NEXUS ExtraStory −時を超えた遭遇−
前編

製作者:ネクサスさん






目次

10 11







 2月。1年の中でも特に寒いといわれる時期だ。
 一度外に出れば、体の芯まで凍らされてしまう程に強い寒風が人々を襲う。
 それが島、それも小さな孤島なら尚更だ。
 周りが海で囲まれており、終日、冬将軍様が操る最強の凶器と化した凍える海風の恐怖に、人々は晒されるのである。

 といっても、そんな悪魔のような海風も、建物の中に入ってしまえば幾分かはマシになり、その建物に暖房が入っていれば、忽ちそこは孤島のオアシスと化す。
 地獄の寒風に晒される事も無い。それどころか、暖房から吹き続ける暖かい人工の風が、冷え切った人の心も体も温める。時には人々の瞼を重くさせ、たちまち夢の世界へご招待までしてしまう。それ程にこの人工の暖風は、オアシスを形成すると同時に人々の快楽神経を刺激する、寒風とはまた別の意味で人々にとっての凶器なのだ。
 まったく、昔の偉い人はなんて真似をしてくれた事だろう。この素晴らしく、かつ恐ろしい文明の利器、いや兵器を開発してくれた事に、99%の感謝と、1%の殺意の念を込めて、お礼の菓子でも熨斗付けて手渡ししたいぐらいだ。
 この暖房という恐怖の兵器は、まさに人間の欲望の結晶といっても過言ではないだろう。

 さて、話変わってここは、太平洋のとある孤島。そこに建てられている、私設の学校。デュエルアカデミア。
 世界的な人気を誇るカードゲーム、デュエルモンスターズで闘う者達・デュエリストを始めとする、デュエルモンスターズに関する仕事を生涯の生業としようとする少年・少女達を育成する、デュエルモンスターズの為の学校である。

 世界的巨大企業・海馬コーポレーションが設立しただけあって、生徒の育成環境は一般の学校と比べても飛び抜けて優れているといえる。
 それは、デュエリスト1人1人の実力を底上げする為の設備や、デュエルモンスターズに関する資料が多く揃えられており、まさに「デュエルモンスターズを学びたいならココ!」と言わしめる程、デュエルモンスターズの事を詳しく学べるだけでなく、普通科の高校に通う生徒達と同等の授業も行われ、一般教養が疎かになるといった事は断じてない・・・という事だけが理由ではない。
 校舎自体の環境もそうである。今、校舎全体には暖かい空気が吹いており、生徒達は快適なアカデミア・ライフを過ごす事ができている。
 こんな素晴らしい環境を生み出しているのは何なのかと聞かれると、言わずもがな。文明が生み出した兵器・暖房である。
 暖房から吹き続ける暖かい人工の風が、冬の校舎自体を最高の育成環境に整えているのである。

 そしてアカデミアの校舎、そのパソコンルーム―――勿論、暖房がこれでもか、という程に効いている―――で、その暖房の恩恵をありがたい程に受けながら作業を行っている少年達が、3人程いた。
 パソコンのうちの1台を使用して、何らかの情報を引き出しているようである。
 ちなみに現在、午後12時50分。ちょうど、昼休憩の時間だ。

 パソコンの画面を、操作している少年の後ろから見つめ続けているのは、この物語の主人公、明石(あかし)栄一(えいいち)。アカデミアの寮の1つ、オシリスレッド寮に所属する1年生だ。
 今日も、その赤い制服が良く似合っている。

「よしっ! これだな!」

 パソコンを慣れた手つきで操るのは、栄一の友人である迫水(さこみず)新司(しんじ)。アカデミアの寮の1つ、ラーイエロー所属の1年生。
 求めていた情報の検索指定が完了し、楽しそうにキーボードのエンターキーを押した・・・というより勢い良く叩いた。何故?

「ほら、ここ! この1行見てみなよ!」

 ディスプレイに映し出された情報の1部分を指差しながら興奮するのは、新司と同じくラーイエロー所属の1年生、上原(うえはら)慎之助(しんのすけ)
 新司とは、中学時代にとあるデュエルモンスターズの大会で対戦した事がある。このアカデミアで再開を果たし、度々話し合っている仲なのである。

 今、ディスプレイに映し出されているのは、デュエルモンスターズのデータベースサイトの1枚のカードに関する紹介ページ。
 その1枚は、世界で最も有名で貴重なカードのうちの1枚とされている、ある1人のデュエリストのみが所有する、日本の特撮ヒーローをイメージしたヒーローのカード。

 『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス』。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス ☆7
光 戦士族 通常 ATK2500 DEF2000
ネオスペースからやってきた新たなるE・HERO。
ネオスペーシアンとコンタクト融合することで、未知なる力を発揮する!
※公式デュエルでは使用できません

 あるデュエリスト―――このデュエルアカデミアの卒業生であり、栄一にとっては寮の先輩でもある、伝説のデュエリスト―――遊城(ゆうき)十代(じゅうだい)
 そしてその彼ただ1人が所有し、彼の象徴といっても過言ではないモンスターこそ、この『E・HERO ネオス』である。

「間違いじゃなかっただろ? ここに記述されている所持者のうちの1人が、僕って訳!」

 興奮気味に言葉を続ける慎之助。そして自身のデッキケースから取り出すは、五重スリーブという念入りすぎる程頑丈に仕舞われた1枚のカード・・・今、ディスプレイに表示されている、世界で1枚しかないと言われている筈のカード。

「スゲェ! 『ネオス』だ! カード自体を生で見るのは初めてだぜ!」

 『E・HERO ネオス』のカードである。

「カード自体って・・・レプリカだよ? ちゃんと下に書いてあるだろ? 『公式デュエルでは使用できません』って」

 そう。慎之助の持っている『ネオス』は、あくまでレプリカのカード。ディスプレイに表示されているページの記述通りに説明すれば、これは数年前に海馬コーポレーションが直々に行った懸賞の賞品である。
 『E・HERO ネオス』は、海馬コーポレーションの「デュエルモンスターズのカードを宇宙に飛ばす事で、その宇宙の波動を取り入れさせ、デュエルモンスターズのさらなる進化と発展を狙う」という、オカルト染みたものを嫌う海馬(かいば)瀬人(せと)社長が考案したものとは到底思えない企画によって宇宙に飛ばされ、その力を得たカードと言われている。
 そしてその『ネオス』を手にしたデュエリスト・遊城十代の活躍を記念して、後に抽選で100名の少年・少女に『ネオス』のレプリカを配布するという企画が行われた。
 つまり慎之助は、その100枚のレプリカ『ネオス』のうちの1枚を手にした強運の持ち主、という訳である。
 ちなみに彼、このカードを当てる為にハガキを10000枚送ったらしい。

「遊城十代さんかぁ・・・。一度会ってみたいなぁ。そしてデュエルもしてみてぇ!」

 慎之助から手渡された『ネオス』のレプリカを力強く掴みながら、慎之助につられて興奮する栄一。
 そのまま『ネオス』を傷つけてしまいそうな状況にある事には気付いていない。

 その瞬間だった。

 ――キィーン!

「えっ!?」

 共鳴した。

「(『ネオス』と・・・『バスター』? どういう事だ?)」

 『ネオス』と、栄一の持つ彼の切り札『E・HERO バーニング・バスター』のカードが。確かに、そう感じた。
 新司と慎之助は、ディスプレイに集中していて気付いていないようだ。
 すぐさま、腰に提げたデッキケースから『バーニング・バスター』のカードを取り出す栄一。
 鼓動を感じる。確実に。『ネオス』と『バーニング・バスター』の両方から。

「これは・・・!?」

 次の瞬間だった。体が一瞬、宙に浮いたように軽くなったと思ったら視界が暗転。
 栄一は訳が分からないまま、流れに委ねざるを得ない形となった。

 ――ビシュン!



「・・・という訳だな。なぁ、栄一?」

 ディスプレイからその視線を外し、後ろに立つ栄一の方へと振り向く新司。
 しかし・・・

「・・・アレ? 栄一君、どこにもいないんだけど」

 慎之助の言う通りそこには、さっきまで一緒に居た筈の栄一の姿は無かった。

「・・・本当だ? おーい! 栄一ぃぃぃ!?」

 不思議な話だった。栄一がどこかにいったような気配は全くしなかった。突然、フッと消えてしまったのだ。
 理解し難いこの現状に、新司も慎之助も混乱する他無かった。

 そして栄一が居た筈のそこには、五重スリーブに包まれた慎之助の『ネオス』のカードが当たり前のように落ちていた。
































「・・・ここは?」

 気付いた時、栄一は来た事も見た事もないような場所に立っていた。
 見渡す限りの地平線。あちらこちらに草は生えているが、基本的には荒野。
 人工の建築物など、視界を凝らして見渡しても、とてもあるようには思えなかった。
 そして当たり前のように、自分以外の人の気配もなかった。

「どこなんだよぉぉぉぉぉ!!!!! ていうか何で俺こんな所にいるんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」

 もう訳が分からなかった。栄一が居たのはパソコンルーム。新司や慎之助と共に。
 なのに、『ネオス』と『バーニング・バスター』それぞれを見つめていたら、気付けばここにいた。
 『バーニング・バスター』のカードは手にしっかりと握っているが、何時の間にか『ネオス』のカードは無くなっていた。無くしたのなら後で慎之助に対して、頭を地面にこすり付けて全力土下座で平謝りしないといけないが、そもそもここには慎之助がいない。

『・・・ここは、デュエルアカデミアじゃないのは確実だな』

「冷静な分析とかいらねーから! ていうか『バスター』、お前なんかした!?」

『いや・・・私にも何が何だか分からないのだが・・・』

 突如現れた、『バーニング・バスター』の精霊。空気を読まない冷静な発言が、栄一のツッコミを呼ぶ。
 言い忘れていたが、デュエルモンスターズのカードにはそれぞれに精霊が宿っているというオカルト染みた話もあり、栄一は実際にその精霊を見る事のできる能力を所持している。精霊と会話するなど朝飯前のお茶漬けだ。
 今回の騒動は、そもそも『ネオス』と『バーニング・バスター』を見比べていた時に起こった。だから、『バーニング・バスター』に聞けば何か分かる事があるかも・・・と栄一は期待したが、残念ながら『バーニング・バスター』自身もこの現状を理解できていないようだ。

「どうすんだよ・・・。いきなり未知なる世界に吹っ飛ばされて、そのままそこでおっ死んじまうとか、笑い話にもなんねぇぞ・・・」

 今の栄一の所持品。デッキ、財布、携帯電話、PDA(アカデミアの電子生徒手帳)。以上。
 財布には1000円程のお金が入っているが、そもそもここが日本かどうかすら怪しい。日本円は、基本的に日本国でしか通用しない。
 ここが仮に海外だとすれば、この財布の中のお金は忽ちただの紙切れもしくは銅やアルミニウムの塊と化す。そして栄一は、通貨の両替方法を知らない。知っていたとしても、それを行える場所、それどころかそもそも人工の建物が周りには無い。

「そうだ! 電話だ電話! 誰か繋がってくれ・・・!」

 そう言いつつ、栄一はポケットから携帯電話を取り出し、繋がる事を信じて電話をかけた。

 プー プー プー・・・

 繋がらなかった。取り合えず、アドレスブックに登録している人間に片っ端から電話をかけてみたが、誰も繋がらない。というより、電波が届かない。ここが日本であるという可能性が、いよいよ絶望的になってきた。

「こうなったら最後の切り札・・・!」

 PDA。ここからでも、連絡を取る事はできる。本来ならば・・・。

『・・・充電ぐらい、マメにしておくべきだったな』

「・・・放っておいてくれ」

 頼みの綱のPDAは、栄一を嘲笑うかのように見事に充電が切れていた。日頃の行いの悪さが、最悪の場面で露呈してしまった。

「・・・マジでどうしよ。絶望したってレベルじゃねーぞ」

 まだ試合終了という訳ではないが、栄一本人の結論は既に「絶体絶命」だった。
 解決手段は分からない。助けは来そうにない。栄養補給源もないので、持久戦に持ち込む事もできない。
 簡単に諦めるなど、栄一にとっては珍しい事だが、自分以外の人気を全く感じない現状では、そんな結論に至るのも仕方が無い・・・のかもしれない。
 「訳も分からないまま、訳の分からない場所で、俺は死ぬのか」。
 既に最悪の結末しか、栄一は考える事ができなかった。





「そこのお前、こんな所で何をしている?」

 その瞬間だった。背後から聞こえる声。人の気配すら全く感じなかった筈の世界で聞こえた、男性の声。

「誰!?」

 救援の声? 突然の声に驚嘆し、そして喜びを露にしながら、栄一は振り向いた。

「・・・お前、ひょっとして、デュエルアカデミアの生徒か!?」

 振り向いた先にいた男もまた、驚嘆の表情を浮かべていた。しかし栄一もまた、その男の正体にさらに驚嘆する。
 その筈、今、彼の目の前にいるのは、暫く前まで彼自身が会いたがっていた男。

「貴方は・・・遊城、十代さん!? 本物!?」

 独特な型の茶色い髪の毛。凛とした鋭い目つき。栄一と同じオシリスレッドの赤い制服が良く似合っている青年。
 伝説のデュエリスト、遊城十代その人だった。

「あ、あぁ、オレは遊城十代だけど・・・って、オレの質問に答えろよ!」

 自身の問いかけを遮っての栄一の発言に、十代は思わずツッコミを入れてくる。
 そのツッコミに、自身の無礼にハッと気付いた栄一。

「す、すみません! 俺、明石栄一と言います! デュエルアカデミア、オシリスレッドの1年生です!」

 すぐに謝罪と自己紹介の言葉を述べた。
 だが、その強張った栄一の発言に、十代は呆気にとられている。

「あ、あぁ、悪ぃ。別に怒ってる訳じゃない。そこまで畏まらなくてもいいよ。オレもまさか、人に会えるとは思ってなかったから驚いてさ。そうか、オレが卒業した後に入って来た後輩か。会える筈も無いヤツに会えるなんて、なんかくすぐったいなぁ」

 1人で感慨に耽る十代。今の言葉で全部解決したかのように思っており、余計な心配をする必要がないのだ。
 だが一方で栄一は、十代の言葉に疑問を浮かべていた。
 栄一を落ち着かせるように配慮した十代の言葉だったのだが、その途中に挟んだ言葉が、現状の栄一にとってとても大きなものだったのだ。

「人に会えるとは思ってなかったって、どういう事ですか!?」

 食ってかかる栄一の態度に、十代は思わず面食らう。状況が分かっていないので当然とも言えるが。

「あ、あぁ。実はちょっと、色々ややこしい事になっててさ。ていうか、そうだ! そうじゃねぇか! そう考えたら、ひょっとしてお前もオレと同じ状態に・・・?」

 栄一は首を傾げる。曖昧な反応だが、それを見て十代は、自身の推測が間違っていない事を確信する。
 十代は、自身に何があったかを説明し始めた。



 十代は、デュエルアカデミア卒業後、世界各地へと旅に出た。自身の力を役立てる道を探す為に。
 親しい友人達にすら別れを告げずに始めた、風の向くまま気の向くまま、まさに気まぐれといった言葉が相応しい、絶対なゴールの無い旅である。

 それは、突然の出来事だった。
 たまたま日本に帰ってきていて1ヶ月程経った日の事。帰ってきた理由は、言語についてである。
 元々気まぐれな旅なので、流れに任せて色々な国の色々な地域を回っていた。が、十代は基本的に日本語しか分からないので、各地でコミュニケーションを取るのに苦労した。
 事ある毎に彼は、ボディーランゲージと「この世界の共通言語である」笑顔で解決して来た。が、それでも限界はある。
 そこで出直す為、そして、彼の独特の第六感が騒いだ為、一度日本に帰ってきていたのである。

 事件は、急に起きた。
 その辺の自然公園の木陰で休息を取っていた時、突然、視界が暗転した。それは本当に一瞬の話で、気付いた時、その先に見えた光景は、既に自分がいた筈の公園ではなかった。
 見渡す限りの荒野。人工物など見る影も無い。今まで自分が旅してきたどことも違った。
 それを証明するものは何も無かったが、十代はその瞬間、確信した。何よりも強い、彼独特の第六感が囁いていたからだ。

 ここは、地球上のどの世界でもない。そして、自分はこの世界に閉じ込められたのだ、と。

「で、仕方が無く、何かここから出る方法を探す為に暫く歩いていたんだ。2時間か3時間ぐらいかな? そうしたら、世界の真ん中で塞ぎこんでいるお前を見つけたってわけ」

 事件か何かに巻き込まれたという事は明らかなのに、それをやけにあっさりと話す十代。きっとこれまでも、多くの怪事件・事故などに巻き込まれてきた経験があるのだろう。
 だがしかし、そんな理由を知る由も無い栄一には、十代の話の中身とそれを話す態度は不自然過ぎた。

「な、なんで、閉じ込められたって分かるんですか? ていうか誰に? 何でそんなに落ち着いていられるんですか!?」

 矢継ぎ早の質問攻め。凄い勢いで自らに食いかかってくる栄一を、十代は両手で押さえながら宥める。

「落ち着けって! まぁ、なんだ。言ったら笑われるかもしれないけど、オレにはそういう力があるんだ」

『そう。ボクを通して発揮される、言わば対超常現象のような力がね』

「!?」

 栄一は驚愕した。十代の言葉を継ぐように述べる、女性の声が聞こえたから。そして同時に、悪魔のような姿をした「何か」がその漆黒の翼を広げながら、十代から分裂するように栄一の目の前に現れたから。

「『ユベル』! いきなり出てくんなよ!」

『どうやら彼、ボクを見る事が出来るみたいだからさ。なら、直に説明した方が早いと思ってね』

 栄一を他所に喋り合っている、十代と『ユベル』と呼ばれた悪魔のような姿をした恐らく女性の「何か」。

「それ・・・もしかして、デュエルモンスターズの精霊?」

 その『ユベル』と呼ばれた者の姿を見て、栄一は思わずそう口にした。

『それ、とは失礼な』

「その話は後だ『ユベル』」

 栄一の言葉が気に食わなかったのか『ユベル』。
 栄一に反抗しようとするが、すぐに十代に止められる。

「『ユベル』の姿が見えて、しかも『ユベル』がデュエルモンスターズの精霊だと理解しているという事は、ひょっとして栄一、お前も?」

「はい。俺も多分、十代さんと同じです。デュエルモンスターズの精霊が見えます」

 そう。精霊が見えるからこそ、栄一は目の前にいる『ユベル』が、デュエルモンスターズの精霊だとすぐに理解する事ができた。
 同時に、十代も自分と同じく、精霊を見る事のできる存在である、という事も。
 瞬間、栄一のデッキケースから飛び出し、彼らの目の前に現れるは、栄一の象徴である灼熱の戦士の精霊。

「これが俺のヒーロー、『E・HERO バーニング・バスター』です!」

『宜しく』

 栄一も精霊が見える、という事を証明するかのように参上し、一礼する『バーニング・バスター』。
 それを見て十代は・・・

「『バーニング・バスター』・・・。コイツが・・・」

 1人で、納得するように頷いていた。

「十代さん? どうかしました?」

「あ、いや、何でもないよ。珍しいヒーローを持ってるんだなぁと思って」

「知ってるんですか? 『バスター』の事を?」

「世界で2枚しかないカードだって事までは知ってるよ。たまたま、知る機会があったからな」

「へぇ〜。結構有名なんだな、『バスター』って」

 つい先日まで、『バーニング・バスター』が世界に2枚しか存在しないという事すら知らなかった奴が何を言う。

「証拠も見せてもらったし、精霊が見えるなら話は早いな」

 栄一と『バーニング・バスター』を見比べるようにしながら、十代は言葉を続ける。

「さっきお前が言ったように、オレもカードの精霊を見る事ができて、まぁ、その、なんだ。色々あって、その精霊の力を行使する事もできる」

 「こんな風にな」と言いつつ十代は、自分の荷物からデュエルディスクを取り出し、それを左腕に装着する。

「ニャァァ」

「ファラオ。ちょっと待ってろ。勝手にどこかに行くなよ」

 同時に荷物から飛び出てきたのは、ファラオと呼ばれた虎柄の太っちょの猫。
 十代に頭を撫でられたファラオは、その場にどっしりと鎮座した。

「改めて。じゃあいくぞ、栄一!」

 十代の瞳の色が、近くに立っている『ユベル』と同じ・・・右目がオレンジ、左目が水色に変色する。所謂オッドアイというやつだ。
 そして同時に、展開したデュエルディスクに、デッキから取り出した1枚のカードを叩き付ける。

「・・・その闇を、正しき力として具現化しろ! 『E・HERO ネオス』!」

 瞬間、その場に現れるは、白を基調とした逞しい体の特撮ヒーローを連想させる戦士。悪しきものと勘違いされやすい闇を、正しい方向へと導きし者。
 この世界に飛ばされるまで、栄一達の話題の中心にあったヒーロー、『E・HERO ネオス』だった。

「これが・・・本物の『ネオス』! カッチョイィ〜」

 夢が叶った瞬間。本物の『ネオス』を初めて間近で見る事ができ、栄一はこの上なく興奮する。

『ハァッ!』

 『ネオス』は現れた瞬間、胸の水晶のような物から光線を発射する。
 その光線はまさに実体を帯びているようで、命中した岩を粉々に粉砕した。

「スゲェ・・・」

『強力だな』

 岩が粉砕される様を見て、栄一も『バーニング・バスター』も、十代と『ネオス』の力に素直に感嘆の溜息を漏らした。

「とまぁ、こんな感じだ。精霊の力の行使、そして超常現象を察知する力。他にも色々あるけど、これがオレの持っている力だ」

 デュエルディスクを畳みながら説明を続ける十代。
 その十代に、ファラオがその図体からは考えられない程身軽なジャンプを披露しつつ飛び込んで来た。
 十代はよろけながらも、何とか上手くファラオをキャッチした。

「それは、『ユベル』が十代さんにそんな力を与えている、という事ですか?」

 既に元の色に戻っている十代の瞳を見て、栄一はこう推測した。
 十代の瞳の色が変わっている間、彼は『ユベル』の力を借りているのでは、と。

『ニュアンスはちょっと違うかもしれないけど、実質的にはそうだね』

「色々あってな。『ユベル』がいるからこそ、こんな力を使えるってのは間違いじゃない。こんな力があるから、超常現象にもある程度は早めに順応できる」

 「解決法まで即座に察知できたらいいんだけどな」と言って十代は肩をすくめた。
 さすがにそこまで虫の良い話は無い、という事だろうか。

「じゃあ、どうしましょう。このままじゃ俺達、この訳が分からない世界に閉じ込めr」

 グゥ〜

 栄一が必死に訴えようとしている最中、そのリズムを崩すような間抜けな音が響き渡った。
 音の出所は・・・勿論、栄一。その腹の虫。

「・・・取り合えず、メシだな」

 十代は、苦笑いを浮かべながらそう言った。












 その辺の崖にもたれながらのランチタイム。
 十代は再び自分の荷物を漁ると、中から2つの包装されたパンを取り出し、うち1つを栄一に手渡した。

「ほら、食えよ」

「あ、ありがとうございます。なんかスミマセン・・・」

「気にすんな。腹が減ったら戦はできぬ、だからな」

 そう言いつつ十代は、早速パッケージを開け、中のパンを頬張っている。
 ふと、パッケージに印刷されているパンの名前が目に入る。『巨大エビフライパン』。
 どうやらランチスタイルのパンのようだが、あまり見かけた覚えは無い。
 ついでに栄一は、自分が手に持つパンの名前も確認する。やっぱり、『巨大エビフライパン』。
 どうやら十代は、エビフライが大好物のようだ。

「珍しいパンですね、これ」

 憧れの人の子供らしい一面を確認しながら、パッケージを開けようとしたその瞬間であった。
 たまたま目に入った消費期限の日付。そこには、4月30日という日付が印刷されていた。

「!?」

 おかしい。詳しい事は知らないが、こういった市販のパンの類の消費期限は、店頭に置かれてから長くても2、3日程度の筈だ。
 そして今日は、2月3日の筈だ。携帯を開けて日付を確認したから間違いない。これは、消費期限を大幅に過ぎているどころの話ではない。

「十代さん・・・今日は2月3日・・・ですよね?」

 栄一は念の為、恐る恐るながら十代に尋ねてみた。
 もしこの問いと答えが食い違っていたら、大変な事態である。

「何言ってんだ栄一? 今日は4月29日だろ?」

 そして十代の答えは、残念ながら栄一の期待に添えるものではなかった。

「え・・・そんな・・・・・・!? すみません十代さん、失礼ですけど・・・今、年幾つですか?」

 自分の言う日付と、十代の言う日付が食い違っているという事は、それは非現実的な推測ができるという事であり、尚且つそれが今、現実に起こっているという事だ。

「オイオイ。さっきからどうしたんだ? オレは今19歳。オレ達と入れ替わりで、お前達が入学して来たんだろ?」

 頓珍漢な質問をしてくる栄一の質問に、十代は呆れながら答えた。
 だがしかし、その十代の答えが、この話をさらにややこしくする。

「・・・!? 違います・・・。えっと、年齢から考えたら・・・俺が入学したのは、十代さんが卒業してから7年後の筈なんです!」

「・・・!? なんだってぇぇぇぇぇ!? えっ、という事は、オレとお前がここに連れて来られる前にいた時間は違う、という事か!?」

「は、はい・・・」

 しかも、それは数日や数ヶ月単位の誤差どころではない。その事が、栄一の「自分の勘違いであって欲しい」という願いが込められた質問に対する、十代の返答によって、たった今、証明されてしまった。

「年齢的に言えば、そうなるみたいです・・・」

 慌てふためいている自分がいる一方で、十代の問いに冷静に答える事ができている自分もいるという事実が、栄一は恐ろしかった。
 こんな事には慣れているから・・・なんてそんな事ある訳がない。彼自身の推測が正しければ、要は彼は過去の世界に飛ばされた、所謂タイムスリップというやつを経験したという事になるが、そんな創作の世界でしか有り得ないような事、過去に経験している筈がない。

 そういえば先月の初め、アカデミア内で行われた1年生同士のトーナメント大会『フレッシュマン・チャンピオンシップ』にて、友人であるオベリスクブルー所属の少女、北条(ほうじょう)(ひかり)とデュエルした時、一瞬、過去のアカデミアの光景が栄一の目の前に映し出されたという事があったが、あれは彼自身がタイムスリップした訳ではなく、あくまで光の持つモンスター『サイバー・エンド・ドラゴン』が見せたビジョンであると栄一は結論付けている。
 実際に栄一は、そこにいた人達に触れる事ができなかったし、そこにいる人達も、突如現れた筈の栄一という存在を気にかけている様子もなかった。何より、彼自身が精霊を見、彼らとコンタクトを交わす事ができるという事も、それが『サイバー・エンド・ドラゴン』の見せた過去のビジョンである、という彼自身の推測を裏付ける事ができていた。

 しかしこれは、あくまで栄一単独の推測である。こんな夢物語みたいな話、他の人に語ったら笑われてしまう。笑われるだけならまだいい。「疲れてるのか?」と余計な心配をかけてしまう可能性もある。それにそもそも根本の話、精霊を見れる事自体、特殊なのだ。当然のように、同い年の友人に精霊を見れる、と栄一に同意できる者は1人もいない。先輩には、分かっているだけで水原(みずはら)(まもる)天童(てんどう)宇宙(そら)という、アカデミアのツートップと呼ばれる存在が精霊を見れるという事を確認しているが、結局つまりは、確認できるだけでは精霊を見れるのは自分含めて3人だけ、である。

 という訳で、栄一はこの件についてはこの1ヶ月間、誰にも話していない。周りが理解してくれないのではなく、自分が異質だからと理解しているからだ。
 もしかすると目の前にいる十代のように、精霊に触れるという、普通では有り得ない事が可能になっている時点で、こういった非現実的なイベントに実際に直面しても、ある意味での冷静さを保てているのでは・・・なんて考えてみたら、それだけで栄一は背中がゾッとした。この世界は暑い程に日が照っているのに、全身に寒気を感じてしまった。

「『ユベル』、何か分かるか?」

『ボクが何でも知ってると思うなよ。意図的に仕組まれたものだ、という推測はできるけどね』

 期待を込めての十代の問いかけだが、『ユベル』も推測程度の答えしか出せない。だが、その推測は的を射ているだろう。
 そう。活動している時間軸の違う2人が同じ場所に連れて来られた、という事には意味がある筈だ。
 流れ的にそうなってしまった、というのなら兎も角(仮にそうなら、これ程理不尽で支離滅裂な話もないだろうが)、犯人は何らかの理由があって2人をこの世界に連れて来たと考えるのが自然だ。

「一体、どういう事なんだ・・・?」

「分かりません・・・」

 五里霧中とはこの事か。食事もそっちのけで2人が真剣に悩み始めた・・・その時だった。

『・・・!? 気をつけるニャ! 何か気配がするニャ!』

「なんだ!? 今度は誰!?」

 突如聞こえてきた、新たな男性の声。栄一はその場で飛びのく程に驚くが、事態はそれどころではなかった。

『来るニャ!』

 瞬間、空の彼方から飛んでくるは・・・黒い、まるでエネルギーの塊のようなもの。物凄い勢いで、2人目掛けて一直線に突っ込んでくる。

「え!? えぇぇぇぇ!?」

「危ない! 下がってろ栄一!」

 展開が急すぎて、パニック状態に陥る栄一。その間にも塊はグングンと近づいてくる。
 刹那のタイミング。危険と判断した十代は、すぐさま自分の荷物から「何か」を取り出し、栄一の前に立ち、そして・・・

 ギィィィン!

 手に取った「何か」で、突っ込んできた塊を見事に受け止めた。
 凝視する限り、どうやら刀―――それも竹刀―――のようだ。剣道で使われるあれである。

「くっ! このぉ!」

『これは面倒くさい事になったねぇ』

「言ってる場合か『ユベル』!」

 そのまま打ち返して場外ホームランと行きたいところだが、そうはいかない。中々押し返す事ができない。塊のパワーもかなりのものだ。
 十代の打ち返そうとする力と、塊の押し潰そうとする力。今はほぼ互角だが、このままでは人間である十代の方が分が悪い。人間には体力・精神力に限界がある一方で、ただの物体である塊にはスタミナなど関係ない。別の力が働かない限りは同じ力で攻め続ける事ができるからだ。

『栄一君! デュエルディスクだニャ!』

「え!?」

 十代と塊の一進一退が続く中、また聞こえる声。発生源が特定できないだけに疑いの念を払えないが、そのうちにもその声はドンドン指示を出してくる。

『デュエルディスクを展開して、十代君のデッキケースの一番前のカードをセットするニャ!』

「えっ・・・ええええ!? 何か! よく分かんないけど!」

 パニック状態を解消できた訳ではないし、疑いの念が晴れた訳でもない。だが全霊をかけて塊を受け止めている十代の姿を見ると、彼が危機的状況にある事は分からない訳がなかった。だから今は兎に角、指示の声を信じる事にした。
 十代の荷物から彼のデュエルディスクを取り出し、左腕に装着・展開する。そして同時に取り出したデッキケースから、1枚のカードを取り出し・・・そのままディスクにセットした。

 ブーン!

 瞬間、現れるは、『ネオス』よりさらに体格が良くなり、装備も重装備、体の色合いも派手になっている、まさしく「騎士」と呼べる存在。右手に持つ持ち手の両先に刀身がある剣と、左手に持つ巨大な盾が、彼をまさに「騎士」たらしめている。
 そして騎士が現れた事を気配で察知したのか、十代が何とか横目でこちらを向き、礼の言葉をかけてくる。状況的にはそれどころではないだろうに。

「サンキュー、大徳寺先生! 栄一!」

 どうやら自らに向けて指示を出していたのは、大徳寺という人物らしい。十代が当たり前のように礼を言うのだから、どうやら敵ではないようだ。
 姿は見えないけど、栄一は取り合えず納得し、指示と自分のした事が間違いでなかった事に安堵した。
 瞬間、十代の両瞳が、また『ユベル』と同じオッドアイとなる。そして召喚された騎士の面影が、十代と重なり合う。

「『ラス・オブ・ネオス・スラッシュ』!」

 ギィン!

 一進一退の攻防に決着がついた。まさしく一心同体も同然の十代と騎士が、塊の強力なパワーにも負けず、その手に持つ竹刀で見事に塊を打ち返したのだ。

「すっげぇ・・・」

 一瞬になって星になった塊を見て栄一は、十代と騎士のそのパワーに感嘆の溜息を漏らした。

「助かったよ、栄一。それに大徳寺先生」

 十代がそう言うと同時に、傍にいたファラオの口から小さな光が飛び出し・・・同じくして眼鏡をかけた長身の男性の幻影?のようなものが現れる。

「・・・!? 貴方が・・・大徳寺先生? え? お化け!?」

 カードの精霊を見た事はあっても、お化けのような存在は見た事が無い。普段精霊と気軽に話している人間が何を今更ではあるが、栄一は若干の寒気を覚えていた。

『その話は後だニャ。本陣が来るニャ』

 だがその反応も、大徳寺先生は遮る。栄一達に向けて塊を放ってきたと思われる存在の気配を、感じたからだ。



「精霊の力を、そこまで柔軟に使いこなす事ができるとは。半年程でさらに厄介な存在になったものだね、遊城十代」

 聞こえるは、しゃがれた男性の声。同じくして、栄一達の周りを黒い霧のようなものが走る。

「これは・・・まさか!?」

『そのようだニャ』

 どうやら十代達は、この黒い霧のようなものの正体を知っているようだ。警戒を強めている。
 黒い霧は彼らの周りを一周した後、彼らと数mの距離を置いてそこに留まる。
 そしてそれらは徐々に集まっていき・・・人の形を形成する。形成されたのは、サングラスをかけた黒ずくめの男。

「・・・カード!?」

 栄一は見逃さなかった。男の姿になる直前、黒い霧が一瞬だけ、デュエルモンスターズのカードに変わった事を。

「そう。奴は、デュエリストの思いが込められていなかったカードが集まって作られた、闇からの使者。・・・ミスターT!」

 そう叫ぶ十代の両拳は、力強く握り締められている。まるで、怒りに震えているように。

「御紹介ありがとう遊城十代。後ろにいる君は・・・どうやら、はじめましてだね。改めて自己紹介しよう。今、御紹介に与ったように、私の名前はミスターT。まぁ、固有の存在ではないので、実際には名前は無いのだがね。『真実を語る者・トゥルーマン』。その頭文字を取って、ミスターTと名乗らせてもらっている。デュエリストの思いが込められていなかったカードが集まって・・・というのも、実質的には間違ってはいないかな?」

 嘲た口調で目の前の男・・・ミスターTは言う。

「デュエリストの思いが込められていなかったカード?」

 十代やミスターTの言う言葉が引っかかる。
 何となく表現が曖昧のような気がして、分かるようで分からない。

「そう。カードには1枚1枚にデュエリストの感情がこもっている。だが中には、そのデュエリストの感情が反映されなかったカードも存在するんだ。残念だけどな。そしてヤツはそれらのカードが集まってできた「負」の存在。『真実を語る者』なんて名乗って、人を闇で取り込み、消し去ろうとしている面倒くさい連中さ」

「闇の・・・世界・・・?」

 十代の説明を聞いても栄一は、何となくとしか理解できなかった。
 実情を知らない栄一にとってはファンタジー色の強い話なので、曖昧にしか理解できないのだ。

「あぁ。ちょうどオレの時間軸で、オレ達がアカデミアを卒業する直前ぐらいの時期だ。何か、変なデュエルに巻き込まれた覚えはないか?」

「えっ・・・えぇぇ?」

 十代が言おうとしている事は、彼らがアカデミアを卒業する直前に起きた、人間がこの世界から消滅させられそうになった『ダークネス事件』の事。その時に人々を襲ったのが、目の前にいるミスターTだ。
 彼らはデュエルを通じて、人々の心の闇をそれぞれ引き出し、そのまま闇に取り込もうとした。世界中の人々を闇の中で1つに帰し、この世界を終わらせようとしたのだ。
 十代はその事を曖昧に伝えたのだが、栄一は全く分かっていないようだ。
 伝え方が悪いのではない。根本的に、何の話をしているのか理解していないようだった。

「説明の途中で悪いが、さっさと本題に入らせてもらおうか」

 痺れを切らしたのか、噛み合わない彼らの会話にミスターTが横槍を入れてきた。
 そして自らの左腕を変化させる。刺さるようにセットされたカードの束や、5ヶ所のカードゾーンが見える。どうやら、デュエルディスクのようだ。

「まだ諦めてなかったのか?」

「言った筈だ。我々は人の心の闇が存在する限り、何度でも蘇る」

「しつこい連中だな。ヤプ○ル人かよ・・・」

 ミスターTの執念の如きしつこさに、十代は呆れながらも、ある意味での敬意も抱いていた。「よくやるもんだ」と。

「ていうか我々って・・・こんな変な奴がまだいるの・・・?」

 細かい所に気付いた栄一。目の前にいる男が大量に増殖する様を想像して、吐き気に近いものを覚えた。

「我々は固有の存在ではないからね。そしてその我々の完全なる復活の為には、崇高なるダークネスを倒した遊城十代、君は邪魔だ。悪いが、君にはこの世界で永遠の時を過ごしてもらおうか」

 十代を指差すミスターT。サングラスをかけているのでその表情を見る事はできないが、十代に対する怒り、そして憎しみの感情がこもっている事は、その口調から分かる。
 だが、怒っているのは十代も一緒だ。

「じゃあその邪魔なオレを消す為に、栄一は必要だったのか? 関係ない奴を巻き込む必要はあったのか?」

 そう。ミスターTの喋り方からすると、彼の目的は十代の筈だ。わざわざ栄一を巻き込む必要性は無い。
 だが・・・。

「栄一? あぁ、その少年の名前か。・・・・・・何故だろうな?」

 ミスターTは、答えようとしなかった。栄一という存在の必要性を「分からない」と言ったのだ。

「とぼけるな! お前が連れて来たんじゃないのか! オレと栄一をこの世界に!」

「待て、正直に話そう。彼がここにいる理由は、私にも分からない。これは本当の話だ」

 ミスターTがしらを切っているように見えたのか、十代は怒鳴り倒したのだが、それでもミスターTは答えを変えない。
 右手を顎に当てて考え込んでいる。どうやら本当に分からないようだ。

「どういう・・・事だ?」

『分からないね。だが『完全なる復活』を目論んでいるという事は、まだ奴は『不完全な状態』という事。ひょっとしたらそのせいで、ボクらを拉致する際にイレギュラーな事態が発生してしまったのかもね』

「じゃあ俺がこの世界に連れて来られたのって、マジで原因不明・・・って事?」

『残念だけど、奴が言ってる事が本当ならそういう事だね』

 『彼の考え込み方がわざとやっているようには見えないし、間違いないだろうね』と『ユベル』は続ける。
 彼らをこの世界に拉致したミスターT本人すら原因が分からないという結論が出てしまった事で、栄一が何の為にこの世界に連れて来られたのか、についての答えは闇に埋もれてしまった。

「まぁ、ここにいる以上、君にも遊城十代と同じ運命を辿ってもらう事になるがね」

「うっ!?」

 開き直ったような口調で、栄一を指差しながらミスターTは言う。
 そして十代の方へ向き直り、自らのデッキから5枚のカードを取り、手札とする。
 つまりは、デュエルを強要している、という事だ。

「この世界は実質的にお前の手中。ならデュエルで、逆にお前を屈服させるまで!」

 十代もまた、栄一からデュエルディスクを受け取りそれを展開、デッキから5枚のカードを手札に取る。
 自分達の推測に間違いが無く、かつ、ミスターTの言う事に嘘は無いと仮定すると、この世界はミスターTの作り出した世界。彼らはデュエルをもって、人々を侵略する。ならば、そのデュエルで彼を屈服させれば、この世界からの脱出や、栄一の問題の解決も可能な筈だ。

「君が勝てば、全員をこの世界から解放しろ・・・か。だが逆に君が負ければ、君はこの世界を永遠に彷徨う事になる。それは理解しているね?」

「あぁ、分かっている!」

「「デュエル!」」

 彼らの、果ては世界の命運が懸かっているであろうデュエルが今、始まった。

ミスターT:LP4000
十代:LP4000




「私の先攻。『ダブルコストン』を攻撃表示で召喚。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 ミスターTのフィールドに現れたのは、黒い、双子のお化けのようなモンスター『ダブルコストン』。
 その名の通り、アドバンス召喚する際に、2体分のリリースモンスター(コスト)として使用できるモンスターだ。

ダブルコストン ☆4
闇 アンデット族 効果 ATK1700 DEF1650
闇属性モンスターを生け贄召喚する場合、
このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。

「『ダーク・アーキタイプ』は使わないのか?」

「『ダーク・アーキタイプ』を主軸にした戦法は既に君に筒抜けだ。それに、いつも同じ戦法で挑むのも芸が無いからね」

 十代の問いかけに、ミスターTはそう答えた。
 「常識に拘らないのが自分のプレイスタイル」とミスターTは言い放った事がある。なら、今までのミスターTとのデュエルを通じて得た「ミスターTの常識」も、捨て去らなければならない。
 十代の頬を、緊張の汗が流れた。

「『ダーク・アーキタイプ』?」

『以前、十代が奴と闘っていた時の奴の主戦モンスターで、戦闘破壊された時、プレイヤーが受けたダメージと同じ攻撃力を持つモンスターを特殊召喚できるモンスターさ。コストが馬鹿にならないから、使い辛いモンスターではあるけどね』

 聞き慣れないカードの名前に、栄一は首を傾げ、『ユベル』の解説に素直に耳を傾けた。

ダーク・アーキタイプ ☆4(アニメGXオリジナル)
闇 魔法使い族 効果 ATK1400 DEF400
このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合、効果を発動する事ができる。
この時受けたプレイヤーの戦闘ダメージと同じ攻撃力を持つモンスター1体をデッキから選択し、
選択したモンスターのレベルと合計が同じになるように手札のモンスターを墓地へ送る。
選択したモンスター1体を特殊召喚する。

ミスターTLP4000
手札4枚
モンスターゾーンダブルコストン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「例え戦法が大きく変えられていようと関係ない! オレのターン!」

 代わって十代のターン。
 初めて間近で見る十代のデュエル。元祖『HERO使い』のプレイを見逃してはならぬと、彼のその一挙手一投足を栄一は凝視する。

「来い! 『(ネオスペーシアン)・アクア・ドルフィン』」

 現れたのは、人間と同じようなボディスタイルで、2本足で立つイルカの戦士。
 十代ただ1人が持つ「宇宙の波動を受けた」と言われるヒーロー。『(ネオスペーシアン)』。その中の「水」の力を得た戦士『アクア・ドルフィン』だ。

(ネオスペーシアン)・アクア・ドルフィン ☆3
水 戦士族 効果 ATK600 DEF800
手札を1枚捨てる。相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択する。
選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールド上に存在する場合、
選択したモンスターカードを破壊して相手ライフに500ポイントダメージを与える。
選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールド上に存在しない場合、
自分は500ポイントダメージを受ける。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「これが、生『ネオスペーシアン』!」

『生って言われるのは、なんか良い気分じゃないね・・・』

「うぉ! 返事してくれた!」

 憧れのモンスターが目の前にいるという事実に興奮しすぎて、栄一は自分でも理解していない言葉を口走ってしまっている。
 その言葉に、『アクア・ドルフィン』本人が反応してくれた様を見て、栄一はさらに興奮する。

「『生』はちょっとな・・・。けど『アクア・ドルフィン』の効果を見たら、さらに興奮すると思うぜ!」

『あぁ!』

 十代は、その手に持つカードを1枚墓地へと送る。同時に、『アクア・ドルフィン』がその口から奇妙な音波を放つ。その音波が、ミスターTの手札を曝け出す。

「『エコー・ロケーション』。お前の手札を確認させてもらうぜ、ミスターT!」

「おのれぇ!」

ミスターTの手札:
『天帝使−リドル』
『ゼロ・スプライト』
『スペース・ワーパー』
『女神の誘惑』

天帝使(てんていし)−リドル ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1200 DEF1200
???

ゼロ・スプライト 通常罠(アニメGXオリジナル)
発動後このカードは装備カードとなり、自分フィールド上に存在するモンスター1体に装備する。
装備モンスターの元々の攻撃力は0となり、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

スペース・ワーパー ☆1(オリジナル)
闇 魔法使い族 効果 ATK0 DEF0
???

女神(めがみ)誘惑(ゆうわく) 通常魔法(アニメGXオリジナル)
相手の手札を確認してレベル4以下のモンスターが存在する場合、
その中から1体を選択して相手フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

「よし! お前の手札には『アクア・ドルフィン』以下の攻撃力の『スペース・ワーパー』がいる! よってそのカードを破壊し、500ポイントのダメージを与える! 『パルス・バースト』!」

 『アクア・ドルフィン』の音波を受け続けた『スペース・ワーパー』のカードが、その場で爆発する。
 手札確認(ピーピング)手札破壊(ハンドデストラクション)。これこそ、『アクア・ドルフィン』の真骨頂である。

ミスターT:LP4000→LP3500

「そしていくぜ! 魔法カード『オーバーソウル』発動! この効果により、墓地の『E・HERO ネオス』を特殊召喚する!」

「来た! 『ネオス』だ!」

 蘇るは、白き戦士。日本の特撮ヒーローを模した姿の、逞しきヒーロー。十代の象徴『E・HERO ネオス』。
 真打の早速の登場に、場は大いに盛り上がる。闘いの舞台が、『ネオス』によって支配される。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス ☆7
光 戦士族 通常 ATK2500 DEF2000
ネオスペースからやってきた新たなるE・HERO。
ネオスペーシアンとコンタクト融合することで、未知なる力を発揮する!

(オー)−オーバーソウル 通常魔法
自分の墓地から「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。

「『アクア・ドルフィン』との連続攻撃で、私のライフを奪うつもりか」

「いや、すぐに拝ませてやるよ。『ネオスペーシアン』と『ネオス』のさらなる力を!」

「来る!?」

 『ネオス』と『アクア・ドルフィン』が飛び上がる。瞬間、様変わりするフィールド。

「コンタクト融合! 来い! 『アクア・ネオス』!」

 宇宙空間。その果てに2体のヒーローが消えていく。そして閃光。
 『ネオスペーシアン』と『ネオス』の奇跡のコンタクトによって行われる、新たな融合手段。「コンタクト融合」。
 そのコンタクト融合にて、『アクア・ドルフィン』の水の力を得た蒼いヒーロー。『アクア・ネオス』がフィールドに現れた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) アクア・ネオス ☆7
水 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「E・HERO ネオス」+「N・アクア・ドルフィン」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
手札を1枚捨てることで相手の手札1枚をランダムに選択し破壊する。
この効果は1ターンに1度しか発動できない。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。

「これが・・・コンタクト融合!」

 十代のターンが進んでいく毎に、栄一の興奮度もさらに増していく。
 手の舞い足の踏む所を知らずとはこの事か。自らの状況も忘れて栄一は、十代のデュエルに釘付けだ。

「『アクア・ネオス』のモンスター効果発動! 手札を1枚コストに、お前の手札1枚を破壊! 『エコー・バースト』!」

 『アクア・ネオス』のその両瞳から放たれた光線は、ミスターTの手札のうちの1枚『天帝使−リドル』を見事に打ち抜いた。

「そしてバトルフェイズ! 『アクア・ネオス』で『ダブルコストン』を攻撃! 『ラピッド・ストーム』!」

 続くは、『アクア・ネオス』の掌から放たれた音波の嵐。『ダブルコストン』へと向けて猛進する。

「そうはさせん。トラップカード『暗黒武闘会』。このターンの戦闘を強要する代わりに、戦闘モンスターは破壊されない!」

暗黒武闘会(あんこくぶとうかい) 通常罠(アニメGXオリジナル)
このターン、全てのモンスターは攻撃表示となり、戦闘を行わなければならない。
この戦闘ではモンスターは破壊されない(ダメージ計算は適用する)。

「だが、ダメージは受けるんだろ?」

「ぬぅ!?」

 『ダブルコストン』をすり抜けた音波が、そのままミスターTにダメージとなって襲い掛かった。

ミスターT:LP3500→LP2700

「でも十代さん、どうするんだろう?」

『確かに、ちょっと焦りすぎかもしれないねぇ』

 栄一達が心配するのは、コンタクト融合の弱点についてである。
 コンタクト融合体は、エンドフェイズ時にエクストラデッキに強制的に戻ってしまう効果を持っている。おそらく、『ネオス』の元ネタとなった特撮ヒーローの、地球での活動時間が3分に制限されている事が由来なのだろう。
 そして十代は、そのコンタクト融合の為に後攻第1ターンから手札を大量消費している。『アクア・ネオス』がエンドフェイズにエクストラデッキに戻る事を考えると、お世辞にも良策とは言えない行動だ。

『まぁ、策はあるんだろうけどね』

 からかっているのか。それとも全幅の信頼を置いているのか。『ユベル』は軽い口調でそう言った。

「心配してくれてサンキューだけど、『ユベル』の言った通り、まだ策はあるぜ」

 栄一達の会話をしっかり耳にしていたのか、素直な反応が十代から返ってきた。
 それを聞いて『ユベル』は、口元を意地悪そうに緩める。やっぱりからかってるみたい。

「速攻魔法『コンタクト・アウト』!」

 発動されるは速攻魔法。行われるは『アクア・ネオス』の融合解除。
 『アクア・ドルフィン』と『ネオス』がそれぞれ、十代のフィールドに恰好つけて着地した。

コンタクト・アウト 速攻魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「ネオス」と
名のついた融合モンスター1体を融合デッキに戻す。
さらに、融合デッキに戻したモンスターに記された
融合素材モンスター一組が自分のデッキに揃っていれば、
この一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

「『暗黒武闘会』は考えていなかったぜ・・・。だが、ルールはルールだもんな。『アクア・ドルフィン』! 『ネオス』!」

 『アクア・ドルフィン』が音波を放ち、『ネオス』が『ダブルコストン』に飛び掛る。

十代:LP4000→LP2900

「くぅ!」

 当然、攻撃力600の『アクア・ドルフィン』では『ダブルコストン』の攻撃力1700には届かない。十代は反動でダメージを受ける。だが幸か不幸か『暗黒武闘会』の効果で『アクア・ドルフィン』は破壊されない。
 モンスターを戦闘で失う事はないが、その代償としてライフは削られる。奇妙でやりきれない感がある損得勘定である。

「だが『ネオス』の攻撃も成立だ! 『ラス・オブ・ネオス』!」

 『ネオス』の力を込めたチョップが、『ダブルコストン』にお見舞いされる。『ダブルコストン』は破壊されないが、ミスターTにダメージを与える事はできた。

ミスターT:LP2700→LP1900

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ。さぁ、貴様のターンだぜ、ミスターT!」

ミスターTLP1900
手札2枚
モンスターゾーンダブルコストン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP2900
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ネオス(攻撃表示:ATK2500)
N・アクア・ドルフィン(攻撃表示:ATK600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「縦横無尽の召喚劇・・・。やっぱ十代さんスゲェー」

『元々手札消費が荒いデュエリストだからね、十代は。尚更派手派手しく見えるんだろう』

「・・・『ユベル』は十代さんを応援してるの? それとも貶してるの?」

『黄色い声援だけが、応援とは限らないだろ?』

「・・・え?」

「外野は黙っていてもらえないかね。今は私のターンだ」

 騒がしい栄一達の会話に、ミスターTがまた横槍を入れる。最早、半分デュエルとは関係の無い話だったので、彼の言う事もご尤もではあるが。

「さて、初手からやりたい放題やってくれたが、そのお返しをしなくてはね」

 ドローしたカードを確認しながら、ミスターTは言う。好き放題されたお礼、利子つけて返さねばと躍起になる。
 瞬間、フィールドの『ダブルコストン』が、その力を発揮しながらその場から消滅する。

「『ダブルコストン』を2体分の生け贄とし、このモンスターを召喚する。出でよ、『ダーク・ホルス・ドラゴン』!」

 その翼も、尾も、隼のような頭部も。全身が漆黒で塗られた、天空神。ミスターTが使うモンスターらしく、全てが闇に染められた黒炎竜。『ダーク・ホルス・ドラゴン』が、全てを暗闇で包み込む。

ダーク・ホルス・ドラゴン ☆8
闇 ドラゴン族 効果 ATK3000 DEF1800
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手のメインフェイズ時に魔法カードが発動された場合、
自分の墓地からレベル4の闇属性モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「この攻撃は、さすがの『ネオス』も耐えられまい。いけ、『ダーク・ホルス・ドラゴン』! 『ブラック・ギガ・フレイム』!」

 放たれるは、黒き闇の炎。黒炎竜の名前に相応しき炎が、『ネオス』に襲い掛かる。

「って、オレがそう簡単に攻撃を通すと思うか? 速攻魔法『コマンドサイレンサー』! これでお前の攻撃宣言は無効だ!」

 そしてそれを防がんと鳴り響くは、『アクア・ドルフィン』の放ったそれに似た、けたたましい音波。

「うわ!? 相変わらずこの音はキツ・・・ってぐへぇ!?」

 思わず耳を塞いだ栄一に、ファラオが飛び掛ってくる。見事な不意打ちの鳩尾攻撃に、栄一は悶絶する。
 そういえば、さっきの『アクア・ドルフィン』の効果の時にもファラオは1匹で慌てふためいていた。猫だけに、人以上にこういった音波には敏感なのだろう。

コマンドサイレンサー 速攻魔法(アニメDMオリジナル)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
その後、自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「むぅ・・・。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 『コマンドサイレンサー』の音波が鳴り止んでも、ミスターTはもどかしそうな表情を解かなかった。
 『コマンドサイレンサー』のけたたましさ以上に、通らなかった攻撃が悔しいようだ。

ミスターTLP1900
手札1枚
モンスターゾーンダーク・ホルス・ドラゴン(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP2900
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ネオス(攻撃表示:ATK2500)
N・アクア・ドルフィン(攻撃表示:ATK600)
魔法・罠ゾーンなし

「とは言っても、攻撃力3000は厄介だな・・・。オレのターン・・・!」

 十代が強い理由。不利な状況に陥っても、逆転する術を導き出せる事。
 トップ解決と言ってしまえばそれまでだが、望んだカードを導き出せる力は、何よりも脅威だ。

「『N・フレア・スカラベ』を召喚! さらに魔法カード『スペーシア・ギフト』を発動!」

 『アクア・ドルフィン』の横に現れた2体目の『ネオスペーシアン』。
 炎の力を得た、タマオシコガネのヒーロー。『フレア・スカラベ』。
 現れたその瞬間、同時に発動された魔法カードに、『アクア・ドルフィン』と共に力を与える。

(ネオスペーシアン)・フレア・スカラベ ☆3
炎 昆虫族 効果 ATK500 DEF500
このカードの攻撃力は、相手フィールド上の
魔法・罠カードの枚数×400ポイントアップする。

「オレのフィールドの『ネオスペーシアン』は2種類。よって2枚ドロー!」

スペーシア・ギフト 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「N」と名のついた
モンスター1種類につき、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「だが『ダーク・ホルス・ドラゴン』のモンスター効果を忘れてもらっては困る。私は墓地からレベル4のモンスター・・・『天帝使−リドル』を特殊召喚する」

 ミスターTも負けじと、布陣を固める。現れたのは、「謎」の名を持つ天使『リドル』。厄介なモンスターの登場に、十代は顔を顰める。

天帝使(てんていし)−リドル ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1200 DEF1200
???

「分かっていた事だけどな・・・。さっさと片付けさせてもらうか」

 ミスターTの伏せたカードが『ゼロ・スプライト』もしくは『女神の悪戯』である事は、『アクア・ドルフィン』の効果で確認済みだ。
 どちらも、攻撃を妨害するようなカードではない。攻め時なのに間違いは無い。

「『フレア・スカラベ』の効果、『フレイミング・イリュージョン』により、『フレア・スカラベ』の攻撃力はお前のフィールドの魔法・罠カード1枚につき400ポイントアップするが・・・」

N・フレア・スカラベ:ATK500→ATK900

「『ダーク・ホルス・ドラゴン』を倒す為に、さらなる力を発揮させてもらうぜ!」

 瞬間、今度は『フレア・スカラベ』と『ネオス』が、形成された宇宙空間の果てへと吸い込まれていく。
 そして発された閃光は、新たなヒーローをフィールドに出現させる。

「コンタクト融合! 来い! 『フレア・ネオス』!」

「来た! 2回目のコンタクト融合!」

 黒、そしてオレンジを基調にしたボディ。『ネオス』が炎の力を手にした姿、『フレア・ネオス』。
 新たな興奮を呼び起こすヒーローが、フィールドに現れた。

「カードを1枚セット! 『フレア・ネオス』は、お互いのフィールドの魔法・罠カードの数だけ攻撃力がアップする!」

 そして、お互いのフィールドにセットされたカードが熱エネルギーに変換され、『フレア・ネオス』に力を与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレア・ネオス ☆7
炎 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「E・HERO ネオス」+「N・フレア・スカラベ」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
このカードの攻撃力はフィールド上の魔法・罠カードの枚数×400ポイントアップする。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。

E・HERO フレア・ネオス:ATK2500→ATK3300

「いけ! 『フレア・ネオス』! 『バーン・ツー・アッシュ』!」

 攻撃宣言。『フレア・ネオス』が飛び上がり、灼熱の炎球を『ダーク・ホルス・ドラゴン』へと放つ。

「くぅぅ! またしても!?」

 その炎球は、反撃の黒炎ごと『ダーク・ホルス・ドラゴン』を包み込む。
 燃え盛る炎は、黒き竜を、灰になるまで燃やし尽くす。

ミスターT:LP1900→LP1600

「『アクア・ドルフィン』を守備表示に変更してターンエンド。この瞬間、『フレア・ネオス』は融合デッキに戻る」

 ターン終了と同時に、その身を光らせ、『フレア・ネオス』は十代のディスクへと吸い込まれていった。
 本当は優秀なアタッカーとして手元に残しておきたいのだが、ルールはルール。効果は効果。仕方が無いものは仕方が無かった。

ミスターTLP1600
手札1枚
モンスターゾーン天帝使−リドル(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP2900
手札1枚
モンスターゾーンN・アクア・ドルフィン(守備表示:DEF800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚




 序盤からの激しい競り合い。デュエルは始まったばかりだというのに、些細な一手でも決め手となる可能性を孕んだ展開が繰り広げられている。

「私のターンだ」

 ドローしたカードを見てほくそ笑むはミスターT。
 瞬間、まるで出来レースのようなコンボが、フィールドで披露される。

「魔法カード『生け贄の代償』。フィールドの『リドル』を生け贄に捧げる事で、私はカードを2枚ドローする」

()(にえ)代償(だいしょう) 通常魔法(ハピフラシリーズオリジナル)
自分のフィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
自分はデッキからカードを2枚ドローする。

「そしてコストとなった『リドル』の効果を発動。先ずはカードを1枚ドローしたまえ」

 ミスターTに導かれるように、十代はカードをドローする。
 これから行われるは、ミスターTのデッキに眠る「謎」の解答。

「ドローを終えたか。では私はカードの種類を1つ宣言させてもらう。モンスターカードを宣言。そしてデッキの一番上を確認させてもらう」

 ミスターTは冷静にデッキから1枚のカードを引き、それを確認する。

「・・・君にとっては残念な結果となったな。このカードはモンスターの『WWF(ダブダブエフ)』!」

「チッ! さっさとそのカードを手札に加えな」

「『リドル』の効果を知っていたか。なら、効果にはまだ続きがある事も承知という訳だ。現れろ、『天帝使トークン』!」

 ミスターTのフィールドで、『リドル』を一回り小さくしたような天使が2体、守備の体勢を取る。
 これぞ、『リドル』の力。謎解きに成功した者には、莫大な成功報酬を与えてくれる。

天帝使(てんていし)−リドル ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1200 DEF1200
このカードが魔法カードの効果または魔法カード発動時の
コストとして墓地へ送られた場合発動する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。
自分はカードの種類(モンスター・魔法・罠)を1つ宣言し、
デッキの一番上のカードを確認する。
そのカードの種類が宣言したカードの種類と同じ場合、
そのカードを手札に加え、自分フィールド上に「天帝使トークン」
(天使族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
違う場合はそのカードをデッキの一番下に戻す。

天帝使(てんていし)トークン ☆1(オリジナル)
闇 戦士族 トークン ATK0 DEF0

「まるで出来レースのようなコンボだな・・・」

 わざわざ先程の地の文を復唱してくれるが、そう愚痴を吐きでもしなければ、今の十代はやっていられないのだ。
 何故かは、フィールドの2体の『天帝使トークン』を糧にして現れる上級モンスターが証明してくれる。

「2体の『天帝使トークン』を生け贄に、『WWF(ダブダブエフ)』を召喚する」

 現れたのは、全身が漆黒の闇で塗られた人型の何か。「鋼の錬○術師」に登場する「真理」の全身が真っ黒に染まったような姿を想像してくれれば、それが一番近いであろう存在。

WWF(ダブダブエフ) ☆8(オリジナル)
闇 悪魔族 効果 ATK0 DEF0
???

「ここで手札の『女神の誘惑』を発動する。さっき君に手札を見られた、そのお返しをさせてもらおうか」

「根に持ってたのかよ・・・。ほらよ」

 悪態をつきながら十代は、ミスターTへとその手札の中身を公開する。
 自分が先にやっておいて言うのもなんだが、手札を相手に見られるというのは、やはり良い気分ではない。

十代の手札:
『N・グロー・モス』
『スペーシア・ギフト』

「では『グロー・モス』を特殊召喚してもらおうか」

「・・・そういう事か」

 女神の誘いによって現れたのは、3体目の『ネオスペーシアン』。光の力をその身に宿したヒカリゴケのヒーロー『グロー・モス』。
 この誘いを見て十代は、ミスターTのやろうとしている事を、全て理解してしまった。

女神(めがみ)誘惑(ゆうわく) 通常魔法(アニメGXオリジナル)
相手の手札を確認してレベル4以下のモンスターが存在する場合、
その中から1体を選択して相手フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

(ネオスペーシアン)・グロー・モス ☆3
光 植物族 効果 ATK300 DEF900
このカードが戦闘を行う場合、相手はカードを1枚ドローする。
この効果でドローしたカードをお互いに確認し、
そのカードの種類によりこのカードは以下の効果を得る。
●モンスターカード:このターンのバトルフェイズを終了させる。
●魔法カード:このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●罠カード:このカードは守備表示になる。

「十代さんが言ってる事って一体・・・?」

『結構厄介な状況になったって事さ』

 しかしデュエルを見守る栄一は、カード情報に乏しいのか、十代の言葉の意味を理解していないようである。新たな『ネオスペーシアン』が現れた事に興奮する事も忘れて、首を傾げている。
 そんな栄一を見て『ユベル』が、呆れ口調ながら助け船を出した。

『本当に出来レースみたいな展開だね。『WWF(ダブダブエフ)』を中心に、ここまででミスターTが曝け出したカードが総動員で十代を襲ってくるよ』

「そんな・・・それって凄く不味い事じゃあ・・・」

『まぁ、見てたら分かるよ』

 相変わらず、口の悪い『ユベル』。だが、何だかんだで十代と会話が噛み合っている『ユベル』が言うのだからと、栄一は、『ユベル』の言う通り事の顛末を黙って見守る事にした。

「フフフ・・・。ではバトルフェイズといこうか。『WWF』で『アクア・ドルフィン』に攻撃!」

 反撃の狼煙は上がる。地獄の戦闘の開始を意味する、ミスターTの高らかな宣言が響き渡る。

『・・・』

 も、それに反して『WWF』は、何のアクションをも起こさない。だが・・・

『ぐあっ・・・!?』

「くっ・・・『アクア・ドルフィン』・・・!」

 異変は、しっかりとフィールドで起こっていた。
 何の前触れもなく、その場で『アクア・ドルフィン』が消滅していったのだ。

十代:LP2900→LP2300

「え!? 何もしてないのに『アクア・ドルフィン』が!? しかも十代さんのライフまで削られている!?」

 ミスターTの宣言と同時に、『アクア・ドルフィン』が独りでにその場で苦しみ、消滅していった。その唐突な展開に、栄一は頭を抱える。

『あれが、『WWF』の攻撃と効果なんだニャ・・・』

「それは、どういう・・・」

 その姿を見て、線香花火のような光の大徳寺先生が再びファラオの口から飛び出し、栄一に説明する。

『あいつは、戦闘時に相手モンスターの攻撃力を0にし、その攻撃力を自分のものとしてしまうニャ。しかもモンスターは強制的に攻撃表示に変更されてしまうから、ダメージも避けられないニャ』

「そんな・・・」

「その通り。『ウィニング・ウィズアウト・ファイティング』。所謂「無手勝流」というやつだよ」

 大徳寺先生の説明に上乗せして、ミスターTが補足する。
 「無手勝流」。つまり、武器を取って、もしくは己の体術を使っての戦闘を行わずして勝利する事。
 何もせぬままに勝利する。だから、その実情を知らない栄一は、『アクア・ドルフィン』が独りでに消滅していったと思ってしまったのだろう。

WWF(ダブダブエフ) ☆8(オリジナル)
闇 悪魔族 効果 ATK0 DEF0
このカードは特殊召喚できない。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手モンスターは全て表側攻撃表示となる。このカードが戦闘を行うダメージ計算時に1度だけ、
このカードの攻撃力を相手モンスターの攻撃力と同じ数値にし、相手モンスターの攻撃力を0にする。
この効果はダメージステップ終了時まで続く。
このカードの攻撃力は、このカード以外のカードの効果によって変動しない。
また、このカードの戦闘によって発生する戦闘ダメージは0にならない。

『実質的に相手に自滅の道を強要する戦術は、ボクの専売特許だ。気に食わないねぇ』

 人を見下すかのように仁王立ちする『WWF』と、嘲笑うかのような表情を浮かべるミスターTを見て、『ユベル』は顔を顰める。
 だがそれでもミスターTは、その姿勢を変えない。強気に攻めてくる。

「強がりを言っているのも今のうちだ。トラップカード『ゼロ・スプライト』。これで『WWF』は2回攻撃を行える。『グロー・モス』を攻撃!」

ゼロ・スプライト 通常罠(アニメGXオリジナル)
発動後このカードは装備カードとなり、自分フィールド上に存在するモンスター1体に装備する。
装備モンスターの元々の攻撃力は0となり、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

「くっ! やっぱりか!」

 ピーピング。そしてミスターTが『WWF』を召喚した時点で、十代はここまでの展開を読んでいた。それだけに、そのもどかしさは倍増する。
 だがだからといって、『WWF』の攻撃をただ指を加えて眺めている訳にはいかない。最後の防波堤、『グロー・モス』の効果を発揮させる。

「『グロー・モス』の効果発動! 相手はカードを1枚ドローし、そのカードの種類によって『グロー・モス』は新たな効果を得る! 『シグナル・チェック』!」

 本来、『グロー・モス』の効果というのは、相手にドローをさせるという時点で非効率極まりないものである。使用したプレイヤーがメリットを得る可能性が低いという事も、それを助長させている。
 だが、パッと見たらデメリット要素が強い効果でも、時にはメリットに転じる時もあるのだ。

「私がドローしたのは『ダーク・クリエイター』だ」

 モンスターカード。よって『グロー・モス』の赤・緑・黄色のシグナルのうち、黄色が光る。

「モンスターの場合は、バトルフェイズを終了する!」

 そう。モンスターカードを引いた際のバトルフェイズ終了の効果。押している状況でのこの効果は水差し以外の何物でもないが、防戦の現状においては、これ程引いて嬉しい効果もそうそう無いのである。

「やってくれるな遊城十代。カードを2枚セットして、ターン終了だ」

ミスターTLP1600
手札1枚
モンスターゾーンWWF(攻撃表示:ATK0)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
ゼロ・スプライト(装備:WWF)
十代LP2300
手札1枚
モンスターゾーンN・グロー・モス(攻撃表示:ATK300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

『厄介な効果を持つ元々の攻撃力が0のモンスターに、装備モンスターの攻撃力を0にする代わりに2回攻撃能力を持たせる『ゼロ・スプライト』を装備して殴る・・・。やっぱり、ボクの戦術の二番煎じじゃないか。こんな相手に負けるなんて事は、さすがにないだろうねぇ十代』

 自身が確立した戦術をなぞるかのように仕掛けてくるミスターTの行動に、『ユベル』はご立腹の様子だ。
 横で見る栄一はさっきから、色々な意味で気が気でない。

「あぁ、任せとけ!」

 だがそんな焦りも、サムズアップと共に誇らしい表情を見せながら、頼もしい口調で応える十代の姿を見ると、一気に吹き飛んでしまう。
 この人ならと思えてしまう絶対なる信頼感、カリスマ性。やはり、遊城十代は凄い人だ。
 栄一は、目を輝かせながらそう思った。

「オレのターン! ・・・『N・エア・ハミングバード』を召喚する!」

 ドローしたカードを確認すると、そのままデュエルディスクに叩き付ける。
 瞬間、現れるは、翼を広げた紅い身体のヒーロー。「ハチドリ」という名前からはとても想像できない程に長身の、風の力を得た『ネオスペーシアン』。『エア・ハミングバード』である。

(ネオスペーシアン)・エア・ハミングバード ☆3
風 鳥獣族 効果 ATK800 DEF600
相手の手札1枚につき、自分は500ライフポイント回復する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「2枚目の『スペーシア・ギフト』を発動!」

 『ネオスペーシアン』専用の強力なドローソース。フィールドにいる2体の『ネオスペーシアン』の力を受け、十代は2枚のカードを手にする。

「よし、これだ! 魔法カード『NEX(ネオスペーシアンエクステント)』を発動!」

 十代の手札に舞い降りたうちの1枚は、『ネオスペーシアン』の力をさらに引き出し、進化させる魔法カードだった。
 瞬間、フィールドの『グロー・モス』の身体に変化が起こる。そのシンプルな体つきが、スリムな女性のような体つきへと変化していく。雌雄同株のヒカリゴケだからこその、納得の変貌である。

「『グロー・モス』よ、『ティンクル・モス』へと進化しろ!」

 『ティンクル・モス』。それが、光の『ネオスペーシアン』である『グロー・モス』が進化した姿であった。

(ネオスペーシアン)・ティンクル・モス ☆4
光 植物族 融合・効果 ATK500 DEF1100
このカード名はルール上「N・グロー・モス」としても扱う。
このカードは「NEX」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードが戦闘を行う場合、自分はカードを1枚ドローする。
この効果でドローしたカードをお互いに確認し、
そのカードの種類によりこのカードは以下の効果を得る。
●モンスターカード:このターンのバトルフェイズを終了させる。
●魔法カード:このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●罠カード:このカードは守備表示になる。

NEX(ネオスペーシアンエクステント) 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
「N」と名のついたモンスター1体を墓地へ送り、
墓地へ送ったカードと同名カード扱いの
レベル4モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

「『ネオスペーシアン』は進化する事で、その効果もさらに強力になる! バトルフェイズだ! 『ティンクル・モス』の効果を発動! オレはカードをドローし、その種類によって『ティンクル・モス』は新たな力を得る!」

 『ティンクル・モス』の目の前に、再び赤・緑・黄色のシグナルが現れ、それぞれ点滅。そして十代のドローに合わせて、その点滅が止まる。
 最終的に光り続けていたのは、緑のシグナルだった。

「オレが引いたのは魔法カード『速攻召喚』! よって『ティンクル・モス』は、ダイレクトアタックできる!」

 緑のシグナルが示すのは、プレイヤーへの直接攻撃の許可。青信号という事だろうか。
 攻撃を許可された『ティンクル・モス』の投げつけた光の槍が、ミスターTを襲った。

ミスターT:LP1600→LP1100

 しかし、この戦闘で重要なのはそこではなかった。このターンにドローした全てのカード。それらを組み合わせる事で、打倒『WWF』の布陣が完成したのだ。

「いくぜ! 速攻魔法『速攻召喚』! この効果により、オレは手札の『N・グラン・モール』を攻撃表示で召喚する!」

 速攻魔法の力により、本来なら有り得ない筈のバトルフェイズに通常召喚されたのは、モグラの姿をした5体目の『ネオスペーシアン』。
 両肩にドリルを装備した、地のヒーロー。『グラン・モール』である。

速攻召喚(そっこうしょうかん) 速攻魔法(アニメGXオリジナル)
手札のモンスター1体を通常召喚する。

『『グラン・モール』か。さすが十代、引きが良いねぇ』

「えっ!? 引きが良いって、どういう事?」

『栄一君、『グラン・モール』の効果は知ってるかニャ?』

「『グラン・モール』の効果って、確か・・・ダメージ計算を行わずに『グラン・モール』自身と・・・・・・そうか! そういう事か!」

 『ユベル』と大徳寺先生の教導によって、栄一も十代の好プレイを理解した。
 そう、『グラン・モール』には、ダメージ計算を行わないまま両モンスターを手札に戻してしまう効果がある。
 『WWF』の効果は、ダメージステップに入ってこそはじめて力を発揮するものである。ならば、『WWF』を排除するには、戦闘は行っても、ダメージステップに入らなければいいのだ。

(ネオスペーシアン)・グラン・モール ☆3
地 岩石族 効果 ATK900 DEF300
このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、
ダメージ計算を行わず相手モンスターと
このカードを持ち主の手札に戻す事ができる。

「いけ! 『グラン・モール』! 『ドリル・モール』!」

 重ね合わせた両肩のドリルを使って、『グラン・モール』は地面に潜り込む。
 次に『グラン・モール』が姿を現したのは、『WWF』の目の前。そのドリルで『WWF』の身体を突いた瞬間、『WWF』と『グラン・モール』は、互いの持ち主の手札へと戻っていった。
 厄介な『WWF』は排除できた。これでミスターTのフィールドはがら空きだ。

「『エア・ハミングバード』で、ダイレクトアタックだ! 『ホバリング・ペック』!」

「くっ!?」

 『エア・ハミングバード』が、その翼で鮮やかに空中を舞った後、ミスターT目掛けて急降下する。そしてその鋭い嘴によって、ミスターTの懐に強烈な一撃を加えた。

ミスターT:LP1100→LP300

「メインフェイズ2に移行! 『エア・ハミングバード』の効果を発動する! 『ハニー・サック』!」

 一撃を与えた後、再び上空を舞っていた『エア・ハミングバード』は旋回、そして再びミスターTへと急降下する。
 瞬間、ミスターTの2枚の手札からそれぞれ、一輪の花が咲く。その花に飛び掛る『エア・ハミングバード』。花から甘い蜜を吸い取る。
 『エア・ハミングバード』が吸い取った蜜は、そのまま十代のライフへと変換した。

十代:LP2300→LP3300

「これでターン終了だ!」

 十代のエンド宣言。その勇ましさに、栄一達にも再び活気が湧いてくる。

「凄い・・・やっぱり十代さんは強い!」

『『ネオスペーシアン』は、攻撃力は決して高くないけど、各々の持つ効果は上手に使えば強力な効果ばかりだからね。十代に相応しいモンスター達ばかりさ』

 これで一気に、十代がミスターTを押し倒す。そう確信した栄一。だが、世の中はそう甘くはなかった。

「・・・ククク」

 ミスターTが笑っていたのだ。強力な効果を持つ『WWF』を取り除かれたこの状況で。
 『WWF』は特殊召喚が不可能なモンスターだ。一度取り除かれれば、再召喚は難しい筈なのに。

「まさか、リバースカードを軽視している訳じゃなかろう。速攻魔法『終焉の焔』。これにより『黒焔トークン』を2体、私のフィールドに特殊召喚する」

終焉(しゅうえん)(ほのお) 速攻魔法
このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。
自分フィールド上に「黒焔トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは闇属性モンスター以外のアドバンス召喚のためにはリリースできない。

黒焔(こくえん)トークン ☆1
闇 悪魔族 トークン ATK0 DEF0

 プレイの妨害が難しいエンドフェイズ。その隙をミスターTは狙っていたのだ。
 ミスターTのフィールドに現れた2体の黒い炎のトークンを見て、十代は舌打ちし、栄一は自らがただ単に浮かれていただけという事に気付かされてしまった。

ミスターTLP300
手札2枚
モンスターゾーン黒焔トークン(守備表示:DEF0)
黒焔トークン(守備表示:DEF0)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP3300
手札1枚
モンスターゾーンN・エア・ハミングバード(攻撃表示:ATK800)
N・ティンクル・モス(攻撃表示:ATK500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚




「私のターン、『黒焔トークン』2体を生け贄に、『WWF』を召喚!」

 苦労してフィールドから取り除いた『WWF』が、再びフィールドに現れる。
 十代のフィールドに立つ2体の『ネオスペーシアン』が、危険に晒される。

「『エア・ハミングバード』を攻撃!」

 ミスターTの宣言も、『WWF』は動きを見せない。それでも、やはり異変は起こっている。

『くっ・・・』

 『エア・ハミングバード』が膝から崩れ落ちる。『WWF』は何もしていないのに、闘うモンスターは自動的に葬り去られる。
 「無手勝流」。その不気味さを、皆はまじまじと見つめる事となる。

N・エア・ハミングバード:ATK800→ATK0

WWF:ATK0→ATK800

十代:LP3300→LP2500

WWF:ATK800→ATK0

「チッ! もう1度除去し直しかよ・・・」

「何を言ってるんだ遊城十代。私のバトルフェイズはまだ終了していないが」

「何!?」

 ミスターTの言葉と共に正体を見せるは、先程から伏せられていたリバースカード。
 ミスターTの言う、バトルフェイズの続行を証明するトラップ。

奇跡の軌跡(ミラクルルーカス) 通常罠
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、
1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃する事ができる。
そのモンスターが戦闘を行う場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。

「これで『WWF』は、もう1度攻撃ができる。『ティンクル・モス』を攻撃!」

 今度は『ティンクル・モス』が、その場で自らの首を掴む。立っているだけで精一杯とでも言うかのように、その膝が震えている。

「くっ! だが『ティンクル・モス』のドロー効果は使える! ドローしたのは『古のルール』!」

 点灯するのは緑のシグナル。これでは、『WWF』の攻撃を防ぐ事はできない。
 結局『ティンクル・モス』は、そのままフィールドから消え去ってしまった。

「『WWF』の効果により、『奇跡の軌跡』の効果は全て中和される。攻撃力がアップする効果は意味が無くなるが、一方で戦闘ダメージはしっかり与えられる」

「厄介だな。だがオレも、『奇跡の軌跡』の効果でカードをドローさせてもらうぜ」

N・ティンクル・モス:ATK500→ATK0

WWF:ATK0→ATK500

十代:LP2500→LP2000

WWF:ATK500→ATK0

「さらにトラップ発動! 『ヒーロー・シグナル』! 来い! 『エアーマン』!」

 天に示されるは「H」の文字。ヒーローを求めるサイン。
 そのサインに応えて現れたのは、大気のヒーロー『エアーマン』。彼の効果が、十代のデッキから彼の象徴のカードを再び呼び出す。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エアーマン ☆4
風 戦士族 効果 ATK1800 DEF300
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●自分フィールド上に存在するこのカード以外の「HERO」と名のついたモンスターの数まで、
フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。
●自分のデッキから「HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

ヒーロー・シグナル 通常罠
自分フィールド上のモンスターが戦闘によって
破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。
自分の手札またはデッキから「E・HERO」という
名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

「『エアーマン』の効果により、『ネオス』を手札に!」

 『WWF』の猛攻により、ライフポイントとモンスターを失ってしまった。その損害は決して少なくない。
 とはいえ、葬られていった『ネオスペーシアン』が残したものも多い。豊富な手札、再び盛り返す為の布陣だ。

「・・・カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 4枚にまで増えた十代の手札を警戒しながら、ミスターTはターンを終えた。
 自らも十代の手札増強に貢献してしまったという皮肉を噛み締めて。

ミスターTLP300
手札1枚
モンスターゾーンWWF(攻撃表示:ATK0)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP2000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO エアーマン(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンなし

『さて、反撃と行きたい所だねぇ』

 ミスターTのフィールドと十代の手札を見比べながら、『ユベル』がそう煽る。
 確かに、ミスターTは後一撃で倒せるところまでライフが削られている。
 手札に眠る『グラン・モール』で『WWF』を再び除去し、一気にフィニッシュといきたいところだ。

「来い! 『グラン・モール』!」

 ドローしたカードを確認すると、すぐに『グラン・モール』を呼び出す十代。
 そして両肩のドリルを再び重ね合わせ、地面に潜ろうとする『グラン・モール』。1ターン前の再現を目論んで。

「・・・私が手を打っていないとでも思っていたのかね? トラップカード『威嚇する咆哮』。これで君はこのターン、攻撃できない」

 鳴り響くは、攻撃宣言をもかき消してしまうであろう程の怒号。
 ダメージステップに真価を発揮する『WWF』に対抗する為に、ダメージステップに入らないままモンスターを除去できる『グラン・モール』で十代は反撃に転じたのだが、『威嚇する咆哮』はそもそもダメージステップに入るどころか戦闘自体を許さない。
 十代の考えを、ミスターTが上回った瞬間だった。

威嚇(いかく)する咆哮(ほうこう) 通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

「あぁ、折角の『グラン・モール』が・・・」

 傍から見守る栄一は、落胆の色を隠せない。闘っている本人である十代以上だ。

「・・・なら、これでいく! 『古のルール』! この効果により、『ネオス』を特殊召喚する!」

 だが、十代にもまだ策はあった。発動されるは、通常モンスターを特殊召喚できる魔法カード『古のルール』。
 フィールドに三度登場する『ネオス』。進化し続ける力が、またフィールドを支配する。

(いにしえ)のルール 通常魔法
自分の手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。

「『グラン・モール』! 『ネオス』! コンタクト融合!」

 2体のヒーローが、宇宙空間に吸い込まれていく。宇宙の波動を浴びて、さらなる進化を遂げる。
 閃光の後に現れたのは、『ネオス』が大地の力を得たヒーロー『グラン・ネオス』。その右腕の大きなドリルが、全てを消し去る。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) グラン・ネオス ☆7
地 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「E・HERO ネオス」+「N・グラン・モール」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
相手フィールド上に存在するモンスター1体を持ち主の手札に戻す事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。

「くっ! 戦闘が駄目なら効果で、という事か!?」

「そういう事だ! 『ネビュラス・ホール』! この効果で『WWF』を手札に戻す!」

「やった! さすが十代さんだ!」

 『グラン・ネオス』がそのドリルで地面を掘削した瞬間、フィールドにブラックホールのような、全てを飲み込まんとする穴が形成される。
 吸い込まれていくは『WWF』。ミスターTの手札へと押し戻される。先の先を読んだ十代の、見事な戦術だ。

「『インスタント・ネオスペース』を『グラン・ネオス』に装備し、『エアーマン』を守備表示に。さらにカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 『インスタント・ネオスペース』。『ネオス』の闘う空間を、装備モンスターの周辺に発生させる魔法。これにより、『グラン・ネオス』は1ターンの時を越える事ができる。デッキに戻る事は無い。

インスタント・ネオスペース 装備魔法
「E・HERO ネオス」を融合素材とする融合モンスターにのみ装備可能。
このカードを装備した融合モンスターは、
エンドフェイズ時にデッキに戻る効果を発動しなくてもよい。
装備モンスターがフィールド上から離れた場合、自分の手札・デッキ・墓地から
「E・HERO ネオス」1体を特殊召喚する事ができる。

ミスターTLP300
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
十代LP2000
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO エアーマン(守備表示:DEF200)
E・HERO グラン・ネオス(攻撃表示:ATK2500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
インスタント・ネオスペース(装備:E・HERO グラン・ネオス)

「ぬぅ・・・さすがは遊城十代という事か。私のターンだ」

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるミスターT。だがそれも、次の一手で不気味な笑みへと様変わりする。

「『トレード・イン』を発動。手札の『WWF』をコストに、デッキからカードを2枚ドローする」

「何!? 『WWF』をコストに!?」

『特殊召喚ができないモンスターとはいえ、思い切った事をするねぇ』

 あれ程にフィールドを荒らしまわった『WWF』を簡単に切り捨てるミスターTの行動に、十代も『ユベル』も驚きを隠せない。

トレード・イン 通常魔法
手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「忘れてもらっては困る。私の手札にはこのモンスターが存在する事を」

 ミスターTの言葉に反応するかのように、ミスターTの墓地が光る。
 彼の墓地に眠るダーク・モンスターが、闇に染められし創世神を導こうとしているのだ。

「私の墓地には闇属性モンスターが5体! よって手札から『ダーク・クリエイター』を特殊召喚する!」

 全身が黒で塗られたモンスター。闇属性モンスターを生み出す力においては、彼の右に出る者はいないと言われる創世神。
 『ダーク・クリエイター』が、その翼を広げ、十代を威嚇する。フィールドを新たな支配で包む。

ダーク・クリエイター ☆8
闇 雷族 効果 ATK2300 DEF3000
このカードは通常召喚できない。自分の墓地に闇属性モンスターが5体以上存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合に特殊召喚する事ができる。
自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
自分の墓地の闇属性モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

ミスターTの墓地の闇属性モンスター:
『スペース・ワーパー』
『ダブルコストン』
『ダーク・ホルス・ドラゴン』
『天帝使−リドル』
『WWF』

「『ダーク・クリエイター』の効果を発動。墓地の『スペース・ワーパー』を除外し、『ダーク・ホルス・ドラゴン』を蘇生する!」

 『ダーク・クリエイター』の導きによって復活するは、闇の天空神『ダーク・ホルス・ドラゴン』。
 大型モンスターの並ぶそのフィールドは、緊迫した空気が漂う。2体の威圧感が、十代に重く圧し掛かる。

「さらにここで『スペース・ワーパー』の効果を発動だ。『スペース・ワーパー』が除外されたターン、相手の魔法・罠・モンスター効果のいずれかの発動を無効にする事ができる。トラップの発動を無効にしようか」

「何!?」

スペース・ワーパー ☆1(オリジナル)
闇 魔法使い族 効果 ATK0 DEF0
墓地に存在するこのカードがゲームから除外された時に発動する。
以下から1つを選択し、エンドフェイズ時まで選択した効果の発動を無効にする。
●相手の効果モンスターの効果。
●相手の魔法カードの効果。
●相手の罠カードの効果。

 十代のデュエルディスクに、『スペース・ワーパー』の効果によって現れたチェーンが無造作に巻かれる。行動の制限を意味しているのだろう。
 これにより十代はこのターン、トラップの恩恵を受ける事ができなくなってしまった。
 ミスターTは、何の気兼ねもなく攻撃を通す事が可能となったという訳である。

「さらに『ジャンク・アタック』を『ダーク・ホルス・ドラゴン』に装備。これで『ダーク・ホルス・ドラゴン』にモンスターが葬られる度、君は追加のダメージを受ける事となる」

「マジかよ・・・。怒涛の反撃ってところか・・・」

ジャンク・アタック 装備魔法
装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。

「バトルフェイズだ。『ダーク・ホルス・ドラゴン』で『グラン・ネオス』を攻撃!」

 再び放たれる、黒き闇の炎。『グラン・ネオス』の周りを包み込み、彼を燃やし尽くす。地獄に引きずり込む。

十代:LP2000→LP1500

「『ジャンク・アタック』の効果発動。『グラン・ネオス』の攻撃力の半分のダメージを受けてもらおうか」

 『グラン・ネオス』を葬った炎が消え去った直後、十代の目に移ったのは、自らに襲い掛かるように放たれた炎。両腕をクロスして防御するが、炎の勢いは止まない。
 猛烈な勢いの炎と纏まったダメージに、十代は顔を顰めた。

十代:LP1500→LP250

「くっ! 『インスタント・ネオスペース』の効果だ! 『ネオス』をデッキから特殊召喚!」

 しかし、まだ諦める訳にはいかない。そんな十代を守護するかのように、フィールドに現れる『ネオス』。
 このデュエル中、もう何度目になるか分からない『ネオス』の登場に、ミスターTは不愉快そうな表情を浮かべる。

「だが、まだ攻撃はできる。『ダーク・クリエイター』で、『エアーマン』を攻撃!」

 『ネオス』の登場も関係ないと言わんばかりの強烈な雷が、『ダーク・クリエイター』から放たれる。『エアーマン』を黒こげの物体にしてしまう。

「さり気無く『エアーマン』を守備表示にしておいたのが正解だったな。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 このターンの攻撃で、このデュエル中初めて、ミスターTのライフが十代のライフを上回った。
 十代優勢に進んでいたお互いの力関係が、初めて逆転した瞬間であった。その事実に、ターンを終えるミスターTの表情は思いなしか緩んでいるように見える。
 『ネオス』が現れた時は不機嫌そうだったのに、全く忙しい奴である。

ミスターTLP300
手札0枚
モンスターゾーンダーク・クリエイター(攻撃表示:ATK2300)
ダーク・ホルス・ドラゴン(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
ジャンク・アタック(装備:ダーク・ホルス・ドラゴン)
十代LP250
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ネオス(攻撃表示:ATK2500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「ミスターTのライフが十代さんのライフを上回っちまった・・・。どうしよ・・・」

『落ち込んでいてもしょうがないよ。なってしまったものはどうしようもないんだから』

 焦る栄一を見て、『ユベル』はドライな見解を展開する。
 先程からずっとそうだが、何故『ユベル』は冷静にデュエルを見つめる事ができるのか。それが栄一には分からなかった。

『さて、逆転の術はあるんだろう、十代?』

「勿論だぜ、『ユベル』。オレのターン! ここで伏せていた『リミット・リバース』を発動する! 復活させるのは『グロー・モス』だ!」

 行動を封じるチェーンは、さっきのターンに消えた。これで十代は、思う存分トラップを発動できる。
 発動されたのは、モンスターの蘇生を施すトラップ『リミット・リバース』。その力を受け、『グロー・モス』が地面から生えるようにフィールドに再生される。

リミット・リバース 永続罠
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「コンタクト融合! 来い、『グロー・ネオス』!」

 復活した『グロー・モス』。そして『ネオス』。2体のヒーローが、宇宙空間に吸い込まれていく。そして閃光。

「4体目のコンタクト融合体! ・・・うぉっまぶし!?」

 光の消え去ったそこにいたのは、発生した閃光に負けない程に光り輝くヒーロー。
 光の槍を構えた、眩き光のヒーロー『グロー・ネオス』が、悪を貫く。

「さらに『マジック・プランター』を発動! 『リミット・リバース』をコストに、カードを2枚ドロー!」

マジック・プランター 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 『グロー・モス』がフィールドから去った事で、フィールドに突っ立っているだけとなった『リミット・リバース』を糧に、十代は手札を増強する。
 だが・・・

「『ダーク・ホルス・ドラゴン』の効果を忘れてもらっては困る。魔法カードが発動された事で、私の墓地から『ダブルコストン』が復活する!」

 その手札増強は、ミスターTの布陣強化をも誘発する。
 蘇るは『ダブルコストン』。ミスターTのフィールドに、3体の強力なモンスターが顔を揃える。

「なんで・・・? 『ダーク・ホルス・ドラゴン』の効果を十代さんは分かっていた筈じゃ・・・」

 一見すると不可解で、理に適っていない戦術。

『いや、この場面で『ダブルコストン』の復活は関係ないニャ』

『『グロー・ネオス』がいるからね』

 だが、大徳寺先生も『ユベル』も焦ってはいない。寧ろ、「これでいいのだ」と頷いている。

「その通りだ栄一。早とちりしてもらっちゃ困るぜ! 『グロー・ネオス』の効果発動! 相手のフィールドの表側表示カード1枚を破壊する! 『シグナル・バスター』!」

 その手に握られた光の槍。それを、勢いつけて投擲する『グロー・ネオス』。
 目標は、ミスターTのフィールドにある魔法カード。

「『ジャンク・アタック』を破壊! これで『グロー・ネオス』は、相手にダイレクトアタックができる!」

 『ジャンク・アタック』を貫く光の槍。それが、『グロー・ネオス』にグリーンライト、つまり直接攻撃の権利を与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) グロー・ネオス ☆7
光 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「E・HERO ネオス」+「N・グロー・モス」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。
相手フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を破壊し、
そのカードの種類によりこのカードは以下の効果を得る。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ1に使用する事ができる。
●モンスターカード:このターン、このカードは戦闘を行えない。
●魔法カード:このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●罠カード:このカードは守備表示になる。

「そうか! ダイレクトアタックが可能なら、モンスターがいくら増えようが関係ないのか!」

『そういう事だニャ』

 十代のプレイングを理解したのか、指を鳴らしてその場ではしゃぐ栄一。
 それに呼応した訳ではないだろうが、『グロー・ネオス』がその場で飛び上がる。攻撃の体勢を取る。

「『グロー・ネオス』で、ダイレクトアタック!」

 その手に再び光の槍を出現させ、構える『グロー・ネオス』。
 狙うは、プレイヤー自身。ミスターTの懐。

「甘い! トラップカード『炸裂装甲(リアクティブアーマー)』だ!」

 だが、ミスターTも、決定打となる一撃を見す見す通そうとはしなかった。発動されたのは、攻撃モンスターを破壊するトラップ『炸裂装甲』。
 『グロー・ネオス』が、その場で爆発する。

炸裂装甲(リアクティブアーマー) 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
その攻撃モンスター1体を破壊する。

「あぁ・・・折角のチャンスが・・・。これで十代さんのフィールドががら空きに・・・」

「大丈夫だ、栄一。まだデュエルは終わってないぜ」

 デュエルが進む毎に、闘っている十代以上に一喜一憂する栄一。
 その栄一を優しい言葉で励まし、弱みを見せぬよう振舞っている十代だが、切羽詰っている事は間違いないだろう。

「モンスターと、リバースカードを1枚ずつセットして、ターン終了だ」

 2枚の正体不明のカードが伏せられるが、その2枚は今まで伏せられてきたどのカードよりも、弱々しく見えた。

ミスターTLP300
手札0枚
モンスターゾーンダーク・クリエイター(攻撃表示:ATK2300)
ダーク・ホルス・ドラゴン(攻撃表示:ATK3000)
ダブルコストン(守備表示:DEF1650)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP250
手札0枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚




「私のターンだ。『ダーク・ホルス・ドラゴン』をコストに、『アドバンスドロー』を発動」

「何!?」

『また上級モンスターをコストにするか・・・』

『あまり、考えられないプレイだニャ』

 ドローしたカードを即座に発動。何の躊躇いも無く、上級モンスターを糧にする。

「言った筈だ。常識に縛られないのが私のデュエルだと。この程度で驚いてもらっては困る」

 肩透かしを食らった・・・とでも言っているかのようなミスターTの態度。
 『ユベル』も、大徳寺先生も、そして十代も。ミスターTの言う事が分かっていても、その突拍子もない彼のプレイには、戸惑いを隠さずにはいられなかった。

アドバンスドロー 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル8以上のモンスター1体をリリースして発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「一見間違っているように見えるプレイだが、これでいいのだ。これで私の墓地に闇属性モンスターが3体揃った! よって手札から『ダークネス・リーダー』を特殊召喚する!」

 現れるは、黒マントに身を包んだ闇の総指揮官。
 『ダークネス・リーダー』のその両瞳が、鋭く十代を貫く。

ダークネス・リーダー ☆8(オリジナル)
闇 悪魔族 効果 ATK2700 DEF3000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、
このカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は闇属性モンスターを魔法・罠・モンスターの効果の対象にできず、
このカード以外の闇属性モンスターを攻撃対象に選択する事もできない。
また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

ミスターTの墓地の闇属性モンスター:
『ダーク・ホルス・ドラゴン』
『天帝使−リドル』
『WWF』

「そして墓地の『WWF』を除外する事で、『ダーク・クリエイター』の効果を発動。『ダーク・ホルス・ドラゴン』蘇生!」

 『アドバンスドロー』による『ダーク・ホルス・ドラゴン』の墓地送り。それは、何も考えずに行われた事では決してなかった。
 『ダーク・クリエイター』。彼の効果で、三度『ダーク・ホルス・ドラゴン』が蘇る。
 結果的に『ダーク・ホルス・ドラゴン』の犠牲は帳消しとなり、寧ろ『ダークネス・リーダー』が現れた事で、ミスターTの布陣はさらに強化される事となった。

「トップ解決に任せた戦術とはいえ、こうも綺麗に決められると、溜息も出ねぇな・・・」

「負け犬の遠吠えかな? もう遅いがね。『ダブルコストン』を攻撃表示に変更し、バトルフェイズに入らせてもらう。『ダークネス・リーダー』で守備モンスターを攻撃! 『ダークネス・トラジェディ』!」

 放たれるは闇の波動。全てを悪に染める禍々しい球体。それが、十代の守備モンスターのカードを包み込む。

「『ダークネス・リーダー』には貫通ダメージを与える効果がある! 消え去れ! 遊城十代!」

 禍々しい球体が、その中にあるカードを360度から串刺しにする。瞬間、爆発。砂塵を伴う爆風に、全ての視界が奪われる。

「じ、十代さん!?」

 十代の安否を確認したくても、自らを突き刺すかのように襲い掛かる爆風がそれを許さない。
 「十代は負けたのか?」。迫り来るその恐怖に、栄一は苛まれる。

「フフ、終わったな」

 一方のミスターTは、今の攻撃に勝利を確信していた。この爆風のエフェクトは、攻撃が通った証拠。つまり守備モンスターは破壊され、十代に貫通ダメージが与えられた事を意味する。
 無様な最期を拝んでやろうと、ミスターTは1人、爆風が止むまでその場でほくそ笑んでいた。










「・・・デュエルはまだ終わってないっつーの」

「何!?」

「十代さん!」

 頼もしい声。それが確かに聞こえた。爆風が晴れたそこに、十代は立っていた。まだ、勝負を諦めてなどいなかった。
 しかも良く見ると、フィールドにモンスターは残っているし、何と言っても手札が増えている。

「馬鹿な!? 一体どんなトリックを使ったというのだ!?」

「だから焦るなって。その程度じゃまだまだだぜ。ほらよ」

 大人が泣き叫ぶ子供を落ち着かせるかのように、ミスターTを宥めながら十代は、この戦闘回避劇の主人公となった2枚のカードを皆に示した。

メタモルポット ☆2
地 岩石族 効果 ATK700 DEF600
リバース:お互いの手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

和睦(わぼく)使者(ししゃ) 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

『なるほど! 『和睦の使者』はこのターンの戦闘ダメージを0にする! これで『ダークネス・リーダー』の攻撃を防いだんだニャ!』

「つまりさっきの爆発は、「戦闘が成立した事だけ」を意味する、ただのソリッドビジョンのエフェクトだったって事!?」

『そういう事ニャ。戦闘は成立してるから、『メタモルポット』の効果もしっかり発動するんだニャ!』

「解説サンキュ。大徳寺先生」

 栄一達に向かってVサインを決める十代。
 逞しいヒーローの姿が、今、復活した。

「さぁミスターT、お前も『メタモルポット』の効果で手札を交換しな!」

「くぅ!」

 十代の挑発めいた言葉に、荒々しく応えるミスターT。
 手に持っていたカードを墓地へ送る作業も、デッキからカードをドローする作業も、乱暴に行う。

「いい気になるな遊城十代。私の有利に変わりはないのだからね。これでターンエンドだ!」

ミスターTLP300
手札5枚
モンスターゾーンダーク・クリエイター(攻撃表示:ATK2300)
ダブルコストン(攻撃表示:ATK1700)
ダークネス・リーダー(攻撃表示:ATK2700)
ダーク・ホルス・ドラゴン(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP250
手札5枚
モンスターゾーンメタモルポット(守備表示:DEF600)
魔法・罠ゾーンなし

「・・・そんなセリフしか言えないんじゃ、まだまだ三流だな」

「何だと!?」

 一枚のカードにはひとつの可能性。デュエリストには手札の数だけ可能性はある。その豊富な手札が、十代に余裕を与えているのか。
 ミスターTのモンスター達が支配したかに見えたフィールドを、十代が新たな支配で包み込む。

「『ヒーロー・マスク』! デッキから『E・HERO ネオス』を墓地へ送り、場の『メタモルポット』をエンドフェイズまで『ネオス』として扱う!」

 『メタモルポット』に装着されるは、『ネオス』の頭部を模した仮面。
 瞬間、壺に隠れたお化け、といった、不気味な存在の『メタモルポット』が、逞しい白きヒーロー『ネオス』へと、その姿を変える。

ヒーロー・マスク 通常魔法
自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を墓地へ送る。
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
このターンのエンドフェイズ時までその効果で墓地へ送った
モンスターと同名カードとして扱う。

「『ダーク・ホルス・ドラゴン』の効果発動! 墓地から『天帝使−リドル』を復活させる!」

 十代が魔法を使った事により、またしてもミスターTの布陣が強化される。
 だが当の十代は、そんな一大事ですらアウト・オブ・眼中。些細な事としか思っていないようだ。

「残念だが『リドル』もその他のモンスターも、纏めてフィールドから消えてもらうぜ! いけ! 『ネオス』!」

 その場で飛び上がる『ネオス』。その勇猛な様に、栄一は思わず息を呑んでしまう。

「魔法カード『ラス・オブ・ネオス』! その効果により、フィールドのカードを全て破壊させてもらうぜ!」

ラス・オブ・ネオス 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO ネオス」1体を選択して発動する。
選択した「E・HERO ネオス」をデッキに戻し、
フィールド上のカードを全て破壊する。

 勢い良く着地した『ネオス』が、地面に向けて強烈なチョップを繰り出す。その瞬間、『ネオス』のいる地点を出発点に、ミスターTの布陣に向けて走る5本の亀裂。そしてそれを追いかける衝撃波。
 衝撃波が直撃した瞬間、ミスターTのモンスターが各々その場で爆発する。全てを打ち砕く衝撃波が、ミスターTのフィールドを殲滅した。
 その様を見届けた後、『ネオス』となった『メタモルポット』は、元ネタの特撮ヒーローが怪獣を倒して帰還するかのように、十代のデッキへと戻っていった。

「くっ、全滅だと!? だがまだだ! 『リドル』の効果を発動。私はモンスターカードを宣言する」

 十代が『リドル』の効果でドローするのと同時に、荒々しくデッキのカードを確認するミスターT。
 だが、カードに八つ当たりするかのような行動を取る者に、勝利の女神は決して微笑まない。

ミスターTが確認したカード:
『闇の誘惑』

(やみ)誘惑(ゆうわく) 通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。
手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る。

「魔法カード!?」

「残念だったな。これでお前のフィールドはがら空き! 来い! 『N・ブラック・パンサー』!」

 全てが消え去ったフィールドに現れたのは、黒いマントを翻した、四本足で立つ豹のヒーロー。
 闇の力を正しい方向へと向ける、最後の『ネオスペーシアン』、『ブラック・パンサー』だ。

(ネオスペーシアン)・ブラック・パンサー ☆3
闇 獣族 効果 ATK1000 DEF500
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
選択したモンスターと同じ効果を得る。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「バトルフェイズ!」

 『ブラック・パンサー』が、ミスターT目掛けて飛び掛る。

「この攻撃が通れば十代さんの勝ちだ!」

 それに合わせて、栄一が興奮した目つきで一歩前に出る。
 デュエルの終焉を、少しでも間近で見ようと。

『いや、まだだ』

 一方で横に立つ『ユベル』は、水を差すような発言をする。その言葉に栄一は肩透かしを食らう。
 だがそれは、不幸にも事実となった。ミスターTの手札から突如現れた振り子のようなモンスターが、『ブラック・パンサー』の攻撃を妨害したのだ。
 鳴り響くは鐘の音。攻撃のリズムを狂わせ、バトルフェイズを強制的に終了させる。

「『バトルフェーダー』かよ・・・。そんなモンスターを隠していたとはな」

「君の『メタモルポット』のおかげだ。決死の手札補充は、私にもチャンスを与えてくれたという訳だ」

バトルフェーダー ☆1
闇 悪魔族 効果 ATK0 DEF0
相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、
フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

「カードを2枚セットして、ターンエンドだ!」

ミスターTLP300
手札4枚
モンスターゾーンバトルフェーダー(守備表示:DEF0)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP250
手札2枚
モンスターゾーンN・ブラック・パンサー(攻撃表示:ATK1000)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚




 前のターン、見事な逆襲劇を演じた十代。だが、その嵐は過ぎ去った。
 今度は、ミスターTの逆襲劇が展開される。

「私のターン。『バトルフェーダー』を生け贄に捧げ、『ダーク・パーシアス』を召喚する!」

 現れたのは、下半身が馬の姿をした、闇に墜ちた天使。
 正しい闇の持ち主『ブラック・パンサー』とは相対する立場。闇に飲まれ、欲望に支配された悲劇の騎士『ダーク・パーシアス』だ。

ダーク・パーシアス ☆5
闇 天使族 効果 ATK1900 DEF1400
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
自分の墓地に存在する闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する
闇属性モンスターの数×100ポイントアップする。

「速攻魔法『異次元からの埋葬』を発動。『スペース・ワーパー』『WWF』『バトルフェーダー』を墓地へ戻す」

異次元(いじげん)からの埋葬(まいそう) 速攻魔法
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、そのカードを墓地に戻す。

「そして『ダーク・パーシアス』は、私の墓地の闇属性モンスターの数だけ攻撃力がアップする!」

ダーク・パーシアス:ATK1900→ATK2800

「えっ!? ミスターTの墓地の闇属性モンスターは8体の筈・・・。なのに、なんで上昇数値が800ポイントじゃなくて900ポイントなんだ!?」

『落ち着くニャ、栄一君。多分、さっき十代君が発動した『メタモルポット』の効果で捨てたカードが、闇属性モンスターだったんだニャ』

 疑問を投げかける栄一に対して、丁寧な解説をする大徳寺先生。
 その答え合わせなのか、それを聞いていたミスターTが、自らの墓地から1枚のカードを取り出した。

「察しの通り、『メタモルポット』の効果で墓地へ送られた手札は2体目の『スペース・ワーパー』。よって私の墓地の闇属性モンスターは、9体で正しいのだよ」

ミスターTの墓地の闇属性モンスター:
『スペース・ワーパー』
『ダーク・クリエイター』
『ダブルコストン』
『ダークネス・リーダー』
『ダーク・ホルス・ドラゴン』
『天帝使−リドル』
『スペース・ワーパー』
『WWF』
『バトルフェーダー』

「いけ! 『ダーク・パーシアス』! 『ブラック・パンサー』を攻撃!」

 ミスターTの宣言に合わせて、『ダーク・パーシアス』は駆け出す。
 正しい闇と過ちの闇。それぞれの力を得たモンスター同士の闘い。だがお互いの攻撃力には、大きな差がある。

「この攻撃を受けたら、十代さんは・・・」

 敗北。前のターンを決死のプレイで凌いだのに、その努力が無駄になる最悪の結果。

「そんな事させるかよ。カウンタートラップ『攻撃の無力化』!」

 デュエルの決着を意味する、『ダーク・パーシアス』の剣の一振りが『ブラック・パンサー』に届くと思われた瞬間、接触を妨害するかのように、互いの間にバリアが現れる。
 剣の一振りはバリアに弾かれ、さらにバリアから発生した竜巻が『ダーク・パーシアス』を押し返す。戦闘の、強制的な終了を促す。

攻撃(こうげき)無力化(むりょくか) カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「またしても・・・。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

「もらった! この瞬間、伏せていた『正統なる血統』を発動! 『ネオス』を復活させる!」

「何!?」

 先程の『終焉の焔』のお返しとばかりに、カウンターの難しいエンドフェイズを狙って十代はカードを発動させた。
 『正統なる血統』。その効果により、『ヒーロー・マスク』の力によって墓地へ送られていた『ネオス』が、またフィールドに復活する。

正統(せいとう)なる血統(けっとう) 永続罠
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。

ミスターTLP300
手札2枚
モンスターゾーンダーク・パーシアス(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP250
手札2枚
モンスターゾーンN・ブラック・パンサー(攻撃表示:ATK1000)
E・HERO ネオス(攻撃表示:ATK2500)
魔法・罠ゾーン正統なる血統(対象:E・HERO ネオス)

「このタイミングで『ネオス』を復活させたっていう事は・・・!」

『また、コンタクト融合だろうね』

 そう。闇の力を増幅させた『ダーク・パーシアス』が剣を構える現状。それを覆すヒーローを呼ぶ準備は、既に整っている。後は、十代がその宣言をするだけだ。
 その時を待ち望んでか、栄一が再び興奮する。横にいる『ユベル』が呆れ半分の表情をしているのにも気付かずに。

「オレのターン! 『ブラック・パンサー』! 『ネオス』! コンタクト融合!」

 もう5度目となった宇宙空間の形成。そこに吸い込まれるは『ブラック・パンサー』と『ネオス』。閃光を伴い、新たなヒーローへと進化する。

「来い! 『ブラック・ネオス』!」

 現れたのは、黒き翼で大空を舞い、長き爪で悪を切り裂く漆黒のヒーロー『ブラック・ネオス』だ。
 その備わった闇の力が、『ダーク・パーシアス』の能力を縛る。

「『ブラック・ネオス』のモンスター効果発動! 『ダーク・パーシアス』の効果を無効にする!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ブラック・ネオス ☆7
闇 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「E・HERO ネオス」+「N・ブラック・パンサー」 
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
フィールド上に表側表示で存在する効果モンスター1体を選択する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
選択したモンスターはフィールド上から離れるまで効果が無効化される
(この効果で選択できるモンスターは1体まで)。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。

ダーク・パーシアス:ATK2800→ATK1900

『これで『ブラック・ネオス』の攻撃力が、『ダーク・パーシアス』の攻撃力を上回ったニャ!』

「この攻撃が通れば、十代さんの勝ちだ!」

 栄一の言葉に、十代が勇ましく頷く。

「『ブラック・ネオス』で、『ダーク・パーシアス』を攻撃! 『ラス・オブ・ブラック・ネオス』!」

 高く舞う『ブラック・ネオス』。大地に佇む『ダーク・パーシアス』目掛けて、その長き爪を振り落とさんとする。

「くっ! トラップカード『ドレインシールド』! これで『ブラック・ネオス』の攻撃は無効だ!」

 だがその一撃は、『ダーク・パーシアス』の周りに張られたバリアによって阻まれた。
 『ドレインシールド』。『ブラック・ネオス』のパワーが、そのままミスターTのライフとなる。

ドレインシールド 通常罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。

ミスターT:LP300→LP2800

「・・・チッ」

 乾いた音が響く。決勝の一撃を受け止められた事を悔しがる、十代の舌打ちの音だ。

「モンスターを裏側守備表示で召喚し、ターンエンド」

「この瞬間、『ブラック・ネオス』は君のデッキに戻り、私の『ダーク・パーシアス』の攻撃力も元に戻る」

ダーク・パーシアス:ATK1900→ATK2800

ミスターTLP2800
手札2枚
モンスターゾーンダーク・パーシアス(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP250
手札2枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンなし

「私のターン・・・ドロー!」

 そしてミスターTのターン。この瞬間、フィールドに緊張が走る。

『奴の手札に、攻撃力250以上のモンスターがいたら終わりだニャ・・・』

「十代さん・・・」

 そう。ミスターTの手札次第では、十代は敗北の危険性があるのだ。
 ミスターTが、手札を凝視する。周りを焦らすかのように、1枚1枚を嘗め回すかのように見渡す。

「・・・『ダーク・パーシアス』で、守備モンスターを攻撃!」

 攻撃宣言。ミスターTの手札に、攻撃力250以上のモンスターはいなかったようだ。
 攻められる側だというのに、攻撃の宣言を聞いて栄一は、思わず安堵の溜息をついてしまった。

「『ダークナイト・ソード』!」

 『ダーク・パーシアス』の剣が、守備モンスターのカードを串刺しにする。
 表になったのは、鬣がタンポポの葉を連想させる、デフォルメタッチのライオンのモンスター。
 本人はその細い体を駆使して剣の一撃を上手くかわしていたが、カード自体が既にやられているから意味が無い。
 哀れにも、カード共々フィールドから消え去っていった。

「・・・破壊されたモンスターは『ダンディライオン』! その効果により、『綿毛トークン』を2体特殊召喚する!」

 だが当の十代からすれば、モンスターが召喚されるかされないかは、そもそもどうでもいい事だったようだ。
 ミスターTのターン開始時からここまで、ターンが進んでいくのを淡々と見つめていた事から、それは察する事ができる。
 十代のフィールドに、笑顔と怒り顔、2体の『綿毛トークン』が現れる。追撃のモンスターがいたとしても、その攻撃は十代には届かなかっただろう。

ダンディライオン ☆3
地 植物族 効果 ATK300 DEF300
このカードが墓地へ送られた時、自分フィールド上に「綿毛トークン」
(植物族・風・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない。

綿毛(わたげ)トークン ☆1
風 植物族 トークン ATK0 DEF0

「モンスターを戦闘破壊した事により、『ダーク・パーシアス』の効果を発動。墓地の『WWF』を除外し、カードを1枚ドロー」

ダーク・パーシアス:ATK2800→ATK2700

「・・・カードを1枚セット。ターン終了だ」

ミスターTLP2800
手札3枚
モンスターゾーンダーク・パーシアス(攻撃表示:ATK2700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP250
手札2枚
モンスターゾーン綿毛トークン(守備表示:DEF0)
綿毛トークン(守備表示:DEF0)
魔法・罠ゾーンなし

『助かったニャ。天はまだ十代君を見捨てていなかったニャ』

「オーバーだな、大徳寺先生・・・。オレのターン!」

 ドロー。そして微笑み。その姿に、栄一達も悟る。
 ここまで、何度も行われてきたコンタクト融合。それが、また新たに行われる事を。

「『E・HERO プリズマー』を召喚! その効果によりデッキから『E・HERO ネオス』を墓地へ送り、エンドフェイズまで『プリズマー』を『ネオス』として扱う!」

 全身がプリズムで構成された、光の反射するヒーロー『プリズマー』。
 彼自身が光った瞬間、これまで何度もフィールドを支配してきたヒーロー『ネオス』へと、その姿が変化する。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) プリズマー ☆4
光 戦士族 効果 ATK1700 DEF1100
自分のエクストラデッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、
そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を
自分のデッキから墓地へ送って発動する。このカードはエンドフェイズ時
まで墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「そして、魔法カード『ミラクル・コンタクト』! オレの墓地の『ネオス』と『エア・ハミングバード』をデッキに戻し、その場でコンタクト融合を行う!」

「墓地でのコンタクト融合!?」

 十代の墓地から、『ネオス』と『エア・ハミングバード』が飛び出し、緊急に形成された宇宙空間へとそのまま吸い込まれていく。
 思いも寄らないコンタクト融合の方法に、栄一に新たな興奮が湧き上がる。

「来い! 『エアー・ネオス』!」

 閃光の末に現れたのは、その大きな翼を広げて敵を討つ、赤きヒーロー。
 風の力を得た、6体目のコンタクト融合体『エアー・ネオス』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エアー・ネオス ☆7
風 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「E・HERO ネオス」+「N・エア・ハミングバード」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
自分のライフポイントが相手のライフポイントよりも少ない場合、
その数値だけこのカードの攻撃力がアップする。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。

ミラクル・コンタクト 通常魔法
自分の手札・フィールド上・墓地から、
融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、
「E・HERO ネオス」を融合素材とする
「E・HERO」と名のついた融合モンスター1体を
召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する。

E・HERO エアー・ネオス:ATK2500→ATK5050

「私にとって有利な状況が、裏目に出ただと!?」

「そういう事だな。じゃあバトルフェイズだ! 『エアー・ネオス』で、『ダーク・パーシアス』を攻撃! 『スカイリップ・ウィング』!」

 十代の宣言に『エアー・ネオス』が飛び上がり、上空を舞う。その逞しい姿に、全てが見惚れる。
 瞬間、急降下。その高速の勢いのまま、迎撃態勢の『ダーク・パーシアス』を一撃で粉砕する。

ミスターT:LP2800→LP450

「ぬぅ!?」

「まだだぜ! 『プリズマー』で、ダイレクトアタックだ!」

「この攻撃が通れば、今度こそ十代さんの勝ちだ!」

 『ネオス』となった『プリズマー』が、最後の一撃を食らわさんと、ミスターT目掛けて飛び上がり、その強力な手刀を振り落とす。
 だが・・・。

「こちらも、まだ終わる訳にはいかない! 永続(トラップ)『死霊ゾーマ』! 『死霊ゾーマ』が私のフィールドに現れる! こいつを戦闘破壊すれば、逆に君が敗北する事になる!」

死霊(しりょう)ゾーマ 永続罠
このカードは発動後モンスターカード
(アンデット族・闇・星4・攻1800/守500)となり、
自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。
このカードが戦闘によって破壊された時、
このカードを破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
(このカードは罠カードとしても扱う)

「あぁ、また防がれた・・・」

『お互いに必死だねぇ』

 しても良い筈の場面ですら、落胆の素振りを見せない『ユベル』。
 彼女の姿に、栄一は改めて何か得体の知れない恐ろしさを感じた。

「・・・カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 その瞬間、『プリズマー』が元の姿へと戻る。同時に『エアー・ネオス』が再び飛び上がり・・・そして十代のデュエルディスクへと消え去っていく。
 フィニッシャーレベルの力を持ったモンスターだっただけに、ここでの退場は痛すぎる。
 コンタクト融合体共通の「エクストラデッキに戻る」効果が、あまりにも悔やまれる。

ミスターTLP450
手札3枚
モンスターゾーン死霊ゾーマ(守備表示:DEF500)
魔法・罠ゾーン死霊ゾーマ
十代LP250
手札0枚
モンスターゾーン綿毛トークン(守備表示:DEF0)
綿毛トークン(守備表示:DEF0)
E・HERO プリズマー(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「さて、私のターンだ」

 ピンチの後にチャンスあり。という事は、逆もまた然り。
 厄介な『死霊ゾーマ』で攻撃されたら、今の状況では戦闘破壊ができないだけに、十代は一層厳しくなる。

「・・・『死霊ゾーマ』は、確かに君にとって厄介な存在だろう。だが今のままでは、私有利のフィールドを形成する存在にすぎない。そこで、だ。私は手札から『速攻の悪魔(デビル)』を特殊召喚する」

 現れたのは、人を小馬鹿にするかのように嘲笑う小さな悪魔『速攻の悪魔(デビル)』。『速攻』と名前に付けられるだけあって、フットワークは良さそうだ。

速攻(そっこう)悪魔(デビル) ☆4(オリジナル)
闇 悪魔族 効果 ATK1500 DEF0
このモンスターの召喚を特殊召喚扱いにする事ができる。
特殊召喚扱いにした場合、相手はデッキからカードを2枚ドローする。
このカードをリリースした場合、自分は1000ライフポイント回復する。

「特殊召喚扱いにできるモンスターか・・・。だが代わりに、オレはカードを2枚ドローさせてもらうぜ!」

「構わんよ。好きにするがいい」

「何!?」

 瞬間、フィールドを支配するは、闇。ミスターTの場のモンスターを糧に、新たな力がフィールドに降臨する。

「2体のモンスターを生け贄に捧げ・・・『ダークネスソウル』を攻撃表示で召喚する!」

 現れたのは、8本も足がある、蜥蜴のようなモンスター。その全身に禍々しいエネルギーを取り込んでいる、闇より出でし怪物。
 『ダークネスソウル』が、十代に引導を渡さんと奇声を上げる。

ダークネスソウル ☆7
闇 爬虫類族 効果 ATK2000 DEF1500
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
フィールド上に表側表示で存在する闇属性モンスター以外のモンスターを全て破壊する。

「そして『速攻の悪魔』の効果で、私は1000ライフ回復だ」

ミスターT:LP450→LP1450

「バトルフェイズ! 『ダークネスソウル』で『プリズマー』を攻撃! 『絶命の猛毒』!」

 『ダークネスソウル』が、『プリズマー』の上空へと飛び上がる。恐らくこのモンスターのモデルであろう、バジリスクと呼ばれる怪物は、その通った跡には人を死に至らしめるほどの毒液が残った、と伝えられる程に危険な存在。つまりそれは、バジリスクの身体自体に猛毒があると考える事もできる。
 その証明だろう。強烈な圧し掛かりで『プリズマー』を猛毒で犯し、絶命に導こうと目論んでいるのが見て取れる。

「『ダークネスソウル』の攻撃力は2000だから・・・この攻撃を受けたら十代さんは・・・!?」

 また、栄一がその場で慌てふためく。それを横で見ている『ユベル』。溜息をつきながら、十代へと声をかけた。

『避けろ十代』

 あまりにも端的な一言。そりゃできるならそうしたい、と思わせる発言。
 だが今の十代には、その一言を実行できる術があった。

「分かってるって! トラップ発動! 『ヒーロバリア』! フィールドに『E・HERO』がいる時、攻撃を1度だけ、無効にする!」

 竜巻を伴って、『ダークネスソウル』の攻撃を遮るかのように現れた小さな障壁『ヒーローバリア』。
 十代も、簡単には諦めようとはしない。

ヒーローバリア 通常罠
自分フィールド上に「E・HERO」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

「小賢しいマネを・・・。私はカードを1枚セットして、ターン終了だ!」

ミスターTLP1450
手札1枚
モンスターゾーンダークネスソウル(攻撃表示:ATK2000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
十代LP250
手札2枚
モンスターゾーン綿毛トークン(守備表示:DEF0)
綿毛トークン(守備表示:DEF0)
E・HERO プリズマー(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンなし




 どちらも流れを渡そうとはしない。十代が攻め込めば、ミスターTがそれを防ぎ、ミスターTが殴りかかると、十代がそれをかわす。
 まさに、一進一退の攻防。それが長く続いたせいか、お互いの表情にも、そろそろ疲れが見えかかっていた。

「オレのターン・・・ドロー!」

 だが、諦めるわけにはいかない。疲れを見せている場合ではない・・・。
 そんな十代の表情が、何故か不愉快そうに歪む。

「・・・『ユベル』、お前、こうなる事が分かってたろ?」

 怒りの矛先は『ユベル』に。振り向き様に、愚痴を吐いてみせる。

『さぁ? 何の事やら?』

 それに対して白を切る『ユベル』。どうやら、また十代をからかっているようだ。
 2人にしか分からない会話だが、栄一もそれだけは分かった。
 そしてその『ユベル』のあからさまな態度に、十代は尚更不機嫌な表情となった。

「精霊を理解しているが故のアドバンテージとか、そういうのを求めている訳じゃないけど、その精霊に、展開を読めていないフリをされるってのは、やっぱ納得いかねぇな」

『ボクが言ってしまったら、反則になるだろ?』

「分かってるさ。けど、そっちの問題じゃないんだよ、これは」

『フフフ・・・。さぁ、難癖付けてないで言ってごらんよ。ボクの助けが必要なんだろ?』

 高飛車な物言い。十代を試すかのような態度。『ユベル』は、明らかに上手に出ている。
 本来なら、ガツンと一言かましてやりたいところだが、今はそれどころではない。
 彼女の助けが必要なのは本当だから。
 「うぅ・・・」と言葉にならない呻き声を少し上げた後、十代は、観念したかのように・・・

「・・・分かったよ。お前の勝ちだ、『ユベル』。力を貸してくれ」

 ・・・『ユベル』へと、回答した。

『・・・いつもいつも、素直じゃないなぁキミは。結局恥をかく事に変わりはないんだから、スパッと言っちゃえばいいのに』

「うるせぇ!」

 いつ何時でも悪態をつく。あくまでこのスタンス。
 普通な物言いをしない『ユベル』を見て栄一は、寧ろ彼女こそ、十代に対してもっと素直になればいいのにと思ったとか思わなかったとか。それはまた別の話。

『ワタ!』

『ゲ!』

 その間にもフィールドでは、新たな支配の準備が着々と進んでいた。
 2体の『綿毛トークン』がその身を捧げ、「悪魔」を呼び出す糧となっていた。

「・・・頼むぜ、『ユベル』」

『・・・あぁ』

 『ユベル』が、自身の足も翼も使わずに、腕を組んですらりと立ったまま、フィールドへと移動する。

「これが・・・『ユベル』・・・!?」

 瞬間、栄一は感じた。フィールドに立つ悪魔の、その神秘的な美しさを。先程まで、横で共に言葉を交わしていた彼女の、その艶やかさを。
 神々しい彼女の姿に、栄一は思わず息を呑んでしまった。

「『綿毛トークン』2体を生け贄に、『ユベル』を召喚する!」

 十代の力強い宣言。そしてディスクに叩きつけられる『ユベル』のカード。
 十代を守護する、龍の鎧を身に纏った悪魔。『ユベル』が、悪をもってフィールドの悪を征する。

ユベル ☆10
闇 悪魔族 効果 ATK0 DEF0
このカードは戦闘によっては破壊されない。
表側攻撃表示で存在するこのカードが相手モンスターに攻撃された場合、
攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
このカードが戦闘を行う事によって受けるコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
このカードは自分のエンドフェイズ時に
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げなければ破壊される。
このカードの効果以外の方法で破壊された時、自分の手札・デッキ・墓地から
「ユベル−Das Abscheulich Ritter」1体を特殊召喚できる。

「忌まわしい精霊をも召喚したか。だがこのままでは、私は勿論、『ダークネスソウル』をも倒せないぞ。どうする気だね?」

「だーかーらー。焦るなっつーの。お前はもう知っている筈だぜ。この力を」

「ぬぅ・・・」

 ミスターTの顔が、またしても険しくなる。
 そう。ダークネスの欠片たる彼は、「それ」の正体を知っている。
 本体たるダークネスを通して、そのモンスターの姿を、しっかりとその目に焼き付けているのだ。

「何!? 何!? 何が出てくるの!?」

『落ち着くニャ、栄一君』

 焦らすかのような十代の発言に待ったが効かないのは、実は栄一だったりする。
 『ユベル』召喚までのやり取りが、あまりにも十代と『ユベル』の2人の間だけで進みすぎた為、待ちくたびれているというのもあるのだろう。
 瞬間、十代の場の『プリズマー』の姿が、再び様変わりする。

「『プリズマー』のモンスター効果! デッキから『ネオス』を墓地へ送り、『プリズマー』を再び『ネオス』に!」

 もう何度も見た、『ネオス』の姿。だがその白きヒーローの逞しい姿を見て、栄一が飽きる事は決して無い。
 ミスターTはそろそろ見飽きているだろうが。

『『・・・ウン!』』

 『ユベル』と、『ネオス』となった『プリズマー』が、その視線を合わせ、阿吽の呼吸で頷く。そして飛び上がり、眩き閃光を発生させる。
 正しい闇の力を操りし光の英雄と、悪しき光の力を浴びるもそれを覆した闇の悪魔。その2体の力が、今、交わる。

「フィールドの『ネオス』と『ユベル』を墓地へ送り・・・現れろ! 『ネオス・ワイズマン』!」

 閃光の消え去ったそこに現れたのは、「闇」と「光」、互いの正しき部分、悪しき部分、その両面をその身に取り込んだ、漆黒の賢者。
 賢者だからこそ、正しき部分も悪しき部分も自在に操る。賢者だからこそ、「闇」にも、「光」にも、その全てに対して正面から向き合える。
 『ユベル』の力を得て、『ネオス』が特異な進化を果たした新たなるヒーロー。
 『ネオス・ワイズマン』が、全ての裁断を下す。

ネオス・ワイズマン ☆10
光 魔法使い族 効果 ATK3000 DEF3000
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO ネオス」と「ユベル」を1体ずつ墓地へ送った場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時に相手モンスターの攻撃力分の
ダメージを相手ライフに与え、そのモンスターの守備力分だけ自分のライフポイントを回復する。
このカードはカードの効果では破壊されない。

「『ネオス・ワイズマン』・・・。カッチョイィ〜〜〜」

 まるで後光が差すかの如き『ネオス・ワイズマン』の神々しさに、栄一は最早常套句となった感嘆の言葉を漏らす。
 完全に「十代の召喚宣言から、ヒーローが登場し、栄一が喜ぶ」までの一連がワンパターン化してしまっているが、そんなのは栄一には関係なかった。
 格好良いヒーローが召喚されたから、ただ子供のように喜ぶ。それだけであった。

「さぁて。これで『ダークネスソウル』は勿論、貴様も倒せるようになったぜ」

 先程自分が言われた事をそっくり返して挑発する。
 自らの象徴と自らの化身を用いて召喚した特別なモンスターの一撃にて、ミスターTに引導を渡さんとする。

『ボクの力を借りておいて、大見得切っているねぇ』

 『ネオス』と融合した後でも、『ユベル』の態度は相変わらずだった。
 『ネオス・ワイズマン』から態々精神を飛び出させてまで、十代を茶化す。

「折角オレが決めてるところなのに・・・。まぁいいや! いくぜ! 『ネオス・ワイズマン』で、『ダークネスソウル』を攻撃するぜ!」

 『ユベル』の精神が戻った『ネオス・ワイズマン』は飛び上がり、その全身を輝かせる。
 その閃光の眩さは、彼を直視する事は決してできない程だ。

「『アルティメット・ノヴァ』!」

 閃光が、『ダークネスソウル』を丸ごと飲み込む。こうして光で全身を支配されれば、猛毒を出して反撃している暇もない。

「『ネオス・ワイズマン』の効果! 戦闘ダメージとは別に、『ダークネスソウル』の攻撃力分の効果ダメージも受けてもらうぜ!」

「ぬっ! ぐぅぅぅぅぅ・・・!」

 ミスターTの歯を食い縛る音が響き渡る。だがそれも、同時に起こった爆発によって途切れる事に。
 このフィールドを駆け抜ける爆風を切り開いたその先には、十代の勝利が待っている。そう、皆が信じていた。










「・・・フフフ」

「何!?」

 しかし、煙の晴れたそこで、ミスターTは笑っていた。先程の『ダークネス・リーダー』攻撃時の十代の反応、それに似せるように。『ネオス・ワイズマン』の攻撃直前の挑発を、空回りさせるかのように。

「私は『ネオス・ワイズマン』の攻撃時に、このトラップカードを発動していたのだよ」

レインボー・ライフ 通常罠
手札を1枚捨てる。このターンのエンドフェイズ時まで、
自分が受けるダメージは無効になり、その数値分ライフポイントを回復する。

「『レインボー・ライフ』!? チッ! また奴のライフが・・・」

 ダメージを、そのままライフポイントに変換してしまうカード『レインボー・ライフ』。それが戦闘ダメージか効果ダメージかは関係ない。
 今の『ネオス・ワイズマン』による一撃。それには、戦闘によってそのまま発生する戦闘ダメージと、『ネオス・ワイズマン』自身の効果によって発生する効果ダメージ。その両方が含まれている。
 戦闘と合わせて大ダメージを与える事のできる強力な効果が、この場合は裏目に出てしまった。

ミスターT:LP1450→LP2450→LP4450

「だがオレも、『ダークネスソウル』の守備力分、ライフを回復させてもらうぜ」

十代:LP250→LP1750

「さらに、『ダークネスソウル』には戦闘破壊された時に、闇属性以外のモンスターを全て破壊する効果があるが・・・それも、『ネオス・ワイズマン』の効果で無効。カードを1枚セットして、ターン終了だ」

 煙が晴れたそこに立っていた『ネオス・ワイズマン』の全身には、『ダークネスソウル』のものと思われる多数の猛毒が付着していた。が、全てを絶命に導く猛毒も、耐性を得た『ネオス・ワイズマン』には関係ないようだ。
 十代のターンが終わる頃には、何も無かったかのように、全身に付着していた猛毒を、全て払拭していた。

ミスターTLP4450
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
十代LP1750
手札0枚
モンスターゾーンネオス・ワイズマン(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「・・・私のターンだ!」

 前のターンの攻防により、ミスターTは手札とフィールドのカードを全て失った。
 あるのは、このドローによって引く1枚のカードのみ。

「ドロー!」

 だがしかし、その1枚のカードが、その1枚だけでこの不利な形勢を逆転できるカードだったとしたら・・・

「・・・フフフ、ハッハハハハハ!」

 ・・・厄介な事、この上ない。

「私の墓地から、7種類の闇属性モンスターを除外する。私が除外するのはこの7種類だ!」

ミスターTの墓地の闇属性モンスター(太字が除外モンスター):
『スペース・ワーパー』
『ダーク・クリエイター』
『ダブルコストン』
『ダークネス・リーダー』
『ダーク・ホルス・ドラゴン』
『天帝使−リドル』
『スペース・ワーパー』
『バトルフェーダー』
『ダーク・パーシアス』
『速攻の悪魔』
『スペース・ワーパー』
『ダークネス・ソウル』

「そしてこの7種類の闇属性モンスターを糧にして・・・現れろ! 『究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン』!!!」

「何!? 『レインボー・ダーク・ドラゴン』だとぉ!?」

 細長き身体をくねらせて、その巨竜はフィールドに鎮座する。
 他の闇に飲まれたモンスター同様、その身体は漆黒で染められている。ところどころに、原型モンスター同様の、煌びやかな宝石のコーティングが見られるが。
 暗黒の翼を大きく広げた姿は、迫力満点、威圧感十分。その闇の咆哮は、全てを黙らせ、ひれ伏させる。
 古代ローマの君主ユリウス・カエサルが、その覇権を知らしめる為に集めたという7つの宝玉。そしてそれらを収める為の石版が竜と化した姿、それが『究極宝玉神』。
 その『究極宝玉神』が闇に飲まれた姿こそ、今、この場に現れた闇の竜『究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン』である。

究極宝玉神(きゅうきょくほうぎょくしん) レインボー・ダーク・ドラゴン ☆10
闇 ドラゴン族 効果 ATK4000 DEF0
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する闇属性モンスターを7種類
ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードを除く自分フィールド上と自分の墓地に存在する闇属性モンスターを
全てゲームから除外する事で、除外したカード1枚につき、
このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

「貴様! よくもヨハンのカードを!」

 『究極宝玉神』のカード。それは元々、十代の友人、ヨハン・アンデルセンの 所持するカードである。それがダークモンスターと化したのには、色々と訳があるのだが・・・。
 兎に角、友人の持つカードが、良いように操られるのは許せない。目の前の現実に、十代は怒りに駆られた。

「『レインボー・ダーク・ドラゴン』の特殊召喚時に除外した『スペース・ワーパー』の効果を発動。これにより、このターンの君のトラップカードの発動を封じよう」

「くっ!?」

 十代のデュエルディスクにチェーンが巻かれ、彼の行動の一部が縛られる。だが勿論、これで終わりではない。
 『レインボー・ダーク・ドラゴン』には、全ての闇の力を取り込み、それを自らの力として放出する効果が備わっている。

「そして『レインボー・ダーク・ドラゴン』の効果を発動。私の墓地の闇属性モンスターを全て除外し、除外したモンスター1体につき、『レインボー・ダーク・ドラゴン』の攻撃力を500ポイントアップする! 『レインボー・ダーク・オーバー・ドライブ』!」

 ミスターTの墓地から、5体の闇属性モンスターが現れ・・・黒く輝く宝玉へと変化する。そしてそのまま『レインボー・ダーク・ドラゴン』に吸収され、彼の力の糧となる。闇の虹を架ける為の、礎となる。

究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン:ATK4000→ATK6500

「そしてこの時、『スペース・ワーパー』が2体除外された事で、君の魔法カードと効果モンスターの効果の発動が封じられる!」

 十代のデュエルディスクに、行動制限を意味するチェーンが、さらに2つ巻かれる。

「そんな・・・これで十代さんのこのターンの行動は・・・」

 このターン十代は、全ての種類のカードの発動を封じられた。『レインボー・ダーク・ドラゴン』の攻撃を、ただ黙って受けるしかない。
 さらに『レインボー・ダーク・ドラゴン』は自身の効果で攻撃力が上昇しているので、『ネオス・ワイズマン』を叩かれるだけで十代のライフは全て削られてしまう。

「今度こそ、終わりだ! 『レインボー・ダーク・ドラゴン』で、『ネオス・ワイズマン』を攻撃!」

 『レインボー・ダーク・ドラゴン』の口元に、虹色のエネルギーが集まる。決着をつけんと、全てを葬り去らんと。



「『レインボー・リフレクション』!」



 放たれる、強大なエネルギー砲撃。十代と『ネオス・ワイズマン』、その両方を一気に飲み込んでしまう程、その攻撃範囲は広い。
 エネルギーが『ネオス・ワイズマン』に直撃した瞬間、フィールドに大爆発が発生する。
 またも旋風が発生し、煙が全てを包み込む。360度を覆い隠し、皆の視覚・聴覚を奪い去る。

「十代さぁぁぁぁぁん!!!???」

 何もかもを確認する事ができなくなり、栄一はただ、力いっぱい叫ぶ事しかできなかった。















「・・・だーかーらー、お前ら焦りすぎだっつーの」

 一瞬の沈黙の後、再び聞こえた頼もしい声。その声に、栄一は俯きかけていたその顔を上げた。
 煙の晴れた瞬間、彼の目に映ったのは、逞しいデュエリストの姿。
 十代はまだ立っていた。まだ、デュエルは終わっていなかった。

「十代さん!?」

『さすがだニャ!』

 その姿を見て、栄一と大徳寺先生が、歓喜の声を上げる。

「くっ! まだ生きているだと!?」

「諦めの悪いのが、オレの個性だからな。このカードが、オレを助けてくれたのさ」

 ミスターTの疑問を投げかける言葉に、十代は苦笑いで返答した。
 そしてその右手に持つのは、十代を間一髪のタイミングで守り抜いた、1枚のカード。

「確かに『スペース・ワーパー』の効果を3回も使われたら、このターンオレは何もできないように思えるだろう。表向きはな。だがその効果は、決して万能じゃない。あるんだよ、カードを発動できるタイミングが。『スペース・ワーパー』の効果にチェーン発動するというタイミングなら、発動できるんだよ!

収縮(しゅうしゅく) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン:ATK6500→ATK4500

「そうか! 『スペース・ワーパー』が除外された時点では、まだカードの発動を無効にする効果は適用されていない!」

『その間なら、『スペース・ワーパー』の効果にチェーンする形で発動すれば、『収縮』の効果も成立するニャ!』

「そう。それでオレは、まだライフが残っているって事さ!」

十代:LP1750→LP250

 白い歯を見せる程の眩い笑顔。挑発しているのかは分からないが十代は、ミスターTに向けて、これ以上ないという程に逞しいVサインをしてみせた。

「・・・またしても! またしても!! ターン終了だ!」

「この瞬間、『スペース・ワーパー』の効果が終了。オレは再びカードを使えるようになるぜ」

 十代の言葉に合わせるように、彼のデュエルディスクを縛っていた、3つのチェーンが外れる。

「だが私の『レインボー・ダーク・ドラゴン』の攻撃力も6500に戻る! 次こそ君の最後だ!」

究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン:ATK4500→ATK6500

ミスターTLP4450
手札0枚
モンスターゾーン究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン(攻撃表示:ATK6500)
魔法・罠ゾーンなし
十代LP250
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし


10

『最後だってさ。確かに、このターンが最後だろうね。さて、その最後のターンでキミは、ボクの敵をしっかり取ってくれるんだろうね、十代?』

 ミスターTの苛立った言葉に反応するかのように、『ユベル』がまた十代を煽る。
 自らの融合体『ネオス・ワイズマン』が倒された事が、相当気に入らないようだ。

「・・・それは、このドローに懸かってるな」

『なんだい、弱気だね』

 だがその煽りに対しての十代の返答は、今までで一番弱々しいもの。
 『ユベル』の顔も、呆れたかのように歪む。

『そんな事で、世界を守るだの何だのよく言ったもんだ』

「違ぇよ」

『?』

 構える十代の顔は、これ以上ないくらいの笑顔を見せていた。
 面食らった『ユベル』であったが、次の瞬間には全てを理解し、また彼を貶すかのような笑顔を見せた。

「1枚のドローに全てが懸かった瞬間! これ程ワクワクする瞬間はないだろ! オレのターン!」

「十代さん・・・やっぱり、さすがだ!」

 この危機的状況で、楽しそうにカードをドローする十代。
 その姿を見て、栄一は悟った。「この人は、何時如何なる時でも、デュエルを楽しんでいる」と。
 デュエルモンスターズの醍醐味。「ルールを守って楽しくデュエル」。それを、体現しているデュエリスト。それが、遊城十代なのだと。

「・・・魔法カード『ホープ・オブ・フィフス』! オレの墓地から5体の『E・HERO』をデッキに加えてシャッフル! そして新たに3枚のカードをドローするぜ!」

 そんな十代の手札に舞い込んだのは、5人のヒーローの希望を結集し、カードという可能性を与える魔法。『ホープ・オブ・フィフス』。
 選択した5体のヒーローを加えたデッキをシャッフルした後に十代は、ワクワクした表情で、再びデッキからカードをドローした。

ホープ・オブ・フィフス 通常魔法
自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついたカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
このカードの発動時に自分フィールド上及び手札に
他のカードが存在しない場合はカードを3枚ドローする。

デッキに戻された『E・HERO』:
『グラン・ネオス』
『エアーマン』
『グロー・ネオス』
『ネオス』
『プリズマー』

「・・・来たぜ来たぜ! オレは『ブラック・パンサー』を召喚し、モンスター効果を発動! 『ブラック・パンサー』を『レインボー・ダーク・ドラゴン』へと変身させ、そのモンスター効果を得る!」

 再び現れる、闇の『ネオスペーシアン』である『ブラック・パンサー』。彼は現れた瞬間、その身体を泥のように溶かし・・・目の前にいる巨竜『レインボー・ダーク・ドラゴン』へと、その姿を変える。質量がどうのこうのと言ってはいけない。

(ネオスペーシアン)・ブラック・パンサー ☆3
闇 獣族 効果 ATK1000 DEF500
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
選択したモンスターと同じ効果を得る。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「・・・この期に及んで、何をする気だ!?」

 楽しそうにプレイする十代の姿が、ミスターTには不可解に映ったのだろう。荒々しく、十代に疑問を投げかける。

「こうするんだよ!」

 だが十代は、その疑問に対する返事すら、弾んだ口調で答える。
 このターンで決着する腹積もりだから・・・という訳だけではない。本当に、デュエルを楽しんでいるからだ。

「『融合』を発動! 『レインボー・ダーク・ドラゴン』となった『ブラック・パンサー』と、手札の『ネオス』を融合する!」

 フィールドに現れる『融合』のエフェクト。その渦に、『ネオス』と、巨大な『レインボー・ダーク・ドラゴン』となった『ブラック・パンサー』が吸い込まれていく。
 そして発生する閃光は、これまでのどの光よりも、眩く煌き、希望に満ち溢れ、そして神々しかった。

「『ネオス』と『レインボー・ダーク・ドラゴン』の融合・・・」

『という事は・・・来るニャ! 十代君と、彼の親友、ヨハン・アンデルセンの力が合わさった、最強のヒーローが!』

 かつて3度行われた、『ネオス』と『究極宝玉神』の融合。親友同士の力を結集した、最大最強の力が、闇の世界で蘇る。
 『ネオス』が、虹の力を纏って、全ての希望を叶える為に進化した姿。未来への架け橋となる進化した虹の戦士が、今ここに降臨する。

「現れろ! 『レインボー・ネオス』!」

 白き、天使のような翼を羽ばたかせながら、その強大な力を持った戦士は現れた。
 全身は、勇者のような勇ましい白き甲冑に包まれている。所々に見える黄金の装飾は、彼を眩く仕上げ、神々しさを増長させている。
 フィールドにゆっくりと降り立つ姿は、何より美しい。大地を踏みしめる両足は、何より力強い。
 全ての裁断を下す、その構えた腕は、何より英知を感じる。大地に降り立った事で畳んだその翼からは、未来への先導を切る姿が容易に想像できる。
 凛と煌く視線が、狂いなく闇を切り裂く。迷いなく、全ての悪を吹き飛ばす。
 『レインボー・ネオス』。勝利の為に結束した力が、今、動き出す。

レインボー・ネオス ☆10
光 戦士族 融合・効果 ATK4500 DEF3000
「E・HERO ネオス」+「究極宝玉神」と名のついたモンスター1体
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
1ターンに1度だけ以下の効果から1つを発動できる。
●自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送る事で、
相手フィールド上モンスターを全てデッキに戻す。
●自分フィールド上の魔法または罠カード1枚を墓地に送る事で、
相手フィールド上の魔法・罠カードを全てデッキに戻す。
●自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地に送る事で、
相手の墓地のカードを全てデッキに戻す。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「『レインボー・ネオス』・・・」

 見惚れていた。その神秘的な様に栄一は、目を奪われていた。
 これまで、ヒーローが召喚される度に興奮していた姿とは、また違う。
 伝説のデュエリスト2人が結託し、勝利の約束の為に生み出した、輝く虹の戦士の姿。
 それを、まるで呆気にとられたかのように口をだらしなく開けながら、ただただ見つめ続けていた。

「だ、だが、『レインボー・ネオス』の攻撃力は、『レインボー・ダーク・ドラゴン』には届かない・・・!」

 同じく、『レインボー・ネオス』の融合をただただ見つめていただけのミスターTが、気付いたかのように声を上げる。
 そう。確かに十代は、強大な力を呼び出した。それでも、『レインボー・ダーク・ドラゴン』の暴力的な闇の力には届かないのだ。
 だが、十代は動じない。『レインボー・ネオス』には、さらなる力が備わっているから。

「『レインボー・ネオス』には、オレのフィールドのモンスター1体を墓地へ送る事で、相手モンスターを全てデッキに戻す効果がある! それを使い『レインボー・ダーク・ドラゴン』をデッキに戻す!」

 デュエルディスクを前に構え、自信満々に話す十代。
 デュエル中に何度か見せた弱々しい姿は、そこにはない。

「そのコストになるモンスターがいないだろう!」

 だがその表情も、ミスターTにとっては空元気としか映らなかった。
 何故なら、彼の言う通り、『レインボー・ネオス』の効果にはコストが必要だからだ。だが、そのコストとなるモンスターが、今の十代のフィールドには・・・いない。

「いや、いるぜ!」

 しかし十代は、はっきりと言い切った。そのコストとなるモンスターがいると。
 十代は、目の前に構えたデュエルディスクの、墓地ゾーンへと手をやる。するとそこから、彼の手に向けて1枚のカードが飛び出した。

「この瞬間、墓地の『レベル・スティーラー』のモンスター効果を発動! 『レインボー・ネオス』のレベルを1つ下げる事で、『レベル・スティーラー』を特殊召喚する!」

 十代がそのカードをディスクに叩きつけた瞬間、フィールドに、背中に大きな1つの星模様が浮かんだ天道虫のようなモンスター、『レベル・スティーラー』が現れる。
 『レインボー・ネオス』のレベルを「盗んで」召喚された事を象徴するかのような、背中の星模様が眩しい。

レベル・スティーラー ☆1
闇 昆虫族 効果 ATK600 DEF0
このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。
このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

レインボー・ネオス:レベル10→レベル9

「バ、バカな!? そんなモンスター、何時の間に墓地に・・・」

「いや、あったのさ。オレが『レベル・スティーラー』を墓地へ送る瞬間が、1度だけな!」



「『アクア・ネオス』のモンスター効果発動! 手札を1枚コストに、お前の手札1枚を破壊! 『エコー・バースト』!」



「あ、あの時の手札が・・・」

「そうさ! これで『レインボー・ネオス』の効果を発動できる!」

 驚愕が止まないミスターT。この瞬間、彼は、本当に焦っているのは自分自身だと気付かされた。荒々しく言葉を放っていたのも、十代ではなく、自分が空元気を見せていただけだった。
 だが、気付いてももう遅い。『レインボー・ネオス』の力の行使は、誰にも止められないのだから。

「『レインボー・ネオス』の効果発動! フィールドの『レベル・スティーラー』をコストに、お前のフィールドのモンスターを全てデッキに戻す! 『ビヨンド・ザ・レインボー・ホール』!」

 瞬間、大地に出現する大きな穴。そこに、巨大な力が吸い込まれていく。
 『レインボー・ダーク・ドラゴン』の巨体も関係ない。その穴は、全ての悪を閉じ込める、力の象徴。
 闇の力で模られただけの、紛い物のモンスター。それもまた、十代の行使した「力」の下に、封印される。

「そしてバトルフェイズ! 『レインボー・ネオス』で、ダイレクトアタック!」

「くぅぅ!?」

 『レインボー・ネオス』の両拳に、虹色の炎が灯る。
 その強大な炎は、勝利の名の下に、立ちはだかる全てを焼き尽くす。
 その強大な炎は、力の象徴として、群がる悪を全て葬り去る。
 その強大な炎は、全てに決着をつける。



「『レインボー・フレア・ストリーム』!」



 吹き荒れる2つの炎。ミスターT目掛けて一直線に伸びる。
 彼の全身を、その暴力的とも捉えられかねない怒りの炎で、灰にまで燃やし尽くす。

「ま・・・またしても、闇は勝てないというのかぁぁぁぁぁ!?」

 ミスターTの全身が、何枚もの黒きカードへと分裂する。
 そしてその1枚1枚が、虹の炎によって焼き払われたその時、ミスターTの姿は、既にそこにはなかった。

ミスターT:LP4450→LP0





11

「勝った・・・! 十代さんが勝ったぁぁぁ!」

 デュエルが終わった瞬間、栄一は、デュエルによる疲労でへとへとであろう十代に喜び勇んで飛び掛る。
 不意をつかれた十代。飛び掛ってきた栄一に押し込まれるような形で、大きな音と共にその場に倒れこんでしまった。

「イテテテ・・・。喜びすぎだぜ、栄一」

「す、すみません! でも、本当に十代さんが勝ってよかった・・・」

 自分の事のように喜び勇む栄一。そんな彼の姿には、さすがの十代もたじたじだ。
 栄一を落ち着かせながら、その場で立ち上がる。

「兎に角、デュエルには勝った。これでオレもお前も、元いた世界に戻れるな」

「あ、そうだ! ありがとうございます、十代さん! 俺なんかの為に・・・」

 栄一は、深々と頭を下げた。
 十代は、自分自身だけでなく、今日初めて出会った栄一の運命すら背負って闘った。
 その負荷率は、本人の為だけに闘った時のそれを、軽く倍は上回っているだろう。
 自分が足手纏いと感じた栄一は、礼を言わずにはいられなかった。

「オイオイ、畏まるなよ。別にオレは、お前の為に闘った訳じゃないんだから」

「え?」

「誰の為でもない。オレはオレのデュエルをしただけ。その結果、お前が助かり、ミスターTの復活も防げた。それだけだ」

 十代の言葉は、別に栄一を気遣ってのものではない。責任を感じた栄一の、不安を取り除く事を意図したものではない。
 だが、この言葉を聞いて栄一は、自分が足手纏いになどなっていない、と思えた。責任感が取り除かれ、肩の荷が下りた気がした。
 ともすれば自分勝手と捉えられかねない言葉も、十代の人間性もあってか、不安を取り除くものとなって、栄一の心の奥底まで響いたようだ。

「さぁて、そろそろお別れだな。一緒にいれたのは僅かだけど、楽しかったぜ」

「はい! 俺も、十代さんとご一緒する事ができて、とても楽しかったです! デュエルも、凄く勉強になりました!」

 十代がスッと右手を差し出す。それに釣られてか、栄一の右手も、自然と前に出る。
 出し合った手は、そのまま掴み合い、がっちりとした握手を生み出す。
 時を越えて出会った2人の、奇跡の喜び合い、別れの惜しみを意味した、友情の印であった。

『お涙頂戴のオチでお別れ・・・か。全く、中々滑稽な絵だね』

『最後まで素直じゃないニャ』

「ニャー」

 解かれない2人の握手。その姿を、『ユベル』や大徳寺先生、ファラオは、何時までも見つめ続けていた。








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