光は鼓動する

製作者:村瀬薫さん



 物語は、アニメ・遊戯王GX終了直後のアカデミア新学期を舞台として創作されています。



第1章 デュエル・スター


 も く じ 

 プロローグ1 彼方に向かって
 プロローグ2 蛇の道を行く者
 第1話 未知の強襲
 第2話 究極VS究極!? クロノス先生の挑戦!
 第3話 何もない場所からでも
 第4話 目指したい強さがあるのなら
 第5話 休日の憂さ晴らしデュエル
 第6話 夢に向かうタッグデュエル<前編>
 第7話 夢に向かうタッグデュエル<後編>
 章末特集1 久白翼の仲間たち





プロローグ1 彼方に向かって



 日常から離れる旅は、心を研ぎ澄ませる。
 何気なく素通りしてきた時間が、胸に迫ってくる。
 今まで何も思わずに過ごしてきた時間。
 そこでは感じなかった自由と可能性。
 気が引き締められるように。
 旅の中では、空気が違う。
 そこに考えることをやめるような日常の緩みはない。
 自分の中の何かに、一人で向き合うような自由。
 日常から離れて浮き上がる、ただ一人の自分の姿。
 それを見たとき、その人は何を思うのだろう。

 見渡す四方は、海に囲まれている。
 天気は快晴。どの方角も鮮明な水平線が見える。
 絶好の航海日和に、この船は海路を行く。
 豪華ではないが、大きく頑強そうな客船である。
 船にはたくさんの少年少女が乗っている。
 これからに胸を馳せ、手近な人と談笑する者も多い。
 波飛沫が響いて、近くの者以外に声は聴き取れない。
 そんな雑踏の中で。
 孤独に耳を澄ます者もいた。
 
 風がそよいで、少女の短めの髪を揺らす。
 陽光に照らされ、小さな太陽を象った髪飾りがきらめく。
 つぶらな瞳は、気遣わしげな印象と、少しの憂いをはらんでいる。
 船の手すりに両手をつけ、船が向かう方角をぼんやり眺める。
 その目に映っているのは、一面の波だった。
 
 波を見ていると、複雑な気分にならずにはいられない。
 こうして穏やかな海も、一つ間違えれば、襲いかかってくるかもしれない。
 何もかもをさらっていくかもしれないのに、平然と一緒にいる。
 波の音は、戒めの音。
 忘れさせないために、響き続ける音。
 ずっとあたしにまとわりついていく音。
 ここに向き合って、あたしは何を思えばいいんだろう。
 もう取り戻せない過去のこと。
 これから向き合う未来のこと。
 新しい日常が、波の向こうに広がっている。
 そこに行けば、楽しい日常もきっと待っている。
 でも、忘れられるはずがない。
 この波音が、心のざらつく部分と交わる感触を。
 いつまでも寄せては返すように、繰り返す。
 でも、その終わりも迫っている。
 避けられない終わりも近づき始めている。
 何もできることがなくても、すくいようが無くても。

「明菜、こんなところにいたんだ」

 その背中に、少年の気の弾んだ大きな声が呼びかけた。
 逆立てた髪を揺らしながら、明菜と呼んだ少女と並ぶように手をかけた。
 背丈は少しだけ、少年の方が大きい。
 どこまでも彼方を見つめるような、澄んだ瞳の少年。
 快活さだけでなく、どこか透き通るような不思議な雰囲気もある。

「翼はさ……」

 馴れ親しんだ仲のように顔も見ず、明菜は横にいる少年に語りかける。

「強い風に揺られて、割り切れないような気分になったりしない?」

 波を見つめながら、語りかける。
 その神妙な様子を察したように、翼と呼ばれた少年は少しだけ目線を落とした。

「台風のニュースとか見ると、いい気持ちにはならない。
 そんなのなければいいのに、ってやっぱり思うな」

 その声に促されるように、明菜は続けた。

「あたしもね、波を見ていると、やっぱり落ち着かないんだ。
 いつまで経っても、このざわつく感じが収まらない。
 大きくて避けられなくて、でも近くにあって……」

 落ち込んだ調子から、振り切って空の彼方を向き直す。

「でも、いつか平気にならないといけないよね。
 波が意思を持って、どうこうしてるわけじゃないし。
 波が悪いわけじゃない。
 そうって分かってても、嫌な気分になるんだ。
 いつか波を見ても、平気になれるのかな……」

 強がろうとして、強がり切れない。
 平静を保とうとして、平静を保てない。
 割り切れない自分。抜け出せない自分。
 これから生活する場所は、四方を海に囲まれた島。
 煮え切らないままというわけにもいかない。
 態度を決めなくちゃいけない。
 自分と、その過去を突きつけるものについて――。

「平気にならなくても、いいんじゃないか」

 前髪をかき分け、明菜は初めて少年に目線を移した。
 何か驚いたような表情で。

「いつまでも嫌なものは嫌だし、忘れられないものは忘れられない。
 それでいいと思うよ。
 むしろ、波を見るたびに拳を握って、
 『負けないぞ!』くらいでいいんじゃないかな。
 例えあんなことがもう一度あっても、今度は負けないぞって」

 彼方に向かって宣戦布告するように、翼は続けた。

「デュエル・アカデミアの生活がこれから始まるんだ!
 あそこにはワクワクするようなデュエルも待ってる!
 それに精霊のことだって、たくさん分かるかもしれない!
 明菜と俺のあの『災厄』には、精霊が関わるって説もある。
 きっと何か分かるかもしれないし、『明葉』のことだって、もしかすれば!」

「翼……」

 翼は底抜けに元気に言い放った。
 いつでも前に向かって精一杯走るような姿。
 翼がこんなに元気だから、あたしも前を向けたのかもしれない。
 あたしはあたしのままで、嫌いは嫌いのままでいい。
 むしろ、その感情を原動力に、また前に進めばいい。
 ――でも、素直に認めるのも癪だから、少しだけ軽口を。

「ちょっと能天気すぎない?」

 そう言うと、ちょっと拗ねるように、翼は明菜に向き直った。

「なんだよー!
 だって、ワクワクするよな!
 何だってできる感じとかしないか?」

「そこまで極端には思えないって。
 大体何で全部あたしたちの思うように巡ってくるのさ。
 でも……」

 いつも傍にいる人に、微笑みかける。

「ありがとう。
 励ましてくれて。
 何だかいろいろ上手く行く気もしてきたよ」

 ちょっと照れたように頭をかきながら、翼は海に視線をそらす。

「な、なら良かった。
 明菜が沈んでるのは、俺も嫌だしな。
 ……そうだそうだ!」

 沈黙が挟み込まれる前に、身振りを交えて、翼は切り出す。

「船の中でさ。面白いドラゴンを使うやつと決闘したんだよ!
 マテ……何とかドラゴンだったかな。
 俺が《ゴッドバードアタック》で倒そうとしたら、無効化してきて!
 何とか勝ったんだけど、スレスレの勝負だったんだぜ!
 明菜は、このカード知ってる?」

「知らないー!
 どんな感じの格好なの!?」

「何かゴツゴツしたような金色の彫像ドラゴンっていうか。
 鍾乳洞の、あれみたいにとがってたりしてて……。
 あー、もう上手く説明できない〜!
 また見せてもらいに、明菜も行こうぜ!」

「うん、行く行く!!
 ドラゴンならあたしのデッキにも入れられそうだし、
 翼への新しい対抗カードになりそうだなー!
 楽しみー」

「うっ……。それはちょっと……。
 ま、いいや。俺もまた見て、対策練らないとな。
 じゃあ、行こうぜ!
 デュエルも、まだ知らないことも、たくさん待ってる!!」


 まだ見えない彼方に向かって、胸を弾ませて。
 少年と少女の、新しい日常が始まっていく。






プロローグ2 蛇の道を行く者



 忘れ去られた深遠で、探求は続けられていた。

 その部屋は端末が敷き詰められ、青く照らし出されている。
 人が入るほどの大きなフラスコや試験管が並び、途方もない実験を伺わせる。
 絶えずコンピュータの駆動音が響き、淀んだ空気に沈む。
 生活感はなく、余分なものは取り払われている。
 研究のみに研ぎ澄まされた、世界から隔絶した部屋。

「今回の融合研究も成功でしたね!」

 この場に不似合いな朗らかな声が響いた。
 よく整えられた身だしなみの若者だった。
 清潔な白衣を着こなし、野心に満ちた表情。
 短髪をワックスで逆立て、几帳面になでつけている。
 しかし、その気品を薄ら笑いのだらしない口元が台無しにしていた。
 一見して模範的に見える中で、若者らしき軽薄さも見え隠れする。

「これが成功か。そう見えるかネェ?」

 低い声が疑いかかるように響く。
 乱れ汚れたままの白衣に、伸びたままのヒゲ。
 伸びるままに放置された頭髪。
 遠目に見ただけでは、浮浪者のようにさえ見える。
 だが、ピンと伸びた背筋は、油断なき熟練を感じさせる。
 何よりその瞳は深い知性を湛えていた。
 絶え間なく思考を走らせ、事物をすべて見極める。
 爬虫類の鋭さと、人間の英知を込めた力強い眼差しであった。

 二人はコンピュータの文字列を観測している。

「成功ですよ! 人の形を留めたまま、野生の力を内包できた!
 こんな成果を出せるのは、貴方だけです!」

 興奮のままに、若者はまくし立てる。

「それくらい当然のことだ」

 賞賛にも酷くつまらなそうに、壮年の研究者は答えた。

「脳波の反応は典型的な『魂の変質』を観測している。
 精霊と人間の親和性は問題なかったはずだ。
 やはり、精霊自体の性質に難があったのか。
 獣型のモンスターでは、高い知性を保持できぬか」

 その考察を聞き、若者は目の輝きを強めた。

「さすが、一気に考察をまとめあげるとは!
 研究成果もこれでほとんど出揃いました!
 後はやはり精霊の確保が課題となるのでしょうね……」

「そうなるネェ。試行成果は出揃った。
 あとは材料となるべきものの質の問題。
 となれば……」

 壮年の研究者は口の端を吊り上げ、嗤った。

「精霊をあぶり出すとしようかネェ」

「あぶり出す……というのは?」

 若者はその意図を掴みきれず、問いかけた。
 研究者は応じ、意気揚々と語りかける。

「既に幾人かの、手駒となる『ルーツ・ルインド』は用意できているナァ!
 そいつらを使い、このデュエル・アカデミアの強き決闘者を呼び寄せる。
 そして、強き決闘者は必然的に精霊に通じる者となる。
 そこから有用な精霊を入手し、本格的な精霊の選定を開始するとしよう!」

「素晴らしい案です! いよいよ乗り出すというわけですね!」

 研究者の高揚した声につられ、若者も賛同する。

「それでだね……、キミに頼みがあるのだがネェ」

「はい! お望みとならば、何なりと!」

 若者は研究者への憧れをにじませ、頼られることに喜びを覚えていた。
 研究者はその好意に表情を変えずに、続けた。


「キミも手駒になってくれないかネェ?」


 嗤ったままの顔で、壮年の研究者は若者に問いかけた。
 若者は生唾を飲み込んだ。
 目を見開き、その言葉の意味を飲み込んだ。

「キミには手なずけてきた精霊がいる。
 もう十分な頃合いだ。親和性は十分得られるだろう。
 その精霊もまがりなりにも人型だ。
 キミが強き意志を保てるというのなら、有用な結果が得られるはずだ」

「私で精霊の融合実験をする……、そういうことですね……」

 若者の口調からは、先ほどまでの快活な調子は失われていた。
 声は震え、恐れがにじむ。
 その手はわなわなと震え、頼りなげに瞳を揺らす。
 その瞳に映るのは、やはり目の前の研究者のみだった。

「ウロボロスさん」

「……何かね?」

 名前で呼ばれた研究者は、神妙に応えた。

「一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 確認するように、切実さをにじませ、若者は続けた。

「私に融合を勧める理由。
 それは貴方にとって、私が不要だからでしょうか?
 それとも私の融合の成功を確信しているからでしょうか?」

 ウロボロスと呼ばれた男は少しだけ沈黙し、目だけで若者を見回した。

 その目にこの世界がどう映っているのか。
 それを知りたくて、若者はずっと追いかけてきた。
 あの明晰に物事を見通す観察眼に憧れて。
 どんな苛烈な状況にも怯まない意思に憧れて。
 ひたすらに若者は追いかけてきた。
 同じものを見てきたなら、自分もいつか辿り着けると思った。
 どうにもならない小さな自分を変えて、強く歩み続けられると思った。
 ――この人を、ただ追いかけていれば。

「キミの成功を、信じている」

 その力強い声が背中を押す。
 若者は迷いを吹っ切った。
 この人がそう言うなら、大丈夫に違いない。
 あの人が認めてくれるならば、もう迷わない。
 これまでの日々を噛み締めながら、デッキから精霊のカードを手にする。

「融合実験の準備をしてきます」

「その必要はない。既にワタシが準備している」

「なんと! 私のために! 既に!」

「キミのためだからだよ。万全の準備をしておいた。
 祝福すべき日になることを祈っている。
 ワタシより一足先に、人を超えた神になるといい。
 それまでは、少しのお別れになるな」

「……はい!」

「主導権の闘争は厳しいものだ。
 キミも既に何人もの廃人と化け物を見てきている通りだ。
 だが、キミならば、きっと耐え抜けるだろう」

 ウロボロスが端末を操作する。
 人一人が納まるような巨大なカプセルが開く。
 若者は意を決して、左の拳を握り締める。
 右手のカードを台座にセットし、最後に振り向いた。

「必ず耐え抜いてみせます! 必ず!!」

「ああ。キミの成功を、信じている」

 カプセルに足を踏み入れると、端末が操作され、扉が閉まる。
 やっとあの方から重大な役目を任されたのだ。
 ここで闘い抜いて、何としてでも戻ってみせる。
 自分は自分のままで、ウロボロスさんにこれからも――。

「うっ! ぐ! あああああああああああああああああ!!!」

 そして、精霊の意識が入り込んでくる。
 視界は明滅して、何も区別がつかなくなる。

「あああああああああああああああああああ!!!」


 たえぬかなくては。

 もうだめだ。

 まだいける。

 ウロボロスさん、しんじてくれた。

 いたい。

 らくになりたい。

 がんばらなきゃ。

 いつまでつづく。

 もういやだ。

 それでもそれでもそれでもそれでも。


「あああああああああああああああああ!!!」





「キミでは無理だ」

 絶叫がカプセルごしに響く中で、ウロボロスは呟いた。

「キミの隙だらけの目には何も見えていない。
 途切れ途切れの意思では、何者にもなれぬ」

 先ほどまでの若者との熱っぽい会話と打って変わって。
 冷たく渇いた声で、戒めるように呟く。

「どうしてワタシに『信じているか』などと聞く。
 愚かしいにも程がある。
 ワタシは信じていると答えたほうが得なのだ。
 失敗でも万一の成功でも、どちらでも構わない。
 キミが身を投げさえすれば良いのだからネェ。
 利害が絡む局面でそれでは、本音も何も見通せぬ。
 最期まで、キミは何も見通せなかったネェ。
 それでは記憶も人格も保てるはずもない。
 生まれ変わったキミは、どんな人格が表面化するかネェ。
 ……まぁ、どうでもいいことか」

 一人になり、静まり返った部屋の中で、ウロボロスは笑みを浮かべた。

「フフフフフハハハハハハハハ!!!」

 高らかに嗤う。
 その体の中の高揚感を解き放つように。

「既に研究は到達段階にある。
 もうデータをまとめる人員もいらぬ。
 あとは有用な精霊を入手するのみだ。
 ワタシが世界を永遠に皮肉る神になる日も近い!
 この覇道をして、到達できぬ地平などない!
 その前に立ちふさがるものは全てなぎ倒そう!
 これより始まる新しい蹂躙が、楽しみで仕方ないネェ!
 フフハハハハハ!!!」

 自分を慕う者さえ踏みにじり、その道は続いていく。
 その者に後悔も躊躇もない。
 蛇が獲物を喰らうように、鋭く早く的確に、非情なままに。
 その者は蛇の道を、己の覇道を刻み続ける。
 
 
 精霊をめぐる決闘が始まる。
 それぞれの大切なものを巻き込んで。





第1話 未知の強襲



 整った顔立ちの少年は髪を揺らし、ひた走っていた。
 ラーイエローの制服が乱れるのも気にせず、がむしゃらに。
 後ろから迫り来る重量感ある足音に追われながら。

 足を緩めるな。逃げなくては。
 速く、ひたすら速く、駆け抜けろ。
 純粋な速さならば、互角のはず。

「うおおおおおおおん! 待でーー、デュエルだーーーーー!!」

 障害物を頼るな。
 小手先の障害など、奴には通用しない。
 足場の悪い場所はいけない。
 多少の悪路など、奴はものともしない。

 ――なにせ奴はとんでもない力を持ち、四足歩行で迫り来る化け物なのだから。

 視界のいい場所、人目につく場所まで行かなくては。
 わざわざ森で探索していたなら、人目を避けるはず
 2m以上はある巨体と、丸太のような豪腕。
 濃い体毛と、発達しすぎた筋肉。
 あの異形の獣人では騒ぎになり、どうにかなるはずだ。
 森の終わりまで走らなくては。
 その先なら人もいる。
 そこまで行けば、奴も――。

「俺に任せて!」

 どこからか少年の高い声が聞こえた。
 目の前からのようだが、姿が見えない。
 いや、確認している場合ではない。

「下がれ! 見れば分かるだろ!
 奴は個人の手に負えるものじゃない!
 大勢の人目のあるところに引き付けるしか――」

「大丈夫! 俺ならやれる!
 いくよ!!」

 目の前の木々の間に、動く影が見えた気がした。
 そして、突如背後からズンと倒れる音が響いた。

「ぐおおおおおう!!」

 奴の悲鳴だ。思わず振り返る。
 化け物は倒されて、あおむけになっていた。
 向き合うように一人の小柄な少年が対峙していた。
 オシリスレッドの服が風にたなびき、立てられた髪が揺れている。

「ど、どういうことだよ……」

 ありえない。
 木から降りてきて、ジャンプキックでもしたのだろうか。
 だが、勝てる理由が見当たらない。
 木から降りてくる加速など、たかが知れている。
 速度は走っているほうが速いはずだ。
 それに体重も、奴の方が圧倒的にある。
 走行中の車に、自転車を投げてぶつけるようなものだ。
 物理的に、勝てるわけがない。

 だが、現に少年は化け物を倒していた。
 何が起こっているのか、全く理解できない。

「怪我はない? 大丈夫?」

 背後から少女に声をかけられ、呆然としながら返事をする。

「ああ……。オレは大丈夫だ。
 だが、奴は一体何なんだ。
 それに奴を倒してしまうあいつも一体……」

 『あいつ』と指差され、獣人を倒した少年は振り返った。

「俺は久白(くしろ)翼!
 間に合って良かったー!」

 親指で自分を指差し、名乗った。

「あたしは陽向居(ひむかい)明菜!
 それにしても、どうして追われていたの?」

「あー、オレは黒永(くろなが)司だ。
 何とか助かったみたいで、ありがたい。
 そもそも追われるも何もだな……」

「ああーー、なんか力が抜けた〜〜。
 びっくりしたー。オメェ何をしたんだぁ〜?」

 黒永の説明を中断するように、獣人の声が響く。
 低く濁った間延びした声。
 気だるげに起き上がるが、傷はまるで見られない。

「まだ起き上がれるのか!
 おい、早く逃げるぞ!」

「おいー、逃げるなよー。
 オデはただデュエルしたいだけだー。
 なんで逃げるーー?」

「この後に及んで、まだデュエルとか抜かすのか!
 素性も何するかも分かったもんじゃない奴と、デュエルなんてしてられるか!
 おい、お前たちも早く逃げ――」

「――いいぜ! デュエルなら受けて立つよ!」

 翼は意気揚々とディスクを掲げ、構えた。

「って、ええええ!!
 何でそこで応じるんだ!?
 おかしくね?」

「うーん、そうでもないと思うよ」

 疑問を隠しきれない黒永に、翼は得意気に行った。

「だって、あいつデュエルモンスターズの精霊だよ、多分。
 デュエルしたくて、人を追いかけてきただけだよ!
 熊がエサのために、山から下りてくるみたいに!」

「その例えだと、お前が食べられることになるからな!?」

 黒永の疑問符は消えないが、状況は進んでいく。

「おおーし! なら、デュエルだぁー!!
 オデの名前は、イルニル!
 なら、こいつを付けるのだーー!」

 イルニルは懐からベルトのようなものを取り出し、翼に放り投げた。
 するとシュルシュルと翼の腰に巻きつき、装着されてしまう。
 紫色の絡みつく蛇のようなベルトで、不気味さを感じる。

「な、何だよ、これ……。
 ひょっとして、やっぱりただの精霊じゃない!?」

 さすがの翼も困惑が隠せない。

「安心しろー! 勝てば何ともない!
 そして、オデも付けている!
 勝負にスリリングさをプラスするだけなのだー!」

「そ、そうなの……。
 うーん、まぁ、デュエル始めようぜ!」

「 「 デ ュ エ ル !! 」 」

翼 VS イルニル

翼のLP:4000
イルニルのLP:4000


「……なぁ、陽向居って言ったか。
 とりあえず、あの翼って奴に任せて大丈夫なのか。
 例えば、あの距離から襲い掛かられたら、食われないか?」

「うーん、それは大丈夫だよ。
 翼なら取っ組み合いになっても、あの精霊には負けないと思う。
 さっきの飛び降りたときみたいに、あんな感じで負けないよ」

「デュエルモンスターズの精霊くらいなら聞いたことはあるが……。
 確か強い思い入れの込められたカードには意思が宿るっていうオカルト話だよな。
 その存在すら不確かなのに、あいつはそれが分かるってのか?
 なぁ、ひょっとして、あの翼もトンデモ人間なのか?」

「ううん。ちょっと特別な『力』があって、精霊に強いだけ。
 それに翼には、精霊のことが分かるの。
 ちょっとあの精霊は他より意思の反応が弱いみたいなんだけど、
 単にデュエルしたいってだけみたい」

 断片的な情報を手に、黒永は考え込みながらうなずく。

「そうか……、ふむ。
 要するに、あの翼は精霊を無力化、または理解する『力』を持ってる。
 だから、何とかなる。そういうことか?
 って、まとめても意味が分からんが、そう納得するしかないのか!?」

「うん。大体そんなところかな。
 とにかく大丈夫だから、安心して。
 でも、黒永くん……だっけ?
 あんな森の奥深くで何してたの?」

「あー、それはだな〜」

 明菜が問いかけると、黒永は目を逸らした。
 不審に思って、首を捻ると、明菜は立ち込める臭いに気がつく。

「これって……。タバコの臭い!?」

「……まぁ、うん。そういうことだ。
 吸う場所を求めて、少し遠出をな……」

「ええーー! ダメだよ!!
 山火事にでもなったら、どうするの!」

「ああ、それならほら、ポケット灰皿もある。
 そんな野暮は起こさない。
 ついでに、微香剤だって用意してある。
 今回は奴のせいで、使ってられなかったがな……。
 あー、少し安心したら、吸いたくなってきた。
 ここならまだ人目もないし、いいよな?」

「ダメ! そもそも吸っちゃダメでしょ!」

「今時、固いこと言う奴だな……。
 まぁ、いいか。
 なら、大人しくデュエルの見物でもするか。
 勝たなきゃ罰ゲームでもあるみたいだしな」


「俺のターン、ドロー!」

 ベルトには惑わされたが、翼は意気揚々とデュエルを開始する。
 手札に目をすべらせ、はりきって2枚のカードディスクに差し込む。

「俺はリバースをセット。
 そして、《兵鳥アンセル》を召喚するよ!」

 黒い翼を広げ、イルニルを勇猛に威嚇する。
 白の羽毛の胸を張り、誇らしげに振舞っている。

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
???
ATK/1500 DEF/1400

「俺はこれでターンを終了するよ!」

「オデのターンだー、ドロー!」

 イルニルは特別サイズのディスクを揺らし、大振りにカードを引く。
 手札と翼のモンスターに交互に目をやり、ニカッと笑った。

「鳥獣もいいよなー。オデもデッキに入れたいくらいだー。
 お前の鳥獣、元気そうで、オデもワクワクしてきたぞー!」

「ありがと! このデッキ、大のお気に入りなんだぜ!」

「だよなー! 大事に世話してもらってる感じ、そいつから伝わるぞ!
 でもな! オデのモンスターだって、負けないぞー!」

 張り切って腕をぐるんぐるん回した後、1枚のカードをかざす。

「手札から《融合》を発動するー!
 オデは手札の《幻獣王ガゼル》と《バフォメット》を融合させ――」

《融合》
【魔法カード】
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
融合デッキから特殊召喚する。

 場に融合の渦が現れ、ライオンに似た幻獣と、山羊頭の悪魔が吸い込まれる。

「行くぞー! 《有翼幻獣キマイラ》!!」

 白い翼をはためかせ、双頭の幻獣が降り立つ。
 大地を踏みしめ、アンセルに向かって、威勢よく咆哮する。

《有翼幻獣キマイラ》 []
★★★★★★
【獣族・融合/効果】
「幻獣王ガゼル」+「バフォメット」
このカードが破壊された時、墓地にある「バフォメット」か
「幻獣王ガゼル」のどちらか1枚をフィールドに特殊召喚する事ができる。
ATK/2100 DEF/1800

「さらにもう一体、《ビーストライカー》を召喚するー!」

 大きなハンマーを肩にかけた獣人が姿を現す。

《ビーストライカー》 []
★★★★
【獣族・効果】
???
ATK/1850 DEF/ 400


「おいおい、融合による2体のモンスターの速攻召喚かよ。
 大味な戦術だが、これは決まるとでかいぞ」

 黒永は顔をしかめ、場を見守る。

「オデの自慢の動物で攻撃だー!
 『キマイラ・インパクト・ダッシュ』!!
 『ハンマー・ストライク』!!」

 キマイラの強烈な突進に、アンセルはひとたまりもなく吹き飛ばされる。

翼のLP:4000→3400

 そして、その影からハンマーを振りかぶる獣人の姿。

「すごいけど、もう一撃は通させないよ!!
 トラップ発動! 《ガード・ブロック》!!
 ダメージを無効にして、1枚ドローするよ!」

 翼の前に薄いバリアが張られ、ハンマーの鈍い音が響く。
 衝撃の反動の勢いを利用するように、翼はカードをドローした。

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「ふはー! 何とか防いできたなー!
 じゃあ、オデはこれでターンエンドだー!」

「なら、俺のターンだ、ドロー!」

 不利な状況が目の前にあるものの、翼は動きを止めなかった。
 むしろ、すぐにでも打破しようと、躍起になっている。

「俺は《帝鳥ファシアヌス》を召喚するよ!」

 顔は赤、首は青、胸は緑の、色鮮やかな羽毛のモンスター。
 キジモンスターの《帝鳥ファシアヌス》。
 豊かな羽毛が、強力なステータスを誇る。

《帝鳥ファシアヌス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
ATK/1800 DEF/1200

「ファシアヌスで、キマイラに攻撃だ!
 『プルーム・アタック』!!」

 すさまじい勢いで駆け出し、キマイラに体当たりをしかける。

「うおぅ! 攻撃力が低いのに向かって、来るかー!
 迎撃だ、押し返せー!  『キマイラ・インパクト・ダッシュ』!」

 キマイラも負けじと、大地を蹴り、加速をつける。
 その迎撃を見計らい、翼は墓地に手をかざした。

「負けるのに挑むわけじゃない!
 俺は墓地から《兵鳥アンセル》を除外して、
 その効果を発動するよ!
 ファシアヌスの攻撃力を400ポイントアップさせる!」

 墓地から風が巻き起こり、ファシアヌスを後押しする。

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

《帝鳥ファシアヌス》ATK1800→2200

「何ぃー! そんな手で来るだとー!!」

 身を呈した突進の激しいぶつかり合い。
 その軍配は、風で再加速したファシアヌスに上がる。

イルニルのLP:4000→3900

「ぬぬぅ! だが、キマイラの効果だー!
 破壊されだとき、融合素材のモンスターを復活させる!
 オデは《幻獣王ガゼル》を特殊召喚だー!!」

「でも、これで俺のモンスターの方が上回ったよ!
 カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

LP3400
モンスターゾーン
《帝鳥ファシアヌス》ATK2200
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
4枚
イルニル
LP3900
モンスターゾーン
《ビーストライカー》、《幻獣王ガゼル》
魔法・罠ゾーン
なし
手札
2枚


 アンセルの追い風効果は、そのターン限りの効果ではない。
 心地よい風を身に纏い、いっそう誇らしげにファシアヌスは胸を張る。
 負けじとガゼルは大地を踏みしめ、低く唸り声を上げる。
 ビーストライカーもハンマーを素振りし、攻撃に備えている。


「……なんか動物園みたいなことになってんのな。
 あのイルニルって奴も、こうして見ると、飼育員のおっちゃんに見えてくる。
 二人ともソリッドビジョンの演出で楽しんでるみたいだな」

「翼も大の動物好きだからねー。気は合うのかも。
 でも、デッキの回りはあまり良くない感じかな」

「そうなのか? 下級モンスターを上手く組み合わせていたが。
 罠のけん制も適度に働いて、手札を温存できているぞ」

 黒永の冷静な分析に、明菜は首を捻る。

「うーん、 翼のデッキの本来の動きは、そうじゃないんだよ。
 下級モンスターで上手く攻めるなんて、本当に珍しいの。
 手札なんていくらあっても足りないような攻め方をいつもするのに。
 うかうかしてると、相手が攻めてきちゃうんじゃないかなー」

「そうなのか。なら早く本来のペースに持ち込みたいところだな。
 イルニルも場に2体のモンスターを残せている。
 奴だって、そろそろ仕掛けてくるぞ……」


「オデのターン、ドローだぁー!」

 イルニルは引いたカードを見て、ニカッと笑った。
 考えていることがすぐ表情に出る。
 それだからこそ、逆転の手を引いたと分かってしまう。
 ここからの強烈な反撃が予感される。

「オデは《ビーストライカー》の効果を発動だー!
 手札1枚、《キング・オブ・ビースト》を墓地に捨てる。
 そして、デッキから《モジャ》を特殊召喚するぞー!」

《ビーストライカー》 []
★★★★
【獣族・効果】
手札を1枚捨てて発動する。
自分のデッキから「モジャ」1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
ATK/1850 DEF/ 400

 ハンマーが金色に輝き、大地に思いっきり叩きつけられる。
 すると、大地がぶるぶると震え始める。
 茂みから、『もじゃーっ』と声をあげ、黒い毛玉のモンスターが現れた。

《モジャ》 []

【獣族・効果】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地に存在するレベル4の獣族モンスター1体を手札に加える事ができる。
ATK/ 100 DEF/ 100

「なんか可愛いなぁ、そのモンスター!
 でも、わざわざ手札1枚捨てて召喚したってことは、何かの効果が……」

「その通りだー!
 墓地の《キング・オブ・ビースト》の効果発動!
 場の《モジャ》を生け贄に捧げて、墓地から特殊召喚する!!
 いっくぞー!! オデの自慢のモンスターだぁ!」

 モジャが低く唸り声を上げて消えると、地響きが鳴り始める。
 そして、茂みから巨大な黒い塊が、黄色の骨ばった四本足で這い出てくる。
 先ほどのモジャが成長して、発達した姿なのだろうか。
 黒い毛はところどころ逆立ち、王と呼ばれる者の威圧感を放っていた。

《キング・オブ・ビースト》 []
★★★★★★★
【獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在する「モジャ」1体を生け贄に捧げて発動する。
このカードを手札 または墓地から特殊召喚する。
「キング・オブ・ビースト」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
ATK/2500 DEF/ 800

「うひゃー! 《モジャ》のボスなのかな!
 《モジャ》と違って、体大きくって、怖い顔だー!
 あの毛の中、どうなってるんだろ……」

「ふふふー。あれは全部もっさもさの毛だぞー!
 魔力で一部を集中的に強化して、攻撃をするんだー。
 他にも使い方があって、子供を保護するときの揺りかごにもなる。
 攻撃・防御・運搬のどれにも使えるんだぞー!!」

「すっげー! そういう話もっと聞きたいなー!!」

「おいおいおい、変な話はいいから、大丈夫なのか!
 場に3体のモンスターが並んだんだ。
 一気に攻められたら、ひとたまりもないぞ!」

「そ、そっか! やばい!」

 黒永の発言で、ようやく翼はフィールドに気を取り戻す。
 翼もこのモンスターの出現までは想定していなかったようだ。
 伏せカードに目をやりながら、相手の攻撃を警戒している。

「いくぞー!! 《キング・オブ・ビースト》の攻撃!
 飛び上がれー!  『キング・ストンプ』!!」

 四本足を同時に屈伸させ、勢い良く飛び跳ねる。
 大きな体で空中から踏み潰そうと仕掛けてくる。

「リバースだ! 《ゴッドバードアタック》!!
 ファシアヌスを生け贄に捧げて、2体を破壊する!
 俺は《キング・オブ・ビースト》と《ビーストライカー》を破壊だ!!」

《ゴッドバードアタック》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を生け贄に捧げて、
フィールド上に存在するカード2枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊する。

 ファシアヌスは赤い閃光に姿を変え、《キング・オブ・ビースト》を一閃。
 その勢いのまま、さらに《ビーストライカー》を弾丸のように貫く。
 しかし、まだ牙を剥いたモンスターは残っている。

「反撃されたけど、今度こそがら空きだぁー!
 《幻獣王ガゼル》! 攻撃だー!」

 飛びかかり、爪で翼を引き裂いた。
 ソリッドビジョンだが、思わず両手で身構える迫力。
 最初の決定打は、イルニルが与えたこととなる。

翼のLP:3400→1900

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだー!」


「痛手は喰らったが、なんとか持ちこたえたか。
 奴もリバースを2枚仕掛けてきて、押さえ込む気だな。
 そろそろ決めていかないと、まずいんじゃないのか」

「翼ー! まだ、手札揃わないのー?」

 明菜が焦れたように問いかける。

「揃ってないんだよ。サーチが足りないのかな。
 早くお披露目したいんだけどなー。
 イルニルのおっちゃん、きっと気に入るだろうし!」

「おいおい、相手が気に入るって、どういうことだよ。
 一応、変な器具つけられて、襲われてるようなもんじゃないのか?」

 黒永の冷静な問いかけに、翼はキョトンとした表情を返した。

「襲われてるんじゃないよ。
 おっちゃんは遊びに来たんだ。
 新しい動物が見たいんだよ。
 だから、俺の取っておきを見せてやるんだぜ!」

「よっしゃー! 面白い奴だな、少年ー!
 でっかい鳥もいるんだろー!
 そいつも見せてくれー!!」

 翼は右拳を握り、力を込めて応えた。

「ああ! 飛びっきりを引いてやるさ!
 俺のターンだ、ドロー!!」

 そして、翼も同じように快活な笑いを浮かべた。
 お互いに感情が、顔によく出る。
 裏表なく、デュエルを心から楽しむように。

「俺は《霊鳥アイビス》を召喚する!
 こいつは儀式の生け贄になったとき、1枚ドローできるモンスターだ!」

 水色のオーラを帯びた、白いトキが舞い降りる。
 幽玄な雰囲気を漂わせ、空気が澄んでいくように存在感がある。

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

 黒永はそのモンスターを見て、なるほど、と頷く。

「お前らが言ってた手札が揃うってのは、こういうことか。
 つまり、翼の狙い、そして切り札のモンスターは――」

 翼は勇んで、1枚のカードを天高く掲げた。

「儀式魔法発動! 《輝鳥現界(シャイニングバード・イマージェンス)》!!
 場とデッキから、鳥獣モンスターを1体ずつ生贄に捧げて、輝鳥を降臨させる!
 俺は場のアイビスと、デッキのレベル3の《恵鳥ピクス》を生贄に捧げるよ!!
 アイビスを生け贄に捧げたことで、俺はカードを1枚ドロー!」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 鳥が供物(くもつ)として捧げられ、その魂は空に立ち上っていく。
 そして、空気がざわめき始める。
 風が吹き荒れ、空中に赤い光の粒が集まり始める。

「降臨せよ! 炎の《輝鳥(シャイニングバード)-イグニス・アクシピター》!!」

 翼の宣言とともに、赤い光は意思を持ったように動き出す。
 そして、半透明の鳥の形を成していく。
 鋭い爪を中心に、炎を放つ真紅の鳥が形成される。
 意思を付与された元素の集合体、輝鳥が今ここに現れた。
 体の周りに炎を(まと)い、地表を見下ろして、高く鳴いた。

「おおー!! すげー格好いい(たか)だー!!」

「だろ! だろ!!
 そして、こいつを儀式召喚した時に、効果が発動する!!」

 纏う炎に向けて、アクシピターが翼で指示を出す。
 すると螺旋を描きながら、イルニルに襲いかかる。

「『ルーラー・オブ・ザ・ファイア』!
 相手に1000ポイントのダメージだ!!」

「うおおおお!!
 これはなかなか痛いぞー!!」

《輝鳥-イグニス・アクシピター》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「炎」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
ATK/2500 DEF/1900

イルニルのLP:3900→2900

「まだ、アクシピターの攻撃も残ってるよ!
 ガゼルに攻撃だ! 『シャイニング・フレアクロー』!!」

 爪を付き立てて、ガゼルに向けて、滑空する。
 速さも鋭さも、アクシピターが格段に上回っている。
 身構えただけで、ほとんど抵抗できず、ガゼルは瞬殺された。

イルニルのLP:2900→1900

「よし! ライフが並んだ!
 俺はこれでターンを終了するよ!!」

LP1900
モンスターゾーン
《輝鳥-イグニス・アクシピター》ATK2200
魔法・罠ゾーン
なし
手札
2枚
イルニル
LP1900
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
0枚

「儀式……。使う手札が多いはずだが、専用儀式でデッキから墓地に送るのか。
 ちょこまかとした鳥が多いのは、その生け贄のためだったのか……」

「ね。翼の爆発力もなかなかだよね!」

「爆発力っていうより、アドの消耗を抑えるのが自然で上手いな。
 ドロー補助できるモンスターを生け贄に捧げているし、
 さっき墓地に送った奴も、最初のアンセルみたいに墓地効果のある奴だろ。
 これならデッキ圧縮しながら、さらに戦術をサポートしていける。
 オシリスレッドのレベルのデッキとは思えないな……。
 まだ、実績がないだけで、これから頭角を現すってやつか」

 黒永は自分の推測を確認するために、明菜に目をやる。
 明菜はその解説に、はてな、を浮かべたまま、固まっていた。

「へ……。えと、アドとかデッキあっしゅくって、何……?」

 今度は黒永が面を喰らって、そして、ふむと納得した。

「……なるほどな。お前らがオシリスレッドなわけが分かったよ。
 直感派で、カード戦術の大局的な動きを意識してないわけだ……。
 まぁ、そういうやつの方が対戦では予測不可で厄介ではあるが……」

 明菜を置いてけぼりにしないように、黒永は言葉をまとめる。

「つまり、翼のデッキは効率よく儀式できるように、上手くできている。
 デッキ圧縮ってのは、デッキからカードを引いたり、不要なカードを墓地送りして、
 必要なカードを素早く手札に加えられるようにするってことだ。
 あいつの儀式はそのステップも含んでいて、さらに効率がいいんだよ」

 明菜は戸惑いながら、黒永の言葉を拾う。

「え……と……、つまり翼の【輝鳥】デッキはいいデッキってこと?」

「ものすごく大雑把に言えば、そういうことだ。
 この調子なら、よほどのことがない限り、勝てそうな感じだな」


「うおおお! オデのターン、ドロー!!」

 目の前の輝鳥に負けないように、イルニルは張り切っていた。
 間髪いれずに、リバースに手をかざす。

「トラップ、オープン!! 
 《正統なる血統》! 
 通常モンスターの《幻獣王ガゼル》を復活させる!」

《正統なる血統》
【罠カード・永続】
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。

「今更、攻撃表示で下級モンスターをよみがえらせるだと!
 いや、違うな。 奴の狙いはあくまでその先か!」

 黒永の警戒通りに、イルニルは手札を掲げて、宣言する。

「場の幻獣モンスターを生け贄に捧げ、《幻獣ロックリザード》を生け贄召喚だぁ!!」

 地鳴りが起き、重装甲の獣人が、四本足で大地を踏みしめる。
 岩盤の鎧で身を固めながら、半身半馬のしなやかな動きはそのままに。
 目の前の敵に対峙し、その尻尾にまで緊張感を走らせ、相手を見据える。
 両拳を突き合わせ、闘志を高める。
 大地をその場で蹴りながら、駆ける準備をする。

《幻獣ロックリザード》 []
★★★★★★★
【獣戦士族・効果】
「幻獣」と名のついたモンスターを生け贄に捧げる場合、
このカードは生け贄1体で召喚する事ができる。
このカードが戦闘で破壊したモンスター1体につき、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。
相手がコントロールするカードの効果によって
このカードが破壊され墓地へ送られた時、
相手ライフに2000ポイントダメージを与える。
ATK/2200 DEF/2000

「すげえ! 格好いいモンスター! それに、この感じ……。
 おっちゃんの切り札の、精霊のモンスターなんだな!!」

「おう! オデの一番のモンスターだぞ!!
 さあ、バトルだ!
 《幻獣ロックリザード》で、《輝鳥-イグニス・アクシピター》を攻撃!!」

 駆け抜けてスピードをつけ、アクシピターへと向かっていく。

「攻撃力が低いのに、向かってくる!
 なら、アクシピターで返り討ちに!!」

「おい、自分がファシアヌスで攻撃したとき、何したのかを忘れたか!
 負けるのに突っ込む馬鹿はいない! 奴にはまだリバースが!」

「!!」

翼がリバースに目を向けたときには、既にカードは開かれていた。

「リバースオープン、《幻獣の角》だぁ!!
 獣戦士モンスターに装備して、攻撃力を800ポイントアップさせる!」

《幻獣の角》
【罠カード】
発動後このカードは攻撃力800ポイントアップの装備カードとなり、
自分フィールド上に存在する獣族・獣戦士族モンスター1体に装備する。
装備モンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し
墓地へ送った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

《幻獣ロックリザード》ATK2200→3000

 跳躍した瞬間、光輝く角を得るロックリザード。
 そのままアクシピターを討ち取り、軽やかに着地した。

翼のLP:1900→1400

「アクシピター!」

「まだだぞ! ロックリザードが戦闘破壊したとき、500ダメージを与える!」

 腕を突き出すと、その岩盤が飛び出し、翼に直撃する。
 追い討ちの一撃が、さらにライフを削る。

翼のLP:1400→900

「ふふぅ! さらに《幻獣の角》の効果でカードを1枚ドロー!
 ワッハッハ! 《デーモンの斧》を引いたぞぉ!!
 さらに装備して、攻撃力を1000ポイントアップ!!
 これでターンエンドだぁ!!」

 その岩盤に覆われた大腕に、禍々しい斧が装着される。

《デーモンの斧》
【魔法カード・装備】
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分フィールド上に存在するモンスター1体を
生け贄に捧げる事でこのカードをデッキの一番上に戻す。

《幻獣ロックリザード》ATK3000→4000

「攻撃力4000! 翼のデッキで、どうやって超えるの!」

 不安げな明菜に、黒永が付け加える。

「それだけじゃないな。
 あのロックリザードは効果破壊すると、ダメージ効果がある。
 《ゴッドバードアタック》で倒したりしたら、2000ダメージを受けるぞ。
 さて、どう対処するんだろうな……」

「オデの自慢のモンスターを見たかぁ!
 さあ、お前のターンだぁ!」

 翼はデッキに手をかけ、目の前を見据えた。

「見せてもらったよ! おっちゃんの切り札!!
 じゃあ、俺の一番のフェイバリットも見せなくちゃいけないね!」

「ほほぅ! この土壇場でまだ挑んでくるか!
 いいぞ! 少年の全力を、オデも見たいぞー!」

「見せてやるぜ!
 俺はデュエル・スターを目指すんだ!
 この一番の見せ場を盛り上げれなきゃ、いつ盛り上げる!」

「来い! 俺の最高のカード!!
 ドロー!!」

 引いた瞬間、翼には伝わってきた。
 カードの脈動が、宿る精霊の鼓動が。
 このカードと一緒に、デュエルの高みを目指す。
 幼い頃からずっと夢見ていたこと。
 デュエル・スター。
 斬新なデュエルで、観客を最高に楽しませる者に与えられる称号。
 今、このドローで、自分のデュエルを切り開いていく。
 踏みしめる一歩一歩が、今はとてつもなく楽しい。
 デュエルアカデミアは、夢へと進む場所なのだから。

「いくよ! 俺は《英鳥ノクトゥア》を召喚だ!
 このカードを召喚したとき、『輝鳥』と名のつくカードを手札に加える!
 俺は手札に《輝鳥現界》を加えるよ!!」

 ふくろうのモンスターが、高い声で長く鳴く。
 空気がシンとなり、儀式の霊圧が高まっていく。

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

「サーチカードか!
 多岐にわたる儀式デッキって奴か!」

「翼、引いたんだね! あのフェイバリットを!
 なら、勝てるよ! あの布陣だって、やっつけられる!!」

 明菜の声援に応えるように、翼は儀式魔法を天にかざす。

「儀式魔法、《輝鳥現界》発動!!
 場のレベル3のノクトゥア、デッキのレベル4の《冠を載く蒼き翼》を生け贄に捧げて――」

 鳥たちの魂が捧げられ、翼はエースカードを手に取った。

「――来い! 俺のフェイバリット!
 風の《輝鳥-アエル・アクイラ》!!!」

 緑色の光が集まっていき、鳥の形を成す。
 鋭いクチバシから、勇猛なワシの姿が形成されていく。
 精悍なる眼光で目の前を睨み付け、大空から見据える。
 黒みがかった雄大な翼を広げたとき、風は吹き荒れる。

「召喚時の効果だ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウインド』!!
 場のすべての魔法・罠を破壊するよ!!」

 大嵐が吹き荒れ、ロックリザードの角も斧も取り去っていく。
 翼の目の前に立ちはだかるもの。
 その脅威をすべて取り除くように、力強く風は吹いた。
 まるで護るかのように。
 無鉄砲な翼が、どこまでも自由に駆け抜けられるように。

《輝鳥-アエル・アクイラ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
ATK/2500 DEF/1900

「なんつー強烈な効果だ……。
 確かに吹き飛ばしてしまえば、カード効果も関係ない。
 召喚時の強烈な効果が、【輝鳥(シャイニングバード)】デッキのウリってわけか」

「うん! ガンガン儀式してくのが、翼のデッキだよ!
 土壇場でも、跳ね返しちゃうんだ!」

 明菜が自慢げに語ると、黒永もしみじみ同意する。

「そうだな。野性的なまでの流れるようなプレイ……。
 いや、あいつは野を駆けるんじゃないな。
 天を舞うカードを操るんだ。
 だから、天性のプレイングセンス。
 久白翼、そのデュエルの腕前、見せてもらったぞ」


「おおおーー!!
 キリリとした瞳に、豪快な効果!
 少年のフェイバリットは、すごいなー!」

「だろ!! アクイラは最高なんだよ!
 そして、まだ俺はモンスターを召喚するよ!」

 最後の手札をディスクに差しこみ、手をかざした。

「《思い出のブランコ》だ!
 俺は墓地の通常モンスターを復活させるよ!
 アクイラの儀式で墓地に送った《冠を載く蒼き翼》!
 このカードでフィニッシュだ!」

《思い出のブランコ》
【魔法カード】
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。

《冠を戴く蒼き翼》 []
★★★★
【鳥獣族】
頭の毛が冠のように見える、青白く燃えるトリ。
ATK/1600 DEF/1200

 森に映える蒼き翼、赤い頭頂部。
 2体のモンスターが並び、勝敗は決する。

LP900
モンスターゾーン
《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2500、《冠を戴く蒼き翼》ATK1600
魔法・罠ゾーン
なし
手札
0枚
イルニル
LP1900
モンスターゾーン
《幻獣ロックリザード》ATK2200
魔法・罠ゾーン
なし
手札
0枚

「バトル!! アクイラの攻撃!
 『シャイニング・トルネードビーク』!!」

 アクイラは風を取り込み、竜巻を発生させる。
 竜巻の目となりながら、自らも回転し、くちばしから突撃する。
 天空から急降下する、大自然の巨大なドリル。
 ロックリザードの岩盤さえも難なく打ち砕く。

「そして、トドメだ! 《冠を載く蒼き翼》!
 『ブルー・インパクト』!!」

 《冠を戴く蒼き翼》は、その蒼き翼でイルニルをなぎ払う。
 イルニルは大げさに尻餅をついて驚き、デュエルは決着した。

イルニルのLP:1900→1600→0

「だっはーっ! 負けたぞ、少年!
 いいデュエルだったー!!」

 イルニルは満足そうに、勝負を讃え、豪快に笑う。

「俺もでっかいモンスター見れて、楽しかったよ!
 また、デュエルしようぜ!」

 翼もまた快活に笑って、そしてディスクを携帯モードに戻す。
 地べたに座ったままのイルニルを起こそうと、歩み寄る。
 そのとき翼の目に、忘れかけていたものが飛び込んできた。

 ――紫色のベルト。

 負けるとスリリングなことがあるとは言っていた。
 今、イルニルは勝負に負けてしまった。
 何かが起こるとしたら、このタイミングではないのか。

 耳をつんざく高い金属音が鳴り響く。
 突然、ベルトは黄金色に輝きだした。
 イルニルは予想外とばかりに、ベルトを注視している。

「こ、これは!!?
 いつもの負けたときと、違うぞー!
 ウロボロスさん、どういうこと……!?
 こんなことされたら、おでは、おでは……ッ!!」

 地面を両手で叩きながら、血相を変えて、イルニルは戸惑い始める。

「少年、オデから離れろー!!
 今すぐ走って、オデから少しでも離れるんだっ!!」

 イルニルは必死に呼びかける。
 翼たちには何が起こっているか、分からない。
 しかし、尋常でない様子だけは否応なく伝わってくる。

「お、おい! 逃げるぞ!! 本当にヤバそうだ!」

「翼! 何が起こってるか分からないけど、言う通りにしようよ!」

 戸惑い後ずさる二人に反して、翼は近づいて肩を掴む。

「おっちゃん! どうしたんだよ!!
 大丈夫か!? おい、おい!!」

 ――そして、翼の指先からイルニルの感覚が伝わってくる。

 振動する大地のイメージ。
 爆発するマグマのイメージ。
 翼の体の中に、一瞬で駆け巡る大量の情報。
 ――精霊の感覚。イルニルの今の状態を伝えるもの。
 デュエルの高揚で、今のいままで感知していなかったもの。

(それに……、この反応の弱さと、濁ったような感覚……。
 普通の精霊じゃないってことは分かってたけど、これは……!)

 今まで漠然と浮かんでいた違和感を理解する。
 翼が触れたなら、精霊の情報は一瞬で伝わってくる。
 正確に、克明に、翼はイルニルの生態を掴んでしまった。

(おっちゃんは、精霊でも人間でもあって、そして……。)

 ――今、爆発しようとしている。

「離れろー!!」

 イルニルはとっさに翼を突き飛ばし、翼は尻餅をついた。
 翼の体の中で疑問が駆け巡り、身動きができない。
 イルニルの巨体は浮かび上がり、大地が震えだす。
 岩が、小石が、周りの土が、イルニルを取り巻き、浮かんでいく。
 渦巻く粉塵を身にまとう、イルニルの姿。
 まるでロックリザードを象ったような粉塵の塊になっていく。

(まずい!!)

 翼は今すべきことを悟り、両手を目の前にかざした。
 翼の瞳が青色に輝き、体が緩やかな光を放つ。

「お、おい! あいつ何やってんだよ!!
 それに、あの光はなんだ! これから何が起ころうと――」

 爆発音が鳴り響き、森が揺れる。
 粉塵が撒き散らされ、その傍にいる翼は――。

「翼!!」

 明菜の必死の悲鳴が響いた。
 翼がまさに粉塵に飲まれようとしたそのとき。

 ―― 一際、翼を囲う光が強く輝く。
 翼の目前で、粉塵は勢いを失い、さらさらと落ちる砂になっていく。
 翼の手の届く範囲だけ、暴走する粉塵が無力化されていく。

「これは一体、どういうことなんだ……」

「これが……、翼の『力』なの」

 唖然とつぶやく黒永に、明菜が答えた。

「翼には、精霊を理解する『力』がある。
 そして、精霊の力を引き出して、操作する『力』も……。
 だから、今、暴走した精霊の力を無力化してる……んだと思う。
 あたしにも何がどうして起こってるかは分からないんだけど……。
 翼にはそういう『力』があるんだ。でも……」

 明菜は指差しながら、震える。

「届かないよ!
 真ん中のイルニルさんを抑えないと、収まらないよ!!」

 イルニルは粉塵を吐き出す、台風の目となっていた。
 あの核を押さえなければ、この暴走は収まらない。

「分かっている!
 けど、でも、おっちゃんにそんなことは!!
 もう、おっちゃんにエナジーはほとんど残ってないんだ!
 これ以上何かしたら、消えちゃうよ!!」

 翼は触れたから分かる。
 イルニルの中の、精霊の力のことが。
 あの豪快に笑うおっちゃんの姿が、翼の脳裏によぎる。
 何とか助けたい。
 またデュエルしたいのに。
 もっと動物の話も聞きたいのに。
 でも、この今発生している効果は、つまり――。

「もう、助けられ――ない……?」

 核は今にも爆発しそうだ。
 まだ、これは前兆に過ぎない。
 本当の爆発が起きたとき、翼の『力』で果たして――。

「――君は本当に、未熟で甘い」

 どこからともなく、澄んだ声が響き渡った。
 風が一瞬にして、雰囲気を変えた気がした。
 あの粉塵が勢いを失っていく。
 その向こうに見える影。
 イルニルのおっちゃんの巨体と、そして――。

 ――宙に浮かび、イルニルを後頭部から鷲掴みする妖艶な美青年。

 まだ起こる風に、腰まである長い髪をなびかせながら、青年は翼を見下す。
 ――翼と同じ、その青く輝く瞳で――。

「ロックリザードは瀕死時に自爆効果があります。
 それを防ぐために、即死させなければなりません。
 何度でもこうする機会はあったはずですよ。
 それをしないのは、君の甘さであり、弱さです。
 君を打ち砕きたいほどに、その弱さが腹立たしい――」

 歌うように、ゆったりとした語り口。
 しかし、突然語りだす言葉は意味が通じない。
 だが、翼にはあの『力』が分かる。
 あの力は、間違いなく自分と同じ『力』で、遥かに強くて、そして――。

 ――イルニルを打ち砕こうとしている。

「やめろおおおおおおお!!!」

 ガラスが割れるような音がした。
 イルニルは、砕け散った。
 ベルトが無造作に、その場に落ちた。
 粉塵はやみ、森にようやく沈黙が戻る。

 翼は青年をにらみつけた。
 ――あのおっちゃんを打ち砕いた、目の前の者を許せない――。
 拳を握り締め、長身の青年に向けて、歩みだす。
 見れば見るほど、異様な風貌。
 長く透き通るような髪と、体温を感じさせない白い肌。
 細身の顔はたじろがずに、翼を見下している。
 一触即発の緊張感。

「こらこら!! そこまでナノーネ!!!」

 両手を広げ、二人の間に割り込む。
 中分けの金髪と、おしろいを塗りたくったような真っ白な顔。
 ハイセンスすぎるブルーのエリートコート。
 アカデミアに入学した誰もが、最初に覚える特徴的すぎる教師――。

「クロノス先生!?」

 怒りに水を差され、翼は動揺の声を上げる。

「ミスター斗賀乃(とがの)! 生徒を救ってくれたことは感謝するノーネ!
 でも、その剣幕は、ワケ分からなイーノ!!
 その『力』のことも含めて、ワタクシ達に今度こそちゃんと説明するノーネ!!」

 クロノスは、斗賀乃と呼んだ青年に詰め寄る。
 斗賀乃はやれやれ、と気のない素振りをした。

「クロノス先生、あなたに話すことはありません。
 そして、生憎協力する気もありません。
 私は単に、この少年に興味があっただけですから。
 もっとも、その興味も今失われそうなのですがね――」

 クロノスを押しのけ、斗賀乃は翼に向き直った。

「その『力』で何をためらうと言うのです?
 君が望んで行動するなら、アレを鎮めることもできました。
 君が『力』に恐れを抱くから、何もできなかったのです。
 そのままでは、君は何者にもなれませんよ」

 全てを見透かすように、翼に語りかける。
 再び、胸の中から、怒りがこみ上げる。
 胸をかきむしりたくなるような苛立ち。
 同時に、押さえ込まれるような圧迫感。
 それは、斗賀乃の言ったことが、すべて本当のことだから――。

「でも、打ち砕くなんて許せない!!
 あんな気のいいおっちゃんだったのに!
 命を奪ったりするなんて!!」

 翼の感情的な糾弾。
 眉一つ動かさず、斗賀乃は見下し続ける。
 冷たく強い怒りを込めながら。

「正論を言われて反論しようがないから、感情に訴えるのですか。
 児戯じみた論理のすり替えです。
 そうやって、ずっと同じところを周っていればいいでしょう」

「何を言って――」

「翼くん」

 斗賀乃は翼の怒声を遮るように、突然名前を呼びかける。

「君が行動しないから、失ったんですよ。
 そのまま自分の命も失えば、君でも悟るのでしょうかね。
 ですが、好都合なことです。
 君は器には相応しくない」

 斗賀乃は振り返り、はき捨てるように続けた。

「その『力』に引かれ、争いが巻き起こるでしょう。
 そして勝手に突っ走って、野垂れ死にでもしなさい。
 宿る魂にとって、その方が好都合でしょう」

 スタスタと歩いて、斗賀乃は去っていく。
 追おうとする翼を、クロノスが腕で阻んで制した。

「あんなに感情を露わにするミスター斗賀乃は初めてナノーネ。
 セニョールは、今は近づかない方がいいノーネ」

「でも、あんなことを言って黙ってられるか!
 斗賀乃って、あいつは一体――」

「斗賀乃、先生だ。
 まだ授業を受けてないから、覚えていないのか?
 先生に向かって、『あいつ』なんて言ってはいけないな」

 諭すように、柔らかな声が降りかかる。
 オベリスクブルーのエリートの白服、細身の長身、肩まで伸びた少しクセのある髪。
 心配げに翼を見やり、語りかけた。

「僕は藤原優介。
 クロノス先生と一緒に、この事件を追ってたんだ。
 君に起こった出来事を、聞かせてくれないか?」

「君も怪我はないよね?
 僕は早乙女レイ。
 藤原先輩たちと一緒に、僕も事件を追ってるんだ」

 ボーイッシュなファッションの少女が飛び出て、明菜に声をかけた。

「う、うん、あたしは平気だけど……。
 翼も何とか無事だし、黒永くんも平気――ってあれ……?」

 いつの間にか黒永はいなくなっていた。

(あ、そっか! 先生が来たから!!)

 タバコの臭いに気付かれるとまずい。
 ちゃっかり、去っていたのだろう。
 デュエルのときの解説も鋭かった。
 ずっと危険を訴えていたことも、今なら正しいと分かる。
 思い返せば、最初から最後まで抜け目のない人だった。

「二人とも大丈夫そうだな。
 この一連の事件。
 被害は少ないんだが、分からないことが多い。
 君たちの情報を聞かせてほしいんだ」

 藤原はまとめるように、二人に語りかけた。
 レイが前にちょんと名乗り出る。

「僕たちは、人呼んで『フリークス・バスターズ』!
 怪人の話を聞かせてほしいんだ!」


 三人から誘われて、翼と明菜は巻き込まれていく。

 波乱のアカデミア生活が、これから始まっていく。





第2話 究極VS究極!? クロノス先生の挑戦!




「つまり、話をまとめると――」

 藤原優介は部屋のみんな――久白翼、陽向居明菜、早乙女レイ、クロノス先生――を見渡しながら、続けた。

「黒永司が怪人に追われるところを、久白と陽向居が目撃。
 精霊に通じる『力』を持つ久白が仲裁に入って、デュエル。
 久白がデュエルに勝利したとき、
 謎のベルトが光り、怪人の能力が暴発。
 久白の『力』でも制御しきれない。
 危うく惨事になるところを、斗賀乃先生が助けた。
 ……表面的に追えば、こんなところか」

「うん。それで合ってる。
 それで、あの斗賀――」

 出かけた名前に、クロノスはムムムと顔をしかめようとするが――。

「待った。久白の質問したいことは分かっている。
 その質問の前に、こちらの質問をさせてくれないか」

 早まる翼にストップをかけて、藤原が議論の舵を取る。

「久白のデュエルモンスターズの精霊に通じる『力』について確認したい。
 君ができるのは、一定範囲の精霊に関する、能力とその意思と波長の察知。
 さらに精霊の力の無力化。よりデリケートなエナジー変換と吸収は不可能。
 ちなみに精霊の力による自然現象の発生は、精霊を介さなければ不可能。
 これで合っているか?」

 藤原の分析に、翼が目をパチクリさせる。

「合ってる……! けど、どうやって知ったの!?
 まさか藤原さんにも、この『力』が!」

「違う違う。僕の『力』じゃない。
 調べたのは……」

 藤原は親指で自分の後ろを差した。
 明菜は何も見えない、と首をかしげる。
 しかし、翼にはそこに居る存在が見える。
 強い光を帯びた、ギリシャ彫刻像のように凛々しく逞しい天使の姿。
 腕組みをして、翼を警戒するように注視している。
 その存在を感知すると、翼は歓声を上げた。
 精霊の力に惹かれて、興味がうずき、翼の瞳は青色の輝きを放っていく。
 ――翼の能力が発動するとき、その瞳は青色に輝く。
   すべてを見通し、さらには司る水晶のように。

「精霊《オネスト》……、わあ〜、すごい力の精霊だ……!
 こんなに強い力を持った精霊なんて見たことがないよ!
 実体化から攻撃、それに簡単な精神干渉までできるなんて……!」

「そうだな……。オネストの力もあって、僕たちの探索が成り立っている。
 僕は精霊はぼんやりとしか見えないし、精霊の感情と波長を感じ取れるくらいだ。
 そして、他のメンバーは精霊に通じる『力』すら持っていない。
 だから、僕は二人に、特に久白に怪人調査のメンバーに加わってほしいと思っている。
 もちろん、加わるのが嫌なら構わない。
 その前提で僕たちの活動内容を聴いてほしい」

 クロノスが立ち上がり、活動内容の説明に移る。

「この『フリークス・バスターズ』は、私が呼びかけて結成したノーネ。
 メンバーは少数精鋭。過去に精霊に関する事件に携わった者を呼んだーノ。
 目的は昨日、君たちが目撃した怪人たちの調査ナノーネ」

「イルニルさんみたいな人が他にもいるの?」

「何人か、特徴の違う怪人が報告されてるノーネ。
 イルニルはその中でも一番目立つ奴だったーノ」

 明菜がうーん、と考え込みながら、質問をする。

「怪人って言うけど、何か変わったことをしてくるの?
 昨日のイルニルさんはデュエルをしに来ただけみたいだったけど……。
 まぁ背格好とかは変わってるなぁ、とは思うけど……」

「いや、それだけで合っているんだ。
 基本的に危害を加えることはない。
 ベルトをつけて、デュエルしようとするだけなんだ。
 それに他の意図があるようにも見えない。
 逆にその意図が見えないところが不気味なんだがな……」

「でも、問題は『ベルト』なんだよ」

 レイがベルトの話題に乗り出す。

「あのベルトはデュエルで負けた側だけに反応する。
 それで、負けた人は『力が抜ける感じ』を訴えているの。
 これがアカデミアで起こった過去の事件と共通してるんだ。
 プロフェッサー・コブラの起こした『デス・デュエル事件』。
 同じようなベルトを使って、生徒からデュエルエナジーを集めて、
 《ユベル》っていう凄い精霊を呼び覚まそうとしたの。
 だから、今回も背後に何か目的があると思ってるんだけど……」

「そして、あの怪人の生態も謎に包まれているんだ。
 久白、精霊の波長を感じ取れるなら、イルニルからどう感じた?」

「信じられない感覚だったんだけど……」

 翼はその寒気のする感覚を思い出し、確かめるように続ける。

「――人間と融合させられた精霊だったんだ。
 うんと、逆かもしれないけど、混じってる感じで……。
 でも、そんなことなんて、あり得るのかな……」

「やはりか……。
 オネストの感じ取った中身と同じだ。
 なら、間違いないだろう……」

「精霊と融合した正体不明の怪人。
 彼らがベルトをつけてデュエルしろと挑んでくる。
 目的は不明。今分かっていることはこれくらいだ」

「こう、怪人たちの基地とかってのは、ないの?」

「この広いアカデミアなんだが、実は目星がついている。
 だが、入り口が塞がれて入れない。
 今は怪人たちの出方を待っているような状態なんだ」

「こう、ドカーンって強硬突破は?」

「知人に頼んで準備中だ。この孤島だから、調達に時間がかかるんだ。
 それまでは地道にやるしかないだろう。
 突破口があるとすれば、怪人を捕らえて聞き出せればいいんだが……」

 藤原がそうつぶやくと、レイとクロノスが顔を曇らせた。

「何かあったの?」

「実は僕たちのメンバーは、もう一人いたんだ。
 ティラノ剣山。決闘も腕力も頼もしいやつだったんだが……。
 オネストと一緒に強硬的に怪人を捕らえようとしたときに、負傷したんだ。
 久白とデュエルしたイルニルも、自爆の効果を備えた怪人だった。
 むやみに確保しようとするのは危険だろうな。
 その上で、敢えて頼みたいんだが……」

 沈んだ声のまま、藤原は翼に問いかける。

「久白、その『力』で僕たち『フリークス・バスターズ』に協力してくれないか」

 分からないことが多い危険な調査。
 報酬や評定の見返りも提示されない。
 それでも、翼は迷う素振りを見せなかった。
 藤原の問いかけに、まっすぐに向き合っていた。
 明菜に顔を向け、『いいかな』とコンタクトする。
 明菜はすぐに頷き返した。
 それが2人の答え。

「いいよ! 俺も協力する!
 目の前であんなことがあったんだ!
 このままじゃ気が収まらないよ!
 精霊で変なことしようとしてる奴は、俺が許さない!
 俺がやっつけてみせる!」

「あたしも……、いいかな。
 あたしには、翼と違って特別な『力』はないけど。
 目の前で誰かが困ってるのに、放っておけない。
 あたしにも手伝わせて!」

 レイがうんうん、と頷きながら、ニヤつき顔で答える。

「明菜ちゃんも、恋人のことが心配だもんね。
 いいよ〜♪ 二人の力で、一気に解決しちゃって!」

 レイがしたり顔でほのめかすと、明菜は顔を赤らめて慌てる。

「え、えと、あたしと翼は、恋人じゃなくて、幼馴染。
 同じところから来てて、昔からよく知ってるの!
 だから、無鉄砲な翼が心配っていうか、放っておけないっていうか、その……」

 翼も頬を赤らめ、指で顔をポリポリとかいている。

「ええー、さっきのアイ・コンタクトとか、絶対に恋人以上の信頼感があったのに!
 まだ、恋人になってないなんて、なんでなんで――」

「――さて、悪ふざけはそこまでにしておこうか、早乙女」

 恋愛の話題となって過熱したレイ。
 それをぶっきらぼうに遮り、藤原は会話を進めようとする。
 また始まったか、という藤原の呆れ顔。
 いつものことらしい。

「悪ふざけじゃない!
 二人の未来にとって、大事なことなの!
 どうして、アカデミアはデュエル馬鹿ばっかり……」

「協力、感謝する。
 とはいえ、今は出没情報をもとに調査するくらいだ。
 お互いに何か手がかりを掴んだら、報告し合うとしよう」

 手がかり、という言葉にピンと来たように、翼が声を上げる。

「ねえ! 斗賀乃先生は何か知ってるんじゃないの!
 何か嫌な感じだったけど、すごい『力』を持ってたし!
 俺たちに協力してくれないのかな!」

「あいつはダメダメなノーネ!!」

 突然、クロノスが大きな声で、話題に割って入る。

「すごい『力』も、決闘の腕も持ってるのに、協力してくれないノーネ!
 協調性って言葉がチンプンカンプンなノーネ!
 いくら頼んでも応じないへそ曲がリーヌは、相手にしないノーネ!!」

 クロノスは声を荒げるが、翼は興味を抑えられない。

「でも、俺のことも、俺の『力』のことも、知ってるみたいだったし!」

「久白、自分の焦りをクロノス先生にぶつけてどうする」

 藤原は冷静に場をなだめた。

「動かないものを動かそうとしても仕方がない。
 斗賀乃先生のあの剣幕だ。今聞いても、何も答えてくれないだろう。
 なら、認められるだけの腕を示さなければならない。
 チャンスを待つんだ。できることから始めよう」

「コホン」

 クロノスは荒げた声を整えて、取り繕う。

「取り乱してすまないノーネ。
 セニュール久白もセニョーラ陽向居も、入学したばかり。
 今はこの通り、こちらからできることもないノーネ。
 自分のペースで協力していってほしイーノ」

「うん、俺も焦っちゃって……、ごめんなさい。
 そだね。俺は俺で、斗賀乃先生に近づけるよう頑張る!
 この『フリークス・バスターズ』の活動もね!」

「その意気なノーネ!
 じゃあ、今日は連絡先を交換して、後は自由解散なノーネ!」





「ふぅ……、極楽極楽なノーネ。
 疲れを癒すには、これに限るノーネ……」

 アカデミアの東端、大規模温泉施設。
 豊かな自然環境を生かした天然温泉。
 夜のしじまが深まり始める頃。
 施設の閉館時間から清掃まで、謎の1時間の空白があるという。
 そこに誰も知らない教師特権の発動があった。
 クロノスの日々の緊張を解きほぐす、至福のひとときである。

「今日も取り乱してしまったノーネ……。
 新入生の前でみっともなかったノーネ、ブクブクブクブク……」

 一人で思い返すのは、今日の失態のこと。

「ミスター斗賀乃の話題は、どうしても神経質になってしまうノーネ」

 単純に協調性がなくて、反感を抱きたくなる気持ちもある。
 だが、それは本音の建前に近い。
 もっと個人的な事情で、クロノスは斗賀乃が目についてしまうのである。

 クロノスは実技担当の最高責任者であり、生徒の憧れの的である。
 厳しい指導態度ながらも、生徒の成長を熱く見守る姿は、多くの信頼を得てきた。
 さらにデュエルの腕も、学園の誰にも負けないトップクラスである。
 クロノス自身もそれを自負とし、誇りある指導とデュエルを行ってきた。
 しかし、そのクロノスの地位を脅かす存在が現れた。
 新任教師にして精霊学担当の――斗賀乃(とがの) (がい)である。
 長身長髪のファンタジー世界のエルフのような妖艶な容姿。
 吟じるような語り口から紡ぎ出される、神秘的な精霊学の講義。
 生徒たちの関心は一気に奪われてしまう。

「見た目や雰囲気だけなら、まだいいノーネ……」

 一番気に障るのは、斗賀乃のデュエルの腕である。
 教師を迎えるにあたって、デュエルの腕の審査も行われる。
 その中で行われた斗賀乃のデュエル。
 名だたる候補の中でも、圧倒的であった。
 相手の猛攻を舞うようにいなし、超大型モンスターを召喚。
 超攻撃力のたった一撃で、勝利を射止めたのである。
 その腕前には、クロノスも驚かざるを得なかった。
 当然、生徒たちは、デュエルの腕にも惹かれていく。

「何とかこちらに注目を戻さなくてはいけないノーネ!
 でも、直接対決して負けたら、表に出られなくなるノーネ……。
 【古代の機械(アンティーク・ギア)】デッキは展開サポートと、戦闘補助がウリなノーネ。
 一撃でも許してはいけないケード、防御手段には乏しイ―ノ。
 でも、消極的になったら、それこそ攻め抜かれるノーネ……」

 有効な対抗策が浮かばない。
 いや、単純な対抗策なら、いくらでも思い浮かぶ。
 だが、ピンポイントの対抗カードでは意味がない。
 デッキの総合力での勝負。
 その真っ向勝負に勝ってこそ、デュエリストの格は決まる。
 しかし、クロノスの既に到達段階にあるデッキで、これ以上の進歩は……。

『なら、認められるだけの腕を示さなければならない。
 チャンスを待つんだ。できることから始めよう』

『そだね。俺は俺で、斗賀乃先生に近づけるよう頑張る!』

 思考の迷路の引きずりこまれそうなところで、2人の言葉が思い起こされる。
 翼に堅実な歩み方を諭す藤原の言葉。
 前に確実に進もうと決意する翼の言葉。

(セニョール翼も前に進もうとしてるノーネ。
 そして、自分も一歩一歩前に進まなくてはならないノーネ!)

 自分も焦りともどかしさを覚えていたのだろう。
 だが、それだけでは前に進めない。
 今は斗賀乃に勝つ確信が持てないのなら、さらに腕を磨くことだ。
 自分のより洗練されたコンボを。
 相手に隙を見せない堅牢な布陣を。
 立ちふさがる敵を打ち砕く突破力を。
 そのためには、今のデッキを――。

「だーー!! 簡単に思いついたら、苦労しないノーネ!!
 ここは強い相手との実戦で見出すくらいしかないノーネ!
 でも、一気にミスター斗賀乃と闘って負けたら、元も子もないノーネ!
 しかーし、私と上手く釣り合う新鮮な相手も見当たらなイーノ……」

 クロノスほどのベテランともなると、良い修練相手は見当たらなかった。
 生徒相手ではやはりこちらが上回ってしまう。
 教師相手でも実技担当最高責任者に並ぶ者はそうそういない。
 強さへの渇望を満たす好敵手は――。

「ふぅん。その高みに達してまでも、(おの)がロードを希求する姿。
 なかなかの闘志だ! 気に入ったぞ!」
 
 突如、勇ましく大きな声が大浴場に反響した。
 自分以外には誰もいるはずのないこの空間で。
 どこかで聞き覚えのある気がするが、馴染みの薄い声。
 湯船から思わず立ち上がり、警戒を走らせる。

「だ、誰ナノーネ!!
 この時間にどうしてここーニ!?
 私に何の用ナノーネ!!」

「ふぅん。質問が多いぞ、貴様」

 自分は常に正しいと言わんばかりに、至って冷静に答え返す。

「俺の名は《正義の味方 カイバーマン》!
 力と闘いに思い悩む者を導く精霊だ!
 俺に目をつけられるとは、貴様はなかなか運がいい」

「《正義の味方 カイバーマン》……?
 聞き覚えのある声だと思ったら、そういうことだったノーネ!」

 クロノスは校長室から、その怒声を何度か聞いたことがある。
 アカデミアにおいて、最も逆らってはならない者の一人。
 デュエル・アカデミアのオーナーと呼ばれる、最大出資者であり創設者。
 その声は、いささか血気盛んに感じるが、海馬瀬人そのものであった。
 ……だが、本人ということは有り得ない。
 恐らく精霊というのは、本当のことなのだろう。
 藤原の《オネスト》の超常現象で、免疫はついていた。
 クロノスは不思議と素直に、この状況を飲み込むことができた。

 湯煙の向こうから歩いてくる姿。
 顔を覆う凛々しきブルーアイズマスク。
 銀色のブルーアイズコートの雄姿。
 カードの絵柄のカイバーマンそのものであった。

「もしかして、力を貸してくれるノーネ?」
 
「ふぅん。俺が貴様を鍛え直すという意味ならば、そういうことになろう」

「特訓! カードの精霊から! ありがたい申し出ナノーネ!!
 なら、早速風呂上りに――」

「――待ってください!」

 そしてまた違う声が、割り込んだ。

「こ、今度は誰ナノーネ。
 私の安息の時間は、どこにいくノーネ……」

「やっと見つけましたよ、カイバーマンさん。
 目撃情報をもとに、ここを張っていた甲斐がありました」

 すたすたともう一人がこちらに歩み寄ってくる。
 逆立った髪に、仮面のようにのっぺりとした白い不気味な表情。
 黒紫の目立つコートは、人間離れした異様さを感じさせる。

「ふぅん。俺たちの闘いのロードに、とんだ邪魔者が入ったようだな」

「私の名はシルキル! 強き精霊を求める者!!
 カイバーマン! 貴方こそ、我が主に相応しい魂の持ち主!
 デュエルの盟約で、確保させてもらいましょう!!」

 コートからディスクを取り出し、シルキルはカイバーマンに呼びかける。

(ちょっと待つノーネ!!
 シルキルっていったら――!)

 クロノス達――フリークス・バスターズ――が追う怪人は、名前を持つ。
 コードネーム染みた『ル』を2つ含む名前を。
 あの異様な風体といい、まさしく怪人そのものではないか。
 
(でも、私は丸裸……。
 情けないことに、何もしようがないノーネ……)

 怪人たちは人間離れした身体能力を持つ傾向がある。
 目の前のシルキルも例外ではあるまい。
 精霊に通じる力はおろか、何の道具もなしには……。
 まして、今のクロノスが持つのはタオル1枚のみ。
 どうすることもできない。

「俺をデュエルで確保しようとは片腹痛い。
 貴様、勝つ自信があるとでも言うのか?」

 カイバーマンは腕組みをし、シルキルを値踏みするように見回す。

「勝算なら、私の力にあります!」

 シルキルが力強く返答すると、その体から黒い霧が吹き出した。
 闇はシルキルにまとわりついていく。
 ディスクのデッキとシルキルの顔を覆い、ぐにょぐにょと形を変える。

「な、なんなノーネ……」

 その闇の蠢動(しゅんどう)が終わり、クロノスの目に飛び込む信じられない光景。
 ――それこそが、常軌を逸した精霊の力。
 あの白仮面の表情は、凛々しきブルーアイズマスクに変化していた。

「ふぅん……、なるほど。貴様の特殊能力はコピーということか。
 俺の形とデッキを真似れば、俺に勝てる可能性もあると。
 貴様はそう言いたいわけだな」

「そうです! さあ、私たちの糧に――」

「甘いぞ、貴様!!」

 力強い怒声に、シルキルは思わず身を震わせた。

「形だけを真似て、俺に並んだつもりとは片腹痛いわ!
 そのような児戯染みた模倣など、話にもならん!!
 恥を知れ!!」

 その怒りの勢いと、威圧感。
 同じ表情をしているはずだが、本物は圧倒的であった。
 思わずたじろぐシルキルの、なんと頼りないことか。

「で、ですが、闘ってみるまでは分かりません!
 勝負もせずになら、何とでも言えるでしょう!
 デュエルモンスターズの精霊なら、デュエルで示しなさい!」

 『やってみなきゃ、分かんないよ!』
 子供が意地を張って、やっと反論しているようにさえ見えた。
 だが同時に、今のシルキルは何を言っても聞かない駄々っ子なのだろう。
 カイバーマンは、うんざりしたように眉根をひそめる。
 シルキルをしばらく見つめ、クロノスにちらりと目をやり――。

「なら、その姿とデッキで試してみるがいい。
 だが、相手は俺ではない。
 そこのクロノスとだ」

「どういうことです!?」
「どういうことなノーネ!?」

「ふぅん。聞かずとも知れたこと。
 貴様など俺の手をかけるまでもないということだ。
 その者に勝てぬというなら、俺に勝てる道理もない。
 それともまた臆するのか?」

 いちいち闘争心を煽るように、カイバーマンは問いかける。
 そして単純にも、シルキルは対抗せずにはいられない。

「いいでしょう! まずはこいつを打ち破り、貴方に挑戦します!
 さあ、クロノスとやら! 服を着て、デュエルに備えるのです!!」

 クロノスを指差し、シルキルは対抗心を燃やす。

「いいっ!!」

 唐突に向けられた闘志の矛先。
 クロノスは困惑を隠せない。

「ふぅん。シルキルよ、慌てるな。
 クロノスにも都合というものがあるのだ。
 もともと俺はクロノスにチャンスを与えに来たのだ。
 ついでに、そいつを叶えてやるがいい。
 生徒に己の強さを知らしめるという渇望をな……。
 そのために相応しい舞台は、ここではない!
 3日後のアカデミアの中央デュエル場!
 そこで存分に貴様らの闘志をぶつけ合うがいい!」

「ちょ、ちょっと待つノーネ!
 確かに手配はできるケード、私が闘いたいのは……」

 クロノスの戸惑いを見て取って、カイバーマンはニヤリと笑った。

「ふぅん。クロノス。
 俺のデッキを侮るはずはなかろうが、相手に不足があるか?
 今貴様が思い浮かべるほど、シルキルは弱い存在ではないぞ」

「……そうナノーネ?」

 散々弱いと言い放っておいて、手の平を返すカイバーマン。
 素直に相手を誉められない性分なのだろうか。
 だが、確かにシルキルは全く以って只者ではない。

「人の身を捨て、精霊の気高さも捨ててまで、強さを求めた者の成れの果て。
 意志の焼き切れる闘争を潜り抜けて、純化された闘志だ。
 貴様の記憶に残るデュエルと比べても、見劣りしない決闘となろう。
 生徒の前で、《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)》を倒してみるがいい。
 貴様の実力も、もう一度認められることだろう」

 クロノスには、カイバーマンの言うことの意味が通じなかった。
 藤原や翼によれば、怪人は人間と精霊が入り混じった存在らしい。
 だが、『意思の焼き切れる闘争』や『純化』とはどういうことなのか。
 分からない。
 怪人とのデュエルなら、危険もあるだろう。
 しかし、千載一遇のこのチャンス。
 見逃すわけにもいかない。

「分かったノーネ!
 盛大に生徒を集めて、名誉挽回の舞台にするノーネ!!」

 ――かくして、数奇なやり取りの果てに、起こり得ぬ対決が現実のものとなった。





「クロノス先生のエキシビジョンデュエル、楽しみだなー!」

「しかし、このベンチで控えてほしい、っていうのは、どういうことだろうな……。
 対戦相手の正体も、結局最後まで教えてくれなかった」

 これから始まるデュエルに胸を馳せる翼。
 謎の多いデュエルを警戒せずにはいられない藤原。
 フリークス・バスターズの4人は、観客席ではなく、ベンチの特等席。
 今日は授業のない土曜日。聞きつけた生徒が観客席を埋め尽くす。

「対戦相手なんて、ポスターのシルエットで丸分かりだったじゃん!
 あの姿はどう見ても、《正義の味方 カイバーマン》だよ!
 ショーは見たことあるけど、ブルーアイズ格好良かったなー!」

「だが、興行ショーなら、もっと別のイベントもあるはずだ。
 どうしてデュエルだけ、それも先生との一戦だけなんだ……。
 それに《青眼の白龍》は、世界に海馬瀬人の持つ3枚だけ。
 希少な公認レプリカも、ソリッドビジョンが出ない仕様になっている。
 仮にこの大舞台でデュエルするとしても不適じゃないのか……」

「あたしも細かいこと抜きに楽しみだけどなー。
 でも、クロノス先生。やけに緊張してた気がするけど、大丈夫かな……」

「それも謎なんだ。デュエルの大舞台なんて、いつもやってることのはずだ。
 いまさらクロノス先生が緊張するなんて珍しい。
 カイバーマンの中の人は一体……」

「こらー、夢を壊すロマンのない勘ぐりは良そうよ!
 せっかくのイベントだよ!
 疑ってウジウジしてたら、モテないよ! 藤原先輩!
 余裕を持って、何事も楽しむ度量も大事だよ!」

「あのな、早乙女……」


 ――パチパチパチパチ!!


 4人の会話を飲み込むように、大きな拍手が鳴り響いた。
 舞台には今回の主役、クロノス先生が入場していた。
 やや動きが固いが、両手を大きく振り、拍手に応えている。
 そして、反対側の入場口に注目が集まる。
 誰もが見守る中、入場したのは――。

「やっぱりカイバーマンだ!!
 あれれ? でも、コートが黒いって変だな……」

「まさか……。《オネスト》、探ってくれ!」

 瞬時に《オネスト》と翼は、その正体を感じ取った。
 精霊と人間の入り混じった存在。
 その異形の感覚は、まさしく追うべき怪人そのもの。

「どういうことだ……?!
 だが、このギャラリーの中で騒ぎを起こしたら大混乱。
 うかつに止めることもできない。
 クロノス先生、何を考えて……」

「でも、安心してデュエルできるから、この舞台なんだよね。
 俺のときもイルニルさんは、デュエルを楽しもうとしてただけだったよ!
 なら、今回もきっと大興奮のデュエルをするためじゃないかな!」

「確かに今回はベルトもないな。
 だが、このデュエルは一体……」

 翼のワクワクは膨らみ、藤原の疑念は消えないまま。

 舞台の二人はディスクを構えた。
 ディスクの起動音が鳴り響く。
 そして、勝負の前の一瞬の沈黙。

「デュエルなノーネ!!」
「デュエルです!!」

シルキル VS クロノス

 謎と興奮のデュエルの、幕が開ける。

「私のターンです! ドロー!」

 勇んでシルキルはデッキからカードを引いた。
 そして、手札に目を移すと、こみ上げる高笑いが抑えられない。
 さすがは海馬瀬人の伝説のデッキ。
 パワーカードとそれを呼ぶ手段が、最初から揃っている。

「フフフ、貴方達に伝説を見せてあげましょう!
 私は《正義の味方 カイバーマン》を召喚します!!
 さらに生け贄に捧げて――」

 デュエリストと同じ姿の人型モンスターが登場して、参上のポーズを取る。
 そして、高笑いをしながら、光の粒子に変化し――。

《正義の味方 カイバーマン》 []
★★★
【戦士族・効果】
このカードを生け贄に捧げる事で、手札の「青眼の白龍」1体を特殊召喚する。
ATK/ 200 DEF/ 700

「手札から《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)》を特殊召喚です!!」

 語り継がれる伝説のカード。
 デュエルモンスターズの原点でありながら、頂点のカード。
 生徒たちの視線は釘付けになり、観客席は一面総立ちとなる。
 雄大な翼を広げ、白き龍が咆哮する。
 青の彗眼の威圧感。鋭さを高貴に纏め上げた美しきフォルム。
 誰もが憧れる最強の通常モンスター、ブルーアイズ・ホワイトドラゴン。
 映像は、確かに舞台に具現化されていた。

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)) []
★★★★★★★★
【ドラゴン族】
高い攻撃力を誇る伝説のドラゴン。
どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない。
ATK/3000 DEF/2500

「本物のブルーアイズ! この目で見れるなんて……、すげえ!!」

「精霊の力で生成されたカードなら、ディスクも感知する。
 このデュエル、本来なら絶対に見ることのできないデュエルだな。
 謎は多いが、確かにワクワクしてしまう……」

 いつも冷静な藤原でさえ魅了されるスターカード。
 会場が割れんばかりに、歓声は全開である。

「さらにカードを2枚セットします。
 ターンエンドです」

「うぅ、早速ブルーアイズを召喚してきたノーネ。
 でも、この注目を集める舞台で、引き下がれないノーネ!!
 私のターン、ドローニョ!!」

 この対決のために見直してきたクロノスのデッキ。
 生徒の注目に恥じないデュエルを行うために。
 クロノスの積み重ねてきた経験。その技術の結集であるデッキ。
 ここで応えずして、実技担当最高責任者は名乗れない。

「私もいくノーネ!!
 フィールド魔法《歯車街(ギア・タウン)》を発動すルーノ!
 さらに永続魔法《古代の機械城(アンティーク・ギア・キャッスル)》を発動するノーネ!!」

 ブルーアイズが席巻するフィールドが作り変えられる。
 蒸気と機械の街並みが広がり、中央部に強固な要塞が現れる。
 これがクロノスの打ち立ててきた【古代の機械(アンティーク・ギア)】の舞台。
 生徒たちは思い出さずにはいられない。
 ――クロノスが伝説に並ぶカードの所持者であることを。

「手札から魔法カード《磁力の召喚円(マグネットサークル) LV2》を発動すルーノ!
 この効果で、手札のレベル2ユニオンモンスター、《オイルメン》で特殊召喚なノーネ!」

《磁力の召喚円 LV2》
【魔法カード】
手札からレベル2以下の機械族モンスター1体を特殊召喚する。

「さらに《機械複製術》を発動!
 攻撃力500以下の場の機械族、《オイルメン》を3体に増やすノーネ!!」

《機械複製術》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する
攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。

 瞬く間に3体のモンスターを場に揃う。
 クロノスの卓越したデュエル・タクティクスは健在。
 そして、手札に残された1枚のカード。
 さらに通常召喚権は、まだ温存されている。

「フィールド魔法《歯車街》の効果。
 『アンティーク・ギア』と名の付くカードを生け贄召喚するとき、
 生け贄を1体少なくすることができるノーネ。
 よって、私は場の《オイルメン》1体を生け贄に捧げて――」

《歯車街》
【魔法カード・フィールド】
「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターを召喚する場合に
必要な生け贄を1体少なくする事ができる。
???

 地響きとともに、もう1体の伝説が起動する。

「来るノーネ! ――《古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)》!!」

 アリーナを突き破り、地面から機械巨人が現出する。
 体中から蒸気を噴出し、力強い駆動音を響かせる。
 機械仕掛けの巨大な豪腕で、ファイティング・ポーズを取る。
 巨人の赤いランプの眼が、龍の青き眼とぶつかり、火花を散らす。

古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム) []
★★★★★★★★
【機械族・効果】
このカードは特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが攻撃する場合、
相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
ATK/3000 DEF/3000

「《古代の機械城》の効果があるノーネ!
 このカードはアンティーク・ギアモンスターの攻撃力を300ポイント上げルーノ!!
 さらに伏せカードがあっても無駄なノーネ!!
 アンティーク・ギアはマジック・トラップの対策装甲なノーネ!!
 戦闘時にリバースは発動できなイーノ!
 そして、《オイルメン》1体を《古代の機械巨人》にユニオンさせるノーネ!」

《古代の機械城》
【魔法カード・永続】
フィールド上に表側表示で存在する「アンティーク・ギア」と名のついた
モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
モンスターが通常召喚される度に、このカードにカウンターを1つ置く。
「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターを生け贄召喚する場合、
必要な生け贄の数以上のカウンターが乗っていれば、
このカードを生け贄の代わりにする事ができる。

《オイルメン》 []
★★
【機械族・効果】
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして
自分フィールド上の機械族モンスターに装備、
または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、
装備モンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、
自分はデッキからカードを1枚ドローする。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。)
ATK/ 400 DEF/ 400

《古代の機械巨人》ATK3000→3300

 このバトルフィールドは、クロノスが作り上げた暗黒の中世。
 ゴーレムのバトルに最適化された戦場で、伝説と伝説がぶつかり合う。
 地響きと駆動音を響かせながら、機械巨人が駆け抜ける。
 そして、屈伸させた膝のバネで、ブルーアイズの頭上まで飛び上がった。

「行くノーネ!! 《古代の機械巨人》の攻撃!
 『アルティメット・パウンド』!!」

「迎え撃つのです! 《青眼の白龍》の攻撃!
 『滅びの疾風爆裂弾(バーストストリーム)』!!」

 落下する勢いとモーターで加速された機械巨人の超重量の豪腕。
 繰り出された拳に、ブルーアイズの白銀のブレスがぶつかる。
 空気中でさらに爆裂し、巨体をも押し戻そうとする魔法力の奔流。
 だが、機械の巨人はその爆風をも打ち破る。
 機械の拳がブレスを貫き、ブルーアイズの顎を直撃する。
 白き伝説の龍は地面まで吹き飛ばされ、その身を崩した。

シルキルのLP:4000→3700

 再び割れんばかりの歓声が、会場を席巻する。
 クロノスは拳を握り締め、初戦の勝利の感激に打ち震える。

「あたし、こんなデュエル見たことない……。
 最初のターンから、攻撃力3000以上のモンスターのぶつかり合い!
 それにあのブルーアイズをたった1ターンで倒すなんて。
 クロノス先生! すごい!!」

「ふふん! ユニオンした《オイルメン》の効果!
 デッキからカードを1枚ドローすルーノ!
 私のカードコンボの威力を思い知ったかナノーネ!!
 私はカードを1枚伏せて、ターンエンドなノーネ!」


シルキル
LP3700
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
0枚
クロノス
LP4000
フィールド魔法
《歯車街》
モンスターゾーン
《古代の機械巨人》、《オイルメン》
魔法・罠ゾーン
《古代の機械城》、伏せカード×1、
《オイルメン》(《古代の機械巨人》にユニオン装備)
手札
1枚


「クッ! まさか、たった1ターンで倒されるとは……。
 ですが、負けません! 私のターンです! ドロー!!」

 クロノスのフィールドを前に、シルキルも怯まずに立ち向かう。

「私は闇属性モンスター《ロード・オブ・ドラゴン−ドラゴンの支配者−》を召喚!
 さらにリバースカードオープン、《闇霊術−「欲」》!
 闇属性モンスターを生け贄に、カードを2枚ドロー!
 貴方は手札から魔法カードを見せることで、
 ドローを防げますが、その1枚の手札はいかがでしょう?」

「防がないノーネ……。消耗しすぎたノーネ……」

「ならば、効果処理に成功! 2枚ドローです!」

《闇霊術−「欲」》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する闇属性モンスター1体を生け贄に捧げて発動する。
相手は手札から魔法カード1枚を見せる事でこの効果を無効にする事ができる。
見せなかった場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。

 シルキルはカードを手早く2枚ドローした。
 そして、思わずため息をもらした。
 完璧で素晴らしい手札が迅速に揃う。
 心臓が飛び跳ねるかのような高鳴り。

「ふふ、ふふはは、ははははは!!」

 こみ上げる高笑いが抑えきれない。
 湧き上がる全能感で、体が打ち震える。
 今この手にあるのは、最良構成の研ぎ澄まされたデッキ。
 立ちふさがるもの全てを打ち砕く可能性の塊。

 ――ずっと求めていた、強さそのものではないか。

「リバースカードオープン!!
 《蘇りし魂》!! 墓地のブルーアイズを守備表示で復活させる!」

《蘇りし魂》
【罠カード・永続】
自分の墓地から通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「なななな、な!
 せっかく倒したのに、もう復活しちゃウーノ!?
 でも、手負いのブルーアイズを蘇生しテーモ、《古代の機械巨人》には……」

「まだ、これから、ですよ!
 手札からマジックカード、《召喚師のスキル》を発動!
 デッキからレベル5以上の通常モンスターを手札に加えます。
 私が手札に加えるのは――」

《召喚師のスキル》
【魔法カード】
自分のデッキからレベル5以上の通常モンスターカード1枚を選択して手札に加える。

 迷い無く選び出され、公開される1枚のカード。
 クロノスの目が、その一枚に釘付けとなる。

「もう1体のブルーアイズを、このタイミングで手札に!
 まさか、狙ってるノーワ!!?」

「――貴方達に伝説を越えた究極を、ご覧に入れましょう!
 マジックカード、《融合》を発動!!
 場のブルーアイズ1体、手札のブルーアイズ2体を融合させ――」

 融合の磁場が発生し、3体の白竜が取り込まれる。
 膨大な力を取り込み、渦からは稲光が発生している。
 魔力が集中し、溢れる力は空間をも揺るがす。
 やがて融合の渦が、輝いて白く染まり――。

「《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》、召喚です!!!」

 ――伝説を越えた究極のドラゴンが誕生する。

青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン) []
★★★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合】
「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」
ATK/4500 DEF/3800

 破壊力を破壊力で束ねた多頭竜。
 三ツ首が巨人の視界を覆い、三ツ口が一斉に咆哮する。
 三頭の青き眼が、巨人を威圧的に取り囲む。
 その圧倒的存在の前に、逃げ場は存在しない。
 体を覆う稲光放つ魔力は、やがてその三ツ口に集約されていき――。

「攻撃です!! 『全て凌駕する疾風怒涛(アルティメット・バースト)』!!!」

 破壊の疾風は同時に放たれ、交差して一つの波動となる。
 眩い光を放つ巨大な奔流。
 それを前に、巨人はあまりに小さく――。
 両腕を交差させ、その身を護ることが精一杯。
 抑えきれぬ光が、クロノスを襲い来る。

クロノスのLP:4000→2800

「あじゃじゃじゃじゃじゃ!!
 でも、ユニオンした《オイルメン》が破壊されることで、
 《古代の機械巨人》は破壊されないノーネ!」

「ですが、かろうじて残ったところで、何ができるのです!
 これでターンを終了しましょう! ふははははは!!」

 クロノスの優勢は一瞬にして覆された。
 天をも覆い尽くす圧倒的存在が、目の前に立ちはだかる。
 だが、クロノスは怯まず、三頭竜に向き合っている。
 ――次の突破手段を、見据えるかのように。


「装備カードもなしに、攻撃力4500!!?
 すげえ……! あの攻撃力、どうやって超えれば……!」

 その迫力に圧倒される翼。
 生徒たちにも動揺が走っている。

「二つ……、手段がある」

「えっ!」

 藤原が誰にともなく呟いた言葉。
 藤原は知っている。
 まだ立ち向かえるクロノスの、その力の在り処を。

「クロノス先生のデッキも完成されている。
 この返しのターンで、アルティメットドラゴンを倒す手段は――2つある」

「あのモンスターを越える手段……」

「一つは、1ターン限り機械族を暴走させる切り札。
 そして、もう一つは――」

 藤原はその構図を思い描き、高鳴りに打ち震える。

「伝説には伝説を。そして、究極には究極でぶつかること――。
 そうだ。クロノス先生のデッキには更なる力が――」


「私のターンなノーネ! ドローニョ!!」

 クロノスはカードを手に取り、狙いを確信する。
 手にしたのは、無限の可能性へと向かうカード。
 取るべき道筋。――それは眼前に立ち塞がる究極に並ぶ道。

「私は《オイルメン》を生け贄に捧げるーノ!
 闇属性モンスター《タン・ツイスター》を生け贄召喚するノーネ!!
 さらにリバースをオープンすルーノ! 《闇霊術−「欲」》!
 闇属性モンスターを生け贄に……、魔法カードは手札にあルーノ?」

「……ありません」

「なら、カードを2枚ドローするノーネ!  《タン・ツイスター》の効果でさらに2枚ドローなノーネ!」

《闇霊術−「欲」》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する闇属性モンスター1体を生け贄に捧げて発動する。
相手は手札から魔法カード1枚を見せる事でこの効果を無効にする事ができる。
見せなかった場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。

《タン・ツイスター》 []
★★★★★★
【悪魔族・効果】
生け贄召喚したこのカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
この効果を発動した場合、このカードをゲームから除外する。
ATK/ 400 DEF/ 300

「クロノス先生も相手と同じプレイングを!?
 モンスターを消耗してまで、ドローを優先してる……。
 思い通りのカードが引けないのかな……」

「久白、よく見ておけ。あれは失策じゃない。
 上級者同士のデュエルは、こういうものなんだ」

「上級者同士のデュエル……?」

「あのアルティメットドラゴンに対抗する手段は、あまりに少ない。
 下級モンスターを引いても、時間稼ぎがせいぜいだ。
 だから、手札と場の無駄を省く手段が必要になる。
 状況に応じて、手札を素早く入れ替えて即座に対抗する。
 だから、上級者同士の戦いは、隙のない切り札のぶつかり合いになる――」


 クロノスの手に4枚のカードが加わる。
 目の前の相手を打ち破ることに特化された手札。
 今導かれた軌跡。
 手札の2体の最上級モンスター、そして力を束ねるカード、
 そして傷つきながらも戦場に立つ、己の誇りのモンスター。
 ――今、これら全てのカードを、一つに収束する。
 1枚のカードを頭上に掲げ、クロノスは宣言する。

「――私も絶対に負けられないノーネ!
 手札からマジックカード、《融合》を発動!!
 場の《古代の機械巨人》、手札の《古代の機械巨人》2体を融合させるノーネ!」

 融合の磁場が、同じように発生する。
 3体の巨人が飲み込まれ、渦に強大な力が巡る。
 磁場にエネルギーが漲り、人智を超えた改造を施す。
 やがて融合の渦は、熱暴走で赤く染まり――。

「またこのカードを使うことになるとは、思わなかったノーネ!
 これが私の究極、《古代の機械究極巨人(アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレム)》なノーネ!!」

 ――並び立つのもまた、伝説を越えた究極の巨人。

古代の機械究極巨人(アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレム) []
★★★★★★★★★★
【機械族・融合/効果】
「古代の機械巨人」+「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター×2
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで
魔法・罠カードを発動する事ができない。
このカードが破壊された場合、自分の墓地に存在する「古代の機械巨人」1体を
召喚条件を無視して特殊召喚する事ができる。
ATK/4400 DEF/3400

 失われし古代文明(ロスト・テクノロジー)の最終兵器。
 究極竜に並び立つ、破壊技術の結集。
 馬のごとき四本足で、フィールドを踏み締める。
 その機動力を生かすべく、全身のモーターがフル稼働する。
 膨大な電磁力を纏い、その機体は青い輝きを帯びる。

「攻撃するノーネ!! 『全て凌駕する鉄拳制裁(アルティメット・シャイヴァー)』!!!」

「迎撃します!! 『全て凌駕する疾風怒涛(アルティメット・バースト)』!!!」

 電磁力が体中を駆け巡り、巨体が進撃する。
 四本足で高く跳躍するとともに、拳を構え上半身を捻る。
 繰り出される右ストレートは、超速・超重量・超エネルギーの一撃。
 究極竜は中空の究極巨人に向け、極大なる破壊奔流を放つ。
 破壊力と破壊技術はぶつかり合い、激しい光で戦場は覆われるが――

「ここは暗黒の中世のフィールドなノーネ!
 《古代の機械城》の効果で、アンティーク・ギアは力を得るノーネ!!」

《古代の機械城》
【魔法カード・永続】
フィールド上に表側表示で存在する「アンティーク・ギア」と名のついた
モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
モンスターが通常召喚される度に、このカードにカウンターを1つ置く。
「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターを生け贄召喚する場合、
必要な生け贄の数以上のカウンターが乗っていれば、
このカードを生け贄の代わりにする事ができる。

《古代の機械究極巨人》ATK4400→4700

 ――機械城の支援射撃は、究極竜の攻撃をわずかに弱める。
 そのわずかでも絶対なる攻撃力の差。
 撃滅の鉄拳が、またも蹂躙の疾風を貫き、竜の顎に到達する。
 首が曲がり体ごと吹き飛ばされ、究極竜は消滅する。

シルキルのLP:3700→3500

シルキル
LP3500
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
なし
手札
1枚
クロノス
LP2800
フィールド魔法
《歯車街》
モンスターゾーン
《古代の機械究極巨人》
魔法・罠ゾーン
《古代の機械城》
手札
1枚

 固唾を飲んで見惚れていた観衆。
 超巨大モンスターの、爆音と発光のエフェクトが収まる。
 一気に大歓声が巻き起こる。
 機械の街に君臨する、究極巨人の雄姿。
 会場全体がクロノスコールに覆われる。


 究極竜が打ち倒された。
 シルキルは信じられないといった面持ちで、うなだれていた。
 自信に満ちていた態度に震えが走り、仮面の上からでも怯えが見て取れる。
 この海馬デッキのことは、既に調べ上げていた。
 最強のしもべは、紛れも無く《青眼の究極竜》。
 それを超えるモンスターを出されては、手の打ち様がない。
 このデッキの限界は分かっている。
 だが、その限界を超えてこそ、デュエリストとして本当の強さが見せられる。

 ――キミでは無理だ。
 キミの隙だらけの目には何も見えていない。
 途切れ途切れの意思では、何者にもなれぬ――

 誰かの言葉が脳裏にフラッシュバックする。
 そんなことは無い。
 自分はいつも最強を目指し続けてきたではないか。
 ――いつも?
 ――いつから?
 過去を振り返ろうとすると、真っ暗で掴めない。
 息が詰まるような苦しさを覚え、目の前に思考を移す。
 ――今の自分には、今しかない。

 歓声は自分を無視して、高まっていく。
 ――構わない。
 誰に罵られようと、誰にも認められなくても。
 自分の高みに、自分で上り詰めてみせる。
 あの方を追いかけていれば、それができるのだ。
 失った何かを取り戻せるはずなのだ。

 ――キミの成功を、信じている――

 そうだ。我が主の命に報いること。
 強き精霊を探し出すことこそ、我が使命。
 飽くなき強さを求めることこそ、我が本能。
 そのために純化されたこの魂。
 力ならば、自分にある。
 ――今の自分ならば、何者にもなれる!


「私のターン! ドローです!!」

 その魂ならば、既に手札にあった。
 引いたカードを手札に加え、もう一方をディスクに叩きつける。

「モンスターを召喚します。
 《破壊神ヴァサーゴ》、召喚です!」

 紫色の4枚の翼が、現れた闇から生える。
 闇は無数の白い帯を出し、空間と体の境界を定める。
 怪しげな白い仮面が浮き立ち、顔を規定する。
 実体の不確かな、影の悪魔。

 シルキルが残る1枚の手札を天にかざす。
 影の悪魔は、紫の翼で繭のように自身を包む。

「これぞ、私の力! 強きに進化する力!!」

 翼とオネストに、悪寒が突き抜ける。

「この力の発動! あのカードが精霊のカード!!
 でも、クロノス先生の《古代の機械究極巨人》がいるのに!
 一体何をするつもりなの!?」

「いや、超える手段なら、……聞いたことはある。
 世界の危機でのみ姿を現すという、デュエルモンスターズ最強のモンスター。
 伝説のデュエリスト2人が力を合わせて、初めて降臨するモンスター。
 公式には確認されたことがないが、まことしやかにささやかれる夢の融合素材。
 誰も試せる者はいなかったが、今のあのデッキなら――」

 影の悪魔は、闇と光を帯びた黄金の戦士へと姿を変えていた。
 ――その姿は伝説の混沌騎士、《カオス・ソルジャー》そのもの。

《破壊神ヴァサーゴ》 []
★★★
【悪魔族・効果】
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
ATK/1100 DEF/ 900

「手札より、《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を発動!!
 場の《破壊神ヴァサーゴ》を《カオス・ソルジャー》として扱い、
 そして墓地に存在する《青眼の究極竜》を除外融合させます!!!」

龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)
【魔法カード】
自分のフィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 融合のエフェクトが渦を巻き、2体のモンスターが取り込まれる。
 膨大な力を得た渦は光を放ち、黒と白の空間へと変質する。
 ――それを宇宙と呼ぶべきか、混沌と呼ぶべきか。
 その虚空の中心から飛来する、眩いばかりの存在。
 究極竜を駆る、伝説の混沌騎士。
 圧倒的な威厳。
 圧倒的な存在感。
 会場は動揺を通り越して、唖然の沈黙に包まれる。
 驚くべきステータス値が、その強さを物語る。

究極竜騎士(マスター・オブ・ドラゴンナイト) []
★★★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
「カオス・ソルジャー」+「青眼の究極竜」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードを除く自分のフィールド上のドラゴン族モンスター1体につき、
このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
ATK/5000 DEF/5000

「マンマミーヤ!! 攻撃力5000!!
 有り得ないノーネ……!」

 騎士は剣を両手で構え、切っ先に魔力を漲らせる。
 竜は息を吸い込み、体内で魔力の爆風を精製する。
 その凝縮された2つの力が、同時に解き放たれる。

「《究極竜騎士(マスター・オブ・ドラゴンナイト)》! 攻撃です!!
 『銀河に轟く滅びの烈波(ギャラクシー・クラッシャー)』!!!」

 すべてを薙ぎ払う白銀の軌跡。
 シルキルの力を求め続ける道筋。
 その力強き証が、今ここに放たれた。





第3話 何もない場所からでも




 クロノス・デ・メディチ。
 中世ヨーロッパで多大な影響力を振るったメディチ家の末裔。
 貴族の血を受け継ぐ者。
 歴史が語るように、メディチ家は繁栄のための実学と権謀術数に長けていた。
 だが、その実、パトロンとして芸術家を積極的に支援した名家としても知られる。
 歴史の表舞台から退いても、本家が断絶しても、
 美しいものを尊重する心は変わらない。
 クロノスが現代で尊ぶものは、デュエルである。
 デュエルは美しい。
 お互いの愛着と夢をカードに託し、自分が信じる世界観を表現する。
 その最も洗練された形をデッキとして束ね、カードの技を通じて伝え合う。
 自分自身の闘う姿勢を通じて、その美学を伝えるアカデミア教師。
 クロノスはその職務を誇りに思う。

 その信念が打ち立てた、究極の巨人。
 それが今、目の前で打ち砕かれた。

クロノスのLP:2800→2500

「……ッ!!
 《古代の機械究極巨人》が倒されたとき、墓地から《古代の機械巨人》を
 その召喚制限を無視して、特殊召喚できるノーネ!!」

 だが、怯むわけにはいかない。
 今まで鍛えてきた技は、巨大モンスターをただ召喚するだけのものではない。

「攻撃表示で特殊召喚するノーネ!!」

 あのモンスターを前にしても、攻撃表示。
 生徒たちの間に、どよめきが走る。
 クロノスと機械巨人の勝利を狙う眼差し。
 シルキルは警戒を解かず、硬い表情で見守る。

 攻撃表示で向かうのは、まだ策があるから。
 巨大モンスターのサポートもまた、クロノスの鍛えてきた技。
 目の前には圧倒的な脅威が立ちはだかっている。
 ――これから見出すべき技を試すには、この上ないチャンスである。

「私のターンなノーネ!! ドローニョ!」

 引いたカードを目に、クロノスは心の中だけで考えを巡らす。
 いつも頼りにする切り札ではない。
 だが、勝機に繋げられるカードだ。
 しかし、1ターンだけ遅かった。
 そして、あと一手足りない。
 今取るべき手は――。

「《古代の機械巨人》を守備表示にするノーネ……。
 さらにリバースを2枚セットして、ターンエンドするーノ」

 どよめきが、クロノスの一手一手で、高揚にも落胆にも変わっていく。
 クロノスは厳しい表情のまま、場を見据えていた。
 今は相手を見極めるとき。
 《古代の機械究極巨人》を倒した相手なのだ。
 その力量と、力の在り処を見極めねば、勝てない。


「あのカードを引けなかったか……」

 藤原が焦れたように呟いた。

「あのカードって?」

 カード知識のそれほど広くない翼が聞き返す。

「クロノス先生には、この状況を打ち破る切り札がある。
 《リミッター解除》。機械族の攻撃力を2倍にする速攻魔法。
 今の丸腰の《究極竜騎士》相手なら、それで打ち破れたんだ」

《リミッター解除》
【魔法カード・速攻】
このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する
全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

「ああ、あのカードか!
 そっか、守備表示にしたってことは……」

「今は手が揃うまで、待つしかない。
 そういうことだろう。
 だが、攻撃力5000を前にいつまでしのげるか……。
 ここからが本当の戦いになるぞ」


 クロノスらの冷静な観察をよそに、シルキルは手応えを噛み締めていた。
 この決闘で、初めてクロノスが守勢にまわったのである。
 どんなモンスターを召喚しても、間髪入れずに対抗してきた相手が、ようやく。

「私のターンです! ドロー!!
 《貪欲な壺》を発動です!!
 ブルーアイズ3体、ロード・オブ・ドラゴン、カイバーマンをデッキに戻して、
 そして、カードを2枚ドロー!」

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 この力ならば、打ち立てられる。
 不確かなこの記憶の中でも。
 まとまらない意思の奔流の中でも。
 何もない場所からでも。
 何かを打ち立てられる強さを、ここに感じる。

「バトル!! もう一度攻撃です!
 『銀河に轟く滅びの烈波(ギャラクシー・クラッシャー)』!!」

 自らの宣言に即応し、攻撃を繰り出す騎士と究極竜の勇姿。
 高鳴りに体が打ち震える。
 機械が木っ端微塵に砕ける音が、とても心地よい。
 巨人になって人の骨を、まるで枯葉のように踏みしだく感触。
 この身に鳴り響く征服感。自分はやっと強き存在になれた。

「フフフフフ!!
 さらに装備魔法《強者の威光》を《究極竜騎士》に装着!
 カードを1枚伏せて、ターンエンド!
 そして、《強者の威光》の効果発動ッ!!」

 突然、《究極竜騎士》がまばゆい光を放つ。
 光は三日月の形になり放たれ、クロノスを襲う。

クロノスのLP:2500→1300

「オー、ディーオ!! この効果は……!」

「《強者の威光》は装備したモンスターのレベル×100のダメージを相手に与えます!
 《究極竜騎士》のレベルは最高値の12!!
 毎ターン、私のエンドフェイズに1200のダメージが発生します!」

《強者の威光》
【魔法カード・装備】
自分のターンのエンドフェイズ時、
相手ライフに装備モンスターのレベル×100ポイントのダメージを与える。

「グッ! 私のターンなノーネ! ドロー!」

 守勢に回ることにも、時間制限が課せられた。
 打破する一手を引き寄せられるか。
 もはや1枚のカードも無駄にはできない。

「モンスターをセットして、ターンエンドなノーネ!!」

シルキル
LP3500
モンスターゾーン
《究極竜騎士》
魔法・罠ゾーン
《強者の威光》(《究極竜騎士》に装備)、伏せカード×1
手札
0枚
クロノス
LP1300
フィールド魔法
《歯車街》
モンスターゾーン
伏せモンスター×1
魔法・罠ゾーン
《古代の機械城》、伏せカード×2
手札
0枚

「私のターン! ドローです!」

 クロノスにとって、1枚のカードが致命傷になりかねない場の状況。
 そして、シルキルにとって、一手一手が相手を追い詰める心躍る感触。

「魔法カード発動! 《アームズ・ホール》!
 デッキの上から1枚を墓地に送り、発動!
 デッキまたは墓地から、装備魔法を手札に加えます。
 選び取るのは――」

《アームズ・ホール》
【魔法カード】
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキ・墓地から装備魔法カード1枚を手札に加える。
このカードを発動するターン、自分は通常召喚する事はできない。

 この手で握り締める。
 何者をも貫く確かな力を。
 偉大なこの力を直に(とどろ)かせる。

「貫通効果を得る《メテオ・ストライク》!」

《メテオ・ストライク》
【魔法カード・装備】
装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「むぅ。確かに高い攻撃力モンスターには最高のカードなノーネ」

 クロノスの表情が、今度は明らかに強張った。
 《強者の威光》のように時間の猶予もない。
 この攻撃を通せば、即座に負ける。
 率直なだけに、効果的なカードである。

 さらに墓地が輝き、効果の発動を知らせる。
 シルキルのフィールドに、綿毛のモンスターが2体浮かび上がる。

「《アームズ・ホール》のコストで墓地に送られたのは、《ダンディライオン》。
 墓地に送られたときに、綿毛トークン2体を自分の場に特殊召喚します」

《ダンディライオン》 []
★★★
【植物族・効果】
このカードが墓地へ送られた時、自分フィールド上に「綿毛トークン」
(植物族・風・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは特殊召喚されたターン、
生け贄召喚のためには生け贄に捧げる事はできない。
ATK/300 DEF/300

 攻撃力を持たないトークンが何になるのか。
 だが、勢いに乗ったシルキルは、そのすべてを自分の力として取り込む。

「さらにリバース永続罠発動! 《DNA改造手術》!
 場のすべてのモンスターをドラゴン族とします!!
 ドラゴン族が増えたことで、《究極竜騎士》の攻撃力も上昇!」

《DNA改造手術》
【罠カード・永続】
種族を1つ宣言して発動する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターは宣言した種族になる。

究極竜騎士(マスター・オブ・ドラゴンナイト) []
★★★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
「カオス・ソルジャー」+「青眼の究極竜」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードを除く自分のフィールド上のドラゴン族モンスター1体につき、
このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
ATK/5000 DEF/5000

《究極竜騎士》ATK5000→6000

「まさか! そのカードまで備えていたのか!」

 藤原は驚き立ち上がった。

「これで機械族の力を解放する《リミッター解除》は封じられた。
 クロノス先生が逆転する手段が……。
 いや、このままではこのターンをしのぐことさえ……!」

 《究極竜騎士》の力を極限まで生かす布陣。
 混沌の騎士は剣をかざし、流星とドラゴンの力を集約する。
 膨大な破壊のオーラが、空間が歪むほどに蓄えられる。
 そして――。

「装備魔法《メテオ・ストライク》を装備します!
 三度目の攻撃、これで終わりです!!
 《究極竜騎士》の貫通攻撃!!
 『銀河にあまねき轟く滅びの竜星群(ギャラクシー・ドラゴニック・メテオスウォーム)』!!」

 赤に緑に金に黒に銀。
 極彩色に互いが主張しあう破壊的な光線。
 何もかもの力が入り混じったシルキルの混沌たる攻撃。
 うねる破壊力が、クロノスを真正面から飲み込もうとする。

「――リバースカード、オープンなノーネ」

 クロノスは真っ向からカードを開いた。
 場に竜巻が起こり、光線から色を一つだけ取り去った。
 破壊光線はモンスターを跡形も無く飲み込む。
 だが、それだけで止んだ。

クロノスのLP:1300→1300

 失われた色は赤。流星の色。
 クロノスが今生き残るには、これだけを排除すればいい。
 発動したのは、最も基本的な除去トラップ。

「《砂塵の大竜巻》で《メテオ・ストライク》を破壊。
 これで私に貫通ダメージは通らないノーネ」

《砂塵の大竜巻》
【罠カード】
相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
その後、自分の手札から魔法または罠カード1枚をセットする事ができる。

 完全に決まったと思った攻撃。
 シルキルは動揺を隠さない。

「2ターン前から伏せていたリバースですと!
 《強者の苦痛》のときも、《DNA改造手術》のときも!
 いや、《歯車街》を破壊することだって、できたはずです!
 それをここまで温存していただと!!」

「勝負を決めるフェイタルな一手まで、対抗策を温存する。
 これを分からない生徒は本当に多いノーネ。
 その見極めが勝負を決定的に分けるーノ。
 逆転がデュエルモンスターズの華と呼ばれる所以なノーネ」

 シルキルの猛攻を受け流し、クロノスはディスクに目を移す。
 ディスプレイの表示は、『ドロー1』。
 破壊されたリバースモンスターの効果処理。

「セットしていたのは、《魔装機関車 デコイチ》。
 このカードがリバースしたとき、カードを1枚ドローするーノ!」

《魔装機関車 デコイチ》 []
★★★★
【機械族・効果】
リバース:カードを1枚ドローする。
自分フィールド上に「魔貨物車両 ボコイチ」が表側表示で存在する場合、
さらにその枚数分カードをドローする。
ATK/1400 DEF/1000

 引いたカードに目を移し、クロノスは再び静かに相手に目をやる。
 シルキルは言い知れぬ威圧感に、身をすくませながらも――。

「ターンエンド!
 ですが、このとき《強者の威光》の効果が発動!
 1200ポイントのダメージです!!」

クロノスのLP:1300→100

 もはや残りわずかとなったライフ。
 だが、勝負は決まっていない。
 クロノスが切り開いたチャンスが残っている。
 デッキにドローの手を伸ばす前に、クロノスは顔を上げた。
 目の前のシルキルに向き合う。

「自分のデッキは把握してるノーネ。
 何を引けば勝てるかも分かるーノ。
 状況を引き伸ばしできるカードは1枚だけ。
 あとは勝つか負けるかしかないノーネ」

 クロノスは闘いを振り返るように、少しだけ目を閉じた。

「もう勝ち方も負け方も、イメージできてるノーネ。
 もちろんその可能性も計算ができるノーネ。
 だから、勝っても負けても、悔いはないーノ。
 私のデッキの大型モンスターの展開も鈍っていない。
 新しく加えてみたドロー強化の手ごたえも得た。
 もう一つの新しい戦術も、実現の可能性は十分なノーネ。
 そして、あとはお互いに先にキーカードを引けるかどうか。
 それをあなたが先に引いていたなら、私は素直に負けを認めるノーネ。
 でも、一つだけ心残りがあるノーネ」

 クロノスは冷静に戦況を振り返る。
 もはや勝ちも負けも関係ないと言う。
 極限まで追い詰められた状況下でのこの語り口。
 得体が知れない。底が見えない。
 シルキルに、焦りと恐怖が湧き上がる。

「な、何が不満だと言うのです!
 私のこのデッキに不足があったとでも!?
 たまたま私の引きが良かったから、勝ったとでも!?」

「そんな批評なんて、とんでもないノーネ。
 あなたのデッキも、タクティクスも、ドローも素晴らしイーノ。
 だからこそ、残念なことがあるノーネ」

 クロノスはモンスターとシルキルを見比べ、続けた。

「あなたがどんな人か分からないことなノーネ。
 デュエルにはその人の好きなもの、目指したいもの、その気持ちの強さが現れルーノ。
 でも、今のあなたは、デッキも顔もあなたそのものではないーノ。
 本来のデッキ、そのままの素顔。それが分からないことが、とても残念なノーネ」

「私の本来……?
 私のそのまま……?」

 無意識にシルキルは後ずさりをしていた。
 クロノスの言葉が心を駆け巡り、胸騒ぎが止まない。
 ――どうして私は、私から変わろうとする?
 ――私がそのままでいるのは、どうしていけないことなのか?
 ――私が……、私が求めているものは何だ?
 ――何が私をそこまで駆り立てるのか?

「強く――」

 シルキルはうめくように呟いた。

「強くなければならない。
 私のそのままではいけない」

「どうしてなノーネ」

「それは……」

 理由を探り出そうとしたところで、――いつも通り思考が行き詰る。
 また、この感覚だ。
 過去に理由や動機を求めようとすると、決まってそうなのだ。
 思考の動きが止まり、急速に『必要でない』と思えてくる。
 代わりに、頭は別方向に動き出そうとする。
 自己保存の本能、現状把握の本能、問題解決の本能。
 本能に動機の下支えも、何もいらなかった。
 ――今を上手く切り抜けられれば、それでいい。
 流れ出る本能の意識に心を任せれば、それで良かった。
 楽だ。きっと自分には、そんな心の動きが馴染むのだ。
 所詮、自分は――。いや、もうどちらでもいいことだ。

「強さを求めることに、理由も何も要りません。
 生き残るために必要。強いほうが都合がいい。
 当たり前のことです。
 現実がそう望むのです。
 それに適応して、何が悪いのです!」

 シルキルの苦しげな様子。
 その後の何かを振り切ったような主張。
 クロノスは目線を下げ、対話を諦めた。

「あなたが自分から心を逸らすなら、そこまでなノーネ。
 現実に飲まれて、何も考えなくなるなら、それもいいノーネ。
 でも、それなら、私はあなたに負けるわけにはいかなくなったノーネ」

 クロノスはデッキにドローの手をかけた。

「教師は生徒を希望に導かなくてはいけないノーネ!
 現実なんて限界にぶち当たれば、誰でも嫌でも知るノーネ!
 なら、夢や目標を目指し続ける心を養うのが、教師の務めナノーネ!
 私が希望のデュエルを、ここで見せてやるノーネ!」

シルキル
LP3500
モンスターゾーン
《究極竜騎士》、綿毛トークン×2
魔法・罠ゾーン
《強者の威光》&《メテオ・ストライク》(《究極竜騎士》に装備)、
《DNA改造手術》(ドラゴン族を宣言)
手札
0枚
クロノス
LP100
フィールド魔法
《歯車街》
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
《古代の機械城》、伏せカード×1
手札
1枚

「私のターン、ドローニョ!!」

 クロノスは引いたカードに目を通し、すぐさまディスクに差し込んだ。

「私の勝ちなノーネ!」

 宣言に生徒のどよめきが歓声に変わる。
 シルキルの表情が、恐れに引きつる。

「《サイクロン》を発動するノーネ!!
 《サイクロン》はフィールドの魔法・罠1枚を破壊するカード。
 私はフィールド魔法《歯車街(ギア・タウン)》を破壊するノーネ!!」

《サイクロン》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

 風が巻き起こり、クロノスの造り上げた機械の街が吹き飛ばされる。

「自分のフィールド魔法を、自分で破壊した?
 どうして、そんなことを……?」

 翼にはその理由が想像できない。
 フィールド魔法は、戦場を自分の有利な環境に変えるもの。
 自分から破壊する理由が思いつかない。

「《歯車街》のもう一つの効果だ」

 藤原がすかさず諭す。

「もう一つの効果……?」

「あのフィールド魔法の特性は召喚サポート。
 フィールド魔法として存在するときは、生け贄の緩和。
 そして、さらに破壊されたときに真価を発揮する。
 これがクロノス先生の得意とするトリックコンボの一つ……」

 クロノスはデッキから1枚のモンスターを選び出し、ディスクに差し込んだ。
 《歯車街》の真なる役目。街はかりそめの姿。
 その役割は兵器を製造し、――そして秘匿すること。

「《歯車街》が破壊されたとき、手札・デッキ・墓地から
 アンティーク・ギアと名の付くモンスター1体を特殊召喚できるノーネ!」

《歯車街》
【魔法カード・フィールド】
「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターを召喚する場合に
必要なリリースを1体少なくする事ができる。
このカードが破壊され墓地に送られた時、自分の手札・デッキ・墓地から
「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 街の映像が消え、巨大な影がクロノスの背に浮かび上がる。

「アンティーク・ギアのもう一つの切り札を見るノーネ!
 《古代の機械巨竜(アンティーク・ギア・ガジェルドラゴン)》をデッキから特殊召喚するノーネ!」

 一見すれば、鉄くずを積み上げ、やっと竜の形に仕上げた単に巨大なだけの鉄の塊。
 だが、その実は、種々の歯車機構により駆動する精巧なる要塞兵器。
 そして、街は失われても、機械城の支援砲撃は健在である。

古代の機械巨竜(アンティーク・ギア・ガジェルドラゴン) []
★★★★★★★★
【機械族・効果】
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
以下のモンスターをリリースして表側表示で生け贄召喚した
このカードはそれぞれの効果を得る。
(生け贄召喚でないため、以下の効果は不発)
ATK/3000 DEF/2000

《古代の機械巨竜》ATK3000→3300(《古代の機械城》の効果)

「そして、さらに手札から《アームズ・ホール》を発動すルーノ!
 選択するノーワ――」

 デッキの一番上から、コストとして《大嵐》が墓地に送られる。

《アームズ・ホール》
【魔法カード】
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキ・墓地から装備魔法カード1枚を手札に加える。
このカードを発動するターン、自分は通常召喚する事はできない。

 手にするのは、クロノスが新たに選択した力。
 自分を超えていった教え子の面影を込めたカード。
 その強さを、クロノスは固く信じている。

「《ニトロユニット》! 戦闘破壊したら、ダメージを与えるカード!
 《究極竜騎士》に装備するノーネ!」

《ニトロユニット》
【魔法カード・装備】
相手フィールド上モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターを戦闘によって破壊し墓地へ送った時、
装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 思わぬ一手にギャラリーが湧く。

「戦闘破壊したら、効果が発動するカードですと……!?
 この《究極竜騎士》を戦闘破壊する……だと……!!?」

 着実に勝利への布石を展開するクロノスの戦術。
 シルキルの恐れが現実のものとなっていく。

「バトルなノーネ!!
 《古代の機械巨竜》で《究極竜騎士》に攻撃なノーネ!」

 鉄と鉄が交差し、軋む音が鳴り響く。
 エネルギーが竜口に集まっていく。

「なんですと!?
 《DNA改造手術》の効果で、《古代の機械巨竜》はドラゴン族!
 《リミッター解除》は使えないはず!
 超えることは不可能です!!
 迎撃です!! 『銀河にあまねき轟く滅びの竜星群(ギャラクシー・ドラゴニック・メテオスウォーム)』!!」

 混沌の騎士が、究極竜を駆る。
 その絶対のコンビネーションから繰り出される破壊の奔流。
 色鮮やかにさんざめく波動が、機械竜を飲み込むべく放たれ――。

「ここでリバース発動なノーネ!!」

 ――その巨大な奔流は跳ね返され、中空に散りばめられた。
 《古代の機械巨竜》の周囲に、光の粒が集まっている。

「何!!?」

 《古代の機械巨竜》はメタリックボディにコーティングされている。
 銀色に光り輝く魔法反射装甲。
 エネルギーの充填は完了である。
 敵の砲撃までも吸収して、十分すぎるほどに。

「《メタル化・魔法反射装甲》を発動したノーネ!
 自分から攻撃したときに、相手の攻撃力を上乗せするカードなノーネ!」

《メタル化・魔法反射装甲》
【罠カード】
発動後このカードは攻撃力・守備力300ポイントアップの装備カードとなり、
モンスター1体に装備する。
装備モンスターが攻撃を行う場合、そのダメージ計算時のみ
装備モンスターの攻撃力は攻撃対象モンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。

《古代の機械巨竜》ATK3300→6300

「これが私の高攻撃力モンスターへの対抗策!
 相手が高い攻撃力で攻めてくるなら、利用するまでなノーネ!」

 《メタル化・魔法反射装甲》、《ニトロユニット》。
 どちらも相手の攻撃力を参照し、高ければ高いほど効果を発揮するカード。
 これがクロノスの、斗賀乃に対抗するための策。
 クロノスのデッキの新しい力。

「お返しなノーネ!! 《古代の機械巨竜》!
 『アルティメット・メガ・インパルス』!!」

 口腔から激しい暴風が吐き出される。
 魔法反射装甲で拡散したエネルギーとともに、《究極竜騎士》を襲う。
 四方八方からの光線が襲い来る。
 予期せぬ反撃に、体勢を崩す竜とその騎士。
 さらに追い討ちをかけるように、《ニトロユニット》が誘爆する。
 大爆発が巻き起こり、何も見えなくなる。
 そして、《究極竜騎士》は跡形もなく消え去った。

シルキルのLP:3500→3200→0

 クロノスの大逆転勝利に歓声が巻き起こる。
 拍手が会場を埋め尽くすように響き渡る。
 これで斗賀乃に脅かされた面子が保たれた。
 この喝采ならば、むしろ面目躍如とさえ言える

 貴重な機会を与えてくれた対戦相手に、感謝と敬意を。
 クロノスはシルキルに歩み寄り、握手の手を差し伸べた。
 シルキルは呆然とその手を見つめ、弱々しく手を伸ばし返した。
 ぎこちなく握手がかわされ、クロノスは心配そうにシルキルを見つめる。
 握手の手が緩められると――。
 シルキルは背面の出口に向かって、駆け出した。

 勝負の興奮に、それでも拍手は止まない。
 クロノスは虚を突かれつつも、翼たちへ叫んだ。
 かき消されないように、大きな声で。

「シルキルを追いかけるノーネ!!」

 翼は真っ先に控え席を飛び越え、反対側の出口へと駆け出した。
 他の『フリークス・バスターズ』のメンバーも後に続く。
 見渡せば、森の方角に一心不乱に駆けていくシルキルが見えた。
 速い。
 精霊と融合した怪人の身体能力は、やはり人間離れしている。
 すぐさま翼も全速力で追いかける。
 翼はもともと運動が得意で、キャンプや探検も好む。
 その脚力と慣れたステップには、空を駆るオネストくらいしかついていけない。

(そんなにあの怪人のことが気になるのですか?)

 オネストが実体化せずに精霊の声で、翼に問いかける。

「うん。前のイルニルさんと闘ってから、ずっと気になってたんだ。
 もう一度会って話をしてみたいって、思ってたんだ」

 翼の様子をうかがうように、オネストは問い続ける。

(何を話そうというのです?)

「俺には精霊の心が伝わってくるんだ。
 イルニルさんも、今デュエルしてたシルキルさんも、悪さをしようとしていない。
 イルニルさんは純粋に新しい動物を見たくてデュエルしてたみたいだし、
 シルキルさんも強さを求めて、デュエルの腕を磨いてるだけみたいだった。
 だから、やっぱり融合させた奴とか、背後にいる奴が悪いんだと思う」

(……なるほど)

「だから、俺はシルキルさんたちを解放したい。
 精霊を利用しようとする奴は許せない。
 でも、利用されて動かされてるシルキルさんたちは助けたいんだ」

(怪人も一筋縄ではいかないと思いますが)

「それでも俺はもう一度向き合ってみたい。
 イルニルさんのときは助け切れなかったけど……。
 今度こそ、話し合って、事情とかもちゃんと聞きたいんだ。
 だから、クロノス先生と話してたときの動揺も気になるんだけど……」

 駆けながら、翼はふと気づく。
 この道のりには覚えがある。
 あのとき……。

「オネスト。この方向って、やっぱり……」

(森の方角。イルニルとデュエルした場所に向かっているようです)

「そうだよね。基地っぽいところはこっちじゃないよね。
 一体何のために……」


 シルキルは無我夢中で駆けていた。
 最高のデッキを手にしていた。
 最高の戦術を研究したはずだ。
 ならば、なぜ負けたのか。
 どこに負ける要素はあったのか。
 デュエルを左右する他の要素は何か。

 駆けながら、問いかけを何度も繰り返す。
 その度に脳の奥に鈍い痛みが炸裂する。
 本能が拒んでいる。
 ――その問いかけは危険だ。
 ――自己保存を阻むものだ。
 
 だが、それでも答えを知りたい。
 いや、知らなくては、自分に意味が無くなる。
 自分が勝てない理由。
 それは――。
 手を伸ばして欠片を掴んでは、突き飛ばされる。
 その繰り返しの果てに、見えた答えは――。

 ――自分の骨子の弱さだ。

 勝つ理由が無い。
 背負う過去なくして、足場を踏み固められようか。
 目指す未来なくして、力強く歩み続けられようか。
 だが、今の自分には過去がない。
 未来も……、この戦いの果てに何が……。

 思い出すな/思い出せ。
 考えるな/考えろ。
 今のままでいい/今のままではいけない。
 ただ愚直に強さを/なら真摯に強さを。
 求めるのだ/求めるのだ。
 
 本能と理性のせめぎ合い。
 心臓が早鐘のように鼓動し、警告する。
 このループを繰り返していては、自身が焼き切れるだけだ。
 このままの自分では、本当に強く在ることはできない。
 自分から抜け出すための何かを。
 この壊れた理性(ルーツ・ルインド)を超えなくては。

 本能のまま駆け出していた足が、その地面を踏みしめたとき。
 地脈から身体へ、力が電流のように突き抜けた。
 この力の残り香は何だ?
 手繰り寄せて、すぐに理解する。
 この力を自分は知っている。
 傍にいた、驚嘆すべき野生(インクレディブル・アニマル)――イルニル――の力ではないか。
 消滅させられたとは聞いていた。
 だが、森に住まう幻獣の力ゆえに。
 こうして地脈と同化して、眠っていたのか。
 しかし、単独では存在できないほどに意思に欠けている。
 それでも、自然の力の巡りをも取り込み、雄大な息吹を感じる。

 ――これならば。
 大地に手を当て、自らの能力を発動する。
 描き出せ。
 この幻獣の力を元として。
 自分が思う、最も強いものを。
 一つとなれ。
 規定された己の限界を超えるために。

(その方法だと、いけない)

 脳裏に女性の精霊の声が響いた。
 監視していたのか、女性は悠然とその場に立っていた。
 見知った者。自分と同じく、あの方を慕う者。
 力を留め、その警鐘に意識を傾ける

(確かに今のイルニルは意思に欠損がある。
 でも、それはあなたも同じこと。
 あなたは自身の能力で、単独で融合を繰り返すこともできる。
 でも、人と精霊が融合すれば、魂が摩耗し合う。
 次の『魂の変質』に、あなたは耐えきれない。
 さらに人間であった意識が摩耗する。
 これ以上意思を重ねたら、今度こそ人間としてのあなたをすべて失う)

「であったら、どうすればいいのです!
 私の意思は既に本能に支配されているようなものです!
 こんな混濁した意識は、もう耐えられないのです!」

(それで自分の記憶を、全部失ってもいいの?)

 見透かすように、ささやきかける声。
 嫌悪感が嘔吐感さえ伴い、胸のうちを駆け巡る。

「私の限界を、そうやって規定しないでくれ!
 私をもう見下さないでくれ。
 私はそんなに劣っているのか。
 私はこんな薄弱な意思との融合にも耐えられないのか。
 そんなはずはない。
 今度こそ、成し遂げてみせる。
 ――私は本当の自分を取り戻す」

(……………)

 シルキルの訴えに、返事はなかった。
 一方的に、警告は跳ね除けられた。
 能力の発動が再開される。
 描き出せ。
 この幻獣の力を元として。
 自分が思う、最も強いものを。
 視界が赤に染まり、熱が身体を書き換えていく。

(違う方法を探すほどの余裕もないのね。
 いつも通りに、楽な方へと落ちて。
 また自分から逃げる……)

 赤と黒に明滅する意識の中で。
 もう何も考えられなくなっていく。

(仕方ないことかもしれない。
 誰でも楽になりたい。
 眠ければ眠りたい。
 嫌なものには、触れずにいたい。
 重すぎて、手放したい過酷もある。
 背負いきれるほど、誰もが強くない。
 だから、――おやすみなさい)

 その言葉は許容か、諦めか、自戒か。
 彼女は今手放される物語を、そのまま見送り去って行った。


 森の入り口は、赤く染まっていた。
 精霊の魂が交じり合い、発生する融合の赤い熱。

「この力は、融合の力!!?
 それにこの場所はイルニルさんの!」

(まだイルニルの力が残っている!
 それを取り込むつもりです!
 力が融合すれば、取り返しがつかなくなる……!)

 脅威を前に、オネストは打開策をひらめく。
 自分たちのチームには、精霊の力を持つ者が加わったはずだ。

(今ならまだ間に合います!
 今のうちに、その力で無力化を!)

「……嫌だ」

(なぜ!)

「俺はシルキルさんたちと話がしたいんだ!
 何も聞かずに、消すなんてことはできない!
 シルキルさんたちは、きっと悪くない! 
 特別な力があるだけで、悪いわけじゃないんだ!」

(……それほどの力の余裕があるのですか?
 合わさって止めようのない力になっても?)

「そんな余裕なんてないけど。
 それでも俺は話をしてみたいんだ」

 オネストはため息をつきながら、翼を見返した。
 まっすぐな眼差し。
 とても説得できそうにはない。
 まして精霊の自分では、力で従わせることもできない。
 もっとも仲間相手に実力行使など論外な話ではあるが。
 しかし、その志は見定めてみるだけの価値はあるだろう。

(自分の安全よりも、志と興味を選ぶのですか……。
 そうですね。私も異端の精霊です。
 彼らがどんな道を選び取るかには、興味があります。
 私にも、彼らが特に悪意があるようには思えない。
 見届けるとしましょう)

「ありがとう、オネスト。
 きっと、うまくやってみせるから」


 そして、融合は進んでいく。
 《破壊神ヴァサーゴ》の黒い体をベースにしたのか。
 だが、身体は獅子の力を取り込んだように発達している。
 骨だけだったヴァサーゴの翼も、白く神秘的な羽根を得た。
 体格は巨大で、人間のおよそ倍はあるだろう。
 赤いたてがみに、融合の熱が収束していく。
 全身に発達した筋肉で、二本足で大地に降り立つ黒き獅子幻獣。
 目を見開き、拳を握り締め、新しい身体の感触を確かめる。

「感覚も、視覚も鮮明……」

 思わず口から漏れた最初の言葉は、『感銘』だった。
 本能と理性のせめぎ合う、混濁した意識の乱れもない。
 極めて清浄な意識。クリアでシャープなマインド。
 私の名は白銀の溶鉱炉(シルバー・キルン)――シルキル――。

 シルキルは自分の意識を発達させつつ、イルニルの力を取り込んだ。
 その意識で、自らの過去を思い出そうと探る。
 しかし、砂さえ掴めないほどに、何も手繰り寄せられない。
 二度目の融合で、完全に人としての記憶は溶けてしまったらしい。
 それが良いことか、悪いことかは分からない。
 記憶は自分を鼓舞することもあろう。
 だが、自分を立ちすくませることもあろう。
 その記憶が自分にとって、どんなものであったか。
 もう思い出せない。考えようが無い。
 だが、酷く寂しいことのように感じる。
 『シルキル』としての記憶はある。
 行動指針も分かる。
 強くなり、精霊を捕らえることだ。
 だが、このまま再開しても良いものなのか。
 求めても手に入らぬものは、切り捨てよ。
 その単純な判断をするために、どうしてこうも戸惑うのだろう。

 ……その前に、目の前の状況を処理せねばなるまい。
 過去がなくても、闘うことはできる。
 それでも何かを打ち立てられる程の力を感じる。
 未来には向かえる。
 目の前に対峙する少年と精霊を見据える。
 後ろからその仲間らしき少年少女も駆けて来ている。
 彼らを振り払わねばなるまい。
 姿を隠すだけならば簡単だ。
 自分にはその能力が備わっている。
 だが、己の中の幻獣の魂がうずいている。
 目の前の少年への親愛の情と、そして……。
 今の自分は、自己認識に乏しい。
 この得体の知れない情念の正体を掴むべきだ。
 自分の新しい力の実態も、まだ掴みきれていない。
 そのために自分がすべきことは……。

「なるほど……。この身体になっても心はうずくというわけですね。
 私の中の幻獣が、あなたとのデュエルを望んでいます。
 そして、私自身もこの力を試してみたい。
 どうかデュエルしていただけませんか?」

 腕を目の前にかざし、ディスクとデッキを顕現させる。
 静かに胸が高鳴る。なぜかとても心地のよい気分だ。

「――いいぜ! デュエルなら受けて立つよ!」

 少年は意気揚々とディスクを掲げ、構えた。
 心の躍るデュエルとなるだろう。
 自分の中の何かをきっと取り戻せる。
 そんな予感が沸き立つような、明朗で威勢のいい声だ。

「 「 デ ュ エ ル !! 」 」

新シルキル VS 翼

 新しい自分を確かめるデュエルが始まる。


「私のターンです! ドロー!!」

 翼が問いかけるまでもなく、デュエルが始まった。
 デュエルならば、お互いにカードを通じて心が伝わる。

「あの姿は!! 久白、大丈夫か!」

 後ろから藤原の戸惑いの声が聞こえる。

「大丈夫だよ! ベルトもない!
 俺たちは、ただデュエルをするだけだよ!
 そうだよね!」

 翼が目の前の幻獣となったシルキルに問いかける。

「その通りです。
 害意はありません。
 私はあなたとデュエルがしたい。
 そして、私自身を確かめたい。
 それだけです」

「な、なんかクロノス先生のデュエルの時と違って、落ち着いてるね。
 いきなり一つ大人になった感じというか……」

「黒い空飛ぶライオン……。
 無茶苦茶強そうだけど、翼なら大丈夫だよね……」

 レイと明菜からも戸惑いの声。
 しかし、翼には確信がある。
 きっと面白くて充実したデュエルができると。

「私は《融合》を発動!
 3体のモンスターを融合させます!」

《融合》
【魔法カード】
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

 シルキルは3枚のカードを手札からかざす。
 場に3体のモンスターが現れる。
 疾走する青雷の天馬、《幻獣サンダーペガス》。
 優雅なる黄金の鳥獣、《幻獣クロスウィング》。
 そして、仮面の黒き悪魔、《破壊神ヴァサーゴ》。
 すぐに姿を変え、黒き獅子《幻獣王ガゼル》となる。
 目の前が融合の赤い光に包まれる。
 それは先ほどまで行われていた魂の洗練の過程。
 黒き獅子の身体。
 幻想的な白き翼。
 燃え盛る紅きたてがみ。
 シルキルの思い描いた、最も強いものの姿。

「私自身、《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》を融合召喚!!!」

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》 []
★★★★★★★★
【獣戦士族・融合/効果】
「幻獣王ガゼル」+「幻獣」と名のついたモンスター×2
???
ATK/2500 DEF/2400

 今のシルキルと瓜二つのヴィジョンが降り立つ。
 両腕を広げ、大きく翼を広げ、高らかに咆哮する。
 何もない場所からでも。
 誇らしげに力強く、新しい世界へと挑みかかるように。





第4話 目指したい強さがあるのなら



 勇ましき幻獣グリーヴァの身体をわずかな光が覆っていく。

「融合のとき墓地に送られた《幻獣クロスウィング》の効果。
 幻獣は、異世界からでも効果を発揮できるカードです。
 幻獣モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせます」

《幻獣クロスウィング》 []
★★★★
【獣戦士族・効果】
このカードが墓地に存在する限り、
フィールド上に存在する「幻獣」と名のついた
モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
ATK/1300 DEF/1300

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK2500→2800

「3体融合……。手札の消耗は激しいが、むやみに融合しただけじゃない。
 墓地の《幻獣サンダーペガス》にも、幻獣の戦闘破壊を防ぐ効果がある。
 そして、あの幻獣。見たことのないカードだが、確実に何かの効果を秘めている」

《幻獣サンダーペガス》 []
★★★★
【獣戦士族・効果】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に存在する「幻獣」と名のついた
モンスター1体が受ける戦闘ダメージを0にする。
この時そのモンスターは戦闘によって破壊されない。
ATK/ 700 DEF/2000

「切り札のモンスターは、もっと相手を消耗させてからが基本だよね。
 ていうことは、何か効果への耐性を持っているのかも……」

 藤原の警戒に、レイが補足する。
 それだけの大胆不敵な一手。
 場の緊張は高まっている。

「さらにカードを1枚伏せて、ターンを終了します」

「俺のターン、ドロー!」

 だが、翼に怖気づくような様子は見られなかった。
 むしろ翼は高揚感を押さえきれないかのようだ。
 イルニルとの闘いのときに救えなかった悔しさ。
 悪意のない精霊を利用しようとする背後の者への怒り。
 精霊と人間が融合させられたという不可解な生命への疑問。
 そして、未知の強敵とデュエルする興奮。
 すべてを果たすべきこの決闘。
 その胸の高鳴りをカードに込めて、全力でぶつける。

「俺は《英鳥ノクトゥア》を召喚するよ!
 その効果で、デッキから輝鳥(シャイニングバード)と名のつくカードをサーチできる!
 俺が手札に加えるのは、《輝鳥-アクア・キグナス》!」

 英知のフクロウの鳴き声で、水色の魂が翼の手に導かれる。

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

「翼、早速やる気だね。
 キグナスならあの布陣を突破できる!
 でも、先輩たちが言うように耐性があるなら……」

「俺は《輝鳥現界》を発動するよ!
 場とデッキからレベルが合計7になるように生け贄を捧げる。
 場のノクトゥアとデッキのレベル4の《霊鳥アイビス》を生け贄に捧げる!
 アイビスを生け贄に捧げたことで、デッキからカードを1枚ドロー!」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

 夕暮れのこの森の入り口に、水色の光が集まっていく。
 波の音が聞こえるように、きらきらと黄昏の光を反射する。

「降臨せよ! 水の《輝鳥-アクア・キグナス》!!」

 翼の宣言に呼応して、光が収束して形を成す。
 水色の羽から、優雅なるハクチョウの姿が形成されていく。
 その羽根に水を纏いながら、切れ長の目で場を見下ろす。

「キグナスの召喚時の効果だ!
 場のカード2枚を選択して、1枚をデッキに、1枚を手札に戻す!
 シルキルさんの場の2枚を指定するよ!
 いっけぇ! 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!」

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

 翼で敵を指差すと、怒涛の水流が滝のようにシルキルに襲い来る。
 融合モンスターは手札に戻らず、デッキに戻る。
 つまり、場の2枚のカードをデッキに戻す強烈な効果。

「《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》の効果発動です!
 『ファントム・ヴァリー』!!」

「そんな! このタイミングで!?」

 水流が獅子を飲み込もうとしたとき、――その姿が消えた。
 翼は何が起こったか分からず。
 そして、水流は止まらない。

「……あのモンスターがどこかに消えた!?
 けど、リバースをなくせば攻撃は通せる!!」

「リバースカード、オープンです!」

 ――当然、通されるはずもなく。
 シルキルが宣言すると、瞬時に鎖が伸びてキグナスを捕縛する。
 黒い魔力の滲み出る邪悪なチェーン。
 放たれた飛沫も霧散し、力を失ってしまう。

「さすが恐ろしい効果を持っていますね。
 ですが、《デモンズ・チェーン》を発動しました。
 これで効果の発動と攻撃は封じられます」

《デモンズ・チェーン》
【罠カード・永続】
フィールド上に表側表示で存在する
効果モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターは攻撃する事ができず、効果は無効化される。
選択したモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

「クッ……。やっぱり、対策カードがあったんだね……。
 俺はカードを1枚伏せて、ターンを終了するよ」

「そして、効果で除外されたグリーヴァはエンドフェイズに場に戻ります」

「!!?」

 虚空から半透明のグリーヴァが舞い降りて、実体化する。
 そして、その瞳とたてがみを赤く光らせる。
 グリーヴァから幻影の赤い獅子が2体分かれ、場を疾走する。
 そして、その向かう先は――お互いの山札。

「同時にグリーヴァの効果発動です。
 『メモリー・イーター』!!
 お互いのデッキを上から5枚墓地に送ります!」

 獅子が喰らいつき、ディスクが反応する。
 自動的にカードが墓地に送られると、獅子は立ち消えた。

「力に反応し、幻へと姿を変えて身を隠す『ファントム・ヴァリー』。
 そして舞い戻り、山札に刻まれた記憶を喰らう『メモリー・イーター』。
 これが私の新しい力です」

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》 []
★★★★★★★★
【獣戦士族・融合/効果】
「幻獣王ガゼル」+「幻獣」と名の付いたモンスター×2
魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、
自分フィールド上のこのカードをゲームから除外できる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
この効果で除外したこのカードは次のエンドフェイズ時にフィールド上に戻り、
お互いはそれぞれデッキの上からカードを5枚墓地に送る。
ATK/2500 DEF/2400

 さらに《幻獣クロスウィング》が墓地に送られたのだろう。
 ヴァラーグリーヴァの纏う光はさらに勢いを増していた。

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK2800→3400

「陽向居……。翼のデッキはあの『輝鳥(シャイニングバード)』を中心にした儀式デッキか?」

 藤原が険しい表情で、明菜に問いかける。

「うん……。
 小型の鳥獣モンスターでドローとかのサポートをして、
 大型の儀式モンスターで一気に決めてくるデッキだけど……」

「一般パックでの販売はしていないカードだが、よく集めたな。
 だが、だとしたら、シルキルのデッキと相性は悪いな……。
 この闘い。長引けば長引くほど、まずい」

「!」

「【輝鳥】。四属性のレベル7鳥獣族儀式モンスターを中心にしたデッキ。
 召喚時に発動する強力な効果で、相手を攻めていく。
 儀式は降臨のときに多くのカードを消耗するが、
 儀式魔法の《輝鳥現界》はデッキからも生け贄を捧げられる。
 そして、下級の聖鳥シリーズはドローとサーチを中心にサポートする。
 儀式の欠点を上手く補えるが、その分デッキの消費は速い。
 デッキの枚数を確認してみろ」

シルキル
LP4000
モンスターゾーン
《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK3400
魔法・罠ゾーン
《デモンズ・チェーン》(キグナスを捕縛)
手札
1枚
デッキ
29枚
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
4枚
デッキ
26枚

「翼の方が少なくなってる……。
 こんな弱点があったなんて……」

「動きを加速させている分、持久戦に持ち込まれるとまずいな。
 この勝負。早く攻め込まないと、デッキ切れで負けに追い込まれる……」


「私のターンです。 ドロー」

 一方のシルキルは冷静に状況を処理しているように見える。
 自分の力を、手を握り直して改めて確かめるように。
 自らの新たな力に手応えを感じているようだ。
 だが、その様子はどこか物寂しげにも見える。

「《マジック・プランター》を発動します。
 永続罠《デモンズ・チェーン》を解除して、2枚ドロー」

《マジック・プランター》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「《幻獣ワイルドホーン》を召喚します!
 幻獣モンスターのため、クロスウィングの効果を受けます!」

 筋肉が発達し、二本足で立つシカの幻獣。
 その屈強な角に、墓地から力が注がれていく。

《幻獣ワイルドホーン》 []
★★★★
【獣戦士族・効果】
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
ATK/1700 DEF/ 0

《幻獣ワイルドホーン》ATK1700→2600

「レベル4モンスターなのに、俺のキグナスの攻撃力を超えた!?」

「バトルです! グリーヴァの攻撃!」

 右手にエネルギーを溜め込み、球形の白い衝撃弾が形成される。
 凝縮されたエネルギー結晶体を握り、腕をひねり全身で振りかぶり投げつける。

「『ショックウェーブ・パルサー』!!」

 凄まじい衝撃の込められた豪速球が、キグナスに迫る。

「リバースカードオープン! 《イタクァの暴風》!!
 攻撃表示のモンスターを守備表示に変えるよ!」

《イタクァの暴風》
【罠カード】
相手フィールド上に表側表示で存在する
全てのモンスターの表示形式を変更する。

 暴風が巻き起こり、その軌道は逸らされた。
 ワイルドホーンもバランスを崩し、守備態勢しか取れない。
 そして、グリーヴァにも暴風が襲い来るが……。
 
「クロスウィングで強化できるのは攻撃力のみ。
 守備表示にされては困ります。
 効果発動! 『ファントム・ヴァリー』!
 幻影となり、退避しましょう」

 いかなる効果も、その黒獅子を捕らえることはできない。
 風は空を切り、シルキルのバトルフェイズが終わる。

「カードを1枚伏せて、ターンを終了します。
 そして、グリーヴァが場に戻り効果発動です。
 『メモリー・イーター』!」

シルキル
LP4000
モンスターゾーン
《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK3400、《幻獣ワイルドホーン》DEF0
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
1枚
デッキ
26枚→21枚
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500
魔法・罠ゾーン
なし
手札
4枚
デッキ
26枚→21枚

 徐々にデッキが削られ、タイムリミットが迫っていく。

「俺のターンだね! ドロー!!」

 しかし、翼に恐れも焦りも見られなかった。
 相手に挑みかかる果敢な姿。

「カードを使うと、場から消えちゃうんだよね!
 ならこのままバトルだ!
 キグナスで守備表示のワイルドホーンに攻撃!
 『シャイニング・スプリットウィング』!」

 水飛沫を伴いながら、高速で滑空し、雄大な羽でなぎ払う。
 守備表示では力を持たないワイルドホーンに襲い掛かる。

「墓地より《幻獣サンダーペガス》の効果発動です!
 ワイルドホーンを戦闘破壊から防ぎます!」

《幻獣サンダーペガス》 []
★★★★
【獣戦士族・効果】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に存在する「幻獣」と名のついた
モンスター1体が受ける戦闘ダメージを0にする。
この時そのモンスターは戦闘によって破壊されない。
ATK/ 700 DEF/2000

 電磁結界が張られ、ワイルドホーンが守られる。
 羽の切っ先が食い止められ、流水と雷電の魔力が青い火花を散らす。
 
「攻撃は通らないと分かっているはずです。
 少しでも消耗させておく気ですか。
 ですが、このデッキで墓地を肥やすのは容易なこと!
 そんな攻撃では牽制にも――」

「――それだけじゃないよ!」

 自分のコンボを確かめるように唱えるシルキル。
 それを遮り、翼は威勢よくカードをかざす。

「速攻魔法発動! 《加速》だ!
 キグナスの攻撃力を300ポイント上げて、貫通効果を加えるよ!
 モンスターの破壊は防げても、戦闘ダメージは通るよね!」

「な!!」

《加速》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力は
エンドフェイズ時まで300ポイントアップする。
そのモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500→2800

 水流は加速して、ワイルドホーンを突き抜ける。
 そして、シルキルを飲み込むように通り抜けた。

シルキルのLP:4000→1200

 ここまでゲームペースを握っていたのは、シルキル。
 しかし、最初にダメージを与えたのは翼。
 翼の気勢は、デュエルの圧倒的な流れさえ乱した。

「確かにすごいけど、破れないコンボじゃない!
 時間は限られても、まだ勝負が決まったわけじゃない!
 俺は全然諦めてないよ!」

 向こう見ずなまでの勇猛さ。
 シルキルに驚きと興奮が突き抜ける。
 デュエルの前に感じた高揚感。
 もう一度胸にこみ上げ、期待せずにはいられない。
 この少年は自分が失った何かを持っている。
 ――強さを求めよ。
 自分の中にずっと鳴り響く願い。
 もう、ここには願いしか残っていない。
 だが、強さを求めることには、何か理由があったはずだ。
 それは義務ではなく、本能でもなく――。
 自分を突き動かすもっと根本的なもの。
 思い出せない。
 思い出せるはずがない。
 焼き切れたものは、もう戻らない。
 記憶の灰は掴めない。
 ――ならば、この目に焼き付けなくては。
 強さを求めるものの眩しさと気高さを。
 何もなくなってしまったこの場所からでも。
 それならばできるはずだ。
 ――この熱をもっと感じるために。
 挑発に乗ろうではないか。
 この新しい力のすべてをぶつけねばなるまい。

「リバースカードオープン! 《強欲な瓶》!
 デッキからカードを1枚引きましょう。
 同時にグリーヴァの『ファントム・ヴァリー』を発動!
 姿を消して、エンドフェイズに舞い戻ります」

《強欲な瓶》
【罠カード】
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 フリータイミングのトラップによるドローと墓地肥やし。
 迎撃態勢が整えられていく。

「いいでしょう!
 墓地の布陣は整っています!
 すぐに攻め返して差し上げましょう!」

「望むところだ!
 俺はモンスターをセット!
 カードを2枚伏せて、ターンを終了するよ!」

 決闘のボルテージは高まっていく。
 一瞬で崩れかねない均衡。
 だが、どちらも意気揚々と決闘に臨んでいる。


「有利な相手を挑発してどうする……。
 まして罠を回避する効果もあるというのに。
 久白は何を考えているんだ……」

 藤原の口から、苦言がこぼれる。

「きっと何も考えてないと思う。
 でも、何となく感じてることは分かるかな」

 明菜は楽しそうに返した。

「やっぱり分かるの!!?」

 レイも瞳をキラキラと輝かせ、注目する。

「翼はね、相手の熱を感じたいんだよ。
 だから、ああやってぶつかり合おうとするの」

「……『熱』って?」

「うーん、情熱とか熱意とか、そういう前に向かう強い感情っていうか……。
 初対面の人ほど、翼はいろんなことを話そうとするの。
 そして、相手も話してくれるように、呼びかけるんだ。
 デュエルでも一緒。その人の『何か熱いもの』を見出そうとするの」

「へー! そうなんだー!!
 さすが明菜ちゃん! 翼くんのことは何でもお見通しだねー!」

 レイがニヤニヤとからかう。
 その指す所にようやく気づき、明菜が慌てふためく。

「だ、だから、あたしと翼はただの幼馴染で……」

 明菜は赤面して、弁解している。
 その一方で藤原は唇に指を当て、「うーん……」と考え込む。

「――どうして、久白はそうやって『熱』を求めているんだ?」

 藤原の深刻な言い回しに、明菜とレイが振り向く。

「いや、他の人の何かを知りたい好奇心は誰にでもあるとは思う。
 ただ、久白にはもっと特別な関心を感じる気がするんだ。
 普通の人よりも、もっとその『熱』を求めなければいけない理由を。
 ときどき久白は遠くを見ているようにも感じる。
 精霊のことを語るときだけじゃなく、会話の合間の孤独のときにも。
 上手く言い表せないが……。僕にはそう思えてしまうんだ」

 藤原の鋭い関心。
 明菜は驚いて、戸惑う。
 その驚きに、見抜いてくれた嬉しさも混じっていた。
 話せば分かってもらえる、そんな期待を感じさせるような。

「あたしは、その理由は大体分かるけど……。
 でも、あたしから話すのは――」

「――俺から話すよ!」

「翼!」

 強く快活な声が、割り込んでくる。

「藤原先輩も、レイちゃんも親身になってくれる。
 この闘いもまだまだ続くと思う。
 だから、俺たちのことを話しておきたいんだ」

「うん……、そうだね。
 あたしも二人になら知ってほしいかな」

 明菜は頷いて、続きを促した。

「俺たちは二人とも、10年前に災害で両親を失った孤児なんだ。
 『4の災厄』、立て続けに起きた、地震、噴火、嵐、津波の大災害。
 俺と明菜が同じ場所から来たっていうのは、
 同じ孤児院――児童擁護施設――出身ってことなんだ」

 翼が語りだし、藤原とレイはじっと聴いていた。
 そして、シルキルも興味深く聴いていた。

「でも、いつまでも悲しみや不運に浸っていたくない。
 だから、俺はきっと人の熱を求めてしまうんだと思う。
 熱い気持ちに触れたら、自分も頑張れる気がするから!」

「あたしもそうなんだ。
 ずっと閉じこもってばかりじゃいけない。
 誰かと優しさを交換して、温かい気持ちになろうとするんだ」

「でも、それはつらいことじゃないんだ。
 その必死さで得てきたものだって、たくさんある。
 大事なのは、向き合って、今どうするかだと思うんだ。
 だから、俺はもっと頑張りたい。
 このデュエルだって、俺は負けない!」

 翼の声が力強く響いた。
 虚勢ではない、堂々とした姿。

「教えてくれてありがとう、久白。
 僕にも暗い過去がある。取り消せない過ちがある。
 だから、誰かの乗り越えた強い姿は、見ていて励まされるんだ。
 久白、陽向居。僕は君たちを応援していきたいと思う」

「藤原先輩、ありがとう」

「私もあなたの前向きな姿勢を、尊く思います」

「「シルキルさん!?」」

 数人の声が重なり、思わぬ賛同者に向けられた

「大切なのは、過去がどうであったかではない。
 いずれにせよ、今を強く生きなくてはならないことである。
 一理ある姿勢ですし、私もそうしていくことでしょう」

 シルキルは胸に手を当て、その心に問いかける。

「ですが、この変質を選んだことにも、恐らく一理あるのでしょう。
 今の私には分かりませんが、その理由も知った上で、
 私はこの力の矛先を決めていきたいと思うのです。
 だからこそ――」

 シルキルはデッキに手を伸ばし、鋭くカードを引き抜いた。

「――この新しい力で、あなたの姿勢の強さを試させていただきます」

 翼に向けられる鋭利なる戦意。
 フィールドの緊張感が高まっていく。

シルキル
LP1200
モンスターゾーン
《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》、《幻獣ワイルドホーン》
魔法・罠ゾーン
なし
手札
3枚
デッキ
15枚
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》、伏せモンスター×1
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
1枚
デッキ
15枚

「私は《貪欲な壺》を発動!
 デッキにモンスター5体を戻して、2枚ドロー!」

「そのカード!!
 デッキの消耗も防げるし、カードも引ける!
 さすが考えられてる……」

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「私は《金華猫》を召喚します。
 その召喚時の効果で墓地のレベル1モンスターを蘇生します。

《金華猫》 []

【獣族・スピリット】
このカードは特殊召喚できない。
召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
このカードが召喚・リバースした時、
自分の墓地に存在するレベル1のモンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた時、
この効果で特殊召喚したモンスターをゲームから除外する。
ATK/ 400 DEF/ 200

 私が墓地から呼び寄せるのは、《モジャ》のカード!」

 全身の毛が逆立った化け猫が奇声を発し、魂を呼び寄せる。
 『もじゃーっ』と声をあげ、黒い毛玉モンスターが現れる。

《モジャ》 []

【獣族・効果】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地に存在するレベル4の獣族モンスター1体を手札に加える事ができる。
ATK/ 100 DEF/ 100

「あのカードはイルニルさんのカード!
 墓地もあれだけ枚数があるなら、まさか!!」

 翼の警戒通りに、墓地が光を発して、効果発動を告げる。

「墓地の《キング・オブ・ビースト》の効果発動です!
 場の《モジャ》を生け贄に捧げることで、蘇生召喚します!」

 《モジャ》がポンとはじけて消える。
 同時に森が振動し、虚空から巨大な黒毛玉が襲来する。
 四本の骨ばった黄色い足、天頂から威圧する王の面持ち。
 あの日イルニルが自慢げに召喚した猛獣が、再び立ちはだかる。

《キング・オブ・ビースト》 []
★★★★★★★
【獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在する「モジャ」1体を生け贄に捧げて発動する。
このカードを手札 または墓地から特殊召喚する。
「キング・オブ・ビースト」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
ATK/2500 DEF/ 800

「さらに《野性解放》をグリーヴァに発動します!
 攻撃力に守備力を加算して、その攻撃力は――」

《野性解放》
【魔法カード】
フィールド上に表側表示で存在する
獣族・獣戦士族モンスター1体の攻撃力は、
そのモンスターの守備力の数値分だけアップする。
エンドフェイズ時そのモンスターを破壊する。

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK3400→5800

「攻撃力5800!
 それにモンスターは4体もいる……。
 前のターンに久白が攻め込んだ分、守りのカードは浅くなる。
 耐え切れるのか、久白は」

 攻撃力でも数でも上回るシルキルの布陣。
 観戦する藤原たちも危機感を隠せない。

「バトルフェイズです!
 グリーヴァの攻撃!」

 その力は極限まで解放され、魔力に満ちている。
 胸の前に両腕を組みかざし、両翼からもエネルギーを注ぎ込む。
 練成される身の丈ほどの巨大な砲弾。
 肥大した豪腕で殴りつけ、放たれる。

「『ワイルド・ショックウェーブ・パルサー』!!」

 キグナスはひとたまりもなく飲まれ、白い魔砲弾は翼に肉薄する。

「そのダメージは受けられない!
 リバースだ! 《ガード・ブロック》!!
 自分へのダメージを防いで、カードを1枚ドロー!」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 すんでのところでバリアーが貼られ、ダメージから逃れる。

「ですが、まだ後続の攻撃が残っています!
 ワイルドホーンで伏せモンスターに攻撃!」

 凄まじい勢いで、角を突き出して疾走。
 守備体勢のまるまると太った鳩を跳ね飛ばし、攻撃は翼に及ぶ。

「くっ! 貫通ダメージは受けるけど、破壊されたコロンバの効果!
 俺はカードを1枚ドローするよ!」

翼のLP:4000→3400

《寧鳥コロンバ》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 0 DEF/2000

 翼はかろうじて防ぎつつ、次に繋げるドローをしていく。

「もうモンスターはいません!
 《キング・オブ・ビースト》のダイレクトアタック!
 『キング・ストンプ』!!」

 飛び跳ねる黒毛玉の巨体。
 防ぐ手段はなく、翼は迫るビジョンに押し潰され、尻餅をつく。

翼のLP:3400→900

「まだ一匹いますよ!
 《金華猫》でも攻撃しておきましょう!」

 倒れた翼に、化け猫が爪を立てて飛び掛る。
 翼は振り払うように、手を前にかざしてリバースを開く。

「永続トラップ、《リミット・リバース》発動だ!
 墓地から攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚する!
 来い! 《英鳥ノクトゥア》!」

《リミット・リバース》
【罠カード・永続】
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 フクロウが羽を広げて威嚇し、怪猫は一目散に退散した。

「そして、ノクトゥアの召喚時の効果だ!
 デッキから輝鳥と名の付くカードをサーチする!
 俺は……」

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

 翼はデッキを取り出し、残るカードを確認する。
 既にデッキの枚数は13枚。
 選ぶカードは限られている。

「地の輝鳥、テラ・ストルティオを手札に加える!」

「では、このタイミングでグリーヴァの効果発動!
 《野性解放》の自壊を回避し、さらにデッキを削っておくとします。
 カードを1枚伏せて、エンドフェイズ!
 《金華猫》が手札に戻り、グリーヴァの効果発動!
 復帰と同時にデッキを削る『メモリー・イーター』!」

 激化するフィールドの裏で、タイムリミットも迫っていた。

シルキル
LP1200
モンスターゾーン
《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》、《幻獣ワイルドホーン》、
《キング・オブ・ビースト》
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
2枚(うち1枚は《金華猫》)
デッキ
17枚→12枚
LP900
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》、《英鳥ノクトゥア》
魔法・罠ゾーン
《リミット・リバース》
手札
3枚
デッキ
12枚→7枚

「数えるくらいしかデッキの枚数がない……。
 この次が最後の久白のターンかもしれないな。
 だが、あの布陣は強力だ。
 この状況でどう立ち向かう……」

「俺のターンだ、ドロー!」

 翼は臆することなく、デッキに手を伸ばす。
 手札を見つめる表情は明るい。
 この逆転への有効打を握っているかのように。

「俺は《貪欲な壺》を発動するよ!
 墓地のモンスター5枚をデッキに戻して、カードを2枚ドロー!」

 シルキルと同じドロー強化。
 お互いに墓地が肥えやすいデッキ戦術。
 使用カードが重なるのもまた必然。

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 この状況に対する最善の一手ではある。
 だが、翼が展開するには、デッキの消耗が避けられない。
 2度グリーヴァの効果を受けるとすれば、翼に次のターンはない。
 デッキが切れてドローができなければ、敗北してしまう。

「俺は儀式魔法《高等儀式術》を発動する!
 デッキからレベル4の《冠を戴く蒼き翼》とレベル3の《音速ダック》を生け贄に捧げ――」

《高等儀式術》
【魔法カード・儀式】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 それでも翼は儀式により、力を集約させる。
 大地からオレンジ色の光が収束し、森がざわつき始める。

「来い! 地の《輝鳥-テラ・ストルティオ》!!」

 翼の呼びかけで光は力として、実体化する。
 オレンジの脚から、勇壮なるダチョウの姿が形成されていく。
 その脚で大地を踏みしめ、地に眠るものを呼び起こす。

「儀式召喚時の効果発動だ!
 『ルーラー・オブ・ジ・アース』!!
 墓地の鳥獣族モンスターを復活させる!
 俺が呼び出すのは――」

 翼は手札に目を走らせ、呼ぶべきカードを直感した。

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

「《聖鳥クレイン》を守備表示で召喚!
 この特殊召喚時の効果で1枚ドロー!」

《聖鳥クレイン》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。
ATK/1600 DEF/ 400

 選び出したのは、ドロー加速。
 今は1つでも多くの対抗策が必要となる。
 10枚以下ならば、デッキはないに等しい。
 なら、その力を今ここで搾り出すことが必要とされる。

「さらに速攻魔法《祝宴》を発動する!
 儀式モンスターがいるとき、カードを2枚ドロー!」

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 手札は5枚にまで補充された。

「ここで決めなければ、デッキ切れで負ける。
 でも、どっちだろう……。
 翼の顔、負けるって悔しそうな顔でもないし、
 勝てるっていう嬉しそうな顔でもない……。
 まだ分からない続きがあるような感じ……」

「さすが、明菜ちゃん!
 表情だけでパートナーの吉凶が分か――」

「でも、翼は結構顔に出るから、誰でも分かりやすいと思う。
 まだもう一波乱あるのかな……」

 レイのいつものノリはさらりと受け流され、レイは「あれれ」と頭をかく。
 それだけ明菜も、この決闘の行く末に夢中のようだ。
 そして、翼は手札から目線を上げ、行動を開始する。

「バトルだ!
 ストルティオで《キング・オブ・ビースト》を攻撃!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!」

 その脚力と精霊の力で、大地を震わせながらの疾走。
 凄まじい勢いをつけた上での跳躍。
 頭上からのキックで、《キング・オブ・ビースト》を圧倒しようとする。
 だが、脚力ならば《キング・オブ・ビースト》の4本足も負けない。
 空中のストルティオ目掛けて、頭突きで迎え撃つ。
 その黒い体毛を硬化させ、跳躍するが――。

「墓地のアンセルの効果だ!
 ストルティオの攻撃力を400ポイント上昇させるよ!」

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

 風の力で後押しされ、ストルティオのキックが毛玉王を貫いた。

シルキルのLP:1200→800

「なら、ここでグリーヴァの『ファントム・ヴァリー』を発動。
 これでデッキ切れは確定となります。
 ここでライフを削りきらなければ……」

「俺はバトルを終了だ!」

「何!?」

 バトルを惜しげなく打ち切る翼。
 まだ策があるのか、誰もが注視する中で。

「へへ……。どうなるか楽しみだな!
 カードを3枚伏せて、ターン終了だよ!」

 翼は次を待ちきれないかのように、エンドを宣言する。
 そして、デッキの枚数はゼロを指し示した。

「私のターンです、ドロー……」

 エンドを宣言すれば、相手はドローできなくて負けるはず。
 手を出せば、かえって3枚のリバースでライフを失う可能性もある。
 だが、相手の秘めた策を放置するわけにもいかない。
 翼の向こう見ずな積極性に対抗するには、こちらも最大限攻め返さなくてはならない。
 それが相手の強さを本当に試すことにもなろう。

「《金華猫》を手札から捨て、《ワン・フォー・ワン》を発動します!
 この効果でデッキから《カオス・ネクロマンサー》を特殊召喚です!
 さらに手札からもう1体の《カオス・ネクロマンサー》を召喚します!
 この攻撃力は墓地にいるモンスターの数×300となります!」

《ワン・フォー・ワン》
【魔法カード】
手札からモンスター1体を墓地へ送って発動する。
手札またはデッキからレベル1モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。

《カオス・ネクロマンサー》 []
★★★★
【悪魔族・効果】
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する モンスターカードの数×300ポイントの数値になる。
ATK/ 0 DEF/ 0

 墓地のモンスターへと、死人使い(ネクロマンサー)の魔力の糸が伸びる。
 その操作精度は決して高いものではない。
 だが、非力な人形も数を重ねたのなら、立派な戦力になる。
 墓地にカードを送り続け、死者の軍隊の準備は万全である。

《カオス・ネクロマンサー》ATK 0→6000

「攻撃力6000……、すげえ……!」

 翼から思わず漏れる感嘆。
 シルキルは誇らしげに、攻撃を開始する。

「バトルです! 《カオス・ネクロマンサー》でストルティオへ攻撃!
 『ネクロ・パペットショー』!!」

 蘇った野生の大軍が、ストルティオに大挙して襲い掛かる。
 その軍隊を前に、翼がリバースに手をかける。

「そうはさせない! リバースは《ゴッドバードアタック》だ!
 ストルティオを生け贄に、《カオス・ネクロマンサー》を破壊するよ!
 さらにもう一体、グリーヴァも破壊だ!」

《ゴッドバードアタック》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を生け贄に捧げて、
フィールド上に存在するカード2枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊する。

 パペットショーを切り裂いて、炎の矢と化したストルティオが飛ぶ。
 そして、その勢いのまま、グリーヴァにも襲い掛かる。

「させません! 『ファントム・ヴァリー』で除外ゾーンに退避!
 グリーヴァを倒すことはでき――」

 その力を誇ろうとして、翼の口元に笑みがあることに気づく。

「この瞬間を狙ってたよ!
 リバースカードオープン!《異次元からの埋葬》!
 除外されたカードを3枚まで墓地に戻す!
 俺は《兵鳥アンセル》と、そして《覇界幻獣グリーヴァ》を墓地に戻す!
 やっとグリーヴァを倒せる!!」

《異次元からの埋葬》
【魔法カード・速攻】
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

「上手いぞ、久白!
 あの万能回避の効果を打ち破るとは!
 相手のモンスターはあと1体。
 守備のクレインで防いで、次のターンにつなげれば!!」

「うまく弱点をついてきましたが――。
 想定済みです! リバースカードオープン!」

 幻獣を墓地に眠らせようとする異次元のうねり。
 それがさらに乱され、虚空が引き裂かれる。

「《闇次元の解放》を発動です!
 除外されているグリーヴァを特殊召喚!
 その策は通用しません!」

《闇次元の解放》
【罠カード・永続】
ゲームから除外されている自分の闇属性モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、
そのモンスターを破壊してゲームから除外する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「くーっ! 惜しかったのに、倒せなかったぁー!」

「さあ、グリーヴァの攻撃です!
 『ショックウェーブ・パルサー』!」

 クレインが魔力の剛速球に打ち倒され、翼の場はがら空きとなる。

「これで終わりです!
 2体目の《カオス・ネクロマンサー》の攻撃!
 『ネクロ・パペットショー』、再演です!!」

 今度は翼が、操られる猛獣の群れに襲われる。
 大地を揺るがすほどの大軍が、翼を飲み込んだ。
 その土煙が晴れるまで、翼の姿は見えない。

「翼が倒されるはずないよ!
 あれだけ墓地にカードがあれば、あのモンスターもいるはず!」

翼のLP:900

 明菜の確信どおりに、ライフカウンターは変動していない。
 薄いバリアーに守られて、翼はまだそこで立ち向かっていた。

「俺は墓地から《恵鳥ピクス》の効果を発動した!
 このカードを墓地から除外することで、自分への戦闘ダメージをゼロにする!」

《恵鳥ピクス》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 100 DEF/ 50

「なるほど……。
 あなたも墓地を生かす戦略が上手いです。
 私の手札はもうありません。
 ターンを終わらせますが、そのデッキはどうしますか?」

「へへ……、手はあるんだよ!
 エンドフェイズに《転生の予言》を発動する!
 俺は2枚のカードを墓地からデッキに戻す!」

《転生の予言》
【罠カード】
墓地に存在するカード2枚を選択して発動する。
選択したカードを持ち主のデッキに戻す。

「そうか、そのカードがあったか!
 確かに久白の【輝鳥】はデッキの生け贄要員も重要だ。
 《転生の予言》を生かせるデッキには違いない」

「選ぶカードはもう決めてある!
 そして、俺の勝つ確率は2分の1だ!」

 意気揚々とデッキに2枚のカードを戻した。
 翼のドローに注目が集まる。

「戻したうち、アタリのカードを引ければ俺の勝ち。
 ハズレのカードを引いたら、俺は負ける。
 どっちかの大勝負! ワクワクするよな!」

 一番上のカードに手をかけ、翼は言い放った。

 シルキルは魅せられていた。
 成功したその先を見届けたいと思った。
 常に限界の攻防が繰り広げられたこの決闘。
 それに相応しい盛大な幕引きが見たい。
 目の前の少年がどこまでも駆け抜ける姿を。
 その秘めたる可能性を。その真っ直ぐな強さを。
 その輝きの熱を感じたいと、望まずにはいられない。

「俺の最後のターンだ、ドロー!」

 カードを引いて、翼がそれを確認する。
 その瞬間、場の誰もが決闘の結末を確信した。
 翼のデュエルは、あまりにも顔に出すぎる。
 だからこそ、その成功が誰の目から見ても分かった。

「俺の勝ちだ!!」

 カードを掲げてまで、勝ち(どき)を宣言する。
 その結末は、繰り出されるカードが物語る。

「俺は《契約の履行》を発動する!
 ライフを800ポイント支払って、儀式モンスターを復活!
 俺はテラ・ストルティオを特殊召喚する!」

翼のLP:900→100

《契約の履行》
【魔法カード・装備】
800ライフポイントを払う。
自分の墓地から儀式モンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

 先ほど《ゴッドバードアタック》で力を燃やし切ったダチョウが現れる。
 相手の場にはグリーヴァと、大軍を操る《カオス・ネクロマンサー》。
 ストルティオだけでは勝てない。

「そして、儀式魔法《輝鳥現界》を発動するよ!
 場からレベル7のストルティオを、デッキからレベル3のコロンバを生け贄に捧げる!」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 かざされた儀式魔法カードは、激しい光を放った。
 ありとあらゆる色彩の光が集まり、加法混色され白く発光する。
 淡い虹色を帯びた、優しく幻想的な光。

「来い! 光輝の《輝鳥-ルシス・ポイニクス》!!」

 もう一つのカードが掲げられ、その生命は定義され現出する。
 全身が光に覆われ、白く輝く尾長鳥。
 帯びる膨大な力が雷光を放ち、赤と金色に輝く。
 翼を広げて、その羽根の1枚1枚を鮮やかに発光させる。
 天の使いとあがめられる鳥獣の頂点、不死鳥。
 その化身が、今ここに姿を現す。

「レベル10の儀式モンスターをこの局面で……!」

 そして、不死鳥はシルキルの場に向かって、急降下する。
 大地に溶け込み、一体化した光の不死鳥。
 その地面は赤く染まり、胎動している。

 ――輝鳥には儀式召喚時の特殊効果がある。
 最上位の輝鳥であるなら、その効果の影響力は更なるものとなる。

「その儀式召喚時の効果だ、『ルーラー・オブ・ザ・ライト』!!」

 地中からマグマと岩石が噴き出し、不死鳥はともに舞い上がる。
 その灼熱の土石流の柱に、螺旋を描きながら飛翔する。
 輝く炎を巻き上げて、全てを死者の灰へと還そうとする。

「その効果で、相手のモンスターをすべて破壊する!」

《輝鳥-ルシス・ポイニクス》 []
★★★★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
このカードは「輝鳥現界」の効果によってのみ降臨でき、
そのときフィールドから生贄に捧げるモンスターは、
「輝鳥」と名のつくモンスターでなければならない。
このカードの属性はルール上「風」「水」「炎」「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。
ATK/3000 DEF/2500

「グリーヴァの効果を……」

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》 []
★★★★★★★★
【獣戦士族・融合/効果】
「幻獣王ガゼル」+「幻獣」と名の付いたモンスター×2
魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、
自分フィールド上のこのカードをゲームから除外できる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
この効果で除外したこのカードは次のエンドフェイズ時にフィールド上に戻り、
お互いはそれぞれデッキの上からカードを5枚墓地に送る。
ATK/2500 DEF/2400

 シルキルは習慣のように唱えかけて、その口をつぐんだ。
 今効果で逃れたとしても、自分の場はがら空きになる。
 どちらにしても、もうあの少年を食い止めることはできない。
 ――ならば、この炎を受けることにしよう。
 新しい自分が、新しい力を誇らしく振舞うために。
 この熱を感じ、この身に焼き付けよう。
 気高き炎に抱かれながら、グリーヴァは姿を消す。

「そして、ダイレクトアタック!
 『シャイニング・メテオラッシュ』!!」

 天に昇ったその高さから、彗星のように突撃。
 光の速さで白が降下し、シルキルを貫いた。

シルキルのLP:800→0

 何度も放たれる光の中で、シルキルは幻を見ていた。
 眩しさに焼かれるまぶたの裏側に、断片的な映像が飛び込んでくる。
 窮屈な家族の風景。
 終わりの無い勉学の競争。
 突如降り注いだ戦火。
 何も無くなった廃墟。
 すがるように、科学者の袖を掴んだ若人。
 実感はないが、情報としては繋がった。
 不自由だった自分は、戦火で自由となった。
 そして、今度は自分から強い力を望んだ。
 あの深遠の科学者の強さに憧れて――。

「シルキルさん、俺たちに教えて欲しいんだ。
 シルキルさんたちは、どうしてそんな身体になったんだ?
 そして、このアカデミアで、何をしようとしてるんだ?」

 翼の問いかけに、シルキルは少し沈黙した。
 胸に手を当て、変身の能力を発動させる。
 黒褐色の肌の人間になり、自分の身体を確かめる。
 色素のコントロールは不自由だが、形状変化は自在のようだ。

「あなたとデュエルして、自分のことが分かった気がします。
 そして、私が見極めるべき強さのことも――」

 目線を上げ、翼たちに向き直った。

「私たちの目的は話せません。
 そして、私はあの場所に戻らなくてはなりません」

「戻るって……。
 ベルトがなければ、自由じゃないのか?!
 悪い奴に命令されて、行動してるんじゃないのか!?」

 問い詰める翼に、シルキルは冷静に返す。

「『悪い奴』……、そうでしょうね、恐らくは。
 ですが、だからこそ、私は確かめたいんです。
 今、あなたの強さを確かめたときのように」

 シルキルは拳を胸に当て、記憶の糸を慎重に辿りなおす。

「私はあの方の強さに憧れて研究に賛同し、この身体になりました。
 ならば、その強さにも認めるべき何かがあるはずなのです。
 私が本当にどうするかを決めるのは、それからです」

 シルキルは前に出て、翼に右手を差し出した。

「あなたとのデュエル、素晴らしいものでした。
 その強さで、あなたの道もまた突き通してほしい」

 翼は握り返して、手を振った。

「ありがとう! 俺も楽しいデュエルだった!
 シルキルさんも、目指したい強さが見つけられるといいな!」

 握手が終わり、シルキルは強靭な脚力で森の奥へ去っていった。
 4人は夜の向こうへと消える影を、そのまま見送った。

「……チャンスだったな。
 握手までして、やろうとすれば何でもできただろう。
 これで良かったのか、久白?」

 返事を分かりながら、藤原は優しい口調で問いかけた。

「いいんだよ、シルキルさんにも確かめたいものがあるんだから。
 でも、やっぱり悪い奴らじゃないんだよ。
 なら、俺たちもその背後を早く確かめなくちゃね」

 まだ始まったばかりの闘い。
 そこで通じ合った気持ちを胸に。
 翼は怪人調査への決意を新たにした。





第5話 休日の憂さ晴らしデュエル



 ――ここは落ち着かない。

 体に馴染まないふかふかのベッド。
 そこに寝そべって、体を大の字に伸ばしながら明菜はそう思う。
 そもそも今までベッドで寝たことがない。
 柔らか過ぎて、腰のすわりが悪い。
 おかげで朝起きたときに違和感がある。
 ずっとここで暮らしていくわけだから、慣れなくてはいけないのだけど。
 体は一朝一夕で簡単には切り替わらない。

 オシリス・レッド寮を見て、ここなら以前暮らしていた所とあまり変わらないと思った。
 しかし、女子はオベリスク・ブルーの女子寮で暮らせと言われる。
 そもそも女子はみんなオベリスク・ブルーだったらしい。
 だが、今年から制度が変わり、女子にも序列が取り入れられた。
 しかし、すぐに各ランクの女子寮を用意することもできない。
 そのため、しばらく女子はみんな各ランク混じってブルー女子寮住まいとなる。

 その制度変更の後の混乱なのだろうか。
 ここの女子寮はやけに空気が悪い。
 そこかしこの廊下で火花が散っている。
 新しくランク分けされたのがやはり原因の一つなのだろう。
 もとからアカデミアはランク意識が強い風土だったらしい。
 ここ最近ではオシリス・レッドでも活躍する生徒が現れた。
 それで、その差別的な風潮にもある程度歯止めはかかった。
 けれど、まだ完全に消えたわけではない。
 それに、差別的風潮がなくてもだ。
 これまで仲良しこよしでやってきたのに、いきなり実力差を見せ付けられる。
 ランク差が目に見える形で、そのまま各個の制服に反映される。
 これでは確かに反発が生まれてしまう。強硬策と言わざるを得ない。
 急激に改革されては、やはり反作用が生まれてしまうようだ。

 もっとも、明菜はそんなことにはあまり興味がない。
 居心地の悪さはどうにかしてほしいが、改革が酷いとも思わない。
 しかし、ランク分けなんて、本当に形だけのものだと思う。
 そうしたところで、ちゃんと強さとか熱意が測れるんだろうか。
 ランク分けは互角の戦いをするための配慮なのかもしれない。
 でも、自分に関して言えば、ごちゃ混ぜだから楽しいと思う。
 強い人も弱い人も、それぞれの楽しみ方がある。個人に任せればいい。
 自分だったら、強い人とでも弱い人とでも対戦すれば楽しい。
 単にデュエルが好きな人と対戦できれば、それでいい。
 とにかく、ランクなんかにこだわるのは意味がないと思う。
 なのに、そのランクに目を奪われて、デュエルそのものを楽しめない。
 そんなのは本末転倒だ。目的がすり替えられている。
 悲しすぎる。もっと大らかに見ればいいのにと思う。

 そして不満はまだある。
 デュエル相手の不足である。
 陽向居明菜はデュエルに飢えている。
 ここでは確かに日夜デュエル・モンスターズのことばかりだ。
 でも、純粋な試合数はルミナスにいた頃より明らかに減っている。
 それに、デュエルがしづらいのだ。
 大会とかなら私情を介さずに、ガツガツできる。
 気心知れた相手なら、なおさら思うままにデュエルできる。
 だけど、日常の他人相手だとちょっとやりづらい。
 明菜のデッキはあまりに大胆かつ豪快である。
 つばぜり合いなんてそっちのけで、オーバーキルになりがちだ。
 相手を圧倒するような一方的な試合展開になりやすい。
 だから、初対面相手にフェイバリットを満足にぶつけられない。
 自分のスタイルを分かっている人間ばかりのルミナスならば、こうではなかった。
 自分が遠慮なく我を通すことを許してくれていた。
 でも、今の環境は気が引ける。
 【エンジェル・パーミッション】なんて使ってみたけど、自分の柄じゃない。
 もっとこう肉弾戦と決定的な罠の発動の、血湧き肉踊る感じがほしい。
 そんなわけで翼でも捕まえに出ようかな、と思う。
 だけど、あの翼のことだから放浪してそうだ。
 簡単には捕まらないかも、と考えながらディスクを装着する。


 ふと、机の上の写真が目に入る。
 明菜と寝顔の少女が写っている。
 明菜が自分で撮った写真。
 一年ごとに更新される二人で写った写真。
 最近、この写真を気にすることが多くなったのはどうしてだろう。
 新しい環境で、自分の足元が少しおぼつかないからだろうか。
 それとも、このままでいることに焦りを感じているのか。
 だけど、自分は前に進んでいるはずだ。
 そのためにここに来たはずなんだ。

 ――でも、いつの間にか日常に懐柔されている。

 もっと一気に前に進めると思ったのに。
 あたしにとって一番大事なことは、誰かの他人事でしかなかった。
 分かってはいたけど、簡単に手がかりに辿り着けそうにない。
 10年前の災厄は、当事者以外の記憶からもう消えているのだろうか?
 あの傷痕をなくすには、あたし達はどうすればいいのだろう。

 停滞しながら続いていく日々。
 憂鬱を振り払うために、自室の扉に手をかける。


 その瞬間、

 「――捕まえましたよっ!!」

 怒声が響いた。


 明菜は何だろうと扉から手を放し、窓から外を見てみる。
 すると、一人の男子が捕まえられていた。
 男子は色白で眼鏡をかけていて細長い。全体的にやるせないという言葉が似合う。
 あたりには写真が散らばり、その男は名残惜しそうに写真を見ている。

「な、何があったの?」

 明菜は問いかける。
 女子寮は男子禁制なので、とっ捕まえるのは別に不自然ではない。
 だが、ここは聞いてしまうのが人の習性というものだ。

「こいつが私の神聖な弧宇月こうづき)さんを盗撮してたんです!!
 許されざる行為です! 万死に値するんです!」

 既に男子には口にテープもまかれており、何もできない。
 対して、捕えた女の子はとてもヒステリックにいきり立っている。
 あまりによく通る声だから、あちこちの部屋の窓から女生徒が見ている。
 自分も目撃した身だ。女子寮から出て、現場に行く。

 しかし、現場にいき仰天した。
 想像もしてなかった光景に、どう反応していいか分からない。
 なんと、そこかしこに散らばる写真は明菜を写したものだった。
 いつ撮られたかなんて全然気付かなかった。
 授業中の風景も多い。どうやって撮ったのだろう。

「ちょっと……、これは何なの?」

 自分の納められた写真を手に取りながら、押さえる女の子に聞く。
 それにしても、改めて見てみると、写すのが上手い。
 たまに撮られる自分の写真よりも格段に出来がいい。
 角度などもやせてすらっと見えるように計算されている。
 さらに光の当て具合などから、肌のツヤも考慮されている。
 なんというか……、手馴れすぎじゃないだろうか。

「今までは良かったんです……」

 その子はとつとつと語りだした。
 興奮してメガネが怪しい光を放ち始めている。

「これまでこの人が目をつけていたのは、明菜さんでした。
 だから、私には害がないなぁと放置していたんです。
 むしろ甘いなぁと思ってたんです。
 明菜さんは確かにヒロイン系のキャラです。
 ほら、真ん中にいて、デフォルメすれば髪は金か茶かピンクのタイプ。
 そうですね、メインヒロインという立ち位置に近いでしょう。
 つまり良く言えば、無難で万人受けしやすいです。
 悪く言えば、無個性で物足りない感じなんです。
 明るくて人道に乗っ取ってて、好感はありますね。
 ただし、人間らしい歪みや味に欠けるんです。
 かといって、神秘的な美しさなどもありません。
 だからぁ、最初は目に留まるんだけど、淘汰されるんです。
 あれですね、人気投票するといつのまにか負けてるタイプです。
 つまり、最初に明菜さんに目をつけたこのヲタクは3流なんですね。
 本当に素晴らしいものを何も分かっていないんです!
 そこで勝つタイプが、私の敬愛する弧宇月唯那さんです。
 あの方の魅力は……。 ああ、ダメ!!
 私の表現の引き出しではとても語り尽くせられない!
 私が稚拙な言葉で評することそれ自体が不敬罪だわ! ああ……」

 ……明菜には、話していることの半分も理解できない。
 どうにも次元の違う話をしているようだ。
 自分のキャラ云々は置いておく。
 (それにしても、あんまりに表面しか見てないと思うけれど)
 ひとまずこの子は被写体が明菜だった時期は許せた。
 しかし、自分がファンである弧宇月も狙われたから許せない。
 どうやらそういうことらしい。
 長々と語りだしているうちに、ギャラリーが集まり始めていた。
 
「これって立派なストーカー被害よ。
 しかも、他の人にも及ぶかもしれない。
 ねえ、明菜ちゃん大丈夫? 怖くない?」

「う、うん。あたしは大丈夫だけど……」

 レイが出てきて、明菜を気遣う。
 しかし、明菜にはどうにもピンとこない。
 心配してくれるのはありがたいと思う。
 だが、自分がその被害者になっている実感がない。

「保健の鮎川先生に相談する?
 あの先生ならきっと強力に弁護してくれる。
 この写真を証拠として突きつければ、退学は間違い無しね!」

「た、退学!?」

 あまりに極端な単語に、明菜は引いてしまう。

「そうよ、退学よ。こんな奴、乙女の敵なんだから!
 明菜ちゃんが言いにくいなら、僕から言ってあげるよ!」

「そうです! 退学にしてしまいましょう!!
 これ以上神聖な弧宇月さんを汚される前に早く!
 同じ空気も吸いたくありません!
 さぁ、このまま突き出しちゃいましょう!」

 そう言って、縛り上げられた男の子を蹴る。
 大分鈍い音がした。大丈夫だろうか。

「ゆ、柚原さんも捕えてくれてありがとう。
 けど、もう少し静かにしてね」

「これが穏やかでいられますか、――△※○□*#$(解読不能)――」

 レイはこの柚原という子が苦手らしい。
 なんとなく性格的に合わなそうなのは、頷ける。

 しかし、明菜はどうすればいいのか迷う。
 確かに付けまわされていたのは、気味が悪い。
 だけど、曲りなりにもそれは好意ではある。
 それに、これで退学というのもあんまりだ。
 そんな大事(おおごと)にはしたくない。

「一応、被害者はあたしみたいだから、あたしに決めさせてくれる?」

 明菜が前に進み出ると、レイも頷く。

「ひとまず、柚原さん。ガムテープはがしてあげて。
 これじゃあ、あんまりだと思うし」

「仕方ないですね……」

 そう言うと、ビリッと勢い良く乱暴にはがした。
 すごく痛がっている。
 しかも、手は縄で巻かれているので使えない。
 だから、涙目になって耐えるしかないのだ。

 とはいったものの、どうすればいいのか。

「ねえ、今回は見逃して、『もうこんなことしないで!』で終わらない?」

 明菜はそう提案する。
 すると、周りの空気が一瞬固まる。
 どうやら、みんな呆れているらしい。
 そして、早乙女と柚原が一斉に……

「ダメに決まってるよ!」      「ダメに決まってます!」

 二人があまりに大きな声で言うから、明菜は耳をふさぎたくなる。

「明菜ちゃんは甘すぎ!       「そんなんだからいつまでも二位なんですよ!
 どうして許せるの?         決めるときはちゃんと決めましょう!
 また繰り返すに決まってるよ!」  善人ぶってても始まりませんよ!」

 またしても、柚原の言うことはわけが分からない。

「でも、あたしは裁きたくない。騒ぎももう大きくしたくない。
 あたしでもう終わりにしようよ。
 もう十分これで恥ずかしい思いをしてるんだし。
 これっきり、こんなことしないよね?」

 女性陣のかしましい論議に慌てふためく男子に聞いてみた。

「うん、ボク……もう何もしないから。
 もうあんなぐるぐる巻きにされる怖い目に合いたくないよ。
 陽向居さん、付け回してごめんなさい。
 でも許してくれるなんて……。
 ああ! やはり、ボクの眼に狂いはなかった!!
 あまたの女子の中でも君が輝いて見えた理由が改めて分かったよ!
 ボクは『兼平かねひら)子規しき)』って言うんだ! やっぱり君はボクの……」

 縄を引きずりながら、にじみ寄る。

「……やっぱり、僕は訴えた方がいいと思うよ」
 レイは呆れている。
 そして、すかさず柚原が縄を締めなおそうをした瞬間、

 ――兼平の頬をカードがかすめた。

 いや、ただのカードではない。
 ステンレス製《逆転の女神》(40枚セット販売)である。
 その殺傷能力の高さから即発売禁止となった、ファン垂涎ものの逸品である。
 そして、その投げた主が姿を現す。

「……醜いわ」

「弧宇月様!!」

 長く透き通るような髪。
 何も語らない瞳。
 淡く白い肌。細長くしなやかな肢体。
 そして、月の如き優雅で無駄のない仕草。
 冷酷な天使の様相を思わせるかのような静けさをまとう。
 ラー・イエローのはずだが、黒のケープで明るい色を押し隠している。
 隙のなく、無駄のなく、誇示のない。
 これぞ柚原が慕って止まない、弧宇月こうづき)唯那ゆいな)、その人である。
 
「ダメですよぉ!
 そんなクールにカードを投げて、鮮烈に登場したりしたらぁ!!
 また、私のライバルが増えちゃいますよぉ」

 柚原は興奮して騒いでいる。
 弧宇月をたしなめようとしているが、口調がゆるゆるで話にならない。

「……? あなたは誰なの?」

 弧宇月は柚原を知らなかったようだ。

「も、申し遅れました!! 私は柚原正美と申します。
 弧宇月さまを心からお慕い申し上げております!!」

「……ええ、ありがとう。よろしく」

 淡々と言葉を交わし、弧宇月は柚原に握手を求める。
 それに秒速で応じる柚原。顔が赤くなっている。
 昇天してしまいそうな夢心地のようだ。

「それで、陽向居さん。あなたは彼を裁かないの?」

「う、うん。あたしはそんなことしたくない」

「でも、私は裁きたいわ。裁けるなんて素晴らしいじゃない。
 私を煩わさなければ、いくらでも騒ぎが拡大しても構わない。
 彼自身の運命を、自分の手で決定的に操作できる。
 素晴らしい機会だと思わない?」

「そんなこと思わない。おとがめなんていらないよ。
 『めでたしめでたし!』で終わらそうよ!」

 明菜が主張すると、弧宇月は軽くため息をつく。
 そして、無表情で語り続ける。
 自分と相手との断絶を最初から分かっていたように。
 もはや相手に何も求めないような穏やかな口調で。

「それがあなたの傾きなのね……。
 けれど、他のみんなは裁きを望んでいる。
 あなたはどうする?」

「うーん……、裁きさえすればいいんでしょ?
 なら……」

 明菜は思いついたかのように、左腕を見つめる。
 デュエルディスクのつけられた腕。
 そうだ、そもそも明菜はデュエルがしたくて外に出たのだ。
 ならもう、デュエルで決めてしまえばいい。
 あたしの意思はあたしの力で貫く。
 左腕を兼平の目の前にかざし、ディスクを変形させる。

「デュエルで決めよう。
 あたしが決める権利があるかもしれないけれど、
 兼平くんの運命でもあるから、あたしと兼平くんを戦わせて。
 あたしが勝ったら、あたしの好きにする。だから、無罪ね。
 兼平くんが勝ったら、みんなが好きにしていいよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。
 それならわざと負けるに決まってるよ!」

「わざと負ける?」

 明菜はその言葉を愚問だと切り捨てる。
 そもそも明菜は日頃の鬱憤がたまっている。
 もう目の前の相手に本気のデッキをぶつけたくてたまらない。

「そんなことしたら、あたし本当に許さないよ。
 みんなが見てるんだから、手加減したらすぐにバレるよ。
 兼平くんはオベリスク・ブルーだし、実力者のはずだよ。
 兼平くん、本気で受けて立ってくれるよね」

 明菜からは目に見えぬ殺気が放たれていた。
 他の女子達もそれに気圧され、強引な展開にも押し黙る。

「う、うん。ボク、デュエルするよ!」

 兼平は逃げられない。もう流されるままやるしかない。
 兼平は本当はさっさと逃げて、魅力を再確認した明菜を再びストーキングしたい。
 しかし、この女子達の重圧の中ではどうやっても逃げられない。
 何より目の前の明菜が勝負を避けることを許してくれそうにない。

「自分の道はデュエルで切り開く……。
 アカデミア伝統通りのやり方じゃない。
 いいわ。あなたのやり方、見せてもらうわ」


「 「 デュエル!! 」 」

明菜 VS 兼平

「あたしの先攻、ドロー!」

 明菜は手札を確認する。
 久々に手にする自分の本気のデッキ。
 馴染みのカード達の絵柄を確認すると、気分が高揚してくる。
 やっぱり、自分の好きなカードで戦うのが一番楽しい。
 そうだ! あたしのパートナーは【ドラゴン族】なんだ!

「手札から、《ライトニング・ワイバーン》を墓地に。
 そして、2枚の《ライトニング・ワイバーン》をデッキから手札に!」

《ライトニング・ワイバーン》 []
★★★★
【ドラゴン族・効果】
手札からこのカードを捨てる事で、
デッキから別の「ライトニング・ワイバーン」を2枚まで手札に加える事ができる。
その後デッキをシャッフルする。
この効果は自分のメインフェイズ中のみ使用する事ができる。
ATK/1500 DEF/1400

「さらに《融合》の魔法カードを発動!
 この2体を融合させるよ!」

《融合》
【魔法カード】
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

 2匹の細身の竜が自慢の羽を広げて、高らかに鳴く。
 そして、その姿が重なり、二つの首を持つ飛竜へと進化する。

「来て! 《クロスライトニング・ワイバーン》!!」

 空を覆わんばかりの大きな翼。
 4つの瞳が、敵をにらみつける。
 電流はその身に絶えず駆け巡り、あたりに暗雲が立ち込める。

《クロスライトニング・ワイバーン》 []
★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
「ライトニング・ワイバーン」+「ライトニング・ワイバーン」
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
自分のデッキまたは墓地に存在する「融合」魔法カード1枚を手札に加える。
ATK/2600 DEF/1900

「カードを2枚伏せて、ターンを終了するよ!」

「気合が入ってますね……。
 最初から最上級モンスターを展開しましたよ」

「そうね。ずいぶんと意気込んでるわ。
 それが空回りしなければいいのだけれど……。
 最初から強いモンスターを展開するのは、確かに有効だわ。
 そのまま押し切れるのならばね。
 でも、初手は相手も一番多くの戦略を秘めている。
 対処される可能性も最も高いのよ」

「ああ! 弧宇月さまの分析は素晴らしいです!
 ……ところで、弧宇月さまはどちらを応援してるんですか?」

「どちらでも構わないわ。
 強いて言えば、面白い騒ぎになればそれでいい」

「ボクのターンだ! ドロー!」

 兼平の胸の動悸は高鳴りっぱなしであった。

「こんな形でも憧れの陽向居さんとデュエルできるなんて。
 ああ、ボクの想いを込めたこのデッキを君に全力でぶつけよう!」

 激しく息巻いて、1枚のカードをデュエルディスクに叩きつけた。

「ボクは《戦士ダイ・グレファー》を攻撃表示で召喚する!」

《戦士ダイ・グレファー》 []
★★★★
【戦士族】
ドラゴン族を操る才能を秘めた戦士。過去は謎に包まれている。
ATK/1700 DEF/1600

 勇壮な戦士が剣を構え、ドラゴンに立ち向かう。

「うう……、なんだかあたしのワイバーンが悪役みたいな構図ね」

「さらに《七曜剣》を装備させる。
 指定する属性は、『光』だ!」

《七曜剣》
【魔法カード・装備】
戦士族・通常モンスターのみ装備可能。
このカードを装備した時に属性を1つ選択する。
その属性のモンスターと戦闘をする場合、
このカードを装備したモンスターの攻撃力は
ダメージ計算時のみ1200ポイントアップする。

 戦士は武器を装備しなおす。
 光を反射して、鮮やかに輝く細身の剣。
 それが黒の妖気を帯びる。
 光を貫く闇の力がにじむ。
 同時にグレファーの凛々しい表情も、心なしか邪悪なものに変化したように見える。

「グレファー!! ボクと陽向居さんを隔てるドラゴンに攻撃だ!」

 グレファーは主人の命を受け、竜にも臆さずに向かっていく。
 自分の背をはるかに超える飛竜。
 グレファーは華麗に跳躍し、上から真一文字に切りつける。
 黒の傷跡を刻まれ、竜はその身を崩した。

《戦士ダイ・グレファー》 ATK1700→2900

明菜のLP:4000→3700

明菜
LP3700
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
2枚
兼平
LP4000
モンスターゾーン《戦士ダイ・グレファー》ATK1700・装備《七曜剣》
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
3枚

 勢い良く伏せた2枚のカード。
 兼平は息を荒くして、次のターンはまだかと待ち焦がれている。

「僕……、なんかあの戦士もデュエリストも怖いよ」

 レイは不意に寒気を感じた。

「ええ、あの男共は女の敵ね」

 女性陣は空気のよどみを感じ始めていた。

 しかし、当の本人である明菜は気にする様子もない。

「あたしのワイバーンが倒されるなんて……。
 ちょっと焦りすぎたかな……。
 あたしのターンだよ。ドロー!」

 その瞬間、兼平は叫んだ。

「キタ━(゚∀゚)━!!(裏声)
 このときをボクは待ちわびていたんだ!!
 場の伏せてある永続罠を2つ発動だ!!
 《真実の眼》、そして《幸福の共有》!」

《真実の眼》
【罠カード・永続】
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は手札を公開し続けなければならない。
相手はスタンバイフェイズ時、手札に魔法カードがある限り
1000ライフポイント回復する。

《幸福の共有》
【罠カード・永続】
相手のライフポイントが回復するたびに、
自分は800ライフポイント回復する。

「この2つのカードにより、君はボクにすべてをさらけ出す!!
 そして、ボクと幸せを分かち合うことになるんだ!!!」

 その台詞を発した瞬間、早乙女と弧宇月は身構えた。
 弧宇月はその右手に3枚の斬首兵器《逆転の女神》を。
 レイは決闘者のマインゴーシュ・デュエルディスクを投げつけるよう身構える。

「なんて下賎げせん)な発想をする男なの!」

「このデュエルは中止!! 明菜ちゃんが危ない!」

 その殺気を感じて、明菜は慌てて止める。

「ちょ、ちょっと待って!?
 ただ永続罠を発動しただけなのに、なんで怒るの?」

「明菜ちゃんは今の台詞を聞いてないの?
 乙女の敵を生かしてはおけないわ!」

「え?え!?
 カードの効果を分かりやすく説明しただけじゃないの?
 兼平くんはなにか変なこと言った?」

 明菜の発言に、柚原は驚愕する。

「フラグ・ブレイカーのスキル!!
 所有していたのは分かっていましたけど、これほどまでとは……ッ!?」

《フラグ・ブレイカー》
【魔法カード・装備】(妄想)
このカードは主人公またはメインヒロインのみ装備できる。
装備した者が恋愛対象に選ばれたとき、
その求愛行動の効果を無効にし、強引に展開を進める。
このカードは読者の期待と作者の思惑により破壊される。

「とにかく、あたしの手札を公開するんだよね。はい。
 あとスタンバイフェイズだから、ライフを回復するよ」

 兼平はここぞとばかりににじり寄り、手札を凝視する。
 そして、自分のライフも上昇するのを心地良さそうに見つめる。

明菜の手札
《ピクシー・ドラゴン》、《守護神の矛》、《冥王竜ヴァンダルギオン》

《真実の眼》&《幸福の共有》
明菜のLP:3700→4700
兼平のLP:4000→4800

《ピクシー・ドラゴン》 []
★★★★
【ドラゴン族・効果】
相手フィールド上にモンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
ATK/1000 DEF/1100

「手札を見られてるから、隠す必要もないね。
 今のところグレファーには対抗できない。
 だから、このままターンエンド」

「あれ? 《ピクシー・ドラゴン》は出さないんですか?」

「出してもあの変態男にやられるだけよ。
 《七曜剣》はモンスターがいなければ、攻撃力は上昇しない。
 ライフは確保されてるし、手札温存というところね」

「なるほど。それにしても、陽向居さんって動じないですね……。
 妙にハキハキしたところがありますし」

「そうね。あの様子なら天と地がひっくり返りでもしない限り、
 男になびくことはなさそうね」

 兼平は弧宇月の言葉に反応する。

「ムフフフフ、弧宇月さん! なら、ボクはやっちゃうぞ。
 ボクのターンだ。永続魔法を2つ発動だ!
 《天変地異》、そして《デーモンの宣告》!!」

《天変地異》
【魔法カード・永続】
このカードがフィールド上に存在する限り、
お互いのプレイヤーはデッキを裏返しにしてデュエルを進行する。

《デーモンの宣告》
【魔法カード・永続】
1ターンに1度だけ、500ライフポイントを払い
カード名を宣言する事ができる。
その場合、自分のデッキの一番上のカードをめくり、
宣言したカードだった場合手札に加える。
違った場合はめくったカードを墓地へ送る。

「本当にそのままのことをするとは……。
 なんて芸のない男なの。
 いえ、でもこの戦術は理にかなっている。
 《真実の眼》で情報を開示させて、《七曜剣》の効果をより発揮できるようにする。
 《天変地異》により、《デーモンの宣告》の効果は確実なものとなる。
 《デーモンの宣告》のコストも、同時に《幸福の共有》により確保する。
 情報アドバンテージをそのまま戦力に変える布陣。
 全ての魔法・罠ゾーンを埋め尽くす鮮やかなコンボ……。
 兼平という男、そこまで考えて……ッ!」

 柚原は弧宇月のつぶやいていることの半分も理解できない。
 しかし、弧宇月は頭の回転が早く、かなりの戦略通であること、
 兼平のデュエルの腕が3流でないことは、なんとか分かった。

明菜のデッキトップ
《サンセット・ドラゴン》
兼平のデッキトップ
《戦士の生還》

《サンセット・ドラゴン》 []
★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
自分のバトルフェイズ開始時に1度だけ、
表側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、
裏側守備表示にする事ができる。
ATK/2400 DEF/1600

「あら。天地をひっくり返しても、天命はくつがえせないようね」

「くっ、これじゃあボクのグレ兄貴がやられてしまう。
 ひとまず、ボクは《デーモンの宣告》で《戦士の生還》を宣言。
 500ライフを払って、手札に加えるよ」

兼平のLP:4800→4300

「グレ兄貴にボクの想いを乗せて、ダイレクトアタックだ!!」

 既にフィールドはものものしい雰囲気となっていた。
 悪魔の石版が突き刺さり、その下にグレファーがたたずんでいる。
 大地は裂けて、その隙間からはなんと空が見える。
 その中で、戦士も黒く染まった剣に心をたぶらかされているようだ。
 欲望のままに、全てを奪い尽くす。
 明菜に向けて、大振りに剣を振るう。

明菜のLP:4700→3000

「クッ! でも、次のターン、あたしは逆転するんだから!」

「だけど、ボクのグレファーはフィールドに帰ってくる。
 君に想いを伝えるために、何度でも!何度でも!!」

明菜
LP3000
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
3枚(《ピクシー・ドラゴン》、《守護神の矛》、《冥王竜ヴァンダルギオン》)
デッキトップ
《サンセット・ドラゴン》
兼平
LP4300
モンスターゾーン《戦士ダイ・グレファー》ATK1700・装備《七曜剣》
魔法・罠ゾーン
《真実の眼》、《幸福の共有》、《天変地異》、《デーモンの宣告》発動中
手札
1枚(《戦士の生還》)
デッキトップ
《増援》

「あたしのターン。ドロー! 《真実の眼》で、ライフを1000回復するよ!
 そして、兼平くんも800ポイント回復だね」

《真実の眼》&《幸福の共有》
明菜のLP:3000→4000
兼平のLP:4300→5100

「うーん……、にしても引けるカードが分かってるって、面白みがないなぁ。
 けど、これでようやくグレファーが倒せるね!
 あたしは手札から《ピクシー・ドラゴン》を特殊召喚!
 そして、生け贄に捧げるよ!
 いっけえ!《サンセット・ドラゴン》!!」

 オレンジに輝く、天空竜が姿を現す。
 4枚の翼を高らかにかかげ、自ら黄昏色の光を放つ。

「そして、バトルフェイズに《サンセット・ドラゴン》の効果発動!
 『サンセット・ヴェール』!!
 その光は相手を休息にさそうの!
 だから、グレファーは裏守備表示になる!」

 夕焼けの光を受けて、グレファーは剣を落とし、守備体制になった。

「これで《七曜剣》はなくなったね!
 《サンセット・ドラゴン》でグレファーに攻撃!
 『トワイライト・バースト』!!」

 4枚の羽を閉じて、力をその口に集中させる。
 そして瞬時に羽を開き、同時に放たれたオレンジの閃光がグレファーを焼き尽くした。

「ボクのグレ兄貴ィィィィィイイイ!!!」

「すぐに《戦士の生還》で回収するくせに……。大げさね」
 弧宇月は兼平のオーバー・リアクションに嫌気が差している。

「あたしはこれでターンエンド!」

「ボクのターン! 《増援》をドローする。
 さらに《デーモンの宣告》で《和睦の使者》をドロー!!」
 《戦士の生還》でグレ兄貴を再び手札に!
 そして、グレ兄貴をまた召喚だ!」

 再び、《戦士ダイ・グレファー》が場に降り立つ。
 死地から再び舞い戻り、若干様子が変わったように見える。
 何か頭のネジがはずれているような……。

「あ、あれ? グレファーの様子が変じゃないですか?
 なんていうか……、目つきが嫌らしく……。
 あっ、目が合いました!! こっち見て、ニヤリと笑いましたよ!」

「確かにグレファーには好色の噂が絶えないけれど……。
 ソリッド・ビジョンはどこまで表現する気なのかしら……」

「ボクは増援でさらにグレ兄貴をもう一人を手札に!
 《和睦の使者》を伏せて、ターンを終了」

「あたしのターン! 《神竜−エクセリオン》をドロー!」

《真実の眼》&《幸福の共有》
明菜のLP:4000→5000
兼平のLP:(デーモンの宣告コスト:5100→)4600→5400

「ひとまず、攻撃だよ! 『トワイライト・バースト』!!」

「ボクはグレ兄貴を守る! 《和睦の使者》!」

 夕焼け色の波動がグレファーに襲い掛かる。
 しかし、グレファーは両手を組み、その攻撃を受け止めた。

「ぬおおおおおおおおおおおお!」

《和睦の使者》
【罠カード】
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける
全ての戦闘ダメージは0になる。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 ブレスが収まると、そこには涼しげな表情をしたグレファーがいた。
 衣服が焼けて、ところどころの肌が露出している。
 そして、両手を広げ、爽やかな表情で高らかに宣言する。

「もう……、争いはやめよう。平和を愛そうじゃないか」

「……………。ねえ、僕の聞き間違いかな?
 今、ソリッド・ビジョンがしゃべらなかった?」

 レイは首を傾げる。

「私にも聞こえたわ。あの男、まさかディスクに細工を?
 確かにディスクには効果音再生機能はついているけど……」

「いえ、できますよ!! 別にディスクをいじらなくてもいいんです!
 単に懐のレコーダーに音声を入れて再生するだけですよ。
 私も《魔法剣士ネオ》様の声とか、吹き込んでもらってるんです!」

「そんな趣味の悪いことを……。
 凝り性なのは感心するけど、やっぱり下賎な発想だわ……。
 でも、わざわざグレファーを守るなんて、なんのつもりかしら?」

「ソリッド・ビジョンがしゃべった!!
 アカデミアの最新型ってやっぱすごいんだ!!」

 目の前の当の本人は、特に不審に思っていない。

「じゃあ、あたしはこのままターンエンドね」

明菜
LP5000
モンスターゾーン《サンセット・ドラゴン》ATK2400
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
3枚(《《神竜−エクセリオン》、《守護神の矛》、《冥王竜ヴァンダルギオン》)
デッキトップ
《巨竜の羽ばたき》
兼平
LP5400
モンスターゾーン《戦士ダイ・グレファー》ATK1700
魔法・罠ゾーン
《真実の眼》、《幸福の共有》、《天変地異》、《デーモンの宣告》発動中
手札
1枚(《戦士ダイ・グレファー》)
デッキトップ
《マジック・プランター》

「ボクのターン! ドロー! 《マジック・プランター》だ!!
 そのまま発動して、幸福の共有をコストに2枚ドローする!」

《マジック・プランター》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「ドローしたカードは《二重召喚》と3人目のグレ兄貴!!
 そして、《二重召喚》でフィールドにグレ兄貴が3人揃う!」

《二重召喚》
【魔法カード】
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 3人の屈強な戦士が立ち並ぶ。
 その3人の見つめる先は、竜の向こう側。
 ――陽向居明菜のみ!

「な、なんだか僕ものすごく嫌な予感がするんだけど」

「私にとっては、この状況だけで十分悪夢だわ。
 でも、わざわざグレファーを3体も揃えたのはなぜかしら?
 あんなものを3体融合だなんて、幾らなんでも醜すぎるし……。
 いや、まだ《デーモンの宣告》によるドローが残されてるわ!
 そのカードはまさか――!!」

 3人の戦士は剣を天に掲げ、3本の切っ先を重ね合わせる。
 中心には最も過酷な戦場を乗り越えた男が立っている。
 どのグレファーも、非常に清々しい顔をしていた。

「なあ、ついにこの時が来たんだな……」

 中心の男が感慨深そうに呟く。

「ああ、覚えているか? 俺たちの誓いを」

「覚えているとも。全てはこのときを迎えるためだった。
 ああ! 懐かしき『花園の誓い』よ!!」

『花園の誓い』〜3人のグレファーによるレクイエム〜

 我ら三人、同姓同名の結びから兄弟の契りを結びしからは、
 心を同じくして助け合い、数多の美女を襲わん。
 まずは異次元まで追いかけ、果ては堕落さえも厭わぬことを誓う。
 同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、
 願わくば同年、同月、同日にハーレムを得んことを。

「俺たち3人が集まれば、何が立ちふさがろうと怖くない!」

「ああ! どんな美女も俺たちのものだ!!」

「今こそ、我らがコンビネーションを見せるとき!」

「《デーモンの宣告》よ! 呪われし石版よ!
 今こそ、我らが魂の結束の力を解放せよ!!」


「我が剣の名は『色欲』! あらゆる女を朱色に染めて見せよう!!」

「我が剣の名は『情欲』! 高ぶる心こそが我らの原動力なり!!」

「我が剣の名は『性欲』! 全ては、万物の根幹たるエロースに達するために!!」


「「「今こそ、我らが力を示さん!! 《デルタ・アタッカー》!!!」」」

 ――石版に雷が落ちる。
 そして、兼平はグレファー達の万感のこもったカードを手にする。
 そのカードの名は《デルタ・アタッカー》。

《デルタ・アタッカー》
【魔法カード】
自分フィールド上に同名通常モンスター(トークンを除く)が
3体存在する時に発動する事ができる。
発動ターンのみ、3体の同名通常モンスターは
相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

 その名を聞いて、柚原は激しく動揺する

「やややっやっやヤバイですよ。こここれは。
 どう考えても、放送コードに引っかかりますよ。
 こんなあからさまなネタを使うなんて、正気ですか!!」

「……3体のバニラで戦士。極めてサーチ・回収・サポートしやすく、召喚も容易。
 とても筋の通ったキーカードだと思うのだけど。
 柚原さん? 何をそんなに動揺してるのかしら?」

(い、言えません。 だって、デルタとグレファーの組み合わせだなんて……。
 どう考えてもあの男は恥丘ヴィーナスの丘とかけてるわ!!
 こんな局部をピンポイントに狙うなんて下品な……。
 ああ! だけどそんなことを指摘したら、弧宇月さん私への評価が……)

 柚原は一人でまた違う次元で葛藤している。

「……まずいわね。グレファー3体の攻撃力の合計は1700×3=5100!
 陽向居さんのライフを一気に削りきれる!!」

「明菜ちゃん!! あんな野蛮な男に押し切られないで!」

「ボクの全身全霊・全力全開を受け止めて!!
 発動!! 《デルタ・アタッカー》!」

 瞬間、グレファー達の体が光り輝く。
 目にも留まらぬ速さで動き出し、竜を翻弄する。

 ……と思いきや、急にその動きが止まる。
 グレファー達は力が湧かないのである。

「ど、どうしてだ!! なにがボクから君への恋路を邪魔してるんだ!?」

「――やっと、これだ!ってタイミングが見つかったよ……。
 あたしは《デルタ・アタッカー》をカウンターする!
 《神の宣告》! ライフを半分にして、その魔法を禁止!」

《神の宣告》
【罠カード・カウンター】
ライフポイントを半分払う。
魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
どれか1つを無効にし、それを破壊する。


明菜のLP:5000→2500

「そ、そんなぁー!!
 最初のターンに伏せてたなんて……!
 どうして……今まで使わなかったの?」

「いやぁ、サポートカードばっかりで発動できなくて。
 それに、このカードを発動するときは一番派手でなきゃね!」

 そう言って、一枚のカードを示す。
 たちまちに場に暗雲が立ち込め、グレファー達は動揺する。
 そして、現われしは裁きの執行者。
 文明の破壊者の化身。
 因果を覆したときのみ現れる竜の王者。

「これがあたしの【ドラゴン・パーミッション】の第一の切り札!!
 いくよ! 《冥王竜ヴァンダルギオン》!!!」

《冥王竜ヴァンダルギオン》 []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。
ATK/2800 DEF/2500

 黒の硬いウロコで、全てを否定しつくす魔龍。
 禍々しき凶眼が罪人をにらみつける。

「ヴァンダルギオンの今回の裁きは魔法だよ!
 いっけぇ! 『ブラック・パニッシュメント』!!」

 黒きいかづちが兼平に降り注ぐ。

「ぎやああああああああ!!」

兼平のLP:(デーモンの宣告コスト:5400→)4900→3400

「うう……。今召喚したばかりだから、2人のグレ兄貴は表示変更できない。
 真ん中のグレ兄貴だけを守備表示にして、ターンエンド……」

 切り札の発動を無効化され、最上級モンスターの召喚までされる。
 兼平は既に戦意が衰えて、すっかりしょげている。
 淀んだ瞳で、次のデッキトップの《堕落》を見つめている。

明菜
LP2500
モンスターゾーン《サンセット・ドラゴン》ATK2400、《冥王竜ヴァンダルギオン》ATK2800
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
2枚(《《神竜−エクセリオン》、《守護神の矛》)
デッキトップ
《巨竜の羽ばたき》
兼平
LP3600
モンスターゾーン《戦士ダイ・グレファー》×3(2体は攻撃表示、1体は守備表示)
魔法・罠ゾーン
《真実の眼》、《幸福の共有》、《天変地異》、《デーモンの宣告》発動中
手札
なし)
デッキトップ
《堕落》

「あんな切り札を取っておいてたんだ!! 明菜ちゃん、すごい!」

「使いどころをわきまえてるじゃない。なかなかの策士ね。
 それとも戦闘の流れを掴む嗅覚が優れてるのかしら」

「あたしのターン! ドロー!!」

《真実の眼》
明菜のLP:2500→3500
兼平のLP:3600

「――さて、ようやく終わらせられるかな。
 一気にこのターンで決めるよ!!
 グレファー戦術すごかったよ!
 あたしも面白い戦術を見せてあげる!」

「……!? このターンで決められるんですか?
 あのグレファー3体の暑苦しい肉壁があるのに!」

「ちょっと僕には想像つかないな」

「いくよ! 《サンセット・ドラゴン》を生贄に捧げ、《神竜−エクセリオン》を召喚!」

 妖艶なる白竜が場に現れる。
 鬼の如き角の生えた東洋龍。
 辺りに霊魂が漂い始める。

「そして、この瞬間にリバースオープン!!
  《連鎖破壊(チェーン・デストラクション)》!!!
 《神竜−エクセリオン》をデッキから2枚墓地に!
 これで2体の仲間が墓地にいることになる!!」

《神竜−エクセリオン》 []
★★★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードの召喚時に自分の墓地に存在する「神竜−エクセリオン」
1体につき、以下の効果を1つ得る。
ただし同じ効果を重複して得る事ができない。
●このカードの攻撃力は1000ポイントアップする。
●このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
もう一度だけ続けて攻撃を行う事ができる。
●このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
ATK/1500 DEF/ 900

《連鎖破壊》
【罠カード】
攻撃力2000以下のモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚されたら発動する事ができる。
そのモンスターのコントローラーの手札とデッキから同名カードを全て破壊する。
その後デッキをシャッフルする。

「あたしが得る効果は、連続攻撃と追加ダメージ!
 そして、なんとなく綺麗にしたいから、《巨竜の羽ばたき》も発動!
 ヴァンダルギオンの羽ばたきで、魔法・罠を全部破壊するよ! ごめんね!」

《巨竜の羽ばたき》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル5以上のドラゴン族モンスター1体を手札に戻し、
お互いのフィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

「うぎゃああああああああああ!
 ボクの完璧な布陣が、ぜんめつめつめつ……。
 でも、グレ兄貴……。兄貴たちならボクを守りきれる……」

「残念ながら、そうはさせないよ!!
 《守護神の矛》をエクセリオンに装備!
 足りない攻撃力はこれで補われる!!
 これがあたしのエクセリオンの最大出力だよ!!」

《守護神の矛》
【魔法カード・装備】
装備モンスターの攻撃力は、墓地に存在する装備モンスターと
同名カードの数×900ポイントアップする。

《神竜−エクセリオン》 ATK1500→3300
●このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
もう一度だけ続けて攻撃を行う事ができる。
●このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「あああああ。もうとっくに兼平の戦意はゼロよ!!
 もうやめ……なくてもいいですよね!
 だって、私の弧宇月様に手を出そうとしたんですから!
 ここまで来たら、徹底的にやっつけちゃってください! 陽向居さん」

「この惨めな光景は写真に収めたからね!
 これでこいつも簡単には覗きなんてできないよ!
 いっけぇー! 明菜ちゃん!」

「見事な戦術よ、陽向居さん。
 あなたには、あなたの手で未来をこじあける力があるのね」

「いくよ! エクセリオン!!
 『ディバインバスター・エクステンション』!! 2連撃ィ!!」

 白竜が蒼きオーラをまとう。
 それは仲間との絆。魂のつながり。
 膨大なエネルギーを口に収束させる。
 大きな魔力の塊となり溢れんばかりだ。
 そして、一気に二射が放たれる。
 白く巨大な力の奔流が全てを貫く。
 グレファーは跡形もなく消え去り、そのまま兼平に攻撃が直撃する。

「ぎええええええええええええ!!
 でも、陽向居さんの本気とデュエルできて本望ゥゥウ!!! ガクッ」

兼平のLP:3600→0  <(3300-1700+1700)×2=計6600ダメージ>


「やったね!! 楽しいデュエルだったよ!」

 明菜は久々に本気でデュエルができて、満足げだ。
 一方で兼平は燃え尽きたらしく、幸せそうな顔で倒れている。

 急激な巻き返しに魅了され、周りから拍手が起こる。

「明菜ちゃん! すごい強いじゃん!
 最近デッキ調整中だったみたいだけど、
 やっぱ【ドラゴン族】使ってる明菜ちゃんが一番すごいよ!!」

 レイがそうやって誉めると、他のみんなも賛同する。

 明菜は感じた。遠慮してても何も開けない。
 好きなものを好きと言って、境界なんてぶち破るのが自分に合っていると。

「やっぱ、そうだよね!
 あたしのドラゴンは、誰にも負けないよ!
 何よりも格好良くて、それに強いんだから!!」

 自分の信じる仲間を誇る。
 それが何よりも心地良い高揚感をもたらしてくれることを、明菜は再確認した。





第6話 夢に向かうタッグデュエル<前編>


「楽にしていいんだよ、藤原くん。
 ちょっとした依頼をしたかっただけなんだ。
 それで、話というのはだね……」

「はい」

 藤原は鮫島校長に呼ばれ、少し緊張しながら校長室を訪問していた。
 とはいえ、気さくで温厚な鮫島校長である。
 体は習性として強ばっても、どんな依頼か楽しみなところもあった。

「君にはクロノス先生と怪人調査にもあたってもらっている。
 様々な方面で聞き込みをしていて、新入生の顔も広く知っているかと思ってね」

「確かにある程度は知るようになりましたが……」

「うむ。そこでだ、新入生の中で腕の立つデュエリストを二人選抜してほしい。
 ちょっとしたイベントデュエルの話が持ち上がってね。
 うちのアカデミア卒業生2名に頼み、在校生とデュエルしてくれることとなった。
 この2名は、うちの卒業デュエルの最優秀デュエリストにも選ばれた生徒だ。
 そのゲストの希望が、『生え抜きの新入生とデュエルしたい』とのことだった。
 彼らといいデュエルをしてくれる1年生を紹介してほしい。
 ここで見事なデュエルをできれば、卒業生との交流もさらに広まることだろう」

「『生え抜きの新入生』……ですか……。
 2名ということは、タッグデュエルでの対戦ですか?」

「うむ。彼ら個人の技能もさることながら、コンビネーションも抜群だ。
 1年生という条件では厳しいかもしれんが、連携の取れていることが望ましい」

「なるほど……。
 なかなか厳しい条件ですね」

 藤原は右手を唇に当て、候補を頭に巡らす。
 最初に、真っ先にある二人が思い浮かんだ。
 それから、ひとまず他の有力な候補を思い浮かべようとした。
 しかし、最初に思い浮かんだ二人の印象が強すぎた。
 この舞台にぶつけてみたい、という期待感がやまない。
 藤原は公平・客観的に考えるのをやめて、二人を推すことにした。

「僕は久白翼と陽向居明菜のタッグを推したい、と思います」

 その名前を挙げると、鮫島校長は思案顔になったが、
 「なるほど、面白い」と、納得したように笑みを浮かべた。

「あの二人か。確かに実力も絆も素晴らしい。
 いいデュエルになることだろう」

「二人のことを知っているんですか?」

 驚きを浮かべる藤原に、鮫島は慎重に問いかける。

「君は二人の境遇を知っているか?」

「おおよそのことは聞いています」

「奨学金を与える生徒ならば、私も一通り把握している。
 二人はその中でも、特に与える理由の強い生徒。
 経済的にも、そして実力的にも……」

「児童擁護施設の出身者ということですか……」

「そうだ。できるだけ多くの新しい子供を保護するために。
 年長者は早めの自立を求められてしまう。
 このアカデミアは全寮制で預けるにも安心できる。
 さらに奨学金が出て、デュエルの専門学校として、
 卒業後の進路もほぼ確定的とあれば、条件は揃っている。
 二人のデュエルに向ける姿勢が熱心なのも、背負う重みがあるからだよ」

「二人は知識としては未熟な面もありますが、
 確かにデュエルへの熱意は優れています」

「だからこそ、二人にはプロから学んでほしいことがある。
 プロを支えるものの広さを知ってほしい。
 それは期待や理想に沿うことだけではないのだよ」

「……確かに二人はデュエルについて、真面目すぎるところはあります」

「鏡原オーナーが自由な校風のここに任せたのも、
 そういう危うさを気遣ってなのかもしれない」

「鏡原……オーナー?」

「おっと、君たちの世代は知らないかね。
 私の辺りか、もう一回り若い世代では有名人なんだがね。
 『デュエル・スター』鏡原(かがみはら)英志(えいじ)
 デュエルモンスターズのプロリーグ黎明期を支えたスターだよ。
 彼が引退後に建てたのが、『孤児院ルミナス』。
 翼くん達の育った施設なんだ。
 だから、デュエルもその天性を受け継いでいるはずだ。
 同じ場所で同じ生活をしてきた二人なのだから、気心も知れている。
 彼らの相手をするには、確かに申し分ないだろう」

 納得気にうんうんと頷きながら、鮫島校長は藤原の肩を叩いた。

「では、明日放課後のタッグデュエル、楽しみにしているよ」

「あ、明日ですか!?」

「うむ。二人とも多忙な身だ。
 やっと空く日が分かって、急遽手配したところなんだよ。
 今日はアカデミアに泊まるとの話だったから、もう着いているかもしれん。
 そういうわけで、二人へのお知らせと特訓。
 お願いしますよ」

「は、はい。分かりました」

 その唐突さに戸惑いながら、藤原は校長室を後にした。
 早く久白たちに知らせなければいけない。
 藤原はPDA(学園生徒に配られる携帯端末)を片手に、早速連絡を取る。

「久白、朗報だ。そしてこれから就寝時間まで特訓だ」



 そして、対戦のときが来る。
 放課後のデュエル場は超満員。
 アカデミアの全生徒を集めたかのような盛況。
 その注目の中心にいるのは――。

「お前たち! このオレを覚えているか!!
 地獄の底から不死鳥のごとく復活し、今やデュエル界を席巻しようとするオレの名を!
 在校生が忘れたと言うのなら、新入生が知らぬと言うのなら、言って聞かせるぜ!
 耳の穴かっぽじって、よく聞くがいい!
 オレの名は!」

 跳ねた髪を揺らし、使い古した黒いロングジャケットをなびかせて。
 握り拳を頭上に掲げ、高らかに宣言する。

「一!」

「十!」

「「「「「百!」」」」」

「「「「「千!」」」」」

「万丈目サンダー!!」

「「「「「万丈目サンダー!!!」」」」」

「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」

「オレの名は!」

「「「「「万丈目サンダー!!!」」」」」

 デュエル場が割れんばかりのコールが響きわたる。
 万丈目準、またの名を万丈目サンダー。
 昨年度アカデミアを卒業し、プロデュエリストとして活躍中のカリスマ。
 
「やっぱり万丈目サンダーさんの人気はすげー!」

「テレビで見てたよりも凄い声援!
 本当にあたしたちが対戦できるなんて!」

 翼と明菜の気持ちも、俄然盛り上がってくる。

「あはははは。万丈目くんはすごいなぁ。
 ボク、全然目立たないや、どうしよう……」

 寂しげに呟きながら、小柄な少年が翼たちの前に出る。
 一見弱気そうにも見えるが、振る舞いは堂々としている。
 その威勢は、自らの羽織る黒にシルバーのラインを入ったコートに負けていない。

「ボクは丸藤翔。
 ボクのことは知らないと思うけど、サイバー流と裏サイバー流の継承者なんだ。
 よろしくね」

「「えええええええ!!」」

 翼と明菜の驚きの声が重なる。

「サイバー流って、あのヘルカイザー亮のだよな!
 そういえばあのコート! ヘルカイザーのコートだ!」

「丸藤ってことは、弟さん……なんだよね!
 引退したって聞いてたけど、まだ使い手がいたんだ!
 あのドラゴンデッキと戦えるなんて!」

「ふぅ……。舞い上がりっぱなしだな、二人とも」

 藤原が舞台に駆け寄り、翼たちを諭す。

「だって、こんな対戦の機会、滅多にないよ!
 プロになるのは、俺の夢の第一歩なんだ!
 興奮しないわけないじゃん!」

「まぁその気持ちは分かるが、少しは冷静にならないと、まともなデュエルができないぞ」

 翼を諭しつつ、藤原は万丈目と翔に目を向けた。

「丸藤、万丈目。よく来てくれた。
 この二人はどちらもオシリスレッドの1年。久白翼に、陽向居明菜だ。
 君たちの希望通りに僕の見込んだ『十代のような生え抜きの一年生』だ。
 こいつらのいい体験になるように、思い切りデュエルしてほしい」

 万丈目は腕組みをしながら応える。

「確かに威勢の良さそうな奴だな。
 お前が見込んだデュエリストだ、悪くないだろう。
 期待に応えてくれないと、せっかく来た甲斐がない。
 全力で行かせてもらうぞ」

 ディスクを気にしながら、翔が応える。

「でも、無茶な企画だと思うんだけど、大丈夫かなぁ。
 ボクが1年の頃にプロと戦ってたら、全然歯が立たなかったと思うよ。
 でも、十代のアニキだったら、1年の頃でもいい勝負ができたと思う。
 アニキみたいに強いことを期待してるよ!」

「だが……、一つ気になった言葉がある」

 翼に少し鋭い目線を向け、万丈目が問いかける。

「お前、プロになるのは自分の夢の第一歩、と言ったな。
 プロ自体が目標でなく、ただの一歩目……。
 あれはどういう意味だ?」

「そのままの意味だよ!
 俺にはプロになってから目指したいことがあるんだ!
 だから、その夢の第一歩ってことだ!」

「ほう、その夢とやらは何だ?」

「俺には目指しているデュエリストがいる。
 『デュエル・スター』鏡原(かがみはら)英志(えいじ)
 斬新な手でみんなをアッと言わせて、みんなをワクワクさせて、
 勇気づけるようなデュエリストになりたいんだ!」

「そうか。目指したいデュエルの形があるというわけか。
 人の目標にとやかく言うつもりはないが……」

 万丈目はディスクを展開させ、決闘の構えを取る。

「お前の目指すデュエルの形と、それを目指す強さ。
 オレたちが試すとしよう」

 凛々しく低い声で言い放つ。
 高まる緊張感。

「プっ」

 そこに不似合いな吹き出す声。

「翔! なぜそこで笑う!」

「だって、柄にもなく格好つけるからおかしくって」

 翔はお腹を抱えて、笑っている。

「お前こそ、その恰好は何だ!
 背が低いからって、オーダーメイドしたんだろうが、
 その背丈じゃあ無理があるデザインだぞ」

「何をー! お兄さんのサイバー・ダークを受け継ぐって決めたんだ!
 その勝負服をバカにするなー!」

「勝負服をバカにしたんじゃない。
 お前がそのコートに合うかどうかが疑問なんだ」

「万丈目くんだって、まだ醤油の臭いのするオンボロコート着てるじゃないか!
 いつまでもその恰好じゃあ、プロの名が泣くよ!」

「これはオレのスタイルだからいいんだ。
 俺はこのコートとともに、闇に染まり泥に汚れても這い上がってきたんだからな」

「単に気を遣わなくて良くて便利なだけじゃ……」

「何をー!」

 微笑ましい言い争いは止まらない。

「仲良いんですね」

「「良くない!」」

 明菜の何気ない指摘に、二人は揃って反論してきた。
 やはり息はぴったりである。

「さて、こんな言い争いをしてる場合じゃない!
 とっとと始めるぞ!」

 4人がディスクを展開させ、視線をフィールドに交差させる。

「「「「 デ ュ エ ――」」」」」

 ――突然、照明が落ちて、真っ暗になる。
 今まさにデュエルが始まろうとするところで、唐突に。
 会場は騒然となり、誰もかれもが辺りを見回して戸惑っている。

「おい! 今すぐ照明を復旧させろ!
 オレがいない間にアカデミアはポンコツになったのか!」

 万丈目の怒声が鳴り響く。
 すると天井にスポットライトが灯る。
 ライトはそこから移動して、入場門を照らしだした。

「おい、何の演出だ、これは……」

 誰もが注目する中、扉が開いていく。
 スポットライトが明るすぎてよく見えないが、影がいくつか飛び込んできた
 そのシルエットは大型のバイク。5台は飛び込んできただろうか。
 ハイビームのライトが会場を散発的に照らし、黒い車体があらわになる。
 エンジンの爆音が鳴り響き、円形のデュエル場をグルグルと周りだす。
 やがて一定感覚で並んで静止すると、会場の照明が薄明かりに切り替わる。
 スポットライトが、一番大きな黒く刺々しいバイクを照らし出し、
 長身の黒いコートの男がメットを取った。

「翔、応援に来たぞ」

 周囲のバイクがリズミカルにクラクションを鳴らし、声援を表明していた。

「お兄さん! 何やってんの!」

 翔が目を見開いてびっくりしている。

「何って……応援。それとお前の提案のまったく新しいデュエル、
 『乗り物デュエル』のテスト機試乗も兼ねてな」

「乗り物って、このドでかいバイクのこと!?
 こんなの乗りながら、デュエルなんてできるわけないじゃん!
 ボクがイメージしてたのは、【ロイド】みたいな乗り物で……」

「だが、こいつらに聞いたら、このバイクが一番ロマンのある乗り物だと言ってたぞ」

 再びクラクションをリズミカルに鳴らし、そして全員がメットを取った。
 ――モヒカン、スキンヘッド、リーゼント、そしてさらにもう一人モヒカン。
 見事に全員ガラの悪そうな連中であった。

「なんて人たちに聞いてるんだよ! お兄さんどんな知り合いだよ!」

「ヘルカイザー時代にこういう奴らから慕われて、その縁だ。
 なかなかみんな面白い経歴を持っていて、愉快だぞ。
 この走りも実にスピード感があって、心を奮わせる。
 今後の『乗り物デュエル』の開発にも協力してくれるそうだ。
 俺には絶対に流行るという確信がある!」

「もうわけが分からないよ……。
 そもそもそのバイクどうやってこの島まで持ってきて……」

「「――それは私たちが空輸したからだ!」」

 再び扉にスポットライトが当たり、そこには紳士服の凛々しい青年が2人立っていた。
 腕組みをして、どうだ!見たか!と言わんばかりに、自信満々だ。

「兄さん達! どうしてここに!」

 今度は万丈目が驚く番である。

「「いや、応援に」」

「だから、なんでいつも二人で来るんだ!
 政界に財界に急がしいんじゃなかったのか!」

「何を言っている!
 政界・財界・デュエル界を支配する我らが万丈目計画で、一番遅れているのがお前だ!
 そのサポートに周るのは、当たり前のことだろう!」

「いい舞台じゃないか!
 もちろん取材カメラと番組枠も用意させてもらった。
 スポンサーとして、負ければ引退!のスリリングな条件も取り付けたぞ!
 さあ、存分にデュエルに臨むがいい!」

「金と権力を持った暇人ほど、性質の悪い人種はいないな……。
 いつもいつも勝手なことを……!」

 賑やかにクラクションと照明がそれぞれの兄の声援を後押しする。
 気持ちは盛り上がりながらも、圧倒される翼と明菜。
 藤原がそっと後ろから諭しかける。

「あれがプロ達の度量の広さだ。
 プロは観客を魅了するのが仕事だ。
 だが、その前に自分を心から慕ってくれる者達を得なくてはいけない。
 つまりは、支援してくれる『スポンサー』を魅了しなくてはならない。
 それだけの人間的な器の大きさ。簡単に得られるものじゃない。
 だが、愚直に目指すだけで得られるものでもない」

「…………ッ」

 翼は息を呑んで、賑やかな先輩デュエリストたちを見ていた。
 慕う者達は、これまで勝ち得てきたモノの証。
 ――それだけのモノを俺は築いていくことができるのだろうか。

(ふぅ……、やっぱり根は真面目で固いな。
 だからこそ今闘う意味もあるのか)

「すぐに方法が分かるものじゃない、そう緊張するな。
 デュエルを通して、ゆっくり肌で感じていけばいい。
 ほら、そのためにこの舞台に立っているんだろう」

「……うん、そうだ。
 デュエルすれば分かるよな!」

 翼は歩み出て、ディスクを構え直して、宣言した。

「じゃあ、俺が万丈目サンダーを倒すよ!
 一番盛り上がる展開って、そういうことだよな!」

 カメラも回っている中で、翼は威勢よく挑発した。

「ほう! いい度胸だ!
 いつまでもバカな兄どもに突っ込んでいてもキリがない。
 プロの本当の強さを、この万丈目サンダーが見せてやる!」

「ボ、ボクもいるよ!」

「あ、あたしも……。あはははは」

「「「「 デ ュ エ ル !!」」」」


万丈目準&丸藤翔 VS 陽向居明菜&久白翼

※タッグデュエル:タッグフォースルール(PSPゲーム準拠)を適用
 詳細なルールはリンク「遊戯王カードwiki-タッグデュエル」の下部参照。

「オレの先攻だ、ドロー!」

 万丈目はカードを手札に加え、戦略を頭にめぐらせ……。

「オレは《アームド・ドラゴン LV3》を召喚する!」

 体のあちこちを鎧で武装した仔竜が姿を現す。

《アームド・ドラゴン LV3》 []
★★★
【ドラゴン族・効果】
自分のターンのスタンバイフェイズ時、
表側表示のこのカードを墓地に送る事で「アームド・ドラゴン LV5」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。
ATK/1200 DEF/ 900

「そして、《レベルアップ!》を発動!
 このドラゴンをレベルアップ進化させる!
 デッキから《アームド・ドラゴン LV5》を特殊召喚だ!」

 仔竜は急成長し、巨体のドラゴンへと進化した。
 武装もさらに過激化し、無数の鋭いトゲで装飾されている。

《レベルアップ!》
【魔法カード】
フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つ
モンスター1体を墓地へ送り発動する。
そのカードに記されているモンスターを、
召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

《アームド・ドラゴン LV5》 []
★★★
【ドラゴン族・効果】
手札のモンスターカード1枚を墓地に送る事で、
そのモンスターの攻撃力以下の相手フィールド上表側表示モンスター1体を破壊する。
このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、
このカードを墓地に送る事で「アームド・ドラゴン LV7」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。
ATK/2400 DEF/1700

「さらに《未来融合−フューチャー・フュージョン》を発動だ!
 このカードはデッキから融合素材モンスターを墓地に送り、
 2ターン後に融合召喚させることができるカードだ!
 オレが融合体として選択するのは――」

 万丈目は融合デッキからカードを取り出して掲げた。

《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン))だ!
 よって、5体のドラゴン族モンスターを墓地に送る!」

 墓地にアームド・ドラゴンが3種類送られ、《ボマー・ドラゴン》と《ドル・ドラ》も墓地に送られた。

《未来融合−フューチャー・フュージョン》
【魔法カード・永続】
自分のエクストラデッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、
決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン) []
★★★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。
このカードは地・水・炎・風・闇属性のモンスターとの戦闘によっては破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)
ATK/5000 DEF/5000

「《F・G・D》、攻撃力5000の最強モンスター……。
 やっぱりプロはレアカードをちゃんと持ってる。
 召喚される前に何とかしなくちゃね」

 最強のドラゴンへの布石に、明菜が警戒を強めた。

「だが、そう簡単には破壊させん。
 《マジック・ガードナー》を《未来融合−フューチャー・フュージョン》に発動!
 これで一度《未来融合−フューチャー・フュージョン》を破壊から防げるようにして、ターンエンドだ」

《マジック・ガードナー》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する魔法カード1枚を選択して発動する。
選択したカードにカウンターを1つ置く。
選択したカードが破壊される場合、代わりにそのカウンターを1つ取り除く。

「あたしのターンだね! ドロー!!」

 明菜はドローして、軽く一息を吐く。
 夢に気負う隣の翼と、夢を歩み続ける目の前の先輩デュエリストたち。
 ――そして、あたしはどうしたいのだろう。
 翼に手を引かれるままにデュエル・アカデミアに入って。
 専門校に入ったのだから、そのままデュエルの職に就くのかなと思っていた。
 でも、そんな『何となく』でやっていけるほど、プロが甘いはずはない。
 現実的に考えて、どうすれば在るべきプロになれるんだろう。
 漠然と考えを走らせても、今はまともに考えられる気がしなかった。
 ――うずく心の傷痕がまだ痛みを訴えているから。
 自分にとって一番の問題はそれで、それが決着しないことには他のことに自分を没入できない。
 自分の未来を本当に考えるのは、それからでなくてはいけない。
 そうでなければ、目指すべき未来にも失礼だから。
 でも簡単に終わるほど、背負う痛みは軽いものでもなくて。
 だから、逆に言えば、今はひとまず目の前のデュエルを闘い抜くことが先決なのだろう。
 悩んでも仕方のないことと思いたくはないけれど、確かに今までずっと自分で悩んできた。
 だから分かる。今は悩まずに、この貴重な舞台に向き合うべきだと。
 
 全体の流れからカウントして2ターン目の明菜のターン。
 タッグフォースルールは2ターン目以降のプレイヤーから攻撃を仕掛けられる。
 2人の手札が潤沢にある序盤のうちに、自分達の場を作るのがセオリー。
 ここで万丈目の布陣を少しでも崩しておかなくてはならない。

「あたしは《ライトニング・ワイバーン》を手札から墓地に!
 そして、同じ名前のカードをデッキから2枚手札に加えるよ!」

《ライトニング・ワイバーン》 []
★★★★
【ドラゴン族・効果】
手札からこのカードを捨てる事で、
デッキから別の「ライトニング・ワイバーン」を2枚まで手札に加える事ができる。
その後デッキをシャッフルする。
この効果は自分のメインフェイズ中のみ使用する事ができる。
ATK/1500 DEF/1400

 手札増強効果に、万丈目は警戒を強め、翼は期待を膨らませる。

「早速いくよ! 《融合》を発動!
 手札の《ライトニング・ワイバーン》2体を融合させて――」

 細身の2体の翼竜が合わさり、双頭の巨大な翼竜に統合されていく。

「融合召喚! 《クロスライトニング・ワイバーン》!!」

 凄まじいエネルギーの雷を放ちながら、明菜のお気に入りモンスターが現れた。

《クロスライトニング・ワイバーン》 []
★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
「ライトニング・ワイバーン」+「ライトニング・ワイバーン」
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
自分のデッキまたは墓地に存在する「融合」魔法カード1枚を手札に加える。
ATK/2600 DEF/1900

「最初からオレの《アームド・ドラゴン LV5》を上回る攻撃力のモンスターの召喚だと!」

「いくよ! 《クロスライトニング・ワイバーン》で攻撃!
 『ライトニング・クリスクロス』!!」」

 両翼から電流が放たれ、アームド・ドラゴンを十字に切り裂いた。

「戦闘破壊に成功したから、効果が発動するよ!
 『ライトニング・コンダクト』!!
 デッキから《融合》のカードを手札に加える!」

万丈目準&丸藤翔のLP:4000→3800

 攻撃は通った。確かな手ごたえを感じる。
 しかし、この布陣を維持しなくては、勝負にならない。

「あたしはカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

「なら、ボクのターンだね、ドロー!」

 翔は相手の《クロスライトニング・ワイバーン》と、モンスターのいない自分の場を見比べる。

「万丈目くん、伏せカードなしじゃあ、突破されちゃうよぉ。
 タッグルールは出番が回ってくるのが遅いんだから、できるだけ伏せないと。
 手札に揃ってなかったの?」

「うるさい! たまたまなかっただけだ!
 ちょっとオレの手札は準備が必要なんだ。
 どうにかしてオレに繋げろ!」

「ハイハイ……、まずはあのワイバーンを何とかしないとね……」

 翔は2枚のカードを手に取り、1枚をディスクに差し込んだ。

「《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚する!
 このカードは相手の場にモンスターがいて、
 自分の場にモンスターが存在しないとき手札から特殊召喚できる!」

《サイバー・ドラゴン》 []
★★★★★
【機械族・効果】
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
ATK/2100 DEF/1600

 サイバー流の象徴たるモンスターが姿を現す。
 シルバーの長い体躯をうねらせ、金色の瞳がワイバーンを捉える。

「すげえ……、本物の《サイバー・ドラゴン》だ!」

「見とれてる場合じゃないよ!
 そして、魔法カード《エヴォリューション・バースト》を発動だ!
 《サイバー・ドラゴン》がいるとき、相手のカード1枚を破壊できる!」

《エヴォリューション・バースト》
【魔法カード】
自分フィールド上に「サイバー・ドラゴン」が表側表示で存在する場合のみ
発動する事ができる。相手フィールド上のカード1枚を破壊する。
このカードを発動するターン「サイバー・ドラゴン」は攻撃する事ができない。

 体内のエネルギーを燃焼させると、金色の瞳が溶鉱炉のように輝く。
 機械音をあげながら、その首をうねらせる。
 標的として《クロスライトニング・ワイバーン》をロックオンし――

「させないよ!
 カウンター罠発動!」

 トラップから金色のカードが放たれ、機械竜に直撃する。
 その勢いは失われ、準備動作はキャンセルされた。
 そして、貫通した金色の札をプレイヤーである翔が受け取る。

「《魔宮の賄賂》!
 このカードで相手の手札を1枚増やす代わりに、
 魔法・罠の効果を無効にして破壊するよ!」

《魔宮の賄賂》
【罠カード・カウンター】
相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。

「なるほど、やっぱりそれくらいは警戒されてたんだね。
 なら、僕は――」

 翔は墓地に目をやりながら、1枚のカードを手に取った。
 ――その瞬間、腕に僅かな痛みが走る。
 それはこの荒っぽいカードたちの挨拶のようなものだ。
 既に慣れ親しんだ痛みに、翔はむしろ笑みを浮かべて応じる。

「表の奥義がダメなら、裏の奥義で攻める!
 ボクは《サイバー・ダーク・エッジ》を通常召喚する!」

 鉤爪(かぎつめ)のような翼を持つ異形の機械竜。
 黒いオーラがそのボディから立ちこめ、その闇の触手は墓地に伸びる。

「召喚時の効果発動だ!
 自分の墓地からレベル3以下のドラゴン族モンスターを装備する。
 そして、その攻撃力をサイバー・ダークに加算する!
 ボクが装備するのは、万丈目くんの《ドル・ドラ》だ!」

 タッグフォースルールにおいて、パートナー同士の墓地は共有される。
 《ドル・ドラ》が呼び寄せられ、サイバー・ダークの腹部から無数の管が伸びる。
 ――サイバー・ダークは暗く貪欲なるモンスター。
 幻獣の頂点たるドラゴンからエネルギーを吸い上げ、その力とする。
 そして、竜の血で磨かれた刃で獲物の命を狩り取るのだ。

《サイバー・ダーク・エッジ》ATK 800→2300

「レベル4なのに攻撃力2300のモンスター!?
 でも、あたしの《クロスライトニング・ワイバーン》には……」

「バトルに突入するよ!」

 明菜の余裕を遮るように、翔は右手を前に突きかざす。

「《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃!
 『カウンター・バーン』!!」

 黒い疾風が放たれ、明菜の翼竜に迫る。

「迎え撃って! 《クロスライトニング・ワイバーン》!!」

 迎撃を命じられた《クロスライトニング・ワイバーン》。
 その命に従い、マスターを護ろうとするが――その身体は動かない。
 よく見れば、翼竜に黒い影が纏わりつき、縛り付けている。
 この闇の触手は――。

「これが《サイバー・ダーク・エッジ》の効果。
 与えるダメージを半減させる代わりに、相手モンスターを縛り付けて、
 相手プレイヤーにダイレクトアタックすることができる!」

《サイバー・ダーク・エッジ》 []
★★★★
【機械族・効果】
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在するレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を
選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備した
モンスターの攻撃力分アップする。
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。
このカードが戦闘によって破壊される場合、
代わりに装備したモンスターを破壊する。
ATK/ 800 DEF/ 800

 迫る闇の疾風に、明菜は思わずカードを開いていた。

「リバースカードオープン! 《エンジェル・ロンド》!!
 手札の《サンセット・ドラゴン》を捨てて、ダイレクトアタックを無効化する!」

 天使の幻影が明菜の目の前に踊り出て、攻撃を虚空に逸らした。

「さらに防いだ後に、あたしはカードを2枚ドローする。
 なんとか防げたけど、もうこのカードを使うことになるなんて……」

《エンジェル・ロンド》
【罠カード・カウンター】
相手モンスターの直接攻撃宣言時に、手札を1枚捨てて発動する。
相手モンスターの直接攻撃を1度だけ無効にする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「驚かされたのはボクのほうだよ。
 どちらかは防がれるとは思ってたけど、どっちも防がれるなんてなぁ……。
 せっかくカードを使ったのに、これじゃあ元が取れないよ。
 カウンタートラップ、得意なんだね」

「は、はい! あたしの自慢の戦術なんです!」

 不意に誉められて、明菜は反射的に答えてしまう。

「じゃあ、気を引き締め直して、ボクはリバースを1枚セットしてエンドするよ」


万丈目準&丸藤翔
LP3800
モンスターゾーン
《サイバー・ダーク・エッジ》ATK2300、《サイバー・ドラゴン》ATK2100
魔法・罠ゾーン
《未来融合−フューチャー・フュージョン》(《マジック・ガードナー》で破壊を1度無効にする)、
伏せカード×1、《ドル・ドラ》(《サイバー・ダーク・エッジ》に装備)
手札
3枚(翔)
陽向居明菜&久白翼
LP4000
モンスターゾーン
《クロスライトニング・ワイバーン》ATK2600
魔法・罠ゾーン
なし
手札
4枚(明菜)


「丸藤。体はもう大丈夫なのか」

「藤原か。ああ、もうこの通り元気にやっている」

 かつての同級生同士のヘルカイザーこと丸藤亮と、藤原優介。
 アカデミア主席として卒業しプロに進み、本来の自分の在り方を模索した丸藤。
 『ダークネス』の事件に巻き込まれ、卒業を延ばしてアカデミアに残った藤原。
 歩んできた道とお互いの境遇はすれ違っても、馴染みの距離感は変わらない。

「なかなかやるな。お前の見込んだアカデミアの1年は」

「ああ、僕も彼らの成長が楽しみなんだ。
 けれど、やはりプロの相手となると、実力差は否めないな」

 藤原はゲームの展開を振り返りながら、苦言を呈する。

「陽向居がうまく対応しているように見えるが、実際はそれさえも二人の想定内だ。
 万丈目も君の弟も、次に繋がる一手を仕込んでいる。
 それに気づかずに闇雲に突っ込むだけでは、プロに勝つことはできない」

「そうだな。万丈目と翔がアカデミアを通して学んできた結果がこの戦況差だ。
 そこにすぐ追いつけとは言わないが、少しでも吸収できるといいな」

「ああ。本当にいいチャンスに巡り会えて、二人は恵まれている。
 ……いや、ちゃんと恵まれるくらいに、二人は頑張っているんだ。
 僕は上手く見送れるように、二人を見守りたいと思う」

「お前こそ立派に先輩をやってるじゃないか。
 アカデミアの生活、楽しめているようで良かった」

 藤原は目を伏せて、今の感慨を瞳の奥に刻む。

「ああ、ありがとう。
 うまくやれているか、今でも不安になる。
 けれど、彼らの笑顔に慕われると、救われる気がするんだ」

 藤原の瞳が(たた)える悲しみを、翼たちが知る由もなく。

「やっと俺のターンだ、ドロー!」

 がむしゃらに夢に向かう翼が、生き生きとカードを手にする。
 ――自分の持てる力をすべてぶつけてみたい。
 夢の舞台で活躍する相手を目の前に、翼の興奮は最高潮である。

「俺は《英鳥ノクトゥア》を召喚する!」

 そのしもべのモンスターも、翼につられて興奮気味に鳴き声をあげる。

「召喚時の効果だ! デッキから『輝鳥』と名のつくカードを手札に加える!
 俺が手札に加えるのは――」

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

 デッキを見ることさえせずに、手に伝わる感触だけで翼はカードをサーチした。
 ――興奮のあまり無意識のうちに翼は能力の一端を行使し、波長だけでカードを判別した。
 今まで一番馴染んできたフェイバリットの精霊の宿るカード。
 得意げに目の前に掲げて、高らかにカード名を宣言する。

「儀式モンスター《輝鳥-アエル・アクイラ》を手札に加えるよ!」

 自信満々に披露される切り札のモンスター。
 翔はリバースに手をかけ、警戒を強める。

「俺は儀式魔法《輝鳥現界》を発動する!
 場のノクトゥアと、デッキのアイビスを生け贄に捧げ――」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 儀式のエフェクトで渦が巻き上がり、その中心で翼は天高くカードを掲げる。

「来い!! 《輝鳥-アエル・アクイラ》!!」

 フィールドに緑の光の粒子が散りばめられ、一気に収束して形を成す。
 嵐を支配する緑色の大鷲、アエル・アクイラ。
 風を巻き込みながら、鮮烈にフィールドに降り立つ。

「大型の儀式モンスターだと! それにこの風のエフェクトは……」

「そのまさかだ! アクイラの効果発動!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウインド』!!」

 万丈目の警戒に目を輝かせ、翼は得意げに効果を宣言する。
 大嵐でフィールド上のカードが巻き上げられていく。

「召喚時の効果で、フィールドの魔法・罠カードをすべて破壊するよ!」

《輝鳥-アエル・アクイラ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
ATK/2500 DEF/1900

 カードが巻き上げられる中で、翔は嵐に抵抗する一手を繰り出す。
 宙にさらわれながらも、リバースがオープンされる。

「トラップ発動! 《進入禁止!No Entry!!》!!
 フィールドの攻撃表示のモンスターは、すべて守備表示となる!
 本当に吹き飛ばしてくるなんて――」

《進入禁止!No Entry!!》
【罠カード】
フィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て守備表示にする。

「そして、オレの《マジック・ガードナー》の効果もここで発動だ。
 《未来融合−フューチャー・フュージョン》は破壊から守られている。
 念のためにと思っていたが、本当にやってくるとはな……」

「へへっ! これが俺のフェイバリットの力だ!
 あ、アイビスが儀式で墓地に送られたから、カードを1枚ドローしておくよ」

 興奮のあまり忘れかけていた効果を回収する。
 アイビスの寂しげな鳴き声が墓地から響いた。

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

「アクイラの攻撃は封じられたけど、まだ《クロスライトニング・ワイバーン》がいる!
 攻撃表示に変更して、《サイバー・ドラゴン》に攻撃だ!
 『ライトニング・クリスクロス』!!」

 稲妻が浴びせられ、機械竜は黒焦げになって機能停止する。
 明菜のモンスターの力を使い、翼はさらにフィールドを切り開いた。

「どうだ!! リバースを1枚セットして、ターンを終了するよ!」



「なるほどな。気持ちいいくらい真っ直ぐなデュエルだ」

 丸藤亮は翼のターンを微笑ましく見守っていた。

「悪い手じゃない。有効なセオリーを辿っている。
 ……だが詰めが甘い。プロとの実力差がそのまま現れている」

「そうだな……」

 藤原が冷静に付け加える。

「確かに相手に3枚も魔法・罠があるならば、誰だって《大嵐》で破壊したくなる。
 だが、誰でも思いつく手だからこそ、対策もされやすい。
 リバースはフリーチェーンの罠で、きちんと役割を遂行している。
 そして、要の《未来融合−フューチャー・フュージョン》も破壊を逃れた。
 さらにあの《ドル・ドラ》は、むしろ破壊されることが狙いだな……。
 ここからの反撃を持ちこたえられるかが、久白たちの正念場だ」


「エンドの瞬間、《ドル・ドラ》の効果が発動するよ!
 このカードは場で破壊されたターン終了時に、ステータスを下げて復活する!
 装備カード扱いで場にあるときでも、この効果は発動できる!」

《ドル・ドラ》 []
★★★
【ドラゴン族・効果】
フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードの攻撃力・守備力は1000になる。
「ドル・ドラ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
ATK/1500 DEF/1200

「そんな効果があったんだ!
 でも、俺たちの場には上級モンスターが2体いる!
 この調子でガンガンいくよ!!」

万丈目準&丸藤翔
LP3800
モンスターゾーン
《サイバー・ダーク・エッジ》DEF800、《ドル・ドラ》(再生)DEF1000
魔法・罠ゾーン
《未来融合−フューチャー・フュージョン》
手札
3枚(翔)
陽向居明菜&久白翼
LP4000
モンスターゾーン
《クロスライトニング・ワイバーン》ATK2600、《輝鳥-アエル・アクイラ》DEF1900
魔法・罠ゾーン
なし
手札
4枚(翼)

 万丈目と翔の場には、力を失ったサイバー・ダークと瀕死の《ドル・ドラ》のみ。
 その状況を見ただけならば、確かに翼と明菜が優位に立っている。

「オレのターンだ、ドロー」

 しかし、万丈目は表情を変えずにデッキからカードを引いた。
 そして、ニヤリと笑みを浮かべ、翔に目線を投げかけた。

「翔、お前にしては上出来だ。
 よくぞ、ここまでオレのためにフィールドを整えてくれたな」

「万丈目くん、その表情とセリフ、悪役のボスみたいだよ。
 しかも、あっさり負けるタイプの」

「うるさい!
 まぁ小生意気な下僕のおかげで、オレが活躍できるんだ。
 そのくらいの軽口は大目に見てやろう」

「勝手に下僕呼ばわりするなー!」

「いくぞ! ここが2ターン後の未来だ!
 《未来融合−フューチャー・フュージョン》の効果が発動する!
 来い! 《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン))!!」

 翔の嘆きを無視して、万丈目が効果発動を宣言する。
 背後に巨大な融合の渦が現れ、巨大なドラゴンの影が浮かび上がる。
 色鮮やかな邪竜の5つの魔頭が、翼と明菜の視界を覆い尽くす。
 大空を飛ぶアクイラとワイバーンを悠然と見下ろし、咆哮してその力を誇示する。

《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン) []
★★★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。
このカードは地・水・炎・風・闇属性のモンスターとの戦闘によっては破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)
ATK/5000 DEF/5000

「しまった! あの永続魔法、絶対に阻止しなくちゃいけなかったんだ……ッ!」

「だが、お前たちが見過ごしたのは、そいつだけじゃない」

「!!」

「オレの場にはまだ生け贄モンスターが2体いる。
 《サイバー・ダーク・エッジ》、《ドル・ドラ》の2体を生け贄に捧げ――」

「さらに最上級モンスターの召喚!?」

「オレと共に闘ってくれ!! 《光と闇の竜》(ライトアンドダークネス・ドラゴン)!!!」

 白の半身と黒の半身。光の半身と闇の半身。
 相反する力を持ちながら、その光は崇高なまま、その闇は深遠なまま。
 天使の片翼と悪魔の片翼を持つものが、フィールドに新たな秩序を打ち立てる。
 あらゆる力を内包するこのドラゴンに、中和できない力はない。

 絶対の破壊力の《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)、絶対の支配力の《光と闇の竜》(ライトアンドダークネス・ドラゴン
 両雄が並び立つ万丈目&翔のタッグフィールド。

《F・G・D》ファイブ・ゴッド・ドラゴン)ATK5000
《光と闇の竜》ライトアンドダークネス・ドラゴン)ATK2800

「いくぞ! オレのドラゴンたちの力を思い知るがいい!!
 《F・G・D》で、攻撃表示の《クロスライトニング・ワイバーン》に攻撃!
 『ディスオーダー・ストリーム』!!!」

 万丈目の指示により、5つの魔頭が思い思いに準備動作を始める。
 このフィールドのあらゆる元素が、それぞれの魔頭に吸収され破壊力となる。
 独立したそれぞれのタイミングで繰り出される5つの連続攻撃。
 その無秩序に放たれる暴虐。
 跳ね返すほどの攻撃力は、――今の翼にはない。

「でも攻撃は通さないよ!
 リバース発動だ! 《イタクァの暴風》!!
 《F・G・D》も《光と闇の竜》も守備表示に変更だ!!」

《イタクァの暴風》
【罠カード】
相手フィールド上に表側表示で存在する
全てのモンスターの表示形式を変更する。

 風が巻き上げられ、せめて攻撃を逸らそうと向かっていく。
 しかし、《光と闇の竜》の額の白き角が輝いて反応する。
 ――このドラゴンは秩序を乱す効果を許さない。
 聖邪の力を練り上げて精製された秩序の電光。
 暴風は雷に引き裂かれ、勢いを失ってしまう

「どうして《イタクァの暴風》の効果が!」

「『カオス・イントルード』。これが《光と闇の竜》の効果だ。
 攻守を500ポイント下げて、発動した効果を無効にする!!」

《光と闇の竜》(ライトアンドダークネス・ドラゴン) []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードは特殊召喚できない。
このカードの属性は「闇」としても扱う。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。
この効果でカードの発動を無効にする度に、
このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。
???
ATK/2800 DEF/2400

《光と闇の竜》ATK2800→2300

「そんな……!!」

 頼りの暴風を失い、ワイバーンは破壊光線の5連撃を浴びて倒される。
 その破壊力の余波は翼まで到達し、ライフを大幅に削る。

明菜&翼のLP:4000→1600

「さらに《光と闇の竜》の攻撃も残っているぞ!
 守備表示の《輝鳥-アエル・アクイラ》に攻撃だ!
 『ダーク・バプティズム』!!」

 闇の波動が放たれ、アクイラは消滅した。

「見たか! オレの最強の軍勢!
 ターンエンドだ!」

 翼たちがリードしていたフィールドは1ターンにして逆転された。
 今度は明菜が追い上げなくてはならない出番。

「あたしのターン! ドロー!」

 こちらを見下ろす威圧的な2体の巨竜。
 その攻略なしには勝機を見出すことはできない。

「あれが最強のドラゴン、《F・G・D》ファイブ・ゴッド・ドラゴン)……ッ!
 実物は初めて見るけど、すごい迫力。
 でもやっぱり……、なんか乱暴で恐くて好きになれそうにないな……。
 よりも初めて見る《光と闇の竜》……。
 自分の効果でカウンターできるドラゴンかぁ、あのカード欲しい……」

 見惚れながらも明菜は攻略方法に思考を巡らす。

「……翼。さっきのターンの《光と闇の竜》の効果の発動、違和感がなかった?」

「違和感……。うーん、確かに明菜にカウンターされるときとは違う感じがした。
 タイミングは早いっていうか、間髪入れずに発動してきたというか」

「……あたしも同じ違和感があったんだ。
 だから、次のターン賭けてみようと思う。
 賭けをはずしたら……、もしかしたら負けちゃうかも。
 でも、絶対にあたしは攻略してみたい!」

「ああ! 明菜のやるだけをやってみなよ!
 出し惜しみして持ちこたえられるデュエルじゃない!」

「うん! 翼のアクイラももう出たし、伏せ惜しみする必要もないね!
 なら――」

 覚悟が決まり、明菜が意気揚々とカードを手に取る。

「リバースを3枚伏せて、ターンを終了するよ!!」

「なら、ボクのターン、ドロー!」

 翔はそびえ立つ2体のドラゴンを恨めしそうに眺め、3枚のリバースと見比べる。

「ちょっと強引な攻め方だよねぇ……。
 二人のタッグの絆はいい感じだし、すんなり行くとは思えないけど――」

 ぎこちなく右腕を相手にかざす。

「――ここは攻撃しかない!
 《F・G・D》の攻撃! 『ディスオーダー・スト――」

「リバース発動! 速攻魔法《幻惑》!!
 あたしは《F・G・D》を選択して、その攻守を入れ替える!」

《幻惑》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力・守備力をエンドフェイズ時まで入れ替える。

 翔の表情に明らかな動揺が走る。

「ここで攻守入れ替えの速攻魔法!
 しかも攻守が同じステータスの《F・G・D》に!?
 まさかもう攻略方法を見出して――。
 ……ここで《光と闇の竜》の効果が発動するよ!
 『カオス・イントルード』で魔法の発動を無効に――」

 効果の発動が宣言され、《光と闇の竜》の角が反応する。
 ――そして、明菜は右手で握り拳を作り、リバースを勢い良く開いた。

「あたしの予測通り、強制発動する効果だね!
 あたしが使うなら、無効効果がいつでも発動できる効果だったら、
 致命的な効果じゃない《イタクァの暴風》は見逃す!
 そうじゃなくても、少し発動するかどうか迷う!
 すかさずに発動するモンスター効果なら、あたしに突破口のカードがある!」

 リバースが開いた瞬間、空より白い雷が《光と闇の竜》に叩きつけられる。
 凄まじい雷鳴がその後に続き、絶命の断末魔をあげて、《光と闇の竜》は消滅した。

「手札の《融合》をコストに、カウンター罠《天罰》を発動したよ!
 無効効果でもモンスター効果! このカードなら無効にして破壊できる!」

《天罰》
【罠カード・カウンター】
手札を1枚捨てて発動する。
効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

「驚いたなぁ。もう攻略されちゃうなんて……。
 とはいえ、4枚のカードを使わせたと思えば、いい動きかな。
 とはいっても、ちょっとハイリスクすぎる布陣だったよねぇ……」

「フン! 《パワー・ボンド》がお家芸のサイバー流には言われたくないな!」

「それはそうだけど。うーん、ここから挽回しないとなぁ……」

 《光と闇の竜》が墓地に置かれて、翔は気持ちを入れ替える。

「「ここでモンスター効果が発動するよ!」」

「……え?」
「んん? やなカードの予感……」

 明菜と翔が同時に効果発動を宣言して、顔を見合わせる。

「ええと……、あれれこういう場合って……」

 明菜が困り顔で、翔に説明を求める。

「同時に発動タイミングを満たした場合、ターンプレイヤーが先に効果発動。
 だから、まずはボクからだね」

 翔が効果処理に移ると、場の《F・G・D》が爆発して消える。

「え? なんでなんで?」

 万丈目がため息をつきながら、効果を説明する。

「これも《光と闇の竜》の特殊効果だ。
 破壊されて墓地に送られたとき、その力が暴走する。
 そして、フィールドに破壊と再生をもたらす。
 場のモンスターがいなくなる代わりに、墓地のモンスターを復活できるんだ」

《光と闇の竜》(ライトアンドダークネス・ドラゴン) []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードは特殊召喚できない。
このカードの属性は「闇」としても扱う。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。
この効果でカードの発動を無効にする度に、
このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
自分フィールド上のカードを全て破壊する。
選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
ATK/2800 DEF/2400

「というわけで、《F・G・D》がいなくなる代わりに、
 《ボマー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚するよ!」

 爆弾を抱えた竜が、翼をはためかせながら身構える。

「そして、明菜ちゃんの効果処理だね!」

「え、えと、はい!
 じゃあ、手札からこのカードを発動します!
 相手のカードをカウンターで無効にしたときに召喚できる竜王のカード!」

 明菜の最後の1枚の手札が黒く輝き、効果発動を告げる。

「守備表示で特殊召喚! 《冥王竜ヴァンダルギオン》!!」

 大腕を広げて、漆黒の王竜が立ち現れる。
 胸を天に突き出して咆哮。
 鱗の隙間から赤い光を放ち、さらなる力を開放する。

「さらにモンスター効果を無効にしたときの追加効果!
 『ブラック・アライアンス』!!
 自分の墓地からモンスターを蘇生する!
 あたしが選ぶのは、《クロスライトニング・ワイバーン》!
 モンスターは温存しておきたいから、守備表示だよ!」

《冥王竜ヴァンダルギオン》 []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。

ATK/2800 DEF/2500

 明菜は《ボマー・ドラゴン》の効果を把握していた。
 自分を破壊したモンスターを道連れにする効果を持っているのだ。
 今はバトルフェイズ中で、《ボマー・ドラゴン》は攻撃の権利を得ている。
 ここで上級モンスターを失わないために、明菜は敢えて守勢を取る。

《ボマー・ドラゴン》 []
★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
このカードを破壊したモンスターを破壊する。
このカードの攻撃によって発生するお互いの戦闘ダメージは0になる。
ATK/1000 DEF/ 0

「じゃあ、ボクのバトルは終了だね。
 ふぅ……、万丈目くんのモンスターがいなくなっちゃった。
 ――なら、今度はボクが頑張らなくちゃいけない番だね!」

「頑張るって――、え!」

 明菜は思わず圧倒されてしまう。
 目の前の小さな先輩。
 翔の放つ気勢がいきなり高まった。
 迷いなくカードを選択し、力強く盤上に繰り出す。

「ボクは《手札抹殺》を発動する!
 手札を全て捨てて、その分ドローだ!
 ボクが手札から捨てるのは、この3枚!」

《手札抹殺》
【魔法カード】
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

 《プロト・サイバー・ドラゴン》と2種のサイバー・ダークが墓地に送られる。
 そして、入れ替えた手札に一目やり、すかさず手に取った。

「引けたね! 融合魔法発動! 《サイバーダーク・インパクト!》だ!
 墓地のサイバー・ダーク3種、キール・エッジ・ホーンをデッキに戻すことで、
 融合デッキから最強のサイバー・ダークを召喚する!」

《サイバーダーク・インパクト!》
【魔法カード】
通常魔法
自分の手札・フィールド上・墓地から、「サイバー・ダーク・ホーン」
「サイバー・ダーク・エッジ」「サイバー・ダーク・キール」を
それぞれ1枚ずつデッキに戻し、「鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン」1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 墓地から闇をまとわりつかせながら、3体がデッキへと戻る。
 そして、その闇は融合デッキへと伸び、さらに強大な闇を呼び寄せる。

「――出でよ! 《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》!!」

 鉤爪の翼、串刺しの4つ角、鋼の鞭のごとき尾。
 3種のサイバー・ダークの鋭利さを兼ね備えた刃の鎧竜。
 全身の突起物で貫けぬ鱗はなく、どんなドラゴンをも捕食する。
 ――例えそれが最強の攻守を誇るドラゴンであっても。

「効果発動だ!
 サイバー・ダークは力を継承するドラゴン!
 自分の墓地のドラゴンを装備して、攻撃力を加算する!
 ボクが選ぶのは――」

 翔は万丈目に目配せをして、1枚のカードを手にとった。
 そして、その強大な力は引き継がれる。

「《F・G・D》を装備だ! その攻撃力を得る!」

 鎧黒竜の放つ闇が、暗き極彩色を取り込み、エナジーに満ちあふれる。
 虹色の闇が力に満ちて振動し、その鋭利が鈍い光を放つ。

「さらに鎧黒竜自身の効果! 墓地のモンスターの数×100の攻撃力上昇!
 墓地のモンスターの数は9体! よって、その攻撃力は――」

《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》 []
★★★★★★★★
【機械族・融合/効果】
「サイバー・ダーク・ホーン」+「サイバー・ダーク・エッジ」
+「サイバー・ダーク・キール」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
ドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
また、このカードの攻撃力はフィールド上に存在する限り、
自分の墓地のモンスターの数×100ポイントアップする。
このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。
ATK/1000 DEF/1000

《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》ATK1000→6000→6900

「攻撃力6900!」

 会場をどよめきと歓声が埋め尽くす。
 序盤からの大型モンスターの召喚ラッシュ。
 倒しても倒しても出てくる超攻撃力のモンスター。
 テンションは最高潮に達している。

「あいつを倒さなくちゃこのデュエルには勝てない……」

 黒いオーラを纏う鎧黒竜の威圧感に、翼は息を呑む。
 翼は攻撃力増強がさほど得意ではない。
 むしろ除去で場を切り開いてから攻めるプレイスタイルである。
 その筆頭がフェイバリットの《輝鳥-アエル・アクイラ》であり、
 または《ゴッドバードアタック》に、《輝鳥-アクア・キグナス》である。
 使ってしまったアクイラはもちろんのこと、後者の2枚も手札にはない。
 タッグルールでは自分にターンが回りにくくなる。
 デッキはいつものようにフル回転していない。
 その状況で理想のカードを引ける可能性は低い。

「翼! あたしの伏せたカードを使って!
 モンスターを残したのも、そのためだから!」

「!!」

 明菜のアドバイスに、翼はハッとさせられる。
 タッグ戦における戦略の違い。
 それは自分のターンがすぐに来ないことだけではない。
 パートナーのカードを使えることも重要なことである。
 現に目の前の先輩デュエリストたちは、パートナーのカードをフル活用している。
 まして経験も実力も劣る自分たちならば、力を合わせずに勝てるはずもない。
 そして、明菜がほのめかした言葉から察すれば、伏せたカードは――。

「名は翼といったな、最高の舞台じゃないか」

 万丈目が腕組みをし、値踏みするように翼の表情をうかがう。

「厳然と立ちはだかる強敵を打ち倒してこそ、デュエルは盛り上がる。
 デュエルは相手とするものだ。
 相手が強ければ強いほど、倒した時の反響は大きい。
 なら、オレたち以上の相手はそうそういないだろう」

 親指で自分を指し、万丈目は高らかに挑発する。

「プロを目指すというなら、デュエルで人を勇気づけるというのなら、
 オレたちのこのモンスターを超えてみせろ!」

「ちょっとハードルが高すぎないかなぁ……」

 翔が控えめに続ける。

「でも、ボクもキミたちの力をもっと見てみたい!
 アカデミア新入生代表として見込まれたその力!
 存分にぶつけてみてよ!
 さあ、ボクはリバースを1枚伏せてターンエンドするよ!」

「……………」

 翼はデッキに手をかける。
 高鳴る胸の鼓動。
 声援が賑やかに鼓膜を打ち鳴らす。
 そして、その中心にいる自分。
 ――気持ちいい。
 こんなドキドキをもっと味わっていたい。
 この興奮をいつまでも覚えていたい。
 孤児院のみんなにだって届けたい。
 強くなれば、それが叶う。
 絶対に叶えたい。
 こんな素晴らしいことは、これ以外にない。

「俺は絶対に『デュエル・スター』になる!
 だから今だって、あのモンスターを倒してみせる!!」

 会場に響き渡る大きな声で、翼は決意を表明する。

「いくよ! 俺のターンだ、ドロー!!」

 力強くカードを引いて、翼はひたむきに夢を目指す。

「……なるほどな」

 それを思案げに観察する万丈目の眼差しにも気付かないままで。





第7話 夢に向かうタッグデュエル<後編>



 幼い頃に感じた孤独は、焦燥を根付かせる。

 『風の災厄』により孤児になった翼。
 6歳のときに両親と死別し、突然別の環境に放り込まれた。
 失われてしまった心の居場所。
 それを取り戻すために、誰もが焦りを抱く。
 翼は誰かの『熱い気持ち』を求めるようになった。
 立ち止まって凍えるような気持ちにならないために。
 だから、いつでも何かを求めている。
 一見前向きに見えるが、その根底にあるのは飢えの原体験である。
 自分を守るために、幼い頃から抱かざるを得なかったその習性。
 人は自分の心の動き方とずっと向き合っていかなくてはならない。
 その心の在り方は、翼を前に推し進める。
 しかし、速すぎる歩みでは、足元を踏み外すかもしれない。
 その危うさとの付き合い方を、翼は身に付けているのだろうか。


万丈目準&丸藤翔
LP3800
モンスターゾーン
《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》ATK6900、《ボマー・ドラゴン》ATK1000
魔法・罠ゾーン
伏せ×1、《F・G・D》(鎧黒竜に装備)
手札
1枚(翔)
陽向居明菜&久白翼
LP1600
モンスターゾーン
《クロスライトニング・ワイバーン》DEF1900、《冥王竜ヴァンダルギオン》DEF2500
魔法・罠ゾーン
伏せ×1
手札
5枚(翼)

 翼は引いたカードを確認し、思考を走らせる。
 ――《祝宴》。
 儀式モンスターがいるときに、2枚ドローできるカード。
 今なら手札のアクシピターを儀式召喚できる。
 そして、このカードを発動して、あのカードが引ければ――。
 明菜が託した伏せカードは、予想通りにモンスターの数だけ効果を増すカード。
 もしかすれば、――本当に届くかもしれない。
 いいや、届かせてみせる。
 明菜が託してくれたカードを無駄にしないためにも。
 プロに全力で挑めるこの貴重な機会を無駄にしないためにも。
 ここで絶対に引き下がるわけにはいかない。

「いくよ! 俺は儀式魔法《高等儀式術》を発動する!
 デッキから通常モンスターの《音速ダック》と《冠を載く蒼き翼》を墓地に送って、
 儀式召喚するのは――」

《高等儀式術》
【魔法カード・儀式】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 魔法陣より緑色の柔らかな光が、天に向かって立ち上る。
 その光がやがて鮮やかな赤に変わり、勇ましい鷹を描き出す。

「――炎の《輝鳥-イグニス・アクシピター》だ!」

 火の粉が風圧とともに舞い散る。
 炎の輪をその翼で描き出し、甲高い声とともに解き放つ。

「召喚時の効果だ! 『ルーラー・オブ・ザ・ファイア』!!
 相手に1000ポイントのライフダメージを与える!」

《輝鳥-イグニス・アクシピター》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「炎」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
ATK/2500 DEF/1900

万丈目準&丸藤翔のLP:3800→2800

「くっ! 直接ダメージ効果!
 これは防げない……。
 でも、――」

 翔は熱風のエフェクトを腕で防ぎながら、相手フィールドに目をやる。
 何か違和感がある。
 あの儀式モンスターが取っている体勢は――。

「攻撃表示で儀式召喚!!?」

 万丈目と翔の場には、攻撃力6900の《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》がいる。
 効果ダメージを与えるだけならば、守備表示で召喚した方が安全。
 しかし攻撃表示で召喚したならば、それ以上の狙いがあるということになる。

「俺のデッキの攻撃力を増やすカードは少ない。
 でも、もしかしたら届くかもしれないんだ!
 だから、俺は攻撃表示で召喚して、このドローに勝負を賭ける!!」

 強く言い放ち、翼は1枚のカードをかざした。

「速攻魔法《祝宴》を発動するよ!
 儀式モンスターがいるとき、カードを2枚ドローする!!」

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 カードを2枚手札に加え、翼は考え込む。

「2500、そこに700で、場には5体揃うから……」

 ぶつぶつと呟きながら、手札と場に目線を往復させる。
 そして、出た答えは――。

「……いける!」

 小声で呟いたつもりが、思ったより大きな声が出てしまう。
 緊張した翼の表情が、獲物を狙う狩人の表情へと変化する。
 ――道筋は見えた。
 あとはこの手札で向かっていくのみ。

「俺は《黙する死者》を発動するよ!
 墓地から通常モンスターを守備表示で蘇生する!
 よみがえれ! 《音速ダック》!」

《黙する死者》
【魔法カード】
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
フィールド上に表側表示で存在する限り攻撃する事ができない。

《音速ダック》 []
★★★
【鳥獣族】
音速で歩く事ができるダック。
そのすさまじいスピードに対応できず、コントロールを失う事が多い。
ATK/1700 DEF/ 700

 慌てんぼうのアヒルが飛び出し、両翼で頭を抑えて守備表示を取る。

「もう1体だ! 《限定解除》を発動するよ!
 ライフポイントを1000払うことで、手札の儀式モンスターを特殊召喚する!
 いくよ! 《輝鳥-テラ・ストルティオ》!!」

陽向居明菜&久白翼のLP:1600→600

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

 オレンジ色の光が集まり、頑強なダチョウが大地に降り立つ。
 しかし、正規の儀式による召喚ではない。
 その力は限定され、姿も透明で揺らいでいる。

《限定解除》
【魔法カード】
1000ライフポイントを払って発動する。
手札から儀式モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃する事ができず、
エンドフェイズ時に破壊される。
「限定解除」は1ターンに1枚しか発動できない。

「攻撃できないモンスターを2体召喚!?
 何を狙って……」

 翼は明菜を見やり、頷いて合図する。
 明菜には分かる。
 翼がこれからやろうとしていることが。

「明菜のモンスターは強いけど、出しにくい。
 俺のモンスターは出しやすいけど、倒されやすい。
 だから、どちらか一人だけじゃ力を発揮しきれないカードがある!
 二人のタッグだから、力を最大限発揮できるカードがある!」

 リバースに手をかけ、立ちはだかるサイバー・ダークを見据える。

「明菜! 明菜のカードだから、せーので発動するよ!」

「うん!」

 明菜が弾けるような笑みで応える。

「せーのっ!!」

「「リバースカードオープン、《団結の力》!!
 《輝鳥-イグニス・アクシピター》に装備するよ!!」」

 《団結の力》。場のモンスターの数につき効果が上昇するカード。
 明菜が維持したモンスターと、翼が展開したモンスター。
 その力が結集し、アクシピターに力が注ぎ込まれる。

《団結の力》
【魔法カード・装備】
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体につき、
装備モンスターの攻撃力・守備力は800ポイントアップする。

《輝鳥-イグニス・アクシピター》ATK2500→6500

 アクシピターの炎の翼は巨大化し、金色の輝きを帯びている。
 鎧黒竜の漆黒のオーラにも負けない、勇壮なる煌びやかなエナジー。
 その力を誇るように、アクシピターが高らかに啼いて威嚇する。

「攻撃力6500!!
 まだこっちの攻撃力には及ばないけど、ここまで来たのなら――」

 翔はリバースを確認し、迎撃体制に思考を巡らす。
 これまでのただの驚きとは異なった明白な動揺。
 翼は今、プロ・デュエリストを動揺させるほどの力を発揮している。

「明菜のモンスターも攻撃表示にして、バトルだ! アクシピターの攻撃だよ!
 《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》に攻撃だ!」

 アクシピターはみなぎる魔力をその爪に集約させる。
 そして、空に舞い上がり、勢いをつけて鎧黒竜へと急降下する。
 赤い閃光と化したアクシピターが狙いを定める。
 その軌道上に構えるサイバー・ダーク・ドラゴンの闇の砲撃。
 凶悪なる魔竜から力を得て放たれる、至高の純度の濃密な闇。
 ドラゴンの口に装填されるが――。

「速攻魔法《突進》だ!
 アクシピターの攻撃力を700ポイントアップさせる」

《突進》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力は
エンドフェイズ時まで700ポイントアップする。

《輝鳥-イグニス・アクシピター》ATK6500→7200

 ――急加速。迎撃する間も与えないまま。
 アクシピターの爪が機械の体を引き裂く。
 切り口が発火し、サイバー・ダークは炎に包まれる。

万丈目準&丸藤翔のLP:2800→2500

 やがて炎が収まったとき、そこにいるのはただの細身の機械竜。
 力の源のドラゴンを失い、無防備な姿を晒している。

《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》ATK6900→2000

「これなら倒せるね!
 まだ俺の場に攻撃モンスターはいるよ!
 《冥王竜ヴァンダルギオン》で攻撃だ!
 『冥王葬送』!!」

 闇の衝撃波が放たれ、サイバー・ダークは飲み込まれる。
 その衝撃は翔にまで及ぶが――。

「そのダメージは受けない!
 リバースカードだ! 《ガード・ブロック》!
 ボクへの戦闘ダメージを無効にして、カードを1枚ドロー!」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「ダメージは与えられない……か。
 でも、モンスターは倒しておくよ!
 《クロスライトニング・ワイバーン》!
 《ボマー・ドラゴン》に攻撃だ!
 『ライトニング・クリスクロス』!!」

 二頭から放たれた電撃が、《ボマー・ドラゴン》を十字に切り裂く。
 しかし、ワイバーンに死に際ながら的確に爆弾が投げつけられる。
 雷をまとった鱗に誘爆し、ワイバーンも共倒れとなった。

《ボマー・ドラゴン》 []
★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
このカードを破壊したモンスターを破壊する。
このカードの攻撃によって発生するお互いの戦闘ダメージは0になる。
ATK/1000 DEF/ 0

「よし!! これでがら空きになったよ!
 《限定解除》で召喚されたストルティオは破壊されちゃうけど、
 3体のモンスターが残ってる!
 俺はこれでターンエンドだ!」

万丈目準&丸藤翔
LP2500
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
なし
手札
2枚(翔)
陽向居明菜&久白翼
LP 600
モンスターゾーン
《輝鳥-イグニス・アクシピター》ATK4900、《冥王竜ヴァンダルギオン》ATK2800、《音速ダック》DEF700
魔法・罠ゾーン
《団結の力》(アクシピターに装備)
手札
0枚(翼)

「ほぅ……」

 万丈目にターンがまわるが、ドローの動作に移らない。
 腕組みをし、翼を観察している。

「なにやら懐かしいな……」

 ふと呟かれた言葉。
 翼には意味が通じず、思わずキョトンとしてしまう。
 その様子に気づき、万丈目はすまなそうに手をあげた。

「ああ、勝負に水を差したな。
 少し昔のことを思い出したんだ。
 デュエルを続けるとしよう」

「昔の……こと?」

「なに。お前の姿が違う奴に重なって見えただけだ。
 大したことじゃない。
 だが……」

 万丈目の声が一瞬だけ沈む。

「いや、大丈夫だろう。
 さして根性のない奴にも見えん。
 それに見守ってる奴もちゃんといるようだしな」

「万丈目くん、もったいぶらないで話しなよ。
 ボクも気になる」

「んー、そうだな。
 最初、翼が十代と重なって見えたんだ。
 藤原にも言われたしな。そうかもしれん、とは思った」

 思い返すように、万丈目は目線を上にやる。

「だがな。
 よく見てると、違う風に見えてきたんだ。
 どちらかというと……」

 少し言いづらいのか、万丈目は一呼吸を置き、それから続けた。

「昔のオレに重なって見えた気がしてな」

「昔の……万丈目くん……?」

 翔はうーんと考え込むが……。

「あのイヤミで子分連れてた頃とは全然ちが」

「おいやめろ。
 それじゃない。その少し後くらいだ」

「えとその後って、アニキに負けて、
 万丈目サンダーになって、それから白くなって、うーん……」

 翔は考え込むが、思い当たらないようだ。

「まぁ、オレにしか分からない感覚か。
 いいさ。よりも今はこの盤面を何とかするとしよう」

 フィールドに向き直り、ディスクを構える。

「オレのターンだ、ドロー!」

 カードを引いて、万丈目は少しだけ考え込む。

「8割……と言ったところか」

「8割? 一体何が……」

 翼が思わず問い返す。
 翼はターン終了時から違和感を覚えていた。
 目の前に3体の相手モンスターがいるのに、自分の場はがら空き。
 本来ならば相当追い詰められた状態のはずだ。
 しかし、万丈目には動揺している様子がない。
 それどころか翼を観察する余裕さえ見せる。

「ん? なに、この場を逆転するカードが揃う確率だ」

「!」

 平然と逆転宣言をする底知れなさ。
 やっぱりプロの腕前は計りしれない。
 翼にそう思わせるほどに、万丈目は悠然と振舞っていた。

「いくぞ! 《貪欲な壺》を発動!
 墓地のカードを5枚墓地に戻し、カードを2枚ドローする!
 アームド・ドラゴン、レベル3とレベル5。
 光と闇の竜と鎧黒竜にFGDをデッキに戻して、2枚ドローだ!」

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 引いたカードを見て、万丈目は嫌そうな顔をする。

「チッ、何でよりによってこいつを引くんだ。
 ……まぁ、それはそれで繋がるかもしれんな」

 不敵な笑みを浮かべ、手札をすべて指にはさむ。

「モンスターをセット!
 リバースを2枚伏せて、ターン終了だ!」

「あたしのターン、ドロー!」

 手札補充した後のカードのセット。
 どう考えても、罠が仕掛けられている。
 攻めるチャンスではあるが、慎重に行く必要があるだろう。

「あたしは《音速ダック》を生贄に捧げて――」

 短い羽をパタパタさせながら、ダックは生贄に捧げられる。

「来て! 《サンライズ・ドラゴン》!!」

 澄んだライラック色の4枚羽を持つ飛竜。
 じっと裏側表示のモンスターをうかがう。

「ここは少し慎重にいくよ。
 《冥王竜ヴァンダルギオン》は守備表示に変更する!」

 3体の大型モンスターが揃った今は戦力が十二分にある。
 攻撃反応の罠を警戒しても、ライフを削りきることができる。

「《サンライズ・ドラゴン》は《サンセット・ドラゴン》の対になるモンスター!
 裏側表示モンスターを表側にする力がある!
 バトルフェイズを開始して、効果を発動するよ!
 裏側表示のモンスターを、表側攻撃表示に変更する!
 朝焼けの光、『リヴィール・サンライズ』!!」

 《サンライズ・ドラゴン》が薄紫の幻想的な光を放ち、モンスターを目覚めに誘う。
 裏側守備表示の下級モンスターを暴けば、ダメージは期待できるが――。

《サンライズ・ドラゴン》 []
★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
自分のバトルフェイズ開始時に1度だけ、
裏側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、
表側攻撃表示にする事ができる。
ATK/2400 DEF/1600

「なるほど、ならばその効果発動にチェーン! リバース発動だ!」

 万丈目がすかさず手をかざす。

「このタイミングで!?
 モンスター効果発動を読まれた?」

「いや、そういうわけじゃないが、
 一応モンスターは温存しておきたいからな。
 もっとも、こいつは串刺しにしてもやられない奴だがな……」

 万丈目が悪い顔をしながら、トラップ発動を宣言する。

「トラップは《つり天井》だ!!
 フィールドに4体以上のモンスターがいるときのみ発動できる!
 表側表示のモンスターはすべて破壊だ!
 オレのモンスターはまだ裏側表示のままだから破壊されない!」

《つり天井》
【罠カード】
フィールド上にモンスターが4体以上存在する場合に発動する事ができる。
フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

「!! モンスターが全滅!?
 並べたことを逆手に取るなんて……。
 で、でも、《サンライズ・ドラゴン》の効果も残ってる!
 あたし達のモンスター3体は破壊されるけど、
 そのモンスターは表にするよ!」

 無数の針が敷き詰められた天井により、翼と明菜の場は一網打尽にされる。
 そして、《サンライズ・ドラゴン》が最後の輝きでモンスターを暴き出す。
 伏せていたことで、《つり天井》に触れずに済んだモンスターは――。

(んん〜、なんだか眩しいのー。
 おいらを起こそうとするのは、誰〜?
 って、何! このトゲトゲの天井!
 いきなりどういうことなの!?)

 黄色い二足歩行のカエルのような、不細工なモンスター。
 万丈目のデッキを代表するモンスター、《おジャマ・イエロー》である。

《おジャマ・イエロー》 []
★★
【獣族】
あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。
三人揃うと何かが起こると言われている。
ATK/ 0 DEF/1000

「お前ごと串刺しにしても良かったんだがな。
 生贄ぐらいには使えるから、生かしてやった。
 感謝するんだな」

(万丈目のアニキ、なんだかんだでオイラを救ってくれたのね〜。
 ありがとー!)

「おい! こら、こっちに抱きつこうとするな!
 気持ち悪い! それにまだ相手ターンだぞ!」

 《おジャマ・イエロー》は精霊の宿るカードである。
 しかし、一般人にはその姿や声を感知することはできない。
 万丈目が独り言を呟きながら、《おジャマ・イエロー》とじゃれ合っている。
 テレビでも、もはやお馴染みの光景として認知されていた。
 だが、その様子を新たな驚きとともに『視る』者もいた。

「《おジャマ・イエロー》……。
 やけに動くソリッドビジョンだと思ったら、
 やっぱり精霊が宿ってたんだ!」

(ん? なんだかオイラの存在が分かるボウヤがいるようね?
 万丈目のアニキ、また面白そうな奴と戦ってるじゃない)

「ああ、デッキから随分賑やかな気配がすると思ったが、やっぱりそうだったか。
 翼、お前にもどうやら見えているようだな」

「はい! 俺にも精霊の力があるんです。
 でも、さすが万丈目サンダーさん。
 やっぱり漫才コンビみたいに息がピッタリだなぁ……」

 翼は褒めたつもりだったが、万丈目は腕組みをし、無愛想に鼻先でふんと鳴らす。

「とんだ腐れ縁だ。まぁ修羅場をかいくぐってきた仲ではあるんだがな。
 さて、モンスターの数が逆転したぞ。
 ここからどう立て直す?」

 万丈目は明菜に問いかける。
 残る手札は1枚。できることは限られている。

「もうバトルはできないけど、やるしかない……」

 明菜は意を決して1枚の手札を目の前に掲げた。

「融合魔法発動! 《龍の鏡》!!
 墓地から融合素材を除外して、ドラゴン融合モンスターを召喚する!
 あたしは墓地の《サンライズ・ドラゴン》と《サンセット・ドラゴン》を除外融合!」

《龍の鏡》
【魔法カード】
自分のフィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 黄金の鏡が現れ、凄まじい旋風が巻き起こる。
 そこに2体の翼竜が吸い込まれ、鏡は眩い光をはなつ。

「融合召喚! 《太陽竜リヴェイラ》!!
 守備表示で特殊召喚するよ!」

《太陽竜リヴェイラ》 []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
「サンライズ・ドラゴン」+「サンセット・ドラゴン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
???
ATK/2400 DEF/2400

 6枚の羽を持つ黄金に輝く白竜。
 羽を折り重ね、太陽のように丸まり、相手の出方を伺う。

「これであたしはターンエンドするよ!」

万丈目準&丸藤翔
LP2500
モンスターゾーン
《おジャマ・イエロー》ATK 0
魔法・罠ゾーン
伏せ×2
手札
0枚(万丈目)
陽向居明菜&久白翼
LP 600
モンスターゾーン
《太陽竜リヴェイラ》ATK2400
魔法・罠ゾーン
《団結の力》(アクシピターに装備)
手札
0枚(明菜)

「よし! ボクのターンだ、ドロー!」

 引いたカードを手札に加え、改めて万丈目の伏せたカードを確認する。

「あっ!」

 翔は思わず声をあげてしまった。

「どうした? オレのやったカードが、そんなに気に入ったか?」

 万丈目が不敵に問いかける。

「うん……。この場では、最高のカードだ。
 それに生贄要員だって、しっかり確保してくれた!
 これなら――いける!」

「そ、そうか」

 穏やかな普段からすれば珍しく勢いづいた翔の表情。
 万丈目は思わず上ずった声を上げてしまう。

「いくよ! ボクは手札から《戦線復活の代償》を発動する!
 このカードは通常モンスターを生贄に、モンスターを蘇生させるカード!
 普段は《ハウンド・ドラゴン》とかを生贄に捧げるんだけど、
 今回は万丈目くんの《おジャマ・イエロー》を借りるよ!」

《戦線復活の代償》
【魔法カード・装備】
自分フィールド上の通常モンスター1体を墓地へ送って発動する。
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して自分フィールド上に
特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、装備モンスターを破壊する。

(ひいぃ! やっぱり生贄にされるだけの扱い〜。
 これで出番おしまいなんてあんまりよー)

 《おジャマ・イエロー》の嘆きをよそに、翔は意気揚々と墓地からカードを選び出す。

「墓地から特殊召喚するのは、《プロト・サイバー・ドラゴン》だ!
 さらに万丈目くんの伏せカード、《地獄の暴走召喚》を発動!
 ボクの場に攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚されたとき、
 デッキ・墓地・手札から同じ『名前』のモンスターを特殊召喚する!
 相手もこの効果を使えるけど、融合モンスターなら直接の特殊召喚はできない!」

《地獄の暴走召喚》
【魔法カード・速攻】
相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に
攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを
自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。
相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

「うう……、そもそもリヴェイラは融合以外の特殊召喚もできないけどね……」

「ボクはデッキから2体の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 一体の細身の機械竜の両脇に、精巧なメタリックボディの機械竜が並び立つ。

「って、ええ!? なんで《サイバー・ドラゴン》が召喚されてるの!?」

「《プロト・サイバー・ドラゴン》はフィールドでは《サイバー・ドラゴン》として扱う。
 だから、呼ばれるのはデッキの《サイバー・ドラゴン》だ!」

《プロト・サイバー・ドラゴン》 []
★★★
【機械族・効果】
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、
カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。
ATK/1100 DEF/ 600

「なるほど……、すごい召喚コンボ……。
 てことは、今フィールドには3体の《サイバー・ドラゴン》がいることになるから――」

 明菜の嫌な予感を厳然たる事実に塗り替えるように。
 翔は力強くカードを目の前に掲げる。

「ボクも融合魔法《融合》を発動するよ!
 場の3体の《サイバー・ドラゴン》を融合させる!」

 3体の機械竜を飲み込む巨大な融合の渦。
 白い電流が駆け巡り、機械竜はチューンアップされていく。
 それは進化の最終形態。サイバー流の最終段階。
 真なる継承者のみが扱える最強の機械竜。

「《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚だ!」

 胸の青いコアから三ツ首が伸び、機械音とともに咆哮する。
 巨大なパネルのような双翼が、エナジーを集めるように広げられる。
 その巨大さ、その威圧感、その精巧なフォルム。
 サイバー流の集大成のモンスターが、今ここで明菜たちの前に立ちふさがる。

《サイバー・エンド・ドラゴン》 []
★★★★★★★★★★
【機械族・融合/効果】
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
ATK/4000 DEF/2800

「《サイバー・エンド・ドラゴン》……ッ!
 まさかここで召喚してくるなんて……」

 人気モンスターの登場に会場は大いに湧いている。
 カメラのフラッシュもひっきりなしに瞬く。
 巨大なる白銀の機械竜。
 対峙する黄金の光を放つ白き翼竜。
 確かに絵になるモンスターの構図である。

「《サイバー・エンド・ドラゴン》は貫通効果を持つ!
 守備表示でもダメージは通るよ!
 バトルだ! 《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃!
 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!!」

 3つの頭が、寸分の狂いもなく同時にエネルギーを充填する。
 口に蓄えられる凄まじいエナジーを目の前に。
 守備体制のリヴェイラが翼を広げて動き出す。

「なら、リヴェイラの効果を発動するよ!
 『サンセット・ヴェール』!!
 《サイバー・エンド・ドラゴン》を裏守備表示に変更する!
 リヴェイラならこの効果を相手ターンにも発動できる!」

 リヴェイラは黄昏色の光を放ち、サイバー・エンドを沈黙に誘う。
 蓄えられたエナジーが静まり、鋼の翼を閉じて守備表示となる。

《太陽竜リヴェイラ》 []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
「サンライズ・ドラゴン」+「サンセット・ドラゴン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
1ターンに1度、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
次の効果は相手のバトルフェイズ開始時にも1度だけ発動する事ができる。
●表側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。
●裏側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。
ATK/2400 DEF/2400

「かわされたか……。
 でも、サイバー・エンドの守備力は2800ポイントだ!
 そう簡単には破壊できないよ!
 ボクはカードを1枚伏せて、ターンを終了する!」


「翔のやつ……。完璧にサイバー流デッキを使いこなしてるな。
 パートナーのカードもうまく使って、サイバー・エンドを召喚するとはな。
 俺もこのままくすぶっているわけにはいかないな」

 丸藤が満足げにデュエルの展開を振り返る。

「それにしても本当にいいタッグデュエルだ。
 どちらのタッグも息がピッタリだ。
 これは本当にどちらが勝つか分からないかもしれないな」

「丸藤、それは買い被りすぎじゃないか?」

「いや、もうここまで来たら、そういうわけでもないだろう。
 既に全員の手札が尽きている。
 後は純粋な引き勝負になってくる。
 俺の見立てでは、あの二人のドロー力はかなり強いようだが、どうだ?」

「……そうだな。確かにいいところまでいけるかもしれない。
 しかし……」

「どうした?」

「気のせいか。久白の表情が妙に硬いと思ってな。
 前のデュエルのときは、逆境でも明るかったんだが。
 今回は何が違うんだろうな……」

万丈目準&丸藤翔
LP2500
モンスターゾーン
裏守備モンスター(《サイバー・エンド・ドラゴン》DEF2800)
魔法・罠ゾーン
なし
手札
0枚(翔)
陽向居明菜&久白翼
LP 600
モンスターゾーン
《太陽竜リヴェイラ》ATK2400
魔法・罠ゾーン
なし
手札
0枚(翼)


 翼は険しい表情でフィールドを見つめていた。
 《つり天井》で全滅させられたのは痛かった。
 でも、明菜はトラップを警戒していて、ちゃんとリヴェイラを召喚した。
 それにサイバー・エンドの反撃まで防いでくれた。
 今度は自分がやり遂げなくてはならない。
 注目の舞台に恥じないデュエルをするためにも。
 絶対に食らいつかなくちゃいけない。

「俺のターンだ、ドロー!!」

 力強く引き抜いた。
 何を引けば勝てるのかも、思い浮かべないまま。
 何かに突き動かされるように、ただ前に歩みを進めた。
 妙な焦燥感に駆られながらも、翼はやっとカードを確認する。

「このカードなら!」

 安堵するとともに、思わず声が出てしまう。
 この場面で引くには理想的なカードだ。
 左手で握りこぶしを作りながら、翼は右手を振りかざす。

「俺はリヴェイラの効果を発動する!
 『リヴィール・サンライズ』!
 《サイバー・エンド・ドラゴン》を表側攻撃表示に変更だ!」

「ボクのサイバー・エンドを攻撃表示に変更だって!?
 守備力より攻撃力の方が圧倒的に高いのに!
 まさか逆転のカードを引いたの!?」

 翔の動揺に手応えを感じつつ、逆転の一手を見せつける。

「そして、俺は魔法カード《フォース》を発動する!
 《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力の半分を吸収して、
 リヴェイラに加えるよ! だから、攻撃力は――」

《フォース》
【魔法カード】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター2体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスター1体の攻撃力を半分にし、
その数値分もう1体のモンスターの攻撃力をアップする。

《サイバー・エンド・ドラゴン》ATK4000→2000
《太陽竜リヴェイラ》ATK2400→4400

 逆転した攻撃力。
 ギャラリーは驚きと歓声に包まれる。
 翔の反応から見ても、攻撃が通るのは確実。
 この攻撃は、間違いなく今できる最高の反撃だ。

「リヴェイラの攻撃だ!
 『プラスフォース・サンシャイン・バースト』!!」

 機械のエナジーを取り込み、自らの太陽の力とともに破壊レーザーを放つ。
 電磁波と熱波の交差する超威力の極太の光線。
 サイバー・エンドの中心核に風穴を開け、圧倒的に撃破する。

「やった! 俺はこれでターンエンドだ!」

 万丈目は腕組みをして、翼の様子を観察していた。
 一つ前の自分のターンに感じていた漠然とした懐かしさ。
 形がなくても、心のどこかを切なくさせるような何か。
 その感覚はもはや心の手で捉えられるほどに鮮明だった。

「翼、お前は何に追われているんだ。
 何をそんなに思いつめたような表情をしている」

「俺はそんなことは……」

 思いもよらない指摘に、翼はたじろぐ。

「自覚はないようだな。
 だが、自分はこうしなくちゃ、と言い聞かせてばかりいたんじゃないか?」

「そりゃそうだけど、勝たなくちゃいけないってのは誰でも思うよ!
 ましてタッグパートナーが頑張っているんだから、俺だって!」

「そうだな。表面的には当たり前なんだろうな。
 だが、どうにも過去のオレと同じような危うさを感じてしまってな」

「過去の万丈目サンダーさん……?」

「ああ、そうだ。あの頃の何も余裕のなかったオレだ。
 オレの境遇はあまり知らないだろうが、そこの兄どもとの繋がりは分かるだろう?
 政界、財界で成功した万丈目グループの先人たち。
 オレはそのプレッシャーに突き動かされて、ただひたすらに焦っていた。
 負けたらダメだ。立ち止まるわけにはいかない。
 自分を脅してばかりだったのかもしれないな」

 懐かしそうに、感慨深げに。
 何年も前に、このデュエル場で闘ったときを思い返しながら。
 万丈目はゆっくりと語りかけた。

「そう……かもしれないけど、でも、前に進もうとするのに、悪いことなんて――」

「誰も悪いだなんて言ってないだろ。
 そのままでいい。今はそうするしかない。
 そうやってもがいているうちに、どうにかなっていく。
 勝手に経験して、適当に理由が整えられていくんだ。
 そのうちに余裕も勢いもついてくる」

「万丈目サンダーさんは……」

 翼もまた、疑問に思っていたことを問いかけたくなる。
 相手は熱を持って、自分に言葉を投げかけてくれる。
 もっとその熱を感じていたいなら、こっちからも言葉を投げかけるんだ。

「万丈目サンダーさんは、どうしてそんなに余裕なんですか?
 この試合だって、最初にお兄さんたちに『引退』を賭けられていた。
 それなのにどうしてこんな余裕でデュエルに臨めるんですか?」

「……確かに不思議だろうな。
 3年前のオレが今のオレを見たなら、同じ疑問を持つかもしれない」

 しみじみと翼の言葉を受け止めながら、万丈目は優しく続ける。

「答えは、今まで『何とかなってきた』からだ。
 アカデミアにいたときも、プロになるときもなった後も、いろんなことがあった。
 だが、這い上がったり、周りがどうにかしてくれたり、『何とかなってきた』んだ。
 だから、今だってオレが負けようと、何とかなると思っている。
 負けたら負けたで、変な注目を浴びるだろうしな。
 そこの翔と組んで、おジャマ・イエロー&ブラックでリベンジマッチしてもいい。
 今までどおりにオレは這い上がってみせる。
 だからどうなろうが、オレはオレでその先に進むだけだ」

 万丈目は気取るわけでもなく、ただ自然に前向きに語りきった。
 その毅然とした強さを、翼は心の中に焼き付けた。

「今こうして言ったところで、今だけ少し分かった気になるだけだろう。
 だが、それでいい。本当に分かるのは、自分で経験してからだ。
 自分自身から逃げ出さないなら、そのうちお前にも『何か』が分かってくるはずだ」

「ありがとう、万丈目サンダーさん!
 言うとおり、何となく分かった気がするよ!
 だから、逃げずに向かって、頑張っていくよ!!」

 翼は少し強ばっていた表情を振り切って、自然に笑いかけた。

「ああ。アカデミア1年でここまでできるんだからな。
 お前たちの未来にも期待させてもらおう。
 さて……」

 万丈目はデッキに向き直り、右手を構えた。

「先輩のように大口を叩いたからには、大層なことをしでかさなくちゃいけないな。
 《太陽竜リヴェイラ》……。
 攻撃を一度封じてくる厄介なモンスターだが、どうするか。
 2体の上級モンスターを並べるか、それとも……」

 万丈目もまた勝ち筋が思い浮かばないまま。
 しかし、それを恐れることもなく、未来を引き抜いた。

「ドロー」

 静かに自分の引いたカードを確認し、翔の伏せたカードと照らし合わせる。

「そうか。こんな可能性もあったのか。
 やはりタッグデュエルは学ぶことが多いな。
 自分のデッキの広がりの選択肢。
 自分だけでは見えてこない可能性。
 オレたちも、オレたちのデッキも、まだまだ進化していく」

 万丈目はリヴェイラに鋭い視線を向ける。

「オレは《ファントム・オブ・カオス》を召喚する!」

 万丈目が召喚したのは、黒い水溜まりのようなモンスター。
 形が定まらず揺らめき、主の指示を待っているようだ。

《ファントム・オブ・カオス》 []
★★★★
【悪魔族・効果】
???
ATK/ 0 DEF/ 0

「攻撃力ゼロのモンスター?」

「そうだ。だが、強力な効果を持っている。
 墓地の《アームド・ドラゴン LV7》を除外して効果発動!
 そのモンスターの『名前』と攻撃力と効果を得る!
 もっとも1ターン限りの効果で、相手にダメージを与えられないがな」

《ファントム・オブ・カオス》 []
★★★★
【悪魔族・効果】
自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 0 DEF/ 0

 魂の形を定義されると、黒き淀みは瞬く間に姿を変えていく。
 そして、その風貌を薄墨のような闇で禍々しく写し取る。
 刺々しく攻撃的な武装竜――《アームド・ドラゴン LV7》へと姿を変える。

《アームド・ドラゴン LV7》(コピー) []
★★★★
【悪魔族・効果】
このカードは通常召喚できない。
「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、
そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/2800 DEF/ 0

「一気に上級モンスターに変身した!
 けど、まだリヴェイラを倒せないよ!」

「そうだ。だから、翔。
 お前の力を借りるぞ」

 万丈目は伏せカードに手をかけ、勢い良く開いた。

「最後のリバース発動だ! 《融合回収》!
 墓地の《融合》カードと、素材に使われたモンスターを手札に加える。
 俺が手札に加える融合素材モンスターは、《アームド・ドラゴン LV10》だ!!」

《融合回収》
【魔法カード】
自分の墓地に存在する「融合」魔法カード1枚と、
融合に使用した融合素材モンスター1体を手札に加える。

「《アームド・ドラゴン LV10》!?
 いつ融合素材に使って――」

《F・G・D》ファイブ・ゴッド・ドラゴン)の未来融合の素材だ。
 オレは《融合》を使ってないが、翔のカードも共有できる。
 これで必要なカードはすべて揃った……」

 最初から仕組まれていたかのように繋がった回収コンボ。
 その1枚が繰り出され、《ファントム・オブ・カオス》の闇が薄れていく。

「場の《アームド・ドラゴン LV7》を生贄に捧げる!
 レベルアップ進化! 《アームド・ドラゴン LV10》!!」

 武装竜は最終形態へと進化を遂げる。
 レベル3の頃のトカゲのような面影はもう残っていない。
 あらゆる武装を使いこなすヒトの形態へと進化した。
 凶暴性を内包した赤鬼のような筋肉を、鋭利なる白銀の武装が統御する。

《アームド・ドラゴン LV10》 []
★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「アームド・ドラゴン LV7」1体を
生贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
手札を1枚墓地へ送る事で、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
ATK/3000 DEF/2000

「手札の《融合》を墓地に送り、効果発動だ!
 『ジェノサイド・ヘヴン』!!
 相手の表側モンスターをすべて破壊する!」

 自らの刃の両翼をもぎ取り、凄まじい勢いで投げつける。
 リヴェイラの首を的確に狙うクロスカッター。
 熟練した武技に成すすべなく、太陽竜は撃破される。

 そして、剣のように鋭い眼光が翼に狙いを定める。

「またお前たちとデュエルできるときが楽しみだ。
 『デュエル・スター』を目指すんだったな。
 お前の夢から逃げるな。背負うものからも逃げるな。
 だが、道はまっすぐじゃない。落ちても這い上がって来い。
 お前がお前でいる限り、失敗したって道は切り開ける」

「励ましてくれてありがとう!
 俺は絶対に『デュエル・スター』になる!
 だから、万丈目サンダーさんもプロの舞台で待っててよ!
 今度は俺がアッと言わせるような手で勝ってみせる!
 それまで精一杯ぶつかって、腕を磨いておくよ」

「ああ、期待している。
 さあ、最後の攻撃だ! ダイレクトアタック!
 《アームド・ドラゴン LV10》!
 『アームド・ビッグ・パニッシャー』!!」

 豪腕から繰り出される爪の斬撃。
 白熱した激戦は、先輩デュエリストの勝利で幕を閉じた。

陽向居明菜&久白翼のLP:600→ 0


 このデュエルの後、明菜と翼の二人はちょっとした有名人になった。
 負けたとはいえ、プロ2人のライフを残り100ポイントまで追い詰めたのだ。
 それがテレビ放映までされたのだから、反響は大きい。
 本当にプロの資質があるのか、調査に乗り出した企業もあった。
 しかし、筆記試験の結果を見せるやいなや、首を捻りながら帰っていった。
 自分のデュエルはできても、相手のカードについての知識がほとんどなかったのだ。
 翼と明菜にもその自覚はあった。
 まだまだ未熟だ。もっと土台を固めてからじゃないと、ちゃんとしたプロにはなれない。
 だから、本人たちも無理にデビューへの足掛かりを掴もうとしなかった。
 二人とも『まだアカデミアでやらなくちゃいけないことがある』と、意味深に話すこともあった。

「とはいえ、君たちは素晴らしい勝負をしてくれた。
 私からプレゼントをしたいと思うんだが、何かほしいものはあるかい。
 私のできる範囲で何でもプレゼントしようと思う」

 鮫島校長は先のデュエルを高く評価し、二人に賞品を与えたいと伝えた。
 すると、二人は少し思いつめたような表情を見せた。

「すぐに思いつかないなら、後からでもいいんだが……」

 時間の猶予を申し出ようとすると、「そういうわけじゃない」と否定する。
 そして、明菜が意を決したように、一歩前に出て問いかける。

「校長先生はあたしたちが災厄に襲われたことは知ってますよね。
 それにあたしの境遇のことも……。
 校長先生、あの災厄についての知ってる限りの情報と、
 それとあの子を救う方法を教えてください」

 明菜の絞るような声を聴き、鮫島校長は神妙に口を開く。

「私は確かに君たちの境遇を把握している。
 鏡原オーナーとも現役時代からの知り合いだ。
 だから役立つことを知っていれば、すぐにサポートする。
 ……つまり、私にはそれについて助力できることがないんだ。
 あの災厄のことも原因が分かっていない。
 君の妹を救う方法も私には……、すまない」

「そう……ですか」

 鮫島校長の優しく労わるような口調が、逆に明菜をつらい気分にさせる。
 つまり、もうできることはないから、後は丁寧に傷つけないように言っただけなのだ。
 乱暴でも何かできたほうが、明菜にとっては慰めにもなった。
 たくさんのことを知ってるはずの人から分からないと謝られる。
 かえって本当に何もやりようがないようで、明菜はどうしようもない気持ちになる。

「無理なお願いをして、すいません。
 なら、あたしは特にほしいものはないです。
 だから、その分翼にプレゼントしてあげて下さい」

 無理に笑って、明菜は引き下がった。
 翼は気まずい話題を切り上げようと、前に歩み出る。

「じゃあ、俺のお願いを聞いてください」

 翼もまた真面目な表情で申し出る。
 鮫島校長は、あの藤原からさえ真面目と評される二人の性格について、
 この肌に染みるプレッシャーを受けながら、再確認しつつあった。
 ――プレゼントといえば、欲しいカードとか寮の設備でも言ってくれればいいのに。
 そう語りかけたくなる気持ちを抑えながら、翼のまっすぐな眼差しに向き合う。

「斗賀乃先生とデュエルさせてください」

 その珍妙な申し出に、鮫島校長は目をぱちくりとする。

「構わないが……、どうして彼、斗賀乃先生とデュエルしたいのかね?」

「俺が前に進むためには、あの人に挑まなくちゃいけない、そんな気がするんです。
 今は敵わないかもしれないけど、それでも挑んでみたい。
 これは俺にとって大事なことなんです」

 自分と同じ能力を持つ斗賀乃先生。
 そして、その能力についてすべてを知っているような先生。
 ――お前の夢から逃げるな。背負うものからも逃げるな。
 万丈目が翼に伝えた言葉。
 自分に本当に向き合うならば、斗賀乃先生と向き合うことも避けて通れない。

「分かった。斗賀乃先生とのデュエルをセッティングしよう。
 君にとって大事なデュエルのようだから、きちんと準備なさい」

 本当の自分を知るために、闘わなくてはいけない相手。
 迫る運命の決闘を思い描き、翼は自分のデッキを強く握り締めた。





第2章 「置いてきた影」に続く...

第2章(8話以降)はこちらから






章末特集1 久白翼の仲間達


オリカ満載で読者を泣かせる主人公のデッキを紹介&まとめ。


―輝鳥 (シャイニングバード 日本語読みならばキチョウ)
古来の「世界は四元素から成立する」とする四元素説と
鳥を神の使いと崇める習慣からデザインされている。
古代信仰が源流のため、名称はすべてラテン語を元にしている。

儀式召喚に成功したときのみ、効果が発動する。
なお、効果はすべて強制効果である。
また、光属性以外にそれぞれの属性を併せ持つ。

〜四属性の輝鳥〜  ステータス:星7/鳥獣族/攻2500/守1900
名前ラテン語意味効果
輝鳥-テラ・ストルティオTerra Struthio大地のダチョウ自分の墓地の鳥獣を復活
輝鳥-アクア・キグナスAqua Cygnus流水のハクチョウ場のカードを手札・デッキに戻す
輝鳥-イグニス・アクシピターIgunis Accipiter烈火のタカ相手に1000ダメージ
輝鳥-アエル・アクイラAer Aquila旋風のワシ魔法・罠全て破壊

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

《輝鳥-イグニス・アクシピター》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「炎」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
ATK/2500 DEF/1900

《輝鳥-アエル・アクイラ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
ATK/2500 DEF/1900

〜超属性の輝鳥〜  ステータス:星10/鳥獣族/攻3000/守2500
※四属性の輝鳥のうち1体を場から生け贄にしなければ、儀式召喚できない。
名前ラテン語意味効果
輝鳥-ルシス・ポイニクスLucis Phoenix光輝の不死鳥相手モンスター全て破壊

《輝鳥-ルシス・ポイニクス》 []
★★★★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードを手札から儀式魔法により降臨させるとき、
自分フィールド上に存在する「輝鳥」と名のつく
儀式モンスターを生贄に捧げなければならない。
このカードの属性はルール上「風」「水」「炎」「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。
ATK/3000 DEF/2500

輝鳥は《輝鳥現界(シャイニングバード・イマージェンス)》という儀式魔法により降臨する。
これは手札からモンスターを生贄に捧げることができず、
代わりに場とデッキから1枚ずつモンスターを生け贄に捧げる特殊な儀式魔法。
デッキから生贄を選択できるため汎用性は高く、墓地を肥やしやすい。
ただし、輝鳥のレベルは7か10であり、
考えた上でデッキを練らないと、召喚は難しい
(3+4=7、7+3=10など)。

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

―聖鳥 シリーズ
神秘的な力を帯びた鳥獣族の下級モンスター群。
サポートの効果が多く、特にドローやサーチに関する効果が多い。

(五十音順にて紹介。読み方はすべて音読み、子音kstnhmr+ei)
名前種類属性レベルステータス効果
英鳥ノクトゥアフクロウ☆3攻 800/守 400輝鳥を手札にサーチ
恵鳥ピクスキツツキ☆3攻 100/守 50戦闘ダメージ回避
聖鳥クレインツル☆4攻1600/守 400蘇生時にドロー
帝鳥ファシアヌスキジ☆4攻1800/守1200鳥獣を場から手札に
寧鳥コロンバハト☆3攻  0/守2000被破壊時にドロー
兵鳥アンセルガン☆4攻1500/守1400鳥獣のATK 400アップ
命鳥ルスキニアナイチンゲール☆3攻 500/守 400下級鳥獣を場にサーチ
霊鳥アイビストキ☆4攻1700/守 900儀式時にドロー

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400


《恵鳥ピクス》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 100 DEF/ 50


《聖鳥クレイン》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。
ATK/1600 DEF/ 400


《帝鳥ファシアヌス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
ATK/1800 DEF/1200


《寧鳥コロンバ》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 0 DEF/2000


《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400


《命鳥ルスキニア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げる事で、
自分のデッキまたは墓地から守備力400以下の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/ 500 DEF/ 500


《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900






第2章(8話以降)はこちらから






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