春は目途(もくと)(またた)

製作者:kunaiさん





残り7日

「行こっか、ユキちゃん」
「うん!」
 身長差のある肩を並べて、わたし達はいつもの歩幅で歩き出しました。
 7日後まで通ることはないと思っていた道筋。幸花高校へ向うのは卒業式以来です。

 2人で白い息を吐きながら緩やかな坂道を上ります。その先にある踏み切りは、いつものように直前で通せんぼをしました。大きな警告音の中、立ち止まる賢治くんを見ていると袖にフリージアの花びらが付いていることに気が付きます。

 わたしはつい、顔を綻ばせてしまいました。花を長持ちさせて綺麗に咲かせる為には、悪くなってしまった葉や茎は可哀相ですが取り除かなければいけません。その作業をする賢治くんはとても寂しげで、優しく丁寧に処理しました。枯れてしまった部分も愛してくれる賢治くん。彼とずっと一緒に過ごしたい気持ちは、わたしと一緒だよね。

 だけど、このまま放っておく訳にもいきませんでした。どこかに挟まれてたりすると賢治くんの上着は汚れてしまい、花びらも潰れてしまいます。わたしは気が付かれないように近づいて、そっと右手で――。

「ユキちゃん」

「わわっ!」
「?」
 花びらを取った瞬間だったので驚いてしまい、慌ててポケットの中に入れました。賢治くんは左手でわたしの腕を取って、右手で何かを置きます。手を離すと、未開封のリップクリームが残っていました。
「もう少なくなっているよね?」
「うん。でも、どうして――あっ」
 わたしは手提げ袋の中から、賢治くんは上着の胸ポケットから同じリップクリームを同時に取り出します。それは花にとって過酷な季節になる頃、2人で一緒に購入した物でした。賢治くんは2人とも残りが少ないことを見越して、先に買ってくれていたのです。わたしはまた抱き付きたい気持ちを抑えて、新しいリップクリームを握りしめるように言いました。
「ありがとう、賢治くん!」


 幸花高校に到着し、スリッパを借りて校舎へと入りました。春休み中なので人通りは少なく、窓から見えるグラウンドも野球部員さんが使っているだけのようです。階段を登り、廊下を歩くと部室の曇りガラス越しに明かりが見えます。賢治くんがドアをノックすると、鉄ちゃんの緊張した声が帰って来ました。
「あ! 開いています! どうぞ!」
 暖房がよく効いている部屋の中、鉄ちゃんとアリスちゃんは長机を前に並んで座っていました。対向側には椅子が2つ用意されています。わたしは座る前にゴミ箱へ向かい、今のうちに花びらを入れておきました。すると賢治くんは、なぜか目を大きくしてわたしを見つめます。ア、アリスちゃんと、鉄ちゃんも、いるのに。
「ど、どうしたの?」
「あっ、ううん、何でもない」
 2人で椅子に座ると、鉄ちゃんとアリスちゃんは入社面接のように強張ります。
「今日は呼び出してごめんなさい。今のうちにどうしても聞きたい事があるんです」
 賢治くんと同時に固唾を飲み、言葉を待ちました。
「愛の秘訣を教えて下さい!!」


「――!?」


 そこから10分間、鉄ちゃんはわたし達の話を永遠と続けます。
 わたしと賢治くんはその間、恥ずかしくてお互いの顔を合わせられませんでした。入浴中に賢治くんのことを考え過ぎて、のぼせそうになった感覚に似ています。
「これも知っていますよ、藤原先輩。卒業式で私と会った時、幸恵さんの袖に付いていた黒い糸くずを取っていましたよね」
 えっ、いつの間に?
 賢治くんは驚いた様子だったので、本当のようです。
「その場で捨てたりせず、制服のポケットに入れていましたよね。と言う事は伊吹先輩とのデュエル前、さっきの幸恵さんのようにゴミ箱へ捨てたんじゃないですか?」
 そっか、それでわたしを見て……。
 視線が面をくらった様子の賢治くんから、わたしへと向います。
「そして幸恵さん」
「は、はいっ!」
「2人が持っている手帳は幸恵さんが送った物ですよね。2人とも普段から物を大切にしていますが、藤原先輩は普段より少し扱い方が丁寧でした。それなら間違いなく、幸恵さんからのプレゼントです」
 鉄ちゃんはついに、身を乗り出すように言いました。
「ですが! お2人の様子を拝見しても、アリスちゃんと相談しても、具体的な答えは見つかりませんでした。2人の愛の秘訣、私達に伝承して頂けませんか! 宜しくお願いします、神様! 女神様!」
 わたしと賢治くんは顔を見合わせ、

 …………。

 長い3点リーダーが続きました。
 頭の中で思いを巡らせて、自分の気持ちを整理整頓します。
 あの時のことなら、伝えられるかも知れません。
 鉄ちゃんはわたし達の様子で気が付いたのか、すぐに反応しました。
「英語でお願いします! 私も多少でしたら、分かりますので」
 賢治くんは口を噤み、脱落するように下を向きます……。鉄ちゃんとアリスちゃんの眼差しは一言も逃さないと言わないばかりに輝いています。自分の気持ちを言葉、それも英語にしなければなりません。いざ言うとなると、本当に伝えられるか自信がありませんでした。だからこそ、一生懸命伝えなきゃ。意を決して深呼吸します。


 ――わたしは藤原くんと、ずっとここにいる。


 カダールさんとの一件で最後に立ち塞がったのは、自分自身でした。
 元の世界には帰りたくない。
 帰ってしまうと、また藤原くんを失ってしまうかもしれない。
 それが怖かった。考えるだけでも体の震えが止まりませんでした。
 でも彼の意見は違っていました。それは賢治くんと、最初で最後の対立。
 デュエルを通して、わたし達はお互いの気持ちを伝え合いました。
 彼の説得はわたしを受け止めてくれるように、優しくて、温かかった。
 頑張っていれば楽しいことも、嬉しいこともある。
 わたし達の帰りを待つ仲間もいる。
 それは当たり前のことだけど、とても大切なこと。
 でも、わたしの気持ちは変わりませんでした。
 賢治くんの言葉さえも届かなかった、強い決意。

 強い決意だったのに、わたしはあっと言う間に心を動かされました。
 子供の頃、2人で交わした約束。
 わたしのお父さんとお母さんの帰りはいつも遅くて、寂しかった。
 だけど賢治くんはいつも一緒にいてくれた。
 賢治くんなら、わたしとずっと一緒にいてくれる。
 一緒にいたい。一緒に大人になりたい。
 その願いが、わたしの2番目の夢。

 賢治くんはわたしの初めての夢さえも、忘れないでいてくれました。
 小動物はマンションのルールで飼えなかったので、
 彼と出会うまでわたしの隣にあるのは花でした。
 大人になったら元気いっぱいに育てた花に囲まれて、花屋さんになること。
 わたしの初めての夢が、自分の夢だと言ってくれた。
 今もあの時と同じ笑顔、あの時よりずっと強い気持ちで伝えてくれました。
 なのに、わたしは何をしているの? 心の奥で自問自答しました。
 決意の気持ちを変えることは迷いました。不安もありました。でも。
 わたしは子供の頃を忘れないで、頑張ることを選び直しました。
 賢治くんと一緒に、幸せになる為に。

 賢治くんの気持ちはもちろん、ここで終わりませんでした。
 冬の時期はわたしの足が冷えないように心配してくれたり、
 花を育てる時も手が傷付かないよう手袋を用意してくれました。
 2人でずっと健康でいられるようにと、
 家でも出来る運動を一緒にするようにもなりました。
 その優しさはいつも、わたしの心と身体を温めてくれました。
 眠る時も心の中では賢治くんが一緒にいてくれて、
 毎晩抑えられない気持ちになっていること、気が付いているのかな?

 わたしも負けないくらい、賢治くんのことを大切に思いたい。
 自分の出来ることを精一杯、彼にしてあげたい。
 いつも元気な笑顔を見せてくれた、子供の頃の藤原くん。
 わたしの大切な人を見付け出してくれた、もう1人の藤原くん。
 大人になっても優しくて頼もしい、賢治くん。


 わたしは賢治くんと、ずっと――。


 考えている途中でハッとなって気が付きました。聞き入っていた鉄ちゃんとアリスちゃんは感動して涙まで流しています。賢治くんは2人を交互に見ていて動揺しました。
「ユキちゃん。一体何を言っ」
「凄いです!! やっぱり藤原先輩は私の神様です!!」
 鉄ちゃんとアリスちゃんは、戸惑う賢治くんへ向けて拍手喝采をします。わたしも苦笑して、釣られるように拍手をしました。
「私達にもぜひ、アドバイスお願いします!」
「えっと、カダール君の名前があったから、ボクがユキちゃんを説得した時の事だよね。だとしたら、自分の気持ちをきちんと伝える事かな。相手にはもちろん、自分自身にも」
「アリスちゃんにも分かるよう、英語でもお願いします!」
 賢治くんは、えっ、えっ、と言って、自信がなさそうに言いました。

「マ……マイ、ハート、フルアタック。ユー、アンド、ミー?」

 ……。

 …………。

 助けを求めるように赤面した賢治くんが、とってもかわいい……。
 わたしが見惚れてしまっている間に、鉄ちゃんが丁寧に説明してくれていました。するとアリスちゃんは突然、なぜかわたしに向って叫びました。
「Let's Duel! Yukie!」
 鉄ちゃんは椅子から立ち上がり、アリスちゃんを乗せた車椅子をデュエルフィールドへと押していきます。あれれ?
「ユキちゃん、ホワイトボード見た?」
 賢治くんは書かれている戦績表を見て言いました。最初は鉄ちゃん、アリスちゃん、夏未さんに比べて、紅ちゃんのデュエル回数が目立って少ないことかなと思いました。でもよく見ると3人は勝ち負けを何度も繰り返しているのに、アリスちゃんだけは1度も負けが付いていませんでした。デュエルモンスターズは連勝の難しいゲームです。だからこそ、デュエルキングは誰もが憧れる存在と言われています。少人数の中とはいえ、これだけ連勝を続けられるなんて。

「準備が出来ました。幸恵さんも早く〜!」
 わたしは急いで向かって、デュエルディスクにデッキを入れて構えます。気のせいかも知れませんが、アリスちゃんの碧眼は普段より強気に見えました。
「My Trun. Draw!」

幸恵【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−
Alice【LP:4000】
手札:5→6枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「I'll use this!」
「っ!?」
 アリスちゃんが1枚のカードをデュエルディスクに置くと、見覚えのあるドラゴンがソリッドビジョンで現れます。わたしと賢治くんが驚くのも無理はありませんでした。わたし達がよく知っているカードだとしても、野口さんとカダールさん以外が使ったことのない存在。

《神龍−ヘヴン・ドラゴン》
★3 光・ドラゴン族/効果 ATK1000/DEF1000
このカードが戦闘によって破壊された時に発生する
戦闘ダメージを0にし、その戦闘ダメージ分だけ
自分のライフポイントを回復する。

 今になって思い出しました。カダールさんとの一件から神之崎さん、定岡先生、野口さんが融合神龍と儀式神龍のカードが一般販売するよう、I2社を筆頭に様々な会社に出歩いたそうです。野口さんの強い要望で究極神龍だけは唯一無二の存在にして、神之崎さんが厳重に保管しているそうです。数は多くないものの、他のカードは量産化に成功したと言っていました。つまりアリスちゃんは野口さんと同じ、神龍デッキ使いと言うことになります。

「I set three cards」
 フィールド上に3枚のセットカードがソリッドヴィジョンで現れます。これだけの枚数なら、どれか1枚は攻撃宣言時に発動するトラップの可能性が高いです。それとも、全てわたしの行動を妨害するカードでしょうか。
「I end my turn」
「わたしのターン、ドロー!」

幸恵【LP:4000】
手札:5→6枚
モンスター:−
魔法&罠:−
Alice【LP:4000】
手札:2枚
モンスター:1体
《神龍−ヘヴン・ドラゴン》ATK1000
魔法&罠:セット3枚

「まずはレスキューキャットを召喚します。このカードを墓地へ送り、デッキから素早いモモンガとデス・ウォンバットを攻撃表示で特殊召喚です!」
 黄色いヘルメットの猫が姿を消して、モモンガとウォンバットが現れました。

《レスキューキャット》
★4 地・獣族/効果 ATK300/DEF100
自分フィールド上に表側表示で存在する
このカードを墓地に送る事で、デッキから
レベル3以下の獣族モンスター2体を
フィールド上に特殊召喚する。この方法で特殊召喚された
モンスターはエンドフェイズ時に破壊される。
《素早いモモンガ》
★2 地・獣族 ATK1000/DEF100
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、
自分は1000ライフポイント回復する。
さらにデッキから「素早いモモンガ」を
フィールド上に裏側守備表示で特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。
《デス・ウォンバット》
★3 地・獣族/効果 ATK1600/DEF300
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
コントローラーへのカードの効果によるダメージを0にする。

 わたしは手札のミラーフォースを見て再確認します。この2体はレスキューキャットの効果からの特殊召喚なので、エンドフェイズに破壊されてしまいます。だからこそ、アリスちゃんのセットカードがミラーフォースのような全体破壊ならば発動すべきかを迷います。かと言ってこの状況で攻撃を通すのも危険。アリスちゃんはきっと何かを発動します。
「素早いモモンガで神龍−ヘヴン・ドラゴンに攻撃!」
「I activate my trap "Ordeal of a Traveler"!」
 っ! 旅人の試練!

《旅人の試練》永続罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分の手札から相手がランダムに1枚カードを選択し、
相手はそのカードの種類(モンスター・魔法・罠)を当てる。
ハズレの場合、その攻撃モンスターは持ち主の手札に戻る。

 あのカードは相手の攻撃宣言時にカードの種類を宣言させて、外れた場合は手札に戻す効果があります。アリスちゃんの手札は2枚。気を使ってくれて、両手に1枚ずつ持ち替えてくれました。わたしは何となく、左側を指差します。
「ま、Magic Card?」

《マジック・プランター》通常魔法

 ……! 上手いです。ドロー効果を持っているマジック・プランターを見られてしまっても、次のターンで発動すればカードは簡単に入れ替えることが出来ます。攻撃はそのまま続行され、神龍−ヘヴン・ドラゴンと素早いモモンガは相殺しました。わたしはデッキから2体のモモンガを取り出してデュエルディスクにセットします。

幸恵【LP:4000→5000
《素早いモモンガ》裏側表示・DEF100
《素早いモモンガ》裏側表示・DEF100

「あっ、さすが幸恵さん! 神龍−ヘヴン・ドラゴンにはダメージを回復にする効果があるから、それを回復させずに倒すには同じ攻撃力をぶつければいい。その為に素早いモモンガで攻撃して、レスキューキャットの効果範囲外のモンスター2体を呼び出したんですね!」

「デス・ウォンバットでアリスちゃんに直接攻撃!」
 この状況で選択するべきは判明している魔法カード。マジック・プランターなら攻撃は通り、違う場合でも手札のカードが判明します。
「選択するのは、Magic Card」

《神龍−バーニング・ドラゴン》モンスターカード

 旅人の試練のカードが赤く光り、デス・ウォンバットは手札へと戻りました。
「カードを1枚セットして、ターンエンドです」
「My turn!」

幸恵【LP:5000】
手札:5枚
モンスター:2体
《素早いモモンガ》裏側表示・DEF100
《素早いモモンガ》裏側表示・DEF100
魔法&罠:セット1枚
Alice【LP:4000】
手札:2→3枚
モンスター:−
魔法&罠:《旅人の試練》,セット2枚

「I activate my Magic Card, "Magic Planter"!」
 旅人の試練が墓地へ送られ、アリスちゃんはカードを2枚引きます。

《マジック・プランター》通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「I summon "Blizzard God Dragon"!」
 神龍−ブリザード・ドラゴン。旅人の試練で判明した神龍−バーニング・ドラゴンのことから、アリスちゃんのデッキは神龍で間違いありません。召喚と同時に氷の矢を放ち、セットしていたミラー・フォースが破壊されてしまいました。わたしが自分の手札を確認して次の手を考えていると、アリスちゃんは既に次の神龍を呼び出していました。

《神龍−ブリザード・ドラゴン》
★3 水・ドラゴン族/効果 ATK1400/DEF600
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールドの魔法・罠を1枚破壊する事ができる。
《速攻召喚》速攻魔法
手札からモンスター1体を通常召喚する。
《神龍−バーニング・ドラゴン》
★3 炎・ドラゴン族/効果 ATK1600/DEF400
このカードが守備表示のモンスターを攻撃した時、
その守備モンスターの守備力は0になる。

 氷と炎の神龍! ブリザードとバーニングが揃ってしまいました。この状況なら強力な除外効果を持つ融合モンスター、神龍−フレイムブリザード・ドラゴンを呼び出すはず。
「I declare an attack!」
「えっ!」
 2体のドラゴンの攻撃と同時に、アリスちゃんはセットしていた2枚の永続トラップカードを同時に発動させました。どちらも野口さんの神龍デッキには見たことがないカードです。まさかアリスちゃんは神龍を使った、別の戦術を用意したデッキ!?

《竜の逆鱗》永続罠
自分フィールド上のドラゴン族モンスターが
守備表示モンスターを攻撃した時に
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
《追い剥ぎゴブリン》永続罠
自分フィールド上のモンスターが
相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える度に、
相手はランダムに手札を1枚捨てる。

 ブリザードとバーニングの攻撃がモモンガを貫通し、風圧を通してダメージが私へと向いました。素早いモモンガは戦闘で破壊されると1体につき1000ライフが回復するので、合計のダメージを900ポイントに抑える事が出来ました。ですが、わたしの本当の損失はライフポイントでも2体の素早いモモンガでもありません。

幸恵【LP:5000→4100】 【手札:5→3

 追い剥ぎゴブリンの効果で手札のメタモルポットと沈黙の杖−LV8が捨てられます。アリスちゃんの狙いは手札破壊。最近はパワーカードが増えたのですが、今でも通用する強力な戦術の1つです。それは神之崎さんからも教えて貰っていました。

 戦いにおける3つのKILL(キル)。まずは第1に起動力を奪うこと。相手の動く手段を消して、先手を取られることを防ぎます。第2に攻撃力。反撃の手段を奪い、安心して攻撃を加えられるようにする。そして最後に防御力。逃げる手段と反撃の手段を封じれば、防御力は簡単に突破出来ます。デュエルモンスターズに言い換えるならば、

@起動力(手札)を奪い、
A攻撃力(フィールド上のカード)を奪い、
B防御力(プレイヤーのライフポイント)を最後に奪う。

 相手のカードを減らし、自分のカードを増やす戦術は強力無比だといつも言っていました。アリスちゃんのデッキには本来の神龍デッキに求められる、一撃でプレイヤーの防御力を奪う戦術は用意されておらず、単体で強力な神龍モンスターを使って相手の起動力を奪うデッキです。その戦術の弱点を突かなければ、わたしに勝機はありません。
「I end my turn」
「わたしのターン、ドロー!」

幸恵【LP:4100】
手札:3→4枚
モンスター:−
魔法&罠:−
Alice【LP:4000】
手札:1枚
モンスター:2体
《神龍−ブリザード・ドラゴン》ATK1400
《神龍−バーニング・ドラゴン》ATK1600
魔法&罠:《追い剥ぎゴブリン》,《竜の逆鱗》

 これでわたしの手札は4枚。アリスちゃんのフィールド上にセットされたカードはないので、警戒しなければいけないのは除去系の魔法カードです。
「手札からサイレント・マジシャンLV4を召喚して、レベルアップを発動! サイレント・マジシャンをLV8へ進化させます!」
 白衣装の少女が光に包まれ、最上級魔法使いへと姿を変えます。

《レベルアップ!》通常魔法
フィールド上に表側表示で存在する「LV」を
持つモンスター1体を墓地へ送り発動する。
そのカードに記されているモンスター1体を、
召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。
《サイレント・マジシャンLV8》
★8 光・魔法使い族/効果 ATK3500/DEF1000
このカードは通常召喚できない。
「サイレント・マジシャンLV4」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードは相手の魔法の効果を受けない。

「サイレント・マジシャンLV8で神龍−ブリザード・ドラゴンに攻撃!」

Alice【LP:4000→1900】

 小さな杖から放つ魔法攻撃が直撃し、神龍−ブリザード・ドラゴンが消滅します。アリスちゃんが一瞬、表情を変えたのはソリッドビジョンが四散した時だけでした。間違いなく、わたしが何らかの方法で一時的に逆転することを想定しています。
「タ、ターン終了です」

幸恵【LP:4100】
手札:2枚
モンスター:1体
《サイレント・マジシャンLV8》ATK3500
魔法&罠:−
Alice【LP:1900】
手札:1→2枚
モンスター:1体
《神龍−バーニング・ドラゴン》ATK1600
魔法&罠:《追い剥ぎゴブリン》,《竜の逆鱗》

「I summon "Hurricane God Dragon"!」
 緑色の竜巻の中から、神龍−ハリケーン・ドラゴンが現れました。アリスちゃんはカードを2枚引いて、手札にあった神龍−アース・ドラゴンを墓地へ送ります。

《神龍−ハリケーン・ドラゴン》
★3 風属・ドラゴン族/効果 ATK1200/DEF800
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキからカードを2枚ドローし、その後手札からカードを1枚捨てる。

「Send "Hurricane God Dragon" and "Burning God Dragon" to Graveyard,Fusion Summon "Storm Burning God Dragon"!」
「あっ!」
 か、肝心なことを忘れていました。神龍のカードを販売する前に、神之崎さんと定岡先生が新たにデザインした融合神龍が3体追加されたのです。氷と闇の神龍−フリージングヘル・ドラゴン、光と地の神龍−ライトアース・ドラゴン、そして風と炎の――。

《神龍−ストームバーニング・ドラゴン》
★7 風・ドラゴン族/融合 ATK2500/DEF1800
「神龍−ハリケーン・ドラゴン」+「神龍−バーニング・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、
融合デッキから融合召喚が可能
(「融合」魔法カードは必要としない。この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
相手プレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、
手札からカードを2枚ランダムに捨てる。
この効果は1ターンに1度しか発動できない。

 フィールド上に赤い炎の竜巻を起こす中型のドラゴンが現れました。わたしはストームバーニングの効果でデッキからカードを1枚ドローしますが、手札からデス・ウォンバットとコアラッコが墓地へ送られてしまいます。アリスちゃんは続けて、神龍専用の魔法カードを発動させました。

《双頭神龍》通常魔法
「神龍」と名のついた融合・儀式モンスター1体は
発動ターンのみ攻撃力を倍にする。
このターン、選択したモンスター以外は攻撃宣言できない。
神龍−ストームバーニング・ドラゴン ATK2500→ATK5000

「My monster will attack!」
「わわっ!」
 神龍−ストームバーニング・ドラゴンの攻撃が直撃し、吹き飛ばされそうになります。魔法耐性と高攻撃力を持ったサイレント・マジシャンLV8が簡単に倒されてしまいました。

幸恵【LP:4100→2600】 【手札:1→0】

 アリスちゃんはカードを1枚セットして、エンド宣言をします。神龍−ストームバーニング・ドラゴンの効果でドローしていた死者蘇生さえも、追い剥ぎゴブリンの効果で墓地へ送られました。こんなにも極端に追い詰められたのは、半年前の神之崎さんとのデュエルの時以来でした。

 あの時に比べればもちろん、心に余裕はあります。でもそれは辛かった頃のデュエルと同じです。神之崎さんはいつも穏やかなのに、デュエルに関係する時だけ別人のようになって、絶対に負けてはならないと言いました。わたしはその言葉を守って勝ち続け、多くの人から嫌われてしまいました。負けてはいけない切迫感と、勝ってしまうと相手に嫌われてしまう不安感。だけど今は違います。賢治くんは今もわたしの近くで優しく頷いてくれました。あの時も、わたしに教えてくれたよね。

 勝つことも、負けることも、何も怖くはありません。

幸恵【LP:2600】
手札:0枚
モンスター:−
魔法&罠:−
Alice【LP:1900】
手札:0枚
モンスター:1体
《神龍−ストームバーニング・ドラゴン》ATK2500
魔法&罠:《追い剥ぎゴブリン》,《竜の逆鱗》,セット1枚

「わたしのターンです、ドロー!」
 神之崎さんは手札破壊戦術を強力な戦術と言いましたが、それが無敵とは言いませんでした。その理由はカダールさんもよく知っていたと思います。

「手札から魔法カード、貪欲な壺を発動です! 墓地のモモンガ2体、デス・ウォンバット、レスキューキャット、サイレント・マジシャンLV4をデッキに戻して、2枚のカードをドロー!」
 引いたカードの1枚、博打の宝札を手に取り発動します。カードを2枚引いて、アリスちゃんに見せました。

《貪欲な壷》通常魔法
自分の墓地からモンスターカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
《博打の宝札》通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
この効果でドローしたカードをお互いに確認し、
カードの種類によりこのカードは以下の効果を得る。
●魔法:相手はデッキからカードを2枚ドローする。
●罠:自分のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。
●モンスター:このターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。
【《博打の宝札》によるドローカード】
《大嵐》魔法カード
《地砕き》魔法カード

 わたしは魔法カードを引いたので、アリスちゃんもカードを2枚引きます。相手への手札補充は文字通りの博打になります。だけど。
「大嵐と地砕きを発動します!」

《大嵐》通常魔法
フィールド上に存在する
魔法・罠カードを全て破壊する。
《地砕き》通常魔法
相手フィールド上の守備力が一番高い
表側表示モンスター1体を破壊する。

 フィールド上は天変地異が起こったように蠢いて、存在するカードとモンスターを一掃しました。わたしには最後の1枚が手札に残っています。
「装備魔法、リミット・ジャンクションを発動! このカードの効果で墓地から素早いモモンガを攻撃表示で特殊召喚です!」

《リミット・ジャンクション》装備魔法
自分の墓地から攻撃力1500以下の
モンスター1体を特殊召喚して、このカードを装備する。
このカードがフィールド上から離れたとき、そのモンスターを
破壊する。この効果で特殊召喚した効果モンスターの
効果は無効化される。
《素早いモモンガ》ATK1000

「直接攻撃!」
 モモンガは素早い動きで体を丸め、アリスちゃんに向って突進します。

Alice【LP:1900→900】

「ターン、終了です」

幸恵【LP:2600】
手札:0枚
モンスター:1体
《素早いモモンガ》ATK1000
魔法&罠:《リミット・ジャンクション》
Alice【LP:900】
手札:2→3枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「My turn... Draw...」
 アリスちゃんは恐る恐るカードを引き、落胆して手札のカードを見せました。

《絶対不可侵領域》通常罠
自分のスタンバイフェイズに発動する事が出来る。
手札からカードを1枚捨てる。
相手は次の相手ターンに通常召喚・特殊召喚ができない。
《DNA定期健診》通常罠
自分フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
相手はモンスターの属性を2つ宣言する。
選択したモンスターをめくって確認し宣言された属性だった場合、
相手はデッキからカードを2枚ドローする。
違った場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。
《マジック・ドレイン》カウンター罠
相手が魔法カードを発動した時に発動する事ができる。
相手は手札から魔法カード1枚を捨てて
このカードの効果を無効化する事ができる。
捨てなかった場合、相手の魔法カードの発動を無効化し破壊する。

 絶対不可侵領域。DNA定期健診。マジック・ドレイン。行動制限型の手札破壊を主軸としたデッキの弱点。それは基盤を揃えて形成したフィールドが崩れた時、立て直すのが難しいこと。そして確実に相手を追い詰めても、たった1枚のドローで一気に形勢逆転が起こり得ることでした。

「凄い! やっぱり幸恵さんも、私にとって女神様です!!」
 鉄ちゃんの一言で張り詰めた空気が緩み、力が抜けてその場で座ってしまいます。本当に負ける寸前でした。でも、負けて落ち込んでいるアリスちゃんを見ると昔のことを思い出します。決して嫌われることはないと分かっていても、負けた方が良かったのかと思う後悔。複雑な思いに駆られていると、賢治くんは後ろから両肩に優しく手を置いて言いました。
「大丈夫だよ、ユキちゃん」

 肩に乗った大きな手の甲に思わず左手を重ねます。
 心がとっても温かくなって、わたしに安心を与えてくれました。
 ありがとう、賢治くん。ありがとう。

「あとは任せて」
 賢治くんは手を離して、アリスちゃんの所に向いました。ここでやっと、わたしは鉄ちゃんの視線に感づきます。憧れの眼差しが全て見られていたことを物語っており、顔が沸騰したように熱くなりました。

「今のデュエル、ボクにも伝わったよ。龍明君は何よりも人の気持ち、心を見てくれる。勝敗は確かに大事かも知れない。でも勝つ事が全てじゃないよ。自分の素直な気持ちをデュエルにして、カード1枚1枚に込めて伝えればいい。それは自分への強いメッセージにもなる。ボク達も応援しているから、頑張って!」

 アリスちゃんは目を点にして、力強く微笑む賢治くんを見ます。
 あっ。日本語。鉄ちゃんがいつものように、英語で説明し直しました。
「次は私と勝負です! 藤原先輩!」
「お、お手柔らかに」
 鉄ちゃんは張り切ってデュエルの準備を始めました。車椅子を押してわたし達が出ると、アリスちゃんはわたしの袖を小さな力で引っ張って、確かに日本語で言いました。それはきっと、野口さんが心を込めて伝えた言葉です。


 どういたしまして、アリスちゃん!



残り1日(前編)

「ここだな。ユベル」
『(間違いないよ。微かにだけど、この町から破滅の力を感じる)』
 これから暖かくなるとは言え、早朝はまだ肌寒い。
 ゲーセンに書かれた支店の店舗名を見て場所を確認する。
 幸花町。凍えた両手に息を吹きかけて、早足で向った。

―――――――――――――――――――――――――――



 ついに明日だ。
 明日の朝、ボク達は幸花町を出る。
 もちろん、連休さえ使えばここへは帰って来られる。
 でもボク達は全てが終わるまで帰るつもりはなかった。
 それはユキちゃんと一緒に相談して、2人で決めた事。
 ボク達にとって目的をやり遂げる為の決意。
 思えばボクが本当に強い意思を持ったのは、あの時かもしれない。

 あれは平見先生の部屋に荷物を運ぶ手伝いをしていた日の事。
 小さな棚の上に、綺麗に手入れされた4つの写真立てを見付けた。
 ユキちゃんが平見先生の所に来て間もない頃の写真だ。
 それを見てボクは違和感を覚えた。

 ユキちゃんの髪が長い。
 今は肩に掛るくらいだけど、平見先生に近い長さはある。
 夏頃の写真なのにユキちゃんは長袖の服しか着ていない。
 でも服に関してはそれがボクの知っているユキちゃんなんだ。
 半袖やノースリーブの服を1枚だけ着るのは、
 夏頃でも家にいる時や寝る時だけ。
 ボクが2年前、ユキちゃんの事を思い出す以前だけが違っていたんだ。
 幸花町で最初に出会った時も、花火をした夜も、
 デュエル・アカデミアから帰って来た時も、
 ユキちゃんは今に比べて髪は短かく薄着だった。

 だから何となく気が付いた。
 もしかしたらと思って本人に聞いたら、やっぱりそうだったんだ。
 ボクが落としてしまったデッキを拾い、手渡す前、
 ユキちゃんは子供の頃と同じように、髪を短く切った。
 服も肩まで見えるものを着てから、ボクと再会したんだ。
 平見幸恵を見付けて貰う為に。
 藤原賢治を見付ける為にも。

 ユキちゃんの健気な気持ちを知った時、本当に嬉しかった。
 彼女はボクの為にこんなにも尽くしていたんだ。
 それに比べてボクはどうだっただろう?
 いつまでも過去の事故と事件を言い訳にユキちゃんに甘え、
 落ち込んで悩んでは、相談を続けていた。
 その度にボクは包容力のあるユキちゃんに何度も救って貰った。

 今からでも決して遅くはない。
 初めての夢を忘れないで、叶えてあげよう。
 いつだって優しさを忘れない。ユキちゃんの為にボクは戦う。
 その信念はどれだけ盲目的なのかは、自分でもよく分かっている。
 だけど今まで以上に気持ちを奮い立たせ、1人の女の子を幸せに出来たのなら、
 それは立派に誇れる事だと思う。だからボクは立派になって見せたい。
 これからその第一歩を踏み出して見せるんだ。

 向こうでの暮らしはどうしようかな。
 炊事。皿洗いはデュエルで勝った方がやる事にしよう。
 そしたらボクは全力で勝ちに走ってやるんだ。
 掃除。2人とも平日は学校だから、主に休みの日にしよう。
 綺麗になった絨毯に2人で寝っ転がるんだ。
 洗濯。これだけはどうやって話を切り出せばいいのか、迷っている。


「賢治くん?」
「っとと。大丈夫。1人で動かせるよ」
 平見先生の車が置いている駐車場から、紫色の光沢が眩しいバイクを引っ張り出した。明日に備えて、これからバイクの試運転と調整をする。昼からはみんなで集まり、しばらく来られない幸花町で思いきり楽しむ。これで明日への準備は完了だ。バイクヘルメットを被り、ユキちゃんにも手渡す。デザインまで全く同じだから、ペアルックのようで少し恥ずかしい。

「行くよ、ユキちゃん」
「うん」
 ユキちゃんがボクの腰に手を回し、ぎゅっと力を入れる。バイクは静かに音を立てて走り出した。冷たい風を受けて坂道の横を通ると、その先には公園がある。ここで少し話をしたら幸花町全体を適当に走って、燃料を補充しておこう。

 たったそれだけの事を考えている間に、バイクは公園前まで辿り着いていた。2人でヘルメットを外し、バイクから降りる。ユキちゃんは小さな子供のように走り、公園の中央で全体を見渡していた。その背中からは言葉にならない寂しさを感じてしまう。ボクはその間に、ハンカチでベンチの上をさっと掃いておいた。すると頬に冷たい風が当たって、ここも少し寒い事に気が付く。
「温かい物でも買って来るよ。何がいい?」
 待っていました、と言わんばかりにユキちゃんはにっこり笑う。まさか。
「ふふふ、ほら!」
 手提げ袋の中から、水筒とプラスチックのコップが2つ。

 やっぱり、準備がいいなぁ。

 2人でベンチに座り、甘い香りのホットココアを飲んだ。ユキちゃんが両手を使って少しずつ飲む姿は子猫のようでかわいい。自分が飲む事さえも忘れてしまいそうだ。
「わたし達はこの場所以外でも、大切な場所を作れるかな?」
「出来るさ。ボクは龍明君と紅ちゃんのおかげで、面白い冗談も言えるようになった」
「?」
「デュエルモンスターズで例えるなら、綿毛トークン笑顔。ボク達はいつでも笑顔になれる」
 ユキちゃんは嬉しそうに笑って、目を閉じて言う。
「綿毛トークン怒り。ちょっと強引じゃないかな?」
「綿毛トークン涙。そんな事言ったら、悲しいよ」
「あれ? 泣いていた綿毛トークン、いた?」
「いないなぁ」
 また2人で一緒に笑い合った。
 笑い終えると、ボクは気持ちを込めて言う。

「子供の頃の夢を語った公園は、もう住宅街に変わってしまっていたよね。もしかしたら幸花町に帰って来た時、この公園も、この町も、今とは少し変わってしまうかも知れない。でも大丈夫なんだ。子供の頃はあの公園。今日まではこの公園。次は向こうの家かも知れないし、近くの喫茶店になるかも知れない。新しい所を探す事はきっと出来るよ。だから今日は何も心配しないで、みんなと思い切り笑って楽しもう!」

「うん! でも今日はどこに行くのかな?」
 行く場所を決めるのは紅ちゃんだから、カラオケのような気がする。いつも連れて行かれるその店を浮かべると、隣にはゲームセンターがある事を思い出した。
「そうだ。あの小さな画面に入るか分からないけど、ゲームセンターでみんなと集合写真を撮ってシールにしようよ。1人1枚ずつ配って、あとで何処に貼ったかを聞」

 瞬時に会話を止め、ユキちゃんの盾となるように身を動かして前を見据えた。公園の入り口付近から何か特別な、強い力を感じる。また敵なのか。

「十代君!」
「けっ、賢治!?」
 驚いた。デュエル・アカデミアの赤い制服に茶色の髪。間違いなく十代君の姿なのに、以前とはまるで別人のようだった。楽天的で陽気な姿は消え、今は重い使命を背負う瞳をしている。彼はじっとボクを見て、驚きの表情から徐々に怒りへと変わっていく。
「破滅の光……ッ! また俺の仲間を!」

 十代君はリュックを地面に放り捨て、デュエルディスクを構える。デッキから1枚のカードを取り出してモンスターが召喚された。ジェネックスの時に戦った、E・HERO ネオスだ。公園には砂埃が起こり、モンスターの存在感がソリッドビジョンとは全く違っていた。あのネオスは実体化しているんだ。

「そいつは賢治じゃない! 離れろ!」
「大丈夫だよ。ユキちゃん」
 彼女は頷いて、デュエルディスクを手渡してくれる。
 ボクが構えた時には、十代君とネオスは攻撃態勢に入っていた。
「行け、ネオスッ!」
 集中する為に眼を閉じた後、閉じた眼を思い切り見開く。すると白いオーラがボク達を守るように包み込んだ。その中でカードを1枚引き、ディスクへと置く。

 ――サイレント・ソードマンLV7。

 実体化した沈黙の剣士は大剣でネオスの攻撃を受け止める。サイレント・ソードマンを通し、ボクの意思をネオスへと伝えた。十代君が偽者ではない事は、この力を通して分かっている。それならば十代君も、ボクの事に気が付いてくれるはず。

『(十代。あいつからは破滅の力を感じる。だけど敵意は感じないよ)』

 ボクには見えなかったけど、ネオスとは違う女性の声が微かに聞こえた。他にもデュエルモンスターズの精霊がいるのかもしれない。
「なんだって。どういう事なんだ」
 闘気と共に、実体化したネオスは徐々に姿を消していった。公園にはいつもの静けさが戻ると十代君はブランコへ、ボク達はいつものベンチに座り、そのまま15分ほど話し込んだ。彼のカバンの中にいたファラオという虎柄の猫は、随分とユキちゃんに懐いている。


 半年前。ボクは刃金沢と戦った後、カダール君とも戦った。
 お互いに自分の気持ちを伝え、お互いに自分との共通点を見出した。
 ボクはカダール君の気持ちを理解し、
 カダール君もボクの気持ちを理解してくれた。
 2人が友達になれた時、彼は最初に謝った。
 たとえ元に戻る事が出来ても、破滅の力は残留してしまう。
 だからこそ今後、予期せぬ敵に遭遇してしまう可能性がある事も。
 カダール君はその時の為に、この力の使い方を教えてくれた。
 中途半端に残るだけでは標的になるだけ。
 彼の残した力によってこの力は消滅する事なく、
 ボクは今もこうして身を守る事が出来るようになったんだ。

「この町にもミスターTと名乗る男が来なかったか?」
「ボクが倒したよ」

 ユキちゃんにだけは敵の存在を伝えて、2人で一緒に向った。
 幸花町を繋ぐ隣町との橋に立つ、サングラスの男。
 当然、戦ったのはボク1人だ。
 自分で言うのも恥ずかしいけど、彼は本当に運が悪い。
 カダール君との一件が起こる以前なら、ボクは飲み込まれていたと思う。
 でも以後ならば彼から何を言われようが、ユキちゃんに不安を感じるわけがない。
 カダール君の力もある。ボクが負ける理由はなかった。
 だから十代君の言うダークネスの事件に、
 この町の人達は1人も巻き込まれていないはず。
 それ以来、ボクはこの力を使わないようにしていた。
 これからも闇雲に使ったりはしないと思う。
 カダール君がそうしたように。

「早とちりして悪かった。敵にはいつも先手を取られて焦っていたんだ」
「気にしなくていいよ。でも」
 横目で確認すると、ユキちゃんは頷いてくれた。今日は大事な日だけど、もしかしたら十代君と会うのは最後かも知れない。ボクのわがままだけれど。
「時間はあるかな?」
「へへっ、お互い在学中に3戦目は出来なかったよな。だったらやろうぜ!」
 雰囲気の変わった十代君と向き合った時、改めて分かった。彼は間違いなく十代君なんだ。あの時と同じ、全力でデュエルを楽しもうとする真っ直ぐな情熱。やっぱりボクとは根本的に違う力を感じる。

「行くぜ! デュエル!!」

藤原【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−
十代【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「俺のターン、ドロー! 永続魔法、未来融合−フューチャー・フュージョンを発動。俺がこのカードで選択するのはE・HERO プラズマヴァイスマンだ!」
 未来融合は融合召喚するだけでなく、墓地にモンスターを送る事が出来る非常に汎用性の高いカードだ。十代君のデッキからスパークマンとエッジマンが墓地へ送られる。
「E・HERO ワイルドマンを攻撃表示で召喚し、カードをセット。これでターンエンドだ」

《E・HERO ワイルドマン》
★4 地・戦士族/効果 ATK1500/DEF1600
このカードは罠の効果を受けない。
《未来融合−フューチャー・フュージョン》永続魔法
自分のデッキから融合モンスターカードによって
決められたモンスターを墓地へ送り、
融合デッキから融合モンスター1体を選択する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に
選択した融合モンスターを自分フィールド上に
特殊召喚する(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、
そのモンスターを破壊する。そのモンスターが
破壊された時このカードを破壊する。

「ボクのターン、ドロー! モンスターを裏側守備表示でセットして、ターン終了だよ」

藤原【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:1体
裏側守備モンスター
魔法&罠:−
十代【LP:4000】
手札:3→4枚
モンスター:1体
裏側守備モンスター
魔法&罠:《未来融合−フューチャー・フュージョン》,セット1枚

 十代君はカードを引き、拳を広げて前へ突き出す。
「行け、ワイルドマン! ワイルドスラッシュ!」
 裏側状態のモンスターはワイルドマンの剣を体で受け止め、姿を現すと同時に十代君に向ってワイルドマンごと弾き飛ばす。
「ボクがセットしていたカードはマシュマロンだ。このカードの効果によって十代君に1000ダメージを与える!」

《マシュマロン》
★3 光・天使族/効果 ATK300/DEF500
裏側表示のこのカードを攻撃したモンスターのコントローラーは、
ダメージ計算後に1000ポイントダメージを受ける。
このカードは戦闘によっては破壊されない。(ダメージ計算は適応する)

「マシュマロンの効果はこれで3回目だな。だが今の俺にそんな小細工は通用しない!」
「……!」
「カウンタートラップ発動、フュージョン・ガード! 融合デッキからランダムにモンスターカードを墓地へ送り、その効果ダメージを無効にする!」
 突如吹き出た炎はE・HERO フレイム・ウィングマンへと姿を変え、弾き飛ばされたワイルドマンを十代君の眼前で受け止める。マシュマロンのダメージ効果を回避されてしまった。

《フュージョン・ガード》カウンター罠
ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。
その発動と効果を無効にし、自分の融合デッキから
ランダムに融合モンスター1体を墓地へ送る。

「ターンエンド」
「ボクのターン、ドロー! D.D.アサイラントを召喚し、ワイルドマンに攻撃する!」
 忍者姿の剣士は俊敏に動き、ワイルドマンを難なく撃破した。

《D.D.アサイラント》
★4 地・戦士族/効果 ATK1700/DEF1600
このカードが相手モンスターとの戦闘によって破壊された時、
相手モンスターとこのカードをゲームから除外する。
十代【LP:4000→3800】

 十代君のデッキは融合召喚による速攻性を持ったヒーローデッキ。魔法効果を完全に打ち消すサイレント・ソードマンLV7を呼び出せないこの状況なら、十代君の攻撃を最小限にして受け止め、後出し状態で対処しなければならない。
「俺のターン!」

藤原【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:2体
《D.D.アサイラント》ATK1700
《マシュマロン》DEF500
魔法&罠:−
十代【LP:3800】
手札:4→5枚
モンスター:−
魔法&罠:《未来融合−フューチャー・フュージョン》

「この瞬間、未来融合の効果が適応される! 現れろ、E・HERO プラズマヴァイスマン!」
 フィールド上の空間が渦を巻いて歪み、全身を帯電した金色の戦士が現れる。

《E・HERO プラズマヴァイスマン》
★8 地・戦士族/融合 ATK2600/DEF2300
「E・HERO スパークマン」+「E・HERO エッジマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
手札を1枚捨てる事で相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。

「プラズマヴァイスマンの効果発動! 手札のネオスを墓地へ送り、攻撃表示のD.D.アサイラントを破壊する!」
 右腕から雷を放ち、D.D.アサイラントを葬る。強力な効果を持つこのカードも、さすがに効果破壊の耐性はない。
「そしてマジックカード、シールドクラッシュを発動。マシュマロンも破壊だ!」
「っ!」

《シールドクラッシュ》通常魔法
フィールド上に守備表示で存在する
モンスター1体を選択して破壊する。

 十代君の猛打により、ボクのフィールド上にカードは1枚も存在しなくなった。思ったとおり、彼のデッキは以前より格段に攻撃的な構築になっている。
「行け、プラズマヴァイスマン! 賢治にダイレクトアタック!」
「うああああっ!」

藤原【LP:4000→1400】

 ボクが大ダメージを受けた瞬間、一面が黒い空間、下半身を覆うほどの白い霧に包まれる。フィールド上にカードが存在しない時に戦闘ダメージを受ける。それが2体の冥府の使者を呼び出す為の条件。
「なっ……」
 空間と霧は吹き飛び、2人の冥府の使者が姿を現した。

《冥府の使者ゴーズ》
★7 闇・悪魔族 ATK2700/DEF2500
自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールする
カードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚することができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に
「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を
1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、
この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、
受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。
《冥府の使者カイエントークン》DEF2600

「プラズマヴァイスマンの効果が使えるのは攻撃表示モンスターのみ。守備表示のゴーズとカイエンを破壊する事は不可能だよね」
「さすがだな。もう弱点を見抜いたのか」
「ううん。以前、ヒーローデッキを使う少年と戦った事があるんだ。プラズマヴァイスマンは同じだったけど、十代君とは違ったE・HEROも使っていたよ」
「そうなのか? だったら俺も、いつか戦えるかも知れないなぁ!」
 十代君は目を輝かせ、楽しそうに笑った。
「カードを3枚セットし、ターンエンドだ!」

藤原【LP:1400】
手札:4→5枚
モンスター:2体
《冥府の使者ゴーズ》DEF2500
《冥府の使者カイエントークン》DEF2600
魔法&罠:−
十代【LP:3800】
手札:0枚
モンスター:1体
《E・HERO プラズマヴァイスマン》ATK2600
魔法&罠:《未来融合−フューチャー・フュージョン》,セット3枚

「ボクのターン、ドロー! 行くよ。ゴーズとカイエンを攻撃表示に変更、プラズマヴァイスマンに攻撃する!」
「速攻魔法、融合解除を発動! プラズマヴァイスマンをスパークマンとエッジマンに分離させ、守備表示で特殊召喚する!」
 光に包まれたプラズマヴァイスマンの影は2つになり、守備体勢でスパークマンとエッジマンが姿を現す。

《融合解除》速攻魔法
フィールド上の融合モンスター1体を融合デッキに戻す。
さらに、融合デッキに戻したこのモンスターの融合召喚に
使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、
この一組を自分のフィールド上に特殊召喚する事ができる。
《E・HERO エッジマン》DEF1800
《E・HERO スパークマン》DEF1400

 ジェネックスの時がそうだった。スパークマンに攻撃すれば、通常モンスターへの攻撃がトリガーとなるジャスティブレイクの可能性がある。だけど今、攻撃しない手はない。
「ゴーズでエッジマンに攻撃! ――冥王葬送剣!」
「トラップカード発動、エッジ・ハンマー! エッジマン自身を生け贄にゴーズを破壊、その攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ、賢治!」

《エッジ・ハンマー》通常罠
自分フィールド上に存在する「E・HERO エッジマン」1体を
生け贄に捧げる。相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊し、
そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 エッジマンが黄金のハンマーを全身を使って放り投げ、ゴーズと共にフィールド上から消滅する。だけどボクのライフは減らなかった。
「ははっ……! やはり回避したか」
「もちろん。ボクはその前に速攻魔法化を発動させた。このカードの効果で生け贄の代償を使い、ゴーズを生け贄にする事でエッジ・ハンマーを空振りにしたんだ」

《速攻魔法化》速攻魔法
手札から通常魔法カードを使う。
《生け贄の代償》通常魔法
自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
デッキからカードを2枚ドローする。

「まだカイエントークンの攻撃が残っている! スパークマンに攻撃だ!」
 カイエンの振った剣はスパークマンに直撃し、ソリッドビジョンが散乱する。
「この瞬間、ヒーロー・シグナルを発動! 俺はデッキからE・HERO バブルマンを特殊召喚する!」
 しまった。十代君はボクがここまで追い討ちを掛ける事も想定していたんだ。

《ヒーロー・シグナル》通常罠
自分フィールド上のモンスターが戦闘によって
破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。
自分の手札またはデッキから「E・HERO」と
名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。
《E・HERO バブルマン》
★4 水・戦士族/効果 ATK800/DEF1200
手札がこのカード1枚だけの場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に
自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、
デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

「バブルマンの効果により、俺はデッキからカードを2枚ドロー!」
「カードを1枚セットして、ターン終了」

藤原【LP:1400】
手札:4枚
モンスター:1体
《冥府の使者カイエントークン》ATK2600
魔法&罠:セット1枚
十代【LP:3800】
手札:2→3枚
モンスター:1体
《E・HERO バブルマン》DEF1200
魔法&罠:−

「俺のターン、ドロー! デッキから2枚のカードを墓地へ送り、手札から潜入!スパイ・ヒーローを発動! 賢治の墓地から1枚のカードを使わせて貰う!」

《潜入!スパイ・ヒーロー》通常魔法
自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送り、
相手の墓地から魔法カード1枚を手札に加える。
【墓地へ送られたカード】
・《ユベル》
・???

「借りたのは生け贄の代償だ。俺はバブルマンを生け贄に、2枚のカードをドローする!」

《生け贄の代償》通常魔法
自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
デッキからカードを2枚ドローする。

「魔法カード、闇の量産工場を発動。墓地からネオスとスパークマンを手札に加える!」

《闇の量産工場》通常魔法
自分の墓地に存在する通常モンスター2体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分の手札に加える。
十代【手札:3→5】

「N・アクア・ドルフィンを召喚! そして手札のネオスを捨て、エコー・ロケーション発動!」
 水色の人型イルカモンスターが超音波を発すると、手札のカードが公開されて1枚のカードが光る。

(ネオスペーシアン)・アクア・ドルフィン》
★3 水・戦士族/効果 ATK600/DEF800
手札を1枚捨てる。相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択する。
選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールド上に存在する場合、
選択したモンスターカードを破壊して相手ライフに500ポイントダメージを与える。
選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールド上に存在しない場合、
自分は500ポイントダメージを受ける。この効果は1ターンに1度しか使用できない。
【藤原の手札】
《サイバー・ドラゴン》ATK2100
《異次元の女戦士》ATK1500
《サイバー・ヴァリー》ATK0
《光の護封剣》

「アクア・ドルフィンより攻撃力が低いモンスターはサイバー・ヴァリー。そのカードを破壊し、500ポイントのダメージを与える!」
「くっ!」

藤原【LP:1400→900】

「O−オーバーソウルを発動! 俺が復活させるのは当然、ネオスだ!」

《O−オーバーソウル》通常魔法
自分の墓地から「E・HERO」と名のついた
通常モンスター1体を選択し、自分フィールド上に特殊召喚する。
《E・HERO ネオス》ATK2500

「更に魔法カード、ネオスペーシアンエクステントを発動! アクア・ドルフィンをマリン・ドルフィンに進化させる!」
 アクア・ドルフィンは水色から群青色に変化し、姿を変えた。

NEX(ネオスペーシアンエクステント)》通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「N」と名のついたモンスター
1体を墓地へ送り、墓地へ送ったカードと同名カード扱いの
レベル4モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
《N・マリン・ドルフィン》
★4 水・戦士族/効果 ATK900/DEF1100
このカード名はルール上「N・アクア・ドルフィン」としても扱う。
このカードは「NEX」の効果でのみ特殊召喚できる。
手札を1枚捨てる。相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択する。
選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールド上に存在する場合、
選択したモンスターカードを破壊して相手ライフに500ポイントダメージを与える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「マリン・ドルフィンの効果を発動! 俺はスパークマンを墓地へ送り、賢治の手札から異次元の女戦士を破壊する!」
 強力な超音波を受け、手札のカードが再び削られてしまう。十代君のフィール上にはネオスが存在するから、2500までのモンスターを対処されてしまうんだ。

藤原【LP:900→400】

「ネオスとマリン・ドルフィンをコンタクト融合! 来い、E・HERO マリン・ネオスッ!」
 宇宙空間でネオスとネオスペーシアンが接触し、新たなヒーローが現れる。ボクがジェネックスの時に見たアクア・ネオスより肩が鋭角化しており、明らかな進化を果たしていた。

《E・HERO マリン・ネオス》
★8 水・戦士族/融合 ATK2800/DEF2300
「E・HERO ネオス」+「N・マリン・ドルフィン」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
相手の手札1枚をランダムに選択し破壊する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「マリン・ネオスはアクア・ネオスと同様の効果を持つが、手札コストを必要としない! ハイパー・エコー・バースト!」
 片手で放たれた超音波により、光の護封剣が破壊されてしまった。
「マリン・ネオスでカイエントークンを攻撃! ハイパー・ラピッド・ストーム!」
「うぐっ……!」

藤原【LP:400→200】

「ターンエンドだ!」
 強い。以前に戦った時より十代君は遥かに腕を上げている。ユキちゃんはアリスちゃんの時以上に驚きの表情を隠せていなかった。強いデュエリストだからこそ、見ているだけでも分かるんだ。戦っているボク自身も平常心を保つのが精一杯だった。

「凄いよ、十代君。あの局地からバブルマンのドロー効果で場を持ち直すだけなら、ジェネックスの時でも出来ていたと思う。だけど今は高攻撃力のマリン・ネオスをコンタクト融合させた上に、合計でボクに1200ポイントのダメージを与え、手札を3枚も削り取った。とても常人には真似の出来ないコンボだ」

「そうでもないさ。俺からすれば賢治も相当強くなっていて、ホント驚いた。あれから今日までの間に、一体何があったんだ?」
 ボク達はお互いが笑い、デュエルディスクを構え直す。ピンチなのに、なぜかワクワクする。だけどさすがの十代君も、異次元の女戦士の方を破壊したのは失敗だよ。

 ボクにはまだ、逆転の手が残っている。

藤原【LP:200】
手札:1枚(サイバー・ドラゴン)
モンスター:−
魔法&罠:セット1枚
十代【LP:3800】
手札:0枚
モンスター:1体
《E・HERO マリン・ネオス》ATK2800
魔法&罠:−



残り1日(後編)

「ボクのターン、ドロー! 手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚し、セットしていたDNA改造手術を発動! 宣言するのは機械族だ!」

《サイバー・ドラゴン》
★5 光・機械族/効果 ATK2100/DEF1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
《DNA改造手術》永続罠
発動時に1種類の種族を宣言する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の全ての表側表示モンスターは自分が宣言した種族になる。

 十代君はサイバー・ドラゴンと機械族へと姿を変えていくマリン・ネオスを見比べて、ハッとなって気が付く。

「フィールド上のサイバー・ドラゴン、そして機械族となったマリン・ネオスを墓地へ送り、融合デッキからキメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚する!」
 マリン・ネオスとサイバー・ドラゴンが地面に吸い込まれると、地中から音を立てて巨大な機械竜が姿を現した。

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》
★8 闇・機械族/融合 ATK0→2000/DEF0
「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
このカードは融合素材モンスターとして使用する事はできない。
フィールド上に存在する上記のカードを墓地へ送った場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
このカードの元々の攻撃力は、融合素材にした
モンスターの数×1000ポイントの数値になる。

「そしてDNA改造手術を墓地へ送り、マジック・プランターを発動!」
 ソリッドビジョン化された永続トラップは真下に現れた鉢の中へと沈んでいく。キメラテック・フォートレス・ドラゴンを呼び出した今、DNA改造手術を残しておく意味は薄い。このカードの効果でボクはデッキからカードを2枚ドローした。

《マジック・プランター》通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「キメラテック・フォートレス・ドラゴン! 十代君に直接攻撃だ!」
 二つの首が機械音で咆哮し、同時に青い輝きのエネルギー弾を放つ。十代君に止める術はなく、攻撃はそのまま直撃する。
「ぐああっ!」

十代【LP:3800→1800】

「ターン終了だよ」
「へへっ、勝負はこれからだぜ? 俺のターン、ドロー!」
 さすがの十代君も焦りが見えていたけど、引いたカードを見てフッと笑った。

藤原【LP:200】
手札:2枚
モンスター:1体
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》ATK2000
魔法&罠:−
十代【LP:1800】
手札:0→1枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「魔法カード、戦士の生還を発動。このカードの効果で墓地からバブルマンを手札に戻し、守備表示で特殊召喚する!」

《戦士の生還》通常魔法
自分の墓地に存在する戦士族モンスター
1体を選択して手札に加える。
《E・HERO バブルマン》
★4 水・戦士族/効果 ATK800/DEF1200
手札がこのカード1枚だけの場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に
自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、
デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

「そしてバブルマンの効果でカードを2枚ドロー! モンスターとリバースカードを1枚ずつセット、ターンエンドだ!」
 ボクのドローフェイズ。デッキからカードを1枚引き、状況を再確認する。十代君の手札は無く、フィールド上にはバブルマンと裏側モンスターとセットが1枚。攻めるなら今だと思けど、エレメンタルヒーローを軸にした手札破壊のデッキに変わったとも言い切れない。一応、このカードはセットしておくのが正しいはず。

「カードを1枚セットして、キメラテック・フォートレス・ドラゴンでバブルマンに攻撃する!」
 爆風が起き、十代君は身構える。これでフィールド上に残ったモンスターは裏側1体のみ。ボクは手札から1枚のカードを取って発動させた。

「さらに速攻魔法、沈黙の剣−LV5! キメラテック・フォートレス・ドラゴンを生け贄に、サイレント・ソードマンLV5を特殊召喚する!」
 要塞竜は輝きの中に姿を消し、沈黙の剣士が戦闘体勢で現れる。

《沈黙の剣−LV5》速攻魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
自分のデッキ・手札・墓地・除外されている
「サイレント・ソードマンLV5」1体を自分のフィールド上に特殊召喚する。
《サイレント・ソードマンLV5》
★5 光・戦士族/効果 ATK2300/DEF1000
このカードは相手の魔法の効果を受けない。
このカードが相手プレイヤーへの直接攻撃に成功した場合、
次の自分のターンのスタンバイフェイズ時に表側表示の
このカードを墓地へ送る事で「サイレント・ソードマンLV7」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。

「そして攻撃宣言時、手札から武装再生を発動! デッキからメテオ・ストライクを選択、サイレント・ソードマンLV5に装備する!」

《武装再生》速攻魔法
バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。
自分のデッキまたは墓地から装備魔法カード1枚を選択し、
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターに装備する。
《メテオ・ストライク》装備魔法
装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を
攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「追撃だ! ――沈黙の剣LV5!」
 十代君のセットしているモンスターカードが守備力500以下のモンスターなら、この攻撃で決着が付く。
「俺がセットしていたカード、それはメタモルポットだ!」
 メタモルポットのリバース効果が発動し、ボク達はお互いに手札を捨てカードを5枚ドローする。幸い、直前でセットしていた死者蘇生は残す事が出来た。

《メタモルポット》
★2 地・岩石族/効果 ATK700/DEF600
リバース:自分と相手の手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキから
カードを5枚ドローする。

 メタモルポットが消滅、メテオ・ストライクの効果でサイレント・ソードマンの攻撃が貫通し、十代君にダメージを与える。

十代【LP:1800→100】

「危なかった。今のは本気で負けるかと思ったぜ?」
「ボクも勝てると思った。カードを1枚セットして、ターン終了だよ」

藤原【LP:200】
手札:4枚
モンスター:1体
《サイレント・ソードマンLV5》ATK2300
魔法&罠:《メテオ・ストライク》,セット2枚
十代【LP:100】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:セット1枚

 このデュエルはもう終盤だ。
 十代君も、それが分かっている。
「俺のターン! 来い、E・HERO プリズマー!」
 フィールド上に全身が宝石で出来たようなモンスターが現れる。ジェネックスでは見なかったE・HEROだ。

《E・HERO プリズマー》
★4 光・戦士族/効果 ATK1700/DEF1100
自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、
そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を
自分のデッキから墓地へ送って発動する。
このカードはエンドフェイズ時まで墓地へ送ったモンスターと
同名カードとして扱う。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「プリズマーの効果、リフレクト・チェンジを発動! 俺はデッキからバースト・レディを墓地へ送り、手札からミラクル・フュージョンを使う! 墓地のフレイム・ウィングマンとスパークマンを除外し、現れろ! E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン!」
 E・HERO フレイム・ウィングマンは序盤に発動したカウンタートラップ、フュージョン・ガードの効果で墓地へ送られていた。ランダムで墓地へ送られたカードとはいえ、それをも有効活用させるなんて。

《ミラクル・フュージョン》通常魔法
自分フィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって決められた
モンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という名のついた
融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》
★8 光・戦士族/融合 ATK2500→4000/DEF2100
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の「E・HERO」と
名のついたカード1枚につき300ポイントアップする。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
【墓地のE・HERO】5体
《マリン・ネオス》《エッジマン》
《ワイルドマン》《バーストレディ》
《バブルマン》

 十代君の場にはE・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン。ボクの場にはサイレント・ソードマンLV5が存在し、対峙する。この光景は以前も見た事があった。

「俺達が1年の時も、最後はこのモンスター同士で戦ったよな」
「そうだね。あの時は負けたけど、今日は違うよ」
「行くぜ! シャイニング・シュート!!」
 今の状況ではサイレント・ソードマンLV5を守る事は出来ない。だけどこのカードで次に繋げる事は出来る。
「トラップカード、レインボー・ライフを発動! 手札を1枚捨て、このターンに受けるダメージは全て回復になる!」
「何っ!」

《レインボー・ライフ》通常罠
手札を1枚捨てる。
このターンのエンドフェイズ時まで、
自分が受けるダメージは無効になり、
その数値分ライフポイントを回復する。

 サイレント・ソードマンLV5はシャイニング・フレア・ウィングマンに破壊されてしまうものの、ボクへ向う衝撃波はバリアにより回復へと変換されていく。

藤原【LP:200→1900】

「っ……。シャイニング・フレア・ウィングマンには、戦闘によって破壊したモンスターの攻撃力分だけ相手にダメージを与える効果がある。だが……」
「レインボー・ライフの回復効果は、効果ダメージにも適応するよ」
 ボクの眼前で輝くヒーローの攻撃も、再びバリアに遮られた。

藤原【LP:1900→4200】

「リバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
「ボクのターン、ドロー!」

藤原【LP:4200】
手札:3→4枚
モンスター:−
魔法&罠:セット1枚
十代【LP:100】
手札:3枚
モンスター:2体
《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》ATK4000
《E・HERO プリズマー》ATK1700
魔法&罠:セット2枚

 やっぱり十代君とのデュエルは楽しく、熱かった。闘気には闘気で立ち向かうしかないと伝わってくるよう。懐かしい気持ちだった。ボクはふと、子供の頃に龍明君とデュエルをしていた時の気持ちを思い出した。

「魔法カード、地砕きを発動! シャイニング・フレア・ウィングマンを破壊する!」
「くっ!」
「そしてセットしていた死者蘇生を発動! サイレント・ソードマンLV5を復活させ、レベルアップでLV7へと進化させる!」
 光に包まれたサイレント・ソードマンのマントが大きく広がる。肩の上で構えられた大剣を片手で回転させ、下向きに構え直した。

《死者蘇生》通常魔法
自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
《レベルアップ!》通常魔法
フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つ
モンスター1体を墓地へ送り発動する。
そのカードに記されているモンスター1体を、
召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。
《サイレント・ソードマンLV7》
★7 光・戦士族/効果 ATK2800/DEF1000
このカードは通常召喚できない。
「サイレント・ソードマンLV5」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。

「サイレント・ソードマンLV7でプリズマーに攻撃! ――沈黙の剣−LV7!」
「トラップ発動、ドレインシールド! その攻撃を無効にし俺のライフポイントに加える!」
 プリズマーの左腕に防御シールドが装備され、サイレント・ソードマンの攻撃を受け止める。ボクの発動したレインボー・ライフと同じ、ライフポイント回復の効果を持つカードだ。

《ドレインシールド》通常罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分の数値だけ
自分のライフポイントを回復する。
十代【LP:2900】
藤原【LP:4800】

 これでボクと十代君のライフ差は1900。一見、ボクの方が有利に見える。だけどデュエルにおけるライフポイント差は目安に過ぎない。それに次は十代君のターンだ。
「ターン終了」
「行くぞ! 俺のターン、ドロー!」

藤原【LP:4200】
手札:2枚
モンスター:1体
《サイレント・ソードマンLV7》ATK2800
魔法&罠:−
十代【LP:2900】
手札:3→4枚
モンスター:1体
《E・HERO プリズマー》ATK1700
魔法&罠:セット1枚

「リバースカード2枚をセットし、手札からN・エア・ハミングバードを召喚! そしてプリズマーの効果を再び発動。デッキからネオスを墓地へ送る!」
「これでプリズマーはネオスに……」
「そうさ。俺はエア・ハミングバードと、ネオスとなったプリズマーをコンタクト融合! E・HERO エアー・ネオスを特殊召喚!」
 真紅の身体に白い翼を広げ、風のエレメンタルヒーローが現れた。

《E・HERO エアー・ネオス》
★7 風・戦士族/融合 ATK2500/DEF2000
「E・HERO ネオス」+「N・エア・ハミングバード」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
自分のライフポイントが相手のライフポイントよりも少ない場合、
その数値だけこのカードの攻撃力がアップする。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。

「エアー・ネオスの効果は自分と相手のライフ差の分、攻撃力を上げる!」

藤原【LP:4200】 十代【LP:2900】
ライフ差:1900
《E・HERO エアー・ネオス》ATK2500→3800

 E・HERO エアー・ネオスと、サイレント・ソードマンLV7。
「これは2年生の時。ジェネックスでの決着だったね」
「ああ。俺も今回は負けるつもりはないぜ?」

藤原【LP:4200】
手札:2枚
モンスター:1体
《サイレント・ソードマンLV7》ATK2800
魔法&罠:−
十代【LP:2900】
手札:3枚
モンスター:1体
《E・HERO エアー・ネオス》ATK3800
魔法&罠:セット3枚

「エアー・ネオス! サイレント・ソードマンLV7に攻撃だ!」
 十代君が再びシャイニング・フレア・ウィングマンでLV5を倒して見せたのなら、ボクだってLV7でエアー・ネオスを越えて見せる!
「手札からオネストの効果を発動!」
「何だって……!」

《オネスト》
★4 光・天使族/効果 ATK1100/DEF1900
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で
存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上に表側表示で存在する
光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に
このカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
《サイレント・ソードマンLV5》ATK7600
《E・HERO エアー・ネオス》ATK4800

 サイレント・ソードマンLV7もエアーネオスのように白い翼を得て、空中で一騎打ちが行なわれる。沈黙の剣による一閃はエアー・ネオスを一撃で仕留めた。これで十代君のライフポイントは再び100になる。

十代【LP:2900→100】

「だが、このままでは終わらない! トラップカード、ヒーロー逆襲! 自分のE・HEROが戦闘で破壊された時、俺の手札から1枚をランダムに選択、それがE・HEROだった場合はそのモンスターを特殊召喚し、相手モンスターを破壊する!」

《ヒーロー逆襲》通常罠
自分フィールド上に存在する「E・HERO」と名のついた
モンスターが戦闘によって破壊された時に発動する事ができる。
自分の手札から相手はカード1枚をランダムに選択する。
それが「E・HERO」と名のついたモンスターカードだった場合、
相手フィールド上のモンスター1体を破壊し、
選択したカードを自分フィールド上に特殊召喚する。

「俺の手札は1枚、E・HERO フェザーマン! よってサイレント・ソードマンLV7を破壊、フェザーマンを特殊召喚する!」
 沈黙の剣士は破壊され、十代君の場に防御体勢を取ったフェザーマンが現れる。ボクがシャイニング・フレア・ウィングマンを警戒してレインボー・ライフを用意していたように、十代君もエアー・ネオスが倒されてしまった時の保険を用意していたんだ。

《E・HERO フェザーマン》
★3 風・戦士族 ATK1000/DEF1000
風を操り空を舞う翼を持ったE・HERO。
天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

「ターンエンドだ」
「ボクのターン、ドロー! 手札から貪欲な壺を発動。墓地のサイレント・ソードマンLV3、LV5、オネスト、サイバー・ドラゴン、キメラテック・フォートレス・ドラゴンをデッキに戻し、カードを2枚ドロー!」

藤原【LP:4200】
手札:3枚
モンスター:−
魔法&罠:−
十代【LP:100】
手札:0枚
モンスター:1体
《E・HERO フェザーマン》DEF1000
魔法&罠:セット2枚

 ドローカードはダブルレベルアップと、おろかな埋葬だった。このカードを引くと分かっていたらサイレント・ソードマンLV7をデッキに戻していた……。
「魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからサイレント・ソードマンLV3を墓地へ送るよ」

《おろかな埋葬》通常魔法
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

「そしてダブルレベルアップを発動! 墓地のLV3をLV5に進化させる!」
 おろかな埋葬で墓地へ送るモンスターのレベル制限はない。貪欲な壺でLV7を戻しておけばLV5を墓地へ落とし、そこからレベルアップが出来たんだ。

《ダブルレベルアップ!》通常魔法
自分の墓地に存在する「LV」を持つモンスター1体を
ゲームから除外して発動する。そのカードに記されているモンスター1体を、
召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。
《サイレント・ソードマンLV5》ATK2300

「フェザーマンに攻撃! ――沈黙の剣、LV5!」
 沈黙の剣士は勢いよく飛び出し、フェザーマンを倒す。
「カードを1枚セットして、ターン終了!」
「はははっ! やるなぁ、賢治! 久々に熱くさせて貰ったぜ!」
「ありがとう、十代君。ボクもだよ」
「俺のターン! ドロー!」

藤原【LP:4200】
手札:0枚
モンスター:1体
《サイレント・ソードマンLV5》ATK2300
魔法&罠:セット1枚
十代【LP:100】
手札:0→1枚
モンスター:−
魔法&罠:セット2枚

「これがラストターンだ! トラップカード、正統なる血統! 墓地からネオスを特殊召喚し、セットしていたネオス・フォースを装備させる!」

《正統なる血統》永続罠
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、
攻撃表示で特殊召喚する。このカードが
フィールド上に存在しなくなった時、
そのモンスターを破壊する。そのモンスターが
フィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。
《E・HERO ネオス》
★7 光・戦士族 ATK2500→3300/DEF2000
ネオスペースからやってきた新たなるE・HERO。
ネオスペーシアンとコンタクト融合することで、未知なる力を発揮する!
《ネオス・フォース》装備魔法
「E・HERO ネオス」にのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
エンドフェイズ時にこのカードをデッキに加えてシャッフルする。

「そして手札から、ダーク・コーリングを発動!!」
「ダーク……コーリング……!」
 十代君の瞳が左右で青と黄に輝き、魔法カードが発動された。フィールド中央に巨大な悪魔の手が現れ、邪気が集まっていく。

《ダーク・コーリング》通常魔法
自分の手札・墓地から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、
「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚できる
融合モンスター1体を「ダーク・フュージョン」による
融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

「俺が覇王となり得た力――。スパイ・ヒーローのコストで墓地へ送られたユベルとE−HERO マリシャス・エッジの力をダーク・フュージョン! 現れろ、マリシャス・デビルッ!」
 刺々しい針のようなモンスターと、翼を持った悪魔族モンスターが融合し、凶悪なモンスターが現れた。そうか、あの翼のモンスターが十代君の精霊……!

《E−HERO マリシャス・デビル》
★8 炎・悪魔族/融合 ATK3500/DEF2100
「E−HERO マリシャス・エッジ」+レベル6以上の悪魔族モンスター
このカードは「ダーク・フュージョン」による融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手ターンのバトルフェイズ中に相手フィールド上に存在するモンスターは
全て表側攻撃表示になり、相手プレイヤーは全てのモンスターで
このカードを攻撃しなければならない。

藤原【LP:4200】
手札:0枚
モンスター:1体
《サイレント・ソードマンLV5》ATK2300
魔法&罠:セット1枚
十代【LP:100】
手札:0枚
モンスター:2体
《E・HERO ネオス》ATK3300
《E−HERO マリシャス・デビル《ATK3500》
魔法&罠:《ネオス・フォース》

「ネオスでサイレント・ソードマンLV5に攻撃! フォース・オブ・ネオスペースッ!」
 っ……ダメだ。
 ボクがセットしているカードは突進。

《突進》速攻魔法
表側表示モンスター1体の攻撃力を、
ターン終了時まで700ポイントアップする。

 攻撃力を700上昇させても、サイレント・ソードマンLV5の攻撃力は3000。ネオスには敵わない。
「ネオス・フォースを装備したネオスにはフレイム・ウィングマンと同じ能力を得る! よって賢治には合計3300のダメージだ!」

藤原【LP:4200→900】

「続け、マリシャス・デビル! エッジ・ストリーム!」
 ボクにはもう攻撃を止める手段はない。
 負けてしまった。でも、楽しかったな。


藤原【LP:900→0】


 全てのソリッドビジョンが消え、ユキちゃんと一緒に十代君の所へと向う。彼は勝ったのに、なんだか浮かない顔をしていた。
「なんかさ。勝った気がしないんだ」
「えっ……」
 ボク達の様子を見て、十代君は慌てて顔の前で手を振った。
「い、いや、違うって! 悪い意味じゃない!」
「そう言えばあの時、ボクは貪欲な壺の効果でサイレント・ソードマンLV7をデッキに戻しておけば、ダブルレベルアップでの特殊召喚が出来た。十代君のドローカードは魔法カードのダーク・コーリング、セットしていたのはネオス・フォース。正統なる血統で特殊召喚する場合は攻撃表示だから、ボクは勝っていたかも知れない」
「それも違うぜ。そんなのは、ただの結果論だろ? 何となくだけど、別の方向から考えて俺は負けていた気がする。どうしてかは自分でもよく分からないけどさ」


『(十代。彼もキミと同じ――)』


「――! 賢治は過去の記憶を消されているみたいだ。精霊の力を使えば思い出す事も出来るんだが、やってみるか?」
 彼の言葉に少しだけ迷った。ユキちゃんの事も、夢の事も思い出す事は出来ている。これだけでも十分ではないか。でも、本当にそうなのかな。もしかしたら、思い出さなければいけない事がまだあるのかも知れない。ボクはユキちゃんと頷き、十代君を見た。
「お願いするよ。十代君」
 ボクとユキちゃんは後ろを向くように促され、十代君が背中に手を置いた。
「よし。いいぜ、ユベル」


 一瞬の、不思議な感覚。辺りは真っ暗で何も見えない。その中で戸惑うユキちゃんの声と、慣れた様子でボク達に落ち着くように言う十代君の声。すると突然、映画の大画面を見るように同時に2つの様子が映し出される。
『あれは俺と、賢治か……?』
 左側には小学生低学年くらいの十代君、右側には中学の制服を着たボクが映っていた。それぞれ2人がいる場所は全く同じだけど、十代君の時と比べるとボクの方は年月が経っていた。これがどちらも過去の事実なら当然だ。
『け、賢治くん!』
『うん。そうだったんだ』
 十代君の精霊を通し、ここが何処なのか、何をする場所なのかも分かった。だからボクはユキちゃんの事を。

 ボク達はいつの間にか、元の公園に戻っていた。暗い所から急に明るい所に来た時と感覚が似ている。ユキちゃんも眩しそうにしていたので、同じ光景を見ていた事を実感した。
「ありがとう。また会えるよね、十代君」
「ああ。今日も最高に楽しいデュエルだったぜ。ガッチャ!」
 十代君がカバンを持つと、ファラオは返事をするように鳴く。彼は颯爽と走り、風のように姿を消していくようだった。



 再び沈黙と化した公園。2人で一緒に座るベンチ。
 ボクは堪らず、口を開いてしまう。
「今日が終われば、明日を残すだけだね」
「うん……。賢治くん……。賢治くん……」

 ユキちゃんは座ったま、大粒の涙をこぼした。
 ボクも釣られて涙が流れ出る。
 片方が泣ければ、最初はいつもバランスを崩してしまう。
 こうなってしまうとボク達はとても脆い。
 ボク達は毎日、自分という存在をお互いに分け合ってきた。
 ボクだけではユキちゃんを支えられず、
 ユキちゃんだけでもボクを支えられない。
 ボク達はお互いが1人を支えているんだ。

「わたし……全然知らなくて……」
「ボクだって忘れていた事だよ。気にしないで。でもユキちゃんの事をただ忘れていたんじゃなくて、少し安心した。ユキちゃんはボクの事を覚えていたのに、ボクだけが忘れていた事、ずっと気にしていたからさ」
「ふふっ。気にしなくていいのに」
 ボク達は2人で微笑んでから、またしばらく声を出せないでいた。
 自分の涙が止まった時、ボクはやっとユキちゃんを支える準備をする。

「幸花町から出る決意をした時、ユキちゃんが一緒に来てくれるなら何もいらないと思っていた。だけど本当は寂しい。ボク達にとって、仲間は本当に大切な存在だからね」
「わたしも……。わたしも、ずっと強がっちゃった……。みんなと……はなれ、ちゃう……」
 ユキちゃんの瞳から綺麗な涙が頬を伝う。
 人の為に、自分の為に、とても悲しい涙を流していた。
「ボクも怖いんだ。仲間達から離れる事も、子供から大人になる事も」
 自分の涙を手で拭いて、真正面からユキちゃんをぎゅっと抱きしめた。

「でも大丈夫。ボク達は必ずここに帰って来る。だから心配しないで」

 右手で彼女の細い腕を取って、指と指を絡ませた。これでお互いが手を握り合えば、目の前に大事な人がいる事を教えてくれる。ユキちゃんはこんな小さな身体と手で色々な事を思い、頑張っている。ボクの為に頑張ってくれているんだ。そんなユキちゃんが大好きだから、ボクがやらなきゃ。彼女の背中を優しく寄せて、何度も言った。

「大丈夫だよ。大丈夫」

 ボクはボク達にそう言い聞かせた。
 抱きしめるユキちゃんの身体から元気を貰い、何度も言った。

「わたし、明日は賢治くんと一緒にデュエルしたい」
「ありがとう、ユキちゃん。ボク達は2人で幸花町を出る。これからも2人で一緒に頑張ろうと決めたよね。だけど明日のデュエルだけは、ボク1人で戦わせて欲しい。このデュエルでボクが最後の1枚を発動する時は、それをユキちゃんに発動して欲しいんだ」

 そうか。十代君が言っていたのは、そういう事だったんだ。彼がユベルという精霊の力を借りていたように、明日はボクにも借りるべき物がある。E−HERO マリシャス・デビルとあのカードの攻撃力は互角。ネオス・フォースを装備したE・HERO ネオスでは太刀打ちできないため、十代君はマリシャス・デビルで相殺を狙うしかない。そうなればボクが突進を発動して迎え撃てば、もしかしたら勝っていたのかも知れない。

「やっぱり最初から一緒に戦う? だけど――」
 明日の朝、ボク達は幸花町を出る。
 この3年間、幸花町で過ごした事への決着。
 龍明君とのデュエルが待っている。



残り0日(前編)

 ――伊吹宅 伊吹の部屋

 ベランダから早朝の青空を眺める。いつもと変わらない、澄んだ空気と閑寂とした空間。これらはいつも1日の始まりを感じるのに、今日は何もかもが終わりを感じさせる。

 手にしたデッキケースを開け、プリントシール機で昨日撮ったばかりの写真を見た。藤原と幸恵ちゃんを中心に、時計回りで左上から俺、紅、平見先生、鳥野さん、野口先輩、アリスちゃん、鉄ちゃんの順で輪になって囲んでいた。鉄ちゃんに関しては上の俺が窮屈にさせてしまったのか、画面ではなく上を見てしまっている。申し訳ない事をしたな。

 シールに写った全員は顔で笑い、心で泣いていた。永遠の別れではないのに、なぜこんなにも寂しいのか。これから大人になるにつれ、何か大切な物を失ってしまうかも知れない恐怖感か。誰1人欠けず、この仲間達で笑える日が来ないかも知れない不安感か。だがそんな事は絶対に現実にはさせない。俺の人生に代えてでも。

 隣の部屋から椅子を動かす音が聞こえた。
 紅が起きたんだろう。様子を見に行くか。


 ――伊吹宅 紅の部屋

 学習机で漫画を読み流していると、部屋のドアがノックされた。
「起きているか?」
「うん。起きてる」
 ドアが開いても兄ちゃんの方向は見ないで、今度はケータイに貼った新しいプリクラの写真を眺めてしまう。これからは2人の歌どころか、声も聞けない。私は一体、何の為に頑張ればいいの? 昨日の楽しかった事を思い出すと、また涙が止まらなかった。

「泣くな。お前も分かっているだろう。あいつらは俺達が思っている以上にお人好しで、人一倍傷付きやすい。2人は仲間から離れる事に苦悩し、俺達の知らない所で何度も泣いていただろう。だが2人は希望を持って前へ進む事を選んだ。俺達は前へ進みたくないと思った時、後ろを見てしまう時がある。だが何をやっても後ろへは行けない。行かないんだ。時間ですら前にしか進めないんだぞ。人間が後ろに進める訳がない」

「……バカ。今日が過ぎれば全部割り切って、デュエ研も夢も頑張るもん。あなたとは一緒に進みたくないよーだ」
 私が皮肉で言った言葉に、兄ちゃんは珍しく声を上げて笑ってくれた。きっと元気が貰えるくらいの笑顔なんだと思うけど、照れ臭いから顔は向けない。
「俺も遠慮しておく。だが今日、学校まで一緒に進むくらいなら構わない」
「……バカ」


 ――平見宅 LDK

「藤原ぁ……幸恵っ……」
 昨日の夜も散々枕を濡らしたのに、飽きもせず涙が止まらなかった。
 あたしの料理をいつも美味しそうに食べてくれた。貴方達がいると、どんな事にも綺麗な色が付いた。離れたくない。遠い所なんか行って欲しくない。オレンジ色の四角い目覚まし時計に貼った、シール写真。思い出の為に撮った写真なのに、今は心をえぐられるような気分だった。

 人の気持ちも知らないで、携帯電話から軽快なメロディが流れる。あたしが子供の頃に放送していた魔法少女のオープニングテーマ。と、いう事はメールね。
「ルト……」
 この子は大学時代の後輩。卒業後に2回も偶然出会ってしまって、その時に連絡先を教えちゃったんだっけ。なーんで朝っぱらから来週の食事を誘うのよ。こんなに絵文字まで付けちゃって。だけど、妙に安心して微笑んでしまう。

 立て続くようにインターホンが鳴った。デュエ研の誰かかな?
「なつみん先生!」
 玄関のドアを開けると、鉄ちゃんが軽く手を振って立っていた。
 昨日撮ったシールがカバンのキーホルダーになっている。
 鉄ちゃんが視線を変え、あたしも釣られてその先を見てしまう。幸恵が大事にしていた花壇から少しだけ、花の芽が出ていた。そっか。これからは、あたしが育てる事になる花。藤原と幸恵に約束したんだから、絶対にこの花は咲かせなきゃ。

「1人で行くのが寂しいから来ちゃいました。一緒に行きましょう!」
 また、涙が出てきた。
 さっきとは違う色の涙だけど。

「なつみん先生、さっきまで泣いてたんですね」
「バレた?」
「……私、子供の頃から相思相愛の男女に憧れていたんです。でも生きて行く中で男性の身勝手な所に気が付いたり、そういう事を勝手に決めつけている自分も大嫌いでした。そんな時に藤原先輩と幸恵さんという、私が最も理想とする2人に出会えたんです。だけど、なつみん先生も紅も、私よりずっと2人の事をよく知っていますよね。だから自分がみんなにとって、はみ出し者なんじゃないかなと悩んでいました」
 鉄ちゃんの言葉が少し耳に痛い。事実、最近まであたしは新しい仲間を受け入れる気持ちを否定していたからね。

「だから2人を見て、少しでも理想に近づきたい思っていた矢先に離れる事になってしまって。でも私、2人から教えて貰った事があります。だから平気です。今日は伊吹先輩と歩けませんでしたが、いつか一緒に……」
 鉄ちゃんはそこまで言って、思わず口を滑らせていた事に気が付いた。
 自分もそうだから良く分かる。どうして女の多くは恋に敏感なんだろう。

「お姉さんに、詳しく教えなさい?」


 ――幸花高校 グラウンド

 旅立ちの日は、綺麗な朝焼けとスズメの鳴き声が迎えてくれました。
 賢治くんはバイクの前で立ち、わたしは座席に座ったまま、
 それぞれの手帳に貼ったシール写真を眺めています。
 昨日の気持ちも、今日の気持ちも、胸の奥で忘れないように。
 わたし達は頑張りに行きます。幸せになる為に。

「ユキちゃん。ありがとう」
 空いた座席の上に右手を添えて、賢治くんが唐突に言いました。
 わたしは何も言わず、彼の手に両手を置きます。
 今度は賢治くんが左手をわたしの両手に重ねました。
 季節の風で2人の手は冷たいけど、こうすれば温かく出来ます。

 今まで一緒にいてくれて。
 今も一緒にいてくれて。
 これからも一緒にいてくれて。

「ありがとう。賢治くん」
 顔が合うと急に気恥ずかしくなって、2人で慌てて目線を逸らしました。
 横目で見ると、やっぱり賢治くんも青空を見ています。
「向こうのマンションに着いたらどうしよう? 何かしたい事ある?」
「うん。まずは運転してくれたお礼に、マッサージしてもいい?」
「……。ユキちゃん。ありがとう」

 それからすぐ、神之崎さんと定岡先生が歩いて来ました。わたしは座席から降りると、神之崎さんは優しいお父さんのように微笑みます。
「藤原君の為に、夢を叶えるんだぞ」
 神之崎さんはカダールさんのことも、デュエルのことも、何も言いませんでした。
 たった一言。でもそれは、わたしが一番頑張れる言葉。
「はい!」
 定岡先生は賢治くんの所へ向い、真剣な面持ちで言いました。
「頑張れよ、藤原君。キミには目標をやり遂げる力がある」
「ありがとうございます。その言葉、決して忘れません」

 それから1分も経たないうちに、鳥野さんが黒いバイクでグラウンドに入りました。黄色いサングラスを片手で外してエンジンを切ります。鳥野さんはシールを透明の眼鏡ケースに貼っていました。
「いよいよだな、2人とも。私も今の大学が終われば長い旅に出る。素晴らしい大自然の風景と、美しい鳥の写真を送らせて貰うよ」
「ボク達も楽しみに待っています」

 続くように、面白がって笑っている夏未さんと、赤くなって反論する鉄ちゃんがやって来ました。会話の途中のようでしたが、2人で何を話していたのかな?
「藤原先輩。幸恵さん。今まで有難う御座いました!」
「鉄ちゃんも部活動、頑張ってね」
 夏未さんは賢治くんの背中を軽く叩いて、笑顔で言いました。
「今日は格好いいトコ見せなさいよ?」
「が、頑張ってみます」

 グラウンド側の開いている校門から、紅ちゃんと伊吹くんが見えました。伊吹くんは歩いていますが、紅ちゃんはわたしに向って走って来ます。
「おはよー!」
「わわっ!」
 やっぱり抱きつかれました。
 抱きついたまま賢治くんの方を向いて、悪戯っぽく笑います。
「藤原さんにも、してあげよっか?」
「今日はお願いしようかな」
「無事に帰って来たらね。デュエルモンスターズで例えると、ウィジャ盤!」
 それじゃあ死の宣告だよ、と笑う賢治くんの袖を軽く引っ張り、伊吹君が話しました。
「これから戦う相手は今まで以上に、お前にぶつけるべき何かを持っている。お前もそうなんだろう。だったら勝て。勝つ事でしか証明出来ない事もある。お前は強い。今なら野口先輩に勝つ事も、決して不可能ではない」
「分かった。やってみる」

 次は8人もの人達が集団で集まって来ました。
「藤原君、伊吹君、おはよう!」
「委員長! 本当に来てくれたんですか!」
 と言うことは、賢治くんが前に話していた人かな? 賢治くん、伊吹くん、委員長さんの3人は高校の1年生から3年生まで、ずっと同じクラスだったようです。

「私もノリで来たぞ! ご飯をよく噛んで食べているかい!」
 2年前、賢治くん達が出場した大会で実況と審判をしていた人です。あの時よりも増して、溢れるばかりの元気を振り撒いています。

「ニョボボボボボ! わぢ達も見に来たんだじょ〜!」
 悪い人ではないのですが、少し変わった死井さん。伊吹くんとは子供の頃からの知り合いと聞いています。後ろには英井さん、美井さん、餌腐さんと続き、

「やあ! 藤原君!」
「うわっ! 出井さん!」
 デュエルが自分の思った通りに進行しないと、凶暴化する出井さん。偶然かも知れませんがジェネックスの時、いきなり天気が悪くなった事が今でも忘れられません。

「良かった、間に合ったー!」
「桜田さん!」
 他にもカードショップの店員さん、ブックストアの店長さんも一緒に来てくれていました。いつもわたし達に良くしてくれていた人達です。多くの人達に囲まれて見送られることを思うと、わたしは嬉しくて泣いてしまいそうでした。

 あとはアリスちゃんと――。




 ――幸花高校 グラウンド

 幸花高校。やはり最後の舞台はここが相応しいか。
 アリスの車椅子を押しながら、震えた足を前へ進ませる。
 俺は自分から賢治と離れる事を2度選んだ。
 1度は子供の頃。2度目は海外留学の時。
 どちらも俺の自分勝手なのに、本心から込み上げる寂しさがあった。
 そして同時に、今日ほど賢治が怖いと思った日はない。
 結局、俺はいつもと何も変わらない。死んで逃げる事が出来なかった。
 賢治と幸恵ちゃんに言わなくちゃならない事もある。
 俺の表情をただの緊張だと思ったのか、アリスが車椅子越しに振り向いて言った。

「Do your best!」
「Thank you. Alice」
 アリスが幸花町に来た時、最初は俺以外とまともに喋ろうとしなかった。だが今は見違えるほど積極的になっている。周りに対してだけじゃない。俺に対しても前とは比べ物にならない変化だ。アリスは昨日のシールを手鏡に貼り、何度も身なりの確認をしていた。

 俺はまだ、シールを貼っていない。

「待たせたな、みんな。――ってギャラリーが多いぞ!?」
 どっと笑いが起き、団欒とした雰囲気が心地良かった。死井君や出井君はいるようだが、伊吹君の敵だった神門という人の姿はなく、刃金沢の奴もいない。伊井君も当然いなかった。ここへ来る義理はないから当然だろう。

 …………。

「ちょっと借りるぞ、アリス」
 柔らかい金髪に触れて、赤いリボンを解く。
 今はリボンではなく、もう1度ハチマキになってくれ。
 自分でも力がコントロール出来ない程、頭にギュっと縛った。
 アリスの車椅子に掛けていたデュエルディスクを取り出し、デッキを入れる。

 この日の為に考え抜いた、今日だけのデッキ。今まで俺が使っていた神龍は全て神之崎さんから譲って貰ったが、究極神龍だけは受け取れなかった。あれは誰が何年使おうが、カダールのカードなんだ。それでも。

「野口君。カードを持って来たよ」
 厳重なアタッシュケースの中から、1枚のカードが取り出される。
 融合モンスター。レベル12。攻撃力・守備力5000。
 今日のデュエルでは究極神龍の力を使う。でなければ俺は賢治に勝てない。勝手な思い込みだが、カダールも今日は一緒に戦いたいはずなんだ。

「いよいよだな。賢治。ここは俺達が出場した大会やイベントよりも壮大な舞台だ。朝っぱらから迷惑だとは思ったんだが、持って来てしまった」
 アリスから白いビニール袋を受け取り、その中から取り出す。
「打ち上げ花火?」
「2年前にも言ったじゃないか。俺の父の友達は花火職人なんだ。これなら朝でも良く見えるし、音も少ない」

 実況をしていた人が手際よく受け取ってくれて、ライターを構える。
 緊張の一瞬。ついに始まるんだ。
 俺にとって人生で一番になるであろう決闘。



「――デュエル開始ッ!!」



 青空に大きな花火がドンと打ち上がる。遠慮がちに鳴った音とは想像もつかない、大きく綺麗な花を咲かしていた。デュエルディスクが機能し、お互いが身構える。

藤原【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−
野口【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「ボクのターン、ドロー! モンスター1体とカードを2枚セットし、ターン終了!」
 気味が悪いくらいに俺は高揚していた。
 拳を思い切り握れば汗が滲んでくる。
 成長した賢治に対する怯えか。
 勝てないとさえ思える相手と戦える喜びか。
 全部ひっくるめての高揚かも知れない。複雑な心境だ。
 それでも今は、デュエリストとして戦えばいい。賢治もそれを望んでいる。
 ――よし。行くか。

 束になっていた手札5枚を扇状に広げ、デッキからカードを引く。
「手札から神龍−ハリケーン・ドラゴンを召喚! デッキからカードを2枚ドローし、1枚を墓地へ送る!」

《神龍−ハリケーン・ドラゴン》
★3 風・ドラゴン族/効果 ATK1200/DEF800
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキからカードを2枚ドローし、その後手札からカードを1枚捨てる。

「そして神龍蘇生を発動。墓地へ送られた神龍−アース・ドラゴンを特殊召喚する!」

《神龍蘇生》通常魔法
自分の墓地からレベル4以下の「神龍」と
名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
《神龍−アース・ドラゴン》ATK1500

「ハリケーンとアース。神龍−クエイクハリケーン・ドラゴンだね」
「悪いが今日はそんな甘い融合召喚をするつもりはない。俺の持てる限界以上の力を解放し、全力で勝たせて貰う!」
「……!」
「手札から究極神龍融合を発動! 手札1枚とフィールド上の神龍2体を生け贄に、究極神龍を融合召喚する!」

《究極神龍融合》通常魔法
自分フィールド上に存在する「神龍」と名のついたモンスター2体と
手札1枚を墓地に送る。自分の手札・デッキ・フィールド・墓地に存在する、
「神龍−ブリザード・ドラゴン」「神龍−バーニング・ドラゴン」
「神龍−ハリケーン・ドラゴン」「神龍−アース・ドラゴン」
「神龍−ヘヴン・ドラゴン」「神龍−ヘル・ドラゴン」を
全てゲームから除外し、召喚条件を無視して融合デッキから
「究極神龍」を特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
《究極神龍》
★12 光・ドラゴン族/融合 ATK5000/DEF5000
「神龍−ブリザード・ドラゴン」+「神龍−バーニング・ドラゴン」
+「神龍−ハリケーン・ドラゴン」+「神龍−アース・ドラゴン」
+「神龍−ヘヴン・ドラゴン」+「神龍−ヘル・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、
融合デッキから融合召喚が可能
(「融合」魔法カードは必要としない。この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードは相手のカードの効果を受けない。

 地層が大きく揺れ動き、凄まじい発光を起こす。一軒家はある巨大なドラゴンが6枚の翼を広げ、俺の“左側”に現れて咆哮した。
「コストで墓地へ送ったカードはリビングデッド・ドローだ。俺はデッキからカードを1枚引く」

《リビングデッド・ドロー》通常罠
このカードが墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
この効果を発動したターンのエンドフェイズ時、
相手はカードを1枚ドローする。

「そして神龍儀式を発動! 手札から1枚目の皇帝神龍を生け贄として墓地に送り、2枚目の皇帝神龍をフィールド上に降臨させる!」
 デュエルディスクに皇帝神龍のカードを叩きつけると、数え切れない数の雷がグラウンドに落雷する。光の力を持つ究極神龍と相反する、闇の皇帝神龍。高レベルの超大型ドラゴン2体が共鳴し、耳を劈く大音声で叫んだ。

《神龍儀式》儀式魔法
「神龍」と名の付く儀式モンスターの降臨に使用する事ができる。
手札・自分フィールド上から、儀式召喚するモンスターと同じ
レベル以上になるように生け贄に捧げなければならない。
このカードの発動に成功した時、
このカードは墓地へは行かず自分の手札に戻る。
《皇帝神龍》
★12 闇・ドラゴン族/儀式 ATK5000/DEF5000
「神龍儀式」により降臨。
このカードの攻撃力は自分の墓地に存在する「神龍」と
名のついたモンスター1体につき1000ポイントアップする。
このカードはバトルフェイズ中に攻撃力を半分にする事で、
もう1度だけ続けて攻撃する事ができる。

「究極と皇帝、2体の同時召喚!?」

藤原【LP:4000】
手札:3枚
モンスター:1体
裏側守備表示
魔法&罠:セット2枚
野口【LP:4000】
手札:2枚
モンスター:2体
《究極神龍》ATK5000
《皇帝神龍》ATK6000
魔法&罠:−

 暴風雨に打たれるような威圧と光景に、誰もが驚愕していた。2体の神龍はフィールド上だけではなく、グラウンド全体を支配している。
「今の野口君は全力だろう。だが……」
 鳥野君はそこまで言いかけて、言葉を濁した。俺も分かってるさ。この状況を作り上げても焦りが消えないんだ。賢治と向き合う事から逃げる為に、俺は早期決着を狙っている。

「神龍儀式は発動後、俺の手札に戻る。そしてバトルフェイズ、まずは皇帝神龍で裏側モンスターを攻撃だ! カイザー・トゥエルブ・フレア!!」
 轟音と共に放たれる攻撃。裏側表示モンスターが姿を一瞬だけ見せ、粉微塵になった。
「破壊されたのはカードガンナー! ボクはデッキから1枚ドローする!」

《カードガンナー》
★3 地・機械族/効果 ATK400/DEF400
自分のデッキのカードを上から3枚まで墓地へ送る事ができる。
墓地へ送ったカード1枚につき、このカードの攻撃力は
エンドフェイズ時まで500ポイントアップする。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
《皇帝神龍》ATK6000→ATK3000

「皇帝神龍! 続けて賢治にダイレクトアタックだ!!」
「ボクも手札からリビングデッド・ドローを捨て、レインボー・ライフを発動! このターン、ボクへのダメージは全て回復となる!」
 発動したトラップの効果によって攻撃はバリアに遮られ、賢治には風圧しか届かない。攻撃は防がれただけではなく、賢治のライフポイントを倍近くまで上昇させた。

藤原【LP:4000→7000】
《レインボー・ライフ》通常罠
手札を1枚捨てる。
このターンのエンドフェイズ時まで、
自分が受けるダメージは無効になり、
その数値分ライフポイントを回復する。

 レインボー・ライフはエンドフェイズまで続く効果。究極神龍の攻撃は残っているが、このタイミングで攻撃をする意味はない。
「ターンエンド。そしてエンドフェイズ時、お互いが発動したリビングデッド・ドローの効果によって俺達はデッキからカードを1枚ドローする」
「ボクのターン、ドロー!」

藤原【LP:7000】
手札:4→5→6枚
モンスター:−
魔法&罠:セット1枚
野口【LP:4000】
手札:2→3枚
モンスター:2体
《究極神龍》ATK5000
《皇帝神龍》ATK6000
魔法&罠:−

「手札からサイレント・ソードマンLV3を召喚!」
 黒いコートを身に纏い、銀の大剣を持つ沈黙の剣士(サイレント・ソードマン)が現れる。
 やはりお前とも戦わなければならないのか。

《サイレント・ソードマンLV3》
★3 光・戦士族/効果 ATK1000/DEF1000
このカードを対象とする相手の魔法の効果を無効化する。
自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示の
このカードを墓地に送ることで「サイレント・ソードマンLV5」
1体を手札またはデッキから特殊召喚する
(召喚・特殊召喚・リバースしたターンを除く)。

「続けて速攻召喚を発動、サイレント・マジシャンLV4を召喚する!」
 ――! 沈黙の魔術師(サイレント・マジシャン)!?

《速攻召喚》速攻魔法
手札からモンスター1体を通常召喚する。
《サイレント・マジシャンLV4》
★4 光・魔法使い族/効果 ATK1000/DEF1000
相手がカードをドローする度に、このカードに魔力カウンターを
1個乗せる(最大5個まで)。このカードの乗っている
魔力カウンター1個につき、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
このカードに乗っている魔力カウンターが5個になった場合、
次の自分のターンのスタンバイフェイズ時に表側表示の
このカードを墓地に送る事で「サイレント・マジシャンLV8」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。

 宣言の通り、フィールド上には白と水色の色彩が特徴的な魔術師の少女が現れた。賢治の場に並ぶ、2人の少年少女。さすがに驚きを隠せなかったのは俺だけじゃなかったようで、紅ちゃんが口走った。
「サイレント・マジシャンは幸恵ちゃんのカード……!」
「うん。これならわたしも一緒に戦える。頑張って、賢治くん!」
 賢治は幸恵ちゃんと頷き、強気な眼差しを俺に向ける。攻撃するつもりなのか。

「カードを1枚セットし、サイレント・ソードマンで皇帝神龍を攻撃だ!」
 少年剣士は剣を構え、掛け声と共に上空へ飛び上がる。龍の全長をも越える高さに到達した時、賢治は手札のカードを右手で取った。
「この瞬間、オネストの効果を発動! 沈黙の剣士に皇帝神龍の攻撃力を加える!」

《オネスト》
★4 光・天使族/効果 ATK1100/DEF1900
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で
存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上に表側表示で存在する
光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に
このカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
《サイレント・ソードマンLV3》ATK1000→ATK7000
《皇帝神龍》ATK6000

「くっ!!」
 白光の翼を羽ばたかせ、サイレント・ソードマンが容易く皇帝神龍を一刀両断する。巨大なモンスターが破壊された事により、膨大な風圧が全フィールド上を襲った。

野口【LP:4000→3000】

「そして光の召集を発動! ボクの手札は1枚。マシュマロンを墓地へ送り、代わりにオネストを手札に加える!」
「ッ!?」

《光の召集》通常罠
自分の手札を全て墓地へ捨てる。
その後、捨てた枚数分だけ自分の墓地に存在する
光属性モンスターを手札に加える。

「再びオネストの効果を発動させ、サイレント・マジシャンLV4で究極神龍に攻撃!」

《サイレント・マジシャンLV4》ATK1000→ATK6000
《究極神龍》ATK5000

 少年と同じ翼を得た少女は杖を輝かせ、究極神龍をも越える攻撃力で葬り去った。再びグラウンドに風圧が起こる。

野口【LP:3000→2000】

「す、すごい……。たった1ターンで攻撃力5000以上のモンスターを2体、しかも両方とも戦闘で破壊するなんて……」

 鉄ちゃんが眼鏡を掛け直し、驚嘆していた。いや、俺を含めた全員が驚いていただろう。皇帝神龍と究極神龍をこうも容易く突破するとは思わなかった。不甲斐ない使い方をしてすまない、カダール。よく考えれば2年前、童実野埠頭で賢治と戦った時もそうだった。カードの種類も今ほど多くなかった頃に、よく究極神龍を1ターンで攻略したなと感心してしまう。あの時立場が逆なら、俺は究極神龍を、賢治を越える事が出来たのだろうか?

「ターン終了だよ」

藤原【LP:7000】
手札:0枚
モンスター:2体
《サイレント・マジシャンLV4》ATK1000
《サイレント・ソードマンLV3》ATK1000
魔法&罠:セット1枚
野口【LP:2000】
手札:3枚
モンスター:−
魔法&罠:−



残り0日(中編)

「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、サイレント・マジシャンLV4の効果発動! 相手がカードをドローした時、このカードに魔力カウンターを1つ溜める!」
 賢治の言葉で少女は瞳を閉じ、両手で構える杖に力を蓄えた。再び戦える時が来るまで、今を沈黙して待つように。

《サイレント・マジシャンLV4》ATK1000→ATK1500
【魔力カウンター:0→1】

「まずは手札からファントム・オブ・ゴッド・ドラゴンを見せて、効果を発動。このカードの効果で俺はデッキから神龍−プロテクト・ドラゴンを墓地へ送り、その名と効果を得る」

《ファントム・オブ・ゴッド・ドラゴン》
★4 闇・ドラゴン族/効果 ATK0/DEF0
自分のメインフェイズ時に、手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。
自分のデッキに存在する「神龍」と名のついたモンスター1体を選択し、墓地へ送る。
このカードが手札・フィールド上に存在する限り、
このカードは選択したモンスターと同じカード名とモンスター効果を得る。
選択したカード名のモンスターはデュエル中、効果を発動できない。
この効果を使用した場合、エンドフェイズ時まで手札のこのカードを公開する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このカードが墓地へ送られた時、自分は500ライフポイント回復する。
《神龍−プロテクト・ドラゴン》(効果発動不可)
★8 光・ドラゴン族/効果 ATK0/DEF3000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地から「神龍」と名のついたモンスター1体を
ゲームから除外して特殊召喚する。
このカードが自分の墓地に存在する時、
相手モンスターの直接攻撃を1度だけ無効にする。
「神龍−プロテクト・ドラゴン」の効果は
デュエル中に1度しか使用できない。

「墓地に存在する究極神龍1体と皇帝神龍2体をゲームから除外、神龍−プロテクト・ドラゴンとなったファントム・オブ・ゴッド・ドラゴン、そして神龍−バーサーカー・ドラゴンを手札から特殊召喚する!」
 デュエルディスクに2枚のカードを置くと、黒い影のモンスターは盾のような翼を持つプロテクトに姿を変え、バーサーカーは荒れ狂うように現れる。これでフィールド上にはレベル8の神龍同士による融合素材が整った。

《神龍−バーサーカー・ドラゴン》
★8 闇・ドラゴン族/効果 ATK3000/DEF0
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地から「神龍」と名のついたモンスター2体を
ゲームから除外して特殊召喚する。
このカードが墓地へ送られた時、
自分の手札を任意の枚数墓地へ送り、
その枚数分のカードをドローする。

「プロテクトとバーサーカーを墓地へ送り、融合デッキから神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴンを融合召喚する!」
 大型のドラゴン2体は融合し、更に一回り巨大なドラゴンへと姿を変える。融合神龍の中では、究極神龍に次いで攻撃力の高いモンスターだ。

《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》
★10 闇・ドラゴン族/融合 ATK3750/DEF3750
「神龍−バーサーカー・ドラゴン」+「神龍−プロテクト・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、
融合デッキから融合召喚が可能
(「融合」魔法カードは必要としない。この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードがフィールド上・墓地に存在する限り、
お互いのコントロールするモンスター効果・魔法・罠の発動と効果は無効化されない。
手札を1枚墓地に送る事で、自分の融合デッキからランダムにカード1枚を選択する。
そのモンスターが「神龍」と名の付いた融合モンスターだった場合、
召喚条件を無視して攻撃表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「墓地へ送られたファントム・オブ・ゴッド・ドラゴンと神龍−バーサーカー・ドラゴンの効果で、俺のライフが500ポイント回復。そして手札の神龍−イーグル・ドラゴンと神龍儀式を墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする!」

野口【LP:2000→2500】 手札:2→0→2枚
《サイレント・マジシャンLV4》ATK1500→ATK2000
【魔力カウンター:1→2】

「神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴンの効果発動! 手札から神龍−レオン・ドラゴンを墓地へ送り、自分の融合デッキからカードをランダムに選択、それが『神龍』と名の付いたモンスターなら無条件で特殊召喚出来る! ――引いたカードは神龍−クエイクハリケーン・ドラゴン。よってこのカードを特殊召喚!」

《神龍−クエイクハリケーン・ドラゴン》(効果無効)
★7 地・ドラゴン族/融合 ATK2700/DEF800
「神龍−ハリケーン・ドラゴン」+「神龍−アース・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、
融合デッキから融合召喚が可能
(「融合」魔法カードは必要としない。この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 フィールド上に2体の融合神龍を並べる事が出来た。だが、根本的な不安感は消えない。消えないが、賢治と向き合う前に決着を付けなければならない。付けなければ、あの時の俺に戻る事になる。あの時の俺には、もう戻りたくない。

「行くぞ! クエイクハリケーンで、サイレント・ソードマンLV3を攻撃だ!」
 賢治はデュエルディスクに触れ、カードを発動する。
「トラップカード、和睦の使者! このターンの戦闘ダメージは全て0になる!」

《和睦の使者》通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける
全ての戦闘ダメージは0になる。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 和睦の使者は攻撃自体を止める効果ではない。ドラゴンが放つ、地と風の混合ブレス攻撃から、沈黙の剣士は懸命に耐え続ける。服やマントの一部が削られ、頬には大きな傷を負う。それでも少年は、立ち続けていた。
「……ターン、エンド」

 あの頃と比べて本当に変わった。
 今の賢治を見ると、俺がお前の為を思ってやった事を、
 少しは肯定しても良い気がしてしまう。
 だが俺は本心からそれを思う事は出来ない。
 お前と向き合う事が、まだ出来ないんだ。

「ボクのターン、ドロー!」
 賢治は引いたカードを手札に加え、サイレント・ソードマンLV3に向けて右手を広げる。

藤原【LP:7000】
手札:0→1枚
モンスター:2体
《サイレント・マジシャンLV4》ATK2000
《サイレント・ソードマンLV3》ATK1000
魔法&罠:−
野口【LP:2500】
手札:1枚
モンスター:2体
《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》ATK3750
《神龍−クエイクハリケーン・ドラゴン》ATK2700
魔法&罠:−

「スタンバイフェイズ時、サイレント・ソードマンLV3の効果発動! このカードを墓地へ送り、デッキからサイレント・ソードマンLV5を特殊召喚する!」
 少年は青年へと姿を変え、服も、頬も、心も傷ついたまま成長を遂げる。銀色に輝く大剣を肩に乗せ、鋭い瞳で敵対する2体の龍を見据えた。

《サイレント・ソードマンLV5》
★5 光・戦士族/効果 ATK2300/DEF1000
このカードは相手の魔法の効果を受けない。
このカードが相手プレイヤーへの直接攻撃に成功した場合、
次の自分のターンのスタンバイフェイズ時に表側表示の
このカードを墓地へ送る事で「サイレント・ソードマンLV7」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。

「そして魔法カード、博打の宝札を発動。デッキからカードを2枚ドローし、そのカードの種類によって他の効果も発動される!」

《博打の宝札》通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
この効果でドローしたカードをお互いに確認し、
カードの種類によりこのカードは以下の効果を発動する。
●魔法:相手はデッキからカードを2枚ドローする。
●罠:自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。
●モンスター:このターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。
【ドローカード】
《バトル・オーラ》装備魔法
《進入禁止!No Entry!!》通常罠

「ボクはデッキからカードを2枚墓地へ送り、龍明君はカードを2枚ドローする」
 賢治はドローした2枚を手札に加え、デッキから2枚のカードを見せる。魔導戦士ブレイカーと冥府の使者ゴーズを墓地へ送ったのを確認後、俺はデッキからカードを2枚引く。当然、サイレント・マジシャンに魔力カウンターが溜まった。

《サイレント・マジシャンLV4》ATK2000→ATK2500
【魔力カウンター:2→3】

「装備魔法、バトル・オーラをサイレント・ソードマンLV5に装備! そしてこのカードの装備を解除する事で、装備したモンスターは直接攻撃が可能となる!」
 蒼い闘気が沈黙の剣士を包み、大剣にその力が収束されていく。

《バトル・オーラ》装備魔法
戦士族のみ装備可能。
装備モンスター1体の攻撃力は300ポイントアップする。
装備されているこのカードを墓地に送る事で、
このターン装備モンスターは相手プレイヤーに
直接攻撃をする事ができる。

「龍明君に直接攻撃だ! ――沈黙の剣LV5!」
 サイレント・ソードマンは瞳を光らせ、真正面から俺に向う。突き刺すように構えられた剣は直前に下から上へと縦断し、体が思わず吹き飛びそうになる。
「くっ……ッ……!」

野口【LP:2500→200】

 攻撃力ではない。内面を削られるような、重い一撃だった。
 自分の胸を抑え、思わず賢治と目を合わせてしまう。
 っ……! 賢治はもう、思い出しているのか?
 俺が鬱屈している事も、賢治は分かっている。
 だったら確実に言わなければならない。
 無理だ。今更、俺が向かい合える訳がない。
 目でそれを伝えようとした時、賢治は寂しそうな表情を見せた。
 幸恵ちゃんも、僅かな変化を見逃さなかった。

「賢治くん……」
「カードを1枚セットして、ターン終了だよ」
「俺の、ターン」

藤原【LP:7000】
手札:0枚
モンスター:2体
《サイレント・マジシャンLV4》ATK3000
《サイレント・ソードマンLV5》ATK2300
魔法&罠:セット1枚
野口【LP:200】
手札:3→4枚
モンスター:1体
《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》ATK3750
《神龍−クエイクハリケーン・ドラゴン》ATK2700
魔法&罠:−
《サイレント・マジシャンLV4》ATK2500→ATK3000
【魔力カウンター:3→4】

「手札の神龍−ディフェンス・ドラゴンを捨て、リバイバルバーサーカーの効果発動!」
 融合デッキをシャッフルし、一番下からカードを選ぶ。
「神龍−グリフォン・ドラゴンを特殊召喚する!」

《神龍−グリフォン・ドラゴン》(効果無効)
★8 風・ドラゴン族/融合 ATK3400/DEF3400
「神龍−イーグル・ドラゴン」+「神龍−レオン・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、
融合デッキから融合召喚が可能
(「融合」魔法カードは必要としない。この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードの特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する。
●このカードは罠の効果を受けない。
●このカードは魔法の効果を受けない。
●このカードはモンスターの効果を受けない。

 賢治がセットしているのは、博打の宝札で引いたカード。

《進入禁止!No Entry!!》通常罠
フィールド上に攻撃表示で存在する
モンスターを全て守備表示にする。

 進入禁止は全モンスターを守備表示にする効果。メインフェイズ中に破壊さえすれば、モンスターの表示形式は変更出来る。賢治が効果を発動してもしなくても結果は同じ。このターンでライフポイントを全て削り取り、デュエルに決着を付けられる。

「手札のカード2枚をセットし、リバース・コーリングを発動! デッキからメタモルポットを墓地へ送り、お互いにデッキからカードを5枚ドローする!」

野口【LP:200→100】
《リバース・コーリング》通常魔法
ライフポイントを半分払う。自分のデッキから
リバース効果モンスター1体を選択して墓地へ送り、
そのリバース効果モンスターのリバース効果を発動させる。
「リバース・コーリング」は1ターンにつき1枚しか発動できない。
《メタモルポット》
★2 地・岩石族/効果 ATK700/DEF600
リバース:自分と相手の手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキから
カードを5枚ドローする。
《サイレント・マジシャンLV4》ATK3000→ATK3500
【魔力カウンター:4→5】

 これでサイレント・マジシャンに5つの魔力カウンターが溜まる。
 だが俺は、セットを破壊するカードを1枚も引けなかった。
 それどころか、今の状況では全て発動さえ出来ないカードだ。
 …………。
 周りに人がいるのに、眉を潜めてしまう。
 今すぐにでもデュエルを終わらせて、1人になりたい。
 もう、ここで辞めるか。俺は途中放棄すらも出来ないのか。

「俺はセットしていた龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)を発動!」
「……!」
「墓地からファントム・オブ・ゴッド・ドラゴン、神龍−イーグル、レオン、アタック、ディフェンス・ドラゴンをゲームから除外、F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)を融合召喚する!」

 神龍のカードを手にするまで、俺が切り札として使用していたカードだった。あの事件の後も、賢治とデュエルをする時はいつも使っていた。今日は賢治に全てを話す為に、当時のカードを持って来たんじゃないのか。

龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードに
よって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)
★12 闇・ドラゴン族/融合 ATK5000/DEF5000
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。
このカードは地・水・炎・風・闇属性モンスターとの戦闘によっては破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)

「ファイブ・ゴッド・ドラゴン……」
 5つの首を持つ巨大なドラゴンに、誰よりも神之崎さんがその存在に驚く。この時の俺は知らなかった。ファイブ・ゴッド・ドラゴンに縁があった事も、俺とカダールは似ていたんだ。

「行け! サイレント・ソードマンLV5に攻撃だ!」
「攻撃宣言時、セットしていた進入禁止のカードを発動!」

 F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)の繰り出す5つの攻撃は軌道を変え、グラウンドの何もない場所へと着弾する。そうか。俺がわざわざ攻撃宣言をしなくても、賢治はバトルフェイズ開始時にそのカードを発動していただろう。今の攻撃は、俺の1人よがりだ。
「……ターン、エンド……」

 もう、潮時だな。
 俺は俯いて賢治の言葉を待った。

「カダール君と戦った時、龍明君は言ったよね。あの日、本当は何を思っていたかを。ボクの全然知らない事だから、本当に驚いた。復讐が間違っていると気が付き、ボクを止めてくれたのは分かる。自分が傷付いていたのに、正しい気持ちに変えたのも君らしいと思う。だけど説得の後、ボクを残して幸花町に引っ越した。ここが君らしくないと思った。龍明君ならボクを連れて行ったと思うんだ。1人で立ち上がれと励ますより、一緒に歩いてくれるのが、今までの龍明君だから。それをしなかったのは、何か理由があるからだと思っている」

「そうだな……。理由は、ある……」
 賢治の追及に、自分が思ったよりも簡単に言葉が出た。
 今まで誰にも話さなかった。
 半年前も全貌は言えなかった。
 俺は確かに嘘を言わなかった。
 いや、全てを話さなければ、それは嘘になってしまうのか。

 野口龍明。藤原賢治。カダール。
 俺達3人は考え方がよく似ている。
 カダールは止める者がいなくて、復讐をしてしまった。
 俺と賢治は互いに止められる2人でいたから、
 正しい道を進めたように見えたかも知れない。
 でも、それは違うんだ。
 本当の俺は、お前と同じなんだよ。カダール。



「あるんだ、俺。復讐した事が」



 賢治が小学6年生、俺が中学2年生の頃。
 俺が家族と幸花町に引っ越す事は、当日から5ヶ月も前から決まっていた。
 その事をどうやって賢治に打ち明けようか迷い、公園を歩いている時だった。
 草むらの中に置かれたダンボール箱に、痩せこけた子猫を見付けたんだ。
 さすがに家ではもう飼えないから、俺は公園で面倒を見る事にした。
 体も少し大きくなって、毎日元気になってくれる姿を見るのが楽しみだった。
 俺が来ると、嬉しそうに鳴いて寄って来るのが嬉しかった。
 だが、それを快く思わなかった奴がいたんだ。

 公園の近所に住む、苗字が謁真(えつま)と言う40代のオバさんだ。
 今の俺なら、奴の言っている事にも一理あると理解していただろう。
 猫が嫌いな奴にはいい迷惑だっただろう。
 俺が本気で救いたいと思うのなら、別の方法もあっただろう。
 だが当時の俺に、そんな事を思う力は無かった。
 謁真は執拗に警察や保健所の人間を呼ぶぞと言っては俺を脅した。
 まだ中学生だった俺はそれに怯えながらも、
 子猫を見捨てる事だけは絶対に出来なかった。

「もう分かっただろ?」

 睨むように辺りを見渡した。こんな目を仲間に向けたのは初めてだった。
 賢治は思わず目を逸らし、幸恵ちゃんは耳を塞いで震えていた。
 平見先生も伊吹君も紅ちゃんも鳥野君も、金縛りにあったように動かない。
 でも俺は止まらなかった。流れる汗と涙と怒りが。
 あの時と同じ気持ちが今でも蘇る。
 俺は自分の髪を思い切り掴み、叫んだ。

「あいつは子猫を殺しやがった!! どこにいたと思う!? ごみ袋だぞ!! あいつにとってはゴミなんだ!! なぁ、分かるだろう。死体を見ると今までに聞いた声が、頭の中で聞こえてくるんだ。なのに、どれだけ聞こえてきても、あの時と同じようには聞こえない! こんな事になった経緯を考えたのもいけなかった。俺が声をあげて泣き叫んだ時、窓越しで謁真は嘲笑していた!!」

 こうなった以上、あの子猫を無意味に死なせてたまるか。
 俺は必ず復讐する事を決意した。
 子供は大人よりも怖ろしい時があると思う。
 多感だった俺は自分の手を汚す事なく、
 まるでゲームをするような感覚で計画を練り上げた。
 業火のような気持ちは、俺に冷静な気持ちを与えた。
 俺はあいつの子猫殺しを徹底的に広める事から始めた。
 警察はもちろん、謁真の職場にまで影響させる程に動いた。
 猫の妙な声を聞き、俺があの場で叫んでいた事を
 目撃していた付近の住人がいたのも幸いだった。
 証拠も出て、犯人としての証明も完璧に出来た。

 謁真はこの事件で職を失い、どん底にまで追いやられた。
 俺は気分が高揚し、喜びに打ち震えた。
 こんな事で子猫が喜んでくれるとは思っていなかったが、
 仇を討てと錯覚していた自分の使命感を満たすには十分だった。
 だが謁真は生きている。刑務所へも行っていない。
 俺が復讐したように、俺も復讐を警戒しなければならなかったんだ。

 心に余裕を持てるようになった俺は、賢治の両親に会いに行き、
 近いうちに幸花町へ引っ越す事を先に伝えておいた。
 俺は賢治本人に言う事を最後まで迷っていた。
 今は幸恵ちゃんの事故が原因だと分かっているが、
 当時は俺の分からないまま、賢治は心を塞いでしまっていたからだ。
 だが賢治の母さんは、人は必ず立ち直れると言った。
 あの子もそれが少しずつ出来ていると教えてくれた。
 賢治の父さんも、家族が一致団結し、成長して見せると約束してくれた。
 そして俺を、その輪の中に入れてくれたんだ。
 この時の気持ちがなければ、俺は数週間後に賢治を説得出来なかっただろう。
 一生の友達として、賢治に必ず伝えて見せる。そう思って家を離れた。
 逆上していた謁真には、俺の両親に見えたんだろうな。


 賢治の両親を、賢治自身を、俺と謁真の因縁に巻き込んでしまったんだ。


 数日間、俺は自分の部屋から出られなかった。
 謁真が捕まった事も、賢治がどうなったかを考える余裕もない。
 俺が賢治の家から帰る時、他人のように振舞えば良かったのか?
 そもそも俺が復讐せず、子猫の死を笑って見逃せば良かったのか?
 最初から子猫を飼う事なく、見殺しにすれば良かったのか?
 嫌だ。俺がこんな結果を作ったなんて認めたくなかった。
 そんな事になったら、死ぬまで自責しながら生きる事になる。
 俺に耐えられるわけがない。

 押しつぶされそうな重圧だった。
 壁を何度殴っても、頭を打ち付けても衝動は収まらない。
 歯も食いしばり過ぎて、その時はズタズタになった。
 俺は自分の部屋で四六時中、2度目の復讐を想像した。
 あの時とは違う。計画性のない、もっと感情的なものだった。
 謁真を殴って蹴って、どうやって殺してやろうか。
 人間性を疑われるような方法だって考えた。
 だがその度に想像は途中で辞めてしまう。
 人を殺す事にどうしても抵抗があった俺は、
 自分が自殺する事で思い知らせてやろうかとも思った。
 そんな事で、あいつがショックを受けるのか?
 それとも自分が死ぬ事を恐れているだけなのか?
 思い留まる自分に腹を立てては、また復讐の方法を想像した。

 それから1週間が経ち、俺は少しだけ落ち着きを取り戻していた。
 謁真は捕まった。だが次に釈放される事になった時、
 他の人間や動物がまた殺されてしまうかも知れない。
 これは復讐じゃない。俺の義務なんだ。
 子供っぽい俺は正義と称して悪を裁く事を思いつき、
 これなら罪悪感を感じなくて済むと思った。
 もし賢治が裁く事への戸惑いがあるなら、
 説明して背中を押すくらいの気持ちだった。
 俺は決心した時、今までの謁真との関係を無にした。
 あくまで賢治の為。これは正しい事なんだと思い込んだ。
 俺はやっと立ち治ることが出来た。

 そして賢治と直接会った俺は、本当の意味で復讐が無意味だと悟った。
 理屈は分からない。だが俺は確かにそう思ったんだ。
 ここはカダールの時に言った時の通りさ。
 復讐して、俺達はその後に何をすればいい。
 達成感や使命感を得られるだろう。
 だが復讐を遂げたって、それは俺達が自殺するも同じ。
 それなら賢治を救う事で、達成感や使命感を得たいと思った。
 俺達が胸を張って過ごす人生を過ごす事こそが、一番の復讐なんだ。

 それでも。

 たった1つだけ、賢治の説得には抵抗があった。
 ここで俺が復讐を辞めれば、賢治はどうなる?
 俺は賢治をここへ置いて行く事になる。
 だったら、連れて行けばいいんだ。その時は俺も思った。
 でも俺は賢治と顔を合わせるのが辛かった。
 謁真との関係を封印したのに、何もかもが蘇りそうで怖かった。
 あの時の気持ちに嘘はないと思いたい。
 それでも俺は、俺を救う為に、賢治を説得したのかも知れない。
 そんな俺の声に、賢治は耳を傾けてくれたんだ。

 俺は負けた。自分らしさを捨てて鬱屈した。
 それからは許しを請うように、毎週欠かさず賢治の所へと行った。
 自転車で何時間も掛る距離だからこそ、償いをしている気分にもなれた。
 支えになっていると思われる為に、自分がそう思い込む為に。
 だから賢治を連れて行かなかった。親戚の所へ行く事を進めてしまった。
 時間が過ぎ、罪の意識から慣れても、俺は幸花町に来いと言い出せなかった。
 言い出せたのは3年後、賢治が中学を卒業する前。
 賢治の仇は謁真じゃない。俺なんだ。俺はまだ――。

「ボクのターンだ、龍明君」

藤原【LP:7000】
手札:5→6枚
モンスター:2体
《サイレント・マジシャンLV4》DEF1000
《サイレント・ソードマンLV5》DEF1000
魔法&罠:−
野口【LP:100】
手札:5枚
モンスター:4体
《F・G・D》DEF5000
《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》DEF3750
《神龍−クエイクハリケーン・ドラゴン》DEF800
《神龍−グリフォン・ドラゴン》DEF3400
魔法&罠:セット1枚

「スタンバイフェイズ時、フィールド上のサイレント・ソードマンLV5はLV7、サイレント・マジシャンLV4はLV8に進化する!」

 長き沈黙を破り、剣士と魔術師が2人一緒に成長を遂げる。
 サイレント・ソードマンの傷跡は、まだ残っていた。
 
《サイレント・ソードマンLV7》
★7 光・戦士族/効果 ATK2800/DEF1000
このカードは通常召喚できない。
「サイレント・ソードマンLV5」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。
《サイレント・マジシャンLV8》
★8 光・魔法使い族/効果 ATK3500/DEF1000
このカードは通常召喚できない。
「サイレント・マジシャンLV4」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードは相手の魔法の効果を受けない。



残り0日(後編)

 ボクは全てを失った。
 ユキちゃんも、父さんも、母さんも。
 そう思っていた。でも、違っていた。
 まだ龍明君がいてくれた。ボクを救ってくれた。
 それは自分が生きる意味となる、大事な支え。
 毎週戻って来てくれて、デュエルする時は本当に楽しかった。
 あの頃の、あの瞬間になら戻ってもいいとさえ思える。
 でも、ボクだって龍明君やカダール君と同じなんだ。
 ただ実行が出来なかっただけ。

 ボクは龍明君の説得で、復讐を諦めきれなかったんだ。
 龍明君と一緒にいる時は、ボクを支えてくれていた。
 でも、いない時は違う。別の力がボクを支えていた。
 今にして思えば、当然の事だったかも知れない。
 心の支えが龍明君だけだったのだから、それを失えば脆い。
 ボクは行き場のない復讐心にしがみ付き、自分を立たせていた。

 ボクから父さんと母さんを奪ったんだ。
 龍明君が引越しをする事になったのも、
 ユキちゃんが事故に遭った事も、そいつが原因じゃないのか。
 ボクはそうやって自分の不幸を全て犯人に押し付けていた。
 だからと言って、ここで復讐をすれば龍明君を裏切る事になってしまう。
 それだけは出来なかった。
 だから今は、今だけは、龍明君の為に何もしない。
 ボクは復讐の機会をじっと待つ為に我慢をした。
 生きる事に耐え続けていた。
 思い出の無い時間。
 カレンダーを塗り潰していくような日々。
 1年。2年。3年。本当に長かった。

 中学を卒業したボクは幸花町へ行く事になった。
 龍明君と同じ高校へ行き、同じ部活動に所属する。
 それもどうでも良かった。
 どこに行っても、この気持ちが消えるとは思えない。
 いつか必ず、復讐を成し遂げるつもりでいたのだから。

 そしてボクと龍明君とでは、決定的な違いがある。
 それは単なる違いでもあり、ボクの罪でもある。
 ボクは龍明君の悲しみと苦しみに、気が付いてあげる事が出来なかった。
 だけど龍明君はボクの悲しみと苦しみに、気が付いてくれていたんだ。だから。

「だから龍明君は、ボクの記憶を消したんだね」

「……あの時、俺にはそれしか方法がないと思った。デュエルモンスターズに詳しい定岡先生と部活動を通して知り合えたのも、背中を押された。俺は情報を聞き、超常現象の研究をしている組織や会社の存在を調べ上げた。その中で1つ、少年の記憶を一部分だけ消す事に成功した例を知った」

 その少年こそが、十代君なんだ。
 昨日、ボクとユキちゃんが見た光景。
 十代君はボクよりずっと前に、何らかの事情で記憶を消された。
 ボクも同じ所で、同じ事を受けていたんだ。

「賢治には健康診断と言って施設へ連れて行き、治療を受けさせた。こんなやり方が間違っている事は分かっていた。賢治の母さんが言ったように、人間は立ち直る力を持っている。なのに俺は、そこから逃げたんだ。でも、どうしようもなかった。俺はせめて、賢治の父さんが言った事は守ろうと思った。それは賢治との約束でもある。俺自身と賢治が強くなるまで決して離れない、と」

 ボクは朦朧とした意識の中、目を覚ました。


『賢治! 俺だ。野口だ!』
『っ……。野口……さん……』
『賢治……』
『少し変な感じだけど、大丈夫だったのかな?』
『ああ。これで4月から幸花高校へ通えるぞ』
『野口さんがあの時、ボクを説得してくれたおかげだよ。ありがとう』
『賢治……。賢治っ……すまない……すまない……』
『?』


 何も分かっていないボクの前で、龍明君は号泣した。
 今までに見た事もないくらい、ずっと泣いていた。

「ボクは復讐の感情と記憶の一部分を喪失した。失った部分はボク自身が無意識に記憶を作り変えていたんだ。自分は龍明君の説得だけで立ち直ったと思い込み、ユキちゃんの事を忘れていた理由も、過去の積み重なった不幸からだと思っていた」

「俺が余計な事をしたばかりに、幸恵ちゃんを悲しませてしまった。本当なら幸花町で賢治と再会した時点で、喜びを分かち合えたはずなのに。賢治もそうだ。幸恵ちゃんの事を忘れてしまっていたのを、心の底から悔やんでいる事も知っていた。知っていたのに、最後まで真実を言えなかった。結局、俺は何度も同じ過ちを繰り返している。だから迷わなくてもいい事も、意味もなく迷ってしまうんだ。俺はもう、何をどうすれば正しいのか、分からない」

 ボクもそうだ。
 今まで何度、同じ失敗を繰り返しただろう。
 それを反省するより、いつも後悔ばかりしていた。
 ボクがどんなに龍明君の心に訴えかけても、
 悲しみや苦しみを消す事は出来ない。
 不安もある。出来ないかもしれない。
 だけど、やっとあの時の恩返しが出来る。

「龍明君。ボクはユキちゃんと共に、自分自身をお互いに分け合って来た。でも、2人は1人になれなかった。考えなくても当然の事だ。だけど考えずにはいられなかった。どれだけ心を通わせても、ボクはボクで、ユキちゃんはユキちゃんなんだ。だからこそ分かった事もある。ユキちゃんに励まされ、龍明君に励まされ、みんなに励まされ、勇気や希望を貰い、どれだけ苦しみ、迷い続けても。最終的に自分の悩みは、自分自身で戦うしかない。だから龍明君は、今まで自分の力で立ち直って来たんだよ」
「っ……」

「子猫との出来事は龍明君にとって苦しい記憶かも知れない。だけど過去の苦しみを否定的に捉え過ぎてはいけないんだ。今は難しいと思う。だけど否定は49%に留めて。残りの51%は子猫と出会えて、本当に良かったと肯定しなくちゃいけないよ」
「俺に……それが、出来るのか……」

「出来る。ボクが出来たから、出来る。たとえ過去の事件に龍明君が干渉していても、ボクには関係ないよ。それはボクが今の自分を肯定出来るからだ。ううん、誰もが肯定しなければならない。でないと、人間は幸福を感じる事が出来なくなる。ボクが幸せにならないと、ユキちゃんが幸せにならない。だからボクは自分自身を肯定出来る。もし出来ない時は、自分が今までどんな方法で立ち直ったかを、振り返って欲しいんだ」
「分かっているだろう……。俺は今まで逃げて来たんだ……」

「だとしてもだよ。ボク達が悩みと戦う時、悩みに勝る前向きな心が絶対に必要なんだ。だから龍明君が全てを話した時点で、君は自分の悩みに打ち勝った。勝ったんだ。龍明君はボクを説得して救ってくれた。ボクの父さんと母さんの言葉を胸に刻み、今まで守り通してくれた。もっと些細な事でいい。誰かに悩みを打ち明けた時の気持ちや、誰かの言葉や行動で得た元気、そして自分自身で得た小さな幸せがあれば、何度だろうと立ち直れる!」
「賢治……」

「自分の人生は捨てるべきじゃない。今、ボク達で出来る事を一緒に考えようよ」

 ほんの一瞬なのに、長い沈黙が続くような感覚だった。
 龍明君は俯いていた顔を上げ、観念するように微笑む。
 今日初めて見る、龍明君の笑顔だ。

「それは俺が賢治に言った言葉じゃないか」
「分かっちゃった?」
「いいのか。本当に俺は立ち直っても、いいのか」
「迷った事を後悔しないで。自分が立ち直れた事に、自信を持っていいんだ」
「分かった。ごめんな、賢治。もう大丈夫だ。だから――」

「地面に顔を付けて言うのは、真似しないでくれよ」

 ボク達は声を出して笑い合った。
 まだ頑張れる。まだまだ頑張れる。
 龍明君も、ボクも、これで過去の出来事に決別が出来たわけじゃない。
 ただほんの少し、前向きになれただけ。
 また嫌な事を思い出し、悔やんでしまう日がいつかは来ると思う。
 でも、それで構わないんだ。今日と同じように、ボク達は立ち直れる。

「賢治くん、野口さん! 頑張って!」
「藤原! お前の本当の力、デュエルでも見せてやれ!」
 涙声のユキちゃんが精一杯の声援を送り、続けて伊吹君が叫んだ。
 今の手札なら、その声に答える事が出来そうだ。

藤原【LP:7000】
手札:6枚
モンスター:2体
《サイレント・マジシャンLV8》ATK3500
《サイレント・ソードマンLV7》ATK2800
魔法&罠:−
野口【LP:100】
手札:5枚
モンスター:4体
《F・G・D》DEF5000
《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》DEF3750
《神龍−クエイクハリケーン・ドラゴン》DEF800
《神龍−グリフォン・ドラゴン》DEF3400
魔法&罠:セット1枚

「サイレント・ソードマンLV7はフィールド上の魔法効果を無効にする。――だけど、リバイバルバーサーカー・ドラゴンの効果によって、魔法の効果は無効にされない!」

《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》
★10 闇・ドラゴン族/融合 ATK3750/DEF3750
「神龍−バーサーカー・ドラゴン」+「神龍−プロテクト・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、
融合デッキから融合召喚が可能
(「融合」魔法カードは必要としない。この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードがフィールド上・墓地に存在する限り、
お互いのコントロールするモンスター効果・魔法・罠の発動と効果は無効化されない。

手札を1枚墓地に送る事で、自分の融合デッキからランダムにカード1枚を選択する。
そのモンスターが「神龍」と名の付いた融合モンスターだった場合、
召喚条件を無視して攻撃表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「装備魔法、団結の力を発動! 対象はサイレント・マジシャンLV8だ!」
 サイレント・ソードマンの存在が、サイレント・マジシャンにとって大きな力となる。2人で団結し、1人で勝つ決意。その攻撃力は目の前のドラゴン全てを上回った。

《団結の力》装備魔法
自分のコントロールする表側表示モンスター1体につき、
装備モンスターの攻撃力と守備力を800ポイントアップする。
《サイレント・マジシャンLV8》ATK3500→ATK5100

「手札から魔法カード、拡散する波動を発動!!」
「拡散する波動だと……!」
 沈黙の魔術師は瞳を閉じ、両手で杖を構え、全身を包み込む球体を作り出す。膨大なエネルギーは輝きを増して収束する。

《拡散する波動》通常魔法
1000ライフポイントを払う。
自分フィールド上のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊された効果モンスターの効果は発動しない。
藤原【LP:7000→6000】

「そして非常食を発動! 拡散する波動と、セットカード1枚を墓地へ送り、2000のライフポイントを回復!」

《非常食》速攻魔法
このカード以外の自分フィールド上に存在する
魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。
墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。
藤原【LP:6000→8000】


「全てのモンスターに攻撃だ! ――沈・黙・烈・波・斬(サイレント・バーニング・スラッシュ)!!」


 サイレント・マジシャンLV8が瞳を見開き、三日月のような形状の気斬を一斉に拡散させる。弾幕は最初にクエイクハリケーンを撃破し、防御体勢を取る龍明君の真横を通り、グリフォン、リバイバルバーサーカーと次々に両断する。ソリッドビジョンは飛散し、複数の場所で残響を起こした。

「くっ……!」

 最後に魔力を溜め、一回り大きくなった気斬を5つ同時に放つ。真正面からファイブ・ゴッド・ドラゴンへと向い、それぞれの首を一撃で仕留めた。究極神龍と皇帝神龍を撃破した時と同じように、グラウンド全体が大きく鼓動する。サイレント・マジシャンはLV4の時にやり遂げた攻撃力5000のモンスター撃破を、LV8でもやり遂げたんだ。

「ターン終了!」
 龍明君は今の攻撃で火が付いたように、強い闘争心をボクにぶつける。
 震えた拳を思わず握り、デュエルディスクを構え直した。
 デュエリストとして恐れを感じる気迫だった。
「俺のターン、ドロー!」

藤原【LP:8000】
手札:1枚
モンスター:2体
《サイレント・マジシャンLV8》ATK5100
《サイレント・ソードマンLV7》ATK2800
魔法&罠:《団結の力》,セット1枚
野口【LP:100】
手札:5→6枚
モンスター:−
魔法&罠:セット1枚

「まずは手札抹殺を発動。これでお互いにカードを全て捨て、捨てた枚数をドローする」
 龍明君は扇状にしていた手札を片手でまとめ、墓地ゾーンに置く。これで5枚もの手札が入れ替わってしまった。

【墓地へ送られたカード】
野口                  藤原
《誘導神龍》              《異次元の女戦士》
《究極神龍誕生》
《融合解除》
《神龍交換》
《速攻魔法化》

「トラップカード、皇帝神龍降臨儀式を発動!」
 セットされていた1枚のカードが起き上がると、龍明君の赤いマフラーとハチマキが自然の風とは反対方向に揺れる。次元の裂け目は徐々に巨大化し、黒い影が見える。序盤に召喚された時とは比べ物にならない攻撃力を得た皇帝神龍が、姿を現した。

《皇帝神龍降臨儀式》通常罠
自分のライフポイントが相手よりも少ない場合、
自分のターンでのみ発動する事ができる。
手札・デッキ・墓地・除外されている
「皇帝神龍」1体を特殊召喚する。
《皇帝神龍》
★12 闇・ドラゴン族/儀式 ATK5000→ATK10000/DEF5000
「神龍儀式」により降臨。
このカードの攻撃力は自分の墓地に存在する「神龍」と
名のついたモンスター1体につき1000ポイントアップする。
このカードはバトルフェイズ中に攻撃力を半分にする事で、
もう1度だけ続けて攻撃する事ができる。
【墓地の「神龍」と名の付いたモンスター】 5体
《神龍−グリフォン・ドラゴン》《神龍−クエイクハリケーン・ドラゴン》
《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》《神龍−バーサーカー・ドラゴン》
《神龍−プロテクト・ドラゴン》

「サイレント・ソードマンLV7に攻撃だ! カイザー・トゥエルブ・フレアッ!!」
 無理だ。攻撃力が違い過ぎる。サイレント・ソードマンLV7は圧倒的な差の前に、一瞬で消え去ってしまう。攻撃は止まらず、そのままボクへと向かって来た。

「うわああああああっ!!」

藤原【LP:8000→800】

「サイレント・ソードマンLV7の存在が消えた今、サイレント・マジシャンの攻撃力は下がる。そして皇帝神龍は攻撃力を半分にする事で、2度目の攻撃が可能だ!!」

《皇帝神龍》ATK10000→ATK5000
《サイレント・マジシャン》ATK5100→ATK4300

 威力は半減したものの、それでも攻撃力は5000。サイレント・マジシャンLV8も皇帝神龍の攻撃には耐えられず、容易く破壊されてしまった。たった2回の攻撃なのに、少し息が乱れる。ここまで一気に追い詰められ、首の皮一枚で繋がった経験は初めてだった。

藤原【LP:800→100】

「ここまで来たのよ! 耐えなさい、藤原ぁー!」
 平見先生の大きな声が響く。危機的な状況に、ボクは苦笑いをするのが精一杯だった。
「俺はカードを3枚セットし――」
「この瞬間、スケープ・ゴートを発動する!」

《スケープ・ゴート》速攻魔法
このカードを発動する場合、自分は発動ターン内に
召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
自分フィールド上に「羊トークン」(獣族・地・星1・攻0/守0)を
4体守備表示で特殊召喚する。(生け贄召喚のための生け贄にはできない)

「ターンエンドだ」
「ボクのターン、ドロー!」

藤原【LP:100】
手札:1→2枚
モンスター:4体
《羊トークン》DEF0
《羊トークン》DEF0
《羊トークン》DEF0
《羊トークン》DEF0
魔法&罠:−
野口【LP:100】
手札:2枚
モンスター:1体
《皇帝神龍》ATK10000
魔法&罠:セット3枚

 ユキちゃんと目を合わせて、2人で一緒に頷く。
 サイレント・マジシャンからも、ユキちゃんの気持ちが伝わって来る。
 今、このデッキはボクだ。ユキちゃんだ。
 だから勝てる。必ず2人で立ち直れる。

「魔法カード、貪欲な壺を発動! サイレント・ソードマンLV3、LV5、LV7、サイレント・マジシャンLV4、カードガンナーをデッキに戻し、デッキから2枚をドロー!」

《貪欲な壷》通常魔法
自分の墓地からモンスターカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「羊トークン2体を生け贄にして、2枚の魔法カードを発動! 生け贄の代償でデッキから2枚のカードを引き、チェンジ・ドローの効果を適応させる!」
 フィールド上の青と黄色の羊トークンが消え、魔法効果が発動する。

《生け贄の代償》通常魔法
自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
デッキからカードを2枚ドローする。
《チェンジ・ドロー》速攻魔法
自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
発動ターン、相手がドローフェイズ以外でカードをドローする時、
代わりに自分がドローする。この効果はデュエル中一度しか使用できない。

「そして復活の祭壇、レベル調整、レベルチートを連続発動!」
 間髪を入れずにカードを発動すると、3枚の魔法カードがソリッドビジョンで並ぶ。

「1枚目、復活の祭壇でデッキの上からカード2枚を除外し、
墓地からモンスターカード、オネストを手札に戻す!
2枚目、レベル調整による相手へのドロー効果は
チェンジ・ドローの効果によって、ボクが2枚をドローする!
3枚目、レベルチートの効果で、羊トークン2体を生け贄に捧げる!」

 デッキと墓地から1枚ずつを手に取り、デュエルディスクに隣同士で並べる。

「墓地から、サイレント・マジシャンLV8を――
――デッキから、サイレント・ソードマンLV7を特殊召喚する!」

 フィールド上が輝き、沈黙の剣士と魔術師が肩を並べて現れる。残った手札のカードをセットし、フィールド全体を見渡した。

《復活の祭壇》通常魔法
自分のデッキの上からカードを2枚ゲームから除外し、
自分の墓地からカード1枚を手札に加える。
《レベル調整》通常魔法
相手はカードを2枚ドローする。
自分の墓地に存在する「LV」を持つモンスター1体を、
召喚条件を無視して特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できず、
効果を発動及び適用する事もできない。
《レベルチート》通常魔法
このカードを発動するターン、自分は通常召喚する事はできない。
自分のデッキ・手札・墓地から「LV」を持つモンスター1体を選択する。
選択したモンスターがレベル5以上ならば1体、
レベル7以上ならば2体を自分のフィールド上モンスターを生け贄に捧げる。
その後、選択したモンスターをあらゆる召喚条件を無視して特殊召喚する。
この方法で特殊召喚されたモンスターのモンスター効果は無効化される。
(この特殊召喚は正規の方法での特殊召喚扱いとする)
藤原【LP:100】
モンスター:2体
《サイレント・ソードマンLV7》ATK2800
《サイレント・マジシャンLV8》ATK3500
野口【LP:100】
モンスター:1体
《皇帝神龍》ATK10000

「サイレント・ソードマンLV7で、皇帝神龍を攻撃! オネストの効果を発動させる!」

《オネスト》
★4 光・天使族/効果 ATK1100/DEF1900
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で
存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上に表側表示で存在する
光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に
このカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
《サイレント・ソードマンLV7》ATK2800→ATK12800
《皇帝神龍》ATK10000

 サイレント・ソードマンLV7は瞬間移動し、皇帝神龍を轟音と共に大空へと蹴り上げる。自分の身長よりも10倍以上はある、巨大な光の翼を使い、皇帝神龍の速さを追い抜き、渾身の力を振り絞って大剣を下ろした。

「――行けえええええええッッ!!」

 皇帝神龍は真っ二つに割れ、上空で大爆発を起こす。滑り込むように沈黙の剣士が地面に着地すると、翼は羽となり、桜吹雪のように散った。攻撃力差は2800。そのダメージが雷のように変化し、龍明君へと向う。
「俺は手札からクリボーを捨て、効果を発動!!」
 クリボーの機雷化でダメージは防がれ、グラウンドは再び煙に覆われる。
 徐々に龍明君の姿が見えて来た。

《クリボー》
★1 闇・悪魔族/効果 ATK300/DEF200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、
このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生するコントローラーへの
戦闘ダメージは0になる。

 目を閉じ、全身を使って深呼吸をする。
 手札は0枚。やるだけの事は全てやった。
 もう1度、ユキちゃんと目を合わせる。
 ユキちゃんは少し頬を赤く染めて、ボクの所に来てくれた。
 今にも手を繋ぎたくなる距離だけど、今は我慢しようかな。

「行こっか、ユキちゃん」
「うん!」

 ボク達は2人で幸花町を出る。
 これからも2人で一緒に頑張ろうと決めた。
 このデュエルでボクが最後の1枚を発動する時、
 それをユキちゃんに発動して貰おうと思った。
 これからどんな事が起き、何があろうとも、
 ボクの心の中にはユキちゃんが存在し続ける。
 だけどやっぱり、目の前にいるユキちゃんが大好きだ。

「お前達の強い意志はよく分かる。だがこれから先、俺達には多くの壁が立ち塞がってしまう。いっその事、もう死んでしまった方がいいと感じる事にも直面するだろう。俺はあんな体験をしたから、多少の苦境なら耐えられると思っていた。だけど無理だった。どれだけ我慢強くなっても、壁が現れる度に、どうしようもないと思い込んでは弱気になってしまう。俺は一体どうすればいい? 俺はいつになったら、悩まずに生きて行けるんだ!?」

 龍明君の流す涙は、風に吹かれて地面に落ちていく。
 強く巻かれた赤いハチマキとマフラーさえも、吹き飛ばしそうな強い風だった。
 ボク達に悩みがなければ、どれだけ楽になれるのだろう。
 いっその事、自分の心を枯れさせてしまいたい気持ち。
 ボクは少し考えてから答えようとすると――
 平見先生が前に出て、言い放った。

「あたしも色々あった! 嫌なのに頭の中で悩んでしまうから、本当に苦しい。苦しいから考え過ぎないようにしても、なかなか上手く行かなくて、また苦しくって。だけど、あたし達はその苦難を何度も乗り越えて生きて来たじゃない! 立ち直る理由がなくても、その場から逃げ出したとしても、時間が過ぎれば解決出来る事だってあるのよ!」

 平見先生に続けて、紅ちゃんが言う。

「でも、じっと待っているだけだと私達は不安になっちゃう。自分の心の中だけでも、正しい答えが欲しいから。私はその答えを見付ける為に、色んな事を勉強したい! 自分よりも凄い人に追い越さなくても、追い付けなくても、自分が正しいと思える答えを見付けられる気がするから! ただ悩んでいる場合じゃないって、ほんの少しでも思えるから!」

 伊吹君は親指で自分の胸を指した。

「そうやって自分で学び、気が付く事で、俺達は成長する。なのに人間は複雑だ。知識や理屈で解っていても、それを答えに出来ない。だから俺は友から学んだ。自分には何もないと思っても、その何かを知ってくれているからだ。そいつと交わした些細な会話を思い出すだけでも、俺達は救われる時がある!」

 涙を拭くのも忘れ、鉄ちゃんも前に出る。

「だけど尊敬する仲間が故に、自分自身を過小評価してしまう事もあります! あの人と比べて、自分は何をやっているんだろうと思ってしまう時だって。でも、羨ましがるだけじゃ何も始まりませんでした。私はそこから一歩踏み出して、どうすれば良いのかを探しています! 今はダメでも、いつか必ずこの思いを言葉に変えて、自分と相手に精一杯伝えます!」

 鳥野さんが龍明君に向けて、声を上げる。

「野口君は友として、俺に伝えてくれた! キミはあの時、藤原君に話す覚悟を持っていたじゃないか。俺は思う、夢や希望を持ったまま大人になる事は、決して難しい事ではない。それは藤原君と幸恵ちゃんが証明している。だが、生きていく上で迷わないようになるのは、とても難しい事だ。迷う事は罪でもなければ、間違いでも、ましてや子供でもない!」

 ユキちゃんは両手でボクの右手を包み、ぎゅっと握ってくれた。

「わたしは大好きな賢治くんと一緒に過ごし、花屋さんになることが今も変わらない夢です。でも、その幸せを奪う事柄に不安を覚えて、迷って、怖かった。それを知ったからこそ、どんな目標にも苦しいことがあると知りました。この世界はとても過酷で、泣きたいことがたくさんあります。それでも、わたし達は目標の為に苦しいことを我慢する力を持っています! それは苦しいことの為に、目標を我慢することは決して出来ないからです!」

「その気持ちこそが今、ボク達1人1人が人生の苦境に耐え、打ち勝った証なんだ。これから生きて行く中で幾多の壁が立ち塞がり、もう死んだ方がいいとさえ思う事に直面した時、今日この日の事を思い出して欲しい。ボク達は最初、悩みに負けてしまう。だけど最後には必ず、自分自身が出した結論で立ち直れる事を忘れないで。ボクはこれからも悩む。だけど人生の苦境なんかには負けない。負けてたまるもんか。カダール君は、もういない。でも負けなかった。悩みに打ち勝ち、誰もが笑顔でいて欲しいと願っていたんだ。ずっとずっと、みんなで一緒に笑える事を。ボク達が、ボク達で在る為にも!!」

 暖かい春陽が差し込み、この世界を照らす。
 太陽はボク達の涙を乾かしてくれたようだった。
 ユキちゃんの眩しい笑顔が嬉しくて、ボクは思わず微笑み、
 誰もが涙を拭いて一緒に笑ってくれた。
 出来た。出来たよ、カダール君。

「このターンで最後だな。賢治」
「そうだね」
「俺はお前達に勝ちたい。俺の持てる限界以上の力を解放し、全力で勝たせて貰う!」

野口【LP:100】
手札:1→2枚
モンスター:−
魔法&罠:セット3枚

「手札からトレード・インを発動。神龍−フラッシュ・ドラゴンを墓地へ送り、カードを2枚引く。更に異次元からの埋葬の効果で、ゲームから除外された究極神龍を墓地に戻す」
 融合モンスター。レベル12。攻撃力・守備力5000。
 龍明君は究極神龍のカードを見せ、墓地へと送る。

《トレード・イン》通常魔法
手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
《異次元からの埋葬》速攻魔法
ゲームから除外されているモンスターカードを
3枚まで選択し、そのカードを墓地に戻す。

「そして墓地から神龍−バーサーカー・ドラゴンと神龍−クエイクハリケーン・ドラゴンの2体をゲームから除外し、終焉神龍を発動! 俺はこのカードの効果でデッキから究極神龍復活融合を発動させる!」

《終焉神龍》通常魔法
自分の墓地の「神龍」と名のついたレベル6以上のモンスター2体を
ゲームから除外して発動する。このターン、自分は手札・デッキ・墓地の
「神龍」と名のついた通常魔法・通常罠カードをそれぞれ1枚選択し、
発動する事が出来る。発動ターンのエンドフェイズ時、
このカードを発動したプレイヤーは墓地に存在する
全てのモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。
《究極神龍復活融合》通常魔法
ライフを半分払う。ゲームから除外されている自分の
「神龍−ブリザード・ドラゴン」「神龍−バーニング・ドラゴン」
「神龍−ハリケーン・ドラゴン」「神龍−アース・ドラゴン」
「神龍−ヘヴン・ドラゴン」「神龍−ヘル・ドラゴン」を
全て墓地へ送る事であらゆる召喚条件を無視して
自分の墓地から「究極神龍」1体を特殊召喚する。
《究極神龍》
★12 光・ドラゴン族/融合 ATK5000/DEF5000
「神龍−ブリザード・ドラゴン」+「神龍−バーニング・ドラゴン」
+「神龍−ハリケーン・ドラゴン」+「神龍−アース・ドラゴン」
+「神龍−ヘヴン・ドラゴン」+「神龍−ヘル・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、
融合デッキから融合召喚が可能
(「融合」魔法カードは必要としない。この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードは相手のカードの効果を受けない。

「行くぞ! トラップカード、神龍魂を発動!」

《神龍魂》通常罠
自分が1000ライフポイント以下の時のみ発動する事ができる。
自分フィールド上の「神龍」と名のついたモンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
自分の墓地に存在する「神龍」と名のついたモンスター全ての攻撃力を加える。
発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーは
墓地に存在する全てのモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。
【墓地の「神龍」と名の付いたモンスター】
《神龍−ブリザード・ドラゴン》ATK1400 
《神龍−バーニング・ドラゴン》ATK1600
《神龍−ハリケーン・ドラゴン》ATK1200
《神龍−アース・ドラゴン》ATK1500
《神龍−ヘル・ドラゴン》ATK1300
《神龍−ヘヴン・ドラゴン》ATK1000
《神龍−プロテクト・ドラゴン》ATK0
《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》ATK3750
《神龍−グリフォン・ドラゴン》ATK3400
《神龍−フラッシュ・ドラゴン》ATK3600
《神龍−リバイバルバーサーカー・ドラゴン》ATK3750
《皇帝神龍》ATK5000
+23750
《究極神龍》ATK5000→ATK28750

「攻撃力、28750……!」
 究極神龍が今まで見せた事もない程に巨大化し、常識を越える攻撃力を持つ。ボクとユキちゃんは目に見えて立ち竦む。対して龍明君の眼からは、まだ終わらない攻撃への意思が強く感じられる。

「この2枚はカウンター用のカードじゃない」
 龍明君のフィールド上にセットされた、2枚のカードが同時に発動される。
 その光景に、自分の目を疑ってしまった。















野口【LP:100】
手札:0枚
モンスター:1体
《究極神龍》ATK28750
魔法&罠:《神龍魂》,《神龍魂》,《神龍魂》















「そんな……っ!」
「神龍魂を更に2枚発動した。究極神龍の攻撃力に23750を2度加える!」
 2度、3度と発動される神龍魂。
 攻撃力28750。52500。76250。
 究極神龍は規格外に巨大化し、尋常ではない威圧感を醸し出していた。激震にユキちゃんが倒れそうなり、ボクはぎゅっと肩を支える。

「終焉神龍の効果を忘れたか? 俺は墓地から4回目の神龍魂を発動させる。攻撃力は更に23750ポイントアップする!」















野口【LP:100】
手札:0枚
モンスター:1体
《究極神龍》ATK100000
魔法&罠:−















 グラウンドを越え、幸花高校の校舎を遥かに上回り、雲にも届きそうな巨体。
 6枚の翼を思い切り広げ、風圧を起こす。
 全身が帯電し、激しい火花が散る。触れてしまえば一瞬で消滅してしまいそうだった。
 ボクとユキちゃんは暴風雨以上の衝撃の前に、立ち続ける事が精一杯だ。

「賢治ッ!!」
 火花と電撃音の中、龍明君の声が胸に響く。
「勝ってもいい。負けてもいい。耐えて見せてくれ!!」

 究極神龍が口を大きく開いて咆哮し、口内にエネルギーを溜める。

「わたしはトラップカード、援護射撃を発動! このカードでサイレント・マジシャンは、サイレント・ソードマンと共に戦います!」

《援護射撃》通常罠
相手モンスターが自分フィールド上モンスターを攻撃する場合、
ダメージステップ時に発動する事ができる。
攻撃を受けた自分モンスターの攻撃力は、
自分フィールド上に表側表示で存在する
他のモンスター1体の攻撃力分アップする。
《サイレント・ソードマンLV7》ATK2800→6300

 ついに攻撃が来た。沈黙の剣士と魔術師がボク達を庇うように、究極神龍の膨大な攻撃を受け止めてくれる。ボクもユキちゃんの両肩を抱きしめるように支え、2人ともこの場から離れないように堪えた。グラウンドの端に置かれた木々も凄まじい振動を起こしている。伊吹君達の方も相当な風圧が来ているようだ。

「ユキちゃん、そのままボクの手を離さないで」
「あっ――」

 攻撃が止まり、砂煙も消える。サイレント・ソードマンLV7と、サイレント・マジシャンLV8は満身創痍になっても、お互いを支え合ってフィールド上に残り続けていた。幸花高校のグラウンド中央に、懸命に咲いた1本の花が朝日に照らされる。ボクは自分のデュエルディスクに表示されたライフポイントを見て、呟いた。
「耐えた、かな?」


















藤原&幸恵【LP:100】
手札:0枚
モンスター: 2体
《サイレント・ソードマンLV7》ATK2800
《サイレント・マジシャンLV8》ATK3500
魔法&罠:《蘇生の矢》
野口【LP:0】
手札:0枚
モンスター:1体
《究極神龍》ATK100000
魔法&罠:−
《蘇生の矢》速攻魔法
自分のライフが0になる場合のみ発動する事ができる。
自分が受けるダメージは無効になり、モンスターは戦闘では破壊されない。
自分のライフポイントを100にする。

 ボクとユキちゃんは声に出さず、微笑み合った。
「か、勝ったの? 藤原が、勝ったぁ〜〜!」
「ついに決着!! 真の決闘者に、盛大な拍手を――!!」
 平見先生の声で沈黙が破れ、実況の人が叫ぶ。
 それをきっかけに全員が拍手・歓声を上げてくれた。
 肩の力が抜け、そのまま倒れてしまいそうになる。
 だけどボク達は倒れなかった。
 2人で一緒に身体を支え合っていたから、倒れなかった。

「お前も歴代部長2人と戦うか? 3代目部長」
「か、勝てるわけないじゃん!」
「素晴らしい戦いだったな、神之崎」
「当然だ。私とカダールが、安心して幸恵を任せられる男だぞ」
「ここまで本気の野口君を倒せるとは! 見事だ、藤原君!」
「凄い! 凄いです! 神様、女神様!」
「It's a great duel!」
「おめでとう、藤原君!」
「2人とも、超カッコいいじゃない!」
「も、もう1回見たいじょおおおおおおおおん!」
「世界国宝と呼ばれた俺も認めてやるぞ藤原ァァ!! ギョハハハハハ!」

 仲間達に囲まれ、今にも胴上げでもされてしまいそうな勢いだった。
 嬉しかった。仲間達と、このまま一緒に笑っていたい。
 もっともっと、楽しい時間を過ごしたい。
 でも、時間だ。

 まずは紅ちゃんが来て、ボク達の前に立った。
「メールも電話もいっぱいするけど、半年経ったら手紙を送るからね。その時に部活で何が起こったか、ドンっと話してあげるっ!」
「紅ちゃん……。ありがとう……。ありがとぉ……」
 涙を流して言ったユキちゃんを、紅ちゃんはぎゅっと抱きしめ、声を放って号泣した。紅ちゃんは自分の悩みを人に見せず、いつも元気な姿でボク達を励ましてくれた。次に会う時も、その元気な笑顔を見せてくれるよね。

 伊吹君は、いつもの伊吹君だった。
「また会おう」
「うん。また会おう」
 短い言葉のやり取り。それでもお互い、炎のような熱い気持ちが伝わっている。初対面の時は、こんなに信頼出来る友達になるとは思いもしなかった。幸花高校での生活がボクを変え、伊吹君もボクと共に変わる事が出来た。だからこそボク達は、最高の友達だ。

 伊吹君が少し後ろに下がると、平見先生が来た。
「ぜいったいぜったい、帰って来なさい……。約束、して……」
「約束します。絶対絶対、ボク達2人で帰って来ます」
 平見先生は涙を流しながら、控えめにボクの胸に顔を押し付ける。もしかすると平見先生は、ユキちゃん以上に繊細な所があると思う。ボク達が幸花町から離れる事に一番抵抗を感じているのは、平見先生だと分かっていた。だから必ず、ボク達は帰って来ます。

 最後は龍明君だった。ボク達は何も言わず互いの腕を合わせ、手のひらを叩き、最後は顔の前で硬い握手を交わした。心の中でカダール君も加え、ボク達は3人で握手をした。龍明君があの時、ボクを説得してくれなかったら今ここにボクはいなかった。だから君が救ってくれた人生を、決して無駄にはしない。カダール君からは、本当の意味でユキちゃんを守る力をボクに与えてくれた。ありがとう。カダール君。ありがとう。龍明君。

 ボクとユキちゃんはバイクに乗り、ヘルメットの準備をする。エンジンが掛ると同時に、後部座席に乗ったユキちゃんの腕が回る。

「みんなで一緒に幸せになろう。ボク達からの約束だ!」

 龍明君も、伊吹君も、紅ちゃんも、平見先生も、全員が笑顔で頷いた。エンジン音が鳴り響き、ボクらを乗せたバイクは幸花高校のグラウンドから走り出す。前を見るボク達は、次第に小さくなる大勢の声だけが聞こえていた。



「賢治くん。ありがとう」

 今まで一緒にいてくれて。
 今も一緒にいてくれて。
 これからも一緒にいてくれて。
 ありがとう。ユキちゃん。

「ありがとう。ユキちゃん」

































 これはボク達の、HappyFlower。

































幸せの、花。




















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