POWER OF THE DUELIST -伝説を継ぐ者-
28話〜

製作者:真紅眼のクロ竜さん




《第28話:悪意ある災厄》

 丸藤亮:LP1800 遊城十代:LP4000

 灼熱の大地ムスペルへイム フィールド魔法
 全フィールドの炎属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げる事が出来る。
 この効果を使用した場合、そのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 炎属性/星4/炎族/攻撃力1800/守備力1400
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃する事が出来る。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚する。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 攻撃力1800→2100

「……俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 十代のターンが終わる。
「……一筋縄では行かないか。だが、それがいい」
「皆の知っている俺が、俺の全てじゃないって事さ……確かにHERO達は大切なデッキだけど、俺は……時として非情にもなれる」
「その結果が、このデッキか?」
 亮の問いに、十代は答えずに「カイザーのターンだ」と促した。
「……俺のターンだ。ドロー!」
 ライフを半分以上削られ、更にフィールドには何も無い。
 モンスター強化のフィールド魔法に加えてレベルアップモンスター。十代は完全に攻勢に入っている。
「(あの男、ここまでのデッキを組めるのにセブンスターズや斎王相手に使わなかったのは何故なんだ?)」
 亮はふとそう思ったが、今はデュエル中である事も思いだした。
 そう、今はデュエルに集中しなければならない。

「手札より、自身の効果でサイバー・ドラゴンを召喚!」

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時、手札からこのカードを特殊召喚出来る。

「魔法カード、天使の施しを発動!」

 天使の施し 通常魔法
 カードを3枚ドローし、2枚を手札から墓地へ送る。

「この効果で俺は手札のサイバー・ダーク・エッジとサイバー・ダーク・キールを墓地に送る」

 サイバー・ダーク・エッジ 闇属性/星4/機械族/攻撃力800/守備力800
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、
 このカードに装備カード扱いとして装備出来る。その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をアップする。
 このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。

 サイバー・ダーク・キール 闇属性/星4/機械族/攻撃力800/守備力800
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、
 このカードに装備カード扱いとして装備出来る。その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をアップする。
 このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、相手ライフに300ポイントダメージを与える。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。

「更に、手札よりプロト・サイバー・ドラゴンを召喚!」

 プロト・サイバー・ドラゴン 光属性/星3/機械族/攻撃力1100/守備力600
 このカードはフィールド上に存在する限りカード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。

「そして魔法カード、オーバーロード・フュージョンを発動!」

 オーバーロード・フュージョン 通常魔法
 自分のフィールドまたは墓地から融合モンスターカードによって決められたカードを除外する。
 闇属性・機械族のモンスターを特殊召喚する。(この召喚は融合召喚扱いとする)

「俺が召喚するカードは、キメラテック・オーバー・ドラゴンだ!」

 キメラテック・オーバー・ドラゴン 闇属性/星9/機械族/攻撃力?/守備力?/融合モンスター
 「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
 このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードの融合召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。
 このカードの元々の攻撃力と守備力は、融合素材にしたモンスターの数×800ポイントの数値になる。
 このカードは融合素材にしたモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃する事ができる。

 キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力0→2400

「……キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃……」
 キメラテックの攻撃力は2400。少なくとも、勝てる度合いではある。
 だが……フィールド魔法の効果。炎属性モンスターは1ターンに1度、攻撃力を1000上げられる。
 オマケにリバースカードもある。どうしたものだろうか。

 いや、今さら躊躇ってはいけない。何故なら俺はプロのデュエリスト。
 アカデミア生如きに遅れは取らない。
「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃! エボリューション・レザルト・バースト!」
「灼熱の大地ムスペルへイムの効果発動! 1ターンに1度、炎属性モンスター1体の攻撃力を1000上げる!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 攻撃力2100→3100

「やはり、そう来たか!」
 これではサイバー・ドラゴンによる追撃は不可能。
 迎撃されたキメラテック・オーバー・ドラゴンが破壊されてフィールドから姿を消す。

 丸藤亮:LP1800→1100

「クソ、カードを1枚伏せてターンエンドだ」
 こんな感覚に陥るのは久し振りだな、と思いつつ亮はターンエンドを宣言した。
「そしてエンドフェイズに、フィールド魔法の効果によってヘルフレイムエンペラードラゴンLV4は破壊される」
 亮の言葉通り、LV4は墓地へと送られる。
 だが十代はニヤリと笑うと宣言した。
「リバース罠、リビングデッドの呼び声を発動!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
 選択したモンスターが存在しなくなった時、このカードは破壊される。
 このカードが破壊された時、選択したモンスターも墓地へ送られる。

 炎の竜が、再びフィールドに舞い戻る。
 相手フィールドの機竜と同じ攻撃力を有しながら相手を威嚇する。

「………ラストターンだぜ、カイザー」
 十代が呟く。
「俺のターン! ドロー!」

「……ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4の効果! スタンバイフェイズ時、このカードを墓地に送る事でLV6を召喚出来る!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 炎属性/星4/炎族/攻撃力1800/守備力1400
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃する事が出来る。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚する。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV6 炎属性/星6/炎族/攻撃力2400/守備力1800
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分だけダメージを与える。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV8」を特殊召喚する。

「LV6を手札から特殊召喚……更に、魔法カード、レベルアップ!を発動!」

 レベルアップ! 通常魔法
 フィールド上に存在する「LV」を持つモンスター1体を墓地に送って発動する。
 そのカードに記されているモンスターを召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

「この効果でLV6を墓地に送り、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8を召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8 炎属性/星8/炎族/攻撃力3000/守備力2000
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で、
 「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV10」を特殊召喚する。

 最初はそう大きいものでは無かった炎の竜。
 だが、その姿は既に巨大化し、翼を広げて目の前のサイバー・ドラゴンを威嚇する。
「れ、LV8……だと………」
 亮は、その恐ろしさに思わず畏怖して呟いた。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8 攻撃力3000→3300

 十代はそんな亮を見ながらも、淡々とデュエルを続ける。
 まるで人格が変わったかのように。
「LV8の効果により、1000ライフポイントを支払う事で相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する! インフェルノス・フレア!」
「何ッ!? モンスター破壊効果だと!?」

 遊城十代:LP4000→3000

 サイバー・ドラゴンが炎に焼かれて消えていく。
 残るのは、モンスターのいないフィールドと立ち尽くす亮の姿だけ。
「――――――――ッッッ!!!」
 最早言葉にならない叫びをあげた亮の前で、十代の攻撃宣言は唐突に告げられた。

「行け、LV8! 帝王ですら焼き尽くしてみせろ、その炎で! イグニッション・カラミティ・ヴァァァァストォォォォォッ!!!」
「う……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だこのオレがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああアアアァァァァァァッ!!!!!!!??」

 丸藤亮:LP1100→0

 その言葉は最後まで続かずに、途中で途切れた。
「言っただろ。焼き尽くすってな」
「………信じられん……」
「まぁいいさ。カイザー。しばらく、大人しくしてくれると助かる。約束は守るよな?」
「……仕方ないだろう」
 亮は両手をあげ、降参の意を伝えた。
 十代はそれに頷くと、手でそっと階下を指し示した。
「ほら、もう遅いしよ。寝たら?」
「1回戦で敗退したんだぞ、俺は」
 亮はそこで笑ってから、ふと急に視線を外へと移した。

「……この船。アカデミアに向かってるな?」
「正解」
 亮の言葉に、十代は軽く口を開いた。
「アカデミアが決勝会場なのか?」
「ああ。それに、神竜だってそこに保管してあったしな」
「ほう」
 亮がそう答えた時、十代は少しだけ声を落した。
「過去に1度神竜を盗んだ俺がいる場所に保管するなんて不用心だとは思ったけどさ」
「お前、それは冗談なのか本気なのか?」
「どっちだろうな。想像に任せるぜ」
 十代の返事に、亮はため息をついた。
 だが、十代はそれ以上言葉を続けず、手をひらひらと振って話は終わりと言い放った。

 亮はため息をつくと、大人しく船室へと引き下がる事にした。




 亮が船室に消えた頃、十代はそっと口を開いた。
「いるんだろう? 出て来いよ」
 十代がそう告げると、暗闇から1人の人影が現れた。
「高取晋佑、か」
「……遊城十代。お前は何を企んでいる?」
「企んでる? 意味がわからないな」
 十代が首を傾げた時、晋佑がここで初めて声を荒げた。
「惚けるな! お前がこの船に乗っているどころか、この大会に関わっている事自体が怪しいんだ」
「………俺が元デュアル・ポイズン、だからか?」
「元、という意味じゃ無い。今もそうなんだろう? 遊城十代」
「……違う。俺は海馬コーポレーションの依頼でこの大会に関わってる。デュアル・ポイズンとは縁を切った」
「本当にそうか?」
 十代の返事に、晋佑は不審そうに口を開いた。
 しばらくの間、風と波の音だけが支配する睨み合いが続いた。
「………随分と俺を勘ぐるんだな、高取晋佑。まるで俺が何かの陰謀に関わってるとでも?」
「デュアル・ポイズンは一枚岩じゃない。そして何より元々アンタは穏健派じゃなかった。KCの手下の振りして実はスパイとかも在りうる」
「おいおい、決めつけも大概にしろよ、高取晋佑」
 十代は肩を竦めると、甲板からフィールドへと続く階段を上がった。
 晋佑はその後を追わず、ただじっと立っていた。
「そういうお前こそどうなんだ?」
「俺はただダークネスを回収しに来ただけだ」
「それが問題なんじゃないのか?」
 十代は振り向くと同時に、晋佑を睨んだ。
 その瞳に映っていたのは、炎。消えぬ、炎。
「ダークネスを復活させるにしても、三神竜と、肉体が必要だ。だけどダークネスは1度世界を滅ぼした存在だよな? もしかすると、復活した時点で
 暴走を始めたら、どうなる? 誰にもそれを止める方法は知らないし手段も無い。穏健派だなんだとか言っても、結局の所欲しいのはダークネスとい
 う存在を手に入れて、武力的優位に立つだけだ。だけどその力を使う事は出来ない。世界を滅ぼし兼ねないからな。核兵器とおんなじ。威嚇目的でそ
 れを持つ事に意義がある。しかし、核と違って基本は人間だ。それがヒトである限り、簡単に殺せるし簡単に奪える。そしてそんな攻撃を受ければ、
 ダークネスは間違いなく暴走して世界をもう1度滅ぼすだろうね。ある意味それは核より厄介だろうな。1発どころかほんの1回のストレスだけで世
 界そのものを滅ぼしてしまう程なんだから」
「……………」
「高取晋佑、お前は任務のその先まで考えてない。その任務が成功した結果、どうなるかを考えてない」
「………俺はあくまでも手足だ。任務のその先を考えるのは上の仕事だ」
「そうだな、上の仕事だな。だが、実際にそれを行うのはお前だ、高取晋佑」
 十代はクツクツと笑うと、晋佑に1歩だけ近寄った。
「そしてお前は最高なまでに最悪な奴だ。だって、任務の為に親友をそんな悪魔に変えるんだからな! 黒川雄二という存在をダークネスに!」

「言うなッ!!!」

 十代の言葉に、晋佑の叫びが響いた。
「……………」
「………親友をこの手で壊す事が、どれだけ恐ろしい事か……お前は知っている筈だ、遊城十代……」
 晋佑の言葉に、十代は答えなかった。
 だが、晋佑は構わずに言葉を続ける。
「お前だって……知っている筈だ。3年前、神竜を持ちだした時もそうだ。お前は何人見殺しにした?」
「何の事かわかんねーな」
「惚けるな! お前は………自分だけが逃げるのに、どれだけ仲間を見捨てたかという事だ。デュアル・ポイズンから逃げる為にな」
 晋佑の言葉に、十代は黙ったままだった。

「くだらない。そんな過去の事は忘れたよ」

 銃声が、響いた。

「……………」
 十代が頬に手を置くと、紅いベッタリとした液体が付いてきた。
 それが血だと気付くのに1秒も掛からなかった。
「………外れたか」
 晋佑がそう呟くと同時に、十代は奇怪な笑みを浮かべる。
「そもそも片手撃ちで当てようって時点で間違ってるぜ、晋佑。ま、いいカンしてはいるけど」
 十代が肩を竦めた時、既に晋佑は引き金を引こうとしていた。

 だが、当たらない。
 弾倉が切れるまで撃ち続けても、彼に当たる事は無かった。

「くだらない……だと…………お前はどうとも思わないのか!? 例えどれだけ月日が流れようとも! 人が生きている限り、その記憶は残り続ける!」
「それがくだらないと言っている」
「―――――!?」
「お前自身が言っただろう? 俺は1順目の記憶を持ってる。そう、1順目の記憶を」
 十代は近くのフェンスに寄りかかると、淡々と口を開いた。
「そう、1順目に世界を滅ぼしたのはダークネスだ。だけど、そんな事にさせたのは人間なんだよな。最後にダークネスと相対してたのは俺だからな。
 ダークネスが言ってた事ぐらいちゃんと覚えてるぜ」

「ダークネスが世界を滅ぼすように仕向けたのは俺達人間、お前はそう言いたいのか?」
 十代の言葉を遮るかのように、晋佑が口を開く。
「それ以外なんだって言うんだ?」
 晋佑はこの時、違和感を覚えた。
 この遊城十代は、何処かおかしい。
 信念とか、そういうのじゃない。何か何処か別の目的を持って行動している。
「遊城十代」
「なんだ?」
「…………お前は、何を企んでいる?」
「またそれか?」

「いや、さっきからの話を聞いてると、この舞台のオレの役割ってのが気になってね」

 別の影から、声が現れた。
「!?」
「よう、兄貴がお世話になってるな」
「ゼノンか」
 十代の背後、どう考えても下の船室から壁を登って甲板へと飛び移ってきたゼノンは頭を掻くと、十代と晋佑を見比べた。
「窓を開けて夜風に当たれば何か凄い話してるじゃないか。すると、オレはどんな立場なのか、教えて欲しいもんだぜ、遊城十代」
「またしつこそうなのが……何でこの手合って皆ムダに鋭いのばっかなんだよ…………」
「「禁則事項」」
「お前らそこに並べ。簀巻きにして海に沈めてやる」

 長い夜はまだ、始まったばかり。





「………あ、また罰則金だぜ貴明。これで30パック連続……」

 罰則金 通常罠
 自分は手札を2枚捨てる。

「クソッ、また不運なリポートかよ! 社長の奴、絶対封入率操作してるだろ、コレ」

 不運なリポート 通常罠
 相手は次のバトルフェイズを2回行う。

 そう、長い夜は終わらない。



《第29話:The Nightmare Begins》

「もう1度聞くぜ、遊城十代。アンタの話を聞く限り、オレは本当にただ利用されてただけじゃねーか」

 ゼノンの声が再び響き渡る。
 十代も、晋佑も返事をせずに黙ったままだ。

 確かにそうだろう。ゼノン本人はデュアル・ポイズンに手を貸した訳でも無い。
 だが、ダークネスの復活に必要なのは三神竜のカードとダークネスの肉体。
 それが1つの場所に集っているという事。

 そして、自分がその断片の1つを持っている事。
「……今、解った。ダークネスの復活ってのは、規定事項でオレはその為の運び屋に過ぎないって事だな」
「……………少なくとも、元から、な」
 晋佑が口を開く。だが、その声に落ち着きは無かった。
 動揺しているのを、隠しきれない。今まで見せていた姿とは、逆に。
「オレを利用したのはお前だぜ、高取晋佑。だけどどうだい? その様子だとお前も利用されてたクチかい? ハハッ」
 ゼノンがそう言って自嘲気味に笑った後、同時に晋佑と十代を睨んだ。
「冗談じゃねぇ………冗談じゃねぇぞオイ」
 怒りに染められつつあるその瞳に睨まれても、2人は流石に怯むことは無かった。
 だがしかし、彼が通常でないという意味でなら驚きを隠せなかった。
「このオレがテメーら如きに利用されるなんて、まっぴらゴメンだ。オレはただ、強くなりたかっただけだ」
「だから、ここから降りるのか? ゼノン」
 ゼノンの言葉に、十代が問いかける。
「……降りはしねえよ。だけど、こんなんでケリを付けるってのも野暮かも知れねぇけどよ」
 ゼノンは肩を竦めると、視線を晋佑に向けた。

「……どうだい。バトルロイヤルって事にしねぇかお2人さん? いや、もう1人いるか」

 ゼノンの言葉に、晋佑と十代は同時に振り向いた。
 そこに立っていた人影は小さく首を振った。
「……………どうやら、関わりすぎたらしいな、この俺が」
「カイザー……!」
「丸藤、亮……!」
 いつの間に甲板に上がっていたのだろうか。丸藤亮は小さく首を振ると、ゼノンに視線を向けた。
「生憎とこの俺はデュエルで決着を付けるつもりは無い。好きにしろ。俺は観戦者にさせて貰う」
「そうかい、なら俺達3人で決着を付けようじゃねぇか……」
 3人がそれぞれデュエルディスクを構えた時、亮が急に口を開いた。
「ああ、待て。1つ聞きたい事があるんだが」
「……何だ?」
「…………神竜に飲まれた奴は消失する。そいつらは、どうなる?」
「……さぁな? ダークネスが復活すれば出て来る、んじゃないか?」
「そうか」
 十代は亮の妙な問いにそう答えると同時に、2人に視線を向ける。

 その時、誰も気付かなかった。
 亮の手が携帯電話に伸びていた事に。

 機械の戦士達と混沌の神竜を従える、高取晋佑。
 蒼き竜と天空の神竜を持つ、ゼノン・アンデルセン。
 悲哀なる地獄の焔を操る、遊城十代。

 誰もが異なる立場で。
 誰もが何処か違うモノ達の戦い。

 此処から始まる――――醒めない悪夢の始まり。


「「「デュエル!」」」

 高取晋佑:LP4000 遊城十代:LP4000 ゼノン・アンデルセン:LP4000

「先攻は貰うぞ! ドロー!」
 晋佑の宣言に、他2人がまずは身構える。
「紅蓮の鋼騎士フレイムナイトを召喚!」

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

「フレイムナイトの効果により、セイバーナイトをデッキから手札に銜える」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

 紅の鋼騎士がフィールドに舞い降り、手札には蒼い刃の騎士が加わる。
「……ガジェットの展開力と、磁石の戦士の合体機能が合わさったモンスター……流石は高取晋佑だよな」
「褒めても何も出ないぞ、遊城十代」
「いや。流石はかの伝説のデュエリストが育て上げた連中の中で、最も危険な奴だと言われてるだけはあるぜ」
「そしてデュアル・ポイズンの若手でも頭1つ飛び出てるとまで、言われたさ。嬉しくはないが。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
 続いて、遊城十代のターンが続いた。
「ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4を召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 炎属性/星4/炎族/攻撃力1800/守備力1400
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃する事が出来る。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚する。

「ターンエンドだ」
「オレのターンだな。ドロー!」
 ゼノンは手札を確認し、口元を歪めた。
 どうやら良い手札だったらしい。
「手札から、サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「バトルロイヤルルールで、1ターン目は攻撃が出来ない。カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターンか。ドロー!」
 ゼノンに続き、晋佑のターンへと戻る。

 ゼノンを倒すか、それとも十代に挑むか。
 遊城十代に劣るとは思ってない。だが、相手はかつてデュアル・ポイズン若手では最強とまで言われた男。
 それならデュエル・アカデミアアークティック校No.2のゼノン相手の方が倒しやすい。
 だが、どちらにしても片方と潰しあいをすればもう片方に倒されるのも事実。どちらを選ぶか……。
 展開力の十代か、攻撃力のゼノンか。
「…………クソッ、難しい問題だ……」
 落ち着け、クールになれ高取晋佑。
 俺は牙は折れてない。むしろ………研ぎ澄まされている。
「……フレイムナイト! ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4に攻撃だ! 行け!」
 バトルロイヤルルールでは、敵が多い。
 リバースカードを発動するのがバトルフェイズの対象ではなく、その隣りで次のターンを待つ者でもありうる。
 だが、ゼノンは動かさなかった。
 フレイムナイトがヘルフレイムエンペラードラゴンLV4を葬るのを黙って見ていた。

 遊城十代:LP4000→3700

「……フレイムナイトは、戦闘後に自身の効果で守備表示になる」
 紅の騎士が膝を折り、守備体勢へと入る。
「俺のターンはまだ終わってない。KAー2 デス・シザースを守備表示で召喚!」

 KAー2 デス・シザース 闇属性/星4/機械族/攻撃力1000/守備力1000
 このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターのレベル×500のダメージを相手ライフに与える。

「ターンエンドだ」
「随分と厄介なモンスターを用意しやがって………俺のターン! ドロー!」

「憑依装着−ヒータを攻撃表示で召喚!」

 憑依装着−ヒータ 炎属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 自分フィールド上の「火霊使いヒータ」と他の炎属性モンスター1体を墓地に送る事で手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 この方法で特殊召喚した時、以下の効果を得る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が相手守備力を上回っていればその分戦闘ダメージを与える。

「……手札からの通常召喚の為、貫通効果は持たない」
 十代がテキストを読み上げると同時に、フィールドに火霊使いの少女が舞い降りた。
 使い魔を従え、その燃え上がる炎は彼のデッキに相応しいというべきなのだろうか。
「だけど、俺のターンは続いてるぜ! 手札を1枚捨て、自身の効果でTHE トリッキーを召喚!」

 THE トリッキー 風属性/星5/魔法使い族/攻撃力2000/守備力1200
 手札を1枚捨てる事でこのカードを特殊召喚出来る。

 続いて現れたのは変則的な魔術師。
 かの決闘王も使用したカードだが、何故こんなカードを投入しているのだろうか。
「だが、これで2体だ」
 十代の呟き。晋佑は気付いた。
 遊城十代は、俺を最優先で潰そうとしている。
 ちょうど2体、こちらも2体。
 フレイムナイトもデス・シザースも守備表示だが、その守備力は十代の両モンスターに劣る。
 そして破壊されれば、ゼノンのダイレクトアタックも在りうる。

 つまりそれは――――敗北へのカウントダウン。

「……トリッキー。デス・シザースへ攻撃!」

 魔術師の一撃で、カニ型機械は跡形もなく吹き飛んだ。
「続けて、ヒータでフレイムナイトを破壊!」
「リバース罠、ギアナイツ・コネクションを発動!」

 ギアナイツ・コネクション 通常罠
 自分フィールド上で「鋼騎士」と名のつくモンスターが破壊された時に発動可能。
 手札またはデッキより、「鋼騎士」と名のつくモンスターを2体まで特殊召喚出来る。

 フレイムナイトが消え失せる。だが、他の2体はまた健在だ。
「この効果により、俺は蒼刃の鋼騎士セイバーナイト、白銀の鋼騎士ホワイトナイトを特殊召喚!」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

「それぞれ、特殊召喚による効果を発動。ホワイトナイト、フレイムナイトを1体ずつ、デッキから手札に銜えるぜ」
「………嫌なカードを伏せやがって。命拾いしたな」
 晋佑の宣言に、十代がそう言い放つ。
「俺の悪運が強いだけだ」
「……カードを1枚伏せてターンエンド」
 まったく、嫌なデュエルだと高取晋佑は思った。
 気を抜けば殺られる。だが、それは良い意味での興奮という感情じゃない。
 これはちょっとした恐怖だ。別の意味での、恐怖だ。
「オレのターンだな。ドロー!」

「サファイアドラゴンを生け贄に捧げ、天界の守護竜デュランダルを召喚!」

 天界の守護竜デュランダル 光属性/星6/ドラゴン族/攻撃力2300/守備力1600
 このカードは光属性モンスターの生け贄とする際、2体分の生け贄として扱う事が出来る。
 このカードはレベル7以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。

「デュランダルの攻撃力は2300……今、フィールドに存在するどのモンスターの攻撃力も上回ってる」
 ゼノンの言葉通り、上級モンスターではあるが攻撃力に欠けるTHEトリッキーよりも攻撃力は上だ。
 だがしかし、まだ何かある。この男は、十代を攻撃するか晋佑を狙うか。
「……魔法使い族を2体も揃えたという事は、何をやるんだい、十代?」
「(やはり十代狙いか……それなら、共闘も可能、か……)」
「ま、それは後でもいい。デュランダル! フィールドで1番攻撃力の低いモンスター、ホワイトナイトを攻撃だ!」
「なにっ!?」
 十代より先に、晋佑を狙う。それなら、十代も晋佑を狙ってくるだろう。
「(冗談じゃない、冗談じゃないぞ)」
「くたばれ、ホワイトナイト! デュランダルの攻撃! ディストラクション・ヘブンズフレア!」
「くそっ………! やりやがる……」

 高取晋佑:LP4000→3200

「……ターンエンド。なぁ、晋佑。オレは十代だけじゃなくて、お前も許せないんだよ? 忘れちゃ困るね」
「…………俺のターンだ」
 そう、これはバトルロイヤルという形式。誰からも攻撃されるし、誰に攻撃する事も可能。
 それはつまり、1人に集中砲火しようが文句は言われない不文律。
「……後悔しろ、クソヤロー共」
 もういい。全力で潰すまでだ。
 相手が相手なら、この際全力で戦う迄。相手が何であろうと、どうだろうと俺は知らん。
「魔法カード、天使の施しを発動!」

 天使の施し 通常魔法
 デッキからカードを3枚ドローし、2枚を手札から墓地に送る。

「この効果で俺は墓地にカードを2枚送る。さて、ここで魔法カード、最後のクイズを発動!」
「「げ」」
 十代、ゼノンが同時に口を開く。

 最後のクイズ 通常魔法
 発動中、相手は墓地を確認出来ない。
 相手プレイヤーはクイズ発動プレイヤーの墓地の1番上のカードを当てる。
 当てた場合、そのカードをゲームから除外する。
 ハズレの場合、そのカードの持ち主のフィールドに特殊召喚される。

 最後のクイズはクイズと違い、相手の墓地の一番上を当てるカードだが。
 その時カードは発動出来ない。そして何より、事前に墓地に送られたカードが解らなければ。一生解らない。

「……何だ? ヤバい、オレはわかんね」
「俺もだ、ゼノン。クソッ、嫌なカード持ってやがる!」
「……はい、時間切れだぜ、十代ちゃんにゼノンちゃん」
 晋佑はニヤリと笑うと、墓地の1番上のカードをとった。

「教えてやる。正解は……コイツだ! サイコ・ショッカー!」

 人造人間−サイコ・ショッカー 闇属性/星6/機械族/攻撃力2400/守備力1500
 このカードがフィールド上で表側表示で存在する限り、罠は発動出来ず、全てのフィールド上の罠カードの効果は無効になる。

 サイコ・ショッカー。最強にして最凶とまで言われたゲームエンドメーカー。
 罠カードを無効化するその強力過ぎる能力が、話題と羨望を呼んだ。
 師匠は、このカードを用いてマリクと互角に戦ったのだ。
 俺の、希望。そして、反撃の狼煙。

「サイコ・ショッカーの攻撃力は2400! そして罠カードの効果も無効だ、ゼノン。サイコ・ショッカーでデュランダルを攻撃!」
「なっ……」

 ゼノン・アンデルセン:LP4000→3900

 これで、ゼノンのフィールドは空。
 リバースカードも恐らく罠カードだろうから、十代はゼノンを狙う筈。
 少なくとも、ゼノンのライフが大幅に削られる事に間違いは無い。

「……ターンエンドだ」
「俺のターン。ドロー!」
「リバース、速攻魔法! 飛竜軍団の襲来を発動!」

 飛竜軍団の襲来 速攻魔法
 このカードは相手ターンのみ発動可能。
 相手フィールド上のモンスターの数だけ、飛竜トークン(風属性/星4/ドラゴン族/攻?/守?)を召喚出来る。
 このトークンの攻撃力・守備力は相手フィールドのモンスターの数×400ポイントとする。
 このトークンはドラゴン族以外の生け贄にする事が出来ない。

 飛竜トークン 攻撃力0→1600

「この効果で、俺のフィールドには飛竜トークンが4体!」
 おまけに、攻撃力1600と来たものだ。
「……壁モンスターって事か……」
 十代が呟く。だが、その呟きに取り乱した様子は無い。
 それがゼノンのカンに何となく触った。
「随分と済ました顔じゃねーか」
「まぁな。これぐらいの事など、よくある事さ」
「………イヤミなのか、それは?」
「さぁどうだろうな」
 十代がそう返した時、微かな物音がした。

「あらら〜? こりゃまた珍しい組みあわせで……」
「そして見事にデュエル中、と」

 2人の声。そう、この声。
「………雄二、それに……貴明?」

 晋佑がそう呟くと同時に、2人は見事に意地悪そうな笑みを浮かべた。
「その通りだぜ、晋佑。随分と面白そうな状況じゃねぇか」
 貴明の呟きに、雄二がうんうんと頷く。
「それにしても………俺がダークネスの肉体、とはね。俺、全然知らなかったな」
 雄二が頭を掻きつつ口を開き、デュエルをしていた3人が固まった。
「……お前、それを何時……?」
「そこの人に聞いた」
「悪いが全部話させて貰った。聞いていた事全てをな」
 雄二の言葉に、亮は隠し持っていた携帯電話を小さく振った。

「……カイザー……俺は言ったぞ? 大人しくしろって」
「そんな俺どころか海馬社長すらも騙したのは何処の何奴だ?」
 十代の言葉に亮が軽く肩を竦める。反省する気無し。
 そんな姿を眺めつつ、ゼノンはまだ平然としていた。
「……十代、あんたのターンだぜ」
「………まだデュエル中か……魔法カード、融合を発動!」

 融合 通常魔法
 手札またはフィールドから融合モンスターカードの融合素材に指定されたモンスターを墓地に送り、融合デッキからモンスターを召喚する。

「この効果で、俺はフィールドのTHE トリッキーと、憑依装着−ヒータを融合し……」

 THE トリッキー 風属性/星5/魔法使い族/攻撃力2000/守備力1200
 手札を1枚捨てる事でこのカードを特殊召喚出来る。

 憑依装着−ヒータ 炎属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 自分フィールド上の「火霊使いヒータ」と他の炎属性モンスター1体を墓地に送る事で手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 この方法で特殊召喚した時、以下の効果を得る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が相手守備力を上回っていればその分戦闘ダメージを与える。

 ヒータと、トリッキーが次元の渦に巻き込まれる。
 その果てに生まれるのは、融合された新たなモンスター。

「融合デッキより、火焔の技巧師ヒータを特殊召喚するぜ!」

 十代の台詞と共に、新たなモンスターが立ち上がろうとしていた。



《第30話:神竜召喚》

 高取晋佑:LP3200 遊城十代:LP3700 ゼノン・アンデルセン:LP3900

「俺はフィールドのTHE トリッキーと、憑依装着−ヒータを融合し……融合デッキより、火焔の技巧師ヒータを特殊召喚するぜ!」

 トリッキーとヒータが次元の渦に巻き込まれていく。
 そこから誕生するは、新たなモンスター。

 火焔の技巧師ヒータ 炎属性/星7/魔法使い族/攻撃力2600/守備力2200/融合モンスター
 「ヒータ」と名のつくモンスター1体+「THE トリッキー」
 このカードは融合召喚でしか召喚出来ない。
 相手モンスターを戦闘で破壊する毎に、そのモンスターのレベル×200ポイントのダメージをそのモンスターのプレイヤーに与える。
 このカードが墓地に送られた時、墓地の炎属性モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚出来る。

 十代のフィールドに舞い降りたのは、道化のような衣装を纏った火焔を操る少女。
 相も変わらず使い魔がよく燃え上がっている。
「………攻撃力2600……サイコ・ショッカーよりも上、か」
「その通り。高取晋佑、お前も不運だな」
 十代はそう呟くと、遠慮なく標的をサイコ・ショッカーに狙いを定める。
「火焔の技巧師ヒータで、サイコ・ショッカーを攻撃! フレア・ストリームズ・バーン!」

 高取晋佑:LP3200→3000

 サイコ・ショッカーが破壊され、フィールドから消え去る。
「更に、ヒータの効果で、サイコ・ショッカーのレベル×200ポイントの追加ダメージを受けて貰うぜ」
「くそっ……」

 高取晋佑:LP3000→1800

 これでライフの差がかなり広がった。
 だがしかし……まだ、逆転出来る範囲ではある。
「……ライフポイントが50でも逆転勝ちした師匠、98でも競り勝った決闘王の例もある……」
「自分がそんなんだと思ってるのか、高取晋佑?」
「やってみなければ解らないだろう」
 晋佑の返事に十代は少しだけニヤリと笑うと、すぐに口を開いた。
「ターンエンドだ」
「オレのターン! ドロー!」

「オレのフィールドに存在する、4体の飛竜トークン……」

 飛竜トークン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力?/守備力?
 このトークンはドラゴン族モンスター以外の生け贄にする事が出来ない。
 このトークンの攻撃力は召喚時に相手フィールドに存在するモンスターの数×400ポイントとなる。

 飛竜トークン 攻撃力0→1600

「……さて。ドラゴン族モンスター以外の生け贄には出来ない。だけど、ドラゴン族モンスターならば構わないという事……」
 ゼノンは怪しげな笑みを浮かべた。
 その理由は手札にあった。その、恐ろしさを持つカードを。

「飛竜トークン3体を生け贄に捧げ、出でよ! 天空の神竜ヴェルダンテ!」

 The God Dragon of Heaven−Velldante LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 1000ライフポイントを支払う事で、墓地のモンスター1体をフィールド上に特殊召喚出来る。
 このカードが召喚された時、フィールド上の魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚を選択する。
 選択されたカードはこのカードがフィールド上に存在しなくなるまで、発動も出来ず、破壊もされない。
 効果を既に発動している場合、その効果を失う。
 フィールド上に存在するこのカード以外のカード及び自分の手札を全て除外する事で、
 相手フィールド上のカードを3枚までゲームから除外する事が出来る。

 天空の神竜。
 光の守護者であり、ダークネスの断片の1つ。だが、その姿は。

 どうしてこんなにも、恐ろしさを持つのだろう。

「ハッ! どうやら勝負は決まりつつあるようだね……死ね、高取晋佑! 神竜の攻げ……」
「…………ゼノン・アンデルセン……」
「お前のフィールドに存在するのは攻撃力1800のセイバーナイトのみ! お前が離脱するのは決まったんだ、確定事項さ!」
「愚かだな。カードテキスト1つもマトモに読めないか」
 晋佑の言葉に、ゼノンの眼が一瞬だけ、点になりかけた。
「フィールド及び、手札に揃ってんだよ、こっちは」

 その言葉にゼノンは思いだした。さきほど。そう、つい先ほどだ。
 フレイムナイトを破壊した際、ギアナイツ・コネクションの効果で今のセイバーナイトとホワイトナイトを特殊召喚した。
 ホワイトナイトとセイバーナイトの効果で、2体目のフレイムナイトと2体目のホワイトナイトがそれぞれ手札に来ている。
 つまり、今手札・フィールドには、3体の鋼騎士がいる。
「………そして、俺のリバース罠、崖っぷちの増援を発動するぜ」

 崖っぷちの増援 通常罠
 相手バトルフェイズ時、手札を1枚捨てる事でモンスター1体を召喚する事が出来る。(融合・特殊召喚も可)

「なっ……!」
 3体のモンスターを墓地に送る。鋼鉄の騎士達を墓地に送る事で、奴は召喚される。
「その通り! 俺はこの効果で3体の鋼騎士を墓地に送り、機動鋼鉄騎士ギアナイトを召喚!」

 機動鋼鉄騎士ギアナイト 光属性/星10/機械族/攻撃力4000/守備力4000
 このカードは通常召喚出来ない。自分のフィールドまたは手札の「鋼騎士」と名のつくモンスター3体を墓地に送って召喚する。
 このカードは攻撃力を1000ポイント下げる事で、相手の魔法・罠カードの効果を無効化する事が出来る。
 相手モンスターを戦闘破壊する度に、このカードの攻撃力は300ポイントずつアップする。
 このカードがフィールド上に存在する限り、このカードのコントローラーはモンスターを召喚出来ない。

「守備表示で召喚だ………攻撃力5000の壁を破るには難しいからな」
 3体の鋼騎士が合体し、巨大な鋼鉄の騎士となる。
 だがしかし、その攻撃力も能力も神竜には劣る。勝てない相手では、無い。
「………だが、次のターンの十代の攻撃でお前が敗北するのに変わりはないぜ」
「俺のターンの方が先に来るのにか?」
「………………」
 ゼノン・アンデルセンが1番になれなかった理由が今解った。肝心な所でバカになる。
「だけど遅い! 天空の神竜で、ギアナイトを攻撃! ディストラクション・ヘブンズレイ・バースト!」
 天空の神竜が口を開く。
 そこから放たれるは、破滅の光。

 だがその破滅の光は、生みだされる前に停まった。



「……なんだ?」
 ゼノンは思わずそう呟いた後、ソリッドビジョンの神竜を見上げた。
 攻撃宣言は既に行った筈。それなのに、攻撃が始まってすらいない。
「…………攻撃が、停まってる?」
 俺の呟きに、俺と同じく観戦していた貴明も呟く。
「どうなってんだ?」
「解らん………」
 亮の言葉が続く。デュエルをしている3人と、それを観戦する3人。

「…………神竜……ダークネスの断片……」
 誰かが呟くと同時に、視線が俺に集まった。
「………肉体である俺……そして……」
 ゼノンのフィールドには神竜。俺と晋佑のデッキにも、それぞれ眠っている。
 そう、3体の神竜が一同に会し。そして、肉体までもが此処に存在するという事は。

 何かが起こる。いや、何が起こるか解らない。

 有り得るとしたら、ダークネスの復活か。いや、そうだとすると。
「………おい、雄二! 離れろッ!」
 晋佑の声が響いた。だけど、もう遅い。

 1度回り始めた歯車は、1度点火された火は、滅多な事では引っ繰り返ったりしない。



 頭痛が、走る。

「……ターンエンドだ」
 ゼノンの声が響く。
「俺のターンだ……」
 晋佑がデッキに手を伸ばし、デッキからドローする。
 沈黙が、しばらくの間流れる。
「………これは、神の冗談って奴か?」
 晋佑の口から漏れたのは、そんな言葉。そして視線を手札に落す。
「速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振る。出た目の数だけ、カードをドローする。
 このターンのエンドフェイズ時、手札が出た目以下になるようカードを捨てなければならない。

「この効果で、俺はサイコロを振る。出た目は……4。4枚ドロー」

 4枚のカード。だけど、そのたった4枚ですら。
 このデュエルを動かす、巨大な鍵となる。

「魔法カード、デビルズ・サンクチュアリを発動!」

 デビルズ・サンクチュアリ 通常魔法
 「メタルデビル・トークン」(闇属性/星1/悪魔族/攻0/守0)を自分のフィールドに1体、特殊召喚する。
 このトークンは攻撃する事が出来ない。「メタルデビル・トークン」への超過ダメージは相手プレイヤーが受ける。
 自分のスタンバイフェイズ毎に維持コストとして1000ポイントライフを支払う。払わなければこのトークンを破壊する。

 フィールドへと現れる、悪魔の聖域。
 かつて海馬社長が太陽神を破る為に投入したカード。まさか、こんな形でお目に描かれるとは思わなかった。
 俺がそんな事を考えている間にも、晋佑のターンはまだまだ続く。
「更に、2枚目のデビルズ・サンクチュアリを発動! この効果で、2体のメタルデビル・トークンとギアナイトがフィールドに存在する」
 そう、先ほどの不可解な天空の神竜の攻撃中断により、ギアナイトはフィールドに健在だ。
 そして何より、3体のモンスターがフィールドに存在している。生け贄が、確保された。
「…………神よ。もしも存在するなら、俺にその力を少しだけくれ」
 晋佑が呟く。それは何を意味していたのか―――――悪夢の前の、最後の祈りだったのか。解らぬまま。

「メタルデビル・トークン2体及び、ギアナイトを生け贄に捧げ………俺は、混沌の神竜を召喚する! 出でよ、オーデルス! 誓約に答え、我が敵を薙ぎ払え!」

 The God Dragon of Chaos−Ordelus LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードは通常召喚する際、3体の生け贄を必要とする。このカードを対象とする魔法・罠カードの影響を受けない。
 このカードは闇属性としても扱う。自分フィールド上に存在するカードを1枚墓地に送る毎に、攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが破壊される時、ライフポイントを半分支払う事でその破壊を無効に出来る。
 自分ターンのバトルフェイズ時、その時点でのライフポイント総てを攻撃力に加算する事が出来る。
 ただし、この効果を使用したターンのエンドフェイズ迄に勝利しなければ自分はデュエルに敗北する。
 召喚する際、墓地に存在する光属性または闇属性のモンスターを1体ずつ除外する事で、以下の効果を得る。
 ・相手フィールド上にモンスターが3体以上いる時、1体を除外する事が出来る。この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。
 ・戦闘で相手モンスターを破壊し、相手に戦闘ダメージを与えた時、もう1度相手モンスターを攻撃出来る。
 フィールド上に「The God Dragon」と名のつくカードが存在する時、このカードは以下の効果を得る。
 ・バトルフェイズ時、相手モンスターの攻撃力が上昇した分だけ、このカードの攻撃力は上昇する。

 姿を現した、混沌の神竜。
 光でも無く闇でも無い。そして、最強にして最凶。それが、この神竜の正体。

 だがしかし、誰も退く訳には行かなかった。このデュエルに込められた意味が大きすぎるから。
 そしてなにより、誰もが誰かを破らねばならなかった。それぞれの意図する願いの為に。

 天空と、混沌。それぞれの竜が集う。
 欠けたのは、冥府。だが、それはデッキに眠っている。
「(……なんだ?)」
 寒気がした。寒く無い。むしろ暑い筈なのに、感覚だけが寒いと告げている。
 俺が視線をあげると、貴明や亮も寒いのか、それぞれ俺に顔を向けていた。
「………寒くないか? 宍戸貴明、黒川雄二」
「ああ……言われてみると、そうだな」
 何か違う。このデュエルは、何か異なる。

「まだ、俺のターンは終わっていない! 神竜で、火焔の技巧師ヒータを攻撃! カオス・スパイラル・バースト!」
「…………!」
 十代のフィールドに、混沌の神竜の攻撃が降り注ぐ。
 攻撃表示のヒータに避ける術は無かった。

 遊城十代:LP3700→1300

「………火焔の技巧師ヒータの効果発動! 戦闘で破壊されて墓地に送られた時、墓地の炎属性モンスター1体を、召喚条件を無視して特殊召喚出来る!
 俺はこの効果で、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4を特殊召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 炎属性/星4/炎族/攻撃力1800/守備力1400
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃する事が出来る。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚する。

「今さら、そんなのを召喚してもどうしようもないだろう……ターンエンドだ」
 晋佑のターンが終わりを告げる。
「どうかな? 俺のターン」

「ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4の効果で、このカードを生け贄に捧げ、LV6を召喚」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV6 炎属性/星6/炎族/攻撃力2400/守備力1800
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分だけダメージを与える。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV8」を特殊召喚する。

「更に、魔法カード、レベルアップ!を発動し、LV6を墓地に送り、LV8を召喚!」

 レベルアップ! 通常魔法
 フィールド上に存在する「LV」を持つモンスター1体を墓地に送って発動する。
 そのカードに記されているモンスターを召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8 炎属性/星8/炎族/攻撃力3000/守備力2000
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で、
 「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV10」を特殊召喚する。

 僅か1ターンで、LV8まで進化した、炎の竜。
 だがしかし、それでも神竜には及ばない。
「LV8まで召喚したのは、最後の悪あがきか?」
 ゼノンが十代のフィールドを見上げて口を開く。
 そう、晋佑・ゼノンがそれぞれ攻撃力5000の神竜を揃えているのに。
 フィールドには攻撃力3000のLV8を攻撃表示。残りライフは1300。自殺しに行くようなものである。
「そう、思うか?」
「……何がだ?」
「高取晋佑、ゼノン…………お前ら、少しぐらいテキストを読め」
「「は?」」
 十代の呆れたような言葉に、晋佑もゼノンも首を傾げた。
 俺も確かにその意味が解らなかっただろう。その時、デッキから神竜のカードを取り出して無ければ。

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。(1ターンに5枚まで)
 更に、攻撃力を1000ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。(除外された場合は召喚しない)

 そう、神竜の大きな効果に対象を選ぶ魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 だが、それは魔法・罠に限るモノでモンスター効果には耐性がまるで無い。
 つまり、それは――――例えば生け贄召喚された雷帝だが邪帝だが風帝だがにも簡単に除去されるし。
 自爆特攻してくるD.D.アサイラントや変態戦士によく襲われる異次元から来た女戦士にも除外されてしまう訳だ。

 そう、それが三幻神との違い。神の名を持っていても、所詮は劣化版。オリジナルには遠く及ばない。
 オリジナリティがあるとすればダークネスの断片という事だけか。

「冗談じゃない、冗談じゃないぞ」
 俺は思わず呟く。十代のライフは1000以上残ってる。
 遠慮なくライフコストを支払い、情け容赦なく2体の神竜を墓地送りにし、その攻撃力で晋佑を仕留める事は可能だ。
 オマケにゼノンだって神竜が墓地に送られてしまえば蘇生召喚が出来ない以上、成す術が無い。

 要は2人とも情けなく散るって事だ。

「…………そこの野郎はもう気付いたようだぜ?」
 十代の冷徹な言葉に、晋佑もゼノンもその時気付く。
 だが、間に合わない。俺は直感的に感じた。
 リバースカードが、合ってない。間に合わないと。
「LV8の効果発動! 1000ライフポイントを支払い、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊! インフェルノス・フレア!」

 遊城十代:LP1300→300

 晋佑とゼノンの目が見開かれた時、既に両者のフィールドのモンスターは一掃されていた。
「………おいおい、嘘だろ」
「言っただろう? お前達じゃ、俺には無理だってね」
 十代の歪んだ笑いに、誰もが立ち止まっていた。

 つまりはもう、俺はこの時に気付いてしまった。

 こいつは、敵だと。

「さて………そろそろ勝負に終わりをつけるか。LV8! 高取晋佑にダイレクトアタックだ! イグニッション・カラミティ・バースト!」

 高取晋佑:LP1800→0

 ライフカウンターが0の値を示すと同時に、晋佑が膝を折るのが見えた。
 先ほど、理恵から勝利を奪ったのとは逆に。
「晋佑……?」
 俺がそう声を掛けた時でも、反応は無かった。

「ターンエンド」
 十代がターンエンドを告げ、ゼノンのターンへと移る。
 だがしかし、ゼノンがドローした時。
「………くそっ! これじゃ、ダメだ!」
 ゼノンが地面に手札を思いきり叩き付け、そのまま座り込んだ。
「なんだ、降参か?」
「ああ。どうやらこれじゃ、勝てるものも勝てやしない」
 不機嫌そうにそう言い放った後、ゼノンは十代に視線を向けた。
「アンタの勝ちだ」
 短く、そう告げた。
「っ……」
 十代は小さく笑みを浮かべたかと思うと、そのまま晋佑とゼノンに近寄っていき、デッキからカードを拾い上げた。

 2枚のカードを。それぞれの、神竜を。

「…………くく………。
 あはははははははははははははははははははは! 揃った! 揃ったんだ! これで全部……これで全部だぁ!

「揃った、揃ったぞ! 俺が揃えたい奴はこれで全部だぁぁぁぁぁぁ! あははははははは!!!!!!!!!!!」

「役者も揃った! 駒も揃った! もう止められない! もう誰も逃げられない! 復活の始まりだぁぁぁぁッ!」

 十代は、笑っていた。
 今まで見せた事が無い位に笑っていた。神竜のカードを手にして。

 そしてその視線は俺に向けられていた。
 ずっと俺に向けられていた。

 そしてそれでも尚、彼は笑い続けていた。



《第31話:REVIVAL OF DARKNESS》

 神竜のカードを手に、高笑いを続ける十代。
 膝を折り、諦めた晋佑とゼノン。
 そしてそれを見る俺と貴明、そしてカイザー亮。
「………なぁ、亮先輩。十代って、あんな奴なのか?」
 貴明が急に視線を亮に向けた時、亮は首を振った。
「いや。違う。………デュエルアカデミアの先輩として言わせてもらうが、あんな十代を見たのは初めてだ」
 亮がそこまで言った時、十代はようやく笑いを止め、俺達の方へと向いた。

「……これで、ようやく、始められるな」
「何をだ?」
「……決まってるだろう、黒川雄二? 復活祭だ、ダークネスの!」
 十代の宣言と共に、晋佑が顔をあげた。
「遊城十代、お前、まさか……!」
「…………ああ、お前は気付いてたな。そうだよ、俺はデュアル・ポイズンの一員さ。アンタらとは違う派閥の、な」
 十代は晋佑にそう言い放つと同時に、黒い物体を取り出していた。
 見覚えが無い、普通持っている筈が無いものだ。
「……諦めろ、高取晋佑。お前に出来る事は何も無い。ただ、見てるだけさ」
「…………………1つ聞く、遊城十代」
「なんだ?」

「お前はなんで、ダークネス復活を望む?」

「壊す為さ。全部、な」
 十代はそう言って笑うと、片手を翳した。

「告げる……。冥府に宿りし竜よ、天空を護りし竜よ、混沌より生まれし竜よ、汝らの姿を現せ!」

 十代の淡々と続く、言葉。
 だがその言葉1つ1つが、重みを増して覚える。
「雄二、貴明! アイツを止めろ! これ以上、厄介な事にならないウチに!」
 晋佑が咄嗟に俺達に叫んだ。亮ですら反応し、俺達は顔を見合わせる。
 何せ、理恵を目の前で消し去った晋佑の言葉だ。
「早くしろ! 雄二お前、死にたいのか!?」
「「「!」」」
 そう言えばそうだった。俺の体はダークネスの肉体。
 下手すりゃ肉体を奪われてしまう事を忘れていた。うっかりだ。

「幾多の時を越え、幾多の星の巡りすらも捻じ曲げた至高の存在よ、その名を轟かせる事無く、滅び去った、遥か古の時より復活させんと、
 我が望む。我は覇王……闇の波動を受け継ぎし唯一の存在。闇へと閉ざされし存在よ、混沌に宿りし我が宿敵ダークネスよ……この呼び声
 に答え、汝が力を示せ。そしてそれを我が前に姿を現せ……ダークネス!!!!」


 俺達が駆け寄るより先に。十代は手を空へと翳す。
 2枚の神竜と、そして……。
「デッキが……!」
 俺のデッキから飛び出した、冥府の神竜。

「復活だ……」
 十代の呟きと共に、神竜は俺の頭上で口を開けた。
 そして―――――俺を、ひと飲みで飲み込んだ。





 神竜が、雄二の頭上から口を開けたまでは解った。直後、衝撃波が襲った。
「うぉっ……!」
「お前ら、何か掴まれ! 振り落とされるぞ!」
 亮先輩の声が響き、俺は慌てて近くの手すりにしがみついた。
 フィールドに転がったままの晋佑とゼノンが吹き飛ばされたのか、文字通り飛んできた。
「「へーるーぷー!!」」
「お前ら掴まってろ、アホ!」
 俺が晋佑を、亮先輩がゼノンの襟首を掴み、どうにか振り落とされる心配だけは無くなった。
 だがしかし、雄二の身体から放たれ続ける衝撃波はなかなか止む気配を見せない。
「晋佑、どうなってるんだ?」
「俺に聞くな」
 俺の問いに、晋佑がそう答えた時。

 バチン、という音とともに、遂に衝撃波が止んだ。

「……………雄二?」
 俺がそう声をかけた時、奴はゆっくりと立ち上がった。
「………どうやら、随分ハデなPartyに招かれたみてぇじゃねぇか……まぁ、いい」
 先ほどまで、着ていなかった黒いコート。  そして立ち上がった奴は、手にしていた黒い仮面をゆっくりと被った。

 その時、確信した。
 コイツは、雄二じゃない。

「……お前、誰だ?」
「俺か? 俺は………」
 奴は俺に視線を向けて、ニヤリと笑った。

「ダークネスであって、ダークネスでない……そうだな。ダブルD、とでも名乗っておくか」

「ダブルD……?」







『ハハハハハハハハハハハハハ!!!!』

 神竜に飲み込まれた俺は、暗闇の中を下へ下へと落ちていた。
 相当な高さを落ちている気がするが、いつまで経っても下が見えない。もしかして永遠にこのままかも知れない。
「……しかしなんだ、この高笑い? うるせぇな……」
 俺がそう呟くと、周囲の闇が急に歪んだように見えた。

 歪んだ闇は徐々に形を変え、人型へと変わっていく。
 その容姿は、どこかで見た事がある―――――いや、見間違える筈など無い。だって、それは――――。

 俺自身と瓜二つの姿だったから。

「俺……? いや、お前が、ダークネスか?」
 俺がそう口を開いた時、俺と瓜二つの奴は小さく頷いた。
 無口な奴だ、と思ったが、こんな奴が俺の肉体の本当の所持者とは。随分と変わるものだ。
『そうだ』
「…………なんで、そんな事になったんだ? 消される前に、1つ聞きてえよ」
 俺の問いに、ダークネスはしばし考え込んだ様子を見せた後、口を開いた。
『1巡目の世界が滅ぶ直前、悪あがきをした奴がいた。滅ぼすまいと、最後の悪あがきをした。だが、世界が滅んだのもこれまた運命。変える事は
 出来なかった………だが、その悪あがきの途中で、相手になった奴は賭けをした』
「……賭け?」
『そうだ、賭けだ』
 ダークネスはくつくつと笑った。
『奴は2巡目の世界がやり直す事を望んだ。その時……奴は辿り着いた、世界の根源にして全ての記録、アカシックレコードに……』
 アカシックレコード。
 世界記憶とも称される其れは、全宇宙、全次元の過去から未来までの歴史全てをデータバンク的に記した存在。
 本来、人類が辿り着けないその領域に―――――辿り着いた者は、人類そのものの枠を超越する事になる。
『幾多の次元を彷徨う位ならば、奴はやり直しの世界で改善される事を望んだ。それが誤りだと気付く迄は』
「……どういう事だ?」
『世界記憶にも書かれていたのだ。ダークネスの手で世界は滅ぶと』
 ダークネスは淡々と続ける。
 簡単に言ってしまえばどうなるか。最後にダークネスと対峙した奴は世界滅亡直前にアカシックレコードにアクセスした。
 だがしかし、アカシックレコードにも世界が滅びると書いてあるのであればどうしようもない。
『解るか? 折角やり直しても、結局の所滅ぶのだよ、我が手によって』
 確かに、そりゃそうだ。
 希望が見えてきたと想ったのに、その希望は根底から引っ繰り返ったのだから。
『……そういう事だ。納得したか?』
「まぁ、納得したな」
『そうか。では、大人しく肉体を我に返すがいい』
「誤魔化すな。何で俺の肉体がアンタのだって事をまだ聞いてない」
『チッ』
 今、舌打ちが聞こえた気がする。まぁ、気のせいという事にしておこう。
 さて、それで何で俺の肉体がダークネスの肉体なのか気になる所だが。
『その理由はだな』
「その理由は?」
『知らん』
 空気が一瞬だけ、凍る。
「……はい?」
『簡単に言えば世界崩壊後に我の肉体の断片がたまたまお前の魂に乗り移られたというか』
「じゃ、俺の本来の肉体は?」
『だから知らん。次元レベルで消失したんじゃないか?』
 なんつー無責任、というかこれじゃ俺がダークネスの肉体を奪ったようじゃないか。
 冗談じゃない、冗談じゃないぞ。
『これで話したぞ、肉体を我に返せ』
「うん、それ無理♪」
 俺が爽やかな笑顔でダークネスにそう告げた時、奴は口をあんぐりと開けた。
『貴様、いきなり何を言い出す!』
「言った通りの意味。お前なんぞに俺の肉体渡してたまるか」
『人の話を聞いてたのか! アカシックレコードにも記されているというのに!』
「だったら変えればいい。俺の手で変えてやるよ、神の脚本なんざどうでもいい。世界が滅ぶのが運命なら、世界を滅ぼさなきゃ済む事だ!」
 ダークネスの言葉に、俺がそう言い放つと、ダークネスの顔色がみるみる変わった。
 先ほどまで浮かんでいた余裕の笑みが消え、既に怒りが刻まれつつある。
『こ、この男………ならば、力づくで奪うまでだ!』
「な、なにをするきさまー!」
 俺がそう叫んだ時、奴は俺に手を突き付ける。手を。

『デュエルで奪う!』

 結局の所、デュエルなのか。
 俺がそんな事を考えている間にも、ダークネスの手にはデッキとデュエルディスクが握られていた。
 もっとも、外観だけは一緒なのだが。
『……Are you Ready?』
「こっちはいいぜ」
『OK!』
 時々英語が混じるのは何故なんだと言いたい。

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 ダークネス:LP4000

『我の先攻ドローだ』
 最近よく先攻を獲られている気がするが気のせいだろうか。
『六邪心魔・憎悪―レイドを、攻撃表示で召喚する』

 六邪心魔・憎悪―レイド 地属性/星4/悪魔族/攻撃力1900/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードを戦闘で破壊したモンスターはそのターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。

 フィールドに現れた悪魔の青年は斧を振り回し、地面に叩き付けた。
 憎悪の名の通り、確かに激しい憎しみを感じる。
『先攻1ターン目はバトルフェイズを行う事は不可能。よって、我はカードを1枚セットし、ターンを終了する』
「俺のターン! ドロー!」
 相手は攻撃力1900というアタッカー並の攻撃力を持ちながらも、戦闘破壊された時、相手を道連れに墓地に送る。
 そう考えてみると結構厄介なモンスターであると思う。
 だとすると……相手を上回る攻撃力と、相手モンスター効果を封じるか、もしくは蘇生カードを用意するか。
「(でも、手札にそう都合よく揃うかというと……)」
 そういう訳ではない訳で。
「……サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚! カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

『フッ……守勢になったか』
 ダークネスは少し笑ったように俺に視線を向けた。
 そんな事を言われても困るのだが。
「うるせー、それよりお前のターンだぞ」
『ドロー!』
 ダークネスの2回目のターン。
 正直、守勢に入ってしまったのもそうだが、攻勢に出ない事には行けないだろう。
 だが、相手の戦術が読めない以上、下手に動く訳には行かない。
『六邪心魔・憤怒―レダを召喚する』

 六邪心魔・憤怒―レダ 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でそのモンスターの攻撃力分の数値、攻撃力を上げる事が出来る。
 この効果を使用した後、エンドフェイズにこのカードは守備表示になる。次の自分エンドフェイズまで表示形式を変更出来ない。

「……攻撃力2000だと!」
 攻撃力2000ならこっちのサファイアドラゴンを破壊出来るし、更に憎悪レイドの追加攻撃で1900ダメージのおまけまで付く。
 こうもアタッカーばかりが揃っていると、なかなかやりにくい相手だ。
「打撃力だけなら、ブッチギリじゃねぇか、ダークネス!」
『フッ、我を倒そうなど不可能! 闇の波動の使者ですら倒せなかった我を、お前如きが倒せる筈が無い!』
「人間ごときには無理です、とか言うなよ?」
『人間ごときには無理だ。行け、レダ! まずはそのサファイアドラゴンを薙ぎ払え! フレアインパクト!』

 黒川雄二:LP4000→3900

 サファイアドラゴンが憤怒の名を持つ悪魔に踏み砕かれ、フィールドから姿を消した。
 だが、攻撃はこれで終わりではない。
『続けて、レイドでプレイヤーにダイレクトアタック!』
 重い一撃が、襲った。
 肺から搾り出された空気が少しだけ苦しく感じる。だが、まだ立っていられる範囲だ。
「くしょ……」

 黒川雄二:LP3900→2000

「くそっ……遠慮ない攻撃だぜ」
『ターンを終了する。どうした? 生温いな?』
 自分と同じ顔で言われると凄く嫌になるのは気のせいだろうか?
 いや、それは置いておこう。今は俺のターンだ。
「まだまだ、勝負はこれからだぜ! 俺のターン! ドロー!」
 そう、まだまだ勝負はこれから……だと思う。多分。

 俺、勝てんの……?











「……ダークネス、なのか、あれ?」
 ダブルD、と名乗った奴を視線の隅に留めつつ、俺は晋佑にそう声をかけた。
「そう言われても………俺も実物を見た訳じゃないしな」
「何だよ、頼りにならねぇじゃんか」
「俺が万能だと何時言った! おい、十代貴様! お前は何も説明無しか!?」
 晋佑が遊城十代に話を振る。だが、十代はダブルDに見向きもせずに口を開いた。
「俺にも何とも言えないが、どうやら手綱を付けるのは難しいっぽいな……ま、それはそれで」
「俺を復活させたのは、お前かい?」
 ダブルDが十代に視線を向ける。十代は小さく頷いて肯定。
「そうかい、そりゃどーも」
「……まぁな。後は、俺の言う事を聞いてくれりゃいいんだけどな」
「断る」
 沈黙が、流れた。
 例えば1つの流れが延々と繋がっている所を思いきりブチッと切ったようなものだ。
「…………………もう1回言ってくれるか?」
「なんだぁ? 俺にもう1度同じ事を言えってか? one more pleaseか? だが断る」
 ダブルDがひらひらと手を振り、十代の要望を拒否。
 情け容赦ないと聞こえは良いが、じゃあ、何をする気なんだと突っ込みをいれたい。
「………俺は好きにやるだけだ。本当に、な」
「……じゃあ、雄二と理恵はどうなる?」
「………ああ。女の子の方はまだ中にいる。だが、野郎の方は知らねぇな」
 その言葉に、俺だけじゃなく、晋佑や亮先輩、ゼノンまで目を見開いた。
「おい、それはどういう事だ!」
 俺がそう声を荒げた時、ダブルDは俺に怪訝そうな視線を向けた。

「言った通りの意味だ。がたがたうるせーぞ、外野は黙ってな」

「ふっ…………ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「おい、貴明!」
 晋佑が何か言った気がするが、そんなのは無視だ無視。
 それより、許して置けない。ダブルDは元より、それを呼びだした十代も許さん。
「十代テメェ! こんなのを呼びだす為に、2人も犠牲になったって言うのかよ!」
「……俺が知るか」
「…………おい……殺される覚悟は出来てんのか」
 俺がそう言い放つと、十代は初めて視線を俺に向けた。
「お前見たいな小物にそんな事言われても別に何とも思わん」
「こ、ここここここここ小物ぉっ!? おい、お前今、俺の事を小物って言ったなァーッ!」
 ダメだ、もう我慢出来ない。

「おい、雄二! ダークネスみてぇな訳の解らん奴に飲まれてんじゃねーぞ! とっとと復活しねぇとキュウリと一緒にぬか漬けにしてやる!」

「それとだな、遊城十代! さっきから散々勝手な事をやりやがって……この宍戸貴明様を本気で怒らせた事を後悔しやがれボケナスビ!」

「自称で様って何だよ、アイツ……どっかの戦闘民族のエリート戦士か?」
「いや、下手するとそのウチは『デュエリストは戦闘民族だ! 舐めるなよーッ!』とか言いそうだな」
 晋佑と亮先輩が何か変な会話をしているがそんなの無視だ無視。
 間違っても俺はどっかの異星人地上げ屋の攻撃で滅ぼされた惑星の王家の血筋では無い、間違っても。
 なんだ、そうだとすると異星人地上げ屋は十代なのか?

 さて、どうしたものだろうか……。
 あの遊城十代をぶっ飛ばすには、俺1人では難があるかも知れん。だけど……。

「なぁ、雄二ぃ。お前が今、1人で戦ってるてんなら…………俺もそれなりに頑張ってみるぜ」

 俺はそう呟くと、姿勢を低くして遊城十代を睨んだ。



《第32話:惨禍》

 黒川雄二:LP2000 ダークネス:LP4000

 六邪心魔・憎悪―レイド 地属性/星4/悪魔族/攻撃力1900/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードを戦闘で破壊したモンスターはそのターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。

 六邪心魔・憤怒―レダ 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でそのモンスターの攻撃力分の数値、攻撃力を上げる事が出来る。
 この効果を使用した後、エンドフェイズにこのカードは守備表示になる。次の自分エンドフェイズまで表示形式を変更出来ない。

 今、ダークネスのフィールドにはモンスターが2体。それに対して、俺のフィールドはカラだ。
 リバースカードも、壁モンスターも無い。

「(嫌になるぜ……)」
 何となく呟いてみる。だがしかし、現状が変わる筈は無い。
「(どうする……考えろ、考えるんだ………)」
 ドローした後の手札を見るが、有効な手札はないようにしか視えない。
 つまり、完全な手詰まり。サレンダーするか、それとも戦って散るか。その2つの選択肢しかない。
「だけどな………」
 ちらりとダークネスに視線を向ける。ダークネスは、デュエルディスクを片手で玩んでいるだけだ。

「(だけど……!)」
 手札を幾ら眺めても、ドローした後ならもう、対策を立てる事しか出来ない。
 でも、もし。

 その手札で、現状を打開するのが不可能だとしたら。

 諦めるしかないのだろうか。
 ただ、何も出来ぬままに。

『どうした? お前のターンだぞ?』
 ダークネスがそう口を開くのが、煩く感じる。だって、俺は今、何も出来ない状況なのだから。
 諦めろ、と誰かが囁いた。



 思えば、俺は今まで、どんな人生を送ってきたのだろう?
 楽しいと呼べる人生ではあった。
 親友も出来たし、友人も出来た。仲間になってくれそうな奴も、出来た。

 ここで、ピリオドを打ってみるのもいいかも知れない。

 俺が持つ、全てを――――――。

「おい、雄二! ダークネスみてぇな訳の解らん奴に飲まれてんじゃねーぞ! とっとと復活しねぇとキュウリと一緒にぬか漬けにしてやる!」

 いきなり、声が響いた。
 顔をあげると、ダークネスの後ろに、貴明が立っていた。
「貴明……?」
『いいか、良く聞けコノヤロウ。テメェが今どうなってるのかは知らねぇよ。だけど、諦めたらぶっ飛ばすぞ』
「んな事言われても……!」
 貴明に返事をする前に、貴明の姿は消えた。だが、貴明の消えた後に、次は別の影が現れた。

『……お前は、僕らの分の夢を追いかけてくなら、このデュエルディスクに、僕達の夢を乗せてくれるかい?』
『このデュエルディスクに乗せて、連れてって。決闘王の、称号に』

「里見……平井………」

 思い出せ。その手に、デュエルディスクを付けた時から。

 決闘者として、最後まで戦い続ける事を義務づけられた筈だ。

「そうだよ………そうなんだよ………」

 故に、我らは戦い続ける。例え、全てが燃え尽きようと。
 例え、どれだけ傷つこうと。例え、悪魔に身を落としたとしても。

 例え、己の正義が敗れたとしても。


「戦い続ける! それが、デュエリストだ! リバースカードを一枚セット! ターンエンドだぜ」
『……戻ってきたようだな。だが、返り討ちにしてくれるわ!』
「ハッ! やれるもんならやってみな、この真っ黒クロスケがぁ!」
 俺とダークネス今、再び大地に立つ。



 黒川雄二:LP2000 ダークネス:LP4000

『では、我のターン。ドロー!』
 ダークネスがドローし、カードを確認。
『カードを一枚セットし、レイド、レダの2体で、プレイヤーにダイレクトアタック! これで終わりだ!』
 2体の悪魔が、俺に迫る。
 終焉を告げる、2体の悪魔の声。
「………フッ、諦めないって事はさ」
 そう、それは。
「何もかも、最後まで足掻き続けなきゃいけないって義務なんだよ! リバース罠、オープン! 真紅眼の誇りを発動!」

 真紅眼の誇り 通常罠
 ライフポイントを500ポイント支払う事で、手札・デッキ・墓地から「真紅眼の黒竜」を特殊召喚する。

「この効果で俺はライフポイントを500支払い、真紅眼の黒竜を召喚するぜ! come on! 俺の魂、俺の誇り……そして運命を切り開く黒き竜よ!
 俺の全てを、お前に託す! レッドアイズ・ブラックドラゴンを召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

『なっ……あのタイミングで、真紅眼を……!』
 フィールドに、現れた、黒竜は2体の悪魔を一睨みすると、その攻撃を躊躇わせる。
 だがしかし、攻撃宣言は既になされた後だ。
「じゃあな! レイドとレダには、おさらばして貰うぜ!」
『ぐっ……』

 黒川雄二:LP2000→1500
 ダークネス:LP4000→3600→3100

 少しだけ、ライフポイントの差は縮まった。
 まぁ、俺が不利である事に代わりは無いのだが。
『……六邪心魔・憎悪―レイドの効果、発動。このモンスターを戦闘で破壊したモンスターは、そのターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。
 お前の真紅眼も、墓地行きだ』
「げ」
 俺が呟くより先に、真紅眼の姿が消える。カードテキストを読むべきだった。
「………くそ、だけど次は俺のターンだぜ」
『ぬぅ………だが、レイド、レダの効果をそれぞれ発動する! 500ライフを支払い、墓地の2体をフィールドへ!』

 ダークネス:LP3100→2100

 六邪心魔・憎悪―レイド 地属性/星4/悪魔族/攻撃力1900/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードを戦闘で破壊したモンスターはそのターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。

 六邪心魔・憤怒―レダ 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でそのモンスターの攻撃力分の数値、攻撃力を上げる事が出来る。
 この効果を使用した後、エンドフェイズにこのカードは守備表示になる。次の自分エンドフェイズまで表示形式を変更出来ない。

 フィールドに、2体の悪魔が再び舞い戻った。これでは、堂々めぐり。
「くそっ、やってくれるな!」
 俺の悪態に、ダークネスはにやりと笑った。
『フッ、経験の差だ』
 自分と同じ顔で言われるのは何となく腹が立つ。
 だが、どうしようもないのでこのままいこう。
「…………まだまだ行けるぜ。俺のターン! ドロー!」
 ドローしたカード。

「………来た」

 来た。このカードを、待ちに待っていた。
 興奮する。血が沸き上がる。全てが、上がる。

 ダークネス、貴様の天下はもう終わりだ。
 ここから先はもうずっと俺のターン。ただでは終わらせない、全てを終わらせてやる。
「ここから先はずっと俺のターン! 速攻魔法、奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振る。出た眼の数だけ、ドローする。
 このターンのエンドフェイズ時、ドローした手札の数以下になるように手札を減らさなければならない。

『な、何ぃっ!? そ、そのカードは……!』
 ダークネスが驚いていたが、最早そんな事はどうでもいい。
「サイコロを振るぜ。出た眼は……6! 六枚ドローだぜ!」
 六枚のカードを一気にドロー。良し、手札が揃った。

「黒竜の雛を、召喚! 黒竜の雛の効果発動! このカードを墓地に送り、真紅眼の黒竜を召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上で表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で手札より「真紅眼の黒竜」を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 雛は、黒竜へと進化し、真紅眼は再びフィールドで翼を広げる。だが、それだけでは終わらない。
 俺のターン、俺の戦いは、それだけでは終わらない。

「そして、真紅眼の黒竜を生け贄に、真紅眼の闇竜を召喚!」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 このカードは自分の墓地のドラゴン族モンスター1体に付き攻撃力が300ポイントアップする。

 黒竜は闇竜へと進化する。真紅眼の進化は、まだまだ続く。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→3600

「ダークネス。見せてやるよ………真紅眼の、最終進化を……真の姿って奴をな。
 闇竜を生け贄に捧げ、俺は、マイフェイバリットモンスター! 真紅眼の闇焔竜を召喚するぜ!
 カモン! ダークブレイズ! 俺の敵を、なぎ払え! 頼むぜ、レッドアイズ・ダークブレイズドラゴン!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

 遂に、遂に来る。
 俺の相棒、最強の、真紅眼が。最後の、竜が。

「闇焔竜の効果発動……。ライフポイントの半分を支払い、墓地の「真紅眼」の名のつくモンスターの効果を得る」
 今、墓地には闇竜がいる。ドラゴン族一体に付き、攻撃力300上昇する。

 黒川雄二:LP1500→750
 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→5000

『攻撃力……5000、だと……!?』
「ダークネス、5000なんて、神竜と同じだろ? だけど、まだ終わらないぜ」
 俺の手札には、まだカードが2枚残っている。あの、2つのカードが。

「速攻魔法、ブラッド・ヒートを発動! そして、装備魔法、巨大化を発動するぜ!」
『な、な、なななななななな!!!!!』

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 巨大化 装備魔法
 自分のライフポイントが相手のライフを下回っている場合、装備モンスターの攻撃力は2倍となる。
 自分のライフポイントが相手のライフを上回っている場合、装備モンスターの攻撃力は半分となる。

 黒川雄二:LP750→375
 真紅眼の闇焔竜 攻撃力5000→10600→21200

 攻撃力21200。
 モンスターの限界を超えに越えたその数値は、デュエルディスクから火花が散るほどの攻撃力だった。
 つまり、ある意味前代未聞の数字。
『に、21200、だと………バカな! そんな攻撃力など、デュエルリングサーバーでの演算が不可能な値だ!』
「そりゃ、そうだろうな。だけどよ……ダークネス、テメェをぶっ倒すには、充分な数値だぜ」

 全てを、越えたこの数値なら。
 全てを、破壊出来るし、全てを敗れる。

「さぁ、行くぜ、ダークネス! 闇焔竜! あの悪魔どもに、その威力を見せてやれ! 終焉のダーク・ブレイズ・キャノン!」
『ぐっ……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』
 その、黒き闇の焔は。
 ダークネスのライフを削り取り、体格ごと吹っ飛ばすには充分過ぎるほどの威力だった。

『があああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!』

「…………俺は俺だ。お前如きに、身体をやったりしねぇよ、バカヤロウ」



 暗闇に、光が訪れようとしていた。
 暗い闇に漏れた光は、その闇を少しずつ掻き消していく。闇である、ダークネスも、同じように、消えていく。
「おい、ダークネス」
 消え行く俺と同じ顔をした奴に、俺はそう声をかけた。
『何か用か……』
「一つ聞かせろ。お前さ、何で前の世界で、世界を滅ぼしたんだ?」
 一つだけ、気になっていた事だった。
 だが、ダークネスはそこで鼻で笑った。
『滅ぼした? それは違う。滅ぼしたのではない、自ら滅びたのだ』
「どうやってだよ?」
『そう望んだ奴がいたからだ。世界記憶に辿り着ける者なら、世界を一つ、契約の代償として差し出す事も可能だろう』
 パズルが、一つずつ繋がっていく。
 一度、ダークネスに敗れたデュエリストは。
 アカシック・レコードにアクセスして、世界をもう一度やり直した。ダークネスに飲まれた世界を犠牲にして。

 そのデュエリストの名は―――――遊城十代。

「……遊城十代は、何でお前を復活させようとしたんだ?」
『我の推測だが……力を欲した為ではないか?』
「力を欲した為? 何の地からをだ?」
 俺の問いに、ダークネスは呟くように答えた。
『世界を一度滅ぼしてまで、やりたい何かがあった。それを果たす為に、我の力を借りようとしたのだろう。お前のせいで、それは潰えたがな』
「やりたい何かって何だ?」
『知らぬ。それ以上は知らぬ。さて……どうやら、我も消える時が来たようだな』
 ダークネスがそう返事をすると同時に、その身体が消えようとしていた。
『神竜が取り込んできた魂は全て元の肉体へと帰った。仮の肉体は他者の魂で構成されている。肉体を失った我は、消えるしかあるまい』
「………………神竜で倒されてきた奴が、皆魂抜かれるのはそれが原因か。てことは、お前、消えちまうのか」
『そうなるな』
 その口調に浮かんでいるのは諦めだ。それもそうかも知れない。

 だけど、俺の脳裏には別の事が浮かんでいた。

「おい、ダークネス。お前、俺の体に来ないか?」
『………それは我に差し出すという事か?』
「ちげーよ。テメェの力を俺に寄越せって言ってんだ! 肉体の宿主にならなってやる!」
 さっきまで、肉体はやらないと言っていた俺の180度方向転換したような言葉に、ダークネスは一瞬呆気に取られていた。
 そして、直後になって口を開いた。
『……強欲な奴だ! 我の力を欲するとは! 良いだろう、何が望みだ?』
「世界を一度滅ぼしてまで、テメェを復活させた挙げ句色々やらかそうとしている我が侭大王をぶっ飛ばす為だバカヤロー!」
 俺の叫びと共に、ダークネスの姿が黒い霧となって。

 そして、俺の肉体へと飲まれていった。












 光が散ったように視えた。
 正確には、先ほどまでずっと、黒いオーラを纏っていた雄二の身体から、無数の光が溢れ出したのだ。
「…………高取晋佑。あれ、なんだ?」
 隣りに来ていたゼノンが、俺にそう話しかけてきた。
「あれか? 多分……」
 光の一つが、先ほど俺が倒した滝野理恵の船室へと入っていくのが視える。つまり、あれは。
「神竜に飲まれてた魂だろう? お前も、結構飲み込んだんじゃないのか」
「ああ、そうだったな」
 ゼノンが小さく頭を掻く。だけど、問題は。

「貴明。いつまで倒れてる気だ」

 もう一人の友人、宍戸貴明の方だ。
 遊城十代に完膚なまでにたたきのめされた貴明は、完全にうな垂れていた。
「話しかけるな、頼むから。晋佑。今、俺は最高に最悪な気分だ」
「言ってる事が矛盾してるぞ、アホ」
「誰がアホだ!」
 よし、貴明復活。

「…………おいおい、冗談キツいぜ」
 誰の声か、と思って振り向く。
 遊城十代だった。
「なんで、勝ってるんだよ………なんで、ねじ伏せたんだよ、あの野郎!」
 十代がそう叫んだ時、雄二は付けていた仮面を盛大に引っぺがしながら口を開いた。
「さぁな? 勝ったからじゃないか?」
 そう言って笑うと、雄二は十代を見てにやりと笑った。

「さて、お次は何をするんだい、十代さん?」
「そうだな、お前の精神をへし折ってやりたい気分だ」



《第33話:夜明け前の攻防》

「さて、お次は何をするんだい、十代さん?」
「そうだな、お前の精神をへし折ってやりたい気分だ」

 俺の問いに、十代がそう答えた。
 随分と傲慢な奴だな、と思ったが世界一つやり直すような奴なので有りえない話しではない。
 俺がそんな事を考えていると、視線の隅に膝をつく貴明の姿が入った。
「……貴明?」
「あ、ああ……雄二か。よう、戻ったのか……?」
 貴明は疲れた視線で俺を見上げると、そう口を開いた。とりあえずうんと頷いておく。
 ところで貴明、何があった。
「…………雄二、お前……雰囲気変わったな」
「そうか? まぁ、そうかも知れないな。だけど……中身はお前の知ってる黒川雄二だ。それに違いはねぇよ」
 俺の言葉に、十代が驚いた視線を向けてきた。
「お前、ダークネスはどうした?」
「中にいるぜ。居心地も悪くないとか言ってるしよ」
 事実、内部に意識を集中してみればダークネスがいるのが解る。もっとも、肉体の主導権を握らせるつもりはないが。
「神竜が取り込んだ魂を全部解放したからな。俺の肉体に取り憑くしかないわな」
「確かにそうだろうな……で、神竜のカードはお前の手にある訳だ」
 十代がそう言って笑う。そう、ダークネスの魂の断片である三枚の神竜は全て俺の手にある。

 だけど、このカードを使いたいかと聞かれるとそんな思いは沸かない。

「………遊城十代。俺はアンタに聞きたい事がある」
「なんだ? 言ってみろよ」
 十代が頷くのを見て、俺は晋佑に視線を向けてから、ゆっくりと口を開く。
「アンタはどうして、やり直しを望んだんだ?」
「………………」
「ダークネスに敗れたからか? 自分以外の全てが消えるのが嫌だったからか? それとも、ダークネスに取り込まれるのが嫌だったからか?
 それは違う筈だ。そんな理由で、お前みたいな奴が世界をもう一度やり直そうとする筈が無い。それだけの理由がある筈だ」
「………………」
「答えろ………答えろ、遊城十代ッ!」
 声が、鳴り響く。だが、返事は返ってこなかった。

「雄二」
 晋佑が、ゆっくりと口を開いた。
「遊城十代が、どんな事を考えていたか、俺には解らない。だけど、俺に一つだけ言える事がある。解るか、雄二?」
「なんだ?」
「どんな理由であるにせよ……遊城十代は、一つの望みをかけて世界をやり直した。そしてそれが、茨の道である事も、鬼の道である事も知っている。
 でも………なぁ、雄二。人生にやり直しって、聞くと思うか?」
「聞いたら誰も苦労しねぇよ」
「……だろ? でも、やり直しちまった反則野郎がいるんだよな」
「ああ、目の前にな。ああ、そうか。今、解った」
 晋佑の言いたい事が大体解った。遊城十代がやりたかった事。それは。

「この野郎は、自分の望みの為なら、他人なんてどうとでも思っちゃいない。自分以外の誰も信用しない、トンでもない野郎だ。自分の為に他人を犠牲
 にする事なんざ当たり前。そして気に入らない事があれば何が何でも無かった事にしてしまう。世界を一度やり直したのがその証拠だ。諦めが悪いと
 聞こえはいいけど、それでも今を生きてる俺達には今しかない。何度もリセットボタンが押せると思うな、この野郎!」

 俺の言葉に、誰もが黙り込んだ。
 俺も、貴明も、晋佑も、ゼノンも、丸藤亮も、そして遊城十代も。

 全員分の、時が止まった。



「…………お前とは、解りあえないと思っていたさ。だけど……」
 沈黙を破ったのは、遊城十代だった。
「お前がそう思うなら、証明してみせろよ。ダークネス。俺はテメェをぶっ倒すだけだ」
「……………そりゃ奇遇だねぇ。俺も、お前を倒したいんだ」
 お互いに、にやりと笑った。
 至福で、至高の時間が。決戦の時が、近い。

「………夜明けが近い。その頃には、海馬社長も起きてくる。それまでに終わらせようぜ、遊城十代」
「………やれるものならな、やってみればいいさ。黒川雄二」

「……Are you Ready?」
「……OK , come on!」

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 遊城十代:LP4000

「先攻は貰うぜ、黒川雄二! ドロー!」
 しかし最近、よく先攻を取られてしまうのは気のせいか。まぁ、どうでもいいだろうけれど。
「ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4を攻撃表示で召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 炎属性/星4/炎族/攻撃力1800/守備力1400
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃する事が出来る。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚する。

 来た。遊城十代の、焔の竜が。
「………おぅ、こりゃまた熱そうな奴だな」
「骨の芯まで焼き尽くしてやるさ。覚悟しろよ」
 十代はそう呟くと、リバースカードを一枚セット。ターンエンドを告げる。
 さて、俺のターンである。
「(さぁて、どうするかな)俺のターン! ドロー!」
 ドローしたカードと、手札を確認。決して悪くはないカードだ。
 だが、相手は一筋縄では行かない相手と、さっきのトライアングルデュエルで実証済みだ。
 神竜をあっさり除去するし。
「………まずは、小手調べと行くぜ。サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「サファイアドラゴンねぇ……そんな旧世代のアタッカー程度でいい気になるなっての」
「ああん? よく聞こえないなぁ? 何だってぇ?」
 十代が恐らく何か言ったような気がするが俺はそよ風の精霊もホーリージャべリン片手に飛んできそうなぐらいの爽やかさでスルー。
 うむ、流石は俺。ナイスプレイ。
「こ、こいつマジむかつく……!」
「勝手に言ってろ反則大王」
「は、反則大王!?」
 ちなみに十代が幾ら騒いでもまだ俺のターンなので奴は何も出来ない。
 十代もその事に気付いたのか、次は無言の視線でさっさとしろ、とばかりに睨んできた。
「そして、手札の光位の守護天使フェイト・ベルの効果発動! このカードを手札から墓地に送る事で、次の自分スタンバイフェイズ時に、レベル5以上
 のモンスター1体を手札から特殊召喚出来る!」

 光位の守護天使フェイト・ベル 光属性/星4/天使族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードは墓地から特殊召喚出来ない。
 このカードを手札から墓地に送る事で、次の自分スタンバイフェイズ時にレベル5以上のモンスター1体を手札から特殊召喚出来る。
 フィールド上のこのカードを墓地に送る事で手札の「聖霊天使フェイト・ベル」を特殊召喚出来る。

 進化した光の天使は、その身を墓地に置く事で新たな力を生む。
 フェイト・ベルを墓地に送ると、彼女は少しだけ俺に一礼をした。
『マスター、お気を付けて』
「何。負けるつもりはねぇよ」
 俺はそう返事をすると、残りの手札を確認する。
「そして、カードを1枚セットし、ターンエンド」
「俺のターンだ………ドロー!」

 十代のターンに移る。ここで、奴が動いた。
「俺のターンだ。よし………手札の魔人インフェルノスを墓地に送り、その効果でデッキから、フィールド魔法、灼熱の大地ムスペルへイムを手札に銜える!
 そして、フィールド魔法、灼熱の大地ムスペルへイムを発動!」

 魔人インフェルノス 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力800
 手札からこのカードを墓地に捨てる事で、デッキから「灼熱の大地ムスペルへイム」を手札に銜える。
 このカードはフィールド上に「灼熱の大地ムスペルヘイム」が存在しない時墓地に送られる。

 灼熱の大地ムスペルへイム フィールド魔法
 全フィールドの炎属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げる事が出来る。
 この効果を使用した場合、そのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 攻撃力1800→2100

「この効果により、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4の攻撃力は2100! サファイアドラゴンは、軽く撃破出来る。だけど、まだ終わらない。
 俺は、憑依装着−ヒータを手札から攻撃表示で召喚するぜ!」

 憑依装着−ヒータ 炎属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 自分フィールド上の「火霊使いヒータ」と他の炎属性モンスター1体を墓地に送る事で手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 この方法で特殊召喚した時、以下の効果を得る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が相手守備力を上回っていればその分戦闘ダメージを与える。

 憑依装着−ヒータ 攻撃力1850→2150

 焔の竜の脇に現れたのは、火焔を操る魔法使いの少女。ヒータ、大人気。
 これで十代のフィールドに二体のアタッカーが並ぶ。ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4がサファイアドラゴンを撃破すれば後は直接攻撃になる。
 もう1度攻撃出来るLV4と彼女のダイレクトアタックで俺のライフはゼロになる訳だ。
「(なるほど、これが十代の火力って訳か……熱い、熱いぜ。熱すぎるぜ)」
 熱風、というより熱の暴風、としか言いようが無い。それだけの威力を、このデッキは秘めている。
「………終わったな。ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4で、サファイアドラゴンを攻撃! イグニッション・バースト!」
「ぐおっ……いきなり、来やがって」

 黒川雄二:LP4000→3800

 フィールドからサファイアドラゴンの姿が消え、壁モンスターがいなくなる。
「そして、LV4の効果発動……モンスターを戦闘で破壊した時、もう1度攻撃が可能! イグニッション・バースト! 第2打ァッ!」
「速攻魔法! 終焉の焔を発動!」

 終焉の焔 速攻魔法
 このカードを発動する場合、自分は発動ターン内に召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
 自分のフィールド上に「黒焔トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を2体守備表示で特殊召喚する。
 (このトークンは闇属性モンスター以外の生け贄召喚のための生け贄にはできない)

「くそっ……モンスタートークンだと!?」
 十代が舌打ちすると同時に、俺のフィールドに現れた二体の黒焔トークンがLV4とヒータの攻撃を、それぞれ阻む。
「リバースカードは罠だけじゃない、注意しときな」
「ああ、今思い出したぜ。こん畜生」
 俺の言葉に、十代は舌打ちするとターンエンドと宣言した。
「んじゃ、俺のターン!」
 フィールドががら空きである事に変わりはないが、俺にはまだ手札が残っている。
 そして、何より。
「前のターンで墓地に送った、光位の守護天使フェイト・ベルの効果を発動させて貰うぜ。この効果により、手札のレベル5以上のモンスター1体を
 特殊召喚出来る」
 俺が召喚する、手札のモンスター。それは。
「真紅眼の黒竜を、特殊召喚!」
 俺の切り札、俺の魂、そして俺の最強カード。

 レッドアイズを於いて、他に無い。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 黒竜は、焔の大地で翼を広げ、咆哮を挙げた。俺の守護者、俺の剣として。
「……頼むぜ。行くぜ! レッドアイズ! ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4を攻撃だ! ダーク・メガ・フレア!」
「リバース罠、攻撃の無力化を発動!」

 攻撃の無力化 通常罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

 黒炎弾が次元の渦に飲まれた為、攻撃は無効。
 まぁ、よくある事だ。伏せカードもあった事だし。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターンだ。ドロー!」
 十代はドローした後、すぐに手札を確認。
「フィールドのLV4を墓地に送り、LV6を召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV6 炎属性/星6/炎族/攻撃力2400/守備力1800
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分だけダメージを与える。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV8」を特殊召喚する。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV6 攻撃力2400→2700

「くそ、LV6に進化しやがった……」
 LV6の攻撃力は、ムスペルへイムの効果で2700まで上昇している。レッドアイズでは、勝てない。
 更に、フィールドには憑依装着−ヒータが控えている。多くのダメージをもぎ取られるに決まってる。
「それで終わりだと思ってたと思うと、間違いだぜ、黒川雄二。魔法カード、レベルアップ!を発動!」

 レベルアップ! 通常魔法
 フィールド上に存在する「LV」を持つモンスター1体を墓地に送って発動する。
 そのカードに記されているモンスターを召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

「げ!」
「この効果でLV6を墓地に送り、LV8を召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8 炎属性/星8/炎族/攻撃力3000/守備力2000
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で、
 「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV10」を特殊召喚する。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8 攻撃力3000→3300

「げぇぇぇぇーっ!!!!!」
 僅か1ターンでそこまで進化させたのには尊敬に値するかも知れない。
 しかも、高い攻撃力を備えている。こっちのライフを全部もぎ取れる程。
「今度こそ……今度こそ、仕留めて見せるさ。お前をな!」
「マジかよ……」
 高い攻撃力を何度となく並べる。それが遊城十代クオリティ。
「(落ち着けよ、俺。まだ敗北が決まった訳じゃないさ……)」
 その通り。まだ、バトルフェイズが始まっている訳でもないのだ。
「……行くぜ。イグニッション・カラミティ・バースト!」

 黒川雄二:LP3800→2900

 LV8の攻撃が、真紅眼の黒竜を掻き消していく。
 だがしかし、まだまだ甘い。
「リバース罠、リビングデッドの呼び声を発動し、真紅眼の黒竜を蘇生召喚!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地に存在するモンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードが破壊された時、特殊召喚されたモンスターを破壊する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「これで、ヒータの攻撃力は2150、これで追撃は不可能だぜ」
「チっ………くそ……LV8の効果を発動し、LV10を特殊召喚! ターンエンドだ!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴン LV10 炎属性/星10/炎族/攻撃力4000/守備力3000
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃対象に選択出来ない。
 このカードが戦闘で破壊された時、デッキより「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV4」を特殊召喚出来る。

「へっ、俺のターン! ドロー!」



 十代と雄二の、熱く、そして短い戦い。
 二人が、心なしか、楽しそうに見えるのは気のせいなのだろうか。
「気のせいじゃないだろうな、貴明」
 俺の隣に立っていた晋佑がそう口を開く。
「あいつら、本気で楽しんでやがる」
「マジでか? 十代はともかく、雄二の奴はどうしてなんだ?」
 確かに、雄二はデュエルを楽しんでいるフシは結構ある。だけど、締める所は締める奴だ。いつも軽い気持ちでいられる程、軽い奴じゃない。
「前まで、だったらな」
 晋佑はそう呟くと、視線を雄二に向けた。

「あれが、ダークネスの影響って奴かよ。なぁ、雄二……」



 黒川雄二:LP2900 遊城十代:LP4000

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 ヘルフレイムエンペラードラゴン LV10 炎属性/星10/炎族/攻撃力4000/守備力3000
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃対象に選択出来ない。
 このカードが戦闘で破壊された時、デッキより「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV4」を特殊召喚出来る。

 憑依装着−ヒータ 炎属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 自分フィールド上の「火霊使いヒータ」と他の炎属性モンスター1体を墓地に送る事で手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 この方法で特殊召喚した時、以下の効果を得る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が相手守備力を上回っていればその分戦闘ダメージを与える。

 灼熱の大地ムスペルへイム フィールド魔法
 全フィールドの炎属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げる事が出来る。
 この効果を使用した場合、そのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV10 攻撃力4000→4300
 憑依装着−ヒータ 攻撃力1850→2150

 俺のフィールドには、真紅眼1体のみ。それに対して、十代のフィールドには二体のモンスターがいる。
 おまけに、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV10の攻撃力は4000以上。まず、勝ち目はない。
「どうする、黒川雄二? 見えるか? この威容、そしてその破壊力が! お前如きじゃ、まず無理だ」
 十代の言葉と共に、焔の竜は何度となく雄叫びを挙げる。
 真紅眼より小さな竜だったその姿は今やもう青眼の究極竜に匹敵する程の巨大さになっていた。
「………真紅眼の黒竜を、俺は守備表示に変更! そして、魔法カード、竜族の絆を発動!」

 竜族の絆 通常魔法
 墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を除外する事で、除外したモンスターより攻撃力の低いドラゴン族の融合モンスター1体を
 融合デッキから特殊召喚する事が出来る。(この効果は融合召喚扱いとする)
 このカードで召喚されたモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。

 竜族の絆。ドラゴン族の力を信じる者が使いこなす、カードの一つ。
「俺は墓地のサファイアドラゴンをゲームから除外し、融合デッキからドラゴンに乗るワイバーンを召喚!」

 ドラゴンに乗るワイバーン 風属性/星5/ドラゴン族/攻撃力1700/守備力1500/融合モンスター
 「ワイバーンの戦士」+「ベビードラゴン」
 相手フィールド上のモンスターが地・水・炎属性のみの場合、このモンスターは相手プレイヤーを直接攻撃出来る。

 ベビードラゴンに跨がったワイバーンの戦士は、相手のフィールドを飛び越える事が出来る。
 それはつまり、炎の竜も射程さえ届かなければ意味がないという事。
「…………ドラゴンに乗るワイバーン……まさか!」
「あたり。ドラゴンに乗るワイバーンの効果で、俺は十代にダイレクトアタックだ!」
「ぐっ……くそったれぇぇぇぇぇっ!!!」
 十代が悪態をついてももう遅い。ワイバーンの攻撃が直撃し、十代のライフを削った。

 遊城十代:LP4000→2300

「よし、これでライフ逆転!」
「…………だが、次の俺のターンで、ワイバーンが破壊されればお前のライフは0だ」
 十代がそう呟く。確かに。攻撃力1700の彼では心もとない。
「……おい、これで終わるって誰がいった?」
 そう、これでコンボを止めればそれこそ愚の骨頂。だって、まだ俺のターンだから。
「まだ続くぜ! ドラゴンに乗るワイバーンを、ゲームから除外し、それにより、手札のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを召喚!」
「な、何ぃっ!?」

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力2800/守備力2400
 このカードはフィールド上に存在するドラゴン族モンスター1体を除外する事で特殊召喚出来る。
 1ターンに1度だけ、自分の墓地・手札から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を、
 自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 真紅眼の黒竜と、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンが並ぶ姿は何処か圧巻だ。
 どちらも守備表示だけど。
「………ターンエンドだ」
 俺の宣言に、十代はデッキに視線を向けてからドローする。
 正直、さっきの攻撃は結構十代には堪えただろう。何せ、普通じゃ考えにくい手法を使って攻められたのだから。
 直接攻撃されるという屈辱を受けた事が、十代に焦りを生ませた……筈だった。

「………黒川雄二。お前に、本当に地獄の業火を見せてやる」

 遊城十代の炎が、更に強まったと気付くのに1秒も掛からなかった。

「ヘルフレイムエンペラードラゴンLV10を除外し、俺はヘルフレイムエンペラードラゴンLV11を召喚するぜ!
 究極にして完全なる、そして不敗にして無敵! 最強にして完全の! この炎の竜を破る事なんて不可能だぁぁぁぁぁぁぁっ!
 さぁ、出でよ! 俺の最強のしもべにして忠実なる友よ! 俺の敵を、俺の夢の為に全てをなぎ払え!
 明日に向かって、召喚だぁ! ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11!」



《第34話:炎の記憶》

「召喚だぁ! ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11!」

 十代がそう叫んだ後、フィールドのヘルフレイムエンペラードラゴンLV10が姿を消していく。
 LV10をも上回る、究極の、炎の竜が。

 俺の前に、立ち塞がる。

 ヘルフレイムエンペラードラゴン LV11 炎属性/星11/炎族/攻撃力4500/守備力3500
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃対象に選択出来ない。
 このカードは墓地の炎属性モンスター1体を除外する毎に攻撃力・守備力が300ポイントアップする。
 このカードが戦闘で破壊された時、デッキより「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚出来る。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11 攻撃力4500→4800

 黒川雄二:LP2900 遊城十代:LP2300

 今、俺のフィールドには守備表示の真紅眼の黒竜と、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン。
 それに対して十代のフィールドにはヘルフレイムエンペラードラゴンLV11と、憑依装着―ヒータがいる。
 更には、炎属性強化のフィールド魔法、灼熱の大地ムスペルへイムまで発動しているのである。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力2800/守備力2400
 このカードはフィールド上に存在するドラゴン族モンスター1体を除外する事で特殊召喚出来る。
 1ターンに1度だけ、自分の墓地・手札から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を、
 自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 憑依装着−ヒータ 炎属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 自分フィールド上の「火霊使いヒータ」と他の炎属性モンスター1体を墓地に送る事で手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 この方法で特殊召喚した時、以下の効果を得る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が相手守備力を上回っていればその分戦闘ダメージを与える。

 灼熱の大地ムスペルへイム フィールド魔法
 全フィールドの炎属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げる事が出来る。
 この効果を使用した場合、そのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 憑依装着−ヒータ 攻撃力1850→2150

「2体の攻撃力はそれぞれ、真紅眼とダークネスメタルを上回っている。そろそろ、勝てる気が無くなって来たんじゃないか? 黒川雄二?」
「さぁてね、どうだろうかな? まだわかんねーぞ。それに、まだお前のターンだ」 「ああ、そうだったな……。バトルだ! 憑依装着−ヒータで、真紅眼の黒竜を、そして……LV11でダークネスメタルを攻撃!
 消えて無くなれ! インフィニット・イグニッション・バースト!」

 それぞれの攻撃が牙を剥く。守備表示なのでダメージこそ無いものの、その攻撃は圧巻だった。
「うおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!」
 2体のモンスターが消え失せ、フィールドはがら空きになる。

 黒川雄二:LP2900

「……これでお前にもう壁モンスターはいない。ターンエンドだ」
「……………流石だよな、強いぜ、あんた」
「あ? まぁ、そうだろうな」
「……ついでに聞きたい事もあるんだけどよ」
 俺が口を開くと同時に、横から俺と同じ顔が顔を出してきた。
 ダークネスだ。
『久し振りだな、遊城十代』
「……よぉ。御変わり無いようで」
 ダークネスの言葉に、十代は肩を竦めながら返した。
「……………アンタとデュエルしたのが、昨日のように感じるよ」
『そうだな。お前も腕を上げた。少なくとも、我以上に』
「そりゃそうだろ。時間も経てばな」
 十代はそう言い放つと、少しだけ視線を伏せる。
 後悔しているかのようにも見えた。だが、笑っているようにも見えた。どっちともつかない、奇妙な表情。
「ダークネス。俺が、やり直しを望んだ理由を、あんたは知ってる筈だ」
『勿論だ』
「それなのに、あんたの取り憑いてる先は、間違ってるって言うのか?」
『……だろうな』
 ダークネスはそう答えると、軽く肩を竦める。

『黒川雄二。お前に、過去を見せてやろう。1度だけあった、そして、全てのハジマリとなった過去を』







 どの位の時間が経ったのだろうか。視界は、暗いままだった。
 眼を開くと、モノクロに支配された世界が見えてくる。
「何か俺以外、皆白黒だよ……」
 俺がそう呟いた時、ちょうど真横をモノクロの人影が透りすぎていった。
 その後ろ姿に、間違いはない。遊城十代だ。

 1週目の世界の遊城十代は、明るい顔をしていた。
 モノクロの世界でも、彼が楽しんでいるのが解った。
「あれか……」
 少なくとも、つい先ほど俺とデュエルした2週目の世界の遊城十代とは対照的なように。
『追え、黒川雄二』
 いつの間にかに背後にダークネスが現れ、俺に十代の後を追うように急かした。
「ダークネス、俺に何を見せたいんだ?」
『見れば解る。今は後を追え』
 言われた通りに後を追うと、十代は長い廊下をデュエルディスクを付けたまま歩いていった。
 デュエルディスクに入ったデッキともう一つ、その手でしっかりと掴んでいるデッキ。

『第七病棟四階』

 そう書かれた看板が見えると、十代は近くの部屋の扉をノックした。
 看板のお陰で、この場所が病院だと解った。
『427号室:遊城三四』
「……遊城、三四……?」
『1週目の世界の、十代の妹だ』
「アイツ、妹なんていたのか」
 俺はそう呟きつつ、ダークネスと二人で病室の中に入る。
 記憶の中の世界であるから、俺とダークネスの姿は病室の中にいる二人には見えない。
 故に、病室をじっくりと観察する事が出来た。

 だがしかし、ここで奇妙な事が起こった。
 音が、一切聞こえない事だ。
「……ダークネス、音が聞こえないんだが」
『無茶を言うな。此奴が何と言ったか我も知らん。映像だけ見とれ』
 映像だけで理解しろというのも無茶な話だ。
 俺がそんな事を考えていると、十代は掴んでいたデッキを、病室のベッドに座る少女に渡していた。
 どうやらあの少女こそが遊城三四らしい。
「ダークネス、聞くがあの子はどうして入院してるんだ?」
『十代が我に話した事だが、元々身体は弱かったようだ。それと、もう一つの理由もある』
「もう一つの理由?」
『お主、ルインとデュエルを行った時に何も聞いておらんのか?』
 そう言えば確かに破滅の女神ルインとデュエルをした記憶はある。
 でもその時何か聞いたかと聞かれても多分聞いてないの方が正しい。俺の記憶が間違っていなければ。
「そうだよな、フェイト・ベル……って、あら?」
 フェイト・ベルにそう問いかけた時、俺は彼女の姿がなくなっている事に気付いた。
 周囲を見渡すどころか、中にもいない。何処に消えたのだろう。
「おーい、フェイト? ベルっちー?」
『……我が取り憑いたのでいなくなってしまったのか?』
「ダークネス、アンタさり気なく嫌われてるな。いないんだからアンタが説明してくれるか?」
『まぁ、良かろう』
 ダークネスはため息をつくと空中に胡座をかいて座った。空中で胡座をかくのも不自然な気がするが実態が無いのでしょうがない。
『お主はカードの精霊というものを信じるか?』
「俺は見えないから……いや、見えてるな。一応、信じるって事にしとく」
 まぁ、見えていなかったらフェイト・ベルと話す事も出来ないだろうし。
『問題は、そこだ。それをどうやって見てる?』
「眼で」
『そういう事を聞いてるんじゃない。カードの精霊というのが見える人間がどれだけいるか、という事だ。普通の人間は殆どどころかまず見えない。
 だが、見える人間には見える。しかしな……その見える人間は本来人間が見えない、認識出来ないものを認識しているという事だ。わかるか? 見
 える筈の無いものを強引に見ているようなものなのだ。本来、認識出来ないものを強引に認識していると言えば解りやすいか』
 ダークネスは淡々と言葉を続ける。その頃になって俺はようやくピンと来た。
 本来認識できない筈のものを、認識する。強引に。
「……ああ、なるほど。本来のスペックとはかけ離れた使用をしちゃってるって事か」
『……遊城十代のような健康優良体ならまだいい。病弱な彼女にはそれが耐えきれないのだろう』
「なるほど」
   道理で入院してしまうまで調子を悪くする訳か。
『遊城兄妹は、昔から精霊達に触れて育った。十代も、三四も、二人ともデュエルを楽しんでいた。そう、その頃はな』
「なんだよ、ダークネス。あんたは十代の事が嫌いなんじゃないのか?」
『2週目の奴は嫌いだが1週目の奴は嫌いじゃなかった。考え方としては違っていたが、人間としては好感を持てる奴だった』
 ダークネスはそう呟くと、軽く眼を閉じた。

『やはり、十代が1度世界を壊したのも、我にも責任があるかも知れない』

「そいつはいったいどういう事だ?」
『……しばし待て』
 俺の問いにダークネスがそう答えた時、再び世界が暗転した。


 再びモノクロの視界が広がると、そこは暗い空に包まれた、見慣れぬ場所だった。
 十代と、もう一人。いや、あれは人なのだろうか?
『……1週目の十代と、我だ』
 ダークネスが呟く、今度は音声があるのか、声も聞こえてきたのが解る。

「………どうしてだ」
 十代が、そう口を開いた。
 デュエルを行っていないのか、お互いにディスクを起動しているようには見えない。
「どうしてなんだダークネス! 人は皆戻ったんじゃないのか!?」
「ダークネス、十代は何を……」
『遊城十代が我とデュエルした理由から話そう』
 俺の疑問にダークネスは少し目を閉じると、口を開いた。
『人がダークネスの中に飲まれ、競争も、革新も、何も無い世界へと行く事を望み、そして遊城十代以外の全ての人間が飲まれていった。そこまでは解るか?
 1週目の世界が滅びた要因の一つだと、デュアル・ポイズンの総帥は言っている。だが、実際は違う。1度飲まれたものの、十代が我を打ち倒し、そして人
 はダークネスの世界を否定したのだ。確かに、何も無い世界ならば敗北は無いし、失敗も無い。だが、失敗も敗北も無いという事は成功も勝利も無いという
 ことになる。そして、人は1度はそれを望んだ、だがそれを否定し、世界は元に戻った』
「………続けろ。その後、何処で歯車が狂った?」
『貴様も見ただろう、遊城三四の姿を。戻ってきた世界の中で、唯一彼女だけが戻らなかった。飲まれている間に、彼女は絶命したからだ』
「…………………あ!」
 戻ってくると信じて、遊城十代は闘った。
 仲間が、親友が、そして妹が。

 自分のいる場所に、戻ってくると、信じて。

 でも、彼女は、全てが終わる前に、絶命していた。彼の知らない間に。

 それを知った時、遊城十代はどんな絶望を味わったのだろう。
 たった一人の妹が、自分が間に合わなかったばかりに、死んだとならば。彼は、どれだけの絶望を味わったのだろう。

『それが奴を……奴がやり直しを望んだ理由だ』

「俺は否定する! これが戻ってきた世界なら、俺はその世界を否定する! もし、不満なら……この世界をくれてやる! だから、俺にもう1度チャンスを寄越せぇぇぇぇ!」

 遊城十代は、1週目の世界を自らの意志で無に帰し、2週目の世界を始めた。
「でも、妙だぜ。ただ、妹を救いたいだけなら、何でわざわざダークネスを復活させようとまでしたんだ?」
『我が世界意志に干渉出来る存在であるからだ。我は何処にでも存在するし、また何処へでも行ける。奴の望みにはぴったりだ。皮肉なものだ。我を
 否定する原因を作ったものが我の力を欲するとはな』
「そりゃー、確かにヒデェ話だな」
『そして、その事を吹き込んだものがいる。それが…』
「デュアル・ポイズンか」
『そうだ』
 ダークネスの答えに、確かに納得した。

 十代がやり直しに拘ったのも、ダークネスの力を欲しがったのもそれが理由だったのか。
 ただ、問題となると、今、遊城三四はどうしている?
『彼女自身は生きている。だが、2週目の世界の彼女だ。何も知らない、彼女がそこにいる。だがしかし、考えても見るといい。1週目の世界と、
 2週目の世界、例え、世界を1度やり直したとしても遊城十代が1週目の世界と同じ事をすれば、また同じ結末が待っている。三四が我との闘い
 の間に絶命する、とな。同じ歴史を辿らない為に、奴は積極的に動いているのだ』
「そうか、同じ事すりゃそりゃ結果は同じだもんな」
『そう、故に三神竜を盗み出し、海馬コーポレーションに目を掛けられ、更にはデュアル・ポイズンにも取り入った』
「バカだ」
 俺は思わずそう呟いた。
『何?』
「バカだって言ってるんだよ、遊城十代が。運命を変えたいからって、仲間まで裏切ることはねぇだろ」
『そうまでして、救いたかったのではないか?』
「そりゃそうだろうけどよ」
 俺は軽く首を振ると、視線をふと前方に向けた。




 その時、俺は見た。
 記憶の中の世界に、本来ありえない筈の奴がいると。
「よう、ダークネス。こうして話すのは何年ぶりかな」
「お前……誰だ?」
「ははは、1週目の世界の最後で会ったばかりなのに。忘れたのかい?」
 その男……いや、少年は銀髪を軽くかきあげると、俺に視線を向けた。
「お前がダークネスの肉体か。へぇ、おかしな奴に宿ったもんだな。十代の奴を煽ってわざわざ復活させたのに」
 銀髪の少年は俺を見ながら喋り続けている。
 何かを答えようとした時、息が詰まった。何故か、こいつは、おかしい。こいつは、普通じゃない。
「ああ、喋れないのか? 悪かったよ、この辺りの空間を凍結させてたんだ。オレは関係ないんだけどね」
 少年がパチンと指を慣らすとようやく呼吸が元に戻った。
「テメェ………何者だ」
「オレ? オレは吹雪冬夜。まぁ、なんて言えばいいかな……うん、デュアル・ポイズンっていうバカ共のリーダーやってる」
「そいつらをバカ扱いかよ。って、お前が頭なのか!?」
「ああ」
 冬夜はそう答えると軽く頭を掻く。
「いやー、高取晋佑に三神竜を盗み出させて、それを十代に奪わせてダークネス復活させるまで結構手間取っちゃった。十代の奴が船の中でゼノン
 から奪わせる予定だったのに、余計な邪魔が入ったせいで上手く行かなかったよ。ま、最終的には結果オーライかな。お前を手に入れる事が出来
 たからね」
「………何?」
「考えてもみろよ。このオレが、高取晋佑や遊城十代、更にはゼノン・アンデルセンのような小物の願望を叶えるようなお人好しに見えるかい?
 あいつらが力を欲したのを見たからオレはその切っ掛けを与えただけさ。後は、オレの手の中で踊ってくれればいい」
「………おい、今なんて言った?」
「ん? オレの手の中で踊ってくれればいいってね」
「違う、その前だ! テメェは……テメェがあいつら全部利用してたってのか!」
 だとすると、この事件は全部。

 こいつの仕組みで、その通りに動いていたことになる。

「うん」
 冬夜はそう答えると、オレに手を向ける。
「最後に、お前を手に入れれば終わる。お前には、抵抗出来ないよ。拒否権は無いからね」
 冬夜の手が迫る。
 直感で悟った。逃げられない、そして、こいつには適わない、と。

 その圧倒的すぎる空気に、飲まれそうだ。

『力が欲しいか、黒川雄二』
「…………!」
『力が、欲しいか?』
「……ああ」

『貴様が望むのなら、我を望むなら……叫べ! その名を!』

「俺に……その力を貸せ! ダークネス!」


 闇の力。
 世界の全てを飲み込み、全てを無に帰す事も出来る、何処にでも行ける、何処にでもいる、ダークネス。
 漆黒の外套と仮面は、暗闇の使者たる証。
 銀色だったデュエルディスクも黒へと変わっていく。全てが、闇へと変わっていく。

「………それがお前の力か、ダークネス」
 吹雪冬夜が、そう呟いた。
「ああ」
 俺はそう答える。もう、恐れはしない。俺はダークネス。全てを飲み込み、全てを終わらせる者。

「吹雪冬夜………お前は、俺が滅する」


「滅する、ね。闇の使者が、俺を滅するなら、面白い! やってみせろ! ダークネス!」

 終わりを告げる運命の鐘は、もう鳴った。
 後は、それを、終わらせるだけなのだ。



《第35話:氷の王、破滅の使者》


 ダークネス:LP4000 吹雪冬夜:LP4000

「俺の先攻ドローで始めさせてもらうぜ」
「構わない。オレが勝つ事に変わりはないからな、ダークネス」
「フン」
 デュエルなんて始めてみなければわからないものさ。
「ドロー!」

「サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「オレのターン。ドロー!」
 まずは様子見から始めてみよう。デュアル・ポイズンのヘッドというあたり、並のプレイはしてこない筈だが。
「E-HERO ブリザード・エッジを自身の効果で特殊召喚!」

 E-HERO ブリザード・エッジ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1700/守備力1400
 このカードは特殊召喚扱いで召喚する事が出来る。
 このカードが墓地に送られた時、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する事が出来る。

 ブリザード・エッジとなるとE-HEROデッキか。
 主にカード破壊と打撃力で勝負するE-HEROデッキなら、確かに強力だ。
「そして、ブリザード・エッジを生贄に捧げ……氷帝メビウスを召喚! この時、ブリザード・エッジの効果発動! このカードが墓地に送られた
 時、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊出来る。オレのフィールドに魔法・罠カードは無い……そのリバースカードを破壊!」
「っ!」
 リバースカードが破壊され、墓地へと消える。
 攻撃表示のサファイアドラゴンを守るカードは無い。

 氷帝メビウス 水属性/星6/水族/攻撃力2400/守備力1000
 このカードの生贄召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊する事が出来る。

「メビウスで、サファイアドラゴンを攻撃! アイス・ランス!」
 メビウスの攻撃が、サファイアドラゴンに直撃し、見事に消し去った。
 俺のフィールドは見事にがら空きである。

 ダークネス:LP4000→3500

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「……流石は、デュアル・ポイズンのヘッド。強いな」
「当然だ。オレが負ける筈は無い」
 冬夜は自信たっぷりに答えると、俺にお前のターンだとばかりに手を向けた。
「俺のターンだ。ドロー!」

 今の1ターン目の戦いで上級モンスターを呼び寄せ、更に戦闘ダメージ、そしてリバースカードの破壊。
 手札が揃わなければそうそう出来る事じゃないし、何より手札を揃えるにもデッキの構築という奴がものを言う。
「(やりにくい相手だぜ、まったく)」
 何せ、相手が相手なだけに。

 だがしかし、相手と戦わなければ、ものは始まらない。

「仮面竜を守備表示で召喚!」

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

「破壊されてなお、モンスターを呼び寄せるリクルーター。壁を作れば確かにしのげるだろうけれど、それも何処まで持つかな?」
「やかましい。だまっとれ。カードを1枚伏せてターンエンド」
 ターンエンドを宣言し、続いては冬夜のターン。
「オレのターン。ドロー」

「氷帝メビウスで、仮面竜を攻撃!」
「仮面竜の効果発動! 戦闘で破壊されて墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚出来る!
 俺はデッキから仮面竜を選択! 仮面竜を守備表示で特殊召喚!」
「やはり並んできたか………」
 メビウスは攻撃が終了したので、冬夜のフィールドにもう攻撃宣言可能なモンスターは無い。
「ターンエンドだ」
「俺のターンだ。ドロー!」
 何はともかく、相手のメビウスを何とかするだけの打撃力は欲しい。
 しかし、問題は俺のデッキにはレベル5・6のモンスターが少ないという事だ。レッドアイズは1ターンでは呼べないし。
「ブリザード・ドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000
 相手モンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示型式の変更が行えない。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「ブリザード・ドラゴンの効果発動! 相手モンスター1体を選択し、相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示形式の変更が出来ない。
 俺は氷帝メビウスを選択! 続いて、リバース魔法、二重召喚を発動!」

 二重召喚 通常魔法
 このターン、モンスターの通常召喚を2回行う事が出来る。

「この効果により、俺は仮面竜、ブリザード・ドラゴンの2体を生贄に、真紅眼の黒竜を召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「たかが攻撃力2400、メビウスに相打ち覚悟で突っ込む気か?」
「これで終わるかよ! 黒竜を墓地に送り、真紅眼の闇竜を特殊召喚! 来い、闇竜!」
「なにっ!?」

 手札さえ揃ってしまえば1ターンでモンスターを呼び寄せるのは容易い。
 もっとも、手札浪費が異様に多いという難点があるが。

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 このカードは自分の墓地のドラゴン族モンスター1体に付き攻撃力が300ポイントアップする。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→3900

「攻撃力3900……!?」
 冬夜が呟くより先に、攻撃力を3900まで上昇させた真紅眼の闇竜は咆哮を上げ、牙を剥く。
「知ってるか、吹雪冬夜。どんな攻撃力も、攻撃が通らなければ意味がない。だから……」

「攻撃を通せばいいんだよ! バトルだ! 氷帝メビウスを攻撃! ダークネス・ギガ・フレイム!」
「し、しまったぁーッ!」
 冬夜の叫びより早く、闇竜の口から放たれた闇の炎がメビウスを焼き尽くす。

 吹雪冬夜 LP4000→2500

「こ、このオレのライフを削るだと……やりやがったな!」
「デュエルしててライフは削られないものなのか、お前の中じゃ? 吹雪の癖に温室育ちかよ」
「誰が温室育ちだダークネス。お前なんか1週目の世界で肉体無かった癖に!」
「世界一つ滅ぼした後ループしてまで生き延びるよりマシだ!」
「他人の肉体勝手に奪ってるようなもんだろーが! そもそもあれの原因は十代だ!」
「んな事はどうでもいいっての。ターンエンド」
 今の手札を使い果たしてしまったので次のターンまでに何とかしないといけない。
 吹雪冬夜がそれを見逃すような奴だとは思ってないが。
「オレのターンだ。ドロー」
 ただ、吹雪冬夜は今ので精神的にダメージを受けたのだろう、口調から余裕が消えている。
 それが吉とでるか凶と出るか……。

「氷女ツララを守備表示で召喚!」

 氷女ツララ 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1100/守備力1900
 このカードの召喚に成功した時、デッキから「氷女」と名のつくモンスター1体を手札に銜える事が出来る。
 墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、通常召喚の生贄1体分として扱う事が出来る。

「氷女ツララは召喚に成功した時、氷女と名のつくモンスターをデッキから手札に銜える。そして、墓地に存在する時、このカードを除外する
 ことで生贄1体分として扱うことが出来る……実にいいカードだ」
「守備力1900、まぁまぁな能力持ってるな。だけど、このターンは凌げても次からが危ういぜ?」
「そうかな? ダークネス。オレはお前の方が怪しいと思うぜ」
 冬夜はそう呟くと、カードを1枚セットする。
「オレは氷女ツララの効果で、デッキから氷女ミゾレを手札に銜える」

 氷女ミゾレ 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1500/守備力1300
 このカードの召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローできる。
 このカードは戦闘の攻撃対象に選択された時、守備力を2倍にする事が出来る。

「モンスターサーチか」
 なかなか厄介な能力ではある。
 召喚に成功した時、デッキから手札にモンスターを呼ぶ。レベル4以下なので手札事故の要因にもならない。
「晋佑といい、十代といい……デュアル・ポイズンはモンスターを並べるのが大好きなのか?」
「モンスターを並べなきゃバトルも出来ない。相手を倒すにはバトルフェイズを行わなければ意味がない。そうだろう、ダークネス?」
 俺の問いに、冬夜はそう答えて笑った。
「なるほどね、流石はボスって訳か」
「それだけで済むとでも思ってるのか、ダークネス?」
 冬夜は少しだけ笑うと、宣言した。
「ターンエンドだ」
「俺のターン。ドロー!」
 1枚のカードをドロー、俺のフィールドには攻撃力3900の闇竜のみだが、相手もまた守備モンスター1体のみ。
 勝てない、相手では、無い。
「闇竜で、氷女ツララを攻撃! ダークネス・ギガ・フレイム!」
 守備表示の氷女に、闇竜が襲いかかった。

 為す術もなく氷女がフィールドから消え去る。
 生憎と手札にモンスターがいないので通常召喚による追撃が出来ないのが辛い。
「ターンエンドだ」
「………いいのかい、ダークネス?」
「何か意味深だな」
 俺の問いに、冬夜はにやりと笑った。
「ああ、そうだとも。お前はこの事件のハジマリを覚えているか?」
「始まり? ああ、覚えてるさ」
 そう、高取晋佑が三神竜を盗み出す事から始まった……。まさか。

 神竜はダークネスの断片、だが、今の俺のデッキに神竜は無い。
 十代とのデュエルの間、その所在はあやふやになっている……。

「魔法カード、アイス・エレメント・ガードナーを発動!」

 アイス・エレメント・ガードナー 通常魔法
 相手フィールド上に攻撃表示のモンスターがいる際に発動可能。
 相手フィールドで最も攻撃力の高いモンスター1体を選択し、その攻撃力1000ポイント毎に、自分フィールド上に
 「アイスエレメントトークン(水/星1/水族/攻100/守100)」を1体、特殊召喚する。
 エンドフェイズ毎に500×トークンの数だけのライフを支払わなければ、トークンを全て破壊する。

 冬夜のフィールドに氷の塊が三つ、次から次へと出現する。
 単体では大した能力ではないが、ある意味充分な実力を持っている。何故なら。
「このトークンは召喚に関する制限は無い。1ターン保つのにライフコストが必要だけど、オレは払わない。何故なら」
「このターンで生贄に捧げるから、か」
「正解」
 冬夜は悪戯っぽく微笑んだ後、宣言した。
「アイスエレメントトークン三体を生贄に、オレは天空の神竜を召喚する! 来い、ヴェルダンテ!」

 The God Dragon of Heaven−Velldante LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 1000ライフポイントを支払う事で、墓地のモンスター1体をフィールド上に特殊召喚出来る。
 このカードが召喚された時、フィールド上の魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚を選択する。
 選択されたカードはこのカードがフィールド上に存在しなくなるまで、発動も出来ず、破壊もされない。
 効果を既に発動している場合、その効果を失う。
 フィールド上に存在するこのカード以外のカード及び自分の手札を全て除外する事で、
 相手フィールド上のカードを3枚までゲームから除外する事が出来る。

 かつてはダークネスの、断片だった天空の神竜が。
 次は、俺の目の前に、敵として召喚される。酷い皮肉だと思う。
「嘘だろ……」
 思わずそう呟く。
「天空の神竜の効果発動。召喚された時、フィールドの魔法・罠ゾーンに存在するカードを1枚選択する。選択したカードはこのカードがフィールド
 に存在するまで発動も出来ず、破壊もされない。効果を既に発動している場合、その効果を失う。お前のフィールドの、そのリバースカードを選択!」
「………っ。フィールドに存在する限り、魔法・罠ゾーン一つを延々と食いつぶし続ける嫌な効果だぜ」
「ああ、だけど実にいい効果だ。手札が今、1枚しかないお前にとってはいいアドバンテージだろう?」
「………くそっ!」
「バトルだ! 天空の神竜で、真紅眼の闇竜を攻撃! ディストラクション・ヘブンズレイ・バースト!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!」
 闇竜目掛けて、天空の神竜がその一撃を放った。

 ダークネス:LP3500→2400

「これで、お前のフィールドは空も同然。このままトドメを刺す事も可能だけど、それじゃつまらないからね。次のターンまで持ち越しだ。ターンエンド」
 冬夜は嫌な笑みを含ませたままターンエンドを宣言した。
 さて、厄介な事になった。

 リバースカードは事実上ゼロで手札は現在1枚。ドローすれば2枚になるがその2枚で次のターンまで持たせたとしても。
 次の俺のターンではドローした1枚だけしかなくなってしまう。
 だがしかし、それでもまだ、逆転の可能性だって、無くは無い。
「俺のターン! ドロー!」
 どうする、手札の2枚だけで、次のターンまで持たせる事が出来るのか。
「カードを1枚セットし、仮面竜を守備表示で召喚。ターンエンドだ」
 今は、何もする事が出来ない。
 攻撃力5000の前に、為す術が無い。

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

「…………ようやく守備モンスターを並べた、という程度か。だけど。これで終わりのようだね。オレのターンだ。ドロー!」

「氷女ミゾレを守備表示で召喚!」

 氷女ミゾレ 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1500/守備力1300
 このカードの召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローできる。
 このカードは戦闘の攻撃対象に選択された時、守備力を2倍にする事が出来る。

「ミゾレの効果で、オレはカードを1枚ドローする……手札が無い君にとっては喉から手が出るほど欲しいだろうね」
「いちいち嫌な事を言うな」
 本当に腹の立つ相手だ。流石はデュアル・ポイズンのボス。
 俺ですら平気で怒らせるような発言を平然と言ってのける。そこにむかつくし、ぶっ倒したくなる。
「天空の神竜で、仮面竜を攻撃! ディストラクション・ヘブンズレイ・バースト!」
 再び天空の神竜の攻撃が放たれ、仮面竜がフィールドから消え失せる。
 これで、三体の仮面竜全てが墓地に送られた。
「仮面竜の効果発動! このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を、特殊召喚する!
 俺は、デッキから洞窟に潜む竜を選択! 守備表示で特殊召喚!」

 洞窟に潜む竜 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1300/守備力2000

「とうとう次は通常モンスターまで駆り出したか。デッキにモンスターがいないなんて、悲しすぎるね」
 冬夜はそう言って笑うと、ターンエンドを宣言した。
「俺のターンだ……ドロー!」
 このターンで、逆転の手口が必要だ。
「神竜の弱点は魔法・罠カードに耐性はあっても、モンスター効果への耐性は無い! 三幻神よりも高い能力を誇る三神竜の唯一の弱点だ!
 ブリザード・ドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000
 相手モンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示型式の変更が行えない。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「ブリザード・ドラゴンの効果発動。相手モンスター1体を選択することでそのモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と
 表示形式の変更が不可能になる。俺は天空の神竜を選択!」
「……やはり、その弱点をついてきたか。まぁ、それぐらいはしてくれなくちゃ面白くないからな」
 これで、1ターンだけとはいえ、神竜の攻撃を凌げる。
「(問題はこの後だ……)」
 そう、問題はこの後。
 氷女ミゾレは攻撃対象に選択された時、守備力が2倍に増加する。
 ブリザード・ドラゴンで攻撃すれば逆にダメージを受けるだろうし、レッドアイズを呼べたとしても200ほど足りない。
「(どうする……考えろ)」
 だがしかし、手札はゼロでリバースカードも1枚のみ。
「……ターンエンドだ」
「オレのターンだ」
 確実に、確実に吹雪冬夜は俺を追い詰めてきている。
 だがしかし、的確な対処法が出て来ない。
「氷女ヒョウを召喚」

 氷女ヒョウ 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力900/守備力1000
 このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、このカードの攻撃力・守備力は2倍になる。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、手札から「氷女」と名のつくモンスター1体を守備表示で特殊召喚出来る。

「このカードの召喚に成功した時、氷女ヒョウの攻撃力・守備力は2倍に増加する! 即ち、今の攻撃力は1800!」
「ブリザード・ドラゴンと並んだ、だと……」
「その通り……ブリザード・ドラゴンが消えれば、神竜を縛る効果も消える! 氷女ヒョウで、ブリザード・ドラゴンを攻撃!」
 氷女ヒョウがブリザード・ドラゴンに体当たりをぶつけ、両者とも消え去っていく。
 これで、天空の神竜は攻撃封じの呪縛から逃れ、咆哮をあげる。
「氷女ヒョウの効果発動! このカードが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、手札の氷女と名のつくモンスターを守備表示で特殊召喚する!
 オレは手札から氷女ヒョウを選択! 特殊召喚!」

 氷女ヒョウ 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力900/守備力1000
 このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、このカードの攻撃力・守備力は2倍になる。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、手札から「氷女」と名のつくモンスター1体を守備表示で特殊召喚出来る。

「……そして、天空の神竜で洞窟に潜む竜を攻撃! ディストラクション・ヘブンズレイ・バースト!」

 洞窟に潜む竜が、天空の神竜の攻撃によって消えた。
 上級モンスターを召喚するには、下級モンスターが必要だ。だが、並べる側から、葬られる。
「(どうする、本当に……どうするんだ、俺……)」
 焦るな。まだ、何とかなる。まだ、行ける。
「ターンエンド」
「俺のターン。ドローだ!」

「魔法カード、貪欲な壺を発動!」

 貪欲な壺 通常魔法
 自分の墓地からモンスターカード5枚を選択し、デッキに銜えてシャッフルする。
 その後、カードを2枚ドローする。

「この効果で俺は仮面竜3体、サファイアドラゴン、ブリザード・ドラゴンをデッキに戻し、シャッフル……そしてカードを2枚ドロー!」

 手札が残り少ない時に、このカードが来たのは嬉しかった。
「魔法カード、クロス・ソウルを発動!」

 クロス・ソウル 通常魔法
 相手フィールド上のモンスター1体を選択する。
 自分のモンスターを生け贄に捧げる時、自分のモンスター1体のかわりに選択した相手モンスターを生け贄に捧げる。
 このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

 クロス・ソウルは相手のモンスターを生贄にこちらのモンスターを召喚するカードだ。
 カードにもよりけりだが、生贄を確保するのが難しい状態では重宝する。そして今の俺はそんな状態だ。
「クロス・ソウルの効果で、冬夜の氷女ミゾレを生贄に捧げ……手札より、邪帝ガイウスを召喚!」
「何ぃっ!? ガイウスだと!?」

 邪帝ガイウス 闇属性/星6/悪魔族/攻撃力2400/守備力1000
 このカードの生贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。
 そのカードが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ライフダメージを与える。

 極悪な効果を持つ上級モンスターである帝シリーズの中で、最強最悪とも言われる邪帝ガイウス。
 このカードの恐ろしさはどんなカードでも除外出来る。例えそれが自身であっても。
「邪帝ガイウスの効果発動! このカードの生贄召喚に成功した時、フィールドのカード一枚を除外する。さっきも言ったぜ、吹雪冬夜。
 神竜の唯一の弱点はモンスター効果に対応出来ない事だとな! ガイウスの効果で俺は天空の神竜を除外!」
「くっ……くそったれぇぇぇぇぇぇ!」
 あれほど凶悪な攻撃を放ち続けた天空の神竜が消え失せ、俺のフィールドにリバースカードの封印が解かれた。
 これで、条件がほぼ互角。
「ガイウスの攻撃! 氷女ヒョウを粉砕させてもらうぜ!」

 吹雪冬夜 LP2500→1900

「ダークネス……! 貴様、このオレ相手にここまでやるとは! どうやらオレはお前の事を過小評価しすぎたようだな! だが、オレのデッキには
 2体の神竜がいる……最強の神竜を仕留めて見せるか、ダークネス!」

 冬夜はそう言い放ち、俺に視線を向けてきた。

 デュエルは続く。そう、まだまだ終わらない。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「オレのターン。魔法カード、天使の施しを発動! この効果でデッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に送る」

 天使の施し 通常魔法
 デッキからカードを3枚ドローし、手札からカードを2枚選択し墓地へと送る。

 冬夜は手札を丹念に選んだ後、2枚のカードを墓地に送った。
 そのカードの柄が一瞬見えた時、何処かで見覚えがあると思った。
「……墓地に眠る、氷女ツララの効果発動」
 そう、先ほどフィールドにも現れた、氷女ツララ。

「今の天使の施しの効果で、オレは氷女ツララを2枚墓地に送った! そして、既に墓地にあるのと合わせて3体。その3体を除外し、通常召喚の
 生贄として使用する事が出来る………さぁ、来い! 最強の神竜! 混沌の神竜オーデルスを攻撃表示で召喚!」

 冬夜の宣言と共に、晋佑が使ったそのモンスターが俺の目の前に姿を現した。

 The God Dragon of Chaos−Ordelus LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードは通常召喚する際、3体の生け贄を必要とする。このカードを対象とする魔法・罠カードの影響を受けない。
 このカードは闇属性としても扱う。自分フィールド上に存在するカードを1枚墓地に送る毎に、攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが破壊される時、ライフポイントを半分支払う事でその破壊を無効に出来る。
 自分ターンのバトルフェイズ時、その時点でのライフポイント総てを攻撃力に加算する事が出来る。
 ただし、この効果を使用したターンのエンドフェイズ迄に勝利しなければ自分はデュエルに敗北する。
 召喚する際、墓地に存在する光属性または闇属性のモンスターを1体ずつ除外する事で、以下の効果を得る。
 ・相手フィールド上にモンスターが3体以上いる時、1体を除外する事が出来る。この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。
 ・戦闘で相手モンスターを破壊し、相手に戦闘ダメージを与えた時、もう1度相手モンスターを攻撃出来る。
 フィールド上に「The God Dragon」と名のつくカードが存在する時、このカードは以下の効果を得る。
 ・バトルフェイズ時、相手モンスターの攻撃力が上昇した分だけ、このカードの攻撃力は上昇する。

「さぁ、倒して見せろダークネス! お前の力で、全てをねじ伏せて見せろよダークネス! ははははははははははは!」



《第36話:変わるセカイ》

「さぁ、倒して見せろダークネス! お前の力で、全てをねじ伏せて見せろよダークネス! ははははははははははは!」

 The God Dragon of Chaos−Ordelus LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードは通常召喚する際、3体の生け贄を必要とする。このカードを対象とする魔法・罠カードの影響を受けない。
 このカードは闇属性としても扱う。自分フィールド上に存在するカードを1枚墓地に送る毎に、攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが破壊される時、ライフポイントを半分支払う事でその破壊を無効に出来る。
 自分ターンのバトルフェイズ時、その時点でのライフポイント総てを攻撃力に加算する事が出来る。
 ただし、この効果を使用したターンのエンドフェイズ迄に勝利しなければ自分はデュエルに敗北する。
 召喚する際、墓地に存在する光属性または闇属性のモンスターを1体ずつ除外する事で、以下の効果を得る。
 ・相手フィールド上にモンスターが3体以上いる時、1体を除外する事が出来る。この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。
 ・戦闘で相手モンスターを破壊し、相手に戦闘ダメージを与えた時、もう1度相手モンスターを攻撃出来る。
 フィールド上に「The God Dragon」と名のつくカードが存在する時、このカードは以下の効果を得る。
 ・バトルフェイズ時、相手モンスターの攻撃力が上昇した分だけ、このカードの攻撃力は上昇する。

 邪帝ガイウス 闇属性/星6/悪魔族/攻撃力2400/守備力1000
 このカードの生贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。
 そのカードが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ライフダメージを与える。

 ダークネス:LP2400 吹雪冬夜:LP1900

 冬夜のフィールドにあるのは、混沌の神竜。
 それに対し俺のフィールドは攻撃表示の邪帝ガイウス。

「混沌の神竜は三神竜の中で最も上位に位置する存在……そう、他の神竜すらもねじ伏せられる。故に、混沌。天空の光の波動でも、冥府の闇の力でも
 無く、白でもなく黒でもない。そう、混沌なんだ。混沌こそが全てを産みだし、全てを無に帰す。ダークネス、お前もそうだろう? 全てを闇へと飲
 み込んで行けば、やがては黒じゃなくなる。混沌から始まったものは混沌へと還るなんだ、ダークネス。理解したか、ダークネス? お前はオレを破
 れない。何故なら、オレもまた混沌だ。悪意も、憎悪も全てを巻き込んでふくれあがった! 故に、お前はオレを倒せない! 憎悪も怒りも無いお前
 なんかにオレは倒せない! オレは何度だって生まれ変わるし、再生する。消去されればその度に世界からやり直す! あの男と同じようにな!」

「混沌の神竜で、邪帝ガイウスを攻撃! カオス・スパイラル・バースト!」
「リバース罠、ホーリージャべリンを発動!」
「何っ!?」

 ホーリージャべリン 通常罠
 相手の攻撃宣言が出された際に発動可能。
 相手モンスターの攻撃力分のライフを回復出来る。

「ライフの大量回復……だが、邪帝は破壊される!」
 冬夜の宣言通り、ライフは辛うじて守りきったが邪帝ガイウスが破壊されて消え去った。

 ダークネス:LP2400→7400→4800

「………まだ、俺を仕留めるには足りなかったみたいだな、吹雪冬夜」
「だが、お前の手札は今や0枚……。勝ち目はあるのか?」
 俺の言葉に、冬夜が笑う。
 だがしかし、俺はまだ行けると確信出来る。いや、確信している。

 俺はまだ、諦めてない。

「ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」

「速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振り、出た目の数だけカードをドローする。
 このターンのエンドフェイズ時、出た目の数以下になるように手札を捨てなければならない。

 ドローしたカードを使って、サイコロを振る。
 出て欲しい数字は……そういう時に限って出て来る、6と。
「この効果で、俺はカードを6枚ドロー! 手札補充完了ってね」
「嫌なカードを持っているな、ダークネス。クソッ!」
 補充した手札を眺め、じっとその姿を見つめる。

「(どうする……このままじゃ、変わらないままだ)」
 そう、このままでは。

 でも、切っ掛けなんて、すぐそこにある。

「越える。越えて見せる。全てを……どんな運命すらも、ねじ伏せ、飲み込んで見せる! 俺がダークネスだ!」

 俺の叫びと同時に、混沌の神竜がやって見せろとばかりに咆哮をあげた。
 現実と、記憶の狭間たるこの世界にはソリッドビジョンなんかない。此処にあるのはリアルだ。
「魔法カード、死者蘇生!」

 死者蘇生 通常魔法
 墓地よりモンスター1体を選択し、フィールドに特殊召喚する。

「真紅眼の黒竜を蘇生! そして、手札抹殺を発動!」

 手札抹殺 通常魔法
 お互いに手札を全て墓地に送り、墓地に送った枚数だけデッキからカードをドローする。

 俺は4枚、冬夜も全ての手札を墓地へと送る。その時、冬夜の顔が凍った。
「……お前、さっきの奇跡のダイス・ドローでドローした手札は、死者蘇生と手札抹殺以外全部モンスターカードだと!?」
「当たり」
 そう、墓地に送った4枚は全てドラゴン族モンスター。
 次のドローで闇竜がくれば攻撃力大幅増強は間違いない。
「バカな! 手札抹殺の効果でドローした手札の中に闇竜が入る確率は幾らだと思ってる!」
「まぁ、10%ぐらいじゃねぇのか? 俺のデッキな、4割近くはレッドアイズとその関連カードで占めてるから」
「手札事故が起こるのも当たり前だな、そんなデッキでは!」
「でもさ、引くとしたら?」
「……何を引くんだ?」
「ダークネスの運の良さって奴をさ! 真紅眼の黒竜を墓地に送り、真紅眼の闇焔竜を召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

「真紅眼の……闇焔竜…………!」
「どうだい、吹雪冬夜? 俺の最高のカードの1つさ。だけど、このままじゃ足りない! 闇焔竜の効果発動! ライフポイントの半分を支払い、
 墓地に眠るレッドアイズと名のつくモンスターの効果を得る! 墓地に眠る闇竜の効果をな!」

 そう、真紅眼の闇竜の効果は墓地に眠るドラゴン族の数だけ、その攻撃力を底上げする。

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→5900
 ダークネス:LP4800→2400

「闇焔竜の攻撃! 喰らいやがれ、ダーク・ブレイズ・キャノン!」
「…………くっ、混沌の神竜の効果発動! このカードが破壊される時、ライフポイントの半分を支払う事で破壊を無効に出来る!」
 そうだった。最上級たる混沌の神竜には、破壊耐性がついている。
 ライフを削る制約がつくが……。

 吹雪冬夜:LP1400→700

 吹雪冬夜は、この瞬間を逃したりはしなかった。
「この瞬間! リバース罠、伏兵出現!を発動する!」

 伏兵出現! カウンター罠
 相手ターンのバトルフェイズ時、自分のライフが削られた時に発動可能。
 空いているモンスターゾーンと魔法・罠ゾーン全てにデッキからカードを置く。
 この効果で召喚されたモンスターは次の自分ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言が出来ない。
 また、魔法・罠カードは次の自分ターンのエンドフェイズまで効果を発動出来ない。
 この効果でデッキから置いたカードは全て相手に公開しなければならない。

「オレはこの効果でデッキより氷の女騎士アルビナスを3体、氷女ヒョウを召喚。そして、魔法・罠ゾーンには、パワー・ウォール、
 万能地雷グレイモヤ、大嵐、地砕きをセット!」

 氷の女騎士アルビナス 水属性/星6/戦士族/攻撃力2300/守備力2100
 このカードの召喚に成功した時、相手フィールド上に「戦旗カウンター」を1つ載せる。
 戦旗カウンターの乗ったモンスターゾーンまたは魔法・罠ゾーンはこのカードがフィールドから無くなるまで使用不能になる。

 氷女ヒョウ 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力900/守備力1000
 このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、このカードの攻撃力・守備力は2倍になる。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、手札から「氷女」と名のつくモンスター1体を守備表示で特殊召喚出来る。

 パワー・ウォール 通常罠
 戦闘ダメージが発生した際、デッキからカードを1枚墓地に送る毎に100ポイントダメージを無効に出来る。

 万能地雷グレイモヤ 通常罠
 相手の攻撃宣言時、相手フィールドで一番攻撃力の高いモンスターを破壊する。

 大嵐 通常魔法
 全フィールド上の魔法・罠カードを破壊する。

 地砕き 通常魔法
 相手フィールド上で最も守備力の高いモンスターを破壊する。

「………そしてこの8枚を墓地に送る事で! 混沌の神竜の攻撃力は2400ポイント上昇する!」

 The God Dragon of Chaos−Ordelus 攻撃力5000→7400

 攻撃力は7400。
 そして、困った事に俺のターンは終了。神竜は魔法・罠カードの対象にはならない。
 そしてバトルフェイズ後なので対策は不可能。

「カードを1枚伏せて、ターン……エンドだ」
「オレのターン……………そして、この時。神竜の効果発動」
 冬夜は、冷徹に口を開いた。
「この時点で、オレのライフポイントは700。そのライフポイント全てを、混沌の神竜の攻撃力に加算する! 攻撃力は8100にまで上昇!
 そして、8100あれば……お前のライフを削りきれる!」
「…………ッ!」
 気付いた時にはもう遅い。
 神竜の攻撃力は8100。それに対して闇焔竜は5900。
 どう転んでも、無理。

「………リバース罠、レッドアイズ・バーン!」

 レッドアイズ・バーン 通常罠
 フィールド上の「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を破壊し、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。

 時間が、停まった。
「……よ、よせ! そ、それは……」
 冬夜が、発動を止めようにも、冬夜のフィールドには混沌の神竜しかない。
 そして、手札から止めようにも魔法・罠カードを止める速攻魔法も存在しないのだろう。

「……そういうこった、吹雪冬夜。俺はお前には負けないよ。勝てなかったけどな」
「引き分けに、持ち込む、だと………お前はわかっているのか! この時空で、引き分けはお互いの消滅を意味するんだぞ!」
 吹雪冬夜は焦っているようにも見えた。だから、敗北を恐れていたのか。
 だがしかし、俺にはそうならないという確信があった。
「ダークネスを連れてて、解った事がある。因果律って奴だ。もし、ここでダークネスが消滅するとな」

「ループが繋がらなくなるんだよ。先が繋がらなくなっちまう。だから、3週目の世界につなげるしかない。そして、3週目の世界で俺はまた
 ダークネスとして戻ってくる。でも、それは無しだ」

「結局の所、俺も遊城十代と同じらしい。時間の逆戻り現象だ。つまり……このデュエルはまだ発生していない状態、そう、俺がダークネスに記憶
 の中に連れてこられた時間に戻る。解るか、吹雪冬夜。俺とお前は、このデュエル自体をする前に、俺がこのデュエルを行わなければ、お互いに
 消滅しない。だが、出会いもしない。だけど、俺はそれでいい。お前という、黒幕が解ったからな」

 俺の言葉に、吹雪冬夜は歪んだ笑みを浮かべた。
 直後、俺に視線を向けた。
「………オレを滅ぼしに来るなら、いつでも来いよダークネス! オレは待ってるぜ! お前の挑戦をな! 次に白黒つける時が楽しみだ!」

 そこで、お互いのライフカウンターがゼロを示した。
 その時に、お互いの姿が消えた。

 時間の巻き戻し。
 デッキが戻り、手札が加速していく。

 俺が戻るべき、本来の時間へ。
 ただ1つ違う事は、俺がこの事件の黒幕を、吹雪冬夜を知ったという事。

 それだけが、違いだ。






 ヘルフレイムエンペラードラゴン LV11 炎属性/星11/炎族/攻撃力4500/守備力3500
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃対象に選択出来ない。
 このカードは墓地の炎属性モンスター1体を除外する毎に攻撃力・守備力が300ポイントアップする。
 このカードが戦闘で破壊された時、デッキより「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚出来る。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11 攻撃力4500→4800

 憑依装着−ヒータ 炎属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 自分フィールド上の「火霊使いヒータ」と他の炎属性モンスター1体を墓地に送る事で手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 この方法で特殊召喚した時、以下の効果を得る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が相手守備力を上回っていればその分戦闘ダメージを与える。

 灼熱の大地ムスペルへイム フィールド魔法
 全フィールドの炎属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げる事が出来る。
 この効果を使用した場合、そのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 憑依装着−ヒータ 攻撃力1850→2150

 黒川雄二:LP2400 遊城十代:LP2300

 意識が戻ってくる。
 フィールドは、俺がデュエルを離れた時のまんま。どうやら現実時間はそう経っていないのだろう。
「………ふぅ、ようやく巻き戻し完了って、トコか」
 俺がそう呟くと、十代は怪訝そうな顔を向けた。
「巻き戻し? 何の事だ?」
「こっちの話だ」
 俺はそう呟くと、軽く頭を振る。
 今は確か俺のターンのドローフェイズで、俺のフィールドは壁モンスターも魔法・罠カードもない。
 それに対して十代はヘルフレイムエンペラードラゴンLV11とヒータを並べている。
 これは本当にどうしたものだろうか。
「………ダークネスのお陰で、十代、あんたが世界のやり直しを望んだ理由が解った。あんな理由だなんて、意外だ」
「……何の話だ?」
「妹さんの命を救う為、か。凄い兄貴だな」
「何で知ってる!」
「ダークネスが教えてくれた。1週目の世界って奴を、そしてお前を、晋佑を、ゼノンまで引き込んだ奴を知ったぜ」
 俺の言葉の後、十代は首を振った。
「吹雪冬夜の事か? あいつは」
「あいつはあんたを利用したかっただけだ。あんたの望みなんか、あいつには関係無い」
「違う!」
 十代が叫んだ直後だった。俺のすぐ横から、晋佑が現れた。
「雄二、教えてくれ。吹雪冬夜は、何がしたかった。俺に神竜を盗み出せと言った時、あいつは何を思っていた?」

「あいつの目的はダークネスを手に入れる事だった。晋佑に神竜を盗み出し、そして十代が神竜を使ってダークネスを解放させた。その後だ。
 俺が十代とデュエルするのも見越したんだろう、途中で俺が十代の事を知りたがるのも見越して、先回りしてやがった! 吹雪冬夜はダークネス
 を手に入れる為だけに、十代の気持ちを利用したんだ」
「………だとすると、俺もあいつの駒だったのか」
「そうなるな。そして、遊城十代、あんたもだ。あんたが勝った所で、ダークネスの力がアンタには手に入らないんだから」
「……………」
 遊城十代は、何も答えなかった。
 ただ、膝を折っていた。

 口を開いたのは、それから1分程経った頃だった。

「……解っていた。解っていたさ。本当は、そんな都合よく行くなんて事、ありえなかったんだ。吹雪冬夜は、1週目の世界の最後で、出会った。
 あいつは………あいつは、世界を変えるなら、その原因を手にしろって言った。そう、ダークネスだ。だから、俺はその力を望んだ。皮肉だよな
 1週目の世界で俺はダークネスを否定したのに、2週目の世界であいつを欲しがるようになっちまった。何でだか、解るか? そうまでして、俺
 は三四を助けたかった。ユベルの事で……俺、デュエルしてくれる奴、いなくなったんだ。だけど、それでも三四は、俺のたった一人の妹は、二
 人でやろうって、言ってくれた。三四のお陰で、HEROにも会えた。だけど……だけど、身体の弱い三四は、守らなきゃ、いけなかった。俺の
 慰める相手なんかじゃなくて、俺が守ってやるべき妹なんだよ……なのに、なのに俺は救えなかった! 間に合わなかった! 助けられなかった
 のが嫌だったんだよ! 助けられなかったのが悔しいんだよ! だけど、あのままじゃ俺はどうする事も出来なかった! 俺が無力だったから!
 俺に何も出来なかったら、三四は………うああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」

 その時、俺は。

 この男の、魂の叫びを、聞いたような気がした。

「………………」
 やがて、十代はゆっくりと立ち上がった。
「…………」
 ポケットに手を突っ込んだ直後だった。

 血飛沫が舞い、十代の足下にナイフが落ちた。
 デュエルディスクを付けた左腕の手首が、深く紅く染まっているのが解る。
 動脈まで、斬れていると。
「………失血死するまで、後何分だ? そうだな、仮に5分とするか。5分だ。黒川雄二、5分でお前と決着をつける! それが……それが、俺が
 デュエリストとしての最後のデュエルの相手に、お前がなる事の条件だ!」

 ライフポイントは、自分の命というデュエルを聞いた事がある。
 かの決闘王とマリク・イシュタールが行った闇のゲーム。

 ああ、これは。
 俺にとっての、闇のゲームだ。



《第37話:死闘の果て》

 黒川雄二:LP2900 遊城十代:LP2300

 ヘルフレイムエンペラードラゴン LV11 炎属性/星11/炎族/攻撃力4500/守備力3500
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃対象に選択出来ない。
 このカードは墓地の炎属性モンスター1体を除外する毎に攻撃力・守備力が300ポイントアップする。
 このカードが戦闘で破壊された時、デッキより「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚出来る。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11 攻撃力4500→4800

 憑依装着−ヒータ 炎属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 自分フィールド上の「火霊使いヒータ」と他の炎属性モンスター1体を墓地に送る事で手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 この方法で特殊召喚した時、以下の効果を得る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が相手守備力を上回っていればその分戦闘ダメージを与える。

 灼熱の大地ムスペルへイム フィールド魔法
 全フィールドの炎属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げる事が出来る。
 この効果を使用した場合、そのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 憑依装着−ヒータ 攻撃力1850→2150

 俺のフィールドは今は空、そして十代のフィールドはほぼ完ぺきと言うべき布陣。
 状況的には、あまり芳しくない。だが……。

 遊城十代の腕からあふれ出る血は、結構な速度で流れ出ている。
 時間が経てば失血死するに違いないだろうが………そうまでして、何になるのか。
「……十代。お前、勝っても負けても、死ぬぜ?」
「…………だろうな。だけど、俺は構わないさ」
「いいのかよ……?」
 俺がそう問いかけた時だった。

「待てッ、十代!」

 俺と十代の間に、横から飛び込んできたのは―――――丸藤亮だった。
「十代、貴様! 何をしようとしている! 1週目の世界の……俺と同じ事でもする気か!」 「ああ、そうだ!」
「ッ!」
 十代はそう叫ぶと、視線を空に向けた後、もう一度俺達に戻す。
「………世界を一つ、犠牲にして、もう一度やり直しの機会を掴んだのに……だけど、それは……それは、俺も掌で踊ってただけの道化だった。
 そんな……そんなくだらない事の為に、わざわざ俺はこの世界で、鬼にまでなろうとして、生きてきたのに……そんなのありかよって思ったさ。
 だけど、それが事実だとしたら、俺が今までしてきた事は何だ!? 何だったんだ!?」
 両手を広げ、奴は叫ぶ。
 そう、遊城十代は、道化だ。自身の手で運命を変えようとしたその行動そのものが、全て吹雪冬夜の掌の上の出来事だったのだから。
 運命を捻じ曲げられなかった、哀れな人形。
「所詮、俺もまた駒の一つだ……だけど、だけどそれでも………俺には、デュエリストとしての誇りはある」

 故に、だからこそ。命を懸けられるこの状況に自ら投げ打ってこそ。

「ドロー1つ、いや、フェイズ1つごとに、俺自身の命が削られるという、極限の緊張感! ただのデュエルでは得られない! そう、あの頃の……
 何も知らないままの1週目の俺が知らなかった感覚だ! そう、これはエヴォリューション! 俺の中の、エボリューションだ! 命が削られる時
 だけに味わえる、そして、見せる事の出来る! 究極の輝き! 命そのものを燃やして見せる、最後の炎だ!」
「狂ってやがる」  十代の言葉に、晋佑がそう悪態をついた。
 確かに、ある意味狂っているかも知れない。だけど、俺には解る。
「晋佑……今は、何を言っても無駄だぜ。こいつは今、自分から命をベッドしやがった。盲目的に。だったら、俺がその眼を覚まさせてやるまでさ」
「……………雄二。健闘を祈る」
「おうよ。朝になったら、準決勝で盛大にデュエルしてやるから、そこで見てろ! 行くぜ、十代!」
「ああ! デュエル続行だ!」

「俺のターン! ドロー!」
 今、リバースカードも壁モンスターも無い俺は危機的状況だ。
 だがしかし、まだ充分すぎる程の手札が残っている。
「魔法カード、死者蘇生を発動!」

 死者蘇生 通常魔法
 墓地に存在するモンスター1体を特殊召喚する。

 墓地に存在するカードの中に、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11に対抗出来るものはいない。
 だがしかし、それを呼ぶ事を可能にするものがいる。
「死者蘇生の効果で、俺はレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを蘇生!」

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力2800/守備力2400
 このカードはフィールド上に存在するドラゴン族モンスター1体を除外する事で特殊召喚出来る。
 1ターンに1度だけ、自分の墓地・手札から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を、
 自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 闇に堕ちた鋼鉄の竜が俺のフィールドに再び現れ、咆哮を上げる。
「頼りにしてるぜ」
 俺がそう呟くと、任せろとばかりに鳴いた。
「更に、ダークネスメタルドラゴンの効果発動! 1ターンに一度、墓地のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る! 俺は、真紅眼の黒竜を選択!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「そして、魔法カード、融合を発動! 手札のメテオ・ドラゴンとフィールドの真紅眼の黒竜を融合し、メテオ・ブラック・ドラゴンを召喚!」

 融合 通常魔法
 二体以上のモンスターを融合する。

 メテオ・ドラゴン 地属性/星6/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力2000

 メテオ・ブラック・ドラゴン 炎属性/星8/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2000/融合モンスター
 「メテオ・ドラゴン」+「真紅眼の黒竜」

 メテオ・ブラック・ドラゴン 攻撃力3500→3800

 俺のフィールドに下り立ったのは、異星より舞い降りた炎の竜。
「メテオ・ブラック・ドラゴンだと!?」
 十代は一瞬だけ驚いたが、すぐに口を開いた。
「だが、俺のLV11には及ばない! しかも、攻撃表示だぞ!」
「……甘いな。バトルだ! メテオ・ブラック・ドラゴンで、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11を攻撃! バーニング・ダーク・メテオ!」
「無駄だと言っている! 迎撃しろ、LV11! インフィニット・イグ二ッション・バーストォ!」
 メテオ・ブラック・ドラゴンが巨大な隕石と化してLV11に突撃を敢行。
 だが、LV11も負けてはいない。口を開き、熱戦で破壊しようとする。
「………なっ!?」
 叫んだのは、十代だった。
 メテオ・ブラック・ドラゴンも、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11も同時に破壊された。要は、相打ち。
「相打ちだと!?」
「……お前のフィールド魔法、灼熱の大地ムスペルへイムの効果だ。1ターンに一度だけ、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000アップさせる」
「それで、メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃力は4800……! だから、相打ちになった訳か」
 LV11が破壊された事により、十代のデッキからLV6が特殊召喚される。
 だが、ダークネスメタルには及ばない。
「最初からそれを狙って……くそ!」

 灼熱の大地ムスペルへイム フィールド魔法
 全フィールドの炎属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げる事が出来る。
 この効果を使用した場合、そのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV6 炎属性/星6/炎族/攻撃力2400/守備力1800
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分だけダメージを与える。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV8」を特殊召喚する。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV6 攻撃力2400→2700

「続けて、バトルだ! ダークネスメタルドラゴンで、LV6を破壊! ダークネス・メタル・フレア!」
「っ………リバース罠、ミスティ・マジックを発動!」

 ミスティ・マジック 通常罠
 モンスター1体の戦闘による破壊を無効にする。
 (ダメージ計算は適用する)

 LV6の身体が霧状になり、破壊は無効となる。
 ダメージは受けるが、微々たるものだ。

 遊城十代:LP2300→2200

「カードを一枚セットし、ターンエンドだ」
「俺のターン……ドロー!」
 十代のターン。まだ、フィールドには憑依装着ヒータとLV6が残っている。簡単に体勢を建て直せる筈だ。
 そう、遊城十代の神懸かり的なドローなら。
「…………だが、今のお前のフィールドには、攻撃力2800のダークネスメタルドラゴンただ一人! 俺には、倒せる……LV6の効果発動!
 スタンバイフェイズに、このカードを生贄に捧げ、LV8を手札より特殊召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8 炎属性/星8/炎族/攻撃力3000/守備力2000
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で、
 「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV10」を特殊召喚する。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8 攻撃力3000→3300

 LV6が再びLV8へと進化し、翼を広げた。
 この時点で攻撃力は3300。ダークネスメタルドラゴンを上回っている。
「そして、灼熱の大地ムスペルヘイムの効果発動! 炎属性モンスター1体を選択し、その攻撃力を1000ポイントアップさせる! LV8を選択!」
「……攻撃力4000以上だと!?」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8 攻撃力3300→4300

 攻撃力4300ならばダークネスメタルドラゴンを粉砕出来るし、続けてヒータでダイレクトアタックを叩き込めば十代の勝利は確定する。
「………このターンで全部決めるつもりか、十代!」
「バトルだ! LV8………イグニッション・カラミティ・バーストォォォォ!」
 ダークネスメタルが、熱戦に焼かれて散っていく。

 黒川雄二:LP2900→1400

「続けて、ヒータでダイレクトアタック! 黒川雄二、お前、こんなモノか!?」
「ハッ! 悪ぃがまだ終わっちゃいない! リバース罠、蘇りし魂を発動し、メテオ・ドラゴンを蘇生!」

 蘇りし魂 永続罠
 自分の墓地から通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールドに存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターがフィールドに存在しなくなった時、このカードを破壊する。

 メテオ・ドラゴン 地属性/星6/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力2000

 蘇生されたメテオ・ドラゴンがヒータの攻撃の壁となり、四散した。
「………やはり、そうこなくちゃ意味が無いよなぁ、黒川雄二っ…………!」
 十代がそう叫んだ時、十代がバランスを崩し、その場に倒れた。
「十代ッ!」
「止めるな、カイザー! まだだ……まだ、行ける……」
 既に、甲板を濡らす血は、池を作りつつあった。失血死までのカウントダウンは、近いだろう。
 だがしかし、それでも奴は立つ。
 俺と、本気でデュエルを、最高のデュエルを、戦う為に。
「………ムスペルヘイムの効果で、エンドフェイズに、ヘルフレイムエンペラードラゴンLV8は破壊される」
 LV8が闇の中へと沈んでいく。十代は、それをゆっくりと見送った。
「カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
 ドローした瞬間、引いた、という感覚が過った。
 あのカードを。
「速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振る。出た目の数だけドローする。
 このターンのエンドフェイズ時、引いた枚数以下になるよう、カードを捨てなければならない。

「サイコロを振る……出た目は5、俺はカードを5枚ドロー!」
「随分といい、ドロー強化があるじゃないか」
「ああ!」
 師匠から受け継いだ、数少ないカードの1つ。
 本当に、このカードは逆転への起点。もしくは、勝利への加速。
 フィールドにモンスターはゼロ、だがこれから変える!
「黒竜の雛を召喚。そして、黒竜の雛を墓地に送り、真紅眼の黒竜を召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上で表側表示のこのカードを墓地に送る事で手札より「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 黒竜の雛は、黒竜へと進化する。
 だが、真紅眼の進化はまだまだ停まらない!
「そして、真紅眼の黒竜を墓地に送り、真紅眼の闇焔竜を召喚!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

「真紅眼の闇焔竜……!」
 十代が震えた声を上げた時、闇焔竜が倒して見せろと言わんばかりに鳴いた。
 滴り堕ちる血が、更に勢いを増したように。
「っ………落ち着け、俺。まだ、行ける! 来い、黒川雄二!」
「バトルだ! 闇焔竜で、ヒータを攻撃! ダーク・ブレイズ・キャノン!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」
 長きに渡りフィールドに留まっていたヒータが遂に姿を消した。

 遊城十代:LP2200→850

 大きくライフが削れたのか、十代は荒い息をついていた。
「まだだ……まだ、終わっちゃいない!」
「カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターンだ! ドロー!」
 十代は、カードをドローした直後、膝を折った。
「見せてやる……見せてやる! 行くぞ、黒川雄二! 魔法カード、死者蘇生を発動!」
「なっ……!?」

 死者蘇生 通常魔法
 墓地に存在するモンスター1体を特殊召喚する。

 このカードを十代も使用してくるとは思わなかった。しかも、このタイミングで。
 闇焔竜に対抗出来るモンスターなどそうそういない、ましてやこの状況では。
「墓地のヘルフレイムエンペラードラゴンLV11を蘇生召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴン LV11 炎属性/星11/炎族/攻撃力4500/守備力3500
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 ライフポイントを1000支払う事で相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃対象に選択出来ない。
 このカードは墓地の炎属性モンスター1体を除外する毎に攻撃力・守備力が300ポイントアップする。
 このカードが戦闘で破壊された時、デッキより「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚出来る。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11 攻撃力4500→4800

「……ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11の効果発動! 墓地に存在する炎属性モンスターを……。合計、8体を除外!
 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11の攻撃力は、2400ポイントアップする!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11 攻撃力4800→7200

「攻撃力、7200……!」
「っ、させるか!」
 俺は、伏せていたカードを。そう、あのカードをオープンする。
「「速攻魔法! ブラッド・ヒートを発動!」」

 そのカードを発動したのは、同時だった。

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

「げっ……お前も伏せてたのかよ!」
 俺がそう呟いた時、十代はフラフラになった足で力強く頷いた。
「ブラッド・ヒート……最強にして、究極のモンスター強化。そう、このターンで全てを決めるなら……俺が、最高を見せるなら……。ああ、そうだ。
 カイザー……覚えてるか、1週目の世界の事を。そう、攻撃力16000のサイバー・エンド・ドラゴンを見た時……俺は、俺は純粋に感動した! ああ
 そうだ! 俺はあの時のアンタのような輝きに憧れてたんだ! だから、最後に……最後は、輝いて! 勝ちたいんだ!」
「っ……リバース罠!」
 そして、そのカードを発動したのも同時。

「「合わせ鏡を発動!」」

 合わせ鏡 カウンター罠
 相手が片方のプレイヤーのみに効果のある魔法・罠カードを発動した際に発動可能。
 お互いのプレイヤーがその魔法・罠カードの効果を受ける。

 お互いに伏せていたのは、同じ2枚のカード。
 だが、それは大きく明暗だけを分ける。

 遊城十代:LP850→425
 黒川雄二:LP1400→700

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11 攻撃力7200→19600→32000→44400
 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→9100→14700→20300

 お互いが同時に発動したブラッド・ヒート。
 それにチェーンする形で、合わせ鏡をお互いに発動。つまり、その効果は重複する。
 両者ともに、三回分のブラッド・ヒートが発動されているのと同じ。
 お互いが発動した後、それにチェーンする形で合わせ鏡が発動し、お互いに効果を受ける。更に、それにチェーン発動で合わせ鏡が発動し、もう一度。
 合計、三回分。

 それが、デュエルの限界を超えた数値を弾き出す。

「攻撃力44400のヘルフレイムエンペラードラゴンLV11だとぉ!?」
 亮の叫びに、思わず誰もが沈黙した。
「これが遊城十代の力か……!」
 誰もが、驚いた。
 誰もが、その凄まじさと、存在感に。圧倒されていた。

 攻撃力高し言えど、44400はもうモンスターとしての枠組みを越えている。
 だが、それはそこにある。ただ、最高のデュエルを見せる為に。

「………ラストバトルだ。覚悟はいいか? 俺は出来ている」
「奇遇だな、俺もなんだ」

 そして、二人はにやりと笑った。讚えあうかのごとく。

「インフィニット・イグニッション・バースト!」
「ダーク・ブレイズ・キャノン!」


 そして、2頭の竜は激突した。

 10000を越えるダメージが直撃し、俺の体は甲板へと叩き付けられた。

 黒川雄二:LP700→0

「俺の……勝ち、だ……」
「十代ッ! おいっ!」
 勝利宣言をするより先に亮が駆け寄り、助け起こす。
 腕から下は真っ赤に染め、顔に血の気もなかった。
「しっかりしろ、大丈夫か?」
「……勝った……ああ、勝ったよ、俺は…………これで……安心して……」
「死ぬんじゃねぇぞ、ボケ!」
「!?」
 俺は立ち上がった後、十代の額を盛大にひっぱたく。
 もし、ここで死んだら何になる。
「ここで死んでどうするんだよ。妹さん、一人にする気か?」
「だけど……俺は……俺は、運命を変える事なんて……」
「まだ生きてる。それに、妹さんもまだ死んでない。そして、お前自身、前の世界と歩んできた道が違う
 俺の言葉に、十代が顔を上げた。
「………反則だなんて言って、悪かったな。十代、あんたはまだ、生きてる。そして、今まで積み重ねてきたのも、前の世界と違う。あんたはもう、
 充分歴史を変えてきたんだ。だから、これからだって変えられる筈だ。妹さんを救う為に世界1つ滅ぼしたんなら、本気で救え! 一人にして、ど
 うするつもりだったんだ! もう一度やり直すなんて出来ないんだぞ!? 死んだら終わりなんだよ! 立て、十代! テメェの戦いはまだ終わっ
 ちゃいねぇ! 勝手に退場するな! まだ、道はあるし、戦うべき相手はいるだろ! 妹さんの為に、もう一度戦え十代! それで、立ち上がらな
 いんだったらそこで永遠に燻ってろ」
 そこまで言い終えると、俺は息を吐いた。
 言いたい事は言った。後はもう、アイツ次第だ。
「……十代」
 亮が、口を開いた。
「今は、アカデミアに帰ろう。お前の事を、仲間達が待っている。お前にも、仲間達がいる。一人で、抱え込むんじゃない………そうだろう?」
「…………………」
 十代は、何も答えなかった。
 ただ、亮の肩に身体を預けていた。

 ただ、奴が涙を流しているのだけは解った。

 もう、朝が、来る。







「理解できねーな……」
 遠くの方に、アカデミア島の輪郭が見えてきた頃、貴明がそう呟いた。
「何がだ?」
「十代の事さ。アイツ、何で吹雪冬夜に遊ばれてたって聞いた時に、あそこまで絶望したんだ?」
 貴明の疑問も、最もではある。
 何せ、幾ら俺でもあれは唐突だと思ったからだ。
「十代は運命を変える事に挑んだ……でも、それも吹雪冬夜の想定内だった。自分のした事が、盤上の上の事だったって事に気付いたのが絶望だったんじゃないか?」
 後ろからゼノンがそう口を挟み、晋佑も「そうだな」と頷く。
 準決勝進出の四人全員で雑談しているのは、単に寝るタイミングを逃したからだ。
 十代のせいで気が付いたら朝であり、俺達は一睡も出来ない夜を過ごす羽目になったのだ。
「で、十代はどうしたんだ?」
「亮先輩が医務室に連れてった。ま、大丈夫だとは思うだろ。海馬コーポレーションの医者を信じようぜ」
 俺の問いに貴明がそう答え、背中をばしばし叩く。
「ああ、そうだ。雄二、貴明。そしてゼノン。すまなかった」
 晋佑が思いだしたように口を開くと、頭を下げた。
「気にするな、今さら」
「いや……それでも、俺はお前らを裏切ったことに変わりはない。だけど……」
「もう、許す。理恵も意識を取り戻したからな」
 貴明がそう答え、俺達はそこでようやく笑った。

「貴様ら、随分と愉快な夜を過ごしたようだな」

 いきなり背後から声がかかり、俺達は後ろを振り向く。
「「「「しゃ、社長!?」」」」
「フン。凡骨チルドレンは元より、ゼノン・アンデルセンといい、遊城十代といい……貴様ら全員海に沈めてやりたい所だが身のがしてやろう。
 ともかく、今日の準決勝の準備は出来たか?」
「ま、まぁどうにか」
「デッキ調整? まぁ、なんとか」
「ばっちしかんかん」
「なんとかなるでしょ」
 四者四様の答えに社長はため息をつくと、アカデミアを指さした。

「さぁ、凡骨ども! あれが決勝の会場だ! 貴様らのデュエルの軌跡を、このオレが確かめてやるわ! ワハハハハハハハハハハハハハ!」

 準決勝が、始まる。



《第38話:バトル・シティ再開、準決勝対戦者決定バトルロイヤル》

 デュエル・アカデミア島に辿り着いた第2回バトル・シティ準決勝進出者達を待っていたのは生徒の熱烈な歓迎であった。
 今回の決勝進出者は実は丸藤亮とシェリル・ド・メディチを除けば殆ど無名と言っても過言では無い。
 だがしかし、その二人は一回戦敗退、要はそれほどの実力者を倒してきたのだから歓迎されるのもある意味当然であった。

 もっとも、歓迎の花束を渡しに来た一年の女子生徒に投げキスをやらかした貴明は社長に殴られていたが。
 その女子生徒が「ボクには十代がいるから」とか言ってたのは聞かなかった事にする。あいつの話はするな!


 本来、授業で使われるべきアカデミアのデュエル・フィールド。
 だがしかし、今日は授業ではなく、これから行われるバトル・シティの会場として使われる。
「おはようございます、決闘者の皆さん。よく眠れましたか?」 審判の天馬月行はフィールドに現れた四人のデュエリスト達にそう声をかけたが、彼らは眠そうに欠伸をするだけだった。
 一睡も出来なかったのだからしょうがない。そしてその原因になった彼はアカデミアの医務室に緊急入院である。
「で、月行さん。準決勝の割り振りは?」
「はい。では、発表しましょう。開催者側が対戦相手を決めるのは、フェアではありません。ならば、何で決めるべきでしょうか?」
 月行の問いに、ゼノンが即座に「デュエル」と答える。
「その通りです。これからあなた方にはバトルロイヤルを戦って貰います。生き残った一人は、対戦相手を指名します。残った二人が対戦、という形になります」
 要は簡単に説明してみるとこうなる。
 四人でバトルロイヤルを行い、生き残った一人が三人の中から一人を選んで、準決勝を戦う。
 もう片方の試合は選ばれなかった二人同士で行われる。そういう事である。
「なんか前とルール違うんだな」
「前回とは会場が違うので………それに、そちらの方が生徒達にも解りやすいと思いますし」
 貴明の言葉に月行さんはそう返し、再び口を開く。
「ターンの順番についてですが、自分のデッキの中からカードを一枚選んで下さい。そのカードはバトルロイヤルで使用する事は出来ません。
 カードの中で、攻撃力が高い順にターンが進んでいきます」
「そこは前と一緒なんだ……まぁ、難しいよな」
 俺はそう呟くと、デッキを覗き込んだ。
 攻撃力の高いカードを出せば先攻を取れるが、先攻を取る事こそが有利とは限らない。
 バトルロイヤルは、周囲全員が敵なのだ。
「……デッキ調整はよろしいですか?」
 俺が頷くと同時に、貴明、晋佑、ゼノンと頷く。
 月行はそれを確認してから、観客に視線を戻した。
「それでは、皆様。大変長らくお待たせ致しました。ただいまより、バトル・シティ決勝トーナメント、準決勝対戦相手決定バトルロイヤルを開始します!」
 盛大に拍手が鳴り響き、会場の興奮が、高まる。
「ああ、やっぱデュエルってのはこうでなくっちゃ」
「何がだ?」
「俺達だけじゃなくてさ、周りも楽しまなきゃ面白くないだろ」
 俺の言葉に、晋佑がそう怪訝そうに声を返してきたが、じきに戻った。
「そうだな」
 晋佑は、そう言って笑った。

「では、各デュエリストはお好きな位置について下さい……よろしいですか?」

 大抵は多くのデュエリストがひしめいているであろうデュエル場の中心、特設ステージの四方に俺達が辿り着いた時、月行さんが口を開いた。
「……それでは、カードを公開して下さい」

 黒川雄二:サファイアドラゴン 攻撃力1900
 宍戸貴明:ギルフォード・ザ・ライトニング 攻撃力2800
 高取晋佑:リボルバー・ドラゴン 攻撃力2600
 ゼノン・アンデルセン:ヘルカイザー・ドラゴン 攻撃力2400

 どうやら全員先攻を取る事ばかり考えていたのだろうか。攻撃力高めのモンスターが殆どだった。
「それでは、ターンの順番は、宍戸貴明、高取晋佑、ゼノン・アンデルセン、黒川雄二の順番で流れていきます……。それでは、デュエリストの皆様。
 開戦です。デュエル、開始!」
 一瞬で、空気が変わった。
 そう、周り全てが敵となるバトルロイヤル。ここはもう、違う空気の世界だ。

 宍戸貴明:LP4000 高取晋佑:LP4000 ゼノン・アンデルセン:LP4000 黒川雄二:LP4000

「俺の先攻ドロー!」
 最初は貴明のターン。貴明の神懸かり的な運の良さに勝てるものなどそうそういないだろうが。
「闇魔界の戦士ダークソードを攻撃表示で召喚。カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

 まずは小手調べといった所だろうか。貴明のフィールドに二刀流の剣士が舞い降り、剣を振り回した。
 ターンは流れて、続いては晋佑だ。

「俺のターン。白銀の鋼騎士ホワイトナイトを守備表示!」

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

「ホワイトナイトの効果により、デッキからフレイムナイトを手札に銜える!」

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

「ターンエンド」 1ターン目にして既にアタッカーまで揃えつつあるのは流石という事か。続いてはゼノンのターンである。
「俺のターン! ドロー!」
 俺と同じドラゴン族使い、どんな攻撃を仕掛けてくるか解らない。
 用心だけはしておくべきだろうか。
「仮面竜を守備表示で召喚! カードを二枚伏せて、ターンエンド」

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

 リクルーターが展開されるとは早くもゼノンは守勢に回ったという事か。
 まぁ、バトルロイヤルルールでは1ターン目は誰も攻撃出来ないのでしょうがない。
「俺のターンだ。ドロー!」

 目が、点になった。
「(て、て、て、手札事故ぉ〜!!!!?!?)」
 まさかこの状態で手札事故とは、信じられない。
 ジーザス、なんていう事だ。
「…………」
 だがしかし、どうしようもない。
「カードを一枚伏せてターンエンド」
「どうした? 手札事故? 手札事故なのか? おーおー、雄二よ。お前も大変だなぁ」
「レッドアイズ三枚積みどころかガイウスやら闇竜やらぶちこんでけばそりゃ手札事故になるさ」
「まぁ、あれだ。俺から言わせて見ればヨハンみたいな神懸かり的なドローが無いのに真似をしても回らないって事だな」
「お前ら、いつか殺す」
 晋佑やゼノンならともかく貴明にまで言われたくない。貴明も手札事故多い癖に。
「さて、二週目の俺のターンだな。ドロー!」
 貴明はニヤリと微笑むと、俺に視線を向けた。何か嫌な予感。
「行くぜ! ダークソードで、雄二にダイレクトアタック!」
 やはりそう来たか。
 だがしかし、リバースカードを今使うのは得策では無い。大人しくダメージを受けるしか無いようだ。

 黒川雄二:LP4000→2200

「ターンエンド」
 まだこれぐらい屁でも無い。問題はこれからだ。
 続いては、晋佑のターン。
「俺のターン。ドロー! 手札より、紅蓮の鋼騎士フレイムナイトを召喚!」

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

「フレイムナイトの効果により、デッキよりセイバーナイトを手札に銜える」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

 二体のアタッカーを並べてきたとなると、やはり狙いは俺か。
 だがしかし、晋佑は俺を一瞥すると、攻撃宣言を意外な相手に向けた。
「フレイムナイトで、ゼノンの仮面竜を攻撃! ジップフレイム!」
「何っ!?」
 仮面竜が破壊されて墓地へと消える。だがしかし、仮面竜はリクルートモンスター。
 破壊されたとしても……。
「仮面竜の効果により、攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体をデッキより召喚する。オレは、仮面竜を選択!」

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

「まだ、俺のターンは終わっていない! ホワイトナイトで、仮面竜を更に攻撃! ポイズンランス!」
「ええい、オレのモンスターを削る気か、高取晋佑!」
 そこまで狙ってきているとは、正直考えもつかなかった。
 ホワイトナイトが仮面竜を葬る。だがしかし、ゼノンは三体目の仮面竜を召喚していた。
 だが、これでゼノンのデッキの下級モンスターを浪費させる事には成功した。ドラゴン族デッキは上級・最上級モンスターが主軸。
 それを召喚する生贄要員としての仮面竜は不可欠だ。
「くそったれ……」
「ターンエンドだ」
「オレのターンだ! ドロー!」
 ゼノンの二週目。仮面竜を二枚も削られたのはやはり辛いのか、手札を見て渋い顔をしている。
「………ブリザード・ドラゴンを攻撃表示で召喚!」
 二週目の俺の一つ前のターン。今が、チャンス。
「リバース罠、激流葬を発動!」

 激流葬 通常罠
 モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動可能。
 全フィールド上のモンスターを破壊する。

 カウンターされる筈も無く、発動された激流が全てのモンスターを押し流していく。
「し、信じられない……」
「今まで発動タイミングを計ってたのか!?」
 そして次は俺のターン。モンスターさえ召喚出来れば直で攻撃可能だ。
「くそ、カードを一枚伏せてターンエンド!」
 ゼノンがターン終了を宣言する。

「さぁ、俺のターンだ! 行くぜ! ドロー!」

 二週目の俺のターン。ここでモンスターが来なければ、俺はまたしてもフィールドがら空きになる。
「黒竜の雛を召喚し、黒竜の雛の効果により、このカードを墓地へと送る」
 手札に揃った二枚のカードがあれば、俺は既に上級モンスターを召喚出きる。
 そう、切り札から一気に。
「真紅眼の黒竜を召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上で表側表示のこのカードを墓地に送る事で手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 世界で100枚あまりしかないレアカード。
 紅き瞳の黒竜は俺の目の前に現れると、貴明、晋佑、ゼノンを威圧するように睨んだ。
「OK、相棒。待たせたな」
 そう声を掛けてから、俺はバトルフェイズへと移る。
「レッドアイズで、晋佑にダイレクトアタック! ダーク・メガ・フレア!」
 壁モンスターの無い晋佑は見事に直撃を喰らい、大きくライフを削られた。

 高取晋佑:LP4000→1600

 流石に攻撃力2400の威力は辛かったのか、晋佑は嫌そうな顔を向けていた。
「やりやがって……」
「ターンエンド」
「くそ……攻撃力2400の壁かよぉ」
 最初に順番が回ってくる貴明が悲鳴に近い声をあげたが、無視する。
 バトルロイヤルでは周り全てが敵なのだ。
「俺のターン。ドロー………」
 直後、貴明の顔が驚きに変わり、にやりと笑う。
 キーカードを引いたとバレバレである。
「鉄の騎士ギア・フリードを召喚」

 鉄の騎士ギア・フリード 地属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1600
 このカードに装備カードが装備された時、そのカードを破壊する。

「ま、ターンエンドって訳で」
「あー、俺のターンな」
 続いては晋佑のターン。
「ここで終わるとでも思っていたのか?」
 晋佑がニヤリと笑う。
「蒼刃の鋼騎士セイバーナイトを攻撃表示!」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「セイバーナイトの効果で、ホワイトナイトを手札に加える。更に、魔法カード、アラート・ハザードを発動!」

 アラート・ハザード 通常魔法
 相手フィールド上に攻撃力2000以上のモンスターが存在し、尚且つ自分フィールド上のモンスターの攻撃力が2000以下の場合のみ発動可能。
 手札より攻撃力2000以上のモンスター1体を特殊召喚出来る。このターン、相手プレイヤーへのダイレクトアタックは出来ない。

 フィールド上に警報が鳴り響く。攻撃力の高い敵を排除せよと。
「アラート・ハザードの効果により、俺は手札から攻撃力2000以上のモンスター1体を特殊召喚する。そう、俺の切り札は、こいつだ……。
 来い! 最凶のゲームエンドメイカー! このデュエルに終止符を打って見せろ! 人造人間−サイコ・ショッカーを特殊召喚!」

 人造人間−サイコ・ショッカー 闇属性/星6/機械族/攻撃力2400/守備力1500
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、罠カードは発動出来ず、全フィールド上の罠カードの効果は無効になる。

「やはり出て来やがったか!」
 貴明の悪態が耳に届く。
 真紅眼と同じ攻撃力2400の、師匠から受け継いだモンスター。
「……サイコ・ショッカー」
 俺はぽつりと呟く。その凶悪にして強力な能力は、今の俺達にとっては、大きな壁になる。
「サイコ・ショッカーの効果により、罠カードを発動する事は出来ない。だがしかし、バトルだ! サイコ・ショッカーで、ギア・フリードを攻撃!
 電脳エナジー・ショック!」
「ちっ……」

 宍戸貴明:LP4000→3400

 潰し、潰しあい、そしてまた潰す。
 同じ事のくり返し。

 宍戸貴明:LP3400 高取晋佑:LP1600 ゼノン・アンデルセン:LP4000 黒川雄二:LP2200

 見事なまで、ばらばらな状態である。
「ターンエンド」
「オレのターン。ドロー」
 ゼノンは手札を見てしばらく考え込む。
 やはり、フィールドは空な上に上級モンスターが二体も鎮座している状況は怖いのだろう。
「魔法カード、天使の施しを発動」

 天使の施し 通常魔法
 カードを三枚ドローし、手札からカードを二枚選択して墓地に送る。

 カードを三枚ドローし、二枚を墓地に。
 何を使うのかが謎ではあるが……。
「カードを一枚セットしオレは……………」
 ゼノンの動きが止まった。
「ターンエンド」
 何もしないまま、ターン終了を宣言する。
 続いては、俺のターンだ。
「何もしないのか?」
「ああ」
「そうか。俺のターン。ドロー」
 俺の問いに、そう答えてゼノンは顔を伏せた。
 やる気でも失せたのか、それとも別に順番など興味無いのか……ありえるかも知れない。
 この後、準決勝を戦うのだから自分の手のうちをそうそう見せたくないと思うのは当然だろうし。
「真紅眼の黒竜を墓地に送り、真紅眼の闇竜を召喚!」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 このカードは自分の墓地のドラゴン族モンスター1体に付き攻撃力が300ポイントアップする。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→3000

 攻撃力3000にまで上昇した闇竜の攻撃対象はただ一人。
「闇竜で……ゼノンにダイレクトアタック! ダークネス・ギガ・フレイム!」
「リバース速攻魔法! 飛竜軍団の襲来を発動!」

 飛竜軍団の襲来 速攻魔法
 このカードは相手ターンのみ発動可能。
 相手フィールド上のモンスターの数だけ、飛竜トークン(風属性/星4/ドラゴン族/攻?/守?)を召喚出来る。
 このトークンの攻撃力・守備力は相手フィールドのモンスターの数×400ポイントとする。
 このトークンはドラゴン族以外の生け贄にする事が出来ない。

「この効果で、俺は三体の飛竜トークンを召喚!」

 飛竜トークン 攻撃力0→1200

 そして、飛竜トークンのうち、1体が破壊されてフィールドから姿を消す。
 だが、まだ二体が残っている。
「やっぱ残してるのか……ターンエンドだ」
 トークン生成は生贄確保から壁役まで何にでも使えるのが便利な所か。
「俺のターン!」
 続いて再び貴明のターンである。
「…………あー。どうでるかな」
 貴明は困ったように手札を眺めていたが、ふと気付いたように視線を俺達に向けた。
「なぁ、雄二。晋佑。懐かしいな、俺ら、昔、しょっちゅうデュエルしてなかったか?」
「ん? ああ、そういう事もあったな」
 晋佑が苦笑しながらそう呟く。
 あの頃は、楽しかった。そして、今も、きっと。

 俺達は、少しずつ違う場所に立っているけれど。始まりは、同じ。

「始まりは……同じなのさ。そう」

 貴明はそう呟いた後、宣言する。
「融合を発動し、憑依装着−エリアと、ブレイドナイトを手札融合!」

 融合 通常魔法
 モンスター二体以上を融合し、決められたモンスターを特殊召喚する。

 憑依装着−エリア 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 このカードは自分フィールド上の水属性モンスター1体と「水霊使いエリア」を墓地に送る事でデッキから特殊召喚出来る。
 この効果で特殊召喚した場合、相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、ダメージを与える。

 ブレイドナイト 光属性/星4/戦士族/攻撃力1600/守備力1000
 自分の手札が1枚以下の時、フィールド上のこのカードの攻撃力は400ポイントアップする。
 また自分フィールド上のモンスターがこのカードしか存在しない時、戦闘で破壊したリバース効果モンスターの効果を無効にする。

 エリアとブレイドナイトをどうやって融合するのか、と疑問にも思ったが。
 そう言えば十代もヒータとトリッキーを融合させていたなと思いだす。
 どうやら霊使いシリーズには融合出来るモンスターがいるらしい……。

「聖水の戦乙女エリアを融合召喚!」

 聖水の戦乙女エリア 水属性/星6/魔法使い族/攻撃力2400/守備力1800/融合モンスター
 「エリア」と名のつくモンスター1体+「ブレイドナイト」
 自分フィールド上にこのカード以外のモンスターが存在しない時、このカードの攻撃力は400ポイントアップする。
 このカードが戦闘で破壊したリバース効果モンスターの効果を無効にする。

 ブレイドナイトの鎧を身に纏い、文字通り戦乙女と化したエリアがフィールドに舞い降りる。
「エリアの効果発動! 俺のフィールドには、モンスターが今こいつしかいない。故に、このカードの攻撃力は400ポイントアップする!」
「げ!」

 聖水の戦乙女エリア 攻撃力2400→2800

 攻撃力2800ということは、サイコ・ショッカーを平気で上回る。闇竜にはギリギリで届かないが、それでも恐ろしい事に変わりはない。
「エリアの攻撃! サイコ・ショッカーをぶっ飛ばせ! アクア・エレメント・ブレイド!」
「なっ……!」

 高取晋佑:LP1600→1200

「晋佑、お前ピンチだなぁ……」
「雄二、お前は黙っていろ……まだまだだ」
「サイコ・ショッカーが消えたお陰で罠カードがまた使えるな!」
「最高に嬉しいプレゼントだ」
 嬉しそうな貴明にゼノンがグッジョブとばかりに親指を立てる。元気な連中である。
 とても昨日まで対立しまくっていた仲とは思えない程だ。
「ターンエンド」
「俺のターンだ……ドロー!」
 晋佑のターンである。
 フィールドにはセイバーナイト、手札にはホワイトナイトが揃っているのでそろそろギアナイトが来てもおかしくない。
「…………手札のホワイトナイト、フレイムナイト、及び……フィールドのセイバーナイトを墓地へ送る!」

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

 三体の鋼鉄騎士が変形、合体し、姿を変えていく。
 巨大な鋼鉄の騎士に。

「機動鋼鉄騎士ギアナイトを特殊召喚!」

 機動鋼鉄騎士ギアナイト 光属性/星10/機械族/攻撃力4000/守備力4000
 このカードは通常召喚出来ない。自分のフィールドまたは手札の「鋼騎士」と名のつくモンスター3体を墓地に送って召喚する。
 このカードは攻撃力を1000ポイント下げる事で、相手の魔法・罠カードの効果を無効化する事が出来る。
 相手モンスターを戦闘破壊する度に、このカードの攻撃力は300ポイントずつアップする。
 このカードがフィールド上に存在する限り、このカードのコントローラーはモンスターを召喚出来ない。

 攻撃力4000。神にも匹敵するその攻撃力と姿は、圧巻である。
「…………これで、形勢逆転だ」
「おいおい、冗談キツいぜ……」
 俺は思わずそう呟いたが、召喚されたものはしょうがない。さて、次は晋佑はどう出て来るのか。
「ギアナイトの攻撃! 飛竜トークンを抹殺!」
「おいおい、こっちに攻撃かよ!? 闇竜をどうにかしろ、闇竜を!」
 ゼノンが悲鳴をあげたがそれは無視され、飛竜トークンが消え失せる。
 そして、ギアナイトは自身の効果で攻撃力上昇。

 機動鋼鉄騎士ギアナイト 攻撃力4000→4300

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「くそっ……トークン残り寂しく1体かよ」
 ゼノンはそう悪態をつくと、ドローする。
 直後、思考が変わる。
「OK、ゼノン・アンデルセン。クールになれ。これは試練だ……これは、試練だと、俺は受け取った。これが俺本体のハンサム顔だ……じゃねぇよ!」
 一人でノリツッコミ。意外とノリはいいのかも知れない。
「だから、俺はこいつを呼ぶしかない! 魔法カード、デビルズ・サンクチュアリを発動!」

 デビルズ・サンクチュアリ 通常魔法
 「メタルデビル・トークン」(闇属性/星1/悪魔族/攻0/守0)を自分のフィールドに1体、特殊召喚する。
 このトークンは攻撃する事が出来ない。「メタルデビル・トークン」への超過ダメージは相手プレイヤーが受ける。
 自分のスタンバイフェイズ毎に維持コストとして1000ポイントライフを支払う。払わなければこのトークンを破壊する。

「悪ぃけど、さっきのデュエルで晋佑のデッキから借りた」
「……道理で二枚も消えている訳だ。後で返せよ」
 ゼノンの言葉に晋佑はそう悪態をつく。そして、ゼノンは笑いながらもう1枚デビルズ・サンクチュアリを発動。
 これで二体のメタルデビル・トークンと飛竜トークン。トークン三体……?
「…………あー、雄二の奴には解ったか?」
 ゼノンは笑ったまま口を開く。
「行くぜ! 天空の神竜、ヴェルダンテを、メタルデビルトークン二体及び、飛竜トークンを生贄に捧げて召喚!」

 The God Dragon of Heaven−Velldante LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 1000ライフポイントを支払う事で、墓地のモンスター1体をフィールド上に特殊召喚出来る。
 このカードが召喚された時、フィールド上の魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚を選択する。
 選択されたカードはこのカードがフィールド上に存在しなくなるまで、発動も出来ず、破壊もされない。
 効果を既に発動している場合、その効果を失う。
 フィールド上に存在するこのカード以外のカード及び自分の手札を全て除外する事で、
 相手フィールド上のカードを3枚までゲームから除外する事が出来る。

 どうやらこのデュエルは予想以上に難儀な事になるらしい。俺はため息をつく。
 ギャラリーであるアカデミアの生徒達が「おおっ」とどよめきをあげ、海馬社長は席で不機嫌そうな顔をし、審判の月行さんは苦笑していた。
「…………マジかよ」
「これで、攻撃力5000。ギアナイトの4300を上回るぜ! 行くぞ、天空の神竜! ギアナイト……ではなくて闇竜に攻撃! ディストラクション・ヘブンズレイ・バースト!」
「って、俺の方かよ!?」
 こいつら、本当にやる気あるのか?

 黒川雄二:LP2200→200

 闇竜が粉砕されると同時に、俺のライフが大きく削られる。
 残りたったの200である。
「………くそったれ」
「ターンエンド」
「俺のターンだ」
 俺のフィールドは今や空。残りライフは200で相手フィールドには最上級どころかギガントなモンスターが三体もいる。
「………さて、どうしよう」
 本気でどうしようもないのである。
 どうやって逆転しろと。
「…………むぅ」
 とりあえず呟いてみて、手札をよく確認。

 どうすべきか、悩む。
「………ドロー」
 ドローした時だった。
 何か来た。

「魔法カード、リロードを発動」

 リロード 速攻魔法
 手札を全てデッキに戻し、シャッフルした後戻した枚数だけドローする。

 手札を戻し、シャッフル。そしてドロー。
「魔法カード、死者蘇生!」

 死者蘇生 通常魔法
 墓地に存在するモンスター1体を特殊召喚する。

「死者蘇生の効果で真紅眼の黒竜を蘇生! 更に、手札の真紅眼二枚と融合し………真紅眼の究極竜を召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 融合 通常魔法
 モンスター二体以上を融合し、決められたモンスターを特殊召喚する。

 真紅眼の究極竜(レッドアイズ・アルティメットドラゴン) 闇属性/星11/ドラゴン族/攻撃力4500/守備力3000/融合モンスター
 「真紅眼の黒竜」+「真紅眼の黒竜」+「真紅眼の黒竜」
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、このカードの攻撃力が相手の守備力を上回っている分、ダメージを与える。

「れ、真紅眼の究極竜だとぉ!?」
「何だよ、社長専用カードみたいなの!?」
 貴明と晋佑が驚きの声をあげるが、そんな事は無視である。
 攻撃力4500があれば、ギアナイトを倒す事は出来るだろう。
「………ただいまの手札で出せる、最高のモンスターだぜ」
 俺はそう言って笑うと、標的を決める。
 最初のターンでダイレクトアタックをしてくれたお礼をまだしていない。
「いや、待てよ……貴明。テメェに最高のプレゼントだ! 速攻魔法! ブラッド・ヒートを発動!」

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 手札から発動した、血の加熱。
 究極竜の全身が紅く輝き、その熱を持って攻撃力は跳ね上がる。

 真紅眼の究極竜 攻撃力4500→10500

 黒川雄二:LP200→100

「悪ぃな! 決めさせて貰うぜ! 究極竜で、エリアに攻撃! アルティメット・ダーク・バースト・ストリーム!」
「そんな非人道的な真似をするな!」
 貴明のフィールドにはエリアしか存在しない。
 ブレイドナイトの甲冑を纏っているとはいえ、それでもエリアは女の子である。俺は攻撃するが。
「リバース罠、黄昏のプリズムを発動!」

 黄昏のプリズム 通常罠
 500ライフポイントを支払う。モンスター1体の攻撃を別の対象に差し替える。

 宍戸貴明:LP3400→2900

 フィールドに現れたプリズムが、攻撃力10500をあらぬ方向へと捻じ曲げる。
 その攻撃対象は、ギアナイトか、それとも天空の神竜か。

「くそっ、俺の方かよ!」
 やはり晋佑のギアナイトへと向かったらしい。ライフ全てをもぎ取れる攻撃ではある。
「だがしかし、俺も伏せてたんだよ! 黄昏のプリズム発動!」

 黄昏のプリズム 通常罠
 500ライフポイントを支払う。モンスター1体の攻撃を別の対象に差し替える。

 高取晋佑:LP1200→700

「お前もかよ!? と、いうことは……」
 貴明が跳ね返した攻撃を更に晋佑が跳ね返す……俺のフィールドにモンスターはいない。
 と、いう事は跳んでいく方向は必然的に貴明かゼノンの方へと。
「こっちかー!」
 ゼノンが悲鳴をあげると同時に、天空の神竜に攻撃力10500が直撃した。
「くそったれぇええええええええええええっ!」

 ゼノン・アンデルセン:LP4000→0

 4000あったライフが一瞬でゼロになる。まさにその瞬間。
「畜生、オレがビリかよ!」
「まぁ、運が悪かったと思え。どうせ次は雄二だ」
「決定事項かよ」
 晋佑の言葉に俺はそう返すが、確かに今ので手札もリバースカードも使いきってしまったのも事実。
 そして、ブラッド・ヒートの効果で究極竜はエンドフェイズに破壊される。
 フィールド、手札、全て空。
「ターンエンド」
「俺のターン。ドロー!」
 続いて、貴明のターン。
「…………エリアを守備表示に変更。ターンエンド」
「俺のターン。ギアナイトで、雄二にダイレクトアタック!」
 晋佑のターンに移った瞬間、早くも攻撃してきた。嫌みな奴である。

 黒川雄二:LP100→0

「カードを1枚伏せてターンエンド」
 さて、これで残るは二人。
 貴明と晋佑。どっちが勝利するか見物である。

 宍戸貴明:LP2900 高取晋佑:LP700

 晋佑のフィールドには攻撃力4300のギアナイトがあるが、追加モンスターを召喚出来ない。
 それに対して貴明はまだ充分なモンスターが揃っている。
 さて、このデュエル。どう転ぶのだろうか……。
「俺のターン……ドロー」
 次の瞬間、貴明の視線が変わった。
「いいコンボ、閃いちゃった」
「ほう、それはどんなだ?」
「今はまだ言わない」
 貴明はニヤリと笑った後、カードをセットする。
「ターンエンドだ」
「俺のターン。ギアナイト……聖水の戦乙女エリアに攻撃!」
「悪ぃが、ギアナイトには退場してもらうぜ! 因果切断を発動!」

 因果切断 通常罠
 手札を1枚捨てる。相手フィールド上に存在するモンスター1体を除外する。
 相手の墓地に同名カードが存在した場合、それも除外する。

 晋佑のフィールドにギアナイトが消えていく。
 丸藤亮をも恐れさせた因果切断。そう、モンスターを消されては、流石の晋佑も為す術が無いのか呆然と見送っていた。
「……ターンエンド……」
「俺のターン、だな。エリア。勝負を決めるぜ!」
『おっけー、タカアキ! がっつんと行くよ!』
 聞こえない。俺は何も聞こえない。
 貴明がエリアと喋っている言葉なんて俺は聞こえない。これも全てルイン様のせいだ。

「晋佑にダイレクトアタックだ! アクア・エレメント・ブレイド!」

 ブレイドナイトの甲冑を纏ったエリアが晋佑に切りかかり、ライフポイントを削る。
 そしてそれは、0を示す。

 高取晋佑:LP700→0

「…………デュエル、終了です」
 月行さんの宣言と共に、会場が拍手に沸いた。
「え? はい、こりゃどーもって。イェイ!」
 貴明はピースサインなんぞを送ったりしてるが、社長がキレてるのに気付いてないのか?
 まぁ、それは置いておくとしよう。
「おめでとうございます」
「ありがとう、月行さん」
「……では、準決勝の対戦相手はお決めになられましたか?」
 本題はそっちである。
 俺や晋佑、ゼノンも壇上で考え込む貴明に視線を送る。

 まぁ、難しい問題ではあるだろうが。
「……よし」
 貴明は息を吸い込むと、その名を、告げた。

「俺の相手は………晋佑だ! 二戦目で!」


 第2回バトル・シティ決勝トーナメント準決勝

 ・第1試合   黒川雄二 vs ゼノン・アンデルセン

 ・第2試合   宍戸貴明 vs 高取晋佑

 準決勝の幕は、遂に上がる。



《第39話:オールインワン》

 俺の対戦相手はゼノンと決まり、バトル・シティは準決勝への準備と追われている。
 その間、一時間の休憩となり、俺はアカデミア内でも散歩する事に決める。

 しかし広い場所だ。
「なんとかなんねーかな、つーか……広いな」
「デュエル・アカデミアってのはどこも広いんだよ。そういうものさ」
 俺の呟きに、背後から声が掛かる。
 この声は、確か……。
「ゼノンか」
「ああ」
 ゼノンはそう言い放つと、俺のすぐ横まで歩いてきた。そう言えば、ゼノンはアカデミア・アークティック校出身だっけ。
 俺がそんな事を考えていると、ゼノンは急に口を開いた。
「くだらない話でもするか?」
「あ? いいぞ、別に」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
 ゼノンはそう言って近場の石に腰を降ろし、俺も同じく腰を下ろす。
 アカデミアの生徒でも何でもない二人のデュエリストが何故か腰を下ろして話しているという構図は何なのだろう。
「双子の兄貴がいてな」
「奇遇だな。俺もだ」
「お前もか? まぁ、いいさ………。オレの方が先にデュエル始めたのにさ。あっちの方が上手になりやがった」
「それ、マジか?」
 恐ろしい話ではある。自分が先に始めた筈なのに、後から始めた方が上手くなってるのはよくあるが。
 それが自分の兄弟とかだと尚更恐怖だったりする。
「だって、信じられないんだぜ?」
 ゼノンは視線を落とした。そう、まるで自嘲するかの如く。
「なんで、あっちはペガサスにまで認められたのに、オレじゃないんだよって」

 選ぶのは、俺達じゃない。向こうだ。
 だけど、だけど。誰でもいいから、選んで欲しいと思うのは、当たり前の事。

 そう、例えばそれは。
 才能の全てを片方に持っていかれた、双子のように。
 歪だ。

「………あー、解るわ、その気持ち」
「だろうな。なんつーんだろうな、兄弟ってのは片方が損するように出来てるのかねぇ」
 ゼノンがそこまで言った時、俺も話してみる事にした。

「なら、あいつはどうなんだろう」
「あいつ?」
「遊城十代の事さ」
 俺の問いに、ゼノンは一瞬だけ眼を丸くした。
「あいつの?」
「………あいつは、自分も、そして遊城三四も、本当に損したって思ってたのかな」
「どうなんだろうな? オレにはそこまでして助けたい思いが解らねぇよ」
「あー、人それぞれかもな」
 本当に、状況次第で、人は変わる。それは本当だ。

 兄弟を失えば、世界一つ滅ぼしてまで守りたいと願うのか。
 それとも、ただ何もせずに傍観し続けているだけなのか。

「………だけど、十代に関して、オレは一つだけ言える」
 ゼノンは口を開くと、俺に視線を合わせて、はっきりと言った。

「あいつは、本当に優しくて、本当に残酷な奴だよ」










 準決勝の会場はバトルロイヤルの時と同じく、アカデミアのデュエル・フィールド。
 観客は一時間待たされたにも関わらず、まったく減っていないようにも見えた。授業の一環なのだろうか。
「皆様」
 フィールドの真ん中、司会及び審判の天馬月行さんの姿が現れた。
「お待たせ致しました。第2回バトル・シティ準決勝、第1試合を始めたいと思います」
 月行さんが手を上げ、俺とゼノンに入場するように合図する。今がチャンス。



「悪ぃ、待たせたな! 真紅眼の相棒、魂の結晶! 例えるなら漆黒の竜騎士、黒川雄二です!」
「よぉ、お待ちどぉ! ドラゴンを愛し、ドラゴンと戦い宝玉獣を倒す蒼の流星、ゼノン・アンデルセンです!」

「「「………………」」」
 俺とゼノンが一時間かけて一生懸命考えた登場シーンはどうやら呆れられていたらしい。
 あれ、社長? 何でしょう、その片手に持っている黒いのは……。
「か、海馬サマ! それはやめて下さい! 此処はアカデミアです!」
「離せ磯野! オレはあいつらに鉛弾をぶち当てなければ気が済まん!」
 社長……。発砲する気だったのかよ。

 とりあえず社長に謝り、社長の機嫌が治るまでデュエル再開不可能だった。
 社長は冗談が解らない。
「えー。それでは、よろしいですか?」
 月行さんが先ほどよりもやつれた顔で俺達を見てくる。

「「OK」」
 俺達の答えと共に、遂に、デュエルが始まる。

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 ゼノン・アンデルセン:LP4000

「俺の先攻ドロー!」
 先攻を貰うと気持ちいいな。
「アックス・ドラゴニュートを攻撃表示で召喚!」

 アックス・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了後に守備表示になる。

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
「オレのターン。ドロー!」
 続いてゼノンのターン。一瞬だけ悩んだような顔を向けた後、即座に召喚へと移った。
「ブリザード・ドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000
 相手モンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示型式の変更が行えない。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「ブリザード・ドラゴンの効果発動! アックス・ドラゴニュートを選択し、エンドフェイズまで攻撃宣言及び表示形式の変更が出来ない」
 攻撃ロックのおなじみの効果である。
 俺もブリザード・ドラゴンを投入しているだけに、この効果は怖い。
「………だが、何も出来ない」
「生憎とこっちもだ。カードを二枚伏せてターンエンド」
 しかし、問題は此処からだ。
 どう攻めていくべきだろうか。お互いにドラゴン族使いなので、仮面竜からのリクルートで生贄確保、上級召喚に繋げるのは定石だろう。
 俺にはレッドアイズがいるのでそれなりに何とかなるが、俺は今までのゼノンのデュエルで神竜以外の切り札と呼べるカードを見た事が無い。

 何なのだろうか……。
「俺のターンだ。ドロー」
 まぁ、いい。まずは何とかするべきだろう。
 逆転の手札を、考えるのに。





 宍戸貴明は、デュエル・フィールドから離れていた。
 雄二とゼノンのデュエルを見たくない訳では無かったが、雄二が負ける筈は無いと思っていたので結果なんて気にしていなかった。
 だとすれば、空き時間をどうするかである。
「で、医務室って何処だ?」
 そう、この事件で一番大荒れした男、遊城十代に会うのだ。

 別に特に意味がある訳でもないが、ただ話したいと思っただけだ。
「医務室ならこっちだぞ」
 貴明がそこまで考えた時、背後から声が響く、貴明の前に手が突き出て指し示す。
「亮先輩……」
「ただいまアカデミア見学ツアーの最中でな。お前も来るか?」
 貴明が振り向くと、丸藤亮の後ろには亮と同じく一回戦敗退の女性陣が揃っていた。
 とりあえず一人ハーレム状態の亮が羨ましいのでデュエルディスクアッパーを浴びせておく。
「ぐおっ!? 何をするんだ」
「自分の胸に聞けバカ」
 さて、これですっきりした。
「ところで、貴明。医務室探してるってどしたの?」
「おう、理恵か……。まぁな。ちょいと会いたい奴がいてな」
「十代か」
「ああ……」
 亮の言葉に、貴明は頷いた。
「まぁ、確かにそうだろうな。だが、俺的には今、奴に会う事はお勧めしないが」
「どうしてだ?」
「今のあいつは相当なショックだからな。復帰するまでに相当時間が掛かるぞ」
 あれだけの騒ぎを起こし、何もかも投げ捨ててまで、いや、時には命すら賭けたかも知れない。
 その結末が、自分自身も駒のうちだと解れば、それはもうショックに違いない。
「生きる意志無くしたとかそういう事はないよな?」
「それは無いだろう。雄二も言っていたが、あいつは妹を放っておくような奴じゃない」
 まぁ、確かに妹の為にやったのだからそうだろうな。
「だから今のうちに婚約届にサインすれば十代の妹は俺の嫁という事だ」
「地獄に落ちてしまえ」
 とりあえずこの男が最低である事ははっきりした。

「そうだ、一つ忘れていたのだが」
「何だよ?」
 亮は珍しく考えたように口を開いた。
「宍戸貴明。翔にサイバー・ドラゴンを返してくれ」
「全力で拒否する」
 今さら返す事なんざ出来るか。貰ったものではあるし。
「ならば俺は拒否する事を拒否する!」
「拒否する事を拒否する事を拒否します!」
「ならば俺は拒否する事を拒否する事を拒否する事を拒否……」
「シニョーラ亮、何やってるノーネ?」
 突如として声がかけられ、アカデミアの関係者であろう背の高い人物が現れた。
 何処かで見た顔なのは気のせいなのだろうか。
「おや、クロノス先生」
「マンマミーヤ! シェリルがどうして此処にいるノーネ!?」
「大会参加なのデスーノ。後、最近家に帰ってこないのが心配ナノーネ! 浮気しているんじゃナイノ?」
「そ、そんな筈は無いノ! アカデミアで浮気だなんてできる筈が無いノーネ!」
「……いや、有り得るかも知れませんよクロノス先生。女子生徒相手に教師との禁断の愛……クロノス先生、まさか!」
「ノー! シニョーラ亮、そんな事は断じて無いノーネ! 信じて欲しいノ〜!」
「……………少し話を聞かせて貰えますーノ?」
「ギャー! マイワイフが恐ろしい般若ナノーネ!」
 とりあえずクロノス先生とシェリルさんが夫婦である事は解ったので放置する事にしよう。
「で、亮先輩。どうあがいても俺は拒否します」
「翔にサイバー流を継がせたくてな」
「あ、なら俺を弟子に雇って下さい」
「それは断る」
 亮の言葉に貴明は軽く肩を竦める。
 やはりそういうものである。どう転んでもやはりサイバー・ドラゴンを帰す事は出来ない。
 ならばどうするべきだろうか。
「そういや、翔先輩ってアカデミアでしたっけ?」
「ああ、そうだな」
「もう一度デュエルしてみるとか」
「辞めておけ……翔に勝ち目がないからな」
「俺じゃなくて翔先輩の方に勝ち目がないのかよ!」
 翔先輩、ガンバ。
「そういや、カイザー亮と貴明って知り合いなの?」
 理恵が今さらのように口にする。
「ん? ああ、腐れ縁だ」
「貴明は俺がサイバー流に入門した後、道場破りと称して突撃してきたのが原因だ。俺が勝ったので下僕にした」
「入門したの間違いだろ」
「しかし俺の弟からサイバー・ドラゴンのカードを巻き上げて首になったという訳だ」
「巻き上げてねーよ」
 亮の言葉は何処か嘘が混じっている。
 しかし理恵はそれで納得したのか、なるほどと頷いた。
「そう言えば、雄二とも仲いいよね」
「ん? ああ、雄二はな、サイバー流追いだされた後の俺とたまたま会ってな。なんて言うんだろうな……」

 あの時は。
 お互いに、自分の事を信じてなんかいなかった。
 自分たちが、如何に無力だと解ってて。

「本当に、お互い間抜けだったつーかな。だけど、二人して、真っ直ぐでいられた。自分達には、自分達なりに足掻く事が出きるって」

 そう、知ったんだ。だから、負けない。
 だから、逃げない。だから、負けない。

 足掻き続ける限り。求める強さに、限りなんて無い。


 黒川雄二も、宍戸貴明も、高取晋佑も。

 皆、出発点はゼロからだったから。
「……今、この場に立ってるのも信じられねーよ」



《第40話:それは喪われた物語》

 黒川雄二:LP4000 ゼノン・アンデルセン:LP4000

 アックス・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了後に守備表示になる。

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000
 相手モンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示型式の変更が行えない。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「俺のターンだ……」
 先攻2ターン目、雄二のターン。状況はまだ動いていない。
「アックス・ドラゴニュートはブリザード・ドラゴンの効果で攻撃を封じられている……ならば、どうすればいいと思う?」
 答えはそれ以外のモンスターを召喚する、である。
 だがしかし、ブリザード・ドラゴンの攻撃力を上回るアタッカーはドラゴン族はアックス・ドラゴニュートかサファイアドラゴンのみ。
 あくまでもレベル4以下に限定すればの話だが。
「……と、いう事で上級モンスターを呼ばせて貰う」
「だが、レッドアイズは重い」
「そうだ。だが、俺にはまだ上級がいるぜ! アックス・ドラゴニュートを生贄に捧げ、邪帝ガイウスを召喚!」

 邪帝ガイウス 闇属性/星6/悪魔族/攻撃力2400/守備力1000
 このカードの生贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。
 そのカードが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ライフダメージを与える。

「チッ、ブリザード・ドラゴンを除外すればオレのフィールドは……!」
「……と、思うだろ? 悪ぃが、俺が除外するのはそのリバースカード!」
「なっ……にっ……」
 ゼノンが呟くより先に、ゼノンのフィールドからリバースカードが姿を消す。
 フィールドには、効果対象を失い首を傾げるブリザード・ドラゴンのみ。
「そして、邪帝の攻撃! ブラック・コア!」
「くそっ!」
 ブリザード・ドラゴンが粉砕され、姿を消す。

 ゼノン・アンデルセン:LP4000→3400

 削りはしたものの、未だに僅差ではある。
 ゼノン・アンデルセンは一筋で行く相手では無い。お互いにそれを解っている。
「ターンエンドだ」
「オレのターン。ドロー」
 ゼノンはドローした後、小さく視線を向けてくる。
 奇妙な沈黙が流れる。

「…………なぁ、黒川雄二。お前は、どうして、出る事を決めたんだ?」 「何にだ?」
「この大会にさ」
 ゼノンは少しだけ視線を伏せると、デッキを見る。
 俺もつられてゼノンのデッキに視線を向ける。長年使い込まれたであろう、傷痕もついたデッキ。
「ずっとずっと、背中を追いかけてきた。だけど、その事を嫌だって思うオレがいた。嫌なのに、嫌なのに背中を追いかける事しか出来なかった。
 だから……せめて、せめて最後に、勝ち取りたいのさ」
「決闘王の称号、か?」
「ああ」
 ゼノンはそう言ってデュエルディスクを軽く叩く。
「大会終わったら海馬コーポレーションに返却するつもりさ」
「デュエリスト引退かよ、その歳で」
「まぁ、な」
 ゼノンはそう言った後、俺に視線を合わせた。
「オレはそういう訳さ。お前は、どうなんだ?」
「俺? そうだな、俺も似たようなもんかもな」

 考えてみれば、ずっと、ずっと。
「こう見えても、結構いいトコの坊ちゃんだったりするんだよな、俺」
「マジかよ」
「マジも大マジ。かくして旧家の一つである黒川家の跡取りに、何と双子が出て来たって訳。まぁ、前年に姉貴が生まれてたんだけどな」
 そして、一つ年上の姉も、双子の兄も。

「……別にな。二人とも、努力してない訳じゃないんだ。努力して、それで手に入れたものだって解ってるんだよ。だけどそれでも、俺の事をずっと
 置いてきぼりにして、勝手に先に行っちまう。二人が悪い訳じゃないだなんて、俺にだって解ってる。だけど……でも、置いてきぼりくらう方とし
 ちゃやりきれないもんな」

 俺はそう呟いた後、視線をゼノンに向けた。
「似た者同士、だな」
「ああ。似てるな」
 お互いにそう呟く。だがしかし、負ける訳には行かない。

 理由はなんであれ、強さが欲しい。更なる高みへ、何もかも、手に入れられる、全てが欲しい。

「デュエル続行だ、黒川雄二! オレは、お前をしとめて見せる!」
「ああ。決着つけようじゃねぇが、ゼノン・アンデルセン! どっちが最高のドラゴン族使いか、な!」
 そう、お互いにドラゴン族をメインとするデッキ。
 デュエルモンスターズで最も気高く、強力な種族を操るデュエリスト同士の、意地と意地のぶつかり合い。
「オレは、仮面竜を守備表示で召喚!」

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

「更に、魔法カード、二重召喚を発動! 仮面竜をもう一体召喚!」

 二重召喚 通常魔法
 このターン、通常召喚を二回行う事が出来る。

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

 二体の仮面竜がフィールドに並ぶ。だが、アタッカーは無い。
 そしてゼノンの手札は、後二枚。
「……そして、オレはこのモンスターを召喚する。フィールドに存在する二体の仮面竜、そして墓地のブリザード・ドラゴンを除外し……出でよ!
 蒼き角を持ちし白の竜! ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴンを特殊召喚!」

 ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴン 光属性/星6/ドラゴン族/攻撃力2200/守備力1400
 このカードは通常召喚出来ない。フィールドに存在する星4以下のドラゴン族モンスター2体と、墓地のドラゴン族1体を除外して特殊召喚する。
 このモンスターはバトルフェイズ中、手札の数だけ攻撃する事が出来る。
 このカードの召喚時、自分フィールドに存在するこのカード以外のカードと手札を全て墓地に送る事で攻守を1500ポイントアップさせる。
 このカードはカードの効果によって破壊された時、召喚時に除外したモンスターを全て特殊召喚する。

「ぶ、ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴン……」
 攻撃力2200は上級の及第点にも達していない。だが、その能力は他を圧倒する力を秘めている。
「ブルー・ホーンズの効果発動。フィールド及び手札を全て墓地に送る事で攻守を1500アップさせる……オレのフィールドは空。そして、手札は一枚のみ」
 それを、墓地に送っても、効果は発動する。
 その攻撃力は……3700!

 ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴン 攻撃力2200→3700

 俺のフィールドにいる邪帝ガイウスの目の前に、蒼き角の白い竜が立ちはだかる。
「バトルだ! ブルー・ホーンズで、ガイウスに攻撃! ブルーレイ・ライトニング・バースト!」
「ぐっ……おっ……」

 黒川雄二:LP4000→2700

「……結構、削られたな」
「手札もリバースカードもないんでね。ターンエンドだ」
 ゼノンが手を広げながらそう口を開く。
「……俺のターンだ」
 カードをドローする。
 今の手札では満足なデュエルなど望めない。だがしかし、何もしない訳には行かない。
「仮面竜を守備表示で召喚し、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

 このデュエルは、拮抗状態が長く続きそうだ、と俺は思った。

「オレのターン。ドロー!」
 ゼノンのフィールドには攻撃力3700のブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴン。
 だがリバースカード無し、手札も今ドローした一枚のみ。
 それに対して俺のフィールドにはリクルーターの仮面竜。手札も充分あるし、リバースカードもある。
「………魔法カード、強欲な壺を発動して、カードを二枚ドロー!」

 強欲な壺 通常魔法
 デッキよりカードを二枚ドローする。

「そして、ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴンで、仮面竜を攻撃! ブルーレイ・ライトニング・バースト!」
「ちっ……だが、仮面竜の効果発動! デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚出来る! 俺は仮面竜を選択!」
 フィールドに破壊された仮面竜の代わりに、別の仮面竜が姿を現す。
 だがしかし、このまま並べ続けてもいずれは倒されるだけだ。次のターンで、攻勢に出た方が良いだろうか。
「ブルー・ホーンズの効果……このモンスターは、バトルフェイズ中、手札の数だけ攻撃可能! 故に、もう一度攻撃が可能だ!」
「なっ……」
 為す術無く、二体目の仮面竜が消え去る。そして次は三体目を召喚。
 しかし、モンスターが削られていくばかりだ。
「くそ、厄介な能力持ちだ……」
「まぁな。一筋縄じゃ行かない、そんなデュエルが、したいだろ?」
「ああ。そうだな……決着、つけたくないと思うぐらいに」
 そう思える程、このデュエルは楽しい。燃える、燃え上がる。
「ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
 仮面竜一体のみでは寂しいが、ヘタにモンスターを攻撃表示で出せば返り討ちである。
 ならば、どうすればよいか……。
「……………」
 ドローしたカードを確認し、少しだけ息を吐く。
「サファイアドラゴンを守備表示で召喚、カードを二枚伏せてターンエンド」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「オレのターンだ! ドロー!」
 ドローの後、ゼノンはカードをちらりと眺めてから即座に、それを断行する。
「カードを一枚伏せ……ブルー・ホーンズで、仮面竜を攻撃!」
「仮面竜の効果により、俺はデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族を特殊召喚!」
「だが、お前のデッキにもう仮面竜は無い!」
「ああ、だが仮面竜以外もまだあるさ! ランサー・ドラゴニュートを守備表示で特殊召喚!」

 ランサー・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1600
 このカードは相手守備モンスターを攻撃する時、相手モンスターの守備力を上回っている分ダメージを与える。

 俺のフィールドに槍を構えた竜人が現れ、守備形態を取る。
 だが、ゼノンはまだバトルフェイズを続行可能。為す術も無くサファイアドラゴンが消し飛ばされる。
「…………」
「並べる側から粉砕していく。ならば上級も喚べない。そうだろう、黒川雄二?」
「ああ、そうだな」
 ドラゴン族の破壊力と制圧力は底知れずだ。先に主導権を握った方が勝ちなのだ。

 だが、しかし……。
「………ん?」
 ゼノンが、息を飲む。ブルー・ホーンズの攻撃後の霧が晴れてくる。
 ようやく気付いたか。
「先ほど、仮面竜でランサー・ドラゴニュートを呼び寄せた時………このカードを発動させて貰った」
「それは……」
「ああ、速攻魔法、地獄の暴走召喚だ!」

 地獄の暴走召喚 速攻魔法
 相手フィールド上に表側表示のモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体の特殊召喚に成功した時、発動可能。
 その特殊召喚に成功したモンスターと同名のカードをデッキ・手札・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚する。
 相手はフィールド上のモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名カードを可能な限り特殊召喚出来る。

 フィールドに、三体のランサー・ドラゴニュートが並ぶ。攻撃表示で。
 ゼノンはブルー・ホーンズでこちらを攻撃するべきだった。
「………ターンエンドだ!」
「俺のターンだ……ドロー!」
 そして、其れはやってきた。まるで、この発動を予期していたかのように。いや、違う。

 俺は次のドローでこのカードが来ると解っていたのだ。

「ランサー・ドラゴニュート三体を生贄に捧げ、冥府の神竜を召喚する! さぁ、冥府より現れし神の竜よ! 俺にその力を見せろ!」

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。(1ターンに5枚まで)
 更に、攻撃力を1000ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。(除外された場合は召喚しない)

「冥府の……神竜!」
 ゼノンが呟くより先に、既に冥府の黒き神の竜は姿を現していた。
「お前のフィールドには、ブルー・ホーンズのみだ! 行くぜ、冥府の神竜! 敵を蹴散らせ、フィアーズ・ダークネス・バースト!」
「………リバース罠、レインボー・ライフ!」

 レインボー・ライフ 通常罠
 手札を1枚捨てる。このターンのエンドフェイズ時まで、自分が受けるダメージは無効となる。
 その分のライフポイントを回復する。

 ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴンが文字通り踏み潰されたが、逆にライフを回復させた。

 ゼノン・アンデルセン:LP3400→4700

「………凌いだか!」
 だがしかし、これでゼノンは貴重な手札を更に使い、もう残り1枚である。
「ライフに二倍の差が出来たけど、お前はもうこれで手札1枚か」
「う、うるせぇ………あれから神竜召喚に繋げるなんざ、流石だよ」
「ああ。ターンエンドだ」
「オレのターン! ドロー!」
 ゼノンのターンへと流れる。これで手札が二枚になる。
「……ドル・ドラを守備表示で召喚し、ターンエンド」

 ドル・ドラ 風属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1200
 このカードがフィールド上で破壊されて墓地に送られた時、そのターンのエンドフェイズ時に攻撃力・守備力1000のモンスターとして、
 フィールド上に特殊召喚する。このカードはデュエル中1度しか使用出来ない。

 双頭を持つ竜が現れ、守備形態を取る。
 手札が少ないゼノンにとって、今の状況は危機的だろう。
「俺のターン! ドロー………そして、冥府の神竜の攻撃! フィアーズ・ダークネス・バースト!」

 ドル・ドラが文字通り消し飛ばされる。エンドフェイズに戻ってくるが、一度きりだ。
「………カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「オレのターンだ! ドロー!」
 直後、ゼノンの顔つきが変わった。
 フィールドには今、攻守1000のドル・ドラが1体のみ。だがしかし、何かに繋げようとしている。
「魔法カード、異次元の贈り物を発動」

 異次元の贈り物 通常魔法
 このカードを発動したプレイヤーがゲームから除外されたカードの枚数だけ、お互いにデッキからドローする。

 ブルー・ホーンズ召喚時にモンスターを除外するのでその時の為に淹れたのだろう。
 ガイウスの効果で一枚除外されてる上に、三枚のモンスターが帰還していないので四枚。
 俺とゼノンが四枚のカードをドローする。
「……カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「……お前のフィールドには今、ドル・ドラがいる。だがしかし、そこからどうするんだ?」
「さぁな。見せてみろよ」
 その挑戦的な口調に、思わず俺はニヤリと笑った。手札増強を行ってくれたお陰で、助かった。
「俺のターン! ドロー!」
 しかし、こちらも追加モンスターを召喚出来ないのも事実だ。
 下級がいないのに最上級が集まってきている。仮面竜三体の喪失はやはり大きいか。
「フィアーズ・ダークネス・バースト!」
 冥府の神竜の攻撃の後、ドル・ドラが消え去ってついにフィールドがら空き。
「………速攻魔法、飛竜軍団の襲来を発動!」

 飛竜軍団の襲来 速攻魔法
 このカードは相手ターンのみ発動可能。
 相手フィールド上のモンスターの数だけ、飛竜トークン(風属性/星4/ドラゴン族/攻?/守?)を召喚出来る。
 このトークンの攻撃力・守備力は相手フィールドのモンスターの数×400ポイントとする。
 このトークンはドラゴン族以外の生け贄にする事が出来ない。

 だがしかし、召喚される飛竜トークンは1体のみ。

 飛竜トークン 攻撃力0→400

「……ようやくいつものカードのお出ましだな。だけど、一体だけさ」
「ああ。そうだな」
 俺がターンエンドを宣言した時、ゼノンの目が光った気がした。それは、つまり。
「オレのターン。ドロー……そして、魔法カード、多重分身を発動!」

 多重分身 通常魔法
 自分フィールド上に攻撃力1000以下のモンスターまたはモンスタートークンが存在する時発動可能。
 1000ライフポイントを支払い、自分の空いているモンスターゾーンに同じ攻撃力の「分身トークン」を可能な限り召喚する。
 このトークンは攻撃出来ない。トークンを生贄に召喚したモンスターは召喚されたターンに攻撃出来ない。

 ゼノン・アンデルセン:LP4700→3700

 飛竜トークンが五体に分身、フィールドを完全に埋め尽くす。
 そして、今はゼノンのターン。壁の確保ではない、これは生贄だと確信する。

 そう、召喚されるモンスターは―――――。

「分身トークン三体を生贄に捧げ、オレは天空の神竜を召喚! 来い、ヴェルダンテ!」

 冥府と対を為す、天空の神竜。白き、竜。

 The God Dragon of Heaven−Velldante LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 1000ライフポイントを支払う事で、墓地のモンスター1体をフィールド上に特殊召喚出来る。
 このカードが召喚された時、フィールド上の魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚を選択する。
 選択されたカードはこのカードがフィールド上に存在しなくなるまで、発動も出来ず、破壊もされない。
 効果を既に発動している場合、その効果を失う。
 フィールド上に存在するこのカード以外のカード及び自分の手札を全て除外する事で、
 相手フィールド上のカードを3枚までゲームから除外する事が出来る。

「ヴェルダンテの召喚に成功した時、フィールドの魔法・罠カードを一枚、選択してロックする……お前のそのリバースカードをロックさせて貰う」
「……だけど、まだリバースカードは二枚もあるぜ。どうする気だ?」
「生憎と攻撃出来ないんでね。ターンエンドだ」
 だがしかし、これでお互いのフィールドに神竜が存在する事になる。神の竜が。
「では、俺のターン………冥府の神竜の効果発動! 攻撃力を1000ポイント下げ、相手フィールドのカード一枚を破壊する! モンスター効果に耐性の
 無い神竜はこれで破壊させて貰うぜ!」

 The God Dragon of Hell−Iduna 攻撃力5000→4000

 冥府の神竜が口を開き、闇のブレスを天空の神竜へと叩き込み、破壊される。
「………り、リバース罠! サルベージ・アームズを発動」

 サルベージ・アームズ 通常罠
 このターン、魔法・罠・効果モンスターの効果で墓地に送られた自分のモンスターを全て手札に戻す。

 サルベージ・アームズの効果でヴェルダンテが手札に戻る。だがしかし、まだ俺のターン。
「冥府の神竜で、分身トークンを破壊! フィアーズ・ダークネス・バースト!」
 分身トークンが姿を消し、残るは飛竜トークン一体のみ。
 だが、こちらは未だに追加モンスターを召喚出来ない。悲しいことに。
「ターンエンド」
「オレのターンだ……ドロー!」

「飛竜トークンを生贄に、天界の守護竜デュランダルを召喚!」

 天界の守護竜デュランダル 光属性/星6/ドラゴン族/攻撃力2300/守備力1600
 このカードは光属性モンスターの生け贄とする際、2体分の生け贄として扱う事が出来る。
 このカードはレベル7以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。

「光属性用ダブルコストモンスターにして、レベル7以上のモンスターとの戦闘で破壊されない……」
 それはレベル12である神竜にも及ぶ。
「ターンエンド」
 そしてそのままターンエンド。当たり前だが。
「………冥府の神竜。デュランダルに攻撃! フィアーズ・ダークネス・バースト!」

 ゼノン・アンデルセン:LP3700→2400

 攻撃力4000に落ちているとはいえ、それでもその破壊力は健在だ。
 ゼノンのライフポイントが大幅に削られているのが解る。まだ、モンスターは存在するが。
「………ターンエンド」
「リバース罠、リビングデッドの呼び声を発動し、墓地に存在するドル・ドラを特殊召喚」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
 選択したモンスターが存在しなくなった時、このカードは破壊される。
 このカードが破壊された時、選択したモンスターも墓地へ送られる。

 ドル・ドラ 風属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1200
 このカードがフィールド上で破壊されて墓地に送られた時、そのターンのエンドフェイズ時に攻撃力・守備力1000のモンスターとして、
 フィールド上に特殊召喚する。このカードはデュエル中1度しか使用出来ない。

「……………さて。これで三体分の生贄確保完了。デュランダル、及びドル・ドラを生贄に捧げ、オレは天空の神竜ヴェルダンテを召喚!」

 The God Dragon of Heaven−Velldante LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 1000ライフポイントを支払う事で、墓地のモンスター1体をフィールド上に特殊召喚出来る。
 このカードが召喚された時、フィールド上の魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚を選択する。
 選択されたカードはこのカードがフィールド上に存在しなくなるまで、発動も出来ず、破壊もされない。
 効果を既に発動している場合、その効果を失う。
 フィールド上に存在するこのカード以外のカード及び自分の手札を全て除外する事で、
 相手フィールド上のカードを3枚までゲームから除外する事が出来る。

 再び姿を現した神竜は今度こそ負けないとばかりに咆哮をあげた。
「神竜で、冥府の神竜を破壊! ディストラクション・ヘブンズレイ・バースト!」
「うおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 遂に、戦況が動いた。

 黒川雄二:LP2700→1700

 攻撃力が1000下がっている冥府の神竜が消し飛ばされる。魔法・罠カードもロックされているので、発動出来ない。
「………ターンエンド」
「俺のターンだ。ドロー!」
 次のターン。せめて何とか戦況を覆すカードが……欲しい。

「………速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」
「リバース罠、合わせ鏡!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振り、出た目の数だけドローする。
 このターンのエンドフェイズ時、出た目以下の数になるよう、手札を捨てなければならない。

 合わせ鏡 カウンター罠
 相手が片方のプレイヤーのみに効果のある魔法・罠カードを発動した際に発動可能。
 お互いのプレイヤーがその魔法・罠カードの効果を受ける。

「げっ、お前も伏せてたのかよ!? まぁ、いい。サイコロを振るぜ!」
 これで俺だけでなくゼノンもドローする事が可能になった。出た目は……4。

「「カードを四枚ドロー!」」

 さて、この四枚のカード。吉と出るか凶と出るか……?



《第41話:自分だけが出来るコト》

 黒川雄二:LP1700 ゼノン・アンデルセン:LP2400

 The God Dragon of Heaven−Velldante LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 1000ライフポイントを支払う事で、墓地のモンスター1体をフィールド上に特殊召喚出来る。
 このカードが召喚された時、フィールド上の魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚を選択する。
 選択されたカードはこのカードがフィールド上に存在しなくなるまで、発動も出来ず、破壊もされない。
 効果を既に発動している場合、その効果を失う。
 フィールド上に存在するこのカード以外のカード及び自分の手札を全て除外する事で、
 相手フィールド上のカードを3枚までゲームから除外する事が出来る。

 お互いに手札が四枚増やされ、俺もゼノンもその手札を確認している。
 ライフの差が開けば、かなりマズい。
 しかし、それより先に問題は俺の目の前にいる天空の神竜だった。

 冥府の神竜が墓地に落ちた以上、俺にはサルベージ手段が無い。ならば、どうすれば良いか。
 今、ここにある手札だけでぶつかっていくだけだ。
「………手札より、黒竜の雛を召喚。更に、黒竜の雛を墓地に送り、真紅眼の黒竜を召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上で表側表示のこのカードを墓地に送る事で手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「……攻撃表示なのか?」
 ゼノンが怪訝そうに俺を見つめる。まるで気でも狂ったか、と言ったような顔だ。
「おうよ。何故なら………」

 まだ、コンボは続くからだ。

「真紅眼の黒竜を墓地に送り、真紅眼の闇竜を召喚!」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 このカードは自分の墓地のドラゴン族モンスター1体に付き攻撃力が300ポイントアップする。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→5700

 俺の墓地には既に神竜も含めて11体のドラゴン族がいる。闇竜の攻撃力上昇効果のお陰で、既に天空の神竜の攻撃力を上回っていた。
「攻撃力5700だとぉ!?」
「見せてやるぜ、お前に! ダークネス・ギガ・フレイム!」
 闇竜の攻撃が、神竜へと吸い込まれていく。
 だが、神竜は……敗れなかった。
「……なっ!」
「速攻魔法、ヒューマンズ・シールドを発動させて貰った」

 ヒューマンズ・シールド 速攻魔法
 このカードが手札に存在する時、1000ライフポイントを支払う事で相手ターンでも発動出来る。
 手札に存在するレベル3以下のモンスター1体を守備表示で召喚出来る。

「……ヒューマンズ、シールドだと……」

 ゼノン・アンデルセン:LP2400→1400

「この効果で、手札に存在するフェイクドラゴを特殊召喚させて貰った。そして、フェイクドラゴの効果により、神竜への攻撃はこちらに直撃した訳だ」

 フェイクドラゴ 光属性/星2/ドラゴン族/攻撃力1000/守備力200
 フィールド上にこのカード以外のドラゴン族モンスターが存在し、攻撃対象に選択された時、その攻撃対象をこのカードに変更する事が出来る。

 フェイクドラゴに攻撃を逸らし、守備表示故にダメージはゼロ。
 神竜が見事に守り通される訳だ。
「……カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
「奇跡のダイス・ドローの効果により、オレは手札を一枚捨てる。そしてオレのターン!」
 ゼノンはドローしたカードを見て、視線を俺に向けてきた。
「……黒川雄二」
「なんだ?」
「お前は……昨日。十代とのラストターンで。お前は、確実に負けていた」
「ああ。そうだば」
「なのに、何故攻撃した?」
 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV11の攻撃力は40000以上、それに対してこちらは20000程度。
 確かに、勝ち目はなかった。
「……なんつーかな。向こうが全力を出してきたのに、全力で応えないのは失礼かなと思っただけさ。お前もそうさ。俺は全力でやってやるぜ。
 だからな……だから……………見せて欲しい。天空の神竜なんかじゃねぇ、お前の魂を見せてくれよ。俺の、魂、真紅眼に!」
「……魂………」 ゼノンは呆然と呟くと、手札を眺めた。
「七つの宝玉を揃えた時、伝説の虹の竜は現れた。手にしたのは俺じゃない。だけど………黒川雄二。オレは……オレは魂と呼べるカードが、オレには、
 オレにはあった! レインボー・ドラゴンをそのカードにしたかったけれど、持ってないオレにはこのカードしかない……だが!」

「全力で来るお前に、オレはこのカードで応えてやる! 儀式魔法、深淵からの解放を発動!」

 深淵からの解放 儀式魔法
 「深淵の蒼氷竜」の降臨に必要。レベル8以上になるよう、手札及びフィールドから生贄を捧げなければならない。

 儀式魔法、という事は儀式モンスター。
 何を降臨するかは問題ではない。奴の、奴の最高のカードが、この目の前に現れるという事だ。
「……生憎と今、手札にモンスターカードはこの深淵の蒼氷竜しかいない。だが、フィールドには存在する!」
「なにっ……まさか………」
 まさか、ゼノンの奴。
 俺が確信するより先に、奴は宣言した。
「天空の神竜ヴェルダンテを生贄に捧げ、オレはこのモンスターを召喚する! 出でよ、深淵の蒼氷竜フォルセティア!」
「か、神を生贄に!?」
「ああ、そうだ! それこそが、オレに相応しい! 紛い物の神など、もう要らない! 最も美しく、そして強靱なドラゴンを見せてやる!」

 深淵の蒼氷竜フォルセティア 水属性/星8/ドラゴン族/攻撃力2800/守備力2700/儀式モンスター
 「深淵からの解放」の効果により降臨。レベル8以上になるよう、生贄を捧げなければならない。
 カードの効果によって自分フィールド上のカードが破壊される場合、このカードをエンドフェイズまで除外する事で破壊を無効に出来る。
 このカードの召喚に成功した時、相手の墓地に存在する最も攻撃力の高いカードを装備カード扱いにして装備する。
 そのモンスターの攻撃力の半分だけ、このカードの攻撃力をアップさせる。


 天空の神竜が消え去ると同時に、ゼノンのフィールドに、巨大な氷塊が現れた。
 観客達が、俺が、誰もが沈黙する。
 氷の中に眠る蒼の竜が、眼を開く。

 長きに渡る深淵から、遂に解放される。蒼き氷の竜が。

「……目覚めよ。本当に待たせたな、フォルセティア」

 ゼノンがそう呟くと同時に、氷塊は真二つに砕け、竜が翼を広げる。

 鋭い、というより流線型のフォルム。蒼い翼を広げ、フィールドに舞うその姿は、幻想的で、美しい。

 ここまで美しいモンスターを、俺は見た事が無い。

「……深淵の、蒼氷竜」
「オレの、本当のエースだ………お前を葬るのに、このカードこそ、相応しい」
 ゼノンがそう呟くと同時に、深淵の蒼氷竜はゼノンを包むかのように翼を折った後、再び翼を広げて闇竜を睨む。
 闇竜も同じように睨み返す。
「深淵の蒼氷竜の効果発動! このカードの召喚に成功した時、相手の墓地に存在する最も攻撃力の高いカードを、装備カード扱いにしてこのカードに装備。
 そのカードの攻撃力の半分の数値分、攻撃力を増加させる……即ち、冥府の神竜イドゥナを、装備カードとする! アビス・エネミーブレイン!」

 蒼氷竜が翼を羽ばたかせ、俺の墓地から冥府の神竜が実態の無い姿で姿を現す。
 冥府の神竜が蒼氷竜の中に消えると同時に、威圧感が増した。

 深淵の蒼氷竜フォルセティア 攻撃力2800→5300

「このカードの攻撃力はこれで5300……まだ、足りない。カードを二枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターンだ……ドロー!」
 ゼノンのフィールドにはリバースカードがある。

 だが……ここで、恐れては、負ける。

「真紅眼の闇竜を墓地に送り……俺の魂、その全てに刻みつけろ! 真紅眼の最終進化形態、真紅眼の闇焔竜を召喚!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

「真紅眼の闇焔竜の効果発動。ライフの半分を支払い、墓地に眠る真紅眼と名のつくモンスターの効果を得る……闇竜の効果を得る!」

 黒川雄二:LP1700→850

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→7100

「攻撃力7100だと!」
「まだだ、まだ終わっちゃいない!」

 このコンボを、ここで止める訳には行かない。俺にはまだ、手札が残っている。
「速攻魔法! ブラッド・ヒートを発動!」

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 黒川雄二:LP850→425

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力7100→12700

「なっ……!」
 究極にして最強の、単純だがそれ故に強力なコンボ。
 蒼氷竜を迎え撃つのには、充分な力を誇るカード群だ。
「……ゼノン。お前に見せてやる! これが俺の全て! 行け、ダークブレイズ! ダーク・ブレイズ・キャノン!」
「速攻魔法! 収縮を発動!」

 収縮 速攻魔法
 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
 選択されたモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで半分にする。

 収縮。防御に使える速攻魔法として有名だ。
 まさかそんな基本的な対策を見落としていたとは、情けないかも知れないが、まだ手はあるだろう。

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力12700→6350

「……闇焔竜の攻撃力はこれで6350。まだ、深淵の蒼氷竜を破壊出来る!」
「ああ。だが、まだオレにはこのカードがある! 二枚目のリバース速攻魔法、ライド・オブ・ユニオンを発動!」

 ライド・オブ・ユニオン 速攻魔法
 デッキの1番上のカードを墓地に送る。
 デッキよりユニオンモンスターを1体選択し、フィールドのモンスターに装備する。

「この効果で、オレはウォータリング・アーマーを選択し、深淵の蒼氷竜にユニオン!」

 ウォータリング・アーマー 水属性/星6/戦士族/攻撃力1200/守備力3000/ユニオンモンスター
 このカードはフィールド上に存在するレべル8以上の水属性モンスターに装備カードとして装備する。
 このカードを装備したモンスターは攻撃力・守備力が1200ポイントアップする。
 このカードは墓地に送られた時、ゲームから除外される。このカードは自分のスタンバイフェイズ毎に700ポイントのライフコストを支払う。
 支払わなければこのカードを破壊する。

 深淵の蒼氷竜フォルセティア 攻撃力5300→6500

「これで、お前のモンスターの攻撃力を上回った! 迎撃しろ、フォルセティア! 蒼き冷たい深淵から、遠く広き世界へと翔べ、深淵の蒼氷竜!
 ファントム・シューティングスター・ブラスト!」

 その攻撃は、文字通り一瞬だった。

 黒川雄二:LP425→275

「……闇焔竜は、戦闘で破壊された時、召喚する際に墓地に送った真紅眼をフィールドへと呼び戻す。闇竜を墓地から特殊召喚」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 このカードは自分の墓地のドラゴン族モンスター1体に付き攻撃力が300ポイントアップする。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→6000

「カードを一枚伏せ………ターンエンド」
 俺がターン終了を宣言すると、ゼノンは即座に自分のターンに入る。
「オレのターン……これで、全部終わる。オレが勝つんだ! 行け、フォルセティア! ファントム・シューティングスター・ブラスト!」
 蒼氷竜の口が開かれ、その破壊の光線が放たれる前に。

 俺はもう、あのカードを伏せている。

「決着つけてやろうじゃねぇか、ゼノン! リバース罠! モンスターBOX!」

 モンスターBOX 永続罠
 相手モンスターが攻撃する度にコインの裏表を当てる。
 当たりの場合、相手モンスターの攻撃力は0になる。
 自分のスタンバイフェイズ毎に500のライフポイントを支払う。払わなければこのカードを破壊する。

「モンスターBOX……ギャンブルカードか!」
 ああ、そうだ。コイントスの裏表で、命運が決まる。
 攻撃が通ればゼノンの勝ち。効果が発動されれば俺の勝ち。
「運命のコイントスだ! 選択するのは……」
 言いかけて、少しだけ迷う。

 こんな感じに託すのはおかしいが、それでも師匠。アンタの強運を、ほんの少しだけ分けて下さい。

 少しだけでも、いいから。

「選択するのは、裏だ!」

 そして、コインを投げる。
 フィールドに落ちて、1回跳ね上がった後、遂に完全に落ちた。

 息を飲む。表示は―――――――。

 深淵の蒼氷竜フォルセティア 攻撃力6500→0

 裏だ。

「……闇竜、迎撃しろ! ダークネス・ギガ・フレイム!」
「っ………そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 ゼノンの叫びと共に、その蒼き竜は姿を消していった。

 ゼノン・アンデルセン:LP1400→0

「…………勝った……」
「………くそ、負けた、か………」
 息を飲む。これで……これで、俺は。
「……勝者! 黒川雄二! 第2回バトル・シティ、決勝進出決定!」
 月行さんの声が響き、フィールドが拍手に沸いた。
「……くく…………はは、はははははっ! いやー、参った、参った。雄二、お前すげぇな」
 ゼノンはそう笑いながら顔を上げる。
 今までとは全然違う、笑顔の奴がそこにいた。
「いやー、ゼノン……お前も相当強いぜ。今回は俺が勝ったという訳で」
「あー、畜生。次はぜってー勝ってやる」
 ゼノンはそう肩を竦めると、デッキをシャッフルしながらまた口を開いた。
「いいか、雄二。次に会う時は、オレが勝つぜ」
「はっ、いいねぇ。待ってるぜ。……お前、引退じゃないのか?」
「引退? そんなの取りやめだ。お前を倒すまでデュエルを続けるさ。お前を倒すのはこのオレだ!」
「いいねぇ、それまで絶対負けないからな。覚えとけよこのヤロウ!」
「当たり前だバカヤロウ」
 ゼノンはそう言い放つと、笑いながらくるりと背を向けてフィールドから去っていくのだった。
 さて。
「……貴明、晋佑」
「「ん?」」
 いつの間にか戻ってきていた二人に視線を戻す。次の対戦は、この二人のどちらか。

「先に決勝で待ってるぜ!」
「「いいぜ……勝つのは俺だ!」」



 オレは、フィールドから出ると、アカデミアの廊下へと入った。
 準決勝第二戦の用意でもしているのだろう、フィールドの方が騒がしく聞こえる。
 もう、オレには関係のない事だが。オレがそう思いかけた時だった。
「ようやく追い付きましたね」
 背後から声をかけられる。声の主は恐らく、審判を務めていた天馬月行だろう。
「何か?」
「ええ……そのカードを見るのは久し振りだなと思いまして。貴方は大事に扱っているようですね」
「………何?」
 そのカード、というのはと言いかけた時、天馬月行は手だけでオレのデッキを示した。
 墓地にはちょうど、最後に破壊された深淵の蒼氷龍が表で乗っていた。
「……そのカードはペガサス様が貴方に差し上げたものですから」
「はっ、そんなバカな――――」
 そんな筈は無い。

 だってこのカードはオレが、ヨハンの机に置かれていたのを盗んだものだ。

「ペガサス様がヨハン・アンデルセンに眼を掛けており、世界の五本指に入るデュエリストとして見ていたのも事実です。ですが、ペガサス様は貴方も
 いずれはそれに劣らぬデュエリストになるであろうと、そしてその時に、そのカードを使って欲しかった」
「……………このカードはオレが盗んだものさ。たまたま机の上に置かれていた奴をね。だからこのカードはヨハンのものだ」
「ならば、返すのですか?」「いいや」 当たり前だ。そんな気などさらさらない。
 それに……。
「こいつとの付き合いが長いんでね。今さら手放す気にもなりゃしないさ」
「そうですか……大事にして下さいね」
 オレは何も答えずに、ただ手だけを上げて戻る事にした。

 だが、それでも。

 このカードは、本当にオレの為にデザインされたのだろうかと。

「………そんなバカな話があるかよ、なぁ、フォルセティア……」

 自嘲しながら、空を見上げた時だった。


 オレの頭上を、蒼い竜が飛び去っていくのが見えた。

 長い間、封じられてきた蒼い竜は今、翼を広げて飛び立ったのだ。

 オレの中に封じられ続けた、蒼の竜は。



「……次は負けないぜ、黒川雄二。このカードに賭けて、な」

 蒼い竜は、何も答えはしなかったが、翼を広げて空高く飛び立っていった。
 それが、答えのように見えた。



《第42話:意地と意地》

「準決勝第2試合です」
 月行さんの声が響き、俺と晋佑はそれぞれフィールドへと向かった。
 こうして、晋佑とデュエルするのはかなり久し振りだと思う。

 あの頃は、どんな戦いをしていたのだろう。

「……晋佑」
「なんだ?」
「……お前は、どうして俺らと違う道を選んだんだ?」
「……………さぁな。ただ、一つだけ言える事は、例え始まりこそ同じでも、俺達は違う道を選んだ。ただ、それだけの事だ」
「そうか」
 俺はそう答えると、晋佑に手を差し出す。
 今までも、晋佑と握手をした覚えは無かったなと思いながらも。
「……握手?」
「ああ」
「……健闘を」
 お互いに、そう頷いた。



「準決勝第2試合、宍戸貴明vs高取晋佑! 両者、フィールドへ!」

「「デュエル!」」

 準決勝が、遂に始まる。

 宍戸貴明:LP4000 高取晋佑:LP4000

「俺の先攻ドロー!」
 勝ち残った方が、栄光へと続く道へ足を載せる。敗者は、消える。
 俺達の中だけで争う、最後の戦いへの開幕戦。
「俺は、手札よりD.D.アサイラントを攻撃表示で召喚!」

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
「俺のターン」
 見せてくれよ、晋佑。俺は必ず勝つ。お前には、負けないと決めたから。
「ドロー。手札より、蒼刃の鋼騎士セイバーナイトを召喚!」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「セイバーナイトの効果で、デッキよりホワイトナイトを手札に加える」

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

 やはりギアナイトの速攻召喚を狙うようだ。晋佑のデッキの恐怖はその速効性だろう。
 更に、罠封じのサイコ・ショッカーまでもがあるし、晋佑の戦略は時として凄まじい恐ろしさを発揮する。
 理恵とのデュエルで見た先読みの更に先読み、文字通り3ターン先を行くデュエルは驚きだった。
「(だがしかし、攻撃をさせなければ……)」
 そう、攻撃をさせなければアウトである。
 しかし晋佑がその程度の事に気付かない筈が無いだろう。もう、既に何かを組み立て始めているのかも知れない。
「セイバーナイト……アサイラントに攻撃! シェアストライク!」
 蒼い鋼の刃がアサイラントを真っ二つに切り裂き、霧散させた。
「アサイラントの効果発動! 戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードを除外する!」
 アサイラントの消え失せた次元の渦にセイバーナイトが吸い込まれ、お互いのフィールドがカラになる。

 宍戸貴明:LP4000→3900

「だとでも思っていたのか、貴明! 魔法カード、二重召喚を発動! 手札のホワイトナイトを守備表示で召喚!」

 二重召喚 通常魔法
 このターン、通常召喚を二回行う事が出来る。

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

「ホワイトナイトの効果で、手札にフレイムナイトを加える! カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

 やはり、展開力が違いすぎる。
 ガジェットよりも早く手札に揃い、磁石の戦士よりも素早く結合出来る。
 その能力は圧倒的。完全なる布陣。
「流石だぜ、晋佑。俺のターン! ドロー!」
 しかし続いては俺のターン。今度はどうするか……。
「…………ホワイトナイトの守備力は2000、だがそれを上回る最大のアタッカーが、此処にいる! 出でよ、革命を告げる機竜!
 俺はサイバー・ドラゴンを自身の効果で特殊召喚!」

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードを手札より特殊召喚出来る。

「そして続けて通常召喚を使うぜ! 闇魔界の戦士ダークソードを召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

 機械の竜と闇魔界の戦士が同時に並ぶ。
「頼りにしてるぜ」
 そう呟き、晋佑のフィールドを見据える。
 ホワイトナイトのみ。サイバー・ドラゴンでさっくり倒し、ダークソードで追撃が可能。大ダメージを狙える。
「行けぇ、サイバー・ドラゴン! 俺の道を切り開け! ホワイトナイトに攻撃、エボリューション・バースト!」
 サイバー・ドラゴンの口から放たれる光の渦がホワイトナイトを襲う。
 鋼騎士達の中で最も守備力の高い白銀の鋼騎士もその攻撃には耐えきれず、散っていった。
「くっ……!」
「これで終わりじゃないぜ! ダークソードで、ダイレクトアタック!」
「そうはさせるか! リバース罠、攻撃の無力化を発動!」

 攻撃の無力化 カウンター罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「くそっ!」
 ライフを削る事は出来なかったが、こっちはモンスター二体がいる。
 晋佑の手札にあるフレイムナイトとサイバー・ドラゴンが相打ちになったとしても、まだダークソードが残っている。
「ターンエンド」
「俺のターン……ドロー! 生きる壁が必要だ……手札より、魔鏡導士リフレクト・バウンダーを召喚!」

 魔鏡導士リフレクト・バウンダー 光属性/星4/機械族/攻撃力1700/守備力1000
 攻撃表示のこのカードが相手モンスターに攻撃された時、相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。
 その後、このカードを破壊する。

「更に魔法カード、天使の施しを発動!」

 天使の施し 通常魔法
 デッキからカードを3枚ドローし、その後手札から2枚を墓地に送る。

「……カードを一枚伏せて、ターンエンド」
 流石は晋佑である。リフレクト・バウンダーを攻撃すれば破壊は出来てもダメージを喰らうのは確実。
 ダイレクトアタックを追撃で浴びせてもライフの差はあまり出ない。
「(流石だぜ……)」
 見事な戦略。だがしかし、それを踏み越えなくては、勝利は無い。
「晋佑。俺はさ……お前の事、羨ましいと思った事があるんだ」
「え?」
 俺の言葉に、晋佑は怪訝そうな声を返した。
「黒川雄二は全てを跳ね返す機転が、高取晋佑には時として神にも対抗出来る戦略が、そして俺には、どんな逆境をも力に変える強運がある。
 だけどさ………それだけでデュエルに勝てる筈も無いし、正直言うと、デュエリストとしてのレベルは多分、俺よりも二人の方がずっと上だ
 と思う。けどな……」
 だけど、だけどそれでも。

 丸藤亮という一つの壁を越えた俺なら、もしかしたらと。

「だけど、それらを越えてこそ、師匠の言ってた、真のデュエリストになれるかも知れない」


「………フッ。お前らしいな、貴明」
 晋佑はそう言って笑った。
「……そして、そういうお前だから、戦ってて、楽しかった。そして、お前達の力が、本当にいいものだって解ったかも知れない。俺はバカなことをしてたさ」
 晋佑はそう言ってから「お前のターン」と促す。
 ああ、俺のターンだ。
「行くぜ1 ドロー!」
 ダメージ覚悟で突撃するか、それとも。
「カードを一枚伏せて、ターンエンド」
 ここは、攻撃せずに伏せておこう。まだ、二体もいるのだ。焦る事は無い。
「俺のターンだ。ドロー!」
 次の瞬間、晋佑の顔色が変わった。
「手札より、紅蓮の鋼騎士フレイムナイトを召喚!」

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

「フレイムナイトの効果で、セイバーナイトを手札に加える!」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「………フレイムナイト。ダークソードに攻撃! ジップフレイム!」
「そうは、させるか! リバース速攻魔法、ライド・オブ・ユニオンを発動!」

 ライド・オブ・ユニオン 速攻魔法
 デッキの1番上のカードを墓地に送る。
 デッキよりユニオンモンスターを1体選択し、フィールドのモンスターに装備する。

「この効果で、俺は騎竜を選択。ダークソードに装備するぜ!」

 騎竜 闇属性/星5/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1500/ユニオン
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「闇魔界の戦士 ダークソード」に装備、
 または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カードになっている場合にのみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は900ポイントアップする。
 装備状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、装備モンスターはこのターン相手プレイヤーに直接攻撃ができる。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
 装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力1800→2700

 ダークソードの元へ紅き竜が現れ、ダークソードが騎乗する。
「……迎撃しろ、ダークソード! フレイムナイトを葬れ!」

 高取晋佑:LP4000→3400

「ぐおっ………くそ……」
「流石の鋼騎士も、並べる側から倒されちゃ意味ねぇよなぁ?」
「やるな、貴明……」
 だがしかし、晋佑のターンはまだ終わっていない。
「ターンエンドだ」
「俺のターン!」
 このまま攻撃に繋げれば、大ダメージを見込める。
 ならば、行くしかない。
「サイバー・ドラゴンで、リフレクト・バウンダーを攻撃! エボリューション・バーストォォ!」
「リフレクト・バウンダーの効果発動! 攻撃を受けた時、相手はそのモンスターの攻撃力分のダメージを受ける!」

 魔鏡導士リフレクト・バウンダー 光属性/星4/機械族/攻撃力1700/守備力1000
 攻撃表示のこのカードが相手モンスターに攻撃された時、相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。
 その後、このカードを破壊する。

 宍戸貴明:LP3900→1800

 2100という強烈なダメージが来る。だがしかし、それは晋佑にも言える事だ。

 高取晋佑:LP3400→3100

「続けて、ダークソードでダイレクトアタック!」
「……今だ! リバース罠、マシンナーズ・ジェネシスを発動!」

 マシンナーズ・ジェネシス 通常罠
 墓地に機械族モンスターが三体以上いる時、発動可能。
 その機械族モンスターを三体選択して除外する事で「星屑の機神」を特殊召喚出来る。

 初めて見るカードだった。晋佑のデッキはどうやら機械族が多めで統一されているらしい。
「墓地のセイバーナイト、ホワイトナイト、フレイムナイトを除外し、手札の星屑の機神-スターダスト・ドラゴン-を特殊召喚!」

 星屑の機神-スターダスト・ドラゴン- 光属性/星8/機械族/攻撃力3000/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。「マシンナーズ・ジェネシス」の効果でのみ特殊召喚出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上のモンスターを破壊する効果を持つカードの発動を、手札を一枚墓地に送る事で無効に出来る。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚時に除外したモンスターを特殊召喚出来る。

 遠く、星の空から現れた機神は、竜の姿を思わせる。
 まさに名実ともに、星屑の機神。恐らく、その攻撃力も相まって、破壊力抜群に違いない。
「………星屑の機神の攻撃力は3000! 騎竜をユニオンしたダークソードよりも上だ……迎撃しろ、星屑の機神!
 スターダスト・フォース・インパクト!」

 その機械の腕を伸ばし、ダークソードと突進。
 文字通り騎竜がその拳に粉砕され、竜を失ったダークソードが地面へと降り立つ。

 宍戸貴明:LP1800→1500

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力2700→1800

「………おいおい、晋佑お前……」
「ふっ、驚いたか貴明? だけど、まだまだだ! もっと楽しませてくれよ!」
「当たり前だろーがぁぁぁぁぁ!」

 見せてやる。お前をねじ伏せ、先に待ってる雄二も倒して、俺が。

 決闘王に、俺は、なるんだ!





 アカデミアの医務室は意外と解りにくい場所にあった。大丈夫なのだろうか。
 医務室担当の教諭は俺を見て驚いたようだが、十代の友人という適当な嘘をつくとあっさり信じ込んだ。いいのか、それで。
「十代君なら、もう目を覚ましてます。十代君、お友達ですよ」 医務室の教諭が離れていき、俺はベッド脇に立つ。
「よう。随分と酷いツラのままだな」
「……ん? ああ。そうだな、黒川雄二」 十代はベッドから身体を起こす。まだ顔に血の気はないが、さっきよりはマシになったのだろう。腕には包帯がぐるぐる巻きにされていた。
「準決勝は?」
「ただいま第2試合。俺は第1試合で勝ったから」
「そうか」
 静かな沈黙。
 十代としては話しかけづらいのだろう。あれだけの事をしたとしても、やはり罪悪感ぐらいはあったに違いない。
 意外と、いい奴なのかも知れないな。俺はそう思った。
「……………本当に、俺は、酷い事をしてきたのかな」
「だろうな。どんな理由であったにせよ、お前がしるしてきた道のりは、もう新しい歴史になっちまってる。善行も、悪行もな」
 俺の言葉に、十代が少しだけ顔を伏せる。
「だけど、そこまでしても、助けたかったんだろ?」
「ああ」
 十代の手が机の上に置かれた、血に濡れたデュエルディスクに伸びる。
 セットされているデッキと、もう一つのデッキ。
「1週目の世界で、俺と共に戦い続けたデッキだ。元々は三四が見てみたいって言ってさ……ネオスも、三四が、こんな風にデザインしてくれとか言って。
 それで、出来た。俺がデュエリストになったのも、三四がいたからだ」
「………………」
「だから、嫌だった。三四がいない世界が、俺には、そんな世界が想像出来なかった……だから………」
 あの時と同じように、十代はそっと涙を流そうとしていた。
 どうしてここまで、涙を流しても、戻らないものもあるけれど。
「羨ましいぜ、十代。あんたと、妹さんの絆が」
 俺の言葉に、十代が顔を上げる。
「どうしてだよ?」
「俺にも兄弟いるけど……なんつーかな。喧嘩別れしてきたからさ」
「そうなのか?」
「まぁ、もう一人暮らし長いからだいぶ慣れたけどな? けど……やっぱ寂しいってのは、解るかも」
 今ごろ、どうしているのだろう。
 姉も、双子の兄も。どうしているのだろうか。
 今度会いに行こうかな、と俺はそう思った。



《第43話:ラスト・ダンス》

 宍戸貴明:LP1500 高取晋佑:LP3100

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードを手札より特殊召喚出来る。

 星屑の機神-スターダスト・ドラゴン- 光属性/星8/機械族/攻撃力3000/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。「マシンナーズ・ジェネシス」の効果でのみ特殊召喚出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上のモンスターを破壊する効果を持つカードの発動を、手札を一枚墓地に送る事で無効に出来る。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚時に除外したモンスターを特殊召喚出来る。

 俺のフィールドにはダークソードとサイバー・ドラゴン。
 それに対して晋佑のフィールドには星屑の機神が存在する。どうしたものだろうか。
「カードを一枚伏せて、ターンエンド」
 晋佑のターンが終わり、俺のターンに移る。
「俺のターン! ドロー!」
 さて、本当にどうやって倒したものだろうか……上手く、倒す方法は無いものか。
 手札を確認する。ここは守りに徹するしか無いかも知れない。
「カードを一枚伏せて、サイバー・ドラゴン及びダークソードを守備表示に変更。ターンエンド」
 結局、それぐらいしか出来なかった。まぁ、今の状況から攻めに転ずるにはカードが足りない。
 後はカードが揃うまで我慢の子だ。
「俺のターン。手札より、蒼刃の鋼騎士セイバーナイトを召喚」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

 天使の施しで墓地に一度捨てたのがマシンナーズ・ジェネシスで除外され、更にその前にアサイラントの効果で除外されている。
 つまり、セイバーナイトはこれで三体目。
 このセイバーナイトを除外すればギアナイトの召喚は免れるだろう。
 いや、星屑の機神を戦闘破壊されればそれだけでギアナイトを召喚出来る。ならば、どうすれば良いか。
 俺がそんな事を考えていてもまだ晋佑のターンだ。
「星屑の機神で、サイバー・ドラゴンを! セイバーナイトで、ダークソードを攻撃! スターダスト・フォース・インパクト!」
 サイバー・ドラゴンとダークソードが文字通り粉砕され、姿を消す。
「ターンエンド」
 これで、俺のフィールドはがら空き。ならば、そろそろあのカードの出番だ。
「俺のターン! ドロー!」
 来た。
「儀式魔法カード、深き冥界との契約を発動!」

 深き冥界との契約 儀式魔法
 「冥界の魔剣士」の降臨に必要。レベル7以上になるよう、生け贄を捧げなくてはならない。

 深き冥界との門が開かれる。
 その先に待つ剣士の為に。
「手札のバスター・ブレイダーを生贄に、冥界の魔剣士イグナイトを召喚!」

 冥界の魔剣士イグナイト 闇属性/星7/戦士族/攻撃力2700/守備力2100/儀式モンスター
 儀式魔法「深き冥界との契約」より降臨。手札またはフィールドよりレベル7以上になるよう生け贄を捧げなければならない。
 相手守備モンスターを攻撃する際、攻撃力が守備力を上回っている分だけ余剰ダメージを与える。
 このカードの召喚に成功した際、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て手札に戻す。
 手札を1枚捨てる事で相手フィールドにあるこのカードの守備力より低い守備力のモンスター1体を破壊する。

 冥界の魔剣士イグナイト。
 身長ほどもある大剣を構え、敵に挑みかかるその姿はまさに圧巻。

「イグナイトの効果により、召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て手札に戻す」
「っ!」
 晋佑の手札が増えていくが、つまりこれで。
「リバースカードが無くなった。攻撃を阻む手段は無い」
 こちらの攻撃が妨害される事は無い。安心して攻撃が出来る。
「更に、速攻魔法、収縮を発動! 星屑の機神の攻撃力は、これで半分だ」

 収縮 速攻魔法
 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
 このターンのエンドフェイズまでそのモンスターの攻撃力は半分になる。

 星屑の機神-スターダスト・ドラゴン- 攻撃力3000→1500

 機神が小さくなっていく。攻撃の、良いタイミング。
「行けぇ、イグナイト! 煉獄の葬冥斬!」
「っ……!」
 イグナイトの一撃が、星屑の機神を葬り、晋佑のライフを削る。

 高取晋佑:LP3100→1900

「くそ……やりやがったな! だがしかし、星屑の機神の効果で、除外していた鋼騎士達がフィールドに戻ってくる!」

 そう、晋佑の言う通り。三体のモンスターが晋佑のフィールドに鎮座していた。

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「この効果で、デッキのホワイトナイトとフレイムナイトを手札に銜える……」
 晋佑のモンスターがあっという間に増強される。
 だが、それは解りきっていた事だ。
「リバース罠、因果切断!」

 因果切断 通常罠
 手札を1枚捨てる。相手フィールド上に存在するモンスター1体を除外する。
 相手の墓地に同名カードが存在した場合、それも除外する。

「この効果で、晋佑のフィールドのフレイムナイトを除外!」
 因果切断のせいか、フィールドのフレイムナイトが消え失せる。手札にフレイムナイトがいるから一見、なんら問題はないのかも知れない。
 だが……!
「そして魔法カード、手札抹殺! とは言っても……俺はこれが最後の手札だがな」

 手札抹殺 通常魔法
 お互いに手札を全て墓地に送り、墓地に送った枚数だけデッキからカードをドローする。

 俺の手札の最後の一枚がこの手札抹殺。
 捨てるカードもドローするカードもゼロ。だがしかし。晋佑の手札には鋼騎士軍団の最後の軍勢が鎮座している訳で。
「……お前、まさか……!」
「お前のデッキにもう鋼騎士は残ってない、そしてフィールドには紅蓮が欠けている! これでギアナイトの召喚は封じたぜ!」
 そう、これで鋼騎士達の合体は防止出来る。
 フレイムナイトの攻撃力にはセイバーナイト、ホワイトナイトは劣っている。場持ちは良くても合体しなければ一般アタッカークラス。
 決して怖いとも思える相手ではない。
「ターンエンドだ!」
 俺がそう言った時、晋佑は少しだけ笑った。
「ああ、確かにギアナイトの召喚は封じられたな」
 そう、自嘲するように呟く。だが、どこかおかしい。
「……お前は大事な事を忘れている。そう、大事なモンスターを忘れている」
 晋佑の言葉。

「俺のフィールドに三体のモンスターを残した事が、お前の敗因だ宍戸貴明! 行くぞ、俺のターン! セイバーナイト2体、及びホワイトナイトを生贄に
 捧げ………これを見た事を光栄に思え、貴明! 混沌の神竜オーデルスを召喚!」

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

 The God Dragon of Chaos−Ordelus LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードは通常召喚する際、3体の生け贄を必要とする。このカードを対象とする魔法・罠カードの影響を受けない。
 このカードは闇属性としても扱う。自分フィールド上に存在するカードを1枚墓地に送る毎に、攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが破壊される時、ライフポイントを半分支払う事でその破壊を無効に出来る。
 自分ターンのバトルフェイズ時、その時点でのライフポイント総てを攻撃力に加算する事が出来る。
 ただし、この効果を使用したターンのエンドフェイズ迄に勝利しなければ自分はデュエルに敗北する。
 召喚する際、墓地に存在する光属性または闇属性のモンスターを1体ずつ除外する事で、以下の効果を得る。
 ・相手フィールド上にモンスターが3体以上いる時、1体を除外する事が出来る。この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。
 ・戦闘で相手モンスターを破壊し、相手に戦闘ダメージを与えた時、もう1度相手モンスターを攻撃出来る。
 フィールド上に「The God Dragon」と名のつくカードが存在する時、このカードは以下の効果を得る。
 ・バトルフェイズ時、相手モンスターの攻撃力が上昇した分だけ、このカードの攻撃力は上昇する。

「こ、こ、こ、混沌の、神竜ぅぅぅぅぅぅぅ!?」
 まさか、まさかこのタイミングでこれを仕掛けてきたか。
 くそ、これは予想外。まさに予想外だ。
「はっ、驚いたか貴明! これが俺の真骨頂だ!」
 まさにその攻撃力は圧巻。だがしかし。終わるにはまだ早い。
「………神竜に、魔法・罠カードはあまり意味を成さない。お前のお得意のギャンブルは通じないさ」
 晋佑の言葉に、確かにその通りだなと思う。
 だが。
「混沌の神竜で、イグナイトを攻撃! カオス・スパイラル・バースト!」
「リバース罠、幻影の水鏡を発動!」

 幻影の水鏡 通常罠
 このターン、受けるダメージを半分にする。

 イグナイトが混沌の神竜に破壊され、姿を消す。
 だが、辛うじてライフは残されている。

 宍戸貴明:LP1500→350

「くそ、うまく立ち回ったか……」
「ああ」
 どうにか首の皮一枚で繋がった。だが、次のターン以降が解らない。困ったものだ。
「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
 そう、このドロー1枚に、全てがかかっている。

「速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを1度振り、出た目の数だけデッキからカードをドローする。
 このターンのエンドフェイズ、出た目の数以下になるよう手札からカードを捨てなければならない。

「この効果で、俺はサイコロを振り……出た目は5! カードを五枚ドロー!」

 さて、その先に何があるのだが。
「………カードを2枚伏せ、異次元の戦士を守備表示で召喚。ターンエンド」

 異次元の戦士 地属性/星4/戦士族/攻撃力1200/守備力1000
 このカードと戦闘を行ったモンスターとこのカードを除外する。

 さて、晋佑にとってこのカードは厄介に違いない。
 神竜の唯一の弱点、それはモンスター効果に耐性が無い事。
 これ程厄介な存在などそうそう存在しないだろう。
「げ」
 晋佑もその事に気付いたのか、顔色を悪くさせている。
 そう、これこそが作戦だ。

「だが、異次元の戦士に攻撃しなければ問題は無いよな」

 フィールドには、サイバー・ドラゴンとダークソードがまだ守備表示で残っている。
 ちょうど、三体。
「混沌の神竜で、サイバー・ドラゴンを破壊! カオス・スパイラル・バースト!」

 サイバー・ドラゴンが破壊される。だが、まだ行ける。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
 引いた時、すぐに解った。遂に、このカードが来たと。

「……………ダークソード、及び、異次元の戦士を生贄に捧げ…」

 夢を、継いできた。
 伝説を背負ってきた。

 最強の騎士が、ここにいる。

「ギルフォード・ザ・ライトニングを召喚!」

 ギルフォード・ザ・ライトニング 光属性/星8/戦士族/攻撃力2800/守備力1400
 このカードは生け贄3体を捧げて召喚する事ができる。
 この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 稲妻を操る全てを破壊する光の騎士。
 師匠から受け継いだ、伝説のカード。
「………ギルフォード」
 晋佑が、思わず呟く。

 神竜と、対峙する。
「……行くぜ、神竜。これがラストターンだ」
 最後の戦いを、決めに行こう。

「魔法カード、巨大化を発動!」

 巨大化 装備魔法
 自分のライフポイントが相手のライフを下回っている場合、装備モンスターの攻撃力は2倍となる。
 自分のライフポイントが相手のライフを上回っている場合、装備モンスターの攻撃力は半分となる。

 ギルフォード・ザ・ライトニング 攻撃力2800→5600

 光の騎士の攻撃力が文字通り、巨大化によって増す。神竜をも上回る。
「これで、ギルフォードの攻撃力は、神竜よりも上! 行くぜ! バトルだ!」
「はっ……! 神竜の、効果発動!」

 The God Dragon of Chaos−Ordelus LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードは通常召喚する際、3体の生け贄を必要とする。このカードを対象とする魔法・罠カードの影響を受けない。
 このカードは闇属性としても扱う。自分フィールド上に存在するカードを1枚墓地に送る毎に、攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが破壊される時、ライフポイントを半分支払う事でその破壊を無効に出来る。
 自分ターンのバトルフェイズ時、その時点でのライフポイント総てを攻撃力に加算する事が出来る。
 ただし、この効果を使用したターンのエンドフェイズ迄に勝利しなければ自分はデュエルに敗北する。
 召喚する際、墓地に存在する光属性または闇属性のモンスターを1体ずつ除外する事で、以下の効果を得る。
 ・相手フィールド上にモンスターが3体以上いる時、1体を除外する事が出来る。この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。
 ・戦闘で相手モンスターを破壊し、相手に戦闘ダメージを与えた時、もう1度相手モンスターを攻撃出来る。
 フィールド上に「The God Dragon」と名のつくカードが存在する時、このカードは以下の効果を得る。
 ・バトルフェイズ時、相手モンスターの攻撃力が上昇した分だけ、このカードの攻撃力は上昇する。

「神竜の効果で、俺はこの時点のライフポイント全てを神竜に加算する!」

 The God Dragon of Chaos−Ordelus 攻撃力5000→6900

 神竜の攻撃力が逆に上昇していく。だが。
 それは、予想していた事。

「晋佑。お前は三ターン先を行く戦術をしたが、俺はまだまだ読み切れなかったな!」
 俺の言葉に、晋佑が俺のフィールドに残されたリバースカードに注目する。
 そう、俺はもう。

 あのカードを引いている。

「リバース、速攻魔法! ブラッド・ヒートを発動!」

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 ギルフォード・ザ・ライトニング 攻撃力5600→8400
 宍戸貴明:LP350→175

「………行くぜ、晋佑。決着だ! ライトニング・クラッシュ・ソードォォォォォォッ!」

「うあああああああああああああっ!!!!!!!!」

 光の騎士の一撃が、神竜を切り裂いた。
 とうとう、この騎士は。神を破ったのだ。神に葬られた騎士が。

 高取晋佑:LP1900→400→0

 神竜の効果で、バトルに敗北した時、晋佑は、デュエルにも敗北する。
 膝を折る。長い戦いの果てが、終わる。
「………俺の、負けか」
「ああ」
 俺は、そう告げる。

 遂に、決着がついた。

「……しょ、勝者! 宍戸貴明!」
 月行さんの宣言に、フィールド全てが拍手に沸いた。

「………勝ったんだな、俺」
 俺はそう呟くと、少しだけ拳を握る。

 フィールドに残った晋佑は、1枚だけ伏せられていた最後のリバースカードを回収して、フィールドを降りる。
 その1枚のリバースカードは、見覚えがあった。
「晋佑、それ……」
「ん? ああ、これか」
 そのリバースされていたカードを晋佑は手でひらひらと振る。

 速攻魔法。ブラッド・ヒート。

「…………発動してたら、勝てたんじゃないか?」
「バカ言うな。神竜はカードの対象にならないんだ」
 だから、発動出来なかった。
 晋佑はそう続けなかったが、言いたげだった。奇妙な沈黙が流れる。

「……お前か、雄二かは解らないが。楽しみにしてるぜ」
「ああ……」
 晋佑はそう呟くと、小さく手をあげた。
「じゃあな。また会おうぜ。次は仲間として」
「おう」

 別れには、もう、それ以上の言葉は要らなかった。





「決着、ついたみたいだな」
 医務室からも、はっきりとデュエル場の歓声が聞こえる。
 十代がそれを聞いたのか、ゆっくりと呟く。
「みたいだな。そろそろ、行かなきゃ」
 俺が立ち上がると、十代は少しだけ身体を起こす。
「…………大会終わったら、どうする?」
「そうだな……あー、用事が出来たな。一つ」
 俺の言葉に、十代は微笑んだ。
「じゃ、決闘王になったら付き合ってるやるよ」
「面白い奴だな。意地でもなってやる」
 俺はそう答えてから、小さく手を振って医務室を出る事にした。

 さて。
 決勝の舞台へと、行きますか。



《第44話:夢のまた夢》

 長い夢を見ていたのかも知れない。

 記憶、それとも、軌跡?

 俺は、何を忘れていたのだろう。





 廊下を歩いていると、真正面に人影が立っている事に気付いた。
 社長だった。
「対戦相手が決まった。宍戸貴明だ」
「そうですか」
 淡々と告げられる事実に、俺はそう返す。
「随分とあっさりだな」
「そうですね…………正直、なんて言うんでしょうね。緊張します」
 俺は普通に帰したつもりだったが、社長は視線を俺に向けて口を開く。

 師匠ですらもその場に立つ事は無かった。
 決闘王への、称号への、最後の戦い。

「憧れて無かったっていうと、嘘になります。それに、正直、俺がここまで行けるとは、本当は思って無かった」
「そうだろうな。貴様のような連中が決闘王への道まで進むとは、俺には信じられん。何年か前までは考えられないことだ。だがな……」
 社長はそこまで言うと、少しだけ微笑んだ。
「だが、貴様らのような連中がこの後のデュエリスト達の看板を背負っていくのだな。俺やペガサスには信じられん事だ」
 滅多に見せない微笑み。だがその奥に、今まで馬の骨や凡骨と言うような中傷なぞない。

 その時になって、俺は気付いた。
 この人はもう、一人前のデュエリストとして、俺を見ている。

 凡人から、本当に此処まで這い上がってきたのだ。

「…………貴様らがどんなデュエルを見せてくれるか楽しみだ」




 デュエル・フィールドに戻ると月行さんと、そしてもう一人―――――貴明が待っていた。
「よう、貴明」
「おう。ここまで来たぜ」
 俺の言葉に、貴明は笑いながら肩を竦める。
 まさか、俺達で、決勝を争えるとは、思ってなかった。師匠ですら達成出来ない、夢だった。
「………手加減無しだぜ」
「勿論だ。俺が勝つからな」
「俺の間違いだろ?」「おいおい……」
 冗談に笑いあえるのも、今、この瞬間でしかない。
「お二人とも、準備はよろしいですか?」
 月行さんがそっと問いかける。俺と貴明は同時に頷く。
「そうですか……ならば、決勝に相応しい会場に移動致しましょう。此方へ……」
 月行さんが手を上げる、同時に、フィールドの天井から何かが舞い降りてきた。
 ゴンドラだ。
 その時、周囲のギャラリーである生徒達のざわめきが広がった。
「お、おい。あれで決勝やるのか?」
「マジかよ……」
 生徒達のざわめきの意味が解らない俺達の前で、月行さんは口を開く。
「デュエル・アカデミアには一年に一度だけ使われるデュエル・フィールドがあります。ちょうどのこの建物の頂点に、第一回バトル・シティが行われた
 決闘の塔を模したフィールド…………最も優秀な生徒が、卒業デュエルの為だけに使用するフィールドです」
 決闘の塔を模したフィールド。それは。

 まさに、頂点を争うに相応しいフィールドだ。

 だがしかし。
 デュエル・フィールドの足下当たりに何か時限装置のようなものが見えるのは気のせいだよな?
「……貴明」
「雄二。あれは幻覚だ。幻覚なんだ。社長を信じろ」
「うん、そうだよね!」
「決勝終わった後この島を爆破するなんて嘘だ!」
「うん、そうだ!」
「アメリカに向かって戦闘機で突撃するのも嘘だ!」
「うん、そうだ!」
「で、その後本社ビルを乗っ取られると」
「夜行も今は反省してますからその事を蒸し返さないで下さいと」
 流石に月行さんに止められた。
 まぁ、学生だらけのこの状況で流石にこの島といかなくても建物爆破無い……筈だ!そうだと信じたい!
 社長なだけに……社長、有り得なくない所が怖いんだよなぁ。





 背を向けた時から、世界はもう、一人きりで行くしかなかった。

 昔。
 そう、昔だ。俺は、無力な自分が嫌だった。

 期待に沿おうと頑張っても、それでも追い付く事が出来なかった背中を。
 追いかける事を諦めた。

「……………なぁ、貴明」
 そんな事を思いだしながら、俺は口を開く。
「なんだ?」
「俺達は、長い間戦ってきたけど………何かを争うってのは、はじめてなんじゃないか?」
 俺の問いに、貴明は考え込んだように口を開く。
「……そうだな」
「おう、そうだぜ。俺ら、ずっと親友だったからな」
 いつも一緒。
 側で、仲間に、味方になってくれる存在。

 だけど、今日だけは同じじゃない。
 異なる戦いが、始まろうとしている。

「行くぜ、最後の戦いへ」
「ああ!」


 高いフィールド。
 空が近いな、と俺は思った。
 決闘王や海馬社長は、この青い空の下で戦ったのだと思いだす。決闘王の称号を、目指して。

「……準備はよろしいですか?」
 月行さんが、上がってくる。俺と貴明は、同時に頷いた。

 もう、迷う暇なんて無い。

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 宍戸貴明:LP4000

 最後の戦いが、始まる。












 高取晋佑が話のタネにとばかりにデュエル・アカデミアの購買を訪れた時、見覚えのある人影がパンの山を抱えている事に気付いた。
「ゼノン、何やってるんだお前?」
「腹が減ったからな。カードが入ってるとも聞いた」
 ゼノンが抱えているパンの山、そう、アカデミア購買名物ドローパンである。
 黄金のタマゴパンが当たればいい事あるとか無いとか。ゼノンはそんな事は露知らず、ただ喰いたかっただけだが。
「少し分けろ。俺も腹が減った」
「ふざけんな、金払え」
「断る」
 ゼノンが何かを言うより先に晋佑がさっさとパンを半分、取り上げたので諦める事にした。
 二人はパンの山を抱えたまま、しばらく食べる場所を探して歩く。

 数分後、二人はヘリポートに来ていた。
 しばらくは使われる心配が無いだろう、と踏んだのともう一つ理由があった。
「晋佑、見てみろ。模擬決闘の塔で決勝をやってるみたいだ」
「アカデミアに決闘の塔があるってのは本当だったのか」
 決勝戦を観戦するという理由だ。フィールドに行けば画面越しで見られるが、生徒に交じる訳にも行かない。
 ここからなら気兼ねなしに見える。
「てか、まだ始まってないみたいだな」
「ゼノン。俺個人としてはちょうど根元に見覚えのある時限装置みたいなのが見えるのが気になる」
「気のせいだろ」
「気のせいか」
 気のせいである事を切に信じたい彼らもそういう結論に至った。

「………不思議なものだな」
「何がだ、晋佑?」
「全ては吹雪冬夜の盤上の上での出来事だった、という事さ。お前の事も、予定に入っていたのかも知れない」
「ああ……」
 晋佑の言葉にゼノンはそう頷く。確かにそうだ、と言いきれそうな所が怖い。
「まったく、揃って何やってたんだが……」
「ああ」
 この世界の裏にある、何かを。
 誰かが、突き止めなければ。

「なぁ、ゼノン」
「なんだ?」
「組まないか? 吹雪冬夜に一泡吹かせたい」
 パンの包装を文字通り投げ捨てたゼノンは一口かぶりつくと同時に、口を開いた。
「奇遇だな。オレも同じ事を考えていた」
 敵対しあって、時として協力しあった二人も。

 今なら……。


『そこ、危ないぞー!』
「へ? うおっ、ヘリ!?」
 晋佑とゼノンが顔を上げると同時に、上空でホバリングしていたヘリがヘリポートへと滑り込んでくる。
 ヘリの側面に海馬コーポレーションのマークが大きく書かれているのは、何ゆえだろうか。

 ヘリはヘリポートへとゆっくりと着地していく。
「KCのヘリで来るってどんなお客なんだ? ペガサス会長?」
「いや、それならI2社のヘリで来るだろ」
 ゼノンの問いに晋佑がそう呟く。ヘリの主が誰かは不明だが、相当な権力者である事は間違いない筈だ。
 一体、誰なのだろうか。

 二人の疑問が最高潮に達した時、ヘリの扉が開き、彼女がゆっくりと降りてきた。


 最初に見えたのは、黒を基調とした長いドレスだった。
 長い黒髪。足音一つ立てずにヘリから降りてくる。

 ただ、その顔立ちも、体格も幼かった。どれ程の歳かは解らないが、せいぜい十代前半ほど。
 しかし。奇妙な魅力があった。
 何かを引き付ける、奇妙なカリスマ性だけがあった。
「…………」
 彼女は晋佑とゼノンに視線を向けると、ゆっくりと口を開いた。
「ここの、生徒の人?」
「「違う」」
 即座に返答。それもそうだが。
「なら、どうしてこんな所にいるの。迷惑じゃない?」
「行く場所が無かったからな……態度デカ……」
 晋佑はそう言いかけて、思わずその少女をまじまじと見つめる。
 何処かで見覚えがある。俺はこの子を知っている。いや、正確には、この子に残る面影を知っている。
 誰だっけ、と晋佑が思いかけた時、少女は視線をゼノンに向けた。
「…………………俺に何か?」
「……綺麗な、竜ね。素敵」
「……へ?」
 ゼノンはその意味が解らず、首を傾げかけて、慌てて空を見上げる。

 勿論、そこには何も無い筈だ。いな、誰もいない筈だ。
 ゼノンには何も見えない。だが、その存在は解った。

「………フォルセティアの事か?」
 自分の本当のエース、本来ヨハンが受け取るべき筈だったそのカードの名を告げると、少女は軽く頷いた。
「そういう名前なの? 素敵な名前ね。はっきり見えないのが残念だわ」
「………カードの精霊って奴か?」
「……そう。私と、兄さんはそれが見える。私は、あまり見ちゃいけないんだけど……今日は、特別だから」
 ゼノンが視線をヘリに向けると、ヘリの中には白衣を着た人影が何人も見えた。
 彼女の主治医か何かだろうか。だとすると、この子は病弱なのか。
「あ」
 同時に、晋佑は思いだす。その少女の事を。
「ゼノン。この子……あれだ」
「は? あれって?」
「だから、アレだよ。十代の奴の」
「あ!」
 ゼノンが慌てて少女に注目する。そして二人は、同時に口を開いた。

「「遊城三四?」」

「名前、知ってるの?」
 知ってるも何も、彼女が原因で二人はトンでもない目に遭ったのだが。
 もっとも、彼女に罪は無いのだけれど。
「……驚いたな」
「ああ……まさか。びっくりだ」

 遊城三四。
 遊城十代の妹。遊城十代が、世界のやり直しをしてまで、救いたかった少女。

「……まさか、こんな形で出会うなんて」

 高取晋佑は、思わずそう呟いた。



 ヘリポートにヘリコプターが舞い降りていくのも、そしてヘリポートで高取晋佑とゼノン・アンデルセンが騒いでいるのも、十代は医務室の窓からしっかりと見ていた。
「……三四、着いたのか」
 ベッドから身体を起こす。まだ血は足りないのか、少しだけフラフラする。
「迎えに行かなきゃ、ダメだよな」
 そう呟いて苦笑する。靴を履こうとした時だった。
 その存在を、感じた。

「……いるんだろ? 出て来いよ、吹雪冬夜」

 彼がいるのを、十代にはしっかりと解る。
 一週目の世界。精霊ユベルと魂の融合を果たしたせいか、人とは異なる力を数多手に入れた十代である。
 同じように人間を辞めた吹雪冬夜の存在を感知する事など、彼には訳の無い事だ。
「驚いたな、気付かないと思ってたんだが」
 ベッド近くのカーテンを開き、吹雪冬夜は笑いながら顔を出した。
「あんな禍々しい空気を放っていればそりゃ解るさ。で、やっぱり生きてた訳か」
「まぁね。ダークネス如きにやられる程、モウロクしちゃいないよ」
 十代の問いに、冬夜は笑って答える。
 お互いにすぐ近く。例えばナイフを出せばお互いに突き刺せる距離だ。
 もし、ナイフなり拳銃なりがそれぞれの手にあったとしたら素早く攻撃した方が生き残るだろう。あくまでももしもの話だ。
 お互いにそれを想像したのか、一瞬だけ視線が合う。
「それで」
 しばらくの沈黙の後、十代はゆっくりと口を開いた。
「何のつもりだ吹雪冬夜。デュアル・ポイズンの仕事でも持ち込むのか?」
「まさか。お前がオレから忠誠心を無くしたのを知ってて、仕事を押し付けるかい?」
「………趣味の悪い奴め。見てたのかよ」
「いつもの事さ」
 十代の問いに、吹雪冬夜はニヤリと笑う。
「高取晋佑もゼノン・アンデルセンも……どいつもこいつも、全てぶちまけやがって、ダークネスの奴。使える手駒が減ったじゃないか、まったく」
「お前な……。いい加減にしておけよ、お前の野望がどうだが知らないが」
「オレのは野望じゃない。夢だよ」
 冬夜は、その時再び笑みを浮かべた。

 全てを喜ぶ、恍惚の表情。そしてそれは、全てを覆い尽くす―――――大いなる絶望。
「でもその前に、お前を消し去るのも悪くないかもな」



《第45話:全世界で一番危険なデュエリスト達》

「でもその前に、お前を消し去るのも悪くないかもな」

 吹雪冬夜は、そう言って笑った。
「……みたいだな」
 十代は冬夜に視線を向けつつ、そう呟くとデッキを手に取った。焔のデッキを。
「なぁ、吹雪冬夜」
「なんだい、十代」
「お前が俺と出会った時、一週目の世界の最後で、お前は俺に『望むなら壊せ。そして望む未来を作りだせ』と言った。でも、それをさせたのはどうしてお前じゃなくて俺だったんだ?
 奇妙と言っちゃ奇妙なんだ。お前だって世界を壊せる筈じゃないのか?」
「ん? ああ、それか………一週目の記憶を持つ奴が何人いると思う?」
 冬夜が手を広げて、数えようとしてみる。十代も思い出す。あの時、世界が壊れる直前は。
「ダークネスに飲み込まれていた。俺しかいなかった」
「その通り。そしてお前は……普通じゃない。それだけの力を持つものなら世界も壊せる。オレだけじゃない、ダークネスも、そしてお前も!
 たったその一つの手に、ずっと世界の命運だって玩べる……とんだ傑作だろ?」
「ひどい話だ」
 冬夜の言葉に、十代は肩を竦める。
 しかし、冬夜は言葉を続ける。自身の夢のために。

「そしてやり直しの果てに、お前が辿り着いた事に気付いた。人が踏み込めない領域に。世界を壊す程の人間がいて、そして記憶を無くしたダークネスがいた。ある意味最高だった。
 教えてやろうか、遊城十代。オレの望みはたった一つ、神しか踏み込めない領域に辿り着いた人間に、オレは神になりたい……その為に必要だった。その為に欲しかった!
 ああ、そうさ! 世界の全てはオレの盤上、オレの思い通りにならない筈なんか無い! オレがルール、オレが絶対神、オレが世界だ!
 その為ならば何だって壊してやる! 世界はオレの為だけにあるべきだ! そしたら……ダークネスが介入しやがった。そしてお前に気付かせた。それが問題だった。
 遊城十代、お前は自身の精霊のせいで何人もの人間を病院送りにした、それでも妹がいた、しかしその妹を守る技術が欲しくてデュアル・ポイズンに入った。
 まぁ、一週目の世界は単なる研究機関だったから良しとしよう。そして一週目の世界を壊した。二週目の世界でも同じ事を続けた。いや、自分からデュアル・ポイズンに入った。
 そしてお前は何をした? 人を傷つけ人を殺し最終的には仲間を見捨てて逃走したらそれはフェイクで最初からこっち側のまま……大悪人だな。そう思わないか?」
「ああ、そうだな……だけど、テメェの野望を潰す為に、燃え尽きるには十分だぜ」
 もっとも、負けるつもりなど毛頭無いが。
「………じゃあ、始まりと行こうか」
 吹雪冬夜がベッドから離れ、距離を取る。十代には解った。冬夜の纏う冷気が、一瞬で暴風のように強くなるのを。
 デュエリストは時として人には見えないものまで見えてしまうというが、これは酷いなと十代は笑う。精霊は見えてもオーラは無いと。
「ああ、いいぜ……吹雪冬夜!」


「「ちょっと待ったぁ!」」


 医務室の扉が破られ、二人の人影と一人が同時に乱入してくる。
「いっ!?」
 冬夜が慌てて飛び退こうとすると同時に、呟く。
「高取晋佑!? それに、ゼノン・アンデルセン……」
 晋佑とゼノンは十代の隣りに立ちつつニヤリと笑う。その唐突さに、十代は思わずため息をついた。
「お前ら、いつから……」
「妹さんを連れて来たのにそりゃねーだろ十代。廊下で話聞いてたら何かヤバい事話してるし」
「ゼノンの言う通りだ。折角目の前に黒幕がいるのに、なぁ」
「とりあえずお前等の気持ちはよく解った」
 十代は二人の肩を叩くと、そっと耳元に囁く。
 もちろん、何をするかという事は決まり切っている。
「………で、三四はどこだ?」
「決勝の場所を教えてきた」
「連れてきてねーじゃんかよ!」
「いいだろ、別に」
 まぁ、確かに三四がいると戦いにくいというのは解るが。
 冬夜は俺達を眺めると、デッキを手に取った。
「で、どうするんだ遊城十代?」
「決まってるだろ」

「「「三人でやるんだよ」」」












「少しだけ、昔の話をしよう」
 彼はそう言ってニヤリと笑った。
「一週目の世界で、遊城十代は何のために戦ったかという事。自分には見える、けど他の誰かには殆ど見えないカードの精霊達と自分達人間との掛け橋になる、というのが誰もが思っていた事だ。
 勿論それは俺だってそうだ。別になんら不思議な事じゃない……だけど、ダークネスの介入から全てが狂った。相対的に考えてみれば、ダークネスが介入しなければ。
 一週目の世界は続いていた。世界が一度無に帰す事も無かった。遊城十代が自身の手を汚す事も無かった。ならば、誰が原因なのか?」
 返事はない。当たり前だ。言葉を返す人間なんて誰もいない……訳ではない。
「ダークネスか、それとも十代自身が原因なのか?」
「そうかも知れない。だけど吹雪冬夜はそれに便乗して崩壊を進めた。それは否定出来ない。そうだろう?」
「そうだな………そして、奴はダークネスの力を手に入れたいと望んだ」
「そうだ。どこにでもいる。どこへでもいける。どこからでも現れる。時間、空間、時としてルールそのものすらも捻じ曲げる。人が辿り着けない神の領域たるアカシックレコードにまで
 辿り着いた奴なら欲しがってもおかしくない。だって、歴史を知ってしまったのだから。未来は見えるよりも、見えない方がいい。見えてしまったら、その未来を知って絶望に沈むか。
 それとも変わると信じて意地でも抗い続けるかの二つしかないのだから」
「そして十代は、抗う事を望んだ」
「ああ……」
 彼はそう呟くと、俺の目の前でふわりと浮遊しつつ胡座をかいた。相変わらずである。
「なるほどね……流石だ、ダークネス。それで、吹雪冬夜については?」
「ああ、そっちも聞くのか?」
「当たり前だ」
 そっちも聞かなければ意味がない。
「……それは、俺に聞かれてもな。だけど、あいつの望みは」

「遊城十代と、実は大差ないかも知れない」



「…………おーい、雄二。お前のターンだぞ」
 俺が意識をダークネスとの会話から引き戻すと、既に貴明が俺のターンと促していた。
 そうだった。今は、決勝戦の最中。

 黒川雄二:LP4000 宍戸貴明:LP4000

 貴明のフィールドにはリバースカードが一枚。それ以外、何も無い。
「さて、どうしたものかな……」
 先攻1ターン目でモンスターを置かない理由は、最大の理由は手札事故である。主にバランスが悪かったり重いデッキに発生し易い。
 第2の理由は戦術である。手札にサイバー・ドラゴンやビッグ・ピース・ゴーレムといった半上級モンスターや冥府の使者ゴーズという隠し球を持ってたりする。
 貴明のデッキは重いデッキである俺とは違ってバランスが悪いので手札事故は発生し易い、が……半上級モンスターのサイバー・ドラゴンがある。
 アックス・ドラゴニュートの攻撃力2000が下級モンスターの最高値である俺のデッキではサイバー・ドラゴンの攻撃力2100には劣る。
 だが。しかし。ここで引き下がって、何になる。
「俺のターン! ドロー! そして……サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

 バトル・シティ決勝戦。師匠が望んで、果たせなかった舞台。
 アカデミアの生徒達が憧れる聖地と言っても過言ではない、模擬決闘の塔での戦いだ。出来る事ならば、最高に燃え上がりたい。
 遊城十代が、最後まで燃え続けたのと同じように。

「OK、バトルだ! サファイアドラゴン! 貴明に、ダイレクトアタック!」
「リバース罠、幻影の水鏡を発動!」

 幻影の水鏡 カウンター罠
 このターン、プレイヤーが受けるダメージを半分にする。

 フィールドに現れた鏡を通った攻撃は威力が半減した。それでも、結構な打撃である事に変わりはないだろう。

 宍戸貴明:LP4000→3050

「……カードを二枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン……雄二、お前本当に遠慮なく攻撃しかけてきたな」
「当たり前だろ。真剣勝負だ」
「お前らしいよ……俺のターン! ドロー!」
 貴明は笑いながらデッキからドローをする。さて、何が飛びだしてくるのか。

 世界一の強運を持つ男は、全てに置いて神に愛されている男だから。

「手札より、サイバー・ドラゴンを自身の効果で特殊召喚!」

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時に手札から特殊召喚出来る。

 サイバー流の象徴である機竜が姿を現す。
 攻撃力2100だが、恐らくそれだけでは終わらないだろう。宍戸貴明だから。
「続けて、闇魔界の戦士ダークソードを通常召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

 この時点で二体、だがまだ終わらないだろう。

「そして速攻魔法、ライド・オブ・ユニオンを発動! デッキから、騎竜を選択し、ダークソードのユニオン! 雄二、悪ぃな。俺も本気だ!」
 当たり前だよ。

 ライド・オブ・ユニオン 速攻魔法
 デッキの1番上のカードを墓地に送る。
 デッキよりユニオンモンスターを1体選択し、フィールドのモンスターに装備する。

 騎竜 闇属性/星5/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1500/ユニオン
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「闇魔界の戦士 ダークソード」に装備、
 または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カードになっている場合にのみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は900ポイントアップする。
 装備状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、装備モンスターはこのターン相手プレイヤーに直接攻撃ができる。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
 装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力1800→2700

 攻撃力が2700まで跳ね上がったダークソードと、攻撃力2100のサイバー・ドラゴン。
 これは、ヤバいかも知れない。倍返しとかそういうレベルではない。

「バトルだ! ダークソード、サファイアドラゴンを容赦なくぶっ飛ばせ! 更に、サイバー・ドラゴンでダイレクトアタック! エボリューション・バースト!」

 ダークソードの斬撃がサファイアドラゴンを葬り、更にサイバー・ドラゴンの一撃が襲う。

 黒川雄二:4000→3200→1100

 一気に大幅にライフを削られた。正直、結構痛い。
 だがしかし、デュエルはまだまだ終わらない。これからだ。
「流石だな、貴明……」
「早めに流れを掴んだ所で油断は禁物。だけど、俺はいつもツイてる。勝利の女神様の笑顔が眩しい程さ!」
「だろうな」
 相変わらずだ。
「ターンエンド」
「俺のターンだ……ドロー!」

 さて、どうでたものだろうか。
 大差のついたライフポイント、二体の上級クラスのモンスターが鎮座する相手フィールド。だが、不足はない。
「魔法カード、光の護封剣を発動!」

 光の護封剣 通常魔法
 相手フィールド上に存在する全てのモンスターを表側表示にする。
 このカードは発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間フィールド上に残り続ける。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上モンスターは攻撃宣言を行う事ができない。

 フィールドに光の剣が降り注ぎ、ダークソードとサイバー・ドラゴンの攻撃を封じた。
 これで少しはマシになっただろうが、油断は禁物だ。
 後は壁モンスター……というより、攻撃の起点が必要だ。何か無いものか……。
「仮面竜を守備表示で召喚し、ターンエンド」

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

 さて、次のターンで貴明が何を仕掛けてくるか気になる。
「俺のターン……速攻魔法、サイクロンを発動! 光の護封剣を破壊させてもらうぜ!」

 サイクロン 速攻魔法
 フィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊する。

 光の護封剣が破壊され、墓地へと消える。1ターンも持たないなんて悲しすぎるぜ制限カード。
「そして俺はD.D.アサイラントを召喚!」

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

「ダークソード……仮面竜に攻撃!」
「仮面竜の効果発動し……デッキから仮面竜を選択!」
 ダークソードが仮面竜を粉砕し、二体目の仮面竜が姿を現す。
 だがしかし、続けてサイバー・ドラゴンの攻撃で二体目破壊。三体目召喚……されると次はD.D.アサイラントの餌食となった。
 しかし、これで貴明のフィールドのモンスターは全部攻撃を終えた。仮面竜は全部消えたが、攻撃力1500以下のドラゴン族は、まだある。
「仮面竜の効果で……俺はデッキからランサー・ドラゴニュートを召喚」

 ランサー・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1600
 このカードは相手守備モンスターを攻撃する時、相手モンスターの守備力を上回っている分ダメージを与える。

「……ま、だけど次のターンで何をひくかって事だろ、雄二。流れは俺に傾いてる。ターンエン…」
「ここで俺はリバース速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動!」
「んなっ!?」

 地獄の暴走召喚 速攻魔法
 相手フィールド上に表側表示のモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体の特殊召喚に成功した時、発動可能。
 その特殊召喚に成功したモンスターと同名のカードをデッキ・手札・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚する。
 相手はフィールド上のモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名カードを可能な限り特殊召喚出来る。

 ランサー・ドラゴニュートが三体に増える。ちょうど、相手と同数。
 しかし貴明は今……ターン終了宣言をした。
「いきなり三体並べて……雄二? おい、まさか……ターンエンド……けど……」
「そのまさかかも知れない」
 俺はニヤリと笑うと、カードをドローする。
 来た。
「ランサー・ドラゴニュート三体を生贄に捧げ、俺は冥府の神竜を召喚! 目覚めよ、冥府の竜よ。その力を俺に見せてみろ!」

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。(1ターンに5枚まで)
 更に、攻撃力を1000ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。(除外された場合は召喚しない)

 勿論、さっきのターンの時点で手札にこのカードはなかったので盛大なハッタリをかました訳だが、まさか次のターンで本当に来るとは思わなかった。
 さしもの貴明も驚いているのか、口をあんぐり開けたままだ。
「……神竜に共通する弱点は効果モンスターの効果に耐性が無い事。アサイラントを攻撃したら除外される……ならこちらから潰せばいいさ!
 攻撃力を1000ポイント下げ、アサイラントを破壊!」

 The God Dragon of Hell−Iduna 攻撃力5000→4000

 アサイラントが破壊され、墓地へと送られていく。
 貴明が我に返ったような顔を見せたが、もう遅い。
「神竜で、ダークソードに攻撃……フィアーズ・ダークネス・バースト!」
「うわああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」

 宍戸貴明:LP3050→1750

 騎竜が破壊され、ダークソードが騎乗から素足の状態へと戻る。

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力2700→1800

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「神竜、かよ……」
 貴明は息を吐くと、カードをドローする。
「ああ。神竜だ」
 神の名を持つ竜。モンスター効果に耐性が無い事を除けば重いモンスターではあるが十分に利用出来る。
「俺のターン」
 貴明のフィールドにはサイバー・ドラゴンとダークソードの二体。
 神竜で粉砕するのは容易だが、恐らく一筋縄では行きそうに無いだろう。相手が貴明だからだ。
「……………この二体だけじゃ、どうも怪しいからな。だから、俺はこいつを喚ぶ」
 貴明がドローしたカード、それは―――――。

「サイバー・ドラゴン及び、ダークソードを生贄に捧げ、俺はバスター・ブレイダーを召喚!」

 バスター・ブレイダー 地属性/星7/戦士族/攻撃力2600/守備力2300
 このカードの攻撃力は相手フィールド及び墓地に存在するドラゴン族一体に付き500ポイント上昇する。

「ば、バスター・ブレイダー……」
 かの決闘王が愛した、竜破壊の剣士。ドラゴン族キラーとして名高い、最強戦士の一人だ。
 闇竜ですら攻撃力を上回るのが難しいし、闇焔竜でも怪しいだろう。
 そして今、俺の墓地とフィールドでは神竜を含めて八体のモンスターがいる。

 バスター・ブレイダー 攻撃力2600→6600

「こ、攻撃力6600だとぉ!?」
 有り得ない。潰される、きっと間違いなく潰される。
 攻撃力が4000に下がった今の神竜では……!
「勝負あったな! いくぜ、雄二! バスター・ブレイダーで、冥府の神竜を攻撃! ドラゴンバスターブレード!」
 バスター・ブレイダーの剣撃が、躊躇う事無く振り下ろされる。
 これで終わる……訳が無い!
「リバース罠、ホーリージャべリンを発動!」

 ホーリージャべリン 通常罠
 相手の攻撃宣言が出された際に発動可能。
 相手モンスターの攻撃力分のライフを回復出来る。

 ライフの回復直後、容赦ない攻撃の後に冥府の神竜が沈んでいく。

 黒川雄二:LP1100→7700→5100

「冥府の神竜の効果で……生贄召喚した場合、戦闘で破壊された時、生贄をフィールドに戻す。ランサー・ドラゴニュート三体がフィールドに戻る」

 ランサー・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1600
 このカードは相手守備モンスターを攻撃する時、相手モンスターの守備力を上回っている分ダメージを与える。

「倒されてもモンスターを呼び寄せる、厄介だな……だけど、俺の優位は変わらない! 雄二にとっちゃバスター・ブレイダーは天敵だもんな」
 ドラゴン族デッキ全般に対してだろうが。
 もっとも、確かにこのままじゃうまくいかないのも事実だ。
「カードを一枚伏せてターンエンド。雄二、お前の番だぜ」
「ああ……俺のターン! ドロー!」
 さて、どうでるべきか……。
 三体のランサー・ドラゴニュートだけではどうしようもないし。
「………神竜は、モンスター効果に耐性は無い。魔法・罠カードの効果は受け付けない、自分・相手、どちらもだ」
「ああ、そうだな」
 モンスター効果、という所に穴がある。そう、穴が。
「ランサー・ドラゴニュート1体を除外し、手札から、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを召喚!」

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力2800/守備力2400
 このカードはフィールド上に存在するドラゴン族モンスター1体を除外する事で特殊召喚出来る。
 1ターンに1度だけ、自分の墓地・手札から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を、
 自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 闇に堕ちた機竜が現れ、咆哮をあげる。
 フィールド・墓地に存在するドラゴン族の総数は変わらないからバスター・ブレイダーの能力に変化は無い。
「ダークネスメタルの効果発動! 1ターンに一度だけ、自分の墓地・手札からダークネスメタル以外のドラゴン族を召喚出来る!
 この効果で俺が選ぶのは……冥府の神竜だ! 冥府の神竜イドゥナを蘇生召喚!」

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。(1ターンに5枚まで)
 更に、攻撃力を1000ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。(除外された場合は召喚しない)

 神竜、復活。
「さて、どうすると思う?」
「どうするって、どうするをだよ?」
 やはり解ってないな、貴明君は。
「さっきのアサイラントの教訓を忘れたかぁぁぁぁっ! 神竜の効果発動! 攻撃力を1000ポイント下げ、バスター・ブレイダーを破壊!」
「な、何だってー!」

 貴明が驚くより先に、既に神竜の断罪は決まっている。

 The God Dragon of Hell−Iduna 攻撃力5000→4000

「………!」
 これで、貴明のフィールドは空で、俺のフィールドのモンスターで集中砲火すれば、十分勝てる!
「行くぜ、バトルだ! 攻撃…」
「雄二」
 貴明がそう呟き、顔をあげる。
「やっぱ強いな、お前。昔っからさ、自分にあんま自信がねぇとか言ってても、それでもそれなりに努力してるし、それに見合うだけの実力持ってるって思うぜ。
 やっぱさ、努力しなきゃ、何もついてこないもんな。だから、凄ぇって思える時あるわ、やっぱりお前がさ」
「……それはお前にもいえるだろ、貴明」
「そゆこと。だからさ、たまには家に帰ったらどうよ? この決闘が終わったらさ」
 貴明が、俺の家族について言及するのは、本当に珍しい事だった。
 幼なじみという訳では無いし、貴明に家族の事を話した事なんて殆ど無いのに。それでも。
「そうだな……たまにはそうしてみるか」
 姉や、兄はどうしているだろうか。今ごろ。
 もしできるのなら、謝れるだろうか。
「……おう。じゃあ、終わりにしようぜ」
 貴明はそう言って笑うと、伏せていたカードを表にする。
 伏せていたカード……?
「まさか!」
「そのまさかだぜ、雄二! リバース罠、リビングデッドの呼び声を発動!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールドを離れた時、特殊召喚したモンスターを破壊する。

「勿論、蘇生対象はバスター・ブレイダー! 解るか?」
 貴明が笑う。竜破壊の剣士たるバスター・ブレイダーの攻撃力は、さっきと同じ6600。
 そして今は攻撃力1500のランサー・ドラゴニュートが攻撃表示でリバースカードはゼロ!

 まさに、貴明に、してやられた。

「流石、強運大王は一味違うどころじゃなかった……!」

 俺が思わず悪態をついた時にはもう遅く、四体のドラゴンは文字通りバスター・ブレイダーに次々となぎ倒されていった。


 そして、ライフカウンターはゼロを示す。

 黒川雄二:LP5100→2500→0

「…………決まった、のか?」
「ああ、終わったな」
 貴明の問いに、俺はそう答える。
「お前の勝ちだ」

 審判の月行さんは俺達をもう一度だけ見た後、拍手を送ろうとして自らの役割を思い出したのか、その両手をあげて宣言した。
「勝者……そして、第2回バトル・シティ優勝は、宍戸貴明!」
 歓声が、拍手が、沸いた。



 夢……そう、まるで夢のようだった。
 遠い昔、憧れた舞台に立った時。そこで、多くのライバル達と戦った時。
 憧れが感動に変わった時、それはまるで夢のような話だった。
 だからこそ今は、祝福を送ろう。

「おめでとう」

 俺はそう呟いて、フィールドを降りた。




 フィールドを降りると同時に、社長が急にマイクを手に取った。
「デュエリスト共よ、今回のバトル・シティはご苦労だった。今夜一晩はゆっくり休んでいくがいい。尚、この塔はもう不要なものなので今から爆破する!」
 ああ、やっぱり下にあったの爆弾だったのか……ちょっと待てぇ!
「社長! ここ、アカデミアですけど!」
「なんだ、凡骨筆頭。不要なものだから爆破するだけだ!」
「アカデミアに被害が及びますよ!」
「爆破というのは上手にやれば被害は出ない」
 社長はそう宣言すると上空からホバリングしてきたヘリに乗り込む。
 被害は出ないと言っても疑似決闘の塔があるのはアカデミアの校舎の上なのに……。
「き、聞いてない…」

 塔がどうなったかって?
 ああ、勿論吹き飛んだよ、跡形もなく。



《第46話:絶望的観測》

 半壊した医務室の扉を蹴破り、瓦礫をどけ続ける事数分。
「やれやれ、ようやく出れたか」
 吹雪冬夜は肩についた埃を払いつつ、そう呟く。
 流石に三人相手はキツかったのか、肩で息をしている。
「しかしまさか、あそこまでやってくるとは……どいつもこいつもオレの思い通りには行かない、か」
 廊下へと出る。
 さて、何処に行こうか。










 時間は、少し前に遡る。

「優勝おめでとうございます」
「いやぁ、ありがとうございます」
 月行さんの言葉に、貴明は照れたような声をあげる。実際、恥ずかしいに違いない。
 何せあの決闘王の称号が与えられるのだから。
「優勝賞金と、副賞を授与します。決闘王の称号と……」
「え? 副賞は決闘王の称号だけじゃないの?」
 貴明が首を傾げると同時に、社長が1歩前に出た。
「副賞は1ヶ月の海外デュエル留学だ。正確には留学というより海馬コーポレーション出資で海外に設立されたアカデミアの分校に特別講師として勤務しろ。
 安心しろ、宍戸貴明。貴様に給料はビタ一文も払わん」
「ひでェ! 社長、それただ働きじゃん!」
「ワハハハハハハハハハハハハハハ」
「笑って誤魔化すなよ〜!」
 貴明がツッコミをいれた直後、社長はいつものようにデュエルディスクを投げつけ、貴明は昏倒した。
「磯野!」
「はい、海馬サマ」
 昏倒した貴明はいつの間に待機していたのか戦闘機の後部座席に載せられ、そのまま発進していく。
 て、今からかよ。
「……元気でな」
 とりあえず哀れにも海外に島流しにあった貴明に別れの言葉を告げつつ、見送ると、ふと視線を感じた。
「………」
 誰か、いる。
 ゆっくりと、振り向く。

「あ」
「………変な人ね」
「初対面から随分と辛口だな、オイ。ともかく、初めまして。遊城三四」
 1週目の世界を幻視した時に見た、十代の妹がそこに立っていた。

 見た目の印象は、幻視した世界で見た病弱だが活発そうな印象は感じなかった。
 むしろ、どこか冷めた目で物事を見ているようにも見える。そして何より。

 目元を覆う漆黒のバイザーが、その印象をより強くしていた。

「私の事を知ってるの?」
「おう。お前のお兄さんからよく聞いてる」
 嘘だけど。

 遊城三四はその言葉を聞いて少しだけ笑うと、俺に近づいてきた。
「決勝戦を見に来たのかい?」
「ええ。それに……アカデミアで行われると聞いたもの。滅多に会えない兄さんともう一度会う理由にはなるわ」
 なるほど。
 遊城十代と三四はこの世界でもあまり会えないのか。俺が幻視した一巡目の世界では、入院している三四を十代が訪ねていたようだが。
 二巡目の世界の三四は、そこまで病弱ではないのだろうか。
 俺がそんな事を疑問に思っていると、三四が視線を向けてきた。
「……ところで。あなたの名前は?」
「黒川雄二……いや。ダークネスだ」
「………ダークネスというと、兄さんが話してたセブンスターズの?」
「いや。それは違う」
 一応、十代も多少は連絡を取り合ってはいるのか。どうもあれだけの事をやらかしたというインパクトのせいで他人を見てないと思ってたが。
「まぁ、話すとややこしくなるが……遊城三四、ところで身体は大丈夫なのか?」
 俺の問い掛けに、三四は一瞬だけ驚いた後、バイザーをそっと押し上げた。
 バイザーの向こうの、真紅の瞳が現れる。
「私の事が解るの?」
「俺が…ダークネスで、一巡目の世界のお前を視た事があるからだ」
「………大丈夫よ。このバイザーを掛けてる限りは」
 三四はぎこちなく微笑む。
 本来視える筈の無いカードの精霊。しかし時として、視える事そのものが余計に体力を奪う事になる。
 十代のようなスタミナの塊ならまだしも三四にとってはそれを防ぐバイザー無しでは生きられないのだろう。
 俺は少しだけ笑うと、視線を戻した。見事に爆破された決闘の塔。
「…………やれやれ、社長の道楽で始まったかと思いきや、この事件まだまだ終わりそうにも無いしな」
「この事件?」
「……ん? ああ、折角だから話すか。この大会の裏で起こってた事件っつーかなんつーか……おや?」
 俺が三四にそこまで話した時、遠くの方から文字通り一人の人影が突進してくるのが見えた。
 着ているのはタキシードで手にしているのは何故か花束とウェディングドレス。なんだ、あれは。
「三四ぉぉぉぉぉぉぉぉっ! このサイバー流免許皆伝にしてプロデュエリスト丸藤亮と結婚してくれぇぇぇ!」
 丸藤亮だった。
 丸藤亮という名の変態に気付いた三四は真っ青な顔で俺の真後ろに隠れる。流石に怖いのか。俺も怖い。
「なにやってんだあの人……」
 とりあえずため息をつきつつ、俺はあの仮面を被る。ダークネスの、漆黒の仮面。
「行け、レッドアイズ! 丸藤亮に、ダイレクトアタック!」
「ぐおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
 黒炎弾が直撃した丸藤亮が吹っ飛び、そのまま海へと消えていくのを見送って仮面を外す。
「変態は倒したぞ」
「ありがとう……あなたには、良いカードが憑いてるわね」
「ん? おう。魂のカードだぜ」
 俺がそう答えると、三四は少しだけ笑った。












 推論を交えた事だったが、三四に対して十代の一件をどう説明するか迷った。
 だけど、ありのままの現実を告げるのは酷な気がした。信頼する兄が、自身の為とはいえ一つの罪を犯したのは事実なのだから。
「ヤバい、困ったぞこれは」
 俺の呟きに、三四が首を傾げる。
「なにか問題でもあるの?」
「ん? まぁ、冷静になって考えてみれば云々でだな……」
「意味解んないわよ」
 そうは言われても困る。
「……………」
『迷っているようだな』
 急に声が掛けられ、視線を上にあげるとダークネスが俺を見て笑っていた。
「当たり前だ、間抜け」
『お前は遊城三四を少し過小評価しすぎてないか? この娘がそんな簡単に崩れるように見えるか?』
 まぁ、そう言われてみればそうかも知れない。少し、話しただけでも解った事だが遊城三四は芯は強いのだろう。
 だが、さっきから心細そうに人を探しているような素振りを見せるのは十代に会いたい、という思いからだろうか。
「で、十代はどうしてる?」
『……実はさっきから姿が見えん』
「本当か?」
「?」
 俺が思わず声をあげ、三四が何かに気付いたように、バイザーを取り去った。
「……………」
「………あなたが、ダークネス?」
『如何にも』
 ダークネスが頷く。そうだ、うっかりしていた。
 精霊が見える三四にとって、ダークネスもまた簡単に見えてしまう。いとも簡単に。
 バイザー越しで視界が悪くても俺がダークネスとこっそり話してれば何かあったと感づくのは当然か。
 文字通りドジこいた。
「……兄さんはどこにいるの?」
『今、ここにはいない』
 ダークネスはそう答えた後、くるりと一回だけ回転した。

『「……遊城三四。真実を知りたくないか?」』



 沈んでいく、記憶の海へ。

 俺の数メートル先で、同じように沈んでいく三四の姿を見つけ、俺は文字通りその中を泳いで、三四へと辿り着いた。
「三四、解るか?」
「……ええ。大体は。ここは……」
 まるで海の中のようだ、と俺は思った。
 深い暗闇。だが、底の方に何かが見える。街だった。いや、知っている。
 俺は、この街を知っている。
「……一順目の世界の記憶……そして、ここは」
「私の、暮らす、街?」
 そうだ。病院の一つには見覚えがある。俺が幻視した一順目の世界で、三四が入院していた病室。
 第七病棟四階の、427号室。そこが、遊城三四の病室。
 だが、暗い。暗すぎる。
「心肺機能低下! 先生、脳波も下がってます!」
「まだ持ち直せる筈だ! 人工呼吸器は?」
「作動しません!」
 忙しく走り回るのは、医師や看護士の姿。ベッドの上の彼女は、ただ弱々しい呼吸を続けるだけ。
 それにしても、何故電源の全てが落ちている。いや。
「……そうか。世界が次々とダークネスに飲まれた。だから……」
 電気を発生させる事も出来ないし、薬が製造されている訳でも無い。そして、いずれは……。

 病室へ現れた一人の人影が、医師や看護士の前に立ちはだかった。そして。

「……ミスターT、ダークネスの使徒か」
 俺が呟くより先に、医師や看護士も消えていく。
「……これが、一順目の世界?」
「違う、三四。一順目の世界の、最後だ。そして、お前はダークネスに飲まれて、帰ってこなかった」
「…………」
 一順目の世界の記憶。幻視している今。ミスターTの手が伸びる。ベッドの上の三四へ。ただでさえ、弱っているその身体へ。
 遊城十代も、本当は気付いていたのだろうか?
 ダークネスに飲まれた時点で、既に終焉が決まっていた事を。彼が一番、理解していたんじゃないのか?
 だけど、それでも。諦めなかったのか?
「……だから、遊城十代は。それを否定した。二順目の世界を、作り上げた」
 世界を丸ごと一つ犠牲に、そして二順目の世界でも幾多の代償を払い。

 たった一人の妹を、助ける為だけに。

「……兄さんは、私のいない世界が嫌だったの?」
「ああ」
「ただ、それの為だけに、全てを犠牲にしたの?」
「ああ」
「私の、為に」
「十代は、全てを棄てた」

 悪魔の道。たった一人の妹の為に、悪魔へ魂を売り渡した。それが悪魔の脚本だと知らずに。
「…………」
 三四が黙り込み、俺も黙り込む。そりゃそうだ。下手な事を言える状態では無い。
 だが、今の俺は……。

「兄さんは、私の事を本当に愛してくれた。私も、兄さんを愛した。兄さんが私を守ってくれたのは、一順目の世界で守れなかったから?」
 そうだ、と肯定しよう。一順目の世界の遊城十代が守りたかったものは、仲間よりも世界よりも妹だったという事を。
 だから、悪魔になったとしても。遊城十代は、案じていた。妹の事を。

 ミスターTの手が遊城三四に触れる、直前。

「ダークネス。恨むなら俺を恨め。俺は……人間臭いダークネスらしい」

 ミスターTの手を強引に払いのけ、ミスターTが慌てて手を引っ込める。
「目障りだ、消えろミスターT!」
 強引に追い払う。本来、有り得ない事態。記憶の海の中へ飛び込んだから。いや、違う。

 俺がダークネスだからだ。

「………だったら、悪魔の脚本を変えてやる!」
 ベッドの上の遊城三四を抱き起こし、俺と一緒に飛び込んできた二順目の遊城三四に視線を送る。
「三四。出かけるぞ」
「何処に?」
「歴史を変えに行く。今、こうして俺が介入したからもう―――――この世界は一順目じゃなくて、パラレルワールドになる。なら、その新しい未来を作ろうじゃないか!」
 心配なんて、要らない。
「俺がダークネスだ!」
 こんなクソッタレな未来を変えてやる。












 レッドアイズを召喚し、一順目の世界と二順目の世界、二人の遊城三四を載せてひたすら飛ぶ。
 目指す先は、十代が最後にいたデュエル・アカデミアだ。
「とにかく思いっきり飛ばすしかねぇ。間に合えばいいんだが」
「……一つ聞きたいんだけど?」
「なんだ?」
 三四は首を傾げながらも、ゆっくりと口を開いた。
「私達が、この中で世界を変えたとして。私達が本来いる二順目の世界はどうなるの?」
 その疑問はもっともな事だ。
「ああ、簡単な話だよ。俺達が辿ってきた一順目の世界の歴史に、俺達は介入してない。だから、俺達がこっちの世界で介入しても俺達の元の世界じゃ
 なんら変わってないんだよ」
「そうなの?」
「そうさ。それに、もしそうだとしたら無限ループが発生しちまうからな」
 終わらない、一つの歴史ばかりが延々と繰り返されるループが発生する。それだけは避けたい。
 俺が視線を前に見据えると、三四が再び口を開いた。
「一つ、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「兄さんは……一順目の世界で、ダークネスを倒したんでしょう?」
「ああ」
「それで、ダークネスに飲まれた人は戻ってきたの?」
「戻ってきた。俺はそう聞いている。ただ、三四だけが戻らなかった。その理由はさっき見て解っただろ」
 そう、弱った状態で。死の直前で、飲まれてしまったから。戻ってこれなかった。
 俺の隣で眠る一順目の遊城三四は眠りこけたままだ。先ほどよりは呼吸も安定している。
「…………」
 故に、遊城十代は罪人なのである。折角戻った世界を見事にオシャカにしたのだから。
「自分で世界を救っておいて、自分でぶっ壊すなんて本当に酷い話だ」
 はた迷惑なヒーローにも程があるというものさ。
 遠くの方に、アカデミアの光が見えてきた。



《第47話:世界を止めて待っていて》

「見えてきたか!」
 遠くの方に見える一つだけ灯ったアカデミアの火。
 暗闇のような空の下。校門前に、彼らはいた。

 一順目の世界、崩壊前の前哨戦とも言うべく、ダークネスの僕たる藤原優介と、ダークネスの仮面を被った天上院吹雪。
 その近くには一順目の世界の、まだ壊れる前の十代とゼノンにそっくりな少年――――名前は知らないがその戦いを見守っている。
「ツイてる」
 俺は思わずボやく。
「ツイてる?」
「十代が戦う前、十代は藤原とダークネスの連戦になったからな。藤原と戦ってすらいないなら、まだ時間に余裕があるって事だ」
 時間に余裕があるなら、何とかなる。一順目のダークネスがどんな強さであろうと、倒せる筈。
 三四は「そう」と呟くと、その時、急にバイザーを外した。
「―――――ッ!」
「三四?」
「大丈夫……。これは、酷い」
「酷い?」
 真っ赤な瞳が、三四の真紅の瞳が俺を捉える。
「ダークネスに飲まれた人の負の感情が全部吐き出されてる。けど、それが……」
「俺には視えないが、お前には視えちまうのか。無理するな」
 三四にもう一度バイザーを付けさせ、俺は真紅眼に指示を飛ばして旋回するように命じる。
 校門の上を飛び回る俺達に気付いたのか、十代とゼノンに似た少年は視線を上に向けたが藤原と天上院吹雪はデュエル中だ。
「なぁ、三四。真剣勝負に横槍を入れるのってマズいか?」
「あまり感心は出来ないけど……時間がないなら」
「そうだな」
 なりふり構っちゃいられないのである。時間が無いので藤原はさくっとなんとかしてダークネスを引っ張り出さなきゃならない。

「行くぞ、レッドアイズ。ダークネスの誇りにかけて、藤原優介を叩き潰す! 牙が、翼が、全て光って唸る! 熱く燃え上がれ、燃え尽きるほど熱く!
 ダークネスが命ず、レッドアイズ! 藤原優介に全身全霊の一撃をぶつけてやれ! ダーク・メガ・フレア!」

 藤原優介が気付いた時にはもう遅かった。
 乱入してきたレッドアイズの一撃を受け、藤原は一気に吹っ飛んでいった。
「んなぁっ!?」
「真紅眼……? 誰だ?」
「真剣勝負の所、横槍を入れて申し訳ないってね。ま、いいか」
 事情が事情なんでな。俺は真紅眼から滑り降り、二順目と一順目、双方の三四を下ろした。
「三四!?」
 十代が文字通り凄い勢いですっ飛んでくると、三四の元へと駆け寄る。おお、一秒掛かってないベストタイム。
「本当に……三四なのか? てか、そいつは……」
「よう、一週目の遊城十代」
 俺がそう声をかけると、十代は俺に視線を向け、そして二人の三四にも気付く。
「三四が二人……てか、お前。その仮面は、お前もダークネスなのか?」
「訂正しろ。お前もじゃない。俺がダークネスだ!」
 少なくとも天上院吹雪や藤原といった紛い物でも無く紛れもなく本物の。二週目の。
「何をしにきた?」
「歴史を変えに来たのさ」
 そう、一週目の世界の歴史を変えに。
 意味が解らないのか、十代とその隣りにいた少年が一瞬だけ顔を見合わせた後、口を開く。
「それはどういう意味だ?」
「言うよりも、見た方が早いよな。あー、時間がないんでさっさと行かせて貰う。これがその答えだ!
 十代達に二順目の世界の記録を満載した思念派を叩き付け、俺は藤原へと視線を向けた。
 一順目の世界のダークネスである藤原優介はようやく立ち上がると、俺を睨んできた。
「何者だ? ダークネスの名を語るなんて……」
「本物だよ、俺は」
 だって、魂そのものを受け継いだ力は、本物だから。

「つーことだ藤原優介。二週目の世界の悲劇を救う為に……ぶっ倒されてくれ」

 同時に誰かがひざをつく音が聞こえた。
 振り向くと、十代が膝をついていた。
「十代?」
「………嘘だろ、なんで……おい、ダークネス……」
「あ?」
「なんで………なんで三四が帰ってこないんだ!? あんたの世界で、俺があそこまでやったのはそれが原因だったのか!? けど、どうしてだよ!
 戻ってくる筈じゃねーのかよ! 俺がダークネスを倒したのなら!」
「ああ、確かにあんたは倒したさ遊城十代。でも、間に合わなかった」
 そう、今俺がこの手で救出しなかったら。この世界でも、闇に埋もれたまま死んでいく。
 けれども。
 歴史を変えると願った、今の状態ならば。

「そんな運命を、変えてやりに来たんだよ……俺は」

 二順目の悲劇のループに、せめて何処かで終わりを作る為に。



 現れたダークネスと名乗る男が藤原に向かっていく。
 悲しみと、憎悪に満ち溢れた記憶だった。そしてそれが、未来の自分だったかも知れない姿に、気付いた。
「十代、今の……」
「ああ。あれ、二週目の世界の、俺、なのか……?」
 俺の問い掛けに、バイザーを被った三四が頷く。そう言えばこのバイザーは何なのだろう。
「私も彼に言われるまで知らなかった。けど、兄さん。聞いて。兄さんが私の事を愛してるのはどんな世界でも代わらない。だから。
 ダークネスは、二週目の世界の兄さんが救えなかった、一週目の私達を助けに来た」
「……でも、それって」
「ダークネスが、ダークネスに挑む。それはある意味、存在否定なのかも知れない。けどあの男は知ってる」
 いや、信じてると続けてから三四は言葉を紡いだ。
「自分の力が、世界だって動かせると信じてる」



「さて、藤原優介。実は言うと時間がない」
「それは好都合だね。僕としては長期戦に持ち込みたいんだ」
「いや、お前の事はどーでもいいんだこのワカメ」
 藤原、もといワカメは盛大にすっ転ぶと、体勢を建て直しながら言葉を続ける。
「だ、誰がワカメだ! どーでもいいとはどういう事だ!」
「いやぁ、平たく言えばテメーみてぇな三下と戦ってる暇なんか無いから大将を出せやコラと言ってるんだ。解ったか、ワカメ大使」
「ワカメ大使違う! 六番隊の隊長の製作物なのか僕は!?」
「いちいち反論するなこの全身ワカメ」
「だからどこがワカメなんだよ! て、言うか全身ワカメってなんだ!?」
「どこがワカメか? 存在そのものがワカメだ」
「存在そのものがワカメってなんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 いちいちツッコミが鋭いワカメはまだまだ余力があるらしい。
「ダークネスと言ったか……気を付けろ、藤…ワカメの戦術は危険だぞ」
「ああ、解ってるさ。天上院吹雪。安心して見てろって」
「おい吹雪! 君、今僕の事、ワカメって言ったよな!? しかもわざわざ言い直したよな!? お前は本当に僕の親友なんだよな!」
「勿論だよ……君は僕の大切な親友だよワカメ」
「説得力がまるでない! 本当に僕を助けたいと思ってるのか君は?」
「当たり前だ藤…ワカメ!」
「言い直すな! 言い直す必要は無いだろ言い直す必要は!」
「うわぁ、長年の友情が音を立てて崩壊する瞬間をこの目で見たぜ俺」
「誰のせいだ誰の!」 「それは勿論ダークネスに落ちたお前のせいだワカメ」
「君のせいだろ!」
 ワカメはツッコミに力を使いすぎたのか、荒い息を吐いていた。
 しかし、時間が無い上にワカメの戦術は厄介な事この上ない。ダークネスの記憶から辿ると、ワカメの十八番であるフィールド魔法《クリアー・ワールド》と
ネガティブエフェクトを使われれば俺のデッキでは苦戦は確実だ。
 幾ら無駄にエネルギーを使わせて弱体化させようにも基本戦術が破れなければ意味はない。
 ならば、戦うのを避けるしかない。
「さて、ワカメ……気は済んだか?」
「……なんのだい?」
「ツッコミの」
「誰のせいでツッコミ役をする羽目になったと思ってるんだ!」
「ツッコミ役の役目はツッコミだ」
「…………認めたくはないがそういう事にしておこう」
「ツッコミが終われば用済みだ。お前には退場してもらう!」
「な、なにをするきさまー!」
 俺は咄嗟に思念波をワカメにぶつけ、遠くまで吹っ飛ばす。
 これでしばらくは戻ってこないだろう。後は、真打ちを倒せば終わる。
「はい、ワカメ処理完了、と。出て来いよ」
 俺の言葉に、空気が震えた、ような気がした。

 三四は悪意が溢れている、と言っていた。
 確かにその通りかも知れない。憎悪が、悪意そのものが、文字通り風になっているようだ。
「なるほど、ダークネスに飲まれた世界、か」
 ダークネスに飲まれた世界は、まるで地獄のようだ。
 何も無い。
 ただの暗闇でしかない。光も音も無いから、何もしようがない。

「そして世界は一度、滅びたのはこの後だった」

 辿った記憶の果てに、世界は滅びた。
 二週目の世界が生まれたのは、世界に欠けたたった一つのピースを埋めるため。
 自らの手で救った世界を、自らの手で無に帰したのはその為。

「………そうして出来た二週目の俺が、一週目の世界を救いに来るとはおかしな話だな。計算が合わないけど」

 俺が介入した時点で、既に歴史は変わりつつある。
「俺は結局の所、一週目の世界では誰だったんだろうな」
 それは解らない。答えを知る者は……。

『待たせたな』

「遅かったな、ダークネス」
 俺が声をかけると、一順目の世界のダークネスは小さく笑った。
『欠けた我が肉体は、そんな所にあったのか。二人で共生するのは楽しいか?』
「そこそこな。役に立つ事もあるし」
 俺は笑う。
「……変な話だ。俺は元々ダークネスだった。けれど、前にダークネスだった奴を潰しに来るなんて」
『そうだな……。お前は確かに我だったものだ。だが、今は違う』
「今は、なんだ?」
 俺の問いに、ダークネスは笑って答える。
『今は、今は貴様でしか無い』
 ダークネスの魂と肉体を持つ、黒川雄二という存在なだけなのだろうか。
 いや、今やそれはどんな意味を持つのだろう。
 存在を否定したのか、それとも……。

『………では、始めるか。我と……いや、お前は我の先が本当の望みか。とにかく、始めよう』
「ああ! 勝たせてもらうぜ、ダークネス!」

「『デュエル!』」

 黒川雄二:LP4000 ダークネス:LP4000

「先攻は貰うぜ、俺の先攻ドロー!」
 さて、何が出る。
「手札より、黒竜の雛を召喚…そして雛は黒竜へと進化する! 黒竜の雛の効果により、手札の真紅眼の黒竜を召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上のこのカードを墓地に送る事で手札の「真紅眼の黒竜」一体を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

『1ターン目から、だと……流石だ』
「少なくとも腕前だけはあげてるつもりなんでね。ターンエンドだ」
 リバースカードを伏せずにターンを終了。だが、下手に伏せて除去されるのも何処か嫌だ。
『我のターンだ……ドロー』

『六邪心魔・憤怒―レダを召喚する』

 六邪心魔・憤怒―レダ 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でそのモンスターの攻撃力分の数値、
 攻撃力を上げる事が出来る。
 この効果を使用した後、エンドフェイズにこのカードは守備表示になる。次の自分エンドフェイズまで表示形式を変更出来ない。

『更に魔法カード、督戦の大号令を発動。デッキの一番上をゲームより除外し、手札より攻撃力2000以下のモンスターを二体、守備表示で召喚する。
 この効果で、憎悪のレイド、嫌疑のロイを召喚!』

 督戦の大号令 通常魔法
 通常召喚の後に発動可能。
 デッキより一番上のカードをゲームより除外する事でそのターン召喚したモンスターの攻撃力より低いモンスターを二体、特殊召喚出来る。
 このターン、バトルフェイズを行う事は出来ず、リバースカードもセット出来ない。

 六邪心魔・憎悪―レイド 地属性/星4/悪魔族/攻撃力1900/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードを戦闘で破壊したモンスターはそのターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。

 六邪心魔・嫌疑―ロイ 光属性/星4/悪魔族/攻撃力1800/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 1ターンに1度、相手の魔法・罠ゾーンに伏せられているカードをランダムに選択して見る事が出来る。

「一気に3体並べた……」
 信じられない。ダークネスの奴、戦術が更に凶悪化してやがる。
 後攻1ターン目とはいえ、3体も並べてくるとは……。
『督戦の大号令の効果により、バトルフェイズは行わずカードは伏せられない。ターンエンドだ』
「おいおい、冗談キツいぜ……」
 だがしかし、リバースカードをセット出来ないのなら次のターン、モンスターを守る壁は無い。
 真紅眼の攻撃力は2400なので相手3体を上回っている。攻撃力増強効果のあるレダの攻撃力は2000。
 このターンで倒してしまえば、攻撃も怖いとは思えなくなる。
「行くぜ、俺のターン!」
 まずはドローする。さて、なにが出るか。
 相手は3体、全部叩いておきたいところだが、レイドを破壊した時はそのモンスターも喰われてしまう。おまけに、蘇生効果で次のターンには逆戻り。
 いや、待て。蘇生効果は六邪心魔全てに共通する事だから。
「ええい、こん畜生」
 相変わらず嫌な戦術を選んでくるものだ。ダークネスのやつも。
「レッドアイズ……六邪心魔・憤怒―レダを攻撃! ダーク・メガ・フレア!」

 ダークネス:LP4000→3600

「更に、洞窟に潜む竜を守備表示で召喚。カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 洞窟に潜む竜 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1300/守備力2000

『レダの効果により……500ライフポイントを支払い、フィールドに戻る』

 ダークネス:LP3600→3100

 六邪心魔・憤怒―レダ 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でそのモンスターの攻撃力分の数値、
 攻撃力を上げる事が出来る。
 この効果を使用した後、エンドフェイズにこのカードは守備表示になる。次の自分エンドフェイズまで表示形式を変更出来ない。

『そして我のターン。ドロー。ふむ……六邪心魔・嫌疑―ロイの効果を発動!』

 六邪心魔・嫌疑―ロイ 光属性/星4/悪魔族/攻撃力1800/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 1ターンに1度、相手の魔法・罠ゾーンに伏せられているカードをランダムに選択して見る事が出来る。

『ロイの効果により、1ターンに一度、相手の魔法・罠ゾーンに伏せられたカードをランダムに一枚だけ見る事が可能だ。
 そして貴様のフィールドにはリバースカードは一枚のみ』
「げ」
 伏せられていたカードが浮き上がり、そのまま公開されるかのように浮き上がった。

『………なに? 強欲な瓶、だと……』
「ブラフ代わりに伏せてたのに、チクショー!」

 強欲な瓶 通常罠
 デッキからカードを一枚ドローする。

 効果の無駄遣いもいい所だが一枚しか伏せないのはピンポイントで狙われてしまう。
 おまけに1ターンに一度ランダムとはいえリバースカードを見られるのはあまりいい気持ちではない。何とかしないと。
『まだ通常召喚を行っていない……六邪心魔・悲哀―ユーリを守備表示で召喚』

 六邪心魔・悲哀―ユーリ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1500/守備力1800
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、自分スタンバイフェイズ毎に自分フィールドの魔法・罠ゾーンのカードの数×300
 ポイントずつ、ライフポイントを回復する。

 4体目の悪魔がフィールドに並ぶ。これで四体もいる事になる。
「……おいおい」
 四体も並ぶ姿は、圧巻だ。
 幾ら壁が2体並んでいるとはいえ、それでも嫌な事に変わりはない。
『そして、憤怒のレダの効果を発動! ロイを生贄に捧げ、その攻撃力をレダの攻撃力に銜える!』

 六邪心魔・憤怒―レダ 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でそのモンスターの攻撃力分の数値、
 攻撃力を上げる事が出来る。
 この効果を使用した後、エンドフェイズにこのカードは守備表示になる。次の自分エンドフェイズまで表示形式を変更出来ない。

 六邪心魔・憎悪―レイド 地属性/星4/悪魔族/攻撃力1900/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードを戦闘で破壊したモンスターはそのターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。

 六邪心魔・憤怒―レダ 攻撃力2000→3900

『そして、憤怒のレダにより、真紅眼の黒竜を攻撃! フレアインパクト!』
「チッ! とうとうきたか!」
 しかし、リバースカードがブラフである以上、こちらに成す術はない。

 黒川雄二:LP4000→2500

 ライフが大きく削られ、真紅眼がフィールドから姿を消す。
『レダは自身の効果により、守備表示に変更。次のターンのエンドフェイズまで表示形式は変更出来ない。カードを一枚伏せてターンエンド』
「俺のターンだ! ドロー!」
 せめてこのターン中になんとか出来れば逆転の布石があるのだが。
「ん……フィールド上の洞窟に潜む竜を除外し、手札よりレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚!」

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力2800/守備力2400
 このカードはフィールド上に存在するドラゴン族モンスター1体を除外する事で特殊召喚出来る。
 1ターンに1度だけ、自分の墓地・手札から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を、
 自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 闇に堕ちた機竜が姿を現し、咆哮をあげる。
 相手の攻撃力がどうであろうと、これなら怖くはない。
「更に、レッドアイズ・ダークネスメタルの効果発動! 1ターンに一度だけ、手札・墓地から『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』
 以外のドラゴン族モンスター一体をフィールド上に特殊召喚出来る! この効果で、俺は墓地の真紅眼の黒竜を特殊召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

『上級2体を1ターンで揃えたか……だが、まだそれでは終わらんだろう』
「しかし攻撃する。ダークネスメタルで、レダを、真紅眼でロイを攻撃! まとめて吹っ飛びやがれ!」
『リバース罠、攻撃の無力化を発動!』

 攻撃の無力化 通常罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 レッドアイズの攻撃が次元の渦に吸い込まれ、攻撃が中断される。
 さっきのリバースカードのせいか。だが、余計にリバースカードを使わせたのは収穫だと言えよう。
「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
『我のターン。ドロー……ふむ』
 ダークネスの顔が何処か歪んだ。どうやら嫌なカードを引き当てたらしい。
『永続魔法、強者の苦痛を発動』
「うげ」

 強者の苦痛 永続魔法
 相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力はレベル×100ポイントダウンする。

 レッドアイズ・ダークネスメタルはレベル10、真紅眼はレベル7。それを×100して攻撃力マイナス……。
「げ、げげげげげ!」
 幾らアホな俺でも解る。攻撃力がた落ちだ。

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 攻撃力2800→1800
 真紅眼の黒竜 攻撃力2400→1700

『攻撃力1800……これでダークネスメタルは六邪心魔・嫌疑―ロイと並ぶ』
 憤怒のレダは守備表示のままだがロイは攻撃表示だ。そして、並んだ攻撃力と上回る攻撃力。
 今、どちらか片方が欠けるのは辛い。

「やってくれるぜ……!」
 どうやらこのデュエル、さっさと終わらせるような事にはしてくれないようだ。



「…………」
 黒川雄二と名乗る2週目のダークネスと、1週目のダークネスの戦い。
 他人のデュエルを生で見るのは私にとって本当に久し振りな事で、不謹慎だが少しだけ楽しいとも思う。
「……ヨハン、あいつなかなかやるな」
「ああ。デッキの構成は悪そうだけど戦術そのものは悪くは無い」
 兄さんは隣りにいる少年としばらく二人の戦いを見ていたが、ふと視線を私に向けてきた。
「ところで、三四、と呼んでいいよな。一つ聞いていいか?」
「なに、兄さん?」
「2週目の俺は、お前に……その、迷惑とか」
「大丈夫」
 黒川雄二は言っていた。
 遊城十代が世界を滅ぼしてまで動いたのも、私の為だと言っていたから。
「兄さんは私の事だけを思ってる。いつも」
 だからこそ、信じてしまう。
 兄さんの事だけを、いつも。
「そうか……」
「ところで十代。一つ頼みがあるんだけど、いいか?」
「なんだヨハン?」
「義兄さんと呼ばしてくれ」
「ヨハン。お前頭冷やしてこい」
 兄さんと少年が言い争いを始めた時、遠くの方の空で何かが光った。
「なんだ?」
 天上院吹雪が空を見上げ、私も同じ方角へと視線を向ける。
 光が、徐々に大きくなる。それが、どこか禍々しさを感じさせるほどの白さで。
「あれ、近づいてくる……」
「なんだあれは! 下がっていた方がいい、何か危険だ」
「こら吹雪さん! 三四にそれ以上近づくな! 後10センチ離れろ10センチ! 距離が近いぞ距離が!」
「十代、シスコンはどうかと思うぞ。俺なら幸せにしてやるからさぁ、義兄さん」
「おい、ヨハン! 誰が義兄さんだ!」
 兄さんは相変わらずなのか、天上院吹雪と少年を追い散らしていたが、その間にも光は近づく。
 そしてその光が、人型になって現れた。

 その光の中心にいた銀髪の少年が、視線を私に向けて少し笑った。

「ようやく、到着ってトコかな。なんだ、まだデュエル中か」
 彼はそう言って笑った。

「お前は……!」
「やぁ、1週目の遊城十代。本当に、久し振りかな……また会えて嬉しいよ」
「吹雪冬夜……!」
 兄さんが数歩後退した後、私の事を思い出したのか、天上院吹雪の隣りに並んで私の前に立つ。
 もう一人の少年も何かを感じ取ったのか、私の前に立った。
「どうしたんだい? 鬼を見たような顔をして」
 その少年の声が響くと同時に、私の背中に悪寒が走った。

 その笑みが、その言葉が、何処か人を狂わせる。

 恐怖、そう、根本的な恐怖。

「……誰?」
「……初めまして、かな。君が遊城三四だね。オレは吹雪冬夜。世界を変える奴、さ」
 吹雪冬夜の言葉に、兄さんが口を開いた。
「お前が、俺を唆して世界を滅ぼした。1週目の、この世界を」
「…………クソ、誰だバラしたの。まぁ、いい……遊城十代が使えないなら、オレがこの手でやるまでだ」
 吹雪冬夜が笑いかけた時、横から声が飛んできた。

「待ってたぜ吹雪冬夜。お前の相手はちゃんとしてやる。だから今は待ってろ」

「……だ、誰だお前! いったいどこから乱入してきた!」

「俺か? 俺はダークネス。吹雪冬夜を滅する者だ」

 黒川雄二は、2週目のダークネスは、そう言ってニヤリと笑った。



《第48話:ねがい》

 黒川雄二:LP2500 ダークネス:LP3100

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力2800/守備力2400
 このカードはフィールド上に存在するドラゴン族モンスター1体を除外する事で特殊召喚出来る。
 1ターンに1度だけ、自分の墓地・手札から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を、
 自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 六邪心魔・憤怒―レダ 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でそのモンスターの攻撃力分の数値、
 攻撃力を上げる事が出来る。
 この効果を使用した後、エンドフェイズにこのカードは守備表示になる。次の自分エンドフェイズまで表示形式を変更出来ない。

 六邪心魔・悲哀―ユーリ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1500/守備力1800
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、自分スタンバイフェイズ毎に自分フィールドの魔法・罠ゾーンのカードの数×300
 ポイントずつ、ライフポイントを回復する。

 六邪心魔・嫌疑―ロイ 光属性/星4/悪魔族/攻撃力1800/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 1ターンに1度、相手の魔法・罠ゾーンに伏せられているカードをランダムに選択して見る事が出来る。

 強者の苦痛 永続魔法
 相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力はレベル×100ポイントダウンする。

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 攻撃力2800→1800
 真紅眼の黒竜 攻撃力2400→1700

 状況はあまり芳しいとは言えない。
 相手フィールドに3体、こちらは攻撃力が上回っているとはいえ、強者の苦痛で下げられている。
 そしてなによりまだダークネスのターンだ。
『嫌疑のロイで、真紅眼の黒竜に攻撃! ヘル・クラウン・レイ!』

 黒川雄二:LP2500→2400

「レッドアイズ……」
 2回目の戦闘破壊。どうやら今日は厄日らしい。
『貴様のコンボは真紅眼の黒竜があってこそ。だが、これでは手も足も出ない』
「言ってくれるじゃねーか、ダークネス」
『くくく、我だってバカではないのだ』
 このデュエル、なかなか面白い事になってきやがった。
『カードを2枚伏せて、ターンエンド』
「……手札使いきりやがったな。俺のターン! ドロー!」
 さて、どうする。
 まずは強者の苦痛を何とかしたいが、下手に手を出すと逆に吹っ飛びそうだ。
「魔法カード、天使の施しを発動」

 天使の施し 通常魔法
 デッキからカードを3枚ドローし、手札から2枚を選択して墓地に送る。

 カードを3枚ドローし、2枚を墓地に送る。
「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果により、墓地の真紅眼の黒竜を特殊召喚!」
『しかし強者の苦痛の効果により、攻撃力は1700に減少する』

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 真紅眼の黒竜 攻撃力2400→1700

 攻撃力が下がった、だがその程度で終わる訳には行かない。
「ここで真紅眼の黒竜を墓地に送り、手札の真紅眼の闇竜を召喚!」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 このカードは自分の墓地のドラゴン族モンスター1体に付き攻撃力が300ポイントアップする。

「俺の墓地にドラゴン族モンスターは四体……つまり、攻撃力は1200上昇する!」
 強者の苦痛の効果で900ポイント下がるが、それでも300上がる計算になる。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→3600→2700

「闇竜で、嫌疑のロイを攻撃! ダークネス・ギガ・フレイム!」
『ぬうっ!』

 ダークネス:LP3100→2200

 嫌疑のロイが破壊され、残りは守備表示のレダとユーリの2体のみ。
「そして、ダークネスメタルで守備表示のレダを撃破! ダークネス・メタル・フレア!」
『ぬうっ……クソ、やってくれる』
 これで、残りは悲哀のユーリ1体。

 六邪心魔・悲哀―ユーリ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1500/守備力1800
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、自分スタンバイフェイズ毎に自分フィールドの魔法・罠ゾーンのカードの数×300
 ポイントずつ、ライフポイントを回復する。

 蘇生効果を使わないのか、ダークネスはライフを払う様子は無い。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
『我のターン。ドロー……そして、ユーリの効果により、ライフを回復する。只今、我がフィールドに魔法・罠は3枚だ』

 六邪心魔・悲哀―ユーリ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1500/守備力1800
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、自分スタンバイフェイズ毎に自分フィールドの魔法・罠ゾーンのカードの数×300
 ポイントずつ、ライフポイントを回復する。

 ダークネス:LP2200→3100

『そして、手札より六邪心魔・苦痛―ソフィアを召喚』

 六邪心魔・苦痛―ソフィア 風属性/星4/悪魔族/攻撃力1200/守備力2100
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手スタンバイフェイズ毎に相手の手札×200ポイントのダメージを相手に与える。

『そして永続魔法、邪心の増幅を発動』

 邪心の増幅 永続魔法
 フィールド上に「六邪心魔」と名のつくモンスターが存在する時、発動出来る。
 「六邪心魔」を名のつく全てのモンスターは存在枚数×200ポイント、攻撃力・守備力がアップする。
 「六邪心魔」と名のつくモンスターが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、このカードを墓地に送る事でフィールド上に特殊召喚できる。
 このカードは墓地に送られた時、1000ライフポイントを支払う事でデッキの1番上に戻る。

 フィールド上の2体の悪魔の攻撃力が跳ね上がる。幾ら攻撃力が貧弱だろうと、それでも充分恐ろしい。

 六邪心魔・悲哀―ユーリ 攻撃力1500→1900
 六邪心魔・苦痛―ソフィア 攻撃力1200→1600

『そして今、ダークネスメタルドラゴンは強者の苦痛の効果で攻撃力1800……悪いが、ドラゴン族を特殊召喚するのは厄介でな』
「なるほど、攻撃を、仕掛けてくるか」
『喰らうがいい! ディストラクション・ウェイブ!』
「……甘いな。リバース速攻魔法! サイクロンを発動!」
『なにぃ!?』

 サイクロン 速攻魔法
 フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を破壊する。

 嫌疑のロイの効果を使われなかったし、既に戦闘破壊されたまま蘇生されなかったのが裏目に出たのだろう。

「そして、俺は強者の苦痛を破壊! これで2体のレッドアイズの攻撃力が元に戻る!」

 真紅眼の闇竜 攻撃力2700→3600
 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 攻撃力1800→2800

「迎撃しろダークネスメタル! ダークネス・メタル・フレア!」
『き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 だが、時既に遅し。悲哀のユーリが破壊され、フィールドから姿を消す。

 ダークネス:LP3100→2200

『ぬぅぅ……ユーリの効果を使い、500ライフポイントを支払って墓地より特殊召喚する』

 六邪心魔・悲哀―ユーリ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1500/守備力1800
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、自分スタンバイフェイズ毎に自分フィールドの魔法・罠ゾーンのカードの数×300
 ポイントずつ、ライフポイントを回復する。

 ダークネス:LP2200→1700

『カードを2枚伏せて、ターンエンドだ』
 悲哀のユーリが再びフィールドへと戻る。最低でも2体は確保するつもりらしい。
 強者の苦痛が無くなって攻撃力減退効果がないとはいえ、それでも厄介な攻撃である事には変わりはない。
「俺のターン。ドロー!」
「随分と手を焼いてるようじゃないか?」
 ドローした瞬間、吹雪冬夜がそんな声をあげた。
「なに。ちょいと時間がかかりすぎてるだけだっつーの」
「それって苦戦してるんじゃないか?」
「やかましい!」
 いいから黙って見てやがれ、と言いかけて妙に静かな事に気付いた。
 何故だろう、何処かおかしい。
「……ところで吹雪冬夜」
「なんだ?」
「……お前は何をしに来た?」
「世界を変えに」
 1週目の、まだ世界の中にいた吹雪冬夜は笑う。2週目に俺が出会った時とあまり変わらない。
 いや、俺が1週目に最初に来た時に出会った時とは、何処か違う印象を与える。そう、まるで。

 ボタンをどこかで掛け違えてしまったかのように。

「お前は、俺を知ってるか?」
「知らないさ……だけど、一つだけ解る。お前はオレの敵だって事がな」
 ダークネスの力を、凄まじいまでの力だけを望み、神になろうとした吹雪冬夜。
 そんな奴が望んだ世界は、何だと言うのだろう。
「吹雪冬夜、お前は……何を望む」
「オレの望む世界を作る。世界を変えるのに、新世界の神はたった一人でいい。そして、その新世界を作るのは、このオレだ!」
「新世界、ねぇ。それはお前の思い通りになる世界なのかい?」
「そうさ。世界はオレの為だけにあればいい。もう、こんな腐った世界はゴメンだ……誰かが助けてくれないなら、自分で動くしかない。
 絶望の中に放り込まれても誰も助けてくれない。なら、自力で立ち上がるしか無いだろ」
 冬夜は一瞬だけ寂しげな笑顔を浮かべた後、腕を組んで笑った。
「じゃ、待ってるぜ」
 吹雪冬夜からダークネスに視線を戻す。今はダークネスと戦う事が大事だ。
「只今のお前さんのトコの悪魔達はどちらも攻撃表示だ……」
 六邪心魔の名を持つ悲哀のユーリと苦痛のソフィア。ん? 苦痛の……。
 そう言えば今は、スタンバイフェイズ。

 六邪心魔・苦痛―ソフィア 風属性/星4/悪魔族/攻撃力1200/守備力2100
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手スタンバイフェイズ毎に相手の手札×200ポイントのダメージを相手に与える。

「げ」
『……その通り。六邪心魔・苦痛―ソフィアの効果により、お前は手札の数×200ポイントのダメージを受ける』
 今の俺の手札は3枚。つまり、600ポイント。

 黒川雄二:LP2400→1800

「くそ……だが、まだ行ける」
 ライフは削られた。だが、お互いに拮抗している。
 ダークネスも、俺も、お互いに負ける気はしないだろうから、今ある手札から動かせるものを動かしている。
 手札を一瞬だけ確認するが、まだ上手くはいかないだろう。
「闇竜の攻撃……六邪心魔・苦痛―ソフィアを攻撃! ダークネス・ギガ・フレイム!」
『リバースカード、邪心竜の降臨を発動!』

 邪心竜の降臨 永続罠
 フィールド上に存在する悪魔族モンスターが攻撃対象に選択された時に発動可能。
 フィールド上に存在する「六邪心魔」と名のつくモンスター2体を墓地に送り、デッキから『真紅眼の邪心竜』1体を特殊召喚する。
 この効果で召喚された『真紅眼の邪心竜』はこのカードがフィールド上を離れた時に破壊される。

「邪心竜の、降臨……?」
『このカードの効果で、我は六邪心魔・苦痛―ソフィアと六邪心魔・悲哀―ユーリを墓地に送る』
 2体の悪魔が姿を消し、そしてそれらを喰らって姿を現すのは、1体の竜。
 朽ち果てた、闇へと消えた竜。

 その名は、真紅眼の邪心竜。

 真紅眼の邪心竜 闇属性/星7/悪魔族/攻撃力2400/守備力2000
 このモンスターは通常召喚できない。「邪心竜の降臨」の効果でのみ、特殊召喚出来る。
 墓地に存在する「六邪心魔」と名のつくモンスター1体につき、このカードの攻撃力は600ポイントアップする。
 フィールドに「六邪心魔」と名のつくモンスターが存在する時、以下の効果を得る。  ・「六邪心魔・嫉妬―スウェン」相手守備表示モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分だけダメージを与える。
 ・「六邪心魔・悲哀―ユーリ」相手が魔法カードを発動した際、手札を1枚墓地に捨てる事でその効果を無効にする事が出来る。  ・「六邪心魔・憤怒―レダ」相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、相手のデッキの1番上のカードを墓地に送る。
 ・「六邪心魔・憎悪―レイド」相手が罠カードを発動した時、デッキの一番上のカードを墓地に捨てる事でその効果を無効にする事が出来る。
 ・「六邪心魔・苦痛―ソフィア」相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力はレベル×100ポイント下がる。
 ・「六邪心魔・嫌疑―ロイ」相手プレイヤーはカードをドローする度にそのカードをお互いに確認しなければならない。

『くく……見るがいい、この姿を』
「…………嫌な感じがするな」
 本当に、嫌な感じのするカードだ。まるで、何かが内包されているような、そんな気がする。
『邪心竜の効果により、墓地に存在する六邪心魔の数×600ポイント、攻撃力は上昇する。つまり』

 真紅眼の邪心竜 攻撃力2400→5400

 攻撃力5400。
「げぇっ!」
 これではいけない。バトルなんてやってられるか。
「闇竜と、ダークネスメタルを守備表示に変更。カードを1枚伏せて、ターンエンド」
 咄嗟に守備表示に変更したのでどうにか過ごしはしたが、次はダークネスのターンだ。
『我のターンだ……クク、手札の六邪心魔・嫉妬―スウェンを召喚!』

 六邪心魔・嫉妬―スウェン 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力1700/守備力1500
 このカードは戦闘で破壊されて墓地に送られた時、500ライフポイントを支払う事でフィールドに特殊召喚する事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズに2回攻撃が出来る。

 双刃剣を持つ悪魔が現れ、剣を一回転させる。
 攻撃力そのものは高くないが、2回攻撃の厄介な能力。そして邪心の増幅の効果はまだ続いている。

 邪心の増幅 永続魔法
 フィールド上に「六邪心魔」と名のつくモンスターが存在する時、発動出来る。
 「六邪心魔」を名のつく全てのモンスターは存在枚数×200ポイント、攻撃力・守備力がアップする。
 「六邪心魔」と名のつくモンスターが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、このカードを墓地に送る事でフィールド上に特殊召喚できる。
 このカードは墓地に送られた時、1000ライフポイントを支払う事でデッキの1番上に戻る。

『そして、フィールドにスウェンが存在する事で、真紅眼の邪心竜はその攻撃に貫通効果を得る!』
「………チッ、しまった!」
 六邪心魔、故に六体いる。だが、嫉妬のスウェンがまだ出現していない事を忘れていた。
 守備表示とはいえ、そのライフを削り取るには充分過ぎる。
『行けぃ、邪心竜! 闇竜に攻撃! イービル・メガ・フレア!』
「………くそったれぇぇぇ……なーんちゃって」
『なにぃ!?』
「リバース罠、幻影の水鏡を発動!」

 幻影の水鏡 通常罠
 このターン、バトルフェイズで受けるダメージを半分にする。

 闇竜が破壊され、姿を消す。
 貫通効果によりダメージは3400、それが半分で1700。つまり、俺のライフは……。

 黒川雄二:LP1800→100

『ぬぅ……100残ったか……ターンエンド』
「俺のターンだ」
 ライフは残り100。そう、残り100ポイントだ。
 だが、そんな状況だからこそ。
「余計に燃えてくるだよ……ドロー!」
 そして、引いたカードはあのカード。

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを墓地に送り、俺は手札より、こいつを喚ぶぜ! 見てみろよ、ダークネス。これが俺の本気だ!
 真紅眼の闇焔竜を召喚!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

『闇焔竜、だと……!?』
「なんだこれは……!? 僕も見た事無いぞ!」
「すげぇ……あの状況で、このカードを……あいつ、運はいいんだな」
 天上院吹雪と遊城十代が騒いでいる気がするがこの際気にしない。
「闇焔竜の効果発動! ライフを半分支払い、墓地に眠るレッドアイズの効果を得る! それにより、闇竜とダークネスメタルの効果を得る」

 黒川雄二:LP100→50

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→5300

 闇竜と同じ墓地のドラゴン族の力を得て、攻撃力が跳ね上がる。これで攻撃力5300。
 まだ、足りない。そして足りない分は。
「ラストバトルだ、ダークネス」
『攻撃力100足りなくて何が出来る……』
「できるさ! このカードがあればな! 奇跡を、見せてやるぜ! 速攻魔法! ブラッド・ヒートを発動!」
『なにぃぃぃ!?』

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 黒川雄二:LP50→25
 真紅眼の闇焔竜 攻撃力5300→10900

 闇焔竜の攻撃力が更に跳ね上がる。10000を越えた数値へと。
『攻撃力10900だとぉぉぉぉぉ!』
「行くぜ、ダークネス。これでお前のねがいも、終わりだ。全部終わったんだよ、ダークネス! 全部、俺の中に帰れ……!
 行くぜ、闇焔竜! 終焉のダーク・ブレイズ・キャノン!

 そして、闇焔竜から放たれた最後の一撃が、ダークネスと邪心竜へと直撃した。

「終わっちまったのさ……全部な」



《第49話:既に知っている悲劇と、未だに知らない悲劇の話》

『ぐおおおおおおおっ!!!!!!!!!』
 ダークネスの身体が文字通り、炎に焼かれて引き裂かれ、消えていくのが解る。
「……じゃあな、ダークネス」
 ダークネスの肉体が燃え尽き霧散していく。そう、これで終わり。
「終わったようだな」
 吹雪冬夜が呟く。
 そう、まだこいつとの最後の戦いが残っている。
「ああ、終わったさ」
 ダークネスが倒されるのと同時に、世界が戻りつつある。本来有るべき姿へと。
 そして今、二週目へと繋がる布石を総て立ちきらなければいけない。せめて、この未来だけは続いて欲しいから。
「遊城十代」
「……なんだ?」
「今から先は誰も知らない未来だ。アンタが本来掴むべきだった筈の、世界記憶にすら印されてない未来が続いてる。だから、さ」
 頑張れよ、と言いかけて俺はふと思い出した。
 吹雪冬夜の事だ。
 十代と吹雪冬夜は知り合いのようではある。だが、俺が一度1週目の世界に来た時、奴は俺が来る事を知っていた。
 けれど、今ここにいる吹雪冬夜は俺の事を知らないようだった。
 そう、本当に知らない。
 何故、知らないんだ?
「……どうしたの?」
 遊城三四が心配そうな視線を向けてきたので、俺は少しだけ首を振る。
 引っ掛かる違和感と、おかしいと思える構造。そして俺は、視線を三四から十代へと向けた。

「あ……」

 そうか。そういう事か。

 この1週目の世界で俺が干渉し、歴史を変えたとしても俺が本来いるべき二週目の世界に影響がないのは何故か。
 それは干渉を開始した時点で平行世界へと繋がっているからだ。そしてもう一つ。
 無数に枝分かれしていく未来の中で、もしもの部分なんて幾らでもある事だ。だからこそ。

 俺がこの世界に来た所で、本当に本来あるべき未来が作れるのか?

 そう、もしもの可能性ではある。
 遊城十代が妹を救った。ダークネスは滅び、多くの人間は元の世界に戻ってきた。世界記憶に世界の終末なんて書いてない。
 ………世界記憶?
 遊城十代が見た1週目の世界記憶に書かれていたのはダークネスと世界の終末。そう、終末だ。
 ならばこの世界は今、どうなっている?

「気付いたのか?」
 吹雪冬夜がニヤリと笑った。
「……おい、吹雪冬夜。お前は、新世界を作るのが目的と言ったよな……」
「ああ」
「まさか、まさかとは言わないが………この世界を滅ぼすのはお前か?」
 俺の問いに、吹雪冬夜は答えなかった。
 けれども、その不気味な微笑みがそれを肯定している。世界の狂い。

 狂い始めた世界はもう、止まらない。

「…………三四、下がってろ」
 俺がそう口を開くと同時に、他の人間が一斉に後退する。
「存在する限り、世界の可能性って奴はあるさ。けどさ、世界を丸ごと飛び越えられる奴なんてある意味レアと言えばレアだよ。他の普通の奴はさ、
 産まれたその世界で生きていくしかないだろ。本来、それがあるべきカタチなんだから」
「確かにそうだな、ダークネス。オレはただ単に運が良かっただけさ。けどな……与えられた世界だけを見て、それが必ず幸せか?」
「どういう意味だよ、吹雪冬夜」
 オレの問い掛けに、吹雪冬夜は笑う。
「言った通りの意味さ。オレ達に舞台として用意された世界が、オレ達には小さすぎて、残酷すぎた。ただ、それだけの話さ。だったら、どうするか?
 舞台を変えるしかない。そして、舞台すらも変えてしまうヤツがここに来るという事を知った」
 一瞬だけ、吹雪冬夜の言った言葉の意味が解らなかった。
 だが、今、はっきりと気付いた。
「……まさか!」
 そんな筈は無い。
 幾ら歪められているからと言っても、そこまで歪められる筈は無い。
「ああ、そのまさかさ。世界記憶に書かれているのは、お前がダークネスを滅ぼす為に、存在し得ない未来からこの世界にやってくるという事実さ!
 元々根本から違う舞台で独り芝居を演じて、それでループが断ち切れるのかい? 答えはNO。ループは違うカタチで続くから」
「違う、ループ……」
 三四が驚いた視線で口を挟んでくる。
「俺達の1週目と二週目、そしてこの世界の1週目と二週目、それぞれ違うループがあるって事なのかよ……」
 なんてこった、と思わず呟く。
 まったく。これじゃループを打開出来ないじゃないか。
「ループってのは一つの輪だよ。輪を断ち切るのは難しいからね。下手に切ると辻褄が合わなくなる。すると世界に丸ごと消されてエンドだよ」
 吹雪冬夜は手を振りながら笑った。

 しかし、これではっきりした。
 ループを打開するには少なくとも、どこかまた別の行動が必要だということだ。それをどうするかが更に問題だが。
「じゃあ俺は元の世界に帰る、と言いたいが……そういう訳にも行かないか」
 俺の呟きに、三四も「そうね」と頷く。ここまで聞いて黙っている訳にも行かない。
「……やれやれ、じゃあやってみるかい?」
「そういうこった……Are you Ready?」
 いつもの漆黒の仮面をかぶると同時に、いつもの言葉を問いかける。
 人によって答えは違う。だが、吹雪冬夜は指を1本だけ立てて準備オーケーを示した。
 わざわざ下に向けてくるという闘争心全開っぷりで。全力全開とはよく言ったものだ。

 ダークネス:LP4000 吹雪冬夜:LP4000

「俺の先攻だ! ドロー!」
 久し振りに先攻を取る気がする。まぁ、悪い気持ちではないが。
「サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

 フィールドに、青の宝玉の名を持つ竜が舞い降り、咆哮をあげる。こいつにはよく頑張ってもらっていた。
「カードを一枚伏せてターンエンドだ」
「オレのターンだ。ドロー……」
 吹雪冬夜のターン。一度、闘った事はあるがその時は強引に引き分けに持ち込んだ。
 今度は勝てるがどうか解らないが、はたして……。
「魔法カード、強奪を発動!」

 強奪 装備魔法
 相手モンスター1体のコントロールを得る。
 相手のスタンバイフェイズごとに相手は1000ライフポイントを回復する。

「強奪、だと!?」
「相手モンスター1体のコントロールを得る……そして今、お前のフィールドはサファイアドラゴンのみ!」
 サファイアドラゴンが俺のフィールドから吹雪冬夜のフィールドに移る。
 しかし、忘れちゃいけないのはこれが後攻1ターン目であるということ。
「通常召喚はまだ終わっちゃいない、オレは氷女ヒョウを召喚!」

 氷女ヒョウ 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力900/守備力1000
 このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、このカードの攻撃力・守備力は2倍になる。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、手札から「氷女」と名のつくモンスター1体を守備表示で特殊召喚出来る。

「ヒョウの効果により、ヒョウは召喚に成功した時、攻撃力・守備力は二倍となる!」

 氷女ヒョウ 攻撃力900→1800

 吹雪冬夜のフィールドには強奪で奪ったサファイアドラゴンと、氷女ヒョウの二体。
 その攻撃力総計は……。
「バトルだ! サファイアドラゴン、氷女ヒョウでプレイヤーにダイレクトアタック! まとめて喰らっていけ!」
 3700ものダメージがライフポイントに直に叩き込まれる事になる。
「ぐおっ!?」

 黒川雄二:LP4000→2100→300

 流石に、重い。
「……ターンエンド」
「俺のターンだな、畜生……」
 ライフポイントを僅か1ターンでここまで削られるとは。
 しかしまだまだ、幸いにして残っている。
「ドロー!」
 カードをドローする。ドローフェイズからスタンバイフェイズへ。
「スタンバイフェイズに、強奪の効果で俺はライフを1000回復する」

 黒川雄二:LP300→1300

「さて、俺のターンだ……」
 ドローしたカードを確認する。ある意味、一番いいタイミングでカードを引いた。
「魔法カード、クロス・ソウルを発動!」

 クロス・ソウル 通常魔法
 相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動する。
 このターン、自分のモンスターを生贄に捧げる時に自分のモンスターの代わりに選択した相手モンスター1体を生贄に捧げる事が出来る。
 このカードを発動するターンはバトルフェイズを行う事が出来ない。

 上級モンスターを運用する上で生贄確保は必須事項だ。
 特に最上級を詰め込む社長はクロス・ソウルを愛用しているし、それは俺も見習う。
「俺は氷女ヒョウを選択、そして氷女ヒョウを生贄に、邪帝ガイウスを召喚!」

 邪帝ガイウス 闇属性/星6/悪魔族/攻撃力2400/守備力1000
 このカードの生贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード一枚を除外する。
 それが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ライフポイントダメージを与える。

「……邪帝ガイウスだとぉ!?」
 吹雪冬夜の叫びと共に、俺はその言葉を遠慮なく告げる。
「悪いね。強奪を除外」
 強奪の魔法カードが除外された為、サファイアドラゴンのコントロールが俺の元へ戻る。
 バトルフェイズを行えないとはいえ、二体のモンスターの差は大きい。
「俺はターンエンド。はいっと、吹雪冬夜のターンだぜ」
「オレのターンだな……」
 さて、この状況を吹雪冬夜はどうする。簡単にひっくり返してきそうだが。
「………オレは、片翼の白狼を召喚する」

 片翼の白狼 水属性/星4/獣族/攻撃力1700/守備力1800
 このモンスターは戦闘で破壊された時、1ターンに一度だけその破壊を無効にする事が出来る。
 このモンスターがフィールド上に存在する限り、このモンスターよりも攻撃力が低いモンスターが召喚された時、
 そのモンスターのレベル×100のライフポイントを支払う事でその召喚を無効に出来る。

 吹雪冬夜のフィールドに、片方だけに翼の生えた白い狼が出現する。白い狼に片方だけの翼である。
 どこかアンバランスな印象を受ける。マンティコアでもグリフォンでも無いのに。
「……このモンスターには一度だけの破壊耐性、そしてもう一つの効果がある。このモンスターよりも攻撃力が低いモンスターは、
 そのレベル×100のライフを支払う事でその召喚を無効に出来る。オシリスの効果を少し劣化させたものだけどな……」
「そして、オレは、フィールド魔法、永久氷河を発動!」

 永久氷河 フィールド魔法
 全フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 このカードがフィールド上に存在する限り、手札の水属性モンスターを墓地に送る事でカードを二枚ドロー出来る。

 片翼の白狼 攻撃力1700→2000

「片翼の白狼の攻撃力はこれで2000……サファイアドラゴンを上回った。悪いが、攻撃させてもらう! 絶対零度の爪!」
 白狼の鋭い爪がサファイアドラゴンを引き裂き、粉砕する。

 黒川雄二:LP1300→1200

「くそっ……マジかよ」
「カードを一枚伏せてターンエンドだ」
「俺のターンだ、ドロー!」
 フィールドはまだ押している。だが、ライフの残量が危険だ。
「攻撃力2000以下の召喚はライフコストを支払えば無効化される、か」
 無条件で無効化するオシリスに比べればずっとマシだが、そのライフコストも決して高いものとは言えない。
 だいいち、吹雪冬夜はまだこのデュエルでダメージを受けていない。ライフはかなり余っている。
 ならば、どう出るべきか。
「……魔法カード、手札抹殺を発動!」

 手札抹殺 通常魔法
 お互いの手札を全て墓地に送り、墓地に送った枚数だけカードをドローする。

 手札が動かないなら、一度リセットすればいい。そしてそのリセットした手札も、墓地で生きる場合もある。
 手札を墓地に送り、同じ枚数だけドローした後、俺は宣言する。
「バトルだ! ここで俺はバトルフェイズに……」
「リバース罠、威嚇する咆哮を発動!」

 威嚇する咆哮 通常罠
 このターン、攻撃宣言をする事が出来ない。

 攻撃を封じられはした。だが、フィールドは1対1では終わらせない。
「やれやれ……じゃあ、エンドフェイズ……そして、手札抹殺で墓地に送った真紅眼の飛竜の効果を発動する!」

 真紅眼の飛竜 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1600
 通常召喚を行っていないターンのエンドフェイズ時に自分の墓地に存在するこのカードを除外する。
 自分の墓地に存在する「レッドアイズ」と名のつくモンスター1体をフィールドに特殊召喚できる。

「し、真紅眼の飛竜だと!?」
 吹雪冬夜が驚きの声をあげ、後ろにいる十代達もどよめきの声をあげる。
「このカード、結構使えるな。元の世界に帰ったらデッキに投入するか」
 俺がそう呟いた時、後ろで案の定本来の持ち主である天上院吹雪が首を傾げていた。
「あれっ? 僕のデッキの飛竜が無いぞ?」
 後でちゃんと返しておこう。まぁ、勝手に借りた俺も俺だが。
「そして、飛竜を除外し……俺は墓地に眠る真紅眼を喚ばせてもらう………真紅眼の黒竜を召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 フィールドに、漆黒の翼を広げた竜が舞い降りる。
 無限の可能性を秘める、最高に美しく気高き黒竜が。
「……ターンエンド」
「……上級モンスター二体か……下級を封じられた以上、上級を並べるしかない。だが、まさかここまで簡単に喚ぶとは……」
 吹雪冬夜も流石にこれは苦しいのか、顔をしかめていた。
 だがしかし、このままなら勝てる。吹雪冬夜がまだ優勢ではあるが、それでも行ける。
「…………ダークネス。オレはお前を見くびってたみたいだ。本気出すぜ!」
「……ハッ! いいねぇ、そうこなくっちゃつまんねぇよなぁ!」
「オレのターン! ドロー!」
 吹雪冬夜のターンである。
 さて、次はどう出て来るか。
「………先ほどの手札抹殺での墓地利用……お前だけじゃない、オレもだ」
 吹雪冬夜はニヤリと笑うと、墓地から一枚のカードを抜きだした。

「墓地に存在する、氷女ツララの効果を発動!」

 氷女ツララ 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1100/守備力1900
 このカードの召喚に成功した時、デッキから「氷女」と名のつくモンスター1体を手札に銜える事が出来る。
 墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、通常召喚の生贄1体分として扱う事が出来る。

「氷女ツララは墓地に存在する時、ツララを除外することで通常召喚の生贄1体分として扱える。ツララを除外し、生贄を確保!
 そしてオレが召喚するのはこいつだ! もう片方の片翼である、片翼の白熊を召喚!」

 片翼の白熊 水属性/星6/獣族/攻撃力2300/守備力1500
 墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事でデッキに存在する「片翼の白狼」を特殊召喚する事が出来る。

 片翼の白熊 攻撃力2300→2600

 吹雪冬夜のフィールドに片翼の白熊が舞い降りる。そして、永久氷河の効果で更に攻撃力が上がる。
 数値は、2600へと。
「2600!」
 真紅眼の黒竜か、邪帝ガイウスのどちらかは蹴り倒される事になる。
 冗談じゃないぜ、折角召喚したのに。
「喰らえ! 片翼の白熊の恐ろしさを見せてやる! レッドアイズに、攻撃! ポーラー・ロアクロー!」
 真紅眼の黒竜へと、白熊の手が迫る。
「リバースカード、ホーリージャベリンを発動!」

 ホーリージャベリン 通常罠
 相手の攻撃宣言が出された際に発動可能。
 相手モンスターの攻撃力分のライフを回復出来る。

 真紅眼の黒竜は墓地へと消えるが、白熊の攻撃力分のライフが回復する。

 黒川雄二:LP1200→3800→3600

「くそ、一気に回復されたか……」
「隠し球ってのは、隠しておくから隠し球なんだよ」
 俺の言葉に吹雪冬夜は大げさに悔しがる。ふははは、悔しかったらもっと悔しがれ。
 そしてその悲しみを力に変えて熱くなれ。
 …………ふむ。テンションが狂ったか、俺。予定通りに行かなかったからか。
「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」
「俺のターンだな」
 しかし、レッドアイズが墓地に送られた事に代わりはない。そして攻撃力2600が鎮座しているという現実に代わりはない訳だ。
「さて、どうする……」
 俺は頭を抱えるぐらいしか無かった。





 デュエルは続く。
「………………」
 吹雪冬夜と、ダークネス。二人のデュエルが続く中、1週目の世界の、いや、この世界の兄さんはただぼんやりとデュエルを見送っていた。
 いつもなら、どんなデュエルですらも目を輝かせて見ているような兄さんだと言うのに。
「兄さん、楽しそうじゃないのね」
「ん? ああ、そうだな……なんつーか……こんな状況だから、かな」
 この世界の兄さんがどんな経過を辿ってきたか解らない。けれど、この世界の兄さんには、デュエルが楽しいと思える感情が無いように見えた。
 私の気のせいかも知れないけれど。
「世界の事とか、さ。何て言うんだろうな。俺自身は何か特別なものを持ってるとか、そんな事考えた事、無いんだ。三四が、同じものを持っている妹が、
 いつもすぐ側にいてくれたから、一緒に生きてくれてたから、俺は特別じゃない。俺は俺なんだって、ずっと思ってた」
 兄さんは少しだけ視線を伏せると、言葉を続ける。
「けど、さっき別の世界の俺の事を見せられた時、思ったんだ。もし、俺が同じ状況になったらどうするんだろうって。ただ、想像するだけで嫌だ。
 三四が、俺のたった1人の妹が、三四だけが帰ってこないなんて。そんなの嫌だ。でも……救った世界を壊そうとまでは思わない。
 俺は、出来ることなら世界を壊したりせずに三四を取り戻したいと思う筈だ。けど……そっちの俺はそうじゃなかった。そっちの俺は、俺は……。
 きっと追い詰められてたのかな」
「追い詰められてた?」
 兄さんは私を救う為に、世界をリセットした。それは解る。
 でも、どうしてそこまでしたかなんて考えたことは無かった。正直な話、理由なんてどうでも良かったのかも知れない。
 兄さんが私を救う為に、新たな可能性の為に……世界を一つ犠牲にしたという事実だけは解っている。
 そして犠牲になった救われた人達は、どうなったというのだろう。
「ダークネスの襲撃で、皆が皆消え失せた。そう、つい今さっきまでの状態だ」
 兄さんは手をかざし、そしてすぐ近くにいる二人の上級生―――――天上院吹雪と藤原優介を指さす。
「そう、例えばあんな感じに。自分は知っている。けれど周りが解らない。自分は覚えている。でも、思い出せない。覚えてる筈なのに消えている。
 ある筈なのに無い。そんな世界だ。そんな世界に……長く居続けられる筈なんて無い。そして、人とは違うと思い始めた頃に、思い出したんだろうな。
 三四の事を。入院して、弱り切っている三四の事を。気にしてた筈なんだよ。愛する妹の事なんだ、自分の事を誰よりも何よりも理解してくれてたんだ。
 そんな妹を、兄である俺が放っておくと思うか?」
「答えはNO、だな」
 兄さんの問いに、天上院吹雪がゆっくりと答える。
「十代は三四に救われ、三四は十代に救われた。そして十代は誰よりも三四を愛している……そんな状態で、愛する人物が戻らないなんて。
 十代は確かに優しい………けれども、その優しさの始まりは妹への愛なんだろう。僕には解るよ。救える可能性があるのなら、それで構わなかったのさ。
 たとえ、自分が悪魔になろうとも。十代は、助けたかったんだよ。君を」
「……………」
「いずれ、その報いは受けるだろうと俺は思う」
 兄さんがその後に言葉を続ける。
「それがいつになるかは解らない。けど、三四。お前はそっちの俺を恨んだりしないでくれ。お前の為に罪を背負ったとしても、お前はその事で自分を責めたりしないでくれ。
 そっちの俺はそれを望まない筈だ。罰を受ける事も解ってる。それが悪魔の所業だと解ってる。でも、そっちの俺は敢えてそれを選んだんだ。
 その先にどんな運命が待っていようと……もう、動いちまった歯車は、周り始めたループは終わらないんだから」
 兄さんはそう締めくくる。
 私の前ではいつも優しかった兄さん。
 どんな時も私を守ってくれた。どんな時も私を支えてくれた。
 だから私は、その分兄さんの力になろうと思った。
 だからいつも、私は兄さんを愛している。妹として、家族として、そして異性としてすらも。

 けれど、背筋が寒くなったのは。
 今、生きている私は、どれだけの命が代償になって産まれたのだろう。
 今生きている世界が二週目の世界で実は一度世界は無くなっているなんて、他の誰が信じるのだろう。
 そして世界が滅ぶ切っ掛けを作ったのは兄さん。たった1人の私を救う為に、全てをリセットして。
 もういちど、その手にチャンスを掴む為に。
 やり直しなんて有り得ない。リセットボタンなんて有り得ない。
 そんな世界をもう一度巻き戻したのは兄さんだった。
 その手で救った世界を壊してまで。

 でも、それだけ私を愛してくれているから。

 私は、私は、私は……。

 もっと、兄さんを助けてあげたい。
 そこまでして私を助けた兄さんを、救えるのは私だけしかいないから。

 兄さん。今、どこにいるの。

 返事なんて、帰ってこないのに。
「………なぁ、十代。三四ちゃん、本当にお前の事が好きなんだな」
「ん? まぁな。自慢の妹だぜ。バレンタインには必ずチョコくれるし」
「義理?」
「本命だ」
「……家族間で本命ってあるのか?」
「あるんだよ! ウチではそうなんだよ!」
「ヨハン、僕は十代が何故恋愛に興味が薄いか今解ったよ。彼は強烈なシスコンなんだ」
「妹離れ出来ない兄かぐほぉっ!?」
 ヨハンと呼ばれた兄さんの同級生が兄さんのデュエルディスクアッパーを喰らっていた。
 けれど同情はしない。あれはヨハンが悪い。
「何が妹離れ出来ない兄だ! 兄として当然の行為だろ!」
「十代、まさかとは思うが君は三四ちゃんに『私の下着とお兄ちゃんの下着を一緒に洗濯しないで!』とか言われた事無いのか?」
「無い」
「じゃあ『お兄ちゃんと一緒にお風呂入りたくない』とか『同じタオル使わないで』とか……」
「無いって」
「待て待て待て待て待て待て待て! それはなんか問題が大有りじゃないか!? 僕が明日香にそれを言われたのは小3の時だぞ!?」
「そうか? 俺、実家に帰る度に三四と風呂入ってるけど……ウチの風呂、それなりに広いし」
 そういう所は世界が違っても同じらしい。流石は兄さんだ。
「なんてうらやま……じゃない、三四ちゃん。少しは恥じらいを持った方がいいと思うよ?」
 天上院吹雪が私に対して呆れたような顔で言い放った後、視線を兄さんに戻した。
「あの兄にしてこの妹あり、か。シスコン兄にブラコン妹とは恐ろしい兄妹だ……」
「ヨハン。悪いが寂しがり屋で毎晩ルビー・カーバンクルを抱いて寝てる奴にそれは言われたくない」
「待て、十代! なんでお前がそんな事知ってるんだ!?」
「………ヨハン、君は確かもう十八だよな? 何で僕の後輩ってこんな子供っぽいのが多いんだ……」
「吹雪さんだって妹離れ出来てないじゃないですか。明日香の事で!」
「何だとぉ!?」
「毎晩女子寮に寝顔を見に行くなんて変態行為は吹雪さんしかしませんよ!」
「あれは兄として当然の行為だ! 君だって三四ちゃんがアカデミアに入学したらするんじゃないか?」
「そんな真似するか! 三四がアカデミアに入学したら俺と三四は同室に決まってるだろ! レッドに女子寮は無いから問題無いし!」
「余計悪いわ!」
「ちゃんと夜は同じベッドで添い寝しますし! 家にいる時と一緒!」
「世間一般の兄貴は妹と同じベッドで寝てたりしません! 全世界の兄貴に謝れ!」
 天上院吹雪、ヨハン、兄さんと3人が言い争いを始めた頃になってようやく藤原優介が起き上がってきた。
「……………こいつらもうダメだな。はぁ……あ。ワカメご飯炊けてる」
 いつの間にか現れた電子ジャーでワカメご飯をよそう事で現実逃避しているようだ。いつの間に炊き始めたのだろう。
 しかし美味しそうなワカメご飯だ。





 黒川雄二:LP3600 吹雪冬夜:LP4000

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

 邪帝ガイウス 闇属性/星6/悪魔族/攻撃力2400/守備力1000
 このカードの生贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード一枚を除外する。
 それが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ライフポイントダメージを与える。

 永久氷河 フィールド魔法
 全フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 このカードがフィールド上に存在する限り、手札の水属性モンスターを墓地に送る事でカードを二枚ドロー出来る。

 片翼の白狼 水属性/星4/獣族/攻撃力1700/守備力1800
 このモンスターは戦闘で破壊された時、1ターンに一度だけその破壊を無効にする事が出来る。
 このモンスターがフィールド上に存在する限り、このモンスターよりも攻撃力が低いモンスターが召喚された時、
 そのモンスターのレベル×100のライフポイントを支払う事でその召喚を無効に出来る。

 片翼の白熊 水属性/星6/獣族/攻撃力2300/守備力1500
 墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事でデッキに存在する「片翼の白狼」を特殊召喚する事が出来る。

 片翼の白狼 攻撃力1700→2000
 片翼の白熊 攻撃力2300→2600

 フィールドはお互いに下級と上級それぞれ1体ずつのモンスター、だが攻撃力は吹雪冬夜の方が上だ。
「どうしたものか、本当に……」
 俺はそう呟きつつ、手札を見る。
 どこか、悲しい感じがする。このデュエル、負けるかも知れない。
 いつもなら振り払えるはずの嫌な想像が、今回ばかりは執着しているようにも見えた。



《第50話:その心のままに》

 黒川雄二:LP3600 吹雪冬夜:LP4000

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

 邪帝ガイウス 闇属性/星6/悪魔族/攻撃力2400/守備力1000
 このカードの生贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード一枚を除外する。
 それが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ライフポイントダメージを与える。

 永久氷河 フィールド魔法
 全フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 このカードがフィールド上に存在する限り、手札の水属性モンスターを墓地に送る事でカードを二枚ドロー出来る。

 片翼の白狼 水属性/星4/獣族/攻撃力1700/守備力1800
 このモンスターは戦闘で破壊された時、1ターンに一度だけその破壊を無効にする事が出来る。
 このモンスターがフィールド上に存在する限り、このモンスターよりも攻撃力が低いモンスターが召喚された時、
 そのモンスターのレベル×100のライフポイントを支払う事でその召喚を無効に出来る。

 片翼の白熊 水属性/星6/獣族/攻撃力2300/守備力1500
 墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事でデッキに存在する「片翼の白狼」を特殊召喚する事が出来る。

 片翼の白狼 攻撃力1700→2000
 片翼の白熊 攻撃力2300→2600

「さぁて、どうするかな……」
 俺は手札を眺めながら呟く。嫌な予感が振り払えない。
 しかし、どうにもこうにも何かを動かさずにはいられない。
「カードを一枚セットし、ターンエンド」
 どうにも上手く回っていない。何か嫌な空気がまとわりついている気がする。
 そう、嫌な空気が。
「……オレのターンだ。気付いたか? ダークネス?」
 急に、吹雪冬夜がクツクツと嗤いだす。
 そうだ、奴のフィールドだ。その嫌な空気は奴のフィールドから出ているんだ。
 だがその正体が何なのかは解らない。なんだ、なんなんだ?
「ダークネス」
『わかっている……だが、我にも見通せぬ………なんなのだ、あの男は』
「流石は吹雪冬夜、運命すらも踏み越えようと望む男、か」
 一筋縄で行かないとかそういうレベルでは無い。だが、奴は世界すらも意のままに操りたいと望む男だ。
 だがしかし、ここで引くわけには行かない。
「ドロー。オレは、カードを一枚セットし……そして、ここで新たなフィールド魔法、氷の王宮を発動!」

 氷の王宮 フィールド魔法
 このカードはフィールド魔法「永久氷河」が発動している時のみ発動可能。
 このカードがフィールド上に存在する限り、手札の水属性モンスターを墓地に送る事でカードを二枚ドロー出来る。
 水属性モンスターが戦闘で相手モンスター1体を破壊する度にこのカードに結晶カウンターを一つ置く。
 自分スタンバイフェイズにこのカードに乗った結晶カウンターを一つ取り除く毎に、相手ライフポイントに500ダメージを与える。
 このカードがフィールド上に存在する限り、水属性モンスターを召喚する際の生贄を一つ減らすことが出来る。

 永久氷河の中に、巨大な氷の城が現れる。
 その冷気すらも伝わるようで、俺は少しだけ身震いする。そして同時に、悪寒すらも。
「氷の王宮の効果により、オレは水属性の上級モンスターを召喚する際、生贄を一つ減らすことが出来る……そしてオレは片翼の白狼を生贄にこいつを召喚する!
 冷たき世界に君臨する王よ、我が宿敵を粉砕せよ! 氷王アゼザルを召喚!」

 氷王アゼザル 水属性/星7/戦士族/攻撃力2500/守備力1500
 このカードは自身が直接攻撃を受けた時、手札から特殊召喚する事が出来る。
 このカードは相手フィールド上の全てのモンスターに攻撃する事が出来る。
 バトルフェイズ時、ライフポイントを半分支払う事で相手モンスターの攻撃力が増加した分だけ、攻撃力を上げる事が出来る。

「見たか、これがオレの本気だぁ!」
 氷王アゼザル。見掛けは凍てついた甲冑のようだが、その存在が放つオーラは本物、まさに王の風格が漂っていた。
「おいおい、マジかよ……」
 思わず眼を見開く。下手に手出ししたら、確実にやられると感じた。
「……アゼザルの効果発動。相手フィールド上のモンスター全てに攻撃が可能! そして、お前のフィールドにモンスターは二体!」
 そう言えばサファイアドラゴンとガイウスの二体、そしてどちらも。

 攻撃表示のまま。

 更に吹雪冬夜のフィールドには攻撃表示の片翼の白熊が存在する。攻撃力2600の。
「ちょっ……!」
 ヤバい、と呟く暇も無く。
 文字通り、攻撃が暴風となって襲いかかる。

 黒川雄二:LP3600→3500→2900→300

 3回の攻撃が終わり、俺は膝をついた。
 ヤバい、これはヤバい。
「……そして、氷の王宮の効果により、モンスター1体を破壊するごとに結晶カウンターを一つ置く。二体破壊なので二つだ。これで、ターンエンド」
 吹雪冬夜はそう言ってターン終了を宣言する。
 嫌な予感が的中した。どうする、まさにどうする。
 完全なる八方塞がりだ。
 どうする、どうするんだ俺。考えろ、考えるんだ。
「どうした? ドローしないのかい?」
「う、うるせぇ! 視界の隅でピケルがひたすら色仕掛けのモノマネしてるから観察してるだけだ!」
「………そのピケルはどこにいるんだ?」
「お前が変な空気を作るから逃げちまったんだよ!」
「元からいないだろ、誰もデッキに投入してないんだから」
 吹雪冬夜とそんな不毛な会話を交わした所で何かが変わる筈も無い。あいつだって、俺の首を半分取ったなんて考えてるに違いない。
 平たく言えば、危険なのだ。
 WARING、WARING、WARING。
 吹雪冬夜のターンで、結晶カウンターが取り除かれればそれだけで1000ダメージ、要はデッドエンド。
 かと言って、1ターンで現状をどこまでひっくり返せるか。それは難しい。
 ダークネスの力を使うか?
 だが、今ここで下手に使えば暴走する事は確実だ。ただでさえ歪みつつあるループを更に歪めてしまえば崩壊する。
 俺にもう一度世界を滅ぼせと?
 冗談じゃないね、そんなのはごめんだよ。
 しかし……。

 だが、どうする?

「…………おーい。そこのダークネス、お前のターンなんだが。つーか、早くしないと終わらないんだが……」
「オレもこの暗い空は見飽きたんだけど……」
 十代とその隣りにいる奴が何か愚痴っている気がする。
 だが、これで好きにどうにか出来るという問題ではない。
「………………あ」
 三四の呟き。
 同時に、足音がパタパタと続く。
「兄さん、デュエルディスク貸して」
「へ? おい、三四いきなり何を」
「いいから貸して!」
 三四の声と共に、バタバタという足音が聞こえる。
 吹雪冬夜が何か呟くより先に、俺の目の前に1人の人影が躍り出た。
「タッグを組んで。いいでしょ?」
「………OK、オレは構わない。ダークネス、お前はどうする?」
 タッグ?
 何の為に、と言うより先に三四の指が俺に突き付けられた。
「……………ダークネス……いえ、言わせて貰うわ、黒川雄二。貴方はデュエリストなんでしょ?」
「………ああ」
「だったら、どんな状況にも陥った筈。立ち向かってきた筈。前を進んできた筈。諦めない事がデュエリストの証だと兄さんは言った。
 貴方が今どんな状況だとしても、貴方はそれで諦めて手を休めるのか。それとも前へ進むのか。決めるのは貴方。だけど、本当の貴方はどうだったの?」
 三四の問いに、俺は足を止める。
 例え何があっても、進み続ける事。
 俺がダークネスと成り果てても、世界を変える事が出来ようとも。
 俺は俺のままで。
 進むのを決める事は俺だ。取り込まれないように頑張ったのも俺だ。

 この事件を、何とかしようとしたのも俺だ。

 だったら俺は、何をするべきなんだ?
「まだ彼はドローフェイズを行ってすらいない。だから、私のターンからで、構わない?」
「……OKだ」
 吹雪冬夜が頷く。

 2対1の変則タッグなので吹雪冬夜のライフポイントは二倍になる。

 吹雪冬夜:LP4000→8000

 さて、三四は俺とタッグを組んでどうするつもりなのだろうか。

 遊城三四:LP4000

「私のターン。ドロー」
 変則タッグが始まる。そう言えば。
 遊城三四の事を知ったのは昨日だった筈なのに、もう随分前から知っていたような。そんな気がした。
 彼女の手の動きから見て。
「氷の王宮が存在する限り……次のターンで私かダークネス、どちらかが1000ダメージを受ける事になる」
「ああ、そうだな」
「でも、そうはさせない。私には………支えてくれる人達がついてる! フィールド魔法、摩天楼ースカイスクレイパーーを発動!」

 摩天楼ースカイスクレイパーー フィールド魔法
 「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力より低い場合、  攻撃モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。

「フィールド魔法……!」
 氷の王宮もフィールド魔法。フィールド魔法のその最大の欠点は、新たなフィールド魔法が発動されれば古いものは自動的に破壊されてしまう。
 除去カード以外でフィールド魔法を破壊する手段はそれに限る。
 そして今、氷の王宮は破壊された。
「スカイスクレイパー……」
 俺は即座に行き着く。彼女のデッキの中身に。
 彼女は遊城十代に影響されてデュエルを始めた。そして、十代が本来扱っているデッキは。

 E・HERO。

「続けて、魔法カード手札抹殺を発動! この効果で、全ての手札を墓地に送ります。勿論、ダークネスも」
「あ、ああ……」
 吹雪冬夜も、俺も含めて手札を全て墓地に送る。

 手札抹殺 通常魔法
 お互いの手札を全て墓地に送り、墓地に送った枚数だけカードをドローする。

 手札が5枚、墓地へと送られる。だが、三四のターンはまだ終わっちゃいない。
「そして手札より魔法カード、ミラクル・フュージョンを発動! 手札抹殺で墓地に送った、スパークマンとエッジマンを除外!」

 ミラクル・フュージョン 通常魔法
 自分のフィールドまたは墓地から融合モンスターカードによって決められたカードを除外し、
 「E・HERO」と名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚できる。
 (この特殊召喚は融合召喚扱いとする。)

 E・HERO スパークマン 光属性/星4/戦士族/攻撃力1600/守備力1400

 E・HERO エッジマン 地属性/星7/戦士族/攻撃力2600/守備力1800
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

 光の戦士と刃の戦士の二人が除外され、融合されて現れるのは……。
「全てを引っ繰り返してあげる……マイフェイバリットモンスター! E・HERO プラズマヴァイスマンを召喚!」

 E・HERO プラズマヴァイスマン 地属性/星8/戦士族/攻撃力2600/守備力2300/融合モンスター
 「E・HERO スパークマン」+「E・HERO エッジマン」
 このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 守備表示モンスターを攻撃した時、守備力を上回っている分だけ戦闘ダメージを与える。
 手札を1枚捨てる事で相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。

「プラズマヴァイスマン……だが、まだ攻撃力は片翼の白熊と同じだ!」
 そうだ、攻撃力2600同士では相打ちになってしまう。俺がそれを言うより先に、三四はにこりと嗤う。
「そう、見える? 続けて、魔法カード、ヒーローズ・ユニオンを発動!」

 ヒーローズ・ユニオン 通常魔法
 「E・HERO」と名のつく融合モンスターの召喚に成功した時のみ、発動可能。
 融合召喚したモンスターのレベルと同じレベルになるように、手札・デッキから「E・HERO」と名のつくモンスターを特殊召喚出来る。
 この効果で召喚された「E・HERO」と名のつくモンスターはエンドフェイズに墓地に送られる。

「プラズマヴァイスマンのレベルは8、つまりレベル8になるようにモンスターを召喚出来る……。
 そこで私が召喚するのは、エアーマンと、ボルテックの二体を召喚!」

 E・HERO エアーマン 風属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力300
 このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事が出来る。
 ・自分フィールド上に存在するこのカードを除く「HERO」と名のつくカードの数だけ、魔法・罠カードを破壊する事が出来る。
 ・自分のデッキから「HERO」と名のつくモンスター1枚を手札に銜える事が出来る。

 E・HERO ボルテック 光属性/星4/戦士族/攻撃力1000/守備力1500
 このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、ゲームから除外されている「E・HERO」と名のつくモンスター1体を選択し、
 自分フィールド上に特殊召喚することが出来る。

「エアーマンの効果発動! 召喚に成功した時、デッキからヒーローを1体、手札に銜える! ワイルドマンを選択」

 E・HERO ワイルドマン 地属性/星4/戦士族/攻撃力1500/守備力1600
 このカードは罠カードの効果を受けない。

 段々吹雪冬夜の顔色が変わってきている。
 ああ、そうだ。普通はそうだよな。
 E・HEROは普通にこんな大量展開型デッキでは無かった筈、本来ならば。
 だがしかし、ここは恐ろしい事になっている。
「さて、通常召喚がまだなので召喚します。E・HERO キャプテン・ゴールドを召喚!」
「ワイルドマンは手札温存かよ!?」
 流石の俺も突っ込んだ。ああ、突っ込んださ。まさかキャプテン・ゴールドまで隠し持っていたとは。

 E・HERO キャプテン・ゴールド 光属性/星4/戦士族/攻撃力2100/守備力800
 このカードを手札から墓地に捨てる。
 デッキに存在する「摩天楼ースカイスクレイパーー」1枚を手札に銜える。
 フィールドに「摩天楼ースカイスクレイパーー」が存在しない時、フィールドのこのカードを破壊する。

 これにて、合計四体。
「では、バトルです! キャプテン・ゴールドで、まずは片翼の白熊を攻撃!」

 E・HERO キャプテン・ゴールド 攻撃力2100→3100

 吹雪冬夜:LP8000→7500

「続けて……エアーマンで、氷の王アゼザルを攻撃!」

 吹雪冬夜:LP7500→7200

「くそっ……なかなか」
「まだまだ行きます! そしてボルテック、プラズマヴァイスマンでダイレクトアタック! 行っけェェェェーッ!」

 吹雪冬夜:7200→6200→3600

 僅か1ターンで、4000以上のダメージをもぎ取るとは流石だ。
「……カードを1枚伏せて、ターンエンド。そして、ヒーローズ・ユニオンの効果で、ボルテックとエアーマンは墓地に送られます」
「……流石だ。オレにこんな打撃を与えるなんて」
 そう言えば、吹雪冬夜とは前に闘った時もライフをなかなか削ることが出来なかった。
 そうだ。そう言えば俺、このデュエルで吹雪冬夜に1度もダメージを与えていない。
 すっかり忘れていた。
「流石は三四だぜ! ダークネスが手も足も出ない奴でも、上手い感じに闘えてる!」
「いいぞぉー、三四ちゃん! 愛してるぅ!」
「ヨハン、悪いがそれは聞き捨てならない」
「なんでだよ!?」
 しかし、本当に戦局を変えてしまった。
「……信じらんねぇ。ここまで変えられるものなのかよ」
 俺は思わず呟く。
 だが、吹雪冬夜の余裕の笑みが憎しみへと変わった。

 どうやら、ここからが本番らしい。



《第51話:そしてループは繋がる》

 遊城三四:LP4000 黒川雄二:LP300 吹雪冬夜:LP3600

 E・HERO プラズマヴァイスマン 地属性/星8/戦士族/攻撃力2600/守備力2300/融合モンスター
 「E・HERO スパークマン」+「E・HERO エッジマン」
 このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 守備表示モンスターを攻撃した時、守備力を上回っている分だけ戦闘ダメージを与える。
 手札を1枚捨てる事で相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。

 E・HERO キャプテン・ゴールド 光属性/星4/戦士族/攻撃力2100/守備力800
 このカードを手札から墓地に捨てる。
 デッキに存在する「摩天楼ースカイスクレイパーー」1枚を手札に銜える。
 フィールドに「摩天楼ースカイスクレイパーー」が存在しない時、フィールドのこのカードを破壊する。

 摩天楼ースカイスクレイパーー フィールド魔法
 「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力より低い場合、  攻撃モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。

 フィールドに存在するモンスターは三四が展開するヒーローだけでそれ以外には存在しない。だが。
「……オレのターンだ」
 吹雪冬夜は嫌な微笑みを浮かべる。
「ドロー……魔法カード、手札抹殺を発動!」

 手札抹殺 通常魔法
 お互いの手札を全て墓地に送り、墓地に送った枚数だけカードをドローする。

「……上級モンスターの召喚方法は幾つかある」
 吹雪冬夜は呟く。
「リバース罠、墓荒らしを発動! 悪いが、ダークネスの墓地にあるクロス・ソウルを頂く!」

 墓荒らし 通常罠
 相手の墓地にある魔法カード一枚を選択し、ターン終了時まで自分の手札として扱う事が出来る。
 魔法カードを使用した場合、プレイヤーは2000ダメージを受ける。

 クロス・ソウル 通常魔法
 相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動する。
 このターン、自分のモンスターを生贄に捧げる時に自分のモンスターの代わりに選択した相手モンスター1体を生贄に捧げる事が出来る。
 このカードを発動するターンはバトルフェイズを行う事が出来ない。

「そして、魔法カード、クロス・ソウルを発動! プラズマヴァイスマンを生け贄に捧げさせてもらう!」
「!」
 プラズマヴァイスマンがフィールドから墓地へと送られる。
「墓荒らしの効果でオレは2000ポイントダメージを受ける。だがな……それ以上の恐怖を、お前達に見せてやるよ……。
 プラズマヴァイスマンを生け贄に捧げ、オレは魔氷龍クロノスを召還する!」

 吹雪冬夜:LP3600→1600

 魔氷龍クロノス 水属性/星6/ドラゴン族/攻撃力?/守備力/?
 このカードがフィールド上に存在する時、プレイヤーはスタンバイフェイズ時1000ポイントのライフを支払わなければならない。支払わなければ破壊する。
 このモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、このカードのプレイヤーは自分・相手の墓地からカードを一枚選択し、コントロールを得る。それがモンスターカードの場合、フィ−ルド上に特殊召喚する。
 このカードが破壊された時、コントロールを得たカードは全てそれぞれの墓地に送られる。
 このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、手札またはデッキから全ての召喚条件を無視してモンスターを一体特殊召喚出来る。この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃表示から表示形式を変更出来ず、攻撃宣言を行えない。
 このカードの攻撃力・守備力は全フィールド上に存在するモンスターカードの攻撃力の合計値とする。

 時空の名前を持つ氷の龍がフィールドへと姿を現す。
 それは例えば悪魔の化身であり、それは例えば絶望の象徴であり、それは例えば敗北の指標でもある。
 一度だけ吹雪冬夜と戦った時、神竜すらも攻略出来なかった。それなのに。
 あの野郎、切り札をどれだけ隠し持っているんだ。

「さて、オレはさっきの手札抹殺で上級モンスターを墓地に送った……。クロノスの第一の効果、このモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、自分と相手の墓地からカードを一枚選択し、それがモンスターの場合はフィールドに特殊召喚する!
 さぁ、墓地を見せてみろよ遊城三四……」

 吹雪冬夜の意地の悪い笑みに対し、三四は歯を食いしばりながらも墓地を公開する。
 つい先ほどの手札抹殺で墓地に送られたカードは少なく無い。

「ほう……いいものがあるな。こいつをもらおうか。オレはこいつを選択して、特殊召喚するぜ!
 E・HERO シャドウ・ネオスを特殊召喚させてもらおう」

 E・HERO シャドウ・ネオス 闇属性/星7/戦士族/攻撃力2000/守備力2500
 このカードはフィールド上に存在する限りカード名を「E・HERO ネオス」としても扱う。

 全身真っ黒。まるで黒子を思わせる、だが姿だけを見れば特撮ヒーローに似ている。
 そんなアンバランスな姿を持つモンスターが魔氷龍の隣に降り立ち、威嚇するように肩を揺らす。

「随分と、卑怯な真似するじゃない……」
「これも戦略だよ。さて、オレが墓地から回収するのは……魔法カードの手札抹殺だ」

「そして、クロノスの第二の効果。このモンスターの攻撃力・守備力は全フィールド上に存在するモンスターの攻撃力の合計!
 すなわち、お前のキャプテン・ゴールドとオレのフィールドのシャドウ・ネオスの合計と言う訳だ……」

 魔氷龍クロノス 攻撃力0→4100

「バトルフェイズを行う事が出来ないからな。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
 冬夜がターンを終了する。次は……俺のターンだ。
「俺のターンだ。ドロー!」
 せめて、良いカードが来る事を願って。デッキから、引く。
「…………」
 このカードは。出来れば、行けるだろうか。
 墓地に視線を送る。先ほどの手札抹殺、行けると踏んだ。信じるしか無い。でも、残りのライフは300ポイント。どうする、どうするんだ。
「……三四。俺とお前はタッグだよな?」
「ええ。そうよ。どうしようもなくなったら、俺のカードでも使え。シナジーは薄すぎるがな」
「そうならない事を願うわよ」
「そうかい。カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「壁すらも展開出来なくなったかい、ダークネス? 無様だな」
 吹雪冬夜が笑う。
 まぁ、その通りである。何も出来ない。何もできやしない。ただ、カードを伏せただけ。
「オレのターン。クロノスの維持コストとして、スタンバイフェイズに1000ライフポイントを支払う」

 吹雪冬夜:LP1600→600

「手札から、氷結界の修験者を召喚する」

 氷結界の修験者 水属性/星4/戦士族/攻撃力1500/守備力1000
 このカードは攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。

「そしてクロノスは自身の効果で攻撃力は更に増強される!」

 魔氷龍クロノス 攻撃力4100→5600

「さぁ、バトルフェイズだ! 魔氷龍クロノスで、まずはキャプテン・ゴールドを攻撃!
 冒涜の凍気弾!」

 クロノスから放たれた一撃がキャプテン・ゴールドに突き刺さる。
 為すすべも無く、キャプテン・ゴールドがはじけ飛ぶ。

「くっ……!」

 遊城三四:LP4000→500

「三四!」
「大丈夫……兄さん、まだ行ける」
 十代が割って入りかけたが三四はそれを止める。しかし、それでもまずい状態である事に変わりは無い。
 何せ、ライフポイントが残り500である。
「これでお前達を守るモンスターは無い。クロノスの攻撃力はキャプテン・ゴールドが消えた事により3500にまで下がるが、大した事じゃないさ。このターンで終わる」
 吹雪冬夜が笑う。
「さぁ、これでラスト…」
「リバース罠、ヒーロー・シグナルを発動!」

 ヒーロー・シグナル 通常罠
 自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され墓地に送られた時に発動する事が出来る。
 自分の手札またはデッキから「E・HERO」と名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚出来る。

「この効果で、私はE・HERO クレイマンを守備表示で特殊召喚!」

 E・HERO クレイマン 地属性/星4/戦士族/攻撃力800/守備力2000

「チッ、厄介なカードを……!」
「しのいだか! けど、次のターンでなんとかしねぇとヤバいぞ」
「クソっ、ヨハン! デュエルディスクを貸せ! 俺が加勢する!」
「落ち着け十代!」
 加勢に入ろうとする十代をヨハンと吹雪が止めている。さて、問題はこの後である。

 魔氷龍クロノス 攻撃力3500→4300

「……シャドウネオスと氷結界の修験者の攻撃力じゃクレイマンは倒せない。速攻魔法、非常食を発動。フィールド上のリバースカード1枚を墓地に送り、ターンエンドだ」

 非常食 速攻魔法
 このカード以外のフィールド上に存在する魔法・罠カードを任意の枚数墓地に送る。
 送った枚数一枚につき1000ライフポイントを回復する。

 吹雪冬夜:LP600→1600

「私のターン……」
 三四のターンが回って来る。
 一回前の彼女のターンは文字通り強烈な反撃で吹雪冬夜のライフポイントを削りまくったが1ターン超えて大逆転である。
 俺も三四も、ライフは1000も無い。吹雪冬夜もライフコストを差し引けば600だが、それでも大差だ。
「……私は、このバイザーをかける理由は、精霊が見えるから。本来見えないはずのものを見る、だからそれが身体に負担をかける。
 私の身体が弱いのは、それが理由。でもね、それでも、精霊が嫌いかと聞かれるとそうじゃない」
 彼女はここで十代とヨハンをちらりと見る。
「兄さんがいたから、私はデュエルをする。そして、兄さんが教えてくれた事も……たくさんある。兄さんが、どうしたとしても、私に取っては兄さんが始まり。兄さんが最初」
 三四は視線を伏せると、吹雪冬夜に視線を向ける。
「だから、見せて上げる。私と兄さんの、絆のカードを」

「魔法カード、ホープ・オブ・フィフスを発動!」

 ホープ・オブ・フィフス 通常魔法
 自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のつくモンスター五体を選択し、デッキに加えてシャッフルする。
 その後、自分のデッキからカードを二枚ドローする。
 このカードの発動時に自分フィールド上及び手札にカードが存在しない場合はカードを三枚ドローする。

「このタイミングでそれが来たか! よくやった、三四!」
「十代、褒めるのか心配するのかどっちなんだ……」
「この効果で私はワイルドマン、フェザーマン、バブルマン、ボルテック、エアーマンをデッキに戻し、シャッフル……カードを二枚ドロー」
 三四はデッキからカードを二枚ドローする。
 お目当てのものか、それとも。彼女の言う絆のカードが来たのか。

「……行きます! 速攻魔法、超融合を発動!」

 超融合 速攻魔法
 手札を一枚捨てる。
 自分または相手フィールド上から融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地に送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。
 このカードの発動に対して魔法・罠・効果モンスターの効果を発動する事は出来ない。
 この召喚は融合召喚扱いとする。

「なにぃっ!?」
 俺は思わず目を疑った。
 一巡目の世界である意味最大の危険物であり、十代の遺産でもあった超融合のカードが何故三四の元にあるのか。
 いや、彼女は俺と同じ2週目の世界の人間で、一巡目の記憶を引き継いだ十代が彼女に渡したという可能性もある。
 三四だって言っていた、十代との絆のカードだと。
「な、なんだそりゃ……超融合だって!? し、知らない……なんだそれは!」

 流石の吹雪冬夜もこのカードの存在は予想外だったらしい。一巡目の世界の彼だから当然と言えば当然か。
 吹雪冬夜が目を白黒させている間にも、三四は言葉を続ける。
「……デュエルをする中で、大切なものをかける時だってくる。楽しむ事は大事だ、けれども大切なものを賭ける時。
 本当にこの力を使うのが正しいと解るなら、このカードを使えって兄さんが渡してくれた。このカードが何か凄まじいものかは解る。
 でも、このデュエルを負ける訳には行かない。悲劇の連鎖を、私たちの世界で続いても、せめてこの兄さんにもう悲劇を繰り返さないために!
 このループを、このカードで断ち切ってみせる! 手札を一枚捨てて、クレイマンと、シャドウ・ネオスを超融合!」

 E・HERO クレイマン 地属性/星4/戦士族/攻撃力800/守備力2000

 E・HERO シャドウ・ネオス 闇属性/星7/戦士族/攻撃力2000/守備力2500
 このカードはフィールド上に存在する限りカード名を「E・HERO ネオス」としても扱う。
 このカードは墓地からの特殊召喚に成功した時、フィールド上に存在するカードを一枚だけ破壊する事が出来る。

「E・HERO ガイアを融合召喚!」

 E・HERO ガイア 地属性/星6/戦士族/攻撃力2200/守備力2600/融合モンスター
 「E・HERO」と名のつくモンスター+地属性モンスター
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚出来ない。
 このカードの融合召喚に成功した時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 このターンのエンドフェイズまで、選択した相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、このカードの攻撃力はその数値分アップする。

「……!」
 吹雪冬夜の目が。点になった。
 そうだ。考えてもみるといい。クロノスの攻撃力は全フィールド上のモンスターの攻撃力の合計。
 つまり、例えば俺が闇竜を使ってどれだけ攻撃力を上げても、例えクロノス以外は闇竜一体だったとしても、どう足掻いてもその攻撃力は超えられない。
 相打ちになったとしても、吹雪冬夜の事だ、蘇生手段ぐらいは用意してあるだろう。
 三四が同じ「E・HERO」でも、シャイニング・フレア・ウィングマンで高い攻撃力を備えても、それでもその分だけ同じくクロノスは上昇してしまう。
 そう、考えてみれば邪神アバターの能力を少し下げたがコストも大幅に下げた存在といっても過言ではないようなカードだ。
 しかし、クロノスには弱点があった。神竜と同じように、効果モンスターに対する耐性が無いという事に。ガイアはある意味そこをついていた。
 皮肉な事に、時の神は大地の神にすら負けてしまう存在だったのだ。

 クレイマンと、シャドウ・ネオスがフィールドから消え去った分、クロノスの攻撃力は減る。ガイアの分だけ上昇するが、ガイアの効果はその後に発動してしまう。
 すなわち。

 魔氷龍クロノス 攻撃力4300→1500→3700→1850

 E・HERO ガイア 攻撃力2200→4050

「し、しまっ……!」
「消え去れ、吹雪冬夜。全て、終わってしまえ。E・HERO ガイアの攻撃! コンチネンタル・ハンマーァァァァァァッ!!!」

 吹雪の言葉が終わるより先に、ガイアのその太い腕が氷の竜の身体を情け容赦なく引き裂いた。
 あれほどの脅威を誇った魔龍が、強大な壁が、堕ちた。

 吹雪冬夜:LP1600→0

 そして、龍の持ち主である吹雪冬夜も。神になろうとした哀れな少年も。その小さな身体が文字通り引き裂かれて行った。
 飛び散る血。肉片の一片一片が、悪意と憎悪の化身のようで。

「う、嘘だ嘘だ嘘だこのオレが……バカ……な……」

 因果律を断ち切る、ループの果て。
 世界を滅ぼす、神になろうとした奴の成れの果て。それが、今だった。

「く……ふふ………たとえオレを倒したとしても……お前達の世界のオレはまだ生きている……。
 これだけは約束出来るぜ……オレはどんな世界で何度倒されようと、必ずオレは……!」

 言葉が最後まで紡がれるより先に、吹雪冬夜の身体は引き裂かれ、闇へと消えて行った。
 最後まで、諦めることなく。その意地の悪さもまた、彼なのだろうか。

「……勝った、のか」
「ええ……勝ったのね」
 俺の言葉に、三四がゆっくりと頷く。少し顔色が悪い。やはり途中参戦とはいえ、デュエルをすればそこそこの負担をかけるのか。
「大丈夫か? 休むべきじゃないか?」
「平気よ」
 三四が俺に近寄りながらそう呟くが、やはり足下がふらついている。慌てて支えようとしたら横からドロップキックを食らった。
 やはりシスコン兄が邪魔しにきたか。
「三四に近すぎるぞお前」
「お前はその妹バカをなんとかしろ」
 世界が変わってもそこだけは絶対変わらないだろう。
 俺たちの世界とは違うループになったとはいえ、それでもそのループの原因である吹雪冬夜を倒した。つまり。因果律が崩れた事になる。
 そう、すなわち。
「あ…」
 ヨハンが小さく声をあげた。
 つい先ほど迄暗かった空から晴れ間が差し、アカデミアのあちこちに人影がぽつりぽつりと姿を現し始めた。 「あらら」
 世界が変わって行く瞬間。一巡目の世界が、あの時滅ばずに続いていた世界。本来あるべき、世界のかたち。
「こいつは驚いた」
 俺は思わず呟く。
 ループを断ち切った先の、誰も知らない世界の未来。でも、一つだけ解っている事があるとすればこれからこの世界の歴史を書くのは彼らだという事。
 一巡目の世界から、違うパラレルワールドが始まる。
 何かの間違いで始まってしまったループが無ければ、世界はこんなに奇麗だというのに。
「………皆、戻って来るんだな」
「ああ」
「ダークネスの世界に連れ去られるとか、世界が滅びて新しい世界が始まるとか、そんなのもないんだな」
「ああ」
「………なぁ、ダークネス……じゃない。お前の名前、教えてくれるか?」
「え? 俺? 名乗る程じゃないけど……黒川雄二って名前があるぜ」
「まぁ、会ったら挨拶ぐらいはしとくさ。一巡目のお前ってのは知らないけど」
「……でも、俺一巡目の世界での存在が無かったらしいぜ?」
「なんだそりゃ」
 十代は笑いながら呟く。こんな顔を見るのは初めてだった。
 あの時、船の上で出会ったときは相当猟奇的な顔してやがったのに。道さえ間違えなければ、良き兄で良きデュエリスト。それが遊城十代なのだろう。
「まぁ、けど……な。本来ありえない筈の二週目の世界の俺が一巡目の世界を救うなんざ、何とも変な話だぜ。ヒーローになった気分だ」
「そっちは俺が一度壊しちゃったからな」
 俺と十代が笑っている間にもあちこちで人影が話したり困っていたり首を傾げていたりしていた。
 そろそろ元の世界に戻るべきだろう。それに、やるべき事もあるんだ。
「……ありがとな。雄二。それに、三四」
 一巡目の世界の三四を抱き上げつつ、十代はそう言葉を続ける。
 この彼はもう間違えたりしない。妹を、守って行けるだろうから。
「頑張れよ」
「ああ」
 そう、俺たちの戦いはまだ終わっちゃいない。
 二週目の世界のループを、どうやって断ち切るかだ。
「そっちの僕にもよろしく頼むよ」
 天上院吹雪が笑いながらそう呟く。だけど面識無いのにどうしろってんだ。
「まぁ、出来れば会う事を祈るわ」
「三四ちゃんは優しいなぁ」
「……さー、三四。行こうぜ。元の世界帰るぞ」
 ダークネスの仮面を被り、もう一度レッドアイズを召喚する。
 元の世界に帰る用意はできている。こっちの世界を助けた。……悲劇が続かない歴史を作った。この手で。

 だから、次の俺たちが行くべき先は―――――。










 風を切り、翼は進む。
 時空と次元の狭間、本来人が入り込めない、辿り着く筈の無い場所。アカシックレコードも存在する、世界の中心。
 かつて一巡目の世界で遊城十代が辿り着いた場所。

 暗闇の中でただ一つだけ、ぼんやりと浮かぶ島。
 レッドアイズをそこまで飛ばし、降り立つと島は一瞬だけ揺れたが、すぐに収まった。
「降り立っただけで揺れるってどんな島だよ」
「浮き島みたいなものでしょ?」
 バランスを取って歩かないと島から堕ちてしまいそうで怖い気もするが、それは仕方ないかも知れない。
 何せ、歴史の介入一つで世界も変わるのだ。改変も容易であると言っても変ではない。

 浮き島の中心へと視線を向ける。
 一つだけ置かれた石柱の上に無造作に置かれた一冊。恐らく、これが。

「世界の全てとは、よく言ったものだな」

 アカシックレコード。
 世界の全てを記した世界記憶。

 ある者はそれを読んで絶望し、ある者はそれを改変しようと企み、ある者は…。

「なぁ、三四。これって、開いていいのか?」
「なんで私に聞くのよ」
「………お前も見たらいいだろって思ってな」
「…………何が書いてあっても、というより後悔しても知らないわよ]
 俺と三四はお互いに顔を見合わせると、少しだけ笑った。
 これから。
 俺たちの未来は、世界は、新たな続きは、これから始まる。

 俺と三四は、その本にゆっくりと手を伸ばした。



 二人の姿が消えた浮き島に、黒衣の影は降り立った。
 暗闇に一礼。
 そして紡ぎだす言葉。この世界の住人に向けてではなく、この世界の主と、この世界を見ている幾多の人々に向けて―――――。

「さて。かくして黒川雄二はダークネスの肉体を手に入れ、一巡目の世界の歴史を変え、新たなパラレルワールドを作り上げた。でも、彼らの戦いは終わっていません。
 彼らの物語はまだまだ続くでしょうし、生まれたパラレルワールドから新たな歴史が紡がれて行くでしょう。
 この物語では少なくとも三つのパラレルワールドが生まれています。それは黒川雄二が最初に一巡目の世界を訪れた時であり、そしてこの51話で因果律が打開された世界であり、そして最後の三つめはこの物語そのものです。
 遊戯王デュエルモンスターズGXのアニメから生まれたパラレルワールドであり、アニメにしても原作である遊戯王から生まれたパラレルワールドの世界です。
 そしてそのパラレルワールドの存在はこの物語だけではなく、皆様が紡がれた物語の数だけあるのです。それぞれ違った歴史があり、違った設定があるでしょう。
 全ての物語は私たちが好きな漫画から始まりました。そこから派生していったパラレルワールドは、その総数は数えきれないほどでしょう。
 私たちはその全てを紡ぎ、愛し、そして楽しんで行く。その中の一つにこの物語を銜えていただければ幸いです。読んでくださって、本当にありがとう。
 このPOWER OF THE DUELISTというタイトルを冠した物語はこれで終わりです。完結までに長い時間をかけてしまって、様々な方にご迷惑をおかけいたしました。
 それでもこの物語が完結できた事を、私は心よりお礼を申し上げるものであります。本当に、ありがとうございました。
 そして、この物語で残された幾多の謎は新たに紡がれる物語で明かされて行くでしょう。もうしばらくのお待ちを、お願いいたします。
 え? 黒川雄二達はどうなったのかって? それでは少しだけお見せしましょう。彼らのその後の足跡と……派生する筈だったパラレルワールドの世界、というのをね」

 くるり、と一度だけ回転した彼は最後に一礼をして手をかざした。


(ここから先は第47話冒頭、藤原が吹っ飛んだ直後から派生したと考えてお楽しみください)


「三四が二人……てか、お前。その仮面は、お前もダークネスなのか?」
「訂正しろ。お前もじゃない。俺がダークネスだ!」
 少なくとも天上院吹雪や藤原といった紛い物でも無く紛れもなく本物の。二週目の。
「何をしにきた?」
「歴史を変えに来たのさ」
 そう、一週目の世界の歴史を変えに。
 意味が解らないのか、十代とその隣りにいた少年が一瞬だけ顔を見合わせた後、口を開く。
「それはどういう意味だ?」
「言うよりも、見た方が早いよな。あー、時間がないんでさっさと行かせて貰う。これがその答えだ!
 十代達に二順目の世界の記録を満載した思念派を叩き付け、俺は藤原へと視線を向けた。
 一順目の世界のダークネスである藤原優介はようやく立ち上がると、俺を睨んできた。
「何者だ? ダークネスの名を語るなんて……」
「本物だよ、俺は」
 だって、魂そのものを受け継いだ力は、本物だから。

「ふ、ふざけるな! ダークネスの力を持つのも、真紅眼も僕のものだ! 何を言い出すんだ、いきなり横から言い出して!」
「ああん? キングの癖に一回も勝ってないJOINは引っ込んでろ、後始末は俺がしてやるから」
「何だと!? 相手が悪いだけであって僕は決して弱く無い! デュエルだ、戦え!」
「いい、度胸だテメェ……」
 幸いにして時間はまだ余裕がある。ワカメをなんとか前にウォーミングアップでJOINと戦うのもありだ。

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 天上院吹雪:LP4000

 スタッフロール

 二次創作小説 【POWER OF THE DUELIST-伝説を継ぐもの-】


「俺の先攻ドロー!」
「十代、なんか見慣れない文字が空に浮いてるんだけど」


 原作「遊☆戯☆王」「遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX」

「ああ、ありゃあスタッフロールだなヨハン……っておいおい、なんで完結してないのにスタッフロールなんだ!?」
「サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚! カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 演出・脚本 真紅眼のクロ竜

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「僕のターン! 黒竜の雛を召喚!」

 キャスト

 メイン出演

「ちょっと! 私たちの物語はまだ続いてるのに何でスタッフロールが流れてるのよ兄さん!」
「俺が知るか! おい、ダークネス! 吹雪さん! どうなってるんだ!」

 黒川雄二(対戦成績:10勝4敗1分1中断1デュエル続行中 バトル・シティ準優勝)
 宍戸貴明(対戦成績:9勝0敗 バトル・シティ優勝)
 遊城十代(対戦成績:3勝0敗)

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上で表側表示のこのカードを墓地に送る事で手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

「そして僕は黒竜の雛を墓地に送り……雛は黒竜へと進化する! 真紅眼の黒竜召喚!」

 高取晋佑(対戦成績:1勝3敗 バトル・シティベスト4)
 ゼノン・アンデルセン(対戦成績:1勝3敗 バトル・シティベスト4)
 ダークネス(対戦成績:0勝2敗)

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「レッドアイズでサファイアドラゴンに……って、おい!? 何でいつの間にスタッフロールが!?」
「せめて決着が着くまで待てって! 気が早すぎだろ! 何で空に文字が浮いてるんだー!」

 遊城三四
 海馬瀬人(海馬コーポレーション社長 バトル・シティ主催者)

 サブ出演

 黒川雄二:LP4000→3500

「チッ……やりやがったなこん畜生!」
「僕はカードを一枚伏せてターンエンド」

 シェリル・ド・メディチ(欧州チャンピォン) 丸藤亮(プロリーグ所属) 志津間紫苑
 磯野 天馬月行(インダストリアルイリュージョン社) 滝野理恵 北森玲子

「俺のターンだ……って、スタッフロール邪魔だ! 誰か止めろよ!」
「悪い、これ消せないみたいだ。我慢しろ!」
「畜生! 終わるまでに終わらせてやるー! ドロー!」

 万丈目サンダー ペガサス・J・クロフォード(インダストリアルイリュージョン社)
 雄二と貴明のクラスメイト(水島知加子、品田美弥、榊原神楽) 九島直美
 四方田操緒 平井剛志 里見智晴 黒川雄一

「魔法カード、リロードを発動!」

 リロード 速攻魔法
 自分の手札を全てデッキに銜えてシャッフルする。
 その後、デッキに銜えた分だけカードをドローする。

 ムーディ エクゾード クリボー使いのデュエリスト 勝利の導き手フレイヤ
 破滅の女神ルイン 水霊使いエリア 守護天使フェイト・ベル 吹雪冬夜
 早乙女レイ 天上院吹雪 藤原優介 ヨハン・アンデルセン

「手札を全部デッキに戻して、シャッフル……そしてカードをドロー。洞窟に潜む竜を守備表示で召喚」

 洞窟に潜む竜 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1300/守備力2000

「そして、続けて洞窟に潜む竜を墓地に送り、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚!」

 参考資料

 遊戯王R
 遊戯王デュエルモンスターズGX

 ア○ラクラ○ン
 ジョジ○の奇○な冒険part6ス○ーンオー○ャン
 ひぐ○しの○頃に皆○し編・○囃し編
 *当たり前ですが上記三作品は原作とは全く関係ありません。

「キャスト紹介もう終わってるー!」
「ちょい待ち! スタッフロール止めてー! 1ターンキルしない限り終わらないんだけどー!」
「いや、流石にこれは無理だろ……だが僕は諦めない! 必ず勝つ!」
「まだ俺のターンですけど」

 スペシャルサンクス

 童実野高校 海馬コーポレーション インダストリアル・イリュージョン社
 デュエル・アカデミア KONAMI 遊戯王カードwiki 遊戯王カード原作HP

 ここまで読んでくださった皆様と編集してくださっているプロたん様…そしてこれからの全てのデュエリスト達へ…。

「スペシャルサンクス終わったぁぁぁぁ!?」
「まだダークネスメタルの効果書いてねぇし! もういい、ダークネスメタルで攻撃してやる!」
「リバース罠……スタッフロールをせめて中断してくれぇぇぇ!」

 制作協力

 遊戯王カード原作HP
 遊戯王カードwiki

 監督 真紅眼のクロ竜

「まだデュエル終わってねぇぇぇ!」

 完


「完にするなぁぁぁ!」

 Road to NEXT STAGE…「FORCE OF THE BREAKER-受け継がれる意志-」





《エピローグ:1と0の答え》

「眠……」
 目を開けると、窓からは朝日が差し込んでいた。
 どうやら朝が来たらしい。同時に、ベッドのすぐ横のサイドテーブルに見慣れない銀のカップが置かれているのが目につく。
「あれ? なんだこれ……」
 なんだっけ、と思いつつ持ち上げてみる。

『第二回バトル・シティ準優勝』

「………あー……」
 ようやく思考が目を覚ましたのか、昨日までの出来事を思い出した。
 デュエリストとしての頂点をかけて戦ったバトル・シティ。
 優勝こそ出来なかったものの、それでもデュエリストとして、俺は戦った。優勝出来ずとも、それでも準優勝までは行ったのだ。見事なものだ。

 でもそれだけではなかった気がする。何か忘れているような。

 そう思いつつ、部屋の隅にある洗面台へと向かう。一人暮らしを始めた時は真新しかった洗面台もこの数年で凄まじいほど汚れた。
 ついでに俺のデッキの中身も変わったがそれもまた成長という事か。
「ん?」
 鏡に、俺以外に映ってる何か。
 俺とは違う黒髪。ついでに、体格も小さい。髪も長い。デュエルアカデミアのデュエルディスク。
 はて、この子はどちら……じゃない。

「……なんでお前が俺の部屋にいるんだ? 遊城三四?」
「……ん……ぅぁ?」
 三四は身体を起こすと目を擦り、首を左右に振る。
「もう少し寝る……」
「起きろ。起きないとお前の乳を揉む」
 強烈なキックが飛んで来た。どうやら三四は目を覚ましたようだ。



「まったく……ふざけてるの?」
 冗談のつもりだったのだが彼女はまだ怒っているらしい。
 乙女心とは解りにくいものである。
「まぁいいじゃねぇか。それよりも……面倒くさい話になっちまったなぁ」
 俺の問いかけに三四は「ええ」と応える。

 俺たちが辿り着いたアカシックレコード。
 しかしそこに書かれていたのは細部が異なる同じページがいくつも羅列してあった。
 でも、大まかな所は一緒。
 それが何を意味するのか。俺には解らない。
 無数のパラレルワールドへの分岐なのか、新たな多重ループへのつながりなのか。

「あの時、吹雪冬夜を倒したとはいえ、こっちの世界の彼は確かにまだ生きているものね」
「ああ。それと、デュアル・ポイズンもまだ残ってる」
 高取晋佑。
 遊城十代。
 そして吹雪冬夜。
 あの後、貴明から聞いた事だが、バトル・シティの中には俺が戦ったクリボー使いのデュエリストの他にもいくらかデュアル・ポイズン所属に出会ったらしい。
 海馬コーポレーションで取り調べをしたらしいが、信じられない事に彼らはどうやら下っ端だったらしく、知っている事は高取晋佑が神竜を盗み出し、神竜の力を目覚めさせる事というだけだった。
 そしてとうの晋佑は神竜を目覚めさせる事で現れる膨大なエネルギーを使い、扉を開く事、だったという。
 扉、と一口に言っても色々ある。
 だが、この扉は恐らく異世界のものと言っても過言ではないだろう。

 アルベルト・ツバインシュタイン博士がデュエル統一理論を完成させようと躍起になっている際に文字通り異世界が存在すると明言したのは昨年の事。
 そしてその異世界にはデュエルモンスターズのカードの精霊が実際に暮らしているというオカルト的な事まで言い出した。
 科学者がそんなオカルトの話をするのは冗談だろう、と当時は貴明と二人でバカ笑いしたものだが今では信じられてしまう。
 何せ、それだけの力があるのだ。
 好きな風に使ってみたいに決まっている。そしてもう1つ、晋佑にそれを吹き込んだ存在である。

 吹雪冬夜だった。
 遊城十代にダークネスを復活させ、その力を手に入れて運命を変えようとしたのと同じように。

 全ては吹雪冬夜の盤上の上の出来事だった。

「まぁ、それにしてもヒデぇ話ではあるぜ。晋佑や十代、いや、他にも色々いたデュエリスト達が何人もあいつの上で踊らされたんだ」
 ついでに言うと俺自身も、である。
 何せ一巡目の世界で最後の最後の侵略を続けたダークネスの肉体が俺自身だったとは。魂の断片が乗ってダークネスは完全体になった。
 今は俺の中で眠っているとはいえ、予断は許せない状況だ。

 そして吹雪冬夜は、ダークネスの力を手に入れて――――全ての運命すらもねじ曲げる、神になる事。
 そしてその野望は、今もまだ終わっていない。

「まぁ、正直言うとな。あの一日で、俺の運命マジで変わっちまったかも知れねぇな」
「……そうね。私もよ」
 俺の言葉に、三四はそう呟く。
 何せ、俺はほんの数日前までは――――決闘王と師匠に憧れるだけの、単なるデュエリストだったのだ。
 それなのに、今は。
 これからの世界の運命すらも、知ってしまった。世界すらも飛べる、変えられてしまう、超常的な何かに。なってしまった。
「ハァー……やれやれ」
 ため息をつく。
 今までの人生で幾度となくため息をついてきた時はあったけれど、今ほど深いため息は無いだろう。
 何せ、ある意味これからの世界の命運がかかっているとも言っていい。
「吹雪冬夜を相手に、戦わなきゃいけないよなぁ、やっぱし……」
 だが、正直言うと嫌だ。
 何せあれだけ苦戦した相手である。二度と戦いたく無いけど少なくとももう一度戦って次は倒さなくちゃ行けない。
「そうね。あの時私が入ってなかったら負けてたものね」
「うるさい黙れそれを言うな」
 まぁ確かに三四ちゃん様々だったんだけど。
「まぁ、でもよ……今、思ってるんだけどな」

 そう、今だから思う事。今しか言えない事。

「昔は、俺……自分に自信なんか持ててなかったんだよね。でも今は、そうじゃない。俺が俺だって言える。そういう面じゃ、ダークネスには感謝してるかもな」
「……どうして?」
 その言葉が意外だったのか、三四は首を傾げる。
「デュエルを始めた時は姉貴とか兄貴と一緒だったんだけどな。まぁ、デュエルに限らず色々やってたんだよ。
 武道とか、勉強とかな。けど……越せないんだよ。目の前にある壁が。必死の思いで辿り着いたら向こうは既にその上を言ってた。
 いつまで経っても勝てやしねぇし越えられねぇ。それが嫌でさ、家飛び出したんだよ」
「ああ、だから一人暮らし……」
「こう見えても良いとこの坊ちゃんだから英才教育受けまくってたんだけどね。俺には無理だった、という訳。
 師匠に出会ったのはそん時。その時使ってたデッキ捨てようとしたら殴られてね」
 あの時の痛みは、今でも覚えている。
 でも、そこから始まったのだ。俺だけに出来る事を、探すようになったのは。
「人によって出来る事と出来ない事なんざ違う。だから俺は……俺だけに出来る事を探すようになった。
 デュエルもその1つかも知れねぇ。でも今は……ダークネスの力も、その1つなんだろうな」
 自分だけに出来ること。自分にしか出来ないこと。
 世界を救う事も、世界を滅ぼす事も。いや、その他諸々の事―――。
 この世界の真実。この世界の全てを。

「……今なら言えるさ。俺はこの世界に、今生きている」
 一巡目の、滅びてしまった世界ではない。
 滅びを迎え行く世界でもなく、歯車が狂ってしまった世界でもない。
 今、この俺が生きる、この世界を。
「誰にも邪魔はさせないさ。この世界は壊せない」
 未来が来ると信じている奴らがいて。
 明日がやってくると思っている奴らがいて。
 この世界の終末は無いと考える奴らがいて。

 どいつもこいつも、まったくいつも通りのノーマルじゃないか。

「俺が守ってやるさ。この世界を」

 俺に与えられた使命なんて堅苦しいものじゃなくて。
 俺が果たすべき義務なんて厳密なものじゃなくて。

 これは俺自身が選んだ意志の先なのだ。

「………貴方って本当に熱い人ね」
「性格だ」
 三四の言葉に俺はそう返す。
「…………運命云々、で今思い出したけど……兄さんの事よ」
「うん? ああ、十代の事か?」
 遊城十代はバトル・シティの後何故か消息不明になっていた。
 デュエル・アカデミアにも顔を出していないらしく三四の家もそこそこ騒ぎになってはいるらしい。
「正直な話ね、一巡目の世界の兄さんからはこっちの兄さんを恨まないで、と言った。私は、確かに恨んでなんかいないわ。
 ……ねぇ黒川雄二、兄さんは、一巡目の世界を滅ぼしはしたけど、それってある意味チャンスを与えたって事でしょう?
 運命を変えるっていうチャンスを。確かに、兄さん自身が救った世界をまた終わらせてしまったのは罪深い事かも知れないけど……」
 三四はそう言って少し口をつぐむ。
 そう、十代が世界を滅ぼしたのはチャンスを得るため、妹を救うチャンスを。
 でも、もしその滅亡が無ければ。
 俺は存在せず、そして俺の存在無くして、世界が滅びなかったというあのパラレルワールドも生まれはしなかった。
 そう、たった一度きり刹那に願ったチャンスが無ければ。
「確かに、そうだよな……不思議な話だ」
 二巡目の世界無くして、あの世界が救われる事は無かったのだから。
 当初予定していたループとは違うループを断ち切ってしまったけど。

 それでも、俺たちはあの世界を救った事に変わりは無い。

「……まぁ、でも流石に一度使っちゃったんだから今度ばかりはダメでしょうね。今度は本当に世界を滅ぼさないようにするしかないわ」
「その通りだな。その為に俺がいるんだろ?」
「私を忘れないでよ」
 俺の言葉に三四は不満げに鼻を鳴らす。
「ああ、悪かった。お前もいたな」
「今度忘れたらスネークレインで蛇降らすわよ」
「わかった、わかったから」
 三四の場合本気でやりそうなところが怖い……けど、よくよく考えたら今の俺も出来るか。

 ダークネスの力を手に入れる、まぁそれは強大な力では或る。
 だからこそ、その力を間違えないように使わなければいけない。正義の闇の力を保つ遊城十代も、その力を間違えてしまったから。
「ま、俺個人としてはお前がついてくれればそれほど心強い事は無いけどな」
「私がいなければ勝てなかったしね」
「それはもういいから」
 正直な話、それはもう思い出したく無い。

 でも、同時に思う事は。
 もう負けたく無い、という意志。誰よりも強くなろうと思う。
 最後の最後で優勝は貴明に取られてた訳だし。
「肝心な所で勝負に負けるっつー所をなんとかしないとダメだよな」
 頭を掻きつつ、デッキをなでる。
「………おーし、特訓でもしますかね」
 俺の呟きに、三四も「そうね」と頷く。
 やはり彼女もデュエル好きだと解る。
「海馬コーポレーション行ってデュエル場借りましょう。多分審判とかカードも貸してくれるわ」
「あー。カードは大会ん時社長からもらった残りがあるからそれも使うか」
「へぇ、かなりもらったの?」
「合計500パック総数2500枚だな」
「なんでそんなにたくさんあるのよ!?」
「知らん。社長に聞け」
 社長は何かとスケールの大きい所があるからそれも1つの影響だろう。
 まぁ、どんな世界であろうと社長は社長のままでいそうだ。

 そう、俺はこの世界に生きている。
 この世界で生きて、この世界で生まれて、この世界で死にたい。だから、守りたい。

 世界を、守れるほどの力があるのだから。
 その力を、道を、意志を、間違えない。

「ようし、行くか!」

 例えどんな奴が相手だろうと、未来だけは決して終わらせないさ。













 照明の落ちた部屋に、一人の人影が座っていた。
 そしてもう一人、部屋の隅に立って座る影を見つめる一人の姿。
「……で。かくして神竜はダークネスの断片として目覚めた訳だ。お礼を言うよ、十代。君のお陰でだいぶ助かった」
 立っている少年――――吹雪冬夜は言葉を紡ぐ。
 座っている青年は、遊城十代は答えない。ただ、視線を伏せただけ。
「なんだい、つれないなぁ。もうちょっと喜ぶべきだろう。今回はまだ最後の詰めじゃないんだ、まだまだここから本番だよ。
 別に焦る気持ちなんて無かったんだけどね……今回は仕方なかったのかな、ダークネスのコントロールを奪われるとは想定外だったよ。
 予想外にあいつが強かったとは思わなかったね。あの黒川雄二が……くそ、あの野郎め。時間の支配者にでもなったつもりか。世界が変わっても邪魔するか」
 吹雪冬夜は少しばかり悪態をついた後、声の調子をふと変えた。
「そう言えば十代、高取晋佑の奴が逃げ出したんだよ。君が前に出て行った時とは違って本当にね……まぁ、あのときは状況が状況だったとはいえ。
 あんなのが相手に流れると少しやりにくいけど、まぁ君がいるから大丈夫だよね」
 遊城十代は答えない。ただ視線を伏せただけ。
「おい、十代?」
 流石に不審に思ったのか吹雪冬夜が声をかける。
「………吹雪冬夜」
「なんだ、せめて返事ぐらいしてくれ。なんだい?」
「俺はこの世界が始まった時、三四を救う為ならなんでもやろうとした。それで俺が滅ぶ事になろうと、それは構いやしなかった。
 だけど今……思う事があるのさ。俺は本当に三四を救えるのか。お前の言う通りの方法で、それが本当に出来るのか?
 お前の盤上の上で動いて、その先に果たして何がある?」
「…………十代」
 吹雪冬夜は十代の前で頭を軽く抑えた後、視線をぎょろりと向ける。
 その瞳が、どこか懐かしさを覚える、碧と金の瞳に変わるのに。

「オレの言う通りにしていればいい。お前を救えるのはお前自身だけなのだから。オレはその手助けをするだけに過ぎない」

「………出来ればそうであるといいな」
 二人はお互いにそう言って、視線をかわした。

 己が野望のため、着実に一歩ずつを積み重ねる吹雪冬夜。
 己が希望への道を、見失いつつある遊城十代。

 時は、待っちゃくれない。

 新たな爪痕は、再びこの二人から始まろうとしていた。





 高取晋佑は非常に迷っていた。
 デュアル・ポイズンに所属したのは実はバトル・シティの前後でもなんでもなく、もっと前からというより雄二や貴明と師匠の元にいた頃からである。
 昔の時点で既に二足草蛙を履いていた訳である。
 そしてバトル・シティの終わりと共にその事がバレ、ついでにバトル・シティ直前に神竜を盗んだのも晋佑である。
 重罪とかそういうレベルではなく大罪である。
 海馬コーポレーションによる取り調べの直後に現れた社長は流石に弾倉全部に弾丸が入ったロシアンルーレットとかDEATH-Tへの招待状を手渡して来る、なんて事はしなかった。
 流石の社長も大人だ、と思ったら口を開いた一言。

「三階の応接室。あの女が待っている」

 社長の口から更にとんでもない一言が飛び出しました。
 何がどう転んでも玲子姉さんの事であり、恐らく戦場の惨劇と最終戦争どっちがいいかと天秤にかけてくるに違いない。
「畜生、こういう時に雄二とか貴明がいてくれたらいいのに……」
 晋佑は悪態をつく。しかし、貴明はバトル・シティ優勝の副賞でアメリカへと島流しにあい、雄二は雄二で終了後から何故か連絡が取れない。
 要はこの問題を一人でなんとかしろという罠。
「はぁ、どうするよこれ……」
 三階の応接室の前までどうにか勇気を出して降りて来た。しかしやはり恐怖が勝っている。
 どうしようもない、というよりどうしようもないのだ。
 何がどう足掻いても殺される事は目に見えている。色んな意味で死ぬ。
「ここはやっぱり逃げの一手を使うか……罠カード、強制脱出装置で今は手札に戻るしかないよな」
「ならばカウンター罠、神の宣告を発動しライフを半分支払って強制脱出装置を無効化します」
「なんと、チェーンだと!? ……え?」
 晋佑が慌てて背後を振り向くと同時に、肩に手を置かれる。
 自分よりほんの少しだけ高い所で光る、眼鏡の乗った女性の顔。
「……どうしました晋佑くん? 早く入らないとお話が出来ませんよ?」
「……じ、実は今日は下痢気味でして……」
「下痢止めありますけど?」
「この前新型の犬インフルエンザに感染して……」
「海馬コーポレーションの医務室って集中治療室があるんですよ? 便利ですね。つべこべ言ってないでさっさと来なさい」
 文字通り、晋佑は頭を鷲掴みにされた。
 どうやら逃れる事は出来ないようだ……。晋佑は空を仰いだ。




 バトル・シティの決勝戦の舞台となった後のデュエル・アカデミアはいつもの平静を取り戻したかに見えた。
 年度の途中だというのに転入生と非常勤講師がやってくる事になったからである。
「…………」
 ゼノン・アンデルセンは不貞腐れていた。
 バトル・シティ終了後海馬コーポレーションに呼ばれた彼はデュエル・アカデミアへの復学を命令された。
 勧める訳ではない。命令で強制的にである。
 ただ、兄であるヨハンのいるアークティック校ではなく本校に二年生として入る、という事とあるもう1つの密命が出された。
 別に二年生として復学するのはおかしな話ではない。二年生終了間際に退学して単位を取ってないのだから構わない。
 ただ、問題はもう1つの命令だった。ある意味他の誰にも相談出来ない事だった。
 そう、例えば横に座っているこの度非常勤講師になった――――アカデミア実技担当の嫁を除けば。
『まもなくアカデミアに到着します。降りる準備を』
「とうとう到着するノーネ! 久しぶりにやってきてもやっぱりグレイト! シニョーラゼノン? どうしてそんなに暗い顔してるーノ?」
「誰のせいだと思ってんだよ……」
 ゼノンと同じ密命を受けたまでは良かったがこのテンションの高さで全部喋ってしまいそうで怖いのがこの人だ。
 シェリル・ド・メディチ。バトル・シティベスト8だったが欧州チャンピォンだった腕を買われてアカデミアに赴任である。
「本当に面倒くせぇ……」
 ゼノンはため息をつく。そしてもう1つ気になる事と言えば、十代の事だ。
 バトル・シティ終了後行方をくらましているらしいがまだ籍はアカデミアにある。要は戻って来る可能性が無い訳ではないのだ。
 あの男が今度何かしやがったら、今度こそ許さん。
 ゼノンは吹雪冬夜と遊城十代は何があっても許さない覚悟を固めていた。
「ワーオ! シニョーラゼノン、私たちを出迎えてくれてる生徒がいるのーネ!」
「へぇ、そいつは……うげっ!?」
 ゼノンがシェリルに言われて視線を港に向けた時、ある意味見慣れすぎている人影が一番手を振っていた。
「おいこらちょっと待て! 何でヨハンがあんな所にいるんだ! あいつはアークティック校の生徒だろ!」
 ゼノンが船員を即座に捕まえて怒鳴ると、船員は慌てて弁解した。
「こ、今年度は昨年度のジェネックス大会に続いて他校との交流を深めようと……アークティック校、ノース校、ウェスト校、サウス校、イースト校の五校から留学生が来てまして」
「そういや兄貴はアークティックの一番だったな……忘れてたぜ」
 ゼノンがため息をつく。確かに、ヨハンとその周辺にいるのはパソコンか何かの記事で見た事がある、各校のチャンピォン達だった。
 どうやら波乱は尽きる事を知らないようだ。面倒な事になる。
「ったくよぉ、面倒くせぇことになりそうだぜ……ま、でもいいか」
 そう、今のゼノンにはもう1つ目的があるのだ。
 最強のドラゴン族使いになり、雄二を超えるという目標が。
「負けたく無いのさ。お前とともにいる限り」




 宍戸貴明は空港で一人悩んでいた。
 社長命令で強制的に島流しに遭ったがどうにかして脱走、空港まで辿り着いたまでは良かった。
 パスポートが無いのだ。
 社長はあのまま戦闘機に乗せてアメリカまで爆進させてしまったのでパスポートはおろかビザも無い。
「あの社長め……どうしろってんだ」
 冷静になって考えてみればある意味密入国である。
「……そうか。不法滞在扱いで本国送還とかできねーのかな」
 それだと犯罪扱いになってしまうというのはこの際目を瞑る。
「けどな……本国送還もやっぱり時間がかかるよなぁ」
 そう、問題はあれである。
「あと二日で帰らないと『魅惑のフォーチュンレディ カラーイラスト集』が発売しちまうしな……予約取ったのギリギリだったし」
 欲しいイラスト集のため、ここはさっさと帰らねばならない。
「よし! すいませーん、そこのお兄さん」
 貴明は旅行者らしいスーツケースを持った人に視線を向け、それを呼び止めた。

『な、なんだこりゃ! 新手のイリュージョンだ!』

 X線検査の担当を行う担当官の絶叫と共に、警備員が何人も集まって来る。
「畜生! 荷物の中だとやっぱバレるか!」
 スーツケースに身を潜めたはいいがやはりバレてしまった。仕方ない。とにかく何処かへ逃げよう。
『待て、待ちやがれ!』
 警備員を振りまくように、貴明は何度となく、曲がる。曲がる。曲がる。
『もうすぐモスクワ経由成田行きの飛行機が出ます。ご搭乗のお客様は…』
「! ツイてる!」
 それにまぎれて乗ってしまえば後は問題ない。


「ふぅ、それにしても危ない所だった……」
 動き出した飛行機、飛行機の中で一番大変で事故率が多いのは離陸と着陸の時だという。
「何が危ない所だったんですか、機長?」
「なに、乗り遅れそうだった所さ」
 そう答える機長……ではない。
 帽子を目深に被り、マスクをして誤摩化している。
 客にまぎれて入るのは困難だったので、貴明は何を思ったのか乗り込もうとする機長にヘッドロックをかまして空港のトイレに放り込み、服だけ借りたのだ。
 機長になりすまして入ったはいいが機長の仕事は操縦である。
「成田着いたときが怖いな……」
「機長! 方向逆です! ヨーロッパじゃなくてハワイの方に向かってますよ!?」
「いいだろ、どっちにしろ成田着くから」
「モスクワで降りるお客様いるんですよー!!!!」
 貴明は副操縦士の悲鳴を聞きつつ、やはりデュエリストの方が性にあっていると思った。
 ただ、操縦桿を握るのも夢の1つだったけど。







それは本来知り得ない筈だった

誰も知らない君も知らない物語の筈だった

それが誰かへと示す標なのか

それが破滅へと進む光なのか

全ては誰も知らない真相は闇の中









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