プロジェクトCT

製作者:あっぷるぱいさん




 この作品は、『プロジェクトBF』の続編です。『プロジェクトBF』が未読の方は、まずそちらからお読みください。
 なお、執筆時期の都合上、本作品に登場する一部のカードの効果が、漫画版・遊戯王GXのものに準拠しています。ご了承ください。
 また、本作品には、以下の2作品についてのネタバレが含まれています。その点もご了承ください。
 『番外プロジェクト 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜』
 『番外プロジェクト2 〜プロジェクトシリーズvs決闘学園!〜』(豆戦士さん作品)


 <こんてんつ>
 1章 新たなる力
 2章 ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!
 3章 オリカを活かすデュエル
 4章 うずまきを活かすヒロイン
 5章 ヒータの炎!
 6章 悪いことはいけません
 7章 引き当てる女
 8章 逆転劇
 終章 ありがとう、さようなら






 皆さん、お久しぶりです。僕のことを覚えていますか?
 そう、僕の名は……公式的にはない。けど、一応このシリーズにおいては、「パラコンボーイ」の名で通っている。
 パラコンボーイ――何故こんな名で通っているのか、謎に思う人もいるかも知れないので、その名の由来について今一度、説明をしておこう。
 簡単に言えば、「寄生虫“パラ”サイドを“混”入した少年(ボーイ)」、略してパラコンボーイ――それが、この通り名の由来だ。ちなみに、「パラサイドを混入した? それって何の話?」と思った人は、原作コミックス19巻を読んでみることをオススメする。
 というかさ……、いつになったら僕の本名が明かされるの? もしかして、僕は「名無し」のまま一生を終えるのか? まさか、そんなことはないよね?
 ……うん、そんなことはないはずだ。大丈夫。ファイブディーズの製作スタッフさんたちに期待しよう。きっとその内、僕も登場できるはずだ!



1章 新たなる力

 さて、前置きはこのくらいにして……。
 僕は今、カードショップで買い物をしている最中だ。目的は当然、強いカードを手に入れて、デッキを強化すること!
 強いデッキを作るには、まず、強いカードを手に入れなければならない。だからこそ、僕は何としてでも強いカードを手に入れ、その上で、最強のデッキを作らなければならないのだ!
 そして、最強のデッキを作った上で、僕はあの人に勝たなければならない。そう……! 鷹野麗子に!

 ところで、皆さんは鷹野麗子を覚えているだろうか? 僕の永遠のライバルである鷹野さんのことを。まあ、忘れちゃった人は、これまでのプロジェクトシリーズをざっと読み流してみてほしい。

 で、本題だけど、僕はまだ、鷹野さんとのデュエルで勝てたことがない。プロジェクトシリーズは意外と長く続いているが、それでも、僕が勝てたことは一度もない。僕が主人公であるのにもかかわらず、鷹野さんは勝ち続け、僕は負け続けている。
 だからこそ……、だからこそだ! もうそろそろ、彼女に一度くらいは勝っておきたいところなのだ! 考えてみてほしい。このまま僕が彼女に負け続ければ、同じ展開の繰り返しでマンネリ化してしまい、面白みがなくなってしまうじゃないか! むしろ、今まで負け続けていた僕が勝つからこそ、ストーリーに起伏が出て面白くなるというものだ! ならば、僕が鷹野さんに勝つということは、もはや使命であるとも言える。プロジェクトシリーズをより面白くするためにも、僕は鷹野さんに勝たなければならない!
 そう! 極端な言い方をすれば、僕と鷹野さんの戦いは、プロジェクトシリーズの存亡が懸かった戦いなのだ! 僕が勝てば、無事にマンネリ化を防ぐことができる! だが、僕が負ければ、マンネリ化を進行させてしまい、次回作あたりでプロジェクトシリーズは終わる! さすがにそれはマズイ! 読者の皆さんが同じ考えかどうかはさておき!

 何としても、鷹野さんに勝つ! 勝って、このシリーズをより面白くする! それが、このシリーズを存続させるための計画――プロジェクトCT(Continue)――の目的なのだ!

 ――と、そんなわけで、僕は鷹野さんに勝つためにデッキを強化することに決めた。その第1歩として、こうしてカードショップにカードを買いにきたというわけさ。
「すいません、3番のパックを1つください」
 購入するカードパックを決めた僕は、すぐに会計を行った。僕が選んだパックは、『レジェンド・オブ・オリカ』という名のパック。最近発売したばかりのカードパックだ。とりあえず、カード5枚入りのパック(税込み150円)を1パックだけ買ってみることにする。
 まあ、本当なら『ストラクチャーデッキ−絵空編−』が欲しかったんだが、相変わらず売り切れているので、今日のところは諦めておく。まったく、ゴールドシリーズ並みの売れ行きだな。
 会計を終え、パックを入手した僕は、早速パックを開けてみた。うん。やっぱり、こうしてパックを開ける瞬間のワクワク感っていうのはたまらないね。さ〜て、何が出るかな? 1枚ずつ、パックからカードを取り出していこう!

 ……と、パックを開けるまではワクワクしていた僕だったが、1枚目のカードを見た瞬間、そのワクワク感は吹き飛ぶことになった。

 普通の折れ竹光使い
 ★0/闇属性/戦士族
 このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「折れ竹光」を装備したモンスター1体を生贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
 1ターンに一度、以下の効果から1つを選択して発動する事ができる。
 ●相手ライフに0ポイントのダメージを与える。
 ●自分のライフポイントを0ポイント回復する。
 攻0  守0

 ……何これ?
 頑張って召喚したところで、その効果は役立たず。しかも、このカード自身は超弱小モンスター……。
 ……ま、次行こう。さすがに、この手のカードが何枚も入っているはずが―――

 勝利の女神ぽぽたん
 ★1/光属性/魔法使い族
 このカードは通常召喚できない。相手ターンのエンドフェイズ時、自分のライフポイントを50ポイントになるように払い、相手のライフポイントを8500ポイントにし、相手フィールド上に「ヴィクトリーフラグトークン」(昆虫族・地・星12・攻8600・守5000)1体を攻撃表示で特殊召喚する事でのみ特殊召喚できる。
 このカードが特殊召喚に成功した時、自分の手札・自分フィールド上に存在するモンスター・自分フィールド上にセットされたカードを全て裏側表示でゲームから除外する。
 攻0  守0

 ……意味が分からない。
 自分のライフを50、相手のライフを8500にして、相手の場に攻撃力8600のトークンを召喚。そして、自分の場のモンスターとセットカードと手札を全て消し飛ばす――この効果のどこが『勝利の女神』に相応しい効果なのか、僕にはよく分からない。どう見てもデメリットの塊にじゃねーか。つーか、何で8500とか8600とか、微妙に半端な数値が使われてるんだ? どうせなら、もっとキリのいい数値にしろよ。
 ……何か、騙されたような気持ちになってきた。と……とりあえず、次だ。

 ジャックポット!
 (永続魔法カード)
 500ライフポイントを払って発動する。
 自分のデッキをシャッフルし、その後デッキの上からカードを3枚めくる。
 めくったカードが全てレベル7のモンスターだった場合、めくったカードを全て自分フィールド上に召喚条件を無視して特殊召喚する。
 それ以外の場合は、めくったカードを全てデッキに戻してシャッフルする。
 この効果は自分のターンのメインフェイズ時に何度でも使用する事ができる。

 まさにスロットマシーン! いや、いくら何でもこれは無理あるだろ!
 次行こう、次!

 ヒューリスティクス・クラッシュ
 (永続罠カード)
 フィールド上に存在するこのカード以外の全てのカードのコントロールと、お互いのライフポイントを入れ替える。
 この効果は自分・相手ターンを問わず、1ターンに何度でも任意のタイミング(ダメージステップ時も含む)で発動する事ができる。

 おお、この効果はなかなかいいんじゃないか!?
 ……と思ったのだが、カードの左下の方に、「公式デュエルでは使用できません」と書かれていることに気付いた。
 チキショオ! 公式デュエルで使えないカードを市販のパックに入れんじゃねーよバーカバーカ!

 くっ……! 4枚のカードを見てみたけど、結局、使えそうなカードは1枚もなかった。残るはあと1枚……。この1枚が使えないカードだった場合、せっかく払った150円が無駄になってしまう!
 た……頼むよデュエルの神様! 僕は何としてでも鷹野さんに勝ちたいんだ! だから、こんなところでつまずいているわけには行かないんだ!
 最後の1枚! 運命の1枚! デュエルの神々よ、僕に力をぉぉぉぉおおおおおおお!!!
「ドロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
 パックからカードを取り出すだけなのに、僕は思わず大声で叫んでしまった。だが、そんなことを気にしている場合じゃない!
 ラスト1枚! その正体は!?

 えくすとりーむ☆ふゅーじょん!
 (永続魔法カード)
 ???

 ラスト1枚は、レア仕様の永続魔法カードだった。とりあえず、カードの左下を見てみる。……よし。「公式デュエルでは使用できません」とは書かれていないな。
 問題は効果テキスト……。なになに?


 …………うん。


 …………ほぉ。


 ………………おお。


 ………………おおおお!!!


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 強い! このカードは強いぞ! まさしく、僕のデッキにピッタリ合うカードじゃないか! やった! 今日はツイてるぜ!
 『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』は、非常に強力な魔法カードだった。カード名がプレイヤーを馬鹿にしているように見えるが、その力は確かに本物だ! そうだよ、僕はこういうカードが欲しかったんだよ!
 せっかくなので、読者の皆さんにも是非見ていただきたい。『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』が如何に強いカードなのかをね。では、その効果をとくとご覧あ―――

 ネタバレ封じの仮面
 (カウンター罠カード)
 あせるなよ。ストーリーはまだ始まったばかりだぜ!

 ―――おっと。どうやら、まだ作者は『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の能力を明かしたくないようだ。仕方ない。読者の皆さんにはもう少し待ってもらおう。
 とにもかくにも、このカードさえあれば、鷹野さんに勝つことも夢じゃない。長きに渡るあの人との因縁に終止符を打つ時もそう遠くはないと言えるだろう! フッフッフ……早速デッキ構築だ! 今に見てろよ鷹野麗子! はっはっは〜〜〜!
 こうしてテンションが上がった僕は、店内のデュエルスペースでデッキ構築を始めたのだった。




2章 ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!

「何寝ぼけたことぬかしてやがんだぁ! 負けた奴は勝った奴の言うことを何でも聞かなきゃならねぇんだよ!」
「そ……そんな! ひどいよ! それはボクの大切なカードなんだ! 返してよ!」
 デッキ構築を始めてから10分ほど経過した時だった。何かトラブルでも起きたのか、別のデュエルスペースから2人の人間が言い争う声が聞こえた。
「クソガキが! いいかよく聞け! テメーは俺にデュエルで負けた! つまり、テメーは俺に逆らうことはできねぇんだよ! 当然だろうが!」
 声の聞こえる方を見てみると、派手な格好をした男が大声で怒鳴り散らしているのが目に入った。男は多分、高校生だろう。
「ぼ……ボクは賭けデュエルをするなんて言ってないよ! だからそのカードは返して!」
 派手な高校生に対し、どこか弱々しく反論する男……というか少年。こっちは小学5,6年生といったところか。
「ケッ! 何甘ったりぃこと言ってやがる! 勝負の世界でそんな理屈が通ると思ったら大間違いだぜ! テメーは俺に負けた! 負けた奴にどうこう言う権利はねぇ! よって、この『E・HERO(エレメンタルヒーロー) プリズマー』3枚は俺のモンだ! 分かったかクソガキ!」
 高校生は、3枚の『E・HERO プリズマー』をかざしながら怒鳴り続ける。なるほど、高校生はデュエルで勝ったのをいいことに、あの小学生から3枚のプリズマーをぶんどったってわけか。
 そんな高校生を相手に、小学生は必死に食い下がり続ける。
「た……頼むよ! その3枚のプリズマーは、ボクが死に物狂いでやっと手に入れたカードなんだ! ボクの友達にはM&Wプレイヤーがたくさんいるけど、その中でプリズマーを持っているのはたった3人だけだった! 1人は同じクラスの友達! もう1人は隣のクラスの友達! そしてもう1人は、ボクより1つ年下の、下級生の友達だ!
 当然、交換してくれと言って、首を縦に振る人はいない! そこで、ボクは強硬手段を使った! ボクのコネを用いれば、彼らを補習&宿題地獄に追い込むこともできたし、近所の不良中学生を動かすこともできた! 1人は登校拒否にまで追い込んでやったよ!
 そして、ボクは彼らから3枚のプリズマーを交換してもらったんだ! ね!? 分かるでしょ!? そのプリズマー3枚を集めるために、ボクはすっごく苦労してきたんだよ! だからお願い! プリズマーは返して!」
「知るかボケェェ! つーかテメー、かなりのワルだな!」
 プリズマー3枚を手に入れるまでの苦労を長々と語った小学生だったが、高校生の耳には届かなかった。まあ、当然だろう。
 さて、こういうトラブルが起きた場合、店員が何かしら対処するはずなんだが……。この店の店員は皆、見て見ぬ振りをして、誰も止めようとする気配がなかった。
 店員の数は5人。多分、5人の誰もが「俺が止めなくても、誰かが止めてくれるだろ」とか考えているんだろうな。……って、それじゃダメだろ!

 見て見ぬ振り
 (魔法カード)
 自分の安全率は40ポイントアップ!
 自分の罪悪感は80ポイントアップ!

 うーむ。なら、客である僕らが止めに入るしかないのか。……あぁ、でもあの高校生、メチャクチャ喧嘩強そうだし……、下手に関わると痛い目に遭いそうだ……。
 ……って、何考えてるんだ僕! ああいう奴に勇敢に立ち向かってこそ主人公じゃないか! そうさ! 痛い目がなんだ! 僕は主人公! 傷付くのを恐れる人間じゃないぜ!
 ……あぁ、でもやっぱり怖そうだなぁ〜。仮にこの場は何とか凌げても、あとであの高校生に仕返しとかされたら怖いし……って、そういう考え方しちゃ駄目だろ! こんな考え方は雑魚キャラの考え方だ! 主人公である僕がそんな考え方をしてどうする!? さあ、勇気を持って、一歩を踏み出すんだ僕! 早くしないと、プリズマー3枚が取られちゃうぞ!
 僕は、主人公の誇りを胸に、一歩を踏み出す……はずが、どういうわけか足が動かない! な……何故!? まさか、僕が恐れているというのか!? そんな馬鹿な! 僕は主人公だぞ! こんなところで負けてちゃ駄目なんだぞ! 進むんだ、僕! 早くしないとプリズマーが……! く……う……動かん……! 何で!?
 ……よ……よし! ならこうしよう! 頭の中で3つ数えたら、あの高校生を止めに入る! これで行こう! よ〜し……数えるぞ……! ひと〜〜つ…………ふた〜〜つ………………―――――


「そういうことは良くないと思いますよ、お兄さん」


 ……3つ目を数えようとしたその時、僕の背後からそんな声が聞こえた。
 この状況においても、一切恐れを感じさせない、落ち着いた、それでいて自信に満ちた声だった。
 そして、僕はこの声に聞き覚えがあった。
「鷹野さん?」
 振り返ると、確かにそこに鷹野さんの姿があった。なんと、鷹野さんもこのカードショップにいたらしい。一体いつから? もしかして、僕が来る前から……?
「死に損ないのパラコンボーイ、奇遇ね。ちなみに私は、今さっき、ここに来たところよ」
 僕の考えを察したのか、そんな風に言いつつ、鷹野さんは高校生に向かって歩を進める。……ていうか、誰が死に損ないだこのクソ女!
「何だテメーは! カンケーねぇ奴はすっこんでろ!」
 高校生が表情を険しくし、鷹野さんに怒声を浴びせる。しかし、鷹野さんは怯むことなく、言葉を紡いだ。
「賭けデュエルをすると言っていない相手から、賭けカードと言ってカードを奪い取るのはどうかと思いますが」
「ぶち殺されてぇか女! 俺のルールに口出しするんじゃねぇ!」
 声のボリュームを上げる高校生。それでも、鷹野さんは怯まず、高校生と小学生がデュエルを行っていたテーブルを指差した。テーブルには、まだデュエルで使用されたカードが置かれている。
 そして、テーブルを指差した鷹野さんは、思わぬ言葉を口にした。
「そうそう。あなたが使っていたこのカード、公式デュエルでは使用できないカードですよ」
「くっ……!」
 鷹野さんの言葉を聞き、高校生がほんの一瞬だけ怯む。同時に、周囲がざわつき始める。
 え? つまりアレか? あの高校生は、公式デュエルで使用できないカードを使い、小学生とデュエルして勝った……ということか?
「ほら、このカード。左下に確かに、『公式デュエルでは使用できません』と書いてあります。さすがにこれは使っちゃまずいですよね?」
 テーブルに置かれていたカードを1枚手に取り、それが公式デュエルで使用不可であると、高校生に訴える鷹野さん。何のカードなんだろう?
 気になった僕は、鷹野さんが手に取ったカードをよく見てみた。どれどれ……?

 伝説の折れ竹光使い
 ★0/闇属性/戦士族
 このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「折れ竹光」を装備したモンスター1体を生贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
 このカードが特殊召喚に成功した時、相手のライフポイントは0になる。
 攻0  守0

 ……!? な!? 『伝説の折れ竹光使い』だとぉぉぉぉぉぉおおおおおお!?
「そう。『伝説の折れ竹光使い』は、公式デュエルでは使用できないカードです。こんなものに頼って勝とうとするなんて、デュエリストとしては失格ですね」
 淡々とそんな言葉を口にする鷹野さん。で……『伝説の折れ竹光使い』か……。まあ確かに、あんなチートカード、公式デュエルで使えなくて当然だろう……。
 ……けど、僕には1つ気になることがあった。
「鷹野さん。ちょっと質問なんだけど、確か『プロジェクトBF』で、鷹野さんは『伝説の折れ竹光使い』を普通にデュエルで使用してたよね? あれってルール違反じゃないの?」
「…………」
 僕は右手を挙げつつ、鷹野さんに質問してみた。そう。僕が気になったのは、『プロジェクトBF』で、鷹野さんが『伝説の折れ竹光使い』を何事もないかのようにデュエルで使用していたことだ。
 もし、鷹野さんの言うように、『伝説の折れ竹光使い』が公式デュエルで使用できないカードなら、僕はあの時、ルール違反をされた上でデュエルに負けたことになる! そんなことが許されるはずがない!
 さあ、答えてもらおうか鷹野さん! 君はルール違反をしつつ、僕をデュエルで倒したのか!?
「パラコン、よく思い出してみて。あの時、私が『伝説の折れ竹光使い』を使った時のことを」
 僕の疑問に対し、鷹野さんは若干顔を引きつらせつつも、すぐにそう答えた。
 え? あの時のことを思い出せって? うーん……。あの時は確か……、鷹野さんが『伝説の折れ竹光使い』を召喚して……―――


 ◆


「『伝説の折れ竹光使い』の効果発動! 相手のライフを0にする!」
 ちょ……待て鷹野さん!! そんなカード使っちゃ駄目だ!! 君にも決闘者としてのプライドがあるのな―――――

僕 LP:4000→0

「私の勝ちね、パラコン。敗者には罰ゲームよ! オホホホホ!!」

 ―――シュウウウウッ

 僕の気持ちなどそっちのけで、鷹野さんは高笑いしながら、僕に向かって消火器をぶちまけてきた! うぁぁあああ目がぁぁっ!! くっそぉぉおおおおお!! またこれかよぉぉぉおおおお!! つーか、何だよその笑い方は!!
 と……とにかく! 今の勝負はいくらなんでも納得できない! おそらく読者も同じことを思っているはずだ! きちんと訴えなければ!
「げふんごふん! 鷹野……さん! 君は……そんなカードを使ってまで勝利を収めて……少しも心が痛まな―――――」
「じゃあ、冗談はこれくらいにして、そろそろ本気で決闘しましょうか」
 聞けよクソッタレがぁぁあああ!!! 今カッコイイ台詞で決めようとしてたんだからさぁ!! あぁぁあああもうムカつく女だ!! つーか、冗談だったんなら、罰ゲームいらないだろうが!! 何で消火器ぶちまけたんだよ!?


 ◆


「そう。あの時私は、『冗談はこれくらいにして』と口にした。要するに、あの時私が『伝説の折れ竹光使い』をデュエルで使ったのは、ただの冗談だったってことよ。公式デュエルで使用できないカードを本気で使うわけないじゃない」
 ……なるほど。
 要は、『伝説の折れ竹光使い』は単なるジョークだったってことか。というか、あの何気ないセリフには、そういう意味が含まれていたのか。
 ま、そりゃそうだよな……。『伝説の折れ竹光使い』なんてチートカードがまかり通るようじゃ、作者がまともにデュエル構成することができなくなるだろうし……。

 後付け
 (罠・魔法カード)
 後から色々な設定を付け加え、都合よくストーリーを進行させる。

 何はともあれ、あの高校生がルール違反をしていたことが分かった。さすがにこれでは、あの高校生も引き下がるしかないはず……!
「チッ! 余計なこと言いやがって! あぁ、そうだよ! 俺は公式デュエルで使えないカードを使った! だから何だ!? デュエルってのはなぁ、勝てばいいんだよ、勝てば!」
 ……って、引き下がるどころか開き直り始めたし! う〜む、ルール違反を指摘するぐらいじゃ駄目か。
 と、なれば……。次に鷹野さんが繰り出す一手は……、やはりアレか。

 ゲームをしようぜ!
 (魔法カード)
 あらゆるトラブルを、ゲーム1つで片付ける。

「この程度じゃ引き下がってくれませんか。なら――」
 鷹野さんはそこで一旦言葉を区切ると、身に着けていたスカートの裾をほんのわずかにめくり、右足に取り付けていたデッキホルダーからデッキを取り出した。
 そして、取り出したデッキを名蜘蛛に向け、堂々と言った。
「――デュエルでケリをつけましょう」
「何? デュエルだと?」
 予想通り、鷹野さんは高校生にデュエルを挑んだ。そうだよな。遊戯王はやはりこうでなくては!
「あなたが勝てば、そのプリズマーはあなたの好きなようにして構いません。ついでに、私のデッキの最高レアカードも渡しましょう。でも、あなたが負けたら、3枚のプリズマーは手放してもらいます。そして、これから行うデュエルでは、公式デュエルで使えないカードは使用禁止。……これでいかがですか?」
「テメーのデッキの最高レアカードだと!? クク……いいだろう! テメーのゲームに乗ってやる! 今の言葉を忘れんなよ!」
 別に、高校生はこのデュエルを受けなくてもいいはずだが、よほど「ついでに、私のデッキの最高レアカードも渡します」の一言が利いたのだろう、ノリノリでデュエルを引き受けた。
 やはり、遊戯王の世界の住人とは、物分りのいい人が多いものだな。

 ご都合主義
 (魔法カード)
 都合のいい展開でストーリーを進行させる。

「そうと決まれば、早速デュエルだ! さっさとそこに着きな!」
 高校生は、先ほど小学生とのデュエルで利用していたテーブルに着いた。しかし、鷹野さんは、そのテーブルに着こうとしなかった。
 あれ? 何で鷹野さん、テーブルに着かないの?
「おい! 何やってんだよ!? とっととそこに着きやがれ!」
 テーブルに着かない鷹野さんに向かって、高校生が怒鳴る。それに対し、鷹野さんは何でもないかのような口調で答えた。
「あなた、何を言ってるんですか? 誰も“私がデュエルする”なんて言ってませんよ?」
「!?」
 …………は?
 ど……どういうことだ? ここは鷹野さんがデュエルするんじゃないの? そういうつもりで言ってたんじゃないの!?
「て……テメー! ふざけ―――」
「デュエルは……そうですね。彼にやってもらいましょう。パラコン! こっち来なさい!」
 高校生の言葉を遮りつつ、鷹野さんはデュエルをする人間を指名した……って、僕かよ!? 僕がその高校生とデュエルすんの!?
「デュエルは彼――パラコンボーイにやってもらいます。反論は受け付けません」
 鷹野さんは、実に身勝手に話を進めていく。ちょ……待てよ! 何で僕があんたの代わりにデュエルを!? つーか、パラコンボーイって呼ぶんじゃねえ!
「ケッ! いきなり怖気づきやがったか! まあいい! おい、パラコンとかいう奴! とっととこっち来い!」
 高校生も高校生で、何故だか深く追求することはしなかった。くそっ! 何なんだよコレ!
 ……ま……まあいい。ちょうど僕も、新たに構築したデッキの切れ味を確かめたかったところだ。この高校生には、実験台になってもらおう。
「……よろしくお願いします」
 テーブルに着いた僕は、とりあえず、高校生に挨拶をしておいた。一応、礼儀だからね。
 が、しかし!
「遅ぇぜパラコン! 俺の先攻、ドロー!」
 僕の挨拶などには耳も貸さず、高校生は勝手に先攻取ってデュエルを始めやがった!! おのれぇぇぇえええええ!! このクソ野郎が!! 礼儀ってモンを知らんのか貴様は!!!
 クソッタレが! もう頭に来た! こんな奴、僕の新生デッキで粉砕してやる! 見てろよチキショオが!




3章 オリカを活かすデュエル

 非常に不機嫌になりながら、僕はシャッフルしたデッキから5枚のカードを引いた。こんなボンクラ、すぐにぶっ潰してやる!
「ヘヘ……早速行かせてもらうぜ! 俺は魔法カード『暗黒界の取引』を発動! 互いにカードを1枚引き、その後、手札を1枚捨てる!」
 勝手に先攻取りやがった高校生が何か発動してきた。『暗黒界の取引』か。じゃあ、1枚ドローだな。
 僕はカードを1枚引いた後、手札の『カイザー・グライダー』を捨てておいた。『カイザー・グライダー』は攻撃力2400の上級モンスター。墓地に送っておけば、いずれ『死者蘇生』などによる特殊召喚が狙えるだろう。
 さて、このクソッタレ高校生の方もカードを1枚引き、手札を1枚捨てたようだ。
「俺が捨てたカードは、『暗黒界の武神 ゴルド』! こいつがカード効果で手札から墓地に捨てられた時、場に特殊召喚することができるぜ!」
 ん? 『暗黒界』? ……そう言えば、そんなカードあったっけ?
 カード名に『暗黒界』とついたモンスターは、カード効果で手札から墓地に捨てられることで、特殊能力を発揮するものが多い。例えば、今このクソ野郎が使った『暗黒界の武神 ゴルド』は、カード効果で手札から墓地に捨てられた時、墓地から特殊召喚される能力を持っている。
 しかも、『ゴルド』の攻撃力は、2300と意外に高い。まさか、1ターン目でいきなり攻撃力2300のモンスターを召喚するとは……。
 なるほど。この高校生は、『暗黒界』を使用するデュエリストらしい。
「さらに、俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド! テメーのターンだぜ!」
 高攻撃力のモンスターを呼び出し、高校生はターンを終えた。
 まあ、いきなり『ゴルド』を出したのには驚いたけど、所詮はそこまでだ。ここからは僕の華麗な戦術を見せてやろう。
「僕のターン、ドロー!」
 カードを引くと、僕は自分の手札をよく確認してみた。

 〜僕の手札〜
 手札抹殺,光の追放者,ゴキボール,ゴキボール,ゴキボール,レアゴールド・アーマー

 フフ……。僕の手札には、既に3枚の『ゴキボール』が揃っている! しかし、今こいつらを手札に揃えておいたところで、役には立たない。
 ならば!
「僕は『光の追放者』を守備表示で召喚! さらに、魔法カード『手札抹殺』を発動!」
「なっ!」
 僕が召喚した『光の追放者』は、守備力2000のモンスター。このカードが場にある限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かず、ゲームから除外される。
 そして、魔法カード『手札抹殺』は、互いの手札を全て捨てさせ、その枚数分のカードを新たに引かせるカードだ。
 本来なら、相手が『暗黒界』の使い手であるこの状況で、『手札抹殺』を使うことは自殺行為に等しい。何故なら、さっきも言ったように、『暗黒界』のモンスターは、カード効果で手札から墓地に捨てられた時、能力を発揮するものが多いからだ。
 しかし、あくまでそれは、「墓地に捨てられた時」の話。僕がこのターンに召喚した『光の追放者』の効果により、墓地へ送られるカードは全てゲームから除外される。つまり、『光の追放者』が場にいる限り、『暗黒界』のモンスターは能力を発揮できないのだ。
「クソ! 小賢しい手を使いやがって……!」
 高校生は苦虫を噛み潰したような顔をして、手札を全てゲームから除外した! はっはっは! ざまあ見ろこのアホッタレが!
 まあ、『手札抹殺』の効果は僕に対しても及ぶので、僕の手札の『ゴキボール』3体と『レアゴールド・アーマー』もゲームから除外されることになる。
 けど、これでいい。
「互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分だけカードを引く!」
 こうして、僕と高校生は4枚の手札をゲームから除外し、新たに4枚のカードを引くことになった。互いに手札の総取り換えだ。
 そして、入れ替わった手札を見て、僕は思わず笑いそうになってしまった。

 〜僕の手札〜
 平行世界融合,砂塵の大竜巻,運命の宝札,えくすとりーむ☆ふゅーじょん!

 来たぜ! 今日の最強カード、『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』!
 まだ入手して間もないこのカード――『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』。これを見た瞬間、僕の脳内で、クソ高校生を瞬殺する戦術が完成した。フフ……目にもの見せてやるぜ!
 とりあえず、このカードの力は次の僕のターンでお披露目するとして、このターンは『砂塵の大竜巻』を伏せて終わりにしよう。
「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」


【僕】
 LP:4000
 モンスター:光の追放者(守2000)
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:3枚

【勝手に先攻取りやがったクソ高校生】
 LP:4000
 モンスター:暗黒界の武神 ゴルド(攻2300)
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:4枚


「ッ……! 俺のターンだ! ドロー!」
 高校生のターン。こいつにとっては、『光の追放者』は邪魔な存在だろう。だからこそ、このターンで破壊しようと考えるはずだ。
 しかし、僕からすれば、『光の追放者』はもう役目を果たしているので、破壊されたところで大して問題じゃない。
 フフ……。ルールもマナーも知らない愚か者よ。お前では、僕に勝つことはできないのさ!
「俺は魔法カード『闇・エナジー』を発動! このカードの効力で、場の闇属性モンスターの攻撃力は2倍になる!」
 ……! 『闇・エナジー』……ね。そいつの効果で、闇属性である『ゴルド』を強化するってわけか。

 暗黒界の武神 ゴルド 攻:2300→4600

 『ゴルド』の攻撃力が4600にまで上昇する。あの『青眼の究極竜』をも超える攻撃力だ! 愚か者にしては、なかなか派手な攻め方をするじゃないか!
「『ゴルド』で『光の追放者』を攻撃だ! くたばりやがれ!」
 力を上げた『ゴルド』が、『光の追放者』を撃破する。攻撃力4600のモンスターか……。けど、僕の切り札はその力をも上回る! そのことを次のターンで教えてやる!
「フン! 俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
 高校生がカードを伏せ、エンド宣言をする。じゃあ、僕はここで伏せカードを使わせてもらおう。
「リバーストラップ、『砂塵の大竜巻』を発動! このカードは、相手の場の魔法・トラップカード1枚を破壊するカード! これで、今あなたが伏せたカードを破壊します!」
「……っ!」
 前のターンに伏せておいた『砂塵の大竜巻』で、高校生の伏せカードを破壊しておく。破壊したカードは『ドレインシールド』。敵モンスター1体の攻撃を無効にし、その攻撃力分のライフを回復する、面倒なトラップカードだ。
 しかし、僕の真の狙いは、トラップカードを除去することではない。真の狙いは、『砂塵の大竜巻』の持つもう1つの効果を使うこと。
「『砂塵の大竜巻』の第2の効果! 僕は手札から魔法・トラップカード1枚を場にセットできます!」
 そう。『砂塵の大竜巻』には、手札の魔法・トラップカードを場にセットする効果がある。僕が本当に使いたかったのはこっちだ。
 僕は手札にあった『平行世界融合(パラレル・ワールド・フュージョン)』のカードを伏せておいた。……フフフ。これで準備は整った!


【僕】
 LP:4000
 モンスター:なし
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:2枚

【勝手に先攻取りやがったクソ高校生】
 LP:4000
 モンスター:暗黒界の武神 ゴルド(攻4600)
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:3枚


「僕のターン!」
 さて、デュエルはこのターンで終わる。僕の持つ最強のカードによって、ね。
 それでは、読者の皆さんにお披露目しよう! 僕の華麗なる戦術を!
「行きますよ! 手札から永続魔法を発動! 『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』!」
「!? な……っ! 『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』!?」
 僕はまず、今日の最強カードである『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』を場に出しておいた。クク……こいつの効果は強烈だぜ! 覚悟しろ!
「さらに、僕は伏せておいた魔法カード『平行世界融合』を発動! この魔法カードは、ゲームから除外されたモンスターを融合させるカード!」
「!? 除外されたモンスターの融合だと……!?」
 オリカを出されて混乱している高校生に追い討ちをかけるかのごとく、僕は伏せカードを開いた。漫画版GXで遊城十代が使っていたカード――『平行世界融合』。これさえあれば、除外されたモンスターを融合素材にできる!
 そう……。さっきのターンに除外された、3体の『ゴキボール』を融合させることができるのだ!

 平行世界融合
 (魔法カード)
 融合モンスターの素材となるモンスターがすべてゲームから除外されていたら、その除外されたモンスターを融合し、融合召喚する。
 つーか、まさかOCG化されるとは思わなかったよ! もはや訂正のしようがないから、この作品内では漫画版GXの効果で突き通すことにするぜ! よろしくガッチャ!

「このカードの効果で、除外された『ゴキボール』3体を融合! 出でよ、『マスター・オブ・ゴキボール!』」
「ま……『マスター・オブ・ゴキボール』ぅぅぅぅ!?」
 除外されていた『ゴキボール』3体がひとつとなり、僕のデッキの切り札である『マスター・オブ・ゴキボール』が召喚された! ふはははははー! すごいぞー! かっこいいぞー!

 マスター・オブ・ゴキボール
 ★12/地属性/昆虫族/融合
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが破壊された時、空いている自分のモンスターゾーン全てに「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を特殊召喚する。
 「ゴキボールトークン」はルール上、カード名を「ゴキボール」として扱う。
 攻5000  守5000

「こ……攻撃力5000のモンスターが……いとも簡単に……!」
 『平行世界融合』の効果によって、速攻召喚された『マスター・オブ・ゴキボール』。それを前にして、高校生がアホみたいに顔をしかめている。まあ、無理もないか。
 しかし! これで驚くのはまだ早いぞ! 今こそ、僕の真の力を拝ませてやる!
「ここで、さっき発動した永続魔法『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果が発動する!」
「え!?」
 そう! 今日の最強カード『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』は、このタイミングで恐るべき力を発揮するのだ! さあ、恐れおののくがいい!

 マスター・オブ・ゴキボール 攻:5000→8600

「…………っ!? な……何で『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力が上がってんだよ!?」
 突然『マスター・オブ・ゴキボール』が攻撃力を上げたことで、驚きを露にする高校生。フッフッフ……! これこそが、『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の秘めた特殊効果!
「永続魔法『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果によって、融合モンスターは融合素材となったモンスターの攻撃力を吸収するんですよ」
「!? 融合素材モンスターの攻撃力を……吸収……!?」
 そう。『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』とは、融合モンスターを強力にサポートする魔法カード。このカードの力により、融合モンスターは融合素材モンスターの攻撃力を吸収し、力を増大させるのだ。
 その効果によって、僕の『マスター・オブ・ゴキボール』は、融合素材となった『ゴキボール』3体の攻撃力を吸収した。『ゴキボール』1体の攻撃力は1200だから、それが3体分ならば、合計で3600ポイント。つまり、『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力は3600ポイント上昇し、8600までアップしたってわけだ!
「く……っ! いきなり攻撃力8600のモンスターを出してくるとは……! だ……だが、融合モンスターは、融合したターンに攻撃はできないぜ!」
 ん? 何か戯言が聞こえるな。融合モンスターは融合したターンに攻撃できない? ああ、確かにそうだね。原作ルールに従えば、そういうことになる。
 が、しかし!
「残念でしたね。『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果によって、融合モンスターは融合したターンに攻撃を行うことができるんですよ!」
「…………!? ふ……ふざけんじゃねぇぇぇ!! 何だその都合のいい効果は!?」
 はっはっは〜〜! 『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』は、融合モンスターを強力にサポートするカードだ! このくらいのことは朝飯前に決まってるじゃないか! ざまあ見ろこの馬の骨が! うっひゃっひゃっひゃ!

 えくすとりーむ☆ふゅーじょん!
 (永続魔法カード)
 融合モンスターは融合素材モンスターの元々の攻撃力を吸収し、融合したターンでも攻撃する事ができる。

「何なんだよその効果は!? 『速攻』の立場はどうなるんだよ!?」
 『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の能力を目の当たりにしたことで、慌てふためく高校生。フッ! 無様なものだ!
 ちなみに、『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』のテキストをOCG風にすると、↓のようになるらしい。OCGルールに合わせて多少の変化があるけど、ほぼ同様の効果だ。

 えくすとりーむ☆ふゅーじょん!
 (永続魔法)
 融合モンスターが融合召喚に成功した時、その融合モンスターの攻撃力は融合素材に使用したモンスターの元々の攻撃力の数値分アップする。

「く……っ! こんなオリカってありなのか……? もうちょっと、パワーバランスとか考えた方が……」
 未だに『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果に驚きを隠せない様子の高校生。まあ、気持ちは分からないでもないが、別にバランス的な問題はないだろ。M&Wというゲームは、攻撃力が高ければ勝てるっていうわけじゃないし……。
 ていうか、お前の今の言い方だと、何だか僕がチートオリカを使う卑怯な敵みたいに見えてくるじゃないか! ふざけんなよ! 僕はいつでも正々堂々とした立派なデュエリストだ! 『伝説の折れ竹光使い』なんかを使ったテメーとは違うんだよ!
 ……まあいい。デュエルの方に戻ろう。今、僕の場のモンスターは、攻撃力8600の『マスター・オブ・ゴキボール』が1体。対する高校生の場のモンスターは、攻撃力4600の『ゴルド』が1体。
 このターンのバトルで、僕の『マスター・オブ・ゴキボール』が『ゴルド』を粉砕すれば、高校生は4000ポイントのダメージを受けてライフが0になり、敗北する。……フッ! 所詮はこの程度か!
 まあ、高校生の場には伏せカードが1枚あるから、まだ1%くらいなら、こいつにも生き残るチャンスがあるだろう。とはいえ、そんなのは無意味な延命工作に終わるだろうけどね。
 それじゃ、バトルと行こうか。マヌケな高校生よ、せいぜい、自分の無力さに打ちひしがれるがいいぜ!
「バトル! 『マスター・オブ・ゴキボール』で『ゴルド』を攻撃!」
「く……くそっ!」
 このバトルが成立すれば、デュエルは終了だ。僕の勝利によって。フッ……! 呆気ないものだっ――――



「……な〜んてな。リバーストラップ『ディメンション・ウォール』!」



 …………。
 …………は?
 何か……高校生が伏せカードを開いたぞ……!? ……『ディメンション・ウォール』? ……何それ? ぼくそんなかーどしらないよ。
「ハッハッハ! 引っ掛かりやがったな! 『ディメンション・ウォール』は敵モンスターの攻撃宣言時に発動するトラップカード! その効果によって、戦闘で自分が受けるダメージを、代わりに相手に受けさせる! この意味分かるよなぁ?」
 ……ダメージを……相手に受けさせる……だと……?
 ということは……アレか? 今の戦闘で高校生が受けるはずだった4000ダメージは……―――。
「そう。俺に発生した4000ダメージは、代わりにテメーが受けることになるんだよ! ヒャ〜ッハッハッハ! 傑作だぜ!」
 …………。……ちょ!?
 ダメージを反射するトラップって……! そんなカードアリかよ!? キタねーぞこの……―――
「消えな! 雑魚デュエリストが!」

 僕 LP:4000→0

 うおおおおおおおお!? 僕のライフが0にぃぃいい!?
 そ……そんな馬鹿な……!? この僕が……こんな奴に負けるなんて……! こんなことってあるのかよ!? せっかくオリカだって登場したのにさぁ! ていうか、よくよく考えてみたら、オリカが裏目に出たようなものじゃん! 何だコレ!?
「弱っ……」
 そんでもって、背後から鷹野さんの嘲るような声が聞こえた。うるせぇーーーんだよこの女ぁぁあああああ!!!!
 お……落ち着け僕。冷静になるんだ……。いや、しかし……。まさか、こうもあっさり新生デッキが打ち砕かれてしまうとは。
 つーか、このままだと、高校生にプリズマー3枚持ってかれちゃうな……。どうしよう……。
「ハッハッハ! あっさりケリがついたな! さぁて、約束は約束だ! プリズマー3枚はもらっていくぜ! そして女! テメーのデッキのレアカードもな!」
 勝利を収めた高校生は、勝ち誇ったように鷹野さんに言う。くそっ……! これでプリズマー3枚は高校生の手に渡ってしまう。そして、鷹野さんのデッキのレアカードも……。
「ほら、とっととレアカードを出しな、女! それがルールのはずだぜ!」
 鷹野さんに手を向け、レアカードを差し出すように促す高校生。そう。悔しいけど、高校生が言うように、ルールは守らなきゃいけない。負けは負け。よって、鷹野さんはレアカードを差し出さなければならな―――



「レアカードを出せ? 何を言ってるんです? “パラコンに勝てばあなたの勝ち”だなんて、誰も言ってませんよ」



「…………」
 鷹野さんが口にした言葉に、高校生は言葉を失った。そして、僕も何が何だか分からなかった。
 え? ちょ……っと待ってくれ? えーと、鷹野さん。君は一体何を言っておるのだね?
「ふ……ふざけんなテメー! 俺が勝ったら、レアカードを渡すってルールだっただろうが!」
 当然の如く、高校生は怒り出す。だが、鷹野さんは引き下がらない。
「“パラコンに勝てばあなたの勝ち”とは言っていません。レアカードが欲しければ、私とのデュエルで勝ってください」
 怒る高校生に対し、鷹野さんは落ち着き払って答える。……あれ? 「レアカードが欲しければ、私にデュエルで勝ってください」?? な……何を言ってるんだこの人は……??
「て……テメー! さっき『自分はデュエルしない』って言ってたじゃねぇか! ふざけたことヌカしてんじゃねぇぞコラァ!」
「はて? “私はデュエルをしない”なんて一言も言った覚えはありませんがね……。まあ、“私がデュエルをする”とも言っていませんけど」
「ッ!? こ……こいつ! だったらどうして、そこのパラコン野郎にデュエルを押し付けたんだ!?」
「え? 単にデッキ構築し直す時間が欲しかったからですよ。パラコンには時間を稼ぐためにデュエルをしてもらいました」
「〜〜〜〜!」
 食ってかかる高校生を、屁理屈を使って回避する鷹野さん。酷い……。
 多分、彼女は初めからこの展開を予測してたんだろうな。もし僕が高校生に勝った場合は、普通にプリズマー3枚を取り戻す。そして、今のように僕が高校生に負けた場合は、屁理屈を使って回避する……。ずるがしこい女だ。
「要は、ちゃんと追求しなかったあなたが悪いんですよ、不良高校生(1)さん。はっきり言いましょう。“プリズマー3枚とレアカードが欲しければ、私に勝ってください”」
「クソッ! あぁ、分かったよ! つまりはテメーに勝ちゃいいんだろ!? その言葉に二言はないな!?」
 反論するのが面倒くさくなったのか、高校生はわりとあっさり鷹野さんの言い分に応じた。何だかんだでノリがいいなこの高校生。
「私もデュエリストです。二言はありませんよ、不良高校生(1)さん」
「ケッ! なら、とっととテーブルに着きやがれ! あとそれから、俺の名は不良高校生(1)じゃねえ! “名蜘蛛コージ”だ!」
 苛立ちながら、高校生は自らを“名蜘蛛コージ”と名乗った。

 かくして、“ずるがしこい女――鷹野さん vs 不良高校生(1)――名蜘蛛コージ”の対戦構図がここに完成したのであった。




◎章末付録 1人FAQ 〜『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』について〜

Q1:攻撃力上昇効果の分類は何ですか?
A1:誘発効果です。『ブラック・ガーデン』と似たようなものと思ってください。

Q2:では、攻撃力上昇効果は、強制発動ですか? また、チェーンブロックを作りますか?
A2:強制発動です。また、発動時にチェーンブロックを作ります。要は『ブラック・ガーデン』と同じです。

Q3:では、このカードがフィールドを離れた時、このカードによって攻撃力が上がったモンスターの攻撃力は元に戻りますか?
A3:戻りません。『ブラック・ガーデン』と同じ。

Q4:では、このカードの効果で攻撃力が上昇した融合モンスターに対し、OCG効果の『収縮』を使用した場合、攻撃力はどうなりますか?
A4:『ブラック・ガーデン』と同じだよ!

Q5:では、『邪神ドレ―――
A5:だからぁ〜! 『ブラック・ガーデン』と同じ!




4章 うずまきを活かすヒロイン

「俺の先攻で行かせてもらうぜ! ドロー!」
 デッキシャッフルを終え、鷹野さんと名蜘蛛のデュエルが始まった。先攻は名蜘蛛が勝手に取った。
 このデュエルで鷹野さんが勝てば、3枚のプリズマーは無事に小学生の手に戻る。しかし、鷹野さんが負ければ、3枚のプリズマーと鷹野さんのレアカードが名蜘蛛の手に渡ってしまう。
 つまり、このデュエルは鷹野さんにとって、負けることのできないデュエル。果たしてどうなるか?
「よし。俺は『暗黒界の狂王 ブロン』を召喚!」
 名蜘蛛が出したのは、攻撃力1800のモンスターカード。このモンスターは、相手に戦闘ダメージを与えた時、自分の手札を1枚捨てさせる効果を持つ。手札から捨てられることで力を発揮する『暗黒界』との相性は抜群だ。
「さらにカードを1枚伏せ、ターンエンドだ! クックック……テメーのターンだぜ!」
 1枚の伏せカードを出し、名蜘蛛がエンド宣言。よっぽど伏せカードに自信があるのか、彼は意地の悪い笑みを浮かべている。そう……。彼の表情はまさに、「俺の場にはミラーフォースが伏せてあるぜ!」と言わんばかりの表情だった。
 とりあえず、鷹野さんのターンだ。
「私のターン、ドロー」
 カードを引くと、鷹野さんは6枚になった手札を一瞥した。そして……。
「あらあら……。ふふふ……名蜘蛛さん。このデュエル、私の勝ちですよ」
「!」
 微笑を浮かべつつ、はっきりと鷹野さんは勝利宣言をした! え!? 早くない!? つーか何!? あの人もしかして、後攻1キルするつもりなのか!?
「ま……まだ後攻1ターン目だってのに勝利宣言だと!? ……何を言ってやがる……!? そんな都合よく1キルができると思ってるのか!?」
 いきなり勝利宣言され、わずかに怯む名蜘蛛。そんな彼など知ったことじゃないといった様子で、鷹野さんは動き始めた。
「私はまず、フィールド魔法『うずまき』を発動。このカード効果により、デュエルのルールがOCGルールから原作ルールに切り替わります」
「な!? 何だとぉ!?」
 ……って、何を出すのかと思えば『うずまき』かよ!? うわぁ……出たよ! ある意味で鷹野さんを象徴するチートカード!

 うずまき
 (フィールド魔法カード)
 フィールドは「うずまき」となり、全ての常識は覆る。

「デュエルのルールがOCGルールに変化したことで、お互いのライフは4000ポイント上昇します。何しろ、OCGルールでは、初期ライフが4000ではなく8000ですからね」

 鷹野さん LP:4000→8000
 名蜘蛛 LP:4000→8000

「そして、OCGルールは原作ルールと違い、1ターン中に手札から出せる魔法カードの枚数に制限がありません。よって私は、手札から魔法カード『デス・メテオ』を発動。これにチェーンして、速攻魔法『ご隠居の猛毒薬』を発動。さらに、これにチェーンして速攻魔法『連鎖爆撃(チェーン・ストライク)』を発動」
「ちょ……!?」
 OCGルールに変わったのをいいことに、鷹野さんはいきなり、手札から魔法カードを連発した! 何だかもう、やりたい放題だなこの人は……
「『連鎖爆撃』は、このカードの発動時に積まれているチェーンの数×400ダメージを与えるカード。積まれているチェーン数は3つなので、1200ダメージを受けてもらいます」

 名蜘蛛 LP:8000→6800

「そして、『ご隠居の猛毒薬』は、自分のライフを1200回復するか、相手ライフに800ダメージを与えるか、どちらかを選んで発動するカード。私が選んだのは当然、800ダメージを与える効果です。受けてもらいますよ」

 名蜘蛛 LP:6800→6000

「最後に、『デス・メテオ』は言わずと知れた、相手ライフに1000ダメージを与えるカード。これも受けていただきましょう」

 名蜘蛛 LP:6000→5000

「それから、私は『ファイヤー・トルーパー』を召喚。このモンスターが場に出た時、このモンスターを墓地に送ることで、相手ライフに1000ダメージを与えることができます。もちろん、この効果も使用しますよ。1000ダメージを受けてください」

 名蜘蛛 LP:5000→4000

「!!?? ……お……俺のライフが……一気に4000も削られただとぉぉぉおおお!!! こんなのアリかよ!?」
 プレイヤーへの直接攻撃系カードを連発され、あれよあれよと言う間に、名蜘蛛のライフは半分になってしまった! うわぁ……鷹野さん容赦ねぇ!


【鷹野さん】
 LP:8000
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし
 フィールド:うずまき(OCGルール適用)
 手札:1枚

【名蜘蛛】
 LP:4000
 モンスター:暗黒界の狂王 ブロン(攻1800)
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:4枚


 けど、一気に名蜘蛛のライフを4000削るために、鷹野さんは4枚もの手札を消費してしまった。おかげで彼女の手札は残り1枚。少々、手札使いが荒いようにも思えるが……?
「これで……最後です。私は速攻魔法『非常食』を発動。このカードは、発動時に自分の場の魔法・トラップカードを任意の枚数墓地に送り、その枚数×1000ポイントのライフを回復します」
「クッ……! 調子に乗りやがって……!」
 結局、鷹野さんは残り1枚の手札――『非常食』のカード――も惜しみなく使ってしまった。あのカードによって、自分の場の魔法・トラップを墓地に送り、ライフを回復すると……。
 ……あれ? 自分の場の魔法・トラップを墓地に送るってことは……もしかして……―――
「私は、フィールド魔法『うずまき』を墓地に送って『非常食』を発動。ライフを1000回復します」

 鷹野さん LP:8000→9000

「そして、『うずまき』がフィールドを離れたことで、デュエルのルールがOCGルールから原作ルールに戻ります。よって、先ほど4000ポイント増大したお互いのライフポイントは、今度は4000ポイント減少することになります
「…………!? な……何だと!?」
 …………。
 さっき『うずまき』が発動した際、デュエルのルールがOCGルールになったことで、互いのライフは4000ポイント増えた。しかし、『うずまき』が場から離れてしまえば、増えた4000ポイント分のライフは当然、消えることになる。
 つまり、『うずまき』が場を離れることは、「互いのライフが4000ポイント減少する」ことと同義……。
 と、いうことは…………――――!

 鷹野さん LP:9000→5000
 名蜘蛛 LP:4000→0

「お……俺のライフが……0になっただとぉぉぉぉおおおおお!!!!???? そ……そんな馬鹿な……馬鹿な……ッ!!」
 嘘ぉぉぉお!!?? こんな形でライフを0にするなんてアリなの!? そりゃあ確かに、『うずまき』の効果を考えてみれば、こういう戦術もアリなんだろうけど……。でも、何だかインチキくさくないか!?
「クソッ! こんなのイカサマだ! 納得行かねえ!」
 名蜘蛛も納得が行かないらしく、素直に負けを認めようとしない。まあ、そりゃそうだよな。
「イカサマなんかじゃありません。さ、プリズマー3枚は手放してもらいますよ」
 きっぱりとイカサマを否定しつつ、鷹野さんはプリズマー3枚を返すように促す。しかし、名蜘蛛は引き下がらなかった。
「ちょっと待てよ! テメーさっき、『チートカードに頼って勝つのはデュエリスト失格』とかほざいたよな!? だが、テメーの使った『うずまき』は、どう見てもチートカードだぜ! 人のこと言えねーじゃねーか! 正々堂々勝負しやがれ!」
 『うずまき』をチート呼ばわりする名蜘蛛。彼に味方をするわけではないけど、実にもっともな意見だと僕は思った。
 さて、鷹野さんはこの意見にどう対抗するのか……。
「チートカードだなんて、酷い言いようですね。『うずまき』は由緒正しき原作出身のカードです。チートなんかじゃありません」
「な!?」
 ……そう来たか。
 どうやら、鷹野さんにとっては、「原作出身カード≠チートカード」らしい。どんなに壊れ効果であろうが、原作で普通に使用されているカードは、決してチートカードとは言えない――それが、彼女の構築した理論というわけだ。
「くっ! 確かに『うずまき』は原作カードだ! それは認める! だが、『うずまき』の持つ効果はこのシリーズ独自のものだ! よって、『うずまき』の効果そのものは原作出身じゃない! そこのところはどう説明する気だ!?」
 名蜘蛛も負けじと、新たな落としどころを指摘してきた。なるほど……。確かに、『うずまき』の“効果”は、このシリーズのオリジナルであって、原作のものじゃない。つまり、この点については、先ほどの鷹野さんの理論は通用しない。なかなか痛いところを突いて来たな……。
「……ルールを切り替える程度の能力、この世界ではチートとは言いませんよ」
 痛いところを突いてきた名蜘蛛に対し、鷹野さんはメチャクチャ強引に切り替えした。酷ぇ……。
「ふざけんな! 『うずまき』だって充分チートだよ! テメーの目は節穴か!?」
「『伝説の折れ竹光使い』なんかを使うあなたに言われたくありません」
「……ッ! テメー……! 自分のことは棚に上げといてそんなことを! つーか、『うずまき』によるライフ変動の仕方がおかしいじゃねーか! 『番外プロジェクト2』では、『うずまき』によるライフ変動の仕方は『2倍・半減』だったはずだぜ! なのに、今のデュエルでは、ライフ変動の仕方が『4000増減』だった! これは一体どういうことだよ!」
「先週、『うずまき』のライフ変動について、『2倍・半減』から『4000増減』に裁定が変わった――ただそれだけのことです」
「な……何だその簡単かつ御都合主義な設定!? せめてもう少しまともな設定考えろよ! ……ていうか、テメー確か、『番外プロジェクト』と『番外プロジェクト2』のラストで、ヒロインの座と創作ストーリーに出演する権利を失ったはずだよな!? 何でここに登場してんだよ! ルール違反じゃねーか!」
「ああ、その事実については、『うずまき』の持つ第6の効果を使って揉み消しました。ですから私は、ヒロインの座も創作ストーリーに出演する権利も失っていません」
「なっ!? ちょっと待てテメー! 『うずまき』の第6の効果って……、そんないい加減な設定で『番外プロジェクト』をなかったことにしていいのかよ!? いくらヒロインだからって、やっていいことと悪いことがあるはずだぜ!」
「これが権力って奴ですよ。オホホホホ」
「!? いきなり何言い出してんだテメーは! 権力って何だよ!? 何様のつもりだこのクソッタレが!」
「何様って……女王様」
「〜〜〜〜!」
 …………。思わず、地の文でツッコミを入れることすら忘れさせるほどに、鷹野さんと名蜘蛛の口論は激しいものだった。
 そして、そんな2人の口論は、その後もしばらく続くことになるのだった。

 何の勝負してるんだよ、お前ら。




5章 ヒータの炎!

 あれから数時間。
 激闘の末、鷹野さんと名蜘蛛の口論は、「原作ルールではモンスターおよびプレイヤーへの直接攻撃系魔法は使用禁止だ! よって、テメーのデュエルはルールに違反してるぜ! 正々堂々、もう一度勝負しやがれ!」という名蜘蛛の意見によって、ひとまず終わりを迎えた。
 さすがに、あの鷹野さんでも原作の設定に逆らうことはできなかったのだろう。密かに舌打ちをしつつも、彼女は名蜘蛛の意見に従い、2度目のデュエルをすることとなった。
「先ほどとは違い、今の私のデッキには、プレイヤーへの直接攻撃系魔法は入っていません。このデッキを使って、再度デュエル行います。よろしいですね?」
「ああ、いいだろう! ったく、最初からそうしろってんだ!」
 かなり機嫌を悪くし、険しい表情を浮かべている名蜘蛛。対する鷹野さんは、相変わらず落ち着き払い、微笑を浮かべている。ホント、マイペースな人だな……。
「じゃあ、ラスト・デュエルと行きましょうか、名蜘蛛さん」
「フン! 勝つのは俺だ! すぐにそれを証明してやるぜ!」
 そんなこんなで、鷹野さんと名蜘蛛は、互いに相手のデッキをシャッフルした後、ラスト・デュエルを開始した! 今度こそ、ちゃんと決着させろよ!

「「デュエル!!」」

 鷹野さん LP:4000
 名蜘蛛 LP:4000

 「こよりを使ってクシャミを呼び寄せる対決」の結果、鷹野さんが先攻を取ることになった。
「へっくし! ……私の先攻、ドロー。……私はまず、リバースカードを2枚セット。さらに、『D−HERO(デステニーヒーロー) ダイヤモンドガイ』を守備表示で召喚します」
「『D−HERO』……!」
 鷹野さんが召喚したのは、『D−HERO』の名を冠する戦士。守備力は1600とそこそこだが、この戦士は特殊な能力を備えてるんだよね。
「『ダイヤモンドガイ』のエフェクト発動。デッキの一番上のカードを確認し、それが通常マジックだった場合、そのカードをセメタリーに送り、次の私のターンにそのカードのエフェクトを発動できます」
「……未来のターンで、魔法を発動させるHERO……ってワケか……」
 未来のターンでの魔法効果の発動。これが『ダイヤモンドガイ』の能力だ(ちなみに、その魔法カードの発動コストや発動条件は無視できるらしい)。
 ただし、この効果を成功させるには、デッキの一番上のカードが通常魔法カードである必要がある。それ以外のカードだった場合、そのカードがデッキの一番下に戻されるだけで終わってしまう。
「じゃあ、カードをめくりますね」
「ケッ! さっさとしやがれ!」
 鷹野さんがカードをめくる。さて、鷹野さんの運命やいかに!?

 めくられたカード:死者蘇生

「デッキの一番上のカードは『死者蘇生』。墓地のモンスターを復活させる通常マジックですね。通常マジックだったから、次のターンでの発動が約束されました」
「チッ! 運のいい奴が!」
 鷹野さんは見事、通常魔法を当てた。やるじゃないか。……というか、『ダイヤモンドガイ』が召喚されてから、鷹野さんのセリフの所々に英語が混じっているように聞こえるが気のせいか?
「私はこれで、ターンエンド。名蜘蛛さんのターンですよ」
「言われなくても分かってんだよ! 俺のターン、ドロー!」
 『ダイヤモンドガイ』の効果を成功させたところで、鷹野さんのターンが終わる。次は名蜘蛛のターンだ。
「……クク……いい手札だ! 俺はカードを1枚伏せ、魔法カード『墓穴の道連れ』を発動!」
「……!」
 『暗黒界』を扱う名蜘蛛が、早速仕掛けてきたな。もし、モニター前の皆さんが、原作をよく読んだ人であれば、『墓穴の道連れ』はきっと印象に残っていることだろう。
「『墓穴の道連れ』……。互いに手札を見せ合い、相手の手札を2枚捨てさせる、忌々し……厄介な魔法カード……」
 『墓穴の道連れ』の効果で、名蜘蛛と鷹野さんの手札は全てさらけ出される。そして、互いに相手の指定した2枚のカードを捨てることに……。
「このカードの効果に従い、互いの手札は全てさらけ出される! 女! 手札を見せてもらうぜ!」
「……仕方ないですね。はい。この3枚です」
 『墓穴の道連れ』の効果で、まずは鷹野さんの手札が公開される。どれどれ?

 〜鷹野さんの手札〜
 ネコマネキング,ネコマネキング,ネコマネキング

 …………!?
 ちょ……何だこの手札!? 何でいきなり『ネコマネキング』がキッチリ3枚揃ってんの!? 何これ? 新手のサイバー流?
 鷹野さんの手札にある『ネコマネキング』は、相手のカード効果によって墓地に送られた時、即座に相手ターンを終了する(厳密に言えば、相手ターンのエンドフェイズにする)効果を持っている。まさか、こんなに都合よく3枚揃うとは……。
「なっ……!? 3枚とも『ネコマネキング』だとぉ!? こ……これじゃあ……」
「ええ。あなたがどんな選び方をしたところで、『ネコマネキング』は墓地へ送られることになります。つまり、もうあなたのターンが終了することは確定しているってことですね」
 鷹野さんの言うように、名蜘蛛のターンが終了することは確定した。……名蜘蛛よ、お前ちゃんと鷹野さんのデッキシャッフルしたのか?
「……く……クソッ。仕方ねぇ。両脇の『ネコマネキング』2枚を捨てろ!」
「ふふ……分かりました」
 結局、名蜘蛛は両脇の『ネコマネキング』2枚を選び、鷹野さんはそれらのカードを墓地に捨てた。これで名蜘蛛のターンが終了することが確定したな。
 さて、次は鷹野さんが名蜘蛛の手札を捨てさせる番だ。
「チッ! 俺の手札はこの4枚だ! さっさとこの中から2枚のカードを指定しろ!」
「…………」
 憤慨しながら、名蜘蛛が4枚の手札を公開する。はてさて、こいつの方はどんなカードを隠していたのやら。

 〜名蜘蛛の手札〜
 暗黒界の武神 ゴルド,暗黒界の武神 ゴルド,暗黒界の軍神 シルバ,暗黒界の軍神 シルバ

 …………。
 えええええ!? 名蜘蛛よ、何だその手札は!?
 『暗黒界の武神 ゴルド』は、さっきのデュエルでも登場した、カード効果で墓地に捨てられた際、特殊召喚されるモンスター! それが2枚あるだと!?
 それだけじゃない! 奴の手札には『暗黒界の軍神 シルバ』まである! 『シルバ』は平たく言えば、『ゴルド』と同じ能力を持ったモンスター! つまりは、こいつもカード効果で墓地に捨てられた時、特殊召喚される! 攻撃力も『ゴルド』と同等の2300! しかも、こいつまで2枚あるじゃないか!
 何という手札! 名蜘蛛の奴、どんだけ運がいいんだよ!? さっきの『ネコマネキング』3枚も驚いたが、こっちはこっちでエラい手札だな! つーか、お前らホントに相手のデッキをシャッフルしたのかよ!?
「……『ゴルド』と『シルバ』が2枚ずつ……。どちらもカード効果で手札から捨てられた際、復活するモンスター……。私がどんな選び方をしても、名蜘蛛さんの場に2体の『暗黒界』モンスターが並ぶことは避けられない、ってわけですね」
「クク……そういうことだ! さあ、カードを選ぶんだな、女!」
 そう。鷹野さんがどんな形で2枚の手札を指定しようが、名蜘蛛の場には2体の『暗黒界』が並ぶわけだ。鷹野さんにとっては、好ましくない状況だろう。
「じゃあ、『ゴルド』と『シルバ』を1枚ずつ指定します」
「ほう、そうか。じゃ、この2枚を墓地に捨てるぜ」
 結局、鷹野さんは『ゴルド』と『シルバ』を1枚ずつ選択した。そして、選択されたカードは墓地に捨てられる。
「『墓穴の道連れ』の効果にはまだ続きがある! 互いのプレイヤーは、残った手札を全てデッキに戻し、シャッフルした後、最初の手札の枚数分、デッキからカードを引く!」
「私は3枚、名蜘蛛さんは4枚のカードを引くわけですね」
 『墓穴の道連れ』のドロー効果を処理し、鷹野さんの手札が3枚、名蜘蛛の手札が4枚になる。そして……!
「『墓穴の道連れ』の効果で手札から捨てられたことで、『ゴルド』と『シルバ』が墓地から特殊召喚されるぜ!」
「……っ!」
 自身の効果により、『ゴルド』と『シルバ』が復活する! 名蜘蛛の奴、これで一気に攻撃力2300の上級モンスターを並べたか!
「ホントなら、ここで一気に攻めたいところだが、『ネコマネキング』の効果があるから、俺はこれでターンエンドだ!」
 上級モンスターを並べた名蜘蛛だったが、『ネコマネキング』の効果によって、既にエンドフェイズまでスキップされている。もはや、こいつにできるのは、エンド宣言をすることだけだ。
 と、ここで鷹野さんが動いた。
「じゃあ、ここでリバース発動。『砂塵の大竜巻』」
「なっ……!?」
 名蜘蛛がエンド宣言をした瞬間、鷹野さんが伏せカードを開いた! こ……このタイミングで!?
「『砂塵の大竜巻』は、相手の場の魔法・トラップを1枚破壊するトラップカード。この効果で私は、名蜘蛛さんの場の伏せカードを破壊しますね」
「っ……! 伏せカード除去かよ……!」
 『砂塵の大竜巻』の効果により、名蜘蛛の場の伏せカード――『聖なるバリア−ミラーフォース−』――が破壊された。さすがは鷹野さん、抜け目がない。
「さらに、『砂塵の大竜巻』のもう1つの効果で、私は手札の魔法・トラップカードを1枚、場にセットします」
 『砂塵の大竜巻』の第2の効果で、新たな伏せカードを場に出した鷹野さん。これで、彼女の場の伏せカードは再び2枚になったか……。


【鷹野さん】
 LP:4000
 モンスター:D−HERO ダイヤモンドガイ(守1600)
 魔法・罠:伏せカード2枚
 手札:2枚

【名蜘蛛】
 LP:4000
 モンスター:暗黒界の武神 ゴルド(攻2300),暗黒界の軍神 シルバ(攻2300)
 魔法・罠:なし
 手札:4枚


「私のターン、ドロー」
 鷹野さんにターンが移る。前のターンでは見事に名蜘蛛の動きを止めた彼女だが、このターンは一体どうするつもりなのか?
 3枚の手札を一瞥すると、鷹野さんはすぐに動き始めた。
「私はまず、さっき伏せておいた魔法カード『アースクエイク』を発動。このカードで、場のモンスターをすべて守備表示にします」
 最初に、鷹野さんの場に伏せられていた魔法カードが発動し、名蜘蛛の場の『ゴルド』と『シルバ』が守備表示になる。この2体の守備力は1400。倒せない数値ではないな。
「次に、手札の『火霊使いヒータ』を墓地に送って、魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動。この効果により、手札かデッキからレベル1のモンスター1体を特殊召喚できます。私は、デッキからレベル1の『大木炭18(インパチ)』を特殊召喚」
 続いて、鷹野さんの場に『大木炭18』が現われる。レベル1でありながら、守備力2100を誇るモンスターだ。
「そして、『ダイヤモンドガイ』のエフェクトでセメタリーへ送られた『死者蘇生』のエフェクトを発動。『ワン・フォー・ワン』を発動する際にセメタリーへ送った、『火霊使いヒータ』を蘇生させます」
 鷹野さんの動きは止まらない。先のターンに墓地へ送られた『死者蘇生』の効果を使用し、墓地から『火霊使いヒータ』を復活させた。
「まだまだ行きますよ。『火霊使いヒータ』に炎属性モンスター『大木炭18』を憑依装着! 煌めく炎が悪を滅する光となる! デッキより特殊召喚! 燃え上がれ! 『憑依装着−ヒータ』!」
 場の『火霊使いヒータ』と『大木炭18』が墓地に送られ、今世紀史上最悪の壊れカード、『憑依装着−ヒータ』が現れた! この方法で召喚された『憑依装着−ヒータ』は、守備モンスターを攻撃した時に貫通ダメージを与えられる!
 つーか、またその壊れカードかよ!? いい加減、禁止カードにすべきだよ、そいつは!

 トラウマ
 (罠カード)
 自分は1850ポイントの精神的ダメージを受ける。

「まだ終わりませんよ。手札から『激昂のミノタウルス』を召喚。さらに、『ダイヤモンドガイ』を攻撃表示に変更」
 まだまだ続く、鷹野さんのメインフェイズ。次に彼女が呼び出してきたのは『激昂のミノタウルス』。このカードも『ヒータ』と同じく、守備モンスターを攻撃した時に貫通ダメージを与えることができる。そして、守備表示だった『ダイヤモンドガイ』も攻撃表示となった。


【鷹野さん】
 LP:4000
 モンスター:D−HERO ダイヤモンドガイ(攻1400),憑依装着−ヒータ(攻1850),激昂のミノタウルス(攻1700)
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:0枚

【名蜘蛛】
 LP:4000
 モンスター:暗黒界の武神 ゴルド(守1400),暗黒界の軍神 シルバ(守1400)
 魔法・罠:なし
 手札:4枚


 あっと言う間に、鷹野さんは攻めの布陣を作り上げた。『ダイヤモンドガイ』は攻撃力1400。『憑依装着−ヒータ』は攻撃力1850。そして、『激昂のミノタウルス』は攻撃力1700。
 これに対し、名蜘蛛の場には、守備力1400の『ゴルド』と『シルバ』が存在している……。
「バトル! 『憑依装着−ヒータ』で『ゴルド』を攻撃! 『ヒータ』の効果により、守備モンスターの守備力を攻撃力が上回っていれば、その数値分の貫通ダメージを与えます!」

 憑依装着−ヒータ 攻:1850
 暗黒界の武神 ゴルド 守:1400

 名蜘蛛 LP:4000→3550

「続いて、『激昂のミノタウルス』で『シルバ』を攻撃! このカードもまた、守備モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与えます!」

 激昂のミノタウルス 攻:1700
 暗黒界の軍神 シルバ 守:1400

 名蜘蛛 LP:3550→3250

「これで名蜘蛛さんの場はがら空きですね。『ダイヤモンドガイ』でダイレクトアタック!」

 D−HERO ダイヤモンドガイ 攻:1400

 名蜘蛛 LP:3250→1850

「ば……馬鹿な……! 1ターンで場ががら空きにされただとぉぉ!?」
 展開早ッ! ……と、思わず言いたくなるくらい、鷹野さんはあっさりと名蜘蛛の布陣を崩した。今や、名蜘蛛の場ががら空きなのに対し、鷹野さんの場には3体のモンスターがいる。
 しかも、名蜘蛛のライフは既に半分を切っているのに対し、鷹野さんのライフは未だ4000のまま! うわぁ〜! 圧倒的に鷹野さんが有利じゃん!
 さすがは鷹野さん、といったところか。でも、名蜘蛛のライフは残ってるし、彼の手札は4枚もあるから、まだ分からない……かな。
「クソッ……図に乗りやがって! だが、俺の手札には既にキーカードが揃っている! 次の俺のターン、テメーのライフは確実に0になるぜ!」
 勝ち誇ったように言う名蜘蛛。彼曰く、彼の手札には、鷹野さんのライフを削りきれるだけのカードが揃っているらしい。う〜む……。大丈夫なのかな、鷹野さ―――



「ふふ……。ごめんね、名蜘蛛さん。リバーストラップ、『火霊術−「紅」』!」



「なぁ……ッ!?」
 …………!? 鷹野さんの場の伏せカードが開いた! 『火霊術−「紅」』……だと? ……そのカードの効果って……確か……?
「『火霊術−「紅」』は、自分の場の炎属性モンスター1体を生贄に捧げて発動するトラップカード。その効果によって、生贄に捧げた炎属性モンスターの、元々の攻撃力分のダメージを、相手に与えます」
「ほ……炎属性モンスターの攻撃力分のダメージ……! ……と……いうことは……?」
 僕は、鷹野さんの場に目を向けてみた。彼女の場の炎属性モンスターといえば、史上最凶の壊れカード『憑依装着−ヒータ』! そして、『ヒータ』の元々の攻撃力は……―――!
「『憑依装着−ヒータ』を生贄に、『火霊術』を発動! 『ヒータ』の元々の攻撃力――1850ポイントのダメージを受けなさい!」
「ば……馬鹿なぁぁぁぁああぁ!!!」

 名蜘蛛 LP:1850→0

 『火霊術』の効果により、名蜘蛛のライフは0を示した。
 まさに、鷹野さんの完全勝利だった。




6章 悪いことはいけません

「原作ルールでは、プレイヤーへの直接攻撃系魔法は使えないけど、トラップなら問題なく使えます(破壊輪とかね)。そうですよね? 名蜘蛛さん」
 デュエルを終え、鷹野さんはまず口にしたのは、そんな言葉だった。そして、その言葉に対し、名蜘蛛は何も言い返すことはなかった。
 なるほど、魔法が駄目ならトラップでプレイヤーを攻撃しちゃえ! というわけか。
「さて、約束です。プリズマー3枚は手放してもらいましょう」
「……っ! クソッタレが!」
 悪態をつくと、名蜘蛛は3枚のプリズマーをテーブルの上に置いた。彼も一応、デュエリストとしての筋は通すようだ。
「これで、3枚のプリズマーは無事に取り戻せたわね」
 ニッコリしながら言うと、鷹野さんは3枚のプリズマーを手に取り、自分の懐に入れた。うん。まあ、色々あったけど、これで無事にプリズマーは小学生の手に……―――。

 …………?

 ちょっと待て。鷹野さん、いま確か、自分の懐に3枚のプリズマーを入れたよな? ……あれ?
「ちょ……ちょっとお姉さん! そのプリズマーはボクのだよ! 返してよ!」
 当然の如く、3枚のプリズマーの持ち主であるあの小学生が叫んだ。そうだよ。そのプリズマーは小学生の持ってたカードであって、鷹野さんのカードではない。何やってんだ鷹野さんは?
「あら、誰かと思えば、3章以降全く登場シーンがなかった小学生くん。何か用?」
 慌てふためく小学生に対し、さり気なく酷い言い方をする鷹野さん。そんな言い方はないだろ……。
「何か用? ……じゃないよ! プリズマー返してよ! ボクのために、あのお兄さんを倒してくれたんでしょ!?」
 必死に喰いかかる小学生。だが、鷹野さんは妙な言葉を口にする。
「え? 何言ってるの? 私、あなたのために戦ってたわけじゃないんだけど」
「えぇっ!?」
 …………は?
 ちょ……ちょっと待てよ……? 鷹野さんって、名蜘蛛からプリズマーを取り戻すためにデュエルしてたんだよね? つまりは、あの小学生のために戦ってたんだよね? ……違うの?
「そ……そんなの変だよ! だってお姉ちゃん、あのお兄さんに、『負けたらプリズマー3枚をボクに返せ』って言ってたじゃん!」
 もっともな反論をする小学生。そうだよ、彼の言う通り、鷹野さんは確かに、「あなたが負けたら、プリズマーを返してやれ」と言っていたはず―――
「はて? 私は一度も、『負けたらプリズマー3枚をあなたに返せ』なんて言ってないわよ? 『負けたらプリズマー3枚を手放せ』とは言ったけどね」
「!?!?」
 …………。
 僕は、これまでの鷹野さんの言葉をよく思い返してみた。……確かに、鷹野さんは一度も、『負けたらプリズマー3枚を小学生に返せ』とは言ってなかった。あくまでも、『手放せ』と言ってただけで……。
 いや……しかし……。じゃあ、鷹野さんの目的って何なんだ? 何のために、彼女は名蜘蛛とデュエルを……?
「じゃあ……、お姉さんは何のために、あのお兄さんとデュエルをしたの……?」
 小学生も僕と同じことを思ったのだろう、僕と同じ疑問を口にした。……何が目的なんだ、鷹野さんは? 懐にプリズマーを入れたところから察するに、プリズマーを自分のものにするのが目的……か?
 しかし、鷹野さんの答えは、僕の予想とは違っていた。
「何のために? ふふ……そうね。あなたの強硬手段によって、プリズマーを強引に交換させられた3人の小学生のため、かしら?」
「なっ!?」
 ……強硬手段!? ……あ、そう言えば、2章の最初あたりで、小学生が言ってたっけ! 「強硬手段を使って、プリズマーを入手した」とか何とか! あれってホントだったのか!
「私は、あなたからプリズマーを奪われた3人の小学生に、プリズマー3枚を奪還してほしいと頼まれたの。だから私は、こうして今日、このカードショップに来たのよ。あの子たちによれば、あなたは休日、大抵この店にいるらしいからね。
 そして、私がこの店に来てみると、あなたがあの高校生――名蜘蛛さんにカードを奪われそうになっているじゃない。まあ、私にとっては、プリズマーさえ手に入ればいいわけだから、さっさと名蜘蛛さんからプリズマー3枚を奪い取ることにしたってわけ。
 ……と、まあ、これが真相よ。要するに、この3枚のプリズマーは、元の持ち主に返します、ってことね」
 真相を簡潔に述べた鷹野さん。なるほど。彼女はプリズマー3枚を取り戻すため、今日この場所に来たってわけか。
 しかし、それを聞いて、あの小学生が納得するはずもなかった。
「き……強硬手段でプリズマーを奪ったって……そんなの嘘だよ! デタラメだ!」
「デタラメ? そんなはずないわよ。そもそもあなた、自分でハッキリ言ってたじゃない。『強硬手段でプリズマーを手に入れた』とか何とか。ですよね? 名蜘蛛さん」
「え? あ、あぁ……確かに言ってたな」
 プリズマーを強引に入手したことを否定する小学生だったが、確かに彼は、自分の口で、『強硬手段でプリズマーを手に入れた』と言っていた。つまりは、既に自白済みってことだ。……何で自分から言っちゃったんだ?
「そ……それは……! あの時はとにかく、プリズマーを取られたくなかったから、つい出まかせを言っちゃったんだ! つまり、あれは嘘だよ! ホントなわけないじゃん!」
 自白は嘘だったと主張する小学生。……さすがに、この状況では無理のある主張だな。
「あら、あれは嘘だったのね。……じゃあ、私の方から、ちゃんとした証拠を見せてあげるわ」
 自白が嘘だと知ると(信じてはいないだろうが)、鷹野さんは上着の右ポケットに手を入れた。証拠……?
「私の推理が正しければ、あなたは致命的なミスを犯している。そしてそのミスは、あなたがプリズマーを強硬手段で手に入れたことを如実に物語っている。……これを見ても、あなたはシラを切り通せるかしら?」
 そう言って、鷹野さんは、ポケットからあるものを取り出した。
 その……あるものとは……―――





 ―――ブルーレイ化された、『ボッキンパラダイス 育ち盛りの○学生編』だった。





 そして、それを見た小学生の顔が、どんどん青ざめていくのが分かった。……え? 『ボッキンパラダイス』が致命的なミスなの?
「そ……それを……どこで!?」
「あなたの部屋にお邪魔して、押収させてもらったわ。ご両親の許可をもらった上でね」
 鷹野さんが取り出した『ボッキンパラダイス』は、あの小学生のものらしい。小学生には早すぎだろ……。
「……っ! ……くそっ!」
 言い逃れできないと観念したのか、がっくしと膝をつく小学生。どうやら、『ボッキンパラダイス』の証拠能力は想像以上に高かったらしい。……何でだよ?
「あいつらが悪いんだ! あいつらが僕にプリズマーを見せつけて自慢してくるから! だから僕は、あいつらに仕返しをしてやりたかったんだ!」
 小学生はいきなり、犯行(?)の動機を語りだした。つーか、『ボッキンパラダイス』がどういう風に、あの小学生がプリズマーを強硬手段で手に入れたことを如実に物語っているのかが全く分からないんだが……。
 まあ、おそらくは、僕や読者の皆さんの知らないところで、鷹野さんによる推理劇が繰り広げられていたのだろう。とりあえず、そういうことにしておく。
「言い訳は署の方でゆっくりやってください。名蜘蛛さん、彼を最寄りの警察署まで連行してください」
「!? え? 何で俺が!?」
「デュエルに負けたんだから、1つくらい言うこと聞いてくれたっていいでしょ。さ、早く連行してください」
「て……テメー……! 覚えてろよ! いつか必ずブチのめしてやるからな!」
 デュエルに負けたから、という理由で、鷹野さんは名蜘蛛に、小学生を連行するように指示した。ていうか、わざわざ警察に連れて行くのかよ!? そこまでするのか?
「ったく、めんどくせ〜な! オラ! さっさと歩け、このドスケベが!」
 名蜘蛛も名蜘蛛で、デュエルで負けた以上、逆らうことができないのか、素直に小学生を警察署に連行し始めた。さすが、遊戯王のキャラクターはノリがいい。

 ご都合主義
 (魔法カード)
 都合のいい展開でストーリーを進行させる。

 と、紆余曲折を経たものの、ひとまず、「プリズマー強奪事件(適当に命名)」は、あのドスケベ小学生が署に連行されることで終わりを迎えた。そして、事件が解決したことで、緊迫感に包まれていた(ような気がする)店内は、すぐにいつもの楽しげな雰囲気へと戻る。
 ま、ケガ人とかも出なかったし、とりあえずは、めでたしめでたし、だな。

 …………。

 そう言えば。
 思わぬ事件が起きて、すっかり忘れていたけど、僕は今日、鷹野さんに勝てるデッキを組むために、こうしてカード屋に来てたんだよな……。
 で、今この場所には鷹野さんがいるわけだ……。ちょうど僕の目線の先にあるデュエルスペースで、彼女は数人の男子と一緒に、デュエルを楽しんでいる。

 …………。

 ゲームをしようぜ!
 (魔法カード)
 あらゆるトラブルを、ゲーム1つで片付ける。

「鷹野さん! 突然だけど、君にデュエルを申し込むよ!」
 僕は鷹野さんに向かって叫んだ。
 そう! 今こそ、鷹野さんとの因縁に終止符を打つべき時なのだ! 今の僕のデッキならば、鷹野さんにだって勝てるはず! 何しろ、僕のデッキには、さっき手に入れたばかりの最強オリカが投入されているからね!
 さあ、デュエルだ鷹野さん! デュエリストである以上、売られたデュエルから逃げることは許されない!
「…………。……ふっ」
 鷹野さんは、一瞬だけ僕の方に目を向けると、ふっと鼻で笑い飛ばした。うわっ! ムカつく! 何だその態度! 馬鹿にしてんのか!?
「いいわ、パラコン。そのデュエル受けてあげる。ただし、このデュエルを終わらせてからね」
 彼女は今、1人の男性デュエリストとデュエルをしている最中だった。……まあ、さすがに、そのデュエルを放棄して、僕とのデュエルを行うのはまずい。当然の反応だろう。
 仕方ない。彼女のデュエルが終わるまで待っていることにしよう。ついでだ。待っている間にデッキ調整も済ませておこう。

 かくかくしかじか
 (魔法カード)
 話を短縮し、ストーリーを高速回転させる。

「かくかくしかじかで、私は『所有者の刻印』を発動! これで『ヴォルカニック・クイーン』のコントロールが私に移り、あなたの場はがら空きね! バトルフェイズに入って、『ヒータ』と『ガイア』と『ヴォルカニック・クイーン』と『クリボー』で総攻撃! 私の勝ちよ!」
「うわぁぁ! かくかくしかじかで負けたぁ! くそっ……! 強いな、あんた……」
 かくかくしかじかで、鷹野さんと男性デュエリストのデュエルが終結したらしい。うん。僕の方も、ちょうどデッキ調整が終わったところだ。いいタイミングだな。
 デュエルを終えた鷹野さんは、僕のいるデュエルスペースまで歩いてきた。それに釣られるかのように、彼女の周りの男性デュエリストも、僕の方に向かって歩いてくる。
 さすがは鷹野さん。しっかりと、男性デュエリストどものハートを鷲掴みにしたようだな……。
 鷹野さんは、僕の向かい側に座ると、軽い口調で言った。
「待たせたわね、パラコン。早速始めましょうか。今回はギャラリーもいるわよ」
 僕は周りを見てみた。なるほど。確かに、鷹野さんにハートを掴まれた男性デュエリストどもが、僕らを囲んでいる。つまりは、ギャラリー全員が鷹野さんの味方というわけだ。……めっちゃ僕がアウェーじゃねーか。
「私の先攻ドロー!」
 ギャラリーに気を取られていたら、鷹野さんが隙を突いて先攻を取った! ……って、ふざけんじゃねぇぇぇえええ!!
「た……鷹野さん! 先攻後攻はちゃんと公平に決めなきゃ! というか、デッキシャッフルしないと!」
「……チッ」
 危ない危ない。全く、彼女とのデュエルは一瞬の隙が命取りだな。気を引き締めてかからないと……。

 というわけで、互いのデッキをシャッフルした後、僕と鷹野さんによる宿命のデュエルが幕を開けた。
 よし! 今日こそは……! 今日こそはこの人に勝ってやる! そして、プロジェクトシリーズに新たな風を吹かせてやるぜ!




7章 引き当てる女

 「『遊戯王カード 原作HP』に掲載されている創作ストーリーのページ数を当てるゲーム」の結果、鷹野さんが先攻を取ることになった。
 くそ……! 鷹野さん、『遊戯王カード 原作HP』を知り尽くしてるな!
「私の先攻、ドロー! 私は『憑依装着−ヒータ』を召喚!」
 先攻を取った鷹野さんは、早速モンスターを召喚してきた……って、いきなり『ヒータ』かよ!
 くそっ! ……だが、普通に召喚された『憑依装着−ヒータ』は貫通能力を持っていない! つまり、ただの攻撃力1850のモンスターだ!
「さらにリバースカードを1枚セットして、ターンエンドよ」
 『ヒータ』と伏せカード1枚を出し、鷹野さんは最初のターンを終えた。


【僕】
 LP:4000
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし
 手札:5枚

【鷹野さん】
 LP:4000
 モンスター:憑依装着−ヒータ(攻1850)
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:4枚


 よし。次は僕のターンだ。今日こそ、この人に吠え面かかせてやるぜ!
「僕のターン、ドロー! ……よし。僕は魔法カード『天使の施し』を発動! カード3枚ドローし、手札を2枚捨てる! そして、『ゴキポン』を守備表示で召喚だ!」
 手札を入れ替えた上で僕が召喚したのは、守備力わずか800のゴキブリモンスター。だが、こいつには特殊能力が備えられている。僕の狙いは、その特殊能力を発動させることにあるのさ。
「さらに、リバースカードを1枚セット! ターン終了!」
 『ゴキポン』だけでは心許ないので、トラップも出してターン終了。1ターン目は、特に大きな動きは見られなかったな。


【僕】
 LP:4000
 モンスター:ゴキポン(守800)
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:4枚

【鷹野さん】
 LP:4000
 モンスター:憑依装着−ヒータ(攻1850)
 魔法・罠:伏せカード1枚
 手札:4枚


 次は鷹野さんのターンだ。
「私のターン、ドロー! 私は、『神機王ウル』を召喚! このカードであなたの場の『ゴキポン』に攻撃!」
 ……! 『神機王ウル』か……。こいつは攻撃力1600で、レベルの数だけ攻撃対象を増やす能力を持つモンスターだ。決して「相手モンスター全てに1回ずつ攻撃可能だが、戦闘ダメージを与えることができない」なんて能力ではない。嘘だと思うならRのコミックスを読み直すといい。
 とりあえず、僕の場の『ゴキポン』では、『ウル』の攻撃を耐え切ることはできないので、当然の如く破壊される。……だが、これこそが僕の狙いだ!
「『ゴキポン』が戦闘で破壊されたことにより、僕はデッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体を手札に加えることができる! 僕は攻撃力1200の『ゴキボール』をデッキから手札に加える!」
 そう。『ゴキポン』の効果は、デッキから虫モンスターを手札に呼び込むというもの。これで、僕の手札に『ゴキボール』が導かれた!
「でも、これであなたの場に壁モンスターはいなくなった。『憑依装着−ヒータ』でダイレクトアタック!」
 続いて、がら空きになった僕に向かって、壊れカード『憑依装着−ヒータ』が迫り来る! ……そんな簡単に通ると思うなよ!
「なら、トラップカード『ガード・ブロック』を発動! 戦闘ダメージを0にして、僕はカードを1枚ドローする!」
「!」
 はっはっは! 超優秀なデュエリストである僕に対して、そんな単調な攻撃が通ると思ったら大間違いだぞ鷹野さん! 『ガード・ブロック』の効果でダメージは0! しかも、僕の手札は補充される!
「……カードを1枚伏せ、ターンエンド」
 僕にダメージを与えられないまま、鷹野さんのターンが終わる。フッ……! そう易々とライフは削らせないぜ、鷹野さん!


【僕】
 LP:4000
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし
 手札:6枚

【鷹野さん】
 LP:4000
 モンスター:憑依装着−ヒータ(攻1850),神機王ウル(攻1600)
 魔法・罠:伏せカード2枚
 手札:3枚


 次は僕のターン。さて、まずはあの『ヒータ』をどうにかしないとな。
「僕のターン、ドロー! 僕は、『異次元の女戦士』を召喚! そして、『女戦士』に『ビッグバン・シュート』を装備し、攻撃力を400ポイント上昇させる!」
 『異次元の女戦士』は、攻撃力1500の戦士族モンスター。戦闘を行なった際、戦闘を行なった敵モンスターとこのカードを、ゲームから除外する能力を持っている。この効果を発動するかどうかは、持ち主が任意で選ぶことができるので、非常に使いやすいカードだ。
 そして、装備魔法『ビッグバン・シュート』は、装備モンスターの攻撃力を400ポイントアップし、貫通能力を付与させるカードだ。これで『異次元の女戦士』の攻撃力は、1900まで上がることになる。

 異次元の女戦士 攻:1500→1900

 『女戦士』の攻撃力が『ヒータ』の攻撃力を上回った! ここは一気に攻める!
「バトル! 『女戦士』で『ヒータ』を攻撃!」
「……!」
 鷹野さんの場には伏せカードが2枚置かれていたが、そんなものを恐れる僕ではない! 消え去れ! 雑魚モンスター!!

 異次元の女戦士 攻:1900
 憑依装着−ヒータ 攻:1850

 鷹野さん LP:4000→3950

 鷹野さんが伏せカードを開くことはなく、『女戦士』は『ヒータ』を撃破することに成功した。よし! 史上最凶の壊れカードを退けてやったぜ!
「ぬぬぬぬぅぅ!!」
 お気に入りの『ヒータ』を粉砕され、鷹野さんが憤ってる。ふははは! いい気味だ!
「僕はカードを1枚伏せ、ターン終了だ!」
 『ヒータ』を撃破した僕は、いい気分でエンド宣言をした。クックック……! ざまあないな、鷹野さん!


【僕】
 LP:4000
 モンスター:異次元の女戦士(攻1900)
 魔法・罠:ビッグバン・シュート(対象:異次元の女戦士),伏せカード1枚
 手札:4枚

【鷹野さん】
 LP:3950
 モンスター:神機王ウル(攻1600)
 魔法・罠:伏せカード2枚
 手札:3枚


「私のターン」
 『ヒータ』を撃破された鷹野さんは、険しい表情でカードを引く。そして、すぐさまそのカードを場に出した。
「まずは魔法カード『タイムカプセル』を発動。このカードの効果で、私はデッキからカードを1枚選択して、裏側表示でゲームから除外する。そして、発動後2回目の私のスタンバイフェイズにこのカードを破壊し、除外したカードを手札に加えることができるわ」
 ……! 『タイムカプセル』! 2ターンのタイムラグがあるものの、デッキから好きなカードを手札に加えることができる魔法カードか!
「私は、デッキからこのカードを除外し、カプセルに封印。このカードを、あなたは確認することはできないわ」
 『タイムカプセル』の効果に従い、鷹野さんは自分のデッキからカードを1枚選び、フィールド外に裏向きに置いた。裏向きに置かれたこのカードを、僕は確認することができない。一体、何のカードを除外したんだ?
 まあ、わざわざデッキからサーチしようとするくらいだから、それなりに強力なカードが封印されたと考えられるな。うん。
「さらに私は、『神獣王バルバロス』を召喚! このカードは攻撃力3000の8ツ星モンスターだけど、生贄なしで召喚することもできるわ。その場合、このカードの攻撃力は1900になる!」
 !? 『バルバロス』を出してきたか! 僕の場の『異次元の女戦士』と同じ攻撃力だな……。攻撃してくるか?
「『バルバロス』で『異次元の女戦士』を攻撃!」
 やはり、鷹野さんは攻撃してきた。僕の場の伏せカードに恐れることなどせずに。まあ、そう来るよな。じゃあ、僕の場の伏せカードは……このタイミングでは開かないでおこう。クックック……!
 僕が特に何のアクションも起こさなかったので、『バルバロス』と『女戦士』のバトルは相打ちに終わった。さて、ここで『女戦士』の除外効果を使うべきか否か? 除外効果を使わなければ、最悪『バルバロス』を『死者蘇生』とかで再利用される恐れがあるな……。けど、除外効果を使っておけば、とりあえず、その心配はなくなる……か。ふむ……。
「僕は、『異次元の女戦士』の効果を発動! このカードと『バルバロス』を除外する!」
 さすがに、再利用されるのは困るので、念には念を入れて、『女戦士』の効果を使っておいた。これで『バルバロス』は異次元行きだ!
「……。『バルバロス』と『女戦士』が相討ちになったことで、あなたの場にモンスターはいなくなったわ。続いて、『神機王ウル』で攻撃!」
 次は『神機王ウル』の攻撃だ。OCG効果ではダメージを与えられないこのカードも、原作効果では何の問題もなくダメージを与えてくる。
 だが、そうは行かない! これを使わせてもらう!
「かかったね、鷹野さん! 手札を1枚捨て、トラップカード『レインボー・ライフ』を発動! このターンのダメージは無効となり、その数値分、僕のライフを回復する!」
「なっ……!?」
 はっはっは! 『レインボー・ライフ』によって、このターンのダメージはすべて僕のライフに吸収だ! つまり、『神機王ウル』の直接攻撃によって僕が受ける1600ダメージが無効となり、代わりに1600ライフを回復するってワケだ!
「『神機王ウル』の攻撃は……止まらない……」
 そう。鷹野さんは既に攻撃宣言を完了している。よって、『神機王ウル』の攻撃は通常どおり行われる。そして、僕は1600ライフを得る!

 神機王ウル 攻:1600

 僕 LP:4000→5600

「っ……! 私はこれで、ターンエンド!」
 よし! 僕の場のモンスターはいなくなってしまったが、ライフ差で優位に立つことができた! この調子で、場の状況でも優位に立ちたいところだな。


【僕】
 LP:5600
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし
 手札:3枚

【鷹野さん】
 LP:3950
 モンスター:神機王ウル(攻1600)
 魔法・罠:タイムカプセル(あと2ターン),伏せカード2枚
 手札:2枚


「僕のターン、ドロー!」
 鷹野さんのターンは終わり、僕にターンが移る。よし、いいカードを引いた!
「僕は『魂を喰らう者 バズー』を召喚! このカードの攻撃力は1600だけど、自分の墓地のモンスターを3体までゲームから除外することで、除外したカード1枚につき、攻撃力が300ポイントアップする! この効果は、次の鷹野さんのターンが終わるまで続くよ!」
「!」
 クク……。『バズー』は墓地のモンスターを除外することで、パワーを上げるモンスター。そして、僕が除外するモンスターはもちろん……。
「僕は、墓地にいる『ゴキボール』3体をゲームから除外! よって、『バズー』の攻撃力は900ポイント上昇!」
「……! 『ゴキボール』が3体……。『天使の施し』や『レインボー・ライフ』を使った時、墓地に捨てておいたね……」
 察しが良くて助かるよ鷹野さん。そうさ。後攻1ターン目で、僕が『天使の施し』の効果で捨てた2枚のカードは、どちらも『ゴキボール』。そして、あと1枚の『ゴキボール』は、『レインボー・ライフ』の発動コストとして墓地へ送っておいたのさ!
 こうして『ゴキボール』を除外しておけば、除外モンスターを融合させるカード――『平行世界融合』に繋げることができる! しかも、『バズー』の攻撃力も上げられて、一石二鳥だ!

 魂を喰らう者 バズー 攻:1600→2500

 3体の『ゴキボール』の魂を喰らったことで、『バズー』は攻撃力を2500まで上げる。フフ……こいつは強力だぜ!
 あとは、『平行世界融合』のカードを引き当てさえすれば、いつでも『マスター・オブ・ゴキボール』が降臨可能だが……、まあ、まずはこのターンのバトルと行こう!
「バトル! 『バズー』で『神機王ウル』を攻撃!」
 このターンは、攻撃力の上がった『バズー』で『神機王ウル』を攻撃しておく。鷹野さんの場には伏せカードが2枚あったが、この戦闘で発動されることはなく、『神機王ウル』は破壊された。そして、鷹野さんのライフが減少する。

 魂を喰らう者 バズー 攻:2500
 神機王ウル 攻:1600

 鷹野さん LP:3950→3050

 よし! さらにライフ差で優位に立ってやった! クックック……! 今回こそは僕が勝たせてもらうよ、鷹野さん!
「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」
 いま僕が伏せたカードの内1枚は、今日の最強カード『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』! 僕の最強コンボへの布石!
 鷹野さん……。僕の最強の布陣は、確実に完成に近付いている。僕が『平行世界融合』を引き当てたその時、君は地獄を体感することになるのさ! はっはっは!


【僕】
 LP:5600
 モンスター:魂を喰らう者 バズー(攻2500)
 魔法・罠:伏せカード2枚
 手札:1枚

【鷹野さん】
 LP:3050
 モンスター:なし
 魔法・罠:タイムカプセル(あと2ターン),伏せカード2枚
 手札:2枚


「……。私のターン、ドロー」
 今のところ、ライフでも場の状況でも僕が有利。でも、油断は禁物だ。鷹野さんは、何をしでかすか分からないからな。
「私は『D−HERO ダイヤモンドガイ』を攻撃表示で召喚。『ダイヤモンドガイ』のエフェクトで、デッキの一番上のカードを確認するわ」
 鷹野さんは召喚したのは、さっきの名蜘蛛とのデュエルでも使用した、『D−HERO』のカード。彼女のデッキの一番上のカードが通常魔法なら、次の彼女のターンで発動することが可能となる。
「じゃあ、カードをめくるわよ」
 デッキの一番上のカードをめくる鷹野さん。めくられたカードは……?

 めくられたカード:死者転生

「めくったカードは『死者転生』。通常マジックね。よって、このカードはセメタリーに送る。そして、次の私のターン、このカードのエフェクトを発動できるわ」
 くっ……! また通常魔法を当てたよこの人! 運がいいな……。
 『死者転生』は、手札を1枚捨てて発動し、自分の墓地からモンスターカード1枚を手札に戻すカード。けど、『ダイヤモンドガイ』の効果によって発動する場合、発動コストは無視できるので、手札を捨てる必要がない。
 次のターン、ノーコストで『死者転生』が発動する……か。けど、まだ鷹野さんの墓地には、厄介なモンスターカードはない。そんなに気にすることもないだろう。
 ……というか、『ダイヤモンドガイ』って攻撃力1400だよね? 僕の場の『魂を喰らう者 バズー』の攻撃力よりも低いのに、攻撃表示で出すって……何か狙ってるのか?
「さらに私は、手札から魔法カード『アマゾネスの呪詛師』を発動! このカードの効果により、自軍のモンスター1体の攻撃力と、敵軍のモンスター1体の攻撃力を入れ替える!」
 …………は?
 こ……攻撃力の入れ替え!? そう言えばそんなカードあったっけ!?
「このカードで、私の場の『ダイヤモンドガイ』と、あなたの場の『バズー』の攻撃力は入れ替わる!」

 魂を喰らう者 バズー 攻:2500→1400
 D−HERO ダイヤモンドガイ 攻:1400→2500

 くそっ……! 攻撃力が逆転したか! そうだよ……。原作の『アマゾネスの呪詛師』は、OCG効果と違って、『アマゾネス』以外に対しても使えるから、こんな使い方も可能なんだよ……。う〜む……。
「バトルフェイズ! 『ダイヤモンドガイ』で『バズー』を攻撃!」
 力を上げた『ダイヤモンドガイ』が『バズー』に攻撃を仕掛ける。迎え撃ちたいところだが、僕の場に攻撃反応型のトラップはない。ここは甘んじて攻撃を受けるしかない……!

 D−HERO ダイヤモンドガイ 攻:2500
 魂を喰らう者 バズー 攻:1400

 僕 LP:5600→4500

 『バズー』は撃破され、僕のライフが削られる。そして、再び僕の場のモンスターはいなくなってしまった! くそっ!
「カードを1枚伏せ、エンドフェイズ。ここで、『ダイヤモンドガイ』の攻撃力が元に戻るわ」
 エンドフェイズになったことで、『アマゾネスの呪詛師』の攻撃力上昇効果が切れ、『ダイヤモンドガイ』の攻撃力が本来の攻撃力に戻った。
 ……原作の『アマゾネスの呪詛師』の効果は、永続的に有効なのか、1ターンのみ有効なのか、どっちなのか分からないけど、作者はとりあえず、OCG版にあわせたようだ。

 D−HERO ダイヤモンドガイ 攻:2500→1400

「私はこれで、ターンを終えるわ」
 鷹野さんのターンが終わる。くっ! 場の状況は再び鷹野さんが有利になってしまったか……。
 だ……だが、それもここまで! 次のターン、目にもの見せてやる!


【僕】
 LP:4500
 モンスター:なし
 魔法・罠:伏せカード2枚
 手札:1枚

【鷹野さん】
 LP:3050
 モンスター:D−HERO ダイヤモンドガイ(攻1400)
 魔法・罠:タイムカプセル(あと1ターン),伏せカード2枚
 手札:1枚
 ※次のターン、墓地の『死者転生』が発動可能


 先のターンで、『バズー』の効果発動のために、3体の『ゴキボール』がゲームから除外された。つまり、ここで『平行世界融合』を引き当てれば、僕の最強の布陣をお披露目できるってことだ!
 頼む! 僕のデッキよ、僕の思いに応えてくれ!
「僕のターン、ドロー!」

 ドローカード:メテオ・レイン

 …………。
 カードを引いたことで、僕の手札は2枚。その内1枚は、このターンのドローカード『メテオ・レイン』。そしてもう1枚は、1ターン目から手札にあった魔法カード『二重召喚(デュアルサモン)』だ。
 正直、この手札では、何もすることができない。原作キャラの1人として、全ての準備が揃ったこのタイミングでカッコよく『平行世界融合』を引き当てたいところだったが、世の中そんなに上手くは行かないらしい。チキショオ!
 だ……だが! まだ手はある! 今こそ、場に伏せておいたこのカードを使わせてもらう!
「僕はトラップカード『無謀な欲張り』を発動! このトラップは、カードを2枚引く代わりに、以後、自分のドローフェイズを2回スキップする!」
「……! ドローフェイズを2回前倒しするってことね」
 さっきのターン、『えくすとりーむ☆ふゅーじょん』と一緒に伏せておいた『無謀な欲張り』を使い、僕は以後のドローフェイズを2回前倒しした。これで、僕はカードを2枚引くことができる!
 運命の2枚ドロー! さあ……『平行世界融合』よ、僕の手に舞い込めぇぇぇぇええええぇえええええ!!!
「カードを2枚ドロー!!」

 ドローカード:運命の宝札,平行世界融合

 …………。
 ……は……ははは……。
 ま……まさに……ディスティニードローだ……! ここで見事に『平行世界融合』を引き当てられるとは……!
 『平行世界融合』! これさえあれば、『マスター・オブ・ゴキボール』を速攻召喚できる! そして、このカードを使う準備も整っている! 完璧だ! 完璧すぎる!
 よし……。このターンで勝負をつけてやる! 鷹野さん……このターンで、君との因縁に終止符を打たせてもらうぞ!
「行くよ鷹野さん! 僕はまず、カードを1枚セット! そして、伏せておいた永続魔法を発動! 『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』!」
「……っ!? 『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』!?」
 まず、今日の最強カードである『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』を発動しておく。これで第1段階は完了だ!

 えくすとりーむ☆ふゅーじょん!
 (永続魔法カード)
 融合モンスターは融合素材モンスターの元々の攻撃力を吸収し、融合したターンでも攻撃する事ができる。

 次は第2段階! さあ、鷹野さん。覚悟してもらおうか!
「さらに僕は、手札から魔法カード『平行世界融合』を発動! このカードの効果で、除外された『ゴキボール』3体を融合! 出でよ、『マスター・オブ・ゴキボール』!」
「くっ……! こんな形で……『マスター・オブ・ゴキボール』を……!?」
 『平行世界融合』の効果で、除外されていた『ゴキボール』3体がひとつとなり、『マスター・オブ・ゴキボール』が召喚された! よし、第2段階も完了だ!

 マスター・オブ・ゴキボール
 ★12/地属性/昆虫族/融合
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが破壊された時、空いている自分のモンスターゾーン全てに「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を特殊召喚する。
 「ゴキボールトークン」はルール上、カード名を「ゴキボール」として扱う。
 攻5000  守5000

 じゃ、最終段階と行こうか。鷹野さんよ、これを見て腰を抜かすがいい!
「ここで、さっき発動した永続魔法『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果が発動する! それにより、『マスター・オブ・ゴキボール』は、融合素材モンスターの攻撃力を吸収し、攻撃力が上昇!」

 マスター・オブ・ゴキボール 攻:5000→8600

「……! 『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力が……上がった……!」
 ただでさえ攻撃力の高い『マスター・オブ・ゴキボール』が攻撃力を上げたことで、顔をしかめる鷹野さん。フッフッフ……! どうだ! これこそが、僕の持ち得る最強の戦術!
「……。……何だか、パワーバランスに難のあるオリカね……、それ」
 …………。
 名蜘蛛と同じく、鷹野さんは、『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果バランスに疑問を持ったようだ。いや……そんなに問題のある効果じゃないだろ。単純に、攻撃力を上げるだけなんだし……。
 つーか、鷹野さんだって、『うずまき』とか『コピーキャット』とか『時の飛躍』とか『デジャヴー』とか『憑依装着−ヒータ』とか『融合解除』とか、そういうチートカードを平気で使ってくるじゃねーか! 人のこと言えないだろ! 何様のつもりだよ!
「何様って……女王様」
 な……何で地の文に反応するんだよ!? 読心術でも持ってるのか、あんたは!
 ……まあいい。場を確認しよう。今、僕の場には、攻撃力8600となった『マスター・オブ・ゴキボール』がいるのに対し、鷹野さんの場には、攻撃力1400の『ダイヤモンドガイ』がいる。
 このターン、『マスター・オブ・ゴキボール』が『ダイヤモンドガイ』を葬れば、7200ポイントの戦闘ダメージが鷹野さんを襲い、僕の勝ちだ!
 よし……! このターンで……決める!
「バトル! 『マスター・オブ・ゴキボール』で『ダイヤモンドガイ』を攻撃!」
「!」
 僕は容赦なく、バトルフェイズに入った。この攻撃で……この人との因縁に終止符を打ってや―――
「リバーストラップ! 『砂漠の光』! このカードの効果で、私の場のモンスターは全て守備表示になる!」
 !? 『砂漠の光』だと!? ……なるほど、そのカードの効果で『ダイヤモンドガイ』を守備表示にして、戦闘ダメージをかわそうってワケか。鷹野さんもしぶといものだ。
 だが! そんなトラップで、僕の『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃を防げるとでも!?
「なら僕も、リバーストラップ『メテオ・レイン』を発動! このカードが発動したターン、僕の場のモンスターが守備モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値分のダメージを相手に与える!」
「!?」
 僕は、このターンの初めにさり気なく伏せておいた『メテオ・レイン』を発動した(原作ルールでは、伏せたターンでもトラップが発動できる)。これで、このターンだけ、守備モンスターに関係なく、『マスター・オブ・ゴキボール』はダメージを与えることができる!
 ふはははは! 守備表示にしたくらいで逃げられると思ったら大間違いだ! 僕の完璧なるタクティクスをなめんじゃねえ!
「……! 『ダイヤモンドガイ』の守備力は1600……、『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力は8600……。このままバトルが成立すれば、私は7000ポイントの貫通ダメージを受けることに……」
 そう! その通り! 結局、このターンに鷹野さんが敗北する運命は覆らなかったってことさ! この攻撃で、全て終わりだぁぁあああ!!!
 行けえ! 『マスター・オブ・ゴキボール』! 『ダイヤモンドガイ』を粉砕し、鷹野さんに引導を渡してやれぇぇぇええ!!!









 そいつはどうかな?
 (王様カード)
 対戦相手及び読者はビックリする。









「甘いわよ、パラコン! リバースマジック、『魔法の教科書』!」
 なっ!? また鷹野さんの場の伏せカードが開いた! し……しぶとい人だ!
 しかし……『魔法の教科書』? 聞き覚えはあるんだけど……どんな効果だっけ、そのカード?
「『魔法の教科書』は、手札を全て捨てて発動する魔法カード。その効果で、私はデッキからカードを1枚ドローし、それが魔法カードだった場合、その場で発動することを許される!」
 …………!
 おいおい……。それって、凄まじいまでの賭けだな! 要するにアレか? 「このカードの引きに、全てを賭ける!」って奴か!?
「私の手札は1枚。これを墓地に送り、『魔法の教科書』を発動! デッキからカードを1枚ドローする!」
 鷹野さんは、手札に残された1枚――『E・HERO バブルマン』――を墓地に捨て、『魔法の教科書』の発動コストとした。
 く……! ここで鷹野さんが魔法カードを引き当てた場合、この状況を崩されるかも知れない……。いや、でも、そんな都合よく魔法カードを引き当てられるわけが……。よしんば引き当てたとしても、そのカードがこの状況を崩せるカードとは限らない!
 大丈夫だ……。この賭けは、明らかに鷹野さんにとって不利な賭け! 僕に負けはない! 武藤遊戯じゃあるまいし、そんな都合のいいことがあるはずないんだ! 大丈夫……大丈夫……!
「このドローに全てを賭けるわ! ドロー!」
 鷹野さんがカードを引いた! ……ど……どうなる……!?







「―――――フィールド魔法『うずまき』発動! 全ての常識が覆るわ!」





 …………。

 …………。

 …………ちょ!?

 ちょっとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!???
 マジで魔法カード引き当てちゃったのかよこの人!? スゲー運がいいなオイ! 本日2度目の『うずまき』じゃん!
「私が引き当てたのは、フィールド魔法『うずまき』。このカードが場にある限り、デュエルのルールは、原作ルールからOCGルールに変更されるわ! さらに、カードのテキストも、全てOCGのテキストが適用される!」
 デュエルのルールとカードテキストを変更する――この無茶苦茶な効果こそが、『うずまき』の持つ、チートレベルの能力!
 鷹野さんめ……! この土壇場で、こんな壊れカードを引き当てるとは……! 何たる強運!

 うずまき
 (フィールド魔法カード)
 フィールドは「うずまき」となり、全ての常識は覆る。

 さて、一見したところ、『うずまき』を発動しただけでは、この状況を破れないように見える。と言うのも、『うずまき』はルールを変更するだけで、『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃を阻止してくれるわけではないからだ。
 つまり、『うずまき』が発動したところで、鷹野さんが敗北することには変わりない。一見すれば、そう見えてしまう。
 でも、違うんだ。もうお気づきの方も多いだろうけど、『うずまき』が発動したことには大きな意味がある。
「『うずまき』が発動したことで、デュエルのルールはOCGルールに変わった。よって、互いのライフポイントは4000ポイント上昇するわ」
 そう! 『うずまき』の効果でOCGルールが適用された瞬間、互いのライフは4000ポイント上昇するのだ!

 僕 LP:4500→8500
 鷹野さん LP:3050→7050

「そして、このターンのバトルによって、『ダイヤモンドガイ』は破壊され、私はダメージを受ける」
 『マスター・オブ・ゴキボール』は、『ダイヤモンドガイ』を何事もなかったかのように蹴散らし、鷹野さんに7000ポイント貫通ダメージを与えた。
 しかし、『うずまき』によって、彼女のライフは7050まで上昇している。その上で、彼女は7000ポイントのダメージを受けたわけだから、つまり……。

 マスター・オブ・ゴキボール 攻:8600
 D−HERO ダイヤモンドガイ 守:1600

 鷹野さん LP:7050→50

 鷹野さんのライフは50ポイントだけ残ることになる! くっそぉぉぉおおぉおっぉぉぉおおおおおっっ!! 何だよコレ!? どんだけ運がいいんだよ鷹野さんは!!
 チキショオ! あと少しだったのに……! 鷹野さんめ! 『うずまき』でライフが増えることを、こんな形で利用するとは……!
「詰めが甘いわねぇ……。オホホホホ!」
 トドメを刺し損ねた僕を見て、鷹野さんが嘲るように言った。うるせーよこの馬鹿女! 今のは単にテメーの運が良かっただけじゃねーか! 普通に考えれば、僕が勝ってたとこなんだよ! そこんとこキッチリ自覚しやがれ!


【僕】
 LP:8500
 モンスター:マスター・オブ・ゴキボール(攻8600)
 魔法・罠:えくすとりーむ☆ふゅーじょん!
 手札:2枚

【鷹野さん】
 LP:50
 モンスター:なし
 魔法・罠:タイムカプセル(あと1ターン)
 フィールド:うずまき(OCGルール適用)
 手札:0枚
 ※次のターン、墓地の『死者転生』が発動可能


 くそ! 鷹野さんがまさか生き延びるとは……。けど、所詮こんなものは悪あがきに過ぎない! 場の状況を見れば、そのことは一目瞭然だ!
 鷹野さんのライフはわずか50ポイント! 風前の灯だ! しかも、彼女の場にモンスターはなく、手札は0! それに対し、僕の場には、攻撃力8600の『マスター・オブ・ゴキボール』がいる! しかも、こいつはたとえ破壊されたとしても、場に『ゴキボールトークン』を残す! さらに、僕のライフは『うずまき』の力もあり、8500にまで上昇している!
 実に素晴らしい! 僕が負けるような要素は何ひとつない! この状況を破る手段があるというのなら、是非とも聞いてみたいものだ!
 ……というか、『うずまき』の効果でOCGルールになったのなら、1ターン中に手札から出せる魔法・トラップカードの枚数に制限がなくなるんだよな?
 じゃあ、これ使えるんじゃね?
「まだ僕のターンは終わってないよ! OCGルールになったことで、僕は手札から魔法カード『運命の宝札』を発動!」
「……!」
 フッ……! バトルフェイズは終了したが、まだ僕のターンは終わってない! ここは『うずまき』の効果を美味しく利用させてもらうとしよう!
 魔法カード『運命の宝札』は、サイコロを1回振り、出た目の数だけデッキからカードをドローできるカードだ。ただし、ドローした後は、出た目の数だけ、デッキの上からカードを除外しなければならない。
 アニメで城之内が使っていた手札増強魔法を、鷹野さんに追い討ちをかけるかのように発動した僕。このカードの力で、僕の勝利をより確実なものにしてやるぜ!
「じゃあ、サイコロを振るよ」
「……どうぞ」
 僕はカードケースの中からサイコロ(100円ショップで買った)を取り出し、テーブルの上に振った。さあて、何が出るかな? 何が出るかな?

 サイコロの目:5

 サイコロは5の目を出した。じゃあ、僕は5枚ドローだな。
「デッキからカードを5枚ドロー!」
 僕はカードを5枚引くと、その後で、デッキの上から5枚のカードを除外した。ちなみに、除外したのはこの5枚。

 〜除外した5枚〜
 死者蘇生,破壊輪,ファイバーポッド,ゴキブリ乱舞,強欲な壺

 さて、これで僕の手札は6枚。しかも、この6枚の手札には、上手いこと鷹野さんに追い討ちをかけられるカードが揃っていた。
 ククク……! どう足掻いたところで、鷹野さんに勝ちの目はない!
「僕は、『神殿を守る者』を攻撃表示で召喚! このカードが場にいる限り、鷹野さんは、ドローフェイズ以外でカードをドローすることができない!」
「……! これで私は、『命削りの宝札』とかによる手札の増強ができない……ってわけね」
 以前、鷹野さんも使っていた『神殿を守る者』。こいつがいる限り、鷹野さんはドロー増強系のカードは一切使えない。これで、彼女はドローフェイズのドローに賭けるしかなくなる!
 しかし、『神殿を守る者』の攻撃力は1100ポイントと低い。このまま場に出しておいても、次のターンであっさり戦闘破壊されてしまうかも知れない。そんでもって、『神殿を守る者』がいなくなった隙に、『命削りの宝札』を発動! ……なんてことになったら大変だ。
 そこで!
「さらに、装備魔法『レアゴールド・アーマー』を『マスター・オブ・ゴキボール』に装備! これで、鷹野さんのモンスターは、『レアゴールド・アーマー』を装備したモンスターにしか攻撃できない!」
「……! 私のモンスターは、『マスター・オブ・ゴキボール』にしか攻撃することができない……」
 こうしておけば、攻撃力の低い『神殿を守る者』を戦闘から回避させることができるだろう。何しろ、『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力は8600。そう簡単には倒せない。
 次は、カード効果によるダメージへの対策……。いくら有利な状況とは言え、さっきの名蜘蛛とのデュエルみたいに、『ディメンション・ウォール』とかを喰らったりした場合、一瞬で逆転されてしまう。
 だからこそ、僕はこのカードを出しておく!
「まだ終わらないよ! 僕は『二重召喚』を発動! これにより、僕はこのターン、もう一度通常召喚の権利を得る! よって僕は、手札から『デス・ウォンバット』を召喚!」
 『デス・ウォンバット』は攻撃力1600のモンスター。そして、このモンスターがいる限り、僕がカード効果によって受けるダメージは0になる。つまり……!
「……っ! これであなたは、カード効果によるダメージを受けない。効果ダメージへの対策も完璧ってワケね……」
 そういうことだ。これで、『ディメンション・ウォール』もOCG効果の『魔法の筒(マジック・シリンダー)』も怖くないぜ!
 これで守りは完璧! あとは、鷹野さんが守備モンスターを出した時に備えて……。
「まだまだ行くよ! 装備魔法『メテオ・ストライク』を『マスター・オブ・ゴキボール』に装備! これで、『マスター・オブ・ゴキボール』が守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を超えていれば、その数値分のダメージを与える!」
「……今度は、貫通能力の付与……。私は、モンスターを守備表示にして、時間を稼ぐこともできなくなる……」
 ははははは! その通り! 『メテオ・ストライク』の装備により、弱小モンスターを守備表示で出して、攻撃を防ぐこともできない! 逃げ道は完全に塞いだぞ、鷹野さん!
 さて、完璧な布陣と化した僕の場だが、1つだけ、懸念すべきことがある。それは『融合解除』の存在だ。
 『融合解除』……。融合モンスターを問答無用で融合デッキ(OCGルールでいうエクストラデッキ)に戻してしまうあのカードの前では、さすがの『マスター・オブ・ゴキボール』も無力だ。“破壊”ではないため、『ゴキボールトークン』を生み出すことすらできない。
 つまり、何としても、『融合解除』を止める必要がある。そう……。僕の手札に1枚だけ残された、このカードを使って――――!
「これで最後だよ、鷹野さん。永続魔法『禁止令』を発動! このカードが場にある限り、僕が宣言したカードは一切プレイすることができない! 僕が宣言するのは……『融合解除』だ!」
「……! 『融合解除』が……禁じられた……!?」
 『禁止令』。これがある限り、『融合解除』はプレイできない。つまり、『マスター・オブ・ゴキボール』にとっての天敵が消滅したわけだ!
 完璧だ……! 完璧すぎる……! ここまでガッチリ固めたんだから、どうやったって、鷹野さんに逆転する方法なんてないはずだ!
「ターン……エンド……!」


【僕】
 LP:8500
 モンスター:マスター・オブ・ゴキボール(攻8600),神殿を守る者(攻1100),デス・ウォンバット(攻1600)
 魔法・罠:えくすとりーむ☆ふゅーじょん!,レアゴールド・アーマー(対象:マスター・オブ・ゴキボール),メテオ・ストライク(対象:マスター・オブ・ゴキボール),禁止令(指定:融合解除)
 手札:0枚

【鷹野さん】
 LP:50
 モンスター:なし
 魔法・罠:タイムカプセル
 フィールド:うずまき(OCGルール適用)
 手札:0枚
 ※このターン、『タイムカプセル』が開く
 ※このターン、墓地の『死者転生』が発動可能


「っ……! 私のターン………」
 さて、鷹野さんのターンだが……。
 彼女は、自分のターンが回ってきたというのに、カードをドローせず、場の状況を見ながら、何かを考えている。
 ま、彼女のことだ。おそらくは、この状況を破る手段を必死に探してるんだろう。けど、落ち着いて考えてもらいたい。現在のデュエル展開は、思わず笑ってしまうほどに僕が有利だ! いくら鷹野さんでも、これを打開することは不可能だろ!
「どうしたものかな……」
 結局、攻略法が見つからなかったのだろう、鷹野さんはそんな言葉を口にした。フッ! 僕の組み上げた最強の布陣は、そんな簡単には破れないぜ! 素直に諦めるんだな、鷹野さんよ!
 気分が良くなってきた僕は、鷹野さんにサレンダーを勧めてあげることにした。
「鷹野さん。今ならサレンダーを認めてもいいよ」
「……っ!」
 僕がサレンダーを勧めると、鷹野さんはムッとした表情で僕を睨んできた! ふはははは! きっと彼女にとって、今の僕の言葉は屈辱的だったんだろうな! いや〜! 実にいい気分だ! ざまーみろー!
 鷹野さん。今日ついに、君の連勝記録と、僕の連敗記録……その両方に、終止符が打たれるのさ! ここは潔く、負けを認めるんだな!
 うおおおおお〜〜〜! すっげぇいい気分だ! 勝者の余裕って奴だな! はっはっは! 鷹野さん、いい加減に認めるんだ! この状況、君はどう足掻いても僕には勝てない!
 勝利の女神は今、完全に僕に味方をしたのさ! うっひゃっひゃっひゃ―――――





「……! なるほどね……。パラコン、あなたの戦術の攻略法を見つけたわ」





 …………。

 ……何か不吉な言葉が聞こえた。
 え? 何? 「僕の戦術の攻略法を見つけた」とかいう声が聞こえたんだけど……聞き間違いだよね?
「……鷹野さん、いま何て?」
 聞き間違いだと信じ、僕は鷹野さんに尋ねてみた。
「あなたの戦術の攻略法を見つけた、って言ったのよ」
 ……聞き間違いではなかったらしい。
 ていうか、ちょっと待て……。鷹野さん……何言ってるんだ? え? 攻略法を見つけた……?
「た……鷹野さん……。それって、どういう意味……?」
「そのままの意味よ。単純に攻略法を見つけた――ただそれだけのこと」
 攻略法……?
 僕の完璧なる布陣に、穴があったと!? ほ……本気で言ってるのか? それとも、僕を動揺させるためのハッタリ……?
 鷹野さん……一体何を考えてるんだ……!?
「このターンの私のドローで、このデュエルの勝敗が決まるわ。私が“あのカード”を引けば、デュエルはこのターンで私が勝つ。引かなければ、次のあなたのターンであなたが勝つ。……さあ、勝利の女神はどちらに微笑むかしらね……」
 そう言うと、鷹野さんは自分のデッキに手をかけた。……このドローで、鷹野さんが“あのカード”を引けば、彼女の勝ち。そうでなければ、僕の勝ち……。な……何を言ってんだこの人は!?
 つーか、鷹野さんの言う、“あのカード”って何なんだ!? この状況を破れるカードがあるとでも!? そもそも、この状況をどうやって破るって言うんだ!?
「私のターン、ドロー!」
 “あのカード”の正体とは何なのか!?
 鷹野さんの見つけた『攻略法』とは何なのか!?
 結局、何も分からぬまま、鷹野さんのターンが開始されてしまった! ちょ……待てよ! まだ僕の推理フェイズは終了してないぜ!
「……ふっ。勝利の女神は、私に微笑んだようね」
 ……と、ドローカードを見た鷹野さんが、またもや不吉な言葉を口にした。
 おい……。勝利の女神が微笑んだって……。まさか……まさかなのか? 引いちゃったのか!? “あのカード”を引いちゃったのか!?
「そのまさかよ、パラコン。はっきり言うわ。このデュエル―――」





「―――私の勝ちよ」









 かくかくしかじか
 (魔法カード)
 話を短縮し、ストーリーを高速回転させる。




「かくかくしかじかで、あなたのライフは0よ、パラコン!」

 僕 LP:0

 …………は?
 嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおぉぉぉお!!!??? かくかくしかじかで僕のライフが0になったぁぁぁあああああぁぁああああああ!?
 ちょ……何だよコレ!? 何が起きたんだ一体!? ちょっと待てよ! え? どういうことなのコレ!? 何か僕のライフが0になってるように見えるんだけど!?
「かくかくしかじかで、宣言どおり、あなたに勝ってやったわ。ふふ……。ま、こんなものね」
 ふざけんなよこの女!! かくかくしかじかで勝っただと!? アホなことヌカしてんじゃねえよ!!
 つーか、いくらなんでも、逆転する過程をすっ飛ばすなんてやっちゃダメだろ!? こんな無茶苦茶な展開、誰も納得しねえよ! 何なのこの超ウルトラ御都合主義的な終了方法は!!
 作者め……! まさか、デュエル展開を考えるのがめんどくさくなって、こんな禁忌に手を染めたちゃったのか! そうなのか!? 「どうやって勝ったのかは、モニター前のお兄ちゃんのごそーぞーにおまかせするよ! テヘッ!」とか、そんな気持ちで書いたのか!? ふざけすぎだろ!
「落ち着きなさいよ、パラコン」
 何でもないかのように、さらりと言い放つ鷹野さん。あんたが言うな、あんたが!
「よく思い出してみなさい。私はちゃんとした方法で逆転したわよ。あなたはそれをずっと見ていたはず……」
 ……!?
 お……思い出してみろ、だって? 何言ってるんだこの人は?
「よ〜く、思い出してみなさい。私がどうやって、あの状況で逆転したか。よ〜く、ね……。念のために言っておくけど、『うずまき』に隠された効果を使い、奇跡の大逆転! とか、カッコいい新規オリカを使ってスタイリッシュに逆転! とか、そういうのじゃないわよ」
 えぇ……? 僕が思い出すのかよ? 何なんだこの展開……。
 けど、このまま思い出さないと話が進みそうもないし、ここは、頑張って思い出してみることにしよう。え〜っと、確か……まずは……鷹野さんが……。




 リッチー・マーセッドの法則
 (罠カード)
 鷹野さんが逆転勝利したのは、決してイカサマではありません。
 鷹野さんは、正規の方法で逆転勝利を収めました。
 気が向いた人は、この先を読む前に、彼女がどのように逆転したのかを考えてみてくださいね!







8章 逆転劇

【僕】
 LP:8500
 モンスター:マスター・オブ・ゴキボール(攻8600),神殿を守る者(攻1100),デス・ウォンバット(攻1600)
 魔法・罠:えくすとりーむ☆ふゅーじょん!,レアゴールド・アーマー(対象:マスター・オブ・ゴキボール),メテオ・ストライク(対象:マスター・オブ・ゴキボール),禁止令(指定:融合解除)
 手札:0枚

【鷹野さん】
 LP:50
 モンスター:なし
 魔法・罠:タイムカプセル
 フィールド:うずまき(OCGルール適用)
 手札:0枚
 ※このターン、『タイムカプセル』が開く
 ※このターン、墓地の『死者転生』が発動可能


「―――私の勝ちよ」
 ドローカードを見た鷹野さんは、はっきりと勝利宣言をした。
 そんな……馬鹿な! いくら彼女でも、この状況を破ることなどできないはず! 彼女の言う“あのカード”には、それほどの力が秘められているというのか!?
「……と、その前に。あなたに一つ、言っておくことがあるわ」
 ん? 僕に言いたいこと? 何だろう?
「あなたは『デス・ウォンバット』を召喚した際、こう考えたはずよ。“『デス・ウォンバット』の効果があれば、『ディメンション・ウォール』によるダメージも防げる”とね」
 ……! よ……よく分かったな! た……確かに僕は、『ディメンション・ウォール』のダメージも防げると思って、『デス・ウォンバット』を召喚したけど……それが何なんだ?
「よく聞きなさい、パラコン。そもそも、『ディメンション・ウォール』というのは、『自分が受ける戦闘ダメージを、相手に代わりに受けさせる』カード。それ故、『ディメンション・ウォール』によるダメージは、カード効果によるダメージではなく、戦闘ダメージとして扱われるわ。つまり、『デス・ウォンバット』を出したところで、『ディメンション・ウォール』によるダメージは防げないのよ。ちゃんと覚えておくことね」
 …………。
 何ぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!????
 ちょ……おい! 『ディメンション・ウォール』のダメージって、効果ダメージじゃなかったの!? そんな馬鹿な!? これじゃあ、『デス・ウォンバット』の効果じゃ防げないじゃん! 何たるルールミス!!
 し……しかし、どうしてこのタイミングで、そんな事実を明かしたんだ? ……ま……まさか、これこそが、鷹野さんの見つけた攻略法と何か関係が―――
「ちなみに、このことは私の見つけた攻略法とは何の関係もないわ。単に作者が勘違いしてただけ。読者から指摘されるまで、本気で気付かなかったらしいわね」
 ――って、おい!? 作者が勘違いしてたのかよ!? くそっ! 作者め……もっとちゃんと調べてから書けよ!!

 ルールミス
 (罠カード)
 真面目に気付きませんでした。ホントにごめんなさい。

 と……とりあえず、このルールミスについては、今後の展開には関係しないようなので、話を戻そう。
 デュエルの状況は、僕が圧倒的に有利! しかし、鷹野さんは確かに勝利宣言をした! 彼女が見つけた「攻略法」とは何なのか……!?
「見せてあげるわ、パラコン。ありとあらゆる事象を味方につけた、鷹野麗子の戦術を」
 そう言うと、鷹野さんは場に置かれていた『タイムカプセル』のカードを墓地に送った。
「まずはスタンバイフェイズ。発動後、2回目のスタンバイフェイズを迎えたため、『タイムカプセル』のカードを破壊し、除外しておいたカードを手札に加えるわ」

 タイムカプセル
 (通常魔法)
 自分のデッキからカードを1枚選択し、裏側表示でゲームから除外する。
 発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを破壊し、そのカードを手札に加える。

 あ、そうだった。『タイムカプセル』の発動から2ターンが経過したから、封印されていたカードが鷹野さんの手札に加わるんだっけ。これで彼女の手札は、このターンのドローカードを含めて2枚……。
「そして、メインフェイズ。早速、『タイムカプセル』から取り出したこのカードを使わせてもらうわ。魔法カード『死者蘇生』!」
 ……っ! 『死者蘇生』かよ!? ずいぶんとまた強力なカードを『タイムカプセル』に入れていたものだ!

 死者蘇生
 (通常魔法)
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

 ……いや、しかし。
 ここまでのデュエル展開を思い出してみると分かるが、僕の墓地にも、鷹野さんの墓地にも、この状況を破れるような強力なモンスターはいない……はずだ。にもかかわらず、鷹野さんは、何を復活させるつもりなんだろう?
「私が墓地から蘇らせるモンスターは、このモンスターよ」
 鷹野さんは1体のモンスターを選択し、蘇生召喚を行った。そのモンスターとは一体……?



「出でよ、『魂を喰らう者 バズー』! 攻撃表示!」



 ……なっ!?
 彼女が蘇らせたのは、僕が『ゴキボール』を除外するために使ったモンスターカード――『魂を喰らう者 バズー』だった! ぼ……僕のカード使うのかよ!? つーか、『バズー』? 何でまた、そのモンスターを? しかも、攻撃表示で……?

 魂を喰らう者 バズー
 効果モンスター ★4 地属性 獣族 攻1600 守900
 自分の墓地のモンスターを3枚までゲームから除外する事ができる。
 除外したカード1枚につき、相手ターン終了時までこのカードの攻撃力は300ポイントアップする。
 この効果は自分のターンに1度しか使えない。

「あなたの『バズー』の力、使わせてもらうわ。自分の墓地からモンスターを3枚まで除外し、その枚数1枚につき、『バズー』の攻撃力を300ポイントアップさせる! 私は、墓地から『E・HERO バブルマン』、『D−HERO ダイヤモンドガイ』、『憑依装着−ヒータ』を除外!」
 鷹野さんは、墓地から3枚のモンスターを除外し、『バズー』の攻撃力を上昇させる。そ……そんなことをして、一体何を……!?

 魂を喰らう者 バズー 攻:1600→2500

 『バブルマン』、『ダイヤモンドガイ』、『ヒータ』の魂を喰らい、『バズー』が力を上げた。しかし、力を上げたところで、その攻撃力は2500。僕の場の『マスター・オブ・ゴキボール』の力には遥かに及ばない。何たって、こいつの攻撃力は8600もあるし……。
 ……駄目だ。鷹野さんの狙いが分からない。ひょっとして、ヤケになってるんだろうか? いや……彼女がヤケになるとは思えない。とすると、やっぱり、これも何か狙いがあって……?
「さらに、前の私のターンに『ダイヤモンドガイ』の効果で墓地に送られた、『死者転生』の効果を使わせてもらうわ。ノーコストでね」
 ……! ああ、そう言えばそうだった。『ダイヤモンドガイ』の効果で『死者転生』が墓地に送られてたから、このターン、鷹野さんは『死者転生』の効果を使えるんだ。忌々しいことにノーコストで。

 D−HERO ダイヤモンドガイ
 効果モンスター ★4 闇属性 戦士族 攻1400 守1600
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。
 それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、次の自分のターンのメインフェイズ時にその通常魔法カードの効果を発動する事ができる。
 通常魔法カード以外の場合にはデッキの一番下に戻す。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 死者転生
 (通常魔法)
 手札を1枚捨てて発動する。
 自分の墓地に存在するモンスター1体を手札に加える。

「『死者転生』の効果により、私の墓地からモンスター1体を手札に戻す。私が手札に戻すのはこのカード――『神機王ウル』!」
 『死者転生』の効果によって、鷹野さんの手札に『神機王ウル』が舞い戻る。まあ、彼女の墓地にいるモンスターは『ウル』だけだったから、必然的に『ウル』を手札に戻すことになるか。うん。
「そして、手札に戻した『神機王ウル』を攻撃表示で召喚!」
 鷹野さんは、手札に戻した『神機王ウル』を召喚した。その攻撃力は1600ぽっち。無論、僕の『マスター・オブ・ゴキボール』の敵じゃない。
 ……これで、彼女の場にいるモンスターは、『バズー』と『ウル』の2体。しかし、これで一体何になるんだろうか? 少なくとも、彼女の場の2体のモンスターでは、この状況を破ることなんてできなさそうだが……。


【僕】
 LP:8500
 モンスター:マスター・オブ・ゴキボール(攻8600),神殿を守る者(攻1100),デス・ウォンバット(攻1600)
 魔法・罠:えくすとりーむ☆ふゅーじょん!,レアゴールド・アーマー(対象:マスター・オブ・ゴキボール),メテオ・ストライク(対象:マスター・オブ・ゴキボール),禁止令(指定:融合解除)
 手札:0枚

【鷹野さん】
 LP:50
 モンスター:魂を喰らう者 バズー(攻2500),神機王ウル(攻1600)
 魔法・罠:なし
 フィールド:うずまき(OCGルール適用)
 手札:1枚


「鷹野さん……。君は一体、何を……?」
 全くもって、鷹野さんの狙いが分からない僕は、じれったくなってとうとう彼女に直接聞いてみた。彼女の狙いは……何なんだ!?
「慌てないでパラコン。すぐに分かるわ。このカードの力を見れば……ね」
 手札のカードを裏向きのまま僕に見せながら、楽しげな笑みを浮かべる鷹野さん。……そう言えば、鷹野さんの手札に残された1枚って、このターンに彼女が引き当てたドローカードだよな?
 そうだ……。まだ彼女のドローカードが何なのかが明かされてない。何を引き当てたんだ? 彼女は……。
「見せてあげるわ、パラコン。これが、勝利のためのキーカード!」
 鷹野さんは手札に残された1枚――このターンに引き当てたカード――を場に出した。
 鷹野さんのドローカード……。彼女に勝利を確信させるほどの力を持ったカード……。その正体とは……!?





「―――魔法カード『コピーキャット』を発動! このカードは、相手が場に捨てたカードに姿を移し変える!」





 …………。
 ……って、『コピーキャット』ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおぉおおおおおおお!!!!????
 な……何で、よりにもよってそんな便利カードが!? そりゃあ確かに、鷹野さんは『コピーキャット』を持つデュエリストだけどさ!!

 コピーキャット
 (魔法カード)
 相手が場に捨てたカードに姿を移し変えることができる。
 この小説が書かれた時点ではOCG化されていないため、原作効果のままなのさ!

 くっ……! まさか、鷹野さんが引き当てたのが『コピーキャット』だったとは! あのカードは要するに、僕の墓地にあるカード1枚をコピーするカード。こいつは……厄介なカードを引かれたな……。
 いや……、でも、よくよく考えてみれば、僕の墓地にこの状況を破れるカードは………ないはずだよな………。……鷹野さんは何を?
「私は『コピーキャット』を、あなたの墓地にある“あのカード”に変化させるわ」
 鷹野さんはすぐさま、『コピーキャット』で僕の墓地にあるカード1枚をコピーした。な……何のカードをコピーする気だ!?



「私がコピーするのは……『平行世界融合』よ!」



 …………!?

 平行世界融合
 (魔法カード)
 融合モンスターの素材となるモンスターがすべてゲームから除外されていたら、その除外されたモンスターを融合し、融合召喚する。
 つーか、まさかOCG化されるとは思わなかったよ! もはや訂正のしようがないから、この作品内では漫画版GXの効果で突き通すことにするぜ! よろしくガッチャ!

 ちょ……『平行世界融合』!? 除外されたモンスターを融合させる魔法カードを……何でまた? まさか、鷹野さんも融合を狙って……??
 ……………………あっ!
「気付いた? そもそも、何で私が『死者蘇生』で『魂を喰らう者 バズー』を蘇らせたのか……。それは、このカード……『平行世界融合』に繋げるためだったのよ。モンスターを除外し、融合素材を確保するための、ね」
 そうだよ……! 鷹野さんが『バズー』を蘇らせたのには、ちゃんと意味があったんだよ! うわぁ〜〜〜! つーか、『バズー』に続いて、また僕の墓地のカード利用したよこの人!
 と……とにかくだ。こうなった以上、鷹野さんが狙ってくるのはモンスターの融合召喚! 彼女は、何を呼び出してくるつもりだ!?
「『コピーキャット』によってコピーした『平行世界融合』を発動! 私は、ゲームから除外された『E・HERO バブルマン』と『神獣王バルバロス』を融合させる!」
 !? 『バブルマン』と『バルバロス』の融合!? そ……そういや僕、『異次元の女戦士』の効果で『バルバロス』を除外してたんだっけ……。……しかし、この2体の融合体って……一体何なんだ……!?

 E・HERO バブルマン
 効果モンスター ★4 水属性 戦士族 攻800 守1200
 手札がこのカード1枚だけの場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

 神獣王バルバロス
 効果モンスター ★8 地属性 獣戦士族 攻3000 守1200
 このカードはリリースなしで通常召喚する事ができる。この方法で召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。
 また、このカードはモンスター3体をリリースして召喚する事ができる。この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上のカードを全て破壊する。

「E・HEROと地属性モンスターが融合する時、新たなヒーローが誕生する! 現れよ、『E・HERO ガイア』!」
 『E・HERO ガイア』!? E・HEROと地属性モンスターの融合だと!? そ……そんなヒーローがいたのか! くそっ! まさか、こんな形で融合ヒーローを出されてしまうとは……ッ!

 E・HERO ガイア 攻:2200

 だ……だが! 見たところ、『E・HERO ガイア』の攻撃力はたったの2200! 僕の『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力には、遠く及ばない!
 フッ! 『平行世界融合』をコピーされた瞬間はヒヤリとしたが、所詮は無駄な足掻き! そんな貧弱ヒーロー1体を出したところで、この状況を破ることなどできない! 鷹野さんよ……君は一体、何を考えて―――





 E・HERO ガイア 攻:2200→10300
 マスター・オブ・ゴキボール 攻:8600→4300





 …………。

 …………は?

 うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおおおぉおおおおおおおおおお!!!???
 おい!! 何で『ガイア』の攻撃力が上がってんの!? いや、それだけじゃない! 何で『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力が下がってんの!?
 ちょ……待てよ! 何が起きたんだ!? どうして攻撃力が逆転してんだよ!?
「ふふ……。『E・HERO ガイア』の特殊能力が発動したのよ。このカードが融合召喚に成功した時、相手の場のモンスター1体の攻撃力を半減させ、その数値分、このカードの攻撃力に加算する。私は、あなたの場の『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力の半分を、『ガイア』に吸収させたわ」
 ……な……何だと!? 攻撃力の半分を吸収!!?? 僕の『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力の半分を……『ガイア』が吸収しただとぉぉぉおお!! そんな能力アリかよ!?

 E・HERO ガイア
 融合・効果モンスター ★6 地属性 戦士族 攻2200 守2600
 「E・HERO」と名のついたモンスター+地属性モンスター
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが融合召喚に成功した時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスター1体の攻撃力を半分にし、このカードの攻撃力はその数値分アップする。

 つ……つまり……、『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力は、『ガイア』の効果によって半減し、8600から4300に下がった……。そして、その数値分……4300ポイントだけ、『ガイア』の攻撃力が上がったと……。

 …………。

 ……あれ? 何かおかしいぞ?
「鷹野さん。『E・HERO ガイア』が『マスター・オブ・ゴキボール』の攻撃力の半分――4300ポイント――を吸収したのなら、『ガイア』の攻撃力は、2200+4300=6500ポイントになるはずだよ。でも、『ガイア』の攻撃力は、10300ポイントまで上がってる。……計算が合わないじゃないか」
 そう。よくよく考えてみたら、『ガイア』の攻撃力の上がり方がおかしい。本当なら6500ポイントになるはずが、何故か10300ポイントまで上がっている。これは変だ。
 鷹野さんの手札は、『コピーキャット』を使った時点で尽きているから、何か新しいカードで『ガイア』を強化するということはできない。それなのに、『ガイア』の攻撃力は上がっている。……どういうことだろうか?
「あら? 分からない? じゃあ、場の状況をよく見てごらん」
 僕の疑問に対し、鷹野さんはすんなりと答えた。……場の状況を見てみろ……って? どういうことだろう?
 と……とりあえず、彼女に言われた通り、場の状況を確認してみよう。今は↓こんな感じだ。


【僕】
 LP:8500
 モンスター:マスター・オブ・ゴキボール(攻4300),神殿を守る者(攻1100),デス・ウォンバット(攻1600)
 魔法・罠:えくすとりーむ☆ふゅーじょん!,レアゴールド・アーマー(対象:マスター・オブ・ゴキボール),メテオ・ストライク(対象:マスター・オブ・ゴキボール),禁止令(指定:融合解除)
 手札:0枚

【鷹野さん】
 LP:50
 モンスター:E・HERO ガイア(攻10300),魂を喰らう者 バズー(攻2500),神機王ウル(攻1600)
 魔法・罠:なし
 フィールド:うずまき(OCGルール適用)
 手札:0枚

 えくすとりーむ☆ふゅーじょん!
 (永続魔法)
 融合モンスターが融合召喚に成功した時、その融合モンスターの攻撃力は融合素材に使用したモンスターの元々の攻撃力の数値分アップする。

 …………。
 場で発動中の『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』を見た瞬間、嫌な考えが僕の脳裏を過ぎった。
 ちょ……っと待ってくれ。もしかして……アレなのか? この……カードって……。
「融合モンスターである『E・HERO ガイア』が融合召喚に成功したことで、あなたの場の『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果が発動。それにより、『ガイア』は融合素材である『バブルマン』と『バルバロス』の攻撃力を吸収したのよ」
 鷹野さんはそこまで言うと、『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』を指差し、ニヤリとした。


「『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果はね、私の融合モンスターに対しても有効なのよ」


 …………。

 ぬおおぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!?????
 そんな馬鹿な!? 『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』の効果って、相手の融合モンスターにも影響与えるのかよ!? た……確かに、どこにも『“自分の”融合モンスターが融合召喚に成功した時』なんて書かれてないけどさぁ!
「『バブルマン』の元々の攻撃力は800、『バルバロス』の元々の攻撃力は3000。よって、『ガイア』の攻撃力はさらに3800ポイントアップしたわけね。この3800ポイントを合わせれば、『ガイア』の攻撃力はちょうど10300になるわ」

 E・HERO ガイア 攻:2200→2200+4300+800+3000=10300

 なんて……こった……! まさか、僕の必殺オリカである『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』を逆手に取られるとは!
「さ、バトルフェイズと行きましょうか。まずは、『E・HERO ガイア』で『マスター・オブ・ゴキボール』を攻撃! “コンチネンタルハンマー”!!」
 鷹野さんの攻撃宣言。『レアゴールド・アーマー』の効果で『マスター・オブ・ゴキボール』にしか攻撃できないため、彼女は『マスター・オブ・ゴキボール』を攻撃してきた。
 そして、僕にこの攻撃を止める手段はない。最強のゴキブリモンスター『マスター・オブ・ゴキボール』は、『ガイア』によってあっさりと倒されてしまった! くっそぉぉぉぉおおおお!!!

 E・HERO ガイア 攻:10300
 マスター・オブ・ゴキボール 攻:4300

 僕 LP:8500→2500

 だ……だが、まだ! 『マスター・オブ・ゴキボール』には、特殊能力がある! それを使わせてもらうぞ!
「『マスター・オブ・ゴキボール』のモンスター効果! このカードが破壊された時、僕の場の空いているモンスターゾーン全てに、攻撃力1200、守備力1400の『ゴキボールトークン』を特殊召喚するよ!」

 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター ★12 地属性 昆虫族 攻5000 守5000
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが破壊された時、空いている自分のモンスターゾーン全てに「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を特殊召喚する。
 「ゴキボールトークン」はルール上、カード名を「ゴキボール」として扱う。

 今、僕の場にいるモンスターは、『神殿を守る者』と『デス・ウォンバット』の2体。よって、空いているモンスターゾーンは3つなので、3体の『ゴキボールトークン』が特殊召喚されることになる。
「僕は、3つのモンスターゾーンに、『ゴキボールトークン』を守備表示で特殊召喚!」


【僕】
 LP:2500
 モンスター:神殿を守る者(攻1100),デス・ウォンバット(攻1600),ゴキボールトークン(守1400),ゴキボールトークン(守1400),ゴキボールトークン(守1400)
 魔法・罠:えくすとりーむ☆ふゅーじょん!,禁止令(指定:融合解除)
 手札:0枚

【鷹野さん】
 LP:50
 モンスター:E・HERO ガイア(攻10300),魂を喰らう者 バズー(攻2500),神機王ウル(攻1600)
 魔法・罠:なし
 フィールド:うずまき(OCGルール適用)
 手札:0枚


 よし……。ひとまず、守りを固めることはできた。まだ勝負は分からな―――
「無駄なことを……。私の場には、相手モンスター全てに攻撃可能な『神機王ウル』がいるのに……」
 ―――って、そうだったぁぁぁぁあああああ!!!!! 鷹野さんの場にいる『神機王ウル』は、戦闘ダメージを与えられない代わりに、相手モンスター全てに攻撃することができるんだよ! うわぁぁああ!!!

 神機王ウル
 効果モンスター ★4 地属性 機械族 攻1600 守1500
 このカードは相手フィールド上に存在する全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。
 このカードが戦闘を行う場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。

 く……っ! そうか……! 鷹野さんはこうなることを見越して、『死者転生』で『神機王ウル』を手札に戻してたのか! 抜け目のない人だ……!
「じゃ、次は『神機王ウル』で、そのゴキブリたちを一掃しましょうか。『ウル』で『ゴキボールトークン』3体を攻撃!」
 全体攻撃可能な『ウル』が、今さっき場に出現した3体の『ゴキボールトークン』を攻撃する。無論、僕に対抗手段はないため、『ゴキボールトークン』は一掃された。おのれぇぇぇぇええ!!!
「さらに、『神殿を守る者』にも攻撃するわ。ダメージは通らないけどね」
 『ウル』の攻撃は、僕の場の『神殿を守る者』にもヒットする。『神殿を守る者』の攻撃力は1100なので、当然の如く撃破された! くそっ……!
「最後に、『デス・ウォンバット』と相討ちに持ち込むわ」
 『ウル』は『デス・ウォンバット』にも攻撃する。この2体のモンスターは、両者とも攻撃力が1600のため、相打ちとなった。……くっ! 『デス・ウォンバット』まで破壊されてしまうとは……!
 ……あ……あれ? 何か、いつの間にか、僕の場のモンスターがいなくなっちゃった気がするんだけど……。
 ちょ……ちょっと待ってくれ! おかしいだろ!? ついさっきまで、僕が完全にゲームを支配していたはずなのに……何なんだコレは!?


【僕】
 LP:2500
 モンスター:なし
 魔法・罠:えくすとりーむ☆ふゅーじょん!,禁止令(指定:融合解除)
 手札:0枚

【鷹野さん】
 LP:50
 モンスター:E・HERO ガイア(攻10300),魂を喰らう者 バズー(攻2500)
 魔法・罠:なし
 フィールド:うずまき(OCGルール適用)
 手札:0枚


「これで終わりね。『魂を喰らう者 バズー』で、プレイヤーにダイレクトアタック!」
 がら空きになった僕に向かって、『バズー』が攻撃を仕掛けてきた。……あれ? そう言えば、『バズー』は効果を使って攻撃力が2500になってたような気がするんだが……?
 ……ちょ……待てよ……? と……いうこと……は……?

 魂を喰らう者 バズー 攻:2500

 僕 LP:2500→0

 ま……また負けたぁぁぁぁああああ!!!??? うぉぉぉぉおおおおお何でだぁぁぁあああああああ!!!!????




終章 ありがとう、さようなら

「おおおおお!!! たかのっティーが勝ったぜぇぇぇええ!!!」
 僕と鷹野さんによる宿命のデュエルが終わった瞬間、周囲にいたギャラリーが叫んだ。
 あぁ、そう言えば、このデュエルにはギャラリー(ただし、全員鷹野さんの味方)がいたんだっけ? 作者の不手際で、デュエル中には全く描写がなかったけど。
「よし! 皆でたかのっティーを胴上げしようぜ!」
 ギャラリーの1人がそう叫ぶや否や、6人の鷹野さんファンが、彼女の勝利を祝福して、胴上げを開始した。
「おめでとう、たかのっティー! わっしょい! わっしょい!」
 ファンにより、胴上げされる鷹野さん。だが、そうやって、鷹野さんの体に無許可で触れたのが間違いだった。

「汚らわしい!」

 鷹野さんはそう叫ぶと同時に、自分を胴上げしていた6人のファン全員の顔面に、空中で回し蹴りをヒットさせた。回し蹴りを喰らったファンの皆さんは、全員が鼻血を出しつつ、一言叫んで床にぶっ倒れる。
「ぐぉぉっ!」
「ぬぁあ!」
「うぐぉ!」
「がはっ!」
「げふっ!」
「パンツ見えた!」
 6人のファンをノックアウトすると、鷹野さんは綺麗に着地した。おぉー……お見事。
「私の体に無許可で触っていいのは、お兄ちゃんだけよ」
 着地した鷹野さんは、そんなことを言った。……兄になら触られてもいいのか。やっぱり、鷹野さんってお兄さんと仲がいいんだなぁ。
「す……すいません! 不謹慎でした! では、たかのっティー。胴上げしてもよろしいでしょうか!?」
 回し蹴りを喰らったファンの1人が、鼻を押さえつつ鷹野さんに尋ねた。そんなに胴上げがしたいのか?
「……胴上げ……ね。いいわ。私の体に触れることを許可しましょう。あと、これから私のことは船長とお呼び」
「へい! 船長!」
 胴上げすることを許可した鷹野さん。まんざらでもないらしい。でも、“船長”と呼ばせることには何か意味があるのか?
「おめでとう、船長! わっしょい! わっしょい!」
 再び6人のファンによって、胴上げされる船長……もとい、鷹野さん。今度は抵抗する様子はなく、むしろ、ノリノリで胴上げされている。
 ……勝手にやってろよ、もう。


 ていうかさ?
 あろうことか、今回も船長……もとい、鷹野さんが僕に勝っちゃったわけだけど、これってかなりまずいんじゃなかろうか?
 1章で述べたように、このまま鷹野さんが僕に勝ち続ければ、同じ展開の繰り返しでマンネリ化してしまう。そんなことになれば、読者の皆さんも飽きてくるというものだ。それを防ぐためにも、今回こそは僕が勝利しなくてはならない……はずだった。
 しかし、僕は負けてしまった。よって、マンネリ化を助長する結果に終わってしまった。それはすなわち、プロジェクトシリーズの存続を危うくしてしまったことを意味する。
 ……まずい。実にまずい。何とかしなければ……――

「パラコン」

 ――と、僕が真剣に考えていることを知ってか知らずか、鷹野さんが呼んできた。
 何だろうか? 僕は彼女の方へ目を向けた。ちなみに、彼女はまだ、ファンの人たちに胴上げされ続けている。
「何? 鷹野さん」
 僕が尋ねると、鷹野さんは胴上げをされている状態で話し始めた。
「今回のっ、デュエルでのっ、あなたの敗因をっ、まだっ、言ってなかったっ、わねっ」
 胴上げされているためか、やや途切れ途切れで話す鷹野さん。つーか、わざわざ僕の敗因を言うつもりなのかよ!? 何!? 勝者の特権って奴ですか!?
「てやんでえ!」
 鷹野さんはまたもや、自分を胴上げしていた6人のファン全員の顔面に回し蹴りをヒットさせ、ファンをノックアウト。そして、綺麗に着地した。
 ……おそらく、胴上げをされている状態では喋りづらいと考えたのだろう。何にしても身勝手極まりない行動だ。読者の皆さんは真似しちゃいけないぞ!
「パラコン。あなたの敗因は二つ。一つは、軽々しくチートオリカ――今回の場合、『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』ね――に頼ったこと。あんなカードに頼った時点で、あなたの勝ちの目は消えていたのよ(敗北フラグ的な意味で)。今度オリカを使う時は、もっとバランスの取れたカードを使うことね」
 敗因の一つと言って、鷹野さんは『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』を完膚なきまでに否定した。……え……『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』って、そんなに凶悪なカードか!? 単に攻撃力上げるだけのカードなのに!?
 ……ま……まあ、10000歩譲って『えくすとりーむ☆ふゅーじょん!』がチートオリカだとしてもだ。『うずまき』なんていうぶっ壊れカードを使うようなあんたに言われたくない!
 とりあえず、鷹野さんの言う、一つ目の敗因については、全く納得行かなかった。これについては、ひとまずスルーしておくことにして、二つ目の敗因は何だろうか?
 ま、どうせロクなことじゃないんだろうけど、聞くだけは聞いといてやろう。ほら、とっとと言ってみな。





「もう一つのあなたの敗因。それは、ルール違反を犯したことよ」





 …………。

 …………。

 …………は?

 る……ルール違反!? ちょっと待て! 僕、何かルールに反するようなことしたか!?
 ルール違反と聞き、僕はすぐに、鷹野さんとのデュエルを思い出してみた。だが、ルールに違反したようなプレイングをしたような覚えはない……。どういうことだ……?
「た……鷹野さん。ルール違反って……どういうこと?」
 考えても分からないので、素直に鷹野さんに訊いてみた。すると――
「あら? 分からない? すでにエラッタ(テキスト変更)されたカードを、エラッタ前のテキストを適用して扱うのは、立派なルール違反なのよ」
 …………?
 エラッタ済みのカードを、エラッタ前のテキストを適用して扱った!? 何の話だ!? 僕そんなこと知らないぞ!?
「……なるほど、知らないのね。じゃあ、見せてあげるわよ」
 何が何だか分からない、といった僕の心境を悟ったのだろう、鷹野さんはどこからともなくノートパソコンを取り出し、インターネットを繋いだ。……何だ? 答えはネット上にあるのか?
「先週、海馬コーポレーションのホームページで、大規模なエラッタの発表があったわ。これはその内の一つよ。よく見てみなさい」
 鷹野さんが、ノートパソコンの画面を僕に見せてくる。え!? 海馬コーポレーションのホームページで、エラッタの発表!? 何それ!? 全然そんなの知らなかったんだけど!
 僕は手に冷や汗を握りつつ、ノートパソコンの画面に目を向けた……。そこには、↓こんなことが書かれていた……。




〜「マスター・オブ・ゴキボール」テキスト変更に関するお知らせ〜

 「マスター・オブ・ゴキボール」のカードテキストにエラッタをかけた。
 今後、このカードについてはテキストの内容を読みかえて使用せよ。

■変更前
 マスター・オブ・ゴキボール
 ★12/地属性/昆虫族/融合
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが破壊された時、空いている自分のモンスターゾーン全てに「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を特殊召喚する。
 「ゴキボールトークン」はルール上、カード名を「ゴキボール」として扱う。
 攻5000  守5000

■変更後
 マスター・オブ・ゴキボール
 ★5/地属性/昆虫族/融合
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、自分のデッキ・手札・墓地から「ゴキボール」1体を特殊召喚する。
 攻1800  守2100


 以上の通りだ。まあ、せいぜい、大会等で恥をかかないように注意することだな! ワハハハハハ!!!


海馬コーポレーション代表取締役社長
海馬瀬人



 …………。

 急・展・開
 (罠カード)
 読者は脈拍数が1上昇する。

 何だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?
 『マスター・オブ・ゴキボール』ってエラッタされてたの!? そんなこと全く知らなかったんだけど!? な……何でよりにもよって、僕の切り札に!? つーか、このエラッタ酷すぎだろ!? 凄まじいまでの弱体化じゃないか!!
 だって、↓これだぜ、これ! どう考えたっておかしいだろ!!

 マスター・オブ・ゴキボール
 ★5/地属性/昆虫族/融合
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、自分のデッキ・手札・墓地から「ゴキボール」1体を特殊召喚する。
 攻1800  守2100

 まず、攻撃力が恐ろしく下がっている! 1800って、『ガジェット・ソルジャー』と変わりないじゃないか! そして、破壊された後に『ゴキボール』を生み出す、という能力は、『戦闘による破壊』でしか発動せず、しかも、生み出す『ゴキボール』は1体だけ! 何だこの中途半端な効果!!
「そう。あなたの切り札である『マスター・オブ・ゴキボール』は、先週エラッタされたのよ。にもかかわらず、あなたはエラッタ前のテキストを適用して、『マスター・オブ・ゴキボール』を扱っていた。これは極めて悪質なルール違反だわ。たとえるなら、『天使の施し』で『黒き森のウィッチ』を墓地に捨てて、エクゾディアパーツをデッキから手札に加えることくらいに悪質な行為よ」
 くっ! ルール上、エラッタされたカードは、必ずエラッタ後のテキストを適用しなければならない! でもまさか、『マスター・オブ・ゴキボール』がエラッタされてたとは思わなかったよ!!
 しかも、エラッタのやり方が酷い……。恐ろしいくらいの弱体化じゃん。誰かの悪意すら感じられる弱体化だよこれは……。
「噂によれば、『マスター・オブ・ゴキボール』のエラッタには、海馬コーポレーションが1枚噛んでいるらしいわね。あの会社の社長……つまり海馬さんが動いたことで、I2社はあっさりそれを受け入れたとか……。あくまでも噂だけどね」
 鷹野さんが補足を入れてきた。なるほど、海馬社長が1枚噛んでいる……か。
 まあ、海馬さんのことだ。どうせ「ゴキブリごときがブルーアイズを超えるなど、非ィ科学的だ!!」とか何とか言って、I2社に圧力をかけたんだろうな。……って、そんなの自分勝手過ぎるだろ!!
 つーか、『マスター・オブ・ゴキボール』の能力変更によって、僕の切り札は事実上消滅じゃねーか! チキショオ!!!
「要するに、エラッタ前の『マスター・オブ・ゴキボール』を使った時点で、あなたに勝つ資格はなくなってたってことよ。今度からは、情報収集をこまめに行うことね、パラコンボーイ」
 パソコンの画面を閉じ、勝ち誇ったように言う鷹野さん。くっそぉぉぉおおお! まさか切り札を失ってしまうとは! 僕はこれからどうすりゃいいんだよ! 切り札を失った状態で鷹野さんに勝てって言うのか!? 無理だろいくら何でも!
「じゃあね、パラコン。せいぜい惨めに足掻いてちょうだい」
 うるせぇぇぇええええよこの女ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!! 何が惨めに足掻け、だコンチキショオがぁぁぁああああ!!!!


 ◆


 かくして、パラコンの切り札『マスター・オブ・ゴキボール』は、事実上消滅することとなった。
 切り札を失い、デッキの弱体化を余儀なくされたパラコン。こんな状態で、彼は鷹野さんを打ち破り、無事にマンネリ化を防ぐことができるのだろうか!?
 行け! パラコン! 頑張れ! パラコン! プロジェクトシリーズの未来は、君の手に懸かっている!





 To be Continued?








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