9章 新たなる脅威


 ――午後10時51分

 御伽とノディを除く全員が、コントロールルームに集合していた。

 闇のゲームによって意識を失ったノディは、隣の仮眠室に寝かされ、そして、御伽は未だに行方不明のままだった。



「それでは…あいつがオレ達をここに閉じ込めたというのか…?」

「たぶん、な。」

 城之内からノディ襲撃の事実を聞かされ、誰もが戦慄を感じずにはいられなかった。

 御伽が行方不明になった時より、場の空気は張り詰めていた。

「だが所詮、城之内にさえ敗れる程の腕…。期待はずれだったな…」

 海馬は吐き捨てるように言った。

「…って、ケンカ売ってンのかぁ! 海馬ぁ!」

 城之内は刺々しい言葉に反応し、海馬にとってかかろうとする。

「ほう…。貴様…」

「…ちょ、ちょっと! 二人ともこんな時にケンカしないでよ!」

 杏子が何とか抑える。

「…フン」

「……」

 しかし、場の空気は変わらなかった。相変わらず、ピリピリとした空気が張り詰めている。

 敵は、倒したはずなのに…。

 ……いや、そうではない…。

 御伽は見つからない。外には出られない。そして闇のゲーム、奇妙な壺、意識を失ったままのノディ…。

 ――誰もがまだ、これは始まりに過ぎないと感じていた。

「ところで、城之内くん…」

 意を決したように遊戯が口を開く。

「ン? 遊戯?」

「ああ。その…城之内くんの言っていた壺、どこにあるんだ?」

「それなら、ヤツのベルトポーチの中に…」

 それを聞くなり、遊戯はコントロールルーム隣の仮眠室へ向かう。

「あ、オレも行くぜ…!」

「いや、いい。オレ一人で行かせてくれ…」

「お、おう…」

 遊戯は後ろを振り返ることなく、仮眠室の扉を開けた。



 仮眠室のベッドの上に、意識を失ったままのノディが横たわっていた。

「………」

 ベルトポーチは、既に腰からはずされ、ベッドサイドの小さなテーブルの上に置かれていた。

 そのポーチは、やけに大きく膨らんでいるように見えた。壺を入れるには小さすぎたのだろう。

 遊戯は一呼吸置いて、ポーチのチャックを開いていく。

「これが…」

 ポーチの中から現れた壺は、握りこぶし2つ分程度の比較的小さなものだった。

 色は黄金色――というより、金か何かでできているようだった。

(金属の壺…?)

 その壺を手にとってみる。

「……! こ、これは…!」

 遊戯の目に見慣れた模様が飛び込んだ。

「な、何故…!?」

 その模様は、人の眼をかたどったものだった。

 一般的にはホルスの眼――ウジャトと呼ばれている模様。

「これは…千年アイテムなのか…!?」

――バタン!

「遊戯っ!!」

「…!?」

 突如、けたたましい音を立てて、仮眠室の扉が開かれた。

「城之内くん…?」

「大変なんだ、遊戯! とにかく…来てくれ!」

「あ、ああ…」

 遊戯は手に壺を持ったまま仮眠室を出た。



「フフフ…。どうやら兄はやられてしまったようですね…!」

 コントロールルーム。一人の男が笑っている。黒服を着た男だ。

 その男の傍らには、モクバが倒れていた。どうやら意識を失っているようだ。

「伊佐坂…! 貴様ぁぁ!」

 海馬が、その黒服の男――伊佐坂を睨みつける。

――バタン!

「どうしたんだ!?」

 その時、遊戯が仮眠室から姿を現した。

 それを見て、伊佐坂はさらに不気味な笑みを浮かべる。

「おやおや、君は遊戯くんじゃあないですか…?」

「…!? お前は…海馬コーポレーションの…?」

「そう、私は…今年の6月に特別入社させて頂いた、伊佐坂――いや、これは仮名でしたね…。本当の名前は、スエズ、スエズと申します。」

「……」

「さて、私の兄はどうやらしくじったようです。」

「…ノディのことか?」

「ええ…。兄には、甘いところがありました。兄の心には迷いがあった。それが敗因です。」

 スエズは、そのまま前に進み出て、海馬の方を向く。

「ですが、私はそうはいかない…。海馬社長…決闘です!」

 それを聞いた海馬の眉がつりあがる。

「…まさか貴様、オレと戦うためだけに…モクバを…!?」

 海馬の表情は怒りに満ちていた。

 それを見たスエズはニヤリと笑みを作る。はじめから海馬が怒るのを計算したかのように…。

「心配には及びません。私に勝てば…元に戻して差し上げますから…」

「ほう…!」

「それでは行きましょう、海馬社長…。社長ご自慢の、あのデュエル場に…!」

 スエズは右手の親指をデュエル場のある方角に向ける。

「フン、いいだろう…。…磯野ぉ! お前はデュエルの審判を務めろ!」

 海馬は、椅子の脇に置いてあるジュラルミンケースを拾い上げ、エレベータへ向かっていく。

「で、ですが…」

「モクバのことなら心配ない。モクバはオレが必ず助ける! それまでは…遊戯達に任せておけばいい!」

 振り返らずに海馬は言う。

「ハッ…」

 磯野も、海馬とスエズに続いて、エレベータに向かっていった。

「モクバは…任せたぞ!」

 海馬がそう言うと、エレベータの扉は閉まった。



 海馬の姿が見えなくなると、コントロールルームに残された遊戯達5人は、各々動き出す。

「モ、モクバくん…!」

 杏子が真っ先に倒れているモクバに駆け寄る。

「おいおい…大丈夫なのか?」

 モクバの様子を見ている杏子に、城之内が話しかける。

「息はしてるみたいだけど…」

 そのまま杏子は上体を抱え起こしたが――

「…意識はないみたい。」

「そうか…」

「やっぱりアイツが持っていた指輪のせいね…?」

「指輪!?」

 舞の一言に遊戯は大きく反応する。

「うん、アイツが持っていた指輪…。アレが光ったと同時にモクバが意識を失った…」

「…やはり!」

「やはり…って、どういうことだよ遊戯!」

「ああ…。城之内くんの言っていたあの壺、あれは…おそらく…千年アイテムそのもの!」

「!!」

「何!」

「そんな…」

 城之内、杏子、舞、誰もが驚きを隠せない。

「何で、こんなところに千年アイテムが…?」

 杏子は遊戯に問うが、遊戯は首を横に振る。

「それは分からない…。だが、あのスエズが身に着けていたあの指輪でモクバの意識が飛んだのなら、それが千年アイテムであることには違いない!」

「くそっ!」

 無意識に城之内はコントロールルームの壁を蹴った。

――ガァァァン…

 部屋中に重い金属音が響き渡った。

 その金属音は反響して、なかなか鳴り止まなかった。


補足

次回は海馬のデュエルです。
海馬ランドへ行こうの6、7章で扱ったパーフェクトルールを用いるので、読んでいないという人や、忘れたという人は、読み直していただけると幸いです。




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