プロジェクトLD 〜いつの間にか3年生〜

製作者:あっぷるぱいさん




 この作品は、プロジェクトシリーズの15作目です。
 この作品を読む前に、以下の作品を読んでおくことを強く推奨します。






<目次>
 1章 プロジェクトLD
 2章 パラコンボーイの努力
 3章 青春フェイズ
 4章 忘れっぽい女
 5章 笑劇のラスト・デュエル
 6章 タッグチーム結成
 7章 本の力
 8章 初・タッグデュエル
 9章 醜い争い(前編)
 10章 醜い争い(後編)
 11章 デュエル再開
 12章 パラコンボーイの本気
 13章 ZTT(前編)
 14章 ZTT(後編)
 終章 また、いつか……





1章 プロジェクトLD


 3月17日。時刻は朝の10時すぎ。
 どういうわけだか、僕がパラコンボーイ(「城之内克也のデッキに《寄生虫パラサイド》を混入した少年(ボーイ)」の略)と呼ばれ続けてずいぶんと経った。
 そんな僕は今、自分の通っている中学校の体育館にいる。いや、僕だけではなく、学校中の生徒全員と教員一同、さらには、学校内の人間ではない人たちもこの場にいる。春の日の光が差し込む体育館に、僕を含めた多くの人間がいるわけだ。
 ――と、ここで突然ですが、読者の皆さんにクイズです。3月17日、全校生徒、教員一同、学校内の人間ではない人たち。この4つのキーワードから、現在、体育館で何が行われているか、考えてみてください。正解は10行後。










 ――その通り。読者の皆さんが考えているとおり、今体育館で行われているのは「卒業式」だ。
 当然の如く、この行事には、1年生から3年生までの生徒全員が参加する。もちろん、教員一同も。そして、来賓の人たちや、卒業生の家族の人たちも参加している。
 この時期になると、毎年のように行われる行事、卒業式。去年までの僕は、いちいち立たされたり座らされたりする&卒業生全員に卒業証書が渡されるのをだまって待ってなきゃならない&校長先生を始めとする偉い人たちのありがた〜いお話を延々と聞いてなきゃならない&その他もろもろ……な、この行事のことを、ただひたすら面倒くさい行事だと考えていた。

 けど、そんな考えも、いざ自分が卒業生になってみると、少し変わるものだ。

 今年の僕は、去年とは違い、「面倒くさい」という気持ちが湧きあがってこない。
 多分、それは僕に限った話ではないはずだ。
 例えば、僕の前に座っている笹山君は、去年の卒業式では、卒業式の8割を睡眠時間に費やしていた。だが今年は、真面目な様子で式に参加している。
 例えば、僕の後ろに座っている大谷さんは、去年の卒業式では、卒業式の8割を友達とのおしゃべりタイムに費やしていた。だが今年は、どこか寂しげな様子で式に参加している。
 例えば、僕の右隣に座っている広本君は、去年の卒業式では、卒業式の8割をミニ四駆の改造タイムに費やしていた。だが今年は、《ダーク・ヒーロー ゾンバイア》のプラモデルを組み立てながら式に参加している。
 例えば、僕の左隣に座っている野島君は、去年の卒業式では、卒業式の8割をスマホでゲームをすることに費やしていた。だが今年は、スマホでエロサイトを見ながら式に参加している。
 例えば、僕の左斜め後ろに座っている榎本さんは、去年の卒業式では、卒業式の8割を推理小説の執筆に費やしていた。だが今年は、ボーイズラブ小説を執筆しながら式に参加している。
 例えば――。

「俺のターン、ドロー! スタンバイ! 卒業証書授与フェイズに移行!」

 と、ここで教頭先生の声が響く。どうやら、卒業証書授与の時間のようだ。
 うちの学校の場合、卒業証書は、卒業生1人1人に手渡す形式になっているから、卒業証書授与が終わるのには、結構な時間がかかる。在校生にとっては、かなりきつい時間帯だろう。僕もそうだった。

 ま、それはさておき。

 順番が前後したけど、読者の皆さんにご報告を。
 僕は今年の3月で中学校を卒業し、4月からは童実野高校に通う高校生となる。そう、あの武藤遊戯や海馬瀬人、城之内克也が通っていた童実野高校の生徒となるんだ。
 特に語られることはなかったけど、ちゃんと僕は高校受験に備えて勉強していたし、実際に童実野高校の入学試験も受けた。立派に、受験生として生活していたのだ。そりゃあもう、学校では大嫌いな数学の授業もちゃんと聞くようにしたし、塾にも通うようにしたし、筆記試験もやったし、面接もやったし、合格祈願のお守りも買ったし、受験日前日にトンカツも食った。
 そんなこんなで、無事に童実野高校への入学が決まったってことさ。全国のファンの皆さんは是非、僕のことを祝福してほしい。

 え? 僕がいつの間に3年生になってたのかって?
 何? そもそも、このシリーズには進級とかそんなの関係ないだろって?
 ……細かいことを気にしてはいけないよ。


 ご都合主義
 (魔法カード)
 都合のいい展開でストーリーを進行させる。


 ちなみに、武藤遊戯、海馬瀬人、城之内克也を始めとする、原作ではお馴染みのメンバーは、今年の3月に童実野高校を卒業するという。よって、4月に入学した僕が彼らに会うことはないようだ。

 ところで。
 皆さんは、僕の永遠のライバルであるあの傲慢女――鷹野(たかの)麗子(れいこ)のことを覚えているだろうか。彼女のことを覚えていない、または忘れた人のためにいっておくと、鷹野さんは、華麗なる容姿と抜群のデュエルセンスを持つが、性格が色々と破たんしている女の子だ。そう思ってくれれば問題ない。
 その鷹野さんは、なんとアメリカの高校に進学するらしい。なんでも、離婚した両親がよりを戻して、家族揃ってアメリカで暮らすことになったそうだ。それに伴い、鷹野さんは今年の9月からアメリカの高校へ進学するのだとか。
 聞くところによると、鷹野さんは明日の朝にはアメリカに発ってしまうらしい。

 とりあえず、僕がいいたいのは、僕と鷹野さんは離れ離れになるということ。何しろ僕は日本、鷹野さんはアメリカだ。こうなると当然、今後僕と鷹野さんは気軽に会うことができなくなる。

 察しのいい人はもう気づいたかも知れない。
 鷹野さんと気軽に会えなくなる。それはすなわち、何を意味するか。
 彼女にデュエルを挑むことが、簡単にはできなくなる、ということだ。

 これまで鷹野さんとは、学校が同じで、クラスも同じで、家も近かったから、デュエルを挑もうと思えば、すぐに挑むことができた。
 しかし、住んでいる国が違えば、そうは行かなくなる。何しろ日本とアメリカだ。そう軽々と行き来できるものではない。よって、これまでのように鷹野さんとデュエルをするのは難しくなってしまう。

 そんなわけなので、鷹野さんにデュエルを挑むことは、今後は基本的に不可能だと思われる。
 もちろん、僕が鷹野さんと戦うことは絶対にあり得ない、というわけじゃない、と思う。でも、まずあり得ないといっていいだろう。そもそも、会うこと自体なさそうだし。

 ということは、だ。
 このまま鷹野さんと別れてしまえば、僕は彼女に敗北したままってことになる。なんの話かって? デュエルの話に決まってるだろ!
 僕はこれまで何度も何度も何度も何度も鷹野さんとデュエルしてきたが、僕が彼女に勝てたことは1度たりともない。全戦全敗だ。
 なんとしてでも彼女に勝つ――その目標を胸にこれまで頑張ってきたけど、とうとうその目標を達成できないまま、別れのときがやってきてしまった。
 このまま別れてしまえば、事実上、鷹野さんを勝ち逃げさせることになってしまう……。

 ……って、冗談じゃないぞマジで!
 せめて……せめて一度でもいいから、あの人には勝っておかなきゃダメだろ! だって僕、主人公なんだぞ! 主人公のクセに負けっぱなしなのは、いくらなんでもまずいって!
 大体、負けっぱなしなんてのは、僕のプライドが許さない! なんとしてでも、ここで勝利を収めなくては! 全国のファンの皆さんだって、それを期待しているはずだし!

 というわけで。
 卒業式の今日、僕は鷹野さんと最後のデュエルをすることにした。
 今日が彼女と戦える最後のチャンス。そのくらいの気持ちで、僕は鷹野さんと、宿命のラスト・デュエルを行うことにしたのだ!

 そうと決めた僕は、前もって、鷹野さんとデュエルする約束をしておいた。今日、卒業式が終わった後、教室で彼女と最後のデュエルを行うことになっている。
 鷹野さんは傲慢な女で、僕のことなんて眼中にない、といった感じの人だが、売られたデュエルから逃げるような真似はしない。よって、二つ返事で僕の挑戦を受け入れた。
 ラスト・デュエル。最後だからこそ、鷹野さんは全力で僕を潰しに来る。完膚なきまでに僕を叩きのめし、完全なる勝利を収めようとしてくるだろう。
 けど僕だって、負けっぱなしで終わるつもりなど毛頭ない。これまでの受験生活の中、僕は鷹野さんにデュエルを挑むことはせず、勉強の合間を縫って、今日のデュエルのための準備をコツコツと重ねてきたんだ。そう簡単に勝ち逃げさせてやるつもりはない!
 鷹野麗子――今日こそ僕はあの女に勝つ! 絶対に勝つ! なんとしてでも勝つ! あの女に餞別として、「敗北」の2文字を突きつけてやる!

 この計画の名前はもう決めてある。
 その名は『プロジェクトLD(Last Duel)』。今日のラスト・デュエルで、鷹野麗子との因縁に終止符を打ってやる!
 これが最後のプロジェクトだ!


 最終回
 (罠・魔法カード)
 ご愛読ありがとうございました!





2章 パラコンボーイの努力


 そんなわけで、今日、いよいよ鷹野さんと最後のデュエルをすることになったわけだが……。
 先ほど述べたように、僕はこれまでの受験生活の中、鷹野さんとのラスト・デュエルに向けて、しっかりと準備をしてきた。
 何しろ、相手はあの鷹野さんだ。そう易々と倒せるような相手ではない。これまで負けっぱなしの僕はそれを痛いほど理解している。だからこそ僕は、数ヶ月をかけて、入念に準備を整えてきたのだ。
 さて、ここで読者の皆さんに、僕がこの数ヶ月間、どんな準備をしてきたのかを簡単に紹介しよう。この紹介を聞けば、僕がこの数ヶ月間、どれほど努力して来たのかが分かるはずだ。全国のファンの皆さんは、涙腺が崩壊すること間違いなしだろう。
 僕の行ってきた努力は主に分けて4つある。1つずつ紹介していこう。


<パラコンボーイの努力(1) 敵に勝つには敵を知れ!>

 1つ目の努力。それは、鷹野さんを知ることだ。……いや、別にプライベートを知ろうって話じゃない。鷹野さんのデッキスタイルだとか戦術とかを知るってことだ。彼女に勝ちたければ、その点を詳しく知り、分析する必要がある。そうすれば、おのずと弱点だって見えてくるはずだし。
 というわけで、僕は鷹野さんとデュエルしたときのことをよ〜く思い返してみた。これまで僕は、何度も何度も何度も何度も鷹野さんとデュエルを行っている。それらの戦いから、彼女のデッキスタイルを分析してみようってわけだ――。

 ――と思ったのが間違いだった。
 よくよく考えてみたら、あの人のデッキスタイルを分析するなんて不可能なんだよね。
 どういう意味かって? ちょっと思い出してみてほしい。ほら、鷹野さんってさ、使ってるカードに統一感がないじゃん。いろんなカードを使ってくるから、デッキスタイルがどういったものなのか分からないんだよ。彼女のデッキを一言で表現するなら、「意味不明」ってところだ。
 デュエルする度に疑問に思うんだけど、あの人、一体どんなデッキ構築してるんだろうか。普通のデッキ構築じゃ、あんな意味不明なデッキができるわけないし……。もしかすると彼女、デュエルする度に毎回、その場その場で都合のいいカードを創造してるだけなんじゃないだろうか。「最強デュエリストのデュエルは全て必然! ドローカードさえもデュエリストが創造する!」みたいな感じで。……まさかな。
 ともあれ、鷹野さんのデッキは何がなんだか分からない。それだけに分析のしようがない。当然、弱点も探しようがない。

 というわけで、鷹野さんのデッキスタイルから弱点を探すのはあきらめました。やってられるか!


<パラコンボーイの努力(2) 《うずまき》対策!>

 2つ目の努力。それは《うずまき》対策だ。
 鷹野さんといえば、狂った効果を持つフィールド魔法《うずまき》を使ってくることで有名だ。あれが発動すると、デュエルのルールが原作ルールからOCGのルールに変貌してしまう(たまにスピードデュエルにもなる)のだ。しかも、ルールだけではなく、カードテキストまでOCG仕様になってしまう。


 うずまき
 (フィールド魔法カード)
 フィールドは「うずまき」となり、全ての常識は覆る。


 ルールがOCGルールになると、原作デュエルにおける常識の大半が覆される。例を挙げれば、魔法・トラップカードを1ターンに何枚でも手札から出せるとか、相手ターンに使える魔法カードは速攻魔法だけとか、バトルステップの巻き戻しとか、手札融合とか、融合モンスターが融合したターンに攻撃できるとか、強制発動と任意発動の違いとか、タイミングを逃すとか……。
 《うずまき》なんていうチートカードがまかり通る時点で、このシリーズの作風が極めていい加減であることがよく分かるが、まあ、それはひとまず置いといて。
 たとえ鷹野さんが《うずまき》を使ったとしても、僕は冷静に対処しなければならない。何もあわてることはない。向こうがOCGルールに変更してきたら、それに則って戦えばいいだけの話なんだから。
 そのために僕は、OCGルールをよく勉強しておいた。《うずまき》が使われた際、しっかりと対処するためにね。
 その甲斐もあって、今ではOCGルールについて知らないことはほとんどない。だから、《うずまき》を使われても冷静に対処できる自信がある。これに関してはもう問題はないだろう。
 鷹野さんよ、《うずまき》を使いたいなら使ってくるがいいさ! けどね、今の僕はOCGルールごときでビビったりしない! むしろ、OCGルールでデュエルしたいくらいさ! いつでも使ってこい!


<パラコンボーイの努力(3) 『ゴキブリ・ロック』って、結局なんなのさ?>

 回収していない伏線
 (罠カード)
 そうそう、「ゴキブリ・ロック」のこと忘れてた。


 3つ目の努力。それは、『ゴキブリ・ロック』に関すること。
 もはや、どれだけの人(作者含む)が覚えているか分からないが、本シリーズにおいて、未だ回収されていない伏線として、謎の戦術『ゴキブリ・ロック』というものがある。これは、僕が過去にある事情で牢屋にぶち込まれていたとき、隣の牢屋にいた牛尾という人が口にした戦術だ。聞くところによると、牛尾さんは『ゴキブリ・ロック』の使い手らしい。
 その名からして、おそらくゴキブリカードを利用したロック戦術だと思われる『ゴキブリ・ロック』。これをマスターすれば、鷹野さんに対抗するための武器になるかも知れない、と僕は常々思っていた。思っていたんだ。決して忘れてはいない。忘れてはいないよ、うん。ホントだよ。嘘じゃないよ。
 とにかく、『ゴキブリ・ロック』を完全習得すれば、鷹野さんとも渡り合えるはずだと思った僕は、『ゴキブリ・ロック』の正体を知るため、受験勉強の合間を縫って牛尾さんに会いに行った。そう、あれは先月のことだ。


 ★


 〜先月〜

 その日の夕方、僕は『牛丼野郎』という店に向かって歩いていた。牛尾さんがこの時間帯、高確率であの店にいることは調査済みだった。
『牛丼野郎』に辿り着くと、店内を見渡し、牛尾さんを探してみた。ざっと店内を見渡してみると、すぐに牛尾さんの姿は見つかった。体つきがデカいから、結構目立っている。
 牛丼を食べている牛尾さんに近づき、声をかけた。
「こんにちは、牛尾さん」
「ん? おぉ、誰かと思えばパラコンボーイ。どうした?」
 挨拶を交わすと、僕は牛尾さんの隣に座り、本題に入った。
「実は、折り入っての頼みがあるんです。牛尾さんって、『ゴキブリ・ロック』って戦術を使うんですよね? それについて教えてほしいんです」
 単刀直入に僕は言った。すると牛尾さんは、難しい顔をしながら答えた。
「『ゴキブリ・ロック』を教えてほしい……か。いいだろう、話してやる。まず、前置きというか、背景から軽く説明してやろう。かつて、太平洋を漂流していたある男が、バナナを食いながら相対性理論を理解しようと奮闘していたんだ。しかし、彼はそれを理解することはできず、どういうわけか松尾芭蕉の名を叫んだ。すると、彼の脳裏にあるフレーズが過ぎったんだ。そのフレーズこそ、『ピケル萌え』さ……」
 牛尾さんは長々と、『ゴキブリ・ロック』の背景(らしきもの)を話して下さった。けど違う! そんな話はいらないんだよ! 本題に移ってほしいんだって! 前置きはいいから! そう思った僕は、すぐに牛尾さんの話を止めた。
「あ……あの……。ちょっと今急いでるので、要点だけ教えてくれませんか?」
「ん? 要点か。悪い悪い。つい無駄話をしてしまったぜ」
 無駄話だったなら初めからしなくていいじゃん。さっさと本題に移ってくれ。と心の底から思った。
 牛尾さんはコップに入った水をがぶりと飲むと、僕の目を見た。
「しかし、『ゴキブリ・ロック』か……。パラコン、お前そんなに知りたいのか?」
 僕はうなずいた。
「どうしても知りたいんです! お願いです、教えてください!」
「教えてやるのは構わないけどよ、知ってどうする気だ?」
「もちろん、『ゴキブリ・ロック』デッキを作るに決まってるじゃないですか!」
 僕は迷わず告げた。すると、牛尾さんはいきなり笑い出した。
「はははっ! 『ゴキブリ・ロック』デッキを作るだって!? そりゃ無理な話だ! パラコンよぉ、『ゴキブリ・ロック』デッキを構築することなんてできやしないぜ!」
 牛尾さんは手をひらひら振ると、牛丼を口へと運んだ。その姿に向かって僕は言った。
「やっぱり、『ゴキブリ・ロック』デッキは構築難易度の高いデッキみたいですね。それでもかまいません! 教えてください! 僕、なんとしても『ゴキブリ・ロック』を物にしたいんです!」
 詳細不明の『ゴキブリ・ロック』だが、なんとなく複雑そうで、デッキ構築が難しそうだなという気はしていた。なので、牛尾さんの反応は想定内だった。
 たとえどれだけデッキ構築が難しくても、それを乗り越えてみせる! そして、『ゴキブリ・ロック』を物にして、鷹野さんを倒す! 当時の僕にはそれだけの覚悟があった。
 しかし、牛尾さんは、そんなやる気満々な僕を、どこか憐れむような目で見ながら言った。
「いやいや、パラコン。そういう意味じゃなくてだな。アレだよ、『ゴキブリ・ロック』デッキは――」
 牛尾さんは数拍おいてから続けた。





「デッキ組むのに必要なカードが、全部禁止カード入りしちまったんだ。だから、今の環境じゃもう組めないぜ」





「……!?」


 ★


 今でもあのときの出来事は鮮明に思い出せる。そのくらい、とんでもなく衝撃的な出来事だった。
 まさか……まさか『ゴキブリ・ロック』デッキが、現環境ではもう組めないデッキになっていたとは!
 牛尾さんによれば、『ゴキブリ・ロック』デッキは、構築不可能なデッキになって既に1年以上経過しているらしい。もはや過去のデッキだった。
 現在のM&W(マジックアンドウィザーズ)は、1年に4回――2月、4月、7月、11月の1日に制限改訂(=禁止・制限カードの内容の変更)が行われる。牛尾さんから衝撃の事実を知らされた当時は2月上旬だったので、2月の制限改訂が行われて間もない頃だった。つまり、次回の制限改訂日は4月1日ということになり、少なくともその日までは、『ゴキブリ・ロック』デッキは組めないということになる。
 4月1日ともなれば、鷹野さんは既にアメリカに旅立ってしまっている。よって、今日3月17日に行われる鷹野さんとのラスト・デュエルで『ゴキブリ・ロック』を使うことはできないということになってしまう。
 その結論に至った僕は、もう『ゴキブリ・ロック』の内容を聞く気も失せ、『牛丼野郎』を後にした。鷹野さんとのデュエルで使えないのなら聞いたところでなんの意味もない。

 というわけで、『ゴキブリ・ロック』で鷹野さんに挑む作戦は見事に消滅したのだった。こんな展開ってアリかよ!?


<パラコンボーイの努力(4) 復活の《マスター・オブ・ゴキボール》!>

 さて、僕の努力紹介コーナーもついに最後を迎えた。最後となる4つ目の努力は、《マスター・オブ・ゴキボール》に関することだ。
 皆さん、《マスター・オブ・ゴキボール》のことを覚えているだろうか。《マスター・オブ・ゴキボール》は、《ゴキボール》3体が融合した究極のモンスターだ。このモンスターは登場当初、次のような能力を持っていた。


 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター
 星12/地属性/昆虫族/攻5000/守5000
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが破壊された時、空いている自分のモンスターゾーン全てに「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を特殊召喚する。
 「ゴキボールトークン」はルール上、カード名を「ゴキボール」として扱う。


 見ての通り、《マスター・オブ・ゴキボール》は5000という破格の攻撃力を持ちながら、破壊されても新たな《ゴキボール》を生み出すという、その名に恥じない超強力モンスターだったのだ。
 だが、その強さは問題視されており、あるとき、とうとう海馬コーポレーションから、正式に《マスター・オブ・ゴキボール》のエラッタ(テキスト変更)をすることが発表されてしまったのだ!
 で、変更後のテキストは次のようなものだ。どう思う?


 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター
 星5/地属性/昆虫族/攻1800/守2100
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、自分のデッキ・手札・墓地から「ゴキボール」1体を特殊召喚する。


 このテキストを初めて見たとき、あまりの弱体化に気を失いそうになった。
 《ガジェット・ソルジャー》レベルの攻撃力! 「戦闘による破壊」でしか発動しない、微妙すぎる《ゴキボール》召喚能力! これを弱体化といわずして何という!
 このテキスト変更が発表された時、僕はマジで焦った。《マスター・オブ・ゴキボール》は僕の切り札であり、それが弱体化するということはつまり、僕のデッキが弱体化するということなのだ。恐ろしい話だった。
 このままではいけないと思った僕は、M&Wを作っている会社、I2(インダストリアル・イリュージョン)社に、《マスター・オブ・ゴキボール》に関する意見を書いたハガキを何枚も何枚も送りつけた。意見の内容は、大体次のような感じだ。

『《マスター・オブ・ゴキボール》のエラッタはやり過ぎである。弱体化するにも限度があるはず。これでは完全に別物だ。』

『現環境ではこれほどの弱体化は必要ないと思われる。2度目のエラッタを行い、もう少し強いモンスターにしても良いのでは?』

『エラッタする必要が本当にあったのだろうか。パワーインフレの進む現環境では、「攻撃力5000で破壊されたときにトークンを発生させるモンスター」程度でゲームバランスが崩れるとは思えない。』

『むしろ、エラッタ前より強くしても問題ないのでは? ぶっちゃけ現環境だと「攻撃力5000で破壊されたときにトークンを発生させるモンスター」程度じゃやっていけないし』

『大体さ、今のM&Wには、《マスター・オブ・ゴキボール》以上におかしいモンスターがいくらでもいるじゃん。例えば《憑依装着−ヒータ》とかさ。《マスター・オブ・ゴキボール》を規制するくらいならヒータを規制しろよ。』

『しょうがないから、僕の考えた最強の《マスター・オブ・ゴキボール》のテキストを送ってやるよ。これ参考にして《マスター・オブ・ゴキボール》強くしろよな。(〜〜以下、僕の考えた最強の《マスター・オブ・ゴキボール》のテキスト〜〜)』

 ――と、こんな感じの意見をハガキに書いて、I2社に送りまくった。
 その努力は、去年の終わりごろに突如として報われた。
 なんと、I2社の公式サイトにて、《マスター・オブ・ゴキボール》に2度目のエラッタが行われることが発表されたのだ!
 学校にてその情報を得た僕は、すぐさまスマホでI2社の公式サイトにアクセスした。そして、ドキドキしながら、そこに表示されている新生《マスター・オブ・ゴキボール》のテキストを見た。
 その内容は次のようなものだった。


 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター
 星12/地属性/昆虫族/攻5000/守5000
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このモンスターは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。
 このモンスターは融合したターンでも攻撃可能。
 このモンスターがフィールドに存在する限り、自分が受けるダメージは0になる。
 このモンスターがフィールドから離れた時、相手フィールドのカードを全てゲームから除外し、「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を可能な限り自分フィールドに特殊召喚する。「ゴキボールトークン」はカード名を「ゴキボール」として扱う。


「強ええええええええええええええええっっっっ!」
 あまりの強化っぷりに、僕はその場でそう叫んで腰を抜かした。
「せめて、初期の《マスター・オブ・ゴキボール》と同程度の強さくらいにはなってほしいな〜」などと思っていたら、全然そんなことなかった。思いっきり初期のものより強くなっていた。1度目のエラッタとは一体なんだったのかと思うくらいの強化っぷりだった。
 攻撃力と守備力が5000あるのは、初期の《マスター・オブ・ゴキボール》と同じ。しかし、特殊能力の強さが段違いだ。まず、融合ターンに攻撃できる速攻能力を持っている。そして、自分へのダメージを全て0にする能力も持っている。これら2つの能力は、初期の《マスター・オブ・ゴキボール》にはなかったものだ。これだけでもビックリだが、もっとビックリなのは、《ゴキボールトークン》生成効果のほうだ。
 初期の《マスター・オブ・ゴキボール》は、破壊されたときに《ゴキボールトークン》を生成できた。だが、新生《マスター・オブ・ゴキボール》は、手段問わずフィールドから離れてしまえば、その力を発揮することができる! しかも、同時に敵フィールドのカードを全除外してしまう、恐ろしいオマケつき! なんなんだよこの強さは!
 《マスター・オブ・ゴキボール》の恐るべき最新テキストを目の当たりにした僕は、ものすごいテンションが上がった。《マスター・オブ・ゴキボール》がここまで強化したなら、僕のデッキも大幅に強化される。鷹野さんに勝つのも夢じゃない。そう思ったら、もう落ち着いていられなかった。その場で月面宙返りしたい気分だった。できないからしなかったけど。
 ともあれ、僕の努力の甲斐あってか、《マスター・オブ・ゴキボール》は大きく強化された。これで僕のデッキに最強の切り札が備わったことになる。パワーアップした《マスター・オブ・ゴキボール》の力で、今日こそ鷹野さんに勝ってやるぜ!

 ちなみに。
 僕がI2社に送りつけた、「僕の考えた最強の《マスター・オブ・ゴキボール》のテキスト」とは次のようなものである。


 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター
 星12/地属性/昆虫族/攻∞/守∞
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このモンスターが特殊召喚に成功した時、自分はデュエルに勝利する。


 ★


 そんなこんなで、僕の行ってきた努力を簡単に紹介してきたけど、いかがだっただろうか。感動して声も出ないって? そうかそうか。まあ、遠慮せずにモニター前で涙を流してほしい。人間、泣きたいときは思い切り泣いたほうがいい。すっきりするよ。
 それはそうと、これほどの努力をしてきたんだから、いい加減今日こそは僕が鷹野さんに勝つという展開が起こってもいいはずだ。ていうか、今日負けたら負けっぱなしで終わることになってしまう。もしもそんなことが起きたら、今までの話はなんだったのかということになる。それはいくらなんでも許されないだろう。
 今日が最後。もうこれで終わりなんだ。僕が負けるという終わり方はあり得ない。僕は絶対に勝たなければならない。勝って、鷹野さんを超えるんだ!

「――田村恭平」
「はい!」

「――津島義一」
「は〜い」

「――徳井啓介」
「ウッス」

 ……と、あれこれ考えているうちに、ウチのクラスの連中が次々に担任の先生に名前を呼ばれ、ステージに向かって歩いていた。ステージに上がったクラスメイトは、校長先生から卒業証書を受け取っている。
 そういや、まだ卒業証書授与が続いてるんだよな。いつの間か、ウチのクラスの番まで進んでいたらしい。
 そろそろ僕も呼ばれるはずだ。ま、せっかくの卒業証書授与だ。きっちりと気を引き締めて行こうじゃないか。
 僕は気持ちを落ち着かせ、担任が僕の名前を呼ぶのを待った。

「――永井拓郎」
「はい!」

「――西田俊輔」
「へい」

「――野島順一」
「はい」

「――パラコンボーイ」
「はい! ……って、ちょっと待てっ!」

 僕は思わず叫んでしまった。
 だってそうだろ!? なんで担任の先生が僕のこと「パラコンボーイ」って呼ぶんだよ!? しかも、卒業式という場で!
「ん? どうしましたか、パラコンくん」
 先生のほうはというと、なんでもないかのように僕に訊ねてくる。なんでそうなるんだよ!?
「先生! 僕の名前はパラコンボーイじゃありません!」
 しっかりと抗議した。どう考えてもおかしいだろ! 卒業式の場で「パラコンボーイ」だなんて、人をバカにしているとしか思えない!
「あれ? チミの名前はパラコンボーイじゃありませんでしたっけ?」
 先生が何故か訊ねてくる。いや、意味が分からん! あんた、今まで僕の名前をなんだと思ってたんだよ!?
「違いますよ! 僕の名前はパラコンボーイじゃありません! 僕の名前は――」
 僕は大勢の人が見ている中で、自分の本名を大声で口にした。
 すると、その瞬間――!





 かくかくしかじか
 (魔法カード)
 話を短縮し、ストーリーを高速回転させる。





 ★


 かくかくしかじかで、いつの間にか卒業式は終わり、僕は教室で自分の席に着いていた……ってなんでだよ!?
 い……一体何があった!? あのとき、僕は大声で本名を名乗って……それから……――?
 ダメだ! 魔法カード《かくかくしかじか》の効力により、卒業式が強制終了されたせいで記憶が曖昧になってる! こんなのってアリかよ!? 無茶苦茶じゃねーか!

 ……あ、そういえば。

 僕は、知らぬ間に手に握られていた筒型の入れ物から、卒業証書を取り出してみた。
 そう、いくらなんでも、卒業証書には僕の本名がちゃんと書いてあるはず!
 期待を込め、丸まった卒業証書をゆっくりと開く。これさえ見れば、僕の本名が明らかに……!










 …………。
 もういい。もう突っ込むまい。
 鼻血つけた卒業証書をそのまま生徒に渡すのかよとか、しかもよりにもよって僕の名前が書かれている部分に鼻血たらすんじゃねーよとか、「鼻血ついちった メンゴwww」って謝る気ゼロだろとか、「以下、めんどいので略。」ってやる気なさすぎだろとか、突っ込みたい部分は色々あったが、もうどうでもいい。
 僕は卒業証書を筒の中に入れると、適当に近くにいた友人と駄弁り始めた。

 チキショオ! こんな学校大っ嫌いだあああああああああああああああああああ!





3章 青春フェイズ


 教室に戻ってきてから20分くらいした後、担任の先生が教室に入ってきた。
 それから10分ほど先生から話があり、その後、卒業生は解散、ということになった。
 さて、ここから卒業生は忙しくなる。仲の良いクラスメイトや、部活動の後輩たちと記念写真を撮ったり、世話になった先生に挨拶しに行ったり、卒業アルバムにメッセージを書き込んだり、体育館裏で告白タイムに突入したり、制服の第2ボタンの受け渡しをしたりするわけだからね。まあ、僕の場合、告白イベントとか第2ボタン受け渡しイベントとかは発生しないんだけど。チキショオ!
 こほん。とりあえず僕は、クラスメイトと記念写真を撮ったり、卒業アルバムにメッセージを書き込みながら、教室からクラスメイトがいなくなるのを待っていた。
 鷹野さんとのデュエルは、「卒業式終了後、教室内に誰もいなくなったら始める」ということになっている。というのも、今は教室内がかなり賑やかになっている。こんな騒がしい中じゃ、落ち着いて宿命のラスト・デュエルを行うことなんてできないからね。
「パーラコーン君っ!」
 よく話していた男友達の卒アルにメッセージを書き終えたときだった。横から元気な声が聞こえた。声のほうを見ると、ショートヘアの少女が明るい笑みを浮かべていた。
 彼女を見た僕は、超さわやかな笑顔を浮かべた。
「やあ、真田(さなだ)さん。なんだい?」
 声をかけてきたのは、クラスメイトの女の子、真田杏奈(あんな)さんだった。彼女は手に卒アルを持っている。もしかして、卒アルにメッセージ書いてほしいのかな?
「受験とかで忙しくて訊けなかったんだけどさ、パラコン君、最近何かレアカードゲットした?」
 …………。
 まさか、このタイミングでそんな質問をしてくるとは。卒業式終了直後のこのタイミングで。
 真田さんは以前にも何度か、僕にこうしてレアカードを持っているかどうかを聞いてきたことがあったっけな。なんだか懐かしい気がする。
 真田さんの表情を見た。彼女の目はキラキラと輝いている。何かこう……レアカードをもらえることを期待している目だ。


 カードあげるぜ!
 (魔法カード)
 相手が欲するカードを自分があげる事により、相手の自分に対する好感度が20ポイントアップする。


 ここでカッコよく、「実はこないだ1枚手に入れたんだ。あ、そうだ。卒業の記念にこのレアカード、真田さんにあげるよ」とでも言って真田さんにレアカードをあげれば、真田さんの僕に対する好感度が少し上昇するかもしれない。けど、今さらそんなことしてもなぁ。だって真田さん、今は彼氏持ちだし(ちなみに相手は元サッカー部部長の松本(まつもと)君)。
 ていうかそんなの関係なしに、今すぐ人にあげられるようなレアカードなんて持ってない。デッキの中にはレアカードが何枚かあるけど、まさかそいつらを渡すことなんてできないし。というわけで、僕はこう答えるしかない。
「うーん、特にレアカードは手に入れてないなぁ」
「あ、そうなんだ。それじゃあ、元気でね!」
 僕の答えを聞くと、真田さんはとっとと僕から離れて、近くにいた女子生徒とぺちゃくちゃ喋り出した。
 ……まあ、予想してたけどさ、この露骨極まりない反応。真田さんにとっちゃ、レアカードくれない僕なんて石ころほどの価値もないだろうし。
 はぁぁ〜〜とため息をつきながら、僕はその辺を適当に歩き回り、友人(全部男子)と記念写真を取ったり、友人(全部男子)の卒アルにメッセージを書き込んだりした。そうしている中、教室の入口から突然大声が響いた。

「鷹野先輩、いますか!? 出てきてくださいっ!」

 教室の中が一瞬静まり返った。僕は驚きのあまり、反射的に声のしたほうを見た。
 ツインテールの少女がいた。かなり小柄だ。女子の中でも小さいほうだろう。嬉々とした表情を浮かべたその少女は、きょろきょろしながら、「鷹野先輩! 隠れてないで出てきてくださいよー!」と叫び、ずかずかと教室の中に入ってくる。クラスメイトたちはそんな彼女に奇異なものを見る視線を向けている。
 彼女は、このクラスの女子じゃないな。というか、この学年の女子じゃなさそうだ。上履きの色が僕ら3年生と違う。あの色の上履きは2年生だ。誰だろう?
 ツインテール少女は鷹野さんを探しているようだった。けれど、鷹野さんからの反応はなかった。僕は教室内をざっと見渡してみたが、鷹野さんの姿は見られない。ここにはいないみたいだ。
 ツインテール少女も同じ結論に達したのか、顔つきを不機嫌なものへと変えた。その顔が僕の顔と合う。
 その瞬間、少女は僕の胸倉をつかんできた。何すんだこいつ!
「おいパラコン、テメー! 鷹野先輩はどこだ! 今すぐ吐けや!」
 顔を近づけ、少女が叫ぶ。かなり可愛らしい顔をしていた。それを見て、ぴんと来るものがあった。
 この顔、前にどっかで見たような?
 いや、それよりも、周囲の視線が気になる! みんなこっちに注目してるじゃないか!
「ちょっ、ちょっと待った! 廊下に出よう!」
「あん!?」
 僕は、熱くなっているツインテール少女の手を引っ張って廊下へと連れ出した。廊下に出ると、少女は僕の手を振り払い、再び胸倉をつかんできた。
「パラコン答えろや! 鷹野先輩はどこだ!?」
「その前に! 君、前にどこかで会ったことあるっけ?」
 僕が問うと、少女は顔を思い切り歪め、目を剥いた。
「はぁぁぁぁっ!? テメー、俺のこと忘れたのかよ!? ふざけんなよ!」
「ご、ごめん……って、あれ? 『俺』?」
 少女の一人称が「俺」であることに気づいたとき、僕の脳裏を過ぎるものがあった。
 そうだ! この娘には会ったことある! たしか、この娘は……そう……!
(とどろき)さん! 轟桃花(ももか)さんだろ! 思い出した!」
「思い出すの遅いんじゃボケェェェェ!」
 ツインテール少女――轟桃花さんは、僕のわき腹を思い切り殴ってきた。痛い。

 皆さんは、轟桃花さんのことを覚えているだろうか?
 僕は以前、当時1年生だった彼女と、校庭にある「勝利を導く桜の木、通称アルカトラズ。平たくいえば、この木の下で告白すれば必ず成功するとかなんとかいわれてる伝説の木」の下で会ったことがある。轟さんは僕の下駄箱に手紙を入れ、その場所に僕を呼び出したのだ。
 女の子からの手紙で、伝説の桜の木の下に呼び出される――なんだか甘酸っぱいイベントが起きそうな気配が漂うが、そんなイベントが起こることはなかった。轟さんの目的は、僕と決闘することだった。彼女が僕の下駄箱に入れた手紙は、ラブレターなんて可愛らしいものではなく、単なる果たし状だったのだ。
 実は、轟さんは女の子でありながら、同じく女の子である鷹野さんに恋をしていた。ところが、鷹野さんは僕に対して好意を持っている(と轟さんは思い込んでいる)ため、轟さんのほうには振り向かない。轟さんはそれが気に食わず、僕を鷹野さんから引き離すべく決闘を挑んできたのだった。

 ……とまあ、そんな感じのことがあったわけだ。うん、あったよなあ、そういうこと。
「で、轟さん。鷹野さんを探してるんだっけ?」
 わき腹を擦りながら訊ねる。轟さんは間を置かず答えた。
「そうだよ! さっきからそう言ってんだろうが! 鷹野先輩はどこだ!? 俺のこの想いを告白したいんだよ!」
 迷いを一切感じさせない、実に清々しい口調だった。告白か。どうやらまだ彼女は鷹野さんに恋し続けているらしい。
 それはそうと、鷹野さんは、さっき教室内を見渡してみたときには姿が見えなかったな。
「教室にはいないみたいだね。ケータイにかけたみたら?」
「俺、ケータイ持ってねえんだよ! それに、電話はダメだ! いきなり鷹野先輩の前に現れてびっくりさせてやりたいからな! 電話したら、その時点で感付かれちまうかもしれねえ。それじゃあダメなんだよ!」
 どうやら、轟さんなりのこだわりというものがあるらしい。
「轟さん、今も鷹野さんのことが好きなのか」
「あったりめえよ! 俺は鷹野先輩一筋だぜ!」
 轟さんは胸を張った。すっごい微妙ではあるが、膨らみがあった。
「ふふん! 今日こそ鷹野先輩を俺の女にしてやるぜ! そのために、超強力な口説き文句も考えてきたんだからな! パラコン! 悪いが貴様のようなヘタレクソゴミカス野郎なんかには鷹野先輩は渡さねえぜ!」
 ビシッとこちらを指差す轟さん。このロリ娘、先輩に対してヘタレクソゴミカス野郎とか、ずいぶんと生意気極まりないこと言ってくれるじゃないか。
 まあいい。僕は心の広い男なのだ。後輩の失言の1つや2つ見逃してやる。つーか、どうでもいい。どうせ会うのは今日で最後だろうし。
「俺の激甘口説き文句で鷹野先輩をメロンメロンにしてやるんだ。そのときが楽しみだぜ! あ、そうそう、告白といえば、定番のアレもやんなきゃな! 卒業式定番のあのイベント! 好きな人からアレもらうイベント!」
 轟さんが思い出したように手を叩いた。好きな人からアレもらう卒業式定番のイベントって……アレか。
「第2ボタン受け渡しのこと?」
 これしかないだろう。そう思いながら問うと、轟さんは「はぁ?」と目を吊り上げた。
「お前何言ってんの? 意味分かんねえよ。第2ボタン受け渡しイベントなんて聞いたことねえぞ」
 あ、あれ? 違うのか。ていうか轟さん、第2ボタン受け渡しの意味知らないのか。意外だな。
「じゃあ、イベントっていうのは何?」
「けっ! パラコン、お前そんなことも分かんねえのかよ! これだからヘタレクソゴミカスクズボケチンカス野郎は困るんだ! 卒業式定番のイベントっていったらあのイベントしかないだろ!」
 呆れたように言うと、轟さんは一呼吸置いた。そして、はっきりと告げたのだった。

「卒業式定番のイベント! それはブラジャーの受け渡しだっ!」

 廊下と教室に、轟さんの大きな声が響いた。それを受け、騒がしさを取り戻しかけていた周囲が再びシンと静まり返った。
 え……えっ……えっ? なになに? 今この人、なんて言った? なんかブラジャーとか言った気がするんだけど……。
「あの、轟さん……君は今なんて……」
「あぁ? 聞き取れなかったのかよ? ブラジャー受け渡しっつったんだよ!」
 轟さんはためらう様子を一切見せずに言った。彼女の発した「ブラジャー」という言葉が周囲に響き渡っていく。
 僕は混乱する気持ちを落ち着かせながら、小声で返した。
「……ブラジャー受け渡しって……なんでブラジャーなの?」
「はっ? パラコン、お前何言ってんだよ! 卒業式に好きな人からもらう物といったらブラジャーしかないだろ! こんな常識も知らねえのかよ!」
 そんな常識聞いたことありません。初めて聞いたよそんなの。
 ていうか、「ブラジャー」なんて単語を大声で出すなよ! 周りの人がこっち見てるじゃん!
「轟さん、もう少し声のボリューム落として……」
 どうにか轟さんを落ち着かせようとしたが、轟さんは落ち着くどころが1人でどんどん盛り上がっていく。
「俺は今日、鷹野先輩に告白して、先輩からブラをもらうんだ! あぁ、鷹野先輩のブラ、きっと大きいんだろうなぁ! そんでもって、きっといいニオイがするんだろうなぁ! 絶対アレだぜ、なんかこう、あまーい感じのニオイがするんだろうぜ! ああっ、考えただけで血がたぎって来るぜ、くそっ! 絶対手に入れてやるからな、鷹野先輩のブラ! 先輩のブラを手に入れれば、今夜はお楽しみだぜ、コノーッ! ああぁっ! なんか全身がムラムラしてきた……うぉっぷ! は……鼻血がっ!」
 轟さんは顔を真っ赤にしたかと思うと、思い切り鼻血を出した。うわっ、何してんだこの人! もうついて行けねえ!
 ツッコむ気力を失った僕は、早いところ鷹野さんに轟さんの暴走を止めてもらおうと、もう1度教室内をよく見渡してみた。けれど、やはり鷹野さんの姿はどこにも見当たらなかった。
 近くにいたクラスメイトに訊いてみたところ、どうやら鷹野さんは生徒会室に行っているらしい。生徒会の役員たちに挨拶しに行ったのだとか。そういえば、鷹野さんは生徒会の役員として働いていたっけな。
「というわけだから、鷹野さんはここにはいないよ。生徒会室に行けば会えるかもしれない」
「生徒会室だな! ようし分かった! 待ってろよ鷹野麗子ぉぉぉっ!」
 轟さんは鼻血を押さえながら走り去っていった。
 その姿を見ながら、僕は深々とため息をついた。なんか猛烈に疲れてしまった。轟桃花――いろんな意味で厄介極まりない娘だな。
 鷹野さんとのラスト・デュエル前だってのに、疲れてしまうのは良くない。疲れで集中力とか思考力とかが落ちたりしたら困る。教室で大人しく待っていよう――そう思い、僕は教室内に戻ろうとして、ふと足を止めた。轟さんが去っていった方向に、気になる光景を見たからだ。
 そこは、隣のクラスの教室前の廊下だった。そこで2人の生徒が向かい合っている。1人は男子、もう1人は女子だ。どちらも見覚えのある顔だった。
「あのっ、代々木(よよぎ)君! えーと、あのぅ……」
 女子生徒のほうがどこか恥ずかしそうに切り出した。どことなく控えめな印象のボブカットの少女だ。
「なんだい、川原(かわはら)
 代々木と呼ばれた男子生徒が返す。こちらは落ち着いた口調だ。凛々しさと精悍さを併せ持った端正な顔に柔和な笑みが浮かんでいる。
 女子生徒のほうは川原静江(しずえ)さん。そして、男子生徒のほうは代々木祐二(ゆうじ)だった。2人とも隣のクラスの生徒だが、2年生のときは僕と同じクラスだった。
 川原さんといえば、過去に何度も、「僕を経由して」代々木にバレンタインデーのチョコをあげたことのある少女だ。彼女のことは僕の中で強く印象に残っている。こう、トラウマ的な意味で。
 一方で代々木といえば、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、女の子にモテモテと、一切の隙がない完全無欠の超人だ。こちらも僕の中で強く印象に残っている。こう、マインドクラッシュしてやりたい忌まわしい男ランキング第1位的な意味で。
 そんな、強く印象に残っている2人が対面している。何をしているのだろうか。
 疑問に思っていると、川原さんが俯きながら何かを代々木に差し出した。小さな箱のようなものだった。ピンク色の紙で綺麗にラッピングされている。
「こ、これっ、う……受け取ってくだしゃいっ!」
 川原さんは一生懸命な口調で言った。最後、ちょっと噛んでいた。
 代々木は一瞬だけ目を丸くすると、箱を手に取った。箱にはメッセージカードが添えられていたらしく、彼はそれを手に取って見た。ほんのわずかに不思議そうな顔をする代々木。だが彼はすぐに柔和な笑みを浮かべてみせた。
「分かった。受け取るよ」
 川原さんはぱっと顔を上げた。その顔は真っ赤になっていた。
「あ、あっ……ありがとうごじゃいやしゅ! そ、それじゃあ!」
 若干おかしな口調になりながら、川原さんはペコペコ頭を下げ、隣のクラスの教室へと逃げるように駆け込んでいった。後には代々木だけが残された。
 一連のやり取りを見て、僕はすぐに事情を察した。これはいわゆるアレだろう。川原さんが代々木にプレゼントを渡したとかそういう感じのものだろう。卒業記念のプレゼントか、別れの挨拶の意味を込めたプレゼントか、あるいは、告白の意味を込めたプレゼントか……。
 何やら甘酸っぱい雰囲気が漂ってきた。けど、僕には1ミリたりとも関係ないことなので、とっとと教室に戻ることにした。
「あ、パラコン! 待ってくれ!」
 ところが、そんな僕を呼び止めた者がいた。なんと代々木だった。僕はゆっくりとした動作で振り向いた。
 代々木は腹立たしいほどにさわやかなスマイルを浮かべていた。
「ちょうど良かった。ちょっと用があるんだが」
 ふうん、僕は君に用はないけど――などと危うく言いそうになったが堪えた。代々木と話すのもこれで最後だ。最後の最後で険悪な雰囲気になることもないだろう。大人だな僕って。
「なんだい代々木」
 僕のほうもさわやかスマイルを浮かべて返すと、代々木は腹立たしいさわやかスマイルを崩さずに言った。
「いや、実はさ。ちょっと受け取ってほしいものがあるんだが」
 そう言って彼は小さな箱を僕の前に出した。ピンク色の紙でラッピングされたそれは、先ほど川原さんが代々木にあげたものだった。
「えっ? これって……」
 どういうことだ? なんで代々木は、川原さんから受け取ったものを、僕に渡そうとするんだ? これは一体どういうことだ?
「これってさ……今、川原さんから渡されたものだよね? なんでこれを僕に?」
 考えても分からないので、素直に訊ねてみる。すると代々木はばつが悪そうに「見られてたのか」と呟いた。
「たしかにパラコンの言うとおりだ。けど、それはお前の物なのさ。ほら、そこにメッセージカードが添えてあるだろ? それ見てみろよ」
 言われて僕は、箱に添えられたクリーム色のメッセージカードに目をやった。そこにはこう書かれていた。


 代々木君へ
 申し訳ありませんが、このチョコレート、パラコン君に渡してください!
 お願いします!
                                      川原静江


 メッセージを読んだ途端、衝撃を受けた。
 嘘だろこれ! こんなことってあるのか!? いつもの逆パターンだよこれ! 普段だったら、「代々木」と「パラコン」の部分が逆になってるところだよ!
 うわっうわっ! 信じられん! まさかこんなことが起きるとは! とんでもないサプライズだこれ!
「つ……つまり、川原さんは僕にこれを……このチョコを渡すつもりだったってこと、か」
「ああ、そうだ。たぶんだけど、ホントはそれ、バレンタインデーのときに渡すつもりだったんだろうな。けど、受験で忙しかったから渡しそびれてたんだろう」
 そうか。あの川原さんが僕にチョコを……。しかも、代々木を介する形で……。


 このチョコレート、○○君に渡してください!
 (極悪罠カード)
 自分は心身ともに10000ポイントのダメージを受ける。


 普段なら↑このトラップを食らうのは僕のほうだが、今回は代々木が食らったってわけだな。なるほどなるほど。
 …………。
 くっ……くくく……グフフフフ! な、なんかこう、気分がいいな! すごく気分がいいな! なんだこの代々木に対する優越感! すげえな、他の男を介してチョコを渡されるって、こんなに気分のいいものだったんだな! しかも、チョコ渡し係がモテ男の代々木であるというのが、よりいっそう気分を良くしてくれる!
 僕は心地良い優越感に浸りながら、代々木の肩にポンと手を置いた。そしてにっこりと笑った。
「まあ、代々木……アレだよ。こんなこともあるさ。気にするなよ」
「えっ? あ……ああ、うん」
 僕が見下すと……もとい慰めると、代々木は困惑したような顔を浮かべた。うわっ、スッゲー気分いい! 最高だ! ウヒャヒャ!
 川原さん! 君は代々木なんかのことじゃなく、僕のことを見てくれてたんだね! ありがとう! 君は僕の天使だ! 本当にありがとう! マジ惚れるわ!
 いやー、ついに僕の時代がやってきた! 僕もチョコをもらえる男に成長できたんだ! 今日は記念すべき日だぜぇぇぇぇ!
 ゲフフフフ! さーて、チョコのほうを拝見しようじゃないか。どんなチョコが入ってるかな。きっと可愛らしいチョコが入ってるんだろうな。
 期待を込めて、箱をラッピングしている淡いピンク色の包装紙を丁寧にはがしていく。紙をはがすと、赤い包装紙でラッピングされた箱が姿を現した。箱には緑色のリボンが巻かれている。その緑のリボンに固定される形で、クリーム色のメッセージカードがはさんである。
 なるほど、これが僕に対するメッセージか。
 メッセージカードは二つ折りされた状態ではさんである。フフ……遠慮なく見させてもらおう!
 カードを取り、広げて中を見てみる。そこには細くきれいな文字でこう書かれていた。


 パラコン君へ
 申し訳ありませんが、このチョコレート、代々木君に渡してください!
 お願いします!
                                     川原静江

 P.S.ピンクの包装紙は適当に処分しておいてください。


 …………。


 このチョコレート、○○君に渡してください!
 (極悪罠カード)
 自分は心身ともに10000ポイントのダメージを受ける。


「キ……キ……キィィィィィィィィィィィィィィ!」
 僕はその場で絶叫した!
 ぼっ……僕の時代を……僕の成長を……返せええええええええええええええええっっっっっ!
 まっ……まさかっ……こんなことがっ! こんな形で極悪トラップを仕掛けてくるとは! 最後の最後まで極悪トラップを仕掛けてくるとは! つーか、このネタこれで何度目だよ! 何回やれば気が済むんだよ! ふざけんなよ!


 使い回し
 (魔法カード)
 世の中リサイクルだぜ!


 これは……完全に予想外だった……。完全に油断してたよ……。まさか、代々木本人を利用してまでトラップを仕掛けてくるなんて思わないもん……。
 予想外な形での大打撃に心をズタボロにされつつ、僕は確信した。川原さんは、何がなんでも僕を経由した上で代々木にチョコを渡したい、というわけではない。ただ単に僕に対して嫌がらせをしたいだけだ。何故なら、代々木にチョコを渡すのが目的なら、こんな真似をする必要はないからだ。だって、つい今さっき、直接代々木にチョコ渡してたもん! 僕を経由する必要ないじゃん!
 うわあ、川原さんマジ悪魔だよ! 天使なんかじゃない、完全なる悪魔だ! 小悪魔なんて可愛らしいもんじゃない。大悪魔だよ! 超絶悪魔だよ!
「おい、パラコン。どうかしたのか?」
 急に僕が叫んだので、代々木は驚いたような顔をしている。僕はそんな彼の手に、手元の箱を押し付けた。
「代々木。これは君の物だ」
「えっ? どういうことだ? メッセージにはパラコンに渡せって……」
「いや、違うんだ。本物のメッセージはこっちだよ」
 僕は、先ほど僕が見たメッセージを指差した。それを見た代々木は、全てを理解したように「あー……」と呟いた。
 複雑な顔をしながら、代々木は僕の肩にポンと手を置いた。そして、慰めるような口調で言ったのだった。
「まあ、なんというか……気にするなよ」
 それだけいうと、代々木は小さく笑んで「じゃあな」と言い、教室へと戻っていた。僕は何も言わなかった。何も言えなかった。ただ心の中で「うっせーバカ死ねよ」とだけ思った。
 うわああああん! 青春なんて大っ嫌いだぁぁぁぁぁっ!

 致命的なダメージを心に負った僕は、とっとと教室へ戻って大人しく鷹野さんを待っていることにした。
 はぁ〜。ヤバいなこれ、かなりダメージデカい。こんな状態で鷹野さんとのラスト・デュエルに臨めるかなぁ。めっちゃプレイングミスとかしそうで怖いんだけど。
 そんなことを思いながら教室へ入りかけたとき、僕を呼び止める者がいた。
「パラコン先輩!」
 今度はなんだよ、このピンクの包装紙ケツの穴に詰め込むぞクソッタレと思いながら、僕は声のしたほうを見た。見た瞬間、心の中のどす黒い感情が一気に消えた。
 そこにいたのは、なんともまあ、可愛らしい顔をした小柄な生徒だった。くりくりっとした目や桜色の唇が実にキュートだ。走ってきたのか、息が少し荒くなっている。
「良かった! 会えた!」
 小柄な生徒は安堵したように顔をほにゃっと緩ませた。その様がこれまたグッと来るくらいに可愛かった。
 僕の胸がどくんどくんと高鳴っていた。
 やばい。マジで可愛すぎる。これはもう完璧なる可愛さだろう。天使だよ天使!
 ……と、盛り上がりかけた気持ちを、僕はどうにか抑え込んだ。危ねえ! この子を相手にときめくのはまずいって! 冷静になれ僕!
 僕は気持ちを落ち着かせ、小柄な生徒に応じた。
「やあ、轟君。君だったか。僕に何か用かい?」
「は、はい! 実はボク、先輩に大事な話があって……!」
 小柄な男子生徒――轟栗太(くりた)君は、鈴の音のような綺麗な声で言ったのだった。

 皆さんは、轟栗太君のことを覚えているだろうか?
 彼は僕が所属していた部活の1つ年下の後輩、つまり現在2年生の男子生徒で、うっかり女子と間違えそうになるほど可愛らしい顔をしているのが大きな特徴だ。そのような容姿や彼本人の素直な性格もあって、女子からは「カワイイー!」と言われてかなりの人気者となっている。
 ちなみに、轟栗太君と、先ほど僕の前に現れた轟桃花さんは、親戚にあたるらしい。たしか、又いとこだって言ってたかな。

 さて、そんな轟君が、僕に大事な話とはどういうことだろう?
「あの、パラコン先輩。今お時間大丈夫ですか?」
「うん、ちょっとくらいなら平気だよ」
「そうですか! 良かった!」
 轟君は満面に笑みを浮かべた。ああ……癒されるなこの笑顔。マジで可愛い……って落ち着け僕! 彼は男だぞ!
「あの先輩。ちょっとここだと人が多くて話しにくいので、移動したいんですけど……いいですか?」
 どうやら、人に訊かれたくない類の話らしい。僕は気を引き締めた。
「僕は構わないよ」
「ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げる轟君。
「じゃあ……そうですね……。屋上に行きましょう」
「屋上ね。うん、分かった」
 こうして僕と轟君は、屋上へと移動することになった。

 屋上に出ると、春の暖かな風が顔に当たった。外はよく晴れている。雲1つない快晴で、とても心地良い陽気だ。
 屋上には現在、僕ら以外の人の姿はなかった。
「で、大事な話っていうのは?」
 轟君のほうを見て切り出した。僕と轟君が向き合う形になる。そよ風が吹き、轟君の黒髪がさらさらと揺れた。
「はい。実はあの……ボク、その……えぇと……」
 轟君はすぐには話そうとせず、言葉を詰まらせた。どこか恥ずかしそうにもじもじとしている。気のせいか、頬が赤くなってきているように見える。……その姿がなんかもう、頭がクラクラしてくるほどに可愛かった。なんか胸がドキドキしてきたな……って何ドキドキしてんだ僕! 彼は男だぞ! 冷静になれ! ……ああ、でも、ホントに可愛いな轟君。
 やばい、このままじゃ変な気を起こしそうだ。危機感を抱いた僕は、反射的に俯き加減になった。
「と……轟君。どうかしたかい?」
 言葉を詰まらせている轟君に声をかける。彼はあたふたとした。
「あぅ! すっ、すいません! ごめんなさい!」
「いや、いいんだ。落ち着いて話してごらん」
 轟君は深呼吸を何回かすると、意を決したように言った。
「すみません、お待たせして。大事な話というのは――」
「うん。なんだい?」
 轟君の真剣な声を聞き、僕は顔を上げた。轟君と目が合った。
 轟君は数秒ほど間を置くと、桜色の唇からはっきりと言葉を紡いだ。





「パラコン先輩の第2ボタン、ボクにくださいっ!」





 …………。
 えーと、だな。
 今轟君、僕になんて言った? なんか第2ボタンくださいって言ったように聞こえたんだけど……聞き間違いかな?
 僕は轟君の顔をうかがった。その顔はほんのりと赤く染まっていた。なんていうか……すごく可愛かった。でも男なんだよな……。
 そう、轟君は男なんだ。ゆえに、男の彼が僕に第2ボタンくださいなどと言うはずがない!
「ごめん轟君、よく聞こえなかった。ホントごめん、もう1度だけ言ってくれない?」
「えええっ!? ……わ、分かりました! もう1度言います!」
 轟君は深呼吸すると、顔を赤く染めたまま言った。
「せっ、先輩の第2ボタン、ボクにください!」
 ……や、やっぱり、第2ボタンくださいって言ったよこの子!
 ど、どうなってんだこれ!? 轟君は男だろ!? なんで男の彼が、僕の第2ボタンをほしがるんだよ!?
 はっ! まさか! 実は轟君、男子生徒として振舞っているが、実は女なのではないか!? ある事情により彼、いや彼女は、女であることを隠し、男として振舞っていたのではないか!? そうであれば、現在の状況に説明がつく!
 ……とそこまで考えて、いやそれはないと僕は思った。だって僕、部活の合宿にいったとき、風呂場で全裸の轟君を見たけど、明らかに轟君、男だったもん。あの出来事がきっかけで、僕の中にあった「轟君女性説」が完全消滅したんだ。だからよく覚えてる。
 轟君が女であるという可能性は消えた。となれば残る可能性はただ1つ!
 それは、僕が女であるという可能性だ!
 そう! 僕は実は女だった! だから男である轟君は女である僕に対し、第2ボタンくださいと言ったのだ! それなら納得がいく! 「第2ボタンは男から女に渡すものでは?」という疑問があるかもしれないが、今の時代、男から女にバレンタインデーのチョコを渡す「逆チョコ」なるものがあるくらいだ! 女が男に第2ボタンを渡すくらいのことは普通に起こり得るだろう!
 これまで原作『遊☆戯☆王』でも本シリーズでも、僕は男であるかのように描かれてきた。しかし、それらは壮大な叙述トリックであり、実際のところ僕は女だったのである!
 謎は全て解けた! 僕は男ではなく女だった! パラコンボーイはパラコンボーイなどではなくパラコンガールだったのだ!
 皆さん、改めましてこんにちは! わたし、《ゴキボール》使いの美少女デュエリスト、パラコンガールです! よろしくね☆
 ……って、そんなわけないだろうが! やばいやばい! 混乱しすぎて思考が変な方向へ飛んでしまったぞ! 落ち着け僕!
 僕が男であることは、僕自身が一番よく分かってる。よって、僕女性説も消滅だ。
 しかし、そうなると、轟君が僕に対して第2ボタンくださいって言ったことに説明がつかないぞ。一体どういうことなんだろう。轟君も男で僕も男となると、現状に説明をつけることなんて不可能――。
 いや……説明ならつけられる。それも単純明快な説明が。たった1つ、まだ検証していない可能性が残されているのだ。けど、僕はその可能性から目を逸らしている。だって、もしもそれが真実だとしたら……大変なことになってしまうから。
 残された可能性――それは、轟君が僕に対して恋愛感情を抱いているという可能性だ。鷹野さんに恋する轟桃花さんのように、轟栗太君が僕に恋している――そう考えれば、現在の状況にあっさりと説明がついてしまう。
 いや……しかし! それはいくらなんでもないだろう! ないない! 絶対にない!
 ぶんぶんと頭を振り、心を落ち着かせる。考えるんだ! 「轟君が僕に恋している」以外に、現状に論理的な説明をつけられる可能性を! 必ず何かあるはず――!
 ……あ! もしかして!
 1つの考えが浮かんだ僕は、咳払いをしてから轟君に訊ねた。
「あのさ、轟君」
「は、はい!」
 轟君が姿勢を正した。
「念のために訊くんだけどさ……轟君、『第2ボタンください』って言うことがどういう意味か分かってるよね?」
 僕の問いを聞くと、轟君はますます顔を赤らめ、恥ずかしそうにもじもじとした。くそっ、可愛いな! けど惑わされるな、彼は男なんだ!
「もちろん、分かってます」
 それが轟君の答えだった。……轟君、知ってたのか。第2ボタン受け渡しの意味を。
 むぅ、これで「実は轟君は第2ボタン受け渡しの意味がよく分かってない説」が消えてしまった。これはイケると思ったんだけどな。
「そうか。轟君、ちゃんと第2ボタン受け渡しの意味、知ってたか」
 もう腹くくるしかないか。そう思いながら、僕は何気なく轟君に問うた。
「じゃあ、第2ボタン受け渡しにどういう意味があるか言ってみてくれないか」
「はっ、はい! えーと……『尊敬する先輩からの信頼の証』として、第2ボタンをもらうんですよね」
「うん、そうそう。……えっ?」
 僕は目を見開いた。
 あ……あれ? なんか思っていたのと違う答えが返ってきたぞ?
 尊敬する先輩からの信頼の証……? 何それ? 聞いたことないぞ? 第2ボタンってアレでしょ? 好きな男子からもらう物なんじゃないの?
「えーと……うーんと……。尊敬する先輩からの信頼の証……か。轟君、その話、どこで聞いたの?」
「えっ? えーと、具体的には覚えてないんですけど、たしかクラスメイトから教えてもらったんだと思います」
 クラスメイトから教わった、か。じゃあ、そのクラスメイトが勘違いしていたか、轟君が聞き違えたか、だな。そうでなければ、僕の知らないうちに、第2ボタンに関するルールが改訂されたんだろう。
「じゃあ轟君は、尊敬する僕からの信頼の証として、僕の第2ボタンがほしいんだね?」
「はい! そうです!」
「他に意味はないんだね?」
「えっ? あ……まあ、そうです。信頼の証としてほしいんですけど……というか、何か他に意味があるんですか? 第2ボタンの受け渡しって」
「ああいや、いいんだ! うん!」
 とりあえず、轟君が僕に恋しているという展開がないことは分かった。彼はあくまで、僕からの信頼の証として第2ボタンがほしいのだ。決して恋愛感情が絡んでいるわけじゃない。それが分かってほっとした。
 いや、本当にほっとしてるよ。決してがっかりなんてしてない。ホントホント。今ちょっとため息ついたけど、これは安堵のため息だから。それ以外の意味はないから。
 それにしても、信頼の証か。
 轟君、僕のことそんなに尊敬してくれてたんだな。なんだかちょっとくすぐったい気分だ。でも、悪い気分じゃない。いい気分だ。
「分かったよ轟君。僕は君を信頼してるから、その証として第2ボタンをあげるよ」
「あっ、ありがとうございますっ!」
 轟君は大きく頭を下げた。
「ははっ、そんな……頭を下げなくていいよ。ほら、顔を上げて」
 顔を上げた轟君は僕と目が合うと、はにかんだ表情を見せた。その表情がまた……胸を絞めつけてくるほどに可愛かった。なんというかもう、すっごい幸せな気分になった。
 ……これで轟君が女の子だったら、もう言うことなしだったんだけどな。惜しいなぁ。現実ってのは上手く行かないものだ。
 ていうか、いくら尊敬してくれるからとはいえ、男相手に第2ボタンをホイホイあげてしまっていいものだろうか? 轟君によれば「第2ボタンは後輩信頼の証」らしいが、それが正しいという保証はない。むしろ勘違いである可能性が高い。それを思うと、どうも第2ボタンをあげることに抵抗を感じなくもない。
 それに、万が一……本当に万が一だけど、轟君に第2ボタンをあげた後、僕が女子から告白されるようなことがあって、その女子に「第2ボタンください!」って言われたりしたらどうするんだ? そのときにはもう、僕の第2ボタンは轟君の手に渡っちゃってるから、第2ボタン受け渡しは行えない。せっかく女子に第2ボタンを渡せるチャンスをみすみす逃すことになってしまう。そう考えると、第2ボタンは温存しておきたいと思ってしまう。
 かといって、轟君の頼みを断るのも気が引ける。彼はこんなにまで僕のことを慕ってくれているのだ。そんな彼の想いを踏みにじるわけには行かない。どうするか……。
 ……あ、そうだ! この手で行こう!
「轟君。今思い出したんだけどさ、『先輩からの信頼の証』として第2ボタンをもらうって轟君は言ってたけど、正確には第2ボタンじゃなかった気がするんだよね」
「え? ……あれ? そうなんですか?」
 轟君がくりくりした目を丸くする。僕は続けた。
「うん。第2ボタンというのは間違い。正しくはこれだ」
 そう言って、僕は胸につけられていた名札を取り外し、それを轟君に差し出した。
「名札……。第2ボタンじゃなくて、名札ですか?」
「うん、そうだよ。『先輩は後輩への信頼の証として名札を渡す』。これが信頼の証だ」
 先輩は後輩への信頼の証として名札を渡す――というのは今僕が考えたものだ。けれど、まるっきり嘘というわけでもない。実際のところ、僕は過去に何度か、親しかった先輩が身に着けていた名札やら校章やらをもらったことがある。一種の記念品みたいな形で。
「受け取ってくれるかな? 轟君」
 轟君はしばしの間ぽうっとしていたが、やがておずおずとした手つきで、僕の手から名札を取った。そして、本日最高の笑顔を浮かべてみせた。
「先輩! ありがとうございます!」
 僕の名札を愛おしそうに手に持ち、花が咲き乱れるように笑む轟君。そんな彼の目は、ちょっと潤んでいるように見えた。
 ああ、本当にスッゲー可愛いな轟君。でも男なんだよなぁ、この子。うーん、惜しい。けどまあいいか。気分が晴れやかになったからよしとしよう。今のこの気持ちでなら、鷹野さんとのラスト・デュエルにも落ち着いて臨めるだろうしね。
 ありがとう、轟君。3年生になっても頑張ってくれよ。


 ★


 ついさっきまで別れを惜しむ卒業生で騒がしかった教室だが、僕が屋上から戻った頃には、大分卒業生の数が減っていた。たぶん、仲の良いメンバー同士で昼食を食いに行く、などという人たちが出てきたためだろう。教室内が完全に静まり返るのも時間の問題だ。
 ざっと教室内を見渡してみる。鷹野さんの姿が見当たらない。どうやらまだ生徒会室から戻ってきていないらしい。ま、そのうち戻ってくることだろう。待っていることにしよう。
「パラコン君!」
 椅子に腰かけてしばらく待っていると、誰かが声をかけてきた。見ると、ひとりの男子生徒がこちらに近づいてきていた。パロだった。パロはもう外へ出るつもりなのか、鞄を肩に掛けている。
 パロは、僕の友人の1人だ。実は、有名なデュエリストであるエスパー絽場の弟であり、彼の呼び名である「パロ」は、「エスパー絽場」から取られていたりする。彼のこと、覚えているだろうか? まあ、忘れてしまった人は、別に無理して思い出さなくてもいい。
「やあ、パロか。どうした?」
「うん。まだパラコン君に卒アルのメッセージを書いてもらってなかったからね。書いてくれるかな?」
 パロの卒アルに僕がメッセージを書くだぁ? そんなことして僕になんのメリットがあるんだよ? と言いかけたがやめた。一応パロは友人だ。最後の頼みくらいは聞いてやってもいいだろう。
「ああ、もちろん書くよ」
「ありがとう。あ、僕もパラコン君の卒アルにメッセージ書いていい?」
 僕の卒アルにパロがメッセージを書くだぁ? そんなことして僕になんのメリットがあるんだよ? と言いかけたがやめた。一応パロは友人だ。最後の頼みくらいは聞いてやってもいいだろう。
「ああ、頼むよ」
 僕は自分の卒アルのメッセージページを開いた。パロはそこにメッセージをさらさらと書き込んでいく。
 じゃあ、僕のほうもパロの卒アルにメッセージを書くかな。パロ宛てのメッセージだし、適当にそれっぽいこと書いておけばいいだろう。えーと、「高校へ行っても頑張れ!」……と。うわぁ、なんの捻りもないメッセージだな。まあ別にいいだろ。
「書いたぞパロ」
「ありがとう。僕も書いたよ。はい」
「サンキュ」
 僕らはお互いに卒アルを持ち主へと返した。
 さて、パロのことだ。どうせ大したメッセージは書いてないだろ。それこそ、僕の書いたメッセージ並になんの捻りも面白味もない平坦なメッセージを書いてるはずだ。
 僕はなんの期待もせず、卒アルに書かれたパロのメッセージを読んだ。その内容は次のようなものだった。

『GAME OVER!』

 ……いや、何この不愉快極まりないメッセージ!
 これから卒業して新生活が始まるっていうのに、ゲームオーバーはないだろ! なんでこんなメッセージ書いたんだパロの奴! 嫌がらせか? 嫌がらせなのか!?
 うわぁ、平坦なメッセージを書いてくるかと思いきや、とんでもなく悪意にまみれたメッセージ書いてきやがったよこいつ! うぜえええっ!
 パロめ、やっぱり貴様は、こういう嫌がらせをしかけてくるような陰湿な奴だったか! チキショオ! こんなことなら、僕のほうも「罰ゲーム!」とか書いてやりゃよかったよ! くそくそくそ!
「それじゃあパラコン君、またいつかね」
 パロは卒アルを鞄に収めると、そう言ってこの場を立ち去ろうとした。だぁっ! くそっ! こいつ、僕に嫌がらせするだけのために絡んできたのか! ホント腹立つわチキショオ!
「あ、そういえばパラコン君」
 立ち去るかと思いきや、パロは思い出したように言ってきた。んだよこいつとっとと消え失せろよと思いながら僕はパロの顔を見た。
「パラコン君。もしかして誰か待ってるの? さっきから椅子に座って、教室の入口のほう見てたけど」
 パロの奴、僕が待っている姿を見てたのか。
 お前には関係ない、と言おうかと思ったがやめた。最後の最後で険悪になるのもバカらしい。隠すことでもないし、正直に言ってもいいだろう。
「ああ、鷹野さんを待ってるんだよ。ちょっとこのあとここで会う約束があってね。まだ生徒会室にいるのかな。パロ、お前鷹野さんのこと見てない?」
 何気なく訊いてみた。別に答えを期待して訊いたわけじゃなかった。
 ところが、パロは驚いたような顔をしていた。「えっ? 約束?」などと口にしている。
 なんだこいつ、何か知ってるのか? あり得そうだな。こいつと鷹野さんは仲が良かったはずだし。
「パロ、お前何か知ってんの?」
 訊ねると、パロは戸惑いつつも答えを返してきた。

「鷹野さんなら、20分くらい前に教室に戻ってきて……それからすぐに鞄を持って教室を出てったよ。これから、真田さんと松本君と、隣のクラスの川原さんと代々木君と野村(のむら)さんと一緒に、『バーガーワールド』で昼ごはん食べるんだって」

 …………。
 …………は?
 ちょっと待って。これからハンバーガー屋で昼ごはん? そりゃ変だよ。だって、鷹野さんとはここでデュエルする約束を……。
 嫌な予感がした僕は、もう1度パロに訊ねてみた。
「パロ。それって確かなの?」
「うん。バーガーワールドで昼ごはん食べた後、映画館だとかカラオケだとかゲーセンだとかに行くんだってさ。思い出作りってことで」
 …………。
 ……お……お……お……。
 ……おおおおおおおお思い出作りィィィィィィィィィィィッ!?
 あの女あああああああああああああああああああああああ! 僕とデュエルする約束したことすっかり忘れてやがるよ! うわぁぁなんだよこれ! ふざけんなよあの傲慢バカ女ぁぁぁぁっ!
 ……いや、待てよ?
 ちょっと気になることがある。なんでパロは、こんなに詳しく鷹野さんの今後の予定について知ってるんだ? もしや……こいつ……。
「なあ、パロ。もしかして、お前も鷹野さんたちと一緒に行くことになってたりするわけ? その……思い出作りに」
 恐る恐る口にすると、パロはどこかばつが悪そうに頭をかいた。
「えーと、うん。実は僕も一緒に行くことになってるんだ。ちょっと僕は、先生とかに会いに行ってたから、今から遅れて行くところだよ」
 やっぱりだ! やっぱりこのクソヤローも鷹野さんの思い出作りに同行するんだ! だから、今後の鷹野さんの予定を知ってるわけだ!
 あのクソ女が! 僕との約束はすっかり忘れて、自分はのほほんと思い出作りかよ! ふざけんじゃねーぞチキショオオオオオオオ!
 おのれぇ! 冗談じゃない! あのバカ女の思い通りにさせてたまるか!
 僕はスマホを使って鷹野さんを呼び出そうとした。ところがポケットに手を入れたところで、スマホを家に忘れてきたことに気づいた。ファッキィィィン! よりにもよってこんな日に!
 やむを得ない! パロからスマホ借りよう! 僕はパロに向かって手を合わせた。
「悪いパロ。電話使わせてくんない? 家に忘れてきちゃって……」
「あ、ごめん。僕まだケータイ持ってなくて……」
 使えねえなこいつううううううううううううううう! なんなんだよ! そこまで僕に嫌がらせしたいのかよテメーはっ!
「あ、でもでも! ケータイは持ってないけど、ポケベルなら持ってるよ」
 パロはポケットから小さな機械を取り出した。えっ、ポケベル!? うわっすげえ! 生まれて初めて見た! へぇ、これがポケベルか! パロお前、なんでこんなもん持ってんだよ! すごいなお前!
 ……ってバカか! ここでポケベル出されてもなんにもならねえよ! パロぉぉぉ……オメーわざとやってんだろぉぉぉ……!
 僕は頭を抱えてしまった。





4章 忘れっぽい女


「ふふっ。すっかり忘れてたわ。そういえばデュエルの約束してたわよね」
 あれから約20分後。僕以外誰もいなくなり、静まり返った教室に、約束破り女――鷹野麗子が、微笑を浮かべながら入ってきた。結局あの後、僕はクラスメイトからスマホを借り、鷹野さんを呼び出したのだった。
 で、現れた鷹野さんの第一声が、今のセリフだ。めっちゃ軽い口調だった。全然悪びれた様子がなかった。
 いや、少しは謝れよ。
「鷹野さん。約束忘れといて、そんな言い方はないだろ」
 危うくキレそうになったが、僕はどうにか怒りを抑え、落ち着いて言葉を返す。
 しかし、鷹野さんは悪びれる様子もなく、堂々と椅子に腰を下ろすと、すらりと伸びた足を組んだ。その際、スカートの中がちらりと見えそうになって目のやり場に困った。
 こ……この女、色仕掛けで僕の怒りを削ぐつもりだな! その手には乗るか!
 僕は精神を強く保った。
「一言くらい謝ってくれてもいいんじゃないか? それくらい別にいいだろ?」
 多少なりとも誠意というものを見せてほしい。その思いを込めて僕は言った。
 けど鷹野さんは、そんな僕の気持ちなど知ったことかと言わんばかりに、艶やかな髪をさっとかき上げた。妙に様になっていた。
「謝罪がほしいの? じゃあ、来月までに反省文を5文字以内にまとめて提出するわ」
「反省文って、そんなまどろっこしい……つーか5文字かよ!? 少なすぎだろ! ダメだダメ! 今この場で謝罪してくれ!」
「今この場で謝罪って……あなた、それ正気で言ってるの?」
 鷹野さんは顔を青くして、自分の体を抱きかかえるような格好をした。
「私にこの場で全裸になって土下座して詫びろと!? あなた、私にそんなことさせる気!?」
「えっ!? いや、んなこと言ってねーよ! 何勝手に変な方向に考えちゃってるの!?」
「なんて汚らわしいのかしら! パラコン! あなたがそんな破廉恥な男だとは充分予想がついてたわ! やはり私の目に狂いはなかったわね! 見損なったわ、この変態! 変態のパラコンボーイ! 略してヘボーイ!」
 何がヘボーイだこのバカ女! ヘボーイだと「ヘボい」って言われてるみたいじゃねえか! まさかダブルミーニングのつもりか!? ふざけんなよ! 全然上手くねえよ!
「ヘボーイ! 私はあなたのおかげでとても不快な思いをした! よって、この件については、私の顧問弁護士に相談させてもらう!」
 こ……顧問弁護士ぃ!? ホントに何言い出してんだこの人は! 無茶苦茶だぞ!
「言っておくけど、私の顧問弁護士は、カネさえ積めば絶対に勝訴に持ち込む超やり手の弁護士! ゆえに、あなたが生き残る道は存在しないわ! 首を洗って待っていなさい、ヘボーイ!」
 そう叫ぶと、鷹野さんはビシィッと僕の顔を指差した。僕は半ば呆れながら、彼女の顔を見つめた。
 幼さと気品さが混じった端正な顔には、自信に満ちた表情が浮かんでいる。それは、窓から差し込む真昼の陽光に照らされ、美しく輝いていた。認めたくはないけど、本当に美しい。鷹野さん、性格はアレだけど、やっぱり美人なんだよなぁ。彼女のこの美しい顔を見るのも今日が最後なのか……。
 僕がだまって見つめているのを不審に思ったか、鷹野さんが目を細めた。
「……ヘボーイ、何だまってじろじろ見てるのよ?」
「いや、鷹野さん、美しいなと思って」
 言ってすぐドキリとした。やっべー、思ったことついそのまま言っちゃったよ! 何やってんだ僕! ここで鷹野さん口説き落とすつもりかよ!? 何血迷ってやがるんだ! うわあ、めっちゃ恥ずかしい! なんか耳が熱くなってきたよ!
 これ、鷹野さんもリアクションに困るんじゃないかな? 同級生の男子生徒からいきなり美しいとか言われたら動揺するんじゃないかな? そんなことを思いながら、おずおずと鷹野さんの表情をうかがってみた。
 ところが予想に反して、鷹野さんは自信に満ちた表情のままだった。それどころか、「ふん」と鼻で笑うと、一切の迷いなく言い切った。
「私が美しい? 当然じゃない。何分かり切ったこと言ってるのよ」
 ……実に尊大な口ぶりだった。全く動揺している様子がなかった。ちょっとくらい照れたりするんじゃないか、という僕の想像はあっさり砕かれた。実をいうと、鷹野さんが頬を少し赤らめながらそっぽを向いて、「な、何を言ってるのよパラコン! ばっ、バッカじゃないの!? そ、そそそそんなお世辞言ったところで何も出ないんだからねっ!」みたいなことを言ってくれることを少し期待してたんだけど、見事にぶった切られたね。
 鷹野さん、君は美しいけど可愛げがないよ――僕は心の底からそう言ってやりたかった。けど、それ言ったら全身をバラバラにされかねないのでやめておく。
「ヘボーイ。私は美少女なのよ。美しいのは当然でしょ?」
「自分で自分のことを美少女って言うのか」
「事実を言って何が悪いの?」
「……そこまで堂々と言い切れるのはある意味すごいよ」
 僕はゆらゆらと頭を振った。鷹野さんがまた鼻で「ふん」と笑うのが聞こえた。その後数秒間、教室内に沈黙が流れる。
 沈黙を打ち破ったのは鷹野さんだった。
「……というか私、ここに何しに来たんだっけ?」
「えっ!?」
「たしか、ヘボーイに電話で呼び出されたような覚えがあるんだけど……ヘボーイ、あなた私に何か用があったんじゃないの?」
「いや、何忘れてるんだよ! 今日ここでこれからデュエルするって約束だったじゃん!」
「ああ……そうだったわね。思い出したわ。いやね、ヘボーイとのデュエルなんて、私の中では重要度が低すぎて記憶からすぐ消えちゃうのよ」
 相変わらず、僕のことコケにしまくるなこの女は。ホントに殴ってやりたい。
「で、ヘボーイ。私に何か用?」
「はっ!? 3秒前のこともう忘れたの!? 僕とこれからデュエルするんだよ!」
「ああ、そうそう、そうだったわね。……で、ヘボーイ、私になんか用なの?」
「鶏かあんたはぁぁぁっ!?」
「鶏じゃなくて鷹なんだけど」
「そういう話じゃねえよ!」
「冗談よヘボーイ。デュエルするのよね。ちゃんと分かってるわよ」
「冗談かよ……。ていうか、ヘボーイって呼ぶんじゃねえ!」
 僕は変態じゃない! 変態呼ばわりされる謂れなどない!
「じゃあ、マボーイ。負け犬のパラコンボーイ略してマボーイ」
「それもダメだ!」
「なら、ヤボーイ。役立たずのパラコンボーイ略してヤボーイ」
「それもダメ! 負け犬だの役立たずだの言うのはやめろ!」
「うるさい男ね。じゃあ、パボーイって呼ぶわ。パラコンボーイ略してパボーイ。……やっぱ言い辛いから普通にパラコンにするわ。パラコン! これでいいでしょ?」
「結局パラコンに戻ってきたか。まあ、それなら……ってよく考えたらそれもおかしくないか? 僕の名前はパラコンボーイじゃないのに。いい加減本名で呼んでよ」
 鷹野さんは小さく「えっ?」と漏らすと、可愛らしく首をかしげた。
「パラコンあなた……『パラコンボーイ』が本名じゃないの?」
「んなワケねーだろ! マジで言ってんのか!?」
「マジマジ。だって、みんなあなたのこと、パラコンとかパラコンボーイって呼んでるじゃない。だから私、てっきりそれが本名かと」
「本名なわけないだろうが! ……よし、分かった! そんなに言うなら、この機会にはっきりと僕の本名を教えてあげるよ! いいかい? 僕の名前は――」
「私の先攻ドロー!」
「遮るんじゃねえええええっ! そして、勝手に先攻取るなあああああっ!」
 教室内に僕の絶叫が響いた。
 と、その直後だった。

「鷹野先輩、ここにいたか! ついに見つけたぜ!」

 教室の入口から大声が響いた。見ると、ツインテールの少女が立っていた。その姿を見て鷹野さんが眉をひそめた。
「……なんであなたがここにいるのよ、轟さん」
 ツインテールの少女は轟さんだった。この娘、まだ校内にいたのか。一体どこをうろついていたのか、全身に泥や葉っぱが大量にくっついている。
「鷹野先輩、俺あっちこっち探しまくったんですよ! 一体どこにいたんですか!」
「だから、なんであなたがここにいるの? あなたはたしか、私がこの手で始末したはず」
 始末したってどういうことだよ。鷹野さん、轟さんに何かしたの? すごく気になるんだけど。
「水臭いじゃないですか先輩! 卒業式だってのに、愛するこの俺に顔を見せないなんて!」
「あなたの顔なんて見たくないもの」
 ニコニコしながら言う轟さんに対し、鷹野さんは冷たい口調で返した。容赦ない。
 しかし、轟さんは怯むどころか嬉しそうに体をクネクネと動かした。
「ははは! そう言いつつ、内心は俺と会えたことが嬉しくて仕方がないんでしょ! 分かってますって!」
「あの、もう消えてくれないかしら。私にはこれから大事な……というほどのものでもないけど、とにかく用があるのよ」
「用……?」
 言われて轟さんは、ちらりと僕のほうを見た。その瞬間、彼女の目が鋭くなった。
「ま、まさか! これからそこのクソパラコンとイチャイチャラブラブするつもりですか!? 許さねえ! そんなことは絶対に許さねえっ!」
 轟さんはこちらに向かって走ってくると、僕に思い切り跳び蹴りを喰らわせてきた。痛ぇっ!
「鷹野先輩は俺の女なんだぜ! パラコン野郎はすっこんでな!」
「いつ私があなたの女になったのよ」
「ずっと以前からそうじゃないですか! 俺と鷹野先輩は恋人同士になるって運命づけられてるんですよ! そう、これは運命です! 運命!」
「私、運命とか信じてないから」
「たとえ信じていなくても、この運命を変えることはもはや誰にもできません! 鷹野先輩、運命を受け入れましょうよ! そして、愛の証として、この俺に先輩の着けてるブラジャーを渡すんです!」
 そう言った次の瞬間には、轟さんの体は2メートルほど吹き飛んでいた。鷹野さんが轟さんに回し蹴りを喰らわせたのだ。その際、鷹野さんのスカートの中がちらりと見えた。黒だった。
「なんで私のブラをあなたにあげなきゃならないのよ。意味が分からないわ」
「せっ……先輩……ごふぉっ……!
 轟さんは口と鼻から血を出しながらよろよろと立ち上がった。心なしか、その顔は喜んでいるように見えた。
「知らないんですか! 好きな先輩からブラをもらうというのは、卒業式の定番イベントなんですよ!」
「……何それ? いつの間に、卒業式の定番イベントのルールが改訂されたの?」
「そんなこといいじゃないですか! とにもかくにも、好きな先輩からブラをもらうというのは卒業式の定番イベントなんです! ですから鷹野先輩! 愛の証として、俺に先輩のブラをくださごぱぁっ!」
 轟さんは最後まで言えずに大量の白い粉末の中に包まれた。鷹野さんが教室に備えられていた消火器を轟さんに向けてぶちまけたのだ。うわあ、真っ白けだ! 僕はあわてて轟さんから距離を取り、鷹野さんの背後へと移動した。
 鷹野さんが消火器の噴射をやめると、白い世界の中から、粉で真っ白くなった轟さんが姿を現した。
「ごふっ、げふっ! げふっ! た、鷹野先輩! これは、げふんっ! いわゆる……アレですね! 好きな子にはついついイジワルしたくなるというアレですね! やはり鷹野先輩は俺のことが好がはぁっ!」
 全部言い終える前に轟さんは叫んで倒れた。鷹野さんが轟さんの顔面に向かって消火器を投げつけたのだ。めっちゃ痛そうだったんだけど、轟さん大丈夫かな?
「ぐっ……くっ……ふふふ! ここまで俺にイジワルするとは、やはり鷹野先輩は俺のことが好き! 間違いない! 確信したぜ!」
 轟さんは真白くなった体に血を滴らせながらニヤニヤしている。まるで怯んだ様子がない。すごいなこのロリ娘。耐久力が半端じゃない。
 恐るべきロリ娘を前にして、さすがの鷹野さんも顔を引きつらせた。
「轟さん……なんであなたは、物事を自分の都合のいいようにしか解釈しないの?」
「都合良く解釈してるわけじゃないですよ。単に真実と素直に向き合ってるだけです。鷹野先輩が俺を好きだ、という真実とね!」
「話にならないわ。もうとっとと死んでくれない?」
「ほう、俺と心中しようってわけですか! いいですよ先輩! 俺は先輩とならどこへだって行ってやります!」
「いや、なんで私が死ぬのよ。あなただけ死になさいよ」
「またまたそんなイジワルなこと言って〜! ホント先輩は照れ屋さんなんだからなぁ〜!」
「……どう言えばいいのかしら?」
 鷹野さんが心底疲れたような顔をして考え込む。その間にも、血を滴らせた轟さんが少しずつ鷹野さんとの距離を詰めていく。ホラー映画かよ。
「……ん、そうだわ。轟さん、聞きなさい!」
 もう少しで轟さんの手が鷹野さんの体に触れそうになったところで、鷹野さんが思いついたように言った。轟さんの動きが止まる。
「あなた、私のブラがほしいと言ったわね?」
「はい、言いました! 愛の証として、先輩のブラがほしいです!」
 鷹野さんの問いに、轟さんは即答した。鷹野さんはうなずく。
「分かった。そんなに言うなら、私のブラをあげるわ」
「やったっ!」
 マジで!? 鷹野さん、ブラあげちゃうの!? と僕が驚くと同時に、鷹野さんは「ただし」と付け加えた。
「条件があるわ」
「条件?」
「ええ。轟さんは私のことが好きなんだから、当然条件を呑めるわよね?」
 挑むような目つきで問う鷹野さん。轟さんが背筋をぴんと伸ばす。
「条件ってなんですか?」
「簡単なことよ。今から私の言う物を手に入れてきなさい。それと引き換えに私のブラを渡すわ」
「なるほど! 何を手に入れてくりゃあいいんですか!」
 鷹野さんは咳払いを1つすると、ゆっくり話し出した。
「古代エジプトの伝説にこういうものがあるわ。その昔、ある村に、ゲームで一切負けたことのない少女がいたの。少女はどんな条件でどんなゲームをしようと確実に勝利を手にした。圧倒的強さだった。噂を聞きつけた腕利きのゲーマーたちが、その時代に存在したありとあらゆるゲームでその少女に挑んだけど、結局誰も少女に勝つことはできなかった。とにかく、少女の強さは次元を超えていた」
「ほうほう」
 なんか、古代エジプト物語が始まった。
「少女の強さには秘密があるに違いない。もしかしたら、何かイカサマをしているのかもしれない。そう思った人間たちが、あらゆる角度から少女を調査した。その結果、少女に隠されたある秘密が分かった。秘密は、少女の着けているブラジャーにあったの」
「なっ! ブラジャーに秘密が!?」
 ……ちょっと話の方向性がおかしくなってきた。
「なんと、少女のブラジャーには、人智を超えた闇の力が宿っていた! 少女は闇の力を利用して、ゲームに勝利し続けていたのよ! そう、少女の着けていたブラジャーとは、所有者に強大な闇の力を与える『闇のブラジャー』だったの!」
「な……なんだってぇぇぇ!? 闇のブラジャーだとぉぉぉ!?」
 ……アホか。
「私がほしいのは、まさにその、闇のブラジャーよ。古文書によれば、闇のブラジャーは、闇の力を恐れた村の魔術師たちの手によって、エジプトのとある場所に厳重に封印されたらしいわ。轟さんにはそれを見つけて取ってきてほしいの」
「封印されたブラを取ってこいって言うんですか? それと引き換えに、先輩のブラを渡すと?」
「そういうこと。私、どうしてもほしいのよね、闇のブラ。それを着ければ、強大な闇の力を手に入れられるわけじゃない? そうなれば、その力でこの世界を支配できちゃうかもしれないわ! あぁっ、もう! そう考えただけでわくわくしてきちゃうわね!」
 鷹野さんはテンションを上げ、体をくねらせた。闇の力で世界を支配する鷹野さん……全然違和感がないのはどういうことだろう。
「闇の力が宿ったブラ……封印された闇のブラ、か……。それ、仮に手に入れたとして、呪われたりしないですかね?」
 轟さんは少しテンションが低くなっている。消火器の粉末で顔が真っ白なせいで正確なところは分からないが、顔が青ざめてるような気がする。こういうオカルト系の話は苦手なのだろうか。
 鷹野さんは椅子に腰かけ、足を組んだ。尊大な目つきで轟さんを貫く。
「轟さん、私のことが好きなのよね? 私と轟さんは運命によって結び付けられているのよね?」
「は、はい! それはもちろん! 俺と鷹野先輩は運命によって結び付けられています!」
「だったら」
 ぴしゃりとした口調で鷹野さんが告げる。
「私の頼みであればなんだって聞けるはずよね? 運命の相手の頼みなんだから」
「えぅ……そ、それは……。いや、あの……でも、呪われたりしたら……」
「仮に呪われることがあったとして、それがなんなの? 運命の相手の願いを叶えられるのなら、呪われようが祟られようが関係ないじゃない。違う?」
「うぅ……むぅぅ……!」
 轟さんが顔をしかめ、唸る。すぐに鷹野さんの言いなりにならないあたり、オカルト系の話が苦手なのは確実だろう。
 鷹野さんは失望したように吐息をもらす。
「もういいわ轟さん。どうやら、あなたの私に対する想いの強さはその程度のようね。がっかりしたわ。すぐに消えてちょうだい」
「あぅっ……!」
 冷たく突き放され、轟さんは泣きそうな顔をした。
 なるほど。鷹野さん、轟さんの激しい好意を跳ね返すことをやめて、逆に利用することにしたか。これで形勢逆転だ。轟さんはあきらめて立ち去るだろうか?
 いや、そんなことはなかった。轟さんは髪をわしゃわしゃとかき乱すと、両頬をバチバチ叩き、意を決したように言った。
「分かりました! 闇のブラ、取ってきますよ先輩! 必ず手に入れて、呪われようが祟られようが先輩の前に戻ってきます! そしたら、先輩のブラを俺にください! そして、俺と永遠の愛を誓ってください!」
 轟さんは逃げなかった。愛する人を手に入れるため、危険を冒すことを決めた。彼女の想いは本物だった。きりりとした目で鷹野さんの目を見ている。
 鷹野さんは小さく笑んだ。
「少しは骨があったみたいね。いいわ。闇のブラを手に入れた暁には、私のブラをあなたにあげる。そして、あなたと永遠の愛を誓うわ」
「よっしゃあ! 約束ですよ! それじゃあ俺、早速行ってきます! でりゃああああっ!」
 轟さんは顔をぱっと輝かせ、力強く教室を飛び出していった。
 その姿が見えなくなって少ししてから、僕は鷹野さんに問いかけた。
「ねえ鷹野さん。念のために訊くんだけど、闇のブラジャーってホントにあるの?」
「あるわけないじゃない」
 即答された。ま、そうだよな。あるわけないよな、闇のブラジャーなんて。
「轟さんは、現実には存在しないものを探しに行ったわけだ」
「そ。これでもう彼女は私の前に現れないでしょう。ふぅ、せいせいしたわ」
 鷹野さんは両手を上げて「んっ」と背を伸ばした。
「さーてと、思わぬ邪魔が入ったわね」
 それ聞いて僕は気を引き締めた。そうだ、鷹野さんとのラスト・デュエルをしなくちゃ! いい加減そろそろデュエルを始めたい!
「えーと、なんの話をしてたかしら? ……ていうか、なんで私ここにいるの? たしか、パラコンに電話で呼び出されたような覚えがあるけど……あなた、私に何か用?」
「だから僕とデュエルする約束してたって言ってんだろ! いい加減覚えろよ!」
「ああ、そうそう、デュエルね、デュエル。うん、思い出したわ」
 ポンと手を合わせると、鷹野さんは鞄からデッキを取り出して机に置いた。しかし、何かを不審に思ったのか、首をかしげ、僕を見た。
「……で、パラコン。あなたなんでここにいるの? 私に何か用?」
「あんたは鶏かぁぁぁぁっ!」
「鶏じゃなくて鷹なんだけど」
「だからそういう話じゃねえよバカ!」
「バカとは何よ! こいつを喰らいな!」
 鷹野さんは消火器の残りを僕に向かってぶちまけた。どわぁぁぁ! 目がぁぁぁ!
「じゃあ、そういうわけで、私の先攻ドロー!」
 ……って、どさくさに紛れて勝手に先攻取ってんじゃねえよコンチキショオがあああああああああああああああああ! そういうわけって、どういうわけだよ!
「鷹野さん! ちゃんと先攻・後攻はジャンケンで決めなきゃ! それにデッキシャッフルもしないと!」
「ちっ」
 鷹野さんは渋々、僕にデッキを手渡してきた。この女、今舌打ちしたよな? ルールくらい守れよ! これがラスト・デュエルなんだぞ!
 そんなわけで、僕も鷹野さんにデッキを手渡し、お互いにデッキシャッフルを行なった。やれやれ……。ようやくラスト・デュエルに入れるよ。長かったなぁ。
 さて、気を引き締めないと。これが最後のデュエルだ。これに勝てなければ、鷹野さんに勝ち逃げを許してしまう。絶対にそれだけは阻止しなければならない。いい加減、負けっぱなしの状態から脱却したい!
 なんとしても、今日ここで鷹野さんの連勝記録に終止符を打つ! この機を逃せば、もう鷹野さんとデュエルすることはまずできない。今日しかないんだ! 今日が最後のチャンスなんだ!
 だんだんと、緊張でデッキシャッフルする手が汗を帯びていく。同時に、心臓の動きも速くなる。落ち着け、落ち着くんだ。緊張のあまりプレイングミスなんてしたら話にならない。リラックスリラックス……。
 何気なく鷹野さんの表情をうかがった。彼女の表情からは全く緊張感が見られない。落ち着いて普段通りにデッキシャッフルをしている。その手つきもごくごく自然だ。……完全に舐めてやがるな、この女。
 だが、冷静でいられるのも今のうちだ。覚悟しとけよ鷹野さん!
 デッキシャッフルを終えた僕らは、互いにデッキを持ち主に返し、向かい合う形で机に着いた。その瞬間、脳裏を過ぎるものがあった。
 それは、鷹野さんと初めてデュエルをしたときの光景だった。バレンタインデーだったその日、僕と鷹野さんは放課後、こうして教室で、向かい合うように机に着き、デュエルを行った。思えば、僕と鷹野さんの因縁は、あのときから始まったのだ。当時、僕と鷹野さんはお互いに中学2年生だった。中2の頃の出来事なのに、遠い昔のことのように思える。ホント遠い昔……具体的には6年くらい前のことに思える。
「鷹野さん、覚えてる? 僕と鷹野さんが初めてデュエルしたときのこと」
「忘れたわ」
 鷹野さんは即答した。
 この女、この空気でその返答はないんじゃないの? 普通ここは、「覚えてるわ。忘れるわけないじゃない」的なことを感慨深げに言うところだよね?
 仕方ない、解説してやるか。
「初めてデュエルしたときも、こうして放課後の教室でデュエルしたんだよ。覚えてない?」
「だから、忘れたって言ってるじゃない。ていうか、デュエルしないの? しないのなら私、ここを出て真田さんたちと合流したいんだけど」
 鷹野さんはスッゲーめんどくさそうに言った。ああはいはい、そうですよねぇ! 負けっぱなしのパラコンボーイとのデュエルのことなんか記憶の片隅にありませんよねぇっ! 失礼しやしたっ!
 このアマ、絶対にぶっ潰す! 完膚なきまでにぶっ潰す! ぶっ潰して、僕の名をその記憶に刻みつけてやる! 見てろよなあ!
「それじゃあ、ジャンケンで先攻・後攻を決めようか」
 いよいよ運命のジャンケンフェイズだ! よーし、先攻取るぞ!
「じゃんけん」
「ぽん」
 僕はパー、鷹野さんはグー。やった! 僕が勝ったぞ!
「じゃあ、僕が先攻をもらうよ」
「…………」
 鷹野さんはすごく不満そうな顔をした。思うんだけど、なんでこの人、こんなに先攻を取りたがるんだ?
 ともあれ、これで準備は全て完了だ。
 僕と鷹野さんは手札5枚を引き、お互いに相手の目を見た。春の光が差し込む教室内に、沈黙が流れる。
 やがて、沈黙を破るように、僕と鷹野さんは同時に叫んだ。

「「デュエル!」」

 時刻は午後1時27分。
 色々あったけど、ついにラスト・デュエルの始まりだ。

 鷹野さん! 今日こそは君を倒す!





5章 笑劇のラスト・デュエル


 とうとうデュエルが始まった。泣いても笑ってもこれが最後だ。
 さあ、落ち着いて勝ちに行こう!
「僕の先攻ドロー!」
 先攻を取った僕は、意気揚々とデッキからカードを引く。ルール上、なんの問題もない動きだ。誰も今の僕の動きを咎めることはしないだろう。M&Wにおいては、先攻1ターン目にドローできないなどというルールはない。
 さて、6枚になった手札を確認しよう。どれどれ……?

<僕の手札>
 《ゴキボール》、《ゴキボール》、《ゴキボール》、《死者蘇生》、《聖なるバリア−ミラーフォース−》、《魔法除去細菌兵器》

 なかなかいい手札だ! 3体の《ゴキボール》に、モンスター蘇生魔法の《死者蘇生》、それと、敵攻撃モンスター抹殺のトラップ《聖なるバリア−ミラーフォース−》、そして、ウイルスカードの《魔法除去細菌兵器》!
 僕は《魔法除去細菌兵器》のカードに目をやった。このカードは、相手の手札及びデッキから10枚の魔法カードを墓地へ送ることができる極悪ウイルスカードだ。決して「トークン以外の自軍モンスターを生贄に捧げることで、その数だけ相手はデッキから魔法カードを選んで墓地へ送る。」なんて効果ではない。嘘だと思うなら、原作のコミックスを読み直すといい。
 こいつを使えば、鷹野さんのデッキの戦力を大幅に削ることができる! そうすれば、僕の勝率も上がるというものだ! 使わない手はない!
「僕はウイルスカード《魔法除去細菌兵器》を発動! このカードの効力で鷹野さん! 君は手札及びデッキから魔法カードを10枚選んで墓地に置かなければならない!」
「いきなりウイルスカードを! それで私のデッキパワーを落とすつもりね!」
「その通り! さあ、魔法カードを捨ててもらおうか! 先攻1ターン目の今、鷹野さんに妨害する手段はないだろうからね!」
「……分かった」
 鷹野さんは自分のデッキを掴むと、そこからカードを10枚選んで墓地に置いた。
「私の手札に魔法カードはない。よって、デッキから魔法カードを10枚墓地に置いたわ」
 よし。いきなり鷹野さんの魔法カードの大部分を葬ってやった。これで僕がかなり有利になったはず!





「――勝利の方程式は全て揃った! 私は今墓地に置かれた、3枚の《ジャックポット(セブン)》の効果を発動するわ!」





 …………。
 …………。
 …………は?
 え? 何? なんか鷹野さんが言ったぞ? 《ジャックポット7》だって……? 何それ? ぼくそんなかーどしらないよ。
「た、鷹野さん……《ジャックポット7》って何? このタイミングで効果を発揮するってどういうこと?」
 そう問いながら、僕は自分の背筋がぞくりとするのを感じていた。何か……とてつもなく嫌な予感がする。よく分からないけど、何かとんでもない過ちを犯したような……そんな気がする。
「あら? パラコン、知らないの? 《ジャックポット7》はね、相手のカード効果で墓地へ送られたときに効果が発動する魔法カードなのよ」
「なっ……相手のカード効果で葬られたときに発動する魔法だって!? ……ま……まさか……!」
「そのまさかよ。今さっきあなたが使った《魔法除去細菌兵器》で墓地へ送られた魔法カードの中に、3枚の《ジャックポット7》があったってわけ」
 くそっ! 僕のウイルスカードの効果を逆手に取ったか!
「で、《ジャックポット7》って一体どんな効果なのさ……」
 僕の声は震えていた。理由は不明だが、銃口を突きつけられている気分になっていた。
「《ジャックポット7》。このカードが相手のカード効果で墓地送りになったとき、このカードをゲームから除外する!」
 鷹野さんはそう言うと、3枚の《ジャックポット7》を墓地から除外した。
「そして! この効果によってゲームから除外された《ジャックポット7》が3枚揃ったとき……私はデュエルに勝利する!
「はああああああっっ!?」
 僕は危うく椅子から転げ落ちそうになった。いや、訂正。見事に椅子から転げ落ちた。
 ちょっと待てよ! 何? 3枚全部がゲームから除外されたらデュエルに勝利!? 何その反則効果!? 意味分かんないんだけど! そんな……そんなバカげた効果があってたまるか!
「鷹野さん、ちょっと《ジャックポット7》のカード見せて!」
 何かの間違いに決まってる! ていうか、間違いでないと困る! 間違いであってほしい! 祈りながら、《ジャックポット7》のカードテキストを見た。次のようなものだった。


 ジャックポット7
 (魔法カード)
 このカードをデッキに戻してシャッフルする。
 また、このカードが相手のカードの効果によって墓地へ送られた時、このカードをゲームから除外する。
 この効果によってゲームから除外された自分の「ジャックポット7」が3枚揃った時、自分はデュエルに勝利する。


 ……マジで鷹野さんの言った通りの効果だった。あ……あり得ないだろ、こんな反則効果! こんなのってあるか!?
「パラコン! 自身の効果で除外された《ジャックポット7》が3枚揃ったことで、私の勝利が確定した! 大人しくくたばりなさい!」
 ふざけんなよ! こんな勝ち方どう見ても卑怯だろ! な、何か! 何か防ぐ手段はないか! 何か僕の手札に防ぐ手段は……チキショオ! 何も抵抗できねええええ!


 鷹野さん:勝利!


「弱っ」
 嘲るように呟くと、鷹野さんはさっさとカードを片付け始めてしまった。
 ……え? 何これ? これで終了なの? ラスト・デュエル、たったこれだけでおしまいなの? え? 嘘でしょ? ラスト・デュエルっていうのはこう、もっと白熱したデュエルになるものなんじゃないの? お互いに死力を尽くして、切り札モンスター出しまくって、逆転に次ぐ逆転が発生して、残りライフ50対50になったりして……そんな感じのデュエルが繰り広げられるもんなんじゃないの? なのに、何これ? まだ先攻1ターン目なのに終わっちゃったよ? ちょっと待って? ホントにこれで終わりなの? 僕と鷹野さんのラスト・デュエル、これでおしまい?
「パラコン……まさかここまで弱かったとはね。さすがに予想外だったわ。まさか……私のターンが始まる前に負けるなんて……ある意味ではすごいわ」
 鷹野さんはゴミを見るような目つきで僕を見ていた。
 そういえば、鷹野さんのターンってまだ始まってなかったんだっけ。鷹野さん、自分のターンが来る前に勝っちゃったじゃん。まさに0ターンキル!
「ラスト・デュエルだから、これまでより多少はマシな戦いをするかと思えば、全然そんなことなかったわね。むしろ、これまでで一番ひどい負けっぷりじゃない。パラコン、あなたは究極の雑魚デュエリストだわ」
 た……たしかに、今回の負け方は、これまでとは比にならないくらいひどい。まさか、《魔法除去細菌兵器》を撃っただけで死ぬとは。シャレにならないくらいひどい。宿命のラスト・デュエルだというのに、デュエル開始から1分もせずに0ターンキルされてしまうとは……本当にひどい。
 いや……いやちょっと! ちょっと待ってよ! たしかに僕は負けたけど! けどさ! あそこでまさか《ジャックポット7》などという反則カードが出てくることなんて、いくらなんでも予想できないだろ! 仮に《ジャックポット7》が鷹野さんのデッキに入っていることを知ってたら、僕だって迂闊に《魔法除去細菌兵器》を使ったりしなかったよ! つまり、今の敗北は一種の事故! 不幸な事故だったんだ!
 ていうか、なんで鷹野さん、そんな地雷カードをデッキに入れてるんだよ! まるで僕が《魔法除去細菌兵器》を使ってくることを見越していたみたいにさ! 何? あんた予知能力でも持ってるわけ?
「さて、デュエルは終わったし、もう用は済んだわよね。私、もう行くから」
 鷹野さんは立ち上がり、教室の入口へと歩きかけた。……って、冗談じゃないぞ!
 僕は反射的に鷹野さんの腕を掴んだ。鷹野さんが「気安く触ってんじゃねえよゴミ野郎が殺すぞ」と言いたげな目で見てくる。
「まだだよ、鷹野さん! まだ終わってない!」
「何言ってるの? もう終わったじゃない。デュエルは私の勝ちよ」
「たしかに鷹野さんが勝ったけど……えーと、その……アレだ! 誰も1回勝負だなんて言ってない! この戦いは2回先取のマッチ戦だから、2回勝たないと正式に勝ったことにはならな――」
「うるさいだまりなさい見苦しいわよ」
 僕が言い終える前に、鷹野さんはぴしゃりと言い放つ。
「見苦しいパラコンボーイ略してミボーイ。あなたは負けたのよ。敗者はそこで大人しくくたばってなさい」
「嫌だ!」
 僕は必死に食らいついた。
「これが最後のデュエルだってのに、こんな負け方があっていいはずがない! 鷹野さんも実はそう思ってるだろ!? 最後なんだから、もっといいデュエルがしたかったって思ってるだろ!? こんな形で幕を終えるなんて嫌だろ!?」
「ホント見苦しいわね、あなた」
「見苦しいことを承知の上で言ってるんだ! 鷹野さん、今回はマッチ戦ということにしてくれ! 頼むよ! この通りだ!」
 机に頭を擦り付けて懇願する僕。鷹野さんはだまっていたが、やがて小さく吐息をついた。
「分かったわよ。マッチ戦ということにしてあげる」
「鷹野さん!」
 僕は顔を上げた。そんな僕に向かって鷹野さんは「ただし」と突きつける。
「条件があるわ。この条件を満たさない限り、マッチ戦には絶対しない」
「条件……って、どんな?」
 鷹野さんはふっと微笑むと、椅子に座り、僕の顔にゆっくりと両手を近づけてきた。その手で両頬に優しく触れ、顔を包み込むようにする。心臓が跳ねた。こ、この人、いきなり何を……。
 混乱する僕の気持ちにお構いなく、鷹野さんは僕と目を合わせ、顔をゆっくりと近づけてきた。可憐な少女の笑みが近づいてくる。それに伴い、体温が上昇してゆくのを感じた。
 おい……おい……鷹野さん……何、してるんだ……。
 やがて、鷹野さんの顔が、僕の顔の数センチ先まで来た。彼女の吐息が顔にかかる。ふわりとシャンプーか何かの甘い香りがする。なんというか……その気になれば、唇と唇が接触してしまいそうな距離だ。僕は完全に動けなくなってしまった。彼女から目を逸らせない。
 鷹野さんは僕の目をじっと見て、桃色の唇を綻ばせた。そして――。





 いきなり僕の髪を両手でつかみ、横方向に思い切り引っ張った。





 鋭い痛みが頭皮に走った。
「いででででででででぇっ! 何するんだ鷹野さん! 髪の毛引っ張るんじゃねえ!」
 僕はあわてて鷹野さんの手を振りほどこうとしたが、鷹野さんは離さなかった。
「パラコン! 条件はただ1つよ! このカイゼル髭みたいな形状の髪を切りなさい!」
「はぁっ!? 髪を切れだって!? 何言ってやがる!」
「前々から思ってたけど、あなたの髪型は微妙すぎるわ! その髪を見るたびに、横方向に伸びてるこの部分を切りたくなってくるのよ!」
 そう言いながら、鷹野さんは髪をぐいぐい引っ張った。痛いからやめろっての!
「だからね、この機会にもう切っちゃいなさいよ! そうすれば、マッチ戦にしてあげてもいいわ!」
「なっ! 冗談じゃない! この髪形は僕のフェイバリットなんだ! 切るなんて絶対に無理だ! 要求は拒否する!」
 僕は物心ついたときからこの髪形だった。つまり、僕はこれまでの人生の大部分をこの髪形で過ごしてきたのだ。そんな超重要な髪形を変えろと!? 寝言は寝て言え! 僕の人生とともにあるこの髪形を変えるなんてことは断固許さない!
「この髪形は……僕の人生そのものだ! それを捨てることなんてできない!」
 僕の訴えを受けると、鷹野さんは顔に酷薄な笑みを貼り付けた。
「なら、私とのデュエルは終わりよ! 永遠にそこで這いつくばってなさい、負け犬のパラコンボーイ略してマボーイ!」
「えぇっ!? ちょっ、ちょっと待った! それは勘弁してくれ! なんとかマッチ戦にしていただけませんか、鷹野さん! お願いしますぅ!」
「じゃあ、髪切りなさいよ!」
「えぅぅ……それはちょっと……」
「じゃあ、デュエル終了ね!」
「あああああっ! それはダメだ! それはダメそれはダメ!」
「はっきりしなさいよ! どっちにするの!」
「考える! ちょっと考えるから……つーか、髪の毛引っ張るのやめろ! 手離せ!」
「拒否!」
「離せぇぇぇっ!」
 僕の髪を引っ張る鷹野さんと、それを振りほどこうとする僕とで、激しい取っ組み合いが行われる。やがて、どちらかがバランスを崩し、2人揃って椅子から床に転げ落ちた。それにより、横になった僕の上に鷹野さんが覆いかぶさる形になる。
 鷹野さんの顔がすぐ目の前にあった。先ほど鷹野さんに近づかれたとき以上の至近距離だ。彼女の吐息が僕の唇に当たっている。
 それだけじゃない。鷹野さんの体が僕の体と密着している。あー……何か、その……やわらかいものが胸に当たってる……気がする。
 思わぬアクシデントに、僕らはお互い何も言葉を発せず、ただ見つめ合っていた。時間が止まったような不思議な感覚に陥った。
 しかし、それは次の瞬間、あっさりと吹き飛ばされた。

「あっ、いたいた! 良かった! たかのっティーにパラコン君、まだここ……に……いた……?」

 教室の入口のほうから女の子の声が響いた。僕と鷹野さんは同時に、声のほうを向いた。
 そこには、クラスメイトの真田さんが立っていた。何故か手で口を隠し、顔を赤くして「うわわわ……」と言いながら固まっている。
 どうしたんだろう? という疑問は一瞬で氷解した。現在のこの状況――誰もいない教室で、僕と鷹野さんが密着している――を見れば、今の真田さんのような反応をするのは当然のことだ。
 うっわ、やっべええええっ! 絶対これ、真田さん誤解するだろ! まずいよこれ、まずいよ! つーか真田さん、なんでこんなマンガみたいなタイミングで登場するんだよ!?

 僕と鷹野さん、大ピンチである。





6章 タッグチーム結成


 前回のあらすじ:ちょっとしたトラブルから、体が密着してしまった僕と鷹野さん! 誤解しないでくれ! 決して不純でホニャララな展開ではなく、ただのトラブルなのだ! しかし、不幸なことに、その現場を真田さんに見られてしまう! 顔を赤くし硬直する真田さん! まずい! 彼女は明らかに誤解してしまっている! 僕と鷹野さんの運命やいかに!
「あー……えーと……な、なんかごめんっ! 邪魔しちゃったみたいで! それじゃ!」
 真田さんは顔を赤くしたまま、あたふたと立ち去っていく。すぐさま鷹野さんが立ち上がり、真田さんを追いかけた。
 鷹野さんは教室を出ると、真田さんを呼び止めた。
「待ちなさい、真田さん!」
「た、たかのっティー! いや、ごめんごめん! のぞくつもりはなかったんだよ! ごめんね邪魔しちゃ――ぐふっ!」
 何か鈍い音が響くのと同時に、真田さんのうめき声が聞こえた。続いて、何かを引きずるような音。……何が起きている?
 やがて鷹野さんが、真田さんの体を教室内に引きずってきた。真田さんはぴくりとも動かない。その真田さんの体を、壁を背もたれにする形で床に座らせる。
「鷹野さん、何したの?」
「ちょっと真田さんには眠ってもらったわ」
 どうやら殴るか何かして気絶させたらしい。ずいぶんと荒っぽい真似を。
「これで真田さんの直前の記憶は、多少あやふやになるはず。誤魔化すことも不可能じゃないわ」
「誤魔化すって何を?」
「何って……決まってるじゃない。さっきの……アレよ」
 そう言ったときの鷹野さんは、頬が少し赤くなっていた。
「パラコンも分かってるだろうけど、真田さんはさっきの私たちを見て、大きな誤解をしているわ。こういう誤解は解くのが難しい。いくら私たちが否定したところで、真田さんは信じてくれないと思う。だから誤魔化すの」
「どうやって?」
「私が適当にそれらしい話をでっち上げて、真田さんにそれが真実だと思い込ませるわ。だから、パラコンは余計なことを言わず、とにかく私の話に合わせてちょうだい」
「話を合わせればいいんだね。分かった」
「余計なこと言うんじゃないわよ? 余計なこと言ったら、そのカイゼル髭ヘアーをズタズタにするからね」
「……肝に銘じるよ」
 この髪形を壊されるわけにはいかない。絶対に鷹野さんの意に背いちゃダメだ。
「それから……」
 鷹野さんは自分の鞄から何かを取り出した。櫛だった。
「あなたの髪の毛、すごく乱れてるわ。真田さんに不審に思われると困るから、ちゃんと整えときなさい」
 言われて髪に触れてみる。たしかに乱れているようだった。さっき鷹野さんに引っ張られたせいだ。くそっ! 僕のフェイバリットヘアスタイルが滅茶苦茶だ!
「それにしてもパラコン、なんでそんなに髪の毛乱れてるの? 何かあったの?」
「いや、あんたのせいだよ! さっき自分がやったこともう忘れたのか! あんた鶏かよ!?」
「鶏じゃなくて鷹なんだけど」
「そのネタはもういい! しつこい!」
「振ってきたのはあなたじゃない」
 鷹野さんが櫛を差し出してくる。それを受け取り、髪型を整えていく。
「うん、それくらい整っていればいいわ。じゃあ、真田さんを起こすわよ」
 櫛を片付けると、鷹野さんは気絶している真田さんの頬を軽く叩きながら声をかけた。
「真田さん、起きなさい。授業はもう終わったわよ」
「う……うぅん……もう、疲れたよ……マッツー……」
 真田さんは起きない。寝言のように何かをぼやいている。鷹野さんは声をかけ続けた。
「真田さん、起きなさい。寝たらダメよ。寝たら死ぬわよ」
「うぅん……マッツー……そこは……そこは……ダメ……」
「真田さん、起きなさい。取り調べはまだ終わってないわよ」
「んん……マッツー……ダメだよぅ……」
「真田さん、起きなさい。パラコンがレアカードくれるらしいわよ」
「えぅ……え? レアカード!? レアカードくれるの!?」
 真田さんがぱっちりと目を開けた。完全に覚醒していた。この人、どんだけレアカード好きなんだよ。
「やっと起きたわね真田さん。あまりにも起きないから、そろそろ蹴り入れようかと思ってたところよ」
「あ、たかのっティー、おはよう。それから……パラコン君もおはよう。……あ! パラコン君! パラコン君、レアカードくれるんだよね!?」
「えっ? なんの話? 真田さん、夢でも見てたんじゃないの?」
 適当にあしらうと、真田さんは「え……? あれ……?」と目をパチクリした。
「……うーん、夢だったのか、残念」
「それよりも真田さん、どうしてここにいるの? たしか真田さん、川原さんたちと一緒だったはずでしょ?」
「……えーと、あ、そうそう! そうだったそうだった! 実はね……ってその前に! たかのっティーとパラコン君、やっぱりその……そういう仲だったんだね!」
 真田さんは頬を少し赤らめ、ニヤニヤとした。
「絶対2人の間には何かあるって思ってたけど、やっぱりそうだったんだー! なかなかお似合いのカップルだと思うよ?」
 真田さん、さっき見たものを思い出したらしい。完全に誤解してしまっている。
「……真田さん、なんの話をしているの?」
 鷹野さんは何がなんだか分からないと言った表情を作る。真田さんは「またまたぁ〜」と肘で鷹野さんを突く。
「別に隠さなくたっていいじゃん! 何しろあたし、あんなところ見ちゃったんだし!」
「あんなところってどんなところ? 真田さん、何言ってるの? もしかして、熱でもあるんじゃないの?」
 鷹野さんは心配そうに眉を下げると、真田さんの額に手を当てた。その姿は、妹の面倒を見る姉のようだった。
「熱は……なさそうね。真田さん、頭が痛かったりしない? 気分は悪くない?」
「え……えっと……。たかのっティー、何……言ってるの?」
 真田さんは意味が分からないと言いたげに首をかしげている。
「……何も覚えてないのね」
 鷹野さんは頭をゆらゆらと振り、静かな口調で言った。
「真田さん。あなたは廊下で意識を失って倒れてたのよ。偶然私がそれを見つけて、パラコンと一緒にこの教室に運び入れたの。ね?」
 ね? と言いながら鷹野さんは僕の顔を見た。「話を合わせろ」とその目が言っている。僕はこくこくとうなずいた。
 なるほど。適当な話をでっち上げるってこのことか。
「あたしが……倒れてた……? そうなの?」
「ええ、そうよ。呼びかけても応答がないから心配したわ。ね?」
 また鷹野さんが振ってきた。僕は「うん、心配したよ」と返しておいた。
「そ……そうなんだ……。あたし、意識を失って……倒れてたんだ……」
「そうよ。全然覚えてない?」
「いや……なんというか……記憶があやふやで……」
 鷹野さんに気絶させられたことは記憶にないのか、真田さんは鷹野さんの話を信じているようだった。
「あー、でもでも! たかのっティーとパラコン君が大胆にもホニャララしてる場面を見た記憶はあるんだよ! ホントだよ!」
「……真田さん、あなた何言ってるの? もしかして、現実と夢の区別がついてないんじゃないの? あなた、ホントに大丈夫? 病院で診てもらったほうがいいんじゃない?」
「いや、あれは夢じゃないよ!」
「……これ、もしかしたら危ないかもしれないわね。やっぱり、病院で診てもらったほうがいいんじゃないかしら。ね?」
 鷹野さんが振ってくる。僕は「そのほうがいいかもね」と返しておいた。
 鷹野さんと僕のそういった態度を見て、真田さんはだんだん自信を失っていっているようだった。
「あれ……? もしかして……あれは夢、だったの? あれぇ……?」
 真田さんは頭を抱えてうんうん唸り始めた。おぉ、なんか上手いこと誤魔化せてるっぽいぞ!
「真田さん、病院で診てもらったほうがいいわよ。もし何か悪いことがあったら困るし」
「い……いや、大丈夫、だよ! 病院で診てもらうとか、そんな大げさにすることじゃないから!」
「けど真田さん、さっきから妙なことを言ってるし……」
「あ、あれは! そう! あれは夢だよ! そうそう、今考えてみれば夢だった! うん、あたしも何かおかしいかな〜って思ってたんだよ! ごめんごめん、変なこと言っちゃって! あたしは大丈夫! 何も問題ないから!」
 真田さんは手をぶんぶん振って「大丈夫」を連発した。
 すごい。ホントに誤魔化せちゃったよ。
「そう? まあ、何も問題ないんだったらいいけど」
 鷹野さんは僕の顔を見て、にこりとした。その表情が「ちょろいわねこの子」と言っているように思えて、僕は苦笑いしてしまった。
「ごめんね、たかのっティーにパラコン君。なんか迷惑かけちゃったみたいで」
「気にしなくていいわ」
「うん、そうだよ」
 真田さんが気に病むことはない。そもそも、真田さんを気絶させたのは鷹野さんだし。
「ところで真田さん。あなたどうしてここに? 川原さんたちはどうしたの?」
「あ、そうだ! それだよそれ! 実はさ!」
 真田さんはぱっと立ち上がると、スカートについた汚れを落としながら言った。
「たかのっティーが学校に戻った後、あたしたち……あたしとマッツーと静江と代々木君とパロ君とミカリンの6人は、『バーガーワールド』を出て、カラオケにでも行こうかーって話になってたの。そしたらさ、なんかの話の流れで、タッグデュエルの話題で盛り上がってさ、じゃあこれから学校の校庭でタッグデュエル大会しようってことになったんだよ。それで学校に戻ってきたわけ」
「ふうん、そうなの」
 へえ、タッグデュエル大会か。
「でね、6人メンバーだから、今のところ、全部でタッグチームが3つできてるんだ。となると、あと1つタッグチームができれば4チームになって、トーナメントができるわけじゃない?」
「そうなるわね。で?」
「そこであたしは思い出したわけだよ。『あ、そういえば、たかのっティーが学校に戻ってパラコン君とデュエルしてるんだっけ!』ってね。で、あたしはすぐさま2人に電話したけど、何故か2人とも出なかったんだよね」
「ごめん。僕は今日、スマホを家に忘れてきちゃったんだ」
「私は……ああ、スマホのバッテリーがいつの間にか切れてたわ」
 僕も鷹野さんも電話には出られない状態だったのだ。真田さんは納得したようにうなずいた。
「どうりで電話に出ないわけだ。ま、そんな状態だったから、あたしは校舎に入って、たかのっティーとパラコン君を探した。そして2人に会えて今に至ると。で、ここからが本題なんだけど!」
 そこで言葉を止めると、真田さんは僕と鷹野さんを指差し、堂々と言い放った。
「たかのっティーとパラコン君! 君たち2人でタッグチームを組んで、タッグデュエル大会に出てみる気はないかね!?」
「ないわ」
 鷹野さんが即答した。それを聞き、真田さんが「ええぇぇっ!?」と目を剥いた。
「ちょっとたかのっティー! そこで拒否るかなフツー! せめて少しは考えようよ! あたし、たかのっティーとパラコン君に大会に出てもらうためにわざわざここまで来たんだからさぁ!」
「それは真田さんの都合でしょ。私には関係ないわ」
「そんな冷たいこと言わずにさあ! パラコン君とタッグチーム組んで、思いっ切りタッグデュエルを楽しんでみなよ! いい思い出になると思うよ!」
 真田さんの目的は、僕と鷹野さんにチームを組ませ、タッグデュエル大会に参加させることのようだ。
 そういえば、これまで鷹野さんを相手にデュエルしたことは何度もあったけど、鷹野さんとタッグチームを組んでデュエルしたことはなかったな。鷹野さんと一緒に戦ったらどうなるか、ちょっと興味がある。
 もっとも、鷹野さんはそうではないみたいだけど。
「どうして私がパラコンみたいなポンコツデュエリストと手を組まなきゃいけないの? 冗談じゃないわ。この男はね、この私に0ターンキルで敗北するようなスットコドッコイなのよ?」
 言いながら鷹野さんは、僕のこめかみに指を当ててぐりぐりとした。……こいつ、だまって聞いてりゃ僕のこと貶しやがって。けど、0キルで負けたのは事実だから反論できない。
「タッグデュエル大会に出るのは構わないけど、パラコンとは組みたくないわ。誰か余ってるメンバーとかいないの? いるのならその人と組むわ」
「いや、余りメンバーとかはいないんだよ! 今いるのは6人だけ! だから、たかのっティーとパラコン君にチームを組んでもらおうとしてるんだけど」
「じゃあ、話はおしまいよ。パラコンと組むつもりはないわ」
「そんな釣れないこと言わないでさぁ。ねえ、パラコン君だって、たかのっティーと組んでみたいよね?」
「いや、組みたくない」
 僕が即答すると、真田さんは「んなぁぁぁっ!?」と再び目を剥いた。
「なんで!? なんでなんで!? たかのっティーだよ! こんな美少女デュエリストとチームを組んでタッグデュエルしたいって思わないの!? あ! もしかして、たかのっティーにポンコツとかスットコドッコイとかアンポンタンとかオッペケペーとかオタンコナスとか言われたのが気に食わなくて、そんなこと言ってるの?」
「アンポンタン、オッペケペー、オタンコナスとは言われてないけどね」
 まあ、正直なところ、真田さんの言うとおりだ。あんなボロクソに言ってくるような女とチームなんて組みたくない。鷹野さんと一緒に戦うことに興味がないわけではないけど、ボロクソに言われてまでチームを組みたいとは思わない。
「タッグデュエルするのは大いに結構だけど、鷹野さんとは組みたくないなぁ。ねえ、ホントに余りメンバーいないの?」
「ホントにいないんだって。うーん、困ったなあ。2人なら出てくれると思ってたんだけど。こうなったら、他のメンバー探すか、3チームでやるしかないか……」
 真田さんは少しの間、頭を抱えていたが、やがて何かを思いついたのか、ポケットからスマホを取り出して、「ごめん、ちょっと電話かけてくる」と言って廊下へと出て行った。
 廊下のほうから、真田さんの声が途切れ途切れで聞こえてくる。
「もしもし〜……あのさ…………うん…………そうそう…………で、メンバーが…………そう…………来れそう?…………ホントに!?…………ありがとう! それじゃ!」
 2、3分ほど電話で話すと、真田さんは顔を輝かせながら教室に入ってきた。
「やったよ、パラコン君!」
 いきなり僕の肩を叩く真田さん。なんなんだ?
「今、ちょっと隣のクラスの子と電話したんだけどね、パラコン君のこと話したらその子、パラコン君とチーム組んでタッグデュエル大会に出たいってさ!」
「えっ? 僕とチームを? 隣のクラスの誰?」
「ふふん! 相手はすっごく可愛い子だぞ!」
 それを聞いた瞬間、心臓が小さく跳ねた。と同時に、何故か鷹野さんが不愉快そうに眉を歪めた。
「その子ね、エリちゃんっていう子なんだけど、知ってるかな? ホントに可愛くていい子だよ! パラコン君と是非チームが組みたいってさ!」
 え……エリちゃん!? ……って、誰それ?
 僕は記憶の糸を辿り、エリちゃんというのが誰なのか思い出そうとした。けれど、思い出せることは何もなかった。
 それを察したように真田さんが言う。
「やっぱり知らないか。けど無理もないよ。パラコン君とは同じクラスになったことがないし、大人しくて目立たないタイプの子だから。でも、すっごく可愛くていい子だよ! どうする? エリちゃんと一緒に大会に出る? 出るなら、エリちゃんにそう伝えるけど」
 僕は会ったことのないエリちゃんに思いを馳せた。真田さんいわく、すっごく可愛くていい子……そんな子とタッグデュエルができるのか。しかも、エリちゃんのほうから僕と組みたいと言ってきている……。
 こ、これは思わぬ展開だぞ……。なんか……気分が浮き浮きしてきたな! もしかしたら、これを機会にそのエリちゃんと仲良くなって、ゆくゆくは恋人同士に、そしていずれは結婚を……なんてことがあるかもしれない! となると、エリちゃんとのタッグデュエルは、まさに僕の青春の最初の1ページといえるだろう! そうだ! 僕の青春はここから始まるのだ!
 ならば、僕の答えは決まっている!
「出るよ! エリちゃんと一緒に大会に出――」

「パラコン! 何ぼさっとしてるのよ! タッグデュエル大会に出るわよ!」

 凛とした声が、僕の声を遮るように響いた。
 声を発したのは、なんと鷹野さんだった。……え? この人、今なんて言った?
「真田さん。私とパラコンにチームを組んでほしいのよね?」
「え? あ、うん」
「その頼み、引き受けたわ。真田さんの頼みだもの、断るわけには行かないわ」
 あれ? どういうことだ? 鷹野さんの意見が変わってる……。
「た……たかのっティー……いきなりどうして? ついさっきまでパラコン君とは組まないって言ってたのに……」
「……え? 何言ってるの真田さん。そんなこと言った覚えがないわよ。……やっぱりあなた、病院で診てもらったほうがいいんじゃ……」
「あー、いや、うん! 分かった分かった! たかのっティーがそう言うなら、それに越したことはないんだ! うん!」
 真田さんはこくこくうなずくと、僕のほうを見た。
「ってわけだからさ、パラコン君はたかのっティーと組んでくれない?」
 ……はぁっ!? なんじゃそりゃ!?
「ちょ……ちょっと待った! じゃあ、エリちゃんはどうなる――」
「パラコン」
 と、僕の声に割り込むように鷹野さんが呼んできた。そちらを見ると、鷹野さんはにこりとして僕の肩に手を置いた。
「あなたなら、私のタッグパートナーとして、それなりには役立つでしょう。しっかり働きなさいよ」
 ……おかしい。なんなんだこの変わりようは。さっきまであんなに僕とタッグを組むのを拒否していた彼女が、今は正反対の言動を取っている。どういうことだ?
「……ねえ、鷹野さん。さっき僕のこと、0キルで負けるようなポンコツでスットコドッコイなデュエリストって言ったのはどこの誰でしたっけ?」
「あら、ずいぶんとひどいこと言う人がいるものね。誰にそんなこと言われたの?」
「鷹野さんに決まってんだろ! もう忘れたのかよ!? 物忘れ激しすぎだろ! あんたはニワ――」
「ニワ――何?」
 鷹野さんはわくわくしたような目で訊いてくる。……そんなにあのネタが言いたいのか。けど、もうそうは行かないよ。
「……いや、なんでもない。もうこのネタは飽きた」
 そう言うと、鷹野さんは不満げに唇を尖らせた。分かりやすい人だな。
 一方、真田さんは満足げな顔をしていた。
「じゃあ、これでたかのっティーとパラコン君のチーム結成だね!」
「ちょっと待って真田さん! エリちゃんは――」
「ああ、だいじょぶだいじょぶ。エリちゃんにはあたしから話しておくから。パラコン君は気にしないで。それよりパラコン君は、たかのっティーと上手くやりなよ!」
 真田さんは僕の背中をバンと叩いた。
 いや、気にしないでって言われても……気になるよ! あー、なんか……大きなチャンスをつかみ損ねたような気がする! 今後の人生を左右するほどの青春の大スタートを切り損ねたような気がする! まずいんじゃないかなあ、これ。
 ていうか、今気づいたんだけど、もしかすると、これこそが鷹野さんの狙いだったんじゃないか? 僕とエリちゃんが接触するのを妨害し、それにより、僕の青春の大スタートを切り損ねさせる――それが彼女の狙いだったんじゃないか? そのために、彼女は急に僕とチームを組むことにしたんじゃないか!?
 うわあ……絶対にそうだよ! 鷹野さんの狙いはそれだよ! まったく、なんて人なんだ! これほどまでの悪女だったとは!
「真田さん、僕やっぱりエリちゃんと――」
「それじゃあ、たかのっティーとパラコン君! 校庭へ行こう! もうみんな待ってるよ!」
 鷹野さんとは組みたくない、と訴えようとしたがダメだった。もう真田さんは完全に僕と鷹野さんが組むというつもりでいる。聞いてくれぇぇ……。
「パラコン、ぼさっとしてないで、荷物持って。行くわよ」
 鷹野さんは鞄を持って、1人で先に教室を出て行った。そのときの彼女は満足そうに笑みを浮かべていた。……人の青春破壊したのがそんなに面白いのか。
 僕はため息をつきながら、鞄を持ち、真田さんと教室を出た。
 校庭に向かいながら、僕は真田さんに小声で言った。
「真田さん。エリちゃんのことなんだけど」
 鷹野さんは少し前を歩いているので、この声は聞こえないはずだ。
 真田さんも小声で返してきた。
「エリちゃんがどうかした?」
「彼女の連絡先、教えてもらえないかな? この機会に友達になれたらなぁーなんて思ってるんだけど」
 鷹野さんに僕の青春の邪魔をさせるわけには行かない! なんとしても、エリちゃんとお近づきになる! そう思い、真田さんに頼んでみた。
 ところが真田さんは、思ってもみなかったことを言った。
「えっと……ごめん。『彼女』ってどういうこと?」
「……は? ……え?」
「え……?」
 僕と真田さんは目を見合わせた。やがて、真田さんが「あ」と口を開けた。
「やだ、あたし……もしかして、誤解させるようなこと言っちゃった……?」
「誤解って……どういうこと?」
「パラコン君さ、もしかして……エリちゃんのこと、女の子だと思ってる?」
 …………。
 …………まさか?
「エリちゃんって……女の子じゃないの?」
「女の子じゃないよ! 男の子だよ! エリハラサトルっていう名前の男の子! エリハラだからエリちゃん!」
 はあああああああああああああああっ!? え……エリちゃんって男かよおおおおおっ!
「たはは、ごめんごめん、誤解させちゃって。エリちゃんの連絡先ね。うん、教えていいかどうか彼に訊いてみる。たぶん、教えてくれると思うよ」
「いや、やっぱ連絡先は教えてくれなくていいです」
 僕は丁重にお断りした。
 どうやら、鷹野さんがどう動こうと、どの道、僕の青春がスタートすることはなかったようだ。はぁ、これが現実か。
 階段を下り、下駄箱へと向かっていく。途中、真田さんが前を行く鷹野さんの背を見ながら言った。
「もしかして、たかのっティーもエリちゃんのこと、女の子だって誤解したのかな?」
「どうだろう。もしかしたら誤解したかもしれない」
「……なるほど。だとしたら説明がつくね」
「ん? 何が?」
 真田さんは得心が行ったという風にニヤリとし、うんうんと首を縦に動かした。
「たかのっティーがなんで急にパラコン君とチームを組むことにしたのか――もし、たかのっティーがエリちゃんを女の子だと誤解したのなら、そのことに説明がつけられるよ。ふふっ、たかのっティーもやっぱり女の子だなぁ! ねぇ、パラコン君。どういう意味か分かる?」
 真田さんはなんだか楽しそうに問いかけてくる。
 鷹野さんが急に僕と組みたがった理由……それについては察しがついてる。僕の青春を破壊するためだ。おそらく、真田さんも僕と同じ答えに辿り着いたのだろう。ただ、「たかのっティーもやっぱり女の子だなぁ!」の部分だけはちょっと意味が分からないけど。……もしかして、女の子というのは誰もが他人の青春を破壊したがるような生き物なの? そういう意味なの? 何それ。女の子怖すぎだろ。
「まあ、なんとなく察しはつくよ」
 僕は背筋が冷えるのを感じながら答えた。それを聞くと、真田さんは頬を染め、ニヤニヤとした。
 僕の青春が破壊されたことに思い至りながら、真田さんはニヤニヤしているのか。彼女もまた、他人の青春の破壊を喜ぶ女の子ということか。なんかもう怖い。女の子恐怖症にかかりそうだ。
 僕は真田さんの顔を直視できなくなった。


 ★


 僕らの学校の校庭には、大きな桜の木が1本生えている。それこそまさに、「勝利を導く桜の木、通称アルカトラズ。平たくいえば、この木の下で告白すれば必ず成功するとかなんとかいわれてる伝説の木」である。その伝説の桜の木・アルカトラズには、まだ桜の花は見られなかった。
 そんなアルカトラズの近くまでやってくると、そこには5人の卒業生がいた。
 川原さんに代々木、松本君にパロ、そして隣のクラスのミカリン。本名は野村ミカ。三つ編みおさげの女の子だ。彼女は在学中、図書委員として働いていた。
 ここに僕と鷹野さんと真田さんを合わせれば、全部で8人となる。2人のチームが4つで計8人だ。
「ごめーん、遅くなっちゃって。たかのっティーとパラコン君連れてきたよー」
「おぉー! 杏奈お手柄だ!」
 そう言ったのは、しっかりした体格でワイルドな風貌の男子、松本君。真田さんの彼氏だ。彼に向かって真田さんが手を振る。
「マッツー! あたし頑張ったよー! なでなでしてー!」
「よーしよし、杏奈は頑張った頑張った! なでなでなで」
「ふにゃーん」
 マッツー、もとい松本君に頭をなでなでされて、真田さんはめっちゃ幸せそうに目を細めていた。この子、彼氏の前ではこんな顔するのか。
 松本君も松本君で、幸せそうな顔をしていた。……まあ、別にいいんだけどさ。松本君、女の子には気をつけたほうがいいよ。女の子って怖い生き物みたいだから。他人の青春を破壊して快楽を抱く生き物らしいから。……僕の勘違いであってほしいな、この考え。
「メンバーが全員揃ったか。それじゃあ、始めるか!」
 イケメン男・代々木が取り仕切るかのように言った。それに合わせ、全員が自然に代々木を中心とする形で集合する。代々木オメー何ちゃっかり仕切ってんだよォォォ? まあ、別にいいけどね。代々木はリーダーシップのある男だから、こいつに仕切らせとけば大抵は上手く行く。
「今から卒業記念イベント・タッグデュエル大会を開催するっ!」
 はきはきと代々木が宣言すると、何人かが「おぉーっ!」と叫んだ。代々木がこの手の宣言をすると、すごく様になるな。
「デュエルの前に、まずは、参加するペアを確認しておこう。名前を呼ぶから、呼ばれたメンバーはとりあえず返事してくれ。一応、確認のためにな。それじゃあ、まずは第1ペア、パロ&野村ペア」
「はい」「……はぃ」
 パロの返事ともう1つ、野村さんのか細い返事が響く。
「第2ペア、俺……代々木&静江ペア」
「はいっ」川原さんが返事をする。代々木は軽く手を上げた。
「第3ペア、松本&真田ペア」
 松本君の「ういっす」と真田さんの「はいは〜い」が同時に響く。
「最後、第4ペア、パラコン&鷹野ペア」
「はい……ってちょっと待て! 僕の名前はパラコンじゃ――」
「オーッホッホッホッホ!」
 相変わらずパラコン呼ばわりされることにツッコミを入れたら、鷹野さんの高笑いで遮られた。ふざけんな!
「よし、じゃあ、ルールを確認しよう」
 代々木はスルーして先に進めてしまった。こいつ、いつかぶっ飛ばす!
「ルールは簡単だ。まず、第1回目のデュエルで、第1ペア・パロ&野村ペアと、第2ペア・代々木&静江ペアがデュエルする。
 次に、第2回目のデュエルで、第3ペア・松本&真田ペアと、第4ペア・パラコン&鷹野ペアがデュエルする。
 そして最後に、第1回目デュエルの勝利ペアと、第2回目デュエルの勝利ペアがデュエルし、勝ったペアが優勝だ」
 そう言うと、代々木はルーズリーフにトーナメント表をさらさらと書いた。
 なるほど。2回デュエルに勝てば、優勝できるってわけか。
「んじゃ、さっそく始めるとしようか! デュエルは俺が持参したこのデュエル・ディスクを用いて行うぜ」
 代々木は鞄の中から、海馬コーポレーションが生み出したカードバトルマシーン、デュエル・ディスクを取り出した。しかも4台も。こいつ、なんで4台もデュエル・ディスクを持ってるんだ? 疑問に思って訊いてみると、代々木は「俺は4人兄弟でな。弟3人からディスクを借りてきたんだ」と答えた。なるほどね。
 それはそうと、デュエル・ディスクを使うってことは、ソリッド・ビジョンを用いたデュエルをするってことだよな。なかなか豪華じゃないか。
「まずは第1デュエルと行こう。パロと野村のペアと、俺と静江のペアのデュエルだ!」
 パロ、野村さん、代々木、川原さんの4人がデュエル・ディスクを装着し、距離を取る。そして、お互いに相手のペアと向かい合う形となった。
 さて、いよいよ卒業記念イベントらしいタッグデュエル大会が始まる。なんだか思わぬ展開になっちゃったな。鷹野さんとのラスト・デュエルをするはずが(もうラスト・デュエルは終わっただろというツッコミは受け付けない!)、卒業生たちのタッグデュエル大会に参加することになるとは。
 ふと見ると、アルカトラズの下に大きなシートが敷いてあった。そのシートの上に、松本君と真田さんが腰を下ろしている。
「たかのっティーとパラコン君もこっちおいでよ! お菓子とかジュースとかあるよ!」
 真田さんがそう言っている傍で、松本君が紙コップにジュースを注いでいる。また、スナック菓子の袋がいくつか目に入った。どうやら、真田さんたちが飲食物を用意したらしい。嬉しいサービスだ。
 僕と鷹野さんは顔を見合わせた後、シートの上にお邪魔した。そこに腰を下ろすと、ちょうどパロたちの姿が視界に入る。観戦するのにはちょうどいい場所だ。
「よし! デュエル開始と行くか!」
 代々木が叫ぶ。それを合図に、パロ、野村さん、川原さん、代々木が同時に叫んだ。

「「「「デュエル!」」」」

 タッグデュエル大会、スタートである。





7章 本の力


 タッグデュエル大会第1戦目、代々木&川原さんペアvsパロ&野村さんペアのデュエルが始まった。先攻は代々木&川原さんペアだ。
「確認しておこう。ターンを進める順番は、俺→野村→静江→パロの順で構わないか?」
 代々木の問いに全員が首肯した。それを確認すると、代々木はカードを引いた。
「俺のターン、ドロー! 俺は《戦士ダイ・グレファー》を召喚! 攻撃表示!」
 代々木がカードをデュエル・ディスクに置くと、剣を持った戦士型のモンスターが代々木の前にソリッド・ビジョン化された。おぉー、やっぱりデュエル・ディスクを使ったデュエルは迫力がある。
「俺はさらにリバース・カードをセット! タッグデュエルでは、どのプレイヤーも最初のターンは攻撃できない。俺はこれでターン終了だ」
 最初のターンが終わる。まだフィールドに存在するカードは《戦士ダイ・グレファー》と1枚の伏せカードだけだ。
 続いて、三つ編みおさげの女の子ミカリン、本名、野村ミカさんのターンだ。
「わ……わた、しのターン……! ドロー……!」
 野村さんはか細い声で言いながらカードを引いた。かなり緊張しているようだ。
 さて、野村さんはどんなデュエルをするのか。彼女がデュエルするのを見るのは初めてだな。
「うぅ……えーと……」
 手札を見て必死に思考を巡らせている野村さん。いや、思考を巡らせているというより、緊張して頭の中が真っ白になっている、といったほうが正しいかもしれない。気のせいか、なんか泣きそうな顔になってるように見えるけど、大丈夫かな?
 そんな彼女に、パートナーであるパロが優しく声をかけた。
「野村さん。あわてなくていいよ。落ち着いてカードを選んで」
「パロ君……」
「大丈夫。もし何かまずいことが起きたら、そのときは僕が対処する。だから、野村さんは深刻に考えず、今できることをやってよ」
「うぅ……ありがとう」
 パロの優しさに心を打たれたのか、野村さんは目元を拭っている。そんな彼女にパロはにこりと微笑みかけた。
 うぜぇぇぇ! パロお前、何カッコつけてんだよ! パロの分際で何女の子のハート貫いちゃってんのマジうぜぇぇぇ!
 癪に障った僕は、代々木&川原さんペアを応援することにした。野村さん、君には悪いけど、パロと組んだのが運の尽きだったと思ってあきらめてほしい。そして代々木と川原さん! パロの野郎をぶっ潰せ!
「……わたしは……魔法カード《フォトン・ベール》を発動するよ」
 1分ほど考えた後、野村さんが動き出した。
「《フォトン・ベール》は、手札の光属性モンスター3体をデッキに戻すことで、デッキから光属性のレベル4モンスターを3体まで手札に加えることができる。このとき、2体以上のモンスターを手札に加える場合は、全て同名モンスターでなければならない」
 光属性・レベル4モンスターを手札に呼び込む魔法を使った野村さんは、手札から3枚を選んで他のプレイヤーに公開した。
「わたしは、光属性の《王立魔法図書館》3体をデッキに戻して……3体のモンスターを手札に加えるよ」
 野村さんのデッキに3体の《王立魔法図書館》が戻り、新たな3体のモンスターが野村さんの手に入る。
 そのときだった。
「くっくっく……」
 野村さんが、何やら不敵な笑みを浮かべた。なんだか不気味なオーラが彼女を包んでいる、ような気がする。なんだ? どうした?
 そう思った次の瞬間には、フィールドに甲高い声が響き渡っていた。
「ハーッハッハッハ! これで貴様らの死は確定したぁっ! 代々木に川原! お前らはこのわたしの『本の力』によって完膚なきまでにぶっ潰されるのだ! 覚悟するがいい!」
 ……一応いっておくと、今のは野村さんのセリフである。
 先ほどまでのおどおどした様子はどこへやら、今の野村さんはハイテンションで対戦相手に向かって「『本の力』で貴様らに絶望を見せてやろう!」などと言っている。突然の野村さんの変貌ぶりに、代々木や川原さん、そしてパロまでもが顔を引きつらせている。
「え? えっ? ミカリン、一体どうしちゃったの? なんか人格変わってるよあの子! マッツー、これどういうこと?」
「いや、分かんねえ……。野村の奴、何か変な幻覚でも見てんのか?」
 真田さんと松本君が、お菓子を食べる手を止めて困惑している。僕ももちろん困惑している。何が起きたんだ一体?
「野村さん、どうやら、あのカードを手札に呼び込んだらしいわね」
「えっ? たかのっティー、なんか知ってるの?」
「まあね」
 誰もが状況を理解できない中、ただ1人、鷹野さんだけが全てを悟ったように落ち着き払っていた。
「野村さんは少し変わった子でね。普段は川原さん以上に大人しいけど、フェイバリットカードを手にすると、がらりと人格が変わってしまうのよ」
「へぇぇ……知らなかった」
 フェイバリットカードを手にすると人格が変わる? 野村さんにはそんなところがあったのか。
「鷹野さん。野村さんのフェイバリットカードってなんだい? 彼女はなんのカードを手札に加えたの?」
「それは見てれば分かるわよ。さて、代々木君たちは生き残れるかしらね」
 鷹野さんは落ち着いた表情のまま、紙コップに注がれたサイダーを口に運んでいた。
 一体、何が起こるっていうんだ?
 とにかく、デュエルの行方を見守ろう。
「クックック! わたしが手札に加えたのは、3体の《光天使(ホーリー・ライトニング)ブックス》! これこそまさに、貴様らを地獄に叩き落とす『本の力』! さあ、準備は整った! 処刑の時間と行こうじゃないか!」
 野村さんは相変わらずのハイテンションだ。気のせいか、彼女の三つ編みおさげが、自分の意思でクネクネ動いているように見えた。
 どうやら、あのモンスターが野村さんのフェイバリットのようだ。
「わたしは早速! 手札に加えた《光天使ブックス》! を召喚する! 来い! ブックス!」
 野村さんがディスクにカードを叩きつける。すると、本のような形状のモンスターが野村さんの場に実体化した。どうでもいいが、野村さんの「ブックス!」の発声の仕方がちょっと独特で耳に残る。
「《光天使ブックス》! のモンスター効果発動! 1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を墓地へ送ることで、《光天使》モンスター1体を手札から特殊召喚できる! わたしは! 手札の魔法カード《月の書》を墓地へ送り! 手札にあるもう1体の《光天使ブックス》! を特殊召喚する! 来い! 2体目のブックス!」
 ブックス! の効果によって、2体目のブックス! が出現した! いきなり2体のブックス! を場に並べただと!
「まだだ! 今特殊召喚した2体目のブックス! のモンスター効果発動! 手札の魔法カード《魔導書整理》を墓地へ送り! 手札から3体目の《光天使ブックス》! を特殊召喚する! 来い! 3体目のブックス!」
 2体目のブックス! の効果により、3体目のブックス! が出現! なんと、3体のブックス! が1ターンで場に揃ってしまった! なんという展開力なんだ!
「だが、《光天使ブックス》! の攻撃力は1600! 俺の《戦士ダイ・グレファー》の攻撃力1700にはあと一歩及ばないぜ?」
 代々木が指摘するが、野村さんはそれを鼻で笑い飛ばす。
「ククク! 愚かな! そんなことをわたしが知らないとでも思ったか! 地獄はこれから始まるのだ! 今からわたしの『本の力』を見せてやる!」
 野村さんはフィールドに手をかざすと、高らかに宣言した。
「3体の《光天使ブックス》! 今こそその力を1つに束ねよ!」
 それに呼応するかのように、3体のブックス! が輝き出す。そして、その姿が1つに重なり合っていく。これは……合体召喚か!
「合体召喚! 現れよ! 《光天使(ホーリー・ライトニング)ジェノサイド・ブックス》!」
 野村さんの場に出現したのは、《光天使ブックス》! を何倍にも巨大にしたようなモンスターだった! なんだこいつは!
「《光天使ジェノサイド・ブックス》! は、自分の場にいる3体の《光天使ブックス》! を除外することで特殊召喚される特殊融合モンスター! このモンスターの『本の力』で、貴様らを奈落の底に突き落とす!」
 野村さんは勢いよく川原さんを指差した。
「《光天使ジェノサイド・ブックス》! のモンスター効果発動! 1ターンに1度、相手ライフに4000ポイントのダメージを与える! 効果対象は川原! 貴様だぁっ!」
「え……ええええええっ! よ……4000ポイントのダメージ!?」
 川原さんは驚きを露わにした。僕も当然驚いた。
 なんだよ4000ダメージって! そんなモンスターありかよ! 初期ライフ4000のルールで食らったら即死じゃねえか! ムチャクチャだろ!


 光天使ジェノサイド・ブックス
 融合・効果モンスター
 星10/光属性/天使族/攻4000/守3500
 「光天使ブックス」+「光天使ブックス」+「光天使ブックス」
 自分の場の上記のカードをゲームから除外した場合のみ特殊召喚可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
 1ターンに1度、相手ライフに4000ポイントダメージを与える事ができる。
 この効果を使用するターン、自分はバトルフェイズを行えない。


 は……反則だ、こんなの!
「これが『本の力』だぁぁっ! ジェノサイド・ブックス! のモンスター効果を発動ぉ! 死ねぇっ! 川原静江ぇっ! 『ブックス・パニッシュメント』ォォォ!」
 ジェノサイド・ブックス! の全身が不気味に輝き、川原さんに向かって雷を放つ。川原さんの場にカードはない。何も抵抗できない川原さんに対し、雷が容赦なく降り注ぎ、彼女のライフを根こそぎ奪う――。

「それはどうかな! リバース・マジック発動! 《痛魂の呪術》!」

 川原さんが息絶えるかと思われたそのとき、代々木が自分の場の伏せカードを開いた! 《痛魂の呪術》だと!? そのカードはたしか――!
「魔法カード《痛魂の呪術》は、プレイヤーに与えられたダメージを、別のプレイヤーに移しかえるカード! つまり、静江に与えられたジェノサイド・ブックス! の4000ダメージを、別のプレイヤーに移しかえるのさ!」
「なんだと……!」
「静江には指1本触れさせない! 静江はこの俺が守る!」
「祐二……!」
 カッコよく言い放った代々木を見て、川原さんが目をうるうるさせている。そんな彼女に向かって、代々木はグッとサムズアップする。様になっていた。
 あー、なんか急に胃がムカムカしてきた。すっげーうぜえ。もう代々木たちも負けちまえばいいのに。
「さっすが代々木君。見事に静江を守ったね」
「ん、そうだね」
 スナック菓子をポリポリかじりつつ、真田さんの言葉に適当に応じておく。正直、どうでもよかった。
「ていうか、代々木と川原さん、いつの間に下の名前で呼び合う仲になったんだ? あの2人って名字で呼び合ってたはずだけど……」
「あ、パラコン君、まだ知らなかったっけ。静江と代々木君、今日カップルになったんだよ」
「ああ、そうなの」
 どうりで下の名前で呼び合うわけだ。まあ、どうでもいい。
 さて、デュエルのほうはどうなったか。
「《痛魂の呪術》によって、ジェノサイド・ブックス! の効果による4000ダメージは、別のプレイヤーに移し変わる! 俺は……」
 代々木は川原さんのほうをちらりと見る。そして、川原さんが小さくうなずくのを見ると、ゆっくりとパロのほうを指差した。アイコンタクトかよ。はいはいラブラブラブラブ。
「悪いなパロ。俺は静江が受けた4000ダメージを、パロに移しかえる!」
「えっ!? うわわぁっ!」
 パロのもとに雷が降り注ぐ。それにより、パロのライフが消し飛んだ。

 パロ LP:4000 → 0

 まだ自分のターンが回ってきていないというのに、パロは退場となった。ざまあないな、パロめ。
 しかし代々木の奴、いい判断をしている。いや、代々木と川原さん、2人の判断というべきか。《痛魂の呪術》でダメージを受けさせるプレイヤーは野村さんでも良かったのだけど、野村さんは《光天使ジェノサイド・ブックス》! を呼び出すために手札を全て使い切ってしまっている。そんな彼女を退場させるよりは、まだ手札が潤沢なパロを退場させたほうが有利にデュエルを運べるだろう。
「さあて野村、どうする? パロは退場したが、まだお前のライフは残っている。デュエルを続けることはできるぜ」
「ぐ……ぬぬぬぅ! こ、姑息な真似をしおって! だが! これでわたしの『本の力』から逃げられたなどと思うな! まだわたしの場には、攻撃力4000のジェノサイド・ブックス! が残っているのだからな! 次のターンで仕留めてやる! ターンエンドだ!」
 野村さんは三つ編みおさげを怒りで震わせながらエンド宣言した。
 たしかに野村さんの場には、ジェノサイド・ブックス! が残っている。けど、それは代々木たちだって分かっているはず。つまり、代々木たちにはジェノサイド・ブックス! を倒す手段があるってことだ。そして、パートナーを失った野村さんに対し、代々木&川原さんペアはまだどちらも無傷。
 決まり、かなあ。
「私のターン!」
 川原さんにターンが移る。川原さんは《ならず者傭兵部隊》を召喚し、その効果を使用した。《ならず者傭兵部隊》は自身を生贄に捧げることで、場のモンスター1体を問答無用で破壊できるのだ。これにより、野村さんのジェノサイド・ブックス! はあっけなく破壊された。
「わ……わたしのジェノサイド・ブックス! が……倒されちゃったよぅ……」
 切り札を失った野村さんは、先ほどまでの勢いを失い、泣きそうな声で言った。三つ編みおさげがしゅんとしている。どうやら、元の人格に戻ったらしい。
「私はこれでターンを終了するよ」
「静江の次は、本来パロのターンだが、パロは既に退場してしまっているため、俺のターンになるぜ。俺のターン!」
 パロのターンをスキップし、代々木のターンになる。代々木は魔法カード《二重召喚(デュアルサモン)》を発動。これにより、このターンの通常召喚可能回数を2回に増やした。そして、手札から2体目の《戦士ダイ・グレファー》と3体目の《戦士ダイ・グレファー》を召喚した。
 これで代々木の場のモンスターは、《戦士ダイ・グレファー》が3体。合計攻撃力は5100。
「バトル! 3体の《戦士ダイ・グレファー》でダイレクトアタック!」
「ぅぁぁ……っ……!」
 野村さんは手札にも場にもカードがない。3体のグレファーの攻撃をまともに食らい、彼女のライフは一気に0となった。

 野村さん LP:4000 → 2300 → 600 → 0


 ★


「勝負あり! 勝者、代々木君&静江ペア〜!」
 真田さんが叫んだ。第1デュエルが終了したのだ。思ってたより早く終わったな。
「ぅぅ……ごめん……ごめん、パロ君……わたしの、せいで……」
 野村さんは膝をつき、ぽろぽろ涙を流している。非常に痛ましい姿だ。まあ、自分の切り札でパートナー死なせちゃったんだから、ああなるのも仕方ない。罪悪感でいっぱいだろう。
「野村さん、気にしなくていいよ。僕、とっても楽しかったし」
 パロが元気づけるように野村さんに言う。楽しかったって言ってるけど、お前、今のデュエルで何もしてないよね? 自分のターンが始まる前に退場したよね? ……そういうツッコミは禁止ですか、そうですか。
「うぅぅ……パロ君……」
「ほら、泣かないで。ね?」
「……ぁ……ありがとう」
 パロの優しさに癒されたか、野村さんは泣くのをやめた。なんか……野村さんの頬が少し赤くなっているように見える。まさか、パロに惚れたんだろうか。……って、そんなことあるはずないよな。そんなことあったら、僕もう絶対にパロを許さない。
「さて、第1デュエルは終了。次は第2デュエル――松本&真田ペアvsパラコン&鷹野ペアだ。準備はいいか?」
 代々木が問いかけてくる。僕は代々木から借りたデュエル・ディスクを装着した。
「えーと、腕に着けて……どうするんだ?」
「そこのボタンを押すんだ」
「……これか。ポチッと……おっ、変形した!」
 代々木に教えられたとおりの操作をすると、折りたたまれていたデュエル・ディスクが変形し、展開した。うぉ、カッコいい!
 今日、代々木が持ってきたデュエル・ディスクは、最近海馬コーポレーションが開発した新型のデュエル・ディスクだ。カードを最大5枚までしか出せなかった従来のデュエル・ディスクと違い、新型は最大11枚までカードを出すことができる(正確にいえば、モンスターカードを出すスペースが5つと、魔法・トラップカードを出すスペースが5つ、それとフィールド魔法を出すスペースが1つ存在するので、計11枚のカードを出せる)。
 カードを出すスペースが増えたことで、新型ディスクは旧型よりもサイズが一回り大きくなっている。そのため、デュエルをしないときは折りたたんでおき、デュエル時のみ展開させる、ということができるようになっている。
「俺はいつでもデュエルできるぜ!」
「あたしもオッケー!」
 松本君と真田さんは準備OKのようだ。2人で向かい合って、「杏奈、頑張ろうぜ」だの「あたしとマッツーのコンビネーション見せてやろう」とか「杏奈のことは俺が守るからな」とか「あたしだってマッツーのこと守るもん」とか「杏奈がミスしたら俺がフォローするから安心しとけ」とか「それはこっちのセリフ。あたしのほうこそ、マッツーのことしっかりフォローするから」とか言っている。はいはいラブラブラブラブ。
 一方、僕らのチームはというと。
「パラコン。私の足引っ張るような真似したら、そのカイゼル髭ヘアーをみじん切りにしてやるからそのつもりでいなさいよ」
 鷹野さんが一方的に、僕の目も見ずにぴしゃりと告げてきただけだった。らぶらぶちゅっちゅな雰囲気などカケラもなかった。色々とひどすぎる。
「鷹野さんのほうこそ、僕の足引っ張らないでくれよ。これはタッグデュエルなんだから、しっかり協力し合わないと」
「あなた、誰に向かって物を言ってるのよ。あなたの足なんて引っ張らないわ」
「ならいいけどさ」
「髪は引っ張るつもりだけど」
「ああそう……って、おいっ!」
「その髪型見てると、髪を引っ張りたくなるのよ」
「何言ってんだあんたは! ちょっと待て!」
 僕のツッコミを無視して鷹野さんはスタスタと歩き、デュエルポジションに着いてしまった。無視するなよ……。
 まあいいや。僕もデュエルポジションに着こう。
 デュエルポジションに着いた僕らは、相手チームと向き合った。相手はどちらも自信満々な笑みを浮かべている。
「たかのっティーにパラコン君! あたしとマッツーの究極コンビネーションでボコボコにしてやるから覚悟しときなよー!」
 真田さんが堂々と告げてくる。よっぽどマッツー、もとい松本君とのコンビネーションに自信があるのだろう。
 鷹野さんはふっと笑みをこぼすと、髪を色っぽくかき上げながら言った。
「全力でかかって来なさい、2人とも。私が返り討ちにしてやるわ」
 ……「私が」? 「私たちが」じゃないの? ねえ、鷹野さん、僕のこと忘れてない? これ、タッグデュエルなんだよ? 1対2の変則デュエルじゃないよ?
「た、鷹野さん! 僕らの結束の力で勝利を掴も――」
「うっさいわねパラコン。だまってなさいよ」
 チキショオ! なんだこの雑な扱い! やっぱ鷹野さんと組みたくないよ! これなら絶対、エリちゃん(♂)と組んでたほうがマシだったよ! エリちゃん(♂)とは会ったことないけど、少なくとも鷹野さんよりはいい子のはずだし!
 もう帰っちゃおうかなぁ、と思いつつも、僕はディスクを構えて戦闘態勢に入った。とりあえず、やるだけのことはやろう。ばっくれるのはそれからでも遅くない。
 さ、僕らのデュエルの始まりだ!

「「「「デュエル!」」」」

 よし! いいところ見せてやるぞー!





8章 初・タッグデュエル


 タッグデュエル大会第2戦目、松本君&真田さんペアvs僕&鷹野さんペアのデュエルが始まった。
「私の先攻ドロー!」
 デュエルの始まりと同時に、鷹野さんが目にも留まらぬ速さで勝手に先攻を取った。相変わらずだなこの人!
「た……たかのっティー、速いよ! 残像が見えたよ!」
「くそぅ……なんつー速さだ! 元サッカー部の俺が出遅れるとは!」
 鷹野さんの超スピードを前に、対戦相手の2人が舌を巻く。そんな2人をあざ笑うように鷹野さんは言う。
「デュエリストたるもの、この程度のスキルは備えていて当然。驚くようなことじゃないわ」
 スキルというより、ただのマナー違反だけどね。ジャンケンとかしろっての。まあ、今回僕は鷹野さんとは味方同士だから、別にいいんだけどさ。
 さて、いよいよ初となる鷹野さんとのタッグデュエルが始まった。この人とのタッグデュエルはどんなものになるだろうか?
「私はまず、フィールド魔法《うずまき》を発動!」
 ……って、いきなり《うずまき》かよ!
 出たよ出たよ! 鷹野さんお得意のインチキフィールド魔法《うずまき》! こいつが発動すると、デュエルのルールが原作ルールからOCGルールに切り替わってしまう!


 うずまき
 (フィールド魔法カード)
 フィールドは「うずまき」となり、全ての常識は覆る。


 《うずまき》が発動したことで、フィールドが変貌し、何やら言葉では表現しにくい、混沌とした雰囲気に包まれる。それに伴い、この場で戦っているデュエリスト全員に変化が起きる。


 僕 LP:4000 → 8000
 鷹野さん LP:4000 → 8000
 真田さん LP:4000 → 8000
 松本君 LP:4000 → 8000

 デュエルのルールがOCGルールになったことで、全プレイヤーのライフが4000ポイント増大した。これは、OCGルールの初期ライフが原作ルールよりも4000ポイント多い8000ポイントだからだ。ちなみに《うずまき》の効力が消えると、《うずまき》発動時とは反対に、全員のライフが4000減少する。《うずまき》で増えた分のライフが消滅するというわけだ。
 さて、《うずまき》を発動したわけだが、鷹野さんはこれからどうするのか。
「OCGルールになったことで、1ターンに何枚でも手札から魔法・トラップカードを出せるようになったわ。よって、私は魔法カード《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、その後で手札から闇属性モンスター1体を除外する。2枚ドロー!」
 カードを2枚引くと、鷹野さんは小さく笑みを浮かべた。
「これはいいカードを引いたわね。私は闇属性モンスターの《デーモン・ソルジャー》を除外するわ」
 《闇の誘惑》の効果処理が終わる。現在、鷹野さんの手札は5枚。その5枚の中から、鷹野さんは迷わずに2枚のカードを選び取った。
「私はリバース・カードをセット! そして、デッキから《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を除外し、《Sin(シン) レインボー・ドラゴン》を特殊召喚する!」
「何!? 《Sin》モンスターだと!?」
「えええっ!? いきなり!?」
 驚愕する真田さんたちの前に、巨大なドラゴン《Sin レインボー・ドラゴン》が召喚された! ドラゴンは真田さんたちに向かって大きく咆哮する! うぉぉ……スゲー……! ソリッド・ビジョンで見るとすごい迫力があるな!
 《Sin レインボー・ドラゴン》は、攻撃力が4000もありながら、デッキの中の《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を除外するだけで出せるというチートモンスターだ! 鷹野さん、1ターン目からそんなモンスターを出すとは、容赦ないな!
「ちぃっ! だが鷹野! タッグデュエルではどのプレイヤーも最初のターンは攻撃できないぜ!」
 松本君が指摘してくる。たしかにその通りだ。今《Sin レインボー・ドラゴン》を呼んだところで、攻撃することは――。
「甘いわよ! 私は魔法カード《時の飛躍(ターン・ジャンプ)》を発動! このカードの力により、一気に3ターン後のバトルフェイズにジャンプする!」
「んなぁっ!」
「ええええええっ!? ここで《時の飛躍》!?」
 ――た……《時の飛躍》! 鷹野さん、それを手札に隠してたか! ということは……!
「《時の飛躍》の効果により、全てのプレイヤーが何もプレイしないまま、3ターンずつ経過し、バトルフェイズに突入する! これがどういう意味か分かるわよね?」
「つ……つまり……たかのっティーのバトルフェイズになると……」
「そういうこと。これで私は《Sin レインボー・ドラゴン》で攻撃することができるわ!」
 鷹野さんは《Sin レインボー・ドラゴン》を見上げると、手をかざして宣言した。
「バトル! 《Sin レインボー・ドラゴン》で真田さんにダイレクトアタック! 『オーバー・ザ・レインボー』!」
 攻撃宣言を受けた《Sin レインボー・ドラゴン》が真田さんに向かって攻撃を放つ。しかし、真田さんの場はがら空き(当然)。抵抗する手段はない。
「うわぁぁっ! な……何も抵抗できないっ! ま、マッツー! なんとかしてぇ!」
「悪い、杏奈……俺には……どうにもできないっ!」
「そんなぁぁぁっ!」
 真田さんの悲痛な叫びが響くのと、《Sin レインボー・ドラゴン》の攻撃が真田さんにヒットしたのはほぼ同時だった。

 真田さん LP:8000 → 4000

「うぅぅ〜……いきなり4000ダメージも食らっちゃったよ……」
「危なかったな。《うずまき》が発動されてなきゃ死んでたぜ」
 松本君の言うように、鷹野さんが《うずまき》を発動していなければ、真田さんのライフは一気に0になっていた。一見、《うずまき》を発動した鷹野さんのプレイングミスだが、そうじゃない。《Sin レインボー・ドラゴン》は強力だが、フィールド魔法が場に存在しなければ破壊されてしまう弱点があるのだ。だから、鷹野さんはフィールド魔法である《うずまき》を発動せざるを得なかったのだろう。
 ともあれ、真田さんは大ダメージを受けた。しかし、鷹野さんはまだ何かやるみたいだ。
「まだよ! 私はトラップカード《デストラクト・ポーション》を発動!」
 《時の飛躍》の発動前に鷹野さんが伏せたトラップが今開かれた。なるほど、3ターン経過したことで発動できるようになったのか。
「《デストラクト・ポーション》は、自分の場のモンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分のライフを回復するカード! 私はこのカードで《Sin レインボー・ドラゴン》を破壊する!」
「えっ! 《Sin レインボー・ドラゴン》を破壊しちゃうの!?」

 鷹野さん LP:8000 → 12000

 驚く真田さんを余所に、《Sin レインボー・ドラゴン》が破壊され、その攻撃力4000が鷹野さんのライフに加算される。鷹野さんは何を……?
「《Sin レインボー・ドラゴン》が破壊されたこの瞬間! ライフを半分払い、手札の《Sin トゥルース・ドラゴン》の効果発動! 《Sin トゥルース・ドラゴン》は、自分の場の《Sin》モンスターが破壊された場合、ライフを半分払って手札または墓地から特殊召喚できるわ! 来なさい! 《Sin トゥルース・ドラゴン》!」

 鷹野さん LP:12000 → 6000

 破壊された《Sin レインボー・ドラゴン》と入れ替わりで、攻撃力5000を誇る新たなドラゴンが姿を現した! こ……こいつまで手札に握ってたか!
「《Sin トゥルース・ドラゴン》! 攻撃力5000のドラゴンだとぉ!?」
「バトルフェイズは継続中! よって《Sin トゥルース・ドラゴン》には攻撃が許されているわ! バトル! 《Sin トゥルース・ドラゴン》で松本君! あなたにダイレクトアタックよ!」
 鷹野さんは、次は松本君を攻撃対象にする。攻撃宣言を受けた《Sin トゥルース・ドラゴン》が松本君に向けて攻撃を放つ。しかし、松本君の場はがら空き(当然)。抵抗する手段はない。
「くそぉぉっ! な……何も抵抗できねえっ! 杏奈! なんとかできないか!?」
「む……無理無理無理! あたしにはどうにもできないっ!」
「ちきしょおおおっ!」
 松本君の悲痛な叫びが響くのと、《Sin トゥルース・ドラゴン》の攻撃が松本君にヒットしたのはほぼ同時だった。

 松本君 LP:8000 → 3000

「ぐぅぅっ……いきなり5000ダメージも食らっちまった……」
「うわぁぁ〜……。《うずまき》が発動されてなきゃ死んでたね。ていうか、今の攻撃であたしが攻撃されてたら、あたし死んでたじゃん!」
「そういやそうだな。鷹野はどうして杏奈じゃなく俺を狙ったんだろう? どちらか片方を倒すより、両方に万遍なくダメージを与えたかったのか……」
 鷹野さんの行動に疑問を持つ松本君。実は、同じ疑問を僕も抱いていた。僕が鷹野さんだったら、今の局面では、真田さんを攻撃してライフを0にし、ゲームから引きずりおろしていた。そうすれば、僕らのチームの敵は松本君1人だけとなる。つまり2対1となり、有利に戦いを運ぶことができるのだ。
 ところが、鷹野さんはそれをしなかった。それは何故か?
 理由はすぐに分かった。
「じゃあ、メインフェイズ2に入るわ。私は《Sin トゥルース・ドラゴン》を生贄……じゃなくてリリースして、《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚!」
 出てきたばかりの《Sin トゥルース・ドラゴン》が姿を消し、次に現れたのは帝王っぽい雰囲気を醸し出す悪魔族モンスターだった。
「《邪帝ガイウス》のモンスター効果! このカードがアドバンス召喚に成功したとき、場のカード1枚を除外する! 私はこの効果で、私の場の《うずまき》を除外する!」
「なっ!? 《うずまき》を除外だと!?」
「えぇっ!? 自分のカードを除外しちゃうの!?」
 なんと鷹野さんは、《邪帝ガイウス》の効果を利用し、自分の《うずまき》を消し去ってしまった。そして、《うずまき》が消えたということは――!
「《うずまき》が消滅したことで、デュエルのルールは再び原作ルールに戻り、《うずまき》で増大していた4000ライフも消滅する! よって、全てのプレイヤーのライフが4000減少するわ!」
「……ライフ4000減少……ってことは……あぁっ!」
「あたしたち……ライフが……!」

 僕 LP:8000 → 4000
 鷹野さん LP:6000 → 2000
 真田さん LP:4000 → 0
 松本君 LP:3000 → 0

 《うずまき》消滅に伴い、全員のライフが4000減少! それにより、既にライフが4000以下だった真田さんと松本君はライフが0となり、敗北してしまった! まさに1ターン2キル! なるほど! 鷹野さんはこれを狙って、真田さんと松本君の双方にダメージを与えたわけだ!
 これで真田さんと松本君は同時敗北! この瞬間、僕らのチームの勝利が確定した!
 ……あれ? 僕なんにもやってないぞ?


 ★


「勝負あり! 勝者、パラコン&鷹野ペア!」
 代々木が叫んだ。これで第2デュエルは終了だ。めっちゃ早く終わったな、鷹野さんの1ターン2キルのせいで。僕の活躍する場面が1秒たりともなかったよ。
「たかのっティーはやっぱり強いねぇ。ボロ負けしちゃったよ、あたしたち」
「ああ、ホント、強すぎだよ。くっそー、甘く見てたわ……」
 松本君と真田さんがお互い顔を見合わせ、苦笑いしている。そんな2人に鷹野さんが声をかける。
「いいデュエルだったわ、2人とも」
「たはは、あたしらの完全敗北だよ、たかのっティー」
「笑ってくれていいぜ、鷹野」
「そんな、笑うなんて……。あなたたち2人も強かったわよ。もしかしたら、負けていたのは私のほうかもしれない」
 鷹野さんは対戦相手の2人を労った。
 ……え? あなたたち2人も強かった? 負けていたのは私のほうかもしれない? その発言はおかしくね? 鷹野さんあんた、対戦相手2人に1枚もカード出させずに1キルしてたよね? あんたの言ってることと現実がまるで噛み合ってないんだけど? 何? もしかして冷やかしか何かなの?
 ていうか、鷹野さんも真田さんも松本君も、まるで今のデュエルが「鷹野さんvs松本君&真田さんペア」だった感じで喋ってるけど、僕もデュエルしてたからね? 鷹野さんが勝手に全部終わらせちゃったせいで全然目立てなかったけど、僕もいたからね? そこんところ忘れてもらっちゃ困るよ。
「さて、これで第2デュエルも終了して、決勝トーナメントに進む2チームが決定したな」
 代々木は全員を見渡しながら言った。
「決勝へ進むのは、俺と静江のペア、そして、パラコンと鷹野のペアだ! この2チームで決勝戦を行い、勝ったチームが優勝だ!」
 おぉーっ、という声が上がり、続いてパチパチと拍手が沸き起こる。なんやかんやで、ついに決勝らしい。……もう決勝かよ? まだ大会開始から15分くらいしか経ってないぞ? 想像以上に早く進行してるな、この大会。この調子だと、決勝戦も数分で終わっちゃうんじゃないか?
 まあ、何はともあれ、決勝にコマを進めることはできた。このまま優勝をかっさらうのも悪くないな。けど、何もカードを出せずに決着するのだけは嫌だ。僕も何か活躍したい。
 僕は鷹野さんに問いかけた。
「鷹野さん。次のデュエルでも1ターン2キルを決めるつもりかい?」
「決められるなら決めるわよ」
「できればやめてほしいんだけどなー。それだと僕の活躍シーンが――」
「あなたの活躍シーンなんて誰も期待してないわ。だから、大人しくくたばってなさい」
「んな言い方ないだろうが! 僕にも何かカード出させろ! さっきのデュエルだって、手札にいいカードがちゃんと揃ってたんだぞ!」
 ツッコむと、鷹野さんは吐しゃ物を見るような目で睨んできた。
「0ターンキルで死ぬようなあなたには何も期待してないわ。いいからもうだまってなさい。そして、そのうざったい髪を切りなさい」
「0キルのことはもう言うな! ていうか、髪は関係ないだろが! この髪形は変えないぞ絶対! 僕の人生はこの髪形と共に――」
「あーっと、手が滑ったわ」
 鷹野さんは僕の髪の毛に手を突っ込んでわしゃわしゃとした。だあああっ! 僕のヘアースタイルが乱れる!
「さ、決勝戦に行くわよ。さっさとしなさい、うっとうしい髪型のパラコンボーイ略してウボーイ」
 僕の髪型を滅茶苦茶にすると、鷹野さんは満足そうにデュエルポジションへと向かった。くそっ! 何がウボーイだバカ女! よくも僕の素晴らしい髪型を乱してくれたなっ! この恨み、絶対に忘れねえ!
 僕は手で髪型を整えつつ、デュエルポジションに着いた。鷹野さん、川原さん、代々木はもうデュエルポジションに着いている。それ以外の敗北者たちは、アルカトラズの下に敷かれたシートに腰を下ろし、お菓子やジュースを口にしながらこちらを見ていた。
「さあ、いよいよ決勝戦のスタートだ! この戦いを制すのは果たしてどちらか! できたてほやほやカップルの代々木&川原ペアか! それとも、夫婦漫才コンビのパラコン&鷹野ペアか!」
 真田さんが実況めいたものを始める。その実況の中に聞き捨てならない単語があった。
「真田さん! なんで私とパラコンが夫婦漫才コンビなのよ!?」
「そうだよ真田さん! 訂正してくれ!」
「デュエル、スタートだぁ!」
 ツッコんだら見事にスルーされた。なんなんだよもう。鷹野さんと夫婦って……うわっ、冗談じゃないよ。
「さ、行こうか、静江! これに勝てば優勝だ!」
「うん! 絶対勝とうね、祐二!」
 川原さんと代々木は勝つ気満々だ。お互いに相手と顔を合わせ、士気を高め合っている。
 一方、こちらは――。
「1対2か……。でも問題ないわね。私が勝つわ。優勝はこの私がいただく」
 ……もう完全に、鷹野さんが1人で戦う気MAXでいた。あのー、僕もいるからね?
「両チーム、準備はいいかね!?」
 真田さんが問いかけてくる。僕らはめいめいに準備OKの意志を告げた。
「じゃあ始めるよ! デュエル開始ィィィィィ!」

「「「「デュエル!」」」」

 卒業記念イベント・タッグデュエル大会の決勝戦が始まった。
 どうか、鷹野さんの1ターン2キルになりませんように。僕にも活躍の場が与えられますように。





9章 醜い争い(前編)


 タッグデュエル大会決勝戦、代々木&川原さんペアvs僕&鷹野さんペアのデュエルが始まった。
「私の先攻ドロー!」
 始まるや否や、鷹野さんが人間離れした速さで先攻を取った。ホント先攻が好きだなこの人。
「くっ、先攻を取られたか!」
「だ、大丈夫かな? 真田さんたちのときみたいに1ターン2キルされないかな?」
「そうならないことを祈るしかないな……」
 代々木たちが戦慄としている。今彼らは、鷹野さんに1キルされないことを必死に祈っているだろう。ちなみに、僕も彼らが1キルされないことを祈っている。だって、ここで鷹野さんが彼らを1キルしちゃったら、僕がここに来た意味がないじゃん!
「私は《強欲な壺》を発動し、カードをさらに2枚ドロー!」
「くっ、ドロー強化魔法か!」
 鷹野さんは手札を7枚にまで増やし、それらに目を通す。今彼女の脳内では、相手チームを1キルで始末できるかどうかをあらゆる角度から検討しているはずだ。僕はごくりとツバを飲み込んだ。
「私は……《処刑人−マキュラ》を召喚。さらに、リバース・カードを1枚セットし、ターンエンドよ」
 ……おぉ! 鷹野さんがエンド宣言した!
 どうやら今回は、1キルできる手札ではなかったらしい。良かった! 今回は僕にも出番が回ってきそうだ!


【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《処刑人−マキュラ》攻1600
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【川原さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「よし、俺たちの番だな……」
「わ……1キルされずに済んだ……」
 自分たちにターンが回ってきたことで安堵する代々木たち。鷹野さん、完全に1キルデュエリストとして恐れられてるな。
「確認しておくが、このデュエルは鷹野→俺→パラコン→川原の順でターンを進めていく。これでいいか?」
 代々木の意見に異を唱える者はいなかった。
「なら、俺のターンだ! ドロー! ……よし。俺は《切り込み隊長》を召喚! こいつが召喚されたとき、手札のレベル4以下のモンスターを1体特殊召喚できる! 俺はレベル4の《戦士ダイ・グレファー》を特殊召喚する!」
 代々木の場に、2本の剣を持つ戦士族モンスター《切り込み隊長》と、彼の主力モンスターである《戦士ダイ・グレファー》が出現する。代々木はダイ・グレファーデッキの使い手だったな。
「さらに、魔法カード《万華鏡−華麗なる分身−》を発動! このカードは、『特定のモンスター』を3体に分身させる効果を持つカードだ! 俺はこいつで《戦士ダイ・グレファー》を3体に分身させる!」
 代々木の発動した魔法により、グレファーが3体に増えた。そういや、グレファーは《万華鏡−華麗なる分身−》の効果に対応している『特定モンスター』の一種だったっけな。初めてそれを知ったときは腰を抜かしそうになったよ。
「そしてリバースを1枚セット! これでターンエンドだ!」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《処刑人−マキュラ》攻1600
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:伏せ×1

【僕】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【川原さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


 さーて! ついに僕の出番が来たな! いっちょ華麗に決めてやるか!
「僕のターン、ドロー! 僕は《ゴキボール》を守備表示で召喚!」
 僕のデッキの主力モンスターをデュエル・ディスクに置く。すると、丸い形のゴキブリがソリッド・ビジョン化された。それを見た鷹野さん、川原さん、代々木が一様に顔を引きつらせた。……ま、気持ちは分かるけどね。
「パラコン。あなた、まだ《ゴキボール》をデッキに入れてたの?」
 鷹野さんが理解できないと言いたげに訊ねてくる。僕は「まあね」と答えておいた。
 ふん、鷹野さんよ。君は《ゴキボール》のことをただの弱小モンスターに過ぎないと思っているだろう。けど、僕の切り札《マスター・オブ・ゴキボール》を見れば、そんな考えは瞬時に打ち砕かれることになるよ! 楽しみに待ってるんだな!
「カードを2枚セットし、ターンエンドだ!」
 守備表示の《ゴキボール》に、伏せカードが2枚。1ターン目の布陣としてはまあ悪くないだろう。
 ――と、そんなことを考えていると、代々木が動きを見せた。
「ちょっと待ったパラコン! お前のターンが終了する前に、俺は場のリバースを開くぜ! トラップ発動! 《ギフト・リバース》!」
 む? トラップか。《ギフト・リバース》……聞いたことのないカードだな。
「《ギフト・リバース》は、タッグデュエル専用のカードだ。こいつの効果により、俺の墓地の魔法またはトラップカード1枚を、パートナーである静江の場に伏せることができる。ただし、そのカードはこのターン、発動することはできない」


 ギフト・リバース
 (罠カード)
 タッグデュエルでのみ使用可能。
 自分の墓地から「ギフト・リバース」以外の魔法・罠カード1枚を選択してタッグパートナーの場に伏せる。
 そのカードはこのターン発動できない。


 な!? タッグデュエル専用のカードだと!? 代々木の奴、そんなカードをデッキに入れてたのか! なるほど、ちゃんとタッグデュエル用のデッキを組んで挑んできたわけか。
「俺は《万華鏡−華麗なる分身−》のカードを、パートナーである静江の場に伏せる! 受け取れ、静江!」
「ありがとう、祐二!」
 川原さんの場に、代々木の《万華鏡−華麗なる分身−》のカードが伏せられる。僕のターンが終われば、あのカードは発動可能になる。
「さ、パラコン。何かあるか?」
「いや、僕はこのままターンエンドだ」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《処刑人−マキュラ》攻1600
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:4000 手札:3枚
 モンスター:《ゴキボール》守1400
  魔法・罠:伏せ×2

【川原さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1(《万華鏡−華麗なる分身−》)


 川原さんのターンに移る。
「私のターン、ドロー! ……あ、このカードは!」
 何かに気づいたように目を丸くした川原さんは、代々木のほうを見た。
「祐二からもらったカードが役に立ちそうだよ!」
「お、マジか! じゃあ、思う存分使ってやってくれ!」
「うん! 私は《切り込み隊長》を召喚! そして、《切り込み隊長》のモンスター効果発動! 手札の《異次元の女戦士》を攻撃表示で特殊召喚するよ!」
 川原さんの場に、さっき代々木も召喚した2本の剣を持つ戦士《切り込み隊長》と、光る剣を持った金髪の女戦士《異次元の女戦士》が現れる。
「そして、リバース・カード、オープン! 《万華鏡−華麗なる分身−》! このカードは、『特定のモンスター』を3体に分身させるカード! 私はこのカードで《異次元の女戦士》を3体に分身させる!」
 ……は!?
 ちょっと待て! 《異次元の女戦士》を分身させるって!? 何? 《万華鏡−華麗なる分身−》って、《異次元の女戦士》にも対応してるの!?
「分身せよ! 《異次元の女戦士》!」
 困惑する僕をよそに、《万華鏡−華麗なる分身−》の効果が適用され、《異次元の女戦士》が3体に増えてしまった。こんなのってアリなのか……?


 ご都合主義
 (魔法カード)
 都合のいい展開でストーリーを進行させる。


「さらに、永続魔法《連合軍》を発動! このカードがある限り、自分の場の戦士族及び魔法使い族モンスターの数×200ポイント、自分の場の戦士族モンスターの攻撃力をアップする!」
 今度は全体強化の永続魔法か。たった今川原さんは、《万華鏡−華麗なる分身−》の効果で戦士族の《異次元の女戦士》を分身させたから、《連合軍》の効果を上昇させられるな。
 えーと、川原さんの場の戦士族モンスターは4体。《切り込み隊長》と3体の《異次元の女戦士》だ。つまり、こいつら全員が4×200=800ポイント攻撃力が上昇して――。
 いや、違う!
「タッグデュエルでは、パートナーのフィールドも『自分フィールド』として扱われる! よって、祐二のフィールドの戦士族モンスターも、私の《連合軍》の効果を受けるよ!」
 そうだ。今僕らがやっているのはタッグデュエル。タッグデュエルでは、味方の場も自分の場として扱われる。つまり、《連合軍》の効果は……。
「祐二の場の戦士族モンスターは、《切り込み隊長》と3体の《戦士ダイ・グレファー》の計4体! 私の場の戦士族4体と合わせれば計8体! つまり、《連合軍》の効果で上昇する攻撃力は、8×200=1600ポイントになる! よって、私と祐二の戦士族モンスター全員の攻撃力が1600ポイント上昇する!」

 <代々木の場の戦士族>
 《切り込み隊長》攻:1200 → 2800
 《戦士ダイ・グレファー》攻:1700 → 3300
 《戦士ダイ・グレファー》攻:1700 → 3300
 《戦士ダイ・グレファー》攻:1700 → 3300

 <川原さんの場の戦士族>
 《切り込み隊長》攻:1200 → 2800
 《異次元の女戦士》攻:1500 → 3100
 《異次元の女戦士》攻:1500 → 3100
 《異次元の女戦士》攻:1500 → 3100

 どわあああ! 代々木と川原さんの戦士族モンスター全員の攻撃力が跳ねあがっちゃったよ!
「いいぞいいぞ静江! これで俺たちの布陣はかなり強力になった! さすがだぜ!」
「えへへ……。祐二が万華鏡のカードを私に託してくれたおかげだよ」
 代々木と川原さんがお互いに褒め合っている。はいはいラブラブラブラブ。
 一方、鷹野さんは、代々木たちの場と自分の場と手札を冷静に見渡していた。……僕のほうは全然見てくれない。完全に僕はいないものとして扱われているらしい。腹立つわぁ。
「私はカードを1枚セット! これでターンエンドだよ」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《処刑人−マキュラ》攻1600
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻2800、《戦士ダイ・グレファー》攻3300、《戦士ダイ・グレファー》攻3300、《戦士ダイ・グレファー》攻3300
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:4000 手札:3枚
 モンスター:《ゴキボール》守1400
  魔法・罠:伏せ×2

【川原さん】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻2800、《異次元の女戦士》攻3100、《異次元の女戦士》攻3100、《異次元の女戦士》攻3100
  魔法・罠:《連合軍》永続魔法、伏せ×1


 さて、面倒なことになってきた。代々木と川原さんの場のモンスターは攻撃力がかなり高くなっている。それだけでなく、彼らの場にいる《切り込み隊長》と《異次元の女戦士》は強力な特殊能力を持っている。
 《切り込み隊長》が場にいる限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象にできない。《切り込み隊長》が他の戦士族モンスターを守るわけだ。まずは《切り込み隊長》を倒さなければ、僕らは他の戦士族モンスターに攻撃することは許されない。
 ところが、代々木と川原さんの場にはそれぞれ1体ずつ《切り込み隊長》がいる。つまり、計2体の《切り込み隊長》がいる。この場合、2体の《切り込み隊長》がお互いを守り合い、どちらも攻撃対象にされなくなる。よって、僕らは代々木たちの戦士族モンスターのいずれにも攻撃することができない。要するに、僕らの攻撃は封じられてしまったのだ。
 《切り込み隊長》も厄介だが、川原さんの場にいる《異次元の女戦士》も厄介だ。《異次元の女戦士》は、自身と戦闘を行ったモンスターを、自身もろともゲームから除外する能力を持つ。仮にどうにか《切り込み隊長》のロックを壊しても、《異次元の女戦士》が待ち構えている。実に面倒だ。
 今思ったんだけど、川原さんと代々木のデッキタイプってよく似てるな。どちらも戦士族モンスター中心だし、《切り込み隊長》を利用してのモンスター展開戦術が組み込まれているし、《万華鏡−華麗なる分身−》に対応したモンスターがいるし……あちこちが似通っている。
 代々木は以前から、今日使っているようなデッキを使っていたけど、川原さんはどうだろう? 前から今日使っているようなデッキを使っていたのだろうか? 今となっては分からない。
「私のターン、ドロー!」
 鷹野さんのターンへと戻ってきた。このターンからどのプレイヤーも攻撃可能になる。
 鷹野さんは自分の手札と場を交互に見ていたが、やがてこちらのほうをちらりと見た。あ、やっと僕のほうを見たか。そうだよ、これはタッグデュエルなんだから、パートナーのことも視野に入れないと。
 鷹野さんはふっと微笑むと、手札から1枚を選び取った。
「私は魔法カード《馬の骨の対価》を発動! このカードは、自分の場から効果モンスター以外のモンスター1体を墓地へ送ることで、デッキからカードを2枚ドローできる! 私は――」
 彼女は僕の場を指差した。
「パラコンの場にいる通常モンスターの《ゴキボール》をコストにして、2枚ドロー!」
「……ええっ!?」
 驚く僕の目の前で《ゴキボール》が姿を消した! そして鷹野さんが2枚ドローする! ちょ……ちょっと待ってよ!
「た、鷹野さん! どういうこと!? なんで僕の場の《ゴキボール》がコストになっちゃったの!?」
 あわてふためく僕を、鷹野さんは「何こいつバカなこと言ってんの?」と言いたげな目で見てきた。
「パラコン。今私たちがやってるのはタッグデュエルよ。そして、タッグデュエルでは、パートナーの場も自分の場として扱われる。だから、あなたの場の《ゴキボール》をカードの発動コストにすることだってできるわ。そんなことも分からないの?」
「いや、ちょっ……ええええっ!? ちょっと待ってくれよ!」
 た、たしかに鷹野さんの言うとおりだけどさ! けどさあ! 納得行かないよこんなの!
「僕のカードをコストにするならするで、何か一声かけてくれよ! 勝手にコストにされちゃたまんないよ!」
「……パラコン。あなたのしもべの犠牲、無駄にするわ」
「うるせえよチキショオ! ……ていうか、無駄にするのかよ!? どうせなら無駄にするなよ! あ〜もう、なんだよこれ! 僕の《ゴキボール》を返せ!」
「さ、私のターンだったわね〜」
 鷹野さんは僕から目を逸らして自分の手札と睨めっこを始めた。くそぉぉぉ、覚えてろよこの女! この屈辱は必ず倍返しにしてやる!
「相手モンスターが目障りね。ということでこれを出すわ。私は《処刑人−マキュラ》を生贄に捧げ、スピリットモンスター《砂塵の悪霊》を召喚! このカードは召喚したターンに手札に戻ってしまうけど、召喚成功時に発動する特殊能力で、このカード以外の場のモンスターを全破壊する!」
「何っ! モンスター抹殺の能力だと!」
 鷹野さんが召喚したのは、場のモンスターを全滅させられるスピリットモンスターだ。容赦ないな。攻撃を封じられてるのなら効果で破壊してやれというわけか。これなら、代々木たちの場を覆い尽くす戦士どもを一掃できる。
 ――と思いきや、ここで川原さんが動きを見せた。
「さ、させないよ鷹野さん! 《砂塵の悪霊》を対象に永続トラップ発動! 《デモンズ・チェーン》! このカードの効果対象となったモンスターは、攻撃できず、効果も無効化される! これで《砂塵の悪霊》の効果は無効だよ!」
 川原さんのトラップにより、《砂塵の悪霊》は鎖で身動きを封じられ、その効果が無力化されてしまった。おいおい、あっさり防がれちゃったじゃん。
「ふー、危なかったな。静江、ナイスプレイングだぜ!」
 代々木が川原さんを見てサムズアップする。川原さんは少し頬を赤らめている。
 むぅ……。向こうのチームのコンビネーションはなかなかのものだな。
「鷹野さん。《砂塵の悪霊》の動きが封じられちゃったわけだけど、どうする――」
「カードを1枚セット。《砂塵の悪霊》は効果を無効化されてるから、自身の効果で手札に戻らず場に維持されるわ。ターンエンド」
 鷹野さんは僕を無視してターンを終えてしまった。聞けよこの女!


【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《砂塵の悪霊》攻2200・効果無効
  魔法・罠:伏せ×2

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻2800、《戦士ダイ・グレファー》攻3300、《戦士ダイ・グレファー》攻3300、《戦士ダイ・グレファー》攻3300
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:4000 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×2

【川原さん】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻2800、《異次元の女戦士》攻3100、《異次元の女戦士》攻3100、《異次元の女戦士》攻3100
  魔法・罠:《連合軍》永続魔法、《デモンズ・チェーン》永続罠・対象:《砂塵の悪霊》



 《ゴキボール》を犠牲にしておきながら、鷹野さんはろくに何もできずにターンを終えてしまった。ホントに《ゴキボール》の犠牲を無駄にしやがったよこの女! けっ! 所詮貴様などその程度のオタンコナスなのだ!
「俺のターン、ドロー! バトルだ!」
 代々木のターン。彼はカードを引くと、すぐにバトルフェイズへと移行した。
「パラコンの場にはモンスターがいない。鷹野の場には《砂塵の悪霊》が1体。さて、どっちに攻撃するか」
 果たして代々木はどちらを攻撃してくるか。もしも僕に向かってダイレクトアタックをしかけてきたら、手札にあるこいつを使ってバトルを強制終了させてやるけど……。
「《砂塵の悪霊》を残しておいて、あとで生贄とかに使われたら面倒だな。よし、まずは鷹野の《砂塵の悪霊》に対して攻撃だ! 《戦士ダイ・グレファー》よ、《砂塵の悪霊》に攻撃だ!」
 グレファーが剣を構え、身動きが取れない《砂塵の悪霊》に向かって斬りかかる。代々木は鷹野さんのモンスターを攻撃対象に選んだわけだ。
 ところがグレファーは、突如としてフィールドに吹き荒れた暴風によって攻撃態勢を崩してしまう。暴風の正体は、鷹野さんの発動したトラップだった。
「トラップカード《イタクァの暴風》を発動。この効果で相手の場のモンスター全ての表示形式を変更する。あなたたち2人のモンスターは全員攻撃表示だったため、守備表示になるわ」
 鷹野さんのトラップにより、代々木たちの場にいた戦士全員が守備表示となる。ちゃんと攻撃妨害のトラップを伏せていたか。

 <代々木の場のモンスター>
 《切り込み隊長》攻:2800 → 守:400
 《戦士ダイ・グレファー》攻:3300 → 守:1600
 《戦士ダイ・グレファー》攻:3300 → 守:1600
 《戦士ダイ・グレファー》攻:3300 → 守:1600

 <川原さんの場のモンスター>
 《切り込み隊長》攻:2800 → 守:400
 《異次元の女戦士》攻:3100 → 守:1600
 《異次元の女戦士》攻:3100 → 守:1600
 《異次元の女戦士》攻:3100 → 守:1600

「これでもう、このターンの攻撃は不可能か。俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《砂塵の悪霊》攻2200・効果無効
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400、《戦士ダイ・グレファー》守1600、《戦士ダイ・グレファー》守1600、《戦士ダイ・グレファー》守1600
  魔法・罠:伏せ×1

【僕】 LP:4000 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×2

【川原さん】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400、《異次元の女戦士》守1600、《異次元の女戦士》守1600、《異次元の女戦士》守1600
  魔法・罠:《連合軍》永続魔法、《デモンズ・チェーン》永続罠・対象:《砂塵の悪霊》


 さて、僕のターンだ。
「僕のターン、ドロー!」
 カードを引くと、自分の場と手札を交互に見た。実のところ、僕の場と手札のカードを組み合わせれば、このターンで代々木たちのモンスターを全滅させることが可能だったりする。しかし、それを実現するためには、場のモンスターを1体生贄にしなければならない。ところが、僕の場には生贄となるモンスターがいない。どうするか?
 ……こうするしかないよな。
「僕はこのターン、生贄召喚を行う! 鷹野さんの場の《砂塵の悪霊》を生贄に、このモンスターを召喚! 出でよ! デュアルモンスター《ヴァリュアブル・アーマー》!」
 鷹野さんの場の《砂塵の悪霊》が消滅し、それと入れ替わるようにカマキリのような姿のモンスターが僕の場に現れた。
 その直後、頭にゴツンと衝撃が走った。鷹野さんがデュエル・ディスクで殴ってきたのだ。何するんだ!
 鷹野さんはディスクでバカスカ殴りながら叫んだ。
「このバカパラコン! 何私のモンスター勝手に生贄にしてるのよ!」
「はぁ!? 鷹野さん何言ってんだよ! これはタッグデュエルだ! 味方モンスターを生贄にして上級モンスターを召喚するのはルール上なんの問題もない!」
「だからって何も勝手に生贄にすることないじゃない!」
 鷹野さんの攻撃が激しくなる。僕は反射的に、自分のデュエル・ディスクで攻撃をガードした。
「何言ってやがる! さっき鷹野さんだって、僕のモンスターを勝手にコストにしたじゃないか! 人のこと言えないだろ!」
 この人、身勝手にもほどがあるだろ!
「どうせ君のモンスターは、攻撃も効果も封じられて役立たずの状態だったんだ! それを有効活躍してやったんだよ! ありがたく思いな!」
「うるさいこの微妙な髪形のパラコンボーイ略してビボーイ!」
「ビボーイってなんだクソッタレ! この自分勝手極まりない傲慢女め!」
「なんですってぇ! もう1度言ってみなさいよこのゴキブリ野郎っ!」
 僕と鷹野さんは互いにデュエル・ディスクをぶつけ合いながら相手を罵る。やがて見兼ねたのか、観戦していた真田さんが割り込んできた。
「はいはいそこまでっ! 夫婦漫才……じゃなくて、ケンカするのはその辺にして、デュエルに戻りなさいお2人とも!」
 真田さんになだめられ、僕らは冷静さを取り戻した。鷹野さんは髪をさっと払うと、自分の立ち位置に戻っていった。まだ彼女は不満そうな顔をしている。
 僕は代々木たちのほうを見た。彼らは僕らのケンカが収まって安堵しているようだった。
 見苦しいところを見せてしまったな。デュエルを続行しよう。
「じゃあ、気を取り直して……。僕は伏せておいた魔法カード《二重召喚(デュアルサモン)》を発動! このカードを使用したターン、僕はもう1度だけ通常召喚が行える! 僕は、デュアルモンスターの《ヴァリュアブル・アーマー》を再度召喚!」
 デュアルモンスターとは、召喚した直後は通常モンスターだが、通常召喚扱いとして再度召喚することで効果モンスターとなり、特殊能力を得られるモンスターのことをいう。《ヴァリュアブル・アーマー》はそういったデュアルモンスターの一種なのだ。
 再度召喚を行ったことで《ヴァリュアブル・アーマー》は特殊能力を得た。これで攻撃要員の準備は完了。あとはこいつらを使ってやればいい。
「さらに、手札から魔法カード《サイクロン》を発動! このカードは場の魔法・トラップカード1枚を破壊できる! 僕は川原さんの《連合軍》を破壊!」
「私のカードを!? うわっ!」
 竜巻が巻き起こり、川原さんの《連合軍》を吹き飛ばす。これで彼女たちの戦士族の攻撃力が増大することはなくなった。

 <代々木の場の戦士族>
 《切り込み隊長》攻:2800 → 1200
 《戦士ダイ・グレファー》攻:3300 → 1700
 《戦士ダイ・グレファー》攻:3300 → 1700
 《戦士ダイ・グレファー》攻:3300 → 1700

 <川原さんの場の戦士族>
 《切り込み隊長》攻:2800 → 1200
 《異次元の女戦士》攻:3100 → 1500
 《異次元の女戦士》攻:3100 → 1500
 《異次元の女戦士》攻:3100 → 1500

「そして、バトルフェイズに入る! 《ヴァリュアブル・アーマー》は相手モンスター全てに1度ずつ攻撃を仕掛けることができる!」
「全体攻撃能力か! だが、俺たちの場には2体の《切り込み隊長》がいる! こいつらがいる限り、お前は俺たちの戦士族モンスターを攻撃することはできないぜ!」
 たしかに代々木の言うとおりだ。このままじゃ僕は攻撃できない。でも、僕の場の伏せカードを使えば、状況はがらりと変わる。さっき、鷹野さんが《イタクァの暴風》を使ったおかげで発動条件を満たしたこのカードを使えば!
 見せてやる! 僕の華麗なる戦術を!
「リバース・トラップ発動! 《ディフェンダーズ・クロス》! このカードはバトルフェイズ中のみ発動でき、敵の守備表示モンスターを全て攻撃表示に変える! そして、この効果を受けたモンスターは、モンスター効果が無効化される!」
「な、何ぃっ!? モンスター効果無効化だと!」

 <代々木の場のモンスター>
 《切り込み隊長》守:400 → 攻:1200・効果無効
 《戦士ダイ・グレファー》守:1600 → 攻:1700
 《戦士ダイ・グレファー》守:1600 → 攻:1700
 《戦士ダイ・グレファー》守:1600 → 攻:1700

 <川原さんの場のモンスター>
 《切り込み隊長》守:400 → 攻:1200・効果無効
 《異次元の女戦士》守:1600 → 攻:1500・効果無効
 《異次元の女戦士》守:1600 → 攻:1500・効果無効
 《異次元の女戦士》守:1600 → 攻:1500・効果無効

「これで《切り込み隊長》のロックは破壊され、攻撃可能になった! このターン、《ヴァリュアブル・アーマー》の全体攻撃で、君たちのモンスターを全滅させる!」
 《連合軍》を破壊しておいたことで、代々木たちのモンスターの攻撃力は下がっている。今がチャンスだ!
「行け、《ヴァリュアブル・アーマー》! 敵モンスターを全滅させろ!」
 《ヴァリュアブル・アーマー》が鎌を構え、攻撃態勢に入る! 今、敵の伏せカードは、代々木の場に伏せてある1枚だけ! あれが攻撃妨害系のカードでなければ、このターンで敵モンスターは全滅だ!
 ところが――。
 代々木たちの伏せカードが開く様子はないのに、《ヴァリュアブル・アーマー》に異変が起きた。なんと、どこからか現れた鎖が《ヴァリュアブル・アーマー》の動きを封じてしまったのだ!
 ……え? どゆこと?
 僕は代々木の場をよく見た。彼の伏せカードは裏向きのままだ。というか、代々木も川原さんも動きを見せた様子はない。一体何が……。
「……《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃宣言時、私はトラップを発動したわ」
 混乱する僕の耳に、凛とした声が届く。
 その声の主は、僕のタッグパートナーである鷹野さんだった。
 僕は彼女の場へと目を向けた。そして、そこで1枚の伏せカードが開いていることに気づいた。《ヴァリュアブル・アーマー》の体に絡みつく鎖はそのカードから伸びていた。
「《デモンズ・チェーン》……だと……?」
 それは、さっき川原さんも使っていた、場のモンスター1体の攻撃と効果を封じる永続トラップだった。そんなトラップを、鷹野さんは僕のモンスターの攻撃宣言時に発動したのだ。
 それを知ったとき、僕は1つの答えに行きついた。それは常識では考えられない答えだった。
「まさか! 鷹野さん、僕の《ヴァリュアブル・アーマー》に対して《デモンズ・チェーン》を使ったのか!」
 《デモンズ・チェーン》は自分の場のモンスターに対しても使用可能だ。けど、普通はそんなプレイングはしない。普通、ならば。
 鷹野さんの横顔に向かって声をぶつけると、彼女は冷静な口調で答えた。
「その通り。私が《デモンズ・チェーン》の対象として選んだのは、あなたの《ヴァリュアブル・アーマー》よ」
「どうしてそんなことを! 《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃が通っていれば、相手モンスターを全滅できたのに! どうして!?」
 僕の叫びを受けて、鷹野さんはこちらを向いた。そして、ぺろりと舌を出してみせた。

「ちょっとデュエル・ディスクの操作間違っちゃって! それでこんなことになっちゃったの! てへ♪」

 そのふざけた顔を見て、僕は全てを悟った。
 要するにこの女は……僕の動きを邪魔したかったわけだ! 僕が活躍するのが気に食わなくて、妨害してきたわけだ! そのために、味方モンスターをトラップでハメたわけだ!
 し……信じられん! ここまで心の腐った女だったとは! まさか……まさか、タッグパートナーを妨害するためにわざわざトラップを使うとは! ふざけてる!
 この瞬間、僕ははっきりと認識した! 鷹野麗子――この女は僕の敵だ! この女とは、どのような道を歩もうと、敵同士として戦う運命にあるのだ! この女と力を合わせて戦うことなど断じてあり得ない! タッグデュエルだろうがなんだろうが関係ない! この女は、僕の敵だ!
 もう、この女をタッグパートナーと思うのはやめにする! 鷹野さん、覚悟しておけ! 君だけは僕がこの手で倒す!
 さあ、鷹野さん! 少々変則的だが、君とのラスト・デュエル(2戦目)を始めよう! そうさ! このデュエルはタッグデュエルなんかじゃない! 僕と君のラスト・デュエル(2戦目)なんだ!
 このデュエル、必ず僕が制す!
「僕はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
 鷹野さん。君が僕の動きを妨害するのなら、僕も君の動きを妨害するトラップを伏せておくよ。あとで面白いものを見せてやるから楽しみにしてな! ケッケッケ!





10章 醜い争い(後編)


【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠・対象:《ヴァリュアブル・アーマー》

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:伏せ×1

【僕】 LP:4000 手札:1枚
 モンスター:《ヴァリュアブル・アーマー》攻2350・効果無効
  魔法・罠:伏せ×1

【川原さん】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠


「あ、えーと……私のターン、でいいのかな? ドロー!」
 川原さんのターンに入る。先のターンの僕らのアクションが不自然だったためか、少々困惑気味だ。
 現在、彼女の場にあるカードは、効果を無効にされた4体の戦士族モンスター――《切り込み隊長》と3体の《異次元の女戦士》――と、無意味に場に残っている《デモンズ・チェーン》の計5枚だ(《デモンズ・チェーン》は対象となったモンスターが破壊されると道連れになって破壊されるが、破壊以外の方法で対象モンスターが場から離れると、無意味なカードとして場に残り続ける)。
「私は魔法カード《封魔の矢》を発動するよ! このターン、相手の場の伏せカードは全て封じられる! このカードに対するカウンタースペルも無力となるよ! これでパラコン君の伏せカードを封じる!」
 川原さんが魔法カードを使うと、僕の伏せカードに大量の矢が刺さり、発動を封じられた! 伏せカード封じか! でもまあいい。《封魔の矢》の効果はこのターンしか持たない。
「私の場のモンスターじゃ、パラコン君の《ヴァリュアブル・アーマー》は倒せないから……ここは鷹野さんにダイレクトアタックするよ! バトル! 《異次元の女戦士》で鷹野さんにダイレクトアタック!」
 《異次元の女戦士》が鷹野さんに攻撃を仕掛ける! 対する鷹野さんの場はがら空きだ! フッフッフ! 鷹野さんよ、僕と君のラスト・デュエル(2戦目)は変則デュエル! 僕と君以外の2人のデュエリストが僕らを妨害してくるのだよ! 果たしてこの妨害を回避できるかな!?
「私の場はがら空きか。じゃあ、パラコンの場のモンスターを壁にするわ! こいつで《異次元の女戦士》を迎え撃つ!」
 ……えっ!?
 驚いたときには、僕の《ヴァリュアブル・アーマー》が鷹野さんの場に移動していた。くそっ! また僕のモンスターを勝手に利用しやがったよこの人! たしかにタッグデュエルでは、パートナーのモンスターでダイレクトアタックを防ぐことができるけどさあ! そうする前に許可取るとかしようよ!
 やはり鷹野さんは僕の敵だ。パートナーなんかじゃない。改めてそれを認識した。
「《デモンズ・チェーン》の効果を受けたモンスターは、攻撃はできないけど、迎撃ならできるわ! 返り討ちにしなさい! 《ヴァリュアブル・アーマー》!」
 とりあえず、《ヴァリュアブル・アーマー》なら《異次元の女戦士》を返り討ちにできる。このターンのバトルは川原さんの自滅に終わるか。
「うぅっ! 私のモンスターじゃ勝てないよ!」
「大丈夫だ静江! 俺はリバース・カードを発動する!」
 と、ここで代々木が動いた。彼のリバースが開かれる。
「装備魔法《魔界の足枷》! このカードを装備したモンスターは攻撃力・守備力が100になる! こいつを《ヴァリュアブル・アーマー》に装備だ!」
 《ヴァリュアブル・アーマー》に《魔界の足枷》が装備され、攻撃力がたったの100になってしまう! あー、これで《ヴァリュアブル・アーマー》が破壊されてしまう……。

 《ヴァリュアブル・アーマー》(攻:2350・守:1000) → (攻:100・守:100)

「これで《異次元の女戦士》のほうが攻撃力は上だぜ! 行け、静江!」
「ありがとう祐二! バトル続行だよ!」
 《異次元の女戦士》が弱体化した《ヴァリュアブル・アーマー》を撃破する。それに伴い、鷹野さんの《デモンズ・チェーン》が破壊される。
 ……あーあ、せっかく出した僕のモンスターがやられちゃったよ。
「やられたか。でも、《ヴァリュアブル・アーマー》は元々パラコンのモンスター。よって、《ヴァリュアブル・アーマー》が破壊されて発生した戦闘ダメージはパラコンが受けるわ」
 えっ!? そうなの!? ちょっとなんだそれ! 勝手に僕のモンスターを壁にしておいて、ダメージだけは全部僕に押し付けるってそんなのってアリかぁぁぁっ!

 僕 LP:4000 → 2600

 《異次元の女戦士》の攻撃力と《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃力の差の数値分、僕のライフが削られた! くっそ、なんだこれ!?
「まだ私のバトルは続いてるよ! 2体目の《異次元の女戦士》で鷹野さんにダイレクトアタック!」
 川原さんの追撃が行われる。もう僕らの場には壁モンスターはいない。鷹野さんは大人しく攻撃を受けるしかないはずだ。くたばれ、鷹野麗子!
「じゃあ、手札の《バトルフェーダー》の効果を使うわ。相手がダイレクトアタックしてきたとき、このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する」
 と、鷹野さんの手札から振り子のような姿のモンスターが飛び出してきて、鐘の音を鳴らし、バトルフェイズを強制終了する。ちっ、手札誘発のカードを持っていたか! 運のいい人だ!
 ていうか、《バトルフェーダー》持ってるんだったら、《ヴァリュアブル・アーマー》を壁にする必要なかったじゃないか! 最初から《バトルフェーダー》の効果使えよ! そうすれば、《ヴァリュアブル・アーマー》を失うことも、僕のライフが削られることもなかったのに! やっぱこの女、僕に嫌がらせしてるよ! 僕の敵だよ!
「うーん、攻撃は通らなかったか。じゃあ私は、攻撃していない他のモンスターを守備表示にして、ターンを終了するよ」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:4枚
 モンスター:《バトルフェーダー》守0
  魔法・罠:なし

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:2600 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1

【川原さん】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》守1600・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠


 川原さんのターンが終わったことで、彼女の使った《封魔の矢》の効果が切れ、僕の伏せカードが使えるようになった。よし、こいつで目に物見せてやる!
「私のターン、ドロー! いいカードを引いたわ。私はスピリットモンスター《阿修羅(アスラ)》を召喚!」
 鷹野さんは2体目のスピリットモンスターを呼び出した。《阿修羅》は召喚したターンに手札に戻ってしまうが、《ヴァリュアブル・アーマー》と同じで相手モンスター全てに1度ずつ攻撃を仕掛けられる。攻撃力は1700だ。
 今、代々木たちのモンスターは、代々木の場にいる《戦士ダイ・グレファー》を除けば、どれも《阿修羅》で一方的に倒すことができる。鷹野さんはこのターン、《阿修羅》の攻撃で《戦士ダイ・グレファー》以外のモンスターを一掃するのだろう。
 代々木たちの場に伏せカードはない。攻撃のチャンスだ。
「バトル! 《阿修羅》でまずは《異次元の女戦士》を攻撃!」
 鷹野さんの宣言を受け、《阿修羅》が攻撃態勢に入った。
 ところが――!
「えっ……!?」
 鷹野さんが目を丸くする。無理もない、まさに今攻撃をしようとしていた《阿修羅》が、突然フィールドから姿を消してしまったからだ。
 鷹野さんは相手の場に目を向ける。しかし、代々木たちが動きを見せた様子はない。ハッとして、彼女は僕のほうを見た。そして、その顔に怒りをにじませた。
「パラコン……あなた……そのトラップ……」
 クックック! 気づいたようだな! そうさ! 僕は君の攻撃宣言に合わせ、トラップを発動させてもらった!
「いやぁ、ごめんごめん鷹野さん。ちょっとうっかりしちゃってさぁ〜。永続トラップ《強制終了》を発動しちゃったんだよ。このカード、自分の場のカード1枚を墓地へ送ることでバトルフェイズを終了するトラップなんだけどね……。つい、鷹野さんの《阿修羅》を墓地へ送って、その効果を使っちゃったんだよ〜。悪いねぇ〜」
 僕はニヤニヤして言った。
 タッグデュエルでは、パートナーの場も自分の場として扱われる! ゆえに、パートナーの場のカードを自分のカードを使うためのコストにできる! こんな風に、鷹野さんの《阿修羅》をコストにして《強制終了》を使うことはなんの問題もなく行えるのだ!
 ウヒャヒャヒャヒャ! ざまー見ろー! これで貴様の攻撃は無効だ! 残念だったぁぁぁっ!
 鷹野さんはぴくぴくと顔を引きつらせている。顔が赤く染まり、鼻の穴がひろがっている。くはは〜! いい気味だなぁオイ!
「ごめんごめん。ホント、ついうっかりしちゃったんだよぉ〜。わざとじゃないの。許してねぇ〜」
 無論、実際はうっかりなんてしてないし、思いっ切りわざとだけどなぁ! さっきの仕返しだバーカ!
 今後は気をつけたほうがいいぜ、鷹野さん。何しろ《強制終了》は永続トラップ。バトルフェイズが訪れるたびに効果を使用できるんだ。それはすなわち、バトルフェイズが訪れるたびに、鷹野さんの場のカードを墓地へ送れるということだ。君が下手にカードを出せば、それらは《強制終了》の発動コストとして消えて行ってしまうんだよ! だからせいぜい、場にカードを出すときは慎重になることだな!
 僕は鷹野さんに向けて勝ち誇った顔を浮かべた。鷹野さんは拳をぐっと握りしめ、自分の手札へと目を向ける。――と、その目がきらりと光った。
「あぁーっと、手が滑って《マジック・プランター》を発動してしまったわ! このカードは、自分の場に表側表示で存在する永続トラップ1枚を墓地へ送ることで、デッキからカードを2枚ドローできる魔法カードなんだけど……」
 鷹野さんがなんか発動した。嫌な予感がする。
「私の場には、コストにできる永続トラップが1枚もないわね。となると……」
 鷹野さんの目が、僕の場の永続トラップ《強制終了》に向けられる。
「パラコンの場の《強制終了》をコストにするしか……ないわよね。ごめんねぇ〜パラコン〜。私ったらぁ〜またドジしちゃったぁ〜。許してねぇ〜」
 非常にイラッとくる喋り方をしながら、《マジック・プランター》の効果で2枚ドローする鷹野さん。僕の《強制終了》はあっさりと葬られた。
 ちっ、《強制終了》を除去したか! 運のいい奴め!
「カードを1枚セットしてエンド!」
 このターンの鷹野さんとの勝負は引き分けってところか。けど、最後に勝つのはこの僕だ!


【鷹野さん】 LP:4000 手札:4枚
 モンスター:《バトルフェーダー》守0
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:2600 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【川原さん】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》守1600・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠


「お前ら……さっきから誰と戦ってるんだよ……。俺のターン、ドロー!」
 代々木が困惑した表情で問いながらカードを引く。僕と鷹野さんが互いに激突していることにはすでに気づいているようだ。
 ふん、愚問だな代々木よ。このデュエルは、僕と鷹野さんのラスト・デュエル(2戦目)。つまり、僕と鷹野さんの雌雄を決するための戦いなのだよ。君や川原さんは、その戦いを盛り上げるための不確定要素でしかない。
「とりあえず、バトルに入るぞ。それじゃあ……鷹野の場の《バトルフェーダー》を攻撃しておくか。……いや、待てよ?」
 代々木は少し考えてから、「やっぱり」と口にした。
「攻撃対象はパラコンにしよう。《戦士ダイ・グレファー》よ、パラコンにダイレクトアタックだ!」
 代々木の《戦士ダイ・グレファー》が僕に向かって斬りかかってくる。僕の場に壁モンスターはいない。このままではダイレクトアタックを食らってしまう。
 ふっ、そんな攻撃が通ると思うな!
「僕は場の《バトルフェーダー》を壁にする!」
 僕は当然のごとく、鷹野さんの場にいた《バトルフェーダー》を壁にする。《バトルフェーダー》は《戦士ダイ・グレファー》に斬られて破壊され、自身の効果でゲームから除外された。
「パラコン……あなたね……」
 鷹野さんが殺意のこもった目で睨みつけてくる。僕は怯まずに平然と返した。
「ごめん。僕の場のモンスターと勘違いしちゃってさ。壁にしちゃった」
 鷹野さんは何も言わず、「ハッ」と短く息を吐いた。
「やっぱり、鷹野のモンスターを勝手に壁にしたか……。どうやらお前ら、完全に激突しちまってるみたいだな」
 代々木が呆れたように言った。こいつ、今の攻撃で、僕が鷹野さんのモンスターを勝手に壁にするかどうか試したのか。
「けど、だからって容赦しないぜ。バトル続行! 2体目の《戦士ダイ・グレファー》でパラコンに攻撃だ!」
 《戦士ダイ・グレファー》が攻撃を仕掛けてくる。僕は手札に残された1枚を場に出した。
「僕も持ってたんだよな。《バトルフェーダー》の効果発動! 相手モンスターの直接攻撃宣言時にこのカードを特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる!」
 《バトルフェーダー》の効果でバトルが終了する。鷹野さんは眉をピクリと動かしただけで何も言ってこなかった。
「通らなかったか。俺は……《切り込み隊長》を守備表示にして、カードを1枚セット! これで終了だ!」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:4枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:伏せ×1

【僕】 LP:2600 手札:0枚
 モンスター:《バトルフェーダー》守0
  魔法・罠:なし

【川原さん】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》守1600・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠


「僕のターン!」
 さて、現在の僕の手札は0。場には《バトルフェーダー》のみ。鷹野さんがあれこれ妨害しまくってくるせいで、手札消費がやたら激しくなってしまった。
 この辺で手札増強カードを引き当てたいところだ。
「ドロー!」
 引き当てたのは……《天よりの宝札》! ナイスタイミングだ!
「魔法カード《天よりの宝札》! 全てのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードを引く!」
 超強力なドロー魔法により、この場にいる全員の手札が6枚まで増えた。
 僕は6枚になった手札に目をやった。うん、これなら動けそうだ。
「僕は《バトルフェーダー》を生贄に……」
 と、言いかけたところで、僕は鷹野さんの場を見た。そこには正体不明のリバース・カードが1枚。
 ……念には念を入れておくか。
「僕はカードを1枚セット! それから《バトルフェーダー》を生贄に捧げ、《セイバー・ビートル》を召喚!」
 攻撃力2400の上級モンスターを生贄召喚する。こいつは貫通能力を持っているから、守備モンスターを攻撃しても戦闘ダメージを与えられる。
「バトルだ! 《セイバー・ビートル》で……そうだな……《戦士ダイ・グレファー》を攻撃する!」
 とりあえず、攻撃力の高いモンスターを優先的に葬っていこうと思い、《戦士ダイ・グレファー》をターゲットに攻撃宣言する。
 そのときだった!
「トラップ発動! 《デストラクト・ポーション》! 自分の場のモンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分だけライフを回復する!」
 鷹野さんが伏せカードを開いた! やっぱりトラップしかけてやがったよこの人!
「私は《デストラクト・ポーション》で、パラコンの場の《セイバー・ビートル》を破壊するわ! 死になさい!」
 鷹野さんがこちらをビシッと指さす。冗談じゃない! そんなトラップ通してたまるか!
「甘いぞ鷹野さん! カウンタートラップ《魔宮の賄賂》! 相手の魔法・トラップカードの発動を無効にして破壊する!」
 バトル前に伏せておいたカウンタートラップを発動する(スーパーエキスパートルールでは、発動条件さえ満たせば、伏せたターンでもトラップを発動できる)。これで鷹野さんのトラップは無効だ!
「ちっ、かわしたか。けど、《魔宮の賄賂》には相手にカードを1枚ドローさせるデメリットがあるわ。それに従い、私はカードを1枚ドローする」
 鷹野さんがカードを引く。うーん、手札を増やしてしまったか。でも、トラップは回避できたからよしとしよう。
 いやー、危なかったな。《魔宮の賄賂》を伏せてなかったら、せっかく出した《セイバー・ビートル》が破壊されてたよ。
「パラコンに鷹野……お前ら、ホントに相性最悪だな……」
「ひたすらお互いに足を引っ張り合ってるよね……」
 代々木と川原さんが顔を引きつらせている。仕方ないのさ。僕と鷹野さんは常に戦う運命にあるのだから。
「《デストラクト・ポーション》の効果は消えた! よって、《セイバー・ビートル》の攻撃は続行される! 《戦士ダイ・グレファー》に攻撃だ!」
「おっと! そうは行かないぜ! 魔法カード《攻撃の無力化》! このターン、全ての攻撃は時空の渦にのみ込まれて無効になる!」
 攻撃を続行すると、代々木の場に時空の渦が出現した。くそっ、代々木め、攻撃妨害魔法を伏せていたか! これじゃあ攻撃できない!
「だっさ。何、攻撃防がれてるのよ。バカじゃないの?」
 鷹野さんが嘲る口調で言ってきた。マジで腹立つなこの女……。
「僕は……これでターンエンドにする」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:7枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【代々木】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:2600 手札:4枚
 モンスター:《セイバー・ビートル》攻2400
  魔法・罠:なし

【川原さん】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》守1600・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠


「私のターン、ドロー! 私は《ならず者傭兵部隊》を召喚するよ!」
 川原さんのターン。彼女は新たな戦士族モンスターを召喚する。《ならず者傭兵部隊》は自身を生贄にすることで、場のモンスター1体を問答無用で破壊できるモンスターだ。
「《ならず者傭兵部隊》を生贄に捧げて効果発動! パラコン君の《セイバー・ビートル》を破壊!」
 《セイバー・ビートル》が複数人の男にボコられて場から姿を消した。くっ! せっかく出した《セイバー・ビートル》が破壊された! まだ1度も攻撃が成功してなかったのに!
「オーッホッホッホ! ……おっと、今の笑いに意味は特にないわ。決して、パラコンのモンスターが破壊されて喜んでるとか、そういうのじゃないの。気にしないで」
 鷹野さんが何か言ったが僕は無視した。
 ともあれ、僕も鷹野さんも場ががら空きだ。川原さんはどちらを攻撃してくるか。
「私はモンスターを全員攻撃表示にしてバトルに入るよ! 《異次元の女戦士》で……鷹野さんを攻撃!」
 川原さんは少し迷ってから鷹野さんに攻撃した。
 よーし、いいぞ川原さん! そのまま鷹野さんを追い詰めてやれ! 僕は川原さんを応援した。
「川原さんの直接攻撃宣言時、私は手札の《護封剣の剣士》の効果を発動! このカードを守備表示で特殊召喚するわ!」
 攻撃が通るかと思いきや、鷹野さんの手札からモンスターが飛び出し、《異次元の女戦士》と鷹野さんの間で守備態勢を取る。
「さらにこのとき、攻撃してきたモンスターの攻撃力より《護封剣の剣士》の守備力のほうが高ければ、攻撃してきたモンスターを破壊する! 《異次元の女戦士》の攻撃力は1500! 《護封剣の剣士》の守備力2400より低いわ! よって、《異次元の女戦士》を破壊!」
 《護封剣の剣士》が《異次元の女戦士》を剣で貫き、返り討ちにする。川原さんのモンスターが破壊されてしまった。
「うぅぅ……そんなモンスターを隠してたなんて……」
 ちっ、面白くない。鷹野さんめ、大人しく攻撃を受けていればいいものを。
 川原さんは唇に指を当て、僕らの場と自分の場を交互に眺めた。
「私の場にいるどのモンスターの攻撃力でも《護封剣の剣士》は倒せない。かといって、パラコン君にダイレクトアタックしても、パラコン君が《護封剣の剣士》を壁にしたら同じことだし……」
 川原さんの読みは正しい。もしも彼女が僕を攻撃してきたら、僕は《護封剣の剣士》を勝手に壁モンスターとして使わせてもらうつもりだ。鷹野さんもこのことは予想しているだろう。
「このターンはもう攻撃は通らない、か。じゃあ私は、魔法カード《一時休戦》を使っておくよ。このカードの効果で全てのプレイヤーはカードを1枚ドローする。そして、次の相手ターンの終わりまで、全てのプレイヤーが受けるダメージは0になる」
 一定期間、自軍も敵軍もダメージを受けなくなるカードか。これで次の鷹野さんのターンの終わるまで誰もダメージを受けない。
 《一時休戦》の効果に従い、4人のデュエリスト全員がカードを1枚ドローした。
「カードを1枚セットしてターンエンドだよ」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:7枚
 モンスター:《護封剣の剣士》守2400
  魔法・罠:なし

【代々木】 LP:4000 手札:7枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:2600 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【川原さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠、伏せ×1


「私のターン、ドロー! 私は《憑依装着−ヒータ》を召喚!」
 鷹野さんは、ドローしてすぐにカードをディスクに置いた。鷹野さんの前に、赤い髪をした気の強そうな魔法少女が出現する……って、ヒータだとっ!?


 トラウマ
 (罠カード)
 自分は1850ポイントの精神的ダメージを受ける。


 く……くそっ! ヒータには何度も嫌な目に遭わされた記憶がある! そんなモンスターを出してくるとは、鷹野さんめ、やはり君はどこまでも僕を苦しめたいようだな!
「さっき川原さんが使った《一時休戦》は、プレイヤーが受けるダメージは0にするけど、モンスターが受けるダメージは0にできない。つまり、モンスターを戦闘破壊することはできるわ」
 鷹野さんはそう言って、代々木たちの場を見渡した。
「《憑依装着−ヒータ》の攻撃力であれば、あなたたちのモンスターをどれも破壊できるわね。すかさずバトルよ! 《憑依装着−ヒータ》で《戦士ダイ・グレファー》を攻撃! 『ファイヤー・スマッシュ』!」
 鷹野さんが攻撃宣言すると、ヒータは手で火の球を作り出し、それを空高く放り投げる。そして、高々と跳躍すると、持っていた杖で火球を思い切り打った。打たれた火球は代々木の場のグレファー目掛けて突き進んでいく。
 なんとしてもこの攻撃を妨害してやりたいと思ったが、僕の場はがら空きだ。大人しく攻撃が通るのを見ているしかない。
 ところが、意外なところから妨害が入った。川原さんが伏せカードを開いたのだ。
「させない! 永続トラップ発動! 2枚目の《デモンズ・チェーン》だよ! これで《憑依装着−ヒータ》の攻撃と効果を封じる!」
 川原さんが表向きにした《デモンズ・チェーン》のカードから大量の鎖が伸び、ヒータの火球を弾く。その勢いのまま、鎖はヒータの体に絡みつき、動きを封じた。これでもうヒータは攻撃できない。
 僕は思わずガッツポーズを取った! ヒータの攻撃が妨害されたことがすごく嬉しい! ざまあ見ろってんだ! 僕にトラウマを植え付けた忌まわしき小娘め! お前なんかそうやって身動きを封じられていればいいのだ!
 テンションが上がった僕は、川原さんに称賛の言葉を述べた。
「よし! お手柄だよ、川原さん!」
「えっ!? ぱ、パラコン君? あ、あの……私とパラコン君、敵チーム同士なんだけど……」
「今は関係ないさ! 僕は今、君のプレイングに感動している! 川原さん、君は最高だ!」
「あ……えーと……ありがとう……」
 僕が褒めると、川原さんは複雑な顔をしつつも礼を言ってくれた。
 一方、鷹野さんは、「今すぐ八つ裂きにしてやる」と言わんばかりの目で僕を睨みつけていた。僕は知らん顔を決め込んだ。
「……私はカードを2枚伏せてエンド」
 鷹野さんはしかめっ面でエンド宣言した。


【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《護封剣の剣士》守2400、《憑依装着−ヒータ》攻1850・効果無効
  魔法・罠:伏せ×2

【代々木】 LP:4000 手札:7枚
 モンスター:《切り込み隊長》守400・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:2600 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【川原さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠、《デモンズ・チェーン》永続罠・対象《憑依装着−ヒータ》


「俺のターン、ドロー!」
 代々木のターン。《一時休戦》の効果が切れたことで、このターンからまたプレイヤーへのダメージが発生するようになる。
「俺は《ゴブリン突撃部隊》を召喚する!」
 代々木が呼び出したのは、攻撃すると守備表示になってしまう代わりに、2300の攻撃力を誇る突撃部隊だった。なるほど、そいつでヒータをボッコボコにするというわけですね! やっちまってくださいよ代々木先生!
「俺は《切り込み隊長》を攻撃表示に変更! そしてバトル! まずは《ゴブリン突撃部隊》で《憑依装着−ヒータ》を攻撃――」
 《ゴブリン突撃部隊》が身動きの取れない魔法少女を睨みつけ、今にも襲い掛からんとする。よし行け、ゴブリンどもよ! 貴様らの力で、その忌まわしき小娘を蹴散らしてやるのだ! クヒャヒャヒャ!
「通さないわよ! 魔法カード《コマンドサイレンサー》を発動! 相手の攻撃宣言を取り消し、バトルフェイズを終了させる!」
 と、鷹野さんが伏せカードを開いた。それと同時に、フィールドに耳障りな高音が鳴り響き、代々木の攻撃宣言をかき消した。主の攻撃宣言が聞こえなくなったゴブリンたちは、動きを止めてしまう。
「この音じゃ、俺の命令がモンスターに届かない。このターンのバトルは終了か」
「そういうこと。さらに私は、《コマンドサイレンサー》のもう1つの効果でカードを1枚ドローする」
 攻撃を止めつつ、カードを引いた鷹野さん。ちゃんと防御手段も用意してたか。
 僕は自然と舌打ちをした。しかし、鷹野さんは何も言わなかった。ただ、鼻をふんと鳴らしただけだった。
「じゃあ、俺もこのカードを使っておこう。魔法カード《一時休戦》! 全てのプレイヤーはカードを1枚ドロー! そして、次の相手ターン終了時まで、全てのプレイヤーが受けるダメージは0になる!」
 また《一時休戦》か。これで次の僕のターンが終わるまで、誰もダメージを受けなくなる。
 僕を含め、全員がカードを1枚ドローする。それを確認してから、代々木はカードを1枚場に伏せた。
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「ちょっと待って」
 代々木のエンド宣言を聞くと、鷹野さんが動いた。
「ターン終了前に、トラップカード《砂塵の大竜巻》を発動。このカードは相手の場の魔法・トラップカード1枚を破壊する。私はこのカードで、今代々木君が伏せたカードを破壊するわ」
 竜巻が起こり、代々木がこのターン伏せたカードを吹き飛ばした。
「あちゃー。いいカード伏せてたのにな」
 代々木が伏せていたのは《聖なるバリア−ミラーフォース−》。敵攻撃モンスターを全滅させるトラップだった。たしかにいいカードだ。
「《砂塵の大竜巻》の第2の効果。私は手札から魔法・トラップカードを1枚場にセットできる。このカードを伏せておくわ」
 鷹野さんは伏せカードを1枚追加した。
「じゃあ、改めて俺はターンエンドだ」


【鷹野さん】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:《護封剣の剣士》守2400、《憑依装着−ヒータ》攻1850
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:7枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《ゴブリン突撃部隊》攻2300
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:2600 手札:6枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【川原さん】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠、《デモンズ・チェーン》永続罠・対象《憑依装着−ヒータ》


「僕のターン!」
 僕の場はがら空きだ。何かカードを出さないと。がら空きのままターンを終わらせるわけには行かない。
 手札を見ると、強力な上級モンスターカードが目についた。こいつを召喚するには、生贄を2体捧げなければならない。けれど、僕の場に生贄となるモンスターはいない。
 ならば、やるべきことは1つ!
「僕は、鷹野さんの場の《護封剣の剣士》と《憑依装着−ヒータ》を生贄に捧げ、《鉄鋼装甲虫(メタルアーマードバグ)》を召喚する!」
 タッグデュエルのルールに従い、鷹野さんのモンスターを生贄にして生贄召喚を行う。生贄となって消滅する《憑依装着−ヒータ》を見て、僕はテンションが上がった。
「ハハハハ! 生贄となって消えるがいい、ヒータめ!」
 自然とそんなセリフが口から出た。その直後だった。
「この愚か者がぁっ!」
 鷹野さんが僕のほうへ飛んできてデュエル・ディスクで思い切り殴ってきた。痛え!
「パラコン、あなたは大きな罪を犯したわ! よりにもよってヒータを生贄にするなんて、あなたは最低! 人間のクズよ! ゴキブリ以下よ!」
 お気に入りカードを生贄にされたことに腹を立てた鷹野さんが、ディスクでガンガン殴りながら叫ぶ。その攻撃を自分のディスクでガードしながら、僕は言い返す。
「何喚いてるんですかぁ〜? ルール上なんの問題もない行為のはずですけどぉ〜? これはタッグデュエルですよ鷹野ちゃ〜ん! そこんとこ分かってるぅ〜?」
「このバカパラコン! ホント頭来たわ! もう絶対許さない! そのカイゼル髭ヘアーをこの場で引きちぎってやるわ!」
 顔を紅潮させた鷹野さんが、自分の手札を地面に放り捨て、両手で僕の髪の毛を引っ張ってきた。くそっ! 髪の毛引っ張んじゃねえ!
「離せアホ女! 僕の素晴らしき髪に気安く触れるんじゃない!」
 僕も手札を捨て、鷹野さんの腕を掴んで抵抗する。僕らは完全に取っ組み合いの状態となってしまった。
「ぱ……パラコン君に鷹野さん……ケンカしないでよぉ……」
「おーい、パラコンお前どうするんだー? これでもうターンエンドかー? それなら静江がターンを始めるけどー?」
 川原さんと代々木の声が耳に入ってくる。僕は必死に鷹野さんに抵抗しつつ(鷹野さん、むっちゃ力強い!)、たった今召喚した《鉄鋼装甲虫》に命令を下した。
「バト……ル! 《鉄鋼装甲虫》で……代々木のっ……むぐぐっ!」
 命令を下している途中で、鷹野さんの手が僕の口をふさぐ。この女、僕に攻撃命令させない気かよ!
「離せっ! 《ゴブリン突撃部隊》を……攻撃っ!」
 どうにか鷹野さんの手を口から離し、攻撃命令を下す。それを受け、《鉄鋼装甲虫》が飛翔し、《ゴブリン突撃部隊》に向かって突進した。《鉄鋼装甲虫》の攻撃力は2800。攻撃力2300の《ゴブリン突撃部隊》はあっさりと破壊される。
「くっ! だが、《一時休戦》の効果により、俺が受けるダメージは0だ! さあ、次はどうするパラコン!」
「ターン終了よ! 終了!」
「勝手にエンド宣言するな鷹野さん! 僕は……っ! カードを2枚伏せてエンドだ!」
 僕は隙をつき、さっき地面に捨てた手札から2枚を選んでディスクにセットし、エンド宣言した。そして、鷹野さんへの抵抗を続けた。
「いい加減その手をどけろ鷹野さん! 僕の超エクセレントな髪形が乱れちまうだろうが!」
「バカ言ってんじゃないわよパラコン! 乱すなんてもんじゃすまないわ! そのうざったい髪を1本残らずむしり取ってスキンヘッドにしてやる! そして、むしり取った髪の20%は燃やして処分! 30%はドブに捨てて処分! 残り50%は海に捨てて処分してやる! ヒータを汚した罪、その髪で償ってもらうわよ!」
「たかがヒータごときのために大げさなんだよ! いいじゃないか別に! どうせヒータは《デモンズ・チェーン》で身動き封じられて役立たず状態だったんだから! むしろ、役立たずのヒータを有効活用してやったんだから感謝してほしいくらいだね!」
「こっの……ゴキブリ野郎――! ホント許さない!」
 僕と鷹野さんの取っ組み合いはエスカレートする一方だった。いよいよ激怒した鷹野さんが僕に向かって連続パンチを放つ。僕も連続パンチを繰り出して対抗する。凄まじい速さでお互いの拳と拳が激しくぶつかり合った。


【鷹野さん】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1

【代々木】 LP:4000 手札:7枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700、《戦士ダイ・グレファー》攻1700
  魔法・罠:なし

【僕】 LP:2600 手札:4枚
 モンスター:《鉄鋼装甲虫》攻2800
  魔法・罠:伏せ×2

【川原さん】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:《切り込み隊長》攻1200・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効、《異次元の女戦士》攻1500・効果無効
  魔法・罠:《デモンズ・チェーン》永続罠、《デモンズ・チェーン》永続罠


「え……えーと、私のターン……。《一時休戦》の効果は切れて、このターンからプレイヤーにダメージを与えられるようになるんだけど……あ、あのー、パラコン君に鷹野さん。もうそろそろケンカはおしまいにしようよ……」
 川原さんが何か言ってきたが、僕らは戦いをやめなかった。もう、僕と鷹野さんの戦いを止めることは誰にもできない。これが戦いの宿命という奴だ。デュエリストは1度戦いを始めたら、どちらかが倒れるまで戦い続けなければならないのである。
 鷹野さんのパンチの連射速度が上昇する。僕も連射速度を上げて追いつく。互いの拳がぶつかり合いを続ける。彼女と拳が触れるたびに、手に鋭い痛みが走る。痛みは凄まじい速さで蓄積され、僕の動きを鈍らせんとする。しかし、ここで動きを鈍らせるわけには行かない。少しでも隙を見せれば、鷹野さんの華麗なる連続技で体中の骨が粉々に打ち砕かれてしまう。絶対に動きを止めてはならない!
「う……うぅぅ……。私は……光属性モンスターの《異次元の女戦士》が2体場にいるから、《ガーディアン・オブ・オーダー》を特殊召喚するよ。えーと……このカードはレベル8だけど、自分の場に光属性モンスターが2体以上存在する場合、手札から特殊召喚できるカードで……あのー、鷹野さんたち、聞いてる?」
「おーい! パラコーン! 鷹野ー! お前ら上級モンスター出されてるぞー!」
 敵チームのメンバーが何か言っているが、鷹野さんとの戦いに集中している今の僕には、単なる雑音にしか聞こえなかった。正直、集中力が削がれるからだまっていてほしい。
「……ったく、あの人たち、うるさくてしょうがないわ」
 鷹野さんが動きを鈍らせないまま、小さく漏らした。どうやら彼女も同じことを考えていたらしい。意見が合ったな。
 そんな僕らの気持ちなど知らずに、敵チームのメンバーは何かを言い続けている。
「ダメだ。全然聞いてないぜあいつら」
「うーん……デュエル、進めちゃっていいのかな?」
「いいんじゃないか? もうあいつら、タッグデュエルどころじゃなさそうだし……」
「じゃあ……進めちゃおっか。私はさらに、魔法カード《魔導師の力》を《ガーディアン・オブ・オーダー》に装備するよ。《魔導師の力》を装備したモンスターは、自分の場の魔法・トラップカードの枚数×500ポイント攻撃力と守備力が上がる。今、私たちの場にある魔法・トラップカードは、《魔導師の力》と、無意味に残り続けている《デモンズ・チェーン》が2枚。合計3枚だよ。よって、《ガーディアン・オブ・オーダー》の攻撃力・守備力は1500ポイントアップ!」

《ガーディアン・オブ・オーダー》(攻:2500・守:1200) → (攻:4000・守:2700)


「これで《ガーディアン・オブ・オーダー》の攻撃力は4000! パラコン君の《鉄鋼装甲虫》を上回ったよ! バトル! 《ガーディアン・オブ・オーダー》で《鉄鋼装甲虫》に攻撃!」
 よく聞き取れなかったが、川原さんが何かアクションを起こしたらしい。ちらと敵フィールドに目をやると、いつの間にか川原さんの場に攻撃力4000のモンスターが追加されていた。そのモンスターが僕の場に向かって攻撃してくる。
 なんかもう、敵チームが邪魔に思えてきたな。僕は鷹野さんとの戦いに集中したいのだ。外野はそろそろ引っ込んでほしい。
 鷹野さんも同じことを思ったのだろう。攻撃する手を緩めないまま、目で訴えかけてきた。
『あいつら邪魔よね? パラコン』
 それに対し、僕も目で返す。
『ああ、邪魔だね。これじゃあ、君との戦いに集中できない』
『なら、やることは1つね』
 鷹野さんの目がきらりと光る。僕の目も光っていたことだろう。
 この瞬間、僕と鷹野さんはお互いに同じ答えに辿り着いた。
 すなわち、自分たちの戦いの邪魔となる奴らを追い払う、という答えに――。
『じゃあ、一時休戦と行きましょう。この続きは、邪魔者を追い払ってからよ!』
『おう!』
 目だけを使った会話を終えた僕らは、同時に攻撃の手を止めた。そして、互いにデュエル・ディスクを操作し、自分の場の伏せカードを開いた。

「トラップ発動! 《破壊輪》!」
「トラップ発動! 《自業自得》!」

「なっ!?」
「えっ!?」
 代々木と川原さんが僕らのトラップを見て驚愕する。
 僕が発動したのは《破壊輪》。相手の攻撃モンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与えるカード。
 そして、鷹野さんが発動したのは《自業自得》。相手の場のモンスターの数×500ポイントのダメージを相手ライフに与えるカード。
 どちらのトラップも、相手ライフに大ダメージを与えるカードだった。
「オーッホッホッホ! 代々木君に川原さん! あなたたちの場のモンスターは現在、合計で8体存在する! よって、《自業自得》の効果によるダメージは4000ポイントとなるわ! 私はこの効果を代々木君! あなたに与えるわ!」
「な……にぃ……!? 俺に……4000ダメージだと……!?」
「それだけじゃないぞ! 川原さんの《ガーディアン・オブ・オーダー》が攻撃宣言したことで、《破壊輪》の効果が発動する! 《ガーディアン・オブ・オーダー》は破壊され、その攻撃力4000が敵ライフへのダメージとなる! 僕はこの効果を川原さんに与える!」
「そ……そんな! 一気に4000ダメージだなんて……!」
 愕然とする代々木と川原さんに向かって、僕と鷹野さんは同時に告げた。
「「勝負は決した! 大人しく散れっ!」」

 代々木 LP:4000 → 0
 川原さん LP:4000 → 0

 4000もの大ダメージが代々木と川原さんを襲い、2人のライフを一撃で0にした。
 これでうるさい外野が消えたな!





11章 デュエル再開


「勝負ありっ! 勝者、パラコン&鷹野ペア〜!」
 真田さんの声が響く。それを合図に、観戦していた連中がどよめきを上げた。
 とりあえず、代々木と川原さんは始末した。あとは、僕と鷹野さんの決着をつけるだけだ。
「くそー、負けたかぁ!」
 代々木がその場に大の字になって寝そべる。川原さんもへなへなと腰を下ろした。
「祐二、ごめん……私が迂闊に攻撃したから……」
「静江のせいじゃないさ。謝ることなんてない」
 代々木は白い歯をのぞかせながら、超が付くほどにさわやかな笑みを浮かべてみせた。恐ろしいくらいに様になっていた。イケメンってすごいね。
「いやあ、一時はどうなるかと思ったけど、たかのっティーとパラコン君が勝っちゃったね! なんだかんだで相性抜群だったぞ、お2人さん!」
 真田さんが僕らのチームを労う。……え? 相性抜群? 何言ってんだ真田さん。まさか、今のタッグデュエルでの僕らの有様を見た上でその言葉を口にしてんの? だとしたら目が節穴すぎだよ。僕ら、全く1ミリたりとも相性良くなかったからね? 思いっ切り争ってたからね?
「代々木君に静江も惜しかったね! でもいいデュエルだったよ!」
「いやー、ははは。完全にパラコンと鷹野にしてやられたよ。てっきり2人は仲間割れを起こしてるものかと思って、勝ったつもりになってた。心に隙ができてたよ。そこを見事に突かれちまった」
「私も、完全にだまされちゃった。パラコン君と鷹野さんは、仲間割れしているように見えて、実は密かに私たちに大打撃を与えるチャンスをうかがってたんだね」
「ああ。その策にハマって、すっかり油断しちまった。そのせいで、2人の張ってるトラップに注意が向かなかった。いや、お見事だ。パラコンに鷹野。お前らのコンビネーション、素晴らしかったぜ」
「本当だよ。2人ともすごいね」
 代々木と川原さんが尊敬のまなざしで僕らを見てくる。……え? あれ? なんか僕らが君たちを騙して罠にはめたような感じになっちゃってるけど、全然違うよ? 思いっ切り僕ら仲間割れしてたからね? あれは演技でも策でもなく、マジな仲間割れだからね?
「しっかし、《自業自得》に《破壊輪》か。見事に決められちまったな。お前らは最初から、これらのトラップを確実に決めるつもりで、あんな策に打って出たわけだ。全て計算尽くだったんだな」
「ホントすごいね……。全然そんなこと思いもよらなかったよ」
 ……計算尽く? 何言ってんの? 別に計算も何もないよ。たまたま僕らの伏せていたカードが君たちを倒せるカードだっただけの話で、計算とか一切ないよホントに。なんか、さっきから僕らのこと過大評価されているような気がするんだけど、君たち一体何を見ていたんだよ?
 僕は思わぬ形でほめられて面喰っていた。一方鷹野さんは――。
「代々木君と川原さんは一目見て強敵だとピンと来たわ。だから、ああいう策でも持ち出さないと渡り合えないだろうなと思ったのよ。結果的にどうにか策が上手く行ったから良かったものの、もしもこの策が失敗したら、私たちは勝てなかったかもしれないわね」
 鷹野さんは、「そう! 全ては私たちの策だったのよ!」的な感じを出しつつ、めっちゃ得意気に喋っていた。おいお前、嘘つくんじゃねえよ! なんかいい感じにほめられてるからって、ちゃっかり便乗してんじゃねえ! 僕の目はごまかされないぞ!
 さっきのデュエルのときの鷹野さんの様々な言動が演技だったとはとても思えない。あれは演技じゃなくて絶対本気だった。本気で鷹野さんは僕と戦っていた。間違いない。
「さすがだな、鷹野にパラコン。お前らはホントすごいよ」
「お見事だよ2人とも。まさに鷹野さんとパラコン君だからこそできる作戦だね」
「代々木君、川原さん。一応言っておくけど、今のデュエルで私たちが使った策を考えたのは私。パラコンは私の言いなりになってホイホイ動いていたにすぎないわ。ぶっちゃけ、パートナーがパラコンでなくても同じことはできたのよ。むしろ、パラコンじゃ力不足で正直なところ適任とは言えなかったわね」
 さり気なく手柄独り占めしやがったよこの女。そして僕のこと貶しやがったよ。ホント腹立つな。マジでぶっ飛ばしてやりたい。この女にはなんとしても、僕がこの手で敗北の2文字を突きつける必要があるな。
「鷹野さんさぁ、嘘はやめようよ。ホントは何も考えずに仲間割れ――ぐふっ!」
 ネタばらししようとしたら鷹野さんに足を踏まれた。チキショオ〜! 痛え〜!
「パラコン君、鷹野さん! すごかったよ!」
「代々木と川原もナイスファイトだったぜ!」
「4人とも……お……お疲れ様……」
 パロ、松本君、野村さんが労いの言葉をかけてきた。
 まあ何はともあれ、これでタッグデュエル大会は終了か。
「よーし、お開きと行くか! 卒業記念イベント・タッグデュエル大会優勝チームは、パラコン&鷹野ペアだ! みんな拍手!」
 代々木が叫ぶと、周囲からパチパチと拍手の音が鳴り響いた。……あ、そうか。今のデュエルって決勝戦だったんだっけ? 今一つ決勝っぽい感じがしなかったから忘れてた。
 とりあえず、タッグデュエル大会は終了である。しかし、僕の戦いはまだ終わっていない。戦いは一時的に中断しているだけなのだ。
「鷹野さん。まだ僕との勝負が終わってないよ。分かってるよね?」
 鷹野さんの横顔に向かって言う。彼女は髪をさっと払うと、自信に満ちた笑みを浮かべてみせた。
「分かってるわ。ま、結末は見えてるけどね」
「結末って何? 僕が君を完膚なきまでに倒すという結末かい?」
「そういう妄想、言ってて虚しくならない?」
 鷹野さんがファイティングポーズを取る。また連続パンチを打ち込んでくる気か? そう思って僕も腕を構える。
 しかし、鷹野さんはファイティングポーズを解除した。そして、代わりにデュエル・ディスクを構えた。
「パラコン。リアルファイトでの勝負も悪くないけど、ここはやはりデュエルで勝敗を決定すべきじゃない?」
「デュエルで?」
「ええ。私たちはデュエリスト。デュエリストならば、カードで勝利を掴むべき。私はそう思うわ。それに……さっきのデュエルはまだ終わってない」
「終わってない? どういうこと?」
「デュエル・ディスクを見てみなさい」
 僕は自分のデュエル・ディスクを見た。ディスクは先ほどのタッグデュエルが終了した時の状態のままだ。ライフカウンター、フィールド、墓地……全てが先ほどのデュエル終了時の状態を維持している。そして、それは鷹野さんも同様だった。
「さっきのデュエルでライフを失ったのは、代々木君と川原さんだけ。私とパラコンはライフが残っている。つまり、敗北したのは代々木君と川原さんだけで、私とパラコンは生き残っている。だから、このまま私とあなたでデュエルを継続し、生き残ったほうを勝者とするのよ」
「なるほど、さっきのデュエルの続きをするというわけか。僕と鷹野さんだけで……」
「そ。ここからは私とあなたの1対1の勝負。この勝負に勝った者が、今大会の真の優勝者となる、というわけよ」
 鷹野さんは、さっき地面に捨てた自分の手札を拾い集めた。きちんと確認したわけじゃないが、当然その手札の内容は、先ほどのデュエル終了時の内容のままとなっているはずだ。
 僕ら2人で先ほどのデュエルの続きをする、か。要するに、僕と鷹野さん、どちらかが倒れるまでこのデュエルは終わらないというわけだ。そして、生き残った者が優勝の座を勝ち取る――。
 フッ、面白いじゃないか! この勝負、受けて立つ!
 僕も手札を拾い集めると、鷹野さんに向かってディスクを構えた。
「分かった。このままさっきのデュエルの続きと行こう。このデュエル、僕が制す!」
「決まりね。じゃあ、続きと行くわよ!」
 鷹野さんもディスクを構え、戦闘態勢に入った。
 さあ、ラスト・デュエル(2戦目)の続きと行こうか、鷹野さんよ!
 先ほどまでの僕と鷹野さんの戦いは、代々木と川原さんを巻き込んでの変則的なものだった。しかし、ここからは違う! ここからは1対1の通常デュエルだ! もう邪魔をしてくる人間はいない! 思う存分鷹野さんと真正面から戦うことができる!
 僕と鷹野さんは適度に距離を取り、向き合う形で立った。いよいよデュエル再開だ――!
 ところが、それを邪魔してくる人間がいた。
「ちょっ……ちょっとちょっとちょっとぉ! 何やってんのお2人さん! どうして2人が戦おうとしてるわけ!?」
 真田さんが叫んでいた。彼女は僕らに困惑した眼差しを向けている。真田さん以外のメンバーも同様だった。
「たかのっティーとパラコン君は味方同士でしょ! なんで戦うの!? 別に戦う必要なんてないでしょ!?」
 味方同士か。まあ、真田さんにはそういう風に見えるんだろう。
 けど、実際はそうじゃない。鷹野さんは味方じゃない。敵だ。僕が倒すべき敵だ。僕は彼女を倒さなければならない。そうしない限り、この戦いは終わらない。
 僕はふっとため息をついた。鷹野さんのほうへ目を向けたまま、真田さんに答える。
「僕はデュエリストだ。デュエリストである以上、最後の1人になるまで戦い続けなければならない。真の勝者は……1人でいいんだよ」
「え……えぇっ!? ちょっと待ってよ! 今やってるのはタッグデュエル大会だよ!? 真の勝者を1人に絞る必要なんてないでしょ!? パラコン君とたかのっティー、2人揃って真の勝者でいいじゃん! 2人はパートナーなんだからさ!」
「真田さん」
 鷹野さんが口を開き、諭すような口調で言う。
「昨日の友は今日の敵――それがデュエリストの世界よ。私とパラコンがパートナーだった時間は、代々木君と川原さんが敗北した瞬間に終わりを告げたの。今の私とパラコンはもう敵同士。敵同士である以上、決着をつけなければならない。どちらが上なのか、はっきりさせなければならない。分かるわよね?」
「そ……そんな……! でもさ!」
 真田さんが何かを言おうとしたとき、「やめとけ、杏奈!」と制する声が聞こえた。真田さんの彼氏、松本君の声だった。
「マッツー、でも……」
「杏奈、見てみろよ、パラコンと鷹野の目を」
「目……?」
 真田さんが僕と鷹野さんの目を交互に見る。松本君は全てを悟ったように言った。
「あの目は、戦うことを決意したデュエリストの目だ。ああなった以上、もう何を言っても無駄だ。あいつらは、どちらかがくたばるまで戦い続けるだろうぜ」
「そん、な……。2人は戦う必要がないのに……戦わなきゃいけないの……?」
「そうだ」
「なんでっ!?」
「それが……デュエリストって生き物なんだよ」
「……っ! ……もう、あたしたちには、この戦いを止めることはできないの……?」
「ああ。もう止めることはできねえ。だからせめて……あいつらの気が済むまで戦わせてやろうぜ。俺たちにできることはそれくらいだ……」
「うぅぅ……マッツ〜〜!」
 真田さんは松本君の胸に顔をうずめてしくしくと泣きだした。松本君はそんな彼女の背中を擦っている。
 ……なんか、先ほどから会話の雰囲気が必要以上に重たい感じになってる気がするんだが、気のせいだろうか?
 まあいいや。とにかく、鷹野さんとのラスト・デュエル(2戦目)の続きだ。これがおそらく、鷹野さんを倒す最後のチャンスとなるだろう。負けることは許されない。絶対に勝つぞ!
 デュエル再開の前に、現在の僕と鷹野さんの状況を確認しておこう。次のような感じだ。言うまでもないが、ここからは僕と鷹野さんのデュエルなので、代々木と川原さんが使っていたカードは一切絡んでこない。


【僕】 LP:2600 手札:4枚
 モンスター:《鉄鋼装甲虫》攻2800
  魔法・罠:伏せ×1

【鷹野さん】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


 ライフポイントに関しては、2600ポイントまで減っている僕に対し、鷹野さんはまだ4000ポイント。鷹野さんのほうが有利だ。手札枚数に関しても、僕が4枚、鷹野さんが6枚で、鷹野さんが有利。しかし、場の状況に関しては、モンスターと伏せカードが存在する僕に対し、鷹野さんはがら空き。僕のほうが有利だ。
 正直、どうにでも転びそうな状況だな。
「川原さんが敗北したことで、ターンは私に移行する。よって、私のターンから再開するわ。それでいい?」
「いいよ」
「じゃあ、デュエルを再開しましょうか」
 お互いに改めてデュエル・ディスクを構え、相手を見据える。
 数秒の間を置いた後、2人で同時に叫んだ。

「デュエル再開!」

 ラスト・デュエル(2戦目)が再開された。

 さあ、勝つぞ!





12章 パラコンボーイの本気


【僕】 LP:2600 手札:4枚
 モンスター:《鉄鋼装甲虫》攻2800
  魔法・罠:伏せ×1

【鷹野さん】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「私のターン、ドロー! 私は魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、同じ枚数分だけドローする!」
 再開されたラスト・デュエル(2戦目)は、鷹野さんのターンから始まった。僕と鷹野さんによる1対1の戦いの始まりだ。
 彼女が使ってきたのは、互いに手札を総入れ替えするカード。その効果に従い、僕は4枚、鷹野さんは6枚の手札を捨て、互いに捨てた枚数分のカードをドローした。ちなみに、僕の捨てた手札は《リロード》、《マジック・プランター》、《代打バッター》、《アーマード・ビー》だ。
 次に鷹野さんは、銀色のボディを持つ機械龍を召喚した。
「相手フィールドにのみモンスターが存在するこのとき、《サイバー・ドラゴン》は手札から特殊召喚できるわ」
 攻撃力2100のモンスターを呼び出したか。けど、そいつの攻撃力では僕の場にいる《鉄鋼装甲虫》は倒せない。鷹野さんは何を?
「さらに、《サイバー・ドラゴン》を生贄に捧げ、《邪帝ガイウス》を召喚!」
 《サイバー・ドラゴン》が消滅し、入れ替わりに帝王っぽい雰囲気を醸し出す悪魔族モンスターが出現した。さっき、真田さん&松本君ペアと戦ったときに出てきた上級モンスターか!
「《邪帝ガイウス》のモンスター効果! このカードが生贄召喚に成功したとき、場のカード1枚をゲームから除外する! この効果でパラコン! あなたの《鉄鋼装甲虫》を除外する!」
「何っ!?」
 くっ! 生贄召喚するだけで場のカード1枚を除外するって……よく考えたら結構インチキな効果だな! そんな効果があれば、ブルーアイズだって一発で倒せるじゃないか! ふざけてる!
 このままだまって通してなるものか! 僕は伏せカードを開いた!
「リバース・マジック! 《神秘の中華なべ》! このカードは、自分の場のモンスター1体を生贄に捧げることで、そのモンスターの攻撃力か守備力の数値分、自分のライフを回復する! 僕は《鉄鋼装甲虫》を生贄に捧げ、その攻撃力2800をライフに変換する!」

 僕 LP:2600 → 5400

 《神秘の中華なべ》によって《鉄鋼装甲虫》が場から消えたため、《邪帝ガイウス》の効果は対象を失って不発に終わる。サクリファイス・エスケープだ。
「かわしたか。けどこれであなたの場はがら空きよ! バトル! 《邪帝ガイウス》でダイレクトアタック!」
 《邪帝ガイウス》が僕に向けて黒い球体を放つ! 僕にこの攻撃をかわす手段はない。ここは大人しく受けるしかないな。
 ガイウスの攻撃力は2400。その数値が僕のライフから引かれる。

 僕 LP:5400 → 3000

 先ほど回復した分のライフがほとんど削られてしまった。
「カードを1枚セット。これでターンエンドよ」


【僕】 LP:3000 手札:4枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野さん】 LP:4000 手札:3枚
 モンスター:《邪帝ガイウス》攻2400
  魔法・罠:伏せ×1


 さて、僕のターンか。
 僕の場にはモンスターがいない。早くモンスターを召喚しないと。
「僕のターン、ドロー! まずは永続魔法《魂吸収》を発動させてもらう! このカードがある限り、僕はカードがゲームから除外される度、1枚につき500ポイントライフを回復する!」
 ライフ回復カードを場に出しておく。何故このタイミングでこのカードを出したかというと、こいつと組み合わせて使うためだ。
「次に、僕の墓地にいる昆虫族モンスター《代打バッター》と《アーマード・ビー》をゲームから除外し、《デビルドーザー》を特殊召喚! このカードは、墓地の昆虫族モンスター2体をゲームから除外することで特殊召喚できる!」
 さっき《手札抹殺》で墓地へ捨てられた2体の昆虫族モンスターを除外し、《デビルドーザー》を特殊召喚した。《デビルドーザー》の攻撃力は2800! 攻撃力2400の《邪帝ガイウス》を簡単にひねりつぶせる!
 それだけじゃない!
「《デビルドーザー》召喚のために、2体のモンスターが除外された! よって《魂吸収》の効果が発動し、僕のライフは1000回復する!」

 僕 LP:3000 → 4000

 僕のライフがデュエル開始時の数値に戻った。見たか! 除外召喚と《魂吸収》の華麗なるコンボを!
「バトル! 《デビルドーザー》で《邪帝ガイウス》を攻撃!」
 《デビルドーザー》が《邪帝ガイウス》をぶち砕き、両者の攻撃力の差分400ポイントが鷹野さんのライフから削られる。鷹野さんの場には伏せカードがあったが、それが発動することはなかった。

 鷹野さん LP:4000 → 3600

 ようやく鷹野さんのライフに傷を負わすことができた! 見てろよ、今すぐそのライフを0にしてみせる!
「《デビルドーザー》のモンスター効果! このカードが相手にダメージを与えたとき、相手はデッキの一番上のカードを墓地へ送らなければならない!」
「デッキ破壊能力か」
 鷹野さんがデッキの一番上のカードを墓地へ送る。
「僕はカードを1枚セットしてターンを終える!」


【僕】 LP:4000 手札:2枚
 モンスター:《デビルドーザー》攻2800
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法、伏せ×1

【鷹野さん】 LP:3600 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1


 鷹野さんの場にはモンスターがいない。彼女は次のターン、何かしらモンスターを出してくるだろう。けど、攻撃力2800の《デビルドーザー》を倒せるモンスターなど、そう簡単に出せるはずがない。
「私のターン、ドロー! ……いいカードを引いたわ。私は墓地の光属性モンスター《サイバー・ドラゴン》と、闇属性モンスター《邪帝ガイウス》を除外し、《カオス・ソーサラー》を特殊召喚! このカードは墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外することで特殊召喚できるわ!」
 鷹野さんが魔法使い族のモンスターを特殊召喚した。《カオス・ソーサラー》……攻撃力は2300か。そいつじゃ《デビルドーザー》には勝てない!
「《カオス・ソーサラー》のモンスター効果! 1ターンに1度、場にいる表側表示モンスター1体をゲームから除外する!」
 ……えっ!? モンスター除外効果だと!? そいつもガイウスみたくカードを除外できるのかよ!? インチキ極まりないな!
 くそっ! 今の僕に《カオス・ソーサラー》の効果を防ぐ手はない! サクリファイス・エスケープを使うこともできない! 《デビルドーザー》が除外されるのをだまって見ているしかないか……。
 《デビルドーザー》が除外され、僕の場のモンスターがいなくなってしまった。けど、鷹野さん! 忘れてもらっちゃ困るよ!
「僕の場には永続魔法《魂吸収》がある! このターン、鷹野さんは《カオス・ソーサラー》を召喚するために2枚のカードを除外し、《カオス・ソーサラー》の効果で僕のモンスター1体を除外した! つまり、計3枚のカードが除外されたんだ! よって《魂吸収》の効果が発動し、僕は1500ポイントのライフを回復する!」

 僕 LP:4000 → 5000 → 5500

 モンスターは失ったが、代わりにライフを回復できたから、まあよしとしよう。
「《カオス・ソーサラー》は効果を使うと、そのターン攻撃ができなくなる。私はカードを1枚セットし、ターンを終えるわ」


【僕】 LP:5500 手札:2枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法、伏せ×1

【鷹野さん】 LP:3600 手札:2枚
 モンスター:《カオス・ソーサラー》攻2300
  魔法・罠:伏せ×2


 僕のターンだな。
 僕の場にモンスターはいない。がら空きの状態でターンを終えるわけには行かないな。
「僕のターン、ドロー!」
 引き当てたのは、2枚目の《デビルドーザー》だった。よし、こいつを召喚だ!
「墓地の昆虫族モンスター《ヴァリュアブル・アーマー》と《セイバー・ビートル》を除外し、再び《デビルドーザー》を特殊召喚! 新たにカードが2枚除外されたことで《魂吸収》の効果が発動! ライフを1000回復する!」

 僕 LP:5500 → 6500

 《デビルドーザー》の攻撃力は2800! 攻撃力2300の《カオス・ソーサラー》など余裕で破壊できる!
「バトル! 《デビルドーザー》で《カオス・ソーサラー》を攻撃だ!」
 《デビルドーザー》が攻撃を仕掛け、《カオス・ソーサラー》が破壊される。これでまた鷹野さんの場からモンスターがいなくなった。

 鷹野さん LP:3600 → 3100

「《デビルドーザー》が戦闘ダメージを与えたことで、鷹野さんはデッキの一番上のカードを墓地へ送らなければならない!」
 鷹野さんがデッキからカードを墓地へ送るのを確認すると、僕は手札から2枚を選んでディスクにセットした。
「カードを2枚セットしてターンエンド!」
「ターンエンドの前に、私はトラップを発動するわ」
 エンド宣言をしたとき、鷹野さんが伏せカードを開いた。このタイミングでトラップだと?
「トラップカード《奇跡の残照》! このカードは、このターン戦闘で破壊された自分のモンスターを墓地から復活させる! 蘇れ! 《カオス・ソーサラー》!」
 うわっ! 《カオス・ソーサラー》が復活しちゃったよ! むぅ……そいつって確か、モンスターを除外する能力を持ってるんだよな。また《デビルドーザー》が除外されちゃうじゃん。あーあ、せっかく2体目を呼び出したのになぁ。
「改めて、ターンエンドだよ」


【僕】 LP:6500 手札:0枚
 モンスター:《デビルドーザー》攻2800
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法、伏せ×3

【鷹野さん】 LP:3100 手札:2枚
 モンスター:《カオス・ソーサラー》攻2300
  魔法・罠:伏せ×1


「私のターン、ドロー! じゃあ、《カオス・ソーサラー》の効果で《デビルドーザー》を除外させてもらうわね」
 鷹野さんは迷わずに《カオス・ソーサラー》の効果を使う。それにより、僕の場から《デビルドーザー》が姿を消した。
「くっ! けど、《カオス・ソーサラー》の効果で《デビルドーザー》が除外されたことで、《魂吸収》の効果発動! 僕はライフを500回復する!」

 僕 LP:6500 → 7000

「このターン、《カオス・ソーサラー》は攻撃できないか。なら、さらなるモンスターを召喚するまで! 墓地の光属性モンスター《阿修羅》を除外し、《霊魂の護送船(ソウル・コンヴォイ)》を特殊召喚! このカードは墓地の光属性モンスター1体を除外することで特殊召喚できる!」
 鷹野さんは攻撃力1900のモンスターを呼び出した。モンスターを2体並べたか! けど、除外召喚を行ったことで、また《魂吸収》の効果が発動するのを忘れるな!
「新たにカードが1枚除外されたから、《魂吸収》で500ライフ回復!」

 僕 LP:7000 → 7500

「バトルよ! 《霊魂の護送船》でダイレクトアタック!」
 鷹野さんが、モンスターを失った僕に向けて攻撃を行う! 僕はすかさずトラップを発動した!
「トラップ発動! 《ピンポイント・ガード》! このカードは、相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、自分の墓地からレベル4以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 僕はこいつを召喚だ! 蘇れ、《ゴキボール》!」
 トラップの効果により、《ゴキボール》が守備表示で蘇った! ソリッド・ビジョン化された《ゴキボール》を前にして、鷹野さんが顔をしかめる。
「《ピンポイント・ガード》で特殊召喚されたモンスターは、このターン破壊されないのよね?」
「そうだよ。《ゴキボール》はこのターンの間だけ、決して破壊されない不死の能力を手にしたのさ!」
 《霊魂の護送船》の攻撃が《ゴキボール》にヒットしたが、《ゴキボール》は破壊されずに場に留まっている。守備表示なので、戦闘ダメージも発生しない。
「ゴキブリの分際で私の邪魔をするとはいい度胸してるじゃない。カードを1枚伏せてターンエンドよ」
 鷹野さんのターンが終わった。
 ふぅ、どうにかダイレクトアタックは回避できたな。けど、《ゴキボール》が破壊されないのはこのターンだけ。次のターン以降は普通に破壊されてしまう。破壊されてしまう前に何か手を打たないと……。


【僕】 LP:7500 手札:0枚
 モンスター:《ゴキボール》守1400
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法、伏せ×2

【鷹野さん】 LP:3100 手札:1枚
 モンスター:《カオス・ソーサラー》攻2300、《霊魂の護送船》攻1900
  魔法・罠:伏せ×2


「僕のターン、ドロー!」
 カードを引いたところで現状を確認する。
 ライフポイントに関していえば、僕のほうが有利だ。けど、ライフ差なんてあっさりひっくり返ることもあるから安心してはいられない。大体、ライフを回復してばかりではデュエルには勝てないのだ。そろそろ鷹野さんに決定打を与えたいところだな。
「僕は魔法カード《運命の宝札》を発動! このカードは、サイコロを1回振り、出た目の枚数だけカードをドローした後、同じ枚数だけデッキの上からカードを除外する!」
 実はデメリットらしいデメリットが見られない超強力ドロー魔法を発動する僕。それに伴い、フィールドにサイコロがソリッド・ビジョン化され、くるくると回転し始める。
 回転したサイコロはやがて地面に落下し、2の目を示した。
「出た目は2だ! よって僕は2枚のカードをドロー! そして、デッキの上から2枚を除外する!」
 デッキから除外されたのは、《天使の施し》と《強欲な壺》のカードだった。ドロー強化魔法が除外されてしまったか。けど、まあいい。
「カードが2枚除外されたことで、《魂吸収》の効果発動! 1000ライフポイント回復!」

 僕 LP:7500 → 8500

 僕は《運命の宝札》の効果で引き当てた2枚のカードを見た。そして思わず「おぉっ!」と声を上げた。
 これは……強力なカードを引いたぞ! こいつの効果を使えば、僕の場に、3体の《ゴキボール》を揃えることができる! そして、場に伏せてある魔法カードを使えば……僕の切り札を呼び出すことができるじゃないか!
 やった! やったぞ! ついに切り札を召喚できるときが来たのだ! これで一気に僕の勝利が近づいてきた!
 クックック……鷹野さんよ! 今から見せてやるぜ! 僕のデッキの切り札をな!
「僕はこのカードを召喚するよ! 来い! 《レスキューラビット》!」
 ディスクにモンスターカードを置くと、ヘルメットとゴーグルを身に着けたウサギが場にソリッド・ビジョン化された。以前、鷹野さんが使用したこともある《レスキューラビット》。こいつの効果は強力だぜ!
「《レスキューラビット》のモンスター効果! このカードを除外することで、デッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚できる!」
 《レスキューラビット》がフィールドから姿を消す。僕はデッキから2枚のモンスターを選び取り、ディスクにセットした。
 僕が呼び出すモンスターは当然! こいつらだ!
「《レスキューラビット》の効果により、デッキから《ゴキボール》2体を特殊召喚だ!」
 ついに場に3体の《ゴキボール》が揃った! ハハハハ! 見るがいい! 3体の《ゴキボール》が揃ったこの光景を!
「なんかホラー映画を見てる気分だわ……」
 ソリッド・ビジョン化された3体の《ゴキボール》を見て、鷹野さんは不快感を露わにした。まあ、その気持ちは分からないでもない。
 とりあえず、《レスキューラビット》が除外されたので、《魂吸収》の効果でライフが500回復した。

 僕 LP:8500 → 9000

 僕はふと、自分の場に揃った3体の《ゴキボール》うち1体を眺めた。それは、鷹野さんと初めてデュエルをしたあのバレンタインデーの日、彼女から渡されたものだった。


 ゴキボール
 通常モンスター
 星4/地属性/昆虫族/攻1200/守1400
 ファッキン! どう見てもチョコレートには見えねえよ!!


 どう見てもチョコレートには見えない《ゴキボール》のカードを、鷹野さんはチョコレートだと偽って僕に渡してきやがったのである。僕と鷹野さんの因縁はそれから始まったのだ。あの日からずっと、僕は鷹野さんを倒すことを目標にして生きてきた。
 鷹野麗子――彼女との因縁を、今日ここで終わりにする。僕はそのために今ここにいる! 改めてそのことを強く認識する。
「パラコン。ゴキブリ3体を並べてどうするつもり?」
「そうあわてるなって。お楽しみはこれからだ!」
 僕は場に伏せてあった魔法カードを開いた。瞬間、フィールドの雰囲気が変わった。
「フィールド魔法《フュージョン・ゲート》を発動! このカードがある限り、ターンプレイヤーは、自分の手札及びフィールドから融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを除外することで、その融合モンスターを融合召喚できる!」
「なっ!? 融合を可能にするフィールド魔法ですって!? パラコン、あなたの狙いは――!」
「そうさ! 僕の狙いは《ゴキボール》3体融合! 見せてやる鷹野さん! 僕のデッキ最強の切り札を! 君の息の根を止めるモンスターを!」
 僕は3体の《ゴキボール》をディスクから引き離した。
「3体の《ゴキボール》をゲームより除外! 融合せよ! 《ゴキボール》たち!」
 場にいた《ゴキボール》たちが融合し、1つになる。そして現れたのは、《ゴキボール》を一際大きくしたようなモンスター。
「融合召喚! 《マスター・オブ・ゴキボール》!」
 超巨大な《ゴキボール》がフィールドに降臨した! ワハハハハ! これが僕の《マスター・オブ・ゴキボール》だ! 見るがいい、鷹野麗子よ!
「《マスター・オブ・ゴキボール》! なんて不気味なモンスターなの!」
 鷹野さんは口元に手を当て、顔色を悪くしていた。そんなに気味が悪いのか。まあ、たしかに、ソリッド・ビジョン化された《マスター・オブ・ゴキボール》はかなーり不気味に見えるけどさ。
 さて、とうとう降臨した僕の切り札《マスター・オブ・ゴキボール》。効果は次のようになっている。


 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター
 星12/地属性/昆虫族/攻5000/守5000
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このモンスターは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。
 このモンスターは融合したターンでも攻撃可能。
 このモンスターがフィールドに存在する限り、自分が受けるダメージは0になる。
 このモンスターがフィールドから離れた時、相手フィールドのカードを全てゲームから除外し、「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を可能な限り自分フィールドに特殊召喚する。「ゴキボールトークン」はカード名を「ゴキボール」として扱う。


「なんなの……この反則効果は……」
 デュエル・ディスクの機能を使って《マスター・オブ・ゴキボール》の能力を調べたのか、鷹野さんが苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
 ハハハ! 鷹野さん! 素晴らしいだろう、超絶強化された《マスター・オブ・ゴキボール》の能力は! 今からこのモンスターの力を存分に味わわせてやるよ!
 あ、そうそう。忘れてた。
「《フュージョン・ゲート》の効果で3体の《ゴキボール》が除外されたから、《魂吸収》の効果で1500ライフ回復するよ」

 僕 LP:9000 → 10500

 ウヒャヒャヒャ! 切り札を召喚しつつ、ライフ1万越えしてやったぜ! どうよ鷹野さん!
 し・か・も・だ! 僕のコンボはまだ終わらないのさ! 《ゴキボール》が除外されたことで、このカードを使うことができる!
「まだだよ鷹野さん! 僕はさらに、トラップを発動! 《異(ジー)元からの帰還》!」
「い……異、じー、元からの帰還……?」
 鷹野さんが目をパチクリとさせる。フッフッフ! このカードはゴキブリモンスター専用のカードさ!
「《異G元からの帰還》は、除外された自分のゴキブリモンスターを、可能な限り呼び戻すことができるトラップカード! ただし、この効果で呼び戻されたモンスターはこのターンのエンドフェイズにまた除外されちゃうけどね」


 異G元からの帰還
 (罠カード)
 ゲームから除外されている自分のゴキブリモンスターを可能な限り自分の場に特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズにゲームから除外される。


「それでさっき除外した3体の《ゴキボール》を呼び戻すってわけね……」
「その通り! さあ、戻ってくるのだ! 《ゴキボール》たちよ!」
 《異G元からの帰還》の効果により、3体の《ゴキボール》が僕の場に戻ってきた! ククク! これが何を意味するか分かるか!?
「……っ! まさかパラコン! あなたの狙いは!」
「気づいたようだね。そうさ! 僕の狙いはこれだよ!」
 僕は3体の《ゴキボール》を再びゲームから除外した。
「フィールド魔法《フュージョン・ゲート》の効果! 場の3体の《ゴキボール》を除外し、融合! 現れよ! 2体目の《マスター・オブ・ゴキボール》!」
 3体の《ゴキボール》が融合し1つとなる。そして、超巨大《ゴキボール》へと姿を変えた。僕の場に2体目の《マスター・オブ・ゴキボール》が降臨したのだ!
 そう! 2体目の《マスター・オブ・ゴキボール》の融合召喚こそが僕の狙いだったのさ!
「攻撃力5000の《マスター・オブ・ゴキボール》が2体……!」
「それだけじゃない! また3体の《ゴキボール》が除外されたことで、《魂吸収》の効果も発動! 1500ライフ回復だ!」

 僕 LP:10500 → 12000

 さて、やりたい放題やったな。ここらで1度状況を確認しておこう。


【僕】 LP:12000 手札:1枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:3100 手札:1枚
 モンスター:《カオス・ソーサラー》攻2300、《霊魂の護送船》攻1900
  魔法・罠:伏せ×2


 フッフッフ! 素晴らしい! 12000ものライフに、攻撃力5000の超強力モンスターが2体! どう見ても僕が有利に立っている!
 さあ、バトルと行こうじゃないか!
「《マスター・オブ・ゴキボール》は速攻能力を持つから、融合したターンに攻撃が可能だ! バトル! 《マスター・オブ・ゴキボール》で《霊魂の護送船》に攻撃! これで終わりだぁぁっ!」
 《マスター・オブ・ゴキボール》がゴロンゴロンと転がり、鷹野さんの場の《霊魂の護送船》に襲いかかる。《マスター・オブ・ゴキボール》は攻撃力5000。対する《霊魂の護送船》は攻撃力1900。この攻撃が通れば、鷹野さんは3100ポイントのダメージを受け、ちょうどぴったりライフが0になる!
「ライフジャストボーナスを獲得しつつ僕の勝ちだぁっ!」
「甘いわよパラコン! トラップ発動! 《攻撃の無敵化》! このカードはバトルフェイズ中に発動でき、2つの効果から1つを選んで使用する! 私は第2の効果を選択し、このバトルフェイズ中に私が受ける戦闘ダメージを0にする!」
 何!? バトルダメージ無効化のカードだと! そんなカード伏せてたのか! くそっ、これじゃあこのターン、鷹野さんに戦闘ダメージを与えることはできない!
「けど、モンスターの戦闘破壊を防ぐことはできない! 《霊魂の護送船》は破壊だ!」
 轟音を立てて転がる《マスター・オブ・ゴキボール》にぶっ飛ばされ、《霊魂の護送船》は姿を消した。
「さらに、もう1体の《マスター・オブ・ゴキボール》で《カオス・ソーサラー》に攻撃だ!」
 続けて2体目の《マスター・オブ・ゴキボール》がゴロンゴロンと転がり、《カオス・ソーサラー》をぶっ飛ばした。よし! これで鷹野さんの場のモンスターは全滅した!
「僕はカードを1枚セットし、ターンを終える!」
 このターンはダメージを与えられなかったが、次のターンはこうは行かない! 絶対に次こそトドメを刺してみせる!


【僕】 LP:12000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法、伏せ×1
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:3100 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1


「……っ! ……私のターン、ドロー!」
「鷹野さん、あきらめないんだね。僕の場には究極モンスター《マスター・オブ・ゴキボール》が2体もいるっていうのに。てっきりサレンダーするかと思ってたよ」
 見下すような口調で言うと、鷹野さんがむっとした顔をこちらに向けた。フフ……すっごい気分いいな!
「一応言っておくけど、《マスター・オブ・ゴキボール》がいる限り、僕は一切ダメージを受けないからね。それから、《マスター・オブ・ゴキボール》をフィールドから離すようなことをすれば、鷹野さんの場のカードは全部除外され、僕の場に《ゴキボールトークン》が展開されるよ。そこんところをよ〜く認識した上でデュエルを進めてちょうだいね、た・か・の・さ・ん!」
 小馬鹿にする口調の僕に対し、鷹野さんは何も言わず、短く「ハッ」と息を吐いただけだった。……僕には分かる。彼女は今、猛烈に腹を立てている!
「私は魔法カード《闇の誘惑》を発動。このカードで2枚ドローし、その後で手札から闇属性モンスター1体を除外する」
 鷹野さんは2枚のカードを引くと、手札から1枚を選んで除外した。手札入れ替えか。
「またカードがゲームから除外されたから、《魂吸収》で僕は500ライフ回復!」
 とりあえず、こっちはライフ回復だ。

 僕 LP:12000 → 12500

「私が除外した闇属性モンスターは《サイバー・ウロボロス》。このカードがゲームから除外されたとき、特殊能力が発動する。私は手札1枚を墓地へ送ることでカードを1枚ドローできるわ」
 《闇の誘惑》の効果処理を終えると、続けざまに《サイバー・ウロボロス》の効果処理を行う鷹野さん。彼女の手札から1枚が墓地へ落ち、新たにデッキから1枚が手札に加わった。
 入れ替わった手札から、鷹野さんはカードを選び取った。
「私は《火霊使いヒータ》を守備表示で召喚する」
 出てきたのは、赤い髪の魔法少女だった……ってヒータかよ!


 トラウマ
 (罠カード)
 自分は1850ポイントの精神的ダメージを受ける。


 《憑依装着−ヒータ》よりも若干幼い容姿の魔法少女が、鷹野さんの場で守備態勢を取る。くそっ! 憑依装着する前のヒータを呼び出してきたか! 目障りだな!
 まあいい。それよりも鷹野さん、守備表示でモンスターを出してきたか。無理もない。普通、攻撃力5000のモンスターを前にしたら、守備を固めるしかないしな。そうやってダメージを少しでも防ごうってわけだ。
 けどね、そんなことを僕が許すわけないだろ?
「僕はこの瞬間、永続トラップ《『守備』封じ》を発動! このカードが場にある限り、鷹野さんのモンスターは全て攻撃表示となる! 守備表示にはさせないぞ!」
「くっ……!」
 守備表示で出された《火霊使いヒータ》が強制的に攻撃表示となり、わずか500ポイントの低攻撃力を晒した。それを見て、鷹野さんが歯噛みする。
 《『守備』封じ》によって、今後鷹野さんがモンスターを守備表示にすることは禁じられた。我ながら完璧な布陣だな(原作効果の《『守備』封じ》は永続トラップなのか使い切りトラップなのか曖昧だが、今回は永続トラップとして扱うようだ)。
「さあ、鷹野さん。どうする? もう終わりにするかい?」
「私は……カードを1枚伏せて、ターンを終えるわ」


【僕】 LP:12500 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法、《『守備』封じ》永続罠
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:3100 手札:0枚
 モンスター:《火霊使いヒータ》攻500
  魔法・罠:伏せ×2


 このデュエル、もはや僕が制したも同然だろう。けど、相手は鷹野さんだ。気は抜かないようにしよう。
「僕のターン、ドロー!」
 おっと、ここでこんなカードを引き当てるとは! これ、勝利の女神が完全に僕に味方してるんじゃないか!?
「僕は魔法カード《(ジー)元融合》を発動するよ!」
「じー、元、融合……?」
 このターン引いた魔法カード《G元融合》を発動すると、鷹野さんが眉をひそめた。
「《G元融合》は、ゲームから除外された互いのゴキブリモンスターを、持ち主のフィールドに可能な限り呼び戻すことができるカード! 僕はこの効果で3体の《ゴキボール》をもう1度呼び戻す!」


 G元融合
 (魔法カード)
 お互いにゲームから除外されたゴキブリモンスターをそれぞれの場に可能な限り特殊召喚する。


「くっ! また3体の《ゴキボール》を呼び戻して、《フュージョン・ゲート》の効果を使って除外融合するつもり!?」
「ご名答! 僕の狙いは3体目の《マスター・オブ・ゴキボール》の召喚だ!」
 はっはっは! まさか、このタイミングで《ゴキボール》を帰還させるカードを引けるとはね! ついてるぞ!
「さて、《G元融合》の効果で、鷹野さんも除外された自分のゴキブリモンスターを呼び戻すことができるけど……除外されたゴキブリモンスターいる?」
「いるわけないじゃない、そんなの」
「だよね。というわけで、僕だけがゴキブリモンスターを特殊召喚させてもらうよ! 来い! 3体の《ゴキボール》!」
 《G元融合》の効果で3体の《ゴキボール》が帰還する。そして、それらはすぐさま除外状態へと戻る。
「《フュージョン・ゲート》の効果を使い、3体の《ゴキボール》を除外融合! 現れよ、《マスター・オブ・ゴキボール》!」
 3体の《ゴキボール》が融合し、またもや《マスター・オブ・ゴキボール》が召喚された! ワハハハハ! 見ろ! 僕の切り札《マスター・オブ・ゴキボール》が3体並んだぞ! この究極の布陣を前に恐れおののくがいい!
「ま、まさか……超巨大《ゴキボール》を3体も並べるなんて……」
「フフ……僕くらいの《ゴキボール》使いともなれば、このくらいのことは造作もないんだよ」
 顔を引きつらせる鷹野さんに向かって僕は余裕の表情で言い放った。
「さて、また3体の《ゴキボール》が除外されたから、《魂吸収》の効果で1500ライフ回復だ」
 切り札を出しつつライフ回復。我ながら思う。このコンボには隙がない! 完璧だ!

 僕 LP:12500 → 14000

「さあ、バトルと行こうか! 《マスター・オブ・ゴキボール》で《火霊使いヒータ》を攻撃だ!」
 僕は意気揚々とバトルフェイズに入った。攻撃宣言を受け、《マスター・オブ・ゴキボール》が轟音を立てて転がる。この攻撃で攻撃力500の《火霊使いヒータ》を倒せば、4500のダメージが発生し、鷹野さんのライフは0だ! 目障りなヒータもろともくたばるがいいっ!
「させない! トラップ発動! 《火霊術−「紅」》! 自分の場の炎属性モンスター1体を生贄に捧げ、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える! 私は炎属性の《火霊使いヒータ》を生贄に捧げるわ!」
 《マスター・オブ・ゴキボール》の攻撃が当たる直前、ヒータが姿を消す。攻撃対象が消えたことで、《マスター・オブ・ゴキボール》の攻撃は不発に終わる。
「くそっ! サクリファイス・エスケープでかわしたか! けど、《マスター・オブ・ゴキボール》がいる限り、僕が受けるダメージは0になる! 《火霊術−「紅」》のダメージ効果は無効だ!」
 1体目の《マスター・オブ・ゴキボール》の攻撃はかわされてしまった。けど、《マスター・オブ・ゴキボール》はあと2体いる! そして、鷹野さんの場に壁となるモンスターはいない!
「2体目の《マスター・オブ・ゴキボール》でダイレクトアタックだ! この攻撃で砕け散れ!」
 《マスター・オブ・ゴキボール》が鷹野さんに向かってゴロンゴロンと転がる。超巨大《ゴキボール》が自分に向かって転がってくる光景は、おそらくとても恐ろしいものだと思う。
「くっ! そんな攻撃受けないわ! 墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外して効果発動! モンスター1体の攻撃を無効にする!」
 鷹野さんの前に半透明の姿をした戦士が立ちはだかり、《マスター・オブ・ゴキボール》の攻撃から鷹野さんを守った。ま、またかわされた!
「《ネクロ・ガードナー》なんていつの間に墓地へ……?」
「さっきのターン、《サイバー・ウロボロス》の効果を発動するために手札から墓地へ送ったカード、それが《ネクロ・ガードナー》だったのよ」
 あのときか! まったく、運のいい人だな。
 けど、《ネクロ・ガードナー》が除外されたことで、《魂吸収》の効果が発動。僕はライフを500回復する。

 僕 LP:14000 → 14500

「まだだぞ鷹野さん! まだ攻撃可能な《マスター・オブ・ゴキボール》が残っている! 3体目の《マスター・オブ・ゴキボール》でダイレクトアタックだ!」
 3体目の《マスター・オブ・ゴキボール》が鷹野さんに向かって転がっていく。通れ! 今度こそ通れ!
「……こうなった以上、これしか手はないわね。永続トラップ発動! 《強化蘇生》!」
 鷹野さんの場に残された最後のリバースが開いた! 今度はなんだよ!
「《強化蘇生》は、自分の墓地からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できるカードよ」
「モンスター蘇生トラップ!? それでモンスターを壁にして凌ごうってわけか! けど鷹野さん! 僕の場には《『守備』封じ》のカードがある! モンスターを守備表示にすることはできないよ!」
「分かってるわよ。だから……私の墓地にいるレベル4以下のモンスターの中で、最も攻撃力の高いモンスターを呼び出すわ」
 そう言って、鷹野さんは自分の墓地からカードを1枚引き抜き、ディスクにセットした。
「お願い……ここは壁になって! 出でよ! 《憑依装着−ヒータ》!」
 …………。


 トラウマ
 (罠カード)
 自分は1850ポイントの精神的ダメージを受ける。


 またお前かよ!
 鷹野さんの場に復活した赤い髪の魔法少女を見て、僕はげんなりした。チキショオ! お前の顔なんてもう見たくねえよ!
 とにかく、《憑依装着−ヒータ》が壁となって鷹野さんには攻撃できなくなってしまった。ならばその小娘を叩き潰してやる!
「《マスター・オブ・ゴキボール》で《憑依装着−ヒータ》を攻撃!」
 《憑依装着−ヒータ》の攻撃力は1850。《マスター・オブ・ゴキボール》で叩き潰せば、発生するダメージは3150ポイントだ。鷹野さんの残りライフは3100だから、このダメージが通れば鷹野さんは敗北する。
 ふん! 《憑依装着−ヒータ》が出てきたところで、結局は鷹野さんの負けじゃないか! 無意味なあがきだな、まったく!
「《憑依装着−ヒータ》を壁にしても、鷹野さんのライフは0になるよ。なのに、なんで《憑依装着−ヒータ》を壁にするような真似したの?」
 鷹野さんは答えなかった。ただじっと戦闘の成り行きを見守っている。
「もしかして、《マスター・オブ・ゴキボール》の攻撃を直接受けたくないからモンスターを壁にしたの? それだったらまあ、分からないでもないけどね」
 それにしたって、ヒータを呼ぶことはないじゃないか。わざわざ僕のトラウマを抉るようなモンスターを呼ぶなんて……。
 まあいいや。ここでヒータもろとも鷹野さんを完膚なきまでに倒し、完全勝利を収めてしまおう。それでトラウマも克服だ!
「このデュエル、僕の勝ちだ!」
 堂々と勝利宣言する。しかし、鷹野さんの目がまだ勝負を捨てていないように見える。それが気になった。
 まさか、まだ何かあるのだろうか? もう伏せカードも手札もないのに、まだ何かする気つもりなのか?
 ――そのまさかだった。
「パラコン! まだ勝負は終わっていないわ! 今私が発動した《強化蘇生》には、隠された効果がある!」
「隠された効果だと!? それは一体!?」
「《強化蘇生》で復活したモンスターは、レベルが1上がり、攻撃力・守備力が100ポイント上昇する!」

 《憑依装着−ヒータ》(レベル4・攻:1850・守:1500) → (レベル5・攻:1950・守:1600)

 なん……だと!? 攻撃力を上昇させただってぇぇっ!?
「お願い! 迎え撃って! 《憑依装着−ヒータ》!」
 《憑依装着−ヒータ》は全身を真っ赤に燃やし、《マスター・オブ・ゴキボール》に体当たりした。しかし、力の差は歴然。ヒータは《マスター・オブ・ゴキボール》にぶっ飛ばされ、消滅した。
 そして、《マスター・オブ・ゴキボール》と《憑依装着−ヒータ》の攻撃力の差分が鷹野さんのダメージとなる。その数値は実に3050ポイント。それが一気に鷹野さんに襲い掛かる。

 鷹野さん LP:3100 → 50

 〜〜〜ッッ!?
 なんて……こった……! 《強化蘇生》の隠された効果でヒータの攻撃力が100上がったせいで、鷹野さんのライフが50ポイントだけ残ってしまった! うわああああっ! あとちょっとだったのにぃぃぃっ! チキショオ〜〜〜〜!
「ヒータ……あなたが壁になってくれたおかげで私は助かった。あなたの犠牲、無駄にはしない」
 鷹野さんは拳を握りしめ、キッと僕を睨みつけた。
「パラコン! ヒータの死を無駄にしないためにも、私は必ずあなたに勝つ!」
 くっ……ぬぅぅぅっ! あと50ポイント……50ポイント削れれば、僕が勝てていたのに! あんなところで《憑依装着−ヒータ》が出てこなければ! せめて、《憑依装着−ヒータ》の攻撃力があと50ポイント低ければ!
 おのれヒータめ! こんな形で僕の行く手を阻むとは、本当に恐るべきカードだ! とっとと禁止カードになれよ!
「パラコン。まだ何かすることあるの?」
「いや……僕はこれでターンエンドだ」
 もうすることはないので、鷹野さんにターンを回した。くそっ! このターンで勝ちたかったのにな!
 けどまあ、ここまで追い詰めたのだから、もうほとんど僕の勝ちは決まったようなものだろう。あわてることはない。次のターンにじっくり残りライフ50を削り取ってやろう。
 もう少し……もう少しだ! もう少しで目標を達成できる! あと50ポイント……それだけ削れば、鷹野さんに勝てる! 鷹野さんとの因縁に終止符を打つことができる!
 ゴールは目前だ!


【僕】 LP:14500 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法、《『守備』封じ》永続罠
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「私のターン――!」
 鷹野さんのターンが始まる。彼女にあきらめる様子は見られない。
「鷹野さん。まだ続ける気かい? サレンダーするなら認めてやってもいいけど?」
「私のライフはまだ残ってる。負けが決まったわけじゃないわ」
「たしかに勝負はついてないけど、でも、この状況から逆転するのはいくら鷹野さんでも難しいと思うよ」
 鷹野さんは眉をピクリと動かし、「そう思うのはどうして?」と訊ねてきた。
 僕は小さく笑って答えた。
「簡単なことさ。今、鷹野さんは、手札は0枚、場はがら空き、残りライフは50。絶望的なまでに追い詰められた状態だ。
 それに対し、僕は手札こそ0枚だが、場には攻撃力5000の《マスター・オブ・ゴキボール》が3体いて、残りライフは14500もある。かなり余裕のある状態だ。
 さらに、《マスター・オブ・ゴキボール》がいる限り、僕はダメージを一切受けない。よって、鷹野さんは《マスター・オブ・ゴキボール》を場から離さない限り、僕のライフにダメージを負わすことができない。
 ところが、《マスター・オブ・ゴキボール》を場から離せば、《マスター・オブ・ゴキボール》の効果で鷹野さんの場のカードが全部除外されてしまう。そして反対に、僕の場には《ゴキボールトークン》が生み出される。これでは鷹野さんが不利な状態に逆戻りだ。
 ならば、《マスター・オブ・ゴキボール》を倒すことをあきらめ、ひたすら壁モンスターで耐え凌ぎ、僕のデッキ切れを狙うのはどうか? それも難しいだろうね。僕の場には《『守備』封じ》のカードがあるから、鷹野さんはモンスターを守備表示にできない。モンスターを壁にしたければ攻撃表示にしなければならない。当然、それでは戦闘ダメージを回避することができない。戦闘ダメージを回避できない以上、モンスターを壁にして耐えるという戦い方は却下せざるを得ないだろう。
 ――とまあ、こんな風に、今の戦況は鷹野さんにとって不利な要素がいくつも存在しているということだよ。僕が君なら、こんな状況から逆転する手なんて思いつかないね」
 そこまで喋ると、僕は咳払いをして息を整えた。
 色々と鷹野さんが不利な要素を挙げたが、別に僕は、鷹野さんを追い詰めて浮かれているわけじゃない。むしろ、集中力はこれまで以上に高まっている。僕はただ、ありのままの事実を口にしただけだ。
 鷹野さんも異論はないのか、「たしかに、私は圧倒的不利ね」と言った。
「でも、私はあきらめないわ。まだ私は負けてないから」
「そうか」
 あきらめない、か。ま、そうだろうね。
 でも、だったら鷹野さんはどうやってこの状況をひっくり返すつもりだろう? そんな方法があるんだろうか? 少なくとも、僕が彼女だったら、もうどうにもならないとあきらめてしまうが……。
 そうだ。いくら鷹野さんでも、この状況をひっくり返すことなどできないはずだ! 《マスター・オブ・ゴキボール》が3体並んでるんだぞ! そんな状況をひっくり返すなんて不可能だ!
「パラコン。あなたもしかして、『この状況をひっくり返せるはずがない』とか思ってる?」
 鷹野さんが僕を指差す。思っていることをぴたりと当てられて、僕は面喰った。
「……思っていたとしたら、なんだい?」
「それは大きな間違いだわ」
 鷹野さんはぴしゃりと言い放った。一瞬聞き間違いをしたのかと思った。
 僕が間違ってるだと? じゃあ何か? この状況をひっくり返すことは可能だと言いたいのか、彼女は?
「どういうことなの? 鷹野さん」
「どうもこうもないわ。あなたの布陣は決して強固な布陣ではないということよ。崩そうと思えば簡単に崩せるわ」
 あまりにもはっきりした物言いだった。追い詰められて適当なことを口にしているとは思えない。
 何故だか非常に嫌な予感がしてきた。それを振り払うように僕は叫んだ。
「お……面白いこと言ってくれるじゃないか! そんなに言うなら聞かせてもらおうか! どうすれば、僕のこの布陣を崩せるって言うんだい!?」
 鷹野さんはニヤリとして答えてみせた。

「例えば、《破邪の大剣−バオウ》を装備した《阿修羅》に《オネスト》を使用して攻撃する。
 例えば、《ブラック・ホール》を使った後で《阿修羅》を召喚して攻撃する。
 例えば、《E・HERO(エレメンタルヒーロー) アブソルートZero(ゼロ)》の効果と《ブラック・ホール》の効果を両方使う。
 例えば、《ブラック・ホール》を使った後、《大逆転クイズ》と《黒い(ブラック)ペンダント》のコンボを使う。
 例えば、《ブラック・ホール》を使った後、《ライフチェンジャー》と《残骸爆破》を使う。
 ……ぱっと思いつくだけでこのくらい挙げられるわね。他にもたくさんあるんじゃないかしら? この状況をひっくり返す方法は」

「ぐべふぁぁぁっ!?」
 僕は、剣か何かで胸を何度もグサグサと刺されたような気分になり、思わずその場に膝をついてしまった。
 詳しい説明は割愛するが、鷹野さんが挙げた5つの方法は、どれもこれもこの状況をひっくり返すことのできるものだった。ちなみに、内3つは僕の場のモンスターを全滅させる方法、残り2つは僕に勝利する方法だ。
 なんてこった! 絶対この状況はひっくり返せまいと思ってたら、全然そんなことなかったよ! 割とどうにでもなるじゃんか! どういうことなのこれ!?
 いや、けど待て! 落ち着くんだ!
「待ってくれ鷹野さん! 君が今言った逆転方法を、次のターンに都合よく実行できるとは限らないじゃないか! そもそも、鷹野さんが今使ってるデッキに、例の逆転方法を実行するために必要なカードは入ってるのかい? もし入ってないのなら、君の言った逆転方法は机上の空論でしかなくなるぞ!」
 そうだ。いくら鷹野さんでも、デッキに入っていないカードを引くことはできない。逆転方法を思いついたところで、それを実行するためのパーツがデッキにないのなら、なんの意味も成さないのだ。
 僕の指摘を受けると、鷹野さんは肩をすくめてみせた。
「たしかに机上の空論ね。5つの逆転法を挙げてみたけど、どれもこれも今の私のデッキでは実現できないものよ」
 ホッ……。なんだよビックリさせるなよ。単に思いついた逆転法を言ってみただけじゃんか。
 安堵した僕は、幾分心に余裕が戻ってきた。
「机上の空論か。じゃあ、鷹野さんがこの状況をひっくり返すことなんて、やっぱり無理なんじゃないか。もうあきらめてサレンダーしたらどうだい?」
 降伏を促してみる。ぶっちゃけ、さっさと負けを認めてくれたほうがこっちとしてもありがたい。鷹野さんが負けを認めれば、僕の目標が達成されるんだから。
 しかし、鷹野さんは首を横に振った。
「パラコン。それはできないわ。負けが決まっていない以上、サレンダーはできない」
 鷹野さんはデッキのカードに指を当てる。僕はため息をついた。
「さっき君が言った逆転法は、そのデッキじゃ実現できないんでしょ? なら、もう負けは確定じゃないか。それとも、そのデッキで実現可能な逆転法でもあるって言うの?」
「……ないことは、ないわね」
「ああそう。……? ……えっ!?」
 僕は鷹野さんの目を見た。
 この女、今なんと言った?
「た……鷹野さん……。今、なんて……?」
「私のデッキで実現可能な逆転法は、ないわけではないわ」
 はぁぁっ!?
 嘘……だろ? 実現可能な逆転法があるだと!? そんなバカな!
「鷹野さん……それ、マジで言ってるの?」
「マジで言ってるわ」
 鷹野さんの目は、彼女が本気であることを物語っていた。……んなバカな。
「ホントにこの状況を……ひっくり返せるの? 今の鷹野さんのデッキで?」
「そうよ」
「僕の場の《マスター・オブ・ゴキボール》を……全滅させられるって言うの? ……それとも、《マスター・オブ・ゴキボール》は無視して僕のライフを0にする気?」
 僕の問いに対する鷹野さんの答えは、信じがたいものだった。

「あなたの場のモンスターを全滅させつつ、あなたのライフを0にできるわ」

 ……う……嘘だ……。
 そんな……嘘だ! そんなことができるはずがない!
「え……エクゾディアパーツでも揃える気なのか!?」
 封印されたエクゾディアのパーツカード5枚を手札に揃えれば、無限大の力を持つエクゾディアで僕のモンスターを全滅させ、無条件でデュエルに勝利できる。鷹野さんの狙いはそれだろうか?
 しかし、鷹野さんは否定する。
「違うわ。そもそも、エクゾディアパーツなんて激レアカード、私は持ってない」
「じ……じゃあ……」
「私の言う勝利法というのは、エクゾディア等の特殊な勝利じゃない。きっちりあなたにダメージを与えてライフを0にするわ」
「……あ……あり得ない。そんなことができてたまるか……」
「できるのよ、それが。ただ……実現できる確率はあまりにも低いけどね」
 鷹野さんは自分のデッキに目を落とした。
「この引きに全てがかかってるわ。キーカードを引けなければ私は負ける。でも、キーカードを全て揃えることができたら――」
 鷹野さんの澄んだ瞳が僕を捉える。
「――このデュエル、私の勝利よ」
 そして、鷹野さんはカードを引いた。
 気のせいか、カードを引いた鷹野さんの手が光り輝いたように見えた。


 ガッチャ・フォース
 (罠カード)
 自分のライフが100ポイント以下の時に発動可能。
 ほぼ確実に、自分はそのデュエルに勝利する。
 ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!


 逆・転・劇
 (罠カード)
 主人公が反則レベルに強くて、主人公ヒロインが追い詰められた時に発動!
 主人公ヒロインは意外な方法で逆転する。





13章 ZTT(ずっと たかのっティーの ターン)(前編)


【僕】 LP:14500 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法、《『守備』封じ》永続罠
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:50 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


 追い詰められた鷹野さんのターンが始まった。
 彼女は言った。僕の場のモンスターを全滅させつつ、僕のライフを0にできると。本気でそんなことをするつもりなのか?
 本気でそんなことをする気なら、なんとしても妨害してやりたい。けど、今の僕に相手の動きを妨害できる手段はない。となると、だまって鷹野さんの動きを見ているしかない。
「いい引きだわ。私は《E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン》を特殊召喚! バブルマンは手札がこのカード1枚のとき、特殊召喚できるわ!」
 鷹野さんの場に、ドロー効果を持つE・HEROが現れた。……嫌な予感がしてきた。
「そして、バブルマンのモンスター効果! このカードが特殊召喚に成功したとき、自分の場と手札に他のカードがないとき、デッキから2枚ドローできる! 2枚ドロー!」
 バブルマンのドロー効果を使い、鷹野さんが2枚のカードをドローする。遊城十代みたいな真似しやがって!
 ……というか、気のせいかな? 2枚ドローしたとき、鷹野さんの手が光り輝いたように見えたんだけど。見間違い、か?
 まあいいや。デュエルに集中しよう。
「来たわ! 私はフィールド魔法《うずまき》を発動!」
 2枚に増えた手札から、鷹野さんは必殺のフィールド魔法を発動した! ここに来て《うずまき》かよっ!?
 やばい……本格的に嫌な予感がしてきた。なんだか胃が痛くなってきたぞ……。


 うずまき
 (フィールド魔法カード)
 フィールドは「うずまき」となり、全ての常識は覆る。


 《フュージョン・ゲート》と化していたフィールドに《うずまき》が重なり合い、フィールドはなんとも言語化しづらい異様なものとなった。
「フィールドが《うずまき》になったことで、全ての常識が覆る! デュエルのルールはOCGルール、すなわちマスタールール3へと変わり、互いのライフが4000上昇するわ!」

 僕 LP:14500 → 18500
 鷹野さん LP:50 → 4050

 くそっ! せっかく50まで減らしたライフが4050に回復してしまった! でも、僕のほうだってライフが18500まで上昇したぞ!
「OCGルールが適用されたことで、カードテキストもOCG仕様となる。パラコン、あなたの場の《『守備』封じ》はOCGだと通常魔法だから墓地へ送られるわ」
 鷹野さんが言うのと同時に、僕の場に留まっていた《『守備』封じ》のカードが消滅した。
「そして、OCGでは原作と違い、融合モンスターはきちんとカードとして存在している。あなたの《マスター・オブ・ゴキボール》も例外じゃないわ」
 デュエル・ディスクに目を向けてみると、なるほど、たしかに3体の《マスター・オブ・ゴキボール》が、紫色の枠を持つモンスターカードとしてディスクに置かれている。カードテキストも微妙に変化し、OCGに合わせたものになっている。


 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター
 星12/地属性/昆虫族/攻5000/守5000
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。
 (1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が受けるダメージは0になる。
 (2):このカードがフィールドから離れた場合に発動する。相手フィールドのカードを全てゲームから除外し、「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を可能な限り自分フィールドに特殊召喚する。「ゴキボールトークン」はカード名を「ゴキボール」として扱う。


 カードテキストを見る限り、OCGルールが適用されても、《マスター・オブ・ゴキボール》の効果に変化はないようだ。その点は安心した。
「さて、次はこれを使うわ。魔法カード《終わりの始まり》! このカードは、自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上いるとき、自分の墓地の闇属性モンスター5体を除外することで、カードを3枚ドローできる!」
 続けて鷹野さんが発動したのは、3枚ドローを可能とするカードだった。さ……3枚ドローって……。
「私の墓地は闇属性モンスターがちょうど7体いる。その中から5体――《幻魔皇ラビエル》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》、《Sin(シン) レインボー・ドラゴン》、《Sin トゥルース・ドラゴン》、《ダークネス・ネオスフィア》――を除外してカードを3枚引かせてもらうわよ!」
 鷹野さんの墓地から5体の闇属性モンスターが弾き出され、《終わりの始まり》の発動コストが支払われる……ってちょっと待て!
「鷹野さん! 《幻魔皇ラビエル》に《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》に……それから《Sin レインボー・ドラゴン》に《Sin トゥルース・ドラゴン》に《ダークネス・ネオスフィア》って……一体いつの間にそんなモンスターが墓地へ送られたの!? このデュエル中にそんなモンスター出てきてないよね!?」
 僕が疑問を呈すると、鷹野さんは「《手札抹殺》よ」と答えた。
「私が《手札抹殺》を使ったことは覚えてる?」
「え? あー、そういえば使ってたね。……あのときか!?」
「そうよ。《手札抹殺》の効果で私が捨てた手札6枚のうちの5枚……それが今除外された5体のモンスターだったわけ」
 《手札抹殺》を使ったあのとき、鷹野さんの手札には、《幻魔皇ラビエル》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》、《Sin レインボー・ドラゴン》、《Sin トゥルース・ドラゴン》、《ダークネス・ネオスフィア》があったわけか。
「ちなみに、残り2体の闇属性モンスターは、《処刑人−マキュラ》と《カオス・ソーサラー》よ」
「ああ、そっちならデュエル中に見た」
 鷹野さんの墓地には、ちゃんと7体の闇属性モンスターが揃ってたわけだ。
「じゃあ、3枚のカードを引かせてもらうわよ! 3枚ドロー!」
 鷹野さんは一気に3枚ものカードをドローした。……あ、また鷹野さんの手が光った! 見間違いじゃない! たしかに手が光った! 一体なんなんだ!?
 ともかく、鷹野さんの手札が3枚まで増えてしまった。けど、《終わりの始まり》を発動するために、鷹野さんは5枚ものカードを除外した。よって、こいつが発動する。
「《魂吸収》の効果発動! カードが除外されたとき、その枚数×500ポイントライフを回復する! 鷹野さんが5枚のカードを除外したから2500回復だ!」

 僕 LP:18500 → 21000

 ついに僕のライフが2万を超えた! 鷹野さんは本気で、ここまで膨らんだ僕のライフを削りきるつもりなんだろうか? 僕の場にはダメージを打ち消す《マスター・オブ・ゴキボール》がいるというのに。
 とりあえず、鷹野さんの様子を見てみよう。
「来たわね。私は《グラナドラ》を通常召喚! このカードが召喚に成功したとき、私はライフを1000回復する!」

 鷹野さん LP:4050→5050

 《グラナドラ》を召喚したことで、鷹野さんのライフがまた増えた。とうとう5000越えしたか。
「そして、速攻魔法《バブルイリュージョン》を発動するわ! このカードは、自分の場に《E・HERO バブルマン》がいるときに発動可能! このターン、私は1度だけ、手札からトラップカードを使うことができる!」
 次に鷹野さんが使ったのは、1度限り手札からのトラップ発動を可能にする、バブルマン専用魔法。ここでそれを使うということは――。
「鷹野さんの手札は残り1枚。その1枚がトラップカードというわけ?」
「いえ、これはトラップじゃないわ。永続魔法よ」
 そう言って、鷹野さんは残り1枚の手札を場に出した。
「永続魔法《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》を発動!」
 それにより、鷹野さんの手札は尽きた。……あれ? 手札が尽きちゃったぞ?
 僕は鷹野さんのフィールドを確認した。彼女の場にいるモンスターは、攻撃力800の《E・HERO バブルマン》と、攻撃力1900の《グラナドラ》だけ。言うまでもなく、そいつらでは僕の《マスター・オブ・ゴキボール》を倒すことなどできない。


【僕】 LP:21000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:5050 手札:0枚
 モンスター:《E・HERO バブルマン》攻800、《グラナドラ》攻1900
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法
 ※《バブルイリュージョン》適用中


 一体、鷹野さんの狙いはなんなんだ? もしかして……もうおしまい? もう何もできない?
「鷹野さん。次はどうするの? なんかもう何もできないように見えるんだけど」
 エンド宣言しろ! と心の中で唱えながら訊ねる。
 すると、鷹野さんは首をかしげて見せた。
「何もできない? 本気で言ってるの? そんなわけないじゃない。お楽しみはこれからよ!」
 そう言って、鷹野さんはフィールドに手をかざし、叫んだ。

「私はレベル4の《グラナドラ》と《E・HERO バブルマン》でオーバーレイ!」

 …………。
 …………。
 …………は?
 え? オーバーレイ? 何それ? ぼくそんなわーどしらないよ。
 聞き覚えのない単語に困惑する僕。それを余所に、鷹野さんのモンスター2体は光へと姿を変え、フィールドに出現した穴に飲み込まれていく。
 そして、全く新しいモノへと姿を変える。

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れよ! 《No.(ナンバーズ)39 希望皇ホープ》!」

 鷹野さんの場に、白いボディの戦士が出現し、大声で「ホォォォォプ!」と叫んだ。なんだこいつは!?
 ……あ、思い出したぞ! こいつ、『遊戯王ZEXAL』で主人公が使ってたエクシーズモンスターじゃないか! なんで鷹野さんが使ってんだよ!
「どういうことだ鷹野さん! なんで原作準拠のこの世界でエクシーズモンスターなんて使ってるんだ!」
 僕が叫ぶと、鷹野さんは「何言ってるのよ」と言いたげな目つきで見てきた。
「《うずまき》の効果でデュエルのルールはOCGルールに変更された。そして、OCGルールでは、シンクロモンスターやエクシーズモンスターを自由に使うことができる。すなわち、《うずまき》の効果でOCGルールが適用されれば、シンクロモンスターとエクシーズモンスターを自由に使用可能になるのよ!」
 え……えぇぇっ!? そうなの!? 初めて知ったぞそんなこと! 《うずまき》ってそんなこともできたのかよ!?
「じゃあ、僕がシンクロモンスターやエクシーズモンスターを使うこともできるわけか」
「そうなるわね。ただ、シンクロモンスターカードやエクシーズモンスターカードがエクストラデッキに入ってないとダメだけど」
 エクストラデッキ……というのは、融合モンスターカード・シンクロモンスターカード・エクシーズモンスターカードを入れておくデッキのことだっけな。
「えーと、僕のエクストラデッキは……何もないな」
 デュエル・ディスクのエクストラデッキゾーン(《うずまき》の効果適用と同時に、どこからか湧いて出てきた)を確認してみたが、カードは1枚もなかった。どうやら、僕のエクストラデッキの中身は、3枚の《マスター・オブ・ゴキボール》だけのようだ。
 一方、鷹野さんのエクストラデッキには、エクシーズモンスターである《No.39 希望皇ホープ》が入っていたらしい。どこで手に入れたんだそんなもの。
 ていうかナンバーズって、アニメじゃ重要な立ち位置のカードだったはずだけど、どうして鷹野さんはそんなカードを持ってるんだ……というツッコミは今さら野暮というものか。もう既に、三幻魔とか《Sin》モンスターとか使っちゃってるしな。
 ともあれ、《No.39 希望皇ホープ》を出されてしまった。ホープといえば、攻撃力2500で、エクシーズ素材を1つ使えばモンスターの攻撃を無効化できるモンスターだったはずだ。そいつで僕の《マスター・オブ・ゴキボール》を倒そうというのか? そんなことができるのか?
「《No.39 希望皇ホープ》がエクシーズ召喚されたことで、さっき発動した永続魔法《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果が発動するわ! このカードは、自分の場に《希望皇ホープ》と名のついたモンスターがエクシーズ召喚されたとき、ライフを500払うことで、カードを1枚ドローできる! この効果を使い、私は1枚ドローする!」

 鷹野さん LP:5050 → 4550

 《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》は、《希望皇ホープ》が出るたびにドローできる魔法だったか。これで鷹野さんは新たにカードを引くことになる。彼女はこれを狙ってたのか。
「カードドロー!」
 鷹野さんが勢いよくカードを引く。……またその手が光り輝いた。どうやら見間違いじゃなさそうだ。どうなってるんだ一体。
「さて、私の場に《No.39 希望皇ホープ》がいることで、私は墓地にいるこのモンスターの効果を使えるわ。」
 鷹野さんのその言葉に導かれるように、彼女の墓地からトランクケースを持ったモンスターが出現した。そのモンスターは光の球体へと姿を変えると、《No.39 希望皇ホープ》の周囲を回り始めた。なんだ今のは?
「《エクシーズ・エージェント》の効果! このモンスターはデュエル中に1度だけ、《希望皇ホープ》の下に重ねてエクシーズ素材とすることができる!」
 そう言って、鷹野さんは《エクシーズ・エージェント》のカードをホープの下に重ねた。
「《エクシーズ・エージェント》なんてモンスター、一体いつの間に墓地へ?」
「《手札抹殺》を使ったときよ。捨てた6枚の手札の中に《エクシーズ・エージェント》のカードがあったの」
 そいつも《手札抹殺》で捨てられてたのか。謎は解けた。
 とりあえず、これでホープのエクシーズ素材が1つ増えたな。
「まだよパラコン! 私は《No.39 希望皇ホープ》をカオスエクシーズチェンジ! 《CNo.(カオスナンバーズ)39 希望皇ホープレイ》へと進化させるわ!」
 鷹野さんは、《No.39 希望皇ホープ》のカードの上に《CNo.39 希望皇ホープレイ》のカードを重ねた。それにより、場にいた白いボディの戦士が黒いボディの戦士へと変化する。カオスナンバーズまで所持してるのかよ……。
「《CNo.39 希望皇ホープレイ》は、《No.39 希望皇ホープ》の上に重ねることでエクシーズ召喚できるわ。そして、また私の場に《希望皇ホープ》と名のついたモンスターがエクシーズ召喚されたから、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果発動! 500ライフ払ってカードを1枚ドローする!」

 鷹野さん LP:4550 → 4050

「カードドロー!」
 また鷹野さんがカードを引いた。当然のごとく、彼女の手は輝いていた。だからなんなの? その輝き。
 ともあれ、これで鷹野さんの手札は2枚か。
「来たわね! 魔法カード《RUM(ランクアップマジック)−バリアンズ・フォース》を発動! このカードは、自分の場のエクシーズモンスター1体を、同じ種族で1つランクの高いカオスナンバーズへと進化させる! 私はランク4の《CNo.39 希望皇ホープレイ》をランクアップさせるわ!」
 引き当てたカードをすぐさま発動する鷹野さん。今度はランクアップマジックかよ! しかもバリアンズ・フォースって! そんなカードどこで手に入れたんだよ! バリアン世界に友達でもいるのかあんたは!
「《CNo.39 希望皇ホープレイ》でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! カオスエクシーズチェンジ! 現れよ! 《CNo.39 希望皇ホープレイV》!」
 鷹野さんは、ホープレイのカードの上に、また別のカードを重ねた。ホープレイがバリアンの力で、シャープなデザインの黒い戦士、ホープレイVへとランクアップする。今度はホープレイVか!
 ホープレイVといえば、エクシーズ素材を1つ使えば、相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える能力があるんだっけな。まさか、それを使って《マスター・オブ・ゴキボール》を破壊する気が? そんなことをすれば、《マスター・オブ・ゴキボール》の効果で鷹野さんの場のカードが全滅するだけだぞ?
「ランクアップマジックによる特殊召喚はエクシーズ召喚扱いとなるわ。つまり、また私の場に《希望皇ホープ》と名のついたモンスターがエクシーズ召喚されたことになり、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果発動! 500ライフ払ってカードを1枚ドローする!」

 鷹野さん LP:4050 → 3550

「カードドロー!」
 またもや鷹野さんが、光り輝く手でカードを引いた。一体何枚カードを引けば気が済むんだ。
 とりあえず、現在の状況をまとめておこう。こんな感じだ。


【僕】 LP:21000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:3550 手札:2枚
 モンスター:《CNo.39 希望皇ホープレイV》攻2600・X素材×5
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法
 ※《バブルイリュージョン》適用中
 ※X素材=エクシーズ素材


 ホープレイVを出されたものの、今のところ、僕の有利に変わりはないように思える。
「《CNo.39 希望皇ホープレイV》……そいつの破壊効果を使う気かい?」
「いいえ。ホープレイVの効果は使わないわ。代わりにこのカードを使う」
 鷹野さんは1枚の魔法カードを発動した。
「《RDM(ランクダウンマジック)−ヌメロン・フォール》を発動!」
 ……っ!? 今度はランクダウンマジックかよ!? ランクアップの次はランクダウンか!
「《RDM−ヌメロン・フォール》は、自分の場の《希望皇ホープ》と名のついたモンスター1体を、そのモンスターよりもランクの低い《希望皇ホープ》と名のついたモンスターへとランクダウンさせる! 私はランク5の《CNo.39 希望皇ホープレイV》を、ランク4の《No.39 希望皇ホープ》へとランクダウンさせるわ! 元の姿へと戻りなさい! ホープレイV!」
 鷹野さんは2枚目の《No.39 希望皇ホープ》のカードをエクストラデッキから取り出し、ホープレイVのカードの上に重ねた。それにより、黒い戦士ホープレイVが、元の白い戦士ホープへと戻る。ホープを2枚持ってる点はツッコんじゃいけないところですかね?
 というか、何をしてるんだ鷹野さんは。せっかくランクアップさせたホープを、また元の姿に戻しちゃうなんて。何が狙いなんだ?
「ランクダウンマジックによる特殊召喚もエクシーズ召喚扱い! よって《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》が発動! 私は500ライフを払い、カードを1枚ドローするわ! カードドロー!」

 鷹野さん LP:3550 → 3050

 光り輝く手でカードを引くと、鷹野さんはすぐさま次の行動に移る。
「私は再び《No.39 希望皇ホープ》をカオスエクシーズチェンジ! 現れよ! 《CNo.39 希望皇ホープレイ》!」
 2枚目のホープレイのカードをエクストラデッキから取り、それを先ほど呼び出したホープの上に重ねる鷹野さん。元に戻したホープをまたホープレイにした……って、ホントに何を狙ってるんだ? わけが分からない。
「ホープレイがエクシーズ召喚されたことで、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》が発動! 500ライフを払い、カードを1枚ドローする! カードドロー!」

 鷹野さん LP:3050 → 2550

 光り輝く手でカードを引き、鷹野さんの手札が3枚になる。その様子を見て、僕はハッと気がついた。
 まさか、鷹野さんの狙いは!
「鷹野さん! 君の狙いは、ホープのランクアップとランクダウンを行うことで、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》によるドロー効果を何度も発動すること! そして、それにより、手札に必要なカードを呼び寄せること! 違うかい!?」
 僕が指摘すると、鷹野さんはツンと顎を上げてみせた。
「まあ、間違いではないわね。ただ、その答えでは不充分だわ」
「不充分ってどういうこと? 他にも狙いがあるって言うのかい?」
「いいからだまって見てなさいよ。私は2枚目の《RUM−バリアンズ・フォース》を発動! ランク4のホープレイをランク5のカオスナンバーズにランクアップさせるわ!」
 鷹野さんは僕の問いには答えずに、またもランクアップマジックを発動した。バリアンズ・フォースも複数枚所持してるのかよ。
「ランク4の《CNo.39 希望皇ホープレイ》でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! カオスエクシーズチェンジ! 現れよ! 《CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー》!」
 2枚目のバリアンズ・フォースで出現したのは、ホープレイVよりは元のホープのデザインに近い白い戦士、《CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー》だった。ホープレイ・ヴィクトリーも持ってるのかよ。
 鷹野さんはホープレイ・ヴィクトリーのカードをホープレイの上に重ねた。これでまたランクアップしたということか。あっ、そういや、ホープレイ・ヴィクトリーも《希望皇ホープ》と名のつくモンスターだな。ということは……。
「《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果発動! 500ライフを払い、カードを1枚ドローするわ! シャイニング・ドロー!」

 鷹野さん LP:2550 → 2050

 ホープレイ・ヴィクトリーがランクアップマジックでエクシーズ召喚されたことで、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》が発動。鷹野さんは金色に輝くその手でカードをドローしやがった。またドローかよ!
 つーか、鷹野さん今、「シャイニング・ドロー」って言わなかったか? 聞き間違いかな?
 まあいいや。ここで一旦、状況をまとめておこう。


【僕】 LP:21000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000、《マスター・オブ・ゴキボール》攻5000
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:2050 手札:3枚
 モンスター:《CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー》攻2800・X素材×8
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法
 ※《バブルイリュージョン》適用中


 鷹野さんの狙いの1つは、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果を使ってカードを引きまくることだ。その点は鷹野さん自身否定していないから、間違いないだろう。今のところこの狙いは上手く果たせており、鷹野さんはドローを連発している。
 けど、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果を使うには、《希望皇ホープ》と名のついたモンスターをエクシーズ召喚しなければならない。言い換えれば、《希望皇ホープ》をエクシーズ召喚する手段がなければ、鷹野さんはもうドローできないということになる。
 鷹野さんの手札は現在3枚。あの中に《希望皇ホープ》をエクシーズ召喚する手段は――。
「まだ終わらないみたいね。2枚目の《RDM−ヌメロン・フォール》を発動! このカードでランク5の《CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー》をランク4の《No.39 希望皇ホープ》にランクダウンさせるわ!」
 ――手段は見事にあった。くそっ! こうも都合よくランクアップとランクダウンを繰り返すとは!
「戻りなさい! 《No.39 希望皇ホープ》!」
 鷹野さんはホープレイ・ヴィクトリーの上にホープを重ねた。3枚目のホープか。あー、ランクダウンマジックでホープがエクシーズ召喚されたことで、また《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果でドローされてしまう。
「ホープがエクシーズ召喚されたことで、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果発動! 500ライフを払い、カードを1枚ドローする! シャイニング・ドロー!」

 鷹野さん LP:2050 → 1550

 金色に輝く手でカードを引く鷹野さん。気のせいか、輝きがどんどん増していってる気がする。というか、絶対今、「シャイニング・ドロー」って言ったよな? 間違いなく言ったよな?
 シャイニング・ドローってたしかアレだよね? アニメ『遊戯王ZEXAL』で主人公が使っていた、「ドローカードをその場で創造する」という超チート……もとい必殺の奥義だよね? ……もしや鷹野さん、このターンに引き当てたカードは全部、たった今創造したカードなのか?
 ……いや、まさかな? そんなこと、いくら鷹野さんでもできっこない……はずだ。うん、できっこない。できっこないよ。
「私は《No.39 希望皇ホープ》をカオスエクシーズチェンジして、《CNo.39 希望皇ホープレイ》に進化させる! そして500ライフ払い、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果でカードを1枚シャイニング・ドロー!」

 鷹野さん LP:1550 → 1050

 鷹野さんはホープの上に3枚目のホープレイを重ねて進化させると、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果で1枚ドローした。当然、手がまばゆく輝いていた。
「さらに、魔法カード《RUM−アストラル・フォース》を発動! このカードは、自分の場で最もランクの高いエクシーズモンスター1体を、そのモンスターと同じ種族・属性で、ランクの2つ高いエクシーズモンスターへとランクアップさせる!」
 次に鷹野さんが繰り出したのは、新たなランクアップマジックだった。今度はアストラル・フォースかよ! 何? アストラル世界にも友達がいるのか、あんたは?
「私の場にいるエクシーズモンスターは、ランク4のホープレイのみ! そして、ホープレイは戦士族・光属性のモンスター! よって、《RUM−アストラル・フォース》の効果で呼び出されるのは、ランク6の戦士族・光属性のエクシーズモンスターということになるわ!」
 鷹野さんはエクストラデッキからカードを1枚取り出し、ホープレイの上に重ねた。
「私は、ランク4の《CNo.39 希望皇ホープレイ》でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! ランクアップエクシーズチェンジ! 現れよ! 《No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》!」
 アストラル・フォースの効果でホープレイのランクが2つ上がり、新たなホープ、《No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》へと姿を変えた。これまで出てきたホープよりもかなり豪華なデザインの戦士だ。
「アストラル・フォースによる特殊召喚もまたエクシーズ召喚扱い! そして、《No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》はルール上、《希望皇ホープ》と名のついたモンスターとして扱われるわ! よって、500ライフ払い、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果発動! カードを1枚シャイニング・ドロー!」

 鷹野さん LP:1050 → 550

 どういうわけだか、《No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》は、《希望皇ホープ》として扱われる効果を持っていたらしく、またもや《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果が発動。鷹野さんがシャイニング・ドローしてしまった。なんだその都合のいい効果は!
「さらに、ビヨンド・ザ・ホープの効果発動! このカードがエクシーズ召喚に成功したとき、相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力は永続的に0になる!」
「はぁぁっ!?」

 《マスター・オブ・ゴキボール》 攻:5000 → 0
 《マスター・オブ・ゴキボール》 攻:5000 → 0
 《マスター・オブ・ゴキボール》 攻:5000 → 0

 ま……《マスター・オブ・ゴキボール》の攻撃力が0になっちまった!
 なんてこった! 《マスター・オブ・ゴキボール》の強みの1つである高攻撃力が失われてしまった! これはひどい! 《ワイト》に殴り殺される数値じゃないか!
 お……落ち着け僕。たしかに攻撃力は失ったけど、モンスター効果までは失われてないんだ。大丈夫。大丈夫だ。次のターンになったら、3体の《マスター・オブ・ゴキボール》は守備表示に変更しよう。
 それよりも、ここに来て、僕は不審に思い始めている。
 どうにもおかしい。さっきから鷹野さん、ホープのランクアップ・ダウンをあまりにも都合よく繰り返せていないか? こうも簡単にランクアップ・ダウンを繰り返せるものなのか?
 鷹野さんがここまでホープのランクアップ・ダウンを繰り返せるのは、彼女が《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果で《RUM−バリアンズ・フォース》、《RUM−アストラル・フォース》、《RDM−ヌメロン・フォール》を上手く引き当てることができているためだ。ではどうして、そいつらを上手く引き当てることができるのか?
 そう考えたとき、僕の脳裏に恐ろしい考えが過った。その考えとは、「鷹野さんはドローカードをその場で創造しているのではないか」というものだ。
 もし、ドローカードをその場で創造しているのだとすれば――つまり、アニメ『遊戯王ZEXAL』で使われていた究極チート……じゃなくて究極奥義「シャイニング・ドロー」を鷹野さんが使用しているのだとすれば、彼女がランクアップ・ダウンに必要なカードを連続で引き当てていることに説明がつく。でも、そんなことが本当にあるのだろうか?
 ちょっと鷹野さんに訊いてみるか。
「ねえ鷹野さん。もしかして君、このターンに入ってから、ドローカードをその場で創造してたりしない?」
「はぁ? ドローカードを創造? パラコンあなた何バカなこと言ってるの? 意味が分からないんだけど。頭おかしいんじゃないの?」
 鷹野さんは思い切り眉をひそめると、不審人物を見るような目でこちらを見てきた。
 肯定も否定もせず、意味が分からないと返してきたか。ふーむ。まあ、たしかに今の僕の質問って、聞く人によっては理解不能な質問だよな。
 ひとまず、この問題は一旦脇に置いといて、状況確認だ。


【僕】 LP:21000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻0、《マスター・オブ・ゴキボール》攻0、《マスター・オブ・ゴキボール》攻0
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:550 手札:4枚
 モンスター:《No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》攻3000・X素材×11
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法
 ※《バブルイリュージョン》適用中


 《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果を連発したことで、鷹野さんはライフが550まで減った一方、手札が4枚まで増えている。また、ランクアップ・ダウンを繰り返した影響で、ビヨンド・ザ・ホープのエクシーズ素材は11個となっている。
 まさか、またビヨンド・ザ・ホープを、元のホープ――《No.39 希望皇ホープ》にランクダウンさせる気か? けど、《No.39 希望皇ホープ》は既に3枚使い切っちゃったはずだからそれはないか。となると《CNo.39 希望皇ホープレイ》……いや、そいつも3枚使い切ったな。じゃあ、もうこれで終わり?
「私は3枚目の《RDM−ヌメロン・フォール》を発動! 自分の場の《希望皇ホープ》を、そのモンスターよりもランクの低い《希望皇ホープ》へとランクダウンさせる! 私は、《希望皇ホープ》扱いとなっているランク6のビヨンド・ザ・ホープを、ランク4の《SNo.(シャイニングナンバーズ)39 希望皇ホープONE(ワン)》にランクダウン!」
 終わりじゃなかった! 《No.39 希望皇ホープ》を使い切った鷹野さんは、別のランク4のホープ――《SNo.39 希望皇ホープONE》のカードをビヨンド・ザ・ホープの上に重ねてランクダウンさせた! ホープって何種類いるんだよ!
 ビヨンド・ザ・ホープがランクダウンし、その名の通り全身が光り輝くホープ、《SNo.39 希望皇ホープONE》へと姿を変えた。ホープONEといえば、敵の場にいる特殊召喚されたモンスターを全て破壊して除外した上、その数×300ポイントダメージを相手に与える効果があったはずだ。それを使って《マスター・オブ・ゴキボール》を全滅させる気だろうか。まあ、そんなことしたら、《マスター・オブ・ゴキボール》の効果でホープONEを除外してやるまでだけど。
「《希望皇ホープ》がエクシーズ召喚されたから、500ライフ払い、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果を発動するわ! これで《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果を使うのは最後ね」

 鷹野さん LP:550 → 50

 ホープONEも《希望皇ホープ》の一種ということで、《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の発動条件が満たされる。これで鷹野さんのライフが50に戻った。なるほど、もう《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》の効果を発動するためのライフが支払えないから、使うのは最後というわけか。まさか、このターン中に増やしたライフポイントを全部使い切るとは……。
「最強デュエリストのデュエルは全て必然! ドローカードさえもデュエリストが創造する! 全ての光よ! 力よ! 我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ! シャイニング・ドロー!」
 鷹野さんの手が強い輝きを放つ。その手で彼女は勢いよくカードを1枚ドローした……って、鷹野さん今、明らかに「ドローカードを創造する」って言ったじゃねえか! この女、やっぱりドローカードを創造していやがったか! どうりで都合のいいドローが連発できるわけだよ!
「鷹野さん! ドローカードを創造するなんて、そんなの反則じゃないか!」
「は? パラコン何言ってるの? ドローカードを創造? そんな人間離れした行為を、今日中学校を卒業した、ごくごく普通の女の子ができると本気で思ってるわけ?」
「君は普通の女の子じゃないだろうが! ドローカードを創造するくらいわけないだろっ!」
「さり気なく人外扱いされたような気がするんだけど、気のせいかしら?」
「気のせいさ! それはともかく、ドローカードを創造するなんてチート技、反則だ反則!」
「だから、ドローカードを創造って何? 意味が――」
「あんた今言ってただろうが! 『ドローカードを創造する』って!」
「あれは単にアニメ『遊戯王ZEXAL』のセリフを真似ただけよ。本気で言ってるとでも思ったわけ? バカじゃないの?」
「んなっ! じ……じゃあ、アレはなんなんだ! さっきから鷹野さんがカードを引くとき、必ずその手が光り輝いていたじゃないか! それはどう説明する気だ!?」
「手が光り輝く? 当然じゃない。私は美少女デュエリストなんだから、ドローする手が輝いても不思議でもなんでもないわ。美少女というのは輝かしい生き物なのよ」
「スッゲー、鷹野さん! うぬぼれの度合いがマジパネェ! 僕にはとっても真似できないッス!」
「でしょう? それが分かったら、今すぐ私に平伏しなさい! そして私の靴を舐めなさい!」
「断る! とにかくだな! 君はチートを使ったんだ! だから、今すぐにこのターンの最初からやり直してくれ!」
「あー、よく聞こえないわね。私は魔法カード《貪欲な壺》を発動!」
 鷹野さんは僕の発言を無視して、勝手にデュエルを再開した! おい、聞けや!
「《貪欲な壺》は、自分の墓地のモンスター5体をデッキに戻し、カードを2枚ドローする魔法カード! 私は墓地の《砂塵の悪霊》、《カオス・ソーサラー》、《霊魂の護送船》、《火霊使いヒータ》、《憑依装着−ヒータ》をデッキに戻してシャッフル! カードを2枚ドローするわ! デュエリストはカードを導く! 我が身が放つ一点なる光を目指し、来たれ勝利と希望のカード! シャイニング・ドロー!」
 僕のことはお構いなしに、鷹野さんは手を輝かせ、新たに2枚のカードをドローした。これで鷹野さんの手札は5枚になった。なんやかんやで手札をとうとう5枚まで増やしたかこの人。
「……全て引き当てたわね」
 《貪欲な壺》で引き当てた2枚のカードを見て、鷹野さんは顔を綻ばせた。その顔を見て、背中に嫌な汗が流れた。なんだ……鷹野さん……何を引いたんだ?
「さて、このカードを手札に戻しておこうかしらね。私は墓地の装備魔法《神剣−フェニックスブレード》の効果発動! このカードは墓地に存在するとき、墓地の戦士族モンスター2体を除外することで手札に戻すことができる!」
 ドローを終えた鷹野さんは、今度は墓地のカードの回収を行った。《神剣−フェニックスブレード》……って、いつの間にそんなカード墓地へ?
「《デビルドーザー》の効果」
 僕の気持ちを察したかのように鷹野さんが言った。あ、そうか。《デビルドーザー》のデッキ破壊効果で《神剣−フェニックスブレード》が墓地へ送られていたのか。デッキ破壊効果が裏目に出ちゃったな。
「私は墓地の戦士族モンスター《処刑人−マキュラ》と《護封剣の剣士》を除外! これにより、《神剣−フェニックスブレード》は私の手札に舞い戻る!」
 鷹野さんの手札がまた1枚増えた。これで6枚か。けど、新たに2枚のカードが除外されたことで、僕の場の《魂吸収》が発動する!
「今、鷹野さんは2枚のカードを除外した! よって《魂吸収》でライフを1000回復!」

 僕 LP:21000 → 22000

 僕のライフがさらに上昇する。しかし、鷹野さんはそれを見ても動じる気配がなかった。むしろ、「もうそんなの関係ない」と言わんばかりに笑みさえ浮かべていた。それはまるで……勝利を確信した笑みに見えた。それを見ていて、先ほど鷹野さんが口にした言葉を思い出した。
「鷹野さん。さっき、全て引き当てたって言ってたけど……それどういうこと?」
 言いながら、自分の声が震えているのに気づいた。そんな僕を嘲るように鷹野さんが答える。
「あなたを倒すのに必要なカードを全て引き当てたって意味よ。何度も何度もドローを続けたおかげで、必要なカードを引き寄せることができたわ」
 そのように述べる鷹野さんの表情は、間違いなく勝利を確信していた。それを見て、僕は自分の中で何かが音を立てて崩れていくような気がした。
 また……負けるのか、僕は?
 ラスト・デュエル(2戦目)だというのに負けるのか、僕は?
 これが……最後なのに……僕はまた負けるというのか? そんな……そんなことがあっていいはずがない!
「嘘だ!」
 僕は叫んでいた。眼前に現れた敗北の恐怖をかき消すように叫んだ。
「この状況を逆転することなどできるはずがない!」
「できるのよ。それが」
 鷹野さんはニヤニヤしながら言った。僕は首をぶんぶん振った。
「ど、どうせ変なインチキオリカでも使って勝つつもりだろ! い……いいい言っとくけど、そんな方法で勝ったりしたら、このデュエルは無効だからな!」
「オリカ使って勝ったらそのデュエルは無効だなんて、ずいぶん理不尽なこと言うのね。ま、オリカを使うつもりはないわよ。OCGの世界にも存在するカードだけで、あなたのモンスターを全滅させ、ライフを0にしてみせるわ」
 鷹野さんは自信満々に言い放つと、僕の希望を全て壊すように、はっきりと宣告した。
「パラコン! このデュエル、私の勝ちよ! 今回も私の前にひれ伏しなさい!」





14章 ZTT(ずっと たかのっティーの ターン)(後編)


【僕】 LP:22000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻0、《マスター・オブ・ゴキボール》攻0、《マスター・オブ・ゴキボール》攻0
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:50 手札:6枚(1枚は《神剣−フェニックスブレード》)
 モンスター:《SNo.39 希望皇ホープONE》攻2510・X素材×12
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法
 ※《バブルイリュージョン》適用中


 僕の残りライフは22000。場には、攻撃力こそ0になってしまったが、モンスター効果は未だ有効な《マスター・オブ・ゴキボール》が3体いる。《マスター・オブ・ゴキボール》が場にいる限り、僕はダメージを受けない。さらに、《マスター・オブ・ゴキボール》が場から離れると、鷹野さんの場のカードを全滅させる。
 対する鷹野さんは、残りライフは50。場のモンスターは《SNo.39 希望皇ホープONE》1体のみ。手札は6枚だ。
 こんな状況で鷹野さんは、僕の場のモンスターを全滅させつつ、僕のライフを0にして勝つという。一体どうやって?
「さて、魔法カードを使わせてもらうわ! 《RUM−リミテッド・バリアンズ・フォース》! このカードは、自分の場にいるランク4のエクシーズモンスター1体を、1つランクの高いカオスナンバーズへとランクアップさせる!」
 またランクアップマジックかよ! 一体何枚ランクアップマジックをデッキに入れてるんだこの人は! 何!? またホープをランクアップさせるの!?
「私はランク4の《SNo.39 希望皇ホープONE》でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! カオスエクシーズチェンジ! 現れよ! 《CNo.101 S・H・Dark Knight(サイレント・オナーズ・ダーク・ナイト)》!」
「《CNo.101》だと!? 今度はオーバーハンドレッドカオスナンバーズかよ!?」
 新たなランクアップマジックにより、ランク4のホープONEがランクアップして出現したのは、槍を携えた暗黒の騎士。ホープとは無関係のオーバーハンドレッドカオスナンバーズだった。
 《CNo.101 S・H・Dark Knight》……そいつって確か、アニメ『遊戯王ZEXAL』でバリアン七皇のリーダーが使っていたモンスターだっけ。なんでそんなカード持って……いや、もうツッコむまい。
 鷹野さんは《S・H・Dark Knight》のカードをエクストラデッキから取り出すと、それをホープONEの上に重ねた。そいつってどんな能力を持ってたっけ?
「《CNo.101 S・H・Dark Knight》のモンスター効果発動! 1ターンに1度、相手フィールドに存在する特殊召喚されたモンスター1体を、このカードのエクシーズ素材にできる! 『ダーク・ソウル・ローバー』!」
 鷹野さんが宣言すると、僕の場の《マスター・オブ・ゴキボール》の1体が《S・H・Dark Knight》の下に重ねられ、エクシーズ素材化してしまった!
 くっ! 敵モンスターをエクシーズ素材化するとは、なかなか強力な除去効果じゃないか! だが鷹野さん! 君は《マスター・オブ・ゴキボール》を除去するというミスを犯した! それがどれほど恐ろしいことなのか、今からたっぷり教えてやる!
「《マスター・オブ・ゴキボール》がフィールドから離れたとき、特殊能力が発動! 鷹野さん! 君の場のカードを全て除外する!」
 堂々と言い放った。ところが、鷹野さんは「待ってました」と言わんばかりに口の端を吊り上げた。
「残念だったわね! モンスターがエクシーズ素材になることは、『フィールドから離れる』扱いにならないわ! よって、《マスター・オブ・ゴキボール》の効果は発動しない!」
 ええええええええええええええええええええっ!?
 何それ!? なんかズルくね!? えっ? フィールドから離れる扱いにならないってどういうことだよ!
「鷹野さん! 意味が分かりません! どういうことですか!?」
「どうもこうもないわよ。ルールでそう決められてるんだから、大人しく従いなさい」
 くっ! ルールで決められてるのなら、逆らうことはできない! チキショオ! なんだよこれ! こんな形で《マスター・オブ・ゴキボール》の除外効果が止められるなんて! これがバリアン七皇リーダーのモンスターの力か! 鬼畜過ぎるだろ!
 とにかく、これで僕の《マスター・オブ・ゴキボール》が1体葬られてしまった。あと残るは2体か。


【僕】 LP:22000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻0、《マスター・オブ・ゴキボール》攻0
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:50 手札:5枚(1枚は《神剣−フェニックスブレード》)
 モンスター:《CNo.101 S・H・Dark Knight》攻2800・X素材×14
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法
 ※《バブルイリュージョン》適用中


「まだよパラコン! 私は水属性・ランク5の《CNo.101 S・H・Dark Knight》をカオスエクシーズチェンジさせ、ランク6の《FA(フルアーマード)−クリスタル・ゼロ・ランサー》をエクシーズ召喚するわ! ランクアップせよ!」
 鷹野さんはエクストラデッキからカードを1枚取り出すと、《S・H・Dark Knight》の上に重ねた。それにより、《S・H・Dark Knight》が姿を変える。えっ? また進化かよ!
「《FA−クリスタル・ゼロ・ランサー》は、水属性・ランク5のエクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できるわ! さらに! このカードをカオスエクシーズチェンジし、ランク7の《迅雷の騎士ガイアドラグーン》をエクシーズ召喚! またランクアップよ!」
 たった今召喚した《FA−クリスタル・ゼロ・ランサー》の上に、また別のカードが重ねられ、姿が変わる。何回カード重ねるつもりなんだ!
「《迅雷の騎士ガイアドラグーン》は、ランク5または6のエクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できるわ!」
 くっ! ランク4のホープONEに次々とカードを重ねて、1つずつランクを上げていき、ランク7の《迅雷の騎士ガイアドラグーン》まで進化させたか! どこまでランクを上げていく気だ!?
「さらにさらに! このターン、私は《バブルイリュージョン》によって手札からトラップカード1枚を発動できる!」
 あ、そういやそうだったな。すっかり忘れてた。
「私は永続トラップ《DNA改造手術》を手札から発動! このカードは、フィールドに存在する全てのモンスターの種族を、宣言した種族に変更する! 私は『機械族』を宣言! これで、私のモンスターもあなたのモンスターも機械族となる!」

 《迅雷の騎士ガイアドラグーン》 種族:ドラゴン族 → 機械族
 《マスター・オブ・ゴキボール》 種族:昆虫族 → 機械族
 《マスター・オブ・ゴキボール》 種族:昆虫族 → 機械族

 ここに来て種族変更のトラップを使ったか、鷹野さん。それで一体何を?
「そして、装備魔法《幻惑の巻物》を《迅雷の騎士ガイアドラグーン》に装備! このカードは、装備モンスターの属性を、宣言した属性に変更する! 私は『光属性』を宣言! これで《迅雷の騎士ガイアドラグーン》は光属性になったわ!」

 《迅雷の騎士ガイアドラグーン》 属性:風属性 → 光属性

 今度は属性変更か。鷹野さんは何を狙ってるんだ……?


【僕】 LP:22000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻0、《マスター・オブ・ゴキボール》攻0
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:50 手札:3枚(1枚は《神剣−フェニックスブレード》)
 モンスター:《迅雷の騎士ガイアドラグーン》攻2600・X素材×16
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法、《DNA改造手術》永続トラップ・機械族宣言、《幻惑の巻物》装備魔法・対象:《迅雷の騎士ガイアドラグーン》・光属性宣言
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法


「準備は整ったわ! 私は手札から、2枚目の《RUM−アストラル・フォース》を発動! このカードは、自分の場で最もランクの高いエクシーズモンスター1体を、そのモンスターと同じ種族・属性でランクが2つ高いエクシーズモンスターへとランクアップさせる!」
 ま〜たランクアップマジックかよ! アストラル・フォースも2枚積みか!
「私の場のエクシーズモンスターは、ランク7の《迅雷の騎士ガイアドラグーン》のみ! このモンスターは現在、機械族・光属性となっているわ! よって私は、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》を、機械族・光属性・ランク9のエクシーズモンスターへとランクアップさせる!」
 鷹野さんはエクストラデッキからカードを取り出し、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》の上に重ねた。またカードが重ねられたか!
「ランク7の《迅雷の騎士ガイアドラグーン》でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! ランクアップエクシーズチェンジ! 現れよ! 《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》!」
 アストラル・フォースの効果によって《迅雷の騎士ガイアドラグーン》のランクが2つ上がる。それにより新たに出現したのは……なんというかこう……とにかく巨大なモンスター……というか建造物だった。デカすぎだろ! 《マスター・オブ・ゴキボール》が可愛く見えてくるぞ!
 《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》は機械族・光属性のナンバーズだ。こいつをアストラル・フォースで呼び出すために、鷹野さんは《迅雷の騎士ガイアドラグーン》を機械族・光属性に変更したわけか。
「さらに! ランク9の《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》がエクシーズ召喚されたこの瞬間! 墓地に眠る《RUM−アージェント・カオス・フォース》の効果を発動!」
 と、なんか鷹野さんの墓地で魔法カードの効果が発動した。え? 墓地からランクアップマジックだと!?
「《RUM−アージェント・カオス・フォース》はデュエル中に1度だけ、自分の場にランク5以上のエクシーズモンスターが特殊召喚されたとき、墓地から手札に加えることができる!」
 そう言って鷹野さんは、墓地から新たなランクアップマジックを手札に入れた。
「アージェント・カオス・フォースって……そんなカードいつの間に墓地に?」
「《デビルドーザー》の効果を使われたときよ」
 鷹野さんが答えた。
 ああ、そうか。《デビルドーザー》のデッキ破壊効果って2回使ったんだっけ。そのうち1回は《神剣−フェニックスブレード》が墓地に落ち、もう1回はアージェント・カオス・フォースが墓地に落ちたわけだ。……見事にどっちも裏目に出てやがる。どういうことだよこれ。
「そして、今手札に加えた《RUM−アージェント・カオス・フォース》をすぐさま発動! このカードは、自分の場のランク5以上のエクシーズモンスター1体を、そのモンスターよりランクの1つ高いカオスナンバーズへとランクアップさせる! 私はランク9の《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》をランクアップさせるわ!」
 このターンに入ってからもう何度目かとツッコみたくなるランクアップが行われる。もう勘弁してください。
「ランク9の《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! カオスエクシーズチェンジ! 現れよ! 《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》!」
 鷹野さんがまた新たなカードをエクストラデッキから取り出し、ダイソン・スフィアの上に重ねた。それにより、ダイソン・スフィアのランクが1上がり、さらに巨大な建造物へと進化した。ホントデカいなこいつ!
 しかし……とうとうランク10まで進化させたか。どんだけ進化させりゃ気が済むんだよ。
「私は手札の《神剣−フェニックスブレード》を墓地へ送り、装備魔法《閃光の双剣−トライス》を発動! このカードを《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》に装備するわ! 《閃光の双剣−トライス》を装備したモンスターは、攻撃力が500下がる代わりに、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃することが可能になる!」
 《神剣−フェニックスブレード》を発動コストとして、《閃光の双剣−トライス》が発動された。なるほど、《神剣−フェニックスブレード》を墓地から回収したのは、《閃光の双剣−トライス》の発動コストを確保するためか。

 《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》攻:3600 → 攻:3100・2回攻撃可

 カオス・ダイソン・スフィアに2回攻撃能力を付与したところで、鷹野さんの手札がとうとう0枚になった。ようやく手札を使い切ったか! 長かった!
 カオス・ダイソン・スフィアを出した時点で、鷹野さんがエクストラデッキから出したカードの枚数は15枚となった。OCGルールでは、エクストラデッキの枚数は15枚までと決められていたはずだから、もうこれ以上鷹野さんがエクシーズモンスターを呼び出すことはないはずだ。ああ、ホントに長かった!


【僕】 LP:22000 手札:0枚
 モンスター:《マスター・オブ・ゴキボール》攻0、《マスター・オブ・ゴキボール》攻0
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》攻3100・X素材×18・2回攻撃可
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法、《DNA改造手術》永続トラップ・機械族宣言、《閃光の双剣−トライス》装備魔法・対象:《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法


「バトルフェイズに入るわ!」
 長い長いメインフェイズ1を終え、やっとバトルフェイズが訪れた。長すぎだよもう!
「《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》で《マスター・オブ・ゴキボール》を攻撃! 消えなさい! 巨大ゴキボール!」
 双剣を装備したカオス・ダイソン・スフィア(建造物が双剣を装備するっておかしくない? というツッコミは勘弁してくれ)が僕の場に向けて攻撃してきた!
 カオス・ダイソン・スフィアの攻撃力は3100! 攻撃力0の《マスター・オブ・ゴキボール》は簡単に破壊できる! けど、そんなことをすれば、鷹野さんの場のカードは全滅だ! それなのに攻撃するって……?
「カオス・ダイソン・スフィアのモンスター効果発動! このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わず、そのモンスターをこのカードの下に重ねてエクシーズ素材にする!」
 はああああああああああっ!?
 戦う敵モンスターをエクシーズ素材にするって……そいつも敵モンスターをエクシーズ素材にするの!? またその手の能力かよ!? ちょっと待ってくれよ! それじゃ《マスター・オブ・ゴキボール》の除外効果が発動しないじゃないか! なんでそんな能力ばっか使ってくんの!? 嫌がらせか!?
「さあ、カオス・ダイソン・スフィアの支配下となりなさい! 超巨大ゴキボール!」
 《マスター・オブ・ゴキボール》のカードがカオス・ダイソン・スフィアのカードの下に重なり、エクシーズ素材化してしまった! これでは場から離れた扱いにならないため、《マスター・オブ・ゴキボール》の除外効果は発動しない! チキショオ!
「《閃光の双剣−トライス》の効果により、カオス・ダイソン・スフィアはもう1度攻撃できる! もう1体の《マスター・オブ・ゴキボール》に攻撃! 当然そいつもカオス・ダイソン・スフィアのエクシーズ素材にしてやるわ! さあ、カオス・ダイソン・スフィアの支配下となりなさい!」
 カオス・ダイソン・スフィアの2回目の攻撃が炸裂し、最後に残った《マスター・オブ・ゴキボール》のカードもカオス・ダイソン・スフィアの下に重ねられてしまった! これで3体の《マスター・オブ・ゴキボール》は全部、鷹野さんのエクシーズモンスターのエクシーズ素材となってしまったわけだ!


【僕】 LP:22000 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:《魂吸収》永続魔法
 フィールド:《フュージョン・ゲート》フィールド魔法

【鷹野さん】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》攻3100・X素材×20・2回攻撃可
  魔法・罠:《エクシーズ・チェンジ・タクティクス》永続魔法、《DNA改造手術》永続トラップ・機械族宣言、《閃光の双剣−トライス》装備魔法・対象:《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》
 フィールド:《うずまき》フィールド魔法


 キ……キ……キィィィィィィィッッ! ぼ……僕の《マスター・オブ・ゴキボール》が……ぜん……めつめつめつ!
 チキショオ! ホントに鷹野さん、3体の《マスター・オブ・ゴキボール》を全滅させやがったよ! しかも、エクシーズ素材化するという最悪な除去方法で! ふざけんなよ!
「メインフェイズ2に移行! 《マスター・オブ・ゴキボール》が消えたことで、あなたは普通にダメージを受けるようになったわね」
 あ、そうだ。僕をダメージから守ってくれる《マスター・オブ・ゴキボール》はもういないんだ。け……けど、既に鷹野さんのバトルフェイズは終了している! 攻撃はできない! 攻撃できなければ、僕のライフを削ることはできないはずだ!
「《マスター・オブ・ゴキボール》は全滅したけど、僕のライフは1ポイントも削られていない! そして鷹野さんの残りライフは50だ! 次の僕のターンでそいつを削りきってみせる!」
 そう言うと、鷹野さんは「それは無理よ」と返してきた。
「次のターンはないわ。私は《CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア》のもう1つの効果を発動!」
 は? もう1つの効果!? 敵モンスターをエクシーズ素材化するというチート能力を持ちながら、別の効果持ってんのかよそいつ!
「カオス・ダイソン・スフィアは1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材の数×300ポイントダメージを相手に与える!」
「エクシーズ素材の数だけダメージ……」
 それを聞いて、僕は意識が飛びそうになった。
 や……やばい! 今、カオス・ダイソン・スフィアのエクシーズ素材って……いくつあるんだ!? さんざんランクアップやらランクダウンやらエクシーズ素材化効果を使ったことで、かなりの個数まで増えてるんじゃないか!?
「えーと、カオス・ダイソン・スフィアのエクシーズ素材って、今いくつでしたっけ?」
「20個よ」
「20個ぉっ!? と……いうことは……僕の受けるダメージは……!」
「20×300で6000ポイントね」
 嘘おおおおおおおおおっ!?

 僕 LP:22000 → 16000

 ぐぅぅぅっ! まさか、一気に6000ものダメージを与えてくるとは! ライフ回復をしていなければこの一撃で死んでたかもしれない!
 くそっ! 鷹野さんが散々ランクアップ・ダウンを繰り返したのは、カオス・ダイソン・スフィアのダメージ効果の威力を上げるためでもあったのか! そこまで考えて行動してたのか!
 で、でも! それでもまだ僕のライフは16000も残っている! まだこれから――。
「それだけじゃないわパラコン! カオス・ダイソン・スフィアの更なる効果発動!」
 ――って、まだ効果持ってたのかよそいつぅぅぅ!? 一体いくつ効果持ってんだよカオス・ダイソン・スフィアぁっ!
「カオス・ダイソン・スフィアは、《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》をエクシーズ素材としているときに発動できる効果がある! その効果は、このカードのエクシーズ素材を任意の数取り除き、その数×800ポイントダメージを相手ライフに与えるというものよ!」
 またダメージ効果かよ! しかも、エクシーズ素材を取り除いた数×800って……え? ちょっとそれって……ヤバくないか!?
「私は、カオス・ダイソン・スフィアのエクシーズ素材20個を全て取り除き、効果発動! 20×800=16000ポイントのダメージをあなたに与えるわ!」
 げええぇぇぇっ!?
 い……16000ダメージって! そんなのアリかよ!? そんなダメージを受けたら……僕のライフは……!
「パラコン! あなたのライフは16000! このダメージが通れば一撃で0になるわ! この一撃でくたばりなさい!」
 う……嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! こんなことがあってたまるか! ラスト・デュエル(2戦目)だというのに、僕が負けるなんて展開あってたまるかああああっ!

 僕 LP:16000 → 0

 カオス・ダイソン・スフィアのチート効果により、僕のライフが全部消し飛んだ。それでデュエル終了となり、ソリッド・ビジョンが消滅した。
 僕と鷹野さんのラスト・デュエル(2戦目)は終了した。鷹野さんの勝利によって。

 あれ? 僕、負けちゃったよ……?





終章 また、いつか……


「勝負ありっ! 勝者、たかのっティー! この瞬間、卒業記念イベント・タッグデュエル大会の優勝者は、たかのっティーに決定だぁー!」
 真田さんの声が響き、他の観戦者たちが歓声を上げた。
「スゲー! 鷹野、あの状況から逆転勝利しやがったよ! スゲースゲー!」
「ああ、たしかにすごいな。まさか、1ターンでここまでやるとは……鷹野はここまで強かったのか」
「わ……私、ラストターンの途中からついて行けなかったよ……。なんかもうすごすぎて理解が追い付かなくて……。と、とにかく鷹野さん、優勝おめでとう!」
「す、すごいね……鷹野さん……」
「たかのっティー! おめでとう! そしてお疲れさん! 君はよく頑張った!」
 松本君、代々木、川原さん、野村さん、真田さんが、勝者である鷹野さんを取り囲み、称賛や労いの言葉をかける。みんなの目には鷹野さんしか映っていないようだった。……あの〜、僕も今のデュエルで戦ってたからね? ちゃんとここにいるからね? みんな忘れてない? それともアレですか? 敗者に対しては労いなど必要ないというわけですか、そうですか。
「パラコン君。お疲れさま」
 げんなりしていると、僕に声をかけてきた者がいた。パロだった。
 パロ……お前だけは僕に労いの言葉をかけてくれるんだな。やはり持つべきものは親友だ。
「負けちゃったよ、パロ」
 小さくため息をついて言うと、パロは労わるような笑みを浮かべた。
「そうだね。ものすごいボロ負けだったね」
「いやあ……惜しかったな。もうちょっとで勝てたんだが……」
「なのに、悲しいくらい圧倒的な敗北を喫しちゃったね」
「ホントにもうちょっとだったんだよ。あそこで鷹野さんに逆転のキーカードを引かれなければ、次のターンには勝ててたかも」
「でも現実には、逆転のキーカードを引かれて、惨敗しちゃったと……」
「あと少しだった。悔しいな、正直……」
「あんな無様でむごたらしい負け方しちゃったら、そりゃ悔しいよね」
「…………。……おい、パロ」
「え? 何?」
 何? じゃねえよ。パロお前、さっきから何さり気なく「ボロ負け」だの「圧倒的敗北」だの「惨敗」だの「無様でむごたらしい」だの言ってんだよ。なんでわざわざそんな僕を貶めるような言い方するわけ? 傷口に塩塗られてる気分なんだけど。
「パロさあ、お前はもうちょっとこう、言い方というものを考えてだな――」
「パロ君」
「あ、鷹野さん。優勝おめでとう! 華麗な逆転劇だったよ!」
 僕がしゃべっていると、鷹野さんが割り込んできて、パロは彼女のほうを向いてしまった。パロはそれから鷹野さんを称賛するばかりで僕のほうは見向きもしない。このクソゴミヤロー……やっぱこいつ、親友なんかじゃねえ。
「さて、これで本当にタッグデュエル大会は終了だな! みんな、優勝者の鷹野に改めて拍手を!」
 代々木の言葉で皆が鷹野さんに拍手を送る形となった。それにつられて僕も拍手してしまった。もちろん、ホントは拍手なんてしたくない。
「じゃあ、これで卒業記念イベント・タッグデュエル大会は終了だ! みんな、お疲れさん!」
 代々木が閉会の挨拶をすると、皆それぞれ「お疲れさま」と口にした。これで大会は終わりのようだ。ていうか、この大会の準優勝者って僕だよね? 準優勝者の僕には拍手してくれないの? くれないよね。分かってまーす。
 デュエル・ディスクを全て回収すると、代々木が全員に向かって声をかける。
「さて、この後どうする? まだお菓子とかジュースとか残ってるけど」
 それに真っ先に答えたのは真田さんだった。
「もう少しここにいない? まだ3時過ぎたばっかりだしさ。それに、たかのっティーも一休みしたいでしょ? ずっとデュエルしてて疲れたんじゃない?」
「そうね。少し休みたいわ」
 僕もずっとデュエルしてたんだけど、そのこと忘れてないよね、真田さん。
「じゃあ、少しここで休むか。みんなそれでいいか?」
 代々木の問いに、否定の意を返す者はおらず、もう少しの間ここにいるということで話がまとまった。全員が伝説の木・アルカトラズの下に敷かれたシートへと向かう。そこには、手付かずのお菓子やジュースがまだ結構置かれていた。
 とりあえず、僕も一休みするかな。疲れたし。それに、結局勝てなくて気分が沈んでるから、お菓子でも食って気分転換したい。
 全員がシートに腰を下ろすと、「卒業を祝して乾杯でもするか」という代々木の言葉で、乾杯することになった。ジュースを注いだ紙コップを全員が持つ。それを見て、代々木が乾杯の音頭を取った。
「んじゃ、卒業を祝して、乾杯!」
「「「「「乾杯っ!」」」」」
 全員が、紙コップの中のジュースを飲み干す。ちょうどいい感じに甘酸っぱいオレンジジュースだった。
 乾杯が済むと、みんなでお菓子を食べ始めた。ちょうど目の前にスナック菓子があったので、僕はそれを口に放り込んだ。
 それにしても……。
 ラスト・デュエル(2戦目)だというのに、いつも通りに鷹野さんに負けてしまうとは……。こんな展開ってアリかよ? 普通こういう場合は、今まで負けっぱなしだった僕が最後の最後に勝利を飾ってハッピーエンドとか、そんな展開になるもんじゃないの? おかしくない? これじゃあ、いつもと同じパターンの繰り返しじゃないか。どうなってるのこれ? 今まで僕がやってきたことってなんだったの?
「パラコン」
 現状に憤りを感じていると、鷹野さんが声をかけてきた。そちらに目を向けると、鷹野さんは小さく笑みを浮かべていた。
「私とあなたが初めてデュエルしたのって、バレンタインデーの放課後だったわよね? たしか、教室で……」
 鷹野さんのその言葉を聞き、僕は目を少し見開き、首を縦に動かした。
「そうだよ、その通りだよ。ちゃんと覚えてるじゃないか、鷹野さん。忘れたなんて言ってたくせに」
「ついさっき思い出したのよ」
 鷹野さんはどこか昔を懐かしむような目になった。
「初めてデュエルしたとき……あなたは弱かったわよね」
「弱かったって……まあ、今に比べたら、たしかに未熟だったとは思うけど」
「それから何度もあなたと私はデュエルしたけど、どれもこれもみ〜んな私が勝ってたわよね」
「悔しいけどその通りだよ」
 そうだ。僕は何度も鷹野さんと戦っては負けた。そして今回も負けた。どういうことだろうね、これは。最後くらい勝たせろよ。
「あなたは何度私に負かされようと、必ずまたデュエルを挑んできたわよね。まあ、たまに私のほうから挑んだこともあるけど。なんにしてもあなたは、負けても負けても私と戦い続けた。ゴキブリ並の生命力をもって、あきらめることなく私と戦い続けた」
「ゴキブリ並の生命力って……せめて不死鳥とかにたとえてくれよ」
 たしかにゴキブリカード使ってるけどさ。ていうか、そもそも僕がゴキブリカード使い始めたのは、この人が僕に、チョコと偽って《ゴキボール》のカードを渡してきたのがきっかけだったんだよな。あれは、彼女との初めてのデュエルが終わった直後の出来事だった。
 あれから「《ゴキボール》を使って鷹野さんを倒す」っていう勝利のビジョンを掲げて彼女にデュエルを挑むようになって、今に至ると。《ゴキボール》とも長い付き合いになってるな。
 初めてのデュエルといえば――ちょっと気になることがある。
「鷹野さん、『たまに私のほうから挑んだこともある』って言ったけどさ、初めて僕と鷹野さんがデュエルしたとき、デュエルを挑んできたのは鷹野さんのほうだったよね? 覚えてる?」
「……ああ、そうだったわね」
 鷹野さんは覚えていたようだ。
 そう。最初にデュエルを挑んできたのは、鷹野さんのほうだったのだ。クラスのマドンナ鷹野麗子がデュエルを挑んできたものだから、とても驚いたのを覚えてる。
「あのとき、どうして鷹野さんは僕にデュエルを挑んできたの?」
「どうして? ……どうしてだと思う?」
「うーん……。鷹野さんが僕のこと好きで、近づくきっかけを作ろうとしたとか?」
「その妄想、言ってて楽しい?」
「嘘だから! 本気で言ってるわけじゃないから! だからそんな、変質者を見るような目で見ないでくれ!」
 普通、好きな相手に《ゴキボール》プレゼントした挙句、消火器ぶちまけるような真似はしないだろう。つまり、鷹野さんが僕を好きでデュエルを挑んできた、という可能性はあり得ない。そのくらい僕だって分かってる。
「で、結局どうしてなの? どうして僕にデュエルを挑んできたの?」
「そうね、たしか……あの頃、私はまだM&Wを始めてさほど時間が経ってなかったから、ちょうどいい対戦相手が必要だったのよね」
 ああ、そういえば鷹野さん、初めて僕にデュエルを挑んできたとき言ってたっけ。最近M&Wを始めたばかりだって。
「ちょうどいい対戦相手っていうのは?」
「ほら、初心者がデュエルするとき、あまり強すぎる人が相手だと勝負にならないじゃない。だから、初心者でもそこそこいいデュエルができる程度の力量を持つ対戦相手が必要だったのよ。そこで白羽の矢が立ったのが――」
「――僕ってわけ?」
「そう。あなたがデュエルするのを何度か見て、『ああ、こいつなら、初心者の私でもそれなりにいい勝負できそうだな』って思ってデュエルを挑んだわけ」
「そんな理由で僕は対戦相手に選ばれたのか……。で、実際に戦ってみてどうだった? 僕は鷹野さんの対戦相手として最適だった?」
「いや、想像以上にあなたが弱すぎて、張り合いがなくてダメだったわ。『全然相手にならないなこいつ』って思ったわよ」
「マジかよ……」
 あの頃の僕は、初心者の鷹野さんに「相手にならない」と思わせるほど未熟だったのか。なんか悲しくなってきた。
「あまりに手ごたえがなくて腹が立ったから、もしものために用意しておいた『チョコレート偽造型ゴキボール』をあなたに渡し、ついでに消火器もぶちまけたわ。そのくらい私は腹が立ってたのよ」
 《ゴキボール》のプレゼントと消火器のぶちまけを行ったのはそんな理由からかよ。勝手すぎるだろ。ていうか、「もしものために用意しておいた」って言うけど、もしものためってなんだよ。何を想定してたわけ?
「まあ、そんなこんなであなたは私の相手ではないと見なしたわけだけど……そしたら今度は、あなたが私にデュエルを挑んでくるようになったのよね」
「そうだね」
「何度も何度も、あなたと私は戦った。その度に私は勝ったけど、あなたは決してあきらめることがなかった。とにかくあなたはしつこかった」
「しつこかったって……まあ、あきらめの悪いタチなんだよ」
「正直、あまりのしつこさに辟易して、『こいつ絶対将来ストーカーになるな』とか思ったこともあるわ」
「ストーカーって……」
「私の中の『最低なクズ男ランキング』であなたが第1位に輝いたことも1度や2度じゃない」
「そんなランキングつけてたのか……」
「あなたのその髪型を見ただけで不愉快になった時期もあるわね」
「そんなに僕の髪型ってひどいですかね?」
「もうこいつ、死んだほうがいいんじゃないかしら、と思ったことも何度か――」
「分かった分かった! 鷹野さんが僕を嫌いだってことはよ〜く分かったから! だからもうそれ以上言うな!」
 たまりかねて止めにかかると、鷹野さんはくすくす笑って「冗談よ」と言った。
「とにかく、あなたは負けても負けても立ち上がってきたわね」
「鷹野さんに勝つのが目標だったからね。けど、とうとうその目標を果たせなかったな……」
 そうだ。僕は鷹野さんに勝たなきゃいけなかったのに、最後の最後までそれを果たせなかった。こんなんでいいのだろうか? いや、よくない!
「鷹野さん! 僕ともう1回デュエルして――」
「嫌よ。もう疲れたし」
 即行で断られた。くそっ!
 鷹野さんは呆れたようにため息をついた。
「大体ね、今のあなたがもう1回私とデュエルしたところで、私に勝てるわけないじゃない」
「なっ!?」
 あまりにもはっきりと「私に勝てるわけない」などと言われたので、カチンと来た。
「そんなのやってみなきゃ分かんな――」
「分かるわよ。だってあなた、弱いもの」
「よっ!? 弱いってことはないだろ! さっきのデュエルだって、鷹野さんを残りライフ50にまで追い詰めたんだぞ!」
 僕が主張すると、鷹野さんは鼻で思い切り笑い、手に持ったスティック菓子で僕を指した。
「ライフ50まで追い詰めたからなんなのよ? ライフ0にしなきゃ意味ないじゃない。たとえ相手を残りライフ1にしようが、その前に自分がライフ0になったら負けなのよ負け」
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅっっ!」
 ぐうの音が出まくる正論だった。たしかに、鷹野さんの言うとおりだ。
「で、でも! 少なくとも、鷹野さんと初めてデュエルした頃よりは強くなってるはずだ! 鷹野さんだってそう思うだろ!」
「さあ……あまり変わらないんじゃない?」
「そんなはずないだろ!? 絶対にちょっとは強くなってるはずだ!」
「……そう。あなたがそう思うのなら、そうなんじゃないの?」
「な!? なんだその投げやりな肯定の仕方!」
「だって、私にはよく分からないんだもん。あなた、いつも私に負けてるから、私にとっては『雑魚デュエリスト(1)』くらいの認識でしかないのよね。だから正直、あなたが強くなったかどうかなんて、よく分からないわ」
 軽い口調で言うと、スティック菓子をぽりぽりと食べる。
 雑魚デュエリスト(1)って……ひどすぎるだろその認識! こっちはあんたのこと、宿命のライバルだと思ってるのに!
「なんにしても、今のあなたの力じゃ私には勝てないわよ。もう1回デュエルしても、結果は同じでしょうね」
「だから、やってみなきゃ分からないだろうが! さっきのデュエルでは、君を残りライフ50まで追い詰めたんだ! なら、次はライフ0にして勝つかもしれない! そうだろ!?」
「ついさっき、この私に0ターンキルされた男が言っても説得力が感じられないわね」
「あれは一種の事故だ! たまたまだ! 次こそは――」
「ホントしつこいわね……」
 鷹野さんはゆらゆらと頭を振り、紙コップの中のジュースをぐいと飲んだ。それに合わせ、彼女の喉が動く。
「もういい加減、私に勝とうとするのはあきらめたら? 潔く完全敗北を認めて、私の奴隷として一生働くのも悪くはないんじゃない?」
「はぁ!? なんで僕が君の奴隷になるんだよ! 冗談じゃない! そんなの最悪の結末だ! 僕は絶対あきらめないぞ! 絶対に鷹野さんに勝ってやる!」
「パラコン。現実を見たほうがいいんじゃない?」
「うるさいうるさいうるさい! 僕は絶対に鷹野さんに勝つんだっ!」
「あれだけ負け続けたのに、あきらめないって言うの?」
「ああ! 僕はあきらめない! 次こそは僕が勝つ!」
 きっぱりと告げる。
 それを受けた鷹野さんは、小さくため息をつき、
「ホント、あきらめの悪い男。まさにゴキブリ並の生命力ね」
 と言いながら、ぷいっとそっぽを向いた。
 そして――。





「でも、あなたのそういうところ……嫌いじゃないわ」





 ――優しい声で、そう口にしたのだった。
 普段の鷹野さんからは考えられない、優しい響きを持った声を聞き、僕は思わずビクリとしてしまう。
 え? 何、今の? 僕……鷹野さんにほめられたの?
「た……鷹野さん……今の、どういう意味――」
「さーて、次はクッキーでもいただこうかしらね」
 鷹野さんは僕の言葉には反応せず、クッキーを手に取り始めた。いや、聞けよ! 今の言葉ってどういう意味!?
「鷹野さ――」
 と、声をかけたそのときだった。

 ヒュンと鋭い音を立て、何かが僕の目の前を通過した。
 それは、視界の左から出現し、右へと通過していった。

 なんだっ! と思った次の瞬間、右側から短い衝突音が聞こえた。
 反射的にそちらを振り向くと、伝説の木・アルカトラズが目に入る。
 そこには、一際目立つ物が刺さっていた。

 それは、1本の黒い矢だった。
 アルカトラズに、1本の大きな黒い矢が刺さっていたのだ。

 ――って、なんでだよ!
 なんでこの木に矢が刺さってんだよ! さっきまでなかったぞあんなもの!
 ていうか、さっき僕の目の前を通過したのはこいつか! めっちゃ危なかったじゃないか! 座る位置があと数センチ前だったら、僕の頭にブスリと行ってたぞこれ!
「な、何! 今の何!」
「あ、あれって……矢?」
「おいおい、なんだってんだよ!」
 みんなも矢の存在に気づいたか、困惑し始める。
 ただ、鷹野さんだけは落ち着いて、木に刺さった矢に近づいていった。
「これは……矢文ね」
 矢を見て彼女は言った。
「や……矢文?」
「ええ。矢に手紙が巻きつけてあるわ」
 矢を見てみると、たしかに、折りたたまれた白い紙が巻きつけてあるのが見えた。この時代に矢文って……。
 鷹野さんは矢に巻き付けられていた紙を取り外し、広げた。そして、目を見開いた。
「どうやら、私宛てのようね」
「鷹野さん宛てぇぇ!?」
 鷹野さん、知り合いに矢文を使うような人間がいるのか。ホント、この人はよく分からない。
 鷹野さんは手紙の文面に目を通すと、ふぅと息を吐き、鞄を手に持った。
「もう行かなきゃならないみたい」
「え? たかのっティー、それはどういう……」
 答える代わりに、手紙を差し出す鷹野さん。みんなでそれをのぞき込む。そこには達筆な文字でこう書かれていた。


 麗子へ
 ワハハハハ! わが娘麗子よ! 貴様の父シルベスターが手紙をよこしてやったぞ! ありがたく思うんだな!
 とりあえず、無事に卒業できたようだな! よくやったと言っておいてやる!
 さて、本題だ!
 突然予定が変わり、今日これからすぐにアメリカに発つことになった!
 迎えに行くから、荷物をまとめてその場で待っているがいい!
父より


 これ、鷹野さんの父、シルベスターさん(日本人らしい)からの手紙か! なんでこの時代に矢文を使うんだ鷹野パパ!
「きっと、私のスマホがバッテリー切れを起こしていたから、代わりに矢文を使って連絡してきたんでしょうね」
「いや、だとしても矢文はないだろ!」
 しかも、下手したら僕の頭に直撃してたし! 他にやり方なかったのかよ!
 いや、それはいい。それよりも――。
「今日これからすぐアメリカに発つって……」
 鷹野さんは明日の朝にアメリカに発つはずだった。その予定が変わったということか。
 鷹野さんは小さく笑って言った。
「うん、そういうことだから。私、もう行かないと」
 それを聞き、他の人たちが顔色を変えた。
「た、たかのっティー、もう行っちゃうの!?」
「ええ。ごめんね。真田さんたちとは、これから一緒にカラオケとか行く約束だったのに」
「もう……お別れなの?」
「ええ」
「そうか……」
 早まった別れに、皆がしんみりとしてしまう。僕も、心に穴をあけられたような気分になった。
 もう、鷹野さんは行ってしまうのか――。
 それを自覚した途端、これまで彼女と過ごした日々の記憶が蘇ってきた。
 容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、高レベルのデュエリスト。だけど、性格は尊大で傲慢で身勝手で腹黒で、いつも僕のことを見下し、僕のことを振り回し、デュエルをすれば、絶対僕を打ち負かす――そんな少女との日々が思い出される。
 ……思い出してたら、なんか腹立ってきたな。
 せめて、1度だけでもいいから、彼女をデュエルで負かしてギャフンと言わせてやりたかったな。それができなかったことがすごく悔しい。
 と、悔しい思いに浸っていると、空からバタバタと音が聞こえてきた。音はどんどんこちらに近づき、音量を上げてゆく。
 一体なんだと思い、音のするほうを見ると、そこにはヘリコプターの姿があった。ヘリは高度を下げてゆき、僕らから10メートルほど離れた地点に着陸した。プロペラの回転する凄まじい音が周囲に響いている。
「迎えが来たようね!」
 鷹野さんが叫んだ。え? 迎えってヘリかよ!?
「鷹野さんっ! ヘリで移動する気なの!?」
「そうよ! これから自家用ヘリに乗って、空港まで行くわ!」
 ヘリで空港って! つーか、自家用!? あのヘリ、自家用なの!?
「鷹野さんちって、ヘリ所有してたのかよ!?」
「お父さんの所有物よ! さすが、金持ってる人はやることが違うわよね!」
 どうやら、鷹野さんの父さんは、ヘリを所有できるくらいには金持ちらしい。
「ワハハハハ! 麗子よ! 時間はあまりない! すぐにヘリに乗り込むのだ!」
 鷹野さんの父さんの声だろうか。ヘリのほうからマイク越しに声が響く。それを聞き、鷹野さんはヘリのほうへと歩き出した。
 少し歩いたところで彼女は振り向いた。
「それじゃあみんな! 元気でね!」
 プロペラの回転音に負けない勢いで、鷹野さんが叫ぶ。
 それに対し、他の者たちも叫び返す。
「たかのっティーも元気でね!」
「鷹野さんのこと、忘れないよ!」
「ま……また、会おうねっ!」
「いつも勉強とか教えてくれてありがとう! またね!」
「体に気をつけろよな! 無理すんなよ!」
「お互い、高校へ行っても頑張ろう!」
 真田さん、川原さん、野村さん、パロ、松本君、代々木の順で鷹野さんに別れの言葉をかけた。しかし、僕は何も言えなかった。何を言えばいいのか分からなかった。何を……言えばいいのか……。
「じゃあね!」
 鷹野さんは一瞬、僕のほうをちらりと見た後、改めて別れの挨拶をして、ヘリのほうへと進み始めた。
 と、誰かに腕を突かれた。見ると、真田さんが肘で突いていた。
「パラコン君! たかのっティー行っちゃうよ! 何も声かけなくていいの!?」
「え? いやあ……」
 真田さんの問いに、僕は上手く答えられなかった。そんな僕を見て、真田さんはじれったそうに「ああ、もうっ!」と声を上げた。
「ちゃんと伝えたいこと伝えてきなよっ! ほらっ!」
 真田さんは僕の背中を思い切り押した。それで自然と体がヘリのほうへと進んだ。
 鷹野さんの背中を追いながら、彼女に伝えたいこととは何かと考えた。
 考えるうちに、答えは出た。
 僕が伝いたいことは、これしかない。
「鷹野さんっ!」
 鷹野さんの背中に向かって叫ぶ。足を止め、こちらを振り向く彼女。
 僕も足を止め、彼女の目をじっと見る。そして、思い切り叫んだ。

「これで終わったと思うな! もっと強くなって、またデュエルを挑んでやる! アメリカに行こうが関係ない! どこまでも追いかけてやる! 今度こそ僕が勝つから、首を洗って待っていろっ!」

 僕が今、鷹野さんに伝えたいのは、それだけだった。
 そうさ! どこまでも追いかけてやる! この戦いは、僕が勝利するまで終わることなく続くのだ! 覚悟しておくんだな、鷹野麗子よ!
 鷹野さんは、高らかに宣言する僕を見て、ふっと優しげな笑みを浮かべてみせた。
 そして、大きな声で返してきた。

「いつでもかかってきなさい! 返り討ちにしてやるわっ!」

 それだけ言うと、ヘリのほうへと顔を向けて歩き出した。
 歩きながら、彼女は右手でサムズアップしてみせた。
 その姿勢を維持したまま、彼女はヘリの中へと姿を消した。

 それからすぐに、ヘリが離陸した。
 空飛ぶヘリは、どんどん僕らから離れてゆき、やがて僕らの目に見えなくなった。


 ★


「行っちまったなぁ……あいつ……」
 もうヘリが見えなくなった空に向かって言ったのは、松本君だった。
 ホント、その通り。鷹野さんは行っちまった。あと数時間もしたら、飛行機に乗って上空を飛んでいることだろう。
「ねえ、パラコン君」
 真田さんが横からひょいと顔をのぞかせた。何故か彼女はニヤニヤとしている。
「パラコン君、本気なの?」
「何が?」
「さっき、たかのっティーに言ったことだよ。『お前のことはどこまでも追いかけやるー!』とか言ってたじゃない。あれ、本気?」
 ああ、そのことか。僕は迷わず答えた。
「本気だよ。決まってるじゃないか」
「おおー! 彼女を追いかけてどこまでも行くつもりなわけだ!」
「その通りだ! たとえ鷹野さんがアメリカへ行こうがエジプトへ行こうがブラジルへ行こうが、あるいは宇宙へ行こうが、僕はどこまでも追いかける!」
 真田さんは頬を紅潮させ、目をキラキラ輝かせた。
「ひゅ〜! パラコン君の心の中には、たかのっティーに対する熱い熱い思いが渦巻いているわけだ!」
「ん、まあ、そうなるかな」
 絶対に鷹野さんはこの手で倒す――その思いは、僕の中で熱く熱く燃えたぎっている。
「アツアツだねぇ、パラコン君! ねえねえ、聞いた静江〜!」
「えへへ……聞いてたよ」
 いつの間にか、川原さんが近づいてきていた。どういうわけか、彼女もニヤニヤしていた。
「やっぱり、パラコン君といえば、鷹野さんだよね。2人の関係は切っても切れない固いものなんだなぁ」
 切っても切れない関係……たしかにそうだ。たとえ住んでいる国が変わり、離れ離れになろうとも、僕と鷹野さんがライバルであることにはなんの変わりもない。僕らの関係にはなんの変化もないのだ。
「応援してるよ、パラコン君。頑張りたまえ!」
「うん。私も応援してるよ!」
 真田さんと川原さんは、僕を応援してくれるようだ。なんだか照れるな。
「ああ、頑張るよ」
 頑張って頑張って、鷹野麗子に勝ってやる!

 僕と鷹野さんの戦いはまだ終わっていない。
 僕と鷹野さんの因縁はまだ終わっていない。
 僕が鷹野さんに勝利するそのときまで、この戦い、この因縁は続くのだ。
 鷹野麗子――僕の永遠のライバル。
 彼女を倒す――その目標を果たすまで、僕は進み続ける。
 そうだ。僕の戦いは――僕のプロジェクトは、まだ始まったばかりなんだ――!

 さ、そうと決まれば、すぐに家に帰って、次の戦いの準備を――。

「あ、そうそうパラコン君。これからあたしたち、思い出作りにカラオケとかゲーセンとかに行こうと思ってるんだけど、一緒に来る?」
「行く行くっ!」
 真田さんの誘いを受け、僕は思い出作りに励むことにした。

 ……ま、アレだ。
 今日のところは、思い出作りに励むとしよう。
 けど、明日からは本気出すぞっ!
 僕のニュー・プロジェクトは、明日から再開だ!





〜Fin〜









おまけ 鷹野さんデッキ(プロジェクトLD仕様)

 今作で鷹野さんが使用したデッキの内容を公開!
 これを真似すれば、君も今日から鷹野さんだ!


テーマ

 とても一言では説明できない。


デッキ内容

モンスター 23枚 魔法 27枚 罠 10枚
Sin トゥルース・ドラゴン
究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン
究極宝玉神 レインボー・ドラゴン
幻魔皇ラビエル
Sin レインボー・ドラゴン
ダークネス・ネオスフィア
護封剣の剣士
カオス・ソーサラー
砂塵の悪霊
邪帝ガイウス
サイバー・ドラゴン
霊魂の護送船
阿修羅
E・HERO バブルマン
グラナドラ
処刑人−マキュラ
デーモン・ソルジャー
憑依装着−ヒータ
火霊使いヒータ
ネクロ・ガードナー
エクシーズ・エージェント
サイバー・ウロボロス
バトルフェーダー
うずまき
馬の骨の対価
エクシーズ・チェンジ・タクティクス
終わりの始まり
幻惑の巻物
強欲な壺
コマンドサイレンサー
ジャックポット7
ジャックポット7
ジャックポット7
神剣−フェニックスブレード
閃光の双剣−トライス
時の飛躍
手札抹殺
貪欲な壺
バブルイリュージョン
マジック・プランター
闇の誘惑
RUM−アージェント・カオス・フォース
RUM−アストラル・フォース
RUM−アストラル・フォース
RUM−バリアンズ・フォース
RUM−バリアンズ・フォース
RUM−リミテッド・バリアンズ・フォース
RDM−ヌメロン・フォール
RDM−ヌメロン・フォール
RDM−ヌメロン・フォール
イタクァの暴風
火霊術−「紅」
奇跡の残照
強化蘇生
攻撃の無敵化
砂塵の大竜巻
自業自得
DNA改造手術
デストラクト・ポーション
デモンズ・チェーン


エクストラデッキ
CNo.9 天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア
No.9 天蓋星ダイソン・スフィア
迅雷の騎士ガイアドラグーン
FA−クリスタル・ゼロ・ランサー
No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ
CNo.101 S・H・Dark Knight
CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー
CNo.39 希望皇ホープレイV
CNo.39 希望皇ホープレイ
CNo.39 希望皇ホープレイ
CNo.39 希望皇ホープレイ
No.39 希望皇ホープ
No.39 希望皇ホープ
No.39 希望皇ホープ
SNo.39 希望皇ホープONE



使い方

 作中の鷹野さんと同じように使えばOK!
 さあ、君も鷹野さんになりきってみよう!







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