ぷろじぇくとSV(SAVE)

製作者:あっぷるぱいさん




「ぷろじぇくとRV」が未読の方はそちらからお読み下さい。なお、今回もかなり勝手な設定が含まれていますが、二次創作として割り切ってください。



 (シャバ)だぁぁぁぁあああぁぁぁぁあああ!!!!!
 ……申し訳無い。4ヶ月ぶりに外に出たので、つい興奮してしまった。さてさて皆さん、お久しぶりです。僕を覚えていますか? そう、僕の名は……公式的には……

ゴキ「囚人番号44番だよ☆」

 そう。囚人番号……って違うよ!! 何言ってんだよゴキ!! 僕を犯罪者にするな!!

ゴキ「え〜? 前回、たかのっティーの下着盗んで捕まってたじゃ〜ん!」

 何勘違いしてるんだこの蟲野郎! 「前回までのあらすじ」を改ざんするんじゃねえよ!! 僕は無実だ!! 何も悪いことなんてしてないぞ!!


 あ、読者の皆さんは覚えているよね? 僕は前回、たかのっティー……もとい鷹野さんのわら人形の効果によって、意識を失った。そして気付いた時には、牢獄にいたんだ。何の罪も犯してなかったのにもかかわらず、だ。
 で、あれからおよそ4ヶ月が経った今日、僕はようやく出所することができた。『プロジェクトシリーズ』……いや、『ぷろじぇくとシリーズ』がしばらく更新されなかった理由は言うまでも無い。僕が服役していたためだ。決して、作者のネタが尽きたとか、そういうことではない。



前編  鷹野さんの危機!

 まあ、そんなこんなで出所した僕は今、街中をブラブラしている。ブラブラしながら、僕は改めて思った。やっぱり外の空気は最高だ。
 じゃあ、とりあえず、カードでも買いに行こうかな。しばらく買ってなかったことだしね。あぁ、そうそう。『ストラクチャーデッキ−絵空編−』を手に入れなければ。

 しかし……その前に。

 カード屋へ向かおうとした僕の目に、気になる光景が映った。見ていて非常に気になる光景だ。それはどんな光景か。……うん。率直にいうと、1人の女の子が、5人の怪しげな男どもに囲まれてる――という光景だ。
 その光景を見た僕は瞬時に感じ取った。このままでは、あの女の子が危険だ!……と。
 察しのいい人は気づいたかも知れないが、その女の子というのは鷹野さんだ。見たところ、鷹野さんと男どもは、何かを言い合っているようだが……。ちょっと耳を傾けてみよう。
 耳を澄ますと、怪しげな男たちのリーダーと思われる奴が、鷹野さんと言い争う声が聞こえた。
「鷹野麗子。あなたの決闘者としての力は素晴らしい。ですから、その力を『グールズ』復活のために貸していただきたいのです」
「お断りします。そこを通してください」
 ……? 『グールズ』? 聞いたことがあるな。何だっけ? ……まあ多分、どっかの怪しい団体だろう。ほら、彼らを見てみなよ。リーダーっぽい奴を除いて、みんな黒装束を身に纏っていて、いかにも怪しい団体!って感じじゃない? ちなみに、リーダーっぽい奴はスーツ姿で、いかにも紳士って感じの格好だ。
 要するに……これはいわゆる勧誘ってヤツだ。なるほどね。……で、鷹野さんはそれを断り、言い争う結果になったと。
「これだけ頼んでも駄目ですか。ならば仕方ありませんね……。正直、このような手段は使いたくなかったのですが……あれをご覧下さい、鷹野麗子!」
「?」
 リーダーっぽい奴(以下、紳士)は、近くのビルに備え付けられた大型テレビを指差した。すると―――

 ――ヴゥゥゥゥゥゥン

 大型テレビに薄暗い部屋が映し出される。その部屋には、椅子に縛り付けられた男の姿があった……あれ? これって“監禁”ってヤツ? なんかやばくない?
 画面に映された男は、ガタイのいい男だった。明らかに、僕や鷹野さんよりも年上だろう。多分、高校生だと思うけど、僕には見覚えが無い。鷹野さんの知り合いかな?
 ふと鷹野さんの表情を見ると、彼女の顔が驚愕に染まっているのが分かった。やっぱり知り合いだったんだな。誰だろう?





「お……お兄ちゃん!! どうして?」





 …………?!

急・展・開
(罠カード)
読者は脈拍数が1上昇する。

 お兄ちゃん!? なるほど! あの男は鷹野さんの兄なのか! あの怪しい団体は、鷹野さんの兄(以下、鷹野兄)を人質に取り、鷹野さんに脅しをかけようって腹なんだな! なんて卑怯な奴らだ!
「くそぉぉ!!! 離しやがれ!!」
 テレビには、必死に抵抗する鷹野兄が映っている。すると突然、画面の中に小柄な男が現れ、鷹野兄の顔面を一発殴った。

 ――ボゴッ!

「シャーラップ!! お前さっきからうるさいかんな!! 静かにしろ!」
 小柄な男が、鷹野兄に注意した。彼は顔半分を仮面で覆い、黒装束を身に纏っていた。あいつも怪しい団体の1人ってわけか……。
 一方、小柄な男に殴られた鷹野兄は、怒りを露にしていた。
「!! このクソチビがぁ!! テメー、今殴っただろ!? 覚えとけよ! あとで倍返しにしてやるからな!!」
「な!? チ……チビって言ったな!! 貴様ぁぁ〜〜!! 人質の分際で生意気だかんな!!!」
 鷹野兄の発言に、今度は小柄な男(以下、チビ)が怒り出す。それに対し、鷹野兄はさらに怒る。
「あぁ〜!! 言ってやったよ! クソチビ!! とっとと縄を解きやがれ!! 解かないと、テメーの顔面が血に染まることになるぞ! 俺はこの姿勢でもやっちゃうぞ! ホントだぞ!!」
「ぷぷーっ!! そんな姿勢で何ができる!? やれるもんなら、やってみろ! やーいやーい!!」
 チビが鷹野兄を挑発する。その態度が、鷹野兄の怒りを増大させる……。
「このクソチビがぁ!! 喰らえ!! “滅びのバーストストリーム”!!!!」

 ――メゴッ!!

 鷹野兄は椅子に座ったまま、チビの顔面目掛けて頭突きを喰らわせた! 同時に、チビの顔半分を覆っていた仮面が粉々になり、地面に落ちる。そしてチビは顔面を押さえ、もがき苦しんだ。
「ぬぉぉぉぉおおおお!!! ちょ……折れた!! マジで折れたっぽいかんな!! ほ……骨が!!!」
「え? マジ!?」
 …………。
 無茶苦茶元気じゃん、鷹野兄。負傷者も出しちゃったし……。ま、とりあえず、テレビからは目を離そう。兄のことは多分心配いらないだろう。
 さて、鷹野さんの方だが、やはり兄が監禁されたこともあり、紳士に向かって凄い形相で怒りをぶつけていた。
「私の兄をどこにやった!? 言いなさい! 言わなければ、あなたの急所が血に染まることになるわよ!!」
 ぬおぉ……それは痛い! 紳士よ、早く鷹野さんの兄を解放してあげてくれ!! こっちにも負傷者が出るぞ!
「残念ですが、それは言えません。見ての通り、彼は“人質”です。我々の要求を受け入れないのなら、彼を解放することはできません。いいですか? 我々に協力してくだされば、彼は解放します……が、もし協力してくださらないのなら……あれを御覧なさい!!」
「!?」
 そこまで言ったところで、紳士が指を鳴らした。すると―――

 ――ギュォォォォォオオオオ

 大型テレビに、マジックで使われるような、巨大な回転式のカッターが映し出された! カッターは、身動きの取れない鷹野兄に近付いていく―――! このままでは、鷹野兄は身体を真っ二つにされてしまう! つーか、やばすぎだろ!! 何だよこの展開!! 出所していきなりこれですか!!?
「な……!? なんかカッターが出てきた!? お……おい! アホチビ!! こりゃあ一体、どういうことだ!!」
「ぬぉぉぉ……骨がぁぁあ!! 折れたっぽいかんな〜〜〜!!」
 画面の向こうで、鷹野兄も焦っている。まずいよ……。このままだと、死人が出るぞ!!
「もうお分かりですね、鷹野麗子! あなたが我々に協力しないと言うのなら、あのカッターはあなたの兄の血で染まることになるのです!!」
「……く……っ……! 卑怯な手を……!」
 ホントに卑怯な奴らだ。そうまでして、鷹野さんを味方に引き入れたいのか?
「さあ、どうしますか? 我らに協力するか……兄を見殺しにするか……」
「…………」
 やばいよやばいよ! こういう時はどうするんだ!? そりゃあもちろん、男として、彼女を助けるべきなんだろうけど、どうやって助ける? 下手に動くと、鷹野兄が真っ二つにされちゃうし……どうするどうするどうする!? このままだと鷹野さんが怪しい団体の仲間入りだぞ! 何とかしろ僕!!
 あれこれ考えた結果、今の僕の選択肢は↓のようになった。この中から答えを見つけなければならない……!

見て見ぬ振り
(魔法カード)
自分の安全率は40ポイントアップ!
自分の罪悪感は80ポイントアップ!

ゲームをしようぜ!
(魔法カード)
あらゆるトラブルを、ゲーム1つで片付ける。

マネー・フォース
(魔法カード)
あらゆるトラブルを、財力を用いて片付ける。

ポリス・コーリング
(魔法カード)
“110”と唱えることにより、「警察官」を召喚する。

 『見て見ぬ振り』なんてできるわけが無い。ここで逃げたら、鷹野さんから主人公の座を奪還することなど、到底できないだろうからね(題名を良く見てほしい。未だに『ぷろじぇくとシリーズ』のままだ)。
 じゃあ、ここはやっぱり『遊戯王』らしく、『ゲームをしようぜ!』かな? でも、相手がゲームに応じない可能性があるな……。また「大人をからかうんじゃない!」みたいなこと言われるかも知れないし……。

現実とはシビアなり
(カウンター罠カード)
相手がゲームを挑んできた時に発動!
その挑戦は無効となる!

 ならば、『マネー・フォース』は……カネ持ってないから却下却下!! 使えるわけ無いじゃん!
 ……ということで、最後に残ったのは『ポリス・コーリング』。このカードを使えば、僕は「警察官」を呼び出すことができる! まあ、普通はそうだよな……。監禁とかしてるんだから、警察に連絡するべきだよね。
 ……ていうか、何で奴らは、ビルの大型テレビに人質の姿を映してるんだ? 道行く人がみんな見てるぞ……。バレバレじゃん。
 とりあえず、警察に連絡を……あ、でもなあ……。それだと展開的には面白くないんだよなぁ。『遊戯王』のコミックスを見ても、警察が介入するシーンはあまり見ないし―――


「待てぇぇぇぇぇぇいいいい!!!!!!!!!!」


 …………?!
 突然、どこからか男の声が聞こえた。何だろうと思って辺りを見回すと、見覚えのある男が現れた。あ、この人は―――!!
「さっきから黙って見てりゃ、卑怯な奴らめ! テメーらのようなクズどもは、この俺がまとめて成敗してやるぜ!!」
 勇ましい口調で怪しい団体に食ってかかるこの男。彼はまさしく―――!



囚人番号99番!!」



 そう。彼は僕が牢獄にいた時、隣の牢獄にいた男――囚人番号99番だった。彼は、僕が出所する1週間くらい前にすでに出所していたんだ。
 ……覚えているよね? 99番のこと。……ほら、アレだよアレ。『あら〜〜!! 金だ!! カネカネ!! 金だらけだ〜〜!! うれしぃ〜〜楽しぃ〜〜!!』の人だよ。思い出した?
「む……! 何ですか、あなたは? 私はこの少女と話をしているのです。邪魔をしないで頂きたいですな……」
 紳士は、突然割り込んできた99番に対し、嫌悪の感情を露にした。しかし、そんなことはお構いなしに、99番は怪しい団体に向かって一喝した。
「ふざけんなクズどもが! 女1人に対して、複数の男で食ってかかるなんて、見ていて情けなくなるぜ! とっとと人質を解放して消え失せろ!」
 99番の一声で、怪しい団体が怯んだ! おぉ〜! 凄いよ、99番! 見た目が怖いから、効果も倍増だぜ!
「く……! 何者なんですか、あなた? 正義のヒーロー気取りですか?」
 若干たじろぎながら、紳士が99番に問いかける。対して99番は、堂々とその問いに答えた。
「俺が何者かって? ふん! 聞いて驚くなよ! 俺の名は『牛尾』! 将来、警察官になる男だ! よく覚えておけ!!」
 あ、『牛尾』って名前なんだ。初めて知った。……つーか、警察官志望なの? 凄いね……。確か牛尾さんって、恐喝、暴行、窃盗、殺人未遂、狂戦士の魂、その他9種類の罪を犯したほどの人だよね? 凄まじく更生してるじゃん。
「牛尾……ですか。では、未来の警察官の牛尾さん。それ以上、我々に関わろうとするならば、人質の命はありませんよ……。どうしますか?」
 紳士はそう言いながら、挑戦的な笑みを浮かべた。あ〜、そうだよ! いくら勇ましく挑んでも、人質が救えなけりゃ意味無いんだよ! 牛尾さんはどうする気なんだ?
 牛尾さんの顔色を伺ってみると、彼もまた挑戦的な笑みを浮かべていた。何か秘策があるのか……?
「ふふ……慌てんなよ。どうだ? お前に度胸があるんなら、俺とゲームをやらないかい?」
「……ゲーム……ですと?」
 …………。
 どうやら牛尾さんは、『遊戯王』のルールに従い、ゲームによってトラブルを解決するつもりらしい。でもね、牛尾さん。世の中はそんなに上手く行かないものでさ……そう易々と、大人が子供からの挑戦を受けるわけが――
「面白いですね……。どんなゲームですか?」
 ――ってあっさり受け入れたし!! 何なんだよこの違いは!! ノリがいいな、あの紳士!
「これから俺らが行なうゲームには、必要な物が2つある……。1つは、俺が持っている……この40万円!!」
 牛尾さんはそう言うと、ふところから福沢諭吉のカード……もとい、1万円札の束を取り出した! すげぇ!! 何でそんなに金持ってんの!?
「そして、もう1つ必要な物は……お前が忍ばせてるナイフだ!」
 ……!? え!!? それは無理があるだろう! 出会って間もない人間に、いきなりナイフを出せって……。失礼にも程があ――
「ほう……これのことですか?」
 ――ってナイフ持ってたよ、あの紳士!!! 紳士はふところから刃渡り40cmほどのナイフを取り出し、牛尾さんに示している。何でナイフなんか持ってるんだよ……。
「OK! ゲームのルールを説明するぜ! プレイヤーは交互に自分の手の甲に金を乗せ、その上からナイフを突き立てる! ナイフに突き刺さった金のみ、プレイヤーの取り分となり……1枚以上は必ず取らなければならない!」
「……なるほど。欲張って金を得ようとすれば、自分の手にナイフが突き刺さる……というわけですか」
 …………。
 ちょっと待ってくれ。……なんていうか……危ないゲームだな……。良い子の皆は真似しちゃいけないぞ!
「ゲームは最後の1枚がなくなるまで続けられる! より多くの金を手に入れたプレイヤーが勝ちだ! 金を手で掴み取ったり、途中でゲームを放棄した者は負けになり、金は全て、相手に渡る……。どう? 面白そうだろ?」
「要は根性だめし……ということですか。面白い! この勝負、受けて立ちましょう!」
 紳士が勝負に応じると、牛尾さんはどこからともなくテーブルを持ち出してきて、その上に金とナイフを置いた。そして牛尾さんと紳士は、テーブルに向かい合うように着く。
 互いに一瞬、相手の顔を確認し……そして、戦いの火蓋が切られた!!

「「ゲームスタート!!」」

残金:40万円

牛尾さん
持ち点:0円
手の傷:0

紳士
持ち点:0円
手の傷:0

 まずは、ジャンケンで先攻・後攻を決める。
「じゃんけん」
「ぽん」
 牛尾さんはグー、紳士はチョキ。牛尾さんが先攻・後攻の選択権を得た。
「クク……。俺から行くぜ!」
 牛尾さんは、左手の甲に金を乗せると、右手でナイフを掴み……ゆっくりと……ナイフを金に突き刺した……―――。

――……ズブ……ズドッ―――

 ……うげぇ……。見てる方も緊張してくる……。実に心臓に良くない。
「フン。10枚にも満たねぇや。結構力を入れたつもりだったんだがな……。OK! 次はお前の番だぜ」
 ナイフには、1万円札が数枚刺さっていた。牛尾さんいわく、10枚にも満たないらしい。さて、次は紳士のターンか……。

残金:32万円

牛尾さん
持ち点:8万円
手の傷:0

紳士
持ち点:0円
手の傷:0

 紳士はナイフを受け取ると、妙に自信満々な顔つきで、左手の甲に金を乗せ、ナイフを右手に持った。
「欲に目がくらんで力を入れ過ぎれば、お前の手は血に染まることになるぜ! このゲームのポイントは、自分の欲望を制御することさ!」
 牛尾さんが、紳士に煽りを入れる。多分、紳士を動揺させる作戦だろう。しかし、紳士は動揺などせず、落ち着いた口調で言葉を発した。
「フフ……。私を動揺させようとしたところで無駄ですよ。ナイフを使いこなすことなど、私にとっては朝飯前! このゲームは私が勝利を収める! さあ、ショータイム!!」

 ――ザクッッ!!!

 紳士は、ナイフを思い切り金に向かって突き刺した! あぁ〜! そんなに勢いよく刺したら、あんたの手にナイフが刺さるぞ!
「おやおや、自棄になったか、紳士よ」
 牛尾さんは、自分の勝ちを確信したかのように、紳士に言った。そりゃそうだろ。あれはどう見たって、紳士の負け―――
「自棄? 何を言っているのですか、あなたは? これを御覧なさい! これが私の実力です!!」
 紳士はそんなことを言うと、金に突き刺さったままのナイフを、ゆっくりと……持ち上げ……牛尾さんに示した―――。


「「…………!!??」」


 僕と牛尾さんは、揃って目を瞬かせた! なんと! ナイフには、残りの金が全て刺さっていたのだ!!! しかも、紳士の左手の甲には傷ひとつ無い! ちょ……! どんだけ器用なんだよ、あの紳士!

残金:0円

牛尾さん
持ち点:8万円
手の傷:0

紳士
持ち点:32万円
手の傷:0

「ば……馬鹿な! 残りの金を全部……ナイフに刺しただとぉぉっ!!!??」
「もはや数え上げるまでもありませんね……。あなたが手に入れた金は、10万円足らず……。それに対して私は、残り30万以上の金を全て手に入れました。どちらが勝者なのかは、火を見るよりも明らか!!」
 さすがに、牛尾さんもこれには驚いているようだ。ていうか、牛尾さんの負けじゃん!
「俺が……負けた……!!????」
「そう! あなたは敗者! 敗者は引っ込んでいなさい!」
 牛尾さんに退場を宣告した紳士。退場宣告を受けた牛尾さんは、次の瞬間、様子が急変した!!
「あら〜〜!! 金だ!! カネカネ!! 金だらけだ〜〜!! うれしぃ〜〜楽しぃ〜〜!!」
 もう駄目だ! 牛尾さんは錯乱状態に陥ってしまった! 牛尾さん、自分からゲームを挑みながら、2ターンで敗北したよ! 弱ぇぇぇぇえええ〜〜〜っ!!




中編  素敵な兄妹愛!

「さて、話を戻しましょう。鷹野麗子よ、決心はつきましたか?」
 幻影と戯れる牛尾さんを放っておいて、紳士は鷹野さんに話を振る。鷹野さんは苦々しい顔をしながら、首を縦に振った……って了承しちゃったよオイ!!
「……兄と話をさせてください」
 鷹野さんは、俯きながら紳士に言った。つーかさ、今思ったんだけど、僕は今回アレですか? 終始ナレーターを務めるんですか? さっきからずっと、彼らの様子を見ているだけなんですが……。
「話ですか……。いいでしょう。この糸電話をお使い下さい」
 怪しい団体の1人が、鷹野さんに紙コップを渡した。なるほど、糸電話か……って、何故に糸電話!!? そんなんで会話できんの!?
 紙コップには、確かに糸がくっつけられている。その糸を目で辿っていくと……どこかに通じているようには見える。……にしても、何で糸電話?
 僕はふと、ビルの大型テレビの方に目をやった。画面には、背の高い男から紙コップを渡される鷹野兄の姿が映っていた……って、ホントに繋がってるのかよ!!? つーか、チビはどこに行った?! 病院か!?
「貴様の妹が話をしたいらしい。この糸電話を使え!」
「何で糸電話なんだよ!! もっとハイテクな物を使えよ! 糸電話なんて古いぞ!」
 鷹野兄も糸電話にツッコんだ。でも、古いとかそういう問題ではないと思う。
 まあ、それはさておき、あの背の高い男は誰だ? さっきのチビみたく、顔半分を仮面で覆っていて、黒装束を身にまとっているが……やっぱり、怪しい団体の1人か。
「さあ、鷹野麗子。兄の無事をお確かめ下さい。ただし、会話は3分間で終わらせて下さい」
「…………」
 鷹野さんは糸電話を使い、兄の無事を確かめようとしていた。ホントに糸電話で会話するつもりなのか?
 ていうかさ、糸電話って、糸がピンと張っていないと声は届かないはずだよね? 明らかに、糸はグニャグニャに曲がってるだけど……。そんなんじゃ、絶対に声は届かないと思うよ?
「お兄ちゃん、聞こえる? 私よ」
 いつもとは少し違う感じの、鷹野さんの声が聞こえた。なんて言うか……いつもはもっと、大人っぽい雰囲気があるんだけど、今はそれを感じ取れない。人格が変わるのは、デュエル中だけじゃなかったのか?
「?! 麗子! 無事だったか!」
 鷹野さんの呼びかけに、テレビの向こうの兄が答えた。どうやら、本当に通じているようだ。はいはい。もうそれでいいよ。糸電話でも何でも、好きなだけ会話するがいい。もうツッコまないよ。
「く……! 麗子! 俺には構わず、早く逃げろ!! お前には、まだやるべきことがたくさんある!」
「嫌!! お兄ちゃんを見捨てることなんてできない! お兄ちゃんは私が守る!」
 いきなり緊迫感溢れる会話になった。お前ら、絶対ワザとやってるだろ?
「お兄ちゃんは、いつも私を守ってくれたよね? 私の代わりに銃弾を受けてくれたり、私の代わりにナイフで刺されたり、私の代わりに誘拐犯に誘拐されたり、私の代わりに……」
 鷹野さん、どんだけ困難な人生送ってきたんだよ?
「覚えてる? あの時のこと。そう……あれは私が小学校6年生の時だった―――」
 鷹野さんはいきなり回想モードに入ってしまった。あの女ァ! 僕を差し置いて回想なんかに浸るな! 僕のキャラが薄くなるだろうが!!

回想
(魔法カード)
あのキャラの過去を明らかにする。

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 〜1年前か2年前か3年前〜

 当時、小学6年生だった鷹野麗子は、頭脳明晰でスポーツ万能、なおかつ容姿端麗で、クラスの人気者でした。
 そんな彼女にとって一番楽しい時間は、大好きな兄と話している時と、親友の天音と話している時でした。
 逆に、彼女にとって一番辛い時間は、両親が喧嘩しているところを見ている時間でした。彼女の両親は、とても仲が悪かったのです。

 両親の喧嘩は、大まかに言えば以下のようなものでした。

父「おのれカトリーヌ(母の名前)! カードを買う時に“サーチ”をして何が悪いというのだ! 闇雲にカードを買っても、レアカードを当てられなければ無意味だということを何故分からん!!」

母「冷静になれシルベスター(父の名前)! 真のデュエリストなら“サーチ”など使わなくても、レアカードを当てることはできるはずだぜ! そもそも、レアカードでなくても強いカードはたくさんある! カードの声に耳を傾けるんだシルベスター!」

父「ふぅん。貴様の言うことは所詮、精神論に過ぎぬ! 力なき正義など、何の役にも立ちはしない! 貴様の戯言を聞いているとムシズが走るわ! 時間の無駄だったようだな。俺は新作パックを調達しに行く。無論、“サーチ”をしてな。ククク……」

母「シルベスター! はっきり言ってやる! “サーチ”で当てたレアカードを束にしたって、俺には勝てないぜ!」

父「何だと!? おのれぇ……この俺を愚弄するとは……!! カードを構えろ! デュエルで貴様を叩きのめし、二度とその口叩けぬようにしてやるわ!」

母「フ……! 望むところだぜシルベスター! 貴様の持ちえる最高の戦術で挑んできな! だが……俺のデッキが粉砕するぜ!」


 “サーチ”は善か? 悪か?
 麗子の両親(ちなみに日本人です)は、毎回そのことについて言い争っていたのです。麗子はその争いを見る度に悲しさと虚しさを感じ、部屋に篭ってひとりで密かに泣いていました。

 そしてある日――悲劇が訪れました。

「え? 離婚!?」
 なんと、両親はとうとう、離婚する決意をしたのです。結局、2人の話し合いは決着せず、「これ以上、共に生きることは不可能」という、悲しい結論に至ったのでした。

「どうしよう……お父さんとお母さん……離婚するって……」
 麗子は悲しみに顔を染めていました。自分たちはこれから一体どうなるのか? もう両親が仲良くなることは無いのか? たくさんの不安が脳裏を過ぎります……。
 そんな麗子を支えてくれたのが兄でした。兄は笑顔で、そして力強い口調で麗子に言います。
「安心しろ、麗子! お兄ちゃんが必ず守ってやる!」
 麗子はぐっと涙を堪えながら、兄の方を見つめます。
「ほんと……? お兄ちゃん……私のこと見捨てたら……やだよ?」
「大丈夫だ! お兄ちゃんはいつも麗子のそばにいる!」
 そう言うと、兄は麗子をぎゅっと抱きしめました。その瞬間、麗子の心に巣食っていた不安という名の闇は消え、代わりに彼女の心は、安心感という名の光で満たされました。
「お兄ちゃん……大好き!」

 しかし、そんな彼女たちにさらなる悲劇が訪れます。
 悲しいことに、兄は父親に引き取られることになり、麗子は母親に引き取られることになってしまったのです。
 麗子は兄と離れるのが嫌でした。しかし、父親は兄を引き取ると言って聞きません。母親も麗子を引き取ると言って聞きません。

「やだよ……。離れ離れだなんて……」

 そして別れの日。兄は麗子の手を握り、彼女の目を見ながら言いました。
「離れていても、俺は麗子のことを忘れない。辛くなったら、いつでも俺を呼んでくれ! 俺が麗子を守ってやる!」
 麗子も兄の目を見て言います。
「私も……お兄ちゃんのこと……忘れないよ。お兄ちゃんに何かあったら……私もお兄ちゃんを守る!」
 2人は固く抱き合い、そして、しばしの別れを告げるのでした―――。


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 …………。

 …………。

 …………?
 あ、終わったか。長すぎて途中から聞いてなかったよ。……まあ、ツッコむべきところはたくさんあるんだろうが、それは読者に任せることにしよう。
「だから……! 今回は私がお兄ちゃんを守る!」
「麗子……お前……!」
 はたから見れば、素敵な兄妹愛……なのか? 2人のやり取りを見て、道行く人たちがみんな足を止めているんだが。中には涙を流している人もいるし……。誰かツッコんでくれ。
「3分経ちました。会話を終了して下さい!」
「お兄ちゃん!!」
「麗子!!」
 最後に、2人は大声で呼び合った。それは、道行く人たちの涙を誘うには充分だった。……もう、なんかイヤなんだけど。誰もツッコまないし……。
「さあ、鷹野麗子! 『グールズ』復活のため、あなたにはやってもらいたいことが山ほどあります」
「……私は何をすれば?」
 とうとう、鷹野さんは『グールズ』とかいう、怪しい団体の1人として動き出した。……やばい……誰も止めに入らない。このままじゃ、まずくね? どうする? やっぱり警察か!? けど、それだと展開的には面白くないんだよな。ならば……ここは――!!


「待てぇぇぇぇぇぇいいいい!!!!!!!!!!」


 気が付くと、僕は紳士を止めに入っていた。そう……僕はこのカードを発動することにしたんだ!!

ゲームをしようぜ!
(魔法カード)
あらゆるトラブルを、ゲーム1つで片付ける。

 牛尾さんの挑戦を受けたくらいだ。ならば、僕の挑戦だって受けるはずだ! 早くこいつらを追い払って、このお話を終わりにするぞ!
「む……! 何ですか、あなたは? 私はこの少女と話をしているのです。邪魔をしないで頂きたいですな……」
 牛尾さんと出会った時と全く同じ台詞を放ち、紳士は嫌悪の感情を露にした。
「パラコンボーイ……何しに来たの?」
 何故か鷹野さんも嫌悪の感情を露にした。え? 一応、僕は君を助けに来たんだよ? なのに、その対応は無いんじゃない? ていうか……もはや、その呼び名で固定ですか? まあ、いいや。
「さっきから黙って見ていれば……監禁は犯罪だと思いますよ?」
 一応、それは指摘しておく。こいつらも分かっていてやってるんだろうけど。
「何!!? 監禁って犯罪だったのか!?」
 ……って分かってなかったのかよ!!? じゃあ何ですか! あんたら、どんなつもりで鷹野兄を監禁したの!? これも立派な交渉手段だとでも!?
「く……! まさか犯罪だったとは……痛恨のミス! しかし、もう後戻りはできません! 何が何でも、『グールズ』は復活させる!」
「フッ! ならばゲームでケリをつけよう! 僕が勝ったら、鷹野兄妹を解放すると約束しろ!」
 すかさず僕は、紳士にゲームの挑戦を叩き込んだ。さあ……どう出てくる!?
「ほう。あなたも私にゲームを挑みますか……。よろしい。受けて立ちましょう!」
 やった! ノリがいいぞ、この紳士!! 決して「大人をからかうんじゃない!」なんていう、空気の読めない発言をする凡骨なんかではないようだ!
「私が勝ったら、あなたは我々の行動には目を瞑る……ということでよろしいですかな?」
「あぁ、いいよ。必ず僕は勝つ! ゲームはM&Wでいいよね?」
 僕が最も得意とするゲームはM&W! このゲームなら、紳士にも勝てるはずだ! まあ、紳士がM&Wをやらない人間だったら意味無いんだけどね。その場合は、『マジカルバナナ』で勝負することにしよう。
「この私にM&Wで勝負を挑むとは! その度胸だけは褒めてあげましょう! しかし、あなたは私のデッキに勝つことはできない!」
 紳士は何の躊躇もなく、ふところからカードの束――デッキを取り出した。どうやらこの紳士、M&Wもやるようだ。うん。非常に助かる。おかげでストーリーが円滑に進むよ。
 デュエルは、先ほど紳士と牛尾さんがゲームをした時に使用したテーブルで行なうことになった。まず、デュエルの前に互いのデッキをシャッフルだ。
 しかし、紳士は変わった方法でシャッフルを行なっている。あれって、テレビでよくマジシャンがやってるようなシャッフルだよな?
「ショットガン・シャッフルは、カードを痛めるわよ」
 突然、鷹野さんが紳士に指摘した。どうやら、あのシャッフルはカードを痛めるらしい。まあ、カードを曲げてるしね。
「私には、このやり方が慣れていましてね……」
 紳士にとってはあのやり方がやりやすいようだ。……この紳士、実はマジシャンなのか? あの回転カッターといい、ショッ……なんとかシャッフルといい……。
「カードをカットさせてもらうよ」
「どうぞ……」
 カット終了。これで準備は整った……!
「では、始めましょうか」
「あぁ」
 僕は紳士の表情を見た。紳士もまた、僕の表情を伺ってくる。ほんの数秒、僕たちは互いの顔を見合った。そして―――


「「デュエル!!」」


 やっと、主人公である僕のデュエルが始まった! あぁ、長かった。


僕 LP:4000
紳士 LP:4000


「私の先攻ドロー! 魔法カード『天使の施し』を発動! デッキからさらに3枚ドローし、2枚を捨てる!」
 紳士が勝手に先攻を取った! くそッ! ちゃんとジャンケンとかしようよ!
「『魔道化リジョン』を守備表示で出し、カードを1枚セット! ターンエンドです!」
 紳士が召喚した『魔道化リジョン』の守備力は1500か……。倒せない数値ではないな。
「僕のターン、ドロー!」
 さて、僕の手札は以下のようになっている。

〜手札〜
ガキボール,ギキボール,グキボール,ゲキボール,ゴキボール,ゴキブリ乱舞

 フフ……。この作者もついに、オリジナルカード略してオリカを多用するようになったか。しかも『ゴキボール5姉妹』という、アニメに出てきた『クリボー5兄弟』のパクリとも言えるカードを出してくるとは……。

ガキボール
★4/地属性/昆虫族
四角いゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。守備が結構高いぞ。
攻800  守1800

ギキボール
★4/地属性/昆虫族
三角形のゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。攻撃が結構高いぞ。
攻1600  守1000

グキボール
★4/地属性/昆虫族
台形のゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。攻撃がかなり高いぞ。
攻2000  守600

ゲキボール
★4/地属性/昆虫族
ひし形のゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。守備がかなり高いぞ。
攻200  守2400

ゴキボール
★4/地属性/昆虫族
丸いゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。守備が意外と高いぞ。
攻1200 守1400

ゴキブリ乱舞
(魔法カード)
手札のゴキブリカードを全て捨てる。
捨てた枚数×700ポイントの精神的ダメージを相手に与える。

 ならば……僕が行う手は1つ!
「魔法カード『ゴキブリ乱舞』発動! 手札のゴキブリカードを全て捨て、相手プレイヤーに精神的ダメージを与える!」
「な……何!! 精神的ダメージだと!!」
 僕は手札のゴキブリカード5枚を全て捨て、紳士に3500ポイントの精神的ダメージを与えた! これで、紳士がデュエルを続けることは難しくなったはずだ。

紳士 MP(メンタルポイント):4000→500

「ぬぐぅぅぅ……! ライフは全然削られてないのに……デュエルを続ける気力が失せてきたぁぁあ〜……!?」
 さあ、紳士よ。潔くサレンダーするがいい。そうすれば、すぐに楽になれるよ。
 さて、ここで1つ言わせてもらおう……。
「『ゴキブリ乱舞』が墓地に置かれたので、カードを6枚ドローさせてもらうぞ!」
「!!?? な……馬鹿な!!? そんな効果は書かれていないぞ!!?」
 僕は紳士の戯言を無視して、手札を補充した。なあに、原作ではよくあることさ。『クリボー』しかり『ドラゴンを呼ぶ笛』しかり。
 さて、補充した僕の手札は以下のような感じだ。

〜手札〜
カイザー・グライダー,ガジェット・ソルジャー,天よりの宝札,落とし穴,融合,黙する死者

 うん。いい感じだ。ここは『ガジェット・ソルジャー』だな!
「僕はさらに、『ガジェット・ソルジャー』を召喚!」
「フフ……かかりましたね!? 罠カード発動! 『黒魔族復活の棺』!」
 何!? 紳士が罠を発動したぞ!? ……あれは確か、互いの場のモンスターを1体ずつ生け贄に捧げて、墓地から黒魔術師を復活させるカード! まさか……!?
「私の場の『魔道化リジョン』及び、あなたの場の『ガジェット・ソルジャー』を生け贄に……復活せよ! 『ブラック・マジシャン』!!」
 くそ……! 『天使の施し』の効果で墓地に捨ててたんだな!! 自分のしもべを平然と墓地に捨てるその行為……デュエリストの風上にも置けないな!!
 『黒魔族復活の棺』の効果により、『ガジェット・ソルジャー』と『魔道化リジョン』が生け贄に捧げられ、『ブラック・マジシャン』が復活した―――! ……ていうか、『ブラック・マジシャン』!? それは、武藤遊戯が使うカードのはず! なんで貴様が使っている!?
「くっ……僕はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
 とりあえず……『ブラック・マジシャン』に対抗するために、カードを伏せておこう。伏せたカードは『落とし穴』。攻撃してきた敵モンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力の1/4のダメージを相手に与える罠カードだ!



LP:4000
MP:4000
モンスター:なし
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:4枚

紳士
LP:4000
MP:500
モンスター:ブラック・マジシャン
魔法・罠:なし
手札:4枚


「私のターン! カードドロー!」
 さあ……攻撃してくるがいいぜ、紳士! 攻撃した瞬間、ドッカーン……だ。
「……あなたの場に伏せてあるカード……おそらくは私のモンスターの攻撃により発動する罠カードでしょう……。目障りなので封じておきますか。魔法カード『封魔の矢』を発動!」
 …………は?
 何それ? ぼくそんなかーどしらないよ。
「この魔法で、あなたの場に伏せてあるカードは封印されます!」
 …………封印?
 じゃあ何か? 『落とし穴』は発動できないと言いたいんですか?
「そして私は『キラードール』を召喚し、『ブラック・マジシャン』とともにダイレクトアタック!!」
 く……! 『キラードール』の攻撃力は1600! そして『ブラック・マジシャン』の攻撃力は2500! しかも、僕は罠を使うことを許されない! ……あれ? ということは―――

僕 LP:4000→0

「……弱っ」
 敗北の瞬間、鷹野さんの嘲るような声が聞こえた。くそ……あの女ァッ……!
「さあ、敗者は引っ込んでもらいましょうか」
 ま……まずい! このままでは僕の活躍が無いままに終わってしまう! だがゲームに負けた以上はルールに則り、僕は紳士の行動を見逃さなければならない。なんてこった……。
 ど……どうする!? このままでは鷹野さんを助けられない! そうなれば主人公奪還の夢も潰える! 何とかしろ僕! 考えろ! こういう時は……―――――どうにもならないだろ!!! ゲームに負けたんだから!!
 僕は敗北を認め、その場を立ち去ることにした。悲しきかな、ゲームに負けてしまったら、対抗のしようが無いのが『遊戯王』だ。
 ため息をつき、ふと顔を上げる。すると、鷹野兄が映った大型テレビが目に入った。テレビに映った彼は、なんかヤバそうなオーラを纏っている――――って……え?





 ―――“デストロイ・ギガ・レイズ”!!





 突然、テレビの中で鷹野兄が叫んだ! その瞬間、鷹野兄は自分を縛りつけていた縄をブチ破り、近くにいた仮面の男を吹っ飛ばした! そして、壁をパンチで破壊すると、部屋の外に脱出した―――!!!
「脱出成功! 今行くぜ、麗子!!」
 そう叫ぶと、鷹野兄は画面の外に向かって走り去った。 ……あれ? 自力で脱出しちゃったじゃん!! 何だったの、今までのやりとりは! 全く意味無いじゃん!!

路線変更
(魔法カード)
話の設定を都合のいい形に変更する。

「なっ……なんてことを!! あの部屋は借り物なんだぞ!! あんな大きな穴を開けてくれちゃって!! どうしてくれるんだ!!」
 テレビを見た紳士は、頭を抱えて叫んだ。どうやら部屋を壊されたことがショックらしい。……ツッコむところ違うだろ。
 まあ……とりあえず、鷹野兄は脱出できたわけだから、これで鷹野さんが怪しい団体に入る必要は無くなった。良かったね鷹野さん。

 ……あ、そうだ。思いついたぞ!

 先ほどゲームに負けてしまった僕だが、この状況を利用すれば、一気に汚名返上できることに気付き、紳士に一声かけてやった。
「ははは! 紳士よ! まんまと僕の策に引っかかったな!」
「な……何! 策だと!?」
 紳士は、いいリアクションをとって驚いてくれた。そうそう。そんな感じで驚いてくれると、僕も助かるよ。
 じゃあ、続きだ。
「さっき僕は、あなたにゲームを挑んだよね? あれはね……鷹野さんの兄が逃げ出すまでの時間稼ぎだったんだよ。だから、ゲームの勝敗なんて二の次だった。要は……鷹野さんの兄が逃げ出すまで、僕があなたの目を引きつけておけば良かったんだ!」
「な……馬鹿な!!? くっ……私は上手く、あなたに誘導されていたわけですか……」
 この紳士、本気で信じてる。嘘に決まってんだろ。馬鹿じゃねーの?
 ふと横を見ると、鷹野さんが呆れたような顔つきで、何かを言いたそうにしているがスルーしよう。とりあえず、決め台詞だ。
「さあ! 大人しくこの場を去れ!」
 よーし。いい感じで決まったぞ! あとは怪しい団体が立ち去ってくれれば、このお話もおしまいだ。
「くそっ……! 仕方がありません。今回は我々の負けということにしておきましょう……。ですが、次はこうはいきませんよ!」
 紳士は悪役らしい捨て台詞を吐いて、その場を立ち去った。周囲にいた黒装束の奴らも、同時に姿を消した。
 ははははは! 正義は勝つ! 悪い男どもは僕が追い払った! ……さて、鷹野さんに怪我が無いかどうか、一応確認しなくては。
「鷹野さん、怪我は無い?」
 僕は鷹野さんに尋ねてみた。すると、彼女は僕の方を見て突然―――――
「受け取れぇぇぇい! パラコンボーイ!!」
 そう言って、1枚のカードを僕の方を目掛けて投げてきた! その勢いは凄まじく、カードは僕の額に思い切り突き刺さった!! 痛ぇえええええええええええ!!! さ……ささささ刺さったよ!! カードが刺さった! 顔に刺さった!! あああああ血が出てきたぁぁああああ!!!!!
 ……と思ったものの、僕は男の子だから痛いのを我慢して、何事も無かったかのように、額に刺さったカードを抜き取り、カードの絵柄を確認した。い……痛いよぉぉお〜〜。
 とりあえず、カードは↓のような物だった。……ん? あれ? このカード……どこかで……?

HERO RELIEF −主人公交代−
(魔法カード)
ユーの時代は終わりましたヨ。

 こ……これは!!! 僕が『プロジェクトシリーズ』の主人公から外された要因とも言えるカード! こんなところで再会するとは!!
 これを僕に渡してきたってことは……主人公の座を僕に返却する……ってことか? マジで!? やった……あ、いや待てよ? この女のことだ。『プロジェクトVD』の時みたいに、ぬか喜びさせたところで消火器ぶっかけてくる気じゃ……? 
 落ち着け僕。少し様子を見よう。心理戦と行こうじゃないか。
「鷹野さん……。何でいきなりこれを?」
 僕が鷹野さんに探りを入れると、彼女は微笑みを浮かべた。その表情は、男を魅了するには充分なんだろうが……僕にとっては怖い! 何を企んでいる鷹野さん!?
「……結果オーライとは言え……一応、私を助けてくれたわけだしね。そのカードは報酬よ。ありがたく受け取るがいいわ!」
「へ?」
 報酬? ……ってことは、僕に主人公の座を受け渡すと?
 僕が黙り込んでいると、鷹野さんは微笑みを浮かべながら、静かな口調で言葉を発した。
「……何? いらないの?」
 あ、そんなことはありません。すいません。貰っときます。怖ぇぇええ! この人笑顔で怒ってたよ! 僕には分かる!
「じゃあ……僕が主人公を務めるってことでいいんだね?」
「ふふ……お好きにどうぞ」
 ……好きにしろ……か。まあ、とりあえず貰っておこう。油断はできないけどね。
「あ……ありがとう」
 黙っていても居たたまれないので、適当に礼を言っておいた。……一応、これで主人公の座を奪還することはできたわけか。……まあ、良かったのかな? これで……。
 僕は、きっと人助けをしたことで、神様がご褒美をくれたんだということで納得することにした。みんなも困った人を見かけたら、ちゃんと助けてあげるんだよ。
 あ、そうだ。せっかくだから、鷹野さんにデュエルを挑んでやろう。今日こそ君に引導を渡してやるぞ!
「鷹野さん。突然悪いけど……デュエルしてくんない?」
「デュエル? 別にいいけど、また私が勝つわよ?」
 物分りが良くて助かるよ、鷹野さん。けどその言動、凄く腹が立つ。今に見てろよ……。

ご都合主義
(魔法カード)
都合のいい展開でストーリーを進行させる。

 デュエルは、またあのテーブルを使って行なうことになった。互いのデッキをシャッフルし、テーブルに着く。これで準備完了だ。
 今日、僕の連敗記録と君の連勝記録に終止符を打ってやる! 行くぞ鷹野さん!

「「デュエル!!」」

僕 LP:4000
鷹野さん LP:4000




後編  兄妹の再会! パラコンボーイの再会!

 まずは先攻後攻を決めないとな。じゃあ、鷹野さん。ジャンケ―――
「私の先攻ドロー! フィールド魔法『うずまき』発動!!」
 ―――ってオイ!!! 勝手に先攻取るな!!! つーか『うずまき』?! いきなりかよ!!
「このカードが発動した時、全ての常識が覆るわ」
 『うずまき』が発動すると、デュエルのルールが原作ルールからOCGのルールに変貌する。鷹野さんお得意のトンデモカードだ。
 まあ、さすがにもう慣れたよ。だから驚くことなんて無いさ。ほら、まずはライフポイントが4000ポイント増えて……

僕 LP:4000→3000
鷹野さん LP:4000→3000

 …………?!
 あれ!? ライフが減ってる!! 何で!? OCGルールだと、初期ライフ8000じゃなかったっけ!!?
 鷹野さんは……一体何を……?
「先攻1ターン目で『うずまき』を使用した場合、『うずまき』が秘めし、第2の能力を使うことができるわ。その能力により、デュエルのルールを、原作ルールからスピードデュエルのルールに変更する!!」

 …………。

 …………。

 …………は? 第2の能力だと!? それに『スピードデュエル』!? 何じゃそりゃ!!?


●     ●     ●     ●     ●     ●     ●


 説明しよう! 『スピードデュエル』とは、現在ゲームセンター等で稼動している『デュエルターミナル』で用いられているルールの1つだ! 基本的にはOCGと同じだが、以下の3つが大きく異なっているぞ!

初期ライフ:3000
初期手札:3枚
デッキ枚数:10枚

 これ以外にも違いはあるらしいが、作者が知っているのはここまでだ! よって、上記3つのルールを採用するぜ!!


●     ●     ●     ●     ●     ●     ●


 馬鹿な!!? そんなルールがあるなんて初めて知った!! 何だよ『デュエルターミナル』って!!
「『スピードデュエル』に変更されたことにより、互いのプレイヤーは手札・デッキ・フィールド・墓地・除外されたカードの中から10枚のカードを選択し、新たなデッキとする。それ以外のカードはいかなる方法を用いても、このデュエル中に使用することはできない!」
 し……しかも……なんて無茶苦茶な効果だ……! 10枚のカードを選んでデッキにするだと……? 何のカードを選べばいい……?

超・展・開
(魔法カード)
読者は3cmくらい動揺する。

「さあ、パラコンボーイ! 最高のデッキを組んで挑んできなさい!」
 鷹野さんはもう、デッキを組み終わったようだ。くそっ! ……なら……僕はこの10枚を選ぶ!!

〜僕が選んだカード〜
・ゴキボール
・ゴキボール
・ゴキボール
・コカローチ・ナイト
・ゴキポン
・サンダー・ボルト
・サンダー・ボルト
・サンダー・ボルト
・強欲な壺
・融合

 『サンダー・ボルト』が3枚あるような気がするがツッコむな。鷹野さんを倒すには、3枚あっても足りないくらいなんだ。分かってくれ。
 とにもかくにも、僕が『デュエルターミナル』でデッキを組むとしたら、こうなるって決まってるんだよ(←分かる人だけ分かって下さい)。だから納得してほしい。
 ……にしても、『うずまき』にあんな効果が隠されていたとは……。効果は1つだけじゃなかったのか……。いや……違う。どう考えても後付けだ。作者の思いつきだ。そうに決まってる。きっと作者がインターネットしながら思いついたんだよ。うん。
 とりあえず、新たに組んだデッキからカードを3枚引く。この3枚が新たな初期手札となる。さあ、ゲーム再開と行こうぜ!
「私は『強欲な壺』を使い、2枚ドロー!! さらに、手札の『サンダー・ドラゴン』を墓地に捨て、デッキから別の『サンダー・ドラゴン』2枚を手札に加える! そして魔法カード『融合』発動! 手札の『サンダー・ドラゴン』2体を手札融合! 出でよ! 『双頭の雷龍(そうとうのサンダー・ドラゴン)』!!」
 チキショオ!! いきなり攻撃力2800の『双頭の雷龍』を出してきたよこの人!! ていうか手札融合!? あ、そうか! 基本はOCGルールなんだっけ!?
 『サンダー・ドラゴン』を手札から捨てると、デッキから別の『サンダー・ドラゴン』を2枚まで手札に加えることができる。そして、『サンダー・ドラゴン』2体を融合させたモンスターが『双頭の雷龍』だ。
「私はモンスターを裏守備表示でセットし、カードを1枚伏せてターンエンドよ」



LP:3000
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:3枚
デッキ枚数:7枚

鷹野さん
LP:3000
モンスター:双頭の雷龍,裏守備モンスター
魔法・罠:うずまき,伏せカード1枚
手札:0枚
デッキ枚数:3枚


 鷹野さんの場には、攻撃力2800の『双頭の雷龍』と裏守備モンスター1体。そして『うずまき』と伏せカード1枚。『うずまき』は、スピードデュエルに変化した後も、鷹野さんの場に残り続けているようだ。
 さあ……この状況を覆すにはどうするか……。まずは僕の手札を確認してみよう。僕の手札はこの3枚だ。

〜僕の手札〜
ゴキボール,ゴキボール,ゴキボール

 ……『ゴキボール』しか無い。だが『融合』のカードを引けば、3体の『ゴキボール』を融合させ、攻撃力5000の『マスター・オブ・ゴキボール』を召喚できる! 基本がOCGルールなら、手札融合が可能だからね。
 そして……このルールなら、原作のように「融合モンスターは融合したターンに攻撃できません」なんてことも無いわけだ。攻撃力5000の『マスター・オブ・ゴキボール』で攻撃力2800の『双頭の雷龍』を攻撃すれば、鷹野さんのライフを大幅に削ることができる!
 たとえ『融合』が引けなくても、『サンダー・ボルト』を引き当てれば、状況を覆すことはできる! しかも、『サンダー・ボルト』はデッキに3枚も入っている!
 『融合』……あるいは『サンダー・ボルト』……。このどちらかを引き当てれば、僕の優位となる!
「僕のターン、ドロー!」
 僕は迷わずにドローした。僕のデッキよ、答えてくれ!!

ドローカード:融合

 ! ……くくく……! ふはははははは!!! 僕の勝ちだ! 鷹野さ――――
「罠カード発動! 『はたき落とし』! ドローしたカードをお捨てなさい!」
 !!????

はたき落とし
(罠カード)
相手がドローフェイズに引いたカード1枚を捨てさせる罠!
その威力は原作の『無効』に匹敵する!
え? 何で『無効』を使わないのかって?
OCGの『無効』は原作と効果が違うからだよ。

 ひでえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!
 『はたき落とし』と言えば、原作の『無効』と同じく、相手がドローしたカード1枚を捨てさせる極悪罠! ちょっと待ってよ!! ふざけんなよ!! せっかく逆転できるチャンスだったのに!! そりゃあ無いだろ……!
 くそくそくそ! 激しくやる気を失ったよ……。なんて恐ろしい罠カードなんだ……。
「……『ゴキボール』を召喚して……裏守備モンスターに攻撃だ!」
 とりあえず、僕は『ゴキボール』召喚して、裏守備モンスターに攻撃した。次のターンで『双頭の雷龍』に攻撃されるが、ここで逃げの姿勢をとるのは気に入らない! さあ、砕け散れ! 雑魚モンスター!
「私がセットしていたモンスターは『火霊使いヒータ』! 守備力は1500! 攻撃力1200の『ゴキボール』では破れないわ!」
 鷹野さんが伏せていたのは、守備力1500のモンスターだった。くそっ! 『ゴキボール』では倒せな……ん? 『火霊使いヒータ』……?
 …………あっ!?

トラウマ
(罠カード)
忌まわしき記憶が蘇る……。

 うぐあぁぁ!!! 出たぁぁぁあ!!!! あぁああ思い出す! あのモンスターさえ出てこなければ、僕は『ぷろじぇくとRV』で勝利を収めていたはずなんだ!! おおおおお!! あの時の逆転劇はもはやトラウマだ!! 胃が痛くなってきたぁぁああ!!!
 『ヒータ』は恐るべきカードだ!! 読者の皆さんも、『ヒータ』を見たら警戒するように!! 見た目に惑わされたりしちゃ駄目だぞ!!
 『ゴキボール』の攻撃力よりも『ヒータ』の守備力が300ポイント高かったため、その分僕のライフが減少した。

僕 LP:3000→2700

 お……落ち着け僕。『火霊使いヒータ』は攻撃力500、守備力1500のモンスター。このカードと炎属性モンスター1体を生け贄に捧げることで、攻撃力1850の『憑依装着−ヒータ』に進化する。
 しかし、今は炎属性モンスターがいない! つまり、『ヒータ』はまだ進化できないってことだ! 大丈夫だ。何も問題無い。いずれ、僕の『サンダー・ボルト』で粉砕してくれよう!
「ターンエンドだよ」



LP:2700
モンスター:ゴキボール
魔法・罠:なし
手札:ゴキボール,ゴキボール
デッキ枚数:6枚

鷹野さん
LP:3000
モンスター:双頭の雷龍,火霊使いヒータ
魔法・罠:うずまき
手札:0枚
デッキ枚数:3枚


 ……まだだ! まだ僕のライフは残っている! ライフが残っている限り、逆転の可能性はある!
「私のターン、ドロー! ……私は『きつね火』を召喚!」
 鷹野さんが何か召喚した。『きつね火』? 攻撃力300のモンスターか。ふん。そんなモンスターでは、僕の『ゴキボール』には敵わな……あれ? 『きつね火』って炎属性モンスターだったような気が……。
「そして――『火霊使いヒータ』と場の炎属性モンスター1体を生け贄に捧げることで、『ヒータ』は進化する!」
 ノォオォォォォォォオオォォォォオオォォォォォォオオオ!!!??? やばい!! 『ヒータ』が進化してしまう! まずいまずいまずい! 何とかしろ僕! どうすんの!?

トラウマ
(罠カード)
忌まわしき記憶が蘇る……。

「行くわよ! 『火霊使いヒータ』に炎属性モンスター『きつね火』を憑依装着! 煌めく炎が悪を滅する光となる! デッキより特殊召喚! 燃え上がれ! 『憑依装着−ヒータ』!!」
 あれこれ考えたが、結局『ヒータ』の進化を止めることはできなかった。ぬぬぬぬぅぅ!!! ここでそのカードを出してくるとは……!!!
「バトルフェイズ! 『双頭の雷龍』で『ゴキボール』を攻撃! 撃破!」

僕 LP:2700→1100

 『ゴキボール』が『双頭の雷龍』に勝てるはずがなく、あっさりと撃破される。これで僕の場の壁モンスターはいなくなってしまった。それに、伏せカードも無い……。
 ……あれ? ……ということは?
「そして……『憑依装着−ヒータ』でプレイヤーに攻撃!」
 ぬがぁぁぁああああ!!!! またコイツにとどめをさされるのかぁッ!!

僕 LP:1100→0

 ま……負けた!? ……つーか何!? また3ターンで敗北したよ僕!! もっと活躍させてよ!! それ以前に『うずまき』の効果が卑怯すぎだろ!! 何だよ、第2の能力って!! 後付けにも限度があるだろうが!!
「また私の勝ちね。悪いけど、出直してきてちょうだい」
 鷹野さんは小馬鹿にするような口調で言った。くそぉ!! あんな壊れカード使っときながらよく言うよ! 覚えてろよこのクソ女!!
 あぁ……。今度は『うずまき』第2の能力への対策法を考えなくては……。う〜む。やっぱりもう少し強いカードを手に入れないと駄目だな。
 そもそも、僕はこれからカードを買いに行こうと思ってたんだよ。さっさと買ってきてしまおう。そして、新たなデッキを組まなくては……。
 僕は鷹野さんに別れを告げると、歩きながら彼女を攻略する戦術を考え始めた――とその時だった!
「麗子ォォォォォォ!!!!」
 僕の前方からガタイのいい男が走ってきた!! あれは……鷹野兄!? やっべー。彼のことすっかり忘れてたよ。しかし鷹野兄、よくここが分かったな!!
「麗子! どこだ!?」
 鷹野兄は鷹野さんの名を叫びながら、彼女を探している! 彼の声を聞いた鷹野さんは表情を変えた!
「お……お兄ちゃん!! ここよ!」
 鷹野さんが兄に呼びかけた! その声を聞いた鷹野兄は、鷹野さんの姿を見つけ、再び彼女の名を叫ぶ!
「麗子!!」
「お兄ちゃん!!」
 鷹野兄は、鷹野さんの方へ向かって走った! そして鷹野さんは、鷹野兄の方へ向かって走った! 兄は妹の下へ……妹は兄の下へ……。
「麗子――――!」
「お兄ちゃん――――!」
 2人の距離が1メートルほどになったところで、鷹野さんは兄の胸に飛び込んでいった。
 兄妹の再会だ―――。

 ――ガシィッッ!!

 2人はがっちりと抱き合った。それとともに、周囲の人間が盛大な拍手を送った。……ってお前らまだ見てたのかよ!?
「麗子……ごめんな。怖い目に遭わせちまって……」
「ううん……。お兄ちゃんがいたから……私、大丈夫だったよ……」
 兄妹は再会の喜びを分かち合っている。あぁ……。あんな鷹野さん、初めて見たよ。兄さんの胸に顔をうずめちゃってさ……。周囲は今、感動の渦に巻き込まれてるよ。何か、僕も感動してきた。
 『プロジェクトシリーズ』としては珍しく、感動のシーンが生まれた。読者の皆さんも、どうぞ気ままに感動してください。

 こうして、しばらくの間、周囲は歓声に包まれていた。

感動の再会
(魔法・罠カード)
Oh! 涙がちょちょぎれちゃうのデ〜ス!

 そして、2時間ほどが経過した。ようやく歓声も止み、感動ムードも消えつつあった。
「お兄ちゃん。もうこんな時間だし、今夜はウチに泊まっていったら?」
 鷹野さんが腕時計を指差しながら兄に言う。どうやら、もう夜の7時らしい。ってそんな時間なの!? 僕、てっきり午前中かと思ってたんだけど!!
「げっ! もう7時か! そうだな……。今日はそうさせてもらうとすっか!」
「決まりね。じゃあ、お兄ちゃん。今日は一緒にお風呂入ろ!」
 …………。
 鷹野さん、よっぽど兄が好きなんだね。兄さん幸せ者だな。
「久しぶりだな、お前と風呂入るのは……。最後に一緒に入ったのはいつだったか……?」
「確か……私が小5の時よ」
 そんな風に会話を交わしながら、2人は笑いあっている。あぁ……実に仲の良い兄妹だ。僕はまたナレーターと化してしまったが……まあ仕方ないか。
 僕は、そんな微笑ましい2人の兄妹の姿を、黙って見つめていた―――と思いきや、鷹野さんたちの前に、1人の男が現れた。
 金髪のその男は学ランを着ていて、年は鷹野兄と同じくらいだと思われる。彼の両腕にはそれぞれ、デュエルディスクが1つ装着されている。何でデュエルディスクを2つも……? いや、その前に……あれ? あの男……どこかで―――?
「お、来たか……。悪ぃな、城之内。急に呼び出したりしてよ」
 鷹野兄が、金髪の男に対して言った―――って城之内だよアイツ!! やっべー!! 『パラサイド』のことでボコられる前に隠れないと!!
 僕は近くの草むらに隠れ、様子を伺うことにした。今逃げようとすれば、あっさりと城之内に捕まるだろう。ここはやり過ごすしかない!
「気にすんなって、蛭谷。まさかオメーからM&Wの挑戦を受けることになるとはな……」
 城之内はそう言いながら、右腕に装着されていたデュエルディスクを外した。あ、『蛭谷』って名前なのか、鷹野兄。
「え……? お兄ちゃん、城之内さんと知り合いなの?」
「あぁ。俺のダチだ。今日、コイツとM&Wで勝負する約束だったんだよ」
 さすがは城之内。バトル・シティ大会で3位になったことで、鷹野さんにも知られている。ていうか、鷹野兄。城之内と知り合いだったんだね……。
「今日はスタンガンなしで頼むぜ、蛭谷よ。ほら、デュエルディスクだ! 借りモンだから丁寧に扱えよ!」
 城之内はからかうような口調で言いながら、先ほど取り外したディスクを鷹野兄に向けて投げた。鷹野兄はそれを受け取り、左腕に装着する。
「ケッ! もうあんなモンは必要ねぇよ。俺はな、心を入れ替えたんだぜ。見せてやるよ城之内。俺の『ゴキブリ・ロック』デッキをな……」
「へぇ〜。んじゃま、お手並み拝見と行くか!」
 2人はディスクを構えて向き合った―――ていうか『ゴキブリ・ロック』!? 何だ何だ!? 鷹野兄は『ゴキブリ・ロック』デッキを使うのか!? これは……ちょっと気になるな……。
 僕はとりあえず、ここで2人のデュエルを観察することにした。しかし、牛尾さんに引き続き、鷹野兄も『ゴキブリ・ロック』も使うとは……。意外と流行ってるのか?
「デュエルの前に……蛭谷。ちょっといいか?」
「? 何だよ?」
 デュエル開始――かと思いきや、城之内が何かあるらしい。何だよ城之内! さっさとデュエル始めろよ……ってあれ? あいつ……僕の方に向かって歩いてくるぞ……? や……やばい……。
 城之内と僕との距離が1メートルほどになったところで、城之内が叫んだ!
いるのは分かってんだよクソガキ!! 出てきやがれ!!
 ノォォォォォオオオ!!! バレてたのかよ!?? まずい! このままではタコ殴りにされてしまう……! よし……こうなったら!!

あ! UFO!
(罠・魔法カード)
敵勢力の注意を数秒間そらす。

「あ……な〜んだ……城之内さんじゃないですか……こんばん……あ! UFO!」
バカヤロウ!! 2度も同じ手に引っかかるか!!
 ぬぉぉぉ!! 駄目だった!! ああああああ!! 僕の命もここまで……。
「喰らえクソガキ!! 城之内流最終必殺禁断究極奥義―――――!!」
 僕の胸ぐらを掴むと、城之内は腕に変な力を溜め始めた! うわわわ! 何してるんだコイツ! 離せ! ぐわああああああああ!!!!!!!!





 ―――“デストロイ・ギガ・レイズ”!!





 ―――メゴォォォッッ!!

僕 LP:0


●     ●     ●     ●     ●     ●     ●


鷹野「モニター前の皆さん。レアカードにつられて『パラサイド』仕込んじゃ駄目よ」
ゴキ「駄目だよ〜〜☆」
蛭谷「城之内……お前は変わらないな」




―GAME OVER―











そう言えば牛尾さんは?







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