LEGEND CARD

製作者:MeYさん




TURN 1

デュエルモンスターズの世界には、どんな願いでも叶えられる「レジェンドカード」なるモノが存在していると言われている。
それは複数の欠片となってどこか様々な場所に散らばっており、欠片を全て集めた者だけがその伝説の存在を目にすることになる――それが「レジェンドカード」
決闘者達はその伝説を追い求め日々奮闘し、ひたすらに強い決闘者を狩る者、ただ闇雲に各地を旅する者、それは人それそれだ。
これは伝説を追い求めし一人の決闘者の物語である。

「今日も特にめぼしい情報は得られずですか…」

とある住宅街を一人歩きながらそう呟く少女。
白髪と前髪に付いたヘアピンが特徴的なこの少女の名は「雪代 未弥」
彼女も又、自分の願いを叶える為レジェンドカードを求める決闘者。
恐らくはその件に関して何か手掛かりを探す為にこの住宅街で聞き込みをしていたのだろう。
しかし情報を得ることは出来ずにただただ歩くだけだった。

「…妃奈なら何かわかるかもしれませんね」

突如として現れる「妃奈」と言う名前。
この場で名前が出てくるということは情報屋として活動している人物なのだろうか。
詳細は定かではないが、未弥はこの「妃奈」という人物を頼りにしている事は事実で未弥にとっては最後の希望。

出来るだけ 自分の力で情報を仕入れるようにはしているが、それでもやはり限界はある。
そんな時にいつも助けてくれたのは妃奈と呼ぶ人物の情報網。
そういう存在だからこそ、未弥がその人物の元へと向かう足取りは軽かった。
白い髪を風になびかせて目的の場所へと未弥は向かう。

――数分移動を続けた後、未弥はその目的地に辿りついた。

「という訳で、何かありませんか?」
「…何が『という訳で』かは知らないけど、そろそろ来るんじゃないかと思った」

ツーサイドテールに白と紫の中間色――薄紫の髪、冷たそうな瞳が特徴的なこの女性こそが未弥の探し求めていた「妃奈」と言う人物。
本名は「椿 妃奈柚」であり、その正体は未弥の幼馴染で未弥の良き協力者である。
彼女自身は決闘者ではないがその代わりに、その広い情報網で影から未弥を支えているのだ。
幼馴染とは言え未弥よりも年上なので、未弥にとっては姉のような存在でもある。

普段から色々と頼りにされているだけあり未弥の訪れも予想出来ていたようだ。
自身の目の前に座る未弥に対し、妃奈柚は1枚のビラを渡してみせた。

「デュエルチャンピオンシップ…? これがどうかしましたか?」

妃奈柚が未弥に見せたビラは大会が開催されると言う旨のモノだった。
確かにいきなり大会のビラを見せられてもまるで意味はわからないだろう。未弥が求めているのはレジェンドカードに関する情報であって大会の情報ではない。
尤も、妃奈柚の事だから意味の無い物を見せるはずがないのだが、それでも未弥の頭には何故これを提示されたかハテナマークだ。
しかし、何の脈絡もなく関係のない大会のビラを見せられたわけで、それを見ていきなり理解しろと言うのも不可能。その為、未弥の反応はある種正しい。
この状況でいきなり理解しろと言われてもまともな人間にはまず無理である。

「直接関係はないけど、その大会主催するのはデュエルアカデミア」
「あの決闘者養成施設ですよね、アカデミアって。 マカダミアはナッツですけど」
「そう。 デュエルの学校なんだから何か知ってるに決まってるって、私はそう睨んでる」

未弥に見せたビラに書かれた大会の主催は、あのデュエルアカデミア。
世界各国にある決闘者養成施設であるデュエルアカデミアの大会となれば、何か得られる情報もあるはず。――それが妃奈柚の読み。
時間を見つけてアカデミア内の人物に色々聞いて回る、決闘者ではない妃奈柚がアカデミア内を調べて回るなど情報を得る手段は様々。
それに加えて、大会ともなれば各地から決闘者が集まる。
もしかすると参加者の中にレジェンドカードの存在をしる者もいるかもしれない。
直接関係はなかったとしてもマイナスになることはないと言う事も含め、妃奈柚はこの大会のビラを未弥に提示したのだろう。

「大会なら色んな相手と戦えるし、別に情報なくても損はしないと思うけど。 デュエルの専門学校が何も知らないとは思えないし」
「妃奈が言うなら参加して間違いはなさそうですね。 わかりました、参加します」
「そう言うと思ってもう参加登録してあるわ。 後は予選通過できるかどうかね」

未弥に話を持ちかけるその前に勝手に大会の参加登録を済ましていた。
この行動の速さも妃奈柚の持ち味で、常に冷たそうでやる気の感じられない目をしている割には意外と行動派の女性なのである。
情報を操る人間としては行動派の方が集めやすいというのはあるだろうが、人は見かけによらないとはいったものだ。

「予選があるんですか」
「予選って言っても、アカデミア校舎内でアカデミアの教官とデュエルして勝つだけよ。 出場出来るだけの実力があるかの見極めだと思うけど」
「アカデミア校舎内…なら、探るのも容易ですね」
「上手くいくかはわからないけど、せっかく校舎に入るチャンスを逃せないわ」

予選はアカデミアの校舎内で行われる。
未弥はともかく妃奈柚にとってはこの部分が重要で、校舎内に入ることさえできれば後は好きなだけ校舎内を探れる。
時間がそんなにあるわけではないが、校舎内を探って何か見つかれば儲けもの。
妃奈柚なら一人で色々動けるから未弥はデュエルをして勝てばいい、ただそれだけだ。

しばし会話を交した後、未弥と妃奈柚はアカデミアに向けて旅立つ。
レジェンドカードについての情報を仕入れるために、二人の少女が活動を開始する。
――決闘者「雪代 未弥」のレジェンドカードを巡る物語が今始まった――

―Go To The Next Turn―





TURN 2-1

レジェンドカードについての情報を仕入れるべく、何故かデュエルアカデミア主催の「デュエルチャンピオンシップ」に参加することになった未弥。
そして、今まさにその予選が行われるデュエルアカデミアの前に未弥達はいた。

今回の大会に於いて、予選はアカデミア本校でアカデミアの教師とデュエルを行うという形式だが、本選開始前日までの好きな日に予選を行うことができるという特殊なルール。
予選日というものを定めてしまうと一度にたくさんの参加者が現れて教師達も手が回らない、そう言った事を防止する為の処置とも取れなくもない。
アカデミアの教師数名で大多数の決闘者達の相手をしなくてはならないのだから、参加者を分散させられるように予選日を本選開始前日までと定める。
期間を多めに取ればその分一日の参加者も減るというわけだ。
ただ、参加者が少なければ少ないほど妃奈柚が校舎を探る時間が少なくなってしまう為に、妃奈柚にとってはそれはマイナスである。

「じゃあここからは別行動ね」

校舎内で別れてしまうと怪しまれる可能性があるが、校舎外であればその怪しさを多少は軽減できる。
怪しまれてマークされてしまってはここに来た意味がない。
もちろん、こうした施設などを勝手に探索するわけだから多少のリスクは付き物ではあるが、まずは何よりも怪しまれないように自然に行動すること。

それぞれ未弥は予選を受けるべく校舎内へ。妃奈柚はまずは外から人気のない場所を狙って内部に侵入する様だ。
外でウロウロしてる方が怪しまれそうだがそこは突っ込んではいけない。

――さて、ここで視点を予選に挑む未弥に移そう。
妃奈柚と別れた後、予選会場となるデュエルリンクで受付を済ませ、後は自分の番を待つのみ。
未弥にとっては幸いなことに、参加人数自体もさほど多くなくすぐにデュエルを行う事ができそうだ。
余談だが、現在予選が行われているこのデュエルリンクという場所は、入試の実技試験の会場として使われている場所である。
そんな場所の観客席で、未弥は自分の出番を今か今かと待っているのだ。

「受付番号7番、雪代未弥さん。 5番のデュエルコートへどうぞ」

場内に未弥を呼ぶアナウンスが響く。
そのアナウンスと同時に、未弥は観客席の椅子から腰を上げてコートへ向けって駆け出した。

「受付番号7、雪代未弥です。 よろしくお願いします」

コート内で予選の相手であるアカデミア教師に一礼する。
今回の場合は大会の予選ということもあって受付番号と氏名の確認も兼ねているのだ。
確認を怠ってトラブルでも起きたらそれはもう大変。そうならない為にも確認はしっかり取らなくてはならない。

挨拶を終えてコートに立つ未弥と教師はそれぞれディスクを構える。
今この瞬間、大会本選出場へ向けて未弥の予選が始まった。

『デュエル!』

未弥のディスクに浮かび上がる「TURN」の文字。
どうやら先攻は未弥の様だ。

「私からですね、ドロー。 デブリ・ドラゴンを守備表示で召喚します」

先攻のプレイヤーはルールによって攻撃を行うことができない。
それならば、まずは守備力の高いモンスターを召喚する事で相手の出方を見るのも作戦としてありだろう。
どうせ攻撃できないのならば守りを固める。攻めるだけではなく防御も大切な戦術である。

「さらにカードを1枚伏せてターンエンドです」

未弥 LP8000 手札:4枚 場:デブリ・ドラゴン(守備/Def2000) 伏せ1

モンスターと伏せカードを1枚ずつ場に出してターンを明け渡す。
ターンエンドの声を聞き、そのターンが相手に移る。

「俺のターン。 手札よりビッグ・ピース・ゴーレムを効果によりリリース無しで召喚する」
「…いきなり攻撃力2100ですか」

ビッグ・ピース・ゴーレム
☆5 2100/0 地・岩石
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードはリリースなしで召喚する事ができる。

「バトル。 ビッグ・ピース・ゴーレムでデブリ・ドラゴンを攻撃。 パワープレッシャー!」

ビッグ・ピース・ゴーレムの攻撃が未弥の場のデブリ・ドラゴンに襲いかかる。
守備力の高いデブリ・ドラゴンといえどビッグ・ピース・ゴーレムの攻撃力には適わない。
――が、ビッグ・ピース・ゴーレムの攻撃は届くことはなかった。

「速攻魔法、エネミーコントローラーです。 効果によりビッグ・ピース・ゴーレムを守備表示に変更しました」
「やはり防御系カードか。 カードを2枚伏せてターン終了だ」

教師 LP8000 手札:3枚 場:ビッグ・ピース・ゴーレム(守備/Def0) 伏せ2

先に攻撃に転じた教師だが、未弥のカードの効果によってその攻撃は防がれターンを終了した。
互いの場に守備モンスターが存在するが、まだまだ序盤。状況に変わり無しといったところか。

「私のターン。 ハンター・アウルを攻撃表示で召喚です」

ハンター・アウル
☆4 1000/900 風・鳥獣
自分フィールド上に表側表示で存在する風属性モンスター1体につき、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
また、自分フィールド上に他の風属性モンスターが表側表示で存在する限り、相手はこのカードを攻撃対象に選択する事はできない。

「ハンター・アウルの攻撃力は私の場の風属性モンスター1体につき500ポイントアップします。 私の場の風属性モンスターは2体ですので1000ポイントアップです」

ハンター・アウル Atk:1000⇒2000

「バトルです。 ハンター・アウルでビッグ・ピース・ゴーレムを攻撃!」
「…通そう」

ビッグ・ピース・ゴーレム:破壊⇒墓地

「私はこれでターンを終了します」

未弥 LP8000 手札:4枚 場:ハンター・アウル(攻撃/Atk1000⇒2000)/デブリ・ドラゴン(守備/Def2000) 伏せ無

先に相手のモンスターを破壊したのは未弥。
ダメージは与えることはできなかったが先手で動くことができたのは事実。
この戦闘によってデュエルは動き出したと言えるだろうか。

「俺のターン、ドロー。 俺は墓地のビッグ・ピース・ゴーレムをゲームから除外して、手札からギガンテスを攻撃表示で特殊召喚する」

ギガンテス
☆4 1900/1300 地・岩石
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の地属性モンスター1体をゲームから除外して特殊召喚する。
このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

「さらに、特殊召喚したギガンテスをリリースしE-HERO マリシャス・エッジを召喚する」
「レベル7なのにリリース1体ですか?」
「マリシャス・エッジは、相手の場にモンスターが存在している場合リリースを1体減らすことができるんだ」

E-HERO マリシャス・エッジ
☆7 2600/1800 地・悪魔
相手フィールド上にモンスターが存在する場合、このカードはモンスター1体をリリースして召喚できる。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「確かハンター・アウルは他に風属性モンスターがいる時攻撃対象に出来なかったな。 ならば、マリシャス・エッジでデブリ・ドラゴンに攻撃。 『ニードル・バースト』」

マリシャス・エッジの鋭い爪がデブリ・ドラゴンの体を貫き、デブリ・ドラゴンはその攻撃の前に敗れ去った。
――デブリ・ドラゴンを貫いた爪は、その勢いを保ったまま未弥にも襲いかかる。

「――っ!?」

マリシャス・エッジの爪はモンスターごと未弥も貫き、未弥のライフにダメージを与えた。

未弥 LP8000⇒7400 デブリ・ドラゴン:破壊 ハンター・アウルAtk2000⇒1500

「マリシャス・エッジが守備モンスターを攻撃した場合、守備力より攻撃力が高ければその分貫通ダメージを与える」
「2600の貫通持ち…中々強力なカードですね」
「そうだな、だがここで攻撃は終わりではない。 リバース発動!化石岩の解放」

化石岩の解放
永続罠
ゲームから除外されている自分の岩石族モンスター1体を選択して特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

「この効果で除外されているビッグ・ピース・ゴーレムを特殊召喚する。 そして、ビッグ・ピース・ゴーレムでハンター・アウルを攻撃、パワープレッシャー!」
「くっ…」

未弥 LP7400⇒6800 ハンター・アウル:破壊

「俺はこれでターンを終了する」

教師 LP8000 手札:2枚 場:マリシャス・エッジ(攻撃/Atk2600) ビッグ・ピース・ゴーレム(攻撃/Atk2100) 伏せ1

先手を取って相手のモンスターを破壊したのは未弥だったが、2体のモンスターの攻撃によってその形勢は一気に逆転。
壁となるモンスターを失ったどころか貫通ダメージと攻撃表示での超過ダメージによって1000以上のライフを削られてしまった。
ただ、まだまだデュエルは始まったばかり。
ここからどう転ぶかはまだわからない。





TURN 2-2

「私のターンです。 (手札にあるモンスターではマリシャスに倒されてしまいますね、なら…) 手札から速攻魔法フォー・オブ・アカインドを発動します」

フォー・オブ・アカインド
速攻魔法
自分のデッキからカードを4枚選択し、モンスターカード扱い(攻守0)としてモンスターカードゾーンに裏側守備表示でセットする。
この効果でセットされたカードがエンドフェイズにフィールド上に存在していた場合、そのカードを全て手札に加える。

「フォー・オブ・アカインド? 何だそのカードは」
「フォー・オブ・アカインドは自分のデッキから4枚のカードをモンスター扱いとしてセットできるカードです。 このカードの効果により、私は4枚のカードをフィールド上にセットします」

デッキからカードをセットする事によって壁を作り出し、特定のカードをサーチできるという効果をもったカード。
この効果によって未弥の場に4枚の壁が一致に現れる。

「さらに私は、4枚の内の1枚をリリースして手札からアームド・ドラゴン LV5をアドバンス召喚します」

アームド・ドラゴン LV5
☆5 2400/1700 風・ドラゴン
手札からモンスター1体を墓地に送る事で、そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

「アームド・ドラゴンか…。 だが、効果を使わなくてはマリシャスは倒せない」
「まだ終わりではないんですよ。 墓地にあるネフティスの羽吹雪をゲームから除外してデッキから超レベルアップ!を手札に加えます」
「何っ!?」

ネフティスの羽吹雪
通常魔法
セットされたこのカードがカードの効果によって墓地に送られた時、相手フィールド上のカードを3枚まで墓地に送る。その後、墓地に送ったカードの枚数まで自分の墓地からカードを選択して手札に加える。
このカードが墓地に存在する場合、以下の効果を選択して発動できる。
●このカードをゲームから除外する事で、自分のデッキからカードを1枚選択して手札に加える。
●自分の墓地に存在するこのカードと、魔法又は罠カードをゲームから除外する事で、この効果によって除外したカードの効果を発動する。この効果は相手ターンでも使用できる。

超レベルアップ!
速攻魔法
自分フィールド上に存在する「LV」と名の付いたモンスター1体を墓地に送る。
墓地に送ったモンスターよりもレベルの高い「LV」と名の付いたモンスター1体を手札またはデッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは召喚条件を満たしたとして扱う。

「そして、手札に加えた超レベルアップ!の効果を発動します。 アームド・ドラゴン LV5を墓地に送り、デッキからアームド・ドラゴン LV10を特殊召喚!」

アームド・ドラゴン LV10
☆10 3000/2000 風・ドラゴン
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「アームド・ドラゴン Lv7」1体をリリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。
手札を1枚墓地に送る事で、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

「一瞬でLV10…!」
「LV10の効果発動。 手札1枚を墓地に送り、相手フィールド上の表側モンスターを全て破壊します」

E-HERO マリシャス・エッジ:破壊 ビッグ・ピース・ゴーレム:破壊 化石岩の解放:破壊

「コストとして墓地へ捨てた幼鳥シムルグの効果を発動します。 このカードが墓地に送られた時、手札に戻します」
「使い減りしない手札コストか…」

幼鳥シムルグ
☆4 1200/1900 風・鳥獣
このカードが墓地に送られたとき以下の効果からひとつ選んで発動する。
●自分フィールド上に「シムルグトークン(風・鳥獣 1000/1000)」を2体守備表示で特殊召喚する
●このカードを手札に戻す

「バトルフェイズです。 LV10でダイレクトアタック! アームド・ビッグ・バニッシャー!」
「ぐあぁぁぁっ!?」

教師 LP8000⇒5000

「そして私は手札から1枚カードを伏せ、エンドフェイズにフォー・オブ・アカインドの効果でセットしたカード3枚を手札に加えてターンエンドです」

未弥 LP6800 手札:5枚 場:アームド・ドラゴン LV10 伏せ1

相手が1ターンで形勢逆転したものの、未弥も負けていなかった。
1体のモンスターで相手モンスターをすべて除去し、さらに直接攻撃でライフを大きく削る。
アームド・ドラゴン LV10の効果で相手のモンスターを一掃して、さらに3000ものダメージ。
こちらもわずか一撃で状況を一変させた。

「俺のターン、ドロー。 手札より魔法カードダーク・コーリングを発動」

ダーク・コーリング
通常魔法
自分の手札・墓地から融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚できるその融合モンスター1体を「ダーク・フュージョン」による融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

「岩石族と悪魔族…あのカードですか」
「俺は墓地のマリシャス・エッジとビッグ・ピース・ゴーレムをゲームから除外してE-HERO ダーク・ガイアを特殊召喚する」

E-HERO ダーク・ガイア
融合・効果
☆8 ?/0 地・悪魔
このカードは「ダーク・フュージョンの効果でのみ特殊召喚できる。
このカードの元々の攻撃力は、このカードの融合素材としたモンスターの元々の攻撃力を合計した数値になる。
このカードの攻撃宣言時、相手フィールド上に守備表示で存在する全てのモンスターを表側攻撃表示にできる。
この時、リバース効果モンスターの効果は発動しない。

「ダーク・ガイアの攻撃力は、融合素材としたモンスターの攻撃力の合計。 よって攻撃力は4700だ」

2体の上級モンスターを除去したと思いきや、すぐさま新しい上級モンスターを呼び出してきた。
特殊な方法で攻撃力が決まるモンスターなので攻撃力は不安定ではあるが、素材としたモンスターが強ければ強いほどその攻撃力も高くなるというモンスター。
一撃必殺級の攻撃力を得ることができるというのが何よりの強みだろう。

「(手札に伏せ除去カードはないか…。 仕方ない)ダーク・ガイアでLV10を攻撃、ダーク・カタストロフ!」
「リバースカードオープン、『ディバイン・ウインド』」

アームド・ドラゴンに襲いかかるダーク・ガイアの攻撃。
その攻撃を突如として吹き荒れる突風が防ぎ、アームド・ドラゴンに届くことはなかった。

「ディバイン・ウインドは、自分が1000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける時、その戦闘を無効にしてバトルフェイズを終了させます」
「くっ…攻撃反応型罠か…」
「さらに、自分の手札かデッキから風属性モンスターを墓地に送る事で、墓地に送ったモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与えます」
「なんだと…!?」
「私はデッキからガーディアン・エアトスを墓地へ送り、その攻撃力の半分――1250ポイントのダメージを与えます」

デッキからカードが墓地へ送られると同時に、先ほど攻撃を防いだ風が相手の場へと襲いかかる。
風は相手の場を包み込むと、そのまま勢いを増してダメージを与える。

「うわぁぁっ!?」

教師 LP5000⇒3750

「効果によりバトルフェイズは終了ですね」
「くっ…。 ターンエンドだ」

教師 LP3750 手札:2枚 場:E-HERO ダーク・ガイア 伏せ1

攻撃力の高いモンスターを呼び出しすぐさま攻撃に転じたが、未弥の伏せカードによってその攻撃は通らずライフを削ることは出来なかった。
本来であれば伏せは除去しておきたかったが、手札に除去できるカードがなければ仕方ない。
場にモンスターは残ってはいるが、未弥の場のアームド・ドラゴン Lv10は破壊効果を持ったモンスター。できれば破壊しておきたかったのが本望だろう。

「私のターン、ドロー。 せっかくですが、ダーク・ガイアには退場願いましょうか。 手札の幼鳥シムルグを捨てて破壊効果を発動します。 ジェノサイド・カッター!」

E-HERO ダーク・ガイア:破壊

「破壊にチェーンして神秘の中華なべを発動。 ダーク・ガイアをリリースして4700ポイントのライフを回復する」

教師 LP3750⇒8450 E-HERO ダーク・ガイア:墓地

「効果処理後、手札から捨てた幼鳥シムルグを手札に戻します。 しかし、破壊は免れても場はガラ空きです。 LV10でダイレクトアタック、アームド・ビッグ・バニッシャー!」

教師 LP8450⇒5450

「自分フィールド上にカードが存在しない場合にダメージを受けた場合、手札から冥府の使者ゴーズを守備表示で特殊召喚する」

冥府の使者ゴーズ
☆7 2700/2500 闇・悪魔
自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けたときこのカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。
このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

「効果によって呼び出すカイエントークンも守備表示で特殊召喚。 カイエントークンの守備力はLV10と同じ3000だ」

アームド・ドラゴンの攻撃終了後、相手の場には2体のモンスターが現れる。

「ゴーズですか。 確かにカイエントークンを守備表示ならばLV10には戦闘で破壊されません。 でも、LV10の効果は手札がある限り使えます。 手札の幼鳥シムルグを捨てて、ジェノサイド・カッター!」
「ぐっ…」

冥府の使者ゴーズ:破壊 カイエントークン:破壊

特殊な条件を持つモンスターを呼び出したが、それはすぐさま場から消え去る。
未弥の場のアームド・ドラゴン LV10の持つ破壊効果は回数宣言がなく、手札があれば1ターンに複数回発動することができる。
効果破壊に耐性のあるモンスターでないなら、その効果で破壊すればいいだけなのだ。

「コストで捨てた幼鳥シムルグを回収し、その幼鳥シムルグを守備表示で召喚しターンエンドです」

未弥 LP6800 手札:5枚 場:アームド・ドラゴン LV10 幼鳥シムルグ(守備/Def1900) 伏せ無し

カードの効果によってそのライフを大きく回復されたものの、結果的には攻撃を通して3000のダメージを与えた。
ライフポイントにさほど大きな差は無いがフィールドの状況などをみるに未弥がやや優勢か。

「俺のターン、ドロー。 リバースカードを1枚伏せてターンを終了しよう」

所謂手札事故を起こしたか、場に伏せカードを出しただけでターンを終了した。

教師 LP5450 手札:1枚 場:無し 伏せ1

「私のターン、ドロー。 バトルです。 LV10でダイレクトアタック!アームド・ビッグ・バニッシャー!」

アームド・ドラゴンの拳が相手である教師に向けて放たれる。
しかし、その攻撃は見えない壁によって阻まれてしまう。

「トラップカード、ガードブロック。 相手ターンの戦闘で発生するダメージを0にしてドローする」
「そちらも攻撃反応型罠ですか…。 では、手札を1枚伏せてターンを終了します」

未弥 LP6800 手札:5枚 場:アームド・ドラゴン LV10 幼鳥シムルグ 伏せ1

先ほどまでのターンとは打って変わって、このターンはお互いに攻撃を通すことができずに終わった。
ただし、依然として未弥の場には2体のモンスターが存在しており、攻撃は凌いだがその数を減らすことはできなかった。
これが吉と出るか凶と出るか。

「俺のターン。 俺は再びダーク・コーリングを発動。 手札のマリシャス・エッジと墓地のダーク・ガイアを除外し、出でよ!E-HERO マリシャス・デビル!」

E-HERO マリシャス・デビル
☆8 3500/2100 炎・悪魔
「E-HERO マリシャス・エッジ」+レベル6以上の悪魔族モンスター
このカードは「ダーク・フュージョン」による融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手ターンのバトルフェイズ中に相手フィールド上に存在するモンスターは全て表側攻撃表示になり、相手プレイヤーは全てのモンスターでこのカードを攻撃しなければならない。

「攻撃力3500…」
「行くぞ。 マリシャス・デビルでLV10を攻撃! エッジ・ストリーム!」

マリシャス・デビルの爪がアームド・ドラゴン LV10へと一直線で襲いかかる。
LV10もその攻撃を迎撃するが、やはり攻撃力の差で勢いを殺すまでには至らず、その爪の前に敗れ去った。

「きゃっ!?」

未弥 LP6800⇒6300 アームド・ドラゴン Lv10:破壊

「俺はこれでターン終了だ」

教師 LP5450 手札:1枚 場:E-HERO マリシャス・デビル(攻撃/Atk3500)

ここまでその高い戦闘力と強力な効果で場を制圧し続けて来たアームド・ドラゴン LV10が破壊された。
ダメージ量自体はわずかとは言え、それと引き換えに失った攻撃力3000の代償がそれ以上に大きいか。

本選出場を賭けたアカデミアでのデュエル。
その予選の決着はもう少し先になりそうだ――。

―Go To The Next Turn―





TURN 3

未弥 LP6300 手札:5枚 場:幼鳥シムルグ 伏せ1
教師 LP5450 手札:1枚 場:E-HERO マリシャス・デビル 伏せ無し

「私のターン、ドロー。 手札より、魔法カード貪欲な壺を発動します。 墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドローできます」
「墓地回収と手札増強か」

未弥の墓地に存在するモンスターはデブリ・ドラゴン、ハンター・アウル、アームド・ドラゴン Lv5と先ほど破壊されたLV10、そして罠カード「ディバイン・ウインド」の効果で墓地に送られたガーディアン・エアトスの計5枚。
つまり、自分の墓地に存在するモンスターすべてをデッキに戻してドローする事ができるということだ。
デュエルディスクの墓地から流れるように吐き出された墓地のモンスターを慣れた手付きでデッキへ戻してシャッフルすると、その後にカードを2枚ドローした。

「手札よりドラグニティ―ブラックスピアを召喚し、私の場の幼鳥シムルグとチューニングします」
「チューニング…まさかシンクロ召喚か!?」

――聖なる守護の光、今交わりて永久の命となる。

「シンクロ召喚! 降誕せよ、エンシェント・フェアリー・ドラゴン!」

エンシェント・フェアリー・ドラゴン
☆7 2100/3000 光・ドラゴン
シンクロ
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。
この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。
また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
フィールド上のフィールド魔法カードを全て破壊し、自分は1000ライフポイント回復する。
その後、デッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

未弥の場に姿を現したのは青く細長い体と妖精の羽のような大きな翼を持った神秘的なモンスター。
その名に反してあまりドラゴンのような見た目ではないものの、他のドラゴンとは違った神秘的な力を感じる。

「そして、シンクロ素材として墓地に送られた幼鳥シムルグの二つ目の効果発動。 墓地に送られた時『シムルグトークン』を2体守備表示で特殊召喚します」
「なるほど、無限コストや壁以外にもそういう効果があったとはな」

幼鳥シムルグは、墓地に送られた時に自身を手札に戻すかトークンを生成する効果を選択して矯正発動するモンスター。
今回未弥が選んだのはトークンを生成する効果だった。
その効果を発動した未弥の場には、自身の分身とも言える鳥の羽が2枚存在していた。
自身と引き換えに壁となる羽を残す。この羽こそがトークン。

「このターンはバトルフェイズをスキップし、カードを1枚セットしてターンエンドです」

未弥 LP6300 手札:5枚 場:エンシェント・フェアリー・ドラゴン(攻撃/Atk2100) シムルグトークン×2(守備/Def1000) 伏せ1枚

一度に3体のモンスターを展開したが、マリシャス・デビルの攻撃力には及ばない為にバトルは行わずそのまま未弥はターンを終了した。

「俺のターン、ドロー。 マリシャス・デビル、エンシェント・フェアリー・ドラゴンにエッジストリーム!」

マリシャス・デビルの自慢の爪がエンシェント・フェアリー・ドラゴンを貫くべく、一気に放たれる。
失速することなく目標に向かう爪――その標的であるエンシェント・フェアリー・ドラゴンを貫いた。
――かに思えるが。

「この瞬間、リバースカード、バスター・モードを発動します!」
「何っ!?」

バスター・モード
通常罠
自分フィールド上のシンクロモンスター1体をリリースして発動できる。
リリースしたシンクロモンスターのカード名が含まれる「/バスター」と名のついたモンスター1体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。

「エンシェント・フェアリー・ドラゴンをリリースして、デッキからエンシェント・フェアリー・ドラゴン/バスターを特殊召喚します」

エンシェント・フェアリー・ドラゴン/バスター
☆9 2600/3500 光・ドラゴン
このカードは通常召喚できない。「バスター・モード」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードは特殊召喚に成功した時守備表示になる。
このカードは守備表示のまま攻撃を行うことができる。その場合守備力を攻撃力として扱う。
1ターンに一度、自分の手札又は墓地からこのカードの攻撃力以下の攻撃力を持ったモンスターを
特殊召喚できる。この効果を発動したターン、このカードは攻撃宣言できない。
又、1ターンに一度、相手フィールド上のカードを一枚破壊することができる。破壊した場合、自分
は1000ポイント回復する。
このカードが破壊された時、自分の墓地から「エンシェント・フェアリー・ドラゴン」を1体特殊
召喚する。

爪は確かにエンシェント・フェアリー・ドラゴンを貫いたはずだった。
――が、その場に存在していたのは武装したエンシェント・フェアリー・ドラゴンだった。
その体に纏った鎧は爪を弾き、傷一つ付いていない。

「守備3500!? なんだそのモンスターは」
「これがエンシェント・フェアリー・ドラゴンの真の姿です。 言うなれば最強の守護神と言ったところでしょうか」

最強の守護神――その強固な守備力はまさにそう呼ぶにふさわしい。
強固な鎧を纏って武装した姿こそ、エンシェント・フェアリー・ドラゴンの真の姿。

「攻撃力と守備力は互角…! ならば戦闘を巻き戻してトークンを攻撃する! エッジ・ストリーム」

シムルグトークン:破壊 残り1

本来の攻撃対象である場を離れ、マリシャス・デビルは攻撃対象を失った。
この場合、新たに攻撃対象を選び直す必要がある。これを戦闘の巻き戻しという。

――標的を変えた爪は、未弥の場に漂う貧弱な羽を貫き破壊した。

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

教師 LP5450 手札:1枚 場:E-HERO マリシャス・デビル 伏せ1

未弥の場のエンシェント・フェアリー・ドラゴンを破壊しにかかったが、それを起点に新たなモンスターを呼び出した。
結果的にはモンスターの数を減らすことはできたものの、守備力3500を誇るモンスターは場に残ってしまい、逆転の起点には至らずにそのターンが終わる。

「私のターンです、ドロー。 トランスフォーム・スフィアを召喚します」

トランスフォーム・スフィア
☆3 100/100 風・鳥獣
1ターンに1度、相手フィールド上に表側守備表示で存在するモンスター1体を選択して発動する事ができる。
手札を1枚捨て、選択した相手モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する。
このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
エンドフェイズ時、このカードの効果で装備したモンスターを相手フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する。

「さらに、場のトランスフォーム・スフィアとシムルグトークンに墓地の幼鳥シムルグをゲームから除外し、手札からThe アトモスフィアを特殊召喚します」

The アトモスフィア
☆8 1000/800 風・鳥獣
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター2体と自分の墓地のモンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力はこのカードの効果で装備したモンスターのそれぞれの数値分アップする。

未弥の場に腹部に球体を抱えた鳥型モンスターが現れる。

「3体のモンスターを除外して攻撃力1000のモンスターを特殊召喚?」
「The アトモスフィアは、1ターンに1度相手の表側表示モンスターを吸収してその攻撃力と守備力を得ることができます」
「…まさか!?」
「そのまさかです。 The アトモスフィアの効果により、マリシャス・デビルを装備します」

The アトモスフィア Atk1000⇒4500

教師のフィールドに存在していたマリシャス・デビルは、アトモスフィアの持つ球体へと取り込まれ、そのままアトモスフィアの装備カードとなった。
マリシャス・デビルを吸収したアトモスフィアの体は緑色のオーラを纏い、自身の攻撃力をあげる。
「そして、エンシェント・フェアリー・ドラゴン/バスターの効果により、そのリバースカードを破壊し、私は1000ライフ回復します」

エンシェント・フェアリー・ドラゴンから放たれた光のブレスが、相手のリバースカードを消し去り、その光は未弥に加護を与えた。

未弥 LP6300⇒7300

「これで攻撃を防ぐ物は無くなりました。 The アトモスフィアでダイレクトアタック!テンペスト・サンクションズ!」

教師 LP5450⇒950

「これで最後です。エンシェント・フェアリー・ドラゴン/バスター、サンシャイン・バスター!」
「うわあああ!?」

教師 LP950⇒0

アトモスフィアの攻撃とエンシェント・フェアリー・ドラゴンの攻撃を遮るものはない。
2体のモンスターの攻撃力を考えればライフを削り取るのには十分な攻撃だった。
攻撃によってコート内には大きく砂塵が舞い上がり、その威力の高さを伺わせる。

――その砂塵が晴れた時、未弥の勝ちは決まった。

「君の勝ちだ。本選でも頑張って」
「ありがとうございます」

勝利。つまり、この瞬間に未弥は本選出場権利を得たということになる。
本選への参加証を教師より受け取り、正式に本選出場が決まった。
この時、未弥は少し安堵の表情を浮かべていた。

「しかし、君は中々面白いデッキを使うな」
「そうですか?」

相手となった教師の目には未弥のデッキは面白いと写ったらしい。
未弥のデッキは風属性のドラゴン族及び鳥獣族を中心に構築されているのだが、それはアームド・ドラゴンだったりアトモスフィアだったりと纏まりがない。
さらに、これらのサポートカードに加えてデュエル中にも発動したバスター・モードなど事故の素になりかねないカードが投入されているのだ。
それ故、爆発力は高いが安定感はまるでないというロマンあるデッキ。
だが、その爆発力の高さこそが未弥のデッキの強みでもある。

「あぁ。レベルモンスターに/バスター、しかも最後のアトモスフィアとか少し詰め込みすぎている」
「よく言われます」

思わず苦笑。
対戦相手からデッキ構築について色々と突っ込まれるのはもはや日常茶飯事。
確かに詰め込みすぎているのは事実だし、未弥もそれは把握している。
どんなにごちゃ付いたデッキであっても未弥にとっては最も使いやすいデッキなのだ。
誰にどう言われようとも、自分が良いのならそれで全て解決する。

しばしのやりとりの後、未弥は軽く頭を下げてその場を去った。
デュエルも終わったことだし、いつまでも長居している訳にもいかない。
別行動している妃奈柚とも合流しないといけないのだから。
――ここから
――さて、ここで未弥と別れた後の妃奈柚に視点を移してみることにしよう。

「この辺りから中に入れそうね」

未弥と別れ別行動を取る妃奈柚は、暫く敷地内を探索した後に裏口のような場所から内部への侵入を試みる。
正面から強行突破するのなら未弥について行けば良い。
だが、同じ入口から入って片方がウロウロしていたらそれもそれで怪しい。ということで裏口からの侵入を目指すというわけだ。

通常、裏口というのは関係者でなければ入れないことが多い。
それでも、そう言った事を生業とする妃奈柚にとってはそんなことは大した障害ではない。

「関係者以外立ち入り禁止…ね、ご丁寧に鍵まで掛けてるわ。ま、鍵は開ければいいだけだけど」

扉の前で何やらゴソゴソとポケットを弄り何かを探す。
鍵は開ければ良い、と言う泥棒のようなセリフ。
最も、何かの情報を得るために侵入を試みる訳だから泥棒にも似ているかもしれないが。

「さて、じゃあレッツピッキングと行きますか」

ポケットから取り出した器具を手に、扉の前でそう呟く。
合鍵がないならピッキングするだけ。こういう仕事をしているのだからそれくらいの技術はある。
よほど複雑な鍵でなければ器具を使ってピッキングするなど容易。
一般的な鍵の構造であれば、熟練した者を以てしておよそ十数秒で開けることも出来ると言われている。

鍵に器具を差し込んでカチャカチャ音を立てながらもそのロックを解除する。
手に持った一方の器具で鍵のピックを押さえながら、もう一方の器具を差して回転。
この作業を行うことで、鍵などなくても一瞬で開錠することができる。
テレビなどでは針金一本で鍵を開けているのだが、構造上それは中々に難しく、所謂テンションキーというものを押し上げて回転させなければ開錠は出来ないのだ。

――数秒の作業の後、その鍵はあっけなく開錠した。

「アカデミアの裏口だけど、校舎に繋がってる訳ではないのね。ちょっと探ってみないとね」

ピッキング器具をポケットにしまいながら、その扉を開けて歩を進める。
アカデミアの裏口だが、その中身は校舎とは似ても似つかない倉庫の様な場所。
恐らくはどこかにアカデミアに続く扉があるはずだが、今回の狙いはそれではない。
今回の狙いはあくまでも情報収集。
否が応にも、この倉庫のような場所ならば何かあるのではないかと勘ぐってしまう。

「中は結構広いのね。それでこそ探りがいがあるわ」

辺りをキョロキョロと見渡しながらゆっくりとその倉庫の中を歩く。
さすがは天下のデュエルアカデミアとでも言うべきか、その中は広いらしい。
広さ故かまるで人の気配がなく、本当に管理されてるのかすらも怪しくなるほど。
その静寂は、妃奈柚の足音が寂しく響き、それすらもうるさく感じる位のものだ。

暫く倉庫の中を歩いてもまるで人の気配がない。
人どころか物がある気配もなく、本当にここが倉庫なのかも怪しくなってくる。

気配の感じない倉庫を探っていた時だった。
カチっと何かを踏んだような音と感触があった。

「…は? 何この音」

おそらく床にセットされていたスイッチだろう。
下は見て歩いていなかっただけに、この隠しスイッチには妃奈柚も気付かなかった。
想定外の出来事に妃奈柚はその場に立ち尽くす。
想定外の出来事が起きた時は下手に行動を起こすべきではないのが正解だというが、この場合は果たしてどうか。

スイッチを踏んだ音が倉庫内に響き渡り、数分後、何者かが走ってくるような足音が聞こえてくる。

「なるほど。不審者見つけるためのスイッチってことね」

そうぼそりと呟き、その場で走る体制を整える。
足音から察するに一人や二人ではなく多人数。
妃奈柚にとっては明らかに不利な状況だが、それでもこの多人数の警備を掻い潜らないといけない。
相手はここの地形を把握している以上、ここの中で逃げ回っても捕まるだけ。
恐らくは単純な脚力でも妃奈柚に勝ち目はない。
――ならば。

「見つかったら立ち去るのみってね」

妃奈柚が走り出した方向は、先ほど自分が入ってきた入口。
倉庫内を逃げ回るのではなく倉庫から出て、あわよくばまいてしまおうという事だろう。
逃げ場所が限られる上によくわからない場所よりは外の方が巻きやすい。
妃奈柚の頭脳が瞬時にそれを判断した。

幸いまだ追っ手は遠い。
距離を詰められる前にこの倉庫から脱出する。
足は速くなくても距離があれば少しは時間くらいは稼げるだろう、と駆け出した。

「いたぞ、あっちだ!」

追っ手の一人が妃奈柚の存在に気づき、指を指しながら仲間にそれを知らせる。
その指指す方向に、複数の追っ手が一度に走り出し、又一部の人間はさらに応援を求めていた。
人数が増えれば増えるだけ逃げる場所が少なくなる。
あまり人数が増えるのは妃奈柚にとっては不味い。

妃奈柚は追っ手が追いつく前に何とか外に逃げることはできた。
が、妃奈柚とプロの追っ手では走力は圧倒的。
気づけば差を詰められて、背後だけでなく正面、左右からも追っ手が迫る。
囲まれては走って逃げることは出来ない。
――それでも妃奈柚は諦めない。

「前後左右、完全に包囲されたわね…。なら――」

周りを囲まれても走ることを止めずに正面の追って集団に突っ込んでいく。
周りの追っ手は一斉に走り、妃奈柚の確保に入ろうとした。
妃奈柚が向かって走っていった正面の追っ手軍団が、その身柄を確保しようと腕を伸ばす。
しかし、その伸ばした腕はターゲットを捉えることはできなかった。
次の瞬間にはその追っ手集団は足をつまづいたかのように崩れ落ちてしまった。

「足を崩せばどんなに強くても陥落するものよ。支えがなくては立てないからね」

何故追っ手達はいきなり崩れ落ちたのか。
それは、伸ばされた腕を交わした時にスピードを落とさずに足を狙ってスライディングをしたから。
どんなに力が強くても、体を支える足を崩されると一瞬で陥落するのだ。
それを見越して妃奈柚は思い切り突っ込み、勢いを殺さないように滑り込んだだけのこと。
脚力で勝てないなら脚力を一時的に封じてやればいい。

「さて、見つかっちゃったし未弥の所行こうかしら」

服を軽く叩いて汚れを落とすと同時に、その場から走り出す。
追っ手から逃げる為に外に出たので未弥のいるアカデミアまではそう遠くない。
妃奈柚の脚力でもアカデミアで未弥と合流出来るくらいの時間稼ぎ位にはなる。
合流したらその後はその時に考えれば良い。

妃奈柚は走る。
共に行動を共にしてきた友人と合流するために。
走ってる数分の時間は妃奈柚にとっては非常に長い時間だっただろう。
走り続けたその先に合流すべき友人――未弥の姿があった。

「未弥!」
「妃奈!? もう用事は済んだんですか?」
「それは良いから。 早くここから逃げるわよ」

追われるのは慣れているはずの妃奈柚だが、その口調はどこか焦っているようにも感じられる。
自分一人で行動しているのであれば追っ手位は簡単にまけるかもしれない。
しかし、今日は別行動していたとはいえ未弥と一緒。それが妃奈柚を微妙に焦らせたか。
普段決闘者として活動する未弥は妃奈柚の様に追っ手に追われた経験は無い訳だから妃奈柚が焦る気持ちもわかる。

――だが、その焦りが妃奈柚を狂わせた。

「残念だが、そう簡単に逃がすわけにはいかんのだ」
「――っ」

未弥の元へと急ぐあまり、周りの事が見えていなかった。
忍び込んだ倉庫から来た追っ手はなんとかまいた。それまでは良かったが、その追っ手組が未弥の待つアカデミア側に連絡を入れられるとは誤算。
否、普段通りならそこまで頭が回ったはず。
追われた経験の無い未弥の存在が妃奈柚の思考を狂わせ、未弥と合流する事しか考えていなかった。
そこを相手に上手く利用されたという事。

妃奈柚はアカデミアに戻るまでに追っ手を良く振りきった。
追っ手をまくまではいつも通りの判断力を見せたが、アカデミア校内で捕まってしまえばいくら妃奈柚と言えども万事休す。
気づけば周りも複数の追っ手に囲まれ逃げ道は封じられてしまっている。
こうなっては逃げられず、おとなしくその身柄を未弥と共に拘束されることになる。

「これからお前達をこのアカデミアにある地下牢獄へと連行する」
「妃奈、どういう事ですかこれは」
「あっちの連携が一枚上手だったわね。 ごめん未弥」

突然の出来事に戸惑いを隠せない未弥と、不覚を取られ不満そうな妃奈柚。
屈強な男共に連れられて地下牢獄へと連行される。
未弥にとってみれば青天の霹靂だっただろう。デュエルを終えて妃奈柚との合流を果たした先にいきなり連行ではそう言わざるをえまい。
理由も碌に説明されていないので状況把握は出来ていないようだが、おとなしく連行される。

地下牢獄へと連行された少女二人は脱出できるだろうか。

―Go to Next TURN―





TURN 4

追っ手集団に捕まり、アカデミアの地下牢獄へと連行させられた未弥と妃奈柚。
牢獄に身柄を確保されてからも隙を見て抜け出そうと試みたものの隅々に設置された監視カメラがそれを阻止する。
結局脱出する術もないまま、身柄を拘束されてから数時間が経過していた。
既に脱出する事を諦めて釈放されるまでおとなしく待つという結論まで出していた二人だが、その二人に転機が訪れる。

「おい。 そこの白髪のねーちゃん」
「…なんですか」
「ここから出たいか?」

先ほど未弥達の身柄を確保した一人の男が話しかけた。
高身長で中々に肩幅の広い、まさに牢獄の番人とも言えるような体格をしている男。
自分らが拘束したにも関わらず出たいか否かを問いかけるとはどの口が言ってるのか、未弥は兎も角妃奈柚はそう思っているかもしれない。

「出たいと言えば出していただけるんですか?」
「地下牢獄とは言えここだってアカデミアの一部。デュエルで俺に勝てたら二人とも解放してやろう」
「本当ですか?」
「アカデミアはデュエルが全てを決める世界。当然ここもそのルールに従わないといけない」

決闘者養成校であるデュエルアカデミアはデュエルが全てを支配する。
アカデミアの傘下であるここもそれは例外ではなく、囚人が門番とのデュエルに勝利した場合は解放しなくてはならない。
しかし、ここで囚人が敗れた場合は再挑戦は出来ない。それがここのルール。
勝てば無条件で釈放、負ければデュエルによる釈放は不可能。リスクもあるがそのリターンも囚人には魅力的である。

大会本戦の事、レジェンドカードの事もあるのでずっとここで囚われの身と言うわけにもいかない。
未弥と妃奈柚が出す答えは一つ。

「わかりました。デュエルしましょう」
「未弥、負けたらダメよ?」

勝てば釈放。それは他の囚人の例に漏れず未弥達にとっても魅力的。
チャンスは一回だけと言う事で未弥に掛かる責任は大きい。
それでも、二人の眼に不安はなく、特にデュエルのできない妃奈柚は未弥に全てをまかせているようにも感じる。
お互いに全幅の信頼を置いているからこその表情だろう。

「白髪の方がデュエルするんだな? よし、なら白髪だけこっちに来てもらおうか」

開かれた牢獄から未弥は一人出ると、そのまま男の待つ方へと歩みを進める。
僅か数メートル先にあるデュエルリンク。
ここが釈放を掛けた牢獄デュエルの舞台となる場所。
一般的なデュエルリンクと広さなどに変わりはないが、牢獄でのデュエルと言う事もあり雰囲気はまるで違う。
この独特の雰囲気に呑まれてしまい、本来の実力を出せないまま敗れた囚人も多いと聞く。
もっとも、雰囲気に呑まれてしまうようではその程度の実力なのだろうともとれるのだが。

「デュエルする前にだ。これをディスクにつけてもらおうか」

リンクに立つ未弥へと、男からアンカーらしき物が投げられる。

「? …何ですかコレは」
「逃亡防止用のアンカーとでも思っておいてくれればいいさ」

いきなり投げられたアンカーに疑問は隠せないが、未弥は指示に従い自らのディスクにアンカーを装着した。
リスクの大きいデュエルだから劣勢になった囚人がいきなり逃亡する可能性も0ではない。
だから逃亡防止でアンカーをつけさせると言えば納得はできるだろうか。
逃亡したところで結局また牢獄へと逆戻りになるだけなのだが。

「自己紹介がまだだったか。俺はここの管理人の黒条だ」
「私は雪代未弥、そしてこっちの眠そうな方が椿妃奈柚です」
「眠そうな方って何よ!ちゃんと紹介してよ!」

牢獄から一人ツッコミを入れる妃奈柚を余所に、黒条と名乗る男と未弥はリンクで対峙した。
自身と妃奈柚の釈放を掛けたデュエルが幕を開ける。

『デュエル!』

未弥 LP8000 手札5枚
黒条 LP8000 手札5枚

黒条のディスクにDRAWの文字が浮かび上がると同時に、黒条の先行で始まる。

「先行は貰う、ドロー。アレキサンドライドラゴンを攻撃表示で召喚」

黒条の場に現れたのは光り輝く美しい鱗を纏いしドラゴン。
その美しい鱗は見る者を魅了させる程。
ドラゴンは一つ大きな咆哮をして見せれば、瞬時に対戦相手の未弥へとその視線を移した。

「さらにカードを2枚伏せてターンエンドだ」

黒条 LP8000 手札3枚 場:アレキサンドライドラゴン(Atk2000) 伏せ2枚

1ターン目から攻撃力2000のモンスターを召喚してきた黒条。
攻撃はできないとは言え下級モンスターで攻撃力2000は簡単に倒せる数字ではない。
攻撃は出来なくても相手の攻撃を躊躇させる楯になる。攻撃は最大の防御であるとは良く言ったものだ。
それに加えてセットされたカードは2枚。
未弥の攻撃を牽制する役割としては充分だろう。

「私のターンですね、ドロー。(倒せない以上、様子見が得策でしょうか) 私は手札よりシールド・ウィングを守備表示で召喚します」

美しい鱗を持つドラゴンとは裏腹に、未弥が召喚したのは緑色の体と大きな白い翼を持った鳥。
シールドの名に相応しいその大きな翼は自らの体を守るには十分すぎるほど。

「リバースカードを1枚セットしてターンを終了します」

未弥 LP8000 手札4枚 場:シールド・ウィング(Def900) 伏せ1枚

攻撃力2000のモンスターをいきなり破壊するのは難しい。
戦闘だけがモンスターを破壊する手段では無いものの、除去するカードと言うのは序盤にポンポン使いたいものでもないだろう。
倒す術がないなら無理せずに守備に徹する。それが未弥の判断だった。

「俺のターン、ドロー。ガード・オブ・フレムベルを守備表示で召喚し、バトルだ。 アレキサンドライドラゴンでシールド・ウィングを攻撃」

主の指示を聞き、アレキサンドライドラゴンは咆哮し力を込める。
口に溜まりし炎の弾丸は今すぐにでも放出されそうな勢いだ。

「シールド・ウィングは1ターンに二度まで戦闘破壊されませんよ」
「破壊出来なくてもダメージは与えられる。攻撃宣言時にリバースカード『龍の逆鱗』発動」

龍の逆鱗
永続罠
自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

リバースカードの発動と共に、アレキサンドライドラゴンの火炎弾がシールド・ウィングへと向けて放出される。
シールド・ウィングの守備力はアレキサンドライドラゴンの攻撃力を下回るものの、未弥の言うように効果により1ターンで2回まで戦闘破壊されないモンスター。
壁モンスターとしては中々に優秀なモンスターだが弱点はそのステータスの低さ。

――シールド・ウィングはその自慢の翼で攻撃を防ぎきる。
しかし、その攻撃はシールド・ウィングを超えて未弥自身へと襲いかかった。

「くっ――」

未弥 LP8000⇒6900

龍の逆鱗によってアレキサンドライドラゴンは所謂貫通効果を付与される。
本来守備表示モンスターが戦闘する場合ダメージは受けないが、貫通効果の場合、攻撃力が守備力を上回った場合に超過ダメージをプレイヤーに与えられるのだ。
戦闘破壊されないと聞けば壁モンスターとして聞こえはいいものの、未弥のシールド・ウィングのようにステータスの低いモンスターにとってはこの貫通効果は天敵となる。

アレキサンドライドラゴンの攻撃の流れ弾が襲いかかり、それがそのまま未弥のライフを奪う。

「――っ!? きゃぁぁぁぁ!」
「未弥!?」

ダメージを受けた瞬間、ディスクを通じて未弥の体に電流が走る。
当然普通のデュエルでは起こり得ない現象であり、当事者の未弥はその電流攻撃に悲鳴を上げ、妃奈柚は檻から未弥に呼び掛けるしかできない。
強烈な電流攻撃が終わると同時に、未弥は崩れるように地面に膝をついた。

「言ってなかったな。このデュエルではお前がダメージを受けるとアンカーを伝って電流が流れるようになってるんだ」

アンカーをつけさせたのは始めからこれが理由。
デュエル開始時に言っていたように逃亡防止も兼ねているのだろうが、本当の目的は電流攻撃だろう。
いくらデュエルが全てを決める世界とはいえ、一応囚人。囚人とただのデュエルで決着をつけるはずがない。
勝てば釈放と言う条件に踊らされてそこまで考えは及ばなかったか。

「受けたダメージに比例して流れる電流も強くなる。電流を恐れて受け身に回るか、ダメージを受ける前に攻めるか、それはお前次第だ」

地面に崩れた未弥を余所に黒条は淡々と話を続けた。
下手をすれば命すらも落としかねない危険なデュエルだが、そのリスクを背負うのは未弥サイドのみ。
この牢獄の管理人である黒条は主催する側だからそのリスクを逃れる事が出来る。
理不尽だが世の中とはそういうものだ。
美味しい話には必ず何か裏があると考えれば実に上手く出来ている。

「未弥、大丈夫!?」

自分のせいでこういう状況になり、しかもデュエルのできない自分の代わりにデュエルをしてくれている。
やはり妃奈柚も未弥が心配なのだろう、囚われの状況から頻りに呼びかけた。

「……大丈夫です。むしろこの方がスリルが生まれて燃えますよ」

妃奈柚の呼び掛けにこたえるようにフラフラと立ち上がると、軽く笑って見せた。
体に与えられたダメージは決して小さいものではないが妃奈柚に心配をかけまいと言う未弥なりの気遣いだろうか。
だが、その瞳には電撃に対する恐怖心は感じられず、この状況をどこか楽しんでいるようにも見受けられる。
この状況に飲まれるどころか楽しむ余裕すらあるというのだろうか。

「大体の人間は一度電流を食らえば気絶するんだがな。良いだろう、俺はこのままターンエンドだ」

黒条 LP8000 手札:3枚 場:アレキサンドライドラゴン(Atk2000/攻撃) ガード・オブ・フレムベル(Def2000/守備) 龍の逆鱗 伏せ1枚

「私のターン、ドロー (下手なモンスター展開は貫通と高い攻撃力で自分の首をしめるだけですね)」

自分の手札と場の状況を見ながら考える。
守備表示でモンスターを展開しても龍の逆鱗による貫通効果でダメージを受け、かといって攻撃表示で展開すればその高い攻撃力の餌食となる。
攻撃力の高いモンスターが場を制圧する力は決して小さいものではない。

「(しかし、このままシールド・ウィングがサンドバックにされてダメージ蓄積させられる位なら…)シールド・ウィングをリリースして神禽王アレクトールを攻撃表示でアドバンス召喚します」

未弥が選択したのは上級モンスターの展開。
戦闘破壊はされないとは言え貫通する現状で低守備力をさらけ出すのはライフを削られるだけと判断してだろう。
そして、未弥の場に現れるのは神々しい空気を醸し出す鷹の様な猛禽。
神禽王の名に相応しい雰囲気さえ感じられる。

「神禽王アレクトールでアレキサンドライドラゴンを攻撃します」

主の指示に従い、アレクトールはアレキサンドライドラゴンへと素早く移動し攻撃態勢に入った。
猛禽の王と名乗るだけありその動きはほれぼれするほど美しい。
だが、標的を前にしてその動きが止まった。

「その攻撃は通さん、トラップカード『レベルクライム・ウイルス』発動!」
「レベルクライム・ウイルス…?」

聞き慣れぬカード名に思わず未弥もその動きを止める。
デュエルモンスターズの世界にはウイルスカードと言う強力な効果を持ったカードがいくつか存在するが、これもそのウイルスカードの一部だろうか?

「俺はガード・オブ・フレムベルをリリースしてその効果を発動。お前の手札とフィールド上のレベル4以上のモンスターを破壊する。さぁ手札を見せてもらおうか」
「…わかりました」

レベルクライム・ウイルス
永続罠
自分フィールド上のレベル4以下の通常モンスター1体をリリースして発動する。
発動後、相手フィールド上と手札に存在するレベル4以上のモンスターを全て破壊し墓地へ送る。
又、相手のドローしたカードを全て確認しレベル4以上のモンスターを破壊する。

その効果によってアレクトールは破壊され、結局アレキサンドライドラゴンを破壊できずに裏目に出てしまった。
おろか手札のレベル4以上のモンスターも全て墓地に送られ、カード一枚で戦力を大幅に削られてします。
手札を見られるという事は情報の流出を意味しそれだけで大きなアドバンテージを相手に与えてしまうという事だ。
戦力を削りつつ相手の情報も仕入れる事が出来る、これをたった2枚のカード損失で出来るのだから強力だろう。

――未弥は静かに自身の手札を展開し黒条へと見せた。

「レベル4以上のランス・リンドブルムと場の神禽王アレクトールを墓地に送れ」

ランス・リンドブルム 手札⇒墓地 神禽王アレクトール 場⇒墓地 手札4枚⇒3枚

「永続的に私の戦力を削りつつピーピングも行える…。なるほど、中々厄介なカードですね。私はこのままターン終了です」

未弥 LP6900 手札3枚 場:モンスター無し 伏せ:1枚

サンドバックを警戒して新たなモンスターを展開したが結局それは裏目に終わり、相手のモンスターの数を減らすことには成功したが状況は悪化した。
まだ序盤の序盤ではあるもののライフ、場の状況から見てもここまでは未弥の劣勢。
序盤からカードパワーで未弥を上回り未弥に流れを渡さなかった。

場にモンスターがいない以上、未弥の頼みの綱は1枚のリバースカード。
このカードに希望を載せて黒条のターンへと移る。

「俺のターン。再びガード・オブ・フレムベルを守備表示で召喚」

レベルクライム・ウイルスのコストで墓地に送られ、モンスターの数は減ってももう一枚のガード・オブ・フレムベルが現れて守りを固める。
ここまで黒条が使ってきたモンスターは特殊な効果を持たない所謂バニラモンスターだが、効果を持たない分戦闘能力が高いモンスターも多いのが特徴であり、サポートも豊富である。
現に、ここまではそのパワーを生かして場を制圧している。
効果モンスターが主体となってきた中でも、効果がない分違う戦い方もでき運用し甲斐のあるモンスターとも言えるかもしれない。

「そして、アレキサンドライドラゴンでプレイヤーにダイレクト――」
「今度は通しませんよ。速攻魔法『コマンド・サイレンサー』」

先ほどとは違いその身を守るモンスターはおらず、この攻撃が通るとアレキサンドライドラゴンの攻撃力分のダメージをそのまま受けることになる。
だが、その指示を言い終える前に未弥は伏せていたカードを発動した。

コマンド・サイレンサー
速攻魔法
相手プレイヤーの攻撃宣言時に発動する事が出来る。
その攻撃宣言を無効にしバトルフェイズを終了する。

「コマンド・サイレンサー? ――うっ…なんだこの音は…」
「コマンド・サイレンサーは相手の攻撃宣言時、その攻撃宣言を無効にしてバトルフェイズを終了させる速攻魔法です」

レベルクライム・ウイルスの時に未弥が見せた様な反応を黒条も見せる。
攻撃反応型のカードだが、他のカードとの明確な違いは「攻撃宣言」を無効にする。つまりモンスターではなくプレイヤーに干渉する効果だという事だろう。

牢獄内に鳴り響く轟音が黒条の耳を塞がせ、その攻撃宣言を遮った。
命令が届かなければモンスターは動く事が出来ない。
耳を覆いたくなるような轟音が止まると同時にバトルフェイズの終了が宣告される。

「なんとかこのターンは凌いだみたいだが、防戦一方でどうするつもりだ? ターンエンド」

黒条 LP8000 手札3枚 場:アレキサンドライドラゴン(Atk2000/攻撃) ガード・オブ・フレムベル(Def2000/守備) 龍の逆鱗 レベルクライム・ウイルス

攻撃を通すことは出来なかったものの多少の余裕からか軽口も叩いてくる。
フィールド上のアドバンテージに加えて、ウイルスにより戦力的にも大きく有利だから気持ちはわからなくもない。
攻撃が通せなかった事を特に惜しむ様子も見せず、ターンを未弥に渡す。

「私のターン、ドローします」
「レベルクライム・ウイルスの効果でドローした確認させてもらうぞ」

レベルクライム・ウイルスが場に存在する限り、未弥はドローするたびにそのカードを公開しなければならず、それがレベル4以上のモンスターならそのまま墓地に送られる。
手札に加わってもそれが相手にばれているというデメリットは消す事が出来ないし、レベル4以上のモンスターなら手札も増やせないと未弥にとっては厳しい状況。
だが、未弥は平然とドローカードを晒して見せた。

「ドローしたカードは『マジックアーム・シールド』です」
「罠カードか。手札に加えて良いぞ」

ドローしたのは罠カード。
条件に引っかからないカードなので手札に加えることは出来るが、引いたカードがばれるという大きなアドバンテージの損失をどうカバーするか。

「(手札は全てばれてますけど時間稼ぎ位は出来るはずです)…ドラグニティ―ブラックスピアを守備表示で召喚します」

未弥の手札に存在する中でレベルクライム・ウイルスの影響を受けなかったモンスターであるドラグニティ―ブラックスピア。
小さな龍騎士の様なモンスターが未弥を守るように壁となったが、アレキサンドライドラゴンの守備力には及ばない。

「さらに、リバースカードを2枚セットしターンを終了します」

ステータスの低いブラックスピアと、リバースカード2枚を場に出してターンを終える。
劣勢の状況下で手札無意味に消費するのは非常にリスキー。
恐らくこれは未弥の賭けだろう。

未弥 LP6900 手札1枚 場:ドラグニティ―ブラックスピア(Def1000/守備) 伏せ2枚

「ドロー。その頼みの綱を消し去ってやろう、サイクロン発動」
「破壊できるのは一枚だけ――私の手札を見てるなら、私がどこに何を伏せたかもわかりますよね?」

手札を見ているならどこに何をセットしたかもわかるはず。
効果を把握していても破壊したいカードを破壊できなければその情報戦は無意味に終わる。
今どのカードを破壊するべきか、選んだカード次第でその未来は変わるのだ。

「さっき引いたマジックアームはセットしてない。ならばどちらを破壊しても大して変わらないさ。 俺から見て左だ」
「――ネフティスの羽吹雪。こっちで良いんですね?」

そのカードを墓地へ送ると同時に未弥の顔に笑みが浮かんだ。
相手を試すような物言い。
まるで、自分がこの賭けに勝った事を確信するかのような。

「セットされたネフティスの羽吹雪が効果によって墓地に送られた時、相手フィールド上のカードを3枚まで道連れに出来ます」
「何ぃっ!」
「レベルクライム・ウイルス、龍の逆鱗。そしてアレキサンドライドラゴンの3枚を墓地に送って貰いましょうか」

黒条が選択したカードは墓地に送られた時に本領を発揮するカード。
不確定要素こそあるものの相手の除去を消費させつつ、道連れに相手のカードを墓地へ送るという非常に強力な効果を持つ。
相手を揺さぶるブラフとしてはこの上ないカードだったというわけである。

レベルクライム・ウイルス 場⇒墓地 アレキサンドライドラゴン 場⇒墓地 龍の逆鱗 場⇒墓地

「貫通がくる状況で敢えてモンスターを守備表示で出し、2枚のリバースカード。何か企んでると踏んで除去したくなるのは必然です。尤も、除去を誘うのが私の企みでしたけどね」

展開するしかないとはいえ、貫通ダメージを食らう場面で守備力の低いモンスターを守備表示で展開した上で2枚のカードを伏せれば除去したくなる。
人間の心理の底をついての裏をかいたブラフ。
未弥にとっては厄介きわまりなかったレベルクライム・ウイルスを墓地送りに出来た事が大きいだろうか。

「それから、この効果で墓地に送った枚数まで私は墓地からカードを手札に加える事が出来ます」
「なんだと!?」
「私は墓地にあるコマンド・サイレンサーとランス・リンドブルムを手札に戻します」

未弥 手札1枚⇒3枚

相手のカードを除去しつつ自分は墓地からカードを補充。
まさに未弥の一発逆転の賭け。
一発逆転の賭けなだけあって未弥が得たアドバンテージは非常に大きい。
人はこの大きなアドバンテージを求めてギャンブルにはまっていくのだろうか。

「――俺はハウンド・ドラゴンを召喚し、ドラグニティ―ブラックスピアを攻撃する」

小型ながら鋭い牙を持つドラゴンが小さな龍騎士に襲いかかる。

ドラグニティ―ブラックスピア 場⇒破壊

「俺はこのままターン終了だ」

黒条 LP8000 手札2枚 場:ハウンド・ドラゴン(Atk1700/攻撃) ガード・オブ・フレムベル(Def2000/守備)

相手の除去を誘う事で不利な状況をひっくり返す事に成功した未弥。
場のカードを削りつつ自らのアドバンテージを積極的に稼ぐ。これが未弥の戦い方。
自分・相手のターンに関係なく除去や手札補充、特殊召喚なども平然と行い相手のペースを乱し、自然といつのまにか自分のペースに――。
元々未弥のデッキは安定性は低いが嵌った時の爆発力と言うのは高いデッキ。安定性が無いというのは短所だが、その短所は時に大きな長所にも変わる。

未弥の場のモンスターを破壊し、黒条はターンを渡した。

「私のターン、ドロー。厄介なカードは消えました、ここから反撃開始です」
―Go to The Next Turn―





TURN 5

未弥 LP6900 手札4枚 場:無 伏せ1枚
黒条 LP8000 手札2枚 場:ハウンド・ドラゴン(Atk1700/攻撃) ガード・オブ・フレムベル(Def2000/守備)

「――厄介なカードは消えました、ここから反撃開始です」

反撃と言うほどライフポイントが削れているわけでもなければ終盤と言うわけでもないが、未弥はこの僅かなターンで苦しめられた。
アレキサンドライドラゴンの高い攻撃力と龍の逆鱗による貫通、レベルクライム・ウイルスによる戦力の低下。さらに電撃による自身へのダメージ。
めまぐるしく苦しめられた数ターン、今度は未弥が相手を苦しめる番だ。

「ランス・リンドブルムを召喚。――バトルです、ハウンド・ドラゴンに攻撃!」

槍を持った竜人が、小さなドラゴンへと向けて駆け出しその体を自慢の槍で貫いた。

ハウンド・ドラゴン 場⇒墓地
黒条 LP8000⇒7900

「――っぐ。モンスターは減らせてもダメージはたった100、かすり傷にもならないな」
「どんなに小さな傷でも蓄積すれば効いてくるんですよ。カードを1枚伏せてターンエンドです」

未弥 LP6900 手札2枚 場:ランス・リンドブルム(Atk1800/攻撃) 伏せ2枚

ごく僅かなダメージだがここにきて初めて黒条にダメージを与えることに成功した未弥。
一撃一撃は小さくても、それがボクシングで言うところのジャブの様に徐々に効いてくる事もある。
まずは少しずつダメージを与えながら場を整えるのも立派な反撃準備だ。

しかし、まだ黒条の場には壁モンスターであるガード・オブ・フレムベルが存在する。
この壁モンスターの存在が、新たなモンスターの起点となる事も充分あり得る事。

「俺のターン、ドロー。手札より魔法カード『トレード・イン』を発動」

トレード・イン
通常魔法
手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。

「手札の青眼の白龍を捨ててデッキから2枚ドローする」

手札の枚数を増やすことはできないカードだが、手札で腐っているレベル8のモンスターを処理しつつ手札交換を行えるカード。
最上級モンスターは場合によっては墓地に置かれている方が展開しやすい場合もある為、最上級モンスターを墓地送りに出来るのはメリットにもなり得る。

「スタンピング・クラッシュを発動。相手の魔法・罠カードを1枚破壊し500ダメージを与える。破壊するのはさっき伏せたカードだ」

スタンピング・クラッシュ
通常魔法
自分フィールド上にドラゴン族モンスターが表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。
フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して破壊し、そのコントローラーに500ポイントダメージを与える。

未弥 LP6900⇒6400 伏せ(コマンド・サイレンサー) 場⇒墓地

どこからともなく現れた大きな龍の足が、未弥の場にセットされたカードを踏みつぶしそれをそのまま粉砕する。
ダメージを与える効果があるという事は、未弥の体に電流が流れるという事。
スタンピング・クラッシュの衝撃が未弥に直接響くのと同時に、未弥の体に電流が流れだす。

「うっ――きゃぁぁ!」

500ポイントのダメージだから先ほどの電流より威力は低いがそれでも強烈。
デュエリストとは言えか弱い女の子には少々刺激が強すぎるか。
それでも、地面に崩れた先ほどとは違いよろけながらもしっかり立っている。

未弥の場に伏せられたカードはもう1枚あるが、黒条が選択したのはネフティスの羽吹雪の効果で手札に戻したコマンド・サイレンサー。
もう1枚は現状では無意味なカードだと判断し、攻撃を遮る事の出来るカードを破壊したという事だろう。

「さらに、ガード・オブ・フレムベルをリリースしてエメラルド・ドラゴンを召喚」

エメラルドに輝く体が美しいドラゴンがその翼を羽ばたかせフィールドへと舞い降りる。

「ランス・リンドブルムを攻撃、エメラルドフレイム!」

エメラルドにキラキラと輝く綺麗なブレスが槍を構えた竜人に襲いかかった。
竜人も抵抗を試みるがやはり攻撃力の差で、抵抗むなしく敗れ去った。

ランス・リンドブルム 場⇒墓地
未弥 LP6400⇒5800

「…また電撃が…――きゃああ!」

小さな傷でも蓄積すれば効いてくると未弥はさっき自分でそう言った。
まさにそれを今実感しているわけで、強くはない電流を2回に分けて食らうとその方が体力の消耗が激しい。
平然と振舞っているもののやはり体に掛かる負担は小さくないのか、最初と同じように崩れるようにして地面に膝をつく。

「俺はこれでターンを終――」
「…エンドフェイズにリバースカードを発動します。…速攻魔法『フォー・オブ・アカインド』」

フォー・オブ・アカインド
速攻魔法
自分のデッキからカードを4枚選択し、モンスターカード扱い(攻守0)としてモンスターカードゾーンに裏側守備表示でセットする。
この効果でセットされたカードがエンドフェイズにフィールド上に存在していた場合、そのカードを全て手札に加える。

電撃攻撃に膝をついた未弥だが、デュエルの戦意は喪失していない。
タイミングを見計らっていたかのようにエンド宣言に合わせてカードを発動した。

「このカードの効果でデッキから四枚のカードをモンスターゾーンにセットし、この効果によってセットされたカードがエンドフェイズにフィールドに存在していた場合それらを全て手札に加えます」
「今はエンドフェイズ…」
「そうです。よって私は手札に四枚のカードを加えます」

未弥 手札2枚⇒6枚

壁の様に現れた4枚のカードは、一度未弥の場にセットされると次の瞬間には手札へと舞いこんだ。
たった一枚のカードが最大四枚のカードに代わる。
時には壁に時にはリリース確保に、そして時には手札補充にとアドバンテージを稼ぐにはこれ以上ないカードだろう。

「失礼しました。それではエンド宣言をどうぞ」
「あ…あぁ…。ターンエンドだ」

黒条 LP7900 手札:1枚 場:エメラルド・ドラゴン(Atk2400/攻撃) 伏せ:無

少し呆気に取られた様な反応を見せながらも、今度はしっかりとターンを終了した。

「ドロー。フィールド魔法『ハーピィの聖域』を発動します」
「何だそれは!?」

ハーピィの聖域
フィールド魔法
自分フィールド上に「ハーピィ」と名の付いたモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時、相手フィールド上のカードを一枚破壊する事が出来る。
このカードがフィールド上に存在する限り、自分フィールド上の風属性モンスターは戦闘では破壊されず罠カードの効果を受けない。
自分フィールド上の風属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
1ターンに一度、自分の手札又は墓地から「ハーピィ・レディ」と名の付いたモンスターを特殊召喚できる。

「ハーピィの聖域――それはすなわち風属性のホームグラウンド。このカードが存在する限り、私がハーピィと名のつくモンスターを展開するごとにあなたの場のカードを一枚破壊できます」

未弥の言葉に応えるように、牢獄は一瞬にして風が吹き荒れる草原へと変化する。
風が吹き荒れる草原こそがハーピィや風属性モンスター達のホームグラウンド。
その風が未弥の風属性モンスターに力を与えるのだ。

「ハーピィを除去カードに変えるフィールドか」
「それだけではありません。聖域に守られた私の風属性モンスターは戦闘破壊されず罠カードも無効、さらに加護を受けて攻守が300ポイントアップします」
「は? なんだそのインチキ効果は!」
「最後に、1ターンに一度手札か墓地からハーピィ・レディを特殊召喚出来ます」

モンスター1体を除去に変え、さらに戦闘と罠への耐性にステータス強化、そして蘇生効果。
聖域の名に恥じぬ強力な効果を持ったカードの登場に思わず黒条は声を荒げる。
そんな黒条を尻目に、未弥は淡々と自らのターンを進める。

「聖域の効果を使い手札からハーピィ・レディ1を特殊召喚。破壊効果を使ってエメラルド・ドラゴンを破壊します」
「――くっ」

エメラルド・ドラゴン 場⇒墓地

上空より狙いを定めたハーピィ・レディ1がエメラルド・ドラゴンに向かって急降下する。
聖域の風を纏いしエロティックな鳥人の爪が上空から一閃されると同時に、エメラルド・ドラゴンは消えた。

戦闘破壊出来なければ効果を使って突破すれば良い。
風の吹き荒れるこの聖域こそが未弥の本来のステージ。

「さらにハーピィズペット仔龍を通常召喚。ハーピィ・レディ1と聖域の効果で攻撃力を合計で600ポイントアップします」

ハーピィ・レディ1 Atk1300⇒1600⇒1900 ハーピィズペット仔龍 Atk1200⇒1500⇒1800

ハーピィズペット仔龍
効果モンスター
星4/風属性/ドラゴン族/攻1200/守 600
このカードは自分フィールド上に存在する「ハーピィズペット仔竜」を除く「ハーピィ」と名のついたモンスターの数により効果を追加する。
1体:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手は自分フィールド上に存在する「ハーピィズペット仔竜」を除く「ハーピィ」と名のついたモンスターを攻撃対象に選択できない。
2体:このカードの元々の攻撃力・守備力は倍になる。
3体:1ターンに1度、相手フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる。

フィールドに集いし鳥人とそれに仕えし小さき龍。
主と聖域の力を借りて仔龍はその攻撃力を高め、自身の効果で主を守ろうとする。
吹き荒れる風と鳥人と仔龍の組み合わせに、それを従えるデュエリストの未弥。異様な光景。

――ここで終わると思いきや、まだまだ未弥のターンは終わらない。

「そして、魔法カード『万華鏡―華麗なる分身―』を発動。デッキよりハーピィ・レディ1をもう一体特殊召喚。ハーピィが増えたことにより仔龍の元々の攻撃力は倍になり、ハーピィ達は攻撃力を900アップします」

ハーピィズペット仔龍 Atk1200⇒2400⇒2700⇒3000⇒3300 ハーピィ・レディ1 Atk1300⇒1600⇒1900⇒2200

万華鏡―華麗なる分身―
通常魔法
フィールド上に「ハーピィ・レディ」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
自分の手札・デッキから「ハーピィ・レディ」または
「ハーピィ・レディ三姉妹」1体を特殊召喚する。

一瞬にして並ぶ3体のモンスター。
身を守るべき物が無い黒条に待っているのは、この3体による強烈なダイレクトアタックだ。

「馬鹿な…!何だこれは…!」

一瞬のうちに展開された攻撃力3300と2200の計3体のモンスター軍。
戦慄しそして恐怖すらも覚える。
これが風属性の、未弥の躍動するステージ。吹き荒れる風を味方につけ邪魔な物は吹き飛ばす。

「行きますよ。ハーピィ・レディ1二体とハーピィズペット仔龍でプレイヤーへダイレクトアタックです」

――一斉に襲いかかる鋭い爪と力を増した炎。
それらは他の何者にも目を向けることなく攻撃対象である黒条へと向かい、そして次の瞬間には黒条に大きな傷を付けた。

「ぐおぉぉぉぉっ!?」

黒条 LP7900⇒200

総ダメージ量7700。
その大きな衝撃にそれまで余裕の態度を見せていた黒条も思わず断末魔をあげる。
これだけのダメージを受けても尚僅かに残るライフが逆に恐怖か。
黒条の表情にも少し余裕が無くなったようにも感じられた。

「カードを1枚伏せ、ターン終了です」

未弥 LP5800 手札:3枚 場:ハーピィ・レディ1×2(Atk2200/攻撃) ハーピィズペット仔龍(Atk3300/攻撃) 伏せ1枚

まさに一瞬。
それまでの劣勢を一気にひっくり返す一転構成とはまさにこの事だろう。
直前まで死んだフリでもしていたのではないかと錯覚でも起こす様な怒涛の逆転劇だった。
一気に戦況をひっくり返したが最後まで何があるかはわからない。

「俺のターン。魔法カード『龍の霊廟』! デッキからドラゴン族モンスターを1体墓地に送り、それが通常モンスターならもう1体墓地に送るカードだ」

ここに来ての墓地肥やし。
意味の無い行動にも思えるが、ここに来て墓地を肥やすという事は何か策があるという事になる。

「まず1枚目は青眼の白龍。通常モンスターだからもう1枚墓地に送るが、もう1枚も青眼の白龍だ」
「墓地にブルーアイズが3体…アレですか」

デュエルモンスターズを代表するモンスター「青眼の白龍」
大企業海馬コーポレージョンの社長である海馬瀬人の切り札として名高いモンスターであり、特に効果を持たないモンスターでありながら未弥達の世界では高レートで取引される事もある。
豊富なサポートカード、見た目のカッコよさと高い攻撃力。使う者を魅了するカードが3枚とも墓地へ行った。

青眼の白龍が3体揃った時その姿を現すと言われるモンスターが存在する。
――恐らく黒条の狙いはそこだ。

「『龍の鏡』を発動。手札又は墓地から決められたドラゴン族モンスターを除外する事でドラゴン族の融合モンスターを特殊召喚する。俺は青眼の白龍を3体除外し『青眼の究極竜』を特殊召喚する」
「やはりアルティメットですか」

青眼の究極竜。
究極の文字が示す通り、青眼の白龍が3体融合した究極の姿。
青眼の白龍同様に特別な効果は持たないが圧倒的な攻撃力を持つ為戦闘能力は十分。
見た目のインパクトもあって与えるプレッシャーは相当なものだ。

「青眼の究極龍で、仔龍に攻撃する。アルティメット・バースト!」

3つの首が一斉に幼き龍に狙いを定めると、光線を放つ。
力を得た幼き龍も究極の名を持ったモンスターには対抗できず、そのブレスも光線に打ち消され、幼き龍はあえなく敗れた。

未弥 LP5800⇒4600 ハーピィズペット仔龍 場⇒墓地

「うっ…ぐっ…――きゃあああ!」

そして襲いかかる電撃。
くるとわかっていてもどうしようもできないのだから甘んじて食らうしかない。
この電撃を回避するにはダメージを受けない、それしかないのだから。

「俺はこれでターンを終了する」

黒条 LP200 手札:0枚 場:青眼の究極龍(Atk4500/攻撃) 伏せ無し

土壇場での超大型モンスター。
一度に3体のモンスターを展開して合計7700のダメージを与えた未弥も未弥だが、この土壇場での究極龍を召喚するのもなかなかの勝負強さだ。
黒条のライフは残りわずかだが、未弥は果たして削り取れるか。

「私のターン。――せっかくアルティメットを召喚したところ残念ですが、私の勝ちです。永続魔法『強者の苦痛』を発動します」

強者の苦痛
永続魔法
相手フィールド上のモンスターの攻撃力は、そのモンスターのレベル×100ポイントダウンする。

「強者の苦痛がフィールドに存在する限り相手のモンスターはそのレベル×100ポイント攻撃力を下げます。アルティメットのレベルは12、よって1200ポイントダウンです」

青眼の究極龍 Atk4500⇒3300

強者には強者にしかわからない苦痛と言う物がある。
強いからこそ戦闘では負けられないプレッシャー。それは強者と呼ばれる者にしかわからぬ苦痛。
そのプレッシャーに苦しめられる強者は自らを追い詰め、力を発揮できない。
強ければ強いほど攻撃力を落とすという効果はまさにその苦痛を現すのかもしれない。

「それでもアルティメットの攻撃力は3300。まだお前のモンスターでは攻撃力が足りん!」
「足りないなら超えるモンスターを呼ぶだけです。『星見鳥ラリス』を召喚。2体のハーピィ・レディ1と聖域の効果で攻撃力を900ポイントアップします」

星見鳥ラリス Atk800⇒1100⇒1400⇒1700

星見鳥ラリス
効果モンスター
星3/風属性/鳥獣族/攻 800/守 800
このカードが戦闘を行う場合、ダメージステップの間このカードの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。
また、このカードが攻撃したダメージステップ終了時、このカードをゲームから除外し、次の自分のターンのバトルフェイズ開始時に表側攻撃表示で自分フィールド上に戻す。

未弥の場に現れしは愛くるしい姿が特徴的なオレンジ色の鳥。
三つ首の究極龍と対峙する鳥人と小鳥の画と言うのは中々に緊張感があるかもしれない。
さながら怪獣映画や特撮にでもありそうな感じである。

「たかだか攻撃力1700のモンスターでアルティメットを倒すとでも言うのか?」
「その通りですよ。――ラリス、究極龍に攻撃です」

愛くるしい鳥が主の命に従うと上空へと飛びあがり、翼を広げその上で無数の星が光り輝きだす。

「攻撃力1700で3300のアルティメットに勝てると思ってるのか? 迎え討て、アルティメット・バースト!」

空へ舞う小鳥の攻撃を迎撃すべく、三つ首の究極龍はその口に光線を貯め込み放出した。

「星見鳥ラリスの効果。――モンスターと戦闘を行う時、戦闘を行うモンスターのレベル×200ポイント攻撃力をアップします」
「なにっ!? アルティメットのレベルは12だから…2400アップだと…!?」
「1700が2400アップですからラリスの攻撃力は4100。ラストアタックです!ラリス、スターダスト・アタック!」

星見鳥ラリス Atk1700⇒4100

翼上で光り輝く無数の星がその煌めきを強め、無数の弾丸となり龍の光線をも打ち消す。
無数に降り注ぐ煌めく星の弾丸は宛ら流星群。
相手に大して降り注がれる流星群は、未弥に降り注ぐ勝利の星。

星の弾丸は徐々にその力を増し、瞬く間に究極龍の体を貫いた。

「ぐ――ああああ!」

黒条 LP200⇒0 青眼の究極龍 場⇒墓地

究極龍が戦闘で敗れた事で、残りわずかだった黒条のライフは尽き、その瞬間に未弥の勝利が確定した。
デュエルの終了と同時にディスクはその役割を終えデュエルモードを停止する。

「私の勝ちです。約束通り釈放してもらいますよ」

勝てば釈放と言う条件があったからこのデュエルを受けた。
そして未弥はデュエルに勝利したのだから約束通り釈放してもらわなければ意味がない。
がっくりと膝をつく黒条の前に未弥は迫る。

「…わかってる。――おい、そこのねーちゃんがいる牢屋を開けろ」

黒条の指示に従い、牢獄の監視員が妃奈柚のいる牢屋のカギを開ける。
カギが開き、ゆっくりと牢の扉が音を立てて開くと同時に妃奈柚は未弥の元へ駆け出した。
いつもの様に眠そうな表情だが心なしか不安が和らいだ様な、そんな感じの表情にも見て取れる。
元々あまり表情を崩す事のないポーカーフェイス気味の妃奈柚でも、雰囲気で大体の感情は感じ取れるというものだ。

「よくやったわ、未弥」
「はい、勝てて良かっ――」

妃奈柚に応えるように笑って見せた未弥。
だが、その直後に未弥の体がふわりと妃奈柚に向けて倒れ込んだ。

「ちょっ――!? 大丈夫!?」

妃奈柚の姿を見て安心したか、未弥は崩れるように妃奈柚に向けて倒れ込む。
素早く反応した妃奈柚にその体を支えられたが、妃奈柚も流石に驚きを隠せない。
尤も、いきなり自分に向かって倒れてくれば誰だって動揺するのは当然だが。

「やっぱり電撃のせいで体に負担が掛かってたのね。デュエル中は気を張ってるから耐えられたけど、デュエルが終わって安心したら力が抜けた、あらかたそんな所ね」

何か別の事に意識を集中させていればそれ以外の事は気にならない。
だが、意識が別の事に逸れてしまえばその反動が来る。
今回の件がまさにそれであり、体に流れた電撃によって体力は奪われたがデュエルに集中していたから意識を保てた。だが、デュエルが終わって張りつめた緊張の糸が切れた結果体がついていかなくなったのだ。

「病院まで車出しなさいよ。あんたらのせいでこうなったんだから」

元を辿れば妃奈柚の不法侵入が直接の原因だが、その原因をなすりつけた。
どうせここから抜け出せるのは確定しているし、それなら少しでもこき使ってやろうと言うのが考えだろうか。
恐らく体力を消耗してるだけなので少し休めば回復するだろうが、休むにしてもちゃんとした場所で休んだ方が良い。

――数名の監視員がその場から離れた数分後、出口付近に車が到着する。

「よし、それじゃ病院まで行くわよ。お願いね」

未弥をゆっくりと車内に乗せ、続いて妃奈柚がその隣に座る。
無事に牢獄からの脱出を果たす事の出来た未弥御一行が次に向かうのは――病院。
デュエルで失った体力を回復するべく、車を次なる目的地へと向けて走り出した。

―Go to the Next Turn―





TURN 6

釈放を賭けた牢獄でのデュエルで勝利をおさめたが、襲いかかる電撃により未弥は倒れ病院へと連れて行かれた。
やはりと言うべきか医師の診断はたび重なる負担による体力的なダメージ、つまり疲労。
体力の消耗が激しく2〜3日の安静は必要との事らしく未弥は入院を余儀なくされた。
予定していた大会本戦にはまだ時間があるし、その為にいっそここで体調を万全にするのも悪くない選択かもしれない。

――数時間が経過後、ベッドで目を覚ました未弥はまだ自分の置かれている状況が把握できないのか慌てた表情で辺りを見渡した。

「…ここは――」
「気がついた?」

辺りを見渡す未弥に妃奈柚が声をかける。
自分はデュエルをしていたはずなのに気付けば病院のベッドの上に居るとあれば未弥でなくても不思議に思うはず。
それをなだめるように妃奈柚は落ち着いた様子で未弥の動揺を抑える。知らぬ場所に居ても身近に知ってる人間がいれば人間の心理的にも落ち付いてくるのだ。

「妃奈!? なんで私はこんな所に居るんですか?」
「あのデュエルが終わった倒れたのよ。2〜3日位安静だって」

デュエルが終わった後の事はまるで覚えていないらしい。
終わった直後に倒れたのだから覚えている方がおかしいのかもしれないが。
いずれにしても大事に至らなかった事は幸いで、未弥も妃奈柚もそれはひとまず安堵だろう。

妃奈柚と話した事で少し落ち着いたか、息を一つ吐くと病室を静かに見渡す。
さほど重い状態と言うわけではないが個室。真っ白な部屋にただ一つ佇むベッドがどこか寂しい気持ちを誘う、そんな印象。
部屋を見渡しながら自分のデュエルディスクを無意識に触った時その異変に気付いた。

「?――デッキが無い?」

いつもディスクに挿して持ち歩いているはずのデッキがない。
デュエルディスクのデッキボックスはスイッチを押さなくては外れないようになっているからちょっとやそっとの衝撃では外れたりはしない。
医師が誤って操作し抜けてしまったかそれ以外の何者かがこっそりと抜き取ったか――何にせよ他者の介入が無ければデッキ紛失はあり得ないのだ。

「私が抜いたのよ」
「妃奈が?」
「そうよ。医師からは安静にしてろって指示だから」

安静にするという事とデッキ没収は何の関係があるのだろうか。
未弥にはそれが理解できないのかベッドの上で少し首をかしげる。

「デッキがあるとデュエルしちゃうでしょ?」
「はい。それが何か」
「安静にって言われてるのにデュエルさせるわけにはいかないのよ。それで悪化でもされたら堪らないわ」

妃奈柚なりの気遣いか、未弥の体を考えてのデッキ没収だった。
今回の入院はデュエルが原因だから、入院中にデュエルでもされて体調を悪化させられても困る。
デッキが無ければデュエルが出来ない、デュエルが出来なければ体にかかる負担もなくなるから体力の回復につながる。
ここで言う安静とはつまりこの事だろう。

「退院するまで私がデッキ預かるわ。――でも、このカードだけは未弥に返す」

デッキケースから取り出された一枚のカードを抜き出し、それを未弥に差し出す。
そのカードの名前は「エンシェント・フェアリー・ドラゴン」。
数あるカードの中から選び出されたその一枚が何を意味するのかそれは未弥と妃奈柚にしかわからない。
ただ、差し出されたエンシェント・フェアリー・ドラゴンのカードを見た時、未弥の表情が少しだけ笑顔になったのは事実。

「エンシェント・フェアリー・ドラゴン…!?」
「デッキは預かるけど大事な宝物まで預かるわけにはいかないわ」

未弥の宝物。それがエンシェント・フェアリー・ドラゴン。
デッキは近くにない場合でもエンシェント・フェアリー・ドラゴンのカードだけは常に肌身離さず身に着けていた。
自分のデッキに入ってるどのカードよりも大切なカードであり、無くしてはいけないものなのだ。

「――これは私が瑠衣から貰った大切なカードなんです」
「知ってるわ。…確か、未弥にデュエルを教えたのも瑠衣だったわよね」

二人の口から出てくる瑠衣と言う名前。
未弥にデュエルを教え、エンシェント・フェアリー・ドラゴンのカードを託した。ここだけ聞けば未弥の恩師ともとれるだろうか。
同名カードは世界に何枚も存在するだろうが瑠衣と言う人物から貰ったエンシェント・フェアリー・ドラゴンは世界に一枚しかない。
瑠衣と言う人物の思いが詰まったカード。それを失うわけにはいかない。

「瑠衣との思い出が詰まったカード…妃奈も覚えてたんですね」
「瑠衣の事を忘れた事は一瞬たりとも無いわ。私にとっても大事な友達だから」

どうやら瑠衣と言うのは二人共通の友人であるらしい。
しかし、二人の物言いから過去に瑠衣と言う人物の身に何かあったのだろうか。
個室の病室にどことなくしんみりとした寂しい様なそんな空気が流れだす。
思い出話と言う物は時に盛り上がるのだが、時にこうしてしんみりとした空気になる事もある。

「なんかしんみりしちゃったわね。飲み物でも飲む?奢るわよ」

空気を変えようとした妃奈柚が椅子から腰を上げた。
瑠衣の事を良く知る二人だからこそこの話をこのまま続けるのは良くないと判断したのだろう。
一度場を離れて空気をリセットしようとしての行動か。

「妃奈が奢ってくれるなんて珍しいですね」
「それじゃ私がケチみたいじゃない、やめてよ。――で、何飲みたいの」
「すいません、つい。――ホットココアでお願いします」

狭い病室の中で二人の少女の静かな笑い声が響く。
個室ではなく相部屋だったら怒られかねないが、こうして二人で笑いあえるのは個室ならではか。
個室でも静かに笑うあたりはある程度節度は守っているのだろうが。

一連のやり取りを終えると、妃奈柚は病室から出て自販機へと向かった。

「――瑠衣。あなたは必ず私が…」

妃奈柚が部屋から出た後に未弥はぼそりと呟く。
その時の未弥の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
ここまでのやり取りから過去に瑠衣と言う人物の身になにかあったのは間違いないだろう。

「…いつまでも引きずって泣いていたら瑠衣に申し訳ないですね」

指先で目元にうっすらと浮かぶ涙を拭う。
瑠衣と言う人物を思い出すだけで目に涙が浮かぶ――つまりそれは悲しい出来事だと言う事になる。
自分が入院すると気分が沈んでしまいがちと言う事をよく聞くが今の未弥はまさにそういう状況。
自身の宝物であるエンシェント・フェアリー・ドラゴンのカードを胸元に掲げながらベッドに寝そべって天井を見上げた。

――視点が変わって、こちらは自販機の前に立つ妃奈柚。
しんみりとした空気を変えようと機転を利かせた動きはさすが年上と言ったところ。
お互いに知っている人物であり、その身に何が起きたか知っているから妃奈柚も積極的にこの話を引きずりたくない言う思いがあるのだろう。
空気を変えるには一度退室して仕切り直すのも一つの手段であり、もっとも手っ取り早い手段だ。

静かな院内に響き渡るは小銭を投入する音と飲料の落下音。

「熱っ!? 中身沸騰してんじゃないのコレ」

自販機から取り出した飲料は妃奈柚の掌で一度跳ねた後、床に落下する。
あまりの熱さに思わず声を挙げてしまい、院内には妃奈柚の声と缶の落下音が響き渡り一瞬にして注目の的になった。
少しの静寂の後妃奈柚は落とした缶を拾い上げると視線を浴びせる観衆に軽く一礼してそそくさとその場を去る。

職業柄なのか、足音を立てずに自らの気配も消しながら未弥の病室まで駆ける。
病院だから当然走るのは禁止だがそれもばれなければ問題ではない。様々な場所に忍び込むという仕事をしている以上、気配を消しながら移動する事は朝飯前だ。

数分の間院内を駆けた妃奈柚は誰にもその存在を感じ取られることなく未弥の待つ部屋へとたどり着いた。

「おまたせ、アイスティーしか無かったんだけど――って、違うわよ」
「睡眠薬とか入れたりしてませんよね?」

しんみりとした空気を変えようと妃奈柚が放った一声はかの有名な一言だった。
未弥もそれを理解していたのだろう、ノリツッコミをした妃奈柚に続いて返す。
開けてもいない缶の中に睡眠薬を入れるのはいくら妃奈柚でも不可能なのはわかっているし、そもそもそういう人間ではない事も承知している。
振られたネタがわかるならそれを自分なりに返そうとした、ただそれだけ。
妃奈柚なりに空気を変えようとしているのだから、未弥もそれに応えたい一心かもしれない。

「まずウチさぁ…屋上あるんだけど…って事で屋上行かない? 空気も変えたいし」
「あ〜いいっすね〜――って違いますよ! 言わせないでください、屋上には行きますけど」

今度は未弥がすかさずノリツッコミ。先ほどまでの暗い雰囲気を感じさせない辺りは作戦成功だったかもしれない。
そして妃奈柚が提案したのは屋上へ行く事。
狭い病室にいるから閉鎖的な気持ちになり、辛い事や嫌な事を思い出し沈む。だからこそ開放的な空間に足を運んでリフレッシュしようと言う事だろう。
また、風を体に受ける事でも気持ちをリフレッシュさせられる。
外に出ると言う事は気分転換には持って来いなのだ。
そうと決まれば、二人はすぐさま病室を後にして屋上へと向かう。

――屋上へと通じる扉を開いた時、二人の視界に飛び込むのは遠くに見える緑豊かな山。
広がる開放的な世界と爽やかな風が沈んだ気持ちを一気に吹き飛ばす。
少しの間その風と世界を肌に感じ一つ息を吐くと、二人は飲み物を片手に壁に凭れかかった。

「未弥、エンシェント・フェアリー・ドラゴンと瑠衣の為にもピースを手に入れるわよ」
「そのつもりですよ。 瑠衣を助ける為にはピースを集めないといけないんですから」

壁に凭れ、広がる景色を眺めながら直近の目標を確かめ合う。
未弥と妃奈柚がレジェンドピースを求める理由は友である瑠衣を救う為。
その目標を達成するには、まず近日開催されるデュエルチャンピオンシップに出場して情報を探る事。
尤も、それも最終目標への第1歩にすぎないが。
焦る気持ちも当然あるだろうが、やはり1個1個確実にクリアしていくのが近道。焦ってもいい方向には絶対に転がらないのだから。

「黙ってたけど、あの大会の優勝者には特別賞でレジェンドピースが授与されるのよ」

突如として言い放たれた衝撃の事実。
最終目標であるレジェンドカードの完成に必要とされるカケラ「レジェンドピース」が手の届く位置にある。
デュエルチャンピオンシップの主催は決闘者養成施設の最高峰ともされるデュエルアカデミア。やはりその存在を知らないはずが無かった。
優勝が条件になるとはいえ、目の前に迫る最大のチャンスを逃すわけにはいかない。

「本当ですか? そうとわかれば優勝するしかないですね」

その事実を聴いた瞬間、未弥の目の色が変わった。
先ほどまでは辛い過去を振り返り沈んでいたが、一転決闘者として闘志を取り戻したか。
大会優勝と言う第1関門を突破しなくては友を救うスタートラインに立てない。
――未弥は友への想いを闘志に変える。
闘志無き決闘者はこの世界で生き残れない、と自らに言い聞かせる様に。

「その為にも、とりあえずゆっくり療養ね」

闘志を滾らせるのは結構なことだが今は一応入院中。
体力を回復させつつ、未弥の決闘者としての闘志を引き出せた事はむしろプラスだったかもしれない。
今はその闘志を失わない程度に療養して、来るべき大会に備えるのが最善の策。

眼前に広がる景色と風を感じながら数十分の時をのんびり過ごして気持ちはすっきりリフレッシュした。
一つ大きく体を伸ばすと今までの沈んだ気持ちを吐きだすかのように息を吐き、ゆっくりと屋上を後にする。
大会優勝と言う目の前の目標の為にできる事――まずは体をしっかり治す事。
体を治すには気持ちの問題も大事。沈んだ気持ちをすべて吐き出した未弥は、今すべきことをするだけだ。

―Go to The Next Turn―





TURN 7

地下牢獄デュエルで消耗した体力を回復する為に入院していた未弥だが、当初の予定通り2日程の安静で無事に退院する事が出来た。
大会を控える未弥にとっては良い休息になっただろうし、何よりも大きな情報によりモチベージョンを高めることにも成功。後は本番で結果を残すだけと言う状況である。

そして、退院から数日経ち未弥達は今、大会会場となるアカデミア内のグラウンドに居た。
大会本日と言う事もあり、多数の決闘者がこの場に集結しそれは異様な雰囲気を放つ。
緊張のあまり硬くなる者や気迫あふれる表情を見せる者、当然それは人それぞれでそう言う事を観察するのも面白いだろうか。
参加者の一人である未弥とその相棒である妃奈柚は平静を装い開会を待つ。
それでも逸る気持ち自体はあるだろうが、それを表に出さずに悟られないようにする事も大切。

――グラウンドに居る参加者が落ち着いてきただろうと思われた時、チャイムの号令と共に放送が流れた。

「デュエルチャンピオンシップinアカデミアに参加の皆様に、ルールをお知らせいたします」

放送にざわめくグラウンド。
先ほどまでの緊張感にあふれたピリピリした空気からは一変、殆どの参加者が興奮を抑えられずに騒ぎたてる。

「この放送終了後より本戦スタートとし、今大会ではそれぞれの初期持ち点として10点がディスクに表示され、そのポイントを賭けてデュエルを行い0になった参加者は脱落となります。この持ち点が100になった決闘者8名が勝ちぬけとなり、最終トーナメントで競っていただきます」

その説明にほぼ全員が一斉に自らのディスクを確認する。
未弥も例外ではなく、そっと目線をディスクに落とすとライフポイントの下に「10」と言う文字が表示されているのを確認した。
この初期ポイントの10点を上手く使い、自らのポイントを100にする事が最終トーナメントへの条件。
逆に0になった瞬間に脱落する為、一度のデュエルで何ポイントを賭けるかどうかもカギだろう。
一度に全てのポイントを賭ければ溜まるスピードも速いが、常に脱落が付きまとい、逆に節約しすぎると脱落スピードは遅くなるものの中々溜まらない。
時には慎重に、時には大胆に行くのが重要になるか。

「また、本大会のデュエルは全てライフポイント4000で行います。 デュエル中に前後したライフポイントは次戦には持ちこされず、再び4000からとなります。 ――それでは、皆様頑張って下さい」

一通りのルール説明が終わり、放送はフェードアウトする。
同時に参加者である決闘者は近くの決闘者にデュエルを挑んだり、遠くの相手を探したりとこれもまたそれぞれの作戦。
未弥と妃奈柚も相手を探すべく辺りを見渡しつつ歩みを進める。

ゆっくりと歩きながら相手を探していた時、突如視界に現れた男が話しかけてきた。
腕にディスクがついているところを見れば恐らく大会参加者。
むしろ大会なのだから本来決闘者でない妃奈柚が何事も無く歩いているのがおかしいだけだが。

「まだデュエルの相手が見つかってないなら俺とやろうぜ!」

やはりと言うべきか、話しかけてきた理由はデュエルの申し込み。
未弥もちょうど相手を探してフラフラと歩いていたわけだしちょうどいいタイミングだろう。

「良いですよ。 受けて立ちます」

対戦の申し込みにすんなり応じると、ディスクを起動し臨戦態勢を取る。
なんにしてもまずはデュエルしなければ意味がないのだから売られた挑戦は買っていくのが得策。
負ければポイントが減るリスクはあるが、デュエルしなければポイントは増えない。
一度に全部のポイントを使い切りさえしなければチャンスは何度もあるのだから積極的に行くべきか。

「持ち点は初期の10。 それをどう使うかは未弥の自由だけど、どうする?」
「そうですね…。 その時の持ち点の半分を賭けていこうかと思ってます。 この場合は5ですね」

未弥の考えは持ち点の半分を賭け点として使う事。
リスクもリターンも大きくはないと思われる作戦ではあるが、逆に言えば非常に堅実。
ある程度の対戦回数を稼ぎ、勝った時のポイント獲得率も悪くない。
一度に大量のポイントを賭けるよりも時間はかかるのが欠点としてあげられるものの作戦としては至って普通だろう。

「良いと思うわ。 後は勝つだけね」

頷きながら未弥の肩を軽く叩き、観戦する為に距離を取る。
そっけない態度に見えるこの行動も妃奈柚にとっては励まし、そして応援。
未弥の実力を信じているからこそ余計な言葉はいらないと言う事。
未弥も、それが妃奈柚流の励ましだと理解しているから軽く頷き笑みを浮かべるのだ。
互いに手を組んで行動している二人の信頼関係があってこそのなせる技。

――未弥と相手の男はそれぞれディスクを構え対峙する。

「私は今の持ち点の半分、5ポイントを賭けます。 そちらはどうしますか」
「んー、なら俺も5ポイント賭けるぜ。 これで公平だろ?」

賭けるポイントはお互いに持ち点の半分である5。
まだまだ始まったばかりで多くのポイントを賭けると言う大勝負に出る必要はないと言う判断であろうか。
ディスクにそれぞれの賭けである「5」と言う数字を入力するとその瞬間からデュエルの始まり。
未弥のディスクに浮かび上がる「DRAW」の文字がその始まるを告げる。

「では私からです、ドロー。 幼鳥シムルグを守備表示で召喚し、さらにカードを1枚セットしてターン終了です」

幼鳥シムルグ
☆4 1200/1900 風・鳥獣
このカードが墓地に送られた時、以下の効果からひとつ選んで発動する。
●自分フィールド上に「シムルグトークン(風・鳥獣 1000/1000)」を2体守備表示で特殊召喚する
●このカードを手札に戻す。

未弥 LP4000 手札:4枚 場:幼鳥シムルグ(守備/Def1900) 伏せ:1枚

美しき緑の翼を持った小さな鳥が、その翼で体を包む込むように現れる。
幼鳥の名の通りまだ雛鳥同然の見た目だがその姿にはどこか神々しさすら感じられる。

「俺のターン、ドロー。 魔法カードおろかな埋葬を発動。 効果によりデッキからカーボネドンを墓地に送るぜ」

おろかな埋葬
通常魔法
デッキからモンスター1体を墓地に送る。

デッキから墓地にモンスターを落とす効果を持ったカード。
デッキの枚数を減らす事で特定のカードを引きやすくしたり、墓地に落とした最上級モンスターの蘇生に繋げたりと利用価値は高い。
墓地に存在する事に意味のあるカードを墓地に落とせれば結果的にはアドバンテージとなる。

「そして俺は仮面竜を守備表示で召喚してターンエンドだ」

仮面竜
☆3 1400/1000 炎・ドラゴン
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事が出来る。

男 LP4000 手札:4枚 場:仮面竜(守備/Def1000) 伏せ:なし

男の場に現れたのは仮面を被った様な外見をしたドラゴン。
仮面の隙間から光る瞳は人によっては恐怖を感じるかもしれない、その瞳を輝かせながら自らの体を守るようにして体を丸めた。

まずはお互いに守備表示で様子見といったところか、特に動きはない。

「私のターン、ドロー。 星見鳥ラリスを攻撃表示で召喚します」

星見鳥ラリス
☆3 800/800 風・鳥獣
このカードが戦闘を行う場合、ダメージステップの間このカードの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。
また、このカードが攻撃したダメージステップ終了時、このカードをゲームから除外し、次の自分のターンのバトルフェイズ開始時に表側攻撃表示で自分フィールド上に戻す。

カードをディスクに置いたのと同時に、遥か上空よりオレンジの体が特徴的な鳥が姿を現す。

「さぁ、バトルと行きましょうか。 星見鳥ラリスで仮面竜を攻撃します」
「? 仮面竜の守備力は1000でそっちの攻撃力は800だぞ?」
「それでも倒せるんですよ、ラリスなら。 ラリスは戦闘を行う時、ダメージステップの間だけその対象モンスターのレベル×200ポイント攻撃力をアップするんです」

星見鳥ラリス Atk800⇒Atk1400

攻撃対象である仮面竜のレベルは3。 つまり攻撃力は600ポイントアップして1400。
ラリスの頭上に3つの星が煌めき、ラリスはそれを取り込んで力に変える。
戦う相手が強ければ強いほどラリスも強くなるのだ。

「仮面竜はレベル3だから…攻撃力は1400か」
「これで仮面竜の守備力を上回りました。 ――スターダスト・アタック!」

仮面竜から取り込んだ星が再び煌めき、それが弾丸の様に姿を変えて襲いかかる。
仮面竜もブレス攻撃で迎撃するが星の弾丸の力に押され、大きく咆哮した後破壊された。

仮面竜 場⇒墓地

「ラリスは攻撃した場合、ダメージステップ終了後次の私のバトルフェイズまで新たな星を探す旅に出ます」

星見鳥ラリス 場⇒ゲームから除外

攻撃を終えたラリスは再び空へと舞い上がりフィールドから消える。
回りくどい言い回しだが、つまり攻撃した後はゲームから除外されて再び戻ってくると言う事。
攻撃してから姿を消す様は宛らヒットアンドアウェイとでも言うべきか、当て逃げと言うべきか。

「攻撃さえ通れば相手ターンには除去されないって事か。 ――俺は仮面竜の効果でデッキからもう1体の仮面竜を守備表示で呼び出すぜ」

仮面竜の咆哮に応えるかの様に場に現れたのは別の仮面竜。
この仮面竜同様、戦闘破壊された時に制限こそあるがモンスターを呼び出す事の出来る効果を持ったカードもあり、これを世間的にはリクルーターと呼ぶ。
デッキ圧縮の他、墓地肥やし、さらには壁として使う事も出来る。

「私はこれでターンを終了します」

未弥 LP4000 手札:4枚 場:幼鳥シムルグ(守備/Def1900) 伏せ:1枚

先に攻めに転じたのは未弥だが、破壊したのは守備モンスターでありダメージは与えられなかった。
モンスターの破壊こそ出来てもそれをトリガーに新たなモンスターを召喚されて結果的に戦況には大きく変わりなしと言ったところか。

「俺のターン、ドロー …そっちが仕掛けてきたんだしこっちも行くぜ。 仮面竜をリリースしてカイザー・グライダーをアドバンス召喚だ」

カイザー・グライダー
☆6 2400/2000 光・ドラゴン
このカードは同じ攻撃力を持つモンスターとの戦闘では破壊されない。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、フィールド上のモンスター1体を持ち主の手札に戻す。

金色の体を持った名の通りグライダーの様な見た目をしたドラゴンが場に現れる。

「これであんたの壁モンスターを破壊出来るな。 カイザー・グライダーで幼鳥シムルグを攻げ――」
「攻撃宣言時にリバースカードオープン。 コマンド・サイレンサー」

コマンド・サイレンサー
速攻魔法
相手プレイヤーの攻撃宣言時に発動する事が出来る。
その攻撃宣言を無効にしバトルフェイズを終了する。

未弥と男の間にトーテムポールの様な柱が現れると、そこから轟音を発し、攻撃宣言を掻き消す。
指示が通らなければ当然カイザー・グライダーは動けず攻撃をやめてしまう。

「うるせぇ! 何だよコレ!」
「文字通り轟音で攻撃宣言を掻き消す速攻魔法です。 攻撃宣言を無効にしてバトルフェイズを終了させます」

轟音に耳をふさぐ男と片や涼しい表情で淡々と効果を説明する未弥。
そもそも何で通常時の会話は聞こえてるのかはつっこまないで欲しいのだがそういう仕様と言う事でひとつ。
サイレンサーの名の通り、轟音でコマンドを掻き消すと言う未弥の防御カードの1枚である。

「うーん、バトル出来ねーならカード1枚伏せてターンエンドだな」

男 LP4000 手札:3枚 場:カイザー・グライダー(攻撃/Atk2400) 伏せ:1枚

攻撃を防がれて露骨に不満そうな表情を見せる。
ガンガン攻めていきたいタイプなのか、未弥の場にセットカードがあるにも拘らず気にしないで攻撃を仕掛けてきた。
伏せ除去が手札に無いと言う事も考えられるが、不満そうになる辺りは好戦的で間違いないだろう。

「ドロー。 ちょっとそのリバースカードを見せてもらいますよ」
「は?」

キョトンとした表情で未弥を見る。
いきなりリバースカードを見ると言われれば確かに納得の反応。
基本的にカードの効果以外で相手のカードを見る事は出来ない故、何事も無くカードを見たらそれは反則。
――尤も、カード効果なら見れるのだが。

「魔法カード、おとり人形を発動します。 魔法・罠カードゾーンにセットされたカードを1枚選択して捲り、めくったカードが罠カードの場合それを強制発動させ、発動タイミングが正しくない場合は破壊出来ます」

おとり人形
通常魔法
魔法&罠カードゾーンにセットされたカード1枚を選択して発動する。
選択したカードをめくって確認し、そのカードが罠カードだった場合、強制発動させる。
発動タイミングが正しくない場合、その効果を無効にし破壊する。
そのカードが罠カード以外だった場合、元に戻す。
このカードは発動後、墓地へ送らずにデッキに戻す。

「おとり人形!? 珍しいカード入れてるんだな」
「よく言われます」

効果自体は中々面白いカードである「おとり人形」。
通常、セットカードを破壊するだけならば無差別に破壊できる「サイクロン」などが優先される事が多いが、未弥はあえてこのカードを選んだ。
使い手である未弥自身もこのカードを採用するのが珍しいと言う事は自覚しており、少し苦笑しながら話した。

「――おとり人形の効果で先ほどセットしたカードを捲って貰います」

相手の伏せカード目掛けて藁人形が一直線に飛んでいく。
この藁人形がモンスターや未弥に代わって罠に引っ掛かる事で、その機能を停止させると言う事なのだろう。
藁人形に反応した1枚のカードが表になり、その正体が明かされる。

「次元幽閉――攻撃反応型罠ですか。 発動タイミングは攻撃宣言時ですので破壊ですね」

飛び出した藁人形が罠に引っ掛かると、それは誤作動を起こしたか藁人形を飲み込みそのまま破壊された。

「効果発動後、おとり人形は墓地に行かずデッキに戻ります。 そして私はガーディアン・エアトスを攻撃表示で特殊召喚します」

ガーディアン・エアトス
☆8 2500/2000 風・天使
自分の墓地にモンスターカードが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する事が出来る。
このカードに装備された装備魔法カード1枚を墓地へ送る事で、相手の墓地に存在するモンスターを3枚まで選択し、ゲームから除外する。
この効果で除外したモンスター1体につき、エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は500ポイントアップする。

藁人形と入れ替わるようにしてフィールドに鳥の被り物と白き翼を身に付けた女性が現れた。
その姿は鳥獣界の女王か姫を彷彿とさせる。
鳥の被り物と翼で風を味方に付け、颯爽と降り立った。

「ノーコストで攻撃力2500か…」
「エアトスは私の墓地にモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚出来する事が出来ます。 さらにバトル開始前にラリスが私の場に戻ってきます」

エアトスにつられ、先ほど飛び立ったラリスが再びフィールドに舞い戻る。

「バトルです、エアトスでカイザー・グライダーを攻撃! フォビドゥン・サーム!」

上空を舞うドラゴン目掛けて放たれるエアトスの讃美歌。
その讃美歌は強烈な衝撃波となり当たりもろとも吹き飛ばし、空を舞うカイザー・グライダーも地に落ちる。
その破壊力たるやまさにフォビドゥン・サーム(禁じられた讃美歌)か。

男 LP4000⇒3900

「うわっ…。 カイザー・グライダーの効果発動! 破壊されて墓地に送られた時、相手モンスター1体を手札に戻す。 戻すのは星見鳥ラリスだ!」

地に落ちたカイザー・グライダーもただではやられまいと、自身のブレス攻撃でラリスを持ち主である未弥の手札へと弾き飛ばした。
上級ではあるが特殊召喚できるエアトスを手札に戻しても結果的にまたフィールドに特殊召喚されるなら攻撃を残しているラリスを戻して追加ダメージは防ごうと言う作戦だろう。

「ラリスを戻されては追撃不可能ですね…。 メインフェイズ2へ移行し、カードを1枚伏せてターンエンドです」

未弥 LP4000 手札:4枚 場:幼鳥シムルグ(守備/Def1900)/ガーディアン・エアトス(攻撃/Atk2500) 伏せ:1枚

エアトスで破壊してラリスで申し訳程度のダメージを与える予定が、カイザー・グライダーのバウンスによって阻まれてしまった。
しかしながら僅かに100ポイントとは言えライフを削れたのは事実。
自分の場にそれぞれ攻撃と守備のモンスターを残し、なお且つ1枚だがセットされた魔法・罠カードで返しのターンに甚大な被害を食らう可能性は低いだろう。

「俺のターン、ドローだ。 ――俺はこのターン、墓地にあるカーボネドンの効果を使うぜ」
「最初のターンに墓地に送ったモンスターの効果をこのタイミングで…?」
「墓地にあるカーボネドンの上にカードが5枚以上ある場合、墓地のカーボネドンを除外する事でダイヤモンド・ドラゴンを特殊召喚出来る!」

カーボネドン
☆1 100/600 光・恐竜
墓地にあるこのカードの上にカードが5枚以上重なっている場合、このカードをゲームから除外する事で手札又はデッキから「ダイヤモンド・ドラゴン」を1体特殊召喚する。

最初のターンにカーボネドンを墓地に送ったのは効果を使う為。
発動までにタイムラグこそあるが、その効果の発動条件を早くクリアするのに初手で墓地送りにしたと言う訳だ。

カーボンは圧縮されるとダイヤモンドへと姿を変える。
カーボネドンも墓地でカードに上から圧縮される事で、真の姿に生まれ変わる。

「最初に墓地に送ったのはこの為ですか…」
「その通り! 俺はカーボネドンを除外して、デッキからダイヤモンド・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚だ!」

ダイヤモンド・ドラゴン
☆7 2100/2800 光・ドラゴン
通常モンスター

辺りが眩い光に包まれた後、光り輝くダイヤモンドで形成されたドラゴンが大きく咆哮する。
ダイヤモンドの名を持つだけあって綺麗に輝き、それは見る者全てを魅了するか。

「ウキウキしてる割には攻撃力2100じゃない。 エアトスに足りてないわ」

満を持して登場した龍の攻撃力は2100、対して未弥のエアトスは2500と僅かに攻撃力を上回る。
後ろで静かに観戦していた妃奈柚も思わず口に出したが、エアトスの攻撃を凌げる守備力はあれど攻撃力では及ばない。
攻撃力で足りている幼鳥シムルグは破壊できても、返しのターンでエアトスに破壊されてしまうのだ。

「まだだぜ、まだダイヤモンド・ドラゴンは強くなれるんだ。 俺は、ダイヤモンド・ドラゴンをリリースしてダイヤモンドダスト・ドラゴンを特殊召喚!」

ダイヤモンドダスト・ドラゴン
☆9 3100/2800 光・ドラゴン
このカードは通常召喚出来ない。自分フィールド上の「ダイヤモンド・ドラゴン」1体をリリースして特殊召喚する。
1ターンに一度、相手フィールド上の魔法・罠カードを破壊する事が出来る。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、もう一度続けて攻撃する事が出来る。
このカードが戦闘を行う時、守備表示モンスターを攻撃表示に変更する事が出来る。
このカードがフィールドから離れた時、自分の墓地から「ダイヤモンド・ドラゴン」1体を特殊召喚する。

カーボンからダイヤモンドへと美しく進化した龍は、その身を大きく広げて咆哮するとさらに進化を遂げた。
より攻撃的なフォルムへと、より大きな体へと変化し、さらにより美しい姿へと。

「3100…。 攻撃力を上回りましたか」
「さぁ行くぜ! ダイヤモンドダスト・ドラゴンの効果発動、1ターンに一度相手の魔法・罠カードを破壊する。 ダイヤモンド・スイープ!」

主の命に従い、巨大な翼で巨体を持ち上げると同時に強く羽ばたき突風を巻き起こす。
強烈な突風に未弥は反射的に腕でスカートを抑え、捲られない様にと踏ん張る。
その間にも、巻き起こされた突風によって未弥のセットした魔法・罠カードは吹き飛ばされて消滅してしまう。

「これで安全に攻撃が通せるぜ、ダイヤモンドダストでエアトスに攻撃だ。 ダイヤモンドダスト・ストーム」
「また風ですか!? 風を利用して私のスカートを捲ろうと言う作戦では無いでしょうね?」
「不可抗力だよ!」

風属性主体のデッキを組んでる自分は何なのかと。
そうこうしてる間にも突風と共にダイヤモンドが吹き荒れて、エアトスを襲う。
ついでに未弥にも風が襲いかかるが先ほど同様しっかりガード。
ガードする位なら短いスカートなんて履くな。

未弥 LP4000⇒3400

「くぅ…」
「これで終わりじゃないぜ、ダイヤモンドダストが戦闘で相手モンスターを破壊した場合もう1回攻撃できるんだ。 ダイヤモンドダスト・ストーム・セカンド! 対象は幼鳥シムルグ!」

突風が収まったと思った矢先の連続攻撃。
通常、攻撃は1体のモンスターにつき1回だがカードの効果によってその回数を増やしたり出来る場合があり、ダイヤモンドダストの効果はまさにそれに当たる。
1体のモンスターで連続攻撃を行えるのはそれだけで相手の計算を崩したりできる他、ダメージレースや壁モンスターの排除に強い。

「条件付き2回攻撃――でも、シムルグは守備表示だしダメージは入らないわね」
「そいつは甘いぜ」

いくら2回攻撃でも守備モンスターを貫通してライフを削ることはできない。
だからこそ、後ろで見ている妃奈柚もこの戦闘でこれ以上ライフは減らないだろうと睨んでいるのだがそれは通常であればの話。

「――っ。 きゃあ!」

未弥 LP3400⇒1500

守備表示でモンスターが存在していたはずなのに何故か未弥のライフポイントが削られる。

「未弥!? なんでライフが…」
「ダイヤモンドダストは攻撃する時に守備表示モンスターを攻撃表示に変更する事が出来るんだよ。 こいつの前では壁なんて機能しないんだ」

未弥に発生したダメージは、守備表示を攻撃表示変更する効果の為。
高い攻撃力で敵をなぎ倒しなお且つ守る隙すら与えない。
この圧倒的攻撃性能はまさに最上級ドラゴン族に相応しい。

「墓地に送られたシムルグの効果により、私は場にシムルグトークンを2体特殊召喚します」

緑色に輝く羽が2枚、未弥を守るように空中に浮かぶ。
突風により儚く散ったシムルグが残した羽。
死して尚しぶとく場に残り続ける様はさながら不死鳥の様。

「結局モンスターを残されちまったか。 俺はこれでターンエンドだ」

男 LP3900 手札:3枚 場:ダイヤモンドダスト・ドラゴン(攻撃/Atk3100) 伏せ:無

―Go To The Next Turn―





TURN 8

未弥 LP1500 手札:4枚 場:シムルグトークン(守備/Def1000)×2 伏せ:無
男 LP3900 手札:3枚 場:ダイヤモンドダスト・ドラゴン(攻撃/Atk3100) 伏せ:無

「私のターン、ドロー。 (…このカードならあのドラゴンを処理できそうですね) 私は星見鳥ラリスを召喚します」

カイザー・グライダーによって手札に戻されたラリスを再び場に呼び出す。
ラリスの効果は「戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイント攻撃力を上げる」と言うもので、レベル9のダイヤモンドダストと戦闘する場合攻撃力は1800上がる。
だが、効果を持ってしても攻撃力は足りない。

「バトルしますよ。 ラリスでダイヤモンドダスト・ドラゴンを攻撃です」
「効果で攻撃力が上がっても2600だぜ? 無駄死にする気か!?」

ラリスの攻撃力は800で、効果によって2600。
それでも3100のダイヤモンドダストには届かず、このままでは逆にやられてしまう事になる。
自らライフを削る戦術もあるにはあるがここでそれをやる意味は無いだろう。
ただ、敢えて攻撃したのだから何か考えがあるのは間違いない。

「そしてこの瞬間、速攻魔法ヒット・アンド・アウェイを発動します」

ヒット・アンド・アウェイ
速攻魔法
自分フィールド上の風属性モンスター1体を選択する。
選択した風属性モンスターが相手フィールド上のモンスターと戦闘を行う時、ダメージ計算を行わずその相手モンスターと選択した風属性モンスターを手札に戻す。
その後、自分は手札から風属性モンスターを1体特殊召喚する。

「自分フィールド上の風属性モンスター1体が相手モンスターと戦闘行う時、ダメージ計算せずに戦闘するモンスターとその風属性モンスターを手札に戻すカードです。 これなら攻撃力は関係ありません、スターダスト・アタック!」
「これが狙いだったか! くっそ!」

ラリスの頭上で9つの星が煌めき、それが弾丸の様に放たれた。
星の弾丸が放たれた瞬間にラリスは手札へと飛び跳ねる様にして戻り、攻撃対象のダイヤモンドダストも弾丸に撃ち抜かれ衝撃で手札へと戻される。
攻撃力で足りないのなら効果を使って除去すればいい、実に簡単な事だ。

「この効果で手札に戻した後、私は手札の風属性モンスターを特殊召喚出来ます。 出でよ、アームド・ドラゴンLV5!」

アームド・ドラゴン LV5
☆5 2400/1700 風・ドラゴン
手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持った相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、手札又はデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

攻撃直後に手札のモンスターと入れ替わる――ヒット・アンド・アウェイの名に相応しい効果。
相手のモンスターを間接的に除去しつつ自分はさらなるモンスターを展開して場合によっては追撃も可能。
自分のターンだけでなく相手のターンにも発動出来るのは地味ながらポイントか。

「そっちだけには展開させねぇ。 ダイヤモンドダストがフィールドから離れた時、ダイヤモンド・ドラゴンを墓地から蘇らせる事が出来る。 守備表示で蘇れ、ダイヤモンド!」

美しきダイヤモンドの龍と鎧を纏いし龍がフィールドで対峙する。
各々の龍が睨みあい咆哮を挙げる姿は迫力満点。

「ダイヤモンドの守備力ならそいつの攻撃は凌げるぜ」
「確かに戦闘破壊は出来ません――ですが、効果なら破壊出来ますよ」
「効果…。 しまった!?」
「LV5の効果により手札のLV7を墓地に送り、攻撃力2800以下のモンスター、つまりダイヤモンドを破壊します。 デストロイト・パイル!」

墓地に送られたモンスターの力を取り込み、アームド・ドラゴンはその体を取り込んだ力の分巨大化する。
巨大化した体でダイヤモンド・ドラゴンへと襲いかかると、自慢のパワーで美しき宝石龍を粉々に打ち砕いた。

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです」

未弥 LP1500 手札:1枚 場:アームド・ドラゴン LV5(攻撃/Atk2400)/シムルグトークン(守備/Def1000)×2 伏せ:1枚

高い攻撃力で未弥のライフを一気に削ったダイヤモンドダスト・ドラゴンの処理に成功。
ライフポイントを削るまでには至らなかったものの、召喚条件の付いたモンスターを処理できたと言うのはアドバンテージ。
一度召喚条件を満たしたモンスターであっても、手札又はデッキに戻った場合はそれがリセットされてしまい、もう一度条件をクリアしないといけない。
こういうモンスターには間接的な除去が有効な場合が多いのだ。

「俺のターン。 俺は魔法カード死者蘇生を発動して、墓地からダイヤモンドを蘇らせる!」

何度墓地に送られてもしぶとく場に現れる宝石龍。
その身を砕かれても、上級のリリースとなっても健気に主の元へと忠誠を見せる。

「そして、ダイヤモンドをリリースしてもう一度ダイヤモンドダストを特殊召喚だ」

先ほど手札に戻したダイヤモンドダストがその召喚条件をクリアして舞い戻る。
召喚条件となるダイヤモンド・ドラゴンが通常モンスターである以上場に出しやすい為、召喚条件のクリア自体は容易。
未弥の作戦も間違いではないが、ダイヤモンド・ドラゴン自身の出しやすさを考えれば一時凌ぎに過ぎないか。

「ダイヤモンドダストの効果発動、相手の魔法・罠を1枚破壊する。 ダイヤモンド・スイープ」

未弥の場に伏せていたカードが突風に巻き込まれて破壊される。
さらにダイヤモンドダストのもう一つの効果は「守備モンスターを攻撃表示に変更して攻撃出来る」と言う物と、二回攻撃。
この効果を使ってトークンを攻撃されれば未弥のライフは尽きてしまう。
身を守るリバースカードが破壊された今、守る物は何もない。

――だが、未弥は小さく笑った。

「掛かりましたね、私が伏せたネフティスの羽吹雪は破壊される事で効果を発揮するカード。 …ブラフですよ」

ネフティスの羽吹雪
通常魔法
セットされたこのカードがカードの効果によって墓地に送られた時、相手フィールド上のカードを3枚まで墓地に送る。その後、墓地に送ったカードの枚数まで自分の墓地からカードを選択して手札に加える。
このカードが墓地に存在する場合、以下の効果を選択して発動できる。
●このカードをゲームから除外する事で、自分のデッキからカードを1枚選択して手札に加える。
●自分の墓地に存在するこのカードと、魔法又は罠カードをゲームから除外する事で、この効果によって除外したカードの効果を発動する。この効果は相手ターンでも使用できる。

未弥の伏せた「ネフティスの羽吹雪」が破壊された直後、ダイヤモンドダスト・ドラゴンの足元から羽吹雪と思わせる竜巻が現れた。
その竜巻は大きな宝石龍を一瞬にして飲み込み、巨体を消滅させる。

「ダイヤモンドダストが消えた…!?」
「セットされたネフティスの羽吹雪がカードの効果によって墓地に行った時、相手の場のカードを3枚まで道連れに墓地送りにするんです」
「俺の除去を誘ったのか!?」
「ダイヤモンドダストは召喚条件がリセットされたとは言え、その条件であるダイヤモンドは通常モンスターで墓地にありますからね。 蘇生できるのであれば再び召喚を狙うはず――簡単な推理ですよ」

あらかじめこの行動を想定していたと未弥は会話の中で明かす。
確かに相手の手を読むと言うのはデュエルに於いて大事だが実際にその想定通りに行くとは限らない。
まして、今回の未弥のケースではその読みが外れていた場合一気にゲームエンドまで持ちこまれてしまう展開。
そのリスクを背負ってでも自分の信じる行動を取り、それが見事に的中した。

「攻撃を入れれば勝てる状況で伏せカードがあれば心理的に除去したくなるのは当然です。 まして私は一度その効果を見てますからね」
「くそー、俺は掌の上で踊らされてたのか」

一度効果を見ていたからこそ出来た芸当。
守備モンスターを攻撃表示に変えて攻撃出来て、なお且つ二回攻撃によってライフを0に出来る。
そして伏せ除去が出来るから安全に攻撃を通す為にそれを使いたい。
相手のモンスターの効果と人間の心理をうまく使い自分に有利な状況を作り出した。

「おっと、忘れてましたが羽吹雪で墓地に送ったカードの枚数と同じだけ私は墓地からカードを手札に戻せます。 手札に戻すのはエアトスです」
「手札補充まで出来るのかよ!」

忘れていたでは済まない重要な効果。
相手の場を荒らした揚句、自分の墓地からカードを補充されては堪ったものではないだろう。
思わずツッコミを入れるほどアドバンテージを取りやすいカードだ。

「俺はグラファイト・ドラゴンを守備表示で召喚してターンエンドだ」

グラファイト・ドラゴン
☆4 1500/2000 光・ドラゴン
自分フィールド上に存在するモンスターがこのカードのみの場合、このカードの守備力は3000になりカードの効果では破壊されない。

男 LP3900 手札:2枚 場:グラファイト・ドラゴン(守備/Def2000) 伏せ:無

新たに現れし宝石龍はその体を自らの宝石で包み込み防御体制に入る。
黒光りする宝石を纏ったその姿は宛ら亀の様だがれっきとしたドラゴンなのだ。

「私のターンです、ドロー。 このタイミングで墓地にあるネフティスの羽吹雪の効果を使わせてもらいましょうか」
「さっき墓地に落ちたカード? まだ何かあるのか?」

通常墓地にあるカードを発動する事は出来ない。
墓地にあるカードを発動するならそれをまた手札に加えるか、そういった効果を持ったカードの効果を使わなければ不可能。

「墓地にあるネフティスの羽吹雪には二つ効果があります。 一つは自身を除外する代わりにデッキからカードを手札に加える効果、そして二つ目は自身と魔法か罠カードを除外して除外したカードの効果を発動する効果です。 私は羽吹雪を除外して、デッキよりThe アトモスフィアを手札に加えます」
「何ーっ!?」

ネフティスの羽吹雪は墓地にあってこそその真価を発揮するカード。
ネフティスとはデュエルモンスターズの世界では鳳凰神――つまり不死鳥と呼ばれる存在。
墓地で真価を発揮するその効果はまさに不死鳥。

「そして、場のトークン2体と墓地のシムルグをゲームから除外してThe アトモスフィアを特殊召喚します」

The アトモスフィア
☆8 1000/800 風・鳥獣
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター2体と自分の墓地のモンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力はこのカードの効果で装備したモンスターのそれぞれの数値分アップする。

宙に浮かぶ羽と墓地に眠りしその羽の持ち主を餌として、球体が現れ、その球体から一匹の鳥が姿を現した。

「攻撃力1000?」
「The アトモスフィア自身の攻撃力は攻撃力は低いですが、アトモスフィアは相手モンスター1体を吸収してその力を得る事が出来るんです」
「それってつまり…」
「そうです、アトモスフィアにグラファイト・ドラゴンを装備します。 この効果によりアトモスフィアの攻撃力は1500ポイントアップで2500。 ――さて、私の手札には召喚条件を満たしたエアトスがいます」
「俺の負けかー」

既に男のデッキの上には手が置かれてサレンダーしていた。
ライフポイントで圧倒している様に見えても、地道に稼がれたアドバンテージで気づけばライフを削り取られる。それが未弥の戦術。
それまで未弥が相手に与えたライフは僅かに100と微々たるものだが、一気にたたみかけてライフを0に出来る展開に持って行った。
未弥のデッキはごちゃごちゃと色々詰め込んだデッキだから安定感は無い。しかし一度回った時の爆発力ではどのデッキにも引けを取らない、それがこのデッキの強み。

「お手合わせありがとうございました。 お互いに頑張りましょう」

笑みを浮かべながら軽く頭を下げてのお礼。
デュエルに勝利した未弥のディスクには開始時に賭けた5ポイントが加算され、15の文字が表示される。
最終トーナメント出場の条件となる100ポイントまでは残り85ポイントとまだまだ遠いが何はともあれ一歩前進した事に変わりはない。
目標への近道はとにかく勝って勝って勝ちまくる事。
未弥もそれはわかっているだろう。まだその顔に嬉しさは見えない。

「お疲れ様、幸先の良いスタートね」
「ありがとうございます。 しかしまだ1勝しただけですからね、これからですよ」

観戦していた妃奈柚に迎えられてその場を後にする。
自身も言葉に出した様にまだ1勝しただけで先は長い、だからこそ気を引き締めないといけないと本人もわかっているのだろう。
油断は時に取り返しのつかないミスを誘う事がある。油断大敵とはよく言ったものだ。

「最後のブラフがばれてたら普通に負けでした、危なかったです」
「デッキ構築的に仕方ないわよ。 ほんと、良くそんなめちゃくちゃに詰め込まれたデッキ回せると思うわ」
「慣れですよ。 慣れれば回せるようになりますから」

談笑しながら再びアカデミアのグラウンドをのんびりと歩く。
こうしてデュエルが終わった後に温かく出迎えてくれて話し相手にもなってくれる妃奈柚は未弥にとって大切なパートナー。
同時に妃奈柚にとっても未弥は大切なパートナーであり、お互いの信頼関係は抜群。
妃奈柚は未弥よりも年上と言う事も影響しているのか、未弥にとっての精神の支えでもある。

「未弥のデッキは詰め込み過ぎてるけど、私は型に嵌って無くて面白いと思うわよ」
「妃奈はいつもそう言ってくれますよね」

昔から詰め込みすぎと言われてきた未弥のデッキに対して妃奈柚はずっと理解を示してきた。
理解者が居てくれたからこそ未弥はこのデッキを使い続ける事が出来るのだろう。
妃奈柚がデッキを褒める度、未弥の顔には笑みが浮かぶ。
最近ではデッキ内容を批難される事にも慣れて苦笑いで返す事も覚えてきたが、昔は批難の度に心が折れ掛けた。
そんな時いつも側で妃奈柚が支えてくれていたのだ。
そんな経緯があったからなのか未弥の妃奈柚に対する信頼は厚い。

「慣れって言ってもねぇ…。 多分未弥しか使いこなせないと思うけど」
「妃奈はずっと近くでこのデッキ見てる訳ですしイケると思います」

近くで見てきたから回せるだろうと言う未弥の言葉。
その言葉に妃奈柚はさすがに驚きを隠せない様子を見せた。

「いや確かに近くで見てるけど私そもそもデュエル出来ないから!」
「妃奈は観戦専門ですもんねー。 始めたくなったら言ってください、私が教えますから」

楽しそうに笑みを浮かべながら未弥は話す。
デュエルを教える事で妃奈柚の役に立てるかもしれないと言う思いもあるだろう。
妃奈柚には情報を貰ったり、その他色々とお世話になっているから自分も役に立ちたいと思うのはごく自然。
妃奈柚の得意分野は情報収集、そして未弥の得意ジャンルはデュエル。
未弥が役に立つには妃奈柚にデュエルを教える事が一番近い。

「考えておくわ。 ありがとね」

未弥同様に笑みを浮かべ、そのまま未弥の肩を軽く叩く。
たとえ冗談であってもそれぞれが互いに役に立ちたいと思ってるからこそ、素直に言葉が出る。
やはり二人の信頼と言うのは互いに揺るがないのだろう。

「そんな事より、次の相手探しに行かなきゃね」
「そうですね」

トーナメントへの道はまだ始まったばかり。
たとえ未弥が100ポイントに届いてもその間に人数が埋まってしまっては何の意味も無い。
ポイントが無くなるまで何度負けても問題ないとはいえ、人数制限がある以上はスピードも要求される。
単純な実力だけでなくスピードも兼ね備えた決闘者こそがこの大会の最終トーナメントに進出するに相応しいと言う事だ。

―Go to the Next Turn―





TURN 9

デュエルチャンピオンシップ最終トーナメント進出に向けて予選を戦う未弥とその相棒の妃奈柚。
最初のデュエルで幸先良く勝利した未弥は、その後も順調に勝利を重ねて積み重ねたポイントは現在80。
持っているポイントの半分を賭けると言う作戦で効率的に貯めて後1回勝てばトーナメントへの進出条件である100に届くと言う状況。
信じられないほど順調に勝ってポイントを貯めてきたが、だからこそ気を敷き締めてトーナメント出場をすんなり決めたいところだろう。

そして、未弥は今まさに決闘者と対峙している。

「俺様の持ち点はお前と同じ80。 お前に勝ってこのポイズン石塚がトーナメントに出場してやる」
「私もみすみす負けるつもりはありませんよ」
「(…どうでも良いけどポイズン石塚って名前ダッサ)」

両者持ち点80。目標である100には後僅かに20とあればここで一気に決めに来るのが真理。
ここまで来て無駄にポイントをケチる必要はないだろうし、必要最低限のポイントだけを賭ければ負けても60からスタートできる。
未弥は基本的に現在の持ち点の半分を賭けると言う作戦でコツコツと貯めてきたが、時には方向転換も必要。
どうせ100貯めれば良いのだからここで半分掛ける意味は無い。

「賭けるのはお互いに20で良いですよね」
「当然だ、無駄なポイントをやりとりする意味はあるまい」

それぞれがディスクに表示されているポイントから賭け点である20が表示される。
それと同時に未弥側のディスクにDRAWの文字が表示され、未弥の先行でデュエルが始まった。

「私の先行です、ドロー。 ランス・リンドブルムを攻撃表示で召喚し、さらにカードを2枚伏せてターンエンドです」

ランス・リンドブルム
☆4 1800/1200 風・ドラゴン
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

吹き抜ける風と共に姿を現す竜人。
ランスの名の通り鋭い槍を構え、威嚇する。

未弥 LP4000 手札:3枚 場:ランス・リンドブルム(攻撃/Atk1800) 伏せ:2枚

「俺様のターン、ドロー。 フィールド魔法ヴェノム・スワンプを発動」

ヴェノム・スワンプ
フィールド魔法
お互いのターンのエンドフェイズ毎に、フィールド上に表側表示で存在する「ヴェノム」と名のついたモンスター以外の表側表示で存在する全てのモンスターにヴェノムカウンターを1つ置く。
ヴェノムカウンター1つにつき、攻撃力は500ポイントダウンする。
この効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊される。

そのフィールド魔法が発動された瞬間、辺りはじめじめとした沼に姿を変える。
地面は油断すれば足を引きずりこまれそうな程に泥濘、その色合いはまさに毒そのもの。
未弥は勿論、その場に存在するランス・リンドブルムも足を取られまいとこまめに足を動かす。

「これが俺様の戦場なんでね。 手札よりヴェノム・スネークを召喚。 ヴェノム・スネークは攻撃を放棄する代わりに1ターンに1度相手モンスターに毒を注入できる」

ヴェノム・スネーク
☆3 1200/600 地・爬虫類
1ターンに1度だけ、相手フィールド上モンスター1体にヴェノムカウンターを1つ置く事ができる。
この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

沼地より突如として姿を現した小さな蛇がランス・リンドブルムの腕に噛みついた。
噛みつかれたリンドブルムの腕には紫色の蛇の様な模様が浮かび上がり、その毒に悶える。

ランス・リンドブルム Vカウンター×1 Atk1800⇒1300

「リンドブルムの攻撃力が…!?」
「ヴェノム・スワンプが存在している限り毒を注入される度に攻撃力が500下がり、この効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊されるのさ」
「相手をじわじわと弱らせ最終的に破壊。 …なるほど、まさに毒ですね」

毒蛇達の持つ毒は、この毒沼でこそその真価を発揮する。
最初は何ともなくとも時間が経てば経つほど体に毒が回り、気づけば力を失う。
攻撃力が極端に低いモンスターは毒を注入された瞬間に力を失ってしまい機能する事すら出来ない。
攻撃力の高いモンスターであっても長く留まるほど毒がまわるスピードが速くなるのだ。

「この毒沼に足を踏み入れて無事だったモンスターはいない。 俺はカードを2枚伏せ、エンドフェイズにヴェノム・スワンプの効果で毒を注入する」

ランス・リンドブルム Vカウンター×2 Atk1800⇒1300⇒800

沼から飛び出した小さな蛇がリンドブルムの足に絡みつき離さない。
一回の毒の効果は薄くとも、それが蓄積されると効果もその分大きくなる。
塵も積もれば山となるとはこの事だろうか。

「貧弱なモンスターはあっという間に葬ってやるぜ。 ターンエンドだ」

石塚 LP4000 手札:2枚 場:ヴェノム・スネーク(攻撃/Atk1200)/ヴェノム・スワンプ(フィールド魔法) 伏せ:2枚

「私のターン、ドロー。 (効果で攻撃力が0になったら破壊…元々0なら効果では0に出来ないから破壊されないのでは) ――シールド・ウィングを守備表示で召喚します」

シールド・ウィング
☆2 0/900 風・鳥獣
このカードは1ターンに2度まで、戦闘では破壊されない。

緑色の体をした翼竜の様な鳥が毒沼に舞い降り、その翼で自身の体と未弥を守る。
シールドの名の通り、身を守るその翼はまるで盾。

「ヴェノム・スワンプの破壊効果が発動するのはヴェノム・スワンプで攻撃力を0にした場合のみ。 と言う事は元々0のモンスターであれば破壊されませんよね」
「ちっ…」

毒が作用するのはあくまでも攻撃力を持ったモンスターに対してだけ。
まるっきり攻撃力を持たないモンスターに対しても毒を盛る事は出来ても効果は発揮されない、それがこの毒沼の弱点。
毒と言うのは極めて強力だが当然それに耐性を持つモノも存在する。
攻撃力が高い事は戦闘では有利だし通常はそれが大きな武器となる。しかし、この毒沼では攻撃力が0であると言う事が武器になり得る。

「私はこれでターンを終了します」
「おっと、このエンドフェイズに攻撃力を失ったランス・リンドブルムは破壊され、シールド・ウィングにも毒が盛られるぜ」

ランス・リンドブルム 場⇒破壊 シールド・ウィング Vカウンター×1

全身に毒が回り攻撃力を失ったリンドブルムはそのまま沼に飲み込まれ力尽きる。
その直後、隣で身を守るシールド・ウィングに紫の蛇がまとわりつく。
だが攻撃力を持たない故か表情一つ変える事は無かった。

未弥 LP4000 手札:3枚 場:シールド・ウィング(守備/Def900) 伏せ:2枚

「俺様のターン、ドローだ。 ヴェノム・スネークでシールド・ウィングを攻撃する」

攻撃宣言に従い、ヴェノム・スネークは大きく跳ね上がり自慢の牙でシールド・ウィングの翼に噛みつく。
シールド・ウィングの守備力を上回るヴェノム・スネークの攻撃は確かに直撃した様にも見えた――が、シールド・ウィングは場に留まっていた。

「何っ…!?」
「説明がまだでしたね。 シールド・ウィングは1ターンに2度までであれば戦闘破壊されないんです」
「めんどくせぇモンスターだな。 仕方ねぇ、メインフェイズ2に移行して魔法カードスネーク・レインを発動だ」

スネーク・レイン
通常魔法
手札を1枚捨てて発動できる。
デッキから爬虫類族モンスター4体を墓地へ送る。

「手札の半蛇人サクズィーを捨てて、デッキから4体の爬虫類を墓地に送る」

墓地に行った半蛇人の声に応えるかの如く、空から4匹の爬虫類が降り注ぎ沼へと飲み込まれる。
空から爬虫類が降り注ぐその様はまさに雨の様な光景であり、苦手な人は恐怖するだろう。

「ターンエンドの前にヴェノム・スワンプの効果で毒を盛らせてもらうぜ。 ターンエンドだ」

シールド・ウィング Vカウンター×2
石塚 LP4000 手札:1枚 場:ヴェノム・スネーク(攻撃/Atk1200)/ヴェノム・スワンプ(フィールド魔法) 伏せ:2枚

沼から飛び出す蛇が再びまとわりつくも、シールド・ウィングは気にも留めない。
強固な翼の前では毒もその力を発揮できずただ無意味な存在になりつつある。
攻撃を凌ぎ毒をも無力化するその姿はシールドと呼ぶに相応しい頼もしさだ。

「ドロー。 私は星見鳥ラリスを攻撃表示で召喚です」

星見鳥ラリス
☆3 800/800 風・鳥獣
このカードが戦闘を行う場合、ダメージステップの間このカードの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。
また、このカードが攻撃したダメージステップ終了時、このカードをゲームから除外し、次の自分のターンのバトルフェイズ開始時に表側攻撃表示で自分フィールド上に戻す。

お馴染みオレンジの体と翼を煌めかせて遥か上空より小さな鳥が現れる。
毒々しい沼とその煌めく体は見事にミスマッチ。
毒々しい沼がむしろラリスの美しさを際立たせているのかもしれない。

「星見鳥ラリスが戦闘する時、そのダメージステップ時のみ攻撃力を戦闘するモンスターのレベル×200ポイントアップします。 では行きましょう、ラリスでヴェノム・スネークに攻撃です」
「待った! 攻撃宣言時に永続トラップ、ダメージ=レプトルを発動させてもらうぜ」

一枚のリバースカードが表になっても攻撃には影響を及ぼす事無く、ラリスの頭上で3つの星が煌めく。
煌めく星を自身の力に変えて、その星は弾丸となり攻撃対象であるヴェノム・スネークを撃ちぬいた。

石塚 LP4000⇒3800

「爬虫類族モンスターの戦闘でダメージを受けたこの瞬間、ダメージ=レプトルの効果発動。 受けたダメージ以下の攻撃力の爬虫類族モンスター1体をデッキから呼び出す、俺は毒蛇王ヴェノミノンを特殊召喚だ」

毒蛇王ヴェノミノン
☆8 0/0 闇・爬虫類
このカードはこのカード以外の効果モンスターの効果では特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り「ヴェノム・スワンプ」の効果を受けない。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。

沼が音を立てて割れ、その隙間から蛇を体に纏いし者が現れる。
小さき毒蛇からバトンを受けて現れし者は自ら王を名乗るだけあり力の強さを感じさせる。

「攻撃力0…?」
「爬虫類の王であるヴェノミノンはこの沼地に眠る爬虫類達を自らの力に変える。 つまり、攻撃力は墓地の爬虫類に依存しその数値は1体につき500。 俺様の墓地の爬虫類族は6体、よって3000だ」

毒蛇王ヴェノミノン Atk0⇒3000

自ら体に纏う蛇の1体が沼に突き刺さると、沈んでいった爬虫類達が残像の如く浮かび上がりそれらを取り込んでいく。
取り込まれる度、自身の纏う蛇達の目が光り何とも言えない威圧感を醸し出してきた。

「少ないダメージでも特殊召喚出来て爆発的な攻撃力を得られる訳ですか。 しかし、ヴェノムと名のつかないモンスターですから毒の影響を受けるのでは?」
「ヴェノミノンは自身の効果でヴェノム・スワンプの影響を受けない。王に対して下級の毒など掠り傷にもならんと言う事だ」

ヴェノム・スワンプは「ヴェノム」と名の付くモンスター以外に毒を盛り攻撃力を奪う。
「ヴェノム」の名を持たないヴェノミノンは通常であれば影響を受けてターン毎に弱体化するはずと言う未弥の疑問は当然だろう。
毒は毒を以って制す、毒蛇王を名乗るヴェノミノンはその言葉通り毒を以って毒を制しヴェノム・スワンプの影響を影響を受けないのだ。

「なるほど、そう言う事なんですね。 ですが、影響を受けないのは私のラリスも同じなんですよ」
「なんだと。 どういう事だ」
「ラリスが攻撃に成功した場合、次の私のバトルフェイズ開始時までゲームから除外されるんです。 フィールド外には干渉できませんからね」

攻撃を終えたラリスは遥か大空へと飛び立ちフィールドからその姿を消した。
フィールドに留まれば毒の餌食になってしまうのならば留まらなければ良いだけ。
翼で静かに身を守るシールド・ウィングと共にヴェノム・スワンプの抜け道を利用したと言っても良いだろうか。

「私はこれでターンエンドします」
「エンドフェイズにヴェノム・スワンプの効果を適用する」

シールド・ウィング Vカウンター×3
未弥 LP4000 手札:3枚 場:シールド・ウィング(守備/Def900) 伏せ:2枚

最早シールド・ウィングに対する毒は機能していないも同然だが意思とは関係なく毒を注入しなくてはならない。
既に3ヶ所が毒に侵されているにも関わらずシールド・ウィングは何事も無かったかの様に翼で身を守るだけ。

「俺様のターンだ、ドロー。 とりあえずその邪魔な鳥には退場してもらう、魔法カードヴェノム・ボムを発動」

ヴェノム・ボム
通常魔法
ヴェノムカウンターの乗ったモンスター1体と魔法・罠カード1枚を破壊する。

「このカードの効果で毒が注入されているモンスターと魔法・罠カードを破壊できる。 そのめんどくさい鳥と右側の伏せカードを破壊しろ」
「右側で良いんですね、わかりました」

シールド・ウィングに纏わりついた蛇が弾け、辺りは爆風に包まれる。
爆風はシールド・ウィングと未弥の伏せカードを沼地の底深くへと巻き込んだ。

「これで壁モンスターはいなくなった。 ヴェノミノンでダイレクトアタックだ、ヴェノムブロー!」
「通しませんよ。 速攻魔法、エネミーコントローラー発動です」

ヴェノミノンの体から無数の蛇が放たれて未弥に襲いかかるが、突如として現れたコントローラーによって攻撃は届かず守備の体制になってしまった。
未弥が発動したエネミーコントローラーは、文字通り敵をコントロールする事が出来、時には攻撃に時には防御にも使えると攻防一体のカード。

「ちょっと待て。 俺様はさっき右側のカードを破壊しろと言ったはずだ。 そのカードは右側にあったカードだろ、どういう事だ」
「ちゃんと右側のカードを破壊しましたよ。 ――私から見て、ですけどね」

右側のカード――相手側と自分側どちらから見てなのかと言う穴を見つけ、未弥は自分側から見て右のカード、つまり石塚から見て左側のカードを破壊していた。
こう言った事をしっかり確認しないとトラブルの素になるのでしっかり確認するようにしなければならない。

「それじゃ左側じゃねぇか。 普通俺様から見てに決まってるだろ」
「生憎私は普通じゃないですからね。 ――さて、ターンはどうしますか?」
「(良い子の皆は真似しちゃダメよ?)」

特に悪びれる様子も無く、それどころかむしろしてやったりと言った感じの表情を浮かべる未弥。
堂々としすぎて最早曖昧な指示をした相手の方が悪いと思えてくるほど。
不正かどうかは定かではないが、堂々としているあたりは見習う所か。

「仕方ねぇ、ターンエンドだ」

石塚 LP3800 手札:1枚 場:毒蛇王ヴェノミノン(守備/Def0)/ヴェノム・スワンプ(フィールド魔法)/ダメージ=レプトル(永続罠) 伏せ:1枚

腑に落ちないと言った様子でしぶしぶターンを明け渡す。
破壊したはずのエネミーコントローラーによって攻撃を通せずに戦略を崩されたのだから無理もないが。
しかし攻撃は通せなかったとは言え、守備表示だが攻撃力3000を誇るモンスターは残っており伏せカードもあると言う万全の体勢。
これに対して未弥はどう出るか。

「私のターンですね、ドロー。 ハーピィズペット仔竜を攻撃表示で召喚し、バトルフェイズの前にラリスを場に戻します」

ハーピィズペット仔竜
☆4 1200/600 風・ドラゴン
このカードは自分フィールド上に存在する「ハーピィズペット仔竜」を除く「ハーピィ」と名のついたモンスターの数により効果を追加する。
1体:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手は自分フィールド上に存在する「ハーピィズペット仔竜」を除く「ハーピィ」と名のついたモンスターを攻撃対象に選択できない。
2体:このカードの元々の攻撃力・守備力は倍になる。
3体:1ターンに1度、相手フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる。

ピンクの体が可愛らしいまだ幼さの残る竜が、煌めくオレンジの鳥と共に毒の沼へと現れる。
ラリスもそうだが同様にピンクの体を持つ竜もこの毒沼には色合い的に不釣り合い。

「バトルです。 ラリスでヴェノミノンを攻撃、スターダスト・アタック!」
「ポイズン石塚を舐めるなよ。 リバースカード、ヴェノム・バリア。 ヴェノムモンスターが攻撃対象になった時、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する」
「――っ。 最初に伏せた内の1枚、ここで使いますか…」

ヴェノム・バリア
通常罠
自分フィールド上に存在する「ヴェノム」と名のついたモンスター又は「毒蛇王ヴェノミノン」「毒蛇神ヴェノミナーガ」が攻撃対象になった時に発動できる。
相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。
自分フィールド上に「ヴェノム・スワンプ」が存在している場合はデッキからカードを2枚ドロー出来る。

攻撃対象であるヴェノミノンのレベルは8。
8個の星がラリスの頭上で煌めき弾丸になるお馴染みの攻撃は、守備表示のヴェノミノンを倒すには十分な威力。
だが、その星の弾丸はヴェノミノンに届く事無く毒を帯びたバリアに跳ね返された。
威力を増した星の弾丸は味方である仔竜にも襲いかかり、ラリスもろとも力尽き沼の奥底へと引きずり込まれた。

「ヴェノム・バリアを発動した時にヴェノム・スワンプが存在していた場合はデッキから2枚ドロー出来る。 引かせてもらうぞ」

石塚 手札:1枚⇒3枚

「(少し攻め急ぎましたね…)――カードを1枚伏せてターン終了します」

未弥 LP4000 手札:2枚 場:無 伏せ:1枚

守備力0に付け込み一気に攻め込もうとしたが攻撃反応型の罠によって阻まれたどころか場を一掃されてしまった。
先ほどの相手のターンでインチキ染みた事をした罰か、はたまた単に攻め焦ったか。
いずれにしても次の石塚のターンをなんとか凌ぐのが未弥にとっては先決。
仮に石塚が新たにモンスターを召喚しなくても攻撃が通れば最低でも3000のダメージ、モンスターが召喚されるか墓地に2匹以上の爬虫類族モンスターが落ちれば勝敗が決する可能性まである。
セットした一枚のカードに賭けるしかない。

「カードドロー。 …ヴェノム・サーペントを召喚し、ヴェノミノンを攻撃表示に変更。 ――当然バトルを行う。 サーペントでプレイヤーへダイレクトアタックだ」

ヴェノム・サーペント
☆4 1000/800 闇・爬虫類
1ターンに1度だけ、相手フィールド上モンスター1体にヴェノムカウンターを1つ置く事ができる。

緑色の二頭を持った蛇が朽ち果てた木より沼に落下し、そのまま未弥に飛びかかる。

「くっ…」

未弥 LP4000⇒3000

「さらにヴェノミノンでダイレクトアタック、ヴェノム・ブロー!」
「ダイレクトアタックにはさせませんよ。 リバースカードオープン、速攻魔法スター・ゲイザー」

スター・ゲイザー
速攻魔法
自分の手札・デッキ・墓地から「星見鳥ラリス」1体を特殊召喚する。

「スター・ゲイザーは自分の手札・デッキ・墓地から星見鳥ラリスを特殊召喚する速攻魔法です。 墓地より守備表示で復活せよ、ラリス!」

上空に無数の星が光り輝き、それに共鳴する様に墓地からオレンジの煌めきが発生する。
二つの光が重なり合い墓地に眠りしラリスがその翼を羽ばたかせ未弥の場へと復活した。

同時にヴェノミノンから放たれる攻撃をその小さな体で受け止めて主を守るその役割を終えると再び墓地へと舞い戻る。

「上手く防がれたか。 まぁ良い、次のターンでヴェノミノンを除去できなければ結果は変わらん。 1枚カードを伏せてターンエンドだ」

石塚 LP3800 手札:2枚 場:毒蛇王ヴェノミノン(攻撃/Atk3000)/ヴェノム・サーペント(攻撃/Atk1000)/ヴェノム・スワンプ(フィールド魔法)/ダメージ=レプトル(永続罠) 伏せ:1枚

攻撃が通れば負けると言う状況を何とか凌ぎきった未弥だが、以前状況は悪い。
場には身を守るカードは無く手札も僅かに2枚。
対して石塚の場には攻撃力3000を誇る大型モンスター毒蛇王ヴェノミノンが存在し、これを除去できなければ未弥の負けは確定する。
ライフの差は僅かに800と大きくないもののフィールド状況がライフよりも大きな差を生みだしている。
だが、まだ未弥の瞳から闘志は消えていない。

―Go To The Next Turn―





TURN 10

未弥 LP3000 手札:2枚 場:無
石塚 LP3800 手札:2枚 場:毒蛇王ヴェノミノン(攻撃/Atk3000)/ヴェノム・サーペント(攻撃/Atk1000)/ヴェノム・スワンプ(フィールド魔法)/ダメージ=レプトル(永続罠) 伏せ:1枚

「ドロー。 (神禽王アレクトール――ひとまず凌ぎましょう)相手の場に同じ属性のモンスターが存在している場合、手札より神禽王アレクトールを特殊召喚します」

神禽王アレクトール
☆6 2400/2000 風・鳥獣
相手フィールド上に同じ属性のモンスターが表側表示で2体以上存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択する。
選択されたカードの効果はそのターン中無効になる。
「神禽王アレクトール」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

捲き上がる竜巻。その中心から姿を現すのは神々しいオーラを纏いし猛禽。
猛禽の中で特に位の高い神禽であり、さらにその王である雄鳥は毒の沼地の空中で大きく翼を羽ばたかせて咆哮を見せる。

「だがそいつの攻撃力は2400しかない。 どうする気だ」
「アレクトールは1ターンに1度フィールド上に表側表示で存在するカードの効果を無効に出来ます。 私が無効にするのはヴェノミノンの効果です」

アレクトールの翼が突風を巻き起こし、ヴェノミノンへと襲いかかる。
攻撃力を持たない突風はヴェノミノンの体を飲み込み、ヴェノミノンの動きを一時的に封じる。

毒蛇王ヴェノミノン Atk3000⇒Atk0

「ヴェノミノンの攻撃力は自身の効果によって得た物で、その効果を無効にすれば当然0です。 バトル、神禽王アレクトールで毒蛇王ヴェノミノンを攻撃します」

空高く飛び上がった神々しい姿の猛禽は風を纏って、動きを封じた毒蛇王へと突撃する。
猛禽の嘴と纏った風の鎧と刃が毒蛇王の体を貫き破壊した。
猛禽の王と毒蛇の王、攻撃力では毒蛇の王に及ばない猛禽の王は、相手の能力を封じる事でその活路を見出すのだ。

石塚 LP3800⇒1400

「ぬぁっ…。 良い攻撃だがこれでヴェノミノンを攻略したと思って貰っては甘いな。 墓地の爬虫類1体をゲームから除外し、蘇れヴェノミノン!」
「…自己再生持ちですか。 下級の爬虫類を餌にして蘇る辺りは王と言ったところでしょうか」

戦闘に敗れ沼に沈んだはずのヴェノミノンは、自身の僕の魂を糧にして再び舞い戻った。
死して尚王の攻撃力上昇だけでなく復活の為の生贄にも利用される事になる。
場に留まるよりも墓地に居た方が有効活用できるのは皮肉かもしれない。

毒蛇王ヴェノミノン Atk0⇒2500

「尤も墓地の爬虫類が減った事で攻撃力は500下がるがな。 お前のモンスターを倒すには十分だろう」
「確かにアレクトールよりは高いですね。 ――私はこのままターンエンドです」
「忘れずに毒は食らってもらうぜ」

神禽王アレクトール Vカウンター×1 Atk2400⇒1900

忘れがちだがまだヴェノム・スワンプは存在しておりアレクトールもその影響を受けなければならない。
神禽の王と言えどもここは毒蛇の王のホームグラウンド。
王同士の対決であっても当然有利なのはホームグラウンド側であり、アレクトールにとってはアウェイ。
自身の効果で効果を無効にしても、それは墓地に干渉できない。
一度蘇生されるとヴェノム・スワンプがある限り返しで倒されると言う事。

未弥 LP3000 手札:2枚 場:神禽王アレクトール(攻撃/Atk1900) 伏せ:無し

「俺様のターンだ、ドロー。 ヴェノム・サーペントの効果でアレクトールに毒を注入」

神禽王アレクトール Vカウンター×2 Atk1900⇒1400

「そしてバトルだ。 ヴェノミノンでアレクトールを攻撃、ヴェノムブロー!」

攻撃力は低下していてもアレクトールを倒すには十分。
自身の体から伸ばされた蛇がアレクトールの体を捕まえ、そのままその体を貫く。

未弥 LP3000⇒1900

「まだ終わってねーぞ、ヴェノム・サーペントでダイレクトアタックだ!」

緑の蛇が王に続いて今度は未弥目掛けて牙を突き立てる。

未弥 LP1900⇒900

「きゃぁぁ!?」

二体のモンスターの攻撃により未弥のライフは大きく削れて残りは僅かに900。
アレクトールの存在によって何とか踏みとどまったものの状況は崖っぷちに近い。
元々有利な状況ではなかったが今の攻撃によってさらに不利な状況になったか。

「俺様はこのままターンエンドだ。 さぁ、せいぜいあがいてみると良いさ」

未弥とは対照的に攻撃を通した事で余裕が出てきた石塚。
先にライフを削られてはいたのだが自分の受けたダメージよりも大きいダメージを未弥に与えてライフでアドバンテージを稼いだ。
ボード上でも自己再生の出来るヴェノミノンと相手を弱体化させるヴェノム・スワンプと盤石の態勢を敷いている。

石塚 LP1400 手札:3枚 場:毒蛇王ヴェノミノン(攻撃/Atk2500)/ヴェノム・サーペント(攻撃/Atk1000)/ヴェノム・スワンプ(フィールド魔法)/ダメージ=レプトル(永続罠) 伏せ:1枚

「私のターン、ドロー。 (超レベルアップ…! そして手札の貪欲な壺、賭ける価値はありそうですね) ――手札より貪欲な壺を発動します」

貪欲な壺
通常魔法
自分の墓地のモンスター5体を選択して発動できる。
選択したモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。
その後、デッキからカードを2枚ドローする。

「墓地にあるシールド・ウィング、ランス・リンドブルム、アレクトール、ラリス、仔竜をデッキに戻し2枚ドローします」
「手札補充か。 せいぜい悪あがきすることだな」

墓地から吐き出された5枚のモンスターカードを慣れた手つきでデッキに戻してシャッフルし、一呼吸置いてカード2枚をドローする。
ドローしたカードを見た瞬間、未弥に笑みが浮かんだ。

「どうだ? 良いカードは引けたか?」
「引けましたよ、私を勝利へと導くワイルドカード達が」
「ほぉ、それは面白い。 楽しませて貰おうじゃないか」

新たに加えられた2枚のカードはこのデュエルを制するワイルドカードだと未弥が言う。
ライフポイント的にもフィールドの状況的にも未弥に余裕はないはずなのだが、デッキからカードをドローした瞬間に笑みを浮かべるなど余裕が出てきた様にすら思える。
未弥の笑みを浮かべる姿に対戦相手の石塚は何を思うのか。

「魔法カード妖精龍復活を発動。 自分の手札又はデッキからレベルが7以上になる様にモンスターを墓地に送る事で、エクストラ又は墓地からエンシェント・フェアリー・ドラゴン1体を守備表示で特殊召喚します」
「モンスターを呼び出すカードか」

妖精龍復活
通常魔法
このカードを発動するターン自分は通常召喚出来ない。
自分の手札又はデッキからレベルが7以上になるようにモンスターを墓地に送る。
エクストラデッキ又は墓地から「エンシェント・フェアリー・ドラゴン」1体を召喚条件を無視して守備表示で特殊召喚する。
このカードを発動したターン自分はバトルフェイズを行えない。

「デッキからレベル4のハーピィ・レディ1とレベル5のアームド・ドラゴンLV5を墓地に送り、降誕せよ、エンシェント・フェアリー・ドラゴン!」

エンシェント・フェアリー・ドラゴン
☆7 2100/3000 光・ドラゴン
シンクロ
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。
この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。
また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
フィールド上のフィールド魔法カードを全て破壊し、自分は1000ライフポイント回復する。
その後、デッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

2体のモンスターの魂を自身の復活の為の生贄として、眠れる妖精龍がその姿を現す。
青く細長い体に妖精の羽をもった特徴的なドラゴンが舞い降りると辺りは神秘的な光に包まれ、毒の沼が一気に明るさを増していく。
フェアリーと言うだけあり、その光はただの光ではなく妖精の放つそれだった。

「エンシェント・フェアリーの効果、1ターンに1度フィールド魔法カードを破壊します。 妖精龍にこの毒沼は相応しくありませんのでお役御免となっていただきましょうか」

妖精龍の体から放たれる神秘的な光が毒沼を包み、光が晴れた時には毒沼は綺麗に消滅した。
爬虫類のホームグラウンドだった毒沼が消え去り、未弥と石塚の周りは本来のデュエルフィールドに姿を変えた。

「ほう、ヴェノム・スワンプの破壊が目的か。 それで、壁モンスターを並べて時間を稼ぐつもりか」
「破壊が目的じゃありませんよ。 ヴェノム・スワンプを破壊した事で私はライフを1000回復し、デッキよりフィールド魔法カードを手札に加えます。 ――私が加えるのはハーピィの聖域です」

未弥 LP900⇒1900

毒沼の破壊によって生まれた大地のエネルギーを生命の力へと変え、それを主である未弥に向けて放つ。
生命の力は未弥のライフを回復させ、さらに新たな大地を呼び起こす為の力となりてデッキと共鳴する。

「手札に加えたハーピィの聖域を発動。 今まではあなたのホームグラウンドでしたが、ここからは私のホームグラウンドで戦わせて貰いましょう」

ハーピィの聖域
フィールド魔法
自分フィールド上に「ハーピィ」と名の付いたモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時、相手フィールド上のカードを一枚破壊する事が出来る。
このカードがフィールド上に存在する限り、自分フィールド上の風属性モンスターは戦闘では破壊されず罠カードの効果を受けない。
自分フィールド上の風属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
1ターンに一度、自分の手札又は墓地から「ハーピィ・レディ」と名の付いたモンスターを特殊召喚できる。

フィールドは風が吹き荒れる緑豊かな草原へとその姿を変える。
風を巧みに操る未弥にとってはこの草原こそが力を発揮するホームグラウンド。
今まで苦しめられた毒沼は一瞬にして未弥が躍動するステージへと変わるのだ。

「ハーピィの聖域は1ターンに1度手札か墓地からハーピィ・レディを呼び出せます。 私は墓地からハーピィ・レディ1を守備表示で特殊召喚します」
「ハーピィ・レディ1か、そういえばさっき墓地に送っていたな」

墓地から竜巻が巻き起こり、その竜巻の中心部からエロティックな衣装を身に纏いし鳥人が復活し守備体制をとった。

「まだですよ。 この聖域下でハーピィが場に姿を現した時、相手のカード1枚を破壊出来ます」
「何だと」
「破壊するのは当然、ヴェノミノンです」

ハーピィ・レディが場に現れた瞬間守備体制を取ったと思えば、次の瞬間には風の刃が放たれてヴェノミノンの体を切り裂いた。
聖域の加護を受けたハーピィはその加護を新たな力へと変えて相手へと立ち向かう。

「ヴェノミノンの自己再生効果は戦闘破壊のみ。 よってこれで自己再生は出来ません」
「まさか王たるものが簡単に死ぬと思うのか? トラップカード蛇神降臨を発動!」

蛇神降臨
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する「毒蛇王ヴェノミノン」が戦闘以外で破壊された時に発動できる。
手札・デッキから「毒蛇神ヴェノミナーガ」1体を特殊召喚する。

「ヴェノミノンが戦闘以外で破壊された時、神はその姿を現す。 現れよ、毒蛇神ヴェノミナーガ」

毒蛇神ヴェノミナーガ
☆10 0/0 闇・爬虫類
このカードは通常召喚できない。
「蛇神降臨」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚できる。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードはフィールド上で表側表示で存在する限り、このカード以外のカードの効果の対象にならず、効果も受けない。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、このカードにハイパーヴェノムカウンターを1つ置く。
このカードにハイパーヴェノムカウンターが3つ乗った時、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。

王が陥落したと思いきや、一つの罠カードの発動により聖域の地面が割れて揺れる。
風の吹く草原に突如として起こる地震と地割れは何か禍の始まりか。
暫く地震と地割れは続き、気づけば地割れの隙間から蛇を纏いし女性型の神がその姿を現した。
王とは比べ物にならぬその威圧感。 ――それはまさに神と呼ぶにふさわしいか。

「ヴェノミナーガの攻撃力はヴェノミノンと同じく墓地の爬虫類の数で決まるから今は3000。 さらに神である以上カードの効果を一切受け付けない」

毒蛇神ヴェノミナーガ Atk0⇒3000

「蛇神とは言え神の名は伊達では無い訳ですね。 ですが神であってもこの聖域の効果には干渉できません」
「なに…!?」
「ハーピィの聖域が私の場にある限り風属性モンスターは攻守が300アップし、戦闘破壊されず罠カードの効果を受けなくなるんです。 これはいくら神であっても無効には出来ません」
「だが結局は時間稼ぎにすぎん。 速く神の前にひれ伏すんだな」

吹き荒れる風は、その属性を持つハーピィ・レディの前で強固な盾となって体を守り、さらには力を与える。
ハーピィ・レディ1の自身の効果も相まって風の盾はその強度をより高める。

ハーピィ・レディ1 Def1400⇒1700⇒2000

「時間稼ぎも立派な戦術なんですよ。妖精龍復活を発動したターン、私はバトルフェイズと通常召喚を行えませんのでカードを1枚伏せてターンエンドです」

ワイルドカードを引いたと言いつつも、結局カード効果によって攻撃を行えず守りを固めたまま自分のターンを終了する。
王を突破したのは事実だがその上の神の降臨を許し状況はむしろ悪化したかもしれない。
それでも、自分のホームグラウンドで戦える安心感、そして自分が最も信頼する妖精龍の存在が未弥に余裕を与えた。

未弥 LP1900 手札:2枚 場:エンシェント・フェアリー・ドラゴン(守備/Def3000)/ハーピィ・レディ1(守備/Def2000)/ハーピィの聖域(フィールド魔法) 伏せ:1枚

「ドロー。 俺様はヴェノム・サーペントをリリースしてヴェノム・ボアを守備表示で召喚する」

ヴェノム・ボア
☆5 1600/1200 地・爬虫類
1ターンに1度だけ、相手フィールド上モンスター1体にヴェノムカウンターを2つ置く事ができる。
この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

風の吹き荒れる草原に不似合いな三つ目の青い蛇がとぐろを巻くように現れる。
上級モンスターである故か今までのヴェノムモンスターよりも太く長い体が特徴的で、締めつけられれば一瞬で命を落としかねない。

「さぁ、これでヴェノミナーガの攻撃力は3500。 エンシェント・フェアリーを粉砕しろ、アブソリュート・ヴェノム」

蛇神から伸びる蛇状の手が蛇の様な外見の妖精龍の体を貫こうと襲いかかる。
毒素を帯びた蛇状の腕は触れた者に一瞬で強力な毒を与える、まさにアブソリュート(絶対的)
しかし、その攻撃の前に立ちふさがるのは1枚のリバースカード。

「トラップカード、バスター・モードをオープンです」

バスター・モード
通常罠
自分フィールド上のシンクロモンスター1体をリリースして発動できる。
リリースしたシンクロモンスターのカード名が含まれる「/バスター」と名のついたモンスター1体を
デッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。

「ヴェノミナーガに罠カードは効かない、最初に説明したはずだがな」
「バスター・モードの対象は私のシンクロモンスター、つまりエンシェント・フェアリーです」

あくまでヴェノミナーガに罠や魔法が効かないだけで、自分のモンスターに対して発動は出来る。
いくら神とは言えど相手のモンスターに対するカードの発動は干渉できない。
発動自体を無効にするなら話は別だが、自身に対してカード効果が無効というだけで未弥にとってはそれが大きな抜け道である。

「シンクロモンスター1体をリリースする事で、同名の/バスターをデッキから特殊召喚します」
「/バスターだと…」
「私の場のエンシェント・フェアリーをリリース。 ――出でよ、エンシェント・フェアリー・ドラゴン/バスター!」

エンシェント・フェアリー・ドラゴン/バスター
☆9 2600/3500 光・ドラゴン
このカードは通常召喚できない。「バスター・モード」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードは特殊召喚に成功した時守備表示になる。
このカードは守備表示のまま攻撃を行うことができる。その場合守備力を攻撃力として扱う。
1ターンに一度、自分の手札又は墓地からこのカードの攻撃力以下の攻撃力を持ったモンスターを
特殊召喚できる。この効果を発動したターン、このカードは攻撃宣言できない。
又、1ターンに一度、相手フィールド上のカードを一枚破壊することができる。破壊した場合、自分
は1000ポイント回復する。
このカードが破壊された時、自分の墓地から「エンシェント・フェアリー・ドラゴン」を1体特殊
召喚する。

聖域に吹き荒れる風と妖精龍から放たれる光がそれぞれ重なり、妖精龍の体を包み込む。
重なり合った光と風は妖精龍の体を護る鎧の様に姿を変えて行く。
一瞬の輝きの後、光が晴れた聖域にあったのは、より攻撃的なフォルムとなった妖精龍の姿だった。

「守備力3500…。 ヴェノミナーガの攻撃力と互角か。 聖域の効果でハーピィ・レディも戦闘破壊出来ない、ならば俺はここでターンエンドだ」

より攻撃的なフォルムとなった妖精龍にその攻撃を阻まれ、もう1体の鳥人も聖域の加護によって戦闘破壊出来ない。
強力な力を持つ神であっても攻撃を通さなければその力も無意味なものと化す。
未弥が切ったワイルドカードは結果として石塚の攻撃を凌ぐ大きな盾となって場を繋いだ。
攻める前にはしっかりと守りを固めて場を整える事も戦略の内。

石塚 LP1400 手札:3枚 場:毒蛇神ヴェノミナーガ(攻撃/Atk3500)/ヴェノム・ボア(守備/Def1200)/ダメージ=レプトル(永続罠) 伏せ:無し

「私のターンです、ドロー。 私はエンシェント・フェアリー/バスターの効果を発動します」
「わざわざ発動すると言う事はまたヴェノミナーガで干渉できない効果か」
「その通りです。 エンシェント・フェアリー/バスターは1ターンに1度自身の攻撃力以下の攻撃力のモンスターを手札か墓地から特殊召喚出来ます」

未弥のデッキ最強の守護神であるエンシェント・フェアリー・ドラゴン/バスター。
高い守備力で主をダメージから守るだけでなく、その守備力で攻撃を凌いでから新たに起点を作る事が出来る。
場に出すのは決して簡単ではないが、場に出した時に得られるアドバンテージは決して小さいものではない。

「エンシェント・フェアリー/バスターの攻撃力は2600。 よって、攻撃力2400のアームド・ドラゴンLV5を墓地より特殊召喚します」

アームド・ドラゴン LV5
☆5 2400/1700 風・ドラゴン
手札からモンスター1体を墓地に送る事で、そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

墓地に向かって放たれた光は、蘇生対象のアームド・ドラゴンと共鳴する。
ひとつ大きな咆哮をあげれば光に導かれて墓地より鎧を纏いし竜がその姿を現す。

「それでも攻撃力は足りん。 モンスターを何体並べても攻撃力が低ければ意味はない」
「足りないなら届かせれば良いだけです。 手札から速攻魔法、超レベルアップ!を発動します」

超レベルアップ!
速攻魔法
自分フィールド上に存在する「LV」と名のついたモンスターを1体墓地に送る。
墓地に送ったモンスターよりもレベルの高い「LV」と名のついたモンスターを手札又はデッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは召喚条件を満たしたとして扱う。

「超レベルアップ!はその名の通りLVモンスターを墓地に送って急成長させるカードです。 この効果でLV5を墓地に送りレベルアップさせます」
「アームド・ドラゴンの進化形態…LV10か?」

石塚のその言葉を聞いて静かに未弥は笑う。
前のターンから手札で温めていたこのカードこそが未弥の第二のワイルドカード。
このカードを使う為に場を整えて攻撃を凌いできたと言っても過言ではないし、効果を使う条件を整える為に貪欲な壺に賭けたとも取れる。

「私が呼び出すのはLV10ではありません。 ――その上です」
「上だと…?」
「私が呼ぶのはアームド・ドラゴンの隠された真の最終形態、LVMAXです」

アームド・ドラゴン LVMAX
☆12 3700/3500 風・ドラゴン族
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上の「アームド・ドラゴン LV10」一体をリリースして特殊召喚する。
手札を1枚捨てる。相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。
フィールド上に存在するこのカード以外のモンスターの攻撃力がアップした場合、その分だけこのカードの攻撃力をアップする。
このカードは相手のカードの効果によって破壊されず、コントローラーを変更できない。
このカードがフィールドから離れた時、自分の墓地から「アームド・ドラゴン LV10」を召喚条件を無視して特殊召喚する。

鎧を纏いし巨大な龍が聖域にその姿を現した時、地面が大きく揺れ足元に砂塵が巻き起こる。
重量感あふれる大きな体は見る者すべてに威圧感と恐怖感を与えるだろう。
最終形態は伊達ではなく、直前の形態であるLV10よりも遥かに大きく力強い。
通常でも強大な攻撃力を持つが聖域と鳥人の力を受けてその攻撃力をさらに上昇する。

アームド・ドラゴン LVMAX Atk3700⇒4000⇒4300

「LVMAX…攻撃力は4300だと?」
「まだお楽しみはこれからですよ? LVMAXは手札を1枚捨てて相手の場のカードを全て破壊できるんです」

未弥が静かに自らの手札を1枚捨てると、アームド・ドラゴンは大地を大きく揺らし地割れを巻き起こす。
ヴェノミナーガ以外の石塚の場はその地割れに飲み込まれ一瞬にして破壊されてしまった。
高い攻撃力と相手のカードを全て破壊するその効果はまさに最終形態であり、破壊神。

ヴェノム・ボア/ダメージ=レプトル 場⇒墓地 毒蛇神ヴェノミナーガ Atk3500⇒4000

「それでもヴェノミナーガは破壊されない。 そして、ボアが墓地に行った事で攻撃力は4000にアップだ」
「しかしこちらの攻撃力は4300。 さらにLVMAXは自身以外のモンスターの攻撃力が上がった時、同じ数値だけ自身の攻撃力をアップします」

アームド・ドラゴン LVMAX Atk4300⇒4800

「仕留め損ねて自己再生されると厄介ですね。 魔法カード万華鏡―華麗なる分身―を発動し、デッキからもう1体レディ1を特殊召喚です」

万華鏡―華麗なる分身―
通常魔法
フィールド上に「ハーピィ・レディ」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
自分の手札・デッキから「ハーピィ・レディ」または「ハーピィ・レディ三姉妹」1体を特殊召喚する。

未弥の場のハーピィ・レディが遥か上空へと飛び立ち華麗に舞うと、その舞に誘われて新たなハーピィ・レディが場に舞い降りる。
2体のハーピィ・レディ1は互いの力でそれぞれの攻撃力を強化して、聖域による加護を受けながら静かに地面に舞い戻った。

ハーピィ・レディ1×2 Atk1300⇒1600⇒1900⇒2200 Def1400⇒1700
アームド・ドラゴン LVMAX Atk3700⇒4000⇒4300⇒4600⇒5500

「2体のレディ1と聖域の効果で攻撃力はそれぞれ900アップし、LVMAXはレディ1が1体増えた事で300ポイント攻撃力を上げ、さらに自身の効果により900アップで5500です」

敵味方問わず自身以外の攻撃力が上がれば自らも強くなる。
2体の鳥人と聖域の加護を受けて強化された攻撃力は留まる事を知らず、その味方の攻撃力上昇でさえも自らの力に変えた。
自分以外が強くなれば破壊神としてのプライドか自らの力になる。

「攻撃力の差は1500でそちらのライフは1400。 これでチェックメイトです、LVMAXでヴェノミナーガを攻撃! 疾風のヴァニッシュメント・バースト!」

アームド・ドラゴンから放出された風を纏いし業火がヴェノミナーガを中心に広がり、それは一瞬にして攻撃対象を飲み込み爆発を起こし全てを消し去る。
神の端くれと言えど攻撃力で勝る相手の攻撃は止める事は出来ず無残に爆発に巻き込まれてその姿を消す。
同時にそれはこのデュエルの終了を現す事になる。

石塚 LP1400⇒0

「――まさか俺様が負けるとはな。 中々やるじゃねーか」
「そちらこそ中々やりますね、またいつかお手合わせ願いたいものです」

デュエルを終えて二人は言葉を掛けながら軽く握手を交わす。
言葉づかいからやや荒っぽい印象を受ける石塚だが、その対応は意外にも丁寧だった。
握手と言う行動が単純に未弥の実力を認めたからなのかそれはわからない。
ここで一つわかるのは、言葉づかいから受ける印象ほど悪い人間ではなさそうという事だろう。

「これで100ポイントか。 トーナメントも頑張れよ」
「勿論です、ありがとうございます」

未弥に激励の言葉をかけつつ、次なる決闘者を探すべく石塚は静かに立ち去る。
石塚の背中を見送りつつ小さく頭を下げて未弥もその場から離れた。

石塚に勝利した事で未弥の所持ポイントは100となり、トーナメント出場条件を満たす事になった。
目標はあくまで大会優勝、その目標の為のステップを一つクリアしたに過ぎない。
未弥にとっての本番はここから。
次からはトーナメントである以上負ける事は許されない為、より一層気を引きしめなくてはならない。
それは未弥が一番わかっているだろう。

―Go To The Next Turn―





TURN 11

ヴェノムデッキの使い手であるポイズン石塚とのデュエルで見事勝利を収めた未弥。
それにより所持ポイントが100に到達しトーナメントへの出場を決め、アカデミア校内のデュエルリンクに立っている。。
負けても挽回する事が出来た今までとは違いここから先は負ける事は許されない。
ここまで勝ち残った8名の決闘者達もそれは十分に承知しているのだろう、各々の表情は緊張感にあふれているように見える。
勿論未弥も例外ではなく、その表情はどこか硬い。

――静寂と緊張に包まれた空気を割く様に、運営放送が流れた。

「ただいまよりデュエルチャンピオンシップファイナルトーナメントを開始いたします」

放送と同時に静寂の空気は一瞬にして歓声へと変化し、場のボルテージも最高潮。
大会では観戦側が盛り上がるとも良く言うがまさにその通りだろう。
放送が流れるまでは観戦席にも緊張の糸が張りつめていたはずが、放送をきっかけにその糸は切れ一瞬で騒がしくくなった。
尤も選手側はそれでも糸を切らさずに緊張感を維持しているのだが。

「トーナメントはそれぞれの試合を一斉に行います。 それぞれのコートに設置されているスクリーンを通して観客席の皆様にもお楽しみ頂けるようになっております」

デュエルリンクに設置されているコートにはその試合の様子がわかるようにスクリーンが設置されており、観客席からでも戦況がわかるようになっている。
今回は8名が一斉にデュエルを行うと言う事でそのスクリーンも大活躍するだろう。
一度に複数のデュエルを見ると言うのは簡単な事では無いだろうが、戦況を見つつ勝敗予想したりするのも楽しみ方の一つ。
勿論、色々な立ち回りを観察する事はプラスになるわけだからそれも価値があるはずだ。

「選手の皆様には所定のコートに入っていただき、順次デュエルを開始していただきます。 では、失礼いたします」

そう告げると放送は切れ、選ばれし8名の決闘者は指定されたリンクへと歩みを進める。
因みに未弥とその対戦相手のコートは2番。
そのコートへと移動する未弥の姿を観客席から不安そうに見守るのは妃奈柚。
普段は未弥の側について観戦しており、未弥もそれに慣れてしまった現状で自分が近くにいない事がどう作用するか彼女なりに心配をしていると言う事。
一応自分の方が年上で、未弥の精神的支柱になっていたと言う自覚があるからこそ不安で仕方ないのだろうか。

「(大勢に見られてるとなるとさすがに緊張しますね…)――ふぅ」

妃奈柚の不安もいざ知らず、自分がデュエルを行う2番コートの前に立つと一つ息を吐く。
普段大勢に見られながらデュエルを行う事はまずない為か、やはりその表情には少し硬さが見られる。
対戦相手と対峙する前にもう一度息を吐くと、目を瞑りデュエルディスクを心臓の辺りに軽く当てて瞑想の様な行動を行っていた。
そのまま数秒下を向き、再び目を開いた時には未弥の表情からは硬さが消える。
心を落ち着かせる為のおまじないであり、その効果は抜群。
硬さが消えただけでなく、良い意味で緊張感にあふれた表情へと変わっていた。

「(…心配はいらないみたいね)」

未弥の行動を見届けると、こちらも安心したのか一つ息を吐いた。
未弥にとって妃奈柚が大事な相棒であるのならば、妃奈柚にとってもそれは同じ。
なんだかんだと言いながら大事な相棒の事を心配する辺り優しい所もあるのかもしれない。
もしかすると未弥よりも妃奈柚の方が緊張していた可能性もあるが、真相は闇の中。

一方、心を落ちつけた未弥はコートへと立ち対戦相手と対峙していた。

「よろしくお願いします。 雪代未弥です」
「僕は一ノ瀬英二郎。 まぁ、よろしく頼むよ」

1回戦の対戦相手は未弥と同世代でどこかお坊ちゃまの様な雰囲気を持った少年。
男子ではあるが未弥と比べると身長差も無く男子としては小柄な部類か。尤も、身長に関しては未弥が高めなだけではあるが。
自己紹介もほどほどに、二人は向きあいディスクを構えた。

『デュエル!』

デュエルディスクに表示されるLP4000の文字。
同時に英二郎のディスクにDRAWの文字が表示され先行が決定する。

「ドロー。 僕はプロト・サイバー・ドラゴンを攻撃表示で召喚してターンエンドだ」

プロト・サイバー・ドラゴン
☆3 1100/600 光・機械
このカードのカード名は、フィールド上に表側表示で存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

機械で作られた小型の龍が大きく咆哮しフィールドへと姿を現す。
小型な上に機械と言えその雰囲気や存在感は龍そのものだ。

英二郎 LP4000 手札:5枚 場:プロト・サイバー・ドラゴン(攻撃/Atk1100) 伏せ:無し

「私のターン、ドロー。 (人の事は言えませんが1100のモンスターをリバースなしで召喚…何か誘ってるんでしょうか) ――星見鳥ラリスを攻撃表示で召喚します」

星見鳥ラリス
☆3 800/800 風・鳥獣
このカードが戦闘を行う場合、ダメージステップの間このカードの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。
また、このカードが攻撃したダメージステップ終了時、このカードをゲームから除外し、次の自分のターンのバトルフェイズ開始時に表側攻撃表示で自分フィールド上に戻す。

毎度おなじみオレンジ色の小鳥が未弥のフィールドへ颯爽と現れる。
対面のプロトサイバーも小型な部類ではあるが、ラリスはそれよりもさらに小さくまさに成長途中とも言える程の大きさ。
主である未弥の頭や腕に乗ってもそう違和感はないであろう。その程度の大きさ。

「なんだ、たかが攻撃力800の雑魚モンスターじゃないか」
「ラリスは雑魚なんかではありませんよ。 私のデュエルを支える大事な下級アタッカーです」

未弥の召喚したラリスの攻撃力の低さを見てあざ笑うかの様に挑発をしてみせる。
対して未弥はそれを軽くあしらう様にラリスへの信頼を口にした。
確かにラリスは攻撃力こそ高くは無いが、その効果によって時に爆発的な攻撃力を得る事が出来る。
その秘めたポテンシャルは使い手である未弥が一番よくわかっているし、だからこその信頼なのだろう。

「攻撃力800程度でアタッカーとは冗談はよしてくれよ」
「冗談ではありませんよ。 ラリスが戦闘する場合、戦闘を行うモンスターのレベル×200ポイント攻撃力をアップするんです」

相手依存故に安定はしないものの格上の相手を戦闘破壊できる場合があるというのが強み。
この効果で、下級のアタッカーとして未弥のデッキを支える存在と言われるまでの信頼を得た。

「さて、ではバトルと行きましょうか。 プロト・サイバー・ドラゴンにスターダスト・アタック!」

星見鳥ラリス Atk800⇒1400

プロト・サイバーの頭上に浮かび上がる星を自身の元へと呼び寄せると、それらはラリスの頭上で光り輝く。
光り輝く星は流れ星の如く降り注ぐ弾丸となり機械龍を打ちぬいた。
スターダストとは星屑の事だが、この場合星によって屑同然にされると言うのが表現としては正しいか。

英二郎 LP4000⇒3700

「くっ…。 まさか僕がたかだか攻撃力800のモンスター如きにダメージを入れられるとは」

ラリスの効果を説明されても尚、ラリス=雑魚であると言う考えは曲げないらしい。
そうは言っても英二郎が召喚していたプロト・サイバーも攻撃力はラリスと300しか変わらない1100と言う数値なのだが。
尤も、3桁と4桁では見栄えの印象も違うし英二郎の言い分もわからなくは無い。
しかし、攻撃力を自在に増減出来ると言うカードゲームなのだから表面上の数字などまるで当てにならない、そういうゲームである。

「ラリスが攻撃したダメージステップ終了時、次の私のバトルフェイズ開始時まで空へと飛び立ちます」

攻撃に成功した場合一度ゲームから除外されると言う、こちらもお馴染みとなった効果。
攻撃力上昇と共に中々にトリッキーな効果では有るのだがこの効果によって未弥の場はガラ空き。
攻撃に成功すれば自分のターンまで確実に生き残れると言うのはメリットだとは言え、他にモンスターが存在しない場合は相手に隙を見せるリスクも伴う。

「僕のモンスターを倒した所で君の場もガラ空きじゃないか」
「そうですね。 なので、私はカードを2枚セットさせて頂きますよ。 ターンエンドです」

場にモンスターが居なくとも攻撃を防ぐ手段があると言う事なのだろう。
ガラ空きの状態でカードを伏せれば防御系のカードを伏せた事は明白ではあろうが、それを逆手にとって相手に警戒させて裏を書くのも戦術。
未弥の伏せた2枚の内1枚は攻撃反応型のカードかもしれないし、もしくは2枚とも攻撃反応型かもしれない、はたまた2枚とも違うかもしれない。
カードそのものではなく、ガラ空きのフィールドがブラフとなり得る事もあるのだ。

未弥 LP4000 手札:3枚 場:モンスター無し 伏せ:2枚

「僕のターン。 サイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚」

サイバー・ドラゴン・ツヴァイ
☆4 1500/1000 光・機械族
このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を相手に見せて発動できる。
このカードのカード名はエンドフェイズ時まで「サイバー・ドラゴン」として扱う。
また、このカードのカード名は、墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

緑の鋭い瞳を持つ銀色に輝く細長い機械龍。
先ほどのプロト・サイバーよりもサイズも大きく、放たれる存在感や咆哮もそれとはレベルが違う。
それでも、世にはこれよりも強烈な機械龍が蔓延るらしい。

「生憎リバースカードを警戒して攻撃しないなんて人間じゃないんだよ。 サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、プレイヤーにダイレクトアタックだ」

大きな咆哮と同時に上体を大きく起こし、開いた口にエネルギーを貯め込む。
一般的な龍のブレス攻撃とは違い機械的なエネルギーによる攻撃ではあるものの、機械とは言え龍故か攻撃手段も龍のそれと同様だ。

――貯めこまれたエネルギーは一本のレーザービームとなって未弥に襲いかかる。
が、そのレーザービームは突如として発生した突風によって掻き消され、届かなかった。

「カウンター罠、ディバイン・ウィンドです。 自分が1000以上の戦闘ダメージを受ける場合に、その攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させます」

ディバイン・ウインド
カウンター罠
自分が1000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける時に発動することができる。
その戦闘を無効にしバトルフェイズを終了する。
その後、手札又はデッキから風属性モンスターを1体墓地に送ることで、墓地に送ったモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。

「やはり攻撃無効系の罠だね。 何もないのに場を空にするのは手札事故位だろうし何か有るとは思っていたけど」
「防御系罠とわかっていて攻撃を仕掛けてくると言う事はそちらにも策があると言う事でしょうか」

少々口数が多い様な気もするが、未弥は特に気にする事無く対応して見せる。
自信があって未弥を見下しているから口数が多くなるのか、はたまた逆に自信がなくて強く見せようと口数が多くなっているのかは本人以外わからない。

「ただ、このカードは攻撃を防いでからも効果処理があるんです」
「まぁそれだけだと発動条件の付いた攻撃の無力化だからね。 何か有るのは大体わかるよ」

大体わかる、と言う言葉を聞いた時に未弥は少しだけ不思議そうに首を捻る。
確かにただ攻撃を防ぐだけならダメージ制限のないカードを使えば良いし、なんとなく想定は出来るかもしれない。
だが、先ほどもあたかも防御系罠である事をわかっているような発言をしていた事が気に掛かっているようだった。

「攻撃を無効にした後、手札かデッキから風属性モンスターを1体墓地に送り、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与えます。 私はデッキから幼鳥シムルグを墓地に送り、攻撃力1200の半分、600ダメージを与えます」

未弥の身を守っていた突風はモンスターの力を借りて、英二郎へと襲いかかる。
攻撃を防ぎつつ風属性モンスターを墓地に落とせる、それが未弥がこのカードを採用している大きな理由。
バーン効果はおまけに過ぎないが攻撃力の高いモンスターを墓地に落とせれば与えるダメージも増え、結果的にライフアドバンテージも稼げる。

英二郎 LP3700⇒3100

「ぐっ…。 ――しかし、まだたかだか900ダメージを食らっただけだからね。 ここからが楽しみだ」

英二郎の言うとおり、まだライフを900削っただけ。
一つのきっかけでひっくり返されてしまう程度の差でしか無く、未弥が絶対有利とは言いきれない。

「さらに墓地の送ったシムルグの効果を発動し、私の場にシムルグトークンを守備表示で特殊召喚します」

墓地よりひらひらと舞い戻る2枚の羽。
どこか神々しい雰囲気を感じる羽は力なく未弥の周りに漂う。
自身は墓地に落ちても代わりに羽を残すか、もしくはそのまま手札に戻ってくる、その効果は不死鳥の如き。

「攻撃を防ぎつつ僕にダメージを与え、さらに壁モンスターを作りだす。 良いね、さすがここまで残っただけの事はあるよ。 僕はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

忘れがちだが今は英二郎のターン。
攻め込んでいるつもりがいつのまにかペースを完全に掴まれる。それが未弥のスタイル。
まだまだ始まったばかりだがここまでは未弥が自分のスタイルらしく掻き乱しているとも取れる。
しかし、英二郎はあくまでその態度を変えず余裕を見せている。

英二郎 LP3100 手札:4枚 場:サイバー・ドラゴン・ツヴァイ(攻撃/Atk1500) 伏せ:1枚

「ドロー。 (…どうもさっきから余裕な態度が引っ掛かりますね…。 それに、ディバイン・ウィンドの効果を知っていたかのような口ぶり…) 私はシムルグトークン1体をリリースし、アームド・ドラゴンLV5をアドバンス召喚します」

アームド・ドラゴン LV5
☆5 2400/1700 風・ドラゴン
手札からモンスター1体を墓地に送る事で、そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

英二郎の態度に首をかしげながらもモンスターを展開する。
その余裕ぶった態度に疑問を感じているのはデュエルしている未弥だけでなく、モニターから観戦する妃奈柚も同じだった。

「未弥の相手…。 なんか態度が引っ掛かるわね…」

スタンドからモニターで観戦している妃奈柚も何か引っかかる物を感じているらしく、何かを考える様なポーズを見せる。
映像だけでなくきちんと声も聞こえている故に、まるでディバイン・ウィンドの効果がわかっている様な口ぶり、そして今まで見せている余裕全開の態度。
その全てが未弥と妃奈柚に引っかかる物を作りだすのだ。

「ん? …一ノ瀬英二郎…? ――もしかして」

何かを思い出したのかポケットからスマートフォンを取りだし何やら調べ始めた。
指で画面をスライドしながら時折その指を止める。
少しの時間画面とにらめっこして、何かわかったのか妃奈柚はハッとした様に顔を上げた。

「やっぱり…! 『一ノ瀬英二郎。 彼のデュエルディスクは相手の伏せたカードが見えるように細工されている』 あの態度の根拠はコレね」

相手がセットした魔法・罠は英二郎に全て見えるように細工されている。
このイカサマがあったからこその余裕の態度であり、さもわかっているかの様な発言が出来たと言う事だ。
基本的にデュエルディスクのチェックを事前に行う事は少ないし、内部を弄っているのであれば外見を見ただけでは気づかない。
知識があるならばここでディスクを弄ると言う抜け穴を突いてイカサマが出来るのだ。

「サイバーのカードを使ってるのは自分は機械に強いってアピールかしら」

モニターを見ながら妃奈柚は鼻で笑う。
英二郎がイカサマ師だとわかったとしても、それを未弥に伝える手段がないのだから笑うしかない。
ぼろを出すまで待つか、その前に決着をつけるか。
いずれにしても勝てば良いだけだ。

――さて、視点を再びデュエルフィールドに戻そう。

「(とりあえず今は削れるだけライフを削りましょう) ――ラリスをフィールドに戻し、バトルです。 LV5でツヴァイを攻撃します」

巨体を揺らし、その自慢の拳で英二郎へと殴りかかるアームド・ドラゴン。
ドラゴンと言えばブレス攻撃でおなじみだが、中にはアームド・ドラゴンの様な武等派の龍もいる。
アームド――鎧。その鎧を盾にして相手に殴りかかるファイティングスタイル。
鎧竜の一撃は機械龍のレーザービームを寄せ付ける事無く、機械龍を粉砕した。

英二郎 LP3100⇒2200

「うわっ!?」
「まだ攻撃は残っています。 続いてラリスでダイレクトアタックです!」

遥か上空へと飛び立ち、自身のレベルと同じ数である3つの星が頭上で煌めく。
煌めいた3つの星は単発の弾丸となって英二郎へと放たれる。
だが、その攻撃は届かなかった。

「残念。永続罠カード、サイバネティック・ブロックゾーンだ。 自分の墓地にサイバー・ドラゴンが存在する時、デッキから機械族モンスターを墓地に送る事で相手の攻撃を無効にできるのさ」
「墓地にいるモンスターはプロト・サイバーとサイバー・ドラゴン・ツヴァイですよね? それでは発動条件にあっていませんが…」
「否、条件は満たしているよ。 サイバー・ドラゴン・ツヴァイは墓地にある限りカード名をサイバー・ドラゴンとして扱うんだよ。 だから僕はもう1枚のツヴァイを墓地に送らせて貰ったよ」

サイバネティック・ブロックゾーン
永続罠
自分の墓地に「サイバー・ドラゴン」が存在している場合に発動できる。
自分のデッキから機械族モンスターを1体墓地に送る事で相手モンスターの攻撃を無効にする。
自分の墓地に「サイバー・ドラゴン」が存在しなくなった時このカードを破壊する。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードがこのカードの効果以外で破壊された時、エクストラデッキから「サイバー」と名の付く融合モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

トリガーとなるカードが存在する限り永続的に攻撃を防ぐ事が出来る罠カード。
永続カードであると言う事はその分除去される可能性も高くなるものの攻撃の抑止力としては十分か。
攻撃を防がれる度にモンスターが墓地に溜まるので相手も戦力の低下を招く事もあるが、サイバーはそれをメリットに変える事が出来る。

「メインフェイズ2に移行してカードを1枚伏せ、そしてエンドフェイズ時、戦闘でモンスターを破壊したLV5はLV7へと進化します」

アームド・ドラゴン LV7
☆7 2800/1000 風・ドラゴン族
このカードは通常召喚できない。
「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

アームド・ドラゴンの体が光り輝き、同時に大きく吠える。
敵を倒す事で自らはより強く進化すると言う効果は宛らRPGの主人公か。

その体はより硬い鎧を纏ったように黒く光り、より力強いフォルムとなった。
鎧竜の名に恥じぬ姿の持ち主であるが機械龍と錯覚してもおかしくない。

「私はこれでターンエンドです」

未弥 LP4000 手札:2枚 場:アームド・ドラゴン LV7(攻撃/Atk2800)/星見鳥ラリス(攻撃/Atk800)/シムルグトークン(守備/Def1000) 伏せ:2枚

ライフの差、モンスターの差でここまでは未弥が押しているように見える。
相手の実力はさだかではないが、その相手はイカサマ師故に油断は出来ない。
事実、未弥の伏せたカードは相手に筒抜けであり、攻撃を防いだりカウンターしたりと言うのは既に相手も想定できると言う事だ。
イカサマ師対風の魔術師のデュエルはまだ始まったばかり。

―Go to The Next Turn―








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