謎とカードと決闘と

製作者:ハイドレンジアさん






プロローグ 井の中のアレ

「・・・何?優勝?俺たちが?」
実感が湧かないが、優勝、したようだ。
「私の敵じゃないのだー。」
「・・・ちょっと口を謹んでくださいね。」
「ネフティス様が活躍したから私は満足ぅ〜♪」
「まあ結果オーライだと思うよ、うん。」
他の四人が好き勝手言っている。とりあえず今の状況を整理したい。
・・・事の経緯は数日前にさかのぼる。


某高校。ただの高校。名前は星堺(せいかい)高校というのだが、どうでもいい。
テーブルゲーム研究部部室内。もとい、カードゲーム研究部。もとい、デュエル・モンスターズ研究部。
つーか何研究しているのだろうか、ここ。結局色々と遊んでるだけの部活だ。
決闘盤は部員の一人のコネのおかげで四つ存在する。部員は五人という少なさだが。
デュエル・モンスターズがここまで流行ったのはこの決闘盤のおかげといっても過言ではない。しかしこの世界、デュエル・モンスターズ養成学校があるわけでもなくプロが存在するわけでもない。
まだまだ世の中の認識としては、ただの遊びという認識の域を越えていない。
とはいえ、人気はどんどん上昇しているのは確かだ。大会も大規模に、賞金も高額になってきたと聞く。
・・・しかし何故ウチには部員が来ないのか。多分名前が知られていないだけだからだろう。まあそんなことはこの際どうでもいい。
モンスターの実体化は時には信じられない程大きなことがあるので、主に決闘は外でしている。体育館を使えるわけでもなく、大きなホールがあるわけでもないのだ。
学校の裏側に位置する場所、そこでは男と女・・二人の人間が決闘(デュエル)をしていた。
長い茶髪を一つにまとめた女の場には先程《ネフティスの導き手》から特殊召喚された《ネフティスの鳳凰神》が一体。伏せカードはなし。
黒髪の、どちらかといえば長身の男、俺の場には、伏せカードが三枚。《クリッター》が一体攻撃表示。
向こうからすれば攻めづらいことこの上ないだろう。
「《ネフティスの鳳凰神》で、《クリッター》に攻撃!」
彼女の、軽快な声が外に響いた。その声に迷いはない。
火の粉を撒き散らしながら、神々しく輝く神鳥が男の目の前にある三眼の毛玉を燃やし尽くすべく、火炎を放つ。それと同時に、男の方の一枚の伏せカードが静かにその顔を上げた。
「《未完の時空機械筐(みかんのタイムボックス)》発動だ。一枚ドロー。」
ライフが6600まで削れるが、気にすることなく俺は作業を続ける。


未完の時空機械筐 永続罠
自分の場のモンスターが戦闘で破壊され、墓地に送られたときに発動することができる。その相手攻撃モンスター1体をゲームから除外して、自分のデッキからカードを1枚ドローする。このカードが破壊されたとき、このカードの効果でゲームから除外したモンスターをフィールド上に戻す。


「う。」
毛玉が爆発すると同時に、バツン、という音と共にネフティスは一瞬にしてその存在を消した。
「《クリッター》の効果発動。《ライトロード・ハンター ライコウ》を手札に加える。」
俺はデッキから一枚モンスターを加える。加えるのは定めてあったので、動作もスムーズに済んだ。
「うう・・・ターンエンド。」
ネフティスのカードを決闘盤から外し、ポケットに入れながら呟くように言った。
「俺のターン、ドロー、スタンバイ、メインフェイズ。モンスターをセット、カードをセット。」
二枚のカードが、裏向きで実体化する。みゅいん、という感じの電子音が連続して聞こえた。
「エンドだ。」
手は考えてあったので、実にあっさりとしたターンだ。
「ドロー・・・よっし!《サイクロン》対象はその箱、通るよね!」
「ああ。だが鳥海、フェイズの宣言はちゃんとした方がいいぞ。マインドクラッシュでも使われたら・・・。」
「はいはい分かってますって部長ー。でもどうせ速攻魔法なんだから関係ないっしょ。
女・・・鳥海の目の前から出現した渦巻く風が、男の場にある機械的な箱を破壊した。
「ネフティスの鳳凰神、帰還!」
再び、無駄に眩しい炎の鳥が姿を現した。
「部長にダイレクトアターック!」
鳥海はそう言って手を大きく振り上げる。それと同時に、ネフティスの口から炎が放たれようとしたその瞬間、俺は静かにリバースカードをオープンさせる。
「《拷問車輪》だ。」
巨大な車輪が出現し、ネフティスはそれに鎖で縛り付けられた。
その車輪は人間を縛ることを想定されている作りなので実に不自然な光景だ。
「あー!ネフティス様ぁ!・・・モンスターをセットしてターンエンド!」
「ドロー、スタンバイフェイズに500ダメージだ。」
鳥海のライフが7500に減少する。だが、表情は変わらない。序盤でのこの程度のダメージは、あまり関係がないとでもいうように。
「メインフェイズ、《ライトロード・ハンター ライコウ》反転召喚、効果発動。その裏守備のモンスターを破壊させてもらおうか。」
その獣から発された電撃によって、裏のモンスターはそのまま破壊される。
「《ゴブリンゾンビ》の効果発動。デッキから、《ゾンビ・マスター》を手札に加えるよ!」
「さらに俺のデッキから上のカードを三枚墓地に送る。」
送られたカードは、《死霊ゾーマ》《メタル・リフレクト・スライム》《光の護封壁》・・・よし。

「成程、京介の今日のデッキはアレだよね。」
白衣を羽織った、分厚い眼鏡をかけた男が、静かにそう言った。
中には制服を着ているが・・・いずれにせよ生徒にしては奇妙な格好には変わりない。
「そうみたいですね。僕としては最初の二枚で気が付くべきだったかも。」
黒を基調とした服を着た男が、それに答える。
「え?ええ?ちょっと、説明するのだ白瀬ー。」
側の二人より二回りも小さい、小さな少女が見上げて言った。
「ええっと・・・ですね。お嬢様、永続罠を多様するデッキといえば何だと思います?」
「む・・・?」
少女は腕を組み、うなるが、答えは出ないようだった。
「あ、京介の手札に『アレ』がある。じゃあ下手すれば決着かな。」
「いえいえ、まだ分かりませんよ。」
「ち、ちょっと二人ともー!」

「俺は手札から、《ライトロード・ハンター ライコウ》を生贄に《モンスターゲート》を発動する。」
「あっ!?まさか!」
一枚、二枚、三枚・・・どんどん墓地に、カードが落ちる。
「八枚目、《創世の予言者》を特殊召喚。」
「・・・部長、墓地に永続罠、合計で何枚落ちてる?」
「八枚だ。《創世の予言者》の効果発動。手札から《闇の呪縛》を捨て、さっき落ちた《神炎皇ウリア》を手札に戻す。これで九枚だな。」
淡々と、男は作業を進める。その手は止める気配がない。
「《リビングデッドの呼び声》と《生贄封じの仮面》を発動・・・そしてフィールド上の三枚の永続罠を墓地に送り《神炎皇ウリア》を特殊召喚!」
ネフティスが拘束から解放された時、目の前には自身の攻撃力の五倍まで膨れ上がった赤き龍が雄々しく雄叫びをあげていた。
「こ、攻撃力いちまんにせん!?」
「《神炎皇ウリア》でネフティスの鳳凰神に攻撃!」
ウリアの口から、全てを埋め尽くすほどの業火が放たれた。
「ちょっ・・・・。」
炎のエフェクトが彼女、鳥海を、全てを飲み込んだ。

「おい、大丈夫か。」
地面に横たわる鳥海の顔を俺、鷹野京介はのぞき込んだ。
「うう・・・予告も無しにあんな狂ったデッキなんて・・・。」
いきなり激しいソリットビジョンに包まれた鳥海は一瞬、気を失っていた。決闘盤、凝りすぎだ。
「狂った言うな。」
「そんなデッキじゃ私の新作のネフティス様デッキの回りが分かんないじゃん。」
「お前いい加減に、様付けるの止め・・・いや、何でもない。」
俺はとっさに話を止める。多分このまま続けていたら鳥海からネフティスの良さを延々と語られていただろう。危ない危ない。
「最初の二枚で大体分かるだろ普通。」
「わ、分かんないわよ普通。それ以前に《拷問車輪》が出た時にはもう手遅れじゃない。」
速攻で苦笑されつつ返答された。俺の台詞は正論ではなかったのか。
「そうなのだ亜衣紗ー。私も分からなかったから気にすることはないのだ!」
先程の少女が、小走りで鳥海の側まで近付き、背中を軽く叩きながら言った。
「沙夜ちゃん・・・うんうん、そうだよね。アレがおかしいんだよね。」
鳥海がこちらの顔を指差しながら言う。アレ言うな。
「でもお嬢様は最後の最後まで分からなかったですよね。ウリアの効果から。」
いつの間にか飛鳥井の後ろに立っていた白瀬が、悪意の無い瞳ですっぱりと言い放った。
「う、うるさい白瀬、ちょっとマイナーだっただけであってだな・・・。そ、そうだ亜衣紗、次は私とどうだ?」
「うん?いいよいいよー。」
そう言って、亜衣紗は軽く埃を払いながら立ち上がる。
沙夜は俺から決闘盤をひったくるように取っていって、二人はデュエルを開始した。

「・・・・ところで京介、話がある。」
ボーっとした様子で二人の決闘を眺めながら、俺の横の白衣の男が話しかけてきた。
「何だ葵。いつも通り汚れ一つない白衣じゃないか。」
「蹴るよ。・・・ねえ京介、この部が設立されてからどれくらい経過してると思ってる?」
「七ヶ月と十日そこらだな。何で部員増えないんだろうな。」
「待った待った、話を逸らそうとするんじゃない。」
右手の平をを俺の顔の前に出して俺の話を遮り、葵は言った。
・・・薄々俺もこいつが何を言いたいかは分かっていた。
「いい加減大会とか出ないの・・・?」
やはり。
「無様に負けるのが怖いからな、俺は。どうもそういうガラじゃねぇんだ。」
「・・・分かった、じゃあ僕とデュエルして、僕が勝ったら大会に出ると誓って。」
何故その流れになる。何も分かっていない。
誰がその手に乗るか、逃げたら命がないわけでもあるまい。
「おもしろそうじゃないですか、僕は賛成ですね。」
俺の後ろからいきなり声がした。
「白瀬、お前そろそろ気配と音を消すのをやめてくれ、心臓に悪い。」
「皆心の中ではそう思ってるんですよ、大会に出たいなぁ、って。」
俺の意見は無視らしい。しかしこいつら二人、引く気はなさそうだ。
もし鳥海と飛鳥井のデュエルが終わったらあいつらまでこいつらの味方をするのは明白。
しゃーねぇ・・・。
「やってやるよ、一回勝負だ。」
いつの間にか白瀬が持ってきていた決闘盤を俺と葵が受け取り、ほどよい距離を取り、向かい合う。
俺の決闘盤のランプが点滅した。それは俺の先攻と分かると同時に、デュエルが始まったという合図。
「俺の先攻か、ドロー。」
俺のデッキは変わっていない。先程のまま、ウリア1killのままだ。対策がされていないならば、大体のデッキに対応できる。
《クリッター》に、相手の攻撃から身を守る永続罠が四枚・・・よし、悪くはない。
「モンスターを一枚セット、カードを二枚セット、ターンエンドだ。」
悪くない、むしろかなり良い手札だった。
だからこそ俺は次の瞬間の光景が、素直に受け止められなかった。
「僕のターン、ドロー、《大嵐》を発動。」
「何?くっ・・・。」
デッキに一枚のカードが初ターンに来る、それは低い確率だが決して珍しいことではない。
俺の場の二枚のリバースカードが、なすすべもなく砕け散った。
「手札から、《パワー・ポンド》発動。手札から《サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ドラゴン》を融合。《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚。」
演出の為なのか、その巨大な三頭の機械龍は、葵の後ろから轟音と共に現れた。
「は!?」
攻撃力、8000。
だが、まだだ、このターンは耐えられれば次のターンに反撃でき
「手札から速攻魔法、《リミッター解除》を発動。」
・・・ない。
葵の手札は0。だが、場には先程の俺のウリアをも越えた怪物が一体。
機械龍の口が輝いてきた。どうやら俺に逃げ場はないようだ。
「《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃!」


――――エターナル・エヴォリューション・バースト――――!!


クリボーなぞこのデッキには、入らない・・・。当然為す術などない。
俺は病院送りにでもなりそうな、その強大な三つの光線に俺の場の三つ目もろとも飲み込まれた。

「じゃあ大会はこれね、この高校対抗大会で。白瀬が見つけてきてくれたから。三日後ね。」
爆風と共に巻き上がった砂埃が全て去るのを待ってから、葵は白瀬と共に俺の元に駆け寄って来て、一枚の紙を取り出した。
「く・・・流石、自称サイバー流後継者・・・見事なワンターンキルだ。」
俺は仰向けのまま、答えた。大会のことから少し話をそらせたかったのもある。
言っておくがこの世にサイバー流なぞ存在しない。こいつが勝手に言っているだけだ。
「いやいや、いくら僕でもここまではできないって。」
「・・・は?」
俺が横を見ると、白瀬が後ろを向いて笑いを堪えていた。
「京介?お互いのデッキのシャッフルは常識じゃないのかい?」
おい・・・まさか・・・。
「一回勝負、だよね?部長さん?」
鳥海が俺の視界の上から登場しつつ、そう言った。
「約束なのだー。」
飛鳥井もいる。こいつらいつの間にデュエルを終えていたのか。
いや、それよりもこいつら・・・全員笑顔だ。ドッキリに見事引っかかった人を見た時のような笑顔だ。
「ま、さ、か・・・てめぇら・・・。」


はめやがったなああああああぁぁぁ!!!

俺の声が、空に虚しく響き渡った。




そして、高校対抗OCG大会。
五人ペアで、三勝した方が勝ちとか。
正直、俺は負けるのが怖かった。昔からそうだった。だから大会とかそういう真剣勝負じみたものは避けていたのだが・・・。

ここで、冒頭と繋がる。
実に圧勝だった。それほど数も多くなく、四回勝っただけで優勝だったのだが、それを考えても、一度も負けてなかった。
「自分で言うのもなんだが・・・。」
井の中の蛙は、蛙ではなくて鮫だった。大海に出ても、何一つ不自由しなかった。と、そう表現したくなる、出来事だった。



俺たちは確かに勝った。



だが、それがあんなことの引き金になるなんて、このときの俺達は微塵も思っていなかったんだ――――――――





一章 無邪気は神をも支配する、そして神の下には天使がいる

そもそも俺がこの部の部長になったのは何故だったか。
一応幼馴染である鳥海 亜衣紗(とりかいあいさ)が、決闘好きな女の子を見つけてきたと俺等より一つ下の、どこのか知らないがお嬢様らしい、飛鳥井 沙夜(あすかいさや)を引っ張ってきた。一つだけ下とは思えないその小さな容姿と言動だったので飛び級というものかと疑ったが別段そんなことはなかった。
ついでに執事を名乗る白瀬 隆至(しらせたかし)が付いてきた。多分飛鳥井の態度を見ている限り本当なのだろうが、普通こんなに歳が離れていない執事なんてあり得るのだろうか。
そして鳥海が、デュエル・モンスターズが流行ってきたことをいいことに、俺に部の設立を求めてきた。
別に断る理由もない俺はそれに乗った。が、部には五人が必要。
と、そこで俺は自分のクラスの変わり者、葵 博史(あおいひろし)を連れてきた。
眼鏡と白衣、どこから見ても理科系の男なのだが、デュエル・モンスターズをやっているとは正直予想外だった。たまたま話に聞いたのだが。
そして俺が顧問の先生が足りないことに気が付いたと同時に、鳥海が一人引っ張ってきた。
江永 黒葉(えながくろは)女性だった。
とりあえず適当な先生に顧問になってもらったのかと思いきや、その人もデュエル・モンスターズの経験があるらしい。あまり俺たちの相手をすることはないので実力は定かではないのだが。
そうして数ヶ月。俺は暇つぶしの為にカードをしているつもりだったが、つい先日大会に出て、そして。

勝利した。

「もしかして部員が入って来ないのって俺たちのレベルが高すぎたせいか・・・?初心者お断りみたいな雰囲気が出ていたとか・・・。」
「やけに自意識過剰だね、部長。」
俺の独り言に鳥海が速攻で反応してきた。
一応俺はこの部の部長だと思うのだが、俺のことを部長と呼ぶのは部員の中でこいつしかいない。一応腐っても幼馴染なのだが不自然じゃないかこれは。わざとか。
「あれだけ圧勝したらそれくらい言いたくなるさ。」
反論するだけ無駄だと思い、俺は鳥海の言葉を聞き流す。
「でも全国大会の切符が手に入るんだからそれでハッキリするんじゃない?」
「ああ・・・思い出させるな。」
そう、あの大会の優勝賞金は全国高校大会への切符だった。
会場までへの費用がタダになる、だけだった。何か釈然としない。
「いいじゃんいいじゃん、優勝しちゃおうよ。」
「そんなノリで勝てると思ってんのかお前・・・。それにしても皆やけに遅くないか?もう他の部活はとっくに始まってる時間だぞ。」
と、俺が振り向いてドアを見るのとドアが開くのは同時だった。
赤みがかった黒髪の女性。が顔をのぞかせる。
「あれ、江永先生?どうしたんですか?」
「珍しいっすね。」
「人を珍獣みたいに言うんじゃない。さて・・・お前ら昨日大会で圧勝したわよね。納得いかないって奴が柔道破りに来たらしいんだけど。」
他校に乗り込んでくるほど納得がいかなかったのか。根性のある奴等だ。
「どこの高校ですか?人数は?」
「決勝で破った高校。向こうの副部長と部長、二人だけ来たみたいね。一応見学に来いっていうわけだけどまあせっかく二人っきりなんだから、どうせならもっとこの二人きりの空間でイチャイチャしててもいいのよ。うーん、若いっていいねえ・・・っておいこらぁ!」
先生が茶化すのは読めていた。ならば先手を取るまでだ。
俺と鳥海はさっさと部室を後にしていた。

「お、来た来た二人とも。今から丁度始まるところだよ。」
俺達がいつもの場所に到着すると、既に四人が決闘盤を左手に構えていた。
タッグデュエルの形なのだが、どうやら一対一が並んでやるだけのようだ。確かにタッグの場合は、色々とルールの食い違いとかがあるからな、作者の力量とか関係なく、うん。
「隆至君に沙夜ちゃん、かぁ。」
そういや向こうは部長とかが先手に出てきて速攻で三勝する形だったな。
結局飛鳥井に負けたわけだが。確かに、あいつに負けるのは納得がいかないのも無理はない。白瀬の方は・・・あの時は戦わなかったな。向こうの副部長もだ。

「あれは実力じゃない、運で負けたんだ。今からそれを証明してやる!お前を倒すことによってな!」
いかにもありがちな台詞を向こうの部長が大声で言う。
「何度やっても同じなのだー!」
同じくらいの大声で、飛鳥井が返した。

「お嬢様ー、はしゃぎすぎると負けますよー。」
「ちょっとちょっと君・・・私とのデュエルに集中しなさいよ・・・。」
向こうの副部長は女だ。両目が見えないほど前髪が長かった。後ろはもっと長く、腰まで届いているんじゃないだろうか。


決闘(デュエル)!!


それぞれ性格の全く違う四人の声が、重なった。

「私の先攻なのだー、ドロー!《手札抹殺》を発動するのだー!」
「いきなりか・・・いいだろう。」
もっともこれを今防ぐ手立ては宣告者(デクレアラー)くらいしかいないのだが。
お互いは手札を入れ替えると、しばらく眺めた。
「そして、《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を攻撃表示で召喚!効果により、デッキから私の場に《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を魔法&罠カードゾーンに表側表示で置き、ターンを終了するのだー。」
背中には大きな翼、額にはの生えた白馬が、飛鳥井の前に現れた。それと同時に大きな青色の宝石、サファイアがペガサスの後ろに出現した。
「何?宝玉獣だと?前の大会の時とは違うデッキか・・・。俺のターン、ドロー。」
・・・対戦相手は気が付かないか。飛鳥井、あいつが宝玉獣を使う、その理由を。
「攻撃表示、しかもリバースも無しとはなめられたもんだぜ、出ろ!《スピア・ドラゴン》!」
鋭く尖った長い鼻を持つ小柄な竜が出現した。攻撃力は1900。ペガサスを上回る。
「いけ!《スピア・ドラゴン》で《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を攻撃ぃ!」
ペガサスはそのドラゴンの突進によって射抜かれ、消滅した。
「《宝玉獣 サファイア・ペガサス》の効果、発動なのだー。」
粉々になったペガサスのエフェクトが一つに集まり、青き宝石になった。これで二つの宝石が揃うことになる。

飛鳥井沙夜:LP7900

「《スピア・ドラゴン》は効果で守備になる。リバースカードを二枚セット、ターンエンドだ。」

飛鳥井沙夜
モンスター、無し
魔法・罠《宝玉獣 サファイア・ペガサス》×2
手札、四枚


モンスター《スピア・ドラゴン》
魔法・罠、伏せカード二枚
手札、三枚

「ドロー!・・・。」
飛鳥井はカードを引き、少し考えた後、すぐに行動する。
先のことまで考えているのか、目先のことだけしか考えていないのかは誰にも分からない。
・・・この少女は、そういう戦法なのだから。
「カードを一枚セット、ターンエンドなのだ。」
モンスターを出さなかったことに対し、事故か作戦か男は考える。
「俺のターン、ドロー。」
男は、場の状況と手札を見比べながら、思考を巡らせる。
(ドローカードは《ライオウ》か。モンスターを何も出さないってことは《激流葬》あたりが仕込んである可能性も十分あるな。さて、俺の場の二枚は《奈落の落とし穴》と《炸裂装甲》ここは下手に動くべきではない、な。)
「メインフェイズに《スピア・ドラゴン》を攻撃表示に変更、バトルフェイズ、でダイレクトアタックだ!」
「むう!」
勢いよく突進してきたスピア・ドラゴンが飛鳥井の腹を貫いた。本当に痛みがあるように思えてくるから怖いものだ。

飛鳥井沙夜:LP6100

(ブラフ、か・・・?それとも発動条件を満たしていないのか・・・)
「《スピア・ドラゴン》は効果で守備に・・・ターンエンドだ。」

飛鳥井沙夜
モンスター、無し
魔法・罠《宝玉獣 サファイア・ペガサス》×2、伏せカード一枚
手札、四枚


モンスター《スピア・ドラゴン》
魔法・罠、伏せカード二枚
手札、四枚

「私のターン、ドロー!」
飛鳥井はそのドローカードを見て、小さく笑みを浮かべた。
「魔法発動《大寒波》!」
「なっ!?」
突然の吹雪に、男のフィールド上のカードが一瞬にして凍結した。
「チェーンで発動するのだ!リバースカードオープン、《カウンター・ジェム》!」
氷がカードに及ぶ前に、飛鳥井は罠を発動させる。
「何ぃ!?」
フィールド上の元サファイア・ペガサスが破壊される。このカードの発動には自分の場の魔法、罠カードゾーンに存在するカードを全て墓地に送らなければならないのだ。
だが、その後墓地の全ての宝玉獣を魔法、罠ゾーンに置ける。
「墓地の、《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を三枚!フィールドに置くのだ!」
三個の青き宝石が、飛鳥井の目の前に出現した。
「三枚・・・!?最初の《手札抹殺》か!・・・てめぇまさか!」
「三枚の永続魔法扱いの《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を墓地に送り、現れるのだー!《降雷皇ハモン》を特殊召喚!」
宝石三つが破壊され、その下から金色の神が姿を現した。
骨のようなその体だが、攻撃力は、4000。神の名に恥じぬその強大さ。
(マジかよ・・・カード消費一枚で召喚しやがった!)
「攻撃なーのだー!」
ハモンの額から、雷が天に昇る。
次の瞬間、雷音と共にいくつもの雷が男の場に降り注いだ。
「うおおおおおお!!」
《スピア・ドラゴン》もろとも、男に雷が落ちる。

男:LP5900

「《降雷皇ハモン》の効果、モンスターを戦闘で破壊した時1000ポイントのダメージを与えるのだー!」
「ぐっ!」

男:LP4900

「モンスターを一枚セットして、ターンエンドなのだー。」
飛鳥井のデッキは、多量の大型モンスターで構成されたデッキ・・・だがあいつの恐ろしいのは、それらを全て出し切ってしまうことだ。引きの強さが尋常ではないからだ。


飛鳥井沙夜
モンスター《降雷皇ハモン》、裏守備一枚
魔法・罠、無し
手札、三枚


モンスター、無し
魔法・罠、伏せカード二枚
手札、四枚


「くそっ!俺のターン、ドロー!」
男は勢いよくカードを引く。運を少しでも招き入れようとするかのように。
(引いたカードは・・・《ニュート》か。ちっ、まあいい。次のターンでこの二枚の罠カードの凍結は解除される。問題ない・・・。)
「モンスターを一枚セット、ターンエンドだ!」
「私のターン。ドロー、モンスターを反転召喚《ファントム・オブ・カオス》!」
実体を持たない影が、飛鳥井の場に現れる。
次の瞬間、その影はみるみるうちに、姿を変貌させていった。
赤き、巨大な龍に。
「効果の対象は、《神炎皇ウリア》!」
二枚目の神が姿を現した。
しかし飛鳥井の墓地にある永続罠は《リビングデッドの呼び声》一枚のみ。
よって攻撃力は1000。
「《神炎皇ウリア》の効果発動!対象は右側のカード!」
飛鳥井から見て右、男から見て左。
《奈落の落とし穴》が爆発と共に消え去った。
「くそっ!」
「さらに、手札から《幻銃士》を召喚するのだー!」
「《幻銃士》の効果は自分の場のモンスターの数だけトークンを生成するカード・・まさか!?」
「銃士トークン三体を生贄に・・・。」
飛鳥井はそのカードを空高く掲げた後、勢いよく決闘盤に叩きつけた。
空が渦巻き、周りに風が巻き起こる。自然界そのものが、その者の登場に畏怖しているかのように。
「出でよ《幻魔皇ラビエル》!」
強靱なる肉体、翼、青とも黒ともとれないその体の色。
悪魔と呼ぶに相応しいその容姿は、相手に威圧感を与えるには十分だった。
「まさか、この速度で三幻魔が揃うだと!?」
(いや、だが大丈夫だ、《炸裂装甲》、攻撃したモンスターを破壊するこのカードがあれば、まだこのターンは生き延びられる。)
「そして、三体の幻魔をゲームから除外する!」
「何!?」

「おいおい、あの超非効率なアレを出すのかよ。」
思わず俺は声を漏らす。
「沙夜ちゃんなら普通にあれくらいやるじゃん。」
「いや、俺はそういうことを言っているんじゃなくてだな・・・いや、いい、あいつの決闘に突っ込むだけ時間の無駄だな・・・。」

「特殊召喚!」

混沌幻魔 アーミタイル!!

悪夢が合成される。全ての恐怖は今、ここに集結する――――。

「攻撃力、一万・・・。」
男はその強大さに唖然としながらも、冷静に頭を回転させる。
(いや、しかし好都合だ。《炸裂装甲》で一気に潰せる。そうすれば相手の手札は二枚。俺の高攻撃力のモンスターで押し切れば、勝てる。)
「装備魔法発動《流星の弓−シール》!《混沌幻魔アーミタイル》に装備!」
(攻撃力を1000下げることで直接攻撃が可能になる装備魔法!?マジかよ!)
「《混沌幻魔アーミタイル》で直接攻撃なのだー!」


――――全土滅殺 天征波――――!!


アーミタイルの体から、ブラックホールを連想させる黒いエネルギーの塊が男に向けて放たれた。
(ここだ!)
「リバースカードオープン《炸裂装甲》!このカードの効果により、《混沌幻魔アーミタイル》は・・・。」
「手札から速攻魔法発動、《我が身を盾に》!」
「何だとぉ!?」
男のリバースしたカードは、爆発すると共に消え去った。その爆風が、飛鳥井に届き、ライフが減った。

飛鳥井沙夜:LP4800

もはやライフなぞ関係ないわけだが。
「くっ・・・・そおおおおおおおおぉぉ!!!」
男は、その強大な漆黒のエネルギーに為す術もなく飲み込まれた。

男:LP0


「はっはっはー!弱いのだ!」
その飛鳥井の勝ち誇る声も、その男の耳には届いていなかった。
あの天性の才能が俺にあれば、エクゾディアでも使うのだが・・・もしかしたらあの才能は決闘を楽しむ心を無くした時に、消えるのかもしれない。
ふと、俺はそんな非現実的なことを考えてみた。
それにしても飛鳥井がつい最近まで知らなかった三幻魔を使うとは、俺も予想外だったな。



時間は飛鳥井が《手札抹殺》を意気揚々と使ったところまで戻る。
「僕の先攻ですね?ドローします。」
向こうの決闘とは正反対、ゆったりと決闘が始まった。
「リバースカードを三枚セットして、《豊穣のアルテミス》を攻撃表示で召喚。」
かかしのような一本足、青いマント、頭から生える大きな羽。天使をモチーフにした機械仕掛けの天使といったところか。だが、このカードは紛れもなく天使族。
「ターン終了です。」
初ターンに伏せカードを三枚、そうそうない光景だろう。このデッキだからこその戦法。
「私のターン・・・ドロー・・・。」
女は不気味にゆっくりとカードを引く。
「ちょっと待って下さい、ドローフェイズにカードを発動させておきます。《人造天使(シンセティック・エンジェル)》。」
カードが表になるがそれは実体化しない。その発動はカウンター使用時。
「・・・《エーリアン・ソルジャー》を召喚・・・。」
「《キックバック》です。」
女の場に屈強なるエーリアンの先兵が召喚されるかと思ったその瞬間、それは手札に戻った。
「《豊穣のアルテミス》の効果で一枚ドロー、《人造天使》の効果で『人造天使トークン』を一体僕のフィールド上に特殊召喚。」
小さな、まさに機械仕掛けと呼べる天使が、カードの中から生まれた。
「チ・・・一枚カードをセットして、ターンエンド・・・。」
女は小さく舌打ちをして、そのターンを終了する。少し怖い。


白瀬隆至
モンスター《豊穣のアルテミス》『人造天使トークン』
魔法・罠、伏せカード二枚、《人造天使》
手札、三枚


モンスター、無し
魔法・罠、伏せカード一枚
手札、五枚


「僕のターン、カードをドローします。《豊穣のアルテミス》を守備表示に変更。バトルフェイズ、『人造天使トークン』でダイレクトアタック。」
小さな機械天使の目から、白い小さな光線が発射された。
女はふと自分の伏せカードに目をやる。
伏せカードは《聖なるバリア−ミラーフォース−》。攻撃していれば相手攻撃モンスターは全滅・・・。
(でも、ワイトと同等の攻撃力の雑魚にミラーフォースを使うわけにはいかない・・・。)

女:LP7700

「メインフェイズ2にカードを一枚セット、ターンエンドです。」
「私のターン、ドロー・・・再び《エーリアン・ソルジャー》を召か
「《キックバック》です。」
「・・・・・。」
「《豊穣のアルテミス》の効果で一枚ドロー、《人造天使》の効果で『人造天使トークン』を一体僕のフィールド上に特殊召喚です。」
先程と瓜二つの光景。だが、アドバンテージの関係で言えば確実に差がついている。女は、自然と焦りが生まれる。
「グ・・・一枚カードをセットして、ターンエンド・・・。」
だが、行動しようにも、墓地にモンスターもなければ手札に手軽な特殊召喚モンスターもない。女はエンドを宣言するしかなかった。


白瀬隆至
モンスター《豊穣のアルテミス》『人造天使トークン』『人造天使トークン』
魔法・罠、伏せカード二枚、《人造天使》
手札、四枚


モンスター、無し
魔法・罠、伏せカード二枚
手札、五枚


「僕のターンですね、ドロー。《豊穣のアルテミス》を守備表示に変更。そして二体の『人造天使トークン』でダイレクトアタックです。」
二つの小さな機械の天使の目が光り、そこから光線が発せられた。
(駄目だ・・・こんな雑魚にミラーフォースを使うわけには・・・。)

女:LP7100

「カードを一枚セット、ターン終了です。」
「私のターン、ドロー・・!!」
女の目が見開かれた。もっとも長い前髪のせいで確認しづらいのだが。
「《大嵐》を発動!」
全てを破壊する、竜巻がフィールドを中心に巻き起こった。
「カウンター発動、《魔宮の賄賂》です。魔法、罠の発動は無効です。」
「・・・チィッ!」
女は大きく舌打ちをしながら、《魔宮の賄賂》の効果で一枚カードを引く。
白瀬は一枚ドローの上に、トークンまで発生したのだが。
(もう我慢できない・・・この男、潰す・・・!)
「《スネーク・レイン》発動!手札から《ガガギゴ》を捨て、デッキから四枚の爬虫類を墓地に送る!」
女のデッキから《バイトロン》《ゴギガ・ガガギゴ》《ナーガ》《エーリアン・ソルジャー》の四枚の爬虫類が墓地に送られた。
「リバースカードオープン、《レベル変換実験室》!対象は手札の《毒蛇王ヴェノミノン》!」
白瀬はその光景を静かに目視している。行動は、ない。
《レベル変換実験室》の効果により、大きな立体映像のサイコロが投げられる。そして丁度フィールドの真ん中に落ちた、その目は・・・。
「2!よって《毒蛇王ヴェノミノン》を生贄無しで通常召喚!」
「『人造天使トークン』を生贄に《昇天の角笛》を発動、召喚は無効です。カードを一枚ドロー、トークン一体発生。」
白瀬は淡々と行動を進める。完全に予測していたかのように。
「《早すぎた埋葬》!対象は《毒蛇王ヴェノミノン》!」
「《ヒーローズルール2》です。墓地を対象にするカードは無効です。カードを一枚ドロー、トークン一体発生。」
白瀬の手札が六枚まで増強される。だが、フィールドに伏せカードは無くなった。
「ふん・・・でも、もうカウンターは使えないでしょう!?墓地の六枚の爬虫類を全て除外!さあ、来なさい!」

邪龍アナンタ!

一つの胴体に七つの頭を持つ灰色の大蛇が、姿を現した。
「このカードの攻守は除外した枚数×600。よって3600!」
最初の物静かで少し不気味な雰囲気はどこへやら。少々ヒステリック気味な声で、女はターンを進める。
「バトルフェイズ、攻撃表示のトークンに攻撃!」
貧弱な機械天使はその七つの頭に一斉に襲われ、八つ裂きにされた。
「うっ・・・。」
その攻撃の余波を、白瀬はまともに受ける。

白瀬隆至:LP4700

「メイン2にカードを一枚セット!エンドフェイズ、《邪龍アナンタ》の効果により《豊穣のアルテミス》を破壊!」
大蛇の七本のうち一本の頭が伸び、アルテミスはそれに噛み砕かれた。

「ねーねー部長―、あの《邪龍アナンタ》の効果って自分フィールド上も可能だっけ?」
「ん、ああ、可能だ。」
「そっかー、じゃあ私の鳳凰神様と相性抜群じゃん、うふふー♪」
また悪い癖が出やがった。
「何だそのデッキは、ネフスネークか。」
「あ、その名前語呂がいいね、もーらいっ。」
「ちょっとちょっとお二人さん、あの状況について何かコメントはないの?」
後ろから葵がいきなり俺と鳥海の間に割り込んできた。
鳥海は爬虫類とネフティスをどう組み合わせるかで頭が一杯だ、聞いちゃいない。
「ああ、一見まだまだ白瀬が有利に見えるが、一旦召喚を許すと厳しいのがパーミッションだ。攻撃してこないままあの破壊効果をのさばらせておいたら厳しいだろうな。」
あの攻撃力では《冥王竜ヴァンダルギオン》でも太刀打ちできない。となるとこの時点での対処法は《天罰》あたりか・・・。


白瀬隆至
モンスター『人造天使トークン』『人造天使トークン』
魔法・罠、《人造天使》
手札、六枚


モンスター、《邪龍アナンタ》
魔法・罠、伏せカード二枚
手札、一枚


(私のさっき伏せたカードは《盗賊の七つ道具》。罠カードは全て無効・・・さぁ、《天罰》でも何でもくるがいいわ・・・。)
女はそう思いながらリバースカードと白瀬を見比べるように見た。
「僕のターン、ドロー。カードを二枚セット、ターン終了・・・です。」
(何もしない・・・か。地砕き等の類のカードはなかったようね。)
「私のターン・・・ドロー。」
「《強烈なはたき落とし》を発動します。」
(ドローカードは《ヴェノム・コブラ》か。どうでもいいわ・・・。)
女が引いたカードを直接墓地に送り、白瀬の場に『人造天使トークン』が現れた。
ただの時間稼ぎだと、少なくとも女はそう思っていた。だから次の瞬間、思考がそれについていかなかった。
「カウンター罠の発動に成功した時、僕の場の三体の『人造天使トークン』を生け贄に捧げます。」
「・・・え?」
「《裁きを下す者−ボルテニス》を特殊召喚します。」
双方の宙に浮く大きな翼。右手には小さな水晶、左手には大きな杖。顔は目や鼻などはなく、水晶が一つ埋め込まれている。青色の機械の天使。
「効果発動です。生け贄に捧げた天使の数だけ、相手フィールド上のカードを破壊します。」
杖が高々と掲げられると、その先から雷が発生し、《邪龍アナンタ》と二枚のリバースカードは炭となり崩れ落ちた。
「嘘・・・そ、そんな・・・。」
女は呆然としながら、震える右手で手札を確認する。手札には最初から残っている《エーリアン・ソルジャー》一枚のみ。
「も、モンスターを一枚セットして・・・ターンエンド・・・。」
「僕のターン、ドロー。《ジェルエンデュオ》を召喚、攻撃です。」
二体の不思議な形をした天使が、ソルジャーを破壊する。
「そして、《裁きを下す者−ボルテニス》でダイレクトアタックです。」
「うあっ・・・。」
雷に包み込まれ、女は思わずよろけた。

女:LP5200

「カードを一枚セットして、ターン終了です。」
「あ・・・わ、私のターン、ドロー・・・。」
「《強烈なはたき落とし》です。」
「・・・・!!」
二枚目の《邪龍アナンタ》が何をすることもなく墓地へ送られた。
「た、ターンエンド・・・。」
もう女の戦意は、とっくに無くなっていた。
「僕のターン、ドロー、スタンバイ、メイン1で《智天使ハーヴェスト》を召喚します。バトルフェイズ、三体のモンスターでダイレクトアタックします。」
「く、くそおおおおおおおぉぉぉ!!!」

女:LP0

「ホンットにタチが悪い・・・。対策無しであいつとはやりたくねぇな・・・。」
「ネフティスの鳳凰神なら神の宣告なんてへっちゃらだよん。」
「知ってるっつーの・・・破壊だからな、効果で蘇生するんだろ。」
とりあえず鳥海は一度《天罰》でも使われればいいと思った。
“神”を使うお嬢様にそれの代行者である“天使”を使う執事。
まあ、だからどうしたということはないのだが・・・。



二章 主人公の素質がない主人公とサイバー流らしくない男

先程の同時KOされた男女二人組は、逃げるように帰っていった。
なんだったんだあいつらは・・・。
「お嬢様、アーミタイルをホイホイ出すのはいいのですが、あれが《次元幽閉》とか《強制脱出装置》とかだったら負けていましたよ?もう少し考えた方がいいんじゃないですか?」
「勝ったから何でもいいではないか!白瀬はもう少し手加減した方がいいと思うぞ!?」
「手加減するときはお嬢様とのデュエルだけで十分ですよ。」
「な・・・白瀬!まさか昨日私のアーミタイルの召喚が易々と通ったのは・・・。」
「どうでしょうね。」
何だこいつら、家でもデュエルしているのか。仲の良いことで。
「むー!勝負なのだ白瀬―!」
飛鳥井が勢いよく白瀬を指差して、言った。決闘盤は腕に付けっぱなしなので、二人のデュエルは即座に開始された。

「そろそろあいつらのデュエルばかり見てるのも暇だな・・・というわけで鳥海、ちょっとデュエルしないか。」
「《邪龍アナンタ》とネフティス様中心だから《毒蛇王ヴェノミノン》は入りづらいから除外して、と。どっちもレベルが八だから《トレード・イン》の投入も考えられるわね、いっそ爬虫類だからエーリアン・・・いや、それだとネフティス様の活躍が霞むから、《スネークポット》とかのそこそこ有用な爬虫類で固めるほうが・・・ん?部長、何か言った?」
俺の言葉が耳から入って頭に伝わるまで一体何秒かかっているんだこいつは。
駄目だ、鳥海はデッキ構築を始めると周りが見えなくなるんだった。
「・・・何でもない。というわけで葵、デュエルしてくれ。」
俺は、先程からボーっとどこを見ているか分からない目をしている葵に声をかけた。
どう見ても暇そうにしているからだ。
「ん〜・・・あの二人のデュエルも気になるけど・・・うん、いいよ。こっちもデッキ調整がしたかったところだから。で、京介、今度こそまともなデッキなんだろうね。」
さて、それはいつのデッキのことか。
「安心しろよ、ただのアサイカリバーだ。」
《D.D.アサイラント》《サイバー・ドラゴン》《死霊騎士デスカリバー・ナイト》の三枚を中心としたビートダウン。あらゆる方向から敵を対処できるこのデッキ。練習相手には丁度いいかと思ったからそうしたまでだ。何せ、俺はまだどのデッキで大会に出るかは決まっていない。
「流石千のデッキを持つ男。それにしても僕の《サイバー・ドラゴン》を飲み込む気満々だね。」
「ちょっと待て、勝手に異名を付けるな。ついでにそれはたまたまだ。そっちもたまには機械以外も使えばいいだろ。」
「あはは、そんなことしたら僕、ただの決闘者に成り下がっちゃうじゃん。」
そう言いながら、葵は白衣の前のボタンを開け、腰に装着してあるデッキケースからデッキを取り出す。
大きく白衣をなびかせる為、そして自分のやる気を高める為と言っていたが俺にはさっぱりその気持ちは理解できない。
俺はバッグの中から数あるうちの一つのデッキを手に取り、葵に渡した。
「身内同士の戦いなんだし別にお互いにシャッフルする必要なんてないんじゃない?」
自分の数日前の行いを無視するような台詞を言いながらも、葵は俺にデッキを手渡した。
「どの口が言いやがる。・・・ほらよ。」
軽くシャッフルした後、お互いはデッキを受け取り、決闘盤に装着する。
「じゃあ、開始だ。」


決闘(デュエル)


お互いは心の中で静かに決闘開始の合図をする。ノリのいい審判でもいればデュエル開始いいぃぃとか言ってくれるんだろうか。
とか考えていると、俺の決闘盤のランプが点滅した。先攻か。
「俺の先攻だ、ドロー。」
ドローカードは《D.D.アサイラント》か、こいつを守備で出すというのも一つの手だが、この罠もあるからな、ここは・・・。
・・・スタンバイ、メインで《死霊騎士デスカリバー・ナイト》を召喚。カードを一枚セットして、エンド。」
漆黒の馬にまたがった骸骨の騎士が召喚された。
モンスター効果を自分の身と引き替えに無効にするこのモンスター。序盤の様子見には最適だ。
「僕のターン、ドロー。んー・・・アサイカリバーとなると伏せは《収縮》や《奈落の落とし穴》ってとこかな。まあ構わないよ。僕は手札から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。」
白銀の機械龍が光と共に姿を現した。手足もなく、蛇のようなシンプルな外見。生け贄無しで特殊召喚される攻撃力2100は決して侮れない。
しかし葵・・・こいつ決闘盤で対決するときは必ずと言っていいほど初手に《サイバー・ドラゴン》を一枚は持ってるんだよな・・・何らかの変な力でもあるんじゃないのか、本当に。
まあ、こんなのを相手するのは最初から分かっていたこと。
「罠発動だ。《奈落の落とし穴》」
地面に穴が空き、機械龍は文字通り奈落に落ちていった。
「うーん、やっぱりかぁ。次の出番待っててね、《サイバー・ドラゴン》。」
少し名残惜しそうに、葵は《サイバー・ドラゴン》をその白衣のポケットに入れる。
「じゃあ二枚目の《サイバー・ドラゴン》特殊召喚ね。バトルフェイズで攻撃。エヴォリューション・バーストぉ。」
葵の気が抜けるような攻撃宣言と共に機械龍の口から放たれた光線は、俺の騎士を一瞬にして消し炭にした。二枚もありやがったか。
「一枚カードをセットして、ターンエンド。京介のデッキは本当にセオリー通りのデッキで読みやすいよ。」


鷹野京介
モンスター、無し
魔法・罠、無し
手札、四枚

葵博史
モンスター、《サイバー・ドラゴン》
魔法・罠、伏せカード一枚
手札、三枚


「セオリー通りが一番強いんだ、残念だったな。俺のターン、ドロー。」
ドローカードは《収縮》か。確かに純粋なるアサイカリバー・・・。
「俺は、《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。」
セオリー通りが弱いなんてことはない。つまらないなんてことも、ないさ。
「お前の場と俺の場の《サイバー・ドラゴン》を墓地に送り、特殊召喚だ。《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》」
俺と葵の場の《サイバー・ドラゴン》が無茶苦茶に混ざり合ったかと思うと、そこに存在していたのは車輪をつなぎ合わせたような奇妙な形の機械龍。
攻撃力は融合素材の数×1000。よって2000。
「露骨に外道だね、サイバー相手に・・・。」
「うっせぇ、ダイレクトアタックだ。」
車輪の中から出た二機の小型の機械龍から発射された光線が、葵の体を突き抜けた。

葵博史:LP6000

「あぅ。」
葵はその攻撃でよろける。伏せカードには目をやることもなかった。
リバースカードは使わない、か。先程の様子からすると攻撃誘発ではなさそうだな。第一この状況でそれを使わないとは考えづらい。となると単なるブラフと考えるのが妥当か・・・。
「モンスターを一枚セット、カードを一枚セット、ターンエンド。」
モンスターは戦闘で破壊されるとお互いに除外する《D.D.アサイラント》、伏せカードは攻撃力を半減させる収縮。どの方向からでも来るがいい。
「ちょっと待って、エンドフェイズに《グリーン・サイクロン》発動。」


グリーン・サイクロン 速攻魔法
相手の裏側表示の魔法または罠カード1枚を確認する。そのカードが魔法カードだった場合、それを破壊して、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
罠の場合、このカードの効果は無効となる。


「げ。」
濃い緑色の竜巻に、俺の場の《収縮》が発動もできないまま破壊された。・・・しまった、あれくらい何となく読めただろ俺。迂闊だった。
「んで、一枚ドロー。僕のターン、ドロー。メインフェイズ。《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。」
またか。
「バトル、裏守備に攻撃。エヴォリューション・バースト二撃目ぇ!」
裏向きのカードに向けて、機械龍の口から光線が放たれる。だが、その正体は。
「残念だな、《D.D.アサイラント》だ。《サイバー・ドラゴン》を除外させてもらう。」
女の暗殺者はその攻撃を避け、機械龍と共に異次元へと姿を消した。
「やっぱりセオリー通りだ、信じて正解だったよ。ターンエンド。」


鷹野京介
モンスター、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》
魔法・罠、無し
手札、三枚

葵博史
モンスター、無し
魔法・罠、無し
手札、四枚


「何も出さない、か。珍しいな。事故か?俺のターン、ドロー。」
ドローカードは、《神の宣告》だ。一撃必殺の攻撃力を持つあのサイバー系中心のデッキでコストがでかいこれを乱発するわけにもいかない。だが、その一撃を編み出すキーカードを潰せる可能性も同時にある。決して悪くはない。
俺はそう思いつつ、《神の宣告》を伏せながら、考える。
何も出さない、というのは逆に《冥府の使者ゴーズ》を手札に持つという可能性もある。ったく、《死霊騎士デスカリバー・ナイト》さえいれば気楽に攻撃できたのによ。
俺の手札の三枚、《シールドクラッシュ》《異次元の女戦士》《クリッター》だが、さて・・・。
「スタンバイ、メインで《クリッター》を召喚。」
破壊されてもアドバンテージが取れる《クリッター》でいく。返しのターンに《ライトニング・ボルテックス》でも使われたら困るからな。
「《クリッター》で攻撃、そして《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で攻撃。」
「はぅ。」
三つ目の引っ掻きと機械龍の光線、どちらも葵はそれを受けるだけだった。

葵博史:LP3000

また動かない。動けない?どっちだ?何となく、違和感を覚える・・・。
「ターンエンド、だな。」
俺は自分の場の《神の宣告》を見ながらエンドの宣言をする。
「僕のターン、ドロー。さて、それじゃそろそろ行動しようかな。《精神操作》を発動するよ。対象は《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》」
「何?《精神操作》?」
見えづらい何本もの糸が車輪の連なった機械龍に絡みつき、葵の場に引き寄せた。
相手フィールド上のモンスター一体を一ターンコントロールを奪う通常魔法。だが、生け贄にはできず攻撃宣言もできない。しかし、生け贄以外なら運用はできる。例えば墓地に送る、とか。
「読めたぜ。大方《サイバー・ヴァリー》第二の効果ってところだろ。確かにあれなら生け贄じゃないからな。」
「やだなー、サイバー流後継者の僕がそんな凡人並な手でいくと思ってるの?」
いや、十分立派な戦法だと思うのだが。ってちょっと待て、他に使い方があるのか?
待てよ、さっきあいつ、《D.D.アサイラント》の除外の時に信じて正解だった、と言っていたな、考えてみればすげぇ不自然な言葉だ。ってことは今からの行動に関係がある?そもそも何故あいつは《サイバー・ドラゴン》で《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃をしなかった?融合モンスターをワザと残したってのか?・・・まさか!
「自分フィールド上で表側表示で存在する融合モンスター1体を融合デッキに戻すことで
《次元誘爆》を発動!」
ちっ、やっぱりか。自分の場の融合モンスターを融合デッキに戻し、除外されたお互いのモンスターを二体まで場に戻す速攻魔法。確かに生け贄ではない。
葵の場にいた《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が爆発する。その衝撃かどうかは知らないのだが、葵の場に《サイバー・ドラゴン》が二枚、俺の場に《D.D.アサイラント》が帰還した。とりあえず俺は守備表示にしておく。念のためだ。
「さあいくよ!《パワー・ボンド》発動!」
二体の《サイバー・ドラゴン》が合体を始める。だが、これを許したらこれからの展開がかなり厳しくなるだろう。
「生憎だな、俺は空気を読める男じゃない。《神の宣告》!」
《パワー・ボンド》は無効となり、《サイバー・ドラゴン》は合体を止めた。

鷹野京介:LP4000

ここでライフを4000失うのは痛い。だが仕方ない。もしあいつの手札に《シールドクラッシュ》等のモンスター破壊があれば、俺は一気にやられる。迷わず発動。流石に二枚目はないと信じて。
「んー・・・《融合呪印生物−光》を召喚。」
融合いらずで融合するあのモンスター、か。
「《融合呪印生物−光》の効果発動!フィールド上のこのカードを含む融合素材モンスターを生け贄に捧げる事で、光属性の融合モンスター1体を特殊召喚する。当然僕は、《サイバー・ドラゴン》二枚とこのカードを、融合する。出でよ!」


サイバー・エンド・ドラゴン!


こいつのせいでやけに見慣れたモンスターだが、この威圧感はどうしようもない。《サイバー・ドラゴン》が三体連なったものなのだが、大きさが半端ない。あれに見下ろされるのにはどうも慣れない。あの機械的な雄叫びも、また威圧感を増大させる。
「《クリッター》に攻撃!」


――――エターナル・エヴォリューション・バースト――――!!


葵の声が空に響く。これが出ると、普段のお前のどこからあんな声が出るんだというほどの声を出すからな、あいつ。
しかしそんなことを考えている暇はない。
巨大な三頭の機械龍から放たれた巨大な三つの光線は絡み合い、一つになる。
それは俺の場の三つ目の毛玉を粉砕した後、俺もそれに飲み込まれた。
「うおおおおおおぉぉぉ!!」

鷹野京介:LP1000

俺の《クリッター》は最近災難極まりない。だが、こいつは自分自身を散らせてこそ真の力を発揮する。
「俺は《クリッター》の効果で、《N(ネオスペーシアン)・グランモール》を手札に加える。」
まさに空気の読めないカード、俺は現実主義なんだよ。
「うん、おっけ。僕は一枚カードをセット、ターンエンド。」


鷹野京介
モンスター、《D.D.アサイラント》
魔法・罠、無し
手札、三枚

葵博史
モンスター、《サイバー・エンド・ドラゴン》
魔法・罠、伏せカード一枚
手札、無し


「俺のターン、ドロー。」
ドローカードは、《洗脳−ブレインコントロール》か。これで《サイバー・エンド・ドラゴン》を奪って・・・だが待て。あいつの伏せカードは何だ?
いや、悩む必要なんてないな。
「スタンバイ・・・俺はメインで《サイバー・エンド・ドラゴン》を対象に《洗脳−ブレインコントロール》を発動する。」
「えぇ・・・しょうがないなぁ。」
巨大な機械龍がゴゴゴゴと地鳴りをあげながらこちらの場に移動した。
「っしゃ、終わりだ。バトルフェイズ・・・。」
「待って待って、バトルフェイズに入る前にリバースカードオープン!《威嚇する咆哮》!」
「げ。」
葵の場の罠が面を上げる。その罠の中から発せられる風と共に聞こえる何かの咆哮に、俺の場のモンスターは攻撃ができなくなる。
しまった、そうきたか。
「メイン2・・・。」
俺は力なくぼんやりと手札を眺める。手札・・・。
「・・・ん?」
・・・ちょっと待て、これがあったじゃないか。気が付けよ俺。
「《サイバー・エンド・ドラゴン》を守備表示に変更、そしてこいつを対象に、《シールドクラッシュ》を発動!」
考えてみればこいつは、『相手の』とはどこにも書いてなかった。つまり自分の場も可能。
守備体制を取った機械龍が、粉々に砕けた。
「ん・・・そうくるんだ。」
「ターンエンド。」
「むう・・・ドロー。」
葵はそのカードを確認やいなや、デッキの上に手を置いた。サレンダーか。
「流石に《オーバーロード・フュージョン》は引けなかったよ。もっとサイバー流に磨きをかけないと。」
葵が引いたカードをこちらに見せる。《パワー・ボンド》だった。
葵博史:LP0



三章 Sacred Phoenix of Nephthys様

決闘は、何事も起こらずに終わった。ああ、いつも通り。
「あー、僕もまだまだだ。ちょっとドローの特訓でもしてるよ。」
地面に大の字で転がっていた葵が、勢いよく起き上がり、壁にもたれかかれる位置まで移動していった。ドローの特訓て。
「さて、俺も少し休憩するか・・・集中力を使いすぎた・・・。」
決闘盤を腕から外し、俺はその場に座り込んだ、その時。
「でっきたーーーーーーーーーーっ!ネフスネーク!《邪龍アナンタ》の能力によりネフティス様の効果を最大限に発揮!そしてネフティス様の効果でがら空きになった相手に《邪龍アナンタ》のワンパンチ!これは斬新なデッキね!」
鳥海の壮快な大声が聞こえた。見ると、鳥海の周りの地面には数枚もの何かを記した紙が散乱していた。
あいつ、一気にデッキを構築したのか・・・。紙にはそのデッキに関するデータが豊富に記してあるのだろう。
「まあ今はカードが足りないから構築できないけどね!」
空に向かって鳥海は言った。誰に言ってるんだ。
「・・・あれ、部長。私とデュエルするって言ってなかった?こっちも大会用デッキの調整したいし、やる?」
言ったのはどれくらい前だと思ってるんだ。もしやこいつはワザと言ってるんじゃないだろうか。
「悪い、さっきまで葵とデュエルしてたからな、少し休ませろ。」
「えー、大会までの練習量が足りなくて私が負けたら部長のせいだよー?」
そう言いながら、鳥海が俺に迫る。
屁理屈とかそういう次元じゃない。言いがかりだろこれは。
「隆至君と沙夜ちゃんもデュエル中だし・・・何でこの部活は五人なのー?」
「俺に聞くな。俺が聞きたいわ。」
何で鳥海は葵には話しかけないのかと思い葵の方を見ると、先程のデュエルの結果からデッキを再調整しているようだった。話しかけるのは悪いか。というかドローの特訓はどうした。
「しょうがねぇなぁ・・・じゃあ俺が相手して・・・って、あれ?」
後ろにあったはずの決闘盤に手を伸ばしたが、そこには何も存在していなかった。
その代わり、人間の足が。青いジーンズだ。
「何してんすか先生。」
その上を見ると、いつの間にか存在していた江永先生が決闘盤を左腕に装着していた。
「見ての通り、デュエルの準備よ。何か問題でも?あ、装着の仕方ってこれで合ってるわよね?」
先生はそう言って、装着した決闘盤を見せびらかすように見せてきた。
「合ってますけど・・・デュエルできましたっけ先生。」
あまり色気とか感じさせない性格と口調と服装だが、普通に女性だし、三十路に近くも遠からずというところだし。よくてルールをちょいと知っている程度のレベルだと思っていたのだが。
「ふっふっふ、私を甘くみないことね。大人限定遊戯王大会に度々出現する流浪の女決闘者とは私のことよ!」
当然聞いたことない。思わず鳥海の方を見たが、鳥海も首を横に振るだけだった。
「あの・・・先生、無理しなくていいっすよ。別に俺がやりますんで・・・。」
「さあ鳥海!デュエルを始めるわよ!」
聞いちゃいねぇ。
「え・・・あ、はい。」
先生に勢いよく指され、さすがの鳥海も少し戸惑っているようだったが、断る理由もないので、鳥海は決闘盤を構えて、数歩後ろに下がる。
おいおい・・・大丈夫か?主に先生が。


「決闘っ!!(デュエル)」


二人の声が重なる。始まりの時のこの声って、絶対重なり合うよな。
「私の先攻だな。ドロー!・・・ふっふっふ、《魂を削る死霊》を攻撃表示で召喚よ!」
鎌を持ち、骸骨の頭を持つ死霊が出現した。戦闘では破壊されず、手札を刈る能力もある強力なモンスター。
だが・・・攻撃表示!?
「私はカードを一枚伏せて、ターンエンド。」
「あの・・・先生?何で攻撃表示なんですか?」
おそるおそる、鳥海が聞く。
「何でってそりゃあ、戦闘で破壊されないからに決まってるじゃない?」
「いや、その・・・。わ、私のターン、ドロー。」
説明するのが面倒になったのか、鳥海は自分のターンに移った。まさか先生、戦闘破壊耐性があるからって戦闘ダメージを受けないとでも思っているんじゃないだろうな。どこのトメさんだ。
「私は手札から、《ゾンビ・マスター》を召喚。バトルフェイズで死霊に攻撃します。」
ボロボロの布きれを羽織った死者のような男が地面から現れた。
容赦ねぇな鳥海。
「ふっふっふ、かかったわね鳥海!戦闘で破壊されない攻撃表示モンスターが攻撃されてもダメージは受ける、私がそんなことすら知らないと思って!?」
「え、ええっ!?」
あからさまに驚く鳥海。この二人は見ていて飽きない。
「リバースカードオープン!《死のデッキ破壊ウイルス》発動!」
先生の場の死霊が軽く爆発し、中から真ん中に『死』の文字が入った紫色のウイルスが蔓延して、鳥海の場、手札に及んだ。
鳥海の場の《ゾンビ・マスター》が崩れるように土に還り、そして鳥海の手札から三枚のモンスターが落ちる。
「これで鳥海、貴方の手札は二枚ね。いやー、先生ちょっと大人気なかったかな?」
「いえ、あの、先生?さっき落ちたのは・・・。」
「何?ターンエンド?」
「え、えーと・・・ターンエンドです。」
先生のあの様子からすると、アレを知らないのはマジか・・・。


江永黒葉
モンスター、無し
魔法・罠、無し
手札、四枚

鳥海亜衣紗
モンスター、無し
魔法・罠、無し
手札、二枚


「さあ私のターンね!ドロー!《黒蠍−棘のミーネ》を召喚!ダイレクトアタック!」
茶髪の女性が持つ茶色のトゲ付きの鞭が鳥海に向けて振るわれた。
「あっ・・・。」
妙にリアルに見えるそれは、本当に痛みがありそうで少し怖い。

鳥海亜衣紗:LP7000

「《黒蠍−棘のミーネ》の効果でデッキから《黒蠍−棘のミーネ》を手札に加え、ターンエンドよ。どうしたのどうしたの?もう終わり?」
「私のターン、ドロー。」
鳥海は他から見ても分かるくらい、笑いを堪えていた。そりゃそうだよな・・・。
ドローカードは《馬頭鬼》。攻撃力は1700、ウイルス効果によって墓地に送られます。そして・・・スタンバイフェイズ!」
いつも通りの軽快な声と共にスタンバイフェイズに入る鳥海。この調子でスタンバイフェイズに入る時は決まってアレだ。


ネフティスの鳳凰神!


ネフティスの鳳凰神!!


ネフティスの鳳凰神!!!






――――特・殊・召・喚――――!!






突如姿を現す三体の炎を纏った神鳥。三体もいると目がおかしくなりそうなほど眩しい。
「ふ、え、ええええええええ!?ちょ、何でぇ!?」
「先生・・・《死のデッキ破壊ウイルス》は手札のモンスターも『破壊』するんですよ・・・ネフティスの効果の条件、満たしちまうんです。」
鳥海は恍惚な表情を浮かべて、他の世界に飛んでいるようなので変わりに俺が明らかに狼狽している先生に説明しておく。
「・・・マジッスか。?」
「マジッス。」
先生がどうしても信じたくないかのような顔で俺に訴えてくるが、どうしようもないものはどうしようもない。現に決闘盤は処理をきちんと行っている。
しかし初手に三枚も手札に持っているとは流石と言うべきか・・・。
「《馬頭鬼》の効果発動ー。墓地の《馬頭鬼》を除外して、《ゾンビ・マスター》を墓地から特殊召喚!」
墓地から土を掘り起こし、ゾンビは蘇る。もっともこの場には似つかわしくないのだが。
「《ゾンビ・マスター》で《黒蠍−棘のミーネ》を攻撃っ!」
ゾンビ・マスターが地面に両手を当てると、ミーネの周りに無数の骸骨が現れ、ミーネを土の中に引きずり込んだ。

江永黒葉:LP7200

「そしてぇ、ネフティス様三体で、ダイレクトアタァッーックぅ!」
「ちょ、ちょっと待ってえぇーーーーーーーーーー!!」
先生が三体の炎の鳥の突撃をまともに受けた。《冥府の使者ゴーズ》は、ないか。よかったな鳥海。
火葬された江永先生。南無。

江永黒葉:LP0

「く、くぅ・・・せ、先生油断しちゃったわ・・・もう一度、もう一度よ!」
攻撃の反動で横たわっていた先生が、ライフが0になると同時に起き上がり、人差し指を立てながら、先生は言った。しかし立ち直りが早いな。
「いいですよ〜♪」
ご満悦の様子の鳥海。今のこいつなら何回でも勝負してくれそうな気がする。






「《ゾンビ・マスター》の効果でコストに使った《ゾンビ・マスター》をそのまま出して《ゾンビ・マスター》の効果で《ゾンビ・マスター》を出して《ゾンビ・マスター》の効果で《ピラミッド・タートル》を出して、全軍攻撃ー。」
「ちょ、くぅ!もう一回!」



「《ネフティスの導き手》の効果で《ネフティスの鳳凰神》を特殊召喚、《早すぎた埋葬》で《ネフティスの鳳凰神》を特殊召喚、《リビングデッドの呼び声》で《ネフティスの鳳凰神》を特殊召喚〜♪全軍突撃ー!」
「はいいいいぃぃ!?も・・・・もう一回!」



「《ネフティスの導き手》の効果で《ゴブリンゾンビ》を共に生け贄に《ネフティスの鳳凰神》召喚!」
「《奈落の落とし穴》!」
「《王宮のお触れ》!そして、攻撃!」
「えええええぇぇぇ!?」



「よし、今度こそ!《死のデッキ破壊ウイルス》!」
「あぁ!?私のネフティス様!」
「よし!自己再生する前に倒す!《キラー・トマト》《首領ザルーグ》《魂を削る死霊》でダイレクトアタック!」
「《聖なるバリア−ミラーフォース−》発動。」
「いやいやいやいやちょっとおおおおおおぉぉぉ!」






「ほら、あれよ。私の本当のデッキはこれじゃないのよ・・・うぇ。」
先生が十戦十敗したところで、そう呟きながら地面にぶっ倒れた。精神的疲労と肉体的疲労が一気に来たのだろうか。
負け続けてよくここまで同じデッキで挑戦できるものだ。そんなことをできるのはどこかの世界の凡骨とか馬の骨とかくらいか。下手な発言はやめておこう。
ちなみに先生のデッキはミーネウイルスとトマトハンデスを混ぜたようなものだった。

正直

少し

時代遅れ。
(トマハン使いの皆さん、すいません)



四章 ギガドラゴン

男と女が対峙していた。
女の場は7体もの爬虫類を除外することによって《サイバー・エンド・ドラゴン》をも越える攻撃力を得た《邪龍アナンタ》が一体。ライフは8000。当然、先程の乗り込んできた二人の片割れ。
かたや男の場には裏守備が一体。ライフは今や2500まで落ち込んでいる。しかし女は余裕の表情一つを見せることすらできなかった。何故かは分からなかった。だが、急いで倒さなければならない、そんな予感がしていた。
「くそっ・・・《邪龍アナンタ》で裏守備に攻撃!」
「《スフィア・ボム 球体時限爆弾》だ。」
大蛇の腹部に、黒い球体がへばりついた。
「ちぃっ・・・《大嵐》!」
荒れ狂う風により、スフィア・ボム大蛇に張り付いていることができず、遙か彼方に吹っ飛ばされた。
「く・・・エンドフェイズに《邪龍アナンタ》の効果発動!その伏せてある一枚のカードを破壊する!」
男の場の裏側で存在していた《ディメンション・ウォール》が大蛇によって飲み込まれた。
「その程度か。・・・カードを三枚伏せ、ターンエンド。」
「く・・・ぶ、部長・・・。」
女が横を向くと、それはこちらよりも遙かに凄惨な状況だった。
「ヒャッハァ!《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》二体の効果で《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)》を二体特殊召喚!さらにぃ、《龍の鏡(ドラゴンズミラー》!墓地の《神竜 ラグナロク》と《融合呪印生物−闇》を融合!《竜魔人 キングドラグーン》特殊召喚ん!」
「嘘だろ・・・・。」
男の場の伏せカード、《炸裂装甲》と《次元幽閉》が完全に封じられる。
「ドラゴン軍団で攻撃ぃ!」
「くそっ・・・俺のハイビートとは違う・・・攻撃力が・・“ハイ”どころじゃない・・メガ・・・・ギガ!?くそっ・・・!」
男が、巨大なドラゴン五体に押しつぶされた。

男:LP0

「部長!くそぉ・・・《邪龍アナンタ》で攻撃!」
「リバースカード、《魔法の筒(マジック・シリンダー)》」
「えっ!?くぅっ!」
大蛇の頭が筒の中に入ったかと思ったその時、もう一つの箱から出現した筒から大蛇の頭が飛び出て、女に攻撃した。

女:LP3800

「くう・・・え、エンドフェイズに《邪龍アナンタ》の効果でその右側のカードを破壊!」
男の場の《死霊ゾーマ》が大蛇に飲み込まれた。だが。
「エンドフェイズ、《死霊ゾーマ》を発動・・・。」
「な・・・二枚目!?」
「俺のターン、ドロー。《死霊ゾーマ》を攻撃表示に変更、バトルフェイズ、《死霊ゾーマ》で《邪龍アナンタ》に攻撃。」
攻撃力が4200まで膨れ上がった大蛇は、その死霊を返り討ちにする。だが、その死霊は再び復活し、大蛇を通り抜け、女に食らいついた。
「う、うああああああぁぁぁぁ!!!!」

男:LP100

女:LP0

「脆い・・・。」
マントのような大きな黒いコートに黒い服、靴。闇に溶け込むような服装の男が、女を見下ろしながら言う。
「ヒュー、宝明(ほうめい)君、お得意の《死霊ゾーマ》自爆特効!相変わらず陰湿だねぇ。」
はやし立てるように、青いマントの男が言った。その下はTシャツ一枚と軽装。
「こいつらは何だ?決闘盤を持つ意味はあるのか?弱すぎる・・・。」
「こいつらから喧嘩売ってきたのにねぇ。ま、俺様が強すぎる、って奴だな。」
やれやれと言った様子で、言った。
「こんな程度じゃこの辺のレベルも知れてるぜ。っと、せっかくだから・・・。」
「神賀(かみが)、俺たちの目的を忘れるな。」
「へいへい、『あの』大会に出場する権利を持つ奴等の実力を見てくる、だろ?誰か適当に行ってきてカメラでも撮らせときゃいいんだよ、ったく・・・。」
そう言って、神賀と呼ばれた男はズボンのポケットから『星堺高校』と記してある一枚の紙切れを取り出し、見た。
「ハッハァ・・・。」
そして、その紙を握りつぶした。


「もう暗くなってきたな・・・そろそろ今日の部活は終了か。」
「ん?もうそんな時間?早いねー。」
山に沈もうとしている夕日を見ながら鳥海は言った。
「とりあえず鳥海、まだ寝てる先生を起こしておいてくれ。このままじゃ朝まで寝そうだからな。」
「りょーかいしましたぶちょー。」

部活が終わる時間は、いつも適当だ。ただ、暗いとカードのテキストが読みづらくなるので、誰かがもう終了する発言をした時に部活が終わるといっても過言ではない。
というわけで今回もいつも通りお開きになり、帰路。
「で、《スネークポット》と《グラナドラ》持ってないかな部長。」
「ねぇよ。キーカードが足りないのによく制作する気になったな・・・。」
いつも通り、鳥海と帰路に着く。白瀬と飛鳥井は当然のように高そうな車で帰っていくし、葵の家は学校の近くだ。
いつも通りの、変わらぬ風景、のはずだった。
「とりあえず帰ったら爬虫類関係のカード探しといてね!わかった?」
「へいへい。じゃあな。」
いつもの場所で、俺と鳥海はそれぞれの道を行く。そして、自分の家までは数分かからない、はずだった。俺はいつも通り近道の為に公園の真ん中を横切る。
「・・・ん。」
目の前に、一人の人間がその公園の真ん中で仁王立ちしていた。体中を覆えるほどの大きな青いマントで身を包んだ、男が。俺よりもやや大きい。190センチに届くか・・・。それよりも何だこいつは、変質者か。いずれにせよ俺には関係ないし向こうも関係ないと思っているだろう・・・。
そんな俺の認識の甘さを、思い知らされた。
「鷹野京介、星堺高校三年生、十数個のデッキを常に持ち歩く、一つのコンセプトに固執しない、1killからロックまで何でも使う決闘者。染まりやすく飽きやすいともいう、か。」
俺がそいつの隣を通り過ぎようとした瞬間、そいつは俺にも聞こえるようにそう言った。
「・・・何だお前。何で見ず知らずの男が俺のことをそこまで知って・・・なっ!?」
突然、スポットライトのようなものが周りから俺と男を照らし出した。
何だ、こいつ・・・ここまで準備してやがったのか・・・?
「ハッハァ!来栖(くるす)の情報は相変わらず恐ろしいねぇ!さて、鷹野とかいったな!?」
誰も名乗ってないのだが。
「受け取れぇ!」
「うお!?」
男がいきなり俺に投げてきたそれを俺は反射的に受け止める。
それは、決闘盤だった。
「さあ、決闘の時間だぜぇ。構えな!」
「おい、ちょっと待て、一体何の真似だ。」
「安心しなぁ、この決闘で負けてもお前は何も失わないからよぉ!」
いや、そんなことを聞いてるんじゃない。決闘者にはこんな奴もいるのか。世の中は広い。・・・それよりもこいつ、何で俺が自分の決闘盤を持ってないってこと知ってんだ?
「まあ、俺の決闘を受けないと何かを失うかもしれないがなぁ・・・。」
軽く脅しまで入ってきた。
「・・・ちょっと待ってろ、デッキを出すから。」
「おいおいおい!いつも腰にデッキを一つ装着しておく!それが決闘者ってモンだろうがぁ!?」
男がお前は決闘者失格だと言わんばかりの勢いで言う。俺はそんなことは知らん。いつもデッキを持ってるってだけで十分だろうが。
「うっせーな・・・俺が勝ったら、さっと帰れよ。」
とりあえずさっさと終わらせるために、今俺の一番自信のあるデッキを取り出した。
そして、お互いは軽くデッキをシャッフルする。
「で、お前は一体何なんだ?名前くらい名乗れ。」
「ハッハァ!神賀 仁(かみがじん)だ!忘れられないよう、頭に焼き付けてやるぜぇ!」
お互いは己のデッキを決闘盤に装着、そして。


「決闘(デュエル)!!」


先攻を示すランプは、俺の方が点滅していた。
「俺の先攻か、ドロー。」
《E・HEROエアーマン》か。デッキもこいつを早く遠ざけろ、と言っているようだ。
「メインフェイズ!《E・HEROエアーマン》を召喚!」
背中から生えた機械のような羽に、扇風機のような物体が二つ付いたHEROが、出現する。
良い回りだ、さっそくデッキの主が手札に加わった。
「《E・HEROエアーマン》の効果により『HERO』と名の付くモンスター・・・《D−HERO Bloo−D(デステニーヒーロー ブルーディー)》を手札に加える!」
「ヒュゥ!なかなか上等なカード持ってんじゃねぇか!」
「カードを一枚セット、ターンエンドだ!」
こんな奴さっさと倒して帰りたいものだ・・・。
「俺様のターン!ドロー!スタンバイ、メインフェイズ!永続魔法《未来融合−フューチャー・フュージョン》はつどおぉ!!《F・G・D》を指定するぜぇ!俺様はデッキから《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》《タイラント・ドラゴン》《青氷の白夜龍》《青氷の白夜龍》《青氷の白夜龍》を墓地に送るぜえええぇぇ!!!」
「なっ・・・!?」
最上級のドラゴン族ばかり・・・なんて無茶なデッキ構成だ!?
「さあいくぜぇ!《デコイドラゴン》を召喚!そして《デコイドラゴン》をゲームから除外!さあ来いぃ!《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》特殊召喚ん!」
全身が機械のような金属に覆われた、大きな黒竜が出現した。
「《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》の効果発動!俺様の墓地に存在する《青氷の白夜龍》を特殊召喚するぜぇ!」
「一ターン目から最上級が二体!?マジかよ・・・。」
どこぞのお嬢様と戦略がそっくりだ。そのおかげか、俺は驚きながらも思ったより平常心を保てている。
「《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》で《E・HEROエアーマン》に攻撃ぃ!」
「ぐっ!」
黒竜から放たれた巨大な火球によりエアーマンは炎上、破壊される。

鷹野京介:LP7000

「そしてぇ、《青氷の白夜龍》でダイレクトアタックぅ!」
「それは通さねぇ!速攻魔法《スケープ・ゴート》発動!」
青、黄、オレンジ、ピンクの四体の小さな羊が俺の前に出現した。
「ヘッ、なら羊を一体破壊だ!」
ピンク色の羊が、吹雪のような強大な息により、消滅した。
これで、いい。むしろこれが狙い・・・。
「カードを一枚セット!ターンエンドだぜぇ!」


鷹野京介
モンスター『羊トークン(青)』『羊トークン(黄)』『羊トークン(オレンジ)』
魔法・罠、無し
手札、五枚

神賀仁
モンスター《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》《青氷の白夜龍》
魔法・罠、伏せカード一枚、《未来融合−フューチャー・フュージョン》
手札、二枚


こいつは、俺が想像していたよりも遥かに強い決闘者のようだ。人は見かけによらない・・いや、こんなんだからこその強さというものもあるのかもしれない。だが・・・・!
「俺のターン、ドロー!」
ドローカードは、《ダンディライオン》か。今は役には立たない。・・・壁程度にはなるか。
「スタンバイ、メイン!三体の羊トークンを生贄に!《D−HERO Bloo−D》を特殊召喚だ!効果発動!《青氷の白夜龍》を吸収!」
「いいぜぇ?」
氷の龍は、Bloo−Dの巨大な翼に吸収された。これにより、《青氷の白夜龍》の半分の攻撃力を得た《D−HERO Bloo−D》の攻撃力は3400。
「《D−HERO Bloo−D》で《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を攻撃!


――――ブラッディ・フィアーズ――――!!


神賀の場の黒竜はBloo−Dによって放たれた血の千本に、倒れた。

神賀仁:LP7400

「モンスターを一枚セット、カードを一枚セット、ターンエンドだ!」
「ハッハァ!その程度か!甘い!甘いぜえええぇぇぇ!!俺様のターンだ!ドロー!」
青眼をも凌駕する攻撃力を前に、神賀は全く怯むことも、迷うこともなくターンを進める。
「メインフェイズ!魔法を発動するぜぇ!《龍の鏡》!そしてぇ、墓地の五枚のドラゴンを除外!出てきやがれ!」
ドラゴン族を相手にするときは、常にこのカードを警戒しなければならない。墓地に五体のドラゴンが存在するだけで、圧倒的な存在が降臨するのだから・・・。



F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)!



巨大な龍が、出現した。五つもある首はそれぞれ地・水・炎・風・闇の属性を表していた。
神をも越える、その攻撃力、5000。
「攻撃だぜえええぇぇ!」
五つの首からそれぞれの属性の光線が吐き出され、それらは一つとなり俺の場のBloo−Dを襲う。だが、攻撃力がいくら高くても所詮モンスター。
「甘いのはお前だ!リバースカード、《聖なるバリア−ミラーフォース−》!」
Bloo−Dの周囲に光り輝くバリアが生まれた。それにより攻撃は跳ね返され、《F・G・D》は自分の攻撃に飲み込まれ、消滅した。確かに、消滅したんだ。
「あぁ?誰が甘いって?」
強大な攻撃によって消滅したはずの巨大な五つ首の龍が、再びそこにいた。
「な・・・・。」
神賀が最初のターンに伏せていたカードが表になっていた。《リビングデッドの呼び声》が。
「バトルフェイズは続行!《F・G・D》の攻撃だ!くらいやがれえええぇぇ!!」
再び、Bloo−Dに攻撃が襲う。だが、それを守る術はもう存在しない。
「ぐあっ!」
攻撃の余波が、凄まじい。吹き飛ばされそうなほど。

鷹野京介:LP5400

「カードを一枚セットして、ターンエンドだぜえええぇぇ!!」


鷹野京介
モンスター、裏守備一枚
魔法・罠、無し
手札、三枚

神賀仁
モンスター《F・G・D》
魔法・罠、伏せカード一枚、《未来融合−フューチャー・フュージョン》
手札、一枚


まずい、あいつは除去しないと・・・次のターン、二体も攻撃力5000を並ばせるわけにはいかない・・・!頼むぞ!
「ドロー!」
豪風と共に現れし、風を司る帝。
「スタンバイ、メインフェイズ!」
調子は良好、今日一番の引きの良さ!
「裏守備の・・・《ダンディライオン》を生け贄に!《風帝ライザー》を召喚!」
緑色の、風を象徴する鎧に包まれた大男が現れる。その両手から発せられた強風が巨龍を飲み込み、空の彼方へ吹き飛ばした。
《風帝ライザー》の効果。それはフィールド上モンスター一体をデッキの一番上に送る能力。
「さらに《ダンディライオン》の効果発動!俺の場に二体の『綿毛トークン』を守備表示で特殊召喚!」
綿毛に、怒った顔と笑った顔が付いたようなモンスターが二体俺の場に出現した。攻守共に0だが、壁にも生け贄にも使える。
「バトルフェイズ!《風帝ライザー》でダイレクトアタック!」
帝から放たれた風の刃が、神賀を直撃した。

神賀仁:LP5000

「カードを一枚セット、ターンエンドだ!」
伏せカードは《リビングデッドの呼び声》。今はあまり使えないブラフ当然のカードである。だが、多少の威嚇にはなるはず・・・。
「俺様のターンだ!あめぇよ!そんなチンケな単体除去で、この俺様を止められるかああああぁぁぁ!!ドロー!スタンバイ!《未来融合−フューチャー・フュージョン》の効果により!再び来やがれ!《F・G・D》!」
三回連続の攻撃力5000。圧巻だ。一見滅茶苦茶だが、その猛攻は一瞬にして相手を葬り去るほどの力を持つ・・・。さあ、来るか・・・。
「攻撃だ!」
迷わねぇ!?
「かはっ!」
その巨龍が吐いた光線は、俺の場の帝を粉砕し、俺に直撃した。

鷹野京介:LP2800

「もう終わりか?終わりだな!?終わりだぜえええぇぇぇ!!!」
神賀はその狂気とも呼べる声と共に、リバースカードを発動させる。
「なっ!?」
「ライフを半分払い!」


神賀仁:LP2500


・・・予想はできていた。心のどこか、片隅で。



だが、こう都合よくそのカードが来るなんて、考えもしていなかった・・・・!!




「《異次元からの帰還》発動だ!いくぜええええええぇぇ!!!異次元の彼方から再び場に舞い戻れ!ドラゴン共おおおおぉぉぉ!!!」


《タイラント・ドラゴン》!

《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)》!

《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)》!

《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)》!


一気に四体の最上級ドラゴンが神賀の場に出現した。
「《タイラント・ドラゴン》!効果により、二回攻撃だぜえええぇぇ!!」
俺の場の二体の綿毛が、その吐かれた業火により消滅した。
「終わりだあああぁぁぁ!!!《青氷の白夜龍》で攻撃!」
くそっ・・・負けたくねぇ!・・・負けねぇ!!
「リバースカードオープン!《ダンディライオン》を対象に、《リビングデッドの呼び声》!」
「戦闘は続行だあああぁぁぁ!!!」
《リビングデッドの呼び声》は、必ず攻撃表示で特殊召喚しなければならない。故に、戦闘ダメージは・・・。
「ぐあああぁぁっ!!」
絶対零度の息により、ダンディライオンもろとも俺に攻撃が直撃する。

鷹野京介:LP100

「だ、《ダンディライオン》の効果・・・二体の『綿毛トークン』を生成・・・。」
「《青氷の白夜龍》共ぉ!その雑魚を蹴散らせぇ!」
出現した綿毛も、圧倒的な攻撃力の前に消滅した。
「しぶとさだけはそこそこあるようだなぁ?カードを一枚伏せ、ターンエンドだぜぇ。」
《異次元からの帰還》の効果により、四体のドラゴンは煙が消えるように異次元の彼方へと消え去った。


鷹野京介
モンスター、無し
魔法・罠、無し
手札、二枚

神賀仁
モンスター《F・G・D》
魔法・罠、伏せカード一枚、《未来融合−フューチャー・フュージョン》
手札、一枚


「く・・・そ・・・俺のターン・・・。」
何を引けば、これを逆転できる?・・・迷うな、運が逃げる。ただ俺は、デッキを信じて引くだけ。
「ドロー!」
・・・くそ、駄目だ!これではその場しのぎにしかならない・・・。
「メインフェイズ、モンスターを一枚セット、ターンエン・・・。」
ちょっと待て・・・これだけじゃ駄目だ!虫の知らせというやつか、これが。
「まだだ、手札から《増援》を発動!デッキからレベル4以下の戦士族モンスター・・・《マジック・ストライカー》を手札に加える。そして墓地の魔法カード、《増援》を除外し、《マジック・ストライカー》特殊召喚する!ダイレクトアタックだ!」
玩具のような、子供のようなその容姿を持つ戦士は、《F・G・D》をも飛び越え、神賀に攻撃をくらわせた。

神賀仁:LP1900

「ターンエンド・・・。」
「やはりしぶとさだけはそこそこあるようだなぁ!俺様のターン、ドロー!リバースカード発動だぜええええぇぇ!!!《闇次元の解放》!次元の狭間より帰還しやがれ!《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》!」
再び、鋼の鎧で覆われた黒竜が歪んだ次元から姿を現した。
「メインフェイズに《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》の効果はつどおおおおぉぉ!!手札より出でよ!《ダーク・ホルス・ドラゴン》!
漆黒の黒炎竜が、黒竜の呼び声により出現した。また、攻撃力3000が・・・こいつのデッキは一体どうなってやがる。
「《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》の攻撃だぜええええぇぇぇ!燃え尽きなぁ!」


――――ダークネス・メタル・フレア――――!!


その灼熱の球により、《マジック・ストライカー》は破壊される。だが、こいつは戦闘ダメージを0にする効果を持つ。ダメージは0・・・だが。
「《ダーク・ホルス・ドラゴン》で裏守備に攻撃いいいいぃぃ!!」
漆黒に染まりし灼熱の炎が、俺の裏守備を襲う。エジプト風の、黒服の男が破壊された。
「くっ・・・《墓守の偵察者》の効果発動!デッキから《墓守の偵察者》を特殊召喚!」
「鬱陶しい!《F・G・D》で攻撃だ!」
二体目の《墓守の偵察者》が散っていくのを、俺は黙って見ていることしかできなかった。
「ターンエンドだぜえええぇぇ!!いい加減に諦めなあああぁぁぁ!!!」


鷹野京介
モンスター、無し
魔法・罠、無し
手札、一枚

神賀仁
モンスター《F・G・D》《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》《ダーク・ホルス・ドラゴン》
魔法・罠《闇次元の解放》《未来融合−フューチャー・フュージョン》
手札、一枚


「誰が・・・。」
諦めるか。デッキには限りない可能性がある。ライフが0になるまでに諦めるなぞ、俺には考えられない。最後までどうなるか分からないからな・・・決闘ってのは!
「ドロー!」
場にカードは無し、手札は一枚、そして今引いた一枚。相手の場には強大な三体。
「・・・っしゃ!」
この状況を打破できるカードが、俺の手札に加わっていた。ドローカードは《死のデッキ破壊ウイルス》、そして手札のもう一枚は出す機会のなかった《クリッター》。
「モンスターを一枚セット、カードを一枚セット、ターンエンドだ!」
バレバレの手だが、あいつの場には伏せカードはない。分かっていても、防げないはずだ。
「俺様のターン!ドロー!バトルフェイズ!その裏守備に攻撃だぜえええぇぇぇ!!」
神賀は少しも躊躇することなく、バトルフェイズに移行、攻撃を行う。
「少しは躊躇しろよ!罠発動だ、《死のデッキ破壊ウイルス》!」
《クリッター》が姿を現すと、その瞬間その毛玉が破裂した。そしてそこから発生した紫色のもやが、神賀の場、手札に及ぶ。
だが、そのウイルスが場のドラゴンを浸食する前に、神賀は動いた。
「ケッ!くだらねぇ、手札から速攻魔法発動、《神秘の中華なべ》!《F・G・D》を生け贄に、ライフを5000回復だぜぇ!」
巨大な中華鍋が出現し、《F・G・D》を取り込み、蓋が閉じる。
その後、様々な食べ物が中から出現し、神賀の上に降り注いだ。

神賀仁:LP6900

くそ・・・だが、構わない!あいつの残りの一枚の手札は《トレード・イン》というのも確認した。そしてお互いの場は全滅、だが!
「俺は《クリッター》の効果により!《N・グランモール》を手札に加える!」
こいつなら、仮に神賀が何らかの手段でモンスターを出しても、対処できる。
「これで俺のドラゴン共の動きを止めたつもりかああああぁぁ!?ターンエンドだああぁぁぁ!!」


鷹野京介
モンスター、無し
魔法・罠、無し
手札、一枚

神賀仁
モンスター、無し
魔法・罠、無し
手札、一枚


「俺のターン、ドロー。」
《D−HERO Bloo−D》か。ここに来て引きが鈍ったようだ。まあこの状況まで持っていけただけ上等だ。
「《N・グランモール》を召喚!ダイレクトアタックだ!」
そのモグラの肩に装着されたドリルが一つとなり、神賀の目の前まで掘り進み、腹に一撃くらわせた。

神賀仁:LP6000

「ターンエンドだ。」
「俺様のタアァァァン!!ドロオオォォォ!」
異常なまでに気合いの入ったドローフェイズだった。
「おい、《死のデッキ破壊ウイルス》の効果だ。ドローカードを見せ・・・。」



・・・何?



しまった、予測できていなかった。・・・いや違う、予測はできた。俺はこのカードの可能性を否定したかっただけなんだ、出てきて欲しくないがために・・・。



俺は・・・俺の敗北は、決まっていた・・?いつから、どこからだ・・・?



「俺様はぁ!ライフを2000払い!《次元融合》を発動だぜええええぇぇぇ!!再び帰還しやがれえええええぇぇぇ!!ドラゴン共おおおおおぉぉぉ!!!」

神賀仁:LP4000

除外されているモンスターを、全て場に戻す魔法カード・・・やられた!
《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》《タイラント・ドラゴン》《青氷の白夜龍》《青氷の白夜龍》《青氷の白夜龍》、五体の最上級ドラゴンが次元の狭間から登場し、神賀の場に集結する。
「終わりだぜええええぇぇぇ!!!全軍、攻撃いいいいいぃぃぃ!!」
全てのドラゴンの攻撃が、俺に向かう。攻撃の一つはモグラが消してくれた。気休めにもならない。

鷹野京介:LP0

「負け・・・た?」
今までに制作した中で、勝率は1位2位を争うこのデッキで・・・。
「くそ・・・デッキの回りが・・・引きが・・・。」
いや、回りは悪くは・・・ない。向こうの運が勝っていただけだ、どう考えても・・・。
「中々完成度が高いデッキだったぜ。だが、使う人間がこれじゃあな。」
先程のハイテンションは、デュエルが終わると同時に終わったようだ。
「神賀・・・とか言ったか、お前一体・・・。」
俺が神賀の方を向いたその瞬間、周りの明かりが途端に全て消えた。
その瞬間、周りが暗闇に包まれる。もうこんな時間に・・・それだけじゃない、今までライトで明るかったところをいきなり暗くされたのだ。目が慣れない・・・!
「おい!待てっ!」
「ハッハァ!今の自分に足りないモノは何か、探してきやがれぇ!それができなければ、大会に来るんじゃねぇぜぇ!肝に銘じておきなぁ!」
「何?おい!それはどういう・・・。」
俺はこれ以上叫んでも無駄と悟る。足音が一気に遠ざかって行ったからだ。
・・・結局、カードを奪ったり、暴行を加えたり、何かを消されたわけでもなかった・・・。
何だったんだ・・・。
だが、俺に足りないもの?


何だ?そんなもの、あるのか?


デュエルをするにあたって、俺に足りないもの、だと・・・?



俺はしばらく暗闇の中を、立ちつくしていた。











・・・その頃。



「嘘・・・な・・んで・・・ネフティス様?ネフティス・・・様ぁ・・・・。」
どうして、どうして?噛み合うはずの全てが、何故ここまで何で噛み合わなかったの?
「《死霊ゾーマ》を攻撃表示に変更。終わりだ。《死霊ゾーマ》で《冥府の使者ゴーズ》に攻撃。・・・《死霊ゾーマ》の効果発動。

宝明峻(ほうめいしゅん):LP100

鳥海亜衣紗:LP0

「脆いな・・・。この程度か?違うな、貴様は変わらなければならない所がある。それに気が付かない限り、貴様に上は目指せない。」
宝明が黒いマントを翻すと同時に、明かりが消えた。
だが、鳥海はそれにすら気づかないかのように、呆然と空を眺めていた。



変わるべき所?



一体、何なの・・・?









「お前の方はどうだった、神賀。」
暗闇の中で、先程の男二人が再会する。
「んー、デッキ構築力、プレイングのセンス、共に俺と同等くらいじゃねぇ?部長としては申し分ないくらいだな。」
「貴様との比較はいらん。ハッキリ言え。」
「・・・ああ、足りねぇ。奴には圧倒的に足りないモノがあった。」
「となると、問題外ということか・・・。」
その漆黒に溶け込んでいる男はそう言うと、歩き始めた。
「まあ、今のところは、な。・・・さて、お前の方はどうなんだよ。」
男について行くように、神賀も歩き出した。
「ああ、どちらに転ぶか分からない、と言ったところだな。」
「は?」
あまりにも奇妙な返答に、神賀は一瞬自分の耳を疑う。
「中々上等な決闘者になるか、そこらの生ぬるい決闘者と同等になるか、ということだ。」
「分かったような分からんような・・・ま、いい。今んトコは驚異でもなんでもないってことだろ?」
「貴様の知能でその程度の理解なら上等だ。」
「テメェの言葉回しを理解する人間の方が異常なんだよ。」
二人の男は、そのまま闇へと消えて行った。



続く...



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