君が笑う時まで
6話〜

製作者:Kunaiさん






第6話「アロエ ――悲しみ」

 ――PM 7:00 幸花高校 保健室


「平見先生、少しは落ち着いたか?」

 そんな腫れ物を扱うような声で聞くなよなぁ、伊吹。そりゃあさっきに比べれば随分マシになったと言えるけど、あたしはまだ動揺したままだった。あんなのを目の当たりにしたら、誰だって動揺するよ。

「あははっ、なんとか大丈夫」

 流すような言葉だけど、今はこんな言葉しか思い付かない。

 ここは幸花高校の保健室。この部屋にいるのはあたしと伊吹、神之崎さんの3人。あのあと刃金沢って奴も近くで倒れているのを見つけ、今は定岡先生がそいつから事情を問い詰めているみたい。

 でもそんな事より、幸恵の様子があまりにも酷かった。泣き方は嗚咽なんてものじゃない。言葉なんかじゃ表現できないくらい、悲鳴みたいな声を出して泣いていた。あたしは20年と10年くらい生きているけど、あんなに泣いて絶望する人間を見たのは――。

「幸恵は? どこにいるの?」

「ここに皆が集まった時、いつの間にか姿を消していたらしい。10分程前に紅が探しに行った」

「そう……」

 あたしが手で涙を拭って立ち上がると、それに気が付いた神之崎さんは覚悟したような表情をしてあたし達の目の前で頭を下げた。その様子にちょっと驚いてしまったけど、伊吹の方は相変わらず表情に出していなかった。

「平見さん、申し訳ない。私の責任だ。あれは私の息子、カダール……。間違いない」

 カダール。

 藤原が消える前、確かにそいつと神之崎さんが話していたのは知っていた。神之崎さんは日本人だけど、奥さんは外国の人だったらしいから英名でもおかしくはない。

「でも10年前、幸恵をあたしに預けた時には奥さんと息子はもう亡くなったって言っていましたよね?」

「そうだ。2人はもうこの世にいない。だが、カダールの意思だけは生きていたんだ……」

「そんな事が」

「あり得るんだ。2人とも、以前に説明した究極のDの事件の事を覚えているだろうか?」

 神之崎さんの言葉に、伊吹とあたしは黙って頷いた。

 半年前の、デュエル・アカデミアで行なわれたジェネックス。あたしは仕事があったから見に行けなかったけど、藤原達は有名なプロデュエリストのエド・フェニックスと会っていたらしく、そこから何か関係するかも知れないと言う事で神之崎さんが教えてくれた事があった。


 ――究極のDの事件。


 極秘に作られた究極のDのカードに破滅の光ってのが宿り、その光の影響を受けた男がカードを奪い、エド・フェニックスの父を殺害するまでに至った事件だったと思う。

「究極のDに宿った破滅の光は遊城十代君によって消滅させられたハズだった。しかし破滅の光は1つだけとは限らない。他に数多の異常事件は何らかの形でその破滅の光が関わっていたと、I2社のペガサス会長から聞いた事がある。そして死者だったカダールもその力を受け、藤原君を狙ったんだろう」

「藤原は、助かるんですか?」

「それはまだ分からない。私もペガサス会長やデュエル・アカデミア本校の校長、デュエル・アカデミア本校消失の事件に貢献したツバイン・シュタイン博士と連絡を取り合っているのだが……」

 藤原を助ける方法はまだ、見つからない……。

「帰って来いよぉ、藤原。幸恵に励まされて嬉しいって、目標に向かう決意が出来たって、言ってたじゃないかぁ……!」




















 ――PM 7:10 幸花町・商店街


 わたしは一生分の涙を流してしまったのかな、と思ってしまうくらいずっと泣いていました。心の中で、時には声に出して「藤原くん助けて」とずっと呼びかけました。何度も何度も呼びかけているのに、誰も答えない。そんな当たり前の事なのに、わたしはすっかり絶望を感じていました。

 でも――藤原くんとの、思い出の場所なら。

 あの公園になら、もしかしたら何かあるかも知れない。ううん、何も無いのは分かっていました。それでもわたしは手当たり次第、何か縋らないと……。

 重い足取りで、わたしは小さな商店街を歩いていました。外は少しずつ暗くなっているので、閉店時間になったお店が目に付きます。


 ――『あの……ボク、何か悪いことやってしまいましたか?』

 幸花町であなたに遭えた時、わたしの事をちょっと警戒していたよね。だけど――


 ――『君の探している、「もう1人の藤原くん」を探してあげること。ボクでよければ、やらせてくれないかな?』

 わたしの探している藤原くんは、あなたのこと。この時からずっと、わたしの事を思い出してくれると願っていたよ。


 ――『病院の時もそうだったけど、遅れちゃってごめん。ここは幸花町じゃないけど……おかえり、ユキちゃん』

 藤原くんがわたしの事を思い出してくれて、一緒にいてくれる事まで約束をしてくれて、とっても嬉しかった。だけどもう、藤原くんは……。


「どうしたの幸恵ちゃん! 目が真っ赤だよ!」

「あっ」

 わたしに声を掛けてくれたのは、ここでお花屋さんをやっている桜田さんでした。若くて綺麗で、いつも元気だから幸花町でもすごく人気のある人です。だけど桜田さんも今日は少し雰囲気が違っていました。桜田さんの顔をよく見ると、眼が微かに赤くなっていたのです。

「ううん、わたしは大丈夫。桜田さんこそ何かあったの?」

「えへへっ、ちょっとね」

 桜田さんは誤魔化すように笑い、自分のお店の方を向きました。お店のシャッターは閉まっており、近くにはバケツやモップが置かれています。それだけなら今は掃除中なのかな、と思えていたかも知れません。

「ひ、ひどい……」

 桜田さんのお店のシャッターにはカラースプレーで幾つもの酷い落書きがされていたのです。その様子に、わたしは思わず目を伏せてしまいました。

「桜田さん、わたしもお手伝いします」

「ううん、ダメダメ。これは私の仕事よ。あなたの仕事は、いつもの元気な幸恵ちゃんになること――ってそうよ、藤原君はどうしたの? 藤原君はユキちゃんに優しいんだから、こういう時こそウ〜ンと甘えなさいっ!」

「っ……う、うん!」

 わたしは出来るだけ表情に笑顔を出して、元気に返事をします。それを見て少し安心してくれたのか、桜田さんはいつもの笑顔で微笑みました。

「ホントに大切にしないとダメよ。あんなに幸恵ちゃんの事を考えてくれている人は他にいないんだから、ね?」

 桜田さんはわたしの頭を少し撫でてお店へと戻りました。

 こんな時でも、藤原くんの事を聞けるのはとっても嬉しかった。この事を聞いた時のわたしの笑顔は、本心からの笑顔だったと思います。それでも……さっきの落ち込んでいた桜田さんの表情が、わたしの心を突き刺したままでした。


 どうしてこんな優しい人を傷つける人がいるの?


 藤原くんだって……藤原くんだって……。


 どうして……。



『夕方のニュースです』



 わたしを振り向かせたのは、電化製品屋さんのテレビから流れる女性アナウンサーの声でした。このチャンネルのニュースはいつも夕食の時に……。

『今朝8時頃、童実野町の路上で4匹の子猫の死体が発見されました。全身に刃物のような物で何度も切り刻まれた跡があり、警察は動物愛護法違反で捜査を…』



 いや……。



 どうして……!



 どうして……!



 どうして……!



「どうしてぇええええーー! いやぁあああああああ!!」

 わたしは頭を抱えて、左右に振ります。でもやっぱり、頭の中にある嫌な事は何1つ離れてくれませんでした。

「幸恵ちゃん!」

 心配した桜田さんが戻ってきましたが、わたしは商店街を逃げるように飛び出してしまいました。人にはぶつからないように、それだけは気をつけて必死で走ります。逃げても、逃げても、逃げても、わたしの頭の中で起きた嫌な事はどんどん拡大されていきます。





 藤原くんを幸花町で見つけた時、とっても嬉しかった。





 藤原くんは、いつも笑顔でわたしと一緒にいてくれた。





 藤原くんが落ち込んだ時は、一緒に支えて前を歩いた。





 藤原くんの事、大好きなのに。





 藤原くんと、ずっと一緒にいたいだけなのに!





 色々な思いが蘇りながらも、やっと藤原くんとの思い出の公園が見えて来ました。わたしは少し疲れてしまったので、ゆっくり歩いて向かいます。あの公園に藤原くんがいるわけない――だけど、わたしは公園へと向かっていました。

「遅いぞ〜」

 公園のベンチには紅ちゃんが座っており、少し微笑んでぴょんと立ち上がりました。紅ちゃんがここを知っていたのは、今年の夏にみんなで花火をしたからだと思います。

「やっぱり来たね、幸恵ちゃん」

「……紅……ちゃん……」

「疲れたんでしょ? そんな幸恵ちゃんには、甘いモノ。はい、コンビニで買った150円のシュークリーム!」

 紅ちゃんがわたしの手に少し大きなシュークリームを置くと、空いた両手でちょっと強引に背中を押してベンチに座らせました。紅ちゃんも、それに続くように座ります。

「ほらほら、食べて食べて」

「紅ちゃん……ありがとう……」

 わたしは紅ちゃんの言われたとおりに袋を開け、シュークリームを口に含みます。


 ……あまい。


 シュークリームって、こんなに甘くておいしかったのかな? わたしはその甘さに、つい自然に緩い表情になってしまいました。

「ぐふふ」

 わたしの緩んだ表情を見られてしまったのか、紅ちゃんはちょっと意地悪な笑みを見せます。それに釣られて、わたしも笑ってしまいました。紅ちゃんの優しさがとっても嬉しくて、笑っているのに涙が出てそうになってしまいます。

「聞いてもいいかな。半年前に行ったジェネックスでさ、私が幸恵ちゃんに『参加メダルの事をまだ悩んでる?』って聞いた時のこと、覚えてる?」

 紅ちゃんは真剣な表情になって聞きました。ジェネックス、参加メダル。確か、デュエル・アカデミア本校舎の宿泊室にいた時です。わたしはその事を覚えていたのでうん、と頷きます。

「その時ね、幸恵ちゃんは『藤原くんと約束した、失敗して嫌われても好きになってもらうように頑張る』って言っていたよ。この時はもちろんそうだし、今回のも幸恵ちゃんの失敗でも何でも無いよ。でも、少し考え方を変えられない? 藤原さんがいなくなってしまったなら、幸恵ちゃんが探してあげればいいのよ」

「でも……藤原くんは……もう……」

 わたしの曖昧な言葉がいけなかったのか、紅ちゃんは少しムッとなってわたしを見ます。

「幸恵ちゃんは本当に藤原さんが死んだと思っているの? 私は藤原さんのただの後輩だけど、そんな事は思っていない。だって私は、藤原さんを信じているから! それなのに、藤原さんの事が大好きな幸恵ちゃんは藤原さんを信じていないの?」

「あっ」

 わたしは藤原くんの事が、好き。なのに、わたしは藤原くんに帰って来て欲しいと願っているばかりでした。藤原くんとこの町で逢えた時も、わたしは藤原くんが自分の事を思い出して欲しいと思っているばかりで、藤原くんのために何も出来ませんでした。それなら今度こそは、わたしが藤原くんを探さないといけません。

「わたし、何をすればいいのかな? わたしに出来る事、あるのかな?」

「実はさっき、私の携帯電話に電話が来たの。定岡先生が車でこっちに迎えに来てくれるって。これからJデュエルハイスクールで何か実験をするみたいだから、その時に幸恵ちゃんの力が必要だって言ってたよ」

「それじゃあ……!」

「まだ分かんないけど、方法があるかも知れないって。でもね、失敗したりうまく行かなくて私達が諦めてしまっても、幸恵ちゃんだけは絶対に諦めちゃダメ。私の許可無く簡単に諦めちゃうんだったら、私が幸恵ちゃんを無理やりタイムカプセルに放り込んで、除外して、サイクロンを使っちゃうんだから!」

 これは最近、紅ちゃんが気に入っている言葉……。

 藤原くんもこの言葉に影響されて、対抗出来るフレーズが無いかと一緒に考えていたよね。2人とも全然思いつかなくて、悔しい思いをしたよね。わたしはその時の藤原くんの本当に楽しそうな笑顔や声を思い出すと、冷え切っていた心が少しだけポカポカと暖かくなってきました。

「うん。ありがとう、紅ちゃん!」

 桜田さんの事やニュースでやっていた事を聞き、悲しい思いをしました。それは今でも、わたしの心には残ったままです。

 でも、わたしはそんな事を出来るだけ忘れるようにしていました。さっきまでの悩みを忘れ、気分屋な人間だと思われるかも知れません。だけどこの事で悩みすぎて藤原くんを放っておくなんて、わたしには絶対出来ません。どんなに嫌な事があっても、藤原くんがいないのはもっと嫌だから。だからそのために、悩むのを辞めて前に進んで頑張りたい。



 藤原くんのために。





第7話「カタクリ ――寂しさに耐える」

 紅ちゃんが来てから数十分後、定岡先生が赤い乗用車でわたし達を迎えに来てくれました。車に乗ってもわたしは何も話す事が出来ず、ただボーっと外の風景を見る事しか出来ませんでした。

 車はJデュエルハイスクールに着き、わたし達はほとんど会話する事無くデュエル場へと向かいました。デュエル場は普通の体育館のような場所でしたが、デュエル場の周りに大型トラック程の機械が2台置かれていました。一体、何に使うんだろう?

「紅ちゃん! 幸恵!」

 その大きな機械の裏側に夏未さんと伊吹くんがいました。わたしが2人を見つけた時は機械との距離がとても近かったので、夏未さんは歩いてわたしの所に来ます。

 わたしは1時間前、みんなに黙って幸花高校を出て行ってしまいました。だからきっと、夏未さんに怒られちゃう……。

「心配したのよ。けど、今は大丈夫そうね」

 夏未さんは笑顔でそれだけを言うと、わたしの背中をトンと叩きます。思いがけなかった言葉に、緊張していた私の気持ちはすぐに解されました。

「紅ちゃんも、ありがと。幸恵を見つけて来てくれて」

「どういたしまして。と言っても、私は何もしてないよ?」

 夏未さんと紅ちゃんは楽しそうに話していました。でもそれは、心の奥にある悲しさを隠すため……。

 伊吹くんはいつもと同じように黙っていましたが、わたしはいつもとの違いを感じずにはいられませんでした。伊吹くんは普段から冷静沈着だけど、今の伊吹くんは氷のように冷たい表情と目をしていました。

 その様子が気になったので伊吹くんに声を掛けようとすると、定岡先生が電子辞書のような物を広げながら来ます。

「遅れてすまなかった、だがやっと準備が整った。神之崎はまだ戻って来られそうにないため、私が今後の事を説明する」

 わたし達がこうして集まっているのは、デュエ研の行事やデュエル大会の為ではありません。今までに見た事もなかった、みんなの真剣な表情と視線が定岡先生へと向います。

「まず、刃金沢から聞いた情報だ。彼は『藤原を追い詰め、激怒させて勝てばお前は強くなれる』と、カダールに言われて実行したようだ。そこから分かる通りカダールは適当なデュエルをした訳では無く、藤原君と刃金沢の敵対関係を理解・利用している事から綿密に計算されて行動していると考えて間違い無いだろう」

 これは藤原くんを奪った人を褒めてしまうのかも知れません。だけど、わたしも定岡先生と同じ事を思いました。きっとあの人は、ずっと前から藤原くんの事を調べて狙っていたのだと思います。

「私と神之崎が情報を集めて分かった事だが、藤原君は今も生存している可能性は高い。これは最近、デュエル・アカデミアで起ったデュエル・アカデミア消失事件に酷似しているためだ」

 デュエル・アカデミアの消失事件。

 この話は最近、神之崎さんから聞いたものでした。デュエル・アカデミア本校に派遣された先生が裏でデュエルによって発生する力、デュエルエナジーと呼ばれる力を生徒から集め、その莫大なエネルギーを利用され校舎ごと異世界へ飛ばされた事件の事です。

「その時と同じように藤原君もデュエルエナジーを利用され、力を極度に吸い取られてしまい、カダールはその藤原君の意識を乗っ取ったんだ。事件内容自体は違うが、デュエルモンスターズの力を利用している事でいくつか共通点もあった。そこで我々は鮫島校長、ペガサス会長、ツバイン・シュタイン博士の3人の協力を得て、この機械を用意した」

 定岡先生がデュエル場に置かれた大きな機械を指差しました。さっきわたしが見た、大きな機械です。

「この機械を通してデュエルエナジーを発生させ、藤原君の体へ直接送りつける。そうする事で藤原君は意識を取り戻せる可能性があると神之崎が報告してくれた」

 …………。

 気のせいかな? 少しだけ、何か気になる事があるような……。

「そしてこの機械をテスト起動させるため、この中で最も良いデータが取れそうな伊吹君と幸恵ちゃんにデュエルを頼みたい」

 その言葉を聞いてわたしはすぐに頷きましたが、伊吹君は別の方向を向いたまま「分かった」と最低限の言葉で了承しました。

「だが問題もある。これはデュエルによって発生するエネルギーを藤原君に送る方法だ。だからデュエルする者からは成功・失敗に関わらず体力を取られてしまう。高校生で力も強い伊吹君は大丈夫かも知れないが、幸恵ちゃんは……」

「わたしは大丈夫です! だからデュエルを、させて下さい!」

 定岡先生はゆっくりと、苦しそうに頷きました。

 ごめんなさい。定岡先生は、わたしの心配をしているからこそ聞いてくれた。分かっているのに……。でも、わたしは自分に出来る事があるなら、藤原くんのために。だから……。

「だが万が一と言う事もある。デュエルの前にドクターも手配しておこう」

 定岡先生は部屋の隅に張り付いている固定電話を使い、医務室へと連絡を取っていました。わたしは大きな機械の近くに置いていたデュエルディスクを取り出し、左腕にくっ付けました。

 藤原くんとデュエルする時はいつも家の机だから、これを使うのも久しぶりです。

「伊吹くん、よろしくお願いします」

「ん、ああ。そろそろ準備をするか」

 わたしと伊吹くんはデュエル場で向かい合い、デュエルディスクにデッキをセットします。定岡先生が端末から操作すると、デュエル場の周りにある機械が映画やアニメで見た巨大なタイムマシーンのように変わり、次々に機械が作動していきます。


幸恵【LP:4000】
伊吹【LP:4000】


「俺から先攻で行くぞ! 手札からモンスターを守備表示でセットし――」

 伊吹くんのデッキは炎属性デッキ。

 先攻1ターン目でモンスターのセットと言う事は、戦闘破壊される事によってデッキから特殊召喚を行なえる効果を持つUFOタートルの可能性があります。

「これでターンエンドだ」

 わたしは自分の手札を見て、もう1度伊吹くんのフィールド上を確認します。相手の手札枚数・相手のフィールド上のカード枚数・相手の墓地へ送られているカードは自分の状況を把握するより大切。それを把握した上で自分の使うカードを決める。神之崎さんから教えてもらった、デュエルの方法。

 ――勝つためのデュエル。

「わたしのターン、ドロー! 手札からカードを1枚捨て――THE( トリッキーを特殊召喚します!」

 デュエルディスクにカードを置くと、青いマントを羽織った中級魔法使い族モンスターがフィールド上に現れます。


【THE トリッキー】
★5 風属・魔法使い族 ATK2000/DEF1200
手札を1枚捨てる事で、このカードを手札から特殊召喚する。


「THE トリッキーで守備表示モンスターに攻撃!」

 トリッキーが両手から2本のレーザーを放ち、伊吹くんのセットしていたモンスターを粉々に吹き飛ばします。ユーフォーのような甲羅を背負った亀モンスターが一瞬、フィールド上に姿を現します。

 破壊されたモンスターはやっぱりUFOタートル。このリクルーターと呼ばれるモンスターが厄介なのは、ただ目的のモンスターサーチだけではありません。生け贄確保、ダメージ軽減のための壁役、デッキ圧縮、墓地にモンスターを溜めるなど、挙げたらキリが無い程あります。


【UFOタートル】
★4 炎属・機械族 ATK1400/DEF1200
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスター1体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。その後、デッキをシャッフルする。


「俺は戦闘破壊されたUFOタートルの効果を発動する。デッキから炎を支配する者(フレイム・ルーラーを攻撃表示で特殊召喚だ」


【炎を支配する者】
★4 炎属・炎族 ATK1500/DEF1000
炎属性モンスターを生贄召喚するとき、このモンスターは1体で2体分の生け贄にする事ができる。


 UFOタートルの残り火から、両手に炎の球を持った人型モンスターがフィールド上に現れます。このタイミングで炎を支配する者を特殊召喚したと言う事は、伊吹くんの目的は。

「わたしは手札から生け贄の代償を発動します。フィールド上のTHE トリッキーを生け贄に、デッキからカードを2枚ドロー!」


【生け贄の代償】 通常魔法
自分のフィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。自分はデッキからカードを2枚ドローする。


「THE トリッキーは特殊召喚モンスターのため、私はまだ召喚をしていません。モンスター1体を守備表示でセットして、ターン終了です」


幸恵【LP:4000】
手札:4枚
モンスター:裏側モンスター(守備表示)
魔法&罠:無し

伊吹【LP:4000】
手札:5枚
モンスター: 炎を支配する者(攻撃表示・ATK1500)
魔法&罠:無し


 伊吹くんの手札はこのターンのドローフェイズで6枚になります。きっと、このターンから攻撃態勢を取って来るはず。

「俺のターン、ドロー! 手札から爆炎集合体 ガイヤ・ソウルを捨て――魔法カード、フレイムレインを発動! このカードの効果で、お互いに1000ダメージを受ける」

 伊吹くんのフィールド上に現れたガイヤ・ソウルが空中で爆発し、フィールド全体に炎の雨を降らせます。フレイムレインの効果は、これだけではありません。


【フレイムレイン】 通常魔法
手札の炎属性モンスター1体を墓地へ送る事で発動する。お互いのプレイヤーは1000ポイントダメージを受ける。その後、自分のデッキから炎属性モンスター1体を選択し、手札に加える。

伊吹【4000→3000】
幸恵【4000→3000】


「さらにフレイムレインの後半効果、デッキからヘルフレイムエンペラーを選択して手札に加える。そして炎を支配する者は炎属性モンスターを生け贄召喚する際、1体で2体分の生け贄となる。俺はこのカードを生け贄に、ヘルフレイムエンペラーを生け贄召喚だ!」


【ヘルフレイムエンペラー】
★9 炎属・炎族 ATK2700/DEF1600
このカードは特殊召喚できない。このカードの生け贄召喚に成功した時、自分の墓地の炎属モンスターを5枚まで除外する事ができる。この効果によって除外した枚数分だけフィールドの魔法・罠を破壊する。


 伊吹くんのフィールド上に全身が炎に燃えた獣人モンスターが現れます。このカードは伊吹くんの切り札モンスター……!

「ヘルフレイムエンペラー、裏側モンスターに攻撃だ!」

 巨大な炎の玉が裏側モンスターに直撃すると、わたしのフィールド上からセットしたモンスターがUFOタートルの時のように一瞬だけ姿を見せ、すぐに消えてしまいました。でも、その一瞬を見て伊吹くんは目を細めます。

「素早いモモンガか」

「うん、わたしのセットしていたモンスターは素早いモモンガ。このカードが戦闘で破壊された時、自分は1000ライフポイント回復します!」


幸恵【LP:3000→4000】


「素早いモモンガには、もう1つの効果があります。わたしはデッキから2枚の同名モンスターを裏側守備表示でセット!」


【素早いモモンガ】
★2 地属・獣族 ATK1000/DEF100
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、自分は1000ライフポイント回復する。さらにデッキから「素早いモモンガ」をフィールド上に裏側守備表示で特殊召喚する事ができる。その後デッキをシャッフルする。


 全く同じ姿のモモンガが2体フィールド上に現れると、同時に裏側守備表示になりました。

 伊吹くんの使ったUFOタートル違い、素早いモモンガは状況によって応用の効くカードのサーチは出来ません。でもモモンガには同時に2体のモンスター展開とライフ回復の効果があります。特にライフ回復効果は既に相手は知っている事なので、相手にモモンガを戦闘破壊する事を躊躇させたり、モンスター展開や攻撃を急がせたりする事も出来る、モンスター効果に無い効果も持っているカードとも言えます。

 でもこれは全部、神之崎さんが教えてくれたこと……。

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

「わたしのターン、ドロー!」

 ドローしたカードは魔法カード、サイクロン。

 伊吹くんがセットしたのは1ターン前。このドローフェイズに発動しても和睦の使者や威嚇する咆哮ではチェーンをされてしまう可能性があります。でもここでわたしはあのカードを召喚し、ヘルフレイムエンペラーを確実に倒せば。

「わたしは手札からサイクロンを発動! 伊吹くんのセットしているカード1枚を破壊します!」

 フィールド上に小さな竜巻が起き、伊吹くんのセットされたカードが破壊されます。セットしていたカードはトラップカード、炸裂装甲(リアクティブアーマーでした。これで伊吹くんのフィールド上にはセットされたカードはありません……!


【サイクロン】 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。


「さらに魔法カード、レベルチートを発動します。このカードの効果でわたしはデッキからサイレント・マジシャンLV8を選択!」

 レベルチートは藤原くんも使っているカードです。このカードは簡単に言えば、どこからでもLVモンスターを通常召喚のように特殊召喚が出来る便利なカード。でもその代わり、LVモンスターが持っている強力な特殊能力は失われてしまいます。


【レベルチート】 通常魔法
自分の手札・デッキ・墓地から「LV」を持つモンスター1体を選択する。選択したモンスターがレベル5以上ならば1体、レベル7以上ならば2体を自分のフィールド上モンスターを生け贄に捧げる。その後、選択したモンスターを全ての召喚条件を無視して特殊召喚する。この方法で特殊召喚されたモンスターのモンスター効果は無効化される。(この特殊召喚は正規の方法での特殊召喚扱いとする)


「サイレント・マジシャンLV8はレベル8モンスター。よって、セットされたモモンガ2体を生け贄に、デッキからサイレント・マジシャンLV8を特殊召喚!」


【サイレント・マジシャンLV8】
★8 光属・魔法使い族 ATK3500/DEF1000
このカードは通常召喚できない。「サイレント・マジシャンLV4」の効果でのみ特殊召喚できる。このカードは相手の魔法の効果を受けない。


 フィールド上に、小さな杖を持ったとても身長の高い女性魔術師が現れます。藤原くんがサイレント・ソードマンを最も信頼しているカードなら、わたしが最も信頼しているカードはこのサイレント・マジシャン……!

 わたしのデッキはサイレント・マジシャンとTHE トリッキー以外、レベルと攻撃力の低いモンスターを中心に構成されています。攻撃力の低いモンスターはサポート効果や牽制能力を持ったカードが多いのですが、ヘルフレイムエンペラーなどの高攻撃力を相手にするのは苦手。でもサイレント・マジシャンの高攻撃力と魔法・トラップを使いこなせば十分に戦う事が出来ます。

「サイレント・マジシャンLV8でヘルフレイムエンペラーを攻撃! サイレント・バーニング!」

 手にした小さな杖を使い、圧倒的な魔力を放ってヘルフレイムエンペラーを破壊します。

「くっ……!」


伊吹【LP:3000→2200】


「モンスターとカードを1枚ずつセットして、ターン終了です」


幸恵【LP:4000】
手札:1枚
モンスター:サイレント・マジシャンLV8(攻撃表示・ATK3500),裏側モンスター(守備表示)
魔法&罠:セット1枚

伊吹【LP:2200】
手札:3枚
モンスター: 無し
魔法&罠:無し


 このターンのドローで伊吹くんの手札は4枚。サイレント・マジシャンLV8を破壊するカードが無ければ次のターンから、わたしは有利な状況になったと言えます。

「俺のターン、ドロー! 手札から魔法カード、ヘルフレイムドローを発動。自分の墓地に存在するUFOタートル、ヘルフレイムエンペラーをデッキに戻す事で、カードを3枚ドローする!」


【ヘルフレイムドロー】 通常魔法
自分の墓地に存在する炎属性モンスター1体と「ヘルフレイムエンペラー」1体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分のデッキからカードを3枚ドローする。


 伊吹くんは2枚のモンスターをデッキに加え、3枚のカードを引きます。これで伊吹くんの手札は6枚。

「俺は魔法カード、地獄炎の衝撃(ヘルフレイム・インパクトを発動。手札からヘルフレイムエンペラーを生け贄無しで通常召喚する!」


【地獄炎の衝撃】 通常魔法
手札から炎属性モンスター1体を自分フィールド上に召喚する(生け贄は必要としない)。このカードによって召喚したモンスターは、元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーはライフが半分になる。


「地獄炎の衝撃で召喚されたモンスターは、元々の攻撃力が2倍となる。よってヘルフレイムエンペラーの攻撃力は5700だ!!」


【ヘルフレイムエンペラー】ATK2700→ATK5700


 ヘルフレイムエンペラーは全身の炎を更に滾らせ、溶けてしまいそうなくらい強力な炎モンスターへと変貌します。攻撃力が3500もあるサイレント・マジシャンLV8も、これじゃあ簡単に破壊されちゃう……。

「ヘルフレイムエンペラーでサイレント・マジシャンLV8を攻撃だ! インパクト・オブ・ヘルフレイム!!」

 フィールド上に嵐のような炎が巻き起こり、サイレント・マジシャンと一緒に吹き飛ばされそうになります。

「ああうっ!」

 わたしは何とか耐える事が出来ましたが、サイレント・マジシャンは攻撃されたモンスターなのでフィールド上から消えてしまいました。


幸恵【LP:4000→1400】


「ターンエンドだ」


伊吹【LP:2200→1100】


 伊吹くんのライフは地獄炎の衝撃の効果によってライフが半分になったと言う事は……きっと伊吹くんはライフポイントが半分になってでも、高攻撃力のサイレント・マジシャンLV8を破壊しなければならなかった。つまり伊吹くんの手札にサイレント・マジシャンLV8を簡単に破壊出来るカードは無い……!

「待って! 伊吹くんのエンドフェイズに、セットしていた速攻魔法化を発動させます。わたしが速攻魔法に変化させる魔法は、レベル調整!」

 わたしはデュエルディスクの墓地ゾーンに手札のレベル調整を置きます。

 速攻魔法化は発動自体の消費こそありますが、通常魔法を不意に発動出来るカードです。レベル調整は発動ターンには攻撃が出来ず、相手に2枚のカードをドローさせてしまうカード。でも速攻魔法化を使えばわたしのターンで攻撃が可能となって、2枚のドローもエンドフェイズ中なら使われる心配もありません。


【速攻魔法化】 速攻魔法
手札から通常魔法カードを1枚捨てる。このカードの効果は捨てた通常魔法カードの効果と同じになる。

【レベル調整】 通常魔法
相手はカードを2枚ドローする。自分の墓地に存在する「LV」を持つモンスター1体を、召喚条件を無視して特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できず、効果を発動及び適用する事もできない。


 伊吹くんがデッキからカードを2枚引くと、2枚のカードが白く輝き、そこからわたしのフィールド上に向って2つのサイコロが飛び出します。

「わたしがレベル調整の効果で特殊召喚するのはもちろん、サイレント・マジシャンLV8!」

 サイコロは5と3の目を出し、大きな光の柱に姿を変え――サイレント・マジシャンLV8を出現させます。


【サイレント・マジシャンLV8】ATK3500


 サイレント・マジシャンLV8は正規の方法で特殊召喚されていないため、本来ならばレベル調整では蘇生が出来ません。でもわたしが最初のサイレント・マジシャンLV8を特殊召喚させたカードはレベルチート。レベルチートの特殊召喚は、召喚条件を満たせる事の出来るカードのため、レベル調整で特殊召喚が可能なのです。

「わたしのターン、ドロー!」

 このターンで、わたしはデュエルに勝てます。

 でも、それでいいのかな。わたしはもう、藤原くんと出会う前の――勝利する事に恐れていた自分に戻ってしまっていました。神之崎さんが教えてくれた、勝つ為のデュエル。でも藤原くんはいないのに、わたしが……わたしが……勝っても……。

 …………。

「わたしは、セットしていたモンスターを反転召喚!」

「っ! ペンギン・ソルジャーか!」

「ペンギン・ソルジャーのリバース効果で、このカード自身とヘルフレイムエンペラーをお互いの手札に戻します」

 わたしのフィールド上に、ペンギンのモンスターが現れてヘルフレイムエンペラーを伊吹くんの手札へと戻しました。


【ペンギン・ソルジャー】
★2 水属・水族 ATK750/DEF500
リバース:フィールド上のモンスターカードを2枚まで持ち主の手札に戻す事ができる。


 でも……今、わたしが攻撃を辞めてしまったら。

 辞める? 辞める!? そっか……わたし……わたしが……。

「サ、サイレント・マジシャンLV8で直接攻撃! サイレント・バーニングッ!!」

 伊吹くんは攻撃を防ぐカードが無いため、サイレント・マジシャンの攻撃が真っ直ぐ伊吹くんへ命中します。

「ぐっ!」


伊吹【LP:1100→0】


 伊吹くんのライフポイントが0になると同時に、デュエル場に置かれていた機械から強い光が発光する――と、……力が……抜……け……





第8話「フジバカマ ――ためらい」

 一瞬、何が起こったんだろうと思った。

 サイレント・マジシャンLV8の攻撃が兄ちゃんに当たった時、辺り一面が真っ白に光って――気が付くと幸恵ちゃんは横に倒れ、兄ちゃんは膝をついて息を切らしていた。

「ドクター、早く2人を運んでくれ!」

 定岡先生が学校で出すいつもの大声で叫ぶと、デュエル場に来ていたお医者さん4人が担架を持って幸恵ちゃんと兄ちゃんの所に向かう。

 私は1人しかいない。2人いれば1人ずつ行けたのに、1人しかいない。


 全く、迷惑な兄貴っ!


「兄ちゃん! 大丈夫!?」

 お医者さんが担架で運ぼうとしている所を、走って無理やり止めてしまった。幸恵ちゃんは気を失っていたから止まる事なく運ばれたけど、兄ちゃんはまだ意識が残っていた。

「な、なんとか、な。だが思っていた以上にキツい、気を失ってもおかしくは、ない」

「大丈夫じゃないじゃん、バカっ! ごめんなさい、急に止めちゃって……」

 私の反応を見て、お医者さんは急いで兄ちゃんを運んでくれた。

 でもデュエルが終わったと言う事は実験結果も出たのかな? ひらみん先生もそれが気になったのか、2人同時に定岡先生のいる所へ走っていた。

「…………」

 定岡先生はパソコンの画面を睨むような目でずっと見ていた。

 私もひらみん先生と一緒に画面を見たけど、赤いメータが満タンまで4分の1も満たしていなかった。これが半分を超えればいいのか満タンにならなければならないのかは分からなかったけど、定岡先生の様子を見れば結果くらいは分かった。

「突然だが……。平見先生と紅ちゃんは、野口君の融合神龍と儀式神龍の事を覚えているだろうか?」

 ひらみん先生は黙って頷いていたけど、私は覚えていると言うより、分からなかった。野口さんとは卒業と入学で入れ違いになったし、デュエルは何度か見た事があるけど、詳しくは全然知らない。

「では念のために説明しておこうか。

 『融合神龍』は2年前、つまり野口君が幸花高校へ在校していた頃に使っていたカードだ。神龍−バーニング・ドラゴンを始めブリザード、ハリケーン、アース、ヘル、ヘヴンの6体が融合する事によって誕生する究極神龍が切り札となる。しかもこれらは究極神龍になるだけで無く「炎と水」「地と風」「光と闇」で各融合をする事も可能なモンスターだ。
 他にも単体能力自体が強力なイーグルとレオン。攻撃か守備を特化した特殊召喚タイプの神龍であるアタックとディフェンス。その2体の能力が進化したバーサーカーとプロテクト。究極神龍の融合召喚をサポートするフェニックス。融合神龍は豊富なレベル4以下モンスター、簡単な条件の特殊召喚モンスター、各モンスターの融合パターン等が最大の特徴となるだろう。


 『儀式神龍』は融合神龍の双璧をなす存在となる。紅ちゃんは見なかったと思うが、野口君がジェネックスで使っていたカードだ。融合神龍とは違い全てのモンスターが儀式モンスターカードとなる。レベルは偶数の2、4、6、8、10、12の6種類で成り立っており、レベル12の皇帝神龍が切り札となる。融合神龍と違い種類も少なく、儀式召喚と多少リスクの高いカード達ではあるが、使い方次第では融合神龍をも超える力を持っているカードだ」

 う〜ん。

「つまり『儀式神龍』は全て儀式モンスター。その他の効果モンスターや融合モンスターは全て『融合神龍』系のカードって事だよね?」

「簡単に言えばそうなる。神龍は種類が多いため、それだけ覚えてくれていれば十分だ」

 定岡先生は少し笑ってくれたけど、すぐに険しい表情へと戻った。

「君達も聞いた話だと思うが、エド・フェニックスの父親は究極のDの製作を担当していた。私と神之崎も、その製作に関わっていたのだが……その途中で、究極のDは何者かによって奪われてしまった。それを脅威に感じたI2社は関係者達が各自で対抗するための強力カードを作っていた事があったんだ。その対抗出来るカードの1つである『融合神龍』を生み出したのは、神之崎だ」

 私は2年前のデュエ研の事をほとんど知らないけど、定岡先生と神之崎さんが元I2社の人って事は知っていた。だけど野口さんが使っている融合神龍は神之崎さんが作った物だったんだ。

「神之崎は融合神龍を完成させ、第2の神龍である儀式神龍を作っていた。しかし同時に妻とカダールを亡くしてしまい、ショックでI2社を辞めてしまった。その為、私は自分で製作していた究極のDに対抗するためのカードを作ると同時に、神之崎の作った儀式神龍の製作を引き継ぎ、完成させた。その後は普通の教師として幸花高校へ行き、実力が高く信用も出来る野口君に神龍のカードを全て託したんだ。そしてその融合神龍は今、ここのカード保管室に置いてある」

「でも、その融合神龍がカード保管庫に有ったらマズいんですか?」

 ……!

 私が言おうとした事を、ひらみん先生に先に言われてしまった。

「神之崎はカダールが生きていた頃、自分の開発していた融合神龍の事を話していたと言っていた。神龍が完成した時はそのカードをカダールに託す、と。私も生きていた頃のカダールを知っているが、神之崎に似てあの子は愚直な所があったんだ。これは私個人の推測だが、今夜カダールがここへ融合神龍を取りに来る可能性は極めて高い」

「えっ! じゃあどうしてこんな無防備なの? 絶対に開けられないような金庫にでも入れていかないとヤバいじゃん!」

 今度は私が先に言っていた。

 気付かれないようにひらみん先生を見たつもりだったけど、ちょうど目が合ってしまった。しかも「先に言われた」と言いたそうな表情をしている。

「我々は、あえて融合神龍をカダールに渡そうと思っている。これは逆にチャンスなんだ。強力な融合神龍を持ったカダールを倒せる程の力があれば、藤原君を救う事だって可能だろう。確かに危険な賭けだとは思っている、しかし今のようなデュエルでは全くエネルギーが足りない。どちらにせよ、渡す以外に手段は無いんだ」

 私は定岡先生の言葉を言い返せなかった。私からは何も具体策は無い、だから定岡先生や神之崎さんに任せるしか……。

「だから今夜は危険だ。体力の消耗した伊吹君と幸恵ちゃんは私が責任を持って守る。安全のため、平見先生と紅ちゃんは家へ戻って欲しい」

「ちょ、ちょっと待って! 私だけ帰るなんてイヤだよ!」

 そんな事をしたら、私はいい加減な気持ちで幸恵ちゃんを励ました事になってしまう。あんな乱暴に幸恵ちゃんを励ましたのなら、私も幸恵ちゃんのために何かしないといけないと思う。私を信じてくれた幸恵ちゃんを簡単に裏切る事なんて絶対出来ない。

 ひらみん先生も唇をかみしめて、私の肩にポンと手を置いた。

「あたしも紅ちゃんと同じ意見です。あたし達だけ幸恵と伊吹を放って置けません。定岡先生がせっかく気を使って言ってくれているのに、ごめんなさい」

「……分かった。では医務室へ行って、2人の様子を見に行こうか」





 ――Jデュエルハイスクール カード保管庫


 あれから4、5時間。

 時計の針が両方上を向いていた時、私とひらみん先生は電気も付けずカード保管室の隅に隠れていた。中は思ったより広くて、25メートルのプールくらいあるかも知れない。部屋の周りに本棚みたいな物がたくさんあって、中には沢山のカードが入っていた。融合神龍をわざと取らせる作戦は本当らしく、融合神龍のカードだけは大きな透明ケースの中に、しかも部屋の真ん中に目立つように置かれていた。

「ひらみん先生、やっぱり考えていた事は同じだったんだね」

 誰にもバレないよう、私の持ってる最小音量でひらみん先生に声を掛けてみる。ひらみん先生も退屈していたのか嬉しそうな顔をしてくれた。

「あはは、そうだなぁ。でもそんな事より、少し声が大きいぞ〜」

 やっぱり? これでも、小さくしたんだけどなぁ。

 私とひらみん先生はここでカダールを待ち、とっ捕まえて藤原さんを元に戻させようと考えていた。定岡先生を疑っている訳じゃないけど、カダールはいつ来るかは分からないし本当に来るかも分からない。それでも何もしないでじっとしているよりはずっといいと思った。何もしないなんて、絶対イヤだった。

「ごめん、ひら……」

 私の思いが通じてくれたのか、地面を歩く足音が聞こえてくる。ひらみん先生もそれに気がついたのか自分の口を両手で押さえ、じっとした。もうこの時点で分かったけど、その足音は絶対に職員さんじゃない。この部屋のドアは完全に閉まっているし、隠し扉があったとしても、明かりくらいは付けると思う。

 ひらみん先生は咄嗟に部屋の明かりを付けて、部屋の真ん中を見る。

「……」

 私達に見付かったのに、顔色一つ変えなかった。まるで、私達がここにいる事を知っていたよう。

 ひらみん先生の言っていた通り、見た目は藤原さんと同じだった。だけど右目が隠れるくらいに髪が伸びていて、藤原さんの優しい眼が怖くて鋭い眼に変わっている。その様子は本当に別人が乗り移ったのかと思う。

 それが少し怖い。きっと私が本物の強盗とかを目の前で見たら、こんな風に固まってしまう。でも私は怒っていた。怖さより怒りの方が強くて、私は怒った声を出せると思って一歩前に出てカダールを睨む。

「あんたがカダールッ! 藤原さんを」

「お前、なんで藤原を! どーしてよっ!」

 ひらみん先生は腹から叫ぶような声で怒っていた。私も怒っていたけど、ひらみん先生はそれ以上にもっと怒っていた。そんな様子を見たカダールは無表情を保ちながら、

「彼には悪い事をしてしまった」

 カダール自身も意外な事を言った。私もひらみん先生も、その言葉に返す言葉が一瞬出ない。なんなのよ、こいつ……。

 私は完全に黙り込んでしまったので、ひらみん先生がカダールに1歩だけ近づく。

「な、なら早く藤原を元に戻しなさいよ!」

「残念だけど、それは出来ない。ボクはこの世界で生きるために最も平和的な方法を実行したつもりだよ。藤原賢治を使わずに何百人、何千人の弱小デュエリストの命ごと喰らって生き返る事も出来たんだ」

「こんな言い方、教師として……ううん、人間としてどうかと思う。だけど、どうしても聞きたい事があるの。どうして藤原なの? どうして藤原を選んだの?」

「さっき言った通りさ。藤原賢治の犠牲だけで、ボクがこうして蘇る事が出来るからだよ」

 カダールは制服をマントみたいに翻して、私とひらみん先生に構わず話を続ける。

「藤原賢治は心の奥底から平見幸恵の事を大切に思っている。それは昔から、もちろん今でもキミ達ならよく知っているよね。そこでボクは彼に平見幸恵の危険を教え、『デュエルの勝利=平見幸恵が助かる』と思わせるように差し向けた。彼は見事、たった1人で最高レベルのデュエルエナジーを発生させ、ボクの復活への手助けをしてくれたよ。デュエルエナジーに強い感情は必要不可欠なのは、真実だよ」

「あなたは自分が蘇るための犠牲を極力減らすため、条件の良かった藤原を選んだって事ね」

「物分りがいいね、平見先生」

「違うよっ!!」

 カダールの言葉に叫んだのは、ひらみん先生じゃなくて私だった。こいつの言ってる事は、絶対に違う!

「犠牲が藤原さんだけで済んだって言うけど、それはあんたの思い上がりじゃないの? 藤原さんがいなくなって、幸恵ちゃんも、ひらみん先生も、兄ちゃんも、みんな苦しんだのよ! あんたは私の楽しみを奪ったのよ!」

 カダールは表情を歪めて、僅かに私から目を逸らした。何よ、そんな風にして迷っても私はあんたを許さない!

「……。藤原賢治や、その周りの事は知っている。伊吹紅、キミにとって彼はただの先輩だったと思うけど」

「それも違う! 藤原さんは私の大事な仲間だよ! もうすぐ私達はね、みんな大人になっちゃう、だから今みたいに楽しく過ごせないかも知れない。それでもみんなが大人になって久しぶりに会った時、あの時はこんな事があったね、こんな事があったから楽しかったねって、笑顔で一緒に語りたかった! 今もこれからも、楽しい事をみんなで共有したかった! だから私は藤原さんを返してくれるまで、あんたを許さない!」

 いつか別れが来る事くらい、誰だって分かってると思う。いつまでもデュエ研のメンバーとして一緒にいられるわけが無いのだって分かってる。でもその期間を楽しむ事は何も悪い事じゃないと思う。一瞬の楽しさだって大切、だけどその一瞬を少しでも長引かせたいと思って、何が悪いのよ!

「ボクは復活のために大きく力を消費してしまった。だから簡単には彼を元へは戻せないよ。でも、仮に戻せたとしても、この場でハイと戻せばキミはボクを許してくれるのかい?」

 許さないと思う。

 そんなの当たり前でしょ? 私に、幸恵ちゃんに、みんなを傷付けた事が許される訳が無い。だけど私だって今まで人を傷つけてしまう事だって、いっぱいあった。人を傷つけてしまった時に、これからの私を見てそれを許してくれるならそれはとても嬉しい事。だから私も、カダールを許せるのかも知れない。結果的に許す・許さないのどちらかと言われると――

「許せる。許してあげる。でも、それだけじゃ許さない! あなたのせいで一番傷ついた幸恵ちゃんに、ちゃんと謝って!」

「だけど、どうやってボクにそうさせる? ボクが簡単にそうすると思うのかな」

「藤原さんは生きている! だからデュエルであんたを倒して、あんたから何とかエナジーってのを全部ぶんどって、藤原さんを元に戻させる!」

 私の言葉にひらみん先生が頷いて、私と一緒にデュエルディスクを構える。

「ボクとのデュエルの意味は分かっているのかな。あんまり犠牲を出したくない、と言っているんだけど」

 私はキッとカダールを睨んだ。カダールも冷酷な目つきで私を窺うように見ていたけど、観念したように笑う。

「はははっ、分かったよ。だけどボクがここに来た理由も当然、分かっているよね。ボクはこの融合神龍を使わせてもらう。キミ達は2人で掛かって来ていい」

 カダール腕から斧の刃みたいな形の黒いデュエルディスクをいきなり出して、融合神龍のデッキをセットした。藤原さんが乗っ取られている時点でおかしな事だからそんなに驚かなかったけど、やっぱり夢でも見ているのかと思ってしまう。

「ボクが先攻、次に平見夏未、最後は伊吹紅だ。キミ達はフィールド・墓地の共有が可能、最初のターンからでもバトルフェイズをやってくれて構わない。他に何か条件が欲しかったら……」

「早く始めて!」

「勝つのは無理だと思うよ。ボクに」


カダール【LP:4000】
平見【LP:4000】
紅【LP:4000】


 私の炎属性モンスター中心のデッキは攻撃力は高く、カダールに多くのダメージを与える事が出来るはず。私が無茶をしてでも突っ走り、カダールの戦力を大きく削れば……その隙に、ひらみん先生があいつを倒してくれる。相手も攻撃力の高い融合神龍だとしても、私がそれを破壊さえすれば勝機は十分にある!

「ボクのターン、ドロー。手札から速攻召喚を発動。このカードの効果で手札の神龍−ハリケーン・ドラゴンを通常召喚し、元々の召喚権を使用して神龍−アース・ドラゴンを通常召喚する」


【速攻召喚】 速攻魔法
手札からモンスター1体を通常召喚する。

【神龍−ハリケーン・ドラゴン】
★3 風属・ドラゴン族 ATK1200/DEF800
このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキからカードを2枚引き、手札からカードを1枚捨てる。

【神龍−アース・ドラゴン】
★3 地属・ドラゴン族 ATK1500/DEF500
このカードが攻撃力3000以下の相手モンスターに攻撃するとき、そのモンスターの攻撃力を半分にすることができる。


「この時、神龍−ハリケーン・ドラゴンの効果が発動。デッキからカードを2枚引き、手札から1枚のカード――リバース・コーリングを捨てる。そしてフィールド上のハリケーンとアースを融合させ、神龍−クエイクハリケーン・ドラゴンを融合召喚!」

 カーダルのフィールド上の2体の龍が融合し、竜巻を帯びた岩みたいに硬そうな大型ドラゴンが現れた。クエイクハリケーン・ドラゴンは高攻撃力なのに2回攻撃の能力を持った強力なモンスターだったはず。


【神龍−クエイクハリケーン・ドラゴン】
★7 地属・ドラゴン族 ATK2700/DEF800
「神龍−ハリケーン・ドラゴン」+「神龍−アース・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、融合デッキから融合召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。


 神龍を見た事はあっても今まで戦った事は無かった。少し怖いし、緊張もする。でも、幸恵ちゃんと藤原さんのためにも私が頑張らなきゃいけない。幸恵ちゃんも藤原さんも、私の大切な友達だから。

「2枚のカードをセットし、ターンエンドだよ」

 カダールがエンド宣言をして、ひらみん先生がデュエルディスクからカードを引く。

「あたしは手札から魔法カード――融合を発動!」





第9話「マンジュシャゲ ――悲しい思い出」

 あたしは最初、確かにカダールに対して腹を立てていた。でも。でも、なぜか今は不思議とカダールを憎む事が出来なかった。

 紅ちゃんはカダールに言った、幸恵ちゃんに謝れば許すって。あたしも、きっと同じ事を言っていたと思う。今まで憎むほど腹の立つ人間はたくさん会った事があった、だからこそ分かる気がする。カダールは、あたしの嫌いな人間じゃない。

 でもその事をこのデュエルを結び付けちゃいけない。カダールが野口の使っていた融合神龍を使っているとは言え、あたしと紅ちゃんが協力すれば倒せるはず。そしてデュエルにさえ勝てば、この子だったら分かってくれる……!

「あたしは手札の星見鳥ラリスと星見獣ガリスを墓地へ送り――星見鳥獣(ほしみちょうじゅうガラリスを融合召喚っ!」


 融合するモンスターカード2枚を右手に移して、そのまま墓地ゾーンにカードを置く。


【融合】 通常魔法
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。


 装飾の付いた小柄な鳥と獣が融合し、ひと回り大きくなった鳥獣族モンスターがフィールド上に現れる。これがあたしの、星見デッキ……!


【星見鳥獣ガラリス】
★6 風属・鳥獣族 ATK1600/DEF1600
「星見鳥ラリス」+「星見獣ガリス」
このカードの属性は「地」としても扱う。このカードの攻撃力はダメージステップ時のみ、戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。このカードは攻撃した場合ダメージステップ終了時にゲームから除外され、次の自分ターンのバトルフェイズ開始時に自分フィールド上に表側攻撃表示で戻る。このカードが破壊された時、自分の墓地から元々のレベルが3以下の「星見」と名のついたモンスター1体を特殊召喚し、相手プレイヤーに800ポイントダメージを与える。


「ガラリスはダメージステップの時、戦闘する相手モンスターのレベルの数だけ攻撃力を上げる! 神龍−クエイクハリケーン・ドラゴンのレベルは7、よって攻撃力は1400アップ!」


【星見鳥獣ガラリス】ATK1600→ATK3000


「ガラリスで神龍−クエイクハリケーン・ドラゴンを攻撃!」

「トラップカード、炸裂装甲を発動。その攻撃モンスターを破壊する」


【炸裂装甲】 通常罠
相手モンスターの攻撃戦時に発動する事ができる。その攻撃モンスターを破壊する。


 ガラリスが4枚の翼を広げた瞬間、カダールの場から空気圧が発生し攻撃が妨害されてしまう。

 ――でも!

「まだよ! ガラリスが破壊された時、墓地から星見モンスター1体を特殊召喚する! あたしは墓地から星見鳥ラリスを守備表示で特殊召喚!」

 フィールド上に残った1枚の羽根が輝き、星見鳥ラリスが現れる。


【星見鳥ラリス】
★3 風属・鳥獣族 ATK800/DEF800
このカードの攻撃力はダメージステップ時のみ、戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。このカードは攻撃した場合ダメージステップ終了時にゲームから除外され、次の自分ターンのバトルフェイズ開始時に自分フィールド上に表側攻撃表示で戻る。


「ラリスの特殊召喚に成功した事によって、墓地へ送られたガラリスの効果発動! 相手に800ポイントダメージを与える!」


カダール【LP:4000→3200】


「カードを1枚セットして、ターン終了」

 あたしは紅ちゃんの方を向いて、合図を送る。紅ちゃんも軽く頷いてからカードを引いた。

「私のターン! 手札から魔法カード、死者への手向けを発動。手札の逆巻く炎の精霊を捨てて、クエイクハリケーン・ドラゴンを破壊!」


【死者への手向け】 通常魔法
自分の手札を1枚捨てる。フィールド上のモンスターを1体選択し、そのモンスターを破壊する。


 紅ちゃんの使った使者への手向けが発動し、クエイクハリケーン・ドラゴンがバラバラになって消滅した。これでカダールの場にモンスターはいなくなった……!

「墓地の逆巻く炎の精霊をゲームから除外――インフェルノを攻撃表示で特殊召喚して、エレメント・ヴァルキリーを通常召喚!」


【インフェルノ】
★4 炎属・炎族 ATK1100/DEF1900
このカードは通常召喚できない。自分の墓地の炎属性モンスター1体をゲームから除外して特殊召喚する。このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、相手ライフに1500ポイントダメージを与える。

【エレメント・ヴァルキリー】
★4 光属・天使族 ATK1500/DEF1200
このモンスターはフィールド上に特定の属性を持つモンスターが存在する場合、
以下の効果を得る。●炎属性:このカードの攻撃力は500ポイントアップする。●水属性:このカードのコントロールを変更する事ができない。


「フィールド上に炎属性モンスターがいるため、エレメント・ヴァルキリーの攻撃力が500ポイントアップ!」

 エレメント・ヴァルキリーは手にした杖を構え、インフェルノの炎と同調させて力を蓄える。これでエレメント・ヴァルキリーの攻撃力は2000まで上がる。


【エレメント・ヴァルキリー】ATK1500→ATK2000


「インフェルノ、エレメント・ヴァルキリーの2体でカダールに直接攻撃!」

 カダールの場には壁となるモンスターがいないから、インフェルノとエレメント・ヴァルキリーの攻撃がすんなりと直撃する。今の攻撃で致命傷を負ったのに、カダールは相変わらず何事も無かったような様子だった。


カダール【LP:3200→100】


 ……! 本当に何も無い? ウソ、こんな簡単に? そんなはず無い。紅ちゃんは全く気にせず、すっかり油断しきっているけど……。

「やったぁ! あと1度でもダメージを与えれば勝てる! 私はカードを1枚セットし、ターンエン」

「魔法カード発動」

「えっ!」

 あたし達は声を揃えて言った。声は紅ちゃんの方が大きかったから、あたしの声はあまり聞こえなかったけど――。

 このタイミングで発動する、速攻魔法。エンドフェイズという事はサイクロン?

「ボクがフィールド上から発動するのは速攻魔法化。手札の通常魔法を捨てる事で、このカードの効果は捨てたカードと同じになる」

 速攻魔法化は手札の通常魔法を相手ターンに発動したり、自分のターンでも通常魔法をチェーン発動出来るカード。幸恵も今日のデュエルでうまく使っていた。


【速攻魔法化】 速攻魔法
手札から通常魔法カードを1枚捨てる。このカードの効果は捨てた通常魔法カードの効果と同じになる。


「手札から捨てる魔法カードは神龍の盾。よって神龍の盾の効果が発動、ボクのデッキからバーニング、ブリザード、レオン、3体の神龍を特殊召喚する」


【神龍の盾】 通常魔法
自分のフィールド上にモンスターが存在しない場合、デッキからレベル4以下の「神龍」と名のついたモンスターを攻撃表示で3体特殊召喚する。このカードの効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン、相手プレイヤーのコントロールするカード以外では墓地に送る事ができず次の自分のエンドフェイズまで攻撃力と守備力が0になる。

【神龍−バーニング・ドラゴン】
★3 炎属・ドラゴン族 ATK1600→0/DEF400→0
このカードが守備表示のモンスターを攻撃した時、その守備モンスターの守備力は0となる。

【神龍−ブリザード・ドラゴン】
★3 水属・ドラゴン族 ATK1400→0/DEF600→0
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、フィールドの魔法・罠を1枚破壊する事ができる。

【神龍−レオン・ドラゴン】
★4 風属・ドラゴン族 ATK1700→0/DEF1900→0
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、このカードの元々の攻撃力以下の相手のフィールド上に存在する表側表示モンスター全てを破壊する。


 カダールの場に力を失った炎、氷、獅子の龍が1体ずつ姿を現した。

 神龍の盾は発動ターンには特殊召喚した神龍を墓地へは送れないため、1ターンでは融合神龍にする事が出来ない使い所が難しいカード。だけどそれを速攻魔法化で相手ターンの内に発動しておければ、カダールのターンですぐに融合する事が出来る事になる。

「神龍の盾で特殊召喚されたモンスターは効果を発動する事は可能だ。まずは特殊召喚したブリザードの効果を発動、伊吹紅――キミが今セットしたカードを破壊する」

「っ!」

 紅ちゃんがあからさまに悔しそうな顔をしたと同時に、セットした火霊術−「紅」が消滅してしまった。セットしたのはこのターンだから、チェーンして発動する事は出来ない。これが破壊されていなかったら、次のターンであたし達が勝っていたのに……。

「違うよ、平見夏未」

 突然の声で、カダールがあたしを見ている事に気が付いた。顔を見ただけで、あたしの考えが読まれたの?

「火霊術が無くとも、キミ達は勝っていた。ボクは言ったはずだよ、キミ達のフィールド上と墓地は『共有』しても良い、と」

 そっか!

「気が付いたようだね。このターン、伊吹紅はエレメント・ヴァルキリーとインフェルノ以外に、平見夏未の出した星見鳥ラリスでもボクに攻撃を行えたんだ」

 カダールが指差した先には、もちろんあたしのフィールド上にいた、守備表示のラリスがいた。紅ちゃんはよく表情に出るけど、今は増して落ち込んだ様子だった。

「あっ……ご、ごめんなさい、ひらみん先生。私、全然気が付かなくて……」

「あたしも気が付かなかったら、気にしないで。でも……」

「そう、神龍の盾で特殊召喚したレオンの効果がまだ残っている。このカードの効果で攻撃力1700以下のモンスターは全て破壊される」

 獅子の顔をした龍が吼え、あたし達のフィールドに残っていたラリスと紅ちゃんのインフェルノが破壊されてしまう。エレメント・ヴァルキリーだけは攻撃力が上がっているため、破壊を免れる事は出来た……けど。

「タ、ターンエンド」


平見【LP:4000】
手札:2枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚

紅【LP:4000】
手札:1枚
モンスター:エレメント・ヴァルキリー(攻撃表示・ATK2000)
魔法&罠:無し

カダール【LP:100】
手札:1枚
モンスター:神龍−バーニング・ドラゴン,神龍−ブリザード・ドラゴン,神龍−レオン・ドラゴン(3体とも攻撃表示・攻守0)
魔法&罠:無し


「ボクのターン。魔法カード、生け贄の代償を発動。ボクのフィールド上のレオンを生け贄に、デッキからカードを2枚引く」


【生け贄の代償】 通常魔法
自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。デッキからカードを2枚ドローする。


 神龍−レオン・ドラゴンは神龍の盾の効果で特殊召喚されたから攻撃力はゼロ。そして神龍−バーニング・ドラゴンと神龍−ブリザード・ドラゴンを残したと言う事は。

「フィールド上のバーニング、ブリザードの2体を墓地へ送り、神龍−フレイムブリザード・ドラゴンを融合召喚する!」


【神龍−フレイムブリザード・ドラゴン】
★7 炎属・ドラゴン族 ATK2300/DEF2000
「神龍−ブリザード・ドラゴン」+「神龍−バーニング・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、融合デッキから融合召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。このカードの特殊召喚に成功したとき、相手フィールド上のモンスター1体をゲームから除外する。


「フレイムブリザードの効果発動! エレメント・ヴァルキリーをゲームから除外する」

 フレイムブリザード・ドラゴンが地面から氷を起こし、エレメント・ヴァルキリーは氷漬けにされ粉々になってしまった。――でも、あたしにはこのカードがある!

「この瞬間、セットしていた星向計を発動! デッキから星見鳥ラリスを守備表示で特殊召喚する!」

 あたしと紅ちゃんのフィールド上と墓地が共有出来るなら、このカードの発動も有効よ……!


【星向計】 通常罠
自分フィールド上のモンスターがフィールド上から離れた時に発動する事ができる。自分の手札・デッキ・墓地から元々のレベルが3以下の「星見」という名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

【星見鳥ラリス】DEF800


「はははっ、さっきボクが余計な事を言ったから気が付いちゃったか。まぁいい、フレイムブリザード・ドラゴンでラリスに攻撃する!」

 フレイムブリザード・ドラゴンが氷の炎のブレスを放ち、ラリスを簡単に破壊してしまう。

「ありがとう、ひらみん先生」

 紅ちゃんが申し訳無さそうで嬉しそうな、複雑な表情をしていた。さっきの事、まだ気にしちゃっているなぁ……。

「ボクはカードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 3枚の伏せカード。きっと1枚1枚があたし達の攻撃を防ぎ、尚且つ自分が有利に立てるように出来るカードのはず。

「あたしのターン、ドロー!」

 これなら……!

「手札から、星見獣ガリスの効果を発動!」


【星見獣ガリス】
★3 地属・獣族 ATK800/DEF800
手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、そのカードがモンスターだった場合、そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与え、このカードを特殊召喚する。そのカードがモンスター以外だった場合、このカードを破壊する。


 これが決まれば終わりなのに、カダールはまだ冷静な目をしていた。それは強がりなのか、ダメージを受けても対処が出来るからなのか、あたしには分からない。とにかく今は、デッキのカードを墓地に送るしかない。

「っ……。墓地へ送られたのはフィールド魔法、星見世界。モンスターカードじゃない」

 でもまだ、手は残っている。

「あたしは800ライフを払って、早すぎた埋葬を発動! 墓地の星見鳥獣ガラリスを攻撃表示で特殊召喚よ!」


平見【LP:4000→3200】

【早すぎた埋葬】 装備魔法
800ライフポイントを払う。自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

【星見鳥獣ガラリス】ATK1600→ATK3000


 神龍−フレイムブリザード・ドラゴンもレベル7、ガラリスの攻撃力も3000まで上がるから倒せる!

「ガラリスで、フレイムブリザード・ドラゴンを攻撃!」

「トラップカード、和睦の使者を発動。ボクはこのターン戦闘ダメージを受けない」

 カダールのフィールド上に白いバリアが張られ、ガラリスの攻撃がそのバリアに吸収されてしまう。


【和睦の使者】 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。


「ターンエンドよ」

 でもこれで防御カードは1枚使わせる事が出来た。残り2枚。2枚とも、和睦の使者のような防御カード?

「私のターン、ドロー! 手札から地獄炎の衝撃(ヘルフレイム・インパクトを発動! このカードの効果で召喚するのは憑依装着−ヒータよ!」


【地獄炎の衝撃】 通常魔法
手札から炎属性モンスター1体を自分フィールド上に召喚する(生け贄は必要としない)。このカードによって召喚したモンスターは、元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーはライフが半分になる。

【憑依装着−ヒータ】
★4 炎属・魔法使い族 ATK1850/DEF1500
自分フィールド上の「火霊使いヒータ」1体と炎属性モンスター1体を墓地に送る事で、手札またはデッキから特殊召喚する事ができる。この方法で特殊召喚した場合、以下の効果を得る。このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える


 紅ちゃんの場に赤髪の魔法使いが現れ、その周りを取り囲む炎は次第に強力になっていった。ヒータは紅ちゃんの得意カード……!

「地獄炎の衝撃の効果で召喚したモンスターの攻撃力は倍になる! これでヒーちゃんの攻撃力は3700にアップ!」


【憑依装着−ヒータ】ATK1850→ATK3700


「ヒーちゃんで、フレイムブリザード・ドラゴンに攻撃!」

「やはり高攻撃力のモンスターで仕掛けて来たね。速攻魔法、破壊神龍を発動。自分のフィールド上にレベル6以上の神龍が存在する時、フィールド上のモンスター全て墓地へ送る」

 フレイムブリザード・ドラゴンが矢のように散らばり、ヒータとガラリスが破壊され――

 ううん、違う。破壊じゃなく、墓地へ送る効果だから星見鳥獣ガラリスの効果で墓地からの特殊召喚は出来ない。


【破壊神龍】 速攻魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するレベル6以上の「神龍」と名のついた融合モンスター1体を破壊し、フィールド上のモンスターを全て墓地へ送る。


「私は……これで、ターンエンド」


紅【LP:4000→2000】


 地獄炎の衝撃の効果で紅ちゃんのライフが半分になってしまう。あたし達にはもう、壁となるモンスターもトラップも何も無い。


平見【LP:3200】
手札:1枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

紅【LP:2000】
手札:0枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

カダール【LP:100】
手札:0枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚


「このターンで、ボクは勝つ」

 突然の言葉に、あたしと紅ちゃんはデュエルディスクを構え直す。

 確かにあたし達のフィールド上にはカード1枚すら無い。だけどこのターン、カダールが本当にあたし達を倒すには紅ちゃんのライフ2000、あたしのライフ3200、合計5200を削らないといけない。

「セットしていたトラップカード、魔法石の再採掘を発動。このカードは墓地の魔法を発動させ、その代わりにドローフェイズを2度スキップするカード」


【魔法石の再採掘】 通常罠
自分の墓地に存在する魔法カード1枚を選択し、発動する。以後自分のドローフェイズを2回スキップする。


 魔法カードを墓地から回収する効果? だけど確か、魔法石の再採掘はドローフェイズを2回スキップするリスクがあるカード。そこまでして発動したい魔法カードは墓地に……。

「ボクが選択するのは、このリバース・コーリングだ」

 あのカードは最初のターン、神龍−ハリケーン・ドラゴンの効果で捨てていたカード……!


【リバース・コーリング】 通常魔法
ライフポイントを半分払う。自分のデッキからリバース効果モンスター1体を選択して墓地へ送り、そのリバース効果モンスターのリバース効果を発動させる。「リバース・コーリング」は1ターンにつき1枚しか発動できない。

カダール【LP:100→50】


「このカードの効果でボクはデッキからメタモルポットを墓地へ送り、効果を発動。ボクは手札の1枚を捨て、デッキからカードを5枚引く。キミ達も5枚のカードを引けるけど――クリボーでも引かない限り、もう関係無いよ」


【メタモルポット】
★2 地属・岩石族 ATK700/DEF600
リバース:自分と相手の手札を全て捨てる。その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。


 カダールの言う事は妙に真実味があると思った。でも相変わらず、それがどうしてかは分からない。確かに目つきや髪型が少し変わっただけど、見た目はほとんど藤原。だから本当っぽく聞こえるの? だから信用出来るの?

「手札から神龍−アタック・ドラゴン、神龍−ディフェンス・ドラゴンを特殊召喚する。アタックはカードが存在しない時に特殊召喚が可能であり、ディフェンスはカードが存在している時に特殊召喚が可能なモンスターだ」


【神龍−アタック・ドラゴン】
★6 地属・ドラゴン族 ATK2000/DEF1000
自分のフィールド上にカードが存在しない場合、このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

【神龍−ディフェンス・ドラゴン】
★6 風属・ドラゴン族 ATK1000/DEF2000
自分のフィールド上にカードが存在する時、このカードを手札から守備表示で特殊召喚する事ができる。


「さらに究極神龍融合を発動! ボクのフィールド上の神龍2体と手札1枚を墓地へ送り、デッキ・手札・フィールド・墓地からバーニング、ブリザード、ハリケーン、アース、ヘル、ヘヴンの神龍をゲームから除外――究極神龍を特殊召喚する!」

「そんな……究極神龍が……!」

 カダールの背後から吹き飛ばされてしまいそうなくらいの風圧が起きる。その風圧から体勢を元に戻せた時には、六枚の翼を持った大型のドラゴンが咆哮をあげて現れていた。

 情けないけど、その姿には油断していると腰を抜かしそうなくらい迫力があった。こ、こんな相手に、勝てるわけ、無い……よ。


【究極神龍融合】 通常魔法
自分フィールド上に存在する「神龍」と名のついたモンスター2体と手札1枚を墓地に送る。自分の手札・デッキ・フィールド・墓地に存在する、「神龍−ブリザード・ドラゴン」「神龍−バーニング・ドラゴン」「神龍−ハリケーン・ドラゴン」「神龍−アース・ドラゴン」「神龍−ヘヴン・ドラゴン」「神龍−ヘル・ドラゴン」を全てゲームから除外し、召喚条件を無視して融合デッキから「究極神龍」を特殊召喚する。

【究極神龍】
★12 光属・ドラゴン族 ATK5000/DEF5000
「神龍−ブリザード・ドラゴン」+「神龍−バーニング・ドラゴン」+「神龍−ハリケーン・ドラゴン」+「神龍−アース・ドラゴン」+「神龍−ヘヴン・ドラゴン」+「神龍−ヘル・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、融合デッキから融合召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。このカードは相手のカードの効果を受けない。


「魔法カード、二連神龍を発動。究極神龍はこのターン、2度の攻撃を行えるようになる」


【二連神龍】 通常魔法
「神龍」と名のついたモンスター1体は発動ターンのみ、バトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。


 2回の攻撃を受けたら、2人とも負けてしまう……。紅ちゃんは究極神龍を見て、完全に怯えていた。あたしも動揺して、カダールと紅ちゃんを交互に見る事しか出来なかった。

「伊吹紅、平見夏未。キミ達はこのデュエルで魂を抜かれたりはしない」

 カダールは静かに、優しさを含んだような声で呟いた。でもその声は、あたしにも紅ちゃんにもハッキリと聞こえていた。フィールド上に現れた究極神龍は口を開き、音を鳴らしてエネルギーを溜める。その風圧で、カダールの髪と服が横になびいていた。

「でもボクはね、1つ嘘を付いた。あの時、伊吹紅がトドメを刺し損ねたと言ったけど、あれは嘘だよ。もし、星見鳥ラリスの攻撃が可能だと言う事に気が付いていたとしても、ボクはその前に神龍の盾で特殊召喚される神龍−レオン・ドラゴンの効果を発動していた」

 …………!

「ボクが速攻魔法化を発動するのは、何もエンドフェイズじゃなくても良かった。バトルフェイズ中に発動すれば星見鳥ラリスとインフェルノを破壊し、エレメント・ヴァルキリーの攻撃ダメージだけで済んだ。では、なぜボクが3100ものダメージを素通りさせたか。本来ならば勝てていた場面と思わせ、キミ達を心理的に追い込ませるためだよ。その事によって平見夏未、キミは伊吹紅のサポートに回って励まそうとしてしまった。伊吹紅、キミは失敗を払拭するため功を焦りすぎた。それがキミ達の、敗因でもあるんじゃないのかな」

 カダールが攻撃宣言すると、究極神龍は蓄えられた膨大なエネルギーを容赦なく、あたしと紅ちゃんに向かって放つ。

「っ……!」

「うあーーっ!」


平見【LP:3200→0】
紅【LP:2000→0】


 究極神龍の攻撃に耐えられず、あたしと紅ちゃんは後ろの壁まで飛ばされてしまう。あたしは背中をぶつけただけで済んだけど、紅ちゃんはそのまま倒れこんでしまった。

「いててっ」

 あたしが背中をさすりながら紅ちゃんに近づこうとすると、カダールがもう紅ちゃんの所へ来ていた。い、いつの間に?

「頭を少しぶつけたみたいだ。でも、すぐに起きると思うよ」

 カダールはそう言って紅ちゃんの体を起こし、壁にもたれるように座らせる。カダールはこっちに来て手を貸そうとしてくれたけど、あいつに助けられるのは悔しいから来る前に壁にもたれて座った。

「あたしの質問、今度はちゃんと答えて」

 カダールはピタっと止まり、あたしの言葉をじっと待った。

「デュエルをする前、あたしはあなたに質問した。でもあなたは“藤原を使えば蘇る事が出来る”と教えてくれただけ。蘇るためのデュエルエナジーを持っているのは、何も藤原1人だけじゃないと思う。でも何か理由があって、藤原を選んだんでしょ?」

「藤原賢治は、神之崎幸恵にとって一番大事な人間だからだよ」

 ――神之崎幸恵。

 凄く短い期間だったらしいけど、幸恵が神之崎さんの所にいた頃、苗字は神之崎にしていたと聞いた事がある。でもどうして平見幸恵じゃなくて、神之崎幸恵と呼ぶの?

「ボクが死んだ後、父さんは平見幸恵を、養子として選んだ。彼女もボクと同じく、父さんから自分の子としてデュエルを教えられた者。ならばボクは彼女を、父さんの本当の息子として倒さなければならない。藤原賢治を奪えば、彼を助けるために平見幸恵は全力でボクを倒そうとする。その状況下で彼女に勝ち、ボクの実力を父さんに証明して見せたかった」

「どうしてあなたは、お父さんにこだわるの?」

「こだわるさ! でもボクが平見幸恵を倒し、父さんの本当の息子と言う証明をするのはただの通り道に過ぎない。ボクの本当の目的は、父さんと母さんが生涯を尽くしたデュエルモンスターズで、ボク自身がデュエルキングとして君臨する事。それはボクが死ぬ前からの夢だった」

 カダールはそこで言葉を止め、あたしの顔を窺ってから話を続けた。今のあたしの顔、見られたかな。

「はははっ、拍子抜けだったかい。ボクの目的は世界征服でも無ければ大量殺戮でも無い。ボクは死ぬ直前に光の波動を受け、人とは違った状態を維持する事が出来た。ボクは夢を成し遂げるために、その力を利用しただけ」

「でも! その為に藤原は……」

「ボクは父さんも母さんも大好きだった! ボクが失敗しても、いつも認めて励ましてくれた。嬉しかった。だからこそボクは自分が最も得意だったデュエルモンスターズで勝ち続け、誰もが知るようなデュエルキングになって今度はボクが父さんと母さんを喜ばせたかった! でもボクはそれをやり遂げる前に、ボクと母さんは事故で死んでしまった。それならせめて、今生きている父さんにだけでも恩返しがしたい。ボクは死んだ、死んでしまっても夢を叶えたい! ボクを必要としてくれた人に、今からでも恩返しがしたいんだ!」

 カダールは少し震えながら、片手で自分の目を覆う。その不安げな様子は、今日の幸恵を見ているようだった。

「キミの言うとおり、ボクがこれから生きるためには藤原賢治と言う1人の人間を殺す事になってしまう。ボクはもう人間と言う存在では無い、でもボクには人殺しを割り切れる程の精神力は持っていなかった。キミ達の怒りの声を聞いた時、ボクは動揺した。ボクの行動はただの思い上がりなんだと叩き付けられた。人からそれを言われ、悲しく、苦しく、痛かった。平見幸恵も、ここまでショックを受けるとは考えもしなかった。藤原賢治を奪われた彼女は復讐心に燃え、ボクを痛め付けるくらいの覚悟で戦いを挑んでくると思っていた。そのために藤原賢治を選んだ。本気の彼女を倒す事で父さんへの証明と、ボク自身がデュエルキングへの大きな成長を遂げるハズだった。でも、それは違っていた。だけどボクは諦めない。ボクはこれらの悩みを背負ってでも、藤原賢治を使って生きる。藤原賢治だけでなく平見幸恵も不幸になったとしても。ボクは父さんのために、自分の夢を叶えるために、戦う」

 視界がぼやけている。カダールが反対側の壁へと歩き出している事は、辛うじて分かる。涙は今日、散々流した。それなのにまだ流れる涙を乱暴に拭きとって、力の無い声で叫んだ。

「待って」

 カダールは足を止め、こっちを向く。カダールの目線は、今にもあたしから逸らしそうだった。あたしだって、あなたから逸らせるのなら逸らせたい。でも今は、あなたに伝えないといけない事がある。やったこと無いけど、人に告白する時はこんな気持ちなのかな。

「明日、幸花高校のグラウンドに来て。時間は17時くらい。あたしはダメだったけど、幸恵ならあなたに勝てる」

「今の平見幸恵が、ボクに勝てるかな」

「もう1つ」

「……?」

「あなたにとってはくだらない理由だと思うけど、あたしは幸恵や藤原のために生きている。あたしがいないと、2人は悲しむから。あたし自身も、2人がいないと悲しいから。だから藤原に早く帰って来て欲しいと思っている。あなたの話を聞いて思った、やっぱあたしはあなたの敵にはなれない。でも今言ったように、あたしにとって幸恵と藤原は大事な味方。だからあなたと一緒にいたり、協力する事は出来ない。幸恵には絶対、勝って貰う……ね」

「くだらなくなんか、ないよ。生きている意味を持てる事は――とても、立派な事だと思うから」

 少し微笑みながら、カダールは壁を通り抜けるように消えてしまった。これで、良かったのかな。あたしが出来た事は、これだけなのかな。藤原のために出来ること。幸恵のために出来ること。そして、カダールのために出来ること。

 あった。あると思う。

 まだ目を覚まさない紅ちゃんを背負って、あたしは部屋から出て行った。





第10話「カーネーション ――母の愛情」

 わたしはいつの間にか、見覚えの無い真っ暗な空間にいました。


幸恵【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:サイレント・マジシャンLV8(ATK3500・攻撃表示)
魔法&罠:セット2枚

????【LP:100】
手札:0枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し


 どうしてこうなったのか、なぜデュエルをしているのか、対戦相手が誰なのか、全く分かりません。分かっている事は1つ――今は、わたしのバトルフェイズと言う事だけ。

「サ、サイレント・マジシャンLV8で直接攻撃!」


????【LP:100→0】


 サイレント・マジシャンLV8の攻撃が対戦相手に命中すると、ライフ表示とソリッドビジョンが消えていきます。

『また勝ちやがった』

『そんなに勝ちたいの?』

 ……!

 辺りは真っ暗なのに、周りから聞き覚えがある男女の罵声が聞こえました。これは小学5年生の時……わたしが神之崎さんからデュエルを教えて貰ってから……学校の子と、デュエルをした時……。

「(ち、違うの! わたしは……)」

 何度も見回して訴えるように叫びました。それなのに声を出そうとしても、声が出てくれません。

『また勝ちやがった』

『そんなに勝ちたいの?』

「(いや……! 聞きたくない……!)」

 周りの声が聞こえないように耳を塞ぎましたが、声は衰える事なく聞こえ続けます。でもその中で一瞬、とても大切な人の声が聞こえたような気がしました。

「ユキちゃん」

「(藤原くん!?)」

 声は出ませんでしたが、わたしはさっきより必死で辺りをグルグルと見渡しました。するとさっきの対戦相手が、わたしにゆっくりと近づきます。

「ボクはどうして、デュエルをしていたのかな」

 わたしが後ろへ下がっても、藤原くんは前へと進みます。どうしてわたしは後ろへ行くの? 藤原くんが目の前にいるのに、どうして?

「どうして、ユキちゃん?」

 わたしは……! わたしは……!



「っ……あ」



 飛び起きて辺りを見回すと、わたしは保健室のような場所にいました。わたしの膝元で、腕枕をして寝ている夏未さんがいます。それじゃあ……今のは、夢? 藤原くんがいたから、夢……。藤原くんがいないのは、現実……。

「あっ……いけない、あたしまで寝ちゃってた」

 夏未さんが目を擦りながら起き上がると、1枚の紙が床に落ちました。何だろうと夏未さんがその紙と取ると、行書体のような字で書かれた手紙だと言う事に気が付きました。


≪平見さん 幸恵へ≫
平見さんから聞いた話は皆にも伝えておいた。
定岡、伊吹君、紅ちゃんは先に幸花高校へ行き今日の準備を始めている。
私は他の場所に用があるが、16時にはここへ戻って来る。
2人はここで休んでいて欲しい。

神之崎


「幸恵と伊吹がデュエルした後ね、あたしと紅ちゃんはカダールと会ったの」

 夏未さんはゆっくりと口を開き、わたしが倒れていた時に起こった事を全て教えてくれました。

 わたし達のデュエルでは力が足りなかった事。野口さんの融合神龍が奪われてしまった事。あの人とのデュエルの結果。目的と信念。そして、藤原くんを選んだ理由。その理由を聞いた時、わたしは息が苦しくなりました。やっぱりわたしが原因で、藤原くんが選ばれてしまった。わたしのせいで……。

「幸恵、ちょっと来て」

 手紙を布団の上に置いて、夏未さんは廊下へと出て行ってしまいました。わたしも近くに置かれていた紐靴を履いて夏未さんを追いかけます。

 長くて広い廊下をしばらく歩き、夏未さんは昨日のデュエル場へとわたしを連れて来ました。体育館のような場所には大きな機械が全て無くなっており、昨日よりずっと広く感じます。昨日は大きな機械で見えませんでしたが、壁には数個のデュエルディスクが掛けられており、カード検索用に使う小さな端末もありました。

 夏未さんは真っ直ぐその壁へ向かい、デュエルディスクを2つ取り、1つをわたしに手渡しました。

「あたしと戦いなさい。デュエルよ」

「えっ。でも……」

 わたしが何かを言う前に、夏未さんは反対方向へ行きます。突然の出来事に戸惑いながら、流されるようにデュエルディスクを腕に付けました。


幸恵【LP:4000】
平見【LP:4000】


 先攻はわたし……。ドローするのが少し怖くて、ゆっくりとデッキからカードを引きました。手札のカードはほとんど確認せず、右手で引いたカードをそのままデュエルディスクへ置きました。

「手札からサイレント・マジシャンを、特殊召喚します」


【サイレント・マジシャンLV4】
★4 光属・魔法使い族 ATK1000/DEF1000
相手がカードをドローする度に、このカードに魔力カウンターを1個乗せる(最大5個まで)。このカードの乗っている魔力カウンター1個につき、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。このカードに乗っている魔力カウンターが5個になった場合、次の自分のターンのスタンバイフェイズ時に表側表示のこのカードを墓地に送る事で「サイレント・マジシャンLV8」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。


 小さな身体をした魔術師がフィールド上に現れると、夏未さんは不思議そうな表情でわたしに視線を移します。

「特殊召喚?」

「あっ……ご、ごめんなさい、通常召喚します。カードを1枚セットして、ターン終了です」

「……。あたしのターン、ドロー!」


【サイレント・マジシャンLV4】ATK1000→DEF1500


 サイレント・マジシャンLV4は相手がカードをドローする度に魔力カウンターを溜め、攻撃力を上げる効果を持っています。だけど……。

「手札からフィールド魔法、星見世界を発動!」

 夏未さんのデュエルディスクに星見世界がセットされると、辺り一面がプラネタリウムのような空間になりました。夜空に散りばめられた星がとても綺麗なのに、夢でデュエルしていた場所と少し似ていて――今はどうしても恐怖を感じずにはいられませんでした。


【星見世界】 フィールド魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上及び墓地に存在する全てのモンスターのレベルは10になる。


「そして手札の星見獣ガリスを相手に見せて効果を発動! ガリスの効果でデッキの一番上のカードを墓地へ送る」


【星見獣ガリス】
★3 地属・獣族 ATK800/DEF800
手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、そのカードがモンスターだった場合、そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与え、このカードを特殊召喚する。そのカードがモンスター以外だった場合、このカードを破壊する。


「墓地へ送られたカードは星見鳥ラリス。星見世界の効果でラリスのレベルは10になるため、幸恵に2000のダメージを与える!」

 …………。

幸恵【LP:4000→2000】


「墓地へ送ったのがモンスターカードだから、あたしは手札の星見獣ガリスを守備表示で特殊召喚する。これでターンエンド」


幸恵【LP:2000】
手札:5枚
モンスター:サイレント・マジシャンLV4(ATK1500・攻撃表示)
魔法&罠:セット1枚

平見【LP:4000】
手札:4枚
モンスター:星見獣ガリス(DEF800・守備表示)
魔法&罠:無し
フィールド魔法:星見世界(全モンスターのレベルを10にする)


「わたしの……ターン……」

 ――『また勝ちやがった』

 ――『そんなに勝ちたいの?』

 また、勝ちたくない……。そんなに、勝ちたくない……。

 わたしは……。

「タ、ターン終了です」

「幸恵っ!」

 夏未さんがキッと表情を変えます。それが怖くて、わたしは子供のようにうずくまり涙声で叫びました。

「わたしはもう戦いたくない! わたしがデュエルを続けて欲しいなんて藤原くんに言わなかったら藤原くんはあの人とデュエルをしなかった! あの時わたしが藤原くんの言う事を聞いておけばこんな事にならなかった! わたしはまた余計な事を言っちゃったの! ジェネックスの時と同じ事を、わたしは……!」

「紅ちゃんは何のためにあなたを説得したと思っているの? 幸恵は藤原のために、ここに来たんじゃないの? 答えなさい! 何のためにここに来たのよ!」

「藤原くん……を……」

「何でそのために頑張れないの!?」

「怖いの!!」

 今まで出した事も無かった自分の大声を聞いて、ハッとしました。叱っていた夏未さんも驚いた様子でした。だけどわたしはもう、自分の気持ちを抑えられません。

「藤原くんがいないからデュエルをするのが怖い! 藤原くんと会うまではわたしを助けてくれた神之崎さんのためにデュエルをやっていた、だけど今は藤原くんがいないとダメなの! 戦えない! 藤原くんがいないから、わたしはまた人から嫌われちゃう! 藤原くんがいないのにまた人から嫌われちゃったら、わたしは……!」

「藤原と会ってから幸恵は変わった。デュエルだけじゃなくて、藤原となら何事も心から楽しそうに頑張っていた。幸恵にとって藤原は、掛け替えのない人なんでしょ? だったら自分のために意地でも藤原を取り返してみなさいよ! カダールはあなたや藤原から全てを奪い取ってでも、生きて夢を叶えたいと思っていた。だからあの子は本気で藤原を殺し、あなたを不幸にするのよ! だから幸恵もカダールの信念を砕いてでも藤原を救いなさいよ!」

「わたしはもう、何をすればいいのか分からない! 藤原くんに会いたいよぉ! だけどもう、デュエルは怖いの!」

 わたしの歯切れの悪い言い方に、夏未さんはムッとした表情のまま軽い溜息をつきました。

「あたしのターン、ドロー」


【サイレント・マジシャンLV4】ATK1500→ATK2000


「星見モンスターが場と墓地に2種類以上存在している時、星見る竜を導く。――あたしは手札から、スターゲイザー・ドラゴンを特殊召喚!」

 2つの綺麗な翼を羽ばたかせ、全身が白銀に輝く中型ドラゴンが夏未さんのフィールド上に現れました。スターゲイザー・ドラゴンは星見デッキで重要なカードの1枚……。


【スターゲイザー・ドラゴン】
★7 風属・ドラゴン族 ATK2400/DEF1900
自分のフィールド上及び墓地に「星見」と名のついたモンスターが2種類以上存在する場合、手札から特殊召喚する事ができる。この方法で特殊召喚に成功した時、自分の墓地から元々のレベルが3以下の「星見」と名のついたモンスターを可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。相手フィールド上に存在する表側表示モンスター1体を選択する。選択したモンスターの元々のレベル×200ライフポイントを払う事でそのモンスターを破壊する。


「スターゲイザー・ドラゴンの効果、スター・サンクチュアリを発動。墓地から星見鳥ラリスを守備表示で特殊召喚する!」

 守備……表示……。


【星見鳥ラリス】DEF800


「スターゲイザー・ドラゴンで、サイレント・マジシャンLV4を攻撃! シューティング・スター!」


幸恵【LP:2000→1600】


 スターゲイザー・ドラゴンの攻撃……サイレント・マジシャンLV4の戦闘破壊……。

「ターンエンドよ」

 夏未さんの行動に、わたしは堪らず声を出しました。

「どうして……!」

 スターゲイザー・ドラゴン第2の効果――コンバット・スタークラッシュ。この効果を使えばサイレント・マジシャンLV4を効果で破壊し、星見獣ガリスと星見鳥ラリスを攻撃表示にして総攻撃を掛けていれば夏未さんは勝っていました。それなのに……。

「紅ちゃんにね、どうやって幸恵を元気付けたか聞いたの。あたしはジェネックスに行ってないけど、紅ちゃんから聞いた言葉なら知っていた。童実野埠頭で幸恵と会えた時の藤原が……その、少し格好良かったから覚えている。ボクはずっとユキちゃんが好き。失敗してユキちゃんに嫌われても、好きになって貰える様に頑張る。だから――」

 わたしは頭の中で聞こえる藤原くんの声と、重なるように言いました。

「だから……ユキちゃんも、だよ」

「こうなったのは幸恵の責任じゃない。でもたった1人だけ、そう思っている人がいるの。それは幸恵、あなた自身よ。この事件が自分の失敗だと思うなら、あなたはデュエルで勝たなきゃいけない」

 デュエルで……勝つ……。

「わたしが勝ったら……また……」

「藤原がいないから怖くなる気持ちは分かる。デュエルを続けたくない気持ちも分かる。藤原に会いたいけど、目の前の事が怖いのだって分かる。分かるけど、藤原との約束だけは守りなさい。あなたは藤原の為なら、戦えるのよ」

 藤原くんの為なら、戦える……。

 頑張れる……。

 それは今も昔も、ずっと思っていた事でした。どんなに嫌な事があっても、藤原くんがいない方が何よりも嫌な事。本当は悩む必要なんて無かった。だけど、わたしは怖かった。藤原くんが近くにいない事が、怖かった。

 だからわたしは、昨日も一番大切な事を忘れていたのです。わたしは藤原くんの為なら、戦えます。デュエルが出来ます。でも。

「わたし、カダールさんに……勝てるのかな……?」

 目線を逸らしながら言った言葉に、夏未さんは呆れたような表情で微笑みました。わたしはさっきまで勝つ事に怖がっていたから、可笑しな感じがするのは当然です。でも少し不安になってしまって、夏未さんに聞いてしまったのです。

「なに言ってるのよ。あたしには、幸恵が負ける方が信じられないな」

 わたしは小さく笑って頷きました。ポケットから取り出した水色のハンカチで涙を拭い、デュエルを続ける為――藤原くんの為に。立ち上がらなきゃ。夏未さんが言った通り、わたしはデュエルをするだけでは無く、勝たなければいけません。だからまずは夏未さんに、そしてカダールさんにも勝ちます。

「わたしのターン、ドロー!」


幸恵【LP:1600】
手札:5→6枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚

平見【LP:4000】
手札:4枚
モンスター:スターゲイザー・ドラゴン(ATK2400・攻撃表示),星見獣ガリス(DEF800・守備表示),星見鳥ラリス(DEF800・守備表示)
魔法&罠:無し
フィールド魔法:星見世界(全モンスターのレベルを10にする)


 デッキからカードを引くだけなのに、わたしの手はまだ震えていました。

 わたしが勝てば、藤原くんは帰って来る。頭の中でそう何度も自分に言い聞かせて、夏未さんの方に顔を向けます。

「トラップカード、リミット・リバースを発動! わたしの墓地からサイレント・マジシャンLV4を特殊召喚します!」


【リミット・リバース】 永続罠
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

【サイレント・マジシャンLV4】ATK1000


 デュエルをするだけ。勝つだけ。

 それだけで藤原くんと会えるなら、わたしは。

「手札から魔法カード、沈黙の杖−LV4を発動! 相手フィールド上のモンスター1体を選択、そのモンスターを破壊します!」

 魔法使いの少女が杖を使って魔法を放ち、スターゲイザー・ドラゴンを破壊します。フィールド上からスターゲイザー・ドラゴンが消えた瞬間、わたしは胸を締め付けられるようでした。

「破壊したスターゲイザー・ドラゴンは星見世界の効果でレベルは10になっています。よってわたしは、レベルが合計10以下になるようにデッキからモンスターを特殊召喚します。わたしが選ぶのはレベル2の素早いモモンガ3体と、レベル3のマジック・ストライカーです!」

 デッキから4枚のカードを取り出し、デュエルディスクに並べるように置いていきます。


【沈黙の杖−LV4】 通常魔法
「サイレント・マジシャンLV4」が自分フィールド上に存在している時のみ発動する事ができる。フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊し、そのモンスターのレベル合計以下になるようにデッキからモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する事ができる。

【素早いモモンガ】ATK1000 ×3

【マジック・ストライカー】ATK600


「そしてマジック・ストライカーを生け贄に、THE トリッキーを通常召喚!」


【THE トリッキー】
★5 風属・魔法使い族 ATK2000/DEF1200
手札を1枚捨てる事で、このカードを手札から特殊召喚する。


 これでわたしのフィールド上には素早いモモンガ3体、サイレント・マジシャンLV4、THE トリッキーが並びました。夏未さんのフィールド上には星見鳥ラリスと星見獣ガリスのみ……。

「素早いモモンガ2体で、ラリスとガリスを攻撃します!」

 モモンガ2体は両手の爪で星見モンスター2体を破壊します。夏未さんのフィールド上からモンスターが消えた時、わたしはまた目を逸らしてしまいました。だけどデュエルで勝つ為には、藤原くんとの約束を守る為には、必ずこの先に行かなければなりません。

「残ったモモンガとトリッキーで、夏未さんに直接攻撃です!」

「きゃっ!」


平見【LP:4000→1000】


 残りのサイレント・マジシャンLV4が攻撃すれば、わたしはこのデュエルに勝てます。だけど――。

 ――『また勝ちやがった』

 ――『そんなに勝ちたいの?』

 っ……。

「サイレント・マジシャン、LV4で……」

 また、勝ちます。そんなに、勝ちたい。

「攻撃します! ――サイレント・バーニングッ!」


平見【LP:1000→0】


 サイレント・マジシャンの攻撃が夏未さんに届き、ライフポイントの表示が0になりました。プラネタリウムのような空間もフィールド上から消え、わたしはホッとした反面、とても悲しい気持ちがこみ上げて来ます。

「幸恵!」

 夏未さんがわたしの所へ走って来ました。デュエルが終わった事の恐怖で足が震えて、また地面に膝をつけてしまいます。

「わたし、カダールさんに……勝てるのかな……?」

 さっきも夏未さんに聞いた事を、また聞いてしまいました。わたしは自分の気持ちがよく分からなくて、泣き喚いて夏未さんにしがみ付きます。

 夏未さんは細い身体でわたしを抱きしめ、ゆっくりとした口調でおまじないのように励ましてくれました。

「勝てるよ。勝てる、勝てる」





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