番外プロジェクト2 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜

製作者:豆戦士さん




<まえがき>
 この小説は、『決闘学園!』シリーズと、『プロジェクト』シリーズのコラボレーション小説であり、なおかつ『番外プロジェクト 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜』の続編です。
 本作を読むにあたって、私の『決闘学園!』『決闘学園! 2』、あっぷるぱいさん作の『プロジェクト』シリーズ(VDからBFまで)と『番外プロジェクト 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜』が未読の方は、まずそちらから読んでおくことをお勧めします。


<目次>

 プロローグ 〜とある電話〜
 1章  チーム結成
 2章  決戦当日
 3章  ルール説明
 4章  鷹野麗子 VS 吉井康助
 5章  5人目の正体
 6章  炸裂! 新生ゴキブリ・ロック
 7章  勝てない理由
 8章  最終決闘 ヒロイン対決
 エピローグ





プロローグ 〜とある電話〜



「……はい、もしもし」
「夜分遅くにすみません。鷹野(たかの)麗子(れいこ)と申します」
「鷹野? ……ああ。あの『プロジェクト』シリーズの鷹野さんね」
「はい。そちらは、『決闘学園!』シリーズの朝比奈(あさひな)翔子(しょうこ)さんで間違いないですか?」
「合ってるわよ。この間の海では、いいデュエルを見せてもらったわ。ありがとね」
「いえ。勝負を挑んだのは私の方ですし。それに、あのデュエルは私の完敗でした」
「結果はそうでも、天神をあそこまで追い詰められるデュエリストはなかなかいないわ。能力者でもないのに、あんたすごいわよ」
「そう言って頂けると、光栄です」
「……どう? 中学を卒業したら、翔武学園に来る気ない? あんたほどの腕があれば、確実に生徒会のメンバーになれるわよ」
「面白そうな話ですね。考えておきます」
「前向きな返事を期待してるわ。……さて、と。世間話はこのくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか。あたしに何か用があるんでしょ?」
「ええ。実は、折り入って朝比奈さんに頼みたいことがあって電話しました」
「ふーん。……ま、用件はだいたい想像つくけどね」
「さすがですね。話が早くて助かります」
「言ってみなさいな。面白いことは大歓迎よ」
「では早速。私の頼みというのは――――」


 ◆


 1時間後、私は朝比奈さんとの話し合いを終えて、電話を切った。
 と同時に、ずっとこらえていた笑みが湧き上がってくる。

 ……ふふ。これで、私の完璧な計画は現実になった。

 翔武生徒会……首を洗って待っていなさい!

 そして、天神(あまがみ)美月(みつき)
 あなたの首は、今度こそ私がもらうわ!!





1章  チーム結成



「鷹野さん。突然で悪いけど、僕とデュエルをしてもらうよ」

 翌日、教室にて。
 才色兼備という言葉が似合いすぎるほどに似合うパーフェクト中学生なこの私、鷹野麗子は、とある男にデュエルを申し込まれていた。
 私の机にデッキを叩きつけるように置くこの男の名は――っと、私がわざわざコイツの紹介をしてやる義理はないわね。まあ、ただのありふれたパラコンボーイよ。
 それにしてもこのパラコンは、飽きもせず何度も私にデュエルを挑んでくるけど……他にやることないのかしら?
「いいわよ。受けて立つわ」
 とはいえ、今日に限っては、この申し出は私にとって非常に都合がいい。
 こんなパラコンでも、私の精緻なる計画を実行に移すためには必要なのだ。
「ただし、このデュエルで私が勝ったら、私の言うことを1つ聞いてもらうわよ」
「うっ……。でもそれなら、僕が勝ったら僕の言うことを聞いてもらうからね!」
「構わないわ。始めましょう」
 パラコンはこれで私と対等なつもりでしょうけど、私がパラコンに負けるなんて、地球の自転が逆向きになってもありえない。
 身の程を知りなさいね、身の程を。


「「デュエル!!」」


私 LP:4000
パラコン LP:4000


「私の先攻! ドロー!」
 颯爽と先攻をとった私は、ドローフェイズにカードを1枚ドローする。
 目の前のパラコンが「ってオイ! 勝手に先攻とるんじゃねぇよこの女ぁぁあああ!」とでも言いたげに私を見ているが、当然スルー。

「私は、手札から魔法カード『うずまき』を発動! このデュエルのルールは、原作ルールからOCGルールに変化するわ」
 普段なら、暇つぶしにパラコンの反応を見て楽しみつつ適当にあしらってやるところだけど、今日はそんなことをしている暇はない。

「『D−HERO ドグマガイ』を捨てて『トレード・イン』を発動! 2枚ドロー! 『D−HERO ディスクガイ』を捨てて『デステニー・ドロー』を発動! 2枚ドロー! 『死者蘇生』でディスクガイを復活! 2枚ドロー! ディスクガイを生け贄に『モンスターゲート』を発動! 『混沌の黒魔術師』特殊召喚! 効果で『死者蘇生』を回収して、再びディスクガイを復活! 2枚ドロー! 『サイバー・ヴァリー』を召喚して――――」

かくかくしかじか
(魔法カード)
話を短縮し、ストーリーを高速回転させる。

「――――カードを1枚伏せて、ターンエンドよ。あなたのターンのスタンバイフェイズに、ドグマガイの効果が発動。相手のライフは半分になるわ。さらに、さっき伏せた『マジカル・エクスプロージョン』を発動よ」


パラコン LP:8000 → 4000 → 0


 ふぅ。これで決着、と。それにしてもこの1キル、意外と頭使うわね。

 完膚なきまでに私に叩きのめされたパラコンが「ちょ……ドグマブレードぉぉおお!? た……鷹野さん! 君は、そんなデッキを使ってまで勝利を収めて、少しも心が痛まないのか!?」とか何とか叫んでいてうるさかったので、消火器をぶちまけて黙らせておいた。今回は、パラコン程度とのデュエルに描写を割いている余裕はありまセ〜ン。

 両目を押さえて床を転がるパラコンを尻目に、私は次の目的の人物のもとへ向かう。

「真田さん、川原さん。突然で悪いけど、私とデュエルしてくれない?」
「おっ! たかのっティー! いいねいいね〜。やろうよデュエル!」
「鷹野さんと……? 私、勝てるかなぁ……」
 この2人は、私のクラスメイト。私を妙なあだ名で呼ぶいつも元気なこの子は真田(さなだ)杏奈(あんな)さんで、少し控えめな女の子という印象のこっちの子が川原(かわはら)静江(しずえ)さんだ。
 態度は正反対だけど、2人ともデュエルを受ける気は満々らしい。うん、好都合だわ。
 私は、パラコンにしたのと同じ提案を口にする。
「ただし、罰ゲームとして、負けた人は勝った人の言うことを何でも1つ聞かなければならない、ってのはどう?」
「その条件乗った! 今度こそはあたしが勝って、たかのっティーに言うこと聞かせてやるっ!」
「私もいいけど……。でも、罰ゲームかぁ……。大丈夫かな…………」
 物分りが良くて助かるわ、2人とも。おかげでストーリーが円滑に進む。

ご都合主義
(魔法カード)
都合のいい展開でストーリーを進行させる。


 ◆


「私の先攻ドロー! 『地縛霊(アース・バウンド・スピリット)』を守備表示で召喚! カードを1枚セットして、すぐに伏せた罠カードを発動、『最終突撃命令』! 続けて手札から『手札抹殺』を発動させるわ」
「……って、うえええええええっ!?」


「私の先攻! ドロー! カードを2枚伏せて、ターンエンドよ」
「わ、私のターン! ドロー!」
「この瞬間、2枚のリバースカードオープン! 『手札抹殺』と『棺桶売り』よ」
「ええ!? そ……そんなぁ〜〜!」


 ……というわけで、真田さんを先攻1キルし、川原さんを後攻1キルして、私は優雅かつ華麗に2人に勝った。もちろん、原作ルールには罠カードを伏せたターンに発動できないなんて厄介な制限はない。

 ちなみに、『最終突撃命令』と『棺桶売り』は、それぞれ↓みたいな効果のカードよ。

 最終突撃命令
 (永続罠カード)
 このカードが場にある限りすべてのモンスターは攻撃表示となる。互いのプレイヤーはデッキの中から3枚を選び、残るすべてを墓地に置く。

 棺桶売り
 (永続罠カード)
 相手の墓地にカードが置かれるたび、そのプレイヤーは700ポイントのダメージを受ける!

 一応補足しておくと、『棺桶売り』の効果は、墓地にカードが「1回」送られると一律700ダメージではなく、墓地に送られたカード「1枚あたり」700ダメージだ。嘘だと思うなら、コミックス28巻を読み直してみてね。


 ……さて。これで欲しかったメンバーは全員確保できたわ。

 後は、明日になるのを待つだけね。





2章  決戦当日



 そして翌日。
 私は、自宅の近くにある公園のベンチに座って、デッキの最終調整を行っていた。

「お〜い! たかのっティー!」
 その声に顔を上げると、真田さんと川原さんが手を振りながらこちらへ走ってくるのが見えた。
「約束通り来たよ〜。これから何かイベントでもあるの?」
「自分のデッキを持ってこさせた……ってことは、デュエル大会か何か?」
「それはまだ秘密。当たらずとも遠からず、とだけ言っておくわ」
 私は昨日、デュエルに負けた3人への罰ゲームとして、今日この時間に、自分のデッキとデュエルディスクを持ってここに集まるように指示しておいたのだ。
「え〜! そう言われると余計に気になるんだよねぇ〜」
「そう焦らなくても、すぐに分かるわ。待っている間に想像を膨らませておくことね」

 そして、少しすると、私の指示通りにパラコンもこの公園へとやってきた。
 4人揃ったところで、私はベンチから立ち上がると、はっきりと告げる。

「さあ。早速出かけましょう。目的地は……国立デュエル競技場よ」


 ◆


 1時間ほど電車に乗って、私たち4人は目的の場所に到着した。
 競技場の入口には、見覚えのある2人の人物が立っていた。おそらく、私たちを出迎えてくれたのだろう。

「おっ、ようやく来たわね。『プロジェクト』シリーズの面々」
「ふふ。楽しいデュエルにしましょうね」
 涼やかな声がよく通る朝比奈さんと、艶やかな長い黒髪が特徴的な天神さん。
 入口の前に立っていたのは、翔武生徒会に所属している2人の高校生だった。
「『決闘学園!』の皆さん。今日はよろしくお願いします」
 私は、2人に向かって丁寧にぺこりと頭を下げた。

「たかのっティー、この人たち誰?」
 真田さんが、首をかしげて訊ねてくる。
「紹介するわ。こちらは朝比奈翔子さんで、こちらが天神美月さん。2人とも、翔武学園の生徒会のメンバーよ」
 私の紹介にあわせて、朝比奈さんと天神さんは「よろしくね〜」「よろしく」と会釈する。
「ちょっ……翔武生徒会って……デュエルのエリート中のエリートじゃん! たかのっティー、そんな人たちと知り合いなの!?」
「そういえばさっき、『楽しいデュエルにしましょうね』って……。うそっ! もしかして私たち、この人たちとデュエルするってこと!?」
 真田さんと川原さんは、この2人が翔武生徒会の一員だと聞いて驚いているようだ。
 ……まあ、これが普通の反応よね。翔武学園の生徒会といえば、ここら一帯の高校が参加するデュエル大会で、10年連続優勝という快挙を成しとげている奇跡みたいな団体。そのズバ抜けたデュエルの実力のおかげで、翔武生徒会のメンバーは、ここらへんの学生デュエリスト全員の憧れの的といっても差し支えないほどだ。
 真田さんと川原さんは、カクカクとしたぎこちない動きで、「み……未熟者ですが、よろしくお願いしますっ!!」と深く頭を下げている。
「褒めてくれるのは嬉しいけど、あんたたち、そんなガチガチに緊張してたら普段の実力が出せないわよ?」
 そう言って、2人の肩をぽんと叩く朝比奈さん。その後ろでは、天神さんが柔らかな笑みを浮かべている。
 傍から見ると、実にほほえましい光景だった。


 …………ま、そんなふうに先輩風を吹かせていられるのは今のうちだけだけどね。

 私は、尊敬の眼差しを向けられてまんざらでもない様子の朝比奈さんと天神さんを視界に入れつつ、内心でほくそ笑んだ。
 容姿端麗、成績優秀、雲中白鶴に才気煥発。あらゆる面でパーフェクトなこの私は、その超天才的な頭脳を駆使して、この闘いに臨むにあたって必勝の策を何重にも張り巡らせているのだ。
 デュエルが始まってから後悔しても、もう手遅れ。翔武生徒会メンバーの余裕の表情が凍りつくさまが、ありありと想像できる。

 朝比奈さん、天神さん……悪いけど、あなたたちに勝ち目は1パーセントもないわ!





3章  ルール説明



 さて、対決が始まる前に、このあたりで一度、今回の闘いがどのようなルールに則って行われるのかを明確にしておこう。
 2日前、私と朝比奈さんが電話ごしに話し合って決めたルールは、こうだ。


(1)
 『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズが、作品間の垣根を越えて闘う。

 以前私は、『プロジェクト』シリーズのヒロインとして、『決闘学園!』シリーズのヒロインである天神さんに1対1のデュエルを申し込んだことがある。
 結果は……非常に不本意ながら、私の負け。天神さんが発動した『HEROINE RELIEF』の効果によって、私はプロジェクトシリーズのヒロインの座を追われる羽目になってしまった。
 そのせいで現在、私はヒロインとしてプロジェクトシリーズ本編に登場することができない状態にある(このコラボ小説に出る分にはセーフだ)。このままでは、今か今かと私の登場を待ちわびている全国3000万人の私ファンの皆様に顔向けできない。

 だから私は、朝比奈さんに頼んで、もう一度『決闘学園!』シリーズに勝負を挑むことにしたのだ。
 この闘いに勝利すれば、私はヒロインの座に返り咲き、なおかつ逆に天神さんから『決闘学園!』シリーズヒロインの座を奪うことができる。そういう条件の下での、闘いだ。

 もちろん私は、同じ失敗を2度繰り返すような愚かなヒロインじゃない。この闘いには、必ず勝てるという確信を持って臨んでいる。
 その根拠については、おいおい説明していくことにするわね。


(2)
 この闘いは、5人対5人の団体戦で行われる。

 私のリベンジマッチの申し出を聞いた朝比奈さんは、すぐさまこの条件を提示してきた。彼女いわく「せっかくのシリーズ間対決なのに、また1対1の個人戦じゃマンネリでつまらないでしょ?」とのことだ。

 一見すると、しごくまっとうな意見に思える。でも、少し考えてみれば、このルールを提案してきた朝比奈さんの意図は明白だ。
 翔武生徒会に所属しているメンバーは全部で5人。そのほぼ全員が、ハイレベルなデッキ構築力と超高校級のデュエルスキルを兼ね備えており、デュエリストとしての実力は折り紙つきだ。そのうえ、『決闘学園!』シリーズならではの「デュエリスト能力」とかいう反則設定のおかげで、その強さはもうやりたい放題の域にまで達している。
 その一方で、『プロジェクト』シリーズには、強いデュエリストがほとんどいない。というか、はっきり言って、翔武生徒会とまともに闘える力があるのは私1人だけだ。しょせんギャグ小説にすぎない『プロジェクト』シリーズのキャラが、ややシリアスな『決闘学園!』シリーズの登場人物たちを地力で上回れるはずがないのである(私は除く)。
 朝比奈さんは、この事実をふまえて、5人対5人の団体戦を提案してきたのだろう。

 私は、以前の闘いで、負けたとはいえあの天神さんをかなりのところまで追い詰めることに成功している。そんな私と1対1で闘えば、今度こそ『決闘学園!』側が負けてしまうかもしれない。その可能性を恐れて、朝比奈さんは、5対5の闘いという安全策をとった。そんな小癪な発想がみえみえなのだ。
 そもそも、この「5人」という数字からして、向こうは自分たちの都合しか考えていないことがよく分かる。翔武生徒会のメンバーは、『決闘学園! 2』の段階で5人。この団体戦の出場枠に、ぴたりと収まる。しかし、主要な登場人物の数がかなり少ない『プロジェクト』シリーズは、まともにデュエルができるキャラを5人揃えることすら困難なのである。

 朝比奈さんの、一見公平そうな提案の裏には、ちょっと考えただけでもこれだけの打算が渦巻いている。私の朝比奈さんへの第一印象は、あまり物事を深く考えない、大雑把でさばさばした性格の持ち主……だったんだけど、それは大きな間違いだった。彼女は、実にしたたかなデュエリストだわ。『決闘学園!』でも色々と屁理屈をこねていたし、きっとそういう能力に長けた人間なんでしょうね。……だからこそ倒しがいがあると言うものだわ。

 ちなみに、今ほとんどの読者の方は「『プロジェクト』シリーズ側の5人って、私とパラコンと真田さんと川原さんと……あと1人は誰?」と思っているでしょうけど……ふふ。これについては、今はまだ秘密よ。5人目は、後から合流する手はずになっているわ。


(3)
 デュエルの対戦カードは、1戦ごとにランダムに決定される。
 1度でもデュエルに負けたデュエリストは、それ以降の闘いに参加することができない。
 先に相手チームの5人を全滅させた方の勝ちとする。

 もちろん私だって、ただ黙って朝比奈さんの言いなりになっていたわけじゃない。団体戦という条件を飲むかわりに、私たちに有利な↑こんなルールを提案させてもらったわ。

 5人対5人の団体戦といえば、『決闘学園! 2』みたいに、1対1のデュエルを5回やって3勝した方の勝ち、というルールで行われるのが普通だ。でも、今回の闘いはそうじゃない。

 具体的な流れは、次のようになる。
 まず、5人のメンバーで構成されている両チームから1人ずつ、ランダムにデュエリストが選ばれる。その2人がデュエルを行い、勝った方には何も起こらないが、負けたデュエリストはそれ以降の闘いに参加することができなくなる。こうして合計9人になった両チームから、再び1人ずつデュエリストがランダムに選ばれて、デュエルを行う。
 これを繰り返して、敵チームのデュエリストを先に全滅させた方が最終的な勝者となる。
 1度の闘いにつき、負けたデュエリストが1人ずつ抜けていくから、引き分けがなければ長くても9回のデュエルで決着がつく計算だ(ちなみに、引き分けの場合は両者そのままで、改めて次に闘う2人がランダムに選ばれる)。

 ……え? このルールで、どうして私たちが有利になるのか分からないって?
 残念だけど、それも今は秘密。いずれ教えてあげるわ。


(4)
 この闘いにおけるデュエルは、マスタールール(OCGルール)で行われる。
 禁止・制限・準制限カードは、2009年9月1日〜2010年2月28日のものに従う。

 私がルール(3)を提案すると、朝比奈さんも負けじとこのルール(4)を提示してきた。
 『プロジェクト』シリーズは、原作ルールの決闘小説で、『決闘学園!』シリーズは、マスタールールの決闘小説だ。当然、自分たちにとって馴染みの深いルールで闘った方が、デュエルを有利に進めることができる。
 当然、私はこのルールに反対した。けれど朝比奈さんは、平然とした口調でこう言い放ってきたのだ。

「前にあんたが天神と闘ったとき、あんたはこう言ったわよね。『この小説はプロジェクトシリーズの作品のひとつだから、デュエルは原作ルールで行います』って。その理屈でいくなら、この闘いのデュエルはマスタールールで行うべきよね? だって、今度のこの小説は、決闘学園シリーズの作品のひとつだもの。こう、作者的な意味で」

 くっ……! まさか、前のコラボ小説で私が唱えた理論が逆用されるなんて……!
 朝比奈さんの言葉は、屁理屈スレスレだけど確かに筋は通っている。そして、筋が通っているのならば、たとえどんなに私にとって不利な結論であろうとも受け入れざるを得ない。
 悔しいけれど、この点に関しては向こうの方が一枚上手だった。朝比奈さんにつけこまれてしまったのは、私の認識が甘かったからだ。

 ……この屈辱は、必ずデュエルで晴らしてやるわ。


(5)
 闘いが行われる会場に、1人1つずつのデッキ、エクストラデッキ以外のカードを持ち込むことはできない。

 そして、最後に私が提案したルールが、これだ。
 会場に持ち込めるデッキ、エクストラデッキは1人1つだけ。サイドデッキの持ち込みはできず、それ以外の予備のカードを会場に持ってくることも禁止。
 このルールは、(4)とは逆に『決闘学園!』側の不利にはたらく。その理由は簡単だ。

 翔武生徒会は、一介の高校生集団にしては信じられないほど豊富なカードコレクションを所持しており、その枚数はゆうに100万枚を超えるとも言われている。
 そしてこの闘いは、1人のデュエリストが何度もデュエルを行うこともある闘いだ。もしもカードの持ち込みに制限がなければ、翔武生徒会は、デュエルとデュエルの間に、膨大な量のカードプールを活かして自分のデッキを好きなように組み替えることができてしまう。

 当然、プロジェクトシリーズとしては、こんな暴挙を許すわけにはいかない。だから私は、デッキ、エクストラデッキ以外のカードは一切持ち込み禁止という、このルールを提案したのだ。
 朝比奈さんは、この提案を聞いて「むっ……」と一瞬口ごもった(私がこのことに気づかないとでも思っていたのかしらね。舐められたものだわ)。
 けれど、散々好き勝手にルールを提示してきた負い目もあるのでしょうね。最終的には渋々といった様子でこのルールを採用することを約束してくれた。



 ……ふう。だいぶ長くなってしまったけれど、これでこの闘いのルールは全部説明し終えたわ。

 さあ、いよいよ、『決闘学園!』シリーズと『プロジェクト』シリーズの、ここ1年間の確執に決着をつける、宿命のデュエルの開幕よ!





4章  鷹野麗子 VS 吉井康助



 国立デュエル競技場。私たちの闘いは、翔武生徒会の手配によって、日本有数の充実したデュエル設備を誇るこの施設の一角を貸しきって行われることになった。公式な試合ではないものの、デュエルはきちんと正規の審判が取りしきってくれるそうだ。
 というか、プロ御用達のこんな高級施設をホイホイ借りられるって、どんだけ偉いのよ翔武生徒会。これが権力ってやつなのね……!

 ……ま、これは私が決闘学園をコテンパンに叩きのめすための闘いだから、大舞台であるに越したことはないんだけど。それに、権力を振りかざすデュエリストに正面から立ち向かう普通の中学生集団って、どう考えても私たちの勝利フラグじゃない?

 そんなことを考えながら、私たちが今いる部屋を見回してみる。
 『プロジェクトシリーズ控え室』という名目で借りているこの部屋の広さは、おおよそ学校の教室1つ分。中にいる人間が私、パラコン、真田さん、川原さんの4人だけであることを考えると、十分すぎるほどに広い空間だ。

 そして、決闘学園側の選手は、ここと全く同じ作りの『決闘学園シリーズ控え室』で待機しているはずだ。
 デュエルリングで行われるデュエルは、2つの控え室にあるディスプレイで観戦することができるけれども、逆にデュエルリングから控え室の中の様子をうかがい知ることはできない。つまり、観戦者からのアドバイスは一切禁止。まあ要するに『決闘学園! 2』でやってた大会と同じ形式ね。

 今、部屋のディスプレイには、どこかで見たような形の豪華なビンゴマシーン(コミックス23巻参照)が2つ映し出され、回転を始めている。片方のマシーンの中には、「1」から「5」までの数字が1つずつ書かれた青い玉が合計5つ。そしてもう片方には、同じように数字が書かれた赤い玉が5つ入っている。このビンゴマシーンを使って、デュエルの対戦カードを決めるというわけだ。

 十数秒の後に、両方のビンゴマシーンが、それぞれ1つの玉を吐き出して停止する。
 青い玉に書かれている数字は「1」、赤い玉に書かれている数字は「3」だ。
 同時に、先攻後攻の選択権があるデュエリストを決めるルーレットが回りだし、青を指して動きを止めた。

 そのことを確かめると、私は横にある小さなサブディスプレイに目を向けた。

   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子(☆)   1.???
   2.パラコンボーイ   2.???
   3.真田 杏奈      3.???
   4.川原 静江      4.???
   5.<匿名希望>    5.???

(☆)は先攻後攻の選択権があるデュエリスト


 これを見てもらえば分かる通り、この闘いでは、相手チームが「どの番号に誰を割り当てたか」を予め知ることができない。
 これは、朝比奈さんの「どうせなら闘う直前まで誰が相手か分からない方が盛り上がるでしょ?」という提案で採用されたちょっとしたルールだ。もちろん、『決闘学園!』側も、私たちの誰が何番なのかはデュエルするまで知ることはできない。向こうの控え室では、逆に私たちの名前がすべて「???」と表示されているはずだ。
 正直言うと、私としてはこのルール、邪魔なだけなんだけど……。でも、下手に否定して私の計画に勘付かれても困るので、仕方なく賛成しておいた。……ま、そんなに支障はないでしょ。

「最初に闘うのは私みたいね。それじゃ、行ってくるわ」
 ちゃんとデュエルディスクが動くか軽く確かめながら、他の3人に向かって告げる。
「たかのっティ〜、先陣は任せたよっ! ……っていうか、ウチらの中で翔武生徒会に勝てそうなのは、たかのっティーだけだ! ガンバレ!!」
「私たち、ここで応援してるからね。ファイト!」
 真田さんと川原さんが、私に激励の言葉をかけてくる。
「ふふ。必ず勝つに決まってるでしょう? 私を誰だと思ってるの?」
「その自信満々な物言い! それでこそたかのっティーだぜ!」
「鷹野さん、頑張ってね!」
 そんな2人に見送られながら、私はデュエルリングへとつながるドアを開いた。

 ……と、その前に。
 さっきから視界の端で「『2.パラコンボーイ』……って何でじゃぁぁああああ!! 皆勘違いしているようだから言うけど、これはアダ名であって本名じゃないからね!? 僕の本当の名前は――」とか何とか叫んで騒いでいるパラコンがうっとおしかったので、こんなときのために用意しておいた携帯用小型消火器をぶちまけて黙らせておいた。

 うん。これで心おきなく闘いに向かえるわ。


 ◆


「それでは、これより第1戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」

 毎度おなじみ黒服審判さんの宣言を受けて、私はデュエルリングへと続く階段をゆっくりと上っていく。

 朝比奈さん、佐野さん、見城さん、そして天神さん。
 たとえどんなに強い能力者が相手だろうと、絶対に私は勝ってみせるわ。
 そんな決意を胸に秘め、私は、『決闘学園!』シリーズ第一の刺客と、対峙した。


「あ、初めまして。鷹野麗子さん……ですよね? 僕、吉井(よしい)康助(こうすけ)って言います」


 たとえどんなに強い能力者が……相手だろうと…………。

「翔武学園の1年生です。鷹野さんは中学生……でしたよね? 今日はよろしくお願いします」

 たとえ……どんなに……強い…………。

「大会でもないのに、こんな大舞台だと緊張しちゃいますよね。でも、お互い普段通りに、自分の実力を出し切って闘えるいいデュエルにしましょうね?」
「…………はぁ」
「って、ちょっと! 何でそこで溜息つくんですかっ!」
「……あっ、ごめんなさい。私の初めての相手が、吉井さん程度の無能力者……あっいや吉井さん程の実力者だとは思わなかったもので。それでがっかり……おっと驚いてつい呆然としてしまいました、すみません。……とはいえ、そんな吉井さんでも全力を出せば私といい勝負くらいには……ああいや、是非いいデュエルにしましょうね」
「所々に本音が見え隠れしてるんですけど!? 完全に僕のこと馬鹿にしてますよね!?」
「馬鹿にするなんてとんでもない。私はただ、吉井さんのことなんて一切眼中にないだけよ」
「余計悪いですよねそれ!?」
「これで1勝0敗、と。うん、出だしは好調ね」
「もうすでに勝った気でいる!? 闘いが始まってもないのに!?」
「…………はぁ。コイツとのデュエル、正直めんどくさいわ」
「とうとう本音を隠す気がゼロに!!」
「そんなわけだから私の先攻ドロー!」
「勝手にデュエル始めないでくださいよっ!?」
「冗談よ」
「まぎらわしい冗談はやめてください……」
「その代わり、私の不戦勝でいいわね?」
「何でそうなるんですか!?」
「めんどくさいからよ」
「そんな当たり前のように言われても!?」

 ……うん。思った通り、やっぱりこの人、かなりイジり甲斐があるわね。
 いちおう相手の方が年上のはずなんだけど、先輩の威厳とかカケラもないし。
 どちらかと言えば、ギャグ小説の方が向いてるんじゃないかしら?

「でも、それにしてはちょっとツッコミがワンパターンなのが玉に瑕かしらね」
「いきなり何の話をしてるんですかっ!?」

 ……ま、冗談はいい加減このくらいにして、そろそろデュエルに移りましょうか。


 ◆


「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『プロジェクト』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「私は、先攻を選択するわ」
「分かりました。それでは、このデュエルは鷹野麗子さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」
 審判のその言葉をきっかけに、お互いの表情が引き締まる。
 デュエルディスクが変形する音が、重なって響く。

「それでは! 第1戦目、鷹野麗子選手 対 吉井康助選手。デュエル、開始ィィ!!」


「「デュエル!!」」



 初戦、開幕よ。



「私のターン、ドロー! モンスターを裏側守備表示でセット。さらに私は、残りの手札をすべて場に伏せておくわ(手札:6→5→0)」

 さっきはああ言ったものの、私は別に、吉井さんのことを本気で侮っているわけではない。
 いくら吉井さんが無能力者で、適当に守備を重視しただけの地味なデッキを使い、生徒会メンバーの中でも最弱のデュエリストで、『決闘学園! 2』では作中全敗というある意味凄まじい成績を残しているとはいえ、彼のデュエルには所々光るものが見られるのも確かだ。半ば不意打ちに近い形とはいえ、あの天神さんに作中で唯一黒星をつけるという実績も残しているしね。
 ここ一番での発想力とひらめきに秀でた、『決闘学園!』シリーズの主人公。当然、どれだけ警戒してもし過ぎることはない。
 だから私も、この日のために考え抜いたとっておきの戦術を使わせてもらうわ。

「私はこれで、ターン終了よ」

 さて……吉井さんはどう仕掛けてくるかしら……。


 (2ターン目)
 ・吉井 LP8000 手札5
     場:なし
     場:なし
 ・鷹野 LP8000 手札0
     場:裏守備×1
     場:伏せ×5


「僕のターン、ドロー! まずは、手札から『グラナドラ』を召喚します!(手札:5→6→5)」

 グラナドラ 効果モンスター ★★★★ 水・爬虫類 攻1900・守700

 このモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分は1000ライフポイント回復する。
 このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分は2000ポイントダメージを受ける。

 吉井 LP:8000 → 9000

「『グラナドラ』で、鷹野さんの裏守備モンスターを攻撃します!」

 ……ふっ。まさか、5枚もある伏せカードに臆することなく攻撃してくるとはね。
 そういう単純なデュエリストほど、私の戦術にハマるわ。

「トラップカード発動、『魔法の筒(マジック・シリンダー)』よ」
「……っ!」

 魔法の筒 通常罠

 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 吉井 LP:9000 → 7100

 魔力を帯びた筒にハネ返された攻撃が、相手プレイヤーを直撃した。
 予想外の手痛い反撃を受けて、吉井さんの表情が歪む。

「ぼ……僕は、カードを2枚伏せて、ターンエンドです!(手札:5→3)」


 (3ターン目)
 ・吉井 LP7100 手札3
     場:伏せ×2
     場:グラナドラ(攻1900)
 ・鷹野 LP8000 手札0
     場:裏守備×1
     場:伏せ×4


「私のターン、ドロー!(手札:0→1)」

 守備偏重のデッキを使う彼にしては珍しく、吉井さんは1ターン目から強気に攻撃を仕掛けてきた。
 何か考えがあってのプレイングか、それとも、私が中学生だからって油断していたのか。
 どちらにしても、『魔法の筒』で吉井さんの出鼻は挫いた。
 相手の態勢が整う前に、今度は私の攻めを披露してやるわ。

「まずは、裏側守備表示だった『闇の仮面』を反転召喚。そのリバース効果で、墓地のトラップカード『魔法の筒』を手札に加えます(手札:1→2)」

 ……行くわよ、吉井さん。

 このターンで、あなたの戦意を喪失させてあげるわ!

「私は、伏せていた魔法カード『うずまき』を発動!!」

 うずまき フィールド魔法

 フィールドは「うずまき」となり、全ての常識は覆る。

「う……うずまき……? そのカードは、一体……?」

 ふふ、教えてあげるわ、吉井さん。
 細部に至るまで計算され尽くした、私の完璧すぎる戦術を聞いて、驚くがいいわ!

「フィールドの地形が『うずまき』になっている限り、デュエルのルールは、OCGルールから原作ルールに変化するわ」
「…………って、ええっ!? 原作ルール……ですか!?」

 『うずまき』は、原作ルールのデュエルをOCGルールに変える効果を持ったフィールド魔法。『プロジェクト』シリーズを読んだことのある方は、そう思っていることだろう。
 でも、それは『うずまき』の限られた一側面でしかない。
 『うずまき』のテキストをよく見てほしい。そこには「原作ルールをOCGルールに変える」なんて書かれてはいない。「全ての常識は覆る」と書かれているのだ。

「全ての常識は『覆る』……。つまり、『うずまき』の発動下では、原作ルールのデュエルはOCGルールに、OCGルールのデュエルは原作ルールに変化する!

 吉井さんが「えええええ!? いいんですか作者の許可もとらずに勝手にそんな超解釈して!?」とでも言いたげに私を見ていたが、当然スルー。
 超解釈だなんてとんでもない。むしろこれは、テキストの表現を素直に読み取った、実に自然な解釈であると言えるわ。

 吉井 LP:7100 → 3550
 鷹野 LP:8000 → 4000

 そして、デュエルのルールが初期ライフ8000のOCGルールから初期ライフ4000の原作ルールになったことで、私と吉井さんのライフポイントに変化が生じる。
 ライフポイントが初期ライフより減っている状態で『うずまき』を使うとどうなるのか長らく曖昧だったけど、どうやらその時点でのライフが半分になるようだ。うん、私の思った通りね。

 これで準備は整った。
 次の一撃で、戦況を一気にひっくり返す!

「リバースマジック発動! 『フォース』!!」

「『フォース』……。確かそれって、モンスター1体の攻撃力の半分を奪って、別のモンスターの攻撃力に加える魔法カードのはず……って、あれっ!?」

 吉井さんが、素っ頓狂な声をあげて驚く。
 まあ、この状況を初めて目にすれば、その反応も無理ないでしょうね。

 吉井 LP:3550 → 1775
 闇の仮面 攻:900 → 2675

「僕のライフが……半分になった……!?」
「吉井さん。このデュエルはもう、あなたが慣れ親しんできたOCGルールじゃありません。原作ルールの『フォース』は、そんなに甘い魔法カードじゃないんですよ」

 フォース
 (魔法カード)
 相手プレイヤーのライフポイントの1/2を自軍モンスターの攻撃力に加える。

「な……そんな反則効果、アリなんですかっ!?」
「ええ、もちろん。この効果は、原作のテキストに従った正当な処理です」

 それにしても、反則効果って……『決闘学園!』シリーズのキャラだけには言われたくないセリフね……。この人たち、デュエリスト能力だって言えばどんなチートも許されるって本気で思ってそうだから怖いわ……。

「原作効果の『フォース』を発動したターンは、攻撃宣言ができなくなります。なので私は、さらに手札から魔法カード『時の飛躍(ターン・ジャンプ)』を発動させるわ(手札:2→1)」

 時の飛躍
 (魔法カード)
 この魔法を発動した瞬間 3ターン後のバトルフェイズに飛躍(ジャンプ)する。

 攻撃宣言が封じられるのは『フォース』の発動ターンだけ。つまり、3ターン後の未来に飛べば、問題なく攻撃ができる!

「『闇の仮面』で、『グラナドラ』を攻撃!」

 (攻2675)闇の仮面 → グラナドラ(攻1900):破壊

 吉井 LP:1775 → 1000

 原作ルールになったせいで、『グラナドラ』が破壊されて墓地へ送られても吉井さんに2000ダメージは発生しない。
 ここでトドメを刺せないのは残念だけど……私の攻撃はまだ終わらないわ!

「『グラナドラ』が墓地に送られたこの瞬間、リバーストラップ発動『棺桶売り』!」

 棺桶売り
 (永続罠カード)
 相手の墓地にカードが置かれるたび、そのプレイヤーは700ポイントのダメージを受ける!

 吉井 LP:1000 → 300

「……っ! そのカードも、原作効果ですか……っ!」
「ええ。『相手の』『モンスター』カードが墓地に送られるたびに、『1回につき』『300』ポイントのダメージを与えるなんて、そんな生温いOCG効果じゃありませんよ」

 どんなカードが相手の墓地に送られようと、1枚あたり700ポイントのダメージを与える。
 それはつまり、相手のモンスターカードが破壊されたときはもちろん、相手が通常魔法や通常罠を発動させて、その効果処理が終わって墓地に送られたときにも『棺桶売り』のダメージが発生するということだ。
 吉井さんの残りライフは300。ゆえに、彼はもう普通の魔法や罠を発動させることすらできない。

「私は、最後に残った手札『魔法の筒』を場にセット。ターンを終了するわ(手札:1→0)」


 (4ターン目)
 ・吉井 LP300 手札3
     場:伏せ×2
     場:なし
 ・鷹野 LP4000 手札0
     場:闇の仮面(攻2675)
     場:うずまき(フィールド)、棺桶売り(永罠)、伏せ×2


 長かった私のターンが終わり、一息ついて改めてフィールドを眺める。

 私のモンスターゾーンには、フォースで強化された『闇の仮面』。守備力の高いモンスターばかりが投入されている吉井さんのデッキでは、攻撃力2675の闇の仮面を戦闘破壊することすら困難なはずだ。
 そして、魔法・罠ゾーンの『棺桶売り』。このカードがある限り、残りライフ300の吉井さんは1枚たりとも墓地にカードを送ることが許されない。彼のデッキのキーカード『右手に盾を左手に剣を』も、これで完全に封じられた。
 さらに、万が一の事態に備えての『魔法の筒』と、もう1枚、私の場には必殺の罠カードが伏せられている。

 鷹野ファイブとでも呼びたくなるくらい、攻守ともに完璧なバランスを誇る洗練された究極のフィールド。
 加えて、この聖域の支配者たる私のライフポイントは、いまだ無傷。

 この状況で、私の負けは万に一つもないわ!

「ぼ……僕のターン、ドロー!(手札:3→4)」

 カードを引く吉井さんの手は、私から見ても丸分かりなほど震えている。
 ふふ。そりゃそうよね。仮にも翔武生徒会のデュエリストが、ただの中学生に負けたとあっては、彼の面目は丸潰れ。先輩たちに会わせる顔がないでしょうからね。

 手札を眺めて、何やら必死に考えているようだけど、今さら焦ってももう手遅れ。
 私が『うずまき』を発動させた段階で、勝負はほとんど決まったようなものだったのだ。

(4)
 この闘いにおけるデュエルは、マスタールール(OCGルール)で行われる。
 禁止・制限・準制限カードは、2009年9月1日〜2010年2月28日のものに従う。

 原作ルールなら私たちが有利だけど、OCGルールなら決闘学園が有利。
 このルールを提案した朝比奈さんは、完全にそう思い込んで疑わなかったでしょうね。

 けど、頭脳明晰、博学多才なこの私は、すぐにこのルールを逆に利用してやる方法を思いついた。
 OCGルールで始まったデュエルを、『うずまき』を使って途中で原作ルールに変える。これこそが、私の編み出した秘策なのだ。

 このデュエルで、私が最初にとった行動を思い出してみてほしい。
 あのとき私は、先攻1ターン目なのにも関わらず、手札をすべて消費して5枚の魔法・罠カードをセットした。
 これは、OCGルール的には、決して褒められた行為とはいえないプレイングだ。けれども、後でデュエルのルールが原作ルールに変わることを知っているのならば、話は変わる。
 皆さんも知っての通り、原作ルールには、魔法・罠をそれぞれ手札から1ターンに1枚しか場に出せないという厳しい縛りが存在している。一度にカードを大量展開することを許さないこの制約こそが、原作ルールの面白い所であり、なおかつ最も厄介な点でもある。

 ……もう分かったでしょ?

 そう。私の秘策とは、OCGルールを利用して、この原作ルールの厄介な制限を破ることだったのだ。
 デュエルがまだOCGルールのうちに、できるだけ多くの魔法・罠カードをセット。そして、後のターンに改めて『うずまき』を発動する。こうすることで、原作ルールでは得がたい大量のボード・アドバンテージを一気に獲得することができるのだ。
 ちなみに、『うずまき』を発動させた時点で、すでに魔法・罠カードの1ターンに1枚制限が破られている場合『うずまき』は発動できなから、私が『うずまき』を発動できるのは早くても3ターン目になる。だから、もし吉井さんが私の戦術を見抜いていれば、2ターン目に大量のカードを伏せて対抗することも可能だったはずなんだけど、どうやら実際に『うずまき』を使われるまで全く気づかなかったようだ。
 ……ま、そう簡単に見抜かれるわけはないんだけどね。なにせ、この私が練りに練って築きあげた作戦なわけだし。

「……………………」

 吉井さんは、うつむいて自分の手札を見つめたまま黙りこんでしまっている。
 ふふ……いくら考えても無駄よ。ボードアドバンテージもライフアドバンテージも私が圧倒しているこの現状を打開する方法なんて、そう簡単に見つかるわけが――――

「…………よし! 僕の考えが正しければ、このカードで鷹野さんの布陣を崩せるはずだっ!」

 ――――って、あれ?

「僕は、手札の『ホーリー・エルフ』を攻撃表示で召喚します!(手札:4→3)」

 ホーリー・エルフ……? 確か『決闘学園! 2』で吉井さんが使っていたカードよね。今さらそんな通常モンスターを召喚して、一体何を考えて…………っ! まさか!

「このカードは、OCGルールでは通常モンスターです。でも、原作ルールの『ホーリー・エルフ』には特殊能力があるはずですよね? 鷹野さん」
「…………ええ。その通りよ」

 『ホーリー・エルフ』は効果モンスターとはいえ、その効果は、テキストに書かれていない隠し効果だったはず……。
 まさか、原作ルールに慣れていないはずの吉井さんがそのことに気づくとはね……。

「『ホーリー・エルフ』の効果発動! ホーリー・エルフは呪文を唱えて、自らの攻撃力を他のモンスターに分け与えることができます!」
「ふふ……そうやってモンスターの攻撃力を集めて『闇の仮面』を倒すつもりですか。……でも、残念でしたね。吉井さんの場のモンスターは『ホーリー・エルフ』1体のみ。その状態で効果を発動させたところで、何の意味もありませんよ」
「いいえ、違います。『ホーリー・エルフ』の攻撃力を分け与えるのは……鷹野さん、あなたの『闇の仮面』です! 与える攻撃力は、300ポイント!」

 ホーリー・エルフ 攻:800 → 500
 闇の仮面 攻:2675 → 2975

 な……私の『闇の仮面』の攻撃力を上げた……?
 確かに、コミックス9巻には「自らの攻撃力を『場の』モンスターに与える」としか書かれていない。原作ルールの緩い表現ならば、そういう解釈も可能だろう。
 でも、わざわざ私のモンスターの攻撃力を上げるなんて、吉井さんは何を考えているの……? それに、上げるにしても300ポイントだけというのは中途半端だし…………って! もしかして、吉井さんの狙いは!?

「これで、『ホーリー・エルフ』の攻撃力は500ポイント! よって、このカードの発動条件を満たします!」
「吉井さん……ひょっとして、あなたが『ホーリー・エルフ』の効果を発動した理由は…………!」
「手札から、魔法カード発動! 『増殖』です!(手札:3→2)」

 増殖
 (永続魔法カード)
 攻撃力500以下のモンスターを増殖させる。

「……なるほど。あなたの狙いは、『ホーリー・エルフ』の攻撃力を下げることだったんですね」
「はい。OCGルールの『増殖』はクリボー専用の魔法カードですけど、原作ルールなら、攻撃力が500以下であればどんなモンスターも増殖させることができますから」

 吉井さんの場では、無数に増殖した『ホーリー・エルフ』が皆一様に同じ姿で祈りを捧げている。
 原作ルールの『増殖』の効果を受けたモンスターは何体に増えるのかが曖昧だけど、どうやら今回は『クリボー』と同じように無数に増えたらしい。

「それに、原作ルールの『増殖』は永続魔法。発動後も場に残り続けて墓地には送られません」
「『棺桶売り』のダメージは発生しない……というわけですか。……さすがですね。よく考えられた戦術です」

 原作ルールでは、『増殖』によって増えたモンスターはカードの1枚としてカウントされない。だから、『増殖』を使えば一度に6体以上のモンスターを展開するなんてこともできる。
 OCGにはない原作独特のルールを、まさかこんな形で利用してくるなんてね。さすがは吉井さん、その発想力は並外れているわ。

「行きますよ、鷹野さん! どれだけライフポイントに差がついていようと、無数のモンスターの攻撃が通れば、僕の勝ちです!!」

 …………でもね、吉井さん。

 この私が、その程度の戦術、予測できないわけがないでしょう?



「リバーストラップ、発動!!」



 吉井さんは、確かに翔武生徒会の中では最弱のデュエリストだ。
 けれども、彼がピンチに陥ったときのアイデアの凄さには目を見張るものがある。そのひらめきの大胆さと意外性は、『決闘学園!』シリーズでも一二を争うだろう。
 そんな吉井さんを追い詰めれば、何かしらの方法で逆転劇を展開されるのは明白。あの天神さんの敗因も、彼の発想力を甘く見たことにある。
 だから私は、たとえ圧倒的に優位な状況に立っても、決して油断しない。
 吉井さんが意外な方法で反撃してくるのを見越して、必殺のトラップカードを最後まで温存しておいたのだ。

 『決闘学園! 2』のVS遠山戦でも鍵となった、吉井さんの使う魔法カード『増殖』。
 原作ルールでは、このカードが、どんな不利な状況をも覆す火種になりうることは分かっていた。
 だからこそ、吉井さんは不利になればきっとこのカードを使ってくると予測できた。

 原作ルールでは、『増殖』の効果で増えた『ホーリー・エルフ』は、すべて効果モンスターとして扱う。
 私が伏せておいたこのトラップは、効果モンスターが増えれば増えるほどその威力を増す、『増殖』に対する究極のメタカードだ。



 停戦協定
 (罠カード)
 フィールド上の全ての裏側守備表示モンスターを表側表示にする。
 この時、リバース効果モンスターの効果は発動しない。
 フィールド上の効果モンスター1体につき500ポイントダメージを相手に与える。



 ――――私の、勝ちよ。





5章  5人目の正体



 (4ターン目)
 ・吉井 LP300 手札2
     場:増殖(永魔)、伏せ×2
     場:ホーリー・エルフ(攻500)×無数
 ・鷹野 LP4000 手札0
     場:闇の仮面(攻2675)
     場:うずまき(フィールド)、棺桶売り(永罠)、停戦協定(通罠)、伏せ×1


 私の場には、場の効果モンスターの数×500ポイントのダメージを相手に与えるトラップ『停戦協定』。そして吉井さんの場には無数の効果モンスター。
 無数×500ポイント……一体ダメージはいくつになるのか想像もつかないけれど、残りライフ300の吉井さんがこれを喰らって生きていられる道理はない。
 私の勝ちは、確定した。

 ――――はずなんだけど、吉井さんはそのことを認めたくないのか、場の伏せカードを発動させてきた。

「リバースカードオープン! 速攻魔法『サイクロン』!」

 ……サイクロン? ……ああ、なるほど。自分の場の『増殖』を破壊して、無数に増えた『ホーリー・エルフ』を1体に戻そうっていうのね。
 ふふ……無意味な悪あがきだわ……。

「無駄ですよ、吉井さん。原作ルールでは永続魔法の『増殖』を破壊すれば、確かに『ホーリー・エルフ』の数は1体に戻りますが、それでも『停戦協定』の効果で発生するダメージは防ぎきれません。それに、『増殖』と『サイクロン』が墓地に送られれば『棺桶売り』の効果で1400ダメージですよ。忘れたんですか?」

 心優しい私は、諦めの悪い吉井さんに向かって、このどうしようもない状況を理路整然と説明してあげた。
 いくら何でもここまで言われれば、吉井さんだって諦めざるを得ないでしょ――――

「……違いますよ、鷹野さん。僕が『サイクロン』で破壊するのは…………フィールド魔法『うずまき』です!」

 ――――って、え? 『うずまき』??

「『うずまき』が破壊されたことにより、再び全ての常識は覆る! よって、このデュエルのルールは、原作ルールから元のOCGルールへと戻ります!」

 うずまき:破壊

「『うずまき』が破壊されたことで、『棺桶売り』の効果はOCGルールに戻ります!」

 棺桶売り 永続罠

 相手のモンスターカードが墓地に送られる度に相手ライフに300ポイントダメージを与える。

 嘘……! 私の『棺桶売り』が……!?
 これじゃ、『サイクロン』が墓地に送られてもダメージが発生しないじゃない!

「さらに、『増殖』も永続魔法ではなくなってフィールドから墓地に送られます! そして『増殖』が場から消えたことで、無数に増殖していた『ホーリー・エルフ』は元々の1体を残してすべて消滅します!」

 増殖していた『ホーリー・エルフ』は、OCGルールではトークン扱い……。トークンは墓地には送られずに消滅するから、『棺桶売り』のダメージは発生しない。
 あとたった1撃でも加えれば私の勝ちなのに、どうしてもその1撃が与えられない……!

「OCGルールの『ホーリー・エルフ』は通常モンスター。よって『停戦協定』の効果でカウントされる効果モンスターは、鷹野さんの場の『闇の仮面』1体だけです」

 ……! そうか、私の場にはまだ『闇の仮面』がいた……!
 与えられるのはたった500ダメージになっちゃったけど、それでも残りライフ300の吉井さんにトドメを刺すには十分! さあ、死になさい、吉井康助!!

 吉井 LP:600 → 100

 ……あれ? ライフ600? なんで吉井さんのライフが回復してるの――――ってあああああ!! その手があったかぁぁあああああ!!

「原作ルールに変わるとライフが半分になるなら、OCGルールに戻ればライフは2倍。『うずまき』が破壊された瞬間、僕のライフは300から600に、鷹野さんのライフは4000から8000になりました。だから『停戦協定』のダメージを500に抑えられれば、僕のライフはギリギリ残る計算です!」

 ちょっと……これ、かなりマズくない…………?
 とあるカードが、私の脳裏をよぎった。

ガッチャ・フォース
(罠カード)
自分のライフが100ポイント以下の時に発動可能。
ほぼ確実に、自分はそのデュエルに勝利する。
ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!

 くっ……! 『ガッチャ・フォース』の発動条件を満たさないように、吉井さんの300ライフは一度の攻撃でまとめて削るつもりだったのに……! たった1枚のカード発動でことごとくダメージを回避されたあげく、私の発動した『停戦協定』の効果を逆用されてきっちり勝利フラグを立てられてしまうなんて……!
 ……でも! 私のライフはまだ丸々8000残っている!
 いくら吉井さんが、派手な逆転が大好きな『決闘学園!』シリーズのキャラだと言っても、残った伏せカード1枚と手札2枚だけで、このターンに私の莫大なライフを削り切れるはずがない! 次のターンさえ回ってくれば、私にも勝てる可能性は十分に残っているわ!
 そう思って、冷静に今のフィールドの状況を見渡してみる。

 (4ターン目)
 ・吉井 LP100 手札2
     場:伏せ×1
     場:ホーリー・エルフ(攻500×無数)
 ・鷹野 LP8000 手札0
     場:闇の仮面(攻2675)
     場:棺桶売り(永罠)、伏せ×1



 白磁のように白くてすべすべな私のお肌に鳥肌が立った。



「僕は、『増殖』が墓地に送られる直前、まだ原作ルールが適用されているうちに、『ホーリー・エルフ』の効果を使って無数のホーリー・エルフの攻撃力すべてを元々の1体に集約させていました! この『ホーリー・エルフ』で『闇の仮面』を戦闘破壊すれば、僕の勝ちです!」

 し……しまった……! 吉井さんが『ホーリー・エルフ』を増殖させた真の狙いはこれだったのね……!?
 マズい……何とか反論しないと……!

「よ……吉井さん! 『ホーリー・エルフ』の『自らの攻撃力を場のモンスターに与える』効果は、その内容から推測するに起動効果のはず! つまりスペルスピードは1だから、『停戦協定』や『サイクロン』の発動にチェーンして効果を使うことはできないはずです!」

「いいえ! 起動効果だとかスペルスピードだとか、そんな複雑な概念は原作ルールには存在しません! 『実は○○を先に発動させていたんだぜ!』と言えば大抵のことは通る。それが原作ルールの醍醐味だったはずです!」

 な……っ! 私の華麗なる主張が一蹴されるなんて……!
 ……というかコイツ、OCGルールの小説のキャラのくせに、なんでこんなに原作ルールに詳しいのよ!

「翔武学園の生徒会室には、数千冊ものデュエル雑誌や専門書が揃っています。当然、『遊☆戯☆王』の原作コミックスも38冊全巻完備です!!」

 なんかメタな発言まで飛び出したしぃぃいいいいい!!
 というか、今確実に地の文に反応したわよねコイツ!?

「『ホーリー・エルフ』の攻撃力は500×無数。『闇の仮面』の攻撃力は2675。……行きますよ、鷹野さん!」

 くっ……! でも、私の場には、万が一の事態に備えて伏せておいた『魔法の筒』がある! このトラップがある限り、『ホーリー・エルフ』の攻撃力がどれだけ高かろうと、その攻撃が私に届くことはない……!

 魔法の筒 通常罠

 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「攻撃の前に、まずはカードを1枚伏せて(手札:2→1)、それからリバースマジック発動! 『二重魔法(ダブルマジック)』です!」

 ……え? 二重魔法? 確かそれって、『決闘学園!』のVS朝比奈戦で吉井さんが使っていたカードよね……。

 二重魔法 通常魔法

 手札の魔法カードを1枚捨てる。
 相手の墓地から魔法カードを1枚選択し、自分のカードとして使用する。

「手札の『月の書』をコストに(手札:1→0)、鷹野さんの墓地の『うずまき』を発動させます! この瞬間、三度全ての常識は覆る!!」

 吉井 LP:100 → 50
 鷹野 LP:8000 → 4000

 しまっ……! また原作ルールになったってことは、『魔法の筒』の効果は……!

 魔法の筒
 (魔法カード)
 魔術師が操る魔法の筒! モンスターの攻撃を吸収し軌道を変え相手にはね返す! 物質を転送することもできる。

「『闇の仮面』は悪魔族。つまり鷹野さんは、魔術師がいなければ扱えない原作ルールの『魔法の筒』を発動することができません!」

 や……ヤバい……! まさかそんな方法で『魔法の筒』が無力化されるなんて……!
 これじゃ『ホーリー・エルフ』の攻撃を止められない……! この私が、負ける……? 嘘……!?

「『ホーリー・エルフ』で、『闇の仮面』を攻撃します!」

 ああっ……! マズいマズいマズい! 何か、この状況を打開する起死回生の策は…………!

「…………はっ!!」


 その瞬間、私に天啓が舞い降りた。


<目次>

 プロローグ 〜とある電話〜
 1章  チーム結成
 2章  決戦当日
 3章  ルール説明
 4章  鷹野麗子 VS 吉井康助
 5章  5人目の正体
 6章  炸裂! 新生ゴキブリ・ロック
 7章  勝てない理由
 8章  最終決闘 ヒロイン対決
 エピローグ


 この8章のサブタイトル……「ヒロイン対決」と書いてあるってことは、デュエルするのは私と天神さんのはず! つまり、こんなサブタイトルのついた物語を矛盾させずに最後まで進めるためには、私は誰にも負けずに最終戦まで生き残っていなければならない!

 そう……なんと私には、このデュエルに絶対に負けられない理由があったのだ!
 強い想いを背負った人間は必ず勝つ……この少年漫画のお約束がある限り、私は決して負けることはない!
 ストーリーに矛盾を出したくないという『作者の思惑』! 個々のキャラクターの心理を超越した、創造神の感情! 物語において、これほど強い想いは他に存在しない! だから私は絶対に負けるはずがない!!

 そのことに気づいた瞬間、私の勝利へのヴィジョンがはっきりと見えてきた。
 見せてあげるわ……! 逆転劇に次ぐ逆転劇……その大トリを飾る、最後の大どんでん返しをね!!

「『ホーリー・エルフ』が戦闘を行う前に、『二重魔法』のカードが効果処理を終えて墓地に送られた瞬間、このカードの効果が発動します!」

 棺桶売り
 (永続罠カード)
 相手の墓地にカードが置かれるたび、そのプレイヤーは700ポイントのダメージを受ける!

 吉井さん……あなたは、最後の最後でミスを犯した!
 原作ルールになれば『魔法の筒』は無力化されるけど、その代わりに『棺桶売り』の極悪効果が復活する!
 今度こそくたばるがいいわ吉井康助ぇぇえええええ!!



「リバースマジック、発動! 『リビング・デッド(生ける屍)の呼び声』!!」



 リビング・デッドの呼び声
 (永続魔法カード)
 敵に抹殺された自軍のモンスターを全てゾンビ化し蘇生する。「不死」の力を得ることであらゆる攻撃も通用しない。また対象となるカードはすべて「ゴーストカード」となる。

「このカードの効果により、鷹野さんに破壊された『グラナドラ』が僕のフィールド上に復活します!」

 グラナドラ
 ★4/水属性/爬虫類族
 このモンスターが召喚された時、そのプレイヤーは1000ポイントのライフを得る。
 攻1900  守700

 吉井 LP:50 → 1050 → 350

 そんな……!? また私の攻撃が防がれた……!?

 …………いや! 今の吉井さんの行動には、おかしな点がいくつもある!!

「吉井さん! その『リビング・デッドの呼び声』はさっき手札から場に伏せた魔法カードですよね! 吉井さんは同じターンに手札から魔法カード『増殖』を発動しています! すでに1ターンに2枚の魔法カードを手札から出しているのに『うずまき』を発動して原作ルールに変えられるのはおかしいです! 明らかに矛盾しています!」

「いいえ! 『リビング・デッド(リビングデッド)の呼び声』は、原作ルールでは魔法カードですが、OCGでは罠カードです! 僕がこのカードを伏せたのは『うずまき』を再発動するよりも前! つまり僕はこのターン、魔法カード『増殖』と罠カード『リビングデッドの呼び声』を1枚ずつ手札から場に出しただけなので、何ら問題はありません! もちろん、『うずまき』は『二重魔法』の効果で鷹野さんの墓地から直接発動させましたから、手札から出した魔法カードとしてはカウントされません!」

「……それと! 原作ルールの『グラナドラ』の回復効果が発動するのは、OCGと違って『召喚された時』だけだと、テキストにも書かれています! なのに『リビング・デッドの呼び声』で特殊召喚されたときにも効果が発動するなんて、ずるいです! おかしいです!」

「だったら僕は、原作効果の『黒魔術のカーテン』を証拠として提示します! この魔法カードのテキストは『このターンすべてのプレイヤーはライフを半分減らすことでデッキの中から黒魔術師を1体召喚することができる』となっています! つまり、原作ルールの『召喚』は、OCGの『召喚』と『特殊召喚』を合わせた意味であると解釈するのが妥当です!」

「……そもそも! 『決闘学園!』シリーズには『死者蘇生』が出てきますよね! だったら『リビングデッドの呼び声』は禁止カードじゃないんですか!? 公式制限くらいちゃんと守ってください!」

「確かに『決闘学園!』と『決闘学園! 2』が連載されていた時期は、『死者蘇生』が制限カードで『リビングデッドの呼び声』が禁止カードでした。でも、今から2ヵ月ほど前にその立場は逆転したんです! この闘いのルール(4)を見てください! きちんと『禁止・制限・準制限カードは、2009年9月1日〜2010年2月28日のものに従う。』と明示されています! ちなみに『決闘学園! 3』がいつの制限に従うのかはまだ僕も知りません!」

 ああ……っ! これ以上、吉井さんを説き伏せられるような反論が思い浮かばない……!
 原作ルールでは口撃が重要なファクターなのに、それすら吉井さんに負けてしまったら……私は…………!

「今度こそ行きますよ! 『ホーリー・エルフ』で、『闇の仮面』を攻撃です!」

 あああああ!! 今度こそホントに何も思いつかない!!
 そもそも、物語を矛盾させないという使命を背負っているはずの私がどうして負けるのよぉぉおおおおお!!

「少年漫画には、『作者の思惑』なんかよりもよっぽど重要なモノがあります! それは……『読者の応援』! どれだけ追い詰められても、最後には主人公に勝ってほしいという純粋な少年少女の願い……! その想いを背負っている限り、僕は絶対に負けません!!」

 な…………なんですってぇぇぇぇええええええええええ!!!!

「読者の応援なき少年漫画に、作者の思惑が介入する余地はありません! 『ホーリー・エルフ』の攻撃! 滅びの呪文−10週打ち切り(デス・アルテマ)!!

 きゃぁぁぁぁああああああああああ!!!!

 (攻500×無数)ホーリー・エルフ → 闇の仮面(攻2675):破壊

 鷹野 LP:4000 → 0


「そこまでっ! 第1戦目の勝者は、チーム『決闘学園!』シリーズ!!」


 あれ……私、ホントに負けちゃった……!?
 『プロジェクト』シリーズの元ヒロインが、1戦目でいきなり敗北なんて……!?
 嘘でしょ……!?


 ◆


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.???
   2.パラコンボーイ   2.???(☆)
   3.真田 杏奈      3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.???
   5.<匿名希望>    5.???


 私が……負けた……。
 私の最強を誇るデッキ……最強のしもべ……。
 私の戦術に非はなかった……。全てにおいて完璧な手札が揃っていたはず……。
 でも……負けた……。

「たかのっティー、そんなに気を落としなさんなって。負けたとはいえ、あの翔武生徒会のメンバーを一時は残りライフ50まで追い詰めたんだからさ。それってやっぱり凄いことだと思うよ?」
 控え室に戻って沈んでいた私に、真田さんが励ましの言葉をかけてくれる。
 そんな彼女の気持ちを汲んで、残りライフ50まで追い詰めたってそれただの敗北フラグだから……とは言わないでおく。

 ちなみにパラコンは、吉井さんに負けた私を見て「ざまぁ! 消化器女ざまぁ! ……これは、ついに僕の時代が来るのか!? 主人公である僕が大活躍してチームの危機を救う展開か!?」とでも言いたげにうずうずしていたので、こんなときのために用意しておいた携帯用大型消火器をぶちまけて黙らせておいたわ。

「はぁ……。まだまだ私も未熟だってことね…………」
 認めたくはないけど、私が吉井さんに負けたのは厳然たる事実だ。
 私が全力でデュエルして、翔武生徒会最弱の無能力者である彼にすら勝てなかったのだから、仮に他の4人と闘ったところで結果は目に見えている。
 これが『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズの間に横たわる圧倒的な実力差なのね……。そのことを改めて実感できただけでも、この1戦目には大きな価値があったということにしておくわ……。

「おっ、そろそろ静江の試合が始まるよ! 一緒に観戦しようぜ、たかのっティー!」
 真田さんに言われて、私はディスプレイが見やすい椅子に座る。

 えっと……川原さんの対戦相手は…………。


「改めて自己紹介するわね。私の名前は天神美月。吉井君と同じ、翔武学園の1年生です」


 ……あ、終わったわね。川原さん、ご愁傷様。


 ◆


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.???
   2.パラコンボーイ   2.天神 美月
   3.真田 杏奈      3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.???
   5.<匿名希望>    5.???


「うぅぅ……。みんな、ゴメンね……。私、瞬殺されちゃったよ…………」
「静江! あんたはよく頑張った! 誰もあんたを責めちゃいない! ……てか無理! 絶対無理! あれはもう、デュエルの実力がどうこうってレベルの話じゃない!!」
 がっくりと肩を落としてうなだれる川原さんを、真田さんが懸命に励ましている。
 まあ、励ましている……というか、あれは天神さんのデュエルを初めて目にした真田さんの素直な感想でしょうね。

 賢明な読者の方はもう大体想像ついてると思うけど、天神さんが後攻を選択して始まった第2戦目のデュエルは、↓こんな感じで決着した。


 ◆


「私のターン、ドロー。……んーと、まずは手札から、このモンスターを召喚! …………ってあれ!? なんで手札に戻っちゃうの!?」
「ふふ。それが私のデュエリスト能力よ。『相手の場にモンスターが現われたとき、一切の効果を発動させずに、そのモンスターをそのまま持ち主の手札に戻す』。カードの効果風に説明すると、こんな感じかしらね」
「でゅ、でゅえりすと能力??」
「そう。ええとね、デュエリスト能力っていうのは、中学生とか高校生くらいのデュエリストがたまに持ってる不思議な力なんだけど――――」

 (中略)

「へっ!? それじゃ私、このデュエル中はモンスターを1体も場に出すことができないんですか!?」
「ええ。そういうことになるわね」
「うぅ……。そんなのってアリ……? 私はカードを1枚伏せて、ターンエンド……です…………」
「私のターン、ドロー。まずは『サイクロン』で川原さんの伏せカードを破壊するわ」
「んぐっ!?」
「それじゃ行くわね。私は永続魔法『神の居城−ヴァルハラ』を発動。その効果で手札から『アテナ』を特殊召喚。さらに『二重召喚』を発動して、『デュナミス・ヴァルキリア』と『智天使ハーヴェスト』を通常召喚。アテナの効果で1200ダメージよ。3体のモンスターで、川原さんにダイレクトアタック。合計ダメージは6200ポイントね。最後に、アテナの起動効果を発動。『デュナミス・ヴァルキリア』を墓地に送ってすぐに特殊召喚することで、相手プレイヤーに600ポイントのダメージを与えるわ」

 川原 LP:8000 → 6800 → 600 → 0


 ◆


 ……まあ、そういうことだ。
 天神さんは、終始にこやかな微笑みを浮かべながら見事なまでの後攻1キルを披露してくれたわ。
 というか、「楽しいデュエルにしましょうね」と言っておきながら笑顔で1キルできる神経が信じられないんだけど……。なに? あの人の言う「楽しいデュエル」って、自分が全力出せればそれでいいとかそういうアレなの?

「たかのっティー! 無理! これ無理! 0対5であたしたちが惨敗する未来しか見えない!」
「うん……。さすがに相手が悪すぎたよね……」
 真田さんと川原さんが、すっかり諦めたという様子で私にすがってくる。
「そうね。このまま続けても、1勝もできないのは目に見えているわね」
 彼女たちの意見は、おおむね正しい。ハッキリ言って、今の私たちの実力じゃ翔武生徒会のデュエリストに勝てる見込みはゼロに等しい。


 ……でもそれは、あくまで「このまま続ければ」の話だ。


「ありがとう、川原さん。あなたのおかげで、ようやく私の『策』を実行に移せるわ」
「??」
 急にお礼を言われた川原さんは、「え? 私、何かした?」と言わんばかりの表情で首をかしげている。
「予言するわ。私たちはこの後、翔武生徒会チーム相手に4連勝する」
「「????」」
 突然の私のセリフを理解できずに、2人の表情に困惑の色が浮かぶ。
 ……まあ、すぐに分かるわ。次の試合を見ればね。
「ほら、2人とも。第3戦目の組み合わせが発表されるわよ」

 2つのビンゴマシーンが、青い玉と赤い玉を吐き出して停止する。
 そして、先攻後攻の選択権があるデュエリストを決めるルーレットが指し示す色は、青だ。

 ……ふふ。すべて私の計画通りね。


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.???
   2.パラコンボーイ   2.天神 美月
   3.真田 杏奈      3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.???
   5.<匿名希望>(☆) 5.???


 私は、会場の外に待機させていた5人目のデュエリストにメールで連絡をとる。

 真っ当なデッキで正面からぶつかる正統派なデュエルは、もう終わり。
 これからは、『プロジェクト』シリーズにしかできない異端のデュエルの味を、存分に味わうがいいわ……!


 ◆


「それでは、これより第3戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」

 黒服審判の声とともに、『決闘学園!』シリーズ代表の吉井さんが再びリングに上がる。

 対するは、我が『プロジェクト』チームの秘密兵器たる5人目のデュエリスト。
 その「5人目」が、デュエルリング中に響き渡るような甲高い声で宣言する。





「ヒョ〜ッヒョッヒョッヒョ!! 見てるかいマイハニ〜! 俺の超グレートなインセクトデッキで今からコイツを華麗に瞬殺してやるピョー!」





 ふふ……。読者の皆さんの予想はどれだけ当たったかしら?

 5人目のデュエリストの正体。そう……それはズバリ『インセクター羽蛾』よ!

 『プロジェクト』シリーズの、『インセクター羽蛾』。
 彼こそが、翔武学園のデュエリストを確実に倒すために私が用意した『策』なのだ。

 ……ここまで言えば、もう分かるわよね?

「俺の先攻ドロー! 『速攻の吸血蛆』を召喚して、『財宝への隠し通路』を発動! 吸血蛆でプレイヤーにダイレクトアタックだピョー!(手札:6→5→4)」

 (攻500)速攻の吸血蛆 −Direct→ 吉井 康助(LP8000)

 吉井 LP:8000 → 7500

 速攻の吸血蛆 効果モンスター ★★★★ 闇・昆虫 攻500・守1200

 このカードのコントローラーは、1ターン目からバトルフェイズを行うことができる。その場合、『速攻の吸血蛆』以外のモンスターは攻撃宣言が行えない。
 このカードが相手プレイヤーに攻撃したターンのエンドフェイズ時、手札を1枚捨てることでこのカードを守備表示にすることができる。

 財宝への隠し通路 通常魔法

 表側表示で自分フィールド上に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択する。
 このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。

 吉井さんは、1ターン目から直接攻撃を受けて驚いていた様子だったけど、すぐに安堵の表情を浮かべなおした。おそらく「たったの500ダメージなら、別に問題ないか」とでも思っているのでしょうね。
 ……でもね、吉井さん。
 残念だけど、あなたに次のターンは無いわ!

「まだ俺のバトルフェイズは終了してないピョー! 手札をすべて捨てて、速攻魔法発動! 『狂戦士の魂(バーサーカー・ソウル)』!!(手札:4→0)」

 狂戦士の魂 速攻魔法

 手札を全て捨て、攻撃力1500以下のモンスター1体を選択して発動。
 モンスターカード以外のカードが出るまで、自分のデッキの上からカードをめくり墓地に送る。
 この効果でモンスターカードを1枚墓地に送るたびに、選択したモンスターは追加攻撃する。

「ヒャ〜ッヒャッヒャッヒャ! 俺のデッキは、『財宝への隠し通路』と『狂戦士の魂』が1枚ずつ入っている以外はすべてモンスターカードなのさ! これで俺の勝ちだピョー!」

 吉井さんが「って、えええええっ!? そんな先攻1キルアリですか!? それ僕どうしようもないじゃないですか!!」とか何とか叫んでいるけど、当然スルーだ。
 ふふ……。勝負の世界は非情なのよ…………。

「さあ行くピョー! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード……」

 吉井 LP:7500 → 7000 → 6500 → 6000 → 5500 → 5000 → 4500 → 4000 → 3500 → 3000 → 2500 → 2000 → 1500 → 1000 → 500 → 0


「そこまでっ! 第3戦目の勝者は、チーム『プロジェクト』シリーズ!!」


 ディスプレイ越しの審判の宣言が、私の耳に心地よく響く。

 当然だけど、やはり私の作戦に穴はなかった。
 これでもう、4連勝は約束されたも同然ね。


 ◆


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.???
   2.パラコンボーイ   2.天神 美月
   3.真田 杏奈      3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.???
   5.インセクター羽蛾    5.???


「ヒョ〜ッヒョッヒョッヒョ! 予定通り勝ったピョー! 俺のことを見直したかい? 我が愛しのハニー!」
「ダーリン凄い! 圧倒的だったわ! さすがは元全日本チャンプね!」
「ヒョヒョヒョ! ハニーの応援があれば百人力さ!」
「ダーリンのおかげで、この闘いにも勝てそうよ! ありがとうダーリン! 世界で一番愛してるわ!」
「ヒョヒョ〜! 俺の大活躍で、このチームのピンチを救ってやるからなぁ! ハニーこそ『あの約束』のことはよろしく頼むピョー!」
「うん! 分かってるよ! ダーリンがこの闘いで全勝したら、また一緒にデートしましょ!」
「ヒョ〜ッヒョッヒョッヒョ! 俄然やる気が出てきたー! あんな雑魚、何人集まったところで俺の敵じゃないピョー!」
「頼もしいよダーリン! それじゃ、次のデュエルもよろしくね!」
「任されたぜぇ! 速攻で片付けて、早くデートにするピョー!」
「私、待ってるからね! いってらっしゃい、ダーリン!」

 私に会いに控え室へ来てくれたダーリンは、愛情たっぷりの甘々会話でエネルギーを充填! 満面の蟲笑みを顔に浮かべて、意気揚々とデュエルリングへ戻っていったの! 頑張ってね、ダーリン!


 …………おっと。つい地の文でまで対インセクター用の口調で喋ってしまったわ。

 ふぅ。いくら蟲野郎を思い通りに操るためとはいえ、この喋りかたを維持するのも意外と大変ね。癖になったらどうしようかしら。
 真田さんと川原さんは、「あ……悪女や……。ここに悪女がおる……」とか「見てないよ……私は何も見てないからね……」とか呟きながら震えているみたいだけど……失礼ね。私が一体何をしたって言うのかしら。

 ……ああ、ちなみにパラコンは「インセクター羽蛾ぁぁあああああ!? 5人目のデュエリストってお前!? ……くっ! ここで会ったが百年目! 僕とデュエルしやがれこの蟲野郎!!」とか叫んでうるさかったので、こんなときのために用意しておいた携帯用特大消火器をぶちまけ――――ようと思っていたら、私の隣にいた羽蛾が絶妙なタイミングで先に殺虫剤をぶちまけてくれた。さすがは蟲野郎。パラコンを黙らせることにかけては天才的ね。


 ――――さて。ここらへんで、私の立てた『策』についてきちんと説明しておこうかしら。

 私が考えに考え抜いて編み出した必勝の『策』。その方法とは『先攻1ターン目で相手を倒すこと』、これに尽きる。
 『プロジェクトBF』でインセクター羽蛾がパラコン相手に先攻1キルを決めていたのを思い出した私は、一度はフった蟲野郎に「ごめんなさい……。私あのとき、ダーリンにあんな酷いことを言っちゃって……。……でも、別れてみてようやく気づけたの! 私の中にある、抑えきれない本当の気持ちに!」とか何とか言い寄って再び懐柔。この闘いで全勝したら私とデートできるという餌をちらつかせて、仲間に引き入れることに成功したわ。
 先攻1ターン目から攻撃できる『速攻の吸血蛆』と、その吸血蛆に連続攻撃を可能とさせる『狂戦士の魂』。この2枚のコンボが決まれば、相手は成す術もなく確実に沈む。どれだけ高いデュエルスキルを持った相手だろうと、さすがに自分のターンが一度も回ってこなければ何もできないでしょ?

 とはいえ、この戦術にも穴はある。
 それは、相手のターンでも手札から特殊召喚できるモンスターの存在だ。

 ナチュル・コスモスビート 効果モンスター ★★ 地・植物 攻1000・守700

 相手がモンスターの通常召喚に成功した時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

 冥府の使者ゴーズ 効果モンスター ★★★★★★★ 闇・悪魔 攻2700・守2500

 自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
 ●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
 ●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

 トラゴエディア 効果モンスター ★★★★★★★★★★ 闇・悪魔 攻?・守?

 自分が戦闘ダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の枚数×600ポイントアップする。
 1ターンに1度、手札のモンスター1体を墓地へ送る事で、そのモンスターと同じレベルの相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体のコントロールを得る。
 また、1ターンに1度、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択し、そのターンのエンドフェイズ時までこのカードは選択したモンスターと同じレベルにする事ができる。

 『速攻の吸血蛆』の攻撃を阻む脅威となりうるモンスターは上の3枚。このいずれかが相手の5枚の初期手札に含まれていると、せっかくの先攻1キルコンボを防がれてしまうのだ。

 でも、超天才的な頭脳を誇る私は、とあるカードを使ってこの弱点を克服する方法を編み出すことに成功した。
 そのカードこそが、吉井さんとのデュエルに出てきた『財宝への隠し通路』だ。

 財宝への隠し通路 通常魔法

 表側表示で自分フィールド上に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択する。
 このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。

 さっきのデュエルで、なんでインセクター羽蛾はわざわざこのカードを発動したのか分からなかった人もいるでしょうね。でも、それは今言ったような理由があるからだ。
 『財宝への隠し通路』さえ発動しておけば、『ナチュル・コスモスビート』『冥府の使者ゴーズ』『トラゴエディア』のどれが特殊召喚されたところで痛くもカユくもない。特殊召喚されたモンスターを飛び越えて、何の問題もなくダイレクトアタックを続けることができる。

 私は、『決闘学園! 2』に出てきた柊さんみたいなミスは決してしない。
 4000枚を超えるあらゆるOCGカードを漏れなく調査し、吸血蛆の連続攻撃を止めるカードが他に存在しないか徹底的に調べあげた。加えて、『決闘学園!』シリーズに出てきたオリカの中に手札から発動できるカードはないことも確認済みだ。

 ゆえに、翔武生徒会が『速攻の吸血蛆』の連続攻撃を止められる可能性は、万に一つも存在しない。相手の手札に『クリボー』や『アルカナフォースXIV−TEMPERANCE』が何枚あっても無駄だ。私たち『プロジェクト』シリーズの勝ちは、絶対に揺るがない。

 うん。いつ考えてみても、惚れ惚れするほど完璧な作戦ね。


 ――おっと。そんなことを話している間に、次の試合の組み合わせを決めるビンゴマシーンとルーレットが動き始めたようね。

 ……え? 私の作戦は、『プロジェクト』側からインセクター羽蛾が選ばれないと使えないでしょうって?

 ふふ……。それなら問題ないわ。なぜなら――――


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.???
   2.パラコンボーイ   2.天神 美月
   3.真田 杏奈      3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.???
   5.インセクター羽蛾(☆) 5.???


 実はこのビンゴマシーンとルーレットには細工がしてあるのよ。そのおかげで、何番のデュエリストと何番のデュエリストが闘うか、先攻後攻の選択権があるデュエリストはどちらになるかは私の思うがままに操作できる。つまり、私は控え室にいながらにして、自分の好きなように対戦カードを決められるってわけ。

(3)
 デュエルの対戦カードは、1戦ごとにランダムに決定される。
 1度でもデュエルに負けたデュエリストは、それ以降の闘いに参加することができない。
 先に相手チームの5人を全滅させた方の勝ちとする。

 私がこのルール(3)を提案したのも、闘いの中でこの『策』を使うことを見越してのことだ。
 インセクター羽蛾には、このまま常に先攻後攻の選択権を確保しつつ闘い続けてもらうわ。

 ……え? 「ランダム」と言っておきながらそれはアンフェアですって? ……ふふ。バレない反則は高等技術よ。まったく問題ないわ。


 ◆


「それでは、これより第4戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」


 さっきの闘いでは、手始めに正体が分かっている吉井さんを倒しておいたけど、今度の相手は「1.???」。朝比奈さんが決めた厄介なルールのせいで、一体誰が相手なのかはデュエルが始まるまで分からない。

 とはいえ、実はそれでも、もう何の問題もないのだ。

 翔武生徒会のデュエリストは、天神美月、朝比奈翔子、佐野春彦、見城薫、そして吉井康助の5人。吉井さんを除いた残り4人のデュエリスト能力は↓こんな感じだ。

 天神 美月
 (デュエリスト能力・レベル5)
 相手フィールド上にモンスターが出現(通常召喚、特殊召喚、コントロール奪取など)した場合、一切の効果を発動させずに、そのモンスターをそのまま持ち主の手札に戻す。

 朝比奈 翔子
 (デュエリスト能力・レベル4)
 自分または相手プレイヤーに、100ポイントのダメージを与える。
 この能力は、自分のターンのメインフェイズに、1ターンに10度まで発動できる。

 佐野 春彦
 (デュエリスト能力・レベル3)
 自分のターンのメインフェイズに、『融合』カードを使わずに融合召喚を行うことができる。

 見城 薫
 (デュエリスト能力・レベル2)
 自分のメインフェイズに、自分の手札を任意の枚数捨てることで、自分もしくは相手プレイヤーに捨てた枚数×500ポイントのダメージを与える。

 これを見てもらえれば分かる通り、天神さん以外の3人の能力は、どれも自分ターンのメインフェイズにしか発動できない。たとえ誰が相手だったとしても、インセクター羽蛾の先攻1キルを止めることは不可能なのだ。

 川原さんの犠牲のおかげで、厄介なレベル5能力を持つ天神さんが何番に割り当てられているかを知ることができた。
 私がビンゴマシーンの出目を操作できる以上、これで『プロジェクト』シリーズは確実に4連勝することができる。

 目を閉じて、勝利の味を存分に噛みしめる。

「俺のターン、ドロー! 『速攻の吸血蛆』を召喚! 『財宝への隠し通路』を発動して、相手プレイヤーにダイレクトアタックだピョー! さらに速攻魔法発動、『狂戦士の魂』!」

 インセクター羽蛾は、蟲野郎とはいえ原作キャラだ。
 原作出身のキャラのドロー力は凄まじく、初手にキーカード3枚を揃えることくらい朝飯前。つまり、ここで失敗することはまず絶対にありえない。

「俺の勝ちだピョー! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード……」

 ズバァ! ドゴォ! ズシャッ!

 『速攻の吸血蛆』のダイレクトアタックが相手プレイヤーに直撃する音が何度も聞こえてくる。
 目をつむっていても、フィールドで何が起きているのか手に取るように分かる。

 そして。

「そこまでっ!」

 審判の声が、ひときわ大きく響き渡る。

 ふふ。これで私たちの2連勝――――





「第4戦目の勝者は、チーム『決闘学園!』シリーズ!!」





 ……………………。



 …………って、あれ?



 目を開けて、ディスプレイを凝視する。
 そこにアップで映し出されていたのは、膝をついて呆然としているインセクター羽蛾の姿だった。

「ひょ…………この俺が、負けた、だと…………? ぴょー…………」

 嘘……!? 一体何が起こったの……!?

 『狂戦士の魂』は確実に発動した。『速攻の吸血蛆』がダイレクトアタックする音も何度も聞いた。

 それなのに、何故。

 何をどうしたら、私たちの負けになるっていうの!?



○読者への挑戦状(1)
 ここで気が向いた人は、この先を読む前に、「なぜインセクター羽蛾は負けてしまったのか」を考えてみてくださいね。























6章  炸裂! 新生ゴキブリ・ロック



「わぁ〜! 翔子ちゃんの言った通りだったね〜。わたし、何もしてないのに本当に勝っちゃったよ〜!」


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.稲守 蛍
   2.パラコンボーイ   2.天神 美月
   3.真田 杏奈      3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.???
   5.インセクター羽蛾  5.???


 …………って、稲守(いなもり)(ほたる)ぅぅううううう!?
 何で!? どうしてあの人がこんな所にいるわけ!?

「嬉しいな〜。大会でデュエルに勝てたのなんて久しぶりだよ〜!」

 小さな体を目一杯に使って、全身で喜びを表現している稲守さん。
 そんな彼女が映っているディスプレイを呆然と眺めながらも、今目の前で起こっていることを理解しようと私の頭脳はフル回転していた。

 稲守蛍。『決闘学園! 2』で朝比奈さんと闘った東仙高校のデュエリスト。
 確か、彼女も能力者だったはず。ええと、稲守さんのデュエリスト能力は…………。

 そこまで考えたところで、私の背筋に冷たいものが走った。

 ……まさか! インセクター羽蛾が負けた理由って!!


「ひょ…………。どうして、ダイレクトアタックしてもライフが減らないんだぴょー…………」

 大口を開けて唖然としている羽蛾の声を聞き流し、フィールドの状況を確認する。

 (3ターン目)
 ・稲守 LP7500 手札6 山札34
     場:なし
     場:なし
 ・羽蛾 LP8000 手札0 山札0
     場:速攻の吸血蛆(攻500)
     場:なし

 稲守さんの残りライフは、7500。
 それを見て、私は自分の予感が正しかったことを悟ったのだった。

 稲守 蛍
 (デュエリスト能力・レベル3)
 各ターンで、自分が2度目以降に受けるダメージをすべて無効にする。

 稲守さんは、デュエリスト能力によって1ターンに1度しかダメージを受けない。つまり、インセクター羽蛾が何度『速攻の吸血蛆』で直接攻撃しようと、彼女にダメージを与えられるのは最初の1回だけなのだ。
 でもインセクター羽蛾は、当然そんなことは知る由もない。1度目のダメージが通った時点で、何の疑いもなく『狂戦士の魂』を発動させてしまったのだろう。
 『狂戦士の魂』は、モンスター以外のカードが出るまでカードをめくり続ける速攻魔法。それはつまり逆に言えば、モンスターカードが出ている限り、自分の意思でカードをめくるのを止められないということに他ならない。
 羽蛾のデッキに残っていたカードは、すべてモンスターカード。『狂戦士の魂』を発動させた時点で、デッキがなくなるまで攻撃し続けるしかないのだ。
 そうして手札と山札を失った羽蛾は、ターン終了を宣言するしかない。当然、稲守さんもそのままターンエンド。そうして、このデュエルは羽蛾のデッキ切れで決着した……と、そういうことなのだろう。


 これで、絶対負けないはずのインセクター羽蛾が敗北したカラクリは理解できた。
 でも、どうしても納得できないことが一つ残っている!

 私は、持っていた携帯電話で朝比奈さんに電話をかけた。

「朝比奈さん。あれは一体、どういうことなんですか!」
『ん? あれって何のことかしら?』
「とぼけないでください! 稲守さんは東仙高校の生徒ですよね!? そんな彼女がどうしてこの闘いに参加しているんですか!」

 声を荒げて怒りをぶつける。相手は年上とはいえ、ルールを破ったのは向こうなのだ。
 しかし、朝比奈さんはそんな私の言葉にまったく動じる様子はなく、平然とした口調でこう返してきた。


『あんたたちの相手が翔武生徒会のメンバー5人だなんて、あたしはそんなこと一言も言った覚えはないわよ?』


「……!!」

 思わず絶句してしまう。
 そうだ……確かに、この闘いのルールは……!

(1)
 『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズが、作品間の垣根を越えて闘う。

 この闘いは、『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズの闘い。つまり、稲守さんも『決闘学園!』シリーズのキャラである以上は、この闘いに参加しても何ら問題はなかったのだ。
 『決闘学園!』シリーズからは翔武生徒会のメンバーが出場するなんて、朝比奈さんは一言も言っていなかった。勝手にそう思いこんでしまったのは、他でもないこの私だ。

 ……いや。そう「思いこまされていた」と言うべきでしょうね。

(2)
 この闘いは、5人対5人の団体戦で行われる。

 『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズが闘うことになったとき、すぐに朝比奈さんが提案してきた第2のルール。私は今まで、このルールにある「5人」というのは、翔武生徒会のメンバーが全員出場できるように決められた数字なのだと思っていた。

 けれども、それこそが朝比奈さんの仕掛けた狡猾な『罠』だったのだ。

 翔武生徒会は、『決闘学園!』シリーズの「顔」とも言える団体だ。だからこそ、『決闘学園!』シリーズから5人の代表者を出すと言われれば、誰だって翔武生徒会のメンバーを思い浮かべてしまうだろう。
 チーム『決闘学園!』のメンバーは、シリーズのレギュラーキャラである吉井さん、天神さん、朝比奈さん、佐野さん、見城さんの5人。そう思いこんで疑わなくなる。そうして、まさか『決闘学園! 2』の敵チームである東仙高校のキャラがこの闘いに参加してくるなどとは微塵も考えなくなってしまう。そうなれば当然、翔武生徒会メンバーに対して立てた策は、狂わされてしまうことになる。

 まさしく、朝比奈さんの狙い通りに、だ。

「……やられましたよ。あのルールにそんな裏があったなんて、思いもしませんでした」
『東仙高校にならって、たまにはそういう策を巡らせてみるのも悪くないと思ってね。……ま、正直なところ、あんな綺麗に先攻1キルを止められるとは想像してなかったけどね』
「私たちよりも朝比奈さんたちの方が実力は上。だったら少しは手を抜いてくれるんじゃないか。……そんなことを期待していたりもしたのですが」
『期待に沿えなくて悪いわね。……でも、残念ながら、あたしにだって油断したまま勝てる相手とそうでない相手の区別くらいつくのよ』
「……お褒めいただき、光栄です」
『どうせあんたのことだから、インセクター羽蛾がやられても、あたしたちを倒すための策くらいまだまだ用意してるんでしょ?』
「……さあ。それはどうでしょうね」
『楽しみに待ってるわ。とはいえ、あんたたちが何をしようと、最後に勝つのはあたしたちだけどね』
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」

 私は最後にそう呟くと、電話を切った。


 ふふ……。がぜん面白くなってきたわ……。

 いいわ。見せてあげようじゃない。
 OCGルールに縛られた『決闘学園!』シリーズには想像もつかないであろう、私たち『プロジェクト』シリーズにしか不可能な、次なる『策』をね!


 ◆


 それから数分後。

 魂が抜けたような姿で控え室に戻ってきた羽蛾に「おかえり、ダーリン」「は……ハニー……!」「もう用済みだから帰っていいわよ」「ひょ……?」「というか邪魔。早く消えて頂戴」「ほべぶっ!!」「勝てない蟲野郎なんてゴミも同然ね」「ごぺぱっ!!」「まあ元々、4連勝したら天神さんにぶつけて負けさせるつもりだったけど」「でぢふっ!!」「死ねばいいのに」「ぎばべっ!!」「お前、弱いだろ」「あべらっ!!」「そういえば岩槻さんにも負けてたし」「ぐぼがっ!!」とトドメを刺して強制退場させた私は、サブディスプレイを見つめながら次のデュエルのことを考えていた。


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.稲守 蛍
   2.パラコンボーイ(☆) 2.天神 美月
   3.真田 杏奈      3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.???
   5.インセクター羽蛾  5.???


 第5戦目の対戦カードは、パラコンVS稲守さんだ。当然これも、私が細工を施したビンゴマシーンを操って作りだした結果だ。もちろん、先攻後攻の選択権はパラコンにある。

「次はパラコン君か〜。ねぇたかのっティー。あたしたち、ホントにあんな凄い人たちに勝てるの?」
「ええ、勝てるわよ。稲守さんの登場は予想外だったけど、私の策はまだまだ残っているわ。最後に勝つのは私たち。これは、100%確実な未来予想図よ」
「でも、確かパラコン君って、今まで1度も鷹野さんに勝ったことないんだよね? それなのに、鷹野さんでも勝てなかった人たち相手に勝てるのかな……」
「ふふ。安心して? パラコンのデッキは、私の手で改良してあるの。どう闘えばいいかも詳細に指示しておいたから、まったく問題はないわ」
「へぇ〜、そうなんだ。……あ、もうすぐデュエルが始まるみたいだよ」

 私と真田さんと川原さんは、デュエルリングに上がるパラコンの様子をディスプレイ越しに見つめる。
 そんな私たちの耳に、審判さんのいつもの宣言が飛び込んできた。


「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『プロジェクト』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「僕は、先攻を選択します」

 私の指示通りに、パラコンが先攻をとる。

「分かりました。それでは、このデュエルはパラコンさんの先攻で行われます。……両者、構えてください」

 「ええ!? 僕、審判にまでその名前で呼ばれんの!?」とでも言いたげな表情で、渋々デュエルディスクを変形させるパラコンボーイ。
 かたや、羽蛾を倒して自信満々な様子の稲守さん。

「それでは! 第5戦目、パラコンボーイ選手 対 稲守蛍選手。デュエル、開始ィィ!!」


「「デュエル!!」」


 ふふ。まずは、正体のわかっている稲守さんを潰すことから始めさせてもらうわ。


 ◆


「僕のターン、ドロー!(手札:5→6)」

 勢いよくデッキからカードを引き抜いたパラコンは、迷わず手札から1枚のモンスターカードを選び出す。

「僕は、手札2枚をコストに、『光源獣 カンデラート』を攻撃表示で特殊召喚!(手札:6→3)」

 『光源獣 カンデラート』は、私の指示でパラコンのデッキに入れさせたモンスターカードだ。詳しい効果はGX62話を見直してみてね……と言ってもいいんだけど、一応ここに書いておくわ。

 光源獣 カンデラート 効果モンスター ★★★★★★★★★★★★ 光・獣 攻0・守0

 このカードは通常召喚できない。自分の手札2枚を墓地に送った場合のみ手札から特殊召喚することができる。
 このカードの攻撃力・守備力は自分の手札1枚につき、1000ポイントアップする。
 このカードは特殊召喚されたターン、攻撃を行うことができない。
 このカードが自分の場に存在する限り、自分のドローフェイズをスキップする。

 これを見ればわかる通り、『光源獣 カンデラート』は、一般的にはそれほど強いモンスターカードではない。
 攻撃力と守備力が自分の手札の枚数×1000ポイント上がるとはいえ、このカードを特殊召喚するだけで手札を3枚も消費してしまう。さらに、自分のドローフェイズを常時スキップするという、痛すぎるデメリットもあわせ持っている。
 「強制転移して相手をドローロックするのが正しい使い方じゃない?」と思えるような効果だけど、もちろん私の狙いはそんな小賢しい戦術じゃない。

 実は『光源獣 カンデラート』は、元々パラコンのデッキに入っていた「とあるカード」との相性が抜群に良いのだ。そのことに気づいた私は、パラコンに指示してこのモンスターカードをデッキに投入させた。もちろん、カンデラートの能力を最大限に活かすためのサポートカードも忘れずに。


 舞台は整った。

 さあ……パラコンボーイ……。稲守さんに向かって「あのセリフ」を宣言しなさい……!



○読者への挑戦状(2)
 ここで気が向いた人は、この先を読む前に、「『光源獣 カンデラート』と相性抜群な、パラコンのデッキに入っている『とあるカード』」とは何なのか考えてみてくださいね。





















「2枚の『ゴキブリ乱舞』が墓地に置かれたので、カードを12枚ドローさせてもらうぞ」

 パラコン 手札:3 → 15
 光源獣 カンデラート:攻 3000 → 15000



 そう。パラコンの使う魔法カード『ゴキブリ乱舞』は、墓地に送られたときに、なんと6枚ものカードをドローできる効果を持っているのだ。嘘だと思うなら『ぷろじぇくとSV』を読み直してみるといいわ。

「僕は手札から『無限の手札』を発動! これで僕の手札枚数制限はなくなるよ! さらにカードを1枚伏せて、ターンエンド!(手札:15→14→13)」


 (2ターン目)
 ・稲守 LP8000 手札5
     場:なし
     場:なし
 ・パラコン LP8000 手札13
     場:光源獣 カンデラート(攻13000)
     場:無限の手札(永魔)、伏せ×1


「わ……わたしのターン、ドローっ!(手札:5→6)」

 1ターン目から攻撃力13000のモンスターを特殊召喚されて、稲守さんは目を丸くして驚いている。
 さて……。稲守さんは、この状況でどう動いてくるかしら?

「……わたしは、モンスターを裏側守備表示でセット。カードを5枚伏せて、ターンエンド!(手札:6→5→0)」

 カンデラートを恐れて、大量のリバースカードをセット、か。
 ふふ……。完璧に私の予想通りね。

「おっと、その前に僕はトラップカードを発動! 『王宮のお触れ』!」
「!!」

 王宮のお触れ 永続罠

 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。

 『決闘学園! 2』によれば、稲守さんのデッキには、自分の身を守るための防御用トラップカードが大量に投入されている。
 彼女のデュエリストとしての実力は決して高くない。だとすれば、ちょっと追い詰めてやれば不用意に罠で守りをガチガチに固めだすのは目に見えている。

 でも、残念ね。トラップカードは、伏せたターンには発動できないのよ。


 (3ターン目)
 ・稲守 LP8000 手札0
     場:伏せ×5
     場:裏守備×1
 ・パラコン LP8000 手札13
     場:光源獣 カンデラート(攻13000)
     場:無限の手札(永魔)、王宮のお触れ(永罠)


「僕のターン、ドロー! ……は『光源獣 カンデラート』の効果でできないんだっけ。……なら、手札から魔法カード発動! 『守備』封じ!(手札:13→12)」

 『守備』封じ 通常魔法

 相手フィールド上の守備表示モンスターを1体選択し、表側攻撃表示にする。

 裏守備 → 隼の騎士(攻1000)

「フッ。これで僕の勝ちは決まったも同然! 『光源獣 カンデラート』で『隼の騎士』を攻撃! デス・シャイニング!」

 (攻12000)光源獣 カンデラート → 隼の騎士(攻1000):破壊

「うわぁ〜〜〜〜〜!!」

 稲守 LP:8000 → 0


「そこまでっ! 第5戦目の勝者は、チーム『プロジェクト』シリーズ!!」


 稲守さんが各ターンで2度目以降に受けるダメージを無効にするなら、最初の一撃で大ダメージを与えればいい。
 パラコンが敗北フラグっぽいセリフを吐いていたのが少し気になったけど、何にせよこれで私たちの2勝は確定した。

 さあ、ここから一気に追いつくわよ。


 ◆


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.稲守 蛍
   2.パラコンボーイ(☆) 2.天神 美月
   3.真田 杏奈      3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.???
   5.インセクター羽蛾    5.???


「それでは、これより第6戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」

 次の試合も、もちろんパラコンを続けて出場させる。
 さて、『決闘学園!』シリーズからは誰が出てくるのかしら……?



「ふーん。パラコン君だっけ? あんた、なかなかやるじゃない。……でも、あたしがデュエルすることになった以上、あんたの連勝は阻止させてもらうわよ」



 腕を組んで不敵な笑みを浮かべているのは、私と共にこの闘いのルールを決めた張本人、朝比奈翔子さんだった。

「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『プロジェクト』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「僕は、先攻を選択します」
「分かりました。それでは、このデュエルはパラコンさんの先攻で行われます。……両者、構えてください」

 2人のデュエルディスクが、同時に変形する。

「それでは! 第6戦目、パラコンボーイ選手 対 朝比奈翔子選手。デュエル、開始ィィ!!」


「「デュエル!!」」


 超攻撃的なレベル4能力とデッキを使いこなす朝比奈さん……相手にとって不足はないわ!


 ◆


「僕のターン、ドロー! 手札2枚をコストに『光源獣 カンデラート』を攻撃表示で特殊召喚! 2枚の『ゴキブリ乱舞』が墓地に置かれたのでカードを12枚ドロー! さらに『無限の手札』を発動して、最後にカードを1枚伏せてターンエンド!(手札:5→6→3→15→14→13)」

 パラコンは、さっきの闘いと寸分違わぬ手順でデュエルを進めていく。
 さすがは仮にも原作キャラ。そのドロー力だけは安定してるわね。


 (2ターン目)
 ・朝比奈 LP8000 手札5
     場:なし
     場:なし
 ・パラコン LP8000 手札13
     場:光源獣 カンデラート(攻13000)
     場:無限の手札(永魔)、伏せ×1


「あたしのターン、ドロー!(手札:5→6)」

 パラコンに負けず劣らず、朝比奈さんも力強くデッキからカードを引き抜く。

「攻撃力10000オーバーの『光源獣 カンデラート』。確かに厄介な相手ね。……けど、そのデカブツを倒さなくったって、デュエルに勝つ方法はいくらでもあるのよ!」

 そう言い切った朝比奈さんは、手札から1枚のカードを発動させた。

「永続魔法カード発動! 『悪夢の拷問部屋』!(手札:6→5)」

 悪夢の拷問部屋 永続魔法

 相手ライフに戦闘ダメージ以外のダメージを与える度に、相手ライフに300ポイントダメージを与える。
 「悪夢の拷問部屋」の効果では、このカードの効果は適用されない。

 朝比奈さんの能力は、「自分のメインフェイズに、1ターンに10度まで、自分または相手プレイヤーに100ポイントのダメージを与えることができる」というものだ。
 1000ダメージが1回ではなく、100ダメージが10回。この些細な違いは、『悪夢の拷問部屋』の存在下では、大きな差となって現れてくる。

 わずか1枚のカード消費で、いきなり4000ポイントもの効果ダメージを与える朝比奈さんの必殺コンボ。
 当然、そんな暴挙を許すわけにはいかないわ。

「僕は、『悪夢の拷問部屋』の発動にチェーンして、トラップカード『砂塵の大竜巻』を発動!」
「……っ!」

 砂塵の大竜巻 通常罠

 相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
 破壊した後、自分の手札から魔法または罠カード1枚をセットする事ができる。

 悪夢の拷問部屋:破壊

「『砂塵の大竜巻』の効果で、僕は手札からカードを1枚セットするよ(手札:13→12)」

 朝比奈さんを相手にする場合、『悪夢の拷問部屋』や『痛み移し』の発動を1度でも許してしまえば、それだけでこちらの敗北に直結してしまう。だからパラコンには、この2種類のカードが場に出されたら、基本的にすぐ破壊するように指示を出してあるのだ。

「さすがに、そんなに簡単には決めさせてくれないみたいね。……だったらあたしは、普通にデュエリスト能力を10回発動させるわ」

 パラコン LP:8000 → 7000

 1ターンあたり1000ポイント。痛くないと言えば嘘になるけど、この程度のダメージならばこちらがカンデラートで押し切る方が確実に早い。

「モンスターを裏側守備表示でセット。さらに手札から『ドローブースター』を発動させて、ターン終了よ(手札:5→4→3)」

 ドローブースター 永続魔法

 自分フィールド上のモンスターが相手ターンに戦闘で破壊される度に、自分はカードを1枚ドローする。
 相手フィールド上のモンスターが自分ターンに戦闘で破壊される度に、相手はカードを1枚ドローする。

 『ドローブースター』ね……。あんまり相手の場に残しておきたくないカードだけど、破壊する手段がない以上、今は放っておくしかないわね。


 (3ターン目)
 ・朝比奈 LP8000 手札3
     場:ドローブースター(永魔)
     場:裏守備×1
 ・パラコン LP7000 手札12
     場:光源獣 カンデラート(攻12000)
     場:無限の手札(永魔)、伏せ×1


「僕のターン! ドロー……はできないから、『光源獣 カンデラート』で裏守備モンスターを攻撃! デス・シャイニング!」

 カンデラートの2つの口から放たれた熱線が、朝比奈さんの裏守備モンスターを焼き尽くす。

 (攻12000)光源獣 カンデラート → 裏守備 → 阿修羅(守1200):破壊

「……あたしのモンスターが相手ターンに戦闘破壊されたことで、『ドローブースター』の効果で1枚ドローよ(手札:3→4)」

 姑息にも、朝比奈さんはチマチマと手札を増強してくる。

 ……でも、まあいいわ。
 あなたはもう、これから1枚たりともドローフェイズにカードを引くことはできなくなるんだからね。

 さあパラコン、今こそ「あの罠カード」を発動させるときよ!


「リバーストラップ発動! 『ドローパラドクス』!」


 その永続罠が発動された瞬間、朝比奈さんの表情が、ディスプレイ越しにも分かるくらい大きく歪んだ。

 ドローパラドクス 永続罠

 お互いのプレイヤーは自分のドローフェイズ時にドローできない。
 お互いのプレイヤーは相手のドローフェイズ時に自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!(手札:12→11)」


 (4ターン目)
 ・朝比奈 LP8000 手札4
     場:ドローブースター(永魔)
     場:なし
 ・パラコン LP7000 手札11
     場:光源獣 カンデラート(攻11000)
     場:無限の手札(永魔)、ドローパラドクス(永罠)、伏せ×1


「あたしのターン、「僕がドロー!(手札:11→12)」」

 朝比奈さんのターン開始宣言に割り込むように、パラコンがカードを1枚ドローする。
 『ドローパラドクス』が場にある限り、朝比奈さんのドローフェイズにカードを引くのはパラコンなのだ。

「……あたしのターンにはあんたがドロー。でも逆に、あんたのドローフェイズは『光源獣 カンデラート』の効果でスキップされるから、あたしはカードをドローできない。……ホント、上手いこと考えたもんよね」

 苦虫を噛み潰したような顔で、朝比奈さんが声を絞り出す。

 ふふ……。今さら理解しても遅いのよ。
 『ゴキブリ乱舞』の効果で大量の手札を確保して、『光源獣 カンデラート』でフィールドを制圧。さらに『ドローパラドクス』を発動することで、自分のドロー手段を確保するとともに、相手のドローを完全に封殺する。
 このコンボが機能している限り、朝比奈さんの手札は増えない。そうなれば必然、カンデラートの攻撃をしのぐたびに手札はすり減っていくことになる。そして、手札が切れた瞬間、攻撃力10000オーバーの直接攻撃をもろに受けて、朝比奈さんは敗北する。

 『コカローチ・ナイト』+『魔のデッキ破壊ウイルス』による3ターン限りのロックのはるか上をいく、攻防一体の半永久的なドロー封じ。これこそが、『ゴキブリ・ロック』の新たなる境地! 名づけて『新生ゴキブリ・ロック』! もちろん、「ていうかゴキブリ関係なくね?」という苦情は受けつけない!!

「……デュエリスト能力を10回発動。そして、裏側守備表示でモンスターをセット。最後にカードを2枚伏せて、ターン終了よ(手札:4→3→1)」

 パラコン LP:7000 → 6000


 (5ターン目)
 ・朝比奈 LP8000 手札1
     場:ドローブースター(永魔)、伏せ×2
     場:裏守備×1
 ・パラコン LP6000 手札12
     場:光源獣 カンデラート(攻12000)
     場:無限の手札(永魔)、ドローパラドクス(永罠)、伏せ×1


「僕のターン!」

 カンデラートの効果で、パラコンのドローフェイズはスキップされる。それによって『ドローパラドクス』の効果は、こちらだけに一方的に利益をもたらしてくれる。

 ツバインシュタイン博士……。あなたが使ったアニメオリカ『ドローパラドクス』は、私が最高の形で活かしてあげるわ……!(GX96話参照)

「僕は、手札の『二重召喚』を墓地に送って、『閃光の双剣−トライス』をカンデラートに装備する!(手札:12→10)」

 閃光の双剣−トライス 装備魔法

 手札のカード1枚を墓地に送って装備する。
 装備モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。
 装備モンスターはバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 光源獣 カンデラート 攻:10000 → 9500

 あれは……前のターンに『ドローパラドクス』のドローで引いたカードね。
 ふっ……。パラコンのくせに、なかなか良いカードを引くじゃない。

「『光源獣 カンデラート』で、裏守備モンスターを攻撃! デス・シャイニング!」

 (攻9500)光源獣 カンデラート → 裏守備

 カンデラートの攻撃が、裏守備モンスターを襲う。
 その攻撃が命中する刹那、朝比奈さんが不敵に微笑んだ。

「……言ったはずよ。カンデラートを倒さなくたって、デュエルに勝つ方法はいくらでもあるってね」

 朝比奈さんの場に伏せられていた、1枚のカードが表になる。

「その増えすぎた攻撃力、逆に利用させてもらうわ! トラップカード発動、『魔法の筒(マジック・シリンダー)』!」

 魔法の筒 通常罠

 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 それは、吉井さんとの闘いで私も使った罠カードだった。
 カンデラートの熱戦が魔力を帯びた筒に吸い込まれ、もう片方の筒から放出される。

 ハネ返された攻撃は、パラコンに向かってまっすぐに飛んでいく。
 その攻撃が命中する刹那、パラコンも1枚のカードを発動させた。

「トラップカード発動! 『エネルギー吸収板』!」
「!!」

 エネルギー吸収板 通常罠

 相手がコントロールするカードの効果によって自分がダメージを受ける場合、そのダメージを無効にし、無効にした数値分だけ自分はライフポイントを回復する。

 パラコン LP:6000 → 15500

 ふふ……。朝比奈さんのデッキに『魔法の筒』が投入されているのは『決闘学園! 2』で確認済みよ。
 彼女ほどのデュエリストなら、高攻撃力のカンデラートで攻めれば必ず『魔法の筒』による強烈なカウンターを狙ってくる。そのくらい、当然読めていたわ。
 それにしても、『決闘学園! 2』とまったく同じ罠にひっかかって相手のライフを回復させてしまうなんてね……。油断大敵よ、朝比奈さん。

「『閃光の双剣−トライス』の効果で、カンデラートは1ターンに2回攻撃できる! 『光源獣 カンデラート』で、もう一度裏守備モンスターを攻撃! デス・シャイニング!」

 (攻9500)光源獣 カンデラート → 裏守備 → ツイン・ブレイカー(守1000):破壊

「……『ドローブースター』の効果で、カードを1枚ドロー(手札:1→2)」

 カンデラートが1ターンに2度攻撃できるようになった以上、『ドローブースター』だけでは手札の補充が追いつかないのは自明の理だ。
 はたして、いつまで耐えられるかしら……?

「僕はこれで、ターンエンド!」

 パラコンがエンド宣言を行う。
 しかし、朝比奈さんの声がそれに割り込んできた。

「おっと。このターンのエンドフェイズに、こいつを発動させてもらうわ。リバースカードオープン、『無謀な欲張り』!」

 ……! あのカードは……!

 無謀な欲張り 通常罠

 カードを2枚ドローし、以後自分のドローフェイズを2回スキップする。

「いつまでもあんただけにドローを独占させはしないわよ。『無謀な欲張り』の効果で、当分のあいだ、あたしのドローフェイズもスキップされる。……これでお互い、今ある手札だけで闘わざるを得なくなったわね(手札:2→4)」


 (6ターン目)
 ・朝比奈 LP8000 手札4
     場:ドローブースター(永魔)
     場:なし
 ・パラコン LP15500 手札10
     場:光源獣 カンデラート(攻9500)
     場:無限の手札(永魔)、ドローパラドクス(永罠)、閃光の双剣−トライス(装魔)


「あたしのターン!」

 『無謀な欲張り』の効果で、これから2回、朝比奈さんのドローフェイズはスキップされる。そうなれば当然、パラコンはカードをドローすることができなくなる。
 『ドローパラドクス』の効果を逆用して、相手のドローを封じてくるなんてね……。さすがは朝比奈さん。ここまで追いつめてもなお、こんな一手を打ってくるとはね。

「デュエリスト能力を発動して、相手プレイヤーに1000ダメージ。さらに裏守備モンスターをセット。カードを1枚伏せて、ターン終了よ(手札:4→3→2)」

 パラコン LP:15500 → 14500

 ……でも、手札を増強する術がないのは朝比奈さんだって同じだ。
 さっきの『エネルギー吸収板』の効果で、パラコンのライフはたとえ『悪夢の拷問部屋』や『痛み移し』の発動を許しても問題ないくらいにまで回復している。
 さらに、『魔法の筒』は制限カードだから、2枚目を発動されて大ダメージを受ける心配もない。

 つまり、もう朝比奈さんの勝ち目は、万に一つも残されていないのだ。


 (7ターン目)
 ・朝比奈 LP8000 手札2
     場:ドローブースター(永魔)、伏せ×1
     場:裏守備×1
 ・パラコン LP14500 手札10
     場:光源獣 カンデラート(攻9500)
     場:無限の手札(永魔)、ドローパラドクス(永罠)、閃光の双剣−トライス(装魔)


「僕のターン!」

 ……とはいえ、このままダラダラとデュエルを引き延ばすのは得策じゃないわね。
 なんせ、相手はあの『決闘学園!』シリーズのデュエリストだ。ドローフェイズのドローを封じてもなお、しつこく喰らいついてくる。下手をすれば、こちらが攻めあぐねているあいだに、『ドローブースター』の効果で逆転の火種になるキーカード(そんなものがあるとは思えないけど)を引かれかねない。

 超優秀な私は、たとえ有利なデュエルでも決して油断をしない。
 ここは、なんとか『ドローブースター』を破壊して、朝比奈さんのドローエンジンを完全に封殺しておきたいところね。

 そんな私の思考が伝わったのか、パラコンは手札から1枚のカードを発動させた。
 それは、アニメで城之内さんが使っていた、ある意味最強のチートカード。


「魔法カード発動! 『運命の宝札』!(手札:10→9)」


 運命の宝札 通常魔法

 サイコロを1回振る。
 出た目の数だけデッキからカードをドローする。
 その後、同じ枚数だけデッキの上からカードを除外する。

 デュエルフィールドにサイコロが放たれ、しばらく回転を続けた後に静止する。

 出た目は、「6」。……あいつ、運だけはなかなかいいわね。

 パラコン 手札:9 → 15
 光源獣 カンデラート 攻:8500 → 14500

 パラコンの手札が増えると同時に、カンデラートの攻撃力も再び安全域まで上昇する。
 ……いいわよパラコン。このまま一気に勝負を決めちゃいなさい!

「よし! 僕は手札から、『魔法除去』を発動! 『ドローブースター』を破壊する!(手札:15→14)」

 魔法除去 通常魔法

 フィールド上にある魔法カード1枚を破壊する。
 選択したカードがセットされている場合、そのカードをめくって確認し、魔法カードなら破壊する。罠カードの場合元に戻す。

 ドローブースター:破壊

「『光源獣 カンデラート』で、裏守備モンスターを攻撃! デス・シャイニング!」

 (攻13500)光源獣 カンデラート → 裏守備 → スケルエンジェル(守400):破壊

「『スケルエンジェル』のリバース効果発動! デッキからカードを1枚ドローする!(手札:2→3)」

 『ドローブースター』が破壊されたら、今度はリバース効果でドローしてくるとはね……。なかなか粘るじゃない、朝比奈さん。
 ……でも、これであなたの場はガラ空きよ!

「この攻撃が通れば僕の勝ちだ! カンデラートでプレイヤーに攻撃! デス・シャイニング!」

 (攻13500)光源獣 カンデラート −Direct→ 朝比奈 翔子(LP8000)

「……っ! 永続罠カード発動、『銀幕の鏡壁』!」

 銀幕の鏡壁 永続罠

 相手の攻撃モンスター全ての攻撃力を半分にする。
 自分のスタンバイフェイズ毎に2000のライフポイントを払う。
 払わなければ、このカードを破壊する。

 光源獣 カンデラート 攻:13500 → 6750

 (攻6750)光源獣 カンデラート −Direct→ 朝比奈 翔子(LP8000)

 朝比奈 LP:8000 → 1250

 ……ちっ。紙一重のところでしのがれたか。

 何か別のモンスターを召喚していれば、ここでパラコンの勝ちが決まっていたかもしれないけど、これに関しては仕方がない。
 なんせ、朝比奈さんのデッキには、『決闘学園!』シリーズのオリカ『ミスティック・ゴーレム』が入っているからね。

 ミスティック・ゴーレム 効果モンスター ★ 地・岩石 攻?・守0

 このカードの元々の攻撃力は、このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚されたターンに相手がダメージを受けた回数×500ポイントになる。

 朝比奈さんのデュエリスト能力と『悪夢の拷問部屋』のコンボがあれば、『ミスティック・ゴーレム』の攻撃力はいきなり10000ポイントにまでハネ上がる。もしパラコンがカンデラート以外の弱小モンスターを場に出していて、こんな超攻撃力のモンスターで叩かれたら一気にライフが0になりかねない。たとえ守備表示で出したとしても、『メテオ・ストライク』なんかを装備されたら同じことだ。

 本気で勝ちたいと思うなら、ほんのわずかな隙すら見せてはならない。
 特に、鬼畜能力の使い手である『決闘学園!』シリーズのデュエリストを相手にするなら、どんなに小さな勝機でも相手に与えてはいけないのだ。
 このことは、当然パラコンにも徹底して教え込んである。

「僕は、手札から『墓穴の道連れ』を発動する!(手札:14→13)」

 そうよ。そうやって、朝比奈さんのあらゆる勝利の可能性の芽を摘みとっていくのよ。

 墓穴の道連れ 通常魔法

 お互いに相手の手札を確認し、それぞれ相手の手札のカードを1枚選択して墓地に捨て、カードを1枚ドローする。

 パラコンと朝比奈さんが、お互い自分の手札を公開する。

 ええと……。まず、パラコンの手札は…………。


<パラコン・手札(13枚)>

 ガキボール
 ギキボール
 グキボール
 ゲキボール
 ゴキボール
 ゴキボール
 ゴキボール
 ゴキポン
 ゴキポン
 ゴキポン
 黒光りするG
 黒光りするG
 黒光りするG


 …………見事なまでにゴキブリ一色ね。何この手札。
 まあ、今となっては別にどうでもいいことだけど。

 それで、えっと、肝心の朝比奈さんの手札は…………?


<朝比奈・手札(3枚)>

 痛魂の呪術 速攻魔法

 相手が自分にダメージを与えるカードの効果を発動した時に発動する事ができる。
 自分の代わりに、相手はその効果ダメージを受ける。

 『痛魂の呪術』……。これは別に問題ないわね。こっちの攻撃手段は、効果ダメージじゃなくてカンデラートによる戦闘ダメージなわけだし。

 古代呪文の復活 通常罠

 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 墓地にある魔法カード1枚を選択し、持ち主の手札に加える。
 その魔法カードはセットすることができず、その魔法カードを発動したプレイヤーは2000ポイントのダメージを受ける。

 これは……初めて見るオリカね……。効果は、『墓荒らし』に似てるかしら。
 とりあえず、別段警戒が必要なカードでもなさそうね。そもそも、朝比奈さんのライフはもう2000も残ってないし。

 さて、残る最後の1枚は……?



 手札抹殺 通常魔法

 お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。



 ……………………あ。


 (7ターン目)
 ・朝比奈 LP1250 手札3 山札29
     場:銀幕の鏡壁(永罠)
     場:なし
 ・パラコン LP14500 手札13 山札9
     場:光源獣 カンデラート(攻6250)
     場:無限の手札(永魔)、ドローパラドクス(永罠)、閃光の双剣−トライス(装魔)、墓穴の道連れ(通魔)


 って危なぁぁあああああ!! 今『手札抹殺』を打たれたら即負け確定じゃない!!

「ぼ……僕が選ぶカードは、『手札抹殺』!!」

 パラコンもすぐにそのことに気づいたらしく、慌てて捨てるカードを指定している。

 ふ……ふふ…………やってくれるじゃない、朝比奈さん……。まさか、まだそんなカードを手札に隠し持っていたなんてね…………。

 でも……惜しかったわね。『手札抹殺』は制限カード。万が一の可能性に備えて、相手のキーカードを墓地に落とせる『墓穴の道連れ』をデッキに入れるようパラコンに指示しておいた私の方が一枚上手だったわね!

「…………っ!! …………あたしが選ぶカードは、『ゴキボール』よ」

 相手に捨てさせるカードを指定する朝比奈さんの表情は、露骨に歪んでいる。
 そりゃそうよね。これで、最後の頼みの綱すらも墓地に送られてしまったんだからね。

 パラコン 手札:13 → 12 → 13
 朝比奈 手札:3 → 2 → 3

 パラコンの引いたカードは……『融合』か。朝比奈さんの指定で『ゴキボール』が墓地に送られたから、特に使い道のないカードね。
 ……まあいいわ。もうこれ以上、新しいカードを場に出す必要はないでしょうしね。

「僕はこれで、ターンエンド!」

 次のパラコンのターンで、今度こそ終わりよ、朝比奈さん!


 (8ターン目)
 ・朝比奈 LP1250 手札3 山札28
     場:銀幕の鏡壁(永罠)
     場:なし
 ・パラコン LP14500 手札13 山札8
     場:光源獣 カンデラート(攻6250)
     場:無限の手札(永魔)、ドローパラドクス(永罠)、閃光の双剣−トライス(装魔)


「あたしのターン……」

 銀幕の鏡壁:破壊
 光源獣 カンデラート 攻:6250 → 12500

 2000ライフポイントの維持コストを払えず、『銀幕の鏡壁』が破壊される。
 これでカンデラートの攻撃力は再び10000を超えた。戦闘破壊されることはまずありえない。

「デュエリスト能力を、10回発動。相手プレイヤーに1000ダメージを与えるわ……」

 パラコン LP:14500 → 13500

 14500ポイントもあるパラコンのライフに1000ぽっちのダメージを与えたところで焼け石に水。
 朝比奈さんのレベル4能力は、もはや完全に形無しだ。

「…………カードを3枚伏せて、ターン終了よ(手札:3→0)」

 あれだけしぶとかった朝比奈さんも、ようやくモンスターカードが尽きたようだ。
 あの3枚の伏せカードのうち2枚は、さっき見た『痛魂の呪術』と『古代呪文の復活』。今使っても何の意味もないカードであることはパラコンも知っているから、ここで伏せたところでブラフにすらならないのは朝比奈さんも分かっているはずだ。

 ……ま、それでも伏せずにはいられなかったんでしょうね。
 あなたの最後の悪あがきは、十分すぎるほどに見せてもらったわ。


 (9ターン目)
 ・朝比奈 LP1250 手札0 山札28
     場:伏せ×3
     場:なし
 ・パラコン LP13500 手札13 山札8
     場:光源獣 カンデラート(攻12500)
     場:無限の手札(永魔)、ドローパラドクス(永罠)、閃光の双剣−トライス(装魔)


「僕のターン!」

 この闘いで、私は何度も朝比奈さんに煮え湯を飲まされ続けてきた。
 でも、このターンでその立場は逆転する。

 さあパラコン、最後の攻撃宣言をするのよ!

「『光源獣 カンデラート』で、相手プレイヤーにダイレクトアタック! デス・シャイニング!」

 (攻12500)光源獣 カンデラート −Direct→ 朝比奈 翔子(LP1250)

 カンデラートの2つの口が輝きを増し、今まさに熱線が放たれようとする。
 その寸前、朝比奈さんが1枚の伏せカードを発動させた。

「トラップカード発動、『古代呪文の復活』!」

 古代呪文の復活 通常罠

 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 墓地にある魔法カード1枚を選択し、持ち主の手札に加える。
 その魔法カードはセットすることができず、その魔法カードを発動したプレイヤーは2000ポイントのダメージを受ける。

 ……ふっ。無意味なトラップ発動ね。
 朝比奈さんのライフは1250。たとえ何を手札に加えたところで、その魔法カードを発動することすらできない。当然、超攻撃的な朝比奈デッキには自分のライフを回復するカードなんて1枚も入っていないだろう。
 そもそも、手札の魔法カードは次のターンにならないと発動できない。このターンで決着がつくというのに、今さら何をしたところで無駄――――



「…………思った通り、攻撃を焦って綺麗に引っかかってくれたわね。このデュエルは、あたしの勝ちよ」



 ――――って、今なにやら不吉な言葉が聞こえたような……。


「あたしが『古代呪文の復活』の効果で選択するのは、あんたの墓地の『ゴキブリ乱舞』よ!」

 パラコン 手札:13→14

 『ゴキブリ乱舞』!? 朝比奈さん、一体何を考えているの……?

「……? 言っておくけど、『ゴキブリ乱舞』が墓地に送られたときのドロー効果は『ドラゴンを呼ぶ笛』と同じく任意効果。『マインドクラッシュ』なんかで僕の手札から捨てさせたところで、残り山札が少ない僕は6枚ドローなんか当然しないよ?」

「分かってるわよ。この状況じゃ、あんたのライフを0にするのも、あんたのデッキを0にするのも無理。だから、あたしの狙いはたった1つよ」

 そう告げた朝比奈さんは、2枚目のリバースカードを表にした。

「トラップカード発動、『強制詠唱』!」

 強制詠唱 通常罠

 対象となるプレイヤーを1人選択し、魔法カード名を1つ宣言して発動。
 選択したプレイヤーが、手札に宣言した魔法カードを持っていた場合、そのカード1枚を強制発動させる。
 発動タイミングが正しくない魔法カードだった場合、その効果を無効にしてそのカードを破壊する。
 (このカードの効果によって、相手ターンに魔法カードを発動することもできる)

「あたしが強制発動させるカードはもちろん、あんたの手札の『ゴキブリ乱舞』よ!」

 パラコン LP:13500 → 11500 (『古代呪文の復活』の効果)

 ゴキブリ乱舞 通常魔法

 手札のゴキブリカードを全て捨てる。
 捨てた枚数×700ポイントの精神的ダメージを相手に与える。

 ……っ!! まさか……朝比奈さんの狙いは……! まさか……!

「あんたの手札は、さっきの『墓穴の道連れ』で見せてもらったわ。あんたの手札13枚のうち、少なくとも12枚はゴキブリカードよね。……さあ、すべて捨ててもらうわよ」

 パラコン 手札:13 → 1
 光源獣 カンデラート 攻:12500 → 500

「……でも、カンデラートの攻撃力はまだ500ポイント残っている! そっちの場にモンスターがいない以上、あと3回攻撃を当てれば僕の勝ちだ!」

 馬鹿パラコン! 朝比奈さんの狙いはそうじゃなくて――――!

「最後のリバースカード発動! 『痛魂の呪術』!」

 痛魂の呪術 速攻魔法

 相手が自分にダメージを与えるカードの効果を発動した時に発動する事ができる。
 自分の代わりに、相手はその効果ダメージを受ける。

「『精神的ダメージ』も、ゴキブリ乱舞によって発生した『効果ダメージ』であることには変わりない。そうでしょ?」

 満面の笑みでパラコンに問いかける朝比奈さん。

 あぁ……。終わったわ…………。

「あんたが捨てたゴキブリカードは12枚。よって、発生する精神的ダメージは8400ポイントよ」



 パラコン MP(メンタルポイント):8000 → 0



「ぬぐぅぅぅ……! ライフは全然削られてないのに……デュエルを続ける気力が失せてきたぁぁあ〜……!?」

 『ぷろじぇくとSV』に出てきた紳士とまったく同じセリフを吐いて悶えるパラコン。
 ただし、あのときとは違って、パラコンのMPは1ポイントたりとも残っていない。

 (攻500)光源獣 カンデラート −Direct→ 朝比奈 翔子(LP1250)

 朝比奈 LP:1250 → 750

 すでに攻撃宣言を終えたカンデラートのこの一撃だけは、そのまま朝比奈さんに命中する。
 でも、メンタルポイントの尽きたパラコンは、これ以上自分から新しいアクションを起こすことができない。

「あぁ……なーんもやる気しねぇ〜…………。攻撃宣言とかもういいやー…………」

 プレイヤーに与えられた1ターンの思考時間は、OCGルールでは3分。
 それが過ぎてしまえば、パラコンのターンは強制的に終了となる。


 (10ターン目)
 ・朝比奈 LP750 MP8000 手札0 山札28
     場:なし
     場:なし
 ・パラコン LP11500 MP0 手札1 山札8
     場:光源獣 カンデラート(攻500)
     場:無限の手札(永魔)、ドローパラドクス(永罠)、閃光の双剣−トライス(装魔)


「……さて、と。あたしの場と手札にはもう1枚もカードがない。カンデラートとドローパラドクスの効果で、新しいカードをドローすることもできない。正真正銘の『詰み』だわ」

 朝比奈さんのセリフは、一見すると勝ちを諦めたようにもとれる。
 でも、実態はその逆。もう朝比奈さんの勝利は確定してしまった。

「けど、『無謀な欲張り』の効果が切れた今、あたしのターンが来るたびにあんたはカードを1枚ドローする。これは必ず行わなければならない行為だから、たとえMPがゼロでも強制的に執行される」

 パラコン 手札:1 → 2
 パラコン 山札:8 → 7

「でもメンタルポイントの尽きたあんたは、自分の意思でカードをプレイすることができない。つまり……このままお互い何もしない展開が16ターン続いた後、あんたのデッキ切れで決着よ」

 その言葉通りに、朝比奈さんは何もせずにターン終了を宣言した。

 そして次のターン、もはや自分の意思でエンド宣言すらできなくなったパラコンにできることはなく、無為に3分が経過する。

 朝比奈さんのターン。パラコンがドロー。ターン終了。
 パラコンのターン。3分経過。ターンエンド。
 朝比奈さんのターン。パラコンがドロー。ターン終了。
 パラコンのターン。3分経過。ターンエンド。

 ………………。

 ………………。

 ………………。

 ………………。

 ………………。



「そこまでっ! 第6戦目の勝者は、チーム『決闘学園!』シリーズ!!」



 はぁぁ〜〜〜〜…………。

 また負けちゃった、か……。
 今度こそは勝てると思ったんだけどな……。


 ◆


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.稲守 蛍
   2.パラコンボーイ   2.天神 美月
   3.真田 杏奈(☆)  3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.朝比奈 翔子
   5.インセクター羽蛾  5.???


 パラコンが敗北して、こちらのチームに残っているのは真田さんただ1人。
 一方で『決闘学園!』は、天神さんに朝比奈さん、そして正体の分からない相手が1人と、まだ3人ものデュエリストを残している。

 『速攻の吸血蛆』と『狂戦士の魂』による1キルは、稲守さんの能力で封殺された。
 『ゴキブリ乱舞』を使った『光源獣 カンデラート』と『ドローパラドクス』によるロック戦術は、朝比奈さんの機転によって破られた。

 『プロジェクト』シリーズならではの異端のデュエルで闘えば、正統派なデュエルに慣れきった『決闘学園!』を倒せると思っていた。
 けれども、現実はそんなに甘くなかった。私の考えた作戦は、ことごとく『決闘学園!』に攻略されてしまった。

 用意しておいた『策』はまだ残っているけど、それを使ったところで残る3人のデュエリスト全員に勝てるとは到底思えない。良くて1人倒したところで、次の相手に攻略法を見出されて終わりだろう。

「結局、向こうは3人残して大差で圧勝、かぁ〜……。まあでも、2人も倒せたんだからあたしたちにしては大健闘だったんじゃない?」

 デュエルディスクを腕に装着しながら、真田さんが気楽そうに話しかけてくる。

「せめて1ターンキルだけはされないように頑張ってくるよ。それじゃ、応援よろしくね〜」

 ひらひらと手を振りながら、完全に諦めたという様子で控え室から出ていこうとする。

 真田さんの実力じゃ逆立ちしたって朝比奈さんには勝てっこないし、仮に今までみたいに私が『策』を授けてあげたとしても、勝てる見込みは決して高くない。
 つまり、この闘いは5対2で『決闘学園!』の勝利。口に出さないだけで、誰もがそう思っているのは明らかだ。


 …………でもね、それじゃあ私が困るのよ。


「真田さん。ちょっと待ってくれる?」
「どしたの? たかのっティー?」

 デュエルリングに行こうとする真田さんを呼び止めて、お互い正面から向かい合う。
 そして私は、真田さんの瞳をまっすぐに見つめながら、こう言った。



「真田さん……。悪いけど、ちょっとの間、あなたの体、借りるわよ」



「え…………?」

 困惑する真田さんに、ウジャト眼の紋章がついた杖状のアイテムをそっと触れさせる。
 その瞬間、真田さんの瞳から虹彩が失われた。彼女の精神が一時的に眠りについた証拠だ。


 私は、目を閉じると、ゆっくりと真田さんの意識の中へと潜っていった…………。


 ◆


 ………………。


 ………………。


 ………………。


 …………ふぅ。


 目を開けて、鏡を見て自分の体を確認する。

 私ほどにはスレンダーでない体つきに、私ほどにはみずみずしくない肌。
 私ほどには艶やかでない髪に、私ほどには整っていない目鼻立ち。

 ……うん。これは間違いなく真田さんの肉体ね。どうやら、真田さんの精神を乗っ取って操ることには無事成功したみたい。


 私は、自分の腕に装着されているデュエルディスクから真田さんのデッキを取り外してざっと眺める。
 カウンター罠を主体にしたデッキ、か……。そこまで弱くはなさそうだけど、こんなデッキじゃ到底『決闘学園!』の能力者たちには勝てないわね。

 そう判断した私は、真田さんのデッキをポケットにしまうと、テーブルの上に置いておいた「第6のデッキ」をデュエルディスクにセットした。


 このデッキだけは、できれば使わずにおきたかったんだけどね……。

 でも、ここまで追い詰められたらもうそんなことは言ってられない。ここで勝たなければ、私はプロジェクトシリーズヒロインの座を奪われたままだ。何のために『決闘学園!』にこんな闘いを挑んだのか分からなくなってしまう。

 このデッキは、『プロジェクト』シリーズと『決闘学園!』シリーズの根本的な違いを最大限に利用して構築されている。その威力は絶大で、これを使ってデュエルをすれば100%勝つことができると言ってしまっていい。

 ……今まで散々負けてきた私がこんなことを言っても説得力がないかもしれないわね。
 けど、本当にこのデッキだけは別格なのだ。強さの次元が違いすぎる。

 デュエリスト能力ですらかわいく思えるほどの超チートな極悪デッキ。これに手を出せば、人の道を踏み外してしまうことは確実だ。最悪、その強さに飲み込まれて戻ってこられなくなってしまうかもしれない。

 ……でも、もうこのデッキに頼るしか道は残されていないのだ。
 何としても、『決闘学園!』からヒロインの座を取り戻さなければならない。私は、全国3000万人の私ファンの皆様のためにも、一刻も早く『プロジェクト』シリーズに復帰する義務があるのよ。

 その目的を果たすためなら、外道に手を染めることだって厭わないわ。



 ……さあ。もう遊びはおしまい。

 勝つために手段を選んでいられる余裕はもうない。汚い手だと罵られようとも一向に構わない。
 『決闘学園!』の皆さんには悪いけど、どんな手を使ってでも勝たせてもらうわ。



 ……あ、そうそう。最後の闘いが始まる前に、ここで1つ、私から『読者への挑戦状』を出させてもらうわね。

○読者への挑戦状(3)
 この闘いには、「闘いが行われる会場に、1人1つずつのデッキ、エクストラデッキ以外のカードを持ち込むことはできない」というルールがあったはずなのに、鷹野さんが使おうとしている「第6のデッキ」はどこから来たのでしょうか?

 ちなみに、反則を犯して持ち込んだんじゃないわよ。これは、きちんとルールに則った正当な作戦だわ。






















7章  勝てない理由



(5)
 闘いが行われる会場に、1人1つずつのデッキ、エクストラデッキ以外のカードを持ち込むことはできない。

 1人1つしかデッキを持ち込めないはずなのに、どうしてここに「第6のデッキ」が存在しているのか。
 その答えは、とても簡単。私たち5人が会場に持ち込んだカードは、実は↓のようになっていたのよ。

 ●私が会場に持ち込んだデッキ(計40枚):「私のデッキ(40枚)」
 ●パラコンが会場に持ち込んだデッキ(計40枚):「パラコンのデッキ(40枚)」
 ●羽蛾が会場に持ち込んだデッキ(計40枚):「羽蛾のデッキ(40枚)」
 ●真田さんが会場に持ち込んだデッキ(計60枚):「真田さん本来のデッキ(40枚)」+「第6のデッキの半分(20枚)」
 ●川原さんが会場に持ち込んだデッキ(計60枚):「川原さん本来のデッキ(40枚)」+「第6のデッキの半分(20枚)」

 マスタールールでは、デッキの枚数は40枚以上60枚以下なら何枚でもいいと定められている。けれども、特別な理由がない限りデッキの枚数は40枚ちょうどにしておくのが基本だ。
 つまり、普通のデッキにはあと20枚のカードを追加で入れるスペースが余っていることになる。私たちは、この浮いたスペースを有効活用して6個目のデッキを会場に持ち込んだのだ。

 用意周到な私は、私の『策』が決闘学園に通用しなかったときのために、最後の切り札であるこの「第6のデッキ」を20枚ずつ2つに分割して、真田さんと川原さんに渡しておいた。これはあくまでも「真田さんと川原さんのデッキの一部」という扱いだから、ルール上は何の問題もない。会場に入ってから、あらためてデッキを組み直せばいいのだ。

 もちろん私は、こうやって「第6のデッキ」を持ち込むことを最初から想定してルール(5)を提案していた。
 朝比奈さんが稲守さんをメンバーに加えてきたように、あえて「穴」のあるルールを提案してそれを利用するのは、こういう闘いの基本中の基本だわ。



「それでは、これより第7戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」

 審判の合図を受けて、私は、真田さんの体を借りたままデュエルリングへと続く階段を上っていった。
 私はチーム『プロジェクト』シリーズ最後の1人だから、一度デュエルを始めた後は控え室には戻らず、そのままずっと闘い続けることになる。

 デュエルリングに上った私は、パラコンを破った翔武生徒会のデュエリスト、朝比奈翔子さんと対峙した。

「ふふ。いいデュエルにしましょうね、朝比奈さん」
「? あんた、競技場の入口で会ったときと何か雰囲気変わってない?」

 目ざとい朝比奈さんは、すぐに真田さんの様子が前と違うことに気づいたようだ。
 ふっ……さすがね。その観察力に敬意を称して、正体を明かしてあげるわ。

「……まだ分かりませんか、朝比奈さん? 一体私が誰なのか」
「その自信たっぷりのしゃべり方……あんたまさか!」
「真田さんの精神には少しのあいだ眠ってもらいました。今、真田さんの肉体を動かしているのは、あなたの予想通り、この私、鷹野麗子の精神です。真田さんの体がデュエルを行ってさえいれば、中身が私だろうとルール上問題はないはずですよね?」
「…………その通りよ。鷹野さんほどのデュエリストが1戦目で負けたまま何も仕掛けてこないわけがないとは思ってたけど、まさか他人の体を使ってまでデュエルリングに上ってくるとはね。完全に予想外だったわ」
「私は、絶対にこの闘いで負けるわけにはいかないんです。勝つためなら、どんな方法にだって手を染めますよ。このデッキが、私の決意の証です」
「いい覚悟じゃない。……けど、忘れてないわよね? あんたの『策』は、今まで何度もあたしたちに破られてきた。あんた、今度のデッキにはよっぽど自信があるみたいだけど、それで簡単にあたしを倒せるとは思わないことね」
「自信、ですか……。その言葉は正確じゃありませんね。使えば必ず勝てるデッキがある。私はそれを使っている。だから必ず勝つ。ただそれだけですよ」
「自信過剰もそこまで行くといっそ清々しいわね。……ま、あたしはそういうの嫌いじゃないけど」
「ふふ。過剰かどうかは、すぐに分かりますよ」

 そう告げた私は、デュエルディスクを朝比奈さんに向けて闘う意思を示す。

「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『プロジェクト』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「先攻を選ぶわ」
「分かりました。それでは、このデュエルは真田杏奈さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」

 私と朝比奈さん、2人のデュエルディスクが同時に変形する。

「それでは! 第7戦目、真田杏奈選手 対 朝比奈翔子選手。デュエル、開始ィィ!!」



「「デュエル!!」」



「私のターン、ドロー(手札:5→6)」

 颯爽とカードを引いた私は、6枚の初期手札に目を通す。
 やることは決まっている。どのカードを出せばいいかなんて悩む必要すらない。

「私は『神獣王バルバロス』を召喚!(手札:6→5)」

 神獣王バルバロス 効果モンスター ★★★★★★★★ 地・獣戦士 攻3000・守1200

 このカードは生け贄なしで通常召喚する事ができる。その場合、このカードの元々の攻撃力は1900になる。
 3体の生け贄を捧げてこのカードを生け贄召喚した場合、相手フィールド上のカードを全て破壊する。

「『神獣王バルバロス』ね……。なかなかいいカード持ってるじゃない」

 朝比奈さんが、感心したように呟く。

 ふふ……。ズレたコメントね……。滑稽すぎて笑いがこみ上げてくるわ。

「さらに、手札から『折れ竹光』をバルバロスに装備させます!(手札:5→4)」

 折れ竹光 装備魔法

 装備モンスターの攻撃力は0ポイントアップする。

「『折れ竹光』? あんた、そんな意味のない魔法カード使って一体何を考えて――――」

「私は、『折れ竹光』を装備した『神獣王バルバロス』をリリース! 手札から『伝説の折れ竹光使い』を特殊召喚するわ!(手札:4→3)」

 伝説の折れ竹光使い 効果モンスター ★×0 闇・戦士 攻0・守0

 このカードは通常召喚できない。
 自分フィールド上に存在する「折れ竹光」を装備したモンスター1体を生贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
 このカードが特殊召喚に成功した時、相手のライフポイントは0になる。

「な…………っ!!」

 『伝説の折れ竹光使い』を特殊召喚されて思いっきり動揺している朝比奈さんに向かって、私は自分の勝利を宣言する。

「……ふっ。私の勝ちよ、朝比奈さん」


 朝比奈 LP:8000 → 0


「そこまでっ! 第7戦目の勝者は、チーム『プロジェクト』シリーズ!!」


 ◆


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.稲守 蛍
   2.パラコンボーイ   2.天神 美月
   3.真田 杏奈     3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.朝比奈 翔子
   5.インセクター羽蛾  5.???(☆)


 レベル4の能力者といえども、所詮はこの程度。デュエルを始める前にはあれだけ強気だった朝比奈さんも、この「第6のデッキ」を前にしたら何もできなかった。
 負けた朝比奈さんは悔しそうに歯噛みしていたけど、結局は何も言わずに控え室へ戻っていったわ。……ふふ。敗者には何かを語る権利なんてないわよね。

「それでは、これより第8戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」

 いつも通りの審判の宣言を受けて、『決闘学園!』シリーズ5人目の刺客が私の前に姿を現した。



「鷹野麗子! アンタ一体、何様のつもりだよっ!!」



 出会って早々そんな失礼な言葉をぶつけてきたのは、翔武生徒会の1年生、見城(けんじょう)(かおる)さんだった。

「何が『伝説の折れ竹光使い』だ! 特殊召喚した瞬間に自分の勝ちが決まっちまうような壊れカード使うなんて、明らかに反則だろうがっ!」

 『伝説の折れ竹光使い』が反則? 何言ってるのかしらねこの熱血女は。

「見城さん。何か勘違いしているようですが、これは反則でもなんでもありませんよ」

 私はポケットから1枚の紙を取り出すと、見城さんの目の前に突きつけた。

「これは、2009年9月1日〜2010年2月28日の禁止・制限・準制限カードのリストです。あなたは一体、この紙のどこに『伝説の折れ竹光使い』なんて名前が書かれているって言うんですか?」

 『伝説の折れ竹光使い』は『プロジェクトBF』に登場したオリカだ。小説オリカである以上、このカードが禁止カードに指定されているはずもない。そして、禁止カードでない以上、デッキに入れたところで誰からも文句を言われる筋合いはないのよ。

「……っ! アンタ、そんな卑怯なカードを使ってまで勝利を収めて、少しも心が痛まないのかよっ!」
「ええ、そうよ。勝ちさえすれば、何の問題もないわ」

 そもそもこの闘いは、小説のキャラにとっては命よりも大事なヒロインの座を賭けた闘いなのだ。そんな闘いに、卑怯だとか心が痛むだとか言っている時点で致命的にズレている。この女、戦場で正義とか友情とかほざいて早死にするタイプね。

「……アンタがそのつもりなら、アタシにも考えがあるぜ」

 そう呟いた見城さんは、私をまっすぐにビシッと指差して告げる。

「アタシは、アンタの卑劣な戦術を真っ向から打ち破る! そして、デュエルの本当の楽しさってヤツを全力でアンタに叩き込んでやるぜっ!」

 ……この女、どこの熱血漫画の主人公なのかしら。生まれてくる時代を20年くらい間違えている気がしてならないわ。

「先攻はアタシだっ! 行くぜ、鷹野麗子!!」

 朝比奈さんの二の舞を避けるためなのか、見城さんは先攻を選択してきた。
 ビンゴマシーンやルーレットの操作は控え室にいないとできないから、先攻後攻の選択権が『決闘学園!』側に回ってしまう可能性があるのは仕方ないわね。

「それでは! 第8戦目、真田杏奈選手 対 見城薫選手。デュエル、開始ィィ!!」



「「デュエル!!」」



「アタシのターン、ドロー! モンスターをセット! さらにカードを1枚伏せてターンエンドだ!(手札:5→6→5→4)」


 (2ターン目)
 ・見城 LP8000 手札4
     場:伏せ×1
     場:裏守備×1
 ・真田(鷹野) LP8000 手札5
     場:なし
     場:なし


 あれだけ威勢が良かったわりには地味な1ターン目だったわね。
 ……ま、どちらにせよこのターンで終わりだけど。

「私のターン、ドロー! 『神獣王バルバロス』を召喚して『折れ竹光』を装備! さらに『神獣王バルバロス』をリリースして、手札から『伝説の折れ竹光使い』を特殊召喚するわ!(手札:5→6→5→4→3)」

 神獣王バルバロスの体が、光に包まれて消えていく。
 と同時に、相手のライフを0にする力を持った究極の戦士が降臨する――――


「……おっと! アタシはこの瞬間、トラップカード『昇天の黒角笛(ブラックホーン)』を発動するぜっ!」


 昇天の黒角笛 カウンター罠

 相手モンスター1体の特殊召喚を無効にし破壊する。

「『伝説の折れ竹光使い』の効果が発動するのは、特殊召喚に成功したとき! つまり、特殊召喚そのものを無効にしちまえば、あの反則効果は発動しない! そう何度もアンタの思い通りにはさせねぇぜ!」

 伝説の折れ竹光使い:破壊

「どうだ、鷹野麗子! これでアンタの歪んだ力の象徴は消滅した! もう自分だけ安全地帯に居座り続けるようなマネはできねぇ! ここからは正真正銘、どっちが勝つか分からない本当のデュエルを楽しもうぜ! ……くーっ! やっぱコッチの方が断然燃えてくるな!!」
「……はぁ。そうですか」

 やっぱりこの人、暑苦しすぎて苦手だわ。
 とりあえず、このカードで頭を冷やしてもらいましょうか。

「私は、手札から魔法カードを発動します。『エターナルフォースブリザード』!(手札:3→2)」
「は……?」
「エターナルフォースブリザードは、一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる効果を持った詠唱呪文です。そして…………相手は死ぬ

 エターナルフォースブリザード 通常魔法

 相手はデュエルに敗北する。

「何このチート!? ちょっと待て鷹野麗子! いくらなんでもこれはズル――――」

「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。身を貫きし凍てつく氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん! エターナルフォースブリザード!!」

「うおわぁぁあああああ!?」


 見城薫:敗北


「そこまでっ! 第8戦目の勝者は、チーム『プロジェクト』シリーズ!!」


 ◆


   『プロジェクト』 VS 『決闘学園!』

   1.鷹野 麗子      1.稲守 蛍
   2.パラコンボーイ   2.天神 美月
   3.真田 杏奈(☆)  3.吉井 康助
   4.川原 静江      4.朝比奈 翔子
   5.インセクター羽蛾  5.見城 薫


 アニメでも漫画でも小説でも、作中にオリジナルカードを登場させる場合は、ゲームバランスを壊さないように極端に強いオリカは出さないのが最低限のマナー。これくらいは、誰に教えられるまでもなく皆が無意識のうちに理解していることだ。
 でも、これはあくまで「マナー」であって「ルール」ではないのだ。
 もちろん、普通の作品にいきなり『エターナルフォースブリザード』みたいなオリカを登場させたら確実に読者はドン引きだろう。そんなことをして平然としていれば、せっかくついたファンが離れていってしまうことはまず避けられない。

 しかし、物事には必ず例外というものがある。
 どんな壊れオリカを出してもまったく問題の生じない唯一のジャンル、それこそが「ギャグ小説」なのだ。

 私たちのチームと『決闘学園!』との決定的な違い。それは、『プロジェクト』シリーズがギャグ小説だということだ。
 何の説明もなくウジャト眼の紋章がついた杖状のアイテムが出てくるのもギャグ小説ならでは。創作ストーリーのカテゴリに「コミカル」とある『プロジェクト』シリーズだからこそ、私が真田さんの体を操っていると知った人たちもその事実を簡単に受け入れてくれる。

 本編に出てきた『伝説の折れ竹光使い』はもちろん、番外プロジェクトでいきなり『エターナルフォースブリザード』みたいに色々な意味で壊れたオリカを出しても違和感がない。むしろ、読者は喜んでそれを受け入れてくれる。
 これこそがギャグ小説最強の武器であり、『決闘学園!』シリーズが私たちに絶対勝つことができない最大の理由なのだ。

 『番外プロジェクト』で私が天神さんに負けた理由。それは私が、「ややシリアス」な『決闘学園!』シリーズの土俵に乗って闘ってしまったからだ。
 私は、ギャグ小説に与えられた特権をまったく活かさず、原作やOCGに存在するカードだけを使って真面目にデュエルしてしまった。そんなふぬけた闘い方で、あの天神さんに勝てるわけがなかったのだ。

 ……話が長くなってしまったわね。

 とにかく、この「第6のデッキ」には、考えられる限りの壊れオリカが詰め込まれている。
 いくら『決闘学園!』シリーズが「デュエリスト能力」なんていう反則設定を振りかざしてくるとはいえ、それは所詮シリアスな世界観の中での話。その程度の反則で、存在そのものがチートな「ギャグ小説」に勝てるわけがない。

 いくら天神さんでも、シリアスとギャグの壁を越えることは決してできないのだ。



「それでは、これより第9戦目を開始します! 両チームの代表者は、前へ!」



 その言葉とともに、『決闘学園!』最強の能力者がデュエルリングに姿を現した。

「ふふ。あなたとデュエルするのは久しぶりね、鷹野さん」

 すらりとした長身に、優雅になびく長い黒髪。
 こうして改めて見ると、ラスボスとしての風格は十分にあるわね。

「……あなたと再び闘えるこの瞬間を、ずっと待ち望んでいましたよ。天神さん」

 天神さんは、この「第6のデッキ」に朝比奈さんと見城さんが瞬殺されたところを控え室で見ていたはずだ。
 それなのに、いつもと変わらない穏やかな微笑みを浮かべていられるその図太い神経は、称賛してあげてもいいくらいだわ。

「このデュエルの先攻・後攻の選択権は、『プロジェクト』側にあります。どちらを選ぶか宣言してください」
「私は、先攻を選択するわ」
「分かりました。それでは、このデュエルは真田杏奈さんの先攻で行われます。……両者、構えてください」

 最後の闘いを前にして、デュエルディスクの変形する音が2つ重なる。



「それでは! 第9戦目、真田杏奈選手 対 天神美月選手。デュエル、開始ィィ!!」





「「デュエル!!」」







8章  最終決闘 ヒロイン対決



「私のターン、ドロー!(手札:5→6)」

 ラスボス戦は、作中で一番盛り上がる長いデュエルであるのが理想的だ。
 でも、もちろん私は、そんなシリアス作品のお約束に従う気なんてまったくない。

 1秒でも早く、天神美月を葬る。今の私の行動原理は、ただそれだけよ!

「手札から、魔法カード発動! 『エターナルフォースブリザード』!(手札:6→5)」

 エターナルフォースブリザード 通常魔法

 相手はデュエルに敗北する。

「イッヒ・ナーメ・イスト・ドゥラ・イーモン……。冥界より来たりし凍てつく吹雪よ、我が剣となりて敵を滅ぼせ……エターナルフォースブリザード!!」

 詠唱が終わると同時に、天神さんの体は一瞬にして周囲の大気ごと凍りついた。
 ふっ……。これで私の勝ち――――



「私は、手札から『緑光の宣告者(グリーン・デクレアラー)』と『光神テテュス』を墓地に送って、『エターナルフォースブリザード』の発動を無効にするわ」



 天神さんの体を覆っていた氷の棺(フリージングコフィン)が、あっという間に砕け散った。

 緑光の宣告者 効果モンスター ★★ 光・天使 攻300・守500

 自分の手札からこのカードと天使族モンスター1体を墓地に送って発動する。
 相手の魔法カードの発動を無効にし、そのカードを破壊する。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

「どう? こうすれば1ターン目でもそのカードの発動を防げるでしょう?(手札:5→3)」

 自分の発見を自慢する子どもみたいに、天神さんが無邪気に微笑む。

 私の手札に2枚目の『エターナルフォースブリザード』はない。残念だけど、これ以上の追撃は不可能ね……。

「さすがに、そう簡単には決めさせてくれませんか……。だったら私は、手札に3枚あるモンスターカード『金剛石の天道虫(ダイヤモンド・レディバグ)』を公開して、自分のライフを回復させます」

 金剛石の天道虫 効果モンスター ★ 光・昆虫 攻0・守0

 自分のターンに、手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。
 自分は5000ライフポイント回復する。
 この効果を使用した場合、エンドフェイズ時まで手札のこのカードを公開する。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 鷹野 LP:8000 → 23000

「毎ターン5000ポイントの回復……。すごい効果ね、そのカード」

「ええ。これこそが、あなたたちには決して真似できない世界ですよ。カードを1枚伏せて、ターン終了です(手札:5→4)」


 (2ターン目)
 ・天神 LP8000 手札3
     場:なし
     場:なし
 ・真田(鷹野) LP23000 手札4
     場:なし
     場:伏せ×1


「私のターン、ドロー。手札から『豊穣のアルテミス』を召喚するわ(手札:3→4→3)」

 豊穣のアルテミス 効果モンスター ★★★★ 光・天使 攻1600・守1700

 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「『豊穣のアルテミス』で、鷹野さんにダイレクトアタックよ」

 (攻1600)豊穣のアルテミス −Direct→ 真田 杏奈(LP23000)

 私のライフは23000だから、1600ぽっちのダメージを受けたところで何の問題もない。
 だけど私は、超有利なデュエルでも決して油断をしない。念には念を入れて、このカードを発動させておくわ。

「トラップカード発動! 『絶対無敵−パーフェクトバリア』!」

 絶対無敵−パーフェクトバリア 永続罠

 このカードは他のカードの効果を受けず、コストにすることもできない。
 このカードがフィールド上に存在する限り、以下の効果が全て発動する。
 ●自分が受ける全てのダメージは0になる。
 ●自分がドローする時、デッキにドローするカードが残っていなくても、自分はデュエルに敗北しない。(足りない分のドローは行わず、そのままデュエルを続行する)
 ●「封印されしエクゾディア」「毒蛇神ヴェノミナーガ」「究極封印神エクゾディオス」「終焉のカウントダウン」「ウィジャ盤」「ラストバトル!」「自爆スイッチ」の効果は無効になる。

 すべてのダメージを0にし、デッキ切れによる敗北を防ぎ、プレイヤーに特殊勝利をもたらすあらゆるカードの効果を無効にする。加えて、このカード自身も決して除去できず、効果を無効にされず、『トラップ・イーター』のコストにすることもできない。

 これぞ完璧な絶対防御。いくら天神さんでも、このカードを破ることは絶対にできない。
 私が負ける可能性は、万に一つもなくなったわ。

「…………カードを1枚伏せて、ターン終了よ(手札:3→2)」


 (3ターン目)
 ・天神 LP8000 手札2
     場:伏せ×1
     場:豊穣のアルテミス(攻1600)
 ・真田(鷹野) LP23000 手札4
     場:なし
     場:絶対無敵−パーフェクトバリア(永罠)


「私のターン、ドロー!(手札:4→5)」

 ……! この魔法カードは……!
 ふふ……。最高のカードを引いたわ。

「まずは、3枚の『金剛石の天道虫』を見せて、ライフを15000回復します」

 鷹野 LP:23000 → 38000

「このターンで終わりにしましょう、天神さん。私は、手札から魔法カード『魔法石の採掘・改』を発動!(手札:5→4)」

 魔法石の採掘・改 通常魔法

 魔法カード名を1つ宣言して発動する。
 手札を任意の枚数捨てる。
 その後、デッキ・フィールド・墓地・除外ゾーンから、この効果で手札を捨てた枚数まで宣言した魔法カードを手札に加えることができる。

「私が宣言するのは、もちろん『エターナルフォースブリザード』! 手札の『金剛石の天道虫』3枚を捨てて、墓地から1枚、デッキから2枚の『エターナルフォースブリザード』を手札に加えます!(手札:4→1→4)」

 これで私の手札には、一撃必殺の魔法カードが3枚揃った。
 天神さんが、1枚の伏せカードと2枚の手札だけで『エターナルフォースブリザード』の発動を3回すべて防ぐのはまず不可能だ。

「暗黒の氷の刃、全てを飲み込め! 『エターナルフォースブリザード』発動!!(手札:4→3)」

 再び、天神さんの体が絶対零度の棺に閉じ込められる。
 よし……! 今度こそ私の勝ち――――



「だったら私は、場に伏せておいたカウンター罠『封魔の呪印』を発動するわね」



 氷の棺が、またもや粉々に砕け散った。

 封魔の呪印 カウンター罠

 手札から魔法カードを1枚捨てる。
 魔法カードの発動と効果を無効にし、それを破壊する。
 相手はこのデュエル中、この効果で破壊された魔法カード及び同名カードを発動する事ができない。

 ……っ! やってくれるじゃない……天神さん……!

「コストにするのは『神の居城−ヴァルハラ』。これで鷹野さんは、もう『エターナルフォースブリザード』を発動することはできなくなったわ。あと、カウンター罠が発動されたから、『豊穣のアルテミス』の効果で1枚ドローするわね(手札:2→1→2)」

 このターンは、『エターナルフォースブリザード』の回収に全力を注いでしまった。
 その代償として、私の手札には他に使えそうなカードは残っていない。

「…………私はこれで、ターン終了です」


 (4ターン目)
 ・天神 LP8000 手札2
     場:なし
     場:豊穣のアルテミス(攻1600)
 ・真田(鷹野) LP38000 手札3
     場:なし
     場:絶対無敵−パーフェクトバリア(永罠)


「私のターン、ドロー(手札:2→3)」

 ……とはいえ、これで私が不利になったかといえば、全然そんなことはない。

 『エターナルフォースブリザード』や『伝説の折れ竹光使い』が使えなくとも、この「第6のデッキ」には、OCGの常識を超越する一撃必殺のカードが何十枚と眠っている。つまり天神さんは、たとえ何回私の攻撃をかわそうとも、壊れオリカの脅威から逃れることは決してできないのだ。

 一方で、私の場には『絶対無敵−パーフェクトバリア』がある。この永続罠がある限り、私の負けは絶対にありえない。あらゆる敗北条件から身を守ってくれるバリアのおかげで、天神さんは私に傷をつけることすら許されないのだ。

 常に安全圏に立っていられる私と、常に崖っぷちに立たされている天神さん。
 どっちが有利かなんて、一目瞭然でしょ?

「……カードを2枚伏せて、ターン終了よ(手札:3→1)」

 伏せカードを出すだけ……か。さすがの天神さんも、パーフェクトバリアの前では何もできなかったみたいね。


 (5ターン目)
 ・天神 LP8000 手札1
     場:伏せ×2
     場:豊穣のアルテミス(攻1600)
 ・真田(鷹野) LP38000 手札3
     場:なし
     場:絶対無敵−パーフェクトバリア(永罠)


「私のターン、ドロー!(手札:3→4)」

 『エターナルフォースブリザード』が使えないのなら、新たな必殺カードを引くだけだ。
 『封魔の呪印』も、たった1ターンの時間かせぎにしかならないことを教えてあげるわ。

「手札から『トレード・イン』を発動! 『神獣王バルバロス』をコストに、デッキからカードを2枚ドローします!」

 トレード・イン 通常魔法

 手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 鷹野 手札:4 → 2 → 4

 来た……! このカードがあれば、確実に天神さんを倒せる……!

「私は、天神さんの場の『豊穣のアルテミス』をリリースして、手札の『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム8体連結』を相手の場に攻撃表示で特殊召喚!(手札:4→3)」

 私の場にモンスターを出すと、天神さんの能力で手札に戻されてしまう。だったら、天神さんの場にモンスターを出せばいい。
 そのことに気づいた私は、以前『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』で天神さんを倒そうとした。
 でも、なにも原作のラヴァ・ゴーレムを馬鹿正直にそのまま使ってやる必要はなかったのだ。ちょっと8体連結してやるだけで……ほら、この通りよ。

 溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム8体連結 効果モンスター ★×64 炎・悪魔 攻24000・守20000

 このカードは通常召喚できない。
 相手フィールド上に存在するモンスターを全てリリースし、手札から相手フィールド上に特殊召喚する。
 自分のスタンバイフェイズ毎に、自分は8000ポイントダメージを受ける。
 このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

「? 8体連結なら、リリースするモンスターは16体になるはずじゃないの?」

 当然の疑問を呟く天神さん。
 だから私も、当然のようにこう返してやる。

「そんな常識は通用しませんよ。テキストにそう書いてあるから、これで正しいんです」

「………………」

 ふふ……なんて完璧な理屈なのかしら……。天神さんも反論できずに呆然としているわ……。

「このままターンエンドを宣言すれば、次のターンのスタインバイフェイズに天神さんは8000ポイントのダメージを受けて、私の勝ちです」

 私がそう言った瞬間、天神さんがほんのわずかに安堵の表情を浮かべた。
 当然、私はそれを見逃さない。

「それでは、ターン終了…………とでも言うと思いましたか? 手札から魔法カード発動! 『魔法石の採掘・改』!(手札:3→2)」

 「次のターンで私の勝ち」は、最大級の敗北フラグ。
 そのことは、今まで『決闘学園!』シリーズに嫌というほど教えられてきた。

 ……だからこそ、このターンで確実にトドメを刺す!

「手札の『エターナルフォースブリザード』2枚を捨てて、デッキから『造反劇』を2枚手札に加えます!(手札:2→0→2)」

 造反劇 通常魔法

 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体は、そのモンスターをコントロールしているプレイヤーに直接攻撃する。

「『造反劇』発動! その効果で『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム8体連結』は、コントローラーである天神さんにダイレクトアタックを仕掛けます!(手札:2→1)」

 『造反劇』は、原作のラストデュエルに登場したチート魔法カードだ。
 天神さん、あなたは自らのしもべに焼き尽くされて死ぬのよ!

 (攻24000)溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム8体連結 −Direct→ 天神 美月(LP8000)



「トラップカード発動、『ガード・ブロック』!」



 ガード・ブロック 通常罠

 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 天神 手札:1 → 2

「ふぅ……。危なかったけど、何とかしのげたわ」

 な……! 何で天神さんのデッキに『ガード・ブロック』が……!?
 『決闘学園!』の6章にも、「天神の特殊能力は、相手のモンスター展開を、許さない。そのため、天神のデッキには、相手モンスターを破壊するためのカード、相手モンスターの攻撃を防ぐためのカードが、まったく投入されていない」ってちゃんと書いてあったのに!!

 天神さんは、そんな私の心を見透かしたかのように言葉を発してきた。

「こんなこともあろうかと、このデュエルが始まる前に、吉井君から『ガード・ブロック』を借りておいたの。確かこの闘いには、『途中でデッキを組み替えてはいけない』なんてルールはなかったはずよね?」

 くっ……! 天神さんも「デッキの持ち込みは1人1つまで」ルールの抜け道、「闘いの途中で自分のデッキを組み替えるのはOK」に気づいていたのね……!

「……ええ。その通りですよ」

 『ガード・ブロック』を発動できるタイミングは「相手ターンの戦闘ダメージ計算時」。「相手モンスターの攻撃時」ではないから、『造反劇』の効果にも問題なく対応できる。加えて、1枚ドローの効果のおかげで、カードアドバンテージを失うこともない。

 ふふ……さすがは天神さん……。細かなカード選び1つとっても、そのデュエルセンスは天才的ね……。

 でも、そんなものには何の意味もないの。たとえどれほどの才能の持ち主であっても、シリアス小説のキャラクターであるあなたは、私に勝つことは絶対にできないのよ。

 シリアスがギャグに勝てないことは、歴史が証明している。かの宇宙の帝王フ○ーザ様も、両○勘吉を倒すことはできなかった。
 地球が破壊されても、全宇宙の時間が停止しても、レギュラーキャラが死亡しても、次回になると何事もなかったかのように元に戻っているギャグ作品の理不尽さ! その圧倒的な不条理の前では、どんなデュエルスキルもデュエリスト能力も無力!

「私は、手札から2枚目の『造反劇』を発動! その効果で、『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム8体連結』は、もう一度天神さんにダイレクトアタックします!(手札:1→0)」

 天神美月……! その過剰な才能を無駄に持て余したまま、ここで私にヒロインの座を奪われて果てるといいわ!

 今度こそ……あなたの首はもらったぁぁあああああ!!

 (攻24000)溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム8体連結 −Direct→ 天神 美月(LP8000)




















「トラップカード発動、『強制詠唱』! その効果で、私の手札の『二重魔法』を強制発動させるわね」










 …………!?



 強制詠唱 通常罠

 対象となるプレイヤーを1人選択し、魔法カード名を1つ宣言して発動。
 選択したプレイヤーが、手札に宣言した魔法カードを持っていた場合、そのカード1枚を強制発動させる。
 発動タイミングが正しくない魔法カードだった場合、その効果を無効にしてそのカードを破壊する。
 (このカードの効果によって、相手ターンに魔法カードを発動することもできる)

 二重魔法 通常魔法

 手札の魔法カードを1枚捨てる。
 相手の墓地から魔法カードを1枚選択し、自分のカードとして使用する。

「朝比奈先輩から借りた『強制詠唱』の効果で、吉井君から借りた『二重魔法』を強制発動。『ダグラの剣』をコストにして、鷹野さんの墓地の魔法カードを発動させるわね(手札:2→0)」

 満開の桜のような笑みを浮かべる天神さんの手に握られていたのは、私の墓地に眠っていたはずの1枚の魔法カードだった。

 嘘……! そんな…………!

「私の属性は水、あなたの属性は炎。よってダメージは4倍!」

 あ………………あぁ……………………。





「吹雪け、『エターナルフォースブリザード』!!」







エピローグ



 エターナルフォースブリザード 通常魔法

 相手はデュエルに敗北する。


 あぁ……私の体が…………凍っていく…………!
 え……? あれ……? 何これ……! ソリッドビジョンのはずなのに、体が動かない……!

「鷹野さん、あなたは闇のゲームに負けた。よって……罰ゲームを受けなければならないわ」

 って、ええ!? これって闇のゲームだったの!? いつの間に!?

「貴様への罰ゲームはこのカードで決定したな……」

 ああああ!? また天神さんの人格が変わってるし!!

「このカードを見るがいい……」

HEROINE RELIEF・改 −女主人公交代−
(魔法カード)
もうアンタの時代は終わったんだよ!

 ひ……HEROINE RELIEF……改!? 『改』って……一体どういうこと――――

「『HEROINE RELIEF・改』の効果発動! その効果によって、鷹野麗子は、あらゆる創作ストーリーへの出演権を剥奪される!

 えええええええ!? 何それ!? そんなことされたら私は……!!

「ふっ……。貴様の浅い考えくらいお見通しだ。『プロジェクト』シリーズのヒロインでなくなっても、他の役割――たとえばラスボスとして出演すればいい。もしくは、次回作のタイトルを『ぷろじぇくと』やら『Project』に変えれば何の問題もない。……そんなところだろう?」

 ぎくぅっ!

「図星か……。残念だが、ウチの作者はそんな見え見えの抜け道を許すほど甘くはないんでな。敗者には完全なる死と消滅を。それが闇のゲームの鉄則だ」

 いやいやいやいや! ていうか何この人格! 原作の闇のゲームだってそこまで厳しくないから!!

「問答無用だ。罰ゲーム執行……パニッシュメントゲーム!!」

 ちょ……待っ……! あ……また光が……眩し……飲み込まれ…………!

 やば……意識が…………薄くなって…………きた………………。

 …………私…………の…………人生は…………ここで…………終わ…………るの………………?

 ……………………………………………………………………………………。

 …………………………………………。

 ……………………。

 …………。

 ……。

 。










 ◆


 こうして、天神さんとの闇のゲームで再び敗北した鷹野さんは、罰ゲームにより、あらゆる創作ストーリーに出演する権利を失ってしまったということです。
 『番外プロジェクト』でヒロインの座を奪われた鷹野さんが、『番外プロジェクト2』でその椅子を取り戻す展開を期待した方は、残念でした。

 そんな彼女が復活するのは、果たしていつになるのか。
 というか、リベンジマッチを仕掛ける権利すら奪われた状態からの復活は本当に可能なのか。
 それはまだ、誰にも(作者にも)分からないのであります。

 お後が宜しくないようで。




〜Fin〜





おまけ 1人FAQ

 Q.このラストは、あっぷるぱいさんの許可を取っているのですか?
 A.いいえ。







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