな僕よ! さような……
「これ……代々木君に渡してください!!」
 キィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!
 もう止めて!! とっくに僕のライフは0よ!!

このチョコレート、○○君に渡してください!
(極悪罠カード)
自分は心身ともに10000ポイントのダメージを受ける。




 はぁ〜〜。もうダメだ。結局あれからずっと待ってみたけど、誰もチョコをくれそうに無い……。気付いたらもう下校時刻。僕の1年は無駄に終わるのか……。
 あぁ、いいさいいさ。どうせ、僕は一生義理チョコすらもらえない運命なんだよォォ〜。
 そう覚悟した時だった。
「ちょっといい?」
 僕に話しかけてきた女子がいた。彼女はなんと!! この1年間で僕が仲良くなる事のできなかった数少ない女子の1人、鷹野麗子(たかの れいこ)さん!! 才色兼備の彼女は……この学校のマドンナ的存在だ!! そんなお方が僕なんかに話しかけてくるとは……。
「あのう……デュエルしない?」
 でゅ……デュエルのお誘い……マドンナ鷹野が……? これは……受けないワケにはいかんだろうがぁぁあああぁ!!
 あぁ、神は僕を見捨てなかった……。
「うん、いいよ。……鷹野さんもM&Wやるんだね」
「えぇ。最近始めたばかりなんだけどね」
 始めたばかりか……。どんな感じなんだろう。鷹野さんって何でもソツなくこなすイメージがあるからなぁ。




 皆が教室から出て行き、教室には僕と鷹野さんの2人だけになった。
 机の上にデッキを置き、互いに向かい合うように座る。
「ルールはどうする?」
 僕は鷹野さんに問いかけた。鷹野さんは初心者らしいし、スーパーエキスパートルールは難しいかも知れないからね。……まあ、鷹野さんならすぐ理解できそうだけど。
「スーパーエキスパートルールでいいわ」
 あ、やっぱり理解してましたか。恐れ入ります。
 さて、ルールを確認したところで、じゃんけんで先攻後攻を決める。
「じゃんけん」
「ぽん」
 僕はグー。鷹野さんはパー。
「じゃあ、私からね」
「うん」
 鷹野さんの先攻でデュエルは開始した。

僕 LP:4000
鷹野さん LP:4000

 鷹野さんは、ドローカードを含めた6枚の手札をじっと見て、場に出すカードを選んでいる。どんな戦術を使ってくるんだろう。
「リバースカードを1枚セット。さらに、『処刑人−マキュラ』を召喚してターン終了よ」
 『処刑人−マキュラ』は攻撃力1600のモンスター。そして、特殊能力がある。あのカードが倒された時、持ち主は手札から瞬時に罠カードを発動できるのだ。もっとも、他の手札を全て捨てなければならないんだけどね。決してノーコストではない。嘘だと思うなら、原作のコミックスを読み直すといい。
 このターン、攻撃するか否か。ここで『マキュラ』を倒せば、罠カードは発動されるものの、彼女は手札を全て失う事になる。ならば……!
「『ガジェット・ソルジャー』を召喚し、『処刑人−マキュラ』に攻撃!」
 『ガジェット・ソルジャー』は攻撃力1800、守備力2000の四ツ星モンスターだ。決して六ツ星モンスターではない。嘘だと思うなら、原作のコミックスを読み直すといい。
『ガジェット・ソルジャー』は『処刑人−マキュラ』を撃破し、鷹野さんのライフが200減少した。

鷹野さん LP:4000→3800

「『マキュラ』が倒された事で、私は手札から罠カード発動。『魂の綱』!」
 『魂の綱』は自軍のモンスターが倒された時、1000ライフ払う事で、デッキから四ツ星モンスター1体を出せる罠カードだ。決してダメージステップには発動不可なんて事はない。嘘だと思うなら、原作のコミックスを読み直すといい。
 『魂の綱』の発動コストにより、鷹野さんのライフがさらに1000減少した。

鷹野さん LP:3800→2800

「デッキから『地縛霊(アース・バウンド・スピリット)』を特殊召喚するわ」
 『地縛霊』は守備力2000。『ガジェット・ソルジャー』では破れない。でもまあ、鷹野さんは手札を全て捨てる事になったから、よしとしよう。
「『ダーク・ネクロフィア』が墓地に置かれた事で効果が発動するわ」
 ……ん? 『ダーク・ネクロフィア』……? ……あ! ……まさか……『マキュラ』の効果で『ダーク・ネクロフィア』を手札から墓地へ……?
 『ダーク・ネクロフィア』は攻撃力2200、守備力2800を誇るモンスターカード。だが、このカードの真価は墓地に置かれた時に発揮される。
 『ダーク・ネクロフィア』が墓地に行くと、『ダーク・ネクロフィア』の持つ人形(マリオネット)の霊魂が解放され、僕のモンスター1体に憑依する。霊魂が憑依したモンスターが攻撃した時、その攻撃は無効となり、憑依されたモンスターの攻撃力の半分の数値だけ、僕のライフが削られ、鷹野さんのライフがその数値分回復する。
 ……なるほど。『ダーク・ネクロフィア』の効果を発動するために、『マキュラ』の効果のデメリットを利用したのか……。これは、面倒な事になったな……。
「……カードを1枚伏せて、ターン終了」
 今のところはどうする事もできない。とりあえず僕は、『埋葬の腕』と『正統なる血統』を場に伏せ、エンド宣言をした。
 『埋葬の腕』は、モンスター1体を墓地に引きずり込む魔法カード。そして『正統なる血統』は、自分の墓地から通常モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する永続罠カードだ。



LP:4000
モンスター:ガジェット・ソルジャー
魔法・罠:伏せカード2枚
手札:3枚

鷹野さん
LP:2800
モンスター:地縛霊
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:0枚
※墓地に『ダーク・ネクロフィア』


 く……。鷹野さん、なかなかやるじゃないか。開始早々、そんな方法で攻めの手を鈍らせようとしてくるとは。実にしたたかだ。好感が持てるよ。ムフフフフ……。
「私のターン。『強欲な壺』を使い、2枚ドローするわ」
 何! 『強欲な壺』だって!? それは何のコストもなしにデッキから2枚引ける魔法カード! 簡単手軽に手札増強とデッキ圧縮を同時にこなしてしまう、恐るべきカードだ!!
 その強さはあまりに凶悪で、原作に一度しか登場していないほどだ。『死者蘇生』に匹敵する汎用性を持っていると言えよう。
 これなら、互いに手札が6枚になるようにドローする魔法カード『天よりの宝札』や、自分の手札が5枚になるようにカードをドローできるものの、5ターン後に手札を全て捨てるというデメリットを持つ『命削りの宝札』の方が、まだバランスが取れている
 そんなこんなで、鷹野さんの手札は2枚になった。
「カードを1枚伏せ、『地縛霊』を生け贄に『レジェンド・デビル』を召喚!」
 『レジェンド・デビル』……。攻撃力1800、守備力1500の上級モンスターだ。決して攻撃力1500、守備力1800だから『キラー・トマト』の効果で特殊召喚できるぜイヤッホゥなんて事はない。嘘だと思うなら、原作のコミックスを読み直すといい。
 それはそうと、『レジェンド・デビル』の効果は厄介だ。こいつはターン毎に攻撃力を700上げていくのだ。早く倒さなければ手におえなくなる。
「ターン終了よ」



LP:4000
モンスター:ガジェット・ソルジャー
魔法・罠:伏せカード2枚
手札:3枚

鷹野さん
LP:2800
モンスター:レジェンド・デビル
魔法・罠:伏せカード2枚
手札:0枚
※墓地に『ダーク・ネクロフィア』


 さて、僕のターン。ここで『死者蘇生』とか来てくれると嬉しいんだが……。
「僕のターン、ドロー!」

ドローカード:強欲な壺

 おぉ、『強欲な壺』か! まだチャンスはある!
「魔法カード『強欲な壺』で、さらにカードを2枚ドロー!」
 さて……引いたカードの中に『死者蘇生』は……無いか……。くっ……!
 とりあえず、場を一度確認しよう。鷹野さんの場には現在攻撃力1800の『レジェンド・デビル』に、伏せカードが2枚。墓地には『ダーク・ネクロフィア』……。
 僕の手札には、『レジェンド・デビル』を倒せる上級モンスターがある。しかし、モンスターで攻撃しようにも、鷹野さんの墓地には『ダーク・ネクロフィア』が埋葬されている。
 モンスターを出したところで、憑依されるのがオチ。けど、このまま『ガジェット・ソルジャー』を出しておいても、次のターンにはやられてしまう。……どうする?
「…………」
「…………」
 いや、待てよ。今、僕の場には『ガジェット・ソルジャー』1体。つまり、マリオネットの霊魂は『ガジェット・ソルジャー』に憑依しているはずだよな……。
「…………」
「…………」
 そうか! 分かったぜ、鷹野さん! あなたの戦術の弱点が!
 このターンであなたの目論みは崩れ去る!!
「僕は、伏せておいた『埋葬の腕』を発動!」
「!……『レジェンド・デビル』を墓地へ?」
 ふ……違うさ。僕が墓地に引きずり込むのは鷹野さんのモンスターじゃない……。
「僕が墓地へ引きずり込むのは……『ガジェット・ソルジャー』! マリオネットの霊魂を道連れにしてね!」
「!!……」
 実際にこの方法で対処できるかは分からないけど、少なくともこの小説内でなら問題無い

ご都合主義
(魔法カード)
都合のいい展開でストーリーを進行させる。

 こうして、マリオネットの霊魂は封じた。これで攻撃に移れる!
「さらに僕は伏せカード、『正統なる血統』を発動! 墓地の『ガジェット・ソルジャー』を蘇らせる!」
 これで僕の場にはモンスターが1体! 次なる手は1つ!
「『ガジェット・ソルジャー』を生け贄に、『カイザー・グライダー』召喚!」
 『カイザー・グライダー』は六ツ星で攻撃力2400を誇る通常モンスターだ。残念ながら、同じ攻撃力のモンスターとの戦闘で破壊されない&破壊された時に場のモンスター1体を持ち主の手札に戻すなんて効果は持っていない。嘘だと思うなら(以下略)。
 さて、伏せカード2枚が気になるところだが、ここで引き下がるわけにはいかない!
「『カイザー・グライダー』で『レジェンド・デビル』を攻撃!」
 『カイザー・グライダー』の攻撃力は2400。『レジェンド・デビル』は1800。勝てる!
「伏せカードオープン! 魔法カード『時の飛躍(ターン・ジャンプ)』!」
 あ、鷹野さんが何か発動した。……え? 『時の飛躍』?? 確かそのカードは3ターン後のバトルフェイズにジャンプする魔法カード……。
 3ターン。つまり、『レジェンド・デビル』は召喚されて3ターン経過した事になるから……

レジェンド・デビル 攻撃力1800→3900

 か……返り討ちだとぉぉお!!?? だが! 『カイザー・グライダー』は破壊された時、場のモンスター1体を手札に……あぁぁぁああ!! 原作ルールだったぁ! 何もねぇぇ!

僕 LP:4000→2500

「この瞬間、罠カード発動! 『削りゆく命』! このカードがリバースしてから経過したターン数だけ、相手は手札を捨てる!」
 ん? 鷹野さんが何か、よく分からないタイミングで罠を……って今度は手札破壊!!?
「私が『削りゆく命』を伏せたのは前のターンだけど、『時の飛躍』で3ターン経過したから、あなたは手札を3枚捨てる事になるわ」
 なっ……!! 僕の手札は4枚だから、ほぼ全部捨てるのかよ!? くそ! 鷹野さんはここまで計算してたのか……。
 渋々僕は、4枚の中から3枚を選んで墓地に捨てた。残ったのはこの1枚だけ……。
「カードを1枚伏せ……ターンエンド」
 僕が今伏せたカード……。それは罠カード『落とし穴』だ。こいつは、攻撃してきた敵モンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力の1/4の数値分、相手にダメージを与える罠カードだ。
 とりあえず、これで次のターンの攻撃は防げるはずだ……!



LP:2500
モンスター:なし
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:0枚

鷹野さん
LP:2800
モンスター:レジェンド・デビル(攻3900)
魔法・罠:なし
手札:0枚


「私のターン。『レジェンド・デビル』は、さらに攻撃力を700上げるわ」
 鷹野さんのターンに移ったことで、『レジェンド・デビル』は力を増大させる! その力は実に……

レジェンド・デビル 攻3900→4600

 4600ポイント! あの『青眼の究極竜』をも超える攻撃力だ! だが! 力を上げれば上げるほど、『落とし穴』の威力も増すってものだ! さあ! 攻撃してくるがいい!
「カードを1枚セットし、『レジェンド・デビル』で攻撃!」
 鷹野さんが攻撃を宣言した! よし! かかった!
「罠カード発動! 『落とし穴』! これで『レジェンド・デビル』は破壊され、鷹野さんはダメージを受けるよ」
「!」
 ふ〜……危なかった。だが、これで……
「じゃあ私も、伏せておいた魔法カードを発動するわね。『魂の交換−ソウル・バーター』!」
 …………。
 ……え? 『ソウル・バーター』?? 何それ?
「このカードは、場にいるモンスター1体と、墓地にいるモンスター1体を交換するカードよ」
 交換? ……つまりアレか? 『レジェンド・デビル』は墓地に送られ……代わりに別のモンスターが墓地から召喚されると?
「『レジェンド・デビル』は墓地に送られるから、『落とし穴』は不発に終わるわ。そして私は、代わりにこのモンスター……『冥府の使者カイエン』を墓地から特殊召喚する!」
 ちょ……!! そんなのアリかよ!? 『レジェンド・デビル』を墓地送りにして『落とし穴』をかわし、別のモンスターを召喚するって……。
 『冥府の使者カイエン』は、攻撃力2500、守備力2700の上級モンスターだ。決してトークンしか存在しないなんて事はない。嘘だと(以下略)。
 ていうか、いつの間に『カイエン』を墓地に送ってたんだ? ……あ、そうか。『マキュラ』の効果で手札を捨てた時に、『カイエン』も捨てていたんだな……。
「まだ私のバトルフェイズは終了していないわ。『冥府の使者カイエン』で攻撃!」
 うっ! そうだった!! あ、ちょっと待って……。僕のライフは残り2500……『カイエン』の攻撃力も2500だから……え〜と……?

僕 LP:2500→0

 ま……負けた……!? く……! 鷹野さん……やるじゃないか……!!



LP:0
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:なし

鷹野さん
LP:2800
モンスター:冥府の使者カイエン
魔法・罠:なし
手札:0枚




 鷹野さんは強かった。初心者と言いながら強かった。したたかだった。そんな彼女に、僕は惚れてしまった。
 待っていてくれ麗子! いつか君に相応しい男になってみせる!
「ありがとう。楽しいデュエルだったわ」
「いや、こちらこそ」
 愛する麗子よ。次は負けないよ。ムフフフフ……。
「あ……あと、これ……」
「ん?」
 我が愛しの麗子が何か出してきた。美しくラッピングされたこの箱は……、ま……まさか!?
「こ……れは?」
「あ……チョコレート……受け取ってください……」
 僕のフィアンセ麗子は顔を少し赤らめ、箱を渡してきた。……こ……今度こそは……僕に渡してきたんだよな!?
 また↓みたいな展開じゃないよな!?

このチョコレート、○○君に渡してください!
(極悪罠カード)
自分は心身ともに10000ポイントのダメージを受ける。

 しかし、分からない。ひょっとしたら、ひょっとするかも……。今の内に聞いておこう。
「これ……僕に?」
「……はい……」
 か細い声だったが聞こえた! 間違いない! これは僕のチョコレートだ! キターーーーー!!!
 バレンタインデーが嫌いな僕よ! さようなら!!
「あ……ありがとう!!」
 ありがとう! 本当にありがとう! いや、むしろ結婚して!!
「あ……開けてもいい?」
「……は……はい」
 僕の女神、麗子は顔を真っ赤にして俯いてしまっている。可愛いなぁもう!!
 じゃあ、開けてみよう。ついに来た来た来た来た来たぁぁあああ!! 僕の青春時代ィィィイ!!

ガサガサ

 ゆっくりと包み紙を取り……箱を開ける! さあ、ご対面!!

パカッ

「ん?……」
 あれ? 中身は空だ。チョコなんて入ってないぞ……。いや、カードだ。M&Wのカードが1枚入ってる。何だろう……?
 僕は中に入っていたカードのイラストを見た。その瞬間―――!!






 ―――僕の中に眠っていた、忌まわしき記憶がよみがえった……。






「…………」
 気が付くと、僕は立ち上がり、鷹野さんに向かってカードをかざして叫んでいた。
「鷹野さん! これ『ゴキボール』! チョコレートなんかじゃない!」
 すると、鷹野さんは不敵な笑みを浮かべ、こちらを見た。
「フン……ならこいつを喰らいな!」
 そう言うと、鷹野さんは僕に向かって消火器をぶちまけてきやがった!!
 ギャアアア!! 目がぁぁああぁぁ!!!
「貴様はゲームに負けた! 敗者には『ゴキボール』がお似合いだ! は〜っはっはっは!!」
 そんな事言って、鷹野は教室を出て行った。テメー、冷やかしかよ!? 覚えてろ、チキショー!!

ゴキボール
★4/地属性/昆虫族
攻1200 守1400
丸いゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。守備が意外と高いぞ。




 非常に腹立たしい気分で、僕は帰路についた。あ〜ぁ。僕のこの1年は何だったんだろう?
 結局、今日の戦利品は『ゴキボール』のカード1枚か……。僕が持つ『ゴキボール』はこれで2枚。……嬉しくねえ。
 くそ!! もうこうなったらヤケだ! 『ゴキボール』を最大限に生かすデッキを作ってやるよ! そして鷹野! 奴に再び勝負を挑んでやる!! 首を洗って待ってろよ!!
 僕は決意を新たにし、次なる戦いへ向けて、最初の一歩を踏み出した!




 僕の戦いは始まったばかりなんだ!!




〜Fin〜








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