父さん……





母さん……





どうして……





ボクは1人になったの……かな。





2人は……もう……この世から、いなくなった……





1人になったボクは……




他人から、全てを奪い取ってでも。







君が笑う時まで

製作者:Kunaiさん






第1話「ヒヤシンス ――非哀」

 ――幸花高校 デュエ研部室


 ジェネックスの大会から、半年以上が経った。

 ボクと伊吹君は高校3年生、紅ちゃんは高校2年生、ユキちゃんは中学2年生に進級した。野口さんや鳥野さんも、今は大学で凄く頑張っている。平見先生は……あんまり言いたくない歳になったと言っていた。

 今は部室にボクとユキちゃん、平見先生と鳥野さんがいる。伊吹君と紅ちゃんは、3日後のイベントに向けて買出しに行っている最中だ。このイベントを行う事になったキッカケは平見先生と紅ちゃんが「幸花町を、デュエルで活性化させるために!」と言い出した事から始まった。そこから定岡先生や校長先生の協力もあって、幸花町の子どもをここに集めて、小さなデュエルの大会をやる事になったんだ。

「何ボーッとしてんのよ! 藤原っ!」

「君のターンだぞ、藤原君」

「藤原くん、頑張って!」

 平見先生の一喝、鳥野さんの知らせ、ユキちゃんの声援がトントントン、と耳に入った。……そう言えば、今はデュエル中だった。

「ボクのターン、ドロー!」


藤原【LP:4000】
手札:5枚→6枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

鳥野【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し


 今週も鳥野さんが来てくれて、いつもと何も変わらないデュエルが始まっている。それはとても平和で良い事なのかも知れない。だけどこうしてデュエルをしている度にボクは思う。ボクはジェネックスの大会以来、何かを失ってしまったんだ。

「モンスターを守備表示でセットして、ターン終了です」

 鳥野さんはボクのエンド宣言を聞くと、少し姿勢を整えてからカードを引く。

「私のターン、ドロー! 手札からバードマンを召喚し、裏側モンスターに攻撃を行う!」


【バードマン】
★4 風属・鳥獣族 ATK1800/DEF600
マッハ5で飛行する鳥人。その眼光は鷹より鋭い。


 鳥野さんのフィールド上にバードマンが現れ、ボクのセットしていたモンスターを破壊する。セットしていたモンスターはサイレント・ソードマンLV3。

「サイレント・ソードマン? 攻撃を防ぐカードが何も無かったのかい?」

「……はい」

 鳥野さんが驚くのも無理は無かった。サイレント・ソードマンLV3はフィールド上に表側表示で存在する時、自分のスタンバイフェイズ時にLV5へ進化する事の出来るモンスター。もちろん裏側守備表示では進化する事が出来ないため、基本的にはこんな事をする意味は無い。でもボクの手札にはサイレント・ソードマンを守るための速攻魔法やトラップカードが無く、他にセットすべきモンスターすら手札には無かったんだ。

「だが、まだ攻撃は終わらないぞ! 速攻魔法、鳥になった私を発動! フィールド上のバードマンを生け贄に捧げ、デッキからネフティスの鳳凰神を特殊召喚だ!」

 バードマンの全身が炎に包まれ、その姿をネフティスの鳳凰神へと変える。ネフティスの鳳凰神は強力な効果を持つ、鳥野さんの切り札カード。だけどボクは思っている以上に動揺していなかった。それはデュエルを冷静に出来ているのでは無く、デュエルを楽しめていないから――かな。


【鳥になった私】 速攻魔法
自分のフィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。自分のデッキから鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。

【ネフティスの鳳凰神】
★8 炎属・鳥獣族 ATK2400/DEF1600
このモンスターがカードの効果によって破壊された場合、自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを特殊召喚する。この方法で戻った場合、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。


「ネフティスの鳳凰神で藤原君に追加攻撃! フレイミング・エタニティ!」

「うあっ!」

 ネフティスが翼から炎を巻き起こし、ボクのライフポイントを削り取る。


藤原【LP:4000→1600】


「カードを2枚セットして、ターンエンド」

「ボクのターン……。手札からライトニング・ボルテックスを発動します。手札の冥府の使者カイエンを墓地へ送り、ネフティスの鳳凰神を破壊!」

 天井から複数の雷が鳥野さんのフィールド上に降り注ぎ、ネフティスの鳳凰神に命中し破壊される。


【ライトニング・ボルテックス】 通常魔法
手札を1枚捨てる。相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。


「ボクは800ライフポイントを払い、手札から早すぎた埋葬を発動。墓地から冥府の使者カイエンを復活させます!」


【早すぎた埋葬】 装備魔法
800ライフポイントを払う。自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

【冥府の使者カイエン】ATK2500

藤原【LP:1600→800】


「さらに非常食を発動! フィールド上の早すぎた埋葬を墓地へ送り、ライフを1000回復!」


【非常食】 速攻魔法
このカードを除く自分フィールド上の魔法または罠カードを墓地へ送る。墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

藤原【LP:800→1800】


「非常食による真の狙いはネフティスの鳳凰神の復活効果による早すぎた埋葬の破壊を防ぐ事。冥府の使者カイエンの攻撃力ならネフティスが復活しようが戦闘によって破壊が可能だ。さすがだと言いたいが、少し藤原君らしくないな」

「……?」

「ネフティスの復活効果は私のスタンバイフェイズ。つまりそれまでは冥府の使者カイエンは早すぎた埋葬の効果で破壊される事は無い。非常食は速攻魔法のため、自分のターンでも手札から発動が出来る。私がセットしているこのカードがトラップカードや砂塵の大竜巻だったならば相手のカードを1枚無駄に空振りさせる事が出来たはず」

 鳥野さんの言う通りだ。野口さんや幸恵ちゃんが教えてくれた事でもあるのに、どうしてボクは……。

「っ……冥府の使者カイエンで、鳥野さんに直接攻撃!」

「トラップカード発動、鳳翼の爆風! 私は手札の鳳凰神の羽根を墓地へ送り、効果を発動。冥府の使者カイエンを藤原君のデッキの1番上へ戻す事が出来る!」

 ボクのフィールド上に竜巻のようなものが起こり、カイエンは竜巻に巻き込まれてフィールド上から消えてしまった。


【鳳翼の爆風】 通常罠
手札を1枚捨てる。相手フィールド上のカード1枚を持ち主のデッキの一番上に戻す。


「ターン終了です」

「私のターン、ドロー! 私のスタンバイフェイズに来た事によって、ネフティスの鳳凰神を特殊召喚!」

 真っ赤な炎の鳥が現れ、鳥野さんのセットしていたカードを炎で破壊する。全身の炎が少しずつ消え、黄金色の鳳凰神がフィールドに蘇る。


 あ、そうか。


「行くぞ! ネフティスの攻撃だ!」

 鳥野さんが攻撃宣言をした時、ネフティスの鳳凰神はフィールド上から消え、同時にお互いのライフポイントの表示も消えた。

「鳥野さん、ボクの負けです」

 ボクはデッキに手を置き、サレンダーをしていた。鳳翼の爆風の効果で、次のドローするカードは冥府の使者カイエンと分かっている。ボクの手札に対処出来るカードも無いので、このデュエルはもうボクの負けで確定しているんだ。

 いや、違う。ボクの負けは今に始まった事じゃない。ジェネックスで一般生徒に負けたあの時から――あの時から、ボクは1度もデュエルで勝つ事が出来なかった。ユキちゃんにも、伊吹君にも、平見先生や紅ちゃんにも、誰にも。

 デュエルの雑誌にも載った事がある十代君を、あまり公になっていない状況とは言えボクなんかが勝ってしまったのがいけなかったのかな。勝運を、あの時に全て使い切ってしまったのかな。

「今日はありがとうございました、鳥野さん。ボクは先に帰ります」

 腕に付けていたデュエルディスクを取り外し、そのまま部室の机に置く。デュエルディスクをここに置く時はいつも帰る時なので、予め置いていた学生鞄を取って部室を出た。鳥野さんは……平見先生は……。幸恵ちゃんは、どんな顔をしてボクを見ているんだろう?

 部室を出た頃になって、デュエルディスクにデッキを入れっぱなしだった事に気が付いた。だけど部室へ来るのはデュエ研のメンバーだけだし、特に問題は無いかな。とりあえず今は外に出て、冷たい風にでも当たろうと思った。





「藤原くん……」

「行って来なさい、幸恵。藤原も幸恵を待ってるよ」

「……うん。行ってくるね」





第2話「クローバー ――約束」

 ボクが生徒用玄関で外靴に履き替えていると、後ろからパタパタとスリッパの足音が聞こえてくる。ユキちゃんだった。

「待って、藤原くん。わたしも一緒に行っていいかな?」

 ボクが黙って頷くと、ユキちゃんはいつもより急いで外靴へ履き替え、2人で一緒に玄関から歩き出す。外に出ると夕日の空が少し眩しくて目を細めてしまった。

「どこに行くの、藤原くん?」

「あの公園、かな」

 幸花高校から少し歩くと、待ち時間の長い踏み切りが見えてくる。今はもう帰宅する頃の時間だから、学生服の人や自転車に乗っている子供達が多かった。

 ボクとユキちゃんは踏切に着いたけど、ここまでほとんど会話を交わす事が無かった。それはきっと、ボクもユキちゃんもあの公園なら全てが話せるからだと思う。今までがそうだったし、きっとこれからも。でも今の問題を解決する方法なんて……。


「…………」


 踏切の音が止み、気が付くと踏切の棒が上へと上がっていた。あまり意識はしていなかったけど、ボクの足は自然に前へと進んでいた。ここからもう少し歩いて行くと、誰もいない小さな公園が見えてくる。あの時と変わった事と言えば、少し錆びてしまった滑り台。ブランコ。ベンチ。

 そしてボク達も、少し変わった。ボクは1年生の頃より少し大人っぽくなったと言われたり、ユキちゃんもあの頃より少し髪を伸ばしていた。ボク達の気持ちは、どんな風に変わったのかな。良い方向に? 悪い方向に?

 ユキちゃんは色々な気持ちを抱えたボクの腕を取り、

「ねっ、イスに座ろ」

 嬉しそうに古いベンチへと引っ張った。ここの公園とベンチはボク達にとって、ただの公園じゃない。何かあった時、こうして2人でいれば昔と変わらないボク達になれる。ボクもユキちゃんも、ここでならどんな話しにくい事も楽に話す事が出来るんだ。

「ここでユキちゃんと逢ってから、もう2年以上経つんだね」

「うん」

 今でも少し頬を赤く染めるユキちゃんは、凄く可愛かった。だけど今はボクの事を話さないといけない。ユキちゃんもきっと、それを待っているから。

「ボクはもう、デュエルを辞めようと思う」

「えっ!」

「ボクはあの時から何も上達していない。それどころかユキちゃんと出会う前の弱い自分に戻ってしまった。負け続ける、弱いボクに。だからもうデュエルを辞めようと思っている」

「ダメだよ! 藤原くんはジェネックスの時、十代くんとまたデュエルしようって約束していたよね? それに野口さんとのデュエルは、もういいの?」

 ユキちゃんの目は本気だった。まだ幼さの残った、優しさと強い意思を持った瞳。いつもなら、それを見るだけでボクは気持ちがずっと楽になっていた。でも今は逆だった。その瞳に、恐怖さえ感じていた。

「デュエルを辞めても、わたしは藤原くんを嫌ったりしない。でも……でもね。本当にそれでいいの?」

「ボクはジェネックス当日、大きな過ちを犯した。参加メダルなんかと、ユキちゃんを比べてしまった事」

「……! あれはわたしが悪いの! わたしが藤原くんの考えを分かっていたら、きっと……」

「仮にあの時、ボクが参加メダルとユキちゃんを救うことが出来たとしても、ボクがユキちゃんのために参加メダルをすぐに手渡さなかったのは――消えない事実なんだ」

「でも……」

 ユキちゃんは俯き、次の言葉を出せないでいた。

 それはボクも同じだった。ボクは自分の弱い部分を、話す事に戸惑っている。でもそれをユキちゃんに伝えない限り、解決する事は無いんだ。

「ボクは失敗してしまった、だけどボクにとって大事なのはデュエルでも参加メダルでも、十代君や野口さんとの約束でもない。ユキちゃんがボクにとって、一番大事なんだ。実力の落ちてしまったボクが、これ以上惨めなデュエルを続けているとまたユキちゃんに迷惑を掛けてしまう。そのせいで本当に大事なユキちゃんを失ってしまう事が、怖いんだ」

 本音だった。だからこそ余計に少し恥ずかしくて、ボクはユキちゃんから目を逸らし、滑り台へと目をやった。ボクの言葉を聞いて、ユキちゃんはどんな表情をしたんだろう? どんな表情をしているんだろう?

「藤原くんの気持ち、とても嬉しい。でも、わたしだって同じ気持ちだよ。藤原くん、あなたはわたしにとって本当に大切な人。だから……その、こんな事を言うのは、ずるいと思う……けど。わたしの事が本当に大切なら、わたしの為に今はデュエルを続けて」

 ユキちゃんの……為。

「今ここで辞めちゃうと、藤原くんはきっと後悔すると思うよ。あの時、辞めるなんて言わなければ良かった、辞めなきゃよかったって。その時が来てしまったら、それを止められなかったわたしも後悔しちゃう。だから今は、わたしの為にと思って、続けられないかな?」

 強いなぁ、ユキちゃんは。

 ユキちゃんは決して傲慢な態度でボクに対して「わたしの為に」と言っているんじゃない。ボクがユキちゃんの事を、ユキちゃんがボクの事を信じている事を知っているから、こう言ったんだ。それはボクだって知っている。ユキちゃんはボクの為なら、ボクはユキちゃんの為なら、頑張れる事を。

 デュエルを辞める……か。ボクはユキちゃんの気持ちを、再確認でもしたかったのかな。自分でもよく分からないけど、少なくとも昔のような弱い自分に戻ってしまったのは完全にボク自身が原因なんだと思う。デュエルでの負けが続いてしまって、デュエルは今後のボクにとって必要の無い物だと思い込んでいたんだ。

 続けよう。自分自身と、ユキちゃんの為に。

「ありがとう、ユキちゃん」

「あっ」

 公園のベンチから立ち上がり、ユキちゃんの右手をぎゅっと握った。ユキちゃんは未だに、初めて男の子と手を繋いだ時のような表情をしていた。

「今から学校に戻っても、間に合うかな? 平見先生、怒ってないかな?」

「大丈夫! はやく行こうよ!」

 ユキちゃんはニコっと笑って、今度はボクの右手を引っ張った。

 ボクがデュエルで出来る事なんて、もう何も無いかも知れない。たぶん2年生の時のように十代君に勝ったり、大会で優勝したりも出来ないと思う。でも、ここまで来たのなら。3年生として、デュエリストとして、十代君と野口さんとデュエルをしなければならないんだ。勝っても負けても、最後のデュエルとして悔いが残らないように。





第3話「キョウチクトウ ――危険」

 ――幸花高校 デュエ研部室


「こっちも手伝えよ、藤原ぁー!」

「わ、分かっていますよ!」

 町内の子ども達が幸花高校へ来るのは明後日。さすがにこの部室のままだとあまりにも質素だから部室の掃除したり、いらない物を処分したり、部屋の飾りつけを用意したりしているんだ。

 今までは気にも留めていなかったけど、2年半前にデュエル・アカデミアが開催した大会の告知ポスターはいつまで部室に残すんだろう? 野口さんが幸花高校に在学していた頃の物だから、かなり古いんだけど。

「場所はここでいいのか?」

 伊吹君が部室の隅に、大きなダンボール箱をゴトンと置く。何が入っているか分からないけど、音からすると機械かな。かなり重そうだ。

「ありがとう、伊吹君。私にもう少し力があれば自分で運んでいたのだが……」

「神之崎さん! お久しぶりです!」

 神之崎さんと始めて会ったのは、ボクが1年生の時。デュエル・アカデミアの代表選手、つまり十代君達と戦うハズだった日に神之崎さんに邪魔をされ、ボク達は神のカードと戦った。確かにあの時は辛苦を味わったけど、結果的にボクがユキちゃんの事を思い出すきっかけになったから今ではとても感謝している。

「久しぶりだ、藤原君。幸恵が今も元気なのは、全て君のおかげだ」

「ありがとうございます。ボクが元気なのも、ユキちゃんがいるからですよ」

 そう言えば神之崎さん、この前会った時も挨拶の次には「幸恵」と言っていた気がする。当たり前かも知れないけど、やっぱり神之崎さんはユキちゃんの事が心配なんだ。平見先生はユキちゃんの母さんと言うよりはお姉さんみたいだけど、神之崎さんは本当の父さんみたいだ。

「藤原部長、機械は得意だったよな。ちょっとこれを組み立ててくれないか?」

 伊吹君はダンボール箱を開け、ある程度まで組み立てられている白くて大きな機械を取り出した。

「得意って言うほどじゃないんだけど……何、これ?」

「ふふ、よく聞いてくれた藤原君。これは海馬コーポレーションが開発した最新型のデュエルマシーンだよ。なんでも海馬社長が『最低ランク設定は凡骨以下でも倒せるが、最高ランク設定にした場合はオレと遊戯以外のデュエリストを倒せる』と、豪語した自信作らしいぞ」

 ボクの質問に神之崎さんが嬉しそうに答えてくれた。そ、それにしても海馬社長。テレビで何度も見た事があるけど、相変わらず凄い自信だ。

「俺は組み立てが苦手だから、平見先生の手伝いは俺が行ってくる。これは任せたぞ」

「えっ」

 伊吹君はデュエルマシーンをコンコンと軽く叩き、部室を出て廊下へと歩いて行く。それにしても、ボクが組み立てられるのだろうか。置かれたパーツはそんなに多くないから難しく……あっ!

「来ていたのか、神之崎」

「定岡か」

 気が付いた頃には既に神之崎さんと定岡先生はいがみ合うような目でお互いを見ていた。で、でもボクにはそう見えているだけで、2人はただ普通に見ているだけかも知れない。だけど1年生の時の出来事から、どうしても2人はかなり不仲なイメージがあるんだけど……。

「デュエルマシーン、持ってきてくれたようだな」

「少し時間が掛かったが、何とか間に合った」

「礼を言おう。藤原君、今ちょっと構わないか?」

 このタイミングでボクの名前が出て来るとは思わなかったので、少しドキッとなる。そのせいで不恰好にも「えっ」「あっ」と言葉に詰まってしまった。

「はい、大丈夫です。えっと、失礼します、神之崎さん」

「デュエルマシーンは私が組み立てておこう。これからも幸恵の事をよろしく頼むよ」

 ボクは神之崎さんに一礼して、廊下に出る。定岡先生も無理せずに神之崎さんがいる所で話せばいいのに。

「明後日の事だが、校長が体育館を貸し切りで使用しないかと言っているんだが、どうする? デュエ研の部長である君の意見を聞こうと思ってな」

「そうですね、体育館だと広くてより多くの人が来られるのですが、準備に時間が掛かりませんか?」

 ボクの言葉を聞いて、定岡先生は「思い出した」とでも言いたそうな表情になった。

「申し訳ない、肝心な事を言うのを忘れていた。部活で体育館を使用するバスケ部やバドミントン部、休日の学校行事と言う事で生徒会の人も手伝ってくれるようだ。まだ正確には分からないが、デュエ研メンバー以外にも20人近くは集まると思う」

「それはありがたいですね。ぜひよろしくお願いしますとお伝えして頂けませんか?」

「もちろんだ。それ――」

「あーっ! 藤原さん、やっと見つけた!」

 定岡先生の声を掻き消す、大きな声の正体は紅ちゃんだった。さっきから平見先生、伊吹君、神之崎さん、定岡先生、そして紅ちゃん……と、ちょっと忙しい気がする。

「では私は早速、校長の所へ行って来る。こっちは任せてくれ」

 定岡先生は話をまとめ、紅ちゃんがいた方へ向かって行った。紅ちゃんは定岡先生とすれ違う時、定岡先生にペコっと頭を下げていた。紅ちゃんはちょっとお喋りだけど、礼儀の正しさはユキちゃんと同等、もしかしたらそれ以上なのかも知れない。

「おっはー!」

 紅ちゃんはニヤ〜っと笑って、両手で変な動作をしていた。

「お、おっは〜。ところでボクに何か用があったの?」

「えーっと、まず1つ。参加者が結構増えたよ、ホラホラ!」

 紅ちゃんがスカートのポケットからクシャクシャの紙を出してきて、ボクに差し出す。ズボンから紙を出すのと同じなのに、スカートからだと妙にドキドキしてしまうのはなぜだろう?

「凄い、こんなに増えている! でもデュエ研の部室に入るの?」

「あ」

 口をぽけーっと開け、愕然とする紅ちゃん。その様子を見てから、ボクはニヤリと笑う。

「大丈夫、さっき定岡先生が場所を体育館に変えてくれるって言っていたから、そっちなら問題無いよ」

 罠に掛かった紅ちゃんは恨めしそうにボクを見た。いつもはボクが負けてしまうから、今日くらいは勝たせて貰わないと。

「ちっくしょ〜、藤原さんめ! 私をそんな風に扱っていると、タイムカプセルで藤原さんを除外して、サイクロンしちゃうよ?」

「そ、それはご勘弁を!」

 これは最近、紅ちゃんの中で流行っているフレーズだ。

 魔法カード、タイムカプセルはデッキからカードを1枚選択して裏側で除外し、2ターン後に手札に戻ってくるカード。でも途中でタイムカプセルが破壊されたらそのカードは裏側で除外されたままになってしまうんだ。裏側除外されたカードをそのデュエル中に使用出来るようにするカードは数少ない。

 このフレーズに影響され、ボクとユキちゃんは同じような面白フレーズを一緒に考えようとしていたんだけど――これが中々難しくて、断念してしまったんだ。何だか悔しい思いをしたボクとユキちゃんは今、紅ちゃんをギャフンと言わせられるフレーズを一緒に考え中だ。

「今日はボクとユキちゃんが買出しに行くから、紅ちゃんは体育館へ行って貰っていいかな?」

「了解〜! 藤原さんも、ユキちゃんと遊んでちゃダメだよ?」

 紅ちゃんも仕返しと言わんばかりにニヤリと笑い返し、廊下を走って行った。

「タイムカプセル……か。もう、そんな時期か」

 ボクは生徒用玄関へ向かいながら考え事をしていた。タイムカプセルと言えば、最高学年にはお馴染みのアイテム。卒業。あと数ヵ月後には、ボクはこの幸花高校を卒業するんだ。たぶんデュエルのイベントも、これが最後だ。

 外靴に履き替え、校門へと向かう。

 ボクはこの場所を3年間通り続けた。この道を通れるのは、あと半年。その後はボクの決めた道を進まなければならない。その事を考えると、プロデュエリストにでもなる訳じゃないのにデュエルを続けててもいいのかと迷ってしまうんだ。

 校門を出て、ユキちゃんとの待ち合わせ場所へと向かった。

 でもそれはユキちゃんと一緒に決めた事なんだ。ボクがデュエルを続ける事で、ユキちゃんが間違っていなかった事を証明して見せる。そうすればボクも、デュエルを続けていて良かったと思える日が、きっと――










『藤原賢治』










「えっ!」

 突然聞こえた声に、ボクは大声で反応してしまった。

 辺りを見渡しても、周囲には誰もボクを呼んでいるような人はいない。いや違う、いなくて当然だ。今の声は周りから話し掛けられたような感じじゃない。よく分からないけど、頭に直接語りかけてきたような感じだった。



『藤原賢治、あの公園には誰もいない。幸花高校へ戻れ。そしてグラウンドへ来るんだ』



 ユキちゃんが、いない?



『失いたいのかな』



 その声を最後に、プツリと電話が途絶えたように頭から何も聞こえなくなった。



 嘘だ。



 こんな……。でも……戻るしかない!



 戻らないと、ユキちゃんが……ユキちゃんが!



「くそっ!」

 幸花高校へ着くには大して時間が掛からなかった。全力で走ったから、30秒くらいだと思う。自販機置き場や文化部の部室が並ぶ校舎を通り、息も絶え絶えでグラウンドへと辿り着いた。グラウンドには野球部やサッカー部がおらず、それどころか人1人すらいない。



 黒いコートを着た、見たくなかった人間を除けば。



「よぉ、藤原。ジェネックス以来だったな」

「……刃金沢」

「ククッ、やはりまだオレを恨んでいるようだな」

「何が目的だ」

 ボクは自分でも信じられないほど重く冷たい声で話していた。そして冷静にそんな事が出来た自分が少し怖かった。

「オレは最強の力を手に入れた。その力は便利でなぁ、更なる力を手に入れる方法を教えてくれたんだよ。藤原、お前はジェネックスで遊城十代に勝ったな?」

 ボクは無言で刃金沢を睨んでいたが、勝手に話を進める。

「そう、お前はザコなのに勝ったんだよ。確かにあの時、遊城十代は『破滅の光』の存在を消滅させるため無意識に力を蓄えており、ジェネックスでは本来の力を発揮出来なかった。だが、お前は今のオレの生け贄には十分な能力を持っている」

「意味が分からない。ユキちゃんはどこにいるんだ」

「ここにはいない。だがお前には今からデュエルをやってもらう。お前が勝てば俺は消滅、負ければお前では無く平見幸恵が死ぬ。ここにいなくても、消すくらい簡単って事は分かるよな? これが単なる脅しに聞こえるかぁ?」

 こんなにタイミング良く刃金沢が現れてくれるなんて、あの時の失敗を決別させてくれるために現れてくれたのだろうかと思ってしまう。どうなるか分からない怖さがある反面、あの時の仕返しが出来るチャンスが来たのは嬉しくてたまらない。だから叫びもしないし、怒りもしない。だけど本当にユキちゃんからボクを、ボクからユキちゃんを奪おうとしているなら。





 殺す。





「お前のデッキとデュエルディスクはここに用意してある。残念だが細工は無い、オレの目的は」

「もういい」

 刃金沢の投げたデュエルディスクを受け取り、腕に装着する。

「必ずお前を倒す。必ず」

 辺り一面が黒い霧に包まれ、薄暗い空間へと変わっていく。数秒間でその闇が全てを包み、校舎や夕日が完全に見えなくなってしまった。刃金沢が特別な力を使っているのはもう分かっている。そしてこの周りの空間は、ボクにとって恐怖では無く確信を持たせてくれるんだ。このデュエルには、絶対に勝たなければならないと。ボクとユキちゃんのために。


藤原【LP:4000】
刃金沢【LP:4000】





第4話「オトギリソウ ――敵意」

 ボクはデッキからカードを5枚引き、全てのカードを1枚1枚確認した。

 勝てる。この手札なら、序盤からデュエルの主導権を簡単に奪い取る事が出来るだろう。ボクが勝つ事で本当に刃金沢を殺す事になったとしても、ボクは――

「ボクのターン、ドロー! 手札からカードガンナーを攻撃表示で召喚する!」

 いつものようにデュエルディスクへカードを置き、機械族のモンスターを召喚させる。ボクは自分でも分かるくらい心の奥底では怒っているのに、暴れたいような気持ちは無い。今まで冷静に人間を殺せる人間は、人間じゃないと思っていた。でも今のボクなら、それが出来てしまうかもしれない。


【カードガンナー】
★3 地属・機械族 ATK400/DEF400
自分のデッキのカードを上から3枚まで墓地へ送る事ができる。墓地へ送ったカード1枚につき、このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。この効果は1ターンに1度しか使用できない。自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「カードガンナーは自分のデッキからカードを3枚まで墓地へ送る事出来る。そして送ったカード1枚につきこのカードの攻撃力を500ポイントを上昇させる」

「ククッ、だがこのターン攻撃は出来……」

「ボクはデッキの上から、カードを3枚墓地へ送る」

 刃金沢の言葉を遮るように言い、デッキからカードを3枚取り出してデュエルディスクの墓地ゾーンに置く。墓地へ送られたのはマシュマロン、激流葬、サイレント・ソードマンLV5の3枚。


【カードガンナー】ATK400→1900


「そして手札からダブルレベルアップ!を発動! 墓地のサイレント・ソードマンLV5をゲームから除外し、LV7へ進化させ特殊召喚する!」


【ダブルレベルアップ!】 通常魔法
墓地に存在する「LV」を持つモンスター1体をゲームから除外して発動する。そのカードに記されているモンスター1体を、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

【サイレント・ソードマンLV7】
★7 光属・戦士族 ATK2800/DEF1000
このカードは通常召喚できない。「サイレント・ソードマンLV5」の効果でのみ特殊召喚できる。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。


 ボクのフィールド上にサイレント・ソードマンLV7が現れ、大剣を下に構えて体勢を整える。サイレント・ソードマンLV7がフィールド上に存在すれば、フィールド上の魔法効果は全て無効になる。1ターン目なら尚更、魔法カードの使用不能は大きい制約となる。その上で攻撃力の高いLV7を次のターンで破壊するのは困難のはず。

「カードを1枚セットし、ターン終了」


【カードガンナー】ATK1900→400


 カードガンナーがエネルギーを溜める事が出来るのは自分のターンのエンドフェイズまで。そこからは元々の攻撃力400へ戻ってしまう。だけどこのタイミングで攻撃力の低いカードガンナーを狙うならば、ボクが今セットしたカードを発動させればいい。やっぱりボクは勝てる。あいつに。刃金沢に。

「クククク、1ターン目から切り札を出したか」

 今の刃金沢はジェネックスでエド君とデュエルをした時とは比較にならないほど冷静だった。あいつをここまで変える程の力と言うのは一体なんだ?

「オレのターン、ドロー。手札からJ−プラントを召喚する。そしてこのカードの召喚・特殊召喚に成功した時、相手モンスター1体を破壊出来る。もちろん破壊するのはサイレント・ソードマンLV7だ」


【J−プラント】
★1 風属・植物族 ATK100/DEF200
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。


 刃金沢のフィールド上に現れた植物のモンスターが触手を伸ばし、サイレント・ソードマンLV7を締付け破壊する。まさかこんな早くにLV7が破壊されてしまうなんて……。これで刃金沢の発動する魔法カードは有効になってしまう。

「そして魔法カード、Jの結束を発動。このカードの効果でデッキからJ−プラントを2体フィールド上に特殊召喚する」


【Jの結束】通常魔法
自分フィールド上に「J」と名のつくモンスターが存在している時のみ発動可能。デッキ・手札からレベル2以下の「J」と名のつくモンスターを2体まで特殊召喚出来る。この効果によって特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に全て破壊される。

【J−プラント】×2


「J−プラントは特殊召喚に成功した時も相手モンスター1体を破壊可能。よってカードガンナーも破壊される!」

 刃金沢のフィールド上にJ−プラントがさらに2体現れ、カードガンナーも一瞬で消滅する。

「だがカードガンナーがフィールド上から破壊された事によって、ボクはデッキからカードを1枚ドロー!」

「オレはこのモンスター3体を生け贄に捧げ、手札からJ−ゴッド・デーモンを特殊召喚する!」

 3体のJ−プラントが同時に闇の中へ消え、フィールド上に何本もの黒い落雷が発生し、デーモンの召喚が黒く変化し、何倍も大きくしたようなモンスターが刃金沢のフィールド上に現れた。J−ゴッド・デーモンは神のカード、オベリスクの巨神兵と同じ攻撃力を持つJモンスターの切り札だ……。


【J−ゴッド・デーモン】
★10 光属・悪魔族 ATK4000/DEF2500
このカードは通常召喚できない。「J」と名のつくモンスター3体を生け贄に捧げる事でのみ特殊召喚する事ができる。このカードは魔法・罠の効果では破壊されない。


「この攻撃で終わりだな。ゴッド・デーモン、藤原にダイレクトアタックだ!」

 ゴッド・デーモンが雄叫びを上げ、ボクに向かって巨大な拳を放つ。

「トラップカード発動――」

「ゴッド・デーモンは魔法・トラップでは破壊されないぞ?」

「――破壊では無い。攻撃モンスターをゲームから除外する、次元幽閉だ!」

 ゴッド・デーモンの前に異空間のような物が表れ、ゴッド・デーモンはそこへ吸い込まれるようにフィールド上から消え去る。


【次元幽閉】 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。その攻撃モンスター1体をゲームから除外する。


「除外か、野口も同じ方法でゴッド・デーモンを始末していたなぁ。だがそれも分かりきった事だ。オレはメインフェイズ2でゲームから除外されたゴッド・デーモンを墓地へ送り、手札からJ−キング・デーモンを特殊召喚する!」

 刃金沢のJモンスター最強のカード、キング・デーモンはゲームから除外されたゴッド・デーモンを墓地へ送る事が召喚条件。魔法・トラップの破壊効果が効かないゴッド・デーモンは必然的に除外によって対処される事も多いため、次元幽閉の効果を逆手に取られてしまったか……。


【J−キング・デーモン】
★12 光属・悪魔族 ATK4400/DEF5550
このカードは通常召喚できない。このカードはゲームから除外されている「J−ゴッド・デーモン」を墓地へ送る事でのみ特殊召喚する事ができる。このカードが相手モンスターを攻撃する時、そのモンスターの攻撃力は半分になる。


 刃金沢のフィールド上にゴッド・デーモンよりさらに巨大になった悪魔が現れる。あのカードは高攻撃力に加え、攻撃する時に相手モンスターの攻撃力を半分にする能力があるため、迂闊にモンスターを攻撃表示にする事は出来ない。

「ターンエンドだ、ククククク!」


藤原【LP:4000】
手札:3枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

刃金沢【LP:4000】
手札:2枚
モンスター:J−キング・デーモン(攻撃表示・ATK4400)
魔法&罠:無し


「ボクのターン、ドロー!」

 ……! これなら!

「手札1枚をコストに、ライトニング・ボルテックスを発動! フィールド上のJ−キング・デーモンを破壊する!」


【ライトニング・ボルテックス】 通常魔法
手札を1枚捨てる。相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。


 キング・デーモンの真上に1本の雷が降り、そのまま直撃して刃金沢のフィールド上から消し去った。これで刃金沢のフィールド上にはカードが何も無い。どんなモンスターでも、安全に攻撃を通せる。

「手札からサイレント・ソードマンLV3を召喚し、刃金沢に直接攻撃する!」


【サイレント・ソードマンLV3】
★3 光属・戦士族 ATK1000/DEF1000
このカードを対象とする相手の魔法の効果を無効化する。自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送ることで「サイレント・ソードマンLV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する(召喚・特殊召喚・リバースしたターンを除く)。


 小さな体のサイレント・ソードマンは大剣を刃金沢に斬り下ろし、ダメージを与える。刃金沢は一瞬だけピクリと動いたがそれ以上は何も反応を起こさなかった。


刃金沢【LP:4000→3000】


「ククククク」

「カードを1枚セットして、ターンを終了」

「オレのターン。手札から魔法カード、ジェーネレイティング・アーマーを発動。デッキからJ−ソルジャーとJの結界を手札に加え、そのJ−ソルジャーを守備表示で特殊召喚する。さらにカードを1枚セット」


【ジェーネレイティング・アーマー】 通常魔法
自分のデッキから「J−ソルジャー」「Jの結界」をそれぞれ自分の手札に加える。

【J−ソルジャー】
★2 光属・戦士族 ATK800/DEF100
このカードの召喚は特殊召喚扱いにする事ができる。このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、800ポイントダメージを相手ライフに与える。


「これでオレのターンは」

 刃金沢のエンド宣言前。このタイミングなら。

「速攻魔法、沈黙の剣−LV3を発動! このカードの効果でゲームから除外されたサイレント・ソードマンLV5と墓地のLV7をデッキに戻す。そしてライトニング・ボルテックスのコストで墓地へ送られたD.D.アサイラントをゲームから除外し、J−ソルジャーを破壊!」


【沈黙の剣−LV3】 速攻魔法
「サイレント・ソードマンLV3」が自分フィールド上に存在している時のみ発動する事ができる。自分の墓地・ゲームから除外されている「サイレント・ソードマンLV5」「サイレント・ソードマンLV7」を全てデッキに戻す。さらに自分の墓地の戦士族モンスター1体をゲームから除外する事で相手モンスター1体を破壊する事ができる。


「ククククク。J−ソルジャーが墓地へ送られたため、貴様は800ダメージを受ける」

 J−ソルジャーの消滅と同時に手にしていた剣を投げられ、それがそのままボクへ刺さりライフが減ってしまう。しかしボクに影響したのはそれだけじゃなかった。

「ぐああああああっ!」

 い、痛い?


藤原【LP:4000→3200】


 確かに剣が当たった時、ボクは痛みを感じた。これが闇のデュエル? 本当にこのデュエルに負けた者は、死ぬ? さっき刃金沢が言っていた事が本当なら、ボクが負ければユキちゃんは……。

「クククッ、ターンエンドだ」

「ボクのターン、ドロー! スタンバイフェイズが来た事によって、フィールド上のサイレント・ソードマンLV3はLV5へ進化する!」

 サイレント・ソードマンLV3の全身が発光し、2回りほど身長が伸びた戦士へと成長する。サイレント・ソードマンLV5は召喚条件が無く通常召喚も可能のため、ボクにとって心強いカードだ。


【サイレント・ソードマンLV5】
★5 光属・戦士族 ATK2300/DEF1000
このカードは相手の魔法の効果を受けない。このカードが相手プレイヤーへの直接攻撃に成功した場合、次の自分のターンのスタンバイフェイズ時に表側表示のこのカードを墓地へ送る事で「サイレント・ソードマンLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。


「サイレント・ソードマンLV5で刃金沢に直接攻撃! 沈黙の剣−LV5!」

「おっと。トラップカード、Jの結界を発動。このターン、オレは戦闘ダメージを受けない」


【Jの結界】 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。


 サイレント・ソードマンLV5が剣で刃金沢に攻撃するが、バリアのようなもので弾かれてしまう。しかしそのカードを発動するのは分かっていた。これであいつは防御手段を1つ失ったため、今後の攻撃を耐えにくくなるだろう。そしてもしサイレント・ソードマンLV5が破壊されても、ボクにはこのカードがある。

「カードを1枚セットして、ターン終了」

「オレのターン、手札からジェー・ドローを発動。墓地のJ−プラントとJ−ゴッド・デーモンをゲームから除外し、デッキからカードを2枚ドロー」


【ジェー・ドロー】 通常魔法
自分の墓地に存在する「J」と名の付くモンスター2体をゲームから除外する。自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「そしてオレは除外されたゴッド・デーモンを再び墓地へ送り、手札からキング・デーモンを特殊召喚する!」

「2体目のJ−キング・デーモン……!?」

 刃金沢のフィールド上に巨大な黒い闇が発生し、再びキング・デーモンがフィールド上に現れてしまった。当然だけどキング・デーモンはゴッド・デーモンが除外されている限り何度でも特殊召喚出来るカード。そのカードがデッキに複数入っている事を想定出来なかったのは、完全にボクのミスだ。


【J−キング・デーモン】ATK4400


 この攻撃をそのまま受けてしまうと、ボクは負けだ。キング・デーモンは攻撃する際、相手モンスターの攻撃力を半分にする効果がある。キング・デーモンでサイレント・ソードマンLV5に攻撃さてしまうと攻撃力が1150まで減らされ、キング・デーモン自身の攻撃力は4400もある。その攻撃を受けたらボクは3250の超過ダメージを受け――


藤原【LP:3200】
手札:1枚
モンスター:サイレント・ソードマンLV5(攻撃表示・ATK2300)
魔法&罠:セット1枚

刃金沢【LP:3000】
手札:3枚
モンスター:J−キング・デーモン(攻撃表示・ATK4400)
魔法&罠:無し


「J−キング・デーモンでそのザコモンスターに攻撃する! これでくたばれぇ、藤原ァアア!」

 J−キング・デーモンが両腕を上げて黒い雷を溜めていた時、ボクはデュエルディスクにセットしていたカードを発動させる。

「トラップカード、冥府に続く階段を発動! フィールド上のサイレント・ソードマンLV5と手札のカード1枚を墓地へ送り、2000ライフを回復する。そしてデッキから冥府の使者ゴーズを手札に加える事が出来る!」


【冥府につづく階段】 通常罠
このカードを除く自分の手札とフィールド上に存在する全てのカードを墓地に送る。墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。その後、デッキから「冥府の使者ゴーズ」または「冥府の使者カイエン」1体を手札に加えることができる。


「うあああああああああっ!」

 サイレント・ソードマンLV5が消え、キング・デーモンの攻撃がそのままボクへ命中し闇空間の隅まで吹き飛ばされてしまう。その時に受けたダメージは尋常な痛みでは無かった。その痛みでボクは死んでしまうのでは無いかと思ったけど、デュエルディスクのライフ表示が800で減少が止まった事から、少しだけ生きている実感が湧く。


藤原【LP:3200→5200→800】


「ダ……メージを受けた事に、より、手札から、冥府の使者ゴーズ、を……特……召喚、する!」


【冥府の使者ゴーズ】
★7 闇属・悪魔族 ATK2700/DEF2500
自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚することができる。この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

【冥府の使者カイエントークン】ATK4400 DEF4400


 フィールド上に残っている黒い霧とは別の霧が現れ、そこから冥府の使者ゴーズと攻撃力4400を得た冥府の使者カイエントークンが現れる。その状況で精神的に安心出来たのか、ボクは何とか立ち上がる事が出来た。ボクはまだ負けちゃいないんだ。まだ負けていないなら、勝つために戦わないといけない。

「ククッ、ターンエンドだ」





第5話「ミヤコワスレ ――別れ」

「ボクの……ターン!」

 デュエルディスクを構え直し、少し乱暴にカードを引いてしまった。引いたカードはこの状況では使用出来なかったため、そのまま手札に加えてバトルフェイズへと移行する。

「冥府の使者カイエントークンでJ−キング・デーモンに攻撃! キング・デーモンは相手からの攻撃からでは攻撃力を半分に出来ない!」

 カイエントークンはキング・デーモンへ向かって剣を振り、キング・デーモンもカイエントークンに雷を放つと、お互いの攻撃は同時に直撃して相殺する。

「さらに冥府の使者ゴーズで刃金沢に直接攻撃だ! ――冥王葬送剣!」

 ゴーズが刃金沢に剣を振り降ろすと、刃金沢は少しだけ苦しそうな表情を見せた。


刃金沢【LP:3000→300】


「……ターン終了」

 冥府に続く階段は簡単にゴーズの特殊召喚を満たせるカードだけど、フィールド上のカードと手札が全て無くなってしまうデメリットもある。よってボクの手札はこのターンのドローフェイズで引いた抹殺の使徒だけ。でもボクのフィールド上には攻撃力2700のゴーズが1体。ゴーズの攻撃力があれば刃金沢は守備表示でモンスターをセットするだろう。そして次のターンでそのモンスターに抹殺の使徒を使えば、今度こそは勝てる。

「オ、オレのターン、ドロォー! オレは手札のJ−ドレインを捨て、J−マシーンを特殊召喚する!」


【J−マシーン】
★6 闇属・機械族 ATK2400/DEF2400
手札から「J」または「ジェー」と名の付くカード1枚を捨てる事で、このカードを手札から特殊召喚する。このカードが特殊召喚された時、自分は1000ライフポイント回復する。このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。このカードが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、相手の手札をランダムに1枚選択して捨てる。


「J−マシーンの効果によってライフを1000回復させ、ジェー・ブレードを装備。400ライフを払い、J−マシーンの攻撃力を1000ポイント上昇させる!」


【ジェー・ブレード】 装備魔法
400ライフポイントを払う。「J」と名のついたモンスターにのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。フィールド上に表側表示で存在するこのカードが墓地に送られた時、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

刃金沢【LP:300→1300→900】

【J−マシーン】ATK2400→3400


 J−マシーンの腕が巨大な剣へと変化し、攻撃力を上昇させる。こんな簡単にボクの切り札を対処されるなんて……。

「冥府の使者ゴーズを始末しろ、J−マシーン!」

 J−マシーンが巨大な剣でゴーズを真っ二つにし、その衝撃がボクの方へ響く。

「うあああああっ!」


藤原【LP:800→100】


「ヒャハハハハハハハ!! お前ぇ、負けたらどうなるか分かっているよなぁ〜!? あのチビ女も他のお前の仲間も、全員痛め付けてブッ殺してやる……ハハハハハハハハハ! ヒハハハハハアアアアハハハ!!」


 痛かった。


 闇のゲームだから?


 さっきの体に感じた痛みとは違う、もっと激しい痛みがあった。


 ボクは……ボクは……。


「ククククッ、J−マシーンが相手モンスターを破壊した時、相手の手札を1枚潰せる。その1枚の手札を墓地へ送ってもらおうか」

 ボクが手札の抹殺の使徒をデュエルディスクの墓地ゾーンへ置く事を確認すると、刃金沢はエンド宣言をする。


藤原【LP:100】
手札:0枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

刃金沢【LP:900】
手札:1枚
モンスター:J−マシーン(攻撃表示・ATK3400)
魔法&罠: ジェー・ブレード(J−マシーン装備),セット1枚


 確かにこの状況は危機的状況だ。でもボクは次に逆転のカードを引ける自信があった。そしてもし、全く役に立たないカードを引いてしまっても構わない。もし負けてしまったら、刃金沢にユキちゃんを奪われる前に、刃金沢をボクの手で殺す。どんな方法を使ってでも、ユキちゃんだけは奪わせない。ユキちゃんだけは、何があっても……!

『(……似ている。藤原賢治は似ている)』

「ボクのターン、ドロー!」

 引いたカードは、サイバー・ドラゴン。

 このカードはボクが1年生の時、デュエル・アカデミアとの戦いの前に定岡先生がくれたカードだ。サイバー流の伝承者でも無いボクが持っていてもいいのかと思って、あれから今までデッキから抜いていた。だけど今はもう、刃金沢の命を奪い取ってでも、ボクはユキちゃんと、一緒に――。

「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分のフィールド上にはモンスターが存在しないため手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚する!」


【サイバー・ドラゴン】
★5 光属・機械族 ATK2100/DEF1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。


「ボクのフィールド上のサイバー・ドラゴンと刃金沢、貴様のJ−マシーンを墓地へ送り――」

「バカな! 俺の場のモンスターを墓地へ送るカードだと!?」

「融合デッキから、キメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚!」

 白銀に輝いたサイバー・ドラゴンが機械音の咆哮を上げると、J−マシーンを吸収して全く別の巨大機械竜へと姿を変えていく。ボクのデッキは戦士族が多いためモンスターは自分の前に現れる事が多いけど、サイバー・ドラゴンより数倍大きいキメラテック・フォートレス・ドラゴンはボクの背後に聳え立つ要塞の様に現れた。


【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】
★8 闇属・機械族 ATK0/DEF0
「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
このカードは融合素材モンスターとして使用する事はできない。フィールド上に存在する上記のカードを墓地へ送った場合のみ、融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。このカードの元々の攻撃力は、融合素材にしたモンスターの数×1000ポイントの数値になる。


「だ、だが! ジェー・ブレードが墓地へ送られた事により、オレはカードを2枚ドロー!」

「キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃力は融合素材にしたモンスターの数×1000ポイントとなる。よって攻撃力は2000!」


【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】ATK2000


「刃金沢、お前のフィールド上にはもうモンスターはいない。これで終りにしてやる! エヴォリューションリザルトアーティラリー・ダブルバーストオォー!」

 キメラテック・フォートレス・ドラゴンは車輪部分から竜の首を現し、本体の首と同時に2発の膨大なエネルギー砲を放つ。

 憎しみでも、怒りでも、悲しみでも、どんな感情を起こしてでもボクは絶対にユキちゃんを失わない。絶対に、失いたくはないんだ!

「ちっ……トラップカード、Jの結界! このターンのダメージを0にする!」


【Jの結界】 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。


 刃金沢の周りに光の壁が現れ、キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃を遮った。多方向へ行ったエネルギー弾でフィールド上が少し揺れ、闇がそのエネルギーを吸い込むようにして消えていく。

「2枚目の結界か。ターン終了だ!」

「オレのターン、ドロォー! クッ、ヒッ、ハハハハハハハハハ! オレの勝ちだな、藤原ァ! 手札のJ−エンジェルとジェー・クォースを墓地へ送って魔法カード、ジェー・ボマーを発動! そのバケモノドラゴンにこのカードを装備する!!」

 刃金沢のフィールド上に異様な形をした爆弾が現れ、キメラテック・フォートレス・ドラゴンに装着されてしまう。

「このカードはお前のスタンバイフェイズに爆破され、装備されたモンスターの攻撃力分のダメージを与えるカードだ!!」


【ジェー・ボマー】 装備魔法
手札から「J」または「ジェー」と名の付くカード2枚を墓地に送る。次の相手ターンのスタンバイフェイズに、このカードと装備モンスターを破壊する。その時、装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。


「お前のスタンバイフェイズが来る前にこのカードを破壊出来る手段は速攻魔法のサイクロンくらいしか無いだろう。だが次のドローで引かれてしまう可能性が、無いとも言えないからなぁ。オレはさらに永続魔法、禁止令を発動。もちろんオレが宣言するのは『サイクロン』だ」


【禁止令】 永続魔法
このカードを発動する時にカード名を1つ宣言する。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、宣言されたカードはプレイする事ができない。このカードが発動する前にフィールド上に存在しているカードは、この効果の影響を受けない。


「ハハハハハハハハハハハ!! もう完全に終りだなぁ!」


藤原【LP:100】
手札:0枚
モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻撃表示・ATK2000)
魔法&罠:無し

刃金沢【LP:900】
手札:0枚
モンスター:無し
魔法&罠:ジェー・ボマー(キメラテック・フォートレス・ドラゴン装備),禁止令(「サイクロン」指定)


「お前のターンが来れば当然スタンバイフェイズは訪れ、その瞬間にジェー・ボマーはバケモノごと爆破。そしてお前のライフもゼロだ。クククク、ターンエンド!」



『――藤原賢治。勝って見せるんだ』



「……! ドロー!」

「終りだ、藤原ァアアアアア! ヒャハハハハハハハハハハ!!」

 刃金沢が高笑いをすると同時にキメラテック・フォートレス・ドラゴンが大爆発を起こし、機械の部品がフィールド上の辺り一面粉々に吹き飛ぶ。

 ――だが。







「ボクはまだ、死なない」







 フィールド上に起った爆風が薄くなっていくと、ボクのフィールド上にサイレント・ソードマンLV5が剣を構える体勢を取る。

「な……な、なんだとぉぉおおおおおお!?」

「ボクはスタンバイフェイズが来る前に、速攻魔法――沈黙の剣−LV5を発動した。キメラテック・フォートレス・ドラゴンを生け贄に、墓地からサイレント・ソードマンLV5が特殊召喚される」


【沈黙の剣−LV5】 速攻魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。自分のデッキ・手札・墓地・除外されている「サイレント・ソードマンLV5」1体を自分のフィールド上に特殊召喚する。

【サイレント・ソードマンLV5】ATK2300


「お前は野口さんを傷つけ、ユキちゃんを泣かせ、その上ボクからユキちゃんを奪おうとした。ユキちゃんが助かるのなら、迷わず殺してやる。覚悟しろ、刃金沢ァ! サイレント・ソードマンLV5で直接攻撃だ!!」

「ひぃ!」

 サイレント・ソードマンLV5は刃金沢に向かって飛び出し、大振りされた剣を刃金沢に直撃させる。

「うぎゃあああああああああああああああ!!」

 これでいいんだ。これで。


刃金沢【LP:1100→0】


 刃金沢のライフが0になり、フィールドが大きく鼓動し始めた。サイレント・ソードマンLV5がフィールド上から消えたからデュエルが終わったと分かったけど、周りの様子は収まる所か急速にエネルギーを増しているようだった。

 こ、これは?

『ありがとう、藤原賢治』

 頭の中に響いた声でやっと気が付く。この闇の空間が急速にエネルギーを得ているのは、ボク達の力を吸い取っていたからなんだ。

『刃金沢とキミのデュエルエナジーを吸収し、ボクは復活する。キミが心の闇を使い、全力でデュエルに挑んでくれたおかげで思った以上の力を得る事も出来た』


 ち……ちからが、抜けて……く……? ボクは……勝ったの……に……?


『藤原賢治、キミを騙して申し訳なかった。でもボクは、この世界で生きたいんだ! ボクと母さんの2人は死んでしまって、死んだボクはずっと1人ぼっちだった。だからこうして手に入れた自分の力で、他人から全てを奪い取ってでも、生きてみたいんだ! キミなら、それを分かってくれるだろう?』

「ユ……キ……」

 ボクは地面に膝を付き、必死に声を出そうとしてみるが、思うように声が出なかった。確かに死ぬのは怖かっ、で……も。その前に……ユキちゃん……どうなるのか、を……知らなけ……ば……。

『ユキ? あ、そうだったね。キミの大事な人は、少なくとも今回の事に関与していないから安心していい。ボクの言葉だけじゃ信用出来ないだろうから、ちゃんとここへ連れて来ておいたよ』

 頭の中で聞こえてくる声がそう言うと、辺り一面の黒い霧は不自然なくらい一瞬で消えて、赤く黄色いような大空がぼやけて見える。普段からよく見る綺麗な空なのに、なぜかその色のせいで自分が天国にでも来ているような気分だった。やっぱり、ボクはこの時間に……この場所で……死ぬの、かな?

「藤原くん!?」





 ユ……キ、ちゃ……ん……! 良かっ……無事だった……ん…………





「どうしたの、藤原くん!」

 グラウンドの中央に出来ていた黒くて大きな影が消え、藤原くんが苦しそうに座っているのが見えました。わたしは藤原くんの所へ走りましたが、あと1メートルくらいの所で急に体がふわっと浮き、後ろに吹き飛ばされます。背中をぶつけちゃう、と思ったら誰かがわたしの体を支えてくれました。

「っと! 大丈夫、幸恵?」

「どうしたんだ! これは一体、何が起こっている!」

 わたしの体を支えてくれたのは、夏未さんと神之崎さんでした。2人とも藤原くんを見て、何か様子が違う事に気が付きます。

 白い光が藤原くんを包み、藤原くんの雰囲気が少しずつ変わります。藤原くんの優しい瞳は鋭くなり、右目が隠れるくらいに髪が伸びました。

「ふ、藤原くん!」

「ボクはもう、藤原賢治じゃないよ」

 藤原くん、じゃない?

 わたしにとって一番信じたくない言葉でしたが、わたしはそれを信じるしかありませんでした。そこに立っていたのは、本当に藤原くんでは無かったからです。

「ボクは……ボクの名は、“Kadarl”。そうだよね、父さん?」

「父さん、だと……。お前は本当に、カダールなのか!?」

 藤原くんの姿をした人は神之崎さんの言葉に微笑み、デュエルディスクとデッキだけを残して幸花高校のグラウンドから消えてしまいました。

「な、何よあいつ! どーなってんのよ!」

「藤原くん?」



 嘘だよね? 藤原くんは、藤原くんは?



 明後日の大会のため、みんなで一緒に頑張るんじゃないの?



 野口さんや十代くんと、デュエルするんじゃないの?



「藤原くん」










 藤原くんは、わたしの言葉に答えてはくれませんでした。









「藤原くん……藤原くん……いやぁぁああああああ!」





6話以降はこちらから







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