NEXUS
第11話〜

製作者:ネクサスさん






目次

第11話 第12話 第13話 第14話 第15話 第16話 第17話 第18話 第19話 第20話





第11話 −守る為のデュエル?−

「・・・『スカイスクレイパー』の効果で、『フレイム・ウィングマン』の攻撃力が1000ポイントアップ! いけぇ、『スカイスクレイパー・シュート』!」

「ぐわぁ・・・」

 フィールドに形成された夜の摩天楼。
 その摩天楼の最頂点から突進した『フレイム・ウィングマン』の攻撃が、対戦相手である佐々木(ささき)のライフを完全に奪い去った。

佐々木:LP400→LP0

「よっしゃー! 連戦連勝!」



 今日はデュエルアカデミアは休校日。と言っても、太平洋の孤島に設置されたこの島に、遊びに出るテーマパーク等がある訳が無く、特にやる事も無いので、仕方なくオシリスレッドの1年生達は、レッド寮の前でデュエルをしていた。
 ・・・栄一も例外でなくデュエルに参加し、連戦連勝を築き上げていった。



「やっぱ栄一は強いなー! 俺じゃあ敵いっこない」

 今栄一とのデュエルをやり終えた、レッド1年の佐々木が感想を語る。

「デュエルの実力だけなら、既にオベリスクブルー並って噂だもんなぁ」

 そう話を続けるのは、同じくレッド寮1年の山口(やまぐち)

「へっへーん。鼻高、鼻高ー!」



 ・・・そして、完全にお調子者の栄一。
 周りにいる同級生達からは、栄一の鼻はまるで天狗や嘘つきピノキオの様に伸びているように見えた。

「・・・・・・だけど、黒田先生とデュエルしたらどっちが勝つんだろう?」

 ペキッ!

 ・・・そんな天狗鼻を、同じくレッド寮1年の三橋(みはし)の発言が折った。

「えっ? 黒田先生? ・・・あの人、そんな強いのか?(なんかメッチャ貧弱に見えるんだけどな・・・。階段最上段から最下段まで豪快にズッコケてたし・・・)」


 ・・・栄一が語る「黒田先生の階段ズッコケ」は、第6話を参照にして下さい。


「ああ、それもかなりらしいぞ。・・・事の発端は、去年の1年生、つまり今2年生の先輩がレッドに配属された事にショックを受けて、憂さ晴らしに黒田先生とやったデュエルらしいんだけど・・・」

「憂さ晴らしって・・・。で、どうなったんだ?」

 栄一は興味津々といった感じで、身を乗り出して三橋に続きを聞く。

「黒田先生の圧勝。その先輩は、それに参って黒田先生に弟子入り志願したらしいよ。以降も、先生に挑んでは負け→弟子入りってのが続出らしい」

「ああ、その話、聞いた事がある。今ではレッド寮の2・3年生の8割が弟子入りしてるとか・・・」

 黒田先生の武勇伝を語り続ける三橋に、佐々木が思い出したように語る。

「そんなに・・・。てか弟子入りって、教師が特定の生徒に個別レッスンて、PTA的な意味でまずいんじゃないか?」

 黒田先生の武勇伝に対し、栄一はご尤もな意見を出した。それに対して三橋は・・・

「建前上は『レッド生に対する補習授業』って事らしい。まぁ確かに、補習っちゃ補習だからな」

「(黒田先生・・・そんなに強いのか?)俺もやりてぇな、黒田先生とのデュエル!」



 ・・・そう栄一が意欲を沸かしているその時、

「私を呼んだかな?」

 背後から突如、紺がかった黒の長髪に、眼鏡をかけた長身の男性が現れた。
 話の中心人物である、黒田先生その人だ。

「って黒田先生何時の間に!? ていうか、後ろから突然出てくるなよぉ・・・」

 ホラー映画の幽霊のような黒田先生の出現の仕方に、栄一達は顔を真っ青にして驚く。

「あぁ、スマンスマン。それよりさっきの話聞いてたけど栄一君、私とデュエルしたいんだって?」

「あ、ああ! 黒田先生、俺、アンタの強さを見てみたい!」















「・・・その、デュエルを楽しむ心、忘れないで欲しいな」















「えっ!? なんか言ったか、黒田先生?」

 よく聞こえなかったのか、栄一が黒田先生に尋ねる。

「あっ、いや何も。やるんならさっさとやろうか。素早く手っ取り早く」

 そう言う黒田先生、どこからともなくデュエルディスクを取り出すと、それを自分の左腕に装着した。

「おう! そう来なくっちゃ!」

 そう言いつつ、栄一は黒田先生からある程度の距離を取って、自らのデュエルディスクを構えた。




 ・・・レッド寮の前にて、栄一と黒田先生のデュエルが始まった。


「「デュエル!」」


黒田先生:LP4000
栄一:LP4000

 先攻は、黒田先生である。

「私のターン、モンスター1体とカード1枚をセット。ターンエンド」

 黒田先生の前に、2枚の伏せられたカードが現れた。静かなデュエルのスタートである。

黒田先生LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「よし、次は俺のターンだな! カードドロー!」



 と、栄一がドローしたその瞬間だった。突如、黒田先生が口を開けた。

「・・・ところで栄一君、君は、自分自身にとって大切な物を守る為に、デュエルをした事はあるかい?」

「えっ・・・、大切な物?」


 突然の黒田先生の質問に、栄一は暫く頭を悩ませる。・・・そして、出した答えは。


「・・・うーん、考えた事もねぇなぁ」


 ・・・。


「・・・そうか。じゃあ、これは覚えておいてもらいたい」

「ってなんだよ? いきなり授業かよぉ・・・」

 栄一はつまらなそうに答えた。それを見て黒田先生はクスリと笑い、さらに話を続ける。

「一応、私も教師だからね。・・・いいかい、確かにデュエルは、少年少女達に勇気と希望を与える、楽しいもの、そうでもある。・・・だがデュエルは、時に、自らの命運を賭けるものになる事もある・・・」

「・・・何を言ってるんだ、黒田先生?」

「いつか、君も出会うだろう。大切な物を守る為に行うデュエルに。・・・水原君も、あの遊城(ゆうき)十代(じゅうだい)君も出会っている。大切な物を守る為にする、命懸けのデュエルに・・・」

「マスターも? それに、あの十代さんも・・・? それって一体・・・。てか、そういう黒田先生はやった事あるのかよ。大切な物を守る為のデュエル?」

「・・・いずれ分かる」

「はぁ!? なんのこっちゃ!? ・・・てか今の話、このデュエルに関係あるのかよ?」

「・・・君の将来に関わる事だ。何かを守る為の「力」と「勇気」、それが無ければ、この先、勝ち進んで行く事はできない。水原君にも勝てない。彼の「力」と「勇気」はかなり大きいからね。・・・それを忠告しようと思ってね」

「・・・今のままじゃ、マスターには勝てないと?」

「・・・まぁそういう事だな。・・・いや、おそらくこのデュエルにも勝てない」



 ・・・一瞬、沈黙が流れた。



「言ってくれるじゃねぇか! ・・・でも、俺は勝つぜ! 『E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードマン』を攻撃表示で召喚! 『フォーチチュードマン』でそのリバースモンスターに攻撃だ!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードマン ☆4(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK1600 DEF1200
???

 栄一のフィールドに現れた炎の戦士、『フォーチチュードマン』の右手から放たれた炎が、黒田先生のフィールドのリバースモンスターを燃やし尽くした。
 だがその瞬間、黒田先生が不敵な笑みを浮かべる。

「残念、栄一君。君が破壊したのは『見習い魔術師』。このカードが戦闘で破壊された時、私はデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体をフィールドにセットできる。私がセットするのは、『執念深き老魔術師』!」

 そう言いつつ黒田先生は、デッキから『執念深き老魔術師』のカードを選び出し、自らのデュエルディスクに裏側でセットした。

見習(みなら)魔術師(まじゅつし) ☆2
闇 魔法使い族 効果 ATK400 DEF800
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で
存在する魔力カウンターを置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
このカードが戦闘によって破壊された場合、自分のデッキからレベル2以下の
魔法使い族モンスター1体を自分フィールド上にセットする事ができる。

執念深(しゅうねんぶか)老魔術師(ろうまじゅつし) ☆2
闇 魔法使い族 効果 ATK450 DEF600
リバース:相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

「『執念深き老魔術師』!? モンスターを破壊する効果を持つ厄介なリバース効果モンスターか・・・。カードを1枚セットして、ターンエンド」

黒田先生LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター(執念深き老魔術師)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO フォーチチュードマン(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「私のターン。セット状態の『執念深き老魔術師』を反転召喚。その効果により、君の『フォーチチュードマン』を破壊する」

 その姿を現した『執念深き老魔術師』が不気味な呪文を唱えた瞬間、『フォーチチュードマン』はもがき苦しみ、そしてフィールドから消滅した。

「『フォーチチュードマン』!」

「さて、君の場のモンスターも消えたし、反撃と行こうか。・・・まずは、『ネフティスの導き手』を召喚させてもらう!」

 フィールドに現れたのは、金とオレンジの服に身を包んだ召喚師。
 自身の能力こそ低いが、何といってもその魅力は、召喚師らしく、強力なモンスターを瞬時に呼び出す能力である。

ネフティスの(みちび)() ☆2
風 魔法使い族 効果 ATK600 DEF600
このカードと自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースして発動する。
自分の手札またはデッキから「ネフティスの鳳凰神」1体を特殊召喚する。

「『ネフティスの導き手』? ・・・まさか!?」

「あぁ、そのまさかだ! 私の場の『導き手』と『老魔術師』をリリース! それにより、『導き手』の力を発動する!」

 強力なモンスター・・・そう。何度でも蘇る力を備えた、フィールドを華麗に制圧する炎の鳥。

「『ネフティスの鳳凰神』を、デッキより特殊召喚する!」

 黒田先生のフィールドから、2体の魔術師が姿を消し、代わって、炎をその身に纏った巨大な鳳凰が現れる。
 ・・・その輝く姿は、栄一とその場にいた生徒全員に、畏敬の念さえ感じさせた。

「『ネフティスの鳳凰神』! カードの効果による破壊を殆ど無効化にするモンスター・・・」

ネフティスの鳳凰神(ほうおうしん) ☆8
炎 鳥獣族 効果 ATK2400 DEF1600
このモンスターがカードの効果によって破壊された墓地へ送られた場合、
次の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

「・・・だが、『ネフティス』が力を発揮するのは「破壊によって墓地に送られた場合」のみ! 『除外』なら『ネフティス』の効果は無力! トラップ発動、『奈落の落とし穴』! これは、攻撃力1500以上のモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時、そのモンスターを破壊しゲームから除外するカードだ! 『ネフティス』には退場してもらうぜ!」

奈落(ならく)()とし(あな) 通常罠
相手が攻撃力1500以上のモンスターを
召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。
その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する。

 『ネフティス』の真下に、どう見ても底を見つける事のできない穴が現れる。
 空を飛んでいる為、そんな落とし穴には落ちない筈の『ネフティス』だが、落とし穴から突如発生した重力が、空を飛ぶ『ネフティス』を強引に落とし穴に引きずり込もうとする。

 ・・・だが。

「・・・残念ながら、そうはいかない。手札から、速攻魔法『収縮』発動。『ネフティス』の攻撃力を半分にする」

収縮(しゅうしゅく) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

 『収縮』の発動によって、巨大だった鳳凰の体が、みるみるうちに小さくなっていった。
 それと同時に、落とし穴から発されていた重力も静まり、引きずり込まれかかった事によって体勢を崩していた『ネフティスの鳳凰神』も、冷静さを取り戻す。再び空を舞う

ネフティスの鳳凰神:ATK2400→ATK1200

「くっ! かわされちまった・・・!」

「私のバトルフェイズだ。『ネフティス』で、栄一君にダイレクトアタック!」


 上空へと飛翔する『ネフティス』・・・。その攻撃目標を栄一へと定めると、そのまま一気に降下。燃え盛る自身の体による痛烈な一撃を、栄一に与えた。

栄一:LP4000→LP2800

「ぐっ・・・、攻撃力がダウンしているとは言え、かなり効くぜ・・・」

「『ネフティス』の力、その言葉通り身をもって知ったみたいだね。・・・そしてバトルフェイズが終了したので、続いてメインフェイズ2に移行する。私は『ハンマーシュート』を発動。フィールドの『ネフティス』を破壊する!」

 空を優雅に飛ぶ鳳凰の頭上から、巨大なハンマーの様な物が突如落ちてくる。そしてそのハンマーは、そのまま鳳凰を地面に押し潰してしまった。

「なっ!? 『ネフティス』を自ら破壊した・・・。強引に自己再生効果を成立させる気か!?」

ハンマーシュート 通常魔法
フィールド上に表側攻撃表示で存在する攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊する。

「・・・ターンエンド」

黒田先生LP4000
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP2800
手札4枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「くっ、俺のターン! ・・・魔法カード、『エレメンタル・リレー』発動! 手札の『エッジマン』を捨て、デッキからカードを2枚ドロー!」

エレメンタル・リレー 通常魔法(オリジナル)
手札から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 何とかして、次のターンに蘇る『ネフティス』の対抗手段を整えなければならない。
 手札には、そんな栄一にとってこの上ない布陣が揃った。

「よし、いくぜ! 魔法カード『融合』により、手札の『ワイルドマン』と『ライオマン』を融合! 『ワイルドライオマン』を攻撃表示で融合召喚!」

 『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』得意の融合戦術。
 それによって現れたのは、立派な鬣や両手両足の鉤爪で野生っぽさにさらに磨きがかかったヒーロー、『ワイルドライオマン』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドライオマン ☆8(オリジナル)
地 獣戦士族 融合・効果 ATK2400 DEF1600
「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO ライオマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
???

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン ☆4
地 戦士族 効果 ATK1500 DEF1600
このカードは罠の効果を受けない。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン ☆4(オリジナル)
地 獣戦士族 通常 ATK1700 DEF800
獅子のように大地を駆け巡るE・HERO。
正義の突進ライオクラッシュで悪を砕く。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「さらに、墓地の『フォーチチュードマン』を除外する事で、墓地の『エッジマン』が復活する! 戻って来い、『エッジマン』!」

 墓地に送られた「不屈の力」。それによって、墓地から黄金のヒーロー『エッジマン』が蘇る。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン ☆7
地 戦士族 効果 ATK2600 DEF1800
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードマン ☆4(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK1600 DEF1200
自分の墓地に存在する、破壊されたこのカードをゲームから除外する事で、
自分の墓地から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

「・・・」

 栄一のフィールドに、2体の戦士が並んだ。
 しかし、危機的状況のはずなのに、黒田先生は微動だにしない。

「さらに、速攻魔法『サイクロン』! これで黒田先生のフィールドのセットされたカードを破壊!」

サイクロン 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

 栄一が手に持つカードから発生した竜巻が、黒田先生のフィールドに伏せられたカードを吹き飛ばそうとする。

「ほう・・・『サイクロン』か、中々引きがいいな。・・・・・・・・・本来なら、ね」

「何!?」

 デュエル開始時から表情を殆ど全く変えようとしない黒田先生。デュエルディスクにセットされたカードを取り出すと、栄一に向かってそのカードを見せた。

「私が伏せていたカードは、トラップカード『威嚇する咆哮』。これで君はこのターン、攻撃する事ができない。無駄足に終わったね、栄一君」

 吹き飛ばされる瞬間、伏せられていたカードから怒号の様なものがそこら中に響き渡り、それによって栄一も、栄一のフィールドの2体のヒーローも萎縮し、攻撃を行う事すらできなくなってしまった。

威嚇(いかく)する咆哮(ほうこう) 通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

「『ネフティス』を自爆させる事ができたのも、そのカードがあった為か・・・」

「・・・まぁ、そんなところかな」

 『威嚇する咆哮』のカードを墓地へ送りながら、栄一の言葉に答える黒田先生。口元に僅かな笑みを浮かべる事はあるものの、その落ち着いた表情はデュエル開始時からなんら変わる事はない。

「・・・これじゃあ攻撃はできねぇ。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「ん? 『ネフティス』の効果を忘れたのかい? 『ネフティス』は、自らの効果によってフィールド上に特殊召喚された時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する効果を持っているんだよ?」

「わかっているよ、それぐらい。だが先生、『ネフティス』が戻って来て俺のリバースカードが破壊されるとはいえ、俺のフィールドには『ネフティス』に攻撃力で劣るモンスターはいないんだぜ。どうするつもりだ?」

黒田先生LP4000
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP2800
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ワイルドライオマン(攻撃表示:ATK2400)
E・HERO エッジマン(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「私のターン・・・。なら、やってみるかい? 本当に、このターンを凌げるか・・・」











「・・・・・・えっ!?」

 黒田先生が自信有り気に言い放った一言。それは、冷たく矢の様に心に刺さりそうな、しかしそれでありながらも、その奥には熱い闘志が秘められているような、そんな一言であった。

「(なんだ、ただ突っ立っているだけなのに・・・、先生から湧き出てくる、この物凄いプレッシャーは・・・? 何かが、何かが起きる!?)」

 黒田先生は、ドローしたカードを左手に持ち替えると、右手を自分のデュエルディスクの墓地ゾーンに構える。
 すると、中から1枚のモンスターカードが出て来た。『ネフティスの鳳凰神』である。
 そして黒田先生は、右手に持った『ネフティス』のカードをディスクのモンスターゾーンへと静かに置いた。

「カードの効果によって破壊された『ネフティス』は、私のスタンバイフェイズにフィールドに蘇る! 出でよ、『ネフティスの鳳凰神』!」

 その身を炎に包みながら、再びフィールドに舞い戻る『ネフティスの鳳凰神』。
 その場にいた者達に、再び恐怖と敬意の念を与える。

「『ネフティス』復活時の効果により、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する! 全てを焼き尽くせ! 『ネフティス』!」

 ・・・黒田先生の叫びと共に、復活した『ネフティス』は体中に灼熱の炎を溜めると、一気にそれらをフィールド上に振り撒く。

「(くっ・・・! だが、いくら先生からプレッシャーをかけられようと、俺は負ける訳にはいかない!)リバースカードオープン! 『エッジ・ハンマー』! 俺のフィールドの『エッジマン』をリリースする事で、相手フィールド上のモンスター1体を破壊!」

 栄一の場の『エッジマン』の体が赤く燃え上がる。そして、『エッジマン』の目線の先にいるのは『ネフティスの鳳凰神』・・・。
 『エッジマン』は、勢いよく『ネフティス』に向かって飛び掛っていった。

「・・・1ターン『ネフティス』の復活を遅延させただけか。あれだけ言っておいて、その程度かい?」

「慌てるなよ、先生。『ワイルドライオマン』がフィールドにいる限り、フィールド上から墓地へ送られるモンスターは全て、ゲームから除外される。そして、除外されたモンスター1体につき、『ワイルドライオマン』の攻撃力は300ポイントアップする!」

「・・・!?」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドライオマン ☆8(オリジナル)
地 獣戦士族 融合・効果 ATK2400 DEF1600
「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO ライオマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上
から墓地へ送られるモンスターは墓地へは行かずゲームから除外される。
この効果によってゲームから除外されたモンスター1体につき、
このカードの攻撃力を300ポイントアップする。

 『エッジマン』の突進を喰らいながらも、『ネフティス』はフィールドに炎を撒き続ける。そしてその撒き散らされた炎は、フィールドの魔法・罠カードを全て燃え尽くしてしまった。
 と言っても、フィールド上の魔法・罠カードは栄一のフィールドの、しかも既に発動された『エッジ・ハンマー』のみだったのだが。


 ドォォォォォォォォォォォォォン!


 そして『エッジマン』と『ネフティス』の衝突。その反動は大きく、大爆発を巻き起こした。
 そして、その爆発がフィールド上を包み込んでいく・・・。

「『エッジマン』と『ネフティス』の2体が除外された事で、『ワイルドライオマン』の攻撃力は600ポイントアップ!」

E・HERO ワイルドライオマン:ATK2400→ATK3000

「そして『エッジ・ハンマー』第2の効果、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「ぐっ、ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・」

 その直後、爆発によって発生した煙によって、栄一と黒田先生の二人の姿は隠れてしまった。

エッジ・ハンマー 通常罠
自分フィールド上に存在する「E・HERO エッジマン」1体を生け贄に捧げる。
相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊し、
そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。






「『ネフティス』を完全に倒した!」

「これで黒田先生はエースを失った! 栄一、勝てるぞ!」

「栄一の奴スゲェ! あの黒田先生を・・・」

 『ネフティス』が除外され、栄一のフィールドにはエース級の攻撃力を持つ『ワイルドライオマン』がいる・・・。
 その場にいた、栄一も含めた生徒達全員が、勝利は栄一に近づいたと予感した。





 ・・・しかし。





「(・・・何だ? この威圧感は?)」

 爆発の煙によって、自分の間近にいる『ワイルドライオマン』以外何も見る事ができない栄一。その栄一に、突如強力な威圧感が押し寄せる。
 ・・・それと同時に、黒田先生のフィールドに何者かの影を、栄一は確認した。

「(・・・えっ!? 黒田先生のフィールドに何かいる? 何なんだ、あれは・・・)」

 栄一が、誰のものか分からない威圧感を感じたのと同時に、場にいる『ワイルドライオマン』が、突如現れたマジシャンが脱出ショーでよく使うような箱に閉じ込められてしまった。

「ど、どうした? 『ワイルドライオマン』!?」

 ・・・しかし『ワイルドライオマン』は何も応えず、そのままその身を箱ごと消滅させてしまった。それと同時に、先ほどの爆発によって引き起こされた煙が晴れる。
 それによって栄一は、黒田先生のフィールドにいるモンスターの正体を知った。
 そのモンスターは黒田先生と同じようにフィールド上に仁王立ちしており、その周囲から生じている威圧感は、栄一に途轍もない恐怖を感じさせた・・・。

黒田先生:LP4000

「先生のライフが減ってない? どうなってんだ!?」

「・・・『リリカル・セイジ』。手札のこのカードを墓地へ送った事によって、このターン私が受ける効果によるダメージは全て0になったよ」

「そ、そんな・・・。しかも、先生のフィールドにいるモンスターは、まさか・・・『コスモクイーン』!? でもなんで先生のフィールドに? それになんで『ワイルドライオマン』が破壊されるんだ・・・?」

 『コスモクイーン』。全宇宙を治めていると言われる闇の女王。
 栄一の感じた威圧感の根源は、彼女であった・・・。

「・・・栄一君、君は『ネフティス』の退場ばかりに気を取られていた。が、その間に私はある罠を仕掛けていたんだよ・・・」

「ある、罠・・・?」

「そう、罠だ・・・」

 そういって、黒田先生は墓地から2枚のカードを取り出し、栄一含む周囲の生徒達にその2枚を示した。『死者蘇生』と『ディメンション・マジック』のカードである。

「『リリカル・セイジ』のもう1つの効果によって、私はカードを1枚ドロー。・・・ドローしたカード、『死者蘇生』によって『見習い魔術師』を蘇らせ、その『見習い魔術師』をコストに『ディメンション・マジック』を発動。・・・私の手札に眠っていた最上級魔術師、『コスモクイーン』を手札から特殊召喚し、君の場の『ワイルドライオマン』を破壊させてもらった」

「あぁ・・・」

 『ワイルドライオマン』が閉じ込められた箱、それは黒田先生の手にある『ディメンション・マジック』のイラストに描かれた箱と全く同じデザインであった。

リリカル・セイジ ☆3(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK800 DEF800
このカードを手札から捨てて発動する。このターン、
自分が受ける戦闘ダメージ以外のダメージは全て0になる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

死者蘇生(ししゃそせい) 通常魔法
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

ディメンション・マジック 速攻魔法
自分フィールド上に魔法使い族モンスターが
表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースし、
手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。
その後、フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する事ができる。

コスモクイーン ☆8
闇 魔法使い族 通常 ATK2900 DEF2450
宇宙に存在する、全ての星を統治しているという女王。

「これで終わりだよ。『コスモクイーン』、『コズミック・ムーア』!」

 宇宙の女王、『コスモクイーン』。その、強烈な威圧感を醸し出す女王から発された闇の球体は、栄一を一瞬にして飲み込み、ライフポイントを奪った・・・。

栄一:LP2800→LP0

「くっ、負けた・・・」

 先生とのデュエルに負け、膝をついて悔しがる栄一。

「栄一が、負けた・・・」

「しかも、ライフを1ポイントも削れず、シャットアウトで・・・」

 そして栄一の圧敗に、レッド寮の生徒も唖然としていた・・・。











 それから数十秒の時間が流れた。

「ヤレヤレ。栄一k」

 栄一が全く動かないので、見かねた黒田先生が栄一に声をかけようとした、その時である。

「なぁ先生。俺は・・・、『自分にとって大切なもの』も『そのためのデュエル』も全然分からない・・・。だけど・・・」

 栄一は一瞬間を置き、再び答えた。

「もし俺もそういう場面に出くわした時、それに打ち勝てる『力』と『勇気』が欲しい! 教えてくれ、先生!」

「いいよ」

「えっ!?」

 先生のあまりにもあっさりした返事に、戸惑う栄一。

「いつでも私の所に来なさい。ただし、他の寮の生徒や先生がいる時は勿論タブーだけど。建前上補習授業といっても、他の寮の人に見られたらマズイからね」

「黒田先生・・・」

「じゃ、私は部屋に戻るから。君達もそろそろ寮に戻りなよ」

「えっ? ・・・ってもう夕方かよ!」

 黒田先生の台詞で、日が既に沈みかけてる事に気付く栄一達。そんな彼らに笑みを浮かべながら、黒田先生は寮の方へ戻って行った・・・。



 ズテッ!



 勿論、途中でズッコケました。





「(マスターも、宇宙先輩も、黒田先生も、皆強ぇ・・・。俺ももっと、強くならなくちゃ!)」





 再び立ち上がり、寮の方へ歩みだした黒田先生を見ながら、そう改めて決心する栄一であった・・・。





「(明石栄一君、か・・・。もっと強くなって、私を楽しませてくれよ・・・)」



第12話 −闇夜の護−

「『ネフティス』で、『ワイルドマン』に攻撃!」

「・・・くっ!」

 飛翔、そして急降下。
 その強烈な突進が、野生のヒーロー『ワイルドマン』に直撃し、そのヒーローの主である栄一のライフを奪い切った。

栄一:LP900→LP0

「くーっ、また負けたぁ・・・」

 その場に寝転ぶ栄一。ここ、レッド寮の前では、黒田先生による栄一の特訓が行われていた。

「いや、今のデュエルは良かったよ。私も『ネフティス』が来なかったらどうなってたか・・・」

 黒田先生が、デュエルディスクを仕舞いながら今のデュエルの感想を語った。

「やっぱ先生強ぇや・・・。っていうか、もう夜かよ・・・」

 そう言う栄一が気付いた時には、既に辺りは暗くなっており、月も出ていた。

「栄一君、デュエルに夢中だったからな。20戦ずっと・・・」

「で、戦績は俺の20戦全敗・・・」


 ・・・2人は沈黙した。










 基本的に、漫画の主人公がここまで酷く負け続けるっていうのはそう無い事だと思いますが、何故、栄一がココまで負け続けてしまったのか、という事に理由を補足しておきますと・・・ようは、栄一は黒田先生との相性が最悪ということです。デッキ等の問題では無く、いわゆるジンクス的なものです。でもジンクスだけで20連敗って・・・。










「・・・それより栄一君、中間テストの筆記の方は大丈夫なのかい?」

 沈黙を破ったのは黒田先生の方だった。

「えっ、筆記・・・? 先生までそんな事言うなよぉ・・・」

 先生の言葉に、気だるそうに答える栄一。筆記試験を明らかに嫌悪しているその態度が、数メートル離れた黒田先生からでもよく分かった。 

「いや、私も教師だし・・・。言うのは当然じゃないかな・・・?」

「ちぇ。俺、筆記苦手なんだよなぁ・・・」

 ・・・と、栄一が愚痴をこぼしていた、その時であった。

「栄一、今すぐ万丈目ルームに集合だ! 急げ!!!」

 突如レッド寮から、栄一と同い年の佐々木が飛び出て来て、栄一の服の後ろの襟辺りを掴む。

「えっ!? えっ!?」

 イキナリの出来事に、「?」が乱れ飛ぶ栄一。しかしそれも気にせず、佐々木は栄一を引きずっていこうとする。

「ほら急げ!!!」

「えーーーーーーーーーー!!!!!?????」

 栄一は、佐々木にイキナリ拉致られた・・・。ってこれ川柳〜? by泉こ○た

「・・・頑張れー。栄一君」

 そして、完全に取り残されてしまった黒田先生であった・・・。



 栄一は 佐々木にイキナリ 拉致られた byネクサス










−万丈目ルーム−
 アカデミアの卒業生で、このオシリスレッド寮にも長く在籍していた生徒、万丈目(まんじょうめ)(じゅん)が在籍時に、元あったオシリス寮に増設した部屋。
 設立以降、レッド生のミーティングルーム的な場所となっている。



 ・・・万丈目ルームでは、レッド寮の1年生が中間試験に向けて合同勉強会を開いていた。何しろ、この中間試験の結果次第では、寮の昇格の可能性があれば、アカデミアに入学して僅か数ヶ月で退学という事も有り得るからだ。
 今、万丈目ルームにはレッド寮の1年生全員が集まっているのだが、その全員が目を血眼にして・・・正直言ってアカデミアの受験時以上ではないかという勢いで勉強していた。

 ・・・1人を除いては。

「ここx=3だよなー?」

「『regardless』ってどういう意味だっけ?」

「『モンゴル帝国』の建国って千何年だったー?」




「はぁぁぁぁ・・・。皆勉強、勉強って、そんな目を赤くしなくても・・・」

 皆が勉強に集中している最中、栄一は言ってはいけない事を言ってしまった・・・。
 そんな暴言に近い発言を、その他の1年生が聞き逃す訳も無く・・・。

「「「「デュエルの強いお前はいいよなーーーーー!!!!!」」」」

 ・・・当然の発言である。

「えっ!? えっ!?」

 栄一以外の生徒全員の叫びに、驚く栄一。自分が空気を読めない発言をした事に全く気付いていない。

「お前のようにデュエルの強くないおれ達はなぁ!」

「筆記試験で少しでもいい点取らないと進級すら危ないんだよぉ!!!」

「皆で得意なところを教え合っていけば、少しでも能率上がるかなぁと思ってお前も誘ったのに!!!」

「勉強する気がないなら出て行けー!!!」

「うわぁあああああ!」



 ダァン! ドサッ! バタン!



 ・・・栄一は、その他の1年生全員の協力によって万丈目ルームから追放された。



「ちぇ、なんだよ、皆揃って・・・・・・・・・。しゃあねぇ、夜の散歩にでも行くか」



 ・・・と、栄一が森の方に向かおうとしたその時であった。

「・・・あれ? 埠頭の方に・・・誰かいる? こんな時間に誰だ?」

 栄一は、埠頭の灯台近くに1人の人間がいる事に気付いた。
 そしてそれが誰なのかを調べる為に、栄一は埠頭の方向に向かった。





 ・・・ちなみに、アカデミアにはかつて、灯台部という部活があったといい、かの『カイザー』丸藤(まるふじ)(りょう)や、天上院(てんじょういん)明日香(あすか)といった顔ぶれも、灯台部の部員だったとか(大嘘)



































 ザザーン! ザザーン!


 波打つ音が聞こえる埠頭。栄一は倉庫(GX本編で十代達が釣りをしていた辺りにある倉庫。十代が単身童実野町(どみのちょう)へ向かう時に、この倉庫からボートを出している)の隅に身を潜めつつ、灯台の傍に立っている人間の正体が誰なのかと目を凝らす。


 そして、その正体は・・・


「(あれは、マスター? なんで、埠頭に1人で突っ立てるんだ・・・?)」


 埠頭にいた人の正体は、マスターこと水原護であった。
 栄一は、何故護は1人で灯台の傍で突っ立っているのかを調べようと出来る限り護に近づこうとするが、護の近くには灯台があるだけで他には何も隠れられそうな所がない・・・。
 結局、今いる場所から護を観察しているしかなかった。





「(もっと近づけたら、何をしてるのか分かるのになぁ・・・)」

 と、栄一が心の中で悔しがっていたその時であった。





「・・・そこで何をしてるのかな? 明石栄一君」

 栄一の耳に、どこからともなく声が聞こえてきた。

「(えっ!? 後ろに誰か!? ・・・・・・・・・いない? じゃあ、今の声は?)」

 勿論驚く栄一。すぐさま後ろを見るも、誰もいない。
 不思議に思いつつ、栄一は灯台の方へ再び振り返った。

 その目の前には・・・





「そこで何をしてるのか、と聞いてるんだけどな。栄一」

 両腕を腰に組みながら、こちらの方を凝視する護の姿があった。

「わっ! マスター、何時の間に!? てかさっきの声も、まさかマスター・・・?」

 護の突然の急接近に動揺する栄一。そして、動揺のせいか話を聞いていなさそうな栄一に呆れたのか、護が再び喋りかけた。

「聞いてるのは、一応僕の方なんだけどな・・・。何をしているんだい、って」

 その言葉に栄一は、「何とか言い訳しないと」としどろもどろになりつつ・・・

「あ、あぁ・・・。あー、えーと、えーと・・・、なっ、何でもない! 何でもないぜ! じゃあ、失礼しまーす!!!」

 とだけ言い残し、レッド寮の方へ逃げ帰って行った・・・。





「・・・行っちゃったな、『コメット』」

『ミー(・・?)』

 埠頭には、呆然とする護と『コメット』と呼ばれた妖精の姿が残るだけであった・・・・・・・・・。
 ちなみに、実はこの『コメット』、栄一に護が話しかけた辺りから、ずっと護の傍を飛んでいたのだが、どうやら動揺している栄一は気付く事ができなかったみたいで、終始スルーされっぱなしの状態であった・・・。






























−翌日、校舎内廊下にて−

 昼休み。試験前のピリピリしたムードの中、特にやる事のない栄一は、廊下を1人でぶらぶらしていた。
 そんな栄一に、オベリスクブルーの女子生徒専用の制服を着た1人の女子が近づき、話しかけてきた。

「ちょっと奴隷1号、話があるんだけど」

 話かけてきた彼女の名は井上(いのうえ)悠里(ゆうり)。栄一達の入学直後に行われた歓迎タッグデュエル大会で、栄一とペアを組んだ3年生である。
 この大会以降、栄一は彼女の『奴隷1号』として認定されてしまっている。

「あ、井上せんp」

「ちょっとこっち来なさい!」

「って、えーーーーーーーーーー!!!!!?????」

 栄一が返事をする間も無く、悠里は栄一の前髪を握るとそのまま栄一をどこかへ引きずって行ってしまった・・・。
 問答無用。栄一、2日連続で拉致られました・・・。




















−アカデミア校舎裏−

「何だよぉ、何で俺拉致られんのぉ? てか何でわざわざ校舎裏ぁ?」

 気だるそうに文句を並べる栄一。まぁ、強引に拉致られたのだから無理も無いが・・・。

「誰にも聞かれちゃいけない話だからよ! 1号、アンタに頼みがあるの」

「えぇ? 頼みぃ? 一体何ぃ?」

 「どうせ、ろくな頼みじゃないんだろうなぁ」そんな言葉が栄一の脳裏を過ぎる。

「・・・護様を、隠れて調査して欲しいの」

「それって尾行・・・? ストーカー・・・?」

「調査よ! 護様、最近夜、いっつも1人でどこかに行ってしまうのよ・・・。私心配で心配で・・・」

 そう言う悠里は、顔を両手で押さえる。多少、涙声にもなっているようだ。

「・・・じゃあ自分でやれば?」

 栄一は「そんな面倒くさい事には付き合ってられない」といった感じで申し出を断った。・・・しかし。

「バレたらまずいからアンタに頼んでるんでしょ! イイ? 何か分かったら、小さな事でも私に報告するのよ! あ、これ護様に関しての諸情報をまとめたノートだから! 気付いた事があれば、報告+ここに書き加えていってちょうだい!」

 完全に無視である。悠里はポケットから1冊のノートを取り出すと、栄一にそれを強引に渡す。

「マジかよ・・・。なんで俺がそんな事を・・・」

「わかったの?」

「ハッハイィィィ・・・・・・(トホホ・・・)」

 「なんという強制イベント・・・」そんな言葉が、栄一の脳裏を過ぎった・・・。




















−再び、校舎内廊下にて−

「うーん、どうやって尾行したらいいんだ? 相手は、あんなに離れた場所にいる俺を見つけたマスターだぞ・・・。ていうか、この井上先輩が記したノートスゲェ・・・。『これ本当なのか?』って事も書いてる・・・・・・(汗) ていうか、こんな設定必要なのか作者?」

 そう栄一が悩んでる時、前から新司と光がこちらにやって来た。

「お、栄一。良い所に。一緒に購買行こうぜ! 光と2人じゃうるさくてよぉ」

「どういう意味、新司?」

「・・・なんでもありません」

 光の凍りつくような発言に、瞬時に沈黙する新司。

「・・・その割には、お前ら結構2人でいるよな?」

 そして冷静につっこむ栄一。

「しょうがないだろ? お前探してたら、いっつもコイツと同じ方向に向かう事になるんだから」

「それはワタシの台詞よ! 栄一探してたら、何故かいつもアンタと出くわしちゃうのよ!」

 いがみ合う2人。

「ハイハイ、夫婦喧嘩はその辺にして。それより、2人に相談があるんだ」

「「誰が夫婦だ!!! ・・・って相談?」」

「あぁ、相談」

 「なんだかんだで台詞ハモってるし、結構この2人相性いいんじゃね?」そう思う栄一であった。



















−校舎内廊下、別の場所−

「はーーーーー! マスターの尾行をねぇ?」

 あまりにも無謀な事なのか、「護を尾行する」という事自体に呆れる新司。

「なぁ、何か無い? マスターにバレずに、尾行できる方法?」

「といっても、相手は何十、何百mと離れたアンタを簡単に見つけた、トンデモ人間のマスターでしょ? ワタシ達の力じゃ、どうしようもできないわ」

「だよなぁ・・・」

 光の言葉に、栄一はさらに暗くなる。

「にしても、この井上先輩の取ったデータ、本当か疑問に感じる事から誰が知りたいのよっていうどうでもいい事まで書いてるわね・・・。これ書いてる事全部本当なら、マスター1人でデタラメ人間の万国ビックリショーよ・・・」

水原(みずはら)(まもる)
10月1日生まれの18歳。血液型はA型。右利き、ただし左手も利き手並に扱う事ができる。身長178cm、体重71kg。体脂肪率は常時1ケタの7%。かなりの大食い。30ヶ国語をしゃべる事ができる。絶対音感の持ち主。7歳の時に東大の試験でオール満点を取り、以後毎年東大他多数の大学・高校の入試問題のモニターを務めるも、全ての試験でオール満点。体力面でも、100m走にフルマラソン、走り幅跳びや水泳各種目等でギネスレベルの記録を数多く持ってる、まさに全てにおいて万能な、完全無敵の超天才。デュエルの方も、わずか9歳でプロデビューした後、10歳の時の病気での半年間のブランクを除けば、ほぼ無敵の戦績を残している史上最強と言っても過言ではないデュエリスト。プロで稼いだ賞金のほとんどを、愛護団体や保護団体、保育施設や老人ホームへの寄付に充てているetc・・・。

「これ、よくここまで調べたわね? 嘘か本当かは別として・・・。ていうかここまで調べたのなら、今回も自分で行けばいい話では・・・? ていうか、こんな設定必要なの作者?」

 悠里の調べたデータブックの中身を見て、目を白黒させながら呆れる光。
 それもそのはず、このデータブックにはページの隅から隅まで護についての情報が書かれており、↑で書かれている事等所詮氷山の一角なのである。・・・もしかして悠里ってストーカー?

「バレたらマズイからだってさ」

「いや、これだけ調べてたら既にバレてると思うんだけど・・・」

「井上先輩のマスターへの執念は凄いから・・・」

 そう栄一と言い合っている光からデータブックを借り、別のページを開く新司。

「『ガーディアンズマスター』『エース・オブ・エース』『日本のエース』『最年少プロ』『史上最強デュエリスト』『奇跡を呼び込む男 by北○博敏(オリックス・バファ○ーズ、背番号23)』『白き貴公子』『キング・オブ・デュエリストの生まれ変わり』・・・。現役時代の呼び名も数知れず。俺だって、小さい頃はマスターのデュエルを見て『たった2つ年上の奴がなんでこんなに強いんだ』と思ったからなぁ」

「あ、それワタシも思ってた。『この人、絶対年齢偽ってるでしょ?』って」

「だけど、テレビに映ってるマスターの姿見て、偽りじゃないって何故か分かっちゃうんだよなぁ」

「マスター、当時は背が低かったらしいからね。・・・確か、10歳の時の公称で135cmだっけ?」

 完全に『マスター座談会』となってしまっている新司と光。
 その横で栄一は、傍から見たら完全に目の焦点が合っていない、まるで夢遊病者のような状態で2人の話を聞いていた。

 ・・・・・・聞いていた?

「ん? どうした栄一? 『井上先輩のマスターへの執念は凄いから・・・』と言ってから無言だぞ。目が点になってるぞ?」

 栄一の様子がおかしい事に気付き、新司が栄一に向かって声をかける。

「・・・えっ!? あぁ、なんでもないよ」

「そう? なんか全然話に乗らないから、少し心配したじゃないの」

 栄一は何事も無かったかのように答える。しかし、やはり不安に思ったのか、光までもが栄一を心配そうに見る。

「わりぃ、心配かけて」

「まったく、栄一って奴は・・・。まぁ話を戻すが、井上先輩が記したこのデータを見る限り、こんな完璧超人・トンデモ人間に変化球攻めは無理だろ・・・。ここはやっぱ、直球ド真ん中勝負で素直に後をつけて行くしかないんじゃないか? 俺たちも手伝ってやるからさ」

「ちょっ、『俺たち』ってなんでワタシも一緒なのよ、新司?」

 まさか自分の名が挙げられるとは思わなかったのだろう。新司のセリフに疑問を投げかける光。

「乗りかかった船だろ? お前も一緒に来い!」

 護の調査に興味を持ったのか、完全にノリだけで話を進める新司。

「・・・マジですか。・・・ハァァァァ、しょうがないわねぇ。ワタシもついて行くわよ・・・」

「お、そう来なくっちゃ!」


 やる気マンマンの新司に、結局折れてしまった光。面倒くさそうにこの企画に了解した。


「新司・・・、光・・・、サンキューな!!! 今度何か奢るから!」

 泣きながら、2人に礼を言う栄一。「やはり持つべきは友達だなぁ・・・」栄一の脳裏を、そんな言葉が過ぎった。

 ・・・しかし、その言葉に対して帰ってきた言葉は、栄一にとって痛烈なものだった。

「マジ!? 奢ってくれるのか!? じゃあ俺、ドローパン20個!!!」

「ワタシも同じく!」





「(・・・容赦ねぇ。やっぱり、言わない方がよかった・・・)」

 後悔しても遅い。





 ちなみにドローパンというのは、購買部で売られている、コロッケやピザなどが入っている名物パンの事である。
 中に黄金の卵が入ってる卵パンが1日1個存在し、ドローを極めようとする多くの生徒が、その卵パンを目当てに毎日ドローパンを『ドロー』している。





















−その夜、オベリスクブルー寮前にて−


 ・・・ガチャ!


 夜8時頃、ブルー寮の玄関から1人の人間が出て来た。護である。
 そして、それを見張る栄一・新司・光の3人の姿が、近くの草むらにあった。

「あ、出て来た!」

 最初に声を上げたのは、光である。

「森の方に向かって行くぞ・・・。何しに行くんだ?」

 新司が、続けて声を上げる。

「行こう!!!」

 最後は栄一である。かくして3人は、護を追って森の中へ入っていった。・・・しかし。















「・・・見失った。てか道にも迷った。俺オワタ\(^o^)/」

「ナンテコッタイ<(^o^)>・・・じゃなかった。ていうか、方向音痴の栄一に先頭を任せるんじゃなかった・・・」

「どうすんのよ! 3人揃って迷子じゃない!!!」



 ・・・森のド真ん中で迷ってしまい、しかも護を見失ってしまった3人。



「どうしよう・・・。マスター、どこ行ったのかなぁ・・・。てか俺達、帰れるのかぁ・・・?」

「落ち着け栄一! 取、取り敢えず、対策を練るまで、ここを動かないでおこう」

「そうね。これ以上動いたら、なんか物凄くまずい気がするわ・・・」

 弱気になる、方向音痴の栄一。それに対して、以外に冷静な新司と光。
 3人は頭をフルに使って、この状況からの脱出方を考えた。



















 ・・・そうこうしている内に、数十分経過。

「「「・・・どうしよ?」」」


 何の案も浮かばない・・・。と、3人が絶望に淵っている、その時であった。





 ガサッ!


「なんだ!? マスターか!?」

「落ち着け、栄一! 取、取り敢えず隠れるんだ!」

「アンタも落ち着いてないわよ、新司!」



 取り敢えず、草むらに隠れる3人。そして、その横を通って行く人・・・、護である。

「マスター!? やっと見つけた!」

 最初に護に気付いたのは、栄一であった。

「・・・兎に角、バレないように追いかけるぞ!」

 続けて声を出した新司が先頭になって(栄一を先頭にしたらまた迷うので)、護の後を追いかけ始めた。










 ・・・3人は、一定の距離をおいて護の後を追いかけた。
 しかし、護が向かったその先は・・・










−ブルー寮前−

「ブルー寮? 戻って来ちまった?」

 オベリスクブルー寮、護の在籍している寮である。

「・・・普通に考えたら、部屋に戻ったんじゃない?」

「おそらく、そうだろうな」

 「護は部屋に戻った」と推測する新司と光。そこで3人は、急いで護の部屋に一番近い木に登った。
 ・・・しばらくすると、護が部屋の中に入って来た。

「やっぱり部屋か。でも、一体何をするんだ?」

 3人が疑問に思っている間に、護はまず羽織っていた上着を脱ぎ、それから部屋の倉庫から一本のDVDを取り出し、DVDプレイヤーに入れ再生した。

「何のDVDを見るんだ? デュエル映像か? それとも、18歳未満視聴禁止の例の『アレ』か・・・?」

「何を考えてるのよ新司! マスターがそんな物見るわけ無いでしょ!?」

「いや、マスターも男だ。わかりませんぞぉ・・・」

「ないわよ! ていうかそんな物見てたら、プロたんさんの権限でこの物語が掲載中止になっちゃうじゃない!」

「うるさい、2人とも! 中の音が聞こえない!」

 またいがみ合う、新司と光。そして、それを制する栄一。
 ・・・しだいに、中から音楽が聞こえてきた。















 ・・・エンジン全開! ゴー○ンジャー  1 2 3 4! ゴー○ンジャー  スリー トゥ ワン Let's ゴー ○ンジャー  GO−ON!!!!!  『炎神戦隊 ゴー! ○ンジャー!』















 ・・・3人は、木の上からずり落ちそうになった。ていうかずり落ちた。

「・・・特、特撮!?」

「マスターに、まさかそんな趣味が・・・?」

「嘘でしょ・・・」



 と、3人が唖然としているその時、3人の目の前に1人の男が現れた。



「なんだ、どうした? こんな所でお昼寝か? もう夜だけど」

「「「宇、宇宙先輩!」」」

 男の正体は、護の友人、天童(てんどう)宇宙(そら)であった。

「3人揃って、護の部屋に何か用かい?」

「「「い、いやぁ別に・・・・・・。ねぇ?」」」

 3人は顔を揃えあって答えた。そして、そんな表情から宇宙は、3人が何を見たのかに感づいた。

「ん? あぁ、君達も護のアレ、見ちゃったのか」

「「「えっ!? 宇宙先輩も知ってるの?」」」

「ブルーの3年なら全員知ってるはずだぞ。アイツ、幼い頃からヒーロー系の特撮が大好きだそうでさ、プロ時代にインタビューでその事をカミングアウトしたら、その翌日にオタクを名乗る人から、特撮系のDVDが何十本も送られてきたって事もあったそうな」

「「「何その武勇伝・・・」」」

「別にハモらなくても・・・」

 見事にハモる3人。それに対して宇宙は、少し焦った顔をしながら言葉を続ける。

「ていうか、コソコソ尾行するのはやめたら? 特撮のDVDも、君達を惑わすカモフラージュだろうし・・・。護の奴、とっくに君達の事に気付いてるぞ。」

「「「えっ、嘘!? ていうかいつから?」」」

「だから別にハモらなくても・・・」

 またもやハモる3人。この3人の態度に、宇宙は苦笑いを止められない。

「ま、まぁ、何時からって言うと、多分君達が尾行を始めたその時からじゃないか?」

「・・・最初からかよ。なるたけ注意して尾行してたのに、どんだけ敏感なんだよ、マスター」

「確かに・・・」

「異常よね・・・」

 宇宙の言葉から連想された3人の脳内イメージでは、護は完全に人間ではなくなっていた。・・・そんな時である。





「異常で悪かったね」





「「「マ、マスター!?」」」

 宇宙と3人が話している隙に、何時の間にか護が現れていた。
 護の突然の登場に、栄一・新司・光の3人は驚きを隠せないが、宇宙だけは「当然」といったような顔であった。

「やめてくれよ宇宙、人の過去勝手に喋るのは」

「ハハ、悪ぃ悪ぃ。まぁ、3人が用なのはお前みたいだし、オレは席を外すよ」

「いや、宇宙もいてもいいよ。だろ、3人とも?」

「「「あ、あぁ。別にいいけど・・・」」」

 3人は揃って答える。それを確認し、護は話を続けた。



「・・・さて、僕に聞きたい事ってなんだい? ま、僕が夜な夜な勝手に寮を飛び出してる事、についてだろうけど。誰かに頼まれたんだろ? その事について聞いて来いって」

「・・・全部お見通しかよ(汗)」

 栄一がバツの悪そうに答える。

「で、なんでなんだ、マスター?」

 今度は新司が質問する。それに対する、護の答えは・・・

「・・・調査、かな。それだけだ」

「「「えっ!? 調査?」」」

「そ、調査。それ以上は教えられないな」

『・・・ミー』

 3人と護が話している間に、小さな妖精が1匹、急に割り込んできた。

「うわぁ! 妖精!? って、確かお前は・・・『コメット』だったっけ?」

『ミー^^』

 栄一の質問に、『コメット』は明るく答えた。
 護のプロ時代に、栄一は彼女の姿をテレビからではあるが何度も見ている。知らない筈が無かった。

「『コメット』、知られていたからってご機嫌みたいだな。ホレホレ」

『ミ、ミー!(≧へ≦)』

 そう言いながら、右手の人差し指で『コメット』をいじる宇宙。どうやら宇宙は、他人を茶化す事が大好きらしい。

「あんまり茶化すのはやめてやれよ、宇宙」

 軽く呆れたのか、護が宇宙に対して注意を促す。

「悪ぃ、悪ぃ。そうか、そうだったな栄一。君もカードの精霊を見る事ができるんだったな」

「えっ!? ていう事は、マスターも宇宙先輩も見る事ができるんだ!? カードの精霊!」

「まぁね。ちなみに、最初に見えた精霊がこの『コメット』。4歳の誕生日に『コメット』を貰った時にね」

『ミー^^』

「オレは、護とこの学園で出会ってからだけどね」

「へぇー」

 護と宇宙の言葉に、栄一はとても驚いていた。
 『デュエルモンスターズの精霊』を見る事ができる人間が他にもいる事は理解していたが、まさか護と宇宙がそれに該当する人物だったとは栄一は思わなかったからである。





「「(・・・3人とも、電波系?)」」

 そして、3人の会話の意味を全く理解できない光と新司。
 2人はカードの精霊(すなわち、ここでは『コメット』の事)を見る事ができないから当然だ。

「・・・さて、質問には答えたし、今度は栄一。君に、僕の質問に答えてもらおうか」

「えっ、俺に? ・・・・俺に、聞く事なんてあるのか?」

「オイオイ護、お前も質問があったのかよ」

 護のまたのまさかの言葉に、再び驚く栄一。そして、それに反応する宇宙。
 しかし、そんな事は気にせずに護は話を続けた。





「・・・君が持ってる『バーニング・バスター』のカード。それはどこで手に入れたんだい?」

「えっ・・・、『バーニング・バスター』? ・・・でも、なんでそんな事を?」

 意外な質問だったのか、目を丸くしながら栄一が答える。

「ん、あぁ、その『バーニング・バスター』は、世界で2枚しかないカードと聞いた事があるんでね」

「あ、それ、俺も聞いた事がある!」

「ワタシも! 確かに、ちょっと気になってたのよねぇ・・・」

「僕も、仮にもプロでやっていたからね。プロの世界にいれば、そういう話はよく聞けるんだよ」

「「へぇ〜」」

 新司、そして光も、護の問いに興味を示す。しかし、『バーニング・バスター』の持ち主である栄一は・・・

「そうなの!? これ、そんなスゲェカードだったのか!?(そんなカードを、智兄ちゃんは俺に・・・)」

 ・・・このありさまである。

「知らなかったのかい? まぁそれはいいとして、そんな世界で2枚しかないカードを、君は誰に貰ったのかなぁと思って」



「・・・」





 護の言葉に、一瞬黙り込む栄一。そして・・・





「・・・入学試験の時にも言ったけど、俺の、大切な人にさ・・・」

「「「「・・・大切な人?」」」」

 栄一を除く4人が、一斉に問う。

「あぁ。大切な人・・・」




















 ・・・俺の大切な人。・・・そう、智兄ちゃんに。



第13話 −智兄ちゃん−



 生まれてすぐ、俺は親に捨てられた。捨てられた事も、親の顔も、勿論覚えてないけど。
 捨てられている俺を見つけてくれたおばさんの話によると、拾われた当時の俺は、大体生後1週間くらいだったらしい。



 養護施設といっても、俺以外に住んでいた子供はいないに等しかった。施設を経営しているおじさんとおばさんには子供がいなかったし、実質上住んでいるのは、おじさんとおばさん、俺の3人だった。



 ちなみに俺の『明石(あかし)』の苗字は、施設を経営しているおじさん・おばさんの苗字。『栄一(えいいち)』の名は、俺の捨てられていた近くに『名前は栄一です。この子をよろしくお願いします』と書かれた紙が落ちてあったので、そこから名付けられたらしい。



 ・・・あれは、6歳の時だった。



「・・・『フェザーマン』で、ダイレクトアタック!」

「わぁ!」

おばさん:LP1000→LP0

 他の子供もいなく、施設で殆ど1人でいた俺に、おじさん・おばさんが与えてくれた『デュエルモンスターズ』のカード。
 おじさんは他にも仕事があって、昼間はいない事が多かったから、実質、俺はおばさんと2人でずっとデュエルをしていた。

「やっぱり、栄一ちゃんは強いねぇ。おばさんじゃもう叶わないわ」

「へっへーん! 俺、『DD』のような世界一のデュエリストになるのが目標なんだ! おばさんには負けてられないぜ!」

「まぁ、それは楽しみだねぇ」

「フッフーン!」



 『DD(ディーディー)』というのは当時、8年連続でプロリーグの世界チャンピオンに輝いていたデュエリストで、子供達のヒーロー的存在だった人で、勿論俺も例外でなく、『DD』に憧れていた1人だ。
 ちなみに『DD』の名には、『デステニー・オブ・デュエリスト』って意味があるらしい。(そういえば『DD』、その2、3年後にぱったり姿を消しちゃったけど、今どうしてるのかな・・・。公式的には『任意引退』って事になってるらしいけど・・・)



 ビューーーーー!!!!!


 ・・・と、そんなやり取りが続いている最中、突如強い風が吹き、俺のカードを飛ばしていった。


「あぁ、待って! 俺のカード!」

 俺はカードを追って、施設の門の方へ走った。






























 ・・・ヒラヒラヒラ、ポト!



 飛んでいったカードは、施設の門を越え、施設前の歩道に落ちた。そしてそのカードを、たまたま近くを歩いていた背の高い男の人が拾い上げた。



「ん? このカードは?」

「すみませーん! それ、俺のカードなんです!」

 俺はそう言いつつ、門の鍵を開けて外に出て、その人の前まで向かった。



「ほら、もう落としたりするなよ」

 そう言って、その人は俺にカードを渡してくれた。

「へへ。ありがとう!」

 俺は、息を吹きかけてカードの汚れを払いながら、拾ってくれた男の人にお礼を言った。・・・すると男の人は、俺の手にあるカードを見つめながら、声をかけてきた。

「・・・君、デュエルをやるみたいだね。どうだい、俺ともデュエル、やってみないか?」

「えっ!? おじさんと?」

「・・・おじさんは困るなぁ。俺は、まだ19歳だぜ」

「えっ!? あ・・・、ゴメン!」

 19歳と聞いて、俺はビックリした。なんせその人は髪の毛もボサボサで、口周りは無精髭だらけ。完全に職を失ったおじさんといった風貌だったからだ。



「ハハハ。これからは気をつけてくれよ」



 ・・・それが、俺と智兄ちゃんとの出会いだった。




















「『E・HERO バーニング・バスター』で『スパークマン』に攻撃! 『バーニング・バスター』は、戦闘で破壊したモンスターの、攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「わぁ!」

栄一:LP1600→LP0

「スゲェ・・・。兄ちゃんのそのモンスター、スゲェ強いしカッコイイ!!!」

 初めてやった智兄ちゃんとのデュエルで、俺は兄ちゃんの切り札、『E・HERO バーニング・バスター』のカードの強さ、カッコよさに一瞬で虜になった。

「どうだ、スゴイだろ? 『バーニング・バスター』」 

 智兄ちゃんは、『バスター』のカードを俺に見せびらかしながら、それを自分のデッキへと仕舞った。

「うん、スッゲェカッコイイ! 俺に頂戴!」

「たは・・・。それは流石に無理だなぁ・・・」

「ちぇ。『バスター』も俺のモンスター達と同じ『E・HERO』だから、絶対合うと思ったのに・・・」

 おじさん、おばさんが買ってくれたカードの中で、特に俺が好んで使っていたカード『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』シリーズ。そして『バーニング・バスター』もその『E・HERO』の1体だった為、このめぐり合わせは本当に奇跡だと思った。

「ハハハ。コイツが欲しいなら、実力で奪ってみな!」

「えっ? 実力って?」

 智兄ちゃんの言う『実力』の意味が分からず、俺は言葉を返した。

「そうだなぁ・・・。相手をリスペクトでき、どんな状況ででも最後まで諦めない。・・・そんな心を持てて、尚且つ俺に勝つ事。それができたら、考えてやってもいいぜ!」

「ホント!? ・・・よーし! 俺、絶対『バスター』を手に入れて見せるぞー!」

「その意気だ、栄一!」





 その日から智兄ちゃんは、仕事が無い日には毎日のように施設に来てくれて、俺にデュエルを教えてくれた。
 仕事のある日も、早く帰って来れた時にはしょっちゅう来てくれた。
 兄ちゃんにとって俺はただ、たまたま偶然に出会ったってだけの子供だったはずなのに、兄ちゃんは俺を、本当の弟のように面倒を見てくれて・・・、そして俺も、そんな兄ちゃんにずっと甘えてばかりいた。










「・・・」

「栄一ちゃん、もう9時よ。外は暗いし寒いし、早く中に戻りなさい」

「いやだ! 智兄ちゃん、まだ帰ってないんだもん!」


 智兄ちゃんが帰ってくるのが遅くなった日は、帰ってきて施設の前を通過するまで、ずっと施設の前で智兄ちゃんの帰りを待ち続けて、おじさんとおばさんを困らせた事もある。





「もう帰っちゃうの? もっとデュエルしようよ!」

「すまないな。明日は時間があるから、またその時にな」

「いやだ! もっと遊んでくれなきゃ!!! 帰らないでよ、智兄ちゃん!」


 仕事が忙しくて、帰らなきゃいけないのに、「帰るな!」と泣きながら駄々をこねた事もあった。





「遅くなってすまない! 栄一、誕生日おめでとう!」

「智兄ちゃん!」

「ほら、これが誕生日のプレゼントだ」

「こ、これは、デュエルディスク!?」

「これで、テレビの中のプロデュエリストのように、カッコイイデュエルができるだろ?」


 俺の誕生日の日(便宜上、俺の誕生日は5月5日となっている。おばさんが、捨てられていた俺を拾ってくれた日だ)には、わざわざプレゼントまで持ってきてお祝いをしてくれた。
 この時智兄ちゃんが与えてくれたデュエルディスクは、俺の掛け替えのない宝物となった。

























 ・・・そして、兄ちゃんと出会ってから1年ぐらいたったある日。転機が訪れた。





『プロデュエル界に革命を起こす新星! 水原護を独占取材!』

『密着レポート! ガーディアンズマスターの全て!』

『天才デュエリスト、彗星の如く現る! 水原護特別インタビュー!』

 一足先にプロデビューした天才デュエリスト、エド・フェニックス、丸藤(まるふじ)(りょう)と共に、当時のプロデュエル界を覆したとも言える1人の少年が、プロ世界に現れたのだった。





『勝ちました! これでデビューから負けなしの30連勝! これが本当に9歳のデュエルなのか〜!? 『ガーディアンズマスター』水原護、圧倒的強さだ〜!』

「・・・・・・・・・スゴイ。この子、本当に俺より年が2つ上なだけなのか!?」





『『G・HERO スピーディアン』を特殊召喚! ダイレクトアタック!』

 ズバァン!

『ぐわぁぁぁ! 私の、私の完璧な、数学理論がぁぁぁぁ・・・』

マティマティカ:LP1800→LP0

「強い・・・。ランキング10位のマティマティカをあんなに簡単に、圧倒的に倒すなんて・・・」

護:LP4000

「召喚のスピード、魔法や罠の使い方、デッキのバランス・・・、どれをとっても完璧・・・」





 衝撃を受けた。俺より2つ年上ってだけの、たった9歳の男の子が、ただでさえ厳しいプロの世界に立って、一流のデュエリスト達を圧倒的に倒していき、瞬く間にプロリーグのトップレベルデュエリストになっていく姿に。
 水原護。その名前は、俺の心に強烈に焼き付けられた。





「・・・・・・栄一。お前も『HERO使い』としてデュエルするなら、彼のデュエルをよーく見ときな。参考になる点が多くあるから」

 智兄ちゃんは、マスターのデュエルがテレビで中継される度に、俺にこう語った。

「あ、今度彼のビデオ持ってきてやるから、一緒に見ようか」

「うん、智兄ちゃん!」

 そしてその時から、どこで撮ってきたのかは知らないけど、智兄ちゃんは『マスター』水原護のデュエル映像を毎日のように持ってきて、ビデオが擦り切れるくらいまでマスターのデュエルを見せてくれた。



「これは、ただ紙に『G・HERO』の効果を書いただけの奴だが、マスターのデュエルを再現するには十分すぎる資料だ。まぁさすがに、世界で1枚ずつしかないカードを手に入れるのは無理があるからな・・・」

「ははは」

「・・・栄一。このデュエル、俺は『仮想』マスターとしてお前にぶつかる。このデッキに勝ってみな!」

「ああ! 智兄ちゃん!」

 同時に、マスターの『ガーディアンデッキ』をわざわざコピーしてきて、俺に何度も『ガーディアンデッキ』をぶつけさせた。
 本物とはいかずとも、兄ちゃんのデュエルは、マスターのデュエルをほぼ完璧に再現していた。・・・結局、1度も勝てなかったっけ。





「かぁー、また負けたー!」

「オイオイ、それじゃあいつまでたってもこのカードは渡せないぜ」

 兄ちゃんは、『バーニング・バスター』のカードを見せて、何度も俺に言い聞かせた。

「くそー! もう1回だ! 待ってろよ、『バーニング・バスター』!」

「来い!」




















 デュエル以外にも色々教えてくれて、いっぱい遊んでくれた。

 兄ちゃんとの日々は、楽しい事の連続だった。

 だから、あんなに突然に、あんなに簡単に別れが来るなんて、俺は思いもしなかった。





 あれは、俺が8歳になってすぐの事だった。





『『コメット』に『不屈の心(レイジング・ハート)』を装備! そして『コメット』で、ダイレクトアタック!』

『ミー!』


 ・・・ペチン!


『ぐはぁ! 負、負けた・・・。完敗に、乾杯・・・・・・』


ソムリエ・パーカー:LP1000→LP0

『決まったー! 華麗なる妖精『コメット』、ランキング8位のソムリエ・パーカーのライフを完全に奪ったー!』

「スゴイ・・・。『コメット』って攻撃力0なのに、あんな風にしてフィニッシャーにしてしまうなんて・・・」



『勝ちました、マスター護のインタビューです。これでまた、連勝記録を伸ばしましたね!』

『あ、そうなんですか? 全然気付きませんでした・・・(汗)』

『成績の上昇と共に、ファンの数も鰻上りですね!』

『え、えぇまぁ・・・、ちょっと恥ずかしいですね・・・』

『先日、来年行われる世界デュエルツアーの日本代表に選ばれた訳ですが、それについての感想等はありますか? デュエルファンの間では既に、『日本のNo.1エース』『エース・オブ・エース』等の呼び名も浸透しており、日本代表のエース的存在として注目されているようですが?』

『・・・プレッシャー、デカイですね(汗) まぁ、やるからには全力でやって、ファンの皆様の期待に応えられるようにしたいですね』

『なるほど。では最後に、今日のこの機会にお聞きしたいのですが・・・、9歳でデビューしたプロの目から見た、同年代の子供達へのアドバイスとかはありますか?』

『そうですね・・・。僕は、この年でプロになりましたけど、正直言って皆さんには、あまり急ぎすぎては欲しくないですね』

『と、言いますと?』

『頑張りすぎて、無茶すると危ないって事です。皆さん1人1人には無限の可能性があるんですから、その可能性を慌てて伸ばそうとして怪我をした・・・、なんて事はあって欲しくないですからね』

「さすが、プロともなるとイイ事言うな〜。ていうか、この人本当に10歳なのかなぁ・・・?」

 その日、別に仕事があるとも言ってなかった智兄ちゃんが、何時まで待っても施設に来ない事に心配しながら、それでも仕方なく、いつものようにマスターのデュエルのビデオを見ていた時の事だった。





 ピンポーン!





「あれ、誰だろ?」

 突如なったインターホン。「知らない人を家に入れてはいけない」というおばさんの忠告もあって、俺は誰が来たのか不安になりながらインターホンに出た。

「はーい、誰ですかー?」

「・・・・・・・・・その声、栄一か? ・・・俺だ。智だ」

「智兄ちゃん!」



 インターホンのモニター越しに現れたのは、智兄ちゃんだった。俺は急いで門まで走り、門の鍵を開けた。

「兄ちゃん、どうしたの? 今日は全然来ないから俺、心配したんだぜ!」

 そんな俺の言葉も聞かず、智兄ちゃんは俺に質問をした。

「・・・・・栄一、おじさんとおばさんは?」

「おじさんはいつも通り仕事。おばさんは買い物に行ってるよ」

「そうか・・・。2人にも、お別れを言いたかったんだがな・・・」

「・・・えっ? どういう事?」

 突如発した智兄ちゃんの言葉。俺は、訳が分からなかったので聞きなおした。しかし智兄ちゃんは、質問には答えずに話を続けた。

「・・・栄一、しっかり聞いてくれ。俺は・・・、俺は、この街から去って、別の所に行く事にした」

「へ・・・? 一体、何言ってるのさ?」

「・・・もう、お前とデュエルはできない。・・・許してくれ」

「・・・ま、またまたぁ! 兄ちゃん、急に来て何を言ってるのさ・・・」



 「智兄ちゃんは冗談を言ってる」。俺はそう思った。深刻そうな顔をしてるのも、俺を騙す為の作戦なんだと・・・。
 でも、いつまでたっても、兄ちゃんは申し訳なさそうな顔をやめなかった。

 ・・・俺は、ようやく事の深刻さに気付いた。



「・・・嘘でしょ、・・・嘘だよね!!! 嘘だと言ってよ、智兄ちゃん!!!!!」


 兄ちゃんは、表情を変えなかった。


「・・・そんな! もう一緒にデュエルできないの? 智兄ちゃん!!!」


「・・・すまないな。・・・もう、俺にはデュエルをやる資格はないんだ」


「えっ!? ・・・デュエルをやる資格がない? ・・・どういう事? どういう事!?」


 俺は泣きながら智兄ちゃんに問答を繰り返した。
 だけど・・・智兄ちゃんから返ってきた言葉は、1つだけだった。


「・・・。栄一、このカード達はお前が持っていてくれないか? ・・・カードには、俺の我侭に付き合ってほしくないから」


 紛れも無い。それは、俺が欲しがっていた『E・HERO バーニング・バスター』のカードとそのサポートカード達。
 「智兄ちゃんを超えた時、俺に譲ってくれる」そう約束していたカード。


「・・・これは、兄ちゃんの一番大切なカード。・・・兄ちゃん!」


 そう言った時、既に智兄ちゃんの姿はそこにはなかった・・・。


 俺はその場で、ずっと泣いていた・・・。

















 ・・・「いつまで泣いていたんだろう」、ようやく泣き止み、自分自身でそう思ったその時だった。



『・・・栄一! ・・・栄一!!!』


「・・・誰!?」


 あたりを見回しても、誰もいなかった。


「もしかして今の声・・・、カードから?」


 俺に声をかけたのは、今手に持っているカード、『E・HERO バーニング・バスター』だった。
 そう、その時俺は、初めてデュエルモンスターズの精霊の声を聞いたんだ・・・。
























































「その日以降、智兄ちゃんがどこで何をしてるのかは全然わからない。どこに行くかも教えてくれなかったし、手紙も1度も来なかったしね」

「「「「・・・」」」」

 寂しげに語る栄一を見て、沈黙を続ける新司、光、護、宇宙の4人。栄一は、手に持つ『バーニング・バスター』のカードを見ながら話を続けた。

「この『バーニング・バスター』も、今はもう俺の仲間の1人として活躍してくれているけど、実はアカデミアの試験まで、1度も使わずにいたんだ」

「・・・何故だい?」

 不思議に思った護が、栄一に尋ねた。

「『バスター』は本来、俺が智兄ちゃんを超えた時に譲ってくれると約束したカードだし・・・、このカードを使ったら、智兄ちゃんの事を思い出しそうで、怖かったし・・・」

 一瞬間をおいて、栄一は再び話を続ける。

「このカードを使う決心がついたのは、アカデミアを受験すると決めた時。・・・アカデミアに入学するだけならいいものの、その先、どんな厳しい事が待ってるかを考えたら、怖くなってきてね。・・・その恐怖に打ち勝つ勇気をくれたのが、『バスター』だったんだ」




「・・・そんな、事が」

「栄一ぃ、お前、苦労してたんだなぁ・・・」

「その、智兄さんって人。本当に優しかったんだなぁ・・・」

 光、新司、宇宙の順に感想を述べる。そんな3人の目は、赤くなっているのが明らかに分かる。

「・・・すまない、そんな悲しい事を思い出させて」

 そして、最後は護が閉めた。

「いやぁ、別にいいよ。もう何年も前の事だし。・・・それより、その時1つ、気になる事が起こってさ」

「「「「?」」」」

 栄一の発言に「?」を浮かべる4人。

「あの後、デッキを確認したら、カードが1枚足りなかったんだ。施設中探しても見つからなくってさ。・・・どんなカードだったかは覚えてないんだけど、かなり気になっててさ」

「・・・変な話だなぁ」

「・・・奇妙な事もあるものねぇ」

 不思議に思う新司と光。それに対して、護が口を開ける。

「・・・もしかして、その智兄さんが、カードを持って行ったんじゃないか? 『バーニング・バスター』の代わりに、って」

「・・・智兄ちゃんがぁ? まさかぁ!」

 護の推測に、笑い声を上げる栄一。

「天下の『ガーディアンズマスター』、水原護も、可笑しな事を言うんだな」

 そして、護を茶化す宇宙。

「さすがに、それはないか。・・・まぁ、兎に角すまなかった。急に質問なんかして」

「いやぁ、謝るのは尾行してた俺達の方だよ。尾行になってなかったけど・・・」

「ハハハ。ちなみにその事だけど、君達に尾行を依頼してきた人には、僕自身から事情を説明しておくよ。その人にも心配はかけたくないし」

「それはやめてくれ! 俺達がちゃんと言っておくから!!!」

 護の発言に、声を荒げる栄一。

「ん? そうかい? じゃあ宜しく言っといてくれるかい? 『心配しないでくれ』って」

「おっおう! 了解したぜ!(・・・マスター直々に行かせたら、井上先輩がどうなる事か)」

「(わかる気がする・・・)」

「(ワタシも・・・)」

「「?」」

 何かを悟ったような顔をする栄一、新司、光。それに比べて、全く意味を理解できない天然なアカデミアツートップであった。















 そして別れ際。

「そうだ。マスターと宇宙先輩に、もう1つ聞きたい事があるんだ」

 突如、栄一が再び護に尋ねた。

「ん? なんだい?」

「・・・2人が守りたいと思っている、大切なものってなんなんだ?」

「僕が守りたいと思っている、大切なもの?」
「オレが守りたいと思っている、大切なもの?」

「ああ」



 栄一の質問に、数秒考える護と宇宙。・・・先に答えたのは、宇宙であった。


「オレは、この大空かな?」

「大空?」

「オレの名前通りだろ? この空には、無限大の世界、無限大の可能性があるんだ。雲が流れ、風が舞い、太陽が照る・・・。美しい世界じゃないか。そんな大空を、オレは守りたいね」

「・・・抽象的だなぁ」

 宇宙の答えの全てを栄一は理解できなかったのか、首を傾げながら返事をする。

「抽象的で悪かったな」

 栄一の返事に、多少ご立腹の宇宙。

「あ、ゴメン、宇宙先輩! ・・・で、マスターは?」

 お茶を濁す感じに強引に話を切り替え、今度は護に尋ねる栄一。





「僕の守りたい大切なものは・・・・・・皆の笑顔、かな?」

「皆の、笑顔?」

「9歳でプロになって、初めての試合。デュエル中はただガムシャラだったんで気付かなかったんだけど、デュエルが終わった時、観客席の皆が笑顔になっていた事に気付いたんだ。・・・その時、僕は思った。『ここにいる人達、いや、僕のデュエルを見てくれている全ての人達の、笑顔を消したくない。僕のデュエルで、世界中の人達に笑顔を与えたい』ってね」

「・・・」

「たとえ、僕がデュエルに負けようとも、デュエルを見ていた人全員が、勝った相手に拍手を与えられる。僕が負けたからって、誰も悲しんだりしない。そんなデュエルが僕の理想。その理想のデュエルを、プロでの6年間し続けてきたつもりだ」

「・・・」

「世界中の人々の笑顔。それが、僕が守りたいと思っている、大切なもの。・・・かな?」

「・・・なるほど」

「クサい話だねぇ」

 護の話に感心する栄一と、茶々を入れる宇宙。

「心に沁みるねぇ、『日本のエース』、プロリーグの『エース・オブ・エース』様のお言葉は」

「やめてくれよ、その呼び方は!」

「「「???」」」

 宇宙の茶化しに、さすがに少し怒る護。ただ、栄一、新司、光の3人からすると、怒る部分が多少疑問であった。
 護のセリフからすると、『日本のエース』『エース・オブ・エース』等の呼び名を告げられた事に嫌悪を感じたようだ。
 何故、そこに怒るのか?

「あ、ス、スマン護! つい口が滑って・・・」

「全く・・・」

 言ってはマズい事だったのか、宇宙も直に詫びを入れる。

「マスター、今の話って?」

 心の中で留められなかったのか、栄一が口に出す。

「・・・なんでもないよ。今のは忘れてくれ」

「え、あ、あぁ・・・。ま、まぁ聞いてくれてサンキューな、マスター! 宇宙先輩!」

「あぁ・・・。夜も遅いし、気をつけて帰れよ」

「あぁ! またな、マスター! 宇宙先輩!」

「お休みなさい〜」

「体に気をつけて〜」

 そう言って、栄一、新司、光は去って行った。

「「お休み〜」」

























「・・・・・・・・・守りたいと思っている大切なもの、か。誰が吹き込んだのかな、宇宙?」

「さぁ・・・? オレに聞くなよ」

『ミー?』






























「てかワタシ、女子とはいえブルー寮の生徒なのに、なんでワザワザブルー寮から離れていったんだろう・・・」 by光






























 ・・・・・・・・・・なんつーか、ゴメン。うん。 byネクサス



































−翌日−

「まぁ!? 護様が私にそんな事を!? あぁー、護様ーーー!!! ふにゃーーーーーん」

 悠里、気絶入りましたー。

「予想通りだな」

「予想通りね」

「ま、まぁ、予測はしていた事だけどね。マスター自身に言わせないでよかったー」

 以上、新司、光、栄一の順、個々の感想。

「うーん、護様ぁ・・・」



第14話 −流れる時間、新たな戦いの予兆(前編)−



 ・・・アカデミアでの生活は、あっという間に過ぎていく。



「うわぁあああああ! オレのテストが、ぜんめつめつめつ・・・・・・」


「ヒャヒャヒャヒャヒャ! 楽しぃ! 最高! テスト? 何それ? 美味しいの?」


「もうやめてー! 私のテストの点数は0よー!」


 多くの生徒にとって、アカデミア生活での最初の壁である中間試験が終わり、ちょうどそのテストが生徒個人個人に返却されたところである。
 ・・・・・・出来が悪かった生徒の悲鳴が、あちこちから聞こえる。





「栄一! 中間の筆記、どうだった?」

 テストが帰ってきた時、人は誰でもクラスメート等と見せ合いっこをしたくなるものである。
 栄一と新司も、またそんな2人であるのだが・・・。



「・・・俺への嫌味か? 新司」

「いや、そういう訳じゃないけど^^;」

「デュエルではブルーの生徒に勝てたんだ。だから幾ら筆記が悪くても、俺にはそんなのかんけーねぇ! はい、おっぱっぴ〜! ゲッツ!!!」

 ・・・いや、したくなってたのは新司だけであった。
 栄一は、某R選手のパフォーマンスの真似をしながら、テレビ画面からフレームアウトした。










 ・・・・・・・・・テレビ画面!?



「・・・スマン、俺が悪かった。だから拗ねないでくれ、栄一!」

「ったく〜、皆して俺をイジメる〜・・・」

 『皆して』の台詞の理由は、第12話を参照にして下さい。(・・・まぁあの時は、元はと言えば、言ってはならぬ事を言ってしまった栄一が悪いんだが)

「許してくれ〜、俺を許してくれ〜、栄一ぃ」

「ツーン」

 完全にイジけてしまった栄一、そしてそんな栄一に抱きつきながら許しを請う新司。見ている方からすれば、少し気持ち悪い。
 2人の近くにいる生徒達の足が、少しずつ2人から離れていく・・・・・・・・・。





「全く、2人ともガキか!?」

 そんな、小学生のようなやり取りを続ける2人の間に、冷静にツッコむ少女が顔を出した。
 周りの生徒達からすれば、ある意味「勇気ある」と思われる行動である。

「あぁ、光ぃ、栄一が俺をイジメる〜」

「知るか! アンタがちょっかい出したのが悪いんでしょ?」

「うぅ・・・」

 光の的確なツッコミに、落ち込む新司。

「ていうか、何で元々イジメられてる俺が悪者になってるんだ〜?」

「アンタの筆記試験の結果が悪かったからでしょ!」

「うぅ・・・」

 光の的確なツッコミに、落ち込む栄一。



「ったく、2人とも男なんだから、もうちょっとしっかりなさい!」

「「へ〜〜〜〜〜い」」

 完全にゆるゆるな状態の2人に発破を掛けたつもりなのに、その言葉に対する2人の気の抜けた返事に、光はさらに呆れ果ててしまった。

「(・・・はぁ、何でワタシ、こんな2人と共に行動してるのかしら?)」



 ・・・ハテ? そんなしょっちゅう行動してましたっけ?



「(うるさい!! うるさい!! うるさい!! 作者のアンタが、そういう描写を多く描いてないだけでしょ!)」



 ・・・。



「はぁ・・・。それより2人とも、年明けの『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の準備はできてるの?」

 呆れつつも、光は話題を切り替える。

「あ、あぁ。まだ3ヶ月近くあるとはいえ、この先何が起こるかわからないからな。もうデッキ調整は始めてるよ」

 なんとか気分を切り替え、光の話題に順応する新司。当然といった感じでそれに答えた。





 ・・・ていうか3ヶ月前から大会向けにデッキの調整って(汗)
 もし応募の時点で抽選漏れしたら、どうするつもりだったのでしょうか?





 いや、そもそもこの大会に、応募とか必要ないから。 by新司





「フーン。まだ3ヶ月前だけどねぇ・・・、うまくいってればいいんだけどねぇ〜。迫水新司君♪」

「(クソォ・・・、やっぱこの女ムカツク・・・)」

 と、さっきの栄一と新司のやり取りと大差ない事をしてる2人を、栄一の発したある一言が凍りつかせた。





「・・・『フレッシュマン・チャンピオンシップ』? なんだ、そりゃ?」





「「・・・・・・・・・・・・・・・へっ?????」」



 ・・・新司と光は、3人で会話をしていたつもりであった・・・筈なのに、実際には2人の間でしか会話は成立していなかった。
 栄一には、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の意味が伝わっていなかったのである。



「知らなかったのか、栄一?」

 確認の為、新司が質問する。その際の新司の表情は、明らかに唖然としたものであった。

「あ、ああ。・・・俺、なんかヤバい事言ったか?」





「「・・・ま、まぁね」」

「・・・」

 自身と目線を合わせようとしない2人の姿を見て、栄一は四つんばいになってさらに落ち込んだ。
 OTL←こんな感じ。

「栄、栄一! 俺が教えてやるから、もうこれ以上落ち込むな!」

「いいよいいよ、どうせ俺なんか・・・。で、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』って・・・?」

 漫画のキャラクターのように滝の涙を流しながら、新司に問う栄一。新司は、そんな栄一の態度に少し後ずさりしながら栄一の問いに答えた。

「あ、ああ・・・。『フレッシュマン・チャンピオンシップ』、正式名称は『アカデミア・フレッシュマン・チャンピオンシップ』と言うんだが。ま、まぁ日本語に訳せば、『アカデミアの1年生選手権』ってところか」

「・・・まんまのネーミングだな」

 やけにあっさりな答えとネーミングに、少し呆れる栄一。そんな新司のセリフに、光が口添えする。

「ようは、『アカデミアで1番強い1年生を決める大会』って事。その名の通り、1年生最強を決める大会なんだけど、毎年豪華な優勝賞品があるから、皆結構張り切ったりするのよね」

「『1番強い1年生を決める』って事は、デュエルの大会なのか!?」

「「そ、そうだけど・・・」」

 『1番強い1年生を決める』=『デュエル』を即座に連想し、さっきまでの落ち込み様とは打って変わって、急に元気になった栄一。
 そんな栄一を見て、再び三度後ずさりしながら新司と光は答えた。

「面白ぇ! よっしゃー! 絶対1番になってやるー!」

「切り替わり早いぞ!? ていうか取り敢えず落ち着け、栄一! さっき大会は年明けって言っただろ! まだ3ヶ月先だ!」

「あ、そっか」

「全く、そそっかしいんだから・・・」

 元気になると、猪突猛進になる栄一。そんな栄一を見て、新司も光も明らかに呆れている様子である。

「元々は、光が『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の話を持ち上げてくるからだろー!」

「・・・自分は知らなかったくせに、人の所為にするわけ?」

「・・・すみません」

 光の凍りつくような発言に、瞬時に沈黙する栄一。光、こういうの多いな?

「焦らずいこうぜ、栄一! ま、優勝は俺だけどな!」

「何をー! 勝つのは俺だー!」



 ギャー! ギャー! ギャー! ギャー! ギャー! ギャオス○藤!


 人目も気にせず、再び幼稚な言い争いを続ける新司と栄一。そんな2人を見て、光はさらに呆れてしまった。

「(・・・やっぱり、2人ともガキね。・・・・・・優勝するのは、どう考えてもワタシに決まってるのにねぇ)」


 ・・・。


「(大体、この2人はいつもいつm・・・)」

「「・・・光」」

「は、はひ!? な、なに?」

 自分の世界に入っていた光。いきなり栄一と新司の2人から呼ばれた事に、動揺を隠せない。
 そんな光に対して、2人は目を細めながら言葉を続ける。

「「・・・今、俺たちの事ガキって思っただろ? ・・・そして優勝するのは自分だ、とも思っただろ?」」

「えっ!? そ、そんな事、無、無いわよ! そ、そんな事、事、思、う訳、無、無いじゃない!」

 完全に、冷静さを失っている光。言葉がちぐはぐである。

「「目が泳いでるし、喋り方は『お○振り』のレンレンみたいになってるぞ・・・。ホントに思ってないのか〜?」」

 そんな光に対して、2人はさらに追い討ちをかけるように言葉責めを続ける。

 ※『お○振り』のレンレン=ウィキペディア参照(こんなのばっかだなぁ・・・・・・)

「気、気のせいよ! ホントに思ってないわよ〜!

「「フーン」」

 そしてとどめとばかりに、光がいつもやるように鼻で笑う2人。その態度に、光は完全に折れてしまった。



「くー!(2人とも、なんでこんな事だけスルドイのよ!?)」



 





 確かに、栄一と新司の2人は何でこんな事に限ってこんなに鋭いのか?
 ていうか2人をガキって言いながら、ちゃっかり自分の優勝を当然のように引っ張りだすなんて、結局光もガk





「(・・・なんか物凄くムカつくナレーションが流れているような?(怒))」





 ・・・。

























−その日の夜−



「『ネフティス』で、『ワイルドマン』に攻撃!」

「・・・くっ!」

 飛翔、そして急降下。
 その強烈な突進が以下略。

栄一:LP900→LP0

「くーっ、また負けたぁ・・・」

 ここ、レッド寮の前では、黒田先生による栄一の特訓が、引き続き行われていた。

「チクショー! なんで先生に勝てないんだよー!」

 やっぱり栄一君、黒田先生との相性最悪だそうです。

「そんなに落ち込まないで。徐々に成果は上がってきてるんだから」

 地面に座りながら落ち込む栄一を、何とか励まそうとする黒田先生。

「そうかぁ?」

「そうだよ、間違いない!」

 そう言いながら、黒田先生は右腕に巻いた時計を見る。時刻は、既に9時を過ぎていた。

「これこれ2人とも、もう9時だよ! 早く寮に戻らないと、マズイんじゃないの?」

 ズバリ黒田先生がマズイと思ったと同時に、トメさんの声が寮の方から聞こえて来た。ある意味タイムリーな声である。
 そして黒田先生は自らのデュエルディスクを仕舞いながら、トメさんの方へ返事を返した。

「・・・おっと、そろそろマズイな。私は戻って、明日の授業の準備をしなきゃ。トメさーん、今戻りまーす。いつものコーヒー、よろしくお願いします」

「あいよ〜」

 黒田先生の注文に応え、トメさんは寮の中に戻っていった。





「それじゃあお休み、栄一君。明日の授業、遅刻するなよ!」

 そう言うと黒田先生も、寮の方へと足を運び出した。

「へ〜〜〜〜〜い」



 栄一は、先生に挨拶をするとそのままその場に倒れこみ、少し雲がかっている夜空を見上げた。



 ズデッ!



 ・・・栄一が寝転んで数秒がたった時、レッド寮のある方向から、誰かがズッコケる音が聞こえた。



「(先生・・・、またコケたな・・・・・・・・・。ん? あれは?)」



 黒田先生の健闘を祈りつつあった栄一は、ふと埠頭の方に目線を変えた。そしてその目線の先には、オベリスクブルーの特待生特有の白い制服を着た1人の男が立っていた。



「マスターかな? 行ってみよう」

 埠頭の男がマスター、すなわち水原護なのかを確かめるべく、栄一は埠頭の方へ足を運んだ。

























−埠頭−



 ガーガー! ピー!


 埠頭に立つ人物は、やはり護であった。


「・・・反応が上がってきてるな。博士に連絡を入れとかなきゃな」

 護は、右手に持つ何かの機械のような物の反応を見つつ、周辺の警戒、そしてこれからの事について考えていた。










 ・・・かつて、このアカデミアを恐怖の底に突き落とした、そして今後再び起こるであろう、『あの事件』の事を。





『ミー』





 護の傍で、調査を続ける護をずっと見守り続けていたカードの精霊『コメット』もまた、その起こるであろう『事件』の前兆を感じ取っているようで、その表情は少し怯えているようにも見えた。


 ・・・何に?


 勿論、『あの事件』にである。


 『コメット』は、護が初めて見る事のできた精霊である。
 本来が赤ん坊のような性格なので、出会って以来護の妹のような存在として、今まで共に歩んできた。
 それは、本来彼らを結ぶ関係である『主従』というものも遥かに越えた、本当の兄妹のようであった。
 護に仕える『守護者』の中でも、最も深い絆を持っているであろう存在である。


 そんな本当の兄のように慕う護が、悲しい結末しか呼ばない『あの事件』に向かって突き進んでいく、『コメット』はそれが怖いのである。


 『コメット』の願い。それはただ1つ、単純な事であった。


 「もう、護のあんな姿は見たくない・・・・・・。深き悲しみに突き落とされた、護の姿は・・・・・・」





「・・・『コメット』も感じるかい? この力を」

『!? ミ、ミー』

 突如護に呼ばれた『コメット』は慌てながらも、護への想いを胸の奥へと仕舞いつつ、護へと返事を返した。
 しかし、精神年齢の幼い彼女には、想いは隠せても、その怯えた表情を隠す事はできなかった。
 そしてその『コメット』の表情を見た護は、落ち着かせるように彼女の小さい頭を数回撫でて、優しい、温かい笑顔を彼女に見せ続けていた。










『・・・護!』

「・・・『ネクサス』か。どうだった?」

 調べ事を続ける護と『コメット』の傍に突如、『ネクサス』と呼ばれた精霊が現れた。
 どうやら、どこからか護の下へ戻ってきたところのようだ。

『それらしき物は全てやった。今日の時点では、おそらくこれで全部の筈だ』

「そうか・・・・・・ありがとう。君達がやるって言ってくれて、本当に助かるよ。さすがに、しょっちゅう森には入ってられないからね」

 そう言う護の表情からは、本当に彼らに感謝の念を抱いている事が遠目でも分かった。

『主の為に戦い、主を守護する事。それが、我ら『ガーディアン』の役目だからな』

『ミー!』

 そして、主の感謝の念を受け取った『ネクサス』は、当然といった感じで主に対して言葉を返した。
 『コメット』も、先ほどまでの怯える顔を笑顔に変え、『ネクサス』に共感するように彼の言葉に頷いた。

「『主の為に戦い、主を守護する事。それが守護者(ガーディアン) 』・・・・・・・・・そう、だったね」

 2体の精霊の言葉に対して、護は多少口篭りながらも、返事を返す。
 その表情からは、今度は何か寂しさが溢れているようにも見えた・・・。





「マスター! 今日も調査か? 今日は『コメット』と・・・『ネクサス』も一緒か!?」

 精霊達と会話する護の前に、埠頭にいる人物を確かめに来た栄一が現れた。
 寂しい表情をしていた護は、栄一の呼び声に応える為やや強引に自然な笑顔を作りつつ、栄一に返事を返した。

「ん? ・・・あぁ、栄一か。まぁ、そんなところかな。なぁ、『ネクサス』?」

『あぁ。というか栄一・・・・・・だったか? 君は、私の事も知っていたのか?』

 栄一が自らを知っていた事に、『ネクサス』は声を上げて驚いた。

「『知っていたのか?』って・・・当たり前だろ。『G・HERO ネクサス』って聞いて、知らない人はいないぜ。なんたってアンタは、世界最強と謳われた、ガーディアンズマスター・水原護の『ガーディアンデッキ』のエースモンスターなんだから! 俺、テレビでアンタを見て、いっつも興奮していたよ!」

 『ネクサス』の問答に栄一は、今も興奮しているといった感じで答えた。

『光栄だな。私の姿を見て、喜んでくれる人がいるっていうのは(というか、私がエースって、誰が言ってたんだ?)』

 『ネクサス』は、自らが『エース』と呼ばれた事に戸惑った。
 『ネクサス』には、自分が護のデッキのエースだという自覚は無いからだ。

「マスターのデュエルと、アンタの活躍を見て喜ばない人なんていないよ。・・・ていうか、今日はその『ネクサス』もいるって事は、この前より規模のデカい調査なのか、マスター?」

 栄一は『ネクサス』の方から護の方へ振り向き、今回いる理由も調査の為なのかを護に尋ねた。

「・・・まぁ、ね」

 そして護は、口篭りながら栄一の問いに答えた。
 ・・・本当の所、この調査は秘密裏に行われている為、本来は調査している事自体口出し厳禁なのである。
 実際にこの調査を知っている生徒は、護の親友である宇宙と、尾行され教えざるを得なかった栄一、新司、光の計4人だけである。

「大変なんだなぁ。何してるのか知らないけど」

「オイオイ。まぁ、企業秘密の調査だから、教える事はできないけど」

「気になる・・・。あ、それよりマスター、また聞きたい事があるんだけど」

 調査の実態を気にしつつも、栄一は思い出したかのように新たな質問を繰り出した。

「ん? なんだい?」

「マスターの世代の時の『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の優勝商品ってなんだったんだ?」

「『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の優勝商品? えーっと確か・・・」

 そう言いつつ護は、右手拳を顎に当てて思い出そうとする。



「確か『鮫島校長のできる範囲の事ならなんでも叶える』だったなぁ・・・」

「そりゃスゲーな! で、マスターは何を叶えて貰ったんだ? 優勝したんだろ?」

「そんな簡単に僕が優勝って決め付けるなよ。まぁ、確かに僕は優勝したけど・・・。まぁ、何を叶えて貰ったかっていうと・・・」

「何? 何?」

 護が貰った商品が何なのかに、興奮する栄一。しかし護の答えは、そんな栄一の期待を大きく裏切ってしまうようなものであった。



「『轟轟戦隊ボウ○ンジャー』のDVDのフルコンプ」



 ガクッ!


 護の本気か冗談かわからないその回答に、栄一は新喜劇の芸人のように本気でコケてしまった。
 ま、まぁ、商品が特撮のDVDだったらねぇ・・・。

「マ、マジかよ・・・。いくら特撮好きだからって、そこまでするのは・・・」

「ハハハ、冗談だよ。本当は何をしてもらったかは、実は言えないんだ」

「えーっ、また隠すのかよー!?」

 何事も隠してばかりの護に、栄一は不満を漏らした。
 そんな栄一に困りながらも、護は言葉を続ける。

「これはちょっと言えない事だからね。悪いな。でも、昨年度の優勝者の商品なら教えてやれるよ。・・・確か、『ハワイ1週間の旅』だったなぁ」

「ハワイ!? マジで!? 俺、1回行ってみたかったんだよなぁ・・・」

 ハワイに対して、本気で思いを寄せる栄一・・・。
 栄一の頭の中では、まだ見ぬ地・ハワイのイメージが、既に幾つも浮かびあがっていた。

「オイオイ、あくまで「昨年度」の商品だぞ。・・・・・・まぁでも、今年度の優勝商品も、生徒達が喜ぶ物である事は間違いないはずだよ」

 「ハワイ」は「昨年度」の商品である事を強調する護。当然である。今年度の優勝商品は護にすら分からないのだから。

「そっかー! 何なんだろうなぁ・・・。楽しみだなぁ・・・」

「まだ3ヶ月先だろ」

「まぁね。でもデュエルの大会だし、今から楽しみだぜ!」

「ハハハ・・・・・・ん!?」

 栄一の興奮している姿を見て、静かに微笑む護であったが・・・、突如何かに気付いたように目を細める。その瞬間であった。


 ビュッ!


「伏せろ、栄一!」

「えっ!? 何!? わっ!」


 ビュッ! カッ!


 栄一が反応する前に、護は栄一の頭を掴んで、一緒に伏せた。
 間一髪2人が避けた事によって、どこからか飛んで来た『何か』は灯台に刺さった。

「いきなり押すなよぉ、マスター・・・、って何これ?」

 栄一が起き上がった時、2人の足元に1つの錬成陣の様な物が描かれていた。

「マスター・・・、これは?」

 栄一にとって足元の錬成陣は見慣れない物らしく(当然ではあるが)、それについて栄一は護に尋ねた。

「・・・『魔力統一の錬成陣』。魔法・罠カードの破壊を防ぐ、フィールド魔法だ」

 灯台に刺さった物を抜きつつ、栄一の問いに護が答える。
 刺さっていた物こそ、『魔力統一の錬成陣』のカードそのものであった。

魔力統一(まりょくとういつ)錬成陣(れんせいじん) フィールド魔法(オリジナル)
このカード以外の「フィールド上の魔法・罠カードを破壊する効果」
を持つ魔法・罠の効果を相手が発動した時、
ライフを1000ポイント払う事で、その発動を無効にし破壊する。

『・・・護! 栄一!』

 そんな護の隣に突如『ネクサス』が現れ、護と栄一に警告をする。

「ああ。どうやら、来たみたいだね」

「え? 来たって・・・?」

 『ネクサス』の警告に素直に答える護と、何が起こっているのか理解できない栄一。

「マスターも『ネクサス』も、一体どういう事だよ?」


 ブイーン! ブイーン! ブイーン!


 そんな栄一が、護と『ネクサス』に疑問を投げかけたのと同時に、さらに2枚の裏向きにされたカードと、死神の風貌をしたモンスターのソリッドビジョンが、2人と1体の目の前に現れた。

「2枚のリバースカード? それに・・・『魂を削る死霊』!? ・・・何なんだ、これは!?」

(たましい)(けず)死霊(しりょう) ☆3
闇 アンデット族 効果 ATK300 DEF200
このカードは戦闘では破壊されない。このカードが
魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった時、
このカードを破壊する。このカードが直接攻撃によって
相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手の手札をランダムに1枚捨てる。

 この場に現れて以来、死神の風貌をしたモンスターは護と栄一の方を見つめ続けている。
 その目を見た護は、それが何を意味しているのかを悟った。

「下がってくれ、栄一。どうやら僕らは、デュエルを挑まれているらしい」

「デュエルを!?」

「あぁ。・・・栄一、ここは僕に任せてくれないか?」

 護は栄一の目の前に立ち、栄一を後ろへ下がらせると、既に発動されているソリッドビジョンの方へ目をやる。

「マスターに任せる? 別に、構わないけど・・・」

「すまないな・・・」


 栄一の了解を取ると、護はデュエルディスクを構え、デッキからカードを5枚引いて手札にする。










「・・・さて、姿も見せないデュエリストさん、貴方は既にカードのセットとモンスターの召喚を終えています。・・・次は、僕のターンでいいですか?」


 護はソリッドビジョンのある方へ声をかけるが、その問いに対して返事は返ってこない。


「いいみたいだね。じゃあ、始めさせてもらいますよ!」

Unknown:LP4000
護:LP4000

UnknownLP4000
手札2枚
モンスターゾーン魂を削る死霊(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
フィールド魔法魔力統一の錬成陣
LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし




 真夜中の埠頭で、護と姿を見せない何者かによるデュエルが始まった。



第15話 −流れる時間、新たな戦いの予兆(後編)−

 デュエル開始と同時に、その厚みを増した雲によって夜空の星明りは隠され、辺りは灯台が一筋の光を照らすだけの暗い闇夜となってしまった。



「僕のターン!」


 ・・・ヴィーン!


 護がカードをドローしたその瞬間、何者かのリバースカードの内の1枚が開かれる。
 それと同時に、夜空の厚い雲と相まって、辺りに不気味な雰囲気を醸し出す1つの霊応盤がフィールド上に出現した。





 ・・・・・・・・・『D』の文字を掲げた亡霊と、共に。


「「・・・『ウィジャ盤』!?」」

ウィジャ(ばん) 永続罠
相手ターン終了時毎に「E」「A」「T」「H」の順に
「死のメッセージ」カードを手札またはデッキからフィールド上に出す。
全てのカードが自分のフィールド上に揃った時、勝利が決定する。
途中1枚でもフィールド上から離れると、これらのカードは全て墓地に送られる。

「なるほど、『ウィジャ盤』は『D』『E』『A』『T』『H』の5文字が揃えば無条件に勝利を確定させるトラップカードだが、その分リスクも大きい・・・。途中、1枚でもフィールドを去れば、他の文字も一蓮托生でフィールドを去る。故に、魔法・罠除去系のカードに滅法弱い・・・。それらに対抗する為の『魔力統一の錬成陣』か・・・」

 そう言うと護は、ドローしたカードも加えた6枚の手札の1番左端のカードを掴むと、それをデュエルディスクのモンスターゾーンに静かに置いた。

『BG マッハ・ブレイザー』を攻撃表示で召喚! そのモンスター効果により、デッキから『BG クワイエット・ファイター』を手札に加えます!」

 護のフィールドに現れる、闇夜の埠頭を昼と間違わす程に明るく照らす炎の勇者。そして、その勇者の効果により、護はデッキから1枚の新たな勇者のカードを選択し、自らの手札に加える。

BG(ブレイブガーディアン) マッハ・ブレイザー ☆4(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK1800 DEF200
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「G・HERO」または「BG」
と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

「マスターが持つ、『G・HERO(ガーディアンヒーロー)』と並んでマスターを守り抜く勇者、『BG(ブレイブガーディアン)』。『マッハ・ブレイザー』は、召喚するだけで手札を補充できるという、破格のアドバンテージを持つモンスターだけど、その効果も扱い方1つによってデュエルの流れを有利にも不利にもしてしまう・・・・・・」

 勿論、栄一にとって『マッハ・ブレイザー』は初見ではない。護の現役時代に、彼がこのモンスターと苦楽を共にしているシーンを、テレビからではあるが何度も目撃している。
 そのシーンを栄一は、今の護と『マッハ・ブレイザー』の姿に重ね合わせているのだ。

「(今、相手のフィールドに存在する防壁となりうるカードは、『魂を削る死霊』とリバースカード1枚・・・)」

 護は、相手フィールド上のカードを確認しながら一考する・・・。そして、手札の中の1枚のカードに手をかけ、それをデュエルディスクの魔法・罠ゾーンへと差し込んだ。

「装備魔法『メテオ・ストライク』を『マッハ・ブレイザー』に装備。これにより、『マッハ・ブレイザー』は貫通ダメージ効果を得る」

メテオ・ストライク 装備魔法
装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「よし! いい作戦だ、マスター! 『魂を削る死霊』は戦闘では破壊されないモンスター。でも、いくら破壊されないと言っても、その守備力は僅か200。貫通ダメージなら、大幅なダメージを期待できる!」

 この護の一連のプレイングに、栄一が声を上げて興奮したその時である。何者かが伏せていたリバースカードの、もう1枚のカードがオープンされた・・・。
 その瞬間、耳を防ぎたくなる程の怒号が周辺に響き渡り、灯台付近の海が波を打つ。
 栄一も、耳の鼓膜を破るような怒号にたまらず耳を塞いだ。しかし、デュエルを行っている護本人は、うるさい怒号にも全く反応せずに、冷静に戦況を確認した。

「・・・『威嚇する咆哮』。そうやって、僕を追い詰めていくって訳ですか。・・・ターンエンド」

威嚇(いかく)する咆哮(ほうこう) 通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 『威嚇する咆哮』は発動が成立さえすれば、そのターンの戦闘をほぼ無意味にしてしまう効果を持つ。
 戦闘ダメージを与えられない以上、このターン護にできる事はこれ以上なかった。
 そして護がエンド宣言をしたこの瞬間、『ウィジャ盤』から『E』を掲げる2体目の亡霊が現れた。

()のメッセージ「(イー)」 永続魔法
このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールドに出す事ができない。

UnknownLP4000
手札2枚
モンスターゾーン魂を削る死霊(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンウィジャ盤
死のメッセージ「E」
フィールド魔法魔力統一の錬成陣
LP4000
手札5枚
モンスターゾーンBG マッハ・ブレイザー(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンメテオ・ストライク(装備:BG マッハ・ブレイザー)

 ブイーン! ブイーン!

「むっ!?」

 どうやら、相手のターンが始まったのだろう。宙に浮いている死霊のその後ろに、2枚のカードのソリッドビジョンが現れた。

 ・・・しかしそれ以降、相手のアクションは無かった。「自分のターンはこれで終わり」という表れなのだろう。

UnknownLP4000
手札1枚
モンスターゾーン魂を削る死霊(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
ウィジャ盤
死のメッセージ「E」
フィールド魔法魔力統一の錬成陣
LP4000
手札5枚
モンスターゾーンBG マッハ・ブレイザー(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンメテオ・ストライク(装備:BG マッハ・ブレイザー)

「・・・エンドという事でいいみたいですね。じゃあ僕のターン、ドロー!」

 表では普通に見える護だが、その裏ではやはり戸惑いの思いが溢れていた。
 プロの世界で百戦錬磨の戦績を挙げてきた護と言えど、姿の見えない、いや全く見せない相手とデュエルをするのは初めてである。
 とは言え、このような変則的なデュエルをするという戸惑いを周りに見せないのは、やはり緊張感溢れるプロの世界を渡りぬいてきただけある、という事か。

「ドローフェイズ終了時に、速攻魔法『速攻召喚』を発動。手札から『BG クワイエット・ファイター』を守備表示で召喚。さらにスタンバイフェイズ時に『クワイエット・ファイター』の効果! デッキから『ブレイブ・アルケミー』を手札に加える!」

 夜空を眩く輝かせる炎の勇者の横に現れた2体目の勇者。彼は、辺りを眩く照らす『ブレイザー』とは対照的に、その炎を心の中に燃やす、静かな闘志を持つ勇者であった。
 そして、その寡黙な勇者の効果により、栄一はさらにデッキからカードを加える。

速攻召喚(そっこうしょうかん) 速攻魔法(アニメGXオリジナル)
手札のモンスター1体を通常召喚する。

BG(ブレイブガーディアン) クワイエット・ファイター ☆4(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK1000 DEF2000
1ターンに1度だけ自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。
自分のデッキまたは墓地から「ブレイブ・アルケミー」1枚を手札に加える。

ブレイブ・アルケミー 通常魔法(オリジナル)
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
「G・HERO ブレイブ」が自分の墓地に存在する場合、
この効果で特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力は倍になる。

「『ブレイブ・アルケミー』! マスター専用の融合カードか!」

 テレビで何度も見て来たのである。『ブレイブ・アルケミー』の存在も、栄一は勿論知っている。
 その効果は、栄一の十八番、『融合』と同じ力を持ちながらも、特定の条件を満たせば召喚されたモンスターの力を倍増させる。
 1+1を3にも4にさせる事を目的とする『融合』を『錬金術』と称す者もいるが、そういう意味では『ブレイブ・アルケミー』の名はこのカードに与えられるに相応しいものだ思われる。

「そして、フィールド上の『マッハ・ブレイザー』と『クワイエット・ファイター』を『ブレイブ・アルケミー』によって融合・・・・・・!?」

 ところが、その『錬成』は行われる事なかった。
 発動された『ブレイブ・アルケミー』から、ドンドン魔力が吸われていき、2体の勇者もそのままの状態でフィールドに残っている。
 勿論、戸惑いを見せる護ではあったが、相手フィールド上で発動されていたカードを見て、すぐに『錬成』が行われない理由を納得した。

「『マジック・ドレイン』か・・・」

マジック・ドレイン カウンター罠
相手が魔法カードを発動した時に発動する事ができる。
相手は手札から魔法カードを1枚捨ててこのカードの効果を無効化する事ができる。
捨てなかった場合、相手の魔法カードの発動を無効化し破壊する。

 護は手札から魔法カードを捨てる事によって、『マジック・ドレイン』の効果は阻止できる。そしてその魔法カードは護の手札にある。
 だが、今手札にある魔法カードは、捨てる事によって後々不利になるかもしれないカードばかり・・・。
 護は、『ブレイブ・アルケミー』から魔力が吸い取られるのを黙って見続けた。

「ならば、『マッハ・ブレイザー』で『魂を削る死霊』を攻撃!」


 いつも以上に、積極的に攻め込んでいく護。大まかな理由は2つ。


 1つは、やはり『ウィジャ盤』の存在。
 対抗手段が手札に来ない限り、『ウィジャ盤』が完成する前にデュエルを終わらせなければならない。
 結果、兎に角切り込んでいくしかないという構図が出来上がる。


 そしてもう1つは・・・





「・・・やはり、その(トラップ)でしたか」

 『マッハ・ブレイザー』の攻撃が『死霊』にヒットする直前、『死霊』の目の前に幾人もの女性が現れ、相手のフィールド全体を優しいバリアで包み込んだ。

和睦(わぼく)使者(ししゃ) 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 護の勘は当たっていた。
 基本的に『ウィジャ盤』を主軸とするデッキでは、効率よく5つの文字を揃える為に、何時でも発動できる(トラップ)の方が都合がよい。
 攻撃に反応して発動される(トラップ)だと、相手が攻撃してくれないと何時までもそのカードが魔法・罠ゾーンに残り続け、5つの文字を揃えるのを邪魔してしまうからだ。
 故に、この状況で好んで使用されるであろうカードは大抵『和睦の使者』や『威嚇する咆哮』等のカードなのである。

「ターンエンド」

 とは言え護は、再びどうする事もできなくなった事に違いはない。素直にターンを終了するしかなかった。
 そして護の終了宣言と同時に、『ウィジャ盤』から今度は『A』を掲げる3体目の亡霊が現れた。

()のメッセージ「(エー)」 永続魔法
このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールドに出す事ができない。

UnknownLP4000
手札1枚
モンスターゾーン魂を削る死霊(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンウィジャ盤
死のメッセージ「E」
死のメッセージ「A」
フィールド魔法魔力統一の錬成陣
LP4000
手札4枚
モンスターゾーンBG マッハ・ブレイザー(攻撃表示:ATK1800)
BG クワイエット・ファイター(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンメテオ・ストライク(装備:BG マッハ・ブレイザー)

 ブイーン!

 相手のターン。再び新たなカードがセットされ、それで終わり。毎ターン同じ事の繰り返しであった。

「『ウィジャ盤』での勝利に、そんなに自信があるってのかよ? マスター相手に・・・。ていうか、いい加減姿を見せろよ!(怒)」

 隠れてばかりの相手に栄一は、自らがデュエルをしている訳では無いものの怒りを隠す事ができなかった。

UnknownLP4000
手札1枚
モンスターゾーン魂を削る死霊(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
ウィジャ盤
死のメッセージ「E」
死のメッセージ「A」
フィールド魔法魔力統一の錬成陣
LP4000
手札4枚
モンスターゾーンBG マッハ・ブレイザー(攻撃表示:ATK1800)
BG クワイエット・ファイター(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンメテオ・ストライク(装備:BG マッハ・ブレイザー)

 しかしそれでも、デュエルを行っている張本人である護は、至って冷静に自分のターンを進める。

「僕のターン、再び『クワイエット・ファイター』の効果により、デッキから『ブレイブ・アルケミー』を手札に加えます。そして、『マッハ・ブレイザー』と『クワイエット・ファイター』を『ブレイブ・アルケミー』によって融合! 今度は邪魔させません! 『BG ブレイジング・ファイター』を融合召喚!」

 今度は、『マジック・ドレイン』のような妨害は起きなかった。
 護の場の2体の炎の勇者、『マッハ・ブレイザー』と『クワイエット・ファイター』。その2体が融合し、体全体が炎に包まれし勇者、『ブレイジング・ファイター』が召喚された。
 その勇者は『ブレイジング』の名の通り、『ブレイザー』からその輝きを受け継ぎ、暗き夜天をその体から発せられる炎によって眩く輝かせ続けている。

BG(ブレイブガーディアン) ブレイジング・ファイター ☆8(オリジナル)
炎 炎族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「BG マッハ・ブレイザー」+「BG クワイエット・ファイター」
このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
???

「さらに魔法カード『アームズ・ホール』を発動。デッキからカードを1枚墓地へ送り、墓地の『メテオ・ストライク』を手札に加えます。そして『ブレイジング・ファイター』に装備」

アームズ・ホール 通常魔法
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキ・墓地から装備魔法カード1枚を手札に加える。
このカードを発動するターン、自分は通常召喚する事はできない。

「(上手い・・・。さすがマスター。ガーディアンを自分の手足のように操っている・・・)」

「バトルフェイズに入ります。『ブレイジング・ファイター』で・・・」

 その時、相手の伏せカードが再びオープンした。またしても『和睦の使者』である。

和睦(わぼく)使者(ししゃ) 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

「・・・攻撃しても無駄、か。ターンエンドです」

 ・・・ついに、『ウィジャ盤』から現れた亡霊の数は4体となった。
 新たに『T』を加え、『DEAT』までが揃った『ウィジャ盤』。そういう意味では、護に残されたターンは1ターンである。

()のメッセージ「(ティー)」 永続魔法
このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールドに出す事ができない。

UnknownLP4000
手札1枚
モンスターゾーン魂を削る死霊(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンウィジャ盤
死のメッセージ「E」
死のメッセージ「A」
死のメッセージ「T」
フィールド魔法魔力統一の錬成陣
LP4000
手札4枚
モンスターゾーンBG ブレイジング・ファイター(攻撃表示:ATK2500)
魔法・罠ゾーンメテオ・ストライク(装備:BG ブレイジング・ファイター)

 ブイーン!

 相手のターン。もう何度目か? ただカードを伏せるだけ、それだけのターン消化。まるでデジャヴを見てるようなものである。
 しかし、それもおそらくこれで最後であろう。
 この護のエンドフェイズで『ウィジャ盤』が完成する以上、このターンでデュエルが終了する可能性が高いからである。

UnknownLP4000
手札1枚
モンスターゾーン魂を削る死霊(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
ウィジャ盤
死のメッセージ「E」
死のメッセージ「A」
死のメッセージ「T」
フィールド魔法魔力統一の錬成陣
LP4000
手札4枚
モンスターゾーンBG ブレイジング・ファイター(攻撃表示:ATK2500)
魔法・罠ゾーンメテオ・ストライク(装備:BG ブレイジング・ファイター)

「・・・僕のターン。ドロー」

 しかし、護に『諦め』という感情は微塵も無かった。
 カードを信じて、最後まで戦い抜く。それが彼のデュエルスタイルだからである。

 そして、カードをドローしたその瞬間であった。





 ドクン!





 カードをドローした右手から感じる鼓動。護を、主を守り抜く守護者。・・・『絆』の名を持つ、エースの鼓動。





「・・・待ってたよ『ネクサス』。・・・・・・いくよ!」

『(・・いつでもいいぞ、護!)』





「(・・・マスター? 引いたのか、『ネクサス』を?)」

 護の一挙手を見ていた栄一にも、その鼓動は感じた。それだけ、『ネクサス』の持つ力は強大なのである。

「『セイクリッド・ネクサス』を発動。この効果によって、手札の『リリカル・セイジ』と『G・HERO ネクサス』を融合! 『プロミネンス・ネクサス』を召喚する!」

「『プロミネンス・ネクサス』! 新たな『ネクサス』の融合体!」

 『ネクサス』に炎のモンスター『リリカル・セイジ』が融合・・・。それは、『ネクサス』に灼熱の力が与えられる事を意味した。
 熱き戦士、『プロミネンス・ネクサス』の誕生である。

リリカル・セイジ ☆3(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK800 DEF800
このカードを手札から捨てて発動する。このターン、
自分が受ける戦闘ダメージ以外のダメージは全て0になる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

G・HERO(ガーディアンヒーロー) ネクサス ☆6(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK2500 DEF1500
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが
存在していない場合、このカードはリリースなしで召喚する事ができる。
元々の攻撃力がこのカードの元々の攻撃力より高いモンスターが
相手フィールド上に表側表示で存在する場合、このカードの攻撃力は
500ポイントアップする。このカードは罠カードの効果を受けない。

セイクリッド・ネクサス 通常魔法(オリジナル)
自分の手札またはフィールド上から、融合モンスターカード
によって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
このカードの効果によってのみ特殊召喚できる融合モンスター
1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

「『魔力統一の錬成陣』に全てを賭けていたのが誤算でしたね。確かに『魔力統一の錬成陣』は、除去に弱い『ウィジャ盤』とは抜群の相性のカード。しかし、そんなカードにも穴がある。・・・モンスター効果には対応していないという事です。『プロミネンス・ネクサス』の効果は、特殊召喚時に相手フィールドの魔法・(トラップ)カードを全て破壊する事! 『ネクサス・インフェルノ』!」

「ハァァァァァァ!!!」


 ブワァァァァァァ!!!


G・HERO(ガーディアンヒーロー) プロミネンス・ネクサス ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 融合・効果 ATK2700 DEF1700
「G・HERO ネクサス」+炎属性モンスター1体
このカードは「セイクリッド・ネクサス」による融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの特殊召喚に成功した時、
相手フィールド上の魔法・罠カード全てを破壊する事ができる。

 『プロミネンス・ネクサス』から発された炎は、すぐさまその勢いを強めて、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て焼き尽くしていく・・・。















「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ!」

「『ネクサス』!?」

 ・・・はずであった。
 フィールドに勢いよく撒かれた炎は瞬時に鎮火していき、その発生元である『ネクサス』は悲鳴を上げながらフィールドから消滅していった。



「(ま、まさか!?)」


 相手のフィールド上で発動しているカード・・・『エフェクト・シャット』。
 モンスターの効果を無効にし、そのモンスターを破壊するカードである。

エフェクト・シャット 速攻魔法(アニメGXオリジナル)
モンスターの効果を相手が発動した時に発動する事ができる。
その効果を無効にし、そのモンスターを破壊する。

 このカードの存在は、護の頭の中にもある事はあった。
 しかし『ウィジャ盤』の完成を目前にして、相手の出方次第では発動する事のできないこのカードを伏せる事は、ある意味博打要素の詰まったプレイングである。
 ここまで堅実なデュエルをしてきた相手が取ってくるようなプレイングでは無い、と踏んでいたのである。

「もう、これでマスターはこのターン中に奴のライフを0にするしかなくなった・・・」

 『ウィジャ盤』潰しの失敗に、ただデュエルを観戦しているだけのはずの栄一は明らかに動揺していた。
 そんな栄一に対して、デュエルを行っている当の本人である護が、栄一に一言声をかけた。

「栄一、デュエルはまだ終わっていないよ」

「マスター・・・」

 栄一を宥めさせた護は、手札の1枚のカードに手をかける。それこそ、逆転のピースとなる1枚であった。

「魔法カード『死者蘇生』! このカードの効果により、『G・HERO ネクサス』を蘇らせる!」

死者蘇生(ししゃそせい) 通常魔法
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

 『死者蘇生』の発動と共に、フィールドに再び現れた『ネクサス』。それに対して、『ネクサス』の横で待機していた『ブレイジング・ファイター』が、自らの体を燃え上がらせた。
 そして『ネクサス』も、護の方に振り向き、合図を送るように頷いた。

「そして『ブレイジング・ファイター』の効果発動。『ネクサス』をリリースする事で、フィールドの1番攻撃力が高いモンスターの攻撃力分、即ち『ブレイジング・ファイター』自身の攻撃力分『ブレイジング・ファイター』の攻撃力をアップする!」

BG(ブレイブガーディアン) ブレイジング・ファイター ☆8(オリジナル)
炎 炎族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「BG マッハ・ブレイザー」+「BG クワイエット・ファイター」
このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードは罠の効果を受けない。自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースする事で、
このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する
一番攻撃力の高いモンスターの攻撃力分アップする。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

BG ブレイジング・ファイター:ATK2500→ATK5000

 『ネクサス』の力を得て、最大級の輝きを見せる『ブレイジング・ファイター』。
 星1つ見えない夜の中でありながら、デュエルの行われている埠頭付近は完全に昼そのものであった。

「『ブレイジング・ファイター』! 『魂を削る死霊』を攻撃しろ! 『アグレッシブ・ブレイズ』!」

 護の攻撃宣言を受け、『死霊』に向けて幾つもの炎を発射する『ブレイジング・ファイター』。










「クリクリ〜」

「なっ!?」

 しかし、その猛烈な炎も、『死霊』の目の前に現れた幾体もの毛むくじゃらの小さなモンスターによって、全て受け流されてしまった。



「『クリボー』・・・ですか」

 相手の手札に温存されていた最後のカード、『クリボー』・・・。
 相手にとってはまさに、『取って置きの取って置き』であった。

クリボー ☆1
闇 悪魔族 効果 ATK300 DEF200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生するコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

「全部、止められた・・・」

 膝を付いて、その場で崩れ落ちる栄一。
 相手にダメージを与える事ができない以上、護の敗北は決定的。
 最強と呼ばれた男の敗北に、ショックが隠せないのである。


 栄一の顔から、血の気が引いていく。






























「うぉぉぉぉぉ!」

 突如響いた、『ブレイジング・ファイター』の声。
 それと同時に、『ブレイジング・ファイター』から再び発せられる幾つもの炎。それは、1つ1つが命を持っているかの如く激しく動き、フィールドで防御体勢を取っていた死霊を燃やし尽くした。

Unknown:LP4000→LP0

 栄一が『ブレイジング・ファイター』の声に驚いた瞬間、フィールドは一瞬にして炎で包まれ、何者かのライフが一撃で0まで削られた。
 そしてこの突然の出来事に、栄一は錯乱した。

「えっ!? 何!? 何が起こったんだ!?」





「・・・フッ」

 今の状況を整理する事が出来ない栄一に向かって護は、手札の最後の1枚を見せた。

(とき)女神(めがみ)悪戯(いたずら) 通常魔法(アニメDMオリジナル)
このターンをスキップし、次の自分のターンのバトルフェイズになる。

 つまり、『ブレイジング・ファイター』の1度目の攻撃が終了した瞬間、護が手札に持っていた『時の女神の悪戯』を発動。それ以降のフェイズが、護のバトルフェイズまで全てスキップされ、再び護は攻撃の権利を得る。
 『スキップ』ならエンドフェイズを迎えた事にはならず、『ブレイジング・ファイター』の「エンドフェイズまでしか続かない」効果もスキップされる。よって『ブレイジング・ファイター』の攻撃力は5000のまま。
 そして『メテオ・ストライク』の効果によって貫通効果を得た『ブレイジング・ファイター』の2度目の攻撃によって、何者かのライフは全て削られた、という事である。


「・・・マスター、やっぱりアンタは悪魔だよ。・・・着てる服白いし、アカデミアの白い悪m」

「それ以上は版権的にまずいよ、栄一。ていうか僕はモビルスーツでも、魔法少女でもないし・・・」

「あ、ゴメン・・・(ていうかマスターも、そっち方面いけるクチか? 特撮趣味だし・・・)」

 目の前で起こった護の猛攻に、栄一はただ唖然とするしかなかった。





 ・・・ザッ!





「あっ! 逃げた!? 結局顔も見せなかったくせに、待てー!」

 その隙をついて何者かは、結局1度も姿を見せないままその場を去っていってしまった。

「待て、栄一! 深追いは良くない!」

 何者かを追って森の方へ走ろうとする栄一の右腕を掴み、護は栄一を止めた。

「えっ!? 見逃すのかよ!?」

「森に逃げられた・・・。この森の中から、姿も分からない奴を探すのは不可能だ・・・。残念だけどね」

「くっ、くそーーーーー!!!!!」

 栄一は、護に宥められながらも、歯を食いしばりながら悔しがった。










「(・・・これも、例の『アレ』と関係あると見て、間違いないな。『ネクサス』、悪いけど、調査の方頼む)」

『(了解した)』

 ビュッ!

 護の命を受けると同時に、『ネクサス』は森の方へ飛んでいった。





「(すまないな、『ネクサス』・・・。今は、栄一の保護が最優先だから・・・)」





 ・・・ドクン!





「(・・・くっ!)」


 ガクッ!


 『ネクサス』を見送った護は突如、その場で体を崩れさせかけるも、両足に力を入れ、何とか持ちこたえようとする。表情も軽く歪む・・・。
 しかし、栄一に心配をかけさせないように、護はなんとか平静を保とうとした。
 それが幸か不幸か、栄一は護の異変に全く気付く様子もなく・・・

「悔しぃぃぃぃぃぃぃ・・・。誰だか知らないけど、今度見つけたら俺が絶対捕まえてやる! 忘れるなよー!」

 と、雲が晴れ、月が顔を覗き始めた夜空に向かって、大声で叫び続けた。





 栄一と護にとっての長い夜は、こうして終わりを告げた・・・。



第16話 −強引なる代理デュエル 新司vs光!−

「・・・なんで俺達、こんな事になってんだ?」

「知らないわよ・・・(ていうか栄一ぃ、次見つけたら必ずブッ飛ばす!)」


 そう言いつつ、新司と光は共にデュエルディスクを構えた。
 ちなみに栄一はいない。何処かに逃げたようである。


 何故、こんな状況に陥ってしまったのか?










 ・・・・・・・・・事の発端は、現在の数分前まで遡る。







 ・・・月日は経ち、アカデミアも冬休みに入る。
 この南の孤島で生活していた生徒達のほとんどは、親兄弟達と共に、憩いの年越しを迎えるために、2週間ほどこの孤島を留守にする。
 ちなみに「ほとんど」とあるのは、生徒の中には家庭の事情等で、この孤島で年を越す者も、少なからずいるからである。
 そしてかくいう栄一、新司、光の3人も、この孤島を離れる生徒の一員である。



「前回から、映画版『ハリー・ポッ○ー』レベルに場面が唐突に変わったな?」 by栄一


「うん、なんつーかゴメン・・・」 byネクサス





 映画版の『ハリー・ポッ○ー』って、場面から場面への移り変わりが唐突な事がたまにある。そう思うのは私だけでしょうか?










 さて、アカデミアの終業式も終わった事で、多くの生徒が帰宅の為に、このレッド寮の近くの埠頭に接岸している船に乗り込もうとしている。
 栄一、新司、光の3人も同じであった。

「あー、久々に我が家に帰れるなぁ。まぁこの2週間は、五月蝿(うるさ)い弟の受験勉強でも手伝ってやるかぁ」

「へー、新司って弟いるんだ」

 面倒くさそうに語るも、内心では「ヤレヤレ、できる兄は大変だぜ」などと思っている新司。
 そんな新司を見て、軽く引きながらも尋ねる栄一。

「ああ。今年中3。アカデミアに入学したいって言ってるけどアイツ、俺と違って馬鹿だからなぁ。こうして俺が勉強を教えてやらないといけないってわけ」

 栄一には、そのように答える新司の鼻が少し伸びているように見えた。

「ハハハ・・・。光は? 家帰ったら何するんだ?」

「お見合い」

「「えっ!!!???」」

 栄一の質問に、冷たく冷静に答える光。それを聞いて、栄一も新司も声を上げて驚いた。

「冗談よ、そんな驚かなくても。ワタシまだ16よ?」

 そんな2人の態度を見て光は、軽く呆れながら返答した。

「いや、俺はお前なんかと結婚したがる男がいるのかt」

「なんか言った、新司?」

「いえ、何でも・・・」

 茶化すつもりで言ったものの、「マジギレ」といった感じで冷たく新司の方を向く光に、一瞬で青ざめる新司。

「オイオイ(汗) で、本当はどうするんだ?」

 冷や汗を流しながらも、栄一は話を戻した。

「ま、普通にクリスマスと正月を、家族一同で過ごすわ。・・・そういう栄一はどうするの?」

「俺も新司と一緒で面倒見かな? この前、新しく男の子が1人施設に来たんで、その子の面倒見なきゃ」

「あ、そうか。栄一の家は養護施設だったもんな・・・」

「ゴメン、ワタシ軽率な事言っちゃって・・・」

「気にするなって、慣れっこだし。あ、これがその子の写真。『俊介(しゅんすけ)』って言うんだってさ」

 そう言いつつ、服のポケットから取り出した写真を新司と光に1枚の写真を見せる栄一。
 そこには、1枚のカードを持った男の子の笑顔が写っていた。

「うわー、カワイイ♪ 6歳くらい?」

「ホントだ! 男の子なのに、どこかの女とは比べ物にならないくらいカワi」

 光の右ストレートが新司の顔面に飛んだ。

「あ、この子、カード持ってるわね。えーとこれは・・・『ワタポン』? 結構なレアカードじゃない?」

「あぁ、その『ワタポン』、この前おじさんに買って貰ったんだってさ。スッゲェ気に入ってるらしいぜ」

「へぇ。にしても、ホントにカワイイわね、この子♪」

 新司の顔が残念な状態になってるのもお構いなしに、話を続ける光。
 そして同じく、残念な新司を無視して、光の問いかけに答える栄一。

ワタポン ☆1
光 天使族 効果 ATK200 DEF300
このカードが魔法・罠・効果モンスターの効果によって
自分のデッキから手札に加わった場合、
このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

「(殴られっぱなしで話を進められる俺って一体・・・)」←新司の心の中の本音




















−埠頭にて−

「あいよ〜! 1人1個までだからね〜! 慎重に選びなよ〜!」





「ん? なんだアレ? トメさん、あんな所で何やってんだ?」

 そう言う栄一の目線の先には、船の前で店を開いているトメさんの姿があった。その前では、多数の生徒達が手に持ったパンを舐めまわす様に調べている。
 店の看板の方に目をやると、『歳末ドローパン大放出祭』と書かれている。

「『歳末ドローパン大放出祭』? アレは何なんだ、新司?」

 看板の方を指差しながら栄一が、新司に尋ねる。

「・・・見ての通り、『歳末ドローパン大放出祭』だけど? 休みで家に帰る生徒向けに、ドローパンを特別販売してるんだって。勿論、あの中には1個だけ、黄金の卵パンが入ってるらしい。・・・1人1個限りだから、ようはそれで何を引くかによって、休み中の運勢を占うって感じだな」

「へぇ〜」

 ちなみにドローパンに関しては、当小説12話か、ウィキペディアを参照にして下さい。 byネクサス

「・・・って2人とも見て。あの店の前で喧嘩してる2人って、3年の井上悠里先輩と2年の三井陽先輩じゃない?」

 そう言いつつ光は、店の前で言い争いをしている2人の女子の方を指差す。
 途端に、栄一と新司の顔が青ざめてきた。

「「わぁ〜、ホントだ〜・・・・・・・・・」」










「この(アマ)ァ! このパンは私が先に選んだのよぉ・・・! 大人しく私に譲りなさいぃ・・・!」

「これは私が先に選んだんですぅ・・・! 先輩こそ年上なんだから、ここは後輩の私に譲ったらどうですかぁ・・・!」

「それは、私が年増(おばさん)だって言うのぉ・・・?」

「違うんですかぁ・・・? ・・・・・・アラ?」

 言い争いを続ける中、突如陽が新司達の存在に気付く。
 すると陽は不気味な笑顔を見せながら、新司に手招きをする。

「あらぁ、新司く〜ん。ちょうど良い所に〜。・・・ちょっとコッチ来て〜」

「・・・えっ?」

 そう言いつつ、新司は後ろに身を引く。顔中冷や汗ダラダラだ。

「は〜や〜く〜」

「ハ、ハイ!!!」

 陽の笑顔がさらに不気味になる。仕方なく新司は、急ぎ足で陽の方へ足を運ぶ事となった。

「・・・新司も大変ねぇ(・・・ってそういや井上先輩は栄一を呼ばなくていいのかしら?)ねぇ、栄いt」

 栄一の方を振り向きながら尋ねる光。しかしそこには、栄一の姿は無かった。

「・・・栄一?」










「良い所にいたわね〜、新司く〜ん♪」

「・・・(いたくていた訳じゃあ、ありませんけどね)」

 顔面蒼白の新司。顔中冷や汗だらけである。

「ちょうど奴隷(タッグパートナー)もいたところだし、井上せんぱ〜い? ここは奴隷(タッグパートナー)同士のデュエルで決着を着けませんか〜? 勿論勝った方が、このドローパンを手に入れるって事で〜」

 挑発的な態度で、悠里に問いかける陽。それに対して悠里も、自信満々といった感じで応える。

「フン! 分かったわよ、やってやろうじゃない! でもアンタ、忘れてるんじゃなくって? 私と奴隷1号は、アンタ達に1度デュエルで勝ってるのよ? 勝てると思ってんの? ねぇ、奴隷1号!」

 そう言いつつ、悠里は栄一のいた方向を指差す。・・・・・・・・・・・・「いた」方向を。

「・・・・・・・・・いない? なんで?」

 悠里の指先には、栄一の姿は無かった。光1人が、苦笑いで突っ立っているだけである。

奴隷(タッグパートナー)に逃げられちゃったんですね〜♪ どうします〜? このままだと、先輩の不戦敗ですよ〜♪」

「うぬぬぬぬ・・・」

 歯を食いしばりながら悔しがる悠里。
 と、その瞬間、悠里の頭の中の電球が光る。

「あ、そうだ! そこの女!」

 そう言う悠里、光の方に目を向ける。
 ・・・後ずさりをする光が、目に入った。

「・・・へ、ワタシ!?」

「アンタ、1号の代わりにデュエルしなさい。1号が逃げたんだもの。アンタしか残ってないのよ」





「・・・・・・えっ!? ・・・・・・えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???」














 時間は冒頭に戻る・・・。



「・・・なんで俺達、こんな事になってんだ?」

「知らないわよ・・・(ていうか栄一ぃ、次見つけたら必ずブッ飛ばす!)」

 そう言いつつ、デュエルディスクを構える新司と光。
 ・・・いつの間にか、ギャラリーもかなりの数となっていた。

「・・・そういや光、お前とデュエルするのって初めてだな?」

「そう言えばそうね。・・・初めてのデュエルが、こんなアホらしいものになるなんて(汗)」



「2人とも、いいからさっさと始めなさい!」

「新司く〜ん、負けたら承知しないわよ〜♪」

 自分達が起こした騒動なのに、完全にギャラリーと化してしまっている悠里と陽。
 それを見て、新司と光はさらにため息をつく。

「じゃあ、ちゃっちゃと始めるか・・・。なんかギャラリー増えてるし、お2人さんは完全にご立腹だし・・・」

「そうね・・・」





「「デュエル!」」

新司:LP4000
光:LP4000

 世にも奇妙な、前代未聞な理由によるデュエルは始まった。先攻は新司である。

「先攻は俺、ドロー! まずは魔法カード『トレード・イン』を発動。手札からレベル8のモンスター1体を捨てる事で、俺はデッキからカードを2枚ドローする! 俺は、手札の『超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)』を捨てて、カードを2枚ドロー!」

 そう言いながら、新司は手札から『超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)』のカードを選択してそれを墓地へ送り、デッキの上からカードを2枚ドローする。

トレード・イン 通常魔法
手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「さらに、手札の『俊足のギラザウルス』を特殊召喚! コイツは、相手に墓地のモンスター1体の特殊召喚を許可する事で、その召喚を特殊召喚扱いにする事ができる。だが光、お前の墓地にモンスターはいない。よって蘇生効果は無効! そして俺の手札に『ギラザウルス』は2枚ある! よってもう1体も特殊召喚!」

「は、はやっ! やるわね、新司・・・」

「お前のデッキには、一瞬で決着着けるタイプのカードが多いからな・・・。こっちがやられる前に、倒させてもらうぜ!」

 そう言いつつ新司は、手札から『ギラザウルス』のカード2枚をディスクにセットする。

俊足(しゅんそく)のギラザウルス ☆3
地 恐竜族 効果 ATK1400 DEF400
このモンスターの召喚を特殊召喚扱いにする事ができる。
特殊召喚扱いにした場合、相手の墓地から相手は
モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

「さらに永続魔法『弱肉強食』を発動! このカードが発動している間、1ターンに1度俺のフィールドの恐竜族モンスター1体をリリースする事で、リリースしたモンスターよりレベルの高い恐竜族モンスター1体を墓地から特殊召喚できる! この効果で、俺は『ギラザウルス』をリリースし・・・、戻って来い、『超伝導恐獣』!」

弱肉強食(じゃくにくきょうしょく) 永続魔法(カオスマンSPさんご提供。本当にありがとうございます)
1ターンに1度、自分フィールド上の恐竜族モンスター1体をリリースする事で、自分の墓地に存在する、
リリースしたモンスター以上のレベルを持つ恐竜族モンスター1体を選択して特殊召喚する。
この効果によって特殊召喚されたモンスターは、このターン攻撃する事ができない。
この効果で特殊召喚したモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。

 新司は、ディスクにセットされた『ギラザウルス』の内1枚を取り外し、ディスクの墓地ゾーンへと置いた。
 すると墓地ゾーンに『ギラザウルス』のカードが収納され、代わって『超伝導恐獣』のカードが出て来る。それを、新司はディスクのモンスターゾーンへと攻撃表示でセットした。

 その間にフィールド上で行われた出来事(つまりソリッドビジョンによる表現)は、ちょっとここでは説明できないので(グロテスク的な意味で)、詳しくはカオスマンSPさん執筆の『GX plus! 第二十二話 勝利への気持ち? 剣山vsレイ!!』を参照にしてもらいたい。


 読者の皆さんには表現規制されてるけど、デュエルの当事者であるワタシ達には、その光景は完全生中継されちゃってるって事を忘れないでね・・・。あ、ちょっと気持ち悪くなってきた・・・・・・。 by光


「さらに、残る『ギラザウルス』をリリースする事で『超伝導恐獣』のモンスター効果、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与える!」

 新司の場の『ギラザウルス』が消滅し、そのエネルギーが『超伝導恐獣』に蓄えられる。
 そして『超伝導恐獣』はそのエネルギーを、光に向かって発射した。

「きゃあ! ・・・『先攻1ターン目は攻撃できない』というルールを逆手にとって、『弱肉強食』と『超伝導恐獣』の、攻撃不許可デメリットをもみ消すなんて、やるわね新司!」

超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ) ☆8
光 恐竜族 効果 ATK3300 DEF1400
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
また、この効果を発動したターンこのモンスターは
攻撃宣言をする事ができない。

光:LP4000→LP3000

「カードを1枚セットして、ターンエンド!」

新司LP4000
手札2枚
モンスターゾーン超伝導恐獣(攻撃表示:ATK3300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
弱肉強食(対象:超伝導恐獣)
LP3000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「ワタシのターンね。ドロー! まずは魔法カード、『手札断殺』を発動! お互いに手札を2枚墓地へ送り、その後デッキからカードを2枚ドローする!」

 『手札断殺』の効果によって、2人は手札からカードを2枚選択して墓地へ送り、デッキから2枚の新たなカードを加える。

手札断殺(てふだだんさつ) 速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。

新司の墓地へ送ったカード:
『ダークティラノ』
『暗黒ドリケラトプス』

光の墓地へ送ったカード:
『融合』
『王宮の鉄壁』

「さらに魔法カード『ソーラー・エクスチェンジ』を発動! 手札の『ライトロード・プリースト ジェニス』を捨てる事で、ワタシはカードを2枚ドロー。その後、デッキからカードを2枚墓地へ送る!」

「くっ! 序盤からドローカードのオンパレードかよ・・・」

 そう言う新司の顔が徐々に歪んでいく。
 序盤でドローカードを連発できるという事は、それだけキーカードを引く可能性が高いからである。しかも、光のデッキは墓地にカードを送る事でドンドン力を増していくタイプである。
 この光の手札入れ替えは、キーカードを手札に呼び寄せる可能性を増やすだけでなく、余分なカード・墓地にいて欲しいカード等を墓地に送る事ができる為、なおさら性質(たち)が悪いのである。

ソーラー・エクスチェンジ 通常魔法
手札から「ライトロード」と名のついたモンスターカード1枚を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る。

ライトロード・プリースト ジェニス ☆4
光 魔法使い族 効果 ATK300 DEF2100
「ライトロード」と名のついたカードの効果によって自分の
デッキからカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、
相手ライフに500ポイントダメージを与え、
自分は500ライフポイント回復する。

墓地へ送られたカード:
『ライトロード・ビースト ウォルフ』
『貪欲な壺』

「よし、今墓地へ送られた『ウォルフ』は、デッキから墓地へ送られた時、特殊召喚できる効果を持つ! おいで、『ウォルフ』!」

 光の呼び声に応え、光の墓地から獣の顔をした1人の巨大な戦士が現れた。

ライトロード・ビースト ウォルフ ☆4
光 獣戦士族 A2100 D300
このカードは通常召喚できない。このカードがデッキから墓地に送られた時、
このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。

「さらにフィールドの『ウォルフ』をリリースして、手札から『ライトロード・エンジェル ケルビム』を攻撃表示でアドバンス召喚! 『ケルビム』は、『ライトロード』と名のついたモンスターをリリースしてアドバンス召喚された場合、ワタシのデッキからカードを4枚墓地へ送る事で、相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する事ができる! 『超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)』と、そのリバースカードを破壊よ!」

 白き光の天使『ケルビム』の持つ杖から発せられた光は、途中で2つに分かれ、新司のフィールドの『超伝導恐獣』と伏せられたカードを襲撃する。

ライトロード・エンジェル ケルビム ☆5
光 天使族 効果 ATK2300 DEF200
このカードが「ライトロード」と名のついたモンスターを
生け贄にして生け贄召喚に成功した時、
デッキの上からカードを4枚墓地に送る事で
相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。

墓地へ送られたカード:
『早すぎた埋葬』
『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』
『おろかな埋葬』
『ソーラー・エクスチェンジ』

「『弱肉強食』は、自らの効果で特殊召喚されたモンスターがフィールド上を離れた時、破壊される効果を持ってるからね〜。一石三鳥よ♪」

 鼻歌交じりに光は、『ケルビム』の効果を『投じられた石』、破壊される『超伝導恐獣』・『弱肉強食』・伏せカードを『三匹の鳥』に例える。
 それに対して新司は、ディスクにセットされたリバースカードを反転させつつ、光に応える。

「俺は、速攻魔法『非常食』を発動! フィールド上の『弱肉強食』を墓地へ送る事で、俺のライフを1000ポイント回復する!」

非常食(ひじょうしょく) 速攻魔法
このカード以外の自分フィールド上に存在する魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。
墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

新司:LP4000→LP5000

「ギャァァァァァ!」

 新司の場の『超伝導恐獣』が大きな叫び声を上げながら破壊される。それと同時に、その役目を終えた『弱肉強食』のカードも消滅した。

「これで新司の場はガラ空きぃ! 『ケルビム』でダイレクトアタック!」

「ぐっ!」

 『ケルビム』は、再び自分の持つ杖から一筋に伸びる光を発する。その光線は、新司の腹部を貫通し、新司にダメージを与えた。そしてその反動で、新司は後ろにコケた。

新司:LP5000→LP2700

「カードを1枚セットして、ターンエンド!」

新司LP2700
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
LP3000
手札3枚
モンスターゾーンライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「やっべぇなぁ・・・。俺のターン!」

 そう言いつつドローカードに期待する新司。

「・・・マジでマズイかも」



「・・・(怒)」

「・・・(汗)」

 しかし、望みのカードは来なかったようだ。
 新司の顔は、遠方から見ても明らかに冷や汗が垂れている。垂れまくっている。それと同時に、陽の怒りのオーラがそこら中に溢れ出す。

「モンスターを1体とカードを1枚セットして、ターンエンド」

 その陽のオーラに怯えながらも、取り敢えずカードをセットする事しかできない新司。
 デュエルのペースは、完全に光に向かっていた。

新司LP2700
手札1枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP3000
手札3枚
モンスターゾーンライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「新司く〜ん・・・・・・」

「・・・そんな目で見られても(汗)」

 新司に突き刺さる、陽から発せられた怒りの視線・・・。
 新司は、光だけでなく、陽からのプレッシャーとも戦わなければならない状態であった・・・。



「(新司もお気の毒ね・・・。まぁ、強引に狩り出されたワタシの方がもっとお気の毒なんだけど・・・)ワタシのターン! まずリバースカードをオープン、『閃光のイリュージョン』! このカードは、自分の墓地の『ライトロード』1体を特殊召喚できるカード! これによりワタシは・・・」

「『ウォルフ』を特殊召喚する気か?」

「・・・新司、アンタ何見てたのよ? ワタシの墓地には既にこのカードが眠ってたのよ?」

 そう言いつつ、光は墓地から1枚のカードを取り出し、それを新司へと掲げた。

「『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』!? ・・・しまった! 『ケルビム』の効果の時か!?」

「正解! 蘇れぇ、『グラゴニス』!」


 光のフィールドに現れる結界、そしてそこから発せられる眩いばかりの閃光・・・。まさしく『閃光のイリュージョン』。
 そしてその閃光から、その身を艶やかな白と金で包んだ、まるでペガサスの様な姿をした龍、『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』が現れた。

閃光(せんこう)のイリュージョン 永続罠
自分の墓地から「ライトロード」と名のついたモンスター1体を選択し、
攻撃表示で特殊召喚する。
自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを2枚墓地に送る。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。

ライトロード・ドラゴン グラゴニス ☆6
光 ドラゴン族 効果 ATK2000 DEF1600
このカードの攻撃力と守備力は、自分の墓地に存在する「ライトロード」
と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップする。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が
超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを3枚墓地に送る。

「『グラゴニス』のモンスター効果! 墓地の『ライトロード』と名のついたモンスター1種類につき、攻撃力を300ポイントアップする! ワタシの墓地には『ライトロード・ビースト ウォルフ』と『ライトロード・プリースト ジェニス』がいる。よって攻撃力・守備力共に600ポイントアップ!」

ライトロード・ドラゴン グラゴニス:ATK2000→ATK2600 DEF1600→DEF2200

「さらに、『ライトロード・パラディン ジェイン』を攻撃表示で召喚!」

「オイオイ、容赦ねぇなぁ・・・」

 その身を鎧で包んだ白髪の剣士が現れた事によって、光の場にいる光の使者、『ライトロード』は3体となった。
 そしてその3体の『ライトロード』が並んだ光のフィールドは、まるで間近で太陽が輝いているかのような眩しさを、新司始めその場にいる人々全員に感じさせた。

ライトロード・パラディン ジェイン ☆4
光 戦士族 効果 ATK1800 DEF1200
このカードは相手モンスターに攻撃する場合、
ダメージステップの間攻撃力が300ポイントアップする。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。

「バトルフェイズよ! 『グラゴニス』でその伏せモンスターに攻撃! 『グリッター・バースト』!」

 『グラゴニス』の砲撃によって、新司の場で伏せられていたモンスター・・・というより、ずばり恐竜の卵がその姿を現し、そのまま砲撃に飲み込まれていった。

奇跡(きせき)のジュラシック・エッグ ☆4
地 恐竜族 効果 ATK0 DEF2000
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードをゲームから除外する事はできない。
また、恐竜族モンスターが自分の墓地に送られる度に、
このカードの上にカウンターを2つ置く。このカードを生け贄に捧げる事で、
この時このカードに乗っていたカウンターの数以下のレベルの
恐竜族モンスター1体をデッキから選択して特殊召喚する。

 そして、新司の場の卵を消滅させた砲撃は、そのまま新司をも貫通させ新司に更なるダメージを与えた。

「『グラゴニス』のさらなるモンスター効果! 守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が守備モンスターの守備力を超えている場合、相手に貫通ダメージを与える!」

「くっ!」

新司:LP2700→LP2100

 上手く恐竜族モンスターを墓地に送る事でカウンターを増やしていき、強力な恐竜族モンスターを呼ぶ事が『ジュラシック・エッグ』の効率的な使い方であり、彼の仕事でもある。
 その『ジュラシック・エッグ』を、いくら守備力が良いからとはいえ壁モンスターとして使わなければならない程、今の新司はかなり切羽詰っているのであった。

「そして『ケルビム』と『ジェイン』で、ダイレクトアタック!」

 そしてそんな新司に追い討ちをかけるような光の命令に応え、『ケルビム』が杖から光を新司に向けて発し、『ジェイン』が新司に向かって斬りかかる。
 それに対して新司は、慌ててデュエルディスクに伏せられたカードを発動する。

「まだだ! トラップカード『生存本能』! 墓地の『ダークティラノ』『暗黒ドリケラトプス』『ギラザウルス』2体、『超伝導恐獣』『奇跡のジュラシック・エッグ』をゲームから除外する事で、除外したモンスター1体につき俺のライフを400ポイント回復する」

「・・・しぶといわね、新司!」

「いや、俺ももう色んな意味で負けられないから・・・」

生存本能(せいぞんほんのう) 通常罠
自分の墓地に存在する恐竜族モンスターを任意の枚数選択しゲームから除外する。
除外した恐竜族モンスター1枚につき、自分は400ライフポイント回復する。

 ガシィ! バーン!

 『ケルビム』の光の波動と『ジェイン』の斬りかかりが、同時に新司に命中する。 

新司:LP2100→LP4500→LP400

「くぅぅぅぅ・・・。痛てて」

 腹部を押さえ、よろける新司。ソリッドビジョンの攻撃とは言え、プレイヤーには多少の痛みが出る。
 4100もの大ダメージを受けたのだから、多少とは言えその痛みも半端ではない。

「『カードを3枚セットして、ターンエンド。この瞬間、『閃光のイリュージョン』『ジェイン』『グラゴニス』の効果によって、計7枚のカードをワタシはデッキから墓地へ送るわ。・・・・・・かなり面倒くさいわね」

 そう言いつつ、光は本当に面倒くさそうにデッキの上からカードを7枚取り出し、墓地へと送る。
 気が付けば、デッキのカード残数が大変残念な事になる事が多々あるのは、『ライトロード』使いの宿命である。

墓地へ送られたカード:
『ソーラー・エクスチェンジ』
『創世の預言者』
『未来融合−フューチャー・フュージョン』
『ライトロード・ハンター ライコウ』
『和睦の使者』
『死者蘇生』
『裁きの龍』

「墓地に『ライトロード・ハンター ライコウ』が送られた事によって、『グラゴニス』の攻撃力と守備力がさらに300ポイントアップするわ!」

ライトロード・ドラゴン グラゴニス:ATK2600→ATK2900 DEF2200→DEF2500

ライトロード・ハンター ライコウ ☆2
光 獣族 効果 ATK200 DEF100
リバース:フィールド上のカードを1枚破壊する事ができる。
自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。

新司LP400
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
LP3000
手札0枚
モンスターゾーンライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃表示:ATK2300)
ライトロード・ドラゴン グラゴニス(攻撃表示:ATK2900)
ライトロード・パラディン ジェイン(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンリバースカード3枚
閃光のイリュージョン(対象:ライトロード・ドラゴン グラゴニス)

「ムムム・・・、新司く〜ん・・・(怒)」

 新司の醜態に、完全にご立腹状態の陽。言葉にも、怒りと焦りが垣間見える。

「(あの女、歓迎ペアデュエルの時も思ったけど中々やるわね・・・。1号がいなくなった時はどうしようかと思ったけど、イイ穴埋めになってるわ)」

 それに対して、光がリードしている為か、戦力分析まで行える程冷静な悠里。完全に対称的な2人である。



「(・・・マズい! ここで負けたら、お仕置きで今日中の船には乗れなくなっちゃうかも・・・。三井先輩ならやりかねんからな・・・)俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを見て、青ざめていた新司の顔が、血の気を取り戻していく。

「魔法カード『比例関係』を発動! ゲームから除外されたモンスター3体につき、デッキからカードを1枚ドロー! ゲームから除外されている俺のモンスターは6体! よって2枚ドロー!」

比例関係(ひれいかんけい) 通常魔法(オリジナル)
ゲームから除外された自分のモンスター3体につき、自分はデッキからカードを1枚ドローする。

 『比例関係』の効果で手札を増強した新司の顔は、良いカードを引いたのか、さらに元気を取り戻していった。

「よっし! さらに俺は、手札の『D.D.ステゴ』をゲームから除外する事で、魔法カード『弱者の贈り物』を発動! カードを2枚ドローする!」

弱者(じゃくしゃ)(おく)(もの) 通常魔法(漫画GXオリジナル)
手札からレベル3以下のモンスターカードを1枚ゲームから除外する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 新司は、『D.D.ステゴ』のカードをポケットに仕舞うと、さらにデッキからカードを2枚ドローする。
 そして、ドローしたカードのうちの1枚に手をかけると、そのままそのカードをディスクにセットした。

「いくぜ、光! ゲームから除外された恐竜を全て墓地へ戻す事で、現れろ、『ディノバーサーカー』!」

 新司が、ポケットに仕舞っていた7枚のカードを再び墓地へ送ると、機械的な音と叫びを上げながら、凶暴な性格をした1体の恐竜がフィールドに現れた。

「『ディノバーサーカー』の攻撃力は、召喚時に墓地に戻した俺の恐竜族モンスターの数×1000ポイント。よってその攻撃力は7000!」

ディノバーサーカー ☆4(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK? DEF0
このカードは通常召喚できない。ゲームから除外された、
自分の恐竜族モンスターを全て墓地に戻す事でのみ特殊召喚する事ができる。
このカードの元々の攻撃力は、特殊召喚時に墓地に戻した
恐竜族モンスターの数×1000ポイントの数値になる。

「ちょ、マジで!? 『比例関係』によるドローから、『ディノバーサーカー』の召喚まで・・・、ライフを維持する為だけでなく、ここまで計算して『生存本能』を発動してたって言うの!?」

「驚くのはまだ早いぜ光! なんせ俺はまだ通常召喚を行ってないんだからな!」

「うっ、そうだった・・・。って、それって明らかにオーバーキルじゃない!?」

オーバーキル 演出魔法(時空管理局本局武装隊(じくうかんりきょくほんきょくぶそうたい)航空戦技教導隊第5班(こうくうせんぎきょうどうたいだいごはん)高町(たかまち)なの○一等空尉(いっとうくうい)殿(どの)仕込(じこ)み。非OCGカード)
単純に言えば、相手プレイヤーへ過剰に攻撃する事。
これをする事によって、デュエルに「迫力」や「華やかさ」を演出する事ができるが、
そのコストとして「友情」や「人間性」を失う可能性があるぞ!
オーバーキルを行う場合は、「魅せる」、そして「お互いに楽しめる」ためのプレイングを心がけようぜ!!!

 新司の言葉に、頬に汗を流しながらベタに驚く光。そんな光に対し、新司はさらに言葉を続ける。

「お前のフィールド上には3枚もリバースカードがあるからな! 念の為だよ!」

「念の為って・・・。女の子そんなに苛めて楽しい?(泣)」

 しかし、そんな光の泣き言も右から左へ受け流し、新司はターンを続けた。

「俺のロジックコンボはまだまだ続くぜ! 墓地の『D.D.ステゴ』をゲームから除外する事で、墓地の恐竜を全てゲームから除外する!」

 新司の墓地から、先ほど墓地へ送られた筈の7枚のカードが再び姿を現す。新司はその7枚を手に取り、三度自らのポケットにそれらを仕舞った。

(ディー).(ディー).ステゴ ☆2(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK800 DEF500
墓地のこのカードをゲームから除外する事で発動する。
墓地に存在する恐竜族モンスターを全てゲームから除外する。

「そして『ディノインフィニティ』を攻撃表示で召喚だ!」

「ちょ―――! 嘘でしょ、ここまでやっちゃうなんて・・・」

 新司がディスクに『ディノインフィニティ』のカードをセットすると、既に1体の恐竜が、狩猟本能を剥き出しにしている新司のフィールドに、さらに凶暴な性格をした恐竜が呼び出された。

「『ディノインフィニティ』の攻撃力は、ゲームから除外されている俺の恐竜族モンスターの数×1000ポイント。よってこっちも7000だ!」

ディノインフィニティ ☆4
地 恐竜族 効果 ATK? DEF0
このカードの元々の攻撃力は、ゲームから除外されている
自分の恐竜族モンスターの数×1000ポイントの数値になる。

「「ギィャァァァァァァ!」」

 そして、新司のフィールドに揃った2体の恐竜は、共に自らの存在をアピールするがごとく激しく叫ぶ。

ディノバーサーカー:ATK?→ATK7000

ディノインフィニティ:ATK?→ATK7000

「このバトルフェイズで、2体の恐竜の攻撃が通れば俺の勝ちだ! 『ディノインフィニティ』で、『ライトロード・エンジェル ケルビム』を攻撃! 『インフィニティ・ファング』!」

 暴走した恐竜は突進し、光の場の天使に向かってその強力な顎による噛み付きを食らわそうとする。
 ・・・しかし。

 ガキィ!

「ん!? どうした、『ディノインフィニティ』!?」

 『ディノインフィニティ』の攻撃が『ケルビム』に届かず、不思議に思う新司。
 よく見ると、『ケルビム』の前に光のバリアが張られている。そのバリアによって、『ディノインフィニティ』の攻撃が遮断されたのだ。

「危なかった〜。永続(トラップ)『ライトロード・バリア』。『ライトロード』が攻撃対象になった時、デッキのカードを2枚墓地へ送る事で攻撃を無効にするカードよ」

ライトロード・バリア 永続罠
自分フィールド上に表側表示で存在する「ライトロード」
と名のついたモンスターが攻撃対象になった時、
自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る事で
相手モンスター1体の攻撃を無効にする。

墓地へ送られたカード:
『ライトロード・マジシャン ライラ』
『死者転生』

「『ライトロード・マジシャン ライラ』が墓地へ送られた事によって、フィールドの『グラゴニス』の攻撃力と守備力がさらにアップするわね」

ライトロード・ドラゴン グラゴニス:ATK2900→ATK3200 DEF2500→DEF2800

「『ライトロード・バリア』がある以上、『ディノバーサーカー』で攻撃しても無駄、か・・・」

「フフフン♪」

「(・・・三井先輩のお仕置きは怖いし、四の五の言ってる場合じゃないとは言え、このカードに頼る事になるとはなぁ・・・)」

 新司は、最後に残った1枚の手札の方へ、自らの目をやる。そして、少し悔しそうにそのカードをディスクの魔法・(トラップ)ゾーンへセットし・・・

「カードを1枚セットして、ターンエンド」

 自らのターンを終えた。

新司LP400
手札0枚
モンスターゾーンディノバーサーカー(攻撃表示:ATK7000)
ディノインフィニティ(攻撃表示:ATK7000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP3000
手札0枚
モンスターゾーンライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃表示:ATK2300)
ライトロード・ドラゴン グラゴニス(攻撃表示:ATK3200)
ライトロード・パラディン ジェイン(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
閃光のイリュージョン(対象:ライトロード・ドラゴン グラゴニス)
ライトロード・バリア

「ワタシのターンね! ・・・・・・新司、このターンで決着をつけてやるわ!」

「なんだと!?」

 自信満々に勝利宣言をした光は、たった今ドローしたカードをそのまま墓地へと送る。そして同時に、セットされているリバースカードの内の1枚を発動させた。

「手札を1枚捨てる事で、トラップカード『光の召集』を発動! このカードは、ワタシの手札を全て捨てる代わりに、捨てた枚数だけ墓地の光属性モンスターを手札に加える事ができるカード! よってワタシは墓地から1枚の光属性モンスター・・・」

「なっ・・・、まさか既に、墓地へ送られていたのか!?」

「『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』を手札に加える!」

 墓地ゾーンから、『裁きの龍』を右手で掴む光。そしてそのまま、『裁きの龍』をディスクにセットした。

「ワタシの墓地には、『ライトロード・プリースト ジェニス』『ライトロード・ビースト ウォルフ』『ライトロード・ハンター ライコウ』『ライトロード・マジシャン ライラ』の4種類の『ライトロード』がいる! よって、『裁きの龍』を特殊召喚!」

 光のフィールドに現れる、『ライトロード』の切り札『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』。
 その美しい白の体は、新司に敗北の恐怖を刻み込む。

裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン) ☆8
光 ドラゴン族 効果 ATK3000 DEF2600
このカードは通常召喚できない。自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
モンスターカードが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
1000ライフポイントを払う事で、このカード以外のフィールド上に存在する
カードを全て破壊する。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する
限り、自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを4枚墓地に送る。

(ひかり)召集(しょうしゅう) 通常罠
自分の手札を全て墓地へ捨てる。
その後、捨てた枚数分だけ自分の墓地に存在する
光属性モンスターを手札に加える。

「『裁きの龍』のモンスター効果! ライフを1000ポイント払う事で、『裁きの龍』以外の全てのカードを破壊する! いくのよ! 『ジャッジメント・ブラストォ』!」

 光の命を受けた『裁きの龍』は、自らの口先に巨大な光のエネルギーを溜め、新司の方へ向かってそれを発射した。

光:LP3000→LP2000

「・・・くっそぅ、引き分けかよ・・・」

 『裁きの龍』の砲撃が新司の場に届く瞬間、ふと一言新司がつぶやいた。

「へっ・・・・・・引き分け!?」

 自分の勝利を確信していた光。思わぬ新司の発言に、戸惑いを隠せない。

「トラップカード『ジュラシック・インパクト』。フィールド上のモンスターを全て破壊し、破壊されたモンスター1体につき、そのモンスターのコントローラーは1000ポイントのダメージを受ける。・・・あんまり使いたくなかったんだけどなぁ」

「う、うっそ・・・・・・・・・(ワタシの最後の伏せカードは『亜空間物質転送装置』・・・。もしこのカードでワタシの『ライトロード』を1体ゲームから逃がしても、ワタシの場のモンスターは3体。でもチェーンの関係で『裁きの龍』より『ジュラシック・インパクト』の効果処理の方が先に行われるから・・・)」

亜空間物質転送装置(あくうかんぶっしつてんそうそうち) 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
発動ターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。

 ・・・そう。例え『亜空間物質転送装置』によってモンスターを1体ゲームから除外しても、光の場にはまだ3体のモンスターがいる。
 結果、『ジュラシック・インパクト』の効果によって、光の場のモンスターは全て破壊され、光は破壊されたモンスター1体につき1000ポイント、すなわち3000ポイントのダメージを受けるのである。
 つまり、モンスターを守る万能カード『亜空間物質転送装置』でモンスターの数を減らしても、チェーンの関係で結局意味が無くなってしまうのである。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!


 『ジュラシック・インパクト』の発動と共に、フィールドの上空から巨大な隕石が何個もフィールドに落ちてきて、フィールドに存在するモンスターを次々と破壊していく。
 そしてその衝撃は、『裁きの龍』の砲撃の衝撃と重なって、フィールド上に大爆発をもたらした。

ジュラシック・インパクト 通常罠(アニメGXオリジナル)
自分のライフが相手のライフより少ない時のみ発動する事ができる。
フィールド上のモンスターを全て破壊する。
この効果で破壊されたモンスター1体につき、
そのモンスターのコントローラーは1000ポイントのダメージを受ける。
お互いのプレイヤーは、次のそれぞれの1ターン目が終了するまで
モンスターを召喚、特殊召喚する事はできない。

新司:LP400→LP0

光:LP2000→LP0

「ケホッ、ケホッ・・・。ムチャな締め方するわね、新司・・・」

「しょうがねぇだろ? コレ使わないと負けてたんだから・・・」

 そう言いつつ、新司は周囲を確認する。ソリッドビジョンとは言え、滅多に無い大爆発が起こったのだ。怪我人でも出たら大変だ。

「よぉし、誰もケガしてな、い、な・・・・・・・・・」

 突如、口調がメチャクチャになる新司。それもそのはず、新司の目線の先には、再び口論している陽と悠里の姿があったからだ。

「『ジュラシック・インパクト』なんて反則スレスレのリセットカードが無かったら、1号代理が勝ってたんだから私の勝ちでしょ!? このパンも私の物よ!」

「そういう1号代理も、『裁きの龍』なんてリセットカード使わなかったら、新司くんのモンスターを倒す事できなかったんだからぁ、あのまま行ってたら新司くんの勝ちだったかもしれないですよ〜! だからこのパンは私の物です〜!」

「何よその意味不明な発想!?」

「意味不明で悪かったですね〜!」



「・・・いつからワタシ、『奴隷1号代理』なんて訳の分からない名前になってんの?」

 漫画でよくあるような三本のラインをおでこに引きながら、勝手に意味不明なあだ名を付けられた事にショックを受ける光。

「・・・なぁ光、今の内に逃げないか? このままいたら、また2人の厄介事に巻き込まれると思うんだが・・・」

 新司は、そんな光を見て気遣いながらも、保身を考えてコソコソと声をかける。

「・・・そうね。行きましょ」

 光も、ショックを受けた事によって本当は暫く動きたくなかったが、この後の身の安全の為に新司の言葉に賛同した。





 コソコソ・・・

 悠里と陽の2人にばれないようにその場を離れ、船へと乗り込む新司と光。その顔には、アホらしい出来事に巻き込まれた事による疲れしか見えなかった。


「私の物よこの(アマ)ァ!」

「先輩の意地っ張りぃ〜!」





−船の中−

 船の廊下を歩く新司と光。まだ脱力感満点の姿であった。
 ・・・その新司と光の目線に、1人でパンを食いながらのんきに外(さっきまで新司と光がデュエルをしていた方)を見ている少年の姿が見えた。

「お、おい光! アレ!」

「何よ新司・・・、ってあれは! 栄一ィィィィィィィィィ!」

 のほほんとしている少年。それは紛れもない、栄一であった。

「よぉ! 2人ともお疲れ! デュエル見てたぜ! スンゲェ迫力のデュエルだっtゲフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 のんきに挨拶をする栄一の顔のド真ん中に、間違いなく今日最高の右ストレートをお見舞いする光。その衝撃は凄まじく、栄一は物理の法則を無視して有り得ない距離までぶっ飛んだ。

「(光の奴怖ぇぇぇ・・・。俺の時(今話冒頭)より酷いな、間違いなく・・・)」←新司の心の中の本音

「ててて・・・。何するんだよ、光ぃ・・・」

 そう言いつつ、船の床に叩きつけられた際に付いた服の汚れを払う栄一。案外頑丈な体である。

「何のんきな事言ってんの栄一・・・。アンタが勝手に逃げるから、ワタシがあんな意味不明なデュエルに巻き込まれたのよ・・・」

 そう言う光の顔からは、明らかな怒りしか垣間見る事ができなかった。
 さらに、光の後ろから強烈なダークサイドがドンドン広がっていくのが見える・・・。
 「殺される・・・」そんな言葉が栄一の脳裏を過ぎった。

「ス、スマン光! 新司! 1人で逃げて・・・。お詫びにこのパンやるから!」

 そう言って、自分が食べかけているパンを光に渡す栄一。

「・・・アンタ、食べかけのパンで許されるとでも思ってんの・・・・・・・・・ってこれは、もしかして!?」

 栄一のパンを見た瞬間、光の目は丸くなり、体全体が固まってしまった。

「えっ!? どうした光!?」

 光の突然の叫びに、新司も驚いてパンを覗き込む。
 ・・・そのパンの中心には、紛れもない、黄金に光る卵が入っていた。

「「・・・・・・栄一、これは?」」

「あぁ、船に逃げ込む前に、記念に1個買ったんだ。ドローパン。そしたら、これがなんと大当たり! 見事に黄金の卵パンだったって訳さ。いやー、世の中何が起こるかわからないな!」

 そう笑顔で答える栄一。その瞬間、新司と光からどす黒いオーラが現れる。

「・・・? どうした、2人とも?」

「・・・死ぬ気で俺たちがデュエルしてるのを横目にぃ!」

「・・・1人でのんきに黄金の卵パン食べてるなんてぇ!」

「へっ? へっ?」

























「「栄一ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」」










「ピギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」










 ブォーーーーーーーーー!!!!!













































−同時刻、オベリスクブルー寮にて−



 ブォーーーーーーーーー!!!!!



「あ、出ちゃったなぁ、船。・・・しょうがない、1本遅らせるしかないか、『コメット』」

『ミー?(・・?)』

 ブルー寮の一室では、部屋の整理をしている護と、護のカードの精霊『コメット』の姿があった。



「ふぅ・・・」

 カチャ!

 突如、部屋の棚に置いてあったある箱から、1枚のカードを取り出す護。

「・・・おそらく、栄一もあの船だろうなぁ。一緒の船の方が、楽だったんだけどなぁ」

「ミー・・・」

 そう言う護は、『コメット』に物悲しそうな表情で見つめられながら、その手に持つカードを・・・





 カチャ!





 また、元あった箱の中へと仕舞った。



第17話 −戦慄のクリスマス・イブ−



「ほう・・・。で、このガキを(さら)えばいいんだな?」



 とある場所、そこで2人の男が話をしていた。

 1人は現代風の格好をした、普通の若者。しかしもう1人は、黒いフードを被り顔をほぼ完全に隠した魔術師のような格好で、とても今の世の中にはいそうにない男であった。

 今、若者の方が、フード男から渡された2枚の写真を見ながら質問をしているところである。

「そうだ・・・。そうすれば、こっちの少年は必ず貴様のいる場所までやって来るだろう・・・。そこでデュエルをしてくれればいい。それだけだ」

 フード男は、もう1枚の写真に写った少年を指差しながら答えた。
 若者には「なぜこのフード男は、ガキを攫っただけで必ずもう1人のガキが、目の前にいるフード男に指定された場所までやって来ると確信できるのだろう?」という疑問があったが、提示された『報酬』の金額の事を思い出し、すぐにそんな疑問は捨てた。

「なるほど・・・。そいつとただ()り合うだけでいいんだな? それだけなのにこの金額、本当だろうな?」

「ああ、約束しよう。勝っても負けても構わない。ただ、結果次第では金額を倍にする事も考えてやってもいいぞ」

 そう言いつつフード男は、若者に『その件』についての1枚の『契約書』を手渡した。

「・・・負けるって、それはオレの後がヤベェって事じゃねぇか! ・・・・・・まぁ、いい。約束したぞ。後から詫びても知らねぇからな・・・」

「フン。じゃあ私はこれで。・・・5時頃、指定の場所でまた会おう」

 そう言いつつ、フード男はその場から消え去っていった。

「言っとくがオレは強ぇぞ! 後悔すんなよ!」

 若者の男は、フード男が姿を眩ました方に向かって叫び続けていた・・・。















−12月24日、PM 3:00−



 紅葉町(こうようちょう)。栄一の住む養護施設のある町である。
 童実野町から電車で1時間ほどの郊外にある町で、人口はおよそ5万人。そこまで大きな町とはいえなかった。


「ふぅぅ、何とか新司と光の怒りを抑える事ができてよかったぁ。・・・それにしても、クリスマスの雰囲気になってる以外は、どこも、何も変わってないなぁ。ま、3ヶ月ほどじゃ当然か」

 何とか新司と光の怒りを抑え、2人と別れた栄一は、自らの育ったこの紅葉町に戻って来ていた。これから2週間程、この町に身を置くのである。
 そして今、栄一は駅から施設への道のりの、ちょうど真ん中あたりにある公園の横を通り過ぎようとしていた。
 世間はクリスマス・イブ。どこの家も、クリスマスの装飾が成されていた。

「施設までもう少しか。俊介ってどんな子なのかなぁ? いっぱい面倒見てやらないとなぁ・・・。よいしょっと!」

 そう言って栄一は、両肩に提げていたリュックを持ち直す。荷物が多いのか、リュックは少し重そうにも見えた。

 駅から10分ぐらい歩いた所に、栄一の住む、「明石(あかし)児童養護施設(じどうようごしせつ)」がある。ただ、「児童養護施設」といっても、実際にここで暮らす子供はほとんどいないに等しい。
 栄一も、ここでの16年間の生活で、他の子供と共に過ごした時期は、計でも2年に満たない。ほとんど1人で過ごしてきたのである(まぁ、この施設を経営している御夫婦も含めば、実質的な1人ぼっちという訳ではなかったが)。
 現在も、この施設に住む子供は、先日拾われた俊介ただ1人である。

 これは逆に、捨てられたり親を亡くしたりする子供がそうそういない、という事の表れであって欲しい。というのが、施設側の考えである。





 ブーーーーーーン!



 突如、栄一の前方から1台の車が猛スピードで突っ込んで来て、栄一の横を通過して行った。

 ブワァ!

「うわぁ!」

 ガタッ!

 間近を通過した車に栄一は転びそうになるも、なんとか体勢を保つ事ができた。両肩に背負ったリュックも無事だ。

「危ねぇなぁ! もっとゆっくり走れー!!! 歩行者に迷惑だろー!!!」

 去っていく車に文句を言う栄一。
 それと同時に、ある1つの事に気付いた。

「(そういや、あの車に、俊介に似た子が乗っていなかったか? 気のせいかなぁ・・・?)」

 「気のせいかな?」そう思いつつ、栄一は再び施設への道を歩いていった・・・。






























明石(あかし)児童養護施設(じどうようごしせつ)

「あれ? 門の前にいるの、おばさん? 何してんだ、あんな所で?」

 施設の直前まで来た栄一は、この施設の経営者の1人、明石(あかし)由香里(ゆかり)が施設の門の前で慌てているのを見かけた。

「おばさん、どうしたんだ? そんなに慌てて・・・」

 その言葉に、栄一の存在に気付く由香里。彼女は、明らかに気が動転している様子だった。

「栄、栄一ちゃん!? ど、どうしよ、俊介ちゃんが誘拐されちゃった! 2人で歩いてたら、後ろから急に車が突っ込んで来て、そのまま俊介ちゃんを・・・。ど、どうしよ、どうしよ!」

「俊介が!? お、おばさん、取り敢えず落ち着いて! 取、取り敢えず!」

 そう言いつつも、自身も気が動転している事に気付く栄一。
 明らかに、気を静める事のできる状況ではなかった。

「(やっぱり、あの車に乗ってた子供は俊介だったんだ!)と、とにかく! 犯人は俺が追いかけるから、おばさんは、早く警察に連絡を! あ、それとこのリュックよろしく!」

 そう言いつつリュックを由香里に任せると、栄一は先ほど見かけた車の進んでいった方へ走っていった。

「栄、栄一ちゃん!? ちょ、どこに行ったかはわかるの? 栄一ちゃん!?」

 そんな由香里の言葉にも聞く耳持たず、栄一はあっという間に走り去って行った。

「栄一ちゃん・・・」






























−紅葉町、とある交差点−

「どこだ・・・。どこ行ったんだ・・・?」

 犯人の車がどこに行ったかもわからないまま、突っ走ってしまった栄一。

 完全に、途方に暮れてしまっていた。

「くっ・・・、俊介・・・。どうしたらいいんだ・・・」

 その時である。突如栄一の耳に、誰かの声が響いた。















 ―――――ワタ、ポン!

「えっ!? 今の声は?」





 ―――――ワタ、ポン!

「・・・間違いない! 今のは『ワタポン』の声! ・・・『ワタポン』、お前も、俊介と一緒にいるんだな!」





 ―――――ワタ、ポン!

「そうか・・・。こっちだな!」





 突然聞こえた『ワタポン』の声に、俊介の居場所を確信させた栄一。
 そのまま、『ワタポン』の声の下へ向かって走っていった。






























−紅葉町、とある倉庫−

「んー! んー!」

 倉庫の端で、腕と足、それに口をガムテープで縛られ、パイプ椅子に座らされている俊介。必死にもがいているが、傍から見ればただ椅子ごとコケそうになっているだけである。
 そしてその目には、薄っすらとだが涙が見える。

「フン! ガムテープで口塞いでんのに、叫ぼうとしたって無駄な事ぐらい理解しろ! 心配しなくても、もうすぐ楽しい場所に連れて行ってやるからよぉ!」

 俊介をここまで連れてきたこの犯人と思われる男、大胆にも白昼に堂々と1人で誘拐という犯行を成し遂げている。
 男は、必死に助けを求める俊介を言葉で脅迫し、喚きを沈めようとする。

「・・・んー! んー!」

「オーオー、一生懸命叫ぼうとしてるねぇ。無駄なのに・・・」

 それでも俊介は叫ぼうとするのを止めない。それを見て男は、口に薄っすらと笑みを浮かべる。

「(・・・助けてぇ。おばさん・・・。おじさん・・・。栄一兄ちゃん・・・)」

「(・・・ワタ、ポン)」

 目の前の恐怖に、涙を流し助けを求める俊介。そして、その様子を見守る『ワタポン』・・・。

 しかし、『ワタポン』の声は、俊介には聞こえない。

 俊介には、カードの精霊が見えないから・・・。

「4時か・・・。さぁてボークー、あと1時間ほど我慢しようねぇ・・・。お兄さんが楽しい場所に連れて行ってあげるからさ・・・」

「・・・んー! んー!」

 左腕に巻いた腕時計で時間を確認しつつ、俊介に対して更なる脅しをかける男。

 まさに危機的状況、そんな時だった。










 ―――――バン!

「俊介!」

 栄一、間一髪のセーフであった。

「!? ・・・誰だ!?」

「!!!!!(栄一、兄ちゃん・・・?)」

「・・・お前か! 俊介を誘拐しようとした奴は!?」

 栄一は、目の前の男を指差しながら、問うた。

「フン! だったらどうする・・・? オレを見つけただけじゃ、お前には何にもできないんだぜ・・・」

「くっ・・・」

「(栄一兄ちゃん・・・)」



 正当な発言で、栄一を追い詰める犯人の男・・・。しかし、次に男から出て来た言葉は、栄一にとって驚きの言葉であった。

「まぁ、何もできないんじゃあお前ももどかしいだろう。チャンスをやるよ」

 そう言いつつ、男は1つの円盤状の機械を栄一に手渡す。・・・・・・デュエルディスクだ。

「オレとデュエルしないか? お前が勝ったら、このガキはお前に返して、オレは素直に自首するよ。だが、オレが勝ったら・・・」

「お前が勝ったら・・・」

「・・・お前の命は、このガキと同じ運命だ。・・・まぁ2度と、ここには帰ってこれないだろうなぁ」

 そう言いながら男は、どこに置いてあったのかデュエルディスクを取り出し、それを自らの左腕に装着する。





 そして男の言葉に、一瞬動揺する栄一。
 しかし・・・。

「・・・いいだろう。受けてたってやる!」

「フッ、そうこなくっちゃ!」

 そう言いつつ、お互いにデュエルディスクを起動し、デッキからカードを5枚取ってそれを手札にする・・・。





「(・・・兄ちゃん)」

 デュエルの誘いに乗った栄一を、泣きながら見守る俊介。
 ただ、栄一の勝利を祈るしかなかった・・・。










「「・・・デュエル!」」

犯人:LP4000
栄一:LP4000

 デュエルは始まった。先攻は、犯人の男である。

「オレのターン、モンスターを1体と、カードを1枚セットしてターンエンド!」

犯人LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

 犯人のターンが終わった事で、次は栄一のターンである。
 栄一は、いつもより強くデッキのカードを掴むと、やや乱暴にそのカードをドローする。

「俺のターン! お前のような奴は、一気に片付けてやる!」

 ・・・栄一は、怒りで完全に我を忘れているようだった。ドローしたカードを、そのまま乱暴にデュエルディスクに叩き付ける。

「『E・HERO ライオマン』を攻撃表示で召喚!』

 栄一の場に、獅子の姿をした2本足で立つ戦士が現れる。その目には、栄一と同じく怒りが宿っているように見えた・・・。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン ☆4(オリジナル)
地 獣戦士族 通常 ATK1700 DEF800
獅子のように大地を駆け巡るE・HERO。
正義の突進ライオクラッシュで悪を砕く。

「いけぇ、『ライオマン』! その伏せモンスターをやっつけろ!」

 栄一のその声に、伏せモンスター目掛けて突進する『ライオマン』。
 しかし・・・。

「ところが、そうはいかねえんだよな! 速攻魔法『イクイップ・バリア』! 手札の装備魔法1枚をコストに、バトルフェイズをスキップ!」

「何!?」

イクイップ・バリア 速攻魔法(オリジナル)
メインフェイズ1終了時に発動する事ができる。
手札から装備魔法カード1枚を捨てる事で、
そのターンのバトルフェイズをスキップする。

 ・・・ようはバトルフェイズ開始前に、犯人が『イクイップ・バリア』を発動、バトルフェイズスキップ。栄一がそれに気付かず、猪突猛進に攻撃しようとしただけであった。

「・・・カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 攻撃を封じられ、戸惑いを隠せない栄一。攻撃をする事ができない以上、カードを伏せて防御体勢を取るしかなかった・・・。

犯人LP4000
手札3枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「オレのターン! オレは、フィールドの裏側守備表示モンスターをリバースする! 『名工 虎鉄』! コイツの効果で、オレはデッキから装備魔法カード『流星の弓−シール』を手札に加える!」

名工(めいこう) 虎鉄(こてつ) ☆2
炎 獣戦士族 効果 ATK500 DEF500
リバース:自分のデッキから装備魔法カードを1枚選択し、手札に加える。

流星(りゅうせい)(ゆみ)−シール 装備魔法
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントダウンする。
装備モンスターは相手プレイヤーに直接攻撃をする事ができる。

 犯人の男は、デッキから『シール』のカードを選ぶと、栄一に確認させてから手札に加える。
 そして、手札の別のカードに手をかけると、そのカードをデュエルディスクの魔法・罠ゾーンにセット、発動させた。

「さらに手札から、『強引なバトンタッチ』を発動! フィールドの『虎鉄』をリリースして、手札から『ザ・キックマン』を特殊召喚! 『ザ・キックマン』は特殊召喚成功時に、墓地の装備魔法1枚を装備する事ができる! オレは、さっき捨てた『デーモンの斧』を『ザ・キックマン』に装備!」

強引(ごういん)なバトンタッチ 通常魔法(オリジナル)
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースして発動する。
手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 『強引なバトンタッチ』の効果により、犯人のフィールドから1人の職人が姿を消し、代わって1人の中年太りした凶悪な男『ザ・キックマン』が、巨大な戦斧を持ちながら犯人のフィールドに現れた。

ザ・キックマン ☆3
闇 アンデット族 効果 ATK1300 DEF300
このカードが特殊召喚に成功した時、自分の墓地の
装備魔法カード1枚をこのカードに装備する事ができる。

デーモンの(おの) 装備魔法
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分フィールド上に存在するモンスター1体を
リリースする事でデッキの一番上に戻す。

「『デーモンの斧』の効果で、『ザ・キックマン』の攻撃力は1000ポイントアップ!」

ザ・キックマン:ATK1300→ATK2300

「そしてバトルフェイズ。『ザ・キックマン』で、『ライオマン』を攻撃! 喰らえぇ!」

「そうはいくか! トラップカード、『ヒーローバリア』! お前の攻撃は無効だ!」

 手に持った斧を頭上に振りかぶりながら、『ライオマン』に向かって突進していく『ザ・キックマン』。
 が、間一髪。強力な竜巻がフィールドに発生し、『ザ・キックマン』の攻撃を遮断した。

ヒーローバリア 通常罠
自分フィールド上に「E・HERO」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

「チッ! やるじゃねぇか! メインフェイズ2に移行だ! 装備魔法『流星の弓−シール』を『ザ・キックマン』に装備!」

 両腕で斧を握っていた太っちょの男は、その斧を右腕のみで握り直す。そして目の前に現れた弓を、今度は左腕に抱えた。
 少しアンバランスなのか、太っちょの男の体がややふらつく。

「な、バカにしてるのか!? なんで上げた攻撃力を、わざわざ自ら下げようとするんだ!?」

 男のプレイングに、怒り口調で文句を言う栄一。明らかに冷静さを失っているようだ。

ザ・キックマン:ATK2300→ATK1300

「フン! こっちの勝手だろ! カードを2枚セットして、ターンエンド!」

 栄一の文句に乱暴な口調で言い返す犯人の男。・・・も、被害者ではない事が栄一よりもまだ余裕をもたらすのか、その一挙手一投足に焦りは見られない。

犯人LP4000
手札0枚
モンスターゾーンザ・キックマン(攻撃表示:ATK1300)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
デーモンの斧(装備:ザ・キックマン)
流星の弓−シール(装備:ザ・キックマン)
栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンなし

「チッ、俺のターン!」

 怒りが全く抑えられず、犯人の不可解なプレイを目の当たりにして、やや焦りが見え始める栄一。ドローする右手にも、汗が滲む。

「魔法カード『融合』発動! 手札の『バーストレディ』と『クラッチマン』を融合! 現れろ、『フレイム・ウィングマン』!」

「な!? 『フレイム・ウィングマン』の融合素材は、『フェザーマン』と『バーストレディ』じゃ!?」

「『E・HERO クラッチマン』。コイツは、如何なる融合モンスターの融合素材にもなれるモンスター。さらに、『クラッチマン』を融合素材として召喚されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップする!」

「なんだと!?」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン ☆6
風 戦士族 融合・効果 ATK2100 DEF1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ ☆3
炎 戦士族 通常 ATK1200 DEF800
炎を操るE・HEROの紅一点。
紅蓮の炎、バーストファイヤーが悪を焼き尽くす。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クラッチマン ☆3(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF800
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
このカードを融合素材にして融合召喚されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップする。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

 栄一の場に現れた『フレイム・ウィングマン』。『クラッチマン』の融合による噛み合いが良い為か、普段以上の強力なオーラが周りから見て取れる。
 そしてその目には、栄一や『ライオマン』と同じく明らかな怒りの炎が燃えていた。

E・HERO フレイム・ウィングマン:ATK2100→ATK2600

「攻撃力2600!?」

「さらに『エレメンタル・ターボ』を発動! 『フレイム・ウィングマン』の融合召喚に成功した為、俺は2枚ドロー!」

 さっきまで以上に、デッキからカードを乱暴にドローする栄一。はっきり言って、怒りは爆発寸前であった。

エレメンタル・ターボ 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO」と名のついたモンスターの
融合召喚に成功したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「『フレイム・ウィングマン』で、『ザ・キックマン』を攻撃! 『フレイム・シュート』!」

 勇猛果敢に『ザ・キックマン』に突進する『フレイム・ウィングマン』。
 しかし・・・。

「う、うわぁぁぁぁぁ・・・なーんてな! 速攻魔法『エナジードレイン』! 『フレイム・ウィングマン』の攻撃力を0にし、オレはカードを1枚ドロー!」

「な、なにぃ!?」

 焦ったような素振りを一瞬見せつつも、すぐに態度を切り替えながらリバースカードをオープンする犯人の男。明らかに栄一を挑発している。

エナジードレイン 速攻魔法(アニメDMオリジナル)
相手フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体の攻撃力を0にし、
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

E・HERO フレイム・ウィングマン:ATK2600→ATK0

 『エナジードレイン』から発せられたエネルギーが、『フレイム・ウィングマン』の攻撃力を瞬時に奪っていく。
 結果、刹那の差で『フレイム・ウィングマン』は破壊されてしまった。

栄一:LP4000→2700

「だ、だが、この瞬間、手札の『バーニング・バスター』の効果発動! 味方の戦士がやられた時、手札から『バーニング・バスター』を召喚する!」

「何! 誘発召喚効果だと!?」

 栄一の手札から、切り札である灼熱の戦士『バーニング・バスター』が現れた。
 その、思わぬモンスターの召喚劇に、驚く犯人。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「『バーニング・バスター』! 『フレイム・ウィングマン』の敵を討て! 『バーニング・バーストォ』!」

「な!? 来るな! 来るなー!」

 『バーニング・バスター』の砲撃に、再び焦りを見せる犯人。
 しかし・・・。

「・・・なーんて。怒りで我を忘れてる奴ほど、やりやすい相手はいないぜ! トラップカード『イクイップ・シュート』! コイツは、オレのモンスターに装備された装備カードを相手モンスターに装備させ、再度戦闘を行なわせるカード! オレが選ぶ装備カードは『流星の弓−シール』! そしてオレが選ぶモンスターは当然、『バーニング・バスター』・・・」

「な、なにー!?」

イクイップ・シュート 通常罠
バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターに装備された
装備カード1枚と相手フィールド上に存在する表側攻撃表示のモンスター1体を
選択し、選択した装備カードを選択した相手モンスターに装備する。
その後、選択した装備カードを装備していた自分のモンスターと、
選択した相手モンスターで戦闘を行いダメージ計算を行う。

ザ・キックマン:ATK1300→ATK2300

E・HERO バーニング・バスター:ATK2800→ATK1800

 『イクイップ・シュート』の発動により、『ザ・キックマン』に装備されていた『流星の弓−シール』が、『バーニング・バスター』に装備し直され、『バーニング・バスター』の攻撃力がダウン。
 倒せたはずのモンスターに、返り討ちにあう結果となってしまった。

「ぐわあああああ!」



「(栄一兄ちゃん!)」

「(ワター!?)」

 栄一の苦戦に、目尻に涙を浮かべながら心配する俊介。そして彼の精霊『ワタポン』・・・。

栄一:LP2700→LP2200

「く・・・。『クレイマン』を守備表示で召喚、『ライオマン』も守備表示に変更し、ターンエンド・・・」

 エースカードが破壊された事により、守勢に回らざるを得なくなった栄一。その目にはまだ怒りは見えるものの、それ以上に弱気な態度が見え始める。

 ・・・いや、その落ち込みようは普通ではなかった。
 それはまるで、栄一の心の何かが折れてしまったかのように。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クレイマン ☆4
地 戦士族 通常 ATK800 DEF2000
粘土でできた頑丈な体を持つE・HERO。
体をはって、仲間のE・HEROを守り抜く。

犯人LP4000
手札1枚
モンスターゾーンザ・キックマン(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーンデーモンの斧(装備:ザ・キックマン)
栄一LP2200
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(守備表示:DEF800)
E・HERO クレイマン(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンなし

「オレのターン! 『ザ・キックマン』で『クレイマン』を攻撃だ!」

 『ザ・キックマン』の斧の一振りは強烈だった。『クレイマン』の粘土で出来た体も歯が立たない。
 堅守に定評がある筈の『クレイマン』があっさり破壊されてしまった事で、栄一のフィールドには、守備には不安が残る『ライオマン』が残るのみとなった。

「モンスターを1体セットし、ターンエンドだ!」

犯人LP4000
手札1枚
モンスターゾーンザ・キックマン(攻撃表示:ATK2300)
裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンデーモンの斧(装備:ザ・キックマン)
栄一LP2200
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(守備表示:DEF800)
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン・・・」

 切り札による攻撃を簡単にカウンターされ、さらに防衛ラインも突破されそうという事もあってか、栄一から急激に覇気が失われていた。
 ドローから力強さが見られないのが、いい証拠である。
 そしてそのドローによって加えられたカードが、栄一をさらに弱気にする。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン ☆5
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1800
このカードが墓地に存在する限り1度だけ、
自分はレベル5以上の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体をリリースなしで召喚する事ができる。

「(『ネクロダークマン』・・・。駄目だ、これじゃあ次の奴のターンを凌げない・・・)」

 『E・HERO』の召喚の際にリリースの必要が無くなる効果を持つ『ネクロダークマン』も、墓地にカードを送る効果を持つカードがない今、手札に来てしまっては意味が無いのである。

「『ワイルドマン』を守備表示で召喚。ターンエンドだ」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン ☆4
地 戦士族 効果 ATK1500 DEF1600
このカードは罠の効果を受けない。

犯人LP4000
手札1枚
モンスターゾーンザ・キックマン(攻撃表示:ATK2300)
裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンデーモンの斧(装備:ザ・キックマン)
栄一LP2200
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(守備表示:DEF800)
E・HERO ワイルドマン(守備表示:DEF1600)
魔法・罠ゾーンなし

 一度自らのリズムが崩れると、そのまま一気に意気消沈していき、最後は敗北してしまう・・・。怒りに身を任せて、猪突猛進に戦う者によくある敗北パターンである。
 『バスター』まで失ってしまった栄一は、今まさにその状況に陥ってるといっても過言ではなかった・・・。

「オレのターン! オレはセットしていたモンスターをリバースする。セットされていたモンスターは『凶悪犯−チョップマン』。コイツは反転召喚に成功した時、墓地の装備カード1枚を装備できるんだが・・・、オレの墓地の装備カードは『シール』1枚のみ。装備はやめておくよ」

 犯人の男の場に現れる、凶悪な顔をした男のモンスター。その男は囚人服と思われる服に身を包み、額には「I LOVE CHOP」の文字が書かれていた。

凶悪犯(きょうあくはん)−チョップマン ☆3
闇 アンデット族 効果 ATK1100 DEF500
このカードが反転召喚に成功した時、
自分の墓地の装備魔法カード1枚を
このカードに装備する事ができる。

「『ザ・キックマン』で、『ワイルドマン』を攻撃!」

 既に3体ものモンスターを破壊している『ザ・キックマン』が、今度は『ワイルドマン』に襲い掛かる。
 堅守のヒーロー、『ワイルドマン』も、勢いに乗った『ザ・キックマン』の前には為す術が無かった。

「続いて『チョップマン』で、『ライオマン』を攻撃!」

 『ワイルドマン』に続いて、『ライオマン』も為す術無く破壊されてしまった。

「これでテメェのモンスターは全滅ヒャヒャヒャァ! ターンエンドォ!」

犯人LP4000
手札2枚
モンスターゾーンザ・キックマン(攻撃表示:ATK2300)
凶悪犯−チョップマン(攻撃表示:1100)
魔法・罠ゾーンデーモンの斧(装備:ザ・キックマン)
栄一LP2200
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし



第18話 −動き出す陰謀−

「(栄一兄ちゃん・・・)」

 泣きながら、苦戦する栄一をじっと見つめる俊介。
 栄一も、そんな俊介の視線に気付いたようである。

「(俊介・・・。俺には、お前を助ける事ができないのか・・・。どうしたらいいんだ・・・)」

 俊介のエマージェンシーコール。

 わかっている。

 今、俊介を助ける事ができるのは俺だけなんだ。

 それはわかっている・・・。

 でも・・・。

 デュエル開始当初の勢いはどこへやら、完全に弱気になってしまっていた栄一であった。





 ・・・そんな時である。










『栄一・・・、弱気になっては駄目だ・・・。信じろ・・・、お前のデッキを・・・。お前のヒーロー達を・・・』

『ワター!』










 突如、カードの精霊の声が、栄一の耳に響いた。・・・励ましているのである。弱気になっている栄一を。



 ・・・もう1度、立ち直させるために。



「(『バーニング・バスター』・・・。だけど、お前を失った今、俺はどうしたらいいんだ・・・?)」



 しかし、精霊達の必死の叫びも、栄一には届かなかった。



 この言葉を最後に栄一は、外界からの音を遮断してしまったのである。



 栄一は動揺していた。



 何に?



 分からない。



 俊介のピンチに?



 違う。



 今の栄一に、その理由は分からなかった。分からないもどかしさだけが残った。















「・・・ふぅ。やはり、か」

 倉庫の外から、窓を通して二人のデュエルを見続ける男がいた。
 先ほど、今栄一とデュエルをしている男と契約を交わしていたフードの男である。

「(やはり、今の明石栄一を支えるのは『バーニング・バスター』のカード・・・。使うにつれて、徐々に依存度が上がってきているみたいだな)」





 ―つまり、『バスター』がいなければどうしようも出来なくなる状況に、今の明石栄一はなりつつある、という事か。





「放っておいて、このまま『あの方』の元に連れて行ってもよかったが・・・・・・少し面白くなってきたな」

 そう言うと、フード男は目を閉じつつ両手を祈るように重ねて前に構え、何かの呪文のようなものを小声で唱え始めた。










「・・・どうすれば」

 顔が青ざめ、仁王立ちでい続ける栄一。精霊の声援も、俊介の泣く声も、今の栄一には届かない。

 しかし、そんな時である。





『明石、栄一・・・』



「・・・えっ!?」

 全ての音を遮断していた栄一の耳に、突如何者かの小さい声が届いた。
 男の声だろうか。
 そしてその声は、徐々にボイスを上げ、栄一の『脳』に話しかけてきた。

『明石、栄一。君は、何をそう焦っているんだい?』

「(誰だ!? 俺に話しかけてくるのは?)」

『質問しているのは私だ。何故君は、そう怖がっているんだい?』

「(怖がっている? 俺が?)」

『そうだ。君は『バスター』が倒された事に怖がっている。違うか?』

「(違う! 俺は・・・! 俺は・・・・・・!)」

『なら証明して見せろ。『バスター』を失っても、何も怖いことは無い、と・・・』

「(俺は・・・・・・・・・!)」

 男の声に、栄一の不安は徐々に、再び怒りへと変わっていく・・・。
 普通なら、そうなる事はありえないかもしれない。しかしこの男の声には、何かの催眠効果のようなものであろうか、そのようなものが含まれているようで、不安でいっぱいであった栄一の心を、一瞬の内に怒りで埋め尽くしていったのである。







「俺は・・・」

「ん?」

 その場で俯き続けていた栄一が、顔を上げた。・・・・・・怒りに満ちた、その顔を。

「俺は、卑劣な事をする貴様には、絶対負けない! ドロー!」

「(な、なんだ!? アイツ、さっきまでこの世の終わりのような表情だったのに・・・!?)」

 栄一の突然の豹変振りに、犯人の男は驚きを隠せない。
 そんな男の反応も他所に、栄一は自らのターンを進めて行く。

「・・・魔法カード、『エレメンタル・リレー』! 手札の『ネクロダークマン』を捨て、カードを2枚ドロー!」

 手札にあった『ネクロダークマン』のカードを墓地へ送る手つきも、デッキからカードをドローする手つきも、今の栄一にはそれら全てが乱暴になっていた。

エレメンタル・リレー 通常魔法(オリジナル)
手札から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「そして、今墓地へ送られた『ネクロダークマン』の効果により、『エッジマン』をリリースなしで召喚! 攻撃表示だ!」

 『ネクロダークマン』の恩恵を受け、栄一のフィールドに呼び出されたのは、黄金のヒーロー『エッジマン』。その目の先には、男のフィールドで構える『チョップマン』の姿があった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン ☆7
地 戦士族 効果 ATK2600 DEF1800
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン ☆5
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1800
このカードが墓地に存在する限り1度だけ、
自分はレベル5以上の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体をリリースなしで召喚する事ができる。

「いけぇ! 『エッジマン』! 『チョップマン』に攻撃! 『パワー・エッジ・アタック』!」

 エッジマンの両腕から、その名の通りの黄金の(エッジ)が飛び出す。
 すると『エッジマン』は、『チョップマン』に向かって突進。両腕の刃で、『チョップマン』を切り裂いた。

「チッ! やられたか・・・」

犯人:LP4000→LP2500

「ターンエンド!」

犯人LP2500
手札2枚
モンスターゾーンザ・キックマン(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーンデーモンの斧(装備:ザ・キックマン)
栄一LP2200
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO エッジマン(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンなし

「(何があったかは知らないが・・・、オレだって負ける訳にはいかねぇんだよ! なんせ、多額の賞金がかかっているんだからな!)オレのターン!」

 そう心の中で語りつつ、犯人はデッキからドローしたカードをそのまま発動させた。

「魔法カード『カップ・オブ・エース』発動! コイントスを1回行い、表ならオレが、裏ならテメェが2枚ドローする! さぁいくぜー!」

 犯人の男は、どこからかコインを取り出すと、すぐさまそれを右手で弾きコイントスを行う。


 パシッ!


 男は右の手のひらを、左手の甲に被せるように両手の間のコインと共に叩きつけ、その右手をゆっくり開けていく。
 ・・・結果は。


 ―――――表!


「ハッ! 表だ! 2枚ドローさせてもらうぜ!」

「くっ!」

 犯人の男は、顔に不気味な笑みを浮かべながらカードをドローする。
 対する栄一は、怒りでいっぱいの顔を歪めた。

カップ・オブ・エース 通常魔法
コイントスを1回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを2枚ドローし、
裏が出た場合は相手はデッキからカードを2枚ドローする。

「魔法カード『イクイップ・リターンフォース』! 墓地の装備魔法1枚をゲームから除外する事で、墓地からモンスター1体を特殊召喚する! オレは『流星の弓−シール』を除外する事で、墓地の『チョップマン』をフィールドに呼び戻す!」

 墓場から引きずり出され、犯人の男の場に蘇る『チョップマン』。
 故に、その体は今にも崩れる寸前といった感じにボロボロの状態であった。

イクイップ・リターンフォース 通常魔法(オリジナル)
自分の墓地に存在する装備魔法カード1枚をゲームから除外して発動する。
自分の墓地からモンスターカードを1体選択し、攻撃表示で
フィールド上に特殊召喚する。エンドフェイズ時、そのモンスターを破壊する。

「そして『ザ・キックマン』と『チョップマン』の2体をリリース、『ギルフォード・ザ・レジェンド』をアドバンス召喚だぁ!」

 犯人の男が1枚のカードをデュエルディスクに叩き付けると、その身を銀の甲冑に包んだ勇ましき戦士が、フィールドに推参した。

「『ギルフォード・ザ・レジェンド』だと!? ・・・そんなカードまで持ってたのか!?」

ギルフォード・ザ・レジェンド ☆8
地 戦士族 効果 ATK2600 DEF2000
このカードは特殊召喚できない。このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り自分フィールド上
に表側表示で存在する戦士族モンスターに装備する事ができる。

「『ギルフォード・ザ・レジェンド』の効果により、オレは墓地の『デーモンの斧』を『レジェンド』に装備。クククッ! そしてさらに、手札からも『デーモンの斧』を装備する。よって『レジェンド』の攻撃力は・・・」

ギルフォード・ザ・レジェンド:ATK2600→ATK4600

「攻撃力、4600!?」

「いけぇ! 『レジェンド』! ザコを蹴散らせぇ! 『ダブル・アックス・インパクトォ』!!!」

 『レジェンド』はその手に持つ剣を不気味な2つの斧に換え、『エッジマン』に切りかかる。
 その『レジェンド』の猛攻に、同じ「刃」を駆使して戦う『エッジマン』も、歯が立たなかった。

「ぐっ、ぐわああああ!」

 そしてその猛攻によるあまりの衝撃に、栄一はその場で倒れこんでしまった・・・。




「(栄一、兄ちゃあん・・・)」

「(ワタァ・・・)」

栄一:LP2200→LP200

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ! さぁ、お前のラストターンだぞぉ・・・。お前の人生も、後1ターンだなぁ! ぎゃはははははははははははは!!!」

犯人LP2500
手札0枚
モンスターゾーンギルフォード・ザ・レジェンド(攻撃表示:ATK4600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
デーモンの斧(装備:ギルフォード・ザ・レジェンド)
デーモンの斧(装備:ギルフォード・ザ・レジェンド)
栄一LP200
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「・・・・・」

「どうした? 怖くて声も出ねぇか? ぎゃはははははははははははは!!!」

 倉庫中に響く、男の高笑い。しかし栄一は、男を一睨みし、怒り口調で言葉を発した。

「・・・・・・・・・・言ったはずだ。俺は、貴様を倒すと!」

「何ぃ!?」

「俺のターン! ドロー!」

 強引にドローしたカードを見つめる栄一。

 その瞬間、倉庫に一瞬の静寂が走った。


「・・・フ、フン! 覚悟を決めたようだが、この期に及んでテメェに何ができる?」

 その静寂を破ったのは、犯人の男であった。
 切り札級のモンスターを召喚して、あれだけの高笑いをしておきながらも犯人の男は、栄一の覚悟を見せた態度に若干恐怖を感じたのか、挑発を続けて栄一のテンポを崩そうとしているのである。
 しかし、栄一はそんな挑発も耳に入れず・・・

「・・・おい、アンタ! アンタが使ったカード、俺も使わせてもらうぜ!」

 その掛け声と共に、今ドローしたカードを発動させた。

「手札の『ホーク・ウィンド』をコストに、魔法カード『二重魔法(ダブルマジック)』発動! アンタの墓地にある『カップ・オブ・エース』を、俺のカードとして使用する!」

 そう言う栄一の右手には既にコインが乗せられており、すぐにでも『カップ・オブ・エース』の効果を発動できる状態にあった。

二重魔法(ダブルマジック) 通常魔法
手札の魔法カードを1枚捨てる。
相手の墓地から魔法カードを1枚選択し、
自分のカードとして使用する。

ホーク・ウィンド 装備魔法(オリジナル)
「E・HERO ホークマン」にのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力を
800ポイントアップする。お互いのフィールド上に表側表示で存在する、
装備モンスター以外の全てのモンスターの表示形式を変更する事ができる。
この効果はこのカードが装備されている限り、1度だけ使用する事ができる。
この効果を使用したターン、自分はモンスターを通常召喚できない。

「ここで、そんなギャンブルだと・・・!? もし外したら、それは(イコール)お前の負けという事じゃ・・・」

「関係ない! 俺は勝つ!!!」



 男の正論が混じった脅しの言葉にも、栄一は怯む事なく倉庫中に響き渡るような怒鳴り声で返した。

「・・・くっ」

「(栄一、兄ちゃん・・・)」

 そしてその栄一の啖呵に、犯人の男は若干怯み、俊介の顔は若干青ざめる。

「いくぜ! コイントスだ!」

 掛け声と共に、栄一は手の上のコインを弾いた。

「来い! 表!」

「くっ! そう簡単に当たってたまるかよ・・・」

 左手の甲を、コインと共に右手のひらで叩きつける栄一。
 そしてゆっくりと、右手を開けていく・・・。


 ―――――表!


「表だと!?」

「よしっ! 俺は2枚ドロー!」

 賭けに勝った栄一。すぐさまデッキに手をかけ、2枚のカードをドローした。

「チッ! 運の良い奴め・・・・・・!?」

 気に食わないといった表情で栄一を凝視する犯人の男であったが・・・ここで、この栄一のプレイングの不可解さに気付いたのであった。

「(そうだ! 『カップ・オブ・エース』でギャンブルをするよりかは、『エナジードレイン』を奪って『レジェンド』の攻撃力を0にし、カードをドローした方がまだ安全だった筈・・・!)」

 意図的な選択だったのか、それとも怒りで状況判断ができていなかったのか・・・。
 いずれにしても、栄一の意中はこの男には分からない事なのである。

「と、とは言っても、今さら2枚も1枚もそうそう変わらねぇ。どうにかできる筈g・・・」

「魔法カード『ミラクル・フュージョン』を発動! ・・・墓地より『フレイム・ウィングマン』と、『スパークマン』の代わりの『クラッチマン』をゲームから除外し、『E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン』を、融合召喚する!」

 栄一の最後の可能性。『奇跡』の力を持つ『融合』のカードによって呼び出された、その全身を光で包んだ閃光のヒーロー『シャイニング・フレア・ウィングマン』が、その翼を広げ栄一のフィールドに現れた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン ☆8
光 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2100
「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する「E・HERO」
と名のついたカード1枚につき300ポイントアップする。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

ミラクル・フュージョン 通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という
名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

「なんだと・・・。ここで切り札級のモンスターを呼ぶなんて、なんて今引きだ・・・」

 この一連の栄一のプレイングに、犯人の男は後ずさりをしつつ、その表情を歪めていく。

「『クラッチマン』の効果により、『シャイニング・フレア・ウィングマン』の攻撃力は500ポイントアップ! さらに『シャイニング・フレア・ウィングマン』自身は、俺の墓地の『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』1体につき、300ポイント攻撃力をアップする。俺の墓地の『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』は7体!」

栄一の墓地の『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』:
『バーストレディ』
『バーニング・バスター』
『クレイマン』
『ワイルドマン』
『ライオマン』
『ネクロダークマン』
『エッジマン』

「よって、『シャイニング・フレア・ウィングマン』の攻撃力は・・・」

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン:ATK2500→ATK5100

「『ギルフォード・ザ・レジェンド』の攻撃力を上回った!?」

「いけぇ! 『シャイニング・フレア・ウィングマン』! 『シャァァァァァイニング・シュゥゥゥトォォォォ』!!!!!」

 栄一の命を受け、『レジェンド』に向かって猛突進する『シャイニング・フレア・ウィングマン』。
 しかし・・・。

「・・・・・・フッ! ハハハハハ!」

「何!」

 焦りに満ちていた表情を崩し、犯人は三度高らかに笑い始めた。

「ハッ! ちょっとは驚かされたが、リバースカードの警戒もできない奴だったとはなぁ! トラップカード、『イクイップ・エクスプローション』! 『レジェンド』の装備カードを全て破壊し、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

「!?」

 『レジェンド』が、両手に持った2つの斧を『シャイニング・フレア・ウィングマン』に投げつけると、その2つの斧は空中で爆発を引き起こす。
 そしてそれによって発生した爆風が、栄一のフィールドの『シャイニング・フレア・ウィングマン』を巻き込んだ。

イクイップ・エクスプローション 通常罠(オリジナル)
自分フィールド上のモンスターに装備されている装備カードを全て破壊して発動する。
相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 爆風が去ったフィールド、そこに『シャイニング・フレア・ウィングマン』の姿は無かった。

「・・・」

 儚く散っていった『シャイニング・フレア・ウィングマン』の最期を見て、その場で俯く栄一。

「ぎゃはははははははははははは!!! これでお前の負けは決まったなぁ!!! ぎゃはははははははははははは!!!」

 逆に、勝ちを確信したのか、その場で高らかに笑い続ける犯人の男。
 だが・・・・・・。

「・・・」

 栄一はだんまりを続ける。

「オイッ! なんか言ったらどうなんだぁ? あぁっ!?」

 痺れを切らせたのか、乱暴な言葉を投げかける犯人の男。
 その男の言葉に、栄一はゆっくりと顔を上げつつ答えた。

「・・・『レジェンド』の装備カードを全て破壊した事が、仇になったな」

「何ぃ!?」

 そう言うと栄一は、最後の手札のカードを犯人の男に見せつける。

「俺のフィールドの『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』が破壊された事によって、ライフを半分払い、手札から速攻魔法『バーニング・マックス』を発動する。そしてその効果により、墓地の『バーニング・バスター』を復活させる!」

バーニング・マックス 速攻魔法(オリジナル)
自分フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO」
と名のついたモンスターが破壊された時に、
ライフを半分払う事で発動する事ができる。
自分の墓地から「E・HERO バーニング・バスター」
1体を攻撃表示で特殊召喚する。

栄一:LP200→LP100

 灼熱を体に纏い、栄一のフィールドに舞い戻った『バーニング・バスター』。
 その目には、静かな怒りの闘志が燃えているようだった・・・。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「そ、そんな・・・、反則スレスレのカードが・・・」

「あるんだ! だから発動したんだ! 『バーニング・バスター』で、『ギルフォード・ザ・レジェンド』を攻撃! 『バーニング・バースト』!!!」

 犯人のフィールドに向けて、まっすぐな軌道を描き放たれた『バーニング・バスター』の怒りの灼熱砲撃。
 自身の主によって意図的に装備を解除させられた『ギルフォード・ザ・レジェンド』に、対応する術は無かった。

「バ、バカな! そんな、バカなぁ!!!」

犯人:LP2500→LP2300

 『ギルフォード・ザ・レジェンド』は破壊された。しかし、まだそれで終わりではない。『バスター』には、追撃の効果が残っているのである。

「『バスター』のモンスター効果! 『レジェンド』の攻撃力分のダメージを受けてもらう! 『レイジング・ダイナマイト』!!!」

 『バーニング・バスター』が犯人の男の目の前に立った瞬間、男の周りの足場から炎が天に向かって吹き上がり、男のライフを一瞬にして奪った。

「ヒ、ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!」

 絶叫する犯人の男。ドローしたカードが1枚か2枚かで結果が大きく変わった事に気付くのは、まだ先の話なのであった。

犯人:LP2300→LP0






「・・・フン、終わったか」

 デュエルが終わった瞬間、窓の外からデュエルを見続けていたフード男は、その組んでいた両手を離した。
 するとその瞬間・・・

「・・・・・・はっ! 俺は!? 俺は・・・、勝ったんだよな?」

 突如栄一が、正気に戻ったような表情を見せる。
 その栄一の視線の先には、負けた犯人の男が仁王立ちで呆然としている姿があった。

「う・・・、うそだろ・・・。オレが、こんなガキに負けるなんて・・・」





 栄一は、先ほどまでの我を忘れたような自分の事について考えるのは取り合えず後回しにし、犯人の男に約束通り俊介の解放を要求した。

「・・・俺の勝ちだ。俊介は、返してもらうぜ!!!」





「・・・」





 ・・・しかし、その場で黙り込み続ける犯人の男。





「・・・どうした? 早く俊介を解放しろ!」





「・・・・・・ククク、そんな簡単に返すわけ無いだろ」

 黙り続けていた犯人が、突如笑いながら顔を上げた。そして、残酷な一言を栄一に投げかける。

「・・・顔を見られたお前には、死んでもらう!!!」

 そう言うと犯人は、服のポケットから1丁の拳銃を取り出し、栄一の方へと構え・・・

「死ねぇぇぇぇ!!!!!」




















 ―――――ダァン!




















 栄一に向けて、銃弾を発射した。


「!?」

「んーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!(栄一兄ちゃん!!!!!!!!!!)」

 あまりにも急な出来事に、状況の整理が追いつかない栄一。
 ただ、耳に響く乾いた音、そして俊介の呻き声、それが、栄一に1つの事柄を悟らせた。


 「・・・あ、俺、死んだ」と。


 ―――――ダッ!








































「(・・・・・・アレ? 俺、死んだんだよな・・・? なのに・・・・・・、痛みを感じない・・・・・・。そうか、即死だったんだな・・・。と言う事は、目を開けたら、天国なのかな・・・」





「・・・・・・・・・・・・えっ!?」

 目を開ける、栄一。そこには、撃った犯人と、その後ろで呆然としている俊介。
 そして・・・










「・・・・・・・・・だ、だれだ! アンタ!?」

 ・・・1人の少年が、右腕を犯人の方へ突き出しながら、犯人と栄一の間に立っていた。



「・・・よかった。間に合った」

 そう言いながら、栄一の方へ振り向く少年。

「・・・えっ!?」

「助けに来たよ、栄一」










「・・・マスター!!!???」










 間に立つ少年、それは水原護その人であった。










「えっ・・・・・・? 嘘だろ、オイ・・・・・・」

 それと同時に、拳銃をこちらに構えている犯人の体が、突如震えだした。



 パッ!



 握っていた拳を開く護。
 ・・・そこには、今犯人が撃った、拳銃の弾があった。

「マ、マスター!」

「嘘だろ・・・、拳銃の弾を、素手で受け止めるなんて・・・・・・。そんなの、嘘だろ・・・・・・・・・。クッ、クソー!」

 ダァン!

「マスター!」


 パシッ!


「!?」

 一瞬の出来事に、驚く栄一。それもそのはず、護が再び、銃弾を右手の手のひらで受け止めるから。

 そして護はそのまま、犯人の方へ足を進めていく・・・。



「うわあああああ!!!!!」

 ダァン!

 パシッ!

 タッ、タッ、タッ



「化、化け物ぉ!!!」

 ダァン! ダァン! ダァン!

 パシッ! パシッ! パシッ!

 タッ、タッ、タッ




「チ、チキショー!!!」

 カチッ! カチッ! カチッ!

「!?」

 タッ、タッ、タッ



「弾切れ!?」

 タッ、タッ、タッ



「うわあああ、来るなぁ! 来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 タッ、タッ、タッ、タッ!



 ついに、犯人の目の前で足を止める護。



「うわあああああああああああああああ、やめろ、やめてくれーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 泣き叫ぶ、犯人。それに対して護は・・・。

「少し・・・、頭冷やそうか・・・・・・・・・」

 悪魔の呟きを、犯人の耳元でそっとささやいた。

「う、う〜〜〜ん・・・・・・」

 結果、護の恐怖のささやきに、犯人はその場で崩れ落ちていってしまった。






「・・・・・・ハッ! 俊、俊介!!! 大丈夫か!?」

 護と犯人の目の前でのやり取りを、ただ呆然と見つめていた栄一。ようやく我に返ると、すぐさま俊介の方へ向かって走り出した。



 ―――ベリッ!

「俊介、大丈夫か!?」

 俊介の下へ辿り着いた栄一。俊介の口に張られたテープを剥がすと、再び俊介の無事を確認する。

「栄一、兄ちゃん・・・。ボクは、大丈夫だよ・・・」

 そう言いつつも俊介は、先ほどまでの栄一を目の当たりにしてしまっているせいか、少し怯えた表情であった。
 手足のガムテープを剥がしている栄一もその表情に気付いたのか、テープを剥がしきった後、優しく俊介を抱きしめた。

「大丈夫・・・、怖くないよ・・・。兎に角よかった、よかったよ」

「お兄ちゃん・・・」

 この栄一の言葉に俊介も警戒心を解いたのか、自ら栄一に抱きついて来る。
 それに対して栄一も、目尻に涙を浮かべながらも笑顔を見せ、俊介の体を力いっぱい抱きしめた。

「ちょっ、お兄ちゃん、痛いよー!」

 その抱きしめがあまりに強かったのか、俊介が少し痛がりながら体を離そうとした。栄一もそれに気付き、俊介の体を自分の体から優しく離した。

「あ、悪かった、悪かった。・・・でも、無事でホントによかった!」

 タッ、タッ!

「2人とも、無事か? どこにも怪我はないか?」

 そんな2人の下へ、どこから出したのか分からないが自らの手に持っていたロープで、犯人を縛り終えた護が来た。

「大丈夫。俺も俊介も無事だ。それよりマスター、アンタの右手こそ大丈夫なのか?」

「ん? あんなの、どうって事ないさ」

 そう言いながら、護は栄一に自らの右手のひらを見せる。その手には、撃たれた痕や血どころか、かすり傷1つなかった。

「マ、マジで、あの銃弾を素手で掴んだっていうのかよ・・・。しかもそれで無傷なんて、信じられない・・・」

「僕の事は気にしないでくれ。警察にも既に連絡してるから、すぐに駆けつけてくれるよ」

「あ、あぁ。ありがとう、マスター・・・」

























−数分後、同地点で−

 ウー! ウー! ウー!

 俊介が軟禁されていた倉庫に、数台のパトカーが集まっていた。
 犯人は、誘拐及び殺人未遂の容疑で現行犯逮捕。俊介や栄一は、怪我無く無事に救出された。

「おばさん! おじさん!」

「俊介ちゃん! ゴメンね・・・、おばさんの不注意で・・・」

「でもホントに良かった。俊介ちゃんが無事なのがなによりだよ・・・」
 
 俊介は、由香里、そして孝富(たかとみ)(由香里の夫。すなわち、明石児童養護施設のもう1人の経営者)と喜びを分かち合っていた。





「・・・でもマスター、なんでこんな所にいるんだ? ていうか、どうやってここが分かったんだ?」

 そして、その3人のふれ合いを見ていた栄一が発した突如の質問に対し、護は申し訳なさそうな顔をして答えた。

「すまない。隠すつもりは無かったんだ。以前、君が言っていた智兄さんと、君の思い出の場所ってのをこの目で見たくてね。本当は君が乗った船と同じ船で帰るつもりだったんだけど、私用で乗り遅れちゃってね・・・。それで紅葉町に着いたら、突然、カードの精霊の声が聞こえてくるじゃないか」

『・・・ワタ、ポン!』

「『ワタポン』!?」

 話し合う栄一と護の間に、突如『ワタポン』が顔を出してきた。

「そうそう、この子の声だよ。君の施設に住んでいる子が、この子を持ってるって話を聞いたんでね。声も悲しそうだったし、絶対何かあったと思って・・・。君も必ず、この子と同じ場所にいると思ってね」

「へ、へぇ・・・(ていうか、『ワタポン』の話は一体どこで聞いたんだ・・・?)」

『ミー!><』

『ワター!』

「うわぁ! えっ、『コメット』!?」

 栄一が疑問に思っている最中、突如『コメット』が割り込んできた。

「こら! 『コメット』、大人しくしていないと!」

『ミー!≧へ≦』

『ワタァ!(;_;)』

 『ワタポン』を、追いかけまくる『コメット』。持ち主の護の言う事も全く聞かない。

「初めて会う女性や精霊の前では、いっつもこうなんだから」

 そう言って護は、『ワタポン』を追いかける『コメット』を静止しにかかった。それは、精霊の見えない者にとっては、少しシュールな絵でもあった・・・。

「ははは・・・」

 この構図を見た栄一は、ただ苦笑いする事しかできなかった。















「・・・やはり私の助け舟があったとは言え、あの雑魚ならこの程度か。にしてもあの男、まさか拳銃(チャカ)を持ってるとはな・・・。計算外だったよ・・・」

 さっきまで栄一と犯人の男が死闘を繰り広げた倉庫、その倉庫の屋根に立つ1人の男・・・。犯人に話を持ちかけた、フード男である。
 彼の視線の先には、栄一や『コメット』を追いかける護達の姿があった。
 そしてそのフード男の後ろに、また1人フードを被った人が、どこからともなく現れた。

「貴方がこんな凡ミスをやらかすなんて、珍しいわね・・・。」

 このフード、喋り方からして女性のようである。
 そのフード女の方を向いたフード男は、気だるそうにフード女の言葉に答えた。

「普通の一般市民Aが拳銃(チャカ)を持ってるなんて、まず考えないだろ。一応ここは日本だぞ。・・・・・・それより何しに来た、トーレ?」

「何しに来たですって・・・」

 男の言い方が気に食わなかったのか、トーレと呼ばれたフード姿の女はムッとした顔をしながら、両手でなんと『空間』を横に切り裂いて、人1人が入れるぐらいの大きさの穴を作り、その穴を潜ろうとした。
 その穴の先は、とてもこの世の物ではない・・・空間全体がひねり曲がっていると言うべきか、今彼らがいる世界とはとても似つかない場所であった。

「折角迎えに来たのに・・・私邪魔だったかしら? ・・・それじゃあ『あの方』の場所まで、何時間もかけて次元旅行頑張ってね」

 その言葉に、フード男は「言ってしまった」といった顔をしながら、

「・・・・・・それは困る」

 とだけ答えた。
 それに対して、トーレは「ヤレヤレ」と言った感じでフード男の腰周りを両手で掴み、2人揃って空間に出来た穴を潜っていった。



 ビシュン!



 2人が異空間に消えてすぐ、空間に出来た穴は消えてなくなり、空間も元の状態に戻った。















「・・・・・・ムッ!」

 『コメット』を追いかける最中、突如倉庫の屋根を見上げた護。
 しかし数秒見つめると、また『コメット』を追いかけ始めて行った。

「(もしかすると・・・・・・)」
 














 広い次元空間を飛び続ける、2人のフードを被った男女。2人は静寂を守っていたが突如、フード男が言葉を発した。

「トーレよ、腰を持って飛ぶのはやめてくれないか? 子供みたいであまり良い気分ではないんだが・・・」

 その言葉に対して、トーレは軽く喧嘩口調になりながら

「じゃあどこ持てって言うのよ。落とすわよ、チンク」

 そう言いつつ、トーレはチンクと呼ばれたフード男を持つ両手の力を緩める。

「スマン。私が悪かった・・・」

 このトーレの対応に、チンクは謝る事しかできなかった。

「まったく・・・」

 トーレはまたしても呆れ顔で言葉を返す。

 そして数秒の間を置き、今度はトーレからチンクに対して質問をした。

「それにしてもチンク。何故、明石栄一を助けたの? あの時点では雑魚男の方が有利だったんだし、あのまま負かしといてそのまま雑魚男から引き取った方が良かったんじゃない?」

 このトーレの質問に、チンクはすぐさま答えを返した。

「放っておいても良かったんだが、あの『バーニング・バスター』。アイツが破壊された瞬間、明石栄一から戦意が一瞬にして消えていったのが分かった。明石栄一のあの『バーニング・バスター』への依存度と、どうやってそれを克服するか、それは後々の計画に大きく貢献すると判断してな。・・・明石栄一自身はまだ『バーニング・バスター』への多大な依存は認めていないが。・・・まったく人間という生き物は、つくづく分からんよ」

「貴方も人間でしょ?」

 そのトーレの言葉に、チンクは一瞬間を置いて、静かに答えた。

「人間なんて身分・・・とっくに捨てたよ。『あの方』の為に、我らの計画の為に。そして明石栄一・・・いや、『孤独な王(Lonely King)』の為にね・・・。お前もそうだろう、トーレ?」

「まぁ、ね・・・」

 トーレも、チンクの問いかけに静かに答えた。
 そしてその言葉を最後に、2人は一切喋る事なく、ただひたすら次元空間を飛び続けた。






























−PM 7:00、明石児童養護施設−



 イブという事で、クリスマスムード一色の紅葉町。
 明石児童養護施設も例外ではなく、院中にクリスマスの飾りがなされていた。



「ここか・・・。栄一の住む所は・・・」

「結構広いだろ? まぁ、広すぎて、ちょっと寂しい事もあったけど・・・」

 軽く苦笑いしながら、栄一は答えた。

「まさか、プロデュエリストの水原さんに来て頂けるとは・・・」

「感激の一言です。さ、何も無い所ですが、どうぞ中へ入ってください」

 護に対して、再び頭を下げてお礼を言う由香里と孝富。
 大切な客人として、院の方へ招こうとする。

「いえ、そんな・・・。元から此処を見たら帰るつもりでしたし・・・。皆さんのクリスマスに飛び入るような事は・・・」

 それに対して、護は遠慮しているのか、2人の招きを丁寧に断る。
 しかしその時。

 パシッ!

「ん?」

「・・・」

 突如、右腕を何かに掴まれた事に気付く護。その先には、目に涙を浮かべた俊介がいた。

「俊介は、マスターにここにいて欲しいみたいだぜ? 俺も、おじさんもおばさんも同じ考えだ」

 栄一の言葉に、揃って頷く由香里と孝富。

「・・・それに、早く何処かに隠れた方がいいんじゃないか? マスター的には・・・」

「へ!?」





「・・・オイ! アレ、元プロデュエリストの水原護じゃね?」

「ホントだ! 間違いない!」

「オレ、サイン貰っちゃおうかなぁ・・・」

「にょぼぼぼぼ、ガーディアンズマヅダーを倒したら、『NEXUS』の主人公はわぢのものに間違いないギュルルル・・・。ユッキーも、ふじふじなんかよりわぢの方がカッコイイと認めてくれるはずだじょ〜」

「ギョハハハハハ!!! ガーディアンズマスター、俺様と勝負だぁ! 俺様の『スンゲェイ、ビィィィィィィィィィィルな男ォ』でギッタンギッタンにしてやるぜぇぇぇぇぇぇ!!! ヒャハハハハハハハ、ヒーーーーヒッヒッヒッヒッヒッヒィィじーちゃぁぁぁん!!!!!」

 ・・・約2名、結構離れた場所にいる筈なのに、栄一達のいる場所まで聞こえる程の大音量で喋る男がいるが、あまり気にしてはいけない。





「・・・どうやら、栄一の言うとおりみたいだね(汗)」

「だろ? だから早く中へ・・・」

「・・・では、すみませんが、お邪魔させてもらいます」

「・・・(ニパァ)」

 そこには、護が自分の家に入って行く事に喜ぶ、俊介の姿があった・・・。










−施設の中−

「うわ! 部屋の中もクリスマス一色!」

「ボクも手伝ったんだよ、栄一兄ちゃん!」

 部屋のあちこちに装飾されたクリスマスの飾り。そして部屋の隅に置かれたクリスマスツリー・・・。
 俊介は誇らしげに語った。

「さぁさぁ、栄一ちゃんも俊介ちゃんも早く席に着いて! 水原さんもどうぞ!」

 由香里が先導する。

「す、すみません・・・。なんか割り込んだみたいで・・・」

 申し訳なさそうな護。

「何言ってんだよ、マスター! ご飯は皆で食べた方が美味いじゃないか! それに、今外に出たら、大変な事になると思うけど・・・」


 ドンドン!


「にょぼ〜。ガーディアンズマヅダー! わぢとデュエルするんだじょ〜。勝てばユッキーはわぢの物だじょ〜」


「例えガーディアンズマスターと呼ばれる男相手でも、人間国宝と呼ばれた俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けん俺は負けぇええええぇぇぇえええぇえええええぇええん!!!!!!」


 栄一が忠告した途端に外から、窓を叩く音と謎の男達の危ない声が聞こえてきた。

「ま、まぁね・・・(汗)」





 全員が席に座り、食事の準備も整う。

「では、いただきましょうか。今日は水原さんもお出でになられたし、きっと楽しい夜になるでしょう!」

「いや、そんな・・・(汗)」

 孝富の一言に、戸惑う護。

「それでは」

























「「「「「メリー・クリスマス!!!!!」」」」」



















『ワタ、ポン!!!!!』





「ガーディアンズマヅダー、わぢとデュエルだじょ〜〜〜〜〜」

「デストロイ・ダイ・イビルジェノサイドォォォオオオオオ!!!!! 粉砕☆玉砕☆大喝采ぃぃぃ!!!」




















−本日のスペシャルサンクス−
kunaiさん。死井さんと出井さんの出演許可、本当にありがとうございました。
モブキャラ扱いで終わってしまった事をお許し下さい・・・。



第19話 −大 会 開 幕 !−

 アカデミアへと向かう船の中、栄一と護は、甲板にいた。
 栄一の足元には生活用品や代えの服等が入ったリュックが置かれているのだが、護は何故か殆ど手ぶらに等しかった。



「すまないね、栄一。結局、休み中ずっと居候しちゃって」

 護の考えでは、施設を見るだけで直帰る予定だったのだが、明石家のクリスマスパーティからお(いとま)させてもらおうと思ったその時に、俊介の見せた潤んだ瞳。それをどうする事もできず由香里や孝富の好意もあり、結局冬休みの間ずっと明石家に居候していたのである。
 勿論、年越しの紅白歌合戦視聴や初詣も一緒である。

「なぁに、人は多いほど楽しいし、俊介も皆も喜んでたし。マスターがすぐ出て行ったら、俊介もあんなに笑ってはいなかったと思うぜ」

「・・・俊介君、泣いてたね」

 俊介の話題が出たが故か、言葉を返そうとする護が一瞬口篭る。

「・・・次の休みには、いの一番で俊介のところへ行かないとなぁ」

 その護の言葉に、栄一も出発時の俊介の泣き顔を思い浮かべた。



























「・・・ぐすっ」

「もう泣くなって、俊介! 次の休みにはちゃんっっっっっと帰ってくるからさ!」

「・・・」

 冬休みも終わり、栄一と護がアカデミアへ出発する。・・・その見送りなのであるが、俊介はずっと泣きっぱなしであった。
 寂しいのである。2人の兄が、同時にいなくなってしまう事に。また、1人ぼっちになってしまう事に・・・。

 そして、そんな俊介の左手には、栄一からのクリスマスプレゼント、デュエルディスクが装着されていた。





−クリスマス・イブの夜(前回終了直後)−


 ドォォォン!


「にょぼぼぼぼ〜〜〜ん! わぢの『グゥレィトォォォウな、グゥリィドメェン』が〜〜〜〜〜! ・・・・・・・・・負けたじょー、水原護〜〜〜」

「(なんで急に呼び方変わるんですか? ていうかどうしてフルネーム・・・)」←護の本音

死井:LP4000→LP0

 ドォォォン!


「ホデュアーーーーーー! 俺様の『スンゲェイ、ビィィィィィィィィィィルな男ォ』が敗れるだと〜〜〜! ・・・・・・・・・フッ! 完敗でゴザル、ガーディアンズマスター!」

「(急に口調が変わったな・・・。差し詰め「第二形態」といったところか・・・?)」←護の本音2

出井:LP4000→LP0

 ・・・kunaiさん、マジゴメンなさい。
 ちなみに護は、出井さんの「第一形態(清く正しく美しく)」&「第二形態(本性第一段階)」は見ておりません。

 ピシャ!

 施設内にまで進入してきた不審者達を秒殺し、護が外から室内に戻って来た。
 さすがは、元プロトップクラスと言ったところか。

「ふぅ、外の不審者達は倒してきたよ。もう来る事はないと思う」

「サ、サンキュー、マスター・・・(ま、まぁ元々マスター目当ての連中らしいからな・・・)」

 相変わらずの護の圧倒劇に、顔面蒼白の栄一。部屋に置いてあった自分のリュックから取り出した箱が、一瞬両腕から滑り落ちそうになる。

「栄一兄ちゃん、それは?」

 俊介の呼び声に我を取り戻し、栄一は滑り落ちそうな箱を両腕で抱えなおす。

「あ、あぁ、これか! 俊介、クリスマスプレゼント! 開けてごらん」

 そう言われつつ栄一から箱を渡された俊介は、多少重そうにその箱を床に置く。
 栄一のリュックを重くしていた物の正体は、どうやらこれのようである。

「何が入ってるの? 結構デカイ箱だね?」

 そう言いつつ、俊介は箱を開けて中を見る。

「・・・デュエルディスク!? 栄一兄ちゃん、これは!?」

「おじさん、おばさんに聞いたら、お前もデュエルやるって言うからさ。アカデミアの校長に頼んで、1個貰ってきたんだ!」

「・・・これ、ボクに?」

「当たり前だよ。お前じゃなかったら、誰にやるんだよ?」

「・・・ボクのデュエルディスク。・・・ヤッター! ヤッター!!!」

 栄一から与えられたデュエルディスクを、高々と自分の頭の上に両腕で掲げながら、俊介は喜びに喜んだ。
 あまりにはしゃぎ過ぎるので、転んで怪我しそうで少し危険だ。

「喜んでくれてよかった。俺も、校長に頼み込んだ甲斐があったよ!」

 俊介の喜びようを見て、ホッと胸を撫で下ろす栄一。
 ・・・心の中で「自分も、智兄ちゃんと遊んでた時はこんな風に笑っていたのかな」と思いながら。

「スッゲー!!! スッゲー!!!!!」





 ・・・そして結局、このプレゼントが吉となったか凶となったか、栄一も護も休みの間は俊介とデュエルしっぱなしであった。









「マスター子守も上手いし、ホントにいてくれて助かったよ。俺1人じゃ、俊介の面倒見きれなかったよ」

「凄く、元気な子だったからねぇ。でもあの子、僕と初対面なのに、凄く懐いてきたね」

「俺もあの子とは初対面だよ。俺がアカデミアに行ってすぐに拾われたんだって。だからイブの日までは、写真とかでしか会った事ないよ」

「きっと、人懐っこい性格なんだな」

「おじさんにもおばさんにも、来てすぐに懐いたんだって。ホント、物怖じしない性格と言うか・・・」



 ・・・そんな会話が続くさなか

「栄一! あけおめ!!!」

「マスターも! おめでとうございます!」

 突如、2人の後ろから新司と光が現れた。ちなみに↑の台詞は新司→光の順である。

「新司!  光! 一緒の船だったn」

 バシィィィィィン!!!

 グシャァァァァァ!!!

「グホォォォォォォォォォォォ!?」

 新年最初の挨拶と共に、1発ずつ右ストレートを栄一にお見舞いする新司と光。
 怪物×2のパンチの衝撃は凄まじく、栄一は物理法則を無視して有り得ない距離まで以下略。

「「ふぅ。スッキリした・・・」」

「えっ!? えっ!?」

 新司と光は、殴った右手の拳に息を吹きかけながら「満足した」とばかりに言葉を発する。
 そして護は、この瞬間の出来事を全く読めないでいた。



「痛てて・・・、2人ともひでぇ・・・」

 殴られた顔を摩りながら、起き上がる栄一。

「「なんか言いましたか?」」

「・・・いいえ」

 不意打ちに反論しようとした栄一だったが、2人の冷たい一言に年末の出来事を思い出し(17話参照)、瞬時に諦めた。

「ハ、ハハハ、ハハハハ・・・」

 勿論、その時その場にいなかった護は目の前で繰り広げられている惨劇の流れに乗る事ができない。苦笑いでこの場を乗り切るしかなかった。
 そしてそんな護の前に、もう1人サプライズな人間が現れた。

「栄一も護も、折角船の上なのに男二人旅かぁ?」

 護の親友、宇宙である。

「宇宙も一緒か。茶化すなよぉ・・・」

「ハハ。悪ぃ悪ぃ!」



 宇宙も現れた事でようやく和気藹々なムードが流れつつあったが、まだ赤く腫れている右手に息を吹きかけている新司が、突如栄一に発した一言がそのムードを壊した。
 ちなみに新司の横に立つ光の右手は腫れてすらおらず、光自身痛がっている様子もない。喧嘩慣れでもしているのか?

「・・・ところで栄一、聞いたか? 『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の事なんだけど、いつもは学校始まって1週間ぐらいでの開催なんだが、今年は新学期始まってすぐ、ていうか船降りたらすぐに始まるらしいぞ」

「へっ!? ・・・・・・マジぃ!?」

 間抜けな驚き顔を晒す栄一に、新司から引き継いで光が先ほどの出来事を話し始める。

「さっき中にいたら、突如モニターに校長先生が現れて」







「・・・突然ですが、今年の『フレッシュマン・チャンピオンシップ』は始業式と同時に開催します。生徒諸君は、アカデミアに到着次第、ホールに集合してください」







「とだけ言っていったのよ。1年生は皆、デッキ調整で大忙しよ」

「ヤッベェ! 俺も早くデッキ調整しなくっちゃ!?」

 そう言うと栄一は直に足の横に置いてあったリュックからデッキとその他のカードを取り出し、その場で大急ぎでデッキを作り直し始めた。

「ハァ、やっぱり聞いてなかったのね・・・」

 ため息をつきながら光は呆れた。そしてそんな光の隣で新司が・・・

「・・・俺も、調整しとかなきゃ!」

 新司が、自らの鞄からデッキとその他のカードを取り出し、栄一と同じくその場で速攻でデッキを作り直し始めていた。

「アンタもかい新司!? ていうかアンタ、3ヶ月前から調整してたんじゃないの!?」

 これを見た光は、唖然とした顔を見せつつ以前新司自身が発していた言葉を新司に向って浴びせた。

「そう言うなって! 弟の面倒見とかで結構忙しくて、自分のデッキ見る暇もなかったんだよぉ・・・(泣)」

「一体、どんな正月過ごしてたのよ・・・」

 新司の醜態に、さらに呆れる光であった・・・。



「・・・変だな? そんな強引に日程を変更するなんて。宇宙、そんな話聞いてたかい?」

「いいや。オレも、さっきモニター見て知ったんだ。・・・・・・・・・護、これは何かあったに違いないな」

「あぁ・・・」

 3人のコントも他所に護と宇宙は、大会の前倒し開催に不安と疑問を感じていた・・・。




















 ブォーーーーーーーーー!!!!!




















−アカデミア、森林奥深く−



 ピシッ!



 突如、空間に縦一文字の亀裂が入る。



 ミシミシッ!



 そしてその亀裂を、ちょうど成人男性1人が潜れるぐらいの大きさの穴になるまで手で横に広げた後、そこから1人のフードを被った者がスッと穴を潜り、『こちら側』の世界に立った。

「・・・着いたわよ、チンク! ドゥーエ!」

 『空間』を切り裂き『次元』を繋げたらしき、最初に現れたフード。喋り方からどうやら女性のようだ。

「・・・ヤレヤレ。次元旅行とは疲れるものだな、トーレ」

「・・・ボクチン、お腹すいた」

 続いて2人の男性と思われる、こちらもフード姿の者が穴を潜りこちら側の世界に現れる。

 ・・・『2人の男性』と言っても、うち1人は言動や背丈から見てもどちらかと言えば『少年』の呼び方が合っているのだが。

 そしてその『少年』らしきフードが身体全てをこちら側に潜らせた瞬間、穴は徐々にその口を閉じていき、縦一文字の亀裂に戻った後、その亀裂ごと消滅した。

「さて、本当にこの辺でいいんでしょうね? 間違えたと言ってももう移動しなおす気力ないわよ・・・って何してんの!?」

 と、トーレと呼ばれたフード女は、行動を共にしていた2人のうちの1人・・・チンクと呼んでいた方なのだが、そのチンクに声をかけながら男2人のいる方へ振り向いて、その2人の醜態を目の当たりにし唖然とした。
 ドゥーエと呼ばれた少年らしきフード男が、犬が「お座り」を命じられた時のような格好で座り、舌を出しながら、チンクが右手に持って見せびらかしている煎餅(せんべい)を目を輝かせながら見つめ続けているのである。

「・・・『待て』を命じられた犬とその飼い主ね、まるで」

「『飴』でも渡さないとコイツは動かないからな。ガキだし」

「ボクチンは前世では25だ! ガキじゃない! 早くお菓子!」

「ハイハイ、ホラッ!」

 そう言いつつチンクは右手に持つ煎餅をドゥーエの方へ放り投げる。
 ドゥーエは「お菓子!」と叫びながら、宙に浮かぶ煎餅を口でキャッチした。
 そして両手足でしっかりと地面へ着地し、本当に犬のように煎餅をムシャムシャと食べ始めた。

「・・・ホントにガキね」

 トーレは、この彼の性格と言動、身長で「25歳だった」と言われても、と思ったが、チビな成人男性なら岡村○史の例があるので、取り合えず納得した。

「ドゥーエも黙ったところで、それじゃあ本題。アン○ンマンの敵、本当にここで間違いないの?」

 ドゥーエの話題を終えて、トーレが話題を変えて質問をしてきた。・・・最も、この質問はここに来た時に既にトーレが聞いていた事なのではあるが。
 ちなみにトーレがチンクを呼んだ時の謎の二人称だが、その理由は作者の脳内でのチンクのCV(キャラクターボイス)が中尾○聖さんだからである。

「アン○ンマンの敵言うな。間違いないよ、ここなら十分だ」

 ドゥーエに煎餅を渡したチンクも、直に、そしてあっさりとトーレの質問に答えた。
 トーレは、目的地の確認の為だけにここまで無駄な時間を使った事に呆れたが、直にそれについては忘れた。そして次の質問をチンクに向けて繰り出す。

「あっそ。で、ドゥーエを連れて来たって事は・・・」

「そういう事だ。ドゥーエ、何時までも煎餅食ってるな! 仕事だ!」

 またもトーレの問いにあっさりと答えたチンクが、煎餅を夢中で頬張っているドゥーエの尻辺りを軽く蹴ると、ドゥーエは一瞬ムッとした顔になりながらも、直に立ち上がり『仕事』の準備をする。

「結局、ボクチンがいなかったらチンクも何も出来ないんだね!」

「無駄口たたいてる暇があったらさっさと仕事をしろ!」

「ハイハ〜イ!」

 子供のような返事をするとドゥーエは、両手を横に広げながら、とてもこの世のものではないような言葉を唱え始める。
 すると、ドゥーエの立つ足場から何か霊気のようなものが湧き上がって来て、それが左右に徐々に広がっていき、仕舞いにそれはアカデミア全体をドーム状に包んだ。
 すなわち、一種の結界である。

「これでいーかチンク? お菓子くれるか?」

 周囲の結界を維持しながらも、ドゥーエの頭の中は既にご褒美のお菓子の事でいっぱいのようだ。

「これが終わったらな。結界を張っている限り、お前は動けないだろ? だからこれが終わったらな」

「♪」

 チンクの、ドゥーエの操縦は中々のものであった。案外、幼稚園の先生等適任ではないだr

「さて、結界も張った事だしこれで準備完了だな。ではここでもう一度今回の作戦を整理するぞ。まずドゥーエはここで結界を張り続けていろ」

「ハ〜イ♪」

 ドゥーエは、結界を張り始めた当初からその身体を動かす事が出来ない為、チンクの顔を見ずに子供のような返事だけでチンクの言葉に応じる。

「トーレは、ドゥーエの傍で待機してろ。そして連絡があれば、臨機応変に救助に向かえ」

「了ー解。て事は、アンタがチャンピオンシップに参加するの?」

「いや、それについてはクアットロを別行動で既に送り込んでいる」















−アカデミア埠頭−

 ビュー!

「・・・」

 1月の寒空の下、やはりフードを被った1人の男が、空中に足を留めていた。 

 「空中に」。そう、彼は空を飛んでいるのである。そして地上を見つめる彼の視線の先には・・・。





「急げ、佐々木! ホールに集合だぞ!」

「待てよ三橋ぃー! 俺足遅いんだぞー、知ってるだろー!」


 彼の視線の先には、ホールへと急ぐアカデミアに到着したばかりの大勢の生徒の姿があった。

 彼は、ある1人の生徒に狙いを定め、鋭い笑みを口周りに作ってこう呟いた。




















「・・・・・・フフフ、イイノガイタ。・・・ソウダナ、アイツニシヨウ」




















「はぁ、はぁ、三橋の奴、俺を置いて先に行きやがって・・・」

 結局、アカデミアへの船中から行動を共にしてきた三橋に置いて行かれてしまった佐々木。
 遅いながらも、先を行く三橋を必死に懸命に追いかけたのだが、50m8秒4の足では置いていかれても仕方があるまい。

「・・・なんか、嫌なナレーションが流れたような???」

 第六感が何かを感じ取ったのか、何故か佐々木の頬を嫌な汗が流れた。
 ・・・その時である。










「佐々木、健吾・・・。フフフ・・・。オ前ノ体、利用サセテモラウゾ」



「・・・? 今、何か聞こえたような・・・?」

 佐々木が再び何かを感じ取った刹那





 ―――――ドクン!





「うっ!!! これは、何だ・・・? 息をするのが、苦しい!」

「フフフ・・・」

「何か、何かが体に入ってくるような・・・。ぐ、ぐわぁ・・・」














「ぐわああああああああああああああ!!!!!」


 ・・・ドサッ!


 佐々木は、その場でうつ伏せに倒れこんでしまった。

























 ・・・ムクッ!

「・・・・・・フフフ。サテ、行クカ」

 それから数秒、佐々木は立ち上がった。
 しかし、その雰囲気は佐々木の「それ」ではなく、逆に彼から感じ取れるのは人を闇討ちする直前のヒットマンのような殺気と静寂。
 そして彼の瞳からは、生を感じ取る事ができない。















「佐々木ー! 佐々木ー!」





「誰ダ? サッキ『コイツ』が言ッテタ『ミハシ』トカ言ウ奴カ?」

 佐々木・・・もとい佐々木「だった」者は、突然聞こえてきた、最初は耳元に飛ぶ蚊の羽音のように小さい、しかし徐々に耳を澄まさなくても聞こえる程大きくなる声に警戒をした。





「佐々木ー! 何してんだよ、ホント足遅いんだから! ったくぅ!」

 佐々木「だった」者の予想通り、声の主は三橋であった。
 しかし佐々木「だった」者は、心配して迎えに来たであろう三橋の言葉に、まったく聞き入ろうとしない。

「後、さっきの悲鳴はなんだ? 蛇でも見つけたか? それとも、『ゴキボール』でも踏んだかぁ?」

ゴキボール ☆4
地 昆虫族 通常 ATK1200 DEF1400
丸いゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。守備が意外と高いぞ。
ぱらこんなんとかによる「HA☆GAさん! これ『ゴキボール』!
レアカードなんかじゃない!」の台詞はあまりにも有名。

 三橋の次なる質問。しかし佐々木「だった」者は、無言を貫き通す。

「ん? 佐々木? どうした? 疲れたのか? まぁ、50m8秒4の足じゃあ無理も無いか・・・」

 さすがに三橋も不安になったのか、佐々木「だった」者への言葉がやや弱々しくなる。
 しかしそれでも佐々木「だった」者は返事をしない。

「佐々木ー! おーい!」

 無言。

「佐々木ってばー!」

 無言。

「佐々木ー!」

 無言・・・から一転

「・・・あ、ああ。悪い、大丈夫だから。そんな事より急ぐぞ、三橋!」

 タッ タッ タッ・・・

 唐突に三橋の言葉に答え、佐々木「だった」者はホールの方へと走り去って行った。

「・・・って急に答えて先行くなよ! 迎えに来たの、俺なんだぞー!」

 タッ、タッ、タッ・・・

 佐々木の自分勝手な行動に腹を立てながらも、三橋も迫り来る時間の為にホールへと足を急がせた。















「・・・サァ、ショータイムノ始マリダ」















−再び、チンク達−

「クアットロにやらせんの!? じゃあアンタは何すんのよ? まさかサボり・・・」

 チンクの発した言葉に、トーレは驚きを隠せない。
 いくらチンクが指揮官とは言え、人に面倒事を押し付け自分だけ高みの見物では、それはやらされている方からすれば納得できないので、当然といえば当然の反応だが。

「落ち着けトーレ。我々にはまだ倒すべき奴がいるだろう」

「倒すべき奴? ・・・・・・あぁ・・・・・・なるほどね」

 チンクの意味深な発言と表情、それだけでトーレはチンクが何を言いたいのかを悟った。

「分かってくれたかトーレ? そう、私は出来る限り早く奴を始末しなければならない。我々の計画の最大の障壁となるであろう・・・・・・」















あの忌々しい男をね。



































−開会式直前、ホールにて−

「ふ、ふぅ、なんとか、間に合った・・・。ハァ・・・ハァ・・・」

 と言いながら、肩で息をする栄一。
 アカデミアに着いた船から飛び降りざまに全力でホールに向かった為、何とか滑り込みセーフとなった栄一、新司、光の3人。
 栄一は体力にはそれなりに自信があったが、結構な距離があるアカデミアの埠頭からホールまでを殆ど全力疾走だったので、やはりキツいものはある。
 護と宇宙とはアカデミア到着と同時に船で別れた。彼らは3年の為、観客席から観戦である。 

「・・・ったく! 光が、全然、追いつかないから、一時は、どうなるかと、ハァ、ハァ」

 そう光に文句を言う新司も、やはり肩から息をしていた。

「ア、アンタ達2人が、速すぎるんでしょ! ハァ、ハァ・・・」

 光に至ってははしたない恰好で地面にへたり込んでいる。
 何故「追いつかない」と新司に言われた彼女が男2人と同時にゴール出来たのかと言うと、無論「間に合わない」と思った新司が光の腕を強引に引っ張って彼女を引きずって来たからである。

「・・・まだ、息、あがって、るんですか? ハァ、ハァ」

「うっさい、新司! アンタも、でしょ! ハァ、ハァ・・・」

 息が上がりながらも、光よりは若干余裕があるのか、新司が光を茶化す。しかし結局は、新司も光も似たり寄ったりな状況なので新司の言葉の説得力は皆無に等しく、ただ光に一蹴されるだけであった。

「ハハハ・・・ハァ、ハァ・・・」

 そしてそんな2人を、栄一はただ苦笑いするしかなかった。
















「ノーネ、ノーネ。8時だョ! 全員藤○秀悟(ふじ○しゅうご、読○ジャイアンツ、背番号99。)しましたノーネ、鮫島校長」

 観客席に座るクロノス教諭が、『集合』ととある1人のプロ野球選手の名前をかけたギャグを言いつつ、横にいる鮫島校長に合図を送った。

「(移籍決定時は少々驚きましたが、去年は可もなく不可もなくといった所ですか。今年に期待ですね・・・)わかりました。では、始めますか」

 クロノス教諭のギャグに心の中でノリつつ、鮫島校長は右手に持っていたマイクのスイッチを入れ、自らの口の傍へと構えた。





「・・・ただいまより、『アカデミア・フレッシュマン・チャンピオンシップ』の開催を宣言します!!!!!」





 ワァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「お、ついに始まったぜ! にしても鮫島校長、マイクの音デカすぎやしないか?」

 最大に設定されたマイクの音量。その大音量は栄一の、いやここにいる全生徒の耳をキーンとさせた。





「アカデミアに入学された1年生諸君の、士気を高めてもらうために開催されたこの大会。今回で、はや8回目の開催となります! これも・・・」





「・・・やっぱデカい。眠れない」

「どうやら栄一、このマイクの最大出力、お前を寝かせないよう見たいだな」

「アンタこんな時、いっつも寝てるからね・・・」

「喧嘩してたんじゃないのかよぉ・・・。2人で責めるなよぉ・・・」

 台詞通り普段、こういう行事の時は基本熟睡の栄一。しかしこの声の大きさには叶わないようだ。
 そしてそれを面白がったのか、新司はおろか光までもが不満げ眠たげな顔をしている栄一を茶化した。





「さて、ここで今大会のルールについて説明します。まず、大会の進行方法ですが・・・・・・」

 と、校長がマイク越しに大音量で説明している最中、アカデミアのスタッフと思われる人間数人が1年生全員に、腕時計のような機械を1つずつ手渡していった。
 校長の説明によると、この機械にどこで、いつ、誰とデュエルをしたか、そしてデュエルの内容、それによる勝敗等が記録され、それら全てが運営本部のコンピュータに集計されるらしい。

 さらに続く校長の演説によると、簡単な進行方法としては

 1.予選はアカデミア全般を使って、参加者50名で兎に角デュエル。

 2.集計された1戦毎のデータを、デュエルの勝敗を主にしたポイントに変換する。

 3.予選終了時にポイントの最もポイントの高い上位8名によって、決勝トーナメントを行う。

 ※ 開会式とその後の準備が終了次第、即予選開始となるので、行動は素早くとの事。

 だそうである。後はデュエルのルール説明やらなんやらが延々と続いた。
 大音量での説明に生徒達は徐々にうんざりとした顔になっていったが、鮫島校長は「普段気弱なのにカラオケ店でマイクを握ると一瞬でそれを独占してしまう人間」のように楽しそうに喋り続けた。



「それでは1年生の皆さん、自らの実力を精一杯発揮してください! これで、開会式を終了します」

 開会式の終了。その瞬間には、既に多くの1年生が地べたにへたり込んでいる始末だった。
 しかし準備終了後即開始というルールの為、やる気を取り戻し痛む耳を押さえながら皆ホールを後にしていった。










−ホール出口−

「校長の話からすれば、1年なら誰とでもデュエルしていいそうだけどどうする? 早速やる?」

 と提案するのは光。校長の話に余程うんざりしたのか、何故かシャドーボクシングをしながらの提案であった。

「い、いや、それじゃあ面白くないだろ。・・・やっぱりここは、決勝トーナメントまでのお楽しみって事でいこうぜ」

 しかし新司がそれを棄却。だがそれは冷や汗を垂らしながらの事であった。

 何故か・・・って勿論光のシャドーボクシングを目の当たりにしているからである。
 栄一も発言は控えつつ冷や汗後ずさり。

「決勝までのお楽しみ・・・ね。確かにそっちの方が面白そうだけど、新司アンタ勝ち上がって来れんの?」

 この一言と共に、光は両拳の動きを止めた。
 途端、何故か新司は威勢を取り戻した模様で「こっちの台詞。お前こそ勝ち上がって来れn」のとまで言ったところで光の右ストレートを顔面ど真ん中に食らい、仰向けでKO。

「ハハハ・・・」

 そしてやっぱり苦笑いでお茶を濁す事しか出来なかった栄一であった。



 その後、新司が復活し3人が笑顔で散らばれるようになるのにさらに数分がかかった。

























 クロノス教諭と鮫島校長は、開会式以後観客席の1席に座りつつ大会の開幕を待ち続けていた。

「予選の準備が完了しましたノーネ」

 クロノス教諭が、運営本部からの準備完了との報告を聞き、それを隣にいる鮫島校長に伝えた。

「了解しました。クロノス先生・・・」

 鮫島校長もそれに頷き、マイクを手に取り再び立ち上がる。
 このマイクから発せられる音は、運営本部に中継されアカデミア中に響き渡る。





「1年生諸君! この学園で学んできた物を、このデュエルで存分に発揮してください!」





「(モチロンだぜ!)」



「(絶対優勝してやる!)」



「(誰にも、絶対負けないわ!)」



 この校長の言葉に栄一、新司、光の3人、そしてその他の1年生徒全員がやる気満々の姿勢を見せながら、近くにいる1年生徒にデュエルを申し込む。















「では、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』予選・・・開始!!!」















「「「「デュエル!」」」」





 鮫島校長の開始宣言がアカデミア全体に響き渡り、アカデミアのあちこちからデュエルを始める威勢のいい声が鳴り響いた。
















−アカデミア森林奥深く−



「(さぁて、チンクもクアットロも、上手くやれるのかしらね?)」 

「プッ・・・ククク・・・ウヒャヒャ・・・」

 そこには、チンクまたはクアットロからの連絡を待つトーレと、楽しそうに結界を張り続けるドゥーエの姿があった。

「・・・ククク、結局ボクチンの前ではたとえガーディアンズマスターでもどうする事もできないんだけどね♪」

「・・・ハイハイ」



第20話 −それぞれの戦い−

「・・・ふぅ、ついに始まりましたね」

 そう言いつつ、予選の開始宣言を終えた鮫島校長は観客席の1席に腰を下ろした。
 そしてホールの天井には、何時の間にやら四面の大型オーロラビジョンが取り付けられていた。
 観客席に座る校長や2・3年生は、このビジョンを通して、予選を行っている1年生のデュエルを生で観戦する事ができるのである。

 ・・・ちなみにこのオーロラビジョンも、先ほど1年生全員に渡された集計用の機械も、全てこのフレッシュマン・チャンピオンシップの為のみに作られた物であって、この大会終了後回収される、という事までは一般生徒にも分かるのだが、その後どうなるかまでは分からない、分かる事ができないのである。
 さすがデュエルアカデミア、やる事が一々よく分からない。

「今年は活きのいい1年生が多いノーデ、さぞ面白いデュエルが期待できますノーネ」

 隣に座るクロノス教諭が、鮫島校長に声をかけた。それを聞いた鮫島校長の顔は、期待でいっぱいなのか、満面の笑みを浮かべていた。



 タッ タッ タッ!



「ん? 誰ですか?」

 鮫島校長とクロノス教諭が談話する中、2人の生徒が突如に現れた。

「「鮫島校長!」」

 護と宇宙である。

「おや、水原君に天童君じゃないですか。何か用ですか?」

 シリアス感ゼロの笑顔で、鮫島校長が2人に問いた。しかしそれでも護は、自らの口調を変える事なく鮫島校長に答えた。

「・・・勿論『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の前倒し開催についてです。何かあったに違いないと思い、理由を聞きに来ました」

「なるほど・・・」

 



 護の言葉に、鮫島校長は口を噤み、顔の緩みが無くなり深刻な顔へと変貌する。そして少し間を置き、再び口を開けた。

「・・・君達から来てくれたおかげで、呼ぶ手間が省けましたね。・・・・・・おそらく、君達も既に気付いているでしょう。この大会に・・・『ネズミ』が潜んでいる事を・・・」

「「・・・」」

 無言で頷く、護と宇宙。
 護の発言に対する鮫島校長の返事は、護・宇宙の予想を的中させるものであった。

「何かと、いわくつきのこの学園です。いずれにしろ、この大会に『ネズミ』が潜入する可能性があった事は、我々も既に予測していたのですが・・・」

「例の『アノ件』にツイ〜テ調査を行なって貰ッテ〜ル、ツバインシュタイン博士と影丸(かげまる)理事長カ〜ラ、『ネズミ』の潜入の可能性、そして『アノ件』と『ネズミ』の潜入が関係している可能性が共に90%を超エ〜タとの情報が、先日入ったノーネ」

「・・・そこで、奴らの尻尾を掴もうとする為に、1年生達には急かして申し訳ないですが、船の到着時刻と時間を合わせないほど強引に大会の開催を早めた、という事です。故に、1日で済ませるはずの大会を2日がかりで行う事になってしまいましたが・・・」

 ツバインシュタイン博士とは『デュエル大統一理論』を完成させた天才物理学者の事である。
 数年前に起きたアカデミアでのとある事件に協力・解決に導いたのがきっかけで、以後アカデミアとは友好関係を保っており、近年時たま起こるアカデミア近辺での超常現象については、全て彼の協力の下に調査されている。

 次に影丸(かげまる)理事長とは・・・説明する必要も無いであろう、このデュエルアカデミアの理事長である。
 数年前に自ら犯した禁忌により足こそ不自由な身となってしまっているが、齢100を越えた現在でもそれ以外の身体機能に異常は無く、年下の人間よりも元気に生活出来るほどである。
 上に記述した彼の犯した禁忌によって彼は、彼自身の『第六感』とでも言うべきものであろうか、何か虫の知らせのようなものを一般の人間以上に鋭く察知できるようになったと言う。
 そして今回の例の『あの件』とも少なからず関係がある人間である為、現在ツバインシュタイン博士と共にアカデミアから数10キロ離れた孤島で『あの件』について調査してもらっているのである。

 そして鮫島校長の語った「1日で済ませるはずの大会が2日がかりで行う事になった」という事についてだが、これは『フレッシュマン・チャンピオンシップ』は元々大掛かりな前準備の下に当日の朝早くから開催され、1日丸ごとを使って行う大会である、という事に起因する。
 十何時間もかけて行う大会であるのに、強引に開催日時を早めてしまった事から、予選開始が午後となってしまったが故、結果、予選と決勝トーナメントを2日に分けるという変則日程となってしまったのである。



「なるほど。・・・やはり、あの数値の上昇も、『ネズミ』と関係していると考えて間違いないですね。校長」

「あぁ、間違いないでしょう。・・・・・・既にスタッフを生徒達の中に紛れ込ませています。水原君、天童君、君達も、不審な動きを見つけましたら、報告をお願いします」

「「わかりました」」

「何にせよ、生徒達に危害が無ければ良いのですが・・・」

「・・・ナノーネ」

「「・・・」」














−数分後、廊下にて−

 タッ タッ タッ

 ホールから出て暫くの間、護と宇宙の2人は無言を貫いていた。
 だが、突如護がその沈黙を破った。

「・・・宇宙、君はどう考える? 『ネズミ』の目的はなんなのかについて」

 突如護が尋ねてきた事は、当然大会に潜入しているであろう『ネズミ』についてであった。
 それに対して宇宙は、「そうだな・・・」と前置きして少し考えた後、こう返してきた。

「・・・『ネズミ』が優勝する事によって、そのバックの存在感をアカデミアにアピールするとか・・・。それか、我がアカデミアのデュエリストの戦力調査とか・・・?」

「やはり君もその結論か。宇宙、出場選手のデータ表持ってる?」

「ん、ああ。ほら」

 宇宙は、ポケットに仕舞っていたデータ表を取り出し、護に手渡した。護はすぐさま、自らが所持していた手帳式に纏めたアカデミアの生徒表と、宇宙から借りたデータ表を照らし合わせた。

「・・・やはり、か。当然と言っちゃ当然だが」

「どうしたんだ?」

 2つの表を見比べる護の顔が暗くなるのを見て、宇宙は少し不安になりつつも護に尋ねた。

「ああ。大会の出場選手データと、今年の新入生全員のデータを照らし合わせたんだが、2つに違いは全く見つからなかった。つまり・・・」

「この、出場している1年生50人の中の誰かに化けている可能性が高い、と・・・?」

「そうなるね・・・。なら・・・この手しかないね」

 そう言いつつ、護は上着の内ポケットから40枚ほどのカードの束・・・自らのデッキなのであるが、それを取り出し、軽くシャッフルを行う。

 シャッフルを終えた後、護はデッキを前に構えた左手のひらの上に置き、いつもカードをドローする時のように右手をデッキの上に被せる。

 そして、呟くような小さい声で、こう語り始めた。



 ガーディアンズマスターの名において、ここに命ず。我を守護する戦士達に宿りし大いなる力、今こそ解放せん!



 その瞬間、護の両手のひらによって包まれたデッキから、何体もの『カードの精霊』が姿を見せ始める。その数実に10・・・20・・・いや、それ以上だろうか。何十体もの精霊が通路に(ひし)めき、そして実体化する・・・。

「(これが・・・護の力の1つ、何体にも及ぶ精霊の同時召喚と、その実体化・・・)」

 宇宙が知る、護の持つ力の1つ。この世界の一般人なら見ることすらままならない『カードの精霊』の自由化。それも何十体にも及ぶ精霊を同時に。
 だが、護の力はこんな物だけではすまない。この力も、所詮氷山の一角である。
 宇宙は、目の前にいる親友の持つ大きな力に、改めて背筋を震わせた。

「皆、もう分かっているね?」

 主が何も言わずとも、精霊達は既に分かっている。主が何を言おうとしているのかを。
 故に、護の問いかけに精霊達は皆無言で頷き・・・

「よし・・・頼んだぞ! ゴー!!!」

 一つの質問も無く、一斉に、四方八方に飛び去っていった。

「人海戦術・・・か。精霊達の力を借りるってわけだな」

「正解。恐らく『ネズミ』は1匹だけじゃないだろうからね」

 そう。鮫島校長が説明したのは『ネズミ』が侵入した、という事だけ。それがどれだけの数なのかという事までは、彼らも掴めていないのである。

「僕らも行こうか」

「オウ!」

 そう言いつつ2人は、大規模な『ネズミ探し』の為に廊下を走り去っていった。










−アカデミア森林奥深く−

「・・・ファァァア。そろそろ、奴らも動き出した所でしょうね」

 子供のような笑いを未だに浮かべつつ結界を張り続けるドゥーエの傍で、トーレは欠伸(あくび)をかいて暇そうにしていた。
 自らの出番はまだまだ先だからである。

「ま、どれだけ探しても、チンクもクアットロもあたし達も見つけらんないでしょうね。例えガーディアンズマスターであっても・・・このドゥーエお手製の結界の前ではね」

 意味深な独り言を語るトーレ。だがそれは、裏を返せばトーレの出番は今回殆ど無い、という事になってしまうのだが・・・。

「クスッ! クスクスクスクス!!!」

 そしてそのトーレの横では、ドゥーエがただ不気味に笑い続けていた・・・。










−夕刻、海岸−



「うわぁぁぁぁぁ!」

三橋:LP1000→LP0

「うっし! 連戦連勝!」

 そう言いつつこのデュエルの勝者である栄一は、右手拳で小さくガッツポーズを作った。
 やはりデュエルは強いのか、なんと無敗でここまで来ているのである。

「いやぁ・・・一か八かで突っ込んでみたけど、やっぱり栄一には敵わなかったな」

 先ほどのダメージの反動で尻餅をついていた三橋。立ち上がりつつ、苦笑いを浮かべる。
 その間も、栄一は胸を張って威張るような態度で笑っていた。

「ところで急に話変えるけどさ、お前今日、佐々木とデュエルしたか?」

「え、佐々木と? いや、今日は会ってすらないけど・・・」

 突然の三橋の質問に栄一は笑いを止め、すぐに正直に答えた。
 佐々木とは、去年の暮れにアカデミアを発つ際に、オシリスレッド寮の前で別れて以来である。
 そしてそれを聞いた三橋は、今日開会式の為にホールに急いでいる途中に突然佐々木の様子が変わった事を、簡潔ながらに栄一に説明した。

「フーン。てかそれって、お前が佐々木を放って行った事に対して怒ってるだけじゃねぇの?」

 深刻そうに三橋が話したにも関わらず、栄一はのん気に笑って三橋に茶々をいれた。
 それに対して三橋も、「それならいいんだけど・・・」と元気なく答える。茶々にツッコまない辺り、結構気にしているようである。

 と、2人がそんなやり取りをしている、そんな時であった。

「ワハハハハハハ! やっと見つけたぞ、明石栄一!」

 高慢な笑い声が、どこからともなく聞こえてくる。そして次の瞬間、海岸沿いの森の奥深くから、1人の男が栄一と三橋の前に姿を現した。服装を見る限り、ラーイエローの生徒と思われる。

「ワハハハハハハ! 明石栄一、オレとデュエルだ!」

「お前・・・いきなり現れて強引に話を持っていくなよ・・・。せめて名前ぐらい・・・」

 ここまでハイテンションの男の前では、さすがの栄一も歯が立たないようである。三橋と共に男から徐々に距離を広げる。

「ワハハハハハハ! オレの名前は(くれ)吾郎(ごろう)! 明石栄一、キサマにデュエルを申し込む! オレはここでキサマに勝利し、その勢いでこの大会も制覇! 優勝のご褒美としてガーディアンズマスターに再戦を申し込み、見事アカデミアトップの座を奪い取ってやるのだぁ!!! ワハハハハハ! ワッハハハハハ!! ワッハハハハハハハハ!!!」

 一人で盛り上がっているこの暮と名乗る男に、栄一も三橋もツッコミをいれる事ができない。
 そしてそれをいい事に、暮はさらに大声の独り言を続ける。

「思えば2年前のこの大会で、ガーディアンズマスター、キサマに負けて以来オレの人生は狂いっぱなし! オレはこの大会を糧にガーディアンズマスター、キサマに復讐してやるのだ! オレが味わった屈辱・・・一万倍にしてキサマに返してやる!!! ワハハハハ! ワハハハハハ!!!」

「ん? 2年前? なんかおかしくね?」

 右から左に暮の独り言を聞き流していた栄一ではあったが、暮の放った「2年目」という単語に何故か敏感に反応し、疑問を浮かべた。
 その横では、三橋が右手拳を顎につけて、何かを思い出すようにぶつぶつ喋っている。

「暮・・・暮・・・あ、そうだ思い出した。あなたって・・・あの暮さんですよね・・・? あの・・・2年留年している・・・」

 思い出したのはいいが、内容が内容だけに三橋は恐る恐る暮に質問をする。
 勿論暮は三橋の質問にプッツンいったようで、その場で奇声をあげた。

「キィィィィィィィィィィィィ!!! それを言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あの日あの時あの場所で、オレがガーディアンズマスターに勝っていたら、オレの人生は変わっていたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 どこかのDさんのような(kunaiさんスミマセン!)暮の喋り方に、栄一も三橋も恐怖で次の言葉をあげる事ができない。

「あの日あの時あの場所・・・そう、あのデュエルがオレをダメにした・・・」

 そうこうしている内に、暮は勝手に自分の世界に入っていってしまった。





「3体目の『グレファー』で、ダイレクトアタック!」

 ズサァァァ!

 オレの『グレファー』の剣による強烈な切り込みが、奴の身体を襲った。

護:LP3000→LP1300

「ターンエンドだ! ワハハハハハ! このオレがガーディアンズマスターを押しているぅ!! 2ターンキルも夢じゃないゼェ!!!」

暮の後攻1ターン目が終わった所
LP1300
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP3200
手札0枚
モンスターゾーン戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK1700)
戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK1700)
戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンなし

戦士(せんし)ダイ・グレファー ☆4
地 戦士族 通常 ATK1700 DEF1600
ドラゴン族を操る才能を秘めた戦士。過去は謎に包まれている。

「オイ、ガーディアンズマスター!」

 オレのエンド宣言を聞き、奴が自らのデッキからカードを引こうとしたその時、有頂天になっていたオレは奴に問いかけた。

「こんな話を知っているか? かつてこのデュエルアカデミアに、『ダイ・グレファー』の事を『兄貴』と崇拝し、『グレファーデッキ』を縦横無尽に操っていた伝説のデュエリストがいたって話を!!!」

 オレが語った話は、奴も知っていたようだ。
 3体の『ダイ・グレファー』と心の友のように接し、傍から見れば女子の天敵のようなプレイングだが、実は滅茶苦茶理に適っている、『グレファー』3体のパワーを最大限引き出すデュエルをしていた、『グレファー使い』のあるアカデミアの生徒の事は。

「あの・・・・・・そのデュエリストって確か・・・・・・」

 奴は直に答えに繋げたようで・・・・・・軽く不安げな顔をしつつ、オレに尋ね返してきた。

「あぁ・・・・・・そうさ・・・・・・。あるアカデミアのドラゴン使いの女子生徒の『ディバインバスター・エクステンション』2連撃を喰らって撃沈したんだ・・・・・・。ストーカー容疑で捕まったそうな・・・・・・」

 オレは自分から切り出した話にも関わらず落ち込みながらも、1枚のカードをズボンのポケットから取り出した。

「ちなみにこれが、彼の身柄確保の際に活躍したステンレス製の『逆転の女神』のカードだ。その殺傷能力の高さから、即発売禁止になったファン垂涎ものの逸品だぞ」

逆転(ぎゃくてん)女神(めがみ) ☆6
光 天使族 通常 ATK1800 DEF2000
聖なる力で弱き物を守り、逆転の力を与える女神。
補足:ステンレス使用、40枚セット販売、海馬コーポレーション製。
その殺傷能力の高さが危険視され、発売数日で即販売禁止、
海馬コーポレーションが自主回収を行っている。故に希少価値が高く、
ファンにとっては垂涎ものの逸品である。発売から8年近くが経った現在でも、
たまにYah○o!オークション等に出品され、その都度常識を超える高値で落札されている。

 奴は疑り深い顔でオレに言葉を返そうとしていたようだが、それより先にオレが再び口を出した。

「だからオレは・・・その『グレファー使い』の心意気を継承し、『グレファー使い』の名にかけて、ガーディアンズマスター、キサマを倒す! ・・・この、ステンレス製の『逆転の女神』に、そう誓ったんだ!!!」

「・・・あ・・・そうなんだ・・・僕の・・・ターン・・・」



 ・・・・・・次の瞬間、このデュエルは終わっていた。





暮:LP3200→LP0


「な、なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」





「・・・どうなったんだ、結局!?」

 今の話の終わらせ方では、勿論栄一にも三橋にも結末は分からない。しかし。

「それ以来、オレは不幸のドン底に陥った・・・。体育の授業中に足を骨折し、治療に半年近くかかって出席日数が足りずに留年・・・。翌年再起を図ろうとしたが、冬休み中に交通事故に遭い、同じ場所を骨折・・・。治療にやっぱり半年近くかかって出席日数が足りずに再び留年・・・。そのせいで、今オレは3度目の1年生をやるハメになってしまっているんだぁぁぁぁぁ!!!」

 2人の問いにも耳を向けず、暮の語りは続いた。

「だから、オレはここでガーディアンズマスターと同じヒーロー使いのキサマを倒し、それを踏み台に一気にガーディアンズマスターをブッ倒してやるんだぁ! さぁ、明石栄一! ディスクを構えろぉ!!!」

 一人語りを終え、デュエルディスクを起動しつつ栄一にデュエルを要求する暮。なんとも強引である。

「勝手に自分の世界に入ってったのに、人の質問には応対せずかよ・・・。じゃあ俺が勝ったら、マスターとのデュエルの結末を教えてもらうぜ?」

 栄一も、ディスクを起動、展開させる。

「ワハハハハ! キサマが結末を知ることは無い! 何故ならオレが勝つからだ! いくぞ!」

「(どこからそんな自信が・・・?)いつでも来い!」





「「デュエル!」」

栄一:LP4000
暮:LP4000

 夕日は沈みつつあり、西の空は赤く染まる中、アカデミアの海岸で1つのデュエルが始まった。




















−アカデミア、校舎玄関周辺−



「『ブラッド・ヴォルス』で、ダイレクトアタック!」

「なんの! トラップカード『ディメンション・ウォール』! この戦闘によって発生するダメージはお前が受ける!」

 校舎の周辺を中心とした各地で、今も予選デュエルが繰り広げられている。
 ここ、校舎への玄関周辺でもまた、1つのデュエルが行われていた。



「・・・クソッ! どこにいるんだ、奴は!」

 白熱したそのデュエルを横目に、校舎の方へ足を進めるフードを被った男・チンク。

 だが、デュエルをしている2人の生徒は、彼らが繰り広げているデュエルフィールドの横を歩くチンクの存在に全く気付いていない。
 デュエルに熱中しているからだけではない。「チンクという存在が初めからこの場所にいなかった」といった感じに、横を歩く男がまるっきり見えていないのである。

「・・・」

 そして、校舎内から現れた、チンクと真逆方向に足を進める男。

 彼に関しては、デュエルをしている2人は気付いたようである。
 だが、今はそれどころではない。デュエルに集中せねばならない為、横目で「どこに行くんだろう?」と気付く程度にとどめ、すぐにデュエルに意識を戻した。



「・・・」
「・・・」
 


 デュエルフィールドの横を歩く2人が、すれ違う。

 お互いの存在に、全く気付かないまま。

 今、お互い探し求めている相手同士であるのに。





「(護!)」

 チンクとすれ違った男・・・護の思念に、突如外界から音声が入ってきた。
 護を守護する守護者(ガーディアン)の1人、『G・HERO(ガーディアンヒーロー) ラピート』の声である。

「(『ラピート』、いたかい?)」

「(いや、さっぱりだ・・・。空から見渡しても、全然見つからない・・・。他の連中も同じみたいだ。さっき『ソニック』から連絡があったが、上空から見てるのに、それらしき奴は見当たらないって)」

「(そうか・・・。こっちもまだ手がかりは無い。引き続き頼む)」

「(分かった)」

 「手がかりは無い」・・・。ちょうど今、探している『ネズミ』とすれ違ったばかりなのに・・・。
 悲しいかな、全く気付いていない。気付く事ができていない・・・。

「「(どこにいるんだ?)」」

 護とチンク、共に同じ事を感じた。
 しかし、お互いに気付く事は叶わない話なのである。










−再び、海岸−


 ズサァ!

「くっ!」

栄一:LP4000→LP700

 栄一は苦戦していた。 それもその筈、暮のデュエルは中々侮れないものがあったのだ。
 最終的に敗れたとはいえ、護を追い詰めただけの事はある。

「ワハハハハ! これがオレの『グレファー3兄弟』だ!」

 暮の高笑いと赤い夕日を背に浴び、勇ましい顔で栄一に向って剣を構える、3体の戦士。
 その剣に刻まれし名は『色欲』『情欲』そして『性欲』・・・。
 戦士の勇ましき顔とは裏腹に、下心が見え見えの名前である。

「盛り上がってきたぁ! BGMはブラック○イヤモンズの『BLACK ○IAMOND』だぁ! オレが欲しいのは、オレが求めるのは、そう! 勝利! ガーディアンズマスターからの勝利だー! ワハハハハ! ワッハハハハハ!! ワッハハハハハハハハ!!!」

 暮のテンションは、この場に現れて以降全く変わらず、事ある毎にボリューム振り切れるほど強い高笑いを繰り返した。

戦士(せんし)ダイ・グレファー ☆4
地 戦士族 通常 ATK1700 DEF1600
ダイ・グレファー変態騒動? 知らないぞ、そんな事は(笑)

ヘル・アライアンス 装備魔法
フィールド上に表側表示で存在する装備モンスターと同名のモンスター1体につき、
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

戦士ダイ・グレファー×3:ATK1700→ATK3300

「カードを1枚セットしてターンエンドだ! ワハハハハ! さぁ明石栄一、キサマの最後のターンだ! ワハハハハ! ワッハハハハハ!! ワッハハハハハハハハ!!!」

LP4000
手札0枚
モンスターゾーン戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK3300)
戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK3300)
戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK3300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
ヘル・アライアンス(装備:戦士ダイ・グレファー1体目)
ヘル・アライアンス(装備:戦士ダイ・グレファー2体目)
ヘル・アライアンス(装備:戦士ダイ・グレファー3体目)
栄一LP700
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「(調子狂っちゃうなぁ・・・。って言ってる場合じゃないな)俺のターン! よし! 魔法カード『HEROの遺産』を発動! 墓地にレベル5以上の『HERO(ヒーロー)』が2体以上存在する時、俺はデッキからカードを3枚ドローできる!」

HERO(ヒーロー)遺産(いさん) 通常魔法(漫画GXオリジナル)
自分の墓地にレベル5以上の「HERO」と名のついた
モンスターが2体以上存在する場合のみ発動する事ができる。
自分はデッキからカードを3枚ドローする。

 日の入り間際、赤と黒が混じり始める夕方の空。
 栄一のドローしたカードに、栄一の墓地に眠るヒーロー達が反応し、その身体を光らせる。
 それと同時に、2人のデュエルフィールド・・・海岸が、大きな音を立てて揺れ始める。

「ワハハハハハh・・・なんだ、この揺れは? 地震か?」

 地震ではない。栄一の発動したカードの効果である。

「2枚の『ミラクル・フュージョン』、そして『スカイスクレイパー』を発動。奇跡の融合によって2体のヒーローが生まれ、フィールドはヒーロー達の戦う摩天楼に変わるぜ!」

「何ぃ!?」

 海岸に、数多くの高層ビルが建っていき、ヒーローの得意とする戦いの舞台が出来上がる。そして、そのビルの最頂点に、2体のヒーローが姿を現す。
 1体は、右手が龍の頭をし、白く長い片翼を持つヒーロー『フレイム・ウィングマン』。
 そしてもう1体は、上半身は鷹、下半身は獅子の姿をした、2本足で立つヒーロー『ストライカーグリフォン』。
 いずれも、栄一の大切なヒーローである。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン ☆6
風 戦士族 融合・効果 ATK2100 DEF1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ストライカーグリフォン ☆6(オリジナル)
風 獣戦士族 融合・効果 ATK2400 DEF1300
「E・HERO ホークマン」+「E・HERO ライオマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は他の表側表示のモンスターを攻撃対象に選択できない。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン ☆3
風 戦士族 通常 ATK1000 DEF1000
風を操り空を舞う翼を持ったE・HERO。
天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ ☆3
炎 戦士族 通常 ATK1200 DEF800
炎を操るE・HEROの紅一点。
紅蓮の炎、バーストファイヤーが悪を焼き尽くす。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ホークマン ☆4(オリジナル)
風 鳥獣族 通常 ATK1500 DEF1000
鷹のように力強く大空を飛ぶE・HERO。
ホーククロウが悪を切り裂く。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン ☆4(オリジナル)
地 獣戦士族 通常 ATK1700 DEF800
獅子のように大地を駆け巡るE・HERO。
正義の突進ライオクラッシュで悪を砕く。

ミラクル・フュージョン 通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という
名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

摩天楼(まてんろう) −スカイスクレイパー− フィールド魔法
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

「2体のヒーローで、『グレファー』3体を攻撃!」

 暮の場の3体の戦士に向かって飛び込む、2体のヒーロー。しかし・・・

「・・・フッ! ワハハハハハ! トラップカード発動!!!」

 途端、フィールドに堕ちた雷、それが2体のヒーローに命中し、彼らを焼き尽くした・・・

ジャスティブレイク 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する通常モンスターが
攻撃宣言を受けた時に発動する事ができる。
表側攻撃表示で存在する通常モンスター以外の
フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

「・・・!?」

 ・・・はずだった。

LP4000
手札0枚
モンスターゾーン戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK3300)
戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK3300)
戦士ダイ・グレファー(攻撃表示:ATK3300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
ヘル・アライアンス(装備:戦士ダイ・グレファー1体目)
ヘル・アライアンス(装備:戦士ダイ・グレファー2体目)
ヘル・アライアンス(装備:戦士ダイ・グレファー3体目)
栄一LP700
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO フレイム・ウィングマン(攻撃表示:ATK2100)
E・HERO ストライカーグリフォン(攻撃表示:ATK2400)
E・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法摩天楼 −スカイスクレイパー−

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「なんで増えているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

 暮は驚きを隠せない。
 破壊したはずのヒーローがフィールド上に立ち、さらにもう1体新たなヒーローが存在している?
 何故だ?
 暮には、何が起きたのかが分からないのである。

「俺のフィールドの戦士族が破壊された時、手札の『バーニングバスター』を特殊召喚できる。さらに、セットしていたトラップカード・・・」

エレメンタル・ミラージュ 通常罠(アニメGXオリジナル)
自分フィールド上の「E・HERO」と名のついたモンスターが
相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。
このターンに破壊され墓地へ送られた「E・HERO」と名のついたモンスター
を全て、召喚条件を無視して、自分フィールド上に特殊召喚する。

「これにより、『フレイム・ウィングマン』と『ストライカーグリフォン』は、再び俺の場に舞い戻った。これで終わりだ! ヒーロー3体で攻撃!」

「ヒッ、ヒィィィィィィ!!!???」

 ビルの最頂点から飛び降りたグリフォンのヒーローが2体の戦士を翼で打ち、同じく飛び降りた片翼のヒーローが残る1体の戦士を龍の頭から噴き出した炎で焼き尽くす。
 そして3体の戦士が消えたガラ空きのフィールドに、灼熱の戦士が地響きを鳴らして立つ。

「オレの『グレファー3兄弟』がぁぁぁぁぁぁ!」

 最後に、灼熱の戦士が放った球状の炎が、暮のライフを一瞬にして消滅させた。

暮:LP4000→LP0
































「さて、俺が勝った事だし、マスターとのデュエルの結末を聞かせてもらおうか」

 デュエルが終わった後、海岸に胡坐(あぐら)をかいて座り込む暮の前に、栄一と三橋は立った。
 上空では既に太陽が沈みきり、黒の空に一番星が輝き始めていた。

「く、くそぅ・・・約束は約束だからな! 絶対誰にも言うなよ!」

「安心しろよ。誰にも言わないって」

「じゃ、じゃあ話すぞ・・・」




「な、なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」

LP300
手札0枚
モンスターゾーンG・HERO ネクサス(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンDNA改造手術(魔法使い族宣言)
LP
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

G・HERO(ガーディアンヒーロー) ネクサス ☆6(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK2500 DEF1500
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、このカードはリリースなしで召喚する事ができる。元々の攻撃力がこのカードの元々の攻撃力より高いモンスターが相手フィールド上に表側表示で存在する場合、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。このカードは罠カードの効果を受けない。

シンクロ・ヒーロー 装備魔法
装備モンスターのレベルを1つ上げ、攻撃力は500ポイントアップする。

DNA(ディーエヌエー)改造手術(かいぞうしゅじゅつ) 永続罠
発動時に1種類の種族を宣言する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の全ての表側表示
モンスターは自分が宣言した種族になる。

拡散(かくさん)する波動(はどう) 通常魔法
1000ライフポイントを払う。自分フィールド上の
レベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊された効果モンスターの効果は発動しない。




「・・・と言う事だ」

 説明にかかった時間、ものの数十秒。聞いている側からすれば、かなり理解し難い説明の仕方である。

「ダ、ダイジェスト過ぎる!? もっと詳しく教えてくれよ!」

「栄、栄一、ダイジェストは「わかりやすく要約する事」だぞ! この人の説明は全然わかりやすくない! 後、この人、年齢的には先輩だぞ・・・。一応敬語を・・・・・・!?」

 そこまで言って三橋は、森の奥からこちらを眺めている1人の男に気づいた。
 その男は、三橋が自身の存在に気付いた事を悟ると、栄一達のいる海岸の方へ一歩一歩足を運び始めた。



「・・・佐々木!?」

 森の中から出てきた男・・・先ほど話題になっていた、佐々木(ささき)健吾(けんご)その人である。
 佐々木は、三橋の言葉も他所にそのまま栄一の前に立ち、栄一に向かって口を開いた。

「今のデュエル、見てたよ。・・・栄一、どうだい? 今度は俺とデュエルしないか?」

 三橋は感じ取っていた。
 いつもの佐々木ではない・・・。何かが違う・・・。
 佐々木はここまで沈着とした性格だったであろうか・・・?

 もどかしい・・・。三橋がそう思っている中、当の栄一は

「なんだよ、見てたならすぐに姿見せりゃよかったのに・・・。勿論、デュエルは大歓迎だぜ!」

 そう言いつつ、既に閉じていたデュエルディスクを再起動させ、ディスクを装備した左腕を胸の前に構える。
 その行動に、佐々木も無言でデュエルディスクを起動させる・・・その時であった。




 ピーン! ポーン! パーン! ポーン!



「日の入りとなりましたので、これを持ちまして、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の予選を終了いたします! なお、決勝トーナメント出場者は、明日の午前8時にアカデミア校内の各掲示板にて一斉に発表いたしますので、各々で確認して下さい。なお、現在デュエル中の生徒諸君は、勝敗が着くまでデュエルを続けてください。それ以外の生徒は、以後行われるデュエルは全て無効となりますので、注意して下さい」



 予選終了を告げる鮫島校長の放送が、アカデミア中に響いた。

「・・・だ、そうだ。デュエルはまた今度だな。じゃ俺、先帰るわ」

 そしてこの放送に萎えたのか、佐々木はデュエルディスクを閉じつつ捨て台詞を残し、そのまま海岸を去って行った。



「・・・なんだ、アイツ? 疾風のように現れて、疾風のように去って行った・・・」

「げーっこーぉ、かーめんーはー、だーれでーし・・・じゃなくて、やっぱりおかしいだろ、佐々木の奴」

「よく分かんないけど・・・・・・取り合えずもう暗いし、レッド寮に戻ろうぜ。寮で佐々木の様子をもう一回調べたらいいじゃん」

「あ、あぁ・・・・」

 そう言いつつ、栄一と三橋の2人も海岸を去って行った。






























「・・・オレって一体・・・」

 ズテッ!

「うぎゃっ!」

 星と月の明かり以外は黒で染まる空の下、立ち上がった瞬間その場の砂に足を滑らせ、海岸で悶絶する1人の男がいた・・・。










『『ディバインバスター・エクステンション』!! 3連撃ィ!!』

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





 ※今日の教訓:一度怪我した箇所は、同じ怪我を起こしやすい。





−本日のスペシャルサンクス−
村瀬薫さん。快い出演許可、本当に有難うございました。
物語の中の本当に一部になってしまった事、お許し下さい。
後、明菜さんもちょっと出ちゃいました(汗)






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