キャプテン翼神竜

製作者:ヘルグレファー9骨さん






「六武学園が……負けた……」
「俺達が逆立ちしても叶わない才能を持っていた六武学園の選手達が、いとも簡単に……」

 インターハイ準決勝。十年連続優勝を果たした六武学園は、いともたやすく謎の新設校に敗れた。
 その相手は禁止高校。監督の魔導サイエンティストが、あまりに凶悪なプレーをするために大会への出場を禁止された選手達を集めたチームである。

「なんということでござるか……あれほど暴力的なプレーが許されるとは……」

 六武学園サッカー部であまりの才能の無さに三年生になってもベンチ入りすらできずにいたヤリザ殿は、六武学園を辞めよわよわ高校という弱小校に転校していた。
 よわよわ高校のサッカー部員達は激しい特訓と試合を経て成長し、遂にはインターハイ出場を決める。準決勝にも勝利し、いよいよ次は六武学園との決勝戦――と、なるはずだった。

「魔導サイエンティストは大会運営を買収し、禁止高校の暴力サッカーを容認させている。あんな奴らを優勝させるわけにはいかない」

 よわよわ高校サッカー部のキャプテン、ラーの翼神竜が言った。

「同感でござる。必ずや拙者達が奴らを倒し、本当のサッカーを知らしめるでござる」

 そして決勝戦当日。両校の選手がスタジアムに整列していた。


・よわよわ高校
GK モリンフェン
DF ハングリーバーガー
DF 闇の芸術家
DF 光天使ブックス
DF ラーバモス
MF 機皇神龍アステリスク
MF 虚構王アンフォームド・ボイド
MF ラーの翼神竜
MF E・HEROカオス・ネオス
FW 六武衆−ヤリザ
FW ボアソルジャー

・禁止高校
GK 超魔導竜騎士−ドラグーン・オブ・レッドアイズ
DF 捕食植物ヴェルテ・アナコンダ
DF リンクロス
DF 古尖兵ケルベク
MF 水晶機巧−ハリファイバー
MF No.86 H-C ロンゴミアント
MF クシャトリラ・フェンリル
MF ラヴァルバル・チェイン
FW 真竜皇V.F.D.
FW 混沌魔龍カオス・ルーラー
FW No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン


 キックオフが宣言される。
 相手のFWである三大竜はパス回しをしながら暴れ回り、暗黒と混沌と災厄がよわよわ高校の選手達を襲った。

「ぐわああああああ!!!」

 よわよわ高校の選手達を吹き飛ばしながら突き進む三大竜。アステリスクは巨体で行く手を遮ろうとするも、容易く空へと巻き上げられた。
 これまで守りの要として活躍してきたブックスも、成すすべなく薙ぎ倒される。

「よわよわ高校の白き盾ブックスが止めてや……うわああああ!!」

 ゴールを守るは最後の砦、モリンフェン。長い腕とかぎづめで幾多のシュートを止めてきた、よわよわ高校の守護神だ。

「来い! 俺が止めてやる!」

 勇ましく身構えるモリンフェン。地上のV.F.D.が大地を巻き上げながら打ち上げたボールに、空中のダークマターとカオス・ルーラーが銀河と混沌を纏わせる。三大竜のトリプルシュートが、空気を揺らしながらゴールへと迫った。
 目を見開き正面から対峙するモリンフェンであったが、その迫力に圧倒され足が竦んでしまった。

(あ、無理だこれ)

 トリプルシュートがゴールに直撃し、大爆発を巻き起こす。ボールはモリンフェンごとゴールに突き刺さり、ゴールネットを突き破った。後ろの壁に叩きつけられたモリンフェンは、力なくうなだれる。
 早くも禁止高校の先制点。スコアは0対1。フィールドに倒れ伏すよわよわ高校の選手達は、その様子を見て唖然とした。

「つ、強すぎる……」

 カオス・ネオスが悲嘆の言葉を漏らした。だがそれよりも気になるのは、シュートの直撃を受けたあの男の安否である。

「大丈夫かモリンフェン!」

 ハングリーバーガーがモリンフェンに駆け寄る。

「う……」

 気を失っていたモリンフェンが、ハングリーバーガーの声で目を覚ました。

「お、俺は一体……はっ!」

 目の前で粉々に粉砕されたゴールを見て、モリンフェンは今の状況を理解した。

「あ、ああっ……」

 身震いするモリンフェン。想像を絶する強さの禁止高校に、モリンフェンの戦意は喪失した。
 ラーやヤリザ殿といった他の選手達も、慌ててモリンフェンの所に駆け寄る。

「モリンフェン!」
「ラー……この試合は勝てない……俺達のどうにかできる相手じゃない……」
「気をしっかり持て! 砕羽高校のエターナル・エヴォルーション・バーストも、幻魔学園の全土滅殺転生波もお前は止めたじゃないか!」
「……やるしか……ないか……」

 モリンフェンはまだ体を震わせているが、それでも一応のやる気を出した。


「ファファファ、奴らビビッておるわ」

 ベンチから試合を眺める禁止高校の監督、魔導サイエンティストは不敵に笑った。
 破壊されたゴールが死者蘇生によって修復されたところで、キックオフ。

「頼むぞヤリザ。お前のスピードが頼りだ」

 ボアソルジャーからボールを渡されたところで、ヤリザ殿は高速のドリブルで一気に駆け抜ける。
 だがその時、どこからともなく飛来した光ファイバーケーブルが、ヤリザ殿の顔面を抉ったのである。

「ボールはいただいた!」

 暴力プレーで得たボールを、ハリファイバーはロンゴミアントにパス。

「く……俺が取り返す!」

 ボアソルジャーがロンゴミアントに猪突猛進。ロンゴミアントはボールをパスすると見せかけて、手にした槍でボアソルジャーを突き飛ばした。

「ぐわああああ!」

 ヤリザ殿とボアソルジャーを潰したところで、ロンゴミアントは悠々とダークマターにパス。

「またトリプルシュートが来るぞーっ!」

 アンフォームド・ボイドが叫ぶ。先程と同じように、三大竜が三体でパスを回しながら切り込んでくる。

「させるかーっ!」

 巨大な翼を広げボールを奪おうとするラーをV.F.D.は体当たりで吹き飛ばし、闇を纏わせたボールを空中へと上げた。

「く……来る!」

 モリンフェンが歯を食いしばる。

「ブックス! お前の白き盾と俺の芸術的ディフェンスで、どうにかシュートをブロックするんだ!」

 闇の芸術家は自らの作品を構え、三大竜を迎え撃つ。

「お前ら如きの貧弱なディフェンスで、俺達のシュートが防げるものかーっ!」

 激しく渦巻く混沌がボールを包み込み、ゴールへと打ち出した。

「うおおお! 芸術的ディフェンスーっ!」
「白き盾ー!」

 だがそんな二人の健闘虚しく、トリプルシュートの威力を殺ぐことすら叶わない。

「このかぎづめで……止めてみせる!」

 長い腕を力一杯振りかざし、ボールへと喰らいつくモリンフェン。だがボールに触れた途端、勢いに押されモリンフェンのかぎづめは砕け散った。

「うぎゃああああああ!!!」

 断末魔の叫びと共に、モリンフェンはゴールネットを突き破って後ろの壁に叩きつけられた。ゴールの破片が降り注ぎ、大きな翼を突き破る。

「モリンフェーーーーーン!!」

 ラーの叫びが、スタジアムに木霊した。

「やっぱり……駄目だったよ……」

 担架で運ばれてゆくモリンフェンは、完全に心折れた様子で力無く言った。
 控えの選手がいないため十人になってしまったよわよわ高校。

「ラーバモス、すまないがGKの代理やってくれ……」
「ええっ、俺ッスか!?」

 一番損な役割を押し付けられた一年生のラーバモスは、ゴールでガクガク震えていた。
 禁止高校の選手達は、それを嘲笑う。

「ハハッ、無様だなぁ」


 再びよわよわ高校ボールでキックオフ。キャプテンのラーにボールが回る。

「ここは俺に任せてくれ。必ずや逆転してみせる」

 そう言うや否や、ラーの体は炎に包まれる。

「これが神のドリブルだ! ゴッドフェニックス!」

 不死鳥となってドリブルをするラーを、禁止高校の面々はニヤニヤしながら見ていた。
 不気味なまでのノーガード。相手の選手に一切触れることなくゴール前まで突き進んだラーは、シュートの体勢に入る。

「喰らえ! ゴッド・ブレイズ・キャノン!!」

 太陽が如く燃え盛る神の炎。ラーの必殺シュートの迫力は、トリプルシュートに勝るとも劣らず。
 だが禁止高校GKのドラグーン・オブ・レッドアイズは、酷く見下した表情でそれを見ていた。
 棒立ちのまま左の掌だけを前に突き出す。そしてそこから微動だにすることなく、ゴッド・ブレイズ・キャノンを掌だけで真正面から受け止めたのである。

「なにィ!」
「無様なものだな……禁止カードの前には神でさえも無力だ!」

 ドラグーンが左手でしっかりと握ったボールをぶん投げると、ラーの顔面に命中。轟音を立ててラーは倒れた。
 こぼれ玉となったボールをボアソルジャーが拾いに行くが、そこを狙う影が一つ。

「危ない!」
 ヤリザの叫びも間に合わず。ラヴァルバル・チェインの火炎弾がボアソルジャーを撃ち抜いた。

「ボアソルジャー殿ーーーっ!」
「ゲヘヘ、焼豚一丁」

 ボールを拾ったチェインは、それをフェンリルにパス。フェンリルの斧を使ったシュートがゴールに迫る。

「そーらこれで三点目だ!」
「ひいいぃぃぃっ!」

 悲鳴を上げるラーバモス。いくら長距離からのシュートといえど、本職でない彼に止められるわけもなく。

「俺達で止めるんだーっ!」

 ハングリーバーガー、闇の芸術家、光天使ブックスが重なってボールを受ける盾となる。三人の体を張ったブロックでどうにか得点は防いだ。だが吹き飛ばされた三人は、地面に倒れ伏す。最早ゴールはがら空きも同然。ボールを得たのはカオス・ルーラーである。
 だが何を思ったか、ルーラーはこの大チャンスでハリファイバーにバックパス。


「簡単にゴールしちまうのも面白くないからな。ここはちょっと遊んでやるとするか」

 ハリファイバーはそう言いながらボールを蹴る。パスを出した相手は、なんとよわよわ高校のカオス・ネオスである。
 否、それはパスではない。必殺シュートかと言わんばかりの威力で蹴られたボールを腹に受け、カオス・ネオスは血反吐を吐いて吹き飛んだ。
 跳ね返ってきたボールはケルベクがトラップ。そしてアステリスクへと蹴飛ばし、鋼の巨体をぶち抜いた。

「な、何をするんだお前達!」

 そう言ったアンフォームド・ボイドも、アナコンダが尻尾で飛ばしたボールに倒される。

「せっかくだから一人一人潰していこうと思ってな」

 禁止高校の選手達は跳ね返りの方向も計算しながら、よわよわ高校の選手達にボールをぶつけつつ味方にパスを回す。

「ひ、酷すぎる……」

 これぞ暴力サッカーの極地。六武学園の選手達もこれにやられ、全員が入院させられたのだ。
 全員が一度ずつボールをぶつけられた後は、二周目が開始。よわよわ高校が一方的に甚振られ続ける中で、前半終了のホイッスルが鳴った。


 ベンチで手当てを受けるよわよわ高校の選手達は、すっかり気持ちが沈んでいた。
 ボアソルジャーはモリンフェン同様にリタイアとなり、選手は九人に。

「皆さん……もうやめてください……私は皆が傷つくところを見たくありません……」

 マネージャーのサイレント・パラディンは、選手達に包帯を巻きながら涙を流し言った。

「サイパラ……だがここで諦めれば、俺達は暴力サッカーに屈したことになってしまう。それだけは認められない!」
「ラー殿の言うとおりでござる!」
「だったら俺も手伝うぜヤリザ」

 突然の聞き覚えのある声に、ヤリザ殿は振り返った。

「ニサシ殿……」

 それは六武学園時代のチームメイト、ニサシ殿であった。

「何故ニサシ殿がここに? そういえば準決勝には出ておらんかったでござるな」
「実は俺も六武学園をクビになった身。そしてひっそりとよわよわ高校に転校していたのさ。ここからは俺も出場させて貰う。そしてもう一人来てるぜ」

 ニサシ殿が親指で指した先に立つ人物。それを見てよわよわ高校一同は皆目を丸くした。


 ボアソルジャーに代わってニサシ殿がFWに入り、ラーバモスはDFに戻る。そしてGKに入るのは、スクラップ・コング。

「スクゴリ……よく来てくれた。病気の方は大丈夫なのか?」
「俺もよわよわ高校の一員ウホ。たとえ自壊しようとも、このゴールを守ってみせるウホ」

 よわよわ高校以上に衝撃を受けていたのは、禁止高校の面々であった。

「馬鹿な……あの男はSGGK――スクラップゴリラゴールキーパー!! 高校サッカー史上最高の天才GKながらフィールドに立つと自壊してしまう不治の病により現役を離れていたあの男が、何故よわよわ高校なんかに!?」

 だがそんな中にも一人冷静でいる男が。

「くだらん。SGGKなど所詮過去の遺物に過ぎん。高校サッカー史上最高の天才GKはこのドラグーン・オブ・レッドアイズだ!」

 後半キックオフ。ニサシ殿からヤリザ殿にパスが出る。

「見せてやれよヤリザ。お前のドリブルを」
「うむ、任されよ!」

 ドリブルで切り込むヤリザ殿からボールを奪おうとするロンゴミアントとフェンリル。だが後ろに控えたニサシ殿が二人の行く手を遮る。そこからヤリザ殿は疾風の如き高速ドリブルで禁止高校の中盤を一気に抜き去った。

「これが諸刃の活人剣術でござる!」
「奴ら急に動きが良くなりやがった!」
「六武衆の真価は、二人揃ってこそ発揮されるんだぜ!」

 互いにパスを回しながら切り込むヤリザ殿とニサシ殿。ケルベクの突撃も容易く避け、一気にゴール前まで前進。

「決めてやる! 六武派二刀流!!」

 ニサシ殿は左足で蹴ったボールが飛んでいくより先に右足でもう一度蹴り、二重の衝撃を与える。

「馬鹿げたシュートだ」

 ドラグーンは嘲りの言葉と共に、右手に持った剣でボールを叩き落した。ニサシ殿の必殺シュートも、この男の前には無力に等しい。だが弾き返されたボールを、ヤリザ殿がすかさずトラップ。勇猛果敢に攻め込む。

「無駄だ無駄だ! どんなシュートもこの俺には通じない!」

 どこにシュートを打とうが完璧に止めてみせるとばかりに両腕を広げ、勝ち誇るドラグーン。ヤリザ殿は真正面から向かってゆく。
 ぶつかる――そう感じた刹那、ヤリザ殿は瞬時に進行方向を左に逸らし、ドラグーンを抜き去った。ドリブルで自らと共に突っ込む、ゴールへのダイレクトアタック。

「なにィ!?」

 愕然とした表情でドラグーンが振り返った。

「まずは一点、返したでござるよ」

 ドラグーンと目を合わせ、ヤリザ殿は言い放つ。

「ちっ、だがまだ一点差だ。同じ手が二度通用すると思うなよ」

 その一点はあまりにも大きかった。よわよわ高校の技が通じたことが、禁止高校の面々のメンタルに少なくない影響を与えていたのである。


 禁止高校ボールでのキックオフ。三大竜はやはりその圧倒的なパワーに物を言わせ、よわよわ高校の選手達にボールをぶつけながら突進。一気にゴール前まで向かい、トリプルシュートの構え。

「SGGKは過去のものだと教えてやる! 死ね!!」

 モリンフェンを二度も叩きのめし心を折った、三大竜のトリプルシュート。スクゴリは表情一つ変えることなく、真っ直ぐそれを見据えた。

「ウホオオオオオオォォォォ!!!」

 雄叫びと共に左手のチェーンソーが呻りを上げた。横一文字に切り結んだチェーンソーがボールの纏う混沌を切り剥がし、右手のレンチでがっしりとボールを掴む。

「なにィ!!」

 三大竜は揃って愕然。スクゴリはドラミングの後ボールを投げ、ハングリーバーガーから前線へとパスを繋いでいく。
 ボールを奪おうとしたチェインと対峙するのは、カオス・ネオスである。

「俺の技を見せてやる! ライトアンドダークスパイラル!」

 無数の蝙蝠がパスを運び、チェインのディフェンスを潜り抜けた。ボールは前線のニサシ殿へ。

「さあ行くぜヤリザ!」
「うむ!」

 二人の進む先には、リンクロスが構える。

「リンクトークン展開!」

 二人の進行を遮らんと出現した無数のトークン。だがヤリザ殿とニサシ殿は怯まない。

「疾風! 凶殺陣!」

 六武衆二人の連携による、六武学園伝統の技。リンクトークンの群れをすり抜けて、二人は再びドラグーンと対峙。

「来いよ雑魚ども! 次に俺をドリブルで抜こうとすればこの剣で貴様の首を切り落とすぞ!」
「だったらこいつでどうだ!」

 ニサシ殿の蹴り上げたボールが、雷を纏った。

「六武式風雷斬!」

 ゴールの右端目掛けて蹴られた、稲妻シュート。だがドラグーンは手にした剣のリーチでそれを容易く止めた。

「今だ!」

 先程と同じように跳ね返ったボールを取ろうとするヤリザ殿であったが、なんと意外にもパスをスルー。そしてその背後には、ラーの翼神竜が迫っていた。

「今度こそ決めてやる! ゴッド・ブレイズ・キャノン!!」

 ボールの纏った電撃によって腕が痺れ一瞬動きが遅れた上に、ヤリザ殿のスルーで不意を突かれたドラグーン。炎を纏った神のシュートが、禁止高校のゴールを貫いた。
 スコアは同点。ドラグーンは衝撃のあまり、拳を握って俯いた。

「ありえぬ……この俺が同点に追いつかれるなど……」
「これが俺達の結束の力だ!」

 翼を広げドラグーンの前に立ちはだかるラーと、その両サイドに立つヤリザ殿とニサシ殿。神のパワーと六武衆のコンビネーションが、禁止カードの凶悪無比なる力を打ち負かしたのだ。


 ベンチでは魔導サイエンティスト監督が怒りの表情を見せていた。

「あの程度の連中に二点も取られるとは情けない。容赦はいらん。殺すつもりで潰せ」
「元よりそのつもりだ! だが奴らはそれを上回るテクニックで俺達を追い詰めてきた。このまま暴力サッカーを続けて本当に勝てるのか……?」
「ぬるいことを言っている暇があったら、どうやって奴らを殺すのか考えろ愚か者め!」
「は、はい!」


 作戦会議も終わり、再びキックオフ。残り時間はあと僅か。

「もう四の五の言ってられねえ! 全力で奴らを潰すぞ!」

 V.F.D.が大きく大地を踏みつけると、地割れが起こった。ヤリザ殿とニサシ殿は上手く避けるも、後ろにいたボイドが落下する。

「うわあああああ!!!」
「ボイド殿ーーーっ!!」

 ダークマターはブラックホールを出現させ、カオス・ルーラーは光と闇を弾幕のように連射する。最早サッカーなんかする気は無いとばかりの、純粋なる暴行。暴なる力を曝すとはまさにこのことだ。

「こ、これがお主らのやり方か! 禁止高校ーっ!」

 不死鳥と化したラーの翼神竜が駆ける。ボールそっちのけで暴行にかまける三大竜から、一気にボールを奪った。

「しまった!」
「早く奪い返せ!」

 禁止高校の他の選手はラーを殺そうと全力で攻撃してくるが、身に纏った神の炎によって弾き返される。

「消え失せろ!」

 そこで動いたのはハリファイバー。ラーを止めんと、その身の水晶から無数のレーザーを放つ。

「ぐあああああ!!!」

 光のレーザーは神の炎を貫通しラーの身を焦がすが、それでもラーはボールをキープし続ける。それはまさしく、不死鳥の如く。

「こっちでござる!」

 と、その時、ヤリザ殿がラーに声をかけた。ラーは即座にパスを出す。
 レーザーを回避しながらドリブルで切り込むヤリザ殿。だがたとえ回避することはできても、ヤリザ殿の守備力では万が一当たった時に耐えられない。
 全力で潰しにかかる禁止高校に対して、ヤリザ殿を守る盾となるのはラーの役目だ。

「行けヤリザ! お前のダイレクトアタックを見せてやれ!」
「すまぬでござるラー殿!」

 ゴールに構えるドラグーンは、剣先をヤリザ殿に向けていた。

「さあ来い! 貴様が俺に近づいた時が、貴様の首が落ちる時だ!」

 そう言われても尚、ヤリザ殿の足は止まらず。ニサシ殿と共に正面突破をかける。

「ならば死ね!」

 振り下ろされた剣が斬撃が飛ぶ。ニサシ殿はヤリザ殿の前に出た。

「仲間が倒されそうな時、身代わりになるのが六武衆だぜ!」

 斬撃を浴びて吹き飛ぶニサシ殿の横を、ヤリザ殿は力の限り駆ける。

「ドラグーン殿……其方を抜く!」
「させん! このドラグーン・オブ・レッドアイズいる限り、禁止高校に敗北など無い!」

 三度目のダイレクトアタックを仕掛けようとするヤリザ殿と、ニサシ殿を斬った剣を瞬時に切り返しヤリザ殿への追撃をかけるドラグーン。一瞬光が閃き、一陣の風が舞った。

「ぐわああああ!!」

 剣の一撃を受けたヤリザ殿は、流血と共に倒れ伏す。

「ヤリザーっ!」
「す、すまぬラー殿……」
「ハハハハハハハ! ダイレクトアタック戦法も、もう一人の六武衆が倒れれば使えまい! 我らの勝利に不足は無い!」
「いや、まだだーっ!」

 こぼれ玉は自らの意思を持つように、ラーへと吸い寄せられてゆく。そしてラーの姿は、黄金の球体と化していた。

「あ、あれはボールと友達になりたいがあまり自分自身もボールになったというラー先輩のスフィアモード!」

 そして球体から再び竜へと姿を変えたラーは、太陽に向かって叫ぶ。

「皆……俺に力を貸してくれーっ!」
「うむ……任せたでござるよラー殿……!」
「決めてくれキャプテン!」
「頼むウホ……俺が自壊する前に!」

 太陽の如き輝きを放ちながら、チームメイト達がラーに融合される。

「これが! 俺達の魂を一つにした! 太陽神合一・ゴッド・ブレイズ・キャノンだーっ!!!」

 ボールを蹴ると同時に口から吐き出された神の炎。ドラグーンはまず剣でそれを叩き切ろうとするが、瞬時に剣は燃え尽きる。

「舐めるな! この俺が貴様ら如きに負けるものかーっ!」

 燃え盛る炎を両掌で受け止めながら、ドラグーンは叫ぶ。その姿は相手を傷つける暴力サッカーではなく、真に誇り高き選手のよう。

「うおおおおおお!!!」

 ラーとドラグーンが共に絶叫し、魂と魂がぶつかり合う。そして瞬間、スタジアムは光に包まれた。
 ホイッスルが鳴り響く。神の炎が禁止高校のゴールを撃ち抜き、ドラグーンは地に伏した。

「や……やった!」

 スコアは3-2。この試合を制したのは、よわよわ高校であった。
 融合が解除されると、ラーも他の選手達も信じられないと言わんばかりの表情だった。
 ドラグーンは暫く絶句していたが、ほどなくしてラーの顔を見てふっと笑った。

「俺達の負けだ……もう暴力サッカーはやめよう」

 融合解除されたチームメイト達がラーに駆け寄る。皆禁止高校の暴力サッカーでボロボロにされていたが、その表情は勝利の喜びに満ちていた。

「皆……とうとう俺達は勝ったんだ。俺達が、日本一のチームだ!」

 皆の勝利を祝うような晴れやかな空には、ラーを象徴する太陽が燦々と輝いていた。ラーは太陽にその拳を突き上げ、勝利を噛み締めたのである。



終わり







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