A.CE.EX!! ~えーす☆えくす~

製作者:地属性バニラさん




 果てしなく白い空間で幼い少年と少女が向かい合って楽しそうに遊んでいる。

「おほしさまがななつで、えんしぇんと・ほおりい・わいばあん! ええと、ええと、ぱわーごせん! ぱんち!」
「ええ!? そんなのむりだよ〜つよいよ〜」
「もちろん! わたしぷろになっちゃうんだから!」
「あやちゃんがぷろになるなんならぼくもなる!」
「じゃあいっしょにぷろになろうね!」
「うん!」
「やくそくね!」
「うん!」

 やく……そく……

「どうした、天井に向かって手を伸ばして。つかめるものなんか一つも無いぞ」

 自分が身を置く日常に聞き慣れた声が引き戻す。
 ユウキは毛布を払いのけて上体を起こす。どうやらソファで寝ていた様だ。
 沈黙を体現したような空間。仕事机で黙々と書類を読む少女が再びコチラに意識を向けた。

「いえ、昔の夢を見ていたみたいで。全然覚えてなかったけど。俺、幼なじみとプロデュエリストになるって約束してたみたいです。」

 そんな話を少女は真剣な面持ちで聞いた。
 そしてその後視線を再び書類へとおろすと言った。

「すまない、私はほかにも大切なものを奪ってしまったに違いない
「そうですね」
「……私が憎いか? 誤って許してくれるとは思わないが。夢という希望を摘み取った現実、つまり君を殺したのは私なのだからな」
「でも戻ってきたのは自分の意思です」
「いや、私がそうそそのかしたんだよ」

 書類から視線が再び戻ってくる。

「人を殺すと言うのは大罪だよ。そして人を殺すのと同じくらい人を生き返らせるのも大罪だ。そしてさらに君は結果としてもう一度死ぬ定めにある」

 少女は自重気味に笑った。

「私は君を殺し、生き返らせた。そしてまた死ぬだろう。それは私が生き返らせたときから決まっていた事だ。つまり私は一度ならず二度君を殺す事にしたと言う訳だよ」
「そうですね、勇魚海さんがそう言うのならそうかもしれません。でも勇魚海さんがそれだけの罪を犯してくれた事を俺は感謝してますから」

 ユウキはにこりと笑う。
 なんの思惑も無く本心から言った言葉だった。
 少女の視線が書類に移った。

「そうか……ありがとう」

 そして勇魚海という一人の少女は礼を言った。


   ◆  ◆  ◆


 暑い……
 猛暑。夏の真っ盛り。道路上では空間が上機嫌にうねりを上げている。
 嫌でも朦朧となる意識に蝉の声がストレスとなる。
 山、そして森を突っ切るような道を歩いているのだが道が広く作られている所為で道路は熱を多く含んでいる。
 それほどしっかりと舗装されて置きながら地形はしっかり山。つまり上り坂。
 この状況が1時間続いた現在。ユウキの精神力は流石に息切れを始めた。

「まあ仕方ないな、夏だからな」
「本当にそう思ってるんだったら傍らでお汁粉食べないでもらえます?」

 ユウキの傍らを歩く小さなお人形の様な少女。
 長くクセの無い鏡のような銀を持つ髪は一枚の絹の様に背中まで下りており瞳もプリズムの様にクルクルと色を変えた。
 白、彼女を表現するのにこれほどぴったりの言葉は無い。
 黒い服を来ているのもあってか少女自身はまさに白。
 正確にはどこも白という要素ではないのだが彼女の存在は白くない故に完璧な白を描いていた。

 そんな美少女である勇魚海はユウキの傍らで自販機の缶お汁粉を飲んでいた。
 というか夏の自販機にお汁粉は出回らない。一体どこで入手して来たのだろうか。

「じゃあユウキは夏にはラーメンを食べないのか?」
「そりゃまあ、たまに食べますけど」
「なら何の問題もない」

 勇魚海はポイっとサイドに空き缶を放り投げる。
 ガラガランと音をたてて道路の脇に設置されたゴミ箱の中に吸い込まれていった。

「お汁粉は冬の食べ物ですよ。ラーメンはいつだって旬ですけど」
「そんな事言ってたらお汁粉が泣くぞ?」
「泣きませんから、むしろ態々夏に呼び出されてうんざりしてますから」
「私はお汁粉を信じている」
「いやいや、見てるこっちが暑くなるから信じてても飲まないでくれると助かるんですが」
「わかった、次から気をつける」
「そういいつつおもむろにコーンポタージュを開けないでくださいよ、暑苦しい」

 もっともいつもの事である。彼女は年中自販機の“あったか〜い”飲み物を飲む。
 と、言っても彼女はなんの理由もなしに年中“あったか〜い”を飲んでいる訳ではない。
 彼女には“あったか〜い”を真夏にさえ飲む理由が存在した。

「嫌だ、飲むぞ、好きだからな」

 はいそれが飲む理由。好きだから。以上
 この上なく単純で最強、そして不動の動機。好きだから。

「で、今日はどんな仕事なんですか?」

 何を言ってもその暑苦しい缶をしまってくれないのでユウキは話題を変える事にした。

「ん? ああ、デュエルモンスターズの学校で臨時で三日程教師を頼まれてるんだ」
「へー、勇魚海さんがデュエルを教えるんですか?」

 勇魚海はこれ以上無い程渋い顔をする。
 この表情を見る限り俺どうやら全く見当違いの事を言ってしまった様だ。
 いや、ユウキはこの表情になる事を予期していた。

「やっぱり……俺、ですよね?」
「もちろんだ。ユウキは私の右腕だからな、私の力を貸してくれと人が頼んだ場合君が動くのは当然の事だ」
「……勇魚海さんほど右腕を使う人は週刊誌の漫画家レベルの人だと思うんですけど」
「当然だ、私の右腕は使わないとすぐ腐ってしまうのだからな」
「ま、その前に暑さで腐りそうですけどね」

 それにしてもデュエルモンスターズの学校か、僕なんかが教える立場でいいのだろうか。
 と言うより年齢で言えば普通に人生が滞り無く進んでいれば授業を受ける側である。
 なにやら感慨深げに少女は呟く。

「それにしても、デュエルか」
「どうしたんです? デュエルやりたくなりました?」
「右も左も決闘ばかりだな。この世界は」

 少女はつまらなそうに言葉を返した。
 そして俺はそういうタイプの返事が返ってくるという事を知っていた。




「あー、あー。今日から三日間デュエルを教える事になった勇魚海姫(いさなみ ひめ)だ」

 教壇の勇魚海がそんな事を言い始めるとあたりがざわめき始めた。
 そりゃそうだ。見るからに自分たちより年下の少女が教師をやるとか言い始めたのだから。
「なにこの人」的な空気が半端無い。

「三日間お前らにデュエルのなんたるかをバッチリ教えてやる」

 必要以上に威厳のある声でそう言う。
 その発言からオーラの様なものを感じたのか生徒の表情が引き締まる。

「よし、良い表情だぞお前ら。と、言う訳で後は頼んだ」

 盛り上げるだけ盛り上げといてさっさと投げやがりましたよこの人。
「ホントなんなのこの人ー!?」な視線が投げ掛けられる。
 そんな気まずい空気の中授業を受け渡されて仕方なしにユウキは話し始めた。

「それじゃあ授業を始める事にするよ。俺は阿隠寺遊奇(あいんじ ゆうき)」
「私の右腕だ」

 非常に簡潔な紹介どうも。
 時間ももったいないので無視して授業を進める事にする。

「えー、今日はデッキの活かす戦術に対応する一般的なカードの内容の比率の……教室の隅でミルクセーキ飲まないでくれます?」
「おや? もしかしたら邪魔だったかな」

 飲み口を口から話して真顔でそんな事を聞きやがる。
 邪魔に決まってるだろ。生徒超見てるよ、授業どころじゃないよ。

「わ、悪いですけどちょっとそこでミルクセーキを飲まれるのは都合が」
「なるほど、なら私は教室の外に出てるとしよう。授業を頼まれてるのに失敗してしまったら面目丸つぶれだからな」

 そんな事を言うとガラガラとドアを開けて出て行ってしまう。
 もう既に貴方がつぶせる面目なんて無いですよ。
 しかもドア開けっ放しとか勘弁してください。

 ユウキはため息をついてドアをパタンと閉めた。
 その途端クラスが爆発したかと思った。
 実際そんな事は無かったのだが、正体は生徒達による質問の嵐である。
 何がなんだか聞き取れない程の音の波となって襲いかかる。

「ちょっストップストップ! 質問タイムを設けます! 順番にどうぞ! はいそこ!」
「さっきの小さい子は誰ですか!?」
「某財閥の令嬢です! 右腕に払う給料が安いです!」
「先生はいくつですか!?」
「17です! 多分同い年だと思います!」
「やっぱタメだったか! 先生デュエルしよーぜ!」
「今は授業中!」

『!?』
『!!』
『!??』
『!!!』
『!!!!!!』
『!?!?!?!?!?!?』

 しばらくそんな問答が繰り返されてやっと質問が落ち着く。
 そんな中誰かが素朴な質問を漏らした。

「あの勇魚海先生(?)は授業しないんですか?」
「いや、あの人の言い分からすると俺はあの人の右腕だから俺が授業するって事は勇魚海さんが授業するって事らしい。つまりこれは勇魚海さんの授業って事なんだと」
「わがままなお嬢様っぽいねー」
「たしかにわがままだけど世間では表立って馬鹿にできないような立ち回りをしてる所がまた面倒なんだよ」
「勇魚海先生(?)はデュエル強いのー?」

「あの人はデュエルしないよ」
「……」
「…………」
「……………………」
『ええええええええええぇ!?』

 沈黙の後、ドアを閉めた時の様に教室が沸いた。

「デュエルしないって……本当!?」
「ああ、デッキ持ってないって言ってたし」
 ユウキは素直に事実を伝えるがそれがさらに教室を騒ぎ立たせた。
「デッキを持ってない!? なのにここで授業する事になったのか!?」
「あ、もしかして昔は凄腕デュエリストだったんじゃない!? なんか理由があって止めたとか」
「ゆっち! そこんとこどうなのよ!?」

 ……あ、ゆっちって俺の事か。
 ユウキはワンテンポ遅れて言葉の内容を理解する。

「え、ああ、どうだろうな。そう言った話は聞かないし……あ、前にデュエルなんて生まれてこのかた数回しかやってないって言ってた気がする」
「デュエルしないなんて考えられない!」
「だよな、っていうかそんなどこかの令嬢なのにデュエルできなかったら社会的地位とかに問題があるんじゃないか?」
「ああ、そういえば……」
「そういえば?」

 クラス全体が静まり返りその先の言葉を待つ。
 ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。

「社交界で一度、お偉いさんとデュエルしたらしい。そのとき勇魚海さんは“相手がデュエリストを止めたくなる程屈辱的な戦い方”で勝利したって言う話だったな。本人から聞いたんじゃなくてあくまでうわさ話なんだけど」
「こ、こええええぇ」

「さ、質問は終わりでいいな? 授業に戻るぞー」
「ええ、もっと話そうぜ! ゆっち!」
「頼むから授業させてくれ! できないと後でたっぷり絞られる」
「そんなこといわずにさー」

 最初の教師としての威厳は年齢答えた時点で消えるのは明白だった訳だが……
 とりあえずドタバタしながらもなんとかその授業をやり終えたのだった。


 全ての授業をやり終え昼の時間となる。
 午後はとりあえず予定が無いので今日はこれで終わりだ。

「つ、つかれた。いや、つかれたなんてレベルじゃない、むちゃくちゃつかれた」
「レベル“つかれた”の《E・疲労 つかレイマン》にレベル“むちゃくちゃ”の《\やべぇ/》をチューニング。レベル“むちゃくちゃつかれた”。いでよ《アーカナイト・マジつかれた》」
「……言ってて恥ずかしくありません? それ」
「いや、別に」

 とくにギャグとも思っていなかった様だ。
 至って真面目な顔でホットココアを飲みつつそんな事を言っていた。
 学校の中庭にあるベンチに二人並んで座っている。

「でもなんでこんな事を……」
「どうやら人手が足りなかったみたいでな。快く承諾したよ」

 別に俺たちはボランティア団体ではない。
 つまりこの労働は何かしらとの交換条件だった訳だ。

「一体何を頼んだんですか?」
「悪者退治をさせてくれと頼んだだけだよ。どうも覇魄(ひゃくばく)が絡んでいそうだったからね」
「なるほど、今回はアタリだといいですね」
「……私は、ハズレもいいと思っている」
「そうですね」

 ユウキは真夏の空を仰ぎ……

「ハズレだと嬉しいです」

 本音をそっと溶け込ませた。

「あ、あれ? もしかして、ユウくん?」
「ん?」

 馴染みのあるイントネーションに無意識に反応する。
 馴染みはあるがひどく懐かしい。最後に聞いたのはずっと昔だ。
 だがそれは昨日も呼ばれていて、何も珍しくないかのような感覚だった。

「ユウくん!」
「うおわ!」

 だだだだだ抱きつかれた!?
 えらくいいにおいがすぐ近くにある。
 ひたすら柔らかい感触はは女の子の肌によるものだ。
 ぶつかりそうなくらいの至近距離の少女の顔をユウキはなんとか認識する。

「亜弥? もしかして亜弥か!?」

 少女は無言で笑い肯定する。
 いつかの約束をした髪をサイドポニーにまとめたかわいらしい幼なじみがそこにいた。

「そうだよ、ホント久しぶり! 連絡無いから心配してたんだよ!? でもなんでここに?」
「ええと、何の因果かここで三日程教師をする事になって?」
「教師?」

 亜弥は首を傾げた。

「でもユウくんは私より一つだけ年上なだけよね?」
「まぁ、時間の進みが同じなら」
「なのに先生なの?」
「俺も正直どうかと思う」
「ふーん、やっぱりそう思うよね」

 この会話をしているのかしていないのか分からない浮遊感はやはり亜弥特有のものだ。
 幼い頃よりおとなしめになった所を覗いてあまり変わっていない様だ。
 その、体のラインとかはその、かなり、成長してるけど……

「やっぱりユウくん大きくなったね、昔は私の方が大きかったのに」
「お前もちゃんと大きくなってるじゃねえか」
「え? そう? まあ私も随分と育ちましたから!」

 そういって胸を張る。
 そうですね。主にその、張ってる胸とか……

「ん?」
「い、いや。なんでも無い! まあなんにせよ久しぶりにあったんだし、ほら、やろうぜ。デュエル」

 亜弥はまるでその言葉を理解できなかったような呆けた表情になる。
 そして亜弥は困った様に笑った。

「ごめんね、もう私。デュエルはやらないんだ。学校も近いうちに出て行くつもり」
「え、おい! それってどういう」
「ごめん! もう午後の授業が始まっちゃうからまたね!」

 亜弥はユウキの言葉を遮ると逃げる様に校舎の中に入っていってしまった。
 デュエルはやらない?

「さっきのがユウキの幼なじみか?」

 横で静観していた勇魚海が話しかける。

「え? あ、ええ。そうですけど。あいつデュエルはやらないって……」
「そう言っていたな。嫌いになったんじゃないか? それか飽きたか」
「三度の飯よりデュエルが好きなアイツに限ってそんな事」
「いつの話をしているんだ?」
「え?」

 そんな言葉が勇魚海から発せられる。

「で、でもいくら時間が経ったからってそんな」
「君はいつの幼なじみの話をしているんだと聞いているんだが?」
「う……む、昔の、話です」
「時間が経てば人は変わるものだぞ」
「分かってます……でも納得できないんです」

「ま、あの態度を見る限り本当にデュエルが嫌になったという訳ではなさそうだけどな」

 勇魚海は台詞を中断してホットココアを飲み干す。
 そしてユウキの方を見ると諭す様に言う。

「彼女は負けたんだ。何かに、それは見えるものかもしれないし見えないものかもしれない。なんにせよそれに彼女は負けた。立ち上がれなかった。だからデュエルができないしたくない」
「負けた」
「君に助ける事ができる事かもしれないしできない事かもしれない。それを私達はそれを知り得ない。だから彼女を助けようとするのは無責任だ」
「はい……分かってます」

 ユウキは無意識にうつむく。勇魚海はそんな様子を見てふっと笑う。
 そして視線を遠くに移した。

「そういえば、話は変わるが私は割と無責任だと思うんだ」
「はい?」
「だから、まあ私の右腕が無責任でもまあ当然かなとか思ったりする訳だ。ほら、私の腕だし」
「……」
「うん、関係ないんだがな。うん、なんか私の右腕にまつわる話がしたかっただけだ」

 そう言いながら勇魚海は自分の右腕をグーパーグーパーしてみせる。
 ユウキは思わず微笑んだ。

「そうですか。ありがとうございます」

 勇魚海はまるで母親のように苦笑する。

「ああ、どういたしまして、だ」



「水崎亜弥?」

 二日目。授業が終了した後一人の生徒に彼女について問いた。
 生徒はうーんと首をひねった。

「ああ、確か一年生にそんな子がいた気がする! ほら、緋本にデュエルを挑んだ子、たしか水崎さんじゃなかった?」
「ああ、そんな奴もいたなぁ」

 脇で話を聞いていた別の生徒が口を挟んだ。
 もう片方の生徒もぽんっと手のひらを叩いて納得する。

「ひのもと?」
「三年生なんだけど、凄くデュエルが強い人なんだ。でも裏で色々やってるみたい。人のカード取り上げたりとか。で、たしかそう言ったカードを皆に返しなさいって勝負を挑んだった気がする」
「で、どうなったんだ?」

 生徒は言いにくそうな表情をする。

「ええっと、デュエルで負けちゃって。公衆の面前で酷い言いがかりをつけられたってカード全部巻き上げられちゃったんだよ」
「んなっ! そんな事学校が許すのかよ」
「もちろん裁きたいんだろうけど元々優等生だし奪った状況も状況で攻めきれないみたい」
「なるほど、私達のターゲットが原因か、これは都合がいいな」
「うわぁ!」

 急に現れた勇魚海にユウキは驚く。
 って。え? 私達のターゲット?

「そうそう、学校としてはどうにかして内輪だけで解決する予定だったみたいだけどムリ言って頼んだんだよ。で、それをなんとかするお役目をいただけたというわけだ。そいつの名前が緋本桜花(ひのもと おうか)」
「え? ゆっちが緋本を懲らしめるの?」
「……うん? そうみたいだね……?」

 どうやらそのようだ。
 って事は!

「その緋本さんが覇魄と関係して……?」
「いるかもしれない、って話だよ。今から、時間あるだろう?」
「ええ」
「三年生はこれから実技があるらしいんだ。授業参観と洒落込もうじゃないか、と誘いにきたんだ」

 勇魚海はニヤリと笑った。
 確かに一度そのデュエルを見ておいた方が良さそうだ。
 ユウキ達はデュエル場へと向かいにいった。

「あたしのターンです! 手札から《E・HERO エッジマン》を特殊召喚! プレイヤーにダイレクトアタックします!」

 相手のライフポイントの数値が0になる。
 ユウキ達はその様子を遠くの方でじっと見学していた。

「HEROを主軸とした戦士メインのデッキって所だね。融合を使わないHEROなんて久々に見たよ」
「非常にパワフルなデッキですね。起動させるトリガーはいくつもありますがそれでも重たい印象を受けます」
「もっと軽くなるぞアレ。デッキの構築技術は中の下、プレイングセンスと強靭な引きの運がそれをカバーしてる感じか」

 確かにそんな感じの印象を受ける。
 デッキの完成度はそこまで高くないが非常に強い引きと機転がそのクオリティを覆い隠している。

「デッキのスタイルからしても天才脳筋タイプだな」
「随分簡単にまとめましたね」
「ま、その名と同じ位単純で戦闘で勝利して戦いを有利に進めるタイプみたいだからな。力が強いと言ってもステータスの話だ。戦闘を掌握する能力はユウキの方が全然高い。数値は足りてるが馬力が足りてないよ」
「はあ」
「ま、覇魄さえ無ければ全く以て敵じゃないだろうな」
「覇魄、使いませんね」
「使う機会が無かったのか、はたまた使わなかったのか。まあなんにせよまだ授業はしばらく続いてるんだ。ゆっくり見物しよう」

 結局その授業で緋本が覇魄を使う事は無かった。
 自分の教える授業の日程を全て終えユウキは亜弥のいる教室へと向かった。
 亜弥は微妙に衰弱しているようなだけで至って真面目に授業を受けていた。
 そして教室の外から覗くユウキを見つけて小さく手を振る。ユウキも少し戸惑ったが手を振り返す。

「亜弥、お昼一緒に食べないか?」
「うん? 別に良いけど……」

 てっきり逃げるかと思ったが亜弥は普通に快く承諾してくれた。
 前回と同じベンチに二人で腰掛けて昼食を広げる。

「ユウキくんはお店で買ったお弁当なんだ」
「ああ、っていうか家から遠いからな、つくったりする時間がないっていうか」
「ならこれから私がお弁当を作ってあげるよ!」
「いや、明日で終わりだから。ここで授業すんの」
「えー、つまんなーい。そういえばこんな所でのんびりお昼ご飯とか食べていいの? なんか書類とか色々書いたりしなくて良いのかな」
「ま、頼まれたのは授業だけだからな。他の事はなんか学校側がやってくれるらしい」
「ふーん」

 そもそも頼まれても多分できない。分からない。

「そういえば聞いたよ、カードを緋本とか言う奴に全部取り上げられたんだって?」
「え、う、うん……でも」

 亜弥は歯切れの悪い返事を返す。

「それでデュエルができなくなったと」
「ち、違うの! あれは私が勝手に突っ走ったのが悪かったんだよ、それにデュエルをしないのとカード取られちゃったのは関係ない。デュエルに挑んだのも自分の所為。でもでも、デュエルをしないのはそれとも関係ないの! デッキはあるの! でもなんか気分が乗らないだけ!」

 そう言いながら亜弥は一つのデッキをユウキに突きつけた。

「あ」

 ユウキはそのデッキをひったくると中身を確認する。

「なんじゃこりゃ、構築済みデッキそのものじゃんか」

 その内容に唖然とする。市販で売っているデッキを何も変えずに亜弥は使っていたのだ。

「しかも、ロックデッキ? 亜弥らしくないデッキだな」
「当たり前だよ!」

 亜弥は叫びながら手に持っていたデッキをひったくる。
 怒っているのか泣いているのか分からない表情でユウキを精一杯睨みつける。
 あまり怖くないがユウキを怯ませるにはそれで十分だった。

「カードを失くしたってまた買えば良いとかそう言うものじゃないんだよ! 同じようなデッキをつくったって! 同じような戦い方をしたって! 私のカードは帰ってこない! 全部、全部全部失っちゃったんだよ! 私の絆も、思い出も、仲間達も……」
「……」
「分かってるんだよ。諦めれば良いって。諦められないのならもう一度強くなって、もう一度挑めばいいって。それでダメならもう一度。何度も何度も挑めば良いって。分かってる。それしかないこと。でもそんなこと、私には、わたしにはできない」

 怒りと悲しみの拮抗が崩れ涙がこぼれ落ちる。
 確かに亜弥の使う切り札は特殊なものだ。

『エンシェントドラゴンプロジェクト』
 カード開発の企画の一環であるこのプロジェクトは凄まじい力を持つエンシェント・ドラゴンをどうにかして形にするというものだった。
 結局その強力な力を持つカードは形にならなかったがいくつもの副産物、いわゆる“龍になりきれなかったもの達”が生まれた。
 それらのカードはとある事情で亜弥が所持する事になった。
 もちろん愛着やそれらのカードの入手にまつわる話に関する事もあるだろうが、それとは別に物理的に手に入らない超絶レアカードだ。
 それらも相まって失った喪失感は尋常ではないだろう。

 関係ないとか言っておいて。しっかりそれが理由じゃねえか。
 ユウキは苦笑するとそっと亜弥の頭を撫でた。

「俺にも色々事情があって緋本と戦う事になったんだ、だからまあそのついでにお前のカードも取り返してきてやるよ」
「え? 緋本先輩と戦うの!? 無理だよ、あの人、むちゃくちゃ強い」
「そうか? 見た感じだと普通に強敵ってレベルだと思ったんだが」
「あのデッキには……」
「『天空境界』『幻影巨人』『地底賢者』『神聖竜王』『深淵心意』果たしてどれが入っていたんだい?」

「あ、えっと……昨日もユウくんの隣にいた!」
「勇魚海だ。緋本桜花が使用したカードの中に私が上げたものが無かったかな?」
「え、ええと。うん、使ってた! 《幻影巨人(ビッグ・ファントム)ーデイダルバロス》ってカード。凄く強くて手も足もでなくて……」
「勇魚海さん……」
「ああ、どうやらアタリみたいだな」

 勇魚海が薄ら笑いを浮かべる。自嘲にも見えるその笑み、だが瞳は全く笑っていない。
 そして決定したとばかり、喜びか皮肉か分かり辛い口調で宣告した。

「覇魄だ」



 覇魄。
 それは『蒸汽機器』『天空境界』『幻影巨人』『地底賢者』『神聖竜王』『深淵心意』の六枚のカードの事をさす。
 デュエルモンスターズと言うのは不思議なもので本来石版に封印された魔物や精霊を操り力を使う戦いの儀式が起源である。
 ただいつ頃からかそれは魔物を封じ込めるものでなく精霊が宿る依り代へと進化していった。
 精霊だけではない、カードには神さえ宿るという。神が宿ったカードはゲームの中だけでなく現実においても絶大な力を発揮する。
 デュエルモンスターズのカードというものは複雑な進化を遂げた結果ただのカードゲームではなく様々な力を宿す器となったのだった。
 覇魄と呼ばれるカードに宿っているのは魔物でも精霊でも神でもない。“魂”いや、更に正確に表現すればそこには“生命力”が宿っている。

「完全な魂を作ろうとしたんだ、人間はね。君が宿しているのはその魂の一部分だ」

 初めて勇魚海と出会った時彼女はそう言ったのを覚えている。

「精霊界となんて全く関わりのないカードだよ。精霊を宿せる器にどっぷりと人の欲望を注いだ。その結果がそれさ」
「俺はその仕事はそのカードを回収すること、ということですか?」
「ああそうだ。正式な手順に則ってその持ち主に勝てば覇魄は取り戻せる」
「正式な手順っていうのは?」
「お互いの魂を賭けるということだ、つまり君の魂と、相手の覇魄だな」
「……」
「私は君の命を助けた。失っていたはずの命を」
「そうですね」
「恩着せがましいのは分かっている。だが分かってほしい。私にはこの方法しかないのだ。それにすがるために君を助けたと言ってもいい」

 まっすぐと、幻想的な少女はまっすぐと俺を見ていった。

「私を、助けてくれないか」



「へ〜、つまり勇魚海ちゃんはそのなんか凄いカードを集めてるんだね」
「元々私の父が管理していたのだがな、色々あって紛失したんだ。私はその尻拭いをさせられてるって事さ」
「でも、緋本さんからどうやって取り戻すの? 私のカードですなんて言っても返してくれないと思うな」
「ああ、そうだろうな。それに覇魄自身がそれを許さない」
「ん?」
「覇魄は所有者のものだ聞かないんだ。物理的に奪った所で真の力は発揮されない。私達が欲しいのは中のエネルギー込みでの『幻影巨人』だ」
「ふーん、つまり奪ってもダメだって事だよね」
「覇魄を手に入れるには、デュエルするしかない。デュエルした場合勝者に覇魄の所有権が移る」

 もっともその決闘に負けた場合魂が覇魄に食われるんだけど。

「へえ、そうなんだ」
「で、その役目が俺ってわけだな」
「あ! そうなんだ。ユウくん凄いね〜」

 別に凄い事なんか何一つ無いのだが。

「不思議な力を持つカードだが効果は攻略不可能なレベルじゃない。いられるとかなり困る程度だ。ま、デュエルスキルもユウキの方が高いし相性もいい。覇魄さえ無ければ九割方勝利できるだろうな」
「そんな、相手のカードの効果も分からないのに九割なんて」
「あの程度の実力ならたかが知れてる」

 勇魚海はふんと鼻を鳴らした。

「でもデュエルってどうやって申し込むつもりですか? 覇魄と戦うにしても失うのを恐れてデュエルする前に覇魄を抜く可能性もあると思いますけど?」
「まぁ、そうだな。そこら辺の手は打っておくよ」

 勇魚海は約束は守る。やると言うのならきっとどうにかするのだろう。

「そう言えばデッキを調整したと聞いたが?」
「え? ああ、新しいカードが手に入ったんで」
「それでバランスを崩されてても困るからな、私が後で点検してやろう」
「えぇ〜。デッキ見せるのって恥ずかしいんですよね」

 特にそれが勇魚海だとよけいに。彼女のデッキチューニングは天才的だ。
 だが非常にぼろくそ言ってくれる。

「ふん、なら恥じらって死ね」
「んぐっ」

 その夜ユウキは勇魚海にこってりしっかり絞られたと言う。
 まあ俺の力が存分に発揮できるのは彼女のおかげでもあるので結局こうなる訳だけれども。



「うぅ、ないよぉ、もう授業が始まっちゃよぉ」
「……」

 三日目。授業までまだ時間があったユウキは中庭のベンチに潜り込んでる何かと遭遇した。

「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ふえ?」

 ガンッ!
 あ、やっちまった。
 ユウキの声に反応して思わず頭を上げたのであろう。ベンチの下にいれば頭がぶつかるのは当然だ。

「あの、大丈夫ですか?」

 もう一度聞く。もちろん違う意味合いでだけど。

「いつつつ、うー、痛いよお」

 そう言ってベンチから出てきたのはやけに大人っぽい学校の生徒だ。三年生だろうか。
 だが動作はいちいち幼い雰囲気を醸し出している。
 ロングストレートの髪の後ろには大きな桃色のリボンが着いている。
 なんか、天然なオーラとお花畑な思考の気配を嫌でも感じさせる。そんな感じだ。

「いやあ、学生証を無くしちゃったみたいでロッカー開かなくなっちゃって教科書とか取れなくなっちゃて」
「ふーん、そいつは大変ですね。って緋本桜花!?……さん?」
「え? あたしの事知ってるんですか? うん、あたしの名前は緋本桜花です。えーっと君は、確か少しの間先生やるって言ってた子ですよね。授業中にちょろっと見かけた気がします。」

 デュエルしているときと印象が違いすぎてしっかり顔を見ても全然気づかなかった。
 コイツが、亜弥から。他の生徒からカードを?

「え、ええ。阿隠寺遊奇です。先生なのは今日が最後ですけどね」
「じゃあ明日からはあたしがお姉さんって事ですよね!」

 ええぇぇ〜。

「どうしてそうなるんですか」
「だって生徒と先生って関係じゃなければ君はただのかわいい後輩って事になりますよね?」
「なりませんよ! なんで年下だからって見ず知らずの人がかわいい後輩になるんですか!」
「でもユウキくんかわいー♪」
「むぐっ!?」

 緋本桜花に思いっきりハグされる。
 なんだこの学校は! 抱きついて挨拶するのが校風なのか? 校則なのか?
 なんとか緋本の腕から逃れると言う。

「貴方が、亜弥のカードを奪ったんですか!?」
「う〜ん。あたしもそんな事はしたくなかったんですけど、そういう事になりますね」
「そんな事したくない? ならさっさと返してあげてくださいよ!」

 緋本は困った様に笑った。

「あたしもそうしたいんですけど、なかなか見つからくって」
「見つからない!?」
「そう、亜弥ちゃんにも他の人のカードを一緒に探してくれたんだけど見つからなくて。結局戦ってもらったんだけど、それもダメだったって」
「それってどういう……」
「あたし、二重人格者なんです。しかもかなり特殊なタイプ。普通は記憶は共有か非共有の二通りだけど私の場合は片方は記憶を全部知っててもう片方は意識が無いときの記憶が無い」
「つまり、もう片方の人格がカードを奪ってどこかに隠してるって事ですか?」
「そう、亜弥ちゃんも協力してくれたんだけど見つからなくて、本人を懲らしめて場所を吐かせるって言ってくれて」

「亜弥……」

 亜弥の緋本を責めきれないでいる態度でいた理由を理解する。
 自分の意思で緋本を助けようとしたからこそ緋本を責められない。
 心の優しいあいつの事だ。上手く消化できずにずっと悩んでいるのだろう。

「そのおかげで沢山のレアカードが手に入ったんです♪」
「……は?」
「彼女すごい珍しくて強力なカード持っててびっくりしちゃいました。一応私の方も自己紹介して置きますね。って言っても名前がある訳ではないんですけど、そうですね。真桜花とでも名乗っておきますね」

 全く同じ語調、抑揚で繰り出される黒い発現にユウキは面食らった。
 入れ替わっていたのか!? 一体いつ!?
 もっと二重人格と言うくらいだから豹変するのをイメージしていたが全く予想外だ。同じようなタイプの人格が二つ宿る。そう言う事もあるのか。

「あっそういえば、学生証私が胸ポケットに入れてたんでした。あの子には悪い事しちゃいましたね。それじゃあ今度はアナタが皆のカードを取り返しにくる。そういう事で良いんですかね?」
「そうだ」
「そう、じゃ、そのときを楽しみに待ってるわ♪」
「あ、おい! ちょっと待て!」

 その場を去ろうとした真桜花の腕をぐいっと引っ張る。
 しかしその動作をまるで予測していなかったようで体の重心ごと傾く。

「はぅ?」
「あれ?」

 その体を支える事ができずにユウキは押し倒される。

「あ、あれあれあれ!? こここここれはどういう状況? ゆゆゆゆユウキくんって意外と大胆なんですね! あ、あれ? この場合あたしが大胆なの? ででででも大丈夫です、何てったって私はお姉さんだから!」
「もしかして戻ったんですか!?」
「だだだだいじょうぶ! ははは初めてだけど優しくするね、お、おおおおねえさんだし? だし?」
「おーい! 戻ってこーい!!」



「授業、始まってますね」

 桜花が正気を取り戻す頃にはとっくに授業は開始していた。

「遅刻厳禁で、教室に入れてもらえないんですよね〜。あ〜あ、欠席か〜」
「す、すいません」
「いえ、あたしが悪いんです。……会ったんですよね?」

 出て来た学生証をくるくると手で回しながら言う。

「ええ、なんて言うか。一見何も変わってなくて驚きました」
「あたしがただ黒い事言ってる様に聞こえちゃうんですよね。やっぱり」
「ええ。あれ、二重人格だって言われなければ絶対気づきませんよ」
「病院でしっかり診断書も出してもらってて学校側は分かってるんだけど、それでも生徒のほとんどはそういうの。信じてくれないです」
「……」
「昔はそこまで多くなかったのに、最近頻繁に出る様になって。その所為で友達もいなくなって」

 桜花はうつむく。
 正直ユウキ自身も今の話には半信半疑だ。
 信じたいと思うもののどこか信じられない。

「大丈夫です、俺がそいつを倒しますから」
「うえ?」

 でも……。

「そいつを倒してカードを全部返してもらって、それで終わりにしましょう」
「でも、勝ったってまた人のカードを盗るかも……」
「そのときもまた戦ってあげます」

 信じたいと思う。

「でもでも……強いですよ。あの一年生トップの亜弥さんでも勝てなかったんです」
「俺もそれなりですよ。まあ小さい頃はしょっちゅう亜弥に負かされてましたけど。いまじゃ負ける気はしませんね」
「仲いいんですね」
「幼なじみですから」

 そんな事を誇らしげに喋るユウキを桜花はまじまじと見つめる。
 そして申し訳なさそうにもじもじすると口を開く。

「あ、あの。これが終わったら、あたしとも友達になってくれますか」
「そんな事言わないでくださいよ。今から友達ですよ。俺たちは」

 にっこりと微笑んでユウキは桜花に手を差し出す。
 桜花は少し戸惑ったが微笑んでその手を握った。

「ええ、友達です」
「ただし真桜花。てめーはダメだ」

 笑顔を崩さないままユウキは冷たい一撃を言い放つ。
 桜花、いや、真桜花は少し面食らうがすぐに笑みを戻す。

「残念です、せっかく私がユウキくんと仲良くなろうと思ったのに……」
「そうだと思ったよ。お前の事だから茶々入れてくると思ってた」
「むー。って事は先ほどの言動は私を引き出すためだったって事ですか?」
「まさか、本心から言わなかったら出てこなかっただろ?」
「ふふ、まったくもってその通りですね」
「……お前が意識の主導権を握っているのか?」
「そうですね。昔は逆だったんですけど……覇魄を手に入れてからは私の方が強いです。覇魄から力を貰っている、ということでしょうか。アナタほどの魂を手に入れたら私は完全に主導権を握れる様になるんじゃないでしょうか」
「!!」

 ユウキは急いで身を引こうとするが握られた手を引きはがす事ができない。
 一体この華奢な体のどこにこれほどの力があるのだろうか。

「私は別に逃げたりしませんよ、いいじゃないですか。覇魄を得るには魂を賭けて決闘。別に今のままでも十分満足ですけど。ユウキくんほどの魂をくれるというならそれだけのリスクを負っても悪くないです」
「そうか、そいつは好都合だな。尻尾を巻いて逃げ出すんじゃないかと心配して色々策を巡らせてもらってるところだったんだよ」
「そうですね、どうやら今度の連休に超レアカードという餌をちらつかせた校内トーナメントをやるっていう話です。おそらくそれが策なのですね」
「……」
「ここいらの生徒なんて覇魄があればいぬっころ同然ですから、余裕しゃくしゃくで参加した私と覇魄に対して相当の知識量を持つあなたを初戦で鉢合わせて不意打ち同然でさっさと奪い取る予定だったんじゃないですかね」
「ふーん、でもお前はしっぽを巻いて逃げる事なんて無いんだろう?」
「まさか、罠に態々突っ込む事はしませんよ。もちろんこっちにも条件があります。アナタとあたるのは最後、つまり決勝にして欲しいんです。こっちだけ手の内が分からないのは困りますからね。それを飲んでくれるなら私はトーナメントに参加します♪」
「途中で俺が敗退したらどうなるんだ?」
「まさか、勝てるでしょう? 覇魄を奪いにくるくらいですから。ま、万が一負けたりしたらもう一つの方法で魂を譲ってもらいます」

 もう一つの方法。それは肉体が肉体でなくなった時だ。
 それが動けなくなった時魂はそれから離れ所有者を失くす。それを吸収するということだろう。
 まあ結末はどちらにしても変わらない。

「ならお前が途中で負けても覇魄を差し出すってことだな?」
「私は負けませんよ。それじゃあ、トーナメント。楽しみにしてますね」

 真桜花はそれだけ言うとぱっとユウキの手を離してその場を去ってしまった。
 ユウキはその様子をただ呆然と眺める事しかできなかった。

「ユウキ。三日間授業ご苦労だった。それで緋本桜花と戦うための作戦だが校長と掛け合って……」
「トーナメントを開催。超レアカードを餌に釣られた緋本桜花と初戦で戦ってぶんどる。ですよね?」

 勇魚海は顔をしかめる。

「その話、どこから聞いた?」
「緋本桜花、いや。真桜花からです」

 そう言ってユウキは緋本桜花の事情を勇魚海に話す。
 その話を聞き終わる頃には彼女の表情はより厳しいものとなっていた。

「なるほど、手の内を曝せ、決勝で当てろか。やられたな」
「すいません。俺のミスです。覇魄と言われた時にシラを切れれば」
「いや、そういう搦め手に瞬時に反応できるのはそう言う訓練をしている奴だけだ。完全に無警戒だった私のミスだ」
「もういっそ無視して初戦で当てるとか……」
「いいや、ダメだ。ああいうタイプはプライドなどが全く足かせにならない。大勢の観客の前でも平然と敵前逃亡するだろうな。戦うなら……」
「条件を飲むしか無い、か。そういえばメンバーは他の参加者はどうやって決めるんですか?」
「半日かけて予選を行う。参加者全員に1ポイントが与えられていてデュエルして勝利するたびに相手の所持しているポイント分加算されてタイムアップの時点でポイントが高い奴を上から順に選出する形だな。同じ対戦者との再戦もなし。もちろん万が一に備えて緋本桜花がベスト15に入る様に情報操作できるようになっていたが。ユウキはもともとゲスト扱いでトーナメントからだったが、そうだと言ってもおそらく認めてくれないだろうな」

 なるほど、別にポイントが減点するという事は無くたとえずっと負け続けていても上位の相手を一度倒せば一気にトップに躍り出れる気を抜けない構成だ。情報操作云々を隠すのにもちょうどいいシステムと言える。

「でも、認めてくれないならどうするんですか?」
「ただこの予選にユウキを出すのは不都合すぎる。上限無しだからな、半日間使ったらデュエルを何度するか分からない。デッキ内容を全部解析される危険さえある。これは……」
「?」
「交渉する。今から桜花、いや、真桜花に交渉しにいこう」
「? 認めてくれないんじゃないんですか?」
「認めるのと交渉は違う。ユウキも交渉、断れなかっただろう? あれが許可をとる形だったらどうだ?」
「まあ確実に断ってますね」

 今日の最後の授業が終わり帰りのホームルームとなる。
 そのホームルームも終わり騒がしい教室の中にユウキ達は入り目当ての人物を見つけた。

「桜花さん」
「あ、ユウキくん。と、その助手さん」
「ユウキが助手さんだ」
「あ、そうなんですか。すいません。てっきり逆かと……」
「そんなふうに見えていたとはな、心外だ」

 桜花はぺこぺこと頭を下げる。
 確かに俺が教師をやっていて勇魚海がその手伝いをしている様に見えてもある程度は仕方ないのかもしれない。
 つまり、日頃の行いですね。

「えっと、あたしになにか様ですか?」
「ちょっと真桜花に用があるんだ」
「しん……?」
「もう一人の桜花さんがそう言ってるんです。自分の事を」
「あ、なるほど。そうなんですか。ちょっとやってみます」

 そういうと桜花はすっと瞳を閉じる。
 そして一拍したあとに再び目を開いた。

「と、言う訳でお電話変わりました。私が真桜花です」

 お電話じゃねえよ。

「噂通り全く違いがないな、いや。一人称、イントネーションが少々違うか」

 言われて見れば本来の彼女は自分をどちらかというとあたしと呼んでいた気がする。
 もっともその変化は微妙すぎてしっかり聞かないとわからないんだけど。

「とりあえず真桜花。交渉しにきた」
「交渉……ですか?」

 勇魚海はトーナメントの予選の形式を説明する。

「で、本題だ二つの条件は飲もうとおもう。ただし予選はカットでな」
「予選を……カット?」
「ま、つまりユウキと真桜花の二人は予選を無条件でそのままパスできるって事だ」
「なるほど、流石に半日観察されるのは気が引けるという訳ですね」
「こっちもそこまで危険な状態で戦うような事をする気はないからね」
「なるほど、つまり私はこの条件をのんで戦うか交渉決裂と言う事で戦わないか決めるって事ですね」
「そうなるな」
「いいですよ」

 真桜花はすんなりとその要求を受け入れた。

「それに手の内を見せてくれるなら私も覇魄を賭けて戦う価値ありです。でも、ただ私が不利になるのもあれですし、ちょーっとこっちもお願いしたいですね」
「なんだ?」
「トーナメントの人の組み合わせは私が組みたいんですけど……いいですかね?」

 勇魚海はしばらく思案に耽るが結論に至ったようだ。

「ふむ、決まりだな。予選の間適当に身を潜めててくれ。ユウキはゲストだがお前が暇そうな所を見られたら予選突破が怪しまれるからな」
「はーい。了解です♪」

 こうして戦いの火蓋が切って落とされた。




   ◆  ◆  ◆


「おーやってるやってる」

 予選当日。ユウキと勇魚海は校舎の窓から外を見ながらそんなことを言った。
 この学校の生徒の大半が参加している。その全員が行き着くまもなく走り回っているのだ。
 校舎はいままでと比べ物にならないほどの熱気に包まれていた。

「まあ、動かないと予選に突破できないからな。上位者以外は弱い敵と戦っても上の奴らに追いつくことはできない。かといって自分が弱いと闘ってもらえない。相手を見る能力と行動力が同時に試されるからな」

「あー。確かにそういうことになるのか」
「上位と下位ではっきり点が分かれるだろうな。最初でこければ挽回は難しい」
「かなりえぐいルールですね」

「私はいいルールだと思いますよ。ほら、予選突破者の目星が早めにつきますし」

 窓の外をのぞくユウキ達の背後には真桜花がいた。
 なにやらあまり動けないし暇なのでユウキ達と一緒に行動することにしたとか。

「でも私にはこの予選は厳しかったですね。あまりそういうの得意じゃないんで。それで、どんな感じなんです?」
「こんな感じだな」

 勇魚海はノートパソコンの画面を真桜花に向けた。
 真桜花はそれをみてふむふむと呟く。

「あー、本当だ、序盤ですけど上位の階層とはかなり差が開いてますね」

 こうやって画面に顔を寄せていると仲がいいように見えなくもない。
 いや、ただ敵であるというだけで案外馬は合うのかもしれない。

「じゃあ俺ちょっと飲み物買ってきますね」
「私にもホットコーヒーを頼む」
「あ、私はウーロン茶がほしいです」
「はいはい、分かりましたよ」

 呼吸するように人をパシる上司に呆れつつユウキは教室を出た。
 校舎の隅の自販機のところまで来る。さすがにここまでくると人気はない。
 もともと隠れることが有利なルールではない。人がいるところに人が集まる。そういうシステムなのだ。
 そういうシステムなのだが……

「あうあー! そこの人ー! 退いた退いたああああ!」
「え? ぐはぁ!」


 人は来ないはずなのだが何か小さいものが弾丸のようなスピードで自分の腹部に激突した。
 思わぬ激痛にユウキは腹を抱える。そしてぶつかった奴と視線があう。

「あ、なんか先生だった人! ラッキー丁度いい! 私とデュエルしてくんない!?」
「え? あ、デュエル? でも俺、予選で戦ったところで何の利益もないぞ?」
「いーのいーの! どうせトーナメントで当たるんでしょ? 予習予習っと」

 破天荒なそれは金髪のツインテール。ハーフだろうか。中学生、下手すると小学生並み小さな少女だ。つまり勇魚海とおんなじくらいの身長。胸元のリボンの色から判別するに二年生だが……。
 少女は問答無用と言った感じでデュエルディスクをセットする。

「ほらほら、早く早く!」

 わけも分からず急かされてユウキもデュエルディスクをセットしてしまう。

「さ、デュエルよ! 私のターン! ドロー! 私は手札から魔法カード《精神統一》を発動する!」
「え、ちょ、え?」

《精神統一》
 通常魔法
 デッキから「精神統一」を1枚手札に加える。
 「精神統一」は1ターンに1度しか使用できない。

「効果でデッキから手札に《精神統一》を加えるわ! そしてモンスターをセット! カードを2枚セットしてターン終了よ」
「ええっと、俺のターン!」

少女:LP8000 手札3
モンスター:セット×1
魔法・罠 :伏せ×2

ユウキ:LP8000 手札5→6
モンスター:なし
魔法・罠:なし

「俺は手札から《グリーン・ガジェット》を召喚する。そしてその効果により《レッド・ガジェット》1体を手札に加える!」

《グリーン・ガジェット》 ☆4 地属性
 機械族・効果
 このカードが召喚・特殊召喚に成功したとき、
 デッキから「レッド・ガジェット」1体を手札に加えることができる
 ATK1400/DEF 600

「えーと、どういう事か分かんないんだけどとりあえずバトル! 《グリーン・ガジェット》でセットモンスターを攻撃!」
「残念、その攻撃力で攻撃した代償。高くつくよ! セットモンスターは《仙術士だいち》その守備力は2100!」
「!」

 裏側のカードが表になり少女のなりをした雲に乗っている仙女が姿を現す。
 そして岩のようなごつごつした杖を持っていた。

「そのステータスの差だけダメージを受けてもらうよ!」

 ユウキ:LP8000 → LP7300

「俺は《機甲部隊の最前線》を発動! カードを1枚セットしてターン終了だ」

《機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)》
 永続魔法
 機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られたとき、
 そのモンスターより攻撃力の低い、同じ属性の機械族モンスター1体を
 自分のデッキから特殊召喚する事ができる。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「なるほど、機械族。それもその永続魔法を見るに地属性統一、または主軸ってところかな」

 デッキタイプがばれることくらいこの永続魔法をデッキに入れた時点で分かっている。
 それに十分見合うだけのリターンがこのカードには存在するのである。

「じゃあ私のターン! ドロー!」

少女:LP8000 手札3→4
モンスター:《仙術士だいち(DEF/2100)》
魔法・罠 :伏せ×2

ユウキ:LP8000 手札4
モンスター:《グリーン・ガジェット(ATK/1400)》
魔法・罠:《機甲部隊の最前線》 伏せ×1

「私は手札から《仙術士 つむじ》を召喚!」

 彼女はさらに同じような雲に乗った仙女を召喚する。
 こちらは風車のような装飾が施された細い杖だを持っている。
 攻撃力は1600と優秀である。

「そして手札から魔法カード《精神統一》を発動! 《精神統一》を手札に加える。そして《仙術士 つむじ》の効果が発動! 《機甲部隊の最前線》を破壊する!」
「なに!?」

《仙術士 つむじ》 ☆4 風属性
 魔法使い族・効果
 「精神統一」がカードの効果で手札に加わったとき、
 カード1枚を選択して破壊する。
 ATK1600/DEF 1000

「くっ」

《機甲部隊の最前線》 → 破壊

「さらに《仙術士 だいち》の効果を発動!」

《仙術士 だいち》 ☆4 地属性
 魔法使い族・効果
1ターンに1度、手札から「精神統一」を捨てて発動する。
 カードを2枚ドローする。
ATK 0/DEF2100

「手札増強か!」
「《精神統一》を捨ててカードを二枚ドロー!」

 手札3→4

「バトル! 《仙術士 つむじ》で《グリーン・ガジェット》を攻撃!」
「発動するカードは……ない」
「攻撃を通したわね後悔するわよ、ダメージステップ! 速攻魔法《仙術 ふぁいあ》を発動!」

《仙術 ふぁいあ》
 速攻魔法
 フィールド上に存在する『仙術士』と名の付いたモンスター1体を選択して発動する。
 そのモンスターの攻撃力は墓地の「精神統一」の数×700ポイントアップする。
 この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

「墓地の《精神統一》の数は3枚! よって《仙術士 つむじ》の攻撃力は2100ポイントアップするわ!」

 仙術士 つむじ :ATK1600 → ATK3700

「それは……どうしようもないな」

《グリーン・ガジェット》 → 破壊
 ユウキ:LP7300 → LP6000

「ターン終了! この時《仙術 ふぁいあ》の代償として《仙術士 つむじ》は破壊されるわ」

《仙術士 つむじ》 → 破壊

「よし、ここから反撃だ! 俺のター」
「見つけたぞ道有! 今日こそデュエルを申し込む!」
「ありゃりゃ」

 男子生徒が一人。ユウキ達のデュエルに割ってはいる。
 その声を聞きつけて学年性別問わずいろいろな生徒が駆けつけてくる。
 全員が目の前の少女にデュエルしろだのなんだのと叫ぶ。

「こ、こりゃあ何の騒ぎだ!?」

 ユウキは思わず唖然とする。

「あー、私にこだわるのも良いんだけどね。今私はのんびりデュエル中なの。結構時間かかっちゃうと思うけど。ポイントに余裕がある私と違ってあなた達にそんな暇あるのかなー?」

 全員その苦悶の表情にゆがむ。
 確かにいまこうしている時間さえもったいないはずだ。

「私を止めたいんだったらトーナメントで立ちはだかったほうがいいんじゃないのー?」
「く、くそお! 覚えてろよー!」
「あー、私あんたたちみたいなちっちゃいポイントの人たちには興味ないからー」

 全員が散っていく尻目に少女はそんなことを言う。
 そして全員が散った後ユウキのデュエルディスクにYOU WIN!!の文字が浮かぶ。
 どうやら少女がサレンダーしたらしい。

「あの……これは一体?」
「ごめんね先生。あいつらうるさいからさあ、ちょっと追い払うのに利用しちゃった。私ももう行かなきゃ。時間使いすぎた。高得点の奴狩らないと。それにしても先生強いね。次のターン。多分私ただじゃすまなかったでしょ」
「さあ、そんなのやってみないとわからないだろ」
「ん、そうね。トーナメントであたるのを楽しみにしてるわ。それじゃあね! あ、私は道有メアリー(みちあり めありー)っていうの。覚えておいてよ!」

 メアリーと名乗った少女はそれだけ言うと窓から校舎に侵入し「退いた退いたぁ!」と叫びながら駆けていってしまった。

「なんだありゃ、台風か何かか?」

 ユウキはしばらく唖然とそれを見送るしかなかった。

「ずいぶんと遅かったな」
「ちょっと暴走列車に轢かれまして」
「ん、誰かにあったんですか?」
「メアリーって人、なんか大勢に追われてたけど」
「ああバラし屋さんですね」
「バラし屋? 解体屋ってこと?」
「いえ、この場合暴露の方です。人の秘密を無差別に爆撃するとか」
「うわぁ」

 でもいたずら好きそうだよな。そういうことをしているのが容易に想像できる。

「ここら辺では『壁に道有障子にメアリー』と言われるほどです。皆も彼女には困らされているようです。当然ですけど結果として敵も多いです」
「なるほど、それで日ごろの恨みを晴らすため妨害しようとメアリーを追いかけていたのか」
「酷い人はその被害で三日三晩寝込んだりした人もいます。それにちなんで『ナイトメアリー』なんても呼ばれてますね」
「ほんと悪名高いな」
「ただあの子ちょっと天才で。運動勉強デュエル何においても並みの妨害をものともしないんです」
「うん、それもなんとなく分かる」
「今回の予選も難なく通過でしょうね。あたしよりも全然強いです。それに試験内容が彼女のスタイルにあってます」

 人格戻ってたのかよ。全然分かんなかった。

「? どうしました?」
「い、いや。なんでもないです」

 桜花は頭上に「?」を浮かべたまま首をかしげた。
 この人本当に年上か?

「決まったな」

 ノートパソコンで状況を見ていた勇魚海はつぶやく。

「え、でも後半分くらいありますよ?」
「いや、もう決まりだ。というわけでほらこの14人がトーナメント通過者だ」

 勇魚海はプリントした紙を桜花に渡す。

「なるほど、この結果は信用していいんですか?」
「もちろん100パーセントとは言わないが九分九厘あっている。ま、違ったらそのとき調整してくれ」
「じゃあ私はトーナメントの配列を考えておきますね」

 真桜花はシャーペンをくるくる回すとなにやら色々書き始める。
 トーナメントのシミュレーションだろうか。

「あ、ユウくんいたいたー」
「亜弥か、どうしたんだ?」

 予選が終わろうというとき亜弥が教室に訪ねてきた。

「桜花先輩もこんにちわ」
「はい、こんにちわです」
「そいつはもう一方の人格だけどな」
「平気ですよ。手を出す理由なんてないですから」

 そう言って真桜花は亜弥を一瞥する。
 亜弥はびくっとおびえるが気を取り直してユウキに向き直る。

「ええっと、この後一緒にお茶でもないかなーってお誘いなんだけど」
「ん? ああ。勇魚海さん。この後は特に用事はないですよね」
「ああ、ないぞ」
「だ、そうだ。別にかまわないよ」
「本当? やったあ!」

 亜弥はぴょんと飛び跳ねる。
 確かに久々に幼馴染と会ったって言うのに色々あって全然話してないからな。
 ゆっくり話をしたいところではある。

「トーナメント、組みましたよ」
「ん、じゃあ見せてくれ」

 しばらくして真桜花は顔を上げてトーナメントの組み合わせを勇魚海に渡す。
 勇魚海はその内容にさっと目を通す。

「まあ、問題ないだろう」

 真桜花はにっこりと笑う。

「それじゃあ、予選突破者に変更もないし。これで決まりだな」

 その言葉の直後に予選終了の合図が校舎に響き渡った。

「それじゃあ、私は寮に戻りますね」

 真桜花はそういうと教室から出て行く。

「じゃ、亜弥。行くか」
「うん!」
「私はもう少し策を練っているから用が済んだらもう一度ここに立ち寄ってくれ」
「わかりました。それじゃあ」

 ユウキと亜弥は教室も教室を出て行く。
 静寂の中の教室で勇魚海はフフフッと笑う。

「なるほど、壁に道有障子にメアリーか。言い得て妙だな。少し私と話をしないか?」
「ん? それって私の質問にいくつか答えてくれるってことでいいんだよね?」

 そういいながらぴょこんと金髪のツインテールが物陰から現れる。

「いやあそれにしてもびっくり。一足早く予選の結果を聞こうと思ったら。まさかこのトーナメントは裏工作がされてるなんてこと聞いちゃうなんてねー、皆に言っちゃおうかなー?」
「言わないよ。君の知識欲はそんなところで収まらないだろう? 情報と黙秘を交換しないか?」
「へー、巻き込もうって言うの? でも私面倒なこと嫌いだからなー。断って皆に言っちゃうほうが楽しい気がするし☆」
「なら是非そうしてくれ。君は楽しいと思うことをやればいいと思うよ」

 勇魚海は平然とそう受け答える。
 メアリーはにやりと笑っていった。

「そう怒んないでよー。やるってば。こんな楽しそうなこと見逃せないからね」
「じゃあ少しだけ時間をもらうとしよう。頼みたいこともある」
「わざと負けろとか言わないでよ?」
「別に八百長をして欲しいといってるわけではないんだ。じゃあこう言おうか、君がユウキに負けたらお願いしたい事があるんだ」

 そう言って勇魚海もにっこりと笑った。




「へえ、学校の中にこんな喫茶店があるんだな」
「この学校全寮制だからね、校舎内の施設とかも必然的に充実するんだよ」
「ふーん」

 ユウキはあたりを見回す。
 生徒が沢山来るからかスペースが広いのが少々残念だが木造でできたずいぶんとしゃれたデザインをしている。
 天井には巨大なファンがいくつか回っており照明はやわらかい。
 ユウキは紅茶を一口すする。

「ユウくん、ほんとに大人になったんだね」
「何が?」
「紅茶に砂糖を入れないなんて考えられない」
「俺はカフェラテに砂糖を入れる思考が考えられない」

 明らかに不要な糖分だろそれ。太るぞ。

「明日、トーナメントだね」
「そうだな」
「でもユウくんってデュエル強いの? 昔は私にずっと負けてたけど」
「ま、普通に勝てるんじゃないかな。今の俺はそこそこデュエル強いんだぜ?」
「でもでも、私だって成長してるんだよ?」
「《魔法の筒》と《ドレインシールド》の枚数は?」
「うっ、フル投入」
「《ご隠居の猛毒薬》」
「……」
「全然変わってないじゃねえか」
「これは私のスタイルなのっ! むぅ、今度こてんぱんにしてやるんだから」
「これが終わったらな」
「うん……勝ってね」
「当たり前だ。安心しろ。俺はお前より強い」
「もー!」
「おいばか俺の紅茶に砂糖を大量投入すんな」

 その後二人は他愛もない話に花を咲かせて時間をすごした。
 ついでに関係ないがユウキの紅茶は砂糖入りなんてレベルではなくなっていた
 あれは……砂糖の紅茶浸しレベルだぜ。
 すっかり外は暗くなったころユウキは再び教室へ足を運んでいた。

「ただいま戻りました」
「やあ、どうだったかい? 楽しめたかな」
「そうですね、楽しかったですよ。こんど勇魚海さんも一緒に行きましょうよ」
「そうだな」
「で、策っていうのは練れたんですか?」
「ああ、これで何とかなりそうだ」
「そうですか、良かった」

「時にユウキ」
「はい?」
「君は自分のために人を殺せると思うか?」
「どうしたんですか急に、判断に迷ってる間に死ぬか最悪の事態を引き起すか血迷って謎の判断するんじゃないですか?」
「ずいぶん客観的、というか無責任な答えだな」
「まあ時間が無限に与えられているなら錯乱して殺しちゃうでしょうね。自分を撃つことはないと思います」
「そうか。ついでに私は平気で他人を殺す」

 そういいながら勇魚海はノートパソコンを閉じる。
 そして沈黙が降りる。

「『蒸汽機器』を使っても良いんだぞ?」
「ははは、ご冗談を。すでに保管されている覇魄を持ち出すなんて言ったら厳罰じゃすみませんよ? そんな罰を受けるのはごめんですし勇魚海さんも嫌でしょう?」
「ふむ、まあそうだな。すまん」

 荷物をまとめるとそれをユウキに押し付ける。

「? 謝らなくて良いですよ。覇魄無しでも勝ってきますから」

 押し付けられた手荷物を受け取る。
 勇魚海が笑った。

「ああ、そうだな。さて、決闘の始まりだ」




「うわぁ、すごい量の観客だなあ」

 ありったけの声援を身に受けユウキは思わず感嘆する。
 デュエル場にはあふれんばかりの人がごった返していた。

「ま、そんなことはどうでも良いんだ。とりあえず一回戦目。さっさと勝ってきてくれ」
「そんな飲み物買ってきてくれみたいな言い方しないでくださいよ」

 ユウキは呆れてため息をつく。
 だがすぐに前を向き対戦者に意識を向ける。

「ま、言われなくても勝ちますけどね」
「その意気だ。私は観客席にいるからな」



「それでは1回戦開始!」

「「デュエル!!」」

「先攻は俺がもらう! 俺は手札から《神機王ウル》を召喚し、《機甲部隊の最前線》を発動! カードを1枚セットしてターン終了!」



「へぇ、地属性機械族かあ、男の子っぽいですね」
「真桜花、来てたのか」

 観客席にいる勇魚海の隣に来る。

「私はこの後ですから」
「ま、観戦したいという話だから分けただけだけどな」
「はい、ありがとうございます。ついでに私のデュエルも観戦することができますしね」
「まさか、君と当たる敵では君と相性が悪すぎる。間違いなく覇魄を使うまもなく瞬殺。見る価値なんてないだろう?」
「まあそうなんですけどね」

 二人でハッハッハッハと笑う。

「それで、ユウキくんは覇魄での戦いについてどこまで知ってるんですかね?」
「魂を賭けることなら知っている。揺さぶりをかけても無駄だぞ」
「あ、それは私も知ってます。ユウキくんとの会話の内容からそのことが伺えますしね。でも」

 真桜花はにっこりと笑う。

「でも私もデュエルに負けたら死ぬということはもしかしたら知らないんじゃありません?」

 勇魚海の顔が真剣な表情になる。
 その変化を見て真桜花は満足そうな表情になる。

「相手が賭けるのは覇魄だからそれを取り上げれば元通りに戻るとでも思ってる口ぶりでしたよ?」
「だからどうした? それを知ればユウキは戦わなくなる。そういいたいのか?」
「いえいえ滅相もないです。むしろユウキくんの魂はすごく欲しいですから戦ってもらわないと困ります。ただ、切り札にはなりそうだなぁって思って」
「そうか、それは良かったな」
「あれ、思ったより冷たいんですね。感情の有無を抜いても私とユウキくんを戦わせるのは十分目に見えた損失じゃないですか?」
「あれは私の右腕だが、私が認めた男だ。ユウキが全部決める。この一件は全て」
「……あ、そうですか。うーんもうちょっと有利にできるかと思ったんですが、まあじゃあ最初に言ったような方法で使うことにしますよ」
「そうしてくれ、というか何で私に関わるんだ?」
「なんでって、分かってるのにわざわざ言わせるなんて。勇魚海さんも物好きですね。この戦いは私とアナタのものでしょ?」
「私は全てユウキに任せる予定だけどな」
「そういっておいてちゃっかり色々備えてそうですけどね」
「まあ違いない」

 真桜花の掘り返しに勇魚海はにやりと笑った。

 

「おぉ、これはまたなんとまあ」

 ユウキ:LP7300 手札6
 モンスター:《レッド・ガジェット(ATK1300)》
       《グリーン・ガジェット(ATK1400)》
       《古代の機械騎士(ATK1800)》
       《起動兵士デッドリボルバー(ATK2000)》
       《パーフェクト機械王(ATK5000)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前列》
      《オイルメン(Eデッドリボルバー)》
      《メタル化魔法反射装甲(Eパーフェクト機械王)》
      伏せ×1

 対戦者:LP1200 手札0
 モンスター:《ターボ・シンクロン(DEF500)》
 魔法・罠:なし

「ずいぶんと一方的ですねえ」
「相手打つ手無しって感じだな」

 そのターン中に勝負が決したのは言うまでもない。
 そしてもちろん真桜花も覇魄を使わずに勝利していた。

「さっきは随分と大人気ない勝ち方をしたモノだな」
「え、あ、すいません」
「別に勝ってもらえればどうでもいいが、理由は一応聞いておこうか」
「いっそのこと底が見えないように一気に倒していこうと思いまして。切り札を使わずにトーナメントをあがれればそれだけ有利ですからね」
「ふーん、まあ切り札無しとなると、次はちょっと骨が折れると思うがな。それと私は少し席をはずす」
「あ、そうなんですか?」
「なんだ、不服か?」
「いえ、そんな事はありません。勇魚海さんも忙しいと思いますしね。それじゃ、次も勝ってきますから」


「そこまでよ! 先生の連勝記録はここで終わる!」

 激しく見覚えのある小さい体と金髪のツインテール。

「次の対戦相手はお前か」

 その無駄に高いテンションにユウキは思わずため息をついた。

 どうやら二回戦の相手はメアリーのようだ。
 ついでに一勝しかしてないので連勝ではない。

「強い相手とのデュエル! ホントに楽しみだわ!」
「やれやれ、たしかに。これは骨が折れそうだ」

「「デュエル!!」」

ユウキ:LP8000 手札5
メアリー:LP8000 手札5→6

「私は手札から手札から《精神統一》を発動! 効果により《精神統一》を手札に加える! そして手札から《仙術士 こなみ》を召喚!」

《仙術士 こなみ》 ☆4 水属性
 魔法使い族・効果
 墓地に存在する「精神統一」をゲームから除外することで
 相手のモンスターを2体まで選択して表示形式を変更する。
 この効果は相手ターンでも使用できる。
 ATK1800/DEF 600

「カードを1枚セットしてターン終了!」
「俺のターン!」

 ユウキ:LP8000 手札5→6
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし

 メアリー:LP8000 手札4
 モンスター:《仙術士 こなみ(ATK1800)》
 魔法・罠:伏せ×1

 メアリーのデュエルは着実に相手を切り崩す戦い方に見える。
 つまり最初に場を壊滅させられれば持ち直す前に勝負が決する。
 ここはひたすら力で押す!

「俺は手札から《コアキメイル・パワーハンド》を召喚!」
「!! 攻撃力2100! やるじゃない!」

《コアキメイル・パワーハンド》 ☆4 地属性
 機械族・効果
 このカードのコントローラーは自分のエンドフェイズ毎に、
 手札から「コアキメイルの鋼核」を1枚墓地へ送るか、
 手札の通常罠カード1枚を相手に見せる。
 または、どちらも行なわずにこのカードを破壊する。
 このカードが光属性または闇属性モンスターと戦闘を行なう場合、
 バトルフェイズの間だけそのモンスターの効果は無効化される。
 ATK2100/DEF1600

「《コアキメイル・パワーハンド》で《仙術士 こなみ》に攻撃!」
「甘い! 《仙術士 こなみ》の効果を発動! 墓地の《精神統一》を除外して《コアキメイル・パワーハンド》の表示形式を守備表示に変更する!」
「くっ」

 守備表示のモンスターでは攻撃はできない。
 必然的に攻撃は中断となる。

「ちっ。手札から《機甲部隊の最前列》を発動。カードを1枚セットしてエンドフェイズ《メタル化魔法反射装甲》を公開してターン終了だ」
「じゃあ私のターン!」

 ユウキ:LP8000 手札3
 モンスター:《コアキメイル・パワーハンド(DEF1600)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》
       伏せ×1

 メアリー:LP8000 手札4→5
 モンスター:《仙術士 こなみ(ATK1800)》
 魔法・罠:伏せ×1

「私は手札から《仙術士 つむじ》を召喚!」
「おっとそいつはさすがに許せないねトラップ発動! 《機械仕掛けの落とし穴》!」

《機械仕掛けの落とし穴》
 通常罠
 相手が攻撃力1000以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時
 デッキから機械族モンスター1体を墓地に送ることで発動する事ができる。
 その攻撃力1000以上のモンスターを破壊する。

「俺は《ガジェット・サポーター》を墓地に送る。そして《仙術士つむじ》を破壊!」
「むう、仕方ないなあ」

《仙術士 つむじ》 → 破壊

「手札から《精神統一》を発動するね。そしてバトル! 《仙術士こなみ》で《コアキメイル・パワーハンド》を攻撃!」
「そしてこのタイミングで《マジシャンズ・サークル》を発動!」
「!!」

《マジシャンズ・サークル》
 通常罠
 魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 お互いのプレイヤーは、それぞれ自分のデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター1体を
 表側攻撃表示で特殊召喚する。

「私は《仙術士 だいち》をデッキから特殊召喚する!」
「俺は出すモンスターはいない」

《コアキメイル・パワーハンド》 → 破壊

 切り札が召喚できる条件は整ってる。
 だがここで真桜花に手の内はさらしたくない。
 勇魚海さんの言うとおり切り札無しで勝つのはきつそうだけど……
 ここは切り札無しで押し通る!

「俺は《機甲部隊の最前線》の効果を発動してデッキから《古代の機械騎士》を攻撃表示で特殊召喚する!」

《古代の機械騎士(アンティーク・ギアナイト)》 ☆4 地属性
 機械族・デュアル
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
 通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚することで
 このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
 ●このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで
  魔法・罠カードを発動できない。
 ATK1800/DEF 500

「……私は《仙術士だいち》の効果を発動。《精神統一》を捨ててカードを2枚ドロー。カードを1枚伏せてターン終了よ」
「俺のターン!」

 ユウキ:LP8000 手札3→4
 モンスター:《古代の機械騎士(ATK1800)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》

 メアリー:LP8000 手札4
 モンスター:《仙術士 こなみ(ATK1800)》
        《仙術士 だいち(ATK 0)》
 魔法・罠:伏せ×1

 いま相手には攻撃力0のモンスターがいる。でも攻撃を通そうにも《仙術士 こなみ》はモンスターの攻撃を2体まで防ぐ。
 このターンでなんとか破壊しなくては……

「よし。俺は手札から《起動兵士デッドリボルバー》を召喚!」

《起動兵士デッドリボルバー》 ☆4 地属性
 機械族・効果
 自分フィールド上に「ガジェット」と名の付いたモンスターが表側表示で存在する限り、
 このカードの攻撃力は2000ポイントアップする。
 ATK 0/DEF2000

「そして《機械複製術》を発動!」

《機械複製術》
 通常魔法
 自分フィールド上に表輪表示で存在する
 攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。

「デッキから2体の《起動兵士デッドリボルバー》を特殊召喚。ともに攻撃表示!」
「攻撃力0のモンスターを並べてどうするって言うの?」
「俺は魔法カード《敗戦》を発動!」

《敗戦》
 速攻魔法
 自分フィールド上のモンスター1体を破壊する。
 この破壊は戦闘破壊として扱う。
 エンドフェイズ時破壊したモンスターのレベル3つに付きカードを1枚ドローする。

「《敗戦》の効果で《古代の機会騎士》を破壊!」

《古代の機械騎士》 → 破壊

「《機甲部隊の最前線》の効果で《グリーン・ガジェット》を特殊召喚する」
「!!」
「《グリーン・ガジェット》の効果発動! 手札に《レッド・ガジェット》を加える。そして《起動兵士デッドリボルバー》の攻撃力を2000ポイントアップ!」

 起動兵士デッドリボルバー:ATK 0 → ATK2000
 起動兵士デッドリボルバー:ATK 0 → ATK2000
 起動兵士デッドリボルバー:ATK 0 → ATK2000

「バトル! 《起動兵士デッドリボルバー》で《仙術士 こなみ》を攻撃!」
「くっ《仙術士 こなみ》の効果発動! 2体のデッドリボルバーを行動不能にする!」

 起動兵士デッドリボルバー:ATK2000 → DEF2000
 起動兵士デッドリボルバー:ATK2000 → DEF2000

「それでもまだ1体残ってる! 攻撃表示の《起動兵士デッドリボルバー》で攻撃する!」

《仙術士 こなみ》 → 破壊

 メアリー:LP8000 → LP7800

「《グリーン・ガジェット》で《仙術士 だいち》を攻撃!」

《仙術士 だいち》 → 破壊

 メアリー:LP7800 → LP6400


「この瞬間っ! 私は《パフォーム・ミラクルス》を発動!」

《パフォーム・ミラクルス》
 通常罠
 「仙術士」と名の付くモンスターが2体以上破壊されたターンに発動できる。
 自分の「精神統一」をそれぞれ墓地・デッキ・手札のいずれかに加える。
 その後墓地からレベル4の「仙術士」と名の付いたモンスター1体をフィールド上に特殊召喚する。

「私は除外されている「精神統一」をそれぞれ墓地とデッキへ。そして墓地から《仙術士 こなみ》を特殊召喚!」
「カードを1枚セットしてターンエンド。俺はターン終了時、《敗戦》の効果でカードを1枚ドローする。」
「私のターン!」

ユウキ:LP8000 手札2
 モンスター:《グリーン・ガジェット(ATK1400)》
       《起動兵士デッドリボルバー(ATK2000)》
       《起動兵士デッドリボルバー(DEF2000)》
       《起動兵士デッドリボルバー(DEF2000)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》
       伏せ×1

 メアリー:LP6400 手札3→4
 モンスター: 《仙術士 こなみ(ATK1800)》
 魔法・罠:なし

「私は《仙術士 こなみ》の効果を発動! 守備表示の《起動兵士デッドリボルバー》を攻撃表示に変更! そして手札から《仙術士の使い魔》を召喚!」


《仙術士の使い魔》 ☆1 闇属性
 悪魔族・チューナー
 このカードは手札・墓地では「精神統一」としても扱う。
 このカードと「精神統一」を公開して発動する。
 墓地の「精神統一」1枚を選択してデッキに戻す。
 この効果を使用した場合、エンドフェイズ時までこのカードを公開する。
 ATK 400/DEF 0


「! チューナーモンスター、シンクロ召喚か!」

「私はレベル4《仙術士 こなみ》にレベル1《仙術士の使い魔》をチューニング! 吉兆の星よ、地に身を下ろし奇跡を起こせ! シンクロ召喚! 降臨せよ《仙術士 あかり》!」

《仙術士 あかり》 ☆5 光属性
 魔法使い族・シンクロ
 チューナー+チューナー以外の「仙術士」と名の付いたモンスター1体以上
 このモンスターがシンクロ召喚に成功したとき
 墓地からレベル4以下の「仙術士」と名の付くモンスター1体を特殊召喚する。
 1ターンに1度デッキから「仙術」と名の付いたカードを手札に加える事ができる。
 ATK2300/DEF1800

「シンクロ召喚に成功したことで《仙術士 あかり》の効果発動! 私は墓地から《仙術士 つむじ》を特殊召喚する!」
「もういっちょ《仙術士 あかり》の効果を発動! 私はデッキから《仙術 うぃんど》を手札に加え、そのまま発動!」

《仙術 うぃんど》
 通常魔法
 自分のデッキまたは墓地から「精神統一」1枚を手札に加える。

「私は墓地の《精神統一》となっている《仙術士の使い魔》を手札に加える! さらに手札でも《精神統一》として扱う《仙術士の使い魔》が手札に加わったとき《仙術士 つむじ》の効果が発動! そのセットされてるカードを破壊するわ。《メタル化魔法反射装甲》だったっけ? 残しとくと巻き返しされやすいからね」

 セットカード → 《メタル化魔法反射装甲》 → 破壊

「さらに手札から《精神統一》を発動! デッキから《精神統一》を手札に加え再びつむじの効果を発動! 《グリーン・ガジェット》を破壊!」

《グリーン・ガジェット》 → 破壊

「くっ まずい!」

 ガジェットが消えたことでデッドリボルバーの機動力はガタ落ちする。

 起動兵士デッドリボルバー:ATK2000 → ATK 0
 起動兵士デッドリボルバー:ATK2000 → ATK 0
 起動兵士デッドリボルバー:ATK2000 → ATK 0

「バトル! 《仙術士 あかり》と《仙術士 つむじ》でデットリボルバーを攻撃!

《起動兵士デッドリボルバー》 → 破壊
《起動兵士デッドリボルバー》 → 破壊

 ユウキ:LP8000 → LP5700 → LP4100

「これでさっきの借りは返したわ! カードを1枚伏せてターン終了!」
「まったく、返しすぎた。俺のターン!」

 ユウキ:LP4100 手札2→3
 モンスター:《起動兵士デッドリボルバー(ATK 0)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》

 メアリー:LP6400 手札4
 モンスター:《仙術士 つむじ(ATK1600)》
       《仙術士 あかり(ATK2300)》
 魔法・罠:伏せ×1

 状況は一気に返された。
 相手の場にはモンスターが2体。
 そしてコチラには脆弱なモンスターが1体。

「悪いけどもう一度働いてもらうぜ。俺は手札から《レッド・ガジェット》を召喚!」

《レッド・ガジェット》 ☆4 地属性
 機会族・効果
 このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
 デッキから「イエロー・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。
 ATK1300/DEF1500

「《レッド・ガジェット》の効果で《イエロー・ガジェット》を手札に加える! そしてこの時墓地から《ガジェット・サポーター》を特殊召喚する!」

《ガジェット・サポーター》 ☆2 地属性
 機会族・効果
 「ガジェット」と名のつくモンスターがカードの効果によって手札に加えられた時、
 このカードは手札、または墓地から特殊召喚する事ができる。
 この効果で墓地から特殊召喚されたこのカードがフィールドから離れるとき
 ゲームから除外される。
 ATK 1000/DEF 1000

「フィールド上にガジェットモンスターが現れた事で《起動兵士デッドリボルバー》の攻撃力は再び2000ポイントアップ!」
「だけどその攻撃力じゃ私のエースを倒す事はできないわよ」
「まあ慌てるなって。俺は《レッド・ガジェット》と《ガジェット・サポーター》を融合素材としエキストラデッキから《レッド・ガジェット Mk-2》を融合召喚する!」
「レッド・ガジェット……マークツーへえ。少しは楽しめそうな名前ね」

《レッド・ガジェット Mk-2》 ☆6 地属性
 機械族・融合
 「レッド・ガジェット」+「ガジェット・サポーター」
 このカードは自分フィールド上に存在する上記のカードを融合素材とする事でのみ
 エキストラデッキから特殊召喚する事ができる(「融合」魔法カードは必要としない)。
 このカードが効果モンスターと戦闘を行う場合、
 このカードの攻撃力は相手モンスターのレベル×100ポイントアップする。
 このカードが表側表示で存在する時相手は他の機械族モンスターを攻撃する事はできない。
 このカードの戦闘で発生する戦闘ダメージは半分になる。
 ATK2300/DEF2500

「《レッド・ガジェット Mk-2》で《仙術士 あかり》に《起動兵士デッドリボルバー》で《仙術士 つむじ》に攻撃!」

《仙術士 あかり》 → 破壊(戦闘ダメージは半分)
《仙術士 つむじ》 → 破壊

 メアリー:LP6400 → LP6150 → LP5750


「……ぬるいわ」
「うん?」
「ぬるい! ぬるすぎる! 何このデュエル。ぬるま湯につかるより百倍ぬるいわ!」

 ぬるいを百倍にするのは相当難しいと思うんですが。
 そんなくだらない事を考えたユウキに向かってメアリーの怒りの視線が刺さる。

「アンタ、やる気あんの? もっと強いんでしょ? 何やってんのよ。ライフポイントも全然巻き返せてない!」
「気に障ったなら謝るよ。でも俺には俺の事情があるんだ。放っておいてくれないかな」

 メアリーが歯を食いしばる。

「あんた、最悪ね」
「言ってろ。別に本気なんか出さなくても戦いになってるだろ?」
「対戦相手に失礼だと思わないの? 前の試合だって無意味にあんなにモンスター並べちゃったりさ。積み木遊びとは違うんだよ!」
「だから俺には俺の事情があるんだって。ターンエンド」
「へえ、そいつは勝敗よりも大事って訳ね! だったら存分に敗北の味を食らわせる! トラップ発動! 《パフォーム・ミラクルス》!」
「っ! またそれか!」
「私は除外されている《精神統一》を墓地へ送る! そして《仙術士 だいち》を特殊召喚!」

 ものすごい気迫がメアリーに宿りユウキは思わず身震いする。
 何この小さい生物。こわい。

 ユウキ:LP4100 手札2
 モンスター:《起動兵士デッドリボルバー(ATK2000)》
       《レッド・ガジェット Mk-2(ATK2300)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》

 メアリー:LP5750 手札4→5
 モンスター:《仙術士 だいち(DEF2100)》
 魔法・罠:なし

「私の……ッッッターン!! 私は《仙術士 だいち》の効果を発動! 手札の《精神統一》を墓地へ送りカードを二枚ドロー! そして手札から《おろかな埋葬》を発動!」

《おろかな埋葬》
 通常魔法
 自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

「私はデッキから《仙術士 ほむら》を墓地へ送るわ! 更に《エンター・ミラクルス》を発動!」

《エンター・ミラクルス》
 通常魔法
 自分のフィールド上に「仙術士」と名のつくモンスターが存在する時発動できる。
 そのモンスターと同じレベルのモンスター1体を墓地から特殊召喚する。

「墓地から《仙術士 ほむら》を特殊召喚するわ!」

《仙術士 ほむら》 ☆4 炎属性
 魔法使い族・効果
 このカードの攻撃力は墓地の「精神統一」の数×400ポイントアップする。
 このカードが戦闘によって破壊された時、
 相手のライフに墓地に存在する「精神統一」の数×500ポイントのダメージを与える。
 ATK1000/DEF 0

「墓地に存在する《精神統一》の数は3枚。よって1200ポイントアップする!」

 仙術士 ほむら:ATK1000 → ATK2200

「そして私は手札から《仙術士の使い魔》を召喚し《仙術士 だいち》にチューニング! もう一度力を貸して! シンクロ召喚! 《仙術士 あかり》!」
「!! また!」
「《仙術士 あかり》の効果! 私は墓地から《仙術士の使い魔》を特殊召喚し、《仙術士 ほむら》とチューニング! 《仙術士 あかり》をシンクロ召喚! さらに効果で墓地から《仙術士 ほむら》を特殊召喚!」
「ぐっ」
「まだまだぁ! 手札から《エンター・ミラクルス》を再び発動! 墓地から《仙術士 あかり》を特殊召喚するわ!」
「な!?」

 メアリー:LP5750 手札3
 モンスター:《仙術士 あかり(ATK2300)》
       《仙術士 あかり(ATK2300)》
       《仙術士 あかり(ATK2300)》
       《仙術士 ほむら(ATK2400)》
 魔法・罠 :なし

「シンクロモンスターが、三体ッ!」
「《仙術士 あかり》の効果発動! 1ターンに1度デッキから「仙術」と名のつくカードを手札に加える。私は合計三枚の《仙術 ふぁいあ》を手札に加える!」
「げぇ!」
「バトル! 《仙術士 ほむら》で《起動兵士デッドリボルバー》を……」
「おっと《レッド・ガジェット Mk-2》がいるとき相手は他の機械族を攻撃できない! そして効果モンスターと戦闘を行う時このカードの攻撃力は相手のレベル×100ポイントアップする!」

 レッド・ガジェットMk-2:ATK2300 → ATK2700

「甘い! 《仙術 ふぁいあ》を三連弾!」

《仙術 ふぁいあ》
 速攻魔法
 フィールド上に存在する『仙術士』と名の付いたモンスター1体を選択して発動する。
 そのモンスターの攻撃力は墓地の「精神統一」の数×700ポイントアップする。
 この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

「《仙術士 ほむら》の攻撃力は8400ポイントアップ!」

 仙術士 ほむら:ATK2400 → ATK10800

「《レッド・ガジェットMk-2》の効果によって発生する戦闘ダメージは半分になる!」

 《レッド・ガジェットMk-2》 → 破壊

 ユウキ:LP4100 → LP 50

「ガジェットモンスターが消えた事で《起動兵士デッドリボルバー》の攻撃力は0になる!」
「っ《機甲部隊の最前線》の効果発動させてもらうぞ! 《癇癪ボンバー》を特殊召喚!」

《癇癪ボンバー》 ☆2 地属性
 機械族・効果
 相手が攻撃宣言を行った時に自分フィールド上のモンスターを任意の数リリースして発動する。
 そのモンスターを攻撃を無効にする。
 そのターンリリースしたモンスターのレベルの合計以下のモンスターは攻撃できない。
 ATK 0/DEF 0

「《仙術士 あかり》で《起動兵士デッドリボルバー》を攻撃!」
「《癇癪ボンバー》の効果を発動! 《癇癪ボンバー》と《起動兵士デッドリボルバー》をリリースする事で攻撃を無効にし、このターンレベル6以下のモンスターは攻撃する事ができなくなる!」
「……ちっ生き残ったか。カードを1枚セット。手札を1枚捨てて手札から魔法カード《仙防術》を発動するわ」

《仙防術》
 通常魔法
 手札を1枚捨てて発動する。
 次の相手ターンのエンドフェイズまで
 「仙術士」と名のついたモンスターは破壊されない。

「そしてターンエンド。この時《仙術 ふぁいあ》の自壊効果は《仙防術》によって守られる。ま、ステータスは戻るから安心しなさい」

 仙術士 ほむら:ATK10800 → ATK2400

「俺のターン」

 ユウキ:LP 50 手札2→3
 モンスター:なし
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》

 メアリー:LP5750 手札0
 モンスター:《仙術士 あかり(ATK2300)》
       《仙術士 あかり(ATK2300)》
       《仙術士 あかり(ATK2300)》
       《仙術士 ほむら(ATK2400)》
 魔法・罠 :伏せ×1

 これは、確かに厳しい。
 ユウキは諦めたようにため息をつく。

「確かに、この戦い方じゃ勝てないみたいだよ」
「本気をだしてくれるって事? でもちょっと気づくのが遅かったんじゃない?」
「メアリー。君のご希望に添える事になりそうだ。いいものを見せてもらったお礼だと思ってくれ」
「へえ、じゃ、楽しませてもらいましょうかね」
「俺は手札から《ガジェット・チャージ》を発動する!」

《ガジェット・チャージ》
 通常魔法
 「ガジェット」と名のつくモンスターを1枚捨てる。
 カードを2枚ドローする。

「俺は《イエロー・ガジェット》を捨ててカードを二枚ドロー!」
「さらに《貪欲な壺》を発動!」

《貪欲な壺》
 通常魔法
 通常の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
 デッキに加えてシャッフルする。
 その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「《コアキメイル・パワーハンド》《古代の機械騎兵》《癇癪ボンバー》《グリーン・ガジェット》《レッド・ガジェット Mk-2》をデッキに戻してシャッフル。そしてカードを2枚ドロー!」
「そんなにドローして。引きたいカードは引けたかしら?」
「ああ、もちろんだ。カードは俺に応えてくれるからな。相手のフィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時。《サイバー・オーガ・ドクター》は特殊召喚できる!」

 ユウキのフィールド上に白衣を着た少女が姿を現す。
 しかし機械の様な角、髪に覆われた左目にも機械の端子が見え隠れしている。左腕に至っては鋼鉄で覆われたかぎ爪となっている。

《サイバー・オーガ・ドクター》 ☆3 地属性
 悪魔族・効果
 相手フィールド上にのみモンスターが存在する時
 このカードは手札から特殊召喚することができる。
 このカードをリリースすることでデッキから「サイバー・オーガ」1体を特殊召喚する。
 ATK 900/DEF 200

「機械族じゃないのね」
「それはカードの制作者に言ってくれ。俺は《サイバー・オーガ・ドクター》をリリースしてデッキから《サイバー・オーガ》を特殊召喚する。こい! 俺の相棒!」

 鋼色の装甲に包まれた巨大な機械獣がフィールド上に姿を現す。

「これが……」

《サイバー・オーガ》 ☆5 地属性
 機械族・効果
 このカードを手札から墓地に捨てる。
 自分フィールド上に存在する「サイバー・オーガ》1体が行う戦闘を1度だけ無効にし、
 さらに次の戦闘終了時まで攻撃力は2000ポイントアップする。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
 ATK1900/DEF1200

「随分謙虚な能力ね、そんなんで大丈夫なの?」
「なるほど、謙虚……ね、じゃあ感じてみればいいよ。このモンスターの凶悪さを! バトルフェイズ! 《サイバー・オーガ》で《仙術士 あかり》を攻撃する」
「んなっ」

 サイバー・オーガが咆哮する。
 ビリビリと回りの空気が震えた。
 そしてあかりに向かってそのかぎ爪を振り上げる。

 メアリーがにやりと笑った。

「残念だったわね! どんな小細工をしようと私の勝ちよ! トラップ発動! 《強者の鈍痛》!」

《強者の鈍痛》
 通常罠
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
 無効にしたモンスターのレベルの数×400のダメージを相手ライフに与える。

「《サイバー・オーガ》のレベルは5! よって2000ポイントのダメージを受けてもらうわ!」

 《サイバー・オーガ》と《仙術士 あかり》の間に鏡が出現する。
 勝った! あかりはそう確信する。

 だがその時はいつまでたっても訪れなかった。

「フフフフ、はははは、あっはっはっはっはっは」

 ユウキがこらえきれなくなったのか大声で笑い始める。

「な、一体何が起こったって言うの!? 罠は間違いなく発動した!」
「勝ち急いだな、本当にギリギリだったけどこの勝負。勝たせてもらったよ」

 そしてその時メアリーは初めて戦場の状態を認識した。

「《サイバー・オーガ》の攻撃が……止まっている!? 一体どうして」
「《サイバー・オーガ》の効果」
「っ! まさか!?」
「捨てさせてもらったよ。手札の《サイバー・オーガ》をね」
「自分の攻撃を……無効に!?」

 《強者の鈍痛》のダメージはモンスターの攻撃を無効にした時初めて発生する。
 その効果にチェーンして《サイバー・オーガ》を捨てる事でそのダメージを回避したのだ。
 結果として《強者の鈍痛》は……

「空打ちになる」

 メアリーはギリリと唇を噛む。

「そして《サイバー・オーガ》の効果でフィールド上の《サイバー・オーガ》の攻撃力を2000ポイントアップ!」

 サイバー・オーガ:ATK1900 → ATK3900

「もう少しだったのに、残念だったね」
「でも《サイバー・オーガ》の攻撃は終了した! その攻撃力が発揮されるのも一度きり。私の勝ちよ!」
「来ないよ。メアリーのターンはね! 速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》を発動!」

《ダブル・アップ・チャンス》
 速攻魔法
 モンスターの攻撃が無効になった時、
 そのモンスター1対を選択して発動する。
 このバトルフェイズ中、
 選択したモンスターはもう一度だけ攻撃する事ができる。
 その場合、選択したモンスターはダメージステップの間攻撃力が倍になる。

「な!?」
「起動しろ! 《サイバー・オーガ》! 《仙術士 あかり》に攻撃!」

 更に力強く吠える。
 いや、落ち着け。私のライフに余裕はある。《仙防術》の効果で戦闘でも破壊されない!
 ギリギリ、ギリギリ耐えてくれる。

「安心しなよ、しっかりとどめを刺す! 《リミッター解除》を発動!」

《リミッター解除》
 速攻魔法
 このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する
 全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
 この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 サイバー・オーガ:ATK3900 → ATK7800

「うぇえ!?」

 サイバー・オーガ:ATK7800 → ATK15600

「す、すご……」

 メアリーはその攻撃力にあっけにとられる。
 その力は自分が行った全力の一撃を遥かに上回るものだ。
 この攻撃を受け止める術は残されていない。

 こんな数値を叩きだせるデュエリストがいるなんて。
 やっぱりこの人はすごい!
 メアリーは知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。デュエルの興奮が体を駆け抜けた。

 《仙術士 あかり》 → 破壊。

 メアリー:LP 0

 ふう、やっと終わった。ユウキはため息をつく。
 結局切り札を明かしてしまった。
 まあ相手が相手だったし仕方ない事なのかもしれないけど。

「負けたわ、いいデュエルだった。ありがと」

 メアリーはユウキの元まで来るとそう言って手を差し出した。
 ユウキもそれに応じて手を握る。

「メアリー。こっちこそ失礼な態度とってごめん。楽しかったよ」
「ありがとう♪ いやあ、それにしても負けちゃったかあ。倒せると思ってたのになあ」
「かなり損失無く動くデッキだよな。着実に不利になっていくし、かなり戦いにくかったぞ」
「そりゃそうよ、私は燃費の悪いデッキなんて作らないもの」

 そう言った後太陽のような笑顔を振りまいて言った。
 な、なんか怖いくらいに上機嫌だな。

「ほんと、楽しかった。またデュエルしましょう」
「うぇ!? お、おう」

 デュエル中の殺意満々の表情とのギャップの所為だろうか。
 ユウキはいやにドギマギした。

「じゃ、私もうここに用ないし帰るわね。それじゃあねー」

 メアリーはそう言うとその天使のような笑顔のままぶんぶんと手を振りながら走り去ってしまった。
 しばらく手を振って見送る。そしてその姿が見えなくなった後先ほどよりも大きいため息をついて言った。

「な、なんかすっごい疲れた」

 残りの二戦が明日なのがせめてもの救いといったところか。


「……ああ、だからそうしろと言っている。かまわん、責任は私がとる。ああ、ああ。それじゃあな」
「用事は終わりましたか?」

 その言葉とともに教室の扉が開きユウキが入ってくる。
 勇魚海は静かに使用し終わったケータイ電話を閉じてユウキに目線を向ける。

「よく見つけられたな」
「ま、なんとなくですね。右腕の勘って奴ですよ」
「その様子だと勝ったみたいだな」
「辛勝ですけどね。勇魚海さんの言ってた通り結局《サイバー・オーガ》使っちゃいましたし」
「ま、手加減して勝てる相手ではないだろう。あれは」
「ええ、すごくつよ」
「ユウくんッ!!」
「ぐはぁ!」

 背後から闇討ちまがいの体当たり。もとい抱きつきを食らって転倒する。
 ユウキは急いで這いおきる。

「亜弥! おま、よく見つけられたな」
「幼馴染センサーかな?」
「聞くな、ついでに俺にはそんなセンサーはなかった」
「そんなことどうでもいいよ! すごいよユウくん。かっこよかった!」
「うごぉ!」

 再びギュッと抱きしめられる。
 勝負を見て気分が高揚して壊れたんじゃないかコレ!?窶ィ「ほう、そんな大健闘だったのか?」
「なんかライフが50残ったんで《サイバー・オーガ》で思いっきり殴っただけの試合ですよ」
「なるほどな、まあ君のことだからライフが0になるような攻撃は受けないと思うが」
「いえ、正直油断してました。しのぎきったのは奇跡としか言いようがないかと」

 その言葉に勇魚海はくすっと笑う。

「君は本当に正直者だな。少しぐらい見栄を張ったほうが男はもてるぞ?」
「えーっそんなことないよー。ユウくんはユウくんのままがいいよー!」
「とりあえず亜弥は俺を解放しろ。その力で腹を締め上げられ続けると口から内臓がポロリと出てもおかしくない」
「え? あ、ごめんごめん!」

 亜弥はぱっと俺から離れる。
 そしてあまり反省色のない顔で「えへへへ」と笑う。
 いわゆる「やっちゃった☆」という顔である。体力が残ってない影響もあって怒る気にもなれない。

「ユウキくん! みんなもここにいたんですね」
「あ、ああ。桜花さん」
「すごい決闘でした! あたし感動しちゃいました。これならもう一人のあたしにも勝てるかもしれませんね!」
「できれば試合直前まで隠しておきたかったんですけどね。ま、相手が悪かったです」
「大丈夫だよ、勝てる勝てる。あんなすごいのだったら絶対勝てる!」
「頑張ってみるよ」
「まあまあ、明日のことは明日のことですから。今日は無事終了したんですしパパーッとやりましょうよ!」
「そうですね。じゃ、今日はもうゆっくり休むことにしますよ」


「と、言うことで今日のユウくんの活躍を祝って、かんぱーい!」
「まさかこ小洒落た喫茶店で乾杯する日がくるとは思わなかった。紅茶とコーヒーで乾杯とかシュールすぎだ」
「これは。確かに奇妙な光景だな」
「細かいことは気にしちゃだめですよー」

 ま、そうか。この状況を思う存分楽しむことにしよう。
 俺は何も考えずにはしゃぐことに決めた。
 そこ、最後の晩餐とか言わない様に。

「だーれだー?」

 会話が盛り上がり始めたころに、後ろから抱きつかれる。
 ほんとこの学校では抱きつく挨拶が流行ってるのか?

「メアリー……お前帰ったんじゃなかったのか?」
「いやあ、用がないから帰るって言ったんだよ。家に帰っても用はないわけで。ま、そんなことどうでもいいじゃん。あ、クッキーもーらい」

 肩越しからユウキのクッキーを奪いぱくっと一口食べる。

「おい、勝手に取るな」
「いいじゃんかーちょっとくらい。ほら、あーんしてあげるから。あーんで機嫌直して。はい、あーん」
「……なんかずいぶんキャラが違う気がするんだが」
「ん、あーそれはねえ。ほら、さっきの戦いでさ。見直したって言うか……惚れた? 好きだよ先生結婚しようお兄ちゃん」
「恋愛的な意味で好きならお兄ちゃんとかいわねえよ。そういうの言うのは恋愛感情持たない慕ってる奴が言うんだ」
「それはえーっと。ほら、ただ好きって言うと恥ずかしいから誤魔化してるんだよ」
「それ言った時点で誤魔化しになってねえよ! 100%からかってるだけじゃねえか! それに今思い出したが年齢同じだろ!」
「いやいやぁ。数ヶ月の差でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ! 誕生日いつ?」
「10月だけど」
「あ、やべ。私のほうが2ヶ月先だ」
「なにが『あ、やべ』だぁぁぁぁ!? お前は俺のスタミナを全部削り取る気か?」
「まあまあ年の差なんて些細な問題だよお兄ちゃん☆」
「もう……知らん」
「もーお兄ちゃんったらいじりがいあるんだからー。かわいいなー」

 そういいながらメアリーはユウキ頬をぷにぷに突く。
 疲れる。ほんと疲れる。メアリーとの会話は疲れしか生まれない。

「って亜弥、どうしたんだ? 唖然として」
「……」
「おーい?」

 目の前で彫像のように固まっている亜弥の視線の前で手をちらつかせる。
 瞳に光が戻り焦点があう。

「はっ!? メアリー先輩! だめです、ユウくんの恋人になるなら幼馴染の私を倒してからにしてください!」
「それじゃああたしにはユウキくんの恋人になる権利があるんですね!?」
「ダメー!! 桜花先輩確かに勝ってるけど勝ってないもん!」
「いやー亜弥ちゃんもかわいいねー。いじりがいがありそうだよー」
「ダメー! メアリー先輩ほっぺたぷにぷにしないでー」


 ……なにこの光景。
 今俺たちの手元に置かれている飲み物は紅茶やコーヒーだよな? うん、少なくとも酒ではない。
 なのに全員酔っ払っているとしか思えないテンション。

「もてもてだな。ユウキ」
「いや、メアリーの空気に流されて自分で何言ってるか分からないんだと思いますよ」
「うん、確かに自分で何を言ってるかは分かってないだろうな」
「?? はい、だからそうですよね」
「いや、違うさ」
「??」

 とりあえずわけが分からなかったけど一言だけ。
 その場のノリって怖いな。

「おっと危ない危ない、すっかり自分の用件忘れてたよ」
「ん? 何か用事があったのか?」
「そそ、そこの勇魚海ちゃんにちょっち話があってね。勇魚海ちゃん借りるよ」
「ここで話してもいいんじゃないか? 外はまだ暑いぞ?」
「いやいや、『お嬢さん! お嬢さんの右腕を僕にください!』って話だからねーここじゃできないよー」
「……いや、もう何も言うまい。さっさと行ってくれ」
「ほいさほいさー」

 メアリーと勇魚海はさっさと店の外へ出て行ってしまった。

「あのさユウくん! ユウくんは桜花先輩みたいな人が好みなの!?」

 ……勘弁してくれ。


 そんな騒ぎを脇に置きメアリーと勇魚海は店の裏側の静かな空間までやってくる。
 メアリーが口を開いた。

「いやあ、強いねえユウキくんは。私本気出したんだけどね。勝てなかったなぁ」
「ま、当然だな。それでだ、デュエルで負けたんだ。ちゃんと協力してもらうぞ」
「もともとそういう約束だしね。仕方ないなあ。ええっと戦いの記憶だっけ?」
「ああ、それで主人に値するかどうか判断するからな。本人のでもいいんだが本人は乗り気じゃない」
「なるほどね。さっきのデュエルを見せれば良いんだったら私でも問題ないって事か」
「そういうことだ」
「でもさあ覇魄使いたくないって言ってるんだったらそういうのは良くないんじゃないの?」
「分かっている。ただ私はユウキに負けてほしくない。いなくなってほしくない。だからユウキが嫌がってることでも私はやる」
「わがままだねー」
「まあ最終手段さ。普通に勝てるんだったらそれに越したことはない。転ばぬ先の杖だよ」
「ははは、分かってるって。私もお兄ちゃんには死んで欲しくないしね」

 風が静かにその場を駆け抜けた。




「いよいよ準決勝、そして決勝だね!」

 亜弥が傍らでふんっと鼻息を荒くする。
 もちろん準決勝で勝たなくては決勝なんてありはしないのだが。

「ああ、そうだな」

 なんの気兼ねなく本領発揮できるなら次の相手は大して苦戦しないだろう。
 亜弥は本日何度目かのここにいるメンツの確認をした。

「勇魚海ちゃんがいないね。桜花先輩も。あとメアリー先輩も来るかと思ったんだけど」
「勇魚海さんは用事。桜花さんは俺と同じで準決勝でなきゃいけないだろ。メアリーは知らん」

 早い話が二人きり。この話も何度かしたはずだが。亜弥は心無しか緊張しテンパっている様に見える。
 亜弥は戦わないはずなのだがユウキより数倍緊張している様だ。どういうことだ。

「ユウくんが全然余裕そうな顔してるから私がユウくんの分まで緊張してあげてるの!」

 理由を聞いたらそんな訳の分からない回答が帰ってきた。

「まあ私がしっかり応援してるから安心してがんばってね!」
「ああ、ありがとう」
「うん♪ それじゃあ私、いい席取らなきゃいけないから! またね!」

 もうこの時間だといい席は空いてないだろ。もう試合始まるし。
 とは言わない。言った所で事態が変わる訳でもないし。

 さて、戦ってくるとするか。





「来たよー勇魚海ちゃん」
「10分遅刻だ」
「もーつれないなあ勇魚海ちゃんは。ほら、私たち全寮制で基本学校から出ないから遠出すると好奇心がね」
「学校でもその好奇心は全く変わりないだろ」

 窓もない密閉された個室にメアリーが入ってくる。
 勇魚海は少々気が立った口調でとがめるがメアリーはまったく気に留めていない。

「それにしても、仰々しいねぇ」

 あたりを見回してメアリーは感想を口に出す。
 そこには床だけでなく壁にまで無数の記号や文字が彫られ何重にも陣を描いていた。
 そしてその中央に位置するところには台座がありその上にはカードより一回り大きい黒い長方形の石版のようなものがある。
 とある場所に建てられているこの建物は勇魚海家の持つ研究施設の一つだ。
 ここには既に回収された覇魄の1つ『蒸汽機器』が保管されている。目の前のソレがそうなのだが。

 メアリーはその黒い石版をまじまじと見つめて言う。

「へえ。これモノリスじゃん。これが覇魄なの?」
「正確に言うなら封印してある覇魄だがな、封じておかないとすぐ器に取り入ろうとするからな」
「なるほどね。じゃあこの印がその封印ってこと?」
「いや、これは違う。君がコレに魂を吸われないようにするための措置だ」
「え!? 魂吸われんの?」
「戦いの記憶を与えるときにドサクサにまぎれて食われるかもしれないからな。まあ、食われたとしても死なない程度になるように組んだ防御陣ってところか」
「げげぇ」

 メアリーは顔をしかめる。
 光を吸い込むような黒を持つそれはどことなく嫌な気を放っている様に感じる。

「まあ君の魂だったらタフそうだし少し食われても減りはしないだろう」
「減るよ! 食べられたら食べられた分だけ!」
「ま、とりあえず頼む」

 やれやれ、と肩を下ろすとメアリーはモノリスに向き合う。
 そしてモノリスに手を置く。その途端自分の体内の物がモノリスに吸い上げられているようななんともいえない不快感が襲う。
 すぐに手を離したくなるが、こうなるという事はあらかじめ聞いていた。
 その甲斐あってメアリーはなんとかその衝動を押さえ込む事に成功する。

「記憶を流し込め」
「えっと頭の中で反芻させればいいんだよね」
「うむ」

 メアリーは昨日のユウキとのデュエルを頭の中で思い描く。
 流れを、動きを。
 そして最後の《サイバー・オーガ》の脅威の火力。
 途端にモノリスが熱を帯びたかの用に真っ赤に輝きこんどはエネルギーが逆流する。

「うわっなにコレ!?」

 メアリーは反射的に腕をモノリスから引き剥がす。
 しかし手を話した後もしばらく心臓の鼓動のように赤い光が静かに点滅する。
 勇魚海は満足そうに微笑んだ。

「どうやらお気に召していただいたようだな。これで用は以上だ。ご苦労だったな」
「あ、そうなんだ。つまりお兄ちゃんの戦いを気に入ってその器を欲してるって事?」
「そんな所だ」

 勇魚海はそういうとモノリスを素手でむんずとつかみ無造作にポケットに突っ込んだ。
 その様子を見て思わずメアリーはポケットを指差して言う。

「あんたそれ素手で持ったりして大丈夫なの? 私がさっき触ったときはヤバい感じがしたんだけど」
「ああ、私は大丈夫だ。それにしても移動時間を含めるとそんなに時間はないぞ。今から急いで決勝の中盤に間に合うかどうかだ。急ぐぞ」
「はいはいっと。じゃあ私もお兄ちゃんの勇姿を見物しに行こうかしらねー」

 そう言いながらメアリーは勇魚海を横目で確認する。
 この娘も色々特殊そうだなあ。調べるのは危険そうだけど……

「ん? どうした?」
「いんや? 勇魚海ちゃんも色々秘密を抱えてそうだけど調べると我が身が危険そうだなーって思ってね」

 その言葉に勇魚海は笑みを浮かべる。
 本気である事を悟ったか。はたまた冗談だと思ったか。

「そうだな。知りたかったら仲良くなるなり何なりする方が身のためかもしれないな」
「はいはい。肝に銘じておきますよーっと」

 メアリーもわざとらしいニコニコ笑顔で返事を返した。


 時間は少し巻き戻る。
 ユウキは準決勝の相手を難なく倒して決勝に備えてのどを潤しているところだった。
 もう《サイバー・オーガ》を隠す理由はどこにもなかったので当然の結果といえる。

「あ、あのユウキくん」
「桜花さん。どうしたんですか? もう試合始まりますよ?」

 試合前、控えていたユウキの元に訪れたのは対戦相手である緋本桜花だった。
 デュエルの場には反対側から入場するのだけれども……。

「いよいよ決勝ですね」
「そうですね」

 まさかそんな事を言うためだけにここに来たのだろうか?
 しばらくの沈黙、桜花はしばらく視線を泳がせた後にユウキを見て意を決した様に言う。

「あ、あの……その、勝ってくださいね!」
「ははは、対戦相手にそんな事言われると変な感じですね」
「すごく強いですから。心配になっちゃって。少しでも力に慣れればって」
「ええ頑張ります。大丈夫ですよ。安心してください」

 その言葉を言い終わるか終わらないかと言った所で桜花の目がすっと静かな色を浮かべる。
 この目は対戦相手を、敵を見る目だ。

「いよいよ決戦ですね。楽しみにしてますよ」
「ああ、しっかりボコボコにしてやるよ。」

 真桜花は少し驚いた表情をして言う。

「すっかり性格が入れ替わるのにも反応できるようになりましたね」
「そりゃあそこまであからさまに態度を変えられちゃあなあ」
「今回私は覇魄を、あなたは魂をかけて戦うことになります。依存はないですね?」
「ああ、無いよ」
「コレは契約であり儀式です。勝負の結果は神の答え。あなたはその答えに従いますか?」
「ああ、従う」

 真桜花は満足げににっこりと笑う。

「わかりました。そろそろ時間になりますね。あ、私は反対側から出なくてはいけないのでこれで。それじゃあ、楽しいデュエルにしましょうね」
「こっちは命がけなんだけどな」
「ふふふ、それじゃあまたすぐに、ですね」

 真桜花はそういうとその場から出て駆け足で去っていく。
 勝つ、勝って亜弥のカードを取り戻す。
 真桜花は覇魂を手にした時から人格の優劣が逆転したと言っていた。
 つまり覇魄がなくなれば二つの人格のバランスも元に戻るのが自然なはずだ。
 勝てばいい。勝つしかない。

「よし、それじゃあ行くか!」

 今まで通り行けばいい。
 ユウキは静かに猛る。死の恐怖を薙ぎ払うために。


「それでは決勝戦を始めます! 両者、準備は良いですね」
「はい」
「ええ」
「それでは!」

「「デュエル!!」」

ユウキ:LP8000 手札5→6
真桜花:LP8000 手札5

「俺のターン! ……最初から全力でいかせてもらう! 俺は手札から《イエロー・ガジェット》を召喚する!」

《イエロー・ガジェット》 ☆4 地属性
 機械族・効果
 このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
 デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。
 ATK1200/DEF1200

「そしてその効果で《グリーン・ガジェット》を手札に加える! そしてこの時手札から《ガジェット・サポーター》を特殊召喚!」

《ガジェット・サポーター》 ☆2 地属性
 機会族・効果
 「ガジェット」と名のつくモンスターがカードの効果によって手札に加えられた時、
 このカードは手札、または墓地から特殊召喚する事ができる。
 この効果で墓地から特殊召喚されたこのカードがフィールドから離れるとき
 ゲームから除外される。
 ATK 1000/DEF 1000

「! 確かガジェットと融合するんですよね」
「その通り。俺はフィールド上の《イエロー・ガジェット》と《ガジェット・サポーター》を融合素材とすることでエキストラデッキから《イエロー・ガジェット Mk-2》を特殊召喚する!」

《イエロー・ガジェット Mk-2》 ☆6 地属性
 機械族・融合
 「イエロー・ガジェット」+「ガジェット・サポーター」
 このカードは自分フィールド上に存在する上記のカードを融合素材とする事でのみ
 エキストラデッキから特殊召喚する事ができる(「融合」魔法カードは必要としない)。
 このカードが効果モンスターと戦闘を行う場合、
 このカードが戦闘によってモンスターを破壊したとき、
 相手に破壊したモンスターのレベル×200ポイントのダメージを与える。
 このカードはカードの効果で破壊されない。
 このカードの戦闘で発生する戦闘ダメージは半分になる。
 ATK2200/DEF2200

「そして手札から《機甲部隊の最前線》を発動! カードを1枚セットしてターン終了だ」
「1ターン目から強力なモンスターを出してきましたか。面白いですね。私のターンドロー!」

 ユウキ:LP8000 手札3
 モンスター:《イエロー・ガジェット Mk-2(ATK2200)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前列》
       伏せ×1

 真桜花:LP8000 手札5→6
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし

「私は手札を引いた瞬間に《手札断殺》を発動!」
「っ!」

《手札断殺》
 速攻魔法
 お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。

 手札干渉、どうする……?

「俺は《サイバー・オーガ》と《オイルメン》を墓地へ送る」
「私は《DーHERO ダッシュガイ》と《黄泉ガエル》を墓地に送りますね。そしてお互いにカードを2枚ドロー」

 いや戦術が多少乱されただけで手数は変わっていない。むしろ墓地が肥えて戦術の幅が格段に広がったと考えるべきだ。

「そして墓地の《DーHERO ダッシュガイ》の効果を発動! ドローフェイズ時にドローしたモンスターカードをお互いに確認し、特殊召喚する」

 真桜花はドローしたカードの1枚をそのまま表に返す。

「私は《手札断殺》でドローした《E・HERO オーシャン》を特殊召喚する!」

《E・HERO オーシャン》 ☆4 水属性
 戦士族・効果
 1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動することができる。
 自分フィールド上または自分の墓地に存在する
 「HERO」と名の付いたモンスター1体を選択し、持ち主の手札に戻す。
 ATK1500/DEF1200

「そしてドローフェイズからスタンバイフェイズへ! 《E・HERO オーシャン》の効果を発動! 墓地から《DーHERO ダッシュガイ》を手札に加える。さらに《黄泉ガエル》の効果発動! 墓地からこのカードを特殊召喚」

《黄泉ガエル》 ☆1 水属性
 水族・効果
 自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、
 自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合。
 このカードを自分フィールド上に特殊召喚することができる。
 この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が
 表側表示で存在する場合は発動できない。
 ATK 100/DEF 100

 メインフェイズにさえ入っていないのに陣形が整えられた!?
 2体のモンスターが一気に並ぶ。それらのモンスターの戦闘力は高くはないがまだ彼女は通常召喚を残しているのだ。

「そしてメインフェイズ! 私は《黄泉ガエル》をリリースして《DーHERO ダッシュガイ》をアドバンス召喚!」

《DーHERO ダッシュガイ》 ☆6 闇属性
 戦士族・効果
 自分フィールド上のモンスター1体をリリースする事で、このターンの
 エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力を1000ポイントアップする。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。
 このカードが攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
 このカードが墓地に存在する場合、1度だけドローフェイズ時に
 ドローしたモンスターカードをお互いに確認し特殊召喚する事ができる。
 ATK2100/DEF1000

 きた! 《DーHERO ダッシュガイ》今までのデュエルを見ていた限りこのカードが切り札であり戦術の要となっている。最強のHEROとまで称されるDーHEROの一枚。
 桜花のエースモンスターである。

「ダッシュガイの効果! モンスター1体をリリースして攻撃力を1000ポイント上昇する! 《E・HERO オーシャン》をリリース!」

 DーHERO ダッシュガイ:ATK2100 → ATK3100

「《DーHERO ダッシュガイ》で《イエロー・ガジェット Mk-2》を攻撃!」

 《イエロー・ガジェット Mk-2》 → 破壊(ダメージ半減)

 ユウキ:LP8000 → LP7550

「ぐっ!?」

 ライフの数値が減った瞬間心臓が鉄の鉤爪で握られたかのような痛みが走る。
 これが、魂を賭けたデュエルって事か!
 その痛みが負ければ死ぬということを必要以上に意識させる。
 いや、落ち着け。大丈夫だ。冷静さを欠かなければ大丈夫。
 この戦況は予想通りっ。必要な局面!

「ダッシュガイは攻撃の後守備表示となる」

 DーHERO ダッシュガイ:ATK3100 → DEF1000

「《機甲部隊の最前線》を発動! 俺はデッキから《サイバー・オーガ》を特殊召喚する!」
「来ましたね」

《サイバー・オーガ》 ☆5 地属性
 機械族・効果
 このカードを手札から墓地に捨てる。
 自分フィールド上に存在する「サイバー・オーガ》1体が行う戦闘を1度だけ無効にし、
 さらに次の戦闘終了時まで攻撃力は2000ポイントアップする。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
 ATK1900/DEF1200

 自分の相棒がフィールド上に姿を現す。
 それだけで痛みが数段和らいだ気がした。

「私はカードを1枚セットしてターン終了です」
「俺のターン!」

  ユウキ:LP8000 手札3→4
 モンスター:《サイバー・オーガ(ATK1900)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前列》
       伏せ×1

 真桜花:LP8000 手札2
 モンスター:《DーHERO ダッシュガイ(DEF1000)》
 魔法・罠:伏せ×2

「俺は手札から《グリーン・ガジェット》を召喚! 効果で《レッド・ガジェット》を手札に加える! そして《ガジェット・サポーター》を墓地から特殊召喚する!」

 ここは全力で……組み伏せる!

「《グリーン・ガジェット》と《ガジェット・サポーター》を融合素材とし、エキストラデッキから《グリーン・ガジェット Mk-2》を特殊召喚する!」

《グリーン・ガジェット Mk-2》 ☆6 地属性
 機械族・融合
 「グリーン・ガジェット」+「ガジェット・サポーター」
 このカードは自分フィールド上に存在する上記のカードを融合素材とする事でのみ
 エキストラデッキから特殊召喚する事ができる(「融合」魔法カードは必要としない)。
 1ターンに1度、自分フィールド上のモンスター1体を選択して手札に戻ことができる。
 このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで戻したモンスターのレベル×300ポイントアップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃したとき
 その守備力を超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードの戦闘で発生する戦闘ダメージは半分になる。
 ATK2400/DEF1600

「《グリーン・ガジェット Mk-2》で《DーHERO ダッシュガイ》を攻撃!」

《DーHERO ダッシュガイ》 → 破壊

「そして《グリーン・ガジェット Mk-2》は貫通効果を持っている! 守備力を超えていた場合その数値だけ戦闘ダメージを与える! その差1400ポイントの半分。700ポイントのダメージを与える!」

 真桜花:LP8000 → LP7300

 真桜花は眉ひとつ動かさない。覇魄を持っている者はダメージを受けないって事か?
 もっとも自分の攻撃で相手が痛みを覚える事が無いのは攻撃を戸惑う必要がないという事だ。
 これはある意味好都合と言える。

「私はトラップカード《デステニー・シグナル》を発動!」

《デステニー・シグナル》
 通常罠
 自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され
 墓地へ送られたときに発動する事ができる。
 自分の手札またはデッキから「DーHERO」と名の付いた
 レベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

「私はデッキから《DーHERO ドゥームガイ》を攻撃表示で特殊召喚します!」

《DーHERO ドゥームガイ》 ☆4 闇属性
 戦士族・効果
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた場合、
 次の自分のターンのスタンバイフェイズ時に、
 自分の墓地に存在する「DーHERO ドゥームガイ」以外の
 「DーHERO」と名の付いたモンスター1体を
 自分フィールド上に特殊召喚する。
 ATK1000/DEF1000

「……攻撃表示?」
「だってそうじゃないと攻撃してきてくれないじゃないですか」
「いいだろう、その挑発に乗ってやる! 《サイバー・オーガ》で《DーHERO ドゥームガイ》を攻撃!」
「ふふふ。乗ってきましたね」
「そして手札から速攻魔法《鬼械の進撃》を発動!」
「!」

《鬼械の進撃》
 速攻魔法
 フィールド上の機械族モンスター1体を選択して発動する。
 そのモンスターの攻撃力をエンドフェイズまで600ポイントアップする。
 その後墓地から《サイバー・オーガ》1枚を手札に加える。

 サイバー・オーガ:ATK1900 → ATK2500

「さらに効果で手札に《サイバー・オーガ》を加える」

《DーHERO ドゥームガイ》 → 破壊

 真桜花:LP7300 → LP4800

「少々予想外にライフが削れてしまいましたけれど。まあいいでしょう。私は先ほどと同じトラップカード《デステニー・シグナル》を発動します。デッキから特殊召喚するのはこのカードです!」

《DーHERO ダイヤモンドガイ》 ☆4 闇属性
 戦士族・効果
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、
 自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。
 それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、
 次の自分のターンのエンドフェイズ時に
 その通常魔法カードの効果を発動する事ができる。
 通常魔法カード以外の間合いにはデッキの1番下に戻す。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ATK1400/DEF1600

「ターン終了!」
「私のターン。ドロー!」

  ユウキ:LP7550 手札4
 モンスター:《サイバー・オーガ(ATK1900)》
       《グリーン・ガジェットMk-2(ATK2400)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前列》
       伏せ×1

 真桜花:LP4800 手札2→3
 モンスター:《DーHERO ダイヤモンドガイ(ATK1400)》
 魔法・罠:なし

真桜花は再びドローしたカードを公開する。

「私のドローしたカードは《光帝クライス》! 《DーHERO ダッシュガイ》の効果で特殊召喚!」

《光帝クライス》 ☆6 光属性
 戦士族・効果
 このカードが召喚・特殊召喚に成功したとき、
 フィールド上に存在するカードを2枚まで破壊する事ができる。
 破壊されたカードのコントローラーは破壊された数だけ
 デッキからカードをドローすることができる。
 このカードは召喚・特殊召喚したターンには攻撃する事ができない。
 ATK2400/DEF1000

「そうですね、この場合は……私は《光帝クライス》の効果で《グリーン・ガジェット Mk-2》と《機甲部隊の最前線》を破壊します」
「くっだがその効果はメリットとともにデメリットが発生する!」
「ご存知でしたか。カードを2枚ドローしてください」
「言われなくとも!」

 ユウキ:手札4→6

「それではスタンバイフェイズ。《DーHERO ドゥームガイ》の効果で墓地から《DーHERO ダッシュガイ》を特殊召喚。そして《黄泉ガエル》も自身の効果でフィールドに戻ってきます」
「くそっ。そういう大量展開はメインフェイズにやれっつーの」

 真桜花:LP4800 手札2
 モンスター:《DーHERO ダイヤモンドガイ(ATK1400)》
       《DーHERO ダッシュガイ(ATK2100)》
       《光帝クライス(ATK2400)》
       《黄泉ガエル》
 魔法・罠:なし

「では《DーHERO ダイヤモンドガイ》の効果を発動します。デッキトップをめくりそのカードが通常魔法カードだった場合次の自分のターンのメインフェイズにその効果が発動します。デッキトップのカードは……」

 デッキの一番上のカードをめくる。

「っ! 魔法カード!」
「私が当てたカードは《デステニー・ドロー》。次のメインフェイズが楽しみですね。さて、せっかくなのであなたのために用意したカードを使うとしましょう。私は《アタック・ゲイナー》を通常召喚!」

《アタック・ゲイナー》 ☆1 地属性
 戦士族・チューナー
 このカードがシンクロ召喚の素材として墓地へ送られた場合、
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の
 攻撃力はエンドフェイズ時まで1000ポイントダウンする。

「チューナーモンスター!」
「普段は使わないんですけどね。特別ですよ?」

 そういって真桜花は怪しく微笑む微笑む。

「私はレベル6の《光帝クライス》にレベル1《アタック・ゲイナー》をチューニング! シンクロ召喚!」

 二体の巨大な蛇が絡まりあいながら場に出現する。
 いや、一体だ。よく見ればその体は繋がっており尾があるべき場所にもう一つの顔が存在する。
 白い体に浮かぶ赤い斑点模様はゆっくりと広がりそれぞれが美しいバラとなる。
 いっそ生々しいとさえ感じるそれはどこか美しく凶悪だ。
 

「さあ、現れなさい! 《エンシェント・ロザリー・アンフィスバエナ》!!」
「そのカードは!!」

 エンシェントドラゴンプロジェクトにより生み出されたモンスターの1体。
 亜弥の持つ。亜弥だけが持つシンクロモンスターっ!

「人から奪ったカードを使うなんて。デュエリストの風上にも置けねえな」
「そんなに怒ってくれるんですね? 苦労して出した甲斐があったというものです」
「俺は、至って冷静だ!」

 ユウキの口から怒気が吐き出される。
 それでも真桜花は笑みを絶やさない。

「《アタック・ゲイナー》の効果で《サイバー・オーガ》の攻撃力は1000ポイントダウンします」

 サイバー・オーガ:ATK1900 → ATK900

「そして《エンシェント・ロザリー・アンフィスバエナ》が特殊召喚に成功した時コントローラーはライフポイントを600ポイント回復します」

 真桜花:LP4800 → LP5600

《エンシェント・ロザリー・アンフィスバエナ》 ☆7 光属性
 植物族・シンクロ
 チューナー+チューナー以外の光属性モンスター1体以上
 このカードが特殊召喚に成功した時、
 このカードのコントローラーはライフを600ポイント回復する。
 この効果に対して相手はカードの効果を発動できない。
 このカードのコントローラーのライフが回復した時、
 エンドフェイズ時まで得たライフポイントと同じ数値だけ攻撃力をアップする。
 このカードが効果の対象に選択された時攻撃力を500下げる事でその効果を無効にし破壊する。
 ATK2100/DEF1500

「《エンシェント・ロザリー・アンフィスバエナ》の効果により攻撃力は600ポイントアップ!」

 エンシェント・ロザリー・アンフィスバエナ:ATK2100 → ATK2700

「フィールド上の《黄泉ガエル》をリリースして私の《DーHERO ダッシュガイ》の攻撃力を1000ポイントアップ」

 DーHERO ダッシュガイ:ATK2100 → ATK3100

「《DーHERO ダイヤモンドガイ》で《サイバー・オーガ》に攻撃!」
「ちっ。手札の《サイバー・オーガ》の効果を発動ッ!!」

 デュエルディスクの墓地のゾーンに《サイバー・オーガ》を送る。

「《サイバー・オーガ》が行なう戦闘を1度だけ無効にし。攻撃力を2000ポイント上昇させる!」

 サイバー・オーガ:ATK900 → ATK2900

「はい、もちろん知ってますよ。《DーHERO ダッシュガイ》で《サイバー・オーガ》を攻撃します!」
「くっ」

 《アタック・ゲイナー》の影響で強化されているダッシュガイの攻撃力を上回る事ができない。

《サイバー・オーガ》 → 破壊

 ユウキ:LP7550 → LP7350

「ぐうっ」
「《DーHERO ダッシュガイ》は戦闘のあと守備表示になります。そしてメインディッシュ! 《エンシェント・ロザリー・アンフィスバエナ》直接攻撃です!」

 亜弥のカードがその巨体を傾けてユウキに向かって牙を剥く。

「ぐうああああああああああぁ!!」

 ユウキ:LP7350 → LP4650

 あまりの激痛にユウキはその場に倒れ込む。

「これでライフは逆転ですね♪ カードを1枚セットしてターン終了ですよ」

 何やってる! こんなところで倒れている場合じゃない。
 こんな、こんなデュエル。さっさと終わらせなければ。このデュエルさえ終われば幸せな。幸せな日常。
 このまま立ち上がらなければ、それさえ守れない。
 守れ! 日常!

 おぼつく足でユウキは立ち上がる。

「俺の……ターン!!」

  ユウキ:LP4650 手札5→6
 モンスター:なし
 魔法・罠:伏せ×1

 真桜花:LP5600 手札0
 モンスター:《DーHERO ダイヤモンドガイ(ATK1400)》
       《エンシェント・ミステリー・リンドヴルム(ATK2100)》
       《DーHERO ダッシュガイ(DEF1000)》
 魔法・罠:伏せ×1

 フィールドは壊滅状態だが手札は十分にある。
 巻き返して一撃で倒すことも難しくない。大丈夫だ。やれる!

「俺は《ガジェット・チャージ》を発動! 《レッド・ガジェット》を捨ててカードを2枚ドローする!」
「どうぞどうぞ、かまいませんよ」
「さらに《貪欲な壷》を発動! 墓地の《イエロー・ガジェット Mk-2》《グリーン・ガジェット Mk-2》《グリーン・ガジェット》《サイバー・オーガ》2枚をデッキに加え。カードを2枚ドロー!」

 引いたカードを確認すばやく確認する。
 よし、動ける!
 一撃で葬り去ってやる!

「俺は手札から《サイバー・オーガ・ドクター》を特殊召喚する!」

《サイバー・オーガ・ドクター》 ☆3 地属性
 悪魔族・効果
 相手フィールド上にのみモンスターが存在する時
 このカードは手札から特殊召喚することができる。
 このカードをリリースすることでデッキから「サイバー・オーガ」1体を特殊召喚する。
 ATK 900/DEF 200

「そして《サイバー・オーガ・ドクター》をリリースする事で《サイバー・オーガ》1体を特殊召喚する!」
「また、《サイバー・オーガ》ですか」
「さらに通常罠《機械王の出陣》を発動!」

《機械王の出陣》
 通常罠
 自分のターンのメインフェイズにのみ発動する事ができる。
 フィールド上に存在するレベル4以上の機械族モンスター1体をリリースして発動する。
 手札、またはデッキから「機械王」と名の付いたモンスター1体をフィールド上に特殊召喚する。

「レベル5の《サイバー・オーガ》をリリースしてデッキから《パーフェクト機械王》を特殊召喚する!」

《パーフェクト機械王》 ☆8 地属性
 機械族・効果
 フィールド上に存在するカード以外の機械族モンスター1体につき、
 このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
 ATK2700/DEF1500

「ずいぶんと大層なモンスターを出してきましたね」
「さらに俺は手札から《クラスター・ペンデュラム》を召喚!」」

《クラスター・ペンデュラム》 ☆1 地属性
 機械族・効果
 このカードが召喚に成功した時、
 相手フィールド上に存在するモンスターの数まで
 自分フィールド上に「ペンデュラム・トークン」(機械族・地・星1・攻/守0)を
 特殊召喚する事ができる。
 ATK 100/DEF 300

「《クラスター・ペンデュラム》の効果で相手モンスターの数だけトークンを生成する」
「そのトークンは……!」
「その通り! 《クラスターペンデュラム》に加え機械族のトークンが3体。《パーフェクト機械王》の攻撃力は2000ポイントアップする!」

 パーフェクト機械王:ATK2700 → ATK4700

「バトル! 《パーフェクト機械王》で《DーHERO ダイヤモンドガイ》を攻撃」
「とくに発動するカードはないですよ」


 ! よし! 攻撃が通った!

「ダメージステップに速攻魔法《リミッター解除》を発動! 《パーフェクト機械王》の攻撃力は2倍となる!」

《リミッター解除》
 速攻魔法
 このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する
 全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
 この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 パーフェクト機械王:ATK4700 → ATK9400

 ダメージステップに入ってしまえば攻撃を妨害できるカードは発動できない。
 能力を変動させるカードでステータスを9400より高くあげなければ戦闘では勝てず、最低でも3800よりも高い攻撃力にしなければLPは0になる。
 だが……

《DーHERO ダイヤモンドガイ》 → 破壊

 真桜花:LP5600

「ライフが……変動しない!?」

 真桜花はその様子がおかしかったようでくすくすと笑う。

「あわててるあわててる。残念ですがトラップを発動です」
「ダメージステップでのダメージ回避だと!?」

 セットされていた1枚のカードが開かれていた。

《ガード・ブロック》
 通常罠
 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0となり、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「戦闘ダメージを無効にしてカードを1枚ドローです」
「くそっ厄介なカードを」
「いつものあなただったら何とかできていたかもしれませんね」
「ちっ俺は手札から《敗戦》を発動!」

《敗戦》
 速攻魔法
 自分フィールド上のモンスター1体を破壊する。
 この破壊は戦闘破壊として扱う。
 エンドフェイズ時破壊したモンスターのレベル3つに付きカードを1枚ドローする。

「《パーフェクト機械王》を破壊する! そしてカードを2枚伏せてターン終了だ」

 そしてこのタイミングでフィールド上の機械族モンスターは全て破壊される。

《クラスター・ペンデュラム》 → 破壊
《ペンデュラム・トークン》 → 破壊
《ペンデュラム・トークン》 → 破壊
《ペンデュラム・トークン》 → 破壊

「そして《敗戦》の効果で2枚のカードをドロー」
「それでは、私のターンですね♪」

 ユウキ:LP4650 手札3
 モンスター:なし
 魔法・罠:伏せ×2

 真桜花:LP5600 手札1→2
 モンスター:《エンシェント・ロザリー・アンフィスバエナ(ATK2100)》
       《DーHERO ダッシュガイ(DEF1000)》
 魔法・罠:なし

「スタンバイフェイズ、《黄泉ガエル》がフィールド上に特殊召喚されます」
「そしてメインフェイズ! ダイヤモンドガイの効果で墓地へ送られた魔法カードの効果を発動!」

《デステニー・ドロー》
 通常魔法
 手札から「DーHERO」と名の付いたカード1枚を捨てて発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「説明するまでも無いと思いますが最初の一文がコスト、次が効果です。私は《デステニー・ドロー》の効果でカードを2枚ドローします」

 真桜花:手札2→4

「そして私は手札から二枚目の《デステニー・ドロー》を発動! 手札の《DーHERO ディアボリックガイ》を墓地へ送りカードを2枚ドロー!」
「ダッシュガイの表示形式を攻撃表示に変更し《黄泉ガエル》をリリースして攻撃力をアップ!」

 DーHERO ダッシュガイ:ATK2100 → ATK3100

「そして手札から《E・HERO エアーマン》を召喚します」

《E・HERO エアーマン》 ☆4 風属性
 戦士・効果
 このカードが召喚・特殊召喚に成功したとき、
 次の効果から1つ選択して発動する事ができる。
 ●自分フィールド上に存在するこのカード以外の
 「HERO」と名の付いたモンスターの数まで、
 フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。
 ●自分のデッキから「HERO」と名の付いた
 モンスター1体を手札に加える。
 ATK1800/DEF 300

「念には念を……と言うことで一つ目の効果であなたのセットしてある……そうですね、左のカードを破壊しますよ」
「!!」

 セットカード → 《聖なるバリア-ミラーフォース-》 → 破壊

《聖なるバリア-ミラーフォース-》
 通常罠
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

「ずいぶん危険なカードを入れてますね」
「デュエリストの嗜みだろ?」
「ふふふ、デュエリストらしい台詞ですね。最後の台詞としては申し分ないんじゃないですか? それじゃあバトルフェイズ! 全てのモンスターで一斉攻撃です!」
「いいや、もうちょっといいこと言ってからじゃないと死ねないね。手札から《速攻のかかし》を捨て、効果を発動!」

《速攻のかかし》 ☆1 地属性
 機械族・効果
 相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。
 その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
 ATK 0/DEF 0

「……まあいいでしょう。カードを2枚セットしてターン終了ですよ」
「俺のターンだ!」



「戦況はどうなってる?」
「え? ああ、勇魚海ちゃん、と、メアリー先輩。用事はもういいの?」

 ハラハラしながらデュエルを見ていた亜弥に勇魚海が話しかける。

「今しがた終わって戻ってきたんだ。それで戦況は?」
「えっと、ユウくんが今ひとつ押し切れなくって劣勢な感じだよ、桜花先輩が私のシンクロ出しちゃったし」

 勇魚海は決闘のログを見てため息をつく。

「あの……一体どうしたの?」
「ユウキの動きがおかしい。回りが正確に見れてない印象を受けるな」
「でもなんだっけ? このデュエル実際に痛みを伴うんでしょ? いつも通りのデュエルをしろって言われても難しいと思うんだけど」
「え!?」

 メアリーの言葉に亜弥が素っ頓狂な声を上げる。

「その通りだ。この戦いのライフへのダメージは魂へのダメージに直結している。覇魄のようなエネルギー量が無い限り体が受けるダメージは尋常ではないと思う」
「そんな! そんなデュエルを勇魚海ちゃんはユウくんにやらせてるの!? 中止! こんなの中止だよ! 止めて!」
「これはユウキが仕事だ。ユウキもそれを理解している」
「ライフポイントがなくなっちゃったら……どうなるの?」
「魂は覇魄に取り込まれる。まあ簡単に言えば死ぬという事だ」

 亜弥の顔からさっと血の気が引き目に見えて青くなる。
 自分がどうアクションするべきなのか分からなくなり一瞬視線が左右に泳ぐがバッと観客席から立ち上がる。

「死!? ムリ! 止める。絶対止める!」
「待て!」

 ユウキの元へ駆け出そうとした亜弥の肩を勇魚海は抑えて動きを止める。

「このデュエルはお互いが同意した下で行われている。いわば儀式だ。止める事は許されない」
「でも! 死ぬんでしょ!? そんな危ない事ユウくんがやることないよ! なんでそんな事させるの!? 勇魚海ちゃんがデュエルすればいいじゃない!」

 亜弥は激怒する。
 勇魚海はグッと言葉を詰まらせる。
 そして弱々しく言った。

「私は、デュエルをしない……」

 パァン!!
 勇魚海の顔が横を向く。
 その頬は亜弥の平手で真っ赤になっていた。

「そんな私情でユウくんが危険にさらされていい分けないよ! 私! 止めにいく!」

 勇魚海の手を振りほどく。
 その場から動けない勇魚海を置いて亜弥は駆け出していった。

「あーあ、行っちゃった。いいの?」

 その様子を見ていたメアリーが口を開いた。
 勇魚海は平然と頬をさすりながら言った。

「構わない、この戦いはもう誰にも止められないんだ」
「その割には随分と釈然としない表情だけど?」
「いや。私はユウキに残酷なエゴを押し付けているのだと言う事を再び実感しただけだよ」

 勇魚海は少し悲しそうにそう呟いた。


 ユウキ:LP4650 手札2→3
 モンスター:なし
 魔法・罠:伏せ×1

 真桜花:LP5600 手札1
 モンスター:《エンシェント・ロザリー・アンフィスバエナ(ATK2100)》
       《DーHERO ダッシュガイ(ATK2100)》
       《E・HERO エアーマン(ATK1800)》
 魔法・罠:伏せ×2

 確かに、さっきの攻めは明らかに単調だった。
 あれじゃ防がれて当然だ。落ち着け。着実に攻めるには……
 ユウキは手札を確認する。よし、戦略は決まった!

「俺は手札から《超強力磁場発生爆弾》を召喚!」

《超強力磁場発生爆弾》 ☆4 地属性
 機械族・効果
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られたとき
 フィールド上のセットされているカードを全て表側にし、その中の罠カードを全て破壊する。
 その後破壊されなかった魔法・罠カードを元に戻す。
 ATK1700/DEF1300

「そして《機甲部隊の最前線》を発動! そして《リミット・リバース》を発動する!」

《リミット・リバース》
 永続罠
 自分の墓地に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、
 攻撃表示で特殊召喚する。
 そのモンスターが守備表示になったとき、そのモンスターとこのカードを破壊する。
 このカードがフィールド上から離れたとき、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「俺が復活させるのは、攻撃力400の《オイルメン》だ! そして《敗戦》を《超強力磁場発生爆弾》に発動!」

《敗戦》
 速攻魔法
 自分フィールド上のモンスター1体を破壊する。
 この破壊は戦闘破壊として扱う。
 エンドフェイズ時破壊したモンスターのレベル3つに付きカードを1枚ドローする。

「! また《敗戦》ですか」
「当たり前だ。俺のデッキは《機甲部隊の最前線》と《敗戦》がデッキの主軸だからな。《敗戦》の効果で《超強力磁場発生爆弾》を戦闘破壊!」

《超強力磁場発生爆弾》 → 破壊

「《超強力磁場発生爆弾》の効果にチェーンして《機甲部隊の最前線》が発動!」
「発動するカードはないですよ。」
「俺はデッキから《神機王ウル》を特殊召喚。そして《超強力磁場発生爆弾》の効果によりセットカードを公開!」

真桜花
セット → 《D-タイム》 → 破壊
セット → 《デステニー・シグナル》 → 破壊 

《神機王ウル》 ☆4 地属性
 機械族・効果
 このカードは相手フィールド上に存在する全てのモンスターに
 1回ずつ攻撃する事ができる。
 このカードが戦闘を行なう場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。
 ATK1600/DEF1500

「そして《神機王ウル》に《オイルメン》を装備する!」

《オイルメン》 ☆2 地属性
 機械族・ユニオン
 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして
 自分フィールド上の機械族モンスターに装備、
 または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カード扱いとなっている場合のみ、
 装備モンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、
 自分はデッキからカードを1枚ドローする。
 (1体のモンスターが装備できるユニオンは1体まで。
 装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する)
 ATK 400/DEF 400

「バトル! 《神機王ウル》で《E・HERO エアーマン》を攻撃!」
「発動するカードはありません」
「ダメージステップ時に速攻魔法《鬼械の進撃》を発動!」

《鬼械の進撃》
 速攻魔法
 フィールド上の機械族モンスター1体を選択して発動する。
 そのモンスターの攻撃力をエンドフェイズまで600ポイントアップする。
 その後墓地から《サイバー・オーガ》1枚を手札に加える。

「俺は《神機王ウル》の攻撃力を600ポイントアップし、墓地から《サイバー・オーガ》1枚を手札に加える!」

 神機王ウル:ATK1600 → ATK2200

「! 私のモンスター達の攻撃力を上回った」
「全てのモンスターにそのまま攻撃だ!」

《E・HERO エアーマン》 → 破壊
《エンシェント・ミステリー・リンドヴルム》 → 破壊
《DーHERO ダッシュガイ》 → 破壊

「《神機王ウル》の攻撃では相手にダメージを与えられない、だが《オイルメン》の効果で合計3枚のカードをドロー!」

 ユウキ:手札1→4

「カードを1枚セット。そしてターン終了時に《敗戦》の効果で1枚ドロー!」
「私のターンです」

 ユウキ:LP4650 手札4
 モンスター:《神機王ウル》
 魔法・罠:《オイルメン(E神機王ウル)》
      《機甲部隊の最前線》
      伏せ×1

 真桜花:LP5600 手札1→2
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし

「ふふふ、さすがですね。あそこからここまで体勢を立て直すなんて」
「随分と余裕だな……」
「ええ、もちろんですよ!」
「!!」

 真桜花の言葉から形容しがたい波動がにじみ出る。
 な、なんだこれは。
 何かが来る。
 ユウキは無意識にあとずさる。

「やっとです。ようやく、ようやくお披露目できますね」
「っ!? まさか……」
「大変お待たせしました。どうやら覇魄の力をお見せする事ができそうです」

 一撃でひっくり返される! その確信がそこには存在した。

「ま、その前にスタンバイフェイズに《黄泉ガエル》をフィールド上に復活させておきます」
「そして手札から《一つ眼の大災害》を墓地へ送り効果発動!」
「!!」

《一つ眼の大災害》
 儀式魔法
 このカードの効果は無効化されない。
 手札からこのカードを墓地へ送る事で
 デッキから「幻影巨人ーデイダルバロス」1体を手札に加える事ができる。
 自分の墓地からレベルの合計が9以上になる様にモンスターをゲームから除外する事で
 手札から「幻影巨人ーデイダルバロス」を特殊召喚する。
 この効果は墓地で発動する事ができる。

「な、なんだこのカードはッ!」

 ユウキはそのカードの効果を見て叫ぶ。
 儀式モンスターをサーチする効果!?
 墓地で儀式を行う儀式魔法!?

 通常強力なカードである事と引き換えに儀式モンスターとそれに対応する儀式魔法をそろえなくてはならないと言う非常に高い召喚難易度を持つ。
 しかしこのカードは違う、このカード1枚で全てが起動する!

「その効果により《幻影巨人ーデイダルバロス》を手札に加ます! そして墓地の《一つ眼の大災害》の効果! 墓地の《DーHERO ダッシュガイ》と《E・HERO オーシャン》を除外して手札から《幻影巨人ーデイダルバロス》を降臨!」

 低く重い地鳴りの様な音ともに巨大な影がフィールド上に現れる。
 今まで出会ったどのモンスターよりも巨大な人型のモンスターだ。
 その姿は真っ黒でありわずかに透けている。そして視界の遥か上でユウキの身長を軽く超える程の巨大な一つ眼がぎょろりと動いた。

「これが……覇魄のカード!」

《幻影巨人(ビッグ・ファントム)ーデイダルバロス》 ☆9 炎属性
 悪魔族・儀式・スピリット
 「一つ眼の大災害」によって降臨。
 このカードが儀式召喚に成功した時、相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する事ができる。
 このカードは罠カードの効果を受けない。
 1ターンに1度このカードが相手モンスターを破壊した時続けてもう1度だけ攻撃できる。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時
 攻撃力が超えていればその数値分相手に戦闘ダメージを与える。
 このカードはエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
 ATK2800/DEF 900

 効果はただただひたすら凶悪。
 守りなどしない。受けきれない攻めだけに特化されたそれ。
 数値の裏に存在する圧倒的な破壊力にユウキは絶句する。

「このカードが儀式召喚された時、相手フィールド上のカードを2枚まで破壊できます。私はセットカードと《オイルメン》を破壊!」

 二つの巨大な腕が同時にユウキのフィールドに突き刺さる。

 セット → 《バイロード・サクリファイス》 → 破壊
 オイルメン → 破壊

「なるほど、《サイバー・オーガ》を呼ぶカードですね。墓地の《DーHERO ディアボリックガイ》効果を発動! 除外する事でデッキから《DーHERO ディアボリックガイ》を特殊召喚します!」

《DーHERO ディアボリックガイ》 ☆6 闇属性
 戦士族・効果
 自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
 自分のデッキから「DーHERO ディアボリックガイ」1体を
 自分フィールド上に特殊召喚する。
 ATK 800/DEF 800

「そして《黄泉ガエル》と《DーHERO ディアボリックガイ》をリリース! 《パペット・キング》をアドバンス召喚!」

《パペット・キング》 ☆7 地属性
 戦士族・効果
 相手がドロー以外の方法でデッキからモンスターカードを手札に加えた時、
 手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
 この方法で特殊召喚した場合、次の自分のターンのエンドフェイズ時にこのカードを破壊する。
 ATK2800/DEF2600

「!!」

「デイダルバロス! 《神機王ウル》を攻撃しなさい!」

《神機王ウル》 → 破壊

 ユウキ:LP4650 → LP3450

「ぐうぁあっ!! っ俺は《機甲部隊の最前線》の効果を発動! 《起動砦のギア・ゴーレム》を守備表示で特殊召喚!」
「デイダルバロスはモンスターを破壊した時続けてもう一度攻撃できる!」

《機動砦のギア・ゴーレム》 → 破壊

「そして貫通効果を受けてもらう!」

 ユウキ:LP3450 → LP2850

「《パペット・キング》でダイレクトアタック!」
「っあぁぁぁあぁぁあ!!」

 ユウキ:LP2850 → LP 50

「ターン終了」

 その宣言と同時に《幻影巨人ーデイダルバロス》の姿がふっと消え去る。
 ターンが終了して再び手札に戻ったのだ。
 フィールド上にいないモンスターほど除去しにくいものはいない。
 ユウキは手札を見る。
 今はカードを信じるしか無い!

「俺の……ターン!」

 ユウキ:LP 50 手札3→4
 モンスター:なし
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》

 真桜花:LP5600 手札1
 モンスター:《パペット・キング(ATK2800)》
 魔法・罠:なし

 引いたカードを確認する。
 よし! 届いた。繋がった。必殺のコンボ!
 悔しいが《幻影巨人ーデイダルバロス》はどうにもできない。だが発想を変えればフィールド上に存在しないのは好機!
 このターンで決着を付ける!

「俺は手札から《起動砦のギア・ゴーレム》を攻撃表示で召喚する! そして《死者蘇生》を発動! 蘇れ《サイバー・オーガ》!」

《死者蘇生》
 通常魔法
 自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

「バトルだ! 《サイバー・オーガ》で《パペット・キング》を攻撃!」
「!! 応戦です!」

 《パペット・キング》は《サイバー・オーガ》の攻撃を完璧に読み迎撃の体制に入る。

「手札から《サイバー・オーガ》を墓地へ送りその戦闘を無効とし《サイバー・オーガ》の攻撃力を2000ポイントアップする!」

 サイバー・オーガ:ATK1900 → ATK3900

 しかし《サイバー・オーガ》はピタリと動きを止め完全に《パペット・キング》の虚をついた。

「そして《ダブル・アップ・チャンス》を発動!」

《ダブル・アップ・チャンス》
 速攻魔法
 モンスターの攻撃が無効になった時、
 そのモンスター1対を選択して発動する。
 このバトルフェイズ中、
 選択したモンスターはもう一度だけ攻撃する事ができる。
 その場合、選択したモンスターはダメージステップの間攻撃力が倍になる。

「これで《サイバー・オーガ》の攻撃力は2倍となり再び攻撃する事ができるようになる!」
「なるほど、《パペット・キング》の攻撃力は2800。発生する戦闘ダメージは5000。私のライフは600となり《起動砦のギア・ゴーレム》の攻撃力は800。確かに私のライフではギリギリ耐えられませんね」
「……ああ、その通りだが。その顔。何か言いたそうだな」

 負けを目の前にしても微動だにしない。
 むしろ勝ち誇っている。この戦況をひっくり返すカードがあるって言うのか?

「でもいいんですか? そんな事したら桜花。死んじゃいますよ?」
「……へ?」

 予想外の返答にユウキは唖然とする。
 生まれて以来これほど情けない声を出したのは前にも後にも一度きりだろう。
 桜花さんが死ぬって……

「お、おいちょっと待てよ。お前が賭けてるのは覇魄だろ? 魂じゃない。死ぬって言うのはおかしくないか?」
「人という器はそれほど大きいものではありません。覇魄を身に宿した時点で魂はもう存在しないのです」
「聞いてないぞそんな事。勇魚海さんだってそれらしい事は一言も……」

──時にユウキ
──はい?
──君は自分のために人を殺せるかと思うか?

 ユウキは頭を抱える。そうか、そう言う事か……
 俺は桜花を見る。殺せと言っているのか。この人を。

「どうしたんですか。動きが止まっちゃいましたね。もしかしてそのままターンエンドですか?」
「そんな訳、無いだろう?」

 冷静になれ。この戦いでお互いが助かる術はあるのか。
 ユウキは自問自答する。いや、無い。この戦い敗者の魂は奪われる。
 引き分け? いや、ダメだ。そもそもこの戦いで俺は覇魄を手に入れなくてはならない。
 覇魄だけ、覇魄だけをどうにかして。いや、もう桜花の肉体に魂は無い。覇魄が抜き取られた時点で死ぬ。
 でも、引き分けが良い。引き分けならこの戦いは無かった事になる。でも俺の手札で引き分けはムリ。
 そもそも引き分けなんて普通のデッキでできる事じゃない。
 どちらかを選ぶ、その選択権が俺に与えられている……
 どちらかを選ばなければならない。死ぬか、殺すか。
 
「ユウくん!」

 ユウキの後ろで声がして思わず振り返った。
 そこには息を切らせて走って来たであろう亜弥の姿があった。

「亜弥……」
「ダメだよこんなの。もう止めよう? こんな事して、こんな事になって良いはずないよ」
「止める訳にはいかないんですよ水崎さん。この戦いはね」
「桜花先輩、いや、もう一人の桜花さん……」
「このデュエルが始まったときから既にお互いの魂は自分のモノではないのです。神の元に捧げられた状態。つまりディーラーの元に補完されているとでも言えば良いのでしょうか」
「っ! っていうことは」
「ゲームが中断された場合。二人の魂はそのまま引き取られるという事です。誰も救えない。そう言う事です」
「っ!! そんな!」
「そして今どちらを生かすか選ぶ権利をユウキくんが持っていると言う訳なんです」

 真桜花はにっこりと笑う。

「くっ」

 一体どうすればいい。この状況。どうにかならないのか!?
 焦るユウキの様子を見て真桜花はわざとらしく口を尖らせた。

「もう、ユウキくんは優柔不断ですね。仕様がないからここは本人達で話し合って貰いましょう」
「!!」

 真桜花の体からふっと力が抜け虚ろな瞳になる。

「ふぇ?」

 眠たそうな顔で桜花は辺りを見回した。

「桜花さん……」
「あれ? デュエルは、終わったんですか?」

 ユウキは歯を食いしばる。

「いえ、まだ。まだ終わってません。俺が攻撃すればデュエルは終了です」

 桜花は戦況を確認する。

「わ! 本当です! 攻撃すれば終わりじゃないですか! 本当に勝ったんですね! 流石ユウキくんです!」
「で、でも……俺が勝つと桜花さんの命が……」
「え?」
「桜花さんの命が失われるんです。負けた方が死ぬ。これは、これはそういう“闇のゲーム”だったんですッ!」

 桜花は少し驚くがその後にっこりと笑った。

「そう、ですか。困ってしまいましたね」
「随分と冷静ですね」
「はい、覇魄を賭けたデュエルはお互いの魂を賭ける。あたしはその事、知ってましたから」
「!?」
「覇魂を手に入れた時、そう教わりました。そしてこのカードを狙ってくる者も数多くいると言う事も、知っていました。まさかユウキくんと覇魄を賭けて戦うなんて夢にも思いませんでしたけど」
「……」

 沈黙が空間を支配した。
 誰も動かない。誰も動けない。
 そんな重たい沈黙を破ったのは、桜花だった。

「とどめ、刺してください」
「え!? そ、そんな! 分かってるんですか!? 死ぬんですよ!?」
「はい、分かってます♪」

 ユウキの問いに桜花は恐ろしく明るく応えた。

「あたし、許せないんです。ユウキくんをこんな危険な目に遭わせた事が、あたしの事を助けようとしてくれて。手を差し伸べてくれた人をこんな目に会わせたあたしが」
「桜花さん、それは違います! 俺は自分がデュエルに負ければ死ぬ事くらい知ってました。だからあなたが俺を危険な目に遭わせた所なんてどこにもありません!」

 桜花の視線が脇にそれ亜弥をとらえる。

「ユウキくんには大切な人がいます。帰りを待っている人がいます。孤独だったあたしと違って悲しむ人が沢山いるんです。だから沢山の人を悲しませないでください」
「っ! そんな理由で命を奪えるわけ」
「あたし、一人じゃなかったんです」

 桜花はにっこりと微笑んで言う。
 その頬を涙が伝う。

「ユウキくんが来てから。あたし独りじゃなかったです。だから。だから……ッ!」

 微笑む。力一杯。
 全てを振り絞って桜花は笑う。

「ユウキくん。あたしを独りにしないでください。最後まで、独りじゃないあたしでいさせてください」
「ッッッッ!!! 《サイバー・オーガ》!!!」


 友の名を呼ぶ。
 それに呼応する様にその腕が振り上げられる。

 ……
 …………
 …………………
 
 ダメだ。殺せない。

 その選択肢が無い。
 いくら選ぼうとしても。そうする術が無い。
 できる事ならなんだってできると思っていた、しかしそれは真実ではない事を今知った。
 できることが、できない。

 殺せるわけ……ないだろう!?

「おれは……おれはこのまま……ターンを……ターンを終了ッ!!」
「ユウキくん」

 桜花は悲しげな表情を浮かべる。
 そしてその後桜花の顔に先ほどとは気色の違う微笑むが浮かんだ。
 真桜花は満足げに言う。

「じゃあ、私のターンですね。《幻影巨人ーデイダルバロス》を再び降臨!」

 その巨体がフィールド上に姿を現した。

 くそっ
 ユウキは拳をギュッと握りしめ歯を食いしばる。

《サイバー・オーガ》 → 破壊
《機動砦のギアゴーレム》 →破壊

 そして巨人の拳が、俺に向かって振り下ろされた。

 くそっ!
 目をつぶる。

 ユウキ:LP 50 → LP 0

 そして意識が薄れていくのを感じる。
 阿隠寺遊奇はここで死んだ。




   ◆  ◆  ◆


「少しだけ話をしよう」
「……はい」

 シアターの様な所でユウキは座っていた。
 その隣にはぶかぶかの分厚いコートを着て頭からすっぽりとハットをかぶった人が座っている。
 その人の言葉にユウキは無意識に頷いた。

「覇魄は、人工的な魂だ。ここで言う魂は一般的に言われているものではなく人が生きるためのエネルギーだと考えてくれれば良い。体という器を動かし心をつなげる存在だと思ってくれ」
「はい」
「今まで魂を作れなかった理由に魂はエネルギーであり器が無いと霧散してしまうという点があった。それを解決したのがデュエルモンスターズ。精霊、魔物はおろか神さえも受け入れる非常に巨大で精巧な器だ。とある研究者はその器に生命エネルギーを入れる事に成功した。そうして出来たカードが覇魄と呼ばれる6枚のカード」

 シアターのスクリーンにユウキと真桜花の戦いが映し出される。

「このカードを持つ者の生命エネルギーは尋常ではない。老いる事は無く1000年は生き続ける事が出来る様になるだろう」

 コートの人は一旦言葉を切ってユウキの様子を確認した後に再び話し始める。

「何よりすごいのがこれらのカードはただのエネルギーでありながら強くなろうと、大きくなろうとする。進化欲を持っている所だね。そしてそれを遂行するためにこれらは非常に単純な行動を取る。一つは魂を食う事。そしてもう一つはより強いものの魂になる事」
「それで、俺の魂は吸収されたんですよね」
「ああ、だがまだ取り込まれただけで一つになった訳ではない。魂というのは意外と頑丈なのさ、一瞬で消えてなくなるものではない。そう簡単に消せるものではないんだ。結果として魂を純粋なエネルギーに変換し覇魄が成長するのにも暫しの時間がかかるだろうな。それでも君の体からその魂は抜き取られた。君を動かす事が出来るエネルギーは一滴も残っていない。すぐに脳は腐り細胞は死ぬだろう」
「そう……ですか」
「悔しいかな?」
「そうですね。俺、結構、十数年そこらですけど生きてきて。頑張ってきたと思ってたんですよ。そりゃあ多少未熟だったでしょう。でも出来る限りの事をやってきたんです。その答えがコレだなんて。結局俺は何をしたくて俺が何をしたっていうんだって言うか。頑張ってきてこうして振り返って『ああ、頑張ってきた俺はこの程度だったんだな』って。そう思える自分が悔しくて」

 ユウキは天を仰ぎ右腕で両目を隠す。
 そして涙が川の様に流れる。

「君はどんな結果を望んでいたんだい? どこまで戻りたい? どこまで望みたい?」

 結果?
 俺が望んでいる、結果?
 それはもう来ないだろう?
 何もかも間違ってしまった。戻れない。戻ったとしても一体どうすればいい!
 もういい、終わってしまったんだ。

 そんな諦めとともに本音が口から流れ出す。
 笑い話の種くらいにはなるだろう。半分やけ気味に心からの本音を吐き出す。

「皆が、笑っている。心の底から笑っている。誰もかもが皆が! 皆で! 辛い事も悲しい事もない事なんか無かった。それでも全部乗り越えて笑ってるんだ。そんな結果が……そんな結果が俺は欲かった!」

 コートの人はその言葉を聞いて微笑んだ。

「そうか、その望みはどこまで戻っても得る事は出来ないだろうな」

 バァン! と後ろで大きい音がする。
 巨大な扉が開きそこから真っ白な光が差し込んでいる。

「進むといい。辛い事もあるだろう、悲しい事もあるだろう。でもそれを全て乗り越えて笑っている未来も、あるはずだ」

 そういってそっと耳元に唇を近づけぼそぼそと喋る。
 ユウキはしばらくあっけにとられていたが、ずっと置き忘れていた素朴な質問を投げかける。

「あの、アナタは一体誰なんですか?」

 ユウキがそう聞くとコートの人は帽子を取った。そこには一人の少女がいた。
 鏡のような銀髪。光の具合でプリズムの様に色を変える瞳。

「私の名前はイサナミ。下の名前は忘れてしまったよ。ここはどこなのか。何故私はこんな所にいるのかもね。それほどの長い時間を私はここで過ごしてきた」
「いさなみ……?」

 その容姿も名前も見覚えがあった。だがどうしても思い出せない。

「もう行くといい。脳が死にかけている、急いでここからは離れたまえ。君が君であるうちに」
「はいっありがとうございます」
「また、会えると嬉しい」
「ええ、またいつか」

 ユウキはそれだけ言うとその部屋の外へと駆け出した。
 イサナミは思い出したかのように引き止める。

「覇魄は所有者の要素を食らって力を発揮する。『幻影巨人』は自分が自分である認識、つまり自己意識を、そして君が持つ『蒸汽機器』は記憶を食らう。そして最初に食らった記憶が大切なものであるほどそのカードの力は強力になり。より強力であろうとそのカードは大切な記憶を食らう。覚えておいてくれ」
「分かりました」





 ライフが0になった後の勇魚海の行動は早かった。
 観客席から飛び降りると状況が分からずオロオロしている審判を突き飛ばして急いでユウキに駆け寄った。
 そしてその脇に静かにかがみ込む。

「やはり、こうなったか……」

 静かにユウキの横顔を眺める。
 急に人を殺せと言われてもユウキが人を殺せない事くらい分かっていた。
 “だからこそ勇魚海はユウキにあえてその事を言わなかった。”
 彼には覇魄が必要だ、これから先の事を考えるとそれは明らかだった。
 そしてそれをすんなりと覇魄を受け入れられるのは、彼自身が納得のいかないこのタイミングだけ。

 実は今回覇魄の回収は勇魚海にとっては二の次であった。
 そもそも覇魄無しで覇魄を回収するというのにはいささか無理がある。
 理由は単純で魂を賭けたデュエルは痛みを伴いデュエリストの冷静さを削ぐからだ。
 今回は問題なかったとしてもその次は? さらにその先は?
 真桜花程度のデュエリストばかりが覇魄を持っていると考えるのは苦しい。
 むしろ強くなろうとする覇魄の性質上プロ並みのデュエリストが覇魄を持っていると考える方が自然である。

 今後覇魄を回収する為にユウキに覇魄を与える。これが今回の真の目的。
 人が殺せないなんて言うのも時間をかけてゆっくりと咀嚼すれば問題なく乗り越えられるハードルだ。

 つまり私がそそのかして、私が殺したのだ。自身の為にユウキが強くある為に。
 勇魚海は自嘲気味に笑う。

 君に安全に人殺しをしてもらう為に。君をはめたという事だ。

「なるほど、素晴らしい魂ですね。並の人より全然多いです。平和な日常を過ごせていれば長生きしたでしょう
に。アナタの右腕さんは、残念でしたね」
「真桜花、悪いが今お前に構っている暇はない」

 真桜花の言葉を無視して勇魚海はポケットからモノリスを取り出してユウキの胸元に置く。
 その後中指の先の肉を食いちぎりその血をモノリスにしたたらせる。

「封印を解く、ご所望の器だ」

 その血を数滴受けるとモノリスは青く輝き視界が真っ白になる。
 そしてその光が止むとそこにモノリスは無く1組のカードとなっていた。
 その1組のカードはボウッと輝くとユウキの中へと入っていく。

 しばらくの沈黙の後、ユウキが「うっ」とうめき声を上げる。
 そしてその目が開かれた。 

「こ、ここは……?」

 ユウキはふらつく足で、それでもなんとか立ち上がる。
 一体何がどうしていたんだっけ?
 思考をさかのぼらせようとするが靄がかかっているようで上手く思い出せない。
 だが時間とともに思考は鮮明になる。そうだ、俺はデュエルで負けて……

「俺、死んだんじゃ?」
「勝手だと思うだろうが、君に覇魄を与えた。ぎりぎり間に合ったようだな」

 なるほど、そう言う事か……今俺の体を動かしているエネルギーは覇魄によるものなのか。
 ん……?
 それってつまり……。
 ユウキは考え込む、鮮明な記憶は無いが意識を失った時に得た知識はまだ覚えている。

「君には悪いことをしたと思っている」

 勇魚海のその言葉をユウキは手でさえぎる。

「いや、良いんです。むしろ感謝したいくらいです。この状況を作ってくれて」

 ユウキはキッと真桜花をにらむ。開いている。今だけ。今なら。活路が……!
 その様子を見ていた真桜花が言う。

「覇魄……ですか。そんなもの隠し持ってたんですね。意地悪です」
「真桜花。もう俺と、一度デュエルだ」
「ユウキ、何を言っている。お前はまだ人を殺せる人間じゃない」

 ユウキはその勇魚海の忠告を無視して既に臨戦態勢だ。
 真桜花は二人の様子をみて面白そうにくすくす笑ってから聞く。

「それは、今度は覇魄を賭けて先ほどと同じ事をするという事ですか?」
「その通りだ」
「分かってるんですか? 貴方は先ほどそれで止めをさせなかったじゃないですか」
「だからなんだって? ま、次は勝つから安心しろよ」
「何か策があるのか?」

 勇魚海は問う。

「策って言えるほど大層なものじゃありませんよ。ただ勇魚海さんのおかげで目の前にチャンスが、ほんの小さな奇跡が下りてきた。それだけです」
「まあいい、何か考えがあるというのなら任せてるが。死ぬことだけは許さないぞ」
「ははは、俺だってそんなホイホイ死にたくありませんよ。安心してください」

「奇跡……? ふふふ、面白いですね。良いですよ。ついでにその覇魄もいただいちゃいます」

 真桜花は承諾する。

「でも少々デッキを調整させていただきますね、もう揺さぶりは無意味そうですし。シンクロとかそういう慣れないことをするのはやめることにしますね。そもそもエキストラデッキにはカードを入れたく無いんです」
「構わない」

 真桜花はデッキからカードを数枚抜き取り同じ枚数だけデッキにカードを加える。
 そして二人は再び向かい合う。

「今回もこてんぱんにしてあげますね」
「忘れたのか? さっきのデュエル。俺が勝ちを譲ってやったんだぞ?」

 デュエルディスクをお互い同時にセットする。
 その様子を見ていた蚊帳の外な審判はオロオロした口調で聞いた。 

「えーと、これは? 一体どういう催しで?」
「はいはい審判さんは黙っててねー」
「ぐはぁ!?」

 やっとの事でユウキの元まで走ってきたメアリーがその勢いを保ったまま審判にボディブロウを食らわせる。
 審判さん、ごめん。

「ありがとう、メアリー」
「いいのいいの、お兄ちゃん頑張ってね♪」
「ああ」

「ユウくん……」
「亜弥……」

 不安の色に染まっている亜弥を見る。
 ユウキは優しく微笑んだ後真桜花に向かい合う。



「大丈夫、全部。丸く収めてみせるさ」

「「デュエル!!」」

 ユウキ:LP8000 手札5
 真桜花:LP8000 手札5→6

「先攻は私が貰います! ドローフェイズに《手札断殺》を発動! 《DーHERO ダッシュガイ》と《DーHERO ディアボリックガイ》を墓地に送って2枚カードをドロー!」
「俺は《コアキメイル・パワーハンド》と《ガジェット・サポーター》を墓地に送る!」
「ダッシュガイの効果を発動! 手札断殺でドローした《E・HERO エッジマン》を特殊召喚!」

《E・HERO エッジマン》 ☆7 地属性
 戦士族・効果
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時。
 その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフにダメージを与える。
 ATK2600/DEF1800

「メインフェイズ。《DーHERO ディアボリックガイ》の効果を発動! デッキからディアボリックガイを特殊召喚します!」

《DーHERO ディアボリックガイ》 ☆6 闇属性
 戦士族・効果
 自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
 自分のデッキから「DーHERO ディアボリックガイ」1体を
 自分フィールド上に特殊召喚する。
 ATK 800/DEF 800

「そして《DーHERO ディアボリックガイ》をリリースし、《DーHERO ダッシュガイ》をアドバンス召喚します!」

《DーHERO ダッシュガイ》 ☆6 闇属性
 戦士族・効果
 自分フィールド上のモンスター1体をリリースする事で、このターンの
 エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力を1000ポイントアップする。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。
 このカードが攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
 このカードが墓地に存在する場合、1度だけドローフェイズ時に
 ドローしたモンスターカードをお互いに確認し特殊召喚する事ができる。
 ATK2100/DEF1000


「カードを1枚セットしてターン終了です!」
「俺のターン!」

 ユウキ:LP8000 手札5→6
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし

 真桜花:LP8000 手札3
 モンスター:《E・HERO エッジマン(ATK2600)》
       《DーHERO ダッシュガイ(ATK2100)》
 魔法・罠:伏せ×1



「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時。《サイバー・オーガ・ドクター》は手札から特殊召喚する事が出来る!」

《サイバー・オーガ・ドクター》 ☆3 地属性
 悪魔族・効果
 相手フィールド上にのみモンスターが存在する時
 このカードは手札から特殊召喚することができる。
 このカードをリリースすることでデッキから「サイバー・オーガ」1体を特殊召喚する。
 ATK 900/DEF 200

「そして《サイバー・オーガ・ドクター》をリリースする事で《サイバー・オーガ》をデッキから特殊召喚する!」

 自分の元に鋼の装甲を纏った怪獣が現れる。

《サイバー・オーガ》 ☆5 地属性
 機械族・効果
 このカードを手札から墓地に捨てる。
 自分フィールド上に存在する「サイバー・オーガ》1体が行う戦闘を1度だけ無効にし、
 さらに次の戦闘終了時まで攻撃力は2000ポイントアップする。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
 ATK1900/DEF1200

「さらに俺は手札から《グリーン・ガジェット》を召喚。その効果で《レッド・ガジェット》を手札に加える!」
「この時私の手札の《パペット・キング》の効果が発動! フィールド上に特殊召喚されます!」

《パペット・キング》 ☆7 地属性
 戦士族・効果
 相手がドロー以外の方法でデッキからモンスターカードを手札に加えた時、
 手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
 この方法で特殊召喚した場合、次の自分のターンのエンドフェイズ時にこのカードを破壊する。
 ATK2800/DEF2600

「ちっ厄介なモンスターをッ! 墓地の《ガジェット・サポーター》効果を発動! ガジェットと名のつくモンスターが手札に加わった時、このカードを墓地から特殊召喚する!」

《ガジェット・サポーター》 ☆2 地属性
 機会族・効果
 「ガジェット」と名のつくモンスターがカードの効果によって手札に加えられた時、
 このカードは手札、または墓地から特殊召喚する事ができる。
 この効果で墓地から特殊召喚されたこのカードがフィールドから離れるとき
 ゲームから除外される。
 ATK 1000/DEF 1000

「そして《グリーン・ガジェット》と《ガジェット・サポーター》を融合素材とする事で。エキストラデッキから《グリーン・ガジェットMk-2》を融合召喚する!」

《グリーン・ガジェット Mk-2》 ☆6 地属性
 機械族・融合
 「グリーン・ガジェット」+「ガジェット・サポーター」
 このカードは自分フィールド上に存在する上記のカードを融合素材とする事でのみ
 エキストラデッキから特殊召喚する事ができる(「融合」魔法カードは必要としない)。
 1ターンに1度、自分フィールド上のモンスター1体を選択して手札に戻す。
 このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで戻したモンスターのレベル×300ポイントアップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃したとき
 その守備力を超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードの戦闘で発生する戦闘ダメージは半分になる。
 ATK2400/DEF1600

 ユウキ:LP8000 手札5
 モンスター:《サイバー・オーガ(ATK1900)》
      《グリーン・ガジェットMk-2(ATK2400)》
 魔法・罠:なし

 真桜花:LP8000 手札2
 モンスター:《E・HERO エッジマン(ATK2600)》
       《DーHERO ダッシュガイ(ATK2100)》
       《パペット・キング(ATK2800)》
 魔法・罠:伏せ×1

「《グリーン・ガジェット Mk-2》の効果を発動! 《サイバー・オーガ》を手札に戻す事で攻撃力を1500ポイントアップする!」

 グリーン・ガジェット Mk-2:ATK2400 → ATK3900

「バトル! 《グリーン・ガジェット Mk-2》で《DーHERO ダッシュガイ》を攻撃!」

 《DーHERO ダッシュガイ》 → 破壊

「トラップ発動! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドローする!」
「《機甲部隊の最前線》を発動してターン終了」
「私のターン!」

 ユウキ:LP8000 手札5
 モンスター:《グリーン・ガジェットMk-2(ATK2400)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》

 真桜花:LP8000 手札3
 モンスター:《E・HERO エッジマン(ATK2600)》
       《パペット・キング(ATK2800)》
 魔法・罠:なし


「カードをドロー! 《DーHERO ダッシュガイ》の効果でドローしたモンスター。《DーHERO ダイヤモンドガイ》を特殊召喚します! さらに《手札断殺》を発動! 《DーHERO ダッシュガイ》と《黄泉ガエル》を墓地へ送りカードを2枚ドロー」
「俺は《レアメタル化魔法反射装甲》と《サイバー・オーガ・ドクター》を墓地へ送る」
「さらに手札から《偽物の孤独》を発動!」

《偽物の孤独》
 通常魔法
 このカードが発動した時にフィールド上に存在したカードは
 メインフェイズ終了時までフィールド上に存在しない扱いとなる。
 ただしカードのある位置で別のカードを使用する事は出来ない。

「そして手札から《E・HERO バブルマン》を特殊召喚!」

《E・HERO バブルマン》 ☆4 水属性
 手札がこのカード1枚だけの場合、
 このカードを手札から特殊召喚する事が出来る。
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に
 自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、
 デッキからカードを2枚ドローする。
 ATK 800/DEF1200

「そしてバブルマンの効果でカードを2枚ドロー! バトルフェイズに移る事で《偽物の孤独》の効果は消えます! 《パペット・キング》で《グリーン・ガジェットMk-2》を攻撃!」

《グリーン・ガジェットMk-2》 → 破壊

 ユウキ:LP8000 → LP7800

「《機甲部隊の最前線》の効果でデッキから《サイバー・オーガ》を特殊召喚する」
「《サイバー・オーガ》に《E・HERO エッジマン》で攻撃!」
「手札から《サイバー・オーガ》を捨てる事で攻撃を無効にしパワーを2000アップする」

 サイバー・オーガ:ATK1900 → ATK3900

「おっと、それは手が付けられませんね。メインフェイズ2 《DーHERO ダイアモンドガイ》の効果を発動! デッキトップは《デステニー・ドロー》! そして《DーHERO ダイアモンドガイ》《E・HERO バブルマン》《パペット・キング》を生け贄に捧げる事で手札から《DーHERO ドグマガイ》特殊召喚します!」

《DーHERO ドグマガイ》 ☆8 闇属性
 戦士族・効果
 このカードは通常召喚できない。
 自分フィールド上に存在する「DーHERO」と名のついたモンスターを含む
 モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚することができる。
 この特殊召喚に成功した場合、次の相手ターンのスタンバイフェイズ時に
 相手ライフを半分にする。
 ATK3400/DEF2400

「ターン終了です」
「俺のターン!」

 ユウキ:LP7800 手札4→5
 モンスター:《サイバー・オーガ(ATK3900)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》

 真桜花:LP8000 手札1
 モンスター:《E・HERO エッジマン(ATK2600)》
       《DーHERO ドグマガイ(ATK3400)》
 魔法・罠:なし

「このタイミングでドグマガイの効果が発動します。アナタのライフポイントは半減します」

 確かに強力な効果だが、大丈夫だ。ライフも十分余裕がある。
 戦況は十分に巻き返せる。落ち着いて着実に行けばいい。

 ユウキ:LP7800 → LP3900

「バトル。《サイバー・オーガ》で《DーHERO ドグマガイ》を攻撃する!」
「甘いですよ、手札から《DーHERO ダガーガイ》を捨てる事で攻撃力を800ポイントアップさせます」

《DーHERO ダガーガイ》 ☆3 闇属性
 戦士族・効果
 手札からこのカードを捨てる。自分フィールド上に
 表側表示で存在する「DーHERO」と名のついたモンスターは、
 このターンのエンドフェイズ時まで攻撃力が800ポイントアップする。
 この効果は相手ターンのバトルフェイズ中のみ使用する事が出来る。
 ATK 300/DEF 600

 ドグマガイ:ATK3400 → ATK4200

「ならば手札から速攻魔法《鬼械の進撃》を発動! 《サイバー・オーガ》攻撃力を600ポイントアップ! そして墓地から《サイバー・オーガ》1体を手札に加える」

 サイバー・オーガ:ATK3900 → AT4500

「!!」

 《DーHERO ドグマガイ》 → 破壊

 真桜花:LP8000 → LP7300

「カードを1枚セットしてターン終了」
「やはりやりますね。私のターン」

 ユウキ:LP3900 手札4
 モンスター:《サイバー・オーガ(ATK1900)》
 魔法・罠:《機甲部隊の最前線》
      伏せ×1

 真桜花:LP8000 手札0→1
 モンスター:《E・HERO エッジマン(ATK2600)》
 魔法・罠:なし

「私が引いたカードは《光帝クライス》です《DーHERO ダッシュガイ》の効果で特殊召喚します」

《光帝クライス》 ☆6 光属性
 戦士族・効果
 このカードが召喚・特殊召喚に成功したとき、
 フィールド上に存在するカードを2枚まで破壊する事ができる。
 破壊されたカードのコントローラーは破壊された数だけ
 デッキからカードをドローすることができる。
 このカードは召喚・特殊召喚したターンには攻撃する事ができない。
 ATK2400/DEF1000

「私が選択するカードはアナタの《サイバー・オーガ》と私の《光帝クライス》。それぞれのカードを破壊しお互いに1枚ずつドローします!」

 《光帝クライス》 → 破壊
 《サイバー・オーガ》 → 破壊

「スタンバイフェイズ。墓地から《黄泉ガエル》を守備表示で特殊召喚! そしてメインフェイズ。ダイヤモンドガイによって墓地に送られた《デステニー・ドロー》の効果で2枚のカードをドローします。そして手札から《一つ眼の大災害》を墓地へ送る事でデッキから《幻影巨人ーデイダルバロス》を手札に加える!」

《一つ眼の大災害》
 儀式魔法
 このカードの効果は無効化されない。
 手札からこのカードを墓地へ送る事で
 デッキから「幻影巨人ーデイダルバロス」1体を手札に加える事ができる。
 自分のフィールド・墓地からレベルの合計が9以上になる様にモンスターをゲームから除外する事で
 手札から「幻影巨人ーデイダルバロス」を特殊召喚する。
 この効果は墓地で発動する事ができる。

《幻影巨人(ビッグ・ファントム)ーデイダルバロス》 ☆9 炎属性
 悪魔族・儀式・スピリット
 「一つ眼の大災害」によって降臨。
 このカードが儀式召喚に成功した時、相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する事ができる。
 このカードは罠カードの効果を受けない。
 1ターンに1度このカードが相手モンスターを破壊した時続けてもう1度だけ攻撃できる。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時
 攻撃力が超えていればその数値分相手に戦闘ダメージを与える。
 このカードはエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
 ATK2800/DEF 900

「! マズいっ!」

「そして《一つ眼の大災害》の効果発動! 墓地の《DーHERO ダイヤモンドガイ》と《光帝クライス》を除外し、《幻影巨人ーデイダルバロス》を降臨! アナタの場のカード2枚を破壊します!」

 《機甲部隊の最前線》 → 破壊
 セット → 《ゲットライド!》 → 破壊

「《E・HERO エッジマン》でプレイヤーにダイレクトアタック!」
「俺は手札から《速攻のかかし》を捨てる事で攻撃を無効としバトルフェイズを終了させる!」
「……まあ、良いでしょう。カードを1枚セットしてターン終了です。エンドフェイズ時にデイダルバロスは手札に戻ります」
 覇魄を召喚される前に決着を付けたかったが仕方ない。
 俺のデッキなら。今の状況なら対処できない事も無いはず。
「俺のターン!」

 ユウキ:LP3900 手札4→5
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし

 真桜花:LP7300 手札1
 モンスター:《E・HERO エッジマン(ATK2600)》
       《黄泉ガエル(DEF100)》
 魔法・罠:伏せ×1

 そのカードを引いた瞬間脳が思い切り殴られたかのような目眩に襲われる。
 それほどまでに凄まじいエネルギーをそのカードは秘めていた。

「ぐっ……」

 ユウキはそのカードを視認する。

《ジェネシス・テクノロジー》
 儀式魔法
 このカードの発動は無効化されない。
 自分のフィールド・手札からレベルの合計が9以上になる様に生け贄に捧げる事で
 デッキ又は手札から「蒸汽機器ーパシフィテックBB」を特殊召喚する。
 墓地に存在する儀式に使用したこのカードをゲームから除外する事で
 墓地からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

「覇魄のッ!」

 視線が離せなくなる。コレを使えば簡単に状況が打破できる確信があった。
 だが、この覇魄は記憶を食らう。使うわけには……
 だが体はまるで自分の意思に逆らうようにそれを発動しようとする。

「お前は……呼んでねえ! 俺は《ガジェット・チャージ》を発動!」」

《ガジェット・チャージ》
 通常魔法
 「ガジェット」と名のつくモンスターを1枚捨てる。
 カードを2枚ドローする。

「手札から《レッド・ガジェット》を捨てて2枚ドロー! よし! 俺は手札から《マシンナーズ・ギアフレーム》を通常召喚!」

《マシンナーズ・ギアフレーム》 ☆4 地属性
 機械族・ユニオン
 このカードが召喚に成功した時、
 自分のデッキから「マシンナーズ・ギアフレーム」以外の
 「マシンナーズ」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。
 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして
 自分フィールド上の機械族モンスターに装備、
 または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事が出来る。
 (1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
 装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。)
 ATK1800/DEF 0

「そして俺は手札に《マシンナーズ・フォートレス》を加える! そして手札から《マシンナーズ・フォートレス》と《サイバー・オーガ》を捨てて墓地から《マシンナーズ・フォートレス》を蘇生!」

《マシンナーズ・フォートレス》 ☆7 地属性
 機械族・効果
 このカードは手札の機械族モンスターを
 レベル合計が8以上になる様に捨てて、
 手札または墓地から特殊召喚する事が出来る。
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
 相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。
 また、自分フィールド上に表側表示で存在する
 このカードが相手の効果モンスターの効果の対象になった時、
 相手の手札を確認して1枚捨てる。
 ATK2500/DEF1600

「そして俺は《マシンナーズ・ギアフレーム》を《マシンナーズ・フォートレス》に装備。カードを2枚セット! ターン終了だ」
「なるほどでは私のターン」

 ユウキ:LP3900 手札1
 モンスター:《マシンナーズ・フォートレス(ATK2500)》
 魔法・罠:《マシンナーズ・ギアフレーム(Eマシンナーズ・フォートレス)》
      伏せ×2

 真桜花:LP7300 手札1→2
 モンスター:《E・HERO エッジマン(ATK2600)》
       《黄泉ガエル(DEF100)》
 魔法・罠:伏せ×1

「なるほど、デイダルバロスの破壊からギアフレームが守る事で私はこのターン破壊効果を持つ《マシンナーズ・フォートレス》を戦闘破壊できない。かといって戦闘によってギアフレームを剥がした後にデイダルバロスを出すという戦法をとるにはその伏せカードが邪魔になる。そう言う事ですね」
「ま、そんな所か」
「ですが甘いです。私は《Eーエマージェンシーコール》を発動!」

《Eーエマージェンシーコール》
 通常魔法
 自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

「私はデッキから《E・HERO エアーマン》を手札に加え、そのまま召喚!」

《E・HERO エアーマン》 ☆4 風属性
 戦士・効果
 このカードが召喚・特殊召喚に成功したとき、
 次の効果から1つ選択して発動する事ができる。
 ●自分フィールド上に存在するこのカード以外の
 「HERO」と名の付いたモンスターの数まで、
 フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。
 ●自分のデッキから「HERO」と名の付いた
 モンスター1体を手札に加える。

「エアーマンの一つ目の効果を発動!《マシンナーズ・ギアフレーム》を破壊します!」

《マシンナーズ・ギアフレーム》 → 破壊

「さらに私は《一つ眼の大災害》の効果を発動! 墓地の《E・HERO バブルマン》と《DーHERO ダッシュガイ》を除外してデイダルバロスを降臨。《マシンナーズ・フォートレス》とセットカードを破壊します」

 っ! ここだ!

「お前がギアフレームを破壊した上でデイダルバロスを出す事くらい出来るのは知ってるさ! 俺は速攻魔法。《敗戦》を発動する!」
「っ!」

《敗戦》
 速攻魔法
 自分フィールド上のモンスター1体を破壊する。
 この破壊は戦闘破壊として扱う。
 エンドフェイズ時破壊したモンスターのレベル3つに付きカードを1枚ドローする。

「俺は《マシンナーズ・フォートレス》を戦闘破壊! 《マシンナーズ・フォートレス》の効果が発動! 《幻影巨人ーデイダルバロス》を破壊する!」

《幻影巨人ーデイダルバロス》 → 破壊

 《敗戦》ドロー効果も後押ししてなんとか巻き返せそうだ。

 伏せ → 《デステニー・シグナル》 → 破壊
 《E・HERO エッジマン》 → 破壊
 《E・HERO エアーマン》 → 破壊
 《黄泉ガエル》 → 破壊

「は?」

 デイダルバロスが破壊されたのに巻き込まれるかの様に真桜花のカードも巻き込まれていく。
 デイダルバロスにそんな効果はなかった。と、言う事は……

「別のカードの効果か!?」
「《幻影巨人ーデイダルバロス》が破壊された時、自分のフィールド上のカードを破壊する事でエキストラデッキから《儀式魔王ドグラバルメス》を特殊召喚!」

《儀式魔王ドグラバルメス》 ☆12 闇属性
 悪魔族・リベンジ
 「レベル8以上の儀式モンスター」
 このカードは上記のカードが破壊された時に自分の手札・フィールド上のカードを全て破壊して
 エキストラデッキから特殊召喚する事が出来る。
 破壊したカードの数だけデッキからカードをドローする。
 ドローしたカードにモンスターがいる場合、それらのモンスターを可能な限り特殊召喚することができる。
 このカードの攻撃力は自分のエキストラデッキの枚数×500ポイントダウンする。
 このカードの攻撃力は手札の枚数×1000ポイントダウンする。
 墓地に儀式モンスターが存在する場合このカードは戦闘で破壊されない。
 墓地に儀式魔法が存在する場合このカードはカードの効果で破壊されない。
 ATK5000/DEF5000

「攻撃力……5000のモンスター!?」

 それにリベンジと言うカードも聞いた事が無い。
 特定のモンスターが破壊された時にエキストラデッキから特殊召喚するらしい。
 そしてエキストラデッキの数だけ攻撃力が下がる効果。
 彼女がHEROを使いながらも融合を使わないのはこのカードの為なのだろう。

「こんなカードが!」
「《儀式魔王ドグラバルメス》の効果により4枚のカードをドローし、その中のモンスターを可能な限り特殊召喚します!」
「!!」
「私は手札から《E・HERO ワイルドマン》《コマンド・ナイト》を特殊召喚!」

《E・HERO ワイルドマン》 ☆4 地属性
 このカードは罠の効果を受けない。
 ATK1500/DEF1600

《コマンド・ナイト》 ☆4 炎属性
 このカードが表側表示で存在する限り、
 自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターの攻撃力は
 400ポイントアップする。
 また、自分フィールド上に他のモンスターが存在する場合、
 相手は表側表示で存在するこのカードを攻撃対象に選択する事が出来ない。
 ATK 1200/DEF 1900

「カードを2枚セットすることで《儀式魔王ドグラバルメス》の攻撃力は下がらず5000です。墓地には儀式モンスターがいるので戦闘では破壊されず儀式魔法があるのでカードの効果で破壊される事もありません」

「バトルフェイズ! 《儀式魔王ドグラメルバス》でダイレクトアタック!」
「! メインフェイズ終了時、トラップカード《スクラップバインド》を発動!」

《スクラップバインド》
 通常罠
 次の自分のターンのエンドフェイズ時まで
 フィールド上に表側表示で存在する機械族以外のモンスターは
 攻撃をする事ができない。

「なるほど。それならば作戦を変更しましょうか。私は《破天荒な風》を発動!」

《破天荒な風》
 通常魔法
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターの攻撃力・守備力は
 次の自分のスタンバイフェイズ時まで1000ポイントアップする。

「《E・HERO ワイルドマン》の攻撃力を1000ポイントアップ!」

 E・HERO ワイルドマン:ATK1900 → ATK2900

「そして更に《黒いペンダント》を《E・HERO ワイルドマン》に装備!」

《黒いペンダント(ブラック・ペンダント)》
 装備魔法
 装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
 このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
 相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 E・HERO ワイルドマン:ATK2900 → ATK3400

「《E・HERO ワイルドマン》は罠の効果を受けません。よって《スクラップバインド》の効果を受けずに相手プレイヤーにダイレクトアタックです!」
「なっ!?」

 ユウキ:LP3900 → LP500

「ふふ、風前の灯火ですね。実際《黒いペンダント》を墓地に送るだけでライフはゼロです。ターン終了です」
「この時《敗戦》の効果でカードを2枚ドローする!」

 引いたカードを確認しユウキは顔をしかめる。
 《パーフェクト機械王》《クラスター・ペンデュラム》
 ダメだ。今の局面で使えるカードじゃない。
 次、ここが勝負!

「俺のターン!」


 ユウキ:LP 500 手札3→4
 モンスター:なし
 魔法・罠:なし

 真桜花:LP7300 手札0
 モンスター:《儀式魔王ドグラメルバス(ATK5000)》
       《E・HERO ワイルドマン(ATK3400)》
       《コマンド・ナイト(ATK1600)》
 魔法・罠:伏せ×1


《禁じられた聖槍》
 戦闘補助のカード。確かに応用が利く強力なカードだ。
 だがこのカードを生かすには、こちらにも強力なモンスターが必要。

「どうしたんですか? 手詰まりですか?」
「つまり、覚悟を決めろって事か」
「?」
「全く以て不本意だが、俺は儀式魔法《ジェネシス・テクノロジー》を発動する!」
「なっ!! それは……もしかして覇魄の!?」
「手札の《パーフェクト機械王》と《クラスター・ペンデュラム》をリリースし。現れろ! 《蒸汽機器ーパシフィテックBB》!」

 その瞬間視界が白い霧に覆われる。
 シューッシューッと圧力の漏れる音。ギチギチと鋼の体を動かし軋む機体。
 腕の側面についている車輪がギャリギャリと音を立てる。そして……

 ボオオオオオオオオオオオオオォ!!!

 すさまじい汽笛が鳴る。
 機関車をそのまま巨大な人型の建造物にしたかのようなモンスターがうなりをあげた。

《蒸汽機器(スチーム・ギア)ーパシフィテックBB》 ★9 水属性
 機械族・儀式・ユニオン
 「ジェネシス・テクノロジー」によって降臨。
 1ターンに1度このカードをモンスターに装備、
 または装備カード扱いのこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
 このカードを装備しているモンスターが相手のモンスターと戦闘を行う場合
 ダメージ計算時、相手モンスターの攻撃力分攻撃力をアップする。
 このカードを装備したモンスターが戦闘でモンスターを破壊した時、
 このカードを装備しているモンスターをリリースすることで、
 破壊したモンスターの守備力分のダメージを相手に与える事ができる。
 装備カードとなっているこのカードは相手によって破壊されず効果の対象にならない。
 このカードを装備しているモンスターが破壊される場合代わりにこのカードを破壊する事ができる。
 装備モンスターがフィールドから離れた時このカードをフィールド上に特殊召喚する。
 (1体のモンスターに装備できるユニオンは1体まで)
 ATK2500 / DFE2000

 「つっ!!」

 モンスターを召喚したのと同時に脳が巨大な喪失感に襲われる。
 記憶が……失われた? 何の記憶だ?
 しかし今のユウキにそれを確認する暇は無い。
 もっとも思考をめぐらせたところで何を失ったかさえ分からないのだが。
 ユウキはそのカードの効果を確認する。

「ははは、まるで今の状況を打破する為に作られたみたいなおあつらえ向きの効果じゃねえか」
「何を言ってるんですか? なるほど、確かに強力なカードです。でも忘れてませんか? 《儀式魔王ドグラメルバス》は戦闘で破壊できないんですよ? どうあがいても私のライフを0にすることはできないです。それに戦闘破壊が可能な《E・HERO ワイルドマン》には《黒いペンダント》が装備されています。一撃でしとめる事が出来なければアナタのライフポイントはゼロになる」

「まあ、その、なんだ。おあつらえ向きに良いカードが墓地に落ちていたりする訳で。俺は墓地に《ジェネシス・テクノロジー》の効果を発動! 墓地からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する!」
「蘇生効果を持った儀式魔法!?」

《ジェネシス・テクノロジー》
 儀式魔法
 このカードの発動は無効化されない。
 自分のフィールド・手札からレベルの合計が9以上になる様に生け贄に捧げる事で
 デッキ又は手札から「蒸汽機器ーパシフィテックBB」を特殊召喚する。
 墓地に存在する儀式に使用したこのカードをゲームから除外する事で
 墓地からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

「俺は《コアキメイル・パワーハンド》を蘇生!」

「!!! そ、そのカードは!」

 真桜花の顔色が変わる。
 そうこのカードと覇魄のコンボでならばこの状況の打破できる。

《コアキメイル・パワーハンド》 ☆4 地属性
 このカードのコントローラーは自分のエンドフェイズ毎に、
 手札から「コアキメイルの鋼核」を1枚墓地へ送るか、
 手札の通常罠カード1枚を相手に見せる。
 または、どちらも行なわずにこのカードを破壊する。
 このカードが光属性または闇属性モンスターと戦闘を行なう場合、
 バトルフェイズの間だけそのモンスターの効果は無効化される。
 ATK2100/DEF1600

「俺は《コアキメイル・パワーハンド》にパシフィテックBBを装備する!」
「《儀式魔王ドグラメルバス》の効果は無効化され戦闘破壊される……ッ!」

 真桜花はギリッと歯を食いしばる。

「バトル! 《コアキメイル・パワーハンド》で《儀式魔王ドグラメルバス》を攻撃! 《コアキメイル・パワーハンド》が戦闘を行なうとき、光、闇属性のモンスターの効果は無効化される!」
「発動するカードは無いです」
「《蒸汽機器ーパシフィテックBB》の効果が発動! 装備モンスターの攻撃力を相手モンスターの攻撃力だけ上昇させる!」

 コアキメイル・パワーハンド:ATK2100 → ATK7100

 《儀式魔王ドグラメルバス》 → 破壊

 真桜花:LP7300 → LP5200

「さらに《蒸汽機器ーパシフィテックBB》の効果を発動! 相手モンスターを戦闘で破壊したとき装備モンスターをリリースすることで破壊したモンスターの守備力分のダメージを与える!」

 真桜花:LP5200 → LP200

「装備モンスターがフィールド上から離れたとき《蒸汽機器ーパシフィテックBB》はフィールド上に特殊召喚される!」

 その巨体が真桜花の前に立ちはだかる。
 そして沈黙がその場に降りた。フゥーっと真桜花が息をつく。

「ライフ、残っちゃいましたね。本当に惜しかったですよ。びっくりしました」
「まだ《蒸汽機器ーパシフィテックBB》の攻撃が残ってるぞ?」
「そうですか、それでも残念。《コマンド・ナイト》には他のモンスターがいる時攻撃されない効果を持っています。よって攻撃対象は攻撃力3400の《E・HERO ワイルドマン》のみ。その覇魄の攻撃力は2500。あなたのモンスターは攻撃できませんよ」
「残念だったな、俺は速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動! 《E・HERO ワイルドマン》の攻撃力を800ポイントダウンさせる!」

 E・HERO ワイルドマン:ATK3400 → ATK2600

「800ポイントじゃあわずかながら足りませんね」
「慌てるなって、このカードの効果には続きがある」

 ユウキはにやりと笑った。

「選択したモンスターは魔法・罠カードの効果を受けなくなる効果がな」

《禁じられた聖槍》
 表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は800ポイントダウンし、
 このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。

「よって《E・HERO ワイルドマン》は《黒いペンダント》の効果を受ける事ができない!」

 E・HERO ワイルドマン:ATK2100

「っ!? さすが、ですね。でもいいんですか? 桜花が死ぬ事、忘れた訳ではないでしょう?」
「死なないよ、俺も、桜花もね。だから遠慮なく殺す」

 そういってにっこりと笑う。
 真桜花はその笑顔につられる様に引きつった笑みを浮かべる。
 真桜花にはその言葉が真実なのか否なのかは読み取れないがユウキの瞳に迷いが無い事だけは充分に伝わる。

「ええと、私は?」
「さあ? どうだと思う?」
「あのぅ、私とっても反省してるので。この勝負は無効に出来ませんかね?」
「このデュエルは中断できないんだろ?」
「そうなんですけども。ほら、ここは譲り合いの精神で……」

「残念、俺の未来を譲る気は毛頭ない。しっかり反省するといい。もしかしたら天国行きに間に合うかもね」

 腕を振り上げる。その動きにシンクロする様に覇魄も動く。



 そしてユウキは拳を振り下ろした。

 真桜花:LP200 → LP 0

 LPが0を表示した瞬間真桜花は倒れる。そしてその体から赤色の突風が吹き荒れる。
 その風は吸い込まれるようにユウキの元へと集まっていく。
 桜花の覇魄がユウキの中に移ろうとしているのだろう。

「お前を回収するのは私の役目だ」

 その間に勇魚海が割り込む。手には白色のモノリスが握られていた。
 白色のモノリスは光り輝くとその赤いかぜを全て吸収し真っ黒に染まった。

「後は、封印して、と」

 勇魚海は傷ついている中指でモノリスに血で×を描く。それはすぐモノリスに吸い込まれて消える。

「とりあえず無事覇魄の回収はすんだな」
「桜花さん!」

 そんな台詞を聞く暇も無くユウキは桜花に駆け寄った。
 そして桜花を抱きかかえるとその体をゆする。

「桜花さん、桜花さん!」
「うぅ……あれ? ユウキくん?」

 桜花は重たそうなまぶたを開けるとユウキを見る。

「ユウキくん、生きてる? あたしも、生きてる?」
「はい、全て。全て丸く収まりました」

 桜花はその言葉を聞くとにっこりと笑い体を起こす。
 勇魚海は眉をひそめる。

「これはどういうことだ? 覇魄をとられた時点で桜花は生きる事ができないはずだが」
「そうでしょうね。でも今回は違ったんですよ。彼女の中に俺の魂がありました。覇魄が無くなっても俺の魂がそこにあったんです。生きる為のエネルギーが。結果として桜花さんは死なずにすんだ」

 その言葉に勇魚海は「はぁ!?」とでも言いたげな表情をする。
 そして長い沈黙の後口を開いた。

「……なんか納得いかないな」
「そんなこと言わないでくださいよ。現にこうして何とかなってるわけですし」

 そういって苦笑する。
 それにつられて勇魚海も微笑んだ。

「そうだな、覇魄は手に入り犠牲者もいない。この状況を素直に喜ぶとしよう」

 そういった後、勇魚海は再びユウキに質問する。

「ユウキはこうなる事が分かっていたということか?」
「ええ、もちろん魂を取り込んでいるときに覇魄を出せば毎回その人の命が助かるということではないと思いますけど。今回はうまくいく。その確信が僕の中にあったんです。なんででしょうね。死んでる間に神様にでも教えてもらったんじゃないですか?」
「そんな非科学的な……」
「おにいーちゃん!!」

 勇魚海との会話をぶった切るタックルまがいの抱きつき攻撃がメアリーによって繰り出された。

「いってえ! メアリー。おまえお兄ちゃんはいい加減にやめろよ」
「かっこよかったぜお兄ちゃん! サイコーだよ! 覇魄のカード使ったところとか、もう個人的にテンションマックスだよ!」
「そ、それは良かったな」
「あの、結局、どうしてどうなったんですか?」
「それは、今度ゆっくり話しますよ」

 ユウキは首をかしげる桜花に苦笑しながら言う。
 桜花もひとまずそれで納得したのかうなずいて笑った。

「これで一件落着なんですよね? 亜弥ちゃんにもカードが返せそうです♪」
「……あや?」
「ユウくん!」
「ぐはぁ!」

 亜弥がメアリーの上からさらにユウキに抱きつく。

「よかった、なんか色々よくわからないことになってたけど。生きてるんだね!? 皆生きてるんだね!?」

 そういっておんおん号泣する。

「大丈夫だよね? 大丈夫なんだよね? 私心配でしんぱいで……しんぱいだったんだからああぁ」

 ユウキはその様子を見て困ったように頭をかいた。

「あの……どちら様?」
「!?」

 場が凍りついた。
 あれ? なんか俺変な事いったか?

「誰って……亜弥だよ! 水崎亜弥! ユウくんの幼馴染! 将来のお嫁さん! 私のカードを取り返してくれるっていってデュエルしてくれたんじゃない!」
「どどどどどさくさにまぎれて変なこと言わないでください!」 

「カードを取り返すためにデュエル? あー、そういえば真桜花が色々な人のカードを取るって言うことでデュエルしたんだたっけ。えーと、俺の知り合いがカードをなくして困ったことになってたような……。なってなかったような?」
「ユウくん……私のこと。覚えてないの?」

 ……
 …………
 ………………。

「ご、ごめん」

 謝ってしまった。
 もっと気のきいた言葉の投げかけ方もあったのだろうが反射的に出た言葉がそれだった。
 亜弥の表情が蒼白になる。そして。

「あ、亜弥ちゃん!」

 どこかへ駆け出していってしまった。

「私、ちょっと追いかけてくる!」
「あ、あたしも!」

 メアリーと桜花がその後を追う。
 呆然とするユウキに向かって勇魚海が問う。

「本当に覚えていないのか?」
「ええ、えっと……あ、そういえば俺の覇魄は記憶を食うんです!」
「そんな話、聞いたことは無いが。本当なのか?」
「うっ。本当、かどうかは分かりませんけど」
「ま、とりあえず体がかなりイレギュラーな状況に置かれたことは確かだ。時間がたてば治るかもしれない。とりあえず。お疲れ様だ」
「は、はあ。ありがとうございます」
「君の体も限界だろう、今日はもうゆっくり帰って休むといい」
「で、でもさっきの子が……」
「あの二人がなんとかしてくれるだろう」
「いえ、俺、行ってきます! やっぱり俺が原因ですから!」

 ユウキは立ち上がると駆け出す。

「あ、おい!」

 だがデュエル場を出る前に傀儡の糸が切れたかの様にその場に倒れ込む。
 勇魚海は急いで駆けつける。
 ユウキはその場で気を失うように眠っていた。

「無茶しすぎだ。お前は……」

 その静かに眠る顔を見ながら勇魚海は言う。
 そして悲しげな表情をするとつぶやいた。

「すまなかった、ありがとう」

 大事な事を何一つ喋らなかった勇魚海を何一つ言及しなかった優しい右腕に対して。
 精一杯の謝罪と感謝を……

 私はつくづく卑怯者だ。


   ◆  ◆  ◆


  果てしなく白い空間で幼い少年と少女が向かい合って楽しそうに遊んでいる。

「おほしさまがななつで、えんしぇんと・ほおりい・わいばあん! ええと、ええと、ぱわーごせん! ぱんち!」
「ええ!? そんなのむりだよ〜つよいよ〜」
「もちろん! わたしぷろになっちゃうんだから!」
「あやちゃんがぷろになるなんならぼくもなる!」
「じゃあいっしょにぷろになろうね!」
「うん!」
「やくそくね!」
「うん!」

 やく……そく……

「どうした、天井に向かって手を伸ばして。つかめるものなんか一つも無いぞ」

 自分が身を置く日常に聞き慣れた声が引き戻す。
 そうか……俺はあの後気絶して。
 ユウキは毛布を払いのけて上体を起こす。どうやらソファで寝ていた様だ。
 沈黙を体現したような空間。仕事机で黙々と書類を読む勇魚海が再びコチラに意識を向けた。

「いえ、昔の夢を見ていたみたいで。全然覚えてなかったけど。俺、幼なじみとプロデュエリストになるって約束してたみたいなんです」

 記憶が戻ってきているのだろうか、いや。そんなことはない。あの少女の事に関して思い出せるものは他に何もなかった。
 その表情からユウキの記憶が戻っていないことを汲み取ったのだろう勇魚海は神妙な顔をする。
 そしてその後視線を再び書類へとおろすと言った。

「すまない、私はほかにも大切なものを奪ってしまったに違いない」
「そうですね」
「……私が憎いか? 誤って許してくれるとは思わないが。夢という希望を摘み取った現実、つまり君を殺したのは私なのだからな」
「でも生き返ったのは自分の意思です」
「いや、私がそうそそのかしたんだよ」

 書類から視線が再び戻ってくる。

「人を殺すと言うのは大罪だよ。そして人を殺すのと同じくらい人を生き返らせるのも大罪だ。そしてさらに君は結果としてもう一度死ぬ定めにある」

 勇魚海は自重気味に笑った。

「私は君を殺し、生き返らせた。そしてまた死ぬだろう。それは私が生き返らせたときから決まっていた事だ。つまり私は一度ならず二度君を殺す事にしたと言う訳だよ」
「そうですね、勇魚海さんがそう言うのならそうかもしれません。でも勇魚海さんがそれだけの罪を犯してくれた事を俺は感謝してますから」

 ユウキはにこりと笑う。
 なんの思惑も無く本心から言った言葉だった。
 少女の視線が書類に移った。

「そうか……ありがとう」

 そして勇魚海は静かに礼を言った。

「そういえば、トーナメントの内容は結局どうなったんですか? 観客にはなんていって納得した貰ったんです?」

 トーナメントの決勝で敗北者のリベンジ。それはある意味ひとつの禁忌に近い。
 視聴者の不満はかなりのものだろう。

「諸事情によりイベントは中止。よって勝者は無し。景品は次のテストの最優秀者に与えるというところだ。不満爆発だったけどな。そういって無理やり抑えた」
「力ずくですか。それと覇魄を持ち出して大丈夫だったんですか? いくら頭の娘さんとはいえ かなり、その、やばいと思うんですが」
「覇魄を持ち出した挙句人に与えたなんて普通は厳罰ものだな。ま、幻影巨人を入手できたのもあって今回は見送ってもらった」

 見送った。見逃した、ではないはないらしい。

「ま、そのおかげでこうして雑務が回ってきているわけだが」

 そういって手に持っている書類をぴらぴらとふる。

「真桜花、桜花さんはどうですか?」
「どうやら真桜花が優位なのは変わらなかったようだ。だが彼女自身は懲りたみたいで基本的に表に出ることはしないということだ」

 もう一つの人格が優位となった原因には覇魄そのもののエネルギーとは関係なく幻影巨人を使用する際に失っていった『自己意識』が原因だった。
 優位性が変わらないのはおそらく幻影巨人に食われた分の『自己意識』は戻らなかったということだろう。
 ということは俺が蒸汽機器をうまく処理できたとしても『記憶』は戻ってこないということだろうか?

「……亜弥さんは。どうですか?」
「ふむ」

 勇魚海は机の上にポンと書類を放る。
 そしてなにやら荷物をがさがさとあさり始めた。

「まあ確かにやらなければいけないことはまだまだ残っているが、覇魄も手に入ったんだし今回の件は一件落着として、心機一転しようと思う」
「へぇ。何を変えるんですか?」
「ほら、受け取れ」
「? 服……?」

 放られた布を受け取り広げてみる。
 どうやら服のようだが……

「お前の記憶を取り戻すためにどうすればいいのか考えたんだ」
「はあ……」
「だから入学手続きを済ませておいた」
「はあ!?」

 俺はもう一度服を確認する。
 これって学校の制服だェ!?

「何をそんなに驚いているんだ? 君の年齢だったら学校に通うほうがむしろ普通というものだぞ?」
「いやいやいや! 普通とかそういう問題じゃないですよ。といいますか仮にも三日教師をやってるんですよ!? それが生徒として入学するってどうよ!?」
「退屈な学園生活にすばらしいうわさの風を巻き起こせるじゃないか。良かったな。君のおかげで三日くらいは学校がつまらない生徒も生きる気力がわくかもしれないぞ?」
「俺は行きませんからね!」
「そうか、じゃあ一人でお留守番を頼むぞ」
「え?」

 勇魚海は自分の洋服をぴんと張って見せる。
 いつも来ている黒い服とは違う……これって……。

「制服ううううううぅ!?」
「ああ、私も学校に通うことにしたよ」
「あんた年齢的に中等部でしょ!? それ高等部の制服ッ!」
「おんなじクラスに入学させてもらうことにした。一緒にいないと色々不便だからな」
「いやまあ、そうでしょうけど……」

「記憶を取り戻すには亜弥と沢山かかわるのがいいと思ってな。お膳立てさせてもらったよ」
「覇魄はどうするんですか!? まさか放棄とか……」
「君は馬鹿か、いつもどおりめぼしい事象の探索、確認はする。ただその拠点がここから学校、寮になるだけだ」
「それって……俺はその説明の度に女子寮に呼び出されるって事でしょうか」

 勇魚海からユウキに説明に来てくれるとは思えない。っていうかどうしても必要なとき以外はそういうことになる。
 そう考えると身も心もげんなりする。
 だが勇魚海はキョトンとした表情をとる。

「君はいったい何を言ってるんだ? 常に一緒にいないと不便だろう。君は私と相部屋。女子寮だぞ。」
「な! な?」

 ……。

「なあああああああああああああああああああぁ!?」

 つまり。
 最悪の学園生活のスタートって事ですね。わかりません。

「入学辞退しますよ! そんなことするなら死んだほうがまし! いっそ死にたい! なんで生き返らせたんですか鬼! 悪魔! 勇魚海!」
「実は気づいていないかもしれないがユウキ」
「……はい?」
「私は君に選択権を与えた覚えは無いぞ?」
「ば」
「ば?」
「ばかなああああああああああああああぁ!!?」



 ここから、物語は始まる。
 悲しいことも辛いこともあるだろう。
 しかしそれらを乗り越えた先で幸せな未来を掴む事もきっとできるはずだ。

 でもそれらの話は次の機会に。



 決闘者の旅路に栄光あれ…… 


 TO BE CONTINUED?







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