ミオちゃん はじめてのデュエル大会

製作者:ラギさん




※この作品は「Slash&Crush」の続編です。同作品を未読の場合、よくわからない部分があると思います。ご了承ください。



 俺の名前はウィラー・メット。
 今をときめくプロデュエリストだ。
 容姿は上々。人気も上々。
 デュエルの試合や、テレビの取材と、多忙な日々を過ごしている。

 さて、本日はとあるデュエル大会にゲストとしてお呼ばれした。
 12歳以下限定のジュニア大会だが、規模は結構でかい。出場するデュエリストのレベルもそれなりと聞く。
 とはいえ、大会の最初と最後にちょっとコメントするだけで後は実質フリーとなる。
 久しぶりにのんびり出来そうだ。
 それから目的はもう一つある。そのために、まずはあいつに会わないと……。
 巨大ショッピングモールの中心を陣取って作られたデュエル会場。その周りを囲むように観客席が作られている。その一番上の段に佇む男に近づき、声をかけた。
 「よう、クロウ! 久しぶりだな!」
 渋い雰囲気を醸し出す細身の男が、振り向くと同時に僅かに頬を緩めた。
 「……ああ、久しぶりだったな。ウィラー」
 こいつはクロウ・ササライ。俺がカード・プロフェッサーだった頃からの友人だ。
 相変わらずクールなそいつの手元に、見慣れない物を見つけた。
 「お、なんだそれ。高そうなカメラだな」
 クロウはなんかいかにも最新式です、と主張してやまないシャープなデザインのビデオカメラを持っていた。確か、こいつはこういう機器にお金をかけることはあまりなかったハズだ。と、言うことは……。
 「へえ! ミオちゃんの晴れ舞台のために買ったか。気合は言ってるなあ!」
 ちなみにクロウ、独身ながら子供を育てている。いわゆるシングルファザーってやつだ。
 今から1年くらい前に当時6歳の女の子、ミオを引き取った。詳しい経緯は良く知らないのだが、なかなか思い切ったことをしたもんだと素直に驚いていた。
 そのミオちゃんが、本日のデュエル大会に出場しているのだ。それをビデオに収めようってことだろう。
 件のクロウは、一瞬キョトンとした表情を浮べた後、こういった。
 「……いや、コレはもうちょっと前に買ったやつだ。ミオの運動会のときだったかな。授業参観のときは、撮影止められたが……」
 「そ、そうか」
 妙なエピソードも披露してくれた。っつーか、なんかキャラ変った? 確かに昔から天然っぽい所はあったが……。
 「……始まるみたいだな」
 クロウの呟きと同時に、ファンファーレが鳴る。
 吹き抜けの広場、その中心に観客の視線が一斉に集まった。ナレーターの説明が流れ始め、やがてそこに二人のデュエリストが歩いてくる。
 一人は先ほど話題に出た女の子。ミオちゃんだ。とてとてとステージにむかって歩いていく。と、ステージ手前で不意に立ち止まって、辺りをきょろきょろ。やがて視線がこっちに向いた。
 緊張のせいか、若干強張っていた顔がたちまち緩む。嬉しそうに、手を振ってきた。
 その目標は、言うまでもなく横の男、クロウに向けてのものだろう。
 現にクロウも微笑を湛えたまま、ミオちゃんに手を振り替えしている。……なんか表情にあんまり出てないけど、すっげえ嬉しそうだ。やっぱキャラ変ってないか、こいつ?
 「……しかし、ミオちゃんにとっては結構きつい試合かもな」
 デュエルステージのちょうど真上、ソリッドビジョンシステムを利用して表示されている掲示板に、試合を行うデュエリストの顔写真が表示される。黒髪の少女に相対する銀髪の少年は、プロの間でも話題になりつつある、強力なデュエリスト。
 「エド・フェニックス……。最年少プロ入りも視野に入っている、今大会の優勝最有力候補じゃないか」




 銀髪の少年、エドにとってこの大会はプロ入りのための布石に過ぎなかった。彼は自分の目的のためにも、一刻も早くプロにならねばならないのだ。
 この大会も彼の一番の親友であり、アドバイザーでもある斎王琢磨によれば『完全なる勝利』で終わるとのことだった。
 しかし、一つ懸念。斎王によれば思わぬ伏兵によって、勝利が揺らぐかもしれない、とのことだった。
 しかしそれぐらい、デュエルをしていけばあるべきこと。常に全力でぶつかれば問題ない。
 「よ、よろしくおねがいします!」
 ちょっと言葉をかみながら、目の前の少女がお辞儀をした。第一試合、自分の対戦相手の7歳の少女。緊張しているのか、動きがいちいち硬い。
 エドは愛想の良い笑みを浮かべ、彼女に丁寧な言葉を掛ける。
 「いいデュエルをしましょう……ええと……」
 「ミ、ミオです! 笹来ミオ!」
 「ふふ、エド・フェニックスです。よろしくね、ミオちゃん?」
 「はい!」
 元気な返事に思わず自然にエドの頬も緩む。ミオと握手、そして互いのデッキをシャッフルする。デッキを互いの手元に戻し、二人が距離をとる。司会が、デュエル開始の合図を宣言し、戦いが始まった。

「「デュエル!!」」

ミオ:LP4000
エド:LP4000

 先攻は少女の方だった。……一瞬、先攻ランプの点灯に気が付かない様だったが。
 「……あ! わ、わたしのターン、ドロー!」
 ちょっと慌てた様子でカードを引いた。えーと、と呟きながら、手札を眺める。
 「……わたしは、フィールド魔法、天空の聖域を発動します! それから天空の使者 ゼラディアスを攻撃表示で召喚!」

【天空の聖域】フィールド魔法
天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

【天空の使者 ゼラディアス】
光/☆4/天使族・効果 ATK2100 DEF800
このカードを手札から墓地に捨てる。デッキから「天空の聖域」1枚を手札に加える。フィールド上に「天空の聖域」が存在しない場合、フィールド上のこのカードを破壊する。

 少女が出したフィールド魔法によって辺りの景色が変っていく。辺りは淡く白い雲に包まれた、神秘的な神殿となった。
 そこに緑の兜と赤のマスクをした、天使兵が現れた。その身は聖域を呼び寄せ、聖域でしか存在できない。良くも悪くも、聖域と一蓮托生なのだ。
 「これで、ターン終了です!」
 エドのターンに移る。
 「ボクのターン。ドロー」
 引いたカードは融合。現在エドの使用しているデッキの中核とも言えるカードだった。
 「(あの子のデッキは天使系か……。しかも聖域を張っているとなると、あまりモンスターを展開させるのは得策じゃないな)」
 まずは小手調べをかねて、相手の場のモンスターを減らそうと考える。
 「マジックカード発動、融合! 手札のフェザーマンとバーストレディを融合する!」
 
【融合】通常魔法
手札またはフィールドから、融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地に送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

 「カモン! E・HEROフェニックスガイ!」
 緑の体躯の翼を持ったフェザーマン、紅い体躯の炎を操る女性バーストレディ、2体のE・HERO(エレメンタル・ヒーロー)が融合の魔力により、2体の特徴を併せ持つ新たなヒーローとなった。

【E・HERO フェニックスガイ】
炎/☆6/戦士族・融合/効果 ATK2100 DEF1200
「E・HEROフェザーマン」+「E・HEROバーストレディ」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードは戦闘では破壊されない。

 「フェニックスガイで、ゼラディアスを攻撃! フェニックスシュート!」
 炎を纏ったフェニックスガイがゼラディアスに向かって突撃する。ゼラディアスも手にした槍を構え迎撃に向かう。が、天使兵の槍は炎に触れるやいなや消滅。そのままフェニックスガイに殴り倒されてしまった。
 「きゃ! こ、攻撃力は同じだから、相打ちのはず……!?」
 ゼラディアスが一方的に倒されてしまったことに戸惑うミオ。エドがその疑問に答える。
 「フェニックスガイのエフェクト……。不死鳥(フェニックス)の力を持つこのヒーローは、戦闘では破壊されないのさ。これで、ボクはターンを終了する」
 ミオのターンに移る。
 「わたしのターン、ドロー。えーと、まずは永続魔法、召喚雲(サモンクラウド)発動! この効果によって、手札の雲魔物(クラウディアン)……タービュランスを特殊召喚します!」

【召喚雲(サモンクラウド)】永続魔法
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、自分の手札または墓地からレベル4以下の「雲魔物」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。墓地から特殊召喚した場合はこのカードを破壊する。


【雲魔物−タービュランス】
水/☆4/天使族・効果 ATK800 DEF0
このカードは戦闘によって破壊されない。このカードが表側守備表示でフィールド上に存在する場合、このカードを破壊する。このカードの召喚に成功した時、フィールド上に存在する「雲魔物」と名のついたモンスターの数だけこのカードにフォッグカウンターを置く。このカードに乗っているフォッグカウンターを1つ取り除くことで、デッキまたは墓地から「雲魔物‐スモークボール」1体を特殊召喚する。

 「さらに、手札から雲魔物−キロスタスを通常召喚!」
 
【雲魔物−キロスタス】
水/☆4/天使族・効果 ATK900 DEF0
このカードは戦闘によって破壊されない。このカードが表側守備表示でフィールド上に存在する場合、このカードの召喚に成功した時、フィールド上に存在する「雲魔物」と名のついたモンスターの数だけこのカードにフォッグカウンターを置く。このカードに乗っているフォッグカウンターを2つ取り除くことで、フィールド上のモンスター1体を破壊する。

 聖域の雲に命が与えられる。一つは薄暗い青の渦巻く不気味な雲の魔物、もう一つは雷を内包するどこか愛嬌のある薄明るい黄色の雲の魔物となった。
 「キロスタスには2個、自身の効果でフォッグカウンターが乗ります!」
 
【雲魔物−キロスタス】→ Fカウンター×2

 「そしてキロスタスの効果発動! フォッグカウンター2個を取り除いて、フェニックスガイを破壊します!」
 キロスタスが周りを舞っていた水色の結晶を吸い込むと、その体から放電がおこった。そのまま雷のエネルギーを1点に集中にして放出、フェニックスガイを打ち抜いた。
 「っく……。フェニックスガイが!」
 「バトルフェイズに移行! タービュランス、キロスタスでダイレクトアタックです!」
 
エド:LP4000 → 2300

 「さらに、カードを1枚ふせ、ターン終了します」
 「……ボクのターン!」
 エドがカードを引く。
 「(なるほど……雲魔物デッキか……しかし、運が悪かったな。このカードとの相性は……最悪だ!)」
 「ボクはスパークマンを攻撃表示で召喚。さらにスパークガンを装備!」
 
【E・HERO スパークマン】
光/☆4/戦士族 ATK1600 DEF1400
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

【スパークガン】装備魔法
「E・HEROスパークマン」にのみ装備可能。自分のターンのメインフェイズ時に表側表示モンスター1体の表示形式を変更することが出来る。この効果を3回使用した後、このカードを破壊する。

 スパークガンは表示形式を変更するカード。対する雲魔物たちは守備表示になると自壊してしまう。
 「相性最悪のカードというわけだ。悪く思わないでくれ! スパークガンの効果により、タービュランスの表示形式を変更!」
 スパークマンが専用の銃から電撃を放ち、深緑の雲魔物を打ち抜いた。電撃を受けたタービュランスはうずくまると同時に、ゆっくりとその身をただの雲に変えていく。
 「あ……!」
 「まだだ。スパークガンの効果は3回まで使用できる。さらにキロスタスの表示形式を変更!」
 続いて、薄黄色の雲魔物が電撃に打たれ、タービュランスと同様に掻き消えていく。
 その瞬間、ミオが先ほど伏せたカードを開いた。
 「と、罠カード発動! アグレッシブ・クラウディアン! 効果によってタービュランスを特殊召喚!」

【アグレッシブ・クラウディアン】通常罠
自分フィールド上に存在する「雲魔物」と名のついたモンスターが自身の効果により破壊され墓地に送られた時に発動することができる。自分の墓地からそのモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚し、そのモンスターにフォッグカウンターを1つ置く。この効果で特殊召喚されたモンスターはカードの効果によって守備表示にならない。

【雲魔物−タービュランス】→ Fカウンター×1

 「蘇生された上に、表示形式効果に耐性を持ったか……。やるじゃないか!」
 「あ、ありがとうございます!」
 対戦相手に褒められて、勢いよく礼を言う少女の様子にエドはほほえましい物を感じた。
 「ふふ……カードを1枚伏せてターン終了!」
 ミオのターン。だいぶ緊張もほぐれてきたようで、動きからも硬さが取れてきた。
 「私のターン、ドロー! タービュランスのフォッグカウンターを1つ取り除いて……デッキから、雲魔物−スモークボールを特殊召喚!」
 ミオの場に、わたあめみたいな、ふわふわとした可愛らしい雲魔物が現れる。
 ミオ一番のお気に入りカード、愛称『スモくん』。満を持しての登場である。
 
【雲魔物−スモークボール】
水/☆1/天使族 ATK200 DEF600
小さな小さな雲魔物の子供雲。ひとりぼっちが大嫌いで、仲間達とそよ風に乗ってゆらゆらと散歩するのが大好き。

 ミオは意気込むスモくんに、元気良く声を掛ける。
 「いくよ! スモくん!」
 『スモ!』
 「スモくんを生け贄に捧げ……」
 『スモッ!? スモ〜〜スモスモスモ〜〜〜〜!!』
 ……なんか聞こえた気がしたが、エドはスルーすることにした。
 「雷帝ザボルグ召喚!」
 
【雷帝ザボルグ】
光/☆5/雷族・効果 ATK2400 DEF1000
このカードが生け贄召喚に成功した時、フィールド上のモンスター1体を破壊する。

 「ザボルグの効果発動! 生け贄召喚に成功した時、モンスター1体を破壊します。スパークマンを破壊!」
 雷のヒーローが、さらなる雷で打ち砕かれた。激しいスパークにエドが思わず目を覆う。
 「そして、ザボルグでダイレクトアタックです!」
 再び正面を見据えたエドの目に映ったのは少女の命を受け、再び稲妻を放つ鎧を着た巨人の姿だった。白い光の奔流が、炸裂音をたてながらエドに襲い掛かる。
 「くっ! リバースカードオープン、攻撃の無力化!」

【攻撃の無力化】カウンター罠
相手モンスター攻撃宣言時に発動することができる。相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 途端、空間に渦巻く穴が開いた。エドの発動した罠の効果によって、巨人の放った雷は次元の彼方へと消えてしまった。
 「あう、……。ターン終了です」
 エドのターン。予想以上の激戦となったデュエルに、気持ちを引きしめなおす。
 手加減したつもりはない。目の前の少女が的確に自分の攻め手に対処してきた結果である。
 「やるな、ミオちゃん! ボクのターン、ドロー! ここは一気に攻めさせてもらう! 手札からマジックカード、ミラクル・フュージョンを発動! セメタリーのフェニックスガイと、スパークマンを融合する!」
 「墓地からの……融合!?」

【ミラクル・フュージョン】通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO]と名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 散ったはずのヒーロー2人が力をあわせ、白銀に輝く翼を背負った新たなヒーローとなって、エドの元に舞い戻った。
 「カモン……! シャイニング・フェニックスガイ!!」
 
【E・HERO シャイニング・フェニックスガイ】
炎/☆8/戦士族・融合/効果 ATK2500 DEF2100
「E・HEROフェニックスガイ」+「E・HEROスパークマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードの攻撃力は、自分の墓地の「E・HERO」と名のついたカード1枚につき300ポイントアップする。このカードは戦闘によっては破壊されない。

 「シャイニング・フェニックスガイは、融合元のフェニックスガイと同じ戦闘破壊耐性に加えて、新たなエフェクトを得ている。それは、散っていったヒーロー達の意志を受け継ぐ力! ボクの墓地のE・HERO1体に付き、攻撃力が300ポイントアップする!」

【E・HERO シャイニング・フェニックスガイ】:ATK2500 → ATK3100

 眩い光を纏うシャイニング・フェニックスガイ。神々しいまでの光がフィールド上を埋め尽くしていく。
 「いくぞ! シャイニング・フェニックスガイでザボルグを攻撃!」
 エドの宣言と共に、光の戦士が翼を広げ飛翔する。輝く鋭い爪を掲げ、流星のごとくザボルグに突っ込んだ。
 「シャイニング・フィニッシュ!」
 2体のモンスターの激突により、爆発が起こる。
 「きゃ……!」
 短い悲鳴を上げるミオ。爆発の起こった場所を見やると、そこにはザボルグの姿はなく、白銀の翼のHEROが腕を組み佇んでいた。
 
ミオ:LP4000 → LP3300

 「これで、ターン終了!」
 エドは語気を強め、ターン終了を宣言した。
 「私のターン。ドロー!」
 負けじとミオも、声を張ってカードをドローする。フィールド上に残っている雲魔物たちは戦闘破壊耐性を持ち、天使族のため天空の聖域とのコンボにより、戦闘ダメージも抑えられる。防戦に徹することもできるのだ。
 だが、ドローカードを見た瞬間、そんな考えはミオの中から吹き飛んだ。
 「えーと……私はまず、ゴースト・フォッグを召喚します!」

【雲魔物−ゴースト・フォッグ】
水/☆1/悪魔族・効果 ATK0 DEF0
このカードは特殊召喚できない。このカードの戦闘によって発生するダメージは0になる。このカードが戦闘によって破壊された場合、このカードを破壊したモンスターのレベルの数だけフォッグカウンターをフィールド上に表側表示で存在するモンスターに置く。

 「そして、ゴースト・フォッグでフェニックスガイを攻撃!」
 「!? いったい何を」
 人型の霧がシャイニング・フェニックスガイに纏わりつく。白銀のHEROは、それを疎ましく思ったのか、全身から光のエネルギーを放ち、ゴースト・フォッグを吹き飛ばした。
 「ゴースト・フォッグは戦闘で破壊されてもプレイヤーへのダメージはいきません。そしてもう一つの効果発動!」
 いつのまにか、フェニックスガイの周りに先ほど雲魔物たちが操っていた、水色の結晶が付着していた。
 「ゴースト・フォッグを破壊したモンスターのレベル分のフォッグカウンターを表側表示のモンスターに乗せることができます」
 フィールド上に表側表示のモンスターはシャイニング・フェニックスガイしか存在しないため、必然的にすべてのフォッグカウンターがHEROに乗ることになる。

【E・HERO シャイニング・フェニックスガイ】→ Fカウンター×8

 「さらに速効魔法を発動! ダイヤモンドダスト・サイクロン!」
 「な!?」

【ダイヤモンドダスト・サイクロン】速効魔法
フォッグカウンターが4つ以上乗っているモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを破壊したモンスターに乗っているフォッグカウンター4つにつき、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 「この効果で、4以上フォッグカウンターの乗ったモンスター……すなわち、カウンターが8つのったシャイニングフェニックスガイを破壊し、デッキからカードを2枚ドローします」
 煌びやかな光の粒子が舞う竜巻に光の戦士が巻き込まれていく光景の中、ミオは強く宣言してカードを2枚引く。
 「そして、タービュランスでダイレクトアタック!」
 「っ!!」
 思わぬ方法で切り札を倒されてしまったエド。しばし呆然としていたが少女の攻撃宣言を聞き我に帰った。だが、もとより対抗手段はない。まともに雲魔物たちの放った突風をその身に受けることになった。

エド:LP2300 → LP1500

 「これで、ターン終了です!」





 「あ、……うまいぞ!」
 俺は思わず声を上げた。ミオちゃんの繰り出したゴーストフォッグ+ダイヤモンドダスト・サイクロンのコンボに感心してのことだ。上級モンスターの排除と手札補充を同時にやってのけたあのコンボには隙がない。完璧だ。
 つーか、ミオちゃん強い。強力だと名高いエド・フェニックス相手にここまで渡り合うとは。
 「雲魔物デッキは攻撃力が低くて扱いが難しいのに、フォッグカウンターの効果を駆使して、その辺をうまくカバー出来てる……そんで突破力は、上級モンスターの“帝”で補うわけか……」
 雲魔物は戦闘破壊耐性を持つため、場に残りやすい。すなわち上級モンスター召喚のための生贄にはもってこいだ。そしてミオちゃんの使う上級レアモンスター“帝”は、生贄召喚時に強力な効果を発揮するため、打撃力の低い雲魔物の弱点をカバー出来るのだ。
 おそらくデッキ構築からクロウが手伝ったんだろうが、ここまで使いこなせるのはミオちゃん自身のプレイング技術が高いからだろう。
 で、当のクロウは俺の言葉を聞いて、若干満足げな声で呟いた。
 「ああ、ミオは物覚えがいいからな」
 うわあ、親ばか発言。
 つーか、やっぱキャラ変ったよコイツ! 『Slash&Cursh』1話の頃のクールでハードボイルドなお前はどこ行った!?
 呆れ半分のまま、再び戦いの場に目を戻す。下の席の観客も思いもよらぬ高レベルな戦いに目を見張っているようだ。
 「さて、これからどうなるかな。エド・フェニックスもこのまま黙ってやられるとは思えんが」
 





 「ボクのターン、ドロー。(しかし……まずいな……)」
 カードを引くエドの心中では、今自分の置かれた状況による焦りと、対戦相手の少女の奮闘ぶりに対する称賛が渦巻いていた。しかし、あまり関心してばかりもいられない。
 こちらは、主力の大型モンスターを排除されてしまい、手札は残りわずか。加えて相手の場には戦闘破壊不可能な、雲の魔物が佇んでいる。
 「(このカードなら対処できるが……、できればまだ使いたくはない……)」

【D−HEROデビルガイ】
闇/☆3/戦士族・効果 ATK600 DEF600
このカードが自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する場合、1ターンに1度だけ相手モンスター1体をゲームから除外する事ができる。この効果を使用したプレイヤーはこのターン戦闘を行えない。この効果によって除外した相手モンスターは2回目の自分スタンバイフェイズ時に同じ表示形式で相手フィールド上に戻る。

 万全を帰すために入れておいたのだが、自分自身の目的を考えるとこれら「D」のカードを使うのはなるべく避けたい。同時にこのカードの効果を使っても、今の手札では後に続かないとの懸念もあった。
 「しかたない……ここは、リロードを発動! 手札をデッキに戻し、同じ枚数分ドローする!」

【リロード】速効魔法
自分の手札をすべてデッキに加えてシャッフルする。その後、デッキに加えた枚数分のカードをドローする。

 シャッフルを終え、カードを吹くエド。引いたカードを見ると、笑みを浮かべそのカードをディスクにセットする。
 「ドローしたカードはバブルマン! 手札が1枚のみなので、手札から守備表示で特殊召喚する。さらに、場に他のカードがないのでカードを2枚ドローする!」

【E・HEROバブルマン】
水/☆4/戦士族・効果 ATK800 DEF1200
手札がこのカード1枚だけの場合、このカードを手札から特殊召喚することができる。このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分のフィールド上と手札に他のカードがない場合、デッキからカードを2枚ドローすることができる。

 さらにカードをドローし、続けてエドはカードを使う。
 「手札から、マジックカード融合回収を発動し、フェザーマンと融合を手札に加える。そして融合発動! 場のバブルマンと手札のフェザーマンを融合し、セイラーマンを融合召喚!」
 続けて現れたのは水兵を思わせる格好をした、仮面のHEROだった。
 「カードを1枚セットし……バトル! セイラーマンは相手にダイレクトアタックが可能だ!」

【E・HERO セイラーマン】
水/☆5/戦士族・融合/効果 ATK1400 DEF1000
「E・HEROバブルマン」+「E・HEROフェザーマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。自分の魔法・罠カードゾーンにカードがセットされている場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃をすることができる。

 セイラーマンは手に装着されたアンカーを飛ばし、雲の魔物を無視してミオに直接攻撃した。
 「きゃ……!」

ミオ:LP3300 → LP1900

 「これで、ターン終了」
 「私のターン、ドロー! ……カードを1枚伏せてターン終了です」
 ミオは、カードを1枚伏せるだけでターンを終了させた。
 セイラーマンの攻撃力は1400とあまり高いとは言えないのだが、ミオの使う雲魔物たちの攻撃力は、軒並みそれより低い。ゆえに下級モンスターを単純に戦闘で迎撃するのが難しいのだ。雲魔物デッキゆえの弱点といえるだろう。
 「ボクのターン、ドロー! いくぞ、続けてセイラーマンでダイレクトアタック!」
 エドは自分のターンに移ると同時に攻撃に入った。手札もいまだ少ない。ミオが迎撃の準備を整える前に、一気に叩いてしまおうとの考えだった。
 だが、早速出鼻をくじかれることとなる。
 「罠カード発動、スピリットバリア! わたしの場にモンスターが存在する限り、わたしは戦闘ダメージを受けません!」
 瞬時、ミオは淡い光のバリアに包まれ、セイラーマンのアンカーをはじく。場にモンスターの残りやすい雲魔物デッキと相性の良いカードだった。

【スピリットバリア】永続罠
自分フィールド上にモンスターが存在する限り、このカードのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

 「くっ……ターン終了」
 またしても、攻撃を防がれたエド。その隙を突く形で、再びミオが攻めに移る。
 「わたしのターン、ドロー! タービュランスを生贄にして……風帝ライザー召喚!」

【風帝ライザー】
風/☆6/鳥獣族・効果 ATK2400 DEF1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールド上のカード1枚を持ち主のデッキの一番上に戻す。

 今度は薄い緑の光沢を放つ鎧を着込んだ風の“帝”が現れた。ミオはエドの場のセイラーマンと伏せカードを見比べた後、少し考えてからぴっ、と人差し指をさし、宣言する。
 「わたしは……セイラーマンをライザーの効果の対象にします!」
 ライザーが腕を突き出すと同時に、強烈な竜巻がセイラーマンを包み込む。そして、風が収まったその場には、セイラーマンの姿はなかった。
 エドの場は、伏せカード1枚を残しガラ空きとなる。ライザーのダイレクトアタックを許せば、エドのライフは0になってしまう。
 「ライザーでダイレクトアタックです!」
 少女の命を受け、風の“帝”はエドに向けて突風を放つ。
 「リバースカードオープン、ガード・ブロック! この効果で戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドロー!」

【ガード・ブロック】通常罠 
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動することができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 「うぅ……、ターン終了です」
 残念そうに言うミオ。エンド宣言を済ませ、エドにターンは移る。
 「ふう……、危なかった。ボクのターン、ドロー!」
 エドは思わずため息をついた。それほど先ほどのターンの攻防はきわどかったのだ。
 ミオがライザーの効果の対象にセイラーマンを選んでくれた――おそらく、伏せカードを効果対象にした場合、チェーン発動されることを嫌ったためだと思うが――お陰で助かった。
 セイラーマンは融合モンスターのため、戦いに使うメインデッキの一番上に戻らず、サブデッキである融合デッキに戻った。もし伏せカード――ガード・ブロックのほうを効果対象にされていた場合、新たなカードをドローすることもできず敗北は一層濃厚になっていただろう。
 「手札から2枚目の融合回収を発動! 墓地のバブルマンと融合を手札に加える……そして融合を発動! 手札のバブルマンとスパークマンを融合する!」
 融合の魔力により、水と光のHEROが混じり合う。凝縮された水のエレメンタルはやがて冷気を帯び、美しい光を放つ白氷をかたどっていった。
 「これが、ボクの切り札だ……融合召喚! E・HEROアブソルートZERO!」
 白氷は、精悍な一人の英雄の姿になった。薄い蒼のマントを翻し、絶対零度の力を持つ美しき戦士が、風の帝に対峙する。

【E・HERO アブソルートZERO】
水/☆8/戦士族・融合/効果 ATK2500 DEF2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードの攻撃力「はフィールド上に表側表示で存在する「E・HERO アブソルートZERO」以外の水属性モンスターの数×500ポイントアップする。このカードがフィールド上から離れた時4、相手フィールド上に存在するモンスターをすべて破壊しする。

 「アブソルートZEROで風帝ライザーを攻撃!」
 アブソルートZEROの腕に冷気が収束し、氷の刃が形作られる。白氷の英雄はその氷の刃を掲げると、風帝ライザーに向かってあたかも氷上を滑るように突撃を仕掛けた。
 「……! 迎え撃って、ライザー!」
 瞬時、風の帝も構えをとる。が、素早さはZEROのほうが上。風帝ライザーが放った迎撃の掌打をギリギリでかわし、返す刀でライザーに斬りつけた。
 「フローズン・ブレイド!」
 マントを翻し、その場で半回転。風の帝に背を向けたアブソルートZEROには、もう見ずともライザーが迎撃してくることはないと分かっているようだった。
 それを証明するように、ほどなくして風帝ライザーは崩れ落ちた。

ミオ:LP1900 → LP1800

 「これで、ターン終了!」
 再び少女のターンに移る。ミオはカードをドローすると、少し困った顔をしてから、カードを2枚選び出した。
 「……召喚雲の効果で、雲魔物‐羊雲(シープクラウド)‐を手札から守備表示で特殊召喚!」

【雲魔物‐羊雲‐】
水/☆1/天使族・効果 ATK0 DEF0
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分フィールド上に「雲魔物トークン」(天使族・水・星1・功/守0)を2体守備表示で特殊召喚する。このトークンは「雲魔物」と名のついたカード以外の生け贄召喚のための生け贄にはできない。

 「この瞬間、アブソルートZEROのエフェクト発動! 水属性モンスター1体が増えたため、攻撃力が500ポイントアップする」

【E・HEROアブソルートZERO】:ATK25000 → ATK3000

 「さらにモンスターをセットして……ターン終了です」
 「ボクのターン。ドロー!」
 ミオの場には、2体の守備モンスターが並んでいる。1体は裏側守備表示のため正体不明。もう1体は戦闘で倒された時に、トークンを生み出す能力を持った雲魔物。しかも、場にモンスターが存在する限り、戦闘ダメージを0にする永続罠、スピリットバリアまで張られている。厚い防御の布陣だった。
 だが、エドのドローしたカードは、その状況を打開する、いや、この決闘を終わらせる、文字通りエンドカードとなるものだった。
 「速効魔法、融合解除を発動! これでZEROをバブルマンとスパークマンに戻す!」

【融合解除】速攻魔法
フィールド上の融合モンスター1体を融合デッキに戻す。さらに、融合デッキに戻したこのモンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、この一組を自分フィールド上に特殊召喚することができる。

 白氷のHEROが光に包まれ、2体のHEROに分離していく。それと同時に、アブソルートZEROの元から、すさまじい勢いで吹雪が巻き起こった。
 「わっ……! こ……これは……?」
 ミオの声に、エドが答える。
 「アブソルートZEROのもう一つのエフェクトさ……彼は場から離れるとき、自身の氷雪の力をすべて解放し、相手モンスターを全滅させる!」
 「!!」
 瞬く間に凍りついていくミオの場のモンスターたち。圧倒的なまでの、氷の暴風に抵抗一つ出来ない。
 「瞬間氷結(Freezing at moment)!」
 エドの宣言と共に、氷像と化していた羊雲、そして裏側守備モンスター ――グリズリーマザー――が、砕け散った。
 雲魔物‐羊雲‐は倒された時、2体のトークンを生成する能力を、グリズリーマザーは、デッキから攻撃力1500以下の水属性モンスターを特殊召喚できる能力を持つ。しかし、これらの効果は「戦闘で破壊されて墓地に送られた」場合のみ、適用可能な効果である。すなわち、今回のようにカードの効果で破壊された場合には、効果を発動することはできない。
 かくして、ミオの場からモンスターがすべて消えた。同時に戦闘ダメージを防ぐスピリットバリアも効力を失った。
 対して、エドの場には、アブソルートZEROから分離した、2体のHEROが佇んでいる。エドは迷わず、ゲームのエンド宣言を下した。
 「E・HEROバブルマン、続いてスパークマンでダイレクトアタック!」
 「きゃ……!!」

ミオ:LP1800 → LP1000 → LP0

 かくして、デュエルは終わりを告げた。観客席から、攻防激しいシーソーゲームの終わりを見ての歓声と溜息が、あちこちから聞こえてくる。
 「あぅ……」
 「いや……すごいな、キミは」
 半ば放心状態のミオに、エドは少し疲れた様子で話しかけた。
 「すばらしいタクティクスだった。まさにギリギリの戦いだったよ。いいデュエルをありがとう、ミオちゃん?」
 と、エドが握手を求めて手を差し伸べたその時。
 「え!? えと……あ、ありがとございます!」
 デュエルに負けた恥ずかしさからか、それとも観客席の反応のためか。
 再び緊張状態になってしまったミオは、顔を真っ赤にして俯きがちに走り去ってしまった。
 「……えーと」
 エドは、握手する相手を失った右手を突き出したまま、しばらく突っ立つことになった。



 「お、ミオちゃんお疲れ様!」
 デュエルが終わったミオちゃんをクロウと二人で迎えに行った。
 「! くろう!」
 ミオちゃんはクロウを見つけるとたーっ、と走り寄ってきた。
 と、クロウは屈みこむと、走りこんできたミオをそのまま抱きとめる。
 「うぅー! くろう、はずかしかったよぅ!」
 なんというか、デュエルで負けたこと、観客に注目されたこと等、いろんなことがごちゃまぜになってる状態みたいだ。ちょっと涙目になってたし。
 クロウは、ミオちゃんの背中を優しくぽん、ぽんと手を添えながら柔らかい声音で答えた。
 「……そうか。だが、いいデュエルだったぞ、ミオ」
 そのままミオちゃんを離すと、今度はじっと目を見ながら言葉をつづけた。
 「なにも恥ずかしがることはない。ミオ、お前は精一杯闘ってきた。そのことに誇りを持てばいい」
 「……うん」
 「それでいい。よく頑張ったな。ミオ」
 「うん!」
 そういいながら、ミオちゃんの頭を撫でている。ミオちゃんもうれしそうだ。
 ああ……、なんていうか……ホント、「父親」になったんだな、クロウ。
 

 で、その後はミオちゃんと一緒にデュエルの観戦に戻った。見事なコンボや、珍しいカードの登場などに、ミオちゃんは眼を丸くして驚いたり、クロウにすごい、すごいよ、としきりに話しかけたりしてた。クロウもカードやコンボの説明をしたり、一緒に楽しんでいるようだった。
 で、大会そのものは当初の予想通り、エド・フェニックスが優勝。
 ほぼ予定時間通り、ジュニア大会は閉幕した。
 


 「ふう、終わった終わったぁ」
 肩をコキコキと鳴らす。本日の仕事はめでたく終了。いや、よく働いた。
 「……ウィラー、大会の最初と最後に、少しだけコメントしただけだろう」
 クロウのツッコミが入った。ぬう、もちっと労わってくれてもいいじゃないか。
 「ウィラーさん、お仕事おつかれさま。それと、パーティーにきてくださってありがとうございます!」
 おおう、いい子だなぁ、ミオちゃん。クロウ、お前もちょっとは見習え。
 「ま、時間的にもいい頃合だ。もう準備はすんでいるんだろう?」
 「ああ、料理は温めるだけでいい」
 「そっか。俺もちゃんとプレゼント用意してきたぜ。いいパーティーにしようぜ!」
 「……ああ」
 「はい!」
 何を隠そう、今日はミオちゃんの誕生日パーティー――正確なミオちゃんの誕生日はわからないので、厳密に言うと、クロウとミオの出会った日、とのこと――なのだ。
 で、スケジュールに空きのあった俺も、参加させてもらうことになったわけだ。
 「……はい、そうですか……はい……はい……」
 ミオちゃんとクロウと共に駐車場に向かう途中、銀髪の少年が携帯電話で会話してる所に遭遇した。エド・フェニックスだ。
 「迎えに時間がかかる……ええ、わかりました……タクシーでも拾って帰ります……ええ、それでは」
 電話を切ったエド少年は、こちらに気がついたようだ。
 「あ、ウィラーさん。こんにちは、エド・フェニックスです。D.Dとの試合の際に少しお会いして以来ですね」
 「おう、そういやそうだったな」
 ディスティニー・デュエリスト、通称D,Dはエドの後継人であり、プロデュエリスト総合ランク1位の男である。そういやそのD.Dとのデュエルで、俺はコテンパンにのされちまったんだよな、チクショウ。
 「あれ、キミは……」
 エドは、俺の背後にいたミオとクロウに気がついた様だ。
 「おっと、紹介が遅れたな。こいつは、クロウ・ササライ。俺の友人で……、お前さんが1回戦で対戦したミオちゃんの父親だ」
 「……そうですか……。はじめまして、エド・フェニックスです」
 「ああ、はじめまして。クロウ・ササライだ」
 と、クロウの後ろにいたミオちゃんがとてとてとエドの前に出てきた。
 「あ、えと……。エドさん、試合終わったあと、逃げ出しちゃってごめんなさい。それと、優勝おめでとうございます!」
 ぺこ、と頭を下げるミオちゃん。対するエド少年は一瞬目を丸くして驚いた後「はは、気にしてないよ。それと、ありがとう。ミオちゃん?」といってミオちゃんと改めて握手を交わした。
 ううーん、ミオちゃん礼儀正しい。これもクロウの教育の成果か……と、握手する二人を見るクロウの目が若干細くなってるような……、クロウもしかして怒ってる? なんとなく「いつまでミオの手を握ってるんだ?」みたいな威圧を放っているような……。
 「そ、そういや、どうしたんだエド? なんか、迎えが遅れるとかなんとか言ってたが……」
 なんか嫌な空気を感じ取ったので、ちょい強引に話題を変えた。まあ、エドの電話での会話が純粋に気になったのもあるんだが。
 「いえ……D,Dの……自分の世話になってる方々にちょっと急用が出来てしまって……それで、一人で帰る手段をと……」
 ぬう、なるほど。しかし、一人で帰すのはどうかなあ。
 「……ね、クロウ」
 と、上目づかいにクロウを見上げるミオちゃん。ああ、なんとなく言わんとすることは分かった。たぶんクロウも察したのだろう。うなずくと、エド少年に語りかけた。
 「エドくん。今日は娘の誕生日パーティーをやるんだが……もしよかったら、君もどうだろう? もちろん、お家の方がOKを出せばだが」
 「!? いいんですか?」
 「そりゃー、歓迎するぜ! なんならついでに今日の優勝パーティーもかねちまえばいい!」
 俺とクロウの言葉を聞き、しばし考えていたエドだが、「少し、まっていただけますか?」といい、再び携帯電話でどこかに連絡を取り始めた。
 で、結局のところ。本日のパーティーに、ゲストが1人増えることになった。



 「「「ミオちゃん、誕生日おめでとーーー!!!」」」
 「ありがとー!」
 パーティーはにぎやかに始まった。
 パーティー出席者はミオちゃんの学友が主だ。ほとんどが女の子だが、何人か男の子の姿も見える。カードゲーム関係での交友らしい。
 で、ゲストとして呼ばれた俺は最初こそ騒がれたが、その後女の子たちの興味は、もう一人のゲスト――エド少年に移っていた。はいはい、イケメンイケメン。
 「じゃあ、エド様は今日の大会でミオちゃんに勝って優勝したんですか!?」
 なんかエド少年、ナチュラルに「様」付けされてるぞ。
 「すげー、ミオに勝ったのかよ」
 別の少年の言葉から察するに、やはりミオちゃんは仲間内ではかなり強いらしい。まあ、今日の試合を見れば、それもうなずける。
 「いや、彼女とのデュエルは本当にギリギリの戦いだった。どちらが負けてもおかしくなかったよ。ね、ミオちゃん?」
 「いえ、そんな……」
 照れているのか、赤くなって俯くミオちゃん。いやいや、照れることはない。確かにあの戦いはすごかったのだ。
 「へえ、すげーな。デュエルしてみてえ!」
 と、一人の少年が言い出した。おお、強い奴と戦いたい、ってやつか。いいねぇ、熱いねぇ。
 「……それなら、俺とデュエルしてみないか、エドくん」
 藪から棒に、クロウが言った。ってクロウ? またしても目細くなってない?
 「クロウさんと……ですか?」
 「そうだ。君はプロを目指していると聞いた。なら、元カードプロフェッサーである俺との戦いは得るものもあると思うが」
 「……わかりました。よろしくおねがいします」
 と、言うわけで唐突にクロウVSエドのデュエルが始まった。
 そのとき、若干クロウの様子が怖いと感じたが……それは、このデュエルで見事に証明されることになる。



 「俺のターン。大地の龍脈をコストにマグナ・スラッシュドラゴンの効果発動。伏せカードを破壊。そして、マグナ・スラッシュドラゴン、グラビ・クラッシュドラゴンで攻撃!」
 「うわー!!」

エド:LP4000 → 1600 → 0

 あ……ありのまま今、起こった事を話すぜ!
 『デュエルが始まったと思ったらいつのまにかクロウがエド少年を瞬殺していた』
 今引きだとか途中省略だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
 って言うか、クロウ。絶対「娘はやらんぞ」的な感情で動いてただろ!
 怖えー、親ばか怖えー。
 「く……、強い。まさかこれまで……!」
 「いや、エドくんもやはり強いな。さっきのコンボが決まらなかったら、俺も危なかったよ」
 相変らず、表面上の変化を見せないポーカーフェイスなクロウ。だが、あの薄い笑顔の下には「どうだ! 力の差を思い知ったか! わかったんなら気易くミオに近づくな、馬の骨めが!」といった、ザ・頑固オヤジソウルが燃え上がっているのだ、ヒィィ!!
 「……どうしたんですか、ウィラーさん?」
 と、勝手な妄想で戦々恐々としていた俺を不信に思ったのか、エド少年が声をかけてきた。
 「……エド少年。クロウのことを悪く思うな……。娘を持つ父親というのは……概してああいうものなのだよ……」
 「……はぁ」
 なにがなんだかわからない、といった表情のエド少年。しかし、父親という言葉を聞き、クロウを見た後「……父親か」とポツリと呟いた。 
 で、このデュエルを皮切りに、そこらでデュエルが始まった。まあ、パーティーとしても楽しそうだからなにより、ということにしておこう。



 少し休憩をとるためにベランダにでた。夜風が疲れた体に心地いい。
 「……休憩か、ウィラー」
 と、同じくシャンパンの入ったグラスを持って、クロウがやってきた。ベランダから二人して、街の疎らな灯りを眺めながら、シャンパンを一口飲み干す。
 「ま、なんだかんだ言っても、若い奴らの相手は疲れるわけですよ」
 「どの口で言うか、売れっ子プロデュエリストが」
 「まーなんですよ。もう30超えたわけですし。いろいろガタも来るわけですよ」
 「……その口調、気に行ったのか?」
 「そんなとこですよ」
 軽い口調で声をかわす。なんつうか、こういう機会も久しぶりだな。
 「ま、なんにしてもだ。ミオちゃんとはうまくいってんだな。しかし、お前が子育てするとは、最初はどうなることやらと思ったが」
 「……どういう意味だ」
 ふう、と溜息をつくクロウ。
 「……俺個人としては、うまくいってるのはミオがしっかりしてるほうだから、と思うけどな」
 また親ばか発言でましたー。
 「俺自身はどうなんだ、と思うことも多い。7歳の子供に教えられることだってある……ああでもない、こうでもないと、手探りの日々だよ」
 はは、と薄く笑うクロウ。と、不意にその笑い顔に……懐かしむような色と、僅かな陰りがさした。
 「十護と尚樹も……こんな気持ちだったんだろうか……」
 聞こえるか、聞こえないか程度の小さな呟きだった。
 ……クロウは酒に強い。プロフェッサー時代、よくつるんで呑んでいたが、決まって最後までしっかりしていたのはクロウだったと思う。クロウは酔っ払ったみんなの愚痴を聞いて、介抱して。クロウはずっと聞き役だった。あいつが愚痴を漏らしていることは、少なくとも俺の記憶のなかにはない。あいつ自身、自分の過去をあまり語りたがらなかったこともあるが。だから、俺はさっき言ったトウゴ、ナオキという人物のことを知らない。
 そのことを……すこしだけ、寂しく思う。
 「ま、なんだな」
 ベランダから、部屋の中に目を移す。ミオちゃんとその友人たち、それからエド少年がカードを通して、楽しそうに、嬉しそうにゲームに興じている。
 「ミオちゃんが笑っていられるのは……間違いなく、お前のお陰だと思うぜ?」
 ニッと笑ってクロウに目を向ける。
 クロウも部屋の中に目を移した。と、ミオちゃんと目が合ったようだ。
 ミオちゃんがクロウに微笑みを向ける。クロウもそれに微笑を返す。
 ほらクロウ。やっぱりお前は、立派な父親だ。



 誕生パーティーは、エド少年の迎えが来たのをきっかけにお開きとなった。
 それぞれの家路につく子供たち。……エド少年と別れるのを本気で残念がってた女の子もいたな。エド少年、恐ろしい子!!
 「さーて、俺も帰るかな」
 仕事のこともある。俺も帰ることにした。
 「そうか。気をつけてな、ウィラー」
 「ウィラーさん、今日はありがとう。またね!」
 二人に見送られながら、玄関口から夜道に出る。
 「クロウ」
 振り返って、クロウに目を向けた。
 「……なんだ?」
 「……今は難しいかもしれないが、また一緒に呑もうぜ。なーに、そんときゃ愚痴だって聞いてやる。ミオちゃんに「洗濯物いっしょにしないで!」とか「クロウ、臭い!」とか言われるようになったら、俺がなぐさめてやるぜ!」
 「……さっさと帰れ」
 はははー、これは失敬!
 呆れ顔のクロウとぽかん、とした表情のミオちゃんに背を向け、俺は歩きだした。
 笑いながら夜道を行く。しかし、自分で言っといてなんだが、これはいい未来予想図だ。まあ、その気になれば、あまり間をおかず実現するしな。
 クロウはいい奴で、いい友人だ。その友人と酒酌み交わして楽しめるなら、あいつの愚痴の一つでも聞いて、あいつの心が軽くなってくれるなら……そいつはとても嬉しいことだ。
 「って、くせえな。ガラにもないことを考えてるぜ」
 そう考えたらまた笑みが浮かんできた。これは、頬が緩みっぱなしで一日が終わるな。
 だが、別にそれを恥ずかしく思う気持ちはわかなかった。むしろ俺はそれを歓迎するような気持ちになっていた。
 くせえ友情上等だ。クロウ、また会おうぜ。そんでくだらない話でもして笑い合おう。

 こうして俺は上機嫌のまま、灯りのともった街を闊歩していった。




〜Fin〜










≪おまけ≫

笹来九郎(クロウ・ササライ)のデッキ:判明分27枚

【上級モンスター】×3
マグナ・スラッシュドラゴン
グラビ・クラッシュドラゴン
降雷皇ハモン

【下級モンスター】×7
スピア・ドラゴン
ブリザード・ドラゴン
ミラージュ・ドラゴン
仮面竜×2
龍脈に棲む者
魂を削る死霊

【魔法カード】×13
大嵐
手札断殺
早すぎた埋葬
大地の龍脈×3(オリカ)
闇の護封剣
平和の使者
強者の苦痛
カードトレーダー
リサイクル
突進
エネミーコントローラー

【罠】×4
聖なるバリア−ミラーフォース−
炸裂装甲
和睦の使者
転生の予言

・クロウデッキのエースはマグナ・スラッシュドラゴンとグラビ・クラッシュドラゴン。この2枚の渋いイラストに惚れこんだ作者が、これらを中心に使うデュエリストを主人公にしよう! と思ったのが、ストーリーを書くきっかけでした。
・アニメストーリーとも絡めようと思ったため、相性の良い宝玉獣の使用は自粛(宝玉獣はヨハン専用みたいだったので)。代わりにサポートのためのオリカ、大地の龍脈を制作。
・知る人ぞ知ることですが、大地の龍脈という名前のカードは実は遊戯王劇場版(第1作)に出てきてます。仮の名前、ということでつけていたのですが、結局他に良い名前を思いつかず、そのまま使用することになりました。
・OCG観点で言えばまったく使い道のない永続魔法リサイクルですが、マグナ・スラッシュドラゴンorグラビ・クラッシュドラゴン+大地の龍脈に組み込むとコンボになります。しかし作中で使用する機会がなかったorz
・余談ですがクロウさん、作成中に設定がコロコロ変わったキャラです。女性カードプロフェッサーだったり、男色家だったりしました。


笹来ミオ(ミオ・ササライ)のデッキ:判明分14枚

【上級モンスター】×2
雷帝ザボルグ
風帝ライザー

【下級モンスター】×7
天空の使者 ゼラディアス
グリズリーマザー
雲魔物‐キロスタス
雲魔物‐タービュランス
雲魔物‐スモークボール
雲魔物‐ゴーストフォッグ
雲魔物‐羊雲

【魔法カード】×3
天空の聖域
召喚雲
ダイヤモンドダスト・サイクロン

【罠】×2
アグレッシブ・クラウディアン
スピリットバリア

・いわゆる【雲魔物】と【帝】を組み合わせたデッキ。ミオさんがクロウさんと一緒に構築したのです。
・他の“帝”としては氷帝メビウス採用を考えています。“邪帝”“炎帝”“地帝”は……考え中。“風帝”“雷帝”“氷帝”は雲魔物と組み合わせても、天候に関するってことでイメージが合うんですが……。
・他の魔法、罠としては普通に制限クラスのカードや、雲魔物サポートの雲魔物のスコールやフォッグ・コントロール、低攻撃力モンスター蘇生の永続罠、リミット・リバース等が採用されている、と思います。
・遊戯王wikiで調べたんですが、雲魔物サポートカードには永続魔法が多いため、フィニッシャーに降雷皇ハモンを採用することも無理ではないようですね。



ヘルガ・C・エリゴールのデッキ:判明分21枚

【上級モンスター】×3
暗黒界の魔神 レイン
暗黒界の武神 ゴルド
暗黒界の軍神 シルバ

【下級モンスター】×6
暗黒界の狩人 ブラウ
暗黒界の斥候 スカー
暗黒界の刺客 カーキ
リグラス・リーパー
メタモルポット
ネクロ・ガードナー

【魔法カード】×6
サイクロン
強制転移
貪欲な壺
暗黒界の取引
暗黒界に続く結界通路
暗黒界の雷

【罠】×6
マジック・ドレイン
ガード・ブロック
奈落の落とし穴
硫酸のたまった落とし穴
鎖付きブーメラン
闇の取引

・普通に【暗黒界】デッキ。OCGでの作者愛用のカード群です。【シンクロ暗黒界】とか組んでます。
・ちなみに使用者、ヘルガ・C・エリゴールの“エリゴール”とは、戦況の行く末など、軍事的な質問に的確に答えてくれる戦争好きな悪魔(アビゴール、エリゴスとも呼ばれる)の名前が元ネタです。“ヘルガ・C”の部分は……適当です(ぇ
・「Slash&Crush」初期案では、彼女は少女だったんですが(しかもE・HERO使いだった)、途中で大人の女性に変更。年齢はたぶん、クロウさんと同じくらいです……おや、誰か来たようだ。





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