春は目途(もくと)(またた)

製作者:kunaiさん





残り32日(前編)

「行こっか、ユキちゃん」
「うん!」
 花柄の手提げ袋を持って、見慣れた町の風景を2人で一緒に歩きます。
 吹き渡る風は少しだけ肌冷たくて、春の訪れはもう少し先かな?
 隣にいるのは、最後の学生服を着こなす賢治くん。
 今日は幸花高校の卒業式です。


 カダールさんとの一件から半年が経ちました。
 あの頃と比べて、わたし達は少し変わったことがあります。
 2人で一緒に思い出話をすること。
 旅行の行き先を寄り添って話し合うこと。
 料理やお菓子を一緒に作ること。
 2人が幸せになる支度をすること。
 これらは一見、何も変わっていません。でも。

 今まで感じていた小さな幸せが、本当は大きな幸せだったことに気が付けたのです。賢治くんと再会してから、わたしは2人で一緒にいることが当然のように思っていました。だけどそうではないと知ったから、胸の奥が優しく温かくなる気持ちを、ずっと忘れないようにしています。もちろん、失うことが怖くて眠れない日が来ることもありました。そんなときは心の中で賢治くんと、時には本当に2人で一緒に幸せになろうと願うだけで、いつもより前向きに頑張れるようになりました。

 変わったのは何も、わたし達だけではありません。

 神之崎さんはあの日を境に、多忙な毎日を送るようになりました。学校で教えていたデュエルモンスターズの戦術が今まで以上に高く評価されるようになり、I2社と海馬コーポレーションからも、正式にデュエル・アカデミアとして看板を立てて欲しいと連絡が来たのです。わたし達との相談を通して、カダールさんの為にも1人でも多くのデュエリストを育成すると決意した神之崎さんは、『デュエル・アカデミア−Jデュエル校−』の校長先生として迎えられました。

 定岡先生は今年で幸花高校から、鳥々超蝶高校に転勤することになりました。幸花高校では部活動に新しいメンバーが増えたので、わたし達に報告する時は本当に残念そうでした。でも今は、鳥々超蝶高校でデュエルモンスターズの部活顧問となることも決まって、春には幸花高校に挑戦すると嬉しそうに話してくれました。もちろん、紅ちゃん達にはまだ秘密です。

 鳥野さんの大学は春休みの途中なので、全国各地でバードウォッチングを楽しんでいるようです。定期的に送ってくれる魅力的な写真を見ると、わたし達まで一緒に旅行をしている気分になります。今にも可愛い声を聴かせてくれそうな鳥さん。目に優しい緑色の自然。幸花町と違った色の青い空。今はとても遠い所にいるそうですが、あの日までには必ず帰って来られると言っていました。


 わたし達が踏切前まで来ると、意地悪をするように閉じ始めました。
 警告音が鳴っていますが電車はまだ遠く、今なら人通りも少ないです。
 …………。
 どうしてこんなに緊張するのかな?
 彼にプレゼントを渡すのも、初めてじゃないのに。
 口がむずむずして、ちゃ、ちゃんと喋れません。
 でも、わ、渡さないと。ゆっくりと息を整えて小さく深呼吸をします。

「賢治くん。こ、これ!」
 わたしは思い切って、薄い紫色と桃色の手帳を取り出しました。
「4月から賢治くんも、わたしも、2人にとって人生の転機とも言えることが始まるよね。その1年間、どんなことがあったかをメモするの。懐かしくなって思い返すとき、2人で一緒に何を書いたか見たいな、と思って。ど、どう、かな?」
 賢治くんはとっても嬉しそうに笑ってくれました。胸が躍って、嬉しくて嬉しくって、涙が出てしまいそうな眩しい笑顔。
「ありがとう、ユキちゃん。大切に使わせて貰うよ」

 踏切から3分、幸花高校の校門へと到着しました。普段とは想像も付かないほど人が多くて、お祭りのように賑やかになっていました。校舎へ向う途中、先輩との別れに涙を流す女の子や、日常のように笑っている男の子など色々な人が目に付きます。
「こら! 2人とも、ゆっくりしすぎよ!」
「わわっ!」
 黒いスーツの似合った夏未さんが一喝して、わたし達2人を後ろからぎゅっと捕まえました。3人で押しくら饅頭をしているようです。
「急ぎなさいよ。伊吹が怒るぞ〜」
「そうですね、ちょっと急ぎます」
「あっ、ちょっと」
 夏未さんは慌てて賢治くんを呼び止め、ぶっきらぼうに言いました。
「……卒業、おめでと」
「ありがとうございます。平見先生」
 わたし達は下駄箱置き場へ向い、上靴に履き替えます。校舎内まで来ると人通りが嘘のように少ないです。体育館前には在校生、卒業生は教室や部室に集まっているのかな。


「神様! 女神様! お早う御座います!」


 こ、この声は。
 玄関の廊下で待っていた女の子が嬉しそうにそう呼び、丁寧に会釈します。偶然通りかかった男子生徒2人はギョっとしていました。賢治くんは落ち着いて、苦笑しながら言いました。
「その呼び方、前も言ったけど、恥ずかしいから……さ」
「失礼しました。藤原先輩、幸恵さん、お早う御座います」

 茶色のショートヘアと、黒縁の眼鏡。彼女は滝沢(くろがね)ちゃんです。
 今日は卒業式なので制服を着ていますが、普段は黒のタンクトップにジーンズも目印になりつつある、ボーイッシュな女の子です。

 初めて出会ったのは、半年前に幸花高校で開催した子供達とのデュエル大会のときでした。鉄ちゃんは女子バスケットボール部に所属しており、その縁から体育館を使うこの大会の準備を手伝ってくれたのです。数週間後、いつの間にか賢治くんを神様と呼び、なぜかわたしまで女神様と呼ばれるようになってしまいました。誰にでも礼儀正しい鉄ちゃんですが、紅ちゃんとだけは犬猿の仲で、いつも口喧嘩が絶えません。でもそれはきっと、仲良しの裏返しです。
「伊吹先輩は部室で待っていますよ。クレナイも一緒にいると思います」
「うん、じゃあ急ぐよ」

 廊下を少し歩くと、階段の付近には野口さんと電動車椅子に乗った女の子がいました。わたし達を待ってくれていたようです。
「よっ、賢治」
「龍明君! アリスちゃんも、ハ、ハロー?」
「Good morning, Kenji and Yukie」
 彼女はアリス・ミルフィーちゃん。
 不思議の国から飛び出して来たような水色の服に、金髪と碧眼がとても綺麗な女の子です。野口さんのホームステイ先の1人娘さんで、2人とも春休み中だけ幸花町に遊びに来ていました。賢治くんが今のように話した通り、アリスちゃんは英語しか話せません。本人は気を使って簡単な英語で話してくれますが、苦手な科目の賢治くんと紅ちゃんは日々、頭を抱えているようです……。
「今日は頑張れよ。って、さっき伊吹君にも同じ事を言ったけどな」
「はははっ。じゃあまた後で」

 ついに部室の見える廊下まで来ました。わたしは部室まで入らないのに、なんだかドキドキしてきました。
「おわっ! おはよー、2人とも!」
「おはよう、紅ちゃん!」
 部室から出てきた制服姿の紅ちゃんと挨拶を交わし、やっぱり抱きつかれてしまいました。この後、いつも悪戯っぽく「藤原さんもして欲しい?」と聞き、賢治くんが遠慮するのが日課です。でも今日はすぐに離れました。それは今も伊吹くんが部室で待っているからです。


――『卒業式の日、俺と藤原だけで決着を付けさせて欲しい』


 本当は誰もが2人のデュエルを見たかったと思います。だけど全員が伊吹くんの気持ちを汲み取り、快く受け入れました。わたし達に出来るのはその気持ちを尊重して、心の中で2人を応援してあげること。
 紅ちゃんは元気に咲く花のように笑い、わたし達の前に出て言いました。
「デュエルモンスターズで例えるなら、ヴィクトリー・ドラゴン! 遠慮なんかしないで、綺麗な花火を咲かせちゃって!」
「頑張ってみる。ボクもデュエルモンスターズで例えるなら、受け継がれる力。紅ちゃんこそ新部長として、今後のデュエ研を宜しくお願いするよ」

「任せてっ!」



残り32日(後編)

 俺はこの日の事をずっと考えていた。
 これが最後の部活動。藤原と決着を付ける。
 ライバルとして。友として。
 最も意味のある場所、この部室で。

 ……来たな。

「ごめん。待たせてしまったね」
「構わない」
 藤原は扉を閉め、部室の隅に置かれたゴミ箱に糸くずを捨てる。ポケットに入れているのが藤原らしいと思った。制服にでも付いていたのか。
「伊吹君、ヘルフレイムカイザーは本当に返しちゃったの?」
「……ああ」
「分かった。じゃあ、始めよう」

 半年前の事件。もしあの時、藤原ではなく俺がカダールに選ばれていたらどうなっていたのだろうか。藤原はサイレント・ソードマンだけの力で、カダールに立ち向かっていたのか。それとも俺のようにヘルフレイムカイザーの力を借り、究極神龍に並ぶ力を手にしていたのか。そして今日は、その力を持って俺に挑んでいたのか。カダール、お前もどちらを選択していたんだろうか。

 その疑問も、今日でようやく終わる。

藤原【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−
伊吹【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−

 お互いにデュエルディスクを構えてカードを引いた。
 間違いなく大学受験の時より緊張している。それも当然だろう。遠い日から待ち望んだ今この瞬間に比べれば、あんなものは緊張する部類に入らない。

「ボクのターン、ドロー。手札からサイレント・ソードマンLV3を召喚!」
 藤原のフィールド上に黒いコートを羽織った少年剣士が現れる。サイレント・ソードマンは俺達デュエ研のメンバーにとって、最も藤原を象徴する存在だ。

《サイレント・ソードマンLV3》
★3 光・戦士族/効果 ATK1000/DEF1000
このカードを対象とする相手の魔法の効果を無効化する。
自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示の
このカードを墓地に送ることで「サイレント・ソードマンLV5」
1体を手札またはデッキから特殊召喚する
(召喚・特殊召喚・リバースしたターンを除く)。

「カードを1枚セットして、ターン終了」
「俺のターン。ドロー! 手札のヘルフレイムエンペラーを見せる事で、ヘルフレイムリリースを発動。デッキからフレイム・ケルベロスを特殊召喚する!」

《ヘルフレイムリリース》通常魔法
手札の「ヘルフレイムエンペラー」1枚を相手に見せて発動する。
自分の手札・墓地・デッキ・融合デッキから攻撃力2700以下の
炎属性モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
《フレイム・ケルベロス》
★6 炎・炎族 ATK2100/DEF1800
全身が炎に包まれた魔獣。相手を地獄の炎で処刑する。

「そしてフレイムレインを発動。UFOタートルを手札から捨て、炎の精霊イフリートを手札に加える!」
 天井から豪雨のように炎が降り注ぎ、地面が燃え上がる。この狭い部室で炎が燃え上がっているのにも関わらず、死をも厭わない決闘をしている、というのは言い過ぎだろうか。

《フレイムレイン》通常魔法
手札の炎属性モンスター1体を墓地へ送る事で発動する。
お互いのプレイヤーは1000ポイントダメージを受ける。
その後、自分のデッキから炎属性モンスター1体を選択し手札に加える。
藤原【LP:4000→3000】
伊吹【LP:4000→3000】

「墓地からUFOタートルをゲームから除外し、炎の精霊 イフリートを特殊召喚する!」

《炎の精霊 イフリート》
★4 炎・炎族/効果 ATK1700/DEF1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の炎属性モンスター1体をゲームから除外して特殊召喚する。
このモンスターは自分のバトルフェイズ中のみ、
攻撃力が300ポイントアップする。

「バトルだ! フレイム・ケルベロスでサイレント・ソードマンLV3を攻撃!」
「その攻撃に対して、突進を発動! 攻撃力を700ポイントアップさせる!」

《突進》速攻魔法
表側表示モンスター1体の攻撃力を、
ターン終了時まで700ポイントアップする。
《サイレント・ソードマンLV3》ATK1000→ATK1700

 サイレント・ソードマンが脚を使って突進し、攻撃を続行させる。だがフレイム・ケルベロスも負けずと正面から飛び込み、沈黙の剣士を撃破する。
「イフリート! 藤原にダイレクトアタックだ!」
 炎の精霊 イフリートは攻撃の際に攻撃力が300ポイント上昇するカード。この直接攻撃で2000、フレイム・ケルベロスとサイレント・ソードマンLV3との戦闘によって400、藤原は合計、2400のダメージを受ける事となる。

藤原【LP:3000→600】

「手札から冥府の使者ゴーズの効果を発動。このカードを特殊召喚する!」
 白い霧が一面の残り火を掻き消し、2体の冥府の使者が藤原のフィールド上に現れる。だが、それでも。

《冥府の使者ゴーズ》
★7 闇・悪魔族 ATK2700/DEF2500
自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールする
カードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚することができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、
自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を
1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、
この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、
受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。
《冥府の使者カイエントークン》ATK2000

「冥府の使者の存在は分かっていた。お前とはもう随分と戦ったからな。俺はこのターン、まだ通常召喚を行なっていない。藤原の2体のモンスターを生け贄に、手札から溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを藤原のフィールドに特殊召喚させる!」
 部室全体が再び業火に包まれ、一面を緋色に染めた。地面から天井までを埋める巨大なモンスターが現れ、檻の中に藤原は閉じ込められる。

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》
★8 炎・悪魔族/効果 ATK3000/DEF2500
このカードを手札から出す場合、相手フィールド上の
モンスター2体を生け贄に捧げて相手フィールド上に
特殊召喚しなければならない。このカードはコントローラーの
スタンバイフェイズ毎に、コントローラーに1000ポイントの
ダメージを与える。このモンスターを特殊召喚する場合、
このターン通常召喚はできない。

 ラヴァ・ゴーレムの効果ダメージを受けるのはスタンバイフェイズ時。つまり生け贄召喚や通常魔法による除去では間に合わない。だが藤原なら必ず何とかするだろう。
「俺はカードを1枚セットし、ターンエンド」
「ボクのターン、ドロー!」

藤原【LP:600】
手札:3→4枚
モンスター:1体
《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》ATK3000
魔法&罠:−
伊吹【LP:3000】
手札:1枚
モンスター:2体
《炎の精霊 イフリート》ATK1700,《フレイム・ケルベロス》ATK2100
魔法&罠:セット1枚

 藤原はドローしたカードを確認し、直接デュエルディスクへと差し込む。
「速攻魔法、チェンジ・ドロー! このカードの効果でラヴァ・ゴーレムを生け贄に、効果を発動させる!」

《チェンジ・ドロー》速攻魔法
自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
発動ターン、相手がドローフェイズ以外でカードをドローする時、
代わりに自分がドローする。この効果はデュエル中一度しか使用できない。

 やはりそうだ。
 いつもいつも、藤原は俺の一歩先に進んでいる。
 腹が立った事など無い。ただ純粋に悔しかった。
 決意へと向っていく勇敢な姿勢。
 苦しかったであろう、幸花町から出て行くという選択。

 藤原とはデュエル・アカデミアの主催する大会で初めて会った。
 その時は敵同士として戦い、俺は敗退した。
 次に会った時はデッキを紛失し、ヘタレを証明した藤原だった。
 だが、その次の日に会った時は別人のようになっていたんだ。
 俺がまだ心の中で持っていない、小さな灯火を眼に宿して。
 そんな相手と再び戦い、俺は辛うじて勝つ事が出来た。
 額に汗が流れてくるような感覚。
 俺の思った通り、藤原は日々強くなっていた――。

「魔法カード、DNA病院を発動。このカードの効果でボクはデッキから、DNA改造手術を選択!」

《DNA病院》通常魔法
自分のデッキから「DNA」と名のついた
永続罠カード1枚を選択し、発動する。
《DNA改造手術》永続罠
発動時に1種類の種族を宣言する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の全ての表側表示モンスターは
自分が宣言した種族になる。

「宣言するのはもちろん、機械族だよ」
 イフリートとフレイム・ケルベロスは瞬く間に、姿を機械へと変化させられる。藤原がこの戦術を行なった場合、あのモンスターが来る。
「これで準備は整った。手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

《サイバー・ドラゴン》
★5 光・機械族/効果 ATK2100/DEF1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。 

「ボクのフィールド上のサイバー・ドラゴン、そして伊吹君のフィールド上の機械族となったモンスター2体を墓地へ送り、キメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚する!」
 藤原側のデュエルスペースを制圧するように、巨大要塞龍が現れた。たった2枚のカードで俺のモンスター2体を除去し、攻撃力3000のモンスターまで呼び出せる、キメラテック・フォートレスを用いた驚異的な戦術。

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》
★8 闇・機械族/融合 ATK0→3000/DEF0
「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
このカードは融合素材モンスターとして使用する事はできない。
フィールド上に存在する上記のカードを墓地へ送った場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
このカードの元々の攻撃力は、
融合素材にしたモンスターの数×1000ポイントの数値になる。

「行くよ、伊吹君。エヴォリューション・リザルト・アーティラリー三連弾ッ!!」
 独特の機械音を鳴らし、車輪のようなパーツから3つの竜の首が現れ、口内が蒼く輝く。苦渋の決断ではあるが、これを発動しなければ俺のライフポイントはゼロになる。命あっての物種とは上手く言った物だ。ならば、やむを得ない。
「トラップカード、ガード・ブロックを発動! 俺への戦闘ダメージを0にし、デッキからカードを1枚引く!」
 連続で繰り出される衝撃波を半透明のバリアが受け止め、回避に成功する。

《ガード・ブロック》通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 だが、俺のデュエルディスクに「DARW(ドロー) 1」の文字は表示されない。されていたのは、藤原のディスクだ。
「ボクはチェンジ・ドローを発動していた。そのドローは、ボクがドロー出来るよ。そしてメインフェイズ2、DNA改造手術を墓地へ送ってマジック・プランターを発動。デッキから更にカードを2枚ドローする」

《マジック・プランター》通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「カードを2枚セットして、ターン終了」
「俺のターン、ドロー!」

藤原【LP:600】
手札:1枚
モンスター:1体
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》ATK3000
魔法&罠:セット2枚
伊吹【LP:3000】
手札:1→2枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「手札抹殺を発動。お互いの手札は1枚。それを墓地に送る」
 墓地へ送ったカードはヘルフレイムエンペラー。藤原はダブルレベルアップを墓地へ送り、お互いが同時にデッキからカードを引いた。
「そして魔法カード、ヘルフレイムドローを使う。墓地に存在するヘルフレイムエンペラーと炎の精霊イフリートをデッキに戻し、カードを3枚ドローする」

《手札抹殺》通常魔法
お互いの手札を全て捨て、
それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。
《ヘルフレイムドロー》通常魔法
自分の墓地に存在する炎属性モンスター1体と
「ヘルフレイムエンペラー」1体をデッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを3枚ドローする。

「お前のフィールド上にはキメラテック・フォートレスのみ。俺は地砕きを発動させ、そのカードを破壊!」
「速攻魔法、沈黙の剣−LV5! キメラテック・フォートレス・ドラゴンを生け贄に、デッキからサイレント・ソードマンLV5を特殊召喚する!」

《地砕き》通常魔法
相手フィールド上の守備力が一番高い
表側表示モンスター1体を破壊する。
《沈黙の剣−LV5》速攻魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
自分のデッキ・手札・墓地・除外されている
「サイレント・ソードマンLV5」1体を
自分のフィールド上に特殊召喚する。
《サイレント・ソードマンLV5》
★5 光・戦士族/効果 ATK2300/DEF1000
このカードは相手の魔法の効果を受けない。
このカードが相手プレイヤーへの直接攻撃に成功した場合、
次の自分のターンのスタンバイフェイズ時に表側表示の
このカードを墓地へ送る事で「サイレント・ソードマンLV7」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。

「これにより地砕きの効果適応前に、サイレント・ソードマンLV5が特殊召喚される。そしてこのカードは、相手の魔法効果を受けない」
 サイレント・ソードマンは緑のオーラに包まれ、魔法攻撃を受け付けず破壊されなかった。
「くっ。手札から開闢の炎を発動! 2体のトークンを特殊召喚する!」
 開闢の炎の効果でデッキトップの地獄炎の衝撃(ヘルフレイムインパクト)を墓地に送り、藤原はデッキからカードをドローする。

《開闢の炎》速攻魔法
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送って発動する。
相手プレイヤーはカードを1枚ドローし、自分のフィールド上に
「紅炎トークン」(炎族・炎・星3・攻/守0)を
2体守備表示で特殊召喚する。(このトークンは炎属性
モンスター以外の生け贄召喚のための生け贄にはできない)
《紅炎トークン》DEF0
《紅炎トークン》DEF0

「紅炎トークン1体を生け贄に、手札から炎帝テスタロスを召喚だ!」
 炎の霊体が巨大化し、爆発の中から炎帝が出現した。

《炎帝テスタロス》
★6 炎・炎族/効果 ATK2400/DEF1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、相手の手札を
ランダムに1枚墓地に捨てる。捨てたカードが
モンスターカードだった場合、相手ライフに
そのモンスターのレベル×100ポイントダメージを与える。

「テスタロスの効果発動! お前から見て左側のカードだ!」
 藤原は手札から月の書を見せ、墓地へ送る。
「行くぞ! サイレント・ソードマンLV5を攻撃だ!」
 左手に溜めた炎を握り潰し、炎の帝が沈黙の剣士を打撃する。

藤原【LP:600→500】

 あの時、藤原の成長を感じてから1年。
 デュエル・アカデミア主催のジェネックスが始まった。俺は大会で万丈目に負け、島に来た当日で参加資格を失った。しかし藤原は2日目も生き残り、あの遊城十代と戦って勝利を収めるまでに至った。偶然と言われようが、俺達にとっては大事な思い出。そしてジェネックスを機に、藤原は再び変わった。

 夢だ。

 藤原に頼み込まれた俺は同行し、定期的に花屋の女の所へ相談を受けに行っていた。質問の為に他の女と会っても、幸恵ちゃんを裏切る事にはならないと言っても聞かなかった。藤原らしいと言えば藤原らしい。だがそこから夢を追う事に気を取られ、部活動は形式的に参加していた。でも俺は分かっていた。藤原は何も間違っていない。俺もそうなる必要があったんだ。

「藤原。デュエルの途中だが、俺が子供の頃に見た夢は何だと思う?」
 唐突の質問に驚いた様子だった。俺は答えを聞く前に続けた。
「ない。俺にはなりたい大人なんて、子供の頃からなかった。小学校の時も教師達に注意されないように嘘の夢を書いては語った。子供のままの自分が好きだからでもない。だが大人になる自分も好きになれそうにない。今でも俺は、自分の未来が漠然としている」
「でも伊吹君は、鳥野さんでさえ受からなかった名門大学を合格したんだよ」

 そうかも知れない。
 だが、違うんだ。

「お前は子供の頃に大きな傷を受け、他者によって本来進める道を奪われた。それでも自力で立ち上がり、己の信念で道を切り開いてきた。自分で結論を出し、花の本格的な勉強をする為に幸花町から、そして俺達からも離れなければならない事を選択した。俺はお前から数多くの事を学ばせて貰った。幸恵ちゃんや野口先輩にも影響され、俺の冷めた性格を変えてくれた。だが肝心な所を学んでいなかった。俺はお前のような強い決断力と意思を持ちたい。どうして常に俺の1歩前を歩ける? 俺とお前は、なぜこんなにも違う?」

「伊吹君が思っているほど、ボクは凄い人間なんかじゃないよ」
「何が言いたい? 俺はお前が全く悩んでいないとは思っていない!!」
「伊吹君。ボクは自信が無くて弱気になってしまった時、いつも自分から思うようにしている事がある。最初は実行するのが、とても難しい。だから初めは小さな事でいいんだ。もう少し、自分の価値を理解してもいいんじゃないかな?」

 自分の、価値……。

「ターン……エンドだ……」

藤原【LP:500】
手札:1→2枚
モンスター:−
魔法&罠:セット1枚
伊吹【LP:3000】
手札:0枚
モンスター:2体
《炎帝テスタロス》ATK2400
《紅炎トークン》DEF0
魔法&罠:−

「ボクはこのターン、セットしていた死者蘇生を発動! 当然、サイレント・ソードマンLV5を復活させる!」
 藤原が広げた右手を前に突き出すと、ソリッドビジョン化した死者蘇生のカードが起き上がる。手札破壊の効果を持つテスタロスを予測し、事前にセットしていたのか。相変わらず上手い奴だ。

《死者蘇生》通常魔法
自分または相手の墓地からモンスター1体を選択する。
選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。
《サイレント・ソードマンLV5》ATK2300

「そして手札から2枚の装備カード、バトル・オーラとファイティング・スピリッツをサイレント・ソードマンLV5に装備させる!」

《バトル・オーラ》装備魔法
戦士族のみ装備可能。
装備モンスター1体の攻撃力は300ポイントアップする。
装備されているこのカードを墓地に送る事で、
このターン装備モンスターは相手プレイヤーに
直接攻撃をする事ができる。
《ファイティング・スピリッツ》装備魔法
装備モンスターの攻撃力は相手フィールド上に
存在するモンスター1体につき300ポイントアップする。
装備モンスターが戦闘によって破壊される場合、
代わりにこのカードを破壊する事ができる。

「バトル・オーラは装備を解除する事で直接攻撃が可能になり、ファイティング・スピリッツは相手フィールド上のモンスター1体につき300ポイント攻撃力がアップする!」

《サイレント・ソードマンLV5》ATK2300→ATK2900

「伊吹君に直接攻撃! ――沈黙の剣−LV5!」
 サイレント・ソードマンLV5は俺の場のモンスター2体を飛び越えるほどに跳躍し、大剣を一気に振り下ろす。
「ぐあああっ!」

伊吹【LP:3000→100】

 ライフポイントは残り100。首の皮一枚繋がったか。
「ターン終了だよ」
「俺のターン。――ドローッ!」

藤原【LP:500】
手札:0枚
モンスター:1体
《サイレント・ソードマンLV5》ATK2900
魔法&罠:《ファイティング・スピリッツ》装備
伊吹【LP:100】
手札:0→1枚
モンスター:2体
《炎帝テスタロス》ATK2400,《紅炎トークン》DEF0
魔法&罠:−

 戻って来てくれたか。藤原達と出会う前の俺なら、単なる偶然だと冷めていただろう。だが今なら、お前もあのカードと決着を付ける為に来たんだと分かる。
「俺はフィールド上の炎帝テスタロスと紅炎トークンを生け贄に、ヘルフレイムエンペラーを召喚する!」

《ヘルフレイムエンペラー》
★9 炎・炎族/効果 ATK2700/DEF1600
このカードは特殊召喚できない。
このカードの生け贄召喚に成功した時、
自分の墓地の炎属モンスターを5枚まで除外する事ができる。
この効果によって除外した枚数分だけフィールドの魔法・罠を破壊する。

 炎の皇帝が咆哮し、灼熱の大地が燃え盛る。俺に残ったカードはお前だけだ。共に今ある全力を賭して、一緒に戦って欲しい。
「ヘルフレイムエンペラーの効果発動! 墓地の炎帝テスタロスをゲームから除外し、ファイティング・スピリッツを破壊する!」

《サイレント・ソードマンLV5》ATK2900→ATK2300

「ヘルフレイムエンペラー! サイレント・ソードマンLV5を攻撃だ!」
「……ッ!」
 インパクト・オブ・ヘルフレイム。
 焼き尽くす炎の前に、沈黙の剣士は消滅した。

藤原【LP:500→100】

「ターンエンド。この状況で俺に勝てるのか、藤原?」
「…………」
 長き沈黙が藤原の答え。
 ならば見せてくれ。お前のサイレント・ソードマンLV7を。
「ボクのターン!」

藤原【LP:100】
手札:0→1枚
モンスター:−
魔法&罠:−
伊吹【LP:100】
手札:0枚
モンスター:1体
《ヘルフレイムエンペラー》ATK2700
魔法&罠:−

「手札から復活の祭壇を発動。デッキからカードを2枚除外し、墓地からダブルレベルアップを手札に戻す!」
 次元幽閉と冥府の続く階段がゲームから除外され、ダブルレベルアップが手札に戻る。藤原は当然、そのカードを発動した。

《復活の祭壇》通常魔法
自分のデッキの上からカードを2枚ゲームから除外し、
自分の墓地からカード1枚を手札に加える。
《ダブルレベルアップ!》通常魔法
自分の墓地に存在する「LV」を持つモンスター1体を
ゲームから除外して発動する。そのカードに記されている
モンスター1体を、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。
《サイレント・ソードマンLV7》
★7 光・戦士族/効果 ATK2800/DEF1000
このカードは通常召喚できない。
「サイレント・ソードマンLV5」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。 

「サイレント・ソードマンLV7! ヘルフレイムエンペラーに攻撃だ!」
 沈黙の剣士と地獄炎の皇帝。
 お互いが攻撃し合い、剣と炎が激突する。力はほぼ同等。だがサイレント・ソードマンは確固たる力の意思を瞳に宿し、ヘルフレイムエンペラーを退けた。炎は花吹雪のように散乱し、全てのソリッドビジョンを消し去った。


伊吹【LP:100→0】


「制服で部室に来られるのは、これが最後だね」
「そうだな……」
 デュエルディスクを机に置き、辺りを見渡してみる。メンバー全員が座れる数を用意した椅子。真っ白なホワイトボード。破棄予定だった保健室のツイタテを紅が持って来た日の事が懐かしい。誰もあいつの着替えなど覗かないと思ったが、制服嫌いなのは滝沢さんも同様らしく、2人がよく使っているようだ。あの古臭いセーラー服は女子受けしないんだろう。

 壁に貼り付けられた、デュエル・アカデミアで春頃に開催されるタッグデュエル大会の告知ポスター。これに参加が出来ないのは本当に残念だ。デュエ研のメンバーとなら、誰と組んでも楽しめるだろうに。自分でも気が付かないうちに椅子に腰掛け、ぼんやりと天井の蛍光灯を眺めていた。

「俺は小学校の時も中学校の時も、卒業式で泣く意味が分からなかった。ただの杓子定規だと勝手に冷めては、いつも本当に退屈だった。でも今はなぜか、泣きたい気分だな」

 声は全く震えなかった。
 ただ眼から涙だけが流れていた。
 俺の真後ろから椅子が動く音が鳴る。
 藤原も座ったのだろう。

「俺達が経験した大きな出来事は3つだ。1年目はデュエル・アカデミア主催の大会。2年目はジェネックス。3年目はカダールの事件。最終的にこの部室はどの時も晴れ舞台とはならなかった。それでも俺にとっては大きな存在だ。人に話す意味のない、具体的に何をしたかすら思い出せない、些細な時間だった毎日が失われる哀しさ。分かるか? 俺達はもう幸花高校の学生として来られないんだ。放課後のあの雰囲気はもう2度と味わえない。今までこんな事を考えもしなかった。今日で高校もデュエ研も卒業なんて信じられない。嘘のようだ。嘘のようでも、今日、今この瞬間が俺達にとって最後になる。俺はここで何を成し遂げられたんだろうか。もっと他にも、出来る事があったような気がするんだ」

 藤原は軽い深呼吸をしてから、口を開いた。

「ボクは勉強ばかりに気をとられていて、仮にも部長なのにデュエ研を御座なりにしてしまった。自分勝手に不安がらず、最初から一緒に頑張ろうとユキちゃんに相談するべきだったんだ。言わなかったせいで伊吹君と紅ちゃん、平見先生にも色々と気を使わせてしまった。2年生の中頃からデュエ研のイベントの回数は減って、みんなを退屈させてしまった。だから伊吹君が何かを成し遂げられなかったと思う気持ちはボクが原因だ。その事、本当に後悔している」

 ……相変わらず、面白い奴だ。

「退屈なんかしていない。それに後悔なんて、そんなものじゃないのか?」
「はははっ。そうだよね」
 何を選択しても、後になれば未練が残る。
 お前はそう言いたいんだな。
 もし俺と藤原が、今の後悔を感じていなければ、
 この瞬間は有り得なかったかも知れない。だったら?


 だったら、これでいい。


 藤原と友達になれて、本当に良かった。
 この部屋から出れば俺達はデュエ研の部員から外れる。
 自分の価値。
 まずは小さい事から考えてみよう。
 机に手を置き、椅子から立ち上がった。

「行こうか。藤原部長」
「ボクはもう、部長じゃないよ」
「そうだったな。藤原部長」



残り30日

「紅ちゃんが最後よ」

 一面に立てられた多くのお墓をボーっと見渡していると、ひらみん先生に名前を呼ばれた。いつの間にか残りは私だけになってたみたい。幸恵ちゃんから黄色い花を1輪受け取って、墓石の前に立つ。家族でお墓参りをする時と同じように、目を閉じて手を合わせた。その人の顔を浮かべると、私達は眼つきの変わった藤原さんしか出てこない。でも貴方は確かにいた。

 私達は元気だよ。カダール。
 あれから1週間先延ばしになったけど、子供達とのデュエル大会は大成功! 私がコスプレ店で借りたサイレント・マジシャンの衣装を幸恵ちゃんに着させたり(ホントはカイエンの予定だったけど、胸元と肩の露出が多いから断られちゃった)藤原さんにはサイレント・ソードマンを着させて、ひらみん先生は砂の魔女。私は何だったと思う?

 それからね、兄ちゃんと藤原さんが卒業したから私が自然にデュエ研の部長になっちゃった。でも部員は私1人じゃなくて、態度と胸の大きい滝沢 鉄って子が入って来たよ。定岡先生は4月から転勤しちゃうからデュエ研は女が2人、顧問はひらみん先生だけの女1人。メンバーの男女比率が2年前とまるっきり変わったのよ。面白いでしょ? 私が部長なんて似合わないけど、頑張るつもり。だから応援よろしくね。

「はい、おしまい! 帰ろ!」
 手をパチンと叩いて、野口さんと藤原さんの背中を押しながら歩いた。2人ともノリがいいから、前にいる幸恵ちゃんとアリスちゃんを連鎖させるように押していく。旅の途中の鳥野さん、転勤先の事で忙しい定岡先生は来られなかったけど、鉄とアリスちゃんをプラスしたメンバーでお墓参りに来ていた。

「あの、今更ですがカダールさんってどんな人だったんですか?」
「クロガネには分からない、とってもイイ人よ」
 いきなり鉄が質問したから意地悪に即答しちゃったけど、もし私が答えていなかったら誰がどう答えていただろう? リセットしてセーブポイントからやり直してみたい。

「ふーん。じゃあクレナイも理解していないのね」
「何よ? デュエルモンスターズで例えると、おジャマ・ブラックのくせに!」
「なんでおジャマなのっ!?」
「2人とも静かにしろ。ここは死者が眠る場所だぞ」
「ク、クレナイのせいで、い、い、伊吹先輩にぃぃぃ!?」
 呪い殺す、と言わんばかりに睨まれてしまった。その伊吹先輩ご本人は鉄の事なんか気にしないで外を眺めている。

「今日は本当にありがとう。自宅までちゃんと送るよ」
「あ、わたし達は」
 神之崎さんのマイクロバスがある駐車場に着くと、幸恵ちゃんと藤原さんが前に出てきた。そういえば今日、お墓参りが終わったら2人で調べ物をするって言ってた。2人は本当に勉強熱心だと思う。幸恵ちゃんの部屋には凄い量の本があって、同じ人間かと思ったくらいだった。あの量を知識として吸収していたら、私とは一体どれくらいの差があるんだろう。

「賢治」

 アリスちゃんをお姫様抱っこしたままの野口さんが、いつもより真剣な声で藤原さんを呼び止めた。カダールの事もあったから、この声色にはドキリとしてしまう。普段は明るくて冗談の言える人なのに、この時だけは真に迫るような雰囲気になる。それが分かっていない鉄とアリスちゃん以外は時が止まったように硬直しているし、やっぱり私と同じみたい。
「無理はしないようにな。幸恵ちゃんもだぞ」
「分かった。ありがとう、龍明君」

 歩いて行く2人に手を振って、笑顔で見送った。そっか。藤原さんが決めた事まで、もう1ヶ月も無いんだ。――ってダメダメ! 考えちゃダメ。私は家に帰って、500円で買ってしまった福袋のテレビゲーム詰め合わせをプレイする。その事を考えなきゃ。すると兄ちゃんが車の中に置かれたデュエルディスクを取り出した。
「すまない。俺も別行動させて貰う」
 何を考えているんだろう、と思いながら車に乗ろうとする私の肩に手を置いて、
(おまえ)は残れ」
 私も残されてしまった。マイクロバスが駐車場から離れ、ついには見えなくなってしまった。悪いけど私、帰りの電車賃持っていないよ。

「走るぞ!」
「はぁ? ちょっと待ってよ!」
 いきなり走れって言われても! 私が走るの嫌いなの知ってるでしょ! と言っても止まる様子はないし、仕方なく追いかけるように走る。100メートルくらい走った時、今度は急に止まった。そこは滑り台と2つのブランコだけの小さな公園の前で、黒い高級車が停まっていた。運転席には腕時計を親のカタキのように凝視している人と、公園で缶ジュースを飲んでいる、見覚えのある黒い制服と黒ズボンの男。

 あっ……!

「久しぶりだな。万丈目」
 やっぱり! ジェネックスの時、兄ちゃんと戦った奴。
 いつの間にかプロデュエリストになっていて、いつの間にかエンタメ系のプロデュエルでおジャ万丈目と名乗っていたのに、いつの間にかエド・フェニックスに勝って、いつの間にか実力のプロデュエリストとしてデュエル雑誌に写真付きで載っていた。その時の勝ち誇った表情にムッと来て、極細マジックでヒゲを描いた事まで思い出してしまった。そのせいでこれから数十分、私は万丈目の顔を見るたび笑いを堪える事になってしまう。

「お前達は! 確か伊吹、だったか?」
「光栄だな。現役プロデュエリストに名前を覚えて貰っていたとは」
「フハハハハ! お前の魂胆が見えたぞ。スーパープロデュエリストとなったスーパー万丈目サンダー様を倒し、自分の名を上げようと言う事だろう?」
「考え過ぎだ、万丈目」
「万丈目“さん”だ!」
 2人はデッキを取り出してデュエルディスクを構える。そういえばデュエル・アカデミアでは配色が新しくなったみたいで、万丈目のは一部分が青くデザインされていた。車の運転手さんはデュエルをする事に気がつき、こっちまで汗が飛んできそうな勢いで飛び出した。
「お困ります!! お万丈目様はこれからおデュエリストランキング昇進の為のおデュエルとおサイン会とお握手会とおま」
「3ターンで決着を付けてやるから問題ない! デュエルだ!」

「……! ま、待った! そのデュエル、私にやらせて!」

 スカートのポケットに入れておいた自分のデッキを取り出す。
 さすがに万丈目も兄ちゃんも驚いた様子だった。
 私だって最初、成り行きを見守ろうとしただけ。
 昇進。ちょっと違うけど、肝心な事を忘れていた。
 私はもう、デュエ研の部員じゃないのよ。

「おい」
「私は新部長だもん。勝てるよ!」
「勝てそうにないから心配しているんだが……」
 じーっと睨み続けると、いつものように観念してくれた。
「勝手にしろ」
 ありがとう、兄ちゃん。
 借りたデュエルディスクを腕に付け、勢い良くデッキを入れて万丈目を指差した。
「と言う事で、私が成敗してあげる。覚悟しなさい! おジャ万丈目!」
「ええい、その名で呼ぶな! オレは一! 十! 百! 千! 万丈目サンダー!」
 ま、まだその一発芸やってんの。
「あんた、デュエル・アカデミアは卒業したんでしょ。なんでまだ制服着てんの? コスプレよ、コスプレ!」
「な、なにぃぃぃ!?」
 お互いにカードを5枚引いて、デュエルが始まった。都合良く風も吹いてくれて気分が引き締まる。

紅【LP:4000】
紅【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−
万丈目【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「まずはオレの先攻だ、ドロー! 魔法カード、手札抹殺を発動! お互いの手札を全て捨て、その枚数分だけカードをドローする!」

【墓地へ送られたカード】
万丈目             紅
《V−タイガー・ジェット》    《エレメント・ヴァルキリー》
《W−ウィング・カタパルト》   《きつね火》
《X−ヘッド・キャノン》     《インフェルノ》
《Y−ドラゴン・ヘッド》     《火霊術−「紅」》
《Z−メタル・キャタピラー》   《逆巻く炎の精霊》

「永続魔法、魂吸収を発動!」

《魂吸収》永続魔法
このカードのコントローラーはカードがゲームから
除外される度に、1枚につき500ライフポイント回復する。

「魂の解放を発動! オレは自分の墓地から5体のモンスターをゲームから除外する!」

《魂の解放》通常魔法
お互いの墓地から合計5枚までカードを選択し、
そのカードをゲームから除外する。

万丈目【LP:4000→6500】

「次元融合を発動! 現れろ、5体のモンスター達!」

《次元融合》通常魔法
2000ライフポイントを払う。
お互いに除外されたモンスターをそれぞれの
フィールド上に可能な限り特殊召喚する。
万丈目【LP:6500→4500】

「も〜! ずっとあんたのターンじゃん! 早くしなさいよ!」
「ええい待て! フィールド上のX、Y、Zを融合、VとWも融合だ!」

万丈目【LP:4500→7000】

 なんでこんなに回復するの、と思ったけど今のはV、W、X、Y、Zの5体が除外されたから魂吸収で2500ポイント回復したんだ。
「見て驚け! VWとXYZを融合! VWXYZ(ヴィトゥズィ)−ドラゴン・カタパルト・キャノン!」
 XYZとVWがよく分からない変形を次々に繰り返し、強引に人型のロボットになった。私が子供の頃、壊れたプラモデルをかき集めて無理に組み立てたロボットに似ている。

《VWXYZ−ドラゴン・カタパルト・キャノン》
★8 光・機械族/融合 ATK3000/DEF2800
「VW−タイガー・カタパルト」+「XYZ−ドラゴン・キャノン」
自分フィールド上に存在する上記のカードをゲームから除外した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
1ターンに1度、相手フィールド上のカード1枚をゲームから除外する。
このカードが攻撃する時、攻撃対象となるモンスターの表示形式を
変更する事ができる。(この時、リバース効果モンスターの効果は発動しない。)
万丈目【LP:7000→8000】

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ!」
「や、やっと私のターン……」

紅【LP:4000】
手札:5→6枚
モンスター:−
魔法&罠:−
万丈目【LP:8000】
手札:0枚
モンスター:1体
《VWXYZ−ドラゴン・カタパルト・キャノン》ATK3000
魔法&罠:《魂吸収》,セット2枚

「手札から火炎木人18(インパチ)を召喚!」
 カードをディスクに置くと、景気良く燃えた木人が火の粉を出して飛び出す。あちち。

《火炎木人18(インパチ)
★4 炎・炎族 ATK1850/DEF0
全身が灼熱の炎に包まれた巨木の化身。
炎の攻撃は強力だが、自身が燃えているため先は長kunai。

「はいはい、地砕き地砕き!」
 空から巨大な拳が現れて、VWXYZが気の毒なくらいバラバラになった。
「オレのVtoZがぁぁ! だ、だがこれも計算済みだ! トラップカード、魂の綱を発動!」

《地砕き》通常魔法
相手フィールド上に表側表示で存在する
守備力が一番高いモンスター1体を破壊する。
《魂の綱》通常罠
自分フィールド上のモンスターが破壊され墓地へ
送られた時に発動する事ができる。
1000ライフポイントを払う事で、
自分のデッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
万丈目【LP:8000→7000】

「このカードでオレは地獄戦士(ヘルソルジャー)を呼び出し、地獄の暴走召喚を発動! このカードの効果でデッキから2体の地獄戦士を特殊召喚するぞ!」
 RPGで出てくる敵キャラみたいに、全く同じポーズを取った3体の地獄戦士が並ぶ。でも私のデッキに火炎木人18は1枚だけ。特殊召喚は出来ない。

《地獄戦士》(ヘルソルジャー)
★4 闇・戦士族 ATK1200/DEF1400
このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され
墓地へ送られた時、この戦闘によって自分が受けた
戦闘ダメージを相手ライフにも与える。
《地獄の暴走召喚》速攻魔法
相手フィールド上に表側表示モンスターが存在し、
自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体の
特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名カードを
自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。
相手は相手フィールド上のモンスター1体を選択し、
そのモンスターと同名カードを
相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

「バカ! なぜ火炎木人18を複数入れなかった!」
「間違えたの! それに私のデッキには憑依装着のヒーちゃんが3枚入ってるし、そんなにいらないでしょ!」
「な、何っ」
「いいから黙って見てて! インパチで地獄戦士に攻撃!」
 火炎木人18が怒ったように地団駄して、中央の地獄戦士を殴り飛ばした。
「だが地獄戦士の効果が発動。お前もダメージを受けてもらうぞ!」

万丈目【LP:7000→6350】
紅【LP:4000→3350】

 なんて執念深い奴なの。それなら同じ戦士族のアマゾネスの剣士を使いなさいよ。だけど本当にプロなのか、この時はちゃんと意味があったなんて思いもしなかった。
「カードを1枚セットして、ターンエンドよ」
「オレのターン。ドロー!」

紅【LP:3350】
手札:3枚
モンスター:1体
《火炎木人18》ATK1850
魔法&罠:セット1枚
万丈目【LP:6350】
手札:0→1枚
モンスター:2体
《地獄戦士》ATK1200
《地獄戦士》ATK1200
魔法&罠:−

「ククククク。ハハハハハハハハハハ!!」
 ……バカ?
「オレの新しい切り札を見せてやろう。地獄戦士2体を生け贄に、力を貸してくれ! 今こそオレと共に戦ってくれ! 光と闇の竜!」
「な、なによ、このドラゴン!? まぶしっ!」
 半分が白くて半分が黒い、あしゅら男爵みたいな龍が輝きながら現れた。

光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)
★8 光・ドラゴン族/効果 ATK2800/DEF2400
このカードは特殊召喚できない。このカードの属性は「闇」としても扱う。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。
この効果でカードの発動を無効にする度に、
このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地に存在する
モンスター1体を選択して発動する。自分フィールド上のカードを全て破壊する。
選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

「インパチに攻撃! シャイニングブレス!」
「トラップ発動、炸裂装甲(リアクティブアーマー)! また1枚のカードで切り札を破壊してあげる!」
「無駄だ! ライトアンドダークネス・ドラゴンにはあらゆる効果を無効にする能力がある! 攻撃力は500ポイント下がるがな」
 光と闇の龍が炸裂装甲に反応し、発動を阻止するかのように雷撃した。ブレス攻撃も止まる事なく、火炎木人18を木端微塵に吹き飛ばす。

《光と闇の竜》ATK2800→ATK2300
紅【LP:3350→2900】

「ターンエンド! どうだ、スーパープロデュエリストの実力は。お前がノホホンとテレビゲームをしている間、オレは地面を這いつくばり戦っていたのだ!」
「っ……。何よ! あんたなんかに何が分かんのよっ!」
 万丈目はさすがに言い過ぎたって様子だった。意外に良い所あるじゃん。でも間違えているのは私。言い過ぎだろうと、口だけじゃなくて本当にプロデュエリストになっているし、論破出来ない自分がいたのもホントの事。私が兄ちゃんと藤原さんより1つ年齢が下と言う事は当然、来年は私の番。それなのに。

 子供の頃の夢。
 いつも読んでいた漫画が大好きで、自分も漫画家になろうと思っていた。最初は好きだったのもあって、学校内での賞を貰った事もあった。凄く嬉しかった。だけど学年が上がっていくにつれ、どれだけ頑張って絵を描いても、先生から褒められたり表彰されるのは別の子だった。その事実が耐えられなくて、私はいつの間にか絵を描く事が嫌いになった。中学の頃は映画に影響されて、看護師さんになろうと思った。学校行事の職場体験でも病院に行ったけど、患者の病人とは思えない態度に、とてもじゃないけど人を救っている気持ちになれなくて幻滅してしまった。

 結局、私が中途半端な事が嫌いなのは、何より自分自身が中途半端だから。幸恵ちゃんと藤原さんはお互いの為に頑張ってる。野口さんも、鳥野さんも、兄ちゃんも立派な大学に行って、ひらみん先生だって中学生の頃に学校の先生になりたいって決意して、本当になってる。カダールだってデュエルキングになりたいと言う、立派な夢を持っていた。

 私は今まで何をしていたの?
 これから何をするべきなの?
 今もそう。高校生にもなって、お墓の前でバカみたいに騒いじゃった。

 自分のこういう子供っぽいとこ、ヤだな……。

「お、オレは謝らないからな!」
 ふん。素直じゃない奴。
 デュエルモンスターズで例えると、ツンドラの大蠍よ。
「いいよーだ。私のターン、ドロー!」

紅【LP:2900】
手札:3→4枚
モンスター:−
魔法&罠:−
万丈目【LP:6350】
手札:0枚
モンスター:1体
《光と闇の竜》ATK2300
魔法&罠:−

 光と闇の竜。略してライダー。
 とりあえず、なんでもかんでも無効にするドラゴン。
 私は頭の中のカード図書館で本を開いて、対処方法を探した。あいつは効果が発動すればそれを強制的に無効化し、自分の攻撃力を下げる。と言う事は、とにかくカードをバンバン使って攻撃力を下げてから殴れって事ね。でも幸恵ちゃんなら本当に図書館並みの頭を使って突破するんだろうなぁ。やっぱり私の頭は学級文庫がいいトコ。
「魔法カード、心変わりを発動!」

《光と闇の竜》ATK2300→ATK1800

「これで倒せる! 手札から憑依装着−ヒータを召喚!」
 紅色の髪を揺らして、装飾された杖を構えるヒータ。召喚された時に出した声が可愛い。

《憑依装着−ヒータ》
★4 炎・魔法使い族/効果 ATK1850/DEF1500
自分フィールド上の「火霊使いヒータ」1体と
炎属性モンスター1体を墓地に送る事で、
手札またはデッキから特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚した場合、以下の効果を得る。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「行っけぇ! ヒーちゃんアタック!」
 燃え盛る火霊術で、ライダーを華麗に火葬してくれた。

万丈目【LP:6350→6300】

「墓地から現れろ、VWXYZ−ドラゴン・カタパルト・キャノン!」
「はぁ!? 何でそいつが出てくるのよ!」
 万丈目のフィールド上に問答無用で『ぼくの作った最強ぷらも』が現れた!

《VWXYZ−ドラゴン・カタパルト・キャノン》ATK3000

「光と闇の竜が破壊された時、自分フィールド上のカードが全て破壊される代わりに墓地からモンスターを特殊召喚できるのだ!」
「き、汚い効果!」
「これがエリートを越えたスーパーエリート、いや、その存在さえも超越したウルトラエリートの力だ!」
 何をわけわかんないこと言ってんのよ。
「私はメインフェイズ2で貪欲な壺を発動!」
「なっ、いつの間にモンスターを大量に墓地へ送っていた!」
 あんたの手札抹殺で。

《貪欲な壷》通常魔法
自分の墓地からモンスターカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 きつね火、エレメント・ヴァルキリー、逆巻く炎の精霊、インフェルノ、火炎木人18をデッキに戻して、カードを2枚引く。
「続けて名推理を発動! さぁ、レベルを宣言しなさい!」

《名推理》通常魔法
相手プレイヤーはモンスターのレベルを宣言する。
通常召喚が可能なモンスターが出るまで
自分のデッキからカードをめくる。
出たモンスターが宣言されたレベルと同じ場合、
めくったカードを全て墓地に送る。
違う場合、出たモンスターを特殊召喚し、残りのカードを墓地へ送る。

「くっ……。レベル8だ!」
 やった、引っかかった! 幸恵ちゃんが言った通り、名推理ではレベルが8を宣言されやすい。直感に頼らず、確実なプレイングを心掛けようとしているプレイヤーほど、選択される事が多いって。だから私のデッキにレベル8のモンスターは入れていない。っと言う事は当然、特殊召喚は確定する! 大嵐、サイクロンが落ちて、3枚目でモンスターが出てきた。

 これは道端で拾った、私の新しい切り札!

「モンスターのレベルは4! 私は同属性感染ウイルスを特殊召喚!」
「同属性感染ウイルス!? そんなカードは聞いた事がないぞ!」
 このカードはあまりにも汎用性の高い、同族感染ウイルスの属性版カード!

《同属性感染ウイルス》
★4 炎・炎族/効果 ATK1000/DEF1600
手札を1枚捨てて属性を1つ宣言する。
自分と相手のフィールド上に表側表示で存在する
宣言した属性のモンスターを全て破壊する。

「ツンドラの大蠍を捨てて光属性を宣言! もう1度墓地で眠りなさい、ビートージー!」
 VtoZの部品がボロっと落ちて、バランスを崩して壊れていく。接着剤の付け方が甘かったようね。

《ツンドラの大蠍》
★3 地・昆虫族 攻撃力1100/守備力1000
砂漠ではなく、ツンドラに分布する珍しい真っ青なサソリ。
か、勘違いしないでよ! 別にあんたのために、
通常モンスターになったんじゃないからね!

「お、オレのVWXYZがまたしても!」
「へへん! これでターンエンドよ!」

紅【LP:2900】
手札:1枚
モンスター:2体
《憑依装着−ヒータ》ATK1850
《同属性感染ウイルス》ATK1000
魔法&罠:−
万丈目【LP:6300】
手札:0枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「オレのターン、ドロー! 言っておくが、新たなる切り札は光と闇の竜だけではないぞ。アームド・ドラゴンも更なる進化を遂げたのだ! 現れよ、ダーク・アームド・ドラゴン!!」
 万丈目はデッキから1枚のカードを引くや否や、いきなり超強そうなドラゴン族モンスターを呼び出した!

《ダーク・アームド・ドラゴン》
★7 闇・ドラゴン族/効果 攻撃力2800/守備力1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、
このカードを特殊召喚する事ができる。
自分の墓地に存在する闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる。

「レベル7で攻撃力2800の効果モンスターをコスト無しで特殊召喚!? インチキ効果もいい加減にしなさいよ!」
「同属性感染ウイルスを使ったお前に、人の事が言えるか! そしてダーク・アームド・ドラゴンには墓地の闇属性モンスターを除外する事で、カードを破壊する効果がある!」
「ずるいっ! ダーク・アームド・ドラゴンが出てる時点で、絶対に3枚のカードが破壊出来るじゃん!」
「オレは墓地の地獄戦士2枚をゲームから除外! 赤毛の小娘とバイ菌を始末する!」
 邪気をぷんぷん出したダーク・アームド・ドラゴン、略してダムドが手玉っぽい黒い波動を乱暴に投げつけ、ヒーちゃんと同属性感染ウイルスの2体を破壊した!

紅【LP:2900】
手札:1枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「ハハハハハ! これで貴様は丸裸!」
「女の子相手に、なんて汚い言葉を使っているの! この変態ッ!」
「オレが変態だと!? ええい、喰らえ! ダーク・アームド・パニシャー!」
「うわああっー!」

紅【LP:2900→100】

 や、やばい! 私の手札1枚は巨大化。ライフポイントでは無茶苦茶ピンチだけど、なんでこんな時にあんのよ。
「絶体絶命だな。オレを倒せるものなら、倒してみるがいい!」
 きぃぃ、悔しい!
 思い切りギャフンと言わせてやる!
 次のターンではピィピィ悲鳴を上げさせてやる!
 倒せるもんだから、倒してやる!
 それに幸恵ちゃんが言っていた事はまだあるもん!
 たった1枚のドローカードでも逆転出来るって!
「私のターン!」
 ……あっ。
「死者蘇生を発動! あんたの墓地からVWXYZを頂戴するっ!」
「なんだと!?」
 私はVWXYZのカードを見て、テキストを読んだ。

《死者蘇生》通常魔法
自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
《VWXYZ−ドラゴン・カタパルト・キャノン》
★8 光・機械族/融合 ATK3000/DEF2800
「VW−タイガー・カタパルト」+「XYZ−ドラゴン・キャノン」
自分フィールド上に存在する上記のカードをゲームから除外した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
1ターンに1度、相手フィールド上のカード1枚をゲームから除外する。
このカードが攻撃する時、攻撃対象となるモンスターの表示形式を
変更する事ができる。(この時、リバース効果モンスターの効果は発動しない。)

「ふっふっふ。VtoZの効果発動! ダムドをゲームから除外する!」
「オレのダーク・アームド・ドラゴンがぁぁ! ダーク・アームド・ドラゴンがぁぁ!」
 何でいちいちフルネームで呼んでるのよ。
「まだまだぁ! 手札から巨大化を発動、攻撃力を2倍にする!」
 人型機械が力を蓄えて大きくなっていく。プラモデルで例えると、マスターグレードからパーフェクトグレードになったくらい。

《巨大化》装備魔法
自分のライフポイントが相手より下の場合、
装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。
自分のライフポイントが相手より上の場合、
装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。
《VWXYZ−ドラゴン・カタパルト・キャノン》ATK3000→ATK6000

「喰らいなさい! アルティメット・ディストラクション!」
「どわぁあああああああ―――!!」

紅【LP:100】
手札:0枚
モンスター:1体
《VWXYZ−ドラゴン・カタパルト・キャノン》ATK6000
魔法&罠:巨大化(装備)
万丈目【LP:6300→300】
手札:0枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「もう絶体絶命だよね? ね? おジャ万丈目く〜ん!」
 っ……。慌てて口を塞いだ。
 だからこーゆー子供っぽいのが、ダメなんだってば。
「その名で呼ぶな! あの時の事は忘れろ! 触れるのはもう、許サンダーだ! そ、それにまだ切り札はあるぞ! 新たなる、おジャマの可能性――」

 万丈目の言葉を遮って、運転手さんが大声で叫んだ!

「おジャ万丈目サンダー! もうお予定のお時間です! お早くお車へ!」
「おジャ万丈目ってゆーな! オ、オレの勝ちは預けておいてやる。命拾いしたな、小娘! ハハハハハハハ!」
「あっ! 待ちなさい!」
 万丈目はデュエルディスクをしまい、車に乗って逃げた。

 でも、何か分かった気がする。
 私は幸恵ちゃんの言葉を信じていた。
 それはいつも本当の事だった。
 友達だけど尊敬出来る幸恵ちゃん。
 そんな人でも、あんなに一生懸命に勉強している。
 なのに私はいつもその先にある答えがないから勉強をしなかった。
 学校の勉強なんて意味がないと思ってやらなかった。
 だったら意味のある勉強を自分でやっていた?
 私は言い訳して、どれも熱心に学ぼうとしなかっただけ。
 本当は勉強するべき事を探し出す為に、勉強をしなくちゃいけないのに。

 藤原さんから部長を任されたもん。
 デュエ研の新しい部長として、思い出になる事をやり遂げたい。
 兄ちゃんが目的もなく大学に行くだけの自分に迷って、
 藤原さんがデュエ研の事を疎かにしてしまった事を後悔していたなら、
 私は2人から学んで、どっちも後悔しないようにしないと。
 こんな事で気が付くなんて強引? だけど――。


 ずっと悩むなんて自分らしくない! だから、これでいいの!


「勝ってたのになぁ。逃げられちゃった」
「奴はこのターン、今の状況をひっくり返していただろう」
 そういえばデュエルの途中、兄ちゃんに「黙って見てなさい」って言った事を思い出した。いつも変な所だけは言う事を聞いてくれるんだから。

「なんで? どーしてよ?」
「プロだからだ」
「ふん。素直じゃない奴」
「……お前もな」



残り20日

「はぁ〜」
 職員室には他の先生もいるのに、また溜息が出ちゃった。
 さっきからずっとこんな調子だった。椅子に座って頬杖をついて、溜息をするの繰り返し。今年の卒業式が終わって、カダールのお墓参りも終えた。幸花高校は春休み真っ只中。思い返せばこの3年間、本当にあっという間だった。これから藤原と伊吹が部室に来ないと思うと、凄く寂しい。こんなに鬱然と心の中に穴が空いたのは初めてかも知れない。実は単位不足で2人は留年だった、なーんて事があったら良いなと何度も考えてしまうくらいに。

 今まで教師をやっていれば愛着のある生徒も何人かいたし、卒業式の時も寂しかった。でも今回はその比じゃない。藤原の横には幸恵がいて、伊吹と紅ちゃんがいる。野口と鳥野もいて、定岡先生と神之崎さんも。短い間だったけど、カダールだって。それが変わってしまう。変わってしまった。……そういえばデュエル・アカデミアでも、今年は遊城十代君を筆頭に優秀な生徒が多かったみたいだし、先生達の心の穴も大きいだろうな、なんてお節介な事をふと思った。

「なつみん先生!」
 (くろがね)ちゃんがいつの間にか隣に立っていた。黒い薄着と紺色のジーンズは相変わらずだから、もう気にならない。だけど背景には当然いくつもの仕事机があって、何人かの先生もいる。
「ココ、職員室よ? 私服はダメでしょう?」
「そんな事より、今日こそは練習試合に付き合って下さい。ホラ!」
 鉄ちゃんに腕を抱きしめるようにして引っ張られ、職員室から連れ出された。
 む、胸が当たってる! 高校生なのにずるいよ!

 仕方なく廊下を歩き階段を下りていると、鉄ちゃんが真面目な様子で言った。
「ここ最近、紅はいつも遅れて来ているんですよ」
「そうなの?」
 ホントは理由を知っているんだけど、本人の希望通り黙っておいた。紅ちゃんは最近、図書室を使って大学と職種について調べている。きっと、藤原と幸恵に触発されたんだ。でもその気持ちは良く分かる。真っ直ぐ、夢に向かう情熱的な気持ち。夢。

 職業としての夢なら、あたしは成功したのかも知れない。
 カダールの一件から条件反射のように、自分の人生を思い返すようになっていた。幼稚園の頃に覚えている事って言ったら、みんなで楽しくドロ団子を作っていた事くらいかな。小学校の頃は腹の立つ男子にキレて、そろばんで叩こうとしたら逆に泣かれちゃった。中学の頃はバレーボール部に入り、いつも生き生きとした顧問の先生に憧れて、この時に自分も教師になろうと思った。高校もバレーボール部に熱中していたけど、引退試合は1回戦目で優勝候補の相手と当たって、圧倒的差で負けて皆で泣いたっけ。大学の頃は特に何もなかったけど、なぜか後輩の女の子がよく付いて来てくれていた。どうしてだろう。高校教員になってからは現実を見せられて大変だったけど、慣れればこんなものかなと思った。


 ねぇ、カダール。あなたは夢を叶えた後、どうしていたの?


 部室に入ると、不思議の国の少女っぽい服を着たアリスちゃんが丁寧に会釈した。英語で書かれたハードカバーのデュエル参考書を読んでいたみたい。紅ちゃんはまだ部室に来てな――あっ!
「こらっ! あなた達、また花札と麻雀してたでしょ!」
 机の上には他にもトランプやウノ、海外製の見た事もないボードゲームもあった。これらは全てアリスちゃんが持って来た物だった。何やらデュエルモンスターズとは違うゲーム戦術を知る事で、応用力を上げる効果があるらしい。あの子がそう言われると妙に説得力があるから、黙認しているけど。

「あら? 麻雀牌の(ひがし)、戻し忘れているわよ」
(ひがし)じゃなくて、(トン)です」
「どっ、どっちでもいいの! 麻雀禁止!」
 ヒガシを目に付きやすい所に置いといて適当に振り返ると、今まで使わず真っ白だったホワイトボードが目に入った。藤原と伊吹が卒業してからは、ここには遊びで成績表を書くようにしているみたい。戦績表では紅ちゃんと鉄ちゃんは均等な力を持っていた。でも黒星の無い子もいる。アリスちゃんだった。あの子のデュエルはまだ見た事ないけど、この様子なら幸恵や野口、今なら藤原とだって戦ったらどうなるのかが楽しみね。

 ……そっか。やっぱりあたし、楽しみなんだ。ううん、そんなの当然だと思う。鉄ちゃんとアリスちゃんは嫌いなんかじゃない。だけど藤原と伊吹が卒業して、カダールの事を全く知らない2人が仲間として一緒にいるのは、とても複雑な気分だった。まるで今までの仲間を捨てて新しいモノに乗り換えるような、後ろめたい気持ち。そんな事ないって分かっているのに、自分の居場所で大好きだったデュエ研が少しずつ変わって行くのが寂しかった。

 鉄ちゃんはデッキを持ってニッと笑った。この笑顔は何となく、紅ちゃんによく似ている。
「なつみん先生、デュエルしませんか!」
「お、おん。やろっか」
 机に置かれたデュエルディスクを取って、構えてデッキを入れる。ここでデュエルをするのも久しぶりね。

夏未【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−
鉄【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「私から行きますよ。ドロー! マジックカード、E−エマージェンシーコールを発動!」
 元気いっぱいに引かれたカードが発動すると、炎で燃えた『E』の文字がソリッドビジョンで現れた。と言う事は、鉄ちゃんはヒーローデッキ使い?

《E−エマージェンシーコール》通常魔法
自分のデッキから「E・HERO」と
名のついたモンスター1体を手札に加える。

「私はこのカードの効果でE・HERO ワイルドマンをサーチして、攻撃表示で召喚! カードを3枚セットして、ターン終了です」

《E・HERO ワイルドマン》
★4 地・戦士族/効果 ATK1500/DEF1600
このカードは罠の効果を受けない。

 褐色の肌が目立つ、いかにも野生的な戦士が背負った剣も構えず現れた。攻撃をサポートするかのように用意された、後ろにある3枚のリバースカード。
「なつみん先生のデッキは、星見と魔女っ子のデッキでしたよね」
「ぐぬぬっ。バレてる」
「だから私も自分のデッキを言います。ずばり、ワイルドマンデッキです!」

 ワイルドマンデッキ!!??

 何も聞いてないのに、鉄ちゃんは目を輝かせながら語った。
「そうです! トラップが効かないという事は、藤原さんのサイレント・ソードマンLV5の魔法が効かない効果に匹敵する強さがあります! そして幸恵さんは攻撃力が低いモンスターを中心にコンボを組立てて勝利しています! ワイルドマンは攻撃力がそんなに高くなくても地属性のアウスと連携も出来て、バッチリなポジションだと思うんです!」
「う、うん。あたしも、そう思う、と、思う。気がする。うん。あたしのターン!」

 鉄ちゃんはどうして、こんなに藤原と幸恵に拘っているんだろう。
 藤原を異性として好意を寄せている様子でもないし、幸恵を女として――はマズイけど、純粋に幸恵が好きってのもないと思う。あたしにはよく分からないけど、どちらかと言えば2人セットで憧れているような感じ?
「まずは手札から星見獣ガリスの効果発動!」

《星見獣ガリス》
★3 地・獣族/効果 ATK800/DEF800
手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。
自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、
そのカードがモンスターだった場合、
そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与え、
このカードを特殊召喚する。そのカードがモンスター以外だった場合、
このカードを破壊する。

「あたしが引き当てたのは通常モンスター、エンシェント・エルフ。このカードのレベルは4、鉄ちゃんに800ダメージ! 星見獣ガリスを攻撃表示で特殊召喚して、ついでに星見鳥ラリスを通常召喚!」

《エンシェント・エルフ》
★4 光・魔法使い族 ATK1450/DEF1200
何千年も生きているエルフ。
精霊をあやつり攻撃をする。
鉄【LP:4000→3200】
《星見鳥ラリス》
★3 風・鳥獣族/効果 ATK800/DEF800
このカードの攻撃力はダメージステップ時のみ、
戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。
このカードは攻撃した場合ダメージステップ終了時に
ゲームから除外され、次の自分ターンの
バトルフェイズ開始時に自分フィールド上に表側攻撃表示で戻る。

 フィールド上に2体の星見モンスターが並ぶ。2体とも魔法少女アニメに出て来るにはちょっと大人びたデザインだけど、十分可愛い。攻撃力はどっちも800だけど、ラリスの効果があれば1600まで上がってワイルドマンは倒せる。
「いっけぇ! スターダスト・アタック!」
「フフッ。トラップカード、聖バリを発動! なつみん先生のモンスターは全滅します!」

《聖なるバリア−ミラーフォース−》通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊する。

「ミラフォは嫌ぁ〜!」
 頭を抱える間もなく攻撃が鏡の盾に弾かれて、ラリスとガリスは場から消え去ってしまった。聖バリ? ミラフォ? 
「メインフェイズ2で、あたしは手札から三度一致を発動!」
「さんど、いっち?」
 墓地は一番上から星見鳥ラリス、星見獣ガリス、エンシェント・エルフ。同じ種類のカードが三度一致した時、あるモンスターを呼び出せる。茜色の服と帽子、竹箒に乗った魔法使い(岩石族だけど)――それは砂の魔女(サンド・ウィッチ)

三度一致(さんどいっち)》通常魔法
自分の墓地の一番上からカードの種類(モンスター・魔法・罠)が
3枚同じだった場合のみ発動する事ができる。
自分の融合デッキから「砂の魔女」1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
砂の魔女(サンド・ウィッチ)
★6 地・岩石族/融合 ATK2100/DEF1700
「岩石の巨兵」+「エンシェント・エルフ」

「これでターンエンド!」
 やっぱり楽しい。楽しいのに、その事実を受け入れない自分が恥ずかしい。だってもう、悩む事なんか何もなかった。自分の中で結論は最初から出ている。幼稚園の頃も。小学校も。中学も。高校も。大学の時も。歳を重ねて周りが変わって、あたしが変わって、また周りも変わる。だけどいつだって、その時の自分や周りの仲間が大好きだった。なんだかんだ言って今まであたしは、ううん、どんな人間でも生きている限り、いつも時の変化に対応するようになっている。今回も今までと一緒。ただ、かつてのメンバー達の思い出が深すぎて、次への変化の対応がまだ出来ないだけ。それだけなのに、どうしてこんなに苦しいの?

「私のターンですね。ドロー!」

夏未【LP:4000】
手札:3枚
モンスター:1体
《砂の魔女》ATK2100
魔法&罠:−
鉄【LP:3200】
手札:2→3枚
モンスター:1体
《E・HERO ワイルドマン》ATK1500
魔法&罠:セット2枚

「ふふっ、引き当てました。通常魔法、ワイルド・ハーフを発動! 砂の魔女の攻撃力を半分にし、2人に分離させます!」

《ワイルド・ハーフ》通常魔法
自分フィールド上に「E・HERO ワイルドマン」が
表側表示で存在する時のみ発動する事ができる。
相手フィールド上のモンスター1体の
元々の攻撃力を半分にし、そのモンスターの
種族・属性・レベル・攻撃力・守備力・モンスター効果を
持つ「ハーフトークン」1体を相手フィールド上に特殊召喚する。
夏未【LP:4000】
モンスター:2体
《砂の魔女》ATK1050
《ハーフトークン》ATK1050

 モンスターの数としては1体が増えたけど、攻撃力を半分にされてしまった。だけど片方がワイルドマンに戦闘破壊されても1体が残れば、まだ……!
「そしてセットしていたアサルト・アーマーを発動! このカードの装備を解除する事で、2回攻撃が可能になります!」
 ど、どぎゃーす……。

《アサルト・アーマー》装備魔法
自分のモンスターカードゾーンに
戦士族モンスター1体のみが存在する場合に、
そのモンスターに装備する事ができる。
装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
装備されているこのカードを墓地に送る事で、
このターン装備モンスターは
1度のバトルフェイズ中に2回攻撃をする事ができる。

「バトルフェイズ! ワイルドマンで2体のモンスターに攻撃! ワイルド・スラッシュ!」
 オレンジ色の闘気を纏ったワイルドマンが物凄いスピードで動いて、砂の魔女2体を切り裂いた。まさか2体とも破壊されちゃうなんて。

夏未【LP:4000→3100】

「ターンエンドです!」
 鉄ちゃんは自信満々に宣言する。あたしは負けず嫌いだから、ちょっぴり心に火が付く。やるからには精一杯、勝つ為に頑張らなきゃ。

夏未【LP:3100】
手札:3→4枚
モンスター:−
魔法&罠:−
鉄【LP:3200】
手札:2枚
モンスター:1体
《E・HERO ワイルドマン》ATK1500
魔法&罠:セット1枚

「まずは魔法カード、思い出のブランコを発動。墓地からエンシェント・エルフを特殊召喚、このカードを生け贄に、ブリザード・プリンセスを召喚よ!」
 部室いっぱいにブリザードが起こって、巨大なつららが現れては割れていく。全部が割れた時、白と水色が特徴的な王女様がやって来た!

《思い出のブランコ》通常魔法
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
このターンのエンドフェイズ時に破壊される。
《ブリザード・プリンセス》
★8 水・魔法使い族/効果 ATK2800/DEF2100
魔法使い族モンスターを生け贄に捧げる場合、
このカードは生け贄1体で召喚する事ができる。
このカードが召喚に成功したターン、
相手は魔法・罠カードを発動する事ができない。

「レベル8のモンスターを生け贄1体で召喚!?」
「最近の魔女っ子は進化しているの。だけど、これだけじゃないわよ?」

 ――『フン!』

「あっ!」
 ブリザード・プリンセスが目を細めると、鉄ちゃんがセットしていたカードが凍って使用不可能になった。あれ、大寒波のソリッドビジョンと使いまわしている?
「プリンセスは召喚した時、相手の魔法・トラップを凍結させる効果があるの。これで安心してワイルドマンに攻撃出来る! 大・粉・砕っーー!」
「おわぁーっ!」
 小柄な身体で巨大な氷球を振り回し、ワイルドマンを吹っ飛ばした。

鉄【LP:3200→1900】

「カードを2枚セットして、ターンエンド!」
 鉄ちゃんのセットしていたカードを包む氷が砕け散って、発動が可能になってしまう。だけど今の攻撃を通せたなら十分よね。
「わ、私のターン、ドロー!」

夏未【LP:3100】
手札:0枚
モンスター:1体
《ブリザード・プリンセス》ATK2800
魔法&罠:セット2枚
鉄【LP:1900】
手札:2→3枚
モンスター:−
魔法&罠:セット1枚

「手札から憑依装着−アウスを召喚します!」
 紅ちゃんがヒータなら、鉄ちゃんはアウス。
 って2人に言ったら、2人に怒られた。

《憑依装着−アウス》
★4 地・魔法使い族/効果 ATK1850/DEF1500
自分フィールド上の「地霊使いアウス」1体と
他の地属性モンスター1体を墓地に送る事で、
手札またはデッキから特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した場合、以下の効果を得る。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「そして手札から巨大化を発動して装備! 逆になつみん先生のモンスターには縮んで貰います、セットしていた収縮を発動!」
「ええっー!」
 ブリザード・プリンセスの身体が縮み、服がダボダボの幼い女の子になっちゃった。なのにアウスは変に巨大化したり成長したりせず、手に持っていた杖だけがバランス良く巨大化した。な、なんて空気を読むソリッドビジョンなの!

夏未【LP:3100】
手札:0枚
モンスター:1体
《ブリザード・プリンセス》ATK2800→ATK1400
魔法&罠:セット2枚
鉄【LP:1900】
手札:0枚
モンスター:1体
《憑依装着−アウス》ATK1850→ATK3600
魔法&罠:《巨大化》,《収縮》,セット1枚

「行きます! ブリザード・プリンセスに攻撃!」
 アウスは高くジャンプして、杖でブリプリちゃんの頭を軽くポンと叩いた。王女様は泣き出してしまい、フィールド上から逃げ出してしまう……。

平見【LP:3100→900】

 うぅ、これはちょっとやばい。
 だけどデュエルは最後まで分からない。
 このセットしているカードが役に立つか。立たないか。
 このドキドキ感は一体なんだろう?

「トラップカード、地霊術−「鉄」を発動! フィールド上の憑依装着−アウスと墓地のE・HERO ワイルドマンを入れ替えます!」
 アウスとワイルドマンは手と手でタッチして、フィールド上から入れ替わる。な、なんて空気を読むソリッドビジョンなの!

《地霊術−「鉄」》通常罠
自分フィールド上に存在する地属性モンスター1体を
生け贄に捧げる。自分の墓地から、生け贄に捧げた
モンスター以外でレベル4以下の地属性モンスター1体を特殊召喚する。

 でも、思い通りよ――!

「その特殊召喚に対して速攻魔法、終焉の地を発動! あたしがデッキから選択するカードは星見世界!」

《終焉の地》速攻魔法
相手がモンスターの特殊召喚に成功した時に
発動する事ができる。自分のデッキから
フィールド魔法カードを1枚選択して発動する。
《星見世界》フィールド魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上及び墓地に存在する全ての
モンスターのレベルは10になる。

 部室にお日様が現れると、あっと言う間に夜空へと変わっていく。
「そしてラスト・スターゲイザーを発動! この星見世界を墓地へ送り、デッキからスターゲイザー・ドラゴンを特殊召喚!」
 夜空の空間がガラスのように割れて、辺りは見慣れた部室に戻る。残照の中、スターゲイザー・ドラゴンが輝きを発して現れた。

《ラスト・スターゲイザー》速攻魔法
自分フィールド上に存在する「星見世界」を墓地へ送る事で、
デッキ・手札・墓地から「スターゲイザー・ドラゴン」1体を
特殊召喚し、相手ターンを終了する。
この効果はデュエル中一度しか使用できない。
《スターゲイザー・ドラゴン》
★7 風・ドラゴン族/効果 ATK2400/DEF1900
自分のフィールド上及び墓地に「星見」と名のついたモンスターが
2種類以上存在する場合、手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、自分の墓地から元々のレベルが
3以下の「星見」と名のついたモンスターを可能な限り
自分フィールド上に特殊召喚する。
相手フィールド上に存在する表側表示モンスター1体を選択する。
選択したモンスターの元々のレベル×200ライフポイントを
払う事で、そのモンスターを破壊する。

「タ、ターンが終了される効果!?」
「あたしのターン!」

夏未【LP:900】
手札:0→1枚
モンスター:1体
《スターゲイザー・ドラゴン》ATK2400
魔法&罠:−
鉄【LP:1900】
手札:0枚
モンスター:1体
《E・HERO ワイルドマン》ATK1500
魔法&罠:−

「スターゲイザー・ドラゴンの効果発動! E・HERO ワイルドマンのレベルは4だから、800ポイントのライフを払って破壊する! コンバット・スタークラッシュ!」
 星見竜の翼に4つの星が現れて、それをワイルドマンに向って放つ。

平見【LP:900→100】

「これでガラ空きよ! シューティング・スターッ!」
 飛翔してエネルギーを蓄えて、白と黄色の光線を撃った。もちろん、妨害される事なく鉄ちゃんに直撃する。
「わああああ〜! 負けた〜!」

鉄【LP:0】

「くぅぅ、悔しい! でも楽しかったです!」
「あたしも楽しかったよ。勝てたから」
「ひどいなぁ〜、なつみん先生!」
 鉄ちゃんはそう言って、あたしの背中から腕を回してくっついた。
 む、胸が当たってる! 高校生なのにずるいよ!
 すぐ抱きつく付く所も、紅ちゃんそっくりなんだから。

 でも、ありがと。
 やっぱり心配する必要は何もなかった。
 4月から始まる、紅ちゃんと、鉄ちゃんとの部活。
 この子達がいるなら藤原や伊吹に負けないくらい、
 大切な1年になるよね。
 それを信じて、あたし自身も頑張らなきゃ。
 でも、いきなり割り切るのはちょっぴり難しい。
 だから少しだけ。
 あたしが完全に吹っ切れるまで、少しだけ待っていて欲しい。
 何だか教えるべき子供達に教わっちゃったみたい。


 でも大人って、そんなもんじゃない?



残り12日

 重いリュックサックを背負いながら、夜空を見上げる。
 幸花町へ来るのはカダールとの事件以来だった。今日でバードウォッチングの長旅は一時休息となる。疲れが少し残っているが、今夜はそれも忘れる事になるだろう。落ち着きを装いながら内心では期待し、幸花駅付近のバーへと入店する。

 オレンジ色の蛍光灯が店内を照らし、快音で流れているのは妙に古い洋楽。典型的なバーの雰囲気を醸し出していた。テーブルも床も綺麗に清掃されており、良い店だと一目で分かる。辺りを見回し、1人で待っている赤いマフラーの男はカウンター席で酒を傾けていた。まだ此方に気が付かないようなので、そっと近づいて声をかける。
「やあ。野口君」
 彼は驚き、笑顔を見せた。
「久しぶりだな、鳥野君。しかも鳥の帽子じゃないか。黄色いサングラスまで」
「鳥野帽子は復活したのさ。やはり私に帽子は欠かせないらしい」

 隣の椅子に座り、適当に目についた物を注文をした。野口君とプライベートで会う時は喫茶店が多かったので、バーでグラスを持った姿は妙に大人びている気がした。これ以上、先手を取られたくないという、ちっぽけなプライドが私に話題を持ち掛けさせた。

「最近、伊吹君はプロデュエリストになった万丈目準と会ったらしい。野口君も丸藤亮には用があるんじゃないのか?」
 彼はグラスの中身を飲み干し、机に置いてから言った。私は冷水を手に取る。
「俺とカイザーでは器が違う。あっちも決着を付けるべき人間が俺とは思っていないさ」
「ならば私が取って代わりたいが、キミとのデュエルは1年に1回と決めたからな」
「ははっ、そう言えばそうだ」
 カダール戦の直前、我々は理想的な形で1年に1度のデュエルを飾る事が出来た。次に戦える時が本当に楽しみだ。

「デュエ研にメンバーが増えたと聞いたよ」
(くろがね)ちゃんだ。苗字は滝沢だったと思う」
 名前は聞いていたが、どんな子かは知らなかった。
「胸の大きい子だ」
 口に含んでいた冷水から、ボコッと変な音が立つ。溢さずには済んだようだ。
「意外だよ。そういう所、野口君も見ているのか」
「……言い訳だが、女でもそう言うと思う。あれは」

 軽い談笑を終え、旅の途中から考えていた話題を切り出した。
「俺達が最初に会った時の事を覚えているかい?」
 言ってしまってから気が付いたが、これでは怪しい関係のような言葉だ。しかし野口君は気にせず言った。
「覚えているさ。あの時の鳥野君は、かなりの悪人面だったからな」
「ハハハ、言ってくれる」

 あれは我々が高校2年生の頃。
 デュエル・アカデミアが主催した、全日本の高校を対象にした大会の時だった。私と野口君は1回戦で対立した。赤いハチマキを巻き、少年のように真っ直ぐな熱い瞳を持った男だった――。



「角田君、伊井君! 俺に任せてくれ。絶対に勝って見せる!」
「絶対に勝つ? この私に? 今日の対戦相手は日本語をかじった外国人らしい」
 我ながら当時は野口君に酷い言い方をしたものだ。こういう所も、昔の伊吹君と昔の私は似ていたかも知れない。この時から来年、藤原君と伊吹君が大会で対峙したと思えると妙な縁を感じる。

野口【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−
鳥野【LP:4000】
手札:5枚
モンスター:−
魔法&罠:−

「私のターン。手札から大鳥獣−ポッポゥを召喚する!」
 此方側のフィールド上を埋めるほどの、巨大な鳥が現れる。

《大鳥獣−ポッポゥ》
★2 風・鳥獣族 ATK1700/DEF2750
その名の通り、巨大な鳥だ!!
守備力が反則並みに高いぞ。

「カードを1枚セットし、ターンエンド」
「俺のターンだ、ドロー! まずは神龍−バーニング・ドラゴンを召喚!」
 自信に満ちた笑顔で高らかに召喚する。全身が赤く燃え盛る、攻撃的な小型のドラゴンが現れた。

《神龍−バーニング・ドラゴン》
★3 炎・ドラゴン族/効果 ATK1600/DEF400
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
そのモンスターの守備力は0になる。

「神龍? 見た事のないカードだな」
「そして魔導師の力をバーニング・ドラゴンに装備し、カードを2枚セットする!」
 この時の野口君は自身の才能に任せたデュエルをしていた。だが彼は変わり、成長し、類稀なる才能を技術へと変えた素晴らしいデュエリストとなった。彼の劇的変化に比べれば、私の成長などちっぽけな物だ。

《魔導師の力》装備魔法
装備モンスターの攻撃力・守備力は、
自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚につき
500ポイントアップする。
野口【LP:4000】
手札:2枚
モンスター:1体
《神龍−バーニング・ドラゴン》ATK1600→3100
魔法&罠:《魔導師の力》,セット2枚
鳥野【LP:4000】
手札:4枚
モンスター:1体
《大鳥獣−ポッポゥ》ATK1700
魔法&罠:セット1枚

「ポッポゥに攻撃! バーニング・ブラストッ!」
「ぬうッ!」

鳥野【LP:4000→2600】

「だがエンドフェイズ時にトラップカード、フェニックス再誕を発動。デッキからカードを1枚ドローし、自分の手札1枚を破壊する」
 ネフティスの鳳凰神が炎の中から蘇る直前を描かれた、美麗なイラストのカードだ。

《フェニックス再誕》通常罠
デッキからカードを1枚ドローし、
その後手札からカードを1枚破壊する。

「1枚ドローして手札を1枚破壊? 強欲な瓶でも使った方がいいんじゃないのか」
「今に分かる。私のターン! スタンバイフェイズにより、墓地からネフティスの鳳凰神を特殊召喚だ!」
 今でも私の心強い相棒、ネフティスの鳳凰神。炎の粉を飛ばし、その気高き姿をフィールド上に現出させ、美しく鳴く。

《ネフティスの鳳凰神》
★8 炎・鳥獣族/効果 ATK2400/DEF1600
このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ
送られた場合、次の自分のスタンバイフェイズ時に
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、
フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

「効果発動! フレイミング・エタニティ!!」
「な、何っ!」
 ネフティスは復活の際、大嵐と同等の効果が発動する。当然、野口君は魔導師の力の効果を失い、2枚のセットカードも失った。
「神龍−バーニング・ドラゴンに攻撃だ!」
 天を舞い、突撃して炎の龍を撃破する。

野口【LP:4000→3200】

「くっ……」
「ターンエンド」

野口【LP:3200】
手札:2枚
モンスター:−
魔法&罠:−
鳥野【LP:2600】
手札:5枚
モンスター:1体
《ネフティスの鳳凰神》ATK2400
魔法&罠:−

「俺のターンだ、ドロー!」
 野口君はネフティスの対処に困った様子だった。今でこそ耐性モンスターへの対抗手段が増えたものの、当時のネフティスはほぼ無敵に近い効果。効果による破壊は可能だが、根本的な解決は出来ない事への葛藤。それでも野口君は立ち向かった。
「神龍−ヘル・ドラゴンを召喚し、手札から地割れを発動!」

《神龍−ヘル・ドラゴン》
★3 闇・ドラゴン族/効果 ATK1300/DEF700
フィールド上に表側攻撃表示で存在する
このカードはカードの効果では破壊されない。
《地割れ》通常魔法
相手フィールド上に表側表示で存在する
攻撃力が一番低いモンスター1体を破壊する。

「フッ。ネフティスを破壊しても無駄だ。不死鳥は何度でも蘇る」
「攻撃だ!」

鳥野【LP:2600→1300】

 懸命な攻撃宣言に、ドラゴンが共鳴して攻撃する。たとえ今以上に未熟な私でも、彼の狙いには気が付いていた。ネフティスがいない間に攻撃を何度も通し、私を倒す作戦。それが読め、この攻撃を受けた時、私は手札のカードを見て勝利を確信していた。

 この時はまだ、私は気が付かなかった。

「私のターン。墓地より再びネフティスの鳳凰神を蘇らせる!」

《ネフティスの鳳凰神》ATK2400

「さらに装備魔法、彩鳥(あやとり)を装備する!」
 ネフティスの全身は更に美しい色彩になり、その効果を高める。

彩鳥(あやとり)》装備魔法
鳥獣族モンスターのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力と守備力は
1500ポイントアップする。
装備モンスターは戦闘及びカードの効果では破壊されない。
《ネフティスの鳳凰神》ATK2400→ATK3900


「神龍−ヘル・ドラゴンに攻撃! 不死の炎で全てを焼き尽くせ!」
「くぅっ……!」
 これで野口君のライフポイントは大幅に削られ、700となった。早すぎた埋葬や洗脳−ブレイン・コントロールの発動コストを払う事が出来ないのは大きい。

野口【LP:3200→700】
手札:1枚
モンスター:−
魔法&罠:−
鳥野【LP:1300】
手札:5枚
モンスター:1体
《ネフティスの鳳凰神》ATK3900
魔法&罠:《彩鳥》

「鳥野君だっけ。あんた、強いな」
 彼の不敵な笑顔に私は正直、何も言えずに面を食らった。デュエリストとして、いや、人間として私とは違う。それは自分の尖った心が少し、丸くされたような感覚だった。そして半年前のあの時、カダールが言っていた事は私にもよく解る。我々の中で最もデュエルキングに近いのは間違いなく、野口君だ。
「俺のターン、ドローッ! 手札から神龍−ブリザード・ドラゴンを召喚し、神龍蘇生を発動! 墓地から神龍−バーニング・ドラゴンを蘇らせる!」

《神龍−ブリザード・ドラゴン》
★3 水・ドラゴン族/効果 ATK1400/DEF600
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
《神龍蘇生》通常魔法
自分の墓地からレベル4以下の「神龍」と
名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
《神龍−バーニング・ドラゴン》ATK1600

「これが神龍の融合する力だ! 炎と氷を融合させ、神龍−フレイムブリザード・ドラゴンを融合召喚する!」
 フィールド上の2体の神龍が中央で渦を巻いて姿を消す。全身が調和良く炎と氷に合成された、2枚羽の中型ドラゴンへと姿を変えた。

《神龍−フレイムブリザード・ドラゴン》
★7 炎・ドラゴン族/融合 ATK2300/DEF2000
「神龍−ブリザード・ドラゴン」+「神龍−バーニング・ドラゴン」
自分フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、
融合デッキから融合召喚が可能
(「融合」魔法カードは必要としない。この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードの特殊召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在するカード1枚を除外する。

「攻撃力2300か。それでは私のネフティスに勝てないぞ!」
「神龍−フレイムブリザード・ドラゴンにはカード1枚を除外出来る効果がある! 俺が選択するのはネフティスの鳳凰神だ!」
「何っ!」
 赤く光った瞳のフレイムブリザードはネフティスを氷付けにし、炎で全てを溶かし尽くす。
「鳥野君へダイレクトアタックだ!」


鳥野【LP:0】


 注文した食事は意外に早く来た。良い香りのボルシチだ。
「私はあのデュエルで心に響く何かを感じ取った。それはカダールも同じ。野口君はデュエルを通して心で訴えかけ、カダールの時は最後の最後で、キミは言葉でも伝えた。その何かこそ、“友達”という存在だ」

 野口君の前だと私は饒舌になる。伊吹君も藤原君に対してはそうなるのだろうかと思いながらも、やはり言葉が出ていた。

「だから野口君は誰よりも早く、カダールと友達になった。それはキミがデュエルを通して彼の気持ちを理解し、言葉にしたからだ。俺はキミと会った時もカダールの時も、友達になろうと行動までは出来なかった。俺がこの事で野口君への劣等感を感じていたなら、伊吹君も藤原君に対して常に1歩先へ進むライバルの存在が、悩みの種の1つだっただろう」
 カコン、と氷が合図を出しているように鳴る。

「藤原君が幸花町から離れる事は聞いたよ。彼に背中を押されて、私も自分の気持ちに決心がついた。私は今の大学が終わったら、本格的に全国へ旅に出る。最初は今までやって来た積み重ねが無意味のような気がしたが、そうじゃない。意味はあったんだ。野口君も海外に行ったのなら分かるだろう? この地球にはまだ知らない多くのものがある。写真で見ただけでも壮大なんだ、実物の大自然を見た時は腰が抜けそうなくらいに震えたよ。鳥は自然の全てを知り尽くしていた。私はただ純粋に、澄んだ空気と山に住む小動物達、大自然と動物に感謝したいんだ。フフッ、格好を付けた自分勝手な考えだろう?」

「鳥野君は自分勝手なんかじゃないさ。俺とは違う」
 店の壁に飾られた大きな抽象画を見ながら、野口君は呟くように話を始めた。

「さっき言った大会の続きだ。あの後、2回戦の角田君も難なく勝つ事で勝負は決まった。この時点で2勝したから3回戦は行なわず、幸花高校が勝ち進んだ。そして準決勝で俺達はJデュエルハイスクールと当たってしまった。1回戦、俺は刃金沢に完敗した。慢心もあったが当時は実力でも負けていたと思う。2回戦の角田君も負け、幸花高校の戦いはそこで終わった。伊井君は結局一度も大会という舞台でデュエルする事が出来ず、友達であった角田君に怒りの矛先を向け、先輩だった俺にも向けた。先輩後輩の物差しで言うんじゃない。ただ普段は先輩を敬う彼の、いつもと違った言葉と態度が重かった」

 …………。

「伊井君は怒りを原動にJデュエルハイスクールへと転校し、己の実力を見せ付けるようにレギュラークラスへ這い上がった。そして来年度の大会。俺はデュエ研に賢治を加え、再び大会に出た。だが俺は最初に出しゃばる事をやめた。賢治と角田君が一本勝ちすればそれで良いし、どちらかが敗戦してもあの時のように黒星を付けてたまるかと自分を追い込み戦った。でも本音は、俺が負けてもどちらかは俺を責められない立場になれるからと逃げていたのかも知れないな」

 驚いた。今の今まで、そんな事は1度も聞いた事がなかった。

「俺は中学生の頃、近所のオバさんに憎まれる事をやってしまった。今でも自分が悪いと思いたくない。そいつが俺を憎んでいるから、俺は反発するように憎んだ。憎まなければ重圧に押し潰されていたんだ。でも今なら。今なら、ほんの少しだけ許せると思う。この経験のおかげで俺は昔に比べて我慢強くなれた。そういう意味では感謝したい気持ちだってある。でも、奴が俺を許す事は永遠にない。奴は俺という失敗の存在から何も学んじゃいないんだ。いや、あったとしてもただマイナス面でしか考えていない。こんな奴とはもう関わらないと思う程度の事だ。細かい事を気にしているのは自分でもよく分かっている。こんな事を考える必要がないのも理屈では分かる。でも俺は相手が誰であろうと憎まれたまま生き続けるのが、苦しい」

 中身のないグラスを持つ野口君の手が震える。声は既に硬くなっていた。長い前髪が目元に掛っていて彼の目が見えない。私は今、理解した。あの時、赤いハチマキを巻いた純粋に熱い男なんていなかったんだ。いたのは心中が煮えくり返るほど付けられた傷を抱え、自分自身を偽った人間だったんだ。野口君は口を開きかけ、ゆっくり閉じる。続きを言おうとしたのか。私の探るような様子に気が付いたのか、余裕を持って自嘲するように笑った。今は言うべき時ではない……か。

「鳥野君が思っているほど、俺は寛容じゃないさ。確かに鳥野君とカダールには友達になろうと心で伝えたのは本当だ。だがそれも、2人が俺をその気にさせる心があると判断したからだ。俺は俺の事を好きになってくれない人間が嫌いじゃない。大嫌いなんだ。酒が飲める年齢になっても変わらない。変われない。俺はまだ、大人になれない」
 私は噤み、何も言えなかった。後になっていつも思うパターンだ。この時、私は野口君に何を言えば良かったんだろうか。

「覚えているか、鳥野君。カダールは最後に『紅ちゃんとの約束だった』と言っていた。気になった俺は紅ちゃんに何の事かを聞いたんだ。『幸恵ちゃんに謝ったら、あなたのやった事を許す』そう言ったらしいんだ。カダールはその言葉を信じ、幸恵ちゃんに謝った。心の奥底から。そして紅ちゃんだけじゃない、最後は誰1人としてカダールを憎んだりしなかった。あいつにはその価値があった。俺はどうなんだろうな」
 再び微笑し、野口君は続けた。
「さっきの事は賢治にも言わなくちゃいけない。詳しい事はその時に話すさ」
「分かった。無理はするなよ、野口君」

 注文で運ばれたグラスを取り、2人で乾杯する。
 何も言えなかった。それでも1つだけ自信があるんだ。
 野口君が思うほど、大人になるのは決して難しい事ではない。
 キミが正しいが故に、嫌われてしまう事だってあるんだ。
 夢や希望を捨て、心から笑わなくなる事が大人ではない。
 それは藤原君と幸恵ちゃんが証明しているじゃないか。
 私が確固たる信念を持ち、野口君にそう言えたのは――そう、随分と先の事だった。








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