売れるパックとは?
First update : 2004/1/18



 1.品切れのパックたち
私はパックをちまちまと買っていく。
一度に買うより、ワクワク感がたまらないからだ。

だが最近、私の地域では遊戯王の新しいパックが出ると、案外早くに売り切れる。
第3期になるまではそんなことはあまりなかったような気がするが…。

売り切れの兆候はユニオンの降臨から。
発売1ヵ月後にいつものお店に行ってみると(比較的大きな店でカードも多めに入荷している)、売り切れていた。
その時は、他の店にはまだ残っているようだし、仕入れを減らしたから品切れになったのかもしれないと思ったのだが…。

徐々に、売り切れ現象は顕著になってきた。
ガーディアンの力で余り気味になったのを最後に、それ以後は売れてきている様子。
混沌を制す者は2、3週間で8割方の店から姿を消した。
暗黒の侵略者はさらに早く売り切れた。
しっかりと記録をとったわけではないので、どれくらいで売り切れたかは正確には分からないが、売り切れたという事実は間違いない。

そして、天空の聖域は脅威のスピードで売れていくことになった。
発売日の木曜日から2日後の土曜日。近所の店で2パック購入。レジの奥にボックスはあったが、それはまだ20パックほどはあるように見えた。
次の日、同じ店に買いに行った。……売り切れていた。
このまま帰るのも悔しいので、他の店を回ってみた。また売り切れていた。次の店も売り切れていた。
4軒目にしてようやく購入できた。

休日も終わり火曜日。
帰宅途中で買える店も全滅していた。
その週末。
前の日曜とは別の方面で、他の用事ついでに買おうとしたが売り切れ。意地になって5軒回るハメになった。

売れすぎである。
混沌を制す者、暗黒の侵略者はしっかり売り切れているので、天空の聖域の仕入れは全体的に減ることはないはず。
加えて、天空の聖域の発売前、発売してだいぶ経っているパックでさえも売り切れている傾向にあったし、フリースペースで遊戯王をやっている人も増えてきた。
やはりうちの地域は人気上昇中。

人気上昇の要因には、ストラクチャーデッキ群の発売も大きいだろう。
だが、パックの質が上がってきたことも評価したい。
レアカードに実戦でも魅力的なカードが増え、さらにノーマルカードにザコと呼べるカードが少なくなった。
ノーマルカードしか入っていないいわゆるハズレパックでも、1枚はデュエルで使えるような強さや魅力を持つようなカードがあるのは嬉しいものだ。

ということで、次節以降で売れるパックについてのコラムを展開していこう。



 2.誰もがヘビーユーザーではなく
ヘビーユーザー。
小遣いの大半が遊戯王カードに消えているツワモノ。
その小遣い自体が多い大人なら、新パックの発売日に平気で何箱も買っていく。

「ユニオンの降臨」のパックに、海馬の使ったXYZシリーズがある。
それには、「X−ヘッド・キャノン」「Y−ドラゴン・ヘッド」「Z−メタル・キャタピラー」の他にも「XY−ドラゴン・キャノン」をはじめとする計7枚のキーカードがあった。
これらは全てレアカードであり、最も活躍できるように使うためには、最低2枚ずつは必要だ。

ある人が、ユニオンの降臨のパックを買った。
そのパックにはY−ドラゴン・ヘッドがあった。
その人は海馬のXYZに少し憧れていた。コンボカードであるリミッター解除も持っていた。

――XYZデッキを作ってみたい。

そう思った。
だが、よくよく調べてみると、本格的にXYZデッキを作るためには、X、Zだけでなく、XY、YZ、XZ、XYZなど、多くのレアカードが必要だと知った。
これらのレアカードは効率の良いシングルで集めても1万円を越え、箱買いすれば他のカードも集まる代わりに5BOXでも満足のいく量は得られない。
さあ、問題はここからだ。
もしあなたがこの人の立場だったらどうするだろうか。

多くの人の答えはこうだろう。

――諦める。

もしお金を3万円ほど持っていたとしても、諦める人は多いだろう。
仮に、手間暇かけてオークションサイトを回ったりトレード相手を探したりすれば、1万円でなんとかなりそうである、と分かったとしよう。
だが、それにかかる手間自体がわずらわしい、1万円でもゲームソフト購入などに回した方がいい。実際にXYZを買う人より、そう考える人の方が多いのだ。

XYZシリーズを実戦級で活躍できるほど集められた人は、全OCGユーザーの1割どころか1%もいるかも怪しいのだ。(ストラクチャーデッキ発売前の話だが)

だが、元々XYZシリーズは手に入れるのが難しい代表的なカード。
XYZシリーズより、入手難度の低いカードたちでも諦める人は多いことだろう。

例えば、デビルマゼラ。
これはデッキに3枚入れてこそ最大限に活躍できるカードだが、だからといってホイホイ3枚集められるものではない。
3枚あった方がいいと分かっていても、やろうと思えばできそうだと分かっていても、実際に3枚集める人は少ないのだ。

さらに話は進む。
最近必須カードとして浸透している、魔導戦士 ブレイカー、異次元の女戦士。
これらを持っていない人も珍しくない。
むしろ両方持っている人の方が珍しいかもしれない。両方持っているユーザーは、全ユーザーの2、3割以下だと思われる。
異次元の女戦士を3枚持っている人となると、さらに珍しいだろう。

サンダー・ボルトを持っていない人。
ネット上では珍しいのかもしれないが、実際はかなり多いだろう。
それどころか、現在入手可能なストラクチャーデッキにも入っているような、強欲な壺や人造人間−サイコ・ショッカーなどを持っていない人だって珍しくないのだ。



 3.ライト、ミドル、ヘビー
さて、ライトユーザー、ミドルユーザー、ヘビーユーザーの基準が、1シリーズにかけるパック購入数で決まるとしよう。
実際は、パックをたくさん買っても情熱の少ない人や、その逆の人もいるのだろうが、単純のためこのようにする。

ここで1シリーズにかけるパック数とその人数の分布はどうなるのだろうか?
これが分かれば、ライトユーザー、ミドルユーザー、ヘビーユーザーの基準と共にその分布の傾向が分かることだろう。

これを調査するため、このHPの週間人気投票を使って調べるのもいいだろうが、これには大きな問題がある。
それは投票する時点でライトユーザーははじかれてしまうこと。
つまり、OCGにかける情熱がライトなほど、人気投票に参加などしない。
それどころかインターネットができる状況であっても、遊戯王関連のHPにほとんどお邪魔した事がない人だって多いのだ。

正確なデータは簡単には得られないのだ。

インターネットの遊戯王サイト、特に掲示板やWEB日記を見ていると、ボックス買いをする人を良く見る。
なので多くのOCGユーザーは1BOX(30パック)以上買っているのではないか――そう思えてしまう。
だが、掲示板に書き込む人、日記を付ける人、彼ら自身が既にライトユーザーでない場合が多いのだ。ライトユーザーは、ROM(見てるだけ)の域を出ることすら少ないものであろう。

このため、以下のような分類基準を設けると――

ライトユーザー:1シリーズ辺り、平均0〜10パック程度買うユーザー
ミドルユーザー:1シリーズ辺り、平均10〜30パック程度買うユーザー
ヘビーユーザー:1シリーズ辺り、平均30パック以上買うユーザー

おそらくヘビーユーザーは1割程度。
ライトが5割、ミドルが4割。
ほとんど根拠のない推測だが、おおよそこれくらいだろうか。

これを元に以下の議論を行っていくことにする。



 4.各ユーザーの興味とその売り上げ
ライトユーザーのライト君、ミドルユーザーのミドル君、ヘビーユーザーのヘビー君がいる。
彼らは1シリーズにかけるパックの数が違う。
ライト君は1シリーズあたり5パック、
ミドル君は1シリーズあたり20パック、
ヘビー君は1シリーズあたり50パック、
だけ買うのだ。

ここでユニオンの降臨パックを例にとって考える。
3人とも、このパックのカードはXYZシリーズ以外にはほとんど興味がないとしよう。

XYZシリーズは全てレアカードである。

ライト君は高嶺の花と見て諦めた。他にいいカードもないので今回のパックは購入を見送った。
ミドル君も同じく諦めた。0パックと言うのも何なので5パックは買うことにした。
ヘビー君だけ燃えた。100パックも購入しXYZシリーズを揃えようとした。

この時の売り上げはどうなるのだろうか?
前節最後に仮定した、「ヘビー1割、ミドル4割、ライト5割」を元に、以下の条件を追加する。

ライト君には同じ志向の人が合計5人、ミドル君には同じ志向の人が合計4人、ヘビー君には同じ志向の人は彼1人だけいる。
つまり、ライト君5人、ミドル君4人、ヘビー君1人の、計10人がいるのと同じことである。

この10人で平均売り上げを計算してみる。(この計算はユニオンの降臨の例ではなく、最初に挙げた平均値から求めるものであることに注意)
平均的に、ライト君は5パック、ミドル君は20パック、ヘビー君は50パック買うので――
5×5+20×4+50×1 を計算すると、155パックになる。
つまり、155パック以上売り上げるパックは「売れるパック」、それを下回るパックは「売れないパック」と言うことになる。

このユニオンの降臨の例の場合は――
ライト君は0パック、ミドル君は5パック、ヘビー君は100パック買うので――
0×5+5×4+100×1 を計算し、120パックになる。
……あまり売れていないことが分かる。

次に、暗黒の侵略者のパックを例に取る。
ここで、ライト君、ミドル君、ヘビー君にとっては、ノーマルカードの「激昂のミノタウルス」と「地砕き」以外にはあまり興味がないと仮定しよう。

この時、ライト君にとっては欲しいカードがノーマルということで10パックも購入。
ミドル君はいつも通りに20パック購入。
ヘビー君は気が乗らずミドル君と同じく20パック購入。

この場合の売り上げは――
ライト君は10パック、ミドル君は20パック、ヘビー君は20パック買うので――
10×5+20×4+20×1 を計算し、150パックになる。
この場合も売り上げは平均より低いが、ユニオンの降臨の例よりは増えていることになる。

これらの例は単純に1つの要素のみに着目した計算であるので、単純にそれが全てとは捕らえてはいけない。このような傾向にあるというだけだ。
だが、これだけは声を大にして言える。

1シリーズのパックには、ライトユーザーとして興味を持たせる要素、ミドルユーザーとして興味を持たせる要素、ヘビーユーザーとしてとして興味を持たせる要素がそれぞれ必要である。
どれか一つのユーザーでも無視にしたようなパックは、売り上げが低下してしまうのだ。

先程挙げた2つの例は、ユニオンの降臨はヘビーユーザー向けパックの象徴、暗黒の侵略者はライトユーザー向けパックの象徴と言うことになる。
あくまでこれは極端な例なので、実際にこれらのパックがそうなっているとは限らない。

最後に黒魔導の覇者のパックを例にとってみよう。
ライト君、ミドル君、ヘビー君は、レアカードの「魔導戦士ブレイカー」と、ノーマルカードの「同族感染ウィルス」に大きな興味がある。
ライト君は「同族感染ウィルス」目当てで多めに8パック、ミドル君は「魔導戦士ブレイカー」も狙って多めに30パック、ヘビー君はいつも通りに50パック。
売り上げは、8×5+30×4+50×1 を計算、210パックとなり、売り上げは増加。

このように、魅力あるカードはどのユーザーをターゲットにするかを検討し、上手い具合に分散させるのが大事なのである。
OCGは、これを意図してかどうかは知らないが、大抵は上手い具合にばらけている。
どのパックでも、魅力溢れるノーマルカードは結構多い。もちろんレアカードに強いカードはある。だが、全てのレアカードが全てのノーマルカードを上回っていることなどないのだ。
少なくとも最近は、制作側もどのようなカードが強くて、どのようなカードが弱いかは大体分かっていると思うので、強いカードでもノーマルに来るように意図していると思われる。多くの人にとっては嬉しい限りだ。



 5.魅力あるカードと嗜好
さあ、今度のパックは「ヘッポコ創世記」だよ!
ウルトラレアには女邪神ヌヴィア、スーパーレアには王座の侵略者!
ノーマルには、グロス、ツインテールを初めとした数々の通常モンスターを収録!

――当たり前だが、こんなパックでは売り上げは悪い。(そして一応書いておくが、もちろんこのパックは実在するわけがない)
前節で扱った入手難度による影響より、魅力あるカードの有無による影響の方が売り上げには大きく関係しそうである。

それでは、そもそも魅力あるカードとはどんなものなのだろうか?

まず最初に考えられるのはデュエルで活躍するかどうかだ。
弱いカードは人気もなくなる。当然だ。

そして同じくらいの強さを持つカードでも、欲しいと思わせるものとそうでないものがある。
その原因としては、自分の持っているカードでデッキが作れるかどうかと言う点と、効果のベクトルが自分の嗜好に合っているかと言う点が大きいだろう。
特に後者では、スタンダードタイプに準じたものがやはり多くの人に好まれるだろう。

もちろん魅力があるかどうかは強さだけでは決まらない。
原作にあったカードならそれだけで人気も上がる。カードイラストも大事だ。
さらに、墓守シリーズなどの世界観を統一したものも人気は高い。
特に、墓守やデーモンなどは1つのパックにコンボカードが何枚も収録されているので、これらが何種類か集まる頃には、「このデッキを作ってみたい」と思わせることにもなるだろう。

そして、魅力あるカードがたくさん入ったパックは売れる。

魅力あるカードとは言っても、単純に強いカードだけを作ればいいと言うものではない。
売れるためには、手札破壊が好きな人向けのカード、コンボを組むのが好きな人向けのカード、どんなデッキでも使えるようなカード、特定種族・属性向けのカード、デッキ破壊用のカードなど、様々なユーザー向けにカードを収録するのが大事である。
欲しがるカードには個人差があるのだ。いろいろな人をターゲットとしたカードを作る必要がある。
もし、デッキ破壊専用カードが30種類以上もあるパックがあっても、欲しがる人は少ないだろう。

また、強いカードほど欲しくなるものだが、理不尽なほど強いカードは、逆にユーザーのやる気も削ぐ事にも注意を払わなければならない。

「混沌を制す者」以降のパックは、魅力あるカードという面で大きくレベルアップしている。
一度カードリストを見て、欲しいと思うようなカードがどれだけ出てくるかを数えてみるといいだろう。最新のパックほどそのようなカードは多くなっているはずだ。

だから、売れてきているのだ。



 6.最後に
ここまでいろいろと議論してきたが、これらはあくまで推測の域を出ないことと、そして売り上げや人気などはもっと様々な要素が重なり合って決まることには注意して欲しい。
ここで挙げたものが全てだと思ってしまわないように。

だが少なくとも、「カード入手難度の調整」と「魅力あるカードの質と数」は、パックの売り上げに大きく関わってくる問題であることには違いないだろう。

そしてここに書いたことが、買う側のユーザーにとって何の得になるかと言うことは、決して気にしてはいけないのである。(これがオチかよ)




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