プロジェクトシリーズ生誕10周年作目記念作品

















 ★


 あの日、部活動が終わったあと、俺はこの場所に鷹野先輩を呼び出した。
 今でも、あのときのことは鮮明に覚えている。
 夕日がとっても綺麗で、ときどき吹く涼しい風が心地よかった。

「こんなところに呼び出して、話って何かしら?」

 鷹野先輩は、やさしい笑顔を浮かべながら、俺に尋ねてくる。
 その笑顔は、いつも俺や他の部員に見せている、やさしい笑顔だった。

「あの……」

 ほんの数秒、俺は言葉を詰まらせる。
 その後、1回深呼吸したあと、俺ははっきりと続きを口にした。

 言うんだ……。ちゃんと自分の気持ちを、先輩に伝えるんだ……!


「鷹野先輩。正直に言います。俺、先輩のことが好きです。もし良ければ、俺と付き合ってくれませんか?」


「……………………」

 「言いたいことがあるなら正直に言う」がモットーである俺は、しっかりと己の気持ちを鷹野先輩に告げた。
 そして、俺の言葉を聞いた鷹野先輩は、少し考える素振りを見せたあと、笑顔を絶やさぬまま、短く答えた。











プロジェクトLV

製作者:あっぷるぱいさん




 「プロジェクトGY」が未読の方は、そちらからお読みください。




 モニター前の皆さん、お久しぶりです。僕のことを覚えていますか?
 そう。僕の名は……公式的にはない。まあ、このシリーズでは、何故かパラコンボーイと呼ばれているけどね。

 それはそうと読者の皆さん。まずは何も言わずに↓の手紙を見ていただきたい。
 この手紙は今朝、下駄箱を開けたら入っていたものなんだけど……どう思う?



 パラコンボーイ先輩へ

 お話ししたいことがあります。
 今日の放課後、校庭にある「勝利を導く桜の木、通称アルカトラズ。平たく言えば、この木の下で告白すれば必ず成功するとか何とか言われてる伝説の木」の下に来てください。
 待っています。

1年C組 (とどろき) 桃花(ももか)

 手紙には、細く綺麗な字で文章が綴られている。この手紙の差出人は、1年C組の「轟 桃花」という人物。ご丁寧に「とどろき ももか」と振り仮名まで書かれている。手紙に「パラコンボーイ先輩へ」と書かれているように、中学2年生である僕にとっては、この「轟 桃花」という人物は僕の一つ下の後輩、ということになる。
 そんでもって、肝心の内容は、話したいことがあるから今日の放課後、校庭にある「勝利を導く桜の木、通称アルカトラズ。平たく言えば、この木の下で告白すれば必ず成功するとか何とか言われてる伝説の木」の下に来てください……ということだ。
 ちなみに、僕はこれまで「轟 桃花」という人物に会ったことはない。当然、顔も姿も分からないわけだけど、「ももか」という名前からして、「轟 桃花」という人物は女子だと思う。

 …………。

 ……あのさ。
 これって要するに……アレじゃね? ほら……アレだよ。女子が男子の下駄箱に入れるものと言ったら、チョコを除けばアレしかないだろ? あの……「ラ」から始まるアレ。


 正しい答えを選べ!
 1)ラブレター
 2)ラーの翼神竜のコピーカード
 3)ラーメン
 4)雷酸水銀
 5)ラブレターに見せかけた果し状


 そう! 大半の読者なら既にお気づきだろう! 正解は1)の「ラブレター」だ!!
 普通に考えてみればそうだ。元来、女子が男子の下駄箱に入れるとしたら、チョコかラブレターのどちらかであると相場が決まっている。つまり、この手紙は「轟 桃花」という人物が僕に送ったラブレターなのだ!

 ……と、以前の僕であれば、そうやってすぐに都合のいいように考えていただろう。
 だが、今の僕は違う。今の僕は、以前の僕とは違うんだ。
 だから、今の僕なら、この手紙が何であるのかを冷静に考えることができる。

 よくよく考えてみれば、この手紙、誰かのイタズラである可能性が最も高い。
 だってさ……見ず知らずの女子からのラブレターが下駄箱に入ってるって……どこのフィクションだよ。そんなオイシー話が都合よく転がってるわけないじゃん。代々木のヤローへのラブレターならまだしも、僕へのラブレターって……どう考えても非ィ現実的だ。
 だから、この手紙はおそらく、同じクラスの男子の誰かが僕を騙すために仕掛けたんだと思う。きっと、放課後に「勝利を導く桜の木、通称アルカトラズ。平たく言えば、この木の下で告白すれば必ず成功するとか何とか言われてる伝説の木」の下に行けば、このイタズラを仕組んだ奴らが「ドッキリ大成功!」とか書かれたプラカードを持って飛び出てくるに違いない。

「はぁぁぁああ〜〜〜」
 僕は思わずため息をついてしまった。
 現実の世界って、何でこんなに夢も希望もないのかねぇ……。
 そんなことを考えつつ、とりあえず手紙を折りたたんでポケットにしまおうとした……――そのときだった!





「オ〜ッホッホッホッホ!!」





 ……!!
 ど……どこからともなく、聞き覚えのある高笑いが!
 この高笑いは……まさか!
「この耳障りな笑い声……! さては鷹野さんだな!?」

 ――バキッッ

「痛ってぇぇぇぇえええええええ!!!!」
 声の主――鷹野さんを探そうと周囲を見渡していたら、いきなり頭上から女の子が降ってきて、僕はその女の子に踏み潰される形となった! 痛ぇぇ!!
 冗談抜きでメチャクチャ痛い! モニター前の良い子のみんなは真似しちゃ駄目だよ、絶対に!
「『耳障り』とは言ってくれるじゃない。パラコンの分際で」
 いきなり降ってきた女の子は、僕を踏み潰した姿勢のまま、見下すような口調で言ってきた。
 当然の如く、降ってきた女の子の正体は鷹野さん。彼女のことだ。絶対にワザと僕目掛けて飛び降りてきたのだろう。くそったれが……!
 ていうか、この人、いきなり降ってきたわけだけど、今までどこにいたんだ?
「ごめんなさい。もう言いません。だから、どいてくんない? 鷹野さん」
 とりあえず、踏み潰されたままの姿勢が気に食わないので、早くどくように鷹野さんに言った。このままじゃ、僕が鷹野さんの下僕みたいじゃないか。
「さっきから見てたけど、轟 桃花から手紙をもらったのね、パラコン」
 僕を踏み潰した姿勢を崩さず、鷹野さんが喋りだす。……無視すんじゃねーよ。
「鷹野さん……どいてくんない?」
「念のために言っておくけど、その手紙はイタズラでも何でもない。正真正銘、あの子が入れた手紙よ」
「鷹野さん、聞いてる?」
「あの子は純粋な子よ。イタズラでそんな手紙を入れたりはしないわ。だから、信用しても大丈夫よ」
「鷹野さん、どいて」
「でも、まさかあの子がそんな手紙をねぇ……。あの子も結構やるじゃない」
「どけよクソ女」

 ――メキィィィッ

「ぐぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」
 気が付くと、僕は鷹野さんに4の字固めを食らわされていた! 痛い痛い痛い!! いや、マジで痛いから! このままだとマジでどっか折れるから!!
「ごめんごめんごめん!! ホントにごめん! マジでごめん! 許してぇぇぇえええ!!!」
「しょうがないわね。今回はこの辺で勘弁してやるわ」
 全力で謝ったことで、ようやく解放された。くそっ! 何で僕が謝ってんだよ! 謝るのはどう考えたってこのアホ女だろうが!
 ……まあいい。それはそうと、鷹野さんがさっきから気になることを言ってたような……。
「鷹野さん。『轟 桃花』って人を知ってるの?」
 さっき鷹野さんは、「轟 桃花」は純粋だとか、イタズラをするような子じゃないとか言ってたけど、いかにも「轟 桃花」を知っているような口調だった。知り合いなんだろうか?
「あぁ、轟さんは私と同じ、女子剣道部の人間よ。つまりは、先輩・後輩の仲ってわけね」
 制服についたホコリをはらいながら、鷹野さんは簡潔に説明した。なるほど、部活動の後輩か。そう言えば、鷹野さんは剣道部に所属してるんだっけ。
「轟さんは悪い子じゃないわよ。だから、その手紙の内容は信じて大丈夫。むしろ、ちゃんと彼女に会ってあげた方がいいわよ」
 それだけ言うと、彼女は教室の方へと歩いていってしまった。

 ふ〜む……。信じて大丈夫……かぁ。
 イタズラかと思ったけど、そうではない……のか?

 まあ、とりあえずは今日の放課後、校庭にある「勝利を導く桜の……」って、さっきから思ってたけど、木の名前長すぎだよ。面倒だから、こっから先は「アルカトラズ」と呼ぶことにしよう。
 その、「アルカトラズ」の下に行ってみよう。行けば、真相が分かるはずだ。今日はちょうど部活もないし。

 じゃ、僕もいい加減、教室へ行こうか。
 ……そう思い、足を踏み出したときだった。
 僕は、地面にカードが何枚か落ちていることに気づいた。

 これは……M&Wのカード……?

 落ちているカードは全部で5枚。それらを拾い上げ、イラストを見てみる。
 えーと……『融合解除』と『死者蘇生』に……『幻魔皇ラビエル』と『ビッグバン・シュート』、それから『憑依装着−ヒータ』か……。

 …………。

 カードイラストを確認した僕は、それらのカードの持ち主が誰であるのかをすぐに察した。
 『融合解除』に『憑依装着−ヒータ』! こんなぶっ壊れカードを持つ人はあの人しかいない!!
 僕は急いで教室に向かって走り出した!

「鷹野さ〜ん!! カード落としてったよ〜〜!!」

 その後、僕がカードを盗んだと誤解され、鷹野さんから消火器をぶちまけられたのは言うまでもない。チキショオ!!


 ★   ★


 で、放課後。
 手紙に書かれていたとおり、僕は校庭にある「アルカトラズ」の下に来た。
 そこでは、まるで誰かを待っているかのように、1人の小柄な女子生徒が「アルカトラズ」に寄りかかっていた。
 整った顔立ちをしているその女子生徒は、見た感じ、かなり可愛らしい女の子だ。きっと、クラスの男子からの人気は高いだろうな。
 ……この子が「轟 桃花」だろうか? そんな風に思いつつ、僕は「アルカトラズ」に寄りかかっている女子生徒に近づいていった。

 女子生徒と、目が合った。

「ふん……来たなパラコンボーイ! ここまで逃げずに来たことは褒めてやる! が! お前は今日ここで死ぬことになるぜ! 覚悟するんだな!」

 …………は?
 何? 出会って早々、目の前の女子生徒にすごく失礼なこと言われた気がするんだけど、気のせい?
 ま……まあ、落ち着こう。ひょっとしたら何かの間違いかも知れない。とりあえず、目の前の女子生徒の正体を確かめないと。
「あの〜……君がもしかして、轟 桃花さん?」
 彼女が誰なのか探るべく、僕は尋ねた。すると、女子生徒は関節をバキボキと鳴らしながら答えた。
「雑魚に名乗る名はない……と言いたいところだが、名乗らなければ話が進まないから名乗ってやる! いかにも、俺の名は『轟 桃花』だ! 地獄に落ちる前によ〜く覚えとくんだな!」
 こ……この子が轟 桃花……! あの手紙を僕の下駄箱に入れた張本人……!
 ていうか、さっきから「死ぬ」とか「地獄」とか穏やかじゃない単語が出てきてるけど、どういうことだ?
「この手紙を僕の下駄箱に入れたのって……君?」
 ポケットからあの手紙を取り出して指し示しながら、僕は轟さんに尋ねた。
「おうよ! その手紙は、俺がお前の下駄箱に放り込んだ『果し状』だ! ラブレターっぽい文章にしといたから、まさか果し状だとは思わなかっただろ!」
 は……果し状!? え? 何? ラブレターじゃないのコレ!?
 僕は手紙の内容をよく思い出してみた。……確かにあの文章、果し状と取れる内容……と言えないこともないな……。
 そうか……ラブレターじゃなかったのか……。
 ま……まあ……そんなことだとは思ってたけどね。ほら、見ず知らずの女の子が下駄箱にラブレター入れてくるなんて、フィクションでしかあり得ないことだし。だから、僕は全然がっかりしてないよ。ていうか、こんなのは想定の範囲内さ。
 はぁぁぁ〜〜……。
「おい、今お前、地の文でため息ついただろ。何だよ。ラブレターじゃなくてがっかりしたってか?」
「ため息なんてついてないし、がっかりもしてないよ。で、用は何なの轟さん」
 地の文に反応してきた轟さんの言葉を遮り、僕は轟さんに用件を訊いた。結局、この子は何の用があって僕を呼び出したんだろう?
「馬鹿かお前は! 俺はお前に『果し状』を出したんだ。だったら、用件は一つしかねーだろが! お前との決闘(けっとう)だよ!」
 後輩に馬鹿とか言われた。
 ていうかコイツ、さっきから僕に対してタメ口じゃねーか。僕はテメーの先輩なんだから敬語を使いやがれ敬語を。
 ……と思ったけど、僕はそんな細かいことでグチグチ言うような心の狭い男じゃない。だから、とりあえず、言葉遣いに関しては多めに見てやる。
 フッ! 命拾いしたな……小娘よ!
「おい、今お前、地の文で俺のこと小娘って言っただろ。お前、絶対に殺すからな。絶対に絶対に殺すからな。泣いても鳴いても許さねーからな。100円払っても許さねーからな。覚悟しとけよ。……まあ、死んだら許してやるけど」
 また地の文に反応しやがったよこの小娘。そうか、小娘って言われるのが嫌なんだね。以後、なるべく気をつけるようにするよ。つーか、最後の一言まったくの無意味だよね。
 それより、何で僕がこの小娘……もとい轟さんと決闘しなきゃいけないんだ? 僕と彼女は今日が初対面なんだけど……僕、何か彼女に恨まれるようなことしたっけ?
「決闘……って、どんな理由で?」
「ふん。自覚ナシ、かよ。じゃあ、万が一にも俺との決闘で勝てたら教えてやるよ。お前の犯した“許されざる罪”をな……」
 別に教えてくれてもよさそうなものを、何故か轟さんは教えてくれない。一体、僕が何をしたっていうんだ? “許されざる罪”って何だよ?
 ひょっとして、「ボッキンパラダイス 育ち盛りの●学生編」をこっそりくすねたのがバレたのかな? いや、それと彼女とはまったく関係ないはずだ。じゃあ、前に友人から借りたエア・マッスルを「ジャンキースコーピオン」とかいう店に売り飛ばしちゃったことがバレたのか? いやいや、そんなハズは。あれはかなり上手くやったから絶対にバレてないはず。だとしたら、第1回バトル・シティ大会で城之内のデッキに寄生虫パラサイドを仕込んだことがバレて……? いやいやいや、それとこれとはどう考えたって無関係のはず。あの凡骨城之内とこんな可愛い女の子がグルになっているはずが―――
「何ボサっとしてんだ! 俺はお前を潰しに来たんだ! とっととおっぱじめようぜ!」
 そう言いながら、轟さん……もとい小娘……間違えた。小娘……もとい小娘……じゃなくて轟さんは、懐からカードデッキを一つ取り出した。
 間違いなくそれは、M&Wのカードデッキ。なるほど、遊戯王の二次創作らしくデュエルでケリをつけようってわけか。
 こうなった以上、僕が進む道は一つしかない。
「分かったよ。僕も原作出身のキャラクターだ。君の挑戦、受けて立つ! けど、僕が勝ったら、何で僕にデュエルを挑んだのか、ちゃんと話してもらうよ」
 そう! 原作キャラである以上、挑まれたゲームから逃げることは許されない! 僕は二つ返事で、轟さんからの挑戦を受けた。

 ご都合主義
 (魔法カード)
 都合のいい展開でストーリーを進行させる。

 ゲームをしようぜ!
 (魔法カード)
 あらゆるトラブルを、ゲーム一つで片付ける。

 原作キャラの誇り
 (装備カード)
 このカードを装備したプレイヤーは、どんなゲームにも立ち向かわなければならない。

 僕は鞄の中からデッキを取り出し、デュエルの準備に移った。
「ルールはスーパーエキスパートルールでいいよね?」
 デッキをシャッフルしながら、僕は轟さん……もとい轟さんに訊いた。まずはルールを確認しておかないとね。
 ところが、轟さんの反応は、まったく予想外なものだった。



「いや、デュエルは“エクストリームルール”で行うぜ。だから、お前はデッキを出さなくてもいいぞ」



 …………。

 …………。

 …………は?

 え……エクストリームルール!? 何それ!? ぜんぜん聞いたことないんだけど!! 初めて聞いたよ!!
 いや、マジで聞き覚えがないぞ!! つーか、「お前はデッキを出さなくてもいい」ってどういうことだよ!? 何言ってんだこの小娘は!!
「……お前……まさか、“エクストリームルール”を知らないのか?」
 轟さんが冷ややかな視線を向けてきた。な……何だよ! まるで僕が悪いみたいな感じじゃないか!
 ど……どういうことだ……? もしや、“エクストリームルール”というのは、「真のデュエリストであれば知ってて当たり前」なルール―――
「ま、知らないのも無理ないか。何しろ、“エクストリームルール”は俺が考案したオリジナルルールだからな!」
 オメーの中のオリジナルルールなんて知るかチキショオぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!
 ふざけんなよこの小娘が! 勝手にオメーの中でオリジナルルール考えてんじゃねーよ! 冗談じゃない! そんなルールやってられるか!!
「駄目だよ。ちゃんと公式のルールに則ってやらないと」
「デュエルはもう始まってんだ。こっちに来いよ」
 僕の話をさらりと受け流し、轟さんは「アルカトラズ」の裏側の方へ歩いていってしまった。
 くそっ……! 僕の話をちゃんと聞けよ! つーか、オリジナルルールを採用するって……真面目にデュエルする気あるのかよ!?
 まあ……仕方がない。今回だけは多めに見てやろう。だが、勝利を掴むのはこの僕だ! そこだけは譲れない!
 この伝説の木「アルカトラズ」と「ボッキンパラダイス」に誓って、僕は必ず勝利する!
 決意を胸に、僕は轟さんの向かった方へと歩を進めた。


 ★   ★   ★


 「アルカトラズ」の裏側に来てみると、そこには1台のホワイトボードがあった。
 そのホワイトボードには、細く綺麗な文字で↓のように書かれている。……これは……?


【プリンセス・オブ・ザ・桃花】 LP:9300 手札:0枚
 モンスター:恋する乙女(攻11000),トライホーン・ドラゴン(攻2850),千年原人(攻2750),エビルナイト・ドラゴン(攻2350),ファイヤー・ウイング・ペガサス(攻2250)
  魔法・罠:キューピッド・キス(装備魔法・対象:恋する乙女),ハッピー・マリッジ(装備魔法・対象:恋する乙女),伏せ×1(ディメンション・ウォール)
 ※1:桃花の場に存在するモンスターは、3ターン前から変化していない。
 ※2:桃花の場のモンスターの攻撃力は、『ハッピー・マリッジ』の効果以外では変動していない。
 ※3:『ハッピー・マリッジ』は、前のターンのバトルフェイズ前に装備された。

【くそったれパラコン】 LP:2800 手札:2枚(プロト・サイバー・ドラゴン,閃光の双剣−トライス)
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1(発動可能な罠カード)


 ホワイトボードに書かれていたのは、まるで……アレだった。ほら、アレだよ。デュエル小説によくある、デュエルの途中経過をまとめた文章、みたいなやつ。
 つまり、これは「プリンセス・オブ・ザ・桃花」という人物と「くそったれパラコン」という人物のデュエルの途中経過をまとめたものなのだろう、と僕は結論づけた。……ていうか、この「くそったれパラコン」って、もしかして僕のことを指してるのか?
 それはともかく、この文章が何だと言うんだ?
「このホワイトボードに書かれているのは、あるデュエル(スーパーエキスパートルール準拠)の途中経過だ。そして、これからお前には、この状況で『くそったれパラコン』が『プリンセス・オブ・ザ・桃花』に“このターンで”勝利する方法を探してもらう。制限時間は5分だ! 5分以内で『くそったれパラコン』が勝利できる方法を見つければお前の勝ち! 見つけられなければ、俺の勝ちだ!」
 僕の気持ちなどお構いなしに、轟さんは一気に話を進めた。ちょ……ちょっと待ってくれ!!
 えーと……。あのホワイトボードに書かれた状況下で、このターン中に「くそったれパラコン」(って、どう考えても僕のことだよな)が「プリンセス・オブ・ザ・桃花」(これは絶対に轟さんのことだよね?)に勝つ方法を見つければいいのか。ただし、5分以内で。
「ち・な・み・に! 今は『くそったれパラコン』のターンのメインフェイズ開始時な。それと、カードのテキストが分からねぇ〜! ……って場合は、このメモを見れば全部分かるようになってるから安心しろ!」
 そう言うと、轟さんは1枚のメモを紙飛行機の形にして投げつけてきた。僕は超セクシーな動きでその紙飛行機をキャッチ……しようとしたけど、上手くできなかった。くそっ!
「ルール説明は以上! パラコン! お前に与えられた猶予はわずか1ターン! 1ターンの内に、俺に勝利する方法を見つけてみろ!! これこそが、エクストリームルールの醍醐味だ!!」
 プレイヤーに与えられた猶予は1ターン。まさに、極限状態というわけか。
 なるほど……。このルールなら、さっき轟さんが僕に「デッキは出さなくていい」と言った理由もわかる。何せ、ホワイトボードに文章を書いとけばいいんだから、そもそもカードなんて必要ないわけだ。
 というか、ちょっと思ったんだが……。
「轟さん。エクストリームルールって、要するに『詰めデュエル』のことだよね?」
「……ッ!?」
 僕の言葉を聞いて、轟さんの表情が歪んだ。何と分かりやすいリアクション。
 詰めデュエルとは、決められたカードを用いて、1ターンで相手プレイヤーに勝利するゲームのことだ。言わば、デュエルの最後のターンだけをプレイする、という感じだろう。
 轟さんがエクストリームだとか何とか言ってるこのルールは、まさに「詰めデュエル」そのものだ。
 要するに、単に轟さんは僕に「詰めデュエル」を出題してきた……ってだけの話なんだ。
「“エクストリームルール”なんて面倒な言い方せずに、普通に『この詰めデュエルを解いたらお前の勝ちだ!』って言えばいいじゃん。いきなり“エクストリームルール”とか言われて混乱しちゃったじゃないか」
「う……うるせぇ! ちょっとカッコつけてみただけだ! いいからさっさと解きやがれこのクソヤローが! ていうか、もし解けなかったらお前には罰を受けてもらうからな!」
 罰って……。どうやらこの詰めデュエル、罰ゲームつきらしい。……ていうか、「さっさと解きやがれ」とか言ってるけど、もしかして……?
「轟さん。ひょっとして、もう詰めデュエル始まってんの?」
「はぁ!? 何言ってんだこのボンクラが! もう既に1分経ってんぞ! あと4分だ4分!」
 うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!???
 ふざけんなよ!! いつからスタートしてたんだよ!? ちゃんと「よーいスタート!」とか言いやがれよアホッタレが!!
「と……轟さん。ちゃんと『スタート!』とか言ってくんないと……」
「フハハハ! あと3分48秒なぁ〜!」
 聞けよチキショオ!!
 くそぉ〜〜〜覚えてやがれこのロリ娘が!! 絶対にこの詰めデュエルを解いて、ギャフンと言わせてやるからな!!
「おい、今お前、地の文で俺のことロリ娘って言っただろ。……まあ、別にいいけどさ」
 あ、「小娘」は駄目だけど「ロリ娘」ならいいんだ。……って、何でだよ?
 そんなことはともかく、残り時間は約3分半。3分半の内に、この詰めデュエルの攻略法を見つけなければ、僕の敗北が決定してしまう。早くしなければ!
 とりあえず、この詰めデュエルで使われてるカードをよく確認すべきだろう、と考えた僕は、さっき轟さんに渡されたメモを見ながら、カードの確認を開始した。カードをよく確認すれば、必ず攻略法が見つかるはず……。

 まずは主人公(?)である「くそったれパラコン」のフィールドから確認だ。
 「くそったれパラコン」のフィールドは、発動可能な罠カードが1枚伏せられているだけ。非常に頼りない布陣だ。
 なお、この伏せカードのカード名は指定されていない。ここは自由に決めていいみたいだ。

 次に、「くそったれパラコン」の手札を確認してみよう。
 「くそったれパラコン」の手札は2枚。モンスターカード『プロト・サイバー・ドラゴン』と、装備カード『閃光の双剣−トライス』だ。

 プロト・サイバー・ドラゴン
 ★3/光属性/機械族
 このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。
 攻1100/守 600

 閃光の双剣−トライス
 (装備カード)
 手札のカード1枚を墓地に送って装備する。
 装備モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。
 装備モンスターはバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 以上が「くそったれパラコン」側のカードだ。……少ないな。

 次は、「プリンセス・オブ・ザ・桃花」のカードを確認しよう。「プリンセス・オブ・ザ・桃花」の手札は0なので、場のカードだけ確認だ。
 まず、「プリンセス・オブ・ザ・桃花」の場のモンスターは、『恋する乙女』、『トライホーン・ドラゴン』、『千年原人』、『エビルナイト・ドラゴン』、『ファイヤー・ウイング・ペガサス』の計5体。この布陣は、3ターン前から変化していないらしい。

 恋する乙女
 ★2/光属性/魔法使い族
 このカードはフィールド上に表側攻撃表示で存在する限り戦闘によっては破壊されない。
 このカードを攻撃したモンスターに乙女カウンターを1個乗せる。
 攻400  守300

 トライホーン・ドラゴン
 ★8/闇属性/ドラゴン族
 攻2850  守2350

 千年原人
 ★8/地属性/獣戦士族
 攻2750  守2500

 エビルナイト・ドラゴン
 ★7/闇属性/ドラゴン族
 攻2350  守2400

 ファイヤー・ウイング・ペガサス
 ★6/炎属性/獣族
 攻2250  守1800

 次に、魔法・罠カードを確認。「プリンセス・オブ・ザ・桃花」の場の魔法・罠カードは、『恋する乙女』に装備されている『キューピッド・キス』と『ハッピー・マリッジ』、それから、伏せ状態の『ディメンション・ウォール』の計3枚。
 なお、『ハッピー・マリッジ』は前のターンのバトルフェイズ前に装備されたらしい。それと、「プリンセス・オブ・ザ・桃花」の場のモンスターの攻撃力は、『ハッピー・マリッジ』の効果以外では増減していないようだ。

 キューピッド・キス
 (装備カード)
 乙女カウンターが乗っているモンスターを装備モンスターが攻撃し、装備モンスターのコントローラーが戦闘ダメージを受けた場合、ダメージステップ終了時に戦闘ダメージを与えたモンスターのコントロールを得る。

 ハッピー・マリッジ
 (装備カード)
 相手のモンスターが自分フィールド上に表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 装備モンスターの攻撃力は、そのモンスターの攻撃力分アップする。

 ディメンション・ウォール
 (罠カード)
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、かわりに相手が受ける。

 以上が「プリンセス・オブ・ザ・桃花」側のカードだ。

 そして、「くそったれパラコン」の残りライフが2800、「プリンセス・オブ・ザ・桃花」の残りライフが9300ということを踏まえて、これらの状況をまとめてみると、↓のような感じになる……ってわけだ。


【プリンセス・オブ・ザ・桃花】 LP:9300 手札:0枚
 モンスター:恋する乙女(攻11000),トライホーン・ドラゴン(攻2850),千年原人(攻2750),エビルナイト・ドラゴン(攻2350),ファイヤー・ウイング・ペガサス(攻2250)
  魔法・罠:キューピッド・キス(装備魔法・対象:恋する乙女),ハッピー・マリッジ(装備魔法・対象:恋する乙女),伏せ×1(ディメンション・ウォール)
 ※1:桃花の場に存在するモンスターは、3ターン前から変化していない。
 ※2:桃花の場のモンスターの攻撃力は、『ハッピー・マリッジ』の効果以外では変動していない。
 ※3:『ハッピー・マリッジ』は、前のターンのバトルフェイズ前に装備された。

【くそったれパラコン】 LP:2800 手札:2枚(プロト・サイバー・ドラゴン,閃光の双剣−トライス)
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1(発動可能な罠カード)


 この状況下で、僕は「くそったれパラコン」がこのターン中に勝利する方法を見つけ出さなければならない。見つけ出せば、僕の勝ち。見つけ出せなければ、轟さんの勝ち。
 よし、何としてでもこの詰めデュエル、攻略してみせる! 僕だって原作キャラの1人! ゲームを挑まれたからには、何が何でも勝利を掴―――



「はい! 5分経過!! ぶっぶ〜!! 時間切れ〜〜〜!!! クソパラコン! お前の負けだぜ!! フハハハハ〜〜!!」



 …………。

 …………。

 …………は?

 時間切れ……? じかんぎれ? ジカンギレ!? ZIKANGIREEEEEE!!!!????
「うそぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!????」
 ちょ……早くない!? もう時間切れ!? そんな馬鹿な!! まだあれから30秒くらいしか経ってないよね!? 絶対に5分も経ってないよね!? ちょっと待ってよ!!
「パラコン! お前は詰めデュエルをクリアできなかった! よって、ルールに従い、お前には罰を受けてもらうぜ!」
 混乱する僕を横目に、轟さんは勝手に話を進める。くそ! 少しは空気を読めよこのガギんちょが!!
「おい、今お前、地の文で俺のことガキんちょって言っただろ。お前、冗談抜きでバッチシ虎の尾を踏んだな。マジで殺すから覚悟しとけよ。マジでこう、この辺一帯を歩けなくなるくらい殺すからな。二度と学校来られなくなるくらい殺すからな。歯ぁ喰いしばっとけよ」
 あ、「ロリ娘」は良くても「ガキんちょ」は駄目なんだ。ていうか、「この辺一帯を歩けなくなるくらい殺す」とか「二度と学校来られなくなるくらい殺す」って、あんまし意味のない発言だよね。
 それはそうと、激しく納得が行かないが、どうやら僕の負けらしい。一体、僕はどんな罰を受けるのだろうか?
 いや、それ以前に、あの詰めデュエルの答えってどんなのだったんだろう?
「覚悟しやがれパラコン! さっそく罰ゲームを実行してやるからよ!」
 詰めデュエルの答えが気になるが、とりあえず、罰ゲームの執行が先……か。
 ついさっき初めて会ったばかりのロリ娘から理由も分からずいきなり詰めデュエルを出題され、しかも、それを解けなかったために罰ゲームを受ける……という極めて不自然な展開だが、罰ゲームを受けないと話が進まないだろうから、さっさと済ませちゃおう。
 詰めデュエルの答えについては、罰ゲーム執行後に彼女に聞けばいいだろう。
「……罰ゲームって何なの? 顔面にグーパンチとか、でこピン100回とか、4の字固め20000回とか、そんな感じ?」
「そんなんじゃねーよ! もっとキツい罰だぜ!」
 4の字固め20000回よりもキツい罰って、どんだけキツい罰なんだよ? ……あれ? もしかして、そんな簡単に済ませられる罰じゃないの? もしかして僕、今日で死んじゃうの?
「お前には、それ相応の罰を受けてもらうぜ。何しろお前は“許されざる罪”を犯したんだからな」
 だから、“許されざる罪”って何なんだよ。
「よく聞け、パラコン。お前に与えられる罰は……これだ!」
 よく分からないけど、ついに罰ゲームが執行されるようだ。一体、僕はどんな罰を……?





「パラコン! お前はゲームに負けた罰として、今後一切、『鷹野 麗子』と会話するな! いいな!?」





 …………。

 …………え?

「ご……ごめん。もう1回言ってくんない?」
「はぁ!? 1回で聞き取れよこのチンカスが! いいか!? お前はゲームに負けた罰として、今後一切、『鷹野 麗子』と会話するな! 分かったか!?」
 …………?
 今後一切、『鷹野 麗子』と会話するな……? 何で、ここで鷹野さんが出てくるんだ? 何で、鷹野さんと会話しちゃいけないんだ?
「……あの……何でそんな罰を?」
「なっ……!? 何でって……何でもだよ! それがお前に与えられる罰なんだよ! 負けた分際でガタガタ言うんじゃねーよ、この負け犬のパラコンボーイ! 略してマボーイ!!」
 マボーイって言うんじゃねーよこのロリ娘が!! その呼び方は何かムカつくんだよ!!
「と……とにかくだ! お前は負けた罰として、『鷹野 麗子』とは金輪際、会話するんじゃねーぞ! 分かったな!」
 分かんねーよ! せめて、何で会話しちゃ駄目なのか、理由を話せよ!
「あのさ……何で会話しちゃ駄目なのか、その理由くらいは教えてよ。ていうか、僕が犯した“許されざる罪”ってそもそも何なの? それ聞かないと、どうにも納得が行かないというか何というか」
「馬鹿かお前! それについては、『お前が勝ったら教えてやる』って最初に言っただろうが! 何度も言わすんじゃねーよ!」
 チッ……あくまでも言うことを拒むか……。でも、それを聞かないと、やっぱり納得ができない。
 ならば、この手を使うしかあるまい!
「なるほど、教えてくれないのね。じゃあ、僕はこのカードを発動!!」

 路線変更
 (魔法カード)
 話の設定を都合のいい形に変更する。

「……仕方ねぇ。話してやるよ、お前の犯した“許されざる罪”を。話さないと、ストーリーが進みそうにないからな」
 路線変更により、轟さん……もとい、ロリ娘が真相を話し始めた。
「けっこう前の話だ……。あの日、俺は部活動を終えたあと、ここ……『勝利を導く桜の木、通称アルカトラズ。平たく言えば、この木の下で告白すれば必ず成功するとか何とか言われてる伝説の木』の下に、鷹野先輩を呼んだんだ。『どうしても言いたいことがある』って言ってな……」
 ロリ娘……もといロリ娘は、顔を横に向け、少し寂しげな表情で遠くの方を見ると、回想シーンに突入した。

 回想
 (魔法カード)
 あのキャラの過去を明らかにする。


 ★   ★   ★   ★


 あの日、部活動が終わったあと、俺はこの場所に鷹野先輩を呼び出した。
 今でも、あのときのことは鮮明に覚えている。
 夕日がとっても綺麗で、ときどき吹く涼しい風が心地よかった。

「こんなところに呼び出して、話って何かしら?」

 鷹野先輩は、やさしい笑顔を浮かべながら、俺に尋ねてくる。
 その笑顔は、いつも俺や他の部員に見せている、やさしい笑顔だった。

「あの……」

 ほんの数秒、俺は言葉を詰まらせる。
 その後、1回深呼吸したあと、俺ははっきりと続きを口にした。

 言うんだ……。ちゃんと自分の気持ちを、先輩に伝えるんだ……!


「鷹野先輩。正直に言います。俺、先輩のことが好きです。もし良ければ、俺と付き合ってくれませんか?」


「……………………」

 「言いたいことがあるなら正直に言う」がモットーである俺は、しっかりと己の気持ちを鷹野先輩に告げた。
 そして、俺の言葉を聞いた鷹野先輩は、少し考える素振りを見せたあと、笑顔を絶やさぬまま、短く答えた。





「嫌よ」





「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
 その後のことは、よく覚えていない。
 ただ一つ覚えているのは、とにかく絶叫しながら全力疾走で帰宅したということだけだ。
 あとは……忘れた。多分、一晩中泣いていたと思う。
 それから俺が立ち直るまでには、およそ1ヶ月を要した。
 だって、せっかくの初恋だってのにバッチリ振られちまったんだぜ!? そう簡単に立ち直れるかよ!!

 で、俺は先輩に振られちまったわけだが、その後も先輩は、今までどおりに俺に接してくれている。
 あの1件で嫌われてしまった、ということはないみたいだ。
 それが、せめてもの救いだろうか……。

 しかし、あのとき何故、俺は振られちまったのだろうか?
 先輩が俺を嫌っていた……ということはない……はずだが。
 疑問に思った俺は、あのとき鷹野先輩に振られた理由について調べてみることにした。

 とりあえず、鷹野先輩のクラスの教室、鷹野先輩の家、その他、鷹野先輩が足を運びそうな場所すべてに監視カメラと盗聴器を仕掛け(俺ん家の財力を使えば、カメラや盗聴器を仕掛けるなんてことは容易いことだ)、先輩を24時間態勢で監視してみることにした。
 こうして彼女を監視していれば、俺が振られた理由も分かるはずだからな。

 監視は1ヶ月、2ヶ月、3ヵ月……と長期間に渡って行なった。
 だが、彼女を監視し続けていても、なかなか俺が振られた理由を知ることはできなかった。

 一体、俺は何故振られたのか?
 俺の何が悪かったというのか?
 先輩は何故、俺を振ったのだろうか?

 何もかも分からぬまま、時間だけがむなしく過ぎていった。

 そして、ある日。
 俺は決意せざるを得なくなった。

「……今日1日監視して、何も分からないようなら、監視をやめよう」

 このまま何も分からなければ、監視は今日で打ち切る。
 決意を胸に、俺は最後の監視を行なうことにした。

 しかし!
 まさにその日……あと1日で監視を打ち切ろうと決意したその日だった!


「あのう……デュエルしない?」

「うん、いいよ。……鷹野さんもM&Wやるんだね」

「えぇ。最近始めたばかりなんだけどね」


 その日の放課後、鷹野先輩はクラスのとある男子にデュエルを挑んだのだ。
 その光景を見た俺は、全身からアドレナリンがかき出され、この体の中の血液が沸騰しているような感覚に陥った。

 誰だ……あの男は……?
 鷹野先輩は何故、あの男にデュエルを挑んだんだ……!? 何故、あの男に接触を!?
 あの男と鷹野先輩は、どんな因縁があるって言うんだ……ッ!?

 ま……まさか……!?
 いや……まさか……そんなことが……!?

 衝撃的な光景を目の当たりにしてしまった俺は、その後も鷹野先輩の監視を続けることにした。

 それからというもの、先輩は何かとあの男とデュエルすることが多くなった。
 時には、あの男が先輩の家に押しかけてデュエルすることもあった。
 先輩の家……俺はまだ行ったことないのに……。

 調べを続けていく内に、あの男の名は「パラコンボーイ」であることが判明した。
 鷹野先輩とパラコンボーイ……2人の間には一体どんな関係が……!?
 まさか……本当に……まさかなのか!?

 そして、先月の14日。
 とうとう俺は、決定的な場面を目撃してしまった。

 その日、パラコンボーイという男は、同じクラスのとある男子(名は代々木というらしい)とデュエルをしていた。
 この代々木という男は非常に手強く、パラコンボーイは無様に追いつめられてしまっていた。
 そんでもって、追いつめられたパラコンボーイは、何を血迷ったのか、ラストドローを行なう前にサレンダーをしようとしたのだ。
 このヘタレ野郎が!! と、俺はモニター越しに叫んでしまった。

 だが、パラコンボーイがサレンダーをする一歩手前で、ずっとデュエルを見ていた鷹野先輩が、高笑いとともに姿を現した。
 そこで先輩は、ヘタレたパラコンボーイに喝を入れ、彼の戦意を生き返らせた。
 その結果、パラコンボーイはラストドローで奇跡の大逆転を果たしたのだ。

 その一部始終を見ていた俺は、デュエル終了とともに、モニターに向かって叫んだ。

「どう見てもコレは『愛の力が呼んだ奇跡』じゃねーかぁぁぁぁああああああ!! つーか、鷹野先輩って絶対にパラコンのこと好きだろ!? 絶対にそうだろ!? そうにしか見えねーよ!!」

 マジで、そういう風にしか見えなかった!
 鷹野先輩には日頃からパラコンのことを見下すような様子が見られたが、それはいわゆる愛情の裏返しとか、好きな子にはイジワルしたくなるとかそんな感じのヤツであって、本心ではパラコンのことが好きに違いない! 絶対に間違いない!!

 その結論に達した瞬間、俺は「何故自分が鷹野先輩に振られたのか」が分かった。
 そうだよ……。鷹野先輩はパラコンボーイのことが好きだったんだよ! だから、俺とは付き合えないって言ったんだ!
 つまり、鷹野先輩にとっては、俺よりもパラコンボーイの方が大事だってワケだ!!

 ゆ……許せねぇ……! パラコンボーイ……許せねぇ……!
 俺の初恋をメチャクチャにした悪しき男、パラコンボーイ!! 断じて許しがたし!!

 くそっ……パラコンの野郎……ッ!
 だが、お前がその気なら、こっちにも考えがあるぜ!

 鷹野先輩がパラコンのことを好きなら、パラコンを先輩から引き離してやればいい。
 とりあえず、パラコンと鷹野先輩の会話を禁止させれば、先輩は自然とパラコンのことを忘れていくはずだ。
 そうして、パラコンのことなど綺麗さっぱり忘れた先輩は、きっと俺の方を見てくれるに決まっている。

 パラコンボーイ……お前は俺の初恋を粉々にした。これは“許されざる罪”だ!
 先輩に相応しい人間は、宇宙全土を見渡しても、この俺を置いて他にはいない!
 見ていろ……この計画を成功させ、必ず鷹野先輩は俺の女にしてみせるぜ!!

 よし。この計画は『プロジェクトLV(Love)』と名付けとくか。


 ★   ★   ★   ★   ★


「つーわけで俺は、お前と鷹野先輩との関係を終わらせるため、こうしてゲームを挑んだってわけさ。分かったか!? このドロボーキャットが!!」
 ……………………。
 …………えーと……うん……まあ……何というか……。
 色々と突っ込むべきところがあると思うんだが……全部突っ込んでるとキリがないから……とりあえず、これだけは言っておこう。
「轟さん。カメラと盗聴器を使ってずっと監視してたって言ってたけど、それ普通に犯罪だからね。分かってるよね?」
「……ッ!? え!? マジで!? あれって犯罪だったの!?」
 知らなかったのかよ!? お前、プライバシーって言葉を知らないのか!?
「くっ……まさか犯罪だったとは……痛恨のミスだぜ……! ……ま……まあ、それだけ俺は鷹野先輩のことを愛してるってことさ。仕方ないだろ、愛してるんだから。愛だよ、愛」
 愛さえあれば何でもまかり通ると思うんじゃねーよ!! どこのユベルだ貴様は!! お前、「愛」を何だと思ってんの!?
 つーか、それ以前にさ……。
「そもそも轟さんって……女だよね? でも、鷹野さんも女だよね? ……そこのところはどう……」
「馬鹿かお前は! 愛に性別なんてカンケーねーよ!」
「……そ……そうすか」
 実にハッキリと言い切ってくれたよこの人。なんて潔い人なんだ……。
 ま、それはひとまず置いといて……。轟さんは、「鷹野さんが僕を好きだったから振られた」と考えてるようだけど、それは100%あり得ないと思うんだよな。そもそも、以前まで鷹野さんはインセクター羽蛾と付き合ってたんだし。
 ……ていうか、轟さんは確実に、鷹野さんが羽蛾と付き合ってたことを知ってるはずだよな? ずっと鷹野さんを監視してたんだし。……何? ひょっとしてワザと言ってるのか?
 ……とりあえず。轟さんが振られた理由はもっと別なものだ。少なくとも、「鷹野さんが僕を好きだったから」という理由は絶対にあり得ない。
「あの〜、轟さん。君が鷹野さんに振られたのにはもっと別な理由が……」
「ところでパラコン。お前は、『しょっぱい卵焼き』と『あまい卵焼き』、どっちが好きだ?」
 ……!? ……?? ……え……???
 急に……何言い出すんだこの人……? え? しょっぱい卵焼きとあまい卵焼き?
「…………しょっぱい卵焼き、かな……」
 轟さんの意図が読めないまま、僕はひとまず彼女の質問に答えた。
 僕の答えを聞くと、轟さんは「してやったり」と言った風な表情を浮かべた。
「フッ……! パラコン、やっぱお前は鷹野先輩に相応しくない! いいか? 鷹野先輩は『あまい卵焼き』の方が好きなんだ! そして、俺もまた『あまい卵焼き』の方が好きだ! だが、お前は『しょっぱい卵焼き』の方が好きだ! ……これが何を意味するか分かるか!?」
 ……分かりません。
「俺の方が鷹野先輩に相応しいってことさ! 何しろ、好みが一致してるんだからな! こいつぁ決定的だぜ!! フハハハハ!」
 ……もう帰ってもいい?
「で、パラコン。話は変わるが、お前は鷹野先輩と一緒に風呂に入ったことあるか?」
 あるわけねーだろ!! つーか、ここで「ある」って答えたら、色んな意味で凄いことだぞ!!
「いや……ないけど……。もしかして、轟さんはあるの?」
 僕が訊くと、轟さんはニンマリとして答えた。
「フッフッフ……! あれは去年の夏休み、剣道部の合宿に行ったときのことだ。俺と鷹野先輩はかくかくしかじかな理由から、2人っきり(←ここ重要!)で露天風呂を満喫したんだぜ! 当然の如く、俺も先輩も一糸まとわぬ姿! 生まれたままの姿よ!! 羨ましいだ……うぉぉっぷ! 鼻血が出てきちまったぜ!」
 ごめん、何てコメントすればいいの?
「ま、要するに何が言いたいかというと、お前なんかよりも俺の方が鷹野先輩の本当の姿を知っているってことさ」
 そりゃ、一糸まとわぬ姿を見たんだからね。
 ただ、それが鷹野さんの本当の姿とは限らないぞ。ひょっとしたら、君が見たのは仮の姿であって、本当の姿はメデューサみたいな姿かも知れない。
「フフ……そうか。お前は鷹野先輩と風呂に入ったことがないのか。じゃあ、鷹野先輩のわき腹の秘密も知らないだろうな」
 …………え?
 わき腹の秘密? 何それ? 聞いたことないんだけど……。
「俺はちゃんと知ってるんだぜ! 鷹野先輩の右のわき腹に秘められし、神秘的な秘密をな!!」
 な……何だよ……それ……。何か、そういう言い方をされると、すごく気になるじゃないか……。
「わ……わき腹の秘密って何なの? 轟さん」
 気になった僕は、轟さんに問いかけた。すると、彼女は腰に手をあて、得意げな顔をした。
「フッフッフ……やっぱり知らないんだな。ま、お前は所詮、その程度ってことだ! こういった点から考えても、俺の方が鷹野先輩に相応しいことは厳然たる事実―――」
「分かった分かった! 君の勝ちだよ! で、わき腹の秘密って何!?」
 勝利を確信し、ご満悦状態の轟さんに、僕は話の続きを促した。
「ま……まあ、そこまで言うなら教えてやるよ。実はな、鷹野先輩の右のわき腹には、こう……よ〜く見ると……」

 ――バキッッ

「ほぐぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!??」
 轟さんが、鷹野さんのわき腹の秘密を喋ろうとしたときだった!
 突然、僕の頭上から女の子が降ってきて、僕はその女の子に踏み潰される形となった! 痛ぇぇ!!
 ……って、あれ? 今朝も同じような体験をしたような気が……? 何これ? デジャヴー?
「轟さん。私はあなたのことを誤解していたようね。まさか、あなたにずっと監視されていたとは思わなかったわ」
「た……鷹野先輩……! 一体いつから……!?」
 僕を踏み潰した姿勢のまま、頭上から降ってきた女の子――鷹野さん――が言葉を発した。轟さんは驚きの表情を浮かべている。
 ていうか、さっさとどけよ、この女。
「た……鷹野さん。ちょっとどいてくんない」
 僕は頭上から降ってきた鷹野さんに、さっさとどくように促した。これじゃあ、まるで僕が鷹野さんの下僕みたいじゃないか。
「轟さん。あなたの行為は不純極まりないものよ。こうなったからには、それなりの罰を与えなければならないわね」
「……! 先輩! 聞いてください! 俺は断じて、不純な動機で監視をしていたわけではありません! 俺は……俺は……! 俺は……先輩のことが好きだったから――」
「言い訳無用! 既にあなたに与える罰ゲームは決定しているわ! 素直に自分の罪を認めなさい! 認めたところで許しはしないけど!」
「く……っ!!」
 いや、だから、どけっての!! どいてから喋れよ!! そろそろ苦しくなってきたんですけど! マジで勘弁していただきたいんですけど! マジでお前、本気で泣くぞチキショオ!!
「どけよ、このクソ女! アホ女! 性悪女! 傲慢女!」

 ――メキィィィッ

「ぬがぁぁぁぁああああああああああ!!!」
 うっかり本音を叫んでしまったのがまずかった! 気が付くと、僕は鷹野さんに4の字固めを食らわされていた! 痛い痛い痛い!!
 ……って、あれ? 今朝も同じような体験をしたような気が……? 何これ? デジャヴー?
「すいませんすいません!! ホントにすいません! マジですいません! お許しをぉぉぉぉおおお!!!」
「ふん。まあ、今日のところはこれくらいで勘弁してやろう」
 全力で謝ったことで、ようやく解放された。だ……だからさ、何で僕が謝ってんの!? 謝るのはどう考えたってこの馬鹿女だろうが!
「た……鷹野先輩から4の字固めを喰らっただとぉ!? ちくしょー! パラコンめぇぇぇえ!! 羨ましいぞコノヤロォォォ!!」
 何故か、轟さんが羨望の眼差しを向けてくる。……どういう神経してんだこの人は?
「キィィィ〜〜〜! 鷹野先輩! やっぱり何だかんだ言って、パラコンのことが好きなんですね!? 好きだからこそ、そうやってちょっかい出したくなるんでしょ!? 俺なんかよりもそいつが好きだから、俺のこと振ったんでしょ! ちっきしょぉぉぉおおお!! そんなヤツのどこが良いんですか!? そいつ、存在感といい髪形といいツッコミレベルといい、何もかもが微妙じゃないですか! しかもそいつ、名前が『パラコンボーイ』って言うんですよ! そんなヤツが鷹野先輩に相応しいとはとても思えません!」
 轟さんが顔を真っ赤にして、鷹野さんに向かって叫び声に近い声で捲くし立てる。
 ていうか、存在感・髪型・ツッコミレベルが微妙ってどういう意味だこのロリ娘。それと、僕の名前は「パラコンボーイ」じゃねぇ! 周りが勝手にそう呼んでるだけだ!!
「……轟さん。あなたは大きな勘違いをしているようね」
 捲くし立てられた鷹野さんは、慌てる様子を微塵も見せず、冷静に言葉を返した。彼女は轟さんにどう対抗するのか……?
「私、別にパラコンが好きだとは思ってないわよ。下僕だとは思ってるけど」
 テメェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!
 僕はテメーの下僕じゃねーよ! ふざけんじゃねえ!!
 くっそ〜〜!! 覚えてろよ鷹野麗子! いつか貴様をカプセル・モンスター・チェスのカプセルの中に閉じ込めてやるからな!!
「ほらほら! そうやって、あからさまにパラコンを見下すような様子を見せることこそ、鷹野先輩がパラコンを好きである証拠ですよ! ホントは『誰にもパラコンを渡したくない』とか『パラコンになら何もかもさらけ出せる』とか『パラコンには私だけ見ていてほしい』とか思ってるんでしょ!!」
「そんなこと思ってないわよ。下僕だとは思ってるけど」
 轟さんは、頑として「鷹野さんは僕のことが好き説」を撤回しない。この人もしつこいなぁ……。
「じゃ……じゃあ、鷹野先輩! パラコンのことが好きじゃないのなら、今後、パラコンとは一切会話しないでくださいよ! できますよね!?」
「無理よ」
「なっ……! や……やっぱり、パラコンのことが好きなんじゃないですかぁ〜!!」
「そういうことじゃないわ。ただ、あなたに私の行動を制限される理由はない。それだけのことよ」
「そ……そんなこと言いつつも、心の底ではパラコンのことを……」
「あの、そろそろ黙ってくれないかしら。蹴り入れるわよ」
「うひょっ! ありがたき幸せ! もう好きなだけ蹴り入れちゃってくださいよ! 俺はいつでもOKですぜ!」
「……しまった。逆効果だったわ」

 かくかくしかじか
 (魔法カード)
 話を短縮し、ストーリーを高速回転させる。

 かくかくしかじかで、あれから1時間が経過した。……が、鷹野さんと轟さんの言い合いは、未だに終わりそうにない。
 はぁ……。もうそろそろ日が沈んじゃうよ。早く終わらせろよお前ら。……ていうか、よくよく考えたら、もう僕、帰っちゃってもよくない? あとはこの2人でケリつければいいんだし……。
 そんな風に僕が思い始めたとき、このままではラチが明かないと考えたのか、鷹野さんがある提案をした。
「こうなったら、デュエルでケリをつけましょう」
「! でゅ……デュエル……ですか?」
 お、デュエルでの決着か! やっと遊戯王らしくなってきたな!
 そうだよ。遊戯王の二次創作である以上、最後はやっぱりデュエルで決めなきゃ。ていうか、最初からそうしろよ!

 ゲームをしようぜ!
 (魔法カード)
 あらゆるトラブルを、ゲーム一つで片付ける。

「あなたが勝ったら、すべてあなたの思い通りにすればいいわ。でも、私が勝ったら、あなたは罰を受ける。……これでどう?」
「そ……それはつまり、俺が勝ったら、俺と付き合ってくれるということですか!?」
「そうなるわね」
「よ……よっしゃ! 受けて立ちます! 必ずデュエルに勝って、先輩を俺だけの女にしてやりますよ!」
 さすが、轟さんもノリがよく、あっさりと鷹野さんの提案に乗った。なるほど……このデュエルで轟さんが勝てば、鷹野さんは轟さんの彼女になってしまうのか……。
 ていうか、さっき僕は鷹野さんと会話することを禁じられたんだけど、あの展開については完全に忘れ去られてるな。


 ★   ★   ★   ★   ★   ★


「「互いのデッキを、カット&シャッフル!!」」
 鷹野さんと轟さんの2人は、それぞれ自分のデッキを相手に手渡し、デッキシャッフルを始めた。
 デッキシャッフルをしながら、轟さんが不敵な笑みを浮かべる。
「フッフッフ……鷹野先輩! このデュエルで俺が勝ったら、今夜は俺が先輩の体をシャッフ―――」
「その先言ったら、このカード全部破くわよ。原作コミックス4巻の海馬社長風にね」
「…………すんません」
 さすがにカードを破かれるのは駄目なのか、轟さんが黙り込む。
 こうしてデッキシャッフルを終えると、軽くデッキをカットし、お互いに自分のデッキをデュエルディスクにセットした。……ほほう、デュエルディスクを使ってデュエルするのか。本格的だな。
 ソリッドビジョンを投影するための距離を確保すると、鷹野さんが口を開いた。
「ルールはスーパーエキスパートルール。ライフポイントは4000点よ。ちなみに、リストバンドからカードを手札に入れるのは禁止行為とするわ」
「!? え!? 駄目なんですか!? く……くそ……! そう簡単には勝たせてくれないってわけか……!」
 轟さんが驚くと同時に表情を歪ませた……って、あのロリ娘、まさかイカサマするつもりだったのか!?
「それじゃ、始めましょうか」
「はい!」
 とりあえず、互いに準備完了。しばし、周囲に沈黙が流れる。

 やがて、その沈黙は、2人のデュエリストの叫びによって破られた。


「「―――デュエル!!」」



 闘いの火蓋は切られた!
 果たして、勝つのはどっちだ!?


 (LP:4000)鷹野 麗子 vs 轟 桃花(LP:4000)


 あっち向いてホイ対決の結果、轟さんが先攻を取ることになった。
「俺の先攻! ドロー! よっしゃあ! いい手札だぜ! 俺はリバースカードを2枚セット! さらに『マジシャンズ・ヴァルキリア』を守備表示で召喚! ターンエンド!」
 先攻を取った轟さんは、手早く2枚の伏せカードと1体のモンスターを出し、ターンを終えた。本人いわく、いい手札らしい。それ故か、彼女の表情は自信に満ち溢れている。
 彼女の出した『マジシャンズ・ヴァルキリア』の守備力は1800。それなりの高さだな。


【轟 桃花】 LP:4000 手札:3枚
 モンスター:マジシャンズ・ヴァルキリア(守1800)
  魔法・罠:伏せ×2

【鷹野 麗子】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「私のターン、ドロー」
 鷹野さんのターン。
 彼女は轟さんとは対照的に、カードを引いてもすぐにはアクションを起こさない。
 あの人のことだ。ちゃんと戦略を考えているんだろう。
「……私はリバースカードを1枚セット。そして、『ダーク・リゾネーター』を守備表示で召喚。これでターンエンドよ」
 特に攻める様子は見せず、鷹野さんはターンを終えてしまった。まずは様子見……というところかな。
 さて、彼女が出した『ダーク・リゾネーター』というのは……初めて見るモンスターだな……。見たところ、守備力が300しかないようだが……?


【轟 桃花】 LP:4000 手札:3枚
 モンスター:マジシャンズ・ヴァルキリア(守1800)
  魔法・罠:伏せ×2

【鷹野 麗子】 LP:4000 手札:4枚
 モンスター:ダーク・リゾネーター(守300)
  魔法・罠:伏せ×1


 轟さんにターンが移る。
「俺のターン、ドロー! ……おっ! ここでこのカードか!」
 ドローカードを見ると、轟さんはニヤリと笑みを浮かべた。そして、自信満々に宣言する。
「鷹野先輩! このデュエル、俺の勝ちです!」
「……!」
 何だと……?
 こ……こんなに早く勝利宣言!? 何言ってるんだ彼女は!? 本気なのか!?
「これで鷹野先輩は俺の女です! 覚悟してください! 俺はリバースカードを1枚セット! そして、これが俺の切り札……! 『マジシャンズ・ヴァルキリア』を生贄に捧げ、『ブリザード・プリンセス』を召喚!!」
 轟さんの場の『マジシャンズ・ヴァルキリア』が生贄となり、新たなモンスターが召喚された。
 現れたのは、青いラインの入った白い服に身を包み、冠をかぶった女性型のモンスター。冠をかぶっているところが、いかにも「プリンセス」らしい。
「これが俺の切り札にして、マイ・フェイバリットカード! 『ブリザード・プリンセス』だぜ!! フハハハハ!!」
 『ブリザード・プリンセス』は、轟さんのお気に入りのカードらしく、彼女はテンションを上げている。
 『ブリザード・プリンセス』……これもまた初めて見るカードだが、どんなカードなんだ……?
「フフ! 『ブリザード・プリンセス』は、攻撃力2800の上級魔法使いだ! 実はこのカード、レベル8のモンスターなんだが、魔法使い族モンスターを生贄とする場合、なんと生贄1体で召喚することができるんだぜ!!」
 地の文に答えるかのように、轟さんが説明してくれた。……ていうか、え? 何それ!? 強くない!? 要するに、生贄1体で召喚できる攻撃力2800のモンスターってことじゃん!! ひ……ひでぇ!!
 轟さんは、『ブリザード・プリンセス』を召喚する際、魔法使い族である『マジシャンズ・ヴァルキリア』を生贄に捧げていた。だから、生贄1体で召喚できたというわけか!
 『ブリザード・プリンセス』……なんて恐ろしいカードなんだ。間違いなく、次回の制限カード候補だな。
「さ・ら・に! 『ブリザード・プリンセス』にはもう一つ、特殊効果がある! このカードが召喚に成功したターン、相手は一切、魔法・罠カードを発動できない! つまり、このターンの『ブリザード・プリンセス』の攻撃に対し、相手はカウンタースペルを発動することができないのさ!」
 ば……馬鹿な!? 生贄を減らすだけでなく、魔法・罠の発動を禁止する能力を持っているだと!? な……なんて反則的なカード……!
 『ブリザード・プリンセス』……恐るべきモンスターだな。間違いなく、次回の禁止カード候補だろう。
「……要するに、私の場の伏せカードはこのターン、まったく役に立たない、というわけね」
「そういうことです、先輩。だからこそ―――」
 そこまで言うと、轟さんは2枚あった手札の内1枚を捨て、残された手札1枚をディスクに置いた。
「このターン、先輩のライフを0にすることができる! 手札を1枚墓地へ送り、魔法カード『閃光の双剣−トライス』をプリンセスに装備! このカードを装備したモンスターは、攻撃力が500ダウンする代わりに、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃することが可能になります!」

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:2800→2300

 プリンセスの両手に剣が握られた。それにより、彼女には2回攻撃の能力が付加される。
「さらに俺は、伏せておいた魔法カード、『武装再生』を発動! このカードは、自分または相手の墓地にある装備カードを、場のモンスターに装備させることができます! 俺は、俺の墓地にあるこのカード……『魔導師の力』をプリンセスに装備!」
 轟さんの動きは止まらない。彼女は『武装再生』の効果によって、墓地にある『魔導師の力』をプリンセスに装備させた。
 なるほど。『閃光の双剣−トライス』の発動コストとして墓地に送ったのは、『魔導師の力』だったのか。
「『魔導師の力』を装備したモンスターは、自分の場の魔法・罠カード1枚につき、攻撃力・守備力が500ポイントアップします! 俺の場には今、魔法・罠カードが4枚! よって、プリンセスの攻・守は2000ポイントアップ!」

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:2300→4300/守備力:2100→4100

 こ……攻撃力……4300! オベリスクを超える攻撃力じゃないか! しかも、プリンセスは今、2回攻撃が可能な状態……。


【轟 桃花】 LP:4000 手札:0枚
 モンスター:ブリザード・プリンセス(攻4300・2回攻撃可能)
  魔法・罠:閃光の双剣−トライス(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),魔導師の力(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),伏せ×2

【鷹野 麗子】 LP:4000 手札:4枚
 モンスター:ダーク・リゾネーター(守300)
  魔法・罠:伏せ×1(発動不可)


「このターン、確実に先輩のライフは0になる! 俺の勝ちです!」
 こ……このまま轟さんがバトルフェイズに入り、1度目の攻撃で鷹野さんの場のモンスターを葬れば、2度目の直接攻撃で鷹野さんのライフは……轟さんの言う通り0になる!
 しかも、プリンセスの効果により、鷹野さんの場の伏せカードは使用不能になっている! ま……まさか……鷹野さんの……負け……?
 ……と思って鷹野さんの方を見てみると、彼女に慌てた様子はなかった。むしろ、彼女は余裕の表情を浮かべている。
「さすが……と言いたいけど、まだまだね」
「何っ!?」
 やはりというか何というか……。鷹野さんには何か策があるらしい。さすがは僕が認めたライバル。そう簡単には潰れないようだ……。
「私の場の『ダーク・リゾネーター』には特殊能力があるわ。それは、『1ターンに一度だけ、戦闘では破壊されない』という能力。つまり、私の場をがら空きにしたければ、『ダーク・リゾネーター』に2回攻撃する必要がある。……どういう意味か、分かるわよね?」
「…………」
 1ターンに一度の戦闘破壊耐性……! 『ダーク・リゾネーター』にはそんな能力があったのか!
 『ダーク・リゾネーター』を破壊したければ、プリンセスでリゾネーターに2回攻撃するしかない。つまり、プリンセスで鷹野さんに直接攻撃することは不可能ってワケだ!
 なるほどね……。さすが……と言っておこうか、鷹野さ―――
「フフ……鷹野先輩。そんなんで俺の攻撃を止められると思います?」
「!」
 ……って、あれ?
 何か轟さん、リゾネーターの能力は特に気にしてないみたいだが……。
「その手のモンスターが出てくることくらい、ちゃ〜んと計算済みですよ、先輩! バトル! 『ブリザード・プリンセス』で『ダーク・リゾネーター』を攻撃!」
 自信を崩さぬまま、轟さんは攻撃宣言! それと同時に、彼女の場の伏せカードが開いた!
「俺のモンスターが攻撃宣言したこの瞬間、リバーストラップ、『ストライク・ショット』を発動! このターンのみ、『ブリザード・プリンセス』の攻撃力は700ポイントアップ! さらに、守備モンスターを攻撃した場合、守備力を攻撃力が超えていれば、その数値分の貫通ダメージを与える!!」
「な……っ!?」
 か……貫通ダメージの付加!? こ……これじゃあ、鷹野さんのライフは……!
「『ストライク・ショット』は通常罠! よって、発動後に墓地へ送られる! そのため、『魔導師の力』の効力が落ちちまうが、それでもプリンセスの攻撃力は―――」

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:4300→5000→4500/守備力:4100→3600

「4500ポイント! しかも、プリンセスはこのターン、守備モンスターを攻撃してもダメージを与えられる! これが何を意味するか分かりますか!? 先輩!!」
「……私の場のリゾネーターの守備力は300。このままプリンセスの攻撃を受ければ、私は4200ポイントの貫通ダメージを受け、ライフが0になってしまう……!」
 リゾネーターは戦闘破壊耐性を持つが、プレイヤーへのダメージを0にしてくれるわけではないらしい。よって、貫通能力を得たプリンセスがリゾネーターを攻撃すれば、リゾネーターは破壊されないものの、鷹野さんのライフが尽きてしまう。
 これは……勝負あったか?
「この勝負もらったぁ! 行けぇ! プリンセ―――」

 そいつはどうかな?
 (王様カード)
 対戦相手及び読者はビックリする。

「……!? なっ……何ぃぃ!!??」
 勝負あった……かと思いきや! 突然、轟さんが驚きの声をあげた! な……何だ!?
「楽しませてくれるわね、轟さん。でも、そんな戦術じゃあ、私に勝つことはできないわよ」
 続いて、轟さんを嘲笑うかのような口調の、鷹野さんの声が聞こえてくる。い……一体、何が……?
 フィールドを見てみると、いつの間にやら、鷹野さんの場にいた『ダーク・リゾネーター』が消えていた。その代わり、彼女の場には、新たなモンスターが出現している。
 な……何だ……あのモンスターは…………!?


【轟 桃花】 LP:4000 手札:0枚
 モンスター:ブリザード・プリンセス(攻4500・2回攻撃可能・貫通能力付加)
  魔法・罠:閃光の双剣−トライス(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),魔導師の力(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),伏せ×1

【鷹野 麗子】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:ダークネス・ネオスフィア(守4000)
  魔法・罠:伏せ×1(発動不可)


「轟さんが攻撃宣言した瞬間、私は場の悪魔族モンスター『ダーク・リゾネーター』と、手札の悪魔族モンスター『クリボー』を墓地に送り、手札から『ダークネス・ネオスフィア』を特殊召喚させてもらったわ」
「そ……そんなモンスターを隠してたのかよ……! くそっ!」
 だ……『ダークネス・ネオスフィア』!?
 あのモンスターは確か、敵モンスターの攻撃宣言時、自分の場と手札から悪魔族モンスターをそれぞれ1体ずつ墓地に送ることで、手札から特殊召喚できるモンスターだ。しかも、攻撃力・守備力はともに4000ポイントという破格の数値だ。
 いや、それだけじゃない! ネオスフィアには、特殊能力があったはず!
「ちなみにネオスフィアは、戦闘では破壊されないモンスター。リゾネーターとは違い、何度攻撃しようと、決して戦闘では破壊されないわ」
「……なっ……! く……くそっ! このままプリンセスでネオスフィアを攻撃しても、500ポイントの貫通ダメージを2回与えるだけで終わるってことかよ!?」
 そう。ネオスフィアは戦闘で破壊できない。しかも、ネオスフィアの守備力は4000ポイントもある。貫通能力を持ったプリンセスがネオスフィアを2回攻撃したところで、与えられるダメージは計1000ポイント。このターンで鷹野さんのライフを0にすることなどできない。
 これで、このターンの鷹野さんの敗北はなくなったか。さすが……だな、鷹野さん。
「残念だけど、私はそんな簡単には屈しな―――」

 そいつはどうかな?
 (王様カード)
 対戦相手及び読者はビックリする。

「……っ!?」
 余裕の口調の鷹野さん……だったが、彼女は突然、言葉を詰まらせた! こ……今度は何だ!?
「なぁ〜んちゃって! ネオスフィアが出てくることも計算済みですよ、先輩!」
 イタズラっぽい笑みを浮かべながら、轟さんが声を発した。け……計算済みって……どういうことだ?
 フィールドに目を向けてみると、轟さんの場で伏せカードが開いているのが分かった。……あのカードは……?


【轟 桃花】 LP:4000 手札:0枚
 モンスター:ブリザード・プリンセス(攻4500・2回攻撃可能・貫通能力付加)
  魔法・罠:閃光の双剣−トライス(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),魔導師の力(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),デモンズ・チェーン(永続罠・対象:ダークネス・ネオスフィア)

【鷹野 麗子】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:ダークネス・ネオスフィア(守4000・効果無効
  魔法・罠:伏せ×1(発動不可)


「永続罠、『デモンズ・チェーン』を発動しました! これにより、ネオスフィアは攻撃を封じられると同時に、効果を無効化されます! つまり! 戦闘で破壊することが可能になったってワケです!」
「っ……!」
 『デモンズ・チェーン』は、指定した効果モンスター1体の攻撃を封じ、モンスター効果を無効にしてしまう永続罠だ。ちなみに、指定したモンスターが破壊された場合、『デモンズ・チェーン』のカードも破壊されてしまう。
 なるほど。これなら、ネオスフィアの持つ「戦闘で破壊されない」という効果は無効にできる。
 ……ということは……つまり……!
「これで、ネオスフィアをプリンセスで破壊してしまえば、先輩の場に壁モンスターはいなくなり、2度目の攻撃で先輩のライフは0! 俺の勝ちです!」
「……くっ……!」
 そうだよ! このままだと鷹野さん、負けちゃうじゃん! うわぁ〜! 鷹野さん、まさかの敗北か!?
「そんじゃあ、そろそろマジでバトルと行きましょうか! 『ブリザード・プリンセス』の攻撃ぃぃぃ!!」
 ついに、プリンセスの攻撃が繰り出される! プリンセスは両手に持った剣で、弱体化したネオスフィアを紙のように切り裂いた!
「フハハハハ〜〜〜!! 俺の攻撃で、先輩の心と体を満足させ―――」
「それ以上言ったら、『ブリザード・プリンセス』のカード破くわよ。原作コミックス18巻の海馬社長風にね」
「すんません。マジで勘弁してください」
 何はともあれ、プリンセスの手により、ネオスフィアは葬られてしまった。結果、500ポイントの貫通ダメージが鷹野さんを襲う。

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:4500
 ダークネス・ネオスフィア 守備力:4000

 鷹野 麗子 LP:4000→3500

 また、ネオスフィアが破壊されたことで、轟さんの場の『デモンズ・チェーン』が消滅。それにより、轟さんの『魔導師の力』の効果が減少し、プリンセスの攻撃力・守備力も減少する。

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:4500→4000/守備力:3600→3100

「これで、鷹野先輩の場のモンスターはいなくなりました! このままプリンセスで2回目の攻撃を行えば俺の勝ち! 先輩は俺の女です!!」
「…………」
 轟さんの言う通り、このまま行けば、轟さんが勝利し、鷹野さんが敗北することになる。
 う〜む。いくら鷹野さんでも、毎回必ず勝てるわけじゃないんだなぁ……。今回は、轟さんに軍配が上がったか。
 というか、このまま轟さんが勝てば、鷹野さんは轟さんの彼女になるわけだけど、マジでそうなるのか? 冗談抜きで?
「これが最後の一撃! 先輩! 俺の想いを受け止めてください! 『ブリザード・プリンセス』、2度目の攻―――」

 そいつはどうかな?
 (王様カード)
 対戦相手及び読者はビックリする。

「…………って、うぇぇぇぇえええええええええええ!!!???」
 轟さんの勝利……かと思いきや、今度は轟さんに何かアクシデントが起こったらしい。彼女はまたもや驚きを露にしている。
「まったく……。勝手にデュエルを進めないでほしいわね……」
 対する鷹野さんは、呆れたような口調で言葉を漏らす。
 そんな彼女の場には、どういうわけか、新たなモンスターが召喚されていた。あのモンスターは……?


【轟 桃花】 LP:4000 手札:0枚
 モンスター:ブリザード・プリンセス(攻4000・2回攻撃可能・貫通能力付加)
  魔法・罠:閃光の双剣−トライス(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),魔導師の力(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス)

【鷹野 麗子】 LP:3500 手札:1枚
 モンスター:トラゴエディア(守600)
  魔法・罠:伏せ×1(発動不可)


「さっき、プリンセスとネオスフィアの戦闘によって、私は500ポイントのダメージを受けた。それにより、私は手札から『トラゴエディア』のカードを特殊召喚させてもらったわ」
「な……っ……! また手札からの速攻召喚……!?」
 と……『トラゴエディア』! 鷹野さんも粘るなぁ……。
 『トラゴエディア』は、自分が戦闘ダメージを受けた際、即座に手札から特殊召喚できるモンスターだ。さっきの戦闘で貫通ダメージを受けたことで、特殊召喚の条件を満たしたってワケか。
 なお、『トラゴエディア』の攻撃力・守備力は、持ち主の手札の枚数×600ポイントとなる。今、鷹野さんの手札は1枚だから、『トラゴエディア』の攻撃力・守備力は600ポイントか……。
「くそっ! ……けど、先輩の『トラゴエディア』は今、守備力600の雑魚モンスター! 俺の場のプリンセスで簡単にねじ伏せられます! 行けぇ! プリンセス! 2度目の攻撃ぃ!!」
 鷹野さんの場の『トラゴエディア』に向かって、プリンセスが剣を振るう。当然の如く、守備力わずか600の『トラゴエディア』は、プリンセスの剣の前に散った。
 それと同時に、貫通ダメージが鷹野さんを襲う。え〜と、プリンセスの攻撃力が4000で、『トラゴエディア』の守備力が600だから……3400ポイントのダメージだな。

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:4000
 トラゴエディア 守備力:600

 鷹野 麗子 LP:3500→100

 おぉぉぉ……! 何とか100ポイント残ったか! 鷹野さん、運がいいな!
「ちきしょぉ〜! 100ポイント残しちまったよ! あと少しだったのにぃ!!」
 鷹野さんを仕留め損ねた轟さんは、地団駄を踏んで悔しさを露にする。そして、その様子を見ながら、鷹野さんが高笑いをした。
「オ〜ッホッホッホッホ!! 詰めが甘いわね、轟さん!」
 「高攻撃力の上級モンスターを従えている上、残りライフが未だ4000の轟さん」を「場のモンスターを失った上、残りライフが100しかない鷹野さん」が嘲笑う。傍から見れば、実に奇妙な光景だ。
「でも、先輩の残りライフはわずか100! そんなのすぐに削りきってやるぜ! 次のターンで決めてやる! 俺はこれでターンエンド! この瞬間、『ストライク・ショット』の効果が切れ、プリンセスの攻撃力が700ダウン! ま、それでも攻撃力は3300ポイントもありますけどね!」

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:4000→3300

 『ストライク・ショット』の効果が終了し、プリンセスの攻撃力が3300に下がった。下がったところで3300……。あのブルーアイズの攻撃力を上回る攻撃力だ。
 対する鷹野さんの場には、1体もモンスターがいない。しかも、彼女の残りライフはわずか100……。
 さあ、彼女はここをどう切り抜けるのか……?


【轟 桃花】 LP:4000 手札:0枚
 モンスター:ブリザード・プリンセス(攻3300・2回攻撃可能)
  魔法・罠:閃光の双剣−トライス(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),魔導師の力(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス)

【鷹野 麗子】 LP:100 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1


「ふふ……あなたに私の100ライフが削りきれるかしらね……。私のターン、ドロー」
 追いつめられている(はずの)鷹野さんだが、その表情に焦りは見られない。あくまでも余裕の笑みを浮かべつつ、彼女はカードを引いた。
 この状況で余裕の笑みか……。どんだけ図太い神経してんだよ、あの人は。
「…………」
 ドローカードを確認すると、鷹野さんは数秒ほど沈黙した。
 そして。
「うん。私の勝ちみたいね、轟さん」
「!?」
 私の勝ち!? マジで!? 逆転のキーカード引き当てちゃった!? 鷹野さん、このタイミングで都合よく逆転のキーカード引き当てちゃった!?

 ガッチャ・フォース
 (罠カード)
 自分のライフが100ポイント以下の時に発動可能。
 ほぼ確実に、自分はそのデュエルに勝利する。
 ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!

「轟さん。今この状況で、私があなたに逆転する方法は、全部で27個あるわ(内8個がライフジャスト。残りはオーバーキル)。今からその内の一つを見せてあげる」
「な……何だと……!? この状況をひっくり返すだって……!? そ……そんなことが……」
 逆転方法27個もあんの!? 多くない!? M&Wってそんなに逆転性の高いゲームなの!?
「まずは、このターン引き当てたカードを出させてもらうわ」
 そう言うと、鷹野さんは1枚のカードをデュエルディスクに置いた。それと同時に、彼女の場に1体のモンスターが出現する。
「私は『幻銃士』を召喚。このカードが召喚に成功したとき、私の場のモンスターの数まで『銃士トークン』を出現させることができるわ。私の場のモンスターは『幻銃士』1体だけだから、『銃士トークン』を1体、出現させる」

 幻銃士
 ★4/闇属性/悪魔族
 このカードが召喚・反転召喚に成功した時、自分フィールド上に存在するモンスターの数まで「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。
 自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する「銃士」と名のついたモンスター1体につき300ポイントダメージを相手ライフに与える事ができる。
 この効果を発動する場合、このターン自分フィールド上に存在する「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言する事ができない。
 攻1100  守800

 鷹野さんが召喚したのは、『幻銃士』というモンスター。攻撃力は1100しかないが、自分の場のモンスターの数まで『銃士トークン』を出現させることができるモンスターだ。
 とは言え、『銃士トークン』は攻撃力わずか500のモンスター。そんなモンスターを出したところで、この状況を打開できるとは思えないけど……。
「フハハハ! 何が出てくると思えば、たかが攻撃力1100のモンスターと、攻撃力500のトークンが1体だけ! そんなんじゃあ、俺に勝つなんて不可能ですよ!」
 確かに、轟さんの言う通りだ。でも、鷹野さんにはちゃんと考えがあるはず……。
「その余裕がどこまで続くかしらね……。次に……この伏せカードを使わせてもらうわ。リバースマジック、『魂の交換−ソウル・バーター』。この魔法カードは、自分の場にいるモンスターの魂と、墓地にいるモンスターの魂を交換する」
「……! 罠カードじゃなかったのか……」
 鷹野さんが伏せカードを開く。彼女が伏せていたのは、場と墓地のモンスターを入れ替える魔法カード。それを使ってどうするつもりだ?
「その効果により、私は場の『幻銃士』と、墓地の『ダーク・リゾネーター』の魂を交換するわ」
「!? 『ダーク・リゾネーター』を復活させるだと!?」
 『ソウル・バーター』の効果により、場の『幻銃士』と墓地の『ダーク・リゾネーター』が入れ替わった。
 ……しかし、これで一体どうなるっていうんだ? リゾネーターには1ターンに一度の戦闘破壊耐性があるけど、それじゃ逆転なんてできっこないし……。鷹野さんは一体何を……?


【轟 桃花】 LP:4000 手札:0枚
 モンスター:ブリザード・プリンセス(攻3300・2回攻撃可能)
  魔法・罠:閃光の双剣−トライス(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),魔導師の力(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス)

【鷹野 麗子】 LP:100 手札:1枚
 モンスター:銃士トークン(攻500),ダーク・リゾネーター(攻1300)
  魔法・罠:なし


「先輩〜! リゾネーターを出したところで、何にもなりゃしないですよ! 一体、何考えてんですか!?」
 轟さんの言うように、鷹野さんの場にあるカードでは、この状況を逆転できない……ように見える。何を考えてるんだ、彼女は? 何のために、リゾネーターを復活させたんだ?
 ……もしかして、『ダーク・リゾネーター』には、何か隠された能力があるのか?
「ふっ……。気が付いたようね、パラコン」
 うぇ!? な……何かいきなり鷹野さんが僕に振ってきた!?
 ど……どういう意味だよ鷹野さん! 「気が付いた」って……僕が何に気付いたんだよ!? え? もしかして、マジで『ダーク・リゾネーター』には隠れ能力があるの?
「轟さん。知ってたかしら?」
 鷹野さんはそこで一呼吸おいてから、轟さんに一言告げた。



「『ダーク・リゾネーター』はね、“チューナーモンスター”なのよ」



「!? な……っ!? うぇぇぇぇええええええええええ!!!???」
 鷹野さんの言葉を聞いた瞬間、轟さんが大声を上げた。そんな彼女の表情は、つい先ほどまでと違って、驚愕の色に染められている。
 ていうか、チューナーだって!? マジで!? 『ダーク・リゾネーター』ってチューナーだったの!?

 ダーク・リゾネーター
 ★3/闇属性/悪魔族・チューナー
 このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。
 攻1300  守300

「だ……『ダーク・リゾネーター』ってチューナーだったんですか!? ていうか、チューナーって確かスゲー入手困難なんでしょ!? 先輩、どうやってそんなもの手に入れたんですか!?」
「うん。なんか懸賞で当たっちゃってね……。ビックリしたわ、ホントに」
「け……懸賞で当てた!? う〜……さすがは鷹野先輩。運までも容易く味方につけちまうとは……」
 どうやら鷹野さんは、懸賞で当ててチューナーを入手したらしい。運のいい人だなぁ……。

 さて、チューナーモンスターというのは、簡単に言えば、“シンクロモンスター”を召喚するために必要なモンスターのことだ。この、チューナーモンスターと呼ばれるカード……何でも、かなり入手困難なカードらしい。
 では、何故チューナーは入手が困難なのか? うん。それは実に簡単な理由で、ただ単に、チューナーが既に製造中止になっているからだよ。
 ならば、何故チューナーは製造されていないのか? うん。それはね……シンクロモンスターの汎用性が想像以上に高すぎて、「こいつぁヤバい」と思ったI2社が、チューナーの製造をストップしちゃったからだよ。ブルーアイズが製造中止になったのと似たようなものだね。
 ちなみに、↑みたいな背景があるもんだから、I2社や海馬コーポレーションでは、シンクロというシステムには大きなサポートはしていない。具体的に言うと、公式的に認められたシンクロモンスターのパターンが極めて少ない。本来はたくさんのパターンがあったけど、今は5種類のシンクロモンスターだけがI2社によって公式的に認められてる……らしい。

 ……うん。まあ、↑で書いた設定はほとんどフィクションで、OCGの世界ではシンクロモンスターが全力で頑張ってたりするわけだけど、そこは「作者の都合」ということで目をつぶっていただきたい。

 ご都合主義
 (魔法カード)
 都合のいい展開でストーリーを進行させる。

「とにかく……デュエルを再開するわよ。今、私の場には、レベル4の『銃士トークン』とレベル3の『ダーク・リゾネーター』がいる。この2体でシンクロ召喚を行うわ」
 デュエルが再開する。鷹野さんは早速、シンクロ召喚を行うつもりらしいな。
「く……来るか……! シンクロ召喚……!」
 未知なるモンスターの召喚に、轟さんが戦慄する。先ほどまでの、勝利を確信した彼女の表情は、今は完全に消えていた。
「レベル4の『銃士トークン』に、レベル3の『ダーク・リゾネーター』をチューニング! 天頂に輝く死の星よ! 地上に舞い降り生者を裁け! シンクロ召喚! 降臨せよ! 『天刑王 ブラック・ハイランダー』!」
 わざわざセリフをつけた上で、鷹野さんは場にシンクロモンスターを呼び出した!
 現れたのは、大きな鎌を持った人型のモンスター。いかにも、「王」といった風格の漂うモンスターだった。その姿を見て、さすがの轟さんも青ざめてしまう。
 『天刑王 ブラック・ハイランダー』……これが、I2社によって公式に認められた5体のシンクロモンスターの内の1体か!
 それにしても、轟さんが「王女」を出すなら、鷹野さんは「王」を出すか。どこまでも相手の上に立とうとするあたり、鷹野さんらしいというべき……なのか?

 天刑王 ブラック・ハイランダー 攻撃力:2800

「んな!? 『王サマ』だけあって強そうなモンスターと思ったけど、攻撃力は2800かよ!? び……ビックリさせやがって! 先輩! 俺のプリンセスの方が攻撃力は上ですよ!」
 王サマの降臨によって青ざめていた轟さんだったが、ブラック・ハイランダーの攻撃値を見て、すぐさま戦意を取り戻した。
 確かに、見たところ、鷹野さんの出したブラック・ハイランダーの攻撃力は2800。轟さんの場のプリンセスの攻撃力3300には及ばない。
 けど、攻撃力だけでは勝てないのがM&Wだ。
「まだよ、轟さん! 私はさらに、手札から魔法カード『ビッグバン・シュート』を発動! このカードを装備したモンスターは、攻撃力が400ポイントアップし、貫通能力を得る!」
「何ぃ!?」
 ここで鷹野さんが装備魔法を! なるほど、『ビッグバン・シュート』の効果で、ブラック・ハイランダーの攻撃力を上げ……――?
 ――って、違う! これじゃ勝てない!
「フハハハハ! 血迷いましたか先輩! たとえ『ビッグバン・シュート』を装備したところで、ブラック・ハイランダーの攻撃力は3200! 俺のプリンセスにはわずかに及びませんよ!」
 そうだよ! 『ビッグバン・シュート』をブラック・ハイランダーに装備したところで、プリンセスは倒せないんだよ! あと100ポイント足りないんだよ!
 う〜ん。さすがの鷹野さんもここまで……―――
「轟さん。私は『ビッグバン・シュート』をブラック・ハイランダーに装備するとは、一言も言ってないわよ?」
「っ!? え……!?」
 ……!? あれ? 『ビッグバン・シュート』はブラック・ハイランダーに装備するんじゃないの? 違うの?
「『ビッグバン・シュート』を装備するのは……あなたの場の『ブリザード・プリンセス』よ!」
「な……何だってぇ!?」

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:3300→3700


【轟 桃花】 LP:4000 手札:0枚
 モンスター:ブリザード・プリンセス(攻3700・2回攻撃可能・貫通能力付加)
  魔法・罠:閃光の双剣−トライス(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス),魔導師の力(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス)

【鷹野 麗子】 LP:100 手札:0枚
 モンスター:天刑王 ブラック・ハイランダー(攻2800)
  魔法・罠:ビッグバン・シュート(装備魔法・対象:ブリザード・プリンセス)


 『ビッグバン・シュート』を装備したことで、プリンセスの攻撃力が上がる。それを確認すると、鷹野さんはすぐさま次の行動に出た。
「そして今こそ、ブラック・ハイランダーのモンスター効果を発動! ブラック・ハイランダーは1ターンに一度、相手モンスター1体に装備された装備カードを、すべて破壊する!」
 彼女がそう宣言した直後、プリンセスに装備されていた3枚のカード――『閃光の双剣−トライス』、『魔導師の力』、『ビッグバン・シュート』――が破壊された! な……なるほど! これなら、プリンセスの攻撃力を下げられる!

 ブリザード・プリンセス 攻撃力:3700→2800

「な!? プリンセスの装備が剥がされた!?」
 装備カードをすべて破壊されたことで、プリンセスの攻撃力が2800に戻った! おぉ……ブラック・ハイランダーには、こんな都合のいい能力があったのか!
「さらに、この効果で破壊した装備カード1枚につき、400ポイントのダメージを相手に与える! いま破壊した装備カードは3枚だから、1200ポイントのダメージを受けてもらうわよ!」
「ぐぅ!? 装備カードを剥がした上、ダメージまで与えるだと!? な……何だよその能力! インチキオリカも大概にしやがれ!!」
「失礼ね。オリカなんかじゃないわ。ちゃんとOCGに実在するカードよ」

 天刑王 ブラック・ハイランダー
 ★7/闇属性/悪魔族・シンクロ
 悪魔族チューナー+チューナー以外の悪魔族モンスター1体以上
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにシンクロ召喚をする事ができない。
 1ターンに1度、装備カードを装備した相手モンスター1体を選択して発動する事ができる。
 選択したモンスターに装備された装備カードを全て破壊し、破壊した数×400ポイントダメージを相手ライフに与える。
 断じてオリカではない!!
 攻2800  守2300

 轟 桃花 LP:4000→2800

 ブラック・ハイランダーの「装備引っぺがし能力」はダメージ効果のオマケつきで、一気に轟さんのライフを1200削ってしまった。おぉ……さすがは王サマ。
「くそっ……! これでプリンセスと王サマの攻撃力は互角! 相討ち狙いですか!? 先輩!!」
 そうだ……。王サマの「引っぺがし能力」によって、プリンセスと王サマの攻撃力はともに2800。このままバトルに持ち込めば、相打ちということに……。
「あら? 轟さん、知らないの? さっき私が発動した『ビッグバン・シュート』には、もう一つ効果があるのよ?」
「ひょ?」
 え? 『ビッグバン・シュート』のもう一つの効果? 『ビッグバン・シュート』の効果って、「装備モンスターの攻撃力を400アップ+貫通能力付与」だけじゃなかったっけ?
「『ビッグバン・シュート』のもう一つの効果。それは、『ビッグバン・シュート』のカードがフィールドから離れたとき、『ビッグバン・シュート』を装備していたモンスターをゲームから除外する能力!」
「……………………!? うぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!!!!???? ちょっと待ってくださいよ!? え? つ……つまり……まさかまさかまさかまさかぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!??!??!?!?!?」
 え……えーと……。
 要するに、さっきまで『ビッグバン・シュート』は、轟さんのプリンセスに装備されていました。しかし、『ビッグバン・シュート』はブラック・ハイランダーの効果で破壊されました。『ビッグバン・シュート』が破壊されて場から離れたので、『ビッグバン・シュート』の持つ「装備モンスターを除外する効果」が発動します……ってことか。
 あれ? ……ということは……?


【轟 桃花】 LP:2800 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野 麗子】 LP:100 手札:0枚
 モンスター:天刑王 ブラック・ハイランダー(攻2800)
  魔法・罠:なし


 そうか! 『ビッグバン・シュート』が場を離れたことで、『ビッグバン・シュート』の除外効果が発動して、プリンセスが除外されちゃったのか!!
 な……なるほど……。鷹野さんはこれを狙って、『ビッグバン・シュート』をプリンセスに装備したのか……。
「うぉぉぉぉ! 場から離れた瞬間、装備モンスターを除外しちまう効果だとぉぉ!! 何だよその辻褄合わせ的な効果!! インチキオリカも大概にしろってんだ〜〜!!」
「失礼ね。オリカなんかじゃないわ。ちゃんとOCGに実在するカードよ」

 ビッグバン・シュート
 (装備カード)
 装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
 装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードがフィールド上から離れた時、装備モンスターをゲームから除外する。
 断じてオリカではない!!

「これで、轟さんの場のカードはすべて消えたわね。じゃあ、バトルフェイズ! 『天刑王 ブラック・ハイランダー』でプレイヤーにダイレクトアタック! 死兆星斬(デス・ポーラ・スレイ)!!」
「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!」
 ブラック・ハイランダーが、がら空きとなった轟さんに鎌で斬りかかる!
 場にも手札にもカードがない轟さんには、当然の如くこの攻撃をかわす手段はない。彼女は攻撃力2800の一撃をもろに受け、一瞬でライフが0となった。

 天刑王 ブラック・ハイランダー 攻撃力:2800

 轟 桃花 LP:2800→0







 ★   ★   ★   ★   ★   ★   ★


「俺が……負けた……? 俺の……完璧なるデッキが……破られた……だと……?」
 デュエルに敗北した轟さんは、体から煙を立ち上らせながら、まるで信じられない出来事に直面したような表情で呟いた。
 鷹野さんの逆転勝利……か。ま、鷹野さんは僕が認めた数少ないデュエリストなんだから、そう簡単には倒せないだろう。
 フフ……やはり、彼女を倒せるのは僕しかいないというわけだな!
「あなたの負けよ、轟さん。約束どおり、あなたには罰を受けてもらうわ」
「うっ! そうだった! ば……罰って何なんですか……?」
 あぁ、そうそう。そう言えば、轟さんが負けたら罰を受けてもらうとか何とか言ってたっけ。
 しかし、鷹野さんは轟さんにどんな罰を与えるんだろう? 顔面にツバ飛ばしとか、ビンタ100回とか、4の字固め20000回とか、そんな感じの罰かな?
「言っとくけど、これから私の与える罰は、顔面にツバ飛ばしとか、ビンタ100回とか、4の字固め20000回とか、そんなヤワなものじゃないわ。もっと残酷かつ残虐な罰よ」
 まるで僕の心を読んだかのように……と言うより、地の文に反応する形で鷹野さんが補足を入れた。
 う〜ん。違うのか。ていうか、4の字固め20000回より酷い罰って、どんだけ酷い罰なんだ?
「ざ……残酷かつ残虐な罰って……もしかして……アレですか?」
 鷹野さんの補足を聞いた轟さんは、少し考えると、次のように言った。
「もしかして……ムチ打ちの刑とか?」
「違うわ」
「じゃあ、鼻フック?」
「違うわよ」
「なら、今度は鷹野先輩が24時間体制で俺のことを監視するんですか?」
「ぜんぜん違う」
「じゃあ、先輩が俺を椅子に鎖で縛り付けて……」
「あり得ないわね」
「な……なら! 先輩が俺のことを足で踏みつけながら『オホホホホ!』と高笑いをして……」
「はいはい、違う違う。……というか、さっきからあなたが言ってるのは、『あなたがしてほしいこと』でしょ?」
「うっ!? さ……さすが先輩。俺の考えはお見通しですか……」
 轟さんがガックリとうなだれる。鷹野さんは呆れたようにため息を一つついた。
 ていうか轟さん、鷹野さんにムチ打ちとか鼻フックとかをしてほしいのか……。う〜む……これも愛の形の一つ……なのか?
「いい? 私があなたに与える罰は……これよ」
 鷹野さんはそう言うと、懐から1枚のカードを取り出した。
 あ……あのカードは……?

 使い捨て
 (魔法カード)
 新キャラクター1人を、使い捨てキャラクターにする。

「「!? つ……『使い捨て』ぇぇぇぇえええええ!!!!????」」
 僕と轟さんの驚き声が同時に響いた。
 ちょっと待て!? 魔法カード『使い捨て』って……どういうことだよ!?
「このカードは、新キャラ1人を使い捨てキャラにすることができる! 効果対象は当然、轟さん! あなたよ!」
「ちょ!? うえぇぇぇぇえええええ!!!??? ど……どういうことですかそれぇぇえ!?」
 新キャラ1人を使い捨てキャラにするって……! つ……つまりそれは、轟さんが使い捨てキャラになるってことで……要するに……―――
「要するに、使い捨てキャラとなった轟 桃花は、もう二度とプロジェクトシリーズには登場しない、ということね」
「なぁっ!? ちょ……待ってください先輩! そんなことされちゃ困ります! まだ俺にはやっていないことが―――」
「言い訳無用! あなたは私の心の領域を侵した! その罪は極めて重い! 恥を知りなさい!」
 に……二度と登場できなくなるって……残酷かつ残虐な罰ってこういう意味かよ!? ひっでぇ!!
 なるほど、確かにこれなら、4の字固め20000回の方がマシかも知れない!
 そうこうしている内に、魔法カード『使い捨て』によって使い捨てキャラ認定された轟さんは、体が徐々に光の粒子となって消え始めていた。
「うぉぉぉぉおお!!??? な……何だこれ!? 足がちょっと消えて短くなってるんだけどぉぉぉぉぉおおおお!!??」
「ふっ……さっそく『使い捨て』の効果が現れたようね。使い捨てキャラとなったあなたは当然、この世界から消えなければならない。あと1分もすれば、あなたの存在は完全にこの世界から消えるわ」
「そんな殺生な!! な……何とかならねーのかコレぇぇぇぇええ!!!??」
 うわぁ……なんて残酷かつ残虐な罰なんだ。まさか、この世界から存在が消えてしまうとは……。
 轟さん……「愛」に生きた彼女は、最後に自分の身を滅ぼすことになってしまったか……。これが「愛」に溺れた者の末路なのか……。
「ヤバイヤバイヤバイ! 消えてるよ! スッゲー消えてるよ! バッチシ消えてるよ! もう下半身なくなってるよ! マズイって! まだ俺にはやり残したことが山ほどあるんだよ! こないだ録画した深夜ドラマもまだ見てないし、牛丼野郎のおシンコもまだ食ってないし! それから……あぁ、そうだ! 足の爪切ってない! え〜と、それから……あ! 金魚にエサやってない! それからそれから―――」
「もうお腹の辺りが消えたわね。あと30秒ほどかしら」
「ぬぉぉぉぉおおっ!? や……やばい! 胸が消え始めた! う……腕も消え始めた! ヤバイよマジでヤバイ!」
 既に轟さんの体は、下半身が完全に消え、上半身も半分ほどが消滅している。このまま行けば、本当に30秒もしない内に消えてしまいそうだ。
 轟さん……何と言うか…………まあ、アレだ。短い間だったけど、お疲れ様。
「く……くそっ! ここまでか……! こ……こうなったら……! 先輩! お別れの言葉くらいはきっちり言わせてください!」
「…………」
 「お別れの言葉」と口にすると、轟さんはしっかりと鷹野さんの目を見て、凛とした表情で言った。
「俺は……先輩のことが大好きです! たとえこの世界から追放されようと、その想いが変わることはありません! 俺、先輩のことは忘れません! だから……先輩も……ときどきでいいから、俺のこと思い出してください!」
「あ〜、よく聞こえないわね。もう一度言ってくれない?」
 鷹野さんひでぇ!! お別れの言葉くらいはきちんと耳を傾けてあげても良くない!?
 さすがにこのままでは轟さんが気の毒だ、と思った僕は、鷹野さんの代わりに轟さんのお別れの言葉に答えてあげることにした。
「だ……大丈夫だよ轟さん! 鷹野さんはあんなこと言ってるけど、ホントは……」
「るせぇ!! 俺は鷹野先輩と喋ってんだ!! 負け犬のパラコンボーイ略してマボーイはすっこんでろ!!」
 この小娘がぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!
 お前マジでふざけんじゃねーぞ! 何なんだよコンチキショオが!! せっかく人が気を遣ってやったってのに、そのリアクションはないんじゃねーの!? 冗談じゃねーよ! やってらんねーよチキショオが!! 気遣った僕が馬鹿だったよ!! つーか、マボーイって呼ぶなこの馬の骨が!!
 はぁ……はぁ……。もう好きにしやがれってんだよ。消えようが消えまいがどっちだっていいよ、ったく。
「さようなら、鷹野先輩……。俺の、憧れの人……!」
「ん〜、聞こえないわね」
 なんやかんやで、とうとう轟さんの体のすべてが、光の粒子となって消えた。『使い捨て』の効果が適用され、轟さんの存在が完全にこの世界から消えたのだ。
 鷹野さんが、轟さんが消えた場所を見つめながら、一言呟く。
「行っちまったなぁ……あいつ……」
 行っちまったっていうか、あんたが消したんだけどね。
「……ホントに消えちゃったね、轟さん」
 何とはなしに、僕は鷹野さんに話しかけた。
「ふふ……当たり前じゃない。『使い捨て』の効果を侮っちゃいけないわ」
 人を消しときながら、鷹野さんは微笑を浮かべて答えた。ひでぇ……。
「それにしても……轟さんのことは純粋な子だと思ってたんだけど、まさか監視なんて真似をねぇ。……いや、純粋だからこそ、あんな真似をしたのかしら? ま、どっちでもいいけど」
 そう言えば、鷹野さんは轟さんのことを「純粋な子」だと言ってたな。ふ〜む、ある意味では純粋……なのか? いや、でもプライバシーの侵害はまずいだろ。犯罪だし。

 ――キーンキーンキーンキーン……

 チャイムが鳴った。
 ということは、もう6時か。こんな時間まで争っていたのか、僕たちは。
 日はとっくに沈み、周囲はもう暗くなっている。昼間よりも冷たい風が吹き、肌寒さを感じる。
 ……もう帰るか。これ以上ここにいても意味ないし。
 何というか……すごく疲れた。早く家に帰って寝―――



「フハハハハハハハハハハ!!!!!」



「「!?」」
 帰ろうと思ったそのときだった!
 どこからともなく聞き覚えのある笑い声が響き、僕と鷹野さんの動きが止まった。
「この声……まさか……」
 思わぬ展開に、鷹野さんの表情が歪む。
 そうだ……この声は……! いや、でも……そんなハズは……!
「まさか……あなたなの? 轟さ―――」

 ――バキッッ

「痛ぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ!!!!」
 それは突然の出来事だった!
 僕の頭上から女の子が降ってきて、僕はその女の子に踏み潰される形となってしまった! いや、これメチャクチャ痛いんですけど!!
 ……って、あれ? さっきも同じような体験をしたような気が……? 何これ? デジャヴー?

 使い回し
 (魔法カード)
 世の中リサイクルだぜ!

「また会いましたね鷹野先輩! 『使い捨て』を使われたときはヒヤリとしましたが、俺はこの通り、ピンピンしてますよ!」
「……どういうことなの? 『使い捨て』の効果は絶対のハズ……なのに……どうして……?」
 頭上から降ってきたのは、まさかまさかの轟さん。『使い捨て』によってこの世界から消えたはずの彼女が、何故かこの場で、僕を踏み潰した姿勢で喋っている。これにはさすがの鷹野さんも、困惑の表情を浮かべた。
 ていうか、何で僕を踏みつけたまま喋るの? 別に、どいてから喋ったって良くない?
「あの……轟さん。悪いけどどいてくんない?」
 僕は轟さんに、さっさとどくように促した。これじゃあ、まるで僕が轟さんの下僕みたいじゃないか。
「フッフッフ……! 俺が何故この世界にいるのか、分からないようですね! 先輩!」
「……っ! 一体、何のトリックを使ったのよ」
「なぁに、簡単なことですよ。目には目を、ネタオリカにはネタオリカを、ってね! 俺は消える寸前、あるカードを発動させていたんですよ!」
 僕のことは完全に無視して、轟さんは鷹野さんと会話をしている。この小娘がぁっ!!
 もうホント嫌なんだけど。何で轟さんも鷹野さんもこんなに傍若無人なの? 少しは僕のことも思い出してよ。すごく孤立感を覚えるじゃないか。泣くよ? 本気で泣くよ? 僕が泣いたら、お前らホントにただじゃ済まないよ? ……あ、でもこいつらのことだから、たとえ僕が泣いても知らん顔するだろうな。うわぁ!! 想像しただけで腹立つ!! こいつらマジでアメミットに喰われろよ!! いい加減ムカつくんだよぉぉぉぉ!!!!
「チキショオォォォォォォオオオ!!!!」
 叫びながら、僕は起き上がった。それにより、僕を踏みつけていた轟さんが危うく転倒しかけた。
「うぉっと! あっ、パラコンいたのか! じぇんじぇん気付かなかったぜ! ま、許せや!」
 轟さんは僕に気付かなかったらしい。嘘付け。お前、絶対に気付いてたろ? 気付いていながら、僕を踏みつけたんだろ? 所詮、お前にとっての僕はその程度の存在であって―――
「轟さん。何のカードを使ったのか、さっさと教えてくれないかしら」
「ん? あ、そうそう! 俺はこのカードを使ったんですよ! え〜と、どこへやったかな?」
 僕の気持ちなど知ったことじゃないといった感じで、轟さんは鷹野さんとの会話を再開した。くそっ……また無視かよ……。
 ……はぁ〜……あっぷるぱいよ、お前はもうちょいマシな女性キャラを描けんのか? もっとこう……主人公のことを大事にしてくれるような女性キャラをさぁ! 頼むよ! ハピフラのユキちゃんみたいな女の子を描いてよ!! じゃないと、僕もうやっていけないよ!!
 ……お……落ち着け、僕。無い物ねだりしたって仕方ないんだ。とりあえず、轟さんがどんなトリックを使って、『使い捨て』の効果を回避したのかを聞こう。
「俺はね……このカードを使ったんですよ! この魔法カードをね!」
 そう言うと、轟さんは1枚のカードを取り出し、僕らに見せてきた。
 そして、カードを見た鷹野さんは、目を丸くする。僕も、驚きを隠すことができなかった。
 ま……まさか……そんな手が……!?

 マネー・フォース
 (魔法カード)
 あらゆるトラブルを、財力を用いて片付ける。

「消える寸前に俺は、『マネー・フォース』を発動したんです。そして、財力によって『使い捨て』の効果を無力化しました!」
 ここで『マネー・フォース』!! まさか、『ぷろじぇくとSV』にさり気なく出てたこのカードが再登場するとは!!
「財力……。そう言えば轟さん、家はお金持ちだったわね」
「はい! ウチが金持ちだったおかげで、『マネー・フォース』の発動条件を満たせたんです! いやぁ、ラッキーでした!」
 轟さんの家って金持ちなのかよ!? ……あ、そういや轟さん、さっきの回想シーンで「俺ん家の財力を使えば、カメラや盗聴器を仕掛けるなんてことは容易いことだ」ってさり気なく補足してたっけ。ま……まさか、あんなところに伏線が張られていたとは!!
「ま、そーいうわけで、俺はこうしてこの世界に留まってるわけです。先輩の心をゲットできるまで、消えるわけにはいきませんよ!」
「…………」
 露骨に鷹野さんが嫌そうな顔をした。さすがに、轟さんがこれほどしぶとい奴だとは思わなかったのだろう。
「先輩! もう一度デュエルしましょう! いや! 何度でもデュエルしましょう! 先輩が俺に振り向くまで、何度でも!」
「嫌よ。一度負かした人間には興味ないわ」
「嘘つかないでください! それだと、先輩がパラコンと何度もデュエルしてることについて説明がつきません! やっぱしアレですか!? パラコンのことが好きなんですか!?」
「そうじゃないわよ。ただ私は……あっ、UFO!」
「「え!? どこ!?」」
 僕と轟さんは揃って驚きの声をあげた。え? UFOどこ!?
「ほら、あっち! 校舎の上に!」
「どこどこ! あ……あの光!?」
「違うよ轟さん! あれは飛行機の光だ! あの光じゃなくて、もっと右にあるあの光だよ!」
「え!? どこだよパラコン! どこの光だ!?」
「……あ、ゴメン間違えた。僕が見たのも飛行機だ……」
「んだよぉ〜……ビックリさせんなよ! ……って、あれ!?」
 僕らが気付いたときには、鷹野さんは既にこの場から姿を消していた。
 あれ……? もしかして僕たち、鷹野さんに騙された?
「ぬぁ!? ちくしょー! 騙された!! こんな古典的な手に引っかかるなんて!!」
 地団駄を踏み、悔しがる轟さん。どうやら鷹野さんは、僕らの目が校舎の方に釘付けになっている隙に、この場から立ち去ったらしい……。
 う〜ん、僕の方も迂闊だったな。よくよく考えてみたら、あんな都合のいいタイミングでUFOが現れるはずがない。

 あ! UFO!
 (罠・魔法カード)
 敵勢力の注意を数秒間そらす。

「くそっ! だが、まだ遠くへは行ってないはずだ! 先輩はきっとまだ近くにいるはず……あ、見つけた!! 待て先輩!!」
「え!?」
 轟さんも諦めが悪い。彼女はまだ、鷹野さんを追うつもりだ。しかも、早くも鷹野さんを見つけたらしく、轟さんは全速力で駆けていった。
 轟さんが向かった先を見てみると、暗くて分かりにくいが、確かに全速力で走り去っていく鷹野さんの姿があった。よく見つけたな、轟さん。
「待てぇぇぇぇええええええ!! 鷹野先輩〜〜〜〜!!! 俺の気持ちを受け取ってくれぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!」
 走りながら、轟さんが叫んだ。当然、鷹野さんは振り返らない。むしろ、鷹野さんの走るスピードが上がったように見える。
「好きだぁぁぁぁあああああ!!!! 鷹野麗子ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!! 俺はお前を愛しているぞぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」
 またもや轟さんの叫び声が響く。す……すごいな轟さん……。彼女の愛は本物だな。

 その後しばらくの間、遠くの方から轟さんの(鷹野さんへの愛が詰まった)叫び声が聞こえた。
 彼女の(鷹野さんへの愛が詰まった)叫び声が完全に聞こえなくなるまで、5分くらいはかかったと思う。……声デカいな轟さん。
 きっと、轟さんは「恥ずかしい」とかそういうことは微塵も感じてないんだろうな。ただひたすらに、鷹野さんへの想いをぶちまけまくってる……って感じか。

 むしろ、今この状況で一番恥ずかしいのは、間違いなく鷹野さんだろうな。
 彼女は今頃、赤面しながら必死こいて轟さんから逃げていることだろう。
 あぁ、何ともお気の毒な……。

 ま、アレだね。
 とりあえず、ドンマイだ! 鷹野さん!
 それから……あとは……うん。


 鷹野さんと轟さん、いつまでも仲良くね!
 お幸せに!





〜Fin〜






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