神の名を受け継ぎし者達
後編

製作者:ショウさん




第21章 力を求めて――6大精霊の元へと

「“デストロイド”討伐のため・・・、今から君達にしてもらいたいコトがある」
 真剣な表情でゼオウはそう言った。
 そんなゼオウの真剣な表情に、翔達は驚き、少しだけではあるが、怯んでしまう。
「結論から言わしてもらうが・・・、君達は今のままでは“ファイガ・ドラゴニルク”どころか、“ファイガ”の部下達である、“第1部隊”や“第2部隊”にすら勝つことは出来ん。 ――運が悪ければ“第3部隊”にさえも、勝つことは出来んじゃろう・・・」
 ゼオウの言葉を聞き、再び聞きなれない単語があったことに気づいた翔が、彼の言葉を途中で止め、質問する。
「ん・・・? “第1部隊”とか・・・、何なんだ、それ?」
 翔の言葉を聞くと、ゼオウは「そういえば、説明しておらんかったかのう・・・」と、手で髭をいじりながら、そうつぶやき、説明を始める。

「“デストロイド”には、全部で5つの階級が存在しておるのじゃ」
 ゼオウは、深刻な面持ちで、説明を続けていく。


 “デストロイド”の5つの階級――。


 最も高いランクは、当たり前なのだが「ボス」。このランクの者は、これまた当たり前だが、ファイガ・ドラゴニルクだけである。


 2番目のランクは、「ボスの右腕」であり、ボスの右腕になった者(1人だけ)は、誰であろうが「デリーター」と呼ばれる。そして、そのデリーターだけが、常にボスと一緒に行動する事が出来る(ボスの指示によっては、ボスとデリーターが他の部隊を迎え入れ、大勢で何処かを進撃する、という場合がある)。


 3番目のランクは、「第1部隊」。このランクになることが出来る人数は、ボスやボスの右腕といったランクの人数とは違い、7人まで、となっている。そして、その内の2人(1ペア)が、タッグデュエル専門となっている。


 4番目のランクは、「第2部隊」。このランクになることが出来る人数は、100人まで、となっている。第1部隊と同等(もしくは少し弱い)くらいの力を持った者達の集団であり、主にデストロイドの基地(アジト)内部にいて、敵の進撃を防ぐ者達である。


 5番目のランクは、「第3部隊」。通称「落ちこぼれ部隊」とも呼ばれており、ボス、ボスの右腕、第1部隊、第2部隊、といったランクに入れなかった者達で構成されており、そのためか人数制限はない。第2部隊以上のランクの者達から指示があれば、それに従わなければならない。


「つまり・・・、オレ達は――」
「“デストロイド”の下っ端よりも弱い、っていうこと・・・?」
 神也が途中まで言うと、バトンタッチするかのようにして、神童がその続きを言った。そんな2人の言葉に、ゼオウは小さくうなずいた。
「それに・・・、今の君達では、当然ではあるが、ここにいるアンナにも勝つことは出来ないじゃろう――」



 その瞬間、彼の言葉によって6人は自覚した――、



自分達は無力だ、ということを――。



 そして――、



自分達の覚悟に反比例していた「力」に苦悩し始める――。



「クッ・・・」
 翔は、ぶつけようのない怒りにかられ、右拳で自分の左手の平を力強く殴る。他の5人も、そこまでの動作は無いものの、「力の足りなさ」をしっかりと噛み締めていた。そのせいか、全員が黙り、沈黙の時間が過ぎ去る――。
「大丈夫じゃよ・・・」
 そんな時、ゼオウが、沈黙を突き破るようにそう言った。彼の表情はとても温かく、全ての不安を包み込んでくれるかのようであった。
「この世界には、“6大精霊”という者達がおるのじゃ。 その者達とデュエルをし、勝つことが出来た時、君達は今まで以上の“力”を手にする事が出来るじゃろう――」



 「6大精霊」――。



 それが、翔達にとって、デストロイドと渡り合えるための「最後の希望」とも呼べる存在であった。



「じゃあ、“してもらいたいコト”っていうのは・・・、」
「その“6大精霊”と戦って、デストロイドと戦うための力をつけるっていうこと?」
 加奈、真利の順で、ゼオウに問いかけた。この質問に、これまたゼオウは、無言で小さく頷いた。
 その彼の頷きを見て、「4人」の士気は少しずつ上がっていった。


 ――だが・・・、


「でも・・・、その“6大精霊”っていうのは、何処にいるの? もしも、何処にいるのか分からない、っていう状況だったら・・・」


――唯一変化のなかった有里が、ゼオウにそう聞いた。
 有里の言葉を聞きながら、翔もまた同じ事を思い、ゼオウの目をしっかりと見つめる。


 その言葉を聞き、残りの4人も、暗い表情になってしまう。
 だが、そんな表情を、ゼオウの言葉が明るくした。
「――それなら大丈夫じゃ。 “6大精霊”の居場所は分かっておるし、ここにいるアンナにその道案内をさせるからのう」
 ゼオウはそう言って、アンナの背中をぽんっと叩いた。アンナは一度、ゼオウの方を見ると、翔達の方を見た。だが、アンナのその目は、ゼオウを見た時の目とは違い、鋭き目となっており、殺気すら感じ取れるものであった。その目に6人は驚き、怯えてしまった。
 ――それだけ、アンナの目は鋭く、そして怖かった・・・。

 ゼオウの言葉はそれで終わり、次はアンナが口を開き、説明し始めた。説明はとても分かりやすかったが、依然として、目は鋭いままであった。
「“6大精霊”に勝つことが出来た時、“次元”、“勇気”、“混沌”、“戦士”、“光”、“闇”という6つの力を手に入れることが出来る、と言われているわ」


 「次元」――それは、通常の場(フィールド)とは別の空間、異次元を操り、2つの世界を支配する力――


 「勇気」――それは、強大な力を前にしても屈することなく、前を向き、立ち上がり、戦い続ける力――


 「混沌」――それは、全てを守る光の力と、全てを破壊する闇の力の2つが混ざり合った力――


 「戦士」――それは、仲間との絆の力によって、どんな強大な力でも滅してしまう、覇者の力――


 「光」―――それは、どんな強大な力からも、全てを守り抜く純粋な守りの力、そして、全てを癒す癒しの力――


 「闇」―――それは、どんな強大な力でも、全てを破壊する純粋な闇の力、そして、自分の感情をコントロールする制御の力――


 アンナは、6つの力についての説明を終えた。説明をしていた時のアンナの声は、表情は、「憎しみ」で一杯だった――。

 何故、翔達にこれほどまでの憎しみを抱けるのか・・・?
 その理由は、簡単なことであった。

 自分には無い力――邪神を倒す事の出来る力を、翔達が持っているからだ。それが、羨ましくて、羨ましくて――、そして、その感情の逆の感情である「憎しみ」を呼び起こした。
 「認めない」・・・「認めたくない」――。
 一番長くゼオウの側にいて、彼に尽くしたいと思い、努力してきた自分よりも、弱い者達が邪神を倒す力を秘めている、という事実を、アンナは受け入れられないのだ。――いや、受け入れたくない、というべきか・・・。
 そんな理由を察したのは、翔とゼオウだけであった。他の5人は、何が何やらよく分からない表情で、鋭い目をしたアンナを見つめるばかり――。

「“6大精霊”が具代的にどんな奴かっていうのは、分かってるのか? ――“アンナ”」
 その時翔は、何を思ったか、慣れなれしくアンナを呼び、アンナの右肩を左手でポンッ――と叩いた。アンナは今、機嫌が悪い、という事を知っていながら、だ。
「――ッ!? 慣れなれしく呼ばないでっ!!」
 その瞬間、アンナはそう叫んで、翔の頬を思い切りビンタした。それにより、バシンッ――という乾いた音が、洞窟内に響き渡る。そんな光景を見て、他の兵士達やゼオウも含め、全員が口を大きく開けて驚くが、翔は痛む頬を押さえながら平然と立ち上がり、目を点にしたような表情で口を開けた。
「何で!? ――洞窟(暗い道)を歩いてた時は、何にも言わなかったのに・・・っ!!」
 そう言って、翔は口を大きくして笑うと、アンナをからかった。
 翔の言葉のおかげで、アンナを含めた7人全員の表情が、何処と無く穏やかになっていき、それと同時に、活気をも取り戻し始めた。
(ホォ〜・・・)
 翔の言動の理由を唯一理解した人物――ゼオウは、自分の髭をいじりながら、関心の眼差しで、翔の方を見ていた。

「さて・・・、早く行った方が良いのかな、王様――」

 しっかりと背を伸ばしながら、翔はそう言った。そんな彼の背には、デュエルディスクやデッキに入らない、余りのカードが入ったリュックが担(かつ)がれていた。また、彼の信じるデッキは、彼自身の腰に着いているデッキケースに収納されていた。その姿は、いつでも出発が出来る、ということを表していた。

「うむ。 出来ればすぐに行って欲しい所じゃが・・・、確認のために1つだけ言っておくぞい」
 ゼオウは、出発しようとしていた翔達6人を止め、言葉を続けた。
「――“6大精霊”とのデュエルは、その名の通り“決闘”。 負けは死を意味しているぞ・・・
 ゼオウの言葉を聞き、翔達の表情が一瞬だけ青ざめた――。「死」という言葉に驚き、恐怖したからだ。

 だが――、戦わなければ、自分達の覚悟が、水の泡になってしまう・・・。

 この世界が、“邪神”の力によって、滅ぼされてしまう・・・。

 6大精霊とのデュエルで手に入れる事の出来る力が無ければ、その邪神はおろか、デストロイドにすら勝つことが出来ない――。

 そんな思いが、翔達の頭の中を巡り、やがて、彼等に「言葉」を託した。




 死と向き合う覚悟を持て――――ッ!!




「あぁ・・・! 分かってる・・・!! ――なぁ、みんなっ!」
 そう言って、翔達6人は大きく笑って見せた。

 その表情は、作られた笑みではなく、6人の素直な笑顔であった。



 死なんてものは、百も承知――。元々、死と向き合わなければデストロイドとは戦えない・・・。――ただ、死と向き合う時期(とき)が早くなっただけ。


 そう考えるだけで、前を向く事が出来る――。


 自分達の中にある覚悟が、「何か」が、昂ぶっていく――!


「さぁて・・・、行くかな。 有里! 神童! 真利! 神也! 加奈! アンナ!!」
 翔はそう叫んで、全員を呼んだ。翔の叫びに合わせて、5人は大きくうなずいた。だが、アンナだけは違った――。
「私に命令しないで!」
 翔の言葉にそう反応しながらも、アンナはしぶしぶと翔達の下まで歩き、そして6人と一緒に歩き始める――。



「――なぁ、アンナ。 6大精霊の力っていうのは、自分達では決められないのか?」
 7人はどうでもいいようなことを喋りながら歩いて行った――。まるで、遠足に行くかのように、楽しく喋りながら。
「だから、呼び捨てにしないで。 ――って・・・、言ってもダメみたいね。 まぁ、“6大精霊”が自分の力を誰にあげるか、っていうのを決めるから・・・、自分達では決められないわ」
 アンナは翔を軽く攻撃しながら、翔の質問に答えた。そんなアンナの言動に、翔は笑ってばかりだ。そんな2人の言動を見て、他の5人も笑みを浮かべていた。



 そんな7人の姿を見て、ゼオウは優しく笑った――。



(フッ・・・、何でかのう・・・? クリア――、いや翔くん達を見ていると、世界が崩壊する事なんぞ、想像出来んわい・・・。 お前も同じなのじゃろう・・・? ――シンよ・・・)
 ゼオウは、その7人の背中に、確かな「大きさ」を感じ取っていた――。

 自分を越える、息子(シン)を越える――、自分や息子が持っていなかったものを、翔(クリア)達は持っている――、そう思ってしまう。

 そんな自分を、そんな翔達を見て、ゼオウは笑った。


 そして、彼はその笑みを、現実世界(リアル・ワールド)の何処かにいるシンに見せるようにした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 現実世界(リアル・ワールド)――。

 克(シン)は、自分の部屋の棚を漁り、何かを探していた。既に克の部屋は、ゴミ屋敷と呼べるくらい汚くなっており、克もその汚さに苦悩しながら、何かを探し続けていた。そんな彼の後ろでは、奈々が、ゴミ屋敷になりつつある彼の部屋を、綺麗に掃除しようと、奮闘していた。


 そんな時に、彼は見つけた――。1枚のカードを――。



 それには、「全ての闇を消し去る虹の光」が描かれていた――。



 そのカードを克は手に取ると、そのカードを持つ手に少しだけ力を込めた。そして、真剣な眼差しで遠い何かを見つめる。


(――“ガイアの遺産”は・・・、絶対に助ける! そして“オレの遺産”――いや、翔も・・・絶対に!!)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 暗黒の空間(ダークネス・ルーム)――。

 闇で支配された空間の中に、自身の形を留めつつある3体の邪神と、ファイガの姿がそこにはあった。
「“邪神”達よ・・・。 もうそろそろだが・・・、いけるか?」
『アァ・・・、モウ後2,3体食ベレバ、イケル・・・!!』
『モウ少シダケ待ッテイロ・・・!』
『スグニ、“レジスタンス”ナドトイウ、雑魚共ヲ消シニイクサ・・・!!』
 邪神達の口の中には、闇に飲み込まれたモンスターの残骸が残っていた。このモンスターの残骸こそが、ゼオウの言っていた闇の魔物(ダークモンスター)である。
 そして、邪神達の言葉を聞くと、ファイガは嫌味ったらしく、そして大きく笑って見せた。


「もっともっと強くなってくれよぉ、――クリア・シャインローズ・・・! オレは、弱いお前を倒したくないんだ・・・っ!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翔達は、周りが大自然で覆われた場所で、立ち止まっていた。
 アンナを除く翔達6人は、こんなところで立ち止まった理由を調べるように、辺り一面を見回していたが、すぐに何も無い、という事に気づいた。
 そして、翔がそれについて、アンナに話しかけようとするも、彼女は自分の首に掛けてあったペンダントを握って、なにやら呪文のようなものを唱えており、話しかける雰囲気では無くなっていた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 アンナが呪文を唱えている中、翔達は何もすることが無くなり、地べたに座っていた。

 次の瞬間――。

「“開錠”ッ!!」

 アンナは自分の握っているペンダントに、力を込めて、大きく叫んだ。

 その力に、叫びに反応して、彼女を中心とした、光り輝く巨大な六角形の魔方陣が出現した。翔達がその光り輝く魔法陣に驚き、彼女の側へ寄っていこうとする間に、魔方陣の6つの角から、それぞれ1つずつ、扉が姿を現した――。

 一瞬の内に、翔達を中心に、全部で6つの巨大な扉が姿を現した。

「――驚いたぁ〜・・・けど・・・、大自然に“扉”って・・・、アンバランス過ぎるだろ・・・っ!」

 翔はそう言って、扉に突っ込まんばかりのツッコミをしてみせた。
 そんな風に、彼がツッコミを入れている間に、アンナは1つの扉を発見し、全員をその扉の前まで集める。その扉には、巨大な炎が描かれていた。
「ここが、“1体目の精霊”のいる空間――“炎空間(プロミネンス)”への入り口よ――。 ここで・・・、“次元”の力が手に入るわ――」
 アンナはゆっくりとそう言った。
 残りの6人は、大きく唾を飲み込む。
 緊張が体を走り、全員のリュックに入ったデュエルディスクからは、カタカタ・・・という、小刻みに震える音が聞こえてきた。つまりそれだけ、体が緊張で震えているのだ。
「じゃあ、開けるわよ・・・!!」
 そう言って、アンナは扉のノブを右手で強く握る――。

 そして、力強くバッ――と開けた。



第22章 1体目の精霊――紅蓮魔獣 ダ・イーザ

 アンナが力強く扉を開けると、そこには、全く別の空間が広がっていた。

 扉からその空間に入った瞬間、目の前に見えるのは遥か遠くにまで続く一本道だけ――その一本道以外は全てが炎に支配されていた・・・。
 まさしく“炎空間(プロミネンス)”である。

 炎がプロミネンスを支配しているため、プロミネンスの気温は、有り得ないと言いたくなるくらい“高い”。そのためか、翔達の体からは大量の汗が出てきていた――。服も汗のせいで、男女問わず、体にびっちりと張り付いている(うん、ここはあんまり関係ないな)。だが、そんな中でも、翔達は一本道をひたすらまっすぐ突き進んでいた。
「ここには、何ていう精霊がいるんだ?」
 翔が気になって、アンナに問いかける。すると、アンナはしばらく考え、何の精霊だったかを思い出すと、翔の方を見て小さく口を開く。

「“紅蓮魔獣 ダ・イーザ”よ――」
 アンナの説明は無愛想ではあったが、翔達にとっての精霊の説明は、それだけで充分であった。
 除外されたカードの枚数分攻撃力を上げていき、デッキによっては強大な攻撃力を持つ事が出来るモンスター――そして、“炎”属性。
「だから、“炎”の空間――“プロミネンス”なのか・・・」
 神也は感心するように、辺りを見回しながら、そうつぶやく。


 しばらく歩いていると、一本道の幅が少しずつ広がっていき、ふと辺りを見回すと、そこは既に、デュエルが出来る程の広さがあるバトルフィールドとなっていた。更には、自分達が進んでいた道は炎によって閉ざされ、バトルフィールドの周りは炎の海と化していた――つまり、バトルフィールドから脱出する事は不可能。

「ここに・・・、いるの・・・?」
「えぇ・・・!!」
 真利の言葉にアンナが小さく返事をする――。




 次の瞬間――。



 翔達の目の前の炎が形を変えていき、巨大な炎の柱を象る――。そして、その炎の柱が無くなった時、そこにいたのは、まさしく“精霊”の姿であった。
 赤き骨と肉で体を形成しており、その鋭き爪は全てを切り裂く――、その長き尾は全てを叩く――、その巨大な翼は全てを吹き飛ばす――、その赤きオーラは強大な力を示す――。
 “魔獣”――この精霊の姿を見て出てくる言葉は、そのくらいしかなかった――。


「これが・・・、“6大精霊”の1体目――」
「“紅蓮魔獣 ダ・イーザ”・・・ッッ!!」
 加奈、有里の順で、そう言った。
 炎の柱から出現した魔獣は、空高くから翔達7人を見下ろしていた。そして、しばらくすると、突然、魔獣は口を開き、喋り始める。
『貴様等が・・・、“神の名を受け継ぎし者達”か・・・?』
 魔獣のその言葉に、アンナを除く6人が、震えながらも、小さくうなずいた。そんな時、震えていた6人を押しのけるようにアンナが一歩前に出て、魔獣の方を見る。

「私が、“ゼオウ・シャインローズ様”の使い――“アンナ”と申します。いきなりで悪いのですが、今、“デストロイド”――及び“邪神”を倒すため、この“神の名を受け継ぎし者達”を更に強くしなければなりません・・・!そこで、“次元の精霊”である“ダ・イーザ様”の力を私たちに頂けないでしょうか・・・?」
 アンナはそう魔獣に質問する。そんなアンナの体は、小さくではあったが震えていた。やはり精霊というだけはあってか、かなりの威圧感を持っているようだ・・・。
『“ゼオウ”の頼みならば、仕方が無い・・・。だが、“次元”の力を受け渡す方法は、ただ1つ――我とのデュエルで勝利する――。それは、聞いているな?』
 魔獣の言葉に、翔達6人は、再度うなずいた。

 すると、次の瞬間、魔獣は急激に落下を始め、翔達と同じ目線の高さにまでたどり着く。そして、鋭い眼光で、翔達6人を見渡し、“次元”の力を受け取るに相応しい人物を探し始める――。
 魔獣は、その人物を見つけると、指でその人物を指差す・・・。









 その・・・“人物”――とは・・・?



「え・・・!?ボク?」
 魔獣の指は、神童を指していた。だが、魔獣は、次の瞬間、『貴様の後ろの者だ』と言い、神童をどかす。そこに立っていたのは――、







“真利”――。







「え・・・?私!!?」
 神童のリアクションを少し大きくしたくらいのリアクションをとると、魔獣は、小さくうなずいた。
 そして、魔獣は自分の左腕の一部を真紅に染まったデュエルディスクに変化させる――。カードスペースが一気に展開し、何も無いところから、魔獣のデッキも出現する。それを魔獣は、デュエルディスクにセットし、構える。

『さぁ・・・、デュエルだ。小娘――』
 魔獣の言葉に、少しだけ怒ったのか、真利は自分以外の6人を後ろに下がらせると、リュックの中に入れていたデュエルディスクを取り出し、左腕に装着――そして、展開させる。デッキは、既にデュエルディスクにセットされているようだ。


「私の名前は、“明神 真利”――!“小娘”なんかじゃないっ!!」
 加奈とアンナを除く4人は、真利の怒った姿を見た事が無い――そのためか、真利の怒りの言葉にひどく驚き、そして怯えてしまう・・・。
『そうか・・・では、真利。貴様に、我が“次元”の力が相応しいかどうか・・・、試させてもらうぞっっ!!!』
 魔獣の言葉を聞き、真利は目を閉じる――。



 “精神集中”――。



 そして、真利は今までの出来事を振り返り始める・・・。




 いつもと変わらない日常から、こんな“非”日常的な場所に飛ばされ、そして、“非”日常的な出来事に巻き込まれてしまった――。

 その出来事とは――、

自分達が特別な力を持った“神の名を受け継ぎし者達”で、“邪神”という強大な力を持つ敵を復活させようとする“デストロイド”を倒さなければならない、というもの――。
 そして今、その“デストロイド”を倒す力を手に入れるために、ここでデュエルをしようとしている――。

 何で、自分がこんな事をしているのか、分からないときがある――。



 でも、震えるアンナやゼオウ、そして大勢の兵士の姿を見て、この空間の住人の人達はみんな苦しんでいるんだ、という事が分かった。そして、そんな姿をしている人達が近くにいるのに、見てみぬフリなんて出来なかった・・・!

 だから、戦う――。




 “デストロイド”を倒すためにも――、









負けられない――ッッ!!!!





「行くよ・・・っ!!」
『我の先攻からで行くぞ――ッ!!』


























――――――デュエルッッ!!!!


 真利と魔獣は、同時にデッキの上からカードを5枚ドローする。

 その瞬間、辺りの炎が一気に爆発し、これから始まるデュエルの激しさを表し始めた――。
 激しきデュエルが――、今――、




――始まる



第23章 真利VSダ・イーザ――封じられた帝

『ドローッ!!』
 そう言って、魔獣はデッキの上のカードを1枚引き、ゆっくりと手札に加える。そして、その手札をしばらく眺めると、手札から2枚のカードを抜き、一気に場に出す。
『我は、“異次元の生還者”を攻撃表示で召喚!カードを1枚伏せ、ターンエンドッ!』
 魔獣の目の前に現れたモンスターは、体をマント(布)のようなもので体を覆い、放浪者のような姿をしていた。
 魔獣のあっさりとしたプレイに、逆に違和感を持ちながら、真利はデッキの上に手をかける。

ダ・イーザ LP:4000
      手札:4枚
       場:異次元の生還者(攻撃)、リバース1枚

 そして、真利はカードを1枚引き、手札に加える――。

ドローカード:雷帝ザボルグ

 引いたカードを見て、真利は笑みを浮かべてしまう。
 そして、「いける!」と判断すると、頭の中で考えた戦術を行い始める。
「私は手札から“デビルズ・サンクチュアリ”を発動!“メタルデビル・トークン”を場に呼び出すッ!!」
 真利の目の前に漆黒の魔方陣が出現した瞬間、魔獣がそれを待っていたかのように伏せていたカードを発動させる。
『リバースカード――“マクロコスモス”ッ!!』
「なっ・・・、いきなり!!?」
 真利は目を見開いて驚いてしまう――。
 魔獣のデッキが、“除外デッキ”だという事は悟っていた・・・。だが、こんなにも早くキーカードが手札に来ているとは思っても見なかった――。

マクロコスモス
永続罠
自分の手札またはデッキから「原始太陽ヘリオス」1体を特殊召喚する事ができる。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、
墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。

『“マクロコスモス”の効果で、我は“原始太陽ヘリオス”を守備表示で特殊召喚するぞ――』
 そう言うと、魔獣は見えない力でデッキの中からカードを1枚取り出すと、それを力強く場に出した。そのモンスターは、太陽を頭上に持ち、その太陽によって自身の体を保っていた――。
「でも――っ、“デビルズ・サンクチュアリ”の効果は発動される!」
 真利がそう叫ぶと、目の前に出現していた漆黒の魔方陣から黒き塊が姿を現した――。その黒き塊は、一瞬で自身の姿を魔獣の姿へと変化させる。

デビルズ・サンクチュアリ
通常魔法
「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を
自分のフィールド上に1体特殊召喚する。
このトークンは攻撃をする事ができない。
「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、
かわりに相手プレイヤーが受ける。
自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。
払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

「そして、“メタルデビル・トークン”をリリースし――」
 真利がそう言うと、黒き塊の体は光の粒子となり、空高く舞い上がっていく・・・。そして、次の瞬間、光の粒子は、新たなモンスターへと変化する――!
「現れて――“雷帝ザボルグ”ッッ!!!」
 出現する――、


雷を示す、白き鎧を身に纏った“帝王”が――。



ギギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!


 そしてその雷の帝王は、雄叫びを上げる――。



 自分がここ(フィールド)にいる祝福を実感するかのように――、この時を楽しむかのように――。



「“ザボルグ”の効果発動っ!!フィールド上のモンスター1体――“原始太陽ヘリオス”を破壊するッッ!!!」


雷帝ザボルグ
効果モンスター
星5/光属性/雷族/攻2400/守1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、
フィールド上のモンスター1体を破壊する。


雷の裁き(ライトニング・ジャッジ)――!!!

 雷の帝王は、真利の叫びを聞き、それに応えるかのように宙へと舞い上がる。そして、背負っている雷の太鼓を鳴らし、強力な雷を放つ――。
 その雷は、一瞬のうちに、太陽をモチーフにしたモンスターを消滅させてしまう――。

「まだよっ!“ザボルグ”で、“異次元の生還者”に攻撃!!」
 雷の帝王は、宙に舞っている状態のまま、再度雷を放出し、放浪者のようなモンスターをその雷で貫いた。

ダ・イーザ LP:4000→3400

「何やってんの、真利!!“異次元の生還者”は、表側表示で除外されたら復活するんだよ!!?」

異次元の生還者
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1800/守 200
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードがゲームから除外された場合、
このカードはエンドフェイズ時にフィールド上に特殊召喚される。

 加奈は、デュエル中の真利に向かって大きく叫ぶ。そんな加奈をアンナを除く翔達は抑えているが、翔達の心の中にも、同じような気持ちは残っていた――。
 どうせ復活するならば、攻撃などせず、そのままで良いのではないか――、と。

 だが、攻撃すれば、少なからずダメージを与える事は出来る。それを見計らっての攻撃なのだろう――。

「私はこれでターンエンド――」
 そう言って、真利は自身のターンを終了させる。真利のその声と同時に、先程雷で貫かれた放浪者のようなモンスターが、再び姿を現した――。

真利 LP:4000
   手札:4枚
    場:雷帝ザボルグ(攻撃)

『我がターンだな・・・?ドロー』
 そう言って、魔獣は、その大きな手で小さなカードを1枚引き、手札に加える。
『我はカードを1枚伏せ、手札から魔法カード――“手札抹殺”を発動するっ!!』
 魔獣の叫びを聞き、ここ(プロミネンス)にいるほぼ全ての人物が目を見開き驚いてみせる。
 手札抹殺――それは、互いのプレイヤーの手札全てを墓地に送る――が、今現在のフィールドには、全てのカードを除外するマクロコスモスが・・・。つまり、互いのプレイヤーの手札全てが除外されるのだ。
 それに・・・、真利の手札には・・・、

「くっ・・・」

もう2体の帝王、氷の帝王と炎の帝王があった・・・。
 真利は仕方なく、その2体の帝を含めた手札4枚を除外ゾーン(?)である自分のポケットに入れると、デッキの上からカードを改めて4枚ドローする。それと同時に魔獣も、3枚の手札を今この空間から消滅させると、改めて3枚カードを引く。

手札抹殺
通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

『更に手札から魔法カード、“地砕き”発動!』
「なっ・・・!!?」
 魔獣の発動したカードを見て、真利は驚いてしまう。だが、真利の驚きをよそに、雷の帝王の体は膨張していき、爆発寸前まで膨れ上がっていく――。

『砕け散れ!“雷帝ザボルグ”ッッ!!!』





ドッ――!!!


 そして、膨張した雷の帝王は、一瞬で砕け散った――。


『カードを1枚伏せ、“生還者”でダイレクトアタック!』
 放浪者のようなモンスターは、勢いよくジャンプし、真利を思い切り蹴り飛ばす。異次元空間(アナザー・ワールド)のせいもあってか、放浪者の蹴りを喰らい、真利は大きく吹き飛ばされてしまう・・・。

「キャアアアアッ!!!」
 吹き飛ばされたとき、真利は甲高い悲鳴をあげてしまう。
 そんな声を聞き、全員が――特に神童が、怒りをあらわにする・・・。
 だが、そんな怒りを止めたのは、唯一冷静であったアンナであった――。

「ダメよ・・・!」
 そう言って、アンナは、強く拳を握り締めていた神童の手をつかむ。神童は、そんなアンナの手を力強く振り払い、怒りをあらわにし続ける。
「まだ分からないの!?あの子は、あの子自身の意志で、デュエルしてるっていうことを――っ!!」
 アンナの言葉を聞き、神童は握り締めていた拳をゆっくりと開く・・・。そして、小さく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ始める――。


 そんな中、吹き飛ばされた真利は、吹き飛ばされながらもゆっくりと立ち上がろうとしていた・・・。

『やはり、立ち上がるか・・・』
 魔獣は小さくつぶやいた。

真利 LP:4000→2200

「えぇ・・・。“デストロイド”に・・・、勝つためにも・・・っ!」
 そう言って、真利は、魔獣の方を見つめる。

 そんな真利の瞳を見て、魔獣は誰にも気づかれないように笑うと、カードを1枚伏せ、ターンエンドを宣言する。

ダ・イーザ LP:3400
      手札:1枚
       場:異次元の生還者(攻撃)、マクロコスモス、リバース2枚

「私のターン、ドローッ!!」
 力強くデッキの上からカードを1枚引く真利――。

ドローカード:風帝ライザー

 そのカードは、4体目の帝王――風の帝王であった。更に、手札には風の帝王を出すためのキーカードが既にある・・・。

(いける!!)

 ――確かに、真利はそう感じ取っていた。


「手札から魔法カード、“クロス・ソウル”を発動っ!」
 次の瞬間、魔獣の目の前にいた放浪者のようなモンスターの姿が光の粒子となり、その姿を消していく――。

クロス・ソウル
通常魔法
相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動する。
このターン自分のモンスターをリリースする場合、
自分のモンスター1体の代わりに選択した相手モンスターをリリースしなければならない。
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

「そして、アドバンス召喚!――“風帝ライザー”ッ!!!」




 真利は高らかにそう宣言し、風の帝王を召喚しようとする――が・・・?





シ〜〜〜〜ン・・・



 何の変化も起きなかった――いや、始めから起きていなかった・・・。



 真利の手札には、発動したはずのクロス・ソウルと召喚したはずの風の帝王――風帝ライザーがあった・・・。更には、光の粒子となったはずの放浪者のようなモンスターも、その姿をフィールド上に残している。

「えっ・・・?何・・・で・・・?」
 真利のそんな疑問は、魔獣の目の前で開かれていた1枚のカードで解決した――。

 巨大な仮面――、その仮面の額の部分には、「封」と書かれてあった・・・。そして、「生贄」とも書かれてあった――。



 “生贄封じの仮面”――!!



「なっ・・・、もしかして・・・、そのカードが・・・?」
『その通り・・・。この“生贄封じの仮面”が、真利――貴様のカードの召喚と発動を封じ込めた――』

生贄封じの仮面
永続罠
いかなる場合による生け贄も行う事ができなくなる。

 動揺した真利が、震えながら声を絞り出す。
「でも・・・、何で・・・?“生贄封じの仮面”は、生贄召喚にチェーン出来ないんじゃ・・・!?」
『このカードを発動したのは、そのタイミングではない・・・。貴様がその“ライザー”を手札に加えたときに、だ。浮かれていたからな――。他の者達は気づいていたが・・・』
 魔獣の言葉を聞き、真利は顔を真っ赤にする。そして、そんな顔の状態で、真利は周りにいるみんなの顔を見る。“何故か分からない(?)”が、みんなの顔は、ぎこちない笑いで一杯だった。自然と真利の目からは涙が出てきていた――。

『フッ・・・、泣く余裕すら与えぬぞっ!リバースカード!!“マインドクラッシュ”ッッ!!!』

キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!

 魔獣が発動したカードによって、真利の手札がロックオンされてしまう・・・。


『“風帝ライザー”・・・』


パリィイイイイイイイインッ!!

 そして、真利の手札にあった風の帝王は、一瞬で砕けた――。

マインドクラッシュ
通常罠
カード名を1つ宣言する。
相手は手札に宣言したカードを持っていた場合、
そのカードを全て墓地へ捨てる。
持っていなかった場合、自分はランダムに手札を1枚捨てる。

 真利の目の色が、ゆっくりと絶望に変わっていく――。
「くっ・・・、カードを3枚伏せて、ターンエンドッ!!」
 真利は手札のカードを一気に3枚場に出し、自棄(やけ)になりながらターンエンドを宣言する。

真利 LP:2200
   手札:1枚
    場:リバース3枚

『我のターン――ドロー』
 そして、魔獣は、真利とは全く逆の道を進んでいった――。
 真利は“絶望”――魔獣は“希望”――。

『このカードだ・・・、このカードを待っていたんだっ!!』
 そう魔獣が叫ぶと、魔獣はそのカードを力強く場に出した。
『永続魔法・・・“魂吸収”ッ!!!』



ドッ・・・クンッ・・・



 鼓動――。


 異次元と魔獣が――、繋がった――。


魂吸収
永続魔法
このカードのコントローラーはカードがゲームから除外される度に、
1枚につき500ライフを回復する。

「えっ・・・?まさ・・・か・・・!」
 真利は一瞬で悟った――。魔獣の次の一手を――。

『“封印の黄金櫃”発動・・・』
 突然上空に出現する巨大な黄金櫃。その黄金櫃にたった1枚のカードが収められ、黄金櫃の姿は消えていった――。

 このカードによって、2枚のカードが除外された事となり、魔獣のライフ回復が始まった。

封印の黄金櫃
通常魔法
自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。

ダ・イーザ LP:3400→4400

『更に“封印の黄金櫃”で除外したカードは、“ネクロフェイス”!よって、互いのプレイヤーはデッキの上からカードを5枚除外!』
 魔獣の言葉を聞き、真利は自分のデッキの上に手をかけ、カードを5枚取り出した。その5枚の中には、闇の帝王と地面の帝王のカードがあった――。
『除外されたカードの中に、2枚目の“ネクロフェイス”があった!それにより、互いのプレイヤーは再びデッキの上からカードを5枚、除外する!!』
 真利は更にカードを5枚取り出し、除外する――。その5枚の中には、最後の帝王・・・、光の帝王が――。
 ――そうこうしている間に、魔獣のライフは次々と回復していた・・・。

ダ・イーザ LP:4400→9400→14400

「私の・・・帝達・・・が・・・」
 真利の目からこぼれる涙――。

 全滅――。




 真利の切り札が、その姿を消した――。



『終わり・・・か・・・』
 魔獣は小さくそうつぶやいた。


 他の者達も真利の敗北を感じ取る中・・・、加奈だけは違った。加奈だけが、神に祈るかのように両手を合わせ、目を閉じ、念じていた。
(終わりじゃない・・・!真利のデッキには、“あのカード”が入ってるから!!!――だから・・・!!)
 そして、加奈は目を見開き、大きく叫ぶ。


――――――――立てぇええっ!!!真利ィイイイイイイイイイイイイイイッ!!!――――――――

 そして、真利の中で、「絶望」という1つのターンが、終了する――。

真利 LP:2200
   手札:1枚
    場:リバース3枚

ダ・イーザ LP:14400
      手札:0枚
       場:異次元の生還者(攻撃)、マクロコスモス、生贄封じの仮面、魂吸収



「そうだ・・・、私は・・・、まだ負けてないッ!!!」
 真利は立ち上がる――、前を向く――、カードを力強く握る――。
 そして、デッキを――信じる――。



第24章 次元の力を――帝の新たなステップ

「私はまだ負けてないッ!!」
 ボロボロになりながらも立ち上がって・・・、真利はそう叫ぶ。それは、辺り一面を響かせ、全ての者の心に届く――。アンナの心にでさえも・・・。

『だが、まだ我のターンだったな・・・?“生還者”で、ダイレクトアタックだっ!!』
 魔獣の攻撃宣言と共に、放浪者のようなモンスターが空高く舞い上がり、真利に向かって蹴りかかる。だが、真利は臆することなく、伏せていたカードを勢いよく開いた。
「リバースカード!“ホーリーライフバリアー”!私の残り1枚の手札を捨てることで、このターンのダメージを全て0にするっ!」
 真利は、自分の左手に握られていた最後の手札――“クロス・ソウル”を除外ゾーンとも呼べる自分のポケットに入れる。すると、真利の目の前に、聖なるバリアが出現。放浪者の蹴りは、そのバリアによって遮られてしまった。

ホーリーライフバリアー
通常罠
手札を1枚捨てる。
このカードを発動したターン、相手から受ける全てのダメージを0にする。

『ホォ・・・。“ホーリーライフバリアー”か・・・。だが、そのカードとコストのカードによって、我は更にライフを回復させるぞっ!!』

ダ・イーザ LP:14400→15400

「ライフポイントが・・・、1万を軽く超えている・・・!?」
 神童が、魔獣のライフを見て、隠しきれない驚きを見せた。
「ライフの数値なんて関係ない・・・。私のライフが0にならない限り、このデュエルは終わらないからっ!!」
 神童の驚きをよそに、真利は高らかに叫んで見せた。加奈の応援に勇気付けられ、真利は、小さな前進を遂げた――。
『我のターンは、これで終了だ・・・』
 魔獣の言葉を聞き、真利は目を光らせる。

ダ・イーザ LP:15400
      手札:0枚
       場:異次元の生還者(攻撃)、マクロコスモス、生贄封じの仮面、魂吸収

 そして、真利は力強くカードを1枚引き、手札に加える。

ドローカード:???

(来た!私の切り札!!)
 真利は今引いたカードを見て、大きく喜ぶと、そのカードを力強くデュエルディスクに差し込み、場に出すと、ターンエンドを宣言する。

真利 LP:2200
   手札:0枚
    場:リバース3枚

((フッ・・・、やはり“強い”――な))
 そう思うと、魔獣は、ゆっくりとカードを1枚引いた。
 親友(とも)の応援の中で立ち上がる真利に対し、魔獣は、巨大な強さを感じ取っていた――。
『我のターン!!』
 そう叫び、魔獣はカードを1枚引く――そして、その引いたカードもまた、魔獣にとっての切り札であった。
『我は・・・、“我自身”!“紅蓮魔獣 ダ・イーザ”を召喚するッッ!!!


 辺りのマグマが、大きなうねりを見せ、次第にそのうねるマグマは、魔獣の目の前で凝縮し、1体のモンスター――いや、魔獣“自身”となった。


紅蓮魔獣 ダ・イーザ
効果モンスター
星3/炎属性/悪魔族/攻 ?/守 ?
このカードの攻撃力と守備力は、
ゲームから除外されている自分のカードの数×400ポイントになる。

「これが・・・、“紅蓮魔獣 ダ・イーザ”・・・!」
 真利は、目の前に立ちはだかる強大な敵の姿に、体を・・・、そして心を震わせる。そして、そんな中で、「このモンスターを倒したい」という小さな欲望を浮かべていた。
『“武者震い”か・・・?』
「えぇ・・・、そうみたいねv」
 魔獣の質問に、真利はウィンクをしながら答えた。そんな真利の姿に、魔獣は再び小さく笑い、右手をバッ――と前に出す。
『我が切り札――“ダ・イーザ”の攻撃力は、7600!!倒せるものなら、倒してみろぉおおおおおおおっ!!!』





――――ヘル・ファイア・バーストッッ!!!





 魔獣の両翼から放たれた赤き炎が、混ざり合っていき、1つの“地獄(ヘル)”を生み出した。その炎は、超スピードで、真利の下へと向かっていくが、真利は再び伏せていたカードを発動させる。
「リバースカード!“攻撃の無力化”ッッ!!!」
 真利の目の前に出現した時空の穴に、その強力な炎は、飲み込まれていく――。

攻撃の無力化
カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「私は・・・、負けられない・・・ッ!」
 真利はそう言って、加奈の方を見た。加奈の顔を見て、真利は小さく笑って見せ、加奈もまた、それに応えるように小さく笑った。
「親友(加奈)のためにも・・・ッッ!!!」

『フッ・・・。我はこれでターンエンドだ』
 魔獣の言葉を聞くと、真利はデッキの上にゆっくりと手を置いた。

(この状況・・・、とてつもなくマズイ・・・!)
 真利は焦った表情で、自分のフィールド、そして魔獣のフィールドを見る。

真利 LP:2200
   手札:0枚
    場:リバース2枚

ダ・イーザ LP:15900(←“攻撃の無力化”が除外されたため、再び500回復)
      手札:0枚
       場:紅蓮魔獣 ダ・イーザ(攻撃)、異次元の生還者(攻撃)、マクロコスモス、生贄封じの仮面、魂吸収

 ハンド・アドバンテージに差は無い、むしろ、今からドローすることが出来る真利の方が、高いと言える――。
 だが、ボード・アドバンテージの差、ライフ・アドバンテージの差が、違いすぎていた――。

 一応、真利の場には、真利のデッキの切り札が伏せられているため、このドローで逆転する事が出来るかも知れない――だからこそ、真利はデッキの上に手を置き、カードをドローすることに怯えていた。

 このデュエルが始まる直前に、次元デッキの対策として入れたカード“3枚”の内の1枚を引くことが出来れば、逆転できる・・・。
 だが、こんな土壇場で、引くことが出来るのだろうか・・・?

 真利の手が、自然と震えていた――。武者震いではない、“恐怖”による震えだ――。真利の手が、自然とデッキから離れていく・・・。

「真利ィッ!!」
 そんな時、加奈が大きく叫び、真利を呼ぶ。真利は、加奈の叫びを聞き、デッキから遠ざけていた手の動きを止め、加奈のほうを見つめる。
「あんたは今、“デュエル”をしてるんだよね・・・?」
 先程の叫びとはうってかわって、静かに加奈が聞くと、真利は何も言わぬまま小さくうなずき、加奈の質問に答える。そのうなずきを見ると、加奈は再びゆっくりと口を開き、大きな声ではなかったが、真利に――、真利の心に届く声で言った。
「“デュエル”は、カードをドローしないと始まらない・・・。ドローしないと、“勝つ”のか“負ける”のか・・・、それさえも分からなくなるんだよ・・・?」
 真利にとって、加奈の応援はこれだけで充分であった・・・。
 涙ぐんできていた加奈の瞳を見て、真利も目に涙を浮かべ、それをこらえるようにしながら再度うなずいた。

「私のターン、ドローッ!!」
 そして、真利はカードを引く。
 友の期待に応えるように――、“勝つ”ために――。


「見せてあげるっ!“次元”のデュエルに備えて、私のデッキに加わった3枚のカードの内の1枚をッッ!!!」
 そう言って、真利は引いたカードを空高く掲げ、デュエルディスクに勢いよく差し込んだ。






――――“次元融合”ッッッ!!!!






真利 LP:2200→200

ダ・イーザ LP:15900→16400


 コストによるライフ減少と、カードが除外された事によるライフ増加が行われ、その直後、加奈と魔獣の間に、巨大な次元の歪みが出現する。

「“次元デッキ”を使うあなたなら分かるはずよ・・・。このカードの効果をッ!!」

次元融合
通常魔法
2000ライフポイントを払う。
お互いに除外されたモンスターをそれぞれのフィールド上に可能な限り特殊召喚する。

『ホォ・・・、そんなカードを加えていたのか』
 魔獣は、感心したようにそう言い放った。



 そして、次の瞬間――次元の歪みから、合計8体のモンスターが姿を現し、その内の5体は真利の下へ、残りの3体は魔獣の下で聳え立った。

「現れてッ!“光帝クライス”!“風帝ライザー”!“氷帝メビウス”!“炎帝テスタロス”!“地帝グランマーグ”!

 真利は、次元の歪みより出でし、5体の帝王の名を叫ぶ――。


『全てを粉砕しろッ!“紅蓮魔獣 ダ・イーザ”!“異次元の生還者”!“原始太陽ヘリオス”!“ヘリオス・デュオ・メギストス”!“ヘリオス・トリス・メギストス”!

 魔獣もまた、次元の歪みより出でし3体のモンスター、及び元々場にいた2体のモンスターの名を叫ぶ――。



『さぁ、どうするんだ?そちらのモンスターより、こちらのモンスターの方が、攻撃力は遥かに高い!それに、ライフもそちらは200だが、こちらは16400!!勝ち目は無い・・・ッ!!』
 魔獣は、上から目線で、真利にそう言った。だが、真利は屈することなく前を向き続け、そして、戦い続ける――。

「“クライス”の効果発動ッ!!あなたの“生贄封じの仮面”と“魂吸収”を破壊する!!」
 真利はそう叫びながら、右手を前に出し、目の前に聳えている光の帝王に指示を出す。その指示に答えるかのように、光の帝王は、自分の目の前で、光のエネルギーを凝縮し、矢の如くそれを一気に解き放った。



―――光の槍(ライトニング・アロー)ッ!!!




 光の槍は、魔獣の目の前で開かれていた2枚のカードを貫き、消滅させる――。だが、その光の槍の効力により、魔獣は新たに2枚のカードを手にしてしまった。

光帝クライス
効果モンスター
星6/光属性/戦士族/攻2400/守1000
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールド上に存在するカードを2枚まで破壊する事ができる。
破壊されたカードのコントローラーはデッキから破壊された枚数分の
カードをドローする事ができる。
このカードは召喚・特殊召喚したターンには攻撃する事ができない。

『ホォ・・・、これで我の回復源を絶った、というわけか・・・。だが、もう我がライフは、回復など必要とはしていないっ!それに、貴様が“魂吸収”だけでなく、“生贄封じの仮面”を破壊してくれたおかげで、我が手札は2枚も増えたわっ!!』
 魔獣は、増えた手札を見つめながらそう叫んだ。



 確かに、“回復源を絶つためだけに、クライスの効果を発動した”のであれば、生贄封じの仮面を破壊する必要は無かったはず――。つまり、真利の目的は、回復源を絶つというものでは無い。

「これで私はやっと・・・、“生贄(リリース)”が出来る・・・」
 そう言って、真利は伏せていたもう1枚のカードを発動させる。そのカードの絵柄が見えてきた段階で、魔獣は目を見開き、驚いた。
『まっ・・・、まさか・・・!その・・・カードは!!?』
「これが、私の切り札・・・!全てを滅するエレメントッ!!!」



































“エレメンタルバースト”ッッ!!!!









キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!



 真利がそのカードを発動した瞬間、光の帝王を除く4体の帝王の体が、光の粒子となり、集まり、凝縮していく――。そして、凝縮した“それ”は、巨大な斬撃の形となり、魔獣に向かって、放出された。
 魔獣の目の前に聳える5体のモンスターは、それに必死で抵抗しようとするも、その斬撃の前では全て無力――5体のモンスターだけでなく、魔獣の場にあったカードは、全て破壊された――――。

エレメンタルバースト
通常罠
自分フィールド上に存在する風・水・炎・地属性モンスターを
1体ずつ生け贄に捧げて発動する。
相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

「このターン、“クライス”は攻撃出来ない・・・。だから、私はデッキに加えた2枚目のカード――“天よりの宝札”を発動するわ」
 真利はもう1枚の伏せていたカードを発動する。
 光の帝王が光の粒子となり、その姿を消滅させた事で、真利は新たにカードを2枚ドローする。

天よりの宝札
通常魔法
自分の手札と自分フィールド上に存在する全てのカードをゲームから除外する。
自分の手札が2枚になるようにカードをドローする。

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンド」

真利 LP:200
   手札:0枚
    場:リバース2枚

 殺風景な光景であった――。

 場には、先程真利が出した2枚のカードしか無く、互いの手札もかなり少ない・・・。デュエル終盤にしては、妙に静かな状態であった。
 だが、そんな沈黙を打ち破ろうとしたのは、魔獣であった。

『フッ・・・、“エレメンタルバースト”は驚いたぞ・・・。だが・・・、甘い!』
 そう言って、魔獣はカードを1枚引き、“スタンバイフェイズ”に入る。すると、突然、魔獣の目の前に黄金櫃が姿を現し、その黄金櫃からは1枚のカードが出現、魔獣の手札にそのカードが加わった。
「“封印の黄金櫃”と“ネクロフェイス”ッ・・・!」
 真利は、黄金櫃の正体と、魔獣の手札に加わったカードを当ててみせた。
『その通り・・・!そして、“ネクロフェイス”の効果は知っているな?』

ネクロフェイス
効果モンスター
星4/闇属性/アンデット族/攻1200/守1800
このカードが召喚に成功した時、
ゲームから除外されているカード全てをデッキに戻してシャッフルする。
このカードの攻撃力はこの効果でデッキに戻したカードの枚数×100ポイントアップする。
このカードがゲームから除外された時、
お互いはデッキの上からカードを5枚ゲームから除外する。

「攻撃力アップ・・・!?」
 真利は、咄嗟にネクロフェイスの効果を思い出すと、自分のポケットの中に入ったカードの枚数を確認する。そこには、全部で22枚のカードが入っていた。
『正解。ちなみに、我の除外ゾーンには、15枚のカードがある・・・。つまり、“ネクロフェイス”の攻撃力は4900になる!!これで、終わりだァアアアアッ!!!』
 そう叫ぶと、魔獣は、力強くネクロフェイスを場に出そうとする。


 だが、真利は既にネクロフェイスの対策カードを伏せていた・・・。

 除外されているカードをデッキに戻されては困る・・・、そんな考えと共に、真利は伏せていたカードを発動させる。

「リバースカード、“神の宣告”!私のライフを半分にして、“ネクロフェイス”の召喚を無効ッ!そのまま、破壊する!!」

真利 LP:200→100

神の宣告
カウンター罠
ライフポイントを半分払う。
魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
どれか1つを無効にし、それを破壊する。

 真利のカウンターに対し、魔獣は舌打ちする。
 もう手札に残っていたカードは、あまり使えないカードであった。
『我は“次元の裂け目”を発動・・・、カードを1枚伏せ、ターンエンドだ』
 魔獣は悔しそうに、ターンエンドを宣言した。

ダ・イーザ LP:16400
      手札:1枚
       場:次元の裂け目、リバース1枚

次元の裂け目
永続魔法
墓地へ送られるモンスターは墓地へは行かずゲームから除外される。

 魔獣の伏せたカードは、グランドクロス――今の状態では、ブラフにしかならないカードであった。

「私のターン――ッ!!」
 そして、真利は引いた――このデュエルを終わらせるカードを・・・。

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

真利 LP:100
   手札:0枚
    場:リバース2枚

 真利は少しだけ苦悩する表情を見せた・・・。

 加奈とデュエルをしていた時に見せた表情と全く同じ――。


 でも・・・、このデュエルは、必ず勝たなければならないから・・・。



 “必ず”――。



『我は、手札から“天よりの宝札”を発動し、全部で3枚のカードを除外して2枚ドローする』
 そう言って、魔獣はデッキの上からカードを2枚引き、手札に加えた。

ドローカード:D・D・R、異次元の女戦士

((どうせ我はもう負ける・・・。ならば!))
 魔獣は自身の負けを静かに悟っていた・・・。だが、それを一切顔には出さず、前を向き、そして手札のカードを出し尽くす。



――――この壁を乗り越え、“次元”の力を手に入れてみろッ!!!



『手札1枚をコストに、“D・D・R(ディファレント・ディメンション・リバイバル)”発動ォオオオオッ!!!』

D・D・R
装備魔法
手札を1枚捨てる。ゲームから除外されている自分のモンスター1体を選択して
攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

サラサラサラ・・・

紅蓮魔獣 ダ・イーザ 攻/守:?→6800

 紅蓮の魔獣が姿を現したその時から、魔獣の体が、少しずつ砂になり始めていた・・・。
 少しずつ・・・、少しずつ・・・。

『“ダ・イーザ”で攻撃だ!!』
 巨大な炎が、真利を襲い始めるが、真利は悲しげな表情の中、伏せていたカードを発動させる――。
「“魔法の筒(マジック・シリンダー)”・・・。このカードの効果で、“ダ・イーザ”の攻撃は無効――それと同時に、“ダ・イーザ”の攻撃力分のダメージを与える」

ダ・イーザ LP:16400→9600

魔法の筒
通常罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える。


 何故、そんな悲しい表情をする・・・?
 魔獣は、真利の方を見ながらそう思った。


 もしかして・・・、気づいてしまったのか・・・?


 “6大精霊”の宿命(さだめ)を――、それとも・・・?


「私のターン・・・」
 真利は、涙を拭きながらカードを1枚ドローする。だが、引いたカードは使わない・・・。先程のターンで、伏せたカードで、魔獣にとどめをさせるから。


(何でだろう・・・。やっぱり、辛いよ・・・!相手を蹴落として、“勝つ”っていうのは・・・!!)
 真利の泣いていた理由は、魔獣の思っていた理由とは少し違っていた――。
 ただ、魔獣の事を思っていた、という点においては、合っていたのだろうか・・・。


「私は・・・、新たにデッキに加えた3枚目の・・・最後のカードを発動する・・・。“異次元からの帰還”――ッ!!」

真利 LP:100→50


異次元からの帰還
通常罠
ライフポイントを半分払う。
ゲームから除外されている自分のモンスターを可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。
エンドフェイズ時、この効果によって特殊召喚されたモンスターを全てゲームから除外する。

 真利の目の前に、光の帝王、漆黒の帝王、氷の帝王、風の帝王、雷の帝王が姿を現した。
 それと同時に、光の帝王は、大量の光の槍を放出し、紅蓮の魔獣の体をその槍で一気に貫いた――。


(たまに・・・、何で、泣くほど辛くなる“デュエル”をやってるんだろう?って、疑問に思うことがある・・・)
 真利は、涙が流れ続けている目を閉じ、ゆっくりと考え始める。

 その間にも、風の帝王が、鋭い風の刃で、魔獣の体を切り裂いていた――。

ダ・イーザ LP:9600→7200

(でも・・・、やっぱり止められない・・・)

 雷の帝王が、強力な雷を呼び起こし、魔獣の体を貫いた――。

ダ・イーザ LP:7200→4800

(だって・・・、好きなんだもん・・・!)

 氷の帝王が、巨大な氷柱を放出し、魔獣の体を再度貫いた――。

ダ・イーザ LP:4800→2400






――――――――――――――――――――デュエルが!――――――――――――――――――――


 そして、漆黒の帝王が、闇を凝縮して作り出した闇のエネルギーを魔獣目掛けて放出――魔獣の体を力強く吹き飛ばした。



ダ・イーザ LP:2400→0


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『我の負けだ・・・、真利』
「えぇ」
 魔獣の言葉を聞き、真利は笑顔でそう答えた。

 真利の大きな笑顔を見ると、魔獣は指をゆっくりと前に出し、指先で真利の額をちょんっ――と突いた。

 すると、真利の額が、赤く光り始める――。
「これが・・・!?」
『そうだ・・・、これが“次元”の力』
 真利は小さく光る、自分の額をポケットに入れていた手鏡で見る。だが、次第とその光は消えていき、やがて消えた――。光が消え、真利は驚き、あわて始めるが、魔獣はそれをすぐに止めさせる。
『大丈夫、これで真利は“次元”の力を受け継いだ。そして、我のデッキも・・・、君に託そう』
 自然と、魔獣の真利に対する言葉遣いが、柔らかくなっていた――。
『このデッキがきっと、君のデッキのステップアップへと導くだろう!』
 魔獣が差し出したデッキを真利はしっかりと受け取り、そして力強くそのデッキを握り締める。


 それから少しして、魔獣の体の異変に真利は気づいた――。

 魔獣の体が、少しずつ砂になってきているという異変に――――。





「ありがとう」
 真利は魔獣からもらったデッキを握り締め、そう言った。だが、そんな言葉がかき消されるほどの出来事が、今、この瞬間に起こっていた――。

サラサラサラ・・・

 魔獣の体が、足から少しずつ砂になってきていた。
 崩れ落ちていく魔獣――。突然の出来事に、真利は困惑しながらも、口を開く。
「え・・・?何・・・、これ・・・?」
 真利の目の焦点が合っていない。だが、魔獣の体が砂になっていく、という事実だけは見ることが出来た。だからこそ、真利は困惑している・・・。
『聞かなかったのか?“6大精霊”とのデュエルで敗北した者に待っているのは、だと・・・』
「それは、聞いてたけどッ!!――でも・・・、何で・・・?」
 真利は驚きのせいか、口をうまく開く事が出来ず、頭の中が真っ白になっていた。
『我の体が、砂になっているのか――か。これが、我等の“死”なのだ』
 魔獣は、いつも通りの口調でそう言った。
 その平然とした姿を見て、真利以外の全員は、ただ下を向き、口を開く事を止めた。全てを受け入れるために・・・。
 だが、真利だけは・・・、真利だけは口を閉ざさず、開き続け、叫び続ける。

「違うッ!!私の聞きたいのは、そんな事じゃないっ!!精霊が・・・」
『精霊も死ぬ。死なない生き物など、この世に、いや全ての次元に存在してはいない』
 真利の言葉を途中で遮り、魔獣はそう答えた。
 口論を繰り返していくうちに、魔獣の体の半分は、既に砂となり、姿を消していた――。
「どうにも・・・、ならないの・・・?」
 真利は、涙を流しながら、つぶやくようにそう言った。魔獣は首を横に振った。
『だが・・・、安心しろ。精霊も死ぬ――だが、生き返る事も出来る・・・。一月ほどの時間は掛かってしまうがな・・・』
 “生き返る”――それが、真利にとっての救いの言葉であった。だが、“死”は変わらない・・・。“別れ”は存在しているのだ。そのためか、真利の涙は止まらず、流れ続けていた。
「本当に・・・?」
 真利の次なる質問に、魔獣は首を小さく縦に振る事で答えた。

『それに・・・』
「!?」
 魔獣の体は全て無くなり、残すは顔だけとなっていた。だが、魔獣はそんな状態の中で、ゆっくりと空を見上げ、小さく笑顔を見せた。そして、魔獣は真利にだけ聞こえるような声の大きさで、真利に何かを伝える――。
 その後、魔獣という存在全てが・・・、無くなった――。

 今、この空間(プロミネンス)にいる全員が、涙を流していた――。
 中でも、一番涙を流していたのは、やはり真利であった。
 真利は、涙を流しながらも、手に持っていた魔獣のデッキを自分の胸に当て、大事そうに抱え込む。
 その時であった――大事に抱え込んでいた魔獣のデッキが赤く、そして大きく輝き始める――。

「なっ・・・!?」
 その輝きに反応して、不完全な覚醒状態であった“アンサー”が発動し、翔の瞳が、何重にも重なり、翔の目は全てを見通す目となった――。そして、その目の力によって、その光の正体を突き止める。
 その正体を知った翔は、涙を流しながらも、小さく笑った。

 その赤き光は、やがて真利の左腕に装着されたデュエルディスクを覆い、デュエルディスクの形状を変化させる。カードを出す部分が、骨ばった赤き翼のような形となったのだ。――その形はまるで、魔獣の背に生えた翼と似ていた――。
「あっ・・・」
 真利は、その赤きデュエルディスクを見て、何かを感じていた。

 それは、“温かさ”。
 魔獣が最後に見せた、自分に対する“温かさ”――。

 翔は、何かを感じていた真利の肩に手をポンッ――と置いた。
「ダ・イーザの言った通りだろ・・・?」
 そう翔が聞くと、真利は大きくうなずいた。
 そして――、


「う・・・、うぅうっ・・・、」



アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!


真利はもう1度泣いた。

 “もう泣かない”――そう心に誓いながら。


 そんな真利を励ますかのように、真利の手に握られていたデッキの中に入っている“紅蓮魔獣 ダ・イーザ”のカードが、小さく光り輝いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ふと気がつくと、そこは既にプロミネンスではなく、多くの空間につながる扉が並んだ森の中になっていた。当然そこには、プロミネンスへと続く扉は無かった――。
「大丈夫?」
 ゆっくりと、加奈が真利にそう聞いた。
「うん!」
 真利はそう大きく言うと、スッ――と立ち上がった。
「あれ?真利、お前、あのデュエルディスクは?」
 何かに気がついた神也が、真利の左腕を指差しながらそう聞いた。先程まで装着されていた赤きデュエルディスクが無くなっていたのだ。だが、その代わりに、真利の左人差し指には、赤き指輪(リング)があった。
「分かったよ、ダ・イーザ・・・」
 真利は、神也の質問を聞くと、目を閉じ、独り言を言い始める。しばらくして、真利は再び目を開き、指輪に右手をそっと置いた。

「“決闘準備(スタンバイ)”――」
 真利がそう言った瞬間、真利の人差し指にあった指輪が赤く輝き、そして、先程の赤きデュエルディスクに姿を変えた。
「なっ・・・!!?」
 その光景を見ていた全ての人物(真利を除く)が、目を見開き、驚いた。

 当然といえば、当然だ――。
 ただの指輪が、突然、デュエルディスクに変わったのだから・・・。

「ダ・イーザが言ってる・・・」
 そう言って、真利は説明する。
「このデュエルディスクが、精霊に勝ち、精霊の“力”を身につけた証――」
 そして真利は、説明を終えると、軽く力を込め、赤きデュエルディスクを再び指輪状に戻した。真利はその指輪をみんなに見せるようにすると、小さく笑って見せた。
「普段は、こんな風に使用者に適した別の形状になってて、展開したい時は、“スタンバイ”って言えば、展開するんだってさ」
 他の全員は、真利の説明を聞きながら、指輪をまじまじと見て、感心するように「へぇ〜」とつぶやくように言った。
「んじゃ、そんな凄ぇデュエルディスクを手に入れるためにも!力を手に入れるためにも!次の精霊の所に行きますか!」
 翔は、背伸びしながら、そう言った。
 翔の言葉を聞き、全員が小さくうなずいた。ただ、アンナだけは、翔の言葉にも、真利の言動にも、変化を見せず、ただ他の扉や辺りの風景を眺めていた。

「次はここよ」
 アンナが次の扉――“勇気”の力を手に入れる事の出来る扉を指差した。それを聞くと、全員がアンナの下に向かって歩き始める。――と、そんな時・・・。
「あ!ちょっと待って!」
 そう言って、真利はみんなの歩みを止めた。

 何を思ったか、真利は自分のデッキと魔獣のデッキ、更にはリュックの中に入っていた余りのカード全てを取り出し、デッキを組み始める。
 そこまでの時間は掛からなかった――。頭の中に過ぎっていた“何か”があったから・・・。
 そして、真利は新たなデッキを完成させ、腰に取り付けてあるデッキケースにスッ――と入れた。

「よし!じゃ、行こっか!」
 真利は全員にその大きな笑顔を見せた・・・。



 【真利は歩き続ける――。】

 真利はみんなの下まで走り、みんなと一緒に歩き始める――。

 【その新たなデッキと共に――、】

 そして、“勇気”の力を持った精霊のいる扉の前に立った――。

 【デッキに入ったダ・イーザと共に――!】

(私はもう泣かないよ・・・。だからさ、見守っててね・・・、ダ・イーザ――)
 そう思いながら、真利は自分のデッキケースにそっと手を置いた。そして、ダ・イーザのカードは光り輝く・・・。
 そのデッキ――「次元帝」もまた、ダ・イーザの力に共鳴し、光り輝く・・・。



――――――――我は君のデッキの中で、生き続ける。永遠に・・・、永遠に・・・――――――――

 不意に、魔獣の最後の言葉が、真利の頭の中を過ぎった――。


「開けるわよ」
 アンナは口を開き、そう言うと、目の前の扉を開いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 次なる空間は、漆黒――暗闇に包まれていた。
 小さな光が差し込み、その光によって見えるのは、数多くの建物――。
「“都市”・・・、みたいだな」
 目を細めて、神也がつぶやくように言った。それを横で聞いていた神童も、神也の考えに賛同するように小さくうなずいた。
 そんな時であった。

バサァッ・・・

 翼を羽ばたかせるような音が、暗闇の都市全体に響き渡った。
「キャァッ!な、何!?」
 有里が両耳を両手で塞ぎ、素早くしゃがみこんだ。それだけ、驚いている、ということだろうか・・・?
 そんな姿を見て翔は大笑いしてしまうが、その後、翔のそんな姿に腹を立てた加奈に、翔は殴り飛ばされた。

バサァッ・・・バサァッ・・・

 そして再び聞こえる音――。

『話は他の精霊達から聞いているぞ・・・、“神の名を受け継ぎし者達”よ』
 翼の音をかき消すかのような重い声が、翼の音同様に、暗闇の都市全体に響き渡る――。
 その精霊から出ている威圧のせいか、翔達はうまく体を動かす事が出来ない状態に陥っていた――。
『オレの対戦相手は、“橋本神也”!――お前だ・・・』
 精霊は、神也の名を呼ぶ。
 精霊の言葉を聞き、神也は手をポキポキ鳴らしながら、一歩前に出て、デュエルディスクを構える。デッキも素早くセットし、いつでもデュエルが出来るようにした。

バサァッ・・・!

バサァッ・・・!!

 次第に、翼の音が大きくなっていく――。そして、その精霊はゆっくりと地面に降り立った。

「へぇ〜。“勇気の精霊”は、お前だったのか・・・」
 神也はつぶやくように口を開いた。

 全てを引き裂く左手――、全てを噛み砕く口を持った右手――、頑丈な鎧を着込んだ体――、その鎧から生えた全てを叩きつける尾――、そして、血を啜りすぎたために元々の色を失った、戦いの中で破れてしまった、翼を背に生やした、血の戦士(ブラッド・ヒーロー)――。
 それが、2体目の精霊の姿であった――。

「――“D-HERO Bloo-D”ッッ!!!

第25章 2体目の精霊――D-HERO Bloo-D


『さて、早速始めるか・・・。“死闘(デュエル)”を・・・!』
 そう言って、そのヒーローは、デュエルディスクを自らの左腕に出現させた。デッキは既に、そのデュエルディスクにセットされているようだ――。
「あぁ・・・!」
 神也は険しい表情でそう答える。




――――デュエルッ!!!


神也 LP:4000
   手札:5枚
    場:無し

Bloo-D LP:4000
    手札:5枚
     場:無し



第26章 神也VSBloo-D――足りない何か

「先攻はオレがもらうぜ?」
 神也がそう聞くと、血の戦士は、小さく縦に首を振る。そんな動作を確認すると、神也は初期の手札5枚を確認し、確認した上で、デッキの上に手を置く。
「オレのターン、ドローッ!!」
 置いた手でカードを1枚素早く引くと、それをサッ――と手札に加え、引いたカードを確認すると、それとは別のカードを取り出し、デュエルディスクに差し込む。

「オレは、“手札抹殺”を発動!互いのプレイヤーは手札全てを捨て、捨てた分ドローする!」

手札抹殺
通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

 神也が発動したカードを見て、血の戦士は小さくうなずき、自身の手札をデュエルディスクの墓地ゾーンに捨てると、捨てた分――つまり、5枚のカードを再びデッキの上からドローする。それと同様に、神也も手札5枚を墓地に捨て、5枚ドローする。
「更に、捨てた手札の中に“暗黒界の狩人 ブラウ”があった。よって、カードを1枚ドローする」
 神也は更にカードを1枚ドローし、6枚となった手札を確認する。

暗黒界の狩人 ブラウ
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻1400/守 800
このカードが他のカードの効果によって
手札から墓地に捨てられた場合、
デッキからカードを1枚ドローする。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、
さらにもう1枚ドローする。

(よし、この手札なら・・・)
 ある程度の戦術を考えると、神也は手札から一気に3枚のカードを抜き出し、素早くそれらのカードを場に出す。
「オレは、“神獣王バルバロス”を攻撃表示で召喚し、カードを2枚伏せる――、これでオレはターンエンドだ」
 神也の目の前に出現したモンスターは、何処と無く力が抜けていながらも、その大きな体で敵を威圧する野獣であった。右手には長い槍が、左手には巨大な円形の盾が握られていた。

神也 LP:4000
   手札:3枚
    場:神獣王バルバロス、リバース2枚

『オレのターン、ドロー』
 血の戦士は、ゆっくりとカードを引き、手札に加える。
『手札から“デステニー・ドロー”を発動――。手札の“D-HERO”と名のつくカード1枚を捨て、新たにデッキの上からカードを2枚ドローする』
 血の戦士は、静かにカードを場に出すと、手札のカードを1枚墓地に送り、デッキの上からカードを2枚ドローする。

デステニー・ドロー
通常魔法
手札から「D−HERO」と名のついたカード1枚を捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 引いた2枚のカードを含めた6枚の手札をしばらく眺め、血の戦士は次の戦術、及び神也がどういう戦術を取るかを考えていた――。そして、考えがまとまってくると、次なる戦術を血の戦士は始める。
『オレは“早すぎた埋葬”を発動し、今墓地に送ったばかりの“D-HERO ディスクガイ”を復活させる!』

Bloo-D LP:4000→3200

 血の戦士の体から、少量の生気が吸い取られると、目の前の地面が力強く割れ、そこから体にディスクを装備したヒーローが姿を現す。
「へぇ〜、あんたが“Bloo-D”って分かってから、考えていたけど、やっぱりD-HEROデッキなんだな」
『あぁ。このデッキが、しっくりと来るんでな』
「でも、オレ達の世界(リアル・ワールド)だと、そのカードは、“エド・フェニックス”っていう、プロデュエリストしか持っていないんだが・・・?」
 神也が小さな疑問を持つと、血の戦士はデュエル中という概念を捨て、普通に答えてくれた。
『それはそちらの世界だけであって、こちらの世界(アナザー・ワールド)とは勝手が違うのだ』
 血の戦士の答えを聞き、神也は「へぇ〜」とそこまで驚く事も無く、冷静に答える。
『さて・・・、“ディスクガイ”の効果を発動するぞ。墓地から復活した事で、デッキの上からカードを2枚ドローする!!』
 血の戦士がデッキの上に手を置こうとした瞬間、神也が伏せていたカードを素早く発動させる。
「悪いけど、リバースカード――“便乗”発動ッッ!!」
『ホォ・・・、“便乗”か。なかなかレアなカードを持っているな』
 血の戦士が神也に対して感心するようにそう言った。
 神也はそんな血の戦士の言葉を聞き、照れるように笑顔を見せた。

『だが、そのカードは、カードの効果によるドローにチェーンして発動するカードではあるが、そのドローを無効化するカードではない!よって、オレはカードを2枚ドローする!!』
 血の戦士は勢いよく2枚のカードを引き、手札に加える。

早すぎた埋葬
装備魔法
800ライフポイントを払う。
自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示で
フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

D-HERO ディスクガイ
効果モンスター
星1/闇属性/戦士族/攻 300/守 300
このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

便乗
永続罠
相手がドローフェイズ以外でカードをドローした時に発動する事ができる。
その後相手がドローフェイズ以外でカードをドローする度に、
カードを2枚ドローする。

『まだだっ!“ディスクガイ”をリリースし――、“D-HERO ダッシュガイ”を攻撃表示でアドバンス召喚ッッ!!』
 ディスクを体に装備したモンスターの姿が光の粒子となり、消えたかと思うと、足の先や手の先に車輪を取り付け、頭にはヘルメット状の物を取り付け、高速で移動する超スピードのヒーローが姿を現した。
『“ダッシュガイ”で、“バルバロス”に攻撃!!』
 そして、血の戦士の叫びと共に、スピードのヒーローは高速移動――一瞬のうちに、野獣の背後に回りこむと、その素早い蹴りで、野獣を仕留める。野獣の体はゆっくりと崩れ落ち、そして最後には砕け散った――――。
「くっ・・・!」
 野獣が砕けたときの衝撃が、神也を襲う。

神也 LP:4000→3800

 すると突然、スピードのヒーローがしゃがみ込み、防御体勢を取った。
「そうか・・・、“ダッシュガイ”の効果か・・・」
『そう。“ダッシュガイ”は、バトルフェイズ終了後、守備表示となる』

D-HERO ダッシュガイ
効果モンスター
星6/闇属性/戦士族/攻2100/守1000
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、このターンの
エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
このカードが墓地に存在する場合、1度だけドローフェイズ時に
ドローしたモンスターカードをお互いに確認し特殊召喚する事ができる。

「このブラフにもびびらねぇかぁ・・・」
 神也は、自分の場に伏せられたもう1枚のカードを見ながらそうつぶやいた。そんな言葉を聞き、血の戦士はピクッ――と少しだけ体を動かした。
『カードを1枚伏せ、ターンエンド』

Bloo-D LP:4000
    手札:5枚
     場:D-HERO ダッシュガイ

 そして静かに、血の戦士はターンエンドを宣言する。
「うっし!オレのターン・・・、ドローッ!!」

ドローカード:死者蘇生

(よしっ!!)
 神也は引いたカードを見て、小さくガッツポーズを作る。
「オレはリバースカード――“カップ・オブ・エース”ッ!!」
 神也はブラフとして伏せておいたカードを発動させる。
 すると、神也と血の戦士の間に、小さなコインが出現――コインは回転しながら舞い上がり、そして、ゆっくりと落ちていく・・・。

コイン:裏

『“裏”だな・・・。では、カードを2枚ドローするぞ』
 血の戦士は、神也のカードの効果に従い、カードを2枚ドローする。だが、次の瞬間、神也もまたカードを2枚ドローした。
「“便乗”の効果を忘れるなよ・・・?」
『フッ・・・』
 神也の言葉を聞き、血の戦士は小さく笑った。その笑いを見て、神也もまた大きく笑う。

カップ・オブ・エース
通常魔法
コイントスを1回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを2枚ドローする。
裏が出た場合は相手はデッキからカードを2枚ドローする。

 神也は先程引いた2枚のカードもしっかりと手札に加え、計6枚となった手札を眺め始める――。

(よし・・・、この手札なら、いける!!)
 神也は何かを確認すると、手札からカードを1枚取り出し、場に出す。
「オレは手札から“生還の宝札”を発動!」

生還の宝札
永続魔法
自分の墓地からモンスターがフィールド上に特殊召喚された時、
デッキからカードを1枚ドローする事ができる。

 神也は更にカードを出し続ける――。

 “勝ち”を掴むために!!

「“死者蘇生”発動!」
 神也は自身の発動したカードの効果により、死を迎えた魂を蘇らせる――。

 自分の切り札――強欲の悪魔を――!!


「蘇れ――“グリード・クエーサー”ッッッ!!!
 神也の叫びと共に、神也の目の前の地面が盛り上がり、そこから巨大な強欲の悪魔が復活――。いたるところに傷があり、ボロボロではあったが、時間が経つにつれ、その傷は癒えていき、やがて完全な強欲の悪魔が姿を現した。
『“手札抹殺”か・・・?』
 血の戦士の小さな声による質問を聞き、神也は小さくうなずいた。
『流石、というべきかな?』
 血の戦士がからかうようにそう言いながらも、神也は先程発動した生還の宝札の効果でカードを1枚ドローし、そのカードを確認する。多少の時間を置いて、神也は今引いたカードを力強く場に出す。



「現れろ――“可変機獣 ガンナードラゴン”ッッ!!」


 神也の持つ、新たなモンスターが目を覚まし、そして姿を現す――。

 機竜――それがこのモンスターに相応しい名であろう・・・。


 体を機械で覆い、竜の姿を持っただけの機械――。
 無理矢理の召喚のせいで、体の何箇所かを故障させ、力を半減させてはいるが、強大な威圧感は存在している――。

可変機獣 ガンナードラゴン
効果モンスター
星7/闇属性/機械族/攻2800/守2000
このカードは生け贄なしで通常召喚する事ができる。
その場合、このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

可変機獣 ガンナードラゴン 攻:2800→1400
              守:2000→1000

「よし!こいつらで、Bloo-Dに攻げ・・・っ!!」
 このときであった――。


 神也に足りない“何か”が産声を上げ、神也の宣言を、行動を束縛する。


(ちょっと待て・・・!あのリバースカードが、もし全体除去だったら、どうなる・・・?一応、オレの手札には“攻撃の無力化”がある・・・。これを使えば、攻撃を防ぐ事は出来るが・・・!!)
 例え、攻撃を防ぐ事は出来ても、逆転の一手が存在していなかった・・・。
 神也の手札にモンスターカードは無く、この状況でこの2体のモンスターが破壊されるのはかなりの痛手となってしまう・・・。だからこそ、神也は悩んでしまう・・・。

 そして、“束縛”される・・・。

「オレは・・・、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 神也は悔しそうな表情をしながら、カードを1枚場に出し、ターンエンドを宣言する。

神也 LP:3800
   手札:3枚
    場:グリード・クエーサー(攻撃)、可変機獣 ガンナードラゴン(攻撃)、便乗、生還の宝札、リバース1枚

「えっ・・・!!?」
 攻撃をしない、という神也の選択を見て、翔達全員が目を見開き驚く。
「おまっ・・・!何やってんだよっ!!」
 有里が他の誰よりも先に驚き、そして、翔がその気持ちを声に出して叫んでしまう。

(神也・・・!!)
 神童は何も言わぬまま、ただ拳を作り、それを震わせていた・・・。


『やはり、か・・・』
 その瞬間、血の戦士が口を小さく開いた。
『オレの目に狂いは無かったようだ・・・』
 血の戦士の目は、とても寂しそうであった・・・。

 そして、血の戦士はカードを1枚引き、手札に加える。

『オレのターン・・・、貴様には失望したよ、神也――』
 そう言い残すと、血の戦士は一気にカードを展開し始める。
『リバースカード、“リミット・リバース”――このカードの効果で、オレは“ディスクガイ”を復活させる。そして、2枚ドロー』
「なめるなっ!!オレも“便乗”の効果でカードを2枚ドローする!!」
 血の戦士がカードを2枚ドローする中、負けじと神也もカードを2枚ドローする。

リミット・リバース
永続罠
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、
攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

『墓地の“D-HERO ディアボリックガイ”を除外し、デッキから2体目の“ディアボリックガイ”を特殊召喚するッ!!』
 血の戦士は、デュエルディスクの墓地ゾーンから、カードを1枚取り出すと、それを次元の彼方へと吹き飛ばす。その後、デッキを取り出し、そこからカードを1枚抜き出し、力強く場に出す。
 目の前に出現するは、筋肉隆々の強靭なヒーローの姿――。

D-HERO ディアボリックガイ
効果モンスター
星6/闇属性/戦士族/攻 800/守 800
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する。
自分のデッキから「D−HERO ディアボリックガイ」1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。

「なっ・・・!?そんなモンスター、いつ墓地に・・・!!?」
 血の戦士が場に出したモンスターを見て、神也は驚くが、すぐに、何故そのモンスターが墓地に送られたのか、という答えを発見する。
「そうか・・・、“手札抹殺”で――」
 そう、神也が最初のターンで発動した手札抹殺――。
 このカードは、神也の場に強欲の悪魔を出現させるためだけでなく、血の戦士の場のモンスターを増やすため、という意味でも発動されていたのだ。
 そして、それと同時に、神也は“あること”に気づく。
「まさ・・・か・・・!!?」
 神也の目が少しずつ開かれていく・・・。


 血の戦士の場には、モンスターが“3体”存在している。つまり・・・。


『オレは3体のモンスターをリリースし――』


カッ!!


 血の戦士は手札からカードを1枚取り出すと、それを空高く翳し、そしてそれを力強くデュエルディスクに叩きつける――。
 そして、降臨する――。




 全てを血で染める、最凶のモンスターが・・・。




『オレ自身――“D-HERO Bloo-D”を特殊召喚する!!』

バサァッ・・・

 翼を羽ばたかせる音。
 そして、「それ」は血の戦士の目の前に降り立った。

「しまっ・・・!!?」
 神也はそれの出現に驚き、自身の戦術ミスを理解するが、それはもう遅かった。一瞬のうちに、「それ」は神也の目の前にいた機竜を血に染まった翼で吸収し、自身の力とする――。

D-HERO Bloo-D 攻:1900→3300

『ハッハッハッハッハッハッ!!!』
 「それ」の出現に、血の戦士は空を見上げながら、大きく高笑いする。
「やばい・・・!確か、“Bloo-D”にはもう1つの効果が――!!」
 神也がそう困惑している中、神也の目の前にいた強欲の悪魔の体が少しずつ小さくなっていく・・・。やがて強欲の悪魔の体は、神也の背の半分くらいになってしまった。

グリード・クエーサー 攻:2100→0

『そう・・・、“Bloo-D”が存在している限り、貴様のモンスターの効果は全て“無”になる・・・!!更にオレは、手札から“サイクロン”を発動し、貴様のリバースカードを破壊するッ!!そして――、“攻撃”だッッ!!!』
 血の戦士の言葉と同時に、「それ」は空高く舞い上がり、血に染まった翼から、数多の槍を放出する。その槍もまた血に染まっており、強欲の悪魔はその血に染まった槍で体全身を貫かれ、やがて消滅する――。

神也 LP:3800→500

「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
 強欲の悪魔の消滅、そして、その消滅による衝撃が、神也の体を痛めつけ、そして苦しめる――。
『カードを2枚伏せ、ターンエンド――』
 血の戦士は大きく笑った。
 神也を嘲笑うように・・・、勝ち誇ったように・・・、

そして、何かを忘れるように・・・。


Bloo-D LP:4000
    手札:6枚
     場:D-HERO Bloo-D(攻撃/可変機獣 ガンナードラゴン装備)、リミット・リバース、リバース2枚

サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

『もう終わりだ・・・、神也。お前には足りないものがあるからな・・・』
 血の戦士は小さくそう言った。

 血の戦士の目の前には、機竜をその翼で吸収した血の戦士が聳えていた。

D-HERO Bloo-D
効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻1900/守 600
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター3体を
生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
相手モンスター1体を指定してこのカードに装備する
(この効果は1ターンに1度しか使用できず、
同時に装備できるモンスターは1体のみ)。
このカードの攻撃力は、装備したモンスターの
攻撃力の半分の数値分アップする。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
相手フィールド上に表側表示で存在する効果モンスターは
全て効果が無効化される。



 だが、神也は立ち続ける・・・。



 ボロボロになりながらも・・・。


 足りないもの・・・!?そんなの知るか!
 オレは、勝つんだ――!!
 絶対に・・・、絶対に・・・!!
「オレの・・・ターン・・・!」
 そして、神也はカードを1枚引いた。



第27章 足りない何か――それは踏み出す“勇気”

「“足りない”・・・“もの”・・・」
 神童は、血の戦士の言葉に続くようにそう言った。
 神也に「足りないもの」――、神童はその正体を知っていた。だが、それを神也に教える事は無かった。
 神也自身に知って欲しかったから――、デュエル中の口出しは相手を傷つけるだけだということを知っていたから――。

神也 LP:500
   手札:5枚
    場:生還の宝札、便乗

Bloo-D LP:3200
    手札:6枚
     場:D-HERO Bloo-D(攻撃/可変機獣 ガンナードラゴン装備)、リミット・リバース、リバース2枚

 神童がそんなことを考えている中、神也はカードを1枚引き、手札に加えていた。
(“突進”――か・・・)
 神也は引いたカードを見つめてそう思った。
(これとこれ・・・、そしてこれを使えば、“Bloo-D”を倒す事が出来るかも知れない・・・。でも・・・!)
 その瞬間、神也は血の戦士の目の前にある、伏せられた2枚のカードを睨みつけるように見た。その2枚のカードが、こちらのカード効果を無効化するカードだったら・・・、攻撃を無効化するカードだったら・・・、神也はそう思ってしまい、自身の手の動きを止めてしまう。
「くっ・・・!!」
 そして、神也は力強く歯を喰いしばった。
 血の戦士はただ、そんな神也の変化をじっと見つめていた――。
「オレは・・・、“ご隠居の猛毒薬”を発動――オレのライフを1200ポイント回復させる」
 神也が場に出したカードの効果によって、神也の体は優しい光に包まれていく。その光は、神也の傷を全部とまではいかないが癒し、治していく――。

神也 LP:500→1700

ご隠居の猛毒薬
速攻魔法
次の効果から1つを選択して発動する。
●自分は1200ライフポイント回復する。
●相手ライフに800ポイントダメージを与える。

「そして、ライフを800払い、“早すぎた埋葬”発動ッ!!“神獣王バルバロス”を復活させる!」

早すぎた埋葬
装備魔法
800ライフポイントを払う。
自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示で
フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

神也 LP:1700→900

 神也の体から、少量のエネルギーが抜き取られると、死した野獣が蘇った。蘇った野獣の姿からは、最初に召喚された時にあった「力の抜けた感じ」は見えなかった。野獣の復活を確認すると、神也はカードを1枚引き、そして手札に加えた。
(くっ・・・、そして・・・、このカードを使えば――ッ!!!)
 神也は先程引いた突進のカードに手を掛ける。だが、突進のカードを持った手は震え、そのカードの発動を拒み始める――。


「オレは・・・、カードを2枚伏せ、ターンエンド」
 結局神也は、突進のカードと生還の宝札の効果でドローしたカードの2枚を伏せ、ターンエンドを宣言した。
(そうさ・・・、何も“危険”に飛び込む必要は無い!“突進”は、相手のダメージステップ時に発動させれば良いんだ!!)
 神也は自身のターンが終わったために気が抜けたのか、顔からは笑顔がこぼれていた。

神也 LP:900
   手札:3枚
    場:神獣王バルバロス(攻撃/早すぎた埋葬装備)、生還の宝札、便乗、リバース2枚

『オレのターン――』
 そう言って、血の戦士は静かにカードを引いた。
『やはりお前には――、足りないものがある・・・』
 そして、血の戦士はこうつぶやくように言った。だが、神也はその言葉を聞くと、酷く逆上し、叫び始める。
「黙れッ!!何が“足りないもの”だ!!現に、オレに“足りないもの”があったとしても、てめぇの切り札を潰す戦略は完成してるッッ!!!」
 神也の叫びを聞き、血の戦士はあきれたように1回、ため息をついた。そして、目を鋭くすると、神也に向かって口を開いた。
『切り札・・・か。本当に、“オレ自身”がオレのデッキの切り札だと思っているのか?』
「だって、そうだろ!?“ダ・イーザ”はあいつ自身が切り札だったし・・・!」
 血の戦士の言葉を聞いて、多少の動揺を持ちながらも、神也は必死で反論する。だが、血の戦士は神也の反論を聞いて、逆に笑みをこぼしてしまった。
『なめるなよ・・・!?ならば、教えてやろう。――オレの切り札は、“オレ自身”ではないッ!!

 血の戦士の言葉は、神也の中の何かにプスリと刺さった。

『さてと、オレの切り札が“オレ自身”だったとして、それを潰す手立てがお前にあったとしよう。・・・では何故、お前はそれを今のターンで行わなかった!!?』
 血の戦士の言葉は、神也の中の何かを貫いた――。
「そ、それは・・・」
 神也の反論の言葉が鈍る。
 神也の喉から、言葉が出なくなってくる―――。

『答えは簡単だ――。お前に“足りないもの”――それが、“勇気”だからだ!』
 血の戦士は大きな声で、それを言い放った。

 “勇気”――それは、強大な力を前にしても屈することなく、前を向き、立ち上がり、戦い続ける力――

「なっ・・・!!?」
 血の戦士に、自身の足りないものを指摘され、神也は目を見開き、大きく驚いてしまう。
「“勇気”・・・?その“勇気”ってやつは、相手の場に“罠”が張り巡らされた中、馬鹿みたいに突っ込む事を言うのか!?」
 神也は自分を正当化するように、必死で反論した。

『ハッ・・・ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』
 だが、血の戦士から返ってきたのは、辺り一面に響き渡る大きな笑い声であった。
『この2枚のリバースカードが、“罠”!?笑わせるッ!!!この2枚のリバースカードは、相手の攻撃を無効化するような“罠”ではないッッ!!!』
 血の戦士はそう叫んで、伏せられた2枚のカードを同時に開いてみせた。

 “異次元からの埋葬”と“転生の予言”――。

 自身の予想が外れた事で、神也の中の何かが、砕け散ってしまう――。



 それは、自分を正当化するために出した脆い“盾”。とても脆く、些細な一言で、砕けてしまう脆くて弱い盾・・・。

『まず始めに、“異次元からの埋葬”の効果で、オレは除外されている“ディアボリックガイ”を墓地に戻す』

異次元からの埋葬
速攻魔法
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

 そう言って、血の戦士は先程次元の彼方へと吹き飛ばしたカードを自分の手に呼び戻し、そのままデュエルディスクの墓地ゾーンに収納する。
『そして次に、“転生の予言”の効果で、オレの“早すぎた埋葬”と“D-HERO ディアボリックガイ”をデッキに戻す』

転生の予言
通常罠
墓地に存在するカードを2枚選択し、
持ち主のデッキに加えてシャッフルする。

 血の戦士はデュエルディスクの墓地ゾーンより、2枚のカードを取り出すと、その2枚のカードをサッ――とデッキに加え、軽くシャッフルをし、再びデュエルディスクにセットした。
「“ディアボリックガイ”をデッキに戻した、という事は――?」
 神也は体を震わせながら、小さな声で独り言のようにボソリと喋った。
『墓地の“ディアボリックガイ”をゲームから除外――、デッキより2体目の“ディアボリックガイ”を守備表示で特殊召喚するッ!』
 血の戦士は戻したばかりのカードを再び場に出した。現れたモンスターは、筋肉質な体つきをしたヒーローであった。そのヒーローは姿を現すと、両腕を×字状にして、自分と神也の間に壁を作った。

D-HERO ディアボリックガイ
効果モンスター
星6/闇属性/戦士族/攻 800/守 800
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する。
自分のデッキから「D−HERO ディアボリックガイ」1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。

『更に手札から“死者蘇生”を発動し、“ディスクガイ”を守備表示で復活させる!当然、効果で2枚ドローだ!』

死者蘇生
通常魔法
自分または相手の墓地からモンスターを1体選択する。
選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。

D-HERO ディスクガイ
効果モンスター
星1/闇属性/戦士族/攻 300/守 300
このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 次に現れたヒーローは、ディスクを体に装備していた。そのディスクは鋭く尖っていたが、今は盾として使われている。血の戦士は、ディスクを体に装備したヒーローが現れたことを確認すると、デッキの上からカードを2枚引いた。負けじと神也も、便乗の効果によって、カードを2枚引く。
『フンッ・・・、更にオレは“D-HERO ダイヤモンドガイ”を召喚する』
 そう言って、血の戦士はまた新たなモンスターを召喚する。体の何箇所かにダイヤモンドが装備されているヒーローだ。
 その後、少しの間血の戦士は考えると、カードを1枚手に取り、魔法・罠カードゾーンに差し込んだ。
『貴様の手札が増えるのは癪だが・・・、“暗黒界の取引”を発動――互いのプレイヤーはカードを1枚ドローし、その後、カードを1枚墓地に捨てる』
 そのカードが場に出されると、血の戦士と神也は同時にカードを1枚引き、手札に加え、そして、カードを1枚墓地ゾーンに送る。更に、神也は便乗の効果によって、デッキの上からカードを2枚引いた。

暗黒界の取引
通常魔法
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、
その後手札からカードを1枚捨てる。



 そして、一瞬の沈黙――・・・。


 ゴクリ――という、唾を飲み込む音が聞こえたかと思うと、血の戦士はその沈黙を打ち破る。

『さて・・・、まずは“ダイヤモンドガイ”の効果を発動するかな』
 そう言って、血の戦士はデッキの上のカードを1枚めくり、それを自分で一度確認した後、神也にサッ――と見せる。そのカードは、魔法カード――戦士の生還であった。その後、血の戦士はそのカードを自分の墓地に送り、小さく口を開いた。
『このモンスターの効果は、“通常魔法”の効果発動!1ターン遅れで、だがな・・・』
 そう言うと、血の戦士は神也を見る目を更に鋭くしていく。

D-HERO ダイヤモンドガイ
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1600
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、
自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。
それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、
次の自分のターンのメインフェイズ時に
その通常魔法カードの効果を発動する事ができる。
通常魔法カード以外の場合にはデッキの一番下に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

『出でよ・・・ッ!!』
 ダイヤモンドガイの効果処理を終えた後、血の戦士はゆっくりとそう言った。


 そして――、



『“Bloo-D”を除く3体のモンスターをリリースし――、“D-HERO ドグマガイ”を特殊召喚するッッ!!!
血の戦士は、また新たな“運命(デスティニー destiny)”を支配するヒーローを力強く場に出す――――。

 そのヒーローは体全身を鎧で固めており、その鎧の背の部分からは翼が、右腕の部分からは鋭い剣が生えていた。

「やっぱり来たか・・・ッ!!“D-HERO ドグマガイ”ッ!!」
 神也が読んでいた通りのモンスターが出現したのか、神也のやる気はほんの少しだけ上昇していた。だが、根本的なものはまだ直ってはいない。神也の体は震え、今にも、手に持ったカードを落としてしまいそうであった。
『行くぞ・・・、“Bloo-D”の攻撃ィッ!!!』





―――――ブラッディ・フィアーズッッッ!!!!



 数多の血に染まった槍が、血の戦士のこれまた血に染まった翼より放出される。その数多の槍は、野獣を貫かんと、スピードを上昇させながら、野獣の方へと向かっていく。
「リバースカード!“突進”発ど・・・っ!!」
 神也は頭の中で決めていた作戦を実行するため、伏せていたカードを発動しようとする。――が、発動した瞬間、神也の開いた口が塞がらなかった――――。

 何故なら、血の戦士もまた、同じカードを発動していたから・・・。


突進
速攻魔法
表側表示モンスター1体の攻撃力を、
ターン終了時まで700ポイントアップする。

神獣王バルバロス 攻:3000→3700

D-HERO Bloo-D 攻:3300→4000

 全く同じ数値分、2体のモンスターの攻撃力が上がった――つまり、±0。
 血に染まった数多の槍は、一瞬のうちに、野獣の体全身を貫き、消滅させた――。

神也 LP:900→600

(ま、まだだっ!!オレには、もう1枚のリバースカードがあるっ!!)
 神也はそう思って、自分のモチベーションを保ち、また上げようとしていた。だが、そんな希望を打ち砕くのが、血の戦士の目の前に聳えている2体目の運命のヒーローであった。



――――デス・クロニクル!!


 運命のヒーローは、右手にある剣を勢いよく神也に向かって振り下ろす。それを見て、神也は負けじと伏せてあったもう1枚のカードを発動させる。
「ァアアアアアアッ!!!リバースカード!“聖なるバリア―ミラーフォース―”ッッ!!!」
 神也の目の前に出現する巨大な聖なる盾(バリア)――。
 そのバリアは、神也の心に、小さな余裕を作る。



 だが、そんな余裕を打ち破ったのが、血の戦士の手札にあった1枚のカード。
『速攻魔法――“我が身を盾に”発動』

我が身を盾に
速攻魔法
相手が「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つカードを発動した時、
1500ライフポイントを払う事でその発動を無効にし破壊する。

 血の戦士の体から、少し多めの生気が吸い取られたかと思うと、次の瞬間、神也の目の前に出現していた聖なるバリアが、バリィイイイイインッ――と音を立てて、破壊された――。
 この瞬間、運命のヒーローの剣を止める術が無くなった――――・・・


































































































・・・かに見えた。

「クッ・・・!ソォオオオオオオオオオッ!!!オレは、手札から“クリボー”を墓地に捨て、オレへの戦闘ダメージを全て0にするッ!!!」


―――ドッッッ!!!!

 神也の叫びと共に、巨大な爆発音が辺りを支配する――。


 運命のヒーローの剣を止めたのは、可愛らしい悪魔の機雷――爆発であった。

クリボー
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生するコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

『しぶといなッ・・・!!』
 血の戦士は小さく舌打ちをして、そう言った。「勇気」を微塵も持っていない神也の姿に、血の戦士は苛立ちを感じていたのだ。
『オレはカードを2枚伏せ、ターンエンドだ』

Bloo-D LP:1700
    手札:1枚
     場:D-HERO Bloo-D(攻撃/可変機獣 ガンナードラゴン装備)、D-HERO ドグマガイ(攻撃)、リミット・リバース、リバース2枚

 神也は震える手で、カードを1枚引いた。

ドローカード:???

 引いたカードは、この状況を打破する可能性を秘めたモンスターカードであった。
(これが、あれば・・・?)
 神也は小さくそう思った。
 だがやはり、足りぬ「勇気」がそんな思いを打ち砕く。

 確かに、そのモンスターカードは強い――、だがそれは、効果ではなく、攻撃力が、だ。
 つまり、「攻撃」しなければ、何の意味も持たないのだ。
(“Bloo-D”の場には、リバースカードが2枚・・・。攻撃できるのか・・・!!?)
 神也がそんな事を考えていると、血の戦士がそれに割り込んで口を開いた。
『悪いが・・・、“ドグマガイ”の効果を忘れていないか?』
 血の戦士はそう言って、小さく笑って見せた。


ライフ・アブソリュート――ッッ!!!


 その瞬間、神也の体全身に、何ともいえない力が加わっていく。
「ガッ・・・、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
 神也の体から、次々と生気が抜き取られ、辺り一面に放出されていく・・・。

神也 LP:600→300

D-HERO ドグマガイ
効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻3400/守2400
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「D−HERO」と名のついたモンスターを含む
モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
この特殊召喚に成功した場合、次の相手ターンのスタンバイフェイズ時に
相手ライフを半分にする。

 やがて、神也の体から生気が取られていく、という現象は止んだ。だが、神也はそのせいで、息を荒くし、フラフラになっていた。震えも依然として止まっておらず、今にも倒れそうである。
(“勇気”・・・か・・・)
 神也はボロボロになりながらも、手札のカードを1枚抜き取り、ゆっくりと魔法・罠カードゾーンに差し込んだ。
「オレ・・・は・・・、“地砕”・・・“き”を発動・・・する・・・。この効果で・・・、“ドグマガイ”は破壊・・・だ!」
 その瞬間、運命のヒーローの体が膨張していき、風船のように膨れると、瞬く間に破裂――運命のヒーローの姿は、跡形もなくなってしまった。

地砕き
通常魔法
相手フィールド上の守備力が一番高い表側表示モンスター1体を破壊する。

「更に・・・“サイクロン”で・・・、“Bloo-D”に装備されて・・・いる・・・“ガンナードラゴン”を・・・破壊・・・ッ!!」
 神也は歯を喰いしばりながら、再び魔法・罠カードゾーンにカードを差し込んだ。
 巨大な風が発生し、血の戦士の翼に吸収されていた機竜を消滅させようとする。

サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

 だが、血の戦士はそれを許すまいと、伏せてあった1枚目のカードを発動させる。
『オレは、“非常食”を発動ッ!!“ガンナードラゴン”と“リミット・リバース”を墓地に送り、ライフを2000ポイント回復する!!』

非常食
速攻魔法
このカードを除く自分フィールド上の魔法または罠カードを墓地へ送る。
墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

Bloo-D LP:1700→3700

 癒しのオーラが、血の戦士の体全身を包み込み、失われた生気となって、血の戦士を回復させる。だが、神也はそんなことお構い無しに、先程引いた1枚のカードを手に取った。

カタカタカタ・・・
 神也の体が震え続けているため、デュエルディスクが軽く振動している音が聞こえる。そんな中、神也はそのカードをじっと見つめ、何かを考え始める。
「“勇”・・・“気”・・・」

 今まで神也は、頭が良いが故に、デュエルにおいても「完璧」を目指していた。
 1度の攻撃をとっても、1度の召喚をとっても、相手のリバースカードを破壊し、安全を確認した上で、行っていた――。だからこそ、Bloo-Dに「勇気」について指摘された時、自分の戦術が間違っているのか?――という意味で驚き、そして、戸惑ってしまった。
 Bloo-Dの言った「勇気」――それを聞いた瞬間は、ただの「無謀」とでしか受け取る事が出来なかった――。

 だが、今なら分かるような気がする・・・。



 「勇気」――、それは・・・!!


「オレは・・・、」
 神也は小さく口を開き、つぶやくように喋り始める。

「オレは・・・ッ!!」
少しずつ、力を込めて、


オレはッ!!!
自分の中に眠る「弱さ」を乗り越えるために――。



「あんたに勝つ!勝ってみせるっ!!!
 そう叫ぶと、神也は、先程引いたカード――2枚目の切り札を力強く場に出す。
「オレの墓地に眠る“神獣王バルバロス”と“可変機獣 ガンナードラゴン”をゲームから除外し――ッ!!!」















――――出でよッ!!!“獣神機王バルバロスUr”ッッ!!!!








 野獣と機械が融合した――、最強のモンスターが目を開け、そして、姿を現す!!


獣神機王バルバロスUr
効果モンスター
星8/地属性/獣戦士族/攻3800/守1200
このカードは、自分の手札・フィールド・墓地から
獣戦士族モンスター1体と機械族モンスター1体をゲームから除外し、
手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘を行う場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。


「やっと分かったぜ・・・、あんたの言った“勇気”の意味が・・・」
 神也は血の戦士に向かって、笑顔でそう言った。
「“無謀”はただ馬鹿みたいに突っ込むだけ・・・、でも“勇気”は違うッ!!」
 この瞬間、神也の目が鋭くなる。

「“勇気”とは、相手の使う戦術、カード、全てを見極めた上で突撃すること――ッ!!!」
 神也の言葉を聞き、血の戦士は先程までの苛立った表情とは打って変わって、優しい表情になっていた。
「オレは馬鹿だった・・・。“頭が良い”って事だけで自惚れて、何も考えずに相手の場を空にして、行動していた・・・。でも・・・、それは違った!!だからこそ・・・、だからこそ――ッ!!」
 神也はそう言うと、少しの間だけ地面を見つめる。そして、小さく深呼吸すると、血の戦士の方を向き、大きく叫ぶ。

「あんたに勝って、“今までの自分”と決別するッ!!!そして――、“オレ自身”を超えてみせるッッ!!!」
 そう叫ぶと、神也は更に手札のカードを1枚手に取り、力強く場に出す。
「オレは――、更に“ビクトリー・バイパーXX03(ダブルエックスゼロスリー)”を攻撃表示で召・喚ッッ!!!」
 野獣と機械が融合したモンスターの隣に、巨大な戦闘機のようなモンスターが姿を現した。

「本来、“バルバロスUr”は戦闘ダメージを相手に与える事が出来ない――。でも、“Bloo-D”がいるときは別だッ!!その効果は無効となり、戦闘ダメージを与える事が出来るようになるっ!!!」
 神也の叫びを聞き、野獣と機械のモンスターは、両腕でしっかりと握っている2つの巨大な銃の銃口に、エネルギーを凝縮させる。そして、ある程度凝縮させると、それをまとめて、そして同時に放出する。




――――ハイパー・ツイン・ショットッッ!!!



 放出された2本の光線(ビーム)は、血の戦士(モンスター)に向かって放出された。血の戦士は、それを血に染まった翼で受け止め、堪えようとするが、無残にも翼は貫かれ、血の戦士の腹部もまた貫かれてしまった――。

Bloo-D LP:3700→1800

「更に、“ビクトリー・バイパー”でダイレクトアタックッ!!――“レーザー・インパクト”ッッ!!」
 神也の叫びに反応し、巨大な戦闘機は、血の戦士の真上にまで移動し、一気に全エネルギーを放出。血の戦士を飲み込むほどのエネルギーで、血の戦士にダメージを与える。

Bloo-D LP:1800→600

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 そう言って、神也はカードを1枚、デュエルディスクに差し込むと、ターンエンドを宣言する。

神也 LP:300
   手札:2枚
    場:獣神機王バルバロスUr(攻撃)、ビクトリー・バイパーXX03(攻撃)、生還の宝札、便乗、リバース1枚

 神也の目の前には、2体のモンスターの攻撃でボロボロになった血の戦士が立っていた。ゆっくりとカードを引き、手札に加える。ボロボロになりながらも、血の戦士は笑みを浮かべていた。とてつもなく大きな笑みを――・・・。

『はっ・・・、ハハハ・・・ッ!!最高だぞッ!!神也ァアアアアアアッ!!!』
 そして、血の戦士は漆黒の空を見上げ、大きく叫びだした。神也はそんな楽しそうな血の戦士の姿を見て、大きく歯を見せて笑った。
『だが・・・、勝つのはお前ではない。――オレだっ!!』
 そう言うと、血の戦士は突然、墓地のカードを取り出し、その内の1枚を手札に加え始める。
「なっ・・・!?」
 そんな姿に、神也が驚いていると、血の戦士はそれに気づき、神也の疑問に答える。
『さっきのオレのターンの“ダイヤモンドガイ”の効果を忘れたか?“戦士の生還”の効果をこのターンで、発動させる――』

戦士の生還
通常魔法
自分の墓地の戦士族モンスター1体を選択して手札に加える。

 血の戦士は神也の疑問に答えると、手札に加えたカード――D-HERO ドグマガイを見せる。
「!? そんなカード、手札に加えたって、使えるわけ・・・!」
『オレはもう1枚、“戦士の生還”を発動し、“Bloo-D”を墓地から手札に加える』
 神也の言葉を遮って、血の戦士は更にカードを1枚、墓地より手札に加える。

 ――その時、血の戦士は改まって真剣な表情をし、神也の方を見る。

『神也――。お前は、やはりオレの思った通りで、始めは“勇気”の無い、とても弱い奴だった――。だが、今は違うッ!!貴様に――、オレの“真”の切り札を見せてやろうッ!!!』
 そして、血の戦士は先程引いた1枚のカードを発動させた――。
















――――“融合”を・・・。



『現れよ――ッッ!!!“最後のD”ッ!』
 血の戦士は残った2枚の手札を墓地に送る。すると、辺りに無数の稲妻が地面に向かって落ち、強大な力が生まれる前触れが始まった――。













――――“Dragoon D-END”ッッ!!!












 そして、「そいつ」は姿を現した――。

 血の戦士と同じ“血に染まった翼”を持ち、運命のヒーローと同じ“鋭き剣”を持ち――、






“最強の力”を持ち――、






そして、“運命を司る力”を持っていた――。



「ドッ・・・“Dragoon D-END”・・・!!?」
 突然の強大なモンスターの出現に、神也は戸惑うばかりであった。そんな神也を見て、血の戦士はゆっくりと説明を始める。
『“Dragoon D-END”・・・。それは、2体の最強の運命のヒーローを合わせることで、召喚を可能にした“最後のD”だ・・・。能力は、2つ!“不変の命”と――、“永遠の破壊”だッッ!!!』
 血の戦士がそう叫ぶと、最後のDは、右手にある剣を高らかに振り上げる――。その瞬間――、野獣と機械が融合したモンスターを中心として、その周辺の空間が少しずつ凝縮され始める・・・。
「なっ・・・!?」
 神也が驚いている間にも、そのモンスターの周りの空間は凝縮していき、やがて野獣と機械のモンスターをも巻き込んでいく――。
 それを見て、はっと我に返ると、神也は伏せてあったカードを発動させる。
「リバースカード“神秘の中華なべ”ッ!!“バルバロスUr”を生贄に捧げ、その破壊を食い止めるッッ!!!」

神秘の中華なべ
速攻魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、
その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

神也 LP:300→4100

 そのモンスターを光の粒子にして、自身の力とすることで、神也はその凝縮――及び破壊を食い止める。息を荒くしながら、血の戦士の方を見つめる。
『これが、“D-END”の“永遠の破壊”だ――』
 血の戦士は小さく笑った。

Dragoon D-END
融合・効果モンスター
星10/闇属性/戦士族/攻3000/守3000
「D−HERO Bloo−D」+「D−HERO ドグマガイ」
このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
1ターンに1度だけ相手フィールド上のモンスター1体を破壊して
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
この効果を使用したターン、バトルフェイズを行う事ができない。
このカードが自分のターンのスタンバイフェイズ時に墓地に存在する場合、
墓地の「D−HERO」と名のついたカード1枚をゲームから除外する事で
このカードを特殊召喚する事ができる。

『だが“破壊”を行ったターンは、こいつは攻撃できない・・・。ターンエンドだ』
 そう言って、血の戦士はターンエンドを宣言した。

Bloo-D LP:600
    手札:0枚
     場:Dragoon D-END(攻撃)

「オレのターン、ドロー」
 神也はゆっくりと自分のターンであることを示し、デッキの上からカードを1枚引いた。

ドローカード:打ち出の小槌

 神也の手札に、最後のDを打ち破るカードは1枚も無かった――。いや、正確に言うと、守りにするモンスターカードさえ、その手札には無かった――。


 小さな絶望が、全員の頭をゆっくりと過ぎる・・・。


 だが、神也は・・・、神也だけは諦めなかった・・・。


「オレは手札から、“打ち出の小槌”を発動。残りの手札2枚全てをデッキに加え、シャッフル――」
 神也は今引いたカードをすぐに場に出し、残った2枚の手札をデッキに加え、セットされたデッキを取り出し、シャッフルを始める――。

打ち出の小槌
通常魔法
自分の手札を任意の枚数選択し、デッキに加えてシャッフルする。
その後、デッキに加えた枚数分のカードをドローする。


 “負けるかよ・・・。”


 そして、ある程度シャッフルすると、神也はデッキを再びデュエルディスクにセットする。


 心臓が、ドクンドクン――と激しく鼓動する・・・。


 “どんなにでかいモンスターが現れても・・・っ!
 オレは、それを絶対に打ち破るッッ!!!”



 “だから・・・、だから・・・ッ!”




 そんな中、神也はゆっくりとデッキに手を伸ばす――。





 “オレに・・・、“勇気”を――ッ!!!”




 そして、神也はデッキの上の2枚のカードを手に取る。




ドロォオオオオオオオオオオッ!!!!


 神也はそう叫んで、2枚のカードをドローする。





神也 LP:4100
   手札:2枚
    場:ビクトリー・バイパーXX03(攻撃)、生還の宝札、便乗

Bloo-D LP:600
    手札:0枚
     場:Dragoon D-END(攻撃)









ドクン・・・







ドクンッ・・・




 新たな力が神也の中で、ゆっくりと覚醒しようとしていた・・・。





神也 LP:4100
   手札:0枚
    場:ビクトリー・バイパー XX03(攻撃)、生還の宝札、便乗

Bloo-D LP:600
    手札:0枚
     場:Dragoon D-END(攻撃)

ドロォオオオオオオオオオオオッ!!!!
 神也は大きく叫びながら、カードを2枚ドローする。

 次の瞬間だった――。

カッ!!!

 引いた2枚のカードの内の1枚から、とても大きな金色(こんじき)の光が放たれた。その金色の光を見て、神也は目を見開き、カードを確認する事を忘れるくらいに驚いた。
「なっ・・・、何だ!?この・・・光は!!?」
 驚いているのは神也だけではなかった。翔達はもちろんのこと、アンナでさえ、目を見開き驚いていた。だが、そんな中、ただ1人――血の戦士だけが驚くことなく、小さく笑っていた。
 そして、口を開いた・・・。
『神也よ・・・。よくぞ、そのカードを引いた――』
「・・・!?どういう意味だ?」
 血の戦士の突然の言葉に、神也は首を傾けながら聞き返した。
『それが“勇気”の力を象るカードだ――』
 そう言って、血の戦士は再び笑ってみせる。

 そんな中、1枚のカードから放たれる金色の光は、少しずつ輝きを増していき、やがては神也のデュエルディスクの形状をも変化させていく・・・。
 血の戦士の背にある翼と似たような形をしたデュエルディスク――。だが、色は血で染まったかのような赤黒ではなく、太陽のように輝く金色であった。

「何で・・・、こんなカードがオレのデッキに入ってるんだ・・・?」
 当然の質問を血の戦士に投げかける神也。
『それは元々“お前の中”にあったカードだ。』
「オレの・・・中・・・」
 神也は血の戦士の言葉を聞くと、自分の胸に手をそっと置いた。
 ドクン、ドクンと何らかの力の鼓動が伝わってくる――。
『そう。それが、オレとの戦いによって手に入れた“勇気”で、その手に発現させたんだ!』
 神也は血の戦士の言葉を聞きながらも、ほぼ全ての神経を力の鼓動を感じるために当てていた――。
 だからこそ、伝わる――。「勇気の力を象ったカード」の能力が――。

 そして、神也は引いた2枚のカードを確認する。
(いける・・・、いけるぞっ!!!)
 神也は確かな「勝ち」の感触を手にしていた。だが、次の瞬間、神也の頭を過ぎったのは、小さな勇気の揺らぎであった。
 突然手にした見たことも無いカード――このカードを使わなければ勝てないのは事実だ。それに、能力も何となくではあるが、理解できている。
 だが、本当に使えるのだろうか・・・?

 ―――そんな勇気の揺らぎを止めたのは、血の戦士であった。

『貴様にとって、そのカードは見たことも無いカードかも知れない・・・。だが、そのカードの効果によってもたらされる力に関しては、別のはずだ!』
「!!?」
 血の戦士の言葉を聞き、咄嗟に神也は過去のデュエルを振り返り始める。
『そうだ・・・。“あの時”のデュエルは、“強制”ではない・・・、“必然”だったんだ、神也ッ!!』

 血の戦士の言葉が、思いが、神也の中にある勇気の揺らぎを止めていく・・・。そして――、

『自分で言ってただろう?勇気とは、“全てを見極めた上で突撃すること”だと。ならば、話は早い。貴様は“見極めている”んだ!!だからこそ――、使えッ!!!



揺らぎが・・・、止まった――。


 神也の目が鋭くなっていく・・・。
「オレは手札から“パワーカプセル”を発動ッ!!“ビクトリー・バイパー XX03”の3つ目の効果を使用――オプショントークン1体を特殊召喚するっ!!」

パワーカプセル
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「ビクトリー・バイパー XX03」1体を
選択して発動する。「ビクトリー・バイパー XX03」の効果から1つを選択し、
このカードの効果として適用する。

ビクトリー・バイパー XX03
効果モンスター
星4/光属性/機械族/攻1200/守1000
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、
次の効果から1つを選択して発動する。
●このカードの攻撃力は400ポイントアップする。
●フィールド上に表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊する。
●自分フィールド上に常にこのカードと同じ種族・属性・
レベル・攻撃力・守備力の「オプショントークン」を1体特殊召喚する。

オプショントークン
星4/光属性/機械族/攻1200/守1000

 神也の目の前にいた戦闘機から、液状の球体がポンッ――と出たかと思うと、その球体は、一瞬のうちに戦闘機と同じ形状になった。
「そして――、魔法カード・・・ッ!!!」
 神也はいまだ金色に輝き続けるカードを手に取り、金色の翼となったデュエルディスクに力強く差し込む。
 そして、叫ぶ。そのカードの名を――。
























































































――――“ライトニング・チューン”発動ッッ!!!!



 次の瞬間、空高くから一筋の金色の閃光が降り、戦闘機を貫いた。その一筋の閃光によって戦闘機はコーティングされ、何かと“同調(シンクロ)”する事が出来るようになった。


ライトニング・チューン
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するレベル4の光属性モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限りチューナーとして扱う。


「行くぜェッ!!“シンクロ召・喚”ッッ!!!!
 神也は高らかに宣言する。
 自身の心に眠る勇気を起こしながら・・・。


 そう、神也はこんな光景を見たことがあった。加奈がデストロイドによって囚われ、無理矢理デュエルをした時である。

 あのときに見た、小さなきっかけが今、綺麗な花となって、咲き乱れる。

 散っていく花びらは光、咲き続ける花は翼、そして、その花の存在は全てを消し去る――、


“龍”――。



「現れろッ!!!光によって全てを消し去る最強の龍ッ!!――“ライトエンド・ドラゴン”ッッ!!!!
 2機の戦闘機が重なり、やがて、巨大な光の龍を出現させる――。




「・・・!?」
 その光の龍を見て、真っ先に驚いたのが、神童であった。だが、驚きと同時に、大きな喜びもあった。その光の龍が、神也の巨大な「勇気」を表しているように見えたから――。

「改めて紹介するぜ・・・。これが、オレの新たな切り札だッ!!!」
 その神也の叫びと共に、背後に聳えていた光の龍も、その口を大きく開き、巨大な雄叫びを上げる。
『かなりの威圧感を持った龍だが・・・、甘いなッ!その龍の攻撃力は、2600!オレの切り札――“Dragoon D-END”にはまだ届いていないッ!!』
 血の戦士は必死でそう叫んでいるが、内心は既に負けを認めていた。
 魔獣の時と同様――負けを認めているからこそ、最後の「壁」になろうとしているのだ。
「ヘッ!甘いのはどっちかな!!?“ライトエンド・ドラゴン”の攻撃時に、効果発動!!!――自身の攻守を500ポイントダウンさせる事で、相手モンスターの攻守を1500ポイントダウンさせる事が出来るッッ!!!」
 神也の言葉を聞き、血の戦士は目を見開き驚いてしまう。
 その間にも、光の龍は、強力な光を最後のD目掛けて放出――目をくらませる事によって、その戦闘力を下げる事に成功した。

ライトエンド・ドラゴン 攻:2600→2100
            守:2100→1600

Dragoon D-END 攻/守:3000→1500

ライトエンド・ドラゴン
シンクロ・効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻2600/守2100
チューナー+チューナー以外の光属性モンスター1体以上
このカードが戦闘を行う場合、
モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力は500ポイントダウンし、
このカードと戦闘を行う相手モンスターの攻撃力・守備力は
エンドフェイズ時まで1500ポイントダウンする。

「攻撃力の差はジャスト600ポイントッ!!これで、オレの勝ちだァアアアアアアアアアアッ!!!!」

































――――シャイニングサプリメイションッッ!!!!

































Bloo-D LP:600→0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 いつの間にか、光の龍によって、辺り一面が漆黒から光に変わっていた。

『よくオレを倒したな、神也』
 血の戦士はそう言って、神也の頭にポンッと軽く手を置いた。だが、そんな血の戦士にはもう時間が無かった――。
 足の方から少しずつ、体が砂になってきているのだ・・・。


 そう、一時の“死”を迎えるのだ。


「あ、あぁ・・・」
 神也の声が何処と無く聞き取りづらくなっている。
『さてと、そろそろ時間だな・・・』
 神也の返事を聞くと、血の戦士は笑いながらそう言った。

 何で笑っていられるのだろう?――これも、“勇気”なのか?

 神也は心の底でそう思っていた。
 神也がそんな事を思っていると、血の戦士はデュエルディスクにセットしてあったデッキを取り出し、それを神也の手の上に乗せた。
『オレを倒したんだ――。これは、お前に託すぜ。オレの“魂”と共に・・・』
 神也の手の上に乗ったデッキの一番上のカード――それは、D-HERO Bloo-Dであった。
『それと、これはご褒美――。シンクロに関するカードが数枚ある。これも、お前に託すよ』
 そう言って、血の戦士は何処からとも無く取り出した数枚のカードを、これまた神也の手の上にそっ――と置いた。
 既に、血の戦士の体の半分以上が、砂となって消滅していた・・・。

「・・・・・・・・・からな・・・」
 聞き取りづらくなった神也の声が、血の戦士の耳に届く。
『え?』
 血の戦士は聞き取れなかったため、小さく聞き返す。


「涙は見せないからな!オレ達は、1ヶ月もすりゃあまた会えるんだしっ!」
 神也は光で満ち溢れた空を見上げながら、大きくそう叫んだ。
 血の戦士はその叫びを聞き、少しの間、呆気に取られるも、すぐに表情を元に戻し、再び小さく笑った。そして、小さく首を縦に振った。



 次の瞬間――、血の戦士の姿が消えた。



 それと同時に、漆黒改め光の都市の空間からも弾き飛ばされ、4枚の巨大な扉がある森の中に戻ってきていた。
 だが、神也は空を見上げ続けていた。

「神・・・也・・・?」
 心配になった神童が、神也に声を掛けようとする。

 神也の目から、少しの涙が流れてきていた・・・。




 また会えるんだ・・・、だから、良いじゃないか・・・。
 でも・・・、でも・・・!


 神也は自分の涙を止める事が出来なかった。
 だが、神也は袖で目を何度もこすり、涙を拭いた。
「どうした?神童」
 そして、いつもと変わらぬ表情で、神也は神童の方を向いた。


(オレはもっと強くなるから・・・!)
 神也は自分の手の上に乗っていた40数枚のカードの束を力強く握る。

(いや、なってみせる!!!)


 神也はまた1つ、前に進んだ――。

「んじゃあ、さっさと新しいデッキでも作れば?」
 神也の決意を感じ取った翔は、神也の隣に立ってそう言った。神也は突然の言葉に驚き、翔の方を見る。すると、翔は歯を見せながら、大きく笑ってみせた。そんな表情を見ると、神也も小さく笑った。
「あぁ・・・、そうするよ」
 だが、何処と無く神也の声に、力は無かった。

 そう、今だけだから・・・。

 今だけ、今だけ・・・。


 今だけは、こんなんでも良いよな?――Bloo-D・・・。

 神也の左腕に装着されたデュエルディスクは、再び形状を変化させ、ベルトになっていた。金色で、至る所に装飾が施されているそれは、神也の腰にしっかりと巻きつけられている。
 そのベルトは、小さくではあったが、光を放ち続け、神也の脳へダイレクトに新たなデッキのイメージを与え続ける。神也は、それに応えるように、デッキを作り続ける。




 そして――、完成させた・・・。




「遅いぞ、神也〜!」
 待ちくたびれて、次なる扉――「混沌」の世界に続く扉の前で座っていた加奈が立ち上がり、神也に向かって怒りながら、そう叫ぶ。
「はやく、行こうよっ!」
 神童もまた、加奈の隣で立ち上がり、神也を呼ぶ。

 神也の目の前には、仲間がいる・・・。



 だからこそ、「勇気」が持てる・・・。


「っていうか、本当にそのデッキ強いの?“グリード・クエーサー”だけでも、使いにくいデッキになってるっていうのに」
 有里が、突然神也にそう言い放つ。
 神也の中の何かに、その言葉がブスリと刺さるが、神也はそれに耐え、何とか口を開く。
「え?え、えええええ・・・?そう、なの?いやいやいや、そんなことないから。“グリード・クエーサー”使いやすいから」
 神也は必死で、有里に反論するが、有里はそんな神也の姿を見て、「やれやれ」と思うと、冷たい目で神也を見つめ、小さく口を開いた。
「そう思ってるのあなただけだから」


グサッ!!


 神也の中の何かが、穴だらけになった。

「・・・」
 神也の反論が、途絶えた。


「じゃ、行きますか!」
 そんな神也をスルーして、翔は口を開く。



 そして、アンナは静かに、ゆっくりと、目の前にある「混沌」の扉を開いた――。


 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 扉を開いた先に広がるのは、扉を開ける前までいた森の中に、とても似ていた。辺り一面が木に覆われており、弱々しい風が、その木から生えている葉をなびかせている・・・。

 ドックンッ・・・

「アァッ・・・!!」
 そんな空間に入った瞬間であった。
 突然、加奈が頭を抑えながら苦しみだし、片膝をつけてしまう。
「どっ・・・!?どうしたの!!?」
 そんな異変にすぐに気づいた真利が、加奈の側に駆け寄る。だが、そんな言葉が届かないくらい、加奈は苦しみを感じていた。




『――ワシが発した“混沌の波動”を感じ取ったのはお前か・・・、晃神 加奈よ』



 突如、老人のような者の声が聞こえてくる――。


 その直後、加奈の苦しみは無くなり、何事も無かったかのように加奈は立ち上がり、デュエルディスクを装着、デッキをセットする。
「そんな事を言う、ってことは・・・、私が“混沌”なのかな・・・?」

『その通り・・・』



ブワァッ!!!




 次の瞬間――、黒い塊が目の前に出現したかと思うと、その黒い塊は回転することで、漆黒の風を呼び起こし、その風は、黒衣を着た魔術師へと姿を変える――。

『ワシの名は、黒衣の大賢者・・・。では、“混沌”の力と“生死”の2つをかけ・・・、デュエルだ』

第28章 3体目の精霊――黒衣の大賢者


「えぇ・・・ッ!」
 加奈が魔術師の言葉に答えると、魔術師はその魔力によって、左腕に漆黒のデュエルディスクを出現させる。それには既に、デッキがセットされており、デュエルが出来る状態となっていた。


『では・・・、行くぞ!』
「負けない・・・っ!」



 そして、また新たなデュエルが始まった――。




第29章 加奈VS大賢者――魔術師VS魔術師

『先攻はワシじゃ・・・!』
 老人の魔術師はそう言うと、デッキの上からカードを1枚引き、スッ――と手札に加える。すると、既に戦術を決めていたかのように、素早く手札のカードを展開し始める。
『ワシは、手札から魔法カード――“黒魔術のカーテン”を発動する!』
 老魔術師がそのカードを漆黒のデュエルディスクに差し込んだ瞬間、老魔術師の目の前に、巨大な黒いカーテンのようなものが姿を現した。
「“黒魔術のカーテン”!!?」
 老魔術師の言葉、老魔術師の目の前に出現した黒いカーテンを見て、真利が目を見開き、驚くように叫ぶ。
「やっぱり・・・、あなたのデッキは・・・!!」
 加奈の言葉を遮るように、バッ――と、カーテンの中から1体の黒き魔術師が出てきた。


『召喚・・・。“ブラック・マジシャン”―――』


 その黒き魔術師は、鋭い目つきで加奈を睨む。

黒魔術のカーテン
通常魔法
このカードを発動する場合、そのターン他のモンスターを
召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。ライフポイント半分を払い、
自分のデッキから「ブラック・マジシャン」を1体特殊召喚する。

ブラック・マジシャン
通常モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

大賢者 LP:4000→2000

『更にカードを1枚伏せ、ターンエンド』
 老魔術師は、手札から更にカードを1枚抜き出すと、それを再び漆黒のデュエルディスクに差し込む。そして、静かにターンエンドを宣言した。

大賢者 LP:2000
    手札:4枚
     場:ブラック・マジシャン(攻撃)、リバース1枚

「私のターンね・・・」
 そう言って、加奈はデッキの上からカードを1枚引くと、それをゆっくりと手札に加える。そして、そのまま加奈は右手で額の汗を軽く拭った。
 目の前に聳えているのは、自身にとっての切り札ともいえるモンスター。自分の隣に立っていたモンスターが、突然自分の真正面に立った事で、いつも以上の威圧感を加奈は感じているのだ。

 だが・・・、威圧を受け、退いてばかりではいられない・・・。
 加奈は汗を拭った後、右足を少しだけ上に上げ、一歩前に出た。


「私も・・・ッ、“黒魔術のカーテン”を発動させる!ライフを半分払い・・・、現れろッッ!!―――“ブラック・マジシャン”!!!」
 加奈もまた、手札にあった老魔術師が先程発動したカードと全く同じカードを発動し、全く同じ容姿の黒き魔術師は場に出現させた。その瞬間、加奈の横に立っていた黒き魔術師は、自分の持っている杖に、自身の魔力を注ぎ込み始める――。
 それに対抗してか、老魔術師の横に立っていた黒き魔術師もまた、自分の持っている杖に、自身の魔力を注ぎ込んでいく――。

「行くわよ・・・、バトルフェイズ!!」
 加奈の叫びと共に、2人の黒き魔術師は、勢いよくジャンプし、対峙する相手の下へと向かう。そして、注ぎ込んでいた魔力を一気に解き放つ。


黒・魔・導(ブラック・マジック)ッッ!!
魔・導・弾(マジック・バースト)ッッ!!


――ドッ!!


 2つの漆黒の魔力が激突する事で、辺りの空間が振動――その振動は、より強い衝撃を生み、辺り一面を一気に吹き飛ばした。それに巻き込まれた2人の黒き魔術師は、その姿を消してしまう・・・。
 互いの魔力は互角――互いの主(マスター)に攻撃が届く事は無かった。

 魔力の激突によって舞い上がる砂煙の中、一切動じていない2つの姿――黒きマントが靡(なび)く老魔術師の姿と長い髪が靡く加奈の姿があった。

「私は、カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」
 そんな中で、加奈はカードを1枚場に出し、ターンエンドを宣言する。

加奈 LP:2000
   手札:4枚
    場:リバース1枚

 加奈のターンエンド宣言を聞くと、老魔術師は素早くデッキの上からカードを1枚引いた。そして、そのカードを手札に加えることなく、力強く場に出した。

『出でよ――“熟練の黒魔術師”ッ!』

熟練の黒魔術師
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻1900/守1700
自分または相手が魔法を発動する度に、
このカードに魔力カウンターを1個乗せる(最大3個まで)。
魔力カウンターが3個乗っている状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、
自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」を1体特殊召喚する。

 老魔術師が場に出したモンスターは、先程消滅した黒き魔術師によく似た魔術師であった。その魔術師は黒き衣を身に纏っており、その黒き衣には、不気味に光る3つの魔力を込められる玉が取り付けてあった。
『一気に行くぞッ!“熟練の黒魔術師”で、ダイレクトアタック!!』
 老魔術師の叫びを受け、黒き衣を身に纏った魔術師は足に力を込め、地面を力強く蹴り、加奈の下へダッシュする。そんな中で、その魔術師は杖に魔力を込めていく。
 そして、その魔術師が込めた魔力を解き放つ瞬間、加奈は伏せてあったカードを発動させる――。
「リバースカード発動ッ!――“正統なる血統”!!」
 伏せてあったカードが展開された瞬間、光と共に、加奈の目の前に姿を現したのは、先程の魔力の激突によって姿を消した黒き魔術師であった。黒き魔術師の威嚇を受け、攻撃を行おうとしていた魔術師は怯え、老魔術師の下へ退いてしまう。

正統なる血統
永続罠
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。

『“正統なる血統”か・・・。ならば、ワシはこれでターンエンド――』
 老魔術師は、静かにそう言った。

大賢者 LP:2000
    手札:4枚
     場:熟練の黒魔術師(攻撃)、リバース1枚

 加奈は老魔術師の言葉を聞くと、ゆっくりとカードを引いた。引いたカードは、相手のモンスター1体を確実に破壊する魔法カードであった。それを見て、加奈は決断する。
「私は手札から“千本(サウザンド)ナイフ”を発動――これによって、“熟練の黒魔術師”を破壊する!!」
 加奈がそのカードをデュエルディスクに出すと、黒き魔術師の体を覆う様に、無数のナイフが姿を現した。その無数のナイフは、一瞬のうちに黒き衣を身に纏った魔術師の体を貫き、消滅させた。

千本(サウザンド)ナイフ
通常魔法
自分フィールド上に表側表示の「ブラック・マジシャン」が
存在する時のみ発動する事ができる。
相手フィールド上モンスター1体を破壊する。

「よし!一気に攻める!!――“ブラック・マジシャン”で、ダイレクトアタックッ!!」
 加奈の叫びを聞き、黒き魔術師は一瞬で老魔術師の側にまで移動。杖に魔力を込めると、その魔力を一気に解き放とうとする――。
 だが、そこで待ち構えていたのは、老魔術師ではなく、黒き魔術師であった。
「えっ・・・!?あなたも・・・、“正統なる血統”を・・・!!?」
 加奈はそう言いながら、老魔術師の場を確認する。確かにそこには、加奈の予想していたカード――正統なる血統が、展開されていた。
『さぁ・・・、どうする?このまま、バトルを続行するか!?』
 老魔術師の言葉を聞き、すぐに加奈は手札確認を始める。
 手札にはモンスターもあり、また相手の攻撃を防ぐカードもある。

 加奈は、ここは確実に相手の主力を潰しておくべきと判断した。


 そして、待ち受けていたのは、最上級魔術師の2度目の激突――。


「行くわよ・・・、“ブラック・マジシャン”ッ!」
『迎え撃て・・・、“ブラック・マジシャン”!!』

 加奈と老魔術師の言葉が交差する中、2つの漆黒の魔力は激突――2度目の巨大な衝撃を生み出し、2人の黒き魔術師はその姿を消した――。

「私はモンスターを1体セットし、カードを1枚伏せ、ターンエンド――」
 加奈は倒れた黒き魔術師を労わる様に、2枚のカードをゆっくりと場に出し、ターンエンドを宣言する。
 だが、老魔術師はそれと相反し、素早くデッキの上からカードを1枚引く。

加奈 LP:2000
   手札:2枚
    場:裏守備1枚、リバース1枚

 ――そして老魔術師は

『ワシは手札から魔法カード――“早すぎた埋葬”を発動し、“ブラック・マジシャン”を復活させる』

大賢者 LP:2000→1200

 その黒き魔術師は、ボロボロになりながらも、主(マスター)のため、再び立ち上がった。

早すぎた埋葬
装備魔法
800ライフポイントを払う。
自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示で
フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

 ――静かに

『更にワシは、“セカンド・チャンス”を発動し、“時の魔術師”を召喚ッ!!』
「えっ・・・?」
 老魔術師の素早い戦術に、追いついていない加奈がそこにはいた。

セカンド・チャンス
永続魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、
自分がコイントスを行う効果を1ターンに1度だけ無効にし、
コイントスをやり直す事ができる。

時の魔術師
効果モンスター
星2/光属性/魔法使い族/攻 500/守 400
コイントスで裏表を当てる。当たりは相手フィールド上モンスターを全て破壊する。
ハズレは自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。
さらにこの効果によって破壊された自分のモンスター全ての攻撃力を合計し、
その半分のダメージを受ける。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 ――笑った

 その瞬間、老魔術師の目の前にいた時計を模したモンスターが勢いよくジャンプして、加奈と老魔術師の丁度真ん中に立つと、手に持った杖を空に向けて掲げ、力を込める。その力に反応し、杖の先端にあった針が回転を始める。
 その針が止まった瞬間、加奈にとっての“悪夢”が始まる――。

 加奈の目の前にいたモンスターは姿を消し、老魔術師の目の前にいた黒き魔術師は姿を変え、新たな力を手に入れた――。
 その姿は、老魔術師と全く同じ姿ではあったが、常に放たれている魔力は、老魔術師の比ではなかった。


『――降臨・・・』
 そして、老魔術師は小さくつぶやくように言った。
 だが、その言葉は加奈の心に深く浸透していく・・・。








『――“黒衣の大賢者”



加奈 LP:2000
   手札:2枚
    場:リバース1枚

大賢者 LP:1200
    手札:2枚
     場:黒衣の大賢者(攻撃)、時の魔術師(攻撃)、セカンド・チャンス




第30章 光と闇の洗礼――混沌の力

『“黒衣の大賢者”の効果発動――デッキの中から魔法カード――“死者蘇生”を手札に加える』
 老魔術師の言葉と共に、聞こえてくるのは呪文の詠唱であった。その呪文により、老魔術師のデッキの中からカードが1枚抜き出され、そのカードは老魔術師の手札の中に入り込んだ。
「魔法カードのサーチを持っているの・・・!?」
 絶望の中で、加奈は何とか言葉を発した。だが、その言葉は驚きを示すだけであって、余裕や楽を示すものではなかった。

黒衣の大賢者
効果モンスター
星9/闇属性/魔法使い族/攻2800/守3200
このカードは通常召喚できない。
「時の魔術師」の効果成功時、フィールド上の「ブラック・マジシャン」1体を
生け贄に捧げる事で、手札またはデッキからこのモンスター1体を特殊召喚する。
その時、デッキから魔法カードを1枚選択して手札に加え、デッキをシャッフルする。

死者蘇生
通常魔法
自分または相手の墓地からモンスターを1体選択する。
選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。

 その後、老魔術師は手札に加わった魔法カードを即座に発動させる――。
『“死者蘇生”により、“ブラック・マジシャン”を復活させる・・・!』
 その魔法カードの効力により、再び黒き魔術師がその目を覚まし、深い地面の底より姿を現す。
 そして、老魔術師は小さく笑い、手をスッ――と前に出した。
『2体で・・・、ダイレクトアタック!!』

ジジジジジジジジジジジジジジッ・・・

 老魔術師の言葉を聞き、2人の魔術師はそれぞれの手に握られた杖に魔力を込め始める――。
 やがて、込められた2つの魔力は混ざり合い、1つの巨大な黒き魔力となった。

 そして、それは一気に解き放たれる。

(やられるっ・・・!!)
 自分に向かって放たれた黒き魔力を見て、加奈はそう思った。そして、それを防ぐべく本能のままに、伏せてあったそのリバースカードを開いた。
「こっ・・・、“攻撃の無力化”発動ォオオオオオッ!!」
 加奈の目の前に出現した巨大な渦――その渦は、巨大な黒き魔力を一瞬のうちに吸収し、そして静かに消滅した。

攻撃の無力化
カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 咄嗟の攻撃を防いだせいか、加奈の息はかなり荒くなっていた。
「ハァ・・・ハァ・・・」
 そして、自然と出てくる汗を加奈は手で力強く拭った。

『カードを1枚伏せ、ターンエンド』
 そんな加奈をよそ目に、老魔術師は自身の戦術を終了させていた。

大賢者 LP:1200
    手札:1枚
     場:黒衣の大賢者(攻撃)、ブラック・マジシャン(攻撃)、時の魔術師(攻撃)、セカンド・チャンス、リバース1枚

 加奈は2人の強大な魔術師を前にしているため、体を震わせていた。だが、震えながらもデュエルを続けようと、加奈は何とかカードを1枚引く。
 残った手持ちのカードは現在、3枚となっていた――。
「私は手札から“地砕き”を発動。“黒衣の大賢者”を破壊するッ!!」
 加奈は残った3枚のカードで、少しでも老魔術師に対抗しようと奮闘する。

地砕き
通常魔法
相手フィールド上の守備力が一番高い表側表示モンスター1体を破壊する。

「そして、モンスターを1体セット、カードを1枚伏せてターンエンドよ」
 奮闘しようとするも、やはり限界が存在していた。
 守り、それが精一杯だった・・・。

加奈 LP:2000
   手札:0枚
    場:裏守備1枚、リバース1枚

『ならばワシはそのエンドフェイズ時に、“転生の予言”を発動する。“黒魔術のカーテン”と“黒衣の大賢者”をデッキに加え、シャッフルする』
 老魔術師は加奈のターンエンド宣言と同時に、伏せてあったカードを発動。デュエルディスクの墓地ゾーンより出てきた2枚のカードをデッキに加えると、デッキをデュエルディスクから取り出し、数回シャッフルすると、再びデュエルディスクにセットした。

転生の予言
通常罠
墓地に存在するカードを2枚選択し、
持ち主のデッキに加えてシャッフルする。

『そして、ワシのターン、ドロー』
 先程発動したカードの効果処理を終えると、老魔術師はデッキの上からカードを1枚引き、手札に加えた。
『フム・・・、ワシはここで“時の魔術師”の効果を再び発動させる!』
 老魔術師の言葉を聞き、時計を模したモンスターは再び杖の先にある針を回転させ始める。針は目にも止まらぬ速さで回転を続け、やがて止まる――。
 止まった所には、髑髏が。つまり、老魔術師はハズレを引いたのだ。
「やったっ!」
 針の止まった先を見つめて、加奈はガッツポーズをとった。だが、老魔術師は小さく笑って、場にある1枚のカードを指差した。
 そのカードはセカンド・チャンス――。
「しまっ・・・!!」
 加奈の言葉を遮ったのは、再び始まった針の回転音であった。

 そして、発生した衝撃――その衝撃は、加奈の伏せてあったモンスターを一瞬で薙ぎ払い、老魔術師の目の前にいた黒き魔術師に「時」という、力をもたらした。

『ワシは“黒衣の大賢者”の効果で、“黒魔術のカーテン”を手札に加える――』
 そう言って、老魔術師は新たに手札に加わったカーテンが描かれたカードを加奈に見せる。
 それと同時に始まったのは、老いた黒き魔術師の攻撃――。


――“黒・魔・導・弾(ブラックマジック・バースト)”ッッ!!!


 その黒き闇は、一筋の閃光となって、加奈の下へと向かっていく。
「リバースカード!“ドレインシールド”ッッ!!」
 だが、加奈が発動したカードによって出現した盾(シールド)の前には無力同然であった。黒き闇は、加奈の目の前に出現したシールドに当たると、無数に拡散し、加奈の体内に吸収されていった。

ドレインシールド
通常罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。

加奈 LP:2000→4800

 老魔術師は攻撃を終えると、時計を模したモンスターを守備表示に変更させ、つぶやくようにターンエンドを宣言した。

大賢者 LP:1200
    手札:3枚
     場:黒衣の大賢者(攻撃)、時の魔術師(守備)、セカンド・チャンス

 だが、加奈の耳にその宣言は届いていなかった・・・。

 加奈は目を閉じ、自身のデッキに念を送っていた・・・。

(お願い・・・、私のデッキ!私の言葉に・・・、応じてッ!!!)
 そう念じると、加奈は目を見開き、力強くデッキの上からカードを引いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その時突然、神童の体を覆うように風が吹いた。

 ――風は

『お前に足りないものが“あれ”だ・・・』
「――!?」
 神童は突然聞こえてきた言葉に驚いてしまった。

 ――何かを

 ――伝えた

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「私は・・・、モンスターを1体セットし、ターンエンドッ!!」
 神童の周りで何らかの異変が起こっている間にも、加奈は笑顔で引いたカードを場に出していた。
 その表情の変化を見て、老魔術師も「楽しくなってきた」といわんばかりの笑みを浮かべた。
『ワシのターン・・・、“時の魔術師”をリリースし、“ブラック・マジシャン・ガール”をアドバンス召喚ッッ!!!』
 老魔術師の言葉に合わせて、時計を模したモンスターの姿は光の粒子となり、その光の粒子は、やがて新たな魔術師の少女へと変化した。その魔術師の少女は、姿を現した途端、颯爽とジャンプし、墓地にいる“それぞれの”師匠の力を譲り受ける。
「“ブラック・マジシャン・ガール”・・・」
 加奈は目の前に現れた魔術師の少女を見てそうつぶやいた。
 このモンスターもまた、加奈のデッキの中にいる主力のうちの1体であった。

ブラック・マジシャン・ガール 攻:2000→2600

ブラック・マジシャン・ガール
効果モンスター
星6/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1700
自分と相手の墓地にある「ブラック・マジシャン」と
「マジシャン・オブ・ブラックカオス」1体につき、
このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

『攻撃・・・ッ!!』
 その言葉を受け、まず始めにモンスターである老魔術師が、空高く浮上し、加奈の頭上にて、魔力を自身の手に握られた杖に込め始める。
 そんな老魔術師の姿を見て、加奈は驚くが、目の前にいる裏側のモンスター以外防ぐ術を持っていない今、加奈は目を強く閉じ、両腕を自分の頭上で×字状にして、構えるしかなかった。


―――“黒・魔・導・光(ブラックマジック・レーザー)ッッ!!”



ドッ!!!

 加奈の頭上から解き放たれた魔力は、細長い凝縮されたビームとなって、加奈を襲う。裏側となっているモンスターがその攻撃を受け止めてくれるが、加奈への衝撃も少なくは無い。
「キャァアアアアアアアアアアアッ!!!」
 思わず加奈は、悲鳴のような甲高い声を上げてしまう。

 衝撃は、加奈だけでなく、翔達全員をも襲う。

「みんな、伏せろォッ!!」
 咄嗟の翔の叫びにほぼ全員が反応し、何とか衝撃が来る前に伏せる事が出来たが、それぞれの体にかかる負荷は相当なものであった。
「加奈ッ・・・!!」
 そんな強い負荷を受け、すぐ側でその衝撃を受けている加奈の事を咄嗟に考えた真利は、目を閉じ、負荷に耐えながらも加奈の名を口にした。

「破壊された“メタモルポット”のリバース効果を発動させる・・・。互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その後カードを5枚ドローする」
 加奈はボロボロになりながらもそう言った。
 老魔術師が残り数枚となった手札を捨てる中、加奈は既に手札が0枚だったため、捨てることなく、デッキの上からカードを5枚引いた。

メタモルポット
効果モンスター
星2/地属性/岩石族/攻 700/守 600
リバース:自分と相手の手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

(よし・・・、いけるっ!)
 加奈は新たにドローした5枚の手札を見て、逆転の道筋を見つけていた。
『フッ・・・、勝てる見込みを見つけたか?だが、ワシの攻撃は終わっていない。“ブラック・マジシャン・ガール”の攻撃ッ!』
 老魔術師の言葉を受け、魔術師の少女は自身の杖に師匠の力を受け、強力になった魔力を込め始める。やがて込められた魔力は、バチバチッと電気を帯び始め、より強力になっていく。


―――“黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)ッッ!!”


 そして、魔術師の少女の魔力が、加奈に向かって解き放たれるが、既に加奈には攻撃を防ぐ術がなくなっていた。

ドガァアアアアアアッ!!!

加奈 LP:4800→2200

「カ・・・ハッ!」
 まともにその魔力を受けたため、加奈は魔力を喰らった腹部辺りを抑えてしまう。
 そんな姿を見て、神也が咄嗟に拳を握り締めていた・・・。

『カードを2枚伏せ、ターンエンド――』

大賢者 LP:1200
    手札:3枚
     場:黒衣の大賢者(攻撃)、ブラック・マジシャン・ガール(攻撃)、セカンド・チャンス、リバース2枚

 ボロボロになった加奈の姿を見ながらも、老魔術師は非情を“演じ続けていた”。
 加奈に「あること」を気づかせるためにも、老魔術師は非情にならざるを得なかったのだ。

「私のターン――、ドロー」
 加奈はボロボロになりながらも、ゆっくりとカードを1枚引いた。

 そんな姿を見て、もう見てられないと思い、真利は目を強く閉じてしまうが、そんな姿を見て、翔は小さく口を開いた。
「真利・・・。ちゃんと見てろ」
「えっ・・・?」
 翔の言葉を聞き、真利は目を開いて、翔の姿を見た。
「あいつは今、お前が“ダ・イーザ”と戦ったときのように、必死で頑張ってんだ・・・。そんな姿をオレ等が・・・、いや特にお前が・・・、見ないでどうする?」
 真利は小さくうなずいて目を開き続けた。翔はそんな真利の姿を見て、小さく笑ってみせた。

「ここで一気に場を制圧してみせるっ!!」
 加奈はそう力強く叫ぶと、手札のカードを一気に展開し始める。
「まず・・・、“サイクロン”を発動し、あんたのリバースカード1枚を破壊するッ!!」
 強力な風が、加奈の言葉を受け、老魔術師の目の前にある伏せられたカード1枚を吹き飛ばした。

サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

「更に“早すぎた埋葬”!この効果で、ライフを800払い、“ブラック・マジシャン”を復活させるッ!!」

加奈 LP:2200→1400

 加奈の力を受けた黒き魔術師が、加奈をもう一度守るために、その姿を現した。その目は鋭く、加奈を傷つけた者を力強く睨みつける。

早すぎた埋葬
装備魔法
800ライフポイントを払う。
自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示で
フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

「そして、装備魔法――“魔術の呪文書”ッ!“ブラック・マジシャン”の攻撃力を700ポイントアップッ!」

ブラック・マジシャン 攻:2500→3200

 加奈の出したカードの効果によって、黒き魔術師の目の前に1冊の分厚い本が出現した。黒き魔術師は、その本にサッ――と目を通し、魔力のコントロールを磨く事に成功。自身の魔力アップにも繋げる事にも成功した。

魔術の呪文書
装備魔法
「ブラック・マジシャン」「ブラック・マジシャン・ガール」のみ装備可能。
装備モンスターは攻撃力が700ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地に送られた時、
自分は1000ライフポイント回復する。

「そして・・・、これが逆転のカードッ!!“拡散する波動”ッッ!!

拡散する波動
通常魔法
1000ライフポイントを払う。
自分フィールド上のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊された効果モンスターの効果は発動しない。

加奈 LP:1400→400

 加奈の最後のカード発動を聞き、黒き魔術師はその杖に自身の魔力全てを込め始める。その魔力は、「拡散」の力を手に入れており、込めれば込めるほど、その魔力は強力になるというより、大きくなっていった。

 このとき、加奈の頭の中では自身の勝利で一杯だった。
 魔術師の少女、老魔術師を同時に破壊すれば、与えられるダメージは1300。相手のライフは1200。
 これで、勝てると思っていた・・・。

 ――勝利の喜びは

「“ブラック・マジシャン”の攻撃ッッ!!!」
 加奈の叫びを聞き、黒き魔術師はその杖を空高く掲げ、一気に魔力を解き放った。


“黒・魔・導・波・動(ブラックマジック・スラッシュ)ッッ!!!!”


 解き放たれた魔力――。その魔力は、老魔術師と魔術師の少女へと向かっていくが、次の瞬間、その魔力は煙となって消えた。

 ――絶望へのカウントダウンとなる

 更には、黒き魔術師の姿も消えていた・・・。
「えっ・・・?どういう・・・!」
 加奈は突然の出来事に驚いている中、ふと老魔術師の場を見ると、そこにはサイクロンで破壊しきれなかったもう1枚のリバースカードが表になっていた。


 “炸裂装甲(リアクティブアーマー)”――。


炸裂装甲(リアクティブアーマー)
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
その攻撃モンスター1体を破壊する。

 そう。
 老魔術師の発動したカードによって、黒き魔術師は破壊されてしまったのだ。
「くっ・・・、“魔術の呪文書”の効果で・・・、ライフを1000回復・・・」

加奈 LP:400→1400

 加奈は下を向き続けていた。
 既に、前を向く事が出来ないくらい、絶望に叩き落されていたのだ。
「私は、“黙する死者”を発動し、“ブラック・マジシャン”を復活。カードを1枚伏せて、ターンエンド」
 最後の力を振り絞って、黒き魔術師は守備体制で復活した。だが、黒き魔術師は先程破壊されたばかり――体は傷だらけになっており、加奈同様、ボロボロになっていた。

加奈 LP:1400
   手札:0枚
    場:ブラック・マジシャン(守備)、リバース1枚

黙する死者
通常魔法
自分の墓地から通常モンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する。
そのモンスターはフィールド上に存在する限り攻撃をする事ができない。

『ワシのターンだな?ドロー』
 老魔術師は、加奈が絶望状態にあるという事を知りながらも、心を振り絞り、非情を演じ続ける。

 それは、どれだけ辛いことなのだろうか・・・?

 そして、老魔術師は引いてしまった。「切り札」を・・・。
((“非情”を演じ続けるんだ・・・。仕方ない、ここで彼女が負けたとしても・・・))
 そう思って、老魔術師はその切り札を場に出す決意を固めた。
『ワシは、場のレベル6以上の魔法使い族2体をリリースし・・・』
 老魔術師の目の前にいた2人の最上級魔法使いが、その姿を消した。
 そして、その2つの強大な魔力は1つとなり、その魔力はやがてその魔力に相応しい“超”最上級魔法使いを呼び寄せた。


『“降臨”――』
 老魔術師はそうつぶやいた。






































――――――――“黒の魔法神官(マジック・ハイエロファント・オブ・ブラック)”――――――――












 老魔術師の悲しみを引き継いだかのように、その漆黒の魔術師は、その黒いマントをなびかせながら、ゆっくりと姿を現した。

黒の魔法神官(マジック・ハイエロファント・オブ・ブラック)
効果モンスター
星9/闇属性/魔法使い族/攻3200/守2800
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するレベル6以上の魔法使い族モンスター2体を
生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
罠カードの発動を無効にし破壊する事ができる。

『更に、“ビッグバン・シュート”を装備させる』
 漆黒の魔術師を覆う漆黒のオーラが、更に大きくなった。

ビッグバン・シュート
装備魔法
装備モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
守備表示モンスターを攻撃した時にその守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
このカードがフィールドから離れた場合、装備モンスターをゲームから除外する。

黒の魔法神官 攻:3200→3600

『これでもう、罠カードを使うことは出来ない・・・。さようなら、加奈』
 そして、老魔術師はゆっくりと「攻撃」と言った。


――――“セレスチュアル・ブラック・バーニング”


 「爆発」の力を持った漆黒の魔力が、槍の如く、ビームの如く、超スピードで、守備体制になっている黒き魔術師を襲う。
 だが、加奈はゆっくりと手を前に出し、伏せていたカードを発動させた。
「“収縮”発動・・・」

ガキィイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!

 加奈の発動したカードの効果によって、漆黒の魔術師が放った魔力はその名の通り「収縮」していった。だが、強化された分の魔力が変化する事は無かった。
 結果、漆黒の魔術師の魔力は、黒き魔術師の防御魔法を打ち破る事が出来ず、バチンッと跳ね返されてしまった。

黒の魔法神官 攻:3600→2000

大賢者 LP:1200→1100

『ターンエンド』
 だが、老魔術師の優勢には変わりない。
 収縮化の能力も、このターンのみ、つまり老魔術師のターンエンド宣言によって、その能力は消滅した。

大賢者 LP:1100
    手札:2枚
     場:黒の魔法神官(攻撃/ビッグバン・シュート装備)、セカンド・チャンス

「私のターン・・・」
 焦点がぼやけつつある加奈の目――。
 漆黒の魔術師の醸し出す威圧を受け、攻撃を受け、更にボロボロになっていく加奈の体――。
 崩壊し始めている加奈の「心」――。

 そんな状態に陥っているため、自分のターンを宣言したものの、カードを引こうとしていなかった。

 自分の「弱さ」のみを受け入れ、絶対に勝てない、そう確信している状態であった。
「加奈・・・ッ!」
 有里が、必死に加奈の姿を見つめ続けている真利を抱きしめながら、そう言った。その声は、叫ぶのを、助けるのを必死で堪えているようなものであった。

 そんな時であった。
 「非情」を少しの間だけ解いた老魔術師がゆっくりと口を開いた。

『加奈・・・。魔術師の使う“魔力”とは、何処から生まれると思う?』
「そんなの分かんないよ。私は、魔術師(マジシャン)じゃないし・・・」
 突然の老魔術師の言葉に、ぴんと来ない加奈ではあったが、どっちにしろ理解できていないのは変わりなかった。そのため、加奈は適当に答えた。
『確かにな・・・。だが、お前は魔術師のデッキを持った者、いや極めし者である魔術師の主(マスター・オブ・マジシャン)だ・・・。知らなければならない・・・、“魔力”の出でし場所を――』
 老魔術師の言葉を何とか理解しようとするが、やはりどこかぴんと来ず、加奈は首を傾げるばかりであった。
 だが、老魔術師は話を続ける。

“混沌”だ。人を助けるという“光”と人を傷つけるという“闇”が混ざり合った“混沌”が、“魔力”の出でし場所・・・、生まれる場所だ』
「“助ける”と“傷つける”って、全く別のものじゃない?」
 咄嗟に加奈は自分の疑問を老魔術師にぶつけた。だが、老魔術師はその疑問に対し、首を横に振って答えた。
『どんな物事でも表裏一体だ。“助ける”ためには、“傷つけ”なければならない・・・。今回のデストロイドとの戦いもそうだ。お前は、仲間やこの世界(アナザー・ワールド)を守りたい、助けたいと思っているかも知れない・・・。だがそれは、敵を“傷つける”ことにも繋がっているんだ』
 気づいたとき、加奈は既に、反論の言葉を失っていた。

『確かに、人を傷つけるのは、心もとないかもしれない・・・。嫌な事かもしれない・・・。ならば、お前がそれを率先するのだ』
「“率先”・・・?」
『そう。“傷つける”正義があるとはワシは思わん・・・。だが、それが“助ける”ためならば、必要な事。お前がその嫌な事を誰よりも先に、行って見せるのだ』
 そこで老魔術師は一旦、言葉を区切った。
 そして、少しの沈黙と共に、再び口を開き、言葉を発した。

『そのためにあるのがこのデュエルであり・・・、お前の中に備わった“混沌”だ――』
 加奈は老魔術師の言葉を聞き終えると、ゆっくりと自分の胸に手を当てた。少しの柔らかさと共に伝わってくるのは、温かさ――。


 「感じろ」――、“力”の鼓動を。


 「掴め」――、“混沌”の波動を。


 「切り開け」――、“勝利”の栄光を。


 その時、加奈の胸に手を当てている方の手が、ぼんやりとだが輝き始めた。そして、加奈は「今ならいける」と感じ取った。
 デッキの上に手を置き、一度深呼吸をした。
「私のターン・・・、ドロォッ!!!
 そして、そのカードを力強く引いた。




 手の輝きが、カードに乗り移り、やがて「真の」輝きとなる。




 引いたカードは、加奈にとって見たことも聞いたこともないカードであった。だが、効果文を読まずとも、「心」が、その能力を理解してくれる。
「行くわよ・・・!私は、手札から速攻魔法を発動するッ!!」
 目の前には漆黒の魔術師という絶望がいる中で、手札の中の小さな希望に、混沌に自身の全てを託し、加奈は力強く叫び、そのカードをデュエルディスクに差し込んだ。















“光と闇の洗礼”ッッ!!!!
















 ――そして

 守りの「光」と破壊の「闇」が混ざり合い出来た輝き――。その輝きは、黒き魔術師の体内へと入り込み、黒き魔術師の魔力を「混沌」へと変化させる。

 ――姿を現した

「言葉を借りるようだけど・・・、降・臨ッ!
 加奈は老魔術師に向かって一度ウィンクをして、そう叫んだ。










――――“混沌の黒魔術師”ッッ!!!











加奈 LP:1400
   手札:0枚
    場:混沌の黒魔術師(攻撃)

大賢者 LP:1200
    手札:2枚
     場:黒の魔法神官(攻撃/ビッグバン・シュート装備)、セカンド・チャンス

 ――「混沌」の力を受け継いだ魔術師が






「速攻魔法ッ!“光と闇の洗礼”発動ォオオオオオオッ!!!」
 加奈はその光り輝くカードを空高く掲げた。
 次の瞬間、守りの「光」と破壊の「闇」――その2つが混ざり合って出来た「混沌」の輝きが加奈の目の前に姿を現し、その輝きは黒き魔術師の体内へと入り込んでいった。そして、黒き魔術師の魔力を「混沌」へと変化させた。

「降臨!――“混沌の黒魔術師”ッッ!!!

 姿を現したのは、黒き魔術師ではなく、混沌の力を受け継いだ魔術師であった。
「そして、“混沌の黒魔術師”の効果発動!墓地にある魔法カード1枚を手札に加えるッ!」
 混沌の力を受け継いだ魔術師は、姿を現した途端、その手に握られた杖を地面に突き刺した。突き刺した地面からは、無数の光の帯が姿を現し、その光の帯は、加奈の手元で固まっていき、やがて1枚の魔法カードを作り出した。

光と闇の洗礼
速攻魔法
自分フィールド上の「ブラック・マジシャン」を生け贄に捧げる事で発動する事ができる。
自分の手札・墓地・デッキの中から「混沌の黒魔術師」を1体選択して特殊召喚する。

混沌の黒魔術師
効果モンスター
星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
自分の墓地から魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる。
このカードが戦闘によって破壊したモンスターは墓地へは行かず
ゲームから除外される。
このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。

 加奈はその作られた魔法カードを少しの間見つめると、すぐさまその魔法カードをデュエルディスクに差し込んだ。
「魔法カード――“収縮”」
 その時であった。
 加奈を除く全ての人物が、目を見開き驚いた。

「は!?何やってんだよッ!――“地砕き”を手札に加えれば、勝ちなのにッ!!」
 驚きの中で言葉を発したのは、神也であった。
 言葉を発したのは神也だけではあるが、当然、皆がそう思っていた。

収縮
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
そのモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

地砕き
通常魔法
相手フィールド上の守備力が一番高い表側表示モンスター1体を破壊する。

黒の魔法神官 攻:3600→2000

 皆が驚き、反論の声を上げる中、漆黒の魔術師の体がカードの名の通り、収縮していった。そんな漆黒の魔術師の姿を見て、老魔術師はゆっくりと、ゆっくりとではあったが口を開き、加奈に質問する。
『どういうつもりだ?――ワシへの“御情け”のつもりか?』
 そんな老魔術師の質問に、加奈は首を横に振って答える。
「違うよ・・・。これは・・・、そう“お礼”。あなたのお陰で、“混沌”の力の欠片を掴む事が出来たから」
 そう言って、加奈は新たな魔術師を場に出した時同様、ウィンクした。

「攻撃――」
 その後、加奈は攻撃宣言した。
 混沌の力を受け継いだ魔術師は、颯爽と飛び上がり、漆黒の魔術師の頭上にまで向かうと、杖より強力な魔力を放出。収縮された漆黒の魔術師を一瞬で薙ぎ払った。

大賢者 LP:1100→300

『次のワシのドローで、負けるかも知れないぞ?』
 老魔術師の次なる質問――、しかし加奈はこの質問も首を横に振って答えた。
「何でか分かんないけど・・・、負ける気がしないね。“混沌の黒魔術師”がいれば・・・」
 そう言って、加奈は小さく笑ってみせた。
 その笑いを見て、老魔術師もまた大声を上げて笑った。

『そうか・・・。ならば、問題無いな』
 悲しそうにではあったが、老魔術師はそう答えた。
「そう?じゃあ、私はこれでターンエンド」

加奈 LP:1400
   手札:0枚
    場:混沌の黒魔術師(攻撃)

『ワシのターンじゃな?ドローッ!』
 老魔術師は、力強くカードを引いた。

ドローカード:死者転生

 そして、老魔術師は静かに自分の手札を確認する。だが、その手札の中に、加奈の目の前に聳える魔術師を倒すカードは無かった。
((仕方ない・・・のう))
 何かを思い、老魔術師は今引いたカードをゆっくりと場に出した。
『ワシは“死者転生”を発動。手札を1枚リリースし、墓地の“ブラック・マジシャン”を手札に加える』
 老魔術師は手札の中で、今一番必要の無いカード1枚を墓地ゾーンに送ると、墓地からカチャッ――と出てきた黒き魔術師が描かれたカードを手札に加えた。

死者転生
通常魔法
手札を1枚捨てて発動する。
自分の墓地に存在するモンスター1体を手札に加える。

『そして、“古のルール”を発動する。この効果で、ワシは手札の“ブラック・マジシャン”を攻撃表示で特殊召喚する――』
 老魔術師の目の前に出現した黒き魔術師は、勝てるわけも無い相手に対し、杖を向けて、攻撃態勢を整えた。

古のルール
通常魔法
自分の手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。

「なっ・・・、何・・・で!?」
 加奈は、老魔術師の目の前で攻撃態勢をとっている黒き魔術師に対して疑問を持ち、その疑問を老魔術師にぶつけた。
『ワシの場にいる“最上級魔術師”――。これを打ち破り、その“魔術師”の力を証明してみせろッ!!』
 老魔術師は、加奈の心にまで響くような声で、そう叫んだ。
 その言葉を聞き、加奈はゆっくりと涙を流し始めた。

 そして、老魔術師はターンエンドを宣言した。

大賢者 LP:300
    手札:0枚
     場:ブラック・マジシャン(攻撃)、セカンド・チャンス

「わ、私の・・・ターン――」
 加奈は涙のせいで、うまく喋れなかった。だが、そんな状態にも関わらず、デュエルを続けようと、何とかカードを1枚引いた。
「私は・・・、手札から“ツイスター”を発動。ライフを500払って・・・、“セカンド・チャンス”を破壊・・・する――」

加奈 LP:1400→900

ツイスター
速攻魔法
500ライフポイントを払って発動する。
フィールド上に表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊する。

 加奈と老魔術師の間で発生した巨大な竜巻(ツイスター)。
 その竜巻は、老魔術師の場に出ていた1枚の魔法カードを勢いよく弾き飛ばした。


 ――それは

 ――一瞬の

 ――出来事であった


 魔法カードが弾き飛ばされたと同時に、混沌の力を受け継いだ魔術師が、目の前に聳えていた黒き魔術師に向かってダッシュした。そして、黒き魔術師の懐に入り込み、その杖を黒き魔術師の腹部に向ける。そのまま、その杖に自身の全魔力を込め始める――。



“滅びの呪文−デス・アルテマ”―――」



 加奈の言葉と共に、その「滅び」の力を持った魔力が放出された。

大賢者 LP:300→0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『ありがとう・・・、加奈』
 そこにはボロボロになりながらも、加奈に笑顔を見せ続けている老魔術師と、そんなボロボロの老魔術師を見て、涙を流し続けている加奈がいた。既に、老魔術師の体は半分以上が砂になって、消滅していた。
「うっ・・・うぅっ・・・」
 老魔術師の言葉を聞くが、加奈はその言葉を首を横に振って答えた。

 自分は「ありがとう」なんて、言葉を聞いてはいけない・・・。

 そんな思いが、加奈の心にはあった。
『お前は、ワシの試練を・・・、“混沌”の試練を乗り越えた――。だからこそ、渡そう。ワシの“混沌”を――』
 そう言って、老魔術師は自身の杖に残り少ない魔力を込め、加奈の頭上からその込めた魔力を降り注いだ。
 その魔力を受け、加奈の体はぼんやりとではあったが光り輝き、デュエルディスクも老魔術師が装着していたような漆黒のデュエルディスクに変化した。
 だが、加奈の表情は「喜び」ではなく、明らかに「悲しみ」のままであった。
『もう泣くな・・・、加奈。お前はワシの試練を乗り越えたんだ。だからこそ・・・、せめてワシが消えるときは笑っていてくれ』

 老魔術師の見せたその感情――。それはまさしく親が持つようなものだったのかも知れない。

 そんな老魔術師の言葉を聞いて、涙を流しながらも、加奈は何とか笑顔を作った。
 それと同時に、老魔術師の姿が消えた――。

 そこに残っていたのは、老魔術師の残骸とも呼べる無数の砂と、老魔術師が使っていたデッキだけ。

 そして、沈黙の時だけがゆっくりと過ぎていった――。
 既に、加奈の涙は枯れ果て、翔達もかける言葉を完全に失っていた。

 そんな中で、加奈は目の前に残っていた老魔術師のデッキを手に取った。そして、力強く立ち上がり、そのデッキを強く握り締める。


(私は・・・、強くなるッ!!あなたのデッキを借りて・・・、もっと・・・、もっとッ!!)


 その思いに反応して、老魔術師のデッキの中に入っていた黒衣の大賢者のカードが、小さくではあったが、光り輝いた――。
「みんな・・・、時間かけてゴメンッ!」
 加奈はみんなの下にまで駆け寄ると、そう大声で言って、頭を深く下げた。
「大丈夫だよ、加奈・・・」
 その言葉に、すぐに反応したのが真利であった。
「そうだぜ、加奈」
 神也も照れくさそうにではあったが、真利の隣でそう言った。

「さて・・・、次の空間へと行くかなっ!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ガチャッ・・・

 次なる空間への扉をアンナは開いた。
 次の空間は“戦士”――。

 目の前に広がるその空間は、まさに「宇宙」とも呼べるほど広く、そして幻想的な色をしていた。
「あれ?加奈。デュエルディスクは、どうなったの?」
 そんな空間を歩いている中、気になった神童は、加奈の方を向いてそう質問した。
「デュエルディスク?あ〜、私のデュエルディスクはね〜、腕輪(ブレスレット)になったよ」
 そう言って、加奈は左腕に着けられた漆黒の腕輪(ブレスレット)を神童に見せた。
「ふぅ〜ん・・・。ボクもそんなの早く欲しいな〜」
 神童は、加奈の持っている腕輪を見て、そんな不満に近いわがままをつぶやいた。


 しばらく歩き続けると、遠くのほうで1人の戦士が立っていることに翔が気づいた。
「おい、あれか・・・?次の精霊は」
 翔の質問に、アンナが首を縦に振って答えた。

 そんな戦士を見つけると、7人は走り出し、その戦士の側まで駆け寄った。

 そこに立っていたのは、翔が現実世界(リアル・ワールド)で戦った事のある戦士――いや、ヒーローであった。
「お、おおおおお、お前は・・・ッ!!」
 翔の動揺ぶりに気づいたその戦士、ヒーローはフッ――と小さくではあったが笑った。

「――“E・HERO”・・・」

第31章 4体目の精霊――E・HERO ネオス

「・・・“ネオス”ッッ!!
 翔は動揺しながらも、何とか言葉を発した。
『ようこそ、オレの空間――“ネオスペース”へ』
 そのヒーローは、十代の使っていたネオスとは少し違い、軽めのテンポでそう言った。
(その声・・・!?)
 ヒーローの言葉を聞き、神童は「混沌」の空間で聞いた声とヒーローの声が同じだという事に気づいた。そして、悟った――。

 “自分が「戦士」だという事に”・・・。

 神童はそのヒーローの威圧に怯え、一歩ずつ後退りをしていた。

 ・・・そのときであった。

――ドッ!

「痛ッ!」
 神童と翔が激突したのだ。
 しかも、その衝撃で神童と翔のデッキケースからデッキが落ちてしまい、地面でバラバラに散らばってしまったのだ。
「ご、ごめん・・・!」
 それを見て、咄嗟に反応した神童がすぐに謝り、翔よりも早く、散らばったデッキを集め始める。ヒーローの威圧に動揺しながらも、何とか40枚のデッキの束を2つ作り、片方を翔に返した。
「お、おう。悪かったな・・・」
 翔も素早い神童の動作に驚きながらも、そう返事した。

『フッ・・・、気づいてるようだね?高山 神童――』
「う、うん・・・」
 ヒーローの言葉を聞き、神童はデュエルディスクに先程拾ったデッキをセットし、左腕に装着。ゆっくりとヒーローに歩み寄っていった。
『“混沌”の空間でも言ったけど・・・、君には“欠けているもの”がある』
 ヒーローのいきなりの宣言に、神童は再び動揺する。
「それって・・・、何?」
『それを今からのデュエルで見つけ出すんだ・・・。君自身がね――』
 ヒーローは神童の質問にそう答えると、ブンッ――と右腕にデュエルディスクを出現させ、装着した。既にそこには、デッキがセットされている。
「右腕にデュエルディスク・・・?左利きなの?」
『いや、正確にはどちらでもいいんだけどね・・・。オレは、こっちの方が合ってるんだ』
 そして、ヒーローはデッキの上からカードを5枚引き、その5枚を右手に持ち替えた。

『さぁ・・・、君もカードを引くんだ』
 ヒーローの言葉を聞き、神童は1枚ずつ丁寧にカードを引いていった。
「引いたよ・・・ッ!」
『よし・・・!デュエル・スタートだッ!!』



――――“デュエルッッ”!!!


神童 LP:4000
   手札:5枚
    場:無し

ネオス LP:4000
    手札:5枚
     場:無し


「あれ・・・?」
 そのころ翔は、神童のデュエルスタートを見つめながら、自分のデッキを確認していた。そして、「ある事」に気づいた・・・。

「オレのカード・・・」



―――2枚足りないんだけど・・・




第32章 神童VSネオス――忍び寄る絶望

 神童とヒーローのデュエルが始まった時、翔は無くなった2枚のカードを求めてリュックの中に入っていた余りカードを漁っていたが、やはりその2枚のカードは見つからなかった。
「はぁ〜・・・、どこやったっけ〜?」
 悩みながら翔は頭を数回掻いた。まぁ、そんな事をしたところで、どこにやったかを思い出す訳も無く、一息ついてアンナの方を見た。
(やっぱ、言うべきか・・・)
 そして、何を思ったか、そのまま翔はアンナの肩をポンポンッと軽く2,3回叩き、話しかける。
「なぁ、アンナ」
「何?」
 返事の声が、既に「怒り」になっているアンナ。その声を聞いて、翔は「ある事」を言おうか言うまいか再び悩んでしまうが、気を取り直して、再び口を開く。

「何でお前、みんなが頑張ってる中で、何も喋らないんだ?」
「――何で、喋る必要があるわけ?」
「いや、喋るっていうか・・・、“応援”?――っていうか・・・。喋るじゃなくて、頑張ってる奴にかける言葉っつうのがあんだろ?」
 アンナの冷めた態度に動揺しながらも、翔は喋り続ける。
「お前がオレ等に対して“怒ってる”のも分かるけど・・・」
 翔の言葉を聞いていて、痺れを切らしたアンナは突然、翔の頬をはたいた。

バシンッ!

 乾いた音が、デュエル中にも関わらず、宇宙のような空間全土に響き渡ったため、デュエルをしていた神童を含め、ほぼ全員が驚いてしまった。
「あんたに私の何が分かるっていうの!?」
 アンナの心からの叫び――。
 頬を抑え、必死で痛みに耐える翔ではあったが、そんなくらいで口を閉めるわけにもいかず、開き続ける。
「分かるかよっ!!だから、教えてくれよ・・・ッ!!“仲間”だろッッ!!?」
 翔の叫びを聞いて、アンナは唇を血が出る位強く噛んでしまう。そして、アンナはこの「戦士」の空間から出て行ってしまった・・・。

「――チッ!・・・何なんだよ・・・」
 翔は大きく舌打ちをしてしまう。

 アンナと分かり合おうとしているのに・・・、「絆」が足りなかった・・・。

 「自分に何が足りなかったのか」――それを考えれば考えるほど、翔は自己嫌悪に陥ってしまい、地面にドスンと座り込んでしまった。
(“”・・・か)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 翔とアンナのやりとりが行われていた中、神童とヒーローのデュエルはしっかりと続いていた。

神童 LP:4000
   手札:5枚
    場:無し

ネオス LP:6500
    手札:4枚
     場:N・エア・ハミングバード(攻撃)、リバース1枚

N・エア・ハミングバード
効果モンスター
星3/風属性/鳥獣族/攻 800/守 600
相手の手札1枚につき、自分は500ライフポイント回復する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ヒーローの場に現れていたのは、二足歩行を行う鳥の姿であった。その鳥の能力によって、ヒーローはライフを回復していた。そして、今から始まるのが神童のターンだ。
「ボクのターン、ドローッ!」
 神童は、デッキの上からカードを1枚引く。そこには何枚かの「宝玉獣」たちがあったが、突破力と展開力、この2つを兼ね備えた「サファイア・ペガサス」の姿が無かった。それを見て、少しの間考えると、神童は手札の速攻魔法を1枚手に取り、発動させる。
「ボクは、手札から速攻魔法――“手札断殺”を発動する!」

手札断殺
速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。

 神童が発動したカードの効果によって、神童と相手のヒーローは、手札のカードの内、2枚を選び、そのカードを墓地ゾーンに送った。そして、互いがその2枚のカードを墓地に送ったのを確認すると、デッキの上から墓地に送った枚数分、つまりは2枚ドローした。
(よし!これで何とか・・・ッ!)
 神童の小さな笑み。
 その小さな笑みをヒーローは、見逃さなかった――。

「ボクは手札から“宝玉の恵み”を発動!――“断殺”の効果で墓地に送った2枚の“宝玉獣”を魔法&罠カードゾーンに置く!」

宝玉の恵み
通常魔法
自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを2体まで選択し、
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く。

『“宝玉獣”?――珍しいカードを使うんだな・・・』
 ネオスの言葉を余所に、神童が使ったカード効果によって、鮮やかに輝く「宝玉」――アメジストとエメラルドが姿を現した。更に神童は、その2つの輝きを使って、新たな「宝玉獣」を呼び出す。
「そして、“宝玉の導き”ッ!――“宝玉獣 サファイア・ペガサス”を攻撃表示で特殊召喚するッ!!」
 神童がそのカードを発動させると、目の前にあった2つの宝玉は、強力な輝きを放ち、神童のデッキから、新たな「仲間」を呼び出した。

宝玉の導き
通常魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに「宝玉獣」と名のついたカードが2枚以上存在する場合、
デッキから「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

宝玉獣 サファイア・ペガサス
効果モンスター
星4/風属性/獣族/攻1800/守1200
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
自分の手札・デッキ・墓地から「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

 一角獣であるペガサスが、その神々しい姿を出現させる。
 ペガサスの角は、蒼白い光を放ち、新たな「宝玉」――ルビーを呼び出す。
「“サファイア・ペガサス”の効果によって、デッキの中から“ルビー・カーバンクル”を魔法&罠カードゾーンに!!」
 その後、神童は力強く拳を作り出すと、それを力強く前に突き出した。
「バトルッ!!“サファイア・ペガサス”で、“エア・ハミングバード”に攻撃する!」
 神童の叫びを聞き、ペガサスは翼を羽ばたかせ、空を駆け抜ける。
 そのスピードは同じ翼を持った鳥よりも速く、一瞬で鳥をとらえ、額に生えた角で鳥の腹部を貫いた。

ネオス LP:6500→5500

『その瞬間、オレのリバースカードが発動される!リバースカード――“ヒーロー・シグナル”ッ!!』

 仲間が消滅したと同時に、巨大な「H」というシグナルが姿を現した。そのシグナルに導かれ、ヒーローのデッキから、1体の風を司る者が姿を現した。

ヒーロー・シグナル
通常罠
自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され
墓地へ送られた時に発動する事ができる。
自分の手札またはデッキから「E・HERO」という名のついた
レベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

『オレはこの効果で、“E・HERO エアーマン”を特殊召喚――。効果で、“オレ自身”を手札に加える!』
 ヒーローはそう言って、自分の姿が描かれたカードをデッキから取り出し、神童に見せた後、自分の手札に加えた。

E・HERO エアーマン
効果モンスター
星4/風属性/戦士族/攻1800/守 300
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●自分フィールド上に存在するこのカードを除く
「HERO」と名のついたモンスターの数まで、
フィールド上の魔法または罠カードを破壊する事ができる。
●自分のデッキから「HERO」と名のついた
モンスター1体を選択して手札に加える。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(“E・HERO”・・・“エアーマン”・・・?)
 アンナとの会話のせいで自己嫌悪に陥り、座り込んでいた翔は、ヒーローが場に出したモンスターを見て、何かを思い出していた。

 それは、「ここ」に来る前に行われた十代とのデュエルであった――。


 ――デュエルの楽しさ

 ――デッキとの信頼

 ――そして、新たな「絆」・・・

 あのデュエルで、翔は多くの事を改めて学んだ・・・。
「そうか!」
 翔は何かに気づき、力強く立ち上がった。
(アンナとデュエルをすれば・・・、もしかして・・・ッ!!)

 それは、アンナとデュエルを通じて絆を得る、と言うものであった。
 安直な方法かも知れない・・・、だが翔にとって重要なのは、どんな方法でもいいから、何か方法を手にする事なのだ。
 そして、それと同時に翔はまた新たなことに気づいた。

「もしかして・・・、“ネオス”が神童に伝えたい事って・・・」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ボクはカードを1枚伏せ、ターンエンド」

神童 LP:4000
   手札:2枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(攻撃)、宝玉獣 ルビー・カーバンクル(宝玉)、宝玉獣 アメジスト・キャット(宝玉)、宝玉獣 エメラルド・タートル(宝玉)、リバース1枚

ネオス LP:5500
    手札:5枚
     場:E・HERO エアーマン(攻撃)

『オレのターンだな?』
 そう言って、ヒーローは素早くカードを1枚引いた。
 そのカードを眺め、少しの間考えると、小さく笑って神童を見た。
『君の“宝玉獣”デッキは凄いな・・・。デッキとしても安定してるし、まだまだ力を隠してる、っていう感じだ・・・。だが――』
 ヒーローの言葉を聞き、神童は小さく首を傾げる。
『それじゃあオレには勝てないよ・・・。絶対に――』
 ヒーローは自分の言葉と同時に、モンスターを召喚する。

『紹介する・・・。こいつが、オレの2体目の相棒――“N・フレア・スカラベ”だ!』
 ヒーローの目の前に姿を現したのは、カブト虫のような巨大な昆虫。その昆虫は、神童の場にある無数の宝玉と伏せられたカードを見て、その力を高め始める。
『その効果によって、攻撃力アップ――』

N・フレア・スカラベ
効果モンスター
星3/炎属性/昆虫族/攻 500/守 500
このカードの攻撃力は、相手フィールド上の
魔法・罠カードの枚数×400ポイントアップする。

N・フレア・スカラベ 攻:500→2100

『更に手札から“フェイク・ヒーロー”発動!!――効果で、オレ自身を特殊召喚ッッ!!』
 ジジジジ――という少しの電流と共に、宇宙を守りしヒーローが、その姿を現した。
「なっ!!?いきなりレベル7の上級モンスターだと!!?」
 そんな光景を見て驚いたのは、神也であった。
 だが、そんな驚きを見て、ヒーローは先程発動した魔法カードの効果説明を始める。
『フッ・・・、安心してくれ。この“フェイク・ヒーロー”――手札の“E・HERO”を特殊召喚するっていう効果なんだが、デメリットとして、そのモンスターは攻撃できないし、エンド時に手札に戻るんだ――』

フェイク・ヒーロー
通常魔法
自分の手札から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
そのモンスターは攻撃する事はできず、このターンのエンドフェイズ時に
持ち主の手札に戻る。

 ヒーローの説明を聞いて、神也や他の者達はほっとするが、フェイク・ヒーローが持っている「真の意味」に気づいていた翔と有里は違った。

「違う・・・。そんなデメリット、今は問題じゃないの・・・」
「狙いは・・・、“コンタクト融合”だ――」
 有里、翔の順で繰り出されたその言葉を聞いて、ヒーローは再び小さく笑った。

『正解――。――“コンタクト融合”ッッ!!
 その瞬間、宇宙のヒーローと昆虫の体がゆっくりと交わり、「コンタクト」を始める。そして、互いの力を共有し合い、1体の強力なモンスターが姿を現した。



―――“E・HERO フレア・ネオス”ッッ!!!



 昆虫の持つ、力を高める能力を手に入れた宇宙のヒーロー――。そのヒーローは、右手を高らかに掲げ、その右手に「炎」を溜め始める・・・。
『更に手札から“ネオスペース”を発動ッ!!――これにより、フィールドはオレ達の空間になる!!』

ネオスペース
フィールド魔法
「E・HERO ネオス」及び「E・HERO ネオス」を融合素材とする
融合モンスターの攻撃力を500ポイントアップする。
「E・HERO ネオス」を融合素材とする融合モンスターは、
エンドフェイズ時にデッキに戻る効果を発動しなくてもよい。

 ヒーローが発動したカードによって、辺り一面がより幻想的な色を持ち、まさしく「宇宙」と呼ぶにふさわしい空間が出現した。
『この効果で、“ネオス”を融合素材としている“フレア・ネオス”の攻撃力は500ポイントアップ――。更にッ!』
「――!!?」
『“フレア・ネオス”の攻撃力は、場の魔法・罠カード1枚につき、400ポイントアップするッ!!今、場にある魔法・罠カードは全部で5枚ッ!!よって、攻撃力は――』
 ヒーローの言葉を聞きながら、炎の力を宿したヒーローは、辺りの「力」を自身に取り込み、自身の力を高め、その右手の「炎」をより大きくしていく。やがて、その「炎」は炎の力を宿したヒーローの体全てを覆い尽くした。


『―――5000ッ!!



E・HERO フレア・ネオス 攻:2500→5000

E・HERO フレア・ネオス
融合・効果モンスター
星7/炎属性/戦士族/攻2500/守2000
「E・HERO ネオス」+「N・フレア・スカラベ」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
このカードの攻撃力はフィールド上の魔法・罠カードの枚数×400ポイントアップする。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。

「・・・ッ!!?」
 突然の攻撃力上昇に驚きを隠せない神童。
 だが、そんな神童を無視するかのように、ヒーローはその手を力強く前に突き出し、力強く叫ぶ。


―――バーン・ツー・アッシュッッ!!!


 その瞬間、炎の力を宿したヒーローは、自身の体を覆っていた全ての炎を一気に放出――全てを飲み込もうとする。だが、神童はその炎が自分のモンスターであるペガサスを飲み込む前に、伏せてあったカードを発動させる。

「――リバースカード!“ラスト・リゾート”ッッ!!このカードの効果で、“ネオスペース”は、ボクのフィールド――“レインボー・ルイン”に切り替わるッ!!」
 放たれた炎が止まる事は無かったが、辺りの幻想的な色はゆっくりと無くなっていき、代わりに古くて、虹が良く似合う都市が地面から姿を現した。

ラスト・リゾート
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分のデッキから「虹の古代都市−レインボー・ルイン」1枚を選択して発動する。
この時、相手のフィールド魔法が発動している場合、
相手プレイヤーはカードを1枚ドローする事ができる。

虹の古代都市−レインボー・ルイン
フィールド魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカードの数により以下の効果を得る。
●1枚以上:このカードはカードの効果によっては破壊されない。
●2枚以上:1ターンに1度だけプレイヤーが受ける
戦闘ダメージを半分にする事ができる。
●3枚以上:自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついた
モンスター1体を墓地へ送る事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
●4枚以上:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
●5枚:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
魔法&罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名のついた
カード1枚を特殊召喚する事ができる。

 ヒーローは神童のカードの効果で、デッキの上からカードを1枚引いた後、炎の力を宿したヒーローの攻撃を続行させる。だが、そのヒーローの攻撃力は、「宇宙」が無くなった事によって、減少していた。

E・HERO フレア・ネオス 攻:5000→4100

「まだだッ!!“レインボー・ルイン”の第2の効果を発動し、ボクへの戦闘ダメージを半減するッ!!」
 その神童の叫びを聞いて、神童の背後に聳える都市から虹色の輝きが放たれ、その虹色の輝きは、神童を包み込み、守ろうとする。










――ドッッ!!!










 炎が、ペガサスを、虹の輝きに守られた神童を飲み込んでいく――。
 だが、炎に飲み込まれたペガサスは、その身を「サファイア」に変え、神童の側に残り続ける。
 そして、虹色の輝きは神童への衝撃を、少しではあったが減らした――。

神童 LP:4000→2850

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
 神童は虹色の輝きのお陰で、炎を受けきる事に成功した。だが、ダメージが0になったわけではないため、息がかなり荒くなっていた。
 不意に流れた汗を神童は右手で拭った。
『まだだぞ・・・!“エアーマン”でダイレクトアタックッ!!』
 風を司る者の攻撃をもろに喰らい、神童は吐きそうになるくらいの苦痛を覚える。

神童 LP:2850→1050

「ま・・・、まだ・・・だ・・・」
 神童は苦痛に耐えながら、そんな言葉を搾り出した。
『カードを1枚伏せ、ターンエンド――』
 ボロボロになった神童を見つめながら、ヒーローはゆっくりとカードを場に出し、そんな言葉をつぶやくように言った。その瞬間、「宇宙」が無くなった事で、この空間にいることが出来なくなった炎の力を宿したヒーローは、その姿を消してしまった。

ネオス LP:5500
    手札:2枚
     場:E・HERO エアーマン(攻撃)、リバース1枚

「ボクの・・・ターン・・・」
 神童は、ボロボロになった体に鞭打って、デッキの上からカードを1枚引いた。
『神童・・・』
 その時、ヒーローが神童の名を呼んだ。突然の言葉だったので、神童は少しだけ驚き、ヒーローの方を向いた。

『確かに、お前のデッキコンセプトにもなっている“宝玉獣”は強い・・・。オレもそんなカード、見たことが無い・・・。だがな・・・、それだけじゃあダメなんだ!お前にはやはり“足りないもの”がある・・・』
 そう言って、ヒーローは神童を、そして神童のデッキ――「仲間」を指差した。
「“足りない”・・・“もの”・・・?」
 「足りないもの」がある、そう指摘されながらも、それが何なのか全く理解できない自分(神童)がいた・・・。

『そうだ・・・。それに・・・、そのデッキはお前のものではないだろう?・・・いや、正確に言うと、前の持ち主が違った――と言うべきかな?』
 ヒーローの言葉を受け、神童の目が少しだけ開いた。
「何で・・・、それに気づいたの?」
『それの“答え”が、お前の“足りないもの”のヒントだ・・・。そして、“足りないもの”が分かったとき、お前はもう1歩――強くなれるッ!!』
 神童はただ静かに、自分のデュエルディスクにセットされているデッキを見つめていた・・・。
 そんな姿を見て、ヒーローは小さく笑った。

((そうだ・・・。それで良い・・・。デッキの声を聞き、デッキに応えろ――!))






―――もう・・・、時間が無いんだ・・・ッ!






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 暗い、漆黒の空間――。
 そこにたたずむファイガと邪神達・・・。
「あいつらの気配がここ数日の間、消えている・・・?」
 ファイガは、ゆっくりと翔達の異変に気づいていた。
『別ノ時空デ、“8大精霊”ノ奴等ト戦ッテイルヨウダ・・・』
 ファイガの言葉を聞き、漆黒の太陽となった邪神が答える。
「何を言っている――今はもう、“6大精霊”だぞ・・・?」
『ソウダッタナ・・・』
 邪神の言葉を聞いて、小さく笑いながらファイガは答えた。そんな返答を聞いて、邪神もまた笑いながら喋った。
 その後、ファイガはすぐ側の柱に掛けてあったマントを取り、羽織ると、自分の目の前で座っている1人の男に話しかけ始める。
「いけるな?・・・デリーターよ・・・」
「はい・・・」
 その男――デリーターの顔は、漆黒の仮面に隠されてはあったが、その目は真っ黒に染まっていた・・・。
「邪神達も・・・!もう行けるよな!?」
 ファイガの言葉を受け、漆黒の太陽はその体を自由自在に変化させ、厳つい悪魔はその巨大な拳を握り締め、闇の龍は巨大な雄叫びを上げる。


「――進撃開始だッッ!!!」


 その時、バサァッ――とファイガのマントが靡いた。
(まだ邪神達の力は覚醒してはいないが、ゼオウ達――“レジスタンス”を潰す力ならあるだろう・・・。今に見ていろ・・・!父さんを殺したシン・シャインローズの家系は・・・、オレが全て潰すッッ!!!)





 ――ゆっくりと絶望は忍び寄る・・・。




 ――小さな平和を打ち砕くために・・・。




第33章 絆――新たな戦士との融合

神童 LP:1050
   手札:2枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(宝玉)、宝玉獣 ルビー・カーバンクル(宝玉)、宝玉獣 アメジスト・キャット(宝玉)、宝玉獣 エメラルド・タートル(宝玉)、虹の古代都市−レインボー・ルイン

ネオス LP:5500
    手札:2枚
     場:E・HERO エアーマン(攻撃)、リバース1枚

「ボクの・・・ターン・・・」
 そう言って、神童はボロボロな自分の体に鞭打って、デッキの上からカードを1枚引き、ゆっくりと手札に加えた。そして、何を思ったか、自分の手札をしばらく見つめた後、神童は口を開いた。
「た・・・、確かに・・・、このデッキはボクのものじゃない・・・。でも・・・、誰からもらったのかも分からないんだ・・・。このデッキをもらった・・・、受け取った時の記憶だけが・・・、ボクの頭の中から無くなってるんだ・・・」
 そう言いながら、神童は自分の頭をくしゃくしゃと掻いた。そんな状態のまま、神童は自分のデッキを見つめる。

 誰からもらったか分からないデッキ――「宝玉獣」。
 初めて見たときは、何がなにやら分からなかった・・・。だって、自分のカードが入っているわけでもない、自分が作ったわけでもないデッキだったから・・・。
 でも、何故かは分からないけど、ボクの本能が、ボク自身に「このデッキを守れ」と訴えかけてくる・・・。
 何で、そんなことを訴えかけてくるのか・・・、それは分からない・・・。


 でも・・・、ボクは――、


それだけは守らなくちゃいけない気がするんだッッ!!!
 神童は叫び、そしてボロボロになった自分の体を揺さぶった。
 もはやこれは体力の問題ではなかった――。「精神」の問題――。

 「精神」が崩れぬ限り、神童は・・・、立ち続ける。

「ボクは、“レインボー・ルイン”の第4の効果を発動し、デッキの上からカードを1枚ドローするッ!!」

虹の古代都市−レインボー・ルイン
フィールド魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカードの数により以下の効果を得る。
●1枚以上:このカードはカードの効果によっては破壊されない。
●2枚以上:1ターンに1度だけプレイヤーが受ける
戦闘ダメージを半分にする事ができる。
●3枚以上:自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついた
モンスター1体を墓地へ送る事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
●4枚以上:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
●5枚:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
魔法&罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名のついた
カード1枚を特殊召喚する事ができる。

 背後に聳える古代都市から降り注ぐ虹に導かれ、神童は新たな「可能性(カード)」を1枚、手に掴んだ。
「手札から魔法カード――“宝玉の契約”を発動ッ!!・・・魔法&罠カードゾーンの“サファイア・ペガサス”を攻撃表示で特殊召喚する!!」
 神童は力強くその魔法カードをデュエルディスクに差し込んだ。
 その瞬間、神童の目の前にあったサファイアは砕け散り、その中からは、デュエルディスクより放たれた輝きに導かれた天駆ける翼を生やしたペガサスが、姿を現した。

宝玉の契約
通常魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名のついたカードを
1枚選択して特殊召喚する。

「“サファイア・ペガサス”の効果によって、デッキの中から“宝玉獣 トパーズ・タイガー”を魔法&罠カードゾーンにッ!!」


――サファイア・コーリングッッ!!!


 神童の叫びを受けて、ペガサスは自身の体を光り輝かせる。それに呼応して、神童のデュエルディスクにセットされたデッキもまた、光り輝いていく。そして、その光は1本の長い道を作り出し、その道を通り抜け、新たな宝玉――「トパーズ」が姿を現した。

宝玉獣 サファイア・ペガサス
効果モンスター
星4/風属性/獣族/攻1800/守1200
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
自分の手札・デッキ・墓地から「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

「グ・・・ッ!!」
 その直後、神童の体に異変が起きた。
 ヒーローから受けた先程の攻撃のダメージが癒えないまま無理をしたせいか、神童の体が悲鳴を上げつつあった。
 だが、神童はそんな体の悲鳴を他所に、叫び続ける――。

「行くぞォオオオオッ!!――バトルッ!!“サファイア・ペガサス”で、“エアーマン”に攻撃するッ!!!」
 ペガサスはその神童の言葉を聞いて、自身の翼を羽ばたかせ、空へ飛び上がった。ヒーローの目の前にいた風を司る者も負けじと、空へ飛び上がるが、ペガサスのスピードの方が遥かに速く、風を司る者は、ペガサスの角にその腹部を貫かれてしまう。だが、彼もまた負けじと、残された力を振り絞り、自身の力全てを込めた風を、ペガサスに向けて解き放つ。
 結果は「互角」――。
 風を司る者は消滅――だが、ペガサスは消滅することなく、サファイアとして、神童の下に残り続ける・・・。

((フーン・・・、“Bloo-D”と彼のデュエルを見た影響かな・・・?“勇気”だけは、しっかりと持っているようだ・・・。後は――ッ!))
 ヒーローは神童のプレイングを見て、冷静に神童の事を分析していた。
 だからこそ、神童に「足りないもの」を彼は発見したのだ。
「そして・・・、“レインボー・ルイン”の第5の効果によって、“ルビー・カーバンクル”を“獣”へと解き放つッ!!」
 神童は、魔法&罠カードゾーンにあったカーバンクルの描かれたカードを取り出すと、横向きにして、バンッ――と力強くディスクに置いた。
「行く・・・ぞ・・・ッ!!“カーバンクル”の効果によって、全ての“宝玉”の力を開放し、“獣”へと解き放たせるッッ!!!」
 次の瞬間、カーバンクルの体から巨大な輝きが発せられた。
 その輝きは、神童の目の前にあった全ての宝玉を溶かし、その宝玉の形を元々の獣の姿へと変化させた。

宝玉獣 ルビー・カーバンクル
星3/光属性/天使族/攻 300/守 300
このカードが特殊召喚に成功した時、
自分フィールド上の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカードを可能な限り特殊召喚する事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

「そして再び・・・、“サファイア・ペガサス”の効果・・・発動ォオオオオオッ!!」
 神童の目の前で、多くの宝玉が「獣」へと変化していく中、そんな獣達の中で、一番光り輝いていたペガサスが、再び自身の力を解き放ち始める。
「“コバルト・イーグル”を場に出すッ!」
 ペガサスの解き放たれた力によって、神童の目の前には、5体の獣と1個の宝玉――コバルトが並べられた。ヒーローの場にモンスターはいない・・・、圧倒的有利な状況の中で、そんな光景を見ていた神也はグッ――と拳を握り締めていた。
「いける・・・っ!いけるぞ、神童ッッ!!」
「ボクは・・・、カードを2枚伏せ・・・、ターンエンド――」

神童 LP:1050
   手札:1枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(守備)、宝玉獣 トパーズ・タイガー(守備)、宝玉獣 ルビー・カーバンクル(守備)、宝玉獣 アメジスト・キャット(守備)、宝玉獣 エメラルド・タートル(守備)、宝玉獣 コバルト・イーグル(宝玉)、リバース2枚、虹の古代都市−レインボー・ルイン

(よし・・・、後は“アンバー・マンモス”を引ければ、全ての“宝玉獣”が揃う・・・!それに、2枚のリバースカードの内の1枚は、“虹の行方”――・・・。これがあれば、確実に2,3ターンの間に、“レインボー・ドラゴン”を手札に加え、そのまま召喚することが出来るッッ!!)
 神童は確かな「勝ち」を感じ取っていた――。
 当然、そんな神童の表情の変化に気づかないヒーローではなく、すぐにヒーローは「神童が切り札を出そうとしている」ことに気づいた。
 そして、その切り札が何なのかも・・・。
『“レインボー・ドラゴン”か・・・?』
「――ッ!?」
 ヒーローの突然の言葉に驚き、そんな感情の変化も表情に出してしまう神童ではあったが、すぐに冷静になる。
「そうだよ・・・、でも、もう止められない・・・。“レインボー・ドラゴン”をボクが出して・・・、ボクの勝ちは決まるッッ!!
 神童が力強くそう発言している間に、ヒーローはピッ――とデッキの上から、カードを1枚引いた。そのカードを少しの間眺め、確認すると、小さく笑って、再び神童の方を見た。
『“勝ちは決まる”――か・・・。さっきも言わなかったか?――君では、オレには勝てないってッ!!』
 ヒーローはそう叫んだ後、手札の「ネオスペース・コンダクター」を墓地に送り、墓地にあった「ネオスペース」を手札に加えた。

ネオスペース・コンダクター
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1800/守 800
このカードを手札から墓地に捨てる。
自分のデッキまたは墓地に存在する「ネオスペース」1枚を手札に加える。
 
『――それを今・・・、証明してやるッッ!!“ネオスペース”発動ォオ!!』
 そして、ヒーローは今手札に加えた魔法カードを発動させた。本来、フィールド魔法は1枚しか場に置く事は出来ない・・・。よって、神童が作り出した「宝玉獣の都市」は、その姿を消した。
『そして、“生還の宝札”を発動――』

生還の宝札
永続魔法
自分の墓地に存在するモンスターが特殊召喚に成功した時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。

 更に、ヒーローはカードを1枚場に出した。
 残された手札はたった1枚・・・。
「神童!――ハッタリだ!!確かに、“生還の宝札”の効果で、モンスターを蘇生させる度にカードを1枚ドロー出来るからといって、その時点で、奴は既に“運”にかけている!――そんな奴に、お前は負けないッ!!」
 神也が力強く叫び、神童に――、神童の勇気という「心」に訴えかける。
 神童は、そんな神也の叫びをしかと心に受け止め、そして目をギラリと鋭くさせる。
『その通り・・・。だがな・・・、お前に“足りないもの”――それがあれば、“運”は“現実”となるッッ!!リバースカード――“正統なる血統”発動ッッ!!蘇れ――』
 ヒーローは伏せてあったカードを表にすると、墓地に眠りし自身の魂の欠片を呼び寄せた。

―――“E・HERO アナザー・ネオス”ッッ!!!

正統なる血統
永続罠
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。

 その魂の欠片は、子供の頃のヒーローを髣髴とさせるような小さいヒーローであった。だが、そのヒーローの目に宿っていた炎は本物――今にも、真のヒーローに姿を変えそうなほどのものであった。
「“アナザー・ネオス”!!?」
『そして、“再度召喚”ッッ!これにより、“アナザー・ネオス”は成長し、“ネオス”へとランクアップする!』

E・HERO アナザー・ネオス
デュアルモンスター
星4/光属性/戦士族/攻1900/守1300
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、
カード名を「E・HERO ネオス」として扱う。

 その時であった。
 小柄なヒーローは勢いよくジャンプし、宇宙からの波動を受け、ゆっくりとではあったが、確実に「成長」していった。
「なっ・・・!?“成長”・・・した・・・?」
『あぁ。それに、オレの手札は“アナザー・ネオス”の蘇生により、2枚になった――』
 ヒーローは増えた2枚の手札を神童に裏側のまま見せると、その手札から1枚カードを抜き取り、デュエルディスクに差し込んだ。
『“早すぎた埋葬”――ッ!!これにより、“エア・ハミングバード”を攻撃表示で復活ッ!――更に、オレはカードを1枚ドローする!』

早すぎた埋葬
装備魔法
800ライフポイントを払う。
自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示で
フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

ネオス LP:5500→4700

 地の底より目を覚ましたのは、鳥人――。2本の足で立ち上がり、「地」を制し――、その翼で天を駆け、その「天」を制す――。
『まだだぜ・・・?増えた手札にあった“死者蘇生”を発動ッ!!これにより・・・、1ターン目に使われた“手札断殺”で墓地に送った“N・アクア・ドルフィン”を復活させるッ!!』

死者蘇生
通常魔法
自分または相手の墓地からモンスターを1体選択する。
選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。

「なっ・・・!?3回連続で、モンスターを特殊召喚だと・・・?」
「それに・・・!最初の“手札断殺”の時点で、ここまでのデュエル展開を予想していた・・・!?」
 神也と神童が、ヒーローの強力な「運」と「戦術」の前に驚いている中、ヒーローの目の前にキm・・・、失礼。ヒーローの目の前に、2本足で立ち上がるイルカが姿を現した。その姿を確認して、ヒーローは更にカードを1枚引いた。
『これで・・・、オレはトリプルコンタクト融合が出来る・・・ッ!!』
 ヒーローの言葉を聞き、神童はヒーローの場を確認する。

ネオス LP:4700
    手札:2枚
     場:E・HERO ネオス(アナザー・ネオス)(攻撃)、N・エア・ハミングバード(攻撃/早すぎた埋葬装備)、N・アクア・ドルフィン(攻撃)、正統なる血統、生還の宝札、ネオスペース

「しま・・・ッ!!」
 神童はそれを止めたいと思い、手札を眺める。だが、そのたった1枚のカードは「融合」――。翔とぶつかってしまった際、間違って神童のデッキに入ってしまった内の1枚であった。
(くっ・・・!何で、こんな時に・・・ッッ!!)
 神童は歯を食いしばった。
 自分のデッキが、ヒーローとデュエルをすればするほど、回らなくなっていく事に・・・、強い「悔しさ」を感じていた・・・。


―――トリプルコンタクト融合ッッ!!!


 ヒーロー、イルカ、鳥(バード)の3体の身体が、光球に変わり、そして勢いよく空中へと浮上した。その3つの光球は混ざり合い、「コンタクト」を始める――。

 水と風――、その2つが混ざり合った自然「暴風雨(ストーム)」を司るヒーローが、ここに誕生する・・・。


――――“E・HERO ストーム・ネオス”ッッッ!!!!


 そのヒーローは、青き鎧で自身の体全てを覆い、両手には全てを切り裂く爪に似た形状のものが装備され、背中には空を駆け巡る巨大な翼。まさにその姿は、暴風雨を司るヒーローと言えよう。

E・HERO ストーム・ネオス
融合・効果モンスター
星9/風属性/戦士族/攻3000/守2500
「E・HERO ネオス」+「N・エア・ハミングバード」+「N・アクア・ドルフィン」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時にフィールド上の魔法・罠カードを
全て破壊する事ができる。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。
この効果によって融合デッキに戻った時、
フィールド上に存在する全てのカードをデッキに戻しシャッフルする。

『更に・・・、“おろかな埋葬”と“O-オーバーソウル”を発動し、“ネオス”を一度墓地に送り、復活させるッ!!』

おろかな埋葬
通常魔法
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。
その後デッキをシャッフルする。

O-オーバーソウル
通常魔法
自分の墓地から「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。

 そして、そんな暴風雨を支配する者の隣に姿を現したのは、精霊であるヒーローと瓜二つの姿形をしたヒーローであった。
『“生還の宝札”の効果で・・・、カードを1枚ドロー――』
 ヒーローはゆっくりとカードを1枚引く。
 そのカードを見つめ、小さくため息をつくと、目を鋭くして、神童の方を見た。

((ダメだったか・・・))
『手札から“サイクロン”を発動し、神童――君のリバースカード1枚を破壊するッ!!』
 ヒーローは静かにそう悟ると、今引いたカードをすぐに発動させた。強力な風と共に、吹き飛ばされるのは、相手の攻撃に反応して発動する「次元幽閉」のカード――。
 そんな強力な風と同時にやってくる2体のヒーローの強力な攻撃・・・。

 精霊と同じ姿をしたヒーローの、「聖なる闇」の一撃――。
 その闇は、神童の目の前にいたペガサスを一瞬で吹き飛ばし、宝玉「サファイア」に変えてしまう。
 そして、2体目である暴風雨を司るヒーローの攻撃――。
 その強力な風は、全ての宝玉獣を破壊せんとする程の勢いを持っていたが、神童はそれを防ぐべく、伏せていたもう1枚のカードを発動させる。
「リバースカード――“虹の行方”ッ!!ボクの場の“サファイア・ペガサス”を墓地に送る事で、“ストーム・ネオス”の攻撃を無効ッ!デッキの“レインボー・ドラゴン”を手札に加えるッ!!」

虹の行方
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に、自分の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカード1枚を選択して墓地へ送り発動する。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、自分のデッキから
「究極宝玉神」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える事ができる。

 その瞬間、神童の場にあった「サファイア」が、辺り一面をその輝きで覆いつくし、ヒーローの目を撹乱させた。それと同時に、神童には「虹色の龍」が送られた。

『オレはこれで、ターンエンドだ――』
 そして、ヒーローはゆっくりとそう言った。

ネオス LP:4700
    手札:0枚
     場:E・HERO ストーム・ネオス(攻撃)、E・HERO ネオス(攻撃)、生還の宝札、ネオスペース

 これにより、やってきたのは神童のターン――。
 目の前にいるのは4体の宝玉獣と1つの宝玉――、つまり、たとえこのターンで、7つ目の宝玉である「アンバー」を引いたとしても、「最後の龍」を召喚する事は出来ない・・・。
『ボクのターン・・・、ドロー――』
 そんな中で、神童が引いたカード。
 それは、翔のデッキに本来入っているはずの「精神操作」のカード――。

 翔のデッキに「精神操作」?合わないんじゃないの?って思っている人がいると思うので、ここで少し解説――。翔はこのカードと「太陽の書」を組み合わせる事によって、相手モンスターのリバース効果を発動させる、というコンボを狙っているために、このカードをデッキに入れております(但し、確率はそこまで高くない)。ちなみに、ダイレクトアタックを狙うために、このカードで相手モンスターの数を減らす、という意味で使う時もあります。

『ボクは、“精神操作”を発動――』
 神童はそのカードを見つめ、少し考えた後、暴風雨を司るヒーローの効果を使い、魔法・罠カードを0にすれば、少しは有利になるのではないかと思いつき、そのヒーローのコントロールを得ようとする。
 だが、そんな時であった――。




ドクン――




 神童の中の何かが、激しく鼓動する――。
 そして、発動された「精神操作」――。だが、神童がコントロールを得たモンスターは、何故か精霊と同じ姿をしたヒーローであった。

精神操作
通常魔法
エンドフェイズ時まで相手フィールド上モンスター1体のコントロールを得る。
このモンスターは攻撃宣言をする事ができず、生け贄にする事もできない。

『――ッ!?』
 ヒーローはそんな神童の行動を見て、「もしや」と何かに気づいた。

 そして、ヒーローが神童の場にやってきた瞬間、神童の手札にある「レインボー・ドラゴン」のカードと場のヒーローが共鳴し始める――。


キィィィィィィィィィッ・・・


 そして、謎のイメージを神童の頭に送り始める・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『オレは・・・、“超融合”を発動させるッ!!』
 神童の目の前で、赤い服を着込み、そんな服と同じように赤いデュエルディスクを左腕に装着した1人の少年が、大きく叫んだ。
『“超融合”の効果で、オレの場の“ネオス”と・・・、“レインボー・ドラゴン”を融合させるッ!!』
 そのときであった。
 少年の目の前にいた精霊である筈のヒーローと、神童が今、その手に持っているデッキの中にある1枚のカード――「レインボー・ドラゴン」が混ざり合い、1体の「虹の戦士」が姿を現した――。


―――現れろッ!!――“〜〜〜〜・ネオス”ッッ!!


(えっ・・・?君は・・・、今・・・何て・・・?)
 融合による巨大な音のせいで、神童は物事をうまく聞くことが出来ない状況にいた。その間にも、1体の「虹の戦士」は、その輝きで全てのモンスターを消滅させ、少年と対峙していた破滅の力を持った「光」を葬った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、一度、神童の頭の中の映像は途切れた。
(も・・・、もしかして・・・?ボクにも・・・、あんな事が・・・?)
 神童は自身の目を「憧れ」の目に変え、手札のカード1枚を空高く掲げる。

「おっ・・・、お前・・・、そのカードを・・・!!?」
 神童が空に掲げた事で、そのカードが何なのかを理解した翔が、目を大きく見開かせてそうつぶやくように言った。




“融合”――発動・・・」




 次の瞬間――。
 辺り一面が、大いなる光と虹に包み込まれ、その新たなる戦士の登場を待ち始める――。
 そんな中で、神童の残り1枚の手札から発せられる巨大な虹色の光と、神童の目の前にいる1体のヒーローが放つ聖なる闇が、ゆっくりと混ざり、溶け合い、神童の目の前で、新たなモンスターを形成し始める・・・。


 そうか・・・。


 そんな時、神童が何かに気づき、喜んだような表情をとった。


 今、ボクの頭に浮かんだイメージの中で見た・・・「あの子」のモンスターと会話しているかのような、あの楽しそうな表情――。
 簡単な事だったんだ・・・、ボクに・・・、足りないもの・・・。


 それは、ボクのモンスター――いや・・・、宝玉獣との・・・










――・・・。










『やっと気づいてくれたか・・・。――君の勝ちだよ・・・、神童――』
 ヒーローは笑顔で、つぶやくように・・・、囁くように・・・、そう言った――。




 そして、降臨する・・・「虹の戦士」――。









「現れろ・・・」















――――“レインボー・ネオス”ッッ!!!















 虹の戦士――、それは、全てをその虹色の光で、消滅させる力を持った者であった。そんな虹の戦士が、神童にもたらしたもう1つのイメージ――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『オレの名前は・・・、“〜〜〜”・・・』
 今回のイメージは、ノイズが激しく、相手の声をうまく聞き取る事が出来ない。幼い神童は、耳をこらしてその声を聞こうとするが、やはりうまく聞き取れない。
『もうすぐ・・・、オレは“〜〜〜〜”に飲み〜〜れてしまう・・・』
 そう言って、目の前にいる少年は、懐から40枚くらいのカードの束を神童に渡そうとする。
『だから・・・、オレが“〜〜〜〜”に飲み込ま〜〜前に・・・、この“宝〜獣”達を・・・守って・・・く・・・』
 その直後、その少年の体は、光の粒子となり、消滅してしまった――。
 残されたのは、そのカードの束だけ・・・。
 神童は、それをゆっくりと手に取った。

 そして、その時、彼は感じ取った――。その少年の「温かさ」を・・・、「温もり」を・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 神童はその映像を見て、ゆっくりと涙を流した――。

(この“温もり”があったから・・・、ボクは・・・、このデッキを守ろうと・・・)
 神童は涙を拭うと、手を力強く前に突き出し、大声で叫ぶ。
『行くよ・・・、“レインボー・ネオス”ッッ!!!』

 虹の戦士がもたらしたのは、全てを消滅させる虹の光――。

 その光によって、ヒーローの目の前にいた暴風雨を司るヒーローは消滅――。全宝玉獣と虹の戦士の攻撃を受け、ヒーローのライフは・・・

ネオス LP:4700→0

無くなった。

 神童は勝利した・・・。
 だが、それはヒーローの消滅を意味している・・・。
「うっ・・・」
 神童は、ヒーローの消滅を想像し、再び涙を流し始める――。そんな神童の目の前に立っていたのは、体が砂になり始めているヒーローであった。
『君の勝ちだ・・・、神童――。オレの“戦士”の力は・・・、“レインボー・ネオス”を通じて、既に君のものとなった』
 ヒーローの言葉を聞き、神童が左腕のデュエルディスクに目をやると、デュエルディスクの色が、青空を司るような空色になっており、展開したその形も、先ほどの虹の戦士の背に生えた翼のような形であった。

『君のデュエルディスクのもう1つの形状――それは、首輪(ペンダント)だな・・・』
 ヒーローはそう言って、小さく笑ってみせる。
「また・・・、また会えるんだよね!!?」
 神童は泣きながら、ヒーローの体にしがみつき、叫ぶようにそう聞いた。

 ヒーローは、無言で頷いた――。



 そして、ヒーローは・・・、その全てを消した――。






「ありがとう――」
 神童の涙と共に出てきたそんな言葉と同時に、ヒーローの姿は砂となり、静かに消滅した――。
 神童の涙のせいか、ヒーローの消滅のせいかは分からないが、神童の左腕に装着された空色のデュエルディスクと、それにセットされたデッキが、小さく輝いた。
 神童の涙を流す姿を見て、真利は咄嗟に彼に駆け寄ろうとするが、翔はそんな真利の腕を掴み、それを止めた。真利は止められた事に反論しようと翔の方を向くが、翔は目に涙を浮かべながら、首を横に振るだけであった。
「うっ・・・、うぅっ・・・」
 神童は今までの誰よりも長く泣き続けた――。「戦士」の空間から元の世界にも戻って来ても、ずっと・・・。
 そんな姿からは、神童の強さでもあり、弱さでもある「やさしさ」を垣間見る事が出来る。

 そんな中、神童のことを気にしながらも、外でずっと待っていたアンナに頑張って話しかけようとしていた翔がいた。
「な、なあ、アンナ・・・」
 翔は震えながらも言葉を発する事に成功した。だが、結果は・・・。
「・・・・・・」
 翔は シカトされた。
 精神に 2000ポイントのダメージ!!

翔(精神) LP:4000→2000

(アンナとのデュエルは、しばらく無理かな・・・)
 結局、翔は早々と、アンナにデュエルを申し込むのを諦める事にした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 なんやかんやで時間が過ぎていき、神童も既に泣き止んでいたので、次の空間に彼等は進む事にした。
 ガチャッ――と、アンナは無言のまま、「光」の空間への扉を開き、全員その中にはいていった。

 「光」の空間――それは誰も入る事の出来ない絶対的な空間であった。
 辺りはまばゆい光に支配され、奥へ奥へと進んでいくたびに、この奥にいるであろう精霊の威圧を強く感じ取っていった。
(何・・・、この威圧感!!?)
 今までの精霊とは桁違いの威圧感のため、有里はそう思いながら、少し顔をゆがめてしまう。

 次の瞬間だった――。
 精霊の強力な威圧が消え、辺りにあった「支配の光」も、その輝きを消していた。代わりに広がる光景は、遥か上空に自分達がいるのではないかと思ってしまうほどの空色と、雲をイメージした白色であった。更に彼等の目の前には、巨大な白き神殿があった。
「これって・・・、“天空の聖域”?」
 ふと気づいた神童がそうつぶやいたのと同時に、空からこの「光」の空間を受け持った精霊が、バサァッ――バサァッ――という翼を羽ばたかせる音と共に現れた。
「お、お前は・・・!」
「“裁きの代行者”・・・」

 ――神を代行し、全ての「裁き」を司る天使・・・。

―――――“サターン”ッ!!


第34章 第5の精霊――裁きの代行者 サターン

 ――その姿は、見るもの全てを震え上がらせ・・・、

 ――その翼は、見るもの全てを薙ぎ払い・・・、

 ――その力は、全てを裁き、そして滅する・・・。

『君達が“神の名を受け継ぎし者達”だね?――その通り。私の名は“サターン”。君達が会ってきた精霊全ての王たる存在・・・』
「お、王・・・!?“6大精霊”を束ねる存在がいたのか!!?」
 翔が天使の言葉を聞いて、驚きながらそう言った。すると、天使は少し悲しい表情を見せ、そんな表情のまま小さくうなずいた。
『そうか・・・。今はもう、“8大精霊”ではないんだったな・・・。1体は闇に飲み込まれ、もう1体は別の魂と融合し、その者に力を与えて・・・』
「そうです、“サターン”様」
 天使の言葉を聞き、アンナが返事のようにそう言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!・・・話の意味が“王”のあたりから、サッパリなんだが・・・」
 翔の困惑しながらの言動を見て、天使は「プッ」と思わず、笑みをこぼしてしまう。その後、その笑みに気づき、表情に怒りを浮かべていた翔に対して、「ゴメン、ゴメン」と謝ると、天使は説明を始めた。
『そうか・・・、ゼオウは君達に私達のことについて、何も話していなかったのか・・・。じゃあ何故、私達“精霊”が誕生したかから説明しようか――』

 遥か昔、世界を2つに切り裂き、暴走する邪神を封印した天使は、自身の力を「9つ」に分けた。その内の1つ――天使の核(コア)にあたる部分は、天使自身が、この世界の「脅威」と考え、残り8つの力を用いてその核(コア)を封印した。その後、その8つの力をこの世界を守る「精霊」とし、この世界に残した。
 その時の8つが、生命を持ち、意思を持ち、この世界を影で守護する「8大精霊」となった。
 その「8大精霊」には、天使が持っていた「力」が授けられていた。
 それが、「現実干渉能力」――。本来、モンスター達は、どんなに強力であろうとも、デュエルディスクを介さなければ、実体化出来ず、たとえ実体化しても、現実に干渉することは出来ない(デュエル時は、モンスターではなく、モンスターを介したコントローラーの「思い」が、相手にダメージを与えている)。しかし、この「現実干渉能力」を持っていると、デュエルディスクを介さなくても、自分の意思、もしくは所有者の意思で実体化、及び現実に干渉することが可能となる。

「――ッ!?」
 その時、翔は驚いた。
 なぜなら、天使の説明によると有り得ない出来事が、過去に起こっていたからだ。
(おかしいぞ・・・!?じゃあ、なんであいつはあの時・・・?)
 翔の疑問が無くなることは、しばらく無さそうだ・・・。

 だが、本来、天使はもう1つの力――全ての力を超越し、消し去る「浄化」の力を持っていたのだが、その力は核(コア)の方に宿っていたらしく、「浄化」の力は核(コア)と共に、封印されてしまった・・・

はずが、「浄化」の力の一部は、核(コア)から漏れていたらしく、その力の一部を受け継いだ精霊を、精霊達の中で、「王」と呼ぶようになった――。

『――と、こんな感じなんだが・・・』
「それで、その後、2体の精霊が、それぞれの理由でいなくなって、今の“6大精霊”になっているのね?」
『あぁ、その通りだ』
 有里の言葉に、やや感心しながら、天使は返事をした。
 そんな会話の中、満足していない者が1人、拳を強く握り締めていた。
「・・・あんた等は、“この世界を影で守護する存在”なんだろ・・・?――じゃあ何でッ!何で、デストロイドがここら一帯を支配しようとしていた時、あんた等は何もしなかったんだ!!?」
 怒りをあらわにしながら、神也は天使に向かって力強く叫んだ。
『それは、邪神を倒せる存在が、君達だけだからだ・・・』
「違うッ!!オレのしている話は、邪神がどうとかじゃない!!それに・・・、あんた等の存在があれば、最低でも、奴等の抑止力になっていたはずだ!――それなのに・・・、何で・・・?」
 叫びながら神也は、ここに来た時に出会った「レジスタンス」の兵士達のボロボロになった姿をゆっくりと思い出していた・・・。そして、その姿を思い出す度に、振り返る度に、自然と涙がこぼれ落ちてくる――。
『私達だって・・・、本当はそうしたかったッ!――だが、“デストロイド”の目的が“邪神復活”であるその時から、それは出来なくなってしまったんだ・・・。私達の使命は、正確に言うと、この世界の“守護”と君達――神の名を受け継ぎし者達の“育成”の2つ。もし、私達がデストロイドの抑止力となって、前線に出て戦ったとしよう・・・。だが、絶対に負けないと、誰が言い切れる!!?』
「そ、それは・・・」
 天使の強い言葉に圧倒され、神也は思わず、目を背けてしまう。
『もし、精霊が1体でも敗北し、消滅したらどうする?そして、復活するまでの1ヶ月の間に、君達がここにきたらどうする・・・!?』
「・・・精霊がいないという事は、“力”が手に入らないという事――。つまり、オレ達の中の誰か1人が、レベルアップ出来ないまま、戦わなければならなくなる・・・」
 神也と同じように、天使の強い言葉に圧倒され、目を背けていた翔が、ゆっくりと口を開き、つぶやくようにそう言った。
『どうか私達を許してくれないか・・・?“邪神”というデストロイド以上の脅威を防ぐためには・・・、仕方がなかったんだ・・・』
「くっ・・・、でも・・・ッッ!!」
 天使が深々と頭を下げる中、神也は再び強く拳を握り締めようとする。だが、加奈はそんな神也の怒りを和らげるべく、両手で神也の拳をやさしく握った。突然の加奈の行動に、一度は驚くものの、その手から「あたたかさ」を感じ取り、神也はゆっくりとその拳を解いた。
「・・・オレの方こそ・・・、すまなかった・・・。身勝手な意見をぶつけちまって・・・」
 神也は照れくさそうにそう言った。そんな言葉を聞いて、加奈も大きく笑って見せる。そんな加奈の笑顔を見て、神也もまた小さく笑った・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『さて、そろそろ“戦い”を始めるかな・・・?』
 天使の言葉を聞き、翔達全員(アンナを除く)は、ゴクリと大きく唾を飲み込んだ。
『私の対戦相手は――』
 天使が右手の人差し指を立て、スッ――とその手を振り上げた。
(ハァ・・・、私の切り札は“闇”属性の“冥王竜ヴァンダルギオン”・・・。うってかわって、翔の切り札は“光”属性の“アルカナ ナイトジョーカー”・・・。私が最後かぁ・・・)
 有里は小さくため息をついて、そんなことを思いながら、ふと翔の顔を見た。その時の翔の顔は、はとが豆鉄砲を食ったようになっていた。何故翔の顔がそんな状態になっていたのか有里は分からなかった・・・。



 ――だが、その理由はすぐに分かった・・・。



 おそらく、翔も有里と同じようなことを考えていたからであろう・・・。

『君だ・・・』


――――神吹 有里ッッ!!!


 天使はそう叫んで、人差し指を有里に向けた。
「・・・へ?」
 今度は、有里の顔が、翔の先程までの顔と同じようになった。
 だが、天使は既に、有里をよそに、デュエルディスクを左腕に出現させ、自分のデッキをセットしていた。
『さぁ・・・、“決闘開始(デュエル・スタート)”だ・・・ッッ!!』
 こうして、有里と天使のデュエルが始まった――・・・?

「ちょっ・・・!ちょっとちょっと!!早い!早いよ!!?」
 だが、そんな有里の意見を天使が聞くわけもなく、天使はすでにカードを5枚引いて、手札としていた。
「・・・・・・」
 どうすることも出来ない有里はただ呆然と、そんな天使の姿を見ていた・・・。


だから、早いって〜〜っ!!
 有里の嘆きに近い叫びが、辺り一面に響き渡った――。




第35章 有里VSサターン――どちらかが果てるまで

 先程まで自分がデュエルをすることに酷く驚いていた有里ではあったが、今となっては何とか落ち着いて、自分のデュエルディスクを展開させていた。デッキも既にセットしてあり、ライフカウンターも4000を示していた。
「頑張れよー、有里〜!」
 翔が有里の頑張りを後押しするために、大きく叫んで応援するが、有里は驚きのせいか、ボーッとしたような表情でデッキの上からカードを5枚引いた。
「さて・・・、気を取り直していきますかっ!」
 カードを5枚引いた直後、有里は人が変わったかのように表情を一変させ、その力強い瞳で、天使を見つめる。
『そうだな・・・ッ!』

 そして、2人は叫ぶ。
 そのデュエルの始まりを――。





――デュエルッッ!!!





『私の先攻――カード、ドローッ!』
 天使は自分のターンを宣言すると、力強くカードを1枚引いた。そして、目の前で広げられている6枚のカードを見て、小さく笑った。
『私は、カードを2枚伏せて、ターンエンド』
 その後、その笑みが何なのかを悟らせぬよう、割とシンプルなプレイで、そのターンを終了させる。

サターン LP:4000
     手札:4枚
      場:リバース2枚

「私のターンッ!!」
 有里は意気込んで、カードをドローする前に、自分の手札をじっと確認する。だが、その時、有里にある異変が起きた。
(や、ヤバイ・・・。事故った・・・)
 そんな異変に素早く気づいたのは翔だ。翔は、「ダメだこりゃ・・・」と言わんばかりの表情を取った後、天使にその表情がバレぬよう、自分の手で顔を隠した。
(いや・・・、まだ私にはドローがあるッ!それに・・・、手札には“冥王竜ヴァンダルギオン”もあるし・・・、なんとかなるかな・・・)
 そして、有里は意気揚々とデッキの上のカードを1枚引いた。
 だが、結果は「残念」――。

 精一杯の努力をして、その結果を隠そうとする有里ではあったが、どうすればいいのか戸惑っていた。
「・・・私は!カードを2枚伏せて、ターンエンドよ!」
 少しの間考えた末に出した結論は、天使と同じプレイをすることであった。そうすれば、天使に「何かを企んでいる」と思わせることが出来るし、それが見抜かれたとしても、この2枚のリバースカードは「ハッタリ」になる、というのが有里の考え。更に、その伏せたカードを「ハッタリ」ではなく、「本物」にすることで、その考えを確実な「戦略」にした。

有里 LP:4000
   手札:4枚
    場:リバース2枚

 嵐の前の静けさ――。
 この2ターンに相応しい言葉である・・・。

 ――だが、

『私のターン・・・、ドローッ!』
 天使は1ターン目と同じような力強さで、カードを1枚引いた。

 ――その静けさは、

『私はこのモンスターカードを――』

 ――瞬く間に消滅する。






君の場に特殊召喚させるッッ!!!
 そう叫んで、天使は手札にあった1枚のカードを有里に手渡した。何がなにやら分からぬまま、有里はそのカードを自分の場に置いた。

 そのカード――モンスターの姿は、全身を機械で固めた口を持たぬ巨大な悪魔――。



 ――トーチ・ゴーレム・・・。


『“トーチ・ゴーレム”の効果発動!相手の場に特殊召喚する時、自分の場に2体の“トーチトークン”を出すッ!!』
 その瞬間、有里の目の前に出現した悪魔から、2つの塊が放出された。その塊は、悪魔を一回り小さくしたような形となり、「命」が吹き込まれた。

トーチ・ゴーレム
効果モンスター
星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守 300
このカードは通常召喚できない。
このカードを手札から出す場合、自分フィールド上に「トーチトークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を2体攻撃表示で特殊召喚し、
相手フィールド上にこのカードを特殊召喚しなければならない。
このカードを特殊召喚する場合、このターン通常召喚はできない。

『更にッ!手札から永続魔法――“魂吸収”を発動させる!』

魂吸収
永続魔法
このカードのコントローラーはカードがゲームから除外される度に、
1枚につき500ライフを回復する。

 素早い天使のカード展開――。
 天使のデッキ構成をまだ知らない有里にとっては、自分の場に強力なモンスターカードを置くなど、疑問だらけのプレイングであった。そして、天使は有里が自分のプレイングに戸惑っている中、バッ――と手を前に出した。
『そして・・・、“トーチトークン”で、“トーチ・ゴーレム”に攻撃する!!』
「!?・・・攻撃力0のモンスターで、攻撃力3000のモンスターに攻撃ぃ!?」
 天使の思いもよらぬ攻撃に、有里は目を見開き驚いてしまう。

 それが、「悪夢への入り口」になるとも知らないで・・・。

 当然、一回り小さくなった悪魔が、元々の大きさである悪魔に勝てるわけも無く、小さい悪魔は、一瞬のうちに砕け散ってしまう。その瞬間、小さな悪魔が破壊されたことによって生じた強力な衝撃波が、天使を襲う。

サターン LP:4000→1000

 だが、その衝撃波は一瞬で止み、やがてその衝撃波は、天使ではなく、有里へと向かっていく。
「ど、どういう・・・!?」
 有里は再び驚きながらも、何とか目を凝らし、天使の場で発動されていた1枚の魔法カードを見た。
『手札から速攻魔法を発動させた・・・。名を――“ヘル・テンペスト”ッッ!!

 地獄からやってきたその「力」――。
 いや、地獄そのものの「力」――。

 それは、自身の痛みを糧とし、敵を一瞬で飲み込む「消滅」の一撃――。

ヘル・テンペスト
速攻魔法
3000ポイント以上の戦闘ダメージを受けた時に発動する事ができる。
お互いのデッキと墓地のモンスターを全てゲームから除外する。

 有里は天使の場で発動されたそのカードを見て、「そのカードを発動させてはいけない」とすぐさま判断――それに対処すべく、自身も伏せておいたカードの内の1枚を発動させた。
「くっ・・・!止めてみせるッ!!リバースカードオープンッ!!――“マジック・ジャマー”ッッ!!」
 有里はコストとして、自分の手札1枚を素早く墓地に送った。その直後、有里の目の前に少し大きめの魔法陣が出現した。その魔法陣から噴き出された煙は、有里に向かってくる全ての衝撃波を飲み込もうとする。

マジック・ジャマー
カウンター罠
手札を1枚捨てて発動する。
魔法カードの発動を無効にし破壊する。

 有里は一安心と思い、一瞬の余裕を見せてしまう。
 そして、天使はその有里の余裕を嘲笑うかのように、伏せておいたカードをゆっくりと発動させた。
『甘いな・・・』
 その直後、有里の目の前で噴き出されていた煙は、巨大な魔法陣ごと消滅してしまった。
「もしかして・・・、あなたも・・・、カウンター罠を・・・!?」
『“魔宮の賄賂”――。君のドローを条件に、魔法・罠の効果を無効化・・・、破壊するカードだ』

魔宮の賄賂
カウンター罠
相手の魔法・罠カードの発動と効果を無効にし、そのカードを破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 有里は天使のカード説明を聞き、絶望したかのように、両膝を地面につけた。カード効果により、仕方なくカードを1枚引いたものの、そんなカード1枚如きで、この絶望を塗りかえられる訳も無く、有里は静かにその強力な衝撃波を受け入れた。


―――バサァッ!!


 衝撃波を受け入れたことにより、有里のデッキの中から、全部で14枚のカードが抜き出され、一瞬で弾け飛んだ。更に、その衝撃波は、その威力を留めることを知らず、天使のデッキをも飲み込み、18枚ものカードを吹き飛ばした。
 全部で32枚ものカードが弾け飛んだ事で、天使のライフが大きく回復していった。

サターン LP:1000→17000

「ダ・イーザと同じ・・・、“魂吸収”によるライフ回復!?」
 咄嗟に同じような状況に追い込まれた真利が、つぶやくようにそう言った。
「有里・・・ッッ!!」
 そんな真利のつぶやきを聞きながら、翔はその「拳」を左手でギュッ――と抑え、何もする事が出来ない自分に対する「悔しさ」の目で、有里を見つめる。そして、有里の名をつぶやいた。

 有里はただ、涙を流していた。
 デュエルモンスターズとは、大きく分けて「モンスター」「魔法」「罠」の3種類で成り立っている。その内の「モンスター」が、たった1枚を残して全て除外されてしまった・・・。しかも、除外に対する対抗策を有里は持っていない。
 (何度も言うようだが)大いなる「絶望」が、有里の両肩を重くし、有里を立ち上がらせまいとする。

『立つんだ、有里・・・』
 そんな時、天使が有里に向かってそうつぶやいた。


 「光」の力とは、仲間を守る癒しの力――。
 自分を守れぬ者が、その力を持つことは出来ない・・・。いや、たとえ持ったとしても、自分が傷つき倒れてしまえば、それは「宝の持ち腐れ」となってしまう。
 今回の戦い――それは、「自分を守る」。そして、それから「仲間を守る」に繋げるためのもの。


 天使はそれを伝えようとするが、伝えることなく、直前のつぶやきだけで、それ以上を口にすることは無かった。
 全ての精霊がそうしてきたように・・・、有里自身に気づかせるためにも・・・。

 天使の言葉を聞きながらも、有里は立とうとせず、ただ涙を流し、手札の「冥王竜ヴァンダルギオン」のカードを見つめていた。
 兄から授かりし、「魂のカード」――。
(私は・・・、どうすればいいの・・・?)
 そのカードに、有里は心の中で問いかけた。

 そんな時であった――。


―――ォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ・・・


 有里は確かに「それ」を聞いた。
 そのカードを出したときに聞こえてくる筈の竜の「雄叫び」――。
 有里の耳から入り込んだその竜の「雄叫び」は、有里に巣食っていた全ての「絶望」をかき消した。

 「勇気」が・・・、沸いてくる――。

 有里はゆっくりと立ち上がった――。

 その竜の雄叫びを「確かなもの」にするために・・・。

『フッ・・・。行くぞ・・・、有里――。手札からフィールド魔法発動!“天空の聖域”ッ!!』
 天使は、ゆっくりと立ち上がる有里を見て小さく笑うと、手札のカード1枚を場に出した。そのカードがもたらしたもの――それは、天使達に「守護」と「力」を与える「聖」なる地「域」――聖域。瞬く間に、その聖域は、辺り一面を覆い尽くしていく・・・。

天空の聖域
フィールド魔法
天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

『そして、リバースカード――“奇跡の光臨”!!このカードの効果によって、先程除外した“裁きの代行者 サターン”を特殊召喚するッ!』
 やがて、辺りを覆い尽くしていた聖域の上空から、一筋の光が降り注いできた。その一筋の光に導かれて、1体の天使――全てを「浄化」する力を持った天使が舞い降りた。

奇跡の光臨
永続罠
除外されている自分の天使族モンスター1体を選択し特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

『“サターン”の効果・・・。自分の場に“天空の聖域”があるとき、このカードをリリースする事で、自分と相手のライフの差分、相手にダメージを与える・・・』
 天使はつぶやくようにそう言った。

裁きの代行者 サターン
効果モンスター
星6/光属性/天使族/攻2400/守 0
自分のライフポイントが相手ライフポイントを越えている場合、
自分フィールド上に存在するこのカードを生け贄に捧げて発動する。
越えているライフポイント数値分のダメージを相手ライフに与える。
この効果は自分フィールド上に「天空の聖域」が存在していなければ適用できない。
この効果を発動する場合、このターンバトルフェイズを行う事はできない。

「なっ・・・!?ライフの差は、もう13000ポイント・・・」
「このダメージを受けたら、1ターンキルで負けちゃうよ!?」
「これって、ヤバイんじゃねぇの・・・!!?」
「ヤバイってのんきに言える状態じゃないでしょっ!!」
 神童、真利、神也、加奈の順で4人は驚くように声を上げた。あっという間の天使の展開力、そしてその展開から来る破壊力――「流石は6大精霊の王・・・」と思ってしまうほどの実力であった。

「・・・有里・・・ッッ!!」
 そして、翔は再び「それ」を抑えながら、下唇を噛み締め、有里の名を声に出した・・・。


『とどめだ・・・!――“サターン”をリリースし、効果発動ッッ!!』
 全ての者達の言葉を無視するかのように、天使はそう叫んだ。

 天使の叫びを受け、一筋の光を受けていたその天使の体は、一瞬のうちに巨大な「光」に変化した。その光は、辺り一面を覆い尽くしていた聖域から力を受け、その大きさを、その輝きを、そしてその力を増していった。


―――裁きの輝き(ジャッジメント・シャイニング)ッッ!!!


 その瞬間、その光は超スピードで、有里を貫かんとし、有里に向かって飛んでいく。だが、有里は何も言わず、ずっと自分の手札の「魂のカード」を見つめていた。
 そんな有里の姿を見て、天使は自身のたった1つの「ミス」に気づいた。それは、有里の場に伏せられた「もう1枚」のリバースカード――。
 そして、そのリバースカードはゆっくりと開かれる。

「カウンター罠――“天罰”発動ッッ!!!」
 再び墓地に送られた有里の手札1枚と共に、そのカードは発動された。
 上空を雷雲が覆いつくし、その雷雲より解き放たれた雷は、超スピードで有里を襲おうとしていた光を貫いた。

天罰
カウンター罠
手札を1枚捨てて発動する。
効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

 そして、その雷に導かれて、更なる力――漆黒の竜が目を開けた・・・。



―――行くよ・・・。



 有里は心の中でそう思うと、その思いを手札の竜に込め、自分のデュエルディスクに力強く置いた――。
カウンター罠で相手のカード無効にしたことにより・・・、出でよッ!!」










―――――“冥王竜ヴァンダルギオン”ッ!!!!










 大いなる漆黒の翼を羽ばたかせ、鋭い瞳で全てを睨み、強靭な腕と脚で全てを潰す「漆黒の竜」が今、有里の目の前に降臨した。


冥王竜ヴァンダルギオン
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2500
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。


「本来なら効果モンスターの効果を無効にした場合は、自分の墓地からモンスターを特殊召喚出来るんだけど、私の墓地にモンスターはいない・・・。だから、“ヴァンダルギオン”を特殊召喚するだけね」
 有里は目の前に聳える漆黒の竜をずっと見つめながらそう言った、その時であった――。


ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!


 「確かなもの」となった漆黒の竜の雄叫びが、辺り一面を轟かせていく。ほとんどの者が騒音と思ってしまうほどのこの雄叫び――。だが、有里にとって、これほどまでに心地よいものは無かった――。

(このデュエル・・・。私に残されたモンスターは、この“ヴァンダルギオン”だけ・・・。でも・・・、負けられないッ!!)
『私はこれで、ターンエンドだ』
 有里の真剣な表情を見て、有里に対して期待する事が出来るようになった天使は、自分の切り札が倒されたというにも関わらず、笑みをこぼしながら、そう言った。

サターン LP:17000
     手札:1枚
      場:トーチトークン(攻撃)、魂吸収、天空の聖域

「私のターン、ドローッ!!」
 そして、天使のエンド宣言を聞くと、素早く有里はカードを1枚引いた。そして、そのカードを左手に持ち替えると、別のカードを右手に取り、発動させる。
「私は“受け継がれる力”を発動ッ!!――場の“トーチ・ゴーレム”をリリースする事で、その攻撃力分、“ヴァンダルギオン”の攻撃力をアップさせるッ!」

受け継がれる力
通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送る。
自分フィールド上のモンスター1体を選択する。
選択したモンスター1体の攻撃力は、
発動ターンのエンドフェイズまで墓地に送った
モンスターカードの攻撃力分アップする。

 有里の目の前にいた悪魔が、光の粒子となり、その光の粒子は、ゆっくりと漆黒の竜に降り注がれていく。その光の粒子は、悪魔の力を漆黒の竜にもたらし、漆黒の竜の力を底上げしていく。

冥王竜ヴァンダルギオン 攻:2800→5800

「そして、“トーチトークン”に攻撃する!!――喰らえッ!“漆黒の竜”の雄叫びを!!」



―――冥王葬送ッ!!!



 漆黒の竜の口の中で溜められたそのエネルギーは、一気に放出され、天使の目の前にちょこんと佇んでいた一回り小さな悪魔は、一瞬で爆(は)ぜ飛んだ。

サターン LP:17000→11200

「私は・・・。私は・・・ッ!」
 小さな悪魔が爆ぜ飛んでいる中、有里は自分の決意を口にすべく、力を込め、拳を握り締め、大きく口を開いた。
「この“ヴァンダルギオン”と共に・・・、絶対あなたに勝ってみせるッ!!
 天使は表情には出さなかったが、心の中ではとても喜んでいた。
 先程まで、絶望に苦しんでいた有里が、気づいたら立ち上がり、自分を倒すと宣言してくれたから・・・。
 だからこそ、気は抜けない。手も抜けない。

『改めて言おう・・・。勝負だ、神吹 有里ッッ!!――君の“パーミッション”と、私の“1ターンキル”の・・・、どちらかが果てるまでなッッ!!

 この戦いは止まることなく進み続ける・・・。

 止まる事を知らない時のように・・・、一度動き出した歯車のように・・・、



――侵略する闇のように・・・。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「見えたぞ・・・」
 遥か上空において、闇の龍に乗っていたファイガが、つぶやくようにそう言った。その言葉を聞き、ファイガの後ろにいたデリーターが、ピクリとだけ動いた。

 目の前に広がるのは、ゼオウ達がいる「レジスタンス」のアジトであった。

「さぁ・・・、“終焉”の時間だ・・・ッ!!
 ファイガが先程よりも声を大きくしてそう言った。そして、その直後に響き渡るのは、数多くの人の悲鳴とも呼べる程の大きな叫び――。

 それもそのはず。
 ファイガとデリーターの周りには、召喚された数多の龍に乗り込んだ数多くの黒ずくめの者達がいたのだから・・・。




第36章 仲間を守る覚悟――兄を助ける覚悟

有里 LP:4000
   手札:2枚
    場:冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃)

サターン LP:11200
     手札:1枚
      場:魂吸収、天空の聖域

「私は、残り2枚の手札全てをセットして、ターンエンドッ!」
 有里は残された2つの「可能性」をデュエルディスクに差し込むと、ターンを終えた。漆黒の竜を除いたモンスター全てが、除外され、このデュエル中に使えない今、これが有里に出来る最善の手であった。

有里 LP:4000
   手札:0枚
    場:冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃)、リバース2枚

 その直後、漆黒の竜の体を覆っていた光の粒子が消滅し、漆黒の竜の力も元々の状態に戻ってしまう。

冥王竜ヴァンダルギオン 攻:5800→2800

 有里のエンド宣言を聞き、漆黒の竜の攻撃力変化を見届けると、天使は素早くデッキの上からカードを1枚引き、手札に加えた。
 残された手札は2枚――。天使の手札の枚数も、決して多いとは言えなかった。
『このカードは、“運”が絡んでくるから、あまり使いたくなかったのだがな・・・。――手札から“カップ・オブ・エース”を発動させる』
 天使は手札にあった1枚のカードを、しぶしぶとデュエルディスクに差し込んだ。それによって、有里と天使の間に、1枚のコインが出現した。そのコインは、ピィンッ――という軽い金属音を醸し出すと、その音と共に、回転しながら上空を舞い上がり、ゆっくりと地面に向かって落ちていった。

 結果は表――。

 天使は、カードの効果にのっとり、デッキの上から更にカードを2枚引いた。

カップ・オブ・エース
通常魔法
コイントスを1回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを2枚ドローする。
裏が出た場合は相手はデッキからカードを2枚ドローする。

『手札は補充出来た・・・。行くぞ・・・ッ!』
 3枚となった手札を少しの間眺めると、天使はそう叫んだ。その叫びを聞き、有里はそれに答えるように力強く頷いた。
『手札を1枚リリースし、“D・D・R(ディファレント・ディメンション・リバイバル)”を発動ッッ!!――除外された2枚目の私自身・・・“裁きの代行者 サターン”を復活させる!!』
 天使は慣れた手つきで、使わない手札1枚を墓地に送ると、そのカードを発動させた。ジジジジジッ――という、少しの電流と共に、除外されていた1体の天使が再び目を開けようとしていた・・・。

D・D・R
装備魔法
手札を1枚捨てる。ゲームから除外されている自分のモンスター1体を選択して
攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

裁きの代行者 サターン
効果モンスター
星6/光属性/天使族/攻2400/守 0
自分のライフポイントが相手ライフポイントを越えている場合、
自分フィールド上に存在するこのカードを生け贄に捧げて発動する。
越えているライフポイント数値分のダメージを相手ライフに与える。
この効果は自分フィールド上に「天空の聖域」が存在していなければ適用できない。
この効果を発動する場合、このターンバトルフェイズを行う事はできない。

(この召喚を許してしまったら・・・、私は負けるッ!!――ならっ!)
 有里は意を決して、2枚のリバースカードの内1枚を力強く表にした。
「リバースカード、“魔宮の賄賂”ッ!!――これの効果で、“D・D・R”の発動は無効!・・・2枚目の“サターン”は除外されたままよ!!」
 有里がリバースカードの内の1枚を発動させた事によって、除外されていた天使の目を開かせる電流は、バチンッ――と破裂し、消滅してしまった。
 だが、天使は何事も無かったかのように、有里のカードの効果を受け、カードを1枚引いた。

魔宮の賄賂
カウンター罠
相手の魔法・罠カードの発動と効果を無効にし、そのカードを破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 そして、天使はその引いたカードを見て、ニヤリと大きく笑って見せる。
『まだだ・・・。私の1ターンキルは止まらない・・・っ!!手札から魔法カード――“死者蘇生”発動ッ!!』

 どんな死者をも呼び覚ます奇跡の十字架――。
 その十字架は、自身の効果を使えずに消滅してしまった1体目の天使を呼び覚ますべく、大きく光り輝いた・・・。

死者蘇生
通常魔法
自分または相手の墓地からモンスターを1体選択する。
選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。

 だが、それを防ぐべく新たな「何か」もまた、光り輝いた――。

「・・・ッ!!それも止めてみせる!――リバースカード、“ヒーローズルール2”ッッ!!これで、墓地を対象とする“死者蘇生”の発動を無効化・・・、そのまま破壊するっ!!」

ヒーローズルール2
カウンター罠
墓地のカードを対象とする効果モンスターの効果・魔法・罠カードの
発動を無効にし破壊する。

 ヒーローが定めた鉄の決まり(ルール)。
 それにのっとるかのように、光り輝いていた十字架は、その輝きをただちに止め、消滅した。

 そして、その瞬間に一気に解き放たれた強大な衝撃――。

 とどめを刺すべくカードを繰り出す天使――。
 そのとどめを阻止すべくカードを繰り出す有里――。

 少しずつ有里は、「光」の力を覚醒させていく・・・。

『私はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ』
 このターンで、とどめを刺す事が出来ず、天使は少し残念そうな顔をしながら、そう言った。

サターン LP:11200
     手札:0枚
      場:魂吸収、天空の聖域、リバース1枚

「私の・・・ターン・・・」
 有里は自分のデッキの上にゆっくりと、その手を置いた。そして、デッキの上にある1枚のカードに指をかける。・・・だが、先程までとは違い、すぐに引こうとはしなかった。
 いや、引くことが出来なかった――。
 有里の指がカタカタと震え、本能がそのドローを躊躇(ためら)わせるのだ・・・。

(今、私の手札にも場にもカードは1枚も無い・・・。けど、サターンには1枚のリバースカードがある・・・。もしもあのカードが、“裁きの代行者 サターン”を復活させる系のカードなら・・・、私はこのターンで、決着を着けるか、“天空の聖域”を破壊しなければならない・・・)

 そして、たとえこのターンで、カウンター罠を引き、その効果によって敵の動きを止めたところで、それは一時的。結局は、今のターンと全く同じ状況に持っていかれてしまう。

 有里は、瞬時にそう考えた――。

 だからこそ、今のドローに怯え、カードを引くことを本能で躊躇っていた。でも、引かなければ何も始まらない・・・。

 そんな狭間の中で、有里は苦しみ始める――。

(どうすればいいの・・・?)
 有里は苦しみから解き放たれようと、漆黒の竜の方を見た。その視線に、漆黒の竜も気づいたのだろうか?――突然、漆黒の竜は口を大きく広げ、場に出たときと同じくらいの大きさで雄叫びを上げた。

 そして、その瞬間であった――。

 有里と彼女の目の前にいる漆黒の竜を中心として、巨大な漆黒の渦が発生した。その渦は、有里の中へと入り込み、やがて、有里の「魂」を全く別の空間へと連れて行った――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 辺りを見回しても、空を見上げても何も無い空間――。
 地面は全て水・・・、だが、その水のせいで立てないわけでもなく、その水が危害を加えるわけでもない――。ただ「地面」として、その水は存在していた。

 チャポン・・・と、水が跳ね返るような音と共に、有里の魂は、「有里」となってそんな何も無い空間に具現化される。

『ここは・・・?』

 目を開けた有里は、ゆっくりと辺りを見回す。
 だが、そこが何処かという事は、そんなことで分かるわけが無く、少し歩いてみても、辺りの風景が変化する事は無かった。

 そんな時であった。
 有里の目の前の水が、勢いよく上昇し、水柱を作り出した。その水柱が、ある程度の大きさになると、一気に破裂した。――その中にいたのは、先程まで有里の目の前で、有里を守るべく聳えていた漆黒の竜であった。

『“ヴァンダルギオン”・・・。あなたが・・・、私をここへ連れてきたの?』
 有里は多少の怯えを持ちながらも、ゆっくりとそう聞いた。
『あぁ・・・、そうだ』
『・・・っ!?あなた・・・、喋れるの!?』
 有里の問いに対し、返答する漆黒の竜。だが、有里はその返答に対してではなく、漆黒の竜が喋った事に対して驚いてしまった。
『“ここ”ならばな・・・』
『ここは、一体どこなの?』
 漆黒の竜の言葉を再び聞いた上で、有里は更なる質問をぶつけた。
『正直、自分でも分からない・・・。だが、ここならば、お前と会話ができ、“力を貸す”ことが出来る――』
 漆黒の竜の言葉を聞き、有里は少しの希望を見つけた。
 力を貸してもらえば、天使に勝てるかも知れない、という希望――。
『――じゃあ、私に力を貸して・・・ッ!サターンに勝てる力を!』
 だが、漆黒の竜は首を縦に振らなかった。その代わりに、漆黒の竜は口を開き、有里に「あること」を伝える。



―――ならば見せてみろ・・・!お前の力――魂を・・・ッ!!



 伝えたいことを伝えた漆黒の竜は、自身の口に強力なエネルギーを溜め、有里に向かって、それを一気に解き放った。
『・・・えっ・・・!!?』

バシャァアアアアアアアアアンッ!!

 咄嗟に有里は漆黒の竜が放ったエネルギーを避ける事に成功するが、その避けたエネルギーは、地面である水にぶち当たり、その力分、地面の水を辺り一面に撒き散らした。
 その水で、視界を悪くした有里に追い討ちをかけるように、漆黒の竜は、その強靭な腕で、有里の腹部を殴ろうとする。何とかそれに気づいた有里は、漆黒の竜の攻撃を再び避けようとする。――だが・・・。


―――ドッ!!


『・・・ッッ!!』
 有里は、避けられなかった。
 漆黒の竜の攻撃を喰らい、かなりのダメージを受けると共に、有里は遥か遠くまで吹き飛ばされてしまう。そして、ドボン――と、地面である水の中に沈んでしまった。更には、水の中で口を開けてしまい、有里は口の中の酸素を一気に吐き出してしまう。
 すぐに水の中から出ようとするが、そんな時、有里の目の前に飛び込んできたのは、水の中で繰り広げられていた1つの「過去」――。


 1人の有里くらいの年の少年が、誰かとデュエルをしていた。
 その少年は、無数のカウンター罠を使い分け、対峙する相手が使うカードの効果をことごとく無効にしていった。
 そして、その少年はある1枚のカウンター罠を使ったと同時に、手札にあったフィニッシャーを召喚した。それが――、「冥王竜ヴァンダルギオン」。
 有里がフィニッシャーとして使っているモンスターであり、今現在、有里と目の前で対峙しているモンスターであった。


 そんな「過去」を見ながら、有里は水の中から出てきた。
 ゆっくりと立ち上がり、再び有里に攻撃を仕掛けるべく指をポキポキと鳴らしていた漆黒の竜の方を見た。そして、ゆっくりと口を開いた。
『ここは・・・、多分“あなたの世界”・・・』
『――!?』
『元々のあなたの使い手である・・・私のお兄ちゃんを失った“悲しみ”によって、誕生してしまった世界――』
 有里は、悲しげな瞳で、つぶやくようにそう言った。有里のそんな言葉を聞き、漆黒の竜も思わず、その指の動きを止め、考え始める。
『おそらく・・・そうだろうな・・・。ここは・・・、“闇に染まってしまった”啓太を助けたいと願い、悲しみ、そして・・・、生まれた空間――』
 そして、漆黒の竜は、辺りを見回しながらそう言った。

 何も無い空間――それは、助けたいと願うものの、助けられなかった漆黒の竜の無力さを表していた・・・。

 地面である水――それは、啓太を失った漆黒の竜が持つ、底無し沼の如き悲しみを表していた・・・。

『・・・? あなたは・・・、お兄ちゃんが今、どうなっているのか知っているの・・・?』
『あぁ、何となくではあるがな。・・・啓太は今、デストロイドのボス――ファイガ・ドラゴニルクの右腕・・・“デリーター”として、この世界(アナザー・ワールド)にいる――』
 漆黒の竜の思わぬ言葉を聞き、有里は目を見開き驚いてしまう。そして、それと同時に喜びもした。

 捜し求めていた兄が・・・、ここにいた・・・。

『でも・・・、何で?何で、この世界におにいちゃんが!?』
『分からない・・・。だが、15年前に啓太が消えた時、ここでは邪神を巡るデュエルが行われていた――』
『シン・シャインローズと・・・、ガイア・ドラゴニルクのデュエルね?』
『その時に発生した何らかの力が、啓太をここに呼び寄せてしまったのかも知れない・・・』

ドクン・・・ッ

 有里の中の何かが、力強く弾けた。
 有里の戦う理由が1つ、ゆっくりと追加されていく・・・。

『・・・お前は先程、“力を貸して欲しい”――そう言った・・・。だが、啓太もまた、この世界で力を望み、闇に染まり、デリーターになってしまったのかも知れない――』
 漆黒の竜は、自分の中に微かに残った「悲しみ」を、「願い」を託すべく相手である有里に託し始める。
 たとえそれが、「間違った結果」に繋がったとしても――。有里が「間違えない」と信じて、漆黒の竜は、それを託す。
『お前も同じになるのか・・・?力を求めて、“闇”に染まるのか・・・?』
 漆黒の竜の言葉を聞き、有里は下を向き、黙り込んでしまう・・・。

 ダメだったか・・・。
 漆黒の竜は、ゆっくりと悟り、そして目を閉じようとした。





『――違う・・・』





 そんな時に聞こえてきた有里の強き言葉。その言葉によって、漆黒の竜は再び目を開き、有里の方を見た。

『違う――ッ!私は・・・、力を求めたとしても、“闇”に染まりはしない・・・!――私の求める力は、“闇”なんかじゃないっ!!』
 有里は拳をギュッ――と握り締める。
 そして、漆黒の竜の顔を見て、大きく叫ぶ。



私の求める力は、仲間を――お兄ちゃんを救う“守りの力”よっ!!



 有里は覚悟を決めた――。
 仲間を自分の持つ力で「守る」事を――、兄を自分の持つ力で「助ける」事を――。


『だから、もう一度言うわ・・・。力を貸して、“ヴァンダルギオン”――。あなたの“お兄ちゃんを助けたい”という願い、私が叶えさせてあげる』

 有里の覚悟を込めたその言葉を聞き、漆黒の竜はゆっくりとその頭を下げた。

『我が願いを・・・、あなたと共に――。我が力を・・・、あなたと共に――ッ!!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「私のターン――」
 そして、有里は再びデッキの上にある1枚のカードに指をかけた。
 既に揺らぐ事の無い覚悟を手にした有里にとって、先程までの「苦しみ」は、無いも同然となっていた。

「ドローッッ!!」
 有里は力強くカードを引いた。

「――私は、手札から魔法カード――“巨竜の羽ばたき”を発動させるッ!!」
バサァッ――!
 有里が発動したカードの効果を受けて、有里の目の前に聳えた漆黒の竜は、勢いよく空高く舞い上がった。そして、自身の背に生えた漆黒の翼を力強く羽ばたかせ、天使の出した巨大な聖域と、伏せられたカードを吹き飛ばそうとする。

巨竜の羽ばたき
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル5以上のドラゴン族モンスター1体を手札に戻し、
お互いのフィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

『フッ・・・、甘いぞ!リバースカード――“強欲な瓶”ッ!!これにより、カードを1枚ドローするッ!!』
 だが、天使は小さく笑うと、伏せてあった1枚のカードをチェーンさせて発動――デッキの上からカードを1枚引いた。

強欲な瓶
通常罠
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「私はこれで、ターンエンドよ・・・」
 有里は、静かにエンド宣言をした。
 フィールド上に残されたカードは何も無い・・・。手札に残されたカードも、「冥王竜ヴァンダルギオン」のみ・・・。次のターンで負けてしまうのではないかと思ってしまうような状況でも、有里は怯えることなく、前を向き続ける。

有里 LP:4000
   手札:1枚(冥王竜ヴァンダルギオン)
    場:無し

『目が変わったな・・・』
 ふと気づいた天使が、有里に向かってそう言った。
「え・・・、そう?」
『あぁ。何かしらの“覚悟”を決めた――そんな目だ・・・』
 天使は静かにそう言って、デッキの上からカードを1枚引いた。そのカードを少しの間だけ確認すると、すぐにそのカードを墓地に送って、先程の強欲な瓶の効果で引いたカードをデュエルディスクに差し込んだ。

『手札1枚をリリースし、再び手札から“D・D・R(ディファレント・ディメンション・リバイバル)”を発動させるッッ!!』
 ジジジジジッ――という、少しの電流と共に、翼を大きく広げた天使が降臨した――。その天使は、辺りが「聖域」では無いために、思った通りの力を使うことは出来ないものの、元々ある力を奮い、有里に攻撃した。

有里 LP:4000→1600

『私はこれで、ターンエンドだ――』
 既に天使の方も、有里同様、手札を全て使い果たしてしまった身――。
 目の前に更なる天使を召喚した時点で、することは攻撃のみとなってしまっていた。

サターン LP:11200
     手札:0枚
      場:裁きの代行者 サターン(攻撃/D・D・R装備)

「私は、引いたカードをそのままセットして、ターンエンドよ」
 天使の宣言を聞き、カードを1枚引いた有里ではあったが、2枚の手札――しかも1枚が最上級モンスターという時点で、する事が限られていた。

有里 LP:1600
   手札:1枚(冥王竜ヴァンダルギオン)
    場:リバース1枚

「ねぇ・・・、大丈夫なの・・・?」
 不意に真利が、有里のことを心配しながらデュエルを見ていた翔に話しかけた。真利の言葉を聞き、翔は握っていた拳を広げ、少し落ち着くと、真利の方を見た。
「何が?」
「だって・・・、あいてがこのターンで、“天空の聖域”か“テラ・フォーミング”を引いちゃったら・・・、有里ちゃん、負けちゃうかも・・・」
 真利の心配そうな表情を見て、何を思ったか翔は、真利の頭に手をポン――と置き、小さく笑って見せた。
「安心しろ。有里はまだ、最強のカウンター罠を使ってない・・・。それが、あのリバースカードだとしたら・・・、まだ分からないだろ?」

『私のターン――、ドロー!!』
 天使は力強くカードを引き、素早くそのカードが何なのかを確認する。そして、そのカードが自分の望んでいたものだと分かると、有里の方を向いて大きく笑った。
『ハハハハハッ!!――これで、チェックメイトだッ!!手札から魔法カード――“テラ・フォーミング”発動!!』

テラ・フォーミング
通常魔法
自分のデッキからフィールド魔法カードを1枚手札に加える。

『これで、私は“天空の聖域”を手札に加える!!』
 天使の勝ちが決まったかに見えたこの状況――、だが、有里はまだ諦めてはいない。有里はゆっくりと、直前のターンで伏せたリバースカードを発動させた――。

「私は負けられない・・・!!リバースカード!――“神の宣告”っ!!ライフ半分をコストに、“テラ・フォーミング”の発動を無効化・・・破壊するッ!!」
 有里の体から、青白いエネルギー(生気)が放出されると、そのエネルギーは天使が発動させたカードを包み込み、浄化させてしまった。

有里 LP:1600→800

神の宣告
カウンター罠
ライフポイントを半分払う。
魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
どれか1つを無効にし、それを破壊する。

 ――――そして再び、あの「漆黒の竜」が降臨する。

 暗雲が、ゆっくりと青き空を漆黒に染め、雷を落としていく・・・。
 その雷に、無力と化したカードに導かれ、有里の手の中で眠っていた漆黒の竜が、その鋭き目を開け始める――。
 有里は、その残された手札1枚を手に取り、暗雲が立ち込める空に掲げる。

「私に・・・、あなたの力の全てを貸してッッ!!――“守る力”を・・・っ!!闇を照らす光――“助ける力”をっ!!!

バシンッ!!!
 そして有里は、掲げていたその漆黒の竜が描かれたカードを力強くデュエルディスクに置いた。

 その瞬間、漆黒の竜のカードが置かれた場所から、有里のデュエルディスクの色が、徐々に黒くなっていった。更には、その色の変化と同時に、形状も変化していき、やがて有里のデュエルディスクの形状は、漆黒の竜が背に生やした漆黒の翼と同じになった。
 だが、有里はそれを「守る力」、「助ける力」の象徴と受け止め、漆黒の竜の召喚に喜んでいた――。


――“冥王竜ヴァンダルギオン”ッッ!!!


 そして、有里は叫んだ――その竜の名を。

冥王竜ヴァンダルギオン
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2500
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。

「“ヴァンダルギオン”の効果!――魔法カードを無効にした事で、相手ライフに1500ポイントのダメージを与えるッッ!!」
 有里の叫びを聞き、漆黒の竜は、自身の口の中から巨大なエネルギーの塊を放出した。そのエネルギーの塊は、天使を確実に捕らえ、天使に多大なるダメージを与えた。

サターン LP:11200→9700

『くっ・・・!私は、“サターン”を守備表示に変更し、ターン終了だ――』
 天使は悔しそうに、目の前の天使に守りの態勢をとらせると、ゆっくりとそう言った。

天使 LP:9700
   手札:0枚
    場:裁きの代行者 サターン(守備/D・D・R装備)

「私のターン、ドローッ!!」
 天使の悔しそうな表情とは対照的に、有里は勝利を確信したかのような表情をしながら、カード1枚を力強く引いた。
「よし!手札から魔法カード、“スタンピング・クラッシュ”発動ッ!!“D・D・R”を破壊し、500ポイントのダメージを与える!」
 有里が発動したカードの効果を受けて、漆黒の竜はその強靭な脚で、天使の目の前で開かれていたカード1枚を粉々に砕いた。砕いたときの衝撃により、天使は小さいながらもダメージを受けてしまう。

サターン LP:9700→9200

スタンピング・クラッシュ
通常魔法
自分フィールド上に表側表示のドラゴン族モンスターが
存在する時のみ発動する事ができる。
フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊し、
そのコントローラーに500ポイントダメージを与える。

「そして、“ヴァンダルギオン”でダイレクトアタックっっ!!」
 解き放たれた漆黒の竜の一撃は、天使の腹部を捕らえ、天使を一気に吹き飛ばした。

サターン LP:9200→6400

「これで、ターンエンドよ――」
 有里は多少息を荒くしながら、そう言った。

 それほどまで激しいデュエルではないかも知れない・・・。
 だが、有里だけでなく天使もまた、息を荒くし、精根使い果たした状態となっていた。
『私のターンだな・・・?――ドロー!』
 天使はゆっくりとカードを1枚引いた。

 始まりには終わりがあるように・・・、このデュエルに、「終わり」が見えてきていた。
 天使の引いたカードは、3枚目のD・D・Rであった。
 手札コストも無い、場に天空の聖域も無い、相手の場にはサターンの攻撃力を遥かに上回る冥王竜ヴァンダルギオンがいる・・・。
 天使はゆっくりと、自分の敗北を悟った――。

((今回のデュエルで、有里――君は、自身の切り札である“ヴァンダルギオン”と会話し、そして、その竜を通して、私の“光”の力を手に入れた・・・))





―――完全なる・・・君の勝ちだ・・・





 天使は今まで以上に、大きく笑って見せた・・・。

「・・・ッ!!――サターン・・・」
 有里は涙を流しながらも、このデュエルを終わらせるために、カードを1枚引いた。
「私は・・・、手札から・・・“カップ・オブ・エース”を発動させる・・・」
 有里と天使の間に出現した1枚の小さなコイン――。
 そのコインは、回転しながら遥か高い空へと駆け上がり、そしてゆっくりと落ちていった――。
 出たのは表――。

 有里は、デッキの上からカードを2枚引き、手札に加える。

 2枚の魔法カード・・・。その2枚を確認すると、有里は再び天使の方を見た。だが、天使は笑顔のまま、小さく頷くだけであった。
「私は・・・、“火竜の火炎弾”を発動させて・・・、サターンに800ポイントのダメージを与える!!」

火竜の火炎弾
通常魔法
自分フィールド上に表側表示のドラゴン族モンスターが存在する時、
次の効果から1つを選択して発動する。
●相手プレイヤーに800ポイントダメージを与える。
●守備力が800ポイント以下の表側表示モンスター1体を破壊する。

 漆黒の竜から放たれた巨大な火炎弾が、天使の体をゆっくりと飲み込んでいく――。

サターン LP:6400→5600

「更に・・・、私は“巨大化”を発動・・・、“ヴァンダルギオン”に装備する――」
 次なる有里のカードによって、漆黒の竜の体は、徐々に大きくなっていき、それに比例して、漆黒の竜の力もまた、増していった。

冥王竜ヴァンダルギオン 攻:2800→5600

巨大化
装備魔法
自分のライフポイントが相手より少ない場合、
装備モンスター1体の元々の攻撃力を倍にする。
自分のライフポイントが相手より多い場合、
装備モンスター1体の元々の攻撃力を半分にする。

「“ヴァンダルギオン”の・・・攻・・・撃ッッ!!!」
 有里はそう叫びながら、一度目を力強く閉じ、目からこぼれてくる涙を落としてから、再び目を開いた。涙の跡が頬に残るものの、有里の目は、先程の勝利を確信したかのような目に戻っていた。















―――――冥王葬送ッッ!!!















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『流石だ有里・・・。君は、“自らを守る力”と“仲間を守る力”・・・。その2つを無事に手に入れてくれた・・・。これはご褒美だ・・・』
 天使はボロボロになりながらも、自分の下へ駆け寄ってきた有里に、先程までデュエルディスクにセットされていた自分のデッキを渡した。
 有里がそのデッキを受け取った瞬間、有里の左腕に装着されていた漆黒のデュエルディスクは光り輝き、その形状を漆黒の耳飾(イヤリング)へと変化させた。
「これが・・・、私の新しいデュエルディスクの・・・もう1つの形状・・・」
 有里は、自分の左手にちょこんと乗っている小さなイヤリングを見て、つぶやくようにそう言った。
『着けてみればどうだ・・・?』
 天使はゆっくりとそう言った。その言葉を聞くと、有里は小さく頷き、イヤリングの先に着けられたクリップを自分の左の耳たぶに挟んだ。
 そのイヤリングは、この「光の空間」に吹く、弱々しい風に揺れ、きらきらと光り輝き続けた。



「ありがとう・・・、サターン――」


 そして、有里はそっと囁くように、そう言った。






『あぁ・・・、そうだ・・・』
 突然、天使はボロボロになりながらも口を開き、翔をゆっくりと指差した。
『神崎翔――。君が、“闇”の力を手に入れるんだよね・・・?』
「・・・あぁ、そうだ――」
 天使のゆっくりとした質問に、翔は覚悟を決めた目で、言葉で、そう答える。
『――“闇の精霊”には気をつけろ・・・』
「―――ッ!!?」
 天使の言葉を聞き、翔は覚悟を決めた目を少しだけ見開かせ、驚いたような表情を取ってしまう。
『いや・・・、“気をつけろ”――というよりかは・・・、“勝て”!――負けると・・・、お前の一番“大事なもの”が奪われてしまう・・・っ!』
 天使の深刻な表情と、その声のトーンから、事態が本当に「深刻」だということを知った翔の額からは、ツーッ――と冷や汗が出てきていた。だが、翔はすぐに気を取り直し、その冷や汗を服の袖で拭うと、ゆっくりと口を開く。
「“大事なもの”――・・・、オレの“命”か?なら安心しろ。ゼオ・・・、王様に、もう言われているからな。覚悟は出来て」
『違うッ!・・・ある意味、命以上に“大事なもの”だ――』
 天使は覚悟がこもった翔の言葉に割り込んで、そう叫んだ。
 そして、天使は翔の耳元で、その「大事なもの」が何なのかを小さな声で伝えた。それを聞いたとき、翔の口は開いて塞がらなくなってしまった・・・。
「そんなの・・・、出来るわけ無ぇだろ・・・?」
 動揺しながらも、翔は「自分」を取り戻そうと、必死で否定しようとする。
『いや、“奴”の能力なら、不可能ではない・・・。分かったな?――だから、絶対に勝』
 その瞬間、天使の姿は消え、「聖域」も消滅――、元いた森に、翔たちは戻ってきた・・・。

 ただ、有里の天使を失った「悲しみ」と、翔の「動揺」を残して――。


第37章 最後の精霊――大事なもののために

 ――だが、「運命」は、彼らに追い討ちをかける・・・。


――ドッ!!



―――ドゴォオオオオオッ!!!


 巨大な爆発音が、突然、その森で激しく鳴り響いた。
「・・・?な、何だ・・・!?」
 神也が誰よりも早くその爆発音に反応し、辺りをすぐに見回す。だが、どうやらその爆発音はここら一帯ではなく、もっと遠くの・・・別の場所で鳴り響き、ここまで伝わっていたようだった。その爆発によって、煙が立ち込める場所――



その場所とは・・・?



 その場所がどこなのかに気づいたとき、アンナの表情が、激しい憎しみと絶望が混じったようなものになる。



ゼオウ様ッッ!!!



 そしてアンナは、ゼオウの名を大きく呼び、煙の立ち込める場所へ向かって走り始めた。


 ――そう、爆発音のあった場所・・・、それは「レジスタンス」のアジトであった。


「――アンナッ!!
 アンナの走り去っていく姿を見て、爆発の起きた場所が「レジスタンス」のアジトであることに気づいた翔は、アンナを追いかけようとする。
 だが、それを有里は素早く止めた。
「ダメよ、翔は――」
「翔は・・・、まだ精霊とのデュエルを行っていない・・・」
 翔を止めた有里に続いて、有里の隣で心配そうな表情をして立っていた神童が、口を開いた。
 翔は、有里と神童の悲しみに近いものが混じったような表情を見て、全身の力をゆっくりと抜き、その足を止めた。
「アンナのことなら、安心しろ・・・!オレ達が追いかけるからな・・・ッ!」
「・・・だから翔は、さっさと“闇の精霊”を倒すのよッ!」
 翔の下へすぐに駆け寄った神也と加奈は、満面の笑みでそう言った。
「負けないでね・・・!」
 そして、それに続いてやってきた真利は、少し照れながらもはっきりとそう言った。
 そんな5人の姿を見て、翔は少しだけ目に涙を浮かべた。


 オレは・・・、何動揺してんだ・・・っ!
 “闇の精霊”がどうとか・・・、そんなの・・・全然関係ないじゃないか・・・!

 オレには、仲間がいる・・・。大切な仲間たちが・・・ッッ!

 どんな所にいてもいい・・・。

 仲間がいれば・・・、みんながいれば・・・、オレは怯えないし・・・、どんな奴とでも、戦い続けることが出来る・・・。


 翔は浮かべた涙を袖ですぐに拭うと、左腕に装着されたデュエルディスクに、デッキケースに入れておいたデッキをセットした。
「任せとけっ!――すぐに追いついてみせるから・・・っっ!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その後、翔を除く5人は、アンナを追いかけて森を出た。
 森に残された翔は、森の丁度中心部に立って、目の前に聳える1つの扉をじっと見つめていた。
「・・・どうしよう・・・。格好つけたはいいものの・・・、この扉・・・、アンナじゃねぇと開けられないみたいだ・・・」
 目の前にある扉をじっと見つめながら、翔は再び目に涙を浮かべていた。

 そんな時、どこからともなく「声」が聞こえてきた・・・。


『来いよ・・・、オレはここにいる・・・』


 そんな声と同時に、扉から「何か」が放出された。その「何か」は翔の目の前で勢いよく解き放たれ、やがて翔の背丈より遥かに巨大な闇の塊となった。
「オレを誘っているのか・・・?――上等だッ!!」
 翔は迷うことなく、ゆっくりとその闇の塊の中に入っていった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 闇の塊の中は、外見とはうってかわって、どちらかというと明るい部類の場所になっていた。無数の机と椅子がきっちりと、そこには並べられており、その空間の前後には、それぞれ1つずつ、何も書かれていない黒板があった。
 そう、ここはまるで・・・。

「ここは・・・、教室!?――しかも・・・、“デュエル・スクール”のか!!」
 翔は、自分の目の前に広がるそんな空間を見て驚いた。
『あ、気づいた?・・・そう、ここはお前のイメージを具現化させて作った空間――』
「――ッ!?・・・“闇の精霊”だな?――何で、こんなことをっ!!?」
 どこからともなく聞こえてくる精霊の声に、やや切れ気味の翔は、大きな声でそんな質問をぶつける。
『お前に思い出してもらうためさ・・・。お前は、現実世界(リアル・ワールド)の“ここ”からこの世界にやって来た・・・。その課程で見たはずだ・・・』

とくん・・・、トクン・・・、ドクン・・・

(な、何だ・・・?“精霊”のこの声を聞くたびに、胸が――っ!)
 翔は乱れた鼓動をとりつづける心臓に気づき、自分の胸を力強く押さえる。だが、そんな鼓動の乱れは無くなることを知らず、更に乱れていき、その乱れに比例して、その鼓動は大きくなっていく・・・。



―――このオレを・・・ッ!!



ドクン――ッ!!
 乱れていく鼓動により、翔の息がだんだんと荒くなっていく・・・。
 目が霞み、視界もぼやけ、やがては四肢に力が入らなくなっていく・・・。
(や・・・、ヤバイ・・・。この・・・まま・・・じゃ・・・)
 そして、翔の頭の中に浮かび上がっていくのは、「ここ」にやってくる直前に見た映像(ヴィジョン)――。


 人々の死の姿――?


 2つの世界の崩壊――?


 平和をもたらすような澄んだ湖――?


 人々の生をもたらすような澄んだ海――?


 人々の強靭な力をもたらすような火山の噴火――?


 人々の強き持久力をもたらすような広大な山――?


 世界というその存在を、その豊かさをもたらすような自然――?


 全て違う・・・。
 もっと・・・、もっと前に――。


 その直後、翔の目の前に広がる映像の種類が変わった。ノイズが混じり、よく見えない映像へと・・・。だが、それが翔に「正解」をもたらす。


 目の前にいるのは誰・・・?


 体全てが何故か黒い・・・。


 ノイズのせいでよくは見えないが、そのノイズが一瞬だけ、消え失せる・・・。そして、それと同時に翔が見たのは、その「誰か」の顔――。



 ―――――――――――「こいつ」か・・・ッ!!



『やっと、見つけたか・・・』
 そう言って、精霊は、その姿を現した。
 その精霊の髪や肌、服の色などはやや黒ずんでいたが、間違いなかった・・・。まさしく・・・、










翔そのもの――・・・










 精霊の――もう1人の翔の姿が出たと同時に、翔の体調の乱れがスゥッ――と回復した。不思議に思いながらも、翔は精霊の姿を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「お前の姿を見て・・・、サターンの言葉の“意味”が、ようやく理解できたよ・・・」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『お前の最も大事なもの・・・。それは、“自分自身”という“存在”だ。奴は、戦った相手になりすまし、その相手を殺す事で、その相手に“成り代わり”、その相手となって、生活をし続ける・・・。当然、そいつを見ても、それが“別人”だということは、誰も気づけない・・・。つまり・・・』
「オレの“存在”――・・・」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『そうか・・・。なら、説明する手間は省けたも同然だな・・・』
 精霊は自分の言葉と同時に、翔の背後へと一瞬で移動する。

『オレはな・・・?“お前”になりたいんだよ・・・。“お前”を慕う仲間達、全員をボコボコにしたい・・・ッ!!』
 そして、精霊はそんな言葉と同時に、翔の頬を勢いよく殴り、翔を吹き飛ばした。
「グァッ!!」
 翔は吹き飛ばされながらも、腕と足に力を込め、ゆっくりと立ち上がろうとする。
『そして・・・、“お前”のことが好きな女を全員・・・っ!!・・・ヘヘッ。考えただけで、ヨダレが出てくる・・・』
 精霊はそう言うと、自分の口から出てくるヨダレを服の袖で拭き取った。

「・・・でも、何でだ・・・!?何でお前はあの時、あの世界(リアル・ワールド)にいたいんだ?お前は・・・、“精霊”なのに・・・っ!!」
『“何で”、はそっちの方だろう?・・・何で分からない?――この姿を見れば、気づくはずだ・・・。オレはお前の・・・』
 精霊は言葉を発しながら、ゆっくりと歩き、徐々に翔の方へ近づいていく・・・。やがて翔の目の前に来ると、グッ――としゃがんで、殴られたせいで倒れ、立ち上がろうとしている翔と同じ目線に立ち、再び口を開いた。






『――心の闇なんだよ・・・』






 そして、それを言い終えると、精霊は足に力を込め、思い切りジャンプをした。華麗に舞い上がり、地面に着地すると、翔と精霊の間には、デュエルが出来るくらいの空間が誕生していた・・・。
 それと同時に、精霊の左腕に「闇」が纏わりつき、その「闇」はデュエルディスクへと形を変えた。
『サァ・・・、始めようか・・・?“自身の存在”をかけたデュエルをっっ!!』
 精霊の言葉と共に、教室であった「この空間」の全てが、ゆっくりと「闇」に飲み込まれていった。そして、スポットライトのような2つの光が、それぞれ翔と精霊を照らし出した。
 そんな中で、翔は精霊の姿を見ながら、ゆっくりと立ち上がり、プッ――と口に溜まった血を地面に吐き捨てると、精霊を力強く睨みつける。
「させるかよッ!!――オレの存在だ・・・。誰にも、汚させてたまるかッ!!・・・オレを待つ仲間達のためにも・・・、お前を倒すッッ!!

ガチャガチャンッ!!

 互いのデュエルディスクが同時に展開し、更に同時に、2人はデッキの上からカードを5枚引き、手札とした。
「行くぞ・・・ッ!!」
『来いよ・・・ッ!!』


 ―――――――――デュエルッ!!!


翔  LP:4000
   手札:5枚
    場:無し

精霊 LP:4000
   手札:5枚
    場:無し




第38章 翔VS翔――存在を賭けた死闘(デュエル)

「行くぞっ!――オレのターン、ドローッ!!」
 翔は力強く叫ぶと、その勢いを減らすことなくデッキの上から、カードを1枚引いた。
 だが、そんな時であった――。

 翔のカードを引いた右腕に、「何か」が纏わりつき始める・・・。

「――ッ!!?」
 その「何か」に悩まされながらも、翔は何とかその引いたカードを確認する。その瞬間、翔の顔が驚きと困惑、そして恐怖が入り混じったものとなり、翔はそのカードをどうすればいいか、悩み始める――。
((へぇ〜、いきなり引いたのか・・・。“あのカード”を・・・))
 悩んでいる翔の顔と、そのカードから浮かび上がってくる何か――「闇」を見て、精霊は翔の引いたカードが何なのかを一瞬で理解した。
 そんな中、翔は自分の右腕に、その闇が纏わりつく感じを取り払いたいと思い、すぐにそのカードを場に出した。
「まず、オレはカードを1枚伏せるっ!」
 デュエルディスクに差し込まれたことで出現したそのカードの立体映像からも、かすかな闇が感じ取れる――。
「そして、“増援”を発動させるっ!――このカードの効果により、デッキの中からレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える!!」

増援
通常魔法
デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加え、
デッキをシャッフルする。

 翔は出したカードの効果を受けて、デュエルディスクにセットされていたデッキをガチャッ――と取り出し、中身の確認を始めた。そして、すぐに目当てのカードを発見すると、そのカードを抜き取り、残りのデッキをシャッフルして、再びそれをデュエルディスクにセットした。
「オレが手札に加えたのは・・・、“クィーンズ・ナイト”ッ!――このまま、攻撃表示で召喚だっ!!」
 デッキをセットすると、翔はすぐに手札に加えたカードを精霊に見せ、そのままデュエルディスクに置いた。その瞬間、辺りが眩(まばゆ)い光に包み込まれ、その光はやがて1人の女戦士となった。

クィーンズ・ナイト
通常モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1500/守1600
しなやかな動きで敵を翻弄し、
相手のスキを突いて素早い攻撃を繰り出す。

『“クィーンズ・ナイト”か・・・。バカの一つ覚えみてぇに、何度も何度も出しやがって・・・ッ!!』
「黙れっ!!これは・・・、オレが遊戯さんからもらった大切なカードの内の1枚なんだ・・・、バカにするのは、許さねーぞッ!!」
 精霊の言葉を聞いて、翔は怒りをあらわにして、大きく叫んだ。だが、すぐに自分を落ち着かせると、更にカードを1枚伏せ、ターンエンドを宣言した。

翔  LP:4000
   手札:3枚
    場:クィーンズ・ナイト(攻撃)、リバース2枚

『オレのターンだな・・・?ドロー』
 精霊は先程言葉を発したときとはうってかわって、冷静になった状態でカードを1枚引き、ゆっくりと手札に加えた。だが、その直後に、精霊は嫌味ったらしく、大きな笑みを見せた。
『“クィーンズ・ナイト”――か・・・。確か、遊戯“さん”からもらった大切なカードの内の1枚・・・だったよなぁ?』
「あ・・・、あぁ・・・」
 突然の精霊の問いと、その大きな笑みを見て戸惑いながらも、翔はゆっくりと答えた。そして、精霊はそんな翔の戸惑った表情を見て、更にその笑みを大きくした。
『じゃあ・・・、これは何だ?』
「――えっ・・・!?」



―――バシンッ!



 精霊が力強く「そのカード」を場に出すまで、翔は精霊の言っている言葉の意味が、全くと言っていいほど分からなかった・・・。
 だが、今なら分かる。なぜなら、精霊の出したモンスター――少し黒ずんだ赤き鎧を身に着け、目に光を失った女戦士の姿に、翔は見覚えがあったから・・・。
「なっ・・・、嘘・・・だろ?」





 ――クィーンズ・ナイト





それが、精霊の出したモンスターの名称であった。


 そう、まさしく翔の言っていた「遊戯からもらった大切なカードの内の1枚」だったのだ。
『ヘッヘッヘッ・・・』
「何でだ!?・・・何で、お前がそのカードを持っているっ!?――このカードは、現実世界(リアル・ワールド)での所持者は遊戯さんしかいない、とまで言われた“超限定カード”なんだぞ!!?」
 笑みを浮かべている精霊に対し、翔は怒りと驚きを混ぜ合わせたような感情の中で力強く叫んだ。
『言っただろ・・・?オレは、お前の“心の闇”なんだって・・・。つまり、“オレ”は“お前”なんだよ!“お前”である“オレ”が、お前のデッキを使う――、どこがおかしい?』
「クッ・・・!」
 精霊の言葉を聞き、うまい反論の言葉を見つけられない翔は、ただ悔しがるだけであった・・・。
『あぁ・・・、でもこれは、“お前”のデッキじゃないなぁ・・・』
「――?」
 悔しがっている翔を見て、精霊は小さく笑って見せると、自分のデュエルディスクにセットされたデッキを見つめながら、つぶやくようにそう言った。
『――もう改良してあるんだった・・・!お前のデッキは、すでに“過去”のもの。だが、オレのデッキは、お前とは間逆の道――“未来”へと突き進むッ!!』
 精霊の言葉を聞き、突然、翔は黙り込んでしまう。
 それを見て、精霊は再び大笑いし、手をバッ――と前に突き出した。
『最高だよ、お前は!!――“クィーンズ・ナイト”で、“クィーンズ・ナイト”に攻撃ッッ!!!』
 精霊の言葉と共に、精霊の前にいた女戦士は力強く飛び上がり、翔の前にいた女戦士に剣を突き刺そうとする。だが、それに対抗するかのように、攻撃対象となった女戦士も、負けじと剣を振り上げる。そして、2本の剣は激突した――。

 ――2人の女戦士は、同時にその姿を消した。

『ハハハハハハッ!!2体とも消し飛んだか・・・っ!!カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!』

精霊 LP:4000
   手札:3枚
    場:リバース2枚

 精霊は、2人の女戦士が同時に消滅したのを見て、楽しそうに自分のターンを終了させた。そんな大きな笑いを聞いて、黙り込んでいた翔の体がぴくっと、一瞬だけ動いた。そして――、

「オレのターン・・・。ドロー」

翔はゆっくりとカードを1枚引いた。そのカードは、遊戯からもらった2枚目の大切なカード――。


 「お前」は・・・、オレの大切なカードを踏み躙(にじ)った・・・。


 「お前」は・・・、オレと有里の2人で作ったこのデッキをバカにした・・・。


(オレは、“お前”を・・・、)

 その瞬間、翔は下を向いていた顔をバッ――と上に上げ、精霊を力強く睨みつける。

絶対に許すわけにはいかないッッ!!!

『知るかよ、そんなモノ・・・』
「オレはリバースカード――“正統なる血統”を発動させるっ!!これにより、“クィーンズ・ナイト”復活ッ!!」
 翔はそう叫んで、伏せておいたリバースカードを力強く発動させた。そのカードの効力を受けて、先程消滅した女戦士がボロボロになりながらも、再び姿を現した。

正統なる血統
通常罠
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。

「まだだ・・・っ!!手札から“キングス・ナイト”を攻撃表示で召喚ッッ!!」
 ボロボロとなった女戦士の隣に姿を現したのは、少し年老いたようにも見える新たな戦士――。
 その時、2人の戦士はアイコンタクトをし、小さくうなずくと、右手に持っていた剣を振り上げ、互いに相手の剣と重ね、×字を作り出した。その動作により、2人の戦士の力は×字を作り出した2本の剣に集められる。
 やがて、その集められた力は、一本の長い光の道を作り出した――。
「“キングス・ナイト”の効果発動――。デッキから・・・、“ジャックス・ナイト”を特殊召喚させるッ!!」
 光の道に導かれ、青き鎧を身に着けた1人の戦士が姿を現した。

キングス・ナイト
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400
自分フィールド上に「クィーンズ・ナイト」が存在する場合に
このカードが召喚に成功した時、デッキから「ジャックス・ナイト」
1体を特殊召喚する事ができる。

ジャックス・ナイト
通常モンスター
星5/光属性/戦士族/攻1900/守1000
あらゆる剣術に精通した戦士。
とても正義感が強く、弱き者を守るために闘っている。

『やっぱり早いね〜。“絵札の三銃士”を揃えるの』
 精霊は感心したように拍手しながらそう言ったが、その態度は人を小馬鹿にしたようなものであった。
これで決めるっっ!!――“絵札の三銃士”で、ダイレクトアタックッッ!!」
 翔は自分の右拳を力強く突き出して、そう叫んだ。
 その叫びに応えるように、3体の戦士はほぼ同時に飛び上がり、精霊に切りかかった。だが、精霊は表情を変えることなく、伏せていたカードの内の1枚をゆっくりと発動させた。
『残念、“攻撃の無力化”だ・・・』
 そのカードの効力により、3体の戦士と精霊の間に、巨大な時空の渦が出現した。3体の戦士は、その渦ごと精霊を切り裂こうとするが、その渦に剣を受け止められてしまう。受け止められながらも、何とかそれを切り裂こうと力は込めるものの、3体の戦士はバチンッ――と弾き返されてしまった。

攻撃の無力化
カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「チィッ!!――オレは、このままターンエンドだ!」

翔  LP:4000
   手札:3枚
    場:クィーンズ・ナイト(攻撃/正統なる血統)、キングス・ナイト(攻撃)、ジャックス・ナイト(攻撃)、リバース1枚

 仲間達を追いかけるためにも、早く精霊を倒さなければならない――だが、倒すことが出来ない。悔しそうな表情をとり、更には舌打ちをして、翔はそう言った。
 そんな時だ――。

『ちょっと待てよ・・・。お前のエンドフェイズ時に、リバースカード――“針虫の巣窟”を発動させるぜ!このカードの効果により、オレはデッキの上から5枚のカードを墓地に送る!』
 精霊は伏せておいたもう1枚のカードを発動させた。その後、精霊はカードの効果を受け、デッキの上から5枚のカードを取り出すと、少しの間それらを眺め、そして翔に見せた。

 キングス・ナイト――。

 ライオウ――。

 次元融合――。

 早すぎた埋葬――。

 ジャックス・ナイト――。

「おい、待てよ・・・!」
 翔の呆然とした表情を見て、精霊は笑いながら、その5枚のカードを1枚ずつ確実に墓地へ送った。

針虫の巣窟
通常罠
自分のデッキの上からカードを5枚墓地に送る。

「てめぇ・・・っ!!」
 自分にとって大切なカードを平然と墓地に送る精霊を見て、翔の怒りは徐々に上昇していく。
『そして、オレのターン、ドロー!!』
 だが、精霊は翔の怒りの表情を見ながらも、感情を変化させること無く、デッキの上からカードを1枚引いた。
『ハハハハッ!!良いカードを引いたぁ!――召・喚っっ!!!』
 精霊は引いたカードを見つめ、大きく笑って見せると、今引いたカードを叩きつけるかのようにデュエルディスクに置いた。

―――――“放浪の勇者 フリード”ッッ!!!

 精霊の目の前に現れたのは、頑丈な鎧をきっちりと着込み、その鎧につけられたマントを風と共に靡かせる1人の「光」の戦士――。
「な、何だそのカード・・・!?デッキに入れた覚えは無ぇぞ!!?」
『だから言っただろ?――オレが“改良した”ってなぁっ!!』
 翔の驚きが混じった問いに対し、精霊は遂に怒りを現し、その叫びと共に答えた。そして、精霊は自分のデュエルディスクの墓地ゾーンに手を伸ばす。すると、そこから小さな光が発せられ、精霊が望んだ2枚のカードが、ガチャチャンッ――という機械音と共に出てきた。
『“フリード”の効果――。それは、強者滅殺ッ!!墓地の光属性モンスター――“キングス・ナイト”と“ライオウ”をゲームから除外することで、“フリード”以上の攻撃力を持つモンスター1体を破壊するッ!!』

放浪の勇者 フリード
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1700/守1200
自分の墓地の光属性モンスター2体をゲームから除外する事で、
このカードより攻撃力の高いフィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を破壊する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 精霊が、墓地ゾーンから取り出した2枚のカードを翔に見せ、この空間から消滅させた瞬間、光の戦士の体から、貪欲とも呼べる小さな闇と共に強力な光が放たれた。その光は、一瞬の内に、翔の目の前にいた青き鎧を身に着けた戦士を浄化させた。
「くっ・・・!“ジャックス・ナイト”・・・ッッ!!」
『更に・・・ッ!!“フリード”で、“クィーンズ・ナイト”に攻撃ッ!!』
 精霊の言葉を聞き、光の戦士は、目の前にいる女戦士に攻撃、女戦士の体はバリィンッ――とガラスが砕けたかのような音を立て、一瞬で消滅した。

翔  LP:4000→3800

 女戦士が砕け散った衝撃で、翔は真後ろに吹き飛ばされてしまう。
「クッ・・・ソォ・・・ッ!!」
 悔しい表情をしながら、翔はゆっくりと立ち上がる。
『カードを1枚伏せ、ターンエンド――』
 精霊は、カードを1枚伏せるという動作と共に、フフフ――と不気味に笑って見せた。

精霊 LP:4000
   手札:2枚
    場:放浪の勇者 フリード(攻撃)、リバース1枚

「オレのターンッ!!」
 翔は自分の手札をざっと確認すると、「あるカード」を引けば、この状況を打開できると判断した。そして、翔はその「あるカード」が来てくれることを祈り、勇気を込めて、デッキの上からカードを1枚引いた。


 ――その「勇気」は、

「よしッ!!」

 ――翔に望んでいたカードを

『――ッ!!?』

 ――授けた・・・

 翔は、自分が望んでいたカードが来たことで、大きくガッツポーズをするが、精霊側から見れば、翔が望んでいたカードは、単なる脅威でしかない。そのため、精霊は「少し」だけ驚いた。

「まずは、手札から“闇の量産工場”を発動ッ!――墓地の“クィーンズ・ナイト”と“ジャックス・ナイト”を手札に加える!」

闇の量産工場
通常魔法
自分の墓地から通常モンスター2体を選択し手札に加える。

 翔が発動したカードの効果を受けて、翔のデュエルディスクにある墓地ゾーンから、2枚のカードが出てきた。翔は、それをすばやく取り出すと手札に加え、手札の中にある別のカードを手に取り、そして発動させた。
「これが・・・、オレの望んでいたカードだ!――“融合賢者”ッ!!デッキの中から“融合”1枚を手札に加える!」
 翔は、カードの効果を受けて、デュエルディスクにセットされていたデッキを取り出すと、その中身を確認し、指定されたカード1枚を抜き取り、手札に加えた。そして、デッキの方は何度かシャッフルし、再びデュエルディスクにセットした。

融合賢者
通常魔法
自分のデッキから「融合」魔法カード1枚を手札に加える。
その後デッキをシャッフルする。

「――そして・・・、“融合”発動ォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
 翔は、今手札に加えたカードを空高く掲げ、そのままデュエルディスクに勢いよく差し込んだ。





―――3つの刃が、今ここに束ねられる・・・ッ!!





数多切り裂く剣(つるぎ)となれッッ!!!―――





「現れろ――ッ!!」
 3体の戦士の絆が束ねられ、全ての次元を掌握するほどの光の力を持つ者が、翔の怒りという感情を喰らい、混沌の力を手にしてゆっくりとその姿を現す――。





――――“アルカナ ナイトジョーカー”ッッ!!!!





『・・・やっと出てきたか・・・、“最強の戦士”よ・・・っ!!』
 目の前に聳える最強の戦士を見て、精霊はつぶやくようにそう言った。
 その戦士は、翔の「勇気」から始まり、「戦士」の絆、「次元」を超える「光」の力、そして翔の怒りを喰らい、自身の力を「混沌」に変えるという、力の連鎖を手にしたことで、まさしく「最強」と呼べる状態になっていた――。
(ここで、1つ補足。精霊の力というのは、本来、その精霊とデュエルをした者だけが得られるのだが、例外もある。それは、その精霊とのデュエルを“見ていた”者達。そのデュエルを見て、何かを掴むことが出来れば、デュエルをした者よりは劣るが、精霊の力を得ることが出来る。第33章参照)

融合
通常魔法
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

アルカナ ナイトジョーカー
融合・効果モンスター
星9/光属性/戦士族/攻3800/守2500
「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、
魔法の対象になった場合魔法カードを、
罠の対象になった場合罠カードを、
効果モンスターの効果対象になった場合モンスターカードを
手札から1枚捨てる事で、その効果を無効にする。
この効果は1ターンに1度だけ使用する事ができる。

『だがな・・・、このターンの攻撃は無理だ!――リバースカード、“威嚇する咆哮”ッッ!!』
「しまっ・・・!!」
 精霊が発動したカードから発せられる巨大な咆哮――。
 その咆哮は、たとえ「最強」となった戦士でも、攻撃を忘れてしまうほどの圧力と衝撃を持っていた・・・。

威嚇する咆哮
通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

『もう・・・、お前はこのターン、何も出来ない・・・』
 精霊の言葉を聞き、翔は歯を食いしばり、拳を強く握り締めて悔しがるも、何も出来ないのはまさしく「事実」――。翔は静かに頷き、そのままターン終了を宣言した。

翔  LP:3800
   手札:2枚
    場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃)、リバース1枚

『オレのターン・・・、ドロー――』
 ピッ――と、精霊はカードを1枚引いた。
『少し早いが・・・、“アルカナ ナイトジョーカー”にはご退場願おうか・・・?』
 精霊はゆっくりとそう言うと、墓地ゾーンに眠っている2枚のモンスターカード――クィーンズ・ナイトとジャックス・ナイトを取り出し、それらを戦士を破壊する力の「糧」とした――。
(オレの手札に、“これ”を防ぐ術は・・・)





――――無い・・・っっ!!!





 翔は握っていた拳を、更に強く握り締め、その悔しさを静かに、その胸で受け止めようとする。だが、本当に受け止めることが出来るだろうか――?
 答えはノー。仲間を追わなければならない、守らなければならない、その2つの思いが、翔の中を駆け巡り、翔を焦らせていく。
 だが、今この瞬間の現実が変わるわけでもなく、翔の目の前にいた戦士は、精霊の目の前にいる戦士の光――闇を受けて、その姿を消した・・・。
『更に・・・ッ!!――“フリード”でダイレクトアタックッッ!!!』
 そして、闇を放ち終えた戦士は、精霊の言葉に反応して、勢いよく飛び上がり、一瞬で翔を遠くまで吹き飛ばした。
「ガァッ――!!」

翔  LP:3800→2100

『カードを1枚伏せて、ターンエンド――』
 傷ついた翔の姿を見て、徐々に興奮し、敵を痛めつけることに「快感」を覚えた精霊は、その感情を極限まで抑えてそう言った。

精霊 LP:4000
   手札:2枚
    場:放浪の勇者 フリード(攻撃)、リバース1枚

 翔の目の前に聳える敵――それは、“自分を超越した”「自分」。6大精霊の内の5体との接触によって、翔が少しだけ手にした5つの「力」の全てを上回り、飲み込む底無き「闇」――。
 だが、翔は諦めなかった。立ち上がった――。


 仲間を守る・・・。追いついてみせる・・・。


 この気持ちに、「偽り」は無いから・・・。
 そして、デッキの一番上のカードに、その指をゆっくりと掛ける。そのまま、翔はゆっくりと口を開いた――。
オレのターン――






「オレは手札から“サイクロン”を発動!――お前のそのリバースカード1枚を破壊するッ!!」
 翔は引いたカードを手札に加えると、引いたカードとはまた別のカードを手に取って、自分のデュエルディスクに差し込んだ。それによって発生した巨大な風は、精霊の目の前に伏せてあった1枚のカード――収縮を破壊した。

サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

「――そして、“ライオウ”を召喚っ!!」
 精霊の伏せられていたカードが破壊されたことを確認すると、翔は今しがた引いたカードを場に出した。
 場に出されたモンスター――それは、雷で自身の力を象徴する雷の化身であった。
 雷の化身は、自身が放つ雷で互いのデッキを覆い隠し、通常ドロー以外の全てのサーチ手段を封じた。

ライオウ
効果モンスター
星4/光属性/雷族/攻1900/守 800
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いにドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加える事はできない。
また、自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、
相手モンスター1体の特殊召喚を無効にし破壊する。

『“ライオウ”・・・。デッキサーチ封じか・・・』
「バトルッ!――“ライオウ”で、“放浪の勇者 フリード”に攻撃!!」
 翔の叫びを聞き、雷の化身は、自身の中に眠る雷を光の戦士目掛けて解き放った。光の戦士はそれに抵抗するように、マントで自身の体を覆い、防御に徹しようとした。だが、そんな抵抗もむなしく、光の戦士は消滅した。その時に生じた衝撃は、超スピードで精霊の体を突き抜けるが、精霊は平然な表情のまま立ち続けている。

精霊 LP:4000→3800

「うっしっ!――オレはこれでターンエンドだ!」
 何とか精霊にダメージを与えることの出来た翔は、思わずガッツポーズを取り、その勢いを抑えることなくそう言った。

翔  LP:2100
   手札:1枚
    場:ライオウ(攻撃)、リバース1枚

 だが、そんな翔の喜びを嘲笑うかのように、精霊は不気味に笑ってみせる――。
調子に乗るなよ・・・?
「――ッッ!!?」
 精霊の一言が、翔の五体全てを駆け巡り、「恐怖」を植えつけた。そうして変化した翔の表情を見て、精霊はフンッ――と鼻で小さく笑い、自分のターンであることを宣言、カードを1枚引いた。
『オレは先程、“サイクロン”で破壊された“収縮”をゲームから除外して、“マジック・ストライカー”を攻撃表示で特殊召喚するっ!!』
 小さな兜を着け、これまた小さな剣を握った戦士が、精霊の目の前にポンッ――と現れた。

マジック・ストライカー
効果モンスター
星3/地属性/戦士族/攻 600/守 200
このカードは自分の墓地の魔法カード1枚を
ゲームから除外する事で特殊召喚する事ができる。
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
このカードが戦闘を行う事によって受けるコントローラーの
戦闘ダメージは0になる。

『“マジック・ストライカー”の効果に乗っ取り、その攻撃は、ダイレクトアタックとなるっ!!』
 次の瞬間、精霊の目の前にいた小さな戦士は、自身の出せる最高スピードで翔の目の前にまで移動し、その小さな剣で翔を切り裂いた。
「くっ・・・!」
 その攻撃の威力は、翔が考えているよりも小さかった――。だが、翔が受けたダメージは、しいて言うなれば、その攻撃によるものではなく、自分の場にモンスターがいるにも関わらず攻撃を受けてしまった、という精神的なものであった。

翔  LP:2100→1500

『カードを1枚伏せ、ターンエンド――』

精霊 LP:3800
   手札:1枚
    場:マジック・ストライカー(攻撃)、リバース1枚

「オレの・・・ターンッ!!」
 精神に来るダメージを受け、確実にボロボロになってきている翔ではあったが、諦めることなく立ち上がり、前を向き、倒さなければならない精霊を睨み、カードを1枚引いた。
「オレは・・・、“カードガンナー”を攻撃表示で召喚ッ!そして、効果発動!!――デッキの上から、カードを3枚まで墓地に送ることができ、墓地に送ったカード1枚につき、攻撃力を500ポイントアップさせるッ!!オレの墓地に送るカード枚数は“3枚”っ!!よって攻撃力は――」

カードガンナー 攻:400→1900

 いきなりその姿を現した小型のロボットは、翔のカードが3枚墓地に送られたことに反応して、その力を増していった。
「これで、お前に少しでもダメージをっ!――“ライオウ”で“マジック・ストライカー”に、“カードガンナー”でプレイヤーに・・・、攻撃だぁっ!!」
 翔の決死の叫び――。
 そして、その叫びに反応して攻撃を行う、2体のモンスター――。



 だが、それは1枚のカードによって、掻き消される――。



『吹き飛べっっ!――“聖なるバリア―ミラーフォース―”ッッ!!』
「なっ・・・!!?」
 精霊がカードを発動すると同時に、翔は目を見開き驚いた――。
 だが、時既に遅し・・・。
 翔の叫びによって放たれた全ての攻撃をそのバリアは跳ね返し、翔の場を焼け野原にしてみせた――。
「・・・っ!――“カードガンナー”の効果により、カードを1枚ドローする!!」
 翔は焼け野原となった自分の場を見つめるも、何とか力を振り絞り、カードを1枚引いた。

カードガンナー
効果モンスター
星3/地属性/機械族/攻 400/守 400
自分のデッキのカードを上から3枚まで墓地へ送る事ができる。
墓地へ送ったカード1枚につき、このカードの攻撃力は
エンドフェイズ時まで500ポイントアップする。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「オレは、引いたカードを伏せて、ターンを終了する」

翔  LP:1500
   手札:1枚
    場:リバース2枚

 翔の動作、宣言を確認した上で、精霊は自分のターンであることを宣言して、デッキの上からカードを1枚引いた。そして、今引いたカードと元々手札にあるカードを見て、精霊はニヤッ――と、翔に気づかれぬよう、小さく笑った。
『――“マジック・ストライカー”でダイレクトアタックッッ!!』
「二度も同じ攻撃を通してたまるかよっ!リバースカード――“炸裂装甲(リアクティブアーマー)”ッッ!!」
 精霊の叫びと共に、翔もまた大きく叫んで、伏せておいたカードをバッ――と発動させた。そのカードの効果を受けて、小さな戦士の体は、一瞬で弾け飛んでしまった。

炸裂装甲(リアクティブアーマー)
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
その攻撃モンスター1体を破壊する。

『カードを2枚伏せて、ターンエンドだ・・・っ!』
 精霊は残された2枚の手札全てを場に出すと、そう言った。

精霊 LP:3800
   手札:0枚
    場:リバース2枚

 そして、瞬く間にやって来る翔のターン――。
(頼むぞ、オレのデッキ――。奴にやられてばかりじゃダメなんだ・・・っ!オレの大切な仲間達の為にも!!)
 翔の頭を過ぎるのは、大切な仲間達の笑顔――。


―――力を貸してくれッッ!!!


ピッ・・・
 翔は、全ての思いを、力をデッキに込め、力強くカードを1枚引いた。
 そして、引いたカード・・・、それは・・・

「よしっ!!魔法カード――“貪欲な壺”だッッ!!」
『何っ!!?』
「ドロー強化」カードであった。このタイミングで、ドロー強化のカードを引く翔の運に、思いに、流石の精霊も驚いてしまっている。
「墓地の“クィーンズ・ナイト”、“キングス・ナイト”、“ジャックス・ナイト”、“アルカナ ナイトジョーカー”、“カードガンナー”をデッキに戻してシャッフル――。そして、カードを2枚ドローするッ!!」
 翔は精霊の驚いた表情を見て、「ざまあみろ」と言い放ってやると、デュエルディスクの墓地ゾーンから出てきた5枚のカードをデッキに戻してシャッフルを始めた。ある程度、シャッフルをすると、再びそれをデュエルディスクにセットし、カードを2枚引いた。

貪欲な壺
通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 そして、翔は引いたカード2枚を右手から左手に持ち帰ると、それらを引く直前からずっと持っていたカードを発動させた。
「最初のターンから、ずっと腐ってたんだ・・・。だから、今ここで使わせてもらうぜッ!!――“未来融合−フューチャー・フュージョン”ッッ!!
 翔が発動させたカードから聞こえてくるその鼓動は、先程死した最強の戦士の耳にまで響き渡り、最強の戦士はゆっくりとその目を開かせた・・・。
「選択するモンスターは、当然“アルカナ ナイトジョーカー”!――よって、デッキの中にある“クィーンズ・ナイト”、“キングズ・ナイト”、“ジャックス・ナイト”を墓地に送るッ!」
 翔はデッキの中から求めていたカード3枚を見つけると、その3枚を抜き取り、大事そうにゆっくりとデュエルディスクの墓地ゾーンに入れた。

未来融合−フューチャー・フュージョン
永続魔法
自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを
墓地へ送り、融合デッキから融合モンスター1体を選択する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスターを
自分フィールド上に特殊召喚する(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「そして、カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

翔  LP:1500
   手札:1枚
    場:未来融合−フューチャー・フュージョン、リバース1枚

「あれ?もしかして、キレてる?」
『ッ! ――まぁいい・・・』
 翔の問いを聞いて、精霊はピクンッ――と反応してしまうが、すぐにその怒りを静め、デッキの上からカードを1枚引いた。
『“これ”で、その“希望”を消し去ってやるよっ!――“大嵐”ッッ!!』
 その直後、精霊は引いたカードをそのままデュエルディスクに差し込んだ。
 精霊の狙いは、翔の場に存在しているたった1枚のカード――「未来融合−フューチャー・フュージョン」。このカードを破壊することで、精霊もまた、自分のカードを犠牲にする・・・。しかし、精霊はそんなことお構いなしに、発生した凄まじい嵐を肌で実感し、笑みを浮かべた。
(ありがとな・・・、有里・・・っ!)
 自分のカードが破壊されるかもしれない・・・。そんな中で、翔は有里に感謝し、小さく笑った。
『・・・もしや、そのリバースカード・・・っ!――貴様ァアアアアアアアアアアアアッ!!!』
「リバースカードオープンッ!!――“魔宮の賄賂”ォッ!!」

――バシュッ!!
 次の瞬間、凄まじい嵐は一瞬で消滅した・・・。

 1枚の翔のカードと2枚の精霊のカードを残して・・・。

大嵐
通常魔法
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

魔宮の賄賂
カウンター罠
相手の魔法・罠カードの発動と効果を無効にし、そのカードを破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 精霊は、始めは呆気にとられたような顔をしながら、カードを1枚引くが、その直後、不気味な表情で笑って見せた。
『オレはこれで、ターンエンドだ・・・』

精霊 LP:3800
   手札:1枚
    場:リバース2枚

((後悔させてやるよ・・・。オレのこの2枚のリバースカードを破壊できなかったことをな・・・っ!))
「オレのターン――、ドロー」
 翔は精霊の不気味な笑みに不安を残しながらも、ゆっくりとカードを1枚引いた。
 だが、強運は2度は続かないようだった。
 今引いたカードも、元々持っているカードも、このタイミングでは使えそうに無いカード――。
「オレは、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 そして、翔は仕方なく、今引いたカードをデュエルディスクに差し込むと、自分のターンを終えた。
 だが、それは精霊も同じこと。精霊もまた、カードを1枚伏せただけで、ターンを終えた。

翔  LP:1500
   手札:1枚
    場:未来融合−フューチャー・フュージョン、リバース2枚

精霊 LP:3800
   手札:1枚
    場:リバース3枚

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 一方、翔と精霊のデュエルが続く中、森を出て、アンナを追いかけている神也達――。

「待てよ・・・、待てよアンナッ!!」
 ずっと走り続けているせいで息を荒くした神也は、咄嗟に目の前を走るアンナに向かってそう叫んだ。その後ろでは、加奈、有里、真利、少し離れて神童の順で、神也に続いてアンナを追いかけていた。
「・・・・・・」
 神也の叫びを聞きながらも、アンナは答えることなく、ゼオウの安否だけを考え、走り続けていた。
「――チッ!」
 そんなアンナの姿を見て、少しだけ苛立った神也は、走るスピードを一気に上げ、そのスピードのまま、アンナを止めるべく、(仕方なく)彼女を押し倒した。――今この瞬間に、この現場に遭遇した人がいれば、間違いなく神也は警察に通報されるだろう・・・。いや、こんな話はどうでもいいかww っていうか、この世界に警察とかいるのか?

 アンナは神也に押し倒されながらも、自分の体にグッ――と力を込め、神也を振り払おうとするが、神也もまた振り払われないように力を込めた。
 そんなやり取りが続く中、他の4人も神也とアンナに追いついた。
「くっ・・・、離せ!私は・・・、私は・・・ッ!!」
「少し落ち着け!急がなきゃいけないのは分かるけど・・・、お前1人で行ったって、何も変わらないだろう!?」
 未だ鳴り止まず、聞こえ続ける爆発音――。その数は限りなく、その音の数だけで、デストロイドは大勢でレジスタンスのアジトに攻撃を仕掛けている、ということが分かる。
 大勢ということから、神也はそれをデストロイドの「第3部隊」だと判断した。――つまり、攻撃を行っている者達の人数は未知。
 ゼオウ達がいるものの、アンナ1人が行ったところで、人数の差が埋まる可能性はかなり低い――。
「じゃあ・・・、黙ってこの爆発音を聞いてろって言うの!?」
 アンナのその言葉を聞いた時、神也はふとその手に込めていた力を和らげた。それに気づいたアンナは、すぐにバッ――と神也を振り払い、立ち上がると、服についた土なんかをパッパッ――と払った。
「“お前1人”だったら、何も変わらない・・・」
「――?」
 ゆっくりと立ち上がった神也が突然発したその言葉は、少しだけアンナを驚かせる。
「だから・・・」


―――オレ(ボク、私)達がいるッ!!


「あなた達が来たら、何かが“変わる”っていうの?」
「あなた1人で行くよりは、ね」
 アンナの冷たい反応を見ながらも、加奈はそう答えた。
「どうしてそう言い切れるの・・・?」
「ボク達が・・・。いいや・・・、ボク達も“仲間”だから」
 アンナが少しだけ声を震わせて聞いた質問に対して、神童はそう答えた。
「・・・じゃあ、アイツは?――今、闇の精霊と戦っている途中なんでしょ?」
 そう言って、アンナは今来た道の方を見た。
「翔くんなら、大丈夫だよ」
 次に、アンナの質問に答えたのは、真利であった。
 そして、真利の隣で、髪を靡かせ、遠くにいる翔の姿を瞼の裏で想像している有里が、目を開いてゆっくりと、つぶやくように言った。
「翔は・・・、」


―――約束を破るような奴じゃないから・・・


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「“アサルト・アーマー”を解除っ!――それにより、“アルカナ ナイトジョーカー”で2連続攻撃だっ!!」
 翔のターン――。
 未来融合−フューチャー・フュージョンによって姿を現した最強の戦士に、翔は元々手札にあった装備魔法を装備させた。
 そして今、それを解除させ、カード効果によって最強の戦士に2回攻撃という効果を付加させた。

アサルト・アーマー
装備魔法
自分のモンスターカードゾーンに戦士族モンスター1体のみが
存在する場合に、そのモンスターに装備することができる。
装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
装備されているこのカードを墓地に送る事で、このターン装備モンスターは
1度のバトルフェイズ中に2回攻撃をする事ができる。

アルカナ ナイトジョーカー
融合・効果モンスター
星9/光属性/戦士族/攻3800/守2500
「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、
魔法の対象になった場合魔法カードを、
罠の対象になった場合罠カードを、
効果モンスターの効果対象になった場合モンスターカードを
手札から1枚捨てる事で、その効果を無効にする。
この効果は1ターンに1度だけ使用する事ができる。

 だが、精霊はその2回攻撃を仕掛けられながらも、表情を変化させること無く、伏せておいたカードをバンッ――と発動させる。
『リバースカード――“和睦の使者”。これで、このターンのダメージは0だ』
 カードから放たれた聖なる膜のような物は、最強の戦士の持つ2本の剣を防ぎきってみせた。

和睦の使者
通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける
全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。

「くぅっ・・・!オレはこれで、ターンエンドだ」
 攻撃を防がれてしまった最強の戦士が、自分の場へと戻ってくる中、しぶしぶ翔はそう言った。

翔  LP:1500
   手札:1枚
    場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃/未来融合−フューチャー・フュージョン)、リバース2枚

 その時だ――。
 精霊はカードを1枚引くのと同時に、口が裂けるくらいに大きく笑ってみせた。
「・・・!?」
『オレは・・・、“ならず者傭兵部隊”を召喚!効果によって・・・、“アルカナ ナイトジョーカー”を破壊する!!』
 精霊が出したモンスター――それは、自身(達)の身を削ることによって、相手モンスター1体を確実に破壊する、という効果を持っていた・・・。当然、精霊はすぐさまその効果を発動させるため、そのカードを墓地ゾーンに入れた。

ならず者傭兵部隊
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1000/守1000
このカードをリリースして発動する。
フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

 大勢の傭兵達が素早く最強の戦士を取り囲み、私刑(リンチ)を始めようとする。だが、それを防ぐべく翔は、直前の自分のターンで伏せておいたカードをバッ――と発動させる。
「甘いぞっ!!リバースカード“融合解除”ッ!――“アルカナ ナイトジョーカー”を融合素材である“絵札の三銃士”に戻すっっ!!」
 翔の発動したカードの効果によって、最強の戦士の姿は光の粒子となり、パンッ――と一度消滅した。その後、大勢の傭兵達がいない場所にて、3体の戦士へとその姿を変え、翔の場に舞い戻った。
 その一方で、大勢の傭兵達は、目標を見失い、その姿を消した・・・。

融合解除
速攻魔法
フィールド上の融合モンスター1体を融合デッキに戻す。
さらに、融合デッキに戻したこのモンスターの融合召喚に使用した
融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、
この一組を自分のフィールド上に特殊召喚する事ができる。

 精霊の思惑を打ち破り、思わずガッツポーズをとろうとした翔ではあったが、翔はそのガッツポーズをすぐに止め、精霊の「その表情」を見て、凍り付いてしまう。

 依然として変わらぬ、その「笑み」を見て――・・・。

『ありがとよ・・・。まさか・・・、自分から、オレの“このカード”の生贄を用意してくれるとは・・・っ!!』
 そう言って、精霊は目の前で伏せられているカードの内の1枚を指差した。
 指差したそのカードから放たれたのは・・・、「闇」――。
『手札1枚をリリースして・・・、リバースカード・・・オープン・・・ッ!!』
 精霊が残り1枚の手札を墓地に送った時、待ってましたと言わんばかりに勢いよく、「そのカード」は表を上げた――。その瞬間、「そのカード」に共鳴するかのように、翔が最初のターンに伏せておいたカードもまた、再び闇を解き放ち、ドス黒く輝き始める・・・。
「そのカード・・・、――お前ッ!!」
 翔の焦ったような声を聞いて、精霊は再び笑った。










――――“超融合”・・・ッッ!!!!










止めろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!


 翔の叫びを他所に、突如として出現する無数の長い闇の触手――それは、翔の場にいた3体の戦士を一瞬で絡め取り、強大な闇の中へと引きずり込んだ。そして、その闇の中で行われるのは「融合」――。
 やがてそこに新たに現れた最強の戦士は、翔のモンスターではなく、精霊のモンスターとなっていた・・・。



『“アルカナ ナイトジョーカー”・・・降臨・・・』



超融合
速攻魔法
手札を1枚捨てる。自分または相手フィールド上から融合モンスターカードに
よって決められたモンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
このカードの発動に対して、魔法・罠・効果モンスターの効果を発動する事はできない。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

「ぐっ・・・!」
 最強の戦士――、絵札の三銃士の消失により、翔は強く胸を痛め、片膝を地面につけてしまう。だが――、
『まだだ・・・』
「――ッ!!?」
『このターンで、貴様を確実に“消す”ッッ!!リバースカード――“異次元からの帰還”ッッ!!!』
精霊はその手を止めることなく、翔を飲み込もうとしていた。
 精霊が発動させた更なるカードは、この次元と異次元とを繋げ、異次元に飛ばされてしまった者達を「一時的に」呼び寄せた――。


 クィーンズ・ナイト――。


 キングス・ナイト――。


 ジャックス・ナイト――。


 ライオウ――。


精霊 LP:3800→1900

異次元からの帰還
通常罠
ライフポイントを半分払う。
ゲームから除外されている自分のモンスターを
可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。
エンドフェイズ時、この効果によって特殊召喚されたモンスターを
全てゲームから除外する。

『全軍・・・、攻撃!!!
 精霊の言葉と共に、精霊の目の前にいた5体のモンスターは、元々の主(マスター)である翔にとどめを刺すため、攻撃を仕掛ける――。
 徐々にモンスター達が自分に近づいてくる中、翔は自分の目の前に伏せられた1枚のカードを見つめ、どうすればいいかを考えていた・・・。

(どうする・・・?“このカード”を使えば、オレは“アルカナ ナイトジョーカー”を召喚して、奴の攻撃の全てを止めることが出来る・・・。――でもッ!!)

 翔は感じ取っていたのだ――。
 目の前に伏せられた1枚のカードから放たれる、「闇」の大きさを・・・。

 そんな翔の苦悩する顔を見て、精霊はワクワクしていた。計10本の両手の指全てを口に咥え、両目をぎょろつかせながら・・・。







 さあ・・・、使え・・・。  躊躇ってんじゃねぇぞ?  早く使ってみろ・・・。


     使え・・・。   早く使っちまえよ・・・。 闇に飲み込まれてみろ・・・。


  助けたいんだろう・・・?  使え・・・!  闇という快楽は・・・、


    仲間達を――。  さあ・・・、  使え・・・っ! きっと楽しいぞ・・・?


背伸びして、大人ぶって・・・、 お前は何様だ?  ――そのままじゃあ、


 バカみてぇに考え込んでんじゃねぇよ。   てめぇの頭と魂が腐っちまう・・・。


   目の前の恐怖にばかり縛られやがって。   そんなこと、オレが許さねぇ・・・。


  血が騒いでくるだろう・・・? 使ってみろよ。 今だ!  やれっ!!


    ブクブクとさぁ・・・。   そうだ!――使え・・・ッ!!  使えッ!!!








――――オレの為にナ・・・


 精霊の狙い・・・、それは、天使の言っていた翔をデュエルで負かし、殺すことではなかった。いや、正確に言うと、翔とのデュエルによる勝ち負けは問題ではなかった。
 精霊の真の狙い――それは、翔に「超融合」を使わせることで、翔の心の闇を増大させ、翔自身と心の闇――精霊の主従関係を逆転させることであった。当然、そうなれば、本来心の中に存在する筈の無い「翔」という存在は、消滅――つまり、死んでしまうだろう・・・。
 だが、そんなことを知らない翔は・・・、

(使うしかない・・・!あいつ等に・・・、仲間達に追いつく為にも――、)

自分の目を、何かを決意したものに変えた。

 闇・・・?――そんなの知るかッ!!
 迷って、躊躇って、何も出来ないこと・・・。それがオレの“闇”だッッ!!!

絶対に勝つッッ!!――オレは手札を1枚リリースして、お前の攻撃に対し、リバースカードを発動させるッ!!」
『じゃあな・・・』
 翔が手札のカード1枚を墓地に送った瞬間、精霊は笑いをスッ――と止めてそう言った。





――――“超融合”ッッ!!!





 それは・・・、一瞬の出来事であった。

 翔の目の前で開かれたカードから出現した無限と呼べる程の数ある触手は、精霊の目の前にいた3体の戦士を勢いよく飲み込み、そしてその勢いを留めることなく、翔をも飲み込んでいった・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ドクンッ・・・!!

第39章 超融合――闇へ・・・

ザザァ・・・ッ・・・
 海の波打つ音が、遠くの方から近づいてくるように聞こえるのだが、肝心の海が見えない・・・。

 ――辺り一面、全てが暗闇となっていたから・・・。

 翔はそんな暗闇の中で何かを感じ取ると、スゥッ――と向きを変え、ゆっくりと歩き始める。
 ある程度歩くと、翔の足に水がピチャッ――と小さな音を立てて当たった。

 冷たくない――?・・・いや、むしろ心地良い・・・。

 翔は更に前に進み続ける・・・。


ドボン・・・ッ


 そして、翔はその海に・・・、いや、「闇」の中へと入っていった。

 ・・・小さな笑みと共に――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『バカな奴め・・・。勝つのは――』


―――――――このオレだ・・・。

 翔のいなくなったその空間の中で、精霊がゆっくりとそう言った。






ズズズズ・・・―――

 「闇」の中――。
 翔の瞳は闇の影響を受けて光を失い、思考は既に停止し、体を動かすことは無かった。そんな状態の中で、翔はゆっくりとその闇の中へと沈んでいく――。

 一点の光も無い、闇の中へ・・・。

 闇の中へ沈めば沈むほど、それは翔の中を蝕み、それによって翔の頭の中で蓄積されてきたこれまでの知識や記憶たちは、新しいものから順に、ゆっくりと消えていった――。今では、この世界へ一緒にやってきた「5人の仲間達」の顔さえ出てこない・・・。
 そんな中で、翔は不気味に笑った・・・。精霊と同じように・・・。


 闇に魅了され、翔はゆっくりとそれに染まっていった――。


 だが、ある記憶が翔の中から無くなりかけたその瞬間、翔に異変が起きた――。





――――闇には、人を“魅了する”力がある・・・。


――――じゃが、本当は、闇に魅力があるわけでは無いのじゃ・・・。それに打ち勝とうとする“光”に、“勇気”に本当の魅力があるんじゃよ・・・。

トクン・・・

――――〜〜アよ・・・。今後おそらく、お前の中に“闇”が生まれるじゃろう・・・。


――――じゃが光を、勇気を忘れてはいけない・・・。

ドクン・・・

――――それらを忘れぬためにも・・・、“これ”を渡そう・・・。

ドクン・・・!

――――これが・・・、お前の“勇気”のアカシだ――





「――ッ!!?」
 翔の頭の中で再生された過去の映像――。その映像を見て、聞いて、翔の目に再び光が宿り、思考も働き出し、更には全ての知識と記憶たちが、翔の頭の中に戻ってきた。だが、翔は不思議に思っていた・・・。
(何でだ・・・?何で、オレの過去に・・・、ゼオウが・・・!?)
 翔の頭の中で再生された映像の中で、翔に語りかけていた人物――それは、ゼオウであった。
 翔の頭の中を駆け巡る1つの疑問・・・。
 しかし、それについて考える時間を与える事を許す「者」は何処にもいなかった――。

 今翔のいる場所は闇の中――。闇が再び、翔を飲み込もうと、底無き海から、無数の長い触手へとその姿を変え、一瞬で翔を包み込んだ。
(まぁ・・・、そんな事はどうでもいいか・・・。今は・・・、凄く気分がいい・・・。――“闇に打ち勝とうとする光に、勇気に魅力がある”、か・・・)
 触手に包み込まれ、再び闇に落とされそうになりながらも、翔はそれに耐え、そして額に掛かっているゴーグルへと手を伸ばした。ゴーグルに手が届くと、それを手にとって、ゆっくりと下ろし、やがてゴーグルのレンズと翔の光を宿した瞳が、重なった――。


カッ―――!!!


 閃光――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ドクンッ・・・!!

『な・・・、何故だ・・・!?――何故、お前は今、ここにいるっ!!?』
 精霊は目の前にいる先程消えたはずの翔の姿を見て、驚きながらそう聞いた。
「ゼオウが――いや・・・、“こいつ”が、オレを助けてくれた」
 精霊の問いに答えるように、翔は親指で自分の目の位置にあるゴーグルを指した。
『・・・ふざけるなよ・・・ッ!』
 だが、翔のそんな回答に納得できる筈も無く、精霊の怒りは蓄積されるばかりだった。だが、そんな精霊を見ながらも、それを無視するかのように、翔は口を開いた。
「それに・・・、あいつ等の・・・、――初めての仲間達の約束は・・・、絶対に守ってみせるッッ!!!」
 翔の決意の言葉を聞いて、精霊は首をコキコキッ――と鳴らして、小さく口を開いた。
『―――いいだろう・・・、来い・・・ッッ!!』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その時、精霊の表情が一瞬だけ、今までの精霊と同じものになった――。
 「試そうとする者」の表情に――。

 何故そんな変化が訪れたのかは分からない・・・。ただ、しっかりと「一瞬だけ」変化した・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて・・・、デュエルの続きだったよな?――“超融合”の効果により・・・、出でよッッ!!」
 精霊の「今まで見たことが無い態度」を見ながらも、翔はそう叫んで、デュエルディスクを装着している左腕を空高く掲げた。次の瞬間、翔の力を受けて制御されつつある闇の触手が再び出現し、その闇を飲み込んでいく光と共に、その戦士は姿を現そうとしている――。

(――闇の力・・・か・・・)

 ―――それは、どんな強大な力でも、全てを破壊する純粋な闇の力、そして、自分の感情をコントロールする制御の力――

 「闇」という力を、感情を制御(ここでは「支配」の方が正しいか)する力――。
 それこそが、「真の闇の力」・・・。

 闇に飲み込まれはいけない・・・。その闇を支配してこそ、それを自分の力に変換することができ、そして使うことが出来る――。

 最強の戦士が光と共に姿を現そうとしている中で、翔はゆっくりとそんなことを考えていた・・・。

(オレはもう・・・、“闇”に飲み込まれたりはしないっ!!――“これ”がある限り・・・。“こいつ”がいる限り・・・っ!!)
 翔の思いに共鳴して、翔の瞳と重なっているゴーグルが、キラリと小さく輝いた・・・。


――――“アルカナ ナイトジョーカー”ッッ!!!!


 そして、その戦士は、翔によって制御されていた全ての闇を掻き消し、ゆっくりと地面に降り立った。戦士の体から放たれる無限の光――その光は、翔のデュエルディスクに「新たな力」を与え、その形状を変化させる。
 未だ「羽ばたくことの出来ない」白き翼へと――。

『ターンエンドだ――』

精霊 LP:1900
   手札:1枚
    場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃)

 精霊は、翔の中の「何か」を感じ取り、翔に勝つ好機(チャンス)だっというにも関わらず、ターンを終了してしまった。当然、カードの効果を受けて、精霊の宣言と共に、雷の化身はその姿を消した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 精霊の微かな―― 一瞬の感情の変化・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アルカナ ナイトジョーカー
融合・効果モンスター
星9/光属性/戦士族/攻3800/守2500
「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、
魔法の対象になった場合魔法カードを、
罠の対象になった場合罠カードを、
効果モンスターの効果対象になった場合モンスターカードを
手札から1枚捨てる事で、その効果を無効にする。
この効果は1ターンに1度だけ使用する事ができる。

 雷の化身の消滅を確認した上で、翔はデッキの上からカードを1枚引き、手札に加えた。たった1枚の手札――翔はそれをじっと眺め、少し考えると、小さく頷き精霊の方を見た。
「よしっ!――バトルだッッ!!」
 翔の言葉と共に、翔の目の前にいた最強の戦士は足に力を込め、勢いよく飛び上がり、自分と瓜二つの敵の上空より剣を振り下ろした。そんな光景を見て、精霊は思わずプッ――と吹いてしまった。
『オイオイ、何やってるんだ?オレが、“クィーンズ・ナイト”で“これ”をした時は、あんなに怒ってたのに・・・よ・・・ぉ・・・?』
 吹いてから続けた精霊の言葉は、なぜか途中でピタリと止まってしまった。――それもそのはず、精霊の見た光景は、敵の戦士が攻撃する姿だけでなく、もう1つ存在していたからだ。もう1つの光景・・・、それは翔の発動した1枚のカード――





突進――。





突進
速攻魔法
表側表示モンスター1体の攻撃力を、
ターン終了時まで700ポイントアップする。


アルカナ ナイトジョーカー(翔所持) 攻:3800→4500

「“同じ”じゃないんだよ!――“同じ”じゃあなっっ!!



―――――ダッシュ・ブレードッッ!!!



 翔の追撃の叫びと共に、最強の戦士は、自身の真下にいた戦士を一瞬で切り裂いた。

精霊 LP:1900→1200

 戦士の消滅と同時に生じた衝撃は、瞬く間に精霊を襲うが、精霊はそれを何事も無かったかのように耐えてみせ、苦しむどころか、逆に大きく笑い始めた。
『ハハハッ・・・!――“殴り合い”か?・・・“殴り合い”なら得意だぜぇ!?』
「“殴り合い”・・・?得意・・・?――お前は・・・、“楽しん”でいるのか・・・!?この・・・“死闘(デュエル)”を・・・ッ!!」
 翔は胸をギュッ――と握り締め、体を少しだけ震わせながらそう聞いた。翔の震えたような声が、闇に染まった空間全土に響き渡る――。

 最初から・・・、気づいてた・・・。
 でも、言えなかった――。

 どんな精霊であっても、死闘を楽しむ、なんて事は無かったから・・・。

 どんなに最低な奴でも、精霊は精霊・・・。だから・・・、信じたくなかった――。

 そして、先程の表情の真意を問いたくなった――。

『そうだよ・・・!?今更、気づいてない・・・、なんて事は言わせねぇぞ?』
「グッ・・・!――ターン・・・エンド・・・」

翔  LP:1500
   手札:0枚
    場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 翔の見えない所で、精霊の表情が少しだけ苦悩に歪んだ――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 精霊の開き直りを聞いて、悔しそうな表情へと翔の顔は変化した。だが、出来る限りそれを精霊に悟らせないように、顔を少し背けると、ゆっくりとそう言った。
(やっぱり・・・、こいつは違った・・・!――今までの精霊と・・・ッ!!・・・でも・・・ッッ!!)
 そんな言葉と共に、翔の中を蠢(うごめ)く更なる「怒り」――。
 だが、その怒りが大きくなればなるほど、「あの表情」が気になってしまう・・・。あの表情が、真の精霊だと信じてしまう・・・。

 そんな翔の感情の変化の中で、精霊はカードを1枚引き、手札に加えた。そして、精霊は再び笑ってみせる。――手札は「たった1枚」、場は「何も無い」状態にも関わらずだ・・・。
『――オレは手札から“E・HERO バブルマン”を守備表示で特殊召喚するっっ!!』
「――ッ!!?」
 精霊の叫びと共に姿を現したモンスター――それは、水(泡)を操りし、ヒーローの姿。辺り一面全てをその水で染め上げ、それを「2つの可能性」に変え、精霊に託した。

E・HERO バブルマン
効果モンスター
星4/水属性/戦士族/攻 800/守1200
手札がこのカード1枚だけの場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に
自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、
デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

『いいカードだ・・・っ!――“バブルマン”をリリースして、“エネミーコントローラー”発動ッッ!!』
「し・・・、しまったッ!!」
 放たれた2つの可能性の内の1つ――。
 翔はそのカードの発動を見て、大声で驚いてしまうが、その驚きを他所に、「それ」は進行する――。
 水のヒーローを代償として出現した1つのコントローラーは、そのケーブルで、翔の目の前にいた戦士を絡め取って操り、翔を攻撃させようとした。戦士は必死で抵抗するも、その「呪縛」からは逃れられなかった――。

 戦士の持つギラリと不気味に光る剣が、ゆっくりと振り上げられ、そして翔目掛けて振り下ろさ・・・れ・・・


第40章 魅力――闇を切り裂く光の刃


ガキィンッ!!!



・・・てはいなかった――。
 いや、正確に言うと、戦士の剣は振り下ろされたのだが、翔が、漆黒のオーラで覆われた白き翼のデュエルディスクで、それを防いだのだ。当然、翔はそれを「防いだ」ので、ライフポイントは減っていない――。

翔  LP:1500

『なっ・・・?何故だ!?何故、お前のライフが減っていない!!?』
 精霊は驚き、笑みを失った表情でそう叫んで、翔に質問した。その質問の直後、翔のデュエルディスクの墓地ゾーンからガチャッ――と出てきた1枚のカード。翔はそれを手に取ると、そのカードを精霊に見せた。
「“ネクロ・ガードナー”――。墓地のこいつを除外することで、1度だけ敵の攻撃を無効に出来る・・・」

ネクロ・ガードナー
効果モンスター
星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 精霊は翔の見せたカードを見て、一度は納得した。だが、すぐに腑に落ちない点にたどり着いた。
『そんなカード・・・、いつ墓地に送った?――そんなカード・・・、オレは墓地に送った覚えは無いぞ!』
「あぁ・・・。その通り、お前に墓地に送られた覚えは無いな・・・。だがな、それを可能にするカードをオレは使った筈だぜ・・・?」
 翔の言葉を「道」として、精霊は自分の見てきた全てのデュエル展開を思い出し始める。そして、光り輝くその「光景」にたどり着き、それを掴んだ――。
『チッ・・・、“カードガンナー”か――』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「オレは・・・、“カードガンナー”を攻撃表示で召喚ッ!そして、効果発動!!――デッキの上から、カードを3枚まで墓地に送ることができ、墓地に送ったカード1枚につき、攻撃力を500ポイントアップさせるッ!!オレの墓地に送るカード枚数は“3枚”っ!!よって攻撃力は――」

カードガンナー 攻:400→1900


 いきなりその姿を現した小型のロボットは、翔のカードが3枚墓地に送られたことに反応して、その力を増していった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「正・解――」
 精霊の答えを聞いて、翔は小さく笑ってみせる。――小さな強がり。
 だが、その強がりも、すぐに疲れのせいで消滅してしまう・・・。
『――まぁいいさ・・・。お前のボロボロになる姿・・・、もう少しだけ見ていられるからな・・・!』
 精霊は驚いたような顔をすぐに笑みに戻すと、手札のカード1枚をガチャッ――とデュエルディスクに差し込み、ターンエンドを宣言した。その宣言と共に、コントローラーと、それから伸びていたケーブルは消滅し、戦士は翔の下へと舞い戻った。

精霊 LP:1200
   手札:0枚
    場:リバース1枚

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 精霊のほっとしたような安堵の表情――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「よし・・・!――オレのターン・・・、ドロー!」
 戦士が舞い戻ってきたことを確認して、翔は(小さくではあるが)笑いながらカードを1枚引いた。
「これで終わらせてやるよ!!――“アルカナ ナイトジョーカー”の・・・ダイレクトアタックッッ!!!」
 翔の叫びと共に、遥か上空へと舞い上がる最強の戦士は、そのまま右手で握っている剣を力強く握り締め、精霊に向けてブンッ――と振り下ろそうとする。
 だが、戦士の右手で握られた剣は、戦士自身は、精霊に到達する直前で、バンッ!!――と激しい音を立てて、弾け飛んだ――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『バカが・・・ッ!!罠(トラップ)が伏せられてる状態での攻撃が、簡単に通る訳無ぇだろっ!!?』
 精霊は翔を嘲笑うかのようにそう叫んだ――。
 だが、よく聞いてみると、まるで翔に「そのこと」を伝えているようでもあった・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「チッ・・・!!」
 突然の戦士の破壊、精霊の自分を嘲笑うかのような言葉を聞いて、翔は精霊に聞こえるくらいの大きさで舌打ちをした。
 戦士を破壊したカード――それは、近寄ってきたものを弾き飛ばす「地雷」。

万能地雷グレイモヤ
通常罠
相手が攻撃を宣言した時に発動する事ができる。
相手攻撃表示モンスターの中から一番攻撃力が高いモンスター1体を破壊する。

(“グレイモヤ”が“対象を取る効果”だったら、“このカード”も使えたんだけどな・・・)
 翔は先程引いたカードをじっと見つめながら、少しだけ悔やんだ。だが、すぐに気持ちを切り替えると、引いたカードを素早くセットして、ターンエンドを宣言した。

翔  LP:1500
   手札:0枚
    場:リバース1枚

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

((ヤバイ・・・。このままじゃあ、“闇”が・・・、オレを覆い尽くしてしまう・・・ッ!!早く・・・、早くしないと・・・ッ!!))
 精霊は額から冷や汗をかき、翔に見えないところで酷く焦っていた。
 それが何を意味するかはまだ分からない・・・。だが、確かに先程までの精霊とは、「全く別の人格」である、ということだけは確かであった――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 焦りながらも、表情では、出来る限り「今までの精霊」を演じ、素早くカードを1枚引き、そのカードを確認すると、すぐにそれを場に出した。
『現れろ・・・、“首領・ザルーグ”ッ!――そのまま、攻撃だッッ!!』
 精霊はモンスターを場に出し、すぐに攻撃を仕掛けた――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 自分の胸をキリキリと痛めつけながら・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 精霊が出したモンスターは、一瞬のうちに翔の目の前にまで移動すると、右手で握っていた銃で、翔の腹部を強く殴りつけた。そして、翔がそれを受け、苦しんでいるところを間髪入れずに、銃の引き金を引いた・・・。


――――ドンッ!!


翔  LP:1500→100

ガッ・・・!!
『――“ザルーグ”の効果により、相手のデッキの上からカード2枚を墓地に送るっ!』

首領・ザルーグ
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1500
このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、
次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●相手の手札をランダムに1枚選択して捨てる。
●相手のデッキの上から2枚を墓地へ送る。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 精霊の不本意な言葉が、闇によって支配されつつある空間を瞬く間に覆ってみせた――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 精霊の言葉と共に、そのモンスターは左手で握っていた銃の銃口を、翔のデュエルディスクに向け、2度引き金を引いた。バシュバシュッ――と放たれる2つの銃弾によって、翔のデッキのカードが2枚、弾き飛ばされた。

●     ●     ●     ●     ●     ●

 弾き飛ばされた2枚のカードを見て、ボロボロになった翔の姿を見て、精霊は不気味に笑った――。

●     ●     ●     ●     ●     ●

精霊 LP:1200
   手札:0枚
    場:首領・ザルーグ(攻撃)

「オレの・・・ターンッ!!」
 翔はボロボロになりながらも、ゆっくりと立ち上がり、そして精霊の表情を見つめ、そして思った。

 不可解だ、と――。

 精霊の表情が、気持ちが、安定していないのだ。
 先程の攻撃を受けて冷静になった翔の目から見える精霊の中には、最低でも翔を傷つけることを躊躇う心と、翔を傷つけたいと思う心の2つがあった。
(どういうこと・・・だ・・・?)
 疑問に思いながらも、翔はデュエルの現状をどうにかしなければ、と思い直し、今引いたカードをバンッ――と場に出した。
「オレは、“忍者マスター SASUKE”を召喚ッッ!!」
 翔の目の前に姿を現したのは、軽くてシャープな鎧を身にまとい、両手にクナイを握り締めた、忍者のようなモンスターであった。

忍者マスター SASUKE
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1800/守1000
このカードが表側守備表示のモンスターを攻撃した場合、
ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

「そして、攻撃だ!!」

 忍者のようなモンスターは、身軽さを見せ付けるかのように、上空にふわりと舞い上がり、精霊の目の前で二丁拳銃を構えるモンスターにクナイを突き立てる。精霊のモンスターの些細な抵抗もむなしく、それはゆっくりと消滅した――。

精霊 LP:1200→800

●     ●     ●     ●     ●     ●

『調子に乗るなよ・・・!?――雑魚のくせに・・・!どうせオレに体を乗っ取られるくせに・・・ッッ!!!』
 精霊は吐き捨てるかのようにそう言い切った。
 精霊のこの言葉を聞きながら、翔はまた「変わった」と感じ取っていた――。
「お前は・・・、いったい・・・何なんだ!?」
 翔は突然、口を開いてそう聞いた。
 何度も感じ取ってきた疑問――その答えが知りたい、という欲望に勝てずに発せられた疑問であった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『オレか・・・?オレは・・・』
 翔の疑問に答えようとする精霊は、「直前の荒々しい精霊」ではなく、優しさを持った精霊であった。

 ―――だが、「その」精霊は

 精霊は息を荒くし、翔の疑問に答えようとしながら、カードを1枚引いた。

 ―――間もなく

 引いたカード・・・、発せられるは「闇」――。

 ―――消滅する・・・。

『グッ・・・!――ガァアアアアアアアアアアアアッ!!!』
 今引いたカードから発せられる闇を受けて、苦しみ始める精霊。
 翔は何が起きているのかが全く理解できず、ただただ困惑するだけであった。だが、そんな翔の困惑を他所に、事態は急速に進行していき、やがて悲鳴に近い叫びを止めた精霊は、引いたカードを発動させた・・・。
『すまない・・・、その疑問に答える時間は無さそう――

●     ●     ●     ●     ●     ●

ヒャハハハハハハハッッ!!!コレカラハ・・・、“絶望”ノ始マリダァアアアアッ!!!―――“死者蘇生”ッッ!!!

 「暴走」――。
 おそらく、今の精霊に当てはまる一番の言葉はこれだろう・・・。

 優しき精霊が消え、暴走を始めた精霊は、引いたカードを発動させ、自分の目の前に最強の戦士を呼び出した――。

死者蘇生
通常魔法
自分または相手の墓地からモンスターを1体選択する。
選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。

『コレデ貴様ハ消エル・・・!――“アルカナ ナイトジョーカー”ッッ!!!
 精霊の叫びと共に、姿を現した最強の戦士は、翔の息の根を止めるべく、最後の攻撃を仕掛ける。忍者のようなモンスターは、最強の戦士の前で無残に散り、その衝撃が翔を襲・・・い・・・――?

ガキィッッ!!!

「リバースカード――“ガード・ブロック”!」
 衝撃は翔を襲うことなく、翔の目の前で巨大な音を立てながら弾け飛んだ。

ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

精霊 LP:800
   手札:0枚
    場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃)

 全ての衝撃が弾け飛んだことを確認すると、翔はピッ――とデッキの上から、カードを1枚引いた。
 翔がダメージを受けていないことに気づく精霊ではあったが、依然として精霊は、その暴走状態を維持していた。
『タカガ1ターンヲ生キ延ビタダケダ・・・ッ!――スグニ、コイツデ止メヲ刺シテヤルヨッッ!!』
 暴走した精霊の叫びを聞きながらも、翔は自分のターンであることを宣言し、無言で、無表情でカードを1枚引いた。手札にある2枚のカードをしばらく見つめると、ゆっくりと翔は顔を上げ、精霊の方を見ると、小さく口を開いた。
「悪いな・・・、“てめぇ”に用は無いんだ・・・。――“死者蘇生”ッッ!!!」
 翔が引いたカードの内の1枚――それは、精霊が先程引いたカードと同じカードであった。そして、そのカードによって姿を現すモンスターもまた・・・精霊と同じく最強の戦士――。
 最強の戦士は、目の前に聳える自身と全く同じ姿をした戦士を睨みつけ、敵対の意志を見せるかのように剣を振り上げた。
「そして、2枚目ッ!――速攻魔法“突進”ッッ!!!」

アルカナ ナイトジョーカー 攻:3800→4500

 翔が次に発動したカードの効果を受け、最強の戦士はその「速度」を極限まで高める。そして、その速度を生かし、誰も見ることの出来ないスピードで、移動した。

「切り裂けッッ!!!」
 翔の叫びを合図に、最強の戦士は敵対する意志と称して振り上げていた剣をバッ――と振り下ろし、「偽者」である自身を切り裂いた。

精霊 LP:800→100

『ガッ・・・ハァ・・・!』
 衝撃が、精霊を一瞬で飲み込み、ボロボロにさせる――。

 互いのライフは残り100――。どんな小さな一撃をも、どちらかの「勝利」とどちらかの「敗北」に変える数値・・・。

翔  LP:100
   手札:0枚
    場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃)

「“お前”には用は無い・・・。けど、“お前の中”には用があるんだ・・・。さぁ・・・、見せてみろよ・・・!――お前の正体をよっ!!
 翔はボロボロになった体に鞭打って、疲労する精神を搾り出して、「無意識の内に」そう叫んだ。おそらく、翔は何故、精霊の「正体」と言ったのか、自分でもよく分かっていないだろう・・・。
 精霊もまた、その翔の言葉を聞き、ボロボロになっていた体を奮い起こし、大きく笑ってみせる。
『イイダロウ・・・。見セテヤルヨ・・・ッ!!』
 そして、精霊はカードを引くと、そのカード――「貪欲な壺」を発動させた。

貪欲な壺
通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 墓地のカード5枚を素早く選び出し、デッキに戻すとシャッフル――シャッフルを終えたデッキを再びデュエルディスクにセットし、その上からカードを2枚引いた。そして、その2枚のカードから放たれるのは、超融合に匹敵するほどの「闇」――。
『コレガァッ!!オレノ正体ダァアアアアアアアッ!!!』
 精霊は唾を吐き散らしながら、そう叫び、手札のうちの1枚のカードをバンッ――とデュエルディスクに叩きつけるように置いた。















―――――――“ファントム・オブ・カオス”ッッ!!!!















 闇――闇――闇――・・・。
 辺り一面に広がっていた全ての闇が集合し、1つの巨大な渦を作り出した。形を持たぬそれはまさしく「ファントム(幻影)」という言葉が相応しかった――。

「攻撃力・・・0・・・?」
 目の前に現れた闇の渦は、まさしく敵の切り札とも言えるモンスター――。当然、何らかの効果を持っているのだろうが、それでも攻撃力0というのは、意外中の意外。翔は思わず動揺してしまう。

『焦ルナヨ・・・。“オレ”ノ効果ヲ使ウノハ、コノカードヲ発動シテカラダ・・・』
 そう言って、精霊はもう1枚の手札であるカードを発動させた。

騎士道精神
永続魔法
自分のフィールド上モンスターは、
攻撃力の同じモンスターとの戦闘では破壊されない。

「“騎士道”・・・“精神”・・・?」
『ソシテ、“オレ”ノ姿ハ、“最強ノ戦士”ノ中ノ闇トナル・・・ッ!!』

 精霊がやや強い口調でそう言った直後の出来事であった――。

 闇の渦――幻影(ファントム)は、巨大な闇を発し、その闇に導かれるように、その姿を漆黒に包まれし最強の戦士へと変化させた――。

ファントム・オブ・カオス(アルカナ ナイトジョーカー) 攻:0→3800

「なっ・・・!?“アルカナ ナイトジョーカー”に・・・なった・・・!?」
『ソウ・・・。コレガ、“オレ”ノ能力――』
 精霊のそんな言葉と共に、漆黒に包まれた戦士と精霊自身の姿が重なり、融合とはまた違った「共鳴」を始めた――。
 そして、一瞬のドス黒い輝きと共に、戦士と精霊は「1つ」になった――。
“模写”・・・。墓地に眠るモンスターの“闇”を、自分の力に変換する能力だ・・・ッ!』

ファントム・オブ・カオス
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0
自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。

 戦士と精霊の放つ闇は、先程覆われていた闇よりも濃く、それこそ息が出来ないくらいだった・・・。だが、翔の左腕に装着された白きデュエルディスクが、それを食い止め、翔の姿を明るく照らし続ける――。
「“闇”がなんだ!オレはもう・・・、負けない!!――仲間達が・・・、支えてくれる限りなッッ!!!」
 翔の頭を駆け巡るのは、数多くの仲間達と、未だ心を開いてくれないアンナ、そして自分に勇気と光を教え、ゴーグルを託してくれた・・・ゼオウ――。
『だが!貴様は負けるッッ!!!――“闇(オレ)”の中で永遠に苦しみ続けるがいいッッ!!』

 漆黒に包まれた最強の戦士が、光を手にした最強の戦士目掛けて切り掛かった――。

 2つの刃が少しずつ、少しずつ・・・、最強の戦士へと近づいていく・・・。
 だが、翔は退くことなく、一歩前に出て口を開いた。
「負けないって言っただろうッ!!?墓地に眠りしモンスター――“シールド・ウォリアー”の効果発動ッッ!!!」
『なっ・・・!?また・・・、墓地の・・・!!?』

ブゥンッ・・・

 次の瞬間、翔のデュエルディスクの墓地ゾーンから1枚のカードが弾き飛ばされたかと思うと、そのカードから放たれた光が、翔の目の前にいた最強の戦士を包み、鎧となった。

「――行っっけぇええええええええええええっッ!!!!

『――切り裂けぇえええええええええええええっ!!!!

 全く同じ2つの声が重なった事で、辺り一面全てを吹き飛ばすほどの衝撃を発生させた――。
 そして・・・、それを超える衝撃が・・・、今――





――――シャイニング・ブレード!!!



――――ダークネス・ブレードッ!!!





発生する――。


 強大な衝撃が、全てを吹き飛ばし、薙ぎ払い、翔と精霊の2人の視界を一瞬だけ奪い去った。
 ――視界が戻った今、目の前に広がるのは、漆黒に包まれた最強の戦士と、光の鎧に包まれた最強の戦士、そして精霊の場で発動されている1枚の魔法カードであった。
 また、互いのライフに変化は無い――。

翔  LP:100

精霊 LP:100

シールド・ウォリアー
効果モンスター
星3/地属性/戦士族/攻 800/守1600
戦闘ダメージ計算時、自分の墓地に存在するこのカードを
ゲームから除外して発動する事ができる。
自分フィールド上に存在するモンスターはその戦闘では破壊されない。

 その後、漆黒に包まれた最強の戦士の姿は先程の闇の渦となって、精霊と分離し、もう一方の最強の戦士を包んでいた光の鎧もまた、静かに消滅した――。

精霊 LP:100
   手札:0枚
    場:ファントム・オブ・カオス(攻撃)、騎士道精神

「オレの・・・、ターン・・・」
 満身創痍の状態で、翔はゆっくりと1枚のカードを引いた――。
 既に翔の目の前にいる精霊は、顔をくしゃくしゃに歪めながら、悔しがることしか出来なかった――。

(闇の精霊――“ファントム・オブ・カオス”よ・・・。今・・・、この場から消し去ってやる・・・!)

「“アームズ・ホール”発動――。・・・デッキの一番上のカード1枚を墓地に送ることで・・・、デッキ、もしくは墓地の装備魔法を手札に・・・加える・・・!」
 翔はそう言うと、デッキの一番上のカードを1枚ピッ――と取り出すと、丁寧にそれを墓地に送った。その後、カードの効果に乗っ取って、デッキの中から1枚のカードを手札に加えた。

アームズ・ホール
通常魔法
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送り発動する。
自分のデッキまたは墓地から装備魔法カード1枚を手札に加える。
このカードを発動する場合、このターン自分はモンスターを
通常召喚する事はできない。

 そして、翔はその手札に加えたカードを、最強の戦士に装備させた。
「――装備魔法・・・“ライトイレイザー”・・・。こいつを装備したモンスターと戦闘を行ったモンスターは・・・、除外される・・・ッッ!」
『――ッ!!?・・・ヤ・・・、止メロ・・・ッッ!!!』

ライトイレイザー
装備魔法
光属性・戦士族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターと戦闘を行ったモンスターを、
そのダメージステップ終了時にゲームから除外する。

 精霊が汗だくになりながら、翔のカード発動と、攻撃宣言を阻止しようとする。だが、依然として翔はそれを止めようとせず、ゆっくりと手を前に出した。
「“お前”に・・・用は無い、って・・・言った・・・だろ・・・?」
 翔の一言と同時に、最強の戦士は、光の刃を片手に上空へと舞い上がり、闇の渦を精霊ごとバシュッ――と一刀両断にしてみせた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 巨大な闇が、浄化されるかのように空高く舞い上がり、辺りの景色も真っ暗な闇ではなく、最初の教室になっていた――。

 翔の目の前には、闇が浄化されたことで解き放たれた「優しき」精霊がいた――。
 その姿を見て、翔はフッ――と小さく笑ってみせた。




第41章 帰還――再び集う者達

 ボロボロになった翔の目の前には、気絶している精霊がいた。

 ――全てが終わった・・・。

 白き翼のデュエルディスクも、その終わりを感じ取り、籠手(ガントレット)となって、翔の左手を肘辺りまでを覆った。
『うっ・・・』
 そんな時、精霊が意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。すぐに状況を理解すると、バッ――と立ち上がって、翔の方を見た。そして、消えゆく自分の右腕を見て、つぶやくように口を開く。
『そうか・・・。オレは・・・、負けたのか・・・』
「あぁ・・・」
 精霊のそんな姿を見て、翔は味気の無い返事をしてみせた。

『消える前に・・・、1つだけ聞かせてくれないか・・・?――何でお前は・・・、“オレ”がお前の心の闇ではなく、お前の心の闇を写した存在だということに気づいたんだ?』
 精霊のそんな疑問に、翔は悩みながらも、頭の中で必死に言葉を繋ぎ合わせ、はっきりとした口調ではなかったが、答え始める。
「たとえ・・・、どんな性格であったとしても、お前はオレの“心の闇”だ・・・。――少なくとも、オレは、デュエルの序盤はそう思っていた。だが、“心の闇”だとしても、根本は変わらない筈、そう考えた・・・」
 翔のそんな考えに矛盾した出来事――それが、今回のデュエル中に何度かあった。一番の良い例が、「絵札の三銃士」の扱い方、と言ってもいい。
『――成る程な・・・』
 翔は本当に伝わったのか、と思ってしまうが、精霊のその言葉を聞いて、一安心した。
「・・・で、次はオレからの質問――。お前、途中から・・・、“性格”――?・・・が、複数になっていたよな?」
 何と言えば良いのか分からなくなっていた翔は、首を傾げながら、精霊の「変化」に対しての疑問をぶつけた。それに対する精霊の返答は、翔とは違い、淡々としていた。
『それは、お前が闇を押さえ込んだせいだ。――本来、闇は1つじゃない。無数にある、何らかの原因から来る負の感情が、1つの闇となるんだ。だが、お前がその闇を抑えたことによって、1つの闇は、バラバラの感情になってしまった――。だから、オレみたいな、お前によく似た性格(感情)を持つ奴がいれば、お前がデュエルした奴みたいに、デュエルに飢えてしまった“怒り”だけの感情を持つ奴がいた――』
 若干長い説明ではあったにしろ、翔はなんとなくではあったが、精霊の伝えようとしていたものを掴み取った。
 気がつくと、精霊の体の消滅は刻一刻と進行していた。
『・・・そろそろ時間だ・・・』
 そう言うと、精霊は自分のデュエルディスクからデッキを取り出し、翔に投げつけるようにして渡した。翔は何とかそれを受け取る。
「・・・これは?」
『お前は、オレに勝ったんだ・・・。そのデッキを使って、更に強くなってくれ・・・』
 小さく笑って、精霊はそう言った。
 精霊の言葉を聞きながら、翔は精霊のデッキを見つめた。その一番上には、「ファントム・オブ・カオス」のカードがある。
『――それともう1つ・・・。久しぶりに会話が出来たんだ――褒美として、“忠告”してやる』
 急に深刻な表情になる精霊を見て、翔はつられて深刻な表情になってしまう。
『気をつけろ・・・。お前の中には、オレでも写すことの出来なかった“深淵の闇”がある・・・』
「・・・“深淵の”・・・“闇”――?」
『お前は“それ”を、無意識の内に自分の心の奥底に封印しているが、その封印はいずれ消える・・・。いや、解かれる、と言うべきか。・・・とにかく、それがお前に何をもたらすかまでは分からない――だが、もう一度言う、気をつけろよ――。その闇がお前の力になることだけは・・・、絶対に無いからな――』
 精霊は、小さく身震いしながらそう言った。それだけ、翔の奥底に眠る闇が強大だということだ――。
『そして、おそらく“その闇”を引き出す鍵は・・・、“超融合”だ――。だから・・・、あのカード・・・だけは・・・、もう2度と・・・使う・・・な・・・よ・・・』
 そして、精霊は翔の返事を待たずして、光の粒子となり、静かに消滅した――。

 それと同時に、「最後の扉」もまた消滅し、翔は森の中にポツンと取り残されてしまう・・・。

「――あぁ・・・、じゃあな・・・“オレ”――」
 取り残された中で、翔はつぶやくように、そう言った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 場所は変わり、レジスタンスのアジト――。
 そこは、翔がデュエルを行っている間も、神也達がここに向かっている間も、ずっと交戦状態であった。今では、ゼオウ以外のほぼ全員の兵士が倒れ、ゼオウただ1人が、まだ倒れていない傷だらけの兵士を庇いながら、デュエルを続けていた。
 今、ゼオウとデュエルを行っている者は、合計で5人――。ゼオウや兵士達が倒してきた者を含めると、約30人・・・。だがしかし、まだ控えている者達を含めると、敵の数は優に100を超えていた――。

「ヘヘッ・・・!“マジック・ストライカー”でゼオウにダイレクトアタックだッ!!」
 1人の黒ずくめの者が叫ぶと同時に、小柄な鎧を着けた小さな戦士が、全速力でゼオウの目の前まで駆け、ゼオウの体をバシュッ――と切り裂いた。

マジック・ストライカー
効果モンスター
星3/地属性/戦士族/攻 600/守 200
このカードは自分の墓地の魔法カード1枚を
ゲームから除外する事で特殊召喚する事ができる。
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
このカードが戦闘を行う事によって受けるコントローラーの
戦闘ダメージは0になる。

「グゥッ・・・!!」

ゼオウ LP:1200→600

 ゼオウは既に限界であった――。
 兵士を庇いながらの戦いのせいで、自分の力を最大限に発揮することが出来ず、また大勢の者と連続でデュエルをしてきたことによる疲労が、ここに来てピークを迎えていたからだ・・・。
 手札の枚数も既に0枚・・・、自分の場にカードは1枚も無く・・・、次に訪れるターンはゼオウではなく、更なる敵――。
「オレのターン――ドローッ!!」
 そして、敵が引いたカード――それは・・・。
「じゃあな、老・い・ぼ・れ――ッ!!」
「――・・・?」
「魔法カード――“火炎地獄”ッッ!!!」

火炎地獄
通常魔法
相手ライフに1000ポイントダメージを与え、
自分は500ポイントダメージを受ける。

黒ずくめα LP:800→300

 全てを焼き消す炎の海が、ゼオウ目掛けて放たれた――。
 ゼオウの視界は既に焦点が合っておらず、目の前まで迫ってきている炎の海の存在さえ、ゼオウは把握出来なかった・・・。
 ただゼオウは、頭の中で再生され続ける映像を、ぼやける目の前に映し出していた――。


 ――神の名を受け継ぎし者達の後ろ姿・・・。


(頼んだぞい・・・、みん・・・な・・・)
 ゆっくりとゼオウは目を閉じた――。何かを悟ってのことだろうか・・・?

 兵士達が、「逃げてください、ゼオウ様」と、何度も何度も必死に叫ぶが、その声はゼオウには届かなかった――。ゼオウを庇おうとするが、兵士達の体は、糸の切れた操り人形の如く、動かなかった・・・。




「希望は・・・、君達の・・・中・・・に・・・」
















―――リバースカード、オープンッッ!!!!















 聞こえてきたのは・・・、少女の声であった――。

「な・・・、何ぃっ!!?」
 その瞬間、全ての炎がゼオウではなく、敵を飲み込み、敵のライフを瞬く間に0にしてしまった――。
 ゼオウの目の前で発動された1枚のカード――それは、地獄の扉越し銃・・・。

地獄の扉越し銃
カウンター罠
戦闘ダメージ以外のダメージを与える効果が発動した時、
自分が受けるダメージを相手に与える。

「こ・・・、この・・・カード・・・は・・・?」
 ゼオウはゆっくりと目を開け、太陽の光を浴びている事で、輝いて見える5人を見つめた――。ゼオウの両目は、全てをぼやけさせる・・・。だが、その5人だけは・・・、はっきりと見せてくれた・・・。


「遅くなったな・・・、王様――!」
 少女の次に言葉を発したのは、少年。少し偉そうな口振りではあったが、彼はどんな物事にでも「勇気」を持って前に立てる・・・心優しき少年だ――。


「ここからは・・・、私達が――っ!」
 少年の隣に立つ髪の長い少女が、少女らしからぬ大声でそう言った。彼女は、光と闇を纏いし、「混沌」の力を身につけた少女だ――。


「ボク達は・・・、強くなった!!」
 気弱だった少年が、自分の中に眠る「戦士」の魂を揺さぶり起こし、今までに出したことの無いような叫びを上げた――。

「だから私達は・・・、負けない!」
 気弱だった少女が、気弱だった少年の隣に立ち、どんな「次元」をも支配するかのような大声で叫んでみせた――。

 ――そして・・・、ゼオウの目の前でカードを発動させた少女が、口を開いた・・・。

「行くわよ・・・、みんな――!」
 少女は、全てを「光」へと導く透き通った声で、言葉で、そう言った――。

「「「「おう!!!」」」」

 少女の言葉と共に、残りの4人を含め、5人全員がそれぞれの持つ装飾品を手に取り、力を込める。そして、叫ぶ――。



―――――“決闘準備(スタンバイ)”ッッッ!!!!



 解き放たれたのは、5人それぞれの力(デュエルディスク)――。

「オレのターン!――現れろッ!“神獣王バルバロス”ッッ!!!」
「召喚ッ!!――“熟練の黒魔術師”ッ!!」
「行くよ・・・、“宝玉獣 サファイア・ペガサス”ッ!!!」
「現れて・・・ッ!――“異次元の生還者”ッッ!」
「行くわよ・・・!――“豊穣のアルテミス”ッッ!!」
 5人は、それぞれの左腕に宿りし力(デュエルディスク)に、それぞれの魂を乗せた。その魂はモンスターとなりて、彼等を守るために、その姿を現した――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「大丈夫ですか、ゼオウ様?」
 5人に少し遅れてアンナがこの場に到着した。
 到着すると、アンナは真っ先にボロボロになったゼオウの下へと駆け寄った。
「あ・・・、あぁ・・・。ボロボロじゃけどな・・・」
 深刻すぎるアンナの表情を見るに耐えなくなったのか、多少のギャグを交えたつもりで喋ったゼオウであった。だが、アンナの目の前にいるのは、ギャグなどでは掻き消すことの出来ない程、ボロボロになっていたゼオウ――。
「このまま、横になっていて下さい・・・」
 アンナは何とか笑おうとするゼオウをゆっくりと寝かせた。だが、ゼオウはアンナの介抱を無視するかのように、立ち上がろうとする。
「グッ・・・、あの子達・・・だけでは・・・!」
「ダメです、ゼオウ様――」
「しかし・・・、あの子達だけで、これだけの数を相手に出来るわけが・・・!」
 ゼオウは、立ち上がれない自分を不甲斐なく思い、せめてもとグッ――と手を伸ばそうとした。アンナはその手をゆっくりと握ると、強い瞳でゼオウを見つめた。

「安心して下さい――。彼等は、強くなりました・・・。おそらく・・・、私以上に――」
 その声は、今までの「怒り」や「恨み」を持ったアンナとは、全く別のものであった。その声の変化に、ゼオウは一度は呆気に取られてしまうが、すぐに納得し、「そうか・・・」と小さくうなずいた。
 そんな時、ゼオウは不思議なことに気づいた――。
「クリア・・・、いや翔はどうしたのじゃ?――どこにも見当たらないが・・・」
「神崎 翔は今、闇の精霊とのデュエルの最中です・・・」
 ゼオウの問いに、アンナが渋々答えた瞬間、ゼオウは血相を変えて、力強くアンナの両腕を握った。――自分のボロボロな体に、激しく鞭打って・・・。
「・・・どういうことじゃ・・・ッ!?何故、1人にさせた・・・!?分かっておるじゃろう・・・?――闇の精霊は、相手の心の闇を写し、その姿で相手を困惑させ、飲み込もうとする・・・。仲間の支えがなければ、勝てぬ相手じゃぞッッ!!?
 ゼオウはそう叫ぶと、すぐに自分の体の痛みに耐え切れず、倒れこんでしまう。ゼオウのそんな姿を見て、一度は顔を背けようとするアンナではあったが、すぐにアンナはゼオウを再び見つめ、口を開いた――。
「確かに・・・、彼を置いてきてしまったのは、私の責任です――。・・・しかし!神崎 翔なら大丈夫です・・・。必ず・・・、戻って来ます・・・」
「・・・何故、そう言い切れるのじゃ・・・?」
 ゼオウの乱暴な口調を聞きながらも、アンナは言葉を続けた。目を閉じ、そっと胸に手を当てて・・・。





「彼等と―――、約束を・・・したからです・・・





 その言葉は確かに、アンナの変化を表していた――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて・・・、そろそろ行くかな・・・」
 そう言って、翔は森の中心で辺りを見回した――。

 仲間達が戦っているのに・・・、自分だけ休んでるわけにはいかない・・・。

 そんな思いが、翔の全身を駆け巡っていた。


ドォンッ!!!


 そんな時、レジスタンスのアジトの方角にて、巨大な爆発が再び発生した――。神也達が、デストロイドの第3部隊と戦い始めた音であった・・・。既に戦いが始まっている事に気づくと、翔は急ごうとする。
「ヤバイ!早く行かねぇと・・・!!」
 だが、すぐに問題点にぶつかってしまった。

 ―――距離と、時間。

 翔が今いる森から、レジスタンスのアジトまでは、かなりの距離があるのだ(ちなみに、翔と精霊のデュエル時間は、短いように見えて、実はかなり長かったのだ。そのため、神也達は、翔のデュエル終了と同時に、到着出来たのである)。
(どうすればいい・・・!?走っても、40分くらいは最低でも掛かりそうだし・・・!!)
 焦りが、更なる不安を生み、翔は頭を掻き始め、ボサボサである彼の髪は、更にボサボサになってしまった。
 考えろ、考えろ、考えろ、・・・・・・、――。
 そして、翔の頭の中に、有里が戦った天使の言葉が再生された――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その「8大精霊」には、天使が持っていた「力」が授けられていた。

 それが、「現実干渉能力」――。(〜中略〜)この「現実干渉能力」を持っていると、デュエルディスクを介さなくても、自分の意思、もしくは所有者の意思で実体化、及び現実に干渉することが可能となる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「――これだッッ!!・・・そうと決まれば・・・、“決闘準備(スタンバイ)”!」
 再生された天使の言葉で何かを思いついた翔は、自分の叫びと共に、籠手(ガントレット)を白き翼のデュエルディスクに変化させた。そして、自分と精霊のデッキを組み合わせ、新たに誕生したデッキから1枚のカードを取り出すと、それをデュエルディスクにバンッ――と叩きつけるように置いた。

「現れろッ!!――“〜〜〜〜〜・〜〜・〜〜〜”ッッ!!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「全てを蹴散らせッ!――“古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)”ッッ!!」
 黒ずくめの者が場に出したのは、古より伝わる機械で作られし巨人(ゴーレム)――。ゴーレムは、姿を現すと同時に、その巨大な腕をグッ――と振り上げ、その勢いを留めることなく、一気に地面へと叩きつけようとする。
 迎え撃つのは、神也の目の前で、大量のモンスターを喰らい、攻撃力を高めた強欲の悪魔――。
「舐めるなよッ!!迎え撃て――“グリード・クエーサー”ッッ!!!」
 強欲の悪魔は、自身の腹部に宿る巨大な口を開き、全てを飲み込む炎を吐き出そうとする。だが、その炎が出ることは無かった――。

 そして、神也の疑問と同時に、強欲の悪魔は無残にも砕け散った・・・。

「グッ・・・!!」

神也 LP:3300→300

 神也は衝撃を受けながらも、倒れることなく立ち上がり、辺りを見回した。そして見つけたのは、相手の仲間である敵が、全てのモンスターの効果を無とするカードを発動していた、という光景であった。
「チッ・・・、“スキルドレイン”・・・か・・・」
 神也は思わず、舌打ちをしてしまう。だが、そんな些細な余裕を薙ぎ払うかのように、次なる敵の攻撃が、神也を襲おうとしていた。
「まずは1人目だな・・・。――“闇の侯爵ベリアル”ッッ!!」
 漆黒の翼を背に生やし、漆黒の大剣を手に取った悪魔が、その剣を神也目掛けて勢いよく振り下ろした。
 神也は何もすることが出来ず、ゆっくりと目を閉じようとする。

 だが、それを止めたのは、その隣でデュエルを行っていた少女の叫び――。

「何やってんのよ、神也!!」
 その少女――加奈の叫びを聞き、神也はハッと我を取り戻すかのように目を見開いた。そして、改めて見たものは、加奈が混沌の力を受け継いだ魔術師を携え、敵の悪魔の剣を防いでいる、という光景であった。
「加奈――・・・。それに・・・、“混沌の黒魔術師”・・・」
「ただでさえ、人数で負けてるっていうのに、あんたが倒れてどうするの!?・・・立ちなさいよッ!シャキッとね!!」
 加奈の次なる叫びに反応して、その魔術師は滅びの呪文を唱え、悪魔の姿を掻き消した。それと同時に、悪魔の主である黒ずくめの者は、ライフ0となり、パタリと倒れてしまった。
 そんな光景を目にしながら、神也は別のことに気がかりになっていた・・・。

加奈 LP:200

(オレよりもライフが少ないのに・・・、威張りやがって・・・ッ!!)
 神也は、自分よりも少ないライフである加奈の姿を見て、何を思ったか、デッキの上に手を置き、ビッ――と力強くカードを1枚引いた。「うるせぇなぁっ!!」と、笑顔で叫びながら・・・。その笑顔を見て、加奈もまた、小さく笑った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

神童 LP:1000

真利 LP:700

「大丈夫・・・?」
 七色の光を放つ龍を携えながら、神童は自分の隣でボロボロになっている真利に声をかけた。
「うん・・・、何とか・・・ね」
 真利は何とか笑顔を取り繕って、神童に心配をかけさせまいとする。だが、神童はその姿を見て、余計に胸を苦しめた・・・。

「隙アリィッ!!!」
 そんな時、彼等より少し離れた後方から、黒ずくめの者の快楽の混じった叫び声が聞こえてきた。
「なっ・・・!?」
「消えろ、小娘ェッ!!――“ジャイアント・ボマー・エアレイド”で、“光帝クライス”に攻撃ッ!!!」
 黒ずくめの者の叫びに応じるかのように、空襲を得意とする機械のバケモノは、真利の目の前で彼女を守っていた、光の鎧を纏った帝王を破壊した。当然、その時の衝撃は、帝王の主である真利を襲い、ダメージを与えた。

真利 LP:700→100

「チッ!100ポイント、残っちまったか・・・!」
 悔しそうにそうつぶやいた黒ずくめの者を見て、神童は心の底から湧き上がる「何か」を隠せずにいた・・・。――「怒り」・・・。
 そして、神童は黒ずくめの者と、黒ずくめの者の目の前で聳える機械のバケモノを見つめた。全ての動作を見抜くために・・・、――真利を守るために・・・。

「許さないぞ・・・!――ボクは、カードを1枚セットし・・・!!」
 神童は、怒りのままに、手札のカード1枚を抜き取り、バンッ――と前に出した。だが、次の瞬間に訪れた光景は、そのカードが弾き飛ばされたものであった。

神童 LP:1000→200

「ヒャハハハハッ!!・・・知らないのか?“ジャイアント・ボマー・エアレイド”は、その効果によって、相手がセットしたカードを破壊し、800ポイントのダメージを与えることが出来るんだぜぇ!!?」
 無残にも弾き飛ばされた神童のカードを見ながら、黒ずくめの者は、腹を抱え、人目を気にすることなく、笑い続けた。
「・・・知ってるよ?」
「・・・アァア!?」
 だが、神童の何気ない一言が、黒ずくめの者の笑いを止めた。
「それに・・・、召喚・特殊召喚の時も、それと同じように破壊して、ダメージを与えられるんだよね?」
「あ・・・、あぁ・・・」
 少しずつ動揺を見せ始める黒ずくめの者を見て、神童は思わず笑ってしまった。
「ゴメンね。セットしたカードは囮なんだ。――魔法カード、“融合”発動ッ!!」
 その笑みと共に、神童は、長年使い込まれた1枚の魔法カードを発動した。
 そして、そのカードの発動と同時に、神童の頭を駆け巡ったのは、ヒーローとのデュエルの後、翔と話した時のことであった――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あの、これ・・・」
 神童は、ヒーローとのデュエル直前に紛れてしまった2枚のカードを、翔に返そうとしていた。そんな神童の姿を見て、翔は1枚だけを受け取り、もう1枚のカード――融合だけは、神童に手渡した。
「え・・・?」

「受け取っとけよ。オレからの、些細なプレゼントだ。――お前が、みんなを救う“戦士”になれますように、っていうオレの“思い”の篭った、な」

 翔の言葉を聞いていた有里が、隣で「何で、アンタのセリフは、所々クサい訳?」と言っていた・・・。
 だが、そんな言葉、神童の耳には入っていない――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(みんなを救うのは、無理かも知れない・・・。でも、目の前で傷ついている真利ちゃんだけは・・・、絶対に・・・ッ!!!)
 神童の怒りと、意志を受けて、龍と戦士が重なった、虹の戦士が姿を現した――。

「行くよ、“レインボー・ネオス”!――レインボー・フレア・ストリームッッ!!!

 全てを飲み込む光の一撃が、黒ずくめと、黒ずくめの目の前で聳える機械のバケモノを消し去った――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 アンナを含む、神の名を受け継ぎし者達が、優勢のように見えた――。
 だが、そうではない。

 圧倒的な「数」の差が、次第に彼等を苦しめ始める・・・。

「キャッ!!」
 黒ずくめの者のカード効果を受け、有里が吹き飛ばされてしまう。

有里 LP:950→150

「ヘッヘッヘッヘッ!!」
 吹き飛ばされた有里に追い討ちをかけるべく、有里にダメージを与えた黒ずくめの者は、全身を鎧で固めた戦士を携えて、攻撃を仕掛けた。だが、それを防ぐべく、1人の少女が、有里と戦士の間に立った。
「――“ネフティスの鳳凰神”ッッ!!!」
 そして、その少女は金色の鳳凰を出現させ、その炎を使い、戦士を黒ずくめの者ごと薙ぎ払ってみせた。

「大丈夫?――神吹 有里・・・!」
 黒ずくめの者が倒れたことを確認すると、その少女――アンナは、倒れた有里に手を差し伸べた。今までのアンナとの態度の変化に、一度は困惑するものの、有里は「大丈夫よ」と囁くように言って、差し伸ばされた手をギュッ――と握った。そのままアンナの力を借り、有里はふらつきながらも、何とか立ち上がった。
「ねぇ、アンナ・・・。こんな時に言うのも何だけどさ・・・。“それ”、止めてくれない?」
「え?」
「私達を“フルネームで呼ぶ”の。ここに来る途中でも、“神崎 翔”って言ってたじゃない?」
 有里は、疲れた自分を一時的にでも忘れるようにと、全く違った話題をアンナに振った。アンナは、突然の有里の話題に、少し驚くが、有里の辛そうな表情を見て、自分の心が締め付けられていくのを感じ取った・・・。
「そういうのは良くないよ・・・。だって・・・、何となくだけど・・・、私達の間に・・・、“距離”があるような言い方っぽいし・・・さ」
 フラッ――と有里が倒れそうになった時、何処からか叫び声が聞こえてきた。


「詰めが甘いんだよぉォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 それは、先程倒れた黒ずくめの者の叫びであった。彼はまだ、ライフが0になっていなかったのだ・・・。
「――ッ!!?」
 有里は黒ずくめの者の叫びを聞き、彼が次に出したモンスター――雷を操る戦士が、自分の下に向かってきているのを感じ取った。だが、有里の体は、精神は、彼女を逃がすことを拒んだ・・・。


ザンッ!!!!


 そして、「何か」が切り裂かれた――。
 その何かの切り裂かれた箇所からは、見ただけで吐き気がするほどの量の血が噴き出してきた――。

「――ッ・・・!アンナッ!!!」

 切り裂かれたのは、咄嗟の判断で有里を庇ったアンナであった。

アンナ LP:2850→50

 体中の血という血が、ほぼ全て奪われてしまったアンナは、足に力を込めることが出来ず、バタリ――と倒れてしまう。そんなアンナの姿を見て、有里はすぐに駆け寄り、彼女を介抱しようとするが、噴き出し続ける血は、留まることを知らず、このままでは危険であった。今すぐにでも、アジトに戻り、治療を受ける必要がある――。

 ―――だが、出来なかった・・・。

 目の前には、自分が傷つけられたことで怒り狂っている黒ずくめの者が、更なる攻撃宣言をしようとしていた。おそらく、雷を操る戦士は、何らかの装備魔法の効力を受け、2回攻撃が出来るようになっているのだろう。

「さぁ・・・、もうお前等は終わりだ・・・!」
 黒ずくめの者の言葉は、アンナと有里だけに向けられたものではなかった――。

 少し離れた所では、神也と加奈が互いを庇い合うかのように倒れていた。
 更に離れた所では、神童と真利が互いを庇い合うかのように倒れていた。

 そんな彼等の姿を見て、有里の目からは、涙が流れていた・・・。

「泣いても無駄だぜ・・・?――もうお前達は消えるんだ・・・。1人でも残っていれば、邪神に力を注ぎこめるしな・・・」
(“1人”・・・?)
 黒ずくめの者の絶望を呼び寄せるような言葉を聞いて、有里は頭の中で「1人の少年」を思い浮かべた・・・。それは、まだここに辿り着いていない人物――。
「・・・げて・・・」
 その少年を思い浮かべている有里に投げかけられた、アンナからの言葉――。


「私のことは・・・、気にしなくて・・・いいから・・・。・・・逃げて・・・、“有里”――」


 ギュッ――と、アンナの衣服を掴む有里の力が強くなった。そして、有里の目から流れる涙の量が増えた・・・。

(遅いのよ・・・!)

 黒ずくめの者が、ゆっくりと地面を踏みしめながら、有里とアンナの下に近づいてくる・・・。

(早く・・・来てよ・・・!!)

 次第に、有里の耳に入ってくる足音が、大きくなっていく・・・。

(もう・・・、あなたしか・・・いないのよ・・・ッ!!)

ザッ・・・
 黒ずくめの者が、有里とアンナを冷徹な目で見下ろしている。やがて、彼は右手を前に出し、人差し指で有里とアンナを指した――。

「殺れ・・・、“ギルフォード・ザ・ライトニング”――」

 戦士の握る剣がグワッ――と勢いよく振り上げられ、そして彼女等目掛けて、振り下ろされる・・・。





「早く来てよ、翔――――――――――――――――――――――――――ッッ!!!!!



 

 その時であった・・・。
 ガキィンッ――という、金属と金属のぶつかり合う音が、レジスタンスのアジト一帯を響かせた・・・。


 そこには、「1人の少年」と「漆黒に染まった最強の戦士」の後ろ姿があった。


「遅くなったな・・・、有里――」
「うん・・・」
「でも・・・、安心してくれ・・・。もう誰も・・・、傷つかないから――ッ!!」
「うん!」
 全てを受け止めるような笑顔を見せる少年と、その少年の到着に喜び、涙を流す有里の会話――。

 その会話の直後、雷を操る戦士は無残にも切り裂かれ、その姿を消した。

 これまでの突然の出来事を見て、黒ずくめの者は怯えるかのように体を震わせ、バタン――と倒れこんでしまう。
「だ・・・、誰だ・・・?お前――!!」

 黒ずくめの者の震える声を聞いて、その少年はゆっくりと口を開いた。









神崎・・・翔だ――ッッ!!!









 その少年の言葉は、傷つき、ボロボロになった彼等の心を、一瞬にして「希望」で満たした――。




第42章 2人の兄――2人の妹

「だ・・・、誰だ・・・?お前――!!」
 体を震わせながら怯える黒ずくめの者が、聞いてきた。
「遅いわよ・・・、バカ・・・」
 そんな言葉を他所に、有里は涙を自分の袖で拭きながら言った。


「神崎 翔だッ!!!――」


 黒ずくめの者の疑問に答えるように、有里の喜びに応えるように、翔はそう叫んだ。その後、すぐに目に留まったのは、アンナの血を流し、ボロボロになっている姿だった。
「あ・・・、アンナ・・・?」
「アンナは・・・、私を庇って・・・!」
 翔の驚いた表情を見て、有里は涙が残る顔のまま、そう言った。その有里の言葉を聞くと、翔は「そうか・・・」と少し暗い表情で言い、黒ずくめの者の方を向いた。

「――アンナを今すぐに、アジトへ。――それに・・・、他のみんなも頼む」
「分かったけど・・・、翔は!?」
 翔の切実な言葉に応えようとする有里ではあったが、目の前に広がるのは、未だ大勢の黒ずくめの姿――。翔の無茶な考えをすぐに読み取り、焦りながらそう言った。
「オレのことなら気にするな・・・。――リバースカード、“強制脱出装置”!」
 翔は有里の心配そうな表情をチラリと見ると、笑顔でそう言った。そして、ここに来る前に伏せておいたカードを発動させ、漆黒に染まった最強の戦士を手札に戻した。
「これだけの数だよ!?――私も一緒にッッ!!」
「お前は他のみんなを助けられる・・・。でも、ライフは少ない――。だから、戦っちゃダメだ!」
 有里の決死の叫びを聞くも、翔はそれを断固として拒絶する。その態度を見て、有里もむきになってしまう。
「何で!?ライフが少なくても、戦える・・・!私は・・・、私は・・・ッッ!!!」
 その時、翔は自分の手を有里に向けて伸ばし、有里の言葉を止めさせた。
「今、まともに動けるのはオレ達だけ・・・。だったら、ライフが多いオレが戦って、ライフが少ないお前がみんなを助けるのは、当然だろう・・・?」
「そ・・・、そうだけど・・・!」
 そして翔は、再び振り返り、真剣な眼差しで有里の方を見た。
「今オレは・・・、本気で怒ってるんだ・・・!!だから・・・、オレにやらせてくれ・・・っ!」
 そんな状態での翔の言葉は、今にも怒りで破裂しそうな彼の感情を抑えながら発せられたもののように感じ取れた。
 有里は、翔の表情を、言葉を聞き、小さくうなずいて、アンナを「よいしょ――」と、アンナが痛がらぬように背負った。
「分かったよ・・・。でも・・・、“約束”――。勝っても負けても・・・、どっちでもいい・・・。ただ――、死なないでね」
「あぁ――。任せておけ・・・!」

ダッ――

 有里はその翔の言葉を聞いたと同時に、全速力でアジトに向かって走り出した。
 その瞬間、翔の目の前にいた黒ずくめの者が、再び怒りむき出しの状態で、ゆっくりと立ち上がっていた。
「てンめェ・・・。――オレを無視して、話を進めてんじゃ・・・」





――――クィーンズ・セイバー・クラッシュ!!





 それは、「刹那」という単位が使えるほど、一瞬で終わった・・・。
 黒ずくめの者が立ち上がろうとしている中で、翔は素早くモンスターを召喚、そのモンスターで攻撃し、相手のライフを0にしたのだ。

「似たような意味かも知んねぇけど・・・、“無視”じゃねぇ。――“眼中に無かった”んだよ」
 そう言うと、翔は自分が出した赤き鎧を身に纏った女戦士と共に、敵が大勢いる下へと走り出した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「翔・・・なのか・・・?」
 辛うじて意識を失っていなかった神也が、上半身だけ起き上がらせ、何とか口を開いてそう言った。その言葉を聞いて、目を開けた加奈が、神也と同じように起き上がり、彼に続いて口を開いた・・・。
「ナイスタイミング・・・、って奴なのかな?」
 そして、加奈は首を少し傾けた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「真利ちゃん、真利ちゃん――」
 何とか目を覚ました神童は、倒れていた真利を揺すって起こした。
「ぅん・・・?――あれ・・・、翔くん・・・?」
 真利は起きた後、神童が指差す方向を見て、つぶやくようにそう言った。


 まだ・・・、希望は潰えてはいなかったのだ・・・。


ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
 翔の叫び――。
 その叫びと共に、翔を守るように陣を組んで立っていた3体の戦士が、それぞれが手に持つ剣を振り、次々とモンスターを、黒ずくめの者を薙ぎ払っていった。
「な、何だこいつ・・・!?」
「違ぇ・・・。さっきまでの奴等と・・・、何かが・・・ッ!!」
 黒ずくめの者達は、自分達の無力さを痛感すると同時に、翔から発せられる何らかの力に怯え、思わず口を滑らせてしまっていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

バシュッ!!!

 そして、最後の一閃――。
 最強の戦士の剣が、残った黒ずくめ1人が場に出したモンスターを切り裂き、黒ずくめの者は倒れた――。
「ハァ・・・ハァ・・・」
 そこには、自分達の切り札が倒され、ライフを0にされ倒れる大勢の黒ずくめの者達と、彼等全てを薙ぎ払い、息を荒くする翔がいた。
 翔は、自分の左腕に装着されたデュエルディスクを、その前段階の形状である籠手(ガントレット)に戻すと、ゆっくりとレジスタンスのアジトに向かって歩いた・・・。

 レジスタンスのアジトの前には、治療を受けているボロボロの兵士達と、既に治療が済んでいる有里達、そしてアンナの姿があった・・・。
「すげぇな翔・・・」
「・・・何が?」
 倒れそうになったボロボロの翔を、神也がガッ――と受け止めると、そのまま神也は呆気に取られたような表情でそう言った。それに答える翔の言葉も、どこかさっぱりとしている。
「“何が”ってお前・・・、あれだけの数を・・・“1時間足らず”で全員倒すなんて・・・」
「いやいや、逆にオレは、1時間足らずで、あんなに血だらけだったアンナが治ってることに疑問を持つよ・・・」
 神也の話題をさらっと逸らし、翔はアンナの姿を見てそう言った。
 アンナ曰く、異次元空間(アナザー・ワールド)の医学は、現実世界(リアル・ワールド)の遥か先を行っているから、らしいのだが、どうにも信じられない翔であった――。

「――それにしてもさ、翔くん。何で、こんなに早くここに着いたの?」
 更に話題を変えたのは、真利であった。
 そんな真利の言葉に、周りの有里達は、「そうそう」とうなずきながら、翔の方を見た。
「あぁー・・・。それ、聞いちゃう?」
「「「「「聞いちゃう――」」」」」
 翔の面倒くさそうな表情を他所に、有里達5人は、全く同じ言葉で翔に言った。
「分かった、分かった。教えるからさ・・・」
 手をひらひら〜とさせながら翔は、やはり面倒くさそうな表情をしながら言った。

 翔が急いでレジスタンスのアジトに辿り着く方法を閃いたのには、1つの言葉がきっかけとなっていた。――有里が戦った、裁きの代行者 サターンの言葉だ。
 その天使によれば、精霊となったモンスター8体には、共通してある力を持っていると言う。それが・・・、「現実干渉能力」。要するに、モンスター達が、ソリッドビジョンではなく、実体になる、というような能力だ。
 その能力のこと思い出すと、翔は自分の精霊となった「ファントム・オブ・カオス」を召喚し、最強の戦士の姿を与えたのだ。そして、翔はその最強の戦士となった、実体を持つ精霊に乗り、ここにやって来た・・・

「――って訳よ。・・・ドゥー・ユー・アンダスタン?」
 翔はここに早くやって来た理由を説明すると、覚え立ての英語を、そこまで上手ではない発音で言ってみせた。
「なるほどね〜・・・。その発想は無かったな」
 神也が感心したような表情で、翔のことを見つめる。
「だろぉ?――オレってやっぱり・・・、“天才”?」
 少しだけ調子に乗ろうとする翔に対し有里は、誰よりも早くパンチを叩き込んだ。それに続くように、神也と加奈も、「何調子に乗ってんの!?」と大声で言いながら、倒れこんだ翔を何度も踏みつける。
 ――そんな時だ・・・。

「アハハハハハッ!――おっかしい・・・」

 アンナが腹を抱えながら、大声で笑っていたのだ。そんなアンナの言動を見て、翔達6人は、アンナの方をじぃーっと見つめる・・・。
「――何?・・・私、何か変なこと言った?」
 アンナは少しだけ頬を赤くしてそう言った。頬を赤くしたアンナを見て、6人は先程のアンナのように大声で笑った。


 うれしかった・・・。

 自分達に、心を開いてくれたようで・・・。――とっても・・・。


 7人が笑い合っているとき、パンパン――と拍手の音が聞こえてきた。
「・・・!?」
 その拍手の音が、翔達7人の遥か上空から聞こえてきたため、翔達は一斉に上(正確に表すと斜め上)を見た。そこには、闇の龍に乗っている2人の人物の姿があった・・・。そのうち、1人は漆黒の仮面をつけており、仮面をつけていない方が、拍手を続けている。
「――誰だ・・・!?」
 翔が目をぎらつかせ、怒りの混じった声でそう聞いた。
 その言葉に返答するのは、その隣にスッ――と立ったアンナである。
「――ファイガ・ドラゴニルクと・・・、その側近であるデリーターよ・・・」
 アンナの言葉を聞き、全員の周りを漂う空気が、ピリッ――と緊張のものに変わった。
「見ろよ、あの緊張した様子・・・。最高だなぁ・・・。だろ?――デリーター・・・」
「えぇ・・・」
 ファイガの言葉を聞き、デリーターは小さく頭を下げてそう答える。ファイガは、そんなデリーターの姿を見て、「ンな面倒くせぇの、いちいちしなくていいぜ」と言うが、その言葉にデリーターは、「いえ」と、無機質に答える。
 そんな2人の会話を聞く中、「有里の中」に眠る漆黒の竜が口を開いた・・・。

『分かっているな・・・?有里――』
『えぇ・・・、あの仮面をつけてる奴が・・・、私の・・・』

「お兄ちゃん・・・!」
 有里は胸をギュッ――と掴み、涙をこらえてそう言った。
 その言葉を聞き、周りの者全員が一斉に、驚いた表情で有里の方を見た。
「なっ・・・!?有里の兄ちゃんって・・・、行方不明だったんじゃ・・・?」
「それが・・・、あの・・・デリーター・・・!!?」
 突然の有里の発言に驚きを隠せない者達――。
 その姿と、言葉を聞き、ファイガがデリーターの方を見て口を開いた。
「おい、お前のことを“お兄ちゃん”って呼んでる奴いるけど?」
 ファイガの言葉を聞き、ハッと我に返った有里は、自分のデッキから1枚のカード――漆黒の竜が描かれた「冥王竜ヴァンダルギオン」のカードを取り出し、デリーターに見せた。
「――覚えてる!?いや・・・、私のことは分かんないか・・・。でも・・・!このカードのことは、覚えてる筈だよね!!?」
 悲鳴にも聞こえる有里の叫びが、辺り一面に響き渡るが、デリーターは表情を少しも変えず、口を開いた・・・。
「いや、お前のことも・・・、そのカードのことも・・・、分からないな・・・」

 ――「絶望」が・・・、その影を見せた。

 その心のこもっていないデリーターの、いや啓太の叫びに、有里は肩をすくめ、両膝を地面につけた。そんな有里の状態を見て、翔はすぐに有里の下にまで近づき、有里の手を握った。
 そして、デリーターを睨みつける。だが、そんな翔の目を見ても、デリーターは表情を変えなかった・・・。
「へぇ〜、兄妹ねぇ・・・。“ここにも”、そういう関係があったのか・・・」
 そんな時、ファイガが意味深な言葉をつぶやいた。
「ど、どういうこと・・・?」
 加奈が、ファイガのつぶやきに疑問を持ち、震えるような声で質問した。その質問を聞いた瞬間、ファイガは口が裂けるほど大きく笑い、アンナの方を見た。

「いやいや、なぁに・・・、もう1組だけ、兄妹の関係がここにはある、っていう話だよ・・・」
 ファイガのまたもや意味深な言葉を聞き、突然アンナが血相を変えて口を開いた。
止めなさいッッ!!!
「おいおい、“止めなさい”は無いよなぁ・・・?だって、オレ達・・・」
 アンナの叫びを無駄にするかのように、ファイガは喋り続けようとする。
 また、それとは裏腹に、アンナはその喋りを止めるべく、金色の鳳凰の翼によく似た形状をしたデュエルディスクを、自分の左腕に出現させた。そして、そのデュエルディスクに、カードを叩きつけるように置いた。
「止めなさいって・・・、言ってるでしょッッ!!!」
 アンナが置いたカードは、「ネフティスの鳳凰神」――。
 金色の鳳凰は、姿を現したと同時に、アンナの怒りを汲み取って、ファイガに向かって猛スピードで上昇し始める。

 もう少しで金色の鳳凰の炎が、ファイガに当たるか当たらないかのところで、ファイガの言葉は終了を迎えた・・・。

 その言葉は、何人かを除いたこの場にいる者達全員に、「暗い影」を落とした・・・。















―――――“ドラゴニルク”っていう苗字(ファミリーネーム)で結ばれた、兄妹じゃないか・・・。















 ――「絶望」が、その姿を曝け出した・・・。

「え?――それって・・・、どういう・・・?」
 驚きのあまりに口を開いたのは神童であった。いや、口を開いたのが神童だけであって、それ以外の者達も、驚きを隠せないでいる・・・。
「――その通りの意味だよ・・・。アンナは、デストロイドのボスであるこのオレ――ファイガ・ドラゴニルクの実の妹なんだよ・・・」
 そして、神童の言葉に答えるかのように、ファイガが口を開き、そう言った。
 味方側で既に事情を知っているのは、ゼオウと、本人のアンナだけ・・・。

 真っ先に思う味方達の言葉、それは・・・。
「騙していたのか・・・、オレ達を・・・!」
 立つことは出来ないものの、兵士達は口を揃えて、アンナにそんな言葉を投げつける。
 アンナは救いを求めるべく、有里達の方を見た。――だが、彼女等もまた、口を閉ざし、アンナと目を合わせようとはしなかった・・・。

 ただ、ファイガと兄妹なだけなのに・・・、だ。

 その点にここまでの影響を与える原因はなく、おそらく、「それを隠していた」ことが、真なる原因なのだろう・・・。

「あ・・・、あぁああ・・・」
 首を左右に何度も振りながら、この現実を受け止めようとせず、アンナは涙を流し始めた。両手で自分の両肩をギュッ――と掴み、自分で自分を抱き寄せ、自分を庇おうとした。
(せっかく・・・、心を開けそうだったのに・・・。もう・・・少しで・・・、“友達”に・・・、なれたかも・・・、知れない・・・のに・・・!)
 そう思えば思うほど、アンナの涙は止まらなかった・・・。いや、むしろ溢れてきた。
 そんなアンナの姿を見て、ゼオウは手を伸ばし、アンナに声をかけようとする。
「アン・・・」
 だが、そのゼオウの声は途切れた。
 何故なら・・・、自分よりも早く・・・、アンナの肩を・・・





――自分の方へと抱き寄せた者がいたから・・・。





「チッ・・・」
 その者の姿を見て、思惑とは違った展開を予測したファイガは、思わず舌打ちをした。
 涙を流しながら、アンナはその者だけを見つめ、悲しみの表情を、少しだけ喜びに変えて、その者の名を呼んだ。










――――翔・・・。










「安心しろ、アンナ――」
「・・・ぅん・・・」
 翔の言葉に、アンナは小さくうなずいた。
 ふと翔を見ると、翔はアンナから顔を上げて、ファイガの方を見ていた。それに気づくと、アンナもすぐに涙を拭くと、ファイガの方へ顔を上げた。
「“お前”は“お前”だ。あんな奴の妹だとか・・・、そんなのは関係ない!――大切なのは・・・、お前がどう思って、どう考えて、どうするかだ・・・!」
 翔はファイガに対する挑発を混ぜながら、アンナを励ませる。アンナもまた、ファイガの方を見ながら、何度も何度もうなずいた。
 そして、それを見ていた他の者達にも少しずつ変化があった・・・。
「そうだよね――」
「アンナは、アンナ!――兄妹だとか、アイツと同じ血が流れてるだとか、そんなこと――」
「・・・関係ないんだ!」
 真利が前に出ながら、言葉を発すると、それに続いて神也と神童も順に口を揃え、ゆっくりと前に出た。そんな3人の姿を見ていた有里と加奈も同様に、前に出る。

 神の名を受け継ぎし者達が並んだ――。

「面白くねぇな・・・!」
 彼等の姿を見下ろすファイガは、だらしない姿勢をとってそうつぶやくように言った。後ろにいるデリーターも、そのファイガの言葉を聞き、頭を少しだけ下げた。

「――面白くない・・・、だと・・・!?」
 翔もまた、ファイガの言葉を聞き、態度に変化を出し始める――。
 その変化を見て、有里は翔からアンナを受け取るかのようにして、アンナの両手を優しく握った。
「じゃ、アンナ・・・。少しだけ、下がっててくれる?」
「え・・・?――何で!?」
 有里の突然の言葉に一度は驚くも、次に翔が発した言葉を聞き、全てを理解した。

「“デュエル”だ!――ファイガ・ドラゴニルクッ!!・・・“神の名を受け継ぎし者達”であるオレ達全員と、サバイバルでだ!!」
「サバイバル・・・?――別にいいが、正義ぶってるお前達が、そんなことしてい・い・の・か・な?」
 翔の怒った表情を汚すような言い方で、ファイガはそう言った。そう言い終えると、ファイガはゆっくりと立ち上がり、自分の左腕を覆う程の「風」を発生させた。その風は、やがて翔達が持つ力となった。――その力は、全てを切り裂く刃で作られた翼。
「構わない・・・。――どんなに悪者になってでも・・・、お前だけは・・・ッ!!!―――“決闘準備(スタンバイ)”ッッ!!!!
 そして、翔は両手をバッ――と前に出した。そのまま、左手で拳を作り、右掌にバチンッ――と当てる。その瞬間、拳を掌に当てた時の衝撃が、翔の左腕を覆う籠手(ガントレット)を浸透し、それはやがて、力となった。――その力は、翔の力を示すかの如く、未だ羽ばたくことの出来ない白き翼。
 その翔の動作に続くように、他の者達5人もまた、翼をイメージして作られた力――デュエルディスクを出現させた。

 そんな光景を見て、アンナは悟った。

 自分は、先程の戦いでかなりのダメージを受け、傷は癒えたものの、まだデュエルを行うまでは回復していない・・・。だからこそ、有里は下がれと言ったのだと・・・。

「勝ってよ・・・、みんな!!」
 だからこそ、アンナは応援しか出来なかった。

 6人は口を合わせて、「任せろ」――と言った。

「じゃあ、始めようか・・・!」
 彼等を嘲笑うかのように、ファイガは大きな笑みを浮かべ、嫌味ったらしくそう言った。


 ―――目の前に、突然姿を現した1つの歯車・・・。

 ―――この歯車は、彼等を「勝利」へと動かす物なのか、はたまた彼等を「敗北」へと動かす物なのか・・・。
 ―――それは・・・、嵌めてみないと分からない・・・。






「――んで、7ターン目のお前から攻撃が出来る・・・、で良いな?」
 翔がある程度デュエルの説明をし終えると、最後にファイガを指差した。ファイガは、それを払うかのような手の動作に合わせて、「あぁ」とつぶやくように言った。

 ターンの順番は、翔→有里→神童→神也→真利→加奈→ファイガ・・・となった。
 また、ファイガが「こうしないとつまらない」と言って出した案として、翔達6人は、フィールドを「合わせて」1つとしている。要するに、翔達6人のフィールドには、モンスターは30体、魔法・罠カードは30枚まで置ける状況にある、ということだ。
 ちなみに、翔達のフィールドが合わさったとは言え、サバイバルのため、プレイヤーやプレイヤーの手札を対象としたカード効果は、全プレイヤーが受ける(例外あり)。

「オイ、本当にこれで良いのか?」
 デュエル開始直前に口を開いたのは、神也であった。睨みつくような目つきで、ファイガを見る。だが、ファイガは余裕綽々とした表情で、「あぁ」と、先程と同じように言った。
「負けた時の言い訳には・・・、しないでよね?」
「しないさ。――なんてたって、負けないんだからな・・・!」
 ファイガの当たり前のような言葉が、神の名を受け継ぎし者達である6人の怒りを買った。
「上等だ・・・ッ!!!」










―――――“決闘(デュエル)”ッッ!!!!










「オレのターン――ドロー!!」
 そして、デュエルが始まり、翔のターン。
 翔は、素早くカードを1枚引くと、今までのデュエルの中で「最高」と呼べるほどの手札に巡りあえた。
「オレは“クィーンズ・ナイト”を召喚し、“二重召喚(デュアルサモン)”発動ッ!!――このカードの効果によって、オレは更に“キングス・ナイト”を召喚するッ!!そして、現れろッ!!――“ジャックス・ナイト”!!!」
 翔は慣れた手つきで、次々とカードを繰り出していく。そして、あっという間に、翔の大切なカードたちである「絵札の三銃士」が場に揃った・・・。

クィーンズ・ナイト
通常モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1500/守1600
しなやかな動きで敵を翻弄し、
相手のスキを突いて素早い攻撃を繰り出す。

二重召喚(デュエルサモン)
通常魔法
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

キングス・ナイト
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400
自分フィールド上に「クィーンズ・ナイト」が存在する場合に
このカードが召喚に成功した時、デッキから「ジャックス・ナイト」
1体を特殊召喚する事ができる。

ジャックス・ナイト
通常モンスター
星5/光属性/戦士族/攻1900/守1000
あらゆる剣術に精通した戦士。
とても正義感が強く、弱き者を守るために闘っている。

「最後に、“融合”発動!!―――3つの刃が、今ここに束ねられる!数多切り裂く剣となれ!!―――“アルカナ ナイトジョーカー”ッッ!!!
 翔が更に発動した魔法の効果を受け、3体の戦士はその崇高な力を束ね、最強の戦士へとその姿を変えた。

融合
通常魔法
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

アルカナ ナイトジョーカー
融合・効果モンスター
星9/光属性/戦士族/攻3800/守2500
「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、
魔法の対象になった場合魔法カードを、
罠の対象になった場合罠カードを、
効果モンスターの効果対象になった場合モンスターカードを
手札から1枚捨てる事で、その効果を無効にする。
この効果は1ターンに1度だけ使用する事ができる。

「カードを1枚伏せ、ターンエンド――」

翔  LP:4000
   手札:1枚
    場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃)、リバース1枚

 自分の出したかったカード全てを出し終えると、翔は次の人物である有里に「繋げる」カードを伏せた。
 翔のターンが終わると、有里はすぐさまデッキの上からカードを1枚引き、手札に加えた。
「私はまず“手札抹殺”を発動ッ!!――全プレイヤーは、手札を全て捨て、送った分だけカードをドローする!!」

手札抹殺
通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

 有里は引いたカード――神童に「繋げる」ためのカードを、すぐに発動させた。
 有里が出したカードの効果を受けて、有里を含むデュエルを行っている全ての者達は、手札のカード全てをデュエルディスクの墓地ゾーンに入れ、入れた枚数分、新たにカードを引いた。
「そして、カードを1枚伏せて、ターンエンドよ――」
 有里のプレイングは、翔に比べて随分とあっさりしていた。
 そんな有里のプレイングが終了し、神童がカードを引いた瞬間、翔は自分が伏せておいたカードをバンッ――と発動させた。
「リバースカード――“突進”ッッ!!これにより、“アルカナ ナイトジョーカー”の攻撃力は700ポイントアップだ!」
 そして、翔は手札を1枚捨て、最強の戦士に圧倒的な「速度」を付加させようとする。通常のデュエルでは、全くもって理解不能なプレイングである。だが、このデュエルは「通常の」デュエルではない・・・。
 その時、有里は「待ってました」と笑いながら言うと、自分が伏せたカードを発動させた。
「翔のカードに対し、“マジック・ジャマー”発動!――手札1枚をリリースして、“突進”の効果を無効化!」
 有里もまた、翔のように手札を1枚捨て、翔が発動したカードをゆっくりと消滅させる。その瞬間、姿を現したのは、目の前にいる、本来の主である啓太を助けると心に誓いし、漆黒の竜であった。
「カウンター罠の発動により、手札の“冥王竜ヴァンダルギオン”を特殊召喚するッッ!!!更に、効果によって、アンタに1500ポイントのダメージよ――ファイガッッ!!」

突進
速攻魔法
表側表示モンスター1体の攻撃力を、
ターン終了時まで700ポイントアップする。

マジック・ジャマー
カウンター罠
手札を1枚捨てる。
魔法カードの発動を無効にし、それを破壊する。

冥王竜ヴァンダルギオン
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2500
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。

 漆黒の竜は、地面に降り立った途端、大きな雄叫びを上げ、それに続くかのように、口から強力なエネルギー弾を放出。そのエネルギーは、猛スピードでファイガに当たり、ファイガをドンッ――と遠くへ吹き飛ばした。

ファイガ LP:4000→2500

 だが、ファイガは一言も喋ることなく、ゆっくりと立ち上がり、口から流れ出る血をグイッ――と袖で拭った。

有里 LP:4000
   手札:2枚
    場:冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃)

 一連の有里のプレイングが終わったところで、神童は目を鋭くし、自分のプレイングを始めることにした。
「ボクは魔法カード――“宝玉の恵み”、“宝玉の導き”を連続で発動させるッッ!!!」
 神童はすぐに手札から2枚のカードを取り出し、デュエルディスクに差し込んだ。
 1枚目のカードの効果によって、宝玉の「コバルト」と「ルビー」が姿を現した。そして、2枚目のカードの効果によって、神童の目の前に気高きペガサスが現れた。
「“サファイア・ペガサス”の効果によって、デッキから“アンバー・マンモス”を永続魔法として場に出す!!」
 カードの効果によって姿を現したペガサスは、その角から放たれる光で、新たな宝玉「アンバー」を、神童の目の前に出現させた。

宝玉の恵み
通常魔法
自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを2体まで選択し、
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く。

宝玉の導き
通常魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに「宝玉獣」と名のついたカードが2枚以上存在する場合、
デッキから「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

宝玉獣 サファイア・ペガサス
効果モンスター
星4/風属性/獣族/攻1800/守1200
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
自分の手札・デッキ・墓地から「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

「・・・これで、ボクの場と墓地に、“7色の輝き”が揃った!――現れろッ!!“究極宝玉神 レインボー・ドラゴン”ッッ!!!
 神童の言う「7色の輝き」は、彼の叫びと共に、巨大な道を作り出した。その道は、1体の虹色の龍を導いた――。

究極宝玉神 レインボー・ドラゴン
効果モンスター
星10/光属性/ドラゴン族/攻4000/守 0
このカードは通常召喚できない。
自分のフィールド上及び墓地に「宝玉獣」と名のついたカードが
合計7種類存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードは特殊召喚されたターンには以下の効果を発動できない。
●自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついたモンスターを全て墓地に送る。
墓地へ送ったカード1枚につき、このカードの攻撃力は1000ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
●自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを全てゲームから
除外する事で、フィールド上に存在するカードを全て持ち主のデッキに戻す。

「更に、“暗黒界の取引”発動させる!――全プレイヤーはカードを1枚ドローし、その後、手札のカード1枚を墓地に捨てる!」

暗黒界の取引
通常魔法
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、
その後手札からカードを1枚捨てる。

 神童のカードは、有里の発動したカードと同じように、デュエルを行う全ての者達に効果を与えた。その効果に乗っ取って、7人はカードを1枚引き、選び出したカード1枚を墓地に送った。これもまた、次のプレイヤーである神也と、更にその次のプレイヤーである真利に「繋がる」のだ。
「この瞬間、“暗黒界の取引”によって墓地に送った“ダンディライオン”の効果が発動する!――それにより、“綿毛トークン”2体がオレの場に現れるぜ!」
 神童のカード効果後、神也はそう叫んだ。そんな神也の目の前で、2つの小さくて可愛い綿毛が、ポンポンッ――と姿を現していた。

ダンディライオン
効果モンスター
星3/地属性/植物族/攻 300/守 300
このカードが墓地へ送られた時、自分フィールド上に「綿毛トークン」
(植物族・風・星1・攻/守0)を2体守備表示で特殊召喚する。
このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない。

神童 LP:4000
   手札:2枚
    場:究極宝玉神 レインボー・ドラゴン(攻撃)、宝玉獣 サファイア・ペガサス(守備)、宝玉獣 コバルト・イーグル(宝玉)、宝玉獣 ルビー・カーバンクル(宝玉)、宝玉獣 アンバー・マンモス(宝玉)

 神童は神也の場に現れた2つの綿毛を見て、小さく笑い、そのままターンエンドを宣言した。
 神也もまた、神童の笑みを見て小さく笑い、カードを引いた。
「オレは、2体の“綿毛トークン”をリリースして、“グリード・クエーサー”をアドバンス召喚するッッ!!!」
 2つの綿毛が光の粒子となり、その粒子はやがて、神也の中の「強欲」を呼び覚ますような悪魔となった――。
「そして装備魔法――“シンクロ・ヒーロー”発動!“グリード・クエーサー”のレベルが8になり、攻撃力を上げるッッ!!」

グリード・クエーサー
効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻 ?/守 ?
このカードの元々の攻撃力と守備力は、
このカードのレベル×300ポイントの数値になる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードが戦闘によって破壊したモンスターの
レベル分だけこのカードのレベルが上がる。

シンクロ・ヒーロー
装備魔法
装備モンスターのレベルを1つ上げ、攻撃力は500ポイントアップする。

グリード・クエーサー 星:7→8
            攻:2100→2900

 星の力を受けて、強欲の悪魔は、その体を大きくした。腹部の口にも、より巨大な狂気が覆われ、強欲の悪魔はその存在感をも高めた。
 そして、神也はターンエンドを宣言した。――神也は何も「繋げる」カードを発動させなかった。だが、それこそが、神也らしいと言えた・・・。

神也 LP:4000
   手札:4枚
    場:グリード・クエーサー(攻撃/シンクロ・ヒーロー装備)

 神也の次である真利がカードを引いた瞬間、真利の目の前に小さなカエルのようなモンスターが姿を現した。
「自身の効果によって蘇った“黄泉ガエル”をリリースし、“炎帝テスタロス”をアドバンス召喚ッッ!!――効果によって、ファイガの手札1枚を墓地に捨てる!」

黄泉ガエル
効果モンスター
星1/水属性/水族/攻 100/守 100
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、
自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、
このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が
表側表示で存在する場合は発動できない。

炎帝テスタロス
効果モンスター
星6/炎属性/炎族/攻2400/守1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、相手の手札をランダムに1枚墓地に捨てる。
捨てたカードがモンスターカードだった場合、
相手ライフにそのモンスターのレベル×100ポイントダメージを与える。

 姿を現したカエルが光の粒子となり、その粒子は炎の鎧を身に纏った帝王となった。そして、その帝王の出現と同時に、ファイガの手札1枚が炎に焼かれ、一瞬で灰になってしまった。
「墓地に送られたカードは“終末の騎士”。よって、400ポイントのダメージを受ける――」
 カードを焼ききった炎は、その勢いを留めることなく、ファイガの体を覆った。その熱さがどの程度のものかは誰にも分からないが、ファイガはまたも、炎によるダメージに対しての言葉を残さなかった――。

ファイガ LP:2500→2100

「最後に“デビルズ・サンクチュアリ”を発動してターンエンドよ――」
 真利が最後に発動したカードは、漆黒の魔方陣を出現させ、その魔方陣と同じ色をした塊――トークンを出現させた。

デビルズ・サンクチュアリ
通常魔法
「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を
自分のフィールド上に1体特殊召喚する。
このトークンは攻撃する事ができない。
「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、
かわりに相手プレイヤーが受ける。
自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。
払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

真利 LP:4000
   手札:4枚
    場:炎帝テスタロス(攻撃)、メタルデビル・トークン(攻撃)

 そして、神の名を受け継ぎし者達最後のターンである、加奈のターンがやって来た。
 加奈は、カードを1枚引くと、場を見渡した。そして、自分達の場に、それぞれの切り札とは違う、少しだけ浮いたモンスターがいる、ということに気づいた。そのモンスターの持ち主である神童と加奈をチラリと見ると、2人は加奈の視線に気づき、小さくうなずいた。
 加奈は2人に対し、「ありがとう――」と心の中で思うと、視線を2人から、ファイガへと移した。
「フィールドが“合わさっている”んだったら、こんなことも出来るわよね?」
 加奈はそう言うと、小さく笑い、再び口を開いた。
「神童の場の“サファイア・ペガサス”と、真利の場の“メタルデビル・トークン”をリリースして、“ブラック・マジシャン”をアドバンス召喚するッッ!!!」
 元はペガサスと漆黒の塊であった光の粒子が、ゆっくりと黒き魔術師の体へと変わった。
 黒き魔術師は、その姿を現すと同時に、杖をブンブンッ――と何度も振り回し、その動作と共に、自身の体の中に「魔力」を集めていった――。
「そして、手札の速攻魔法――“光と闇の洗礼”を発動させるッッ!!!」
 黒き魔術師の中に集められた魔力は、加奈の1枚のカードをきっかけとして、バチンッ――と弾けるように膨張し、魔術師の体を包み込んだ。やがて魔力は、光を現す白と、闇を表す黒の2色を持ち、黒き魔術師に「混沌」の力を与えた。
“混沌の黒魔術師”――ッッ!!!

ブラック・マジシャン
通常モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

光と闇の洗礼
速攻魔法
自分フィールド上の「ブラック・マジシャン」を生け贄に捧げる事で発動する事ができる。
自分の手札・墓地・デッキの中から「混沌の黒魔術師」を1体選択して特殊召喚する。

混沌の黒魔術師
効果モンスター
星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
自分の墓地から魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる。
このカードが戦闘によって破壊したモンスターは墓地へは行かず
ゲームから除外される。
このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。

 混沌の力を受けた魔術師の力を受け、加奈は今使った速攻魔法を手札に加えた。

加奈 LP:4000
   手札:4枚
    場:混沌の黒魔術師(攻撃)

 こうして、神の名を受け継ぎし者達のターン、全てが終わった・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 先程、姿を現した歯車が、ゆっくりと嵌った。
 そして、全ての歯車は組み合わさり、動き始める。

 つまり、その歯車が導くものが何か、ということが、もう分かってしまうのだ――。

 歯車は・・・、彼等を・・・

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 6人のターンが終了したことで、ファイガはゆっくりとカードを引いた。
「クックックックッ・・・」
 そして、突然笑い出した。
 当然、翔達は自分達が圧倒的有利だと思っているため、「何故、ファイガは笑えるのか?」と疑問に思った。
 だが、そんな疑問は、すぐに解ける――。
 何故って・・・?

 何故かと言うと――、

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「敗北」へと導く・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ファイガは「自分が勝つ」と、分かっていたから――。

「見せてやるよ・・・!“暗黒の空間(ダークネス・ルーム)”で生まれた、“闇の魔物(ダークモンスター)”をなッッ!!!」
 ファイガはそう叫んで、手札のカード1枚をバンッ――と場に出した。
 そのカードは、モンスターは、ファイガの墓地に眠る「5体の闇」の力をもらい、覚醒する――。










――――“ダーク・クリエイター”ッッ!!!










ドッッ!!!

 覚醒したのは、闇を創り出す、闇の創造神――。
 圧倒的なその「力」は、翔達が出したどんなモンスターよりも遥かに大きく、優勢に見える翔達を一瞬で飲み込んだ――。
「なっ・・・!?こっ、これが・・・!」
「ダ・・・、“ダークモンスター”ッッ!!!」
 神也と翔が他の4人よりも真っ先に口を開いた。だが、その力のせいで、思うように口が回らなず、少し噛みながらそう言った。
「“ダーク・クリエイター”の効果発動――。墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外することで、墓地の闇属性モンスター1体を特殊召喚する・・・!」
 闇の創造神は、翔達を他所に発せられたファイガの言葉を受けて、自身の目の前に「闇」を創り出した。その闇は、やがてモンスター――2つの塊となった。

ダーク・クリエイター
効果モンスター
星8/闇属性/雷族/攻2300/守3000
このカードは通常召喚できない。自分の墓地に闇属性モンスターが5体以上存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合に特殊召喚することができる。
自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
自分の墓地の闇属性モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「さぁ、これからが本当の“切り札(メインディッシュ)”だッッ!!!」
 2体のモンスターを束ねたファイガが、バッ――と両手を広げ、闇の創造神によって黒く染まった空を見上げた。そして、不気味に笑った――。
「“ダーク・クリエイター”と、闇属性召喚時に、2体分のリリースとなる“ダブルコストン”――計3体をリリースッッ!!!」
 ファイガの次なる叫びによって、闇の創造神と闇によって創られた2つの塊が、翔達が出した光とは違う、闇の粒子となって空高く舞い上がる――。

ダブルコストン
効果モンスター
星4/闇属性/アンデット族/攻1700/守1650
闇属性モンスターを生け贄召喚する場合、
このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。

「さ、3体のリリース・・・!?」
「出すモンスターって・・・、まさかっ!!?」
 翔と神也に続く形で、真利と神童が、驚きながら口を開いた。
「あぁそうさ・・・。出すモンスターは――“邪神”ッッ!!」















―――――“邪神ドレッド・ルート”ォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!















 闇の粒子がやがて、巨大な「形」になっていく――。
 その形とは、闇の創造神とは比べられないほどの闇を、力を放ち続ける厳つい悪魔・・・。恐怖で全てを支配する、1体目の邪神――。
「“邪神”・・・“ドレッド・ルート”・・・?」
「こ、攻撃力・・・4000・・・!?」
 最後となった加奈と有里が、放たれ続ける闇と力に、屈服しそうになりながら、口を開いてそう言った・・・。
「お前達の力を取り込んでいないから、まだ精霊達のような“現実干渉能力”を持っていないがな・・・。まぁ、デュエルでなら本来の力が使えるがな・・・!!」
 ファイガはそう言って、神童の目の前にいる虹色の龍を指差した――。
「見せてやれ、“ドレッド・ルート”――。その力を・・・、その“存在”を――!!!」
 次の瞬間、厳つい悪魔は、光さえも超えるほどの超スピードで、虹色の龍の真正面にまで辿り着いた。そして、拳を向け、ぶつけようとする――。
「な、何で!?“レインボー・ドラゴン”の方が、攻撃力は上なの・・・に・・・ッ!!?」

―――ドゴォオオオオオオオオオッ!!!

 その時、神童の言葉が虹色の龍の悲鳴に遮られた・・・。
 神童の目の前で広がる光景は、朽ち果てていく虹色の龍と、その龍を倒したことに快感を感じつつある悪魔の2体であった――。

神童 LP:4000→2000

 そして、衝撃が神童を吹き飛ばす。
「ガッ・・・ハ・・・ァア・・・ッ!!」
 ファイガの言った、邪神にはまだ「現実干渉能力」が無い、という言葉が嘘のように、神童は酷くダメージを受けた。口からは、胃から戻ってきたものが吐き出される――。
「な・・・、何・・・で・・・?」
 邪神の力を、能力を理解出来ない神童は、苦しみながらも、そういうことしか出来なかった――。
 だが、そんな苦しむ彼を、ファイガは見下し続ける。
「さぁ・・・、オレは残りの手札全てを伏せて、ターンを終えたぞ・・・。どうする・・・?」

ファイガ LP:2100
     手札:0枚
      場:邪神ドレッド・ルート(攻撃)、リバース3枚

 ファイガの自分達を嘲笑う姿を見て、ボロボロになった神童の姿を見て、翔はグッ――と唇を噛み締めた。それこそ、血が流れ出るくらい強く・・・。
「オレは・・・、モンスターを1体セットし、“アルカナ ナイトジョーカー”を守備表示にして・・・、ターン・・・エンドだ・・・」
 何も出来ぬ自分に、翔は絶望する・・・。
 他の者達も同じだ――。
 翔と同じように、新たなモンスターを裏守備で出し、切り札を守備表示にすることしか出来ず、酷く絶望する・・・。

翔  LP:4000
   手札:1枚
    場:アルカナ ナイトジョーカー(守備)、裏守備1枚

有里 LP:4000
   手札:2枚
    場:冥王竜ヴァンダルギオン(守備)、裏守備1枚

神童 LP:2000
   手札:2枚
    場:E・HERO ネオス(守備) (←O−オーバーソウルで特殊召喚した)

神也 LP:4000
   手札:4枚
    場:グリード・クエーサー(守備/シンクロ・ヒーロー装備)、裏守備1枚

真利 LP:4000
   手札:4枚
    場:炎帝テスタロス(守備)、裏守備1枚

加奈 LP:4000
   手札:4枚
    場:混沌の黒魔術師(守備)、裏守備1枚

 そして、あっという間に、ファイガのターンとなった・・・。
「最初に倒れるのは、誰かな〜・・・?」
 ファイガはつぶやくようにそう言って、デッキの上からカードを1枚引いた。――その時の彼の目が、全ての闇を司るような「漆黒の目」に変わった・・・。だが、その目はすぐに元々の目に戻ってしまった。
「リバースカード――“八汰烏(ヤタガラス)の骸”と“無謀な欲張り”を発動。――これによって、デッキの上からカードを1枚・・・、まぁ全部で3枚ドローする」
 開かれた2枚のカードの効果を受け、ファイガは更にカードを3枚引いた。――その時の彼の目も、全ての闇を司るような「漆黒の目」になっていた・・・。

八汰烏の骸
通常罠
次の効果から1つを選択して発動する。
●自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●相手フィールド上にスピリットモンスターが表側表示で
存在する時に発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

無謀な欲張り
カードを2枚ドローし、以後自分のドローフェイズを2回スキップする。

 全部で3枚の手札をじぃーっと眺め、そしてファイガは「結論」を出した。
「決めた――。最初もクソもねぇ。――消えるのは、お前等全員だ
 そのファイガの結論に、6人はほぼ同時に驚いたような表情を取った。だが、ファイガはそんな彼等の表情さえも、自分の笑いの足しにした。
「リバースカード、“DNA改造手術”の効果によって、全モンスターの種族を“魔法使い族”に変える・・・!」

DNA改造手術
永続罠
発動時に1種類の種族を宣言する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の全ての表側表示モンスターは自分が宣言した種族になる。

 ファイガが発動したカードの効力を受けて、場に存在する全てのモンスターの放つ力が、「力」から「魔力」に変換された。
「んで、装備魔法――“ビッグバン・シュート”と手札1枚をコストに“覇邪の大剣−バオウ”を発動して、“ドレッド・ルート”に装備・・・ッ!」

ビッグバン・シュート
装備魔法
装備モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
守備表示モンスターを攻撃した時にその守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
このカードがフィールドから離れた場合、装備モンスターをゲームから除外する。

覇邪の大剣−バオウ
装備魔法
手札のカード1枚を墓地に送って装備する。
装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
このカードを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、
そのモンスターの効果は無効化される。

邪神ドレッド・ルート 種族:悪魔→魔法使い
            攻:4000→4900

 ――ゆっくりと・・・、「それ」が足音を立てて、翔達に近寄ってくる・・・。

「“ドレッド・ルート”の攻撃によって消えていくお前等のライフは、“神の名を受け継ぎし者達”の力に変換され、“邪神”達の復活の鍵(キー)となってくれる・・・。だから・・・、最初で最後のお礼をしよう。――ありがとう・・・。そして、このデュエルは終わりだ」
 ファイガはそう言うと、残り1枚のカードをピンッ――と指で空高く弾いた。
 弾かれたカードは、翔達にその絵柄を見せ付けるように回転を続け、やがてファイガのデュエルディスクに差し込まれた――。

 ――「それ」が、翔達の横に立ち、ニコリと笑った・・・。

「“拡散する”・・・“波動”・・・だと・・・!?」

 ――「それ」とは・・・、「敗北」――。

拡散する波動
通常魔法
1000ライフポイントを払う。
自分フィールド上のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊された効果モンスターの効果は発動しない。

 悪魔の拳が、流星のように、雨のように、翔達のモンスターを打ち砕いていく――。










―――――フィアーズノックダウンッッッ!!!!!










 1体、また1体と・・・、砕かれては消えていく・・・。
 その消滅に応じて、翔の仲間達5人が1人、また1人と口から血を吐き、倒れていく――。

「や・・・、止めろ・・・!」

 また1人――。

「頼むから・・・ッ!」

 また1人――。

止めろ・・・ッ!!

 また1人――。





止めろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!





 そして、最後の1人である翔が――。


――ドンッ・・・!



有里 LP:4000→0


神童 LP:2000→0


神也 LP:4000→0


真利 LP:4000→0


加奈 LP:4000→0





翔  LP:4000→0





 ファイガとデリーター、そして戦えず、デュエルを見ることしか出来なかった者達の前で、「希望」である神の名を受け継ぎし者達は、敗北した――。「たった1人」の・・・、ファイガ・ドラゴニルクに――。

 消え行く意識の中で、翔はファイガの言葉を聞いた・・・。


「安心しろ・・・。“邪神”に“現実干渉能力”は無いし、オレもまだ、お前達を殺そうとは思っていないから、死ぬことは無ぇ・・・」


(待・・・て・・・!)
 翔は心の中でそう叫びながら、せめてもと手を伸ばそうとする。だが、翔は指一本動かすことが出来ず、他の者達は既に意識を失っていた・・・。


「だからよォ、ゲームをしようぜ?――お前等の力は手に入れたが、“邪神”復活には後1ヶ月程かかっちまう・・・。それでだ!オレの手下である“第1部隊”、“第2部隊”全てを薙ぎ払って、オレを倒してみろ・・・!タイムリミットは、1ヶ月ッッ!!」


(今・・・、ここで・・・決着・・・を・・・!!)
 ファイガの言葉を聞くことなく、翔は体を動かそうとする。だが、動かそうとすればするほど、翔の意識は遠のいて行く・・・。


「“邪神”の封印されていた、今ではオレ達のアジトである――“永遠の城(エンドレス・キャッスル)”で待ってるぜ」


 その瞬間、翔の意識がプツリと途絶えた・・・。


epilogue(終章) 全てを滅する拳――敗北



 第2部「闇の中の小さな光」に続く...











蛇足的後書き

 どうも、毎度おなじみ(違うって)のショウです。
 今回は、ボクにとって人生初の小説である「神の名を受け継ぎし者達」を、しかも最後まで読んでいただき、まことにありがとうございます。m(_ _)m

〜ここから下は、ちょい読み飛ばしても良いです〜

 何で、ボクが小説を書き始めたかっていうのを、何とな〜く書いていきますと、一番の理由がここに書かれてある小説に触発されてしまったから、です。感想はあんまり書かない方ですが、読んでいく内に、「自分も書いてみたいな〜」と思い、軽い気持ちで始めました。
 しかし、いざ始めてみると、小説を書く側の大変さが、しみじみと伝わってきました。関係あるのかは分かりませんが、ボクは文系では無いので、文章を書くのが大変ですし、プラスアルファとして、デュエルの構成を考える、という大変さもありました。そのせいで、何度もくじけそうになりました。
 しかし!感想掲示板にて、この小説の感想があるじゃあありませんか!その感想を見て、自分自身「頑張ろう」と思い、最後まで書ききることが出来ました。

〜ここから上は、ちょい読み飛ばしても良いです〜

 この小説を読んでくれたみなさん、感想を書いてくれたみなさん、本当にありがとうございました。
 第2部「闇の中の小さな光」は、現在作成中なんで、気を長〜くして、待っていて下さいww




《おまけ》今更すぎる主人公達(と他何人か)の設定

神崎 翔(かんざき かける)(クリア・シャインローズ)
性別:男
年齢:14歳
利き手:右
身長:163cm
精霊:闇
デッキ:【絵札の三銃士】(光属性及び戦士族軸)
主力:アルカナ ナイトジョーカー、ファントム・オブ・カオス
作者による紹介:
 まず全員に共通して言えることですが、身長はかなり大雑把です(体重にいたっては考えていない)。理由は、自由度が低下しそうだから。ボクはキャラを自由に動かすのが好きなんで、体重とかはあんまり気にしていません。しいて言うなら、今のところのキャラの中で、太ってる奴はまだ出てません。ゼオウに至っても、そこまで太ってないです。
 さて、前振りが長すぎましたが、彼はよくいそうな漫画の主人公、っていうのをモチーフにして考えました。誰かを助けるためになら、どんなことだって出来る!っていう、どっちかっていうと在り来たりな。しかし、翔がそんな考えに至ったのには、いろいろと理由があるんですが、それはまた本編のどこかで。

神吹 有里(かんぶき ゆうり)
性別:女
年齢:14歳
利き手:右
身長:161cm
精霊:光
デッキ:【ヴァンダルギオン】(天使族軸)
主力:冥王竜ヴァンダルギオン、裁きの代行者 サターン
作者による紹介:
 ぶっちゃけ、たまに加奈(下記参照)と見分けがつかなくなります(ぇー
 これまた在り来たり(?)なヒロインをモチーフにしてます。若干、気の強いのもそこからです。
 兄が実はいた、っていう事実を聞いて、酷く落ち込んだことから、(まだ本編では書いていませんが)おそらく、両親から兄・啓太のことを聞かされたか、何らかの情報で知ったかしていたんでしょう(ちょっと適当)。それでも、会ったことのない人の消滅に涙する、っていう点から、彼女の優しさが伺えます。
 主人公・翔(上記参照)に対する突っ込みがピカイチです。また、(何処のとは言いませんが)blogで書きましたが、登場人物の中で、一番胸が小さいですwww

高山 神童(たかやま しんどう)
性別:男
年齢:14歳
利き手:右
身長:157cm
精霊:戦士
デッキ:【宝玉獣】(レインボー・ドラゴン軸)→(レインボー・ネオス軸)
主力:究極宝玉神 レインボー・ドラゴン、レインボー・ネオス
作者による紹介:
 おそらく、本編で一番成長してる奴は?って聞かれたら迷わず答えるのが彼です。気弱がスタートで、今では立派に戦える、かなりの急成長です。
 真利(下記参照)と同じように、背が、神の名を受け継ぎし者達の中で結構低い部類です。というのも、気弱=背小さいというよく分からない方程式が、ボクの頭の中で成立しているからで、それ以上の理由も、それ以下の理由もござぁせんwww
 恋愛要素だけで言うと、他の男2人より遥かに高みにいますwww(どれだけ相手の女と仲が良いか、という点で

明神 真利(みょうじん まり)
性別:女
年齢:14歳
利き手:右
身長:156cm
精霊:次元
デッキ:【帝コントロール】→【次元帝】
主力:光帝クライス、紅蓮魔獣 ダ・イーザ
作者による紹介:
 神童(上記参照)のところで書き忘れてましたが、彼女は神童と同じくらい、辛い過去を過ごしてきました。辛い過去って何?って方のために・・・、「いじめ」です。でも、神童とは違うのが、神童にはいなかったけれど、彼女には支えてくれる人物――加奈(下記参照)がいたのです。
 そのため、加奈とは親友です。加奈は彼女のために怒れるし、彼女も加奈のために怒れる、という周りから思われるほどの関係です。
 やりすぎな点は・・・、あるわけないですww

橋本 神也(はしもと しんや)
性別:男
年齢:14歳
利き手:右
身長:165cm
精霊:勇気
デッキ:【グリード・クエーサー】→【Dシンクロ】(←D-HEROとシンクロが混ざってるデッキ)
主力:グリード・クエーサー、ライトエンド・ドラゴン
作者による紹介:
 こいつが「混沌」だと思っているのは、ボクだけじゃないはずww
 本編で一番、現実(リアル)のデュエルで使えないデッキを持っているのは誰?と聞かれたら、大声で迷わず答えるのが彼です(回ると強そうなんですが)。
 神の名を受け継ぎし者達の中で、ダントツで頭が良いのですが、神童(上記参照)と真利(上記参照)のように、辛い過去を過ごしてきてます。その過去が名残で、デッキの切り札が「グリード・クエーサー」になっております。
 神童とは、同じ過去を持った仲として、良い感じです。
 いえいえ、決して腐向けとかではございませんwww

晃神 加奈(こうがみ かな)
性別:女
年齢:14歳
利き手:右
身長:161cm
精霊:混沌
デッキ:【ブラック・マジシャン】
主力:ブラック・マジシャン、混沌の黒魔術師
作者による紹介:
 こいつ絶対に有里(上記参照)と同j(ry
 神の名を受け継ぎし者達の中で、一番度胸があって、性格がキツイのは、おそらく彼女です。もしくは、神也(上記参照)ww でも、それは過去にあった「ある出来事」を隠すためなのです。
 っとぉ、ここまで書けば分かったと思うのですが、神の名を受け継ぎし者達は、全員過去に何らかの辛い出来事があったのです(当然、翔と加奈も。まだ、本編には出ていませんが)。
 神也とは磁石のN極とN極みたいな感じで、反発しあっていますが、多分、心の奥底では互いに信頼しあっています(喧嘩するほど、仲が良いって奴です)。

アンナ・ドラゴニルク
性別:女
年齢:15歳
利き手:右
身長:163cm
精霊:秘密
デッキ:【ネフティス】
主力:ネフティスの鳳凰神
作者による紹介:
 彼女の性格等の変化が、この小説の見所と言っても過言ではないです。
 後、彼女にも、色々と裏話があるのですが、それはまた今後の本編で、ということで(辛い過去とか、そういう類いではないです)。






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