解放されし記憶

製作者:ラギさん






エピソード15:人形論


 私の名はレアハンター。
 この作品では、『隠された知識』の一職員として働いている男である。
 なんという不当な扱いだろう。今世紀最大の悲劇といっても差し支えない。
 ああ、時代に合わない天才は、得てして評価が遅れるというもの。
 私もその例に漏れなかったようだ。
 そうして悲嘆にくれながら廊下を歩く。
 『隠された知識』本部はI2社の近くに建てられた新しいビル内にある。
 中々オサレな造りで、ビル中央はとうど吹き抜けになっているのだ。
 そんなオサレ空間を優雅に歩いていた私のちょうど右となりで、突如として扉が開いた。
「ヒィ! 誰だいきなり!」
 驚いて、声が裏返ってしまったではないか!
 おのれ、この私のセクシィボイスを誘発するとは……!!
「おや、あなたは……」
 私を驚かした男、そのどこか礼儀正しそうな声は聞き覚えのあるものだった。
「……おお! パンドラ! パンドラじゃないか!」
 かつてのグールズ2の実力者、《ブラック・マジシャン》カードを主力とする奇術師決闘者、パンドラその人であったのだ。
「いやはや……お久しぶりですねえ。この組織は大きいからか、かつての同僚でも会えない人も多いですから」
 そう言って、彼は私との再会を喜んでくれた。
 しかし、パンドラの言うとおり、同じ元グールズメンバーでも会えずじまいの人物も多い。
 これが無縁社会という奴だろう。寂しい時代になったものだ。
「ところでパンドラ、貴様こんなところで何をしていたのだ?」
 私は何気なく問いかけたのだが、彼は急に真面目な雰囲気になり――
「あれは、私が遊戯に負けた後のことです……」
 なんか、パンドラは回想を始めた。
「マリクによって恋人を模した人形と共に、夢幻の世界に私は囚われていました。夢も現もわからぬままさまよっていた時、捨てられたデュエルモンスターズのブースターパックが私の視界に入ったのです。そのパックは開封済みで、必要なカードがなかったから捨てたのだろう、そう思いました。なんとなく、自分の境遇と重なって見えたからでしょうか、私は自然とそのパックを拾っていました。そして、そのパックに入っていた1枚のモンスターカードに私は心打たれたのです! こんなにも純真に戦いに赴く姿を見てに、私は一体何をやっているのだろうってね。私は立ち上がりました。新たに、そのカードと共に! ……そして、このカードが私を救ってくれたカード! 私はこのカードを召喚!」
 つらつらと何やら語っていたかと思ったら、いきなりカードを取り出してデュエルディスクにセットするパンドラ。
 ディスクのソリッドビジョンシステムが作動し、私達の目の前にモンスターの映像が投影される。
「これが私を救ってくれたカード――黒魔導師クランです!」
「ピケルじゃねーのかよ」
 ……なぜだか私は、意味不明のツッコミを入れていた。
 我ながら、何故ピケルじゃねーのかよ、という言葉が出てきたのかわからない。
 他にもツッコミどころは満載だと言うのに。
 まあ、かつての仲間が、いきなり10歳にも満たないであろう少女魔術師を、めっちゃ自慢げに召喚していたとなれば混乱もいた仕方なしだろう。
 私の灰色の脳細胞も、突然の事態には思考を混乱させてしまうこともあるのだ。
「そして、同時に恋人を模していた、すなわち人形そのもの――フィギュアの素晴らしさにも目覚めたのです! つるつるの肌、なめらかな体の曲線――そして、出来たのがこのクランフィギュア! ありとあらゆる関節が稼働し、どんなポーズも思いのまま! スカートの中まで造りこんだ一級品です!」
 そう言ってどこからか取り出した、黒ウサギ頭巾の幼女魔導師クラン人形を誇らしげに掲げるパンドラ。
 ……なんだかとんでもない虚しさが込み上げてきた。
「そうか、感動的だな」
 とりあえずそれだけ言っといた。本当は「だが無意味だ」と続けたかったが自重した。
 パンドラは私の言葉を受けて「そうでしょう、そうでしょう」と嬉しそうだった。
 いろんな意味で涙がこぼれそうだった。
「おっと、私もまだ用事があるのでした。これで失礼しますよ!」
 そう言って上機嫌にその場を去っていくパンドラ。
 ……なんだか、一気に疲れが出た様な気がした。
 とはいえ、自分の仕事はまだ残っている。――そう、資料室D〜Gまでの掃除という重要な任務が!
 ……なんだか雑用ばかり任されている気がする。これは不当な扱いでは。
 やはり、私は時代に愛されない早すぎた天才ということなのだろう。
「おや、珍札じゃないか」
「へヘ、これは久しぶりだかんな!」
 む、またしても悲嘆にくれている私の前に、聞き覚えのある声が。
「ああ、光の仮面に闇の仮面」
 チビとノッポの2人組、かつてのグールズのメンバー。タッグデュエルに定評のあった仮面コンビであった。
「なんだ珍札、こんな事でサボりか?」
「そんなことはない! こ、これから取り掛かろうと思っていたところだ!」
「なんだその宿題やるよう言われた小学生みたな反応は」
 なんという暴言。悲嘆に暮れていた天才に向かって事もあろうに小学生呼ばわりとは。
 しかし、こんな事で怒る私ではない。
 立派な社会人であり、神のデュエリストであるこの私は、そんな事ではうろたえないのだ。
「そういうお前らは何をしているのだ、光の仮面に闇の仮面よ」
「ああ、ちょっと移動中だ……っとそれより珍札。オレ達のコードネームを忘れたのか?」
「……? コードネーム?」
「そうだ。我々はこの組織に属する際に新たなコードネームを与えられている。お前の『珍札』もそうだろう」
 アレ、そうだっけ? これって本名じゃなかったんだ。
「ちなみに元・光の仮面であるオイラのコードネームは『ヒッカ』だかんな!」
「そして元・闇の仮面であるオレは『ヤミー』という」
 ふむ――――なるほど。
 あれか。“光”の仮面だから『ヒッカ』“闇”の仮面だから『ヤミー』か。
 安直だな。私のひとひねり加えた『珍札』とは天と地ほどの差がある。
 というか『ヤミー』だと、どこぞのリアルゴさんとカブるが大丈夫か? 10だけど実は0だったりするのか?
「おっといけない。相棒、オイラ達もあまり油売ってる余裕はないぞ」
「そうだな。はやく仕事を終わらせてしまおう。それではな、珍札」
 そう言って、チビノッポコンビは私のとなりを歩いて行った。
「さて、私も掃除を終わらせないと……」
 自分の勤めを果たすために、掃除をする資料室に向かって歩を進めようとした。
「な……なんだ?」
 その時、後ろからチビ……もといヒッカの戸惑う様な声が聞こえてきた。
 何事かと振り返った私の視界に――異様なモノが写った。
「……!?」
 ノッポのヤミー、チビのヒッカ、さらにもう一つ。
 のっぺりとした肌色、表情のない貌。
 ヒッカとヤミーの正面に自立するマネキン人形――いや、肘や膝にボール状のパーツが組み込まれているので、球体関節人形という奴か。
 ともかく、なんか不気味な人形があらわれたのだ。
「な、なんだこれは……だれだ、こんなところに……こんなものを置いたのは……」
 そう言ってヒッカがその人形に手を伸ばしたその時。
 ガチリと。人形の腕が、ヒッカの手を掴んだ。
「……!? な、なんだ!? 動いた!!?」
「……相棒!!」
 慌てた様子でヒッカの腕を引っ張り、人形から引き離すヤミー。
「なんだ、相棒。乱暴な……」
「バカ言え! どう見たってそいつは……」
 その瞬間。人形がぐにゃりを体勢を崩し――
「……!! 危ない!!」
 私はとっさに2人の間に入り、人形を蹴り飛ばす。
 人形は後ろに吹っ飛んだ……が、そのまま床に転がらず、グネリ、とあり得ない方向に関節を曲げて立ちあがった。ヒィィ! キモッ!!
「な……なんなんだ、こいつは……!!」
 同じように驚愕するヒッカのそばで、ヤミーが呟くように言う。
「どうやらソイツだけじゃないみたいだぞ……下の階にも……!!」
 ヤミーの声に釣られ、吹き抜けから別の階にも目をやる。
 そこには――同じように、不気味な球体関節人形が徘徊し……また、人に襲いかかってるような様子も見て取れた。
 一瞬、あまりにホラー映画然としたありえない様子に気が削がれたが、弾ける様に叫んだヒッカによって三人とも我に帰る。
「……! これはヤバいかんな! 逃げるぞ!」
 同時に、蹴り飛ばした人形も、こちらにぎこちない動きで近づいてきた。うわぁああ、やっぱ怖えよぉおおお!!
「……くそ! こっちに来るな!」
 叫ぶと同時に、ヤミーは近くにあった消火器を人形目掛けて投げつける。
 見事にヒットし、後ろにすっ転ぶ人形――だが、やはりキモい動きで起き上がる。人間だったら大けがで動けないだろうに……ヒィィ!
「うわああああ! な、なんだこいつらはああ!!」
「た……たすけ……」
「きゃあああああ! いやああああああ!!」
 ほどなくして、そこらかしこから悲鳴が上がり始める。
 それだけではない。人形を迎撃しようとしてるのか、銃声まで混じり出す始末だった。
 さながらパニック映画なみの混乱ぶりだ。
「く……いかんな。どこにも人形が湧いているようだ」
「なんだってんだ! ゴキブリじゃあるまいし!」
 ヒッカとヤミーは愚痴りながら走る。私もそれに追走する。
「……! まて、とまれ!」
 一番前を走っていたヤミーが曲がり角前で急に止まり、壁際に体を隠すように張り付いた。
「…………!」
 壁際から、そっと覗いてみると……床に転がる人々、それに馬乗りになる人形の群れ。
 遠目からの確認だが、倒れた人たちに外傷の様なものは見受けられない。
 だと言うのに、誰もかれもピクリとも動かないのだ。
「なんだ……皆人形に驚いて気絶でもしてるのか?」
「それにしては様子がおかしい……推論に過ぎんが……あの人形がなにか……しているのかもしれん」
 というかあれ、控えめに見てもなんだか捕食シーンみたいに見えてめっちゃこわい! ヒィイ!
「これでは、この先には進めないかんな……どうするか……」
「どうにか、外につながる道に辿り着ければ……」
「! そうだ!」
「なんだ、どうかしたか珍札」
「パンドラだ!」
「「……は?」」
 不意に思い出した。私と別れたパンドラは確かこっちの方に向かっていた筈だ。
 人形にやられている可能性も否定できないが……もし無事なら、助けるなり、助けてもらうなりできるはずだ!
「パンドラがこっちに来ているハズなんだ! さっきこっちの方に向かうのを見た!」
 だが、その名を聞いた2人の反応は微妙なものだった。
「なに!? パンドラ……だと?」
「……珍札、何かの間違いじゃないのか?」
 なんだ、2人してパンドラに対してネガキャン中なのか。そんなにいて欲しくないというのか。
 確かにあのしましま仮面のセンスはどうかと思うが、そこまで毛嫌いする事もないだろうに。
 そう、我らは同じ釜の飯を食った仲間! 不屈の友情パワーで、この危機を脱するべきなのだ!
 そう自分を振るいたたせる私とは対照的に、ヒッカとヤミーは怪訝そうな顔を受かべてきた。
「珍札……もしかして、知らないのか」
「パンドラは……ここにいないはずだかんな」
 ……は?
 一瞬、私は2人が言っていることができなかった。
 だって、現に私はパンドラをこの目で……。
「あのバトルシティにてマリク様が敗れ、我らはことごとく捕えられた……。そのほとんどは収容、もしくはこの『ダアト』で従事することとなった……」
「だが、数は少ないが行方不明になっている者もいるんだ……パンドラもその一人。今現在まで行方は分からないまま……というより、すでに死亡してる可能性が高いという捜査報告が警察から上がっているんだ」
 な、なんてことだ……! 行方の知れないパンドラがここに来ていた。そしてこの人形の溢れる阿鼻叫喚の図。
 まさか……この事態を引き起こしたのは……!

「ええ、そうです。私こそが、この饗宴の主催者です」

 妙によく透る声が響いた瞬間に、ヤミーとヒッカの頭上からべトリ、と異形の人型が降りかかりたちまち絡みつく。
「ぐがっ! ななんだ! 人形ががががが……」
「しまった! くそ! 離れれれれれれ……」
 唖然とする私の目の前で、キモ人形に絡みつかれたヤミーとヒッカが、それを引きはがそうとするのだが……彼ら2人の目から徐々に生気が抜けていき、しまいには体の動きも少なくなり、その場にへたり込んでしまった。
 それこそ、糸の蹴れた操り人形のように。
「どうですか? 素晴らしいものでしょう? この人形達は魂の在りようが弱い者達に近づくだけで、対象の魂の力を奪えるのです」
 人形の餌となり、力なく倒れた2人の奥側から、真黒なローブを身にまとった仮面の奇術師――かつての同朋、パンドラが自慢げな口調と共にあらわれた。
「な……パンドラ! 貴様一体、どういう……!」
「言ったじゃないですか、素晴らしい人形達の宴でしょう?」
 うっとりとした様子で、パンドラは狂乱と捕食のステージを眺める。
「生も死も内包した、静かな世界へ旅立つための前夜祭です……ウフフ、命あるものを導くための素敵な素敵な宴……キキキ……」
「……!!」
 だ、だめだ! 完全にイッちまってる! 話が通じるとは思えんヒィィ!
「……くそ! パンドラ! 人形遊びも過ぎるぞ! いい加減に……!」
「煩いですねぇ……珍札、貴方の魂の力も“魔神”の糧となりなさい」
 パンドラの不機嫌そうな声と共に、カリリ、と微かな磨れる音を立てて、キモ人形が私の四方を取り囲む。
 い、いかん! このままではキモ人形たちにおいしく頂かれてしまう!
「(……くっ、苦し紛れに過ぎんが……!)」
 私は意を決し、パンドラに向けて言い放つ!
「待て! パンドラ! 私とデュエルしろ!」
 だが、人形は動きを止めず、じりじりと私に迫ってくる。
 ……あれ、もしかして、詰んだ?
 ちょ、ちょっとまて! こういうときは、デュエルに応じて、その勝敗でケリを付けるものではないのか!?
 少しは世界観を守る努力を……。
「……ふむ、いいでしょう」
 と、私の抗議が届いたのか定かではないが、パンドラが指を鳴らすと同時にキモ人形の動きが止まった。
「ここでデュエルするメリットはないに等しいですが……ちょうどいい、本命のためのウォーミングアップの相手になってもらいましょう」
 おお、言ってみるものだなあ!
 やはりこの世界において、デュエルで解決できない問題などないのだ。
 そこに気付くとは、やはり私は天才か……ククク。
「ククク……いくぞ。私のエクゾディアで、貴様の目を覚ましてやる!」
「フフフ……では、これを見ても同じ事がいえますか?」
 パンドラが指を鳴らすと同時に、辺りの空気が重く、暗いものに変質した。
「こ、これは……!」
「ご存じでしょう? 闇のゲームですよ……敗者の精神を喰らう、暗黒の儀式!」
 なんということだ、パンドラが闇のゲームを仕掛けてきた。
 どういうことだ、まるで意味がわからんぞ!?
 だが……大見えを切った以上、やるしかあるまい!!
「だ、大丈夫だ問題ない! 勝てばよかろうなのだーーー!!」

「「決闘!!」」

パンドラ:LP4000
珍札:LP4000


「私の先攻ですね、ドロー」
 パンドラの先攻で始まったデュエル。手札を素早く見回すと、パンドラは手札のカードを翳す。
「では早速……手札から魔法カード《古のルール》を発動しましょう」
「! なん……だと……!?」

《古のルール》 通常魔法
自分の手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。

 
 《古のルール》……! 効果を持たない通常モンスターに限定されるものの、高レベルモンスターを手札から呼び出すことのできる魔法カード!
 そして、パンドラの使う高レベル通常モンスターといえば……こんなに早く来るのか!
「ふふふ……さあ、おいでなさい! 手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚します!」

《ブラック・マジシャン》
闇/☆7/魔法使い族 ATK2500 DEF2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

 
 パンドラが使うエースモンスターが、早くもその姿を現した。
 かの決闘王、武藤遊戯がエースとして使用したことで一層有名になった《ブラック・マジシャン》。
 高レベルの魔法使い族モンスターであり、様々なサポートカードが存在するコンボの基点ともいえるカードだ。
 ただ、パンドラが使うのは遊戯のものとはイラスト違いであり、浅黒い肌と赤黒い衣、そして凶悪そうな顔つきが特徴といえる。
「さらに、カードを1枚伏せましょう。これでターン終了です」
 高レベルモンスターに伏せカード1枚。
 初手としては中々分厚い布陣をしき、パンドラはターンを終えた。


パンドラ:LP4000
モンスター:《ブラック・マジシャン》(功2500)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:3枚
珍札:LP4000
モンスター;なし
魔法・罠:なし
手札:5枚


「私のターンだ! ドロー!」
 デッキから最初のドローを行い、私の手札は6枚となる。
 ところでこの手札を見てくれ。コイツをどう思う?

(珍札の手札:《封印されし者の右腕》、《撹乱作戦》、《便乗》、《封印されし者の左足》、《電動刃虫》、《クリッター》)

 デュエルモンスターズに詳しい者なら、現在の私の手札を見て予想は付くと思う。私の現在のデッキは《便乗》によるドロー加速コンボを取り入れた【エクゾディア】デッキなのだ。
 
《便乗》 永続罠
相手がドローフェイズ以外でカードをドローした時に発動する事ができる。
その後、相手がドローフェイズ以外でカードをドローする度に、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 このカードは相手がドローフェイズ以外でドローを行った場合、私もカードを2枚ドローできる。
 つまり、相手にわざとドローさせるカードとコンボする事で、私はどんどんカードをドローできる!
 このコンボでエクゾディア完成を目指す。これが、今の私のデッキの最強戦術!
 とはいえ、このコンボの基点となる《便乗》、このカードの発動事態にも、相手がドローフェイズ以外でドローを行わなければならない。なんというワガママさんだ。
 が、その発動条件を満たせるカードがすでに、私の手札には来ている!

電動刃虫(チェーンソー・インセクト)
地/☆4/昆虫族・効果 ATK2400 DEF0
このカードが戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時に
相手プレイヤーはカード1枚をドローする。


《撹乱作戦》 通常罠
相手は手札をデッキに加えてシャッフルした後、
元の手札の数だけデッキからカードをドローする。


 パンドラの場には攻撃力2500の《ブラック・マジシャン》が存在するため攻撃力2400の《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》での攻撃は不可能。
 だが罠カードである《撹乱作戦》ならそんなこと関係なしに、相手にドローさせることができる!
 さらにエクゾディアのパーツカードも2枚来ている……ククク、イイ手札だ、完璧だ。
 おそらく今のシチュエーションは、この物語の主人公である私の燃えイベントなのだ。
 華麗にエクゾディアを操り、道を違えたかつての仲間を倒す……おお、なんという神回!
 神のデュエリストに相応しい舞台である!
「よし……まずはモンスターを守備セット! さらにカードを2枚伏せる!」
 とりあえず《撹乱作戦》と《便乗》を伏せ、《クリッター》を守備で出しておく。

《クリッタ―》
闇/☆4/悪魔族・効果 ATK1000 DEF600
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える


 これで《クリッタ―》は倒されるだろうが、その効果でエクゾディアパーツを手札に加えることができる。
 フフフ……パンドラ、貴様に召喚神エクゾディアを見せてやろう!
「これで、ターンエンドだ!」
「おっと、ではここで罠カードを発動させてもらいましょう」
 ぬ、ここでパンドラが待ったをかけ、伏せカードを発動してきた!
 しまった、エンドサイクされる可能性を忘れて……。
「私の発動させるカードは……罠カード《魔のデッキ破壊ウイルス》です」
 ……はい?

《魔のデッキ破壊ウイルス》 通常罠
自分フィールド上の攻撃力2000以上の闇属性モンスター1体を生け贄に捧げる。
相手のフィールド上モンスターと手札、発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間に
相手がドローしたカードを全て確認し、攻撃力1500以下のモンスターを破壊する。


「私の場の攻撃力2000以上のモンスター……すなわち《ブラック・マジシャン》をウイルスの媒介とし、これから3ターンの間貴方に魔のウイルスを感染させます!」
 パンドラの罠発動と共に《ブラック・マジシャン》が悶絶し、蹲る。
 その姿を消してゆく《ブラック・マジシャン》の体から、毒々しいピンクのウイルスが発生し、私を取り巻く! ヒィイ!
「これにより、貴方のフィールド、手札を確認し、さらに3ターンの間ドローカードに含まれる攻撃力1500以下のモンスターは全て破壊させてもらいますよ!」
 ぐ……! なんたることだ……!
 私のデッキは性質上、エクゾディアパーツを基盤とした低攻撃力モンスターが多い。
 故にこれからドローするカードはことごとく破壊されてしまう可能性が高い……!
 ウイルスに感染した私のフィールド、手札から《クリッタ―》《封印されし者の右腕》《封印されし者の左足》が破壊され墓地に送られてしまった。
「だが、ここで《クリッター》の効果が発動する! デッキから攻撃力1500以下のカードを手札に加える!」
 《魔のデッキ破壊ウイルス》はドローカードも攻撃力1500以下なら破壊してしまうが、《クリッター》の効果は破壊を介さず直接手札にカードを加える事ができる。
 つまり、ウイルスの影響を受けずに低攻撃力モンスターを手札に加える事ができる!
「私は《封印されしエクゾディア》を手札に加える!」
 
《封印されしエクゾディア》
闇/☆3/魔法使い族・効果 ATK1000 DEF1000
このカードと「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」
「封印されし者の右腕」「封印されし者の左腕」
が手札に全て揃った時、デュエルに勝利する。


 王たる力、エクゾディアのカードを手札に加えたぞ!
 戦況は厳しいが勝利に確実に近付いている! たぶん!
「……これでターン終了する!」


パンドラ:LP4000
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:3枚
珍札:LP4000(魔・カウント1)
モンスター;なし
魔法・罠:2枚
手札:2枚


「さて、私のターンですね、ドロー」
 パンドラのターンに移った訳だが、今現在私の場には防御を行えるモンスターが居ない。
 しかも、伏せた2枚は迎撃系のカードでもないため、ダイレクトアタックし放題な訳だ。
 ……ちょっとやばいかもしんない。
「ではまず、私はこのモン……」
「はいちょい待ちーー!! ここで伏せカードを発動しまーす!」
 ふ! これこそ相手のモンスター召喚に合わせた高等罠カード発動テクニック!
 マナー違反? あーん? 聞こえんなーー??
「罠カード《撹乱作戦》により、手札入れ替えをしてもらう!」
「……いいでしょう」
 パンドラが手札をデッキに戻しシャッフル、改めてデッキから戻した分カードをドローする。
 もちろん、この瞬間を見逃す私ではない!
「『相手がドローフェイズ以外でカードをドローする』という発動条件を満たしたため、永続罠《便乗》も発動!」
「……ほう」
 よし、これで便乗コンボの布石が整った。
 しかも手札交換を行ったことにより、パンドラの手札から場に出せるモンスターがなくなった可能性も……。
「では手札から《キラートマト》を召喚し、珍札にダイレクトアタックです」
 ありゃ。
 ま、そううまくはいけませんよねってヒィイ! 痛い! 《キラー・トマト》が噛みついてきた! めっちゃ痛い!

《キラー・トマト》
闇/☆4/植物族・効果 ATK1400 DEF1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を
自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。


珍札:LP4000 → LP2600


「おやおや、お忘れですか珍札……これは闇のゲームですよ? 受けるダメージは現実のものとなり、肉体も精神も蝕まれる……」
 得意げに語るパンドラ。く、くそ……!
「では、さらにカードを1枚伏せてターン終了としましょう」


パンドラ:LP4000
モンスター:《キラー・トマト》(功1400)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:2枚
珍札:LP2600(魔・カウント2)
モンスター;なし
魔法・罠:《便乗》
手札:2枚


「私のターン、ドロー!」
「この瞬間《魔のデッキ破壊ウイルス》が反応します。さあ、ドローカードをお見せなさい」
 ぐ……私がドローしたのは《封印されし者の左腕》。
 いつもなら神ドローと喜ぶところなのだが、今はウイルスの効果により攻撃力1500以下のカードは無差別に墓地に送られてしまう。 
「フフフ……貴方のエクゾディアも形無しの様ですね……」
「ぐぐ……だが、まだ終わった訳ではない!」
 このセリフ、けっして強がりではない。
 エクゾディアパーツは低攻撃力の闇属性通常モンスター。
 その低いステータスが幸いして、様々な墓地回収カードに対応している。
 今に見ていろ、いずれ私の《補充要員》、《闇の生産工場》、《ダークバースト》が火を噴き、エクゾディアを呼び出してくれることだろうククク……! 
「その前に、パンドラの場のザコをかたずける! 《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》召喚!」
 私の場に、光る二股の刃を持つクワガタ、《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》が現れる。
「行け! 《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》よ! 《キラー・トマト》を攻撃!」
 あっという間に《キラー・トマト》を寸断する《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》。
 すごいぞー! かっこいいぞーー!!

パンドラ:LP4000 → LP3000


「……《キラー・トマト》が戦闘破壊されたことにより、デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター……《ダークフレーム》を特殊召喚しましょう」

《ダークフレーム》
闇/☆4/悪魔族・効果 ATK1500 DEF0
闇属性の通常モンスターを生け贄召喚する場合、
このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。


「さらに《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》の効果により、私はカードを1枚ドローさせてもらいますよ!」
 そう、☆4としては破格の攻撃力を誇る《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》だが、相手にドローさせてしまうデメリット効果を秘めている。
 だが! 私とてそれを承知で使っているのだ!
「この瞬間《便乗》の効果発動! 相手がドローフェイズ以外でドローしたので、2枚ドローさせてもらう!」
 そんな私を見て、パンドラはフフン、と鼻で笑いながら問いかけてきた。
「ですが、ウイルスの効果は、効果によるドローにも反応します……わかっているのですか?」
 ふふん、そんなことは百も承知だ。
 だが、時にはリスクを冒さなければならないときもあるのだ! 全てはチャンス!
「神のデュエリストの力を見せてやる……! ドロー!」

ドローカード
・《アステカの石像》 効果モンスター
・《万能地雷グレイモヤ》 通常罠

 く……! 《アステカの石像》は守備力こそ2000と高いが、攻撃力は僅か300。
 ウイルスに引っ掛かり破壊されてしまった。
 だが、とりあえず防御手段である罠カード《万能地雷グレイモヤ》を手に入れた。
 それを伏せて、ターンを終了することにした。


パンドラ:LP3000
モンスター:《ダークフレーム》(功1500)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:3枚
珍札:LP2600(魔・カウント2)
モンスター;《電動刃虫》(功2400)
魔法・罠:《便乗》伏せカード1枚
手札:1枚


「では私のターンですね。ドロー」
 手札を確認し、カードを選び出すパンドラ。
「まずは《ダークフレーム》を生け贄に捧げます……このモンスターは通常闇属性モンスターの生け贄召喚時、2体分の生け贄にできるのです!」
 パンドラの場の真っ黒なルービックキューブみたいなのが、生け贄の渦に包まれる。
 っていうか、生け贄2体必要な通常闇属性モンスターって……!
「来なさい……《ブラック・マジシャン》召喚!」
 ぐ……2枚目のブラック・マジシャンが来たか……!
 パンドラは3枚の《ブラック・マジシャン》を扱うからな……!
「さらに魔法カード《黙する死者》を発動! 墓地の通常モンスター……《ブラック・マジシャン》を蘇生します!」

《黙する死者》 通常魔法
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
フィールド上に表側表示で存在する限り攻撃する事ができない。


 パンドラのフィールド上にもう1体の《ブラック・マジシャン》が蘇る。
 だが《黙する死者》の制約により、攻撃は封じられた状態だ。
 この状況で防御固めか……?
「フフフ……こうするのですよ、珍札。《黙する死者》で蘇生した《ブラック・マジシャン》を生け贄に……《闇のデッキ破壊ウイルス》を発動!」

《闇のデッキ破壊ウイルス》 通常罠
自分フィールド上の攻撃力2500以上の闇属性モンスター1体を生け贄に捧げる。
魔法カードまたは罠カードのどちらかの種類を宣言する。
相手のフィールド上魔法・罠カードと手札、発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間に
相手がドローしたカードを全て確認し、宣言した種類のカードを破壊する。
 

「なあ……!?」
 パンドラはせっかく蘇生させた《ブラック・マジシャン》を容赦なく生け贄にし、別のウイルスカードを発動させてきた。な、なんという外道!
「この《闇のデッキ破壊ウイルス》は魔法か罠、どちらかのカードを破壊していきます……ここは罠カードを宣言します」
 ぐう……! 今度は私の場の《便乗》《万能地雷グレイモヤ》があっという間にウイルスの侵食によって破壊されてしまった。
「フフフ……《便乗》もなんだかんだで厄介ですからね……これを機に潰させてもらいました。さて、さらに《黒魔導師クラン》を召喚!」

《黒魔導師クラン》
闇/☆2/魔法使い族・効果 ATK1200 DEF0
自分のスタンバイフェイズ時、相手フィールド上に存在する
モンスターの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える。


「さあ、いきますよ! 《ブラック・マジシャン》で《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》を攻撃! 続けて《黒魔導師クラン》で!!」
 《ブラック・マジシャン》が杖から光球を放ち、《電動刃虫(チェーンソー・インセクト)》を吹き飛ばし、がら空きになった私の場を駆け抜け《黒魔導師クラン》が鞭で私をはたく。
 はたから見れば可愛らしい一撃だが、これは闇のゲーム。
 着実に私の肉体にダメージは蓄積される。
「ぐが……!!」
 
珍札:LP2600 → LP2500→ LP1300


「フフフ……だいぶ苦しんでいるようですね。私はこれでターンを終了しましょう」


パンドラ:LP3000
モンスター:《ブラック・マジシャン》(功2500)《黒魔導師クラン》(功1200)
魔法・罠:なし
手札:2枚
珍札:LP1300(魔・カウント3)(闇・カウント1)
モンスター;なし
魔法・罠:なし
手札:1枚


「私のターン、ドロー……」
「さあ、魔と闇の2種類のウイルスの効力が発揮されますよ。ドローカードを見せてください」
 ぐぐ……今、私の手札は《封印されしエクゾディア》が1枚のみ。下手すればこのドローで負けが決まってしまう!
 低攻撃力モンスターか、罠カードだったらその瞬間終わりだ……!
 半ば祈るような気持ちで、ドローカードを見る。
 私がドローしたのは……速攻魔法《闇の護風壁》! 助かった!

《闇の護風壁》 速攻魔法
発動ターン、相手モンスターの直接攻撃による戦闘ダメージをすべて0にする。


 とはいえ、取れる手はあまり多くはない。ここは耐えるしかないようだ。
「私はカードを1枚伏せてターン終了」
 伏せたカードはバレバレな訳だが。


パンドラ:LP4000
モンスター:《ブラック・マジシャン》(功2500)《黒魔導師クラン》(功1200)
魔法・罠:なし
手札:2枚
珍札:LP1300(魔・カウント1)(闇・カウント3)
モンスター;なし
魔法・罠:なし
手札:1枚


「では、私のターンですね、ドロー」
「うおおおおおお! この瞬間に《闇の護風壁》を発動!」
 ばれてるわけだし、早めに発動しておく。下手に残して無効化されても嫌だしな。冴えてるぞ、私。
 パンドラは私にダメージを与える手段がないのか、苦い顔をしていた。
「ふむ……では、魔法カード《博打の宝札》を発動しましょう」

《博打の宝札》 通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
この効果でドローしたカードをお互いに確認し、
カードの種類によりこのカードは以下の効果を発動する。
●魔法:相手はデッキからカードを2枚ドローする。
●罠:自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。
●モンスター:このターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。


「この効果により2枚ドロー……ただし、ドローカードの種類により別の効果も発動します」
 そう言ってパンドラはドローした2枚のカードを器用に裏返し私に見せてきた。

ドローカード
・《光の護封剣》 通常魔法
・《魔導戦士 ブレイカー》 効果モンスター

「引いたのは魔法カードとモンスターカードですね。《博打の宝札》のデメリット効果でバトル不能となりましたか……まあ、どのみち《闇の護風壁》のお陰でダメージは与えられませんがね。では珍札、もうひとつのデメリット効果に従い、貴方もカードを2枚ドローしなさい」
 ぐ……おのれ! ドローできるのはありがたいが……ドローカードは、2種類のウイルスの効果にさらされてしまう。
 パンドラめ……デメリットが最小になるタイミングを狙ってきたな、いやらしい……!
「どうしました。お早く」
 く……ここは祈るしかない! 神様仏様エクゾディア様……! どうか、私にディスティニーを……!
「カードを2枚ドローする!」

ドローカード
・《手札抹殺》 通常魔法
・《封印されし者の右足》 通常モンスター

「《封印されし者の右足》が《魔のデッキ破壊ウイルス》の効果に引っ掛かり破壊されます」
 く……着実に破壊されて言っている! 加えて、墓地のカードを回収するカードも来ない……!
「では、念のためクランを守備表示に変更しておきましょう……これでターン終了です」


パンドラ:LP3000
モンスター:《ブラック・マジシャン》(功2500)《黒魔導師クラン》(守0)
魔法・罠:なし
手札:4枚
珍札:LP1300(闇・カウント2)
モンスター;なし
魔法・罠:なし
手札:1枚


「私の……ターン」
 このターンにおいて《魔のデッキ破壊ウイルス》の効果は切れる。
 しかし、罠破壊効果を選択された《闇のデッキ破壊ウイルス》の効果は顕在。
 加えて私の手札は《封印されしエクゾディア》と《手札抹殺》のみ。
 絶望的だ……膝を折りたくなるのは、これで何度目だろうか。
 そう、思い出すのは私がまだs
「珍札、貴方のターンですよ。早くドローなさい」
 空気を読まない発言によって私の回想は中断されてしまった。
 しかし……もはやこのドローに賭ける状態なのも事実。
 ここは一発、逆転のためのカードを引き当てるしかあるまい。
「パンドラよ」
 私はまっすぐ、今戦っている相手を見据える。
「お前がどうしてこのような事態を引き起こしたのか……それは今は聞かない。まずは、エクゾディアにお仕置きされてからだ」
「ほう……たった2枚の手札でよく言う……しかも、私もウイルスの効果によりその効果を知っている……まだ逆転できるとでも?」
 フッ……言ったな、パンドラよ。
「そこで相手の逆転を疑うのは……敗北フラグだ! ドロー!」
 私が引き当てたのは……魔法カード。
「! そのカードは!」
「いくぞ、パンドラよ! カードを1枚伏せ、魔法カード《手札抹殺》を発動!」

《手札抹殺》 通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。


 残った手札1枚を墓地に送り、カードを掲げる様に引く。
 引き当てたのは……まさに私が求めていたカードだった!
「……どうやら、ディスティニーは私のモノのようだな! 伏せカードを発動! 《エクゾディアとの契約》!!」

《エクゾディアとの契約》 通常魔法
自分の墓地に「封印されしエクゾディア」「封印されし者の右腕」
「封印されし者の左腕」「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」
全てが存在している時に発動する事ができる。
手札から「エクゾディア・ネクロス」を特殊召喚する。


「先ほどの《手札抹殺》により、私の墓地に全てのエクゾディアパーツがそろった……! よって引き当てたディスティニーカード……《エクゾディア・ネクロス》を特殊召喚!!」

《エクゾディア・ネクロス》
闇/☆4/魔法使い族・効果 ATK1800 DEF0
このカードは「エクゾディアとの契約」の効果でのみ特殊召喚が可能。
このカードは戦闘と魔法・罠の効果によっては破壊されず、
自分のスタンバイフェイズ毎に攻撃力が500ポイントアップする。
このカードは自分の墓地に「封印されしエクゾディア」「封印されし者の右腕」
「封印されし者の左腕」「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」
のいずれかが存在しなくなった時に破壊される。


 私の墓地から立ち上る影が、凝固した人型を造り出す。
 そして、それは黒い巨神――エクゾディア・ネクロスの肢体へと昇華された。
「これが私のもう一つの切り札、エクゾディアのもう一つの姿……! いくぞ、ネクロス! クランを攻撃!」
 黒炎を纏った拳が幼い魔導師を襲い、あっという間にその姿をかき消しめた。
「……クラン……」
 呆然とした様子で、それだけ呟くパンドラ。
 見たか……神のデュエリストの力を……!
「私はこれでターン終了する!」


パンドラ:LP4000
モンスター:《ブラック・マジシャン》(功2500)
魔法・罠:なし
手札:4枚
珍札:LP1300(闇・カウント2)
モンスター;《エクゾディア・ネクロス》(功1800)
魔法・罠:なし
手札:0枚


「……」
 ターンが移ったというのに、呆然とした様子でカードを引こうともしないパンドラ。
 どうやら私のディスティニーっぷりに戦意を喪失したようだ。無理もない。
「ふ……どうだ、パンドラ。今でもまだ遅くはない……サレンダーして、やり直すのだ」
 おお、どうだ、この私の気の使いっぷり!
 きっとパンドラも心打たれ、会心し、私の偉業を未来永劫語り告ぐ事間違いなしだ……!
「ええ……ええ……そうですね……」
 おおおお! やったぞ! 私の言葉に耳を傾けてくれた!
 これぞ主人公としての活躍だな!
「ええ……そうですねぇ……許せませんよねぇ……クラン……」
 そう、クラン……クラン?
 改めてパンドラに目を移してみる。
 パンドラはどこから取り出したのか、最初会ったときに見せてくれたクラン人形を大事そうに抱きかかえ、それに向けて異様な優しさを湛えながら話しかけていた。
 ……え? なんだあれ。
「珍札」
 ぐりん、と私の方に操り人形の様な動きで首を回すパンドラ。
「クランがね、痛かったっていってるんです……あんな拳骨で殴るなんてヒドイって……だからお仕置きしてほしいそうです」
「……パンドラ……」
 あまりにも異様な雰囲気にのまれ、まともに返事をすることもできない私を尻目に、パンドラはカードを引く。
「私のターンですね、ドロー」
 引いたカードを見て、パンドラはゆったりと破顔する。
 な、なんだ。イイカードでも引いたのか?
 しかし、私の《エクゾディア・ネクロス》はそうそう倒せまい。
 戦闘やあらゆる効果による破壊を防ぎ、自分のターン毎に攻撃力を500アップさせてゆく。
 今はマダ《ブラック・マジシャン》の攻撃力には届かないが、もっとターンを重ねれば……!
「珍札……貴方のエースであるエクゾディアのもうひとつの姿がその《エクゾディア・ネクロス》なのですね……ならば。私も、私のエースのもう一つの姿を御覧に入れましょう」
 その言葉と同時に、パンドラの《ブラック・マジシャン》が紫の渦に包まれる。
「な……なんだ……!!」
 その渦の中で、ブラック・マジシャンの姿が変質してゆくのが見てとれる。
 螺旋模様の衣に、鋭利で絢爛な装飾が加えられ、高貴な雰囲気を漂わせるマントが旋風に揺れる。
 徐々に紫の渦は弱まり、その魔術師の――いや、執行官の魔力と威圧そのものとなり、辺りの空気に溶けて行った。
「《ブラック・マジシャン》を生け贄に特殊召喚……《黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)》」

黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)
闇/☆7/魔法使い族・効果 ATK2500 DEF2100
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「ブラック・マジシャン」1体を
リリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分または相手が通常魔法カードを発動する度に、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 
「ブラック・エクスキューショナー……だと……!?」
 《ブラック・マジシャン》の強化体か!?
 しかし、攻撃力は見たところ変わっていない。
 これなら、まだ耐える事ができr
「魔法カード《光の護封剣》発動」
 ドスッ。
 一瞬、何が起こったのか分からなかった。
 パンドラが、魔法カードを発動したと同時に……気がつけば、私の肩に光で出来た剣が突き刺さっていた。
「な……なんじゃこりゃあああああ!?」

珍札:LP1300 → LP300


 その痛みの証明のように、私のライフが1000ポイント削られた。
 ちょ、ちょっと待て、今パンドラが発動した魔法カードは《光の護封剣》!
 相手にダメージを与える類の効果ではなかったはずだ!

《光の護封剣》 通常魔法
相手フィールド上に存在するモンスターを全て表側表示にする。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上に存在するモンスターは攻撃宣言をする事ができない。
 

 痛みに悶える私に、パンドラは簡潔に答える。
「《黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)》の効果……通常魔法の発動に反応し、相手に1000ポイントのダメージを与えます。私が発動した《光の護封剣》は通常魔法……よって、その効果が発動したのですよ」
 《光の護封剣》のエフェクトのライト光に照らされながら、不自然に、首をかしげるようにしながら、パンドラは私に告げる。
「さあ、死刑執行ですよ、珍札。地獄でクランに侘び続けなさい」
 《黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)》が杖を振り上げる。
 残りライフは300。
 ネクロスに攻撃されて受けるダメージは700。
 とても耐えきれるものではない。
 自分は負ける。
 肩が痛む。
 視界が眩む。
 音が遠くなり。
 なにもかもが、無くなってゆく。



● ● ● ● ●



 パンドラは、珍札に興味をなくしていた。
 意識を失い、倒れたそれは、彼にとってまったく重要なものではない。
 彼にとって重要な……会うべき人間が、彼の目の前に現れたのだ。
 そうとわかれば、珍札などにかまってはいられない。
 彼は笑みを浮かべて、その人を迎えた。
 言いたいはずのことは多すぎて、どういうべきか悩む。
 だからとりあえず、当たり障りのない、挨拶から始めることにした。
「お久しぶりです。お会いしたかったですよ。マリク」



エピソード16:戦狂者



「一体どういうことだ……」
 『隠された知識』本部にバイクで帰還中のラフェールは、ひしひしと違和感を感じていた。
 I2本社ビルの近くに建設された『隠された知識』本部ビル。所在地は都市部のまっただなかである。
 だと言うのに、そこに向かうにつれてどんどん人通りが、車やバイクが少なくなってゆく。
「(この時間帯、普段から出歩いてる人はそう多くはないが――だが、今のこの状態、いくらなんでも人影が少なすぎる)」
 それだけではない。
 本部ビルに近づくにつれて、奇妙な――肌寒さと刺すような戦慄が、少しずつ高まってきている。
 不安に思い、携帯端末から本部に連絡を試みたが、何かに妨害されているかのように、繋がることはなかった。
「(これは、何か異変が起こっている……!)」
 ハンドルを強く握り、アクセルを更に踏み抜くラフェール。
 スピードを上げ、不安に掻き立てられるように本部ビルを目指す。
 そしてついに見えてきた本部ビルに――ラフェールは、自らの視界を疑う。
「……! あれ……は!」
 『隠された知識』の本部ビル全体が、来るものを拒むように薄い黒の膜に包まれていたのだ。
「(あれは普通の人間には見えない、魔力を秘めた力場! それに、この感覚……おそらく!)――エアトス!」
 精霊《ガーディアン・エアトス》に迎撃の令をとばすラフェール。彼女がラフェールに見える形――薄いホログラムの様な状態で現れ、彼のバイクに追走するように滑空する。
 彼には、目の前の異変の原因に心当たりがあった。
 つい最近、任務について向かった図書館で遭遇し、戦う事となった“闇”の使い手――危険なまでに、闘う事に執着を見せる男。
「エアトス! このまま力場に突っ込む! 結界を破るサポートを頼む!」
 ラフェールの激にエアトスは小さく頷き、ラフェールのちょうど真上まで距離をつめる。
 そして、右腕を突き出し――彼女の力を示すかのごとく、その体は眩い光に包まれた。
「……いくぞ! 突き破る!」
 エアトスの力を借りて、ラフェールの乗ったバイクは黒の膜に突っ込む。
 薄いガラスを割るような、甲高い音が響き、ラフェールは“闇”の力場に走りこんだ。
「よし! 侵入成功……! な!!」
 僅かばかり得意な気持ちになった隙を突くかの様に、ラフェールのバイク目掛けて何かが高速で飛んできた。
 ラフェールが気付いた時には、もはや回避不能の位置関係だった。
「(よけれん……!) く……!!」
 とっさの判断でバイクから飛び降り、受け身を取りつつ地面に転がるラフェール。
 乗り手のいなくなったバイクに、飛んできた――両刃の剣が突き刺さり、一瞬の間をおいて爆発するのを、彼は蹲った姿勢のまま確認した。
「今の剣……見覚えがある……やはり、ヤツか……!!」
 立ち上がり、攻撃の飛んできた方向に視線を向ける。
 そこには……彼の睨んだ通り、あの戦狂者が――あの時と同じ、黒ローブを着込み《戦士ダイ・グレファー》の顔をした“闇”の決闘者が佇んでいた。
「ふふふ……人払いと軟禁を兼ねる、この結界を破る者が来たと思ったら……そうか、キミか! あの時と同じシチュエーションとは……浪漫あふれる演出じゃないか、ラフェール!!」
「ケムダー……!!」
 大仰なセリフと身ぶりで自らを迎えた闇の決闘者に、ラフェールは敵意をこめた視線で応えた。
「ふふふ……名前を覚えていてくれたか! これは、感動を禁じ得ない!」
「御托を聞くつもりはない! 貴様……ここで何をしている!」
 ラフェールの鋭い口調に「ふう、なんと風情のない」と溜息まじりの呟きを洩らしながら、ケムダーは『隠された知識』の本部ビルを見上げる。
「……そうだな、この場が私達の……正確には、私達のリーダーの目的を果たすために必要な場所なのさ」
 そう言って、微笑を浮かべながら視線をラフェールに戻し、言葉を続ける。
「知っているか、ラフェール? 今このビルが建っている場所……大昔には、インディアンの伝承で『手のひら』と呼ばれた場所だったんだ。ここには“魔術”の租となる“魔神”が眠っているとね」
「“魔神”……だと!? まさか、それを復活させるとでも言うのか!?」
「ほう、流石察しがいい!! まさにその通りだ!! そして、この建物の中にいる人間達には……“魔神”復活のために、生け贄になってもらっているところだ!」
「生け……贄……だと!?」
 物騒な単語に顔をしかめるラフェール。
「生け贄となる人間は、私の仲間――『残酷』のアクゼリュスの用意した人形の術式に触れるだけで、魂の力を奪い取られる。だが……魂の力の強い人間ともなれば、そう簡単にはいかない。たとえば……キミの様な存在だ!!」
 その言葉と同時に、ケムダーが指を鳴らしラフェールとケムダーの周囲を、一層来い闇の渦が取り囲む。
「ぐ……闇の力場……!! “闇のゲーム”か!!」
 警戒の姿勢を一層強めるラフェールに、ケムダーは戦意と歓喜の混じった笑顔で宣告する。
「キミは自前の魂の力の強さに加えて、精霊の力まで借りる事ができる……人間としては規定外な強さだ。そうなれば、この結界を切り崩されてしまうかもしれない。それになにより……キミとは決着をつけたかった! さあ、ラフェール! キミの仲間を助けたいのなら、この私を打ち倒すんだ!!」
「言われるまでもない……! いくぞ、ケムダー!」

「「決闘!!」」

ラフェール:LP4000
ケムダー:LP4000


「私の先攻だ! ドローする!」
 ラフェールが最初のドローを行い、闇の決闘が始まった。
「まずは《ウェポンプリースト》を攻撃表示で召喚する!」
 ラフェールが呼び出したのは、深緑のローブを着込んだ老司祭であった。

《ウェポンプリースト》
風/☆4/魔法使い族・効果 ATK1600 DEF1600
このカードが召喚に成功した時、デッキから
「守護者の祭壇」1枚を手札に加える事ができる。


「《ウェポンプリースト》の効果により、召喚成功時にデッキから永続魔法《守護者の祭壇(ガーディアンズ・オールタ)》を手札に加える」
「ほう……前の戦いでは見られなかったモンスターか! サプライズを用意してくれるとは、嬉しい限りだ!」
 嬉しそうに言うケムダーに顔をしかめながら、ラフェールは続けてカードをプレイする。
「……カードを1枚伏せて、ターンを終了する!」


ラフェール:LP4000
モンスター:《ウェポンプリースト》(功1600)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:5枚
ケムダー:LP4000
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:5枚


「では、私のターンだな! ドローする!」
 続くケムダーのターン。ドローカードを軽く眺めた後、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ふふ……このカードから来てくれるとはな……! 《戦士ダイ・グレファー》を召喚!」

《戦士ダイ・グレファー》
地/☆4/戦士族 ATK1700 DEF1600
ドラゴン族を操る才能を秘めた戦士。
過去は謎に包まれている。


 使い手と同じ姿をした男戦士が、剣を構えラフェールの司祭に対峙する。
「またしても、キミと初めてヤリあった時と同じシチュエーションだ……ふふ、やはりキミと私は、運命の赤い糸で結ばれているのかもしれないな! ダイ・グレファーで《ウェポンプリースト》を攻撃する!」
 ダイ・グレファーの剣撃が、ラフェールの老司祭を斬り伏せる。
「くっ……!!」

ラフェール:LP4000 → LP3900


 ラフェールが受けたのはたった100ポイント。
 だが、これはプレイヤーの精神と肉体にダメージを与える“闇”のゲーム。
 その作用により、彼の身にしびれるような痛みが走る。
「ふふ……どうかな、闇のゲームを楽しめているかな? カードを1枚伏せて、ターンを終了! さあ、キミのターンだ!」
 ラフェールの様子に相反するような軽快な声で、ケムダーはターンを終了させた。


ラフェール:LP3900
モンスター:なし
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:5枚
ケムダー:LP4000
モンスター:《戦士ダイ・グレファー》(功1700)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:4枚


「(く……守る手段を用意できなかったとはいえ……すまない、プリースト!)私のターンだ! ドローする!」
 引いたカードは、ラフェールにとっての反撃の手段となりうるものであった。
「よし……! まずは魔法カード《アームズ・ホール》を発動! デッキトップのカード1枚を墓地に送ることにより、デッキより装備魔法《重力の斧‐グラール》をサーチし、手札に加える!」

《アームズ・ホール》 通常魔法
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキ・墓地から装備魔法カード1枚を手札に加える。
このカードを発動するターン、自分は通常召喚する事はできない。


《重力の斧‐グラール》 装備魔法
装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上のモンスターは表示形式を変更できない。


「む……覚えているぞ! 今サーチした《重力の斧‐グラール》は、キミの主力であるガーディアンモンスターの1体! 《ガーディアン・グラール》を呼ぶための装備魔法! だがどうする? そのカードを装備させるモンスターは、キミのフィールド上には存在しないぞ!?」
「そんなことは、百も承知……ガーディアンモンスターと、それの宿った特殊な装備魔法は密接な関係がある。それを示す、新たな召喚方法を見せてやろう! 永続魔法《守護者の祭壇(ガーディアンズ・オールタ)》を発動!」
 ラフェールのカード発動と同時に、彼の場に厳かな雰囲気を持つ、石造りの祭壇が出現した。

守護者の祭壇(ガーディアンズ・オールタ) 永続魔法
1ターンに1度、手札から装備魔法を選択して発動する。
選択した装備魔法を相手に見せ、そのカード名がテキスト欄に
記載されているモンスター1体を手札から選択し、
自分フィールド上に召喚条件を無視して特殊召喚する。
その後、選択した装備魔法をそのモンスターに装備する。


「それは、先ほどの《ウェポンプリースト》の効果で手札に加えたカードか!」
「そうだ……彼が残してくれた、反撃の狼煙だ! 《守護者の祭壇(ガーディアンズ・オールタ)》の効果を発動! 1ターンに1度、手札の装備魔法に対応するガーディアンモンスターを、私のフィールド上に特殊召喚することができる!」
 ラフェールの宣言と同時に祭壇の一つが揺れ、その中心に双刃の斧――《重力の斧−グラール》が出現した。
 そして、その祭壇に揺らめく蜃気楼のような状態で、巨躯の戦士――《ガーディアン・グラール》が現れ、自らの名を冠する戦斧を手に取る。
 すると、彼の体は実体を帯び、それに呼応するがごとく跳躍。
 祭壇から飛び降り、戦場へと躍り出た。

《ガーディアン・グラール》
地/☆5/恐竜族・効果 ATK2500 DEF1000
「重力の斧‐グラール」が自分フィールド上に存在するときのみ、
このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚することが出来る。
手札にこのカード1枚しかない場合、
手札からこのカードを特殊召喚することができる。


《重力の斧‐グラール》装備!
《ガーディアン・グラール》:ATK2500 → ATK3000


「ガーディアンを呼ぶために相手に確認させた装備魔法は、そのままガーディアンに装備される……! いくぞ、ケムダー! 《ガーディアン・グラール》で《戦士ダイ・グレファー》を攻撃する!」
 《ガーディアン・グラール》が斧を構え、《戦士ダイ・グレファー》目掛けて振り下ろさんとする。
「おっと、中々熱烈なアプローチだ! ならば、こちらも相応の対応をさせてもらおう! 罠発動《ディメンション・ウォール》!」
 その宣言と同時に、グレファーの目の前に暗い穴が出現した。

《ディメンション・ウォール》 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、
かわりに相手が受ける。


「この次元の穴に向かった攻撃ダメージは、キミに跳ね返ることとなる!」
 得意げに言うケムダーに、ラフェールも負けじと伏せカードを開いた。
「そうはいかない……! それにチェーンし、伏せカード《トラップ・スタン》を発動!」

《トラップ・スタン》 通常罠
このターンこのカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。


「これにより、このカード以外の罠効果を封じる!」
「なんと!?」
 上ずった声を上げるケムダーの眼前で、確かに戦局は変化した。
 《ガーディアン・グラール》を阻むように出現していた次元の穴が消滅、阻む者の無くなったグラールの斬撃は、見事に《戦士ダイ・グレファー》を打ち倒した。

ケムダー:LP4000 → LP2700


「ぐは……! 今のは効いたぞ、ラフェール……!!」
「貴様らの好きにさせておくわけにはいかない……! カードを1枚伏せる。これでターン終了だ!」


ラフェール:LP3900
モンスター:《ガーディアン・グラール》(功3000)
魔法・罠:永魔《守護者の祭壇》、装魔《重力の斧−グラール》
伏せカード1枚
手札:2枚
ケムダー:LP2700
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:4枚


「ふふ……私のターン、ドロー!」 
 罠を無効化され、大きなダメージを負うこととなったケムダーだが、相変わらず戦意は劣らない。
 高揚した声で、手札のカードを掲げる。
「ラフェール! キミが新たなガーディアンたちとのコンビネーションを見せるのなら……私も、新たな魔王とのコンボネーションを見せよう! まずは手札の《沼地の魔神王》を墓地に送り《融合》を手札に加える!」

《沼地の魔神王》
星3/水属性/水族/攻 500/守1100
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
また、このカードを手札から墓地へ捨てる事で、
デッキから「融合」魔法カード1枚を手札に加える。


《融合》 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
融合デッキから特殊召喚する。


「そして、サーチした《融合》を発動! 手札の《漆黒の魔王(ダーク・ルシアス)LV8》と《地獄戦士(ヘルソルジャー)》を融合する!」
「!? 漆黒の魔王の融合体だと!?」
 驚愕するラフェールに、ケムダーは笑いながら訂正を入れる。
「ふふ……正確には悪魔族と戦士族の融合体だ! サア、来い……融合召喚! 《邪戦騎兵 エビルウォリアー》!」

《邪戦騎兵 エビルウォリアー》
闇/☆7/戦士族・融合/効果 ATK2000 DEF2500
「戦士族モンスター1体+悪魔族モンスター1体」
このカードはフィールド上で表側表示で存在する限り、悪魔族としても扱う。
このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
融合素材としたモンスターのレベルの合計値×100ポイント攻撃力がアップする。
このカードが相手のカード効果、もしくは戦闘破壊によってフィールドから離れた時、
このカードの融合素材となったカード1組が自分の墓地に存在している場合、
そのうち1体を自分フィールド上に特殊召喚し、もう1体を自分の手札に戻す。


 漆黒の鎧に全身を固め、両手に巨大な槍を携えた騎士が、邪悪な闘気を放ちラフェール達の眼前に降り立つ。
 対峙する《ガーディアン・グラール》は斧を構え、威嚇するように低く唸り声を上げた。
「エビルウォリアーは、融合素材としたモンスターのレベル合計値の100倍、攻撃力が上昇する! 融合素材とした《漆黒の魔王LV8》と《地獄戦士》……レベル8とレベル4の合計は12! つまり、攻撃力は1200ポイントアップだ!」

効果適用!
《邪戦騎兵 エビルウォリアー》:ATK2000 → ATK3200


「な……! パワーアップした《ガーディアン・グラール》の攻撃力を更に上回るのか……!」
「さあ行くぞ! エビルウォリアーで《ガーディアン・グラール》を攻撃! ――邪戦裂衝!」
 槍を突き出し、グラールに突撃を仕掛ける邪悪の騎士。
 巨躯の守護者も、斧を振り果敢に応戦するが――力の差は覆せない。
 エビルウォリアーの一撃は、容赦なくグラールを屠った。
「ぐあ……!!」

ラフェール:LP3900 → LP3700


「エビルウォリアーは自身の効果により、守備表示に変更となる。私はこれで、ターンを終了しよう!」


ラフェール:LP3700
モンスター:なし
魔法・罠:永魔《守護者の祭壇》、伏せカード1枚
手札:2枚
ケムダー:LP2700
モンスター:《邪戦騎兵 エビルウォリアー》(守2500)
魔法・罠:なし
手札:2枚


「く……! 私のターン、ドロー!」
 ラフェールは引いたカードに目をやると、すぐさまそれを掲げる。
「《守護者の祭壇(ガーディアンズ・オールタ)》の効果を使う! 手札の《静寂のロッド‐ケースト》に対応するガーディアンモンスター……《ガーディアン・ケースト》を特殊召喚する!」
 
《静寂のロッド−ケースト》 装備魔法
装備モンスターの守備力は500ポイントアップする。
装備モンスターを対象にする魔法カードの効果を無効にし破壊する。


《ガーディアン・ケースト》
水/☆4/海竜族・効果 ATK1000 DEF1800
「静寂のロッド‐ケースト」が自分フィールド上に存在するときのみ、
このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚することができる。
このカードは魔法の効果を受けない。また相手モンスターから攻撃対象にされない。


《静寂のロッド‐ケースト》装備!
《ガーディアン・ケースト》:DEF1800 → DEF2300


 今度は祭壇に、クリスタルに包まれた蒼の杖が現れる。
 それを、麗しい人魚の様相の守護者――《ガーディアン・ケースト》が、クリスタルを割ることなくすり抜ける様に取り出し、その手に携えた。
 ケムダーは、その様子に目を見張っていた。
 いや、正確には――彼女の、表示形式に驚いていたのだ。
「……攻撃表示……だと!? この状況で、守備にまわらず……反撃してくる気か、ラフェールよ!」
「その通りだ……! いくぞ、ケーストでエビルウォリアーを攻撃する!」
 ケーストが空中を泳ぐように疾走し、エビルウォリアーに攻撃を仕掛ける。
 だが、その攻撃力は1000ポイント。対する相手の守備力は2500ポイントもある。
 その差を覆す答えは、すぐさま彼の宣言で明らかになった。
「この瞬間《メタル化・魔法反射装甲》を発動し、ケーストの装備カードとする!」
 ラフェールの発動した罠の効果を受け、《ガーディアン・ケースト》が手にする杖を中心に、まるで銀のグラデーションが架ったかのような変化が現れた。

《メタル化・魔法反射装甲》 通常罠
発動後このカードは攻撃力・守備力300ポイントアップの装備カードとなり、
モンスター1体に装備する。
装備モンスターが攻撃を行う場合、そのダメージ計算時のみ
装備モンスターの攻撃力は攻撃対象モンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。


「《メタル化・魔法反射装甲》の効果により、ケーストの攻撃力・守備力ともに300ポイント上昇!」

《メタル化・魔法反射装甲》装備!
《ガーディアン・ケースト》:ATK1000 → ATK1300


「だが、その程度ではエビルウォリアーの守備力2500を打ち破る事は出来ない!」
「ああ、もちろんそれだけではない! メタル化のもう一つの効果……攻撃目標となる相手モンスターの攻撃力の半分の数値を、装備モンスターに加える!」

《メタル化・魔法反射装甲》効果適用!
《ガーディアン・ケースト》:ATK1300 → ATK2900


 白銀と化したケーストの杖と腕に、エビルウォリアーが写りこみ――その力が乗り移るかのように、ケーストの攻撃力が上昇する。
「なんと!?」
「ケーストの攻撃――裂帛の怒涛!」
 蒼の濁流が巻き起こり、黒の甲冑戦士に襲いかかる。
 エビルウォリアーの抵抗は、実体のない水を切るばかり。勢いの止まらぬ水の力に押され、その身は砕け散った。
「ぐ……まさか、このような方法で倒されるとは……だが、こちらとてやられっぱなしではない!」
 ケムダーの声に応えるがごとく、打ち砕かれたエビルウォリアーの鎧の中から大剣を手にした巨大な悪魔――《漆黒の魔王LV8》が現れたのだ。
「エビルウォリアーが、相手によって倒された場合……融合素材の片方をフィールド上に特殊召喚し、もう片方を手札に戻す事ができる! 私は《漆黒の魔王LV8》をフィールド上に召喚し、《地獄戦士》を手札に戻す!」
 
漆黒の魔王(ダーク・ルシアス)LV8》
地/☆8/悪魔族・効果 ATK2800 DEF900
「漆黒の魔王LV6」の効果で特殊召喚した場合、
このカードが戦闘によって破壊した相手モンスターの効果を無効にし、ゲームから除外する。


 ラフェールは、ケムダーの現れた最高位レベルモンスターを目にして顔をしかめる。
 効果を確認して認識していたとはいえ、上級融合モンスターを倒した矢先、それに劣らぬ力を持った後続が出てくるのを目の当たりにしては、穏やかではいられない。
「……メインフェイズ2に移り、モンスターを守備表示で1体出す」
 だが、弱音を言ってはいられない。
 今もなお『隠された知識』の皆が、命の危機にさらされている。
 “闇”の力を操る者どもの手によって、弄ばれているのだ。
 ―――負けるわけにはいかない。
「これで、ターンを終了する!」
 その一念をこめるがごとく、力強い声でラフェールはターンエンドを宣言した。


ラフェール:LP3700
モンスター:《ガーディアン・ケースト》(功1300)、守備モンスター1体
魔法・罠:永魔《守護者の祭壇》、装魔《静寂のロッド−ケースト》
通罠《メタル化・魔法反射装甲》
手札:0枚
ケムダー:LP2700
モンスター:《漆黒の魔王LV8》(攻2800)
魔法・罠:なし
手札:3枚




エピソード17:見出した道のり



 ラフェールは、3つの絶望を背負っていた。
 1つ目は、幼い頃に家族と豪華客船に乗っていた折に海難事故に遭い、無人島で孤独な生活を送ることになったこと。
 2つ目は、その無人島から奇跡的に生還するものの、残された遺産をめぐる醜い争いを目にし、憎しみを募らせることになったこと。
 3つ目は、2つの絶望から自らの運命を見離し“闇”の傘下――ドーマの一員となったこと。
 自らの運命を突き抜けんと抗いぬいた彼は、名もなきファラオとの戦いを経て、心の闇を克服するにいたった。
 だが、同時に彼は心の闇は無くなることのない、表裏一体のものだということも思い知った。
 自分はこれからどうするべきなのか。
 運命に答えはあるのか。
 彼はそれに――答えを見つけられなくとも、なんらかの標を見つけたいと願った。
 それを見つけなければ、過去にケリをつけて前に進む事は出来ない――そう思ったのだ。
 こうしてラフェールは、ドーマの三銃士とも別れ、人知れず旅に出たのであった。


● ● ● ● ●

  
 旅を続ける道中、驚くべき出会いがあった。
 とある地方を旅していた時に、カードの精霊が見える、という少年に出会ったのだ。
 ラフェール自身も精霊の宿ったカードを所持しており、その存在には深い関わりがある。
 《ガーディアン・グラール》、《ガーディアン・ケースト》、そして、今は亡き家族の贈り物でもあり、もっとも信頼する――《ガーディアン・エアトス》。
 無人島での生活を余儀なくされた時、孤独で正気を失いそうになる精神を支えてくれたのは、その精霊達であった。
 不思議な、天真爛漫という言葉がよく似合う、その少年は言った。
 いつか自分は「家族」と呼べる精霊達にあうだろう。そして、そのころには精霊達との関わりも、もっと深くなっているはずだ、と。
 ラフェールは、その言葉に頷いた。
 デュエルモンスターズは古代エジプトの魔術を元に、様々な神話のエッセンスを加えてデザインされたゲームだ。
 偶然か、必然か――精霊が宿る事もあれば、“闇”の力の媒介になることもある。
 そして、このゲームは偶然か必然か、世界中に広まりつつある――魔的な事象も、拍車がかかる事も予想できる。
 
 もうひとつ、これは精霊を見ることのできる少年との出会いに限った話ではなかったが――そうして広まってゆくデュエルモンスターズが、人々に愛されるゲームだと再認識したのもその旅の中であった。
 自分の信じたカードでデッキを組み、己とカードを信じ――むろん、そうでない人物もいたが――デュエルを楽しんでいる人々に多く会えたのだ。
 それはラフェールに、自らの精霊のカード……そして彼自身の、デュエルそのものへの愛情を再認識させてくれた。
 そうして旅を続けた果てに、彼はI2社がデュエルモンスターズに関わる人智を超えた力――超神秘科学体系(ミスティック・サイエンス・システム)の本格的な研究をスタートさせた事を耳にした。
 自らが愛するこのゲーム……このゲームを愛する様々な人々……それに自分なりの協力ができるなら――。
 自分に宿ったこの力で、信頼する精霊達と共に、未来をより良いものにできるのなら――。
 
 ―――こうしてラフェールは『隠された知識』の扉を叩いた。
 運命と、自らの心に、新たな道を刻むために。


● ● ● ● ●


「私のターン、ドロー! まずは魔法カード《闇の誘惑》を発動する! デッキからカードを2枚ドローし、その後闇属性モンスター……さっき回収した《地獄戦士》を除外する!」

《闇の誘惑》 通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローし、
その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。
手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る。


地獄戦士(ヘルソルジャー)
闇/☆4/戦士族・効果 ATK1200 DEF1400
このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地に送られた時、
この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手にも与える。


 『隠された知識』本部ビルでの決闘は、なおも続く。
 “闇”の決闘者ケムダーが、反撃のために手札を整えた後、改めて対峙する相手に視線を戻した。
「さて……ラフェール、キミの場の《ガーディアン・ケースト》に装備されている《メタル化・魔法反射装甲》……戦闘相手の攻撃力の半分を加算する効果も、こちらから攻撃する場合は発動しない……つまり実質、こちらから攻撃する場合、彼女は攻撃力1300にしか過ぎないわけだ」
「……」
 ケムダーの指摘に、ラフェールはあくまで表情を変えず、相手をにらみ返す。
 彼の指摘は、的確だった。
 ケムダーの言うとおり《メタル化・魔法反射装甲》の強力な攻撃力上昇効果は、装備モンスターが攻撃を仕掛けるときにしか機能しない。攻撃を受ける場合は使えないのだ。
「だが、ケーストには攻撃対象にならない効果がある……ケースト1体になってしまえば、彼女を素通りしてダイレクトアタックができるのだが……」
 それも、ラフェールとて想定済みだ。
 自分フィールド上のモンスターがケーストのみでは、彼女「攻撃対象にならない」の効果が働き、相手モンスターの攻撃はダイレクトアタックになってしまう。
 それを防ぐため、今のラフェールのフィールド上には、ケーストの他に守備用モンスターを1体用意してある。
「ふむ……その守備モンスターを除去できる手段があればよかったのだが……やむ言えないな。まずは何かと戦闘で厄介になりそうな、ケーストから倒させてもらおう!」
「……なに!?」
 ラフェールは思わず驚いた。
 確かに攻撃力こそ低いものの、攻撃対象にならず《静寂のロッド−ケースト》の効果で魔法効果も無効化できる。けっして弱い守りではないのだ。
「だが、けっして鉄壁の守りではないだろう……! ケーストを生け贄に《ゲンガードール》を特殊召喚!」
「!? しまった!」

《ゲンカード―ル》
闇/☆4/悪魔族・効果 ATK? DEF?
このカードは通常召喚できない。相手フィールド上の
表側表示モンスター1体を生け贄にして、相手フィールド上に特殊召喚する。
このカードの攻撃力、守備力は生け贄にしたモンスターの元々の数値の半分になる。
このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、お互いにカードを1枚ドローする。
 

《ゲンガードール》:ガーディアン・ケーストベース)
ATK? → ATK500/DEF? → DEF900

 
 ケーストが闇に飲み込まれ、それを象った影の像が出来上がる。
 以前の決闘でも使われた手だ。ラフェールは思わず歯噛みする。
「これで守りは崩れた……! いけ、魔王よ! ケーストの影を攻撃!」
 黒の像は《漆黒の魔王LV8》の大剣により、あっさりと斬り伏せられる。
 その斬撃の超過ダメージが衝撃波となり、ラフェールを襲った。
「ぐ……く……!!」

ラフェール:LP3700 → LP1400


「さて、本来なら《漆黒の魔王LV8》には戦闘破壊したモンスターの効果を無効にし、ゲームから除外する効果があるが……それは正規の条件でレベルアップした時しか使えないからな。普通に戦闘破壊され《ゲンガードール》の効果が発動、互いにカードを1枚ドローする!」
 ケムダーがカードを引き、ラフェールも遅れて、カードを引いた。
「カードを2枚伏せてターン終了!!」


ラフェール:LP1400
モンスター:守備モンスター1体
魔法・罠:永魔《守護者の祭壇》
手札:1枚
ケムダー:LP2700
モンスター:《漆黒の魔王LV8》(攻2800)
魔法・罠:伏せカード2枚
手札:2枚


「私のターン……ドロー!」
 カードを引いたラフェールだが、手札のカードでは太刀打ちできそうにない。
「……カードを1枚伏せ、ターンを終了する……!」
 ラフェールが、顔をしかめたままターンを終了させる。
「む、これはチャンスかな? 私のターン、ドロー!」
 続くケムダーのターン。
 引いたカードを見やり、にやりと笑う。
「よし……《デーモン・ソルジャー》を召喚!」

《デーモン・ソルジャー》
闇/☆4/悪魔族 ATK1900 DEF1500
デーモンの中でも精鋭だけを集めた部隊に所属する戦闘のエキスパート。
与えられた任務を確実にこなす事で有名。


 ケムダーの場にマントを翻し、精鋭と称されるに相応しい力をそなえた悪魔戦士が現れた。
 その攻撃力は1900。ケムダーの場にそろったモンスターの攻撃力は、どちらもラフェールのライフポイントを上回った。
 どちらかの攻撃が通れば、この決闘、ラフェールの敗北だ。
「この攻撃……受け切れるか、ラフェールよ! バトルフェイズに移行する! さあ、いくぞ魔王よ! 守備モンスターを攻撃だ!」
 《漆黒の魔王LV8》が大剣を振りかざし、ラフェールの守備モンスターに襲いかかる。
 すぐさま、ラフェールは伏せカードを開いた。
「罠発動! 《攻撃の無力化》!」

《攻撃の無力化》 カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

 
 時空の渦が発生し、魔王の攻撃は受け流される。
「これで、バトルフェイズは強制終了となる」
「ふふふ……やはり、そう簡単には決まらんようだな! それでこそ、私が見初めたデュエリストだ! 私はこれでターン終了しよう!」


ラフェール:LP1400
モンスター:守備モンスター1体
魔法・罠:永魔《守護者の祭壇》
手札:1枚
ケムダー:LP2700
モンスター:《漆黒の魔王LV8》(攻2800)、《デーモンソルジャー》(攻1900)
魔法・罠:伏せカード2枚
手札:2枚


「私のターン、ドロー!」
 引き当てたカードを見て、ラフェールは眼を見開く。
 反撃……とまではいかなくとも、この状況を打破できる可能性を秘めたカードが来たのだ。
「よし……! まずは、守備モンスターを反転召喚する! 頼む、《ウェポンサモナー》!」

《ウェポンサモナー》
風/☆4/魔法使い族・効果 ATK1600 DEF1600
リバース:カード名に「ガーディアン」の文字が入っているカードを
自分のデッキから1枚手札に加える

 
 立ち上がった深緑のローブを着た召喚師――《ウェポンサモナー》が両手を掲げ、そこに武器の形をした光が発生した。
「これにより《ウェポンサモナー》のリバース効果が発動! デッキからガーディアンモンスター……《ガーディアン・フェネクス》を手札に加える!」
「ほう……私の知らない新たなモンスター……しかも、ガーディアンを手札に加えたか! 次にどうくるか、非常に楽しみだ!」 
「……そして《守護者の祭壇(ガーディアンズ・オールタ)》の効果を使う! 《流転の槍−フェネクス》を用いて……《ガーディアン・フェネクス》を召喚!」

《流転の槍−フェネクス》 装備魔法
装備モンスターは攻撃力が300ポイントアップする。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
1ターンに1度まで、自分が受けるダメージを相手にも
与えることができる。(この効果は相手ターンにも使用できる)


《ガーディアン・フェネクス》
炎/☆4/悪魔族・効果 ATK1800 DEF400
「流転の槍−フェネクス」が自分のフィールド上に存在する時のみ、
このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時に、
以下の効果を発動することができる。
自分の墓地のモンスター1体と装備魔法1枚をデッキに戻して
シャッフルした後、デッキからカードを2枚ドローする。
その後、この効果でデッキに戻したモンスターの
レベル×100ポイント分のダメージを受ける。


《流転の槍‐フェネクス》装備!
《ガーディアン・フェネクス》:ATK1800 → ATK2100


 赤紫の炎を撒き散らし《ガーディアン・フェネクス》が、翼を象った刃を持つ槍――《流転の槍−フェネクス》を片手に現れた。
 鎧に包まれたその姿形は、基本的に人型だが、手首から肘に賭けて翼を思わせる形で赤紫の炎が逆立ち、顔を覆う鳥の頭を思わせる形状の兜と合わせて、炎の翼を持つ鳥の獣人と言った印象を与える。 
 新たなガーディアンを傍らに、ラフェールは敵対する相手の場を見据える。
「(ケムダーの伏せカードは2枚……迎撃用の魔法・罠カードの可能性も十分考えられるが……フェネクスの効果を使うには戦闘を行わなければならない。ここは……!)押し通る! いくぞ! フェネクスで《デーモン・ソルジャー》を攻撃!」
「くるか! ラフェールよ!」
 嬉しそうに言うケムダーの横で、槍を構え高速で飛んできた《ガーディアン・フェネクス》の手により、精鋭の悪魔戦士は串刺しにされた。
 ケムダーの伏せカードは開かなかった。攻撃は、成功した。
 
ケムダー:LP2700 → LP2500


「よし! フェネクスが相手モンスターを戦闘破壊したことにより、その効果が発動する! 墓地に存在するモンスター1体と装備魔法1枚をデッキに戻す事で、カードを2枚ドローする!」
 ラフェールが、相手の場に伏せカード2枚に加えて、攻撃力2800を誇る《漆黒の魔王LV8》が居座っているにも関わらず《ガーディアン・フェネクス》の攻撃を押し通したのは、このドロー効果を発動するためだったのだ。
「効果発動! ――流炎天命!」
 ドロー効果を発動させるため、フェネクスは燃えさかる腕に持った槍を掲げ、祈祷の構えを形作る。
 だが、その瞬間。
 流転の力を持つ鳥頭の悪魔は……その力を発揮することなく、砕け散った。
 絶句するラフェールに、得意げな微笑を湛えたケムダーが、フェネクスを打ち破った力の正体を宣告する。
「カウンター罠……《ヒーローズルール2》を発動した!」

《ヒーローズルール2》 カウンター罠
墓地のカードを対象とする効果モンスターの効果・魔法・罠カードの
発動を無効にし破壊する。


「前に戦った時に、キミが使った《魂の解放》が気にかかっていてね……キミのデュエルは、どのような形にしろ墓地利用が鍵ではないかと思い、ちょっと仕込ませてもらった。どうやら、ドンピシャだったようだな!」
 苦悶の表情で、ケムダーを睨むラフェール。
 攻撃も通り、途中まで順調に進むと思っていただけに衝撃も大きい。
「……カードを1枚伏せ、ターン終了」


ラフェール:LP1400
モンスター:《ウェポンサモナー》(功1600)
魔法・罠:永魔《守護者の祭壇》、伏せカード1枚
手札:0枚
ケムダー:LP2500
モンスター:《漆黒の魔王LV8》(攻2800)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:2枚


「私のターン、ドロー!」
 代わり、ケムダーのターン。
 ケムダーは手を緩めるようなことはない。
 彼にとって、戦いとは全力を尽くすべきもの、全てを賭けて挑むものだからだ。
「私は《ミストデーモン》を召喚!」

《ミストデーモン》
闇/☆5/悪魔族・効果 ATK2400 DEF0
このカードは生け贄なしで召喚する事ができる。
この方法で召喚した場合、このカードはエンドフェイズ時に破壊され、
自分は1000ポイントダメージを受ける。


 ケムダーの目の前に赤黒い霧が発生、それが流動し、中空に凝縮するように集まって悪魔の体を造り出した。
「《ミストデーモン》は☆5のモンスターだが、生け贄なしで召喚できる! さて、バトルフェイズに移行する! この攻撃……耐えられるか!? まずは《漆黒の魔王》で《ウェポンサモナー》を攻撃だ!」
 今回は魔王の攻撃はいなされることなく、ウェポンサモナーに直撃。あっさりと屠られてしまう。
「ぐわああ……!! (……すまない、サモナー……!!)」

ラフェール:LP1400 → LP200


「さあ、これが決まれば私の勝ちだぞ! 《ミストデーモン》でダイレクトアタックだ!」
 先の魔王の一撃により、多大なダメージを負ったラフェール。
 ふらつきながらも……霧の悪魔の攻撃を前に、残った伏せカードを開いて迎撃する。
「……《ガード・ブロック》発動! 私へのダメージを0にし、カードを1枚ドロー!」

《ガード・ブロック》 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動することができる。
その戦闘によって発生する自分の戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
 

 《ミストデーモン》の巨腕の一撃は、寸での所で回避された。それをケムダーは残念がることなく、むしろ歓迎するようだった。
「ははははは! 素晴らしいぞ、ラフェール! 感じるぞ、ギリギリのところで耐え、未だ闘志は失われていない、その心! 愛を感じる!」
「愛……だと……!?」
 凄惨な戦いの場に似つかわしくない単語を聞き、ラフェールは顔をしかめる。
 それにケムダーは、なおも顔を笑みに歪めて言いはなった。
「そうだとも、愛だ! 私は今でこそ、精霊なのか、人間なのか、よくわからない存在になってしまった……だが、記憶すら曖昧な私だが、1つだけ確かだと言える事がある! それは、私が愛を知っているという事! 愛こそが人間の根源――喜びを、悲しみを、悩みを、苦しみを、憎しみを生み出す、心の源泉! そこから溢れる思いを、私は戦いに載せるのだ! 心を掲げ、命を賭して、打ち合い、凌ぎ合う! それこそが、私の存在証明! 私の愛なのだ!」
 呆気に取られ答えを返さぬラフェールに、ケムダーは優しく微笑みながら言葉を続ける。
「そしてキミも……私と形は違えど、愛ゆえに闘っている。私はそう感じた。だからこそ、私はキミに惹かれたのだ! その精霊との絆! 麗しい関係! それに、私のあらん限りの愛をぶつけよう! メインフェイズ2に移行し《神秘の中華なべ》を発動、《ミストデーモン》を生け贄にする!」

《神秘の中華なべ》 速攻魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、
その数値だけ自分のライフポイントを回復する。
 

ケムダー:LP2500 → LP4900


「生け贄を踏み倒して召喚した《ミストデーモン》はエンドフェイズに自壊し、同時に私のライフに1000ポイントのダメージを与える……そうなる前に、ライフ回復のために生け贄になってもらうことにした!」
 デメリットを回避し、ライフも倍近くまで膨れ上がったケムダー。
 この牙城を崩せるか!? と言わんばかりに鼻息を荒くする。
「さあ、これでターン終了! ラフェール! キミの愛を見せてみろ!」


ラフェール:LP200
モンスター:なし
魔法・罠:永魔《守護者の祭壇》
手札:1枚
ケムダー:LP4900
モンスター:《漆黒の魔王LV8》(攻2800)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:1枚


「私の……ターン!」
 デッキトップに指をかけながら、ラフェールは目の前の相手の言葉を反芻する。
 そして湧きあがってきたのは――不快な違和感。
 ケムダー自身の中では、先の言葉は矛盾するものではないのだろう。真っすぐ語ってきた通り、彼自身の信念ではあるのだ。だが……。
「ドロー! ……魔法カード《四元素の宝札》を発動! このカードは、墓地に炎・水・地・風属性モンスターがそれぞれ1体以上存在する場合に発動できる。この効果で、手札が4枚になる様にカードをドローする!」

《四元素の宝札》 通常魔法
自分の墓地に炎・水・地・風属性モンスターが
それぞれ1体以上存在する場合、発動できる。
自分の手札が4枚になるようにカードをドローする。
「四元素の宝札」はデュエル中1度しか発動できない。


「現在、私の手札は1枚……よって、3枚ドローする!」
 ラフェールの墓地に埋もれたモンスターの加護が、ラフェールに新たな可能性を齎す。
 そんな彼らを、墓地から救いあげるカードも、同時に舞い込んだ。
「続けて魔法カード《貪欲な壺》を発動! 墓地に存在するモンスター5体……《ウェポンサモナー》《ガーディアン・フェネクス》、《ガーディアン・ケースト》、《ガーディアン・グラール》、《ウェポンプリースト》をデッキに戻し……2枚ドロー!」
 
《貪欲な壺》 通常魔法
自分の墓地からモンスターカードを5枚選択し、デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「む、そのカードにより手札は5枚に……さらに墓地のモンスターの全てを回収したか!」
 ケムダーが警戒と期待の混じった声を上げる。
 ラフェールの墓地からモンスターが消える……それはすなわち、彼の切り札――あの強大な力を秘めた、美しき守護者との対面を予感させるものだからだ。
「ふふ……今の私には止める手段はないが……やはりキミの主力戦術は……墓地利用に重点を置いたものだったか!」
「……正確には、違う」
 ラフェールが、相対するケムダーを見据える。
 自らの敵を。相容れぬ愛を語るものを。
「私は……過去に、家族を失い……カードの精霊に命を救われたことがある。それからだ。私は例えデュエル中であっても、モンスターを墓地に送ることを……恐れる様になった」
 あの時、苦しい運命の意味を知り、その意味を追い求めた。
 ドーマにいた頃の自分は心の闇を突き抜けた、つもりでいた。
 だが……それは間違いだった。
 “ただお前は……家族が行方不明という現実……たった一人残された孤独から逃れるために運命に……ダーツにすがっただけなんだ!!”
 自らを破った決闘王――名もなきファラオのデュエルが、彼の心を呼び覚ましてくれた。
「今でも、戦いに置いてむやみに彼らを……私のために戦ってくれるモンスター達を、むやみに墓地に送る事は極力避けている。それが、私なりの、彼らへの敬意の払い方だ」
 そして、その後、旅の中で出会ったデュエルを愛する決闘者たち……新たに見出した、彼らの助けになるという道のり。
 だからこそ。
 ケムダーが語った“愛”は、彼にとって、否定すべきものだった。
「……ケムダー、お前は愛ゆえに闘っていると言ったが……私には、それは詭弁にしか聞こえない。命を弄ぶような“闇”のゲーム……それを耳障りのよい言葉で飾り立て、貴様自身の欲望を押し付けているにすぎない!」
 人間と精霊の未来――そこに破壊と混乱をもたらす存在。
 ラフェールは、自分の闘っている相手を、改めてそう認識したのだ。
「語るなぁ、ラフェールよ! だったら、証明して見せろ! キミの絆を! キミの心を! 他ならぬ、キミ達の力で!」 
「……いくぞ! まずは《サイクロン》を発動する! ケムダー、貴様の場に残された伏せカードを破壊させてもらう!」
 
《サイクロン》 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。


 ケムダーの場に残っていた伏せカードが砕ける。
 伏せカードの正体は《バーン・カウンター》。以前のケムダーとの決闘で、引き分けに持ち込まれた原因たるカードであった。

《バーン・カウンター》 通常罠
相手モンスターが直接攻撃を行った場合に発動可能。
その攻撃を無効にし、そのモンスターを破壊する。
その後、お互いにこのカードの効果で破壊した
モンスターのレベル×300ポイントのダメージを受ける。


 ラフェールが直接攻撃に及んだ場合に備えて、伏せてあったのだろう――ラフェールは念のため破壊したのだが、これから彼がとる戦術からみれば、結果的に見れば無視してもよいカードであった。
「む……ずっと発動しなかったこのカードを態々破壊してくるということは、おそらくは必殺の攻撃の準備があると……やはり、彼女か!?」
「続いて魔法カード《魂の解放》! このカードでケムダー、お前の墓地に存在する《バーン・カウンター》、《神秘の中華なべ》、《ヒーローズルール2》、《闇の誘惑》、《融合》、この5枚を除外!」

《魂の解放》 通常魔法
お互いの墓地から合計5枚までのカードを選択し、そのカードをゲームから除外する。

 
「ここで、私の墓地のカードを除外する……か……!?」
 戸惑う表情を見せるケムダーを前に、ラフェールは手札の“彼女”のカードに指を掛ける。
 彼の望んだとおりに、そして自らの全力を――信ずる精霊の全力をぶつけるために。
「私の墓地にモンスターが存在しなくなった事により、このカードの召喚条件を満たした……いくぞ! 《ガーディアン・エアトス》特殊召喚!!」

《ガーディアン・エアトス》
風/☆8/天使族・効果 ATK2500 DEF2000
自分の墓地にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
このカードに装備された装備魔法カード1枚を墓地に送ることで、
相手の墓地に存在するモンスターを3体まで選択し、ゲームから除外する。
この効果でゲームから除外したモンスター1体につき、
エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は500ポイントアップする。

 
「来たか、エアトス……キミの、エースモンスター!!」
 麗しき守護者、ガーディアン・エアトス。
 彼女に再会できたことを歓迎するかのごとく、ケムダーは恍惚の溜息を洩らす。
「ケムダー……この一撃で決める! 装備魔法《女神の聖剣‐エアトス》を装備させ……エアトスの効果を発動する!」
 ラフェールの宣言と同時に、エアトスの構えた剣が砕け、そこにケムダーの墓地のモンスターの魂が集まってゆく。
 これも、前の決闘の時と同じ。
 だが―――。
「……!? なんだ、前とは違う!? 私の墓地のモンスターが……次々と……!?」
 前の決闘の時は、ケムダーの墓地で能力の対象となったのは2体だけだった。それでなくとも、エアトスの効果で除外されるモンスターは3体まで。
 だが、今回は違う。
 3体どころではなく、ケムダーの墓地から次々とモンスターの魂の力が立ち上ってゆく。
「《女神の聖剣‐エアトス》によって《ガーディアン・エアトス》の真の力が発揮された! その真の力とは、相手墓地からモンスター以外のカードが出るまで、それを取り除き……そのモンスターの攻撃力の合計値をエアトスの攻撃力に加える!」
「!? なんと!?」

《女神の聖剣‐エアトス》 装備魔法
装備モンスターは攻撃力が300ポイントアップする。
「ガーディアン・エアトス」がこのカードをコストに自身の効果を発動した場合、
その効果を以下の効果に変更することができる。
●相手の墓地の上からモンスターカード以外のカードが出るまで
モンスターカードを取り除く。取り除いたモンスターカードの攻撃力の合計値分、
このカードの攻撃力がエンドフェイズ時までアップする。


「そうか……! 《魂の解放》で、私の墓地の魔法・罠カードを除外したのは、このため……!!」
 意図に気付き、上ずった声を上げるケムダーの目の前で、魂の力は着々とエアトスの元に集まっていった。
 《ミストデーモン》――攻撃力2400。
 《デーモン・ソルジャー》――攻撃力1900。
 《ゲンガードール》――攻撃力?――この場合、攻撃力0。
 《邪戦騎兵 エビルウォリアー》――攻撃力2000。
 《沼地の魔神王》――攻撃力500。
 《戦士ダイ・グレファー》――攻撃力1700。
 その全てが、エアトスの力となった。

《ガーディアン・エアトス》真の効果を適用!
《ガーディアン・エアトス》:ATK2500 → ATK11000


「おおおお!! 攻撃力……11000!!」
 圧倒的なまでの力を携え、エアトスはそれを光の槍へと変換する。
 それは、エアトスの体の10倍は越えるであろう大きさになった。
「決着の時だ……! いくぞ、エアトス! 《漆黒の魔王LV8》を攻撃――精霊のオペラ!!」
 光の槍を、エアトスが投擲する。
 それは、強大な光の奔流となり、まっすぐに黒の魔王目掛けて進撃してゆく。
 最高位レベルの魔王であろうと―――また、初期ライフを越えるライフポイントを備えていようと。
 この強大な一撃を受け止める事は出来ない。

 そのはずだった。

「ふふふふふ……ははははっはっははははは!!!!」
 
 突然、ケムダーがせきを切ったように笑いだした。
 それは、敗北を悟った苦し紛れのものではなく。
 自身の消滅を憂いた、狂乱のものでもない。
 戦意と歓喜と―――自身の勝利を確信した笑みだったのだ。
 その様子を驚愕の表情で見つめるラフェールに対し、ケムダーは満面の笑みで言葉を返す。
「ラフェールよ……キミは、最後の最後で、墓穴を掘った! 私は、以前のデュエルから、キミが相手の墓地からカードを取り除く行為を、戦略の内に組み込んでいると思った……だから……このようなカードも仕込んでおいたのだよ!」
 そう言って……ケムダーは、手札に残った最後の1枚を、誇らしげに掲げた。
「相手モンスターの攻撃に対し、手札のこのカードを除外し効果発動! 《ディープピッカー》!!」

《ディープピッカー》
闇/☆4/悪魔族・効果 ATK700 DEF1800
相手の攻撃宣言時、このカードを手札から除外する事で発動する。
自分の墓地の中からカードを1枚ランダムに選択する。
それが発動条件を満たしている魔法・罠カードだった場合、
そのカードを除外し、その効果を発動する事ができる。


「このカードは、墓地からランダムにカードが選ばれ、それが発動条件が正しい魔法か罠カードだった場合に、その効果を使用できる! ラフェール、私の墓地には……なにが残っていると思う!?」
「そ……それは……!!」
 ケムダーの墓地は、エアトスの効果の関係上、魔法・罠を上から順に取り除いた。
 そしてその後、モンスターはエアトスの効果で全て取り除かれている。
 だが、ケムダーの墓地は空になっていなかった。
 そう……最初のラフェールのターンに、《トラップ・スタン》で無効化した攻撃迎撃用のカード……。
「そうだ! 私の墓地に残った唯一のカード……《ディメンション・ウォール》が選ばれる! これは発動条件を満たしているため……その効果が発動する!」

《ディメンション・ウォール》 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、
かわりに相手が受ける。


 それと同時に《漆黒の魔王LV8》の胸部に、仄暗い黒の渦が出現した。
「《ディメンション・ウォール》の効果により……攻撃力11000ポイントから発生する戦闘ダメージは、ラフェール、キミに受けてもらおう!」
「ぐ……!!」
 もはや、光の槍の進撃は止まらない。
 このままいけば、あの強大な攻撃はこちらに跳ね返り、自らのライフポイントを――ラフェールの命をことごとく奪い去るだろう。
「(だめだ……! このまま負けては……! 負ける訳には……!)」
 今も『隠された知識』の仲間達が、犠牲になっている。
 そして、目の前の“闇”の決闘者を放置すれば、未来に禍根を残すことになる。 
「…………」
 ラフェールは、手札に残った最後の1枚に、目を落とす。
 僅かな逡巡の後、その目線をエアトスに戻した――視線が、交わった。
 彼女は、決意の宿った目をしていた。
 引き締まった表情で―――ラフェールを見据えたまま、小さく頷く。
 覚悟は決まっている―――言葉はなくとも、そう言っているのが伝わってきた。
「(……すまない、エアトス!)速攻魔法発動! 《武装再生》!!」
「!? なんだと!?」

《武装再生》 速攻魔法
バトルフェイズ中のみ発動することができる。
自分または相手の墓地に存在する装備魔法1枚を選択する。
その装備魔法を正しい対象となるモンスター1体に装備する。


「私は自分の墓地に存在する《流転の槍−フェネクス》を《ガーディアン・エアトス》に装備する!」

《流転の槍−フェネクス》 装備魔法
装備モンスターは攻撃力が300ポイントアップする。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
1ターンに1度まで、自分が受けるダメージを相手にも
与えることができる。(この効果は相手ターンにも使用できる)


《流転の槍−フェネクス》を装備!
《ガーディアン・エアトス》:ATK11000 → ATK11300


「なに……この後に及んで、僅かばかりの攻撃力アップだと!?」
「いや……狙いはそこではない!」
 エアトスの手にした《流転の槍−フェネクス》。
 その翼を模した形の刃が、鳥が羽ばたく様な形に、刃が広がり―――全体が、透き通った赤い光を帯び出した。
「《流転の槍−フェネクス》には……本来、本体である《ガーディアン・フェネクス》の効果発動時のデメリット緩和のためであろう、もうひとつの効果が付与されている。それは……1ターンに1度、私が受けるダメージを、相手にも与えるというもの……!!」
「な……に……!?」
 赤いオーラを放つ槍を構え、エアトスはその切っ先を真正面に向ける。
 狙いは―――進撃する光の槍、その先にいる《漆黒の魔王LV8》。
「この効果で受ける私のダメージは……8500ポイント。だが只ではやられん……それと同じだけのダメージ、貴様にも受けてもらうぞ、ケムダー!」
 狙いをつけたエアトスが、槍を携え猛スピードで滑空する。
 それを認めた黒の魔王も、大剣を構え、迎撃の姿勢をつくった。
「ふふ……この私と……心中しようとでも言うのか! ラフェール!!」
 赤い光を纏った弾丸と化したエアトスが、進撃する光の槍に追いついた。
 そして、ついにその巨大な光の槍と一体化するように……自らの放った全ての力を身に纏い、最後の特攻をかける。
「これが、今の私の……未来への道のりの……その、全てだ!!」
 エアトスと魔王の激突と同時に、あらゆる方向にエネルギーが拡散する。
 それは激流であり、暴風であり、爆発であった。
 膨れ上がる光の中で、戦いに全てを掛ける決闘者の闘志と、未来を見据える決闘者の意思は、砕けて霧散し……やがて、静寂だけが残った。

ラフェール:LP200 → LP0
ケムダー:LP4900 → LP0







エピソード18:敵対者



「ああ……いざ、こうして対面すると、言葉は出てこないものなのですね、マリク」
「パンドラ……」
 突如現れた人を襲う人形のせいで、混乱の極みに陥った『隠された知識』の本部ビルの中、再開を果たしたマリクとパンドラ。
 叫びと嘆きの響く周囲とは対照的に、向かい合う2人の間にあるのは、奇妙な静寂だった。
「……この事態を引き起こしたのは……パンドラ、君だね」
 沈黙を破り、マリクが鋭い、敵意をにじませた声でパンドラに問いかける。
 慎重に相手の出方を窺い、同時に周囲の人形の接近にも気をはらうマリクの様子に、パンドラは薄い笑みを見せる。
「おや……悲しいですね、マリク。こうやって再会できたというのに、私は貴方に会いたかったというのに」
「……狙いは、ボクか」
「まあ、それ以外にも目的はありますが……貴方に会いたかったというのは、嘘偽りのない私の本心ですよぉ!」
 パンドラが芝居がかったポーズで両手を掲げると、その体から“闇”が吹き出る。
 あっという間に、パンドラとマリクは黒のベールに包まれた。
「ふふぅう……素晴らしいものです……人間としての命を捨て去り……この闇の徒(シュラウド)となって、私は新たな世界を開きましたよ」
 うっとりとした様子を語るパンドラに、マリクは苦々しげな表情をつくる。
「皮肉だな……わかるよ、パンドラ。お前には、ボクを責める権利がある。お前の記憶を操り――恋人の心を、千年杖の力で取り戻せると嘯き、お前の人生を弄んだ」
 名もなきファラオへの復讐――誤解の上だったのだが――その憎しみに囚われていたマリク。
 復讐の鍵となる3枚の神のカードを求め、犯罪組織グールズを結成、その折に人の心を操れる千年アイテムの一つ―― 千年杖の力を悪用し、その勢力を拡大していった。
 その過程で、様々な人々の人生を狂わせてきた――パンドラも、そのひとりなのだ。
 名のある奇術師だった彼は、たった一度の脱出マジックの失敗が原因で酷い傷を負い、地位も名声も失った。
 そんな彼を献身的に支えた恋人、カトリーヌ。だが、自暴自棄に陥っていたパンドラは彼女を拒絶。
 結果、彼は全てを失い、ボロ屑のようになってしまった。
 そのパンドラを――奇術師の腕を見込んだマリクは、千年杖の洗脳の力で、去ってしまった恋人を呼び戻してやるかわりに、グールズの傘下に入り、自らのために働くよう持ちかけたのだ。
「いいえ……本当に私は貴方を恨んでなどいないのですよ、マリク。それに貴方は教えてくれたじゃないですか……愛すべきものを、人形を!」
「……!!」
 マリクは、彼のかつての恋人、カトリーヌ本人を捜しだし、洗脳するような事はしなかった。
 そんなことに手間や人員を裂くくらいなら、神のカード捜索や、組織の拡大に手を付けていたほうが有意義だったからだ。
 心身ともに衰弱していたパンドラは、一度折れた心を何とか奮い立たせようと、グールズの任務に打ち込んでいた。
 そして、そんな彼を騙すために――マリクは千年杖でパンドラの記憶感覚を操り、マネキン人形をその恋人に身立てさせていたのだ。
「貴方からの洗脳が解かれた私を迎えてくれたのは……人形でした。どこまでも冷たい体、どこまでも美しい造形。その、美しい沈黙の世界の悦び、それを貴方にも教えてあげたい! ここに来る一因を作ってくれた……マリク、貴方にね!」
「く……!」
「そうそう、マリク、貴方の最初の質問に答えていませんでしたね。この宴の主催者は、間違いなく私……かつての奇術師パンドラ。今の私は、人間の範疇に収まらない存在……クリフォトの5、『残酷』のアクゼリュス! ここからは、奇術師ではなく、魔術師として、この闇のゲームを彩りましょう!」
 ゆっくりと笑みを浮かべ、パンドラ――『残酷』のアクゼリュスとマリクの決闘が始まった。

マリク:LP4000
アクゼリュス:LP4000


「……ボクのターンからだ。ドロー!」
 マリクが気を引き締め直し、カードを引く。
 とにかく、“闇”のゲームに持ち込まれたなら、勝利するほかない。
 それに、相手はグールズの中でトップクラスの実力を誇っていたパンドラだ。
 生半可な手では、勝つことは出来ない。
「……モンスター1体を守備表示! さらにカードを1枚伏せておく。これで、ターンを終了する!」 


マリク:LP4000
モンスター:守備モンスター1体
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:4枚
アクゼリュス:LP4000
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:5枚


「では、私のターン……。ドロー!」
 パンドラ――アクゼリュスがカードを引き、手札の1枚を手に取る。
「ふむ……では、《魔導戦士 ブレイカ―》を攻撃表示で召喚します!」
 
《魔導戦士 ブレイカ―》
闇/☆4/魔法使い族・効果 ATK1600 DEF1000
このカードが召喚に成功した時、
このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大1つまで)。
このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、
このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
また、このカードに乗っている魔力カウンターを1つ取り除く事で、
フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を破壊する。


《魔導戦士 ブレイカ―》効果を適用!
ATK1600 → ATK1900


「《魔道戦士 ブレイカ―》は召喚成功時に魔力カウンターを蓄えます……。そして、それを取り除き効果発動! その伏せカード、破壊させてもらいますよ!」
 ブレイカーが剣を振るうと同時に、三日月型の衝撃波が、マリクの置いた伏せカード目掛けて飛ぶ。
 マリクは瞬時に、標的となったカードを開いた。
「ならば、その効果にチェーン発動! 速攻魔法《手札断殺》!」

《手札断殺》 速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。


「む……! 手札交換効果の速攻魔法でしたか……!」
 効果に従い、両プレイヤーともに手札の交換処理を行う。
「ブレイカーは効果を発動したため、攻撃力は1600に戻りました……ここは、念のため装備魔法で強化しましょうか。《サクリファイス・ソード》を装備しますよ!」

《サクリファイス・ソード》 装備魔法
装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
装備モンスターが生け贄に捧げられる事によって
このカードが墓地に送られた場合、このカードを手札に戻す。


《サクリファイス・ソード》を装備!
《魔導戦士 ブレイカー》:ATK1600 → ATK2000


「さて、強化も完了しましたし、攻撃するとしましょう! 《魔導戦士 ブレイカ―》で裏守備モンスターを攻撃!」
 宣言に伴い、ブレイカーが剣を構え跳躍、マリクの守備モンスターを斬りつける。
 裏守備表示から表側表示に――毛むくじゃらの、三つ目のモンスターが抵抗なく倒された。
「破壊されたのは《クリッター》! その効果により、デッキから守備力1500以下のモンスター……《ローンファイア・ブロッサム》を手札に加える!」

《クリッター》
闇/☆4/悪魔族・効果 ATK1000 DEF600
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。


《ローンファイア・ブロッサム》
炎/☆4/植物族・効果 ATK600 DEF1400
自分フィールド上に表側表示で存在する
植物族モンスター1体を生け贄にして発動する。
自分のデッキから植物族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


「む……《ローンファイア・ブロッサム》ですか……!」
 見慣れぬカード……少なくともグールズ時代に、マリクが使っていたカードとは全く違うカードを見て、パンドラは眉を顰める。
 どうやら、デッキの中身もかなり変わっているのでは―――と、パンドラは推測する。
「(確かあのカードは……たとえ上級モンスターであっても植物族なら、ほぼ無制限で特殊召喚できる強力な効果を持っている……)」
 だが……パンドラの手札には、すでにその対抗策となりうる手が揃っていた。
「(マリクのデッキは……かつては《ラーの翼神竜》を最大限に生かすため、サポートに徹した魔法、罠と比較的低レベルのモンスターが多かった……そして、デッキ内容を変えた今も、そのギミックには共通したところは多いと見える……!)」
 ほくそ笑みながら、パンドラはカードを手に取る。
「カードを2枚伏せます! これでターン終了です!」


マリク:LP4000
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:5枚
アクゼリュス:LP4000
モンスター:《魔道戦士 ブレイカー》(功2000)
魔法・罠:装魔《サクリファイス・ソード》、伏せカード2枚
手札:2枚
 

「ボクのターン! ドロー!」
 マリクのターンに移った瞬間。
 パンドラの伏せカードが、その脅威を発揮する。
「この瞬間、私の伏せカードを発動! 《サクリファイス・ソード》装備によって攻撃力が2000となってる《魔導戦士 ブレイカー》を生け贄に……《魔のデッキ破壊ウイルス》発動ゥ!!」
「……!」

《魔のデッキ破壊ウイルス》 通常罠
自分フィールド上の攻撃力2000以上の闇属性モンスター1体を生け贄に捧げる。
相手のフィールド上モンスターと手札、発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間に
相手がドローしたカードを全て確認し、攻撃力1500以下のモンスターを破壊する。


 《魔導戦士 ブレイカー》が感染源となり、苦しむ様子を見せながら消滅。
 同時に、毒々しいウイルス達がマリクの場……手札に纏わりついてゆく。
「ヒハハハハ! さて……《サクリファイス・ソード》は、装備モンスターが生け贄となってフィールドから離れた場合、手札に戻ります!」
 そう言いながら、自身の戦術の会心の出来に、思わず笑みを見せるパンドラ。
 マリクの戦術の基礎となっているのは、おそらく今も――以前と使用モンスターこそ変わっているものの、先ほど手札に加えた《ローンファイア・ブロッサム》のような、低レベル、低攻撃力のモンスターの効果を足がかりに場を固めていくモノだと、パンドラは確信した。
 そこで、この《魔のデッキ破壊ウイルス》の出番である。
 このカードの効果なら、マリクのキーカードとなる効果モンスターのほとんどを潰す事ができるのだ。
「このカードの効果により……貴方の手札の攻撃力1500以下のモンスターはことごとく破壊されます! さあ、手札を確認させなさい!」
 マリクの手札が公開される。
 が……パンドラの視線は、その内の1枚のカードに奪われることとなる。
「……! しまった! そのカードは!」
 その驚愕に応える様に、マリクは手札のカード効果の処理に移った。
「ウイルスの効果により、手札の攻撃力1500以下のモンスター……《ローンファイア・ブロッサム》、そしてもう1枚。《E・S・スライム》が破壊される。……が、ここで《E・S・スライム》の効果が発動する!」

《E・S・スライム》
水/☆3/水族・効果 ATK600 DEF1200
このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時は1枚、
効果によって破壊され墓地に送られた時は3枚、
自分のデッキの上からカードを墓地に送る。
この効果で墓地に送られたカードの中に
レベル6以下のモンスターが存在する場合、
そのうち1体を選択して自分フェールド上に
特殊召喚することができる。

 
「《E・S・スライム》は効果で破壊された場合、デッキの上から3枚カードを墓地に送り、その中にレベル6以下のモンスターが含まれていた場合、特殊召喚できる! この効果は、破壊されることが条件……場所はフィールド、手札を問わない!」
 そして3枚のカードが墓地に送られる。
 1枚目に《キラー・トマト》。2枚目に《拷問車輪》。そして、3枚目に―――。
「……よし! ボクは墓地に送られた中から、このレベル6モンスター……《レジェンド・デビル》を特殊召喚する!」

《レジェンド・デビル》
闇/☆6/悪魔族・効果 ATK1500 DEF1800
自分のターンのスタンバイフェイズ毎に、
このカードの攻撃力は700ポイントずつアップする。


「ぐ……ここにきてそのカードを……!」
 パンドラは歯噛みする。
 マリクの手札に存在する、あるカード――パンドラのウイルスカードの天敵であり、その効果と存分にシナジーする上級モンスターの登場に、驚きを隠せない。
「この瞬間、速攻魔法発動! 《時の飛躍(ターン・ジャンプ)》!」

時の飛躍(ターン・ジャンプ) 速攻魔法
全てのカードのターンカウントを3ターン進める。


 マリクの《時の飛躍》発動と同時に、彼の場に漂っていたウイルスが瞬く間に霧散した。
 同時に、彼の場の《レジェンド・デビル》には、力強いオーラが収束してゆく。
「このカードの効果により、3ターン経過した事となり、ウイルスの効果は消滅……さらに《レジェンド・デビル》も、自身の効果と合わせて3ターン経過分の攻撃力上昇効果を得る!」

《レジェンド・デビル》効果適用!
ATK1500 → ATK3600


「バトルだ! 《レジェンド・デビル》でダイレクトアタック!」
 鋭い爪を掲げ、伝説の名を冠する悪魔がパンドラ目掛けて飛びかかった。
 その迫力に圧倒される様に、パンドラは悲鳴を上げる。―――が。
「ヒ……アアアア! と、言うとでも思いましたか、マリク!?」
 一転、嘲笑の表情に戻り、パンドラは伏せカードを開いた。
「罠発動《ガード・ブロック》! その攻撃は防がせていただき……さらにカードを1枚ドローしますよ!!」

《ガード・ブロック》 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動することができる。
その戦闘によって発生する自分の戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
 

「いやいや……一瞬ですがヒヤリとしましたよ。流石、元グールズ総帥……容赦がない!!」
 嘲笑と怒り、その両方を内包した歪んだ表情で、パンドラはマリクに賛辞を吐き捨てる。
 マリクはそれには答えず、ただエンド宣言のみを伝えた。
「……カードを2枚伏せる。これで、ターン終了だ」


マリク:LP4000
モンスター:《レジェンド・デビル》(功3600)
魔法・罠:伏せカード2枚
手札:0枚
アクゼリュス:LP4000
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:4枚


「私のターン……ドロー!」
 パンドラはドローしたカードを含めて、手札を一瞥する。
「(……伏せカードを除去する手立ては来ませんでしたか……)」
 軽く舌打ちしてから、その目線をフィールドに戻す。
「(伏せカードを除去できないのは鬱陶しいですが……仕方ありません、まずはあの目障りな悪魔から片付けましょう!)」
 そうして、手札のカードに改めて指を掛ける。
「まずは魔法カード《黙する死者》を発動! 私の墓地の《ブラック・マジシャン》を守備表示で特殊召喚します!」
「……! 《手札断殺》の時に、墓地に送られたカードか!」

《黙する死者》 通常魔法
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
フィールド上に表側表示で存在する限り攻撃する事ができない。


《ブラック・マジシャン》
闇/☆7/魔法使い族 ATK2500 DEF2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。


「更に追撃の魔法カード! 《千本(サウザウンド)ナイフ》!」

千本(サウザウンド)ナイフ》 通常魔法
自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が
表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。
相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。
 

 蹲った姿勢のまま、《ブラック・マジシャン》は幾重ものナイフを宙に浮かべる。
 それは彼の号令と共に、一斉に《レジェンド・デビル》を襲い、瞬く間にハチの巣にした。
「く……《レジェンド・デビル》が……!」
「追撃はこれだけではありませんよ! 《ブラック・マジシャン》を生け贄に、《黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)》を特殊召喚!」

黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)
闇/☆7/魔法使い族・効果 ATK2500 DEF2100
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「ブラック・マジシャン」1体を
リリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分または相手が通常魔法カードを発動する度に、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。


 乾いた血を思わせるワインレッドのローブに身を包み、パンドラの――いや、アクゼリュス(・・・・・・)の核霊、《黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)》が、蒼のマントを翻して現れる。
 それが現れる寸前、マリクは伏せカードを開いた。
「伏せカードを発動! 永続罠《棺桶売り》だ!」

《棺桶売り》 永続罠
相手のモンスターカードが墓地に送られる度に
相手ライフに300ポイントダメージを与える。
 

アクゼリュス:LP4000 → LP3700


 《ブラック・マジシャン》が効果発動のため墓地に送られたので、パンドラに300ポイントにダメージを与えられた。
 が、彼はそれを鼻で笑い、マリクに向けて言葉を強める。
「その程度のダメージ……痛くも痒くもありません! いきますよ、マリク! 執行官のダイレクトアタックです!」
 僅かな間をおいて、パンドラが攻撃宣言を下した。
 対するマリクは、すぐさま伏せカードを開いて防御する。
「罠発動! 《ガード・ブロック》!」

《ガード・ブロック》 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動することができる。
その戦闘によって発生する自分の戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
 

「ふん……しぶといですね……」
 パンドラは軽く溜息をつく。
 マリクの場にセットされていたカード――その内容は、先のターンに発動した《魔のデッキ破壊ウイルス》の副次的効果により、手札を確認した時点で正体はわかっていたのだ。
「(《ガード・ブロック》のドロー効果で手札を増やされたのは気がかりですが……いざというときの防御策を潰せただけでも良しとしましょう。執行官のお陰で、魔法も発動しにくいはずですしね……)」
 そう考えてから、パンドラは手札を1枚手に取った。
「念のため、カードを1枚伏せておきましょう……これでターン終了です」


マリク:LP4000
モンスター:なし
魔法・罠:永罠《棺桶売り》
手札:1枚
アクゼリュス:LP3700
モンスター:《黒魔導の執行官》(功2500)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:1枚


「ボクのターン……ドロー!」
 マリクは新たに引いたカードを見て、僅かに顔を歪める。
 今の手札では、反撃の糸口も見いだせない状態だった。
「(く……今は耐えるしかないか!) カードを1枚伏せる! ターン終了だ」
 ターンが移ると同時に、パンドラが素早くカードを引く。
「私のターン、ドロー!」
 暫し手札を眺めた後、そのうちの1枚を手に取った。
「魔法カード……《トライ・ケミストリー》を発動! 手札の装備魔法《サクリファイス・ソード》を除外して発動しますよ!」

《トライ・ケミストリー》 通常魔法
自分の手札からカードを1枚選択して発動する。
選択したカードをゲームから除外し、デッキからカードを1枚ドローする。
この効果でドローしたカードが、発動時に除外したカードと違う種類
(モンスター・魔法・罠)だった場合、ドローしたカードを相手に
確認させることにより、もう1枚カードをドローする。


「おっと、ここで通常魔法が発動したことにより《黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)》の効果が発動! マリク、貴方に1000ポイントのダメージを与えます!」
 瞬間、執行官の足元の影が鈍く輝く紫に変色。
 その一部が、針のように形状を変化させ、マリク目掛けて飛んできた。

マリク:LP4000 → LP3000


「ぐ……あ……!!」
 体に刺さる紫の針に痛みを覚え、ふら付くマリク。
 それを見て、パンドラは面白そうに頬を緩めた。
「ヒハハ……! 執行官の能力は中々のものでしょう、マリク!? 《トライ・ケミストリー》で引いたカードはモンスターカード《連弾の魔術師》……追加ドローの条件を満たしたので、もう1枚カードをドローします!」
 得意げに、引いたカードをひらひらと弄んだ後―――その目に、攻撃性を込める。
「では、攻撃に移りましょうか! 《連弾の魔術師》を召喚し……バトルフェイズに突入!」

《連弾の魔術師》
闇/☆4/魔法使い族・効果 ATK1600 DEF1200
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分が通常魔法を発動する度に、
相手ライフに400ポイントダメージを与える。


「さあ、この2体の攻撃が決まれば私の勝ちです! まずは《連弾の魔術師》で攻撃!」
 パンドラの攻撃宣言の瞬間、その眼前に突如として鈍い銀の光沢を放つ、巨大な塊が出現し、魔術師達の前に立ちふさがった。
「これは……!」
 驚くパンドラの声に応える様に、痛みをこらえる口調でマリクが言う。
「罠モンスター……《メタル・リフレクト・スライム》を守備表示で特殊召喚した」

《メタル・リフレクト・スライム》 永続罠
このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、
自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。
このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)


 視線を占領する、その巨大なスライムを眺めながら、パンドラは短く舌打ちをした。
「……守備力3000の壁を召喚しましたか。これでは攻撃は通りませんね。仕方ありません、ターン終了です」


マリク:LP3000
モンスター:《メタル・リフレクト・スライム》(守3000)
魔法・罠:永罠《棺桶売り》
手札:1枚
アクゼリュス:LP3700
モンスター:《黒魔導の執行官》(功2500)、《連弾の魔術師》(功1600)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:1枚


「ボクのターン……カードを1枚伏せて、ターンを終了……」
 またしても、カードを伏せるだけでマリクはターンを終えた。
 何とか攻撃を防いではいるが、耐えるだけで精一杯―――少なくとも、パンドラはその様に捉えた。
「フフフ……好機が来てるなら、攻めるしかありませんね! 私のターン、ドロー!」
 パンドラが、ドローカードに目を落とす。
 自らの攻撃を後押しするカードを引き当てたことで、僅かにその頬が緩んだ。
「イイカードが来ました……! 魔法カード《破天荒な風》を《黒魔導の執行官》を対象に発動!」

《破天荒な風》 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力・守備力は、
次の自分のスタンバイフェイズ時まで1000ポイントアップする。


《破天荒な風》効果適用!
《黒魔道の執行官》:ATK2500 → ATK3500


「この瞬間、通常魔法が発動した事で《黒魔導の執行官》と《連弾の魔術師》の効果を発動! 1000ポイントと400ポイントのダメージを受けなさい、マリク!」
 《黒魔道の執行官》と《連弾の魔術師》が杖を構えて、呪文を唱え始める。
 それに対応し、マリクは伏せておいた対抗策を発動した。
「させない……! 《破天荒な風》にチェーンする形で《デモンズ・チェーン》を発動!」

《デモンズ・チェーン》 永続罠
フィールド上に表側表示で存在する
効果モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターは攻撃する事ができず、効果は無効化される。
選択したモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。


「これで《黒魔道の執行官》の攻撃と効果を無効にする!」
 ワインレッドの魔導師が、深緑の鎖に拘束される。
 同時に彼の周りに渦巻いていた紫の魔力も霧散し、彼は持ちうる抵抗のすべを失った。
「ですが、《連弾の魔術師》の効果は止められないでしょう! 400ポイントのダメージは受けてもらいますよ!」

マリク:LP3000 → LP2600


「く……《黒魔導の執行官》の攻撃力が《メタル・リフレクト・スライム》の守備力を越えているというのに……しぶといですねえ!」
 思ったよりも成果が上がらず、パンドラは思わず舌打ちをした。
「念のため、《連弾の魔術師》は守備表示に変更しておきましょう。ターンエンドです!」


マリク:LP2600
モンスター:《メタル・リフレクト・スライム》(守3000)
魔法・罠:永罠《棺桶売り》、永罠《デモンズ・チェーン》
手札:1枚
アクゼリュス:LP3700
モンスター:《黒魔導の執行官》(功3500)、《連弾の魔術師》(守1200)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:1枚


「ボクのターン……ドロー!」
 マリクは引いたカードを見て……目を見開く。
 それはこの状況を打破できるカード。
 だが、それ以上に……彼にとって、意味のあるカードだった。
「……ボクの場の永続罠……《メタル・リフレクト・スライム》、《棺桶売り》、《デモンズ・チェーン》の3枚を墓地に送る」
「なに!? その召喚方法は!!」
 目を見開くパンドラの目の前で、マリクの場のカードが炎に包まれた。
 揺らめく炎に囲まれたマリクが、今しがた引いたカードを手に取る。
 今は目覚めない……“家族”が所有する事になっていたカードを。
 彼の昏睡に伴い、自分が管理を任されたカードを。
「(リシド……力を、貸してくれ!!)いくぞ……《神炎皇ウリア》、特殊召喚!!」

《神炎皇ウリア》
炎/☆10/炎族・効果 ATK0 DEF0
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に表側表示で存在する罠カード3枚を
墓地に送った場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の永続罠カード1枚につき
1000ポイントアップする。
1ターンに1度だけ、相手フィールド上にセットされている
魔法・罠カード1枚を破壊する事ができる。
この効果の発動に対して魔法・罠カードを発動する事はできない。


 業火を纏って現れた巨大な烈火龍、《神炎皇ウリア》。
 紅の巨体を悠々と靡かせ、マリクの場に鎮座する。
「ウリアは墓地の永続罠の数×1000ポイントの攻撃力が上昇する! 墓地に眠る永続罠はウリア召喚のために使った3枚……加えて《E・S・スライム》の効果発動時に墓地へ送られた《拷問車輪》の1枚……合計4枚! よって攻撃力4000!」

《神炎皇ウリア》効果適用!
ATK0 → ATK4000


「さらに、ウリアの効果を発動! パンドラ、お前の場の伏せカードを破壊する! チェーン発動不可能の、破壊の炎をくらえ―――トラップ・ディストラクション!」
 ウリアの操る炎が、パンドラの伏せカードを焼き尽くす。
 仕掛けられていた、攻撃を跳ね返す魔術の罠は、日の目を見ることなく焼き尽くされた。

魔法の筒(マジック・シリンダー) 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。


「しまった……! 私の伏せカードが……!」
 顔を歪ませるパンドラに向かって、マリクは声を張り上げる。
「いくぞ、パンドラ! ウリアで《黒魔導の執行官》を攻撃する! ―――ハイパー・ブレイズ!」

アクゼリュス:LP3700 → LP3200


「ぐ……がああああ!!!」
 ウリアの放った炎が、凄まじい勢いで《黒魔導の執行官》とパンドラを襲う。
 正面からその烈火を受けたワインレッドの魔導師は、ほどなくして炎に包まれフィールド上から消え去った。
「ぐ……おのれ……!!」
 “残酷”の表情を見せ、悪態を吐くパンドラ。
 自らの“敵”に、マリクは強く言い放つ。
「これで、ターン終了だ、パンドラ……いや、アクゼリュス! こうして皆を苦しませている以上……お前は、このボクが倒す!」 


マリク:LP2600
モンスター:《神炎皇ウリア》(功4000)
魔法・罠:なし
手札:1枚
アクゼリュス:LP3200
モンスター:《連弾の魔術師》(守1200)
魔法・罠:なし
手札:1枚






エピソード19:今の生き方



「マリクとのデュエル……ですか?」
「ええ、そうよ? 貴方もそれを望んでいたのでしょう?」
 ある時、パンドラ―――アクゼリュスに向かって、“魔女”バチカルはそう言った。
「貴方は“闇”の決闘でリシド……コード“U”、《神炎皇ウリア》の所有者を倒した……けれども、ウリアの“覚醒”には至らなかった……そうでしょう?」
「ええ……まあ、罠を《闇のデッキ破壊ウイルス》で、ウリアを含めた低攻撃力モンスターは《魔のデッキ破壊ウイルス》で壊滅させてしまったので、ウリアを出される前に倒してしまった訳ですが……」
「ふふ……相性が良すぎたのね。ちょっと迂闊だったわ」
 バチカルの指示に従い、アクゼリュスはリシドを倒した。
 その際に、指示された事が一つ―――彼女の言う“覚醒”に至らなければ、アンティとしてウリアを回収する必要はない、とのこと。
「リシドとの決闘では、ウリアの“覚醒”にはいたらなかった……そのまま回収してもよかったんだけど……やはり、“闇”の決闘の中でこそ、洗練されるものだわ」
 ふわり、と長く伸ばされた銀髪を揺らし、アクゼリュスに振り向くバチカル。
「おそらく、ウリアの所有者は彼になっている……まあ、違った場合にせよ、もう一度ウリアの所有者と戦って倒してほしいのだけれど……今度の襲撃場所は『隠された知識』の本部ビルだから、当然マリクと戦う機会もあると思うわ」
 その言葉に、アクゼリュスは驚いた。
「ほう……我々の敵対組織の本部に態々乗り込むとは……随分と強気ですね、バチカル」
「あら、敵対だなんて。あんな児戯まがいの魔術研究集団なんて、敵にすらならないわ」
 天使めいた頬笑みを見せ、無神論の名を冠する魔女は語る。
「彼らには、私達の目的のための生け贄になってもらうわ。そのために、貴方の見出した“魂喰いの人形”も使わせてもらう……どのみち、貴方にしか、出来ない事なの」
 そう言って、アクゼリュスの背後に鎮座する―――数多の人形を眺めながら、バチカルは一層笑みを深める。
「貴方の魂の思うまま、闘ってきなさい、アクゼリュス。きっとその先に……生も死も内包した、静かで素敵な世界が待っているわ」
 彼女の言葉が、アクゼリュスの意識の中に、甘い毒となって流れ込んでくる。
 ――――出会った時からそうだった。パンドラからアクゼリュスになった、その時から。
 きっと、彼の魂は、魔女によって闇の中に引きずり込まれてしまっているのだ。
 だから、彼は疑問を抱くことなく。享楽に身を任せ。
 愛しい人形達を引き連れ、数多の命を奪う“宴”の開演に向かったのだった。



● ● ● ● ●



「く……私のターン……ドロー!」
 自身の核霊、《黒魔導の執行官(ブラック・エクスキューショナー)》を破壊された事で、心身ともに大きなダメージを負ったアクゼリュス。
 しかも只やられたわけではない。
 《黒魔導の執行官》を倒したのは《神炎皇ウリア》―――強大な力を持つ“精霊”の一角。
 正確にはそのコピーだが、魔導の力に関して言えば、その脅威はオリジナルに劣らない。
「(まさか、ここでウリアを出してくるとは……ある程度予測はしていましたが、流石に対峙してみるときついものがありますね……!)」
 顔をゆがめながら、アクゼリュスは手札1枚を手に取る。
「《光の護封剣》を発動します!」

《光の護封剣》 通常魔法
相手フィールド上に存在するモンスターを全て表側表示にする。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上に存在するモンスターは攻撃宣言をする事ができない。


「おっと、通常魔法が発動したことで、《連弾の魔術師》の効果が発動します! 貴方に400ポイントのダメージです!」
「ぐ……!」

マリク:LP2600 → LP2200


 《連弾の魔術師》の魔力の籠った弾丸を受け、マリクは体を屈める。
 アクゼリュスは、その様子を見ながらも、油断せずに防御を固める。
「さらに、モンスターを1体守備で出します。これでターン終了です」


マリク:LP2200
モンスター:《神炎皇ウリア》(功4000)
魔法・罠:なし
手札:1枚
アクゼリュス:LP3200
モンスター:《連弾の魔術師》(守1700)、守備モンスター1体
魔法・罠:《光の護封剣》
手札:0枚



「ボクのターン、ドロー! ……ターンエンド」
「私のターン、ドロー! ……このまま、何もせずターン終了です」
 2人とも、それぞれ打つ手がないのか、リアクションを起こさずにターンを終える。
 だが、次のマリクのターンにて、その均衡は早くも崩れた。
「ボクのターン、ドロー! ……よし! 速攻魔法《サイクロン》を発動! 《光の護封剣》を破壊する!」
 引き当てた《サイクロン》を迷いなくデュエルディスクに差し込むマリク。
 魔力を帯びた竜巻が、ウリアを拘束していた光の剣を全て吹き飛ばす。

《サイクロン》 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。


「しまった……護封剣が……!!」
 うろたえるアクゼリュスの目の前で、マリクの場の烈火龍が口を開け、そこに炎の渦が巻き起こる。
「《神炎皇ウリア》で《連弾の魔術師》を攻撃!」
 宣言と同時に炎が放たれる。
 抵抗する間もないまま、《連弾の魔術師》は焼き尽くされた。
「さらに、カードを1枚伏せ……ターンエンド!」


マリク:LP2200
モンスター:《神炎皇ウリア》(功4000)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:1枚
アクゼリュス:LP3200
モンスター:守備モンスター1体
魔法・罠:なし
手札:1枚


「やりますねえ……私のターン、ドロー!」
 守りの手段を失い、またしても窮地に追い込まれたアクゼリュス。
 だが、引き当てたカードは、まさに逆転に切り札だった。
「フヒヒ……来ましたああ! まずは《思い出のブランコ》発動! 蘇りなさい! 《ブラック・マジシャン》!」

《思い出のブランコ》 通常魔法
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。


 上空に突如として空中ブランコが現れる。
 そこに乗っていたのは《ブラック・マジシャン》―――大振りに揺れるブランコから飛び降り、アクゼリュスの目の前に降り立った。
「さらに、裏守備で出していた《見習い魔術師》を反転召喚しますよ!」

《見習い魔術師》
闇/☆2/魔法使い族・効果 ATK400 DEF800
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
このカードが戦闘によって破壊された場合、
自分のデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を
自分フィールド上にセットする事ができる。


「そしてえ! イッツア、ショオオオタイム! 《死のマジック・ボックス》発動ゥ!」
「な……!?」

《死のマジック・ボックス》 通常魔法
自分と相手フィールド上に存在するモンスターを1体ずつ選択して発動する。
選択した相手モンスター1体を破壊し、
選択した自分のモンスター1体のコントロールを相手に移す。


 魔法カードの発動と同時に、ウリアの巨体全てが漆黒の長方体に包まれる。そして、それは急速に縮んでいった。
 人間大のサイズまで縮んだ黒一色のそれに、「?」マークを始めとした装飾が現れ、奇術の人体切断ショーで使われるようなボックスとなる。
 それと同じデザインのボックスがアクゼリュスの場にも現れ、《見習い魔術師》が中に押し込まれた。
「このカードの効果により、マリク……貴方の場に、私の《見習い魔術師》を送り込み、神炎皇ウリアを破壊します!」
「く……!!」
 アクゼリュスの場のボックスに、無数の剣が突き刺さる。
 そこから唸るような断末魔が響き、同時に炎が吹き出て―――爆発した。
 そして、マリクの場のボックスが開き―――中から倒れこむように、《見習い魔術師》が現れた。
「フヒヒハハァ! どうですか、マリク! こちらの爆発したボックスにはウリアが、そちらのボックスには無傷の見習い魔術師が! マジックは大成功! そして仕上げです! いきなさい、ブラック・マジシャン! 見習い魔術師を攻撃ィ!」
 《ブラック・マジシャン》が魔力を込め、《見習い魔術師》目掛けて杖を振りかざす。
 一瞬の虚をつかれた表情を最期に、《見習い魔術師》の身は砕け散り、消え去った。 
「ぐ……ああ……!!」

マリク:LP2200 → LP100


 攻撃表示で送り込まれた《見習い魔術師》を攻撃されたため、強大なダメージを負うことになったマリク。
 苦痛に顔を歪めながらも、どうにか体勢を保つ。
「見習い魔術師の効果発動! 戦闘で破壊され墓地に送られたので、デッキからレベル2以下の魔法使い……そうですね、ここは《見習い魔術師》をサーチし、私の場にをセットします!!」
 リクルート効果を活用したコンボで、アクゼリュスは守りを固める。
「さて、これでターン終了……同時に《思い出のブランコ》の制約により《ブラック・マジシャン》は退場となります」
 ニヤリ、と笑みを見せ、お辞儀するブラック・マジシャン。
 そのまま体は霧のようになり、アクゼリュスの場から消え去った。 


マリク:LP100
モンスター:なし
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:1枚
アクゼリュス:LP3200
モンスター:守備モンスター1体
魔法・罠:なし
手札:0枚


「ボクの……ターン!」
 ふらつきながらも、マリクはカードを引く。
 そんな様子を、アクゼリュスは笑いながら見ていた。
「ヒァハハハ……マリク、もう諦めたらどうです? そんなにふらふらで……まともに闘える状態とは思えませんよ? ほぅら……」
 すっと、アクゼリュスが手をかざす。
 同時にマリク達の周りの闇から浮かび上がる―――無数の人形の貌。
 無表情なもの、笑顔のもの、顔が造りこまれておらず、最低限の凹凸だけのもの。
 可憐な衣装に身を包んだものもあれば、体中の球体関節がむき出しになっているものまで。
「……!!」
 自らを取り囲む無数の人形を認めて、マリクの表情は驚愕に彩られる。
 個々の出来栄えは美しいモノなのかもしれないが……この状況ではホラーにしかならない。
「彼らは、本当にカラッポになってしまった私を埋めてくれたのです……マリク、人形の世界があるとすれば、それは素晴らしいものだとは思いませんか?」
「な……に……?」
 アクゼリュスは、そんな彼らを―――人形達を誇る様に、両手を掲げてマリクに語る。
「悲しみ、痛み―――人は、過去の傷を背負い生きることを義務付けられています。そんなのは―――不毛だと思いませんか?」
 どこか優しげに微笑みかけるアクゼリュス。
 彼の傍らに、いつの間にか黒いウサギを模した頭巾を被った、少女の人形が現れていた。
 アクゼリュスは、そっと抱き上げ、優しい手つきで撫であげる。
「私を闇の徒(シュラウド)にした“魔女”は言いました……彼女は世界の深淵を求めていると。そこには、世界を書き換える方があると」
 うっとりとした口調で、言葉を続けるアクゼリュス。
 その瞳に映るのは、グールズ時代よりも、より深く、歪みきった狂気の光。
「彼女と私の求めている世界は……まったく同じではないのかもしれません。ですが、私はそこに希望を見出したのですよ、マリク」
 アクゼリュスの手から、少女の人形が消え去った。
 と、同時にマリクの目の前に、その人形が出現した。
 カタカタと音を立てて首を振るその人形に驚き、マリクは数歩後ずさる。
「マリク……貴方も、自ら犯した罪に苦しんでいる……数えきれないほどの、憎しみを抱えて生きてきた……そんな世界にいるのは、疲れませんか? どうです、貴方もこちらに来ませんか? きっと、悪い世界ではありませんよ?」
 そう言って、手を差し伸べるアクゼリュスに―――マリクは、頭をふる。
「パンドラ……いや、アクゼリュス。それは違う。確かに、今のボクにも苦しみはある。昔は憎しみによって……今は呵責によって。だけど、ボクは取り戻したものがある」
 憎しみで暴走した自分を受け止めてくれた家族―――リシドはいつも、彼に付き添ってくれた。姉のイシズは、自身の命を賭してまで、自らの暴走を止めようとしてくれた。
 そして、自分が闘った、誇り高き決闘者たち―――友情と、絆を教えてくれた、彼ら。
「ボクは、けっして過去も未来も捨てないよ、アクゼリュス。今こうやって、自らの罪を償うために生きているのだって、けっして手放そうとは思わない」
 力を込めて―――自らが生み出してしまった、悪夢のような男に向かい、言い放つ。
「アクゼリュス、正直にいえば、キミの言う事に共感できる部分もあった……確かに苦しいこともある。だが……こうやって、他者を苦しめている時点で、今のボクはキミを看破するわけにはいかないんだ! ボクはボクの生き方をする―――お前は、倒させてもらう!」
「……そうですか。ならば、見せてもらいましょうか! 貴方の生き方というヤツを!」
「……伏せカードオープン、《リミット・リバース》! この効果により、ボクの墓地の攻撃力1000以下のモンスター……《ローンファイア・ブロッサム》を墓地から特殊召喚!」

《リミット・リバース》 永続罠
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。


「そして《ローンファイア・ブロッサム》の効果を発動! コイツを生け贄に、デッキから《ギガプラント》を特殊召喚」
 火を灯した小さな花、《ローンファイア・ブロッサム》が燃え上がる。
 その規模が徐々に大きくなり、上へ、横へと広がってゆく。
 そして炎が飛び散り、中から現れたのは―――巨大な植物の魔物《ギガプラント》。
 顔を思わせる形をした赤い花弁が口のように開き、そこに鋭い歯のように生えそろった幾重もの刺を見せつける。

《ギガプラント》
地/☆6/植物族・デュアル ATK2400 DEF1200
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●自分の手札または墓地に存在する昆虫族または植物族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


「さらに魔法カード《マジック・プランター》発動! 《ローンファイア・ブロッサム》は生け贄としてフィールド上から消えたため、蘇生に使った《リミット・リバース》は自壊せず、意味のないカードとしてフィールド上に残っている……それをコストに2枚ドロー!」

《マジック・プランター》 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 引いたカードを見て小さく頷き、マリクは視線をフィールド上に戻す。
「よし……! 《ギガプラント》のデュアルモンスターとしての効果を発動する! 召喚権を行使し、再度召喚状態に!」
 マリクの宣言と同時に《ギガプラント》が淡い光に包まれ、隠された力が解き放たれる。
「デュアルモンスターは墓地、フィールド上では効果を持たない通常モンスターとして扱うが、もう一度召喚することで効果モンスターとなる! これにより、使用可能となった効果を発動! 墓地から別の《ギガプラント》を特殊召喚する!」
 効果を取り戻した《ギガプラント》が根を触手のように地の底に側す。
 すると、みるみるうちに、地の底からもう1体の《ギガプラント》が這い出る様に現れた。 
「く……最初の《手札段札》で《ギガプラント》を墓地に送っていたのですね! これで攻撃力2400のモンスターが2体……!」
「いや……3体だ!」
 そういって、マリクは手札のカードを手に取る。
「手札から《二重召喚(デュアルサモン)》を発動! これでボクはもう一度通常召喚権を得た……これで2体目の《ギガプラント》も、再度召喚状態にする!」

二重召喚(デュアルサモン) 通常魔法
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。


「そして再度召喚状態となった2体目の《ギガプラント》の効果を発動! 手札から3体目の《ギガプラント》を特殊召喚!」
 今度は手札から飛び出し、マリクの場に降り立つ《ギガプラント》。
 これで、彼の場には攻撃力2400のモンスターが3体も並ぶこととなった。
「いくぞアクゼリュス……! まずは、1体目の《ギガプラント》で攻撃!」
 巨大植物の一撃のもと、《見習い魔術師》が吹き飛ばされる。
「《見習い魔術師》の効果発動! この効果で……!」
 アクゼリュスの手が止まる。
 今の彼のデッキは、高ステータスの闇属性モンスターを生け贄とするウイルスカードを切り札に添えている。
 それに伴い、低ステータスの下級モンスターの採用枚数が少なくなっており……《見習い魔術師》も3枚フル投入されてはいなかったのだ。
「(2体目が倒された事により、私のデッキの中に《見習い魔術師》はなくなった! 他に、条件を満たせるモンスターは……!)く……! 《水晶の占い師》をセット!」

《水晶の占い師》
水/☆1/魔法使い族・効果 ATK100 DEF100
リバース:自分のデッキの上から2枚をめくり、
その内の1枚を選択して手札に加える。
残りはデッキの一番下に戻す。


「2体目の《ギガプラント》で攻撃!」
 次なる攻撃も、たった守備力100の《水晶の占い師》では耐えきれるはずもなく、あっさりと倒される。
「《水晶の占い師》のリバース効果、発動! デッキトップからカードを2枚めくり、その内の1枚を手札に加えます!」

めくったカード
1枚目:《封魔の矢》
2枚目:《闇のデッキ破壊ウイルス》

「私は……《封魔の矢》を手札に加えます!」
 引き当てたカードは、攻撃を防げる類のものではない。
 これで、アクゼリュスの場は正真正銘ガラ空きになった。
「最後の《ギガプラント》で、直接攻撃!」
「ぐがあ……!!」

アクゼリュス:LP3200 → LP800


 攻撃は見事にヒット。アクゼリュスのライフを大幅に削った。
「……これで、ターン終了する」


マリク:LP100
モンスター:《ギガプラント》(功2400)×3
魔法・罠:なし
手札:1枚
アクゼリュス:LP800
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:1枚


「私のターン……ドロー!」
 またしても逆転。一方が相手の布陣を攻略すれば、それを反転させるように状況の入れ替わるシーソーゲーム。
 そのシーソーは、またしてもアクゼリュスに傾いた。
 このドローカードで、何か手を打たなければ、そのまま敗北してしまう―――強張った表情で、アクゼリュスはカードを引く。
 その内容を見た途端、彼の顔に笑みが広がった。
「フヒヒ……キタアアアア! ライフを半分支払いいい……《黒魔術のカーテン》を発動! デッキから《ブラック・マジシャン》を特殊召喚します!」

《黒魔術のカーテン》 通常魔法
ライフポイントを半分払って発動する。
自分のデッキから「ブラック・マジシャン」1体を特殊召喚する。
このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。


アクゼリュス:LP800 → LP400


 アクゼリュスの場に、髑髏を象った縁取りにカーテンが釣るされた不気味な扉が出現した。
 カーテンが左右に開き、その中から現れたのは……彼のデッキのエース、《ブラック・マジシャン》。
「フフフ……マリク、いくら上級モンスターを展開したとはいえ、攻撃力が足りなければどうにもならない……油断しましたねえ。まあ、私の手札に《封魔の矢》が加わっているので、どのみち伏せカードを用意しても同じだったでしょうが……」

《封魔の矢》 通常魔法
発動ターン、相手の魔法・罠ゾーンにセットされたカードは発動できない。
このカードの発動に対して、チェーン発動することはできない。


 マリクの現在のライフポイントは100ポイント。
 《ギガプラント》と《ブラック・マジシャン》の攻撃力の差も100ポイント。
 つまり。この攻撃が通れば、マリクのライフがちょうど0になる。
「さあ……これで終わりです! 《ブラック・マジシャン》の攻撃……ブラック・マジック!」
 杖を振りかざし、魔力を収束させる《ブラック・マジシャン》。
「(勝った……!)」
 勝利を確信し、《ブラック・マジシャン》の雄姿を期待するアクゼリュスの目に。
 奇妙なモノが、映った。
 今まさに攻撃を放たんとする黒魔術師の眼前に、どこからか半透明のゲル状の物体が出現して、その体に纏わりついたのだ。
 アクゼリュスが驚く間もなく、マリクの声が、その正体を明かす。
「《ブラック・マジシャン》の攻撃に対して、手札のモンスター効果を発動……《メルト・スライム》!」

《メルト・スライム》
水/☆4/水族・効果 ATK1600 DEF1800
自分フィールド上のモンスターが、自分よりレベルの高い
相手の表側表示モンスターと戦闘を行う場合、
ダメージステップ時にこのカードを手札から墓地に送ることで、
その相手モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで
1600ポイントダウンする。


「このカードは、自分のモンスターが自身よりレベルの高いモンスターと戦闘する場合、手札から墓地に送って発動する……そして、相手モンスターは攻撃力を1600ポイント削られる!」

《メルト・スライム》効果適用!
《ブラック・マジシャン》:ATK2500 → ATK900


「なん……ですと!? 手札からの効果発動するモンスターを仕込んでいたとは……!!」
 驚愕に目を見開くアクゼリュス。
 《ブラック・マジシャン》の力を削がれたが、もはや攻撃宣言は取り消せず、攻撃も放たれた後だった。
 弱まったブラック・マジックは《ギガプラント》を倒すには至らない。
「《メルト・スライム》は、ボクのモンスターのレベルを越えたモンスターが相手でなければ、その効果を発動できない……パンドラ、『マスターオブマジシャン』を自任していた、ブラック・マジシャン使いのお前なら……この状況で、《ギガプラント》のレベルを上回る《ブラック・マジシャン》を呼び出してくると、思っていたよ」
 魔導の一撃に対して、《ギガプラント》が反撃する。
 溶解の名を冠するスライムに力を奪われ、《ブラック・マジシャン》は抵抗すらできない。
 身じろぎ一つすることなく、巨体の一撃を受け……フィールドから、消え去った。

アクゼリュス:LP400 → LP0


「が……ふ……!!」
 決着と同時に、2人を取り囲んでいた“闇”が消えた。
 “闇”のゲームに負けた代償なのか、アクゼリュスが苦しげに胸を抑える。
「さあ……デュエルに勝ったぞ、アクゼリュス! 皆の魂を解放するんだ!」
 詰め寄るマリクに、アクゼリュスは後ずさりしながら言葉を返す。
「いいえ……それは出来ない相談ですよ。元々、この人形達の魂を奪う行動は……“魔神”を復活させるための儀式を行うためのもの……!」
「“魔神”の……復活……!?」
 その言葉と同時に、異変が起こった。
 マリクの周囲にいた……人間に覆いかぶさっていた人形達が、一斉に立ち上がり、走り出したのだ。
「(!? 攻撃される!?)」
 一瞬、身を固くするマリク―――が、人形達はマリクを素通りしていく。
 マリクの周囲の人形だけではない。
 他の階にいる人形達も、皆一つの方向に向かって走っていく。
 向かう先は、このビルのエントランス―――1回まで吹き抜け状になっている、ビルの中心に空いた穴と言えるところ。
 そこに向かい走っていく人形たち全てが、身投げするように飛び込んでいく。
「な……なんだ……一体何が……!?」
 困惑するマリクをよそに、その体が砂のようになって消え始めているアクゼリュスが、感慨深げに言う。
「おお……どうやら、儀式に必要な分の魂の力が……集まったようですね。これで……手筈は整いました!!」
 その言葉と同時に、アクゼリュスは地を蹴った。
 そのまま空に浮き、まるで吸い込まれるかのようにエントランスに向かって飛んでいく。
「ま、待て!!」
 我に返り、慌ててアクゼリュスを追いかけ、マリクもエントランスに向かって走り出した。
「く……体はもう限界……ですね。仕方ありません……復活した後の事は……ケムダーに任せると……しましょう……!」
 ついに、アクゼリュスの体が吹き抜けの部分まで達した。
 そしてその体の方向が―――ゆっくりと、下に向き、降下していく。
「! 待て! パンドラ!!」
 マリクが手を伸ばすが、もう届かない。
 崩れていく体を砂のように散らしながら、アクゼリュスは最後の“手順”を口にする。
「ひ……『一人きりの寝床』! 『シーラカンスの尻尾』! 『スフィンクスの謎かけ』! 『日溜まりの天使』! 『水面踊る空』! 『煮え立つ蜜の大地』! ……『静かに眠るキミ』! 99の魂の力、そして……7つの言葉を、ここに捧ぐ……! 今こそ、我の呼びかけに応え……復活せよ! カード……魔神……“プレアデス”……!!」
 アクゼリュスがその言葉を言い終わり、体が完全に崩れさる―――瞬間。
 積りにつもった、身投げ人形の山の下から―――暴力的な光が漏れ出した。
 それは、暴風を巻き起こし、その場から一直線に天空に向かって伸びていった。
「ぐ……!!」
 あまりの勢いに、マリクはとっさに腕で顔をガードした。
 荒れ狂う力の奔流に身じろぎ一つとれず、ただ脅威が収まるのを待つしかなかった。
 ……その、数秒後。
 風も収まり、体に力を込めなくても吹き飛ばされる恐れがなくなった。
 マリクは、そっと目を開けてみる――――驚愕した。
 マリクの周囲は、またしても“闇”に包まれていた。
 だが……アクゼリュスと戦った時の比ではない、寒気と戦慄が体中を駆け巡る。
「(なんだ……この“闇”は!? 今まで経験した“闇”のゲームのモノとは格が違う……! 少しでも気を抜けば……瞬間、意識を持っていかれる!)」
 かろうじて、意識を保ち、自分を奮い立たせるマリク。
 その前方に―――巨大な人影を、認めた。
「ウ……グオオオオオオオオオオオ!!!!」
 巨大な、咆哮。
 周りの空気が、まるでその存在を恐れるかのように、風となって周囲に逃げ惑う。
 その余波をまともに受け、マリクは再び吹き飛ばされそうになった。
「ぐ……く……!!」
 ふらつきながらもなんとか耐えたマリクは、再び前方を見据える。
 その人影の正体は――― 一言でいえば、異形。
 体つきこそ人間のものだが、その背丈は悠に成人男性の2倍。
 複雑な装飾に彩られた鎧と兜を身につけており、人間の皮膚を確認できる部分は見られない。
 そして何より、異形の印象を深めるのが―――髑髏の様な、貌。
 口が動いているところを見ると、仮面でもないようだ。
 ちょうど、エントランスの吹き抜けの部分だった空間に、悠々と浮かんでいる、その異形の巨人にマリクは問いかける。
「貴様……何者だ……」
 歯をむき出しにした口が動き、答えが返ってくる。
「我は“闇”を司りし者…………カード……魔神……“プレアデス”……!!」
 子供の頭蓋ほどの大きさはあろう手を、ゆっくりと伸ばし―――マリクを指さす。
「ウゴゴゴゴゴ…………小僧! オレト、勝負ダッ!!」





エピソード20:カード魔神


「勝負……だと……!」
 毒々しい灰と紫の空間に閉じ込められたマリク。
 その元凶たる“魔神”――― 数多の人間の魂を喰らい顕現した、異形の存在。
 異様なまでの威圧感に体を硬直させながらも、マリクは油断なくそれに対峙する。
「ウゴゴゴ……契約の言葉と、捧げ物である魂は受け取った……ダガ、ソレデハ駄目ダ……闇の力は貴様らに扱える代物ではない……」
 低く、安定しない発音。空気を振動させる声で、魔神は語る。
「我らの伝えし魔術の系譜……昔ト、形コソ変ワレド……遍く伝わりし“(カード)”の剣を持つ者よ……要スル二、貴様ラゴトキニクレテヤル恩恵ナドナイ! 貴様ら人間は、餌として我に魂を捧げればよいのだ……不服ナラバ、契約二従イ我ヲ“決闘”デ倒セ……」
「“決闘”……デュエルのことか……!?」
 “魔神”プレアデスは僅かに頷く―――肯定の意、のようだ。
「この時代の“規範(ルール)”は理解した……ソシテ、オレノチカラハ、全テ“(カード)”ヘト反映サレタ! このように!」
 そう言った“魔神”が腕を振り上げる。
 次の瞬間、轟音と共に下方から―――宙に浮く“魔神”の遥か下、瓦礫まみれの地上から突如石板が出現し、それが“魔神”の周囲まで上昇してきた。
「魂は力に、力は剣に、剣は(カード)に……サア、決闘者ヨ、ソノ魂ヲ賭ケ、オレヲ殺シテミロ!」
 その瞬間、マリクのデュエルディスクが強制的に展開した。
 電光表示の“Duei Start!”の文字が、闇の中に微かな光をともす。
「(く……どうやら、やるしかないみたいだな……それに……!)」
 『隠された知識』の研究の中にもあった、“儀式”としての闇のゲームの側面。
 外界から隔離され、ゲームとしての“規範(ルール)”に支配されたこの空間では、ゲームの勝敗が絶対の価値を持つ。
「(ならば、このゲームを制すれば……おのずと突破口も見えてくるはず……!)」
 マリクは覚悟を決め、デュエルディスクを構える。
「いいだろう、“魔神”よ……。お前を倒し、冥府へと帰してやる!」
「ホウ、ホザクナ……良かろう、我が魔の力、見せてくれる!」

「「デュエル!」」

マリク:LP4000
プレアデス:LP4000


「ボクの先攻から始める! ドロー!」
 マリクは引いたカードを加え、手札を確認する。
「(……やはり、ゲームの進行は普通のデュエルモンスターズと変わりないようだ……ならば……)」
 気負わず、ベストを尽くすのみ。マリクはそう思いながら、手札を2枚手に取った。
「モンスターを守備セット! 更にカードを1枚伏せる! これで、ターン終了!」


マリク:LP4000
モンスター:守備モンスター1体
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:4枚
プレアデス:LP4000
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:5枚


「デハ、イクゾ……山札より、手札を補充する!」
 その言葉と共に、またしても遥か下、地中から石板がせり上がり、そのまま“魔神プレアデス”の周囲に浮遊する。
 プレアデスは自分の周囲を浮遊する、人間大の石板群―――おそらく、彼の使う“(カード)”なのだろう―――を、隈なく眺める。
 やがて、その内の1枚に視点を固定。
 腕を上げ、その石板を撫で上げる様なジャスチャ―をとると、それに呼応するように石板が前に出て反転。
 そこから、モンスターが実体化した。
「《創生者の化身》を召喚!」

《創世者の化身》
光/☆4/戦士族・効果 ATK1600 DEF1500
このカードを生け贄に捧げる事で、手札の「創世神」1体を特殊召喚する。


 現れたのは、輝く黄金の鎧に身を包んだ戦士。
 腰に携えた剣を抜き放ち、眼前の敵を見据える。
「イクゾ……裏守備モンスターを攻撃!」
 “魔神”の宣告に応え、《創世者の化身》はマリクの守備モンスターを切り裂く。
 その正体は―――薄緑色の、ナマコを思わせる奇妙な生き物だった。
「破壊されたのは《スクリーチ》! デッキから水属性モンスター2体を選択し、墓地に送る……ボクが選択するのは《グラスファントム》2体!」

《スクリーチ》
水/☆4/爬虫類族・効果 ATK1500 DEF400
このカードが戦闘によって破壊された場合、
自分のデッキから水属性モンスター2体を選択して墓地へ送る。


 マリクはデッキから、宣言したモンスターカードを墓地に送る。
「墓地肥シノ効果カ……何やら狙っておるな……イイダロウ、オレハカードヲ1枚伏セ、ターンエンド!」
 相変わらず、反響する様な不安定な声で、魔神はそう告げた。


マリク:LP4000
モンスター:守備モンスター1体
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:4枚
プレアデス:LP4000
モンスター:《創世者の化身》(功1600)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:4枚


「ボクのターン、ドロー! 手札から3枚目の《グラスファントム》を召喚!」

《グラスファントム》
水/☆3/植物族・効果 ATK1000 DEF1000
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する
「グラスファントム」の枚数×500ポイントアップする。


 マリクが呼び出したのは、不気味な蕾状のモンスター。
 先ほど、《スクリーチ》で墓地に送ったのと同名のカードであった。
「このカードは墓地に存在する同名カードの数×500ポイント、攻撃力アップ! 今、ボクの墓地にはさっき破壊された《スクリーチ》の効果で、2体の《グラスファントム》が送られている……よって、攻撃力1000ポイントアップ!」

《グラスファントム》自身の効果適用!
ATK1000 → ATK2000


「《グラスファントム》で、《創世者の化身》を攻撃!」
 強化された、雑草の化け物が戦士を押しつぶす。
 《創世者の化身》が倒されると同時に、その姿を刻んでいた石板に罅が入り、短い炸裂音と共に砕け散った。

プレアデス:LP4000 → LP3600


 砕けて飛び散る石板の欠片を片腕で防ぎながら、マリクは《グラスファントム》の戦果を喜ぶ。
「よし……これで、ターン終了!」


マリク:LP4000
モンスター:《グラスファントム》(功2000)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:4枚
プレアデス:LP3600
モンスター:なし
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:4枚


「オレノターン、手札ノ補充ダ!」
 またしても、新たに1枚石板がせり上がってくる。
 “魔神プレアデス”はそれを含めて、自分と共に宙に浮かぶ石板の中から、迷いなく1枚を選びだした。
「手札より《戦士の生還》を発動! コレニヨリ……墓地から戦士族モンスター、《創世者の化身》を手札に戻す」
 途端、先ほど砕かれた《創世者の化身》の石板が、ビデオ映像の逆再生のように元に戻っていった。
「墓地のカードを回収するカード……倒されるのも、想定済みか……!」
「ソレダケデハナイゾ……伏せておいた罠カードを発動……《三魔神の棺》!」

《三魔神の棺》 通常罠
デッキから「雷魔神−サンガ」「風魔神−ヒューガ」「水魔神−スーガ」を
1体ずつ選択し、墓地に送る。
この時、このカードの効果で墓地に送ったモンスターの他に
墓地にモンスターがいない場合、デッキからカードを1枚ドローする。


 石板がひっくり返ると同時に、“魔神プレアデス”の背後にそれぞれ『雷』『風』『水』の文字の刻まれた3つの巨大な棺が現れた。
「コノ効果ニヨリ……デッキから三魔神を1体ずつ墓地に送りこむ……更二、追加効果ニヨリ、カードヲ1枚引ク……」
「く……墓地に上級モンスターを送り込んだか……!」
 マリクは歯噛みする。
 “魔神プレアデス”が先ほど手札に戻した《創世者の化身》……その“本体”ともいえる、あるカード。
 もし、それが“魔神”の手札にあるのなら―――。
「改めて《創世者の化身》を召喚……ソシテ、《創世者の化身》ノ効果ヲ発動! このカードを生け贄に……手札ヨリ《創世神(ザ・クリエイター)》ヲ特殊召喚!!」

創世神(ザ・クリエイター)
光/☆8/雷族・効果 ATK2300 DEF3000
自分の墓地からモンスターを1体選択する。
手札を1枚墓地に送り、選択したモンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このカードは墓地からの特殊召喚はできない。


「《創世神》……やはり、来たか……!」
 マリクの警戒した通り、化身から本来の姿へ―――眩い雷光を背負い、《創世神(ザ・クリエイター)》が降り立つ。
 朝日のごとき深い橙のボディを持つ彼の神は、その名に違わぬ強力な能力を有する最上級モンスターだ。
「《創世神》ノ効果ヲ発動スル……手札1枚をコストにし、墓地のモンスターを蘇生させる……オレガ選択スルノハ……《雷魔神−サンガ》!」
 《創世神》の体から、淡い光が放たれる。
 その光を浴びた『雷』の棺が開き―――焦げた茶色の兜を思わせる、雷の魔神が現れた。

《雷魔神−サンガ》
光/☆7/雷族・効果 ATK2600 DEF2200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時のみ発動する事ができる。
このカードを攻撃するモンスターの攻撃力を0にする。
この効果はこのカードが表側表示でフィールド上に存在する限り1度しか使えない。


「上級モンスターが2体……!」
 これが、マリクの懸念した《創世神》の能力―――たとえ上級モンスターであろうと、墓地からの特殊召喚を可能にする、蘇生の力。
 怯むマリクに、“魔神プレアデス”は容赦なく攻撃宣言を下す。
「いくぞ……マズ、サンガデ《グラスファントム》ヲ攻撃!」

プレアデス:LP4000 → LP3400


「ぐ……!」
 鋭い雷の一撃により、呆気なく焼き払われた《グラスファントム》。
 間髪いれず、今度は《創世神》自身が攻撃を放たんとしている。
「まだ、攻撃は終わっておらぬぞ……《創世神》ノ攻撃!」
「させない……! 罠モンスター、《メタル・リフレクト・スライム》を守備表示で特殊召喚!」

《メタル・リフレクト・スライム》 永続罠
このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、
自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。
このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)


 マリクの場に、金属色の巨大スライムが現れ《創世神》の行く手を阻む。
 “魔神プレアデス”はその様子を、目を細めながら見やった。
「これでは……攻撃ハ通ラナイ……か。ナラバ……ターン終了しよう」


マリク:LP3400
モンスター:《メタル・リフレクト・スライム》(守3000)
魔法・罠:なし
手札:4枚
プレアデス:LP3600
モンスター:《創世神》(功2300)、《雷魔神−サンガ》(功2600)
魔法・罠:なし
手札:3枚


「ボクのターン……ドロー!」
 マリクは、ドローしたカードに視線を落とす。
 引き当てたカードは《マジック・プランター》、場の永続罠をコストに発動するドローカードだった。
「(く……どうする? 《メタル・リフレクト・スライム》を残しておけば、壁にはなるが……!)」
 相手の場に並ぶ2体の最上級モンスターに、顔をしかめながらマリクは考える。
「(いけない……“魔神”の気迫に押されて、弱気になっている……!? どうせ、守りに入ればジリ貧になる……だったら!) ボクは魔法カード《マジック・プランター》を発動! 《メタル・リフレクト・スライム》をコストにして……2枚ドロー!」

《マジック・プランター》 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 覚悟を決め、壁となるスライムを排除して新たな可能性を引きよせんとするマリク。
 その決定は、彼に光明をもたらした。
「よし……まずは、永続魔法《未来融合−フューチャー・フュージョン》を発動!」

《未来融合−フューチャー・フュージョン》 永続魔法
自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、
決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。


「ボクは融合モンスター……《超合魔獣ラプテノス》を選択する! このカードは、デュアルモンスター2体を融合素材とする……よって、デッキからデュアルモンスター、《ギガプラント》2体を選択して、墓地に送る!」
「ホウ……だが、そのカードによる融合召喚は2ターン後になる……ソレマデ、耐エラレルカナ?」
「さあ、どうかな!?」
 マリクは元より、融合召喚を狙ってこのカードを発動したわけではない。
 無論、召喚成功すればより有利になるが――― 一番の目的は、上級モンスターである《ギガプラント》を墓地に送る事。 
「いくぞ……! 《ロードポイズン》を召喚!」

《ロードポイズン》
水/☆4/植物族・効果 ATK1500 DEF1000
このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、
自分の墓地に存在する「ロードポイズン」以外の
植物族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。


 マリクが呼び出したのは、干からびた人の死体を思わせる、朽ち木のモンスター。
 その特殊能力を最大限に生かせる布陣―――それはすでに整っている。あとは、最後の一手をさすのみ。
「そして魔法カードを発動する! 《強制転移》だ!」
「ナニ……!?」

《強制転移》 通常魔法
お互いに自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターのコントロールを入れ替える。
そのモンスターはこのターン表示形式を変更する事はできない。


 これこそが、マリクの引き当てたカードによる強力コンボ。
 《未来融合−フューチャー・フュージョン》で植物族の上級モンスター《ギガプラント》を墓地に送り、それを特殊召喚できる能力を持つ《ロードポイズン》を呼び出す。
 そしてトドメが、お互いのモンスターを入れ替える《強制転移》だ。
 《ロードポイズン》の特殊召喚効果は、戦闘で破壊され持ち主の墓地に送られた時に発動する。例え相手フィールド上で破壊されても、送られる墓地は元の持ち主の墓地―――問題なく効果を発動できる。
「《強制転移》で入れ替えるモンスターに、ボクはさっき召喚した《ロードポイズン》を選択する……さあ、“魔神プレアデス”! お前はどうする!?」
「……!」
 “魔神プレアデス”側のモンスターは、2体とも高いステータスを持つ最上級モンスター ―――それに加えて、強力な防御能力を持つ《雷魔神−サンガ》、墓地のモンスターを蘇生させる能力を持つ《創世神》と、どちらも敵に回してしまうには危険なモンスターだ。
 しばらく考え、“魔神”は決断を下す。
「我は……《雷魔神−サンガ》ヲ選択スル!」
 《雷魔神−サンガ》は戦闘から身を守る強力な防御能力を持っているが、《創世神》の蘇生能力を使われるよりはマシと判断したのだろう。
 マリクの場の《ロードポイズン》と、“魔神”の場の《雷魔神−サンガ》が入れ換わる。
「いくぞ“魔神”……! バトルフェイズに突入! 《雷魔神−サンガ》で《ロードポイズン》を攻撃!」
「グ……ォオオオオオオオ!!」

プレアデス:LP3400 → LP2300


 雷の魔神の一撃で、《ロードポイズン》は倒される。そして、倒された《ロードポイズン》は、持ち主であるマリクの墓地へ。
「ボクの墓地に《ロードポイズン》が送られた事で、その効果が発動する! 墓地から別の植物族モンスター……《ギガプラント》を特殊召喚!」

《ギガプラント》
地/☆6/植物族・デュアル ATK2400 DEF1200
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●自分の手札または墓地に存在する昆虫族または植物族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


 《ロードポイズン》の屍を足がかりに、巨大な植物の魔物《ギガプラント》が墓地より這い出る。
「バトルフェイズ中の特殊召喚なので、追撃が可能だ! 《ギガプラント》で《創世神》を攻撃!」
 雷光を纏いし神の力を、僅か上回る《ギガプラント》。
 そのまま力任せに、相手を押しつぶした。

プレアデス:LP2300 → LP2200


「グ……!」
 自らの配下を奪われ、また倒されて、“魔神”は短い唸り声を上げる。
 対するマリクは、このターンの大きな戦果に思わず拳を握りしめた。
「よし……! これでターン終了!」


マリク:LP3400
モンスター:《雷魔神−サンガ》(功2600)、《ギガプラント》(功2400)
魔法・罠:永魔《未来融合−フューチャー・フュージョン》
手札:3枚
プレアデス:LP2200
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:3枚


「オレノターン、ドロー!」
 一気に不利な状況に追い込まれたためか、これまでよりも強い口調で“魔神”はカードを―――新たな石板を引き上げる。
 それと同時に。
 “魔神”の前方に、人の形をした炎の塊が湧きでてきた。
「!? 何だ!?」
 驚くマリクに、“魔神”はその正体を語る。
「……スタンバイフェイズに、墓地の《舞い上がる炎人》の効果を発動した」

《舞い上がる炎人》
炎/☆6/炎族・効果 ATK1900 DEF1900
カードの発動、またはカード効果の発動のために
手札から墓地に送られたこのカードを、
次の自分ターンのスタンバイフェイズ時に、
墓地から手札に戻す事ができる。
ただし、自分の墓地に「舞い上がる炎人」が
合計2枚以上存在する場合、
上記の効果は使用する事ができない。


「このカードは、コストとして手札から墓地に捨てられた場合のみ、次のターン、手札に戻す事ができる。先程ノターン、《創世神》ノ効果発動ノコストトシタノハ、コノカードダッタノダ……」
 炎が消え、中から出てきた石板が、他の手札と同じように“魔神”の周囲に浮遊する。
「コノ効果ニヨリ、炎人ハ手札二戻ル……続いて、このモンスターを召喚……《ならず者傭兵部隊》!」

《ならず者傭兵部隊》
地/☆4/戦士族・効果 ATK1000 DEF1000
このカードを生け贄に捧げて発動する。
フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。


「《ならず者傭兵部隊》ノ効果ヲ発動! 自信を生け贄に、相手の場のモンスター1体を破壊する! オレガ破壊スルノハ《雷魔神−サンガ》!」
 “魔神”の呼び出したならず者たちが、突如蒼き炎に包まれ、炎上―――破壊効果発動のために、生け贄に捧げられた。
 その蒼い炎と同化し、悪霊めいた姿になったならず者たちが、狂気めいた表情と叫びを曝しながら、雷の魔神に襲いかかる。
 戦闘に関しては「攻撃してきた相手の攻撃力を0にする」という強力な防御能力を秘めているサンガだが、効果破壊に対しては耐性がない―――みるみる内に、その身は砕かれていった。
「く……破壊効果を備えたモンスターを、手札に温存していたのか……!」
 渋い表情を造るマリク。
 幸い、“魔神”は《ならず者傭兵部隊》を呼び出した事で通常召喚権を使い、追撃の特殊召喚はないようだった。
 浮遊していた石板の内、2枚が倒れこむように横になり、“魔神”の前に出る。
「……カードを2枚伏せて、ターン終了!」


マリク:LP3400
モンスター:《ギガプラント》(功2400)
魔法・罠:永魔《未来融合−フューチャー・フュージョン》
手札:3枚
プレアデス:LP2200
モンスター:なし
魔法・罠:2枚
手札:2枚


「ボクのターン……ドロー!」
 “魔神”から奪ったサンガを失ったものの、未だマリクの場には《ギガプラント》が健在―――そして、その能力を使い戦線を強化する事ができる。
「まずは《ギガプラント》のデュアル効果を発動! 再度召喚を行い、効果を取り戻す!」
 迷いなくマリクは宣言し、《ギガプラント》が効果モンスターとして目覚める。
「そして、効果発動……! 墓地から、2体目のギガプラントを蘇生!」
 《未来融合−フューチャー・フュージョン》の効果によって墓地に送られていた、もう1体の《ギガプラント》がフィールド上に現れる。
 これで、マリクの場に攻撃力2400の上級モンスターが2体並んだ。
「これが決まれば勝てる……バトル! 1体目の《ギガプラント》で攻撃!」
「……リバース発動……《ガード・ブロック》! ダメージヲ0ニシ……カードを1枚ドロー!」

《ガード・ブロック》 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動することができる。
その戦闘によって発生する自分の戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 1体目の《ギガプラント》の攻撃は受け流される。
 だが、マリクは間髪いれず、次の攻撃宣言を下した。
「なら、2体目の《ギガプラント》で攻撃だ!」
「もう1枚のリバース発動……《収縮》!」

《収縮》 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。


《収縮》の効果適用!
《ギガプラント》:ATK2400 → ATK1200


プレアデス:LP2200 → LP1000


 巨大な植物の魔物は見る見るうちに小さくなり、本来与えられるはずのダメージを大きく軽減された。
「(だが……こちらのモンスターを失うことはなかった……まだまだいける!)」
 間違いなく、自分が押している―――だが、油断はしない。
 相手の反撃に対抗できるよう、手札の罠カードを選び、場に伏せておく。
「……カードを1枚伏せて、ターン終了!」


マリク:LP3400
モンスター:《ギガプラント》(功2400)、《ギガプラント》(功2400)
魔法・罠:永魔《未来融合−フューチャー・フュージョン》、伏せカード1枚
手札:3枚
プレアデス:LP1000
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:3枚


「我のターン……ドロー……マズハ、カードヲ1枚伏セル……そして、《ファントム・オブ・カオス》を召喚する」

《ファントム・オブ・カオス》
闇/☆4/悪魔族・効果 ATK0 DEF0
自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。


 “魔神”が呼び出したのは、闇そのものと形容するしかない、実体のないモンスター《ファントム・オブ・カオス》。
 その体―――ヘドロのような黒い波が、“魔神”の場に発生した。
「このカードは墓地のモンスターを除外することで、その名前と能力を奪い取る……オレハ、コノ効果デ《創世神》ヲコピースル!」
 途端、その黒の波が激しくなり、徐々に上へとせり上がっていく。
 そこに立ち上ったのは―――体色こそ燻んだ黒に変色しているものの、先のターンに倒した《創世神》と同一の姿だった。

《ファントム・オブ・カオス》の効果適用!
名称、及び能力:《ファントム・オブ・カオス》 → 《創世神》
ATK0 → ATK2300


「《ファントム・オブ・カオス》は《創世神》と同じ攻撃力、及び特殊能力を得た……よって、手札を1枚コストに……《雷魔神−サンガ》を蘇生する」
 再び蘇った《雷魔神−サンガ》に顔をしかめるマリク。
「く……!(だが……ボクの場には、《拷問車輪》が伏せてある……! これを発動すれば、《雷魔神−サンガ》が攻撃してきたとしても、その攻撃を止める事ができる……!)」
 加えて、《拷問車輪》には相手にダメージを与える効果もある―――これを発動すれば、さらに相手を追い詰められる。
 だが……“魔神”は、そこでは攻撃に移らなかった。
「これで、発動条件が整った……」
 呟くように“魔人”が言う。
「我が先ほど、効果発動のためにコストとして墓地に送ったのは、《舞い上がる炎人》……コレデ墓地二、風属性の《風魔神−ヒューガ》、水属性の《水魔神−スーガ》、地属性の《ならず者傭兵部隊》、炎属性の《舞い上がる炎人》……4属性ガ揃ッタ。よって、手札より《四元素の宝札》を発動する!」

《四元素の宝札》 通常魔法
自分の墓地に炎・水・地・風属性モンスターが
それぞれ1体以上存在する場合、発動できる。
自分の手札が4枚になるようにカードをドローする。
「四元素の宝札」はデュエル中1度しか発動できない。


「く……手札増強カード……!!」
 思わぬ伏兵の登場に、少しばかり動揺するマリク。
 せり上がる4枚の石板が轟音を立てる中、注意深く相手の動向を見守る。
「……《ファントム・オブ・カオス》を生け贄に……《七連星の導き》ヲ発動スル!」

《七連星の導き》 通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げて発動する。
自分の墓地に存在するレベル7のモンスターを最大2体まで選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力と守備力は0となり、
このターンのエンドフェイズ時に破壊される。


「我が選択するのは《水魔神−スーガ》に《風魔神−ヒューガ》……蘇レ、2体ノ魔神ヨ!!」

《水魔神−スーガ》
水/☆7/水族・効果 ATK2500 DEF2400
相手ターンの戦闘ダメージ計算時のみ発動する事ができる。
このカードを攻撃するモンスターの攻撃力を0にする。
この効果はこのカードが表側表示でフィールド上に存在する限り1度しか使えない。


《風魔神−ヒューガ》
風/☆7/魔法使い族・効果 ATK2400 DEF2200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時のみ発動する事ができる。
このカードを攻撃するモンスターの攻撃力を0にする。
この効果はこのカードが表側表示でフィールド上に存在する限り1度しか使えない。


《七連星の導き》の制約適用!
《水魔神−スーガ》:ATK2500 → ATK0/DEF2400 → DEF0
《風魔神−ヒューガ》:ATK2400 → ATK0/DEF2200 → DEF0


 “魔神”が発動した魔法の効果により、《創世神》の姿形を取っていた闇の塊が消え去り、代わりに“魔神”の背後の棺から2体の最上級モンスターが現れる。
 《水魔神−スーガ》、《風魔神−ヒューガ》……“魔神”の場に残った《雷魔神−サンガ》と同じ特殊能力を秘めた魔神たち。
「……! その3体は……!!」
 そう、三魔神――― デュエルモンスターズの中でも有名な存在。
 その身は、1個の個体へと纏められ上げる。
「場の三魔神を生け贄に捧げ……来イ、《ゲート・ガーディアン》!!」

《ゲート・ガーディアン》
闇/☆11/戦士族・効果 ATK3750 DEF3400
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「雷魔神−サンガ」「風魔神−ヒューガ」「水魔神−スーガ」
をそれぞれ1体ずつ生け贄にした場合に特殊召喚する事ができる。

 
 三魔神が積み重なり、守護神の名を冠する巨大なモンスターとなった。
 その迫力に、マリクは一瞬言葉を失う。
「(く……落ち着け! いくら攻撃力が高くても、特に効果を持っているわけじゃない……! 伏せカードで十分対処できる!)」
「そして魔法カード発動……《ゲート・ガーディアンの儀式》!」
「な!?」

《ゲート・ガーディアンの儀式》 速攻魔法
自分フィールド上から、「ゲート・ガーディアン」を1体、
もしくは「雷魔神−サンガ」「風魔神−ヒューガ」「水魔神−スーガ」を
1体ずつ墓地に送ることで、
手札・デッキ・墓地から「ゲート・ガーディアン−TAP」1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。
???


 冷静さを保とうとするマリクをあざ笑うかのように、状況はまたしても変化した。
 渦巻く風が巻き起こり、その中心となっている《ゲート・ガーディアン》が、鈍い光に包まれていく。
「《ゲート・ガーディアン》を生け贄とし……真ノ姿ヲ顕現サセル!」
 光の中で、《デート・ガーディアン》のシルエットが歪み始めた。
 細部はもとより、全体的により鋭利に、戦いに適した姿形に変質してゆく。
「サア、絶望ヲ見セツケロ……! デッキより特殊召喚……《ゲート・ガーディアン−TAP(トゥルー・アピエレンス)》!」

《ゲート・ガーディアン−TAP(トゥルー・アピエレンス)
闇/☆11/戦士族・効果 ATK3750 DEF3400
このカードは「ゲート・ガーディアンの儀式」の効果でのみ
特殊召喚する事ができる。
???


 身を包む光を吹き飛ばし、真の姿となった守護神が現れる。
 辺りに広がる空間そのものを重くするような、真の守護神とそれを操る“魔神”の戦意―――それが容赦なくマリクに襲いかかってきた。




エピソード21:絶望の番人



―――我を過ぐれば憂ひの都あり、
―――我を過ぐれば永遠の苦患あり、
―――我を過ぐれば滅亡の民あり

―――義は尊きわが造り主を動かし、
―――聖なる威力、比類なき智慧、
―――第一の愛 我を造れり

―――永遠の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、
―――しかしてわれ永遠に立つ、

―――汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ


―――「ダンテ・アリギエーリ『神曲』より」


● ● ● ● ●


「《ゲート・ガーディアン−TAP(トゥルー・アピエレンス)》の特殊召喚に成功した事により、効果発動……墓地ノ三魔神ヲ装備カード扱イトシテ、装備スル」
「装備……!?」
 現れた未知のモンスター ―――ゲート・ガーディアンの真の姿だと言う、とてつもない巨体に対して警戒を強めるマリク。
 一体どのような効果を持っているのか、つぶさに観察する―――が、その能力の正体を見極める機会は、早くもやってきた。
「……手札カラ《月の書》ヲ発動スル」

《月の書》 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。


「(……!? この状況で《月の書》? あのカードは、場のモンスター1体を対象に発動、そのモンスターを裏守備表示にするカード……。《ギガプラント》を裏側守備表示にしても、あまり意味はないはず……)」
「この魔法の効果対象とするのは……《ゲート・ガーディアン−TAP》!」
「な……!? 自身のモンスターを対象に……!?」
 驚くマリクを尻目に、《月の書》の魔力が《ゲート・ガーディアン−TAP》を包み始める。
 その瞬間、真の姿となった守護神が雷を放ち、自らに向かった魔力を拡散した。
「これが《ゲート・ガーディアン−TAP》の効果……自信ヲ対象二シタ効果ヲ……装備した三魔神をコストとして無効にできる……」
「!?」
 マリクは納得すると同時に、困惑した。
 《ゲート・ガーディアン−TPA》が装備した三魔神は、対象効果を無効にするためのシールドの様なものだったのだ。
 だが、わざわざ自分から魔法を発動し、無効にした訳がわからない。カードの無駄ではないか―――と、そこで、マリクは異変に気がついた。
 《月の書》の魔力を拡散させた雷が、未だ消えていない……むしろ、一点に集まり誇大化していっている。
 それを見て、嫌な予感を覚えたマリク。
 はたして……その予感は、正解だった。
「ソシテ……コストとなった魔神……コノ場合ハ《雷魔神−サンガ》ガ……我がフィールド上に特殊召喚される!」
「!? な……に……!?」

《ゲート・ガーディアン−TAP(トゥルー・アピエレンス)
闇/☆11/戦士族・効果 ATK3750 DEF3400
このカードは通常召喚できない。
このカードは「ゲート・ガーディアンの儀式」の効果でのみ
特殊召喚する事ができる。
このカードは、対象を取らないカードの効果を受けない。
このカードが特殊召喚に成功した時、墓地に存在する
「雷魔神−サンガ」「風魔神−ヒューガ」「水魔神−スーガ」を
1体ずつこのカードに装備する。
このカードが魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった場合、
このカードに装備された
「雷魔神−サンガ」「風魔神−ヒューガ」「水魔神−スーガ」、
この内1枚を選択し自分フィールド上に特殊召喚することで、
その効果を無効にする事ができる。
(この効果は相手ターンにも使用できる)


 先ほどの集中していた雷が弾け、三魔神の1体《雷魔神−サンガ》となる。
 マリクは合点が言ったと同時に、戦慄した。
 迂闊に《ゲート・ガーディアン−TAP》を対象に効果を使えば、無効化されるだけでなく、三魔神がフィールド上に現れてしまう。戦力差を広げてしまうのだ。 
「(さっきの無駄打ちとも思えた《月の書》発動も……! 自身の場のモンスターを増やす事が目的だったのか……!)」
 かくして、相手の場には厄介な耐性効果を持った攻撃力3750の守護神、攻撃力2600の戦闘耐性を持つモンスター、計2体が並ぶ事になった。
「では、バトルフェイズに入ろう……。まずは《ゲート・ガーディアン−TAP》で《ギガプラント》を攻撃―――魔神葬滅波!」
 《ゲート・ガーディアン−TAP》が巨大な両腕を振りかざし、そこにエネルギーを収束させる。
 それが振り下ろされ、巨大なエネルギーの奔流がマリクの場の《ギガプラント》に襲いかかる。
「(ぐ……駄目だ! ここで《拷問車輪》を使ったら、また無効化されて新たな三魔神を場に出される……!) ……ぐわああああ!!」

マリク:LP3400 → LP2050


 攻撃の余波を受け、ふら付くマリク。
 そんなことはお構いなしに、敵の攻撃は容赦なく続く。
「続いて《雷魔神−サンガ》で、もう一体の《ギガ・プラント》を攻撃する!」
「く……! 罠発動……! 《拷問車輪》……!」

《拷問車輪》 永続罠
このカードがフィールド上に存在する限り、
指定した相手モンスター1体は攻撃できず、表示形式も変更できない。
自分のスタンバイフェイズ時、このカードは相手ライフに
500ポイントのダメージを与える。
指定モンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する


 かろうじて伏せカードを発動、マリクはサンガの攻撃を防いだ。
「……これで、ターン終了する」


マリク:LP2050
モンスター:《ギガプラント》(功2400)
魔法・罠:永魔《未来融合−フューチャー・フュージョン》、《拷問車輪》
手札:3枚
プレアデス:LP1000
モンスター:《ゲート・ガーディアン−TAP》(功3750)、《雷魔神−サンガ》(功2600)
魔法・罠:装備《水魔神−スーガ》、装備《風魔神−ヒューガ》、伏せカード1枚
手札:0枚


「ボクのターン……ドロー!」
 マリクのターンに移る。
 そして、《拷問車輪》の効果が発動。“魔神”のライフが僅かだが削られる。
 
プレアデス:LP1000 → LP500


「(相手のライフは、これで500……十分射程圏内に入っている……あと少し……あと少しだ……!)」
 アクゼリュス、そして“魔神”との度重なる闇のゲームによるダメージが、彼を蝕んでいる。
 意識を失いそうになりながらも、霞む視界の先にいる“魔神”を懸命に睨み、マリクは自らを奮い立たせた。
「……発動から2ターンが経過した《未来融合−フューチャー・フュージョン》の効果発動! 融合デッキから《超合魔獣ラプテノス》融合召喚!」

《超合魔獣ラプテノス》
光/☆8/ドラゴン族/融合・効果 ATK2200 DEF2200
「デュアルモンスター×2」
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
フィールド上に表側表示で存在する通常モンスター扱いの
デュアルモンスターは再度召喚された状態になる。


「その融合召喚に対応し……《激流葬》ヲ発動スル!」
「……!?」

《激流葬》 通常罠
モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動する事ができる。
フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。


 激しい津波に場のモンスター全てが飲みこまれる。
「く……自分のモンスターごと破壊か……!?」
 だがその中で……《ゲート・ガーディアン−TAP》だけは平然と佇んでいる。
「《ゲート・ガーディアン−TAP》は広範囲に作用する力……対象ヲ取ラナイ効果ヲ、全テ無効化スル……故に《激流葬》は効かない!」

《ゲート・ガーディアン−TAP(トゥルー・アピエレンス)
闇/☆11/戦士族・効果 ATK3750 DEF3400
このカードは通常召喚できない。
このカードは「ゲート・ガーディアンの儀式」の効果でのみ
特殊召喚する事ができる。
このカードは、対象を取らないカードの効果を受けない。
このカードが特殊召喚に成功した時、墓地に存在する
「雷魔神−サンガ」「風魔神−ヒューガ」「水魔神−スーガ」を
1体ずつこのカードに装備する。
このカードが魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった場合、
このカードに装備された
「雷魔神−サンガ」「風魔神−ヒューガ」「水魔神−スーガ」、
この内1枚を選択し自分フィールド上に特殊召喚することで、
その効果を無効にする事ができる。
(この効果は相手ターンにも使用できる)


 守りを固めてくれていた自分の場のモンスター、そしてダメージ源であった《拷問車輪》に捉えられていた《雷魔神−サンガ》共々、すべてが流されていく。
 そうして残ったのは、“魔神”の場に鎮座する、強大な力を持つ守護神のみ。
「……まだだ! ボクはこのターン、まだ通常召喚していない……守備モンスターを出し、カードを1枚伏せる! これでターン終了!」
 まだ終わっていない……自分に言い聞かせるように、強い口調でマリクはそう言った。


マリク:LP2050
モンスター:守備モンスター1体
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:2枚
プレアデス:LP500
モンスター:《ゲート・ガーディアン−TAP》(功3750)
魔法・罠:装備《水魔神−スーガ》、装備《風魔神−ヒューガ》
手札:0枚


「我のターンだ…………まずはスタンバイフェイズ時に、《舞い上がる炎人》を自身の効果によって回収しよう……ソシテ装備魔法ヲ発動! 《メテオ・ストライク》ヲ《ゲート・ガーディアン−TAP》二装備スル!」

《メテオ・ストライク》 装備魔法
装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


「ぐ……貫通効果を付加する装備魔法……!」
 隕石の力を宿し、更に守護神は強化された。
 その力をいかんなく振るい、マリクに襲いかかる。
「サア行ケ……《ゲート・ガーディアン−TAP》で守備モンスターを攻撃!」
 その攻撃力は3750ポイント、生半可な守備モンスターでは受け切れず、大きな貫通ダメージを負ってしまう。
「く……伏せカード……《ガード・ブロック》!」

《ガード・ブロック》 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動することができる。
その戦闘によって発生する自分の戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 マリクは薄い光のバリアに守られ、ダメージを受け流す……だが、《ガード・ブロック》が守れるのはプレイヤーのみ。攻撃を受けたモンスターは、その身を砕かれた。
「……戦闘で破壊された《E・S・スライム》の効果発動……デッキトップのカードを1枚墓地に送る!」

《E・S・スライム》
水/☆3/水族・効果 ATK600 DEF1200
このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時は1枚、
効果によって破壊され墓地に送られた時は3枚、
自分のデッキの上からカードを墓地に送る。
この効果で墓地に送られたカードの中に
レベル6以下のモンスターが存在する場合、
そのうち1体を選択して自分フェールド上に
特殊召喚することができる。


「……墓地に送られたのは《ニュードリュア》! レベル6以下なので条件を満たしている……こいつを守備表示で特殊召喚……!」

《ニュードリュア》
闇/☆4/悪魔族・効果 ATK1200 DEF800
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。


 見事、効果対象となるモンスターを引き当てたマリク。
 ホラー映画の殺人鬼を思わせる不気味な人型モンスターが、守備態勢を取って彼の場に現れた。
「ホウ、中々シブトイ……いいだろう、これでターン終了だ」


マリク:LP2050
モンスター:《ニュードリュア》(守800)
魔法・罠:なし
手札:3枚
プレアデス:LP500
モンスター:《ゲート・ガーディアン−TAP》(功3750)
魔法・罠:装備《水魔神−スーガ》、装備《風魔神−ヒューガ》
装魔《メテオ・ストライク》
手札:1枚


「ぐ……はあ!! ボクの……ターン! ドロー!」
 先ほどの《E・S・スライム》の効果で《ニュードリュア》を引き当てたマリクだが、状況は良好と言い難い。
 《ニュードリュア》は、自信を戦闘破壊したモンスターを道連れに破壊する効果を持っている。
 だが、それは対象を取る効果―――もし《ゲート・ガーディアン−TAP》に攻撃されたら、破壊効果を無効化された上、装備状態の魔神の内1体がモンスターとして相手の場に現れてしまう。
 それでなくとも、《ゲート・ガーディアン−TAP》は《メテオ・ストライク》を装備して貫通効果を得ている……《ニュードリア》のような低ステータスのモンスターを、なんの策もなく自分フィールド上に放置していては、致命傷になりかねない。
「(だが、ボクの今の手札ではどうにもならない……ここは!) 《サルベージ》を発動! 墓地から2体の水属性モンスター……《ロードポイズン》と《スクリーチ》を回収する!」
 
《サルベージ》 通常魔法
自分の墓地に存在する攻撃力1500以下の水属性モンスター2体を手札に加える。


 墓地の低ステータスモンスターを回収するマリク……だが、直接的な狙いはそこではない。
「さらに《強欲なウツボ》を発動! さっき手札に加えた水属性モンスター2体をデッキに戻してシャッフル……そして3枚ドローする!」

《強欲なウツボ》 通常魔法
自分の手札から水属性モンスター2体をデッキに戻し、
自分のデッキからカードを3枚ドローする。


 回収した2体のモンスターをコストとして、手札増強を行うマリク。
 そして引き当てたカードと、手札のカードを見比べる。
「(このカード……少し賭けになるが……行くしかない!) まずは……《ニュードリュア》を生け贄に捧げ……《ギガプラント》を召喚! 攻撃表示!」
「ホウ……守備表示ではないか……確カ二、《ギガプラント》ハ攻撃力ノ方ガ高イガ……」
 “魔神”が低い唸るような声で言いながら、マリクを見据える。
 それを睨み返しながら、マリクはこのターンの鍵となる2枚のカードの内、1枚を手に取った。
「(これで……勝負だ!) さらに、カードを1枚伏せて……ターン終了!」


マリク:LP2050
モンスター:《ギガプラント》(功2400)
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:2枚
プレアデス:LP500
モンスター:《ゲート・ガーディアン−TAP》(功3750)
魔法・罠:装備《水魔神−スーガ》、装備《風魔神−ヒューガ》
装魔《メテオ・ストライク》
手札:1枚


「我のターン、ドロー」
 “魔神”が、新たな石板を自分の元に引き寄せる様子を、マリクは息を飲みながら見やる。
 先のターンのプレイングは、あからさまであった―――当然、罠を仕掛けている事は、相手にも読まれているだろう―――このターンの動向が、勝負の分かれ目。
「何カ罠ヲ仕掛ケタ様ダガ……この守護神の耐性は強固、並みの罠では打ち破れまい! さあ、覚悟はいいか! 《ゲート・ガーディアン−TAP》デ《ギガプラント》ヲ攻撃!」
 “魔神”に仕えし守護神の、強大な一撃が放たれた。
 しかし、それこそがマリクの望んだ、反撃のチャンス。
「……攻撃宣言に対応して罠発動! 《邪神の大災害》!」

《邪神の大災害》 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。


「ム……これは!! 攻撃反応型の……魔法・罠破壊カードダト……!?」
 マリクの発動した罠から、強大な荒氏が巻き起こり、魔法・罠カード……《ゲート・ガーディアン−TAP》に貫通効果を付与していた《メテオ・ストライク》、そして対象効果に耐性を与えていた装備状態の《水魔神−スーガ》、《風魔神−ヒューガ》を吹き飛ばす。
「これで《ゲート・ガーディアン−TAP》の持つ、対象を取る効果に対しての耐性は無くなった……!」
 これこそが、マリクの狙い。
 手札に残った、鍵となるもう1枚のカードを手に取り―――襲い来る守護神に向けて、それを掲げた。
「《メルト・スライム》の効果発動! 《ゲート・ガーディアン−TAP》を対象に、攻撃力を1600ポイント削り取る!」

《メルト・スライム》
水/☆4/水族・効果 ATK1600 DEF1800
自分フィールド上のモンスターが、自分よりレベルの高い
相手の表側表示モンスターと戦闘を行う場合、
ダメージステップ時にこのカードを手札から墓地に送ることで、
その相手モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで
1600ポイントダウンする。


《メルト・スライム》の効果適用!
《ゲート・ガーディアン−TAP》:ATK3750 → ATK2150


「成程……狙イハ、ソレカ……!」
 《メルト・スライム》に纏わりつかれ、攻撃力を削られた《ゲート・ガーディアン−TAP》。
 よろめきながらも、守護神の攻撃はもはや止まらない。それを、大口を開けて待ちうける巨大な植物の魔物―――《ギガプラント》。
「反撃だ! 《ギガプラント》!」
 マリクの声に応える様に、《ギガプラント》が渾身の力を込めて、巨大な守護神に巨体をぶつける。
 力を削がれた守護神では、その反撃に耐えられない―――その体に罅が入り、爆発と共に砕け散った。

プレアデス:LP500 → LP250


「(やった……!)」
 強力な耐性を誇っていた《ゲート・ガーディアン−TAP》を打ち倒すことに成功したマリク。
 ふら付く体を揺らしながら、心の中でガッツポーズを作る。
 そして、爆風が晴れて見えてきたのは……。
「……え……な!?」
 そこにいたのは、砕け散ったはずの《ゲート・ガーディアン−TAP》。
 倒される前の、脅威を振りまいてた時と寸分違わぬ姿で、彼の目の前に現れた。
「な、なんで……!?」
 驚愕に、目を見開くマリク。
 それに“魔神”が、低く響く声で回答を示す。
「墓地に眠る《ゲート・ガーディアンの儀式》のもう一つの効果を発動した……。コノ効果デ《ゲート・ガーディアン−TAP》ヲ蘇生シタノダ……」

《ゲート・ガーディアンの儀式》 速攻魔法
自分フィールド上から、「ゲート・ガーディアン」を1体、
もしくは「雷魔神−サンガ」「風魔神−ヒューガ」「水魔神−スーガ」を
1体ずつ墓地に送ることで、
手札・デッキ・墓地から「ゲート・ガーディアン−TAP」1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。
また、フィールド上の「ゲート・ガーディアン−TAP」が破壊され
墓地に送られた時、墓地に存在するこのカード1枚と
「ゲート・ガーディアン」1枚をゲームから除外する事で、
破壊された「ゲート・ガーディアン−TAP」1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。
(この効果は相手ターンでも使用できる)


「儀式魔法と《ゲート・ガーディアン》を除外し、TAPを蘇生した……コレモマタ《ゲート・ガーディアンの儀式》二ヨル特殊召喚二変ワリハナイ……更に特殊召喚に成功したことにより、三魔神を再び装備する!」
 虎の子の《邪神の大災害》で吹き飛ばした三魔神が、再び守護神の身に取り込まれ、鉄壁の守りを齎す。
 あまりの展開に、マリクはピクリとも動けない―――《ゲート・ガーディアン−TAP》が力を取り戻していくのを、ただ見ているだけだった。
「これはバトルフェイズ中の特殊召喚……ヨッテ、攻撃ヲ続行スル!」
「……!」
 《ゲート・ガーディアン−TAP》が再び攻撃の構えを取った時に、やっとの事でマリクは思考を取り戻す。
 だが元より、対抗手段は使い切ってしまっている―――この攻撃を防ぐ手立ては、ない。
「今度こそ消え去れ……! ―――魔神葬滅波!」
「――――――!!」

マリク:LP2050 → LP700


 凄まじい力の奔流が《ギガプラント》を、そしてマリクを飲みこんでゆく。
 もはや、まともに立っていられない―――マリクは感覚を失っていた。
 ただ、一瞬体が浮いた様な気がして―――次の瞬間に、硬いものに体を叩きつけられた様な衝撃を受けた。
 おそらく、体を吹き飛ばされ、壁にぶつかったのだろうが、マリクにはそれを確認するほどの気力も、意識もほとんど残っていない。
 度重なる“闇”のゲームにより、彼は心身ともに消耗しきっていた。先の一撃はそこにトドメを射す形となってしまったのだ。
「(あ……う……)」
 もはや、言葉を紡ぐ事すらできない――――そのまま、彼の意識は混濁の中に堕ちていった。










―――『……なんだ、もう終わりか? ダセえなぁ、主人格様よぉ!!』







エピソード22:対面する者たち


 マリクは、懐かしい声を聞いた気がした。
 ゆっくりと、目を開ける。
 視界一面に広がっていたのは、暗がりの世界―――だが、目の前に“魔神”はいない。
 それどころか、何もない―――まるで、自分以外の生き物も、物体も存在しないかのように、静寂だけが広がっている。
「(ここは……そうか……)」
 マリクはややあって、理解する―――自分が見ているのは夢、あるいは心象風景。
『まあ、そんなところだ……だからこそ、こうやって、顔を付き合わせて話す事も出来るって訳だ!』
 再び、いつか聞いた、声。
 自分に近しい、いや、近すぎる者の声を聞き、マリクは振り返る。
 そこにいたのは、自分。
 凶悪な本性が滲み出るような、歪んだ貌を曝した“闇人格”たる、もうひとりの自分―――“闇マリク”。
「……もう一人の……ボク……と、呼べばいいのかな……?」
『ハッ! 気色悪い言い方だな。主人格様?』
 嘲笑を浮かべ、“闇マリク”は主人格であるマリクに応じる。
「お前は……なぜ……ここに……?」
『何故? 随分とご挨拶じゃないか……。忘れたのか? オレはお前のトラウマから生じた、お前の心の闇、心の歪みそのものだ……』
 まさか、オレがお前の心の中から消え去ったと、本気で思っていたのか? と“闇マリク”は嘲笑と共に言う。
『お前の苦痛が、お前の悲痛が、オレを生み出した……! 破壊を快楽とする、オレという人格を! それは、容易に切り捨てることのできるモノじゃあない……わかっているだろう?』
 その言葉に、何か反論しようとして……直後に、マリクは口を噤んだ。
『さあ……オレに体を明け渡せ! 貴様が恐れる闇こそ……オレにとっての祝福! オレに殺戮の場所を寄越すんだ!』
 その言葉を、目を閉じ、じっと聞いていたマリク……そして。
「……すまない!」
『……あぁ?』
 マリクは、“闇マリク”に向かって、頭を垂れた―――「すまない」という、謝罪の言葉と共に。
「お前には……ずっと、ずっと、ボクの憎しみを……ボクの怒りを、押し付けてきてしまった。それにけじめをつけて、自分自身で罪を背負い……光を追い求めて生きていくと言っておいて、このザマだ」
 墓守の宿命―――いつか現れるというファラオの魂のために、自由はなく、暗がりで生きることを決めつけられた生。
 苦痛と共にあった幼少時代―――“墓守の継承の儀式”と共に、自らの心の中に、闇を凝縮したモンスターを生み出した。
「あの決別で……お前の事は振り切れたと思っていた……だが……駄目だったみたいだな……破滅への願望は……消えていないらしい……」
 7年前のバトルシティ決勝戦―――勇気と絆を持って自分達に対峙した、名もなきファラオとその仲間達―――自らを案じ続けてくれた、大切な家族との間に取り戻した絆。
 あの戦いで、別れた筈のもう一人の自分……マリクは頭を上げ、自らの闇をまっすぐに見つめた。
「だけど……もう一人のボクよ。それでも、ボクは自らの道をあきらめない。こんなボクにも、償いの道が残っていたんだ……お前に、ボクの苦痛を押し付けて、逃げることはしない……ボクは……ボクの、戦いをする」
 マリクが見据える先で、“闇マリク”は呆気にとられた表情をしていた。
 ……が、徐々に、その顔が歪んでいく。
『ク……ヒヒヒ……ハアハハハハハハハ! コイツはいい! まったく、ふざけた事をぬかしてくれるぜ!』
 ひとしきり笑った後、“闇マリク”は自らの主人格を見直し言う。
『まったく……お前は2つほど大きな勘違いをしている! お前の心の闇をオレに押し付けたといったが……お前がオレに謝るなんてのは、お門違いもいいところだ! さっきも言っただろう! 殺戮こそがオレの居場所だと!』
 歪んだ笑顔のままの“闇マリク”が、マリクに向かって歩を進める。
『オレは、千年錫杖(ロッド)の持つ闇の力で、明確に現れることができる様になった存在だ……今回、お前の前に現れたのも、お前の苦痛だけでなく、度重なる“闇のゲーム”の影響……それが、オレに明確な力を与えた! わかるか! “闇”こそがオレの糧なんだよ!』
 “闇マリク”が立ち止まる。2人の距離は、ちょうど握手をしようと思えばできるほど、近くなった。
『そして、もうひとつの勘違い……というより、相変わらず、お前が気付いていないことだな。まったく、ラーの時のように、お前は爪が甘い……』
「気付いていない……こと……?」
 マリクが不思議そうに訪ねた瞬間。
 “闇マリク”が、急に両腕でマリクの頭部を掴む。
「ぐ……! な……にを……!!」
『それを、教えてやると言ってるんだ!』
 その言葉と同時に、“闇マリク”の輪郭が歪んでいく。
 彼の体が“闇”そのものに変換され、マリクに向かい流れ込んで―――――。






● ● ● ● ●


「更に、カードを1枚伏せよう……コレデ、ターン終了ダ!」


マリク:LP700
モンスター:なし
魔法・罠:なし
手札:2枚
プレアデス:LP250
モンスター:《ゲート・ガーディアン−TAP》(功3750)
魔法・罠:装備《水魔神−スーガ》、装備《風魔神−ヒューガ》
装備《雷魔神−サンガ》、伏せカード1枚
手札:1枚


 “魔神”の攻撃が終わり、マリクのターンに移る。
 だが、当の本人は《ゲート・ガーディアン−TAP》の攻撃により吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたのち、起き上がってこない。
 ちょうど、壁に背もたれした姿勢のまま、気を失っているようだった。
「ウゴゴゴゴゴ……この“闇”に耐えきれなかったか……ダガ、闘ウ意思ヲ見セヌノナラ……このまま、沈黙の中で、敗北に沈むがいい……」
 悠々と語る“魔神”―――だがそこで、マリクの指がピクリッ、と動いた。
「ホウ……まだ、抗うか」
 ゆらり、と体を不安定に揺らしながら、マリクは立ち上がる。
 そして、ゆっくりと人差し指をデッキトップにかけた。
「……のターン……ドロー!」
 デッキからカードを引き抜き、顔を上げたマリク。
 その顔を、“魔神”は驚愕と共に見つめた。
「貴様……ナンダ!? その額は……!?」
 “魔神”が喚くように言いながら、マリクを指さす。
 その先、マリクの額に―――鈍く輝く瞳の形、ウジャト眼の輝きがあった。
「この……カード……は」
 “魔神”の驚愕など気にもかけず―――正確には、未だ感覚が朦朧としていて気がつかなかったのだが―――カードを引いたマリクは、ドローカードに視線を移す……だが、視界はぼやけ、その内容がわからない。
 いや、違う。マリクの引き当てたカードだけが、奇妙に靄がかかったように、判然としないのだ。
『やれやれ……まだ見えてないのか。せっかくオレの“目”を貸してやっているというのに!』
 頭の中に、もうひとつの声が響いた。
「もうひとりの……ボク……か?」
 その事実に驚き、疑問と共に―――マリクは呼び掛ける。
 その声に応じる様に、“闇マリク”の嘲笑の声が聞こえてきた。
『そうだ……オレだ。こんなに“闇”の濃い場所なんだ。てめえだけに、戦場を味あわせるなんてもったいない事はしない……が、あまり長くはないだろうな。この決闘、そのモンスターを召喚して攻撃すれば、おそらくそれで勝ちだ』
「この……カード?」
 “闇マリク”が指定したカード―――このターンにドローしたカードに、再び視線を移す。
 書かれているイラストは、蛇の様な胴を持つ龍。
 現在、マリクのデッキに入っているカードで、その様なイラストを持つカードは……あの1枚しかない。
「(これは……ウリアのカード……? いや、違う……これは……!?)」
『……どうやら、だいぶ見えてきたみたいだな! さあ、はやく、その“神”を呼べ!』
 “闇マリク”が強い口調で呼び掛ける。
「……!」  先ほどの心象風景での一幕―――マリクは、自身の体が“闇マリク”に乗っ取られてしまうのではないか、という危惧を抱いていた。
 だが、当の“闇マリク”は体を乗っ取るどころか、まるで自分を手助けするような言葉を発している。
 どういうことなのか、単に“闇のゲーム”を楽しんでいるだけなのか。
 その真意はわからなかったが―――確かな事が、一つ。
 その内なる声は、確実にマリクの精神を後押ししていた。
「ボクは……《レクンガ》を召喚!」

《レクンガ》
水/☆4/植物族・効果 ATK1700 DEF500
自分の墓地の水属性モンスター2体をゲームから除外する度に、
自分フィールド上に「レクンガトークン」(植物族・水・星2・攻/守700)を
1体攻撃表示で特殊召喚する。


 マリクが呼び出したのは、丸い緑の体躯、その中心に一つの目玉を持ち、体の周りから幾本もの触手をはやした奇妙なモンスター。
 自身の戦闘力はさほどでもないが、それを数で補う能力を持っている。
「《レクンガ》は墓地の水属性モンスターを2体除外する毎に、自身の分体を造り出す能力を持っている……! 墓地の水属性モンスターを合計4体……《グラスファントム》3体と《メルト・スライム》をゲームから除外し……! 『レクンガトークン』を2体生成!」
 さっそくその能力が発揮され、マリクの場にミニサイズの《レクンガ》が2体出現した。
「更に……! 魔法カード……《二重召喚(デュアルサモン)》を発動……!」

二重召喚(デュアルサモン) 通常魔法
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。


「……! それにチェーンして速攻魔法《魔法効果の矢》を発動! 魔法カードヲ破壊シ……500ポイントのダメージを与える!」

《魔法効果の矢》 速攻魔法
相手フィールド上に表側表示で存在する魔法カードを全て破壊する。
破壊した魔法カード1枚につき、相手ライフに500ポイントダメージを与える。
 

マリク:LP700 → LP200


 “魔神”はとっさに伏せカードを発動させ、マリクの発動した魔法カードごと、彼を射抜いた。
 その自身がとった行動に、僅かに間を置いた後、“魔神”は困惑する。
「(ナンダ……我が恐れを感じているのか……!? 目ノ前ノ……先ほどまで死にかけていた筈の、たかが人間一人に!?)」
 いや、違う。正確には、彼の行動……持ちうるカード、そこに驚異の正体がある。
「《二重召喚》は破壊されたが……《魔法効果の矢》は効果までは打ち消せない……ボクは問題なく、通常召喚権をもう一度得る……!」
 先ほどまで、欠片も動かなかった筈のマリクは、矢で射られたというのに、まるでゾンビのように怯むことなく動き続けている。
 鈍く輝くウジャトを額に宿したその男……いや、その男達(・・)が、ゆっくりと残った手札、最後の1枚に指を掛けた。
『そうだ……そいつだ!』
「ああ、わかっている……! 場の《レクンガ》及び、レクンガトークン2体、合計3体の生け贄を捧げる……!」
 触手の魔物は、自らが生み出した分体共々、漆黒の渦の中に消えてゆく。
「ウゴゴゴゴ……何だ、この禍々しい力は……!?」
 漆黒の渦は、竜巻の様に天に向かって伸びてゆく。
 その渦の中にいるのは……邪悪な力を宿した、闇の悪魔龍。
「……! カードの……名前が……!」
 ぼやけていたカードが鮮明になっていく―――炎の烈火龍の姿は消え去り、鈍い光沢を放つ悪魔龍へ。“幻魔”の名は消え去り―――“邪神”の名へ!
『さあ、その名を呼べ! オレ達の手にした……新たな神!!』
「……《邪神イレイザー》、召喚!!」

《邪神イレイザー》
闇/☆10/悪魔族・効果 ATK? DEF?
このカードは特殊召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター3体を
生け贄に捧げた場合のみ通常召喚する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力は、相手フィールド上に存在する
カードの枚数×1000ポイントの数値になる。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、フィールド上のカードを全て破壊する。
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する事ができる。


 漆黒の渦が砕け、“邪神”たる悪魔龍がその姿を顕わせた。
 鈍い金属色を思わせる長い体躯、生物的な印象とは程遠い、機械めいた肩と頭部。
 黒い刃の様な翼を広げ、相対する守護神を、冷酷な瞳で見降ろしている。
「これが……アノ、禍々シイ力ノ正体カ……!!」
 驚愕する“魔神”に向け、“邪神”を従えた2人(・・)が告げる。
『フハハハハ! どうやらこの“邪神”サマは、嬲る相手が多ければ多いほど、滾る性質をお持ちのようだな!』
「《邪神イレイザー》の攻撃力と守備力は……相手フィールド上に存在するカードの枚数の1000倍となる……お前のフィールド上のカードは《ゲート・ガーディアン−TAP》と。装備状態となっている三魔神……合計4枚! よって攻撃力4000!」

《邪神イレイザー》自身の効果適用!
ATK0 → ATK4000/DEF0 → DEF4000


「《ゲート・ガーディアン−TAP》の効果が仇になり……攻撃力ヲ越エラレタ……ダト!!」
 怯む“魔神”、だが、もはや“邪神”は倒すべき存在を認めている。
『さあ……処刑の時間だ! 邪神サマよ! あのクソ生意気な“魔神”と守護神を葬っちまえ!!』
「《邪神イレイザー》で《ゲート・ガーディアン−TAP》を……攻撃!!」
 悪魔龍の咥内を中心に、不気味な色のエネルギーが収束する。その標準は、“魔神”が従えし巨体の守護神。
 攻撃の引き金が、マリク―――そして“闇マリク”が、叫びと共に引かれた。
「『穿てえ! ダイジェスティブ・ブレーース!!』」
 放たれた暴力的な光の渦が、《ゲート・ガーディアン−TAP》の巨体を全て砕いてゆく。
 その光の勢いは留まる事を知らず、“魔神”すら簡単に飲み込んでいった。
「ウゴ……ゴガ……ギ……ガガガアァァああァァあアアあアアぁアアアあアアアアぁああああ!!!!」
 砕け散りゆく、二つの影―――増幅してゆく破滅の光が、“闇”に包まれた決闘の場全てに広がり―――戦いの、終わりを告げた。

プレアデス:LP250 → LP0







● ● ● ● ●


「……コード“U”、いえ、《邪神イレイザー》が目覚めた様ね……」
 マリク達が闘っているアメリカの地、そこから遠く離れた島国、日本―――その国の一財閥、高天原家の屋敷の地下で、『無神論』のバチカルは確かな力の波動を感じ取っていた。
「同時に、“魔神プレアデス”の復活と再封印も……うまくいっているとみて良いのかしら? ちゃんと報告を受けないとわからないわね……」
 バチカルには、同じ『クリフォト』のメンバー通して、ある程度状況を掴む事ができる能力がある。
 とはいえ、この力は万能ではない。
 大雑把な力の流れしかわからないし、様々な要因でリンクが途切れてしまうこともある。
「超常的な力を持ってしても、結局のところ、顔を突き合わせて話すしかないなんて……やはり、人間としての限界なのかしらね」
 そういって、ほう、と短く溜息をつく。
「まあいいわ……どちらにしろ、目的には着実に近づいている……“闇のゲーム”を利用した“邪神”の復活……そして、“魔神”の地における儀式……」
 元々、“邪神”の復活は先代ケムダー ――― トウゴ・ササライを利用した精霊研究に置いて、他のカードの精霊の命を奪う“幻魔”の性質を利用して、その力を育てるつもりだった。
 だが、研究は『隠された知識』の介入により頓挫。
 そこで、“闇のゲーム”の中に置いて、“邪神”の力を刺激する方策に修正した。
 幸い、もうひとつの“魔神”の地における儀式には“闇のゲーム”が必要条件に入っていたため、それと合わせて執り行う事ができた。
「邪神の方はあと二つ……まあ、これは多少遅れてもかまわない。まずは“魔神”の地の儀式を完遂させなくては……」
「オウ、戻ったぜ。“魔女”さんよ」
「あら、噂をすればってやつね」
 バチカルから少し離れた場所に前触れなく現れた、渦巻く闇の穴からバクラがその姿を見せる。
「エジプトの地での儀式、お疲れ様。成功したのかしら?」
「ああ、これこの通り、ってな」
 そういって、“ゾーク”のカードを見せるバクラ。
 そこには、確かに魔力の波動が波打っていた。
「うん。これで、エジプトの地も、アメリカの地も成功……したようだし、後は……」
「それより“魔女”さんよ、そろそろ、アンタが何を狙っているのか、ちゃんと教えてくれないか?」
 そういって、バクラはバチカルを睨みつけた。
「……闇の果てにある、この世界の真実……そうとしか、言い様がないわ。貴方も、それを見」
「おいおい、何を言っているんだ? 何か勘違いしてないか? “魔女”さんよ? オレが何も知らされないままに、従順に従い続けると思ったのか? それとも、あれか? オレは単なる魂の欠片……僅かな残留思念に力を与えた存在だから、目的を果たした後は簡単に葬れると思ってるんじゃないのか?」
 バチカルの言葉を遮る様に、バクラは大きな声で言葉を続ける。
 対するバチカルは、何も言わず、ただバクラを見返すだけだった。
「……ハッ! どうやら、ほぼ的を得たようだな。オレを呼び出したのも……“ゾーク”に関連する、オレの魂の力が儀式に必要だったからだろう……まったく、人を馬鹿にしてくれるぜ!」
 その言葉と同時に―――“闇”が、2人を取り囲むように吹き出た。
「……! これは……私に“闇のゲーム”を仕掛けるつもり?」
「その通りだ……“魔女”さんよ、確かにオレは単なる残留思念が、力を付けた様なもんだ……だがよ、オレに力をくれたアンタを倒し、その力を喰らえば……アンタの目的も理解できて、加えて、その先に求めるモノも、手に入れられる。どうよ、一石二鳥だろう? 狙わない手はないじゃないか!」
「……浅はかね、そんなにうまくいくと思ってるのかしら?」
「知った事かよ! ま、そんなに的を外れてはいないと思うがね……どの道、ガキの使いのように扱われたんだ、遅かれ早かれ、オレはアンタに牙を剥いてたと思うぜ?」
「そう……残留思念とはいえ、流石は盗賊王と言ったところね。だけど……」
 そういって、バチカルもデュエルディスクを構える。
「私を倒せると思っている……それが、一番の間違いね」
「……ハハハ! 言ってくれるじゃねえか! これは、ますます倒しがいがあるってもんだ!」
 そうして、盗賊王と“魔女”は、互いのカードを引き抜き、構える。

「いくぜ……決闘(デュエル)だ!!」

バクラ:LP4000
バチカル:LP4000




つづく……








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