番外プロジェクト3 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜

製作者:あっぷるぱいさん




 この作品は、『プロジェクトシリーズ』と、豆戦士さん作の『決闘学園!』、『決闘学園! 2』のコラボレーション小説(執筆許可済)であり、『番外プロジェクト2 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜』(豆戦士さん作品)の続編です。
 『決闘学園!』、『決闘学園! 2』、『番外プロジェクト2 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜』が未読の方は、そちらからお読みください。
 私(あっぷるぱい)の作品が未読の方は、この小説を読む前でも、読んだ後でも、目を通してみると、より楽しめる……かも知れません。



 
<目次>

 プロローグ
 1章 ルール説明
 2章 特訓の成果
 3章 当然の結果
 4章 蘇る切り札
 5章 1ポイントの命
 6章 5人目の正体
 7章 運
 8章 ラスト・デュエル
 エピローグ


プロローグ

 某月某日。
 プロジェクトシリーズのヒロインを務めるこの私――鷹野(たかの)麗子(れいこ)は今、とある健康ランド内のサウナルームにいる。
 ある女性と一緒に。
「……で、本題は何なのよ鷹野ちゃん。というか、何もこんな暑苦しい場所で話す必要はないんじゃない?」
 サウナならではの熱気に顔をしかめつつ、女性――朝比奈(あさひな)翔子(しょうこ)さんが言ってくる。
 私たちがサウナルームに足を踏み入れてからおよそ1時間。朝比奈さんはおそらく、早くこの暑苦しい部屋から出たくてたまらないのだろう。
「朝比奈さんってサウナ苦手なんですか? なら、場所を変えてあげてもいいですけど」
 意地悪く私がそう言うと、朝比奈さんは鼻で笑った。
「分かってないわねぇ。あたしはあんたの身を案じてるのよ。あんた、さっきから顔色が良くないわよ。痩せ我慢してるんじゃないの?」
「我慢なんてしてませんよ。朝比奈さんこそ、顔つきが歪んできてますけど、大丈夫ですか?」
「あたしの顔が歪んでるって……そんなわけないでしょ。あんた、幻覚でも見てるんじゃないの? ホントに大丈夫?」
 ……ちっ。素直に負けを認めればいいものを。相も変わらず負けず嫌いな人ね、朝比奈さん。
 まあ、負けず嫌いなのは私も同じ……か。

 朝比奈さんにはああ言ったものの、本当のことを言うと、もうそろそろここから出ないとヤバいと思う。意識とか朦朧としてきてるし。
 よし。じゃあ本題と行こうじゃないの。
「実はですね、朝比奈さん。今日、私があなたを呼んだのは他でもない――」
「あ、もしかして、『番外プロジェクト2』のリベンジ戦を行いたいとか? それなら全然OKよ。望むところだわ」
 ……っ! 何で私の言いたいこと先に言っちゃうのよ!? 私のセリフが減っちゃうじゃない!
 言いたいことを先に言われ、思わず言葉を詰まらせる私。その様子を見た朝比奈さんは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「図星……って顔ね。まあ、どうせあんたのことだから、
 『かつて私は、『決闘学園!』シリーズ内でも最強レベルのデュエリスト――天神(あまがみ)美月(みつき)さんとデュエルをしたことがある。
 そのデュエルの結果は私の敗北。考えに考え抜いた戦術で、あと一息というところまで追い詰めたものの、土壇場で戦術の弱点を見抜かれ、そこからは天神さんのワンサイドゲーム。私は改めて、天神さんの強大さを思い知らされる形となった。
 無論、負けっぱなしで終われるはずがなく、私はその後、『決闘学園!』シリーズに再戦を挑んだ。その際は、『プロジェクト』シリーズのキャラ5人と、『決闘学園!』シリーズのキャラ5人で団体戦を行う形となった。
 しかし、結果はまたしても敗北。数々の策を巡らせ、その闘いに挑んだ私だったが、相手はさらにその上を行った。最終手段としてあの極悪チートデッキまで使ったというのに、それでも負ける始末。
 しかも、上記二つの闘いの末に、私は天神さんの手によって、「ヒロインの座」と「あらゆる創作ストーリーへの出演権」を剥奪されてしまった。まあ、これらの事実は『うずまき』の秘めた第6の能力で揉み消したから、何の問題もないんだけどね。オホホホ。
 それはそうと、紆余曲折を経て、現在のところは“『プロジェクト』シリーズ<『決闘学園!』シリーズ”という構図が成り立っているわけだけど、当然の如く、こんな構図のまま黙っていられるはずがない。そこで、私は『決闘学園!』シリーズに三度目の闘いを挑むことにしたのだ』
 ……みたいなこと考えてるんでしょ? そのくらい、ここに呼ばれた時点で分かるわよ、鷹野ちゃん」
 思わず、「この女、体内にミレニアム・アイでも仕込んでんじゃねーの?」と言いたくなるぐらいに、朝比奈さんは私の考えていたことを隅から隅まで言い当てやがった。
 く……っ! 全部お見通しってワケね! やるじゃないの! こうでなくちゃ面白くないわ!
「さすがですね朝比奈さん。その通りですよ。私の目的は、あなた方に三度目の闘いを挑むことです。今度こそは……勝たせてもらいますよ」
「言ってくれるじゃないの。まあ、『勝たせてもらう』って言葉は、そっくりそのまま返させてもらうけどね」
 思ったとおり、朝比奈さんは私の挑戦をすんなりと受け入れてくれた。そう。彼女の性格を考慮すれば、こうなることはある種の必然。予測することは至極容易。
 これで、「私たち」のここ数ヶ月の努力は無駄にならずに済みそうだわ。
「ところで鷹野ちゃん。あんた、まだこの部屋から出る気はないの?」
 朝比奈さんが訊ねてくる。彼女の表情を見てみると、先ほどのいたずらっぽい笑みが消え、単にダルそうな表情へと変化しているのが分かる。
 いよいよ限界……ってトコかしら。
「え? まだまだ余裕ですけど……。朝比奈さん、出たいなら先に出てもらっても構いませんよ?」
 当然の如く、私は意地悪く返答する。それを聞いた朝比奈さんは、またもや鼻で笑った。
「あたしがいつ、ここから出たいなんて言ったのよ。あんたこそ、ホントはもう限界なんじゃないの? 10分前よりも声が低くなってるわよ」
 素直じゃない女ね……。早く負けを認めなさいよ。でないと、私が外に出られないじゃないの。
「ふふ……朝比奈さんこそ、顔つきがさっきよりも恐くなってますよ。大丈夫ですか?」
「顔つきが恐い? ……笑っちゃうわね。それはあんたが見てる幻影よ。本当のあたしは、余裕の表情を浮かべてるわ」
「朝比奈さん。それは違いますよ。あなたはただ、この熱気で脳をやられて、『私が幻覚を見ている』と思い込んでいるだけです。」
「おかしなこと言うわね。あんたこそ、熱気で脳をやられたんじゃないの? あんたはきっと、『『あんたが幻覚を見ている』とあたしが思い込んでいる』と思い込んでるのよ」
「それこそ大きな間違いです。どうやら、朝比奈さんはかなり危険なところにまで来ているようですね。あなたは『『『私が幻覚を見ている』とあなたが思い込んでいる』と私が思い込んでいる』と思い込んでるんですよ」
「い〜や、違うわね。あんたこそ、いい加減に外に出た方が良いわよ。いい? あんたはね、『『『『あんたが幻覚を見ている』とあたしが思い込んでいる』とあんたが思い込んでいる』とあたしが思い込んでいる』と思い込んでんの。そろそろ認めなさいよ」
「朝比奈さん。落ち着いてください。あなたは『『『『『私が――――

 かくかくしかじか
 (魔法カード)
 話を短縮し、ストーリーを高速回転させる。




1章 ルール説明

 かくかくしかじかで1週間後。
 よく晴れた朝の9時半。場所は国立デュエル競技場・控え室。
 学校の教室1つ分くらいの広さはあるこの控え室にて、私は今日の闘い――3回目となる、『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズの闘い――に思いを馳せていた。
 いや、私だけではないだろう。きっと、ここにいるメンバーは皆、何か思うことがあるはず。
「う〜……だんだん緊張してきた……」
 大人しそうな感じの女子中学生――川原(かわはら)静江(しずえ)さんが、弱々しく声をあげた。
 そんな川原さんを、活発な感じの女子中学生――真田(さなだ)杏奈(あんな)さんが、明るい声で励ます。
「静江〜。あんまり深く考えすぎるなっての。ほら、リラックスリラックス!」
 そう言って、真田さんは川原さんの背中を軽く撫でた。
 緊張し始めてきた川原さんとは対照的に、真田さんにはあまり緊張した様子がない。普段から対照的な2人だけど、何だかんだで仲は良いのよね。
「静江! こんな風に緊張してきたときはどうするんだっけ?」
「え……あ……何だっけ?」
「ほら、手の平に『二次方程式の解の公式』を書いて飲み込むんだって教えたでしょ」
「え……え〜と……『(上底+下底)×高さ÷2』だっけ……?」
「もぉ〜違うよ! それは『三平方の定理』でしょ! あたしが言ってんのは『二次方程式の解の公式』だよ〜!」
 2人のやり取りを見ていて、私は軽い頭痛を覚えた。
 真田さん……『(上底+下底)×高さ÷2』は『三平方の定理』じゃなくて、台形の面積を求める公式よ。……というか、そもそも緊張したときに手の平に書いて飲み込むのは『人』という字よ。どこから『二次方程式の解の公式』が出てきたの?
「う〜……もう忘れちゃったよ。何だっけ、『二次方程式の解の公式』って……」
「んもぉ〜。言ったでしょ! ほら、アレよアレ。……え〜と……何だっけ?」
「……杏奈ちゃんも忘れちゃったの?」
「……うん。そうみたい」
「え〜! 何それ〜!」
「たはは。こりゃあ、失敬!」
「あははは!」
 2人はいつの間にやら笑い合っている。
 まあ、これで川原さんの緊張も、多少は軽減できたでしょうね。お手柄よ、真田さん。

「ところで鷹野さん」
 と、脇から男の声がした。
 この男は……と、わざわざ彼について紹介する必要はないわね。何の変哲もない、単なるパラコンボーイよ。
 私は懐から封筒を取り出し、それをパラコンに示した。
「約束の50万はここに入ってるわ。……本当に……これで最後にしてよね……。もう……これ以上は……私たちの前に姿を現さないで……」
「へっ……分かってるさ。今後はビタ一文もらう気はないから安心しなよ……って、何だこのやり取り! 何だよ50万って!!」
 パラコンがノリツッコミをしてきた。ふっ……。こいつの前でボケると、何かしら反応を示すから面白いわよね。
「で、何よパラコン。言いたいことがあるなら5文字以上3文字以内でね」
「いや、おかしいだろその条件。……あのさ、今回の闘いのルールをまだ聞かされてないんだけど……どんな感じなの?」
 闘いのルール、ねぇ。パラコンの分際で、なかなかいい質問をしてくるじゃない。
「そう言えば、開始30分前だってのに、まだルールを説明してなかったわね。いいわ。読者さんへの説明の意味も兼ねて、ルール説明と行きましょう。ほら、真田さんと川原さんも、こっち向いて」


 ★


 今回の闘い――3回目となる、『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズの闘い――のルール。
 闘いに入る前に、それをざっと説明しておくわ。

 サウナルームでの私と朝比奈さんの綿密な議論の結果、今回の闘いでは、新しいルールを一から考えるのがめんどくさいので『番外プロジェクト2 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜』とほぼ同様のルールを用いることになった。
 そう。『決闘学園!』シリーズの作者が考案した、あのルールを再び採用するのである。


 ★


「酷い手抜きだ……」
 隣でパラコンが何かぼやいたので、とりあえず、所持していたワサビをパラコンの鼻に突っ込んで悶絶させた。

 パラコンの分際で、いちいち揚げ足を取るんじゃないわよ。


 ★


 さ、話を戻すわよ。
 とりあえず、ルールについては、『番外プロジェクト2』のルールと同じ。……と言いたいところだけど、実際はほんの僅かに変更点があったりするから、ここでキッチリとルールに関してまとめておくわ。


 ルール1:
 『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズが、作品間の垣根を越えて闘う。

 ルールその1。以前の闘いと同じく、この闘いでは、『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズのキャラが、ここ――国立デュエル競技場――でぶつかり合う。
 この点については、前回の闘いと変わりないわ。


 ルール2:
 この闘いは、5人対5人の団体戦で行われる。

 ルールその2。これも前回と同じで、各シリーズともに、5人のメンバーでチームを編成し、闘うことになる。
 前回、私たち『プロジェクト』シリーズは、私、真田さん、川原さん、パラコン、そして、隠し兵器のインセクター羽蛾の5人でチームを結成し、闘いに臨んだ。対する『決闘学園!』シリーズは、朝比奈さん、吉井(よしい)さん、見城(けんじょう)さん、天神さん、それと、まさかの稲守(いなもり)さんの5人で、私たちを迎え撃ってきた。
 今回も同じように、各シリーズから選ばれた5人のメンバーが、闘いを繰り広げることになるのである。


 ★


「あれ? でも、今ここにいるのは、あたし、静江、たかのっティー、パラコン君の4人だけだよね? あと1人は?」
 真田さんが気付いたように声を発した。
 いいところに気が付いたわね。そう。今ここにいる私たちのチームメンバーは4人。1人足りないのだ。
 察しのいい人なら、もう分かるわよね。
「あと1人のデュエリストについては、後で合流することになってるわ。今はまだ秘密よ」
「ええええ!? 何それぇ! 気になるじゃん!」
 残るデュエリストの正体。それはまだ秘密。
 読者の人たちは、5人目のデュエリストの正体が誰なのか、色々と予想して遊んでみてね。

 ……と言いたいところだけど、5人目のデュエリストが誰なのかを正確に予想することは、99%不可能だと思うのよね。何故なら――。
「ちなみに、あと1人のデュエリストは、まだ『プロジェクト』シリーズに登場したことのないキャラよ。楽しみにしててね」
「……………………え?」
 私の言葉を聞き、真田さんと川原さんの目が点になる。ま、無理もないわね。
「ちょ……それどういうことたかのっティー!? まだ登場したことないキャラって……要は新キャラってこと!?」
「まあ、そうなるわね」
 5人目のデュエリスト。その正体は、まだ『プロジェクト』シリーズに登場したことのないキャラ。しかも、原作・アニメキャラではなく、オリジナルキャラだ。
 つまり、実は予想のしようがないってことね。残念だけど。
「た……鷹野さん。それってルール上、まずい……んじゃないかな……?」
 と、川原さんが遠慮がちに、気になることを言ってきた。
 まあ、彼女の言いたいことは想像がつくけど……一応、聞いておこう。
「何がまずいの? 川原さん」
「あの……『まだ登場したことないキャラ』ってことは、『まだ『プロジェクト』シリーズのキャラではない』……とも言えるよね? 今日の闘いって、『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズの闘いなんでしょ? なのに、『プロジェクト』側のチームに、まだ『プロジェクト』シリーズのキャラでない人が入ったら……ルール違反じゃないかな?」
 なるほど。未登場キャラを『プロジェクト』側の人間として、私たちのチームに入れるのは違反行為ではないか? 川原さんはそう言いたいわけね。
 うん。確かに、彼女の意見には一理ある。
 しかし、彼女には、根本的に見落としている部分がある。
「大丈夫よ川原さん。この小説のタイトルを見てみて」
「?」
 この小説のタイトルは『番外プロジェクト3 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜』となっている。そう。この作品は『番外プロジェクト』、すなわち、『プロジェクト』シリーズの番外編なのだ。
 つまり。
「この小説も、『プロジェクト』シリーズの一作品。たとえ新キャラだろうと何だろうと、この作品に登場してしまえば、その瞬間から、その新キャラは『プロジェクト』シリーズのキャラの一員となるのよ!」
「……! な……なるほど!」
 自分が見落としていたことに気付いたのか、川原さんが目を見開いた。ふふ……納得してくれたようね。
 ……まあ、これだけだと、「いや、『決闘学園!』シリーズの番外編とも考えられるよ」と反論する者もいるかも知れない。でも、この小説の作者名は「あっぷるぱい」となっている。この「あっぷるぱい」という生命体は、『プロジェクト』シリーズの作者だ。よって、この作品が『プロジェクト』シリーズの番外編であることは、厳然たる事実と言えるだろう。
 言い換えれば、この作品の作者が『決闘学園!』シリーズの作者だった場合、この作品は『決闘学園!』シリーズの一作品となるため、『プロジェクト』側は新キャラを投入することができない。逆に『決闘学園!』側は、新キャラを投入しても問題ないわけだ。
 結論。この作品が『プロジェクト』シリーズの一作品である以上、私たち『プロジェクト』側が新キャラを投入することは何の問題もない!

「屁理屈にしか聞こえないな……」
 背後でパラコンが何か呟いたので、とりあえず、所持していた鉄パイプでパラコンのスネを殴って悶絶させた。

 パラコンは大人しく、地面に這いつくばってなさい。


 ★


 ルール3:
 デュエルの対戦カードは、1戦ごとにランダムに決定される。
 1度でもデュエルに負けたデュエリストは、それ以降の闘いに参加することができない。
 引き分けの場合は両者そのままで、改めて次に闘う2人がランダムに選ばれる。
 先に相手チームの5人を全滅させた方の勝ちとする。

 このルールも、前回の闘いと同じ。
 対戦ごとに両チームから1人が選ばれ、選ばれた2人のデュエリストがデュエル。勝った方に変化はないが、負けた方はそれ以降のデュエルを行えなくなる。そして、残るメンバーからまた新たに2人がランダムに選ばれる。これを、どちらかのチームが全滅するまで繰り返す……ってことね。


 ルール4:
 この闘いにおけるデュエルは、マスタールール(OCGルール)で行われる。
 禁止・制限・準制限カードは、2010年3月1日〜2010年8月31日のものに従う。

 さて、禁止・制限ルール等に絡んだルールその4だけど……。このルールだけは若干、前回と違いがある。
 前回の禁止・制限・準制限カードについては、2009年9月1日〜2010年2月28日のものに従っていた。しかし、今回は2010年3月1日〜2010年8月31日のものに従うことになっている。
 まあ、これは単に、執筆時期に合わせて変更になっただけね。

 それから、今回のデュエルがOCGルール……つまりはマスタールールで行われることについて、不審に思った人は相当鋭い。
 私たち『プロジェクト』シリーズの人間は普段、いわゆる原作ルール(スーパーエキスパートルール)を用いたデュエルをしている。対する『決闘学園!』シリーズは、OCGルールを用いたデュエルをしている。互いに準拠しているルールが違うのだ。
 さっきも述べたように、この作品は『プロジェクト』シリーズの一作品だ。ならば、デュエルのルールは原作ルールを用いて行うべきじゃないか? そう思われた方もいるかもしれない。

 ……まあ、結論から言ってしまえば、別に深い意味はなく、単に作者がOCGルールのデュエルを書いてみたくなったからって理由でこうなっただけなんだけどね。

 私たちにしてみれば、原作ルールの方が都合がいいのに……。 
 ホント、薄情な作者よね……。


 ルール5:
 闘いが行われる会場(国立デュエル競技場)に、1人1つずつのデッキ、エクストラデッキ以外のカードを持ち込むことはできない。

 持ち込めるカードについてのルール。このルールについては、ルール1〜3と同様、変更点はない。
 強いて言えば、前と違って、「闘いが行われる会場」がどこであるのかが具体的に指定されている、という点が異なるくらい。
 穴を突こうと思えばいくらでも突ける点も以前のままだ。
 当然、今回も存分に活用させてもらうわよ。


 さて。
 以上が『番外プロジェクト2』から引き継いだルール(一部変更あり)の全て。この5つのルールに則り、今回の闘いは行われることになるわ。


 ★


「説明は以上よ。何か質問はある?」
 私が訪ねると、背後で「はい」という声が聞こえた。
 誰かと思えば、声の主は死に損ないのパラコンボーイだった。
 パラコンの分際で私に質問するとは……いい度胸じゃない。ここはスルーするしかないわ。
「質問はないわね。じゃあ、今日は1日頑張りましょう」
「おい! 無視すんな!」
 やっぱり反応してきた。ふふ……こいつを弄くるのって本当に面白いわね。
「何ですかパラコン君。手短にお願いしますよ」
 私がそう言うと、パラコンは「質問があるかどうか訊いてきたのはテメーの方だろが! なのに何だよその言い方は!」と言いたげな目つきをしながら、質問をしてきた。
「前回の闘いでは、数々の策を張り巡らせた鷹野さんだけど、やっぱり今回も、策をたくさん考えているんですか?」
 パラコンの質問内容は、策の有無についてだった。
 ふっ。パラコンにしては、なかなか空気を読んだ質問だわ。おかげでストーリーが円滑に進む。
「そうだね〜。たかのっティーって、前回の闘いは作戦いっぱい考えてたもんね〜」
「うんうん。やっぱり、今回も何か作戦とかあるの?」
 真田さんや川原さんも気になるのか、私に訊ねてくる。
 いいわ。ちょうどいい機会だから答えてあげる。

 私は一呼吸置くと、皆の疑問に答えてあげた。



「これといった策は1つもないわ。今回は力押しでいくわよ」




2章 特訓の成果

 よく考えてみてほしい。
 この小説の作者は「あっぷるぱい」だ。
 『プロジェクト』側と『決闘学園!』側、双方の策が飛び交う究極の頭脳戦! ……なんてストーリーを、「あっぷるぱい」の固い脳ミソで書けるだろうか?

 どう考えても無理だ。

 「あっぷるぱい」が作者である以上、緻密なストーリーは書けない。
 だったら潔く力押しで行くしかない。
 ……というのが私の考えだ。

「ま、考えてみればそうだよね」
「うん。仕方のないことだよね」
 私の考えを聞き、真田さんと川原さんはすぐに納得してくれた。
 だが、ギャアギャアわめく男が約1名……。
「何だその情けない真相は! 作者もっと頑張れよ! 頑張れば皆もきっと認めてくれるからさぁ!」
 パラコン。こいつだけは何故だか納得しない。まったく、作者が変われば作風も変わる、ということくらい分からないのかしら? この男は。
 とりあえず、ミカン汁をパラコンの目にかけて悶絶させると、私は真田さんと川原さんに向かって言った。
「策はない。けど私たちは、この数ヶ月間、厳しい特訓を重ねてきた。そして、その特訓の結果、“強さ”を手に入れたはずよ。策なんて必要ないくらいに、ね」
 そう。私たちは何も、一切の準備なしに『決闘学園!』シリーズに闘いを挑むわけじゃない。今日の闘いに備え、この数ヶ月の間、私たちは厳しい特訓を重ねてきたのだ。まあ、その特訓がどんな内容だったのかをここで語ると、この小説が文庫本2045ページ相当にまで膨れ上がってしまうから、詳しくは語らないけど。
 とりあえず、以前とは比較にならないほど、私たちのデュエリストレベルは上昇している。このことは、自信を持って言うことができるわ。
「そ……そうだよね! あの特訓のおかげで、私たち、ここまで強くなれたんだもんね!」
「言われてみりゃそーだ! まさか『決闘学園!』の連中も、あたしたちがここまで強くなってるとは思ってないでしょ!」
 私の一言で、真田さんと川原さんの士気が上がる。
 そう。私たちには、策はもういらない。
 行く手に敵が立ち塞がるなら、真正面からぶつかって打ち砕く!
 それが、今回の私たちの闘い方!
「じゃあ、今日は1日頑張りましょう」
 そう言って、私は右手を前に出した。
「あたしたちの力、見せてやろうね!」
 真田さんが、私の手に重ねるように右手を置く。
「悔いの残らないデュエルにしようね!」
 さらに、その手に重ねるよう、川原さんが右手を置いた。


「「「『プロジェクト』シリーズ! ファイッ! オーッ!!」」」


 3人の声が揃った。
 ふっ……完璧なチームワークだわ。
 青春っていいなぁ、と私は素直に感じた。

 ……と、人がせっかくいい気分に浸ってるのに、後ろでパラコンが「おい! 僕を仲間外れにするなよ! 僕だって『プロジェクト』シリーズの一員だぞ! つーか主人公だぞ! 僕のことを忘れるなチキショオォォォオオオ!!」とかうるさいので、所持していた消火器をぶちまけて悶絶させておいた。


 ★


 さて、時刻は午前10時。
 そろそろ、第一試合が開始されるわね。

 デュエルリングで行われるデュエルは、控え室にあるディスプレイを通して観戦することができる。けど、デュエルリングから控え室の様子を知ることはできない。つまり、観戦者からのアドバイスは不可能ということになる。この点は前回と同じだ。また、『決闘学園!』側の人たちも、この控え室と同じ作りの控え室で待機している、という点も以前と変わらない。
 現在、ディスプレイには、やはり前回同様、豪華なビンゴマシーン(端的に言って、《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》の形をしている)が2台映されている。一方のマシーンには青い球が5つ、もう一方のマシーンには赤い球が5つ入っており、対戦カードはこのビンゴマシーンによって決定される。

 要するに、何から何まで全部前回と同じという超手抜き設定ってことよ。
 まあ、強いて言うなら、今回はビンゴマシーンに細工することができなかった、という点が異なるわね。
 そう何回もできるものじゃないわよ。あんな高等技術。

「あ、ビンゴマシーンが回り始めた!」
「ビンゴマシーン、ゴーゴー!」
 ビンゴマシーンが動き出したようだ。何故か、真田さんと川原さんはノリノリだ。
 動き始めてから数10秒。片方のマシーンが「1」と書かれた青い球を吐き出し、もう片方のマシーンが「2」と書かれた赤い球を吐き出した。それと同時に、先攻後攻の選択権を持つデュエリストを決めるルーレットが回りだし、青い球を指して動きを止める。
 青が「1」、赤が「2」。
 私は横にある小さなサブディスプレイに目を向けた。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ(♪)1.???
2.川原 静江2.???
3.<匿名希望>3.???
4.鷹野 麗子4.???
5.真田 杏奈5.???
 
(♪)は先攻後攻の選択権があるデュエリスト
 


 ↑を見て分かるように、前回と同じく、相手チームがどの番号に誰を割り当てたのかは、実際に闘ってみるまでは分からない。
 『プロジェクト』側の一番手はパラコン。しかし、相手の一番手が誰なのかは分からない。相手側も同様に、こちらの一番手がパラコンであることは分からない、ということだ。
「僕の名前はパラコンボーイじゃないってのに……」
 パラコンは、サブディスプレイを見て何やらブツブツと不満を口にしている。何が不満なのかしら? 私にはさっぱり理解できない。
「パラコン。早くデュエルの準備に取り掛かりなさい」
「はいはい……」
 釈然としない、という顔をしつつも、パラコンはデュエルディスク(アニメ版だから変形するぜ!)を腕に取り付け、2つのデッキを持って控え室を出て行った。

 さて、パラコンは先攻後攻の選択権を得ているのね。
 なら……相手があの人でなければ、この試合は勝ったも同然ね。


 ★


「それでは、これより第1戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」

 しばらくして、ディスプレイにデュエルリングの様子が映し出された。
 前回同様、黒服の審判の宣言を受け、私たちのチームの一番手・パラコンボーイがデュエルリングに上がってきた。それと同時に、『決闘学園!』チームの一番手もデュエルリングに上がってくる。
 相手の一番手は……誰かしら?

「お、アンタは確かパラコンボーイだよな? 噂は聞いてるぜ! アタシは見城(かおる)だ! よろしくな!」
「うん。こちらこそよろしく」

 見城薫さん。
 なるほど、彼女が『決闘学園!』側の一番手なのね。

 見城さんと言えば、前回の闘いでは、私の持つ極悪チートデッキに瞬殺され、これといって目立った活躍のなかったキャラだ。そのためだろうか、正直言って、私は今の今まで彼女のことをすっかり忘れていた。
 そうよ。確かに「見城さん」ってキャラがいたわ。うん。

「ところで見城さん。僕の噂ってどういった噂なの?」
「ん? ああ、それはな! 主人公のくせして、ヒロインとのデュエルでいつも負かされてるっていう噂さ! この噂ってマジなのか!?」
「……っ! ……それは……嘘だよ。実際は、お互いに勝ったり負けたりを繰り返してるよ」
「なぁ〜んだ、嘘なのかぁ! ま、そりゃそうだよな! デュエルってのは、誰でも、勝つときと負けるときがあるゲームだし!」

 デッキシャッフルをしながら、会話を弾ませるパラコンと見城さん。
 ていうか、パラコンの奴……「勝ったり負けたりを繰り返してる」って、何デタラメなことぬかしてんのよ!
 あんた、私とのデュエルでは負けっぱなしじゃない! 代々木君にはマグレで勝ったようだけど、私には勝ったことないじゃない! ふざけたこと言ってんじゃないわよ!

 あのゴキブリ野郎……。戻ってきたら、口にバリウムを突っ込んでやるから覚悟しときなさいよ。

「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『プロジェクト』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「じゃあ、僕は先攻をもらいます」
「分かりました。それでは、このデュエルはパラコンボーイさんの先攻で行われます。……両者、構えてください」

 何はともあれ、デュエル開始だ。
 パラコン、さっさとその女を叩きのめして帰ってきなさい。
 バリウムを用意して待ってるから。

「それでは! 第1戦目、パラコンボーイ選手 対 見城薫選手。デュエル、開始ィィ!!」


「「デュエル!!」」


 初戦、開幕よ。


 デタラメをぬかしやがったクソパラコン LP:8000
 前回、大した活躍をしなかった見城さん LP:8000


「僕の先攻、ドロー! 僕は800ライフを支払い、魔法カード《魔の試着部屋》を発動! デッキの上から4枚のカードをめくり、めくったカードの中にレベル3以下の通常モンスターが含まれていれば、それらを全て特殊召喚する!」
「いきなりモンスターを特殊召喚だと!? 面白ぇ!」

 先攻を取ったパラコンは、カードを引いてすぐに魔法カードを発動した。
 《魔の試着部屋》……か。早速動き始めたわね、あいつ。


 パラコン LP:8000→7200


 パラコンは、自分のデッキの上から4枚のカードをめくると、それらを見城さんに提示した。
 当然、それらのカードは、ディスプレイ越しに私たちも確認できる。

 そして、めくられたカードを確認した私は、「なるほど」と思った。
 さすがは仮にも原作キャラ。ドロー力だけでなく、運も優れてるってわけね。

「僕がめくったカードは、《ゴキポン》、《封印の黄金櫃》、《プチモス》、《ワン・フォー・ワン》の4枚! この中で、レベル3以下の通常モンスターは《プチモス》のみ! よって、《プチモス》を特殊召喚! 他の3枚はデッキに戻すよ」
「……! 《プチモス》……だと?」

 《プチモス》は、レベル1、攻撃力300、守備力200の通常モンスター。そんな弱小モンスターが、パラコンの場に召喚された。
 ……これでいいわ。やるじゃないのパラコン。

「さらに僕は、手札の《進化の繭》を《プチモス》に装備! これで《プチモス》の能力値は、《進化の繭》の能力値が適用される!」
「《プチモス》に……《進化の繭》……! このコンボは……まさか!?」

 《進化の繭》は攻撃力0、守備力2000のモンスター。そして、モンスターでありながら、装備魔法の如く、《プチモス》に装備できる効果を持つ。
 これで、幼虫だった《プチモス》が繭になるってわけね。


 プチモス 攻:300→0/守:200→2000


「繭になった《プチモス》は、6ターン後に《究極完全態・グレート・モス》へと進化するのさ」
「なるほどな! ゆっくり時間をかけて、進化を遂げようってわけか! 面白ぇじゃねぇか!」

 見城さんの反応を見て、私は思わず高笑いしそうになってしまった。
 何てズレたコメントなのかしら?
 ゆっくり時間をかける……なんて真似をすると、本気で思ってるの?

 さあ、パラコン。さっさと見せてあげなさい! あなたの本気を!





「これが僕のキラーカード! 僕は魔法カード《時の飛躍(ターン・ジャンプ)》を2枚発動! これにより、6ターン後のバトルフェイズにジャンプ!」





「な!? 6ターン後のバトルフェイズ!? ど……どういうことだよ!?」

 《時の飛躍》は、発動した瞬間、3ターン後のバトルフェイズにジャンプする(厳密には、互いに何もプレイしないまま、3ターンずつ経過する)魔法カード。それを2枚発動したということは、計6ターンが経過したことになる。
 ……と、いうことは、どうなるか? もうお分かりだろう。

「メインフェイズ2に移行! 僕は、《進化の繭》を装備してから6ターンが経過した《プチモス》を生贄……もといリリースし、手札から《究極完全態・グレート・モス》を特殊召喚!」
「!? ちょ……おい!? 先攻1ターン目で究極完全態を出すって……こんな戦法アリかよ!?」

 6ターンが経過したことで、究極完全態と化した《プチモス》が、繭を突き破って飛翔する。
 ……何ともグロテスクな姿。私の好みじゃない。

 それはともかくとして、見城さんはパラコンの戦術を前に、驚きを露にしている。
 まあ、無理もないわね。召喚が困難と言われる《究極完全態・グレート・モス》を、先攻1ターン目に出されちゃったわけだから。

 究極完全態・グレート・モス
 効果モンスター/★8/地属性/昆虫族/攻3500/守3000
 このカードは通常召喚できない。
 「進化の繭」が装備され、自分のターンで数えて6ターン経過した「プチモス」1体をリリースした場合に特殊召喚する事ができる。

 普通、《究極完全態・グレート・モス》を場に出すには、《進化の繭》が装備された《プチモス》を6ターン守りきらなければならない。
 けど、《時の飛躍》という便利カードがあればこの通り。先攻1ターン目で究極完全態を出すことも可能なのよ。

 とは言え、「《究極完全態・グレート・モス》を1ターンで出した? だから何だよ?」と思う方もいるかも知れない。まあ、もっともな考えだと思うわ。何しろ《究極完全態・グレート・モス》は、単に攻撃力が3500あるというだけのモンスター。カード効果で破壊するなり、攻撃力を落とすなり、攻略する方法なんてごまんとある。

 なら、パラコンは何故、わざわざ《究極完全態・グレート・モス》を出したのか?
 それは、この先を見ていけば分かるわよ。

「……へっ! まさか《究極完全態・グレート・モス》を出すとはな! やるじゃねぇかアンタ! だが、メインフェイズ2に入っちまった以上、バトルフェイズを行うことはできないぜ!」

 やはり、《究極完全態・グレート・モス》を出されたくらいでは、戦意喪失、とまでは行かないようね。
 先ほどは驚きの表情を見せていた見城さんだけど、今の彼女からは余裕が見られる。まあ、パラコンはこのターンにバトルは行えないわけだし、当然と言えば当然か。

 なら……。
 このターン、パラコンがバトルを行えるとしたら?

「まだ僕のターンは終了してないぜ! 魔法発動! 3枚目の《時の飛躍》! これにより、3ターン後のバトルフェイズにジャンプ!」
「―――って、またかよぉぉぉぉおおおお!?」

 ふっ! やはりパラコンは3枚目の《時の飛躍》を持っていたわね。
 3ターン後のバトルフェイズに飛んだことで、パラコンはこのターンにバトルを行えるわ。
 残念だったわね、見城さん。

 ……というか、凄まじいまでにドロー力が安定してるわね、あいつ。必要な手札が、こうも都合よく初手に揃うなんて。これが原作キャラの力なのかしら?

「バトルフェイズにジャンプしたことで、僕は攻撃を行うことができる! よって僕は、《究極完全態・グレート・モス》で見城さんにダイレクトアタック! “モス・パーフェクト・ストーム”!」
「のわぁぁぁぁあああああ!!」


 見城さん LP:8000→4500


 色々あったけど、《究極完全態・グレート・モス》の攻撃は見城さんに見事に命中し、彼女のライフを大幅に削った。
 そう。それでいいわ。それで……。

 さあ、パラコン。
 今こそ、あの言葉を放ちなさい。





「《究極完全態・グレート・モス》が戦闘ダメージを与えたこの瞬間、僕のデュエリスト能力発動!





 見城さん LP:4500→0


「そこまでっ! 第1戦目の勝者は、チーム『プロジェクト』シリーズ!!」

 見城さんのライフが尽きたのを見て、黒服の審判がデュエルの勝者を告げた。
 勝者は当然、私たち――チーム『プロジェクト』シリーズ。

「……………………!? ちょ!? うぇぇぇぇぇえええええ!!!??? 何でアタシのライフが0になってるんだぁぁぁあああ!!! ど……どういうことだよコレぇぇぇええ!!??」

 突如、0を示した見城さんのライフポイント。
 当然の如く、見城さんは何が起こったのか分からず、パニックを引き起こしている。

 そんな彼女に向かって、パラコンは余裕の表情で言葉を口にした。

「フッフッフ……。僕のデュエリスト能力――“グラウンド・ゼロ”が発動したのさ。『正規の手順で特殊召喚された《究極完全態・グレート・モス》で、相手に戦闘ダメージを与えたとき、相手のライフポイントを0にする』。これが僕の、レベル1のデュエリスト能力だ!」
「レベル1の……デュエリスト能力!? アンタ……能力デュエリストだったのかよ!?」

 その通り。
 パラコンはね、能力デュエリストになったの。

 さっき、私たち『プロジェクト』シリーズのメンバーが、厳しい特訓を行った、という話をしたけど、実はあの特訓の結果、5人のメンバーの内4人――私、真田さん、川原さん、パラコン――にデュエリスト能力が発現したのよ。
 『決闘学園!』の2章を見たところ、デュエリスト能力とは、「十代の人間のごく一部に突然発現して、二十歳を過ぎると自然と失われてしまう異能の力」だという。ならば、中学生キャラである私たちにデュエリスト能力が発現しても、何ら不自然なことではない。

 もちろん、『プロジェクト』シリーズ本編ではこんな真似はできない。けど、『決闘学園!』シリーズとのコラボ企画であるこの小説内でなら、こういう展開だってアリなのよ。

 そんなわけで、パラコンは今、能力デュエリストなのだ。
 彼の能力はレベル1だが、『正規の手順で特殊召喚した《究極完全態・グレート・モス》で、相手に戦闘ダメージを与える』という過酷な条件さえ満たせば、一撃で相手を仕留めることのできる、強力な能力だ。
 一見、これは条件の過酷さ故、実用性のない能力に見える。
 しかし、考えてみてほしい。
 そう。パラコンは原作キャラなのだ。
 原作キャラというのはドロー力が極めて安定している。この安定したドロー力があれば、前述した一撃必殺の条件を、それこそ先攻1ターン目に満たすことも不可能ではない。
 よって、先攻さえ取れば、パラコンの勝率は“ほぼ”100%と言える。あくまで理論上ではあるが、今のパラコンなら、あのレベル5の能力を持つ波佐間(はざま)さんにも勝つことができる。

 とは言え、さすがに天神さんには勝てないんだけどね。
 何しろ、あの人にはモンスターで戦闘ダメージを与えられないし……。

「……油断したぜ。まさか、アンタが能力デュエリストだったなんてな。……しっかし、究極完全態でダメージを与えたら勝利確定って……何だか、エラくギャグっぽい感じのする能力だな! はっはっは!」

 何故か笑い出す見城さん。
 「ギャグっぽい感じのする能力」って……。今後の『決闘学園!』シリーズに登場するような、新たなデュエリスト能力とうっかりかぶっちゃったりしないような能力にしようと配慮したら、こんな形になっちゃったのよ。何か悪い?

 ……とは言え、もし本編で上記のような能力を使うつもりだったらごめんなさい。





 とりあえず、第1試合は私たちのチームの勝利。
 まずは1勝0敗……ね。




3章 当然の結果

「ただいま〜。1戦目は予定通り僕の勝ぶぐべげはぁっ!!」
 満足そうなツラを浮かべて控え室に入ってきたパラコンの口にバリウムを突っ込んで黙らせると、私は真田さんと川原さんの方へ目を向けた。
「まずは1勝ね。どう? 今の闘いを見て、私たちでも『決闘学園!』シリーズのキャラに勝つことができる、ってことが分かったでしょ?」
 私が言うと、真田さんと川原さんがうんうんと頷く。
「いや〜! まさか、あんなに綺麗に決まるとはね〜! 何か、あたしも勝てる気がしてきたよ!」
「う……うん! 何か……私にもできる気がしてきた!」
 1戦目からの勝利。それにより、チームの士気が上がってきている。
 いい傾向だわ。このまま5戦連続勝利して、ストレート勝ち! と行きたいところね。
「じゃあ、私たちもパラコンに負けないように、きっちりと勝利を収め……っと、ゴメンね」
 控え室に『渇いた叫び』の着メロが響き、私はポケットから携帯電話を取り出した。
 待ち受け画面を見てみると、見覚えのある名前が表示されている。
 思ったとおり、朝比奈さんから電話がかかってきたわ。
 私はケータイの通話ボタンを押し、電話に出た。
「もしもし。朝比奈さん」
『やってくれたわね、鷹野ちゃん。正直、デュエリスト能力を使ってくるとは思ってなかったわよ』
「ふふ……。目には目を、デュエリスト能力にはデュエリスト能力を、です。存分に活用させていただきますよ」
『楽しませてくれるじゃない。今のあんたの口調からすると、デュエリスト能力を手にしたのは、パラコン君だけじゃなさそうね』
「さあ……どうでしょう?」
『ま、いいわ。まったく、ホントにあんたって人は、油断も隙もあったもんじゃないわ。だからこそ、面白いんだけどね』
「どうも」
『それじゃあね』
 電話はそこで切れた。
 私はポケットにケータイをしまいつつ、先ほどの朝比奈さんの言葉を脳内で反芻した。
 『デュエリスト能力を使ってくるとは思ってなかった』……か。
 朝比奈さんの言ってることが本当なら、私たちがデュエリスト能力を使うことは、彼女たちにとっては想定外だったということになる……わね。
 いや、想定外か想定内か、そんなことはどっちだっていい。
 要は勝てばいいのよ、勝てば。


 ★


 1戦目終了から約10分後。
 第2戦の対戦カードを決めるべく、ビンゴマシーンが再び回転を開始した。
「ビンゴマシーン、ゴーゴー!」
「ゴー! ビンゴマシーン!」
 先ほど同様、何故かノリノリの真田さんと川原さん。そんなに面白いのかしら?
 それはともかく、マシーンの一台が「3」と書かれた赤い球を、もう一台のマシーンが「1」と書かれた青い球を吐き出した。そして、ルーレットが回転し、青い球を指し示した。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ(♪)1.???
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.???
4.鷹野 麗子4.???
5.真田 杏奈5.???
 


 私たちのチームからは、再びパラコンが選ばれた。しかも、先攻後攻の選択権まで得ている。
「先攻後攻の選択権はまた僕にあるのか! この勝負はいただいたも同然だな!」
 背後でパラコンが自信満々に言った。……何だか敗北フラグっぽくなるからやめてほしいんだけど、そういうセリフ。
「またパラコン君かぁ〜! 頑張れ! 目指せ2連勝!」
「頑張ってね! パラコン君!」
 真田さんと川原さんが、パラコンに応援の言葉をかけた。女子2人の応援を受けたパラコンは、デュエルディスクを装着しつつ、
「うん。任せといて。むしろ、このまま4連勝してあげるよ」
 と、これまた自信満々に言ってみせた。
 パラコンの奴、1戦目で1キルが上手いこと決まったせいか、相当図に乗ってるわね。少し、目を覚ましてやらないと。
「パラコン。そんだけ自信満々に言っといて負けたりしたら、次は口から胃カメラを突っ込むことになるから覚悟しときなさいよ」
「……わ……分かった」
 私の言葉を聞いた途端、余裕に満ちていたパラコンの表情が、一気に追いつめられた表情へと変化した。そして、ぎこちない動きで2つのデッキを持つと、その動きのまま控え室を出て行った。

 ふふ……。しっかり勝利を掴んでくるのよ、パラコン。胃カメラの恐怖を味わいたくなければね……。


 ★


「ところでさぁ〜、たかのっティー。まだここに来てない<匿名希望>さんって、どんな人なの?」
 パラコンが控え室を出てからほんの数秒。真田さんが、まだ姿を見せないメンバー――<匿名希望>さん――について訊ねてきた。
「あ、私も気になるな……。どんな人なの? 鷹野さんの知り合い?」
 川原さんも気になるらしく、<匿名希望さん>について訊いてくる。
 今回の闘いにおける特別ゲスト(前作で言うインセクター羽蛾ポジション)であり、なおかつ、初登場キャラである<匿名希望>さん。それは一体、どのような人物なのか?
 そう言えば、<匿名希望>さんがどんな人なのかについては、「『プロジェクト』シリーズには未登場」ということ以外は詳しく話してなかったわね。

 いいわ。<匿名希望>さんについて、少しだけ明かしてあげる。
 そう思って、私は2人に対してこう答えた。


「<匿名希望>さんはね、私にM&Wを教えてくれた人なのよ」


「え!? たかのっティーにM&Wを教えた人!?」
 予想外の答えだったのか、真田さんは驚きを露にする。
「そ……そんな設定あったんだ……!」
 川原さんはというと、結構鋭いツッコミを入れてきた。

 ええ、そうよ。もちろん後付け設定だけど、それが何か?

「たかのっティーにM&Wを教えたってことは、つまり、<匿名希望>さんは、たかのっティーの師匠ってこと?」
「まあ、そうなるわね」
 師匠と言うと大げさな気もするが、間違ってはいない。事実、私のデュエル技術のほとんどは、あの人に教わったものだし。
「ね……ねえ。鷹野さんの師匠ってことは、もしかして……」
 川原さんが何かを言おうとして、言葉を詰まらせる。多分、その先を言っていいのかどうか、迷ってるのね。
 私はそんな川原さんの気持ちを察して、彼女の言わんとしていることを口にした。

「ええ、そうよ。<匿名希望>さんは、私よりも遥かに強いデュエリストだわ」

 悔しいけど、今の私では、まだあの人には勝てないだろう。
 そのくらい、あの人は腕の立つデュエリストだ。
「! ……鷹野さんよりも……強いデュエリスト……。そんな人が、私たちのチームに入ってたんだ……」
 たった今明かされた事実に、呆然とする川原さん。
 一方、真田さんはテンションが上がってきている。
「すげぇ! そんな強力な隠しキャラがウチのチームに入ってたんだ〜! いやぁ〜、たかのっティーがいるだけでも心強いのに、たかのっティーの師匠まで来てるって言うんじゃ、もう百人力じゃん!」
 百人力……。そうね。確かにあの人なら、『決闘学園!』の人間が相手だとしても、いいデュエルをしてくれると思う。
 もちろん、そう思うのにはちゃんとした理由がある。何しろ、あの人は……。


「あ、パラコン君がリングに上がってきたよ!」
 と、真田さんがディスプレイを見て叫んだ。
 どうやら2戦目が始まるようね。

 さて、パラコンには一応、脅しをかけたりはしたけど、何だかんだで彼の能力があれば、相手が天神さんだったりしなければ勝てるはずだ。
 さすがに100%勝てるとは言えない。が、相手にしてみたら、パラコンの1キルを妨害する手段が限られていることも事実だ。
 運よく《クリボー》とか《バトルフェーダー》とかを引き当てれば妨害できるが、その手のカードを引き当てることができなければ、その時点で敗北決定。非常に運の要素が絡んでくる。
 このデュエルは、パラコンと対戦相手、双方の運が試されるデュエル。……と言っても過言ではないかも知れないわね。

「あ、対戦相手は天神さんじゃないみたい。良かったね! これなら勝てるよ!」
 横で真田さんが嬉々とした表情で言った。
 あら、パラコンの対戦相手は天神さんじゃないのね。それは良かったわ。

 と、真田さんの声を聞き、ひとまずは安心した私。
 だが次の瞬間、黒服の審判の宣言を聞くことにより、超キュートで全世界の男性を虜にする私のお肌に鳥肌が立つこととなった。



「それでは! 第2戦目、パラコンボーイ選手 対 遠山(とおやま)力也(りきや)選手。デュエル、開始ィィ!!」



 ……と……と…………ととと遠山力也ぁぁぁぁぁああああああ!!!!????

 ディスプレイを見てみると、パラコンの対戦相手が背の高い男であることが分かる。
 あのどこか野生児を思わせる風貌の男は……間違いなく遠山力也!!


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ(♪)1.???
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.???
5.真田 杏奈5.???
 


 遠山さんと言えば、『決闘学園! 2』に登場した、翔武学園のライバル校・東仙高校のデュエリストだ。
 朝比奈さん……まさか、またライバル校の人間をメンバーに入れていたとは……。

 それはそうと、遠山さんはその実力もさることながら、非常に厄介なデュエリスト能力を持っている。それも、パラコンの能力とはすこぶる相性の悪い能力を……。
 ……参ったわね。

 頭を抱えつつも、とりあえず私は、パラコンのデュエルを見てみることにした。


「僕の先攻、ドロー! 僕は800ライフを支払い、魔法カード《魔の試着部屋》を発動! デッキの上から4枚のカードをめくり、その中に含まれるレベル3以下の通常モンスターを全て特殊召喚する!
 僕がめくったカードは、《神の宣告》、《メテオ・ストライク》、《共鳴虫(ハウリング・インセクト)》、《プチモス》の4枚! この中で、レベル3以下の通常モンスターは《プチモス》のみ! よって、《プチモス》を特殊召喚!
 さらに僕は、手札の《進化の繭》を《プチモス》に装備! そして、魔法カード《時の飛躍(ターン・ジャンプ)》を2枚発動! これにより、6ターン後のバトルフェイズにジャンプ!
 メインフェイズ2に移行! 僕は、《進化の繭》を装備してから6ターンが経過した《プチモス》を生贄……もといリリースし、手札から《究極完全態・グレート・モス》を特殊召喚!
 魔法発動! 3枚目の《時の飛躍》! これにより、3ターン後のバトルフェイズにジャンプ! バトルフェイズにジャンプしたことで、僕は攻撃を行うことができる! よって僕は、《究極完全態・グレート・モス》で遠山さんにダイレクトアタック! “モス・パーフェクト・ストーム”!」


 パラコン LP:8000→7200  ※《魔の試着部屋》の発動コスト


 先攻後攻の選択権を持っていたパラコンは、当然の如く先攻を選んだのだろう。そして、またもや先攻1ターン目で《究極完全態・グレート・モス》の召喚に成功した。
 ホントにまあ、イカサマじゃないかと思えるくらい、パラコンはドローが安定している。
 普通ならこれでほぼ勝ち確定、なんだけど……。

「先攻1ターン目に即死攻撃、ねぇ……。ずいぶんと派手な真似してくれるじゃねぇか。だが、俺の前ではそんな戦法は無意味だぜ! 800ライフを支払い、俺の能力を発動する!」


 遠山さん LP:8000→7200


 遠山さんのライフが800ポイント減少する。
 そして、《究極完全態・グレート・モス》は、遠山さんにダメージを与えることなく破壊された。

 ……あぁ。パラコン、終わったわね。ご愁傷様。

「な……っ!? 何で究極完全態が破壊されたんだ!? つーか、何でライフが800しか削れてないの!?」

 慌てふためくパラコン。
 そんな彼に対し、遠山さんは勝ち誇ったような笑みを浮かべつつ、パラコンに告げる。

「これが俺のデュエリスト能力だ。『相手モンスターの攻撃宣言時に、800ライフポイント支払い、その戦闘によって発生するお互いのプレイヤーへの戦闘ダメージを0にして、ダメージステップ終了時に、フィールド上に存在する攻撃モンスターを破壊する』……テメーの戦術とは相性最悪ってわけだな」

 遠山さんは、攻撃してきた敵モンスターを、800ライフと引き換えに破壊してしまう能力を持つ。天神さん同様、「能力の発動を自らの意思で止めることができない」という欠点を抱えてはいるものの、これが強力な能力であることは確かだ。何しろ、どれだけ攻撃力の高いモンスターで攻撃しようが、800ポイントしか戦闘ダメージを与えられないのと同義なのだから。

 いや、厳密には、遠山さんには戦闘ダメージを与えることができない。何故なら、遠山さんの能力は、『お互いのプレイヤーへの戦闘ダメージを0にする』という効果を備えているからだ。
 そしてこれこそが、パラコンの能力が遠山さんの能力と相性最悪である理由。
 戦闘ダメージを0にする。すなわち、戦闘ダメージは与えられない。
 それはつまり、パラコンの能力――『《究極完全態・グレート・モス》で戦闘ダメージを与えた瞬間、相手ライフを0にする』――が事実上、封じられたことを意味する。

 今、パラコンは全ての手札を使いきった上、切り札である究極完全態も遠山さんの能力で破壊された。このためパラコンは、手札もなく、場のカードもない。
 この状況で、パラコンができることはただ1つ。

「た……ターン……エンド!」

 大人しくエンド宣言をすることだけだ。
 はぁ〜……。終わったわね、あいつ。


【パラコン】 LP:7200 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【遠山さん】 LP:7200 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


 当然、能力を封じられたパラコンに勝ち目はない。
 一応、「遠山さんのライフを800以下にする」とか「《究極完全態・グレート・モス》に対して自滅攻撃させる」とかいう抜け道はあるが、そんなことが今のパラコンにできるはずがない。

 というわけで、ここからのデュエルはダイジェストで送るよ! テヘッ♪


 ★


遠「俺のターン、ドロー! 《スピア・ドラゴン》を召喚! こいつで攻撃だ!」
パ「ぬぉぉぉぉおおおお!!!」

 パラコン LP:7200→5300

遠「《スピア・ドラゴン》は攻撃後、守備表示になる。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。へっ! 潔く諦めたらどうだ?」
パ「ぼ……僕は諦めない! ドロー!! ……も……モンスターを裏守備でセットして……ターン……エンド……」

遠「無駄な足掻きだな。俺のターン、ドロー! 俺は《二重召喚(デュアルサモン)》を発動し、《アックス・ドラゴニュート》と《ゴブリンエリート部隊》を召喚! そして、《スピア・ドラゴン》を攻撃表示に変更し、永続罠《最終突撃命令》を発動! 《ゴブリンエリート部隊》で裏守備モンスターに攻撃だ!」
パ「ご……《ゴキポン》が戦闘で破壊されたから、デッキから《進化の繭》を手札に加える……!」
遠「《最終突撃命令》の効果だ。《ゴキポン》は攻撃表示になるぜ」

 パラコン LP:5300→3900

遠「これでテメーの場はがら空きだ。あばよ! 《アックス・ドラゴニュート》と《スピア・ドラゴン》でダイレクトアタックだ!」
パ「ぬぉわあぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!」

 パラコン LP:3900→1900→0


「そこまでっ! 第2戦目の勝者は、チーム『決闘学園!』シリーズ!!」


 ★


 デュエルは終わった。
 結果はもちろん、遠山さんの勝利。「能力を封じられたパラコン! しかし、機転を利かせて奇跡の大逆転!」なんて面白い展開が起こるはずもなく、パラコンは遠山さんにあっさりと敗北したのだ。
 ま、至極当然の結果だろう。

 これで戦況は1勝1敗。
 さすがは『決闘学園!』シリーズ。そう簡単に勝たせてはくれないわね……。




4章 蘇る切り札

「みんな……ゴメン。僕、負けちゃべぐじゅぶげぉぉぁぁあああ!!!」
 申し訳なさそうな様子で控え室に戻ってきたパラコンの口に胃カメラを突っ込んで黙らせると、私は真田さんと川原さんの表情を窺った。
「パラコン君が……負けちゃうなんて……」
「うん……。こんな早くやられちゃうとは思ってなかったわ……。さすが、『決闘学園!』シリーズよね……」
 「1キル成功率およそ100%」のパラコンが、あんなにあっさりと敗北したのは、やはり、彼女たちにとっては予想外だったのだろう。1戦目の終了時に見せていた余裕の表情は消えており、戦慄しているのが分かる。
 まずいわね。この様子だと、今後の闘いに悪影響を及ぼしかねないわ。ここは士気を盛り上げてあげないと。
「大丈夫よ、真田さん、川原さん。まだ1勝1敗。充分盛り返せるわ」
「大丈夫……かなぁ?」
「大丈夫。私や<匿名希望>さんがいるんだから心配いらないわよ。あなたたちはとにかく、全力でデュエルしてくれればそれでいいわ。悔いの残るようなデュエルにしちゃ駄目よ?」
 私は2人に、勝ち負けにはこだわらず、とにかく全力で勝負をするように言った。
 まあ本当なら、負けたら顔に墨を塗るとか、恥ずかしい写真をばらまくとか、顔にパイを叩きつけるとか、アメミットに襲わせるとか、そういう罰ゲームを考案しても良かったんだけど、それだと彼女たちに余計なプレッシャーをかけてしまい、かえって逆効果になりそうなのでやめておく。
 ここは、彼女たちの恐怖心を解くことを優先すべきだろう。そう思った私は、とりあえず、「勝ち負け云々よりも、悔いのないデュエルを」という姿勢を見せておいた。
「分かったわ、たかのっティー。そうだよね! せっかく今日まで頑張ってきたんだから、せめて悔いのない勝負にしないとね!」
「う……うん。私も……とにかく全力で頑張るようにするよ!」
 私の言葉によって、2人の恐怖心は、多少は和らいだと見える。
 ふっ……。2人とも扱いやす……げふんごふん! ポジティブな思考のできる人間で助かるわ。
 気負いすぎず、リラックスした気持ちで闘いに臨めばいい。そのことを忘れずにね。


 ★


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.???
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.???
5.真田 杏奈5.???(♪)
 


「お! こっちのチームは静江じゃん!」
「うぐっ!」
 しばらくして、第3戦目の対戦カードが決定した。
 ↑を見て分かるように、私たちのチームから選ばれたのは川原さん。そして、相手はまだ見ぬデュエリストだ。先攻後攻の選択権は、今回は『決闘学園!』側にある。
「よ……よし……! い……い……行って……くるよ!」
 凄まじいまでに緊張しつつ、川原さんがデュエルディスクを装着し始めた。あぁ〜……こんな調子で大丈夫なのかしらね、この子……。
「静江! リラックスリラックス! 思いっきり楽しんできなって!」
「へ……へい! た……たのしんでくるっすよ!」
 真田さんの言葉に、川原さんはガチガチになりながら返した。
 ホントに大丈夫かしら? 何だか言葉遣いがおかしくなってるけど。

 …………。
 ……そう言えば。

 私は「あること」を思い出し、念のために川原さんに声を掛けておいた。
「川原さん。“あのデッキ”を忘れずにね」
「……! あぁ〜〜! わ……忘れるとこだった……。ぱ……パラコン君……“あのデッキ”貸して……」
 ……やっぱり忘れてたわね。危ないところだったわ。
 川原さんは、パラコンからデッキを1つ受け取ると、それを「彼女自身のデッキ」が入れられたデッキケースに収めた。
 そして、デッキケースをポケットに入れると、彼女は緊張した様子を崩さぬまま、控え室を後にした。

 ……しっかり頼むわよ、川原さん。


 ★


「ねえねえ、パラコン君! 知ってた!? まだここに来てない<匿名希望>さんって、実はたかのっティーの師匠らしいよ!」
「え? 鷹野さんの師匠!?」
 川原さんが控え室を出て行った直後。
 真田さんはパラコンに、<匿名希望>さんについて話し始めた。彼女の話を聞いたパラコンは、驚きの表情を浮かべている。
「鷹野さんの師匠……ってことは……。ひょっとしてその人、鷹野さんよりも強いの?」
「そう! そうなのよ!」
「マジで!? それは意外だ! 鷹野さんよりも強いキャラがいたとぐぶふぁッ!?」
 <匿名希望>さんは私よりも強い。
 それは事実だ。否定はしない。
 でも、パラコンに言われると何故か腹が立つので、彼の足を踏んづけておいた。
「……た……鷹野さん。<匿名希望>さんって、どのくらい強い人なの?」
 足を擦りながら、パラコンが<匿名希望>さんの強さについて訊ねてきた。
「あたしも気になるなぁ。どんな感じに強いの? 鬼畜レベル? 極悪レベル?」
 パラコンの言葉を聞き、真田さんも訊ねてくる。
 <匿名希望>さんの強さ……か。
 まあ、分かりやすく言うなら……。

「あの“対天神さんデッキ”を組んだのは、実は<匿名希望>さんなのよ。……って言えば分かるかしら?」


 ★


 ここまでの文章をしっかりと読んでくれていた人の中には、何度か不思議に思ったところがあったかも知れない。
 そう。「何故、デッキを2つ持って闘いに臨むのか?」と。

 文章をよく読むと分かるけど、第1戦から第3戦まで、私たちのチームのメンバーはデッキを2つ持って闘いに臨んでいる。
 何故、デッキを2つ持って闘いに臨む必要があるのか?
 そろそろ、この点について説明しなければならないわね。

 と、それを説明する前に、今回、私たちが会場に持ち込んだカード(これから持ち込まれるカードも含む)について明らかにしておくわ。それは↓の通り。

 ●私が会場に持ち込んだデッキ(計60枚):「私本来のデッキ(40枚)」+「“対天神さんデッキ”の半分(20枚)」
 ●パラコンが会場に持ち込んだデッキ(計60枚):「パラコン本来のデッキ(40枚)」+「“対天神さんデッキ”の半分(20枚)」
 ●真田さんが会場に持ち込んだデッキ(計40枚):「真田さんのデッキ(40枚)」
 ●川原さんが会場に持ち込んだデッキ(計40枚):「川原さんのデッキ(40枚)」
 ●<匿名希望>さんが会場に持ち込むデッキ(計40枚):「<匿名希望>さんのデッキ(40枚)」

 ふふ……。要するに、前回と同じ手を使ったってことよ。
 マスタールールでは、「デッキの枚数は40枚以上60枚以下」と決められている。つまり、40枚のデッキを組んだ場合、20枚分のスペースが余ることになる。その余ったスペースを活用して、第6のデッキとも言える“対天神さんデッキ”を持ち込んだってわけね。
 私とパラコンはそれぞれ、第6デッキの半分を自分のデッキの一部として会場に持ち込んだ。これなら、「闘いが行われる会場(国立デュエル競技場)に、1人1つずつのデッキ、エクストラデッキ以外のカードを持ち込むことはできない。」というルールには抵触しない。

 こうして私たちは、前回と同じ手で第6デッキ――“対天神さんデッキ”を持ち込んだ。
 そして、ここまで説明すれば、何故私たちが2つのデッキを持って闘いに臨むのか、分かった人もいるだろう。

 そう。
 私たちのチームメンバーは皆、闘いに臨む際、自分の持つデッキと、第6デッキ――対天神さんデッキ――を所持する、と決めていたのだ。
 相手が天神さん以外であれば、自分の持つデッキで勝負する。
 しかし、相手が天神さんだった場合は、“対天神さんデッキ”で勝負する。
 それが、私たちのチーム内でのルールだ。

 何故このような真似をするのか?
 その理由は言うまでもない。あの天神さんに、普通のデッキで立ち向かって勝てるはずがないからだ。

 ならば、普通のデッキとは別に、対天神さん用のデッキを用意する必要がある。
 そうして、相手が天神さんだったときにも対処できるようにしておかなければならない。

 とりあえず、私たちは「対戦相手が不明であり、天神さんがまだ敗北していない」状態であれば、必ず、自分のデッキと第6デッキを持って闘いに臨むようにしている。
 こうしておけば、仮に相手が天神さんだったとしても、第6デッキできちんと対応できる、というわけだ。


 こういった理由で、私たちのチームは、現在のところ、2つのデッキを持って闘いに臨んでいる。
 そして、ここで述べた“対天神さんデッキ”を構築した人間。
 それこそが、<匿名希望>さんなのだ。


 ★


「え? あのデッキ作ったのって、たかのっティーじゃなかったの?」
「そうよ。情けない話だけど、私にはもう、天神さんを攻略する手段が思いつかなくてね……」
 これは本当の話だ。
 前回、前々回と、原作ルールと『おジャマトリオ』を利用した仮想ロック戦術や、ギャグ小説ならではの極悪チートデッキで天神さんに挑んだが、結局、天神さんには勝てなかった。
 悔しいが、これ以上の攻略法は私には思いつかず、ある日私は、あの人……<匿名希望>さんに、天神さんのことを話してみたのだ。

 そして、私の話を聞いたあの人は、翌日、私に1つのデッキを渡してきた。
 それが、あの第6デッキ――対天神さんデッキだったのだ。

「へぇ〜。鷹野さんに見つけられなかった攻略法を、<匿名希望>さんが見つけたってわけか。弟子が挫折したテーマをあっさりとクリアするとは、さすがは師げふっ!?」
 パラコンが何かほざいたので、再び足を踏んづけておく。
 ゴキブリ野郎は黙ってなさいよ。ムカつくから。
「そういやさ、<匿名希望>さんがまだ来ないのは何で? 何か用事でもあるの?」
 真田さんが別の質問をしてきた。
 何故、<匿名希望>さんが来ないのか? まあ、これに関しては、別に深い理由はないんだけど……。
「あぁ、それはね。遅れた方がドラマチックになるからよ。ほら、切り札はいきなり登場するよりも、満を持して登場した方が盛り上がるじゃない?」
「なるほど〜! それはそうだね! ヒーローは遅れてくる方がドラマチックだよね!」
「そうよ。その通りだわ」
 物分かりが良くて助かるわ、真田さん。そのノリをいつまでも忘れないようにね。

 と、せっかく話が丸くおさまったと言うのに、「ちょ……待てよ! 遅れた方がドラマチックになるって……何だその理由! ご都合主義にもほどがあるだろ! もっと説得力のある理由にしろよ!」とか言って騒ぎ立てるゴキブリ野郎が約1名いるけど、相手にするのはめんどくさいので無視することにした。


 ★


「静江の相手は……吉井さんだ! 天神さんじゃないよ!」
 ディスプレイを見ながら、真田さんが言った。
 確かにディスプレイには、緊張しまくって動きがカクカクの川原さんと、それなりに落ち着きを保っている吉井さんの姿が映し出されている。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.???
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.???
5.真田 杏奈5.吉井 康助(♪)
 


 吉井さんといえば、(おそらくは)『決闘学園!』シリーズの主人公であり、作中で天神さんに唯一黒星をつけたほどの人物だ。しかも、前回の闘いでは、この私にまで黒星をつけた。
 確かに吉井さんは、『決闘学園! 2』では作中全敗という戦績を残しているが、彼の力は光るところがある。油断してかかれば、必ず痛い目を見ることになるだろう。
 まあ、あの慎重派の川原さんが、油断するなんてことはないと思うけど……。

「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『決闘学園!』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「僕は……先攻をもらいます」
「分かりました。それでは、このデュエルは吉井康介(こうすけ)さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」

 吉井さんは先攻を取った。
 川原さんが後攻、か……。
 上手く行けば……川原さんが後攻1ターン目で決めてくれるかも知れないわね。


「それでは! 第3戦目、川原静江選手 対 吉井康介選手。デュエル、開始ィィ!!」


「デュエル!」
「あぅ!? でゅ……でゅ……デュエルっ!」

 か……川原さん……。タイミングが合ってないわよ。
 こりゃ、相当緊張しちゃってるわね……。大丈夫かしら?


 川原さん LP:8000
 吉井さん LP:8000


「僕の先攻、ドロー! ……僕は、モンスターを守備表示でセット! さらに伏せカードを2枚出し、ターンエンドです!」

 伏せモンスターに伏せカード。まずは守りを固めて様子を見る、というのが、吉井さんの闘い方だったわね。
 なかなか堅実な布陣。川原さんは上手く攻められるかしら。

「……わ……私のターン、ドロー! ……えーと……」

 カードを引くと、川原さんはじっくりと考え込み始める。やはり慎重派と言うべきか、彼女はすぐに攻めるような真似はしない。
 それでいいわ。相手はあの『決闘学園!』シリーズ。何も考えずに突っ込んで勝てるような相手じゃない。
 かと言って、慎重になり過ぎても駄目だけどね。

「……よし! 私はまず、魔法カード《シールドクラッシュ》を発動! 吉井さんの場の守備モンスターを破壊します!」
「っ……!」

 場の守備表示モンスター1体を破壊する魔法カード――《シールドクラッシュ》により、吉井さんの場の裏守備モンスターが破壊された。
 これで吉井さんの場にはモンスターがいなくなったわけだけど……。あれをいきなり使うということは、川原さんはこのターンに攻めるつもりかしら?

「次に、私は手札を1枚捨てて、《THE() トリッキー》を特殊召喚! このカードは5ツ星モンスターですが、手札を1枚捨てることで特殊召喚することができます!」
「…………!」

 ここでトリッキー……。
 ふふ……。川原さんはやっぱり、このターンで決めるつもりね……。

 いいわ、川原さん。やっておしまい!

「さらに私は、《ラーバス》を召喚して、装備魔法《戦線復活の代償》を発動! このカードは、私の場の通常モンスター1体を墓地に送ることで、墓地からモンスター1体を特殊召喚することができます!」
「……! 川原さんの場にいる通常モンスターは……《ラーバス》! そのために《ラーバス》を召喚したのか……」

 決まった!
 この勝負、この時点で、川原さんの勝ちはほぼ確定したわ!
 いいわよ川原さん! あなたは今、最高に輝いてる!

 さあ、川原さん。あなたの力、彼らの目に刻み付けてやるのよ!

「私は、《ラーバス》を墓地に送り……墓地からこのモンスターを蘇生……」

 川原さんが《ラーバス》のカードを墓地に送った瞬間、デュエルリングの雰囲気がガラリと変わる。
 そして、川原さんの場に、彼女の持つ最強モンスターが姿を現した。





「―――墓地より舞い戻れ! 《ラーの翼神竜》!」





 川原さんの叫びとともに、太陽を思わせるかのような、金色の球体が現れる。
 それはまさしく、球体(スフィア)モードの太陽神――《ラーの翼神竜》。
 三幻神のひとつが今、川原さんの場に降臨したのだ。

「!? そんな……! 何であなたが《ラーの翼神竜》を……!」

 当然の如く、吉井さんは驚きの表情を浮かべている。
 無理もない。常識的に考えたら、こんな光景は有り得ないのだから。

 でも、これは現実。まやかしなんかじゃない。
 神は確かに、ここにいる。

 さあ、川原さん。全てはあなたに味方したわ。
 神の力で、ラーの力で、全てを粉砕してやりなさい!


【川原さん】 LP:8000 手札:1枚
 モンスター:ラーの翼神竜(攻?),THE トリッキー(攻2000)
  魔法・罠:戦線復活の代償(装備魔法・対象:ラーの翼神竜)

【吉井さん】 LP:8000 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×2




5章 1ポイントの命

「か……神のカードは確か、デュエルキングである武藤遊戯さんが所有しているはず……! それを何であなたが!? というか、《ラーの翼神竜》は一般人が扱えるようなカードじゃないんじゃ……」
「…………」

 何が何だか分からない、という様子ね、吉井さん。
 まあ、彼の言っていることは間違ってはいないわ。
 彼の言うように、三幻神のカードは今、デュエルキングである遊戯さん(目つきが鋭くない方)が所有しているし、《ラーの翼神竜》は古代神官文字(ヒエラティック・テキスト)を読めない人間には扱えない。

 一見すれば、今の状況は、原作の設定を完全に無視した意味不明の展開に見える。
 しかし、これは決して原作の設定を無視した展開ではない。断じて!

 ふふ……。ここから先は、川原さんに説明してもらおうかしらね。


「あ……あれ? 吉井さんは知らないんですか?」

 川原さんは、吉井さんとは違った意味で驚きつつ、さらりと究極の一言を告げてみせた。





「Vジャンプ(2010年2月号)に、《ラーの翼神竜》が付録としてくっついてたんですよ」





「……………………。ちょ……っ……!? えぇぇぇぇぇえええええ〜〜〜〜!!?? な……何ですかそれぇぇ〜〜〜〜!!!???」

 盛大に驚く吉井さん。
 その数秒後、控え室に『渇いた叫び』の着メロが響き、私はポケットからケータイを取り出した。
 待ち受け画面には、朝比奈さんの名前が表示されている。やはり、朝比奈さんから電話がかかってきたわね。
 通話ボタンを押し、私は電話に出た。
「朝比奈さん、どうかしましたか?」
『どうかしましたか? ……じゃないわよ。『Vジャンプにラーがくっついてた』って……。何なのよ、あの世界観ぶち壊しの設定は?』
 電話の向こうの朝比奈さんが、呆れたような口調で言ってくる。
 世界観ぶち壊し? どこが?
 実に理に適った設定だと私は思うけど。
「Vジャンプにくっついてた《ラーの翼神竜》を使ってはいけない、というルールはなかったはずですけど?」
『っ……。……あんたねぇ。それはルールとか言う以前に、世界観の問題とかそういうのが……。……いや、もういいわ』
 言っても無駄だと悟ったのか、朝比奈さんは、それ以上は何も言わなかった。
 物分かりが良くて助かるわ、朝比奈さん。
『……ま、今回は番外編だし、これで良しとするわ。何だかんだで、神と闘えるのは面白そうだしね』
「ありがとうございます。……他に何かありますか?」
『そうね……。川原ちゃんの言葉が正しければ、あの子が使ってるのは、Vジャンにくっついてたラーっていうことになるけど……そうなるとちょっとおかしいわよね』
 おかしい……か。
 さすがは朝比奈さん。すぐに気付いたわね。
「おかしい、とは?」
『あら? あたしの口から言わせるの? ま、いいけど。……確か、Vジャンにくっついてたラーのテキストって、↓みたいになってたじゃない』

 ラーの翼神竜
 効果モンスター/★10/神属性/幻神獣族/攻 ?/守 ?
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードを通常召喚する場合、自分フィールド上のモンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
 このカードの召喚は無効化されない。
 このカードが召喚に成功した時、このカード以外の魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
 このカードが召喚に成功した時、ライフポイントを100ポイントになるように払う事で、このカードの攻撃力・守備力は払った数値分アップする。
 また、1000ライフポイントを払う事でフィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

 確かにそうだ。
 Vジャンプにくっついてたラーのテキストは、↑こんな感じになっている。
『このテキストに従えば、川原ちゃんのラーは、一切の特殊召喚ができないってことになるわ。でも彼女は、《戦線復活の代償》を使ってラーを墓地から特殊召喚した。……おかしいわよね?』
「はい。おかしいです」
 朝比奈さんの言っていることは正しい。
 川原さんは、Vジャンプ付属のラーを使っている。
 しかし、Vジャンプ付属のラーは、一切の特殊召喚ができない。
 ならば、川原さんがラーを特殊召喚したことはおかしなことだ。

 けれどね、朝比奈さん。
 別にこの状況は、おかしくも何ともないのよ。
 あなたなら、もう分かっているはず……。

『……ま、何となく見当はつくけどね。それじゃ、切るわよ』
「はい。ではまた」
 電話が切れた。
 ポケットに電話を戻しつつ、朝比奈さんの最後の言葉を思い返してみる。
 朝比奈さん。やっぱり分かっているようね。
 特殊召喚不可能のラーを、蘇生させることができた理由が……。

 …………。
 ちょっと話が長くなったわね。
 とりあえず、デュエルシーンに戻りましょうか。


「……川原さん。そのラーが、Vジャンプにくっついていたカードだってことは分かりました。若干、納得が行かないけど、とりあえずは納得しておきます。けど、おかしくないですか? Vジャンプ付属のラーは、特殊召喚することが不可能なはず。なのに、今あなたはラーを蘇生させた。これは妙なことです」

 吉井さんも朝比奈さんと同じく、川原さんの行動に矛盾があることに気付き、それを指摘している。
 そうね。確かに変よね。
 でも、本当は変でも何でもない。
 それを教えてあげなさい、川原さん。

 そして、あなたの本気を見せてあげなさい。





「あ……え〜と。実は既に、私のデュエリスト能力――“パニッシュメント”が発動しているんです。『自分の墓地に、Vジャンプ付属の《ラーの翼神竜》が置かれているとき、これを原作効果の《ラーの翼神竜》に変化させ、自在に操ることができる』。これが私の、レベル1のデュエリスト能力です!」





「……………………。ちょ……っ……!? えぇぇぇぇぇえええええ〜〜〜〜!!?? な……何ですかそれぇぇ〜〜〜〜!!!???」

 吉井さんは、今さっきと同じセリフを言いながら驚いた。
 勘弁してよ。コピー&ペーストだってバレちゃうじゃない。

 それはともかくとして……。
 そう。川原さんは既に、デュエリスト能力を発動していたのよ。
 川原さんのデュエリスト能力は、墓地にVジャン付属のラーが置かれた瞬間から起動する。その力によって、彼女は墓地に置かれたVジャン付属のラーを、原作に出てきたあの凶悪なラーに変化させ、自在に操ることができるのだ。
 当然、原作のラーには『特殊召喚できません』なんて制約はない。だから川原さんは、ラーを蘇生させることができたというわけだ。

 そんなわけで、いま吉井さんが前にしているのは、原作で猛威を振るった、あの凶悪な神のカード――《THE SUN OF GOD DRAGON》なのだ。
 さあ、川原さん! 原作効果のラーの力、思う存分発揮するのよ!


【川原さん】 LP:8000 手札:1枚
 モンスター:THE SUN OF GOD DRAGON(攻????),THE トリッキー(攻2000)
  魔法・罠:戦線復活の代償(装備魔法・対象:THE SUN OF GOD DRAGON)

【吉井さん】 LP:8000 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×2


「ラーの特殊能力発動! プレイヤーは自分のライフを1ポイントだけ残し、残る全てをラーの攻撃値に変換できます!」

 川原さんはそう言うと、ヒエラティック・テキストの第三行節を唱え始めた。すると、球体状だったラーが戦闘形態へ変形していき、それとともに、川原さんの身体が徐々にラーと一体化していく。
 なるほど。デュエリスト能力のおかげで、ヒエラティック・テキストの詠唱も楽々こなせるってわけね。


 川原さん LP:8000→1

 THE SUN OF GOD DRAGON 攻:????→7999


「こ……攻撃力が……一気に7999ポイントに……!」

 川原さんのライフを吸収し、ラーの力がアップする。
 でも、これだけじゃないわ。原作のラーならば、まだまだパワーアップする。

「まだですよ吉井さん! 私の場のモンスターを生贄にすることで、ラーはさらに力を上昇させるんです!」

 ラーと一体化した川原さんが叫ぶ。
 そう。ラーはモンスターを生贄にすることで、さらにパワーアップする。
 今、川原さんの場には攻撃力2000の《THE() トリッキー》がいるから、ラーの攻撃力はあと2000ポイント上げられることになる。

「私は、《THE トリッキー》の攻撃力をラーの攻撃力に吸収! これで2000ポイントアップです!」

 トリッキーが生贄となり、ラーの力がアップする。
 その攻撃力は……


 THE SUN OF GOD DRAGON 攻:7999→9999


「き……9999ポイント……!?」

 オホホホホ!! 見事よ川原さん!
 吉井さんの場はがら空き! そして吉井さんの残りライフは8000!
 やっておしまい!

「バトル! 私とひとつになったラーで吉井さんにダイレクトアタック! “ゴッド・ブレイズ・キャノン”!!」
「くっ……!」

 ラーの攻撃が放たれる!
 それと同時に、吉井さんの場で罠カードが開いた!

「罠カードオープン! 《聖なるバリア−ミラーフォース−》!」

 ……! ミラーフォース! 敵の攻撃表示モンスターを全滅させる、有名なトラップ……!
 吉井さん、あんな極悪カードを伏せてたのね。さすがだわ……。
 けどねぇ……。

「吉井さん! 神に罠は通用しませんよ! 観念してください!」
「……!? あ……あれ!? ……あ、そうか! 原作効果になってるんだけ!!」

 その通り! 原作の神には、罠カードが通用しないのよ(《六芒星の呪縛》や《罅割れゆく斧》は効くけど)!
 残念だったわね、吉井さん! あなたはここで終わりだわ! 大人しく負けを認―――

「こ……これが最後の賭けだっ! 手札を全て捨て、速攻魔法《魔法の教科書》を発動!」

 ……!? 《魔法の教科書》……!
 《魔法の教科書》と言えば、デッキからカードを1枚ドローして、ドローしたカードが魔法カードであれば、その場で発動することが許される魔法カードだ。手札を全て失うリスクがあるため、使いどころを間違えば、自分の首を絞めることになるカードでもある。
 なるほど……。原作の神は、モンスター効果も罠も効かないけど、魔法効果なら1ターンのみ受け付ける。その1ターンに賭けようってわけね。

 面白いじゃない。
 吉井さん、あなたの闘志……最後までしっかり見届けさせてもらうわ!

「このドローに……全てを賭ける! ―――――ドロー!!」

 吉井さんが勢いよくカードを引く!

 何を引いた……?

 モンスターカード?

 罠カード?

 それとも……魔法カード?










「僕が引いたのは、昨日、山本から借りた魂のカード《雷鳴》! 魔法カードです! よってこの場で発動!」


 ……………………。

 ……………………は?

 ……らいめい? ライメイ?? RAI−MEI???
 何それ? わたしそんなかーどしらないよ。

「魔法カード《雷鳴》には、相手ライフに300ポイントのダメージを与える効果があります。よって川原さん! あなたは残り1ポイントのライフを失って敗北! ラーの攻撃が僕に当たる前に、デュエルは終了します!」

 ……………………。

 デュエルリングの天井が暗雲に包まれる。
 そこでは、雷が音を鳴らしているのが分かる。

 まさしく、雷鳴。

 そして。
 それが川原さんの耳に届いた瞬間。


 川原さん LP:1→0




 ★


「ごめん…………私…………負けちゃった…………ごめんね…………」
 第3戦が終わってから約5分。
 攻撃力9999のラーを出しておきながら、《雷鳴》なんてドマイナーカードで敗北した川原さんは、未だに立ち直れないでいた。
 よっぽど勝てると確信していたのだろう。《雷鳴》でライフが0になった瞬間の川原さんは、見てるこっちが心配になるくらい、顔から血の気が消えていた。
 そして、それから彼女は、ひたすら壁に向かって謝罪の言葉を口にし続けている。凄まじいまでの小声で。
 地極耳を持つ私でなければ、今の川原さんの声は聞き取れないだろう。
「静江〜。落ち込むなっての! あんたは頑張った! 『決闘学園!』のデュエリスト相手に、攻撃力9999のラーを出しただけでも凄いよ! カッコよかったぜ!」
 そう言って、川原さんを励ます真田さん。でも、川原さんは立ち直る様子がない。……相当参ってるわね、彼女。
 『ヴァリアブル・ブック4』には、「《雷鳴》の与える精神ダメージは大きい」と書かれていたけど、あれは本当だったんだなぁと私は思った。

 それにしても、《雷鳴》なんてカードをデッキに入れていたとは……。
 さすがは吉井さん。何をしてくるか分かったものじゃないわ。
 というか、「山本から借りた」とか言ってたけど、山本って誰だっけ?

 ……とりあえず。
 川原さんが負けたことで、戦況は1勝2敗。今のところは『決闘学園!』側がリードしている。
 もちろん、このまま彼らを勝たせ続けるわけには行かない。川原さんが負けてしまった分、次は何としても勝たなければ。


 ★


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.???(♪)
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.???
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


「あ、次はあたしだね。じゃ、行ってくるよ!」
 4戦目の対戦カードが決まり、真田さんが準備を始めた。
 次は真田さん、か。大丈夫かしらね?
「真田さん、大丈夫? ちょっと顔色悪いけど」
「えぇっ!? そんなことないよ! ヘーキヘーキ! まあ見てなって! あたしのデュエリスト能力をあいつらに見せてやるんだから!」
 あくまでも、真田さんは明るく振舞っている。けど、実際はかなり戦慄しているはずだ。私には分かる。
 無理もない。何しろ、「神のカードをもってしても、『決闘学園!』シリーズのデュエリストに勝つことは難しい」ということが分かった直後だ。いくら図太い真田さんでも、さすがに戦慄せざるを得ないだろう。
 このままだと、上手く実力を発揮できないかも知れないわね。もう一度、恐怖心を和らげてあげないと。
「真田さん。さっきも言ったけど、全力でデュエルしてくれればいいわ。無理に勝とうとは思わないでね」
「ははっ! 分かってるって! じゃ、楽しんでくるよ!」
 明るい表情を崩さぬまま、真田さんはデュエルディスクを装着し、デッキを2つ持つと、控え室を出て行った。
 ……本当に、大丈夫かしらね?


 ★


 ……というやり取りが行われていたのが、およそ10分前。
 私の前には今、青白い顔をしながら、控え室に戻ってきた真田さんの姿があった。
「たかのっティー……マジでゴメン。あたし、何にもできなかったわ……。はは……。せっかく特訓したのに、全然、成果を発揮できなかったよ……。本当にゴメン……」
 覇気のない声で、真田さんが言ってくる。それに対し、私は励ますような口調で言ってあげた。
「本当に役立たず……じゃなくて、あなたは悪くないわ。あれは朝比奈さんが強すぎただけ。というか、運が悪かっただけだわ。あなたは何も悪くない」
 そう。あれは運が悪かった。真田さんはあまりにも不運だった。
 真田さんが弱かったわけじゃない。朝比奈さんが強すぎたのだ。
 そんな風に思いつつ、私はサブディスプレイを見ながら、4戦目――真田さんと朝比奈さんのデュエル――の内容を想起した。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.???
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


 ★


審判「それでは! 第4戦目、真田杏奈選手 対 朝比奈翔子選手。デュエル、開始ィィ!!」


朝比奈「あたしの先攻、ドロー! ……真田ちゃん。悪いけど、このターンで決めさせてもらうわ。
 あたしは永続魔法《悪夢の拷問部屋》を3枚発動。このカードは、相手に戦闘ダメージ以外のダメージを与えたとき、300ポイントの追加ダメージを与える。ただし、《悪夢の拷問部屋》によるダメージでは、この効果は適用されないわ。
 そして、あたしのデュエリスト能力を発動させ、あんたに100ポイントのダメージを与える」

真田「うっ! 朝比奈さんの能力で100ダメージ受けたから……《悪夢の拷問部屋》3枚の効果で、900ポイントも追加ダメージを……!」


 真田さん LP:8000→7900→7600→7300→7000


朝比奈「あたしの能力は、1ターンにつき10回まで使用できるわ。
 よって、あと7回、能力を使わせてもらうわよ」

真田「ちょ……おまっ!?」


 真田さん LP:7000→6900→6600→6300→6000→5900→(中☆略)→900→600→300→0


 ★


 ―――これが、4戦目の内容の全てだ。
 そう。朝比奈さんの極悪1ターンキルにより、真田さんは何もできずに敗北してしまったのだ。
 せっかくデュエリスト能力を習得したというのに、それを発揮できずに敗北。真田さんはションボリしながらデュエルリングを後にしてきた。
 さすがにこれは、落ち込むなという方が無理だろう。たった1ターンで、ここ数ヶ月の努力が全て否定されてしまったのだから。
 しばらく、真田さんはそっとしておいてあげよう。

 それはそうと、あまり思わしくない状況だ。
 私たちのチームはこれで1勝3敗。その上、(レベル1とはいえ)強力なデュエリスト能力を持った3人を失ってしまった。

 《究極完全態・グレート・モス》による先攻1キルを用いるパラコンは、遠山さんの能力の前に敗れた。
 《ラーの翼神竜》を操る川原さんは、吉井さんの強運の前に敗れた。
 そして、真田さんに至っては、能力はおろか、何もすることなく、朝比奈さんの猛攻の前に敗れた。

 私たちのチームに残されたメンバーは、私と、今回の隠しキャラ……<匿名希望>さんの2人。
 対する『決闘学園!』側は、吉井さん、朝比奈さん、遠山さん、そしてまだ見ぬデュエリストの1人……計4人のメンバーを残している。しかも、4人の内、朝比奈さんと遠山さんはレベル4の能力を持つデュエリストだ。
 まだ見ぬデュエリストは、おそらくは天神さんだろう。レベル5の能力を持ち、(今のところは)『決闘学園!』シリーズの中でも最強レベルの彼女を、メンバーに入れない理由はないし……。
 もちろん、私たちがこう考えることを見越して、天神さんとは別の人間を採用している可能性もなくはない。でも、ここはやはり、最強の天神さんが採用されている、と考えた方がいいだろう。
 これから、私と<匿名希望>さんの2人だけで、レベル4の能力を持つ朝比奈さんと遠山さん、レベル5の能力を持つ天神さん、そして、何をしでかすか分からない吉井さんの4人に対抗しなければならない……。

「鷹野さん。こっちのチームは3人やられちゃったわけだけど、勝算はあるの?」
 パラコンがテンション低めに訊ねてきた。
 彼も、今の状況が決して良いものでないことが分かっているのだろう。既にあきらめたような表情をしている。
 そんな彼に対し、私はあくまでも、力強く言ってやった。
「大丈夫よパラコン。勝算はあるわ」
 そう。まだ終わったわけじゃない。
 まだ、こっちのチームには2人残っている。
 私は、パラコンと、真田さん、川原さんに向かって、自信を持って宣言した。

「約束するわ。これから私たちのチームは4連勝する」

 私がそう宣言すると同時に、第5戦の対戦カードが決定し、サブディスプレイの画面が更新された。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子(♪)4.???
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


 ついに、私の出番のようね。
 私の相手は、さっきパラコンに圧勝した遠山さん。相手が誰なのか分かっているから、“対天神さんデッキ”を持っていく必要はないわね。
 私は腕にデュエルディスクを装着し、そこに自分のデッキをセットした。
 準備は完了。
「それじゃ、行ってくるわね」
 皆に一言だけ告げると、私はすぐに控え室を出た。


 ★


「それでは、これより第5戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」
 黒服の審判の声を聞き、私はデュエルリングに上がった。
 リングに上がり、正面を見据える。
 目線の先には、対戦相手である遠山さんの姿があった。
「聞いたところ、お前が『プロジェクト』チームのエースらしいな。だが、勝つのは俺だぜ。覚悟しておきな」
 会って早々、遠山さんが自信満々に言ってきた。
 「勝つのは俺だ」……か。面白いこと言ってくれるじゃない。
 けどね。今のあなたのセリフ……大抵そういうセリフは敗北フラグになるのよ。覚えておくことね、遠山さん。

 手早くデッキシャッフルを済ませた私たちは、ソリッドビジョンを投影するための距離を確保した。
 あとは、先攻・後攻を決めるだけ。このデュエルでは、私に先攻・後攻を選ぶ権利がある。
「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『プロジェクト』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「私は先攻をもらいます」
「分かりました。それでは、このデュエルは鷹野麗子さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」
 私は、迷わず先攻を取った。
 このデュエル、必ず勝つ……。

「それでは! 第5戦目、鷹野麗子選手 対 遠山力也選手。デュエル、開始ィィ!!」


「「デュエル!!」」


 私 LP:8000
 遠山さん LP:8000


「私の先攻、ドロー!」
 恐れることなく、迷うことなく、勢いよく、私はカードを引く。
 そして、ドローカードを見た私は、思わず高笑いしそうになった。

 えぇ〜!? 何このカード〜!? 超☆神懸かってるんですけどぉ〜!!

 ふ……ふふ! 落ち着くのよ、麗子。
 相手は『決闘学園!』シリーズのデュエリスト。最後まで油断してはならないわ。
 冷静に、カードをプレイしていかないと。
「私はまず、《キャノン・ソルジャー》を召喚します」
 先ほど引き当てたモンスターカードをディスクに置く。それにより、私の場に1体の機械族モンスターが出現した。
 それを見た遠山さんが、若干顔を歪める。
「《キャノン・ソルジャー》……自分の場のモンスター1体をリリースすることで、相手ライフに500ダメージを与えるモンスターか……」
 遠山さんの言う通り、私の出した《キャノン・ソルジャー》には、相手ライフに直接ダメージを与える能力がある。
 『相手モンスターの攻撃宣言時に、800ライフポイント支払い、その戦闘によって発生するお互いのプレイヤーへの戦闘ダメージを0にして、ダメージステップ終了時に、フィールド上に存在する攻撃モンスターを破壊する』という遠山さんの反則的能力も、《キャノン・ソルジャー》のような『攻撃宣言』することなくダメージを与えるカードの前では無力だ。
 とは言え、《キャノン・ソルジャー》を出したくらいでは、遠山さんの戦意を削ることなどできはしないはず。
「なるほどね。そいつで俺の能力を回避しつつ、数ターンかけて地道にライフを削っていこうってワケか。ま、悪い手じゃねぇ」
 先ほどは顔を歪めた遠山さんだが、すぐに余裕の表情を浮かべてみせた。
 まあ、当然といえば当然よね。《キャノン・ソルジャー》は所詮、攻撃力1400のモンスター。倒す方法なんていくらでもある。しかも、《キャノン・ソルジャー》の効果を最大限に活かすには、私の場に何体もモンスターを出す必要がある。今の状況で出されたところで、遠山さんにとっては、脅威と呼べるほどの存在ではない。

 けど、遠山さん。
 あなたは1つだけ、思い違いをしているわ。
 “数ターンかける”なんて真似を、私がすると思う?

「じゃあ早速、《キャノン・ソルジャー》の効果を使わせてもらいましょうか」
 私は、《キャノン・ソルジャー》の効果を使用する旨を告げた。
 遠山さんは嘲笑する。
「ハッ……正気か? お前の場のモンスターは《キャノン・ソルジャー》1体のみ。つまり、《キャノン・ソルジャー》自身をリリースすることになるんだぞ? ヤケクソかよ?」
 ヤケクソ? 何言ってるのかしら?
 どうやら、まだ私の狙いに気付かないようね、彼。

 ふふ……いいわ。そろそろ見せてあげる。私の戦術を!







 私 LP:8000→4000→2000→1000













【私】 LP:1000 手札:5枚
 モンスター:キャノン・ソルジャー(攻1400),氷結界の龍 トリシューラ(攻2700),氷結界の龍 トリシューラ(攻2700),氷結界の龍 トリシューラ(攻2700)
  魔法・罠:なし

【遠山さん】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし



「……………………!? な……ぁ……っ!?」
 遠山さんの表情が、一気に驚愕の色に染まる。
 先ほどまでの、自信に満ちた彼の表情は、既に消え去っていた。

 くく……! いい顔だわ! その顔が見たかったのよ!!
 あ〜〜気分がいいわ! もうサイコーね! もう笑うしかないわ!

「オ〜ッホッホッホッホ!! どうかしましたか、遠山さん」
「どうかしましたか、じゃねえよ! お前、一体何しやがった!? 何でお前の場に……シンクロモンスターが……《氷結界の龍 トリシューラ》が召喚されてんだよ!?」
 遠山さんは、今の状況に納得が行かないらしい。
 ま、無理もないわよね。私の場に、いきなりシンクロモンスターである《氷結界の龍 トリシューラ》が、しかも3体も出現したんだから。

 氷結界の龍 トリシューラ
 シンクロ・効果モンスター/★9/水属性/ドラゴン族/攻2700/守2000
 チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手の手札・フィールド上・墓地のカードをそれぞれ1枚までゲームから除外する事ができる。

 ……でもね、これは別に何の不思議もない、ごくごく当然の光景なのよ。
 焦らしてもしょうがないから、種明かしをしてあげるわ。
「簡単なことですよ、遠山さん」
 私は、堂々と真実を口にした。





「私のデュエリスト能力――“カタストロフ”を発動したんです。『自分が魔法・罠カードの効果の使用・発動をしていないターンのみ、自分の場に魔法・罠カードが存在していなければ、ライフを半分支払うことで、自分のエクストラデッキ・墓地・除外ゾーンから《氷結界の龍 トリシューラ》1体をシンクロ召喚扱いで特殊召喚できる』。これが私の、レベル1のデュエリスト能力です」





「…………!? ……ライフを半分払えば……トリシューラをシンクロ召喚できる……だと!? 何だ……その能力は……!?」
 これが私のデュエリスト能力。今の私は、「魔法・罠カードを一切使っていない」、「場に魔法・罠カードが出ていない」という2つの条件を満たしているターンに限り、ライフを半分払い、エクストラデッキ・墓地・除外ゾーンに存在するトリシューラを、シンクロ召喚扱いで場に出すことができる。
 さっき、私のライフが1000ポイントまで減少したのは、このデュエリスト能力を3回発動させ、3体のトリシューラを場に出したためだ。
「つーか……シンクロモンスター使うのってアリだったのかよ……。てっきり、『プロジェクト』側も『決闘学園!』側も、基本的に使わないものだと思ってたぞ……」
 遠山さんが、結構痛いところをついてきた。
 とりあえず、適当に返しておくことにする。
「番外編だから、別にいいんですよ」
「……そうか」
 納得してくれたようね。じゃあ、次のアクションに移るわよ!
「デュエルを続行しますよ、遠山さん。私は、場に出現させた3体のトリシューラを、《キャノン・ソルジャー》の効果のコストとします!」
「なっ!?」
 ふふ……! 私がトリシューラを大量展開したのは、《キャノン・ソルジャー》の効果の弾丸にするため!
 トリシューラたちよ! 我が勝利のために、生贄となれ!!
「3体のトリシューラを発射! 1500ダメージ!」
「うぉぉぉぉ……っ!!」
 遠山さんの能力では、《キャノン・ソルジャー》の効果ダメージは防げない! 大人しく1500ダメージを喰らうがいいわ!!

 遠山さん LP:8000→7500→7000→6500

 一気に、遠山さんのライフを1500削ることに成功した。
 もちろん、ここで終わらせるほど、私は甘くない!!
「まだ私のターンは終わりませんよ! 私は再び、デュエリスト能力を3回発動! 先ほど墓地へ送られた3体のトリシューラを特殊召喚!」

 私 LP:1000→500→250→125

「そして、《キャノン・ソルジャー》の効果を発動! 3体のトリシューラを発射! 1500ダメージ!」
「ぬぁぁぁぁぁぁ……っ!!」

 遠山さん LP:6500→6000→5500→5000

 遠山さんのライフがさらに1500減少。当然、まだまだ終わらせないわよ!!
「デュエリスト能力を3回発動! トリシューラ3体を特殊召喚! 《キャノン・ソルジャー》で発射! 1500ダメージ! まだまた私のターンは終了してません! デュエリスト能力を3回発動! トリシューラ3体を特殊召喚して《キャノン・ソルジャー》で発射! 1500ダメージ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ……!!」

 私 LP:125→63→32→16→8→4→2
 遠山さん LP:5000→4500→4000→3500→3000→2500→2000

 うん。あと一息ってところね。
 あと3回私の能力を使って、3体のトリシューラを召喚。そして、3体のトリシューラを《キャノン・ソルジャー》で発射して1500ダメージを与え、最後に《キャノン・ソルジャー》自身を発射すれば500ダメージだから、計2000ダメージ。
 私の……勝ちだ。
「これで最後です! 私のデュエリスト能力を3回発動! 墓地にいるトリシューラ3体を特殊召喚!」

 私 LP:2→1→1→1

 ライフポイントというのは、小数点以下の数値が発生した場合、小数第一位が四捨五入される。
 残りライフ1のときにライフを半分払うと、1の半分=0.5の小数第一位を四捨五入し、1のままとなる。
 つまり、私のデュエリスト能力は、残りライフが1になったとき、実質ノーコストで乱発できるのだ!
 ……ま、もう関係ないけどね。
「終わりです、遠山さん! 《キャノン・ソルジャー》の効果発動! 3体のトリシューラを発射して1500ダメージ! 最後に、《キャノン・ソルジャー》自身をリリースし、500ダメージ!」
「馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!!」

 遠山さん LP:2000→1500→1000→500→0


「そこまでっ! 第5戦目の勝者は、チーム『プロジェクト』シリーズ!!」

 遠山さんのライフが尽き、黒服の審判がデュエルの勝者を告げた。
 ここまで3連敗してきた『プロジェクト』チームだったが、ここに来てようやく、連敗に歯止めをかけた。

 ふっ……! この調子で、盛り返していくわよ!




6章 5人目の正体

「ただいま。2勝目を収めてきたわよ」
「うぉ〜! すごいよすごいよ、たかのっティー! もう、このまま一気に3連勝しちゃってくださいよ!!」
「お疲れ様、鷹野さん! カッコよかったよ!」
 デュエルを終え、控え室に戻ってきた私を、真田さんと川原さんが笑顔で迎えてくれた。
 私が圧倒的な勝利を収めたことで、彼女たちからは、先ほどまでのあきらめムードは完全に消え去ったようだ。
 前回の闘いでは、1戦目からいきなり負けてしまった私だけど、今回の闘いは1戦目から勝利。順調な滑り出しができたと言えるわね。
「フッ! さすがは僕が認めたデュエリストだけあるね、鷹野さん。とりあえず、お疲れ様」
 横から何か声が聞こえてきた。誰の声かと思えば、さっき遠山さんに瞬殺された哀れなパラコンボーイの声だった。
 パラコンの分際で私に労いの言葉をかけるとは、いい度胸してるじゃない。ここは、スルーの方向で行くわ。
「さて、勝ったからと言って油断はできないわ。相手は『決闘学園!』シリーズの人たちなんだからね」
 真田さんと川原さんに向かって、私はそう言った。横でパラコンが「無視するなよ!」とか叫んでいるが、スルーしておく。
 そうこうしている内に、サブディスプレイの内容が更新された。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.???
5.真田 杏奈5.吉井 康助(♪)
 


「あ、次のデュエルも鷹野さんだよ!」
「よし、たかのっティー! 次の勝負もバシッと決めてきてよ!」
 こちらのチームからは、また私が選ばれた。相手は、前回の戦いで私を負かした、『決闘学園!』シリーズの主人公(だと思う)吉井さん。
 因縁の対決、という奴かしらね。
 今度は勝たせてもらうわよ、吉井さん。
「それじゃ、行ってくるわ。必ず勝って、戻ってくるわね」
「頑張れ〜! たかのっティー! あたしたちの運命は君にかかっている!」
「ファイトだよ! 鷹野さん!」
 真田さんと川原さんに見送られ、控え室のドアに手をかける私。
 と、その前に、横で私のことを見ている男がいた。
 誰かと思えば、その男は、先ほど私にスルーされた、無様なパラコンボーイだった。
「まあ、頑張ってきなよ。鷹野さん」
 スルーされたことを根に持ってるのか、若干ふてくされた様子のパラコン。
 そんな彼を見て、私はつい、あることを言いたくなった。
「……パラコン。ちょっと耳貸して」
「? え……何?」
 パラコンが耳を向けてくる。私は、彼の耳に向けて、そっと囁いた。





「あなたって、髪型……微妙よね」





 それだけ言うと、私はさっさと控え室から出た。
 後ろでパラコンが「微妙って……! 余計なお世話だコンチキショオが!! つーか、何でこのタイミングで言うんだよ! わざわざ言う必要なくない!? つーか、耳貸してとか言われて、ちょっとドキッとしたじゃねーか! どうしてくれんだオイ!!」とか叫んでるけど、当然の如くスルーする。
 ふふ……。パラコン弄りもしたし、コンディションは完璧ね。さあ、行くわよ!


 ★


「それでは、これより第6戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」
 黒服の審判の声を聞き、互いのデュエリストがデュエルリングに上がる。
 私の前には、以前私を負かしたデュエリスト、吉井さんの姿がある。
「またこうしてデュエルができるとは、光栄です。吉井さん」
「そうですね。いいデュエルにしましょう」
 デッキをシャッフルしつつ、軽く挨拶を交わす私たち。
 吉井康介。デュエリスト能力を持たない彼ではあるが、それでも、私たちにとって危険なデュエリストであることは確かだ。油断すれば、痛い目を見るのは必至。
 だからこそ、ここで確実に、仕留める!!

「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『決闘学園!』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「僕は先攻をもらいます」
「分かりました。それでは、このデュエルは吉井康介さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」
 吉井さんは先攻を取った。
 これで吉井さんは、先にカードを出すことで、私の戦術を妨害する準備をすることが可能になる。また、(有り得ないとは思うけど)何らかの形で、先攻1キルを仕掛けることも可能だ。
 けど、そんなことは関係ない。私は、私のデュエルをするだけ。


「それでは! 第6戦目、鷹野麗子選手 対 吉井康介選手。デュエル、開始ィィ!!」


「「デュエル!!」」


 私 LP:8000
 吉井さん LP:8000


「僕の先攻、ドロー! 僕はモンスターをセットし、さらに伏せカードを2枚セット! ターンエンドです!」
 別に先攻1キルとか仕掛けてくることなく、吉井さんはターンを終えた。
 裏守備モンスターに、伏せカード2枚。初手としては、悪くないパターンだ。

【私】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【吉井さん】 LP:8000 手札:3枚
 モンスター:裏守備モンスター×1
  魔法・罠:伏せ×2

 ……とはいえ、所詮そこまでの話。
「じゃあ、吉井さんがターンを終える前に、私はデュエリスト能力を3回発動させます」
「!!」

 私 LP:8000→4000→2000→1000

【私】 LP:1000 手札:5枚
 モンスター:氷結界の龍 トリシューラ(攻2700),氷結界の龍 トリシューラ(攻2700),氷結界の龍 トリシューラ(攻2700)
  魔法・罠:なし

【吉井さん】 LP:8000 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

「な……っ!? このタイミングで、3体のトリシューラを!?」
 オ〜ッホッホッホ!! 言い忘れてたけど、私の能力――自分が魔法・罠カードの効果の使用・発動をしていないターンのみ、自分の場に魔法・罠カードが存在していなければ、ライフを半分支払うことで、自分のエクストラデッキ・墓地・除外ゾーンから《氷結界の龍 トリシューラ》1体をシンクロ召喚できる――は、任意のタイミングで発動できる! つまり、相手ターンに発動することも可能なのよ!!
 そして、《氷結界の龍 トリシューラ》は、実は鬼のような特殊効果を持っているモンスター!

 氷結界の龍 トリシューラ
 シンクロ・効果モンスター/★9/水属性/ドラゴン族/攻2700/守2000
 チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手の手札・フィールド上・墓地のカードをそれぞれ1枚までゲームから除外する事ができる。

 さっきの遠山さんとのデュエルでは使わなかったけど、トリシューラはシンクロ召喚に成功したとき、「相手の手札・フィールド上・墓地のカードをそれぞれ1枚までゲームから除外する」というチート級の効果を発動することができる。
 私の能力で召喚されるトリシューラはシンクロ召喚扱いで特殊召喚されるから、その効果が問題なく発動できるってわけね。
「私は、3体のトリシューラの効果をそれぞれ使い、吉井さんの場の3枚のカードと、吉井さんの手札3枚を、ゲームから除外させてもらいました。よって、吉井さんの場と手札はがら空き……残念でしたね」
「っ……!!」

 その後の展開は、わざわざ語るまでもない。
 手札・場・墓地のカード完全皆無の完全無防備状態な吉井さんに対し、トリシューラ3体のダイレクトアタックを決め、私の勝利に終わった。

 吉井さん LP:8000→5300→2600→0

 トリシューラ強いぜ! 皆もエクストラデッキに3枚入れておこうぜ!!


 ★


「ただいま。約束どおり、勝ってきたわよ」
「すごい! また勝ったね、鷹野さん!」
「おっしゃあ! このまま連勝だぜ、たかのっティー!!」
 控え室に戻った私を、さっきと同じように、真田さんと川原さんが迎えてきた。横でパラコンが何か言ってるけど、こいつは無視しておく。
 ふぅ。とりあえずはこれで3勝、ね。
 それにしても、よく私は吉井さんに勝てたな、と思う。
 実を言うと、『凶悪無比な戦術を繰り出す反則的な私に、遠山さん敗北! → 私と因縁のある吉井さんが、私と勝負! → 吉井さんが華麗に勝利を果たす!』……っていう展開になるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてたんだけど……意外とそういう展開にはならなかったわね。
 ま、何にしても、今回の闘いは勝ったから、前回の闘いでの敗北はこれでひとまずチャラってことで。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.???(♪)
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


「次の対戦カードは……あ! また、たかのっティーだよ!」
「対戦相手は……まだ正体不明のデュエリスト! もしかして、天神さんかなぁ……」
 またも、こちらのチームからは私が指名された。
 対戦相手は、まだ見ぬデュエリスト。『決闘学園!』チームにおいて、唯一正体が分かっていないデュエリストだ。
 しかし、おそらくは天神さんである可能性が高い。いや、天神さんであると考えて行くべきだろう。
 今回は、“対天神さんデッキ”も持っていく必要があるわね。
「相手の正体は不明だけど、とにかく頑張れ! たかのっティー!」
「私たち、応援してるからね!」
 真田さんと川原さんに見送られつつ、私は2つのデッキを持つと、控え室のドアを開けた。
 ……と、その前に。
 横で私のことを見ている男がいる。もはや、説明するまでもない。ただのパラコンボーイ……もとい、馬の骨だ。
「馬の骨ってどういうことだよ。失礼にもほどがあるだろうが」
 何故か、馬の骨……もとい、パラコンが地の文に反応してきた。ふっ……パラコンにしては、味な真似をするわね。
「で、何よパラコン。何か言いたいことでもあるの?」
「……別に。……まあ、頑張ってきなよ」
 相も変わらず、ふてくされた様子のパラコン。
 そんなわけで、特に理由はないけど、私はパラコンの顔に墨を塗ってから控え室を後にした。
 控え室から「何でいきなり顔に墨塗るんだよ!? 脈路なさすぎだろオイ!! クソッタレが覚えてろよチキショオぉぉぉぉぉ!!!」とかいうパラコンの叫び声が聞こえた気がするけど、どうだっていいわそんなこと。


 ★


「それでは、これより第7戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」
 いつもと同じく、黒服の審判の声に従い、デュエルリングに上がる。
 リングに上がると、目線の先には、『決闘学園!』チームの5人目のデュエリストがいた。
 それはやはり、天神さん……――


 ――かと思いきや……?
「天神さんじゃ……ない……?」
 今、私の前にいるのは、どう見ても男性だった。
 野性味を感じさせる鋭い眼差し、しかし、どこか愛嬌のある顔立ちの男性。
 どう見ても、あの上品な雰囲気のお嬢様――天神さん――には見えない。
 この人は……もしかして?
佐野(さの)春彦(はるひこ)さん……ですか?」
「…………」
 男性は何も言わずに、コクリとうなずいた。

 佐野春彦。
 翔武学園高等学校の生徒会役員の1人であり、レベル3のデュエリスト能力を持つ人物だ。
 前回の闘いには参加していなかった彼が、今回の闘いには『決闘学園!』側のメンバーの1人として、名を連ねていたらしい。
 実際に見てみると、想像していたよりも、すらりとした体躯の人だと分かる。

 それにしても。
 これは……予想外だわ。
 てっきり、天神さんが来るとばかり思っていたから……。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.佐野 春彦(♪)
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


 私が黙り込んでいると、佐野さんは、懐から手帳のようなものを取り出し、それを開いて私に見せてきた。
『本当なら天神が来るはずだったが、急用で来られなくなったため、俺が代役を務めることになった』
 開かれたページには、そう書かれていた。
 どうやら、ホントは天神さんを参加させるつもりだったらしい。でも、都合により、佐野さんが代役を務めている、と。
 ……そうか。天神さんは来ないのか……。
 わざわざ、<匿名希望>さんに“対天神さんデッキ”まで作ってもらったのに、まさか、こんなオチが待っていたとは。
 何だか、私は複雑な気持ちになった。
 そりゃ確かに、『決闘学園!』シリーズ中、(現段階では)最強を誇る天神さんが不参加、というのは、私たちにとっては好都合なことなんだけど……。
 けど、何だか物足りないなぁ……と私は思ってしまった。
 別に、佐野さんが相手だと物足りない、という意味じゃない。天神さんがいないと物足りない、という意味だ。
 佐野さんは、手帳の別のページを開くと、再び私に手帳を見せてきた。
『俺が相手じゃ、物足りないか?』
 開かれたページには、そう書かれていた。
「いえ、そんなことはないです。決して、そんな不謹慎なことは考えてません。断じて」
 そんなこと思ってないよ! ホントだよ!
 というか、佐野さん、さっきから手帳を使って会話してるけど、どうして声を発しないのかしら?

 とりあえず、互いのデッキをシャッフル。
 当然、私の使うデッキは、私自身のデッキ。相手が天神さんでない以上、“対天神さんデッキ”を使う理由はない。
 シャッフルしながら、私は佐野さんに、先ほど疑問に思ったことを訊ねてみた。
「あの……どうしてさっきから、声を出さないんですか? 何か理由でも?」
 私が訊ねると、佐野さんはまた手帳を開き、私に見せてきた。
『風邪で喉をやられて、今は極力、声を出さないようにしている』
 喉を痛めて、声が出せない……か。
 じゃあ、デュエル中はどうするのだろう? さすがに、デュエル中は多少無理してでも声を出すのだろうか?
 そんなことを考えている内にデッキシャッフルが終わり、私たちは、互いにソリッドビジョンを投影する距離を確保して向かい合った。
「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『決闘学園!』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
 審判の言葉を聞くと、佐野さんは、また手帳の別のページを開き、審判に提示した。
『後攻』
 手帳には、それだけ書かれていた。
「分かりました。それでは、このデュエルは鷹野麗子さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」
 佐野さんは後攻。私に先攻を渡しても構わないと考えているのだろうか? それとも、他に別の考えがあるのだろうか?
 いずれにしても……私は勝つ。必ず。


「それでは! 第7戦目、鷹野麗子選手 対 佐野春彦選手。デュエル、開始ィィ!!」


「「デュエル!!」」


 私 LP:8000
 佐野さん LP:8000


「私の先攻、ドロー!」
 ドローカード確認。
 そして。
「オ〜ッホッホッホ!!! 私の勝ちよ!!」
 私は、うっかり高笑いしてしまった。
 だって、ホントにドローカードが神なんだもん。思わず、イカサマしたのかと疑うくらいに。

 ドローカード:キャノン・ソルジャー

 《キャノン・ソルジャー》は、さっきの遠山さんとのデュエルでも使用した、相手ライフにダメージを与えるモンスター。このカードがあれば、私の場のモンスターを1体リリースするたびに、相手ライフに500ダメージを与えることができる。
 つまり、さっきの遠山さんとのデュエルと同じように、トリシューラを15回、《キャノン・ソルジャー》を1回リリースすることで、一気に8000ダメージを与えられるわけだ。まさに1ターンキル!!
 ふ……ふふ……! 悪いけど佐野さん。容赦なく行かせてもらうわ!
「私はまず、《キャノン・ソルジャー》を召喚します!」
 相手プレイヤー抹殺コンボの主役となる《キャノン・ソルジャー》。
 1体ではそれほど脅威ではないが、私の能力があれば、全く話が違ってくる。

 ディスクにカードを置く。
 それにより、私の場に、1体の機械族モンスターが現われた。

 今まさに、相手プレイヤーに終焉をもたらす、悪魔の兵器が召喚されたのだ。

 召喚された悪魔の兵器は、敵であるデュエリストに大砲を向け、照準を合わせた。
 いつでも抹殺できると言わんばかりに、嘲笑うかのように、悪魔の兵器は、“敵”を完璧に、捕捉した。

 そして―――。









 ―――悪魔の兵器……《キャノン・ソルジャー》は、私の手札に戻った。





 …………?
 え? ちょっと待って?
 何で《キャノン・ソルジャー》が私の手札に戻ってんの? お……おかしくない? 私、ちゃんと《キャノン・ソルジャー》を召喚したよね? ちゃんとデュエルディスクに置いたよね? なのに、何で手札に戻ってんの?
 …………。
 何かの間違いだろうか? と思いつつ、私は、手札に戻った《キャノン・ソルジャー》を、デュエルディスクのモンスターゾーンに置いてみた。

 ディスクから、警告音が鳴った。

 ……ちょ……!? 何で!? 何が起こってるのよ!?
 もしかして、佐野さんが何か、手札からカード効果を発動したのかしら……?
 な……なら……!
「ライフを半分払い、私の特殊能力発動! エクストラデッキから、《氷結界の龍 トリシューラ》をシンクロ召喚!!」

 私 LP:8000→4000

 仮に、佐野さんが手札からモンスターの召喚を妨害するカードとかを使っていたとしても、デュエリスト能力によるモンスター召喚は防げないはず!
 そう思い、私は自分の能力を使って、トリシューラを場に出した。

 しかし、結果は同じだった。
 トリシューラは何もせず……モンスター効果すら発揮せずに、エクストラデッキへと戻っていった。
 私の場は、がら空きのまま……。

 ど……どういうことなの……?
 デュエリスト能力による特殊召喚は、デュエリスト能力でしか妨害できないはず……。これじゃあまるで……―――!?

「まさか!?」
 私は、いま対峙している相手――佐野さんの方に目を向けた。
 彼は、クスクスと笑みを浮かべていた。
 いや……“彼”なんかじゃない。





「あなた……天神さん……ですね?」





 私がそう訊くと、対戦相手は無邪気な笑みを浮かべながら、声を発した。
「ふふ……。ごめんなさいね、鷹野さん。騙しちゃって」
 透き通るような、女性の声だった。
 ……どうりで、『喉を痛めて声が出ない』なんて嘘をついたわけね。
「こんな変装をしたのには、ちょっとした訳があってね……」
 そう言いつつ、佐野さん……いや、天神さんは、自身の顔面を掴み、引っ張った。

 天神さんの顔に施された変装が、解かれた。

 そこにあるのは、確かに天神さんの顔だった。
 一纏めにされていた彼女の長い黒髪が、まっすぐに伸ばされる。

 『決闘学園!』チームの、5人目のデュエリスト。
 その正体はやはり、天神さんだったのだ。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.天神 美月(♪)
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


「私が佐野先輩に変装した理由はね……。う〜ん……どこから話せばいいかしら?」
 天神さんが、変装を行った理由を話し始める。
 彼女は、わざわざ佐野さんに変装するような真似をして、ここに現れた。
 それは一見すると、「何故そんな真似をしたのか?」、「別に変装する必要などないのでは?」と疑問に感じる光景だ。変装することによって、『決闘学園!』側が得られるアドバンテージとは一体何なのか?
 私は、天神さんの言葉を聞かずとも、それがすぐに分かった。だからこそ、悔しさを感じてしまう。

 天神さんが変装した理由はこうだ。まず、私たちが“対天神さんデッキ”を用意してくることを、『決闘学園!』側は、きっちりと想定していた。それで、変装という手を使って、私たちを撹乱することを考えたのだ。
 私たち『プロジェクト』側のメンバーは誰であろうと、対戦相手が天神さんだと知れば、確実に“対天神さんデッキ”を使い、デュエルに臨む。しかし、それは逆に言えば、対戦相手が天神さん以外であると思い込めば、“対天神さんデッキ”を使わずにデュエルに臨む、ということだ。
 このことを利用すれば、天神さんが“対天神さんデッキ”と対峙することを防ぐことができる。例えば、今のように天神さんを変装させ、別の誰かだと思わせれば、『プロジェクト』側の人間は、“対天神さんデッキ”を使わずにデュエルに臨んでしまう。現に私は、佐野さんが相手であると思ったからこそ、“対天神さんデッキ”ではなく、自分自身のデッキを使い、デュエルに臨んでしまった。
 この手に引っかかった『プロジェクト』側の人間には、当然の如く、天神さんに対抗する手段はない。よって、天神さんは悠々と1勝を収め、私たちのチームの1人――この場合は私――を確実に敗退させることができる。
 そう。
 天神さんの変装は、確実な1勝を手にするために考えられた、『決闘学園』側の“策”。
 それに私は、ものの見事に引っ掛かってしまったというわ―――

「うん。最初に言っておくとね、私のこの変装は、別に“策”とか、そういうのじゃないのよ

 ―――って、違うのかよ!?
 ちょっと待って!? “策”じゃないの!? じゃあ、いったい何!? 何で変装してきたの!?

 てっきり、ちゃんと策を考えて変装したのかと思いきや、天神さんの答えは全く予想だにしないものだった。
 策とかじゃないなら、何で変装を……? 何で……?
 考えてみたものの、答えは全く分からない。ここは大人しく、天神さんの話に耳を傾けるしかないようね……。
「実は、さっき『決闘学園!』側の控え室で、こんなことがあったのよ……」
 そう言って、天神さんは回想シーンに入った。


 ★


 10分ほど前の『決闘学園!』側・控え室。
 朝比奈先輩が突然、妙なことを言い出した。

朝比奈「さて、ついに天神の出番ね。
 それはそうと、ちょっと前から試してみたいことがあったんだけど、協力してくれない?」

天神「え? 私?」

 朝比奈さんは、どこからともなく、ジュラルミンケースを1つ取り出した。
 ケースには、『デラックス超リアル変装セット・春彦編』と書かれている。

朝比奈「実は、前々から『変装してデュエルしたら、対戦相手が混乱して面白いだろうなぁ〜』って考えてたのよね。
 例えば、春彦の顔したデュエリストが、天神の五ツ星能力を使ったり、吉井の顔したデュエリストが、あたしの四ツ星能力を使ったり。
 ね! 対戦相手がビビって混乱して、面白いことになりそうでしょ!?
 これは是非ともやってみるっきゃないでしょ!?
 そう思うでしょ!? 天神!!」

天神「い……今、やるんですか?」

朝比奈「今やらなくてどーすんのよ!
 ひょっとしたら、『決闘学園!』シリーズ本編ではやらないかもしれないんだし!
 というわけで、天神! 協力してちょーだい!
 今回は、春彦に変装してもらうわよ!」

天神「春彦……って、佐野先輩?
 無理ですよ。私が佐野先輩に変装するなんて―――」

朝比奈「大丈夫大丈夫! あたしに任せときなさいって!
 とりあえず、バレない程度には上手く化かしてやるから!
 まあ、声までは変えられないから、そこはテキトーに誤魔化してちょうだい」

天神「そんな無茶苦茶な……」

 そうこう言っている間に、私の容姿は佐野先輩とほぼ同様のものとなっていた。

朝比奈「うん。いいじゃない!
 本物に比べると、ちょいと体が細いけど、こんだけ似てれば充分でしょ!
 この姿であんたの五ツ星能力をブチかましてやれば、『プロジェクト』側の人間がビビること請け合いね!
 よし! じゃあ、楽しんできなさい、天神!!」

天神「は……はい……」

吉井「朝比奈先輩、何か『プロジェクト』シリーズに毒された感が……」

見城「そうか? 元からあんな感じじゃなかったっけ?」


 ★


「こうして、私は佐野先輩に変装し、デュエルリングに立った……というわけ。ふふ……ごめんね、騙したりして」
「…………」
 あの……何て言えばいいのか……。
 いや、まあ……朝比奈さんの考えは、立派な戦略ではあるけども……。
 何と言うか……朝比奈さんらしいわね……。

 とりあえず……デュエルに戻ろう。とは言っても、私にできることなんてもうないんだけど。
 相手が天神さんである以上、トリシューラをフル活用する私の戦術は全くもって機能しない。このままデュエルを続けたところで、私が敗北するのは目に見えている。
 何しろ、天神さんは、『相手の場にモンスターが現われたとき、一切の効果を発動させずに、そのモンスターをそのまま持ち主の手札に戻す』というデュエリスト能力を持っている。それはつまり、天神さんを相手にする場合、自分の場にモンスターを出せないというのと同義。
 モンスターを出して勝つデッキである私が、どうして天神さんに勝てと?
「…………私は……ターンエンドです」

【私】 LP:4000 手札:6枚(キャノン・ソルジャー,神獣王バルバロス,邪帝ガイウス,クリボー,風帝ライザー,火霊使いヒータ)
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【天神さん】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

 サレンダーするのは気に食わないので、デュエルは続けることにする。まあ、何のカードも出せなかったけど。
 私のトリシューラ召喚能力は、「魔法・罠カードを使っていない」、「場に魔法・罠カードがない」の2条件を満たしたターンにしか使えない。そのため、今の私は自分のデッキに、魔法・罠カードを一切入れていない。
 ゆえに、私の手札6枚は全てモンスターカード。その中で今、唯一役に立ちそうなのは、手札から捨てることで戦闘ダメージを1度だけ0にしてくれる効果を持つモンスター――《クリボー》くらいだ。他に天神さんに対して有効なモンスターはいない。
 しかも、私のライフは、デュエリスト能力を無駄撃ちしたせいで、4000ポイントまで減ってしまった。
 完全に……詰んでいる……。

 はぁ……。終わったわね、私。

 というわけで、ここからのデュエルはダイジェストで送るよ! テヘッ♪


 ★


天「私のターン、ドロー。じゃあ、私はまず、永続魔法《神の居城−ヴァルハラ》を発動。その効果で《光神テテュス》を特殊召喚し、さらに《豊穣のアルテミス》を召喚するわね。それと……魔法カード《エクスチェンジ》を発動。このカードの効果により、互いに手札を1枚交換しなければならないわ」

私「くっ……! よりにもよってそんなカードを!」

天「鷹野さんの手札は……あら、《クリボー》があるのね。じゃあ、私は《クリボー》をもらっておくわ」

私「……私は……《ハネクリボー》をもらいます……」

天「ふふ……じゃあ、バトルフェイズね。2体のモンスターでダイレクトアタック♪」

私「\(^o^)/」


 私 LP:4000→1600→0


 ★


「ごめんなさい。負けちゃったわ」
 控え室に戻った私は、真田さんと川原さんに謝った。横にいるパラコンはもちろんスルー。
「いやいや、ナイスファイトだったよ、たかのっティー! あの『決闘学園!』シリーズ相手にここまでやってくれたんだから!」
「すごかったよ、鷹野さん! お疲れ様!」
 負けた私を責めることなく、2人は笑顔で健闘を称えてくれた。
 しかし、私としては、非常に惜しい気持ちでいっぱいだった。
 もし……天神さんが変装などせず、私の前に現れていれば、本気のデュエルができたはずなのに……。
 さすがは『決闘学園!』シリーズ。そんな簡単に思い通りには行かせてくれない、というわけね。
「まあ、鷹野さんも、よくやった方じゃないの? ただ、相手の変装を見破れないようじゃまだまぐぶへぇっ!?」
 横でパラコンが何かほざいたので、彼の足を踏んづけておく。
 黙ってなさいよこのヘタレ野郎が。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.天神 美月
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


 とりあえず、私が負けたことで、こちらのチームのメンバーはあと1人。今回の隠しキャラであり、私の師匠でもある<匿名希望>さんだ。
 対する『決闘学園!』チームは、まだ2人のメンバーを残している。しかも、よりにもよって、高レベルのデュエリスト能力を持つ2人だ。
 朝比奈さんと天神さん。この2人を相手に、<匿名希望>さんは連勝しなければならない。かなり、厳しい闘いになることだろう。
 さらにタチの悪いことに、<匿名希望>さんは私たちのチームにおいて唯一、デュエリスト能力を会得していないメンバーでもある(2章をよく見てほしい。私たちのチームで能力に目覚めたのは、5人のメンバーの内4人だ)。<匿名希望>さんはもう20歳過ぎてるから、能力を手にしたくても無理なのよね……。
 まあ、要するに私たちのチームは、デュエリスト能力を持たないデュエリスト1人で、レベル4とレベル5の能力を持つデュエリストに立ち向かわなければならないのだ。
 さすがの<匿名希望>さんでも、今回ばかりは勝つのは難しいかも……と私は思ってしまった。

 それから3分ほどして、サブディスプレイが更新された。
 それにより、次の対戦カードが明らかとなる。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.<匿名希望>3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.天神 美月(♪)
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


「おぉ……ついに来たね……<匿名希望>さんの出番が……!」
「もう、この人が勝てるよう、祈るしかないね」
 <匿名希望>さんが指名された。しかも、相手はあの天神さん。
 まあ、今回はちゃんと“対天神さんデッキ”が用意してあるし、今度は変装なんて手で撹乱されることもないから安心……とは言い切れない。
 と言うのも、<匿名希望>さんいわく、“対天神さんデッキ”を使ったところで、天神さんに勝てる可能性はそれほど高くはならないからだ。
 “対天神さんデッキ”とは、あくまで「天神さんに勝てる手段を有するデッキ」であり、「天神さんに絶対に勝てるデッキ」ではない。
 だから、“対天神さんデッキ”を使ったところで、必ず天神さんに勝てる、とは限らない。単に、一般的なデッキに比べれば勝てる要素が大きい、というだけ。結局は、運やプレイングに左右される……そういうことだ。

 でも。
 もう今となっては、<匿名希望>さんに全てを託すしかない。私たちは、あの人を信じるしかないのだ。
 私は携帯電話を使い、<匿名希望>さんに連絡を取った。
「お待たせしました。中に入ってください」
 簡潔に用件を言い終え、私は電話をポケットに収めた。
 深く、息を吐く。

 あとは、任せます……。



「あれ? 何か、ディスプレイに“お知らせ”が出てるよ」
 と、私が電話をポケットに入れたところで、横にいたパラコンが何かぬかした。
 ふっ……じゃあ、いつも通りここはスルー……ってちょっと待って? え? お知らせ?

 ディスプレイを見てみると、パラコンの言うように、画面上部に“お知らせ”という形でテロップが出ているのが分かる。
 ……何かあったのかしら?

 とりあえず、私たちは、突如画面に映し出された“お知らせ”に目を向けてみた。

 お知らせ
 (魔法カード)
 都合により、これからしばらくの間は『決闘学園!』側の視点でお話を進めます。
 よろしくガッチャ!! by 作者

 …………え?
 何これ? 視点切り替えちゃうの? 私たち『プロジェクト』側の視点から、『決闘学園!』側の視点に切り替えちゃうの?
「え〜!! あたしたちの視点じゃなくなっちゃうの〜!?」
「『決闘学園!』側の視点ってことは……私たちが主役サイドじゃなくなるってこと?」
 真田さんと川原さんが不満げに言葉を口にした。やっぱり、自分たちが主役サイドでなくなるのは面白くないのだろう。私だってそうだ。しかも、話も終盤に差し掛かったというこのタイミングでの視点変更。「はい、そうですか」とすぐに納得できるわけがない。

 ……しかし、ストーリーを進めるためには、我慢するしかない。
 作者にも、いろいろ都合というものがあるのだろう。ここはひとまず、納得しておくことにする。そうしないと、話が先に進まないだろうし……。
 それに、この“お知らせ”を見たところ、『決闘学園!』側の視点に切り替えるのは、あくまでも“しばらくの間”だけらしい。少しの間我慢すれば、また私たちの視点に戻るはずだ。

 というわけで、読者の皆さん。
 ここからしばらくの間は、『決闘学園!』側の視点でお楽しみください。




















 ★


 …………。

 …………。

 …………?

 ……あ、私の視点で話を進めるのね。分かったわ。


 私の名は天神美月。
 『決闘学園!』シリーズにおける最強レベルのデュエリストであり、また、同シリーズのヒロインも務めている。
 容姿は上々。人気も上々。

 さて、『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズによる3度目の戦いも、ついに8戦目。
 今のところ、戦況は私たち『決闘学園!』側が4勝3敗とわずかにリードしている。だけど、相手はあの『プロジェクト』シリーズ。油断は禁物ね。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.???3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.天神 美月(♪)
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


 7戦目を終え、すぐにまた対戦メンバーに選ばれた私は今、デュエルリング下で審判の指示を待っている。もうすぐ、デュエルリングに上がるよう、審判から指示が出るはずだ。

 ちなみに、私の対戦相手の正体は、今のところ分からない。
 『プロジェクト』側のメンバーの内、正体が判明しているのは、鷹野さん、真田さん、川原さん、パラコン君の4人。その4人はいずれも、既に闘いに参加できない状態なので、私は必然的に、残る正体不明のメンバーと闘うことになる。
 だから、闘う相手については、これからデュエルリングに上がって相手の顔を確かめなければ分からない。
 『プロジェクト』チームに残された最後のデュエリスト。それは一体、誰なのか?
 前回の闘いでは確か蟲野郎……もといインセクター羽蛾だったけど、今回は?
 原作・アニメキャラだろうか? オリジナルキャラだろうか?
 轟さん? それとも、代々木君? あるいは…………。

 ……何にしても。
 楽しいデュエルにしたいものだわ。


「それでは、これより第8戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」

 審判の声を聞き、私はデュエルリングに上がった。
 相手は誰かしら?
 私は、同じく審判の声を聞き、デュエルリングに上がってきた対戦相手の方へ目を向けた。

 相手は……。
 白いブラウスに白いロングスカートと、真っ白な服装に身を包んだ女性。
 また、服装だけでなく、肌も白く見える。
 そして、それらとは対照的に、髪は黒く、背まで伸ばされていた。

 ……あれ?
 あんな人、『プロジェクト』シリーズにいたかしら?

 これまでの『プロジェクト』シリーズの内容を思い返してみるが、あのような人は思い当たらない。念のため、原作コミックスの内容も想起してみるが、やはり思い当たらない。

 ……誰なんだろう?

「知らないのも無理ありません。私がこのシリーズに出るのは、これが初めてですから」
 私の気持ちを察したのか、対戦相手である女性は私の目を見てそう言った。
 やや低めの、澄んだ声だった。

 それよりも、「このシリーズに出るのは初めて」……って……。
 それってつまり、今回の『プロジェクト』シリーズは、これまで『プロジェクト』シリーズに登場したことのないキャラを、自分たちのチームに入れたってことよね。
 アリなのかしら? そういうのって……。
 ……作者は……「あっぷるぱい」となってるから……アリなのかしら?
 作者が「あっぷるぱい」である以上、この作品も『プロジェクト』シリーズの一作品……と考えれば、たとえ未登場キャラでも、登場した瞬間から『プロジェクト』シリーズのキャラになるわけだし……。
 ……まあ、そういうことなのだろう。
 若干、納得が行かないけど、納得しておくことにする。
 ただ、今ごろ控え室では、朝比奈先輩が鷹野さんに電話で抗議してそうだけど。

「あら、このシリーズに出るのは初めてなのね。それじゃあ、分からないわけよね。あ、私は天神美月。よろしくね」
 納得した私は、対戦相手の女性に軽く自己紹介しつつ、握手を求めた。
 女性も、私の握手に素直に応じつつ、自己紹介をしてきた。





黎川(くろかわ)零奈(れな)といいます。こちらこそよろしく」




7章 運


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.黎川 零奈3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.天神 美月(♪)
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


 黎川零奈。
 知る人ぞ知る、「あっぷるぱい」の考案した完全オリジナルキャラである。
 そのため、もしかしたら読者の方の中には、彼女のことを既に知っている人がいるかも知れない。
 とは言え、彼女のことを知っていても、あるいは知らなくても、この先を読む上では何の支障もないから、その点は安心してほしい。

「……黎川さんはどうして、『プロジェクト』シリーズに?」
 自己紹介も終え、デッキシャッフルをしながら、私は何とはなしに黎川さんに訊ねてみた。
 実際のところ、彼女がどうして鷹野さんたちのチームに入ったのかは気になる。
「鷹野さんに頼まれました。私自身、興味があったので願ったり叶ったりです」
 簡潔に、黎川さんは答えた。
 鷹野さんに頼まれた……か。
「鷹野さんとは……友達か何か?」
「鷹野さんは、私の友人のいとこでして……。よく、M&Wを教えてあげたものです」
 M&Wというのは……私たちの世界でいう、デュエルモンスターズのことね。
 それを鷹野さんに教えたって……。
「鷹野さんにデュエルモンスターズを……いえ、M&Wを教えたのは黎川さん?」
「はい。彼女の持つデュエル技術のほとんどは、私が教えたものです」
 そんな設定があったのね……。てっきり、鷹野さんのことだから、何もかも自分で覚えたのだと思ってたわ。
「じゃあ、黎川さんは、鷹野さんの師匠ってことね」
「……そうなります……ね」
 あの鷹野さんの師匠……か。一体、どんなデュエルをするのだろう。
 未知なる相手を前にして、私は自分の胸が高鳴っているのが分かった。
 そう。未知の相手を前にしたときの、この胸の高鳴り。
 これは決して、忘れたくない。

「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『決闘学園!』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「私は、後攻を選択します」
 審判の指示に従い、私は後攻を選ぶことを宣言した。
 デュエルする相手のことをよく知りたい。そう思うが故の、後攻だ。
「分かりました。それでは、このデュエルは黎川零奈さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」
 お互いに、デュエルディスクを変形させる。
 しばしの静寂。
 そして。

「それでは! 第8戦目、黎川零奈選手 対 天神美月選手。デュエル、開始ィィ!!」


「「デュエル!!」」

 私と黎川さんの、デュエルが始まった。


「私の先攻、ドロー(手札:5→6)」
 デッキから静かにカードを引き抜く黎川さん。
 彼女は、どんな戦術で挑んでくるのかしら?

「……私は、モンスターを守備表示でセットします(手札:6→5)」

 ……!

 黎川さんは、モンスター1体を裏守備でセットした。
 それにより、黎川さんの場に、裏守備状態のカードがソリッドビジョン化される。
 しかし、そのソリッドビジョンはすぐに消滅し、セットモンスターは黎川さんの手札に戻った。
「おや? モンスターが手札に戻ってきました……。なら、もう一度……」
 黎川さんは、またも同じモンスターを裏守備でセット。
 だが、今度はデュエルディスクから警告音が響くこととなった。
 1ターンに一度しかできない通常召喚を、二度行ったことに対する警告音だ。

 黎川さんは、私の能力を知らなかったのだろうか?
 いや、多分違う。これは……おそらく……。

「話には聞いていましたが……本当にこんなことがあるんですね……」
 黎川さんは、うっすらと笑みを浮かべながら、どこか感嘆としたような口調で言った。
 やはり、彼女は私の能力のことを知っていたようだ。
 知っていた上で、あえてモンスターを召喚したのだろう。私の能力を自分の目で確かめるために。
「そうよ、黎川さん。これが私のデュエリスト能力。相手フィールド上にモンスターが出現したとき、一切の効果を発動させずに、そのモンスターをそのまま持ち主の手札に戻す。レベル5のデュエリスト能力よ」
 いかなる形であれ、相手の場にモンスターが出現すれば、そのモンスターは持ち主の手札に戻される。それが私のデュエリスト能力。私の意思では止めることのできない、レベル5のデュエリスト能力。
 この能力により、私と対戦するデュエリストは、自分の場にモンスターを一切出すことができない。厳密には、出しても手札に強制的に戻される。だから、黎川さんのモンスターも、場に出てすぐに手札に戻ってしまったのだ。
「レベル5のデュエリスト能力……。まさに、無敵ですね。鷹野さんが苦戦するのも分かります。……これは、専用デッキを組んだ甲斐がありました」
 手札を見やりながら、黎川さんは、さらりと気になることを口にした。
 専用デッキ……。その言葉を素直に解釈すれば、私と闘うために作成したデッキ、ということになる。彼女が今使用しているデッキが、専用デッキなのだろうか?
「専用デッキって、何のこと?」
 正直に答えてくれるかは分からないけど、一応、訊いてみることにする。
 すると、私の予想とは裏腹に、黎川さんは素直に私の質問に答えてくれた。

「私がいま使用しているデッキのことです。このデッキは、私が構築した、あなたと闘うためのデッキです」

 …………。
 私と闘うための……デッキ。
「鷹野さんからあなたのことを聞いたとき、私は非常に興味が湧きました。一切、モンスターを展開することを許さない、レベル5の能力を持つデュエリスト。生半可な戦術では、触れることすら許されず、攻略など到底できないデュエリスト。……だから私は、世界でたった1人……あなたと闘うためのデッキを作ったんです。それが、いま私が使っているこのデッキです」
 デュエルディスクにセットされた自分のデッキを指差して、黎川さんは私の目を見てきた。
「そして、こうしてデッキを作った私自身が、あなたと闘うことができるとは……僥倖です」
 彼女の目は、自信に満ちていた。
 きっと彼女は、私に勝つための戦術を組み立ててきたのだろう。それをもって、今日ここで、私に勝つつもりなのだ。
 私の胸が、高鳴った。
 ――黎川さんと全力で闘って、勝ちたい。
 その想いが膨らんでいく。
「私も、あなたみたいな人とデュエルできるなんて、嬉しいわ。楽しいデュエルにしましょうね」
 私が言うと、黎川さんはこくりと頷いた。
「はい。お互いに楽しめるデュエルになるよう、努力しますよ」
 そして彼女は、手札に手をかけた。
「カードを2枚伏せ、魔法カード《手札抹殺》を発動。互いに手札を全て捨て、捨てた枚数と同じ数だけ、デッキからカードをドローします。手札、捨ててください(手札:6→4→3)」
 互いに手札の総取り換え……か。
 《手札抹殺》の効果で、黎川さんは手札3枚を墓地に捨て、カードを3枚ドロー。そして私も、手札5枚――《光神テテュス》、《光の召集》、《天空聖者(エンジェルセイント)メルティウス》、《サイクロン》、《エクスチェンジ》――を墓地に捨て、カードを5枚ドローする。

 天神 手札:5枚 → 0枚 → 5枚
 黎川 手札:3枚 → 0枚 → 3枚

「私はこれで、ターンエンドとします。次、どうぞ」
 伏せカードのセットと、手札交換。黎川さんの1ターン目は、それで終了した。

 (2ターン目)
 ・黎川 LP8000 手札3
     場:伏せ×2
     場:なし
 ・天神 LP8000 手札5
     場:なし
     場:なし

「私のターン、ドロー(手札:5→6)」
 黎川さんは、どのような戦術を仕掛けてくるのだろうか?
 それを考える度に、私はわくわくする。
 不安はない。あるのは期待感だけ。
 私は迷うことなく、手札の1枚をデュエルディスクにセットした。
「永続魔法《神の居城−ヴァルハラ》を発動。このカードがある限り、私は1ターンに一度、自分フィールド上にモンスターがいなければ、手札の天使族モンスターを1体特殊召喚できるわ。その効果で、私は手札から《アテナ》を特殊召喚(手札:6→5→4)」
 ヴァルハラの効果によって、私の場に白装束を身に纏った女神が降臨する。《アテナ》の攻撃力は2600。しかも、強力な効果を2つ備えている。
「さらに、《智天使ハーヴェスト》を召喚。天使族モンスターであるハーヴェストが召喚されたことで、《アテナ》の効果が発動するわ(手札:4→3)」
 場に天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚されたとき、相手ライフに600ポイントのダメージを与える。それが、《アテナ》の持つ効果の1つ。

 黎川 LP:8000 → 7400

 特に黎川さんは動きを見せず、《アテナ》のダメージ効果は何の問題もなく適用された。
「私は、《智天使ハーヴェスト》を墓地に送り、《アテナ》のもう1つの効果を発動。私の墓地から天使族モンスター、《光神テテュス》を特殊召喚」
 私は、《手札抹殺》の効果で墓地に送られていた《光神テテュス》を、墓地スペースから取り出した。
 1ターンに一度、自分の場の《アテナ》以外の天使族モンスター1体を墓地に送ることで、自分の墓地から《アテナ》以外の天使族モンスター1体を蘇生する。それが、《アテナ》の持つもう1つの効果。
 そして、天使族モンスターである《光神テテュス》が特殊召喚に成功したことで、再び《アテナ》のダメージ効果が発動する。

 黎川 LP:7400 → 6800

「バトル。《アテナ》で黎川さんにダイレクトアタック」
 モンスターの召喚を終えた私は、バトルフェイズに入った。
 黎川さんの場には当然、モンスターはいないので、ダイレクトアタックとなる。
 しかし、《アテナ》の攻撃は、不思議なバリアに阻まれ、黎川さんには届かなかった。
「罠カード、《和睦の使者》を発動しました。このターン、相手モンスターからの戦闘ダメージは全て0となります」
 《和睦の使者》……か。
 これでこのターン、私は黎川さんに戦闘ダメージを与えられない。バトルフェイズは終了ね。
「カードを1枚伏せ、ターンエンドよ(手札:3→2)」

 (3ターン目)
 ・黎川 LP6800 手札3
     場:伏せ×1
     場:なし
 ・天神 LP8000 手札2
     場:アテナ(攻2600)、光神テテュス(攻2400)
     場:神の居城−ヴァルハラ(永魔)、伏せ×1

「私のターン、ドロー(手札:3→4)」
 再び黎川さんのターン。
 前のターンには大きな動きを見せなかった彼女だけど、このターンはどうだろうか?
「少し……手札が良くないので、これを使ってみます。魔法カード《強欲で謙虚な壺》を発動(手札:4→3)」
 手札が良くないと言いつつ、魔法カードを発動した黎川さん。
 《強欲で謙虚な壺》は、自分のデッキの上から3枚のカードをめくり、その中から1枚を選んで手札に加えるカード。強力なカードだが、あのカードを使うと、そのターンは特殊召喚ができなくなってしまう。
 まあ、今の黎川さんにとっては、「特殊召喚できない」なんてリスクはあまり関係ないと思うけど……。
「このカードの効果に従い、デッキの上から3枚をめくります」
 そう言って、黎川さんはデッキの上から3枚をめくり、私に提示した。
 めくられたのは……《魔轟神獣ケルベラル》に《コカローチ・ナイト》、それと《光の護封剣》……。

 魔轟神獣ケルベラル チューナー(効果モンスター) ★★ 光・獣 攻1000・守400

 このカードが手札から墓地へ捨てられた時、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。

 コカローチ・ナイト 効果モンスター ★★★ 地・昆虫 攻800・守900

 このカードが墓地へ送られた時、このカードはデッキの一番上に戻る。

 光の護封剣 通常魔法

 相手フィールド上に存在するモンスターを全て表側表示にする。
 このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上に存在するモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 ……《コカローチ・ナイト》……変わったカードをデッキに入れているわね……。
「そうですね……《光の護封剣》を手札に加えましょう。他の2枚は、デッキに戻してシャッフルします(手札:3→4)」
 めくった3枚の中から、黎川さんは《光の護封剣》を選んだ。残りの2枚は黎川さんのデッキに戻されることになる。
「……様子を見ましょう。ただ、《アテナ》が厄介ですが……。私はカードを2枚セット。さらに、魔法カード《光の護封剣》を発動します(手札:4→2→1)」
 先ほど手札に加えた《光の護封剣》が早速発動される。それにより、私のフィールドに、光り輝く剣が何本も舞い降り、モンスターの動きを封じる。
 《光の護封剣》の効果によって、私はこれから3ターンの間、攻撃を行うことができない。
 先ほどの《和睦の使者》といい、《光の護封剣》といい、今の黎川さんは、どちらかというと守りに徹しているように見える。
 何を狙っているのだろう……。
「ターンエンド、です」

 (4ターン目)
 ・黎川 LP6800 手札1
     場:光の護封剣(通魔:あと3ターン)、伏せ×3
     場:なし
 ・天神 LP8000 手札2
     場:アテナ(攻2600)、光神テテュス(攻2400)
     場:神の居城−ヴァルハラ(永魔)、伏せ×1

「私のターン、ドロー(手札:2→3)」
 カードを引いた私は、それを黎川さんに公開した。
「私がドローしたのは、《ヘカテリス》。天使族モンスターをドローしたから、《光神テテュス》の効果でカードを1枚ドローするわ(手札:3→4)」
 《光神テテュス》が場にいる限り、私がドローしたカードが天使族モンスターだった場合、それを相手に見せることで、私はカードをもう1枚ドローできる。その効果を使い、私はカードを1枚ドローした。
 新たにドローしたカードは、罠カード《DNA改造手術》。天使族モンスターではないため、テテュスの効果は使えない。
 ドローを終えた私は、メインフェイズへと移行した。
「私は、《ライトロード・マジシャン ライラ》を召喚。そして、ライラの効果を発動。攻撃表示のライラを守備表示にすることで、相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。私は、黎川さんの《光の護封剣》を破壊するわ(手札:4→3)」
「早速、壊されますか。……まあ、いいでしょう」

 ライトロード・マジシャン ライラ:(攻1700) → (守200)

 光の護封剣:破壊

 ライラが守備表示となり、《光の護封剣》が破壊される。同時に、私のモンスターの動きを封じていた光の剣も姿を消した。
「さらに、《アテナ》のモンスター効果。私の場のテテュスを墓地に送り、そのまま墓地から特殊召喚。再びテテュスが特殊召喚されたことで、《アテナ》の効果発動。600ダメージよ」
 一度テテュスを墓地に送り、再び特殊召喚することで、《アテナ》のダメージ効果が発動した。
「《アテナ》……。本当に厄介なカードですね……」

 黎川 LP:6800 → 6200

 次は、バトルフェイズ。
「バトル。《アテナ》で―――」
 と、私の声を掻き消すように、獣の咆哮のようなものが、フィールド上に響き渡る。
 黎川さん……また何かを……?
「バトルフェイズに入る前に、罠カード《威嚇する咆哮》を発動しました。これで、天神さんはこのターン、攻撃宣言を行えません」
 また……防御系の罠カード……。これで私は、このターンもバトルを行えない……か。
 そう簡単には攻めさせてくれないようね、彼女は。
「私はカードを2枚伏せ、エンドフェイズ。ライラの効果により、私はデッキの上から3枚のカードを墓地に送るわ(手札:3→1)」
 ライラの効果によって、デッキの上から《天空勇士(エンジェルブレイブ)ネオパーシアス》、《転生の予言》、《ハネクリボー》の3枚が墓地に送られた。
「ターンエンドよ」
 と、私のエンド宣言を聞いた瞬間、黎川さんが動いた。
「天神さんがターンを終える前に、永続罠《神の恵み》を発動。このカードがある限り、私はカードをドローする度に、ライフを500ポイント回復します」
 今度は……ライフ回復のカード……?
 防御系トラップに、《光の護封剣》、そして、ライフ回復のカード……。
 黎川さんにはやはり、守りに徹する様子が見られる。
 もしかして……時間を稼いでいるのかしら?
 だとしたら……何のために?

 (5ターン目)
 ・黎川 LP6200 手札1
     場:神の恵み(永罠)、伏せ×1
     場:なし
 ・天神 LP8000 手札1
     場:アテナ(攻2600)、光神テテュス(攻2400)、ライトロード・マジシャン ライラ(守200)
     場:神の居城−ヴァルハラ(永魔)、伏せ×3

 黎川さんにターンが移る。
「私のターン、ドロー。カードをドローしたことにより、《神の恵み》の効果で500ライフを回復します(手札:1→2)」

 黎川 LP:6200 → 6700

「さらに、魔法カード《成金ゴブリン》を発動。私はカードを1枚ドローし、天神さんはライフを1000ポイント回復します(手札:2→1→2)」
 《成金ゴブリン》の効果により、黎川さんはカードを1枚ドロー。これで、私のライフは1000ポイント回復して9000ポイント。そして、黎川さんは《神の恵み》の効果で500ライフ回復……。

 天神 LP:8000 → 9000
 黎川 LP:6700 → 7200

 ライフを与える代わりに、カードをドロー。……黎川さんの狙いは何かしら?
「そして、私はカードを2枚伏せ、ターン終了です。手札切れ……ですね(手札:2→0)」
 ターンを終えると、黎川さんは左掌を開閉しながら、微笑を浮かべてみせた。
 手札を切らしたというのに、彼女はずいぶんと余裕を保っている。
 場にある伏せカードで、充分に対応できる、ということか。
 それとも、ただそう見せたいだけなのか。

 (6ターン目)
 ・黎川 LP7200 手札0
     場:神の恵み(永罠)、伏せ×3
     場:なし
 ・天神 LP9000 手札1
     場:アテナ(攻2600)、光神テテュス(攻2400)、ライトロード・マジシャン ライラ(守200)
     場:神の居城−ヴァルハラ(永魔)、伏せ×3

「私のターン、ドロー(手札:1→2)」
 何にしても、彼女が手札を切らした今、一気に攻めておきたいところだ。
 そう思いつつ、私はドローカードを黎川さんに見せた。
「私が引いたのは、《神聖なる魂(ホーリーシャイン・ソウル)》。天使族モンスターよ。よって、テテュスの効果でもう1枚ドロー(手札:2→3)」
 テテュスの効果による追加ドローによって《リビングデッドの呼び声》を引き当てた私は、前のターンに伏せておいた罠カードを発動させた。
「永続罠《DNA改造手術》を発動。このカードがある限り、場にいる全てのモンスターの種族は、私が宣言した種族になる。私は“天使族”を宣言」
 《DNA改造手術》によって、本来は魔法使い族である《ライトロード・マジシャン ライラ》が天使族として扱われる。
 ライラは先のターンに自身の効果を使ったことで、このターンは攻撃表示になれない。ならば……。
「天使族となったライラを墓地に送り、《アテナ》の効果発動。墓地から《天空勇士ネオパーシアス》を特殊召喚。天使族モンスターが特殊召喚に成功したことで、《アテナ》のダメージ効果が発動するわ」
 ライラの効果で墓地に送られていたネオパーシアスの復活とともに、黎川さんのライフが600ポイント減少する。

 黎川 LP:7200 → 6600

「さらに、墓地の光属性モンスター、《天空聖者メルティウス》と《ハネクリボー》をゲームから除外し、《神聖なる魂》を特殊召喚。これにより、《アテナ》の効果発動(手札:3→2)」

 黎川 LP:6600 → 6000

「そして、《ヘカテリス》を通常召喚。また《アテナ》の効果でダメージよ(手札:2→1)」

 黎川 LP:6000 → 5400

「バトル。《アテナ》でプレイヤーにダイレクトアタック」
 メインフェイズを終え、バトルフェイズ。そして、《アテナ》で攻撃宣言。
 しかし。
「墓地の《ネクロ・ガードナー》をゲームから除外して、《アテナ》の攻撃を無効にします。私にダメージはありません」

 (攻2600)アテナ −Direct→ 黎川 零奈(LP5400)

 ネクロ・ガードナー:除外

 ……っ。
 また止められた。それも、伏せカードを使われることなく。
 《ネクロ・ガードナー》といえば、墓地にいる状態で効果を発揮できるモンスター。墓地にいるあのカードをゲームから除外すれば、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効化できる。
 なるほど……。最初の《手札抹殺》で、黎川さんは《ネクロ・ガードナー》を墓地へ捨てておいたのね……。
 けど、まだ私の場には、攻撃可能なモンスターが4体いる。全て、かわせるかしら?
「なら、《光神テテュス》でダイレクトアタック」
 テテュスが黎川さんに対して攻撃を仕掛ける。
 その瞬間。
「罠カード発動……《ゴブリンのやりくり上手》。罠カード発動……《ゴブリンのやりくり上手》。速攻魔法発動……《非常食》。《非常食》の発動コストとして、2枚の《ゴブリンのやりくり上手》を墓地へ送ります」
 今度は、黎川さんの場に伏せられていたカードが全て開かれた。
 《ゴブリンのやりくり上手》は、自分の墓地にある《ゴブリンのやりくり上手》の枚数+1枚のカードをドローした後、手札の1枚をデッキの一番下に戻す罠カード。そして《非常食》は、発動時に自分の場の魔法・罠カードを任意の枚数墓地に送ることで、その枚数×1000ポイントのライフを回復する速攻魔法だ。
 つまり……。
「逆順処理です。2枚の罠カードを墓地に送ったことにより、私は《非常食》の効果で2000ライフを回復します」

 黎川 LP:5400 → 7400

 まずは、《非常食》の効果で、黎川さんのライフが回復する。
 次は、2枚の《ゴブリンのやりくり上手》……。2枚とも《非常食》で墓地送りになったため、黎川さんの墓地には今、《ゴブリンのやりくり上手》のカードが2枚。つまり、3枚ドローして1枚をデッキに戻す行為を2回行うことになる……。
 しかし、私のその読みは外れていた。
「私の墓地には今、《ゴブリンのやりくり上手》のカードが“3枚”あります。よって、4枚ドローして1枚をデッキに戻す行為を2回行います」
 …………。そういう……ことか。
 最初のターンの《手札抹殺》で、《ネクロ・ガードナー》だけでなく、《ゴブリンのやりくり上手》も墓地に送っていたのね、彼女は……。
 これで、0枚だった黎川さんの手札は、0+4−1+4−1=6枚にまで増えることに……。
 いや……それだけじゃない。黎川さんの場には、カードをドローする度に500ライフを回復する《神の恵み》がある。彼女は2枚の《ゴブリンのやりくり上手》の効果によってカードドローを2回行うことになるから、計1000ポイントのライフを得られる……。

 黎川 手札:0枚 → 4枚 → 3枚

 黎川 LP:7400 → 7900

 黎川 手札:3枚 → 7枚 → 6枚

 黎川 LP:7900 → 8400

 手札を増やしつつ、ライフも増やしたってわけね……。
 でも、これで彼女は全ての伏せカードを使い切った。そして、テテュスの攻撃は止まらない。
 テテュスの攻撃が黎川さんに命中し、彼女のライフを削り取る。

 (攻2400)光神テテュス −Direct→ 黎川 零奈(LP8400)

 黎川 LP:8400 → 6000

「続けて、《天空勇士ネオパーシアス》でダイレクトアタック」
 次はネオパーシアスの攻撃。当然、黎川さんにかわす術はない。

 (攻2300)天空勇士ネオパーシアス −Direct→ 黎川 零奈(LP6000)

 黎川 LP:6000→3700

「ネオパーシアスの効果発動。このカードが相手に戦闘ダメージを与えたとき、私はカードを1枚ドローする(手札:1→2)」
 ネオパーシアスの効果に従い、カードをドローする私。そして、私はそのカードを黎川さんに公開する。
「今、ネオパーシアスの効果で私が引き当てたのは、《デュナミス・ヴァルキリア》のカード。天使族モンスターね。よって、テテュスの効果で1枚ドローするわ(手札:2→3)」
 天使族モンスターを引いたことで、テテュスの効果が発動する。その効果で私が引いたのは、魔法カード《ダグラの剣》。
 これで、3体のモンスターの攻撃が終わった。でも、私の場には、攻撃可能なモンスターがまだ2体残っている。
「《神聖なる魂》と、《ヘカテリス》でダイレクトアタック」
 残る2体のモンスターの攻撃。
 当然、黎川さんに回避する術はない。攻撃は何事もなく彼女に命中する。

 (攻2000)神聖なる魂 −Direct→ 黎川 零奈(LP3700)

 黎川 LP:3700 → 1700

 (攻1500)ヘカテリス −Direct→ 黎川 零奈(LP1700)

 黎川 LP:1700 → 200

 惜しいわね。200ポイントだけライフが残ってしまったわ。
 次のターンで決めたいものだけど……。
 このターンで6枚にまで増えてしまった黎川さんの手札に目をやりつつ、私は伏せカードの1枚を開いた。
「私は永続罠、《女神の加護》を発動。このカードの発動により、私は3000ライフを回復するわ」

 天神 LP:9000 → 12000

 《女神の加護》は、一気に3000ライフを得られる罠カード。しかし、このカードが場から離れると、私は3000ダメージを受けてしまう。
「そして、装備魔法《ダグラの剣》を、《天空勇士ネオパーシアス》に装備。攻撃力を500ポイントアップさせるわ(手札:3→2)」

 天空勇士ネオパーシアス 攻:2300 → 2800

 《ダグラの剣》は天使族モンスターのみ装備可能なカードで、装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる。さらに、装備モンスターが相手に戦闘ダメージを与えれば、その数値分だけ私のライフを回復する効果もある。
「ターンエンドよ」

 (7ターン目)
 ・黎川 LP200 手札6
     場:神の恵み(永罠)
     場:なし
 ・天神 LP12000 手札2
     場:アテナ(攻2600)、光神テテュス(攻2400)、天空勇士ネオパーシアス(攻2800)、神聖なる魂(攻2000)、ヘカテリス(攻1500)
     場:神の居城−ヴァルハラ(永魔)、DNA改造手術(永罠)、女神の加護(永罠)、ダグラの剣(装魔)、伏せ×1

「危ないところでしたね……。さて、どうにか逆転したいところですが……。私のターン、ドロー。カードをドローしたことで、《神の恵み》の効果で500ライフを回復します(手札:6→7)」

 黎川 LP:200 → 700

 前のターンで残りライフ200にまで追いつめられた黎川さん。《神の恵み》の効果で500ライフを得たものの、それでも彼女のライフはわずか700しかない。
 けど、彼女には、あまり追いつめられた様子がない。7枚に増えたあの手札が、彼女に余裕を与えているのだろうか?
 とは言え、このターンで上手くアクションを起こさなければ、次のターンの攻撃で彼女のライフは尽きる。たとえ攻撃をかわせたとしても、私が《アテナ》の起動効果を発動させれば600ダメージが発生し、彼女のライフは残り100になる。
 どう出てくるか……。
「まずは……このカードを使ってみますか……。魔法カード《マジック・プランター》を発動。自分の場に表側表示で存在する永続罠カードを1枚墓地へ送り、カードを2枚ドローします。《神の恵み》を墓地へ送りましょう(手札:7→6→8)」
 ドローするだけでライフを回復してくれる《神の恵み》を墓地へ送り、黎川さんは新たに2枚のカードを手にする。これで、彼女の手札は8枚にまで膨れ上がった。
 8枚……そこまで増やした手札で、彼女はどんな一手を……?
「……そうですね……では……」
 わずかな思考の後、彼女は8枚に増えた手札から、5枚のカードを選び取った。
「カードを5枚伏せ、ターンエンド、です(手札:8→3)」
 伏せカードを5枚セット。そこで黎川さんのターンは終わった。フィールド魔法ゾーンを除いた魔法・罠ゾーンを埋め尽くし、1分足らずでターンを終えてしまった。
 手札が増えた分、思い切り守りを固めた……ってところかしら?

 (8ターン目)
 ・黎川 LP700 手札3
     場:伏せ×5
     場:なし
 ・天神 LP12000 手札2
     場:アテナ(攻2600)、光神テテュス(攻2400)、天空勇士ネオパーシアス(攻2800)、神聖なる魂(攻2000)、ヘカテリス(攻1500)
     場:神の居城−ヴァルハラ(永魔)、DNA改造手術(永罠)、女神の加護(永罠)、ダグラの剣(装魔)、伏せ×1

 ライフポイントの面では私が有利。
 しかし、場の状況については、何とも言えない。
 モンスターを5体も展開できている分、私の方が有利に思えるが、黎川さんは伏せカードを5枚も仕掛けている。正直、どうにでも転びそうな状況だ。
「私のターン、ドロー。……天使族モンスターの《ハネワタ》をドローしたから、テテュスの効果でもう1枚ドロー。……ドローしたのは《豊穣のアルテミス》。また天使族モンスターをドローしたから、もう1枚ドローするわ(手札:2→3→4→5)」
 ドローしたのは、速攻魔法《非常食》。天使族モンスターではないから、ドローはここまでね。
 とりあえず、テテュスの効果による追加ドローもあって、私の手札はこれで5枚になった。これだけあれば充分だろう。
「じゃあ、まずは《アテナ》の効果を発動。私の場の《ヘカテリス》を墓地へ送り、《智天使ハーヴェスト》を墓地から特殊召喚。天使族モンスターが特殊召喚されたことにより、《アテナ》の効果で黎川さんに600ポイントダメージを与えるわ」
「…………」
 このダメージが通れば、黎川さんの残りライフは100。通るかしら……?

 黎川 LP:700 → 100

 黎川さんが動きを見せることはなく、《アテナ》のダメージ効果は通常どおり処理された。
 ダメージ効果に対するアクションは、なし……か。
 これで黎川さんの残りライフは100。一発でも攻撃が通れば、削りきれる数値。
 このターンで……削る。
「バトル。《天空勇士ネオパーシアス》でダイレクトアタック」
 バトルフェイズに移行し、最も攻撃力の高いネオパーシアスで攻撃宣言。
 しかし。
「通せませんね……。手札から《速攻のかかし》を捨てます(手札:3→2)」
 やはり、そう簡単には通してくれない……か。
 《速攻のかかし》は、相手モンスターの直接攻撃宣言時、手札から捨てることで効果を発揮できるモンスター。その効果によって、攻撃を無効にし、バトルフェイズを強制終了させてしまう。
 いくら私の能力でも、手札で効果を発揮するモンスターまでは止められない。やるわね、黎川さん。
 これで、このターンのバトルフェイズは終了してしまった。今のところ、黎川さんの場の伏せカードが開くことはなく、枚数は5枚のまま。正体も分からないままだ。
 あの5枚の伏せカードも、私の攻撃を防ぐ防御系のカードなのだろうか?
 何にしても、私がこのターンにできることはもうない。
「私はこれで、ターンエンド――」

「―――エンドフェイズ終了前に、罠カード《ダスト・シュート》を発動します」

 ……!
 突如、黎川さんが伏せカードの1枚を開いた。
 《ダスト・シュート》は、相手の手札が4枚以上あるときのみ発動できる罠カードで、相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択し、そのカードをデッキに戻してしまう効果を持つ。
 私の手札を確認しつつ、私の手札を減らせるカード……というわけね。
「《ダスト・シュート》の効果で、天神さんの手札を確認させてもらいます」
「…………」
 私は《ダスト・シュート》の効果に従い、自分の手札5枚――《リビングデッドの呼び声》、《デュナミス・ヴァルキリア》、《豊穣のアルテミス》、《ハネワタ》、《非常食》――を黎川さんに見せた。
 この中から、黎川さんはモンスターカードを1枚選んでデッキに戻せるわけだけど……どれを選ぶのだろうか。
「そうですね……《ハネワタ》をデッキに戻してください」
「……分かったわ(手札:5→4)」
 黎川さんが選んだのは《ハネワタ》だった。《ダスト・シュート》の効果に従い、手札の《ハネワタ》をデッキに戻す。
 自分・相手ターン問わず、手札にある《ハネワタ》を捨てることにより、そのターン自分が受ける効果ダメージは0になる。そんな効果を持った《ハネワタ》をデッキに戻させたということは……彼女の狙いは、「効果ダメージによる勝利」ということかしら?
 ともあれ、これで彼女の場の伏せカードは残り4枚。
 彼女の伏せカードは防御系のカードだと思ってたけど、手札破壊のトラップである《ダスト・シュート》が伏せられてたことを考えると、そうとも限らなそうね……。
 とりあえず、ターンを終えなくては。
「じゃあ改めて、ターンエンドね」

 (9ターン目)
 ・黎川 LP100 手札2
     場:伏せ×4
     場:なし
 ・天神 LP12000 手札4
     場:アテナ(攻2600)、光神テテュス(攻2400)、天空勇士ネオパーシアス(攻2800)、神聖なる魂(攻2000)、智天使ハーヴェスト(攻1800)
     場:神の居城−ヴァルハラ(永魔)、DNA改造手術(永罠)、女神の加護(永続罠)、ダグラの剣(装魔)、伏せ×1

「私のターン、ドロー(手札:2→3)」
 黎川さんのターン。
 また大きな動きは見せず、ターンエンド、だろうか? それとも……?
 ドローカードを黎川さんは、少し考える素振りを見せてから、私へ……いや、私の場へ視線を向けてきた。何か、気になるのだろうか?
「……想像以上です」
 ……?
 想像以上。いきなり、黎川さんはそう口にした。
「想像以上……どういう意味かしら?」
 気になったので訊ねてみる。
 私の問いに対し、黎川さんは躊躇うことなく、はっきりと答えた。
「天神さんの強さです」
「私の……強さ?」
「はい。私の思っていた以上に強いです。よく私も、あなたを相手にここまで持ったものです」
 どこか畏れるように、そして、敬意を示すように、黎川さんは淀みなく告げた。
 そんな彼女の口調が、私には、何だかもうあきらめたかのような口調に聞こえてしまった。
 ここまで私の攻撃をかわしてきた彼女だけど、さすがにここまで……なのだろうか。
 「私と闘うためのデッキを作った」と言っていたから、いずれは何か仕掛けてくる、と思っていたんだけど……。
 もしかして、手札が悪いのかしら? 思ったように、デッキが動いていないとか……手詰まりを起こしているとか……。
 あるいは、残りライフ100では機能しないデッキなのかしら? 何か、多大なライフコストを要求するとか……。
 何にしても……ここまで……か。


 しかし、次の彼女の言葉で、私は自分の考えが間違いだと知ることになった。





「本当にあなたは強い。なので天神さん。あなたの力を使わせてもらうことにします」





 …………!
 私の力を……使う……? 一体何を……?
「私は、魔法カード《おろかな埋葬》を発動します(手札:3→2)」
 黎川さんが、このターンに引き当てたカードをデュエルディスクにセットした。
 《おろかな埋葬》……自分のデッキからモンスターカードを1枚選んで墓地へ送る、魔法カード……。
「《おろかな埋葬》の効果に従い、私はデッキからモンスター1体を選択。墓地へ送ります」
 淡々と語ると、黎川さんはすぐに自分のデッキからカードを1枚選び取り、それを私に提示した。



 ―――っ!



「天神さん。あなたほどの人ならば、私が何を考えているか、もうお分かりでしょう?」
「…………」
 黎川さんがデッキから選んだモンスター。
 それを見た瞬間、私はすぐに悟った。
 黎川さんが今、何を狙っているのか。その全てを。

 まさか……そんな手を使ってくるなんて……。

 私は、すぐに黎川さんの場に目を向けた。
 今、彼女の場には、伏せカードが4枚……。
 おそらく……4枚の内の1枚は“あのカード”……。となれば、他の3枚の中には、私からの妨害を防ぐためのカウンター罠が……。
「続いて、伏せカードの1枚を開きます」
 黎川さんの場の伏せカードが1枚開かれる。
 開かれたのは、予想した通りのカードだった。
 そして、黎川さんは次の一手を繰り出す。
 それに合わせ、私は手札の《豊穣のアルテミス》を捨てつつ、自分の場の伏せカードを開いた。
「手札を1枚捨て、罠カード《レインボー・ライフ》を発動。このターン、私が受けるダメージは全て0になり、その数値分のライフを回復するわ(手札:4→3)」
 無駄と分かりつつ、《レインボー・ライフ》を発動。
 当然の如く、黎川さんの場で、伏せカードの1枚が開かれた。
「やはり仕掛けていましたか。ライフを半分払い、カウンター罠《神の宣告》を発動。《レインボー・ライフ》の発動を無効にし、破壊します」

 黎川 LP:100 → 50

 思ったとおり、彼女はカウンター罠を伏せていた。
 きっちりと、対抗策は用意してあったというわけだ。
 これでもう完全に、私に打つ手はない。

 思わず、私は感嘆の息を漏らした。

 こんな勝ち方も……あるんだ。
 思いもしなかったわね……。

「黎川さん。あなた、すごいわ」

 無意識に、私はそんな言葉を口にしていた。

「恐縮です。……あなたとデュエルできて、良かったです。天神さん」

 黎川さんはそう言うと、大きくため息をついた。

「本当に……あなたは強いです。最後の最後まで、付け入る隙を簡単には与えてくれない。一歩間違えば、私の負けでした。……というよりも、運が良かっただけでしょうね……」

 どこか、自嘲気味に微笑む黎川さん。

「運が良かっただけ……なんてことはないと思うわ。黎川さんの戦術は見事だと思う。ちゃんと対戦相手のことを考えてデュエルしてる感じがあって、素敵だと思うわ」

 素直に私はそう思った。
 運が良かった、の一言で片付けられるほど、彼女の戦術は浅くない。
 今だからこそ、私にはそれが何となく分かる。

「正直、私は黎川さんのことを、防御を重視するデュエリストだと思ってた。でも……本当は違うみたいね」

 いたずらっぽく私が言うと、黎川さんは、少し考える素振りを見せてから答えた。

「そうですね。どちらかと言えば、私は攻撃重視のデュエリストです」

 そう言って、黎川さんは、両肩を軽く上下に動かした。

「じっと耐える……というのは、どうも……。性に合いません」

 彼女のその言葉を聞いたら、何だか可笑しくなってしまった。

「ふふっ。苦手なのね。じっと耐えたりするの」

「こういう闘い方は普段はしないもので……。まあ……苦手というわけじゃないです。ただ、疲れるだけで」

 苦手ではなく、疲れるだけ、と強調する黎川さん。ムキにならなくてもいいのに。

「……もし、このコンボが上手くいかなかった場合は、どうしてたの?」

 ふと、気になったので、黎川さんに訊いてみた。
 黎川さんは、すぐに答えてくれた。

「上手くいかなかった場合……ですか。そのときは、こうですよ」

 そう言って黎川さんは、場に伏せられていた残り2枚のカードを表にした。

 強欲な瓶 通常罠

 自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 八汰烏の骸 通常罠

 次の効果から1つを選択して発動する。
 ●自分のデッキからカードを1枚ドローする。
 ●相手フィールド上にスピリットモンスターが表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「《強欲な瓶》と《八汰烏の骸》を使って2枚のカードをドロー。……手札を増やして、様子を見るつもりでした」

「なるほど……失敗したときのことも考えてたってわけね。さすがだわ」

 素直に、私は黎川さんを称賛した。
 黎川さんは、小さく笑みを浮かべながら、カードを2枚引く。

「……楽しんでいただけたでしょうか?」

 黎川さんが訊ねてくる。
 私は即答した。

「もちろん。こんな形のデュエルもあったんだな、ってわくわくしちゃった。いいデュエルをありがとう」

 私がそう言うと、黎川さんはニコリとした。

「楽しんでいただけて、良かったです。……やっぱり、デュエルは楽しくやるのが一番……ですね」

 嬉しげな黎川さん。
 そして、彼女はふと、思い出したように言った。

「せっかくなので、何か決めゼリフを言って、幕を下ろしたいのですが……よろしいですか?」

「え?」

 決めゼリフって……。十代君の「ガッチャ!」みたいな? それは別に……構わないけど……。
 しかし、意外ね。決めゼリフなんて。そんなことを言う風には見えなかったんだけど……。
 黎川さんってクールそうに見えて、意外とお茶目なのかも知れないわね。

「いいわよ。カッコよく決めてね」

「……努力します」

 黎川さんは、手に持ったカード1枚を私に提示すると、少しの間を置いてから、一言だけ告げた。



「チェックメイトです。天神さん」



 それを聞いた私は、自分のデュエルディスクのライフカウンターに目を向けた。




 天神 LP:600 → 0




「そこまでっ! 第8戦目の勝者は、チーム『プロジェクト』シリーズ!!」


 私のライフが0を示し、審判が『プロジェクト』シリーズの勝利を宣言した。
 デュエルは終わった。私の負けで。


 黎川零奈。
 彼女とは、またデュエルしたいものね。










 読者への挑戦状










8章 ラスト・デュエル

 私の名は天神美月。
 『決闘学園!』シリーズにおける最強レベルのデュエリストであり、また、同シリーズのヒロインも務めている。
 容姿は上々。人気も上々。

「ただいま。みんなごめんね。私、負けちゃったわ」
 黎川さんとのデュエルを終えた私は、控え室に戻ると、まずは他のメンバーに対して謝罪をした。
 私自身は楽しいデュエルだったから満足だ。でも、結局は負けてしまったわけだから、チームのみんなに、一言くらいは詫びを入れるのが筋というものだろう。
「あ〜、気にすることないわよ。あんたは充分、頑張ってくれたわ。これからあたしが挽回してやるから、安心しなさいなって。とりあえず、お疲れさん!」
「ナイスファイトだぜ天神! あと100ポイント……いや、50ポイントか? 削れば勝ちだったんだけどな!」
「お疲れ様です、天神さん!」
「へっ。敵の残りライフを100以下にした時点で、負けは確定したようなものだったんだ。俺には分かるぜ」
 朝比奈先輩、見城さん、吉井君が労いの言葉をかけてくれる中、遠山君は何か不思議なことを言っている。けど……私にはちょっとよく分からない。
 何はともあれ、いいデュエルだった。彼女とは是非とも、また闘いたいものだ。
「それにしても……すごかったですよね。さっきの相手……」
 ため息を吐きながら、吉井君が言った。よほど黎川さんのことが、印象に残っているのだろう。
「そうね。正直なところ、まさか天神がやられるとは思ってなかったわ。あの黎川って女、なかなかやってくれるじゃない」
 軽い口調で言う朝比奈先輩。しかし、表情は真剣なものになっている。
「そうだな。あんな勝ち方をするなんて、想像もしてなかったぜ。アタシ、あの女と闘ってみたかったなぁ……」
 早い内から闘いに参加できなくなってしまった見城さんは、どこか残念そうな様子だ。
「黎川の勝ち方って、鷹野ちゃんとは違った……どっちかって言えば、吉井の勝ち方に近い形だったわよね。天神の能力を逆手に取る、っていう意味で」
 朝比奈先輩はそう言って、吉井君の方に目を向けた。
「ま、正確には、天神の能力だけでなく、天神のカードまで逆手に取った……って言うべきかしらね。どっちかって言えば……あんたと遠山がデュエルしたときのラストに近いんじゃない?」
「え……僕と遠山さんのデュエル……?」
 ピンと来ない、といった感じの吉井くんに対し、朝比奈先輩がさらりと説明した。



「天神のデュエリスト能力を逆用して、4枚の『魔轟神』でループ組みつつ、《リフレクト・ネイチャー》使って、天神の場にあった《アテナ》と《DNA改造手術》まで逆用するなんて、あのときのあんたによく似てるわよ」



 そう。
 黎川さんは、朝比奈先輩の言うように、吉井君に近いやり方で勝ちに来た。
 すなわち、私のデュエリスト能力を逆手に取る。
 しかし、厳密に言うと、それだけではない。
 彼女は私の能力だけでなく……あのときの場の状況そのものまで利用したと言っていい。

 さっきのデュエルのラストターン、黎川さんは最初に魔法カード《おろかな埋葬》を発動した。
 その際、彼女がデッキから墓地へ送ったのは、《魔轟神クシャノ》というカード。

 魔轟神クシャノ チューナー(効果モンスター) ★★★ 光・悪魔 攻1100・守800

 手札から「魔轟神クシャノ」以外の「魔轟神」と名のついたモンスター1体を墓地へ捨てて発動する。
 自分の墓地に存在するこのカードを手札に加える。

 《魔轟神クシャノ》は、墓地にいる状態で効果を発揮できるモンスター。手札からクシャノ以外の『魔轟神』と名のつくモンスター1体を墓地へ捨てれば、墓地にいるクシャノを手札に加えることができる。
 そして、《おろかな埋葬》でクシャノを墓地へ送った時点で、黎川さんの手札は2枚。その内の1枚は、2枚目の《魔轟神クシャノ》。もう1枚は、《魔轟神獣ケルベラル》というモンスターだった。

 魔轟神獣ケルベラル チューナー(効果モンスター) ★★ 光・獣族 攻1000・守400

 このカードが手札から墓地へ捨てられた時、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。

 《魔轟神獣ケルベラル》は、手札から墓地へ捨てられると、自分の場に復活するモンスター。黎川さんはこの《魔轟神獣ケルベラル》を手札から捨て、墓地のクシャノを手札に加えた。当然、ケルベラルは自らの効果により、黎川さんの場に復活する。
 しかし、復活したケルベラルは、私のデュエリスト能力により、黎川さんの手札に戻されてしまう。これで、クシャノの効果のために捨てられたケルベラルが、黎川さんの手札に戻ったことになる。

 この時点で、黎川さんの手札は、《魔轟神クシャノ》が2枚と《魔轟神獣ケルベラル》が1枚の計3枚。
 ここで黎川さんは、彼女の墓地に眠る、あるモンスターの効果を発動した。
 そのモンスターは、あのデュエルの最初のターン、黎川さんが《手札抹殺》の効果で捨てていたモンスター――《魔轟神ソルキウス》――だった。

 魔轟神ソルキウス 効果モンスター ★★★★★★ 光・悪魔 攻2200・守2100

 手札から「魔轟神ソルキウス」以外のカード2枚を墓地へ送って発動する。
 このカードを墓地から特殊召喚する。

 《魔轟神ソルキウス》は、ソルキウス以外のカード2枚を手札から墓地へ送ることで、墓地から復活できる能力を持つ。
 黎川さんは、手札にあった2枚のクシャノを墓地へ送り、ソルキウスを復活させた。
 もちろん、復活したソルキウスは、私の能力で黎川さんの手札に戻る。それにより、黎川さんの手札は、ソルキウスとケルベラルが1枚ずつ、計2枚となる。

 けど、これで黎川さんの墓地には、再び2枚のクシャノが落ちたことになる。
 そして、墓地にあるクシャノは、クシャノ以外の『魔轟神』と名のつくモンスターを手札から墓地へ捨てれば、手札に回収することができる。
 当然の如く、黎川さんは、この2枚のクシャノの回収効果を発動させた。
 片方のクシャノは、手札を2枚墓地へ送るだけで復活できるソルキウスを捨てて回収。
 もう片方は、手札から墓地へ捨てられるだけで復活できるケルベラルを捨てて回収。
 ここで、ケルベラルが捨てられたことで、またもやケルベラルは黎川さんの場に復活する。しかし、私の能力により、すぐに黎川さんの手札に戻る。
 この時点で、黎川さんの手札は、クシャノが2枚とケルベラルが1枚。計3枚。
 そして、彼女の墓地にはソルキウスが置かれている。

 もうお分かりだろう。
 つまり、私の能力を逆用すれば、クシャノ2枚、ケルベラル、ソルキウスの計4枚でループが組めるのだ。
 手札にケルベラルとソルキウスがあり、墓地にクシャノが2枚ある状態で……

 (1)手札のソルキウスを捨て、クシャノを回収
 (2)手札のケルベラルを捨て、クシャノを回収
 (3)手札から捨てられたことで、ケルベラル特殊召喚。私の能力でケルベラルは手札に戻る
 (4)手札のクシャノ2枚を墓地へ送り、ソルキウス特殊召喚。私の能力でソルキウスは手札に戻る
 (5)(1)に戻る

 ……と、ループになる。

 だから何だと思う人もいるかも知れない。それに、鋭い人なら、上記のループコンボが、黎川さんにとって自殺行為でしかないと思ったかも知れない。
 そう。あのデュエルのラストターン、私の場には、《DNA改造手術》と《アテナ》が存在していたのだ。

 DNA改造手術 永続罠

 発動時に1種類の種族を宣言する。
 このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の全ての表側表示モンスターは自分が宣言した種族になる。


 アテナ 効果モンスター ★★★★★★★ 光・天使 攻2600・守800

 自分フィールド上に存在する「アテナ」以外の天使族モンスター1体を墓地に送る事で、自分の墓地に存在する「アテナ」以外の天使族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。
 フィールド上に天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚される度に、相手ライフに600ポイントダメージを与える。

 私の《DNA改造手術》の効果により、場のすべての表側表示モンスターの種族は“天使族”となっていた。そして、《アテナ》は自分・相手問わず、場に天使族モンスターが現れる度に、相手ライフに600ダメージを与える効果を持つ。

 そんな状態で、黎川さんがモンスターを特殊召喚したらどうなるか?
 特殊召喚したモンスターの元の種族に関係なく、黎川さんが600ダメージを受けることになる。

 つまり、『魔轟神』を特殊召喚した黎川さんは、私の場の《アテナ》の効果ダメージを受け、敗北してしまう。
 私の能力は、「相手の場に出たモンスターを手札に戻す」というものだけど、それは決して「モンスターが出たことを無効にしている」わけではない。よって「特殊召喚した」という事実は残ってしまい、《アテナ》の効果ダメージも通常どおり発生してしまう。

 これでは、上記のループコンボは、黎川さんにとってはただの自殺行為だ。
 しかし、彼女はあらかじめ“あるカード”を発動させておくことで、上記の事実を180度捻じ曲げてしまった。

 ラストターンの開始時、黎川さんの場には、4枚の伏せカードがあった。
 その内の2枚は、ドロー効果を持った《強欲な瓶》と《八汰烏の骸》。これらのカードは、直接デュエルの勝敗に関わったわけではないため、今回は重要ではない。
 重要なのは、残る2枚のカードだ。
 2枚の内の1枚は《神の宣告》。私の《レインボー・ライフ》を妨害したカードだ。
 そして、もう1枚こそが、彼女の仕掛けていた最大のトラップ――《リフレクト・ネイチャー》。

 リフレクト・ネイチャー 通常罠

 このターン、相手が発動したライフポイントにダメージを与える効果は、相手ライフにダメージを与える効果になる。

 《リフレクト・ネイチャー》の効果により、ラストターンのみ、私の《アテナ》が発動した効果ダメージは、全て私のライフに直撃する形となった。つまり、《アテナ》のダメージ効果の対象が、黎川さんから私へと変わってしまったのだ。

 これで、黎川さんの場にケルベラルやソルキウスが復活する度に、私の場の《アテナ》の効果により、私自身が600ダメージを受けることになる。
 そして、黎川さんはループコンボにより、何度でもケルベラルやソルキウスを場に出すことができる。

 すなわち。
 黎川さんのループコンボは、私に延々と600ダメージを与え続けるループコンボとなったのだ。

 (1)手札のソルキウスを捨て、クシャノを回収
 (2)手札のケルベラルを捨て、クシャノを回収
 (3)手札から捨てられたことで、ケルベラル特殊召喚
 (4)私の能力でケルベラルは手札に戻る。ケルベラルの特殊召喚により、《アテナ》の効果で私に600ダメージ
 (5)手札のクシャノ2枚を墓地へ送り、ソルキウス特殊召喚
 (6)私の能力でソルキウスは手札に戻る。ソルキウスの特殊召喚により、《アテナ》の効果で私に600ダメージ
 (7)(1)に戻る

 このループコンボを発動させ、黎川さんは、12000ポイントあった私のライフを、たった1ターンで0にした。
 私の能力、そして、私のカードを逆手に取った、勝利方法だった。

「けどよ……あの女の勝ち方って……アタシにはどうも、偶然が重なって起こったようにしか見えねーんだよな。アレか? 運が良かった、ってヤツなのか?」
 どこか釈然としない、といった口調で見城さんが言った。
 それを聞いた朝比奈先輩が軽い口調で訊ねる。
「あら、どうしてそう思うのかね?」
「いや……何ていうか、あの女の勝ち方って……天神の能力と……天神の《アテナ》と《DNA改造手術》があってこそ成り立つわけでしょ?」
 そこで一旦言葉を止め、少し考えてから、見城さんは口を開いた。
「えーと、天神の能力はデュエル中いつでも発動するから逆用できるとしても……天神が都合よく《アテナ》と《DNA改造手術》を出してくるとは限らないでしょ? つまり、《アテナ》と《DNA改造手術》を狙って逆用することは難しい……。だから、偶然かなぁ……と」
「ふむ、なるほど。常に発動するデュエリスト能力ならまだしも、カードの方は狙って逆用することは難しい、と言いたいわけね」
「そうそう! 大体、天神が《アテナ》や《DNA改造手術》をデッキに入れてなかったら、そもそも逆用することが不可能になっちまうし……やっぱ、運が良かっただけなんじゃねーかなぁ……」
 狙ったカードを逆用することは、狙ったデュエリスト能力を逆用することよりも難しい。先のデュエルのラストは、偶然としか思えない。黎川さんの運が良かっただけに思える。
 見城さんが言いたいのは、そういうことだった。
 そんな見城さんの意見に対し、朝比奈先輩は少し考えた後、はっきりと告げた。

「いや、運なんかじゃないわよ」

「運じゃ……ない!?」
 運なんかじゃない。それが朝比奈先輩の意見だった。
 私も、同じ意見だ。
「じ……じゃあ、何かの方法で黎川は、天神が《アテナ》と《DNA改造手術》を使うように仕向けたとか……? ……あ……まさか!? 『相手に特定のカードを使わせる』デュエリスト能力!?」
「あ〜、違う違う」
 見城さんの考えをあっさり否定すると、彼女を落ち着かせるように、朝比奈先輩は言った。
「あたしが思うに、さっきのデュエルでの黎川の勝ち方……あれは、黎川にとって、『数ある勝利法の内の1つ』だったと思うのよね」
 それを聞き、見城さんがあからさまに、頭の上に「?」マークを浮かべたような表情をする。
 一方で吉井君が、何かに気付いたように顔を上げた。
「……まさか……黎川さんは、天神さんに勝つための手段を、他にも用意していた……ってことですか?」
 吉井くんの言葉に、朝比奈さんが頷く。
「十中八九、そうだと思うわよ。黎川は、あらかじめ天神の動きとか、考えられる戦況をいくつか想定して、デッキを組み立てた。で、さっきのデュエルでは、天神が《アテナ》と《DNA改造手術》を出してくれたから、それを逆用する勝利法を実行した、ってわけね」
「ん……? よ……要するに、天神が《アテナ》とか《DNA改造手術》を使わなくても、黎川には勝つ手段があったってことか!?」
「そーいうこと。天神の動きや戦況に合わせて、戦術を変えていく、ってのが、黎川のやり方だと思うわ」
 そう。
 黎川さんの勝ち手段は、何も、先のデュエルの勝ちパターンだけではない。
 先のデュエルの内容をよく思い返してみると、それが分かる。
「でも、他の勝ち手段って……そんなのがあるようには見えなかったけどなぁ……う〜ん……」
 うんうんと唸る見城さん。その様子を見て、朝比奈先輩がいたずらっぽく笑んだ。
「ふむ。じゃあ、さっきのデュエルの3ターン目、黎川が《強欲で謙虚な壺》を使ったのは覚えてる?」
「…………あ、はいはい! そういや使ってた!」
 魔法カード《強欲で謙虚な壺》。黎川さんは確かに、そのカードを使っていた。

 強欲で謙虚な壺 通常魔法

 自分のデッキの上からカードを3枚めくり、その中から1枚を選択して手札に加え、残りのカードをデッキに戻す。
 「強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン自分は特殊召喚する事ができない。

「じゃあ、《強欲で謙虚な壺》の効果で、黎川がめくった3枚のカードは何?」
「いっ!? え……えーと……確か……《光の護封剣》と……何だっけ!? 吉井!!」
「!? ……えーと……《光の護封剣》以外の2枚は……《魔轟神獣ケルベラル》と……それから……あっ、《コカローチ・ナイト》でしたっけ?」
「正解。その通りよ」
 《強欲で謙虚な壺》でめくられた3枚のカード……《光の護封剣》、《魔轟神獣ケルベラル》、《コカローチ・ナイト》。それらを振り返った上で、朝比奈先輩は言葉を続けた。
「ケルベラルや《光の護封剣》はいいとして……黎川のデッキに《コカローチ・ナイト》があったことについて、何か思わない?」
 黎川さんのデッキに《コカローチ・ナイト》が入っていたことについて、言及する朝比奈先輩。
 それに対し、吉井君と見城さんがすぐに返す。
「確かに……変だなとは思いました。普通は使われないようなカードだし……」
「どっちかって言えば、自分の首を絞めるようなカードだもんな!」
 《コカローチ・ナイト》は、墓地に置かれた瞬間にデッキの一番上に戻る効果を持つモンスターだ。
 墓地に置かれただけで、自分のデッキの一番上のカードを固定してしまう効果ゆえ、このカードはどちらかと言えば、自分の首を絞めることが多い。

 コカローチ・ナイト 効果モンスター ★★★ 地・昆虫 攻800・守900

 このカードが墓地へ送られた時、このカードはデッキの一番上に戻る。

 そのためこのカードは、普通は使われることのないカードだ。しかし、黎川さんのデッキには、確かにそのカードが採用されていた。
 その理由は何か?

 それは、至極簡単なこと。
 このカードが私に対して、非常に有効なカードだからだ。

「実はね……あたしも今さっき気付いたんだけど、天神を相手にしたときは、《コカローチ・ナイト》を“あるカード”と組み合わせて使うだけで、1ターンキルができるのよ」
「え!?」
「マジで!?」
 吉井君と見城さんが目を見開く。
 そう。朝比奈先輩の言うように、《コカローチ・ナイト》を“あるカード”とコンボさせれば、私を1ターンで倒すことができる。
「んな馬鹿な……あんなゴキブリカードで天神を1キルできるなんて……信じられねぇ……」
「天神さんを相手にしたとき……ということは、天神さんが相手だからこそ成り立つ1ターンキル……ということですよね?」
「鋭いわね吉井。その通りよ。さ、“あるカード”とは何かしらね……」
 答えをすぐには言わず、焦らす朝比奈先輩。
 対する見城さん、吉井君は、思考を巡らせているようだ。
「わ……分からねぇ……! どうすりゃ、ゴキブリで1キルができるんだ……!?」
 頭をかきむしる見城さん。どうやら、答えが出ないらしい。
 一方、吉井君は何も言わずに考え続け、やがて、
「…………あ」
 気付いたように、声を発した。



「もしかして……“あるカード”って……《星見獣ガリス》……ですか?」



「ふふ……正解よ、吉井。実はね、《星見獣ガリス》があれば、天神に対抗できるのよ」
 《星見獣ガリス》。
 それは、私に対抗するには持ってこいのモンスターカード。

 星見獣ガリス 効果モンスター ★★★ 地・獣 攻800・守800

 手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。
 自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、そのカードがモンスターだった場合、そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与えこのカードを特殊召喚する。
 そのカードがモンスター以外だった場合、このカードを破壊する。

 《星見獣ガリス》は、デッキの一番上のカードを墓地へ送り、そのカードがモンスターであれば、そのモンスターのレベル×200ダメージを与えた上で、手札から特殊召喚することができる。その代わり、墓地に送ったカードがモンスター以外であれば、ガリス自身が破壊されてしまう。
 普通なら、ガリスの効果を発動した場合、「相手にダメージを与えてガリスを特殊召喚」か「ガリス自身の破壊」のどちらかになる。
 しかし、私を相手にした場合は違ってくる。
 私を相手にした場合は、「相手にダメージを与えてガリスを特殊召喚。しかし、ガリスは手札に戻る」か「ガリス自身の破壊」のどちらかになる。
 相手の場にモンスターが出現したとき、一切の効果を発動させずに、そのモンスターを手札に戻す――そんな能力を持つ私の前で、ガリスの効果を発動させ、特殊召喚に成功したとしても、結局ガリスは手札に戻される。

 ところで、ガリスが手札に戻るということは、ガリスの効果をもう一度使用できる、ということでもある。
 つまり……

 (1)ガリスの効果発動
 (2)デッキの一番上のカード(モンスターとする)を墓地に送る
 (3)墓地に送ったモンスターのレベル×200ダメージを私に与え、ガリスを特殊召喚
 (4)私の能力が発動
 (5)ガリスが手札に戻る
 (6)(1)に戻る

 上記(1)〜(6)の動作を繰り返せば、ガリスの効果ダメージで、私のライフを削っていくことができる。
 とは言え、一般的なデッキを使って、このようなループを引き起こすことはまず無理だ。何しろ、ガリスの特殊召喚を成功させるには、デッキの一番上のカードがモンスターカードでなければならないのだから。
 デッキの一番上のカードがモンスター以外であれば、ガリスは特殊召喚されずに破壊される。すなわち、上記のループを成立させるには、デッキの一番上のカードが常にモンスターカードでなければならない。

 そこで、《コカローチ・ナイト》の出番だ。
 《コカローチ・ナイト》は墓地に送られたとき、自分のデッキの一番上に戻る効果を持つ。場から墓地に送られたときはもちろん、手札やデッキから墓地に送られた場合でも、デッキの一番上に戻る。
 もうお分かりだろう。
 デッキの一番上のカードを《コカローチ・ナイト》に固定しておき、手札のガリスの効果を発動させれば……。

 (1)ガリスの効果発動
 (2)デッキの一番上のカード=《コカローチ・ナイト》を墓地に送る
 (3)《コカローチ・ナイト》のレベル×200=600ダメージを私に与え、ガリスを特殊召喚
 (4)私の能力が発動
 (5)ガリスが手札に戻る
 (6)《コカローチ・ナイト》はデッキの一番上に戻る
 (7)(1)に戻る

 600ダメージを与えて、ガリスを特殊召喚。私の能力によって手札に戻ったガリスを、600ダメージを与えつつ再び特殊召喚。そして、ガリスはまた手札に戻る……。
 こうして、1サイクルで私のライフを600削る、ループコンボが完成する。

 おそらく、黎川さんはこのコンボを意識して、《コカローチ・ナイト》をデッキに入れていたと思われる。
 場合によっては、ガリスによるダメージで私に勝つ、ということも考えていたのだろう。

「そんなわけだから、黎川はきっと、《星見獣ガリス》をデッキに入れていたはずよ。だから、仮に天神が《アテナ》や《DNA改造手術》を出さなかったとしても、カンケーないってことね」
「うわぁ……『運が良かった』なんてモンじゃねーなこれは……。どう見ても、天神のことをキッチリ分析してるって感じじゃねーか……」
「そ。天神がどう動こうと、黎川は、ある程度なら対応できたと思うわよ。きっと、他にも勝ち手段が用意されていたんでしょうね……」

 私も、本当にその通りだと思う。
 黎川さんは、私の闘い方をしっかりと分析した上で、あのデッキを組んだ。
 だから、私がどう動こうと、彼女であれば、それなりに対応してきたと思う。
 現に、さっきのデュエルの結末は、彼女が私を理解していなければ、まず起こり得ないことだ。

 相手のことを理解してデュエルする。
 それが、黎川さんの闘い方……なのかも知れない。

「ふむ。黎川って女、ずいぶんとしたたかな真似してくれたじゃないの」
 朝比奈先輩の表情が、再び真剣なものへとなっていく。
 しかし、同時に彼女は、強気の笑みも浮かべていた。

「どうやら、まだまだ楽しませてくれるみたいね、鷹野ちゃん」

 あともう一息というところで、いきなり現れた強敵。
 それでも、朝比奈先輩に、恐れを抱いている様子は全く見られない。

 当たり前じゃない。朝比奈先輩なんだから。

 というわけ(?)で。
 ここからは都合により、朝比奈先輩の視点で送るよ! テヘッ♪




















 ★


 …………。

 …………。

 …………んぇ!? あ……今度はあたしの視点なの!?

 けふんけふん。
 えーと、あたしの名前は朝比奈翔子。『決闘学園!』シリーズにおいて、欠かすことのできない最重要キャラであり、かつ同シリーズの真のヒロインでもある。
 容姿は上々。人気も上々。
 いきなり視点変わってゴメンね。ビックリした? そうでもない? まあ、どっちだっていいか!

 さて、長きに渡った『プロジェクト』と『決闘学園!』の三度目の闘いも、次のデュエルがラスト・デュエルとなる。このデュエルを制したチームが、今回の闘いの勝利チームとなるのだ!
 ま、今回の対決も当然、あたしたち『決闘学園!』チームが勝たせてもらうけどね。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.黎川 零奈(♪)3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.天神 美月
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 


 『プロジェクト』側は先のデュエルにおいて、「黎川零奈」とかいう隠し兵器を召喚し、運よく天神を討ち取ることに成功した。
 まあ、天神を倒した点については評価してやってもいい。よく頑張った方だと思う。
 けど、だからと言って、あたしにも勝てる、なんて思ったら大間違いだ。

 黎川零奈……。さっきディスプレイで見たけど、あんな地味で色気のカケラもない貧乳女が、あたしに勝とうなんて108年早い。
 それをすぐに分からせてやるわ。

 あたしはデュエルディスクを装着すると、控え室の扉を開けた。
「頑張ってください! 朝比奈先輩!」
「アタシの分まで楽しんできてくれよな!」
「ファイトです。朝比奈先輩」
「絶対に敵のライフを100以下にするなよ。逆転負けするからな。俺には分かるぜ」
 吉井、見城、天神の順に、あたしに見送りの言葉をかけてくれた。そんな中、遠山だけは何か不思議なことを言っているけど……まあ、参考にしておくわ。
「それじゃ、行ってくるわ! きっちり勝ちをもぎ取ってくるから、安心して待っていなさいな!」
 自信を持ってそう宣言し、あたしは控え室を後にした。

 さぁ〜て。最後の闘いと行きますか!


 ★


「それでは、これより第9戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」
 審判の声を聞き、あたしは堂々とデュエルリングへ上がった。
 目線の先には、先のデュエルで天神を倒した、『プロジェクト』側の最終兵器かつ貧乳デュエリストの黎川零奈が立っている。
 ふ〜む。こうして見ると、やっぱり色気がないわよね、あの女。

 ……ちなみに、あたしのキャラが『決闘学園!』シリーズ本編と違うような気がするのは、制作事故を起こしているのが原因らしい。
 何ていい加減な作者なの……。

「さっきはずいぶんと面白いものを見せてくれたわね。おかげで楽しませてもらったわ」
「そうですか。それは光栄です」
 あたしの言葉に対し、さらりと返してくる黎川。その表情からは、彼女の感情は読み取れない。
「でも、だからって、あたしにまで勝てるとは思わないことね。そう簡単に、思い通りにはさせないわよ」
「なるほど。一筋縄では行かないというわけですか。楽しめそうですね」
 またも、さらりと返してくる黎川。……張り合いがないわね。ここはもう少し、派手なリアクションがほしいとこなんだけど。

 それはそうと、さっき、控え室でちょこっと調べたけど、黎川は既に20歳を過ぎてるらしい。
 つまり、彼女は鷹野ちゃんたちとは違って、デュエリスト能力は持っていないと考えていいはず。現にさっきのデュエルでも、彼女は能力を発動する様子がなかったし。
 ま、仮に持ってたとしても、あたしが勝つことに変わりはないけどね。
 この勝負、何としてでも勝つわ!

 それにしても……。
 20過ぎてるわりには、ホントに色気が足りないわね、彼女。
 これなら、鷹野ちゃんの方がよっぽど色気があるじゃない。

 ひとまず、デッキシャッフルに入る。
 黎川のデッキはおそらく、さっきのデュエルのときとは変わっているはずだ。
 さっきのデュエルで彼女は、「天神と闘うためのデッキ」を使っていた。あのデッキは明らかに、天神の能力を逆手にとって勝つことを目的としたデッキ。つまり、天神の能力があってこそのデッキだ。
 ならば、あたしが対戦相手であるこのデュエルにおいて、彼女が先ほどと同じデッキを使ってくるとは考えにくい。先ほどとは別のデッキで挑んでくる、と考えるのが妥当だろう。
 一体、どんなデッキで挑んでくるのか。それはまだ分からない。
 ただ1つ言えるのは、相手がどんな手で来ようと、あたしに負けは許されない、ということだけ。

 ……にしても。
 デッキをシャッフルしつつ、あたしは対戦相手である黎川を見て、改めて思わざるを得なかった。
 ホントに……色気がないわね、彼女。ホントに……これといった魅力がないわ。
 地味だし、貧乳だし、お世辞にも可愛いとは言えないし、貧乳だし、口数少ないし、貧乳だし、リアクション面白くないし、貧乳だし。
 ホントに……見事なまでに魅力のない女性キャラね。ていうか、貧乳キャラね。

 ていうか、何であたしは今日、こんなに敵の色気について考察してるのかしら?(←A.制作事故)

「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『プロジェクト』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「そうですね……。では、私は先攻を選択します」
「分かりました。それでは、このデュエルは黎川零奈さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」
 黎川が先攻を取ることを宣言した。
 先攻は取られたか。ま、大抵はそうなるわよね。
 デュエルディスクを変形させると、あたしは貧乳……もとい、黎川に向かって、軽い口調で言った。
「そんじゃあ、最後のデュエル、お互いに楽しみましょうか! 貧乳女!」
 あ、やべ。貧乳女って言っちゃった。
 いやあ、うっかりうっかり。地の文で貧乳貧乳連発してたから、つい声に出しちゃったわ。
 ま、そんな気にすることでもないわよね。どうせ黎川のことだから、大してリアクションもしないだろうし。


 ……しかし、あたしはすぐ、その考えが間違いだと思い知らされることになった。


「……貧乳……ですって?」
 これまで、さほど口を開かなかった黎川が、“貧乳”のワードに反応した。
 心なしか、彼女の表情が、先ほどよりも険しくなっているように見える。

 あれ? もしかしてあたし、まずいこと言っちゃった?

 何となくヤバい感じがしたので、あたしは早めに謝罪しておくことにした。
「あ、ゴメン。今の発言はまずかったわ。ゴメンね! 悪かった!」
 手を合わせ、反省している感を出しつつ謝罪。
 けど、もう手遅れだった。
「いえ、別に気にしてませんよ。別に、怒ってなんかないです。ええ。気にしてません。確かに私は貧乳ですけど、別にそれを気にしたことなんてないです。本当です。本当に気にしてません。だから、別に大丈夫です。怒っていませんから。本当ですよ」
 そんなセリフを、黎川は若干険しい表情で、しかし、淡々とした口調で口にした。
 いや、絶対怒ってるでしょアレ! 絶対、貧乳なの気にしてるよあの人!! どう見たって虎の尾を踏んだじゃんあたし!
 つーか怖いんだけど! 何であの人、あんな静かに怒りの感情を表現するの!? すっごく怖いんだけど!! やめてくんない!?
「いや……ホントにゴメン。悪かった。謝るわ。ゴメン……」
 もうここはとにかく謝るしかない。そう思い、あたしは再び謝罪した。
 だが、黎川の怒りは収まる様子を見せなかった!
「大丈夫です。気にしてませんから。ふふ……。ていうか、気にする要素なんてどこにもないじゃないですか。だって、貧乳ですよ? どうして気にしなきゃいけないんですか? 胸が小さいからって引け目を感じるなんてこと、私には理解しがたいですね。ふふ……ホントにもう、ぜんぜん全くチリほども気になりませんね。ていうか、たまに胸の大きい人を見かけますけど、どう見ても邪魔ですよね、アレ。ああいうのを見るたび、私は幸せものなんだなぁ、と感じさせられますよ……。ふふ……。そうそう、私が中学3年の頃、クラスの男子数人が『このクラスで最も胸の貧しい女子は誰か?』なんてことを話し合っていましてね……、で、結果的に私の名前が出たわけですが、ふふ……あの時ばかりは、男子って一部を除けば馬鹿ばかりなんだなぁ、と思いましたよ。ふふ……ホントにもう、これだから思春期の男は困るっていうか、何にも分かっちゃいないっていうか、胸の大きさが全てじゃねーよっていうか……」
「あ〜〜〜! もういい! ゴメン! あたしが悪かった! だからもう許して!!」
 もう駄目! 降参! ていうか、何で微笑しながらキレんのよ! マジ怖いんだけど! ホントにやめてくんない!?
「ふふ……ふふふ……。だから、謝る必要なんてないって、言ってるじゃないで―――」
「あぁ〜〜〜もう、うるさい! つーか、とっととデュエル開始の宣言をしろ!! 審判!!」
 これ以上、彼女の怒りに付き合ってると、話が先に進みそうにない。ていうか、あたしの精神に負担が掛かる!
 そう思ったあたしは、審判にデュエル開始の宣言をするよう、促した。

「それでは! 第9戦目、黎川零奈選手 対 朝比奈翔子選手。デュエル、開始ィィ!! ちなみに俺は貧乳派だァァァ!!」

 紆余曲折を経たが、ついにラスト・デュエルが幕を開けた!
 ていうか、審判! 誰もあんたの好みなんて訊いてないわよ!


「先攻は、貧乳である私ですね。ドロー(手札:5→6)」
 わざわざ「貧乳」と言いつつドローする黎川。
 ……ヤバい。相当根に持ってるわね……彼女。
「では、まず私はこのカード……《貧乳の宝札》を発動します(手札:6→5)」
 …………!?
 は? え、なになに? あの女、今なんて言ったの……?
「よ……よく聞こえませんでした……」
「私は、《貧乳の宝札》を発動します」
 ひ……ひんにゅうのほうさつ!? 何それ!? そんなカードあったっけ!?
 あたしは、黎川が発動した《貧乳の宝札》のテキストをよく確認してみた。

 貧乳の宝札 通常魔法

 このカードは貧乳の成人女性のみ発動できる。
 発動ターンのエンドフェイズ時、自分は手札が6枚になるようにカードをドローする。

 何だこのふざけたカードはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???
 「貧乳の成人女性のみ発動できる」って……どんな発動条件なのよ!? つーか、どう見てもセクハラじゃない、このカード!! カード名がセクハラだし、効果もセクハラだし……何て言うかもう、存在自体がセクハラよ! しかも、効果がやけに強いし!!
「ふふ……貧乳であることが、思わぬ形で役に立ちましたね」
 発動した本人は、どこか自慢げに笑んでいる。
 くっ……! まさか、貧乳であることをこんな形で生かすなんて……!
 ていうか、黎川の奴、絶対に意地になってるわよね!? 絶対に「貧乳なんて気にしてないもんね!」感を出してるわよね!? 絶対に「貧乳は決してディスアドバンテージじゃないもんね!」感を出してるわよね!?
「《貧乳の宝札》を発動したことにより、私はこのターンのエンドフェイズ時、手札が6枚になるまでドローできます」
 なんやかんやで結局、《貧乳の宝札》とかいうふざけたカードが適用されてしまった。
 やってくれるわね……この女!!
「そして、私はリバースカードを4枚セット。さらに、《貧乳の女神》を攻撃表示で召喚(手札:5→1→0)」

 貧乳の女神 効果モンスター ★ 光・天使 攻0・守0

 このカードのコントローラーが貧乳の成人女性である場合、このカードの攻撃力は10000ポイントアップする。

 貧乳の女神 攻:0 → 10000

 黎川がまたふざけたカードを出してきた。
 いや……もう突っ込むまい……。
「これで私はターンを終えましょう。……と、エンドフェイズ時に《貧乳の宝札》の効果が適用されます。私の手札は今0枚なので、カードを6枚ドローします(手札:0→6)」
 《貧乳の宝札》の効果が適用され、黎川の手札がターン開始時と同様の6枚に増える。
 攻撃力10000のモンスターに、伏せカード4枚。これだけのカードを出しておきながら、黎川の手札は6枚。狂ってるわね……。

 (2ターン目)
 ・黎川(貧乳) LP8000 手札6
     場:伏せ×4
     場:貧乳の女神(攻10000)
 ・朝比奈 LP8000 手札5
     場:なし
     場:なし

「あたしのターン、ドロー!(手札:5→6)」
 まあ、黎川はいきなり反則的な手を使い、場と手札を強化したわけだけど……。
 だからって、あたしに易々と勝てると思ったら大間違いだ。
 あたしだって、伊達に能力デュエリストをやってるわけじゃない。
 『決闘学園!』シリーズの真のヒロインの力を見せてやるわ!

 あたしは、気持ちを落ち着け、6枚になった自分の手札を確認した。
 あたしの手札は、《ミスティック・ゴーレム》、《異次元の女戦士》、《悪夢の拷問部屋》、《痛み移し》、《ハリケーン》、《魔法の筒(マジック・シリンダー)》の6枚……。

 ミスティック・ゴーレム 効果モンスター ★ 地・岩石 攻?・守0

 このカードの元々の攻撃力は、このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚されたターンに相手がダメージを受けた回数×500ポイントになる。

 異次元の女戦士 効果モンスター ★★★★ 光・戦士 攻1500・守1600

 このカードが相手モンスターと戦闘を行った時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する事ができる。

 悪夢の拷問部屋 永続魔法

 相手ライフに戦闘ダメージ以外のダメージを与える度に、相手ライフに300ポイントダメージを与える。
 「悪夢の拷問部屋」の効果では、このカードの効果は適用されない。

 痛み移し 永続魔法

 自分がダメージを受ける度に、相手ライフに300ポイントダメージを与える。
 「痛み移し」の効果では、このカードの効果は適用されない。

 ハリケーン 通常魔法

 フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。

 魔法の筒 通常罠

 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 《悪夢の拷問部屋》と《痛み移し》を発動し、あたしのデュエリスト能力――自分のターンのメインフェイズ時、自分か相手のライフに100ポイントダメージを10回まで与える――をあたし自身に10発ぶち込めば、《悪夢の拷問部屋》と《痛み移し》の効果で黎川のライフを計6000削ることができる。それが最良の手だろう。
 しかし、黎川の場には4枚もの伏せカードがある。もしかしたらあの中に、厄介なカードが紛れているかも知れない。
 ならば!
「あたしはまず、魔法カード《ハリケーン》を発動! これで、場の魔法・罠カードを全て手札に戻す!(手札:6→5)」
 《ハリケーン》を使って、邪魔なカードには一旦退場してもら――
「……それはいけませんね。私はカウンター罠《貧乳の宣告》を発動し、《ハリケーン》を無効にします」
 ―――って、また貧乳カードかよぉぉぉぉぉ!!??
 こ……今度は何なのよ!? ひんにゅうのせんこく!? 何それ!?

 貧乳の宣告 カウンター罠

 このカードは貧乳の成人女性のみ発動できる。
 効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚のどれか1つを無効にし破壊する。

 くっ……! 要は、「効果モンスターの効果の発動も無効にできる、コストのいらない《神の宣告》」ってことじゃない!! 何よこの反則カード!!
 ったく、さっきからチートカードばっかし使いやがって!! つーか、よく考えてみたら、「チートカード満載のデッキを使うラスボス」って、『番外プロジェクト2』とやってること同じじゃない!! 何なのこれ!? ネタ切れ!?
「この程度のカードはチートなどと言いません。発動条件が厳しいですしね」
 あっさりと、自分の使ったカードはチートではないと言い切った黎川。……言われてみれば、確かにそうかもしれない。
 とりあえず、あたしの《ハリケーン》は黎川の使った《貧乳の宣告》によって無効となった。これで、黎川の場に伏せられたカードは残り3枚。
 ……こうなりゃ、伏せカードなんて気にせずに行くわ。
「じゃあ、あたしは永続魔法を2枚出すわ。《悪夢の拷問部屋》と《痛み移し》よ(手札:5→3)」
 コンボの要となる2枚の永続魔法を発動。それに対し、黎川はアクションを起こさない。
 なら、容赦なく行かせてもらうわよ!
「そして、あたしのデュエリスト能力発動! あたし自身に100ポイントのダメージを与える!」

 朝比奈 LP:8000 → 7900

「そして、あたしがダメージを受けたことで、《痛み移し》の効果が発動! あんたに300ポイントのダメージを与えるわ! さらに、《悪夢の拷問部屋》の効果も発動するわよ!」
 《痛み移し》は、あたしが《痛み移し》の効果以外でダメージを受けるたび、相手に300ダメージを与える。
 そして《悪夢の拷問部屋》は、相手に《悪夢の拷問部屋》の効果以外で戦闘ダメージ以外のダメージを与えるたび、相手に300ダメージを与える。
 つまり、あたしが100ダメージを受けたことで、黎川のライフに計600ダメージを与えられる。
 これを10回繰り返せば、黎川のライフを6000ポイント削れる……ってわけね。
「1000のライフと引き換えに、6000のライフを奪う……ですか。恐ろしい能力ですね。ていうか、反則的ですね。ていうか、チートですね」
 反則……チート……。黎川の言ってることは間違いではない。それは認める。けど、今の黎川に言われるのは何だか腹が立った。
「うるさいわね。チートカード連発するようなあんたに言われたくないわよ」
 とりあえず、あたしはそう言い返しておいた。
 すると、黎川はうっすらと笑みを浮かべ、伏せカードに手をかけた。
「私には言われたくない……ですか。そうですね。先ほどは少し、やんちゃをしすぎました。……では、今度は……もっと、やんちゃなやり方で行きましょう。朝比奈さんの《痛み移し》の効果の発動に対し、まず、罠カード《貧乳変換術》を発動します」
 ……っておい! また貧乳ぅぅぅぅ〜〜〜〜!!?? 今度は何!?

 貧乳変換術 通常罠

 このカードは貧乳の成人女性のみ発動できる。
 このターン自分が受ける効果ダメージは10分の1になる。
 このターンのエンドフェイズ時、受けた効果ダメージの回数と同じ数まで自分フィールド上に「貧乳トークン」(天使族・光・星1・攻/守0)を守備表示で特殊召喚する。

 効果ダメージを減少させて、トークンを生成する罠……。何か《ダメージ・トランスレーション》に似たようなカードだけど、効果の強さは、明らかにこちらの方が上だ。
 なるほど……。それで、《悪夢の拷問部屋》と《痛み移し》によるダメージを減らそうってわけね。
 ま、悪くない考えだけど……そんなことであたしの攻撃を防ぎ切れると思ったら大間違いよ。なんたって、あたしの手札には必殺の《ミスティック・ゴーレム》があ―――
「そして、それにチェーンして、永続罠《貧乳幻影》を2枚発動します」
 …………!!??
 黎川は、《貧乳変換術》にチェーンする形で、残り2枚の伏せカードを開いた。その正体は、どちらも貧乳カード……!
 ま……また貧乳かよ!? どんだけ貧乳にこだわるつもりなのこの人!?
 つーかこの人、さっきから貧乳カードしか使ってないじゃん!! 何? この人のデッキって貧乳デッキなの!? いつまで貧乳ネタで引っ張る気なの!?
「《貧乳幻影》は、相手の場に表側表示で存在する魔法・罠カード1枚の、カード名とカード効果を得ることができます」

 貧乳幻影 永続罠

 このカードは貧乳の成人女性のみ発動できる。
 相手フィールド上に表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を選択して発動する。
 このカードは選択したカードと同名カードとして扱う。
 また、このカードの効果は、選択したカードの効果と同じになる。
 選択したカードがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。

 よ……要するに……、あたしの場の魔法・罠カードのカード名とカード効果をコピーするカード……ってわけね。
 今、あたしの場にある魔法・罠カードは、永続魔法である《悪夢の拷問部屋》と《痛み移し》のみ。《貧乳幻影》は、この2枚の内どちらかをコピーできるわけだけど……―――?

 …………あ。
 あたしはそこまで考えたところで、恐ろしいことに気付いてしまった。

「逆順処理ですね。まず私は、一方の《貧乳幻影》で、朝比奈さんの場の《悪夢の拷問部屋》をコピーします。そして、もう一方の《貧乳幻影》で《痛み移し》をコピー」

 (2ターン目)
 ・黎川(貧乳) LP8000 手札6
     場:悪夢の拷問部屋(貧乳幻影)(永罠)、痛み移し(貧乳幻影)(永罠)
     場:貧乳の女神(攻10000)
 ・朝比奈 LP7900 手札3
     場:なし
     場:悪夢の拷問部屋(永魔)、痛み移し(永魔)

「次に、《貧乳変換術》の効果が有効になります。これで私がこのターンに受ける効果ダメージは全て10分の1になります。さすがに、朝比奈さんの能力によるダメージを減らすことはできませんが、《悪夢の拷問部屋》と《痛み移し》のダメージは減らすことができます」
 …………。
 これは……まずい……。
 このままだと……あたしのライフは……―――。
「最後に、朝比奈さんの《痛み移し》の効果が処理され、私は300ポイント……ではなく、30ポイントのダメージを受けます」
 あたしの場の《痛み移し》の効果により、黎川のライフが、300ポイントの10分の1、すなわち30ポイント減少する。

 黎川 LP:8000 → 7970

「ここで、《痛み移し》による効果ダメージが発生したことで、朝比奈さんの場の《悪夢の拷問部屋》の効果が発動。私は300ポイント……ではなく、30ポイントの追加ダメージを受けます」
 《痛み移し》によるダメージに反応し、あたしの場の《悪夢の拷問部屋》がさらなるダメージを黎川に与える。

 黎川 LP:7970 → 7940

「さて。あなたの《悪夢の拷問部屋》によってダメージを受けたことで、私の場の“《痛み移し》をコピーした《貧乳幻影》”の効果が発動しますね。300ポイントのダメージを受けてもらいましょう」
 今、黎川の場にある《貧乳幻影》の1枚は、カード名・カード効果ともに、あたしの《痛み移し》と全く同じものとなっている。よって、その効果が発動し、あたしがダメージを受ける。
 黎川と違い、あたしに《貧乳変換術》の効果は適用されないため、あたしは300ポイントのダメージを受けることになる。

 朝比奈 LP:7900 → 7600

「《痛み移し(貧乳幻影)》によってダメージを与えたため、私の場の“《悪夢の拷問部屋》をコピーした《貧乳幻影》”の効果が発動。300ダメージを受けてください」
 《痛み移し(貧乳幻影)》のダメージに合わせ、黎川の場の《悪夢の拷問部屋(貧乳幻影)》が効果を発動。あたしはさらに300ポイントのダメージを受ける。

 朝比奈 LP:7600 → 7300

「ふふ……。朝比奈さんが、私の《悪夢の拷問部屋(貧乳幻影)》でダメージを受けたことで、再び朝比奈さんの場の《痛み移し》が発動しますね」
「……っ!」
 あたしの場の《痛み移し》が発動すれば、次は、あたしの場の《悪夢の拷問部屋》が発動することになる。そして、あたしの場の《悪夢の拷問部屋》によって黎川がダメージを受けたことで、黎川の場の《痛み移し(貧乳幻影)》が発動。それに合わせ、黎川の場の《悪夢の拷問部屋(貧乳幻影)》も発動。ここで、あたしが黎川の場の《悪夢の拷問部屋(貧乳幻影)》によるダメージを受けたことで、またもあたしの場の《痛み移し》が発動……。これを繰り返す……。
「ダメージ効果の……無限ループ……!」
 まさに、無限ループだった。
 あたしの《痛み移し》→あたしの《悪夢の拷問部屋》→黎川の《痛み移し(貧乳幻影)》→黎川の《悪夢の拷問部屋(貧乳幻影)》→あたしの《痛み移し》→……と繰り返し、互いのライフが減少していく。
 けど、黎川はこのターン、《貧乳変換術》の効果によって、受ける効果ダメージが10分の1になる。そのため、ライフの減少速度は圧倒的にあたしの方が速い。
 あたしはこのターン、あと9回能力を使えるけど、使ったところで状況はよくならない。何をやっても、あたしの受けるダメージが大きくなるだけ……。

 つまり。
 このまま何もせずとも、先にあたしのライフが0になり、勝負がつく。

 あたしの手札に、この状況を打ち破れるカードはない。
 正真正銘の、“詰み”……!

 って、ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
 何であんなふざけたカード相手に負けなきゃならないのよ!? つーか、あんなふざけたカード使ってくるくせして、戦術自体はそれなりに理に適ってるってどういうことよ!?
「ふふ……。貧乳を馬鹿にした罪は、重いですよ」
 黎川が、不気味に微笑んだ。それはまさに、勝利を確信した笑みであり、貧乳を馬鹿にした人間を馬鹿にし返す笑みだった。
 いや、ちょっと待って! あたし、別に貧乳を馬鹿にしてはいないわよ!? あんたのことを貧乳呼ばわりはしたけど、馬鹿にはしてないわよ!? そこのところ、勘違いしないでくれる!?
 ていうか、マジで勘弁してよ! 『決闘学園!』シリーズの真のヒロインともあろうあたしが、あんな貧乳デッキに負けるなんて冗談じゃないわよ! せめて、もっと真面目なデッキ使ってきなさいよ!! つーか、ラスト・デュエルがこんなんじゃマズイでしょ!?
「本当は真面目にデュエルする予定だったのですが、2章連続でシリアスなデュエルを書くのが嫌で、このような形に変更したそうですよ。作者が」
 何その自分勝手な理由!! 作者の野郎、デュエル小説を何だと思ってんの!?
「そうこうしている内にホラ、私のライフは残り7220ポイント。そして、朝比奈さんのライフは残り100ポイントです」
 展開早いなオイ!! もうそんなにループ進行したのかよ!?

 (2ターン目)
 ・黎川(貧乳) LP7220 手札6
     場:悪夢の拷問部屋(貧乳幻影)(永罠)、痛み移し(貧乳幻影)(永罠)
     場:貧乳の女神(攻10000)
 ・朝比奈 LP100 手札3
     場:なし
     場:悪夢の拷問部屋(永魔)、痛み移し(永魔)

 くっ……! あたしの残りライフはたったの100ポイント……。けど、手札にこの状況を打開できるカードはない! 《悪夢の拷問部屋》も《痛み移し》も強制効果だから効果の発動を止めることはできないし、カード効果の処理が終わらない以上、強引にデュエルを進めることもできないし……もう完全に手詰まりだわ……!

 いや……! まだ希望はある!
 残りライフ100ポイントは、逆転劇への布石!
 それこそ、『決闘学園!』シリーズの鉄則じゃない!


 黎川 LP:7220 → 7190  ※《痛み移し》の効果ダメージ


 さすがのあたしにも、この状況を切り抜ける手段は思いつかない。
 けど、作者なら……作者なら、この圧倒的に不利な状況でも何とかしてくれるはず!!


 黎川 LP:7190 → 7160  ※《悪夢の拷問部屋》の追加ダメージ


 よし。こうなったら作者! あんたに全ての希望を託すわ!
 この絶望的な状況……あんたの手で華麗にひっくり返し―――


 朝比奈 LP:100 → 0  ※《痛み移し(貧乳幻影)》の効果ダメージ


「そこまでっ! 第9戦目の勝者は、チーム『プロジェクト』シリーズ!!」


「―――……って、フツーにライフ0になってんじゃねえええかああああ!!!!!」
 どういうことよ作者!! ここはどう考えても、華麗に逆転した方が盛り上がるところでしょ!? なのに、何でフツーに決着してんのよ!! これじゃ、何の意外性もないじゃない!!
「朝比奈さん。『プロジェクト』シリーズの作者に、この状況から逆転する展開を求めるのは酷というものです。『決闘学園!』シリーズの作者であれば、何とかしてくれたかも知れませんが」
 くっ……!
 ……言われてみれば、確かにそうね。『決闘学園!』シリーズの作者ならともかく、『プロジェクト』シリーズのヘッポコ作者じゃ、ここから盛り返す手段なんて思いつかないだろう。
 ていうか、せっかくのラスト・デュエルだってのに、ヘンテコな反則オリカを使われた挙句、何の逆転劇も起こせずに負けるってどういうことなの!? 理不尽極まりない展開だわ!
「その理不尽さこそが、ギャグ小説の強みなのかも知れませんね……」
 何知った風な口利いてんのよこの貧乳女!!


 ★


 かくして、第9戦目……ラスト・デュエルは、黎川が勝利を掴んだ。
 それにより、三度目となる『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズの闘いは、『プロジェクト』シリーズの勝利となったのだった。


 
『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1.パラコンボーイ1.朝比奈 翔子
2.川原 静江2.見城 薫
3.黎川 零奈3.遠山 力也
4.鷹野 麗子4.天神 美月
5.真田 杏奈5.吉井 康助
 




エピローグ

「オ〜ッホッホッホッホ!!」
 黎川さんと朝比奈さんのデュエルが終了したあと、私は、高笑いを抑えることができなかった。
 前回、前々回と、『決闘学園!』シリーズとの闘いでは負け続きだった私たちだけど、三度目の今回、ついに勝ち星を上げることができた。
 そう! あの『決闘学園!』シリーズに勝ったのだ! 高笑いを抑え切れなくても無理ないだろう。
 クックック……! ギャグ小説から生まれた私たち(1名は今回初登場)だって、必死こいて頑張れば、頭脳派デュエル小説出身のキャラにだって勝てるってことよ!

 おっと、言い忘れていたわね。
 私の名は鷹野麗子。『プロジェクト』シリーズにおけるヒロインであり、同シリーズの最強デュエリストでもある。
 容姿は上々、人気も上々。

 しばらくの間、『決闘学園!』側の視点で話が進んでたけど、ここからは『プロジェクト』側の視点に戻らせてもらうわよ。
 とは言っても、このお話はあと少しでおしまいなんだけどね。

「やったぁ! あたしたちの勝ちだぁ!!」
「すごいよ! ホントに私たち、勝っちゃったよ!!」
 真田さんと川原さんが、手を取り合って喜んでいる。その姿を見て、私の中の喜びもさらに大きくなった。
「真田さん、川原さん。ここまで頑張ってくれてありがとう。今日、勝利することができたのは、みんなの力があったからよ」
 実際のところ、真田さんと川原さんは大して役に立ってなかったけど、一応、一緒に頑張ってきたチームのメンバーってことで、彼女たちに礼を言っておく。
「いやぁ〜……あたし、全然役に立てなかったし、お礼なんてそんな……。むしろ、あたしの方こそ礼を言わないとね。ありがとう、たかのっティー!」
「私も……役に立てなくてごめんね。ここまで私たちを引っ張ってくれて、ありがとう、鷹野さん!」
 申し訳なさそうな口調の真田さんと川原さん。彼女たちは、自分がさほど役に立ってなかったことを自覚しているようだ。まあ、自覚している分、マシな方と言えるかしらね。
 あと、それから……。
「お礼なら、黎川さんに言ってあげて。今回、私たちが勝てたのは、あの人が来てくれたおかげなんだから」
 そう。礼なら彼女に言ってほしい。私なんかよりも、彼女に。

 今回の闘いは、黎川さんの力がなければ、勝つことはできなかった。あの人の力がなければ、今回もまた負けていたかも知れない。
 そう考えると、まだまだ私は力不足なんだなぁと思う。
 今回、何としても勝ちたいと考えたから、黎川さんの力を借りたわけだけど……。いくら「勝つため」とは言え、黎川さんの力を借りてるようじゃ、やっぱり駄目だ。
 今度は、黎川さんの力を借りずに、私たちの力で勝利を掴みたい。
 もっと……もっと、強くなりたい。





 ……と、いかにも少年誌っぽく、「もっと強くなりたい」感を地の文で出しておく。
 うん。なかなか、いい感じになったわね。

 そう言えば、いま気付いたけど、さっきからパラコンの姿が見えないわね。どこ行ったのかしら?
 ……ま、いつも通り、スルーすることにするわ。

 さて、デュエルも終わったし、リングにいた黎川さんも、そろそろこの控え室に戻ってくるだろう。
 じゃ、帰る準備をしようかし――――





『きんこんかんこ〜ん! え〜、ただいまマイクのテスト中〜。え〜、『プロジェクト』チームの皆さん、聞こえるかね〜? ……って、訊いたところで無意味よね〜。そっちの声はこっちに聞こえないんだし』





「…………!?」
 突如、競技場内のスピーカーから、涼やかな女性の声が響いた。
 この声は……朝比奈さんの声……!?
 何で彼女の声がスピーカーから?
「え? この声、朝比奈さんの声じゃん!」
「な……何だろう? 何か、企んでるのかな?」
 突然の出来事に、真田さんと川原さんは不安げな表情を浮かべている。
 朝比奈さん……いきなりこんな真似して、一体何を……?

『ま、聞こえてるかどうかなんて分からないから、聞こえてるものだと思って、一方的に喋るわ。え〜とね……』

 私たちの気持ちを他所に、スピーカーから発せられる声の主は、一方的に話を始めた。





『簡単に言うと、今あんたたちのいる……さっきまであたしらがデュエルしてた『国立デュエル競技場』ね、もうあたしにとって必要ないものになったから、今から10分後に爆破するわ』





 …………。

 …………。

 …………は?

 ばくは!? バクハ!!?? 爆破!!!??? BAKUHAAAAAAAAAA!!!!????

「「「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」」」

 私たち3人は、同時にスピーカーからの声にツッコんだ。
 同時に、競技場内全体に、警報が鳴り響き始める。
 え? 何この警報? ま……マジで、爆破するの!? マジで!?

 急・展・開
 (罠カード)
 読者は脈拍数が1上昇する。

「ちょっと待ってよ!! 爆破するってどういうこと!? 意味分かんないんですけど!? つーか、場内がブーブーうるさいんですけど!? 分かるように説明しろよオイ!!」
「どうしようどうしよう……これって冗談だよね!? 嘘だよね!? 本気じゃないよね!? ドッキリだよね!? ドドドドッキリだよね!? ドドドドドドドッキリだよねねねねね!!!???」
 突然の爆破予告と、会場内に響き渡る警報音を聞いて、真田さんと川原さんが慌てだす。川原さんにいたっては、既にパニックを起こし始めている。
 くっ……! 朝比奈さん……最後の最後まで負けず嫌いな……! まさか、会場を爆破するなんて行動に出るとは思わなかったわ! 海馬社長かあの人は!!

『あんたたちに残された道は2つ! 1つは、その競技場のどこかにある爆破装置を停止させること! そしてもう1つは、とっととその競技場から逃げ出すこと! どっちでも好きな方を選ぶといいわ! ホントならここで緊迫感を煽るBGMでも流したいとこなんだけど、生憎持ち合わせがないから、適当にあんたたちの脳内で、『バイ○ハザード2』のラストの辺りで流れるあのBGMでも脳内再生しといて! あ、ちなみに、あたしたち『決闘学園!』側は、もうとっくのとうにその競技場からは脱出完了済みだから! それじゃ、健闘を祈るわ! 頑張ってね〜〜ん!』

 朝比奈さんの身勝手極まりない放送はそこで終了した。
 くそぉぉぉぉぉぉ!!! 朝比奈さんめぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!
「どうしよう、たかのっティー……。このままじゃ、あたしたち、競技場と一緒に木っ端微塵だよ……」
 どうするって……そんなの決まってるじゃない。
 爆発まであと9分弱。その時間内で、この広い競技場から爆破装置を見つけるのは難しい。つまり、私たちに残された道は1つ……!
「逃げるわよ! みんな!」
「あ、でも! まだ黎川さんが戻ってきてないよ!」
 ……っ! そうだった……! 彼女はまだ控え室に戻ってきていない……。
「黎川さん……!」
 私は、ポケットからケータイを取り出し、急いで黎川さんのケータイへと繋ごうとした。
 そのときだった―――!


 ―――ドゴォォォォォン!!


「ひゃあああああ!!!???」
「わっ!? わっ!? 今の音なに!? 何なのよ!!」
 突然、部屋の外から爆音が響いた! な……何なの!? 爆破まではまだ時間があるはずよね……?
 ゴクリ、とツバを飲み込む。
 私は恐る恐る、控え室の外をのぞき見た。

 一言で言えば、酷い有様だった。
 まるで、爆弾でも爆発したかのように、外はメチャクチャになっていた。
 本来ならば、控え室の外は左右に通路が延びているのだが、右方向に伸びる通路は、とても足を踏み入れられる状態じゃなかった。
 そして、左方向に伸びる通路は―――。
「…………!?」
 左方向に伸びる通路には被害はない。しかし、通路の先を見てみると、そこには見覚えのある人物がいた。
 その人物とは―――。





 ―――ロケットランチャーを構えた黎川さんだった……。






「何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????」
 何であの人、ロケットランチャーなんて持ってんの!? 意味が分からないわよ!! いくらギャグ小説とは言え、この展開は唐突過ぎでしょ!! 全然、伏線とか張られてなかったじゃない!!

 超・展・開
 (魔法カード)
 読者は3cmくらい動揺する。

 ていうか、今の爆音ってまさか……あの人がロケットランチャー撃ったの!? あの人が通路をぶっ壊したの!? え……ちょっと待っ―――
「2発目、行っきま〜す」

 ―――ドゴォォォォォン!!

 脳内が混乱する私を他所に、黎川さんはロケットランチャーを撃ち放った!
 それにより、右方向に伸びる通路は完全に崩壊してしまった。もう、右方向の通路を使うことは不可能だろう。
 ていうか、黎川さん今、「2発目」って言ったわよね!? 何!? じゃあ、さっきの爆音はやっぱり、彼女のロケットランチャーが原因!?
「黎川さん!! 何してるんですか!!」
 私は、通路の先にいる黎川さんに向かって叫んだ。
 すると黎川さんは、ロケットランチャーを下ろし、私に近づきながら、言葉を放った。
「申し訳ありませんが、あなたたちをここから逃がすわけには行きません。この競技場から外に出ることのできる通路は全て破壊しました。よって、あなたたちがここから出ることはできません」
 ……!?
 な……何を……言ってるの……? 私たちをここから出すことはできないって……何言ってるのよ!? 意味が……分からないわよ!!
「何言ってるんですか黎川さん! 黎川さんは私たちの味方―――」


『きんこんかんこ〜ん! え〜、追伸で〜す! 聞こえてるかな〜? 『プロジェクト』シリーズの者たちよ〜〜!』


「……!」
 再び、場内のスピーカーから朝比奈さんの声が響いた。
 追伸って……今度は何よ……朝比奈さん!!

『え〜、また一方的に話すわよ〜。おそらくはそろそろ、黎川があんたらの前に現れてる頃だと思う! で、あんたらはきっとビックリして、意味分かんな〜い! ……な状態になってると思う!』

 …………。
 まさにその通りだった。
 朝比奈さんの言うように、黎川さんが現れて、いきなりロケットランチャーぶっ放して、挙句の果てに、『私たちを逃がさない』とか言い出して、ビックリ&意味不明な状態になっている。
 ていうか、朝比奈さんが「ここまでの状況は全部予定通りです」的な口調で話してるのが凄くムカつく。

『結論から言うと、黎川はさっき、あたしたち『決闘学園!』側についたわ。つまり、もうあんたらの味方である黎川は、どこにもいないってわけね』

 さらりと、朝比奈さんは重要なことを口にしやがった。
 ちょっと待って!? 黎川さん、私たちを裏切ったの!? そんな馬鹿な!! そんなことをするような人じゃないはず……!!

『ちなみに、豊胸パッドを1年分渡したら、彼女は『決闘学園!』側についてくれたわ』

 パッド1年分んんんんんんんん!!!!!
 何なのそれ!! 豊胸パッド1年分って……そんなもので黎川さんの心って動いちゃうの!? 心軽すぎだろ!! 大体、豊胸パッド1年分って、どういう意味!? どんくらいの量なの!?
「鷹野さんみたいに胸のある人には、私の悩みなんて分かりっこありません」
 低い声でそう言ったのは、豊胸パッドに釣られて、私たちを裏切った黎川さんだった。
 そう言えば彼女、デュエル前よりも胸が大きくなってる気が……? もしかして、もう既にパッド装着済み……?

『そういうわけだから、黎川はもう、あたしたち『決闘学園!』側の人間よ。あたしが言いたかったのはそれだけ! 以上!!』

 衝撃的な事実を一方的に告げ、朝比奈さんの放送が終わった。
 くっ……やってくれるわね……!! まさか、私たちのチーム最強のデュエリストを味方につけるとは……!!
「ふふ……。今あなたたちが生き延びるには、この競技場のどこかにある爆破装置を止めるしかありません。……まあ、そんなことはさせませんけど」
 そういって黎川さんは、ロケットランチャーを私に向けて構えた。
「ここから先は……通しませんよ。中学生の分際でそれなりに胸がある鷹野さん」
 黎川さんの言葉には、微妙に殺意とか妬みとかの感情が含まれていた。
 何なのよあの人! まさか、そこまで胸のことを気にしてるなんて思わなかったわよ!! ていうか、あんなキャラだとは思わなかったわよ!!
 しかし、どうする……? 出口を塞がれた以上、爆破装置を止めない限り、私たちが生き延びることはできない。でも、黎川さんが行く手を阻んでいるし……どうすれば―――
「たかのっティー! 爆破装置を止めに行って! ここはあたしたちが何とかする!」
 ……! 真田……さん……?
 気がつけば、真田さんと川原さんが、デュエルディスクを装着し、黎川さんの前に立ち塞がっていた。
 あなたたち……何を……!?
「鷹野さん。私たち、ここまで鷹野さんに頼りっぱなしだった。だから今度は、私たちが鷹野さんを助ける! ここは私たちに任せて!」
「黎川さんは、あたしたちが引き付ける! その間に爆破装置を止めて! 大丈夫! あたしたちだって、やるときはやるんだから!」
 2人は、笑顔で私に振り返った。自信に満ちた、笑顔だった。
 確かに、彼女たちが黎川さんを引きつけていれば、その間に爆破装置を止めることも……できるかも知れない。
 いずれにしても、このままモタモタしていたところで、状況は良くならない。なら……!
「……分かった! ここはあなたたちに任せるわ!」
 私は、真田さんと川原さんにこの場をまかせ、ひとまず、通行可能な左方向に伸びる通路を走った。
 当然、黎川さんはそれを妨害しようとしてくる。
「通しませんよ」
 だが、その黎川さんを、真田さんと川原さんが妨害する!
「ちょっと待ちなよネエちゃん! あんたの相手はあたしたちだよ!」
「鷹野さんには、指一本触れさせませんよ!」
 行く手を阻む2人の少女。黎川さんの動きが止まる。
 その隙を狙い、私は走るスピードを上げた!
 ……頼んだわよ、真田さん。川原さん。


 その後、通路の角を曲がるまでの少しの間、後ろの方から、真田さんや川原さん、黎川さんが言い争う声が聞こえた。

真田「おいおいネエちゃん! 貧相な胸してんじゃねーか! パッドなんか使ったところで、あたしの目は誤魔化せねーぞオイ!」

川原「!? ちょ……杏奈ちゃん!! 黎川さんに対して胸の話はマズイって……!!」

真田「え!? 何言ってんのよ静江!! あたしらは黎川さんを足止めするんでしょ!?  なら、こうして徹底的に挑発するのが一番効果的ってものじゃない!」

川原「そ……それは……そうか……」

真田「じゃあ、気を取り直して……ったく、いくらお前がパッドを使ったところで、お前が貧乳であることに変わりはねえ! 貧乳以上でもなければ以下でもねえ! 分かるかオイ!」

川原「……だそうです」

黎川「…………」

真田「でもなぁ……。俺は別に、貧乳とか巨乳とか、そんなことはどうでもいいんだよ……。ただ俺は……お前にいつも……笑顔でいてほしい……。お前が笑顔でいてくれれば、それだけで俺は満足だ……」

川原「あ……あれ……?」

真田「だから、アレだよ……。うん……何ていうか……うん。そう! 胸の大きさなんて、気にすることはないってことだよ!! みんなお前を愛してるんだぜ!」

川原「あ……愛してるって……杏奈ちゃん、何を言ってるの……?」

真田「さあ! 遠慮なんかせずに、俺の胸に飛び込んできやがれ!」

黎川「3発目、行っきま〜す」

真田「うわぁぁぁあ!!! ごめんごめんごめん!! マジごめん! 今のナシ! え〜と……ん〜と……静江! 何とかして!!」

川原「ちょ!? ここで私!? え……えーとえーとえーと……あ! そうだ! デュエルしましょう、黎川さん! というか、私たち元々、あなたにデュエル挑むつもりだったんですよ!!」

真田「うん! そうそう! デュエルしましょう! 貧にゅ……黎川さん!!」

黎川「……そうですね。ロケットランチャーでトドメを刺してしまっては、遊戯王らしくありません。ここはデュエルでケリをつけましょう。面倒なので、2人同時に片付けてやります」

真田「な……なめやがって!! あとで吠え面かいても知らないからね!! 行くよ! 静江!」

川原「うん! 私たちの力、見せてやろうね!」

黎川「愚かな……。ルールはスーパーエキスパートルールでいいですね?」

真田&川原「異議なし!」

黎川「では、行きますか―――」

真田&川原&黎川「デュエル!!!」


 真田さん LP:4000
 川原さん LP:4000
 黎川さん LP:4000



 …………。
 前置きなげぇーんだよお前ら……と思いつつ、私は曲がり角を曲がるのだった。


 ★


 と、爆破装置解除を任された私だけど……。
 この広い競技場から爆破装置を見つけ出すのは、簡単なことではない。
 時間も限られている以上、のんびりと探しているわけにも行かない。
 ある程度、的を絞って探す必要があるだろう。

 周囲をざっと見回す。何かヒントになりそうなものがあればいいんだけど。
 とりあえず、競技場内のマップとかがあれば……―――?

 …………。

 周囲を見渡している途中、私は気になるものを見つけた。
 今、私の目線の先には曲がり角がある。左方向に曲がる曲がり角だ。そして、曲がり角らしく、壁には道案内のプレートが設置されていた。つまりは、曲がった先に何があるか、どこに辿り着くのかが書いてあるのだ。
 プレートには、↓このように書かれている。

 音楽室……この先108m
 第2デュエルリング……この先3.14m
 売店……この先2.71828m
 爆破装置制御室……この先42.195m

 …………。
 爆破装置……制御室……。
 …………。
 ……これって……つまり、この先に爆破装置を制御する部屋がある……ってこと……よね……?
 …………。
 なんか……釈然としないというか、罠っぽいというか……そんな感じがするけど……でも、一応、行ってみた方が……良いわよね?
 …………。

 私は走り出した。
 曲がり角を曲がり、42.195メートルの距離を全速力で走った。
 10メートル、20メートル、30メートル、40メートル……。
 周囲を見る。ドアが1つ、目に入った。
 ドアには、『爆破装置制御室』と書かれたプレートが貼られている!
 ここだ!

 ドアを思い切り開けると、目の前に1本の通路があった。
 そして、通路の先……ここから10メートルほどの場所に、またしてもドアが1つ。
 そのドアには、『爆破装置制御室』と書かれたプレートが貼られている。
 ドアの向こうにドア……か。さすが、爆破装置の制御室とだけあって、そう簡単に中枢には辿り着けないってわけね。

『きんこんかんこ〜ん! はい! また追伸ね! え〜、爆破まであと5分! 急がないと、みんな木っ端微塵よ! んじゃ、頑張ってね! 以上!』

 ……爆破まで残り時間5分。それだけ告げて、朝比奈さんの三度目の放送が終わった。
 あと5分……モタモタしてられないわ!
 私はすぐに駆け出した。
 あのドアを開ければ、中に爆破装置があるはず……。下手したら、またドアがあるかも知れないけど!
 走る私。ドアが徐々に近づいてくる。
 あと少しでドアに手が―――


 ―――ドガァァァァン!!!


「!!」
 あと少しでドアに手が届く……まさにそのときだった。
 天井を突き破り、男が1人、降ってきた。
 その男は、見覚えのある男だった。
「あなたは……パラコンボーイ!?」
「ふぅ……僕を忘れちゃ困るよ、鷹野さん」
 全身ホコリまみれの状態で、パラコンは不機嫌そうな口調で言った。
 そう言えば、パラコンのことをすっかり忘れてたわ。今まで彼、どこに行ってたのかしら?
「ちなみに僕は、黎川さんと朝比奈さんのデュエルを見ている最中、急にお腹が痛くなって、トイレにずっと篭ってたんだよ」
 地の文に反応して、パラコンがどうでもいい情報を喋ってくれた。うん。ホントにどうでもいいことだわ。
「そんなことより、爆破装置が作動してるわ。さっさと装置を止めないと、私たちみんな木っ端微塵よ」
 そう。早いところ、爆破装置を止めなければ。
 私は、パラコンを放置して、目の前のドアに手を掛けた。
 ところが……―――。

「無駄だよ。そのドアは開かないんだ」

 声を発したのは、パラコンだった。
 ……開かない? そんな……。
 私はドアノブを回してみた。
 しかし、ドアは開かない。
 ドアを思い切り押しても引っ張っても、開かない。
 ドアに……鍵が掛かっている!
 そして、パラコンの口から、驚愕の事実が告げられた。

「そのドアはね、僕を倒さない限り、開かないんだよ」

 …………!
 振り返ると、そこにはデュエルディスクを装着し、気持ち悪い笑みを浮かべるパラコンの姿があった。
「鷹野さん。爆破装置を止めたければ、僕を倒すしかないよ」
 じりじりと、私に詰め寄ってくるパラコン。今の彼は、普段の彼ではなかった。
 これは……まさか……! まさか……この男も……!?

『きんこんかんこ〜ん! はい! 最後の追伸よ! 聞こえるかな〜? 多分、そろそろパラコン君が姿を現した頃だと思うけど……結論から言うと、彼も黎川同様、さっき『決闘学園!』側についたわ。だから、パラコン君はもう、あんたらの味方じゃない!』

 タイミングを計ったかのように、朝比奈さんの放送が入った。
 てか、パラコンまで私たち裏切ったのかよチキショオオオオオオ!!!!!!

 超・展・開
 (魔法カード)
 読者は3cmくらい動揺する。

「ふざけんなよ! 何で主人公であるあんたが裏切んのよ!? 主人公が敵陣につくってどういうことよ!? あんたには、プライドってモンがないの!?」
 さすがに頭に血が上り、私はパラコンに詰め寄った。
 だって、主人公が味方を裏切るって……冗談じゃないわよ!! 『プロジェクト』シリーズ主人公の誇りはどこへやったのよ!?

『ちなみに、超レアカードを1年分渡したら、彼は『決闘学園!』側についてくれたわ』

「この腐れ(ゴキブリ)野郎ォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
 私はレアカードに釣られ、味方を裏切った馬鹿パラコンに蹴りを食らわした……つもりだったが―――
「フッ! 甘いぞ鷹野さん! 君の動きは読めている!」
 とか言いつつ、パラコンは私の蹴りをかわしやがった!
 くっ……パラコンの分際で……できる!
「フッフッフ……! 君との因縁も長いからね。少しくらいなら、行動パターンを読むこともできるよ」
 ……うぜー。
 何こいつ。何か凄くうぜーんだけど。

『つーわけで、爆破まであと4分弱ってトコかしらね。それじゃ、お元気で〜〜』

 放送が終わった。
 く……っそぉぉ……っ!! 朝比奈さんめぇぇぇぇ!!!! 私のチームから2人も反逆者を出すとは〜〜〜〜〜!!!!
「さあ、鷹野さん! 早くしないと、この建物は爆発するぞ! 爆破装置を止めたければ、僕と闘え!! デュエルだ!!」
 無駄に高いテンションで、パラコンはデュエルディスクを構えている。うぜぇ……。
「……(ゴキブリ)野郎。私を裏切った以上、半殺しじゃ済ませないわよ……」
 頭に来た私は、デュエルディスクを構え、パラコンを殺す態勢に入った。
 殺す。何が何でも、こいつは殺す。跡形残さず、この世から消してやる。
「僕と君は、何がどうあっても、闘う運命にあるよ―――」
「うるせーよ。準備は済んだのかこの雑魚野郎が」
 クソパラコンが何か言いかけたが、聞く気はさらさらないので、適当に遮っておく。
 こいつだけは……何があっても、ぶっ潰す!!
「くっ……! そんな余裕ぶっこいていられるのも今の内だ! 行くぞ鷹野さん!」
「はん! テメーなんて5ターン以内にぶっ殺してやるよ! かかって来やがれこのクソ野郎がぁぁぁ!!」


「「デュエル!!!」」


 私 LP:4000
 パラコン LP:4000



 私たちの、真のラスト・デュエルが始まった。

 本当の闘いは……これからだぜ!!!







〜Fin〜




 ご愛読ありがとうございました!!
 あっぷるぱい先生の次回作にご期待ください!!








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