番外プロジェクト 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜

製作者:あっぷるぱいさん




<まえがき>
 この小説は、プロジェクトシリーズの番外編であり、プロジェクトシリーズと、豆戦士さん作の「決闘学園!」、「決闘学園! 2」のコラボレーション小説です(豆戦士さんの方から許可は取りました)。
 「決闘学園!」および「決闘学園! 2」が未読の方は、まずそちらからお読み下さい。
 「プロジェクトシリーズ」が未読の方は、この小説を読む前でも、読んだ後でも、目を通してみると、より楽しめる……かも知れません。


<目次>
1章 読者サービス
2章 原作ルール
3章 本性
4章 解決編(1)
5章 解決編(2)
終章 罰ゲーム






 私の名は鷹野麗子。
 プロジェクトシリーズでヒロインを務める女子中学生だ。
 自分で言うのもなんだけど、デュエルの腕は同シリーズ中最強。
 そして、美しさでも同シリーズ中最強。
 まさに、強さと美しさを兼ね備えた、完全無欠のヒロインよ。
 決して自惚れなんかじゃないわ。私はただ、事実を述べたまで。



1章 読者サービス

 さて、そんなヒロインキャラの私は今日、ある目的を果たすために、ここ――海岸にやってきている。
 季節は夏なので、当然、海岸は海水浴に来た人たちで賑わっている。場所が場所なので、ほぼ全員が水着姿だ。
 そして、私もまた、お気に入りの水着を身につけ、小さなバッグを片手に海岸を歩いている。歩きながら私は、超ビューティフルかつエレガントな私の水着姿に、周囲の男どもが目を奪われていることを確かに感じていた。ふ……悪い気分じゃないわ。
「ヘイ!! イカした彼女! 1人〜? どう、俺と遊ばない〜?」
 ほら、早くも男がナンパしてきた。男はサングラスをかけ、よく焼けた身体をしている。この男について詳しく知りたい人は、原作コミックス6巻を参照してね。
「ごめんなさい。私、既にカレシが108人もいるの。もうこれ以上は増やせないわ。カンベンしてね」
「!? ひゃ……108人だって〜!? 恐ろしい女だぜ〜!! あ……あばよ!」
 適当な嘘をつき、私はナンパ男を追い払った。ま、私くらいの美貌があれば、こんな無茶苦茶な嘘も通っちゃうのよね。
 それはそうと、私は「ある人物」を探しながら、海岸を歩き続けた。その最中にも何度か男に声をかけられたが、その度に私は先ほどと同じ嘘をつき、ナンパ男を追い払い続けた。いちいち追い払うのが面倒くさいけど、悪い気分じゃない。
 そして、海岸を歩き続けて、およそ20分。私はようやく、目当ての人物を見つけた。その人物は現在、ビーチバレーをしている最中だった。ちなみに、ここに来るまでに私が追い払ったナンパ男の人数は99人だ。
 私は、ビーチバレーをしている目当ての人物に声をかけた。
「天神さん」
「……? あなたは……鷹野さん?」
 目当ての人物――天神美月さんに声をかけると、彼女は透き通るような声で返してきた。彼女は私のことを知っていてくれたらしい。
「はい。鷹野麗子です。はじめまして」
「天神美月です。こちらこそ、はじめまして」
 私が美少女スマイル全開で自己紹介すると、天神さんもまた、綺麗な笑顔で自己紹介をしてくれた。
 天神さんは、翔部学園高等学校に通う高校生で、決闘学園シリーズのヒロインを務めている。そんな彼女ももちろん、ここが海岸ということもあり、水着姿だ。
 さすがに天神さんは高校生ということもあり、色気とかそういった面で、私の超ビューティフルかつエレガントな水着姿を上回っていた。簡単に言えば、私よりもセクシーだった。
 しかし、世の中には「女子高生よりも女子中学生の方が好みだ」という男もいるはずだ。つまり、中学生であることはある種のステータス。だから、決して私は負けたわけじゃない。そう。要はイーブンってことよ。
 それはさておき、私が天神さんに会いに来た理由は、ただ1つ。
「天神さん。突然で悪いですけど……、デュエルしてくれませんか?」
 調べたところ天神さんは、決闘学園シリーズのヒロインでありながら、同シリーズの中でも、最強レベルのデュエリストだという。……ヒロインかつ最強キャラ。これって、私に近いものがあるわよね? 私だって、プロジェクトシリーズでは未だ負けなしのヒロインキャラだし。
 だからこそ私は、天神さんの存在にどこかシンパシー……というか、ライバル心を感じることがあった。そして、同じ性質を持ったキャラだからこそ、どちらが上なのか、はっきりさせたいと思った。
 それで私は、天神さんにデュエルを挑むことに決めたのだ。ヒロインキャラの誇りを胸にして……!
 ちなみに、「何故、海岸でデュエルする必要があるの?」といった類のツッコミはいっさい受け付けない。
「デュエル? もちろん良いわよ。私も、一度あなたとは闘ってみたいと思ってたのよ」
 遊戯王の二次創作に登場するキャラだけあって、天神さんはノリが良かった。助かりますよ、天神さん。これでストーリーが円滑に進みます。

ご都合主義
(魔法カード)
都合のいい展開でストーリーを進行させる。

「じゃあ、早速デュエルしましょうか。……見城さん。私の代わりに吉井くんのチームに入ってくれる?」
 見城さんと呼ばれた人に、ビーチバレーの続きを任せた天神さんは、所持していたバッグの中からデュエルディスクを取り出し、早くもデュエルを行う態勢となった。ディスクには、既に彼女のデッキがセットされている。
 私もまた、手にしていたバッグからデュエルディスクを取り出し、腕に装着した。
 ディスクからデッキを取り外し、互いに相手のデッキをシャッフル。シャッフルされたデッキを受け取ったら、それを再びディスクにセットし、ライフカウンターもセット。これで準備は完了。
 周囲の男どもを誘惑して、ソリッドビジョンを投影する場所を確保した私たちは、5メートルほどの距離をあけ、向かい合う。いよいよ、ヒロインの誇りをかけたデュエルの始まりだ。
 天神さん……。悪いですが、このデュエル、勝たせてもらいますよ……!
「いいデュエルにしましょうね、鷹野さん」
「はい。よろしくお願いします」
 デュエル前の挨拶を終えると、天神さんはさらりとした口調で、言葉を紡いだ。
「ちなみにこのデュエルは、負けた方がヒロインの座を失う闇のゲーム。覚悟はできてるわよね?」
「ええ。もちろんですよ」
 闇のゲーム――いかにも『遊戯王』らしくていいじゃない。そう思った私は、何の迷いもなく、天神さんの言葉を受け入れた。
 じゃあ、デュエル開始ね。

「「デュエル!!」」

 私 LP:4000
 天神さん LP:4000




2章 原作ルール

 スイカ割り対決の結果、天神さんが先攻・後攻の選択権を得た。うーん、いい勝負だったんだけどな……。
「……? あら、おかしいわね。初期ライフが4000になってる……」
 と、デュエルディスクのライフカウンターを見て、天神さんが言葉を放った。彼女いわく、初期ライフがおかしいらしい。
 そうそう。肝心なことを言い忘れてたわ。
「天神さん。この小説は一応、プロジェクトシリーズの番外編ということになっています。つまり、この小説はプロジェクトシリーズの作品のひとつ。そして、プロジェクトシリーズのデュエルは、基本的に原作ルール……つまり、スーパーエキスパートルールが採用されています。スーパーエキスパートルールにおける初期ライフは4000。だから、ライフカウンターが4000になってるんです」
 決闘学園シリーズは、OCGルール……要するにマスタールールを採用している。マスタールールの初期ライフは8000なので、この点でプロジェクトシリーズと食い違いが生じたわけだ。
「……そう言えばそうだったわね。了解したわ。……ということは、いま私たちがいるこの世界は、原作の世界観を踏襲している、と考えればいいのね?」
「はい。そうです」
 そう。ここは原作・遊戯王の世界。だから、デュエルはスーパーエキスパートルールが採用されているし、カードテキストも原作のものが適用されている。ついでに言えば、いま私たちが行っているカードゲームの名前は、『デュエルモンスターズ』じゃなくて『M&Wマジック・アンド・ウィザーズ』だ。
 おそらく、OCG慣れしている天神さんは、原作ルールに多少なりともやり辛さを感じるはずだ。その点、私は原作ルールに慣れているので、この点では天神さんよりも優位に立っているといえる。
 なんか私が卑怯な奴に見えるかも知れないけど、相手があの天神さんなんだからしょうがない。何しろあの人は、普通のデュエリストとは強さの次元が違うのだから。
 天神さんは、「相手の場にモンスターが現われたとき、一切の効果を発動させずに、そのモンスターをそのまま持ち主の手札に戻す」という能力を持つデュエリストだ。要は、天神さんを相手にする場合、私は自分の場にモンスターを出せないということ。つまり、モンスターをデッキに入れずにデュエルするのとほぼ同義なのだ。
 こんな能力を持つデュエリストを相手にする以上、こういった点(ルールの違い等)を利用して、少しでも優位に立てるようにしなければならない。利用できるものは全部利用する――そのくらいの意気がなければ、天神さんには勝てないだろう。

シリアス・マジック
(魔法カード)
文章のコミカル度をダウンさせて発動。
文章をシリアスっぽい雰囲気にする。
この効果は作者の精神力が持つ限り続く。

「スーパーエキスパートルールでのデュエル……。面白そうね。何だかわくわくしてきたわ。それじゃ、始めましょうか。私は後攻をもらうわ」
 天神さんは後攻を取った。なら、私は先攻ね。
「はい。じゃ、先攻で行きます。ドロー!」
 ドローしたカードを手札に加えた私は、まず魔法カードを1枚場に出した。
「永続魔法『王家の神殿』を発動します。このカードが場にある限り、私は1ターンに2枚のトラップカードを場に出すことができます」
 カードの発動とともに、フィールドに神殿が現れた。OCGでは禁止指定を喰らっているこのカードも、原作の世界では問題なく使える。
 さて、天神さんの能力がある以上、私は自分の場にモンスターは出せない。けど、トラップなら問題なく出すことができる。
「『王家の神殿』の効果により、2枚のトラップを出し、ターンを終えます」
 モンスターは出せないので、これ以上、私にすることはない。私はターンエンドを宣言し、天神さんの方へ目を向けた。
「私のターンね。ドロー」
 天神さんにターンが移る。そして、彼女は迷うことなく、ドローしたカードをすぐさまデュエルディスクにセットする……前に、またデュエルディスクを見て、不思議そうに声を出した。
「原作の世界では、デュエルディスクの形も違うのね……」
 そう口にすると、天神さんは改めて、カードをデュエルディスクにセットした。
「永続魔法『神の居城−ヴァルハラ』を発動。このカードがある限り、1ターンに一度、私は自分の場にモンスターがいなければ、手札の天使族モンスター1体を特殊召喚できるわ」
 早速来たわね。私は一瞬、自分の場の伏せカードに目を向けたが、すぐに天神さんの方へ視線を戻した。
 今はまだ、これを使う時じゃないわ……。
「『ヴァルハラ』の効果発動。手札から『天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス』を特殊召喚。さらに、『豊穣のアルテミス』を通常召喚」
 『天空勇士ネオパーシアス』は、攻撃力2300の7ツ星モンスター。そして、『豊穣のアルテミス』は、攻撃力1600の4ツ星モンスターだ。
 いきなり2体のモンスターを並べてきたわね……。
「バトル。『豊穣のアルテミス』で鷹野さんにダイレクトアタック」
 伏せカードに臆することなく、天神さんが攻撃宣言。『アルテミス』の攻撃は……甘んじて受けておくわ。

 豊穣のアルテミス 攻:1600

 私 LP:4000→2400

「さらに、『天空勇士ネオパーシアス』で攻撃」
 次は『ネオパーシアス』の攻撃。さすがにこっちまで通すつもりはないわ!
「トラップ発動! 『ガード・ブロック』! 『ネオパーシアス』からの戦闘ダメージを0にして、カードを1枚ドローします」
 『ネオパーシアス』からのダメージは回避し、カードを1枚ドローする私。それを見た天神さんは、微笑を浮かべる。
「……そう簡単には通してくれないようね。じゃあ、私はカードを1枚伏せ、ターンエンドよ」
 攻撃には失敗したのに、悔しそうな様子は見せず、むしろ楽しげに、天神さんはターンを終える。……じゃあ、その前に……。
「エンドフェイズ終了前に、トラップカード『砂塵の大竜巻』を発動! このカードは、天神さんの場の魔法・トラップカードを1枚破壊できます。私はこれで、天神さんがいま伏せたカードを破壊します」
「? ……分かったわ」
 天神さんは、一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに伏せカード――『レインボー・ライフ』を墓地へ送った。
 彼女が不思議に思うのも無理はない。今のターン、私が『砂塵の大竜巻』の効果で、伏せカードではなく『神の居城−ヴァルハラ』を破壊していれば、天神さんの場に『ネオパーシアス』が出ることはなかったのだから。
 一見すると、私のプレイングミスにも見える。でも、決してこれはプレイングミスではない。全ては天神さんを倒すための布石……。
 あの人に勝つには、利用できるものは何でも利用しなければ。
「『砂塵の大竜巻』のもう1つ効果で、私は手札の魔法・トラップカードを1枚、場にセットできます。私はこのカードを場に伏せさせてもらいますね」
 『砂塵の大竜巻』のテキストに従い、私は手札の魔法カード1枚を場に伏せた。……うん。今のところは、問題ない……。



LP:2400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、伏せカード1枚
手札:3枚

天神さん
LP:4000
モンスター:天空勇士ネオパーシアス(攻2300)、豊穣のアルテミス(攻1600)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ
手札:2枚


「私のターン、ドロー!」
 ドローした私は、天神さんの場に目を向けた。彼女の場のモンスターは2体。『豊穣のアルテミス』と『ネオパーシアス』……。
 ……そのモンスターたち、利用させてもらいますよ、天神さん。
「私は、天神さんの場のモンスター2体を生贄に……『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』を、天神さんの場に召喚します!」
「!」
 私の声に合わせて、天神さんの場の2体のモンスターが生贄となる。そして、彼女の背後には、全身が溶岩でできた、見るからに暑苦しそうなゴーレムが姿を現した。ソリッドビジョンとは言え、夏の暑い盛りの『ラヴァ・ゴーレム』は、精神的にかなりキツいものがあるだろう。
「『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』は、私の場には召喚されず、天神さんの場に召喚されます。天神さんの能力はあくまで、私の場に現われたモンスターを、効果を発動させずに手札に戻すというものですから、私が天神さんの場にモンスターを召喚することは、何の問題もなく行える。……そうですね?」
「ふふ……。ええ。その通りよ。確かにこれなら、何の問題もないわ」
 私の場には、一切モンスターを出せない。だったら、天神さんの場を利用すればいい――そう考えた私は、『ラヴァ・ゴーレム』をデッキに投入することに決めた。
 『ラヴァ・ゴーレム』は攻撃力が3000もあるモンスター。しかし、『ラヴァ・ゴーレム』は毎ターン、灼熱の体を溶かしながら、持ち主に700ポイントのダメージを与える厄介なカードだ。
 つまり、このまま天神さんの場に『ラヴァ・ゴーレム』が居座り続ければ、毎ターン彼女に700ダメージを与えられる。でも、私が『ラヴァ・ゴーレム』に攻撃されれば、先に私のライフが尽きてしまう。それは避けなければならない。
 もちろん、ちゃんと考えてあるけどね。
「さらに、私は伏せておいた魔法カード『呪魂の仮面』を発動! この仮面を『ラヴァ・ゴーレム』に装着します」
 先ほど『砂塵の大竜巻』の効果で伏せておいたカードを開くと、『ラヴァ・ゴーレム』の顔面に仮面が装着された。『呪魂の仮面』を装着されたモンスターは、攻撃も守備も封じられ、さらに、そのモンスターの持ち主は、自分のターンが来る度に500ポイントのダメージを受ける。
 『ラヴァ・ゴーレム』の動きは封じた。これで、天神さんは黙って『ラヴァ・ゴーレム』のダメージ効果を受けるしかなくなる! しかも、『呪魂の仮面』によって、500ポイントのダメージも受けることになる!
「しっかり準備済みってことね。さすがだわ」
 『呪魂の仮面』で『ラヴァ・ゴーレム』の動きを封じられたというのに、天神さんに動揺する様子はなかった。さすがは決闘学園シリーズでも最強レベルのキャラ、といったところね。
「まだですよ。私はカードを1枚伏せ、魔法カード『命削りの宝札』を発動! その効果で、私は手札が5枚になるまでカードを引き、5ターン後に全ての手札を墓地に置きます」
「今度は手札増強カードね。……それにしても、すごい効果よね、それ」
 OCG慣れした天神さんにとっては、『命削りの宝札』はすごい効果に思えるのだろう。何しろ、こんな強力な効果を持ったカードは、OCGには存在しないはずだし。
 私の現在の手札はトラップカードが1枚。よって、私は4枚のカードをドローする。

 ……――!

 ドローしたカードを見た私は、その瞬間に勝利を確信した。思わず高笑いしそうになったが、超・おしとやかキャラである私がそんなマネをするわけにはいかないと、どうにか笑いたい気持ちを押さえ込んだ。
 笑いをこらえながら、私はドローしたカードの中にあった、あるトラップカードを場に伏せ、冷静な面持ちでターンを終了した。
 これで私の勝ちは確定した……!



LP:2400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、呪魂の仮面(対象:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)、伏せカード2枚
手札:4枚

天神さん
LP:4000
モンスター:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム(攻3000)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ
手札:2枚


 次は天神さんのターン。さあ、ターンを開始しなさい、天神さん。それであなたの命運は尽きるわ!
「私のターン、ドロー」
「天神さんのターンになったことで、『呪魂の仮面』の効果が発動! 500ダメージを受けてもらいますよ」
 まずは『呪魂の仮面』の効果が発動し、天神さんのライフにダメージを与える。

 天神さん LP:4000→3500

 そして、次の瞬間、私は場に伏せておいたトラップを発動した!
 天神美月……あなたの首はもらったぁぁぁああ!!
「トラップ発動! 『おジャマトリオ』! このカードで、天神さんの場に攻撃力0、守備力1000の『おジャマトークン』を3体、守備表示で特殊召喚します!」
「……何ですって?」
 天神さんが、わずかに目を見開く。そして、彼女の場には、非常に醜悪な姿をした塊……もとい、トークンが3体、守備表示で出現した。
 これで、天神さんの場のモンスターは、毎ターン持ち主に700ダメージを与える厄介なゴーレム(しかも攻撃・守備が封じられている)が1体と、不細工な塊……もとい、トークンが3体の計4体。そして、彼女の場には、永続魔法『神の居城−ヴァルハラ』が存在している。
 天神さんなら、この状況から、すぐに1つの結論に辿り着くはずだ。
「ここで『おジャマトークン』……。まさか、鷹野さん。あなたの狙いは……」
 さすがは天神さん。もう気付いたみたいね。
「その通りですよ、天神さん。これが私の狙いです。ご存知の通り、原作のデュエルディスクには、カードを置くスペースが5つしかなく、最大でも5枚までしかカードを置けません。たとえるなら、見えない『宇宙の収縮』が両者にかかったような状態でしょうか。しかし現在、天神さんのディスクには、『ラヴァ・ゴーレム』と『ヴァルハラ』、そして3体の『おジャマトリオ』が存在し、5つのカードスペースが全て埋まっています。つまり……」
「つまり……、私はもう、カードをディスクに置けない。カードを場に出すことができない。……ということね」
「その通りです」
 そう。もう天神さんは、これ以上、デュエルディスクにカードを置くことはない。つまり、場にカードを出すことはない。いくら強大なデュエリスト能力を持っていようと、場にカードを出さずに勝つことは困難だ。
 このような状況に持ち込みやすいからこそ、私は原作の世界観を踏襲したこの世界で、天神さんに勝負を挑んだと言ってもいい。最大5枚までしかカードを置けない原作のデュエルディスクなら、この戦術が成功する可能性も高くなるからね。
 何しろ、相手はあの天神さん。彼女に生半可な対策は通用しない。それこそ、「彼女がカードを場に出せない状況を作り上げる」というくらいの戦略をとらなければ、彼女に勝つことなど不可能だろう。
 そして、私は今、「彼女が場にカードを出せない状況」を作り上げることに成功した。こうなってしまっては、たとえ彼女であっても、対処するのは難しいはずだ。まあ、『エクゾディア』でもあれば、話は別だけど。
 とは言え、天使族のカードをメインにしてデッキを構築している彼女が、『エクゾディア』をデッキに入れているとは考えづらい。故に、彼女のデッキに『エクゾディア』は入っていないと考えていいだろう。
 「5箇所のカードスペースが全て埋まっている」、「これ以上、カードを置くことができない」――。これらの結論に辿り着いた彼女が、このターンにできることは、大人しくエンド宣言をするこ―――


「じゃあ、『ラヴァ・ゴーレム』と『おジャマトークン』2体をリリース……もとい、生贄に捧げて、『D−HEROデステニーヒーロー Bloo−Dブルーディー』を召喚するわね」


 って、おい!! そこで『Bloo−D』!? なんでそんなカードがあの人のデッキに!? どう見ても天使族のカードじゃないのに!!
 『D−HERO Bloo−D』は、自分の場のモンスター3体を生贄に捧げて特殊召喚される戦士族モンスターだ。つまり、このカード1枚で、私が天神さんの場に揃えたモンスターの内3体は消されることになる。要は、「生贄に捧げる」という行為は、彼女がこの状況を打開できる手段なのだ。
 や……やるじゃない天神さん! 確かに、今のあなたにできるのは、大人しくエンド宣言をするか、場のモンスターを生贄にして、新たなモンスターを召喚することくらい……。でも、こんなことは想定の範囲内よ!!
「天神さんが生贄宣言した瞬間、永続トラップ『生贄封じの仮面』を発動! その生贄は無効となり、今後、天神さんの場のモンスターは生贄に捧げることができません!」
「!」
 ふっ……! モンスターを生贄にされることくらいは予測済みよ、天神さん。まあ、さすがに『Bloo−D』を出してくることは予想外だったけど。
 ……何だか、今の天神さんのデッキには、『エクゾディア』が入っていても不思議じゃないような気がしてきた。……念には念を入れておこうかしら。
「……『生贄封じの仮面』……か。『ラヴァ・ゴーレム』も攻撃できないわけだし……、さすがにもう、できることはないわね……。ターン終了よ」
 何もできなくなった天神さんが、エンド宣言をする。しかしその前に、『ラヴァ・ゴーレム』の灼熱の体が溶け出し、天神さんにダメージを与える。
 『ラヴァ・ゴーレム』は、原作とOCGでダメージ効果の発動タイミングが違うのよね。

 天神さん LP:3500→2800

 結局、このターンは何もできず、天神さんは1200ものライフを失うだけとなった。うん。いい感じで進んでるわ。



LP:2400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、呪魂の仮面(対象:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)、生贄封じの仮面
手札:4枚

天神さん
LP:2800
モンスター:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム(攻3000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ
手札:3枚(内1枚は、D−HERO Bloo−D)




3章 本性

「私のターン、ドロー!」
 天神さんは、カードをいっさい場に出せない状態に陥っている。なおかつ、私の出したカードによって、毎ターンの効果ダメージが約束されている。このまま私が何もせずとも、数ターン後には、天神さんのライフは尽きることだろう。
 天神さんにしてみれば、そうなる前に、私のライフを0にしたいはずだ。しかし、攻撃力が3000もありながら、『呪魂の仮面』で攻撃も守備も封じられている『ラヴァ・ゴーレム』は攻撃要員としては使えないし、『おジャマトークン』にいたっては、攻撃力が0なので、話にならない。要は、今のままでは、天神さんは満足にバトルフェイズも行えない。それはつまり、彼女は私のライフにダメージを与えることができないということを意味する。彼女にとって、これは辛いものがあるだろう。
 デュエルは私が有利。けど、超優秀な私は、たとえ有利なデュエルでも決して油断をしない。だから、手札にあったモンスターカード3枚を天神さんに公開した。
「スタンバイフェイズ。私の手札にあった3枚の『黄金の天道虫ゴールデン・レディバグ』を公開し、ライフを1500ポイント回復します」
「……。同名カードが3枚……。すごい手札ね……」
 『黄金の天道虫』は、場に出さなくても効果を発揮できるモンスターだ。だから、天神さんの能力の前でも、力を発揮することができる。
 自分のターンのスタンバイフェイズ時、手札にある『黄金の天道虫』を相手に見せれば、自分のライフを500回復できる。今、私の手札には『黄金の天道虫』が3枚あったので、3枚公開して1500ライフを回復した、というわけだ。

 私 LP:2400→3900

 とりあえず、『黄金の天道虫』3枚が手札にある限り、私のライフは毎ターン1500回復することが約束される。天神さんからすれば、これはなかなか面倒なはずだ。
 まあ、ぶっちゃけた話、『黄金の天道虫』をデッキに入れるくらいなら、『デス・メテオ』とかを入れた方がいいに決まってるんだけど、「モンスターおよびプレイヤーへの直接攻撃系魔法は使用禁止」という原作ルールがあるんだから仕方がない。
「カードを2枚伏せて、ターンエンドです」
 『王家の神殿』の効果で、2枚のトラップを場に出し、エンド宣言。
 そして、天神さんのターン。とは言え、彼女にできることなんてないだろうけど。
「私のターン、ドロー」
 天神さんがカードを引く。さっきの『Bloo−D』の存在から『エクゾディア』を警戒した私は、ここで前のターンに伏せておいたトラップを発動した。
「トラップカード発動! 『無効』! ドローしたカードを捨てて下さい、天神さん」
「! …………あ、原作効果か」
 ドローカードを問答無用で捨てさせるトラップ――『無効』。その効果に従い、天神さんは、このターンのドローカード『光神テテュス』を墓地に捨てた。
「そして、天神さんがターンを迎えたことで、『呪魂の仮面』の効果が発動しますよ」
「……500ダメージね」
 『ラヴァ・ゴーレム』に装着されていた仮面が呪いを発揮し、天神さんのライフを削り取る。

 天神さん LP:2800→2300

 天神さんは手札に目を向け、何かを考え込んでいる。おそらくは、この状況を破る手段を考えているのだろう。
 しかし、いくら考えても無駄なこと。何かをしたくても、場にカードを出さなければ、何もできない。『Bloo−D』などを出したくても、『生贄封じの仮面』が場にある限りは不可能。
「……………………」
「……………………」
 そして、両者が沈黙したまま、時間が過ぎた。
 天神さんが何かを考え続けてから、そろそろ5分が経過する。5分といえば、原作ルールではプレイヤーに与えられた1ターンの思考時間だ。これを超過すれば、自動的に私のターンに移る。
 天神さんもそれを分かっていたようで、ただ一言だけ私に告げる。
「……ターンエンド」
 それと同時に、彼女の背後にいた『ラヴァ・ゴーレム』の体が溶け出し、またも彼女にダメージを与える。

 天神さん LP:2300→1600



LP:3900
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、呪魂の仮面(対象:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)、生贄封じの仮面、伏せカード1枚
手札:3枚(黄金の天道虫×3)

天神さん
LP:1600
モンスター:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム(攻3000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ
手札:3枚(内1枚は、D−HERO Bloo−D)


 天神さんは、一方的にダメージを受け続ける。
 私は、一方的にダメージを与え続ける。
 天神さんは一方的に傷付き続け、私は一方的に傷付け続ける。
 なるほど。これが俗に言う“ロックバーン”って戦術なのね。
 うん。なんか良く分からないけど、……なんか、いい気分だわ、こういうの。
 なんていうか……、身動きの取れない相手のライフを少しずつ削って、ジワジワと追い詰めていくって感じがいいわね。
 意外と私に合ってるのかも。こういう戦術。
 気分を良くしながら、私はカードを引いた。
「私のターン、ドロー!」
 ……良いカードを引いたわ! これで、さらに天神さんを追い詰められる!
 まあ、まずはその前に。
「スタンバイフェイズに、手札の『黄金の天道虫』3枚を公開! ライフを1500ポイント回復します」
 先のターンと同じく、『黄金の天道虫』の効果で1500ライフを得る。私と天神さんのライフは徐々に差が開いていく。

 私 LP:3900→5400

 ライフ回復終了。じゃあ、次のカードよ。
「魔法カード『魔力無力化の仮面』を発動! この仮面は、場の魔法カード1枚に取り付き、その効果を無力化します。そして、取り付いた魔法カードの持ち主に、毎ターン300ポイントのダメージを与えます」
「! これでダメージが増えることになるわけね……」
 天神さんの場には、永続魔法である『神の居城−ヴァルハラ』が存在している。仮面が取り付く対象は当然、『ヴァルハラ』のカードだ。
「『ヴァルハラ』のカードに『魔力無力化の仮面』を取り付かせ、効果を無力化! 天神さんには毎ターン300ポイントのダメージも受けてもらいますよ」
「これは防ぎようがないわね……」
 当然の如く、天神さんに成す術はない。次のターンから、天神さんの受けるダメージは増量することになる。
 もっとダメージを与えて、追い詰めてあげますよ、天神さん。ふふふ……。
「ターンエンドです」
 これ以上、することのない私は、天神さんにターンを渡した。



LP:5400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、呪魂の仮面(対象:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)、生贄封じの仮面、魔力無力化の仮面(対象:神の居城−ヴァルハラ)、伏せカード1枚
手札:3枚(黄金の天道虫×3)

天神さん
LP:1600
モンスター:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム(攻3000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ(効果無効)
手札:3枚(内1枚は、D−HERO Bloo−D)


 そして、天神さんのターン。
「私のターン、ドロー」
 天神さんがカードを引いたその瞬間。私は再び、伏せておいたトラップを発動した。
「トラップカード発動! 『無効』! ドローしたカードを捨てて下さい、天神さん」
「! ……もう1枚あったのね……」
 ふふ……。実は、『無効』のカードは2枚伏せてあったのよね。これで、天神さんは再び、このターンのドローカードを捨てるハメになる。捨てたカードは……『転生の予言』か。
「そして、天神さんがターンを迎えたことで、『呪魂の仮面』の効果が発動。500ダメージです。さらに、『魔力無力化の仮面』の効果で300ダメージも受けてください」
「……合計で800ダメージね」
 『呪魂の仮面』と『魔力無力化の仮面』が発動し、天神さんのライフがさらに減少する。

 天神さん LP:1600→800

 あぁ、いい気分だわ。何にもしなくても、勝手に相手のライフが減っていくのって、ホントに気分がいい。私はただ、相手がジワジワと追い詰められていくのを見ていればいいんだから、こんなに愉快なことはないわ。
 うーん、でもそれももうすぐ終わるのね。それはもちろん嬉しいけど、何だか惜しい気持ちもあるわ……。
「……………………」
「……………………」
 再び天神さんが沈黙し、思考タイムに入る。しかし、それも5分が経過すれば終了するわけで。
「……このターンも何もできなかったわね……。ターンエンド」
 何だか名残惜しそうに言う天神さん。そんな彼女のライフを、『ラヴァ・ゴーレム』の効果ダメージが襲う。

 天神さん LP:800→100

 ……! 残りライフ100! 首の皮1枚で繋がったわね……。
 でも、これであと1ターン、彼女がダメージを受ける姿を見られるから、それはそれで愉快だわ。



LP:5400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、呪魂の仮面(対象:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)、生贄封じの仮面、魔力無力化の仮面(対象:神の居城−ヴァルハラ)
手札:3枚(黄金の天道虫×3)

天神さん
LP:100
モンスター:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム(攻3000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ(効果無効)
手札:3枚(内1枚は、D−HERO Bloo−D)


「私のターン、ドロー!」
 前のターンのダメージ効果により、天神さんの残りライフは100。そして、次の彼女のターンになれば、仮面カードによるダメージ効果が発生し、彼女のライフは0となる――と、普通に考えれば、そういう展開になるだろう。
 しかし、よくよく考えてみると、一般的に、追い詰められた際にライフが100以下だけ残ることは「勝利フラグ」と呼ばれている。つまり、「残りライフ100以下は勝利への布石」という理論だ。
 現に、漫画やアニメのデュエルでは、大抵この理論が成立しており、決闘学園シリーズのデュエルにいたっては、ほぼ確実に、勝者のライフは先に100以下になっている(無論、例外はあるけど)。

ガッチャ・フォース
(罠カード)
自分のライフが100ポイント以下の時に発動可能。
ほぼ確実に、自分はそのデュエルに勝利する。
ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!

 この理論に当てはめて考えれば、このデュエルの敗者は私ということになる。理由は言うまでもなく、天神さんの残りライフが先に100になったからだ。
 しかし、天神さんが何もカードが出せないでいるこの状況でも、その理論は成立するだろうか? まさか、彼女は一切のカードを出さずして、この戦況を破るとでも?
 ……まあ、何にしても、私がこのターンにすることは変わらない。私は改めて、このターンのドローカードを確認した。

 ドローカード:無効

 ……また、『無効』のカード。これは要するに、仮に次の天神さんのターン、彼女がこの状況を打ち破れるカードを引いたとしても、そのカードは『無効』によって叩き落される、ということを意味する。
 実にオーバーキルなカードだ。ここは万一に備えて、是非ともこのカードを場に伏せておくべきだろう――そう考えた私は、『無効』のカードを場に伏せる……前に、手札の3枚を天神さんに公開した。
「スタンバイフェイズに『黄金の天道虫』3枚を公開し、1500ライフを回復します」
 そうそう。まずはライフを回復しないと。
 3枚の『黄金の天道虫』が公開されたことで、私のライフが1500ポイント増えた。

 私 LP:5400→6900

「そして、カードを1枚伏せ、ターンエンドです」
 『無効』のカードを場に伏せ、エンド宣言。
 次のターンで私が勝つ。……このまま何もなければ。
 最後の最後。天神さんがダメージを受ける姿をしっかりと目に焼き付けるべく、私は彼女の方に目を向けた。



LP:6900
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、呪魂の仮面(対象:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)、生贄封じの仮面、魔力無力化の仮面(対象:神の居城−ヴァルハラ)、伏せカード1枚
手札:3枚(黄金の天道虫×3)

天神さん
LP:100
モンスター:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム(攻3000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ(効果無効)
手札:3枚(内1枚は、D−HERO Bloo−D)


「……。私のターン、ドロー」
 天神さんがカードを引く。その瞬間、私はまたも、伏せカードを開く。
「トラップ発動! 3枚目の『無効』です! ドローカードを捨てて下さい、天神さん」
「え? また?」
 またですよ、天神さん。さあ、ドローしたカードをお捨てなさい!
「…………」
 天神さんの動きが止まる。『無効』の効果で、彼女はドローカードを墓地に送らなければならないのに、彼女はなかなかドローカードを捨てようとしない。
 そんなに捨てるのが惜しいカードだったのだろうか? もしかして、思い入れのあるカードだったとか?
 しかし、いま私たちが行っているのはカードゲーム。カードゲームである以上、ルールには従わざるを得ない。
 さあ、天神さん。ドローカードを捨てなさい。これはルールなの。あなたもデュエリストなら、カードに書かれた効果はしっかり守り―――










「『無効』の発動に対し、たった今ドローした魔法カード、『サイクロン』を発動。鷹野さんの場の『魔力無力化の仮面』を破壊するわ」










 …………!?





 気がつくと、場に出現した竜巻は、私の場で表になっていた魔法カード『魔力無力化の仮面』を飲み込み、消滅させていた。


 天神さんは、『無効』の効果に対して(OCG風に言えばチェーンして)、このターンに引き当てた『サイクロン』を使った。
 『サイクロン』は、場の魔法・トラップカード1枚を破壊する魔法カード。
 それが通常どおりに処理され、私の場の『魔力無力化の仮面』は破壊された。


 言うまでもなく、魔法カードを発動する場合は、一度、カードをデュエルディスクに置く必要がある。


「これで、『神の居城−ヴァルハラ』の効果が有効になり、毎ターンの300ダメージはなくなるわね」
 そして、私の目線の先には、『サイクロン』を発動した張本人である天神さんが、無邪気な笑みを浮かべていた。


 ――5箇所のカードスペースが全て埋まっている。
 ――これ以上、カードを置くことができない。


 これらの結論に辿り着いたはずの天神さんが、カードを場に出した瞬間だった。





LP:6900
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、呪魂の仮面(対象:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)、生贄封じの仮面
手札:3枚(黄金の天道虫×3)

天神さん
LP:100
モンスター:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム(攻3000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ
手札:3枚(内1枚は、D−HERO Bloo−D)











○読者への挑戦状(1)
 ここで気が向いた人は、この先を読む前に、「天神さんが何故、『サイクロン』を発動できたのか」を考えてみてくださいね。




4章 解決編(1)

 そもそも、原作ルールでは、『トークン』はカードの1枚としてカウントされない。
 そうでなければ、『クリボー』や『兵隊アリ』、『ネクロマネキン』が6体以上に増殖することに対して説明がつかない。コミックス24巻で、『ワイバーンの戦士』と『ロケット戦士』が場にいる状態で、『スケープ・ゴート』が発動できたことに対して説明がつかない。

 つまり。

 天神さんは始めから、カードを場に出せなかったわけじゃない。出せないと思い込んでいただけなのだ。
 『おジャマトークン』は、カードスペースを圧迫してなどいなかった。使用されていたカードスペースは、『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』と『神の居城−ヴァルハラ』が置かれていた2箇所だけ。彼女はカードを場に出そうと思えば、いつだって出せたのだ。

 OCGルールにおいては、『トークン』はカードの1枚としてカウントされる。
 だからこそ、OCG慣れした天神さんなら、この手に引っかかる。
 『トークン』はカードの1枚としてカウントされ、自分はもうカードを出せないと思い込む。

 ……そう踏んでいたんだけど。


「見破られましたか……」
 私は思わず、口に出してしまった。
 あと一息というところで、戦術を見抜いた天神さんに対し、畏敬の念を抱きながら。
「ええ。今になってようやく気付いたわ。たしかに、OCG慣れしてる人間には、見破りにくい戦術ね。すごいわ、鷹野さん」
 素直に賞賛の言葉をくれる天神さん。その表情は楽しげだった。
 はぁ……。絶対に見破られない自信があったんだけどな……。
「どうして分かったんですか? 私の戦術の“穴”が……」
 気になったので、天神さんに訊ねてみた。私、どこかでミスでもしてたのかしら?
 天神さんは、微笑を浮かべつつ、答えた。
「私ね、場にカードを出せなくなってから、ずっと原作・遊戯王でのデュエルシーンを思い出していたの。いま私たちが行っているデュエルは、原作ルールを用いたデュエル。なら、原作内のデュエルをよく思い出してみれば、何か攻略法が分かるかも知れない――そう思ってね」
「その結果……、トークンに関する扱いが、原作とOCGで異なることに気付いた、と?」
「そういうこと。最初は『クリボー』とかが無数に増殖するのは当たり前の光景……と思って見落としちゃってたけど、あとから何度も思い返す内に、これが答えだ、ってことに気付けたわ」
 ヒントは原作コミックスにあった、というわけね。なんてオチなの……。
 天神さんの言葉は続く。
「でも、このままでは、私はどの道、『呪魂の仮面』と『ラヴァ・ゴーレム』のダメージ効果で敗北してしまう。そこで、手札の『ハネワタ』の効果を発動。このカードを手札から捨てることで、このターンに私が受ける効果ダメージを全て0にするわ」
 ―――って、ここで『ハネワタ』!?
 ……そう言えば、天神さんのデッキには、『ハネワタ』も投入されていたんだっけ……? まさか、そんなカードを手札に隠し持っていたなんて……!
 『ハネワタ』は、効果ダメージから身を守ることのできるカード。今までのデュエル展開から察するに、天神さんはずっと、『ハネワタ』の効果は使わずに、手札に温存しておいたのだろう……。
 何にしても、これでこのターン、彼女はいっさい効果ダメージを受け付けなくなった……。しかも、私の戦術は天神さんに完璧に見破られてしまった。このターン以降、彼女は思い切りカードを場に出してくるはず……。
 ……が、しかし!
 私の狙いに気付くのが、ちょいとばかり遅かったわね、天神さん!
「天神さん。残念ですが、あなたの場にはまだ『ラヴァ・ゴーレム』が存在し、しかも『ラヴァ・ゴーレム』には『呪魂の仮面』が装着されています。このターンのダメージは『ハネワタ』の効果で回避できますが、次の天神さんのターンは、逃れることはできませんよ」
 そう。私の戦術は破られたけど、まだデュエルが終わったわけじゃない。
 このターンで彼女が敗北することはなくなった。しかし、『ハネワタ』の効果は、このターンのエンドフェイズまでしか続かない。だから、所詮は一時しのぎでしかない。つまり、敗北を1ターン先延ばしにしただけの話。
 天神さんにダメージを与える存在は、まだ残り続けている。だから、このまま彼女が何もできずにエンド宣言をすれば、結局は彼女が敗北するということだ!
 天神さんの手札は2枚。その内1枚は、現状では使用することのできない『D−HERO Bloo−D』。つまり、彼女は残り1枚の手札でこの状況を打開しなければ、次の彼女のターンが訪れた時、『呪魂の仮面』の効果でライフが0になる!
 惜しかったわね、天神さん。もう少し早く私の戦術を見破れていたら、逆転することもできたかも知れなかったのに。
「ふふ……そうね。このままじゃ、次の私のターンに、私のライフが尽きることになるわね」
 天神さんはそんなことを口にしつつ、手札の1枚をデュエルディスクにセットした。
「カードを1枚伏せ、ターンエンド。さ、鷹野さんのターンよ」
 …………?
 どういうこと? このままでは、次のターンに天神さんのライフが0になるというのに、彼女はカードを1枚伏せただけで……終わった?
 まさか、諦めた? いや、彼女に限ってそんなことは……。
 なら、あの伏せカード1枚で、この状況を切り抜けるつもり……?



LP:6900
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、呪魂の仮面(対象:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)、生贄封じの仮面
手札:3枚(黄金の天道虫×3)

天神さん
LP:100
モンスター:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム(攻3000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)、おジャマトークン(守1000)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ、伏せカード1枚
手札:1枚(D−HERO Bloo−D)


「私のターン……、ドロー」
 カードを引く私。引き当てたカードは、2枚目の『生贄封じの仮面』。同じカードが既に発動している今、特に必要のないカードだ。
「スタンバイフェイズ。手札の『黄金の天道虫』3枚を公開し、1500ライフ回復です」

 私 LP:6900→8400

 ひとまず、『黄金の天道虫』の効果でライフを回復しておく。
 今、私の手札は4枚。その内の3枚は『黄金の天道虫』であり、残り1枚はこのターンに引いた『生贄封じの仮面』だ。
 当然、この手札では、これ以上私にできることはない。
 私にできることは、ターンを終了することだけだ。
 そして、私がさっさとエンド宣言をし、天神さんのターンに移れば、『呪魂の仮面』の効果が発動。彼女のライフを500ダメージが襲い、私の勝利となる。
 しかし、そんなに簡単に行くだろうか? 私の中に、そんな疑問が浮かぶ。
 ……けど、疑問が浮かんだところで、私がやるべきことは変わらない。
 どのような結果を迎えるのか。それは、このターンのエンド宣言で分かる。
「ターンエンド……です!」
 ダメージが通れば……彼女のライフは0! 私の勝ちだ!





「リバースカード、オープン」

 私のエンド宣言に、天神さんの声が重なる。







LP:8400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、生贄封じの仮面
手札:5枚(黄金の天道虫×3、生贄封じの仮面、溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム

天神さん
LP:100
モンスター:なし
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ、????
手札:1枚(D−HERO Bloo−D)









○読者への挑戦状(2)
 ここで気が向いた人は、この先を読む前に、「天神さんが発動したカードが何なのか」を考えてみてくださいね。
 ヒント1:天神さんが一度も使用したことのないカードです。
 ヒント2:OCGに存在するカードです。




5章 解決編(2)


LP:8400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、生贄封じの仮面
手札:5枚(黄金の天道虫×3、生贄封じの仮面、溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム

天神さん
LP:100
モンスター:なし
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ、洗脳解除
手札:1枚(D−HERO Bloo−D)


 ……って、なんで『洗脳解除』ぉぉぉぉぉおおおおおお!!!?????
 ちょっと待ってよ! なんでそんなカードが天神さんのデッキに!?
「永続トラップ『洗脳解除』。このカードが場にある限り、場にいる全てのモンスターのコントロールは、元々の持ち主に戻る。つまり、元々は鷹野さんが持ち主である『ラヴァ・ゴーレム』と『おジャマトークン』3体は、鷹野さんのコントロールに戻るわ」
 変更されたコントロールのリセット。それが、『洗脳解除』の効果。
 その効果によって、『ラヴァ・ゴーレム』と『おジャマトークン』のコントロールは私のものに戻り、これらのモンスターは私の場に移動したわけだ。
 そう……。これはつまり、私の場にモンスターが現われたことになる。ということは―――。
「鷹野さんの場に『ラヴァ・ゴーレム』と『おジャマトークン』が移動したことで、私の能力が発動。それらのモンスターは全て、持ち主であるあなたの手札に戻ったわ。ただ、『おジャマトークン』は、トークンの性質上、手札に戻ることなく消滅したけどね」
 いかなる形であれ、対戦相手の場にモンスターが現われたなら、そのモンスターを持ち主の手札に戻す――それが、天神さんの能力。
 コントロールのリセットという形で私の場にモンスターが出現したことで、『ラヴァ・ゴーレム』と『おジャマトークン』は、場から消滅することになったのだ!
 ……何なのよ……これ! なんでよりにもよって『洗脳解除』が……。
「さて、私のターン。……私はドローしたカードを場に伏せ、ターンエンドよ」
 天神さんは、ドローカードを場に伏せただけでターンを終えた。
 ……まずいわ。せっかく私が作り上げた布陣が、何もかもメチャクチャに……。
 天神さんが攻めてくる前に、何とか持ち直さないと……!



LP:8400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、生贄封じの仮面
手札:5枚(黄金の天道虫×3、生贄封じの仮面、溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)

天神さん
LP:100
モンスター:なし
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ、洗脳解除、伏せカード1枚
手札:1枚(D−HERO Bloo−D)


 私のターン……。
 天神さんのライフはあとたったの100。決して、削れない数値ではないはず。
 大丈夫……。私のデッキには、彼女のライフを削れるようなカードがまだ入っている。それを引き当てれば……!
「私のターン、ドローッ!」
 自分のデッキを信じ、私は引き当てたカードに目を通した。そのカードとは……―――。

 ドローカード:破壊輪

 ……破壊……輪……!
 相手の攻撃モンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える極悪トラップ!
 まだ……私にもツキがあるよう――――


「あら? 『命削りの宝札』の発動から5ターンが経過したから、鷹野さんは手札を全て捨てなきゃならないんじゃない?」


 天神さんの透き通った声が、私の超キュートで繊細で華奢で優雅な身体を貫いた。
 その衝撃は思いのほか凄まじく、私は軽い立ちくらみを起こしていた。
「いえ、『命削りの宝札』のデメリット効果は、次のターンに発動です」
 気付いたら、私はそんなことを口走っていた。そのくらい、頭がクラクラしていた。
「いや……このターンが5ターン目よ」
 当然の如く、天神さんは反論してくる。
「いえ、まだ4ターン目です」
 しかし、無意識の内に、私も反論していた。
「いや、5ターン目よ」
「いえ、4ターン目です」
「5ターン目よ」
「4ターン目です」
「5ターン目と言ったら5ターン目よ」
「4ターン目と言ったら4ターン目です」
「5ターン目よ!」
「4ターン目です!」
「5ターン目って言ってるでしょ!」
「4ターン目って言ってるじゃないですか!」
「5ターン目って言ってるのが分からないの!」
「4ターン目って言ってるのが分からないんですか!」
「5ターン目!」
「4ターン目!」
「5ターン目!」
「4ターン目!」
「5ターン目!」
「4ターン目!」
「5ターン目!」
「4ターン目!」
「5ターン目!」
「4ターン目!」
「5ターン目!」
「4ターン目!」
「5ターン目!」
「4ターン目!」

 ―――ガラガラガラ……ズシャァァーーーン!!

 気付いたら、ギロチンのソリッドビジョンが、私の手札のカードを全て切り裂いていた。
 『命削りの宝札』のデメリット効果が発動したのだ。


 ――『命削りの宝札』の発動から、5ターンが経過。


 くそぉーーーーーーーー!!
 悔しいーーー!! 何だか分かんないけど、すんごく悔しいーーーーーー!!!
 ああああああ!!! なんで『命削りの宝札』のデメリット効果が頭から抜け落ちてたのよぉぉぉぉおおおお!!!
「あなたが何もしないのなら、私のターン!」
 そして、天神さんは勝手に自分のターンを始めちゃうし!!
 悔しい! すっごく悔しい〜〜!!



LP:8400
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、生贄封じの仮面
手札:0枚

天神さん
LP:100
モンスター:なし
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ、洗脳解除、伏せカード1枚
手札:2枚(内1枚は、D−HERO Bloo−D)


「私はまず、伏せておいた魔法カード『マジック・プランター』を発動。このカードは、場に表側表示で存在する永続トラップカードを1枚墓地へ送って発動し、デッキからカードを2枚ドローする。私は『洗脳解除』を墓地へ送り、カードを2枚ドロー」
 天神さんの場の『洗脳解除』が墓地に送られ、彼女の手札は4枚に増える。
 何か……、手札を増やし始めたわね……、あの人……。
「いい感じに揃ったわ。私は『神の居城−ヴァルハラ』の効果を使い、手札から『アテナ』を特殊召喚」
 4枚に増えた天神さんの手札から、天使族の最上級モンスター『アテナ』が召喚される。『アテナ』は攻撃力2600を誇り、2つの能力を備えているモンスターだ。
「次は、魔法カード『死者蘇生』を発動。墓地から天使族の『光神テテュス』を特殊召喚。天使族が特殊召喚されたことで、『アテナ』の効果発動」
 『アテナ』は、天神さんの場に天使族モンスターが現れるたびに、私に600ダメージを与える効果を持つ。今、彼女の場には『光神テテュス』が蘇生召喚されたから、さっそく600ダメージだ。

 私 LP:8400→7800

「さらに、天使族の『ハネクリボー』を通常召喚。これでまた、『アテナ』の効果で600ダメージよ」
 天神さんの場に新たな天使が現れたことで、『アテナ』のダメージ効果が発動する。

 私 LP:7800→7200

「そして、『アテナ』のもう1つの効果。私の場の『アテナ』以外の天使族モンスター1体を墓地へ送ることで、私の墓地から『アテナ』以外の天使族モンスター1体を特殊召喚するわ」
 『アテナ』の持つもう1つの効果。それは、自分の墓地から天使を復活させる効果だ。つまり、また天神さんの場には、天使族モンスターが特殊召喚されることに……。
「『ハネクリボー』を墓地へ送り、『アテナ』の効果発動。墓地から『豊穣のアルテミス』を特殊召喚。また天使族モンスターが特殊召喚されたことで、『アテナ』のダメージ効果が発動するわ」
 『アルテミス』の出現により、私を更なるダメージが襲う。……く……っ! 動きが……早すぎる……!

 私 LP:7200→6600

 手札を増やし、自由に身動きが取れるのをいいことに、天神さんはあっさりと攻めの布陣を作り上げた。……なんて人なの……。



LP:6600
モンスター:なし
魔法・罠:王家の神殿、生贄封じの仮面
手札:0枚

天神さん
LP:100
モンスター:アテナ(攻2600)、光神テテュス(攻2400)、豊穣のアルテミス(攻1600)
魔法・罠:神の居城−ヴァルハラ
手札:1枚(D−HERO Bloo−D)


「バトル。『豊穣のアルテミス』でプレイヤーに攻撃」
 容赦なくバトルフェイズに入る天神さん。最初に『アルテミス』の火炎噴射が、思春期の少年・少女の心くらいにデリケートな私のお肌を焼き尽くす。くっ……!

 豊穣のアルテミス 攻:1600

 私 LP:6600→5000

「続けて『光神テテュス』で攻撃」
 次は、『テテュス』の高速パンチが、マシュマロのような柔らかさを持つ私のほっぺたに直撃する。うぐぅ……!

 光神テテュス 攻:2400

 私 LP:5000→2600

「これで最後ね。『アテナ』で攻撃よ」
 そして、『アテナ』の華麗な回し蹴りが、この世界の神秘とも呼べる形状をした私のアゴに直撃する。げふっ……!

 アテナ 攻:2600

 私 LP:2600→0

 ……あ……あれ!?
 ま……負けちゃった……!? この私が……!!?
 嘘……??



終章 罰ゲーム

 やはり、天神さんは強敵だった。
 途中までは、もしかしたら行けるかも……と思っていたが、そんな簡単には行かなかった。
 結局、私が策を弄したところで、彼女には通用しなかった。
 悔しいけど、私の完敗だ。
 でも、いいデュエルだった。
「ありがとうございました、天神さん。楽しいデュエルでした」
 素直に私は、天神さんに対してお礼を言った。すると彼女も、満面の笑みで返してきた。
「こちらこそありがとう、鷹野さん。すごくどきどきしたデュエルだったわ」
 どきどき……か。そりゃそうよね。あと少し、天神さんが私の戦術を見破るのが遅ければ、また違った結果になったかも知れないし……。
 と、ここで天神さんが何かを思い出したように、言葉を口にした。
「そう言えば、今のデュエルは、負けた方がヒロインの座を失う闇のゲームだったのよね。……ということは、デュエルに負けた鷹野さんは、プロジェクトシリーズのヒロインではなくなる……ってことになるけど……」


 …………。


「そんなこと言ってましたっけ?」
 私は思わず、天神さんに訊ねた。
「言ったわよ。1章の最後あたりで」
 私は1章の最後あたりを読み返してみた。……確かに、天神さんが闇のゲームだとか何とか言っていた。そして、その条件に同意する私がいた。


 雪のように白く美しい私のお肌に鳥肌が立った。


「いえ、でも私、そんな罰ゲームには同意してませんから」
 そして私は、そんなことを口にしていた。やや早口で。
「え? ちゃんと同意してたわよ? 読み返してみれば明らかじゃない」
 無論、天神さんは反論してくる。
「……あの時は、天神さんのセクシーな水着姿にすっかり見惚れてて、天神さんの声が良く聞こえなかったんです」
 私も負けじと反論する。その瞬間、天神さんの頬がほんの少し紅潮したように見えたが、しかし。
「そんな心理描写はなかったわよ」
 と、あっさり切り返された。
「ただ作者が、めんどくさくて書かなかっただけです」
 私はまたしても反論。
「闇のゲームに、そんな言い訳は通用しないわよ、鷹野さん」
 天神さんも引き下がらない。
「とにかく、そんな罰ゲームは受けませんから、私」
 議論を打ち切り、強引に罰ゲームを拒否する私。
「あら、そうは行かないわよ。闇のゲームにおいて、負けた人間が罰を受けるのは鉄の掟。それを破ることなど許されないわ」
 対する天神さんは、かなり痛いところを突いてきた。く……っ! この女、できる!
「いくら何でも、ヒロインの座を失うって……。じゃあ、これからプロジェクトシリーズのヒロインは誰がやるんですか?」
 もっともな意見を述べる私。
「真田杏奈さん、川原静江さん、黎川零奈さん――。いくらでも候補はいるじゃない」
 しかし、天神さんはさらりと返してくる。というか、最後の1人はプロジェクトシリーズのキャラじゃないから!
「……! 確かにそうですけど……、でも私は……―――」
 まずい……。天神さんを納得させるような反論が浮かばない……!
 言葉を詰まらせた私に対し、天神さんは非情な宣告を下した。
「言い訳無用よ、鷹野さん。私はこのカードを発動!」
 そして、天神さんが発動したのは、1枚の魔法カードだった。

HEROINE RELIEF −女主人公交代−
(魔法カード)
もうアンタの時代は終わったんだよ!

 ……!? 『HEROINE RELIEF』!? 何コレ!? 女主人公交代って……ふざけてるの!? ちょっと……何なのよコレ!?
「このカードの効果で、ユーはプロジェクトシリーズのヒロインではなくなりマ〜ス!」
 ああああ!? なんか天神さんの人格が変わってるし!! つーか、本当にヒロインでいられなくなるの私!?
「パニッシュメントゲ〜ム!」
 ちょ……待てよ!! まずは私の話を聞……ってまぶしい!! 何なのこの眩い光は……!
 いったい私は……どう……な…………る…………の………………??

 …………あ……頭が…………朦朧とする…………。

 ……い……意識が……飛んじゃう…………。

 …………わ………私の…………青春…………………はここで…………終わ…………るの……………………?










 ◆


 こうして、天神さんとの闇のゲームで敗北した鷹野さんは、罰ゲームにより、プロジェクトシリーズのヒロインではなくなったということです。
 そんな彼女が復活するのは、果たしていつになるのか。それはまだ、誰にも(作者にも)分からないのであります。

 お後が宜しくないようで。




〜Fin〜





おまけ 1人FAQ

Q.鷹野さんや天神さんの性格が、本編と少し違う気がするのですが……。
A.制作事故です。

Q.これまで無敗だった鷹野さんが負けましたが、作者的にはどう思いますか?
A.相手が天神さんですから、負けても仕方ありません。

Q.鷹野さんは何故、ライフを回復する必要があったのですか? それならむしろ、『拷問車輪』や『波動キャノン』を使って更なるダメージを狙った方が、効率が良くないですか?
A.制作上の都合です。お察し下さい。

Q.鷹野さんや天神さんの着ていた水着って、どんな水着ですか?
A.ご想像におまかせします。

Q.これからプロジェクトシリーズのヒロインは誰が務めるのですか?
A.調整中(09/8/16)








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