7章 絶望の片鱗も見せず


「何で……泣いてるんだよ…?」

 ノディは泣いていた。

 デュエルで優位に立っているにもかかわらず泣いていた。

「運命は…悲しすぎる…」

「は?」

 ノディはただただ、水の中に沈んだ都市を見ていた。

 その都市は、徐々に消えていく。

 建物の輪郭は薄れ、その壁は透けていった。

 ダイダロスの津波により、アトランティスのカードも既に墓地にあったのだ。

 古代の都市は、音も立てずに消えていった。

「ターン…エンド…」

 ノディは消え入りそうな声で、ターン終了を宣言した。

 既にアトランティスは跡形もなく消えていた。



「……。オ、オレのターン…」

 多少動揺しながらも城之内はデュエルを進める。

(まだ、相手の場には、攻撃力2600のダイダロスがいるんだ。気を抜いている場合じゃないぜ!)

「うっしゃあ、オレはランドスターの剣士を攻撃表示で召喚――さらにカードを1枚伏せ、ターン終了だ!」

ノディ
LP 3050
海竜−ダイダロス
攻撃表示
攻2600
守1500


ランドスターの剣士
攻撃表示
攻500
守1200

伏せカード

城之内
LP 1400



「オレのターン…! ドロー!」

 ノディは力任せにカードを引く。

 目はまだ多少腫れ上がってはいるものの、先程まで見せていた涙は消えていた。

「シーザリオン召喚! シーザリオンでランドスターの剣士に攻撃!」

ノディ
LP 3050
海竜−ダイダロス
攻撃表示
攻2600
守1500
シーザリオン
攻撃表示
攻1800
守800


ランドスターの剣士
攻撃表示
攻500
守1200

伏せカード

城之内
LP 1400

 ダイダロスよりは小さいが、それでもランドスターの剣士よりは遥かに大きい海ヘビが襲い掛かる。

「甘いぜ、ノディ! リバースカード――天使のサイコロ発動!」

 中空に天使が現れ、手に持つサイコロを投げる。

 その目は――5。

「うっし! ランドスターの剣士の攻撃力は5倍――つまり2500となり、シーザリオンに反撃だぜ!」

――ズバアアア

 襲い掛かってくるシーザリオンは、そのまままっぷたつに斬られ、消滅する。

「くっ!」

 ノディ LP 3050 → 2350

「しかし、ダイダロスの攻撃はかわせないぞ! ダイダロス――攻撃だ!」

ノディ
LP 2350
海竜−ダイダロス
攻撃表示
攻2600
守1500


ランドスターの剣士
攻撃表示
攻2500
守1200
城之内
LP 1400

――ズガァァァ!

 ダイダロスの巨体を受けきることができずに、ランドスターの剣士は吹き飛ばされる。

 城之内 LP 1400 → 1300

「く…! だが、これでお前のバトルフェイズは終了したぜ!」

「しかし、どちらにせよお前にはダイダロスは倒せない! せいぜいあがいて絶望感に浸れ! …ターンエンドだ!」



「…ケッ、誰が絶望するかよ――こんな海ヘビごときに! 行くぜ、オレのターン! ドロー!」

 城之内の顔には、絶望はひとかけらも見られない。

 巨大な海竜を前に、怯むことなく挑んでいる。

「オレは、グレード・アンガスを守備表示で召喚し、カードを1枚伏せて、ターンエンド!」



「あがいてあがいて絶望を味わえ! オレのターンだ!」

「オレはカードを1枚伏せ、クレイジー・フィッシュ召喚! クレイジー・フィッシュ、守備モンスターに攻撃だ!」

ノディ
LP 2350
海竜−ダイダロス
攻撃表示
攻2600
守1500
クレイジー・フィッシュ
攻撃表示
攻1600
守1200

伏せカード



グレード・アンガス
守備表示
攻1800
守600

伏せカード

城之内
LP 1300

「く…」

 守備モンスターは難なくやられてしまう。

「そして今、城之内――お前の場にモンスターはいない。ダイダロスで直接攻撃!」

 攻撃宣言と同時にダイダロスは突進してくる。

「墓荒らし発動! てめえのモンスターを盾にするぜ!」

ノディ
LP 2350
海竜−ダイダロス
攻撃表示
攻2600
守1500
クレイジー・フィッシュ
攻撃表示
攻1600
守1200

伏せカード



暗黒大要塞鯱
攻撃表示
攻2100
守1200
墓荒らし
相手プレイヤーの墓地に
置かれたカードを1枚奪いとる!!
城之内
LP 1300

「要塞シャチが盾に!?」

――ズガァァァン!

 城之内 LP 1300 → 800

「よし! このターンも防いだぜ…」

「――だが、防いでばかりでは、いずれその手札は尽き、その後に待つのは敗北のみ! 絶望を感じずにはいられない!」

「ヘッ、残念だったな! オレはこのデュエルで一度も絶望なんか感じちゃあいないぜ! お前みたいな奴には、絶対負けねえからな!」

「フ、せいぜい強がれ…。あがいた挙句に敗北していく時の絶望感を味あわせてやるよ!」

「…できるものならな!」

「く…口だけなら何とでも言える! さあ、お前のターンだ!」

 声を張り上げてノディはターンエンド宣言をする。



「ああ! 行くぜ、ドロー!」

 城之内のターン、デッキからカードを引くとすぐに、城之内はデュエルディスクの墓地を操作し、4枚のカードを取り出す。

「このデュエルで、墓地に送られたオレのモンスターは4体…」

 そう言って、それらのカードをノディに見せる。

「ガガギゴ…水属性…。リトル・ウィンガード…風属性…。ランドスターの剣士…地属性…。そして、グレード・アンガス…炎属性…」

「そ、それがどうしたって言うんだよ!?」

 単なるハッタリではないことは分かっているのだろう――明らかにノディには動揺の色が見られる。

 城之内はその表情を見るとニヤリと笑って――

「フ…。今日、しっかりここで遊んでいったヤツには分かるはずだぜ…!」

「…!?」

「海馬ランドで全てのアトラクションを体験した人だけもらえるプロモーションカード――その名は、勇者アトリビュート!」

「アトリビュート…!?」

「こいつはな…墓地の4属性モンスターを生け贄にして召喚される最上級モンスターなんだぜ!」

「そ、そういうことか……くそっ!」

「墓地のモンスターを生け贄に捧げ――勇者アトリビュートを召喚する!」

 その刹那、閃光が走る。

 思わず二人とも目を瞑ってしまう。

 その光は青、緑、茶、赤の順に色を変え、そして、消えていった。

 光に消えた後には、一人の剣士が立っていた。




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