消え行く創造者完結編 最強デッキVS最弱デッキ

製作者:ヘルグレファー9骨さん




 御門光ら龍星高校遊戯王カード部は、コナミ本社に社会見学に来ていた。
「よくぞいらっしゃいました。私がコナミデジタルエンタテイメント社長の烏丸黒司です。今日はごゆっくり見学していってください」
「あっ、烏丸さんはコナミの社長さんだったんですね」
「ええ、まあ、最近就任したばかりですが」
「烏丸さんといえば、デュエルディスクの開発者としても有名ですよね」
 武が手を上げて言った。
「ええ。原作さながらのデュエルを皆さんに楽しんでいただこうと、高橋和希さんの協力を経て私がソリッド・ビジョンとデュエルディスクを開発しました」
「へえー、そうなのか。まさにリアル海馬社長ってわけだな!」
 中太郎が言った。
「さあ、それではOCG開発室にご案内しますね」
 そうしてビルに入った光達だが、連れてこられたのは地下の決闘場であった。
「あの、これは一体……」
 光が尋ねると、烏丸はくすっと笑う。
「ここは毎月社内大会が開かれる決闘場ですよ。せっかくコナミに来たんですから、ここで私とデュエルしていきませんか? 御門光さん」
「ええっ、私ですか!?」
「凄いじゃない御門さん! コナミの社長とデュエルできるなんて! やっていきましょうよ!」
 突然の指名にびっくりする光だが、天野が喜ぶので決闘場に向かっていく。
「デッキは持ってらっしゃいますよね。デュエルディスクはこちらでご用意致します」
 烏丸はそう言って壁に掛けられたデュエルディスクを光に手渡す。デュエルディスクは盗難防止の為か、壁から鎖で繋がれていた。
 デュエルディスクを腕にはめた光は決闘場に立ち、向かいに烏丸が構える。
「くっそーいいなー御門のヤツ。何で俺様じゃないんだ」
 海日がぶーぶー文句を垂れるが、誰も聞いていない。イラッときた海日は急にデッキを取り出し決闘場へと歩き出した。
「やい社長! ザコの御門とコナミの社長とじゃ相手にならん! ここはこの俺様とデュエルするべきだ!」
 その時、床から柵が飛び出し海日の前を遮った。海日は後ろに飛び退き尻餅をついてしまった。更に続けて、四方を囲むように柵が出現。遊戯王カード部のメンバーは閉じ込められてしまう。
「くっ……何をする貴様!」
 海日は起き上がり尻をさすりながら怒る。
「貴方達はそこでゆっくり見ていてください。これは私と御門光さんとのデュエルですから。カオス・ソルジャーのカードを賭けた、闇の……ね」
 遊戯王カード部に衝撃が走る。烏丸は邪悪な笑みを浮かべデュエルディスクを起動させる。それと同時に光のデュエルディスクにも電源が入り、腕にがっちりと固定された。
「えっ、何これ! 外れない!」
「御門光さん、檻に入れられたお仲間を助けたければ私とデュエルすることです。ちなみにこのデュエル、貴方が負ければそのデュエルディスクと檻の中に電気が流れ、貴方とお仲間は全員死にます。もし貴方が私に勝てば全員解放してあげましょう。まあ、万が一にもその可能性はあり得ないでしょうが」
 烏丸は営業口調で淡々と語る。遊戯王カード部の面々からは、血の気が引いていった。
「てめえ!」
 中太郎が鉄格子を掴み怒鳴った。
「一企業の社長ともあろう人間がこんなことしていいと思ってんのかよ! 俺達はなあ、コナミの社会見学をすっげー楽しみにしてたんだぞ! それなのにその社長がこんなクソ野郎で……俺はすっげー悲しいぜ!」
「ほう……先ほど貴方は私のことをリアル海馬社長と仰いましたが、その海馬社長だって同じようなことをやっているじゃありませんか」
 烏丸は顎に手を当て呆れるように言った。
「っ……フィクションと現実を一緒にするんじゃねえ!」
「うるさいですね。電気を流しましょうか」
 烏丸がそう言うと、中太郎は悔しそうに鉄格子から手を離した。
「さあ御門光さん、私とデュエルしましょう。お仲間を助けたいのでしょう」
 烏丸はくすくすと笑い光を見た。
「わかりました。でもその前に一つ、聞きたいことがあります」
「何でしょう? 来期の制限改定ですか? それとも次のストラクチャーデッキの内容? 尤も今日死ぬのですからそんなことを聞いても仕方が無いと思いますが」
「……どうして、こんなことをするのですか?」
 光は烏丸を鋭く睨み、静かに言った。
「クックックックック、そんなことですか。答えは簡単。私は昔から世界征服に興味があったのですよ。中でもアニメの世界ではよくある『玩具で世界征服』には特に憧れていました。そんな中私は知ったのです。遊戯王OCGの世界大会賞品として配られた十枚のカード――カオス・ソルジャー、ゼラ、スーパー・ウォー・ライオン、デビルズ・ミラー――これらのカードには古代エジプトの闇の力が宿っていると」
 烏丸は、それを聞かれるのを待っていたと言わんばかりに嬉々と語り出した。
「世界征服だの闇の力だの、何言ってんだあいつ! マジでフィクションと現実の区別付いてないんじゃねーのか!?」
 中太郎が言った。烏丸は檻の方を睨む。
「私の言っていることは全て紛れも無い現実です。貴方は知っていますか? 千年アイテムが実在したということを。といっても遊戯王の原作に登場する七つの千年アイテムではなくたった一つのペン、その名も千年ペンという千年アイテムが。かつて高橋和希はエジプトの古代遺跡でこのペンを見つけ、それによって描かれた遊戯王は世界的なヒット作になったのです」
 あまりにも非現実的で馬鹿馬鹿しい話に、ある者は呆れ、ある者は引いていた。だが烏丸は真剣そのもので語る。
「だが千年ペンの闇の力はあまりに強すぎた。コナミと高橋和希はそれが悪用されるのを防ぐため一枚のカオス・ソルジャー、二枚のゼラ、三枚のスーパー・ウォー・ライオン、四枚のデビルズ・ミラーを作り闇の力を十分割して封印したのです。そしてそれらが一つの場所に集まらぬよう世界大会の賞品として上位入賞者に配ったのですよ。私はコナミに入社してすぐ上司から酒の席でこの話を聞かされました。元々私がコナミに入社したのは遊戯王OCGを使えば世界征服ができるのではないかという理由なのですが、まさにドンピシャでしたよ。そこから私の計画が本格的に始まったのです。私は世界征服への足掛かりとしてソリッド・ビジョンとデュエルディスクを開発しました。その功績を称えられて私は見る見るうちに出世し、遂には社長の地位まで上り詰めました。もっとも、これに関しては『乗っ取った』と言った方がより正確ではありますが……。そして私は独自のルートで部下を集め、伝説のカードのうち九枚を手にしました。そして残るカオス・ソルジャーのカードも、私の優秀な部下によって所有者を発見した……」
「それが……わたし」
 光は、ごくりと唾を飲み込む。
「その通りよ」
 烏丸の後ろから、女の声がする。姿を現したその女に、誰もが驚愕した。
「天野……貴様これはどういうことだ!」
 海日が声を張り上げる。烏丸の後ろから現れたのは、龍星高校遊戯王カード部の副部長である天野風花であった。
「どういうことも何も、私は最初から烏丸様の手下よ。御門さんがカオス・ソルジャーのカードを持っているという情報を烏丸様に流したのもこの私……。私はずっと貴方達を見張っていたのよ」
「くそっ、マジかよ! つーかお前俺様達と一緒に捕まったんじゃ……」
「そんなの、貴方達が烏丸様の話を聞いている間にこっそり抜け出したに決まってるじゃない」
「く……なんて女だ! お前なんかを仲間だと思ってた俺様が馬鹿だったぜ!」
「あら、遊戯王カード部に所属する組織のメンバーは私だけじゃないのよ」
「なっ!?」
 海日は動揺し、後ろを振り返る。いるのは山田中太郎、日比秀介、田村拓郎、木之下春斗、川上亮子の五人。神沢武と雷政宗の二人の姿が見えない。
「まさか……」
 海日が再び天野の方を見る。すると、天野の後ろから二人が姿を現した。
「なんてこった……」
 海日はショックで全身の力が抜け、床に膝を突いてしまった。
「おい、どういうことだよ武……」
 武があちら側にいることに、親友の中太郎は酷くショックを受けていた。猛は、何も言わず俯く。
「彼ら三人と青山高校の王輝慎二を加えた四人が、我が組織の四天王。そして組織の名は――秘密結社ダークコナミ! コナミデジタルエンタテイメントは今、悪の秘密結社に生まれ変わったのだ!」
 両腕を広げて高笑いする烏丸。そのあまりにも狂った発言に、誰もが唖然としていた。
「御門光、貴様の持つカオス・ソルジャーのカードを手にし、私は世界を征服する。さあ、デュエルだ!」
 烏丸はデッキから五枚のカードを引き、身構える。
「……みんなを助けるため。そして世界を守るためには、そうするしかないようですね」
 光も、デッキからカードを五枚引く。二人は目を見合わせ、同時にその言葉を放つ。
「デュエル!」

ターン0

LP:8000
手札5:女邪神ヌヴィア、ヒエログリフの石版、太陽の書、進化の繭、プチモス
場:無し

烏丸
LP:8000
手札5:
場:無し

「先攻は君にくれてやよう。精々足掻くがいい」
「わかりました。わたしのターン、ドロー」
 光はデッキからカードを引く。ドローカードはギャンブル。光のデュエルを何度も支えてきた手札補強カードだ。
「わたしは、モンスターをセット。更に、太陽の書を発動! この効果で女邪神ヌヴィアを攻撃表示にします!」

太陽の書
通常魔法
フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。

女邪神ヌヴィア
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻2000/守 800
召喚された場合、このカードを破壊する。
相手が1体でもモンスターをコントロールしていた場合、
攻撃力は相手フィールド上のモンスター1体につき200ポイントダウンする。

 光が初手で出したのは、2000もの攻撃力を持つレベル4モンスター。しかしその代償として、大きなデメリットを抱えている。普通の決闘者なら、まず誰も使わないカードである。
「更にカードを一枚セットして、ターンエンド」

ターン1

LP:8000
手札3:ヒエログリフの石版、進化の繭、プチモス
場:ヌヴィア、ギャンブル(裏)
烏丸
LP:8000
手札5:
場:無し

「では私のターンだ」
 烏丸は自分に酔うかのように髪を掻き揚げた後、カードを引く。
「私は手札より、強欲な壺を発動! デッキからカードを二枚ドローする!」

強欲な壺
通常魔法(禁止カード)
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「な……何ぃー!?」
 烏丸の初手に、ギャラリー全員が驚愕。
「おい待ちやがれ! 強欲な壺は禁止カードだろうが!」
 中太郎の野次に、烏丸は聞こえないふり。引いた二枚のカードから一枚を、そのままデュエルディスクに置く。
「私は更にもう一枚、強欲な壺を発動する」
 まさかの二枚積みである。ギャラリーの皆々は呆れて声も出なかった。
「ふむ、手札が八枚。最高のアドバンテージだな。ではそれを更に広げるとするか……私は魔法カード、いたずら好きな双子悪魔を発動!」
 衝撃の禁止カード三連発。ギャラリーは皆口あんぐり。

いたずら好きな双子悪魔
通常魔法(禁止カード)
1000ライフポイントを払って発動する。
相手は手札をランダムに1枚捨て、さらにもう1枚選択して捨てる。

烏丸LP:8000→7000

 ソリッド・ビジョンの双子悪魔が現れ、まず兄の方がヒエログリフの石版のカードを奪って墓地に捨てる。光は暫く悩んだ後、プチモスのカードを弟に渡した。
「ははは、これで君の手札はたったの一枚。既に私の勝利は決まったようなものだな。では私は、レスキューキャットを召喚。更にその効果で、X−セイバー エアベルン、デス・ウォンバットを特殊召喚」

レスキューキャット
効果モンスター(禁止カード)
星4/地属性/獣族/攻 300/守 100
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、
デッキからレベル3以下の獣族モンスター2体をフィールド上に特殊召喚する。
この方法で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

X−セイバー エアベルン
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/獣族/攻1600/守 200
このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手の手札をランダムに1枚捨てる。

デス・ウォンバット
効果モンスター
星3/地属性/獣族/攻1600/守 300
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
コントローラーへのカードの効果によるダメージを0にする。

「そして、X−セイバー エアベルンをデス・ウォンバットにチューニング!」
 エアベルンの姿が三つのリングへと変化し、その中をデス・ウォンバットが通り抜ける。二体のモンスターは一つとなり、新たなモンスターが姿を現す。
「シンクロ召喚、ゴヨウ・ガーディアン!」

ゴヨウ・ガーディアン
シンクロ・効果モンスター(禁止カード)
星6/地属性/戦士族/攻2800/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
そのモンスターを自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚できる。

女邪神ヌヴィア 攻撃力:2000→1800

 女邪神ヌヴィアのデメリットが発動し、攻撃力が下がる。
「君のカードをいただいてやろう。ゴヨウ・ガーディアンで女邪神ヌヴィアを攻撃!」
 ゴヨウ・ガーディアンの紐付き十手が女邪神ヌヴィアを絡めとり、烏丸のフィールドに引き寄せる。

光LP:8000→7000

「私はこれでターンエンドだ。さあ、ここからどう逆転する?」

ターン2

LP:7000
手札1:進化の繭
場:ギャンブル(裏)
烏丸
LP:7000
手札6:
場:ゴヨウ・ガーディアン、女邪神ヌヴィア

 烏丸は余裕たっぷりに笑う。このたった一ターンに禁止カードを五枚もプレイ。その衝撃的な戦術を前にすれば、普通の決闘者なら既に勝つのを諦めるだろう。だが光の目は、まだ輝きを失っていない。
「わたしのターン、ドロー。わたしは、黙する死者を発動。墓地のプチモスを特殊召喚します」

黙する死者
通常魔法
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
フィールド上に表側表示で存在する限り攻撃する事ができない。

プチモス
通常モンスター
星1/地属性/昆虫族/攻 300/守 200
成長したらどんなムシになるか分からない、小さな幼虫。

 光は引いたカードをすぐに使い、小さな芋虫を蘇らせる。
「更に、手札の進化の繭をプチモスに装備!」

進化の繭
効果モンスター
星3/地属性/昆虫族/攻 0/守2000
このカードは手札から装備カード扱いとして
フィールド上に表側表示で存在する「プチモス」に装備する事ができる。
この効果によってこのカードを装備した「プチモス」の攻撃力・守備力は
「進化の繭」の数値を適用する。

 プチモスの体が、真っ白な糸によって包まれる。

プチモス 攻撃力:300→0 守備力:200→2000

「ほーう、それで究極完全態・グレート・モスでも出そうってか。だが残念だなぁ、たった2000ぽっちの守備力では私のゴヨウ・ガーディアンの攻撃を防ぐことはできない。次のターンでその虫もあえなくお縄だ」
 光の感情を逆撫でるかの如く、見下した言葉を言う烏丸。しかし光は、全く表情を変えない。
「わたしの手札は0枚、あなたの手札は6枚……発動条件は満たされました。わたしは罠カード、ギャンブルを発動!」
 伏せられていたカードが起き上がり、その表面を烏丸に見せる。

ギャンブル
通常罠
相手の手札が6枚以上、自分の手札が2枚以下の場合に発動する事ができる。
コイントスを1回行い裏表を当てる。
当たった場合、自分の手札が5枚になるようにデッキからカードをドローする。
ハズレの場合、次の自分のターンをスキップする。

「ほう、それで手札増強というわけか。だがもし外したら次の君のターンはスキップ。この状況でターンを飛ばされるのがどういうことか、わかるよなぁ。おっと、イカサマはさせないよ。コインはデュエルディスクが作り出したソリッド・ビジョンのものを使ってもらう」
 烏丸がそう言うと、ソリッド・ビジョンのコインがフィールドの中央に現れた。
「わたしが選ぶのは、表です」
「フッ、まあ精々当たることを祈るがいいさ」
 コインが跳ねる。コインは天井近くまで跳んだ後、光と烏丸、遊戯王カード部の面々が見守る中で小さな音を立てて床に落ちた。面は……表。
「やった!」
 中太郎が思わずガッツポーズをした。光は、デッキからカードを五枚ドローする。
「はっはっは、おめでとう。逆転のカードは引けたかな?」
「……わたしは、レーザー砲機甲鎧をプチモスに装備」

レーザー砲機甲鎧
装備魔法
昆虫族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

プチモス:攻撃力0→300 守備力2000→2300

「更にカードを二枚セットして、ターンエンドです」

ターン3

LP:7000
手札2:
場:プチモス(進化の繭、レーザー砲機甲鎧)、伏せカード、伏せカード
烏丸
LP:7000
手札6:
場:ゴヨウ・ガーディアン、女邪神ヌヴィア

「そんな貧弱な装備カードでゴヨウ・ガーディアンの攻撃を防げるとでも? そんな無意味なことをわざわざするとは、まったく君は面白い決闘者だな」
 光を嘲笑う烏丸。進化の繭の天辺にちょこんと乗せられたレーザー砲機甲鎧は、見るからに頼りなさげだった。
「では私のターンだ。私は魔法カード、天使の施しを発動。カードを三枚引き……キラー・スネークとD−HERO ディスクガイを墓地に捨てよう」
 捨てられたカードは二枚とも、墓地にいることによって優秀な効果を発揮する禁止カードである。
「ヌヴィアを攻撃表示に変更し、バトルフェイズだ! ゴヨウ・ガーディアンでプチモスを攻撃、ゴヨウ・ラリアット!」
 ゴヨウ・ガーディアンは縄付き十手を振り回し、砲台付き進化の繭に投げつける。
「罠カード発動、城壁!」

城壁
通常罠
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの守備力はエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。

プチモス:守備力2300→2800

 進化の繭の前に城壁が出現。十手はそれに弾き返される。
「フン、装備カードに罠カード。カードを二枚使ってまでやったことは守備力を上げて攻撃を防ぐだけ……もっと強力な罠を使ってゴヨウ・ガーディアンを除去するという発想は君には無いのか? まあいい、私はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

プチモス:守備力2800→2300

ターン4

LP:7000
手札2:
場:プチモス(進化の繭、レーザー砲機甲鎧)、伏せカード
烏丸
LP:7000
手札6:
場:ゴヨウ・ガーディアン、女邪神ヌヴィア、伏せカード

「くそっ、光のやつ、押されてるな」
 中太郎が言う。なんとか攻撃を防ぎ切ってはいるものの、アドバンテージの面では大きな差をつけられている。何せ相手は禁止カード、光の使うカードとは単体のパワーが圧倒的に違うのだ。この辺りで決定的な逆転の切り札を引かないことには、あっと言う間にライフをゼロにされてもおかしくない状況である。
「わたしのターン、ドロー。わたしは魔法カード、魔の試着部屋を発動!」

魔の試着部屋
通常魔法
800ライフポイントを払う。自分のデッキの上からカードを4枚めくり、
その中のレベル3以下の通常モンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
それ以外のカードはデッキに戻してシャッフルする。

光LP:7000→6200

 光はデッキの上からカードを四枚めくる。出てきたカードはワイト、はにわ、千眼の邪教神、おジャマ・イエロー。その全てが、光のフィールドに特殊召喚される。

ワイト
通常モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
どこにでも出てくるガイコツのおばけ。攻撃は弱いが集まると大変。

はにわ
通常モンスター
星2/地属性/岩石族/攻 500/守 500
古代王の墓の中にある宝物を守る土人形。

千眼の邪教神
通常モンスター
星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0
人の心を操る邪神。千の邪眼は、人の負の心を見透かし増大させる。

おジャマ・イエロー
通常モンスター
星2/光属性/獣族/攻 0/守1000
あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。
三人揃うと何かが起こると言われている。

 進化の繭を装備したプチモスを含め、光のフィールドには低レベル通常モンスターが五体並ぶ。その姿はある意味壮観である。
「それで、雑魚を並べて一体何をする気だい?」
「低レベルの通常モンスターにだって、使い道はあるんです! わたしは装備魔法、ワンダー・ワンドを千眼の邪教神に装備! そして千眼の邪教神とワンダー・ワンドを墓地に送り、デッキからカードを二枚ドロー!」

ワンダー・ワンド
装備魔法
魔法使い族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
また、自分フィールド上のこのカードを装備したモンスターと
このカードを墓地へ送る事で、デッキからカードを2枚ドローする。

「更に、ワイト、はにわ、おジャマ・イエローをリリース!」
 先程特殊召喚されたばかりのモンスター三体が天へと消える。そして光は、一枚のカードをデュエルディスクに置く。眩い輝きと共に、天井を突き抜けて現れる黄金の球体。やがてそれは展開し、巨大な翼をはためかせる神々しき黄金竜の姿となる。
「降臨せよ! 太陽神、ラーの翼神竜!」

ラーの翼神竜
効果モンスター
星10/神属性/幻神獣族/攻 ?/守 ?
このカードは特殊召喚できない。
このカードを通常召喚する場合、
モンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
このカードの召喚は無効化されない。
このカードの召喚成功時には、このカード以外の
魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
このカードが召喚に成功した時、ライフポイントを
100ポイントになるように払って発動できる。
このカードの攻撃力・守備力は払った数値分アップする。
また、1000ライフポイントを払って発動できる。
フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

光LP:6200→100
ラーの翼神竜:攻撃力・守備力0→6100

 ゴヨウ・ガーディアンをゆうに超える攻撃力を得たラーの翼神竜は、烏丸に向けて力強く咆哮する。だが烏丸は一瞬たりとも怯まない。
「ラーの翼神竜でゴヨウ・ガーディアンに攻撃! ゴッド・ブレイズ・キャノン!」
 ラーは口を大きく開き、その中で太陽の如き火炎弾が渦巻く。
「よし、いいぞ光!」
 檻の中のギャラリー達は歓喜に震える。だが烏丸はそれを鼻で笑うと、ラーを睨みつけながら伏せカードを表にする。
「リバースカード、オープン。破壊輪!」

破壊輪
通常罠(禁止カード)
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊し、
お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。

 ラーの首に、破壊輪が取り付けられる。海日があっと声を上げた。次の瞬間、破壊輪の手榴弾が一斉に爆発。盛大な爆音と共に、決闘場は黒い煙に包まれた。
「ハーッハッハッハ、禁止カードの前には神でさえも無力だ! 6100ポイントのダメージを喰らうがいい!」
「光ぃぃぃぃぃ!」
 中太郎の叫び声が、決闘場に木霊した。
「もうお終いだ……この檻に電気が流されて、僕達は死ぬんだ……」
 木之上こと木之下春斗が、頭を抱えて泣き出した。
「いや……まだだ!」
 海日が言う。煙が晴れ、その中から光が姿を現す。100ポイントのライフはしっかりと残っている。そのフィールドにラーの姿は無かったが、砲台付きの進化の繭と、発動された一枚の罠カードがあった。
「魔法除去細菌兵器……それでラーをリリースして破壊輪を無効にしたというわけか」

魔法除去細菌兵器
通常罠
トークン以外の自分フィールド上のモンスターを
任意の数だけリリースして発動できる。
リリースしたモンスターの数だけ、
相手はデッキから魔法カードを選んで墓地へ送る。

 烏丸はデッキをデュエルディスクから取り出し確認する。
「ふむ、私の大事な禁止カードを墓地に捨ててしまうのは忍びない……ここはたかだか制限カードでしかないブラック・ホールを捨てるとするか」
 烏丸はそう言うとブラック・ホールのカードをゴミでも扱うかのように墓地に捨てた。
「ダメージを防いだのはいいのだが、結局君は切り札を失ったことに変わりはない。それにその切り札のお陰で君のライフはたったの100。さて、ここからどう勝つつもりかな?」
 光の額に、冷や汗が流れる。
「わたしは、カードを二枚伏せてターンエンドです……」

ターン5

LP:100
手札0:無し
場:プチモス(進化の繭、レーザー砲機甲鎧)、伏せカード、伏せカード
烏丸
LP:7000
手札6:
場:ゴヨウ・ガーディアン、女邪神ヌヴィア

 ラーの翼神竜は逆転どころか更なるピンチを招いてしまった。光にとって何もかも絶望的なこの状況で、烏丸のターンが回ってくる。
「私のターンだ。御門光よ、死ぬ覚悟はできたか。私は墓地のキラー・スネークを手札に戻す!」

キラー・スネーク
効果モンスター(禁止カード)
星1/水属性/爬虫類族/攻 300/守 250
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在している場合、
このカードを手札に戻す事ができる。

「フフ、どうとどめを刺してやろうか。ゴヨウ・ガーディアンでその虫を奪い、ヌヴィアで直接攻撃するのも悪くないが……ここはこの禁止カードを使ってやろう。サンダー・ボルト!」

サンダー・ボルト
通常魔法(禁止カード)
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 烏丸がデュエルディスクに置いたのは、遊戯王OCGの禁止カードの中でも特に有名な一枚。かつては誰もがデッキに投入していたが、初めての禁止カード制定と同時に禁止化、そして現在に至るまで一度たりとも解除されたことのない、禁止カード・オブ・禁止カードである。
 烏丸は雷雲を呼ぶかのごとく空に手を掲げる。稲妻が天井を貫き、進化の繭目掛けて突っ込んでくる。光は真っ直ぐにそれを見据え、伏せられたカードに手をかける。
「リバースカードオープン、避雷針!」
 髑髏をあしらった避雷針が、進化の繭の前に現れる。吸い寄せられた稲妻は吸収された後跳ね返り、ゴヨウ・ガーディアンと女邪神ヌヴィアを粉砕する。
「なっ……避雷針だと!?」
 これまで余裕綽々でいた烏丸に、初めて動揺が見えた。
「貴様……何故そんなカードをデッキに入れている! まさか私のデッキが禁止カードデッキだということを知っていたのか!?」
「いえ、そういうわけじゃ……ただ、もしかしたら何かの役に立つかもと思って……」
「何の役にも立たんだろう、普通!」
 あの烏丸が、顔に似合わないツッコミを入れる。
(一体何を考えてるんだ、このガキは……)
 ペースを崩された烏丸は、落ち着きを取り戻そうと深呼吸する。
「あの、わたしからも質問してよろしいですか?」
 突然光に声をかけられ、烏丸はドキリとした。
「な、何だね?」
「あなたは、どうして禁止カードを使うんですか?」
「……それを聞くかね」
 烏丸は背筋を正し、ネクタイをきつく締める。
「似ているのだよ。私と禁止カードは」
「似ている……?」
 首を傾げる光に、烏丸は語り始める。
「ああそうさ。私は幼い頃より人並み外れた天才でね。お陰で家でも学校でも気味悪がられ、私はいつも孤立していたのだ。コナミに入社して禁止カードを制定する時……私は思ったよ。彼らは私に似ていると。あまりにも優秀過ぎたが故に、多くの者から憎まれ嫌われた哀れなカード達……デュエルで使ってもらうことすら許されなくなった彼らを、私が使ってやらないで誰が使ってやるというのだ!」
「は、はあ……」
 わかるようなわからないような、そんな烏丸の熱弁に、光はただ微妙な反応をするしかなかった。
「おっと、少し熱くなりすぎてしまったな。デュエルを再開しようか。私はモンスターを裏側守備表示でセットし、ターンエンドだ」

ターン6

LP:100
手札0:無し
場:プチモス(進化の繭、レーザー砲機甲鎧)、伏せカード
烏丸
LP:7000
手札6:
場:伏せモンスター

「わたしのターン、ドロー。わたしは恵みの雨を発動」

恵みの雨
通常魔法
お互いのプレイヤーは1000ライフポイント回復する。

光LP:100→1100
烏丸LP:7000→8000

「ほう、回復カードを使うか。だが所詮は焼け石に水。その程度で私の猛攻に耐え切れるとでも思っているのか」
「いいえ、この回復はあなたの攻撃に耐えるためじゃない。罠カード発動、闇よりの罠。ライフを1000払い、墓地のギャンブルの効果を発動。コインは……表です!」

光LP:1100→100

闇よりの罠
通常罠
自分が3000ライフポイント以下の時、
1000ライフポイントを払う事で発動する。
自分の墓地に存在する通常罠カード1枚を選択する。
このカードの効果は、その通常罠カードの効果と同じになる。
その後、選択した通常罠カードをゲームから除外する。

 当然の如くコインは表を向き、光はデッキからカードを五枚ドロー。
「わたしは……モウヤンのカレーを発動します!」

モウヤンのカレー
通常魔法
ライフポイントを200ポイント回復する。

「また回復カードか。何度回復しても無駄だというのに」
「いいえ、回復するのはわたしじゃない。モウヤンのカレーの効果で、あなたのライフポイントを回復します」

烏丸LP:8000→8200

「……どういうことだ? そうかわかったぞ。勝つ見込みが無くなったからネタプレイに走ったのだな。せっかく五枚もドローしても、その全てが使えないカードでは仕方が無いな」
 不可解なプレイングに烏丸は一瞬動揺するが、すぐに落ち着きを取り戻し、光を煽った。しかし、光の表情は変わらない。
「いいえ、引きたかったカードは来ました。プチモスと進化の繭をリリースし、ラーバモスを守備表示で特殊召喚します!」

ラーバモス
効果モンスター
星2/地属性/昆虫族/攻 500/守 400
このカードは通常召喚できない。
「進化の繭」が装備され、自分のターンで数えて2ターン以上が経過した
「プチモス」1体をリリースした場合に特殊召喚する事ができる。

 頭のトゲで繭を突き破り、小さな幼虫が姿を現す。それは厳しい召喚条件に見合わない貧弱なステータスを持つ、OCG史上でも最弱クラスのモンスター。絶体絶命のこの状況で現れるにしては、あまりにも頼りないカードであった。
「わたしはカードを三枚セットし、ターンエンドです」

ターン7

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス、伏せカード、伏せカード、伏せカード
烏丸
LP:8200
手札6:
場:伏せモンスター

「おいおい、せっかくの守備力が2300から400まで落ちているじゃあないか。本当にそれが君の引きたかったカードなのか?」
「はい。攻撃力は300から500に上がってますから」
 光の不可解な答えに戸惑いつつも、烏丸はカードを引く。
「私のターン、ドロー。フ……これはいいカードを引いた」
 烏丸は丁度先程引いたカードを発動しようと手に取るが、そこで光の伏せカードが開かれる。
「わたしはこのドローフェイズに、罠カード、ライフチェンジャーを発動します!」

ライフチェンジャー
通常罠
お互いのライフポイントに8000ポイント以上の
差があった場合に発動する事ができる。
お互いのライフポイントは3000になる。

「な……ライフチェンジャーだと!?」

光LP:100→3000
烏丸LP:8200→8000

「そ、そうか、奴の言っていた引きたかったカードとはラーバモスのことではなく……」
 思わぬ逆転の一枚に、烏丸は歯軋り。
「凄いぜ光! モウヤンのカレーを相手に使ったのは、ライフチェンジャーの発動条件を満たすためだったのか!」
 中太郎は光の繰り出したコンボに歓心し、ガッツポーズをする。
「だ、だがたかが3000のライフ、私の禁止カードの前では無力でしかない! 私は手札より魔法カード、天使の施しを発動!」

天使の施し
通常魔法(禁止カード)
自分のデッキからカードを3枚ドローし、その後手札を2枚選択して捨てる。

 先程のドローフェイズで引いたカードを、烏丸は発動する。
「リバースカードオープン、光の封札剣!」
 デッキからカードを引こうとする烏丸を遮るかのように、一本の剣が烏丸の手札を射抜いた。

光の封札剣
通常罠
相手の手札をランダムに1枚裏側表示でゲームから除外する。
発動後、相手のターンで数えて4ターン目の相手のスタンバイフェイズ時に、
そのカードを相手の手札に戻す。

「チィ……悪足掻きを」
 烏丸はカードを三枚引き、二枚捨てる。捨てたカードは処刑人−マキュラとクリッター。
「あいつ、キラー・スネークを捨てなかった。ということは、封札剣で除外されたカードは……」
「いや、そんなこよりもっと重要なことがあるだろが! 処刑人−マキュラが墓地に行ったってことはよぉ!」
 冷静に状況を分析する木之上に対し、海日が慌しい口調で突っ込みを入れる。
「処刑人−マキュラの効果発動!」
 烏丸が唸り声を上げた。

処刑人−マキュラ
効果モンスター(禁止カード)
星4/闇属性/戦士族/攻1600/守1200
このカードが墓地へ送られたターン、
このカードの持ち主は手札から罠カードを発動する事ができる。

「私はこのターン手札より罠を発動できる……私は手札より罠カード、第六感を発動する!」

第六感
通常罠(禁止カード)
自分は1から6までの数字の内2つを宣言する。
相手がサイコロを1回振り、宣言した数字の内どちらか1つが出た場合、
その枚数自分はカードをドローする。
ハズレの場合、出た目の枚数デッキの上からカードを墓地へ送る。

「大量ドローは貴様だけの専売特許ではないのだよ。ただでさえ多い手札を、これでもっと増やしてやろう。宣言する数字は言うまでも無く、5と6だ!」
 光の手の中に、ソリッド・ビジョンのサイコロが乗せられた。
「さあ、そいつを投げるがいい」
 光は言われるがままに、サイコロを放る。出た目は……1。
「っしゃあー! 光の強運舐めんな!」
 何をやっても反応の薄い光に代わって、中太郎が喜ぶ。第六感における1の目は、ドローもできず墓地を肥やせる枚数も少ない一番ハズレの目なのである。
「うーむ残念。……だが、いいカードが墓地に行ったようだ」
 烏丸はデッキの一番上にあった聖なる魔術師を墓地に送りながら、したり顔で言う。
「いいカード……? 聖なる魔術師は別に墓地にあることでメリットのあるカードではないが……」
「おい木之上! 鈍いなお前! 俺にはわかるぜ! あいつの執ろうとしている戦術が!」
「……うるさいですよ先輩、少し黙っててください」
 やたらとテンションの高い海日を、木之上は鬱陶しそうにしていた。
「私は手札より魔法カード、生還の宝札を発動。更に死者蘇生を発動し、クリッターを特殊召喚! 生還の宝札の効果により二枚ドロー!」

生還の宝札
永続魔法(禁止カード)
自分の墓地に存在するモンスターが特殊召喚に成功した時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。

死者蘇生
通常魔法(制限カード)
自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

クリッター
効果モンスター(禁止カード)
星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守 600
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。

「や、やっぱりそうだ! 奴の戦術を俺は見たことがある……原作の世界で!」
「何電波なこと言ってるんですか。いい加減にしてくださいよ」
「あーっ、やっぱりそうだ、見ろ木之上!」
 海日が指差す先。烏丸はニヤリと口元を緩めると、墓地のカードを手に取りそこから聖なる魔術師と処刑人−マキュラを取り出した。
「墓地に光と闇! そしてフィールドにクリッター! それが指し示すものとはーっ!」
 海日が唾を飛ばして叫ぶ。烏丸は取り出した二枚のカードを除外ゾーンに置き、手札から選んだ一枚のカードを頭上に掲げる。
「私は墓地の聖なる魔術師と処刑人−マキュラをゲームから除外! 出でよ……混沌帝龍 −終焉の使者−!」
 光と闇が交じり合い、辺りは混沌に包まれる。そして混沌の中から、世界に終焉をもたらす龍が姿を現す。

混沌帝龍 −終焉の使者−
効果モンスター(禁止カード)
星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の光属性と闇属性モンスターを1体ずつゲームから除外して特殊召喚する。
1000ライフポイントを払う事で、
お互いの手札とフィールド上に存在する全てのカードを墓地に送る。
この効果で墓地に送ったカード1枚につき相手ライフに300ポイントダメージを与える。

「で、出たぁー!」
 海日は両頬に手を当てて絶叫。自分の切り札であるカオス・ソルジャー −開闢の使者−と対を成すカードにして、原作の世界でダイナソー竜崎に使われて大苦戦を喫した因縁深きカード。
「ハハハハハハハハ! どうだね、恐ろしいかね! これぞ終焉の使者! こいつが、貴様の息の根を止めるのだ! 混沌帝龍 −終焉の使者−の効果発動! セメタリー・オブ・ファイヤー!」

烏丸LP:3000→2000

 烏丸の高笑いに呼応するかの如く、終焉の使者は咆哮を上げる。二枚の翼を広げて飛び立ち、全てを滅ぼす黒き焔を吐く。
「私の場には混沌帝龍 −終焉の使者−、クリッター、生還の宝札に、セットされたファイバーポッドの四枚! 私の手札は混沌の黒魔術師、ラストバトル!、悪夢の蜃気楼、次元融合の四枚! そして貴様の場には伏せカードが一枚と、ゴミムシが一匹! その合計枚数は十枚……即ち貴様のライフとぴったり同じ、3000ポイントのダメージを喰らうがいい!」
 烏丸の言葉と共に、光はラーバモスもろとも黒き焔に呑まれる。
「光いいいぃぃぃぃ!」
 遊戯王カード部の面々が光の名を叫ぶ。絶体絶命のこの状況。誰もが光の敗北を確信した。
「うわあああ! 嫌だー! 死にたくないー!」
「やめろ海日部長! まだ光が負けたとは限らねえ!」
 死への恐怖で暴れ出す海日を、中太郎が抑える。
「ハハハハハ! まだ負けたとは限らない? 馬鹿を言え! 終焉の使者の効果を喰らって、御門光のライフは尽きた! 御門光も貴様らもここで死ぬ運命なのだ!」
 烏丸の笑い声が、地下決闘場に響く。黒き焔が消え、光が姿を現す。光は、まだ立っている。

光LP:3000→300

「ど、どういうことだ!」
 光のライフが残っていることに、烏丸は驚きを隠せない。
「わたしは罠カード、亜空間物質転送装置を発動し、ラーバモスを除外しました。これでカードの枚数は一枚減り、ダメージが300ポイント軽減されたんです」

亜空間物質転送装置
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
このターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。

「……なるほどな。だがそれも想定内だ。私が何のためにクリッターをフィールドに出したと思っている」
 狼狽えていた烏丸はすぐに落ち着きを取り戻し、デッキから一枚のカードを抜き取る。
「私はクリッターの効果を発動! デッキから八汰烏を手札に加える! そしてこのターン、私はまだ通常召喚を行っていない……つまり、八汰烏を召喚する!」

八汰烏
スピリットモンスター(禁止カード)
星2/風属性/悪魔族/攻 200/守 100
このカードは特殊召喚できない。
召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた場合、
次の相手ターンのドローフェイズをスキップする。

「う、うわあああああ! 出たぁ、最悪のコンボが!」
「黙っててください!」
 いちいち騒ぐ海日に苛立ち、木之上が怒鳴る。
「八汰烏、御門光にダイレクトアタックだ!」
 一本足の小さなカラスが、嘴で光を突っつく。

光LP:300→100

「私はこれでターンエンド……八汰烏の効果はわかっているよなあ、御門光。次の貴様に、ドローフェイズは無い。即ち貴様はがら空きのフィールドのまま、手札を増やすこともできない! そして次のターンに私の攻撃を受け、敗北するのだ!」
 烏丸は広げた右手を光に向け、見得を切る。だが光は冷静である。
「……それはどうでしょうか」
「何? この状況でまだ私を倒す術が残っている……貴様はそう言いたいのか?」
「はい。わたしにはまだ、この希望がある!」
 除外されていたラーバモスが、亜空間より舞い戻る。ラーバモスは光を守ろうとするかの如く、トゲを突き立てていきり立った。
「クク、フフフ、ハハハハハ! 冗談だろう? そんなゴミムシに、一体何ができるというのだね! いいだろう、できるものならやってみるがいい。どうせ無理だろうがなあ!」
 烏丸は八汰烏を手札に戻し、光とラーバモスを嘲笑した。

ターン8

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス
烏丸
LP:2000
手札1:八汰烏
場:無し

「わたしのターン……あっ」
 光はデッキからカードを引こうとするが、八汰烏の効果を思い出し手を止める。
「わたしはラーバモスを攻撃表示に変更し、直接攻撃します」
 ラーバモスの針が烏丸をチクリと刺す。

烏丸LP:2000→1500

「この程度のダメージ、痛くも痒くもないね」
「わたしはこれで、ターンエンドです」

ターン9

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス
烏丸
LP:1500
手札1:八汰烏
場:無し

 烏丸は、ぷっと吹き出す。
「フ、ハハハハハ! 貴様の希望はたった500のダメージか! それも攻撃力たった500のモンスターを攻撃表示にするというリスクを負ってまで! いやあ実に笑えるねえ! それじゃあこのターンで、綺麗に葬ってあげるよ! 私のタァーン!」
 勝ちがほぼ確定した状況でテンション上げ上げにカードをドローする烏丸。しかし引いたカードは、この状況では役に立たない王宮の勅命。
「……チッ、君が強運の持ち主というのは本当のようだな。私はカードを一枚セットし、ターンエンドだ」
 最大のチャンスを逃し、光に次のドローを許してしまった烏丸。その額には汗が流れる。

ターン10

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス
烏丸
LP:1500
手札1:八汰烏
場:王宮の勅命(裏)

「わたしのターン、ドロー。ラーバモスでダイレクトアタック!」

烏丸LP:1500→1000

「更にわたしは魔法カード、光の護封剣を発動し、ターンエンドです」
 先程ドローしたカードを発動する光。ここから状況を整えるには最適のカードだ。

光の護封剣
通常魔法
相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない。

(フン、防御カードを引いたはいいが、魔法カードだったのが運の尽きだな。次のターンに王宮の勅命で無効にしてとどめだ)
 烏丸はニヤリと笑みを浮かべた。

ターン11

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス、光の護封剣
烏丸
LP:1000
手札1:八汰烏
場:王宮の勅命(裏)

「私のターン!」
 烏丸は勝ちを確信してカードを引くが、引いたカードはラーバモスよりもステータスの低いグローアップ・バルブ。
(何故だ! あのゴミムシを戦闘破壊か除去できるカードを引くことができれば私の勝ちだというのに……何故来ない!)
 烏丸は仕方が無くグローアップ・バルブをセットしてターンを終える。このタイミングで運に見放されたことで、烏丸にらしくない焦りが見えていた。

ターン12

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス、光の護封剣
烏丸
LP:1000
手札:八汰烏
場:グローアップ・バルブ(裏)、王宮の勅命(裏)

「わたしのターン、ラーバモスで伏せモンスターを攻撃!」
 守備力の高いモンスターであることを警戒もせず、勇敢に突っ込む光。ラーバモスのトゲが、グローアップ・バルブを貫いた。
(馬鹿な……私のモンスターが守備力600以上だったら即死していたんだぞ! 奴は正気か!?)
 大胆不敵な光のプレイングは自信の表れか、あるいは何も考えていないだけか。烏丸にそれを窺い知ることはできない。
「わたしはカードを一枚伏せて、ターンエンドです」

ターン13

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス、光の護封剣、伏せカード
烏丸
LP:1000
手札1:八汰烏
場:王宮の勅命(裏)

「く……私のターン、ドロー!」
 次こそはと意気込んでカードを引く烏丸。恐る恐る引いたカードを見て、ニヤリ。
「ハハハハハハ、貴様の命運もここで尽きたようだな御門光! 私は魔法カード、早すぎた埋葬を発動だ!」

早すぎた埋葬
装備魔法(禁止カード)
800ライフポイントを払い、
自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

烏丸LP:1000→200

 それは烏丸にとって勝利を与える、光にとって絶望の一枚。烏丸の脳内に大量のアドレナリンが分泌される。
「さぁ〜、どいつを蘇生しようかなぁ……やっぱり混沌帝龍かぁ?」
 舌なめずりしながら墓地のカードを物色する烏丸。狂気に満ちたその表情に、遊戯王カード部の面々はぞっとする。
「クク……そうだ、貴様を殺すに丁度いいカードはこれだ!」
 烏丸が選んだ一枚。それは白い枠のシンクロモンスター。
「私は墓地よりゴヨウ・ガーディアンを特殊召喚だ! 更に墓地のグローアップ・バルブの効果発動! 蘇れグローアップ・バルブ!」

グローアップ・バルブ
チューナー(効果モンスター)(禁止カード)
星1/地属性/植物族/攻 100/守 100
自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、
墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
「グローアップ・バルブ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

 烏丸はデッキの一番上の突然変異を墓地に送り、グローアップ・バルブを特殊召喚。フィールドに、チューナーとチューナー以外のモンスターが揃った。
「見るがいい……シンクロ召喚! ダーク・ダイブ・ボンバー!」

ダーク・ダイブ・ボンバー
シンクロ・効果モンスター(禁止カード)
星7/闇属性/機械族/攻2600/守1800
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分フィールド上のモンスター1体をリリースして発動できる。
リリースしたモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

「そして効果発動! 自身をリリースし、1400ポイントのダメージを喰らえ!」
 自らを弾とし、光へと突撃するダーク・ダイブ・ボンバー。誰もが息を飲むその瞬間だった。
「罠発動! ピケルの魔法陣!」

ピケルの魔法陣
通常罠
このターンのエンドフェイズまで、
このカードのコントローラーへのカードの効果によるダメージは0になる。

 フィールドに姿を現した可愛らしい幼女が、ダーク・ダイブ・ボンバーの突撃を掻き消した。
「な、何だと!?」
 思わず声を上げる烏丸。相手の伏せカードを警戒して、攻撃をせずにとどめを刺せる選択をしたことが裏目に出た。
(あ、あの時王宮の勅命を発動して普通に攻撃していれば……)
 痛恨の選択ミスに、烏丸は頭を抱えた。早すぎた埋葬の発動によりラーバモスの攻撃に一回耐えられたはずのライフは、光と大差無い200にまで減ってしまった。一回でも直接攻撃を受ければ、即死する数値である。ここで烏丸の取れる手は、最早一つしかない。
「私はモンスターをセットし、ターンエンドだ!」
 半ギレ気味にそう言い放ち、烏丸はカードをデュエルディスクに叩きつけた。伏せたのは言うまでもなく、最後の手札、八汰烏である。

ターン14

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス、光の護封剣
烏丸
LP:200
手札0:無し
場:八汰烏(裏)、王宮の勅命(裏)

「わたしのターン。わたしは火の粉を発動します」
 引いたカードを即座に発動する光。小さな火の粉が、烏丸に迫る。

火の粉
通常魔法
相手ライフに200ポイントダメージを与える。

「やったー光の勝ちだー!」
「そぉうはさせるかぁぁぁぁ!」
 長く続いたデュエルのあっけない決着に歓喜する遊戯王カード部員達だったが、烏丸の叫びに威圧され縮こまる。
「私は罠カード、王宮の勅命を発動! これで貴様の火の粉は無効だァ!」

王宮の勅命
永続罠(禁止カード)
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に700ライフポイントを払う。
または、700ライフポイント払わずにこのカードを破壊する。

 幼女にダーク・ダイブ・ボンバーを無効化されたお返しと言わんばかりに、出てきた王様が火の粉を掻き消す。
「クククク……クハハハハハハ! この私が! 火の粉如きで倒されるとでも思っているのかーっ!」
「……わたしはラーバモスで伏せモンスターを攻撃します」
 ラーバモスの角が八汰烏を貫く。
「ターンエンドです」

ターン15

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス、光の護封剣
烏丸
LP:200
手札0:無し
場:王宮の勅命

「私のタァーン!」
 烏丸は歯を食い縛りながらカードを引く。ライフを払うことができず、王宮の勅命は破壊される。
「クク……除外されていたキラー・スネークはこのターンで手札に戻る! 私はモンスターをセット!」
 手札に戻ってきたばかりのキラー・スネークを、烏丸は早速伏せる。
「更に……このカードを持っているのは貴様だけではない! 光の護封剣を発動だ!」
 今度は光のフィールドに、護封剣が降り注ぐ。
「これで私はターンエンド……そして貴様の護封剣は破壊される!」

ターン16
LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス
烏丸
LP:200
手札0:無し
場:キラー・スネーク(裏)、光の護封剣

「くそっ、あとちょっとだってのに……奴のライフも鉄壁になっちまってやがる!」
「この状況……マズいな」
 一進一退のデュエルに一喜一憂する遊戯王カード部員達。だが光は冷静である。
「わたしのターン、わたしは貪欲で無欲な壺を発動します!」

貪欲で無欲な壺
通常魔法
メインフェイズ1の開始時に自分の墓地から
異なる種族のモンスター3体を選択して発動できる。
選択したモンスター3体をデッキに加えてシャッフルする。
その後、デッキからカードを2枚ドローする。
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

 光はプチモス、おジャマ・イエロー、ラーの翼神竜をデッキに戻し、カードを二枚引く。
「わたしはD−HERO ダイヤモンドガイを召喚します! 更に、ダイヤモンドガイの効果発動!」

D−HERO ダイヤモンドガイ
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1600
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、
自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。
それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、
次の自分のターンのメインフェイズ時に
その通常魔法カードの効果を発動する事ができる。
通常魔法カード以外の場合にはデッキの一番下に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 光はデッキの一番上にある幻魔の殉教者を墓地に送る。
「更にカードを一枚セットし、ラーバモスを守備表示に変更。ターンエンドです」

ターン17

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス、ダイヤモンドガイ、伏せカード
烏丸
LP:200
手札0:無し
場:キラー・スネーク(裏)、光の護封剣

「私のターン!」
 自分の優勢に喜ぶ烏丸は、勢いよくカードを引く。
(押収か……チッ、こんな時に引いたって役に立たんではないか)
「私はこれでターンエンドだ」

ターン18

LP:100
手札0:無し
場:ラーバモス、ダイヤモンドガイ、伏せカード
烏丸
LP:200
手札1:押収
場:キラー・スネーク(裏)、光の護封剣

「わたしのターン、ドロー。わたしはダイヤモンドガイの効果により、墓地の幻魔の殉教者を発動します!」

幻魔の殉教者
通常魔法
自分の手札が2枚以上存在し、自分フィールド上に「神炎皇ウリア」
または「降雷皇ハモン」が表側表示で存在する時に発動する事ができる。
手札をすべて墓地に送る事で、自分フィールド上に「幻魔の殉教者トークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を3体攻撃表示で特殊召喚する。

 光の場に、三体のトークンが出現する。
「そして再びダイヤモンドガイの効果発動!」
 光はデッキの一番上から黄金色の竹光を墓地に送る。
「更に、セットされたDNA移植手術を発動、わたしは地属性を宣言します!」

DNA移植手術
永続罠
発動時に1種類の属性を宣言する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の全ての表側表示モンスターは自分が宣言した属性になる。

「地属性に……一体何をするつもりなんだ!?」
 中太郎が驚く。
「更に魔法カード、ナチュラル・チューンを発動! 幻魔の殉教者トークンをチューナーにします!」

ナチュラル・チューン
通常魔法
自分フィールド上のレベル4以下の通常モンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターはフィールド上に
表側表示で存在する限りチューナーとして扱う。

「チューナーに……ってことはまさか!」
「わたしだって、シンクロ召喚できるんです! ラーバモス、ダイヤモンドガイ、二体の幻魔の殉教者トークンに、チューナーになった幻魔の殉教者トークンをチューニング!」
 幻魔の殉教者トークンが姿を変えたリングの中を通り抜けた四体のモンスターが、八つの星へと姿を変える。白い閃光がリングを貫き、巨大なモンスターが姿を現す。
「野性の血流交わりしとき、大地を切り裂くパワーが目覚める! 咆哮せよ! シンクロ召喚! 大自然の力、ナチュル・ガオドレイク! えーっと、召喚口上これで合ってますよね?」

ナチュル・ガオドレイク
シンクロモンスター
星9/地属性/獣族/攻3000/守1800
地属性チューナー+チューナー以外の地属性モンスター1体以上

「合ってる合ってる! 行け行け光ー!」
 アニメでアンドレが使った時の口上をしっかり覚えていた光。意外な大型モンスターの登場に、中太郎のテンションが上げ上げになる。
「わたしはこれでターンエンドです」
「ああっそうか護封剣が……くっそーっ!」
 せっかく大型を出したにも関わらず攻撃のできない状況に、中太郎は苛立つ。
「だが、ステータスの低いラーバモスやダイヤモンドガイをそのまま置いておくよりかは安全かもしれない。決して悪い手ではないさ」
 木之上は眼鏡をクイッと上げて言った。

ターン19

LP:100
手札0:無し
場:ナチュル・ガオドレイク、DNA移植手術
烏丸
LP:200
手札1:押収
場:キラー・スネーク(裏)、光の護封剣

「私のターンだ」
 烏丸の引いたカードは死のデッキ破壊ウイルス。
(チッ……またしても今引いたって意味の無いカード! サンダー・ボルトさえ引ければ私の勝ちだというのに!)
 手札を掴む手が震える。
「私は……これでターンエンドだ」
 烏丸は何もせずにターンを終える。

ターン20

LP:100
手札0:無し
場:ナチュル・ガオドレイク、DNA移植手術
烏丸
LP:200
手札1:押収、死のデッキ破壊ウイルス
場:キラー・スネーク(裏)、光の護封剣

「わたしのターン。あっ、このカードは」
「な、何を引いたというんだ!?」
 光は引いたカードを見て、つい言葉が出る。それを見た烏丸は、思わずビクリ。
「わたしはダイヤモンドガイの効果により、墓地の黄金色の竹光を発動します」

黄金色の竹光
通常魔法
自分フィールド上に
「竹光」と名のついた装備魔法カードが存在する場合に発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。

 光はデッキからカードを二枚引く。
「カードを二枚伏せ、ターンエンドです」
 ドローフェイズに引き、思わず反応したカードは手札に残ったままである。烏丸のびくつきは止まらない。
(い……一体何を引いたというんだ……気になるぞ……)
 烏丸の不安はそれだけには留まらない。烏丸の発動した光の護封剣が、このターンのエンドフェイズで効力を失い破壊されたのである。
 攻撃力3000のガオドレイクを前に、絶体絶命の状況である。
(何としても……何としても逆転の一枚を引かねば……)

ターン21

LP:100
手札1:
場:ナチュル・ガオドレイク、DNA移植手術、伏せカード、伏せカード
烏丸
LP:200
手札2:押収、死のデッキ破壊ウイルス
場:キラー・スネーク(裏)

「わ、私のターン! き、来た! 強欲な壺、発動!」
 当然の如く三枚積みされている強欲な壺を、烏丸は慌てて発動する。引いたカードは手札抹殺と王家の神殿。
「私は手札抹殺を発動! 御門光、貴様もその手札捨ててもらうぞ!」

手札抹殺
通常魔法(制限カード)
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

 光はただ一枚の手札、カオス・ソルジャーを墓地に捨てる。
(カオス・ソルジャーだったのか……まあ、所詮召喚できなければ何の意味もないカードだ)
 烏丸はほっと一息つくと、手札三枚を捨てデッキの上から三枚を指で摘む。
(さあ来い、逆転の一枚……来い、来るんだーっ!)
 柄にもなく祈りながら、烏丸は引いたカードの表面を自分に向ける。
「こ、このカードはーっ!」
 烏丸は歓喜のあまり甲高い声で叫んだ。
「な、何だ!? まさか逆転できるカードを引いたってのか!?」
 気が気でないのは、遊戯王カード部の面々である。せっかく光が優勢に立ったというのに、またしても逆転されてしまうのか。
「私は緊急テレポートを発動、デッキからメンタルマスターを特殊召喚!」

緊急テレポート
速攻魔法
(1):手札・デッキからレベル3以下の
サイキック族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは、
このターンのエンドフェイズに除外される。

メンタルマスター
チューナー(効果モンスター)(禁止カード)
星1/光属性/サイキック族/攻 100/守 200
800ライフポイントを払い、
「メンタルマスター」以外の自分フィールド上の
サイキック族モンスター1体をリリースして発動できる。
デッキからレベル4以下のサイキック族モンスター1体を
表側攻撃表示で特殊召喚する。

「チューナーモンスターだと!? まさかシンクロ召喚する気か!」
「違うな……更に私は魔導サイエンティストを召喚!」

魔導サイエンティスト
効果モンスター(禁止カード)
星1/闇属性/魔法使い族/攻 300/守 300
1000ライフポイントを払う事で、
融合デッキからレベル6以下の融合モンスター1体を特殊召喚する。
この融合モンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事はできず、
ターン終了時に融合デッキに戻る。

「キラー・スネーク、メンタルマスター、魔導サイエンティストをリリース!」
 三体のモンスターが、天へと昇って消える。どす黒い闇が、地下決闘場を包み込む。
「い、一体何を召喚するっていうんだ……」
 皆が息を飲む中、そのモンスターは姿を現す。
「ウヒョハハハハハハ! 現れよ、大邪神ゾーク・ネクロファデス!」
 漆黒の身体、天まで届く巨体、股間にそびえる雄雄しき竜。それはまさしく、原作における最大最強の敵、大邪神ゾーク・ネクロファデス。

大邪神ゾーク・ネクロファデス 攻撃力∞

「ゾ、ゾーク・ネクロファデスだとぉ!?」
「ば、馬鹿な! 僕のデータベースでは、ゾーク・ネクロファデスはOCG化なんてしていないはず!」
「それもそのはずゥ! なぜならこのカードは、私が高橋和希に無理矢理描かせた世界に一枚しかないカードなのだからなぁ!」
「な、何て惨いことを……!」
 逆転の切り札召喚に喜んだ烏丸は、両腕を広げてバンザイする。
「やれぇいゾーク! ガオドレイクを攻撃……ゾーク・インフェルノ!」
 股間の竜が激しく脈打ち、激烈なビームを撃ち出す。
「リバースカードオープン! 攻撃の無力化!」

攻撃の無力化
カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 光はすかさず伏せカードを発動。無効化の渦がビームを飲み込み、次元の彼方へと消し去る。
「よーし助かった! いいぞ光ー!」
「……ターンエンドだ。フン、運のいい奴め。だが私にゾークを出させた以上、もう貴様に逆転はあり得ないぞ!」

ターン22

LP:100
手札1:
場:ナチュル・ガオドレイク、DNA移植手術、伏せカード
烏丸
LP:200
手札0:無し
場:大邪神ゾーク・ネクロファデス

「まだ……わかりませんよ。わたしのターン! わたしは魔法カード、アドバンスドローを発動! ガオドレイクをリリースし、二枚ドロー!」

アドバンスドロー
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル8以上のモンスター1体をリリースして発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。

 せっかく召喚した大型モンスターだが、何の活躍もしないままコストに。相手が攻撃力∞のゾーク・ネクロファデスでは致し方ない。
「更に、賢者の聖杯を発動!」

賢者の聖杯
通常魔法
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する事ができる。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
このターンのエンドフェイズ時、この効果で特殊召喚した
モンスターのコントロールを相手に移す。
また、この効果で特殊召喚したモンスターはリリースできず、
シンクロ素材とする事もできない。

「ま、まさか貴様私の禁止カードを奪い取る気かーっ!」
「いいえ、私が選ぶのは禁止カードじゃない……デス・ウォンバットです!」
 光のフィールドに現れたのは、烏丸がレスキューキャットのためだけに入れていた無制限カード、デス・ウォンバット。まさかの選出に、烏丸は驚愕。
「数ある禁止カードを差し置いてそれを選ぶとは……貴様一体何を考えているーっ!」
「わたしはカードを一枚セットし、手札が一枚になったことによりE・HERO バブルマンを特殊召喚!」

E・HERO バブルマン
効果モンスター
星4/水属性/戦士族/攻 800/守1200
手札がこのカード1枚だけの場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に
自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、
デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

「更に、わたしはさっき伏せたマジック・プランターを発動! DNA移植手術を墓地に送って二枚ドロー!」

マジック・プランター
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。

 光は引いたカードを見て、ふっと微笑む。
「……来た! リバースカードオープン、墓荒らし!」

墓荒らし
通常罠
相手の墓地にある魔法カード1枚を選択し、
ターン終了時まで自分の手札として使用する事ができる。
その魔法カードを使用した場合、2000ポイントのダメージを受ける。

「こ、今度こそ本当に私の禁止カードを奪い取る気かーっ!」
「そうです。わたしが選ぶのは……突然変異!」

突然変異
通常魔法(禁止カード)
自分フィールド上モンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターのレベルと同じレベルの
融合モンスターを融合デッキから特殊召喚する。

「突然変異……グローアップ・バルブを特殊召喚する時にデッキから墓地に送ったカードか! だが貴様それを使ってどんな融合モンスターを出す気だ!?」
「わたしが出すのは融合モンスターじゃありません。手札の突然変異とフィールドのE・HERO バブルマンを墓地に送り……E・HERO バブルマン・ネオを特殊召喚します!」

E・HERO バブルマン・ネオ
効果モンスター
星4/水属性/戦士族/攻 800/守1200
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「E・HERO バブルマン」と
手札の「突然変異」を墓地へ送った場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、
カード名を「E・HERO バブルマン」として扱う。
このカードと戦闘を行った相手モンスターをダメージステップ終了時に破壊する。

「バ、ババババブルマンネオオオオ〜ッ!? 何故そんなカードを入れている〜っ!」
 バブルマンはダイエット器具のCMの如く見事に痩せ、スタイリッシュな姿へと変身。守備表示で特殊召喚される。
 墓荒らしのダメージは、デス・ウォンバットが無効にする。
「そうか! デス・ウォンバットはそのためだったのか!」
「更に魔法カード、バブル・ショットを装備」

バブル・ショット
装備魔法
「E・HERO バブルマン」にのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
装備モンスターが戦闘で破壊される場合、
代わりにこのカードを破壊し、装備モンスターの
コントローラーへの戦闘ダメージを0にする。

E・HERO バブルマン・ネオ 攻撃力800→1600

「わたしはこれで、ターンエンドです」
 賢者の聖杯の効果により、デス・ウォンバットが烏丸の場に移る。

ターン23

LP:100
手札0:無し
場:バブルマン・ネオ、バブル・ショット
烏丸
LP:200
手札0:無し
場:大邪神ゾーク・ネクロファデス、デス・ウォンバット

「フ、フン。まったく驚かせやがって。無駄に沢山手札を使ってまで出したものが、たかだか二回攻撃を凌げる程度のその場凌ぎとは……万策尽きたようだな。私のタァーン!」
 烏丸は引いたカードを見て、ニヤリ。
「私は魔法カード、苦渋の選択を発動! さあ、貴様にとてつもない苦渋を味わわせてやろう」

苦渋の選択
通常魔法(禁止カード)
自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。
相手はその中から1枚を選択する。
相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、
残りのカードを墓地へ捨てる。

 烏丸はデッキから五枚のカードを選び、光に見せる。

サンダー・ボルト
通常魔法(禁止カード)
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

強奪
装備魔法(禁止カード)
このカードを装備した相手モンスター1体のコントロールを得る。
相手のスタンバイフェイズ毎に相手は1000ライフポイント回復する。

ハーピィの羽根帚
通常魔法(禁止カード)
相手のフィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

心変わり
通常魔法(禁止カード)
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスターのコントロールを得る。

光の創造神 ホルアクティ
効果モンスター
星12/神属性/創造神族/攻 ?/守 ?
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上の、元々のカード名が「オシリスの天空竜」
「オベリスクの巨神兵」「ラーの翼神竜」となるモンスターを
それぞれ1体ずつリリースした場合のみ特殊召喚できる。
このカードの特殊召喚は無効化されない。
このカードを特殊召喚したプレイヤーはデュエルに勝利する。

 この状況で使えば烏丸が即勝利できる強力な禁止カードの中に混ざる、明らかに異彩を放つ一枚のカード。原作において大邪神ゾーク・ネクロファデスを倒した最強の精霊にして、高橋和希先生描き下ろし、ごく限られた枚数しかこの世に出回っていないリアル・幻のレアカードである。
「ホ、ホルアクティだと!? 俺が一万通応募したのに当たらなかったホルアクティか!」
 中太郎が目を丸くして叫ぶ。
「それだけの数の応募券を集められる金があるならシングルで買った方がまだ安いんじゃねえの……」
「まあ、結局後でシングル買いしたんだけどよ」
「どんだけ金持ってんだこいつ!」
 中太郎と海日が緊張した場面に似合わぬ漫才をしている中、光は五枚のカードを見て息を飲む。四枚の禁止カードは、どれを選んでも自分の負けが確定する。烏丸は明らかに、ホルアクティを選ぶよう誘導している。
「わたしは……ホルアクティを選びます」
 光のその言葉を聞いた烏丸は、牙を向き不気味な笑いを見せた。
「ククク……選んだな。一番苦しい道を。他のカードを選んでいればもっと楽に死ねたものを……」
 烏丸は四枚の禁止カードを墓地に送り、ホルアクティを手札に加える。
「デス・ウォンバットで、バブルマン・ネオを攻撃!」
「バブルマン・ネオの効果発動! デス・ウォンバットを破壊します!」
 バブルマン・ネオに攻撃したデス・ウォンバットはバブル・ショットで返り討ちに遭い破壊。それと同時にバブル・ショットも破壊される。
「ゾーク・ネクロファデス! バブルマン・ネオをブチ殺せ!」
 股間から発射されたビームが、バブルマン・ネオを消し炭に変える。だがバブルマン・ネオは死に際に反撃の水鉄砲を放ち、ゾーク・ネクロファデスを粉砕した。
「大邪神ゾーク、撃破です!」
「クク……私はこれでターンエンドだ」

ターン24

LP:100
手札0:無し
場:無し
烏丸
LP:200
手札1:光の創造神 ホルアクティ
場:無し

 ゾークが倒されて烏丸のフィールドはがら空き、手札にはこの状況では役に立たないホルアクティ一枚。光は手札もフィールドも空だが、この状況でドローフェイズを迎えるため現在のアドバンテージは光にあると見ていい。
 だが烏丸の意味深な発言と、まるで負ける気がしないとでも言いたげな表情は一体何なのか。光はそのことを気にしながらも、デッキからカードを引く。
「わたしのターン、わたしは魔法カード、カップ・オブ・エースを発動します!」

カップ・オブ・エース
通常魔法
コイントスを1回行う。
表が出た場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。
裏が出た場合、相手はデッキからカードを2枚ドローする。

 コインは当然の如く表を向き、光はカードを二枚引く。
「戦士の生還、発動! 墓地のカオス・ソルジャーを手札に加えます!」

戦士の生還
通常魔法
自分の墓地の戦士族モンスター1体を選択して手札に加える。

 光にとっての最高の切り札が、手札に戻ってくる。
「そして更に、高等儀式術を発動! デッキからプチモス、おジャマ・イエロー、モリンフェンを墓地に送り……」

高等儀式術
儀式魔法
手札の儀式モンスター1体を選び、
そのカードとレベルの合計が同じになるように
デッキから通常モンスターを墓地へ送る。
その後、選んだ儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 三体のモンスターの魂が作り出したカオス・フィールドを駆け抜け、混沌の超戦士が姿を現す。
「カオス・ソルジャー、降臨!」

カオス・ソルジャー
儀式モンスター
星8/地属性/戦士族/攻3000/守2500
B・W・Dと同等の能力を持つ最強の戦士。

 世界にただ一枚しか存在しない、ホルアクティをも超える幻のレアカード。カードコレクターであった光の兄のコレクションの中にあり、その価値も知らぬまま光がデッキに入れて切り札として使っていたカードである。
「これでとどめです。カオス・ソルジャーで、ダイレクトアタック!」
 混沌の剣が、烏丸の額に真っ直ぐ向けられる。
「カオス・ブレード!」
 カオス・ソルジャーは一気に踏み込み、烏丸を一刀両断にせんとばかりに剣を振るう。
 だが、烏丸の目の前でカオス・ソルジャーは弾き返された。
「私は墓地のゾーク・ネクロファデスの効果を発動した……。相手の攻撃宣言時に手札一枚を墓地に捨てることで、相手のターンを終了させる。更にデッキからカードを一枚選び、デッキの一番上に置くことができる……」
 カオス・ソルジャーの攻撃を防がれ、光は強制的にターンを終わらされる。そして烏丸が選びデッキトップに置いたカードに、光は得も知れぬ不気味さを感じた。
(何だろう……この嫌な予感。何か……とても恐ろしいことが起こる気がする……)
「さあ、私のターンだ。私は墓地のホルアクティとゾーク・ネクロファデスをゲームから除外する……」
「ま、まさかまた終焉の使者か!?」
「いや違うな……私の召喚するカードは……混沌の創世邪神 ゾーク・ホルアクティ!」
 ゾークとホルアクティ、原作における二大最強モンスターの合体。ホルアクティの股間から漆黒のドラゴンが生えたそのあまりにも禍々しき姿に、誰もが眼を疑った。
「何なの……このモンスター……」
 光の背筋が凍りつく。
「ヒャハハハハハハハ! どうだね! 素晴らしいだろう! これこそがどんな禁止カードよりも恐ろしい、私の切り札だァ!」
 さながら遊戯王の悪役キャラクター、闇マリクやベクターがするような恐ろしい顔で、烏丸は高笑う。
「このカードの攻撃力は無限の二倍! だが真の恐ろしさはそれではない……私はこのターンの攻撃を放棄する代わり、ゾーク・ホルアクティの効果を発動する!」
 烏丸がそう言うと、ゾーク・ホルアクティの股間のドラゴンが咆哮を上げながら首を持ち上げ、その口に漆黒の炎を集める。
「ゾーク・ホルアクティの効果……それは相手のフィールド! 手札! 墓地! デッキ! 除外ゾーン! その他謎空間! あらゆる全てのカードを……焼却する!」
「焼却!?」
「そうだ。墓地に送られるでもなく、除外されるでもなく、そのカードを物理的に二度と使えなくしてしまう、言わば究極の除去! それが焼却だ!」
「ちょっと待って! あなたはカオス・ソルジャーを手に入れたいのでしょう! それを焼却してしまったら……」
「それでいいのだよ」
「!?」
「カードなど所詮闇の力を封じた入れ物にすぎん。それを燃やして闇の力を解放することこそ、我が真の目的なのだ! さあゾーク・ホルアクティよ、奴のデッキを焼き尽くせ!」
 漆黒の炎が、光に向けて放たれる。
「やめてえええええっ!」
 だがその叫びは虚しく、光のデッキは無情にも漆黒の炎に包まれる。
 ずっと共に戦ってきたデッキ。女邪神ヌヴィア、ラーバモス、モウヤンのカレー、火の粉、幻魔の殉教者、ギャンブル、魔法除去細菌兵器、そしてカオス・ソルジャー。数々の思い出を作ってきたカード達が、混沌の創世邪神の前に成すすべなく灰と化す。
「そんな……わたしのカードが……」
 光は黒い煙の中で地に膝をつき、失意のあまり崩れ落ちた。かつてカードだった灰を掴み、目からは大粒の涙が落ちる。
「どうして……どうしてこんなことをするの……」
「ハハハハハ! 私は世界征服を企む悪の大首領だぞ! 悪いことをするのが楽しいからに決まってるじゃないか!」
 勝利を確信した烏丸の歓喜の笑い声が、地下決闘場に響き渡る。
「これで……終わりだってのかよ……」
 遊戯王カード部の面々も、誰もが光の敗北を悟った。
 だが、その時。
「諦めるな! 光!」
 どこからともなく響く声。
「誰!?」
 煙が晴れてゆく。
「ば、馬鹿な!」
 烏丸が、突然情けない声を上げる。光は驚いて、顔を上げる。そこには確かに、カオス・ソルジャーがいた。デュエルディスクの上にも、カオス・ソルジャーのカードは燃えずに残っている。
「カオス……ソルジャー……」
「大丈夫か光。まだデュエルは終わっていない。希望を捨てるな」
 カオス・ソルジャーは口を開き、光に話しかける。
「カ、カオス・ソルジャーが喋ったーっ!?」
 その衝撃的な光景に、その場にいた者達は皆口あんぐり。
「光、俺はお前の兄だ。実は色々あってカオス・ソルジャーのカードに魂を封印されてしまったのだが、どうやら今になって自分が人間だったことを思い出したようだ」
「お兄ちゃん……なの? でもどうして、他のカードみたいに燃えてないの?」
「そ、そうだ! 何故カオス・ソルジャー如きがゾーク・ホルアクティの最強最悪の効果に耐えられる!」
 烏丸は唾を飛ばして叫ぶ。
「知りたいか? なら教えてやるよ。なぜなら俺は……ステンレス製だからだ!」
 ドン☆という擬音が鳴るかの如きどや顔で、カオス・ソルジャーは言い放つ。
「し、しィまったァ〜〜〜〜〜!」
 カオス・ソルジャーがステンレス製のカードであることを忘れていたという、致命的なミス。烏丸は思わず間の抜けた声を上げ、心の底から悔しがった。
「だ、だが忘れたわけではあるまい! 次のドローフェイズでカードを引けなければ、貴様の負けということを! 貴様のデッキは全て灰となったのだぞ! 私はターンエンド、これで私の勝ちは決まったのだーっ! ヒャハハハハハーッ!」
「そ、そうかーっ! せっかくカオス・ソルジャーが燃えずに済んだのに……これじゃあどっちにしろ絶体絶命じゃないかーっ!」
 海日が頭を抱えてうずくまるが、カオス・ソルジャーはまるで気にしている様子はない。
「お兄ちゃん、一体どうするつもりなの!?」
「あれを見ろ、光」
 カオス・ソルジャーは、後ろの扉を指差す。そこから三人の男が、地下決闘場に入ってきた。
 一人は光達もよく知る変態、ダイ・グレファー。もう一人はカードショップの店長扮するヒーロー仮面。そしてもう一人は、見知らぬ中年男性である。
「高橋和希! 貴様は地下牢に閉じ込めたはず……どうしてここに!?」
 驚愕する烏丸。見知らぬ中年男性が遊戯王の原作者であると知った遊戯王カード部の面々は、それより更に驚愕する。
「高橋先生は我々が救出したのだ!」
「烏丸! 貴様の野望も今日が最後だ!」
「ぬうう……だが高橋和希が来たから一体何だというのだ……既に私の勝ちは決まっているのだぞ!」
 烏丸がそういうと、高橋和希はフッと笑う。
「それはどうかな」
「何!?」
 高橋和希は懐から一枚のカードを取り出すと、それを光に向けて投げる。
「さあ、私が千年ペンで描いたこのカードを使うんだーっ!」
「わかりました! わたしのターン……ドロー!」
 光はそう言って、高橋和希の投げたカードをキャッチ。
「デッキがゼロの状態で、ドローフェイズにデッキ外からカードをドローだと!? そんな反則認められるかーっ!」
「禁止カードやオリジナルカード使ってる奴の言えたことかーっ!」
 烏丸の至極ごもっともなツッコミに、中太郎が更なるツッコミを返す。
「わたしの引いたカードは……スーパーカオスの儀式! でもこのカードの発動条件は……」
「そう、闇の力を封じた十枚のカードが、ここに揃っていることが条件となる!」
 高橋和希がそう言うと、さっきまでビビっていた烏丸が急に強気になる。
「フハハハハハ! 闇の力を封じたカードのうち、カオス・ソルジャー以外の九枚は我がダークコナミが所有しているのだ! 即ちそれの発動条件は満たせない! 高橋和希め、そんな産廃を渡してしまうとはまったくマヌケな奴だ!」
「それはどうかな」
「ナヌッ!?」
 高橋和希の言葉と共に、ダイ・グレファーとヒーロー仮面が、懐からそれぞれ二枚ずつデビルズ・ミラーのカードを取り出す。
「俺は元々ダークコナミの手によりカードから具現化させられた存在。その際にこのカードを体内に埋め込まれていてな。つい先程肛門から排出したところだ」
 ダイ・グレファーは爽やかな笑顔でさらりと気持ちの悪いことを言う。
「そして俺は、OCGにおけるHEROのあまりの弱さにコナミを恨み、ダークコナミに入った。そしてその際にこのカードを渡されたのだが……今やHEROもガチデッキ。最早俺がダークコナミにいる理由は無くなったから、裏切らせてもらった」
 ヒーロー仮面もまた、何とも理不尽なことをさらりと言う。
「おのれええええ! だが貴様らに渡したカードは一枚ずつのはず! 残りの二枚は一体どこから!?」
「ああ、これは社内でこのカードを持った社員を倒して手に入れた。物理的な意味でな」
「デュエルしろよおおおお! お前らデュエリストだろおおおおお!」
「俺は戦士!」
「そして俺はヒーロー!」
「「デュエルよりも、リアルファイトの方が強い!」」
 二人仲良くポーズを決めるダイ・グレファーとヒーロー仮面。烏丸の顔が引き攣る。
「だ、だが貴様らの手に渡ったのはデビルズ・ミラーだけ! まだスーパー・ウォー・ライオンとゼラが無いではないかーっ!」
「スーパー・ウォー・ライオンならあるぜ!」
 そう叫んだのは、中太郎である。その手には、しっかりとスーパー・ウォー・ライオンのカードがある。
「中太郎! 何でお前がそんな高価なカードを!?」
「ああ、実は俺は金剛峰寺財閥の御曹司なんだ。山田中太郎は偽名で、本当の名前は金剛峰寺中太郎っていうんだ。今までずっと黙ってて悪かったな。このカードも、たまたまオークションに出品されてたから一億円で落札したんだ。大方、烏丸のやり方についていけなくなった元ダークコナミ幹部が流したものだろうな」
「な、何だと〜っ!?」
 更なる裏切りが発覚し、烏丸は大口あんぐり。
 そして中太郎の行動に、心動かされる者が一人。
「中太郎君……それだったら、僕だって!」
 武は自らの心臓に右腕を突っ込むと、一枚のカードを取り出す。
「僕もダークコナミを裏切る! 僕は本当は人間じゃない……ダークコナミによって作られたホムンクルスなんだ! ダークコナミが無ければ、僕が生まれることはなかった……。だがそれでも、僕には中太郎君との友情を裏切るくらいなら、生みの親を裏切る! 御門さん! このスーパー・ウォー・ライオンを使うんだ!」
「か、神沢武ーっ、貴様まで裏切るかーっ!」
「ならば拙者も裏切ろう」
「ナヌ!?」
 唐突な雷の裏切り宣言に、烏丸は振り返る。
「何故だ雷ーっ! 貴様を幕末の動乱から救ってやったのはこの私だぞーっ!」
「いかにも、拙者は幕末から現代に連れてこられた本物の侍。烏丸殿には死にかけていたことろを救ってもらった恩義はある。しかし……ぶっちゃけ今は裏切る空気でござろう! 拙者は空気の読める侍にござる!」
「そんな理由が通じるかーっ!」
 左右の目をおジャマ・イエローの如く飛び出させ、烏丸がツッコむ。
「ハ、ハハ、どいつもこいつもふざけやがって……だがまだだ、まだゼラのカードは我らの手に……」
「あ、俺ゼラ持ってたわ」
「!?」
 烏丸は顎が外れそうなほど口を開き、檻の方を向く。声を出したのは海日である。
「この前原作の世界に行った時に、王輝慎二が落としていったカードを拾ったんだ」
「な、何ーっ!? 王輝は、王輝はどうした!?」
「遊戯にデュエルで負けて罰ゲーム喰らって原作の世界に置いていかれた」
「うそーん! ダークコナミのナンバー3であっても、伝説の決闘王には敵わないというのかーっ!」
 烏丸は頭を抱え、全身をくねらせて悔しがる。
「天野ーっ! 最後のゼラを持つお前だけは……お前だけは裏切らないよな……」
 涙目になり、すがりつくように天野に話しかける烏丸。
 だがその視線の先には、今にもグレファーから服を脱がされようとしている天野がいた。
「さあ、ゼラを渡すか俺と気持ちいいことをするか、好きな方を選ばせてやる」
「申し訳ありません烏丸様……」
 グレファーに屈した天野は、ゼラのカードを容易く手渡す。
「ど、どいつもこいつも〜っ」
「よし、これで十枚の闇のカードが揃ったぞ! 光、スーパーカオスの儀式を使え!」
「わかったよお兄ちゃん! スーパーカオスの儀式、発動!」
 光は兄の言葉通り、スーパーカオスの儀式を発動する。その瞬間、仲間達の持つ九枚の闇のカードが姿を消し、光の手の中へと収束する。光は九枚の闇のカードを墓地へと送り、儀式の生け贄とする。
 四枚のデビルズ・ミラーはあらゆる攻撃を
跳ね返す鏡の盾に、三枚のスーパー・ウォー・ライオンは獅子の鬣を模した黄金の兜に、二枚のゼラは全ての災厄からその身を守る悪魔の鎧になり、カオス・ソルジャーへと装着される。
「カオス・ソルジャー Infinity-]、降臨!」
 闇のカードが変化した神々しき武具をその身に纏い、カオス・ブレードを手にしたカオス・ソルジャーが光の傍らに立つ。

カオス・ソルジャー Infinity-] 攻撃力∞×10

「こ、攻撃力無限の十倍ぃ〜!? ふざけんな! 小学生じゃあるまいし!」
 烏丸が必死のあまり顔を醜く歪ませながら、喉が掻き切れんばかりの声を上げる。
「カオス・ソルジャー Infinity-]の攻撃!」
 Infinity-]は跳び上がり、ゾーク・ホルアクティの眼前で剣を構える。
「インフィニティ・カオス・ブレード!」
 光の声と共に、カオス・ブレードが振り下ろされる。ゾーク・ホルアクティの巨体を、見事なまでに真っ二つ。無限の二倍の攻撃力を持つゾーク・ホルアクティでさえ、無限の十倍のの攻撃力を持つカオス・ソルジャー Infinity-]の前では赤子同然であった。
「ぎょえ〜〜〜〜〜っ!」

烏丸LP:200→0

 情けない断末魔と共に、烏丸は吹っ飛ぶ。烏丸の敗北に反応し、遊戯王カード部の面々を閉じ込めていた檻が解除される。
「警察だ! 烏丸黒司、逮捕する!」
 突然社内に突入してきた警察が、敗北のショックで痙攣している烏丸を確保する。
「ついでにダイ・グレファー、お前も逮捕だ!」
 こうして烏丸とダイ・グレファーは逮捕され、世界に平和が戻った。


 それから数日後。
「皆さん、新しいデッキを組んできました! デュエルしましょう!」
 光はデッキを焼かれたショックから立ち直り、兄のコレクションから新たなデッキを組み直した。
「よーし、ならばエンタメデュエルを会得した俺のペンデュラム開闢デッキと勝負だーっ!」
 光と海日はデュエルディスクを構え、互いに向き合う。
「デュエル!」
 遊戯王カード部の日常は、これからも続く。

おわり





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