エッチ検定3級!?

製作者:kunaiさん





 ※タイトル通りなので、苦手な方はお気をつけください。




1.俺は赤木昌海(あかぎまさみ)

「ぬあああああああっ! 俺の禁じられた精巣がああああああああっ!」

 赤木昌海は一人、自分の部屋で頭を掻き毟った。
 例えようのない苛立ちと衝動。喉の渇き。下半身の疼き。
 なぜ神はこのような試練を与えたのだ。昌海はひたすら苦悩する。
 いや、渇望しているのだ。
 エッチなことがしたい。エッチなことがしたい。エッチなことがしたい。
 ぬあああああああっ!

 小学生の頃、昌海は確かに無垢な少年だった。
 少年野球にも所属し、持ち前の運動神経で何度もチームを勝利に導いてきた。
 あの頃の純情少年はどこへ行ってしまったのだろうか。
 エッチなことの目覚めは確か、中学2年生の頃だ。
 ほんの1年前のはずなのに、理由はあまり覚えていない。
 たぶん、インターネットのエッチ画像だったと思う。
 やはりインターネットは青少年に悪影響を及ぼす! 規制すべき!
 覚醒から1年が経った今も、とにかくエッチなことがしたい。
 もし自分が美少女に転生したら、年頃の男には絶対に近づかないだろうと思う。
 男はケダモノだ。誰もがこんな衝動を抱えているのだ。そうに違いないのだ。
 ぬあああああああっ!

 昌海は机の引き出しから小学校の卒業アルバムを引っ張り出し、ページをめくり始めた。
 小学校の卒業からまだ3年も経っていないというのに、卒業アルバムは手垢で小汚くなっている。

「しょ、小学生の優花、か、可愛すぎるっっ! ほっぺもやわやわのふにふにで、おっ…………うひぃっ! はふぅ! うぐあぁぁぁっ! ゆ、ゆゆっ、優花っ! 優花っ! 優花っ! 優花っ! 優花っ! 優花っ! 優花っ! 優花ああああああああああぁぁ〜〜〜〜!!!!」



2.幼馴染は菊野優花(きくのゆうか)

「ふー」

 一息ついた昌海は卒業アルバムを引き出しにしまい、風呂場へ向かう。
 日課をこなした後はシャワーを浴びる。それが昌海のポリシーだ。
 上着を脱いで洗面台の鏡でポーズを取り、自分の筋肉を確認する。
 胸板はそこそこ厚くなっており、腹筋も薄っすらと割れていた。

「これなら優花も満足してくれるだろう。気合を入れなきゃな!」

 全てを脱ぎ捨て、風呂場へ入る昌海。
 今日のシャワーは熱めでいこう。蛇口を捻ると男の裸体に湯が注がれた。
 昌海は今日のために日々、筋肉トレーニングを続けて身体を絞ってきた。
 食事にも気をつけ、大好きなコーラもスナック菓子も我慢した。
 毎日の運動と食事の制限は想像以上に苦しかった。挫折したかった。
 そんなときはいつも、優花が自分の筋肉にうっとりするところを想像して心を奮い立たせた。
 優花も最近はより綺麗になっている気がするし、自分も負けてはいけないんだ。
 エッチのためならどんな努力も惜しまない。
 だってそうしたほうが、カッコいいじゃないか!

 あれは、3ヶ月ほど前のことだろうか。
 父親がしまい忘れていた全3巻の漫画「エッチ検定3級」が全ての始まりだった。
 漫画の主人公は中学3年生。つまり自分と同じ年齢というわけだ。
 これだけでも惹かれるものがあり、昌海は一気に読破した。
 メインキャラクターは主人公と幼馴染み。
 男女を意識し始めた2人はやがて、些細な誤解ですれ違ってしまう。
 最後には無事に誤解が解け、エッチなことをして相思相愛になるという物語だった。

 読んでいる途中からイライラした。いや、それよりもムラムラしていた。
 本を閉じて今すぐに実行したかった。
 俺も幼馴染の女の子と相思相愛になって、エッチなことがしたい!

 俺にはいる。家が隣同士で、同じ学校に通うクラスメイトの幼馴染の女の子が。
 菊野優花が!
 昌海は今になって思った。今までなんて勿体ないことをしていたんだ、と。
 幼稚園児の頃は幼馴染らしく2人で一緒に遊んでいた。
 なのに今ではただのクラスメイトだ。バカじゃないのか、俺!
 幼馴染の女の子がいるという境遇の男ならば、やらねばならないだろうが!
 今からでも遅くはない。昌海は決意した。優花にエッチなことをするぞ!

 とりあえずは場所の確保だ。
 どちらかと言うと、自分の部屋に呼び込むよりは優花の部屋に行きたい。
 幼馴染みなのに今まで部屋にも入ったことがなかったし、きっといい匂いがしそうだからだ。
 もちろん問題点もある。優花は父と母の3人暮らしであるということ。
 まずは優花ママと優花パパを確実に家から追い出さねばならない。

 昌海は少ないお小遣いで今日の日付の映画チケット2枚を購入した。
 これを優花ママと優花パパにプレゼントする。
 もちろん、渡すときの言い訳も完璧だ。

『部屋を掃除していると昔の写真を見つけたんですが、優花パパと優花ママの2人には本当にお世話になっていたんだなぁ、と思って。今は学生だから、これくらいしかお礼ができませんが……』

 と、半分くらいは本当の気持ちを込めて手渡したのだ。
 2人は何も知らずに喜んで受け取ってくれた。
 お義父さん。お義母さん。
 優花は俺が責任をもって、エッチなことをします。

 昌海の家は4人家族である。
 偶然か。それとも必然か。
 今日は昌海パパと昌海ママ、先月で22歳になった姉の3人が出かけることになったのだ。
 まさに完全なる2人きり。究極の2人きりだ。
 昌海は打ち震えた。やはり偶然ではない。必然なんだ。
 神は言っている。この日は優花にエッチなことをしなければならないと!

 シャワーを終えた昌海は予定通り、赤いシャツ1枚に紺のジーンズを選んだ。
 シャツ1枚なら簡単に脱げる。服を脱ぐのに時間が掛かってはならないのだ。
 そうだ、時間。昌海が壁掛けの時計を見る。
 ……よし。10分後に行こう。

「一応、計画を再確認しておこうか」

 昌海は目を閉じ、頭の中で妄想を始めた。

 ・
 ・
 ・

 まずは優花の家のインターフォンを押す。
 優花ママと優花パパは映画に行っているから、間違いなく優花が出るだろう。

「はい。菊野です」
「俺、俺。赤木だよ」
「あー、アカギ?」
「カタカナで呼ぶんじゃない。昔みたいに昌海って呼んでくれよ」

 昌海が中学生になってからというもの、同級生から漢字の「赤木」ではなく、なぜかカタカナの発音で「アカギ」と呼ばれるようになった。今では先生もアカギと呼んでいるような気がしている。……と、そんなどうでもいいことを考えているうちに、玄関先からパタパタとスリッパの足音が聞こえてくる。優花は足音もかわいいのだ。すぐに玄関の扉が開く。

「なに? なんか用?」

 まずは久しぶりに見る優花の私服に感動する俺。予想では、優花はピンク色の子供っぽい感じのパジャマを着ていると思う。ここで俺は優花の目をじっと見つめる。優花は頬を赤く染めて目を泳がせる。何かを言いたそうに口を開くが言葉が出ない。そこで俺がこう言う!

「優花、好きだ! 俺と結婚してくれ!」
「ばかっ……! 幼稚園のときから、ずっとずっと、待ってたんだから……!」

 優花が涙を流して俺に抱きつく!
 ドラマだとBGMの音量がドンと上がる瞬間だ。
 だが俺からはまだ抱きしめない。ここがポイントだ。
 優花の両手が俺の身体を抱きしめたあと、ここで初めて俺が優花の身体に手を回す!
 そして優花は俺に抱きしめられた安心感で甘い吐息を漏らす。

「私も昌海のこと、好き。私にエッチなこと……して……」
「ああ。俺に任せろ」

 ・
 ・
 ・

 くおおおおおおおお〜〜〜〜っっ!!
 おっ。おっ。おっ。おっ。
 昌海はよからぬ妄想を始めた。



3.優花に告白!

「(予定より8分も遅れてしまった……)」

 現実に戻った昌海は自宅の玄関を出て戸締まりする。
 ここからは現実での戦いだ。リセットはない。コンティニューもないのだ。
 あ〜、セーブしてぇ。
 もう優花の家だ。まずい。緊張してきた。でも、ここで辞めてどうする!?
 これは武者震いだ。そうに違いないのだ。昌海は震えた手で思い切ってボタンを押す。
 だぁぁぁ〜〜〜! 押してしまった!

「はい。菊野です」
「お、おれ、俺。赤木だよ」
「あー、アカギ?」
「カタカナで呼ぶんじゃない。昔みたいに昌海って呼んでくれよ」

 昌海は若干、落ち着きを取り戻した。「アカギ」読みまでバッチリだ。玄関先からパタパタとスリッパの足音が聞こえてくる。優花のかわいい足音も計画通り。全ては順調に進んでいる。何の心配もない。玄関の扉が開くタイミングも計画通りだ。

「なに? なんか用?」

 久しぶりに見る優花の私服姿。予想ではピンク色の子供っぽい感じのパジャマだったが、普通の私服だった。女の子のオシャレとか、ブランドには全くの無知だから分からないけど、これはパーカーだったかな。いやいや、そんなことはどうでもいい。予定と違うんだ。やばい。やばいぞ。混乱してきた。

「優花っ! おれ……」
「?」

 昌海はつい、視線を優花の顔から胸元へ移してしまった。
 中学生にしては大きいのかな。小さいのかな。
 もみもみしたら柔らかそうだなぁ。ふにふになんだろうなぁ。
 健康な男子にとって、同級生の女の子の胸は憧れの存在だ。夢だ。浪漫なのだ。
 帰りたくても帰れない、夕暮れの放課後。
 全てが眩しかった、学生生活。
 って俺はまだ中学生だろうが!
 喉をごくりと鳴らす昌海。
 ぬあああああああっ!

「おっぱい吸わせてくれ」

 昌海の頬に、強烈なビンタが炸裂した。



4.抱っこしていい?

 昌海は階段を登りながら、ヒリヒリと痛む頬を撫でた。
 顔を上げ、少し上を歩く優花に向かって言う。

「いいのか優花? 俺を部屋に上げたりして」
「なんで?」
「なんでって。男はケダモノなんだぞ。気をつけなさい、だ」
「あなたって、そーゆー男だったの?」
「……そんなことないぞ」

 昌海は思った。
 優花が自分の部屋に招き入れるということは、信頼されているってことなのだろうか。
 いや、信頼どころではない。やっぱり俺のことが好きだったんだ!

「うぉっ!」

 昌海は優花の部屋に足を踏み入れて衝撃を受けた。部屋がとても綺麗に片付けられている。
 小学生の頃から大事に使っていたであろう、木製の学習机と椅子。
 棚や机に置かれた雑貨は綺麗に並べられており、ちょっとした雑貨店のようだ。
 花柄のカーテンも部屋の可愛らしさを演出している。
 なにより、なんだかいい匂いがする。これが女の子の部屋ってやつか!

「こ、これは!」

 ベッドの上に抱き枕があった。
 といっても、ホームセンターで売ってそうな絵柄のない無地のものだ。
 優花が昌海の目先に気がつく。表情や仕草に変化は特にない。

「別にいいでしょ、抱き枕くらい。結構寝やすくなるんだから」
「ちょっと抱っこしていい?」
「ダメに決まってるでしょ!」

 優花がベッドの上に座った。昌海はその隣に並んで座ろうとすると、優花が顎で床を指さす。
 ここで逆らったら『そーゆー男』になってしまう気がしたので、仕方なく従う昌海。
 床にちょこんと座る姿はまるで、雨に打たれる子犬のようだ。

「で、本当はなんて言おうとしてたの?」
「それは……」

 昌海は計画の内容を洗いざらい話した。
 さっきはつい間違えてしまったけど、本当は優花に好きだと告白するつもりだったこと。
 優花は嬉し涙を流し、昌海を受け入れること。
 優花も幼稚園の頃から昌海のことが好きで、告白をずっと待ち望んでいたこと。
 素直になった優花は私にエッチなことをしてと、おねだりすることを。

「…………」

 話を終えて顔を上げる昌海。優花は眉をひそめて半目になっていた。
 あぁ、そんな目で俺を見ないでくれ。昌海は身悶えそうになる。

「あなた、本当に幼稚園の頃から脈があったと思ってたの?」
「ない?」
「ない。好きとか言っておいて、本当は私の体だけが目的なんでしょ」
「違う! 俺は愛のないエッ……」
「正直に白状したら、これを抱っこさせてあげてもいいけど」
「優花の抱き枕!? い、いや、それでも嘘じゃないぞ!」
「信じられない」
「くっ! ならば最近の流行、坂本デュエルで証明してみせる!」



5.最近の流行! 坂本デュエル!

 優花と昌海は近場の大型スポーツクラブ施設へ向かった。
 今、坂本デュエルは全世界で空前絶後の大ブームを巻き起こしている。
 この施設には坂本デュエル専用のデュエルフィールドがあるのだ。

 坂本デュエルは必ず、体育館1つ分の広い場所で行われる。天井も同じくらい高い。1ルーム1時間を無料サービス券でレンタルした2人は、坂本デュエルでの必需品である「坂本デュエルベルト」を腰に巻きつけた。デュエルベルトは特撮ヒーロー物でありそうなデザインで、ベルトのバックル部分にはカードデッキの挿入口とモンスターカードを使用するスペースが1つ。

 そう。カードを使う場所は、ただ1つでいい。

 デュエルベルトに故障がないかを目視で確認。次はカードデッキの準備だ。昌海は自販機から40枚にまとめられたカードの束を1つ購入した。裏面は普通のカードと同じものだが、表面にはイラストやテキストがなく、白紙になっている。坂本デュエルで使用するデッキは40枚の白紙のカードだ。優花も自販機に100円玉を投入し、ボタンを押す。

「約束通り、昌海が勝ったら私にエッチなことしてもいいよ」
「いい覚悟だ! でも優花が勝ったら何を望むんだ?」
「今言ってもいいけど、私に負けるつもりなの?」
「じゃあ、優花の望みは聞かなくてもいい。このデュエルは俺が必ず絶対勝つからな!」
「昌海は私には勝てないよ。絶対に」
「俺は必ず絶対勝てる!」
「なんで?」
「なぜなら俺は幼馴染の女の子がいるという境遇を持った、主人公にふさわしい男だからだ!」
「あ、そう」

 昌海と優花は5メートルほどの距離を取って向かい合う。
 2人はカードデッキを持った左手を突き出し、同時に宣言する。

「デュエル!!」

 2人のデュエルベルトにカードデッキが装填されると、室内の空気が一変した。
 変化したのは室内の空気だけではない。昌海と優花も変化していた。
 外見こそまだ変わらないが、全身から気力が溢れている。
 ジャンプをすれば空高く飛べ、地面を叩けば容易く粉砕できそうな、常識を覆す力が。

昌海【LP:2000】
優花【LP:2000】

 坂本デュエルはライフポイント2000、初期手札0枚から始まる。
 昌海は右手の中指と人差し指に己の魂を込め、カードデッキに置く。
 まるで魂を吹き込んでいるかのようだ。優花も同じように構える。

「ドロー!!」

 お互いが同時に、デュエルベルトに装填されたデッキから1枚のカードを引く。
 カードを引くとデュエルベルトが電子音を発し、一瞬だけベルトのランプが点灯する。
 白紙だったカードにはいつの間にかモンスターカードの絵柄と攻撃力が印刷されていた。
 坂本デュエルに守備表示はなく、レベルもモンスター効果も魔法も罠もない。
 必要なのは、モンスターカードのイラストと攻撃力のみ。

「俺のカードはこいつだ! 炎の剣士!」
「私はクィーンズ・ナイトのカード!」

 昌海と優花がカードをデュエルベルトにセットすると、2人の服装が覆われるように変化する。
 昌海は炎の剣を持つ雄々しき闘士、炎の剣士の姿へ。
 優花は赤い鎧を身に纏う美しき騎士、クィーンズ・ナイトの姿へ。
 坂本デュエルでバトルするのはモンスターカードではない。
 モンスターの衣装を借りた、プレイヤー自身なのだ。
 そしてプレイヤーの衣装が変わったとき、バトルは始まる。

「行くぞ優花! うおおおおおおっっ!!」

 昌海は炎の剣をぎゅっと握り締め、人間離れした速度で優花に向かって走る。
 炎の剣は横に大振りされるが、優花は真上に数メートルの高さを跳躍。
 昌海の背後に回った優花はクインソードを振る。
 昌海は腹部にクインソードを受けつつも、渾身の力を込めて炎の剣を振り下ろした。

「きゃっ!」
「のあああっ!」

 バトルの終了後、戦闘による衝撃でお互いの身体は吹き飛び、変身が解除される。
 炎の剣士の攻撃力は1800。クィーンズ・ナイトは1500。
 その差、300ポイントが優花のライフポイントから引かれた。
 先手を取った昌海はしたり顔で優花を見る。

「どうよ? 俺の攻撃は?」
「うぬぼれないで。デュエルベルトの故障よ」

昌海【LP:2000】
優花【LP:2000→1700

 坂本デュエル。
 それは科学の天才、坂本博士によって提唱された新たなデュエルである。

 本来、公平であるべき討論(ディベート)は既に限界が来ていた。
 政治、会社、学校、家庭内での討論は全世界で崩壊を起こしている。
 なぜか。人間はあくまで、感情の生き物であるということだ。
 感情を剥き出しにした言い争いはただの戦争だ。手がつけられない。
 そこで勝つものはいつも力のある者だ。
 社会的地位を利用した権力の差。女性と男性。子供と大人の力の差。

 これはよくないと思った坂本博士は約2ヶ月の研究を経て、ついに人の思いや感情の量を読み取り、数値化できる新世代マシンの発明に成功した。もちろん、これだけでは不十分だ。このままでは数字で負けたほうが逆上し、新たな暴力を生み出しかねない。ならば暴力と討論が一体となれば解決できるのではないか。拳を交えた2人が草むらの上で『お前、強いな』『そういうお前もな』と言い合えるような、あの綺麗な終わり方ができないだろうか。

 坂本博士はそれをも可能にした。

 まず、坂本デュエルの最中ならば老若男女が平等に特撮ヒーロー並の身体能力を得ることができるようになった。5歳の幼女が成人男性を吹き飛ばすことも可能であり、足腰の弱った高齢者でもガゼルのように俊敏な動きができるようになる。

 しかも坂本博士の天才的技術によって、デュエル中で発生する肉体への負担や痛みはなぜか全く発生しない。これによって男性であっても女性と戦いやすく、大人であっても子供と全力で戦うことができるのだ。にも関わらず、デュエル中は人間の奥底で眠った熱い心を呼び起こす成分が体中で分泌され、ストレス解消にも非常に有効なのだ。

 試作段階では「坂本ファイト」という名称で、気持ちが強いほうが殴り合いに勝てるというものだった。しかし坂本博士が最近はカードゲームが流行っていると聞き、そのギミックを投入。これが最近の流行、坂本デュエルの全貌である。

 坂本デュエルは広い場所を確保し、デュエルベルト、そして40枚の白紙のカードを用いて戦う。プレイヤーがカードを引く瞬間、プレイヤー自身のバイタルサイン、つまり「人の心」を感知し、攻撃力とイラストが自動的に印刷されるという、至ってシンプルなシステムを使用している。なお、坂本デュエルで印刷されたカードは自由に持ち帰ってもよい。

 同時にカードを引き、同時にカードを出し、同時に戦闘し、それを繰り返す。文面にすれば底が浅く陳腐なものだが、そこには隠された数多の駆け引きがある。自分が強い意志を持つことは高攻撃力を叩き出す絶対条件ではあるが、言葉を使って相手に精神的なダメージを与えたり、動揺を誘うことができれば相手の攻撃力を大きく下げることもできるのだ。その逆もしかり、相手の言葉に惑わされない強靭な心も必要ということになる。だからといって反人道的な精神攻撃や、相手の話を著しく遮断した場合はペナルティとして此方の攻撃力は下がり、相手の攻撃力が上がってしまう。




 坂本デュエルで必要なものは心。日々鍛錬された心こそ、これ即ち勝利なり。




6.美味! 幼稚園児のおっぱい!

「俺のカードはエルフの剣士だ!」
「私は斬首の美女!」

 昌海が西洋風の鎧を身に纏い、剣を握る。
 優花のカードは斬首の美女だ。髪型はそのままだが、優花の服が水色の和服へと変わった。
 こうして手軽にコスチュームプレイを楽しめるのも、坂本デュエルならではの魅力と言えよう。

 さて、どういう作戦で行こうか。昌海はロングソードを構え、優花の出方を探る。
 優花は魔剣−ネックブレイカーを構え、真っ直ぐ昌海だけを捉えていた。
 優花の心が分からない。それでも1つ言えることは、優花が本気であるということだ。
 今の優花に小手先の心理戦や駆け引きは通用しないだろう。
 そもそも俺はバカだ。そういう系の主人公ではないのだ。
 頭を使った作戦など思いつくはずがない。
 とにかくゴリ押しで、自分の思いのままの気持ちを優花に伝えればいい。
 それが俺の作戦だ!

「行くぞ、優花! うおおおおっ!」
「来なさい、昌海! たぁっ!」

 昌海の剣は、優花の剣を。
 優花の剣は、昌海の剣を受け止めて、お互いに激しく押し合った。
 刃物同士で衝突する金属音が部屋中に響く。
 剣と剣で戦うときの必須シチェーション。鍔迫り合いだ。
 昌海は軽い深呼吸をして、一気に捲し立てる。

「俺は優花が好きだ! 学校で優花のことをいっぱい見て、いっぱい考えると、俺の心は優花でいっぱいになった! 友達と笑い合っているときの優花はとびっきりにかわいいし、学校の掃除だって面倒臭がらずにきちんとしているのを、俺は知っている! 優花の部屋も綺麗だったしな! 掃除のできる女の子はいい! 俺の幼馴染で、かわいくて、しかも性格もいい! これ以上の理由があるか!? いや、ない!」

「ないわけないでしょ!」

 優花は昌海の剣を上段に弾き、すかさず腹部へ蹴りを入れる。
 昌海の身体は壁まで吹き飛ばされた。お互いの変身が解除される。
 口元から血が出ているわけでもないのに、口元を拭って立ち上がる昌海。
 坂本デュエルは人の心を熱くする。
 心の底からの本音で闘わなければ勝つことはできない。

昌海【LP:2000→1800
優花【LP:1700】

「俺には優花でなければならない決定的な理由がある!」
「なんなの、それ!」
「……! それは……」

 昌海の表情が変わった。口を噤み、優花から視線を逸らす。
 まるで逃げるような視線の動き。
 今まで見たことのない昌海の雰囲気に優花は息を呑んだ。
 2人の戦闘が止まる。

「あれは俺達がまだ、幼稚園に通っていたときのことだ」

 昌海は静かに語り始めた。
 幼稚園児だった頃の優花は男の子よりも活発で、やんちゃな女の子だった。
 逆に昌海は女の子よりもおしとやかで、目立たない男の子。
 優花がいつものように昌海の家に遊びに行こうとして、家から飛び出したときのこと。
 昌海の家から1人の男性が玄関を開けて出てきた。昌海パパの友人である。
 彼が帰るときに発した一言が全ての始まりだった。

「またな、アカちゃん!」

 優花は早速、昌海パパに聞くことにした。アカちゃんって?
 昌海パパは笑って優花に説明した。「アカちゃん」とは自分のあだ名であること。理由は、苗字が「赤木(アカギ)」だから「アカちゃん」。子供だった優花は面白がって真似をして、昌海のことを「赤ちゃん」と呼び始めたのだ。もちろん、生まれたばかりの子どもを意味する「赤ちゃん」の発音で。

 昌海は耐えた。優花に何度も赤ちゃんと呼ばれても、僕は大人なんだと言い聞かせた。
 それでも執拗に赤ちゃんと呼ぶ優花に対して、ついに昌海が――。

「あーっ! 思い出した! いきなり私の服をめくって、おっぱい吸ったやつでしょ!」
「そうだ! 優花が俺を赤ちゃんって言うから、赤ちゃんらしく吸ってやったんだ!」
「普段は勝ち気な私だったのに、大泣きするから大騒ぎになった!」
「そうだ! あのときはすまない! だからこそ、俺はその責任を取らなければならないんだ!」
「思い出したら腹立ってきた! もぉ〜、絶対許さない!」

 優花はカードを使って変身するのも忘れ、俊敏な動きでパンチの連打を放つ。
 昌海も坂本デュエル中は特撮ヒーロー並の力を持っているので、その攻撃を確実に受け止める。

「待て! あれは優花だって悪いだろ!」
「言い過ぎたのはごめんなさい! でも死ねロリコン!」
「俺はロリコンじゃない! あれは2人とも幼稚園児の頃の話だ! じゃあ、幼稚園児が幼稚園児を好きになったら、ロリコンかショタコンになるのか! どーだ!? はい、論破! 論破ー!」
「昌海がロリコンなのは本当でしょ!?」
「違う!」
「うそ! 昌海は道を歩いているかわいい小学生の女の子を見つけたら、『がぁぁ、あんな娘とエッチなことしてぇなぁぁ』っとか思ってるんでしょ!?」
「思っている! ……だが、しない!」

 2人が同時に、バックステップで間合を取る。
 優花がカードを引こうとする直前、昌海が口を開いた。

「優花、俺は『エッチ検定3級』という漫画を読んだ。俺はこれを読んで今日この日、優花にエッチなことを申し込もうと決意した。だがこの本、主人公の男には全く共感できなかった!」
「……へぇ。なんで?」
「主人公は毎回、女友達とつるんでいるのに、幼馴染が男と歩いているのを見て浮気だと誤解するのは理不尽だからだ! しかも主人公は幼馴染と話し合うこともせず、一方的に悪者扱いし、自分は女友達とチューまでしやがった! 最後も結局、その事実を幼馴染に謝ってもなければ、白状もしていない! エッチシーンも全然ダメ! 自分のやりたいことばかりやりやがって、幼馴染のことを全然考えちゃいない! 俺が主人公だったら幼馴染を悪者扱いにしたり、騙したりもしないし、自分勝手にエッチなことをしない! だって、幼馴染の女の子だぞ! そんなおいしい境遇だったら、幼馴染を心の底から愛したいじゃないか!」

 昌海がカードを引き、ベルトに差し込む。
 煌めく稲妻の戦士、ギルフォード・ザ・ライトニングの鎧が昌海の全身へ装着された。
 優花は攻撃力がやや低めの白魔導士ピケルへと変身する。
 デュエルベルトは精密機械だ。一瞬の心の乱れであろうとも見逃さない。
 表情にこそ出さなかったが、優花は心の中では昌海の気迫にたじろいでしまったのだ。

「昌海は……昌海はどうして、そう思うの?」
「そうやって生きたほうが、カッコいいからだ!」

 昌海が叫びと共にライトニングセイバーを天に突き上げると、巨大な稲妻が剣に落ちた。
 優花も白魔導士ピケルの力では勝てないと悟ったのか、魔法杖を構えて防御に徹する。

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 ライトニングセイバーに宿った電撃力を波動に変え、優花の身体を壁に叩きつける。
 ギルフォード・ザ・ライトニングの攻撃力は2800。白魔導士ピケルは1200。
 その差、1600ポイントが優花のライフポイントから引かれた。

昌海【LP:1800】
優花【LP:1700→100

「あと一歩! 俺の気持ちが優花に届くまで、あと一歩だ!」

 優花は服の(ほこり)をはらって立ち上がり、口を噤んだままベルトからカードを引く。

「行くぜ、優花! 俺の超強力カードだ!」

 昌海は伝説の剣士、カオス・ソルジャーの鎧を身に纏った。
 その攻撃力は3000。並大抵のモンスターでは歯が立たない。

「この坂本デュエル、俺の勝ちだ! うおおおおおおっ!」

 振り下ろした剣が優花に直撃する寸前。
 優花はD−HERO ドグマガイへと姿を変え、右腕と一体化した剣を昌海の腹部に突き刺した。
 昌海が手に持っていた剣と盾が床へと落ちる。
 無音の室内に金属音だけが響いた。

昌海【LP:1800→1400
優花【LP:100】

「あ……あ……」
「昌海っていい男だよね。昌海にならいいかな、って少し思っちゃった。でも」

 カオス・ソルジャーの攻撃力3000に対し、ドグマガイは攻撃力3400。
 2人の変身は解除され、昌海は優花の足元に倒れた。
 優花は真正面を向いたまま昌海に告げる。

「でも、最初に言ったでしょ? 昌海は私には勝てない。絶対に」



7.明かされる優花の秘密

 昌海は優花に一度たりとも勝ったことがない。
 将棋も、デュエルも。
 幼稚園の頃も、小学生の頃も、優花は昌海よりも早く走った。
 中学生になったとき、昌海は優花よりも早く走れるようになった。

 でも、勝負をするには、2人の距離は離れすぎていた。

「俺は……勝てない……」

 ハッとなった昌海は素早く身体を起こし、優花から距離を取る。

「なぜだ!?」
「私も昌海のことが好きだから!」
「でえええええええっ!? 嘘だろ!?」
「ほんと」
「そ、それじゃあ俺の妄想通り、幼稚園の頃から俺のことを?」
「うぬぼれないで。その頃の昌海は私にとって、ただのシモベちゃんだった」
「シモベちゃん!?」

 優花は静かに語り始めた。
 あれは優花と昌海が小学5年生のときの運動会。
 最後の種目である組体操が全ての始まりだった。
 2人組のペアで1人が逆立ちをして、1人がその足を支えるという競技がある。
 組体操は基本的に男女別で行われるものだが、この競技だけは昌海と優花がペアになった。
 昌海が逆立ちをして、優花が足を支える役だ。

「そのときに、見えちゃったの」
「何が?」
「昌海のちんちん」
「なにぃぃぃ!! 俺の知らない間に、俺の禁じられた精巣があああああっっ!!」

 昌海は両手で頭を抱え、力の限り叫んだ。
 小学5年生といえば丁度、昌海が下着をブリーフからトランクスに変えた頃の時期。
 体操服は当然、半ズボン。逆立ちすれば隙間から中身が見えてもおかしくない。
 よく分からないが、恥ずかしい気分だった。
 やはり覗きや盗撮はいけない! 犯罪だ!
 でも優花は偶然見てしまったんだよな。ただの事故なんだ。
 なのに、どこか理不尽な気がしてくる。

「優花だけずるいぞ! 優花のも見せろ!」
「昌海は私のおっぱい吸ったじゃない!」
「でも、見てどうだって言うんだ!」
「初めて見たから衝撃的だったの。それからいつの間にか、昌海のことを意識するようになっちゃって」
「自慢じゃないが俺は女の子に声をかけられただけで『こいつ、俺に気があるな?』っと勘違いする系の男子だ! 断言できるが、優花からそんな感じは微塵もなかったぞ!」
「だって、バレないようにしてたもん」
「くっそおおおおお! もっと早く言ってくれれば、小学生の優花とエッチなことができたのに!」
「やっぱりロリコン!」
「違う! 好きな人のことは色々知りたいだけだ!」
「でも昌海は私には勝てないってば」
「優花のライフポイントはたったの100! この一撃で決めて見せる!」

 2人がベルトからカードを引き、姿を変える。
 昌海は両手にビーム状の剣を持つ、ミスティック・ソードマンLV6。
 優花は攻撃力が最高クラスの魔術師、ブラック・マジシャン。
 昌海は何も考えず無鉄砲に突進するが、“黒・魔・導”によって体ごと吹き飛ばされた。

昌海【LP:1400→1200
優花【LP:100】

「くそっ、なぜ削れない! デュエルベルトの故障か!?」
「昌海が勝ったら、昌海が私にエッチなことをする。それが昌海の望みだったよね」
「ああ……」
「私が勝ったら、私が昌海にエッチなことをする!」
「なにぃぃぃ!?」
「私は昌海にエッチなことをされるよりも、私が昌海にしたいから!」
「えっ!?」
「昌海が見たっていう『エッチ検定3級』って漫画、うちにもあるの!」
「ええっ!?」
「お母さん、ああいう漫画好きだから」
「えええっ!?」
「さっき、昌海は主人公の男に感情移入できない、って言ってたよね」
「お、おう……」
「私に言わせれば、幼馴染の女のほうが感情移入できない! 男は下等な生き物で、女である自分は素晴らしいと自惚れているんじゃないの!? 私、男よりも女のほうが優れていると思っている女が大嫌い! 主人公と幼馴染がデートで食事に行く話、覚えてる?」
「確か、割り勘がどうとかの」
「そうそう! 幼馴染の女が、『男なら食事代くらい奢ってくれればいいのに、案外ケチなんだな』って幻滅するとこ! ケチはどっちよ!? 主人公のことが本当に好きなら、そんなこと思うはずないじゃない! 私だったら全額払うくらい愛せるのに! ああん、もぉ〜、イライラする〜〜!」
「まぁ、世間では男が奢って当たり前って風潮だしな」
「昌海の言うとおり、エッチシーンも全然ダメ! でも男よりも女よ! なにあれ、都合良すぎ! 私もこの漫画を読んだらエッチなことしたくなった。でも私は男にエッチなことをして欲しいとは思わなかった。私は女として、男にエッチなことをする! 私はあのバカな幼馴染とは違うって証明したい! 私が幼馴染だったら主人公を、昌海を悦ばせることができると思う! だから毎日運動して少しでも良い体型にしたし、今日こそはと思って昌海の家を空けるために昌海のお父さん、お母さん、お姉さんの3人に映画のチケットを送ったのよ!」
「ええええっ!? 俺と発想が全く同じじゃないか!」
「いざ昌海の家に行こうと思ったら、いきなり昌海が来るんだもん。驚いたんだから!」
「こっちのセリフだよ!」
「私は昌海にエッチなことをしたい! だからこの勝負、私が勝つ!」

 2人がカードを引き、デュエルベルトへ挿入する。攻撃力700の格闘戦士アルティメーターとなった昌海がアルティメット・スクリュー・ナックルを放つが、今の優花には止まって見える打撃だ。優花は攻撃力900のレアメタル・ソルジャーを身に纏い、鉄の意思を込めた拳を昌海に叩きこむ。

「ぐあああああああっ!」

昌海【LP:1200→1000
優花【LP:100】

「昌海が勝てない理由はね、『エッチなことをする』と『エッチなことをされる』が同じ意味だから。昌海は私の本音を聞いて、別に負けてもいいかなって思っているでしょ?」
「なっ! 俺は勝ちたいと思っている!」
「うそ」

 狼狽する昌海。頭の中は完全に混乱を起こしていた。
 俺の物語は坂本デュエルを通して優花の悲しい記憶を拭い去り、
 最後は2人で幸せにエッチなことをする……ではなかったのか!?
 想定していた筋書きと違う!

「お、俺は必ず絶対勝つ! ドロー!」

 甲虫装機 ダンセルの衣装を身に纏い、インゼクトボウガンを装備する昌海。
 優花は異次元の戦士へと姿を変え、右手に剣を持って走りだす。
 昌海はダンセルスコープを使って目で追うが、機敏に動く優花の姿を上手く捉えることができない。
 来る。そう直感した昌海はインゼクトボウガンのトリガーを押した。
 射出された矢は確実に優花を捉える。が、優花が剣を斜めに構えて矢を弾いた。
 そのまま昌海は斬りつけられ、部屋の端まで吹き飛ばされる。

「ぐあああああああああ!!」

昌海【LP:1000→800
優花【LP:100】

「俺は……俺は……」

 昌海は今、優花よりも自分自身と戦っていた。
 優花の言うとおりだ。この勝負、勝っても負けてもいいんじゃないか。
 優花とエッチなことができるのなら、するのもされるのもいい。

 だが、かつてこれほどまでのピンチが世界中にあっただろうか。
 勝つ意味がないのだ。負けてもメリットなのだ。
 今日の晩御飯は何がいいか。
 どっちでもいい、というのが一番困ると言うじゃないか。
 つまり今の自分は一番困っている状況なのだ。
 だったらもう、優花のやりたいことをさせてあげればいい。
 優花は俺にどんなエッチなことをするのだろうか。

「俺は……」

 昌海は熱い心を忘れてカードを引いてしまう。しまった、と思ったときにはもう遅い。予想通り攻撃力の低いモンスター、N・グロー・モス。昌海が青白い全身タイツのような姿に変化し、非常に不気味な姿となる。その攻撃力は僅か300。デュエルベルトの故障などではない。これは昌海の心を正確に読み取った結果なのだ。

 優花は鞭を手にし、過激なボンデージ姿のモンスターカード、ハーピィ・レディSBになっていた。
 だが今の昌海に優花の衣装を楽しむ余裕はない。

 攻撃力300と攻撃力1800。
 この攻撃が直撃すれば昌海は1500のダメージを受けて敗北する。
 優花は棒立ちした昌海に向かって容赦なく、電撃鞭を叩き込む。

「はうううっ〜〜〜〜〜〜!!!!」

 昌海の恍惚とした断末魔が、デュエルルーム内に響いた。

昌海【LP:
優花【LP:100】



8.昌海と優花

 昌海は大の字で倒れたままピクリとも動かない。
 優花も何かがおかしいと察する。
 このデュエルルームの空気。
 まだ、デュエルが終わっていない。

「ふふふふふ! はははははははは!」
「どういうこと!?」
「神は言っている! まだ俺に戦えと!」

昌海【LP:65535
優花【LP:100】

「まさか、デュエルベルトの故障!?」
「行くぞ優花! うおおおおおおおおおっ!!」

 昌海が全力で優花に向かって走る。昌海の右拳を、優花は左拳で受け止めた。
 その衝撃で優花のデュエルベルトに亀裂が走り、ライフポイントに変化が現れた。

昌海【LP:65535
優花【LP:65535

 2人のデュエルベルトが煙を上げて爆発し、床へと落ちた。
 そう。坂本デュエルはデュエルベルトが故障しやすいという、大きな欠点を抱えていたのだ。
 優花は拳を受け止めたまま右拳を昌海に打つと、今度は昌海が左拳で受け止める。
 やがて2人の指と指は絡み合い、単純な押し合いになった。
 真正面からの衝突。2人の目と目が合う。

「俺達は間違っていたんだ、優花!」

「間違っていたって、どういうこと!?」

「俺は優花にならエッチなことをされるのもいいかなと思った! それが優花の愛情を受け止める形になるのなら、それでいいと!」

「ダメなの!?」

「ダメ! そこには大きな落とし穴がある! 落とし大穴だ!」

「なに、それ!?」

「男が女に食事代を奢るのは当たり前なんて、本当に男のことが好きならば女はそんなことを思わない。私だったら全額払うくらい愛せるのに。優花はそう言った!」

「うん、言った!」

「そこまで思える心を持った優花が、俺は大好きだ!」

「だから何!?」

「でも本当にそれでいいのか!? 優花にそこまで思われる男が、優花1人に払わせたりしても優花は何も思わないのか!? そんな男でもいいのか!?」

「そ、それは……」

「1人が背負うのもカッコいい! 誰かを守ってこそ、一流の男や一流の女になれるのかもしれない! だが優花が俺のことを思うように、俺も優花のことを思っている! だったら2人で割り勘したり、奢られたら奢り返す関係のほうが、心の通じ合った2人って感じがしないか!?」

「心の通じ合った2人、って感じがする! それじゃあ、もし、私が男の人と2人で歩いているところを昌海が偶然見てしまったらどうするの?」

「優花はそんなことしない! しないが、やむを得ず男と2人になる機会があるかもしれない! そのときは突撃する! 俺はエッチ検定3級の主人公とは違う! その場で立ち尽くして、優花が浮気をしていたと思い込み、腹いせに自分も浮気に走って女友達とチューする前に、まずは事実確認だ! これで誤解は起こらない! まぁ、そもそも俺には女友達なんていないしな! なんなら俺の携帯電話のアドレス帳、見るか!?」

「見ない! それよりも、昌海の持ってるパソコンのほうが見たい!」

「なんで!? あっ、大丈夫! 優花と相思相愛になったら、趣味のエッチ画像収集は引退するぞ!」

「どうせ小さい女の子の画像ばっかり集めてるんでしょ!? 見せなさい!」

「やだ!」

「やっぱりロリコン!」

「優花! 俺達の物語は、エッチ検定3級を読んだときから始まっていたのかもしれない。そして今日この日のために俺達は相手のことを思って、いくつもの準備をしてきた。そして今もこうして戦っている! 物語はもう終盤だ! この坂本デュエル、どっちが勝ったほうがいいと思う!?」

「私が勝てばエッチ検定3級のような結末にはならない! エッチシーンも濃厚になるだろうし、男性読者は女の本当の良さを知ることができると思う!」

「俺が勝ってもエッチ検定3級のような結末にはならないぞ! エッチシーンも濃厚で、女性読者は男の人はこんなにも愛に溢れているんだなって思わせられる!」

「でも本当に、どっちかでいいのかな?」

「よくない! 俺達は自分で自分の人生という物語を振り返ったとき、男が勝つ結末であっても、女が勝つ結末であってもダメなんだ! それはなぜか!?」

「エッチなことは自分1人がするだけじゃないし、自分1人でされるものでもないから!」

「そう! エッチなことは、2人で一緒にするものだからだ!」

「だってそういう結論のほうが、カッコいいじゃない!」

「あぁぁっ! それ、俺が言いたかったのに!」



9.エッチ検定3級!?

「よくやったぞ、せがれ! 優花ちゃん!」

 デュエルルームの扉が、男性の大声と同時に開かれた。
 他にも4人の人物が大きな拍手をしながら入室する。
 昌海と優花は繋いだ両手を慌てて離し、目を見開いた。

「おっ、オヤジ! おふくろ! あや(ねえ)!」
「お母さん! お父さんもなんでいるの!?」

 昌海パパ。昌海ママ。昌海の姉。優花ママ。優花パパ。
 昌海と優花の家族全員が揃っていたのだ。
 昌海パパがもう一歩、前に出た。

「2人とも、おめでとう。エッチ検定3級に合格だ!」
「エッチ検定3級!?」

 昌海と優花が同時に叫ぶ。
 昌海パパの手には「エッチ検定3級」のコミックスが握られていた。

「それは!」
「エッチ検定3級の試作教材だ。反面教師として楽しめただろう?」
「どういうことだオヤジ!?」
「今まで黙っていてすまなかったな、せがれよ」

 昌海パパとママ、優花パパとママが4人で頷き、首からぶら下げている職員証を取り出した。

「我々は公益財団法人 日本エッチ能力検定協会の者だ」
「公益財団法人 日本エッチ能力検定協会!?」

 昌海と優花はふと思い出した。
 そういえば子供の頃、親に職業を聞いても有耶無耶にされていたな、と。
 今度は昌海の姉が前に出る。
 髪はショートカットでモデル体型の、女性が憧れるタイプのお姉さんだ。

「15歳で3級を取得するなんてさすがね。マーくん」
「何がさすがだ! あや姉も持っているのか!?」
「もちろん。3級は私が20歳のときに、彼氏と坂本将棋でね」
「坂本将棋!?」

 坂本将棋とは科学の天才、坂本博士が提唱した新しい将棋だ。
 3年ほど前に全世界で空前絶後の大ブームを起こしている。

「成長したわね、優花」
「昌海くんなら優花を任せられるな。うんうん」

 涙を流しながら感動に浸る優花ママとパパ。
 優花はぽかんと開いた口が塞がらない状態だ。

「せがれ。優花ちゃん。エッチなことと科学の進歩は密接な関係にある。エッチなことも使い方次第で人を幸せにすることも、不幸にすることもできてしまうからな。我々の理念では未成年にエッチなもの見せないようにしたり、封印することは間違いとしている。未成年だからこそエッチと真っ直ぐに向き合い、正しき知識を育成することこそ、人類の繁栄と豊かな心を育むことだと信じているからだ。エッチの道はまだまだ広く、深い。今のお前達をビルに例えると、まだ地下1階レベルだ」

「私達がまだ……」
「地下1階レベル……だと……」

「男が女を思い、女が男を思う。エッチなことにおいて基本的かつ、最も重要なことだ。しかしエッチ検定3級に合格できる者であっても、いずれは気がついてしまうだろう」
「何に!?」
「男と女は違うということだよ。だが、ヒントはこれだけだ。その違いを知り、受け入れたとき、エッチ検定 準2級に合格することができる! これが全7巻の漫画教材、『エッチ検定 準2級』だ! その境地に辿り着いてみせよ! せがれ! 優花ちゃん!」

 昌海と優花は顔を見合わせた。2人とも呆れて物も言えないといった表情。
 バカバカしいと思っている。なのに、心の中では何かが燃え滾っているのだ。
 優花が表情を緩めて笑った。

「エッチなこと、まだできそうにないね」
「いや。俺達ならすぐできるさ」
「なんで?」
「なぜなら俺達は、公益財団法人 日本エッチ能力検定協会の息子と娘だからだ!」

 待っていろよ、エッチ検定 準2級!
 必ず絶対、合格してやるぜ!






 エッチ検定3級!? 完









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