HURRY GO ROUND

製作者:半真馬奇さん




メイン登場人物紹介

・如月 京弌(きさらぎ きょういち)

本編の主人公。15歳

結構だるがりな性格だが、熱いときは熱い。

父は病に苦しむ母を捨て渡米。母親は京弌が6歳の時病死。

・園山 奈津(そのやま なつ)

京弌の幼馴染み。15歳

京弌と対照的な活発な性格。

・吾玖早@刃牙(あくた ばき)

作者がモデル(笑)。16歳

考えるより先に行動するタイプ。キックボクシングをやっている。でもあんまり強くはない。

自分の『カオス・ソルジャー−開闢の使者−』のカードを命よりも大切にしている。

・如月 神(きさらぎ じん)

京弌の父。年齢不詳。

日本経済水域内の核融合プラントの開発責任者。

etc…


・スペシャルサンクス
ビリーさん
lionさん
ライさん
しゃけさん
そせーな人さん
皇帝、エンペラーさん
杏子さん
posさん
フィンドル☆さん
あなごさん
KUOKKUさん
飛影さん

・取材協力

スピードワゴン財団代表 空条 承太郎様

ギャング組織「パッショーネ」代表 ジョルノ・ジョバーナ様

海馬コーポレーション代表 海馬瀬戸様


・ルール
1決闘のみ。
ルール自体はOCGと同じ。


制限・禁止カード
禁止カード(メイン、サイドデッキに合計0枚まで)

混沌帝龍−終焉の使者−
キラー・スネーク
黒き森のウィッチ
処刑人-マキュラ
ファイバーポッド
魔導サイエンティスト
八汰烏
悪夢の蜃気楼
いたずら好きな双子悪魔
苦渋の選択
強引な番兵
強欲な壺
心変わり
サンダー・ボルト
死者蘇生
蝶の短剣-エルマ
ハーピィの羽根帚
王宮の勅命
第六感

制限カード(メイン、サイドデッキに合計1枚まで)

異次元の女戦士
お注射天使リリー
カオス・ソルジャー −開闢の使者−
クリッター
混沌の黒魔術師
サイバーポッド
サウザンド・アイズ・サクリファイス
神殿を守る者
人造人間−サイコ・ショッカー
月読命
ドル・ドラ
同族感染ウィルス
深淵の暗殺者
ならず者傭兵部隊
ネフティスの鳳凰神
封印されしエクゾディア
封印されし者の左足
封印されし者の左腕
封印されし者の右足
封印されし者の右腕
魔鏡導士リフレクト・バウンダー
マシュマロン
魔導戦士 ブレイカー
メタモルポット
押収
大嵐
強奪
サイクロン
スケープ・ゴート
団結の力
月の書
天使の施し
手札抹殺
早すぎた埋葬
光の護封剣
ブラック・ホール
魔導師の力
突然変異
ライトニング・ボルテックス
リミッター解除
激流葬
現世と冥界の逆転
死のデッキ破壊ウイルス
聖なるバリア -ミラーフォース-
破壊輪
魔のデッキ破壊ウイルス
停戦協定
魔法の筒
無謀な欲張り
リビングデッドの呼び声

準制限カード(メイン、サイドデッキに合計2枚まで)

アビス・ソルジャー
暗黒のマンティコア
強制転移
増援
成金ゴブリン
非常食
抹殺の使徒
レベル制限B地区
グラヴィティ・バインド−超重力の網−
ゴブリンのやりくり上手
ラストバトル!



第1話 如月 京弌

――――五月初旬。

空は絵の具で塗りつぶしたかのように、どこまでも蒼い。
如月 京弌は、近隣にあるホビーショップの「デュエルモンスターズ」の公認大会に
参加していた。
開催されている場所は、ホビーショップの裏側にある広場。
試合は「決闘盤(デュエル・ディスク)と呼ばれる、直径30pほどの円盤に。長さ一メートル程度の板を装着したような装置をつかう。

――――何もンなご大層な装置使わなくてもいいと思うけどな。
決闘盤を借りににいく連中を見るたびに、京弌はつくづく、そう思う。

現在は大会決勝戦前の休憩時間で、10分ほどの時間が与えられるのである。
京弌は、会場隅っこにあるベンチにダベーと腰かけていた。
整った目鼻立ちと研ぎ澄まされたレイピアのようなプロポーションの引き締まった長身。
髪はぬまたばの黒の中に金髪が所々混じっており、彼の美貌を引き立たせている。
彼はよくKAT-TONの亀梨によく似ていると品評されるが、――――別に彼は全く似てないと思っているし、そういわれてもあまり嬉しくない、と言うのが本音だ。
また、顔立ちが漫画「DEATH NOTE」の夜神 月に似ているといわれたこともあるのだが、
それも似てない、と彼は思う。


「くぁ……」

口元を手で覆い、大欠伸をひとつ。
本当に――――ほんとに、よく晴れた空だった。





不意に、頬に冷たさを覚えた。
「ぅお!?」

「なーにカバみたいな大欠伸してんのよ。
 ハイこれ。おごりなんだから感謝しなさい」

そういって缶ジュースを差し出してきたのは園川 奈津――――彼の幼稚園の頃からの幼馴染みである。
肩まで伸ばした黒髪に、艶のある真珠のように白い肌、トップモデルともタメを張れるような容貌の、いわば美女である。
ちなみに化粧っ気は全くない。
「………おまえなぁ。いい加減その癖なおせよ。不意にやられると滅茶苦茶ビビるぞ、ソレ」

「こんなんでビビっちゃってどーすんのよ。あたしが準決勝で負けた分、アンタは勝ってきなさいよね」

缶ジュースを受け取りながらも不平を言う京弌の隣に奈津は座った。
ふと京弌は尋ねてみる。

「よぅ、おまえが当たって負けた奴―――俺が決勝でやる奴だな―――って、どんなデッキだった?」

「んー、何かいろいろ使ってきたけど、基本はあんたと同じスタンダートデッキだったはずよ。もぉ凄くキモ―――じゃなかった、強かった」

「―――なんだ。じゃあ別に怪物的ってわけじゃねぇな」

ムッとなる奈津に京弌はからかうように言ってやる。

「どーゆー意味よ」

「いやぁ簡単だろ?おまえにとっての『強い』は俺にとって『貧弱』……ぅお」

京弌に向かって突き出された拳。彼は危ういところで避けた。―――危ねぇ女だ。



「―――デュエルモンスターズ公認大会決勝戦がまもなく開始しまーす!
 出場選手は前のフィールドまでお越しくださーい!」

大会主催店の店員の声。京弌はベンチから立ち上がった。
「んじゃ、行ってくるわ」

「フン、せいぜい数ターンでおわらないように気をつけなさいねー」

「へいへい」

拗ねたような奈津の声に飄々と応じ、前に出る京弌。
京弌は決闘盤を店員に差し出し、不正がないかチェックを受けた。
対戦フィールド場には、既に男が来ていた。
背の高い痩身の男であった。長髪で、頬がゲッソリ痩けている。

「フヒヒヒヒ…君が対戦相手かい?……まぁ宜しくね」

「――――ぁ、ども」

京弌は、失礼にならない程度に素っ気なく答えた。
同時に店員から決闘盤が返される。


「それでは、決闘を開始してください!」

審判の声が響き、決勝のゴングを鳴らした。

「「決闘!」」



CHAPTER2 EXTRA



決闘盤は京弌の先攻を示している。
お互いのライフは8000。

「−ドロー」

京弌はドローしたカードを含む6枚のカードを見た。
『激流葬』『マシュマロン』『シールドクラッシュ』『異次元の女戦士』『魔法の筒』
そして『氷帝メビウス』。
京弌は少し思考し、

「モンスターを裏守備表示でセット。カードを1枚伏せターンエンドだ」

オーソドックスな布陣。京弌の眼前に何倍にも巨大化されたカードの裏面のCGが浮かび上がる。
相手――――雑乃魚 鎌瀬戌(ざつのうお かませいぬ)のターンに移行、ドローフェイズを迎える。

「フヒヒヒヒヒ……僕のターン。ドロー」

鎌瀬戌はドローしたカードを見、頬の両端を急角度で釣り上げる。
アレが彼なりの笑顔なのだろう――――オトモダチとか一人も居なそうだな。京弌は思った。

「グフフフフ……速効魔法『サイクロン』発動するよォ」

京弌の目の前の伏せカードのCGに、巨大な竜巻が襲いかかり、それを引き裂く!
伏せカードは『魔法の筒』。
(畜生――――読まれてたか…)
内心苦い顔をする京弌。

「さぁらにィ…『ミスティック・ソードマンLv2』召喚ンンン、攻撃ィ!」

ミスティック・ソードマンLV2 効果モンスター 地 2 戦士
攻撃力900 守備力0 ‐
効果:裏側守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わず裏側守備表示のままそのモンスターを破壊する。
このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地に送る事で「ミスティック・ソードマン LV4」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。


山高帽にも似た兜を被った小柄な剣士が、頑なに裏守備表示を示すカードに突進、剣を振り上げ、伏せられたモンスターカードにその銀光を突き立てる!
京弌の守備モンスター――――マシュマロンは破壊された。

「貧弱ゥ、貧弱ゥ!そんなカードでどうにかなると思ったか、マヌケがぁ〜」

長髪を仕掛けてくる鎌瀬戌だが、京弌はむしろその内容よりも鎌瀬戌のしゃべり方に不快感を覚えているようであった。

「フフン、カードを1枚伏せ終了」

京弌のターン。カードを1枚引いた。

「よし!魔法カード『強奪』発動、『ミスティック・ソードマンLv2』のコントロールを奪う!」

鎌瀬戌の場を離れ、京弌のフィールドに移動する山高兜の小剣士。

「『ミスティック・ソードマンLv2』を生け贄に、『氷帝メビウス』召喚」

小さな剣士の姿は突如消失、代わりに全身を白金の鎧で包んだ武人が現れた。

氷帝メビウス 効果モンスター 水 6 水族 2400:1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊する事ができる

「――――そして、『氷帝メビウス』の効果発動!」

『氷帝メビウス』はその逞しき左の拳で地面を殴打した。
そこからいくつもの氷のとげが出現、伏せカードめがけて疾る!
――――そして、その氷柱はついに、その伏せカード―――『聖なるバリア−ミラーフォース』を貫き、飛散させる。

「うぐぅ……」鎌瀬戌は呻いた。

「バトルフェイズ―――『氷帝メビウス』でプレイヤーを直接攻撃!」

氷の武人は一足飛びで鎌瀬戌に接近。右の正拳突きを叩き込む!

「ひでぶぅ!!」

鎌瀬戌は腹を抱え、蹌踉めいた。

(鎌瀬戌 ライフ8000→5600)

だが次の瞬間、鎌瀬戌の口から飛び出した一言は、その場の空気を一変させ、
京弌の全身を悪寒で支配した。



















「……意外と痛いケド――ちょっとカ・イ・カ・ンv」





















――ずさっ!
会場に存在する人間全員が後ずさる足音が、見事にハモった。



「ド変態が…」

今にも吐きそうな京弌の表情。

「カードを2枚伏せ、ターンを終了する」

変態――否、鎌瀬戌のターン。
鎌瀬戌はカードを1枚引いた。

「魔法『大嵐』発動ォォォ!」

フィールド上に嵐がふきずさび、京弌の伏せカードを蹂躙してゆく!

「更に魔法『天使の施し』ィィィィィ!」

鎌瀬戌はカードを3枚引き、2枚を手札から捨てる。

「行くぞ如月ィィィィィ………キサマに味わわされたカイカ……もとい苦痛、何倍にして返してやるゥウゥゥゥゥ」

鎌瀬戌の不気味な声。

京弌の眼光は鋭くなる。



CHAPTER3 降り立つもの

四月某日。


俺がコンビニで買った「デュエルモンスターズ」のカードパック。

その最後尾に、封入されていた1枚のカード。



それを俺がデッキに入れてから、

俺はイカれたゲームの渦中に放り込まれたんだ。

『世界』を舞台にした、狂れたゲームの渦中へと――――




























「行くぞォォォ!『聖なる魔術師』をォ、攻撃表示ィィィィィィ!」

鎌瀬戌の場に、オレンジを基調とした民族衣装のようなものを身に纏った、か弱い女魔術師が出現する。

聖なる魔術師 効果モンスター 1 光 魔法使い 300 400
リバース:自分の墓地から魔法カードを1枚選択する。選択したカードを自分の手札に加える。

京弌は、すぐさま彼の意図するところに気づいた。

「てめぇ、手札ン中の1枚は――――」

「おゥ、顔が青ざめたなァ?そうだァァァァ!魔法カード『強制転移』発動ゥゥゥ!!!」

強制転移 通常魔法
お互いが自分フィールド上モンスターを1体ずつ選択し、そのモンスターのコントロールを入れ替える。選択されたモンスターは、このターン表示形式の変更はできない。

鎌瀬戌の場には攻撃力300の『聖なる魔術師』が1体、京弌の場には『氷帝メビウス』が1体のみ。

これが意味するところはつまり――――

「そうだぁ!『氷帝メビウス』と『聖なる魔術師』のコントロールを入れ替えるのだぁぁああああ!」

逞しき氷蒼の武人は鎌瀬戌の場に、か弱き魔術師は京弌の場に、それぞれ移動した。

「さァらぁにィィィィィ、魔法『早すぎた埋葬』発動するゥゥゥゥゥ!
 墓地から『光神機−轟龍』特殊召喚だァァァアァ!」

光神機−轟龍 光 天使 8 2900 1800
このカードは生け贄1体で召喚する事ができる。この方法で召喚した場合、このカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


早すぎた埋葬 装備魔法
800ポイントライフポイントを払う。自分の墓地からモンスターカードを1体選んで攻撃表示でフィールド上に出し、このカードを装備する。このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。


京弌の眼前に、円形の胴体を持つ白を基調とした龍型の兵器が出現した。

京弌の背中を、氷柱が滑り落ちる。

「覚悟はいいか?如月ィィィイイ」

ゲッソリと痩けた顔に陰惨極まりない笑みを張り付かせ、鎌瀬戌が喜びを隠しきれぬ声音で言った。

「行くぞォォォォ!『光神機−轟龍』でェ、『聖なる魔術師』を攻撃ィィィ!!」

『光神機−轟龍』の、その円状の胴体から、幾条もの光の帯が放たれる!

その光のシャワーを一心に浴び、跡形もなく吹き飛ぶ『聖なる魔術師』。

京弌:8000→5400

「フヒャハハハハァァァ!『氷帝メビウス』ゥ、ダイレクトアタックゥゥウウ!」

鎌瀬戌にやったのと同様、右の強烈な正拳突きが、京弌の胸部に叩き込まれる!

京弌:5400→3000

「ぐぁ……」

「フヒィ――――ハハハハハハハハァァアア!
 
 どうだぁぁぁぁ?キモチイイ!最高にハイな気分だァァ!ターン終了!」

甲高い嘲笑の音と共に、ターン終了を宣言した鎌瀬戌。

京弌:3000 鎌瀬戌:5600

「俺の……ターン」

京弌の手元にあるのは、『異次元の女戦士』1枚のみ。



異次元の女戦士 光 戦士 4 1500 1600
このカードが相手モンスターと戦闘を行った時、相手モンスターとこのカードをゲームから除外する事ができる。




震える手でカードを引き――――そのカードを見て、苦い顔をした。

「モンスターを守備表示でセット。カードを1枚伏せターンを終了する」

「フフン―――その面を見るに、君は逆転できるようなカードを引けなかったわけだねェ?」

鎌瀬戌のネチネチした余裕綽々といった声。

それが京弌の神経を逆撫でする。

「ドロー……フン、魔法『押収』か。
 
 君の手札はないから、こんなのあったって邪魔だなァ」
 
忌々しげに舌打ちをする鎌瀬戌。

「まぁいいさ。君はどうせこのターンで敗北するのだからねェ……
 
 『光神機−轟龍』ゥゥウ!その雑魚を蹴散らせェェェェェ!」

白い殺戮兵器の胴体から発される、拡散する熱量の束。

そのいくつもの光条は、ヴィジョンをあらわした『異次元の女戦士』を灼き尽くし、勢いを弱めず京弌に着弾する!

「うわぁぁッ!?」

京弌:3000→1700

「ゲハハハハハハハハ!勝ったッ!『氷帝メビウス』の攻撃ィィィィ!!」

「――――まだだっ!速攻魔法『収縮』発動!」

「何ィィイ!?」

収縮 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。そのモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズまで半分になる。

再び正拳突きを叩き込もうとする『氷帝メビウス』の肉体のサイズは2分の1となる。

だが、それでも『氷帝メビウス』の鉄の拳は叩き込まれた。

京弌:1700→500

たまらず京弌は片膝を付く。

だが、『光神機−轟龍』の姿は消えていた。

「フン…『光神機−轟龍』は『異次元の女戦士』に除外されたが…
 
 まあいいか。どうせ君の負けは保証付きなのだからねぇ……ターンえ・ん・どv」

気にくわないが、確かにあの糞ったれの言うとおりだ――――京弌は思った。

自分のライフと奴のライフは、実に九倍以上の差がある。

しかも、自分には何もない。

壁となるモンスターも、迎え撃つ魔法も、罠も、何も。――――敗北は決定したも同然じゃねぇか。

――――彼の右手は、「降参」を示すべく、デッキの上へと登っていった。












「何やってんのよ!バカ京弌!」










厳しくも温かい、叱咤の声。

奈津が、腰に両手を当てて、仁王立ちしていた。

「何よ、ソレ!アンタにはまだドローフェイズがあるじゃない!可能性があるじゃない!

 ソレを何よ、ナニ逃げてんのよ!」

そこで、奈津は一拍おき、右の指を京弌に突きつけ、言い放った。


















「もしアンタが負けたら、『あの』ビデオ鑑賞会のこと、全部ばらしてやる!それも、ここの全員に!」

「なにぃぃ!?」

















 
 京弌は目をむいた。

中学時代、京弌は悪友たちと●●●で○○なビデオ鑑賞会を1回したことがあるのだ。

それが、奈津にバレ、京弌は以来1度もそういったビデオを見ていない。

そのときの奈津の表情は、鬼より恐ろしかった。




「もし!ばらされたくなかったら!勝てばいいの!

 だから―――前を見て、闘いなさい!」





「てめぇ…さっきから聞いてりゃ好き放題吐かしやがって……」

わなわなと震える京弌。













彼女の言葉で、彼の中に渦巻いていた絶望の色がすっかり消えたことに、京弌は気付かなかった。












「大体、おまえさ、俺がこんな腐ったゴボウみてぇな野郎に負けるとか思ってたワケ!?

 冗談じゃねぇ!すぐにこのコオロギ野郎ぶちのめして、手前ェの阿呆面拝んでやる!」

「何だとォ……
 
 僕が………ッ腐ったゴボウ……みたいだってェェェェ」

こちらも怒りに震える鎌瀬戌。

怒りをすべて、言葉にして放った。

「絶対に許さんぞ虫けら共ォォォォォォオオオオオ!

 ジワジワと嬲り殺してくれるッ!

 一匹たりとも逃がさんぞ覚悟しろォォォォォオオオオ!!」

「俺のターン―――カードを引く!」

確かに可能性は皆無に近い。

だが、ゼロではない。







京弌は目を閉じ、ゆっくりとカードを引いた。




目を見開き、視認する。






「俺は、手札からモンスター『龍神(アルター)』を召喚する!」
















彼の日常は、この日から『非日常』へと侵食されてゆく。

それはゆっくりと、
まるで、月の満ち欠けのように。



CHAPTER4 『龍神(アルター)』








「俺は、手札からモンスター『龍神(アルター)』を召喚する!」

「何ぃぃぃぃぃ!?」

驚きを露わにする鎌瀬戌。

「何だよあのカードは!?」

「俺全シリーズ5ボックス買ったけど、入ってなかったぞあんなカード!?」

観戦者からも驚きの声が上がる。

白く、皓く輝く、巨大な体躯。

『オシリスの天空竜』に酷似した、モンスターと呼ぶには、あまりにも神々しい姿であった。

其れは例えるなら、人間を裁くために天より舞い降りた神の長。

「このカードは俺もこの決闘で初めて使う――――このモンスターはレベル6だが、スタンバイフェイズ時手札がこのカードを含めて2枚以下だった場合、

 生け贄無しで特殊召喚できる!」

「何だとォオオ!?攻撃力2900で生け贄不要……は、反則だぞ審判!!あのカードは偽物…………そう偽造カードだ!!」

だが、審判も驚きを隠せない。

決闘盤は偽造カードのヴィジョンは、絶対に作り上げないようバトル・シティ以降調整がなされたからだ。

「決闘盤にィィィ!あいつは細工してたんだァアァアア!そうだ!そうに違いないィイィィィ!!」

唾をスプリンクラーのように撒き散らしながら、白目をむいてヒステリックに喚く鎌瀬戌。

「いや…考えられない……決闘前にチェックはしたが、不正はなかった……」

審判の声もとまどっている。

「つまり、あのカードは公式につくられたものだ――――」

鎌瀬戌は声を失った。

「もういい加減キーキー喚くのやめろよ、木偶の坊。

 ――――俺はこのターン、『龍神』のもう一つの効果を発動する!」

「!? 何だってェェエェェ!」



  龍神 光 ★6 ATK2900 DEF500 ドラゴン族
  
  効果:このモンスターは、スタンバイフェイズ時に手札がこのカードを含めて2枚以下だった場合、生け贄無しで特殊召喚できる。
     ライフを半分払うことで、このカードを除くすべてのフィールド上のカードを破壊し、破壊されたすべてのモンスターの攻撃力分
     ダメージを与える。この効果はデュエル中1度しか使えない。
     このカードは相手の魔法の効果を受けない。
     

「何だとォォォォォォォオオオオオオ!?」

口を限界まで開いて叫ぶ鎌瀬戌。

「いくぜ――――『龍神』の起動効果を発動する!」

白き龍は飛翔、2つある口のうち、上部にある口を開いた。

降り注ぐ蒼の焔。

その業火の鉄槌は鎌瀬戌の『氷帝メビウス』を包み――その存在した痕跡すら残さず――文字通り『焼失』させた。

鎌瀬戌:4800→2400

「ナーァァァァァァアアアアアアア」

鎌瀬戌はあんぐりと開いた口から声が漏れるのにも気付いていない。

「最後だ!『龍神』で直接攻撃!」

京弌の力強い宣言とともに、『龍神』の開かれた下の口腔に、青白い光が収束されてゆく。

「ば…ばかなっ!………………こ、この鎌瀬戌が………」

輝く神の化身の口から放たれる青白の帯。

光の死神は、眼前の生贄を喰らい尽くさんと疾走する!

「この鎌瀬戌がァァァ〜〜〜〜〜〜!!」

そして、その圧倒的な『皙(しろ)』はついに、哀れな敗者を捉え、全身を超高熱で踏みしだき、蹂躙する!

鎌瀬戌:2400→0

「ヤッダーバァァァァァァァアアアアア!!」

奇怪な絶叫を尾に、鎌瀬戌は文字通り『吹っ飛んだ』。

その頬はかすかに、快楽に紅潮していた。













「本日の『デュエルモンスターズ』公認大会の優勝者は、如月 京弌君に決定いたしました!」

主催店店長の宣言と共に、あちこちから拍手が送られる。

ふう、と一息つき、京弌は目を閉じて顔を上げ、勝利の余韻に浸ろうとしたとき、ドスンと大きな衝撃を感じた。

「ってぇ!」

「おめでと、京弌!すっごい逆転だったね!」

見ると、奈津が夏季の向日葵のように笑って肩をたたいていた。

「とーぜん。おまえの阿呆面も拝めたし満足――――っお!!」

奈津の神速の右コークスクリューが京弌の頬を掠めていた。

コイツ、密かにドーピングでもしてんじゃねぇか―――うっすら血の滲む頬をさすりながら、京弌は思った。

不意に、一人の女の子と眼があった。

京弌と同じくらいの年頃だ。茶色でストレートのなびくような長髪に、人なつっこそうな美貌。

薄い水色のワンピースが小麦色のはだを引き立てている。

京弌の好みのタイプだ。声かけようかな――――そう思ったとき、京弌の右の二の腕に激痛。

「痛っ!」

「へ〜ぇ、京弌って、あーゆー娘が好みなワケ?」

薄笑いを浮かべ、不審げな瞳で奈津は京弌の腕を万力のような力でつねっていた。

「そーよねー。私みたいな嫉妬深い女より、あーゆー天真爛漫な娘のほーがゆーこと聞いてくれるもんねー」

「ッ!?何でそんな話になるんだ!?ただ見てただけじゃねぇか!」

「だってー。アンタ表向きおとなしそーでも頭んなかで色々もーそーとかしてそーだしー」

「うるさい!だいたいさ、おまえだって――――」

奈津と言い争いながらも、京弌はこの日、この日常を何より愛しく感じていた。







PART1・了




後書き

第1部完結いたしました。いかがでしたか?

第2部からゲストの皆さんも登場しますんで、どうか応援してやってください。


・第1部執筆中のヘビーローテーション

L'Arc〜en〜Ciel「AWAKE」「SMILE」「Clicked single best13」

B'z「MONSTER」「Treasure」「Pleasure」

宇多田ヒカル「ULTRA BLUE」

GLAY「WHITE ROAD」

デトロイト・メタル・シティ「魔界遊戯」





第2部はこちらから





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