中間の季節





この小説は章ごとに視点が変わります。

設定はバトルシティ終了後、ファラオの記憶編以前です。一部原作の設定を勝手に決めているところがあります。

とりあえず、細かいところはあまり深く考えずにお読みください。





第1章・到来


 けだるさを覚えるほど心地よい温かさから、徐々に熱を帯びていく季節。

 5月中旬。

 暑くなったと思えば、次の日には急に寒くなることもあるので、つい薄着で出かけてしまうと結構つらい目に遭う。

 しかし私達にとっては、「寒い」という点に関しては心配はいらない。

 なぜなら6月の衣替えまでは冬服。ちょっと寒い日がちょうどいいくらいなのである。

 その分、5月中旬から下旬に掛けて、冬服で暑い日に耐えなければいけない。前に城之内が理不尽だと言っていたのも頷ける。

 しかも童実野高校では6月1日ちょうどに衣替えなので、フライング衣替えは厳禁。

 この状態で5月下旬の「一大イベント」を乗り越えなければいけない。

 それで、この一大イベントって言うのは…



「…来週は中間かあ」

 隣で本田が呟く。

「ん? 中間? 中間って何の中間だ?」

 机の上に腰掛けながら城之内が聞き返す。

「そんなの決まってるじゃないか…中間テストだよ。」

「げ! そ、そういえば、そんなモンあったなぁ…」

 城之内は大げさな格好でそり返る。

 そり返りすぎて、座っていた机の上から落ちそうになる。

 城之内、今の今まで中間テストの存在を忘れていたみたいね。

 ある意味幸せなヤツだわ…。

「テ、テストなんてできなくても別に死にはしないぜ!」

 強がる城之内。焦りの色は隠せていない。

「でも城之内…確かあんた1年の時、進級も危うかったんじゃない?」

「そうそう、お前確か、決闘者の王国から帰ってきた次の日、補習を受けさせられてたよなぁ。あン時はもう春休みだったっつうのに、城之内だけ登校。ククク…傑作だったぜ!」

「く…たまたま学年末テストでいい点取ったからっていい気になりやがって…」

「バーカ、オレはお前とはオツムの構造が違うんだ。」

「言ってくれるぜぇ本田ぁ! てめえだって学年末ギリギリだったじゃねぇか。むしろ合計点ではオレの方が上だったハズだぜ!」

「甘いな城之内。各教科バランスよく赤点ラインを超えたから意味があるんだ。城之内は偏りすぎなんだ。だからその点、オレは頭がいいことになるっつーワケよ。分かった?」

「…二人とも、五十歩百歩だと思うんだけど…」

 くだらない言い争いを始めた城之内と本田を尻目に、私は教室に入ってきた遊戯の元へと向かう。

「おはよ、遊戯。」

「おはよー、杏子。」

 いつも通りあいさつを返してくれた遊戯だが、ちょっと元気がないようだ。

「あれ? 遊戯、なんか元気ない?」

「あ、ボクは大丈夫だよ。ちょっと昨日眠れなくて…」

「え? 眠れなかったって…」

「あ、うん。昨日新しいゲームが発売されたんだ。それでついハマっちゃって…気付いたら外が明るくなってて…」

「………」

 心配して損した。もう、ゲームのことになると周りが見えないのね。

「遊戯…中間…大丈夫?」

「あ、うん、もう中間地点まではたどり着いたと思うから、徹夜すれば今日中にはクリアできそうだよ。明日には杏子にも貸してあげられるよ。すっごい面白いんだよ、これ!」

 目を輝かせながら遊戯は熱弁する。

 もしかしたら城之内より重症かもしれない。

 こんな遊戯を見ているのは好きなんだけど、いい加減現実に引き戻さないと危険だわ。

「遊戯、悪いんだけど来週…中間…テスト…あるのよ。」

「え?」

 笑ったまま硬直する遊戯。

 …どうやら、城之内よりも重症だったみたい。



 チャイムが鳴った。

 現実に引き戻された遊戯は暗い顔で席に戻っていく。

 なんだか悪いことしちゃったみたいで、ちょっとだけ胸が痛む。

 でもこれも遊戯のためなんだから、仕方ないよね。

 そうだ、今日は遊戯の家に行って勉強教えてあげよう。

 そう決めると、私はそのまま1時間目の授業に集中していった。



 今日の授業もいつも通り、滞りなく終わったけど、遊戯が一日じゅう暗そうにうつむいていたのが気がかりだった。






第2章・天秤


 キーンコーンカーンコーン。

 無機質なチャイムの音で目が覚める。

 大きく伸びをする。

 あーあ。今日は一日じゅう眠りっぱなしだった。

 やっぱり昨日ゲームやり過ぎなきゃよかったかなぁ。

「遊戯、ゲーセン行こうぜゲーセン!」

 解放感に身を躍らせながら城之内くんが近づいてくる。

「おい、現実逃避かぁ、城之内ぃ!」

 本田くんも城之内くんの後に続いてボクのところにやってくる。

「うっせぇな、本田。…てめえはとっととオウチに帰って真面目くんでも気取ってりゃあいいんだよ!」

「…ヘッ、分かったよ! オレは帰って真面目くんになればいいんだろ! 今回は全教科平均点ゲットしてやるよ! 城之内なんかオレの足元にも及ばないことを叩き込んでやるぜ! …それじゃあな、遊戯!」

「う、うん…」

 本田くんは踵を返し、そのまま教室の外へ出て行く。何かあったのかな。

「よし、ゲーセン行くぜ、遊戯!」

 すかさず城之内くんが誘いを入れてくる。

 ゲーセンかぁ。

 昨日買ったゲームもやりたいけど、確か今日ゲーセンにも新台が入っているハズだったなぁ。

「うん。行こう、城之内くん!」

「おし、来た! やっぱり遊戯は親友だぜ!」

 何か忘れている気もするが、そんなことより今はゲームだ。

 ボクは早速荷物を片付ける。そしてそのまま教室を出ようと足を進めたところに声がかかる。

「ハイ、ストーップ!」

「杏子?」

 両手を広げて杏子がボク達の前に立ちふさがる。

「遊戯、やけにスッキリした顔だけど、やっぱり忘れてるわね。」

「?」

 何のことだろう?

「一日じゅう下向いて暗い顔してるように見えたから心配してたのに、こんなことだなんて…」

「どういうこと?」

「つまり、こういうこと。」

 杏子は手に持っていたプリントを広げる。

 そこには、「中間試験・時間割表」と書かれていた。

「あ。」

 突然襲い掛かる現実。ボクはちょっとの間固まってしまう。

「ケッ、だからどうだっつうんだよ、杏子! テストが恐くて高校生がやってられっかよ! 行くぜ遊戯!」

「う、うん…」

 ボクは現実から逃げようとしていたのかもしれない。城之内くんに言われるがままゲーセンに向かおうとする。

 ボク達の前に再び杏子が立ちふさがる。

「だ・か・ら! ダメだって! こんな時にゲーセンで遊ぶバカがどこにいるって言うの?」

「へっ、どうせオレはバカで通ってるからな!」

「城之内はバカでいいけど、遊戯はバカじゃダメなの! だから、一人で行くのは止めないけど、遊戯は連れてかないで!」

 結構キツイ事をさらりと言ってのける。そのまま杏子はボクに向き直ってこう言う。

「…遊戯、テストはもう近いのよ。城之内みたいに再試になったり補習を受けたりするなんて嫌でしょ? 今日は私が付き合ってあげるから、いっしょに勉強しよ? ね?」

「え? う、うーん…」

 杏子からの意外な誘い。杏子と二人っきりなんて久しぶりかもしれない。気持ちが揺らぐ。

 でもゲーセンも捨てがたい。勉強もしたくない。

 でも赤点は取りたくない。杏子と一緒に勉強もしたい。

 ゲーセンと勉強が天秤に掛けられる。

 「勉強の皿」には赤点回避、杏子と一緒 の重りが乗せられる。

 「ゲーセンの皿」には新ゲーム、勉強回避の重りが乗せられる。

 下に傾いたのは…わずかに勉強の皿だった。

「…遊戯、友情忘れてないよな! な?」

 不意に、城之内くんが声をかけてくる。

 友情…?

 そうだゲーセンの皿に友情を乗せるのを忘れていた。

 ゲーセンの皿に友情の重りを乗せる。

 しかしこの状況での友情は信じられないくらいに軽かった。

 友情を乗せても天秤は揺らぐことなく、勉強の方に傾いたままだった。

「ごめん、城之内くん、やっぱり勉強するよ…」






第3章・脱走


 家について30分。

 いつも通り、手を洗いうがいをし、そして学生服を脱ぎ部屋着に着替える。

 ここまでは問題なかったはずだ。

 なのに今、オレはどうして居間にいるんだ?

 特に見たくもないドラマの再放送をボーっと見ている。このドラマはもう3度目だ。展開も覚えてしまっている。

 確か、オレは城之内に「真面目くんになる」とか言ってなかったか?

 散々城之内をバカにしといて、結局いつも通り赤点スレスレでは格好がつかないだろ?

 このままじゃマズイよな、やっぱり。

「よし!」

 一人気合を入れて、階段を上り自分の部屋に向かう。

 部屋に入るとまず、椅子に掛けてあったハチマキを頭に巻く。

 そして、鞄から数学の教科書を取り出し、机に広げる。

 テスト範囲は確かここからだったな…。

 …………。

 ………………。

 分からん。

 いや、公式は覚えた。覚えはしたのだが、実際に問題に直面しても、公式をそのまま使えばいいというものではないのだ。

「こりゃあ詐欺だろ?」

 やる気をなくして教科書を閉じる。

 仕方ないので、他の教科の教科書を広げようと鞄に手を伸ばす。

 しかしその時、一冊のマンガ本がオレの目に止まった。

 …ハチマキが頭からずり落ちた。

 テスト勉強開始、わずか15分後のことだった。



 ピンポーン。

 マンガを読んでいると、階下から玄関のチャイムが鳴り響く。

 チャイムと共にブランキーも吠える。しかしこの吠え方は威嚇するものではない。訪問者はおそらく知り合いだ。

 確か今日、家には姉貴がいたはずだ。オレはそのままマンガを読み続けることにした。

 すぐに、パタパタと姉貴が玄関口へ向かう音が聞こえた。それからガチャリとドアを開ける音。

 そして…

「あ、家に帰ってたんじゃなかったのね。ヒロトなら2階よ。」

 という姉貴の声が聞こえてくる。

 何だか嫌な予感がする。

 ブランキーの知っている人、そして姉貴の対応。

 間違いない。ジョージのヤツだ。

 オレは窓を開け屋根伝いに家の裏手に回る。

 そして屋根の低くなっているところから塀に飛び降り、庭まで降りる。

 周りの様子を伺いながら、音を立てずに玄関から靴を拾い上げ、外に出る。

 家からある程度離れたところで、靴を履き一息つく。

「はあ。」

 それにしても今日はついてねぇなぁ。

 このままゲーセンにでも行きたかったが、持ち合わせもないし城之内と鉢合わせするのも嫌だった。

 遊戯の家にでも行くかな…。あの時は杏子もいたし、多分遊戯はゲーセンには行けなかっただろう。

 一緒に勉強すれば、お互い傷をなめあうことくらいはできるはずだ。

 オレは遊戯の家に向かって歩き出した。



 遊戯の家に着くと、双六のじいさんが家の前を掃除していた。

「えっと…遊戯のヤツっています?」

「おお、本田くんか。遊戯なら杏子ちゃんと勉強しておるぞい。」

 やっぱり遊戯はゲーセンに行けなかったようだ。

 だよな、城之内が杏子に勝てるはずねぇよな…。

 何だかおかしく思えて少し顔がほころんでしまう。

「じいさん、オレも邪魔していいかな?」



 遊戯の部屋に通されるなり、遊戯と杏子は揃ってちょっとだけだが、嫌な顔をした。

 少し悪い気はしたが、オレにはしばらく行く当てがないのだ。二人に混じって勉強させてもらう。

 いつも通りに接してくれる遊戯達に、さっき嫌な顔をされたことなど、すぐに忘れてしまった。



 オレと遊戯のバカ2人に対して、杏子は「先生」だった。

 杏子自身も大した成績の持ち主ではなかったはずだが、オレ達の比ではない。

 ヘマをやらかす度に、杏子先生はオレの頭を何度もごついてくれた。しかも徐々に加減を忘れてきている。

 だが不思議なことに杏子先生は遊戯の頭は一度もごつかなかった。

 このことを杏子先生に問い詰めると、

「素直な生徒はかわいいのよ。」

 と、独りよがりの意見を言われ再び頭をごつかれた。



 勉強がひとしきり終わると、最後に城之内の噂話で盛り上がった。

 …オレはジョージが来たことにちょっとだけ感謝していた。






第4章・前日


 朝。

 窓から日の光が差し込み、オレを眠りから覚ます。

 昨日は夜遅くまで仕事をしていたので少し眠い。

「おはようございます、瀬人様。今日は学校へ行かれるのですか?」

 部屋を出ると使用人に問われる。

「ああ。」

 オレは軽く返事をし、リビングに向かう。

「兄サマ、おはよう!」

 モクバが声をかけてくる。今日も元気そうだ。



 オレは学校へ向かう車の中で教科書を広げる。

 バトルシティが終わった後、一度は高校を辞めて会社に専念しようと思ったが、今はこうして学校に通っている。

 通っていると言っても出席率は20%程度。学校はオマケのようなものになってしまっている。

 普通、出席率が悪いと勉強はできても進級できないのだが、そこは会社の力を使って少々強引だが認めてもらっている。

 しかしその代わりテストでしっかり点を取る必要がある。

 義父の教育の賜物で、会社経営に関する知識は豊富なため、それに対応する教科の勉強はほとんど必要ない。

 だがその分偏りがあるのだ。古典、歴史、物理など、会社経営とはほとんど関係ない分野に関しては、人並みの知識しかない。

 こうして暇を見つけて勉強しないと、テストが厳しいのだ。

 大企業の社長とはいえ、やはり高校は卒業しておきたかった。たとえ卒業したとしても、特に得することがあるとは思えない。学歴などというくだらないものにも興味はない。

 ならどうしてオレは学校へ行くのか……

「フ、くだらん。」

 オレは、ふと浮かんだ奴らの顔を振り払って教科書に目を戻した。



「えー、みんな分かっていると思うが、明日から中間テストだ。もちろん勉強は順調だよな?」

 大声を張り上げながら教師がホームルームを進めている。

 オレは適当に聞き流し、世界史の教科書に目を向ける。

 しかし大声の隙間を縫うように小さな声が洩れていた。

「なあ遊戯、さっきから海馬のヤツ何読んでんだ? 遊戯の席からなら見えるだろ? ちょっと見てくれない?」

 こういう私語は小声でも意外と目立つ。

 そして耳障りだ。

「えぇ、世界史の教科書ぉ? アイツがぁ?」

 ………。

 ぬううう。城之内ごときに馬鹿にされるのは耐え難い!

 オレはポケットに忍ばせておいたカードを1枚取り出し、城之内に向かって投げつける。

 カードは綺麗な直線軌道を描き、城之内の手の甲に当たる。当たりはしたが刺ささったりはせず、カードはそのまま机の上に落ちた。

「痛っ! な、なんだよ…。……海馬のヤローだな、海馬ぁぁ!」

 城之内は立ち上がりこちらを睨んでくる。

「城之内! 私の話を聞いておるのかね!」

 すかさず教師の注意が入る。

「く、くそ…」

 城之内は悔しそうに席に座った。

 フン、いい気味だわ!



 今日はテスト前日ということで、特別に半日で授業は終了した。

 授業が半日で終わったのは、当然勉強させるためであるが、生徒の半分は半日で終わったことに喜びを感じているらしい。

「よっしゃあ、今日は半日だぜ!」

 喜びを抑えきれない馬鹿が叫ぶ。

「城之内くん、ちゃんと勉強してるの?」

「チッチッチッ…甘いな遊戯。オレには切り札があるのよ〜!」

 調子に乗っている城之内の態度が感に障る。

 オレはわざと城之内の顔面スレスレの位置を通って教室を出ようとする。

「!」

「海馬ぁ!」

 城之内はオレの服に掴みかかろうと手を伸ばすが、手は空を切りその勢いで転んでしまう。

「フン。そうやって地を這いつくばっている姿がお似合いだぞ、城之内。」

「く、わ、わざとだな!」

「…さらばだ、遊戯!」

「あ、うん。バイバイ海馬くん。」

 オレはそのまま教室を後にした。

 明日から3日連続テスト。4日も続けて学校に来るのは2年になってからは初めてだな…。






第5章・窮地


 海馬のヤツが出て行ってすぐ、オレ達――遊戯、本田、獏良、杏子、そしてオレの5人は腹ごしらえということで、カロリーバーガーに昼飯を食いに行くことになった。

 本当はバーガーワールドの方が近いのだが、杏子がなんとなく行きづらいと言い出したため、カロリーバーガーへ向かう。



 バーガーの乗ったトレイをテーブルに置きながら杏子が話しかけてくる。

「そういえば城之内、さっき海馬くんが投げてよこしたカードって何だったの?」

「………」

 ホントはあまり答えたくなかったが、仕方なくカードを見せる。

「野性解放?」

「ククク…。本能のままに生きている城之内にお似合いのカードだ。」

 やっぱり本田はオレをバカにしてくる。

「本田ぁぁ!」

 テーブルから身を乗り出して本田に掴みかかろうとするが、またしても空振り。今日はとことんついていない。

「だから、そういうところが本能丸出しなんだよ! 獣戦士っていうより立派な獣族だなこりゃ。」

「く…」

 相変わらず言いたい放題言ってくれる。

 本田のヤロー、いつか絶対に立場逆転してやるぜ…。

「でもさ、海馬くんもわざわざカード用意して来るんだもん、準備いいよね…」

 獏良がポツリと漏らす。

「え…」

「………」

「…ははは……」

「………」

 ……オレ達はしばらく動けなかった。



「さてメシも食ったし、ゲーセンにでも行くか!」

 オレは無意識のうちにみんなを誘っていた。

 しかし…

「…お前一人で行け。」

 誰も行く気はない。…当然だ。テスト前日にゲーセンに行く方がおかしい。

「しゃあねぇな。今日くらいはおとなしく勉強するか。」

「…うん、それがいいよ城之内くん。」

「いや待て城之内、お前今、『今日くらいは』って言ったよな…。まさか今日まで勉強していないのか?」

「当然だろ? だからこうして置き勉してた教科書持って来てんじゃねーか。」

「『当然』って城之内くん…」

 みんな揃って、珍しいモノを見る目でオレを見てくる。

 怯まずオレは反論する。

「テスト勉強なんて前日だけで十分だろ? な?」

 しかし、誰も頷いてくれない。

「…とりあえず、城之内はヤバいってことは分かったわ。」

「…うん。」

 ……そ、そんなにヤバいの?

 なんか勉強しないといけない気がしてきた。

 オレ達はそのまま解散して家路へついた。



 プルルルルル。

 家へ帰るなり、電話が鳴りだした。

 せっかく勉強する気になった時に電話とは、一体どこのどいつだよ!

 嫌々ながらも受話器を取る。

「あ、克也お兄ちゃん!」

 静香だった。さっきまでの苛立ちはすぅっと抜けていく。

「お、静香か、元気にしてたか?」

「うん! お兄ちゃんに会えないのはちょっと寂しいけどね。」

 思わず顔がほころんでしまっていた。…こんな顔本田には絶対見せられねぇな。

「それでねお兄ちゃん、今ちょうど童実野町に来てるんだけど、今から会えるかな…?」

「え?」

 バトルシティが終わってから静香には会ってなかったので、正直会えるのは嬉しい。

 しかし、オレはさっき勉強すると決めたハズじゃなかったか?

「今日で私の中間テストが終わって…午前中で帰れたから、お兄ちゃんに会えるかなと思って来たんだけど、ダメかな…」

 申し訳なさそうに静香は言う。

「そ、そんなことない。いや、まだ昼の2時なのに電話が来るとは思ってなかったからさ…」

「あ、もしかしてお兄ちゃん、明日…テストなの?」

「違う違う、オレも今日終わったとこ。だから今日は早いんだ。」

「それじゃあ…」

 静香の声が明るくなる。

 …この瞬間オレの再試は確定した。



 結局夕方6時まで静香と過ごすことになった。

 その後も勉強などほとんど手につかずに夜は更けていく。

 勉強時間30分。

 しかも授業中はまともに話など聞いていない。

 これでどこまで点が取れるか逆に見物である。

 広げるだけ広げた勉強用具を片付け、筆入れに鉛筆を入れる。鉛筆には1から6までの数字が振ってあった。…最後の切り札である。

 オレは、「あさって」に備えて早めに寝ることにした。






第6章・無意識


 今日は晴天。

 誰だってそうなのだろう、やっぱり晴天だと気持ちも晴れやかになる。

 ボクは意気揚々と教室に入った。

「オース、獏良!」

 教室に入るなりみんなが声をかけてくれる。ボクもそれに返す。

「みんな、おはよー。」

 遊戯くん達はあいさつこそはしてくれたけど、テスト直前なので、すぐに持っている本に目を戻してしまう。…必死だなぁ。

 でも、城之内くんだけいつも通り話しかけて来る。

 いくらか話をしたが、どうやら彼は開き直ったらしい…。



 1時間目は数学。

 ボクもそれなりには勉強はしている。

 時間がなくなって全ては解答できなかったものの、8、9割は埋めることはできた。

 多分平均点は大丈夫だろう。

「解答用紙はちゃんとあるわね…それでは解散。」

 担当の先生はそう言って部屋を出て行く。

「ふぅ。」

 ボクは思わずため息をついていた。周りからも同様にため息が聞こえたのがちょっと面白かった。

「あー…切り札使えなかった。選択問題が1つもねぇ…」

 城之内くんがぶつぶつ言いながら教室の外へ出て行く。

 気にはなったけど、結局ボクは構わずに、時間まで自分の席でボーっとしていた。



 2時間目は世界史。

 元々世界史は好きなので、解答用紙はみるみる埋まっていく。

 ……30分後、ボクはひとつの空欄を睨みつけていた。

 どうしても1問だけ分からないのだ。確かにやった記憶はあるんだけど、肝心の名前が出てこない。

 なんだか悔しくて考え込んでしまう。

 記憶を辿りやすいように、関連性のあるものの名前を問題用紙の隅に書き連ねていく。

 こうしていろいろ手を尽くして思い出そうとしたものの、10分経っても分からなかった。

 試験終了まであと10分。もう、なんとしてでも思い出したい。ちょっと意地になっていた。

 腕組みをして考える。

 考える。

 考える。考える。考える。

 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴った。

 あれ? まだあれから2、3分くらいしか経ったないような気がしたんだけど…。おっかしいなぁ。勘違いでもしてたのかな?

 解答用紙が回収されていく。

 まあいいか…。それにしても、たった1問であそこまで意地になる必要なんてなかったかなぁ。



「すげえなバクラ、お前世界史得意だったのか…」

 解散の合図と同時に本田くんがボクに話しかけてくる。

「解答用紙の回収ン時にチラッと見たけど、全部埋まってたじゃねぇか。」

「…え? 全部?」

「ああ。間違いねぇ全部だ。…それにしてもオレだって結構自信あったんだが、結局7、8割だったからなぁ。うらやましいぜ獏良…」

 全部…かぁ。そんなはずはないんだけど…。

 ちょっとだけ引っかかったけど、多分本田くんの見間違いだと思う。…いや、そう思い込むことにした。



 3時間目のテストも終わり、テスト1日目は終了した。






第7章・発熱


 まどろみの中から、苦しそうな息づかいを感じる。

 …相棒だ。

「相棒…大丈夫か?」

「あ、うん…大丈夫だよ…」

 そうは言うものの、全然声色は良くない。

「ホントに大丈夫なのかよ。」

「…う、うん。やっぱりちょっとぼーっとする…。…風邪引いちゃった…かも。」



 ピピッピピッピピッ。

 無機質な電子音が鳴り響く。

「38度ちょうど…」

「相棒、今日は学校休んだ方がいいんじゃないのか? 無理していく必要なんてないぜ。テストなら後からでも何とかなるんだろ?」

「うん…一応何とかなるハズだよ。でもボク…学校へは行くよ。」

「相棒?」

「もう一人のボクだって知ってると思うけど……今回のテストはさ…ボク、杏子に何度も勉強教えてもらってたよね?」

「ああ。」

「だから…ここでテストを受けなかったら、なんだか杏子にあわせる顔がなくってさ…。自分の勉強時間削ってまで、勉強を教えてくれたんだし…」

「相棒…」

「ちょっと辛いんだけどね…行くよ!」

 …相棒の言動や行動に、度々オレは心を打たれる。

 ハッキリ言ってしまうと、最初は少し見下していた所があった。

 だがDEATH−Tや決闘者の王国などを経て、オレはいつの間にか相棒に尊敬の念を抱くようになっていた。

 相棒にはいつかオレの全てを超える時が来る。この考えはその時から変わっていない。

「お、相棒! いい案が浮かんだぜ!」

「え?」

「テストまではオレが代わる。こうすればお前もしばらく休めるよな?」

「…でも、風邪は精神的なものじゃなくて体力的なものだから、もう一人のボクだって辛い目に遭うと思うよ…」

「フ…風邪程度大したことはないぜ! ペガサスやマリクの闇のゲームに比べたらゴミみたいなモンだろ?」

「もう一人のボク…」

「それに…お前のそういう考え方、いいと思うぜ。大体オレもこうやって見てるだけじゃカッコつかないしな!」

「うん、分かったよ! それじゃあ…バトンタッチ!」

 千年パズルが淡い光を放つ。

 その直後、オレはまとわりつくようなだるさと悪寒に襲われる。

「…く。…思ったより…辛いな。」

「大丈夫?」

「大丈夫だ。それにここで戻るわけにはいかないだろ? お前はしばらく休んでいろよ。」

「うん…。あ、そうだ。みんなには無理して来た理由はヒミツにしておいて欲しいんだけど…」

「フ、任せておきな!」



「おはよー遊戯…あれ?」

「ああ。」

「今日は…もう一人の遊戯の方なの?」

「ああ。」

「ちょっと…さっきから『ああ』って、生返事ばかりじゃない。」

「ああ。」

「……」

 風邪は意外に辛いものなのだと痛感していた。

 闇のゲームで受ける精神ダメージとは違う辛さ。だるさが先立ってくる。こうやって頭を働かせるのもちょっと辛いくらいだ。

 過去…オレ自身も風邪を引いたことがあったのだろうか?

 ふとそんなことを思い立ったが、今は考える気力が起こらない。時間まで自分の席に座って体を休めようとする。

 杏子と城之内くんがオレのところにやってくる。杏子は覗き込むようにオレの顔を見て言った。

「ちょっと遊戯、もしかして風邪引いてるんじゃない?」

「あ、ああ。まぁな…。」

 すぐに見破られてしまった。せめて心配かけないようにしたかったのだが。

「おいおい遊戯大丈夫かよ。休んだ方がよかったんじゃないか?」

「いいんだ。今日学校に来ることはオレが決めたことじゃない。相棒が決めたことなんだ。オレはテストまでの代わりなんだ。」

「何だよ、無理することねぇのになぁ…。オレだったらラッキーって…速攻休むんだけどな。」

「風邪なんて引いたことないくせに偉そうに言うわね…」

 杏子は城之内に軽く突っ込みを入れながらも、オレの方に向き直り…

「ホントに…無理なんてしなくていいのに…」

 喜びと悲しみを同時に表現したような、複雑な顔をして呟いた。



 キーンコーンカーンコーン。

 テスト開始のチャイムが鳴り響くと同時に相棒にバトンタッチした。

 相棒はちょっと苦しそうにしながらも、必死で問題に喰らいつく。

 そんな姿を見ているとオレも後ろから声をかけたくなる。

 しかしここで声をかけたらオレは相棒の気持ちを踏みにじることになる。

 相棒はオレのことを完全に信用してくれたから、「テスト中に助言しないで」と忠告することはなかった。

 だからオレはこうして黙って見ているしかない。これが相棒のためであるのだ。



 キーンコーンカーンコーン。

 3時間目終了のチャイムが鳴り響く。それと同時に城之内くん達がオレのところへやってくる。

「遊戯、送っていかなくても大丈夫かよ?」

 城之内くんが心配そうに声をかける。

「ああ、大丈夫だ。オレより相棒の方を心配してやってくれ。」

 オレは鞄を持ち立ち上がる。

「遊戯、今日は家に帰ったらゆっくり休んでてよね?」

 杏子も心配そうに声をかけてくれる。

「ああ、休むように相棒にも伝えておくぜ。」

 オレはそのまま一人で教室を出ようとする。

 そこに意外な人物から声がかかる。

「遊戯! 受け取れぇぇい!」

「海馬…?」

 不意に飛んできたのは小さな紙袋だった。風邪を引いていたこともあって、紙袋はオレの手をかすめそのまま地面に落ちてしまう。

 拾い上げてみると紙袋には「のみぐすり」の文字。

「1日3回食後30分以内に服用だ。分かっているな!」

 そう言い残し、海馬はオレとは別のドアから外に出ていった。



 こうして、2日目のテストは終了した。

 結局みんなには心配をかけてしまうことになったのが少し気がかりだった。多分、相棒もオレと同じ気持ちだったと思う。






第8章・贈り物


「終わったあ…」

 オレは大きく伸びをして立ち上がる。周りを見れば、みんな同じようなことをしている。

 オレはしばらくこの解放感に酔いしれていたかったが、遊戯のことを思い出し、解放感に浸るのは程々に遊戯の元へ向かう。

 昨日に比べれば遊戯の体調は良かったが、風邪はまだ治っていない。今日も人格交代をしてテストを受けに来たため、やはり心配だ。

「遊戯、大丈夫か…」

「ああ。今日はゆっくり休ませる。心配しなくても大丈夫さ。」

 城之内、本田、杏子ちゃん、獏良くん――他のみんなも次々に遊戯の元へやってくる。

 そして二言三言、言葉を交わすと遊戯は鞄を肩にかけて教室を出て行った。

 遊戯の姿が教室から消えた直後、不意に城之内がオレ達に向かって話しかける。

「それじゃ、行くとするか…」

 行くって…どこにだ?

「そうだね、やっぱり今日がいいよね。」

 獏良くんも同じようなことを言う。オレだけ仲間外れのようだ。

「なあ、行くってどこにさ…?」

 オレがそう聞くと、杏子ちゃんは城之内の方を睨みつける。

「城之内〜、あんたまさか言ってないんじゃ…」

「ははは、わ、悪いな御伽、つい…」

「ついって何よ…」

「いや、さ…御伽、お前今だに女子達にちやほやされているだろ…だからついな…」

「あんた、最っっ低!」

 杏子ちゃんはそう言って、城之内の耳を引っ張り教室の外に連れ出す。

 オレはちょっとだけ身震いしたが、そんなことは気にせず、本田に尋ねる。

「それでさ…行くってどこになんだ?」

「えっとな…もうすぐ遊戯の誕生日だろ? だから今日みんなでプレゼント買ってやろうと思ってな…。ホラ、風邪のせいで今日は遊戯一人で帰っちゃっただろ? だから今のうちにと思ってな。」

「誕生日…か。」

 そういえば遊戯の誕生日は6月4日。あと1週間ちょっとだったな。



「御伽くん、ボクが悪かったです。ごめんなさい。許してください。」

 教室を出るなり城之内が平謝りしてくる。…杏子ちゃんにこっぴどく叱られたようだ。

 せっかくなのでノってやる。

「そうだな城之内〜、一週間オレの言うことを何でも聞いてくれたら許してやってもいいかな。」

「な、何だと〜、せっかく人が謝ってやってんのに、調子に乗りやがって!」

 反省の色はないようだった。



 ここは童実野駅前。まだお昼なのだが、学生服姿の人もちらほら見かける。

 みんなテスト後はこうやってストレス発散してるのだろう。誰もが喜びに満ちた顔をしている。

「ねえねえ何をあげたら遊戯くん喜ぶかな…?」

 バクラくんが切り出す。

「まあ、アイツのことだからゲームがいいんじゃねぇのか…」

 城之内はそう答えるが、オレは反論する。

「それはそうだろうけどさ…きっと遊戯のことだから、ゲームなんてある程度網羅してるんじゃないかな。」

「確かにそうだな…。すでに持ってるモンなんて渡したら、激しくむなしいよな。」

 オレ達は思わず考え込んでしまう。

 ふとオレの脳裏にあるアイディアが思い浮かぶ。思わず大声を上げてしまう。

「そうだ! そうだよ…!」

「ン…御伽? 何か思いついたのか!?」

「ああ!」

 オレは興奮を抑えきれずに、すぐにそのアイディアをみんなに説明する。

 話を進めるにつれ、徐々にみんなの顔が明るくなる。

「お、おおっ! それ、いいぜ!」

「うん、ボクも賛成だよ!」

「オレもだ!」

 オレの提案にみんな頷いてくれる。

「杏子ちゃんはどう思う?」

 オレはそう言って、ふと後ろを振り返る。

 だが、さっきまでそこにいたはずの杏子ちゃんの姿はそこにはなかったのだった。






第9章・二人


 私は、こっそり城之内達から抜け出して、一人で商店街を歩いていた。

 勝手にこんなことしちゃっていいのかな。最初にみんなで誕生日プレゼント買おうって言い出したのは私なのに…。

 でも、あいつらのことだからきっといいものを選んでくれるよね。

 遊戯の誕生日…私はみんなとはまた別にプレゼントを用意しようと、一人抜け出してきた。

 テストが終わって商店街で過ごす童実野高校の生徒だけでなく、食事時で会社を抜けてきたサラリーマンなどで、商店街は結構賑やかになっている。

 賑やかな商店街を歩きながら、私はプレゼントとそして…遊戯のことを考えていた。



 私はどちらの遊戯にプレゼントをあげるつもりなんだろう。

 幼なじみの遊戯と、もう一人の遊戯…。

 最初はどちらも同じ存在だと思っていたけど、本当は二人は全く違う存在…。

 6月4日の誕生日…。

 この日は幼なじみの遊戯だけの誕生日。

 もう一人の遊戯の誕生日は別にあるはずなんだ。

 たから私は幼なじみの遊戯だけを祝えばいい。

 でも…。

 私はそれでいいと思っているの?

 もうすぐ会えなくなっちゃうかもしれないのに。これでいいの?

 ううん。良くない…自分でもそうは思っている。

 でも渡せない…渡せないよ…。

 もう一人の遊戯にだけプレゼントなんて渡せない。

 それはプレゼントを二人分用意したって同じこと。

 ………。

「それでさ、これ…もう一人の遊戯に…」

 そう言うと、きっと遊戯は笑ってこう言うんだ。

「うん、ありがとう! きっともう一人のボクも喜ぶよ!」 

 そして…

「あ、それじゃあさ、今からもう一人のボクを呼んでくるから自分で渡しなよ!」

 って言うの。

 少し愁いを帯びた表情になって…。

 そんな顔見たくないし、私もきっと遊戯と同じような顔しちゃうと思う。

 私、そんなの耐えられない…。

 だから、私は…どちらの遊戯にプレゼントをあげればいいのだろう。



 結局、無駄に商店街を歩き回っただけで、何も買うことはできず30分が過ぎた。

「おーい、杏子! ここにいたのかよ!」

 前方から城之内の声が聞こえる。

「捜したんだぜ、勝手にどっか行きやがって…」

「ごめん…。それで、買うものは決まったの?」

「いや、もう必要なくなった。」

「え?」

「もちろんプレゼントをやらないワケじゃねぇぞ。プレゼントは…創ることにしたんだ。」

「創る…?」

「ああ。あいつの…いや、あいつらの大好きなゲームをよ! 創ることにしたんだ。みんなでな!」

「……」

「もしかして…気にいらねぇのか?」

「そ、そんなことない! …うん! いい考えだと思う。」

「それじゃあ、早速御伽ン家に集合だ! あ、ちなみに御伽ン家つっても、前に燃えたおもちゃ屋じゃないぜ。」

「…城之内だけだよ。あそこが御伽くんの家だ、なんて言ってたのは。」

「ご、ごたごたうるせえな。もうみんな集まってんだから、早く行くぜ!」

「あ、うん!」

 私はそのまま城之内に連れられて御伽くんの家に行くことになった。



 結局――私はプレゼントを買うことはできなかった。

 最初はちょっと後悔したけど、遊戯ともう一人の遊戯へのプレゼントを創っていくうちに、そんな気持ちはかき消えていった。

 これなら…このプレゼントなら、お互い笑って「二人の遊戯」の誕生日を迎えられる。

 そして私は遊戯に…

「誕生日おめでとう!」

 って、心から言えるような気がするんだ。



 御伽くんと獏良くんでゲームの内容やルールを決め、城之内はゲームのコマを作り、本田はボードの基礎を作る。そこに私はイラストを描くことになった。

 みんなそれぞれの役割を決めて、その日は夜遅くまでゲームを創った。

 こうして、ゲームは8割方完成した。後は各々細かいところを創っていけば完成だ。



 …遊戯の誕生日が待ち遠しい。

 こんな風に思える自分の心は、きっと梅雨の雨雲も吹き飛ばすくらい澄み渡っているのではないか――そんな気がした。






おわり。






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