デュエルしよ〜ぜ

製作者:千花(せんか) 白龍(はくりゅう)さん


最初は短編のギャグデュエル小説を書こうと筆を()りましたが、別物が出来上がった気がします。
それでも、この小説を最後まで読んだ時、微笑(ほほえ)んで(いただ)けたなら(さいわ)いです。




★プロローグ★

デュエル大会。それは、熱きデュエリスト達の(つど)い。週末ともなれば地域のゲームショップ主催の大会が、あちらこちらで開かれる。
一方で、童実野町内デュエル大会などの公的機関主催のものは、規模・参加者の質・賞品、そこでの勝利の意味合いが段違いだ。市民のデュエリストレベルを上げること、それが()いては社会全体への貢献となる。そう認知され、次世代のデュエリストを育てることは学校のみならず、地域や社会ぐるみで取り組むべき課題となり始めていた。

本日、開催される市主催のデュエル大会で優勝者に渡されるのは水属性のレアカード。

水魔神−スーガ
星7/水属性/水族/攻2500/守2400
どうも、すいましーん。

普段は深淵で爪を研ぎ澄ませているデュエリスト達も顔を見せ、いつも以上の異常な熱気が会場を包んでいた。

そんな中、一人の子どもが大方の予想を(くつがえ)して準決勝まで駒を進めた。その小学生の名はヨーゼフこと、決斗牛・damirme・洋是(けっとうし・ダミルメ・ようぜふ)
最高学年の六年生とはいえ、まだまだ幼さの残る顔立ちの子どもが、水属性主体の奇抜なデッキを引っ()げて、見事なデュエルタクティクスを披露し、大人達を次々と撃破していく(さま)は会場を(おお)いに沸かせた。

しかし、準決勝には優勝候補と(もく)される二人の内の一人、【青眼(ブルーアイズ)】使いのリュウこと、雷刃 竜(らいば りゅう)が待ち構えていた・・・。



★準々決勝 終了後★
デュエル大会の選手控室にて

「ふうん。貴様がヨーゼフか・・・。」

相手の実力を測るかのように、鋭い眼光を向ける男がヨーゼフの前に立ちはだかった。
控室内に緊張が走る。彼こそが今大会の優勝候補。まだ高校生ではあるが、既に大人と見間違うほどのガッシリした体付きと高身長。それだけで威圧感があるにも関わらず、彼の性格が非常に好戦的なのが迫力に拍車を()けていた。

「あ、アンタは・・・!竜の(ひげ)のように長いモミアゲ!竜の(つの)のように鋭く天に伸びる二本の前髪!竜の(たてがみ)のように伸びる後ろ髪!カッケー!!」

彼を見たヨーゼフは、超合金ロボットを見た男子のように目を輝かせた。

「ふうん。少しは見る目があるようだな・・・。」

「で?アンタは誰なんダミルメ?」

「っ!!」

そのヨーゼフの一言で、(ゆる)みかけていた控室の空気が一気に凍り付く。優勝候補であるリュウを知らないと言うのは、ライバルとして見ていないと発言するに等しいからだ。

「リュウ〜、先に誤解を解いとくね〜。」

その凍り付いた空気を、ヨーゼフの隣にいたデュエリストが独特な口調で和ませた。

「ヨーゼフはぁ〜、前まで外国に住んでたからぁ〜、こっちのデュエリストのことを知らないんだよ〜。」

「ふうん・・・。ならば覚えておけ。俺はリュウDA!」

「あっ!次の対戦相手の【青眼(ブルーアイズ)】使いのリュウって、アンタのことだったのか!」

「ふうん、俺のデッキに関しては研究しているようだな。だが、そんなデッキで俺に勝つなど笑止千万!いくら紙を束ねても、誇り高き獅子に触れる事すら出来ぬという事を教えてやる!」

「?」

ヨーゼフは首を(かし)げた。リュウの難しい言い回しがイマイチ、ピンと来なかったらしい。
それを(さっ)して、隣のデュエリストがソッと耳打ちする。

「良いデュエルしようね、って言ったんだよ〜。」

「そっか!よろしくな、リュウ!」

「ふうん、馬の耳に念仏か・・・。よかろう!俺は一足先に決戦の舞台へと向かう!貴様も覚悟が出来たら来るがいい!」

ワハハハハ・・・!!そんな高笑いと共にリュウは控室を後にした。それをポカーンと見送る他の選手達。
隣のデュエリストがヨーゼフに再び耳打ちした。

「トイレとか済ませて、デュエルの時間に遅れないように気を付けてね、って言ったんだよ〜。」

「リュウって良い奴だな!」



★準決勝 第二試合★
デュエル大会の会場にて

スポットライトが照らし出す決戦の舞台。デュエルは終盤に差し掛かっていた。
この戦場を制するのは誰か。実況の声が響く中、観客達の視線がデュエルリングに注がれている。

『ヨーゼフ選手!残りライフは100ポイント!ここは、どうにか反撃に出たい所!』


◆ヨーゼフのターン◆
ヨーゼフ LP100
★手札:2枚
★モンスター:なし
★魔法&罠:なし
リュウ LP1400
★手札:0枚
★モンスター:なし
★魔法&罠:伏せカード×1
(死のデッキ破壊ウイルス 発動済)
(魔法除去細菌兵器 発動済)


「オイラはカードを2枚とも伏せてターンエン―――!」

「甘いぞ、ヨーゼフ!サイクロンDA!」

サイクロン
速攻魔法
これがエンドサイクや!

「うわあっ!」

リュウがカードを開くと同時に竜巻が発生し、ヨーゼフが伏せたカードの1枚を破壊した。

(破壊)
マーメイドの応援
装備魔法
元々の攻撃力が1500以下の水属性・水族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分のデッキの水属性モンスターの数×100アップする。

『出たあー!リュウ選手のエンドフェイズにサイクロンを発動して相手の伏せカードを破壊する技術ー!次のターンに備えようと伏せたフリーチェーンのカードを破壊するのに最適だあー!』

見事なプレイングに観客も沸き立つが、リュウ本人は至って冷静であった。

(ふうん。破壊したのは、現状では役に立たない魔法カード・・・。ブラフで伏せたのであれば問題はないが、本命を守るために敢えて伏せたのであったならば・・・。)

リュウは残った伏せカードを一瞥(いちべつ)した後、ヨーゼフの眼を見た。その瞳に宿る熱き炎は、ギラギラと燃え盛っている。

(奴の眼は死んでいない・・・。蝋燭が燃え尽きる前の最後の足掻きでないなら、奴が見ている希望の光は・・・。いや、それを考えても仕方ない。俺は、俺が構築したデッキで戦うのみDA!)

『さあ、ターンはリュウ選手へと移ります。ヨーゼフ選手のライフは(わず)かに100ポイント!このターンで決着かー!?』



「俺のターン!ドロー!」

手元に舞い込んだカードを見て、リュウは高笑いせずにはいられなかった。

「ワハハハハハハ!引いたぞ、ヨーゼフ!死者蘇生DA!」

「何ぃ!?」

死者蘇生
蘇れ。己が使命を果たすのだ。

アンク、それは古代エジプトにおいて「生命」即ち「生きること」そのものを指し示す言葉。それを(かたど)ったヒエログリフはエジプト十字とも呼ばれる。
古代エジプトにおける生死観において、アンクの力を信じる者が生き返ることが出来るのは当然のことであった。

「俺が復活させるのは当然――――

大地、踏み締め、白き龍。目覚めと共に天地を揺るがす。

――――ブルーアイズDA!!!」

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)
星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
スゴイぞー!カッコいいぞー!!

伝説のドラゴン、青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)。通常モンスターの中で最高の攻撃力を誇り、数多のモンスターを(ほうむ)ってきた名実共に『最強』の超レアカードである。どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない。

「オイラ、それを待っていたんダミルメ!」

「何ぃ!?」

「トラップ発動!激流葬!!」

その瞬間、たった1枚だけ残っていたヨーゼフのカードが開かれ、数多(あまた)の水が白き龍に向かって怒涛の(ごと)く押し寄せた。

激流葬
うわあー!全滅だー!

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)(破壊)

「リュウなら必ずブルーアイズを出して来ると思っていたんダミルメ!」

『出たあー!ここで、ヨーゼフ選手の激流葬が炸裂ー!先程、無駄に伏せていた魔法カードは、激流葬を守るための囮だったー!』

ヨーゼフの見事な切り返しに、観客からの歓声が鳴り響く。

小癪(こしゃく)な真似を!だが、俺の勝ちは揺るぎない!貴様のデッキは既に『渇いて』いるのだからな!」

ブルーアイズの復活は阻止されたが、リュウの自信に満ち(あふ)れた態度は変わらない。ヨーゼフの墓地を見ればジェノサイドキングサーモンなどの多数の上級モンスターが『干からびて』いる。
青眼(ブルーアイズ)】使いリュウの裏の顔、相手のデッキに眠るモンスターや魔法カードをウイルス感染で根こそぎ破壊する『ダブルウイルス』コンボの結果であった。

死のデッキ破壊ウイルス
攻撃力1500以上のモンスターは死ね!
魔法除去細菌兵器
魔法なんてありませんよ・・・。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。

「手札もフィールドも(から)!ライフすら風前の灯!やはり、貴様の負けは決まっているのDA!」

『さあ、ターンはヨーゼフ選手へと移ります。大逆転なるか!?それとも、ここで終わってしまうのかー!?』



絶体絶命の状況だが、ふてぶてしい笑顔を見せるヨーゼフ。

「それはどうかな?オイラは最後の最後まで諦めないんダミルメ!」

「信じればデッキは応えてくれる、とでも言いたいのか!?ふうん!くだらん、くだらん!貴様のオカルト語は聞き飽きた!デッキは信じるものではなく、構築するものDA!」

「それでもオイラは『デッキを信じる』んダミルメ!ドロー!!」

瞬間、ヨーゼフの引いたカードが(きら)めいた。 ようにリュウには見えた。

(何だ、今のは・・・。まさか、デステニー・ドロー!?・・・ふうん!くだらん、くだらん!そんな都市伝説を思い出すとは俺もヤキが回ったか!この世界に運命などというオカルトは―――――!)

「引いたぞ、リュウ!」

「何ぃ!?」

リュウが驚くのも無理はない。『ダブルウイルス』コンボによって、ヨーゼフのデッキから主力のモンスターや強力な魔法カードは軒並み墓地へ()っている。罠カードは発動に1ターン伏せる必要があるため、ここで宣言するはずがない。これがハッタリでないとしたら、ヨーゼフは如何(いか)なるカードを引いたのか。

「召喚!水の踊り子!」

「!!!??」

『こ、これはー!?』

水の踊り子
星4/水属性/水族/攻1400/守1200
ダンスは私に勇気をくれる!

「引いたというのか・・・!この絶体絶命の最終局面で・・・!!」

『み、水の踊り子だー!『ダブルウイルス』コンボで完全に機能停止したかと思われたヨーゼフ選手のデッキからモンスターが登場だー!その攻撃力1400 (ゆえ)に、死のデッキ破壊ウイルスを()(くぐ)ったー!』

「リュウ!これがカードとの絆ダミルメ!直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

水の踊り子の持つ瓶から次々とあふれでる水が、まるで踊るかのように(うごめ)き、竜に姿を変えてリュウへと向かう。その水圧の一撃はリュウの心臓を直撃した。

「があああああっ!!」

リュウ LP 1400 → 0



『決着ー!激戦を制したのはヨーゼフ選手だー!何という勝負!何という勝利!初出場の選手が、ここまでの快進撃を果たすとは誰が予想しただろうかー!しかし、実に名勝負!激闘を繰り広げた二人の決闘者に惜しみない拍手をー!!』

実況の声が響き渡る。観客達が沸き立つ。苦虫を噛み潰したかのような表情のリュウ。晴れ晴れとした笑顔のヨーゼフ。
冷め止まぬ熱狂の中、この結果を淡々と受け取る異質な者達が観客の中に紛れ込んでいた。

「ほっほっほっ・・・リュウがやられたノース。」
「水の踊り子を使いこなすなんて侮れなサウス。」
「恐るべきな小学生コドモが現れたみたイース。」
「いずれ戦う日が来るかと思うと楽しみウェス。」

小休止の後は、いよいよ決勝戦。だが、未来は誰もが予想だにしなかった方向へと走り出した。



突然、何かが砕け散る音がデュエル会場全体に響き渡る。なんと、大会参加者ではない男がバイクに乗って窓ガラスを突き破り、会場内へと乱入してきたのだ。

「勝者よ!その命、もらったー!」

「!!!??」

激戦を制し、気力と体力を激しく消耗していたヨーゼフ。そのあまりの出来事に一瞬、思考が停止した。
「避けなければ・・・!」と思った時には、もう遅い。バイクは目の前まで迫っていた。

あわや!バイクが激突する瞬間、ヨーゼフの前に立ちはだかっていたのはリュウだった。

「何ぃ!?」

「があああああっ!!」

「リュウー!!!」

ヨーゼフの代わりにバイクのダイレクトアタックを受けて倒れ込むリュウ。だが、バイクも無事では済まない。転倒、回転、火を噴きながら観客席に突っ込んだ。
乱入者は宙に放り出され、デュエルリングの中央に半ば叩き付けられる形となった。が、衝撃音と共に立ち上がった。後ろ受け身(ノーダメージ)である。
しかし、警備員達は既に配置に付いていた。乱入者は完全に包囲されている。

「狼藉者!御用だ!御用だ!」
「お前はここで乾いてゆけ!」
「カードと共にオシオキよ!」
「デュエルで奴を拘束せよ!」

警備員達はデッキを片手に突撃を開始した。

ここで「普通に取り押さえるのでは駄目なのか?」と疑問を持った読者のために補足しておく。
無論、これだけの屈強な警備員がいるのだ。相手が『単にバイクで突撃してきただけの人間』であれば、容易く取り押さえることが出来ただろう。しかし、選手でないのにも関わらず、この場に辿り着いている時点で相手は普通の人間ではない。

そう、闇のデュエリストだ。

「大嵐を発動する!」

大嵐
通常魔法(禁止カード)
吹き荒ぶ〜♪真夜中〜♪

「「「「うわあああああああ!!!」」」」

この時に起こった現象を他の者に話しても、この場に居なかった者には理解されまい。乱入してきた男がカードを掲げた瞬間、強烈な旋風が巻き起こり、屈強な警備員達が木の葉のように吹き飛ばされたなどと言われても一般の者達は作り話と一蹴してしまうだろう。

この世には我々の想像や人知を超えて、(ひそ)やかに(ひそ)み来る闇が()る。千年アイテム、龍札(ドラゴン・カード)、オレイカルコス・・・。それらはオカルトと呼ばれ、多くの場合は単なる(うわさ)・偽物・創作話と思われているが、その中に『本物』が存在すると認識している者は少ない・・・。

降りかかる火の粉を払った闇のデュエリストは、叫び逃げ惑う観客には一切の興味を示さず、仕留め損なった獲物のみを見つめていた。処刑の再開である。
目線の先は、血を吐き倒れる者を腕に抱き、涙ぐみながら叫ぶ小学生。

「リュウ!どうしてオイラを(かば)ったりしたんダミルメ・・・!」

「か、勘違いするな・・・。春風に誘われてボサッと突っ立ってただけDA・・・。」

「ばっ、バッキャロー・・・!」

その痛々しい姿を見て、ヨーゼフは思わず涙を(こぼ)す。
その様子を見ていた闇のデュエリストは苦々しく言葉を吐いた。

「チッ!負け犬が余計な真似を・・・。」

それはヨーゼフの心に火を付けるのに十分すぎる言葉だった。

「負け犬・・・?取り消せよ!今の言葉ぁ!!」

激昂し、叫ぶヨーゼフ。
しかし、闇のデュエリストは、せせら笑う。

「デュエルに負けた奴を、負け犬・弱虫・敗北者と呼んで何が悪い。敗者は地面に伏しているのが仕事だというのに、わざわざ身代わりになるとは・・・。まあ、よかろう。身を(てい)して守った敗北者の根性に(めん)じて、お前を『デュエリストとして』始末してやろう。即ち、デュエルによる死を与えてやる。さあ、デュエルの時間だ!」

デッキをデュエルリングにセットする闇のデュエリスト。決闘の火蓋が切って落とされようとしていた。
だが、ヨーゼフの口から出た言葉は闇のデュエリストを驚愕させた。

「受けねえよ。」

「何ぃ!?」

「デュエルは決闘者(デュエリスト)とするもんダミルメ!テメエは決闘者(デュエリスト)じゃねえ!」

ヨーゼフはリュウを連れて医務室に向かおうとする。
が、眼前に広がる光景に愕然(がくぜん)とした。

「大嵐が、消えてない!?」

ゴオウ、ゴオウと吹き荒ぶ風が真夜中の闇を呼び込み、1メートル先の外の様子すら分からない。それは明らかな超常現象であった。

「馬鹿め・・・。闇のデュエルからは誰も逃げられない!」

「っ!!」

ここから脱出するために、しなければならないことはただ一つ。闇のデュエリストとの決闘、(すなわ)ち闇のデュエルである。

「バイクのダイレクトアタックを受けた負け犬の命は、あと()ターンだ!」

(オイラは闇のデュエルが何なのかなんて分かんねえ・・・。けど、許しちゃいけねえ奴だけは、分かってるつもりダミルメ・・・!!)

ヨーゼフの瞳の炎が全てを焼き尽くさんと激しく燃え上がる。

「つまり、テメエを速攻でブッ倒しゃあ、問題ねえって訳ダミルメ!!」

「れ、冷静になれ、ヨーゼフ・・・。」

「リュウ!」

満身創痍ではあっても辛うじて意識を保っていたリュウが(ささや)くように言葉を(つむ)ぐ。普段なら(やかま)しいぐらいの笑い声を(はっ)しているのに、今や声を振り絞っても、この程度の大きさである。そのことがリュウの残り体力の少なさを物語っていた。
それでもリュウはヨーゼフに言葉を届けようと気力を振り絞ったのだ。

「貴様のデッキは短期決戦向きのデッキではない・・・。奴は、それを知っていて貴様に揺さぶりを掛けているのだ・・・。盤外戦術に惑わされるな・・・!がはっ・・・!」

「リュ、リュウー!」

血を吐き、その場に(うずくま)るリュウ。デュエルに勝利せねば大嵐が消えない以上、勝負を長引かせることはリュウの死と同義であった。

「ははは!既にデュエルは始まっているぞ!モンスターをセットし、墓守の使い魔を発動してターンエンド!」

墓守の使い魔
永続魔法
攻撃する度、デッキが減るわね。

「そうら、地獄からの(うた)が聞こえてきたろう?そいつの命は残り3ターンだ!」

「待ってろ、リュウ!すぐに医者の所に連れてくからな!」

リュウに背を向け、闇のデュエリストと対峙するヨーゼフ。その背中からは怒気が立ち昇っていた。


ターン:闇のデュエリスト → ヨーゼフ


「オイラはウォーターワールドとプリンセス人魚でコンボ!」

魔法カードから広がるは一面の大海。多量の海水は全ての水属性モンスターの力を高めてくれる。

ウォーターワールド
フィールド魔法
海イルカ!
プリンセス人魚
星4/水属性/魚族/攻1500→2000/守 800
お姫様なんですけど!!王子様と結婚するんですけど!

その大海原を斬り裂いて、癒しを得意とする人魚の姫が飛び出した。

「何ぃ!?(しょ)(ぱな)から攻撃力2000のモンスターだとぉ!?」

「バトル!伏せモンスターに攻撃ダミルメ!」

一刻も早く勝利しなければ。その想いから、ヨーゼフは即座にバトルフェイズへと突入した。

「ま、待て・・・!攻撃が単調すぎる・・・!」

地に伏したリュウの制止も、今のヨーゼフには届かない。

()かったな。人喰い虫の効果発動!」

「何ぃ!?」

人喰い虫
リバース・効果モンスター
星2/地属性/昆虫族/攻 450/守 600
食べちゃうぞ。食べちゃうぞ。食べちゃうぞ。

人魚の強靭(きょうじん)な尾びれの一撃が、伏せモンスターを破壊する。しかし、爆散した虫の首がプリンセスの腹を喰い破った。

プリンセス人魚『きゃあああ!!』(破壊)

「しまっ・・・!」

伏せモンスターに攻撃することは、デュエリストにとって地雷原に突っ込むことに他ならない。時には引くことも勇気だが、()えて突っ込むのと無闇に突っ込むのは意味が違う。

(ぐうっ・・・!?)

そして、ヨーゼフの腹に謎の鈍痛が響く。まるで得体の知れない虫に腹の中を掻き毟られているかのような嫌悪感を伴う痛みだった。
それが何なのかと考える前に、闇のデュエリストの声が響いた。

「そして墓守の使い魔の効果も発動!お前のデッキは削られる!」

鎌を持った小さな悪魔がカードから顔を出し、ヨーゼフのデッキトップを刈り取った。永続魔法の嫌らしさを体現したかのような効果が確実にヨーゼフを(むしば)み始める。

(墓地へ)
ポセイドンの力
装備魔法
私の攻撃力は300です。

「ポ、ポセイドンの力が・・・!」

瞬間、ヨーゼフは指の一部が削ぎ落されるかのような感覚に陥った。極度の緊張状態が錯覚を生み出しているのだろうか。ヨーゼフは頬を叩いて自身に喝を入れた。

墓地にカードが落ちること自体はデュエリストにとって日常茶飯事だ。だが、デッキを削られるとなると話は違う。デッキから戦うための(カード)を引けなくなった時、そのデュエリストの敗北が決定するからだ。
また、キーカードが墓地に落ちれば、それがデュエリストに与える衝撃は大きい。攻撃しなければ勝てないのに、攻撃する度にデッキが削られる。
一方で、激流葬などの逆転のカードを待っていてはリュウの命は助からない。闇のデュエリストは、デッキ破壊とリュウの命の両側面からヨーゼフにプレッシャーを与えてきているのだ。


ターン:ヨーゼフ → 闇のデュエリスト


「カードとモンスターをセット!(ひざまず)け!命乞いをしろ!そいつの命は、あと2ターンだ!」

ヨーゼフがサレンダーし、命乞いをすればリュウは助かるのだろうか。
無論、有り得ない。闇のデュエリストが攻撃を仕掛けて来なかったのは、守りに入ることで時間を稼いでいるのだ。リュウを手遅れにすることで、ヨーゼフの更なる動揺を誘うために。
確かに、スポーツや戦闘において『時間を稼ぐ』という行為は技術として存在する。勝利のために最善を尽くすのは当然で、時間を稼ぐ戦術に非難される(いわ)れはない。しかし、それはあくまでルールとマナーの範囲内での話。
闇のデュエリストにリュウを助ける気がないのも、ヨーゼフを殺そうとしているのも確実だ。ヨーゼフが膝を折ってしまえば、行き着く未来は二人の死。


ターン:闇のデュエリスト → ヨーゼフ


(ゆえ)に、闇のデュエリストの行動、吐く言葉、全てがヨーゼフを激昂させる燃料となる。 そして、それこそが闇のデュエリストの真の狙いであることに気付くには、ヨーゼフは(おさ)な過ぎた。

「黙れえ!ウォーターワールドは、まだ健在!姫の意志を引き継いで、水の精霊がお()ましダミルメ!こいつもコンボするんダミルメ!」

次に大海原から飛び出したのは水色の衣を身に(まと)う、青き髪の少女。

水の精霊 アクエリア
特殊召喚・効果モンスター
星4/水属性/水族/攻1600→2100/守1200
貴方は何座?ワタシは水瓶座よ。

水の力を存分に受け、その攻撃力は人魚の姫を上回る。

「またしても攻撃力2000以上のモンスターだと!?こいつのデュエリストセンスは・・・!」

「攻撃ダミルメ!!」

「だが、青いな。トラップ発動!」

「何ぃ!?」

あまのじゃくの呪い
べ、別にアンタのこと好きなんかじゃないんだからね!

カードから飛び出した赤き衣を纏うシャーマンが手をウネウネと動かしながら、頭を激しくシェイクする奇怪な仕草で呪術を放った。それは本来なら力を与えてくれるはずの水を逆に足枷にする魔術。

水の精霊 アクエリア 攻撃力 2100 → 1100

「パワーが・・・反転、して・・・!」

「そして、攻撃は止まらない!」

「しまっ・・・!」

力が弱くなっても水の精霊の放った水球は、闇のデュエリストの伏せモンスターに命中した。その瞬間、伏せられていたモンスターが満を持して、その姿を現す。それは巨人と呼ぶに相応(ふさわ)しいモンスターだった。

岩石の巨兵
星3/地属性/岩石族/攻1300/守2000
ディフェンス、ディフェーンス。

その巨体は岩石で出来ていて、その姿は壁というよりも山と表現するべきなのかもしれない。
巨人は体に力を込め、直撃した水の攻撃をヨーゼフへと跳ね返した。

ヨーゼフ LP 2000 → 1100

「うぐうっ!!」

ライフが減ると同時にヨーゼフの頭に痛みが走った。ヨーゼフが受けた痛み、それは拳骨の痛み。頭に硬い一撃をもらった時の感覚。間違いなく本物の激痛であった。

「ぐぐ・・・!」

ヨーゼフは闇のデュエルの意味を理解した。このデュエルでのライフの増減には痛覚を(ともな)う。
また、先ほどは激昂し無理に無視していたが、モンスターが破壊された時、デッキが削られた時、体に異変があった。それが具体的に、どんな悪影響を与えているのかは分からなかったが、良くない現象であることは予想できた。

「ははは!これぞ、『呪いの高守備力モンスター』コンボ!貴様は無様(ぶざま)にもオレ様の術中に(はま)ったのだ!」

「く、くそっ・・・!」

「そして、墓守の使い魔を忘れるな?更にデッキが消えるぞ!」

再び、鎌を引っ()げた小さな悪魔がデュエリストの命の源泉ともいえるデッキを削っていく。ヨーゼフには、それが自身の肉を削ぎ落とす音に聞こえた。

(墓地へ)
ジェノサイドキングサーモン
星5/水属性/魚族/攻2400/守1000
命を賭けて食べに来い。

「ぐぬぬ・・・!」

(そうだ、もっと怒れ!惑え!我を見失え!お前は自分自身の怒りによって焼き尽くされるのだ!)


ターン:ヨーゼフ → 闇のデュエリスト


ドローしたカードを見て、闇のデュエリストは準備が整ったと言わんばかりの笑みを浮かべた。

「岩石の巨兵を生贄に、デーモンの召喚を召喚する!!」

巨大な角と羽根に立派な体躯(たいく)。悪魔の中でも上級魔族と恐れられるモンスターが、岩の巨人を砕いて魔法陣から飛び出した。

デーモンの召喚
星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200
だが俺はレアだぜ。

「何ぃ!?激レアモンスターのデーモンの召喚を召喚するだなんて・・・!」

「海水は電気を良く通す!魔降雷!」

デーモンの召喚の白き角から雷鳴が鳴り響き、大海に潜むヨーゼフのモンスターを貫く。

水の精霊 アクエリア『きゃあああああ!!』(破壊)

「がああああああ!!」

痺れと痛みの同時攻撃という、今まで味わったことのない衝撃がヨーゼフに襲い掛かる。脳髄(のうずい)から足先に向かって激痛が流れる。同時に両腕がビリビリと痺れ、カードを掴んでいる感覚が(かす)む。

ヨーゼフ LP 1100 → 700

「そして、お前に相応(ふさわ)しいカードを使ってやろう!汚物は消毒だ〜!!」

火あぶりの刑
A CHI CHI A CHI 燃えてるんだろうか

「ぐあああああああ!!」

突然の炎。焼ける。乾く。熱さが痛みとなって内臓まで貫く。体内の水分が一気に枯渇する。意識の根底が蜃気楼のように揺らいだと思ったら、激しい眩暈(めまい)と吐き気で現実に引き戻される。その次の瞬間には、足元が消えたかと錯覚するぐらいの意識の混濁(こんだく)に襲われた。

ヨーゼフ LP 700 → 100

「ははは!燃えろ燃えろ!気力も魂も燃え尽きてしまえー!」

生きながら焼かれる痛みを味わった者が、どれぐらい居るだろうか。そして、その苦しみを説明できる者がどれぐらい居るだろうか。その痛みは人間を気絶させ、死に至らしめても何ら不思議ではない。(たと)え、ライフが残っていても死んでしまえば、そのデュエルでの敗北と同義である。

「はあ・・・はあ・・・!」

だが、負ければリュウの命も失うという事実がヨーゼフをギリギリの所で踏み止まらせた。

「ふんっ、耐えたか・・・。しかーし、最早、風前の灯だな。負け犬よりも先に、お前がくたばるか?だが、安心しろ。オレ様は優しい。二人共、すぐに再会させてやる。もちろん、あの世でなぁ!カードを伏せてターンエンドぉ!」

「くっ!くそーっ!!」

持ち(こた)えはしたが、満身創痍。声を出すことで(かろ)うじて自我を保つ。しかし、それも焼け石に水。いつ、このまま倒れてしまっても不思議ではない(ほど)に体力も精神力も削られていた。

(苦しい・・・!喉が痛い・・・!目の前が白く濁ってる・・・!足がふらつく・・・!手の感覚が無くて、カードを持ってるのかも分からない・・・! )

闇のゲームはプレイヤーの精神力を試すゲームと言ってもよい。ゲームの進行がプレイヤーに痛みを与える性質は、身体と精神が密接な関係にある以上、心身共に激しく損耗(そんもう)するのと同義だ。過酷な環境下で、自身が傷付き、希望が見えない、そんな中で心を強く保ち続けることが出来る者は少ない。心が折れてしまえば敗北を待たずして闇に呑まれる。

(もう駄目、なのか・・・!?ごめん、リュウ・・・!)

今、闇はヨーゼフのすぐ後ろまで迫っていた。





























































「ヨーゼフ!冷静になれ!!」



その刹那(せつな)、瀕死のリュウが起き上がり、ヨーゼフの胸倉を(つか)んで頭突きをかました。

「!!!??」

「俺を()めるな!バイク(ごと)きで死ぬものか!俺を殺したければカードで殺せ!」

「リュ、リュウ・・・!」

「俺は死なん!敵の言葉はマヤカシに過ぎん!だから、貴様は貴様のデュエルを貫け!!俺に勝ったデュエリストが無様(ぶざま)なデュエルを(さら)すな!!!」

「!!!」

ハッとしたヨーゼフの顔を見て、リュウは安心したかのように、ゆっくりと崩れた。


ターン:闇のデュエリスト → ヨーゼフ


「ありがとう、リュウ・・・。リュウの言葉が頭でなく心で理解できた!!」

その表情は晴れ晴れとしたものだった。あれだけあった痛みも苦しみも、既に無かった。
この(わず)かな時の間に、ヨーゼフはリュウとのデュエリスト同士の魂の交差にて、その精神がより高い次元へと昇華したのだった。

「ははは、雑魚は雑魚同士で(はげ)まし合いか。最後の言葉を交わした感想はどうだ?お前はここで『デュエル死』するのだがな!」

その出来事を(さっ)することの出来ない闇のデュエリストは(あい)も変わらず挑発を続ける。しかし、ヨーゼフの心は既に明鏡止水。

「最後じゃねえ・・・。」

「あん・・・?」

「オイラ達の闘いのロードは地平線の果てまで続いているんダミルメ!こんな所で途切れちゃいねえ!それを今から証明してやる!オイラの――――

ヨーゼフは力強くデッキに手を掛けた。

――――ドロー!!!」

瞬間、ヨーゼフは鼓動を感じた。デッキの、カードの、魂の鼓動を。

「・・・来た!やっぱり、このデッキは最高ダミルメ!最高のタイミングで最高のカードが来てくれる!召喚―――――

「ははは!予告しよう!お前が召喚するのは水属性のレアモンスター、ジェノサイドキングサーモン!」

ジェノサイドキングサーモン
星5/水属性/魚族/攻2400/守1000
命を賭けて食べに来い。

「この修羅場・土壇場・正念場でデエィモンの召喚に勝てるのは、キングサーモンとウォーターワールドのコンボしかない!だが、オレ様が伏せていたカードは奈落の落とし穴!」

奈落の落とし穴
攻撃力1500以上は重量オーバーだよ。

―――――水の踊り子!」

「ははは!トラップはつど・・・!」

水の踊り子
星4/水属性/水族/攻1400/守1200
ダンスは私に勇気をくれる!

「何ぃ!?攻撃力1500未満(ざこモンスター)だとぉ!?」

「どうしたんダミルメ?トラップを発動するんじゃなかったのかぁ!?」

「ぬうぅ・・・。」

伏せていた罠カードの発動条件を満たしていなかった。
闇のデュエリストは瞬時にして、精神的に不利な状況に追い込まれた。
だが数秒の後、それが錯覚だと気が付く。

「・・・ははは! 何を仰々(ぎょうぎょう)しく召喚したかと思えば、ただの雑魚・・・いや、最弱のモンスターではないか!ウォーターワールドとのコンボでも攻撃力2500を超えることが出来ない!何より、デーモンの召喚を倒せても、オレ様のライフを削り切るためには攻撃力4500以上のモンスターを用意しなければならない!究極のレアモンスターであるアルティメットドラゴンと同等の攻撃力のモンスターを今から用意できるはずもない!」

青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)
星12/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3800
「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」
敗北フラグ?何の話?

「さあ、ターンエンドしろ!次のターンで痛みなど感じる暇もなく、あの世に送ってやろう!」

「テメエに次のターンは来ない・・・。」

「ははは!強がりも、そこまで行くと逆に強く見えるぞ!」

「発動―――――

ヨーゼフは1枚の魔法カードを発動した。
このカードこそ、ヨーゼフの切り札にして、皆を繋ぐ絆の1枚。

―――――マーメイドの応援!」

マーメイドの応援
装備魔法
元々の攻撃力が1500以下の水属性・水族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分のデッキの水属性モンスターの数×100アップする。

「何だ・・・それは・・・。」

瞬間、闇のデュエリストは『気付いて』しまった。

「何だ・・・!それは・・・!!」

(気にしていなかった、と言えば嘘になる。だが、所詮は小学生だと思って、その事実は捨て置いていた・・・!)

シンクロ召喚が登場する以前の遊戯王カードゲームでは、デッキ枚数に上限が存在しなかった。
40枚以上であれば何枚でも良かった。しかし、デッキ枚数が多ければキーカードを引く確率が下がるので、基本的には40枚に収めるのがデュエリストの常識であった。

(遠目から見ても分かるぐらい高く積み上げられた奴のデッキ・・・。誰だって思う、デッキ構築の段階でミスっている奴に負けるはずがないと・・・!だが、こいつは引きの強さだけで、その不利をひっくり返した・・・!)

「海は母なる(みなもと)ダミルメ!全ての命の始まりにして(かえ)るべき場所ダミルメ!オイラには皆がいる!

水属性の・・・

水属性の・・・

みんなぁーっ!!!

ウンディーネ
星3/水属性/水族/攻1100/守 700
水の中をユラユラ漂う妖精。水龍を召喚できるらしい。だが、召喚する確率が低すぎるため誰も見たことがない。火あぶりの刑を受けると海竜神(リバイアサン)に変化する。
恍惚の人魚(マーメイド)
星3/水属性/魚族/攻1200/守 900
海を航海する者を誘惑しておぼれさせる、美しい人魚。一目惚れしてしまったという話が後を絶たない。
氷水
星3/水属性/水族/攻1150/守 900
攻撃的なマーメイド。体に生えているトゲを使って攻撃する。
あまびえさん
星3/水属性/天使族/攻 0/守 0
「あまえび」じゃないわ。「あまびえ」よ。
海原の女戦士
星4/水属性/魚族/攻1300/守1400
海の神に仕えるマーメイド。神聖な領域を守っている。溺れた人を助けてくれる優しい一面も。助けられたら、お礼を言おう。
泉の妖精
星4/水属性/水族/攻1600/守1100
泉を守る妖精。泉を汚す者を容赦なく攻撃。
プリンセス人魚
星4/水属性/魚族/攻1500/守 800
お姫様なんですけど!!王子様と結婚するんですけど!
ウォーター・ガール
星4/水属性/水族/攻1250/守1000
水を氷の矢のようにして攻撃してくるきれいなお姉さん。攻撃名は「ウォーター・トルネード」。
マーメイド・ナイト
星4/水属性/水族/攻1500/守 700
2本ある意味、わかってる?
水の踊り子
星4/水属性/水族/攻1400/守1200
ダンスは私に勇気をくれる!
水の精霊 アクエリア
特殊召喚・効果モンスター
星4/水属性/水族/攻1600/守1200
貴方は何座?ワタシは水瓶座よ。
水の魔導師
星4/水属性/水族/攻1400/守1000
水で相手の周りを囲んで、包むように攻撃をする。
弓を引くマーメイド
星4/水属性/水族/攻1400/守1500
普段は貝殻の中に身を隠し、近づく者に矢を放つマーメイド。
海神の巫女
星4/水属性/水族/攻 700/守2000
荒ぶる海の神に仕える巫女。海の意思を人々に伝え、海を汚す者を罰するという。
グリズリーマザー
星4/水属性/獣戦士族/攻1400/守1000
かぎづめで相手の喉元を攻撃する。命は5秒も持たない。
レインボー・マリン・マーメイド
星5/水属性/魚族/攻1550/守1700
空に大きな虹の橋がかかると現れる、デュエル中に現れる事が珍しいマーメイド。
ジェノサイドキングサーモン
星5/水属性/魚族/攻2400/守1000
命を賭けて食べに来い。
氷帝メビウス
星6/水属性/水族/攻2400/守1000
俺様の美技に酔いな!


水の踊り子
攻撃力 1400 → 9999

「こ、攻撃力の表示が限界を超えただとぉ!?馬鹿馬鹿、馬鹿な!馬鹿馬鹿なっ!!」

「歯を食い縛れよ・・・!オイラの最弱は、ちっとばっか響くぞ!」

デッキ内の水属性モンスター達の力を受けて、水の踊り子は際限なく大きくなる。その姿は母なる海の擬人化を彷彿(ほうふつ)とさせ、見る者すべてに畏敬(いけい)の念を抱かせる。
その巨体から放たれる水の拳の一撃は闇のデュエリストの顔面を体ごと貫いた。

「ぐごぎゃあああああああああ!!!」

闇のデュエリスト
LP 2000 → 0





その衝撃で闇のデュエリストはデュエルリングから落ち、床に叩き付けられる。
それと同時に、会場内に吹き荒れていた大嵐が消滅した。

「リュウ!」

ヨーゼフは闇のデュエリストには目もくれず、リュウを引きずって医務室へと去っていく。
後には仰向けのままの虚ろな目をした闇のデュエリストが残るのみ。

「馬鹿な・・・。このオレ様が・・・。引きが良いだけの子どもに負け・・・。こんなことが、あってはならない・・・こんなことが・・・。」

引きが良い、運が良い。カードゲームでは良く言われる言葉だ。
だが、水の踊り子の攻撃力が10000を超えたという事実は、ヨーゼフのデッキが少なくとも86枚は残っていたことを意味する。仮にマーメイドの応援がデッキに3枚入っていたとしても、あの場面でドローできる確率は3%程度。引きが良いという言葉だけで片付けることは出来ない。
それを人はカードとの絆と呼ぶ。

(待てよ・・・。奴の口癖(くちぐぜ)のダミルメ・・・。まさかmermaid(マーメイド)に祝福されし、damirme(ダミルメ)の一族・・・!?アトランティスの民に生き残りが居たとでもいうのか・・・!)

伝説の都 アトランティス
フィールド魔法
すごいぞ!アトランティスは本当にあったんだ!

その後、大嵐で吹き飛ばされた警備員達が大勢の警察官(セキュリティ)を引き連れて戻ってきた時には、闇のデュエリストの姿は無かった。
建造物侵入・器物損壊・傷害・殺人未遂・・・様々な罪により、すぐさま闇のデュエリストは全国に指名手配されたが捕まることはなかった。



★エピローグ★
リュウとヨーゼフの病室にて

「リュウ〜、生きてっか〜?」

丸顔でオカッパの小学生。【水属性】使いとして世間に認知されたヨーゼフこと、決斗牛・damirme・洋是(けっとうし・ダミルメ・ようぜふ)がベッドで横になったまま隣に声を掛ける。

「ふん、当然DA。バイク(ごと)きで俺が死ぬものか。」

ドラゴンを彷彿とさせる髪型の高校生。【青眼(ブルーアイズ)】使いのリュウこと、雷刃 竜(らいば りゅう)はベッドで仰向けのまま答えた。

(あの時と(おんな)じこと言ってら・・・。)

一人はバイクの直撃を受けて緊急入院。もう一人は極度の疲労困憊で絶対安静。ベッドから体を起こすのも一苦労な状態。

「・・・リュウ、ごめんな。オイラをバイクから(かば)ったばっかりに・・・。」

どのような理由で自分が闇のデュエリストに狙われたのかは全く見当が付かないが、結果としてリュウを巻き込んでしまったことをヨーゼフは申し訳なく感じていた。
が、その謝罪に対するリュウの返答はサッパリしたものだった。

「勘違いするな。俺が春風に誘われてボサッと突っ立ってただけDA。貴様が責任を感じる必要はない。」

これが彼なりの気遣いだと気付いたヨーゼフは、言うべき言葉が別にあることに思い至った。

「ありがとう、リュウ・・・。」

「ふん・・・。」

照れくさそうにソッポを向いたリュウを見て、ヨーゼフは小さな笑みを(こぼ)した。

「ああ、そうダミルメ・・・。元気になったら、また・・・デュエル、しよ〜、ぜ・・・。」

そう呟きながら、春の陽気に包まれてヨーゼフは安らかに寝息を立て始めるのだった。



終わり







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