デュエルフレンズ!

製作者:クローバーさん






目次

 ――プロローグ――
 episode1――出会い――
 episode2――黒羽の女王――
 episode3――踏み出す一歩――
 episode4――真剣勝負!――
 episode5――琴葉VS華恋――
 episode6――二つの翼――
 ――エピローグ――




――プロローグ――

 ピピピピピピピ………!!

 部屋にある目覚まし時計が鳴った。
 ベッドに潜り込んでいた少女は手を伸ばして、アラームをオフにする。
 そしてすぐにベッドから起き上がって、着ていたパジャマを脱ぐ。
 ベッドの傍には、用意されていた新品の服が綺麗にたたまれて置かれていた。
「えへへ♪」
 期待に胸を膨らませながら、少女は笑顔を浮かべる。
 まだぎこちない手つきで服を着て、ボタンをはめていく。
 1つ……また1つ。ボタンをはめていくごとに、少女の鼓動は高まっていた。
「〜〜♪〜〜♪♪」
 鼻歌を歌いながら、鏡の前でくるりと1回転してみる。
 ちゃんと着れている事を確認すると、すぐさま少女は大広間へと向かった。

「あら、おはよう」
「ママ! おはよう!」
 先に起きていたらしい母親へ、少女はいつもの調子で朝の挨拶をする。
 小さなテーブルの上には、すでに朝食の準備がしてあった。
「おはようございますお嬢様」
「うん♪ おはよう!」
 執事の女性が横からパンを差し出す。
 すべての朝食が並び終わったところで、その執事の女性も席に着いた。
「今日の朝食はスクランブルエッグとベーコンのソテー。コーンサラダにポテトスープ。そしてバターロールです。いつ
もより少ないかもしれませんが、下手にお腹いっぱいになってもいけないと思い、今回はご用意させていただきました」
「もう。朝からそんなかしこまらなくてもいいのにね?」
「そうだよ〜……あれ? そういえば武田(たけだ)は?」
「武田は所要でスターのところへ行っています。お昼まで帰ってこないでしょうね」
「そっか〜、残念だなぁ〜」
「仕方ありませんよお嬢様。それではいつもどおりに手を合わせて……」
 執事の女性が掛け声をかけると同時に、少女とその母親は手を合わせた。
「「「いただきます」」」
 少女は早速バターロールに手をかける。
 行儀が悪いとはわかってはいるが、踊る心を抑えることが出来ずに足をバタバタとさせてしまう。
「お嬢様。お行儀が悪いですよ?」
「あ、ごめんなさい……」
「ふふっ、今日ぐらいいいじゃないですか吉野(よしの)」
「咲音(さきね)がそう言うのなら……致し方ありませんね」
 吉野が小さくため息をついて、サラダに箸をつけた。
 スクランブルエッグを食べながら微笑む咲音は、次に娘へと視線を移した。
「今日は楽しみにしていた学校だもんね」
「うん♪」
 鳳蓮寺(ほうれんじ)琴葉(ことは)は大きく頷く。



 ――そう。今日は待ちに待った、小学校入学の日――。



 ――鳳蓮寺琴葉、7歳。小学2年生デビューである――。






 朝食を済ませて、3人は自宅の玄関に立っていた。
 これから1人で登校する琴葉を見送るためだ。
「本当に一緒に行かなくていいのですかお嬢様?」
「うん。道も覚えてるし、大丈夫だよ。ちゃんとGPS付きケータイも、防犯ブザーも持ってるし」
「しかし、不審者がいたら心配ですし……万が一、事故にでも遭ったら……」
「あらあら、吉野は心配し過ぎですよ」
 咲音は笑いながら、彼女の肩を叩く。
 青いワンピース調の制服を着た琴葉は、咲音に視線を向けた。
「ママ、行ってきます」
「うん。気を付けて行ってきてね」
「分かった♪」
 見送る咲音と吉野に手を振って、琴葉は学校に向かう道へ走り出した。




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「……ここを左に曲がって……あ、あった!」
 駆け足気味で登校していた琴葉の先に、目的の小学校が見える。
 1度、挨拶のために来たのだが、改めてこれから通う学校だと思うと、自然と胸が高まっていた。
「えーと、たしか最初はコーチョー室に行くんだよね」
 出かける前に言われた吉野の言葉を思い出し、琴葉は学校の中へと入って行った。
 










 そんな少女のあとをつけていた、2人の女性。

「なんとか無事につけたようですね」
「もう吉野ったら……大丈夫だって言ってるのに……」
 安心した表情を見せる吉野の隣で、呆れて溜息をつく咲音。
 琴葉が心配で仕方がないということで、こうしてあとをつけてきたというわけである。
「娘を尾行する母親の気持ちにもなってください」
「う、それもそうでしたね……。と、とにかく何事もなくて良かったです」
「はぁ……吉野って器用なのに、こういうときは不器用なのよね……」
 咲音は大きくため息をつきながら、器用な執事の不器用さを心配した。
 心配されているとは露知らず、吉野はどこか落ち着かないようにそわそわしている。
「さ、咲音、お嬢様がちゃんと校長室へ行けたかどうか―――」
「ですから大丈夫です。少しは私の娘を信用してください。行きましょう?」
「は、はい……」
 





 こうして、少女の出会いの物語は始まった。







episode1――出会い――

 ここは私立月城(つきしろ)小学校。
 全校生徒594人のごく普通の小学校だ。「自由で楽しく」を校風にしており、近所からの評判も高い。
 部活も充実しており、何より遊戯王の授業を採用している学校でもある。

 そんな見た目も中身も普通の私立学校が、物語の舞台。




 なんとか校長室の前に着いた琴葉は、大きく深呼吸して校長室のドアを叩いた。
 コンコンという心地いい音がして、中から「どうぞ〜」という声が聞こえた。
「お、おじゃまします」
 少し緊張気味に中へ入る。
 茶色い壁に掛けられた歴代校長の額縁。透明なケースに入っているいくつかのトロフィー。そのどれもが見たことのな
い物ばかりで、琴葉にとってそこは異次元の空間のように感じた。
 そして、そこで待っていたのは、小太りで白髪の校長先生と見たことのない女性の2人だった。
 どちらも優しい笑みで迎えてくれたため、琴葉は少し安心した。
「え、えっと、鳳蓮寺琴葉です。これからよろしくお願いします!」
 家で練習してきたとおりの挨拶をする。
 校長先生と女性は、彼女の丁寧な挨拶に若干驚きつつ「こちらこそ」と返事をした。
「さて鳳蓮寺さん。こちらはあなたの担任の先生ですよ」
 そう言って紹介され、校長の隣にいた女性は一歩前に出てしゃがみ、琴葉と視線を同じにした。
 さらさらとした綺麗なセミロングの黒髪に眼鏡をかけている。少し子供っぽい顔をしている点で、スターのリーダーで
ある薫(かおる)と似た雰囲気がある。
「はじめまして」
「は、はじめまして……」
 まだ緊張が解けていない様子の琴葉を見ながら、その女性は優しく微笑む。
 戸惑う少女の手を取り、口を開く。
「栗山(くりやま)梓(あずさ)って言います。よろしくね鳳蓮寺さん」
「う、うん。お願いします」
「ふふ。やっぱり緊張してるのかな?」
「ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ? 誰だって最初は緊張しちゃうんだから」
「そうなの?」
「もちろん。先生だって、この学校に来たばっかりの時はすごく緊張したんだから」
 梓は優しく、丁寧に語りかける。
 握った手の感触から、だんだんと少女の緊張が解けていくのを感じた。
「先生なのに、緊張したの?」
「うん。だから気にすることなんてないよ? それに、クラスのみんなは鳳蓮寺さんが来るのを楽しみに待っているん
だから……ね?」
「ホント?」
「うん」
 大きく頷く梓を、琴葉はじっと見つめる。
 ウソをついているような感覚は無い。先生が言っていることは本当だということが分かり、自然と表情が綻んだ。
「えへへ、友達、たくさん出来るかな?」
「大丈夫。きっと出来るよ」
「うん!」
 少女に笑顔が戻ったことを確認して、梓は立ち上がる。
 校長に一礼して、手をつないだままの少女とともに校長室をあとにした。




「これからクラスに行って、みんなに自己紹介をしてもらうんだけど、できる?」
「うん! ママや吉野や武田と一緒に練習したもん」
「そっか。じゃあみんな待ってるだろうし、急いで行かないとね」
 少し駆け足気味に、梓は琴葉を連れて教室に向かう。
 教室という未知の世界へと近づくたびに、琴葉の鼓動はどんどん高鳴る。
 自己紹介に失敗しないだろうか。みんなと仲良くなれるだろうか。どんな友達ができるのだろうか。
 不安と期待が入り混じって、自分でも気持ちの整理がつかなくなりそうになる。
「ふふ、深呼吸だよ鳳蓮寺さん」
「先生……?」
「落ち着かないときは、胸に手を当ててゆっくり深呼吸するの。そうすると、すごく楽になるよ」
「ホント?」
 言われた通りに、胸に手を当てて大きく深呼吸する。
 ドクンドクンと高鳴る胸の鼓動が感じ取れた。だが深呼吸を繰り返すうちに、その音がだんだん小さくなっていった。
「あ……本当だ」
「でしょ? 先生もこうやって緊張をほぐすの」
「へぇ、先生ってすごいんだね!」
「ありがとう。じゃあちょうど教室にも着いたし、行くよ?」
「うん!」
 梓が教室のドアを開けて、その後ろに琴葉は続く。
 中には同い年の男子と女子がたくさんいて、大きな拍手で出迎えてくれた。
「はいはーい。拍手はそれくらいにして、みんなに新しいお友達を紹介しまーす」
「なんだよ〜。あずにゃんが盛大に迎えてくれって言ったんじゃんか〜」
「こら! 私のことは梓先生って呼んでください」
「え〜、あずにゃんの方が呼びやすいよぉ〜」
 教室中が笑いに包まれる。
 その雰囲気につられて、琴葉の緊張もほとんど無くなっていた。
「それじゃあ、自己紹介の方、してもらっていいかな?」
「は、はい!」
 教壇の前に立ち、琴葉は辺りを見渡す。
 クラス中の視線が集まり、これから発する言葉に耳を傾けているのがよく分かった。
(大丈夫……大丈夫……)
 心の中で何度も唱える。
 少し落ち着いたことを確認して、琴葉は意を決して自己紹介を始めた。
「は、はじめまして! 鳳蓮寺琴葉って言います。あの、みんなとお友達になりたいです! よろしくお願いします!」
 途端にあたりから歓声が沸く。
 再び大きな拍手で教室が埋め尽くされ、鳴りやむのに少し時間がかかった。




「さて、じゃあ鳳蓮寺さんはあそこの空いてる席に座ってくれる?」
「はい」
 示された席を確認して、すぐにその席へ移動した。
 初めて座る学校の椅子。はじめて触る学校用の机。せっかくおさまりかけていた鼓動がまた高鳴りそうだった。
「はじめまして」
 右隣にいる女子から声をかけられる。
「は、はじめまして」
「くすっ、なんや緊張してるんか? そんな緊張せんでもええのに」
 関西弁の少女はそう言って笑う。
 茶髪のポニーテールに、黒い縁の眼鏡をかけている。
「あぁごめんな。うちの名前やろ? うちは西園寺(さいおんじ)ヒカルってゆうんよ。以後よろしゅうな」
「わたし、鳳蓮寺琴葉って言います。えと、よろしくお願いします」
「なはは、せやからそない緊張せんでもええよぉ。うちのことも親しげにヒカルって呼んでもろうて構わへんし、敬語な
んてもってのほかや。分からんことあったら何でも聞いてな? うち、これでも学級委員やってるんよ」
「……ガッキューイインってなぁに?」
「なんや、学級委員知らんの? 学級委員は……その、つまり、クラスのリーダーみたいなもんや」
「へぇ〜。じゃあヒカルちゃんって、すごいんだね!」
「いややなぁ。そない褒めてもらうと照れてまうわぁ」
 いつの間にか自然と打ち解けあっている琴葉とヒカル。
 その様子を見て、梓も一安心した。
「じゃあ早速、お勉強を始めるよ〜」
「あずにゃんセンセーイ、遊戯王がしたいで〜す」
「はいはい。もちろん、今日は鳳蓮寺さんも新しく来てくれたことだし、楽しい遊戯王の授業をしましょう」
「「「「「やった〜〜!!」」」」」
 クラス中が声をそろえて喜ぶ。
 元気な子供たちの姿を見ながら梓は手を叩き、静かにすることを促した。
「はいはーい、今日はコンボの授業とかは無しにして、お友達とたくさん決闘してもらいます」
「本当!?」
「もちろん、梓先生は嘘をつきませんよ」
「やったぜ! さっすがあずにゃん先生!!」
「も〜、その呼び方は禁止です」
 恥ずかしそうに頬を赤らめる梓。
 隣で笑うヒカルにつられて、琴葉も笑ってしまった。
「じゃあみんな、好きなお友達とペアを―――」

「先生、私、鳳蓮寺さんの決闘が見たいです!」

「俺も!」
「私も!」
「ぼ、僕も!!」
 誰かが発した言葉に、クラスのみんなが賛同する。
 辺りから視線が集中して、琴葉は戸惑ってしまう。
「え、あの……えっと……」
「なんや琴葉ちゃん。遊戯王できへんの?」
 戸惑う彼女に、ヒカルはそっと尋ねる。
「ううん。でも、わたし、そんなに強くないよ? いつも吉野や武田に負けてばっかりだし」
「なはは、そないこと気にせんでもええんよ。ゲームは楽しんだもん勝ちや。みんなも期待してはるし、遠慮せず思いっ
きりやってくればええ」
「そうなの?」
「もちろんや。うちが保証したる」
 ヒカルに背中を押されて、琴葉は勢いよく立ち上がる。
 バッグから持参したデッキと辞書型のデュエルディスクを取り出して、先生へ向かって言った。
「先生、わたし、やります!」
「そう? うーん、みんな見たいって言ってるし、本人もやる気みたいだし、やってもらおうかな?」
「うん!」
「じゃあ対戦相手だけど、はじめてだし先生が―――」

ちょっと待ったぁぁぁぁ!!

 教室の端から男子の大声が響いた。
「なんやまたか」
 隣でため息交じりに呟く声が聞こえた。
 視線の先には、机の上に仁王立ちする生意気そうな男子の姿があった。
「そいつの相手は俺様がしてやっぜ!! このクラス最強の決闘者、影山(かげやま)玲雄(れお)がな!!」
「こら影山君!! 机の上に立っちゃダメって何回言ったら分かるの!?」
「うっ、ご、ごめんなさい……」
 影山は机から降りて、改めて仁王立ちのポーズをとった。
「転校生には、きちんと俺様がレーギってやつを教えてやる!!」
「まったく影山君、またドラマの台詞?」
「ち、ちげぇやい! ミラクル戦士カイバーマンの台詞だ!! と、とにかく、そいつは俺様が相手してやんよ!!」
「……そう言ってるけど、鳳蓮寺さんはどう?」
「いいよ。レーギってものを教えてほしいもん」
「あはは……じゃ、じゃあお願いしようかな。みんな、机を脇に寄せてもらえる?」
「「「「はーい」」」」
 クラス全員が机と椅子を持って脇に移動し、中央に決闘するにちょうどいいスペースができる。
 琴葉と影山は互いに向かい合って、握手をした。
「へっ! 俺様の実力見て、ビビんなよ?」
「うん! よろしくね、影山君♪」
 二人は一定の距離をおいて、デュエルディスクを展開する。
 デッキを指定の位置に差し込み、自動シャッフルがされて準備が完了する。


 そして―――




「「決闘!!」」




 琴葉:8000LP   影山:8000LP



 ―――決闘が、はじまった。



 琴葉の腕に付けたデュエルディスクの赤いランプが点灯する。
 先攻は彼女からだ。
「わたしのターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 手札をじっくりと見つめて、その中から2枚のカードを抜きだす。
「モンスターを裏守備にセットして、カードを1枚伏せてターンエンド!」
「へっ! やっぱ全然たいしたことないぜ!! そんな薄っぺらな守備で、俺様に勝てると思うなよ!!」
 琴葉が静かにターンを終えたことで、影山の驕りに拍車がかかる。


 そして、ターンは影山に移った。


「よっしゃ! 俺様のターン!! スーパードロー!!」(手札5→6枚)
 6枚になった手札を見つめ、影山は大きく笑った。
 琴葉は首を傾げ、周りにいる児童は呆れたようにため息をついた。
「いくぜ! 俺様は手札から"切り込み隊長"を召喚!! その効果で手札からもう1体"切り込み隊長"を特殊召喚させ
てもらう!!」


 切り込み隊長 地属性/星3/攻1200/守400
 【戦士族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手は表側表示で存在する他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。


「へへ! 隊長が2体並んだことで、お前は俺のモンスターに攻撃できなくなったぜ!」
「うん」
「な、なんだよ。あんまり驚いてねぇな……」
 たいして動揺した様子もない琴葉に、逆に影山が動揺する。
「そ、それならこれでどうだ!!」
 そう言って影山は手札からカードを叩き付けた。


 団結の力
 【装備魔法】
 自分のコントロールする表側表示モンスター1体につき、
 装備モンスターの攻撃力と守備力は800ポイントアップする。


 切り込み隊長:攻撃力1200→2800

「どうだ!! レベル4で攻撃力2800とか最強だろ!?」
「そうかなぁ?」
「うっ、ば、バトルだ!! 攻撃力の上がった"切り込み隊長"で裏側モンスターを攻撃!!」
 力を大きく増加した戦士が剣を構え、琴葉の場にいる姿の見えないモンスターへと斬りかかる。
 教室中にいる全員が、琴葉の場に注目する。
 攻撃によって、表側表示になったカードの正体は―――







 ライトロード・ハンター ライコウ 光属性/星2/攻200/守100
 【獣族・効果】
 リバース:フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する事ができる。
 自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。


「ら、ららら、ライトロードぉぉぉ!?」
「すごい! 鳳蓮寺さんのデッキってライトロードなんだ!!」
「いいなぁ、うらやましいなぁ!!」
 なぜか辺りから歓声が沸いたことに疑問を持ちながら、琴葉は決闘に集中した。
「リバースしたライコウの効果で、攻撃してきた"切り込み隊長"を破壊するよ!」
 切り裂かれた白い犬から眩い光が放たれる。
 その閃光に胸を貫かれ、戦士は力なく倒れてしまった。

 ライトロード・ハンター ライコウ→破壊
 切り込み隊長→破壊
 団結の力→破壊

「えーと、ライコウの効果でデッキの上から3枚墓地に送るね」
 効果に従って、デッキの上から3枚を墓地に送った。

・ライトロード・ビースト ウォルフ
・ライトロード・プリースト ジェニス
・ソーラー・エクスチェンジ

「やった♪ 墓地に送られたウォルフの効果で、このカードを特殊召喚するね」
 大きな咆哮とともに、琴葉の場に力強い肉体を持った獣人が現れた。


 ライトロード・ビースト ウォルフ 光属性/星4/攻2100/守300
 【獣戦士族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 このカードがデッキから墓地に送られた時、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。


「こ、攻撃力2100をタダで特殊召喚!?」
「うん! あ、影山君はどうするの?」
「ぐっ……俺様はカードを2枚伏せて、ターンエンドだぜ!!」
 
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 琴葉:8000LP

 場:ライトロード・ビースト ヴォルフ(攻撃:2100)
   伏せカード1枚

 手札4枚
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 影山:8000LP

 場:切り込み隊長(攻撃:1200)
   伏せカード2枚

 手札1枚
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「えへへ、いくよ! わたしのターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 流れを掴んだことを実感した琴葉は勢いよくカードを引いた。
 勢いづく琴葉に対して、影山の顔は暗い。
「場にいるヴォルフをリリースして、わたしは"ライトロード・エンジェル ケルビム"をアドバンス召喚!!」
 獣人が光に包まれて姿を消す。
 代わりに光の中から、白い翼をもった光の天使が現れた。


 ライトロード・エンジェル ケルビム 光属性/星5/攻2300/守200
 【天使族・効果】
 このカードが「ライトロード」と名のついたモンスターを
 リリースしてアドバンス召喚に成功した時、
 デッキの上からカードを4枚墓地に送る事で
 相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。


「ケルビムの効果発動! デッキから4枚墓地に送って、影山君の伏せカード2枚を破壊するよ!」
「ぬわにぃ!?」

【墓地へ送られたカード】
・ライトロード・ドルイド オルクス
・ライトロード・ドラゴン グラゴニス
・光の援軍
・ライトロード・シーフ ライニャン

 光の天使の翼が輝く。
 翼から放たれる光の矢が、影山を守る2枚のカードを打ち抜いた。

 聖なるバリア−ミラーフォース→破壊
 死者蘇生→破壊

 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


「くっそぉ! 俺様の超強力カードがぁ!!」
「……? どーして通常魔法を伏せておいたの?」
「はぁ? 別に理由なんてねぇけど?」
「……うーん……まぁいいや。わたしは伏せカードを発動するね!」


 閃光のイリュージョン
 【永続罠】
 自分の墓地から「ライトロード」と名のついたモンスター1体を選択し、
 攻撃表示で特殊召喚する。
 自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを2枚墓地に送る。
 このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。


「蘇生カードか!」
「うん。このカードの効果で墓地にいる"ライトロード・ドラゴン グラゴニス"を特殊召喚するね!」
 光り輝く閃光。その中から白い毛に覆われた龍が姿を現す。
 力強いその姿に、影山の表情はひきつった。


 ライトロード・ドラゴン グラゴニス 光属性/星6/攻2000/守1600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードの攻撃力と守備力は、自分の墓地に存在する「ライトロード」
 と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
 自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを3枚墓地に送る。


 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力2000→3200 守備力1600→2800

「こ、攻撃力3200……!?」
「バトルだよ! グラゴニスで"切り込み隊長"、ケルビムで影山君に直接攻撃!!」
 龍のブレスが戦士を焼き尽くし、天使から放たれた光の矢が影山を貫いた。
「ぐっ……!」

 影山:8000→6900→3700LP

「これでわたしはターンエンド。エンドフェイズに"閃光のイリュージョン"とグラゴニスの効果でデッキから5枚を墓地
に送るよ!」

・死者蘇生
・ライトロード・サモナー ルミナス
・閃光のイリュージョン
・ライトロード・バリア
・ソーラー・エクスチェンジ

「墓地にいるライトロードの種類が増えたから、グラゴニスの攻撃力と守備力もアップするよ!」

 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力3200→3500 守備力2800→3100

「げっ……また攻守が上がった……」

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 琴葉:8000LP

 場:ライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃:2300)
   ライトロード・ドラゴン グラゴニス(攻撃:3500)
   閃光のイリュージョン(永続罠)

 手札4枚
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 影山:3700LP

 場:なし

 手札1枚
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「お、俺のターン……ドロー……」(手札1→2枚)
 カードを引く影山の顔は暗い。
 まさかここまでの実力差があるとは考えていなかったからだ。
 当然、都合よく逆転のカードなど引けるわけなどない。
「モンスターをセットして、カードを1枚セットして、ターンエンド……」
 手札をすべて、場に伏せる。

 これ以上何もやることがなくなり、琴葉へとターンが移った。


「わたしのターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 カードを引き、すぐさま行動に移る。
「手札から"ライトロード・マジシャン ライラ"を召喚!」


 ライトロード・マジシャン ライラ 光属性/星4/攻1700/守200
 【魔法使い族・効果】
 自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードを表側守備表示に変更し、
 相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
 この効果を発動した場合、次の自分のターン終了時まで
 このカードは表示形式を変更できない。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。


「これで影山君の―――」
「ふ、伏せカード発動だぜ!!」
 一矢報いようと言わんばかりに、影山は伏せておいたカードを開いた。


 落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1000以上のモンスターの召喚・反転召喚に
 成功した時に発動する事ができる。
 その攻撃力1000以上のモンスター1体を破壊する。


 ライトロード・マジシャン ライラ→破壊
 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力3500→3800

「あっ! ライラが……」
「ど、どうだ!! これが俺様の実力だぜ!!」
「うぅ……お返しだもん!! 手札から"ライトロード・レイピア"をグラゴニスに装備!!」


 ライトロード・レイピア
 【装備魔法】
 「ライトロード」と名のついたモンスターにのみ装備可能。
 装備モンスターの攻撃力は700ポイントアップする。
 このカードがデッキから墓地に送られた時、
 このカードを自分フィールド上に存在する「ライトロード」
 と名のついたモンスター1体に装備する事ができる。


 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力3800→4500

「お、おい!? ちょ、ちょっと待っ―――」
「バトル!! グラゴニスでセットモンスターに攻撃!!」
 大幅に力を上げた龍の口から、白い炎が吐かれる。
 影山の場に伏せられていたモンスターは、為すすべもなく倒される。

 闇魔界の戦士 ダークソード→破壊
 影山:3700→700LP


 闇魔界の戦士 ダークソード 闇属性/星4/攻1800/守1500
 【戦士族】
 ドラゴンを操ると言われている闇魔界の戦士。
 邪悪なパワーで斬りかかる攻撃はすさまじい。


「そして、ケルビムで攻撃!!」
「う、ち、ちくしょぉおおおおお!!」

 影山:700→0LP






 影山のライフが0になる。






 そして決闘は、終了した。










「……勝った……?」
 同い年とやった、はじめての決闘。
 吉野や武田と決闘したときに得る感覚とは、また違った感覚が胸にあった。
「すっごーい!! 鳳蓮寺さん強い!」
「あの影山をあっという間に倒しちまうなんて、すごすぎんぜ!!」
 クラスの一部が、琴葉の実力に歓声をあげる。
 そんなにすごいことをしたのかどうかは分からなかったが、なんだかとても嬉しかった。
「いやぁ、琴葉ちゃんすごいなぁ」
「あ、ヒカルちゃん!」
「こんなに強いんなら、はじめから言うといてくれたら良かったんにぃ」
「えへへ、でも、家では本当に負けてばかりなんだよ?」
「琴葉ちゃんの相手って、どんだけ強いん? 明らかに大会レベルやろ?」
「うーん、よく分かんないや」
 琴葉はそう言って首を傾げる。
 吉野や武田、つい最近では薫や伊月などのスターメンバーとも遊戯王で遊んでもらっていたのだ。彼らが大会レベル級
の実力を兼ね備えているのは言うまでもないことなのだが、そのことを琴葉はあまり認識していない。
「そうかぁ。でもホンマに強いなぁ。これなら1週間後の大会もいい線に行けるんちゃうか?」
「大会?」
「そうや。1週間後に、全校で遊戯王大会があるんよ。うちらは2年生やから、1〜3年生のブロックで大会や。賞品と
かはあらへんやけど、色んな人と決闘できてとっても楽しいイベントなんよ」
「わたしも出ていいの?」
「もちろんや。むしろ出ないなんて言うたら学級委員としてうちが許さへんよ」
「えへへ、楽しみだなぁ♪」
 自然と笑顔になる。同い年とやる決闘が、こんなに楽しいものだということを初めて知った。
 1週間後の大会では、もっと楽しい決闘が出来るかと思うと、とても楽しみな気持ちになった。
「はいはーい、鳳蓮寺さんの決闘も見たことだし、みんなも好きなペアと決闘してね」
「「「「「はーい」」」」」
「おい、やろうぜ!」
「わたしとやろう!」
「負けないぞぉ!」
 クラス中が、決闘で賑わい始める。
 たちまちどこもかしこも決闘が始まり、ソリッドビジョンにモンスターが映し出された。
「あちゃ〜、こりゃデュエルディスクを使うスペースあらへんなぁ。しゃあないから、うちと机でやろか?」
「ヒカルちゃんも決闘できるの?」
「もちろん。うちは学級委員やからな。ほな早速―――」
 机に向かおうとした琴葉とヒカルの前に、1人の少女が立ち塞がった。
 黒髪のツインテール。どこか物静かそうな雰囲気を持っている。
「なんや華恋(かれん)か。驚かさんといてぇな」
「ごめんねヒカル。でも私、鳳蓮寺さんに用があって……」
「なはは、来ると思っとったよ。こんだけの実力持ってる子を、華恋が放っておくわけあらへんもんな」
「ありがとう、ヒカル」
 華恋と呼ばれた少女は、琴葉の前に立つ。
 琴葉も彼女をじっと見つめ、相手の言葉を待った。
「あの、はじめまして鳳蓮寺さん。九宝院(くほういん)華恋って言います」
 丁寧な言葉遣いだった。声も、どこか優しい雰囲気を持っている。
「あ、こちらこそよろしくお願いします」

「その、突然で悪いんですけど、私と決闘してくれませんか?」

「わたしと?」
「はい。是非、お願いします」
「えっと、でもヒカルちゃんが……」
「うちならええよ。先に華恋と決闘してあげて。審判はうちがするわ」
「ありがとうヒカル」
「ヒカルちゃん、ありがとう!」

 鳳蓮寺琴葉、西園寺ヒカル、そして九宝院華恋。

 この3人の出会いは、こうして幕を開けたのだった。







episode2――黒羽の女王――

 琴葉と華恋は席に着き、ヒカルはその様子を立ったまま見守る。
(さぁて、どない展開になるんかなぁ?)
 互いのデッキをシャッフルする二人を見ながら、ヒカルは思う。
(華恋は”黒羽の女王(ブラッククイーン)”の二つ名を持っとるし、いかんせん性格がなぁ……琴葉ちゃん、驚いたり
せぇへんやろか?)
 少しだけ心配になり、琴葉へと視線を送る。
 だが琴葉はその視線に気づくことなく、クラスメイトとの決闘に対して期待に胸を膨らませている。
(……まぁ、なるようになるやろ。さてさて、琴葉ちゃんはどこまで戦えるかなぁ?)



「シャッフルは完了ですか?」
「うん!」
「こちらもです。じゃあ、はじめましょう鳳蓮寺さん」
 シャッフルしていたデッキを持ち主へ戻し、互いに5枚を引く。
 デュエルディスクは使用しないため、こういう動作も自分で行わなければいけない。
 だが二人とも慣れた手つきで準備を完了し、互いに視線を交わしあった。
「えと、九宝院さん。楽しい決闘にしようね♪」
「……楽しさなんかいりません」
「え?」
「私は全力でやります。ですから鳳蓮寺さんも、本気でやってください」
 華恋を包む雰囲気が変化する。目の前に置かれたカードに対して極限まで集中し、考えを張り巡らせているようだ。
 その様子に戸惑いつつ、琴葉もこれからはじまる決闘に集中する。
「ほなお互い、準備はええか?」
「もちろんです」
「う、うん……」
「ほな、決闘スタートや。先攻は琴葉ちゃんでええよな?」
「構いません」
「そういうことや。琴葉ちゃんのターンでスタートな」
 ヒカルが審判を務める中、琴葉と華恋は声を合わせて叫んだ。



「「決闘!!」」



 琴葉:8000LP   華恋:8000LP




 決闘が、始まった。





「わたしのターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 手札を見つめた後、琴葉はチラリと華恋を見る。
 さっきまでの優しい目とは違い、とても真剣な目になっていた。
(九宝院さん、どうしたんだろう?)
 相手の態度に疑問感じつつ、琴葉はいつも通りのプレイングをすることにした。
「手札から"ライトロード・ウォリアー ガロス"を召喚するね」


 ライトロード・ウォリアー ガロス 光属性/星4/攻1850/守1300
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「ライトロード・ウォリアー ガロス」以外の
 「ライトロード」と名のついたモンスターの効果によって
 自分のデッキからカードが墓地に送られる度に、
 自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。
 このカードの効果で墓地に送られた「ライトロード」と名のついたモンスター1体につき、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 槍を携えた光の戦士が描かれたカードが机の上に出される。
 デュエルディスクを使っていないためソリッドビジョンは現れない。
「えと、先攻は攻撃できないから、カードを1枚伏せてターンエンド」
 まずは様子見といった感じで、琴葉はターンを終える。
(なるほどなぁ、様子見かぁ)
(まずは様子見……ですか)
 他の2人もそれを察して、何も言わなかった。


 そして、華恋のターンになる。


「私のターンです。ドロー」(手札5→6枚)
 6枚になった手札をさっと確認し、すぐさま行動に移る。
 まるで最初から行動を決めていたかのような早さだった。
「手札から"黒い旋風"を発動します」


 黒い旋風
 【永続魔法】
 自分フィールド上に「BF」と名のついたモンスターが召喚された時、
 自分のデッキからそのモンスターの攻撃力より低い攻撃力を持つ
 「BF」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。


 華恋の場に出される永続魔法。
 それだけで彼女のデッキを判別することは十分だったのだが、知識の足りない琴葉には分からなかった。
「手札から"BF−蒼炎のシュラ"を召喚します」


 BF−蒼炎のシュラ 闇属性/星4/攻1800/守1200
 【鳥獣族・効果】
 このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
 自分のデッキから攻撃力1500以下の「BF」と名のついたモンスター1体を
 自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。


「"黒い旋風"の効果で、デッキから攻撃力1800未満の"BF−月影のカルート"を手札に加えます」(手札4→5枚)
「うん」
「そしてそのままバトルフェイズに入ります。シュラでガロスに攻撃します!」
「え? でも、攻撃力はこっちの方が上だよ?」
「心配ありません。ダメージステップ、手札から"BF−月影のカルート"を捨てて、効果を発動します」


 BF−月影のカルート 闇属性/星3/攻1400/守1000
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「BF」と名のついたモンスターが
 戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
 そのモンスターの攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで1400ポイントアップする。


 BF−蒼炎のシュラ:攻撃力1800→3200

「あぅ……」
「これでシュラの攻撃力はガロスを上回りました。1350ダメージです」
「う、うん……」
 琴葉はしぶしぶ、自身のカードを墓地へと送る。
 ついでに手元に置いてあるメモ帳に、自分のライフを記入した。

 ライトロード・ウォリアー ガロス→破壊
 琴葉:8000→6650LP

「さらにシュラの効果発動。相手モンスターを戦闘で破壊したとき、デッキから攻撃力1500以下のモンスターを場に
攻撃表示で特殊召喚します。私は"BF−大旆のヴァーユ"を特殊召喚します」
 デッキからカードを探し出し、華恋は場にモンスターカードを出す。
 相手の場に新たなモンスターが出されたことで、琴葉の表情が少し険しくなった。


 BF−大旆のヴァーユ 闇属性/星1/攻800/守0
 【鳥獣族・チューナー】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードをシンクロ素材とする事はできない。
 このカードが墓地に存在する場合、このカードと墓地に存在するチューナー以外の「BF」と名のついた
 モンスター1体をゲームから除外し、そのレベルの合計と同じレベルの「BF」と名のついた
 シンクロモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。


「そのまま攻撃します。800ダメージです」
「う、うん……」

 琴葉:6650→5850LP

「カードを1枚伏せて、ターン終了です」

-------------------------------------------------
 琴葉:5850LP

 場:伏せカード1枚

 手札4枚
-------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:BF−蒼炎のシュラ(攻撃:1800)
   BF−大旆のヴァーユ(攻撃:800)
   黒い旋風(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札3枚
-------------------------------------------------

(さすが華恋やなぁ。転校生相手にも手加減なしかぁ)
 幼なじみの行動を見ながら、ヒカルは苦笑する。
 まだ決闘が始まったばかりとはいえ、流れは確実に華恋に傾いていた。
(さて琴葉ちゃん。どないする?)

「わたしのターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 カードを引いた琴葉は、改めて場の状況を見つめる。
 たった1ターンで、ここまで差がついてしまったのは初めての経験だった。
(九宝院さん、すっごく強い……でも、わたしだって!)
 負けじと琴葉もカードに力が入る。
「手札から"ライトロード・パラディン ジェイン"を召喚するね!」


 ライトロード・パラディン ジェイン 光属性/星4/攻1800/守1200
 【戦士族・効果】
 このカードは相手モンスターに攻撃する場合、
 ダメージステップの間攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。


 光の騎士のカードが場に登場する。
 相手モンスターへの攻撃時に攻撃力が300ポイント上昇するモンスター。これなら相手のモンスターに負けることは
ない。
「バトル! ジェインでシュラに攻撃!」
 お返しと言わんばかりに攻撃を宣言する。
「伏せカード発動です」
 だが華恋は冷静に、伏せておいたカードを開いた。


 ゴッドバードアタック
 【通常罠】
 自分フィールド上の鳥獣族モンスター1体をリリースし、
 フィールド上のカード2枚を選択して発動する。
 選択したカードを破壊する。


「あっ」
「ヴァーユをリリースすることで、攻撃してきたジェインとその伏せカードを破壊します」
「ま、待って! それにチェーンして、わたしも伏せカードを発動するね」


 強欲な瓶
 【通常罠】
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「この効果でカードを1枚引くね」(手札4→5枚)
「……でも、ジェインは破壊です」
「うん……」

 BF−大旆のヴァーユ→墓地
 ライトロード・パラディン ジェイン→破壊

 バトルフェイズ中におけるモンスター破壊。
 モンスターが場にいない以上、バトルはできない。
「じゃあ……メインフェイズ2に入るね。手札からこのカードを発動だよ」


 光の援軍
 【通常魔法】
 自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送って発動する。
 自分のデッキからレベル4以下の「ライトロード」と
 名のついたモンスター1体を手札に加える。


【墓地へ送られたカード】
・ライトロード・ビースト ヴォルフ
・ライトロード・エンジェル ケルビム
・落とし穴

「やった……!」
 墓地に落ちたカードを確認して、喜びを見せる琴葉。
(これなら、次のターンに攻撃は受けないよね)
 そう思いながらデッキからカードを探し出す。
 今までのやり取りから、華恋の場にある永続魔法カードをなんとかしなければいけないのは分かった。
 ここで呼び出すべきカードは……。
「わたしは"ライトロード・マジシャン ライラ"を手札に加えるね」(手札4→5枚)
「はい」
「そして、"光の援軍"の効果でデッキから墓地に送られた"ライトロード・ビースト ウォルフ"を自身の効果で特殊召喚
するよ!」


 ライトロード・ビースト ウォルフ 光属性/星4/攻2100/守300
 【獣戦士族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 このカードがデッキから墓地に送られた時、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。


 ライトロード・ビースト ウォルフ→特殊召喚(攻撃)

「攻撃表示……なるほど。そのカードで次の攻撃を防いで、次のターンに私のカード破壊が狙いですか」
「え、そ、それはどうかなぁ?」
 次の戦術を見抜かれたことに、動揺を隠せない琴葉。
 それを誤魔化すように、素早く手札のカードを場に伏せる。
「カードを2枚伏せて、ターンエンドだよ」

-------------------------------------------------
 琴葉:5850LP

 場:ライトロード・ビースト ウォルフ(攻撃:2100)
   伏せカード2枚

 手札3枚
-------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:BF−蒼炎のシュラ(攻撃:1800)
   黒い旋風(永続魔法)

 手札3枚
-------------------------------------------------

「では、私のターンです。ドロー!」(手札3→4枚)
 場に存在する攻撃力2100のモンスターを気にもせず、華恋はカードを引いた。
 攻撃力が高いただのモンスターよりも、相手が伏せたカードの方が気になっているからだ。
(いったい、どんなカードを伏せているんでしょうか? 私の攻撃に対して反応するカード? それとも……?)
 口元に手を当てて、深く考える華恋の姿をヒカルは見つめる。
(また考えとるんやなぁ。ただのフリーデュエルなんやし、そない考えんでもええ気がするんやけど……まぁ華恋の性格
からして、それはないかぁ)
「……よし、決めました」
「え?」
「私の場にBFと名のついたモンスターが存在するので、手札から"BF−漆黒のエルフェン"を召喚します!」


 BF−漆黒のエルフェン 闇属性/星6/攻2200/守1200
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に「BF」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードはリリースなしで召喚する事ができる。
 このカードが召喚に成功した時、
 相手フィールド上に存在するモンスター1体の表示形式を変更する事ができる。


「え、えぇ!? どーしてレベル6のモンスターがリリースなしで召喚できるの?」
「あのなぁ琴葉ちゃん、エルフェンは他にBFがいるときには、リリースなしで召喚できる効果があるんよ」
「そうなんだ……」
「エルフェンの召喚に成功したことで、"黒い旋風"の効果によって私はデッキから攻撃力2200未満のモンスター……
"BF−黒槍のブラスト"を手札に加えます!」(手札3→4枚)
 次々と現れる黒羽の軍団。それに華恋の手札はまだ4枚もある。
(どうしよう……このままじゃ総攻撃されちゃうけど……大丈夫だよね?)
 チラリと、自分の場にある伏せカードへ目をやる。
 伏せたカードのうちの1枚は罠カード"聖なるバリア−ミラーフォース−"だ。


 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


 相手モンスターの攻撃に反応して発動できる罠カード。
 これを使用すれば、相手モンスターを全滅させることが出来る。そうすれば次のターンに相手へ攻撃するチャンスが生
まれるのは間違いない。
(大丈夫……だよね?)
 なぜか言いようのない不安に襲われ、琴葉は心配になった。
 だがそんなことお構いなしで、華恋は自身の戦術を披露していく。
「召喚したエルフェンの効果を使用して、鳳蓮寺さんの場にいるヴォルフを守備表示にします」
「え……わ、分かった……」

 ライトロード・ビースト ウォルフ:攻撃→守備表示

「そして場にBFがいるので、手札から"BF−黒槍のブラスト"と"BF−疾風のゲイル"を特殊召喚します」
「えええ!?」


 BF−黒槍のブラスト 闇属性/星4/攻1700/守800
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に「BF−黒槍のブラスト」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


 BF−疾風のゲイル 闇属性/星3/攻1300/守400
 【鳥獣族・チューナー】
 自分フィールド上に「BF−疾風のゲイル」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、相手モンスター1体の攻撃力・守備力を半分にする事ができる。


「たった1ターンで、モンスターが並んじゃった……」
「まぁ華恋はいつもこんな感じや。それより、なんとかせぇへんと危ないんちゃう?」
「……!! う、うん。そうだね……!」
「まだいきますよ。ゲイルの効果を使用して、鳳蓮寺さんの場にいるヴォルフの攻守を半分にします!」

 ライトロード・ビースト ウォルフ:攻撃力2100→1050 守備力300→150

「バトルフェイズです。ブラストでヴォルフへ攻撃!」
「……! 伏せカード発動だよ!」
 待ってましたと言わんばかりに、琴葉は伏せたカードを開く。


 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


「この効果で、九宝院さんのモンスターを破壊するよ!」
「甘いですね鳳蓮寺さん。手札から速攻魔法"我が身を盾に"を発動します!」


 我が身を盾に
 【速攻魔法】
 1500ライフポイントを払って発動する。
 相手が発動した「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つ
 カードの発動を無効にし破壊する。


 華恋:8000→6500LP
 聖なるバリア−ミラーフォース−→無効→破壊

「これでそのカードを無効にします!」
「うっ……」
「攻撃続行です。ブラストは貫通効果を持っています。よって1550のダメージです」
「………」

 ライトロード・ビースト ウォルフ→破壊
 琴葉:5850→4300LP

「そしてゲイルで攻撃。1300ダメージです」
「う、うん……」

 琴葉:4300→3000LP

「そしてシュラで攻撃します。1800ダメージです」
「うん………」

 琴葉:3000→1200LP

 下を向きながら、暗い表情でライフを書き込む琴葉。
(また……ですか……)
 華恋はそんな様子を見ながら、心の中でため息をつく。
 自分と決闘するときは、いつもみんなこうなってしまう。最初は全力で戦おうとしてくれるのに、こうしてBFを大量
に展開して攻撃すると気力を失ってしまう。こうして暗い顔で黙って攻撃を受け続けるだけになってしまう。
(……でも、これでいい)
 それが分かっていても、自分は決して手を抜かない。
 決闘に楽しさなんか必要ない。必要なのは、勝つための戦術とカードだけ。
 大切なものを失わないために、勝つための力だけがあればいい。
「これでトドメです。エルフェンで攻撃。2200のダメージです」
「……………」
 最後の攻撃を宣言したにも関わらず、琴葉は手に持ったシャープペンシルを動かそうとしなかった。
 それを見て、ヒカルと華恋は不審に思う。
「どうしたん琴葉ちゃん? 華恋の攻撃宣言や?」
「……鳳蓮寺さん、往生際が悪いですよ。気持ちは分からないでもないですけど、負けは負け――」

うーん、分かんない!!

 華恋の言葉を遮るように、琴葉が声を上げた。
 周りにいた数人の児童が驚いたように彼女を見つめた。
「な、なんや? どないしたん琴葉ちゃん?」
「ヒカルちゃん。暗算って得意?」
「と、突然なんや? まぁ、得意っちゃ得意な方やと思うけど……」
「ホント!? じゃあさ、2200の半分っていくつ?」
「え? そ、そやなぁ……1100やと思うけど?」
「1100……そっか! ありがとう!」
 伏せていた顔を上げて、琴葉はもう1枚の伏せカードに手をかけた。









 チェンジ・デステニー
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターを守備表示にする。
 そのモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限り、表示形式を変更する事ができなくなる。
 その後、相手は以下の効果から1つを選択して適用する。
 ●このカードの効果で攻撃を無効にされたモンスターの
 攻撃力の半分だけ自分のライフポイントを回復する。
 ●このカードの効果で攻撃を無効にされたモンスターの
 攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。


「このカードの効果で、エルフェンの攻撃を無効にして守備表示にするよ!」
「……!!」

 BF−漆黒のエルフェン:攻撃→守備表示

「この効果で守備表示になったエルフェンは、表示形式の変更が出来なくなる!」
「っ……でも、そのカードにはまだ効果があるはずです!」
「うん! この効果で攻撃が無効になったモンスターの攻撃力の半分。えと、1100ポイントのダメージをわたしに与
えるか、1100ポイントのライフを九宝院さんが回復するか。それは九宝院さんが選ぶよ」
「……このために、計算していたんですか?」
「えへへ、2ケタの計算なら出来るんだけど、4ケタはまだ出来ないんだ」
 照れたように笑う琴葉。
 だが華恋の胸には若干の怒りがわき起こっていた。
(このターンで決めるつもりだったのに……防がれた……!!)
 琴葉に1100ポイントのダメージを与えても、残りのライフは100ポイント残ってしまう。
 かといって自分のライフは十分にあるから1100回復したところで大差はない。
「さぁ、選んで!」
「……私は、あなたへダメージを与える効果を選択します」

 琴葉:1200→100LP

「ふぅ……なんとかギリギリセーフだね♪」
「やるなぁ琴葉ちゃん。それは鉄壁の100ゆうてな、その状態やとかなりの確率で逆転できるんよ?」
「ホント!?」
「もちろんや。うち、嘘はつかへんよ」
「そ、そんなの迷信です。ライフが100しかない状態で勝てるなんて、そんなオカルトありえません。私はこれでター
ンエンドです」

-------------------------------------------------
 琴葉:100LP

 場:なし

 手札3枚
-------------------------------------------------
 華恋:6500LP

 場:BF−蒼炎のシュラ(攻撃:1800)
   BF−漆黒のエルフェン(守備:1200)
   BF−黒槍のブラスト(攻撃:1700)
   BF−疾風のゲイル(攻撃:1300)
   黒い旋風(永続魔法)

 手札1枚
-------------------------------------------------

「それにしても琴葉ちゃん、なんで"チェンジ・デステニー"をブラストに使わなかったん?」
「え?」
「その方がダメージも少なくすんだんちゃうん?」
「そうなの? ごめんね、まだ計算が上手く出来ないんだ」
「そうかぁ。大変やなぁ。あっ、意識逸らしてごめんな。琴葉ちゃんのターンや」
「うん! わたしのターン、ドロー!」(手札3→4枚)
 琴葉の目は、まだ諦めていない。
 引いたカードを見つめ、すぐさま発動する。
「わたしは手札から"ソーラー・エクスチェンジ"を発動するね!」


 ソーラー・エクスチェンジ
 【通常魔法】
 手札から「ライトロード」と名のついたモンスターカード1枚を捨てて発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る。


「手札の"ライトロード・マジシャン ライラ"を捨てて、2枚ドロー!」(手札3→2→4枚)
「ここで手札増強ですか……!」
「そして、引いた後、デッキの上から2枚墓地に送るよ!」

【墓地に送られたカード】
・閃光のイリュージョン
・ライトロード・シーフ ライニャン

「手札から"死者蘇生"を発動するね! 墓地にいる"ライトロード・マジシャン ライラ"を特殊召喚!!」


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


 ライトロード・マジシャン ライラ 光属性/星4/攻1700/守200
 【魔法使い族・効果】
 自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードを表側守備表示に変更し、
 相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
 この効果を発動した場合、次の自分のターン終了時まで
 このカードは表示形式を変更できない。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。


「ライラの効果発動。このカードを守備表示にして九宝院さんの場にある"黒い旋風"を破壊するよ!」
「……! 分かりました……」

 黒い旋風→破壊

「いくよ! ライラをリリースして、"ライトロード・ドラゴン グラゴニス"をアドバンス召喚!!」
「っ! ついに、きましたか……!」


 ライトロード・ドラゴン グラゴニス 光属性/星6/攻2000/守1600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードの攻撃力と守備力は、自分の墓地に存在する「ライトロード」
 と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
 自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを3枚墓地に送る。


「このカードの攻撃力と守備力は、墓地にあるライトロードの種類の数×300ポイントアップするよ! えと、墓地に
いるのは1、2……6種類いるから……えーと……」
「300×6で、1800ポイントアップやな」

 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力2000→3800 守備力1600→3400

「手札から"巨大化"を発動するね!」
「なっ!?」


 巨大化
 【装備魔法】
 自分のライフポイントが相手より下の場合、
 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。
 自分のライフポイントが相手より上の場合、
 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。


 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力3800→7600

「攻撃力が……!」
「7600って……琴葉ちゃん張り切ってるんか?」
「バトルだよ! 九宝院さんの場にいるエルフェンに攻撃!! グラゴニスにも、ブラストと同じ貫通効果があるよ!」
「っ……! 6400のダメージですか……」

 BF−漆黒のエルフェン→破壊
 九宝院:6500→100LP
 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力7600→3800

「えへへ、同じライフになったね」
「なははは、せやけど琴葉ちゃん、ライフが同じになったから巨大化の効果が消えてグラゴニスの攻撃力は元に戻ってし
もうたけど大丈夫なん?」
「うん! 大丈夫!」
 笑顔で答えた琴葉は、自分の手札に残った1枚のカードを見つめる。


 ソーラーレイ
 【通常罠】
 自分フィールド上に表側表示で存在する
 光属性モンスターの数×600ポイントダメージを相手に与える。


 このカードを伏せて、次のターンに発動すれば華恋のライフを0にすることができる。
(この勝負、わたしの勝ち……だよね?)
 そう思いながら、琴葉は口を開く。
「わたしは―――」




「ダメージステップ終了時、手札の"BF−二の太刀のエテジア"の効果を発動します」





 静かに割り込んだ声。
 華恋がそっと机の上に置いたカードは―――


 BF−二の太刀のエテジア 闇属性/星3/攻400/守1600
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に存在する「BF」と名のついたモンスターが相手モンスターとの戦闘を行った
 ダメージステップ終了時にその相手モンスターがフィールド上に存在する場合、
 このカードを手札から墓地へ送って発動する事ができる。
 相手ライフに1000ポイントダメージを与える。


「あ……」
「あらら」
「これで、終わりです」

 琴葉:100→0LP




 琴葉のライフが0になる。




 そして、決闘は終了した。






「あ〜あ、負けちゃった〜」
 ガックリとうなだれる琴葉。
 それに対して華恋は、厳しい表情のまま琴葉の持つ最後の手札を見つめている。
「鳳蓮寺さん。最後の手札って、なんだったんですか?」
「え? 罠カード"ソーラーレイ"だよ?」
「っ……!!」
 突然、席を立ちあがる琴葉。
 その行動に数人の児童が驚く中、彼女は自分のカードをさっさとまとめて、教室から出て行ってしまった。
「あっ、九宝院……さん……?」
「あちゃ〜、またかぁ」
「ヒカルちゃん?」
「気にせんでもええよ琴葉ちゃん。いつものことやからなぁ」
 半ば呆れたようにため息をつくヒカル。
 周りにいる児童も、たいして気にしていないようだった。
「……みんな、先生、少し九宝院さんの様子を見てくるね」
「あずにゃん先生。それうちが行きます」
「西園寺さん……」
「うちは学級委員やし、華恋とは幼なじみやからな。華恋のことはうちに任せといてくれへんやろか?」
「うーん……じゃあお願いしようかな? 何かあったら、すぐに先生を呼んでね?」
「もちろんや。ほな琴葉ちゃん、またあとでな」
 ヒカルは大きく手を振って、先に教室を出て行った華恋を追いかけるように出て行ってしまう。
 いったい何がどうなってるのか分からず、琴葉は茫然としてしまった。









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「なんや、やっぱりここにいたんか」
 ヒカルは華恋を探して、学校の屋上まで来ていた。
 案の定、探している相手は屋上でたそがれている。
「…………」
「そないショックなことあったか? もし"チェンジ・デステニー"をブラストに使われても、結果は変わらへんかった
やろ?」
「…………」
「それともなにか? 少しでも『楽しい』って思ってしまったんがショックだったんか?」
「……!!」
 華恋の体がピクリと反応した。
 ヒカルは小さくため息をついて、彼女の肩を叩く。
「ええかげん、強さを追い求めなくてもええんちゃう? もう十分に華恋は強いし、二つ名ももらっとるやろ?」
「……でも、ヒカルに勝ててない。それに、今日は鳳蓮寺さんに負けそうだった……」
「いつも勝てるなんてことあらへんよ。せやから楽しんだ方がええに決まっとる。そないこと続けてたら、華恋が一人ぼ
っちになってしまうんちゃうか? うちは嫌やで? 幼稚園からの仲なのに……」
「で、でも……強くないと……嫌われる……」
「そないことあらへんよ。みんな、華恋のことを嫌ったりせぇへん。せやから、もっと楽しそうにせぇへんか?」
「…………」
 その言葉に、華蓮は黙ったままそっぽを向いてしまった。
 ヒカルは心の中で深いため息をついて、その手を握る。
「教室に戻るよ? あずにゃん先生もみんなも、心配してはるしな」
「……うん……」
 ヒカルは華恋を連れて、屋上を降りる。
 その胸には、一抹の不安があった。
(このままやと、ほんまに華恋が寂しい人になってまう……)

 本来、楽しいはずの決闘なのに………華恋は楽しむことが出来ない。楽しもうとしていない。
 小学生の言葉ではうまく言い表せないが、とにかく、それはとても悲しいことだと思う。

 決闘に対してこれでもかと言うほど険しい表情で取り組み、ただ勝利だけを求める。
 そんな姿が、誰かには冷酷なものに見えたのだろう。
 BFをそんな態度で操ることから、『黒羽の女王(ブラッククイーン)』という二つ名がつけられてしまった。

 だけどヒカルは知っている。華恋は冷酷でもないし、本当は決闘を楽しめる人だということを。
 『黒羽の女王』なんて怖そうな二つ名など、見当違いもいいところだということを。
 思い出してほしい。決闘が本当は楽しいものであるということを。

(チェンジ・デステニー……かぁ……)

 ヒカルの脳裏に、琴葉が使った1枚のカード名が思い浮かぶ。
 英語はまだ習っていないが、意味はなんとなく分かる。

(もしかして……琴葉ちゃんなら……?)

 空を見上げ、ヒカルはそんなことを考えてみた。







episode3――踏み出す一歩――

 琴葉が学校に転入してから3日ほど経った。
 仲のいいクラスメイトが何人か出来て、学校の雰囲気にも慣れてきた。
 だが琴葉には、1つだけ気になることがあった。

 九宝院華恋が、あの決闘以来、話しかけてくれないのだ。

 目線が合うとなぜかそっぽを向かれてしまうし、話しかけようとすると席を立ってどこかへ行ってしまうのだ。
 琴葉だけにその態度をしている、というわけじゃない。他のクラスメイトにも似たような態度をとっている。ただし、
ヒカルとだけは普通に話しているのがたびたび見受けられる。
(わたし、嫌われちゃったのかなぁ?)
 そう思うと少しだけ落ち込む気分になってしまう。
 何か悪いことをした覚えはないのに……どうしてだろうか?
「う〜ん………」
 考えても、分からない。

「なんや琴葉ちゃん。暗い顔してると良いことあらへんよ?」

 ヒカルがいつも通りの笑顔で話しかけてきた。
「わたし、暗い顔してた?」
「そりゃあもう。先攻1ターン目でお触れホルス喰らったくらい暗い顔をしてはったよ?」
「うん……ごめんね」
「謝ることあらへんよ。もしかしなくても、華恋のことやろ?」
「……どうして分かったの?」
「そりゃあうちは学級委員やからな。友達の考えくらいお見通しや」
 ヒカルは笑ってそう言った。
 琴葉も少しだけ笑みを返すが、自然と顔が俯いてしまう。
「わたし、九宝院さんに嫌われちゃったのかなぁ?」
「そんなことあらへんよ。ただ、来週の大会に向けてピリピリしてはるだけだと思うけどなぁ」
「…………」
「なはは、せやからそない顔せんでもええよ。そや、今日の放課後空いとるか?」
「放課後? えっと、空いてるよ?」
「ほな放課後、ちょっとうちの家に遊びに来てみんか?」
「ヒカルちゃんの家? 行っていいの!?」
 同級生の家に行くことなど初めての経験である琴葉は、その言葉を聞いて大きく目を輝かせた。
「もちろんや。ほな、掃除が終わったら校門前に集合な」
 




 その日の学校の放課後、琴葉はヒカルの家におじゃましていた。
 なかなか広いマンションの5階の角部屋。白い壁紙と清潔感あふれるフローリングの部屋に、水玉のカーペットが敷い
てある。ヒカルの机の上には、かわいいぬいぐるみや人形が置かれている。
「うわぁ、ここがヒカルちゃんの机?」
「そや。なかなかええやろ?」
「うん! このぬいぐるみ可愛いね♪」
「そやろぉ? これは関西にしか売ってへん貴重品なんや」
「いいなぁ〜」
「なはは、今度おばあちゃん家に行ったら、お土産として持ってくるよ」
「ホント!? ありがとう!」


 それから少しの間、琴葉とヒカルは楽しく会話していた。
 するとヒカルが机の引き出しからアルバムを取り出して床に置き、開き始めた。
「なにこれ?」
「幼稚園のときのアルバムや」
 そうして開いたページには、今よりも幼いヒカルの姿がたくさん写っていた。
 家族で旅行に行った時の写真。幼稚園でのお遊戯会での写真。その他さまざまな写真がそこに貼られていた。
「へぇ〜、ヒカルちゃん、楽しそうだね♪」
「そうかぁ? 琴葉ちゃんは、幼稚園とか保育園行ってないん?」
「うん……」
「あらら、それは残念やなぁ」
 そうしてヒカルはアルバムのページをめくっていく。
 前半には幼稚園児の頃の写真や家族旅行の写真が貼ってあった。
 それは後半のページも変わらなかったのだが、写真にはどこか見覚えのある少女が多く写っていた。
「あれ? これって……九宝院さん?」
 琴葉が指し示す先には、ヒカルと肩を組みながら笑顔で写っている黒髪のツインテールの少女が写っていた。
「おお、よう気づいたなぁ琴葉ちゃん。うちは引っ越しのせいで幼稚園が変わってしもうてな。引っ越した先で知り合う
たんが華恋やったんよ。まぁ、プチ幼馴染みたいなもんや。ホント、この頃の華恋は泣き虫でなぁ。幽霊とか言うと泣き
叫ぶ姿が面白くて仕方なかったんや」
「……あれ? でも今の九宝院さんって、なんか、逆じゃないの?」
「せやな。まぁそれもこれも、大体うちのせいなんよ」
「え?」

「きっかけは……ちょうど、小学1年生の最後の頃やったかなぁ……ちょうど遊戯王で小さなショップ大会があってな。
それはチーム戦やったんやけど、うちらのチームは決勝まで行ったんよ。そこで小学6年生チームと当たってな。優勝を
かけて決闘をすることになったんよ。せやけど、うちらは全敗でな。それで気をよくしたんやろな。相手のチームがアン
ティルールだとかゆうて、うちらのカードを強奪しようとしたんや」

「えぇ!? でもそれって……」
「もちろん。店の人に止めてもろうたからカードは無事やったんやけどな。華恋は、自分が負けたせいでカードが盗まれ
そうになったと思ったんや。それからや。今まで楽しく決闘してた華恋が強さを追い求めるようになったんよ」
「……でも……そんなの……」
「そのときは、放っておけば元に戻ると思うて、うちは何もしなかったんよ。けど華恋は着々と実力をつけてな。いつし
かクラスのみんなも、華恋が強いのは当たり前って思うようになっていったんよ。それでプレッシャーみたいのがあるん
やろな。負けたらみんなからの信頼を失うって思うようになってしまったんよ」
「………………」
「うちが最初から相談とかに乗っていたら、華恋もあんなことにならんかったかもしれへん。友達なのにな……情けない
よな」
 いつも明るいヒカルの表情が曇る。
 それにつられて、琴葉も暗い気分になる。
「九宝院さん……いい人なのに………」
「琴葉ちゃん、分かるんか?」
「うん」
 そう言って頷く。ひと目見たときから分かっていたことだった。
 いい人なのに、どこか悲しそうな……辛そうな瞳をしていることを。初めて出会った時の香奈おねぇちゃんのように、
どこか無理をして、強がっているような……そんな感じがしていた。

「ヒカルちゃん。わたし、九宝院さんと友達になりたい」

「え?」
 それは、心の底から出た言葉だった。
 どうしてかは分からない。でも彼女とした決闘は、とても楽しかった。相手はどう思っていたかはわからないが、少な
くとも琴葉自身は楽しいと感じていた。
 もっとたくさん遊んで、話して、仲良くなりたい。
 そんな純粋で、単純な気持ちだった。
「だって、おかしいもん。ユーギオウは、楽しいものでしょ? それが楽しめないなんて、絶対におかしいもん」
「琴葉ちゃん……せやけど、うちもどうしたらええか分からへんのよ」
「あ、うん………」

 仲良くなりたい。それは確かな気持ちだった。
 けど、どうやったらその気持ちを伝えることができるのか分からない。
 言葉で伝えたくても、上手く伝えられない気がする。
 でも伝えたい。仲良くなりたいって。楽しい決闘がしたいって。わたしと友達になってくださいって。

 でも、どうしたらいいか分からない。
 それがもどかしくて、なんだか悔しくて……。

「あかんあかん。つい、しみっぽくなってしもうた。まぁなんとかなるやろ。その気になれば、うちがずっと友達でおれ
ばええ話やしな」
「ヒカルちゃん……」
「琴葉ちゃんが華恋と友達になりたいって言うてくれて嬉しかった。ほな、この話は終わりや。なんかゲームして遊ぼう
か?」
「う、うん……」

 なんとかなる……ヒカルの言葉はウソ。
 琴葉にはそれが分かってしまった。いつもなら指摘するところだったが、今回だけは、その嘘の理由がなんとなく分か
ったため、何も言わないことにした。

(ママ……吉野……武田……わたし、どうしたらいいのかな?)
 
 そんなことを考えながら、笑顔でゲーム機を準備するヒカルを、琴葉は見つめていた。












「ただいまー」
 数時間、ヒカルの家で遊んだあと琴葉は鳳蓮寺家に帰宅した。
「お帰りなさいませお嬢様」
 ちょうど玄関にいた武田が出迎えてくれた。
「うん……ただいま」
「どうかされましたか?」
「え? う、ううん! なんでもないよ武田!」
 嘘をついてしまった。でも、武田に心配をかけたくなかった。
 琴葉は逃げるようにリビングへ向かう。
「あら? どうしたの琴葉?」
 リビングでは、咲音が紅茶を飲みながら笑みを向けていた。
 その向かい側には、見覚えのある姿が同じように紅茶を口にしていた。
「あ、琴葉ちゃん。お邪魔してます」
「薫ちゃん!!」
「こら琴葉。ちゃんと敬語を使わないとダメよ?」
「大丈夫ですよ咲音さん。ちゃん付けの方が呼ばれ慣れていますから」
「え? どーしてここにいるの?」
「スーパーで買い物していたら、たまたま吉野さんに会ってね。お茶でもしませんかって誘われたんだ」
 そう言ったところで、キッチンから吉野が姿を現した。
 手に持ったトレイにはケーキと紅茶が載せてある。 
「お嬢様、お帰りなさいませ。ちょうどケーキの用意が出来ましたが、お食べになられますか?」
「うん」
 手に持った荷物を椅子のわきに置いて席に着く。
 それぞれの目の前にモンブランと紅茶が並べられる。すべてを並べ終えた後、吉野は薫の隣に腰かけた。
「ふふっ、なんだか家族が増えたみたいですね」
「そうですか?」
「薫が家族だと、何かと困ることが多そうですね」
「たしかにそうかもしれませんね」
「……吉野さん、咲音さん、それどういう意味?」
「「特に深い意味はありませんよ」」
 咲音と吉野は互いに顔を見合わせて微笑みを交わした。
 からかわれているように感じた薫は、子供のように大きく頬を膨らませる。
「……………」

 どうしてだろう。
 この3人の姿が、なぜかヒカルと華恋と自分が会話しているような姿に見えた。

「……!」
 目をこすって、もう1度3人の姿を見る。
 だがさっきのようには見えない。
(夢?)
 眠ってもいないのに、夢なんか見えるんだろうか?
 それとも目がおかしくなってしまったのだろうか?

 考え事は……尽きない。

「どうしましたかお嬢様? 私の顔に何かついていますか?」
「え? な、なんでもないよ吉野」
「そうですか? 帰ってから様子がおかしいような気がしますが……」
「ほ、本当に何でもないよ! ただ、ママと吉野と薫ちゃんって、仲がいいなぁって思っただけ」
「あら、ママと吉野が、薫さんと仲良くしちゃダメなの?」
「ううん。そういうんじゃなくて………だって、薫ちゃんと吉野は、えっと、すごいケンカしたんでしょ? それなのに
仲がいいなぁって思ったの」
「……咲音。お嬢様に何を教えたんですか?」
「私はありのままに伝えただけですよ。琴葉が不思議な病気にかかっちゃって、それを治すために吉野と武田が頑張って
いて、その途中で薫さん達スターの人達とすごい喧嘩をして仲直りして、みんなで琴葉を治してくれたんだよってね」
「…………………」
 あまりに大雑把な説明に、薫は苦笑する。
 確かに的は外れていないのだが、それで納得させることが出来てしまったというのも考え物な気がした。
 もっとも、7歳の少女に情報を与えすぎて変な責任を感じさせないようにしなければならないのだから、これくらいが
適切な説明だったのだろう。
「ケンカしても、仲直りすればいいんだよ」
「そうなの? じゃあ、友達じゃない人とケンカしても、仲直りすれば友達になれるかな?」
「……誰かとケンカでもしたのですかお嬢様?」
「え、ううん! ぜんぜん違うよ! え、えとね。学校の先生がね、そういうおはなしをしてくれたの」
 慌てふためく琴葉を見て、周りにいる大人3人はなんとなく状況を察した。
 咲音と吉野は自然と薫の方へ視線を送る。
 対人関係にやや難のある自分たちよりは、薫がアドバイスする方が適切だと判断したためだった。
「……琴葉ちゃんは、どう思う?」
「え?」
「誰かと友達になりたくて、でもケンカしちゃって……どうしたらいいか分からない?」
「うん……」
「そういうときはね。自分の気持ちをまっすぐに伝えるといいんだよ」
「自分の……気持ち……?」
 首を傾げる琴葉に、薫は優しく笑いかける。
 友達と仲良くするためにはどうしたらいいか。その明確な答えを薫は持っているわけではない。
 自分が今までおこなってきたことは、自分の想いを貫くこと。相手が味方であれ敵であれ、その想いを伝えること。
 分かり合えなかった人もいた。考えを改めてくれた人もいた。吉野のように友達になってくれた人もいた。

 自分の気持ちは、届けない限り相手には伝わらない。
 難しいことかもしれないけど、それが一番の方法だと薫は思っている。

「吉野も、薫ちゃんに気持ちを伝えられたの?」
「……そうですね。本当にまっすぐに、薫は想いを伝えてくれましたよ」 
「じゃあママにも?」
「え、うーん……ママは、どうなんでしょうね」
 咲音は苦笑してしまう。
 吉野と違って、薫と戦ったわけでもない。でも友達であることに変わりないからだ。
「ママ? どうしたの?」
「な、なんでもないですよ琴葉」
「……??」
「えと、参考になったかな琴葉ちゃん?」
「うん! ありがとう薫ちゃん!!」
 笑顔に戻った琴葉は、目の前に置かれたケーキを美味しそうに頬張った。





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 翌日の金曜日。琴葉は教室に着くとすぐさま華恋の席へ向かった。
 彼女は文庫本を物静かに読んでいる。
「九宝院さん!」
 机を挟んで真正面に立ち、相手を見下ろす。
 華恋はチラリと琴葉を一瞥して、手に持った本のページをめくる。
(うぅ……)
 あからさまに無視されているのが分かったが、ギリギリで耐える。
 胸に手を当てて、深呼吸する。
(伝えるんだ。自分の気持ちを!)
 意を決して、琴葉は大きな声で言った。

「わたし、九宝院さんと友達になりたい!!」

「……………………………………………」

 教室が静まり返った。
 朝の教室で突然そんな声を出したためか、ほとんどの人が唖然としている。
「き、急に何を言っているんですか!?」
「だって、九宝院さん、あれから全然お話してくれないんだもん。わたし、九宝院さんとの決闘、楽しかったよ? 負け
ちゃったけど……楽しかったもん。だから、もっともっと楽しく決闘して―――」
「楽しさなんか必要ありません。遊戯王は勝つか負けるかの真剣勝負です。楽しさなんか求めるから、私に負けてしまう
んです」
「そ、そんなことないもん! 今度やったら負けないもん!」
 ついムキになってしまう琴葉と華恋。
 その2人の様子を、ヒカルが端から見つめている。
「私こそ、鳳蓮寺さんには絶対に負けません。楽しさだけを求めているあなたには、絶対に負けません!!」
「……!! わたしだって負けないもん!!」
「っ! じゃあ、来週の大会で勝負です! 梓先生にお願いして、鳳蓮寺さんと対戦できるようにします!」
「分かった! 絶対だよ! 絶対だからね!!」
「はい。勝負です鳳蓮寺さん!!」
 互いに睨み合う2人。
 やがて同時に顔をそむけて、それぞれの席に戻った。どちらも頬を膨らませ、不機嫌そうだ。

「どうしたの? 鳳蓮寺さん? 九宝院さん?」

 騒ぎを聞きつけたのか、梓が息を切らして教室に乗り込んできた。
 明らかに険悪な雰囲気を発している二人を見て、何かがあったことを理解する。
「2人ともどうしたの?」
「「なんでもありません!!」」
 同時に答え、フンッと顔をそむける。
 よほどのことがあったのかと思い、梓は不安に感じた。
「大丈夫や先生」
 ヒカルが囁くように言う。
「本当に大丈夫なの?」
「まぁ100%大丈夫ってわけやあらへんけど、そない大そうな喧嘩やあらへんから心配せんでもええよ」
「でも………」
「それより先生。そのうち華恋からもお願いがあると思うんやけど、来週の大会の対戦表があるやろ? どうにかして、
琴葉ちゃんと華恋を対戦させることできへんか?」
「え、でも、そういうお願いは極力聞かないようにしてって言われてるんだ」
「ホンマにお願いや! なんやったらうちの対戦数減らしてもかまへんから、何とかしてくれへんやろか?」
 真剣に頼むヒカルの姿を見て、梓は悩んだ。
 ここまで真剣な彼女の姿は久しぶりに見た気がする。なんとかお願いを叶えてあげたいところなのだが、学校全体のイ
ベントなので他の教師との兼ね合いもある。それに下手に約束して、もし約束を果たせなかったら彼女を傷つけてしまう
だけだ。
 でも…………。
「どうしても、なの?」
「うん。どうしてもや。なんとか出来へんか?」
 期待と不安に満ちた瞳で見つめてくるヒカル。
 何があったのかは知らないけれど、その『お願い』は、あの2人が関係しているに違いないと思った。

 『児童の”本当に大切なお願い”は出来るだけ叶えてあげたい』

 それが、梓の教師としての理念だった。
「いいよ。なんとかしてみせる」
 笑顔でヒカルの頭を撫でた。
 幸い、対戦表の最終決定は今日の放課後までだ。今から調整すればギリギリで間に合うだろう。
「ホンマか? ありがとうな、あずにゃん先生!」
「こら、私の事は梓先生って呼んでください」
 梓はそう言って、優しく微笑んだ。










 その日、琴葉は夕食を食べている最中も膨れっ面だった。
 原因は言うまでもなく、学校での華恋との言い争いだ。
「どうなされたんですかお嬢様?」
「なんでもないもん!」
 心配する吉野をよそに、不機嫌に食事をかきこむ琴葉。
 こころなしか、いつもよりおいしくない。
「ご馳走様!」
 すべてを食べ終えて、自分の皿を台所へ運ぶ。
 そのままリビングを出て、自分の部屋へ一直線に戻ってしまった。
「………」
 いつになく不機嫌だった琴葉の姿を見て、吉野は困惑する。
 それに対して咲音はいつものように優雅に微笑みながら、ハーブティーを口にしている。
「心配ありませんよ吉野」
「咲音。ですが……」
「琴葉は、踏み出したんです。私と違って、ちゃんとした”一歩”を。ですから、私達は静かに見守りましょう?」
「……あなたがそう言うのなら構いませんが……あまり自分を責めるような考えはしないでください」
「ありがとう吉野。でも、琴葉には私と同じように育ってほしくありませんから……」
「…………」
 咲音の儚い笑顔。その理由を、吉野は誰よりも知っている。
 過ぎ去った時間と取り戻せない時間。咲音が踏み出せなかった一歩を、琴葉は踏み出したのかもしれない。
「……大丈夫ですよ咲音」
「え?」
 吉野は横から咲音を抱きしめて、静かに語りかける。
「私がずっと、あなたの傍にいます。執事として、親友として……」
「……吉野……」
「あなたには私がいます。薫もいます。琴葉もいます。あとついでに武田も。ですから、そんな悲しい顔をしないでくだ
さい」
 その言葉に、咲音は安心したように笑みを浮かべた。
 抱きしめてくれる吉野の手を握り、そのぬくもりを確認する。
「そうね……ありがとう」
 過ぎ去った時間は、どうやっても取り戻すことはできない。
 それなら、自分と同じ過ちを繰り返させないために、子供を導いてあげなければいけない。
 鳳蓮寺の持つ「本当のことを見抜く力」と、どう向き合っていかなければいけないのか。
 向き合うために最も必要なものはなんなのか。
 教えることも、伝えることも、まだまだたくさんある。
「子育てって、大変ですね」
「ええ。ですが咲音なら、きっと立派に育てることができますよ」
「ありがとう。これからもよろしくお願いしますね吉野」
「はい。もちろんです」





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「はぁ………」
 夕食を食べ終わったあと、琴葉は自分のベッドに横たわりながらため息をついた。
 どうしてあんな喧嘩をしてしまったんだろう。ただ友達になりたかっただけなのに……一緒に楽しく決闘したいって言
うだけのつもりだったのに……。

 『近づいて〜手を伸ばした〜♪ 明日へと〜続く光〜♪』

 近くに置いてあった携帯電話が鳴った。
 急いで携帯を開き、電話主を確認する。
 画面には『西園寺ヒカル』と書かれていた。

「もしもし?」

 通話ボタンを押して、電話に出る。
《もしもし琴葉ちゃんか? 今、お話ししてもええか?》
「うん。大丈夫だよ」
 ベッドから体を起こして答える。
《さっき梓先生から連絡があってな。琴葉ちゃんと華恋の対戦が決まったみたいや》
「本当!?」
《うん。先生がなんとかしてくれたみたいや。それで、調子はどうや? 華恋に勝てそうか?》
「う〜ん……どうだろう……華恋ちゃん強いし……」
《せやなぁ。華恋は強いしなぁ……》
「うん……そういえば、みんな華恋ちゃんのこと”黒羽の女王”って呼んでたけど、ヒカルちゃん何のことかわかる?」
《分かるよ。それは”二つ名”ってゆうてな。まぁ、遊戯王の強い人にだけ付けられる”あだ名”みたいなもんやな。
誰がつけてるかは分からへんねやけど、二つ名を持ってる人は全員強いよ》
「そっかぁ……だから華恋ちゃんも強いんだね……」
 琴葉の脳裏に、彼女との初めての決闘が浮かび上がる。
 圧倒的な展開力と、まったく無駄のないプレイング。どれも自分を上回っている気がしてならない。
 今度やったら負けないと言ってしまったものの、実際に対戦して勝てるかどうかは分からない。
《追い打ちかけるようですまんけど、華恋もまだ強くなるんよ?》
「えぇ!?」
《まぁ二つ名は伊達やあらへんってことや。華恋はシンクロも使ってへんし、まだデッキワンカードも使ってへん。それ
を使われたら、だいたいの人は倒されてしまうしなぁ》
「デッキワンカード……どんな効果なの?」
《それは教えるわけにはいかへんな。どや? 勝てそうか?》
「なんか、勝てないかも……」
 自信なさげに呟く。
 電話の向こうからヒカルの小さな笑い声が聞こえてきた。
《なはは、でもうちはどちらかと言うと琴葉ちゃんの方を応援しとるんよ?》
「ありがとう。でも、わたし、九宝院さんに勝てるかなぁ?」
《それは時の運やからな。うちはなんとも言えへんよ》
「そうだよね……」
 呟くようにして答える。
 勝ち目が無いわけではない。ヒカルは『華恋がまだ本気ではない』と言ったが、それは琴葉も同じことだった。
 正確には、デッキが100%の性能を発揮できる状態ではないのだ。琴葉の持っているライトロードデッキには切り札
である『ドラグーン』と『ペガサス』が入っていない。学校に入学する際に使わせてと頼んだこともあったのだが、今は
駄目と断られてしまったのだ。切り札である2体の強さは、咲音との決闘でよく分かっている。
 それらを使うことが出来れば、あるいは……。
《ん? どないしたん?》
「な、なんでもないよ!」
《そうかぁ? まぁええわ。あ、そろそろ夕ご飯やからまた今度な。急に電話してごめんな》
「ううん。じゃあまたねヒカルちゃん」
《うん! ほなまたな!》

 通話が切れる。
 携帯を閉じて、再び琴葉はベッドに横たわった。
(どうしよう……)
 きっとこのままでは華恋に勝つことなどできない。
 それどころか、まともに戦うことすらできないかもしれない。
 大会は来週の月曜日。土日を挟んで、すぐに始まることになる。今から新しいカードを準備しても間に合わない。
「はぁ……」
 思わず、ため息が出てしまった。
 咲音や吉野がいたら、溜息をつくなと怒られてしまうだろう。

 コンコン

 部屋のドアがノックされた。
 返事をすると、ドアが開かれて咲音が入ってきた。
「ママ……」
「ちょっと、お話ししようか琴葉?」
「うん」
 咲音は笑顔のまま、琴葉の隣に寝転んだ。
「悩み事でもあるの?」
「……うん」
「そっか。解決できそう?」
「ううん。分かんない……」
 暗い顔で答える。
 どうすればいいのか分からない。いったい、どうすれば……。
「琴葉、前にママが言ったこと覚えてる?」
「え?」
「あなたがドラグーンとペガサスを使わせてって言ったとき、ママはまだ早いって言って断ったでしょ? どうしてそう
言ったか分かる?」
「……ううん」
「ドラグーンとペガサスは、とっても強いカードなの。出せば、だいたいの決闘は勝利できる。でもね、強すぎる力を持
っちゃうと大変なこともあるの。誰かから嫌われたり、避けられたりしちゃうかもしれない。だからママは琴葉に2枚の
カードを使わせてあげたくなかったのよ」
「うん……」
「でも琴葉がどうしても使いたいって言うなら、大切だって思うことに使いたいなら、1度だけ使うことを許してあげて
もいいよ?」
「本当!? あ、でも……大切なの……かな……?」
「九宝院さん……だっけ? 彼女と、お友達になりたいんじゃないの?」
「……!!」
「ママはね。吉野と薫さんしかお友達がいないの。だから琴葉には、たくさんのお友達を作って欲しい。たくさんの友達
を作って、楽しく生活して、幸せになって欲しい」
「ママ……」
「だから、ね? 約束だよ。ドラグーンとペガサスは貸してあげるけど、それは九宝院さんとの決闘でしか使わないって
約束できるよね」
 咲音は琴葉の頭を撫でて、優しく微笑んだ。




 そして、いよいよ決戦の時が、訪れることとなる。







episode4――真剣勝負!――

 大会の日である月曜日。
 1〜3年生の全児童が体育館に集合させられ、整列していた。
 今日やる遊戯王のイベントは1〜3年生のブロック、4〜6年生のブロックに分かれて行う。
 デュエルディスクを多く使用するため、全校で一斉にやることはできない。なので午前は1〜3年生のブロックで決闘
を行い、午後は4〜6年生のブロックで決闘を行う方式だ。当然、2年生の琴葉たちは午前中に決闘することになる。
『さて、今日は待ちに待った人も多いと思います。長い挨拶は嫌われてしまいますから、短くまとめますね。今日はみん
なで楽しく遊ぶイベントです。不正などせず、お互いが正々堂々と決闘を楽しみましょう』
 校長先生が壇上に立って軽い挨拶をする。
 だが大半の児童がその話は聞いておらず、早く決闘したいという感じでそわそわしていた。
『では、それぞれ担当の先生の指示に従って移動してください』
 挨拶を終えた校長が壇上を降りて、各先生が児童たちを誘導し始める。
(いよいよ……始まるんだ……!)
 胸の鼓動が高鳴っていく。
 上級生や下級生、まだ知らない人と行う決闘への不安と期待。
 そしてなにより………。
「なんや、やっぱし緊張してはるやん♪」
「ひゃっ」
 ヒカルが後ろから抱きついてきた。
「なはは、かわええ声を出すなぁ琴葉ちゃん」
「もうヒカルちゃん。びっくりしたよぉ……」
「ごめんごめん。それで、調子はどうや?」
「うーん、緊張してるけど、たぶん大丈夫だよ」
「そうかぁ。ならオーケーやな。ところで対戦表見た?」
「うん!」
 琴葉はポケットから1枚のA4用紙を取り出す。
 朝の会で配られた、今日のイベントの対戦表。対戦相手と指定の場所が書かれているもので、児童達はこれを見ながら
指定された時間に指定された場所へ移動することになっている。
「まさか琴葉ちゃんと華恋が一番最初に当たるなんてなぁ。しかも体育館のど真ん中やろ?」
「うん……わたしもビックリしちゃった」
 対戦表に示された1回戦の相手は、なんと九宝院華恋だった。
 梓先生が当たるように調整してくれていたのは知っていたが、まさか1回戦だとは思っていなかったのだ。
「ええなぁ。体育館のど真ん中なんて、他の人にもめっちゃ見られると思うよ?」
「そうなの? うぅ、なんか余計に緊張しちゃうかも……」
「なははは。なんや琴葉ちゃんって案外、怖がりなんやなぁ。前にも言うたけど、決闘は楽しんだもん勝ちや。何の気兼
ねもなく、思いっきり楽しもな? 最後の方には、うちと琴葉ちゃんとの対戦もあるしな」
「……うん! わたし、頑張って楽しむ!」
 友達の優しい言葉によって自然と笑顔になる。
 張り切る琴葉の姿を見て、ヒカルも笑顔になった。
「そんでな。ちょっとお願いがあるんやけどええか?」
「うん。なに?」
「ほら、うちも琴葉ちゃんも1回戦の時間が重なってるやろ? けどうち、琴葉ちゃんと華恋の決闘、どうしても見たい
んよ。せやから、決闘する前にほんのちょっとだけ華恋と話して時間を稼いでくれへんか?」
「え……そんなに長く話してたら、先生に怒られちゃうよ?」
「ああ。そんな10分も20分も話してっていうわけやないんや。2、3分くらい話してくれればそれでええよ?」
「でも、それだと間に合わないよ?」
 首を傾げる琴葉に、ヒカルは笑顔のままその肩を叩いた。


「大丈夫や。すぐに終わらせてくるから」


「え?」
「あ、そろそろ時間やな。ほな琴葉ちゃんも頑張ってな!」
「え、あ、うん……」
 ヒカルの言葉の意味が理解できず、首を傾げたたまま見送る。
 すぐに終わらせるって……何のことだろうか?

《まもなく一回戦を始めます。準備をしていない人はすみやかに紙に書かれた場所に移動して、準備を始めてください》

 全校放送で声が流れる。
 遅れるわけにはいかない。
「…………」
 デッキを改めて確認する。そこに入っている2枚のカード。
 ライトロードの双翼を担う力。すべてを破壊へ導くドラグーンと、すべてを転生へ導くペガサス。
 はじめてこの2枚のカードと対峙した時、とても恐かったのを覚えている。この2枚を、今から自分が使う。
「ママ……大丈夫だよ……」
 絶対に間違ったことに使ったりなんかしない。
 自分の気持ちを伝える大切さを、薫ちゃんが教えてくれた。
 だから、華恋に自分の想いを伝えるために、このカードを使うんだ。
「よし、頑張ろう!!」
 意気込みを言葉に出して、琴葉は急いで体育館の中央に向かった。






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《それでは第1回戦、スタートしてください》
 全校放送で開始の合図が行われる。
 周りにいる全員が腕に付けたデュエルディスクを構えて、決闘の掛け声を発していた。
「みんな張り切ってるなぁ。うちも負けてられへん」
 そう言いつつ、ヒカルは対戦相手の女子を見つめた。
 ウェーブのかかった黒髪に、少し身長の高い3年生。小学生とは思えない鋭い眼差しが、ヒカルを射抜く。
「えーと、たしか清水(しみず)さん、やったっけ? よろしゅうな」
「こちらこそ……あなたと対戦できて光栄です」
「ん?」
 鋭い視線の奥にある闘志を、ヒカルは感じ取る。
 初対面のはずなのに、ここまでの闘志をぶつけられる覚えはない。
「えーと、少し肩の力が入りすぎなんとちゃいます?」

「仕方ないでしょう? 二つ名を持っているあなたと決闘するんですから」

「……あちゃ〜、なるほどなぁ。それでそんな闘志メラメラなわけやな」
「けっこう有名ですよ? そもそも、滅多に二つ名なんて付けられるものじゃないのに……」
「そう言われてもなぁ、別にうちは二つ名が欲しかったわけやあらへんよ? 清水さんみたいに闘志メラメラな対戦相手
が増えるだけやし」
「余裕ですね。さすが二つ名”運気支配(ラッキーフォース)”の西園寺ヒカルというところですか? あなた
には、あの”黒羽の女王”も敵わないらしいですし」
「いやぁ、華恋には日常的な決闘でそこそこ負けてるんよ? たまたま公式試合で負けとらんだけや」
 笑顔で和やかに答えるヒカルに対して、清水の表情は険しいままだ。
 それもそのはずである。上級生の間で”運気支配”は下級生最強という噂までたっているのだから。
 最強かもしれない対戦相手なのだ。闘志が燃えないわけがない。
「西園寺さん、私はあなたを倒します」
「……えらい宣戦布告されてもうたなぁ。ええよ。うちも全力で相手させてもらうな。それにもともと、この1回戦は早
く終わらせるつもりやったしな」
「ずいぶんな余裕ですね」
「いやぁ、そうでもあらへんよ? うちが言いたいんは、早く勝つか、早く負けるのどちらかになるっていう意味やから
な」
「はい?」
「ああ、気にせんでもええよ。ほなうち急いでるし、さっさと始めよか?」
 デュエルディスクを構えてヒカルは言う。
 清水も力強くデュエルディスクを構えて、精神を集中した。



「「決闘!!」」



 ヒカル:8000LP   清水:8000LP



 決闘が、始まった。



「私の先攻からですか。ではドローします!!」(手札5→6枚)
 清水は引いたカードを手札に加え、すぐさま行動に移る。
 戦術が分からない相手である以上、ここは様子見をするべきだろう。
「手札から"切り込み隊長"を召喚します!」


 切り込み隊長 地属性/星3/攻1200/守400
 【戦士族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手は表側表示で存在する他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。


「この効果で、手札にいるもう1体の"切り込み隊長"を特殊召喚します。2体それぞれの効果によって、あなたは私の
モンスターに攻撃できませんよ」
「へぇ、清水さんも戦士族デッキなんか。せやけどうちのクラスにいる影山君より使い慣れてそうやなぁ」
「そ、そうですか? ありがとうございます……カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
 予想よりも親しい態度で接してくるヒカルに戸惑う清水。
 それは素なのか、余裕からくるものなのか、判断できない。


「ほな、うちのターンや、ドロー!」(手札5→6枚)
 手札をさっと見つめて、ヒカルは適当に戦略を組み立てる。
 華恋のように先の先まで読んで戦略を組み立てるスタイルは自分には合わないとヒカルは思っている。
 なにより決闘を楽しむということを最優先している自分にとって、勝敗など二の次だから難しく考えることはあまりし
たくないと思っているのだ。
(まっ、なるようになるやろ)
 静かに笑みを浮かべて、ヒカルはデッキワンサーチシステムを使用した。
 自動的にデッキからカードが選び出されて、それを勢いよく引き抜いた。(手札6→7枚)
「清水さんもカードを引いてええよ?」
「……お言葉に甘えて」(手札3→4枚)
 初ターンでのデッキワンサーチシステムの使用。
 当然、次に発動されるのはデッキワンカードに間違いないだろう。
「ほないこか。手札から永続魔法"確率変動の女神"を発動や!!


 確率変動の女神
 【永続魔法・デッキワン】
 コインまたはサイコロを使用するカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 1ターンに1度、カード名を1つ宣言する。このターンのエンドフェイズ時まで、
 宣言したカードがコインまたはサイコロを使用する効果を発動したとき、
 そのコインの裏表、またはサイコロの目を自分の宣言したものにする。
 この効果は相手ターンのドローフェイズ時にも発動できる。
 このカードが破壊されるとき、手札を1枚捨てることでその破壊を無効にする。


「……!! なるほど、それが西園寺さんの二つ名の由来だったんですか」
「うーん、たぶん違うと思うけどなぁ?」
「え?」
「答えはこれや! 手札から"ダブル・サイクロン"発動! 対象は清水さんの伏せカードと、うちの"確率変動の女神"
やで!」
「なっ!?」


 ダブル・サイクロン
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚と、
 相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して発動する。
 選択したカードを破壊する。


 確率変動の女神→破壊
 聖なるバリア−ミラーフォース−→破壊


 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


「な、なにをしているんですか!? 馬鹿にしているつもりですか?」
「ん〜。コレを初めて見た人には大体そう言われるんやけど、全然真面目やから気にせんといてください」
 ヒカルは笑みを浮かべたままそう言って、手札の1枚をデュエルディスクに叩き付けた。


 ツインバレル・ドラゴン 闇属性/星4/攻1700/守200
 【機械族・効果】
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
 相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。
 コイントスを2回行い、2回とも表だった場合、選択したカードを破壊する。


「このカードの召喚成功時、2枚コイントスして両方とも表やったら相手カードを1枚破壊できるんよ」
「……! ギャンブルカードですか」
「ほなうちは清水さんの"切り込み隊長"を破壊させてもらうな」
「な!? まだ破壊が決まったわけでは―――」
 言い終わる前に、ソリッドビジョンによってコインの映像が映し出されて回転する。
 クルクルと回るコインはすぐに勢いを弱め、2枚とも表を向いた。
「っ!」
「ほな遠慮なく、破壊させてもらうわ」
 ヒカルのモンスターの頭部から、大きな弾丸が発射される。
 その弾丸は剣を構える隊長の胸を問答無用で貫いた。

 切り込み隊長→破壊

「ロックが……!」
「これで攻撃できるんよな? ほなツインバレルで隊長さんに攻撃や!」
「くっ……」

 切り込み隊長→破壊
 清水:8000→7500LP

「メインフェイズ2に"デンジャラスマシン TYPE−6"を発動。カードを1枚伏せてターンエンドや」


 デンジャラスマシン TYPE−6
 【永続魔法】
 自分のスタンバイフェイズ毎にサイコロを1回振る。
 出た目の効果を適用する。
 1.自分の手札を1枚捨てる。
 2.相手の手札を1枚捨てる。
 3.自分はカードを1枚ドローする。
 4.相手はカードを1枚ドローする。
 5.相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
 6.このカードを破壊する。


-------------------------------------------------
 ヒカル:8000LP

 場:ツインバレル・ドラゴン(攻撃:1700)
   デンジャラスマシン TYPE−6(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札2枚
-------------------------------------------------
 清水:7500LP

 場:なし

 手札4枚
-------------------------------------------------

「ぐ、偶然です。そんな運に頼ったデッキで、勝利を掴めるはずないです」
「そないこと言われてもなぁ。うちは入学した時からずっとこのデッキなんよ?」
「……! 私のターン、ドローです!」(手札4→5枚)
 言葉に出来ない嫌な予感を無視して、清水はカードを引いた。
 さっきのコイントスは偶然に過ぎない。
 結果が分かる前に破壊対象を宣言していたのも、気が早くなっただけ………のはずだ。
「手札から"戦士の生還"を発動して、墓地にいる"切り込み隊長"を手札に加えます」


 戦士の生還
 【通常魔法】
 自分の墓地に存在する戦士族モンスター1体を選択して手札に加える。


「そして"切り込み隊長"を召喚。効果によって手札から"復讐の女戦士ローズ"を特殊召喚です!」


 切り込み隊長 地属性/星3/攻1200/守400
 【戦士族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手は表側表示で存在する他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。


 復讐の女戦士ローズ 炎属性/星4/攻1600/守600
 【戦士族・チューナー】
 このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
 相手ライフに300ポイントダメージを与える。


「おぉチューナーや。清水さんもシンクロ使うんやな」
「そして手札から"シンクロ・ヒーロー"を切り込み隊長に装備します!」


 シンクロ・ヒーロー
 【装備魔法】
 装備モンスターのレベルを1つ上げ、攻撃力は500ポイントアップする。


 切り込み隊長:攻撃力1200→1700 レベル3→4

「レベル4になった"切り込み隊長"にレベル4の"復讐の女戦士ローズ"をチューニング!」
 忍者のような黒い服を着た女戦士が光の輪となり、隊長の体を包み込んでいく。

「戦いで君臨せし戦士の王! 倒れた仲間を力に変えよ!! シンクロ召喚!! "ギガンテック・ファイター"!!」

 フィールドに光の柱が立ち、中から屈強な戦士が姿を現した。


 ギガンテック・ファイター 闇属性/星8/攻2800/守1000
 【戦士族・効果】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードの攻撃力は墓地に存在する
 戦士族モンスターの数×100ポイントアップする。
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、墓地に存在する
 戦士族モンスター1体を選択し自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。


「おぉ、かっこええなぁ。それが清水さんの切り札なん?」
「はい。このカードの攻撃力は墓地にいる戦士族の数×100ポイントアップします! 墓地にいる戦士族の数は3体!
よって攻撃力は3100です」
「なかなか強力やなぁ」
「バトル!!」
 清水の宣言とともに、屈強な戦士が拳を構える。
 対してヒカルは伏せておいたカードを発動した。


 モンスターBOX
 【永続罠】
 相手モンスターが攻撃をする度に、コイントスで裏表を当てる。
 当たりの場合、攻撃モンスターの攻撃力は0になる。
 自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。
 払わなければ、このカードを破壊する。


「これで清水さんの攻撃してきたモンスターは攻撃力が0になる!」
「ま、まだです! コイントスしないと――――」
「残念やけど、今の状態なら表が出ると思うけどなぁ」
「え?」
 再びソリッドビジョンにコインが映し出されて回転する。
 回転が徐々に弱まっていき、示されたのは表だった。
「くっ!」

 ギガンテック・ファイター:攻撃力3100→0
 ギガンテック・ファイター→破壊(ツインバレル・ドラゴンに返り討ち)
 清水:7500→5800LP

「で、ですけど、"ギガンテック・ファイター"は自身の効果によって復活することが出来ます!!」
「おお! さすがやなぁ!」
 倒れた屈強な戦士は、主に応えるべく力強く立ち上がった。

 ギガンテック・ファイター→特殊召喚(攻撃)

「バトルフェイズ中の特殊召喚なので、また攻撃できます!!」
「うーん、たしかにそうなんやけど……あんましオススメせぇへんよ? 多分また表になるしな?」
「……!!」
 攻撃を宣言しようとした口が止まる。
 2回とも当たることなどよくあることなのに、嫌な予感が無くならない。
 というより、なぜか外れる予感がしない。
「く……1枚伏せて、ターンエンドです……」
 言いようもない感覚を携えたまま、清水はターンを終えた。

-------------------------------------------------
 ヒカル:8000LP

 場:ツインバレル・ドラゴン(攻撃:1700)
   デンジャラスマシン TYPE−6(永続魔法)
   モンスターBOX(永続罠)

 手札2枚
-------------------------------------------------
 清水:5800LP

 場:ギガンテック・ファイター(攻撃:3100)
   伏せカード1枚

 手札1枚
-------------------------------------------------

「うちのターンや。ドロー!」(手札2→3枚)
 ヒカルがカードを手札に加えた後、その後ろにある数字の書かれた機械が稼働した。
 1〜6の番号がランダムに点滅していく。点滅の間隔が長くなっていき、やがて2の数字を示して大きく光った。
「出た目は2やな。清水さんの手札を1枚捨てさせてもらうな」
「くっ……捨てたのは、"死者蘇生"です」(手札1→0枚)


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。


「そして"モンスターBOX"のコストを支払うよ」

 ヒカル:8000→7500LP

「ほないこか。手札から"カップ・オブ・エース"を発動や!」
「またギャンブルカードを……!」


 カップ・オブ・エース
 【通常魔法】
 コイントスを1回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを2枚ドローし、
 裏が出た場合は相手はデッキからカードを2枚ドローする。


 ソリッドビジョンに映し出されたコインが回転する。
 まるで予定調和のように示されたのは、表。
「ま、また!?」
「ごめんな。とりあえずドローさせてもらうわ」
 少し悪びれた様子で、ヒカルはカードを引いた。(手札2→4枚)
 清水は疑いの眼差しで相手を見つめる。
 おかしい。絶対におかしい。ここまで相手にとって最良の結果しか出ていないなんて……。
 もしかしたら不正をしているのかとも考えたが、デュエルディスクを不正にいじるなんて小学生に出来るわけがない。
だとすると間違いなく、相手は自身の運によってこの結果を出しているのだ。
「…………」
「あの、そない睨まれても困るんやけど……」
「いったい……どんなトリックを?」
「……はぁ。しゃあないな、変な噂とか立てられたら敵わんし、ネタバレやな。最初のターンにうちがデッキワンカード
を破壊したのを覚えてるか?」
「はい」


「信じてもらえへんかもしれんけど、うちは"確率変動の女神"が破壊されると、運が戦局有利の方向にしか働かないよう
になるんよ。面白いやろ? うちはこれを《女神モード》って命名しとるんやけどな」


 にこやかに説明するヒカルの言葉に、清水の目は驚きに見開かれた。
「そんな馬鹿な……」
「信じてもらえへんのもしゃあないからなぁ。けど女神モードになったら、ギャンブルカードは全部、うちの戦局を有利
にしてくれる効果を発揮するんや。せやけど女神モードは往復3ターンしか続かへん。それを過ぎたら、運が戦局不利の
方向にしか働かないようになってまう。自分の運を良い意味でも悪い意味でも支配する。それが【運気支配】の由来や」
「………」
 にわかに信じられない説明に、清水は困惑している。
 だが今までの状況から、それは真実であるように感じられた。
 そして女神モードが真実であるならば、次のヒカルのターンを最後に女神モードが終わることになる。そこまで耐えき
ることが出来れば、勝機は自分にもある。
「分かりました。決闘を続けましょう」
「ほないくよ。手札から"一撃必殺侍"を召喚や!」


 一撃必殺侍 風属性/星4/攻1200/守1200
 【戦士族・効果】
 このカードが戦闘を行う場合、ダメージ計算の前にコイントスで裏表を当てる。
 当たった場合、相手モンスターを効果によって破壊する。


「それは……!」
「バトルや! 侍さんでファイターに攻撃!! コインは当然やけど表や!!」
 ヒカルの宣言通り、コインは表を示す。
 立ち向かう小さな侍の持つ刃が巨大化して、屈強な戦士を切り裂いた。

 ギガンテック・ファイター→破壊

「そのままツインバレルで攻撃や!」
「くっ」

 清水:5800→4100LP

「このまま一気にたたみかけたいところなんやけど、あいにく引き運までは女神モードでも良くならへん。このままター
ンエンドや」

-------------------------------------------------
 ヒカル:7500LP

 場:ツインバレル・ドラゴン(攻撃:1700)
   一撃必殺侍(攻撃:1200)
   デンジャラスマシン TYPE−6(永続魔法)
   モンスターBOX(永続罠)

 手札3枚
-------------------------------------------------
 清水:4100LP

 場:伏せカード1枚

 手札0枚
-------------------------------------------------

「私のターン、ドロー!!」(手札0→1枚)
 清水は勢いよくカードを引く。次のヒカルのターンさえ凌げば、必ず自分が有利になる。
 といっても手札1枚ではどうしようもない。それなら……。
「伏せカードを発動します!」


 強欲な瓶
 【通常罠】
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「この効果で、デッキから1枚ドローします!」(手札1→2枚)
 引いたカードを確認し、その口元に小さく笑みを浮かべる。
「カードを2枚伏せて、ターンエンドです!!」


 ターンが移行して、ヒカルのターンになった。


「なんや良いカードでも引いたみたいやな?」
「はい。これでこのターンを凌いでみせます!」
「ええよ。勝負や! うちのターン、ドロー!!」(手札3→4枚)
 ヒカルがデッキからカードを引くと場にある大きな機械が稼働する。
 示されたのは3の数字。
「3が出たから、うちは1枚ドロー。ついでに"モンスターBOX"はコスト支払うよ」

 ヒカル:手札4→5枚
 ヒカル:7500→7000LP

「うわぁ、ホンマに空気読めへんドローカードやな」
 少しため息をつきつつ、ヒカルは1枚のカードを発動した。


 サイコロン
 【速攻魔法】
 サイコロを1回振る。
 2〜4の目が出た場合、フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。
 5の目が出た場合、フィールド上の魔法・罠カード2枚を破壊する。
 1または6の目が出た場合、自分は1000ポイントダメージを受ける。


「あ……」
「ほなダイスロールや!」
 デュエルディスクに映し出されたサイコロが回転し、5が示された。
「清水さんの伏せカード2枚破壊させてもらう!」
「っ! チェーンして伏せカード発動です」


 和睦の使者
 【通常罠】
 このカードを発動したターン。相手モンスターから受けるすべての戦闘ダメージを0にする。
 このターン自分のモンスターは戦闘によって破壊されない。


 和睦の使者→破壊
 強者の苦痛→破壊

 強者の苦痛
 【永続魔法】
 相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力は、レベル×100ポイントダウンする。


「なるほどなぁ。ブラフと本命が伏せてあったんか」
「まさか"サイコロン"が発動されるのは予想外でしたけど、これでこのターンは戦闘ダメージを受けません」
「うーん、まぁそれはそうなんやけど、残念ながらうちの勝ちみたいや」
「なんですか?」
「モンスターをセット。そして手札から"太陽の書"を発動するよ」


 太陽の書
 【通常魔法】
 フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。


 ヒカルの場に現れた本の力によって、姿が見えなかったモンスターの姿があらわになる。
 セットされていたモンスターは――――


 ダイス・ポット 光属性/星3/攻200/守300
 【岩石続・効果】
 リバース:お互いにサイコロを一回ずつ振る。
 相手より小さい目が出たプレイヤーは、相手の出た目によって以下のダメージを受ける。
 相手の出た目が2〜5だった場合、相手の出た目×500ポイントダメージを受ける。
 相手の出た目が6だった場合、6000ポイントダメージを受ける。
 お互いの出た目が同じだった場合はサイコロを振り直す。


「……!?」
「ごめんな清水さん。もうちょっと楽しみたかったんやけど……またいつかうちと決闘したってな?」
 静かな勝利宣言。
 それぞれのデュエルディスクから映し出されたサイコロが回転する。

 清水に示された数字は4。
 そしてヒカルに示された数字は6。

 次の瞬間、6000ポイントものダメージが清水に襲いかかった。


 清水:4100→0LP






 清水のライフが0になり、決闘は終了した。











「完敗です。西園寺ヒカルさん」
 デュエルディスクを閉じながら、清水は手を差し出した。
 ヒカルはその手を固く握り、笑いかける。
「いやぁ、うちも楽しかったよ。また機会があれば決闘したってな?」
「はい。そのときは私が勝ちます」
「うん! ほなまたな清水さん」
 対戦相手に手を振り、急いで会場をあとにするヒカル。
 予想よりも時間がかかってしまった。
(間に合うとええけど……)
 脳裏に浮かぶ、華恋と琴葉の姿。
 自分の大切な親友が変われるかどうかのチャンスなのだ。
 どんな結果になるにせよ、華恋のそばには自分がいてあげなければいけない気がした。
(待っといてな華恋。うちがすぐに行くから、ワンキルなんかせんでよ?)
 走る速度をさらに早め、ヒカルは2人が待つ体育館へ向かった。







episode5――琴葉VS華恋――

《それでは、1回戦を始めてください》
 全校放送で開始の合図がされる。
 体育館の中央で、鳳蓮寺琴葉と九宝院華恋は対峙した。
「…………………」
「…………………」
 互いに相手の姿を無言のまま見つめている。


#################################################


 絶対に負けられない。

 琴葉の姿を見つめながら、華恋は思う。

 小学校1年生の時のショップ大会。
 思えばあの日からすべてが始まったのかもしれない。自分の力の無さが原因で、大切な友達に不快な思いをさせてしま
った。だから、強くなろうと思った。少なくとも悪い人よりは強くなろうと思った。
 【BF】のデッキは使うごとに慣れてきて、実力は確実についていった。色んな強い人達とも決闘することが出来て、
楽しい決闘をすることが出来た。
 やっぱり決闘をするのは楽しい。もっと、もっともっと楽しい決闘がしたい。
 華恋は、強くなる楽しさと決闘する楽しさを感じていた。

 そう、最初の頃は………。
 
 だけどいつからだろう。対戦相手が、なぜか暗い顔をしてる気がした。
 決闘をしているうちに、その理由が分かることになった。
「私は"BF−蒼炎のシュラ"を召喚!!」

「………サレンダーします」

「え?」
 決闘が中盤に差し掛かったところで、相手がデュエルディスクのライフカウンターの上に手を置いた。
 ソリッドビジョンが消えて決闘が終了する。
 相手は黙ったままデュエルディスクをしまい、その場を去ろうとした。
「待ってください!」
「なに?」
「あの、どうして?」
 それは純粋な疑問だった。
 決闘終盤ならいざ知らず、まだ勝敗の結果が見えない中盤でのサレンダー。
 何か理由があったのだろうか。具合が悪いとか、そんな理由が……。

 ――だがそんな考えは、一瞬で打ち砕かれることになる――。

「負けるのが決まっているんだから、戦っても意味ないじゃん」
「………え?」
 相手の無感情な言葉が、胸の奥に突き刺さった。
「華恋さん。強すぎるんだもん。どうせ負けるんだから、つまんない」
 そう言って相手は去っていってしまった。

 どうせ……負ける……?

 どうして? 強くなっちゃいけないの?

 つまんない? 決闘って、楽しいものなのに?

 どうして? ドウシテ?

「なにが、どうなってるの?」
 ぐるぐると、頭の中で言葉が回転する。
 胸に突き刺さった言葉が、チクチクと傷んだ。


 それから、異変は起こった。
 決闘しても、楽しいと感じなくなってしまった。それどころか、周りの人が怖くなってしまった。
「華恋ちゃん頑張って!」
「ファイトー!」
 そんな応援が、まったく逆の意味に聞こえるようになってしまった。
『どうせ勝つんだから、頑張ってとか言っても無駄だよね』
『勝つのが、当たり前だよね』
 そんな意味が込められていないのは分かっている。
 純粋な応援なのに、そう感じてしまっている自分がいる。
 そのことが、華恋の心に小さな穴をあけてしまった。

 負けちゃ駄目だ。負けたら、みんなに嫌われてしまう。
 嫌われたくない。つまらないとか、言われたくない。
 勝たなきゃ。絶対に勝たなきゃ。

 そんな想いで全力で決闘をする。
 焦る心と体で、圧倒的な展開力と対応力で相手を瞬殺した。
「やった……!」
 これで、嫌われることは無い。

 だがその場にいる全員が、静まり返っていた。

 まるで異星人を見るかのような目で、自分のことを見つめている。
「ぁ……」
 やめてほしかった。
 そんな目で見ないで。
 私を嫌わないで。
 何が悪いの? 私は全力で決闘しているだけなのに……。
 どうして? ドウシテ?

 幼い心には、その経験は深い傷となってしまった。



 それから、華恋は変わってしまった。
 決闘を楽しむことが出来なくなり、ただ強さを求めるだけになってしまった。

 楽しさなんか必要ない。楽しさを求めても、意味がない。
 もっと強くなれば、みんなが嫌わない。強くなれば、避けられるようなことにならないはずだ。
 勝ってもみんなに嫌われてしまうんだから、もし負けたらどうなるかなんて考えたくもない。

 だから相手には悪いけど、全力で倒す。
 みんなから嫌われないために、みんなの「勝て」という期待に応えるために。


#################################################



 自分は守られてばかりだ。

 華恋を見つめながら、琴葉はそう思う。

 自分の住んでいる家はお金持ちで、普通の家庭とは違うということがなんとなく分かっていた。
 ママがいつも一緒にいて、いつも楽しく遊んでくれる。
 でも周りにいる同い年の子は、いつも別の子と遊んでいた。
 羨ましくなかったと言えば嘘になる。でも、どうやったら別の子と遊ぶことが出来るのか分からなかった。

 そんなときに出会ったのが、吉野だった。
 ママと仲が良くて、自分とも遊んでくれた。他人と遊ぶことが、とても楽しいことだと分かった。

 でもある日、ママがパパの仕事のお手伝いをするために家からいなくなってしまった。
 怖かった。もうママに会えないんじゃないかって思った。寂しくて泣きそうになった。

 だけど、代わりに吉野がずっと一緒にいてくれた。
 ママがいない寂しさを埋めてくれるように、ずっと傍にいてくれた。変な人に誘拐されそうになった時も、すごく格好
よく助けてくれた。守ってくれた。

 でも、ママがいないことはやっぱり寂しかった。
 もっと言えば、パパが傍にいないことは寂しかった。

 ママがいなくなってからしばらく経って、武田に出会った。
 善い人だと思った。雨の中で遊んでいたから、風邪をひいてしまうと思った。家に連れて行こうと言ったら吉野に反対
されてしまったけど、やっぱり放っておけなかった。
 お願いすると吉野は許してくれて、家に連れて行った。
 そしたらいつの間にか執事になって、吉野と同じように一緒に生活してくれるようになった。 
 まるでパパが一緒にいてくれるみたいで、楽しかった。

 吉野も武田も、強盗とかの悪い人が襲ってきたときは倒してくれた。
 その姿はとても勇敢で格好いいけれど、怪我をした姿を見るのは嫌だった。自分を守るために傷つく二人は、見たくな
かった。心配しても、二人は笑って頭を撫でてくれた。

 二人のために何かしてあげたいのに、自分には何もできない。
 ママのように本当のことが分かるわけでもなく、ただ守られているだけ。二人とも大切な人だから、守ってあげたいと
思っていた。

 牙炎が現れた日も、本当は怖かった。
 でも相手が二人を傷つけようとしていることが分かった時、なんとかしなきゃと思った。
 わたしが二人を守らなきゃと思った。

 でも、守れなかった。気が付いたら、わたしはユータイリダツをしていた。
 動かないわたしを見て、吉野と武田は泣きながら謝っていた。

 わたしを治すために、吉野と武田は何かを頑張っていた。
 でも無理してるのが分かった。分かったのに、何もできなかった。

 わたしの周りには、優しくて強い人がいる。そんな人に、わたしは守られている。
 守られながら、色んな大切なことを教えてもらった。

 目の前にいる九宝院さんも、とても強くて優しい人。
 でも、無理してる。自分の気持ちにウソをついている。
 なんとかしてあげたいって思うのは確かだけど、今の自分を突き動かしている気持ちは、もっと別のものだと思う。
 それがなんなのかは分からないけど、きっとこの決闘が終われば分かるような気がする。

「はぁ……ふぅ……」

 大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
 ママ、吉野、武田、香奈おねぇちゃん、ヒカルちゃん………わたし、頑張るからね。

 誰かに守られるわけじゃなく、自分自身の力で、華恋と全力で戦う。

 戦って、自分の想いを伝えてみせる。



#################################################



「いよいよですね、鳳蓮寺さん」
 最初に口を開いたのは、華恋だった。
「うん。そうだね」
 微笑みながら、琴葉はそう答える。
 本当の戦いはこれが初めて。前に彼女と戦ったときは、自分も彼女も本気で戦えなかった。
 でも今回は違う。互いに全力VS全力。シンクロもデッキワンカードも解禁した状態での戦いだ。
 とても緊張する。でも、それは不安からくるものじゃない。
 本気の九宝院さんと戦うことが出来る。そのことがとても嬉しくて、ワクワクが止まらないのだ。
「何かおかしいですか?」
「ううん。九宝院さん、少しだけ、お話しさせて?」
「……大会に影響を及ぼさない程度なら……」
「ありがとう。あのね、この前、ヒカルちゃんの家に行って一緒に遊んだの。わたし、その、友達の家に行くのも、家で
友達と遊ぶのも、全部はじめてだったの」
「そうですか……楽しかったですか?」
「うん。わたしね、学校がこんなに楽しい場所だって分かったの。梓先生もヒカルちゃんも、クラスのみんなも……もち
ろん九宝院さんに出会って、本当に良かったって思ったよ」
「私もですか?」
「うん! こう言うと、怒っちゃうかもだけど、九宝院さんとやる決闘が楽しくて、またやりたいって思ったの。それに
ヒカルちゃんの家でアルバムを見せてもらったとき、ヒカルちゃんと九宝院さんが仲良く笑っているところを見て、すご
く羨ましいって思った。わたしもヒカルちゃんと九宝院さんと一緒に仲良く笑いたいって思ったの」
 必死に言葉で想いを伝える。
 ヒカルに言われた時間稼ぎのためではない。
 純粋な自分の想いを言葉にしておかないと、伝える機会を失ってしまうような気がしたからだ。

「だからもう1回、言わせて? わたし、九宝院さんと友達になりたい!!」

 華恋の瞳をまっすぐに見つめ、琴葉は叫んだ。
 その視線を正面から受け止めた華恋は、一呼吸おいてデュエルディスクを構える。
「………そろそろ、はじめましょう」
「うん!」
 琴葉は力強くデュエルディスクを構える。

 言葉で想いは伝えた。

 あとは、たとえどんな結果になろうとも、ただ全力を尽くすだけ。




「「決闘!!」」




 琴葉:8000LP   華恋:8000LP




 決闘が、始まった。




「わたしの先攻だよ! ドロー!!」(手札5→6枚)
 琴葉のターンで始まった。
 6枚の手札を眺めて、頭の中で作戦を立てる。
 相手はとても強い。だから出し惜しみなんてせずに戦うしかない。
「モンスターをセット!! カードを1枚伏せて、ターンエンドだよ!」


 静かな琴葉のターンが終わり、華恋のターンになった。


「私のターンです。ドロー!」(手札5→6枚)
 じっくりと考えていた琴葉とは対照的に、華恋はすぐさま行動に移った。
 遠慮はしない。全力で倒して、決闘を終わらせる。
「手札から永続魔法"黒い旋風"を発動します」


 黒い旋風
 【永続魔法】
 自分フィールド上に「BF」と名のついたモンスターが召喚された時、
 自分のデッキからそのモンスターの攻撃力より低い攻撃力を持つ
 「BF」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。


「手札から"BF−黒槍のブラスト"を召喚。"黒い旋風"の効果で"BF−疾風のゲイル"を手札に加えます。そして
そのままゲイルを特殊召喚します!」


 BF−黒槍のブラスト 闇属性/星4/攻1700/守800
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に「BF−黒槍のブラスト」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


 BF−疾風のゲイル 闇属性/星3/攻1300/守400
 【鳥獣族・チューナー】
 自分フィールド上に「BF−疾風のゲイル」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、相手モンスター1体の攻撃力・守備力を半分にする事ができる。


 一気に展開される2体のモンスター。
 前に行った決闘で目にしているためか、琴葉はそこまで驚かない。
「バトルです。ブラストでセットモンスターに攻撃!!」
 漆黒の槍が琴葉の場にいるモンスターへ襲いかかる。
 裏になっていたカードが表になり、白い子犬が貫かれた。

 ライトロード・ハンター ライコウ→破壊
 琴葉:8000→6400LP


 ライトロード・ハンター ライコウ 光属性/星2/攻200/守100
 【獣族・効果】
 リバース:フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する事ができる。
 自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。


「くっ」
「ライコウの効果発動だよ! わたしは、九宝院さんの場にある"黒い旋風"を破壊するね!」
 倒された子犬の体から閃光が放たれる。
 その光はモンスターを超えて、華恋の場にあるカードを消滅させた。

 黒い旋風→破壊

「破壊した後、デッキの上からカードを3枚墓地に送るね」

【墓地に送られたカード】
・ライトロード・プリースト ジェニス
・ライトロード・ドルイド オルクス
・ライト・リサイレンス

「モンスターではなく、旋風の方を破壊したんですか……」
「うん」
「……それならゲイルで直接攻撃です!」
 黒い翼が羽ばたき、疾風が巻き起こる。
 その風の圧力が琴葉へと襲いかかった。
「きゃ!」

 琴葉:6400→5100LP

「メインフェイズ2に入ります! レベル4のブラストにレベル3のゲイルをチューニング!!」
 黒羽のモンスター1体が光となって、黒槍を持つモンスターの体を包み込んでいく。

「黒き風よ舞い上がれ! 強靭な盾をその身に宿し、戦場を翔る翼になれ!!」

 光の柱が立ち、中から新たな黒翼が現れる。

「シンクロ召喚!!"BF−アーマード・ウイング"!!」


 BF−アーマード・ウィング 闇属性/星7/攻2500/守1500
 【鳥獣族・シンクロ/効果】
「BF」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
 このカードが攻撃したモンスターに楔カウンターを1つ置く事ができる(最大1つまで)。
 相手モンスターに乗っている楔カウンターを全て取り除く事で、
 楔カウンターが乗っていたモンスターの攻撃力・守備力をこのターンのエンドフェイズ時まで0にする。


「これが九宝院さんのシンクロ召喚……!?」
「ええ。以前の対戦では見せませんでしたね。これが私の本当の力です」
「すごい……! すごいね九宝院さん!」
「褒めてる暇はないはずです。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

-------------------------------------------------
 琴葉:5100LP

 場:伏せカード1枚

 手札4枚
-------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:BF−アーマード・ウイング(攻撃:2500)
   伏せカード1枚

 手札3枚
-------------------------------------------------

「わたしのターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 引いたカードを手札に加え、琴葉は相手の場を見つめる。
 相手の場には戦闘破壊が出来ないモンスターと伏せカードが1枚。
 今の手札じゃ、とてもではないが倒すことはできない。
(ここは……)
 しばらく考えて、琴葉は手札の1枚のカードに手をかけた。
「手札から"ライトロード・マジシャン ライラ"を召喚するね」


 ライトロード・マジシャン ライラ 光属性/星4/攻1700/守200
 【魔法使い族・効果】
 自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードを表側守備表示に変更し、
 相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
 この効果を発動した場合、次の自分のターン終了時まで
 このカードは表示形式を変更できない。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。


 閃光とともに現れた魔法使いが、杖を構えて相手をにらむ。
「ライラの効果発動。自分を守備表示にして、九宝院さんの場にある伏せカードを発動するよ!」
「なるほど。私の魔法・罠カードを破壊して次のターンに備えるつもりですか……」
「お願いライラ!」
 光の魔法使いが杖を構え、その先端に光が集約する。
 その光はレーザーのように一直線に華恋の伏せカードを貫いた。

 BF−マイン→破壊

「やった!」
 難なく破壊できたことを喜ぶ琴葉。
 それに対して華恋は、口元に笑みを浮かべていた。
「ひっかかりましたね鳳蓮寺さん」
「え?」
「破壊された"BF−マイン"の効果発動です!」


 BF−マイン
 【通常罠】
 セットされたこのカードが相手のカードの効果によって破壊された時、
 自分フィールド上に「BF」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 相手ライフに1000ポイントダメージを与え、自分はデッキからカードを1枚ドローする。


「あっ」
「あなたに1000ポイントのダメージを与え、私はデッキからカードを1枚ドローします」
 魔法使いが打ち抜いたカードから導火線に火のついた爆弾が現れた。
 その爆弾は琴葉の前にゆっくりと転がっていき、やがて小さな爆発を引き起こした。
「きゃあ!」

 琴葉:5100→4100LP
 華恋:手札3→4枚

「うぅ……ダメージを受けちゃったよぉ……」
 思わぬダメージに困惑しつつ、琴葉は感動していた。
 やっぱり九宝院さんは強い。しかも全力で戦いに来てくれている。
 それがとても嬉しくて、こっちもその全力に応えたいと思えた。
「さぁどうしますか?」
「……わたしはこのままターンエンドだよ。ライラの効果で、デッキの上から3枚のカードを墓地に送るね」

【墓地に送られたカード】
・ライトロード・エンジェル ケルビム
・ライトロード・ビースト ウォルフ
・救援光

「やった! 墓地に送られた"ライトロード・ビースト ウォルフ"を守備表示で特殊召喚するね!」


 ライトロード・ビースト ウォルフ 光属性/星4/攻2100/守300
 【獣戦士族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 このカードがデッキから墓地に送られた時、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。


「運がいいですね。ですが、その程度で調子に乗らないでくださいね」
「うん。分かってる」

-------------------------------------------------
 琴葉:4100LP

 場:ライトロード・マジシャン ライラ(守備:200)
   ライトロード・ビースト ウォルフ(守備:300)
   伏せカード1枚

 手札4枚
-------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:BF−アーマード・ウイング(攻撃:2500)

 手札4枚
-------------------------------------------------

「私のターンです。ドロー!」(手札4→5枚)
 5枚の手札を眺めた後、華恋は場を見つめて思考を張り巡らせる。
 さっきのターンの様子からして、相手にはこの場を逆転できるカードはない。
(でもあの伏せカードはいったい……前の私のターンでも、鳳蓮寺さんのターンでも発動されなかった。何か発動条件が
あるカード……? それとも……?)
 じっくりと考える。
 先の先の展開まで読み切って、的確なプレイングで戦う。それが自分のスタイルだからだ。
 楽しむという感情も排除して、ただ勝利だけを求めるプレイングだ。
「……よし」
 2分ほど考えて、華恋は手札のカードの手をかけた。
「いきます! 手札から"ブラックフェザー・シュート"を発動します。手札の"BF−激震のアブロオロス"を墓地に送
って、鳳蓮寺さんの場にいるウォルフを墓地へ送ります!」


 ブラックフェザー・シュート
 【通常魔法】
 手札から「BF」と名のついたモンスター1体を墓地へ送り、
 相手フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを墓地へ送る。


 ライトロード・ビースト ウォルフ→墓地

「そんな……」
「まだです。手札から"BF−極北のブリザード"を召喚!」


 BF−極北のブリザード 闇属性/星2/攻1300/守0
 【鳥獣族・チューナー】
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル4以下の
 「BF」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。


「このカードの召喚に成功したことで、墓地にいる"BF−黒槍のブラスト"を特殊召喚します」
 華恋の場に現れたモンスターの力によって、墓地に眠る仲間が呼び起こされる。
 当然、蘇生させることが目的ではない。
 本来の目的は、蘇生させた先にあるのだから。
「レベル2の"BF−極北のブリザード"に、レベル4の"BF−黒槍のブラスト"をチューニングします!!
黒き風よ舞い上がれ!! 鋭利な槍をその身に宿し、戦場を翔る翼になれ!!
 2体のモンスターが同調していき、やがて新たなモンスターへ生まれ変わって舞い降りた。
シンクロ召喚! "BF−アームズ・ウィング"!!


 BF−アームズ・ウィング 闇属性/星6/攻2300/守1000
 【鳥獣族・シンクロ/効果】
 「BF」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードは守備表示モンスターに攻撃する場合、
 ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


「に、2体目……!?」
「全力で戦うと言ったはずです! アームズ・ウイングは貫通効果を持っています!」
「えぇ!?」
「バトルです!!」
 華恋の宣言で、2体のシンクロモンスターが攻撃態勢に入った。
「アームズ・ウイングでライラに攻撃!」
「わ、わ、ちょっと待って! 伏せカード"ライトロード・バリア"を発動するよ!!」


 ライトロード・バリア
 【永続罠】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「ライトロード」
 と名のついたモンスターが攻撃対象になった時、
 自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る事で
 相手モンスター1体の攻撃を無効にする。


「デッキの上からカードを2枚墓地に送って、攻撃を無効にするよ!」
「っ……防がれてしまいましたね……」

【墓地に送られたカード】
・ライトロード・バリア
・ソーラーレイ

「それなら、カードを1枚伏せてターンエンドです」

-------------------------------------------------
 琴葉:4100LP

 場:ライトロード・マジシャン ライラ(守備:200)
   ライトロード・バリア(永続罠)

 手札4枚
-------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:BF−アーマード・ウイング(攻撃:2500)
   BF−アームズ・ウイング(攻撃:2300)
   伏せカード1枚

 手札1枚
-------------------------------------------------

「わたしの―――」
 琴葉がデッキに手をかけた瞬間―――

「はぁ、間に合って良かったぁ」

 対戦する両者の耳に、聞き覚えのある関西なまりの声が届いた。
「ヒカルちゃん!」
「ヒカル……」
 二人の視線の先には、額にわずかな汗を流して息を乱す西園寺ヒカルの姿があった。
「いやぁ思ったより時間かかってしもうてな。けど間に合って良かった」
「観戦するんですか?」
「そりゃあ親友の決闘はこの目でちゃんと見とかないといかんやろ? あ、邪魔してごめんな。続けて続けて」
 ヒカルはそう言って笑い、腰の後ろ辺りで手を組んで観戦を始める。
 華恋は大きく深呼吸して改めて気持ちを引き締める。一番、大切な友達が見てくれている。応援してくれている。
 負けられない。負けるわけにはいかない。
「さぁ、鳳蓮寺さんのターンです」
「……うん! わたしのターン、ドロー!!」(手札4→5枚)
 気持ちを切り替えて、琴葉はカードを引いた。
 相手の場には強力なモンスターが2体もいる。これ以上、守りきることはできそうにない。
 だったらもう、やるしかない。
「いくよ! "死者蘇生"を発動して、墓地にいる"ライトロード・ドルイド オルクス"を特殊召喚するね!」


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


 ライトロード・ドルイド オルクス 光属性/星3/攻1200/守1800
 【獣戦士族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 「ライトロード」と名のついたモンスターを
 魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にする事はできない。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。


「オルクスが場にいれば、私のライトロードは九宝院さんのカードの対象にならないよ!」
「伏せカード対策ですか」
「そしてライラをリリースして、"ライトロード・ドラゴン グラゴニス"をアドバンス召喚するよ!」
「……! ついにきましたか……!」


 ライトロード・ドラゴン グラゴニス 光属性/星6/攻2000/守1600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードの攻撃力と守備力は、自分の墓地に存在する「ライトロード」
 と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
 自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを3枚墓地に送る。


 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力2000→3500 守備1600→3100

「このままバトルフェイズに入るね! グラゴニスでアームズ・ウイングに攻撃!!」
 光の龍が口から炎を吐き出す。
 華恋の場にいるモンスターはかわそうとしたが一歩遅く、炎によって焼き尽くされてしまった。

 BF−アームズ・ウイング→破壊
 華恋:8000→6800LP

「きゃっ……!」
「やった!」
 シンクロモンスターを1体倒したことと、ダメージを与えたことを琴葉は喜ぶ。
 この状況なら、一気に押し切れるかもしれない。
「メインフェイズ2にカードを1枚伏せるね。そしてエンドフェイズにオルクスとグラゴニスの効果でデッキの上から計
5枚のカードを墓地に送るね」

【墓地に送られたカード】
・光の援軍
・ライトロード・サモナー ルミナス
・ライトロード・モンク エイリン
・裁きの龍
・ライトロード・ウォリアー ガロス

「……! 墓地のライトロードの種類が増えたから、グラゴニスの攻守も上がるね」

 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力3500→4400 守備力3100→4000

「攻撃力が4000を超えた……!」
「琴葉ちゃん、すごい!」
「えへへ、褒められた♪」

-------------------------------------------------
 琴葉:4100LP

 場:ライトロード・ドラゴン グラゴニス(攻撃:4400)
   ライトロード・ドルイド オルクス(守備:1800)
   ライトロード・バリア(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札2枚
-------------------------------------------------
 華恋:6800LP

 場:BF−アーマード・ウイング(攻撃:2500)
   伏せカード1枚

 手札1枚
-------------------------------------------------

「私のターンです!! ドロー!!」(手札1→2枚)
 予想以上の反撃に動揺しつつ、華恋はカードを引いた。
 前に戦った時よりもずっと強い。そしてなにより、まっすぐ自分にぶつかってきてくれる。
 諦めるわけでも避けるわけでもなく、真正面から一生懸命に立ち向かってくれる。
(なんなのでしょう……この感情は……)
 胸に手を当てて、沸き立つものの正体を考える。
 いや、考えるまでもないことだっただろう。ただ、それを認めるのが嫌なだけなのだ。
「手札から"BF−大旆のヴァーユ"を召喚します」


 BF−大旆のヴァーユ 闇属性/星1/攻800/守0
 【鳥獣族・チューナー】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードをシンクロ素材とする事はできない。
 このカードが墓地に存在する場合、このカードと墓地に存在するチューナー以外の「BF」と名のついた
 モンスター1体をゲームから除外し、そのレベルの合計と同じレベルの「BF」と名のついた
 シンクロモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。


「攻撃力800のモンスターを攻撃表示?」
「琴葉ちゃん! 気を付けてな!」
「え?」
「伏せカード発動です!!」
 華恋の場に伏せてあったカードが開かれる。


 ゴッドバードアタック
 【通常罠】
 自分フィールド上の鳥獣族モンスター1体をリリースし、
 フィールド上のカード2枚を選択して発動する。
 選択したカードを破壊する。


「ヴァーユをリリースして、鳳蓮寺さんの場にある伏せカードと"ライトロード・バリア"を破壊します!」 
 場にいる黒い翼をもったモンスターの体が燃え上がる。
 火の鳥となったモンスターはその身を焼きながら、琴葉の場に突撃する。
 防ぐすべもなく、琴葉の2枚のカードは破壊された。

 BF−大旆のヴァーユ→墓地
 ライトロード・バリア→墓地
 聖なるバリア−ミラーフォース−→破壊


 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


「うぅ、聖バリが……」
「甘かったですね、私に対して下手にカードを伏せても逆効果です」
「で、でもわたしの場には攻撃力4400のグラゴニスがいるもん!」
「そうですね。今は倒せませんが、そのうちすぐに倒して見せます。バトル! アーマード・ウイングでオルクスに攻撃
します!」

 ライトロード・ドルイド オルクス→破壊

「っ……! オルクス……!!」
「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

-------------------------------------------------
 琴葉:4100LP

 場:ライトロード・ドラゴン グラゴニス(攻撃:4400)

 手札2枚
-------------------------------------------------
 華恋:6800LP

 場:BF−アーマード・ウイング(攻撃:2500)
   伏せカード1枚

 手札0枚
-------------------------------------------------

「私のターンだね。ドロー!!」(手札2→3枚)
 引いたカードを手札に加えたあと、残りデッキ数を確認する。
 もうデッキは半分以下になっていて、これ以上長引かせるとデッキ切れを引き起こしてしまうかもしれない。
(いよいよかな……)
 そんなことを思いながら、琴葉は手札の1枚に目を向ける。
 これを使えば、ドラグーンを降臨させることが出来る。だけど今になって、破壊をつかさどるドラグーンが少しだけ怖
くなってしまう。
 でも使わなければいけないんだ。これは真剣勝負。お互いが全力で戦うって決めたんだ。
 全力で戦ってくれる九宝院さんに応えなければ、本当に楽しい決闘なんてできるわけがない!!
「わたしはデッキワンサーチシステムを使うね!!」
 デュエルディスクの青いボタンを押して琴葉は宣言する。
 自動的にカードがデッキから突出し、それを勢いよく引き抜く。(琴葉:手札3→4枚)
《デッキからカードを1枚ドローしてください》
 デュエルディスクの音声に従って、華恋はカードを引いた。(華恋:手札0→1枚)
 このタイミングでのデッキワンサーチシステムの使用。
 間違いなく何かを狙っているに違いないと華恋は警戒する。
 観戦しているヒカルも、戦局の動きに注目する。
「手札の"転生の予言"をコストに、"死者転生"を発動! 墓地にいる"裁きの龍"を手札に加えるね!」


 死者転生
 【通常魔法】
 手札を1枚捨て、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを手札に加える。


 墓地にある1枚のカードが、琴葉の手札に加わる。
(いくよドラグーン。今日はわたしと一緒に戦って!)
 心の中で語りかけ、勢いよくカードを叩きつけた。

すべての光を束ねる破壊の翼! 出てきて! "裁きの龍"!!

 フィールドに閃光が走った。
 巨大な光の柱とともに、巨大な翼をもったドラグーンが姿を現す。


 裁きの龍 光属性/星8/攻3000/守2600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
 モンスターが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
 1000ライフポイントを払う事で、
 このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て破壊する。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを4枚墓地へ送る。


 力強いその姿に、琴葉と華恋は息を呑んだ。
「これが、鳳蓮寺さんの切り札ですか……!」
「う、うん! そうだよ!!」
「なんで鳳蓮寺さんが動揺しているんですか……」
「え、と、とにかく、ドラグーンの効果発動だよ! 1000ポイントライフを払って、このカード以外の場のカードを
すべて破壊するよ!!」
「なっ!?」
 ドラグーンが咆哮をあげると同時に、光の翼が広がってフィールドを照らした。
 圧倒的な力の塊が辺りを覆い、その場にいるほとんどのカードを吹き飛ばしてしまった。

 琴葉:4100→3100LP
 ライトロード・ドラゴン グラゴニス→破壊
 BF−アーマード・ウイング→破壊
 ブラック・リターン→破壊


 ブラック・リターン
 【通常罠】
 「BF」と名のついたモンスター1体が特殊召喚に成功した時、
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択した相手モンスターの攻撃力分だけ自分のライフを回復し、そのモンスターを持ち主の手札に戻す。


「っ……! "ブラック・リターン"が……!!」
 戦闘破壊が不可能なアーマード・ウイングを盾にしつつ、次のターンでBFを特殊召喚する。
 そのタイミングで伏せておいたカードを発動すれば、琴葉の場にいるモンスターを除去しつつライフを大幅に回復する
ことができたのだ。
 だがドラグーンに効果によってその作戦はすべて崩されてしまった。
 自分のモンスターごと破壊効果の巻き添えにする思い切った戦術。
(こういう戦術もあるんですね……)
 とても自分では思いつかない戦術だと思うと同時に、再び気を引き締める。

 最初は、ただ淡々とライトロードを使っているだけの女の子だと思った。
 けどこうして本気で決闘していると分かる。自分ほど考えて動いているわけではないけど、ちゃんと勝負所や温存すべ
き戦局を見極めている。きっと直感でなんとなく分かるのだろう。
 なにより彼女の強さは、まっすぐな気持ちだ。
 今まで戦ってきた人たちはみんな、途中で投げ出したり諦める人ばかりだった。
 けど彼女は今、まっすぐ自分と向き合ってくれている。勝敗とかそんなの関係なく、全力でぶつかってきてくれる。
「……………」
 胸に湧き起ってくる感情に、身を任せたいと思ってしまう。
 でも、身を任せたらいけないような気がしてしまう。
(こういうとき、どうしたらいいんでしょうか……)
 少し途方に暮れる華恋をよそに、琴葉は次の行動に移った。

「バトルだよ!!」

 その宣言とともに、ドラグーンの口から白い炎が放出される。
 防ぐカードのない華恋は、その攻撃をまともに喰らってしまった。
「……!」

 華恋:6800→3800LP

「ターンエンドだよ!!」

【墓地へ送られたカード】
・チェンジ・デステニー
・ライトロード・シーフ ライニャン
・ライトロード・パラディン ジェイン
・ソーラーレイ

「………!」
 残りのデッキ枚数を見ると同時に、今まで墓地に送られたライトロードの数を確認する。
 ドラグーンは場に出すことは出来た。でもこれで決められるとは思えない。
(きっと九宝院さんは、ドラグーンを突破してくる……)
 そうなったとき、自分に残された最後の戦術は1つしかない。
 ドラグーンと対をなす閃光の翼を出すしかない。だけどまだ、召喚できない。
(あと、少し……あと少しだから……!)
 琴葉はまっすぐ華恋を見つめて、エンドフェイズを終了した。







episode6――二つの翼――

-------------------------------------------------
 琴葉:3100LP

 場:裁きの龍(攻撃:3000)

 手札2枚
-------------------------------------------------
 華恋:3800LP

 場:なし

 手札1枚
-------------------------------------------------


 裁きの龍 光属性/星8/攻3000/守2600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
 モンスターが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
 1000ライフポイントを払う事で、
 このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て破壊する。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを4枚墓地へ送る。


 決闘はまもなく終盤に差し掛かる。
 ライフはほぼ互角、手札もたった1枚差。だが華恋の場にカードはなく、琴葉の場にはすべてを破壊へ導くドラグーン
が君臨している。
「………………」
 圧倒的有利な状況でも、琴葉は浮かれなかった。
 きっと……いや絶対に相手はこの状況を突破してくると思っているからだ。
「鳳蓮寺さん、まさかここまでやるとは思いませんでした」
「え、九宝院さん……?」
「ですが、まだ甘いです!! 私のターン!! ドロー!!」(手札1→2枚)
 引いたカードをチラリと確認した後、華恋は真剣な眼差しで琴葉を見つめた。
(くる……!)
 向こうも勝負に出ることを感じ取った琴葉は身構える。
 でも不安はない。むしろワクワクしているくらいだ。どうやってこの状況を逆転するのか、見てみたいと思っている自
がいる。
「墓地にある"BF−大旆のヴァーユ"の効果発動! 墓地にあるこのカードとレベル7の"BF−アーマード・ウィング"
を除害して、デッキからレベル8のシンクロモンスターを特殊召喚します!!」
「え、えぇぇ!? 墓地でのシンクロ召喚!?」


 BF−大旆のヴァーユ 闇属性/星1/攻800/守0
 【鳥獣族・チューナー】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードをシンクロ素材とする事はできない。
 このカードが墓地に存在する場合、このカードと墓地に存在するチューナー以外の「BF」と名のついた
 モンスター1体をゲームから除外し、そのレベルの合計と同じレベルの「BF」と名のついた
 シンクロモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。



「黒き風よ舞い上がれ!! 戦局を変える孤高の翼を今こそ見せよ! "BF−孤高のシルバー・ウィンド"!!」
 銀色が混じった黒羽がフィールドに舞った。
 巻き起こる激しい風の中から、鋭い刃を持つモンスターが現れる。


 BF−孤高のシルバー・ウィンド 闇属性/星8/攻2800/守2000
 【鳥獣族・シンクロ/効果】
 「BF」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で存在する、
 このカードの攻撃力よりも低い守備力を持つモンスターを2体まで選択して破壊する事ができる。
 この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。
 また、相手のターンに1度だけ、このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分フィールド上に存在する「BF」と名のついたモンスターは戦闘では破壊されない。


「ヴァーユの効果によって、シルバー・ウインドの効果は無効になっています。ただの2800のモンスターですね」
「じゃあ、どうして召喚したの? 攻撃力はこっちの方が上なのに……」
「答えはこれです」
 そう言って華恋は1枚のカードを発動した。


 強者の苦痛
 【永続魔法】
 相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力は、レベル×100ポイントダウンする。


 裁きの龍:攻撃力3000→2200

「あ!」
「これでシルバー・ウインドの攻撃力が上です。バトル!!」
 華恋の場にいるモンスターが翼を広げて、刃を向ける。
 ドラグーンも負けじと咆哮をあげるが、減少させられた力では対抗できなかった。

 裁きの龍→破壊
 琴葉:3100→2500LP

「ドラグーン……!」
 カードを墓地へ送りながら、琴葉は華恋は見つめた。
 やっぱり彼女はすごい。こんな簡単にドラグーンを倒してしまうなんて……。
 でも、楽しい。とてもとても楽しい。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドです!」

-------------------------------------------------
 琴葉:2500LP

 場:なし

 手札2枚
-------------------------------------------------
 華恋:3800LP

 場:BF−孤高のシルバー・ウィンド(攻撃:2800:効果無効)
   伏せカード1枚

 手札0枚
-------------------------------------------------

「わたしの……ターン……」
 デッキの上を見つめ、琴葉は静かにターンを開始する。
 状況はかなり悪い。切り札であるドラグーンが倒されてしまった。
 手札の中にある”もう1つの切り札”も、召喚条件を満たすことができていない。
 つまり、このドローでなんとかするしかない。
「はぁ……ふぅ……」
 大きく深呼吸する。梓先生に教えてもらった、緊張を無くす方法。
 緊張が解けたところで何も変わらないと思うけど、何もやらないよりはマシだった。

「はぁ……ふぅ……」

 何度も深呼吸する。
 だけど、やっぱり緊張はなくならない。当然だと思う。負けるかどうかの瀬戸際なのだから。
「鳳蓮寺さん」
 柔らかな声が、琴葉の耳に届く。
「九宝院さん……」
「どうしたんですか? あなたのターンですよ?」
 凛とした態度で、華恋が問いかける。
 もう少し待ってくれてもいいのに……と、心の中で文句を言ってみる。
 でも彼女の言い分は正しい。ターンが始まったのにドローすらしていないで考え込んでいるんだから。
「わたしの―――」



「琴葉ちゃん、がんばれー!!」



「!?」
「え?」
 戦う二人の耳に届いた声援。
 しかもその声は1人のものだけではない。

「まだまだいけるよ! 大丈夫大丈夫!」
「相手は効果無効になってるんだから、なんとかなるって!!」
「おい鳳蓮寺ぃ!! この影山玲雄様を倒したんだから負けんじゃねぇ!!」

 クラスメイトや他クラス、さらには他学年の生徒が二人の決闘を観戦していた。
 決闘に夢中になっていたせいで、観戦人数が増えていたのに気付かなかったのだ。
「ヒカルちゃん……みんな……!」
 応援の声が、心を温かくしてくれる。
 胸の緊張が……消えていく。

(梓先生……緊張を無くす方法って、他にもあったんだね)

 デッキの上に手をかける。
「わたしのターン………ドロー!!!」(手札2→3枚)
 引いたカードを、恐る恐る確認する。
 周りにいるみんなも、緊張の瞬間を味わった。
「……!」
 琴葉の瞳に、光が宿る。
 これで、この状況を逆転することが出来る!
「手札の"ライトロード・スピリット シャイア"をコストに、"ライトニング・ボルテックス"を発動するね!!」


 ライトニング・ボルテックス
 【通常魔法】
 手札を1枚捨てて発動する。
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。


 ライトロード・スピリット シャイア→墓地(コスト)

「この効果で、シルバー・ウインドを破壊するよ!!」
「「「「おおぉぉ!!」」」」
 辺りから歓声が沸く。
 だが華恋はたいして動揺もせずに、伏せておいたカードを発動した。


 我が身を盾に
 【速攻魔法】
 1500ライフポイントを払って発動する。
 相手が発動した「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つ
 カードの発動を無効にし破壊する。


 華恋:3800→2300LP

「「「「うわあぁぁぁ!!!」」」」
 歓声が悲鳴に変わる。
 フィールドを襲う雷が、不思議な壁に阻まれて消滅する。
 当然ながら、華恋の場に存在するモンスターは無傷だ。
「残念でしたね。たまたまこのカードが引けて、助かりました」
 勝利を確信して、華恋は安堵の息を吐いた。
 これでいい。ギリギリだったけど、いつもどおり勝つことが出来た。
 そう、これで―――

「まだだよ!」

 琴葉は叫ぶ。
 その場にいる全員が、驚愕の顔を浮かべた。
「まだ、わたしのターンは終わってない!」
「どうするつもりですか? あなたに残されたのは、その1枚のカードだけ……それでこの状況を逆転できるとでも言う
つもりですか?」
「うん! 出来るよ! さっきの"ライトニング・ボルテックス"は、九宝院さんのカードを破壊したかったんじゃないも
ん。手札にあったシャイアを墓地に送りたかったんだよ」
「どういう……ことですか?」
 たった1枚残った手札を見せつけながら、琴葉は言葉を続ける。
「分かってると思うけど、この1枚はデッキワンカードだよ」
「ええ。ですが今まで使用する気配がありませんでした。ですから………まさか……!?」
「えへへ。そうだよ。このカードを召喚するためには墓地にライトロードって名前のついたカードが15種類以上ないと
ダメだったの」
「鳳蓮寺さんは……"ライトニング・ボルテックス"のコストでシャイアを捨てたことで、その条件を満たしたってことで
すか?」
「うん!!」
 大きく頷き、琴葉はその1枚を掲げる。
 自分の想いを伝えるため、真正面から向き合うため、召喚するカード。
 ドラグーンと対をなす、ライトロードデッキの正真正銘最後の切り札!

「すべての光を導く浄化の翼!! 聖なる光を開放して!! "聖光の天馬(ホーリーライト・ペガサス)"!!!」

 琴葉のフィールド全体が光輝く。
 光の粒が無数に浮き上がり、一つに集約していく。
 神々しい光を体に纏い、背中に生えた真っ白な翼。
 まるで絵本の中から出てきたような、幻想的な天馬が降臨した。
「な、なんやあれ……」
「すごく綺麗……」
「乗ってみたい……」
 観戦している全員が、現れた未知のモンスターに対して感想を述べる。
 琴葉と華恋も、神秘的な天馬に見惚れてしまう。
「すごい……」
「なんて、綺麗な……」
 二人ともハッとなる。
 まだ決闘中だというのに、決闘していることを忘れてしまいそうだった。
「あ、えっと、その、召喚したんだけど……」
「あ、はい。えーと、了解です」
 どこかぎこちない会話をする。
 互いにモンスターに見惚れてしまったことを悟られたくなかったのだ。
「えっと、いくよ!! 九宝院さん!!」
「は、はい!!」
「"聖光の天馬"の効果発動!! ライフポイントを半分にして、お互いのフィールド、手札、墓地、除外されてるカード
をデッキに戻すよ!!」
「なっ!?」


 聖光の天馬(ホーリーライト・ペガサス) 光属性/星10/攻?/守?
 【獣族・効果・デッキワン】
 「ライトロード」と名のつくカードが20枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に「ライトロード」と名のついたカードが15種類以上存在する場合のみ特殊召喚することができる。
 1ターンに1度、ライフポイントを半分にすることで、
 このカードを除く、場、墓地、除外、手札に存在するカードをすべてデッキに戻す。
 この効果は他のカードの効果を無視して適用され、チェーンすることはできない。
 このカードの攻撃力と守備力は、この効果でデッキに戻したカードの数×200ポイントになる。
 この効果を使用したとき、相手はデッキからカードを2枚ドローする。



 琴葉:2500→1250LP

 天馬が高く羽ばたき、体から眩い光を発する。
 その光はフィールドのすべてを飲み込み、今までの戦いで散った仲間たちを転生させていく。

「さらにペガサスはこの効果でデッキに戻した数×200ポイントの攻撃力と守備力になるんだよ。戻ったカードは全部
で41枚!! だから―――」

 聖光の天馬:攻撃力?→8200 守備力?→8200

「そ、そんな……攻守が8200……!?」
「これだけじゃないよ。ペガサスの効果を使ったら、九宝院さんはデッキからカードを2枚ドローしていいんだ」
「……では、お言葉に甘えて……」
 ペガサスの強力な効果を肌で感じながら、華恋はカードを引く。(手札0→2枚)
 今までの戦いを完全にリセットする効果。発動されたら防ぐ術のない効果は、まさに切り札にふさわしいと思った。

「な、なんて効果なんや……」
「でもこれで、九宝院の場はがら空き……」
「"黒羽の女王"に……勝てる……!?」

「バトルだよ!! ペガサスで九宝院さんに直接攻撃!!」
 莫大な光を宿した天馬が、翼を広げる。
 そこから放たれる輝かしい光が、華恋の体を飲み込んだ。

「「やった……!!」」

 小さな歓声が上がる。
「…?」
 だが対峙している琴葉は、かすかな異変に気づいていた。













 華恋:2300LP


「ライフが……減ってない……!?」
 天馬の光が止み、巻き上がる粉塵の中から華恋が現れた。





「本当に……危なかったです」

 そう言って華恋は、墓地にある1枚のカードを見せた。


 BF−熱風のギブリ 闇属性/星3/攻0/守1600
 【鳥獣族・効果】
 相手が直接攻撃を宣言した時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、このカードの元々の攻撃力・守備力をエンドフェイズ時まで入れ替える事ができる。


「あなたの直接攻撃宣言時に、このカードを守備表示で特殊召喚してダメージを防ぎました」
「………!!」
 相手ターンに手札から特殊召喚されるモンスター。
 そんなカードがあるなんて……やっぱり決闘は面白いと琴葉は思った。
「えへへ、防がれちゃったね。わたしはこれでターンエンドだよ」

-------------------------------------------------
 琴葉:1250LP

 場:聖光の天馬(攻撃:8200)

 手札0枚
-------------------------------------------------
 華恋:2300LP

 場:なし

 手札1枚
-------------------------------------------------

「……………」
 自分のターンになったにもかかわらず、華恋は動こうとしない。
 琴葉も含め、観戦者の全員が彼女の様子を不審に思った。

(……どうしよう……)

 顔を伏せて、華恋は拳を握りしめていた。
 このままでは負けてしまう。さっきはたまたまギブリを引けたから防ぐことが出来た。
 でも次は? 防ぐ方法があるのだろうか?
(……いやだ)
 負けたくない。負けたら、みんなに嫌われちゃう。
 せっかくずっと勝ってきたのに。みんなからの期待に応えられるように頑張ってきたのに……。

『負けるなよ"黒羽の女王"!!』
『あなたは勝って当然なんだから、負けは許されないんだよ!』

 やめて。そんなこと言わないで。
 本当は……期待をかけられるほど強くないのに……。

『負けたら許さないから』
『嫌いになっちゃうよ』

 お願い。やめて。嫌いにならないで。私はみんなと仲良くしたいのに。

 助けて……ヒカル。

 助けて………鳳蓮――――


「華恋!」
「九宝院さん!」

 二人の声が、聞こえた。
「なんや、ま〜た考え込んでんの?」
「ヒカル……でも、私……」

「心配せんでもええよ。うちはずっと、あんたの味方や。せやから、そない顔せんでもええよ?」

 親友の優しい微笑み。
 それが今の自分にとって、どれほど救いになっただろうか。

「九宝院さん! わたしね、今、とっても楽しいよ」
「鳳蓮寺さん……」
「前に戦ったときはすぐに負けちゃったけど、今日は本当に楽しいよ♪ 九宝院さんがすごく強くて、頑張って負けない
ようにして……ドラグーンもすぐに倒されちゃったけど……でも、わたし、とっても楽しいよ!」
「楽しい……決闘ですか……?」
「うん! だから、もっともっとしたい! 九宝院さんと友達になって、もっとドキドキして、ワクワクしたい!」

 まっすぐで、純粋な言葉。
 それが今の自分の心に、どれほど深く響き渡っただろうか。

「……決闘を……楽しむ……」
 ポツリと、呟く。
 強さばかり追い求めて、目を背けていたこと。逃げていたこと。
 『強さしかいらない』と言って、相手から楽しくないと言われることの痛みから逃げていたこと。
(……いいのかな。私も……)
 ずっと胸の奥底に隠していた気持ち。
 琴葉との決闘を進めるたびに、膨れ上がっていた気持ち。

「ヒカル……強くない私でも……許してくれる?」

 その問いに、ヒカルは間も置かずに笑顔で答える。

「許すもなにも、どんな華恋だって、うちは大好きや♪」

「……ありがとう」
 目を閉じて、大きく息を吸う。
 なんだか、とても気が楽になった。

 もう、辛い幻を見せる言葉は聞こえない。
 聞こえるのは―――

「九宝院さんも頑張ってー!!」
「まだ逆転できるよぉ!!」

 聞こえるのは―――みんなからの応援だけ。
 不思議だ。心が晴れ晴れとしている。
 何のしがらみもない。体がとても軽やかに感じた。

「鳳蓮寺さん……私も……あなたと同じ気持ちです」
「え?」
「あなたとの決闘が……楽しくて、もっともっと、続けたいです!」
「……!」
「私のターン!!」
 デッキの上に手をかけて、願いを込める。
 ここで負けたくない。終わらせたくない。
 勝たなきゃいけないとか、みんなから嫌われたくないからとか、そんな理由じゃない。
 全力でぶつかりあうこんな楽しい決闘を、もっともっと楽しみたいから。
 あっけない幕切れで、終了させたくないから!!

「ドロー!!」(手札1→2枚)

 引いたカードを確認した華恋は、静かに笑みを浮かべた。
「デッキワンサーチシステムを発動します!」
 デュエルディスクの青いボタンを押して、華恋はデッキからカードをサーチした。(手札2→3枚)
《デッキからカードを1枚ドローしてください》
 ルールに従い、琴葉はデッキからカードを引く。(手札0→1枚)
「いきます! 手札から"BF−極北のブリザード"を召喚!! その効果で墓地のギブリを特殊召喚!!」


 BF−極北のブリザード 闇属性/星2/攻1300/守0
 【鳥獣族・チューナー】
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル4以下の
 「BF」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。


 BF−熱風のギブリ→特殊召喚(守備)

「さらに場にBFがいるので、"BF−疾風のゲイル"を特殊召喚!!」
「っ!」


 BF−疾風のゲイル 闇属性/星3/攻1300/守400
 【鳥獣族・チューナー】
 自分フィールド上に「BF−疾風のゲイル」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、相手モンスター1体の攻撃力・守備力を半分にする事ができる。


 一気に並び立つ3体のモンスター。
 何もない状況から、あっという間に場を整えてしまうなんて、やっぱりすごいと琴葉は思った。
「ゲイルの効果発動!! "聖光の天馬"の攻守を半分にします!!」
「……!!」

 聖光の天馬:攻撃力8200→4100 守備力8200→4100

「でも、まだ攻撃力が4000以上あるよ!」
「もちろん分かってます。だから私も、デッキワンカードを使わせていただきます!! 場にいるすべてのBFをリリー
スして、このカードを特殊召喚!!」
「えぇ!?」

「黒き風と共に舞え!! 勝利を導く栄光の翼!! "BF−栄光のゴールド・ウインド"!!」

 吹き荒れる突風と共に、巨大な黒翼をもったモンスターが現れる。
 6本の羽が背にあり、両手にはそれぞれ鋭い槍が握られている。さっき現れたシルバー・ウインドよりも一回り大きい
体で、肩と胴体には漆黒の宝石が身に着けられている。
「か、かっこいい……!!」
「ゴールド・ウインドの効果!! このカードの特殊召喚のためにリリースしたモンスターの攻守と効果を、すべてこの
カードに加えます!!」
「えぇぇぇ!?」


 BF−栄光のゴールド・ウィンド 闇属性/星10/攻?/守?
 【鳥獣族・効果・デッキワン】
 「BF」と名のついたカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードは通常召喚できない。
 自分の場に表側表示で存在する「BF」と名のついたモンスターを
 任意の数リリースすることでのみ特殊召喚できる。
 このカードの特殊召喚時にリリースしたモンスターの元々の攻撃力と守備力、効果をこのカードに加える。
 「BF」と名のついたカードが破壊されるとき、墓地に存在する「BF」と名のついたカードを
 1枚除外することで、その破壊を無効にする。


 BF−栄光のゴールド・ウインド:攻撃力?→2600 守備力?→2000

「ゲイルの効果を受け継いだゴールド・ウインドの効果を使い、もう1度"聖光の天馬"の攻守を半減させます!」

 聖光の天馬:攻撃力4100→2050 守備力4100→2050

「攻撃力が、逆転しちゃった……!?」
「バトルです!!」
 華恋の命令を受けて、漆黒の翼を広げるモンスター。
 それに対抗しようと真っ白な翼を広げる天馬。
 巨大な二つの翼がぶつかり合い、やがて大きな爆発を引き起こした。
「きゃあ!」

 聖光の天馬→破壊
 琴葉:1250→500LP

 倒されてしまった天馬が光の粒となって消えていく。
 勝利した漆黒の翼をもつモンスターは、ゆっくりと主人のもとへ舞い戻った。
「……!! すっごい! やっぱりすごいよ九宝院さん!!」
「えっ、いや、そ、それほどでも……」
 頬を少し赤く染めて、顔を逸らす華恋。
 ヒカルはその様子を見て、クククと笑っている。
「た、ターンエンドです……」

-------------------------------------------------
 琴葉:500LP

 場:なし

 手札1枚
-------------------------------------------------
 華恋:2300LP

 場:BF−栄光のゴールド・ウインド(攻撃:2600)

 手札0枚
-------------------------------------------------

 激しい決闘に、あたりから歓声が沸く。
 早めに決着がついた他の対戦者たちも、二人の決闘を見て心を熱くさせている。
「なんや、めっちゃ盛り上がってきたなぁ」
 そんな光景を見ながら、ヒカルは静かに呟いた。

「いくよ!! わたしのターン、ドロー!!」(手札1→2枚)
 かなり不利な状況でも、琴葉はまっすぐに相手を見つめる。
 とても楽しそうな顔。さっきまで険しい表情で戦っている彼女とは違う。本当に心から、自分との決闘を楽しんでくれ
ている。
 ずっとこんな時が来てほしいって思ってた。
 そしてだからこそ、負けたくない。全力で戦って、勝ちたい。
「手札から"ライトロード・パラディン ジェイン"を召喚!」


 ライトロード・パラディン ジェイン 光属性/星4/攻1800/守1200
 【戦士族・効果】
 このカードは相手モンスターに攻撃する場合、
 ダメージステップの間攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。


 現れた光の騎士。手に持った剣を構えて、黒い羽根を舞い散らす相手をにらむ。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド! エンドフェイズにデッキからカードを2枚墓地へ送るね」

【墓地へ送られたカード】
・ライトロード・ハンター ライコウ
・ライトロード・ドラゴン グラゴニス


 ターンが華恋へと移行する。


「私のターン、ドロー!!」(手札0→1枚)
 引いたカードを確認した後、華恋はすぐさまバトルフェイズに入った。
「いきます! 鳳蓮寺さん!」
「うん!」
 漆黒の翼を揺らし、強烈な風が吹き荒れる。
 剣を構える光の騎士は、その強風に吹き飛ばされてしまった。
「伏せカード、"ガード・ブロック"を発動だよ!!」


 ガード・ブロック
 【通常罠】
 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 ライトロード・パラディン ジェイン→破壊
 琴葉:手札0→1枚

「まだ負けないよ!!」
「はい! 私も全力で、あなたを倒してみせます! ターンエンドです!!」

-------------------------------------------------
 琴葉:500LP

 場:なし

 手札1枚
-------------------------------------------------
 華恋:2300LP

 場:BF−栄光のゴールド・ウインド(攻撃:2600)

 手札1枚
-------------------------------------------------

「わたしのターン! ドロー!!」(手札1→2枚)
 引いたカードを確認し、すぐさま琴葉は発動する。


 ソーラー・エクスチェンジ
 【通常魔法】
 手札から「ライトロード」と名のついたモンスターカード1枚を捨てて発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る。


「手札の"ライトロード・ビースト ウォルフ"を捨てて2枚ドロー! そのあとデッキからカードを2枚墓地へ送るね」

 ライトロード・ビースト ウォルフ→墓地
 琴葉:手札1→0→2枚

【墓地へ送られたカード】
・ライトロード・バリア
・ライトロード・マジシャン ライラ

 新たに引いたカードを見つめ、琴葉は満開の笑みを浮かべた。
(なにか……くる……!)
 華恋は警戒し、身構える。
 周りの観客も何かを感じ、ざわついた。
「墓地に4種類以上のライトロードがいるから、"裁きの龍"を特殊召喚!!」
 輝く光の柱。
 閃光と共に再び現れたのは、破壊を導くドラグーン。


 裁きの龍 光属性/星8/攻3000/守2600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
 モンスターが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
 1000ライフポイントを払う事で、
 このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て破壊する。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを4枚墓地へ送る。


「そのモンスター……!」
「えへへ、引けちゃった♪」
「はい! さすがです鳳蓮寺さん! でも、そのドラグーンの効果は使えませんよ?」
 ドラグーンが破壊効果を使うためにはライフポイントを1000ポイント払う必要がある。
 だが琴葉のライフは500であるため、その効果は使用できない。
「でも、攻撃力はこっちの方が上だよ!」
「ですが、ゴールド・ウインドは墓地のBFを除外して破壊を回避することが出来ます。そして次のターンにコピーした
ゲイルの効果で攻守を半分にして攻撃すれば、あなたの負けです」
「そうだね。でもこのカードなら―――!!」
 そう言って琴葉は、手に残った最後の1枚を叩き付けた。


 レインボー・ヴェール
 【装備魔法】
 装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、
 バトルフェイズの間だけその相手モンスターの効果は無効化される。


「……!」
「これを装備したドラグーンなら九宝院さんのデッキワンカードを倒せるよ!!」
 ドラグーンの体を虹の光が覆い、神秘的な光を宿らせる。
 その白い羽根が羽ばたく度に虹色の光の粒が辺りに散らばっていく。
「そのカードは、装備モンスターがバトルするとき、戦闘する相手モンスターの効果をすべて無効にする……」
「うん。だから九宝院さんのモンスターの攻撃力も効果も全部なくなっちゃうよね?」
「……はい。その通りです」
 体から力を抜き、静かに答える華恋。
 これが最後の攻撃と言わんばかりに、琴葉は力強く攻撃を宣言する。
「バトル!!」
「……迎え撃ってください! ゴールド・ウインド!!」
 虹の光を宿した琴葉のモンスターが羽ばたき、華恋が従える黒き翼へ向かう。
 対する黒き翼も、精一杯の力を振り絞り立ち向かう。

 白と黒。二つの翼が再び激突する。
 最初はほぼ均衡しているように見えたが、ドラグーンの体を覆う虹の光が強く輝くと同時に異変が起きた。
 黒き翼をもったモンスターの体から、急速に力が抜けていく。

 BF−栄光のゴールド・ウインド:攻撃力2600→0 守備力2000→0 効果無効

「鳳蓮寺さん」
 2体の激突の最中、琴葉の耳に聞こえた小さな声。
 とても優しく、どこか安心したような声。

「あなたの……勝ちです!」

 ―――次の瞬間、閃光がフィールドを飲み込んだ―――。

 BF−栄光のゴールド・ウインド→破壊
 華恋:2300→0LP



 華恋のライフが0になる。



 こうして決闘は、終了した。






 場を支配していた閃光が収まっていく。
 華恋は俯いたまま、動かなかった。
(……全力で戦ったけど、負けた……)
 悔しい気持ちもある。だけどどこか清々しい気持ちもある。
 楽しい決闘だった……本当に、本当に……。

 ポタ…ポタ……

 自分の足元に、透明な雫が落ちる。
「あれ……なんで……?」 
 悲しくなんかないのに、楽しい決闘だったのに、瞳から流れる”これ”は一体何なのだろう。

「九宝院さん」

 すぐ近くで、優しい声がした。
 少しだけ顔を上げると、琴葉が右手を差し出しながら立っていた。
「っ…鳳蓮寺さん……これは……?」
「決闘した相手とは、最後に握手するんだよって梓先生が教えてくれたんだよ♪」
「あ、そうですね……」
 泣き顔を見せたくないがため、自然と視線を下へ向ける。
 それでもしっかりと握ったその手の温かさが、とても心地いい。
「ほ、鳳蓮寺さん……あ、あの――――」


「すっごいよ二人とも!!」
「本当に凄い凄い!!」
「とっても感動しちゃった!!」
「俺も負けてらんねぇな!!」


 華恋の言葉を遮るように、観戦していたクラスメイトが一斉に押し寄せた。
 たったさっきまで対戦していた二人を中心に、大きな集団が形成される。
「本当に凄いよ鳳蓮寺さん!!」
「九宝院さんも、惜しかったね!!」
「いやぁ、本当に歴史に残る決闘だったって!! 絶対に!!」
 まるで”おしくらまんじゅう”のように人だかりができる。
 あまりに大勢の人だかりにもみくちゃにされ、琴葉の言葉も華恋の言葉もかき消されてしまう。

《こら!! そこの集団!! まだ1回戦は続いているんですから静かにしてください!!》

 マイクを持った教頭先生が怒鳴りつける。
 蜘蛛の子を散らすように、琴葉と華恋を中心に出来ていた集団は解散していった。


 そして残されたのは、多人数に囲まれたせいでぐったりしている琴葉と華恋。二人の横でケラケラと笑っているヒカル
と数名のクラスメイトだけだ。
「なははは、二人とも人気者やな」
「ヒカル、他人事じゃないです……」
「わ、笑わないでよヒカルちゃん……」
「なはは、ごめんごめん。せやけど、ホントに良い決闘やったよ? うちも感動してもうたしな」
 ヒカルの笑う姿につられて、二人も少しだけ笑顔になる。
 華恋は笑顔のまま、もう1度、琴葉の手をギュッと握った。
「……? 九宝院さん?」
「あ、あの、鳳蓮寺さん……そ、その…楽しかった……ですね」
「うん♪ またやろうね♪」
 満面の笑みを受けて、華恋の口はさらに固くなってしまう。
 楽しかったのは事実だし、またやりたいのも事実だ。けど言いたいことは、もっと別なこと。もっと単純で簡単な言葉
なのに……なぜか言いづらい。
「ヒカル、どうしよう……」
 たまらず幼馴染に助けを求めてしまう。
 当然ながら、聞かれた本人は訳も分からず首を傾げる。
「どうしようって……何が?」
「だから……!!」
 必死に手招きして、ヒカルをすぐ近くまで呼び寄せる。
 その耳元で、琴葉に聞こえないように囁いた。
「ふむふむ……ぷっ」
 それを聞いて、ヒカルは噴き出す。
 あまりに単純で馬鹿馬鹿しい相談内容に、笑いを堪えることが出来なかったのだ。
「わ、笑わないでよヒカル!」
「なはははは、いやぁ、ホンマにごめんなぁ。はははは、ホンマに華恋はかわええなぁ」
「……ヒカルちゃん、どうしたの?」
「いやな、華恋がな、琴葉ちゃんと友―――」
「だ、ダメ!! それは私が言うんです!!」
「そうかぁ? 無理せんでもええんよ?」
 意地悪げな笑みを浮かべるヒカル。
 このままだと言われてしまうと判断したのだろう。華恋は意を決して、琴葉と向き合う。

 強さだけを求めて、逃げていた自分にまっすぐぶつかってきてくれた。
 どんなときだって純粋な瞳で、想いを伝えてきてくれた。

「あの……鳳蓮寺さん」
「なに?」
「わ、私と……」

 だから自分も、向き合いたい。
 まっすぐに気持ちを伝えてくれた相手と、もっと気持ちを通わせたい。


「私と……友達になってくれませんか?」


「ぇ」
「……!」
 華恋の顔が恥ずかしさによって真っ赤になる。
 今すぐにでも逃げ出したい気持ちになるし、隣でヒカルがクスクス笑っている。
「あの、えと―――」
 慌てふためく華恋に、琴葉は抱きついた。
 突然、ギュッと抱きしめられたせいで驚いてしまう。
「え、ほ、鳳蓮寺さん……!?」
「嬉しい!!」
「は、はい?」
「わたし、九宝院さんと……友達になりたいって思ってたの。だから、本当に嬉しいの!!」
 心の底から、琴葉は喜ぶ。
 逃げないで良かった。気持ちを伝えてよかった。

「なんや二人とも〜、うちも混ぜて〜な♪」

 ヒカルも二人へ覆いかぶさる形で抱きつく。
 端から見れば、それはとても奇妙な光景に見えただろう。
「いやぁ華恋も素直になったことやし、めでたしめでたしやな♪」
「ヒカルちゃん、まだ大会は終わってないよ?」
「鳳蓮寺さんの言うとおりです」
「なんや、二人してうちのこと苛めるんか? それにせっかく友達になったんに、お互いを苗字で呼び合うってのは無し
にせぇへん?」
「……うん♪ それもそうだね。じゃあ、これから九宝院さんのこと、華恋ちゃんって呼んでもいい?」
「あ、はい。じゃあ私も、琴葉さんって呼んでも……?」
「うん! よろしくね華恋ちゃん!!」
「こ、こちらこそ、琴葉さん……」

 まだ下の名前で呼び合うのは気恥ずかしい。
 だがそれも、時間が解決してくれることだろう。



《第1回戦がすべて終了しました。5分後に第2回戦を開始するので、児童は指定の場所へ移動してください》



 全校放送で流れる、校長先生の声。
 今はこれ以上、一緒にいるのは難しいらしい。

「ほな、うちらも次の対戦しに行こうか?」
「そうだね」
「じゃあ、またあとで……ですね」
「うちと琴葉ちゃんは5回戦で当たるみたいやから、またそのときにな?」
「じゃあ私も、その対戦見に行きますね」
「え? でも華恋ちゃんも対戦があるんでしょ?」
「大丈夫です。5回戦は影山君なので、すぐに終わらせてきます」
「うわぁ、華恋さんホンマに怖いわぁ〜」


 それから、大会は何事もなく無事に進行されて、1〜3年生のブロックは終幕を迎えた。

 琴葉の戦績は3勝2敗。
 華恋の戦績は4勝1敗。
 ヒカルの戦績は5勝0敗だ。

「また戦績でヒカルに勝てなかった……」
「なはは、まぁ華恋もまだまだってことやな♪」
「……うぅ、ヒカルちゃん、女神モードなんてずるいよぉ……」
 各々が大会の思い出を語りながら、笑いあう。
 午後からは普通の授業が待っているが、それらの思い出のせいで、ほとんど頭に入らないだろう。


「さて、みんな、午前中はお疲れ様。これからは楽しい楽しいお勉強の時間です♪」

 梓が教壇に立ち、児童たちを一通り見まわす。
 全員が笑顔になっていることを確認して、手に持った算数の教科書を開いた。
「今日は4桁の計算を教えますね。これができれば、遊戯王のライフ計算も楽になりますよ」
「「「「はーい」」」」
 全員が教科書を開くなか、琴葉はヒカルと華恋に目配せをする。
 二人とも優しい笑みを返してくれて、自分も自然と笑顔になった。

 机に忍ばせておいたデッキから、2枚のカードを取り出し見つめる。

(ありがとう……ドラグーンとペガサス)

 神秘的な光を放つ姿を思い浮かべながら、琴葉は心の中で礼を言う。
 このカードがあったから、最後まで戦えた。
 まっすぐ前を向いて、自分の気持ちを伝えきることが出来たのだ。

(帰ったらママに返しちゃうけど、もしまた機会があったら、一緒に戦ってね)


「鳳蓮寺さん、この問題を黒板でやってもらえるかな?」
「あ、はい!」
 先生の声に、琴葉は大きな声で答えた。







――エピローグ――

 ピピピピピピピピ………!!

 目覚まし時計が鳴った。
「う、うぅん……」
 ベッドに潜り込んでいた少女は手を伸ばして、アラームをオフにする。
 まだ眠たい気持ちでいっぱいだが、そのまま眠るわけにはいかない。
 ベッドのそばに用意された服に着替えて、いつもどおりリビングへ向かう。
「琴葉、おはよう」
「おはようございます」
「うん……ママも吉野も、おはよう……」
 半ば寝ぼけた状態で朝の挨拶をする。
 なんとかテーブルの席について、用意されている食事へ目を向ける。
「昨日はずいぶんと長く起きられていたようですが、大丈夫ですか?」
「琴葉、夜更かしはいけませんよ?」
「はーい」
 大人2人に軽く説教されて、琴葉はうなだれる。
 昨日のイベントのことが頭に残り、興奮して寝つけなかったのだ。
「では、そろそろいただきましょうか」
「そうですね吉野」
 3人は手を合わせて、いつもどおり食事を開始する。
「あれ? そういえば武田は?」
「武田は今日もスターの方に出向いています。夕方には帰ると思いますよ」
「……お仕事、大変なんだね」
「ええ。ですがもうすぐ一段落すると思うので、4人で食卓へ着ける日も近いですよ」
「そっか♪ じゃあ楽しみだね♪」
 吉野も武田も、家族の一員と考えている琴葉はそう言って笑った。




 朝食が食べ終わり、荷物をまとめ終わったころ、玄関口でインターホンが鳴った。
「はい。どちらさまですか?」
 吉野が対応しようとインターホン専用受話器を取る。
 小型モニターには茶髪のポニーテールに黒縁メガネをかけた少女と、黒髪ツインテールの少女が映っていた。
《えーと、琴葉ちゃんのおうちはここでよろしかったですか?》
「……すみません、どちらさまですか?」
《え、えと、うちは琴葉ちゃんの友達の西園寺ヒカルで、こっちにいるのが九宝院華恋ゆうんですけど……》
「少々お待ちください」
 そう言って吉野は受話器の会話口を手で押さえて、琴葉を呼ぶ。
 モニターに映った2人の少女の姿を確認させた。
「お友達ですか?」
「うん♪」
「分かりました。では、すぐに行くと伝えますね」
 再び吉野は受話器を取って語りかける。
「もうすぐ琴葉が行きますので、少しだけお待ちいただけますか?」
《ホントですか? ほなうちらは待ってますんで》
「では失礼します」
 受話器をもとの位置に戻して、一息つく。
「琴葉のお友達ですか?」
「はい。どうやらそのようです」
「あらあら、じゃあ、お見送りしましょうか」
「そうですね」
 琴葉を見送るべく、咲音と吉野も玄関へ向かう。
 扉を開けると、モニターに映っていた2人の少女が待っていた。
「ヒカルちゃん、華恋ちゃん、どうしてわたしの家が分かったの?」
「いやぁ華恋がどうしても3人一緒に登校したいってゆうてな。あずにゃん先生に教えてもらったんよ」
「ひ、ヒカル! それは秘密だって……!」
「えへへ、ありがとう華恋ちゃん♪」
「え、いや、その、友達……ですから」
 照れながら視線を逸らす幼馴染を見ながら、ヒカルは心の中で大笑いする。
「琴葉、そろそろ行かなければ遅刻してしまいますよ?」
「あ、いけない! じゃあわたし、行くね!!」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃいませお嬢様」
「うん! いってきます!!」
 はじける笑顔で挨拶をして、琴葉は友人の手を掴む。
 掴まれた2人もそれに応じて、堅く手を繋いだ。




「良かったですね、咲音」
「ええ。これからも、たくさんの友達をつくってくれるといいですね」
 見送る2名は、互いの手を強く握る。
 視線の先で楽しそうに笑いながら登校している少女は、これからも成長していく。
 ちゃんと自分たちが、道を踏み外さないように導いてあげなければならない。
「頑張りましょうね、吉野」
「はい。咲音」
 そうして2人は、自分たちの屋敷に戻っていった。



「それでな、華恋がな………」
「だからヒカルってば、ばらさないでよ」
「えへへ、やっぱりヒカルちゃんも華恋ちゃんも面白いね♪」

 楽しく会話しながら、仲良く手をつなぎながら、少女たちは歩き出す。

 辛いことや悲しいこと、楽しいことや嬉しいこと。

 色んなことが待っている未来へ向かって、きっとこれからも、少女たちは様々なことを学んでいくことだろう。











 おわり










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