NEXUS ExtraStory −時を超えた遭遇−
後編

製作者:ネクサスさん






【これまでのあらすじ】
 デュエルアカデミアの1年生である明石栄一は、2月のある日、ひょんな事から謎の世界へと飛ばされてしまった。
 そして彼が飛ばされたその世界には、彼の憧れである伝説のデュエリスト・遊城十代もまた、飛ばされていた。
 話し合ううちに意気投合する2人。そんな2人の目の前に現れたのは、かつて現実世界の人々を抹消しようと企んだダークネスが僕、ミスターTだった。
 「この世界から脱出する為には、奴を倒すしかない」。そう意気込んで、十代はミスターTにデュエルを挑む。
 激しい攻防の末、親友の力を借りる事で、十代は辛くも勝利をものにする。
 そして彼が勝利した事で、栄一達は何とか元の世界に戻れる事になった。

 ・・・筈なのだが。





目次








「・・・あれから、1時間ぐらい経ちましたよね?」

「・・・そうだな。もうじき1時間だ」

 十代がミスターTを倒し、惜別の握手を終えて。あれから、約1時間が経過した。
 しかし未だに、栄一も、十代も、このミスターTが創ったと思われる世界に閉じ込められたままだった。
 あまりにも時間がかかり過ぎな為、携帯電話を使って全員で集合写真を撮る、みたいな呑気な事もできたぐらいだ。

「そろそろ、元の世界に戻れても良い頃ですよね?」

「だな。こういった事例で、戻れる事が確定してから、実際に戻れるまでに何時間もかかるって話は、フィクション含めてもあまり聞いた事が無い」

 ラスボスを倒して無事帰還、という結末の小説があるとしよう。そこに「戻れる筈が戻れない。その原因も、敵が妨害している等ではない。ただ単に、戻れる筈なのに原因不明のイレギュラー(しかも敵ですら予想外)が発生して戻れない」という余剰な話を付け加えたら、そんな小説、売れる筈もなかろう。
 訳も分からないまま連れ去られて、その理由を敵にすら「知らない」と言われる。そして「敵が約束を破った」のではなく、「敵にすら分からない」理由で帰れない。そんな話、あってたまるか、である。

「ちくしょう。騙されたのか? 幼女の寝小便隠しか? それとも高校生の罪悪感から咄嗟に出る嘘か?」

 いっその事「騙された」という結論の方が清々する。そんな十代の思いが、自然と言葉になる。

『いや、それは無い筈だよ』

 そんな彼の苛立ちを、『ユベル』の冷静な判断が制す。
 何かを理解しているような『ユベル』の口ぶりにうんざりしながらも、十代は耳を傾けた。

『十代、覚えていない筈はないだろうね? 奴らの親玉、ダークネスの"起源"を』

「・・・この宇宙は、1枚のカードから生まれたって奴か?」

『そうさ』

 はるか昔。如何なるものも存在しない、完全なる"無"の暗き空間。そこに突如、1枚のカードが現れた。何の前触れもなく、である。
 それこそが、この宇宙の"はじまりの1枚"のカード。そしてその"はじまりの1枚"から、あらゆる"存在"が生み出された。
 宇宙。銀河。幾多の星々。そこに住む生命。そして、デュエルモンスターズも。
 万物の起源であるカード。そしてそのカードの裏面の闇から生まれた、虚無の存在。それが、ミスターTを従えし闇の首領、ダークネスである。

「ダークネスの起源が、現状と関係あるのか?」

『奴とデュエルモンスターズの関係。それを紐解いていけば、恐らくね』

 「あくまで推測だけどね」と付け加えてから、『ユベル』はその詳細を説明し始めた。

 "はじまりの1枚"から生み出された星々のうちの1つ、地球。そこでは、あらゆる生命体が誕生した。
 その中で、特に知的な生命体として進化し続けてきた存在。それが人類。
 そしてその人類のうちの1人、I2社の現会長、ペガサス・J・クロフォードによってデュエルモンスターズは創り出された。
 それが一般的な解釈である。

 しかしその解釈は、宇宙の起源と重ね合わせれば訂正が必要だ。

 正確には、人類の進化の流れでデュエルモンスターズが創り出されたのではない。
 "はじまりの1枚"。それはまさしくデュエルモンスターズそのもの。
 つまりデュエルモンスターズという"概念"は、この宇宙が誕生したその時から既に存在する。
 そしてそのデュエルモンスターズという"概念"を、カードゲームという形を通して、ようやく人類が扱えるようになった。
 これが正しい解釈となる。

『"はじまりの1枚"はデュエルモンスターズそのもの。そしてダークネスは、その"はじまりの1枚"の裏面から生まれた闇。つまりそれは・・・』

「ダークネス=デュエルモンスターズと定義できる・・・という事か?」

『十代にしては察しが良いね。その通りだよ。そしてこの定義が成立するという事は、ダークネスはデュエルモンスターズの契約的性質に対しては、絶対でなければならない。というより、契約的性質を破る事はできない筈だ』

「オイオイ、つまり・・・」

 『ユベル』の推測の結論、それに十代も気付いた。というより、気付いてしまった。
 あまり信じたくない事ではあった。だがこの推測は、この理不尽な状況において最も理に適ったものであった。
 だから、確認する他無かった。その結論を、『ユベル』に告げようとした・・・その時であった。

「え? え? どういう事?」

 情けない声が、周囲に響き渡る。声の出先に振り向くと、栄一が頭を抱えて唸っていた。
 そもそも彼は、ダークネスという存在自体を知らないのだから、この反応は仕方が無い。
 そう判断して十代は、今言おうとした結論を、さらに解釈しやすくして栄一に伝えよう・・・としたのだが、『ユベル』の方が早かった。

『つまりダークネス、そしてその従者のミスターTは、デュエルを通じて交わした約束を破る事は絶対にできない、という事だよ』

「デュエルを通じて交わした約束?」

『そう。栄一、キミにも経験あるだろう? 「このデュエルに勝ったら何々しろ」とか「このデュエルに負けたら何々する」みたいな約束をした事が』

「う、うん。デュエルに勝った方が、この列を先に並ぶ事ができる、みたいなやつだよな?」

『そう。そういった約束事こそが、デュエルモンスターズの契約的性質なんだ』

 デュエルを通して交わした約束は厳守しなければならない。それが、デュエルモンスターズの契約的性質。
 違反した者に対しての罰則がある訳ではない。だが、デュエルを行う者は皆、デュエルを通して交わした約束は守る。そういうものだと解釈している。不文律(アンリトゥン・ルール)を破る事はない。

『そしてそんな契約的性質は、"はじまりの1枚"の片面であり、デュエルモンスターズそのものであるダークネスや、その従者のミスターTにとっては、より絶対的な存在となる』

 "デュエルモンスターズという概念そのもの"だからこそ、誰よりも強くデュエルモンスターズのルールに縛られている。
 つまりその契約が、例え口約束のものであっても。彼らはその約束を破る事は、決してできないのだ。

「じゃあ、ミスターTが十代さんとの約束を破った、という事は・・・」

『恐らく、有り得ないだろうね』

『不完全なまま復活したという事が、奴にとっては不幸中の幸いになったようだニャ。現に私達は、折角賭けに勝ったのに未だにここに閉じ込められているのだからニャ』

 不完全なまま復活したとはいっても、契約的性質を放棄する事はできない筈である。
 だがそれは、ミスターTの能力自体を制約できるものでもない。
 つまり、不完全なミスターTが創りだしたこの世界自体に欠陥があるのだとしたら・・・これは既に、契約的性質の範囲を超えている。
 ルールを守る・破るの範囲では解決できない、根本的な部分でのエラーが、この無茶苦茶な状況を生み出してしまっているのだ。

「そんな・・・」

 帰る術を失ったという現実が、栄一を苛む。頭を垂れて、力が抜けたようにその場で座り込んでしまった。
 ミスターTが約束を破ったという方が、まだ何倍も希望があった。黒幕が分かっている分、まだ帰還の可能性があるからだ。
 そのやりきれない怒りをぶつける相手を失ってしまった今、栄一にはどうする事もできなかった。










「・・・なぁ、栄一」

 沈黙が続く中、突如聞こえた十代の声。
 栄一が振り向いた先には、その左腕に装着した物とは別の、もう1つのデュエルディスクを右腕で抱えた十代の姿があった。

「デュエルしないか?」

 ただ一言。十代はそう言った。

「まさか、こんな事になるとは思わなかったから言わなかったんだけど、お前、オレとデュエルしたいんじゃないのか?」

 その吸い込まれるような微笑みを見せながら、十代は言う。

「・・・ハイ。ハイ! 俺、ずっと十代さんとデュエルしたいと思っていたんです!」

 実際に吸い込まれてしまったのか栄一は、十代からデュエルディスクを受け取りながらそう返答した。

「・・・ようし! じゃあ早速デュエルだ! デュエルしてたら嫌な事も忘れるだろうし、なんか良い脱出のアイディアも、きっと思い浮かぶ筈だ!」

 そう言うと十代は、その場でへたり座っている栄一の右腕を掴み、思い切り良く彼を引っ張り上げた。
 突然の事に、立った瞬間その足がふらついた栄一ではあったが、すぐに体勢を整え、その目に闘志を燃やした。

『十代らしい発想だね』

『だから、遊城十代なんだニャ』

「ニャー?」

 瞬間、『ユベル』が十代からその距離を広げ、栄一の後ろへと立った。
 『ユベル』の言葉に相づちを打った大徳寺先生も、そして十代も、その突然の行動に疑問を浮かべる。
 ファラオに至っては、釣られて栄一の後ろへと移動する。

『じゃあ今回ボクは、デュエルを見学させてもらうよ』

「えっ!?」

 突然の宣告。それに驚愕の声を上げたのは十代ではない。栄一ではあった。
 『ユベル』がデュエルに参加しない。それは十代が、このデュエルにおいて全ての力を出し切らない事を意味する。
 ハンデを与えられた。自分は対等に向き合えると判断されていない。そういう風に、栄一は解釈したのだ。

『おっと、勘違いしないでくれよ栄一。ボクが参加しないのは、決してハンデじゃないよ』

「じゃ、じゃあ、どういう事?」

 戸惑いを隠せない。不安が過ぎって離れない。
 尋ねる声が、震えて仕方が無い。

『ボクは既に、さっきのミスターTとのデュエルに参加した。それはつまり、ボクを使っての十代の戦術がキミに筒抜けになったという訳だ。キミも既に理解しているだろう。十代には、縦横無尽の戦術が用意されている。そのうち、キミがまだ知らない分も勿論ある。その知らない分が襲い掛かってくる可能性が上がった。それは寧ろ、キミにとって不利な状況になったんじゃないかい?』

「あっ・・・!」

 呆気に取られたかのように、だらしなく開く栄一の口。次の瞬間、何かに気付いたかのような顔を振り向かせ、そして警戒。
 『ユベル』によって気付かされた。目の前にいる男、遊城十代は強大なデュエリスト。1デュエリストとして十分な警戒心をもって、彼に向き合う。
 ハンデを与えられたという考えは、既に捨て去っていた。

「・・・ってオイオイ。勝手に話を進めるなよ。オレは許可した訳じゃないぞ、『ユベル』」

『良いじゃないか。それとも、またボクに頭を下げるのかい?』

「そうくるか・・・」

 置いてけぼりを喰らい、不機嫌な十代。だが『ユベル』は、そんな十代の操縦法をもしっかり心得ているようだった。
 簡単に言い包められてしまった。十代は、素直に流れに従う他なかった。

「・・・ところで、このデュエルディスクどうしたんですか? 2つも持ってたら重くないですか?」

 やや険悪なムードになってきたと察知した栄一は、素朴な疑問を投げかけて話を断ち切った。

「ん? あぁ。実は日本に戻ってすぐに、飯屋で飯食ってた時なんだけどさ。隣に座った人と意気投合して、帰りに記念に貰ったんだよ」

 「誰かとデュエルする時に、その相手が持ってなかったら不便だろ」と言われてさ、と十代は続ける。

「あ、だから普通の塗装のディスクなんですね?」

 栄一が渡されたデュエルディスクは、白いノーマル塗装のディスク。十代が今装着しているものや栄一が普段使用する、デュエルアカデミア・オシリスレッド寮の生徒という証拠である紅い塗装のなされたディスクとは別物である。

「あぁ。ついでに言うと、さっきミスターTの襲撃をかわす時に使った竹刀あるだろ。あれも、その人に貰った奴なんだよ」

 近くにあった竹刀袋から竹刀を取り出し、柄の部分を確認する。"角田"という名前が彫られている。

「つーわけで、じゃあデュエルするか」

「ハイ!」

 余談はここまで。いよいよ話は、本題に入る。
 お互いに一定の距離を開けて、左腕のデュエルディスクを構える。

『思い切り叩きのめしちゃいなよ、栄一』

「いや、それは、その・・・」

 戦闘態勢に入った栄一を『ユベル』が茶化す。
 突然の発言に栄一は、しどろもどろにしか言葉を返せない。

「遊ぶなよ『ユベル』・・・」

『まぁ、良いじゃないか』

 『ユベル』の悪乗りに呆れながらも十代は、開始準備を行う。
 デッキから5枚のカードを取り、それを手札とする。
 それにつられて栄一も、苦笑しながらも5枚の手札を取る。

 準備が完了し、フィールドに改めて緊張感が走る。
 闘いの開幕を告げる風が、フィールドを駆け抜ける。

「「デュエル!」」

 2人の勇ましい声が響き渡る。
 栄一にとっての憧れの存在。その存在との夢のデュエルが今、始まった。

栄一:LP4000
十代:LP4000




「俺の先攻! ドロー!」

 先攻を示すランプは、栄一のデュエルディスクに灯った。
 栄一は手札を眺めながら、十代に自身のヒーローを早速披露しようと胸躍らせる。

「いきます! 俺は『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン』を攻撃表示で召喚!」

 獅子の力を得たヒーロー『ライオマン』が、立派な鬣を靡かせながら現れる。
 その両腕の爪を十代に向けて構え、威嚇する。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン ☆4(オリジナル)
地 獣戦士族 通常 ATK1700 DEF800
獅子のように大地を駆け巡るE・HERO。
正義の突進ライオクラッシュで悪を砕く。

「見た事も無いヒーロー! カッコいいぜ!」

 初見だった。目の前の『ライオマン』が。そんな十代もまた、その登場に胸を躍らせた。

「意外・・・かも。十代さんにも知らないヒーローがいるなんて」

「まぁ、そう言うな。オレにだって知らないヒーローはまだまだ沢山いる。それもまた、ヒーローの無限の可能性って事さ!」

「無限の可能性・・・そうですよね! 俺は、カードを1枚セットして、ターン終了です!」

 十代の言葉に、納得を意味する頷きを1つ。そのまま栄一は、自身のヒーローを守る為のカードを1枚伏せ、ターンを終えた。

栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

 そして、いよいよ実体験する十代のデュエル。
 後ろで見ていた先程とは違う。あのミスターTを打ち破ったヒーロー達が、今度は自身に対して総攻撃を仕掛けてくるのだ。
 栄一は、待ち望んだ興奮だけでなく、十代から放たれる威圧感、そしてそれに対する緊張感にもまた、支配されるのであった。

「オレのターン、ドロー!」

 ドローしたカードを見て、十代は笑みを浮かべる。
 一方栄一は、早くも強力なカードが来たのかと警戒心を強める。

「さぁいくぜ! オレはこのモンスターを召喚する!」

 1枚のカードをデュエルディスクに叩き付ける十代。
 瞬間、十代のフィールドに現れるのは、栄一の予想だにしなかったモンスター。
 自身の体格と大差ない大きさの剣を肩に担いだ、黒装束の少年剣士。

「『サイレント・ソードマン LV3』!」

サイレント・ソードマン LV(レベル)3 ☆3
光 戦士族 効果 ATK1000 DEF1000
このカードを対象とする相手の魔法カードの効果を無効にする。
また、自分のスタンバイフェイズ時、フィールド上に
表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で
「サイレント・ソードマン LV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。
この効果は召喚・特殊召喚・リバースしたターンに発動する事はできない。

「『サイレント・ソードマン』!?」

 それは、あの伝説のキング・オブ・デュエリストも好んで使用したと言われる、レベルアップ能力を持つモンスター。
 自らの描いていた十代像には当てはまらないモンスターの登場に、栄一は戸惑いを隠せない。

「あぁ。実はオレの友人の1人に、コイツを使うデュエリストがいてさ。初めて見て以降、オレも使ってみたいと凄く思っていたんだ。それでこの前、漸く手に入れる事が出来て。披露するのはお前が初めてだぜ、栄一!」

 まだ見ぬ戦術。デュエル前の『ユベル』の発言が、栄一の脳裏を走る。

「初めて使うモンスターとはいえ、ハンデになるなんて考えは大間違いだぜ、栄一」

 その十代の言葉に、栄一は改めて気を引き締める。
 ハンデを与えられたのかと油断していた自分を戒める。

「さぁて、一気にいくぜ! 魔法カード『レベルアップ!』! 『サイレント・ソードマン』を『LV3』から『LV5』に進化させる!」

 『サイレント・ソードマン』が光に包まれ、その姿が様変わりする。
 沈黙の少年剣士が、体格の良い青年剣士へと成長する。手に持つ剣も、さらに大きく、威力のある物へと変化する。

「『サイレント・ソードマン LV5』!」

 光から解放された剣士が、その剣を勇ましく構える。

サイレント・ソードマン LV(レベル)5 ☆5
光 戦士族 効果 ATK2300 DEF1000
このカードは相手の魔法カードの効果を受けない。
このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた場合、
次の自分のターンのスタンバイフェイズ時、
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、
自分の手札またはデッキから「サイレント・ソードマン LV7」1体を特殊召喚する。

レベルアップ! 通常魔法
フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つ
モンスター1体を墓地へ送り発動する。
そのカードに記されているモンスターを、
召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

「一気に進化した・・・」

 十代の速攻コンボに、栄一は焦燥する。

「バトルフェイズ! 『沈黙の剣LV5』!」

 だからと言って、十代が待ってくれる訳はなかった。
 『サイレント・ソードマン』が剣を振り上げ、『ライオマン』へと飛び掛る。

「うぅ! トラップカード『攻撃の無力化』! バトルフェイズを終了する!」

 だが振り落とされた剣は、『ライオマン』の目の前に現れたバリアによって防がれる。
 そして同時に発生した竜巻が、『サイレント・ソードマン』を吹き飛ばす。

攻撃(こうげき)無力化(むりょくか) カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「ちぇ。防がれたか。じゃあオレはこれで、ターンエンドだ!」

 攻撃が通らなかった事に対して、子供のように不貞腐れながら十代は、自らのターンを終えた。

栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP4000
手札4枚
モンスターゾーンサイレント・ソードマン LV5(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン!」

 下級モンスター単体では、『サイレント・ソードマン』に対抗する事ができない。なら、ヒーローの団結で挑むしかない。
 『E・HERO』の得意戦術が今、栄一によって披露される。

「魔法カード『融合』発動!」

「『融合』か! どんなヒーローを召喚するんだ?」

 自身も『E・HERO』使いだからこそ、先読みできる。
 自身が見た事も無いヒーローを使って、どのようなモンスターを融合召喚するのかを、十代は興奮と共に待ち構える。

「俺が融合するのはこのモンスターです! フィールドの『ライオマン』と手札の『ホークマン』!」

 『融合』のエフェクトによって発生した渦に、獅子と鷹のヒーローが吸い込まれていく。
 渦が光った後、フィールドに現れたのは、伝説の獣・グリフォンを模した戦士。

「『ストライカーグリフォン』、融合召喚!」

 しなやかな翼を広げ、敵を討つ。新たな『E・HERO』、『ストライカーグリフォン』である。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ストライカーグリフォン ☆6(オリジナル)
風 獣戦士族 融合・効果 ATK2400 DEF1300
「E・HERO ホークマン」+「E・HERO ライオマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は他の表側表示のモンスターを攻撃対象に選択できない。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ホークマン ☆4(オリジナル)
風 鳥獣族 通常 ATK1500 DEF1000
鷹のように力強く大空を飛ぶE・HERO。
ホーククロウが悪を切り裂く。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「新しい『E・HERO』! ソイツもカッコいいぜ!」

「ハイ! ですが、カッコいいだけじゃありません! 『ストライカーグリフォン』!」

 栄一の掛け声に合わせ、『ストライカーグリフォン』が飛び上がる。
 狙うは『サイレント・ソードマン』。空から勢いをつけて、彼目掛けて突進する。

「『ユー・エフ・オー・ストライク』!」

 目に見えぬ速さで、『サイレント・ソードマン』に一撃。
 何時やられたかも分からないままフィールドから消滅する『サイレント・ソードマン』が、哀愁を誘う。

十代:LP4000→LP3900

「『ストライカーグリフォン』の効果! 相手モンスターを戦闘破壊した場合、もう1度だけ攻撃できる! 『ユー・エフ・オー・ストライク・セカンド』!」

「何!?」

 『サイレント・ソードマン』を倒した勢いそのままに『ストライカーグリフォン』は、物凄いスピードで十代目掛けて突進。強烈な一撃を与える。

十代:LP3900→LP1500

「よしっ!」

『中々やるニャ、栄一君』

 一気に十代のライフを削り、意気揚々とする栄一。
 後ろでは、大徳寺先生も賞賛の言葉を述べている。

『だけど十代も、転んでもただでは起きないよ』

「えっ?」

 だがそこに水を差す、『ユベル』の冷静な判断。
 肩透かしを喰らい、思わずそちらを振り向く栄一。

『前を見なよ』

 振り向いた栄一を、『ユベル』はすぐさま咎めた。
 そう言われたら、と栄一がフィールドの方を向き直すと・・・

「・・・うっそ!? まさか!?」

 2人の誇らしき『使者』が、十代のフィールドに姿を現していた。
 黒き鎧を身に纏った男性。白き鎧を身に纏った女性。それぞれが、その大剣を構えて、栄一を睨みつける。

「ダイレクトアタックでダメージを受けたので、手札から『冥府の使者ゴーズ』を特殊召喚させてもらった。さらに『ゴーズ』の効果で、受けたダメージ分の攻守が備わった『冥府の使者カイエントークン』も特殊召喚させてもらったぜ」

冥府(めいふ)使者(ししゃ)ゴーズ ☆7
闇 悪魔族 効果 ATK2700 DEF2500
自分フィールド上にカードが存在しない場合、
相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」
(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。
このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

冥府(めいふ)使者(ししゃ)カイエントークン ☆7
光 天使族 トークン ATK2400 DEF2400

「折角『サイレント・ソードマン』を倒したと思ったのに・・・。入れ替わりで一気に上級モンスターが2体!?」

 戦慄。そして・・・興奮。十代の戦術に、栄一の脳裏には「凄い」という尊敬の念の言葉しか浮かばなかった。

「俺は、カードを2枚セットしてターン終了です」

 こうまでされたら、栄一は嫌でも守りを固めるしかない。引き下がるまいという念を込めて、防御の布陣を強化する。そして後は、神のみぞ知る、である。

栄一LP4000
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ストライカーグリフォン(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
十代LP1500
手札3枚
モンスターゾーン冥府の使者ゴーズ(攻撃表示:ATK2700)
冥府の使者カイエントークン(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンなし

 だが、反撃のチャンスを得た十代は、リバースカードにも決して臆しない。

「オレのターン! お前の新たなヒーローも凄ぇが、オレの新たなヒーローも凄いぜ!」

 手札の1枚のカードに、十代の手がかかる。
 発動されるのは、フィールドの布陣をさらに強化する為の魔法。

「魔法カード『ダブルレベルアップ!』! オレの墓地のレベルモンスター1体を除外する事で、そのモンスターに記されたモンスター1体を、召喚条件を無視して特殊召喚できる! オレは、『サイレント・ソードマン LV5』を除外!」

 瞬間、天から一筋の光が、フィールドに射し込む。
 その中から現れたのは、最終進化を遂げた沈黙の剣士。
 大剣を構え、あらゆる魔法を沈ませる、黒装束の青年。

「特殊召喚! 『サイレント・ソードマン LV7』!」

サイレント・ソードマン LV(レベル)7 ☆7
光 戦士族 効果 ATK2800 DEF1000
このカードは通常召喚できない。
「サイレント・ソードマン LV5」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。

ダブルレベルアップ! 通常魔法(ハピフラシリーズオリジナル)
墓地に存在する「LV」を持つモンスター1体をゲームから除外して発動する。
そのカードに記されているモンスター1体を、
召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

「『サイレント・ソードマン』の最終形態・・・」

 『サイレント・ソードマン』の次から次への進化を目の当たりにして、栄一は胸に湧き起こる興奮を抑える事ができない。

「バトルフェイズだ! 『サイレント・ソードマン』で、『ストライカーグリフォン』を攻撃! 『沈黙の剣LV7』!」

 この召喚劇に栄一が呆然としている間にも、大剣が『ストライカーグリフォン』目掛けて振り落とされる。
 豪快な袈裟切りを決められ、哀れ『ストライカーグリフォン』。爆発を起こしながら、フィールドから消滅した。

「くっ!?」

 突然の爆発に、どこかの世界に旅立っていた栄一の心が、こちらの世界に引き戻される。
 そうだ。ボケっとしている暇ではない。伏せたカードを発動しなければならない。そして、自分の持つ「力」を呼ばなければならない。

栄一:LP4000→LP3600

 一方、十代からすれば、栄一の対応次第でこのターン内に決着をつける事も可能なこの状況。

「続けて『カイエントークン』で、栄一にダイレクトアt・・・!?」

 一気に攻めかかる他無い・・・筈なのに。その、動きが止まる。
 瞬間、十代が感じたのは、灼熱。燃え盛る、強力なエネルギー。

「これは!?」

 攻撃できない。一瞬だが、手足が竦んで、宣言が思う通りに出来ない。
 理由はただ1つ。爆発によって発生した煙の向こうにいるのであろう。栄一の精霊である戦士が。

「・・・トラップカード『ヒーロー逆襲』を発動しました。俺の手札はこの1枚。『E・HERO バーニング・バスター』です!」

 煙が晴れたそこには、やはりいた。紅の鎧を身に纏った、熱き闘志の戦士が。
 全ての悪を燃やし尽くすその炎。それを発現する腕も、大地を踏みしめる足も、敵を睨む緑の両瞳も。全てから、矛のような純粋な鋭さ、そして強さを感じる。

「これが・・・『バーニング・バスター』か!」

 灼熱のヒーロー『バーニング・バスター』が今、ヒーロー合戦のこの場で、宇宙のヒーローを操る十代の目の前で、動き出す。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「(全然気付かなかったな・・・)」

 精霊の力を察知できる十代なら、栄一の手札に『バーニング・バスター』がいれば、すぐ気付ける筈だった。
 ある意味反則ともとれてしまうし、デュエルに面白みもなくなるが、それでも感じ取れない筈が無かった。
 十代は知る由もないが、そもそも精霊が見えないデュエリストでさえ、手札に眠る『バーニング・バスター』の灼熱を察知できた事がある。そういった事例もあるのに、十代は気付けなかった。
 不思議な事だとは思う。だがこれは、栄一を不利にさせない為の『バーニング・バスター』の自己防衛能力・・・という事にしておこう。
 『バーニング・バスター』は、それだけ"強い"精霊なのだ。十分納得できる。
 そういう風に十代は、結論を纏めた。これでこの話題はおしまいと、自己完結した。

 ・・・大切な事を、すっかり忘れ去りながら。

「『ヒーロー逆襲』のもう1つの効果で、『サイレント・ソードマン』を破壊します!」

「・・・!? しまった、そうだった!?」

 十代は慌てふためくも、もう遅い。その攻撃はもう止まらない。
 『バーニング・バスター』の右の拳に灯る球状の炎。"逆襲"の名目の下、仲間を倒した剣士への贈り物。
 放たれたそれは、剣士を包み込み―――皮肉にも、彼の名の通り、沈黙を貫き通したまま―――彼がフィールドを去るまで、燃やし尽くした。

ヒーロー逆襲(ぎゃくしゅう) 通常罠
自分フィールド上に存在する「E・HERO」と名のついたモンスターが
戦闘によって破壊された時に発動する事ができる。
自分の手札から相手はカード1枚をランダムに選択する。
それが「E・HERO」と名のついたモンスターカードだった場合、
相手フィールド上のモンスター1体を破壊し、選択したカードを
自分フィールド上に特殊召喚する。

「『サイレント・ソードマン』を置いておけば魔法が使えなくなるから、当然か・・・」

 自らの失態に溜息1つ。といっても、そのまま落ち込み切ってしまう事は決して無い。
 すぐさま、次の行動に移る。

「オレは、『ゴーズ』と『カイエントークン』を守備表示に変更。さらに『アナザー・ネオス』を守備表示で召喚し、カードを1枚セットしてターン終了だ」

 2体の使者と、新たに現れた『ネオス』の子供時代のような姿をしたヒーロー『アナザー・ネオス』が、守備を固める。
 1ターンキルも視野に入っていた攻勢が、一気に守勢へと転じてしまった。
 だがこの状況においても、十代のその表情から、笑みが消える事はなかった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) アナザー・ネオス ☆4
光 戦士族 デュアル ATK1900 DEF1300
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、カード名を「E・HERO ネオス」として扱う。

栄一LP3600
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP1500
手札1枚
モンスターゾーン冥府の使者ゴーズ(守備表示:DEF2500)
冥府の使者カイエントークン(守備表示:DEF2400)
E・HERO アナザー・ネオス(守備表示:DEF1300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚




 不利な状況に陥っても、その笑顔を緩めない十代。ある意味では不気味だ。
 しかしそんな事も、攻勢に転じた栄一には関係ない。

「俺のターン!」

 十代が守勢に回らざるを得なくなってしまった最大の原因、『バーニング・バスター』。
 その力を借り、栄一が反撃に出る。灼熱の戦士が、再びフィールドを灼熱で荒らす。

「バトルフェイズ! 『バーニング・バスター』で、『冥府の使者ゴーズ』を攻撃!」

 成人男性1人ぐらいなら、楽に包み込む事ができる程にまで膨れ上がる、『バーニング・バスター』の右拳に灯った炎の球。
 栄一の掛け声と共に、その炎球は、目の前の敵を支配する。

「『バーニング・バースト』!」

 再び放たれる巨大な炎球。瞬く間に『ゴーズ』を包み込み、彼を燃やし尽くす。
 『ゴーズ』を守備表示にしていたのが十代にとっては幸い。ダメージを受ける心配が無いから。

「『バスター』のモンスター効果! 『バスター』がモンスターを戦闘破壊した場合、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 ・・・と言う安心感は、『バーニング・バスター』の前では絶望感にその姿を変える。
 灼熱の恐怖は、これで終わりではないのだ。

「『フレイム・ウィングマン』と同じ効果だけど・・・サイズが1回りデカい分、ちと反則じゃねぇか!?」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン ☆6
風 戦士族 融合・効果 ATK2100 DEF1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 ヒーロー使いの十代のマイ・フェイバリット・カードである―――そして勿論、同じくヒーロー使いである栄一も愛用している―――ヒーロー。『E・HERO フレイム・ウィングマン』。
 その『フレイム・ウィングマン』と同じ効果を持つ灼熱の戦士の強力さに、十代は鳩が豆鉄砲を食ったような態度を取る。
 だがやはり、時は待ってくれない。『バーニング・バスター』が十代の目の前に立つ。
 そして容赦なくその炎を吹き上げる。

「『レイジング・ダイナマイト』!」

 栄一の宣言と共に、十代の周りから吹き上がる灼熱の炎。
 この炎は、十代のライフを全て奪い去る、支配の炎。
 鎮まるまで、彼の生命力を根こそぎ奪い取る。

「カウンタートラップ発動!」

 だが、そこで響いた十代の一言。それに従うかのように、彼のライフを一切奪わないままに、炎が鎮まる。

「・・・もしかして、『ダメージ・ポラリライザー』!?」

「正解だ、栄一」

 『ダメージ・ポラリライザー』。栄一自身も少し前に使った事があるから良く分かる。厄介なカードを出されたものだ。
 ドローの機会と引き換えに、効果ダメージを無かった事にされるカード。しかもカウンター罠だ。

ダメージ・ポラリライザー カウンター罠
ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。
その発動と効果を無効にし、お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする。

「防がれた・・・。俺は『フォーチチュードマン』を守備表示で召喚し、カードを1枚セットしてターン終了です」

 不屈の名前を与えられたヒーロー『フォーチチュードマン』。彼の名の通り、決して諦めずに闘っていきたいものだ。
 だが栄一の本音からすれば、そんなまどろっこしい事を考える前に今の一撃で終わらせたかったであろう。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードマン ☆4(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK1600 DEF1200
自分の墓地に存在する、破壊されたこのカードをゲームから除外する事で、
自分の墓地から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

栄一LP3600
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
E・HERO フォーチチュードマン(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
十代LP1500
手札2枚
モンスターゾーン冥府の使者カイエントークン(守備表示:DEF2400)
E・HERO アナザー・ネオス(守備表示:DEF1300)
魔法・罠ゾーンなし

「『バーニング・バスター』・・・。相手にとって、不足はないぜ!」

 来た。栄一は、確かに感じ取った。『バーニング・バスター』が召喚された事で、十代の興奮が増している事を。
 先程のミスターT戦の終盤で見せた、あのワクワクした態度。それが今、十代の表情に出ている。
 『バーニング・バスター』に如何に対峙するか。彼はそれを考えるのが、楽しくて仕様がないのだ。

「オレのターン! 『カイエントークン』を攻撃表示に変更! そして『アナザー・ネオス』を再度召喚! そのカード名を『ネオス』とする!」

 デュアルモンスターは、フィールドでは通常モンスターとして扱う。そして再び"召喚"する事で、効果モンスターとなり、本来の力を発揮する。
 デュアルモンスター『アナザー・ネオス』の本来の力は、十代の象徴『ネオス』へと進化する事。
 『バーニング・バスター』を倒す為に、その力がフル稼働する。

「魔法カード『ミラクル・フュージョン』!」

 そして仕上げは、墓地での融合を可能とした、まさに"奇跡の融合"のカード。
 その"奇跡"を信じて、十代の墓地に眠る1枚のカードが光る。

「(力を借りるぜ・・・!)」

 十代の心も、その光るカードと同調する。
 十代がこのカードを手にするきっかけを作った、今は遠くに離れた友。
 その友から受け継いだ力と共に、十代は新たな一歩を踏み出す。

「フィールドの『ネオス』と、墓地の『サイレント・ソードマン LV7』を融合!」

 宇宙の正しき闇の波動を受けたヒーロー『ネオス』と、長き沈黙と共に成長する剣士『サイレント・ソードマン』。
 2体の戦士が、誰も想像だにしなかったであろう融合を実現させる。

「現れろ! 『E・HERO ネオス・ナイト』!」

 宇宙の力を受けた戦士に、長き沈黙と共に培った剣士の光の力が加わり、彼を逞しき騎士へと成長させる。
 『E・HERO ネオス・ナイト』。友の力を得て進化した騎士が、悪を切り裂く。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス・ナイト ☆7
光 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF1000
「E・HERO ネオス」+戦士族モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、このカードの融合素材とした
「E・HERO ネオス」以外のモンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。
このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
このカードが戦闘を行う場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。

ミラクル・フュージョン 通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という
名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

「あっ! さっき召喚されたヒーロー!?」

 そう。この『ネオス・ナイト』こそ、ミスターT戦の前の一悶着の際に、栄一と十代が力を合わせ、精霊の力を行使して召喚した騎士そのものなのである。

「あぁ。さっきはコイツにも助けられたな。だがコイツは、デュエルになったらさらに凄い力を発揮するぜ!」

E・HERO ネオス・ナイト:ATK2500→ATK3900

「攻撃力が上がった!?」

 栄一は仰天する。十代の言う通り、『ネオス・ナイト』がその秘めた力を発揮したからだ。
 その上昇した力に対して、栄一の警戒は追いつかない。

「『ネオス・ナイト』は、『ネオス』と融合させた戦士族モンスターの攻撃力の半分、攻撃力をアップする! いけ! 『ネオス・ナイト』!」

 『バーニング・バスター』という好敵手を倒す為の準備は整った。
 それを実践する、待ち遠しかったバトルフェイズに入る。
 200%の力を発揮し、上空に飛び上がる『ネオス・ナイト』。
 その両瞳が捉える獲物は勿論、『バーニング・バスター』である。 

「『ラス・オブ・ネオス・スラーッシュ』!!!」

 『バーニング・バスター』は、確かに強力なヒーローだ。
 だがそれでも―――キング・オブ・デュエリストや友の持つ力でもある―――沈黙の戦士の力が加わった騎士『ネオス・ナイト』には敵わない。騎士の持つ刀の前に敗れ去る。
 この象徴同士の闘いは、十代の方に軍配が上がった。
 しかし、バトルフェイズ自体はこれで終わりではなかった。

「『ネオス・ナイト』の効果! 『ネオス・ナイト』は、1度のバトルで2度の攻撃ができる! いけぇ!」

「嘘!? 2回目の攻撃!?」

 『バーニング・バスター』を破った『ネオス・ナイト』が、そのまま続けて横で構える『フォーチチュードマン』にその刀の一斬りを見舞う。
 思わぬ展開に栄一は面食らってしまう。

「『ネオス・ナイト』の攻撃では、お前にダメージを与えられない。だが、今はこれで十分! 最後に『カイエントークン』で、ダイレクトアタックだ!」

 『カイエン』が自らに向かって突進する。だが、その一撃を防いでくれるモンスターは、栄一のフィールドにはいない。

 そう。フィールドには。

「『奇跡の残照』! 蘇れ! 『バスター』!」

「何!?」

 だが墓地には、頼もしいヒーローが眠っている。
 やられたばかりのところ申し訳ないが、やはり彼は自分にとっての拠り所だ。
 たった今倒された『バーニング・バスター』が、トラップの力を借りて、奇跡の復活を果たす。
 その鋭い目つきだけで、『カイエン』の戦闘本能を鈍らせる。

奇跡(きせき)残照(ざんしょう)通常罠
このターン戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた
モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。

「一瞬で『バスター』を復活されちまったか・・・。これじゃあ攻撃できないな」

 反撃の仕上げを防がれた十代。それどころか、このまま栄一に押し潰される可能性も出て来てしまった。
 なら、そうならない為にも、次に繋げる為にも、新たな戦術を取らなければいけない。

「『生け贄の代償』! 『カイエントークン』を生け贄に、オレはカードを2枚ドローする!」

()(にえ)代償(だいしょう) 通常魔法(ハピフラシリーズオリジナル)
自分のフィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
自分はデッキからカードを2枚ドローする。

「上級モンスターをコストに・・・」

『ダメージを受けるぐらいなら、その前に有効活用するってところだね』

 上級モンスターですら切り捨てなければならない現実に、相手の事とはいえ栄一は、やりきれなさを感じる。
 後ろで『ユベル』が「当然の事」と言ってるが、それでもやはり、これが当然でなければならないのは厳しい世界だ。

「『カイエン』には悪いけど、な」

 『ユベル』の言葉に同調しつつも、やはり十代は『カイエン』に対して申し訳なさがあるようだ。
 尊い犠牲に感謝しつつ十代は、このターン最後の行動を取る。

「さて、オレは『二重召喚(デュアルサモン)』を発動。この効果によりモンスターを裏側守備表示で召喚して、ターンエンドだ。」

二重召喚(デュアルサモン) 通常魔法
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 『ネオス・ナイト』の横に現れるリバースモンスター。これが、今後の闘いにどう響くのか。それはまだ、お楽しみの段階だ。

栄一LP3600
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP1500
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ネオス・ナイト(攻撃表示:ATK3900)
裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンなし

 お楽しみの前に栄一はまず、『ネオス・ナイト』を何とかしなければならない。
 一応、『ネオス・ナイト』を打ち破る事のできるカードは、既に栄一のフィールドに存在する。
 後はドロー次第だ。

「俺のターン、ドロー・・・・・・!?」

 とは言っても、まさかこんな展開が待っているなんて。
 ドローしたカードは、栄一の想像だにしなかったカード。

「(・・・何、このカード?)」

 そもそも、こんなカードをデッキに入れた覚えもない。不自然、というより、不気味な話だ。
 だが今は、そんな事を言っている場合ではない。偶然にもそのカードには、現状を打破できる可能性が秘められている。
 わざわざ手元に舞い降りてくれたのだ。それに応える他ない。

「『ツンドラの大蠍』を召喚! そしてリバースカード『受け継がれる力』を発動!」

 栄一のフィールドに現れた青い巨大な蠍。それはすぐさま、『バーニング・バスター』の体内に吸収されていき、彼の力の糧となる。

ツンドラの大蠍(おおさそり) ☆3
地 昆虫族 通常 ATK1100 DEF1000
砂漠ではなく、ツンドラに分布する珍しい真っ青なサソリ。
別にあんたのために、通常モンスターになったんじゃないらしい。

()()がれる(ちから) 通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送る。
自分フィールド上のモンスター1体を選択する。
選択したモンスター1体の攻撃力は、
発動ターンのエンドフェイズまで墓地に送った
モンスターカードの攻撃力分アップする。

E・HERO バーニング・バスター:ATK2800→ATK3900

「『ネオス・ナイト』と、攻撃力が並んだか・・・」

 そう。何故か栄一のデッキに入っていた、この『ツンドラの大蠍』。偶然にも、彼の力を得た『バーニング・バスター』の攻撃力は、『ネオス・ナイト』のそれと同等。
 どうせなら、同等どころか上回る事のできる攻撃力を持つモンスターが欲しかったが、贅沢は言っていられない。

「バトルフェイズ! 『バーニング・バスター』で、『ネオス・ナイト』を攻撃!」

「・・・わざわざ『受け継がれる力』を使ったんだから、攻撃するのは当然か」

 『バーニング・バスター』と『ネオス・ナイト』。共に飛び上がり、上空で相対する。
 炎の拳と、絆の刀がぶつかり合う。互いの攻撃力は同等。どちらも、形勢を譲らない。
 やがて、この衝突によって発生したエネルギーは膨大なものとなり、炸裂する。
 それはつまり、爆発。互いの象徴同士がぶつかり合った闘いは、フィールドのあちらこちらにもダメージを与える程の衝撃を発生させる。
 そして誘発する煙。それは暫くの間、互いの視覚・聴覚を奪い去る。

「自爆特攻か・・・・・・!?」

 『バーニング・バスター』の決死の特攻。その結果は痛み分け。
 煙の晴れたそこには、『ネオス・ナイト』も『バーニング・バスター』もいない。

 ・・・筈だった。

「『バーニング・バスター』がいる・・・だと・・・!?」

 だが、鋭い目つきの灼熱の戦士は、栄一のフィールドで佇んでいた。
 互いに致命傷を与え合った筈なのに、『バーニング・バスター』だけが未だフィールドに存在する。
 この、あってはならない出来事の理由。それには、十代の知る筈もない、あるトリックが関わっていた。

「墓地の『フォーチチュードマン』のモンスター効果。『フォーチチュードマン』を除外する事で、墓地の『バーニング・バスター』を復活させました!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードマン ☆4(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK1600 DEF1200
自分の墓地に存在する、破壊されたこのカードをゲームから除外する事で、
自分の墓地から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

「『E・HERO』の蘇生効果!?」

 十代は驚愕する。まさに自分が言った通りの、ヒーローの無限の可能性。その一端を垣間見る事ができた事に対しての、素直な反応。
 まだまだいるであろう、自分の見た事の無いヒーロー達。そんな彼らに対してのワクワクが止まらない。

『一杯食わされた・・・・・・って感じだね!』

「うるせぇ!」

 興奮と戦慄とが入り混じる。そんな最中、飛んで来た野次。
 栄一の後ろにいる『ユベル』からの、相変わらずの意地悪いコメント。
 感慨に耽っていた所に水をさされ、ツッコミを入れずにはいられない。

「アハハ・・・。俺はこれで、ターン終了です」

 相変わらずの2人に苦笑いを1つ。折角の盛大な復活劇も、夫婦漫才のようなやり取りにかき消されてしまった。
 密度の濃いターンだった筈なのに、その終焉はやけにあっさり。そのせいか栄一は、何かやるせない気持ちに苛まれていた。

栄一LP3600
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP1500
手札1枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンなし

「オレのターン!」

 相手のターンで、デュエルの緊張感を微塵も感じさせないやり取りを見せつつも、自分のターンが回ってきたら、しっかりと相手を追い詰める。それが遊城十代だ。

「カードを1枚セット! そしてセットしているモンスターを反転召喚! 『メタモルポット』だ!」

 姿を現したのは、ミスターTとのデュエルでも活躍した、強力なドロー効果を持つモンスター『メタモルポット』。
 共に枯渇した手札が、一気に5枚まで回復する。

メタモルポット ☆2
地 岩石族 効果 ATK700 DEF600
リバース:お互いの手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

「よし! リバースカードオープン! 『オーバーソウル』!」

 正体を見せる魔法カード。そこから発生する「O」のサイン。
 それが意味するのは、十代の象徴であるヒーローの復活。

「蘇れ! 『E・HERO ネオス』!」

 宇宙から来た、白き体のヒーロー。現在進行で数々の進化を遂げる、可能性のファイター。
 『E・HERO ネオス』が、『バーニング・バスター』の支配するフィールドで構える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス ☆7
光 戦士族 通常 ATK2500 DEF2000
ネオスペースからやってきた新たなるE・HERO。
ネオスペーシアンとコンタクト融合することで、未知なる力を発揮する!

(オー)−オーバーソウル 通常魔法
自分の墓地から「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。

「ついに来た・・・『ネオス』!」

 『ネオス』のお出ましにフィールドが盛り上がる。栄一も湧く。
 しかし、この程度で盛り上がりも最高潮と思うならまだまだ。それを、十代の次のプレイが証明する。

「まだだぜ! オレは、『(コクーン)・ドルフィーナ』を召喚する!」

 透明な繭に包まれた、幼いイルカのモンスター『C・ドルフィーナ』。
 このモンスターが、十代のデッキの「進化」の可能性を披露する。

(コクーン)・ドルフィーナ ☆2
水 魚族 効果 ATK400 DEF600
フィールド上に「ネオスペース」が存在する時、
このカードを生け贄に捧げる事で手札またはデッキから
「N・アクア・ドルフィン」1体を特殊召喚する。

「そして魔法カード『コンタクト』を発動! 『C・ドルフィーナ』を、『(ネオスペーシアン)・アクア・ドルフィン』に進化させる!」

 『ネオスペーシアン』との『コンタクト』。それを実現させる魔法カードの力によって、『コクーン』が『ネオスペーシアン』へと進化する。
 現れたのは、二本足で立つイルカの戦士。先程の闘いで、最初に召喚された『ネオスペーシアン』。『アクア・ドルフィン』だ。

(ネオスペーシアン)・アクア・ドルフィン ☆3
水 戦士族 効果 ATK600 DEF800
手札を1枚捨てる。相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択する。
選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールド上に存在する場合、
選択したモンスターカードを破壊して相手ライフに500ポイントダメージを与える。
選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールド上に存在しない場合、
自分は500ポイントダメージを受ける。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

コンタクト 通常魔法
自分フィールド上の「C(コクーン)」と名のついたモンスター全てを墓地に送り、
そのカードに記されているモンスター1体を手札またはデッキから特殊召喚する。

「さらに魔法カード『NEX(ネオスペーシアンエクステント)』を発動! 『アクア・ドルフィン』を進化させる!」

「えっ!? 1ターンでの二段進化!?」

 栄一も驚愕の連続進化。『ネオスペーシアン』のさらなる力が発揮される。
 召喚されたばかりの『アクア・ドルフィン』の体つきが、鋭いものとなる。色合いも、青から群青色へと変化する。

「進化せよ! 『マリン・ドルフィン』!」

 『マリン・ドルフィン』。それが、進化した『ネオスペーシアン』の名前である。

(ネオスペーシアン)・マリン・ドルフィン ☆4
水 戦士族 融合・効果 ATK900 DEF1100
このカード名はルール上「N・アクア・ドルフィン」としても扱う。
このカードは「NEX」の効果でのみ特殊召喚できる。
手札を1枚捨てる。相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択する。
選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールド上に存在する場合、
選択したモンスターカードを破壊して相手ライフに500ポイントダメージを与える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

NEX(ネオスペーシアンエクステント) 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
「N」と名のついたモンスター1体を墓地へ送り、
墓地へ送ったカードと同名カード扱いの
レベル4モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

「『マリン・ドルフィン』は、『アクア・ドルフィン』としても扱う。よって今のオレのフィールドには、『ネオスペーシアン』が2体いる事になる」

「それは、つまり・・・」

「・・・つまり、これから発動する『スペーシア・ギフト』によってオレは、カードを2枚ドローできるって訳だ」

「うわぁ・・・羨ましい・・・」

 進化した『ネオスペーシアン』の力を、有意義に利用する十代。
 この贅沢な手札補強を、栄一は指を咥えて見つめるしかなかった。

スペーシア・ギフト 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「N」と名のついた
モンスター1種類につき、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「さぁ、ここで『マリン・ドルフィン』の効果を発動するぜ! 手札1枚をコストに、相手の手札を確認! 『ネオス』以下の攻撃力を持つモンスターが相手の手札にあれば、それを破壊する!」

 『マリン・ドルフィン』の口から放たれた、奇妙な音波。それが、栄一の手札を曝け出す。

栄一の手札:
『E・HERO エッジマン』
『E・HERO リリーバー』
『E・HERO スパークマン』
『ヒーロー・メダル』
『エレメンタル・チャージ』

「ぐほっ!?」

 同時に、ファラオの混乱をも誘い出す。背中への不意打ちの突進に栄一は、十代に手札を示しながらも悶絶する。

「うぉ!? 大丈夫か、栄一・・・」

「だ、大丈夫です・・・」

「大丈夫・・・なんだな。じゃ、じゃあ効果処理の続行だ。オレはお前の手札の『E・HERO リリーバー』を破壊する!」

 十代は気遣う言葉をかけるが、栄一本人が大丈夫と言い張るので、取り合えずターンを続行する事にする。
 栄一の手元で爆発する『リリーバー』のカード。その衝撃が、栄一のライフを削る。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) リリーバー ☆4(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK1200 DEF1800
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、「E・HERO リリーバー」以外の
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターが破壊される場合、このカードをリリースしその破壊を無効にする。
選択モンスターがフィールド上から離れた場合、このカードを破壊する。
このカードは自分のエンドフェイズに1度だけ表示形式を変更する事ができる。

栄一:LP3600→LP3100

「そしていくぜ! 『ネオス』! 『マリン・ドルフィン』! コンタクト融合だ!」

「コンタクト融合! 来た!」

 十代の掛け声と共に、形成された宇宙空間の果てに吸い込まれていく2体のヒーロー。
 このデュエル最初のコンタクト融合。初めてデュエル中に体験するコンタクト融合に、栄一は痛みも忘れて飛び上がる。

「現れろ! 『マリン・ネオス』!」

 生まれるは、『アクア・ドルフィン』と『マリン・ドルフィン』の関係と同じく、『アクア・ネオス』以上に鋭角的な体つきをした群青色の戦士。
 『ネオスペーシアン』の進化した力を得た、気高き海のヒーロー『マリン・ネオス』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) マリン・ネオス ☆8
水 戦士族 融合・効果 ATK2800 DEF2300
「E・HERO ネオス」+「N・マリン・ドルフィン」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
相手の手札1枚をランダムに選択し破壊する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「『マリン・ネオス』のモンスター効果! 1ターンに1度、相手の手札を1枚破壊する!」

 『マリン・ネオス』の両目から放たれた、強力な破壊光線。それが、栄一の1枚の手札を撃ち抜く。

「・・・破壊されたのは『エッジマン』です」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン ☆7
地 戦士族 効果 ATK2600 DEF1800
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「さて、そろそろいくか」

 バトルフェイズに入るまでに必要な行動は全て終わった。
 いよいよ、自らの象徴の戦士で、栄一の象徴の戦士にぶつかる時だ。

「『マリン・ネオス』で、『バーニング・バスター』を攻撃! 『ハイパー・ラピッド・ストーム』!」

 『マリン・ネオス』の右掌から放たれる、強烈な音波。それは全てを吹き飛ばす嵐となり、『バーニング・バスター』へと突き進む。

「迎撃だ! 『バスター』!」

 『バーニング・バスター』も負けじと、その右掌から灼熱の炎球を放つ。

 ――ドン!

 音波の嵐と灼熱の炎球。互いにぶつかり合い、それは荒々しい衝撃を生み・・・、大爆発を引き起こす。

『ぬぉぉぉぉ!』

「『マリン・ネオス』!」

『ぐわぁぁぁ!』

「『バスター』!」

 大爆発によって発生したエネルギーは、2体のヒーロー、その両者を飲み込む。
 互いのデュエリストの、その象徴同士が再びぶつかり合ったこの戦闘。それは絶大な衝撃をもたらし、引き分けという結果によってその幕を閉じた。

「・・・本当なら、自爆特攻なんて手段は取りたくなかったんだけどな」

 だが、手札がそれを許してくれない。こうするしかなかった。
 十代は、フィールドから消え去った『マリン・ネオス』に詫びながら、そのカードを自身の墓地へと送った。 

「そして『メタモルポット』で、ダイレクトアタックだ」

 『メタモルポット』がその隠れている壺から飛び出して、栄一に噛み付き攻撃を仕掛ける。
 数値的には小さい。だが油断していると、それは後々、大きな大きなダメージに変わる事も有り得る。

栄一:LP3100→LP2400

「オレはカードを1枚セットして、ターン終了だ」

 バトルフェイズを終えた十代は、特に思考に時間をかける事もなくターンを進行させる。
 瞬く間にリバースカードをセットして、自らのターンを終えた。

栄一LP2400
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
十代LP1500
手札1枚
モンスターゾーンメタモルポット(攻撃表示:ATK700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚




 『バーニング・バスター』も、『ネオス』も、共にフィールドから消え去った。 
 互いの象徴同士を欠いた後、2人はどう闘っていくのだろうか。

「(『メタモルポット』を攻撃表示で野放しにしてるって事は、あのリバースカードが絶対鍵になる・・・)俺のターン!」

 次の一撃が十代を敗北に導く可能性は十分にある。なら、その対策のカードを伏せている可能性も高い。
 栄一は、たった今伏せられたカードに警戒心を強める。

「『スパークマン』を召喚!」

 現れたのは、両手元で放電を繰り返す光のヒーロー『スパークマン』。
 彼の力だけでも『メタモルポット』は十分に倒せる。だが栄一の策は、これだけでは終わらない。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン ☆4
光 戦士族 通常 ATK1600 DEF1400
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。
聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

「魔法カード『馬の骨の対価』! 『スパークマン』をコストに、カードを2枚ドローします!」

「何!? 召喚権を捨ててまでドロー!?」

 『スパークマン』の攻撃が成立するだけでも十分。というより、それが届くかどうかすら分からない状況。そんな状況で栄一は、さらに突き進んだ。
 流れをより自分へと引き付けようとしているのだろうが、これは無謀な賭けである。

(うま)(ほね)対価(たいか) 通常魔法
効果モンスター以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を墓地へ送って発動する。自分のデッキからカードを2枚ドローする。

『栄一、キミも中々豪快な事をするデュエリストだね』

『それだけ、このターンに賭けてるんだニャ』

 後ろにいる『ユベル』も大徳寺先生も、驚きを隠せない。
 だが、そんな栄一の心意気にデッキが応えたのか。
 栄一が引いたカードは、彼の望む、流れを引き寄せる事の出来るカードだった。

「魔法カード『アース・フュージョン』を発動!」

「『アース・フュージョン』・・・?」

 発動されたのは、新たな融合召喚を行うカード。
 その名の通り、大地の融合モンスターを呼び出す、底知れぬパワーに満ちた魔法。
 十代の時代にはまだ無かった、強力な融合手段だ。

「俺はこの効果で、墓地の『スパークマン』と『エッジマン』を除外! 『プラズマヴァイスマン』を融合召喚します!」

 土のエフェクトと共に、融合の渦に吸い込まれていく2体のヒーロー。
 彼らが力を合わせて生まれたのは、全身から強大な放電を繰り返す、万力のヒーロー『プラズマヴァイスマン』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) プラズマヴァイスマン ☆8
地 戦士族 融合・効果 ATK2600 DEF2300
「E・HERO スパークマン」+「E・HERO エッジマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
手札を1枚捨てる事で相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。

「(新しいヒーローに、『プラズマヴァイスマン』・・・?)」

 十代の脳裏に蘇るのは、少し前に再会した―――彼が序盤に使用した『サイレント・ソードマン』の操り手であり、その時の話題でも登場した―――友人の言葉。
 十代が操るヒーローとは、また別のヒーローを操る少年デュエリストの存在。その少年は、同時に『プラズマヴァイスマン』も操っていたという。
 今、相対している少年・栄一。ひょっとして彼が、その友人の話していた新たなヒーローを操る少年では・・・。そんな思いが、十代の頭の中を駆け巡る。

「(・・・いや、証拠が不十分すぎるな。『プラズマヴァイスマン』は、『E・HERO』使いには別段珍しいヒーローじゃない筈だし)」

 新しいヒーローをも操っているとはいえ、それだけで決め付けるのは良くない。
 そう思い十代は、栄一に問い詰める事もせず、自己完結でこの話題を纏めた。

「(栄一がそのデュエリストかどうかなんか、今は関係ねぇ!)」

 頭の中のモヤモヤをふっ飛ばし、しっかりとフィールドを見つめた十代。
 その両瞳に映るは・・・

「・・・って、何だこりゃ!?」

 自らが伏せたカードに向けて走る、一筋の亀裂。
 大地が、その力によって裂け、十代のカードを粉砕せんとしているのだ。

「『アース・フュージョン』のもう1つの効果! 融合召喚に成功したので、相手フィールドのカード1枚を破壊します!」

アース・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、
地属性の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果によってモンスターの融合召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在するカード1枚を破壊する。

「疑わしきは破壊しとけ、って事か!?」

「・・・そんなところです」

 確かに先程述べた通り、攻撃表示の『メタモルポット』が襲われたら十代は敗北してしまう可能性が高い。だから、リバースカードで防御を固めている。そう推測するのは自然だ。
 なら、そのカードを先に除去してしまえば話は早い。栄一は、アッサリとその戦略を実行に移したのだ。
 『アース・フュージョン』。それはまさに、栄一の欲した状況打開の為のカードだったのだ。

「・・・甘いぜ。リバースカードオープン!」

 だが、そんな栄一の思惑は、脆くも崩れ去る事となる。逆に、亀裂が走り今にも崩れそうだった大地は、元のしっかりと足で踏み締める事のできる姿へと戻る。
 十代の伏せていたカード。それは大抵の場面で発動できる、フリーチェーンのカードだったのだ。

「『幻影破壊』! これで『メタモルポット』を再び裏側守備表示にする!」

「!? 自分のモンスターを裏側守備表示に!?」

 栄一は困惑する。『幻影破壊』は、フィールド上のどの表側表示カードでも裏側表示にできるカード。決して、自分のカードだけが対象ではないからだ。

幻影破壊(げんえいはかい) 通常罠(アニメ5D'sオリジナル)
フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動する。
そのカードを裏側表示にする。

 この場合、『プラズマヴァイスマン』を対象にしておけば、裏側守備表示となった彼はこのターン、再び攻撃表示になる事はできない。
 召喚権を既に行使している栄一には、特殊な行動でも起こさない限り攻撃できる手段はもう無い筈なのだ。
 なのに十代はこの場面で、その『メタモルポット』を対象にした。その理由は・・・考えれる限り、1つしかなかった。

「まさか、また手札の補充・・・?」

「ま、そういう事だな」

 先程のターンで大量の枚数を得ておきながら、再び枯渇している十代の手札。その回復こそが、この戦術の目的。
 ただ、この戦術には問題がある。『プラズマヴァイスマン』には貫通効果が備わっている為、守備力600の『メタモルポット』では防御策にもならない、という事だ。
 プレイングミスではないのだろうが・・・十代は、良策とは言えない戦術をとった。
 相手に防御壁が無いというこのチャンスは、何としてもモノにしたい。その思いを胸に栄一は・・・

「カードを2枚セットし、バトルフェイズ! 『プラズマヴァイスマン』で、『メタモルポット』を攻撃!」

 ・・・堂々たる攻撃宣言を行った。

「・・・この攻撃は通さないぜ」

「え!?」

 だがここで響くのは、意思堅き十代の宣言。
 瞬間、『メタモルポット』のカード目掛けて放たれた、『プラズマヴァイスマン』の強力な電撃を、とある戦士の幻影が遮る。

「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外し、攻撃を無効にするぜ」

ネクロ・ガードナー ☆3
闇 戦士族 効果 ATK600 DEF1300
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

「そんな、何時の間に墓地に!?」

 栄一は掴む事ができない。十代が『ネクロ・ガードナー』を墓地へと送ったタイミングを。

「何時って・・・あの時だけど?」

 だがその時は、確かにあった。まだ数分前の話、1つ前の十代のターンの最中だ。



「さぁ、ここで『マリン・ドルフィン』の効果を発動するぜ! 手札1枚をコストに、相手の手札を確認! 『ネオス』以下の攻撃力を持つモンスターが相手の手札にあれば、それを破壊する!」



「うぅ・・・そういえば確かに、そんな事もあった・・・」

『状況確認を怠っていたらそうなるよ。さっきのミスターTの敗因もそれだ』

「厳しい言葉責めだ・・・。俺は慣れてないのに・・・」

 『ユベル』は、別に十代だけに辛口なのではない。全てをドライに見て、辛辣なコメントを残す。それが『ユベル』の本来なのだ。
 だが、ダイレクトな批判をモロ受ける事に慣れていない栄一には、それはトゲどころか鋭い日本刀となって突き刺さる。
 先月行われた『フレッシュマン・チャンピオンシップ』で一悶着あった時も、彼の今後に大きく関わる事だったとはいえ、その批判に対してかなり凹んでいる。
 熱血で隠れているが、栄一は結構、ガラスのハートなのだ。

「うぅ・・・ターン終了です」

 ショックを引き摺りながらの終了宣言。
 『ユベル』の一言は、攻撃が通らなかった以上に、栄一の心へのダメージとなっていた。

栄一LP2400
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO プラズマヴァイスマン(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
十代LP1500
手札1枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター(メタモルポット)
魔法・罠ゾーンなし

「オレのターン! カードを2枚セットし、『メタモルポット』を再び反転召喚!」

 栄一の事を少々哀れに思ったが、デュエルに情けは不要なので、その気持ちを言葉にするのは後にする事にした。
 ターンを開始してすぐに十代は、無駄も隙も無い手札補強を再び行う。
 そして手札に揃ったのは・・・彼のデッキの真骨頂、それを惜しみなく披露できる布陣。

「フィールド魔法『ネオスペース』発動!」

 瞬間、荒野の風景を見せていたフィールドが、幻想的な空間へと様変わりする。
 特異な進化を遂げた生命である『ネオス』と『ネオスペーシアン』。彼らが生まれ育ったと誇れる世界。彼らの闘いのホームグラウンド。それがこの、ネオス宇宙。

ネオスペース フィールド魔法
「E・HERO ネオス」及び「E・HERO ネオス」を融合素材とする
融合モンスターの攻撃力を500ポイントアップする。
「E・HERO ネオス」を融合素材とする融合モンスターは、
エンドフェイズ時にデッキに戻る効果を発動しなくてもよい。

「魔法カード『二重召喚』! これによりオレはこのターン、2体のモンスターを召喚できる! オレは『C・ラーバ』と『C・モーグ』を召喚する!」

 召喚権を増やす魔法に導かれ、透明な繭に包まれた、幼い芋虫とモグラのモンスターが現れる。

(コクーン)・ラーバ ☆2
炎 昆虫族 効果 ATK300 DEF300
フィールド上に「ネオスペース」が存在する時、
このカードを生け贄に捧げる事で手札またはデッキから
「N・フレア・スカラベ」1体を特殊召喚する。

(コクーン)・モーグ ☆2
地 岩石族 効果 ATK700 DEF100
フィールド上に「ネオスペース」が存在する時、
このカードを生け贄に捧げる事で手札またはデッキから
「N・グラン・モール」1体を特殊召喚する。

「『ネオスペース』の力によって進化しろ! 『C・ラーバ』! 『C・モーグ』!」

 そしてそのネオス宇宙の波動に導かれ、2体の『コクーン』は進化する。
 芋虫は、炎の力を持つタマオシコガネのヒーロー『フレア・スカラベ』へ。
 モグラは、そのまま体格が良くなり、大地の力をその両肩のドリルに秘めたヒーロー『グラン・モール』へ。

「『フレア・スカラベ』! 『フレイミング・イリュージョン』だ!」

 加えて『フレア・スカラベ』は自身の効果で、その炎の力を上昇させる。
 栄一のフィールドの魔法・罠カードは2枚。よって攻撃力は1300ポイントまで上昇する。

(ネオスペーシアン)・フレア・スカラベ ☆3
炎 昆虫族 効果 ATK500 DEF500
このカードの攻撃力は、相手フィールド上の
魔法・罠カードの枚数×400ポイントアップする。

N・フレア・スカラベ:ATK500→ATK1300

(ネオスペーシアン)・グラン・モール ☆3
地 岩石族 効果 ATK900 DEF300
このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、
ダメージ計算を行わず相手モンスターと
このカードを持ち主の手札に戻す事ができる。

「この場面で『グラン・モール』なんて・・・」

 栄一は辟易する。『グラン・モール』の効果は、融合モンスターにとってはより極悪なものとなるからだ。

「『グラン・モール』で、『プラズマヴァイスマン』に攻撃! 『ドリル・モール』!」

「うぅ・・・」

 重ね合わせたドリルの突きによって、『プラズマヴァイスマン』はフィールドから消え去る。だがその帰還先は、栄一の手札ではない。
 そもそも融合モンスターは手札にいる事ができない。よって帰還先は、強制的にエクストラデッキとなる。
 そしてそれは、また1度、融合召喚を行えるカードを使うという手順を踏まないと、『プラズマヴァイスマン』をフィールドに再召喚できない事を意味する。

「さらに、『メタモルポット』と『フレア・スカラベ』でダイレクトアタック! このターンの『メタモルポット』の効果で墓地へ送られたお前の手札は『ワイルドマン』だった。つまりお前のリバースカードは『エレメンタル・チャージ』と『ヒーロー・メダル』だ。遠慮なく攻撃させてもらうぜ!」

「ぎゃ、ぎゃーす・・・」

 2枚のリバースカードは、共に攻撃を妨害する効果ではない。気兼ねなく攻撃できる。

エレメンタル・チャージ 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO」と名のついたモンスター1体につき、
自分は1000ライフポイント回復する。

ヒーロー・メダル 通常罠
相手がコントロールするカードの効果によって
セットされたこのカードが破壊され墓地に送られた時、
このカードをデッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン ☆4
地 戦士族 効果 ATK1500 DEF1600
このカードは罠の効果を受けない。

「『サドゥン・バイト』! 『フレイム・バレット』!」

 『メタモルポット』の噛み付き攻撃と、『フレア・スカラベ』の炎の弾丸が、栄一のライフをさらに削る。
 とうとう、このデュエル中で唯一、栄一が勝っていたものと言っていいものであるライフポイントすら、十代が上回ってしまった。

栄一:LP2400→LP1700→LP400

「カードを1枚セットし、ターン終了だ」

 『メタモルポット』の力を効果的に使い、贅沢かつ無駄の無い戦術を披露した十代。
 それだけに、最後に伏せられたカードが、栄一にとってはより危険に感じるのであった。

栄一LP400
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
十代LP1500
手札1枚
モンスターゾーンメタモルポット(攻撃表示:ATK700)
N・フレア・スカラベ(攻撃表示:ATK1300)
魔法・罠ゾーンリバースカード3枚
フィールド魔法ネオスペース

「俺のターン! ドロー!」

 十代の残りライフは少ないとはいえ、その布陣を見たら気を緩める事は決して出来ない。
 だが栄一には、『メタモルポット』の効果で棚から牡丹餅的に得た手札がある。
 それらを、十代に負けないように効果的に使い、逆転の可能性を探る。

「・・・『ミラクル・フュージョン』発動!」

「ここで『ミラクル・フュージョン』か・・・」

 栄一の結論は、やはり『E・HERO』の基本戦術、融合召喚を使っての反撃。
 この状況で決して気を緩める事無く、一方で十代の布陣に怯える事も無い。
 そんな贅沢な願いを実現するヒーローを、栄一は所持していた。

「墓地の『ワイルドマン』と『リリーバー』を融合します! 来い! 『ワイルド・レンジャー』!」

 『ワイルドマン』に『リリーバー』の霊が取り憑き、体を包み込む。そしてそれは、近代的な武装服と武器へと変化する。
 『ワイルドマン』が、救い人『リリーバー』の力を受けて、大自然を守る保安官と化した姿。それが、『ワイルド・レンジャー』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルド・レンジャー ☆8(オリジナル)
地 戦士族 融合・効果 ATK2000 DEF2200
「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO リリーバー」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のフィールド上に表側表示で存在するモンスターは罠の効果を受けない。

ミラクル・フュージョン 通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という
名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 『ワイルド・レンジャー』は、自軍のモンスターを罠から守り抜く力を持っている。
 この恩恵を受ける事で栄一は、怯える事無く布陣を展開できる。

「『融合』発動!」

 贅沢にも、新たな融合に手を出せる。

「連続融合召喚!?」

「はい! 俺は手札の『バーストレディ』と、『ネクロシャドーマン』を融合し、『ノヴァマスター』を召喚!」

 このターン2度目の融合召喚により現れたのは、豪快に、華麗に炎を操る、紅の貴公子『ノヴァマスター』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ノヴァマスター ☆8
炎 戦士族 融合・効果 ATK2600 DEF2100
「E・HERO」と名のついたモンスター+炎属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ ☆3
炎 戦士族 通常 ATK1200 DEF800
炎を操るE・HEROの紅一点。
紅蓮の炎、バーストファイヤーが悪を焼き尽くす。

「さらに、墓地に送られた『ネクロシャドーマン』の効果で、互いにデッキの1番上のカードを墓地へ送ります!」

「分かった」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロシャドーマン ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1500 DEF0
相手の攻撃宣言時に自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
墓地に存在するこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。
このカードが墓地へ送られた時、お互いにデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

墓地へ送られたカード:
栄一『レインボー・ヴェール』
十代『E・HERO ネオス』

レインボー・ヴェール 装備魔法
装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、
バトルフェイズの間だけその相手モンスターの効果は無効化される。

「うわっ!? 勿体無い!」

「ハハッ! 『レインボー・ヴェール』とはツイてないな」

 栄一もまた、十代を模写するように、関わったカードを贅沢に、ふんだんに、効果的に、無駄なく使・・・おうとして、失敗した。
 墓地アドバンテージを得ようとして、墓穴を掘る結果になるとは、何とも皮肉な事か。

「うぅ・・・。だけど、悔しがっても仕方が無ぇ! バトルフェイズに入ります」

 貴重なカードを犠牲にした。だがその犠牲があったからこそ、このバトルフェイズ次第で、このデュエルを決着できる展開までもってこれたのだ。
 後は、その成果を発揮するだけだ。

「『ノヴァマスター』で、『メタモルポット』を攻撃! 『ファンタスティック・フレイム・ダンス』!」

 『ノヴァマスター』の両腕から放たれた炎がそれぞれ、竜の体のようにくねり、フィールドを乱舞する。
 この華麗な炎の舞いが『メタモルポット』に直撃した時、十代のライフは完全に失われる。
 勿論、十代がそれを良しとする訳はない。

「そうはさせるか! トラップカード『ゴブリンのやりくり上手』を2枚発動! そしてそれらをコストに『非常食』も発動する!」

「!? 『やりくりターボ』!?」

 『やりくりターボ』。『ゴブリンのやりくり上手』と『非常食』のコンボにより、手札を増強させる戦術。そしてその戦術を核としたデッキの総称である(基本的には後者を指す事が多い)。

ゴブリンのやりくり上手(じょうず) 通常罠
自分の墓地に存在する「ゴブリンのやりくり上手」の枚数+1枚を
自分のデッキからドローし、自分の手札を1枚選択してデッキの一番下に戻す。

非常食(ひじょうしょく) 速攻魔法
このカード以外の自分フィールド上に存在する魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。
墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 『非常食』は、「このカード発動時に」魔法・罠カードを墓地へ送る。『ゴブリンのやりくり上手』は、墓地に同名カードが存在する場合、その数だけドローできるカードの枚数が増える。そして効果処理の際に、発動したこのカード自体が既に墓地に存在する場合、それもドロー枚数増のカウントに入る。
 このルールに則る事で、プレイヤーは膨大な手札増強が可能なのだ。

 詳しく説明するとこうだ。まず『ゴブリンのやりくり上手』→『非常食』とチェーン発動する事で、発動が決定した『やりくり上手』が『非常食』のコストとして墓地へ送られる。続けて『非常食』、『やりくり上手』と効果処理が行われるのだが、この『やりくり上手』の処理の際、そのカード自体は既に墓地へ送られている為、その分プラス1枚、カードを多くドローできる。
 今回の事例だと、墓地へ送られた『やりくり上手』は2枚。つまり、2枚それぞれの効果処理の際、1枚ずつしかドローできない筈のところが、墓地に送られている『やりくり上手』もカウントできる為、それぞれ3枚ドローできるのだ。

十代:LP1500→LP3500

 さらにいうと、このコンボを実行したプレイヤーは、『非常食』の効果でライフも回復する事ができる。

「んじゃオレは、『やりくり上手』の効果で2枚の手札をデッキに戻すぜ。そして戦闘再開だな」

十代:LP3500→LP1600

 これにより十代は、手札増強とこの攻撃による敗北回避を、同時に実現したのだ。

「うぅ・・・。でも『ノヴァマスター』の効果で、俺もカードを1枚ドローします」

 またしても防がれた決着の筈の一撃。中々攻めきれない攻撃の効率の悪さに、栄一は次第に焦燥に駆られていく。

「『ワイルド・レンジャー』で、『フレア・スカラベ』を攻撃! 『ヘイル・オブ・バレッツ』!」

 『ワイルド・レンジャー』の、強力な銃器での攻撃。弾丸の雨あられ。
 それは『フレア・スカラベ』は倒せても、十代のライフは削りきれなかった。

十代:LP1600→LP900

「カードを1枚セットして、魔法カード『アースクエイク』を発動。その効果で『ワイルド・レンジャー』と『ノヴァマスター』を守備表示に変更」

 揺れる大地。それにより、2体の『HERO』が強制的に守備の体勢を取らされる。
 別に攻撃表示のままでもよかったのだが、5枚にまで補充された十代の手札を考慮しての、念の為の防御策である。

アースクエイク 通常魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て守備表示にする。

「ターン終了です」

栄一LP400
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ワイルド・レンジャー(守備表示:DEF2200)
E・HERO ノヴァマスター(守備表示:DEF2100)
魔法・罠ゾーンリバースカード3枚
十代LP900
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法ネオスペース




 攻撃から一転、防御を固める。
 また増えてしまった十代の手札に対する警戒心。直感ともいえるそれが、栄一に警告しているのである。

「オレのターン!」

 そしてその栄一の直感は・・・不幸にも的中していた。それがこのターン、証明される。
 まぁ、当たっても全く嬉しくないだろうが。

「・・・『グラン・モール』を召喚! そして『生け贄の代償』を発動する!」

 融合モンスターの天敵『グラン・モール』が再び現れる・・・と思ったら、次の瞬間にはその姿を消していた。
 栄一にとって厄介なモンスターを犠牲にしてまで、十代が行おうとしている事とは。
 栄一の直感が、さらに激しい警告の鐘を鳴らしている。

「・・・『コクーン・パーティ』を発動! オレはこの効果により、墓地の『ネオスペーシアン』1種類につき、デッキから『コクーン』を1体特殊召喚できる! オレの墓地の『ネオスペーシアン』は、『アクア・ドルフィン』『フレア・スカラベ』『グラン・モール』の3種類だ!」

「という事は・・・3体の『コクーン』が十代さんのフィールドに!?」

「あぁ、そうだ! 現れろ! 『C・ピニー』! 『C・パンテール』! 『C・チッキー』!」

 幼いコケ、ヒョウ、鳥のモンスターが、それぞれ透明の繭に包まれた状態でフィールドに現れる。
 彼らが集り賑わう様は、まさしく「パーティ」のそれだ。

コクーン・パーティ 通常魔法
自分の墓地に存在する「N」と名のついたモンスター1種類につき、
「C」と名のついたモンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する。

(コクーン)・ピニー ☆2
光 植物族 効果 ATK100 DEF700
フィールド上に「ネオスペース」が存在する時、
このカードを生け贄に捧げる事で手札またはデッキから
「N・グロー・モス」1体を特殊召喚する。

(コクーン)・パンテール ☆3
闇 獣族 効果 ATK800 DEF300
フィールド上に「ネオスペース」が存在する時、
このカードを生け贄に捧げる事で手札またはデッキから
「N・ブラック・パンサー」1体を特殊召喚する。

(コクーン)・チッキー ☆2
風 鳥獣族 効果 ATK400 DEF600
フィールド上に「ネオスペース」が存在する時、
このカードを生け贄に捧げる事で手札またはデッキから
「N・エア・ハミングバード」1体を特殊召喚する。

 そして彼ら『コクーン』の展開力は、この空間『ネオスペース』においてさらに加速する。

「成長しろ! 『コクーン』達!」

 それぞれが、『ネオスペース』の波動を浴びて、進化を遂げる。
 幼く、繭に保護されていた程にか弱かったモンスター達が、各々立派な『ネオスペーシアン』へと成長する。

(ネオスペーシアン)・グロー・モス ☆3
光 植物族 効果 ATK300 DEF900
このカードが戦闘を行う場合、相手はカードを1枚ドローする。
この効果でドローしたカードをお互いに確認し、
そのカードの種類によりこのカードは以下の効果を得る。
●モンスターカード:このターンのバトルフェイズを終了させる。
●魔法カード:このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●罠カード:このカードは守備表示になる。

(ネオスペーシアン)・ブラック・パンサー ☆3
闇 獣族 効果 ATK1000 DEF500
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
選択したモンスターと同じ効果を得る。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

(ネオスペーシアン)・エア・ハミングバード ☆3
風 鳥獣族 効果 ATK800 DEF600
相手の手札1枚につき、自分は500ライフポイント回復する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「『スペーシア・ギフト』! オレのフィールドの『ネオスペーシアン』は3種類! よって3枚ドローだ!」

「ま、またドロー・・・」

 そして、またしても贅沢な手札補強。現状の枚数でも潤沢と言えるのに、である。

「『エア・ハミングバード』の効果発動! 栄一の手札は1枚だから、500ポイント回復だ!」

 栄一の手札から、一輪の花が咲く。そして瞬時に飛んでくるは『エア・ハミングバード』。
 花から甘い蜜を採取し、十代のライフへと変換する。

十代:LP900→LP1400

 準備は全て完了した。十代のフィールドと墓地には、『ネオス』と『ネオスペーシアン』が揃い踏みしている。

「さぁ、見せてやるぜ、栄一! 『ネオス』のさらなる進化をな!」

 さらなる進化。それは、コンタクト融合をも超えるコンタクト融合。

「まさか・・・トリプル・・・コンタクト融合!?」

 トリプルコンタクト融合。
 『ネオス』と2体の『ネオスペーシアン』の結束によって実現する、奇跡のコンタクト融合。
 その戦術自体は、栄一も聞いた事がある。だが勿論、見た事は無い。

 その、耳にしているだけの戦術が、今、この場で披露される。

「『ミラクル・コンタクト』! フィールドの『エア・ハミングバード』と、墓地の『アクア・ドルフィン』『ネオス』を融合する!」



「トリプルコンタクト融合!」



 もう何度も見た、コンタクト融合によって発生するエフェクト。形成される宇宙空間。
 その果てに吸い込まれるのは、風のネオスペーシアン『エア・ハミングバード』。水のネオスペーシアン『アクア・ドルフィン』。そして、無限の進化を誇るヒーロー『ネオス』。
 3体の結束によって生まれるのは、吹き荒れる暴風雨の力。全てを吹き飛ばす、高き深き戦士。

「来い! 『ストーム・ネオス』!」

 蒼き鎧にしなやかな翼。両手には悪を切り裂く鋭い爪。
 風と水の力を同時に得た『ネオス』の姿。それがこのヒーロー『ストーム・ネオス』。
 彼の登場がフィールドに、風雲急を告げる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ストーム・ネオス ☆9
風 戦士族 融合・効果 ATK3000 DEF2500
「E・HERO ネオス」+「N・エア・ハミングバード」+「N・アクア・ドルフィン」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する事ができる。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。
この効果によって融合デッキに戻った時、フィールド上に存在する全てのカードをデッキに戻しシャッフルする。

ミラクル・コンタクト 通常魔法
自分の手札・フィールド上・墓地から、
融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、
「E・HERO ネオス」を融合素材とする
「E・HERO」と名のついた融合モンスター1体を
召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する。

 この暴風雨の戦士『ストーム・ネオス』には、その名から分かる通り、相手の脅威を吹き飛ばす力がある。

「『ストーム・ネオス』のモンスター効果! フィールドの魔法・罠カード全てを破壊する! 『アルティメット・タイフーン』!」

「『ネオスペース』ごと!?」

 栄一が用意していた3枚のカードに、風の猛撃が襲い掛かる。
 この暴風は、フィールドを形成する幻想的な空間『ネオスペース』をも消し去る威力があるのだ。
 伏せられているだけのカードが、耐えられる筈も無い。

「くぅ! リバースカードを2枚発動! 『エレメンタル・チャージ』と『トゥルース・リインフォース』!」

 発動したのは、共にフリーチェーンのカード。
 結果はどうであれ、発動できるのなら発動するしかない。

「逆順処理! 俺は『トゥルース・リインフォース』の効果で、デッキから『サイドキック・ガール』を特殊召喚します!」

 フィールドに現れたのは、白いワンピースに身を包む、まだ10代ぐらいの容姿をした金髪の少女。武器も何も持たず、とてもこの戦闘空間には似合わない存在。
 だがそれも当然。この少女、アメコミには付き物の、被保護者であるヒロインをイメージしてデザインされたモンスターなのだ。

サイドキック・ガール ☆1(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK0 DEF0
???
「サイドキック・ガール」は、自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

トゥルース・リインフォース 通常罠
自分のデッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

「『エレメンタル・チャージ』の効果! 俺のフィールドの『E・HERO』は2体。よってライフを2000ポイント回復します!」

 嵐がカードを吹き飛ばす直前。刹那のタイミング。『エレメンタル・チャージ』の効果が発動される。
 『ワイルド・レンジャー』と『ノヴァマスター』、2体のヒーローが栄一にエネルギーを与える。

エレメンタル・チャージ 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO」と名のついたモンスター1体につき、
自分は1000ライフポイント回復する。

栄一:LP400→LP2400

「そして破壊された『ヒーロー・メダル』の効果で、このカードをデッキに戻してシャッフルし、カードを1枚ドローします」

ヒーロー・メダル 通常罠
相手がコントロールするカードの効果によって
セットされたこのカードが破壊され墓地に送られた時、
このカードをデッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 自らを守るモンスターが増える(見た目が頼りないとはいえ)。ライフが回復する。手札も増える。だがそれでも、栄一は気が抜けない。
 十代の反撃の手は緩まない。それが分かっているからだ。

「速攻魔法『フォトン・リード』を発動! 手札から『E・HERO プリズマー』を特殊召喚する!」

 そして栄一の予想通り、十代は手を止めない。
 閃光の導きによって現れるのは、その姿を自在に変えるヒーロー『プリズマー』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) プリズマー ☆4
光 戦士族 効果 ATK1700 DEF1100
自分のエクストラデッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、
そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を
自分のデッキから墓地へ送って発動する。このカードはエンドフェイズ時
まで墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

フォトン・リード 速攻魔法
手札からレベル4以下の光属性モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。

 この『プリズマー』の登場によって、導き出される戦術は、ただ1つ。

「『プリズマー』のモンスター効果! 融合デッキの『カオス・ネオス』をお前に見せる事で、『プリズマー』は『ネオス』へと変身する! そして『ブラック・パンサー』! 『グロー・モス』! 『ネオス』となった『プリズマー』で・・・」



「トリプルコンタクト融合!」



「嘘・・・また・・・!?」

 『ストーム・ネオス』の時と同じように、また形成された宇宙空間に、闇のネオスペーシアン『ブラック・パンサー』、光のネオスペーシアン『グロー・モス』、そして『ネオス』へと変身した『プリズマー』が吸い込まれていく。
 この3体のヒーローの結束によって誕生するのは、混沌。光があるからこそ闇があり、闇があるからこそまた光がある。それを体現する力を持つ、速き眩き戦士。

「来い! 『カオス・ネオス』!」

 白と黒の鎧に身を包み、ダークヒーローっぽさを演出する蝙蝠(こうもり) のような翼を広げるヒーロー。
 彼自身を呼ぶ準備。その為の『プリズマー』の変身の際に十代が提示したヒーローそのもの。
 『カオス・ネオス』が、立ちはだかる敵―――それが例え闇であっても光であっても―――を裁く。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) カオス・ネオス ☆9
闇 戦士族 融合・効果 ATK3000 DEF2500
「E・HERO ネオス」+「N・ブラック・パンサー」+「N・グロー・モス」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
エンドフェイズ時にこのカードを融合デッキに戻し、
フィールド上に存在する全ての表側表示モンスターをセットした状態にする。
コイントスを3回行い、表が出た回数によって以下の処理を行う。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ1に使用する事ができる。
●3回:相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。
●2回:このターン相手フィールド上に表側表示で
存在する効果モンスターは全て効果が無効化される。
●1回:自分フィールド上に存在する全てのモンスターを持ち主の手札に戻す。

 『カオス・ネオス』には名前の通り、まさに「混沌」という言葉が相応しい効果が備わっている。

「『カオス・ネオス』のモンスター効果! オレはコイントスを3回行い、出た表の数によってその効果を発動する!」

 何時の間にか手にしていた3枚のコイン。それらを一気に弾く十代。
 それぞれが回転しながら上空を舞い上がり、そして地面に落ちる。
 表の枚数によって、状況がガラリ変わるこの効果。その結果は・・・


 ―――表!


 ―――表!


 ―――表!


「コインは3回表になった! よって、相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する! 『カオス・カラミティ』!」

 『カオス・ネオス』の両翼から、黒き光線が放たれる。それは栄一のフィールドのヒーロー達の体を貫き、彼らを絶命へと導く。
 勿論、戦える状況にない『サイドキック・ガール』も、非戦闘員だからといって見逃してもらえる訳がない。

 だが・・・

「『サイドキック・ガール』の効果! エクストラデッキの融合『HERO』をランダムに1体墓地へ送る事で、『サイドキック・ガール』はこのターン、カードの効果を受けない!」

 彼女は"ヒロイン"なのだ。そしてアメコミのヒロインには、その彼女を守るヒーローが必ずと言っていい程存在する。

「・・・!? 選ばれたのは、『E・HERO ガイア』です」

 大地の力をその身に宿す黒き巨人『ガイア』が、彼女の目の前に現れ、敵を貫く光線から彼女の身を守る。
 その堅き防御は決して、攻撃を後ろへと逸らさない。

サイドキック・ガール ☆1(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK0 DEF0
1ターンに1度だけ、自分のエクストラデッキからランダムに
「HERO」と名のついた融合モンスター1体を墓地へ送る事で、
このカードはエンドフェイズ時までカードの効果を受けない。
この効果は相手ターンにも使用できる。
???
「サイドキック・ガール」は、自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 とはいえ、『ガイア』は強力な融合モンスターだ。十分フィニッシャーにもなれる能力を持っている。
 それを簡単に失っては、モンスターを守れたといっても褒められた戦術にはならない(しかも栄一は、『ガイア』を1枚しか所持していない)。
 栄一は、手放しでは喜べなかった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ガイア ☆6
地 戦士族 融合・効果 ATK2200 DEF2600
「E・HERO」と名のついたモンスター+地属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが融合召喚に成功した時、相手フィールド上に
表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスター1体の
攻撃力を半分にし、このカードの攻撃力はその数値分アップする。

「モンスターが1体残ったか・・・」

 十代は、意味有りげにそう呟く。
 栄一のフィールドを空にできなかったとはいえ、自分のフィールドには攻撃力3000のヒーローが2体。
 1体で『サイドキック・ガール』を攻撃し、もう1体でダイレクトアタックを仕掛ければ、栄一のライフは0にできる。

 だが・・・

「・・・オレは、このカードを発動する!」

 十代は、新たなカードをディスクに差し込む。
 「ここで立ち止まってはいけない。自分の、出せるだけの実力を出さなければならない」。
 栄一のそれとはまた違う、彼独特の直感がそう叫んでいる。だからそれを信じて、彼はまだ突き進むのだ。

「2枚目の『ミラクル・コンタクト』だ!」

「また・・・『ミラクル・コンタクト』!? という事は・・・3回目!?」

 そのカードの発動は、改めてコンタクト融合が行われる事を意味している。
 このターン3度目のコンタクト融合。その思いつきもしなかった"進化の奇跡"に、栄一は目を大きく見開き、絶句する。
 だが当の十代は、さも当然の如く、淡々と、その効果処理の宣言をする。

「墓地の『フレア・スカラベ』『グラン・モール』『ネオス』で・・・」



「最後のトリプルコンタクト融合!」



 三度フィールドに形成される宇宙空間。その果てに、炎のネオスペーシアン『フレア・スカラベ』、大地のネオスペーシアン『グラン・モール』、そして奇跡のヒーロー『ネオス』が、吸い込まれていく。
 灼熱、屈強、そして奇跡。3つの力が結束して誕生するのは、マグマの力。その破壊的な炎の力で、堅き悪を粉々に砕き、焼き尽くす、熱き強き戦士。

「来い! 『マグマ・ネオス』!」

 剛健な姿が、全てを圧倒する。大地の力がそのヒーローの体を守る頑丈な鎧となり、炎の力がその心の中で熱く燃え盛る。
 十代の持つ、最後のトリプルコンタクト融合体。それが、ゆっくりと地上に降り立つ。両隣には、先に召喚された2体のトリプルコンタクト融合体。
 『マグマ・ネオス』。3体のトリプルコンタクト融合体の中で最も攻撃的なヒーローが、十代を勝利へと導くフィニッシャーとなる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) マグマ・ネオス ☆9
炎 戦士族 融合・効果 ATK3000 DEF2500
「E・HERO ネオス」+「N・フレア・スカラベ」+「N・グラン・モール」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
このカードの攻撃力は、フィールド上のカードの枚数×400ポイントアップする。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。
この効果によって融合デッキに戻った時、フィールド上に存在する全てのカードは持ち主の手札に戻る。

 『マグマ・ネオス』の持つ能力。それは、爆発的な攻撃力を生み出す、相対する者からすれば極悪極まりないもの。

「『マグマ・ネオス』は、フィールド上のカード1枚につき攻撃力が400ポイントアップする。フィールドのカードは『マグマ・ネオス』を含めて4枚! よって1600ポイントアップ!」

E・HERO マグマ・ネオス:ATK3000→ATK4600

 『マグマ・ネオス』の灼熱の闘志が、さらに燃え上がる。厳しい手順を踏んで呼び出されたモンスターに相応しい攻撃力が、フィールドを制圧する。

「仕上げだ! 手札から『ネオスペース・コンダクター』を墓地へ送り、その効果を発動!」

 ネオス宇宙からの使者。プレイヤーをネオス宇宙へと導く戦士。それがこの『ネオスペース・コンダクター』。
 十代の縦横無尽のプレイングのラスト。それを飾る為にその使者が、体を張って十代をアシストする。

「墓地の『ネオスペース』を手札に! そして発動! さらにカードを1枚セットする!」

 先程『ストーム・ネオス』の力によって消滅した幻想的な空間。それが復活する。
 自分達のホームグラウンドへと導かれた事で、3体のコンタクト融合体の力がさらに上昇する。

ネオスペース・コンダクター ☆4
光 戦士族 効果 ATK1800 DEF800
このカードを手札から墓地に捨てる。
自分のデッキまたは墓地に存在する「ネオスペース」1枚を手札に加える。

E・HERO ストーム・ネオス:ATK3000→ATK3500

E・HERO カオス・ネオス:ATK3000→ATK3500

E・HERO マグマ・ネオス:ATK4600→ATK5900

「トリプルコンタクト融合体が・・・3体・・・」

「あぁ! これがオレの、全力全開だ!」

 十代の全力全開。それが、3体のトリプルコンタクト融合体となって、フィールドを支配する。
 栄一の直感が発していた警告は、この誰も止められない大量展開を、夢物語のような戦術による支配を、知らせるものだったのだ。

『まさに、トリプルトリプルコンタクト融合だね』

『・・・完全に他人事だニャー』

 後ろで『ユベル』が他人事のように呟いている。だがその言葉は、栄一の耳には入っていない。既に栄一は、心ここにあらずなのである。
 それだけ、興奮しているのだ。見入っているのだ。心奪われているのだ。
 普通に考えたら、有り得ない戦術。その目撃者となった栄一は、手足を感動で震わせている。瞬きもせずに、そのヒーロー達の姿を目に焼き付けている。

「さぁ、バトルフェイズだぜ!」

「う、うぉ!?」

 だが、その十代の一言で栄一は、自分の世界から引き戻される。
 そうなのだ。いくら十代の戦術が信じられないものとはいえ、感動しっ放しでこのまま何もしなければ、自分は負けてしまうのだ。
 それは流石に御免だ。

「『ストーム・ネオス』で、『サイドキック・ガール』を攻撃!」



「『スウィーピング・ブラスト』!」



 そうこうしているうちに、十代は攻撃を仕掛けていた。
 『ストーム・ネオス』が、その両翼から強烈な旋風を放つ。
 栄一のフィールドの少女を一撃で消し去ろうと、自身の最大の力を解き放つ。

「『サイドキック・ガール』の効果発動!」

 しかし、何度も言うが彼女は"ヒロイン"であり、その"ヒロイン"には彼女を守る"ヒーロー"が付き物。
 瞬間、墓地から灼熱を伴って・・・

「何!? 『バーニング・バスター』!?」

 栄一の象徴であるヒーローが、お家の一大事と蘇る。

「『サイドキック・ガール』が攻撃対象になった時、自分の墓地から1度だけレベル7以上の『HERO』と名のついたモンスターを特殊召喚できる! 俺は『バーニング・バスター』を守備表示で特殊召喚! そして『ストーム・ネオス』の攻撃を『バスター』に逸らします!」

サイドキック・ガール ☆1(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK0 DEF0
1ターンに1度だけ、自分のエクストラデッキからランダムに
「HERO」と名のついた融合モンスター1体を墓地へ送る事で、
このカードはエンドフェイズ時までカードの効果を受けない。
この効果は相手ターンにも使用できる。
また、1ターンに1度だけ、このカードが相手モンスターの攻撃対象になった時、
自分の墓地からレベル7以上の「HERO」と名のついたモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、攻撃対象をそのモンスターに移し替える。
「サイドキック・ガール」は、自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

『けど、突破口にはならない。守備表示で出す他無いのではね』

「うぅ・・・」

 『ユベル』の鋭い指摘に、栄一はぐうの音も出ない。
 そう。『バーニング・バスター』を呼べたとはいえ、『ストーム・ネオス』の攻撃力が『バーニング・バスター』のそれを上回っている時点で、それはこの状況の突破力にはなり得ないのだ。

『ぐぅぉぉぉ』

「(ゴメン、『バスター』)」

 旋風の直撃を受けて、『バーニング・バスター』がフィールドから消滅する。
 自らの延命の為の壁にする事しかできない現実に、栄一、そして『サイドキック・ガール』は、空しく消え去る灼熱の戦士に対して、心の中で詫びの言葉を述べた。

「防がれちまったか。だが、これで『サイドキック・ガール』はその力を発揮できない! 『カオス・ネオス』!」



「『ライト・アンド・ダーク・スパイラル』!」



 自らを守り抜いてくれたヒーロー達に対して、涙を浮かべて罪悪感を抱いていた『サイドキック・ガール』。だがその彼女にも、とうとう自分の力でこの困難を突破しなければならない時が来た・・・と言いたいのだが、生憎、非戦闘員の彼女に自衛能力は無い。
 『カオス・ネオス』の両翼から解き放たれた、混沌の力を秘めた無数の蝙蝠が、何の防御の力も持たない少女を容赦なく襲い、彼女を絶命へと導いた。

E・HERO マグマ・ネオス:ATK5900→ATK5500

「『サイドキック・ガール』がいなくなった事で、『マグマ・ネオス』の攻撃力は下がるが・・・この状況じゃ関係ないな! いけ! 『マグマ・ネオス』!」

 そしてこの猛攻の終焉を告げると言わんばかりに。上空に飛び上がった『マグマ・ネオス』がその左腕から生み出す、炎の灯った隕石。
 栄一の生命の灯火を消し去らんと、その炎の激しさはどんどん増していく。

「待って下さい! この瞬間、墓地の『ネクロシャドーマン』を特殊召喚します!」

「何!? ここでの特殊召喚!?」

「はい! 『ネクロ・シャドーマン』は、相手の攻撃宣言時に俺のフィールドにモンスターがいない場合、墓地から特殊召喚できる能力を持ってます!」

 筋肉が露出したような紅い体のヒーロー『ネクロシャドーマン』。墓地から颯爽と現れ、守る術を失った栄一の最後の砦となる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロシャドーマン ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1500 DEF0
相手の攻撃宣言時に自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
墓地に存在するこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。
このカードが墓地へ送られた時、お互いにデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

E・HERO マグマ・ネオス:ATK5500→ATK5900

 『ネクロシャドーマン』が現れた事で、『マグマ・ネオス』の攻撃力がまた上昇する。
 『マグマ・ネオス』が生成する隕石も、心なしかその大きさが増している気がする。

「攻撃対象変更! 『マグマ・ネオス』で、『ネクロシャドーマン』を攻撃!」

 この最後の一撃で決めたかったが、栄一を守るカードがまだある、というのなら仕方が無い。



「『スーパー・ヒート・メテオ』!」



 十代の命を受け、『マグマ・ネオス』の放った炎の隕石が、爆音と共に『ネクロシャドーマン』に直撃する。
 主人を守る為にと墓地より蘇った『ネクロシャドーマン』。哀れ、栄一の代わりとして、その身を灼熱の炎で焼かれた。

「うぅ、『ネクロシャドーマン』・・・!」

E・HERO マグマ・ネオス:ATK5900→ATK5500

「これで、俺のモンスターは全滅・・・」

 意気消沈。息つく暇も与えてくれない猛撃を、辛うじて凌ぎ切った。
 しかしその代償は、ご覧の通り。栄一を守るものは、何1つフィールドに残っていなかった。

「だが、まさかこの状況で・・・3体全部の攻撃を完璧に防がれるとは、思いもしなかったぜ」

 十代がそう言う。落胆する栄一を宥める・・・という意味合いを込めているかは分からない。
 が、ただ1つ、確実な事がある。それは、この言葉が、彼の本音であるという事だ。
 自分の全力をもってこのターンの攻撃に挑んだのに、その結果は1ポイントのダメージすら与える事ができなかったという現状。
 栄一のフィールドを壊滅状態に追いやったとはいえ、そのままこのターンでの決着を目論んでいた十代としては、この現状は思い描きもしなかった事であった。

「『ネオスペース』がある事で、トリプルコンタクト融合体はデッキには戻らない。という訳でターンエンドだ。さぁ、この状況を逆転してみろ、栄一!」

 気が付けば、反撃を煽る言葉も投げかけていた。
 今度は守る側、受け身の側として、栄一がどう反撃してくるのか。それを、嬉々として待ち構える。
 ワクワクとする気持ちを忘れずにデュエルに挑む。それがこの、遊城十代のプレイングスタイルなのだ。

「は・・・はい!」

 そして栄一も、―――一瞬戸惑ったものの―――勢い良く返答する。
 十代にそう言われてしまえば、逆転する他無い。
 状況を覆してやろうと、嫌でも血気盛んになる。

栄一LP2400
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
十代LP1400
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ストーム・ネオス(攻撃表示:ATK3500)
E・HERO カオス・ネオス(攻撃表示:ATK3500)
E・HERO マグマ・ネオス(攻撃表示:ATK5500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法ネオスペース

 とはいえ、今の栄一のフィールドには何もなく、彼の可能性となり得るのは2枚の手札だけ。それも、共に単体では機能しないカード。

栄一の手札:
『破天荒な風』
『武装再生』

 このドロー次第で、敗北への片道切符を掴まされる可能性も十分にある。
 栄一にとって、緊張の瞬間が来る。

「・・・でも、やるっきゃない! 俺の・・・ターン!」

 高らかな宣言と、恐る恐る、それであって力強いカードのドロー。
 そして、長い時間をかけての引いたカードの確認。

「・・・よしっ!」

 カードを見つめるその表情が、徐々に緩んでいく。
 来た。逆転の為のカードが。トリプルトリプルコンタクト融合を打ち破る、その言葉通り「魔法」のカードが。

「『平行世界融合(パラレル・ワールド・フュージョン)』発動! ゲームから除外されている『ワイルドマン』と『エッジマン』をデッキに戻し、融合召喚!」

 栄一が、除外したカードを収納していたズボンのポケットから『ワイルドマン』と『エッジマン』を取り出すのと同時に、『ネオスペース』の上空一箇所に皹が入る。

「来い! 『ワイルドジャギーマン』!」

 そして「バリン」と音をたてながら割れたそこから飛び出してきたのは、野生の体に黄金の装備が成された戦士。
 その背中に背負った大剣で、群がる敵をなぎ払うヒーロー『ワイルドジャギーマン』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドジャギーマン ☆8
地 戦士族 融合・効果 ATK2600 DEF2300
「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO エッジマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。

平行世界融合(パラレル・ワールド・フュージョン) 通常魔法
ゲームから除外されている、融合モンスターカードによって決められた
自分の融合素材モンスターをデッキに戻し、「E・HERO」と名のついた
融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚する事はできない。

E・HERO マグマ・ネオス:ATK5500→ATK5900

「除外・・・融合!? 凄ぇ・・・融合の手段って、まだまだあるんだ!」

 自分も知らない融合方法に、我を忘れて子供のように興奮する十代。
 栄一ですら、見ていてちょっと顔を赤く染めるぐらいだ。

『あまりはしゃがないでくれないかい? 全く、見ているこっちが恥ずかしいぐらいだよ』

 そして誰しもが心の奥底に秘めていた言葉を、『ユベル』が代表して、臆面もなく言い放つ。
 とはいえ、当の十代以外は皆『ユベル』の言葉に頷きたかったが、それはさすがに憚りがあった。
 何故なら・・・『ユベル』の言葉がストレートすぎたから。

「良いじゃねぇか、ちょっとぐらい」

 十代自身は、口を尖らせて『ユベル』に抗議。
 自分の行動を、別段恥じる事もなく、堂々と振舞っていた。
 まぁ、恥じる必要が無いのも確か、という見解もそもそもあるだろうが。

「それより、『ワイルドジャギーマン』を召喚したって事は・・・」

「ハイ! 俺はこのターンで、3体のトリプルコンタクト融合体を、全部倒してみせます!」

 『ワイルドジャギーマン』には、全体攻撃の能力が備わっている。勿論、自分も何度も使った事があるだけあって、十代もそれは承知済み。
 だから、栄一の考えは即座に理解した。そして、彼がそれを実行に移すのを、楽しみに待ち構えた。

「じゃあ見せてみな! オレの3体の『ネオス』を全部倒す光景を!」

 倒されれば、自分は不利になる筈なのに。
 十代は栄一に、寧ろ「倒してくれ」と言ってるも同然の言葉をかけていた。

「ハイ! じゃあ、いきます! 『ワイルドジャギーマン』を対象に、魔法カード『破天荒な風』を発動します!」

破天荒(はてんこう)(かぜ) 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力・守備力は、
次の自分のスタンバイフェイズ時まで1000ポイントアップする。

 十代に導かれ、栄一は再び動き出す。
 発動されたのは、対象のモンスターの追い風となるカード『破天荒の風』。
 これにより、『ワイルドジャギーマン』の攻撃力と守備力が上昇する。

E・HERO ワイルドジャギーマン:ATK2600→ATK3600 DEF2300→DEF3300

「そう来たか!」

 3体のトリプルコンタクト融合体のうち、2体の攻撃力を上回る。

「そしてバトルフェイズ! 『ワイルドジャギーマン』で、『ストーム・ネオス』を攻撃!」

 飛び上がる『ワイルドジャギーマン』。背中の大剣を抜き、『ストーム・ネオス』へと突撃する。

「『インフィニティ・エッジ・スライサー』!」

 そして待ち構える『ストーム・ネオス』目掛けて、剣を縦に振り落とす。
 一刀両断。強力な追い風の力を受けた戦士が、1体目のトリプルコンタクト融合体を撃破する。

「ぬぅ!?」

十代:LP1400→LP1300

E・HERO マグマ・ネオス:ATK5900→ATK5500

「続けて『ワイルドジャギーマン』で、『カオス・ネオス』を攻撃!」

 『ストーム・ネオス』を倒した『ワイルドジャギーマン』が、今度は『カオス・ネオス』を目標に定める。
 飛び上がり、そして再び大剣を振り落とす。『カオス・ネオス』を、有無も言わさぬままに両断する。

「『インフィニティ・エッジ・スライサー・セカンド』!」

 栄一の掛け声と共に、その場で消滅する『カオス・ネオス』。
 暴風雨の『ネオス』と混沌の『ネオス』。強力な力を持つ2体が、1体のヒーローの斬撃によって敗れ去った。

十代:LP1300→LP1200

E・HERO マグマ・ネオス:ATK5500→ATK5100

「2体を同時に破壊・・・か。だが、『マグマ・ネオス』の攻撃力は、前の2体と比べても桁違いだぜ。どうする、栄一?」

「こうします!」

 十代の問いに、端的に答える栄一。同時に、最後の手札をディスクに力強く差し込む。
 瞬間、『ワイルドジャギーマン』が七色に輝くヴェールに包まれる。神秘がフィールドに舞い降りる。

「速攻魔法『武装再生』! この効果で、墓地の『レインボー・ヴェール』を『ワイルドジャギーマン』に装備します!」

「!? 効果を封じてきやがったか!」

 『マグマ・ネオス』の爆発的な力を封じる術。それは既に、栄一の墓地に存在した。
 『ネクロシャドーマン』の効果によって墓地に送られていた『レインボー・ヴェール』。望まぬ形で墓地に落とされ、泣き寝入りするしかないと思われていたが、思わぬ形で活躍の場が与えられた。

武装再生(ぶそうさいせい) 速攻魔法(漫画Rオリジナル)
自分または相手の墓地にある装備魔法カードを1枚選択し、
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する。

レインボー・ヴェール 装備魔法
装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、
バトルフェイズの間だけその相手モンスターの効果は無効化される。

E・HERO マグマ・ネオス:ATK5100→ATK5500

「ラスト! 『ワイルドジャギーマン』で、『マグマ・ネオス』を攻撃!」

 『ワイルドジャギーマン』を包む虹色のヴェールが、『マグマ・ネオス』を格好の獲物と捉える。彼の力を、その神秘の力で抑え込む。

E・HERO マグマ・ネオス:ATK5500→ATK3500

「『インフィニティ・エッジ・スライサー・サード』!」

 目標を定め、三度大剣を振り落とす『ワイルドジャギーマン』。
 3度目の一刀両断。『マグマ・ネオス』を一撃で葬り去る。

十代:LP1200→LP1100

「有言実行! トリプルコンタクト融合体は、全部倒しました!」

 『マグマ・ネオス』を倒した事で栄一は、バトルフェイズ前の「3体のトリプルコンタクト融合体を全て倒す」という宣言を、見事に現実のものとしたのであった。

「・・・本当に、やっちまいやがったな」

 してやられた、といった表情を見せる十代。だがそれは、悔しさから来るものでは決してない。
 栄一が、宣言した内容を実現させた事に、驚嘆しているのだ。

「・・・オレの全力を、1ターンで跳ね返しやがった!」

 そして、嬉々としているのだ。

「ハイ! 上手くいくか分からなかったけど、何とかクリアできました!」

 栄一自身も、その達成感故か、興奮が止まない。

「うー、名残惜しいけど・・・俺はこれで、ターン終了です」

 その快感に何時までも浸っていたかったが、それは1ターンの制限時間が許さなかった。
 栄一は、過ぎ去るターンへの別れを惜しみながら、終了の宣言をした。

栄一LP2400
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ワイルドジャギーマン(攻撃表示:ATK3600)
魔法・罠ゾーンレインボー・ヴェール(装備:E・HERO ワイルドジャギーマン)
十代LP1100
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法ネオスペース




「さぁて、じゃあ次はオレが逆転劇を見せないとな」

『果たして、そう簡単にいくかな?』

「水を差すなよ・・・。オレのターン!」

 『ユベル』へのツッコミも程々に、十代は自らのターンを開始する。
 栄一の怒涛の反撃。それへのさらなるお返しを見せようと。

「・・・速攻魔法『サイクロン』を発動」

 まずは厄介な『レインボー・ヴェール』から。
 『ワイルドジャギーマン』を包む虹色のヴェールが、旋風によって吹き飛ばされる。

「あぁ、『レインボー・ヴェール』が・・・」

サイクロン 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

「そしてモンスターを1体セットし、ターン終了だ」

 だがそれ以上、派手な行動は無かった。お返しの筈のターンは、すぐに終わった。
 結果的に新たに現れたのは、正体不明のモンスター1体のみ。明らかに、守りに入っている状況である。
 『ユベル』も、栄一の後ろで呆れ帰った表情をしている。

『大口叩いて・・・それだけ、か』

栄一LP2400
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ワイルドジャギーマン(攻撃表示:ATK3600)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP1100
手札0枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法ネオスペース

「俺のターン。このスタンバイフェイズに、『ワイルドジャギーマン』の攻撃力・守備力が元に戻ります」

E・HERO ワイルドジャギーマン:ATK3600→ATK2600 DEF3300→DEF2300

 十代が守りに入った。それは言い換えれば、栄一にとっての好機。
 このドロー次第では、一気に勝利へと突き進む事もできる。

「・・・よしっ! 『ホープ・オブ・フィフス』を発動! 墓地の『ホークマン』『ストライカーグリフォン』『ガイア』『ワイルド・レンジャー』『ノヴァマスター』をデッキに戻してシャッフルし、カードを2枚ドロー!」

 引いたカードも都合が良い。勝利への確率を上げる事のできる手札増強カード。
 この恩恵を受けて、栄一は勝利をモノに・・・

ホープ・オブ・フィフス 通常魔法
自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついたカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
このカードの発動時に自分フィールド上及び手札に
他のカードが存在しない場合はカードを3枚ドローする。

「・・・『エレメンタル・リレー』を発動! 手札の『キャプテン・ゴールド』をコストに、さらに2枚ドロー!」

 ・・・しようとしたのだが、現実はそう甘くなかった。
 『キャプテン・ゴールド』はレベル4モンスターなのだが、効果の関係でこの状況では召喚できない。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) キャプテン・ゴールド ☆4
光 戦士族 効果 ATK2100 DEF800
このカードを手札から墓地に捨てる。
デッキから「摩天楼 −スカイスクレイパー−」1枚を手札に加える。
フィールド上に「摩天楼 −スカイスクレイパー−」が存在しない場合、
フィールド上のこのカードを破壊する。

 結果、『キャプテン・ゴールド』は魔法カード発動のコストとして墓地へ送られる他無かった。
 ただ幸いは、その魔法カードが『エレメンタル・リレー』だった事。
 手札交換カードなので、可能性はまだ費えていないのだ。

エレメンタル・リレー 通常魔法(オリジナル)
手札から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「・・・orz」

 ・・・と思われたのだが。この状況で栄一は勝利の女神に嫌われたのか、ドローしたカードは2枚とも、モンスターカードではなかった。

「・・・バトルフェイズ。『ワイルドジャギーマン』で、セットモンスターを攻撃!」

 攻撃力1100以上の下級モンスターを引いてい「れば」。「たられば」でデュエルができるなら、魚屋はデュエルスタジアム、と誰かが言ってたような言ってなかったような・・・。
 まぁ、嘆いていても仕方が無いと、栄一は攻撃を仕掛ける。
 正体不明のカードを豪快に切り裂く『ワイルドジャギーマン』。十代の戦力を、少しずつでも削いでいこう・・・という事なのだが。
 現実は甘くなかったが、十代もまた甘くはなかった。

「戦闘破壊されたのは『クロス・ポーター』! その効果により、デッキから『ネオスペーシアン』と名のつくモンスター・・・『グラン・モール』を手札に加える!」

「ま、また、『グラン・モール』!?」

 守勢に回らざるを得ない状況でも、十代は逆転への準備を怠っていなかった。
 『ネオスペーシアン』専門の運搬人『クロス・ポーター』によって十代の手札に加わったのは、融合モンスターキラーの『グラン・モール』。
 その凶悪な効果は、最早言わずもがなである。

クロス・ポーター ☆2
闇 戦士族 効果 ATK400 DEF400
自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送り、
手札から「N」と名のついた
モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
このカードが墓地に送られた時、自分のデッキから
「N」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。

「うー・・・カードを2枚セットして、ターン終了です」

栄一LP2400
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ワイルドジャギーマン(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
十代LP1100
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法ネオスペース

「オレのターン!」

 融合モンスターキラーを手に入れて、今度こそお返しのターンだろうか。
 カードを引いた十代が、まず最初にやるプレイ。それは、1つしかなかった。

「『グラン・モール』を召喚!」

 三度フィールドに現れる、大地の力を秘めるヒーロー『グラン・モール』。
 『ワイルドジャギーマン』による大攻勢を仕掛けてきた栄一は、その勢いを打ち切られる事を残り惜しく思う。

「また、フィールドの立て直しか・・・」

「いや、そうはさせないぜ」

「?」

 栄一は、十代が『グラン・モール』の力によって自身のフィールドを崩してくるのかと思っていた。
 だが、十代の言う事をそのまま理解するとすれば・・・彼のしようとしている事は、それ以上の事。

「確かに、『グラン・モール』の効果は融合モンスターにとって脅威だけど、この場面で使ってもオレにとっては延命行為でしかないからな。だから・・・こうする!」

 そう言いつつ十代は、1枚のカードをディスクに差し込む。
 このターンにドローしたカード。その強大な力に、「奇跡」を信じて。

「『ミラクル・フュージョン』!」

 栄一も愛用している、奇跡の名を持つ融合のカード。
 そのエフェクトによって発生した渦に吸い込まれていくのは・・・何と、5体ものヒーロー。

「フィールドの『グラン・モール』と、墓地の『ネオス・ナイト』『マリン・ネオス』『ストーム・ネオス』『カオス・ネオス』を除外し・・・いくぜ!」

 十代の象徴である『ネオス』の進化した姿のヒーロー達と、『ネオスペーシアン』が結集する事によって完成する力。
 その力の誕生の瞬間を、十代は宣言する。



「究極コンタクト融合!」



「きゅ、究極コンタクト融合!?」

 聞いた事の無い戦術名だった。
 コンタクト融合にも「究極の形」というものは存在する。『ネオス』にも「究極の姿」というものは存在する。それは理解できない事では、決してない。
 だがそれは、トリプルコンタクト融合の事。自分自身が目に焼き付けたもので、既に完結していたもの。
 栄一は、そう思っていた。思い込んでいた。だが、違った。

 十代は、今ここに宣言した。コンタクト融合の「究極の形」を見せ付けると。『ネオス』の「究極の姿」を生み出すと。
 それは、『ネオス』『ネオスペーシアン』そして『HERO』。これらのカテゴリー全ての力を結集する事。「神」と呼ばれし戦士を、呼び出す事。

「来い! 『E・HERO ゴッド・ネオス』!」

 眩き閃光が、フィールドを突き進む。神と呼ばれし戦士を、フィールドへと導く。

「これが・・・『ゴッド・ネオス』・・・」

 閃光が止んだその時、「究極」が神という形姿となって、この世界に降臨した。
 大きく広げた翼。しなやかな両足。力強い両腕。そして、逞しさと誇らしさを兼ね備えた胴体。その全身が、黄金色に輝き、その存在を神たらしめている。
 燃える炎を心に秘め、冷たき水で穢れを洗い流す。俊敏な様は風を思わせ、頑強な様は大地を思わす。正しき光に驕れる事なく、悪しき闇を誠へと導く。
 デュエルモンスターズにある六つの属性。その全ての力を得て、進化の象徴である戦士は神へと昇華した。
 そしてその神の鋭い両瞳は、正しき事からも、悪しき事からも、決して視線を逸らさない。
 神は、悪を問答無用に滅ぼさない。悪をも抱擁し、浄化させるのだ。
 『E・HERO ゴッド・ネオス』。神となりしヒーローが、その放たれた威光を以って、フィールドを支配する。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ゴッド・ネオス ☆12
光 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2500
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
「ネオス」・「N」・「HERO」と名のついたモンスターを
それぞれ1体以上、合計5体のモンスターを融合素材として融合召喚する。
1ターンに1度、自分の墓地に存在する
「ネオス」・「N」・「HERO」と名のついたモンスター1体を
ゲームから除外する事で、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
さらに、エンドフェイズ時までそのモンスターと同じ効果を得る。

「ふぇぇ・・・」

 この神々しい姿は、この閉じ込められた世界に大きな感動を呼んだ。
 『ゴッド・ネオス』が降臨して以降、栄一は、まるで時が止まったかのようにその場で立ち尽くしていた。
 その降り立つ瞬間は、彼にとってこの日で一番長く感じられた時であった。まるでこの時が、永遠に続くかのように思わされた。
 彼自身も気付かぬうちに、なよなよとした、声ともならない声をあげていた。

「夢中になってるところ悪いが、『ゴッド・ネオス』の効果を発動させてもらうぜ!」

「ふぇ、ふぇぇ!?」

 何時の間にか、『ゴッド・ネオス』の世界に引き込まれそうになっていた。そんな栄一を現実へと引き戻したのは、十代の声だった。
 瞬間、『ゴッド・ネオス』のその全身が、炎のように紅く輝く。

「墓地の『マグマ・ネオス』を除外する事で、『ゴッド・ネオス』の攻撃力は500ポイントアップ! さらに『マグマ・ネオス』の効果をエンドフェイズまで得る! フィールドに存在するカードは6枚だ!」

 その「紅」の正体は、炎と大地の力を得たヒーロー『マグマ・ネオス』のエネルギーであった。
 『マグマ・ネオス』の力を吸収する事で、神となりしヒーローは、さらなる高みへと導かれる。

E・HERO ゴッド・ネオス:ATK2500→ATK5400

「攻撃力・・・5400!?」

 全てを決する事ができるだけの、爆発的な攻撃力を手にする。

『勝負・・・あったニャ?』

『栄一のライフを削り切れる数値か』

 大徳寺先生や、『ユベル』ですら、思わず呟いてしまう。
 『ゴッド・ネオス』の、その神秘的な様と、超絶の力の様を見て、呟かずにはいられなかったのだ。

「いくぜ、栄一! 『ゴッド・ネオス』で、『ワイルドジャギーマン』を攻撃!」

 十代の掛け声と共に、『ゴッド・ネオス』がその両手元に強大なエネルギーを構築する。
 そしてそのエネルギーに、彼の体から飛び出した6つの―――それぞれ、炎・水・風・地・光・闇のエネルギーを内包した―――球体が、吸収されていく。



「『レジェンダリー・ストライク』!」



 放たれるは、六属性の力全てを取り組んだ、眩き光。それは徐々に大きくなっていき、『ワイルドジャギーマン』を簡単に飲み込む。

「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

栄一:LP2400→LP0

 そして同時に、栄一のライフを全て奪い去った。




















「・・・!? 栄一、お前・・・」

 デュエルが決着したと思い、自らのデュエルディスクを畳もうとした十代。だがその行為はすぐに、これまで闘ってきた目の前にいる相手への、失礼千万な行為であるという事に気付かされる。
 何故なら・・・目の前にいる男・栄一が、まだその場で立っていたからだ。
 彼は決して、膝を折ってなどいない。その瞳に宿る闘志の炎を、消してなどいない。このデュエルを、諦めてなどいない。

「『ヒーロー・ソウル』。この効果により、俺はライフを100ポイント得ます!」

ヒーロー・ソウル 通常罠(漫画GXオリジナル)
「HERO」と名のついたモンスターが破壊されたターンに
自分のライフが0になった場合、発動する事ができる。
ライフが0になった事を無効にし、自分のライフポイントを100にする。

栄一:LP0→LP100

 ライフが0になったら、そのデュエリストの敗北でデュエルは終了する。それが、デュエルモンスターズのルールである。
 だが栄一は・・・そのルールですら覆してしまった。自分の敗北を無効にし、ライフ100としてデュエルのコンティニューを宣言してしまったのだ。
 まさにそれは、"英雄の魂"。『HERO使い』である彼に相応しい、不屈の闘志である。

「・・・待ってくれ。『ヒーロー・ソウル』を発動できるのは"『HERO』が破壊されたターン"だ。今の戦闘じゃ、効果は成立しないんじゃないのか?」

 十代は一瞬呆気にとられるが、すぐに疑問が湧いてくる。
 そう。実は今の状況では、『ヒーロー・ソウル』は発動条件を満たさない。
 何故なら、戦闘破壊されたモンスターがフィールドを離れるのは、戦闘ダメージが発生してからだからだ。
 『ヒーロー・ソウル』を発動できるのは、『HERO』が破壊された(そしてフィールドを離れた)ターンにライフが0になった場合。先にライフが0になってしまうと、発動条件は満たされない。
 今回の場合だと、戦闘破壊が決定した『E・HERO ワイルドジャギーマン』のフィールド離脱が成立する前に、栄一のライフは既に0になってしまっている。ルール通りだと、『ヒーロー・ソウル』は発動する事すらできないのだ。
 要は『ヒーロー・ソウル』の効果自体は後出しジャンケンみたいなものだが、それを発動する為の後出しジャンケンは通用しない、という事だ。
 だが現実は違う。『ヒーロー・ソウル』の発動と効果はしっかりと成立している。それが、十代にとっては信じられない事なのだ。

「・・・確かに、『ワイルドジャギーマン』の戦闘破壊だけじゃ、『ヒーロー・ソウル』は発動できません」

 訳が分からなくなっている十代に対して、栄一はそう言う。

「だから俺は・・・こうしたんです!」

 自分の使ったトリックを・・・証明する。
 そう。これは信じられない事なんかではない。ルールに則った上での状況だ。

「『ゴッド・ネオス』の攻撃宣言の瞬間、俺はこの『リビングデッドの呼び声』を発動したんです!」

リビングデッドの()(ごえ) 永続罠
自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「『リビングデッドの呼び声』・・・・・・まさか!?」

 栄一の示したカード。それを見て十代も、この栄一の戦術を全て読み取った。
 そう。栄一の墓地には、この『ヒーロー・ソウル』の発動を成立させるモンスターが存在したのだ。

「・・・『キャプテン・ゴールド』を復活させたのか」

「ハイ。正解です。この『キャプテン・ゴールド』は召喚されても、フィールドが『スカイスクレイパー』でなければ自壊してしまいます」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) キャプテン・ゴールド ☆4
光 戦士族 効果 ATK2100 DEF800
このカードを手札から墓地に捨てる。
デッキから「摩天楼 −スカイスクレイパー−」1枚を手札に加える。
フィールド上に「摩天楼 −スカイスクレイパー−」が存在しない場合、
フィールド上のこのカードを破壊する。

 普通なら勿体無い事この上無いデメリット効果。だが今回は、それが幸いした。
 『E・HERO キャプテン・ゴールド』。名前の通り、彼も『HERO』なのだ。
 そして『ヒーロー・ソウル』の発動条件は、別に相手による破壊でなくて良い。
 仲間を犠牲にする事は辛い。だがその犠牲により栄一は、この戦術を見事に成立させた。
 復活しながらもすぐに消え去った『キャプテン・ゴールド』に、栄一はお礼をしてもし足りない程の感謝を感じていた。

E・HERO ゴッド・ネオス:ATK5400→ATK4200

「なるほどな。そんなトリックを使って、この一撃を凌いだのか・・・」

 十代は、感嘆とも呆れとも取れる表情を見せるが・・・

「『ゴッド・ネオス』の一撃ですら凌ぎ切った・・・・・・いいぜ! デュエル続行だ!」

 すぐにまた、胸の奥のワクワクが湧き上がってきたのか、嬉々とした表情に変わる。
 力が篭り、興奮気味に、栄一をしっかりと見つめる。

「コンタクト融合体は、エンドフェイズにデッキに戻るが・・・ここは『ネオスペース』! その力で、1ターンの時を越えさせてもらうぜ!」

 『ネオス』の闘う空間『ネオスペース』でありながら、『ネオスペーシアン』とはまた違う存在へと昇華した為か、『ゴッド・ネオス』はこの空間の恩恵を受ける事ができない・・・と思われたのだが。思わぬ形で、その恩恵にあずかる事となった。
 『マグマ・ネオス』の効果を得た為、『ゴッド・ネオス』はその爆発的な攻撃力と引き換えに、1ターンでエクストラデッキへと帰還しなければならないところだったのだ。
 そしてそれを救ったのが『ネオスペース』の力。この空間では、『ネオス』達は1ターンの時を越える事ができる為、エクストラデッキへと帰還する必要もなくなるのだ。

「これでターン終了だ! さぁ、かかって来い、栄一!」

E・HERO ゴッド・ネオス:ATK4200→ATK3000

栄一LP100
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
十代LP1100
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ゴッド・ネオス(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法ネオスペース




 エンドフェイズに効力が切れた為、爆発的な攻撃力を失った『ゴッド・ネオス』。それでも、まだ3000ある。並のモンスターで倒せる数値ではない。

「(あの強力な"神"を倒せるのは・・・やはり、『バスター』の力しかない!)」

 墓地に眠る、自身の象徴。その力を呼び起こす事が、勝利への近道。
 そう信じて栄一は、デッキの一番上のカードに手をかける。

「俺の・・・」

 ドローフェイズ。ドローカードに触れる右手の力が、必要以上に強くなる。カードに傷を付けてしまいそうな程、圧力をかける形となってしまう。
 栄一は、この一瞬に緊張していた。

『栄一君、リラックスリラックス』

『無駄だね。集中しすぎて、我を忘れちゃってるよ』

 デュエルも佳境に入った。恐らくこのドローで何とかできなければ、自身の敗北は間違いないものになるだろう。
 だから、後悔したくないのだ。勝っても、例え負けたとしても、この二度とできるか分からないデュエルは、自らの望む形で終わらせたい。
 そういう思いが、栄一を気張らせているのだ。

「楽しめよ、栄一」

「えっ?」

「デュエルを楽しめ。栄一」

 そんな栄一の思いを察してか、十代が声をかけた。
 栄一の緊張を解き解そうと、優しい口調で、彼に接する。

「多分、「望むカード来てくれ!」みたいな感じで切羽詰ってるんだろうけど、そんな力んでちゃ体が持たないぜ」

 自分の心の奥底を見抜かれているように感じる。
 十代の言葉が、直接心に突き刺さり、全身に染み渡る。

「ワクワクだ、栄一。ワクワクを感じるんだ!」

「・・・ハイ。ハイ!」

 栄一の心を埋め尽くしていく、デュエルを楽しむ気持ち。
 自然とその返事も、ハキハキとしたものとなる。

『一言で緊張を解しちゃうなんてね』

『それが、遊城十代だニャ』

 今まで見続けてきたとはいえ、その十代の「言葉の力の強さ」に、改めて敬服する。
 『ユベル』も大徳寺先生も、穏やかな表情で、このドローの瞬間を見つめる事とした。

「俺のターン、ドロー!」

 緊張を解き、先程までのように、ワクワクしてデュエルに挑む。
 それを思い出した栄一に、デッキも応える。

「・・・『フレア・フュージョン』発動! 墓地の『バーニング・バスター』『キャプテン・ゴールド』『ワイルドジャギーマン』を融合!」

「『バーニング・バスター』の・・・融合!」

 炎のエフェクトに包まれて、『バーニング・バスター』を中心とした3体のヒーローの力が結集する。
 誕生するのは、栄一にとっての「絆」の終着点。彼の操る、最強の炎の巨人。



「来い! 『ウルティメイト・バーニング・バスター』!」



 その紅の鎧を灼熱で包む。逞しさを見せる両腕も両足も、全てが闘志の炎に燃えている。
 全ての悪を、灰にまで燃やし尽くす巨人。栄一が全てを発揮する事によって誕生するヒーロー。
 『バーニング・バスター』の最強の融合体『ウルティメイト・バーニング・バスター』が、ゆっくりと、降臨した。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター ☆10(オリジナル)
炎 戦士族 融合・効果 ATK4000 DEF3200
「E・HERO バーニング・バスター」+戦士族のモンスター×2
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを相手ライフに与える。

「これが・・・お前の最強のヒーローか! 栄一!」

「ハイ! これが俺の『バスター』の最強の姿、『ウルティメイト・バーニング・バスター』です!」

 栄一、そして十代。共に興奮した表情を見せる。
 全力をもってかかって来た十代に対して、今度は栄一が自身の全力全開を披露、十代へと攻め込む。
 その、清々しいまでの力と力のぶつかり合いに、共に胸の奥から湧き上がるものを抑えられないのだ。

「そして『フレア・フュージョン』の効果! 融合に成功したので、相手に1000ポイントのダメージを与える!」

「何!? ってうわっとっと・・・あち、あちち!?」

 『ウルティメイト・バーニング・バスター』の掌から噴き出した炎が、十代のライフを削る。
 これでお互いに、そのライフは・・・

フレア・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、
炎属性の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果によってモンスターの融合召喚に成功した時、
相手に1000ポイントのダメージを与える。

十代:LP1100→LP100

 ・・・僅か、100ポイント。
 全力vs全力が生み出したのは、ライフ100になったプレイヤーは負けないという俗説、所謂「鉄壁のライフ100」。それに両方が達してしまったという結果。
 そのギリギリの合戦を決着させようと、今、栄一が宣言する。灼熱の巨人が動く。

「バトルフェイズ! 『ウルティメイト・バーニング・バスター』で、『ゴッド・ネオス』を攻撃!」

 灼熱の巨人がその両腕を上に掲げる。そこに生まれるのは、巨大な灼熱の炎球。
 周辺の温度が、何度も、何十度も、何百度も上昇する程に。その炎球は、熱く燃え上がる。



「『ウルティメイト・バーニング・バースト』!」



 栄一の、勝利への思いを全て乗せ、炎の球は放たれる。

 ―――ズドン!

 衝突。巨大な炎と、神となりし奇跡のヒーローが、正面からぶつかり合う。
 生み出されるのは、全てを消し去る程の超絶のエネルギー。そして、大爆発。

 ズドォォォォォォォォォォン!!!!!

「うわぁぁぁ!?」

『くっ!?』

 それは最早、敵味方関係なかった。全てを吹き飛ばしてしまわんと、フィールドを突き抜ける爆風。
 大地をしっかり踏みしめていても、後ろに飛ばされてしまいかねない。それ程に強大なパワーだ。

『ニャァァァァァ! 吹き飛ばされるニャァァァァァ!』

「ニャー!」

 パクッ! ゴクッ!

『助かったニャァァァ・・・ありがとうニャ、ファラオ・・・』

 元々線香花火程度の光である大徳寺先生は、その軽さ故にあっという間に吹き飛ばされてしまう。
 ジャンプ一番何とかファラオが飲み込む事で事なきを得たが、もしこの救出作戦が失敗していたら、彼は一体どうなっていただろうか。

 ブフォォォォォ!

「ニャァァァァァ!」

『って全然助かってないニャァァァァァ!?』

 失礼。そもそも、人間ですら吹き飛ばされそうな爆風である。人間よりも小さい猫が耐え切れる筈も無い。
 哀れファラオと大徳寺先生。そのまま、彼方へと吹き飛ばされてしまう。

『フン!』

 ガシッ!

「ニャァ!?」

『!?』

 どこか遠くの世界へと旅立ちかけた1匹と1人。そんな彼らに、衝撃が走る。何かに掴まれたようだ。

『特別サービスだよ』

『・・・ありがとうニャ』

 ファラオをしっかりと掴んだのは、意外や意外、『ユベル』だった。
 安堵の溜息を吐く大徳寺先生だったが、次の瞬間、この事実に関する疑惑が湧いてくる。

『ていうか何時の間に実体化を?』

 そう。精霊の『ユベル』は本来、実体であるファラオを掴める筈が無いのである。
 こうして掴めている理由。それは・・・1つしかない。

『ギリギリのところでの助け舟、だね』

 『ユベル』の発言と同時に、漸く爆風が止み、視界もハッキリとしてくる。
 彼らが見つめる先。そこには・・・

「ふぅ・・・危なかったな」

 『ユベル』と同じ、オッドアイとなった十代が、誇らしく仁王立ちしている姿があった。
 そう。ファラオが吹き飛ばされそうになるのを見て十代は、急いで自らの能力を行使。『ユベル』を実体化させる事で、彼女を物体に対して干渉可能にしたのだ。
 だが、驚くべきはそこではなかった。

「嘘・・・十代さん!? 『ゴッド・ネオス』も!?」

 十代はまだ立っている。決して膝を折っていたりなどしていない。そして『ゴッド・ネオス』も健在だ。
 つまり、それが意味する事は・・・

十代:LP100

「ライフポイントが0になっていない!?」

 十代は、まだ敗北していないという事だ。

「さっき、折角お前のライフを0にしたのに、それでも諦めないなんて姿を見せられたら、俺も簡単には負けられないからな。この速攻魔法を発動させてもらったぜ」

 それは、先程栄一がした事のリプレイを見ているかのようだった。
 十代が発動したカード。それは『ヒーロー・ソウル』と同じく、自らの敗北を無効にする力を持つ、奇跡の魔法。

蘇生(そせい)() 速攻魔法(ハピフラシリーズオリジナル)
自分のライフが0になる場合のみ発動する事ができる。
自分が受けるダメージは無効になり、モンスターは戦闘では破壊されない。
自分のライフポイントを100にする。

「『蘇生の矢』・・・!?」

「そう。この効果でオレは間一髪助かったって訳だ」

 そもそも彼の「危なかった」という発言には、2つの意味が込められていた。
 1つは、大徳寺先生とファラオの危機に対して。そしてもう1つは、このギリギリの攻防の事である。
 『ウルティメイト・バーニング・バスター』と『ゴッド・ネオス』の衝突による爆発的なエネルギーを、ギリギリまで引き付け、そして防ぐ。
 その薄氷を履む思いでの防御劇に、十代は大きく溜息をついた。

「・・・やっぱり、十代さんは凄いデュエリストだ!」

 そして栄一は、自身最大の一撃を防がれたにも関わらず、歓声をあげていた。
 この間一髪の防御劇に対して、最大限の敬意を表していた。

「オイオイ・・・そんな事言うなよ」

 頬を紅く染め、俯き加減に後頭部をかく十代。
 照れ隠ししたいようなのだが、全く出来ていない。
 緩んだせいではないだろうが、何時の間にか瞳も元の色に戻っている。

「いや、これは俺の本音です。十代さんh」

「よせやi」

「そんn」

「いやいy」

『そろそろ次に進んでくれないかな』

「「・・・はい」」

 このままいけば、褒めて照れての無限ループになると判断したのか、『ユベル』が呆れ口調で言う。
 そのドライな言い方に、栄一も十代も、一瞬で黙り込んでしまった。

「と、兎に角。俺はこれでターン終了です。もう逃げも隠れも出来ません。十代さんの、今できる最大の力でぶつかって来て下さい!」

 茶番から一転して、勇んだ声で終了宣言を行う栄一。
 彼のフィールドには『ウルティメイト・バーニング・バスター』1体のみ。手札は無い。彼自身が言うように、彼はもう、逃げも隠れも出来ない。
 最大の力(ウルティメイト・バーニング・バスター)のみで、十代に相対するだけだ。

栄一LP100
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP100
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ゴッド・ネオス(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法ネオスペース

「言ってくれるぜ栄一! オレのターン!」

 対する十代も、栄一の挑発めいた言葉に喜んで乗る。
 まさに勝負師。この背水の攻防を楽しんでいる。受け入れている。

「・・・『生け贄の代償』を発動! 『ゴッド・ネオス』を生け贄に、カードを2枚ドロー!」

 そして発動されたのは、このデュエルでも幾度となく使われたカード。
 モンスターの犠牲によりカードをドローできる、手札増強のカード。

「『ゴッド・ネオス』を・・・コストに!?」

「あぁ。そうするしかないからな」

 いくら超絶の攻撃力を持つ灼熱の巨人が相手とはいえ、攻撃力3000の、それも神と呼ばれし、自身の象徴のヒーローを犠牲にしなければならないなんて。
 それだけ今の十代は、この状況に必死なのだ。

「・・・『貪欲な壺』を2枚発動! 墓地の『サイレント・ソードマン LV3』『冥府の使者ゴーズ』『メタモルポット』『ネオスペース・コンダクター』『クロス・ポーター』『ゴッド・ネオス』、そして4体の『コクーン』をデッキに戻してシャッフルし、新たに4枚ドローする!」

 "神"の犠牲によって得たのは、さらなる可能性(てふだ)を手にする事のできるカード。
 その可能性を信じて十代は、さらにドローする。

貪欲(どんよく)(つぼ) 通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 クリクリ〜♪

「えっ・・・今の声?」

 そして十代がドローした瞬間であった。栄一は聞いた。可愛らしい声を。
 すぐに理解できた。これは、十代の持つ精霊のモンスター。それも、『ユベル』や『ネオス』と同じ、強大な力を持った精霊だと。

「(来てくれたか、相棒)」

 カードを手にする十代の表情が、僅かながら緩んでいるのが見える。
 やはり十代は、強力なカードを引いた。そうに違いないと、栄一は警戒を強める。

「カードを2枚セットして、ターン終了だ」

 カードを伏せて、十代はターンを終えた。
 攻撃はして来なかった。だがそれでも、栄一にとってこのカードセットは、強大な力で攻撃してくる以上に脅威的なものとして感じ取れた。

栄一LP100
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP100
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
フィールド魔法ネオスペース

「俺のターン!」

 2枚の伏せカードが、とても大きく見える。力強く見える。恐ろしく見える。
 強大な敵と対峙する事にワクワクする一方で、彼の頭の中では警報がけたたましく鳴っている。

「・・・装備魔法『野生の本能』を『ウルティメイト・バーニング・バスター』に装備! これで『バスター』は魔法・罠の効果によって破壊されません!」

 そんな栄一の心を読み取ったのか、デッキが彼に与えたのは、モンスター自身の本能を呼び覚ます事によって、相手の魔法・罠を蹂躙する装備魔法。
 『ウルティメイト・バーニング・バスター』に、頼もしい力が宿った。

野生(やせい)本能(ほんのう) 装備魔法(オリジナル)
装備モンスターは魔法・罠カードの効果によって破壊されない。

 準備は整った。後は、決着の為に、全力全開で十代にぶつかるだけだ。

「いきます! 『ウルティメイト・バーニング・バスター』で、十代さんにダイレクトアタック!」

 再び両腕を掲げ、そこに炎球を形成する『ウルティメイト・バーニング・バスター』。
 見る見る肥大するそれからは、デュエルの幕を閉じんという、栄一と灼熱の巨人、双方の心意気が感じ取れる。

 だが・・・

「今だ! 速攻魔法発動! 『クリボーを呼ぶ笛』!」

 勿論十代は、それを良しとしなかった。伏せていたカードの1枚を発動させる。

「この効果によりオレは、デッキから『ハネクリボー』を守備表示で特殊召喚する!」

「!? 『ハネクリボー』!?」

 可愛らしい笛の音に導かれて、その背中に翼を生やした、黒い毛むくじゃらのモンスターがフィールドに現れる。

「頼むぜ、相棒!」

『クリ〜♪』

 十代が相棒と呼びし天使。『ハネクリボー』が、一身に注目を集める。

ハネクリボー ☆1
光 天使族 効果 ATK300 DEF200
フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。
発動後、このターンこのカードのコントローラーが受ける戦闘ダメージは全て0になる。

クリボーを()(ふえ) 速攻魔法
自分のデッキから「クリボー」または「ハネクリボー」1体を選択し、
手札に加えるか自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

「ふぇぇ、初めて見たけど可愛い・・・じゃなかった! 『ハネクリボー』には確か、戦闘破壊されたターンのダメージを0にする効果がありましたけど、それも『ウルティメイト・バーニング・バスター』には無力ですよ!」

 栄一の言葉は、負け惜しみではない。彼の言う通り、『ハネクリボー』の力はこの場では無力なのだ。
 『ウルティメイト・バーニング・バスター』は守備モンスターを攻撃した場合、貫通ダメージを相手に与える効果を持っている。それを防がれても、モンスターを戦闘破壊すれば、そのモンスターの攻撃力か守備力分のダメージを与える効果が残っている。
 十代が敗北を防ぐ為には、戦闘自体を遮断しなければ安全とはいえない。
 だが・・・

「いいや。『ハネクリボー』の力を舐めてもらっちゃ困るぜ! 『ハネクリボー』には、『ネオス』と同じく無限の進化の力が備わっているんだ!」

 超絶な力にも負けんと、十代はさらに動く。
 残り1枚の伏せカードへと手をかける。

「この瞬間、速攻魔法『進化する翼』を発動する! 手札の『ネオス』と『アクア・ドルフィン』をコストに、『ハネクリボー』は『LV10』へと進化する!」

「また・・・進化!?」

 さらなる進化を導く、奇跡の魔法カード。それにより『ハネクリボー』の翼が、小さく可愛らしいものから、大きく逞しいものへと成長する。
 そして進化した事を意味するかのように、彼の毛むくじゃらの体には、龍の全身の形をした鎧が装着される。

「進化召喚! 『ハネクリボー LV10』!」

 「進化」。それはまさしく、デュエリストとしての遊城十代を表す言葉。
 それを証明するかのように、このデュエルの中で十代は、数々のモンスターを進化させ、栄一に挑んできた。
 『サイレント・ソードマン』『ネオス』『コクーン』『ネオスペーシアン』。彼らの進化と共に、十代はデュエルを進めた。
 そして最後が『ハネクリボー』。この可愛らしい天使の進化によって十代は、このデュエルを終幕へと導かんとする。

進化(しんか)する(つばさ) 速攻魔法
自分フィールド上に存在する「ハネクリボー」1体と手札2枚を墓地に送る。
「ハネクリボー LV10」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。

「凄ぇ・・・。ちっちゃくて可愛いモンスターだと思ってたのに、こんな強そうなモンスターに進化した・・・」

 呆気にとられる栄一。マスコットのようなモンスターが、フィニッシャーレベルの力が備わっていると思える程の姿へと一気に成長した様を見て、その生命の神秘に驚嘆したのだ。
 だが彼の言葉には、一部訂正が入る。

「「強そうな」じゃないぜ。強いんだ、『ハネクリボー』は!

『クリ〜!』

 「推測」ではない。「断定」だ。
 十代の言葉に応えるかのように、『ハネクリボー』が声をあげる。そして・・・光る。
 これから行われるのは、『ハネクリボー』の強大な力、その行使である。

「『ハネクリボー LV10』のモンスター効果! このカードを生け贄に捧げる事で、相手モンスターを全て破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

「えぇ!? モンスターを全部破壊!? しかもダメージまで!?」

「そうだ! これが、『ハネクリボー』の力だ! いけぇ!!!」

 『ハネクリボー』を中心として生まれた閃光。それは、徐々に肥大していき、仕舞いには『ウルティメイト・バーニング・バスター』をも飲み込んでしまう。



「『ミラクル・オブ・ジ・エボリューション』!」



 "進化の奇跡"による閃光。その力は計り知れない。灼熱の巨人の超絶の力も、全く歯が立たない。

「やっぱり・・・十代さんは強ぇ・・・!」

 灼熱の巨人を消し去った光は、そのまま栄一のライフをも、全て奪い去った。

ハネクリボー LV(レベル)10 ☆10
光 天使族 効果 ATK300 DEF200
このカードは通常召喚できない。
このカードは「進化する翼」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げる事で、
相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊し、
破壊したモンスターの元々の攻撃力の合計分のダメージを相手ライフに与える。
この効果は相手バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

栄一:LP100→LP0













「オレの勝ちだ、栄一!」

「くっそー! 負けたぁぁぁ!」

 デュエルが終わり、勝者と敗者が区別される。
 普通なら、勝者はその勝利に喜び勇み、敗者は敗北の悔しさに苛まれる。勝つか負けるかで、その心を埋め尽くすものは大きく変わってくる。
 だが、この2人は違った。今の彼らに、勝った負けたは関係なかった。共に、同じ感情に耽ていた。

 デュエルを、心より楽しめたという感情に。

「・・・栄一」

 ―――ビシッ!

 十代は右手を伸ばし、独特のポーズを決める。
 それはデュエルが終わった際に見せる、彼オリジナルのポーズ。

 の筈だったのだが。

 ―――ビシッ!

 栄一もまた、十代と同じポーズをとった。

「・・・お前、これを知ってたのか?」

「ハイ。以前、エド・フェニックスさんとデュエルした時に教わりました」

「・・・!? エドともデュエルした事があるのか!」

 そう。先月行われた『フレッシュマン・チャンピオンシップ』に優勝した際、そのご褒美として栄一は、プロデュエリストであるエド・フェニックスとデュエルをさせてもらった。
 そしてそのデュエルが終わった際に、エドが見せたポーズ。それこそ、今、双方がとっているポーズのそれだったのだ。

「・・・ハハ。分かってるなら話は速いな」

 呆気にとられた十代だったが、またポーズをとり直し、改めて自らの本音を栄一に伝える。

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

「俺もです! ガッチャ!」

 栄一も、本音を返してきた。そしてそれは徐々に、互いの健闘を称え合う、清々しい握手へと変わっていく。
 時空を越えて出会った2人。2人は、僅かな時の間で、果てしなく大きいものを紡ぎ合った。
 それは、"真の絆"。2人の立場上、2度と経験できるか分からないデュエル。それを通して2人は、何物にも変えられない"真の絆"を育んだ。
 共に苦しみ、共に喜び合った。同じ時間・空間を共有した。2人が心を通じ合うには、それだけで十分だった。
 そしてこの握手は、2人が育んだものの証明。互いの温もりを感じる事で、その育んだものを再確認する。
 この、有り得なかった筈の出会い。奇跡を、2人は分かち合ったのだ。

 ―――ビシュン!

「「!?」」

 その時であった。一筋の光が、何の前触れもなく天から地上に舞い降りた。

「なんだ!? 新手か!?」

『いや・・・違うニャ』

『これは・・・フフ、どうやら、お迎えのようだよ』

 突然の事に警戒心が強まるが、大徳寺先生と『ユベル』の言葉にそれはすぐに解かれる。
 「お迎えが来た」・・・それはつまり、この世界から脱出できるという事。
 反応した2人は、十代や栄一とはまた違ったベクトルでの直感が働きやすいのか、光が現れた瞬間、すぐにそれを察知した。

『どうやら、2人のデュエルが莫大なエネルギーを生んだようだ。激しいぶつかり合いだったからね。そしてそのエネルギーが、元の世界へと通じる架け橋になったみたいだね』

 そう。精霊の力を操れる者同士、そして強大な力を持つ精霊同士のぶつかり合い。それが生み出したエネルギーは、果てしなく大きなものだった。
 栄一と十代の2人も、当事者だけにそれは既に理解していた。あれだけ何度も、激しい戦闘を繰り返してきたのだ。それによって発生するエネルギーの合計が、微弱なものの筈がなかった。

 そしてそうもしているうちに、その光の柱は、徐々にその面積を拡大していく。
 次第に、彼ら全員をも飲み込んでいき・・・元いた時代同士の間で引き裂いていく。

「・・・どうやら、お別れのようだな」

 十代は悟った。元の世界に帰れるという事は、言い換えればそれは別れの時という事。
 もう少し長く一緒にいたかったが、それはできない。別れがいつしか来るのは、この世の理だ。
 どちらかが譲歩し、片方の世界へと全員で行く。それもできない。何故なら、どちらの世界に行っても、今日ここで出会った同士の彼らとは、また違う彼らがそれぞれの世界で人生を歩んでいるから。同じ世界に、同一人物は2人もいられないから。

「そんな・・・。・・・十代さん! 俺・・・本当に! 本当に! 貴方と会えて嬉しかったです! 一緒にいれて楽しかったです! あ、これも、ありがとうございました!」

 リミットまで残り僅かであろう時間。借りたデュエルディスクを渡しながら惜別の言葉を言う栄一の両目は・・・潤んでいる。
 衝撃的な別れを、彼は一度経験している。だから、この一緒にいる事のできる最後の瞬間が、果てしなく辛いのだ。

「・・・オレもだ。オレも本当に嬉しかったし、楽しかった!」

 十代は再び、「ガッチャ」のポーズを決める。その表情は明るい。
 別れを、悲しいものにしないように。寂しがる後輩を、勇んだ言葉という温もりで抱きしめる。

『また、どこかで会おうよ』

『私達は、きっと君のいる時代でも、変わらず旅を続けているニャ』

「ニャー」

 忘れてはいけない。『ユベル』も、大徳寺先生も、そしてファラオも。再会を約束する言葉を投げかける。
 彼らの暖かい笑顔を見て、栄一も・・・

「・・・ハイ! きっと、またどこかで!」

 寂しさを心の奥に押し込んで、強引に作ったものとはいえ、自身最高の笑顔を見せた。

「そうだ! 十代さん!」

「おう! なんだ?」

 もう、皆の姿が見えるかもギリギリの状況で、栄一は思い出したかのように十代に言葉をかけた。
 その内容は・・・

「十代さんにとって、守りたい大切なものってなんですか!」

「守りたい大切なもの?」

 今の栄一にとっての、最大の問い。恩師から学んだ、絶対な答えの無い問題。

「そうだな・・・それは・・・」

「それは・・・」

 十代が答えかけたその瞬間だった。自らの目の前で閃光が弾け・・・視界が暗転する。ちょうど、この世界に連れて来られた時と同じように。
 どうしようも無いこの瞬間。栄一は再び、流れに身を委ねる事しかできなかった。
































「・・・ここは?」

 栄一は思わず呟いた。そして怪しいものを見るかのように、凝視して周りを見回す。
 見渡す限りのパソコン、パソコン、パソコン。白い壁。太平洋を見渡せる巨大な窓。明るく照らす電灯。

「戻って・・・来れた?」

 見覚えのある部屋。ミスターTの世界に連れ去られるまでいた、デュエルアカデミアのパソコンルーム、その出入り口であった。

「あ、いた! 栄一君!」

「ッ!? 本当だ! 栄一、おま、急に消えて・・・。一体どこに行ってやがったんだよ!」

 聞き覚えのある声。声の出先へ振り向くとそこには、先程まで共にパソコンを眺めていた2人の姿。

「新司・・・慎之助・・・?」

 安心したかのように自分を見つめる、友の姿があった。向こうからすれば、探していた人間が見つかったのだ。安堵の表情を見せるのは当然だろう。
 そして自身の消え入るような呟きを聞いて、さらに心配したのか。新司が両手を栄一の肩に乗せながら、溜息を1つついた。

「なんだよお前・・・急に消えやがって。30分近くも、ずっと探し回っていたんだぞ?」

「しかも、僕の『ネオス』を地面に放ったらかしにしてさ」

「・・・30分?」

 おかしい。明確にカウントはしていないが、ミスターTの世界には少なくとも3時間近くはいた筈だ。だが新司は、栄一が消えたのは30分程度だと言った。
 不気味に思った栄一は、すぐさま部屋にかけられている時計を確認した。・・・1時24分。確かに、連れ去られる直前から、30分程しか経っていなかった。

「(何でだ? もしかして、こっちの世界とあっちの世界じゃあ、時間の流れが違うとか・・・?)」

 身をもって感じた、時間のギャップ。この疑問について色々考えてみたかったが・・・

「・・・栄一、聞いてんのか?」

「あ、あぁ、悪ぃ」

 新司の、軽い怒り口調の言葉に、嫌でも自分だけの世界から離れなければならなくなった。
 そしてこの瞬間、栄一の脳内を渦巻くのは・・・この(目の前の友人達から見ればの)失踪未遂について、どうやって言い訳をするか。
 本当の事を言う訳にもいかない。そんな事を言った時には、身を案じられ、すぐに保健室の鮎川先生の所へ連行されるだろう。
 この特殊な事例について言及する事に関しての結末は、デュエルモンスターズの精霊について周りに尋ねてみた時点で既に理解している。
 友人にこれ以上余計な心配をさせない為には・・・上手い嘘をつくしか、方法はなかった。

「あー、えーと、そのー・・・そ、そう。ちょっと、腹痛めてトイレに行ってたんだよ。『ネオス』のカードも、悪いと思ったけど、それどころじゃなくてさ」

 行方を心配された時のベタな回答「トイレに行っていた」。
 お腹を痛めたので篭っていたと言えば、時間的にも誤魔化せるだろう。
 そう確信して栄一は、我ながら、上手い嘘だと自画自賛した。

「・・・トイレ、いなかったじゃん」

 だが、あくまでそれは、自画自賛に過ぎなかった。
 慎之助の痛烈な論破。そうだ。探し回るという事は、彼らは少なくとも校舎中は見回っている筈だ。
 これは墓穴を掘ってしまった。栄一の頬を、冷や汗が流れる。

「ていうか、なんでそんな考え込んだ上での回答なんだ?」

 続けての新司の問いが、栄一に痛烈に突き刺さる。
 栄一は、自らの回答が上手くも何ともなかった事の恥ずかしさから、立ちくらみを起こしそうになった。
 そして・・・もうどうでもいいや、と。強引に言い訳を展開した。

「あー、そ、そんなの、簡単に言える訳ないだろ。恥ずかしいのに・・・」

「小学生か、お前は・・・」

「悪いか! 腹痛だぜ? 恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!」

 通用した。違うベクトルに墓穴を掘っているような気もしたが、何とか2人が理解してくれている以上、もう背に腹は換えられなかった。

「それにトイレも探したって言うけど・・・どこ探してたんだ?」

「校舎中のトイレは全部探したよ?」

「じゃあ、寮とかは?」

「そこはさすがに・・・時間の都合もあって」

「あ、やっぱり。実は・・・レッド寮の俺の部屋のトイレ使ってたんだ・・・って、こんな恥ずかしい話、これ以上させるなよ!」

「ゴ、ゴメン・・・」

 切り札に1人ボケツッコミまで。やりすぎとも思えるが、話に信憑性を持たせようと頭をフル回転させた結果だ。
 何か大事なものを失った気がしないでもないが、2人もこれ以上追求してきそうにないし、何とk

「そういやお前、なんで泣いてんだ?」

 「もうやめたげてー」。「新司、お前、中々観察力があるな」なんて言ってる暇は無い。
 そういえば、十代と別れる瞬間、自分は涙を流していたではないか。それを、すっかり忘れていた。
 涙は流し切ったと思っていたが・・・栄一は、心の中で再び涙を流した。

「それは・・・開放感から?」

「・・・よくよく考えたら、食後に聞く事じゃなかったな。全く、こんな奴が自分が使っていた部屋を使ってると思うと、遊城十代さんも呆れるだろうな。今どこにいるのかは分からないけど、ここに来てもらって話を聞かせたいぜ」

 新司の言う事はご尤もであった。自分も話していて、恥ずかしいどころか辛くなってきた。
 今まで良くもったものだ・・・と、草臥れたその時であった。

 キーン! コーン! カーン! コーン!

「やべ、予鈴だ!?」

 午後の授業開始5分前。それを知らせるチャイムが鳴った。
 新司や慎之助が、慌てて動き出す。パソコンルームから走って退室する。

「ほら、栄一も急げ!」

「あ、あぁ」

 栄一も、2人につられて教室へと急ごうとした、その時であった。
 突如、疑問が蘇る。

「(ひょっとして・・・俺がミスターTの世界へと連れ去られたのって・・・)」

 疑問。何故自分は、十代が閉じ込められた世界と同じ場所に連れ去られたのか。その世界の創造者であるミスターTですら「分からない」といった事だ。

「(皆が、あの世界から脱出できるようにする為?)」

 その答えが、ふと浮かんだ気がした。
 そう。『ユベル』の言っていた事を信じれば、自分と十代のデュエルで莫大なエネルギーが生まれたからこそ、自分含める全員が、あの世界から脱出する事ができた・・・筈。
 なら、逆に考えれば、脱出のきっかけは十代1人じゃ作れなかった・・・筈。そのきっかけを作る為に、自分はあの世界に連れ去られたのではないか。
 だからこそ、『バーニング・バスター』と、(レプリカとはいえ)『ネオス』のカードが共鳴したのではないか。
 先程新司が十代について触れていた、『ネオス』のカードが健在である、などの事実から考えると、フィクションではよくある「過去に干渉したせいで、歴史が狂ってしまった(十代は元の世界に戻れておらず、既に過去の存在となってしまっている)」とか「今までいた時間軸と別の時間軸に来てしまった(栄一自身が全く違う世界に来てしまった)」という事も無い筈だ。
 おこがましいとは思ったが、栄一は、そう信じて、そんな仮説を立てた。

「・・・って、それどころじゃねぇや!」

 そして、授業に遅れないように、その場を駆け出した。



 起ち上がれ〜♪ 孤独に怯え震えないで〜♪ 仲間が待っている事もう一度思い出せ〜♪



 突如鳴る、携帯電話の着メロ。どうやら、メールが届いたようだ。
 だが急ぐ栄一には、それに気をかけている暇は無かった。

 後に栄一は、そのメールを確認して、驚愕し、安堵し、感動の涙を流す事になる。
 何故なら・・・



 ―――ありがとう、栄一。 by遊城十代



 それが、別れた十代からのメールだったからだ。
 どうやって自分のメールアドレスを調べたのかは分からない。
 だが、十代からのメールという事は確実だった。

 写真だ。十代がミスターTを倒して暫く経った時に、別れの記念にと撮った、全員集合の写真。
 それが、添付ファイルとしてメールに添えられていたのだ。

 その写真には、栄一や十代、ファラオ、実体ではない筈の『ユベル』や大徳寺先生までもが、穏やかで、楽しそうな表情を浮かべて写っていた。








『NEXUS ExtraStory −時を超えた遭遇−』
Fin

『NEXUS 2nd -TRUTH-』へつづく







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