2月14日。
それは、全国の男子諸君のありとあらゆる感情が錯綜する1日である。
ある者は期待を。
ある者は不安を。
そして、ある者は憎悪の感情を。
様々な感情を抱く男子諸君は、2月14日という、この美しくも儚い、それでいで冷徹な1日を過ごすのだ。
これを、イベントなどという軽い言葉で片付けるのは不適切であろう。
そう。これは戦いだ。
男としての誇りを賭けた戦い。
その戦いに、勝つか、負けるか。
誇りを保てるか否か。
今日、この日の終わりに、自分を待つのは何者か？
未来へ続く光か？ あるいは、未来を阻む闇か？
今はまだ分からない。
それでも、未来を掴むために、男子諸君は戦う。
何のことかって？ 野暮なこと訊くなよ。今日はバレンタインデーだよ。
プロジェクトGY
製作者：あっぷるぱいさん
『プロジェクトCT』が未読の方は、まずそちらからお読みください。
皆さん、おはようございます。あるいはこんにちは、場合によってはこんばんは。
僕のことを覚えているだろうか？
そう、僕の名は……公式的にはない。とりあえず、このシリーズではパラコンボーイと呼ばれているけどね。
さて、今日は2月14日。ご存知、全国の男子諸君にとってはハラハラドキドキな1日――バレンタインデーだ。
さすがにバレンタインデーともなると、同学年の女の子全員（1人を除く）から好かれている僕であっても緊張してしまう。そのせいか、周囲の景色や空気が何だかいつもと違うものに感じられてくる。
落ち着くんだ……僕。大丈夫だ。今日この日のために、僕はこの1年間、血の滲むような努力をしてきた。よって、同学年の女の子（1人を除く）からの人気は僕1人が独占していると言っていい。つまり、今日、僕が女の子からチョコをもらえる可能性は、限りなく100%に近いのだ！
一昨年と去年は、何故かチョコをもらうことができなかったが、多分、あれは怪奇現象か何かだろう。あるいは、ホントはチョコを渡したかったんだけど、あまりにも僕がカッコ良すぎたせいで、引け目みたいのを感じちゃって渡せなかったとか、そんなとこだと思う。
カッコ良すぎるが故に、女の子が引け目を感じてしまった――我ながら、これは的を射た考えだと思った。だって、そうでもなけりゃ、同学年の女の子（1人を除く）にとって、もはやアイドル的存在である僕が、バレンタインデーに1個もチョコをもらえないなんて、どう考えたっておかしいもん。
なるほど、カッコ良すぎるのも考えものなんだなぁ、と僕は思った。
思い込み
（罠カード）
激しすぎると危険。
「パラコン君、おはよ〜」
僕がしみじみとしていると、後ろの方から聞き覚えのある声がした。同じクラスの女の子――真田杏奈さんだ。
「おはよう、真田さん。そうだ、これ昨日買ったパックに入ってたんだけど、僕には使えそうにないから、真田さんにあげるよ」
挨拶をすると同時に、僕はブレザーのポケットからレアカードを1枚取り出した。フッ！ 挨拶と同時に、レアカードのプレゼント！ これによって、真田さんの僕へ対する好感度が上昇することは間違いない！
「あ、『神の宣告』のゴールドレア仕様じゃん！ これ欲しかったんだぁ〜！ ありがとうパラコン君！」
カードを手に取った真田さんは、満面の笑みを浮かべている。フフ……これで、真田さんからチョコをもらえる確率は上昇したな。
カードあげるぜ！
（魔法カード）
相手が欲するカードを自分があげる事により、相手の自分に対する好感度が20ポイントアップする。
「そう言えばさ、パラコン君。パラコン君は、ホワイトデーに誰かにお返しとかするの？」
『神の宣告』のゴールドレア仕様を嬉しそうな顔で眺めつつ、真田さんは僕にホワイトデーの予定について訊ねてきた。
なるほど、ホワイトデーか。そうだね、ホワイトデーにはどんなお返しをしようか……――
…………。
…………あれ？
危うくスルーするところだったが、僕は真田さんの問いが、どこかおかしいことに気付いた。
ほ……ホワイトデーって……今から1ヶ月後だよね？ 何で1ヵ月後のことを訊ねてくるんだ？ 少し、気が早くないか？
「もうホワイトデーは来週だけど……、まあ、パラコン君のことだから、準備は万端なんだろうね。そうでしょ？」
嬉しそうな顔を崩さずに、真田さんは僕に顔を向けてきた。……って、ちょっと待ってくれ！？ 真田さん今、「ホワイトデーは来週」って言ったよな！？
ま……待てよ……？ 今日がバレンタインデーなんだから……ホワイトデーは1ヵ月後の3月14日であって……え〜と……え〜っと……？？
「真田さん。今日って、何月何日だっけ？」
何だかよく分からなくなった僕は、真田さんに今日の日付を訊ねてみた。
すると真田さんは、僕の問いかけに対し、何でもないかのように答えた。
「ん？ 今日は3月8日だよ」
…………。
…………は？
さ……3月8日！？ ちょっと待てよ！ 今日って2月14日じゃないの！？ バレンタインデーじゃないの！？ 全国の男の子がハラハラドキドキする日じゃないの！？
「さ……真田さん。今日って、2月14日のような気がしてたんだけど、気のせいかな？」
混乱してきた僕は、呼吸を整えつつ、もう一度真田さんに訊ねた。今日が3月8日って……そんなはずは……？
「2月14日？ そんなはずないよ。ほら、カレンダーにも3月8日って書いてあるよ」
そう言って、真田さんは携帯電話を見せてきた。携帯電話の待ち受け画面には、確かに「3月8日」と表示されている。
ば……ばばばばば馬鹿な……！？ 今日は3月8日なのか！？ う……嘘だ……信じ……られない……っ！
「ぷ……『プロジェクトBF』から1年後の……2月14日だと思ったんだけど……違うのかな？」
「え？ それは違うよ。だって、『プロジェクトBF』が終わってから3週間くらいしか経ってないじゃん。パラコン君、どうしたの？」
！？ さ……3週間だとぉぉぉぉおおおお！！！？？？
ちょ……それはおかしいだろ！ だって、どう考えても『プロジェクトBF』の掲載から1年は経ったはずだぞ！ そうだよ！ 絶対にそうだ！ 嘘だと思うなら、この小説の掲載日を見てみろよ！ 絶対1年は経ってるから！
「そりゃ、読者の皆さんの世界では1年くらい経ってるかも知れないけどさ、あたし達の世界では、3週間くらいしか経ってないんだよ。そういうわけだから、とりあえず落ち着きよ、パラコン君」
…………っ！？
そ……そういうことか……！
てっきり僕は、この小説内の時間軸とこの小説の掲載時期が一致しているものだと思ってたけど……どうやら、そうではないらしい……。
この作品の掲載日は2月14日。
けど、僕らの世界での日付は3月8日。
ただ、それだけのことだ。
……ふぅ。僕としたことが、冷静さを欠いていたらしい。
つまり、今日、全国の男の子がハラハラドキドキするのは、読者の皆さんの世界だけらしい。なるほどね……。
しかし、まさか『プロジェクトBF』から3週間ほどしか経過してないとは……驚いたな。
でも、ある意味では当然なのかも知れない。だって、去年（2009年）は一昨年（2008年）ほどストーリーが進行しなかったし。
去年に掲載されたプロジェクトシリーズは、『プロジェクトBF』、『番外プロジェクト』、『プロジェクトFT』、『プロジェクトCT』の4作品。この内、『番外プロジェクト』と『プロジェクトFT』は、本編には直接関連しないお話だ。つまり、本編に関連するのは残る2作品――『プロジェクトBF』と『プロジェクトCT』――ということになる。
そんでもって、作者の設定では『プロジェクトCT』は『プロジェクトBF』から2週間後のお話らしいから、今作が『プロジェクトBF』から3週間しか経過していないというのも無理ないかも知れない。
とりあえず、今日が3月8日ということは分かった。
けど……じゃあ、これからどうしよう？ 僕、バレンタインデーネタをやる気満々だったんだけどな。でも、バレンタインデーでない以上、バレンタインデーネタはできないし……。う〜む。
3月8日か……。少し早いけど、ホワイトデーネタをやるか？ いやぁ……でもなあ……。読者の皆さんは3度目のバレンタインデーネタを期待していた（かも知れない）はずだから、その期待を裏切るというのはどうも……。
…………あっ。
一応、3度目のバレンタインデーネタを行う方法が、あるにはあるな。
僕はブレザーのポケットから1枚の魔法カードを取り出した。
たった今思いついた、バレンタインデーネタを行う方法――それは、この魔法カードの力を最大まで発揮することだ。このカードのテキストを素直に読み取れば、決してそれは不可能なことじゃない！
そう！ この魔法カードの力を最大まで発揮すれば、この状況下であっても、バレンタインデーネタを行うことが可能なのだ！ かなり大掛かりな方法ではあるけど、もうそれしか方法はない！
けど、このカードの力を最大まで発揮するというのは、僕1人の力ではできることじゃない。つまり、誰かの力を借りる必要がある。
例えば、今モニターを見ている読者さんの力を借りるとか……。
率直に言おう。
3度目のバレンタインデーネタを行うためには、今モニターを見ている君の力が必要なんだ！ 僕1人の力じゃ、3度目のバレンタインデーネタを行うのは無理だけど、強き魂を持つ君の力があれば、3度目のバレンタインデーネタを行うことは決して不可能じゃない！ そう！ 僕と君の“結束の力”で、3度目のバレンタインデーネタに辿り着くことができるんだ！
「フッ……力を貸してやるぜ！」と思った君は、今すぐに下のリンクをクリックして、僕に力を貸してくれ！ 決して変なページに飛ばされるリンクじゃないから、安心してクリックしてほしい！
僕と君の“結束の力”が、プロジェクトシリーズを救う！
結束の力
（魔法カード）
遊戯王と言ったら、やっぱりコレだよね！
フッ……力を貸してやるぜ！
