ニトロ・シンクロンの絶望

製作者:仁也さん






 オイラの名はニトロ・シンクロン。遊星兄貴のキーカードにしてジャンク・シンクロンの永遠のライバルさ。
 今はニトロ・ウォリアーのシンクロ素材として専ら働いている。俺のライバル、ジャンク・シンクロンにもジャンク・ウォリアーという専用シンクロモンスターがいる。
 ところでオイラの特殊能力を見てくれ、こいつをどう思う?
 このカードが「ニトロ」と名のついたシンクロモンスターのシンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
 そう書いてある。
 ニトロと名のつくシンクロモンスター。ニトロ・ウォリアーのシンクロ素材ではなくニトロと名のつくシンクロモンスターの素材という書き方をしているあたり、ニトロシリーズのシンクロモンスターは今後も増えていくみたいだな。楽しみだぜ。
 目下の目標は俺のライバルであるジャンク・シンクロンより先に専用シンクロモンスターを増やすことだ。
 そんなオイラは今日も遊星兄貴のカードとして大活躍してダークシグナーとやらをぶっ倒したところだ。
「ニトロ・ウォリアーで氷結のフィッツジェラルドを攻撃! ダイナマイトナックル!」
 やったぜ! 氷結のフィッツジェラルドは破壊されても再生するが、それを逆手にとってニトロ・ウォリアーの連続攻撃能力を使って敵のライフをゼロにしてやったぜ!
 さっすが遊星の兄貴はすげえな。
 もちろん、それもオイラの力あってこそだがな。これからも兄貴のデッキの戦力として戦っていくぜ。
 そんな風に決意を固めながらオイラは日々を過ごしていた。
 ある日のことだ、ダークシグナーとの戦いのラストになんかムキムキのおっさんと戦うことになった。
 遊星の兄貴とジャックとクロウの三人がかりでこっちは挑むぜ。
 遊星の兄貴にターンが回ってくる。
「レベル4のマックス・ウォリアーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング、集いし叫びが木霊の矢となり空を裂く! 光さす道となれ、シンクロ召喚! いでよ、ジャンク・アーチャー!」
 ああー、ジャンク・シンクロンの専用シンクロモンスターがー!
 ちっくしょう、悔しいぜ。ジャンク・シンクロンに先を越されるなんてな。だが見てろ、すぐに追いついてやるぜ。
 オイラの次の出番はいつだ?
 そう思っていると赤い靴を履いたピンクの鳥がなにやら本を読みながらこっちに歩いてくるのが見えた。
「おい、ロードランナー。いいところに来たな。オイラの次の出番を教えてくれ」
 オイラがそう呼ぶとロードランナーは本から顔を上げ、こっちを見る。
「あっ、ニトロ・シンクロン先輩。どうしたんですか今日は? 私はこのデュエルの最後にジョイントフューチャーで捨てられてデブリお爺さんの能力で復活してシンクロ素材になるお仕事があるんで頑張って台詞を覚えているんですよ。
 あっ、あと次回から新シリーズが始まってゴーストっていう人とデュエルするらしいです。私はラストターンにドローされるらしくて、きっと大活躍してゆーせーさんを助ける役に違いないです。楽しみだなー」
 どうやらロードランナーはアニメスタッフから新しい台本をもらってきたばかりらしいぜ。こいつならオイラの次の出番も知っているはず。
「で、オイラは? ニトロ様の次の出番はいつだ? 知ってんだろ、教えろ!」
「えっ、えーとそうですね。確か聞いた話によるとゆーせーさんが西部劇の世界にタイムスリップするお話があってそこでニトロ・ウォリアーさんが大活躍するらしいですよ。その後は
モミアゲが『レ』の人とのデュエルでも出番があるって聞きました」
 ほほう。西部劇か、ようし楽しみだぜ。
 オイラはその日を心待ちにすることにした。
 そしてある日、遊星の兄貴は西部劇っぽいに街に出かけてマルコムの手下三人相手にデュエルをすることになった。
 くそっ、三対一なんて不利だぜ。ここは二回攻撃のできるニトロ・ウォリアーをシンクロ召喚して速攻で決着をつけようぜ兄貴。
 オイラのそんな思いが通じたのか遊星の兄貴はオイラの望んだとおりのシンクロモンスターを呼び出す。
「俺は手札からボルト・ヘッジホッグを捨て、クイック・シンクロンを特殊召喚。そして墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚しチューニング! 集いし思いが、ここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、ニトロ・ウォリアー!」
 へっ、クイック? な、何だそのガンマンみたいな奴は? ニトロ・ウォリアーを呼び出すにはオイラを使うしかないんじゃなかったのか!
「くっくくく」
 そこに不気味な笑い声が響き、オイラは声の方向へ振り返る。
 そこに居たのはさっき見たガンマン野郎。クイック・シンクロンだった。
 奴は言う。
「初めましてニトロ・シンクロン先輩。私の特殊能力はね、この銃でカードを撃ち抜いてその立場を奪うことができるんですよ。くっくく、さようなら。もう貴方に出番などありえないのです」
 な、なんだと?
 気づくとオイラを始めとするシンクロンシリーズがルーレットに貼り付けにされていた。
 そしてルーレットが回転を始め、クイックが銃を向ける。
 や、やめろ。撃たないでくれ。やめろー!

 ズキューン。

 気づくとなんかしらんが遊星の兄貴が鬼柳さんとタッグを組んでいた。
 敵の場にはガトリングオーガと低攻撃力のトークンがたくさんいてニトロ・ウォリアーの格好のカモだった。
 こ、この状況は。まさか、オイラの出番か?
「俺は手札からボルト・ヘッジホッグを捨て、クイック・シンクロンを特殊召喚。そして墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚しチューニング! 集いし思いが、ここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、ニトロ・ウォリアー!」
 な、なんだと。
 馬鹿な。そんな馬鹿な。
 シーンが変わる。
 次は治安維持局でモミアゲが『レ』の人とデュエルしているところだった。
「レベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング! 集いし思いが、ここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、ニトロ・ウォリアー!」
 ま、また。また奴に立場を奪われるというのか。
 オイラの立場は? ニトロ・ウォリアーを呼び出すために必要だというオイラの役割は!
 いや、いつかきっとオイラにも出番はあるはずだ。オイラはそれを信じる。
 そして遊星の兄貴はWRGPという大会に出場した。
 初戦の相手は優勝候補ナンバーワンと噂されるチームユニコーンだった。
 遊星の兄貴は敵の三人を相手にデッキを掘られ、ライフを削られ、まさに貞操の危機だった。
 相手はラストホイーラーのジャンという奴だ。
 遊星の兄貴はトラップを使ってスターダストドラゴンを復活させたが、ジャンの場にいるライトニングトライコーンの攻撃力には適わない。
 しかもデッキは残り二枚。絶望的なピンチだ。
 だがオイラは諦めない。頑張れ遊星の兄貴! オイラの力を受け取ってくれ。
 オイラは強く念じた。
 どうか兄貴が次のドローで逆転のカードを引けますように、と。
 オイラの祈りが通じ、デッキの一番上がわずかに輝く。
 そして遊星の兄貴がカードを引く。
「俺のターン、ドロー!」
 引いたカードは、シンクロンエクスプローラーだ。
 それを見て遊星の兄貴は頷き、カードをデュエルディスクに置く。
「俺はシンクロンエクスプローラーを召喚。このカードが召喚に成功したとき、墓地のシンクロンと名のつくモンスターを復活できる」
 来たぜ!
 今兄貴は前の走者のデッキ破壊攻撃を受けてデッキの大半のカードが墓地にある。
 その中にはオイラも。
 行け兄貴、シンクロンシリーズ唯一のレベル2チューナーであるオイラを復活させてアームズエイドをシンクロ召喚するんだ。
 アームズエイドをスターダストに装備すれば、ライトニングトライコーンの攻撃力を上回り、さらにライトニングトライコーンの攻撃力分のダメージを相手に与えることができる。
 この攻撃で兄貴の勝ちだ。
 兄貴は墓地から一枚のカードを選び出す。
「ジャンク・シンクロンを特殊召喚。シンクロンエクスプローラーにチューニングして、ジャンク・ウォリアーをシンクロ召喚。さらにSp―スピード・フュージョンを発動し、ジャンク・ウォリアーとスターダストドラゴンを融合させる。融合召喚、波動竜騎士ドラゴエクィテス」
 あれぇー?
 は、ははは。
 まったくもう仕方ないなあ兄貴は。まあいくら兄貴でもたまにはプレイングミスをすることもあるよね。
「ドラゴエクィテスでライトニングトライコーンを攻撃! スパイラルジャベリン!」
「トラップ発動、リターンダメージ。この効果で俺の受けるダメージを相手に反射する」
「波動竜騎士ドラゴエクィテスの効果発動、ウェーブフォース。俺が受ける効果ダメージを相手に与える」
「ぐわー」
 な、リターンダメージだ、と?
 そんなトラップを伏せていたのか。ならもしアームズエイドを選択していたら。
 遊星の兄貴が呟く。
「危なかった。もしアームズエイドを選んでいたら今のトラップで俺は負けていた」
 う、うわああああああああああああ!
 何故だ! 何故だ! 何故だ!
 オレが、オイラが、役立たずだと言いたいのか!
 ちくしょうちくしょうちくしょう!
 ジャンク・シンクロンの奴にはもうジャンクガードナーとかジャンクデストロイヤーなんて専用シンクロモンスターが出ているのに!
 どうしてこんなに差がついたんだ! オイラが何をした!
 うわあああああああああああ!
 今、オイラの心は三つの絶望でできている。
 ニトロシリーズのシンクロモンスターが増えなかった絶望。
 ニトロ・ウォリアーのシンクロ素材という立場さえも銃刀法違反のクイックガンマンに奪われた絶望。
 リアルデュエリストの間でもニトロ・シンクロンよりもクイックガンマンの方が採用率が高いという絶望。
 その三つの絶望がモーメントを逆回転させ、世界をマイナスの波動が包み込んだ。
 モーメントはその元凶である人類を滅ぼせという結論に至り、世界中にニトロシンクロンの大群が現れ人々を虐殺して回った。
 オイラは恨む、全ての人類を! コンマイを! テレビ東京を! ファブリーズスタッフを! 彦久保雅博を!
 オイラにだって、本当は様々な可能性が、未来があったはずなんだ!
 いろんな専用シンクロモンスターが出る筈だったんだ。
 ニトロ・アーチャー、ニトロ・ガードナー、ニトロ・デストロイヤー、ニトロ・バーサーカー、ニトロ・セイバー、ニトロ・スナイパー、ニトロ・アサシン、ニトロ・ファイター、ニトロ・マジシャン、E・HEROニトロ、ニトロダストドラゴン、ニトロ皇ニトロ。
 あとオイラのことをニート・シンクロンとか言った奴は前に出ろ。
 働きたくないんじゃない! 働かせてもらえないんだ!
 そしてシンクロ融合。
 オイラは思い描く、遊星の兄貴がオイラを素材に更なる進化を遂げている姿を。
「Sp―スピード・フュージョン発動。融合召喚、超ニトロ魔道戦士アルティメットセイヴァーパラディンファイナルサンダー/バスター」

超ニトロ魔道戦士アルティメットセイヴァーパラディンファイナルサンダー/バスター
☆12 融合モンスター 炎属性 戦士族(多分)
レベル12の光属性ドラゴン族シンクロモンスター+「ニトロ・シンクロン」を素材としてシンクロ召喚された「ニトロ」と名のつくシンクロ・モンスター。クイックガンマンは氏ね!
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。あとクイックガンマンは氏ね!


「今回もダメですか」
 ゾーンは呟く。
 彼は破滅の未来を回避するために歴史に修正を加え、あらゆる方法を試しているのだ。
 しかし今回も絶望の未来を変えることはできなかった。
 今回の実験の結果わかったことは、どうやらニトロ・シンクロンに出番を与えないと世界が滅亡してしまうらしいということだった。
 ならば、とゾーンは打開策を考える。
 そして目の前に一人の青年を召喚する。
「現れましたかアンチノミー」
「やあゾーン、おはよう。昨夜は遅くまでDホイールの整備をしてたから眠いよ。聞いてよ、最近デルタイーグルが僕に冷たいんだ。毎晩毎晩沢山触ってあげて沢山いいことしてあげたのにちっともスピードが上がらないんだ。どうしてだろうって考えてみたらわかったんだよ。もうすぐ僕たちが出会って三百周年の記念日だって。そんな大切な日を忘れてたなんて冷たくされても文句言えないよね。だからね、僕は考えたんだその日の為に彼女にプレゼントを贈ろうってそれも最高のパーツを」
「アンチノミー、貴方に任務を与えます」
 青年の台詞を遮ってゾーンは言う。彼は最近、生前の仲間を忠実にコピーしすぎたことを若干後悔してきた。
 それはもう女性なんて一人もいない世界で年老いるまで男だけのコミュニティで顔を突き合わせてきたのだから性癖が歪んでしまってもおかしくないだろうと無理やり自分を納得させようとしてきたが、やはりこんな部分まで再現しなくても良かったなと思い始めている。
 ゾーンは口を開く。
「アンチノミー、貴方の使命は不動遊星にクリアマインドの境地を教えることです。彼にアクセルシンクロを自慢して、『やっべー、アクセルシンクロ超カッケー! 俺もやりてー!』と思わせるのです。破滅の未来を回避するためには彼がシューティング・スタードラゴンを使わなければなりません。
 その為、彼にSTARSTRIKEBLASTを買えばアクセルシンクロできるようになるぞと教えてあげるのです。しかし彼は貧乏ですからね。パックを買ってもシューティングスターを引き当てられない可能性があります。そのときは私が」
「それでね、思ったんだデルタイーグルは前輪の消耗が激しいから」
「聞けや!」


「大変ですニトロ・シンクロン先輩」
 ピンク色の鳥が羽をパタパタさせながらオイラを呼ぶ。
 オイラはビンに入った燃料を飲みながらそいつに答える。
「なんなんだよロードランナー」
「ゆーせーさんがピンチなんです」
「あーそー、だから? どーせオイラなんかいなくても逆転できるんだろ」
 オイラはそう言って突き放すがロードランナーは必死に訴えを続ける。
「今回はホントにピンチなんですよ。相手はあのイリアステルのプラシドっていう人です! あの人はDホイールと合体するという一発芸で視聴者の心を鷲掴みにしました。
 対するゆーせーさんはアクセルシンクロを決めようとしたんですが大滑りしてしまって。このままDホイールと合体以上の持ちネタを披露できなければゆーせーさんに勝ち目はありません!」
 その言葉に流石にオイラは不安になる。そして訊く。
「ロードランナー、お前には何か考えがあるのか? その状況を打開できる一発逆転のネタが」
「ハイ、あります! ここは昔の偉大なる先輩を参考にするんです。今も動画サイトでネタにされ続けている伝説のあのネタを再現するんです」
 そう、そのネタとは。

 Dホイールに乗り、遊星の兄貴はデッキに手を伸ばす。
 そして力強く宣言する。
「シューティングスターの効果発動! デッキの上からカードを五枚確認し、その中のチューナーモンスターの数だけ攻撃できる! 一枚目チューナーモンスター、二枚目チューナーモンスター、三枚目チューナーモンスター、四枚目チューナーモンスター、五枚目チューナーモンスター」
 その光景にプラシドは驚愕の表情を浮かべる。
「馬鹿な! これはあの伝説のアホム先輩がやったというバーサーカーソウル! こんなネタを繰り出してくるとは!」
「これが俺達の絆の力だ!」
 そして謎のDホイーラーことブルーノちゃんが言う。
「遊星に座布団三億枚。この勝負、遊星の勝ちだ」
 プラシドは叫ぶ。
「馬鹿な! この俺が、笑いをとるために人間をやめて肉体改造までしたこの俺が、人間ごときに敗れるというのか!」
「はーい、負けた人は罰ゲームとして爆破でーす」
 ブルーノちゃんの言葉通り、プラシドさんが爆破される。この光景もまたネタにされそうだなーなんて思いつつ。
「ありがとう。お前たちのおかげで勝つことができた」
 そう言いながら遊星の兄貴はシューティングスターの効果で引いた五枚のカードを見る。(すごいな兄貴、右手でカードを引いて右手で全部持ってるぜ)
 ジャンク・シンクロン、デブリドラゴン、エフェクト・ヴェーラー、ハイパーシンクロン、そしてニトロ・シンクロン。
 その中にはオイラも含まれていた。
 うう、嬉しいぜオイラは。オイラにもこんな仕事が残っていたんだな。
 遊星の兄貴は言っていた。全てのカードに意味があると。フィニッシャーになる大型モンスターもシンクロ素材になるだけの下級モンスターも、カードには主役も脇役もないんだ、全てのカードがデュエルを作る為の大切な一枚なんだ。
 オイラは今日、オイラの新しい生き方を見つけたんだ。
「おめでとうございます。ニトロ・シンクロン先輩」
 兄貴の手札からロードランナーも祝福してくれる。
 ああ、オイラはこの仕事を全うしていく。これからはシューティングスターの効果を使ったときは必ず出てやるぜ。
 さあ、みんなも走り出そうぜ。自分が一番輝ける生き方を見つけて、人生という名のライディングデュエルを!

 ニトロ・シンクロンの絶望 完



おまけ

 Dホイールに乗りながら遊星はひとつのボタンを押す。
 そのボタンはトラップカードの発動スイッチだ。
「シューティングスタードラゴンが破壊されたことにより、トラップカード、クラッシュスターを発動。墓地からソニックウォリアーを、手札からロードランナーを特殊召喚する」
 対戦相手のジャックもそれに応じる。
「スカーレッドコクーンが破壊されたことにより、エンドフェイズに墓地からレッドデーモンズドラゴンを特殊召喚する」
 二人は工場を出て、Dホイールに乗りながら併走する。
 ジャックは言う。
「遊星! そんな雑魚共では、我が魂レッドデーモンズには太刀打ちできんぞ」
 その言葉に遊星は笑みを返す。
「それはどうかな」
「なにい?」
「ジャック、どうやら俺にも自分の答えが見えてきたぜ」
 そして遊星にターンが回る。
「俺のターン、ドロー」
 引いたカードは、ニトロ・シンクロン。
「俺はニトロ・シンクロンを召喚。さらにフィールドにチューナーがいることにより、墓地からボルトヘッジホッグを特殊召喚」
 遊星の場に四体のモンスターが揃う。そして彼は言う。
「レベル1のロードランナーとレベル2のソニックウォリアーとレベル2のボルトヘッジホッグにレベル2のニトロ・シンクロンをチューニング。集いし思いが、ここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、ニトロ・ウォリアー!」
 緑の体をした怪物の姿にジャックは驚きの声を上げる。
「ここで! ニトロ・ウォリアー(二枚目)だと!」
 ニトロ・ウォリアーの攻撃力は2800、攻撃力3000のレッドデーモンズには僅かに届かない。
 しかし遊星は言う。
「ニトロ・シンクロンがシンクロ素材になったとき、カードを一枚ドローできる。ジャック、これが俺達の未来を決める運命のドローだ」
 ジャックはその言葉に口元を引き締める。
 そして遊星はデッキに手を伸ばす。
「ドロー!」
 引いたカードの内容を遊星は確認する。
 ニトロ・ウォリアーは魔法カードを発動すれば攻撃力が上がる効果がある。今のカウンターの数で発動可能なスピードスペルを引けば、レッドデーモンズを倒せる。
 しかし、遊星のとった行動は。
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
 ジャックにターンが回り、彼はカードを引く。
「その一枚の伏せカードに全てを託すというわけか。面白い! そのカードがブラフか否か、俺の攻撃で見極めてやる」
 今ドローしたばかりのカードをジャックは視界に納める。引いたカードはバトルフェーダ―。
 もし遊星のトラップによってレッドデーモンズが破壊されても、次の遊星のターンをこのカードで凌ぐ事ができる。自身の優位は変わらない。
 そこまで考えて彼は宣言する。
「行くぞ遊星! これが最後のバトルだ! レッドデーモンズドラゴンでニトロ・ウォリアーを攻撃! アブソリュートパワーフォース!」
 レッドデーモンズの炎を纏った拳がニトロ・ウォリアーに迫る。
 それに対して遊星も声を張り上げる。
「ああ、ジャック。俺も自分の答えをここに示す! トラップカード発動、シンクロバトン!」
 氷結界の虎王ドゥローレンが描かれたトラップカード。その効果は、
「この効果でニトロ・ウォリアーの攻撃力は俺の墓地に眠るシンクロモンスターの数×600ポイントアップする。今俺の墓地にいるのは、ニトロ・ウォリアー(一枚目)、ターボ・ウォリアー、スターダスト・ドラゴン、フォーミュラシンクロン、シューティングスタードラゴン」
 ジャックが表情を驚愕に塗りつぶす。
「合計5枚。攻撃力3000ポイントアップだと!」
 遊星は言う。
「ニトロ・ウォリアーは一人じゃない! 離れていたって仲間との絆は繋がっているんだ!」
 ニトロ・ウォリアーの攻撃力は5800。
「これで最後だ、ニトロ・ウォリアーの攻撃、ダイナマイトナックル!」
 ニトロ・ウォリアーの巨大化した両拳がレッドデーモンズの拳を飲み込む、そしてジャックのライフカウンターがゼロを示す。
 今この瞬間、彼らの未来は決まった。





戻る ホーム